———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY性視神経炎および多発性硬化症の視神経炎と診断され治療されている症例のうち,抗 AQP4 抗体陽性は 37.8%であった(抗 AQP4 抗体測定は九州大学神経内科に依頼している).他病院から治療困難として紹介される症例が多いために高い陽性率となっている可能性がある.筆者らの病院で初発時に診察した症例に限れば約 15%が陽性であった.日本とアジアに多い OSMS 症例の多くにこの抗 AQP4 抗体が陽性であったことから,欧米よりも日本のほうが陽性率は高いものと推測される.抗AQP4 抗体測定は限られた大学神経内科の研究室で行われており測定方法の違いや感度の差もあると聞くので,正しい陽性率に関しては多くの病院からのデータを収集して検討する必要がある.2. 比較的高齢女性に多く発症する抗 AQP4 抗体陽性例は圧倒的に女性に多く,平均発症年齢は 42 歳であった(陰性例は 31 歳).高齢の 60 70 歳代女性の発症は印象的であり,多発性硬化症に多い若い女性のイメージとは異なっていた.ただし,最近経験した 10 歳,女児の発症もあるので年齢だけでは決めつけられない.3. 初発は視神経炎が多い抗 AQP4 抗体陽性を示す視神経炎の全症例を見直すと,視神経炎の後に脊髄炎を発症した例が 57%であり,視神経炎だけの例も 14%あるので,結局これらの合計はじめに近年,視神経炎の診断,治療,予後に関してまったく新しい考え方が登場してきた.一般に“視神経炎”には原因不明(おそらくウイルスを主とする感染性)の特発性視神経炎,多発性硬化症(multipleツꀀ sclerosis:MS)の視神経炎,そして視神経脊髄炎(neuromyelitisツꀀ optica:NMO)の視神経炎がある.NMO は Devic 病ともよばれ,基本的には欧米では MS とは区別されている.一方,日本とアジアでは視神経炎と脊髄炎の組み合わせのタイプが多くみられ,古くから視神経脊髄型多発性硬化症(optic-spinalツꀀ multipleツꀀ sclerosis:OSMS)とよばれてきた1,2).最近,米国の Mayo Clinic でこの NMO 患者血清中に特異的な自己抗体(NMO-IgG)が見出され3),この標的としては神経組織のアクアポリン 4(aquaporin- 4:AQP4)waterツꀀ channelツꀀ protein が明らかとなった4).日本の OSMS 患者のなかにも NMO-IgG(=抗 AQP4抗体)の陽性例があり,神経内科サイドからは 3 椎体以上の重症脊髄病変と失明が多いという重要な結果がすでに報告されている5).眼科の立場から自験の抗 AQP4 抗体陽性を示す視神経炎例を詳細に検討した研究結果6)をもとに,抗 AQP4 抗体陽性視神経炎の診断,治療,予後を考察する.I抗AQP4抗体陽性視神経炎の特徴(表 1)6)1. 抗AQP4抗体陽性率は意外に高い近畿大学医学部附属病院眼科および堺病院眼科で特発(31)ツꀀ 1329ツꀀツꀀツꀀ o Nツꀀツꀀ oツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 590 0132ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 2 7 1ツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ 特集●多発性硬化症・視神経脊髄炎と抗アクアポリン4抗体 あたらしい眼科 26(10):1329 1335,2009視神経炎アップデート “抗アクアポリン 4 抗体陽性視神経炎”Update on Optic Neuritis “Anti-Aquaporin-4 Antibody Seropositive Optic Neuritis”中尾雄三*———————————————————————- Page 21330あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(32)MRI(磁気共鳴画像)で脳内に特異な病変があり9),視床下部や下部脳幹の症状を示す例の報告10,11)もあることから,“抗 AQP4 抗体陽性症候群”12)とよぶのがふさわしいのかもしれない.4. 