———————————————————————- Page 1(129)ツꀀ 12870910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(9):1287 1292,2009cはじめに白内障手術中に起こる合併症の一つとして,術中虹彩緊張低下症候群(intraoperativeツꀀツꀀ oppyツꀀ irisツꀀ syndrome:IFIS)が最近注目されている.IFIS は,前立腺肥大症に対する排尿改善剤a1遮断薬を服用している患者で,超音波白内障手術中「水流による虹彩のうねり」,「虹彩脱出・嵌頓」,「進行性〔別刷請求先〕一色佳彦:〒737-0046 呉市中通 2 丁目 3-28木村眼科内科病院Reprint requests:Yoshihiko Isshiki, M.D., Kimura Eye & Internalツꀀ Medicine Hospital, 2-3-28 Nakadori, Kure-shi 737-0046, JAPANa1遮断薬使用中の超音波白内障手術成績―術中虹彩緊張低下症候群の発生頻度と特徴一色佳彦*1木村亘*1横山光伸*1正化圭介*2木村徹*1武田哲郎*1 宮崎婦美子*1*1 木村眼科内科病院*2 焼山木村眼科Results of Phacoemulsi cation Cataract Surgery on Systemic or Topical a1-Adrenoceptor Antagonist―Incidence and Characteristics of Intraoperative Floppy Iris SyndromeYoshihiko Isshiki1), Wataru Kimura1), Mitsunobu Yokoyama1), Keisuke Syoge2), Tohru Kimura1), Tetsuro Takeda1) and Fumiko Miyazaki1)1)Kimura Eye & Internal Medicine Hospital, 2)Yakeyama Kimura Eye Clinic目的:a1遮断薬使用中の白内障手術における術中虹彩緊張低下症候群(intraoperativeツꀀ oppy iris syndrome:IFIS)の薬剤関連性と特徴を比較検討した.方法:対象は,超音波白内障手術施行患者のうちa1遮断薬使用患者 75 例132 眼.これらの症例の,a1遮断薬使用状況,器質的眼疾患の有無,術前前房深度,術前散瞳状態,IFIS の有無,IFIS に対する処置,術中・術後合併症を検討した.結果:男性は塩酸タムスロシン内服,女性は塩酸ブナゾシン点眼を多く使用していた.術前前房深度は,男性 27.6%,女性 69.6%が浅前房であり,男性 33.3%,女性 38.8%は術前散瞳不良であった.IFIS は男性 14.1%,女性 6.0%であった.男性は塩酸タムスロシン内服,女性は塩酸ブナゾシン点眼で発生が多かった.術中合併症は,後 破損や虹彩離断を認めた.全白内障手術患者に対する IFIS 発生頻度は 0.49%であった.結論:IFIS は,散瞳不良のa1A受容体サブタイプ高選択性薬剤使用者に発症する傾向であり,前房深度が浅い症例では重篤な合併症を起こしやすかった.Toツꀀ evaluateツꀀ theツꀀ incidenceツꀀ andツꀀ characteristicsツꀀ ofツꀀ intraoperativeツꀀツꀀ oppyツꀀ irisツꀀ syndrome(IFIS)inツꀀ relationツꀀ toツꀀ the use of a1-adrenoceptor antagonists, we conducted a prospective study of 75 patients(132 eyes)receiving systemic or topical a1-adrenoceptor antagonists who underwent cataract surgery. Use of a1 antagonist, eye disease, anterior chamber depth, presurgery mydriasis, IFIS occurrence, IFIS treatment and complications were studied. The a1 antagonistsツꀀ mostツꀀ commonlyツꀀ usedツꀀ wereツꀀ systemicツꀀ tamsulosinツꀀ inツꀀ malesツꀀ andツꀀ bunazosinツꀀ inツꀀ females.ツꀀ Theツꀀ preoperative anterior chamber was shallow in 27.6% of the males and 69.6% of the females;presurgery mydriasis was poor in 33.3%ツꀀ ofツꀀ malesツꀀ andツꀀ 38.8%ツꀀ ofツꀀ females.