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α1 遮断薬使用中の超音波白内障手術成績―術中虹彩緊張低下症候群の発生頻度と特徴

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1(129)ツꀀ 12870910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1287 1292,2009cはじめに白内障手術中に起こる合併症の一つとして,術中虹彩緊張低下症候群(intraoperativeツꀀツꀀ oppyツꀀ irisツꀀ syndrome:IFIS)が最近注目されている.IFIS は,前立腺肥大症に対する排尿改善剤a1遮断薬を服用している患者で,超音波白内障手術中「水流による虹彩のうねり」,「虹彩脱出・嵌頓」,「進行性〔別刷請求先〕一色佳彦:〒737-0046 呉市中通 2 丁目 3-28木村眼科内科病院Reprint requests:Yoshihiko Isshiki, M.D., Kimura Eye & Internalツꀀ Medicine Hospital, 2-3-28 Nakadori, Kure-shi 737-0046, JAPANa1遮断薬使用中の超音波白内障手術成績―術中虹彩緊張低下症候群の発生頻度と特徴一色佳彦*1木村亘*1横山光伸*1正化圭介*2木村徹*1武田哲郎*1 宮崎婦美子*1*1 木村眼科内科病院*2 焼山木村眼科Results of Phacoemulsi cation Cataract Surgery on Systemic or Topical a1-Adrenoceptor Antagonist―Incidence and Characteristics of Intraoperative Floppy Iris SyndromeYoshihiko Isshiki1), Wataru Kimura1), Mitsunobu Yokoyama1), Keisuke Syoge2), Tohru Kimura1), Tetsuro Takeda1) and Fumiko Miyazaki1)1)Kimura Eye & Internal Medicine Hospital, 2)Yakeyama Kimura Eye Clinic目的:a1遮断薬使用中の白内障手術における術中虹彩緊張低下症候群(intraoperativeツꀀ oppy iris syndrome:IFIS)の薬剤関連性と特徴を比較検討した.方法:対象は,超音波白内障手術施行患者のうちa1遮断薬使用患者 75 例132 眼.これらの症例の,a1遮断薬使用状況,器質的眼疾患の有無,術前前房深度,術前散瞳状態,IFIS の有無,IFIS に対する処置,術中・術後合併症を検討した.結果:男性は塩酸タムスロシン内服,女性は塩酸ブナゾシン点眼を多く使用していた.術前前房深度は,男性 27.6%,女性 69.6%が浅前房であり,男性 33.3%,女性 38.8%は術前散瞳不良であった.IFIS は男性 14.1%,女性 6.0%であった.男性は塩酸タムスロシン内服,女性は塩酸ブナゾシン点眼で発生が多かった.術中合併症は,後 破損や虹彩離断を認めた.全白内障手術患者に対する IFIS 発生頻度は 0.49%であった.結論:IFIS は,散瞳不良のa1A受容体サブタイプ高選択性薬剤使用者に発症する傾向であり,前房深度が浅い症例では重篤な合併症を起こしやすかった.Toツꀀ evaluateツꀀ theツꀀ incidenceツꀀ andツꀀ characteristicsツꀀ ofツꀀ intraoperativeツꀀツꀀ oppyツꀀ irisツꀀ syndrome(IFIS)inツꀀ relationツꀀ toツꀀ the use of a1-adrenoceptor antagonists, we conducted a prospective study of 75 patients(132 eyes)receiving systemic or topical a1-adrenoceptor antagonists who underwent cataract surgery. Use of a1 antagonist, eye disease, anterior chamber depth, presurgery mydriasis, IFIS occurrence, IFIS treatment and complications were studied. The a1 antagonistsツꀀ mostツꀀ commonlyツꀀ usedツꀀ wereツꀀ systemicツꀀ tamsulosinツꀀ inツꀀ malesツꀀ andツꀀ bunazosinツꀀ inツꀀ females.ツꀀ Theツꀀ preoperative anterior chamber was shallow in 27.6% of the males and 69.6% of the females;presurgery mydriasis was poor in 33.3%ツꀀ ofツꀀ malesツꀀ andツꀀ 38.8%ツꀀ ofツꀀ females.ツꀀ IFISツꀀ wasツꀀ observedツꀀ inツꀀ 17ツꀀ eyes(0.49%),ツꀀ ofツꀀ whichツꀀ 15ツꀀ wereツꀀ inツꀀ malesツꀀ andツꀀ 2 were in females. IFIS developed systemic tamsulosin use in males and bunazosin use in females, especially after 70 years of age. Posterior capsule rupture occurred in 1 eye;iridodialysis occurred in 3 eyes. IFIS occurred more eas-ily in eyes with poor mydriasis receiving a1-adrenoceptor antagonists.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1287 1292, 2009〕Key words:術中虹彩緊張低下症候群,a1遮断薬,超音波白内障手術,a1A受容体サブタイプ,塩酸タムスロシン.intraoperativeツꀀツꀀ oppyツꀀ irisツꀀ syndrome, a1-adrenoceptorツꀀ antagonists,ツꀀ phacoemulsi cation, a1Aツꀀ receptorツꀀ subtype, systemic tamsulosin.———————————————————————- Page 21288あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(130)の縮瞳」の 3 徴を生じるものである.2005 年に Chang らが提唱した1)のが初めであり,以後種々の施設から同様の報 告2,9 14)がされている.しかし,発生頻度は各報告によって異なっており,また多施設調査が多く単独施設による調査は少ない.今回筆者らは,a1遮断薬使用中の超音波白内障手術において,a1遮断薬使用状況,術前前眼部状態,IFIS の発生頻度,術中・術後合併症などを prospective に調査し比較検討したので報告する.I対象および方法1. 対象対象は,2005 年 9 月 21 日 2007 年 10 月 31 日に木村眼科内科病院(以下,当院)で超音波白内障手術を施行した連続 症 例 1,955 例 3,219 眼(男 性:807 例 1,296 眼, 女 性:1,148 名 1,923 眼)のうちa1遮断薬使用患者 75 例 132 眼(男性 57 例 99 眼,女性 18 例 33 眼).年齢は男性 45 89 歳(75±8.3 歳, 平 均値±標 準 偏 差), 女 性 64 87 歳(74.5±8.16歳,平均値±標準偏差)であり,白内障の硬度はそれぞれEmelly-Little 分類 1 4 度(平均で男性 2.24 度,女性は 2.15度)であった.なお,本研究は超音波白内障手術のみを対象としており,硝子体手術や緑内障手術など他手術併用例,眼内手術既往例は除外した.2. 手術方法手術方法は,超音波乳化吸引術を行いすべて眼内レンズ(intraocularツꀀ lens:IOL)挿入術を併施した.超音波白内障手術装置は,アキュラス 600DS(アルコン社)を用い,超音波出力 50%ツꀀ 吸引圧 200 mmHgツꀀ パルスモード 15 で設定し,核の硬度などさまざまな条件により設定を術中随時変更した.粘弾性物質は中間分子量(オペリードR)を用い必要に応じて適宜追加し,Devideツꀀ &ツꀀ Conquer 法(フェイコチョップ法も併施)で乳化吸引を行った.切開は上方強角膜切開で,自己閉鎖創を作製した.IOL は,後 破損例を除いて全例 内固定した.3. 検討項目と方法以上の症例におけるa1遮断薬使用状況,術前散瞳状態〔トロピカミド(ミドリン PR)・フェニレフリン(ネオシネジンコーワR)を 15 分間隔で 2 回点眼したあと 30 分後測定.6 mm 未満を散瞳不良とした〕,術前前房深度(周辺部前房深度計測の目安である van Herick 法で測定),器質的眼疾患の有無,IFIS の発生頻度と発生状況(白内障手術中に水流のうねり,虹彩脱出や嵌頓,進行性の縮瞳の所見 3 徴すべてを認めたものを「IFIS 完全型」,2 徴候以下を「IFIS 不全型」とした),手術の転帰・IFIS に対する処置,術中・術後合併症を prospective に調査し比較検討した.なお,手術前にa1遮断薬使用に関する詳細な問診ならびに他科かかりつけ医に対して過去のものも含めて内服薬の調査を行い,a1遮断薬使用症例に手術終了後すぐ執刀医が IFIS の発生の有無・状況など検討項目を記載した.II結果1. a1遮断薬使用状況(図 1)a1遮断薬使用例は,男性 57 例(全男性白内障手術患者に対し 7.0%),女性 18 例(全女性白内障患者に対し 1.5%)であった.男性は塩酸タムスロシン(ハルナールRなど,34 例)が多く,ナフトピジル(フリバスR,アビショットRなど,10 例),メシル酸ドキサゾシン(カルデナリンR,6 例)と続いた.a1遮断薬を重複使用例もあり(6 例),すべて塩酸タ(例)メシル酸ドキサゾシン塩酸タムスロシンナフトピジルウラピジルシドロシン塩酸ブナゾシン点眼塩酸ブナゾシン内服0510152025303540:散瞳良 :散瞳不良図 2術前散瞳状況散瞳不良は,女性はすべて塩酸ブナゾシン点眼例であったが,男性は塩酸タムスロシンをはじめとしてさまざまな薬剤でみられた(グラフ左側男性,右側女性).:*併用(例)5101520253035400メシル酸ドキサゾシン塩酸タムスロシンナフトピジルウラピジルシドロシン塩酸ブナゾシン点眼塩酸ブナゾシン内服図 1a1遮断薬使用状況併用例はすべて塩酸タムスロシンを併用していた(グラフ左側男性,右側女性).———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091289(131)ムスロシンが含まれていた.女性は,塩酸ブナゾシン点眼(デタントールR,12 例)が多く,メシル酸ドキサゾシン(3例),塩酸ブナゾシン内服(1 例)と続いた.2. 術前散瞳状態(図 2)男性19例(a1遮断薬使用男性手術患者に対し 33.3%),女性5例(a1遮断薬使用女性手術患者に対し 27.7%)に術前散瞳不良を認めた.そのうち男性では,片眼手術例が 4 例〔うち偽落屑症候群(pseudo-exfoliationツꀀ syndrome:PE)1例〕,両眼手術例で片眼のみ不良例が 1 例(PE1 例)あった.女性では,片眼手術例が 2 例,片眼のみ不良例が 1 例あった.女性はすべて塩酸ブナゾシン点眼例であったが,男性は塩酸タムスロシン 11 例をはじめとして,ナフトピジル,シドロシン(1 例は塩酸タムスロシン併用),メチル酸ドキザゾシン,塩酸ブナゾシン点眼とさまざまに認めた.3. 術前前房深度(図 3)Gradeツꀀ 3 4 は 男 性 71 眼(71.7%), 女 性 10 眼(30.3%),Gradeツꀀ 2 は男性 17 眼(17.1%),女性 9 眼(27.2%),Grade 1 は男性 11 眼(11.1%),女性 14 眼(42.4%)であった.女性では,塩酸ブナゾシン点眼使用例で前房深度が浅かった.4. 器質的眼疾患の有無器質的眼疾患を,男性 42 眼(42.4%),女性 18 眼(54.5%)に認めた.前述の術前前房深度に関係するが,閉塞隅角緑内障や原発閉塞隅角症(疑い)など浅前房眼が男性 14 眼(14.1%),女性 7 眼(21.2%)にあった.ほか糖尿病網膜症をはじめとする網膜硝子体疾患(男性 24 眼,女性 8 眼)などさまざまな眼疾患を認めた.5. IFISの発生頻度と発生状況(図 4)「IFIS 完全型」は男性 12 例 15 眼(23.4%),女性 1 例 2 眼(6.0%),「IFIS 不全型」は男性 49 眼(2 徴候 20 眼,1 徴候29 眼), 女 性 12 眼(2 徴 候 2 眼,1 徴 候 10 眼)に 認 め た.IFIS 完全型は,塩酸タムスロシン(8 眼),女性は塩酸ブナゾシン点眼(2 眼)で最も多かった.2 種のa1遮断薬併用例は男性 3 眼にあり,すべて塩酸タムスロシンと併用(シドロシン 2 眼,塩酸ブナゾシン 1 眼)していた.術前散瞳径が 3 mm と散瞳不良で,手術開始から虹彩リトラクター(グリスハーバー社製)を用いた例が男性 1 眼あり,IFIS 発生状況は不明とした.6. 手術の転帰・IFISに対する処置対処により手術続行したものは男性 41 眼(66.6%),女性7 眼(50%)であった.対処として,男性はフェニレフリン前房内注入(37 眼)が大半であったが,viscoadaptive 粘弾性物質であるビスコートRを使用(5 眼)例や,虹彩リトラクターや分散型粘弾性物質であるヒーロンR V の使用,虹彩縫合を行ったものもそれぞれ 1 眼ずつ認めた.女性はフェニレフリンを使用した 5 眼のみであった.「IFIS 完全型」では,対処により手術続行した例は男性13 眼,女性 2 眼あり,男性 12 眼にフェニレフリン,2 眼にビスコートR,1 眼にヒーロンR V を使用した.女性は 2 眼ともフェニレフリンを使用した.7. 術中合併症術中合併症は男性 7 眼であり,後 破損 3 例 3 眼,虹彩離断 3 例 3 眼,ほか連続円形破 術裂孔,皮質残存,前房出血を 1 眼ずつ認めた.女性では術中合併症を認めなかった.そのうち「IFIS 完全型」では,男性で虹彩離断 3 眼,後 破損 1 眼,連続円形破 術裂孔 1 眼が発生した.8. 術後合併症術後合併症は,男性 17 例 20 眼(18.1%),女性 2 例 3 眼(6.0%)に認めた.男性は,角膜浮腫 10 眼,瞳孔不整 7 眼,(例)メシル酸ドキサゾシン塩酸タムスロシンナフトピジルウラピジルシドロシン塩酸ブナゾシン点眼塩酸ブナゾシン内服05101520253035:G3 4:G2:G1図 3術前の前房深度浅前房例もみられる(グラフ左側男性,右側女性).メシル酸ドキサゾシン塩酸タムスロシンナフトピジルウラピジルシドロシン塩酸ブナゾシン点眼塩酸ブナゾシン内服:1つ:2つ:3つ510015202530354045図 4薬剤別IFISの発生頻度と発生状況a1遮断薬使用者は,IFIS 徴候を発現しやすい(グラフ左側男性,右側女性).———————————————————————- Page 41290あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(132)続発緑内障 3 眼,IOLツꀀ 外固定 3 眼,その他 2 眼であり,女性は,皮質残存(続発緑内障)2 眼,角膜浮腫 1 眼であった.角膜浮腫というのは術後に出た一過性の炎症性の強い浮腫である.「IFIS 完全型」では,男性は,瞳孔不整 4 眼,IOLツꀀ 外固定 1 眼などを認めたが,女性では大きな術後合併症は認めなかった.III考按a1遮断薬は排尿改善薬以外にも降圧薬,眼科では眼圧下降薬として使われている.IFIS は,当初排尿改善薬である塩酸タムスロシン使用患者に特異的に IFIS が発症するとされていた1)が,現在ではa1受容体サブタイプ(a1A,a1B,a1D)のうちa1A受容体サブタイプに選択性が高い薬剤(塩酸タムスロシン,ナフトピジル,シドロシン)により生じやすいといわれている2).これは,a1A遮断薬が前立腺のみならず虹彩散大筋でも同受容体がドミナントとなっているからである.また,a1A受容体サブタイプと同様a1a 遺伝子由来でありながら代表的なa1作動薬 prazosin 低親和性のa1L受容体サブタイプも最近報告されており3,4),ヒト瞳孔散大筋に分布するa受容体のサブタイプはa1L受容体であることを示唆する試験報告もある5).本研究では,塩酸タムスロシン以外にもナフトピジル,シドロシン(塩酸タムスロシン併用),メシル酸ドキサゾシン,塩酸ブナゾシンで IFIS を認めた.村松ら3)は,シドロシンや塩酸タムスロシンは,a1Lサブタイプにもa1Aサブタイプ同様の高い親和性を示すが,ウラピジルなどはa1Lサブタイプにきわめて低い親和性を示し,ナフトピジルはすべてのa1サブタイプで親和性は低いがa1Dサブタイプ選択的と報表 1IFIS患者一覧番号服用期間術前散瞳不良転帰IFIS に対する処置術中合併症術後合併症その他眼疾患前房深度(男性)1①メシル酸ドキサゾシン120 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用なしなしなしG-3 42②塩酸タムスロシン(0 . 2)4 8 Mなしなしなしなしなし原発閉塞隅角症疑いG-13③塩酸タムスロシン(0 . 2)3 6 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用虹彩離断前 離断瞳孔不整角膜浮腫原発閉塞隅角症疑いG-24④塩酸タムスロシン(0 . 2)3 6 Mあり対処で手術続行フェニレフリン使用なしなしなしG-3 4⑤あり対処で手術続行なしなしなしなしG-3 45⑥塩酸タムスロシン(0 . 2)6 0 Mあり対処で手術続行フェニレフリン使用なしなしなしG-3 46⑦ナフトピジル3 6 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用ビスコートR使用後 破損眼内レンズ 外固定なしG-3 47⑧シドロシン8 4 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用なしなし加齢性黄斑変性症注視麻痺G-3 4⑨(塩酸タムスロシン併用)なし対処で手術続行フェニレフリン使用なし皮質残存加齢性黄斑変性症注視麻痺G-3 48⑩メシル酸ドキサゾシン120 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用なしなし翼状片G-3 49⑪塩酸ブナゾシン点眼8 4 Mあり対処で手術続行フェニレフリン使用なしなし甲状腺眼症G-2⑫(塩酸タムスロシン併用)8 4 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用虹彩離断連続円形破 術裂孔瞳孔不整角膜浮腫原発閉塞隅角症疑いG-210⑬塩酸タムスロシン6 0 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用なし瞳孔不整角膜浮腫なしG-3 411⑭塩酸タムスロシン(0 . 2)4 8 Mあり対処で手術続行ビスコートR使用なしなし網膜静脈分枝閉塞症G-1⑮あり対処で手術続虹彩縫合,ヒーロンR V 使用虹彩離断瞳孔不整なしG-1(女性)12⑯塩酸ブナゾシン点眼6 0 Mあり対処で手術続行フェニレフリン使用なし皮質残存・続発緑内障なしG-1⑰あり対処で手術続行フェニレフリン使用なしなしなしG-1———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091291(133)告している.緑内障治療として用いられているa1遮断薬点眼の塩酸ブナゾシンは,虹彩に対する影響を直接検討されていないが,点眼後の瞳孔径変化を検討した報告が複数あ り6,7), いずれも縮瞳傾向を示しているが点眼濃度においては有意な差はなかったと述べている.塩酸ブナゾシンは,a1L受容体への親和性が有意に低かったという報告もある8).これらから塩酸ブナゾシンは瞳孔散大筋に分布するといわれているa1Aサブタイプに作用するがa1Lへの親和性が低く,瞳孔径に対する影響が軽微であると解釈できる.また,メシル酸ドキサゾシン9)や塩酸テラゾシン10)にも IFIS 発生の報告があるが,これらもa1Aサブタイプが関与していると考えられている.IFIS の発生頻度は,海外では 1 2%1),わが国では大鹿ら11)が約 1%と報告している.本研究では,超音波白内障手術患者の 0.49%(男性 1.08%,女性 0.10%)と他の報告に比べ低値であった.a1遮断薬頻度が少ない女性の母集団が多いからと思われたが,a1遮断薬使用者の IFIS の割合が 12.1%(男性 14.1%,女性 6.0%),a1A遮断薬使用者の IFIS 割合が 10.0%(男性 10.4%,女性 8.3%)と他の報告12)(40 60%)に比べ低値であったことからも,本研究は IFIS の頻度が少ないといわざるをえない.IFIS の重篤な術中合併症である虹彩離断を起こした 3 眼は,すべて塩酸タムスロシンを使用し前房が浅めの症例であった.IFIS は 3 徴以外に術前散瞳状態が悪い1)といわれているが,前房深度との関係を示した報告はない.今回比較的客観性が高い検査法である vanツꀀ Herick 法を用いたが,van Herick Grade 2 以下の IFIS 症例は 8 眼であった.女性にa1遮断薬使用例で浅前房が多かったのは,浅前房・狭隅角に対し塩酸ブナゾシン点眼が使用されていたためと考えられるが,IFIS がa1遮断薬使用浅前房例で起こると仮定すると,浅前房が多かった女性で IFIS が少なく,重篤な合併症例を認めなかったことは矛盾する.塩酸タムスロシンをはじめとした虹彩に影響が強いと考えられるa1A遮断薬を使用し前房が浅めの白内障手術例は,IFIS を生じた場合重篤な合併症を生じやすいのではないかと考えている.IFIS は薬剤の使用目的・白内障手術という観点からも高齢者に多いことが示唆される.本報告の IFIS 症例 13 例 17眼のうち,男性は塩酸ドキサゾシン使用者の 40 歳代 1 眼を除くとすべて 70 歳代以上,女性は 80 歳代であった.IFISにa1遮断薬使用期間は関与しないという報告6)もあるが,塩酸タムスロシンは半減期が長く,長期間受容体を阻害し,虹彩の瞳孔散大筋の廃用性萎縮をさせる13).3 年前から点眼していたメラニン親和性の高い塩酸ブナゾシンが,虹彩色素に沈着し平滑筋の空胞形成をひき起こした14)という報告からも,瞳孔散大筋の萎縮が起こるある一定期間以上a1遮断薬を使用している場合は,IFIS を起こしやすいと考えら れる.小瞳孔,成熟白内障,角膜内皮細胞が少ない,落屑症候群などを伴った白内障手術は,さまざまな術中・術後合併症を起こす可能性がありハイリスク症例といわれる15).IFIS を起こすa1遮断薬も今後ハイリスク因子となるであろう.最近では IFIS を起こす要因として,a1遮断薬以外にクロルプロマジンなどの薬剤16)や糖尿病や高血圧症,うっ血性心不全などの疾病17)や硝子体手術眼,高度近視眼など18)も示唆されている.当院では,a1遮断薬使用症例を「IFIS 注意例」,加えて散瞳不良で前房が浅めの症例を,「IFIS 要注意例」として術前再確認している.このような症例には,非常時に備えて前房深度と散瞳径を保つため分散型粘弾性物質ビスコートR19)や散瞳薬フェニレフリンをすぐに使用できるよう常に準備している.また,今回は示してはいないが,本研究では「IFIS 完全型」の僚眼に「IFIS 不全型」例が多かった.IFIS 症例は,両眼注意が必要と考えられる.IFIS の概念が浸透した現在,IFIS が予測されるa1遮断薬使用超音波白内障手術例では,術者の技量による症例の選択,散瞳を促す非ステロイド抗炎症薬術前点眼や低濃度アドレナリンの術中前房灌流,場合により術中虹彩リトラクターの使用や高分子量粘弾性物質による viscomydriasis の必要があると考えている.このようにa1遮断薬使用者の超音波白内障手術時には,IFIS を十分留意し重篤な合併症を起こさないようにしなければならない.本研究より,IFIS は点眼・内服すべてa1遮断薬使用症例で発症する可能性があると判明した.今回はa1遮断薬使用症例を術前確認し IFIS の検討を行ったため,ニプラジノールを含めたa作用もあるといわれるb遮断薬の内服・点眼による検討は行っていない.また,a1遮断薬未使用症例での IFIS 様所見を呈した症例も少数であったが見受けられた.Retrospective 研究も含め今後検討する予定である.本論文は,第 47 回日本白内障学会総会・第 23 回日本眼内レンズ屈折手術学会総会にて「a1 遮断薬使用中の白内障手術成績─術中虹彩緊張低下症候群の年齢別発生状況と特徴─」で発表した.文献 1) Chang DF, Campbell JR:Intraoperativeツꀀ oppy iris syn-drome associated with tamsulosin. J Cataract Refract Surg 31:664-673, 2005 2) 大鹿哲郎:術中虹彩緊張低下症候群(IFIS).眼科手術 20:195-199, 2007 3) 村松郁延,鈴木史子,田中高志ほか:a1アドレナリン受容体の分類とa1遮断薬の最新情報.薬学雑誌 126:187-198, 2006 4) Hiraizumi-Hiraoka Y, Tanaka T, Yamamoto H et al:Identi cation of alpha-1L adrenoceptor in rabbit earar-tery. J Pharmacol Exp Ther 310:995-1002, 2004———————————————————————- Page 61292あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(134) 5) Nakamuraツꀀ S,ツꀀ Taniguchiツꀀ T,ツꀀ Suzukiツꀀ Fツꀀ etツꀀ al:Evaluationツꀀ of a1-adrenocepters in the rabbit iris:pharmacological characterizationツꀀ andツꀀ expressionツꀀ ofツꀀ mRNA.ツꀀ Brツꀀ Jツꀀ Pharma-col 127:1367-1374, 1999 6) 渡邊敏夫,内海隆,杉山哲也ほか:最近の緑内障点眼薬の瞳孔に及ぼす影響.神経眼科 22:42-45, 2006 7) 大鹿哲郎,新家眞:塩酸ブナゾシン点眼による正常人眼及び房水動態の変化.日眼会誌 94:762-768, 1990 8) Maruyamaツꀀ K,ツꀀ Ohmuraツꀀ N,ツꀀ Yagiツꀀ Yツꀀ etツꀀ al:Alpha-1ツꀀ adreno-ceptor subtypes in canine aorta. Jpn J Pharmacol 62:263-267, 1993 9) Herd MK:Intraoperativeツꀀ oppy-iris syndrome with dox-azosin. J Cataract Refract Surg 33:562, 2007 10) Venkatesh R, Veena K, Gupta S et al:Intraoperativeツꀀ oppy iris syndrome associated with terazosin. Indian J Ophthalmol 55:395-396, 2007 11) Oshika T, Ohashi Y, Inamura M et al:Incidence of intra-operativeツꀀ oppy iris syndrome in patients on either sys-temic or topical a1-adrenocepter antagonist. Am J Oph-thalmol 143:150-151, 2007 12) Chadha V, Borooah S, Tey A et al:Floppy iris behaviour during cataract surgery:associations and variations. Br J Ophthalmol 91:40-42, 2007 13) 清水盛充,吉田正至,石原兵冶ほか:塩酸タムスロシン長期服用により IFIS をきたした 1 例.眼臨 100:874-876, 2006 14) 後関利明,清水公也,石川均ほか:デタントールR点眼使用中に生じた Intraoperativeツꀀツꀀ oppyツꀀ irisツꀀ syndrome.眼科手術(日本眼科手術学会誌臨時増刊号) 20:95, 2007 15) 松島博之,佐々木洋,松田章男ほか:白内障手術の傾向と対策術中・術後合併症と難治症例.臨眼 58:20-99, 2004 16) Unal M, Yucel I, Tenlik A:Intraoperativeツꀀ oppy-iris syn-drome associated with chronic use of chlorpromazine. Eye 21:1241-1242, 2007 17) Schwinn DA, Afshari NA:Alpha 1-adrenergic antago-nists andツꀀ oppy iris syndrome:tip of the icebergツꀀ Oph-thalmology 112:2059-2060, 2005 18) 安間哲史:IFIS(術中虹彩緊張低下症候群).眼科手術 20:457-463, 2007 19) 大鹿哲郎:排尿障害改善剤による Intraoperative Floppy Iris Syndrome. IOL&RS 21:55-58, 2007***