球後視神経炎型が多い抗 AQP4 抗体陽性視神経炎では視神経乳頭に異常のない,いわゆる球後視神経炎型が多いのは多発性硬化症とよく似た傾向である.視神経炎で乳頭浮腫を示すのはウイルス感染後などの症例〔たとえば急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM)〕が多い.5. 再発が多く,失明率が高い抗 AQP4 抗体陽性視神経炎は再発をくり返す例が多く,ステロイドパルス治療を行っても視機能回復は不良で失明率が高い6)という事実が明白になった.治癒率の高い特発性視神経炎や多発性硬化症の視神経炎とはまったく異なる重要な結果である.71%は視神経炎を初発症状としていることが判明した.米国Mayo Clinicからも再発性視神経炎の単独でNMO-IgG(=抗 AQP4 抗体)陽性の症例を長期間観察した後に,50%が脊髄炎を発症したとの報告がある7).視神経脊髄炎(NMO)は抗 AQP4 抗体陽性を示し,視神経炎と脊髄炎をくり返して重篤な症状(失明・麻痺)を後遺症とする疾患として知られているが,現実には原因不明の視神経炎(まだ脊髄炎を意識しない)としてわれわれ眼科医をまず初診することになる.NMO の視神経炎(いまだ視神経炎)だけのケースはハイリスクなNMO 類縁(spectrumツꀀ ofツꀀ NMOツꀀ disorders)8)と扱われているが,初発に視神経炎が多い事実を考えれば,眼科医はこの視神経炎を NMO の部分症としての視神経炎ではなく(脊髄炎の有無にとらわれることなく),“抗 AQP4抗体陽性視神経炎”とよんでこの視神経炎を認識し,初発単独の視神経炎であっても初診時に抗 AQP4 抗体を測定して初期から対応する姿勢が重要である.視神経炎の段階で抗 AQP4 抗体陽性が判明した場合には患者にその臨床的な意味を十分に説明し,つぎに脊髄炎が発症した際には神経内科で素早く的確な対応を受けられるよう配慮しておく必要がある.最近,NMO であっても表 1抗AQP4抗体陽性視神経炎と多発性硬化症(MS)の視神経炎の比較抗 AQP4 抗体陽性視神経炎MS の視神経炎抗 AQP4 抗体陽性陰性発症年齢中年 高年若年 中年性別女性>>>男性女性>男性発症時視力低下不良(重症)不良(重症)発症時中心 CFF 低下不良(重症)不良(重症)視野異常中心暗点・両耳側半盲中心暗点視神経乳頭異常なし>浮腫異常なし>浮腫眼球後部痛あり(激しい)ありUhthoツꀀ 症候約 14%約 30%MRI 脳病変まれ(非 MS 様)ありMRI 脊髄病変あり(3 椎体以上)あり(短い)髄液 OCBなし( まれ)あり治療(発症時)パルス・血漿交換パルス治療(再発抑制)低量ステロイド長期間INF-b免疫抑制薬・分子標的薬免疫抑制薬・分子標的薬再発あり(多い)あり最終時視力不良(重症)比較的良 MS:multiple sclerosis,AQP:aquaporin,CFF:critical fusion frequency,OCB:oligoclonal IgG band,パルス:ステロイドパルス治療,IFN:interferon. (文献 6 より)———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091331(33)II抗AQP4抗体陽性視神経炎の画像検査1. 頭蓋内の視神経病変に注意するMRI の画像上,炎症の存在部分は眼窩内視神経が最も多い13,14)が,21%の例では頭蓋内視神経,視交叉,視索に炎症病変を認めた6).視野所見で両耳側半盲や非協調性同名半盲がみられる事実と符合する.抗 AQP4 抗体陽性視神経炎では眼窩内だけでなく,頭蓋内の病変の存在にも注意して検索する必要がある(図 1A).2. 活動性の炎症はあるのか?治療効果が不良で紹介された例や再発を何度もくり返している例に対して治療を開始する前には,はたしてまだ活動性の炎症が存在するかどうかの評価が必要になる.T1 強調画像の脂肪抑制法で造影剤を用いて増強効果があれば活動性病変があり,治療効果が期待できると判断する14,15)(図 1B).3. 画像検査の工夫は?通常の軸位断面に用いられる Orbitomeatal(OM)Line では頭蓋内視神経,視交叉,視索の傾斜角度に対してクロスするため,分断されて 1 スライスに収まらない.このためまず位置決めの MRI 矢状断面を撮り,視交叉の傾きに平行の軸位断面として撮像すると頭蓋内視神経,視交叉,視索が 1 スライス内に明瞭に描出でき る15).III抗AQP4抗体陽性視神経炎の治療1. ステロイドパルス治療に低反応例・無効例が多い抗 AQP4 抗体陽性の視神経炎例では通常のステロイドパルス治療に低反応例・無効例が多く,視機能回復が不良であり,再発回数も多いことが明らかになった6).病変部の病理が多発性硬化症(MS)では脱髄と再生であるが,NMO では神経の AQP4 欠落,アストロサイト障害,壊死脱落といった重篤な所見であることが報告16)されている.また,NMO は自己抗体による液性免疫が主体17)であるのに対して,MS は細胞性免疫主体で,両者では免疫システムがまったく異なることが判明した.病理と免疫機序が異なる NMO に対して MS 用のステロ6. 両耳側半盲・水平半盲をみる抗 AQP4 抗体陽性視神経炎の視野異常の 75%は中心暗点であるが,25%に両耳側半盲,非協調性同名半盲,水平(上下)半盲がみられた6).両耳側半盲は視交叉炎,非協調性同名半盲は視索炎であり,実際に MRI で視交叉や視索の病変が描出可能である.これらの視野異常は一般には下垂体腺腫などの脳腫瘍にみられる所見であり,抗 AQP4 抗体陰性の視神経炎(特発性視神経炎や多発性硬化症の視神経炎)例にはみられなかった.この両耳側半盲,非協調性同名半盲,水平(上下)半盲が初診時や再発時の視神経炎例に認めた場合には,抗 AQP4抗体陽性視神経炎を想起する“predictiveツꀀ sign”として重要である.7. 眼球後部の痛みが強い視神経炎ではしばしば眼球運動に際して球後痛(ときに上眼瞼下の痛み)を訴えるが,抗 AQP4 抗体陽性視神経炎では眼窩深部に自発痛があり,Tolosa-Hunt 症候群や肥厚性硬膜炎などを疑った症例もあった.画像上は眼窩先端部(視神経後部・視神経管内)の病変で痛みを訴え,頭蓋内視神経,視交叉,視索の病変では痛みを訴えない傾向がある.8. 他の自己抗体がある他の自己抗体が同時に存在することがある.特に抗SS-A 抗体,抗 SS-B 抗体陽性の例が多いが,必ずしも涙液分泌減少(ドライアイ)の症状があるとは限らない.ステロイド治療中に重篤な肝機能障害を発生して自己免疫性肝炎と診断された 3 例があり,いまだ詳細は不明であるが注意が要る.9. 視神経炎で間違いないか?比較的高齢者に多くステロイド治療に反応しない視神経疾患としては虚血性視神経症,悪性(転移性)腫瘍の視神経圧迫,悪性リンパ腫の視神経浸潤,傍腫瘍性視神経症があり,再発しステロイドに依存の視神経障害として炎性偽腫瘍,Wegener肉芽腫症,肥厚性硬膜炎(ANCA 関連血管炎)があるので,抗 AQP4 抗体陽性視神経炎との鑑別は慎重に行う必要がある.———————————————————————- Page 41332あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(34)テロイドパルス以外の治療を積極的に行う必要がある.抗 AQP4 抗体が陰性の視神経炎例だけに限って ONTTの結果をあてはめるべきで,抗 AQP4 抗体の有無を調べずに無治療で観察するのは危険な間違いであり,厳に慎むべきである.3. 血漿交換治療が有効である通常のステロイドパルス治療を行っても低反応や無効のときに,血漿交換を行って抗 AQP4 抗体を除去し良好な視機能改善を得ている21).1 回の血漿交換で抗AQP4 抗体は陰性化し,ただちに視機能改善の傾向を示す例もある.血漿交換により期待する改善の程度は発症直前の視機能までであり,このレベルまでの改善を有効とすれば自験例では約 90%が有効である.4. 血漿交換の方法は?血漿交換治療には単純血漿交換,二重濾過膜血漿交換,免疫吸着があるが,筆者は抗 AQP4 抗体だけでなく補体や未知の関連サイトカインなどの除去も考慮してイドパルス治療だけをくり返し行っているのは,根本的に治療法が誤っている可能性がある.2. ONTTの結果との関係は?視神経炎の治療法に関しての治験(Opticツꀀ Neuritis Treatment Trial:ONTT)の評価が行われ18 20),ステロイドパルス,ステロイド内服,偽薬の長期効果を比較したところいずれの治療法でも約 70%の例が視力は20/20(1.0)以上に改善するという結果が報告された.視神経炎にはステロイド治療と信じ込んでいた日本の眼科医にはただちに信じがたい内容であった.しかしこの報告を熟読すると,約 3%の例がステロイドパルス治療に反応しない視力 20/200(0.1)未満の回復不良例であることも記載している.