各種緑内障手術の成績

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1(121)ツꀀ 12790910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1279 1285,2009cはじめに緑内障のなかでも開放隅角緑内障(open-angle glaucoma:OAG)に対する手術療法として線維柱帯切除術(trabeculec-tomy:TLE),非穿孔性線維柱帯切除術(non-penetrating trabeculectomy:NPT),線維柱体切開術(trabeculotomy:LOT),ビスコカナロストミー(viscocanalostomy:VCS)などがあげられるが,それぞれに長所と短所があり絶対的な選択肢は存在せず,術式の選択には各々の特性が深く関与する.この特性を深く理解するため,筆者らは弘前大学医学部附属病院眼科における 2002 年から 2007 年までの各種緑内障手術成績を検討した.I対象および方法1. 対象対象は 2002 年 4 月から 2007 年 3 月までに弘前大学医学部附属病院眼科で TLE,NPT,LOT,VCS が施行された233 例 322 眼を後ろ向きに検討した.白内障手術併施,非併施,既眼内レンズ挿入眼にかかわらず緑内障初回手術症例をすべて対象とした.今回の検討対象となった 4 つの術式を表 1 に示す.各術式ともに利点や予想される合併症を十分に説明した後,文書による同意を得て行った.〔別刷請求先〕木村智美:〒036-8562 弘前市在府町 5弘前大学大学院医学研究科眼科学講座Reprint requests:Satomi Kimura, M.D., Department of Ophthalmology, Hirosaki University Graduate School of Medicine, 5 Zaifu-cho, Hirosaki 036-8562, JAPAN各種緑内障手術の成績木村智美石川太山崎仁志目時友美伊藤忠竹内侯雄中澤満弘前大学大学院医学研究科眼科学講座Surgical Results of Various Glaucoma SurgeriesSatomi Kimura, Futoshi Ishikawa, Hitoshi Yamazaki, Tomomi Metoki, Tadashi Ito, Kimio Takeuchi andツꀀ Mitsuru NakazawaDepartment of Ophthalmology, Hirosaki University Graduate School of Medicine目的:各種緑内障手術成績の検討.方法:2002 年 4 月から 2007 年 3 月までに trabeculectomy(TLE),non-pen-etratingツꀀ trabeculectomy(NPT),trabeculotomy(LOT),viscocanalostomy(VCS)を施行した 233 例 322 眼の後ろ向き検討.結果:術前眼圧(平均±標準偏差 mmHg)は TLEツꀀ 21.3±6.9,NPTツꀀ 18.3±5.9,LOT 24.0±9.0,VCS 19.8±4.1,術後眼圧は TLE 11.2±3.1 mmHg,NPTツꀀ 13.9±3.0,LOTツꀀ 15.8±3.6,VCSツꀀ 20.0±0.0 であった.合併症は TLEで最も多く,VCS ではみられなかった.結論:TLE は眼圧下降が大きいが合併症が多い.NPT は合併症は少ないが,眼圧下降が TLE よりも劣る.LOT および VCS では合併症はより少ないが,眼圧下降はより劣る傾向にある.To evaluate the surgical results of various types glaucoma surgeries performed at Hirosaki University Hospital between April 2002 and March 2007, we recorded intraocular pressure(IOP), postoperative treatment and compli-cations in 322 eyes of 233 patients who underwent trabeculectomy(TLE), non-penetrating trabeculectomy(NPT), trabeculotomy(LOT)or viscocanalostomy(VCS). Postoperative IOPs were 11.2±3.1, 13.9±3.0, 15.8±3.6 and 20.0±0.0 mmHg.ツꀀ Complicationsツꀀ wereツꀀ seenツꀀ mostツꀀ inツꀀ TLE;thereツꀀ wereツꀀ noツꀀ complicationsツꀀ inツꀀ VCS.ツꀀ Theseツꀀ resultsツꀀ suggest that TLE should be chosen if lower IOP is needed, though the procedure poses signi cant complications. Complica-tions with NPT are fewer than with TLE, but the postoperative IOP is inferior to that with TLE. In addition, NPT alsoツꀀ hasツꀀ theツꀀ characteristicsツꀀ ofツꀀ requiringツꀀ re-operationツꀀ moreツꀀ oftenツꀀ thanツꀀ doツꀀ otherツꀀ methods.ツꀀ Withツꀀ LOTツꀀ andツꀀ VCS,ツꀀ the postoperative IOP is inferior to those of TLE and NPT, but the complications are fewer.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1279 1285, 2009〕Key words:線維柱帯切除術,ツꀀ 非穿孔性線維柱帯切除術,ツꀀ 線維柱体切開術,ツꀀ ビスコカナロストミー,ツꀀ 手術成績,緑内障.trabeculectomy, non-penetrating trabeculectomy, trabeculotomy, viscocanalostomy, surgical out come, glaucoma.———————————————————————- Page 21280あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(122)2. 検討項目各群の術前平均眼圧,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧,眼圧下降率,術前,術後各時点での薬剤スコア,術中,術後合併症,再手術の有無について検討した.術前平均眼圧は術直前 3 回の平均眼圧とした.再手術例は再手術前の最終受診時を最終眼圧とし,それ以降は検討から除外した.また,Kaplan-Meier 法を用い,術前眼圧よりも 20%下降した眼圧をカットオフ値として生存率を算出した.眼圧下降率は術前平均眼圧と最終受診時眼圧から算出した.眼圧はすべて Goldmann 圧平眼圧計を用いて測定した.薬剤スコアは 1剤につき抗緑内障点眼薬を 1 点,内服薬を 2 点とした.薬剤スコアの術前後の比較は Spearman 順位相関係数検定で行った.LOT における前房出血とそれに伴う一過性の眼圧上昇は術後に起こりうる経過であり,合併症には含めなかったが,術後 30 mmHg 以上の眼圧が 2 週間以上遷延する場合は術後高眼圧と定義して合併症に含めた.また,術後低眼圧は2 週間以上 5 mmHg 未満の眼圧が遷延した場合と定義し,2週間以内のものは一過性の低眼圧として合併症に含めなかった.再手術は何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例と定義した.II結果各群における緑内障病型,性別,年齢などの患者背景を表2 に示す.性別は男性 171 眼,女性 151 眼,年齢は 57.7±20.1 歳(平均±標準偏差),術後平均観察期間は 25.6±15.8カ 月( 平 均±標準偏差).術式の内訳は TLE 群 73 眼,NPT群 103 眼,LOT 群 124 眼,VCS 群 22 眼であった.各術式に各緑内障病型を無作為に割り当てたものではないが,全体の傾向として TLE と NPT は比較的高齢者の緑内障に,LOT と VCS は比較的若年者の緑内障に対して用いられる傾向があった.1. TLE群a. 眼圧(平均±標準偏差)TLE 群全体の眼圧経過を図 1 に示す.術前眼圧は 21.3±6.9 mmHg,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧はそれぞれ 11.0±4.2 mmHg,10.6±3.6 mmHg,11.2±3.9 mmHg,11.3±3.7 mmHg,12.6±4.4 mmHg,11.2±3.1 mmHg であった.Kaplan-Meier 法を用いた術後各時点での生存率はそれぞ表 1手術手技【LEC】①ツꀀ 結膜輪部切開または円蓋部切開②ツꀀ 4×4 mm 強膜弁作製③ツꀀ 0.04% MMC 塗布④ツꀀ 300 ml 生理食塩水で洗浄⑤ツꀀ 白内障手術併施行の場合は超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑥ツꀀ 線維柱帯切除⑦ツꀀ 周辺虹彩切除⑧ツꀀ 強膜弁縫合⑨ツꀀ 結膜縫合【NPT】①ツꀀ 結膜輪部切開②ツꀀ 4×4 mm 強膜外方弁作製③ツꀀ 0.04% MMC 塗布④ツꀀ 300 ml 生理食塩水で洗浄⑤ツꀀ 白内障手術併施行の場合は超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑥ツꀀ 4×3.5 mm の強膜内方弁作製⑦ツꀀ 線維柱帯内皮網擦過,除去⑧ツꀀ 強膜内方弁を角膜側に伸ばし,Descemet 膜を露出した後,強膜内方弁除去⑨ツꀀ 強膜外方弁を縫合せず整復または強膜外方弁を縫合後半円形切除 2 カ所⑩ツꀀ 結膜縫合【LOT】①ツꀀ 結膜輪部切開②ツꀀ 4×4 mm 強膜弁作製ないし 4×4 mm 強膜弁作製後,さらに 3.5×3.5 mm の強膜内方弁作製③ツꀀ 白内障手術併施行の場合は超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)④ツꀀ Schlemm 管外壁を開放,強膜内方弁があれば切除後に線維柱帯切開⑤ツꀀ 強膜(外方)弁縫合後に半円形切除 1 カ所,小児の場合は半円形切除は非施行⑥ツꀀ 結膜縫合【VCS】①ツꀀ 結膜輪部切開②ツꀀ 4×4 mm 強膜弁作製③ツꀀ 3.5×3.5 mm の強膜内方弁作製④ツꀀ 白内障手術併施行の場合は超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑤ツꀀ Schlemm 管外壁を開放,さらに強膜内方弁を角膜側に伸ばし Descemet 膜を露出後,強膜内方弁除去⑥ツꀀ 線維柱帯内皮網擦過⑦ツꀀ Schlemm 管内,強膜外方弁下に粘弾性物質を留置⑧ツꀀ 強膜外方弁縫合⑨ツꀀ 結膜縫合:TLE:NPT:LOT:VCS5.010.015.020.025.030.035.0術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月眼圧(mmHg)図 1平均眼圧経過———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091281(123)れ 90%,86%,84%,81%,73%,71%であった(図 2).白内障手術併施,非併施,既眼内レンズ挿入眼で TLE 群を分けた眼圧経過を図 3 に示す.白内障手術併施例では術前眼圧 19.7±6.3 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 11.0±3.8 mmHg,11.1±3.5 mmHg,11.7±4.0 mmHg,11.8±3.8 mmHg,12.7±4.3 mmHg,11.2±3.1 mmHg であった.白内障手術非併施例では術前眼圧 24.7±7.1 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 9.5±2.3 mmHg,9.4±2.3 mmHg,10.3±3.0 mmHg,10.6±2.9 mmHg,11.8±3.7 mmHg,10.0±2.5 mmHg であった.既眼内レンズ挿入眼では術前眼圧 26.2±6.5 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ11.5±7.6 mmHg,8.5±5.6 mmHg,9.8±3.9 mmHg,9.8±3.6 mmHg,13.4±5.3 mmHg,12.9±2.9 mmHg であった.表 2患者背景TLENPTLOTVCS性差(男性:女性)40:3355:4867:579:13年齢(歳・平均±標準偏差)67.6±12.363.9±12.047.9±24.845.3±14.3病型POAG+NTG32834114EXG116180DEV13396SG(EXG を除く)2810232計(眼)7210212122白内障手術併施(眼)5279130術前平均眼圧(mmHg・平均±標準偏差)21.3±6.918.8±5.924.0±9.019.8±4.1術前平均薬剤スコア(点・平均±標準偏差)3.1±1.62.9±1.02.9±1.52.6±1.2 POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,EXG: 性緑内障,DEV:発達緑内障,SG:続発緑内障,TLE:trabeculectomy,NPT:non-penetrating trabeculectomy,LOT:trabeculotomy,VCS:visco-canalostomy.00.20.40.60.811.20510152025303540観察期間(月)生存率TLENPTLOTVCS*p 0.05,ツꀀ **p<0.001,ツꀀ *** p<0.00001******図 2各術式の眼圧生存率Kaplan-Meier 法を用い,術前眼圧よりも 20%下降した眼圧をカットオフ値とした.ログランク検定(危険率 5%)で,TLEと NPT,TLE と VCS の眼圧下降率には有意差があった.0.05.010.015.020.025.030.035.0術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)a:TLE0.05.010.015.020.025.030.035.040.045.0術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月b:NPT0.05.010.015.020.025.030.035.040.045.0術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月c:LOT:白内障手術併施:白内障手術非併施:既IOL挿入眼:白内障手術併施:白内障手術非併施:既IOL挿入眼:白内障手術併施:白内障手術非併施:既IOL挿入眼図 3水晶体の状態別眼圧経過TLE(a)では,水晶体の状態によらず安定した眼圧下降がみられ,NPT(b)では水晶体温存では他に比較して術後平均眼圧が高い傾向があった.LOT(c)では白内障手術併施のほうがより低値で安定する傾向がみられたが,水晶体温存でも眼圧下降は十分に得られていた.———————————————————————- Page 41282あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(124)b. 眼圧下降率TLE 群の眼圧下降率の散布図を図 4 に示す.平均眼圧下降率は 43.1%であった.眼圧下降率 30%以上の症例は 53 眼(68.8%),20%以上 30%未満の症例は 3 眼(3.9%),20%未満の症例は 16 眼(22.2%)であった.c. 薬剤スコア(平均±標準偏差)TLE 群全体の薬剤スコアの経過を図 5 に示す.術前薬剤スコアは 3.1±1.6 点,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での薬剤スコアはそれぞれ 0.3±1.2 点,0.2±0.6 点,0.3±0.7 点,0.8±1.2 点,0.9±1.0 点,1.0±1.1 点であり,術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05).d. 合併症術後の前房消失,脈絡膜 離が 4 眼(5.2%),術後の追加縫合が 3 眼(3.9%),前房出血が 2 眼(2.6%),濾過胞炎が 2眼(2.6%),術後の濾過胞穿孔が 1 眼(1.3%),術後低眼圧が 5 眼(6.5%)みられた.e. 再手術術後に追加的に緑内障手術が必要になった症例は 7 眼(9.1%)であった.2. NPT群a. 眼圧(平均±標準偏差)NPT 群全体の眼圧経過を図 1 に示す.術前眼圧は 18.8±5.9 mmHg,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧はそれぞれ 13.6±3.2 mmHg,13.5±3.1 mmHg,14.1±3.2 mmHg,13.9±3.3 mmHg,13.8±2.3 mmHg,13.9±3.0 mmHg であった.20%下降30%下降20%下降30%下降20%下降30%下降20%下降30%下降0510152025303540455055606505101520253035404550556065c:LOT0510152025303540010203040術前眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)術後眼圧(mmHg)051015202530350102030b:NPT051015202530051015202530d:VCSa:TLE図 4眼圧下降率平均眼圧下降率は TLE(a)43.1%,NPT(b)20.2%,LOT(c)25.1%,VCS(d)7.9%であった.:TLE:NPT:LOT:VCS術前1カ月3カ月6カ月12カ月24カ月36カ月0.01.02.03.04.05.0薬剤スコア図 5平均薬剤スコア薬剤スコアは各群で術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05,Spearman 順位相関係数検定).———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091283(125)Kaplan-Meier 法を用いた術後各時点の生存率はそれぞれ78%,74%,63%,52%,48%,42%であった(図 2).白内障手術併施,非併施,既眼内レンズ挿入眼で NPT 群を分けた眼圧経過を図 3 に示す.白内障手術併施例では術前眼圧 17.8±4.2 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 13.5±3.0 mmHg,13.3±3.2 mmHg,13.6±2.9 mmHg,13.8±2.4 mmHg,13.4±2.0 mmHg,13.2±2.4 mmHg であった.白内障手術非併施例では術前眼圧 20.2±6.3 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ14.1±3.4 mmHg,14.1±2.8 mmHg,15.6±3.4 mmHg,14.4±5.3 mmHg,15.6±2.4 mmHg,15.8±3.4 mmHg であった.既眼内レンズ挿入眼では術前眼圧 29.5±12.0 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 11.2±4.2 mmHg,15.5±2.5 mmHg,17.7±5.0 mmHg,15.0±0.0 mmHg,12.0±0.0 mmHg,18.5±0.0 mmHg であった.b. 眼圧下降率NPT 群の眼圧下降率の散布図を図 4 に示す.平均眼圧下降率は 20.2%であった.眼圧下降率 30%以上の症例は 29 眼(28.4%),20%以上 30%未満の症例は 21 眼(20.6%),20%未満の症例は 47 眼(46.0%)であった.なお,術中合併症の生じた症例(2 眼)と術後 2 週間以内に再手術を要した症例(3 眼)は含めなかった.c. 薬剤スコア(平均±標準偏差)NPT 群全体の薬剤スコアの経過を図 5 に示す.術前薬剤スコアは 2.9±1.0 点,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での薬剤スコアはそれぞれ 0.3±0.6 点,0.5±0.7 点,0.7±0.8 点,0.9±0.9 点,1.1±0.9 点,1.3±1.0 点であった.薬剤スコアは術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05).d. 合併症術中前房穿孔が 2 眼(2.0%)みられたが,重篤な術後合併症はみられなかった.e. 再手術術後に追加的に緑内障手術が必要になった症例は 11 眼(10.8%)あった.3. LOT群a. 眼圧(平均±標準偏差)LOT 群全体の眼圧経過を図 1 に示す.術前眼圧は 24.0±9.0 mmHg,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧はそれぞれ 15.4±4.0 mmHg,16.1±5.0 mmHg,16.4±5.2 mmHg,16.1±3.8 mmHg,15.2±3.1 mmHg,15.8±3.6 mmHg であった.Kaplan-Meier 法を用いた術後各時点の生存率はそれぞれ73%,70%,68%,65%,63%,58%であった(図 2).白内障手術併施,非併施,既眼内レンズ挿入眼で LOT 群を分けた眼圧経過を図 3 に示す.白内障手術併施例では術前眼圧 21.3±6.0 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ 14.7±2.9 mmHg,13.0±2.5 mmHg,13.7±3.0 mmHg,13.7±2.7 mmHg ,14.5±2.2 mmHg,14.9±2.9 mmHg であった.白内障手術非併施例では術前眼圧 24.4±9.6 mmHg,術後各時点での眼圧はそれぞれ15.6±4.2 mmHg,17.1±5.1 mmHg,17.2±5.6 mmHg,16.6±3.8 mmHg,15.5±3.4 mmHg,16.1±3.8 mmHg であった.既眼内レンズ挿入眼では術前眼圧 34.7±6.0 mmHg,術後1,3,6,12,24 カ月での眼圧はそれぞれ 17.6±5.9 mmHg,18.4±5.2 mmHg,16.9±2.8 mmHg,17.8±3.8 mmHg,12.3±0.0 mmHg であった.b. 眼圧下降率LOT 群の眼圧下降率の散布図を図 4 に示す.平均眼圧下降率は 25.1%であった.眼圧下降率 30%以上の症例は 54 眼(43.5%),20%以上 30%未満の症例は 21 眼(16.9%),20%未満の症例は 41 眼(33.1%)であった.なお,術中合併症の生じた症例(2 眼)と術後 2 週間以内に再手術を要した症例(3 眼)は含めなかった.c. 薬剤スコア(平均±標準偏差)LOT 群全体の薬剤スコアの経過を図 5 に示す.術前薬剤スコアは 2.9±1.5 点,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での薬剤スコアはそれぞれ 0.6±1.0 点,0.9±1.2 点,1.1±1.2 点,1.2±1.5 点,1.0±1.0 点,1.3±1.2 点であった.薬剤スコアは術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05).d. 合併症術後眼内炎が 1 眼(0.8%),術後高眼圧が 3 眼(2.4%)みられた以外,重篤な合併症はみられなかった.e. 再手術術後に追加的に緑内障手術が必要になった症例は 7 眼(5.6%)であった.4. VCS群a. 眼圧(平均±標準偏差)VCS 群の眼圧経過を図 1 に示す.術前眼圧は 19.8±4.1 mmHg,術後 1,3,6,12,24,36 カ月での眼圧はそれぞれ 16.6±3.0 mmHg,16.2±4.4 mmHg,18.2±3.9 mmHg,18.0±2.7 mmHg,19.0±3.2 mmHg,20.0±0.0 mmHg であった.Kaplan-Meier 法を用いた術後各時点の生存率はそれぞれ50%,50%,30%,25%,19%,19%であった(図 2).b. 眼圧下降率VCS 群の眼圧下降率の散布図を図 4 に示す.平均眼圧下降率は 7.9%であった.眼圧下降率 30%以上の症例は 0 眼(0%),20%以上 30%未満の症例は 5 眼(22.7%),20%未満の———————————————————————- Page 61284あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(126)症例は 14 眼(63.6%)であった.なお,術後 2 週間以内に再手術を要した症例(3 眼)は含めなかった.c. 薬剤スコア(平均±標準偏差)VCS の薬剤スコアの経過を図 5 に示す.術前薬剤スコアは 2.6±1.2 点,術後各時点での薬剤スコアはそれぞれ 1.2±0.9 点,1.5±1.0 点,1.5±1.0 点,1.6±1.0 点,1.0±0.5 点,2.0±0.0 点であった.薬剤スコアは術後各時点で術前に比較して有意に低下していた(p<0.05).d. 合併症VCS 群においては重篤な合併症はみられなかった.e. 再手術術後に追加的に緑内障手術が必要になった症例は 3 眼(13.6%)であった.一番生存率の高かった TLE とそれぞれの術式の累積生存率をログランク検定により比較すると,TLE は NPT(p<0.001),VCS(p<0.00001)より有意に生存率が高かったが,LOT との間には有意な差はみられなかった(図 2).III考按OAG に対するおもな緑内障手術としては TLE,NPT,LOT,VCS などがあげられる.これらの手術はそれぞれ長所と短所を内包しており,絶対的な手術法選択ができないという現状がある.手術方法の選択には各方法の特性が深く関与し,これを深く理解するためには,これまでの手術成績を振り返ることが重要である.そこで,筆者らは今回の検討を行った.手術方法の選択を考える場合,進行期緑内障では眼圧下降効果の大きさから流出路再建術よりも濾過手術が選択される場合が多い1).なかでも TLE は主流の術式である.今回の検討では TLE 群全体で術後 10 mmHg 台前半であり(図 1),眼圧下降率も下降率 30%以上の症例が 73.6%,20%以上が77.8%という結果が得られた(図 4).眼圧下降効果の面からは目標眼圧が 10 mmHg 台前半の後期緑内障や眼圧下降率が20%以上ないし 30%以上が求められる正常眼圧緑内障の良い適応であるといえる.薬剤スコアも術後各時点で術前よりも有意に減少していた(図 5).TLE は OAG,慢性閉塞隅角緑内障,落屑緑内障,その他の続発緑内障などさまざまな病型の緑内障に効果があるとされる1)が,今回の検討でもTLE 群では背景に続発緑内障が多い傾向にあったものの眼圧はよく下降していた.また,水晶体の状態別の眼圧経過は,水晶体温存,白内障手術併施,眼内レンズ眼でも経過に大きな差異はないようである(図 3).これらは TLE の長所であるといえる.一方で TLE は過剰濾過に伴う前房消失,低眼圧,低眼圧黄斑症などの忌むべき合併症が多いことも知られている2).今回の検討でも術後前房消失・脈絡膜 離が4 眼(5.6%),術後の追加縫合が 3 眼(4.2%),前房出血が 2眼(2.8%),濾過胞炎が 2 眼(2.8%),術後の濾過胞穿孔が 1眼(1.4%),術後低眼圧が 5 眼(6.9%)と他群にみられないさまざまな合併症がみられた.このように視機能を著しく低下させる重篤な合併症に加え,術後数年経過してからの晩期合併症があることに特徴がある.また,再手術に至った例が7 眼(9.1%)あった.TLE の合併症の多さから前房に穿孔しない NPT が考え出された.今回の検討では NPT 群全体で術後 10 mmHg 台前半の眼圧であった(図 1)が,背景因子が近い TLE と比較すると術後いずれの時点でも平均眼圧は TLE に劣る.眼圧下降率も下降率 30%以上が 28.4%,20%以上が 49.0%であり(図 4),TLE に劣る結果であった.また,水晶体の状態別の眼圧経過は,水晶体温存では他に比較して術後平均眼圧が高い傾向がある(図 3)3).また,再手術に至った例が 11 眼(10.8%)あった.これらの点は NPT の短所であり,水晶体の状態,目標眼圧などの面からは TLE よりも症例を選ぶ必要があると考えられた.しかし,検討期間中にみられた合併症は術中前房穿孔が 2 眼(2.0%)のみで,TLE のような重篤な合併症はみられず,術後管理は TLE よりも容易であるという利点があった.TLE,NPT は濾過胞を形成する手術であり,濾過胞感染の危険性を考えると眼球上方から手術を施行せざるをえない共通の短所がある.したがって同一方法での再手術回数は限られ,適応は慎重に選ばなくてはならない.一方で LOT に代表される流出路再建術は濾過胞が不要であり,眼球下方からの手術施行が可能である.また LOT は発達緑内障,ステロイド緑内障,落屑緑内障など特定の病型に対して効果が高いとされ,若年で眼圧が高く視神経乳頭の変化が軽度な場合に良い適応とされている4).今回の検討でも,これらの報告から LOT を選択した傾向がみられ,LOT群では TLE 群, NPT 群に比較して発達緑内障の症例が多く,患者年齢平均が低かった(表 1).眼圧経過は術後 16 mmHg前後であり(図 1),眼圧下降率 30%以上の症例が 44.6%,20%以上が 62.0%であった(図 4).目標眼圧が 10 mmHg 台後半ならば十分な値であるが,目標眼圧が 10 mmHg 台前半の後期緑内障や正常眼圧緑内障の手術適応には眼圧下降面から不十分である5).合併症は術後眼内炎が 1 眼(0.8%),術後高眼圧が 3 眼(2.5%)と頻度が低かった.水晶体の状態別の眼圧経過も,白内障手術併施のほうがより低値で安定する傾向がみられた(図 2)が,水晶体温存でも眼圧下降は十分に得られていた.この点からも LOT は病期が早期ないし中期,若年の患者には良い方法と考える.VCS 群は,22 眼ですべて白内障手術非併施であった.また,LOT 群同様に TLE 群,NPT 群より若年の患者に施行していた.眼圧経過は 17 mmHg 程度であり(図 1),術後———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009128512 24 カ月頃より再上昇する傾向がみられた6).眼圧下降率も 30%以上の症例は 0%,20%以上が 22.7%,20%未満の症例は 63.6%と高くはない(図 4).再手術に至った例は 3眼(13.6%)であった.VCS の場合,白内障手術併施のほうが術後眼圧は良好との報告がある7).一方で重篤な合併症はまったくみられず,安全性については非常に優秀である.以上より,白内障非併施の VCS は LOT 同様に目標眼圧が 10 mmHg 台前半の症例,正常眼圧緑内障の手術には眼圧効果面からは不適応と考えられる.VCS は症例こそ選ぶが多剤点眼している症例の負担を減らす目的,少しでも眼圧のベースラインを下げるための早期手術などには良い選択である可能性がある.このようにいずれの手術を選択するにせよ,それぞれ長所,短所があるが故に,それぞれの方法の特性を含めて患者に十分な情報を与え術式を選択することが必要であると考えられた.なお,今回の検討では術後平均観察期間が 25.6 カ月であり,全症例が 36 カ月や 48 カ月経過観察されていない点と,無作為に各術式に症例を振り分けたものではなく症例ごとに術式の選択がなされた結果である点が問題となる.しかしながら従来いわれているような各術式の適応病型について術後に想定される眼圧下降度や薬剤スコアの予想については参考となるデータであると思われる.また各術式については,各病型によって効果が異なるため,今後は緑内障各病型ごとの各術式の術後成績をまとめることも検討課題であると考えられた.文献 1) 東出朋巳:流出路手術か濾過手術か.臨眼 60(増刊号):60-64, 2006 2) Jongsareejitツꀀ B,ツꀀ Tomidokoroツꀀ A,ツꀀ Mimuraツꀀ Tツꀀ etツꀀ al:E cacy and complications after trabeculectomy with mitomycin C in normal-tension glaucoma. Jpn J Ophthalmol 49:223-227, 2005 3) 村上智昭,宮本秀樹,倉員敏明ほか:非穿孔性線維柱帯切除術の術後成績.臨眼 58:187-191, 2004 4) 小松務,横田香奈,松下恵理子ほか:緑内障病型別にみた線維柱帯切開術の成績.臨眼 61:1039-1043, 2007 5) 大黒幾代,大黒浩,中澤満:弘前大学眼科における緑内障手術成績.あたらしい眼科 20:821-824, 2003 6) 三宅三平:Viscocanalostomy ─原法と中期成績.眼科手術 14:315-319, 2001 7) Gimbel HV, Penno EE, Ferensowicz M:Combined cata-ract surgery, intraocular lens implantation, and visco-canalostomy. J Cataract Refract Surg 25:1370-1375, 1995(127)***

セプラフィルム R 併用線維柱帯切除術を施行した緑内障の5例

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1(117)ツꀀ 12750910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1275 1278,2009cはじめに緑内障に対する線維柱帯切除術の不成功例のおもな原因は強膜弁の瘢痕形成によるものであり1),この瘢痕形成を抑制する線維芽細胞増殖阻害薬マイトマイシン C(MMC)が併用されるようになり,術後成績が格段に向上した2,3).しかし,MMC の併用によっても,結膜下癒着および強膜弁癒着により再び眼圧上昇をきたす難治性の緑内障症例に対し治療に難渋することが少なくない.今回筆者らは,通常腹腔内手術や骨盤内手術において術後の癒着防止目的にて使用されている癒着防止吸収性バリア(セプラフィルムR,科研製薬株式会社,図 1)4 6)が,強膜弁および強膜結膜間の物理的なバリアとして存在することにより癒着を軽減,濾過胞の維持に効果的と考え,強膜および結膜の癒着が強く濾過胞形成不全をきたしやすいと考えられる結膜瘢痕を有する緑内障 5 例 6 眼に対し,セプラフィルムR併用線維柱帯切除術を施行したので報告する.I対象および方法対象は,2007 年 8 月から 2008 年 4 月の間に,当科にてセプラフィルムR併用線維柱帯切除術を施行し,術後 2 カ月以上経過観察した緑内障患者 5 例 6 眼である.病型は落屑緑内障 1 例 2 眼,原発開放隅角緑内障(狭義)1 例 1 眼,続発緑内障 2 例 2 眼,慢性閉塞隅角緑内障 1 例 1 眼であった.内訳は,男性 3 例,女性 2 例,年齢は 59 79 歳(平均値±標準偏差;69.2±9.1 歳),全例 2 回以上の内眼手術の既往があった(表 1).眼圧下降薬 2 6 剤(4.3±1.4 剤:アセタゾラミ ド 内 服 は 2 剤 と し て 換 算)使 用 下 に て 術 前 眼 圧 は 21 47 mmHg(32.3±8.5 mmHg),術後経過観察期間は 2 13〔別刷請求先〕鶴田みどり:〒060-8543 札幌市中央区南 1 条西 16 丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprint requests:Midori Tsuruta, M.D., Department of Ophthalmology, Sapporo Medical University School of Medicine, S1W16, Chuo-ku, Sapporo 060-8543, JAPANセ プ ラフィル ムR併用線維柱帯切除術を施行した 緑内障の 5 例鶴田みどり田中祥恵稲富周一郎片井麻貴大黒幾代大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座Trabeculectomy Using Sepra lmR in Five Cases of GlaucomaMidori Tsuruta, Sachie Tanaka, Syuichiro Inatomi, Maki Katai, Ikuyo Ohguro and Hiroshi OhguroDepartment of Ophthalmology, Sapporo Medical University School of Medicine目的:緑内障症例に対しセプラフィルムR併用線維柱帯切除術を施行した 5 症例の報告.対象および方法:全例 2回以上の内眼手術の既往のある結膜瘢痕を有する緑内障 5 例 6 眼.術式は,強膜弁下にセプラフィルムRを留置,強膜弁とともに縫合した.結果:2 眼では術後 2 カ月でさらなる眼圧下降手術を要したが,4 眼では良好な経過であった.重篤な合併症は認められなかった.結論:セプラフィルムR併用により安定した濾過胞と眼圧下降が得られる可能性があるが,今後適応および術式につきさらなる検討を要する.Weツꀀ reportツꀀ onツꀀ 5ツꀀ patients(6ツꀀ eyes)whoツꀀ underwentツꀀ trabeculectomy,ツꀀ usingツꀀ Sepra lmR,ツꀀ forツꀀ refractoryツꀀ glaucoma(exfoliation glaucoma, primary open-angle glaucoma, secondary glaucoma, chronic closed-angle glaucoma)and who had undergone intraocular surgery at least twice. Postoperative intraocular pressure(IOP)was signi cantly lower than the baseline IOP, but 2 eyes required additional glaucoma surgery. There were no severe complications. Tra-beculectomyツꀀ usingツꀀ Sepra lmRツꀀ isツꀀ expectedツꀀ toツꀀ beツꀀ aツꀀ safeツꀀ andツꀀ e ectiveツꀀ method;furtherツꀀ studyツꀀ isツꀀ neededツꀀ forツꀀ evalua-tion of this technique.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1275 1278, 2009〕Key words:線維柱帯切除術,セプラフィルムR,緑内障.trabeculectomy,Sepra lmR,glaucoma.———————————————————————- Page 21276あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(118)カ月(6.0±4.5 カ月)であった.学内倫理委員会の承認を得た後,すべての患者より手術に先立ち,術式・結果および合併症に関する十分な情報提供を行い,文書による同意を得た.6 眼中 1 眼に水晶体超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)との同時手術を施行,3 眼が偽水晶体眼であり,2 眼が術後無水晶体眼であった.術式は,①円蓋部基底結膜切開,② 4×4 mm(四角形)の強膜外方弁作製,③ 4×3.5 mm の強膜内方弁を作製,切除,④線維柱帯切除,⑤周辺部虹彩切除,⑥強膜弁下に約 5×6 mm のセプラフィルムRを留置,⑦強膜弁をセプラフィルムRとともに 10-0 ナイロン糸にて 2 4 糸縫合した(図 2).硝子体切除術,水晶体再建術および線維柱帯切開術の既往があり,結膜の癒着が強いと思われた症例⑤および複数回にわたる線維柱帯切除術の既往があり結膜瘢痕が強いと思 わ れ た 症 例 ⑥ に 対 し MMC を 併 用 し た(表 2). な お,MMC は強膜外方弁作製後 0.04%の濃度で 3 分間接触させたのち生理食塩水 250 ml にて洗浄した.当術式における術後眼圧値,術後処置および合併症につき検討した.なお,眼圧はすべて Goldmann 圧平眼圧計を用いて測定し,有意差の検定には paired-t 検定を用いた.図 1セプラフィルムR12.7×14.7 cm の半透明のフィルム.:セプラフィルムR図 2術式模式図表 1症例の内訳症例年齢(歳)性別病型手術の既往(施行順)①R79FPEGPEA,ALT,ALT,adNPT②L79FPEGPEA,ALT,ALT,LEC,GSL+A-vit,LOT,A-vit+濾過胞再建③L59MSEG(色素散布性)PEA+IOL,LEC,LEC LOT④R59MPOAGLEC,LEC⑤R67FSEG(ぶどう膜炎)VIT+PEA+IOL,LOT⑥L72MCACGLI,LEC,LEC,PEA+IOL L:左眼,R:右眼,M:男性,F:女性,PEG:落屑緑内障,SEG:続発性緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,CACG:慢性閉塞隅角緑内障,PEA:超音波水晶体乳化吸引術,IOL:眼内レンズ挿入術,ALT:アルゴンレーザー線維柱帯形成術,adNPT:改良型非穿孔性トラベクレクトミー,LEC:トラベクレクトミー,LOT:トラベクロトミー,GSL:隅角癒着解離術,A-vit:前部硝子体切除,VIT:硝子体手術,LI:レーザー虹彩切開術.表 2術式と経過症例術式眼圧経過(mmHg)観察期間追加治療術前1 カ月2 カ月3 カ月最終①LEC+セプラフィルムR4789121613 カ月②LEC+セプラフィルムR32746── 2 カ月毛様体光凝固③LEC+セプラフィルムR32622181610 カ月IOL 縫着術④LEC+セプラフィルムR+PEA-IOL212026── 2 カ月濾過胞再建術⑤LEC+セプラフィルムR+MMC346141717 4 カ月⑥LEC+セプラフィルムR+MMC281613147 5 カ月———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091277(119)II結果1. 術後眼圧(平均値±標準偏差)(表 3)術前眼圧値 32.3±8.5 mmHg に比べ,術後 1 週目の眼圧値は 6.2±2.4 mmHg(p<0.001),術後 2 週目は 9.2±2.0 mmHg(p<0.001)と有意に下降した.また,術後 2 カ月で 2 眼がさらなる眼圧下降手術を要したのに対し,有血管性でびまん性の良好な濾過胞例 4 眼(図 3)では,それぞれ術後 2 カ月で 2 眼,4 カ月で 1 眼に眼圧下降薬を併用したものの,眼圧は術後 1 カ月,2 カ月および 3 カ月目の眼圧値はそれぞれ 10.5±6.0 mmHg,15.3±2.8 mmHg,15.0±1.4 mmHg と良好な眼圧下降が得られた.2. 術後処置術後,全例で laserツꀀ suturelysis(LSL)を要し,術後 13 日目から 20 日目に施行した.眼球マッサージも全例で併用した.4 症例 5 眼(83.3%)で needling を要した.症例⑤では厚い Tenonツꀀ により LSL が困難であったため,needling にて切糸した.3. 術後合併症(表 4)2 眼に術後低眼圧による脈絡膜 離が眼底周辺部に限局してみられたが,術後 8 20 日で消失した.房水漏出は 3 眼(50%)あり,3 眼ともに輪部切開部からの漏出であり,セプラフィルムRの吸収とともに 2 眼は自然に治癒,1 眼は縫合を追加し房水漏出が消失した.また,セプラフィルムRの前房内迷入が 1 眼あったが前房洗浄で除去でき,その後の眼圧,濾過胞の維持に影響はなく角膜内皮障害なども認められなかった.なお,浅前房,持続性低眼圧など重篤な合併症は認めなかった.III考按緑内障に対する MMC 併用線維柱帯切除術は,現在最も有効な手術である2,3)が,結膜瘢痕を有する症例に対する線維柱帯切除術は MMC を使用しても不成功に終わることが少なくない.MMC 以外に成功率を高める方法の一つとして,新井らはセプラフィルムRを強膜フラップ間の物理的バリアとして用いた新しい緑内障手術を報告した(血管新生緑内障に対するセプラフィルムR併用線維柱帯切除術,第 61 回日本臨床眼科学会総会).セプラフィルムRはヒアルロン酸ナトリウムとカルボキシルメチルセルロースを重量比 2:1 で含有する合成生体吸収性癒着防止剤で,通常腹腔内手術や骨盤内手術において術後の癒着防止目的にて広く使用されている4 6).セプラフィルムRはおよそ 7 日間適用部位にとどまり,体内に吸収された後 28 日以内に体外へ排出され,物理表 3眼圧下降例の術後眼圧の推移(平均±標準偏差)眼圧(mmHg)術前1 週間2 週間1 カ月3 カ月6 カ月12 カ月32.3±8.56.2±2.4**9.2±2.0**10.5±6.0**15.3±2.8*15.0±1.4*16(n=6)(n=6)(n=6)(n=6)(n=4)(n=2)(n=1) *p<0.05,**p<0.001.表 4術後合併症合併症眼 数脈絡膜 離2 眼(8,20 日でそれぞれ消失)房水漏出3 眼(結膜縫合 1 眼)セプラフィルムR前房内迷入1 眼(前房洗浄)図 3術後13日の前眼部写真有血管性,びまん性の濾過胞(症例③).セプラフィルムR強膜弁図 4術後10日のUBM強膜弁下にセプラフィルムRを認める.(今回の症例とは別の経過良好な症例.73 歳,男性,POAG)———————————————————————- Page 41278あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(120)的なバリアとして存在することにより癒着を軽減する9)ことから,緑内障の術後濾過胞の維持にも効果的と思われる(図4).セプラフィルムRは毒性がなく,免疫反応を起こさないことが証明されており10,11),頭蓋内の皮下組織および硬膜の癒着を防止する目的で頭蓋内での使用も報告されている12).したがって本症例のような MMC 併用濾過手術不成功である緑内障進行例に対し,術後早期に眼圧値を 7 12 mmHgに調整する必要性13)から,合成生体吸着性癒着防止剤であるセプラフィルムR併用にて術後早期の癒着を防止することにより眼圧コントロールできないか考えた.今回 6 眼中 2 眼でさらなる緑内障手術を要したが,複数回の手術既往で結膜瘢痕があり,また,セプラフィルムRは創傷治癒を抑制するものではなく14),本法の限界を示しているのかもしれない.一方,MMC を併用した 2 症例は観察期間が短いものの,いずれも良好な濾過胞を維持しており,併用が可能な症例では MMC も併用することでより良好な成績が得られることが示唆された.濾過胞を維持するための術後処置として,全例で LSL および眼球マッサージを要した.術後合併症として房水漏出が3 眼(50%)とこれまでの報告 7 10%15)と比べ頻度が高く,セプラフィルムRが輪部切開部の癒着も遅延させてしまった可能性が考えられたが,1 週間程度の経過観察および縫合の追加で房水漏出に対処することができると思われた.また,セプラフィルムRの前房内迷入が 1 例あったが問題なく経過しており,浅前房,持続性低眼圧など重篤な合併症は認められず,比較的安全性の高い手法と思われた.結膜瘢痕を有する緑内障に対する線維柱帯切除術では,セプラフィルムRを使用することにより安定した濾過胞と眼圧下降が得られる可能性がある.しかしながら,術後比較的早期に濾過胞の消失がみられる症例もあり,セプラフィルムR併用に関して今後適応および術式につき,さらなる検討を要する.文献 1) Scuta GL, Parrish PK:Wound healing in glaucomaツꀀ ltering surgery. Surv Ophthalmol 32:149-170, 1987 2) Kitazawaツꀀ Y,ツꀀ Kawaseツꀀ K,ツꀀ Matsushitaツꀀ Hツꀀ etツꀀ al:Trabeculec-tomy with mitomicin C. Arch Ophthalmol 109:1693-1698, 1991 3) 八百枝潔,阿部春樹,白柏基宏ほか:マイトマイシン Cを併用した線維柱帯切除術後の長期眼圧下降効果.あたらしい眼科 14:395-398, 1997 4) 貞廣荘太郎,鈴木俊之,石川健二ほか:泌尿器科医に必要な新しい医療材料の知識合成吸収性癒着防止剤.臨床泌尿器科 56:45-49, 2002 5) 赤羽勉,佐藤耕一郎,橋本有ほか:開腹手術における癒着防止シート(セプラフィルムR)による術後早期イレウス防止効果の検討.外科治療 87:557-562, 2002 6) 登内仁,小林美奈子,楠正人:合成吸収癒着防止剤(セプラフィルムR)による腸管癒着防止法.外科 64:187-188, 2002 7) 山本哲也,北澤克明:線維芽細胞増殖阻害薬を併用するトラベクレクトミー:その光と影.眼科 37:39-46, 1995 8) 宮田博:トラベクレクトミーその併発症と対策.眼科 41:979-984, 1999 9) 毛利靖彦,内田恵一,楠正人:癒着防止フィルム.外科 69:1168-1172, 2007 10) Sueda J, Sakuma T, Nakamura H et al:In vivo and in vitroツꀀ feasibilityツꀀ atudiesツꀀ ofツꀀ intraocularツꀀ useツꀀ ofツꀀ Sepea lmツꀀ to close retinal breaks in bovine and rabbit eyes. Invest Oph-thalmol Vis Sci 47:1142-1148, 2006 11) Burnsツꀀ JW,ツꀀ Coltツꀀ MJ,ツꀀ Burgessツꀀ LSツꀀ etツꀀ al:Preclinicalツꀀ evalua-tion of Sepra lm bioresorbable membrane. Eur J Surg 163:40-48, 1997 12) 一ノ瀬努,宇田武弘,日下部太ほか:外減圧後頭蓋形成術における癒着防止吸収性バリア(セプラフィルムR)の有用性.脳神経外科 35:151-154, 2007 13) 清水美穂,丸山幾代,八鍬のぞみほか:マイトマイシン C併用トラベクレクトミーの術後成績に影響を及ぼす臨床因子.あたらしい眼科 17:867-870, 2000 14) Akyol N, Aydogan S, Akpolat N:E ect of membrane adhesion barriers on wound healing reaction after glauco-maツꀀ ltration surgery. Eur J Ophthalmol 15:591-597, 2005 15) 狩野廉,桑山泰明,水谷泰之:強膜トンネル併用円蓋部基底トラベクレクトミーの術後成績.日眼会誌 109:75-82, 2005***