この ONTT は現在問題になっている抗 AQP4 抗体がまだ知られていない期間の治験であり,回復不良例の3%がNMOの視神経炎(抗AQP4 抗体陽性視神経炎)ではないかと推測される.抗AQP4 抗体陽性視神経炎はステロイドパルス治療に抵抗性で,ましてや無治療で回復するはずもなく,むしろス図 126歳,女性(抗AQP4抗体陽性)両眼の視力低下と視野異常(右眼の耳側半盲と左眼の大きな中心暗点)を認めた.ステロイドパルス治療は無効で,血漿交換により視機能は回復した.A:FLAIR 法の軸位断面で視交叉が高信号(炎症)を示した(⇒).脳幹左側にも高信号域がある(→).B:T1 強調画像脂肪抑制法の造影剤使用で視交叉が高信号に増強された(⇒).AB———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091333(35)7. 血漿交換はレスキュー,再発予防に免疫抑制薬が必要である血漿交換により抗 AQP4 抗体を除去して一旦は良好な結果を得ても,それは発症急性期における緊急避難的なレスキュー(rescue)にすぎず,依然として抗 AQP4抗体産生の免疫システムが存在するので血漿交換後にAQP4 抗体は産生され続けて増加し,視神経炎は必ず再発する.したがって視神経炎の再発を防ぐためには血漿交換後に免疫抑制薬(prednisolone, cyclophosphamide, methotrexate, azathioprine, cyclosporin, tacrolimus など)のいずれかを使用して持続的に抗 AQP4 抗体の産生を抑制する必要がある23,24).免疫抑制薬の長期投与による副作用対応や全身管理には免疫内科などの関連科の協力が要る.8. Interferon(IFN) bは無効,再発や悪化の要因になる多発性硬化症は細胞性免疫主体の病態と考えられており,IFN-bが再発抑制の目的で使用されている25).しかし,IFN-bを使用した OSMS のうち抗 AQP4 抗体陽性例では無効であるばかりでなく,かえって再発誘発や症状悪化の報告26)が相つぎ,厚生労働省難治性免疫性神経疾患研究班は抗 AQP4 抗体陽性例への IFN-b使用に警告を発している.9. 視神経炎はこの考え方で治療する抗 AQP4 抗体を意識した視神経炎の新しい治療法(図全例に単純血漿交換を行っている.血液浄化室への依頼,新鮮凍結血漿やアルブミンの手配,承諾同意書の作成,実施中の副作用の対応や全身管理などが必要である.関連各科との連携が重要である.5. 血漿交換治療はリスクが高い,注意すべきことは?単純血漿交換ではほぼ全血漿を他人の血漿に入れ替えるため,ショック,アレルギーによる全身発疹,循環器系障害,感染など重篤な症状の発生の危険があり,発症年齢が高いことも相まって血漿交換可能かどうかの実施前の全身検査とその評価が大事である.また,再発を何度もくり返す例や,他病院からステロイドパルス治療を試みたが無効なために紹介された例では,まだ活動性の炎症病変が視神経内に残存しているかの判断が重要である.MRI の T1 強調画像の脂肪抑制法に造影剤を用いて,視神経内に造影剤による増強効果があるかどうかを確認する.増強される部分があればまだ活動性炎症が残っていて血漿交換により視機能の改善が期待できるが,増強効果がなければすでに視神経萎縮であり血漿交換治療の効果はない.活動性炎症が残っていながら,全身状態の不良から血漿交換不可の例もある.ステロイドパルス治療に抵抗する視神経炎に対して免疫グロブリンの大量点滴法が有効の報告22)もある.血漿交換はリスクの高い治療法であるため,より安全でさらに有効な治療法の開発・治験が期待される.6. 血漿交換はいつから開始すべきなのか?初診または再発の急性期にまず 1 クール目のステロイドパルス治療を開始し,その効果が得られないときにはためらうことなくただちに血漿交換を開始すべきである.迅速に血漿交換を決断し,開始するためにはすべての視神経炎例において初診時に抗 AQP4 抗体の測定をしておく必要がある.3 クール目終了後でも効果がなく,その時点で抗 AQP4 抗体の測定を初めて考えるのでは遅く,すでに不可逆な視神経萎縮になっている危険性がある.