緑内障における新しい視野解析プログラムPolar Graphの使用経験

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1(111)ツꀀ 12690910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1269 1274,2009cはじめに緑内障の診療では,眼底の構造的変化と機能的変化である視野障害の局所的な一致1)を確認することが診断上重要である.緑内障で認められる特徴的な視野障害の主原因は,視神経乳頭の篩状板部における網膜神経線維の軸索障害によるとされており,それに伴い対応する網膜上の網膜神経節細胞からの光情報が遮断され,障害部位に一致した視野欠損が生ずると考えられている.そのため,視野障害の形状は視神経乳頭へ向かう網膜神経線維の走行パターン2,3)に大きく依存することになる.日常診療において,この緑内障における構造〔別刷請求先〕七部史:〒589-8511 大阪狭山市大野東 377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprint requests:Fumi Tanabe, M.D., Department of Ophthalmology, Kinki University School of Medicine, 377-2 Ohno-Higashi, Osaka-Sayama City, Osaka 589-8511, JAPAN緑内障における新しい視野解析プログラム Polar Graph の使用経験七部史*1有村英子*2松本長太*1奥山幸子*1高田園子*1野本裕貴*1 橋本茂樹*1下村嘉一*1*1 近畿大学医学部眼科学教室*2 近畿大学医学部堺病院眼科Experience of Using Polar Graph in Open-Angle GlaucomaFumi Tanabe1), Eiko Arimura2), Chota Matsumoto1), Sachiko Okuyama1), Sonoko Takada1), Hiroki Nomoto1),ツꀀ Shigeki Hashimoto1) and Yoshikazu Shimomura1)1)Department of Ophthalmology, Kinki University School of Medicine, 2)Department of Ophthalmology, Sakai Hospitalツꀀ Kinki University School of Medicine目的:Polarツꀀ Graph は緑内障における構造的変化と機能的変化の対応評価を支援するために開発された新しい視野の表現方法で,解剖学的な網膜神経線維走行を考慮し,視神経乳頭部での障害部位を機能的障害より予測することができるといわれている.今回筆者らは,この Polar Graph で表現された機能的障害と構造的障害の対応について検討することを目的とした.方法:開放隅角緑内障症例に対し,この Polarツꀀ Graph による視野表現を行い,立体眼底写真,Heidelbergツꀀ Retinalツꀀ Tomographyツꀀ 3(HRT3)および Stratusツꀀ OCT(OCT3)にて得られた視神経乳頭および網膜神経線維の形態学的所見との対応関係を検討した.結果:Polarツꀀ Graph の異常部位は,立体眼底写真の異常部位および HRT3で得られた視神経乳頭の異常部位ならびに OCT3 で測定した網膜神経線維の菲薄部位によく一致していた.また,Polarツꀀ Graph の異常部位はこれらの異常部位よりやや狭い範囲を示すことが確認された.結論:Polar Graph は緑内障における機能的変化と構造的変化の対応を評価するめに有用である.Purpose:Polarツꀀ Graphツꀀ isツꀀ aツꀀ newlyツꀀ developedツꀀ methodツꀀ ofツꀀ visualツꀀツꀀ eldツꀀ analysis.ツꀀ Usingツꀀ theツꀀ anatomicalツꀀ patternツꀀ of retinalツꀀ nerveツꀀツꀀ berツꀀ bundles,ツꀀ Polarツꀀ Graphツꀀ canツꀀ predictツꀀ theツꀀ locationsツꀀ ofツꀀ structuralツꀀ changesツꀀ inツꀀ theツꀀ opticツꀀ discツꀀ fromツꀀ the functional results. In this study, we investigated the correlation between structural and functional changes as eval-uated by Polar Graph. Methods:In patients with open-angle glaucoma, Polar Graphツꀀ ndings were compared with morphologicalツꀀツꀀ ndingsツꀀ forツꀀ opticツꀀ discツꀀ andツꀀ retinalツꀀ nerveツꀀツꀀ ber,ツꀀ asツꀀ obtainedツꀀ byツꀀ stereoツꀀ fundusツꀀ photography(SFP), Heidelbergツꀀ Retinalツꀀ Tomographyツꀀ 3(HRT3)andツꀀ Stratusツꀀ OCT(OCT3). Result:Theツꀀ abnormalツꀀ areasツꀀ indicatedツꀀ by Polar Graph correlated well with those indicated by SFP, HRT3 and OCT3. Moreover, the abnormal areas described by Polar Graph were smaller than those described by SFP, HRT3 and OCT3. Conclusion:Polar Graph is a useful tool for evaluating the correspondence between structural and functional changes in glaucoma patients.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1269 1274, 2009〕Key words:ポーラーグラフ,緑内障,網膜神経線維層,視神経乳頭,オクトパス視野計.Polarツꀀ Graph,ツꀀ glaucoma, retinal nerveツꀀ ber layer, optic disc, Octopus perimeter.———————————————————————- Page 21270あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(112)的変化と機能的変化の対応を評価する場合,診断者は視神経乳頭およびその周囲の網膜神経線維の所見から実際には明確に観察できない網膜神経線維走行を念頭に置いて,さらに上下を反転させ,得られた視野障害が妥当なものであるかを確認することになる.Polarツꀀ Graph はこのような緑内障における構造的変化と機能的変化の対応評価を支援するために開発された新しい視野の表現方法で,解剖学的な網膜神経線維走行を考慮し,視神経乳頭部での障害部位を機能的変化より予測すると示唆されている.2006 年に Polar Graph の前身である Polar diagramが,H.ツꀀ Bebieツꀀ と Haag-Streit 社によって開発され,研究者用に Octopus Field Analysis(旧名 evaluate PVD)として無償で公開された.このプログラムは現在でも同社のサイトからダウンロード可能となっている.その後 2008 年に,同社の Octopusツꀀ 900 シリーズの視野測定,解析用プログラムとして開発されていた Eyeツꀀ Suite(Ver.ツꀀ 1.22)に Polarツꀀ Graphが導入され一般使用できるようになった.I目的緑内障症例においてこの Polar Graph を用いた機能障害の表現と眼底写真ならびに眼底 3 次元画像解析装置から得られた視神経乳頭・網膜神経線維の構造的変化との対応関係を比較し,臨床における Polar Graph の有用性および問題点について検討すること.II対象緑内障各病期(早期,中期,後期)の典型的な緑内障症例3 例ならびに緑内障と網膜中心静脈分枝閉塞症との合併症例を対象とした.III方法今回の症例では,Octopusツꀀ 101ツꀀ G2ツꀀ program を用い,nor-malツꀀ strategy にて測定された結果を Polarツꀀ Graph で表現し,眼底所見と比較した.1. Polar Graphの原理Polarツꀀ Graph の概要を図 1 に示す.Polarツꀀ Graph は単一視野の表現方法の一つであり,視野の各測定点の値を原因病巣である視神経乳頭周囲へ再配置させることで視野変化と視神経乳頭ならびにその周囲の網膜神経線維層所見を直接比較しながら評価することができる.まず,視野検査で実測された各測定点の値は,年齢別正常値からの欠損量(Comparison)として算出される(図 1a).つぎに,各測定点に対応する網膜神経節細胞の軸索が視神経乳頭のどの部位に入るかが網膜神経線維走行のパターンより算出され(図 1b)(このプログb:網膜神経走行とComparisond:Polar Grapha:Comparisonc:眼底写真d-1d-2反転図 1Polar Graphの原理———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091271(113)ラムでは網膜神経線維走行パターンは,一つのモデルから作成されている),各測定点の結果は乳頭周囲へ円形に 360°再配置され,欠損量が 0 dB なら円周上に,欠損量が大きいと突出するグラフとして描写される(図 1d).さらに,最終的には眼底所見(図 1c)との対応を容易にするために上下反転して表現される(図 1d).2. 眼底所見とPolar Graphの比較方法眼底の評価には,立体眼底写真(NIDEK 3DX),眼底写真(Canon 60UV),Heidelberg Retinal Tomography 3(HRT3:Heidelberg 社製)および Stratusツꀀ OCT(OCT3:Carlツꀀ Zeiss 社製)を用いた.HRT3 は,Moore eldツꀀ regres-sionツꀀ analysis の解析結果を使用し,OCT3 は,Fastツꀀ Retinal Nerveツꀀ Fiberツꀀ Layerツꀀ Thickness(Ver.3.4)で scan し,Aver-ageツꀀ Nerveツꀀ Fiberツꀀ Layerツꀀ Thickness の解析結果を使用した.Polarツꀀ Graph で表示されている異常部位(時計回りで 1 時から 12 時区分)と実際に眼底写真,OCT3 と HRT3 で観察される視神経乳頭および乳頭周囲の視神経線維層の構造的変化(時計回りで 1 時から 12 時区分)の一致範囲について検討した.IV結果〔症例1〕56 歳, 男 性. 原 発 開 放 隅 角 緑 内 障(狭 義)(POAG)の早期症例.この症例の Polarツꀀ Graph では,1 時方向に突出したグラフが得られた.これは Octopusツꀀ 101 における G2ツꀀ program のgrayツꀀ scale の鼻側下方の感度低下を表現する.眼底写真では11 時から 2 時方向に網膜神経線維層欠損(NFLD)と 1 時方向の視神経乳頭辺縁部(rim)の菲薄化が認められた.OCT3では 1 時方向(p<1%の赤色の部位)と 12 時と 2 時方向(p<5%の黄色の部位)に網膜神経線維層厚(RNFLT)の菲薄化を認めた.また HRT3 では 10 時から 2 時方向に異常部位を認めた.これらから,機能的障害を評価する Polarツꀀ Graph と,構造的障害を評価する眼底写真の異常部位はよく一致していた.さらに,OCT3 においては p<1%の部分がよく一致 し て い た が, そ の 周 囲 に p<5% の 部 分 が 認 め ら れ,RNFLT の菲薄化は Polarツꀀ Graph と比較するとやや広く検出されていた.さらに HRT3 においても Polarツꀀ Graph の異常部位よりも広い異常部位が認められた(図 2).〔症例2〕51 歳,女性.POAG の中期症例.Polarツꀀ Graphツꀀ では 5 時から 8 時方向および 11 時方向に突出が認められた.これは G2 program のビエルム(Bjerrum)領域を含む鼻上側と鼻下側の感度低下を示す.眼底写真では5 時から 9 時方向および 11 時から 1 時方向に rim の菲薄化が み ら れ,OCT3 で は 5 時 か ら 8 時 と 11 時 方 向(p<1%)および 12 時と 2 時方向(p<5%)に RNFLT の菲薄化を認めた.また,HRT3 では 12 時から 7 時方向までが異常部位であった.これらの異常部位は Polar Graph とほぼ一致していたが,HRT3 や OCT3 の異常部位は症例 1 と同様に Polar Polar GraphHRT3OCT3眼底写真CO Gray scale651128051877364655148100%95%5%1%0%48115図 2症例1:56歳,男性,POAGの早期Polar Graph で 1 時方向に突出を認め,それに対応する部位の異常を眼底写真・OCT3・HRT3 で認めた.———————————————————————- Page 41272あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(114)Graph で表現される異常部位よりやや広い傾向を認めた(図3).〔症例3〕45 歳,男性.POAG の後期.Polarツꀀ Graph で 1 時から 2 時および 5 時から 6 時方向に突出を認めた.これは G2ツꀀ program での Bjerrum 領域を含む上下鼻側の感度低下を示す.眼底写真では 1 時から 2 時および 5 時から 7 時の rim の菲薄化と 11 時から 2 時および 5 時から 7 時の NFLD が認められ,OCT3 では 12 時から 2 時と5 時から 6 時方向(p<1%)および 7 時から 8 時方向と 10 時から 11 時方向(p<5%)に RNFLT の菲薄化を認めた.また,HRT3 では 12 時から 8 時方向まで異常部位が検出されていた.この結果より Polar Graph と眼底写真の異常部位はほぼ一致していた.OCT3 においても p<1%の RNFLT の菲薄化部位は Polar Graph とよく一致していたが,その周囲に確率 5%以下の RNFLT の菲薄化部分があり,Polarツꀀ Graph の異常部位は OCT3 で示される異常部位より狭く異常が検出されていた.そして HRT3 においても同様の傾向が認められた(図 4).〔症例4〕58 歳,男性.POAG の網膜中心静脈分枝閉塞症(BRVO)合併例.1997 年の Polarツꀀ Graph では,上方のアーケード内にあるBRVO に対応する下方の視野欠損が表現され,11 時方向に突出を認めた.2003 年の眼底写真では,BRVO のあった 11時方向には rim の菲薄化を伴わない著明な NFLD を認め,7時方向には POAG が進行したと考えられる rim の菲薄化を伴う NFLD が認められた.Polarツꀀ Graph においては以前の11 時方向の突出に加え新たに 7 時方向に著明な突出が認められており,これは G2ツꀀ program での上方の視野欠損を示す.11 時方向の障害は網膜疾患によるものであるため眼底の NFLD に一致していたが,乳頭所見とは一致していなかった.7 時方向の障害は緑内障によるものであり,眼底のNFLD および視神経乳頭の所見に一致していた(図 5).V考按今回の症例を通して Polarツꀀ Graph と眼底写真,HRT3,OCT3 の異常部位はよく一致していた.単一視野の表現方法には,grayツꀀ scale,数値表示や probabilityツꀀ plot などさまざまな手法がある.しかし,Polarツꀀ Graph は,測定結果を解剖学的網膜神経線維走行に基づき,視神経乳頭周囲に再配置するという新しい方法で,今までできなかった視神経乳頭局所における直接的な構造的障害と機能的障害の対応評価を可能とした.さらに従来の視野所見から眼底所見,あるいは眼底所見から視野所見を類推するというステップが不要となり,忙しい日常診療の場においても十分用いることのできる評価法である.さらに,Polarツꀀ Graph を用いることで,一般眼科医においても,もし緑内障であれば視神経乳頭のどの部位にPolar GraphHRT3OCT3眼底写真CO Gray scale75335791363148795552100%95%5%1%0%5933図 3症例2:51歳,女性,POAGの中期Polar Graph の 2 つに分かれた突出部位と眼底写真・OCT3・HRT3 での異常部位は一致していた.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091273(115)Polar GraphHRT3OCT3眼底写真CO Gray scale48497751604649594646100%95%5%1%0%3344図 4症例3:45歳,男性,POAGの後期Polar Graph では 1 時から 2 時,5 時に突出を認め,眼底写真・OCT3・HRT3 での異常はほぼ一致していた.2003年1997年Polar GraphCO Gray scale図 5症例4:58歳,男性,POAGに網膜中心静脈分枝閉塞症を合併上段は 1997 年,下段は 2003 年の眼底写真と Polarツꀀ Graph である.1997 年には網膜中心静脈分枝閉塞症とそれに対応する 11 時方向の突出があり,2003 年には 7 時方向に緑内障によると考えられる突出が生じている.11 時方向の所見は NFLD の所見と一致するが,視神経乳頭の所見とは一致しない.———————————————————————- Page 61274あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(116)異常がある可能性が高いかを示す指針ができたことも大きな利点と考えられた.今回の症例においては,基本的に Polar Graph で異常が指摘された部位に構造的異常が確認された.しかしながら,眼底 写 真,OCT3 や HRT3 で 検 出 さ れ た 構 造 的 異 常 範 囲 はPolarツꀀ Graph よりも広く検出された.緑内障では一般的な視野検査で検出される機能的障害は,構造的変化より遅れて出現することが多くの研究者により報告されている4 6).Polar Graph を用いた場合,Polarツꀀ Graph で表現される視野障害と視神経乳頭の構造的障害の部位を厳密に比較することで,その傾向はより顕著に認められたと考えた.実際の臨床でPolarツꀀ Graph を用い眼底所見との比較を行う場合には,この構造的異常範囲が広く検出される点を理解したうえで対応し評価を行う必要がある.そして,症例 4 のように,逆に Polar Graph で示される異常部位に視神経乳頭の異常所見が認められない場合は,緑内障以外の原因を考慮する必要がある.Polarツꀀ Graph を用いることでこのような症例でもより明確に眼底所見と視野異常の不一致を判定できると考えられた.一方,現在の Polar Graph は,一定の網膜神経線維層の走行モデルを使用して解析を行っている.実際の症例では,眼軸,屈折,眼球の回旋,網膜神経線維走行の個体差などの影響で解析にある程度のずれが生じる可能性は否定できない.現時点では,これらの要因が Polar Graph の解析結果へどれほど影響するかについては不明であるが,今後の検討が必要であると考えられた.文献 1) 日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第 2 版).日眼会誌 110:777-814, 2006 2) Hogan MJ, Alvarado JA, Weddell JE:History of the Human Eye. WB Saunders, Philadelphia, 1971 3) Mincklerツꀀ DS:Theツꀀ organizationツꀀ ofツꀀ nerveツꀀツꀀ berツꀀ bundlesツꀀ in the primate optic nerve head. Arch Ophthalmol 98:1630-1636, 1980 4) Quigleyツꀀ HA,ツꀀ Addicksツꀀ EM:Quantitativeツꀀ studiesツꀀ ofツꀀ retinal nerveツꀀ ber layer defects. Arch Ophthalmol 100:807-814, 1982 5) Quigley HA, Dunkelberger GR, Green WR:Retinal gan-glion cell atrophy correlated with automated perimetry in humanツꀀ eyesツꀀ withツꀀ glaucoma.ツꀀ Amツꀀ Jツꀀ Ophthalmol 107:453-464, 1989 6) Harwerth RS, Carter-Dawson L, Shen F et al:Ganglion cell losses underlying visualツꀀ eld defects from experimen-tal glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci 40:2242-2250, 1999***

ラタノプロストの眼圧下降効果が不十分な正常眼圧緑内障におけるブリンゾラミドの変更治療薬および併用治療薬としての有用性

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1(107)ツꀀ 12650910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1265 1268,2009cはじめに近年の緑内障治療は症例ごとに目標眼圧を設定して治療することが推奨されている1).正常眼圧緑内障では眼圧下降率30%以上1,2)などを目標とするが,緑内障治療薬単独治療での達成は容易ではない3).緑内障診療ガイドラインでは,眼圧下降効果が不十分な場合,多剤併用治療ではなく,まず変更治療を行うべきことが記されている1).〔別刷請求先〕中元兼二:〒164-8541 東京都中野区中野 4-22-1東京警察病院眼科Reprint requests:Kenji Nakamoto, M.D., Department of Ophthalmology, Tokyo Metropolitan Police Hospital, 4-22-1 Nakano, Nakano-ku, Tokyo 164-8541, JAPANラタノプロストの眼圧下降効果が不十分な正常眼圧緑内障におけるブリンゾラミドの変更治療薬および併用治療薬としての有用性中元兼二安田典子東京警察病院眼科Usefulness of Brinzolamide Following Switch to Brinzolamide Monotherapy and Concomitant Use of Latanoprost and Brinzolamide in Normal-Tension Glaucomaツꀀ Patients Poorly Responsive to LatanoprostKenji Nakamoto and Noriko YasudaDepartment of Ophthalmology, Tokyo Metropolitan Police Hospitalラタノプロスト(LP)単独治療 8 週後の眼圧下降率が両眼ともに 10%未満の正常眼圧緑内障(NTG)7 例 14 眼において,同一症例で視野障害の強いほうの眼は LP とブリンゾラミド(BZ)の併用治療(併用治療眼),他眼は BZ 単独治療へ変更(変更治療眼)し,BZ の有用性を検討した.眼圧は,変更治療眼において BZ 単独治療変更後有意な変化はなかったが,併用治療眼においては BZ 併用後有意に下降した(p<0.01).眼圧が LP 単独治療時より下降した症例は,変更治療眼では 3 眼(43%),併用治療眼では 7 眼(100%)であった.無治療時に対する眼圧下降率は,変更治療眼 0.9±18.1%,併用治療眼 17.6±6.9%で,併用治療眼のほうが有意に大きかった(p<0.05).LP の眼圧下降効果が不十分な NTG において,BZ は LP との併用により確実な眼圧下降効果を示すが,一部の症例では,変更治療薬としても有用な薬剤である可能性がある.We investigated the usefulness of brinzolamide following the switch to brinzolamide monotherapy and concom-itant use of latanoprost and brinzolamide in 7 normal-tension glaucoma(NTG)patients poorly responsive to latano-prost. Patients were treated for 8 weeks by instillation of latanoprost to both eyes. The eye with the more serious visualツꀀ eld disorder then received latanoprost and brinzolamide concomitantly(Concomitant Therapy Eye). In the fellow eye, latanoprost was discontinued and treatment was changed to brinzolamide monotherapy(Switched Therapyツꀀ Eye).ツꀀ Switchedツꀀ Therapyツꀀ Eyesツꀀ showedツꀀ noツꀀ signi cantツꀀ reductionツꀀ inツꀀ intraocularツꀀ pressure(IOP)afterツꀀ the switchツꀀ toツꀀ brinzolamideツꀀ monotherapy.ツꀀ Concomitantツꀀ Therapyツꀀ Eyes,ツꀀ however,ツꀀ showedツꀀ signi cantツꀀ reductionツꀀ inツꀀ IOP afterツꀀ concomitantツꀀ useツꀀ ofツꀀ brinzolamide,ツꀀ asツꀀ comparedツꀀ toツꀀ latanoprostツꀀ monotherapy.ツꀀ IOPツꀀ wasツꀀ reducedツꀀ inツꀀ 3ツꀀ Switched Therapy Eyes(43%)after the switch to brinzolamide monotherapy. The percent reductions in IOP were signi cantly greater in Concomitant Therapy Eyes than in Switched Therapy Eyes.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1265 1268, 2009〕Key words:ラタノプロスト,ブリンゾラミド,ノンレスポンダー,正常眼圧緑内障,変更治療,併用治療.latanoprost, brinzolamide, non-responder, normal-tension glaucoma, switching therapy, concomitant therapy.———————————————————————- Page 21266あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(108)そこで今回,ラタノプロスト単独治療で十分な眼圧下降効果が得られなかった正常眼圧緑内障において,ラタノプロストからブリンゾラミドへの変更治療およびラタノプロストとブリンゾラミドの併用治療の眼圧下降効果について調べ,ブリンゾラミドの変更治療および併用治療における有用性について比較検討した.I対象および方法対象は正常眼圧緑内障 7 例 14 眼である.年齢は 61±7.8歳,男性 4 例,女性 3 例である.選択基準は,日を変えた 2回の未治療時の左右眼圧に差がないもので,かつ,0.005%ラタノプロスト単独治療 8 週後の眼圧下降率が両眼ともに10%未満のものである.除外基準は,重篤な角膜疾患,ぶどう膜炎の既往があるもの,内眼手術の既往のあるもの,眼圧が正確に測定できないもの,担当医が不適切と判断したものである.正常眼圧緑内障(NTG)の診断基準は,眼圧日内変動を含めた無治療時の眼圧がいずれも 21 mmHg 以下であること,正常開放隅角であること,緑内障性視神経乳頭変化と対応する緑内障性視野変化があること,視神経乳頭の緑内障様変化をきたしうる他の疾患がないこととした.方法は,未治療時の眼圧を,日を変えて 2 回測定し,0.005%ラタノプロスト(キサラタンR)を両眼に 8 週点眼後再度眼圧を測定した.その後,休薬期間なく片眼をラタノプロストから 1%ブリンゾラミド(エイゾプトR)単独治療へ変更(変更治療眼)し,また,他眼をラタノプロストとブリンゾラミド併用治療(併用治療眼)とし,さらに 8 週治療後,眼圧を測定した.本試験開始前に眼圧下降薬を使用していたものは 4 週以上休薬後,無治療時眼圧を測定した.すべての眼圧は Goldmann 圧平眼圧計で午前 10(±1)時に同一医師が測定した.併用治療眼には,視野障害がより高度なほうの眼を割り付けた.視野障害の指標には,本試験開始日前後 6 カ月以内の Humphrey 静的自動視野計中心プログラム 30-2 のmeanツꀀ deviation(MD)を用いた.ラタノプロストは 1 日 1回 2 2(±1)時,ブリンゾラミドは 1 日 2 回 8(±1 )時 と 2 0(±1)時に点眼させた.両薬剤ともに,一滴点眼後 5 分以上涙 圧迫および眼瞼を閉瞼させた.本試験開始前に全例に試験の内容などを口頭で十分に説明し同意を得た.変更治療眼では,ラタノプロスト単独治療時とブリンゾラミド単独治療変更後の眼圧を比較した.併用治療眼では,ラタノプロスト単独治療時とブリンゾラミド併用治療後の眼圧を比較した.また,無治療時に対する眼圧下降率を算出し,両治療眼を比較した.統計解析には Wilcoxonツꀀ signed-ranksツꀀ test を用い,有意水準 p<0.05(両側検定)で検定した.II結果全症例の無治療時眼圧は 16.4±2.6 mmHg であった.変更治療眼において,眼圧はラタノプロスト単独治療時 15.3±2.0 mmHg,ブリンゾラミド単独治療変更後 16.0±2.2 mmHgで,両者に有意な差はなかった(図 1).併用治療眼におい01214161820(n=7)Mean±SEブリンゾラミド変更治療無治療時ラタノプロスト単独治療眼圧(mmHg)図 1変更治療眼における眼圧の推移眼圧はラタノプロスト単独治療時 15.3±2.0 mmHg,ブリンゾラミド単独治療変更後 16.0±2.2 mmHg で,両者に有意な差はなかった.眼圧(mmHg)01214161820**ブリンゾラミド併用治療無治療時ラタノプロスト単独治療**:p<0.01(n=7)Mean±SE図 2併用治療眼における眼圧の推移眼圧は,ラタノプロスト単独治療時 15.4±1.8 mmHg,ブリンゾラミド併用治療後 13.4±1.7 mmHg で,ブリンゾラミドの併用によりラタノプロスト単独治療時より有意に下降した(p<0.01).:併用治療眼:変更治療眼眼圧下降率(%)症例1234567-20-1001020図 3ラタノプロスト単独治療時に対する眼圧下降率(全症例)ラタノプロスト単独治療時より眼圧が下降した症例は,変更治療眼では, 3 眼(43%),併用治療眼では全眼(100%)であった.また,個々の症例の左右眼を比較すると,7 例中 6 例において,併用治療眼の眼圧下降率が変更治療眼より大きかった.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091267(109)て,眼圧は,ラタノプロスト単独治療時 15.4±1.8 mmHg,ブリンゾラミド併用治療後 13.4±1.7 mmHg で,ブリンゾラミドの併用によりラタノプロスト単独治療時より有意に下降した(p<0.01)(図 2).ラタノプロスト単独治療時より眼圧が下降した症例は,変更治療眼では,7 例中 3 眼(43%)であった.一方,併用治療眼では全眼ラタノプロスト単独治療時より眼圧が下降した.また,個々の症例の左右眼を比較すると,7 例中 6 例において,併用治療眼の眼圧下降率が変更治療眼より大きかった(図 3).無治療時に対する眼圧下降率は,ブリンゾラミド変更治療後 0.9±18.1% , ブリンゾラミド併用治療後 17.6±6.9%で,併用治療後のほうが変更治療後より有意に大きかった(p<0.05)(図 4).無治療時に対する眼圧下降率が 10%以上であった症例は,変更治療眼では3 眼(43%),併用治療眼では 6 眼(86%)であった(図 5).III考按正常眼圧緑内障においても,眼圧下降が唯一エビデンスのある治療である.ラタノプロストは,強力な眼圧下降効果を示すことから,正常眼圧緑内障に対しても第一選択薬とされることが多い薬剤である4)が,ラタノプロストでも正常眼圧緑内障への単独治療では眼圧下降率が 10%に至らないものが約 3 割ある3).緑内障診療ガイドラインでは,眼圧下降効果が不十分な場合,薬剤の追加ではなく,まず変更治療を行うべきことが記されている1)が,ラタノプロスト単独治療で十分な眼圧下降効果が得られなかった正常眼圧緑内障においてラタノプロストからブリンゾラミドへの変更治療の有効性を検討した報告はない.そこで,今回,ラタノプロスト単独治療の眼圧下降効果が不十分な正常眼圧緑内障患者の片眼をブリンゾラミド単独治療へ変更し,他眼をラタノプロスト・ブリンゾラミド併用治療として,ブリンゾラミドの変更治療および併用治療における有効性を調べた.その結果,全対象で解析すると,変更治療眼では,ラタノプロスト単独治療からブリンゾラミド単独治療へ変更後も,眼圧の有意な変化はなかった.一方,併用治療眼ではブリンゾラミドの併用後,眼圧はラタノプロスト単独治療時より平均 2.0 mmHg 有意に下降した.個々の症例別に検討すると,ラタノプロスト単独治療時より眼圧が下降したものは,変更治療眼では 3 眼(43%)であり,併用治療眼では 7 眼(100%)であった.また,ラタノプロスト単独治療時からの眼圧下降率は,症例 4 を除いたすべての症例で併用治療眼が変更治療眼より大きかった.このことから,併用治療は,変更治療より確実な眼圧下降効果が期待できることは間違いないが,半数近くの症例では,ブリンゾラミド単独治療への変更のみで 10%以上の眼圧下降率を得られることがわかった.今回の対象のうち 4 例は,変更治療ではラタノプロスト単独治療時より眼圧が上昇しているにもかかわらず,併用治療ではラタノプロスト単独治療時より明らかに眼圧は下降していた.この原因には,無治療時眼圧の評価が不十分であった可能性や季節変動による影響,あるいはラタノプロストの眼圧下降効果を判定した 8 週間という治療期間が適切でなかった可能性5)などが考えられる.正常眼圧緑内障におけるラタノプロストとブリンゾラミドの併用効果を検討した報告によると,ブリンゾラミド追加 3 カ月後の眼圧下降率の平均値は11%6),13%7)であった.本試験の眼圧下降率は 15%であったことから,確かに過去の報告より大きい値であり,ラタノプロストの眼圧下降効果判定期間が 8 週間では不十分であった可能性は否定できない.(n=7)眼圧下降率併用治療眼変更治療眼0123401234-20-1002030(%)10-20-1002030(眼)(%)10図 5無治療時に対する眼圧下降率分布無治療時に対する眼圧下降率が 10%以上であった症例は,変更治療眼では 3 眼(43%),併用治療眼では 6 眼(86%)であった.*:p<0.05(n=7)Mean±SE眼圧下降率(%)0510152025*併用治療眼変更治療眼図 4無治療時に対する眼圧下降率比較無治療時に対する眼圧下降率は,ブリンゾラミド変更治療後0.9±18.1% , ブリンゾラミド併用治療後 17.6±6.9%で,併用治療後のほうが変更治療後より有意に大きかった(p<0.05)(図 4).———————————————————————- Page 41268あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(110)多剤併用治療は,副作用の増強,アドヒアランス低下を招きやすいため,可能な限り単独治療への変更を試みなくてはならない.ブリンゾラミドは正常眼圧緑内障においてラタノプロストの眼圧下降効果が不十分な場合,ラタノプロストの併用治療薬としてだけでなく,一部の症例では,変更治療薬としても有用な薬剤である可能性がある.文献 1) 日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第 2 版.日眼会誌 110:777-814, 2006 2) Collaborative Normal-Tension Glaucoma Study Group:Comparison of glaucomatous progression between untreated patients with normal-tension glaucoma and patients with therapeutically reduced intraocular pres-sures. Am J Ophthalmol 126:487-497, 1998 3) 中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌 108:401-407, 2004 4) 中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査薬物治療.あたらしい眼科 25:1581-1585, 2008 5) Camras CB, Hedman K:Rate of response to latanoprost orツꀀ timololツꀀ inツꀀ patientsツꀀ withツꀀ ocularツꀀ hypertensionツꀀ orツꀀ glauco-ma. J Glaucoma 12:466-469, 2003 6) 江見和雄:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストとブリンゾラミドの併用効果.あたらしい眼科 24:1085-1089, 2007 7) 井上賢治,小尾明子,若倉雅登ほか:ラタノプロストへのブリンゾラミド点眼追加療法.あたらしい眼科 25:1573-1576, 2008***