視神経炎MRI(STIR・FLAIR)抗AQP4抗体測定抗AQP4抗体(+)血漿交換療法→ステロイド内服(長期)免疫抑制薬・分子標的薬抗AQP4抗体(-)ステロイドパルス①ステロイドパルス②③インターフェロンβ使用ステロイドパルス②③ステロイド内服*パルス有効ならインターフェロンβ使用せず*パルス無効なら免疫抑制薬分子標的薬(FTY720)ステロイド内服(長期)*多発性硬化症なら図 2視神経炎治療の新しい考え方(私案)(文献 6 より)———————————————————————- Page 61334あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(36)とは免疫システムと病理病態がまったく異なるため,診断と治療法に特別の配慮が必要である.視神経炎単独,視神経炎初発の例が多いため早期からの正しい診断と的確な治療法の決定に眼科医の責任は重く,関連科と協力して治療と全身管理にあたる慎重な姿勢が重要である.謝辞:本研究において抗 AQP4 抗体を測定していただいた九州大学医学部神経内科の吉良潤一教授,越智博文,松下拓也,黒田紀子の先生方に深甚なる謝意を表する.文献 1) Kira J, Kanai T, Nishimura Y et al:Western versus Asianツꀀ typesツꀀ ofツꀀ multipleツꀀ sclerosis:immunogeneticallyツꀀ and clinically distinct disorders. 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Semin Neurol 28:95-104, 2008 9) Pittockツꀀ SJ,ツꀀ Lennonツꀀ VA,ツꀀ Kreckeツꀀ Kツꀀ etツꀀ al:Brainツꀀ abnormali-ties in neuromyelitis optica. Arch Neurol 63:390-396, 2006 10) Watanabe S, Nakashima I, Miyazawa I et al:Successful treatment of a hypothalamic lesion in neuromyelitis optica by plasma exchange. J Neurol 254:670-671, 2007 11) Takahashi T, Miyazawa I, Misu T et al:Intractable hic-cup and nausea in neuromyelitis optica with anti-aqua-porin-4 antibody:a herald of acute exacerbations. J Neu-rol Neurosurg Psychiatry 79:1075-1078, 2008 12) Matsushita T, Isobe N, Matsuoka T et al:Aquaporin-4 autoimmune syndrome and anti-aquaporin-4 antibody-negative optico-spinal multiple sclerosis in Japannese. Mult Scler 15:834-847, 2009 13) Nakao Y, Yamada Y, Otori T:Di erential diagnosis of 2)6,27)について私案を述べる.1)すべての急性発症(初発・再発)の視神経炎(脊髄炎の有無にかかわらず)について,その初診時にただちに抗 AQP4 抗体を測定する.同時に MRI の STIR(short T1 inversion recovery)画像(または T1 強調画像脂肪抑制法造影)で視神経内の炎症を確認し,FLAIR( uid attenuated inversion recovery)画像で脳内の MS(非MS)病変の有無を検討する.治療としては,まずステロイドパルス(ソルメドロールRツꀀ 1,000 mg/日点滴,3 日間)治療の第 1 クールを開始する.2)抗 AQP4 抗体陽性の場合:①第 1 クールのステロイドパルス治療で視機能改善の効果がみられるときは,そのまま第 2,第 3 クールを引き続き行う.第 3 クール終了時点で視機能の改善がなお不十分であればステロイド薬(たとえばプレドニンR 30 mg/日)の内服を開始し,視機能の改善状態をみながら緩徐に漸減する.プレドニンRが 10 mg または 15 mg/日で減量を止め,維持する.