強膜軟化症を呈した骨髄性ポルフィリン症の1例

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1(103)ツꀀ 12610910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1261 1264,2009cはじめにポルフィリンは,ヘム合成の中間代謝産物あるいは副生成物である.ヘムはヘモグロビン,ミオグロビン,ペルオキシダーゼなど,多くの酵素や蛋白質の構成成分であり,ポルフィリン代謝は生体にとって重要である1).ポルフィリン症はポルフィリン体の過剰産生の場所により骨髄性と肝性に分かれる.臨床症状から,大きく皮膚型ポルフィリン症と急性ポルフィリン症の 2 つに分類される2).骨髄性ポルフィリン症は皮膚型ポルフィリン症の一つに分類され,日光過敏症,骨軟骨の欠損,溶血性貧血など,ポルフィリン症のなかでも最も重篤な症状を呈する疾患である.原因は,ヘム合成経路の 4 番目の酵素であるウロポルフィリノーゲン III 合成酵素(uroporphyrinogenツꀀ IIIツꀀ synthase)の活性低下である.わが国ではポルフィリン症の報告があるが皮膚病変などが主体である.筆者らが調べる限り,海外ではポルフィリン症の強膜軟化症の報告が散見される3 5)が,わが国における眼科領域の報告は劉らの網膜下出血6),Tsuboi らの視神経萎 縮7),久富木原らの外転神経麻痺8),佐藤らの一過性脳性盲9)そして,強膜軟化症については栗原ら10)の報告がある.今回,栗原らに続いてわが国 2 例目と考えられたポルフィリン症に伴うまれな強膜軟化症を経験したので報告する.I症例患者:42 歳,男性.主訴:左眼視力低下.家族歴:特記事項はない.既往歴:骨髄性ポルフィリン症(平成 3 年),糖尿病,ポルフィリン症の皮膚潰瘍に対する手術.現病歴:平成 3 年に骨髄性ポルフィリン症と診断を受けた.その時点より強膜軟化症を指摘されていたが,定期受診は怠っていた.最近 4 年間の受診がなく,左眼視力低下を主訴に市立四日市病院受診.強膜軟化症悪化のため平成 20 年8 月 19 日三重大学医学部附属病院(以下,当院)を紹介受診した.視力は右眼 1.2(n.c.),左眼 0.2(0.3× 5.0 D),眼圧両眼20 mmHg であった.両眼の瞼裂部に強膜軟化症を呈し,左眼に角膜浮腫を認めた(図 1,2).上方,下方球結膜には異常はなかった.コントロール不良の糖尿病があったが,中間透光体,眼底に糖尿病性病変は認めなかった.顔面部皮膚に〔別刷請求先〕中世古直成:〒514-8507 津市江戸橋 2-174三重大学大学院医学研究科神経感覚医学講座眼科学教室Reprint requests:Naoshige Nakaseko, M.D., Department of Ophthalmology, University of Mie Graduate School of Medicine, 2-174 Edobashi, Tsu-city, Mie 514-8507,ツꀀ JAPAN強膜軟化症を呈した骨髄性ポルフィリン症の 1 例中世古直成杉本昌彦中世古幸成佐宗幹夫宇治幸隆三重大学大学院医学研究科神経感覚医学講座眼科学教室A Case of Erythropoietic Protoporphyria with ScleromalaciaNaoshige Nakaseko, Masahiko Sugimoto, Yukishige Nakaseko, Mikio Sasou and Yukitaka UjiDepartment of Ophthalmology, University of Mie Graduate School of Medicine両眼に強膜軟化症を発症した骨髄性ポルフィリン症の 1 例の報告をする.症例は 42 歳,男性で,両眼の強膜軟化症に対して保存強膜を用いた強膜移植術,結膜被覆術を施行したが,術後に結膜の創傷治癒遅延がみられ,結膜による創の被覆に長期間を要した.We report a rare case of erythropoietic protoporphyria associated with scleromalacia. The patient, a 42-year-oldツꀀ male,ツꀀ hadツꀀ undergoneツꀀ scleralツꀀ graftingツꀀ surgeryツꀀ usingツꀀ preservedツꀀ scleralツꀀ andツꀀ conjunctivalツꀀ coveringツꀀ inツꀀ bothツꀀ eyes. However, conjunctival wound healing was delayed, a long time being required to cover the conjunctiva.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1261 1264, 2009〕Key words: 強 膜 軟 化 症, ポ ル フ ィ リ ン 症, 強 膜 移 植 術.scleromalacia,ツꀀ erythropoieticツꀀ protoporphyria,ツꀀ scleral grafting.———————————————————————- Page 21262あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(104)は眼瞼皮膚を含め露出部に色素沈着,硬化を認め,鼻は変形して萎縮を認めた(図 3).両手にも顔面同様,露出部皮膚に色素沈着,硬化を認めた.同時に皮膚潰瘍の跡も見受けられた(図 4).経過:入院のうえ,糖尿病は食事療法のみでコントロール良好になった.初診時より感染予防のため,ガチフロキサシン点眼(ガチフロR点眼液)両眼 1 日 3 回を行い,左眼には角膜浮腫を伴っており消炎のため,アトロピン硫酸塩点眼(1%アトロピンR点眼液)左眼 1 日 3 回を開始した.感染症,創傷治癒の問題もありステロイド薬の使用はしなかった.平成 20 年 9 月 4 日保存強膜による左眼強膜移植術と結膜被覆術を施行したが,縫合不全で結膜が離開したため,9 月 8 日結膜被覆術を施行するも結膜は再度離開した.9 月 14 日にも左眼結膜被覆術を施行したが,同様に離開した.しかし,時間の経過ともに結膜は伸展していった.術後は強膜移植術を施行した 9 月 4 日からは抗生物質の全身投与,フルモキセフナトリウム(フルマリンR 1 g 点滴)朝,夕を 3 日間行い,ガチフロキサシン点眼液(ガチフロR点眼液)は継続した.結膜離開のため,9 月 6 日より自己血清の点眼も開始した.9月 25 日保存強膜による右眼強膜移植術と結膜被覆術に羊膜移植術も施行した.羊膜移植は提供者および患者への説明を行い,文書による同意を得たうえで施行した.しかし,左眼と同様に結膜が離開した(図 5).結局両眼とも結膜は離開したが,保存強膜上に 2 週間後より結膜組織と血管の侵入がみられ,結膜による被覆が進んでいる(図 6).術後は左眼同様の抗生物質の全身投与を手術当日より 3 日間と翌日より抗生物質の点眼,血清点眼も開始した.両眼とも経過中は感染症,創傷治癒の問題もあり,ステロイド薬の全身投与および,点眼は使用しなかった.両眼とも感染徴候はみられなかった.左眼の角膜浮腫も改善され,左眼視力(1.2)まで回復した.右眼に関しては視力は 1.2(n.c.)で不変である.入院中,念のため膠原病の合併がないか全身検査を行ったが,膠原病は否定的であった.図 1右眼前眼部写真瞼裂部に強膜軟化症を認める.図 3顔面写真露出部に色素沈着,硬化,鼻は変形して萎縮を認めた.図 2左眼前眼部写真瞼裂部に強膜軟化症,角膜浮腫も認められる.図 4両手写真色素沈着,硬化を認め皮膚潰瘍の跡も見受けられた.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091263(105)II考按骨髄性ポルフィリン症の病因は,ヘム合成経路の酵素である uroporphyrinogenツꀀ IIIツꀀ synthase の先天異常で常染色体劣性遺伝である1,2).酵素活性低下により,尿・血漿・赤血球中の uroporphyrin I,coproporphyrin I が著しく増加し,その毒性によって光線過敏症を生じる.本症は,他のポルフィリン症と同様に露出部皮膚の水疱形成,潰瘍形成,硬化などの光線過敏症状に加えて,骨軟骨の欠損による鼻や耳介の欠損,溶血性貧血,脾腫などを呈するのが特徴である.本例でも露出部に上記の症状を呈していた.栗原ら10)が報告したのと同様,眼瞼に覆われている上方および下方の球結膜,無血管組織である角膜,結膜に異常を認めなかった.病因として,結膜・強膜血管中に蓄積した uroporphyrinツꀀ I,copro-porphyrinツꀀ I の光毒性が考えられた.瞼裂部結膜のみ光毒性による障害を生じ,水疱形成・硬化を反復した結果,結膜は欠損し強膜軟化症に陥ったと考えられた.本症に対する積極的な治療法はない.予防として,光線を避けること,皮膚の外傷を起こさないようにするなどの手段がとられている.本例も日中の外出を避けたり,サングラス装用を気にはかけていたが,車の運転の仕事をしていて,強膜軟化症は認めていたにもかかわらず定期受診を怠り,重度になるまで放置し,厳密な遮光は行っていなかった.手術に関して重要なのは,①病巣を周囲の健常部を含めて完全に除去すること,ならびに②強膜移植片を結膜で完全に被覆することである.①は強膜軟化症の再発,進行防止と移植片を確実に縫着し,縫合糸の術後早期の脱落を防ぐために必要であり,②は機械的な刺激から移植片を保護するのみならず,血流の供給による移植片の生着,同化の役割をもち,術後早期の消炎と眼表面の安定した再構築のために必要だからである11).症例によっては結膜による完全な被覆は不可能なこともあり,その場合自己結膜移植,羊膜の移植の追加も有効である.本例では術後,移植した強膜片の生着は良好であるが,結膜の被覆に関しては,栗原らの報告と同様創傷治癒が遅延した10).また,羊膜を使用しても結膜の創傷治癒は遅れた.病巣部結膜の進展性が乏しいため結膜の創傷治癒が遅延したものと考えられるが,結局,創傷治癒機転そのものに異常があることが考えられる.そのため,ポルフィリン症患者の強膜軟化症に対する強膜移植は,結膜の被覆は時間がかかることを念頭におくべきである.本症例では露出部である手の皮膚潰瘍の手術を何度も行っているが,同様に創傷治癒は遅れていることも踏まえて,ポルフィリン症の創傷治癒に関して露出部については注意が必要である.現在,遮光による眼球保護と進行予防を行い経過観察中であるが,今後生活環境や季節変化などにより,眼症状は反復するものと考えられる.文献 1) 近藤雅雄,青木洋祐:ポルフィリン代謝に関する最近の知見.医学のあゆみ 155:859-863, 1990 2) 高村昇,谷川健,難波裕幸ほか:先天性赤芽球性ポルフィリン症の遺伝子解析と遺伝子治療の可能性.ポルフィリン 5:129-137, 1996 3) Mohanツꀀ M,ツꀀ Goyalツꀀ JL,ツꀀ Pakrasiツꀀ Sツꀀ etツꀀ al:Corneoscleralツꀀ ulcer-ation in congenital erythropoietic porphyria(a case report). Jpn J Ophthalmol 32:21-25, 1988 4) Ueda S, Rao GN, LoCascio JA et al:Corneal and conje-unctival changes in congenital erythropoietic porphyria. Cornea 8:286-294, 1989 5) Sevel D, Burger D:Ocular involvement in cutaneous por-phyria. Arch Ophthalmol 85:580-585, 1971 6) 劉美智,山田浩喜,北岡隆:網膜下出血を合併した先天性赤芽球性ポルフィリン症の一例.眼臨紀 1:596, 2008 7) Tsuboiツꀀ H,ツꀀ Yonemotoツꀀ K,ツꀀ Katsuokaツꀀ K:Erythropoieticツꀀ por-図 5右眼手術後移植強膜の生着は良好であるが結膜は離開した.図 6右眼手術後時間とともに結膜血管が侵入し徐々に被覆されている.———————————————————————- Page 41264あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(106)phyria with eye complication. J Dermatol 34:790-794, 2007 8) 久富木原真,後藤良三:複視を主訴とした急性ポルフィリン症の 1 例.臨眼 44:916-917, 1990 9) 佐藤昌保,富崎安夫:一過性脳性盲を呈した急性間歇性ポルフィリン症の 1 例.眼紀 43:1378-1381, 1992 10) 栗原久美子,今泉信一郎,原田拓二ほか:強膜壊死を呈した先天性赤芽球性ポルフィリン症の 1 例.眼紀 51:657-660, 2000 11) 酒井義生,山之内頬一,中塚和夫:強膜軟化症に対する強膜移植術の 3 例.眼紀 41:717-721, 1990***

ラットのアレルギー性結膜炎モデルに対するリボスチン R 点眼液およびレボカバスチン塩酸塩点眼液「わかもと」の効果の比較

2009年9月30日 水曜日

トシル酸トスフロキサシン(TFLX)点眼液の前眼部感染性疾患における有用性の検討

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1(95)ツꀀ 12530910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1253 1256,2009cはじめに近年,細菌性結膜炎,麦粒腫などの前眼部感染性疾患の治療の第一選択薬としては,広域な抗菌スペクトルを有するフルオロキノロン系抗菌薬が多く使用されている.今回,2006 年に臨床使用が可能となったフルオロキノロン系点眼液であるトシル酸トスフロキサシン(TFLX)点眼液について,臨床的有用性を①治療効果判定と②薬剤感受性試験で検討した.I検討I:臨床所見を指標とした治療効果判定1. 対象2006 年 5 月から 2 カ月間の外来受診者中,結膜充血,眼脂,眼瞼腫脹,疼痛の前眼部感染症状のうち 2 症状以上を認め,結膜培養を実施した 81 例 81 眼を対象とした.男性 40例,女性 41 例で,平均年齢は 57.9±25.5 歳であった.2. 方法・対象眼:症状の強い側を対象とし,両側の症状が同程度の場合は左眼を対象とした.・培養:0.4%塩酸オキシブプロカインを点眼後,下眼瞼結膜を滅菌綿棒スワブにて擦過し,以下の培地に接種した.輸送培地: BBLツꀀ cultureツꀀ Swabツꀀ PlusTM(Becton, Dick-inson and Company).培地: 血液寒天培地,BTB 乳糖培地,チョコレート寒天培地,サブロー寒天培地.・薬剤感受性試験:Kirby-Bauer 法(Sensi-Disc,ツꀀ Becton, 〔別刷請求先〕田村薫:〒113-8421 東京都文京区本郷 2-1-1順天堂大学医学部眼科学教室Reprint requests:Kaoru Tamura, M.D., Department of Ophthalmology, Juntendo University School of Medicine, 2-1-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8421, JAPANトシル酸トスフロキサシン(TFLX)点眼液の前眼部感染性疾患における有用性の検討田村薫*1木村泰朗*1,2川端紀穂*1,2藤巻拓郎*1横山利幸*1村上晶*1*1 順天堂大学医学部眼科学教室*2 上野眼科医院Clinical Evaluation of the Usefulness of Tosuloxacin Tosilate Ophthalmic Solution for Extraocular InfectionKaoru Tamura1), Tairou Kimura1,2), Kiho Kawabata1,2), Takuro Fujimaki1), Toshiyuki Yokoyama1) andツꀀ Akira Murakami1)1)Department of Ophthalmology, Juntendo University School of Medicine, 2)Ueno Eye Clinicトスフロキサシン点眼薬を前眼部感染症症例 81 例 81 眼に使用し,有効性を検討した.著効例 62.5%,有効例 30%,無効例 7.5%であった.トスフロキサシンは前眼部感染症において臨床的有用性は優れていたが,フルオロキノロン系薬剤間の薬剤感受性比較では,メチシリン感受性ブドウ球菌(MSSA)とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)において有意差を認め,薬剤感受性は低い傾向を示した.Weツꀀ usedツꀀ clinicalツꀀ tosu oxacinツꀀ tosilate(TFLX)ophthalmicツꀀ solutionツꀀ inツꀀ 81ツꀀ eyesツꀀ withツꀀ extraocularツꀀ infection.ツꀀ The results for clinical utility were:very e ective, 62.5%;e ective, 30%;not e ective, 7.5%. We also evaluated vari-ousツꀀ uoroquinolones in drug sensitivity testing against methicillin-sensitive Staphylococcus aureus(MSSA)and coagulase-negativeツꀀ staphylococci(CNS).ツꀀ TFLXツꀀ wasツꀀ excellentツꀀ atツꀀ clinicalツꀀ utilityツꀀ againstツꀀ extraocularツꀀ infection,ツꀀ but indicated lower drug e cacy against MSSA and CNS.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1253 1256, 2009〕Key words:トスフロキサシン(TFLX),フルオロキノロン系薬剤,前眼部感染性疾患,臨床的有用性,薬剤感受性.tosu oxacinツꀀ tosilateツꀀ ophthalmicツꀀ solution,ツꀀツꀀ uoroquinolone,ツꀀ infectiousツꀀ diseaseツꀀ ofツꀀ anteriorツꀀ ocularツꀀ segment,ツꀀ clinical utility, drug sensitivity.———————————————————————- Page 21254あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(96)Dickinson and Company)にて判定した.・臨床効果判定:患眼にトスフロキサシン点眼液 1 日 3 回投与したのち,3 日後に,2003 年日本眼感染症学会点眼抗菌薬臨床評価ガイドラインに基づいて判定した.3. 結果培養陽性は 81 眼中 45 眼で,陽性率は 55.5%であった.培養陽性であった 45 眼からは 14 菌種 59 株が検出された.検出された 59 株の内訳はグラム陽性菌 46 株,グラム陰性菌 13 株で,グラム陽性菌では黄色ブドウ球菌 12 株,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)18 株,グラム陰性菌ではインフルエンザ桿菌 6 株とこれらが多数を占めていた.なお,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)も 2 株検出された(表 1).検出菌の TFLX に対する感受性については,グラム陽性菌 に 関 し て は MRSA で 100%(2 株 中 2 株),CNS の 22%(18 株中 4 株)で耐性を示すものが検出された.その他の検出菌に関してはすべて感受性ありとの結果になった(表 2).グラム陰性菌に関してはすべて感受性ありとの結果となった.TFLX の臨床的効果判定については,日本眼感染症学会の基準をもとに判定したところ著効有効例が全体の 92.5%を占めた(表 3).著効: 点眼終了後の平均評価スコアが点眼開始前の平均評価スコアの 4 分の 1 以下になったもので,評価対象外スコアに 2 段階以上の悪化が認められないもの有効: 点眼終了後の平均評価スコアが点眼開始前の平均評価スコアの 2 分の 1 以下になったもので,評価対象外スコアに 2 段階以上の悪化が認められないもの無効: 点眼終了後の平均評価スコアが点眼開始前の平均評価スコアの 2 分の 1 以下とならないもの,および評価対象外スコアに 2 段階以上の悪化が認められたもの点眼抗菌薬臨床評価のガイドライン(案):点眼抗菌薬臨床評価のガイドライン原案作成調査研究班(2001 年 4 月)培養陽性症例の検出菌別の効果判定は,CNS で無効 3 眼認めたが,その他はすべて著効,有効となった(表 4).培養陰性例の効果判定は,著効有効を 20 眼に認めたが,無効例を 6 眼認めた.無効例 6 眼はいずれも最終診断はアレルギー性結膜炎などの非感染性疾患のためと思われた.表 1検討Iにおける検出菌―14菌種59株の内訳グラム陽性菌グラム陰性菌CNSS. aureusMSSAMRSACorynebacterium spp.Enterococcus faecalisStreptococcus pneumoniaeG 群 StreptococcusBacillus spp.181210264411H. in uenzaeSerratia marcescensP. aeruginosaEnterobacter cloacaePantoea agglomeransMoraxella spp.621112計46株計13株表 2グラム陽性菌のTFLX感受性グラム陽性菌SIRMSSA10/10──MRSA─1/21/2CNS14/183/181/18Corynebacterium spp.6/6──Enterococcus faecalis3/3──ペニシリン感受性肺炎球菌(PSSP)4/4──G 群溶連菌1/1──Bacillus spp.1/1──S:感受性,I:中間型,R:耐性.表 3TFLX点眼臨床的治療効果判定眼数(%)北野ら*著効(治癒)25/40(62.5%)64.1%有効(改善)12/40(30.0%)84.0%(有効以上)無効 3/40(7.5%)判定不能 5* 北野周作,宮永嘉隆,大野重昭:あたらしい眼科 23(別巻):55-67, 2006.表 4検出菌ごとのTFLX点眼臨床的治療効果判定著効(眼)有効(眼)無効(眼)計<グラム陽性菌>MSSAMRSACNSCorynebacterium spp.Enterococcus faecalisPSSPBacillus spp.G 群溶連菌7─9334111253──────3───── 8 217 6 3 4 1 1<グラム陰性菌>H. in uenzaeSerratia marcescensP. aeruginosaEnterobacter cloacaeMoraxella spp.3─11──2─2────ツꀀ 3 2 1 1 2———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091255(97)4. 合併症トスフロキサシン点眼後,合併症として 2 例に点状表層角膜症を認めた.症例 1:72 歳,男性.右眼急性結膜炎の診断にて TFLX点眼を開始した.3 日後には結膜炎症状は改善したが,6 日後 に 右 眼 疼 痛 を 訴 え 来 院 し, 点 状 表 層 角 膜 症 を 認 め た.TFLX の影響を考え,点眼を中止したところ 3 日後に点状表層角膜炎の消退を認めた.症例 2:44 歳,女性.左眼麦粒腫の診断にて TFLX 点眼を開始した.投与開始後に左眼疼痛を訴え来院し,点状表層角膜症を認めた.やはり TFLX の影響と考え点眼を中止した.この症例はその後再診なく改善したかどうかは確認できなかった.II検討II:フルオロキノロン系薬剤に対する 感受性比較 1. 対象2006 年 11 月から 2007 年 5 月まで結膜炎症状にて外来受診した患者から結膜培養を施行した 119 検体を対象とし,その内訳は男性 62 例,女性 57 例(1 例 1 眼)であった.2. 方法ノルフロキサシン(NFLX),オフロキサシン(OFLX),レボフロキサシン(LVFX),ガチフロキサシン(GFLX),トスフロキサシン(TFLX),モキシフロキサシン(MFLX)の 6 製剤で検出菌に対する薬剤感受性を Kirby-Bauer 法にて比較検討した.対象眼,培養,薬剤感受性試験については臨床効果判定時に使用した方法と同様の方法で行った.3. 結果培養陽性率は 60.5%で,13 菌種 99 株が検出された.検出菌の内訳はグラム陽性菌 64 株,グラム陰性菌 35 株でグラム陽性菌は MSSAツꀀ 19 株,CNSツꀀ 24 株,グラム陰性菌ではインフルエンザ桿菌 18 株と多数を占めていた(表 5).フ ル オ ロ キ ノ ロ ン 系 薬 剤 間 の 感 受 性 の 概 要 と し て は,MSSA,CNS においてフルオロキノロン系薬剤間で感受性に差を認めたが,その他の菌では有意差を認めなかった.CNS における薬剤感受性においては,GFLX,MFLX では耐性株を認めず,TFLX で 6 株,NFLX,OFLX,LVFXで 2 株の耐性株が検出された.6 剤間でこの割合に統計学的有意差を認めた(c2検定 p=0.00098)(表 6).MSSA における薬剤感受性も GFLX では耐性株 1 株,MFLX は中間株が 1 株であったが,TFLX で耐性株 6 株,NFLX,OFLX,LVFX で中間株 6 株と,多いように思われ,これらの分布に統計学的有意差を認めた(c2検定ツꀀ p<0.001)(表 7).今回は,フルオロキノロン耐性株のコリネバクテリウム属は検出されなかった.表 5検討IIにおける検出菌(13 菌種 99 株の内訳)グラム陽性菌株数グラム陰性菌株数CNS24H. in uenzae18MSSA19Serratia marcescens 9Corynebacterium sp.10Low-BLNAR 9Streptococcus pneumoniae 4b-ラクタマーゼ陰性 9ペニシリン感受性肺炎球菌(PSSP) 3P. aeruginosa 4ペニシリン中間耐性肺炎球菌(PISP) 1Moraxella spp. 2a-Streptococcus 3Klebsiella oxytoca 1B 群溶連菌(S. agalactiae) 1Enterobactor spp. 1Enterococcus faecalis 3計64 株計35 株表 6CNSにおける薬剤感受性非感受性株/検出株数(株数)Intermediate (株数)Resistant (株数)NFLX6/2442OFLX6/2442TFLX9/2436LVFX6/2442GFLX0/2400MFLX0/2400c2検定 p=0.0098.表 7MSSAにおける薬剤感受性非感受性株/検出株数Intermediate (株数)Resistant (株数)NFLX6/1960OFLX6/1960TFLX5/1905LVFX6/1960GFLX1/1901MFLX0/1910c2検定 p<0.001.———————————————————————- Page 41256あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(98)III考察近年細菌性結膜炎,麦粒腫などの前眼部感染性疾患の第一選択薬としては広域スペクトルを有し,優れた抗菌力のあるフルオロキノロン系抗菌薬が使用されることが多い.2006年には 2 つの新たなフルオロキノロン系点眼薬が登場した.そのうちの一つであるトシル酸トスフロキサシンは 1990 年から経口薬として使用され,全身疾患において臨床効果が証明されてきた.外眼部感染性疾患の起因菌としては,ブドウ球菌,レンサ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌などがあげられるが,トスフロキサシン点眼液は,治験の段階で,これらに強い抗菌力を有し,かつ長期の安全性も確認されている.小児に対してもフルオロキノロン系抗菌薬のうち唯一,有効性と安全性が証明されている点も特徴である.今回筆者らは,トスフロキサシン点眼薬を前眼部感染症症例 81 例 81 眼の治療に使用し,著効例 62.5%,有効例 30%,無 効 例 7.5% で あ っ た. 有 効 以 上 が 92.5% と 多 数 を 占 め,2006 年北野らの報告ともほぼ同様,高い臨床効果が示された.2 例に副作用として点状表層角膜症を認めたものの,その他重篤な合併症は認められず,安全に使用できるものと考えられた.フルオロキノロン系薬剤間の薬剤感受性比較では,MSSAと CNS においてトスフロキサシンに対する耐性株がやや多く統計学的有意差を認めた.同じく 2006 年より点眼液として臨床使用が可能となったモキシフロキサシンは耐性株が少なかった.その相違は,ともに全身投与薬として以前より使用されている薬剤であるが,トスフロキサシンがより長期(16 年以上)に臨床使用されかつ広い適応疾患がありその影響によるものと考えられた.以上のように,臨床的には高い有用性および安全性が示されたが,眼瞼皮膚,結膜に常在することが多い MSSA, CNSに,トスフロキサシンに対する耐性菌が若干多いことは,使用時に知っておく必要があると思われた.IV結論トスフロキサシン点眼液は前眼部感染症において臨床的有用性は優れていたが CNS,MSSA に対する,薬剤感受性は低い傾向を示した.文献 1) 木澤和夫,高橋義博,和泉博之ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の毒性評価(1).あたらしい眼科 23(別巻):33-36, 2006 2) 櫻井美晴,羽藤晋,望月弘嗣ほか:フルオロキノロン剤が角膜上皮細胞および実質細胞に与える影響.あたらしい眼科 23:1209-1212, 2006 3) 秋葉真理子,秋葉純:乳幼児細菌性結膜炎の検出菌と薬剤感受性の検討.あたらしい眼科 18:929-931, 2001 4) 北野周作,宮永嘉隆,大野重昭:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の急性細菌性結膜炎を対象としたプラセボとの二重遮蔽比較試験.あたらしい眼科 23(別巻):55-67, 2006 5) 北野周作,宮永嘉隆,大野重昭:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児細菌性結膜炎患者に対する有用性の成人細菌性結膜炎患者との比較検討.あたらしい眼科 23(別巻):103-140, 2006 6) 北野周作,宮永嘉隆,大野重昭:ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児の細菌性外眼部感染症を対象とする非対象非遮蔽他施設共同試験.あたらしい眼科 23(別巻):55-67, 2006 7) 北野周作,宮永嘉隆,大石正夫:点眼抗菌薬臨床評価ガイドライン.第 38 回日本眼感染症学会抄録集,p36-40, 2001***

選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1(91)ツꀀ 12490910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀ 19回 日本緑内障学会 原著》 あたらしい眼科 26(9):1249 1252,2009cはじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculo-plasty:SLT)は,アルゴンレーザー線維柱帯形成術(argon laserツꀀ trabeculoplasty:ALT)に比べて低エネルギーのレーザーを使用して線維柱帯の色素細胞にのみ選択的に影響を与える1)ため安全性が高く,ALT と同等の効果が得られること2,3)など有用性が多数報告されている2 18).しかしわが国における SLT の成績に関しては欧米の結果よりも眼圧下降率が低いという報告があり6 8),日本人は SLT が効きにくい可能性も示唆されている.過去の報告からは術前眼圧が低い〔別刷請求先〕南野桂三:〒570-8507 守口市文園町 10-15関西医科大学附属滝井病院眼科Reprint requests:Keizo Minamino, M.D., Department of Ophthalmology, Kansai Medical University, Takii Hospital, 10-15 Fumizono-cho, Moriguchi, Osaka 570-8507, JAPAN選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績南野桂三松岡雅人安藤彰松山加耶子嶋千絵子福井智恵子 桑原敦子尾辻剛緒方奈保子西村哲哉関西医科大学附属滝井病院眼科Outcome of Selective Laser TrabeculoplastyKeizo Minamino, Masato Matsuoka, Akira Ando, Kayako Matsuyama, Chieko Shima, Chieko Fukui,ツꀀ Atsuko Kuwahara, Tsuyoshi Otsuji, Nahoko Ogata and Tetsuya NishimuraDepartment of Ophthalmology, Kansai Medical University, Takii Hospital選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の成績をレトロスペクティブに検討した.対象は原発開放隅角緑内障(POAG)6 例 9 眼,慢性閉塞隅角緑内障(CACG)2 例 2 眼,続発緑内障(SOAG)1 例 1 眼,落屑緑内障 1 例 1 眼の 10例 13 眼.男性 5 例 6 眼,女性 5 例 7 眼,平均 76.5 歳(66 92 歳).経過観察期間は 1 12 カ月,平均 7.1 カ月.エレックス社製 Laserex SoloTMで,隅角半周から全周を 0.8 1.0 mJ で半周当たり約 50 発照射した.術前平均眼圧は22.3 mmHg で, 術 後 は 1 週 18.8 mmHg,1 カ 月 20.7 mmHg,3 カ 月 15.7 mmHg,6 カ 月 16.4 mmHg,12 カ 月 16.2 mmHg であった.術後 1 カ月で 3 眼に眼圧上昇(平均 6.8 mmHg)がみられ,眼圧下降薬点眼,内服あるいは線維柱帯切開術を施行した.SLT は眼圧コントロール不良な POAG 症例,特に点眼による角膜上皮障害がみられる症例やアセタゾラミドの内服で副作用がある症例など薬剤数を減少させたい場合には良い適応であるが,SOAG 症例や CACG 症例には慎重に行うべきである.Weツꀀ retrospectivelyツꀀ evaluatedツꀀ theツꀀ outcomeツꀀ ofツꀀ selectiveツꀀ laserツꀀ trabeculoplasty(SLT)inツꀀ 13ツꀀ eyesツꀀ ofツꀀ 10ツꀀ glaucoma patients with poor intraocular pressure(IOP)control, or who had refused surgery despite progressive visualツꀀ eld deterioration.ツꀀ Weツꀀ analyzedツꀀ 9ツꀀ eyesツꀀ ofツꀀ 6ツꀀ patientsツꀀ withツꀀ primaryツꀀ open-angleツꀀ glaucoma(POAG),ツꀀ 2ツꀀ eyesツꀀ ofツꀀ 2ツꀀ patients with chronic angle-closure glaucoma(CACG), 1 eye with secondary open-angle glaucoma(SOAG)and 1 eye with exfoliation glaucoma. These comprised 6 eyes of 5 males and 7 eyes of 5 females;average age was 76.5 years. Fol-low-upツꀀ periodツꀀ rangedツꀀ fromツꀀ 1ツꀀ toツꀀ 12ツꀀ months,ツꀀ averagingツꀀ 7.1ツꀀ months.ツꀀ Patientsツꀀ wereツꀀ treatedツꀀ usingツꀀ Laserexツꀀ SoloTM(Elex instruments), with irradiation via 0.8 1.0 mJ laser in 50 shots per half circle and 100 shots per whole circle. Meanツꀀ IOPツꀀ wasツꀀ 22.3,ツꀀ 18.8,ツꀀ 20.7,ツꀀ 15.7,ツꀀ 16.4ツꀀ andツꀀ 16.2 mmHgツꀀ atツꀀ pre-SLTツꀀ andツꀀ 1ツꀀ week,ツꀀ 1,ツꀀ 3,ツꀀ 6ツꀀ andツꀀ 12ツꀀ months,ツꀀ respec-tively, post-SLT. Over 5 mmHg elevation of IOP was observed in three eyes(one eye each with POAG, SOAG and CACG);theseツꀀ wereツꀀ treatedツꀀ withツꀀ oralツꀀ carbonateツꀀ anhydraseツꀀ inhibitor(CAI),ツꀀ CAIツꀀ eyedropsツꀀ andツꀀ trabeculotomy, respectively. When an antiglaucomatous agent side e ect, such as corneal epithelium disorder, is severe, SLT could beツꀀ anツꀀ alternativeツꀀ treatmentツꀀ forツꀀ decreasingツꀀ theツꀀ quantityツꀀ ofツꀀ eyedropツꀀ orツꀀ oralツꀀ acetazolamide,ツꀀ inツꀀ POAGツꀀ patientsツꀀ with poor IOP control.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1249 1252, 2009〕Key words:選択的レーザー線維柱帯形成術,原発開放隅角緑内障,落屑緑内障,慢性閉塞隅角緑内障.selective laser trabeculoplasty, primary open-anagle glaucoma, exfoliation glaucoma, chronic angle-closure glaucoma.———————————————————————- Page 21250あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(92)ものほど有意に眼圧下降における生存率が高いという報告6)や,反対に術前眼圧が有効率と正の相関があったという報 告9)があり,さらには SLT の術後成績に術前眼圧は関係ない と す る 報告10,11)ま で あ り さ ま ざ ま で あ る. 手 術 既 往 はSLT の成績に影響を与える可能性があるが,緑内障手術既往のない眼が良い適応であるといった報告9,12)や,手術既往がある眼のほうが有効であったという報告13)などさまざまである.また SLT の眼圧下降効果は隅角色素沈着の程度には関係なく5,6,8),SLT の有効性や合併症を予測する因子はいまだ明らかではない.SLT は一過性の眼圧上昇がみられるなど合併症が皆無というわけではないが,比較的安全でラタノプロスト点眼に比肩する眼圧下降が得られるため5,14,15),点眼剤による角膜障害がみられる症例では点眼剤数を減らして角膜障害を軽減できる可能性もある.今回筆者らは当院で施行した SLT の成績をレトロスペクティブに検討した.I対象および方法眼圧下降薬の点眼あるいは内服を使用しても,眼圧コントロール不良な症例あるいは視野障害が進行し,さらなる眼圧下降が望ましい症例で手術に同意が得られなかった症例,眼圧下降薬点眼にて角膜障害が強い症例で可能であれば点眼を中止したい症例を対象とした.内訳は 10 例 13 眼(男性 5 例6 眼,女性 5 例 7 眼)で,66 92 歳(平均 76.5 歳),経過観察期間は 1 12 カ月(平均 7.1 カ月)であった(表 1).病型は原発開放隅角緑内障(POAG)が 6 例 9 眼,慢性閉塞隅角緑内障(CACG)が 2 例 2 眼,続発緑内障(SOAG)が 1 例 1眼,落屑緑内障が 1 例 1 眼あった(表 1).SLT 前の手術既往は白内障手術(超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術:PEA+IOL)が POAGツꀀ 4 眼,CACGツꀀ 1 眼,SOAGツꀀ 1眼,硝子体手術が CACGツꀀ 1 眼,SOAGツꀀ 1 眼,非穿孔線維柱帯切除術が POAGツꀀ 2 眼,線維柱帯切除術が POAGツꀀ 1 眼,アルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)が POAG 1 眼と落屑緑内障 1 眼であった.術前平均眼圧は 22.3±4.2 mmHg で,眼圧下降薬数は 1 5 剤(平均 2.8 剤)を使用していた.術前後に 1%アプラクロニジンの点眼を行い,レーザー装置はエレックス社製 Laserex SoloTMを使用して,照射条件はスポットサイズ 400 μm,波長 532 nm,パルス幅 3 ナノ秒,エネルギー 0.8 1.0 mJ で,気泡が生じる最小エネルギーを用いた.照射範囲は半周なら約 50 発,全周なら約 100 発を目安に行った.術後に消炎剤の点眼は使用しなかった.II結果症例のまとめを表 1 に示す.POAGツꀀ 4 眼と PEA+IOL 術後で周辺虹彩前癒着のない CACG 1 眼で隅角全周 360°を約100 スポットで照射,他の CACGツꀀ 1 眼では上方に周辺虹彩前癒着がみられたため,隅角開放部を約 270° 照射した.残りの POAGツꀀ 5 眼,SOAGツꀀ 1 眼,落屑緑内障 1 眼で隅角下半周 180° を約 50 スポットで照射した.眼圧の経過を図 1 に示す.施行後 1 カ月で眼圧上昇がみられ薬剤あるいは手術を追加した 3 眼(症例 1,2,5)は脱落症例として 3 カ月以降の眼圧を評価の対象から除外した.施行前平均眼圧は 22.3±4.2 mmHg,施行 1 週後は 18.8±3.9 mmHg(p<0.0001),1表 1症例のまとめ症例性別年齢(歳)病型照射範囲術前投薬内眼手術既往眼圧最終眼圧下降率施行前平均施行後1週1月3月6月12 月1女性77SOAG半周PG,b,CAIPEA+IOL+PPV20.732(CAI 追加)2男性79CACG3/4 周DX,PG,CAILI,PEA+IOL+PPV30.02537(LOT 施行)3男性76CACG全周PG,b,CAILI18.01615141233.34女性84POAG全周bPEA+IOL18.3141815177.384POAG全周bPEA+IOL18.01715141611.15女性66POAG半周PG,b30.02632(DX 内服)6女性76EX半周DX,PG,b,CAI,PiloALT24.31820201826.07女性70POAG半周PG,b,CAINPT24.0181615161633.370POAG半周PG,b,CAINPT,ALT24.72016171731.18男性92POAG半周DX,PG,b,aPEA+IOL,LET21.0171716161814.39男性89POAG半周PG,CAI,aPEA+IOL19.31314151522.410男性66POAG全周PG,b,CAI22.013161722.766POAG全周PG,b,CAI19.017141615.8平均値76.522.318.820.715.416.016.521.7 SOAG:続発緑内障,CACG:慢性閉塞隅角緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,PG:プロスタグランジン誘導体点眼,b:b遮断薬点眼,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬点眼,DX:アセタゾラミド内服,Pilo:ピロカルピン点眼,a:a遮断薬点眼,PEA:水晶体超音波乳化吸引術,IOL:眼内レンズ挿入術,PPV:経毛様体扁平部硝子体切除術,LI:レーザー虹彩切開術,ALT:アルゴンレーザー線維柱帯形成術,NPT:非穿孔性線維柱帯切除術,LET:線維柱帯切除術.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091251(93)カ月後は 20.7±8.6 mmHg(p=0.4152),3 カ月後は 15.7±2.1 mmHg(p<0.0001),6 カ 月 後 は 16.4±2.0 mmHg(p<0.0001),12 カ月後は 16.2±1.3 mmHg(p=0.019)であった(paired t-test).平均眼圧下降率は施行後 1 週で 17.0±6.8%,1 カ 月 で 8.6±28.1%,3 カ 月 で 24.2±8.2%,6 カ 月 で20.9±10.4%,12 カ月で 25.7±7.6%であった.角膜障害がみられていたカルテオロール点眼中の POAG の 1 例 2 眼(症例 4)で SLT 施行後から点眼を中止したが,6 カ月まで眼圧上昇はみられず角膜障害は減少していた.POAG の 1 眼(症例 8)で SLT 施行後からアセタゾラミドの内服を中止したが10%以上の眼圧下降率を持続した.術後 1 カ月で 5 mmHg以上の眼圧上昇が SOAG の 1 眼(症例 1)はブリンゾラミド点 眼 を 追 加 し て 眼 圧 コ ン ト ロ ー ル が 得 ら れ た. ほ か に 5 mmHg 以上の眼圧上昇がみられた CACG の 1 眼(症例 2)は上方隅角が開放していたため線維柱帯切開術を施行し,POAG の 1 眼(症例 5)はアセタゾラミドの内服を行いそれぞれ眼圧コントロールが得られた.POAGツꀀ 5 眼,CACGツꀀ 1眼,落屑緑内障 1 眼の計 7 眼は SLT 施行後も点眼に変更はなく,最終の眼圧下降率は 7.3 33.3%(平均 21.7±9.4%)であった.III考按SLT 術後に点眼薬数を減らしても眼圧コントロールが継続できたという報告15)はあるが,SLT 術後に点眼を減らした場合の眼圧や角膜の状況を検討した報告はみられない.今回の筆者らの症例で SLT 施行後に点眼やアセタゾラミド内服を中止しても眼圧が維持できた症例が 3 例あり,点眼を中止した 2 例とも角膜上皮障害が軽快した.加治屋ら16)は1例で追加照射を行い,眼圧下降薬を 1 剤減らしても眼圧が維持できたと報告している.今回の検討では,眼圧下降薬数は術前平均 2.8 剤が SLT 施行後に平均 2.7 剤と不変であったが,SLT は角膜上皮障害が強い症例などでは点眼数の減少あるいは内服を中止するために試みてもよい治療の候補と考えられる.望月ら9)は緑内障手術既往がある眼では成績が悪かったと報告しているが,反対に真鍋ら13)は緑内障手術既往がある症例で成績が良かったと報告している.今回の検討ではトラベクロトミーが POAG の 1 眼,非穿孔性トラベクレクトミーが POAG の 2 眼でそれぞれ有効であった.トラベクロトミーやトラベクレクトミーの既往が SLT の効果に与える影響が一定しないのは,隅角操作の範囲や程度にバリエーションがあるからではないかと推察する.ALT の既往は SLT の成績に影響しないと報告されており6,7),今回の筆者らの症例も ALT の既往があったのは落屑緑内障 1 眼と POAG の 1眼で,最終の眼圧下降率は 20%以上と有効であったと考える.白内障手術については 6 例が PEA+IOL を施行されていた.単独のものは POAG の 3 眼で,1 眼は後日トラベクレクトミーが行われていた.ほかの 2 眼は硝子体手術が併用されており,CACG の症例では白内障術後に眼圧上昇と浅前房がみられたため悪性緑内障を疑ってコアビトレクトミーを行ったもので,SOAG の症例では黄斑円孔網膜 離に対する硝子体切除術であった.白内障術後では水晶体がなくなるため隅角は広くなることが多いと思われるが,Werner ら17)は有水晶体眼と眼内レンズ挿入眼の間で SLT の成績に差はなかったと報告している.筆者らの症例も同様に PEA+IOL 術後の症例は全例合併症もなく,眼圧の経過は有水晶体眼の経過と有意差はなかった(p=0.89;Two-Way ANOVA).すなわち白内障手術や緑内障手術などの前眼部の手術は,合併症がなければ SLT の効果に大きな影響は与えないのではないかと考えられる.一方,硝子体手術の既往がある 2 眼はどちらも術後に眼圧上昇がみられたため,硝子体手術の既往については手術を必要とした原疾患を含めて今後検討するべき項目ではないかと考える.照射範囲については 180°照射と 360°照射で効果に有意差がないとする報告があり18),今回の検討でも POAGツꀀ 4 眼で 360° 照射,CACGツꀀ 1眼で隅角開放部を約 270° 照射を行っており,残り 7 眼は180°照射であった.270°照射を行った CACG の 1 眼を除き,脱落例を除外した 5 眼ずつで検討すると 180° 照射と 360° 照射の症例で術後の各時点で眼圧経過に有意差はなかったが,術前眼圧が 180° 照射の症例で有意に眼圧が高かった(p=0.0249)ため,今後症例数を増やして検討する必要があると思われる.今回の症例では 5 mmHg 以上の眼圧上昇が 2 眼にみられた.1 例は CACG の白内障手術後に部分的な慢性の周辺虹彩前癒着が残存した症例で,SLT を行った隅角開放部も色素帯の色素沈着がかなり強かった(図 2,Scheie 分類 IV).SLT の効果に線維柱帯の色素沈着の程度は相関しないという報告が多い6,8)が,色素緑内障 4 例で SLT 後に眼圧上昇をきたしたという報告19)があり,照射したレーザーは色素に反応するため隅角に過剰な色素沈着がある症例では効果や副作用が異なる可能性があると思われる.本症例では色素沈着1510502025303540眼圧(mmHg)施行前1週3カ月6カ月12カ月1カ月図 1選択的レーザー線維柱帯形成術前後の眼圧の経過———————————————————————- Page 41252あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(94)の程度が非常に強く,レーザーによる色素細胞への影響が過剰に出て細胞や組織に障害が起こり,房水流出抵抗の増加が生じたのではないかと推察している.このように apositional closure がみられる CACG や落屑緑内障などで線維柱帯の色素沈着が非常に強い場合は慎重に行う必要があると思われる.もう 1 例は炎症が非活動期にある続発緑内障であったが,1 カ月後の受診時に 11 mmHg の眼圧上昇がみられ,炭酸脱水酵素阻害薬点眼を追加して眼圧コントロールが得られた.この症例でも SLT 本来の効果が得られず,むしろ線維柱帯組織の炎症などが惹起されたことで一時的に房水流出抵抗が増加した可能性が考えられた.硝子体手術の既往がある2 例で SLT 術後に眼圧上昇がみられたため,山崎ら8)が報告しているように視野にまだ余裕がある症例には良い適応であるが,進行した緑内障では慎重に施行すべきと思われる.今回の筆者らの結果には手術既往などさまざまな背景をもつ症例が含まれていた.術後に眼圧上昇がみられ点眼や手術を追加した症例や,点眼や内服を中止した症例が含まれるため,純粋な SLT の眼圧下降効果や合併症について症例を増やして検討する必要があると思われるが,POAG,特に点眼による角膜上皮障害がみられ点眼剤数を減少させたい症例などは SLT の良い適応であり,一方 SOAG や CACG 症例には術後の眼圧上昇に注意して慎重に行うのがよいと思われた.文献 1) Latina MA, Park C:Selective targeting of trabecular meshworkツꀀ cells:inツꀀ vitroツꀀ studiesツꀀ ofツꀀ pulsedツꀀ andツꀀ CWツꀀ laser interactions. Exp Eye Res 60:359-371, 1995 2) Damji KF, Shah KC, Rock WJ et al:Selective laser trabe-culoplasty v argon laser trabeculoplasty:a prospective randomised clinical trial. Br J Ophthalmol 83:718-722, 1999 3) 佐々木誠,原岳,橋本尚子ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術とアルゴンレーザー線維柱帯形成術の効果比較.眼臨 99:633-637, 2005 4) Melamedツꀀ S,ツꀀ Benツꀀ Simonツꀀ GJ,ツꀀ Levkovitch-Verbinツꀀ H:Selec-tive laser trabeculoplasty as primary treatment for open-angle glaucoma:a prospective, nonrandomized pilot study. Arch Ophthalmol 121:957-960, 2003 5) McIlraith I, Strasfeld M, Colev G et al:Selective laser trabeculoplasty as initial and adjunctive treatment for open-angle glaucoma. J Glaucoma 15:124-130, 2006 6) 狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌 103:612-616, 1999 7) 前田貴美人,大黒浩,丸山幾代:Selectiveツꀀ Laserツꀀ Trabe-culoplasty の治療成績.あたらしい眼科 18:515-518, 2001 8) 山崎裕子,三木篤也,大鳥安正ほか:大阪大学眼科における選択的レーザー線維柱帯形成術の成績.眼紀 58:493-498, 2007 9) 望月英毅,高松倫也,木内良明:選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後 6 カ月の有効率.あたらしい眼科 25:693-696, 2008 10) 齋藤代志明,東出朋巳,杉山和久:原発開放隅角緑内障症例への選択的レーザー線維柱帯形成術の追加治療成績.日眼会誌 111:953-958, 2007 11) 尾崎弘明,ファン・ジェーン,尾崎恵子ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後治療成績.臨眼 62:1529-1532, 2008 12) 上野豊広,岩脇卓司,湯才勇ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科 25:1439-1442, 2008 13) 真鍋伸一,網野憲太郎,高島保之ほか:Selective Laser Trabeculoplasty の治療成績.眼科手術 12:535-538, 1999 14) Nagar M, Ogunyomade A, O’Brart DP et al:A ran-domised,ツꀀ prospectiveツꀀ studyツꀀ comparingツꀀ selectiveツꀀ laserツꀀ tra-beculoplasty with latanoprost for the control of intraocular pressure in ocular hypertension and open angle glaucoma. Br J Ophthalmol 89:1413-1417, 2005 15) Francis BA, Ianchulev T, Scho eld JK et al:Selective laserツꀀ trabeculoplastyツꀀ asツꀀ aツꀀ replacementツꀀ forツꀀ medicalツꀀ thera-pyツꀀ inツꀀ open-angleツꀀ glaucoma.ツꀀ Amツꀀ Jツꀀ Ophthalmol 140:524-525, 2005 16) 加治屋志郎,早川和久,澤口昭一:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.日眼会誌 104:160-164, 2000 17) Werner M, Smith MF, Doyle JW:Selective laser trabecu-loplasty in phakic and pseudophakic eyes. Ophthalmic Surg Lasers Imaging 38:182-188, 2007 18) 田中祥恵,今野伸介,大黒浩:選択的レーザー線維柱帯形成術における 180°照射と 360°照射の比較.あたらしい眼科 24:527-530, 2007 19) Harasymowycz PJ, Papamatheakis DG, Latina M et al:Selective laser trabeculoplasty(SLT)complicated by intraocular pressure elevation in eyes with heavily pig-mented trabecular meshworks. Am J Ophthalmol 139:1110-1113, 2005図 2症例2の隅角所見色素沈着が強く Scheie 分類 IV(矢頭).一部に周辺虹彩前癒着(矢印)や,appositional closure の痕がみられる(白抜き矢印).***