②一方,第 1 クールのステロイドパルス治療で効果が乏しいかないときは,ただちに血漿交換を開始する.血漿交換後はステロイド薬の内服を開始し,漸減しながら継続する.このステロイド低量の内服期間中に再発を生じた場合,再発回数が多い場合,片眼がすでに失明の場合には,免疫抑制薬の使用を考慮する.再発抑制の目的でIFN-bは用いない.3)抗 AQP4 抗体陰性の場合:①通常どおりステロイドパルスの第 2,第 3 クールを行う.第 3 クール終了時点でなお視機能の回復が不十分であればステロイド薬(たとえばプレドニンRツꀀ 30 mg)の内服を開始し,視機能の改善状態をみながら漸減する.②脳 MRI 画像や神経症状から多発性硬化症の診断の場合は,神経内科と協同して再発抑制の目的で IFN-bを使用する.≪2)の①と②が抗 AQP4 抗体陽性視神経炎の治療,3)の①が特発性視神経炎の治療,3)の②が多発性硬化症の視神経炎の治療である.≫おわりに数年前に発見された抗 AQP4 抗体により視神経炎の考え方に大きな転換が生じた.抗 AQP4 抗体陽性視神経炎は従来の特発性視神経炎や多発性硬化症の視神経炎———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091335enlargedツꀀ opticツꀀ nerveツꀀ and/orツꀀ sheathツꀀ onツꀀ MRツꀀ imaging.ツꀀ Cur-rent Aspects in Ophthalmology 2, Excerpta Medica, Amsterdam-London-New York-Tokyo, p1671-1675, 1992 14) 中尾雄三:視神経疾患の画像診断.臨眼 61:1624-1633, 2007 15) 中尾雄三:MS/NMO と視神経炎の新しい展開.神経免疫,2009(印刷中) 16) 三須建郎,藤原一男,糸山泰人:NMO とアクアポリン 4 の病理的意義.Clinical Neuroscience 26:770 773, 2008 17) Lucchnetti CF, Mandler RN, McGavern D et al:A role for humoral mechanisms in the pathogenesis of Devic’s neuromyelitis optica. Brain 125:1450-1461, 2002 18) Beckツꀀ RW,ツꀀ Clearyツꀀ PA,ツꀀ Opticツꀀ Neuritisツꀀ Studyツꀀ Group:Optic Neuritis Treatment Trial:One-year follow-up results. Arch Ophthalmol 111:773-775, 1993 19) The Optic Neuritis Study Group:Visual function more than 10 years after optic neuritis:Experience of the optic neuritis treatment trial. Am J Ophthalmol 137:77-83, 2004 20) Optic Neuritis Study Group:Visual function 15 years after optic neuritis. Aツꀀ nal follow-up report from the optic neuritis treatment trial. Ophthalmology 115:1079-1082, 2008 21) Watanabe S, Nakashima I, Misu T et al:Therapeutic e cacy of plasma exchange in NMO-IgG-positive patients with neuromyelitis optica. Mult Scler 13:128-132, 2007 22) Tselis A, Perumal J, Caon C et al:Treatment of corticos-teroid refractory optic neuritis in multiple sclerosis patients with intravenous immunoglobulin. 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