正常眼圧緑内障に対するイソプロピル ウノプロストンの2年間投与

2009年9月30日 水曜日

———————————————————————- Page 1(87)ツꀀ 12450910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀ 19回 日本緑内障学会 原著》 あたらしい眼科 26(9):1245 1248,2009cはじめに緑内障治療の目的は視野障害の進行を停止または遅延させ,残存視野を維持することで,そのための治療として高いエビデンスが得られているのが眼圧下降である1,2).眼圧下降治療の第一選択は通常点眼薬治療である.イソプロピル ウノプロストン(以下,ウノプロストン)はプロスタグランジン F2a代謝型化合物で,血管弛緩による微小循環血流の改善作用,線維柱帯細胞の弛緩による conventionalツꀀ out ow の増加作用,神経系の細胞膜の過分極による神経保護作用を有することが報告されている3 6).点眼薬の評価には単剤投与での眼圧下降と,視野検査による視機能障害の確認が行われる.正常眼圧緑内障は慢性進行性の疾患であり,視機能障害進行の判定には長期的な経過観察が必要である.正常眼圧緑内障を,無治療時の眼圧が 10 mmHg 台後半で〔別刷請求先〕増本美枝子:〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台 4-3井上眼科病院Reprint requests:Mieko Masumoto, M.D., Inouye Eye Hospital, 4-3 Kanda-Surugadai, Chiyoda-ku, Tokyo 101-0062, JAPAN正常眼圧緑内障に対するイソプロピル ウノプロストンの 2 年間投与増本美枝子*1井上賢治*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1 井上眼科病院*2 東邦大学医学部眼科学第二講座Efect of Isopropyl Unoprostone for Two Years in Normal-Tension GlaucomaMieko Masumoto1), Kenji Inoue1), Masato Wakakura1), Jiro Inouye1) and Goji Tomita2)1)Inouye Eye Hospital, 2)Second Department of Ophthalmology, Toho University School of Medicineイソプロピルツꀀ ウノプロストンを正常眼圧緑内障患者に 24 カ月間単剤投与した際の眼圧や視野に及ぼす影響を検討した.イソプロピルツꀀ ウノプロストンを単剤で新規に投与し,24 カ月間以上継続して使用できた 37 例 52 眼を対象とした.男性 22 例,女性 15 例,平均年齢は 60.3±10.3 歳(平均±標準偏差)であった.投与前眼圧が 16 mmHg 以上をHigh-teen 群,16 mmHg 未満を Low-teen 群とし,眼圧,視野検査における meanツꀀ deviation 値を 6 カ月ごとに評価した.High-teen 群,Low-teen 群ともに眼圧は 24 カ月間にわたり有意に下降した.24 カ月後の眼圧下降幅と眼圧下降率は,High-teen 群で 2.5±1.6 mmHg と 14.2±8.6%,Low-teen 群で 1.2±1.4 mmHg と 7.9±9.5%で,High-teen 群で有意に高かった.High-teen 群,Low-teen 群ともに meanツꀀ deviation 値は投与前と投与 12 カ月後,24 カ月後で同等であった.イソプロピルツꀀ ウノプロストンは正常眼圧緑内障に対して,投与前眼圧にかかわらず,24 カ月間持続的な眼圧下降作用をもち,視野維持に有用である.Weツꀀ reportツꀀ theツꀀ e ectツꀀ ofツꀀ isopropylツꀀ unoprostoneツꀀ receivedツꀀ forツꀀ twoツꀀ yearsツꀀ inツꀀ eyesツꀀ withツꀀ normal-tensionツꀀ glaucoma. The subjects of this study comprised 52 eyes of 37 patients with normal-tension glaucoma who received isopropyl unoprostone for two years. They were divided into two groups according to baseline intraocular pressure(IOP):overツꀀ 16 mmHg(High-teenツꀀ group)andツꀀ underツꀀ 16 mmHg(Low-teenツꀀ group).ツꀀ IOPツꀀ andツꀀ meanツꀀ deviationツꀀ onツꀀ Humphrey visualツꀀツꀀ eldツꀀ testツꀀ wereツꀀ monitoredツꀀ andツꀀ evaluatedツꀀ everyツꀀ 6ツꀀ months.ツꀀ Meanツꀀ IOPツꀀ decreasedツꀀ signi cantlyツꀀ inツꀀ bothツꀀ groups. At 24 months after treatment the average reduction value and rate in the High-teen group were 2.5±1.6 mmHg and 14.2±8.6%,ツꀀ andツꀀ inツꀀ theツꀀ Low-teenツꀀ groupツꀀ wereツꀀ 1.2±1.4 mmHg and 7.9±9.5%, respectively. The di erence in IOPツꀀ reductionツꀀ wasツꀀ statisticallyツꀀ signi cant(p<0.05).ツꀀ Theツꀀ meanツꀀ deviationツꀀ didツꀀ notツꀀ changeツꀀ signi cantlyツꀀ duringツꀀ the two years in either group. Isopropyl unoprostone achieved IOP reduction and stabilized visualツꀀ eld for two years, regardless of baseline IOP.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1245 1248, 2009〕Key words:正常眼圧緑内障,イソプロピルツꀀ ウノプロストン,眼圧,視野.normal-tensionツꀀ glaucoma,ツꀀ isopropyl unoprostone, intraocular pressure, visualツꀀ eld———————————————————————- Page 21246あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(88)狭義の原発開放隅角緑内障に近いタイプと,眼圧が 10 mmHg 台前半で十分に低いタイプの 2 種類に分ける考え方もある.ウノプロストンの単剤投与による長期治療成績は多数報告されている7 11)が,正常眼圧緑内障で無治療時の眼圧別に評価した報告はない.そこで今回,ウノプロストン点眼薬の正常眼圧緑内障に対する眼圧および視野への影響を,無治療時の眼圧別にレトロスペクティブに評価した.I対象および方法2001 年 10 月から 2006 年 1 月の間に井上眼科病院でウノプロストン点眼薬を単剤で投与し,24 カ月間以上継続して使用できた正常眼圧緑内障患者 37 例 52 眼(男性 22 例 30 眼,女性 15 例 22 眼)を対象とした.平均年齢は 60.3±10.3 歳(平均±標準偏差)(26 76 歳)であった.正常眼圧緑内障の診断基準は,①日内変動を含む,無治療時および経過中に測定した眼圧が 21 mmHg 以下であり,②視神経乳頭と網膜神経線維層に緑内障性変化を有し,それに対応する視野異常を認め,③視野異常をきたしうる緑内障以外の眼疾患や先天異常,全身疾患を認めず,④隅角検査で正常開放隅角を示すものとした.過去に内眼手術やレーザー治療,局所的あるいは全身的ステロイド治療歴を有するものは除外した.対象を投与前眼圧(投与 1 カ月前と投与開始時の平均眼圧)に よ り,16 mmHg 以 上(High-teen 群)と 16 mmHg 未 満(Low-teen 群)に分けた.High-teen 群は 20 例 30 眼(男性15 眼,女性 15 眼),平均年齢は 59.7±12.2 歳(26 76 歳),投与前眼圧は 17.3±1.5 mmHg,Humphrey 視野プログラム中心 30-2ツꀀ SITA-STANDARD の meanツꀀ deviation(MD)値は 4.5±3.2 dB であった.Low-teen 群は 17 例 22 眼(男性15 眼,女性 7 眼), 平均年齢は 61.1±7.1 歳(47 72 歳),投与前眼圧は 14.1±1.5 mmHg,MD 値は 4.8±3.8 dB であった.両群間に眼圧以外の背景因子に有意差はなかった.ウノプロストン点眼(1 日 2 回朝夜点眼)を開始した.眼圧は Goldmann 圧平眼圧計を用いて,患者ごとに同一検者が測定した.投与前と投与 6,12,18,24 カ月後の眼圧を比較した(ANOVA および Bonferroni/Dunnet).投与 6,12,18,24 カ 月 後 の 眼 圧 下 降 幅, 眼 圧 下 降 率 を 算 出 し,High-teen 群と Low-teen 群間で比較した(対応のない t 検定).投与前と投与 12,24 カ月後の視野検査における MD値を比較した(ANOVA および Bonferroni/Dunnet).各症例の MD 変化率を算出した.有意水準は p<0.05 とした.II結果眼 圧 は,High-teen 群 で は 投 与 6 カ 月 後 は 14.5±1.2 mmHg,12 カ月後は 14.7±1.6 mmHg,18 カ月後は 14.7±1.3 mmHg,24 カ月後は 14.8±1.6 mmHg であった(図 1).Low-teen 群では投与 6 カ月後は 14.1±1.5 mmHg,12 カ月後は 12.6±1.3 mmHg,18 カ月後は 13.0±1.4 mmHg,24 カ月 後 は 12.9±1.0 mmHg で あ っ た.High-teen 群,Low-teen 群ともに,投与前に比べ各観察時点で眼圧は有意に下降した(p<0.05).眼圧下降幅は,投与 6 カ月後は High-teen 群で 2.8±1.2 mmHg,Low-teen 群で 1.7±1.8 mmHg,12 カ月後は High-teen 群で 2.6±1.2 mmHg,Low-teen 群で 1.5±1.2 mmHg,18 カ月後は High-teen 群で 2.6±1.5 mmHg,Low-teen 群で 1.1±1.5 mmHg,24 カ 月 後 は High-teen 群 で 2.5±1.6 mmHg,Low-teen 群 で 1.2±1.4 mmHg で あ っ た(図 2).眼圧下降率は,投与 6 カ月後は High-teen 群で 15.8±5.7%,Low-teen 群で 11.5±12.5%,12 カ月後は High-teen 群で15.0±6.3%,Low-teen 群で 10.2±7.9%,18 カ月後は High-teen 群で 14.4±7.9%,Low-teen 群で 7.1±10.6%,24 カ月後は High-teen 群で 14.2±8.6%,Low-teen 群で 7.9±9.5%であった(図 3).眼圧下降幅,眼圧下降率ともに High-teen 群が Low-teen 群に比べ,6 カ月後の眼圧下降率を除いて有意に高値を示した(p<0.05).0101214161820投与前6カ月後12カ月後18カ月後24カ月後:High-teen群:Low-teen群眼圧(mmHg)********??図 1 High teen群とLow teen群の眼圧(平均±標準偏差) *p<0.05,ANOVA および Bonferroni/Dunnet.0123456カ月後12カ月後18カ月後24カ月後****眼圧下降幅(mmHg)図 2 High teen群とLow teen群の眼圧下降幅(平均±標準偏差)*p<0.05,対応のない t 検定.:High-teen 群,□:Low-teen 群.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091247(89)視野の MD 値は,High-teen 群では投与 12 カ月後は 3.6±2.7 dB,24 カ月後は 3.8±2.9 dB,Low-teen 群では投与12 カ月後は 4.5±4.2 dB,24 カ月後は 4.9±4.3 dB であった(図 4).High-teen 群,Low-teen 群ともに投与前と投与12 カ月後,24 カ月後は同等であった.MD 変化率は,平均 0.03±0.86 dB/年で, 1.9 1.6 dB/年であった.III考按正常眼圧緑内障に対するウノプロストンの単剤投与での眼圧下降効果については多くの報告7 10)がある.投与前眼圧が13.7±3.0 mmHg の 48 例に 6 年間投与したところ,眼圧下降幅は 1.7 mmHg,眼圧下降率は 12.4%であった7).投与前眼圧が 14.4±2.4 mmHg の 17 眼に 12 カ月間投与したところ,12 カ月後の眼圧は 12.8±2.2 mmHg,眼圧下降率は 7.8±29.0%(0 26.7%)で あ った8).投与前眼圧が 15.1±2.2 mmHg の 49 眼に 24 カ月間投与したところ,眼圧下降幅は1.4 mmHg,眼圧下降率は 9.3%であった9).投与前眼圧が16.3±2.4 mmHg の 37 例に 24 カ月間投与したところ,眼圧下降幅は 0.5 1.0 mmHg,眼圧下降率は 3.1 6.1%であっ た10).各報告とも投与前眼圧は今回の Low-teen 群とほぼ同等で,眼圧下降幅と眼圧下降率も今回の Low-teen 群(1.1 1.7 mmHg と 7.1 11.5%)とほぼ同等であった.今回は,投与前眼圧によって High-teen 群と Low-teen 群に分け,眼圧下降幅,眼圧下降率を検討した.過去に正常眼圧緑内障に対するウノプロストンの眼圧下降効果を投与前眼圧別に検討した報告はない.湯川ら12)は正常眼圧緑内障に対するニプラジロールの眼圧下降効果を投与前眼圧別に評価した.点眼投与前に少なくとも異なる時間帯で眼圧を 3 回測定 し(午 前 10 時, 午 後 1 時, 午 後 4 時), 一 度 で も 15 mmHg 以上の場合を High-teen 群,常に 15 mmHg 未満をLow-teen 群とした.投与 6 カ月後の眼圧下降幅と眼圧下降率は High-teen 群では 2.6 mmHg と 14.5%,Low-teen 群では 1.5 mmHg と 11.9%であった.各々今回の High-teen 群(2.5 2.8 mmHg と 14.2 15.8%)と Low-teen 群(1.1 1.7 mmHg と 7.1 11.5%)の結果とほぼ同等であった.さらにout owツꀀ pressure 下降率では 20%以上の改善が High-teen群(66.6%)と Low-teen 群(75.5%)で同程度であった12).正常眼圧緑内障に対するウノプロストンの単剤投与での視野維持効果についても多くの報告7 14)がある.24 カ月間投与 に よ り Humphrey 視 野 の MD 値,correctedツꀀ pattern standardツꀀ deviation(CPSD)値に有意な進行はなく,MD 値は投与 8 カ月後,CPSD 値は投与 8 カ月後,12 カ月後に有意に改善し,視野維持効果を示した11).ウノプロストンとチモロールとの 24 カ月間投与の比較で,ウノプロストンは有意な眼圧下降作用(眼圧下降幅 0.5 1.0 mmHg)を示さなかったにもかかわらず,投与 48 カ月後の視野維持率はウノプロ ス ト ン(73.2%)と チ モ ロ ー ル(64.9%)で 同 等 で あ っ た10).投与 12 カ月後の MD 値( 3.3±4.4 dB)は投与前( 2.3±3.9 dB)と同等であった8).投与 6 年間で視野の MD スロープが悪化していたのが 18.8%であった7).投与 24 カ月後のMD値( 5.7±4.4 dB)は投与前( 4.9±4.6 dB)に比べ有意に改善していたが,CPSD 値は投与 24 カ月後(4.8±3.9 dB)と投与前(5.0±4.1 dB)で変わらなかった9).また3 dB 以上悪化した症例は 6.3%であった.今回も,24 カ月間投与で MD 値の有意な進行は認めず,また 2 dB 以上悪化した症例はなかった.ウノプロストンの 4 年間投与で,無治療時より meanツꀀ defect 値が 4 dB 以上悪化したときを end point とした場合の視野障害の非進行率は 88.0±8.5%であった13).正常眼圧緑内障での無治療の視野障害進行は 3 年間で約 3 分の 1 の症例に認め,その年平均 MD 変化率は 0.2ツꀀ 2 dB/年 で あった14).今回の MD 変化率は平均 0.03±0.86 dB/年で, 1.9 1.6 dB/年であった.ウノプロストン投与により視野が維持されたが,今回の経過観察期間は 24カ月間であり,今後さらに長期の経過観察が必要である.*051015202530**6カ月後12カ月後18カ月後24カ月後眼圧下降率(%)図 3 High teen群とLow teen群の眼圧下降率(平均±標準偏差)*p<0.05,対応のない t 検定.:High-teen 群,□:Low-teen 群.Low-teen群High-teen群投与前12カ月後24カ月後-10-8-6-4-2-0MD値(dB)図 4 High teen群とLow teen群の視野のMD値(平均±標準偏差) ANOVA および Bonferroni/Dunnet.———————————————————————- Page 41248あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(90)ウノプロストンは,網脈絡膜血流量増加や神経保護作用を有し,視野障害の進行防止あるいは改善を示す15 17).正常眼圧緑内障の発症機序については不明な点が多く,乳頭出血の頻度が高いことや,蛍光造影検査,超音波カラー Doppler法,あるいは眼脈流量測定(OCVM)で眼循環が低下していることから,眼圧による機械的障害のみではなく循環障害が関与している可能性も示唆されている18 21).今回の視野維持が,眼圧下降,血流改善,神経保護のいずれかあるいは組み合わせによるものかは不明である.今回,ウノプロストンの正常眼圧緑内障に対する長期的な効果を投与前眼圧の高い症例と低い症例に分けて検討した.両群ともに眼圧は 24 カ月間にわたり有意に下降したが,眼圧下降効果は投与前眼圧の高い症例のほうが強力であった.視野は両群ともに 24 カ月間にわたり維持されていた.ウノプロストンは正常眼圧緑内障に対して投与前眼圧にかかわらず,24 カ月間持続的な眼圧下降作用をもち,視野維持に有用である.文献 1) Collaborative Normal-Tension Glaucoma Study Group:Comparison of glaucomatous progression between untreated patients with normal-tension glaucoma and patients with therapeutically reduced intraocular pres-sure. Am J Ophthalmol 126:487-497, 1998 2) Collaborative Normal-Tension Glaucoma Study Group:The e ectiveness of intraocular pressure reduction in the treatmentツꀀ ofツꀀ normal-tensionツꀀ glaucoma.ツꀀ Amツꀀ Jツꀀ Ophthalmol 126:498-505, 1998 3) Thieme H, Stumpツꀀ F, Ottlecz A et al:Mechanisms of action of unoprostone on trabecular meshwork contractili-ty. Invest Ophthalmol Vis Sci 42:3193-3201, 2001 4) Hayashi E, Yoshitomi T, Ishikawa H et al:E ect of iso-propyl unoprostone on rabbit ciliary artery. Jpn J Ophthal-mol 44:214-220, 2000 5) Yoshitomi T, Yamaji K, Ishikawa H et al:Vasodilatory mechanism of unoprostone isopropyl on isolated rabbit cil-iary artery. Curr Eye Res 28:167-174, 2004 6) Melamed S:Neuroprotective properties of a synthetic docosanoid, unoprostone isopropyl:clinical bene ts in the treatment of glaucoma. Drugs Exp Clin Res 28:63-72, 2002 7) 小川一郎,今井一美:ウノプロストンによる正常眼圧緑内障の長期視野─ 6 年後の成績─.眼紀 54:571-577, 2003 8) 山川弥生,根本理香,鈴木宏昌ほか:2 種類のプロスタグランジン関連薬の視野維持効果の比較.あたらしい眼科 22:984-986, 2005 9) 石田俊郎,山田祐司,片山寿夫ほか:正常眼圧緑内障に対する単独点眼治療効果 視野維持効果に対する長期単独投与の比較 .眼科 47:1107-1112, 2005 10) 新田進人,湯川英一,峯正志ほか:正常眼圧緑内障患者に対する 0.12%イソプロピルツꀀ ウノプロストン点眼単独投与の臨床効果.あたらしい眼科 23:401-404, 2006 11) 飯田伸子,山崎芳夫,伊藤玲ほか:開放隅角緑内障の視野変化に対するイソプロピルツꀀ ウノプロストン単独点眼効果.眼臨 99:707-709, 2005 12) 湯川英一,竹谷太,松浦豊明ほか:正常眼圧緑内障に対するニプラジロール点眼単独投与の眼圧下降効果.臨眼 57:1471-1475, 2003 13) 斎藤代志明,佐伯智幸,杉山和久:広義原発開放隅角緑内障に対するイソプロピルウノプロストン単独投与による眼圧および視野の長期経過.日眼会誌 110:717-722, 2006 14) Collaborative Normal-Tension Glaucoma Study Group:Natural history of normal-tension glaucoma. Ophthalmolo-gy 108:247-253, 2001 15) Sugiyama T, Azuma I:E ect of UF-021 on optic nerve head circulation in rabbits. Jpn J Ophthalmol 39:124-129, 1995 16) Polakaツꀀ E,ツꀀ Doelemeyerツꀀ A,ツꀀ Lukschツꀀ Aツꀀ etツꀀ al:Partialツꀀ antago-nism of endothelin 1-induced vasoconstriction in the human choroid by topical unoprostone isopropyl. Arch Ophthalmol 120:348-352, 2001 17) Hayami K, Unoki K:Photoreceptor protection against constantツꀀ light-inducedツꀀ damageツꀀ byツꀀ isopropylツꀀ unoprostone, a prostaglandin F2a metabolite-related compound. Oph-thalmic Res 33:203-209, 2001 18) Hitchings RA, Spaeth GL:Fluorescein angiography in chronic simple and low-tension glaucoma. Br J Ophthal-mol 61:126-132, 1977 19) Hamardツꀀ P,ツꀀ Hamardツꀀ H,ツꀀ Dufauxツꀀ Jツꀀ etツꀀ al:Opticツꀀ nerveツꀀ head bloodツꀀ ow using a laser Doppler velocimeter and haemor-heology in primary open angle glaucoma and normal pressure glaucoma. Br J Ophthalmol 78:449-453, 1994 20) 西篤美,江見和雄,伊藤良和ほか:レスキュラR点眼が眼循環に及ぼす影響.あたらしい眼科 13:1422-1424, 1996 21) 徳岡覚:低眼圧緑内障に関する諸問題:眼内血流量とそれに影響を与える薬剤.あたらしい眼科 9:1015-1023, 1992***