ツꀀ IFISツꀀ wasツꀀ observedツꀀ inツꀀ 17ツꀀ eyes(0.49%),ツꀀ ofツꀀ whichツꀀ 15ツꀀ wereツꀀ inツꀀ malesツꀀ andツꀀ 2 were in females. IFIS developed systemic tamsulosin use in males and bunazosin use in females, especially after 70 years of age. Posterior capsule rupture occurred in 1 eye;iridodialysis occurred in 3 eyes. IFIS occurred more eas-ily in eyes with poor mydriasis receiving a1-adrenoceptor antagonists.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(9):1287 1292, 2009〕Key words:術中虹彩緊張低下症候群,a1遮断薬,超音波白内障手術,a1A受容体サブタイプ,塩酸タムスロシン.intraoperativeツꀀツꀀ oppyツꀀ irisツꀀ syndrome, a1-adrenoceptorツꀀ antagonists,ツꀀ phacoemulsi cation, a1Aツꀀ receptorツꀀ subtype, systemic tamsulosin.———————————————————————- Page 21288あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(130)の縮瞳」の 3 徴を生じるものである.2005 年に Chang らが提唱した1)のが初めであり,以後種々の施設から同様の報 告2,9 14)がされている.しかし,発生頻度は各報告によって異なっており,また多施設調査が多く単独施設による調査は少ない.今回筆者らは,a1遮断薬使用中の超音波白内障手術において,a1遮断薬使用状況,術前前眼部状態,IFIS の発生頻度,術中・術後合併症などを prospective に調査し比較検討したので報告する.I対象および方法1. 対象対象は,2005 年 9 月 21 日 2007 年 10 月 31 日に木村眼科内科病院(以下,当院)で超音波白内障手術を施行した連続 症 例 1,955 例 3,219 眼(男 性:807 例 1,296 眼, 女 性:1,148 名 1,923 眼)のうちa1遮断薬使用患者 75 例 132 眼(男性 57 例 99 眼,女性 18 例 33 眼).年齢は男性 45 89 歳(75±8.3 歳, 平 均値±標 準 偏 差), 女 性 64 87 歳(74.5±8.16歳,平均値±標準偏差)であり,白内障の硬度はそれぞれEmelly-Little 分類 1 4 度(平均で男性 2.24 度,女性は 2.15度)であった.なお,本研究は超音波白内障手術のみを対象としており,硝子体手術や緑内障手術など他手術併用例,眼内手術既往例は除外した.2. 手術方法手術方法は,超音波乳化吸引術を行いすべて眼内レンズ(intraocularツꀀ lens:IOL)挿入術を併施した.超音波白内障手術装置は,アキュラス 600DS(アルコン社)を用い,超音波出力 50%ツꀀ 吸引圧 200 mmHgツꀀ パルスモード 15 で設定し,核の硬度などさまざまな条件により設定を術中随時変更した.粘弾性物質は中間分子量(オペリードR)を用い必要に応じて適宜追加し,Devideツꀀ &ツꀀ Conquer 法(フェイコチョップ法も併施)で乳化吸引を行った.切開は上方強角膜切開で,自己閉鎖創を作製した.IOL は,後 破損例を除いて全例 内固定した.3. 検討項目と方法以上の症例におけるa1遮断薬使用状況,術前散瞳状態〔トロピカミド(ミドリン PR)・フェニレフリン(ネオシネジンコーワR)を 15 分間隔で 2 回点眼したあと 30 分後測定.6 mm 未満を散瞳不良とした〕,術前前房深度(周辺部前房深度計測の目安である van Herick 法で測定),器質的眼疾患の有無,IFIS の発生頻度と発生状況(白内障手術中に水流のうねり,虹彩脱出や嵌頓,進行性の縮瞳の所見 3 徴すべてを認めたものを「IFIS 完全型」,2 徴候以下を「IFIS 不全型」とした),手術の転帰・IFIS に対する処置,術中・術後合併症を prospective に調査し比較検討した.なお,手術前にa1遮断薬使用に関する詳細な問診ならびに他科かかりつけ医に対して過去のものも含めて内服薬の調査を行い,a1遮断薬使用症例に手術終了後すぐ執刀医が IFIS の発生の有無・状況など検討項目を記載した.II結果1. a1遮断薬使用状況(図 1)a1遮断薬使用例は,男性 57 例(全男性白内障手術患者に対し 7.0%),女性 18 例(全女性白内障患者に対し 1.5%)であった.男性は塩酸タムスロシン(ハルナールRなど,34 例)が多く,ナフトピジル(フリバスR,アビショットRなど,10 例),メシル酸ドキサゾシン(カルデナリンR,6 例)と続いた.a1遮断薬を重複使用例もあり(6 例),すべて塩酸タ(例)メシル酸ドキサゾシン塩酸タムスロシンナフトピジルウラピジルシドロシン塩酸ブナゾシン点眼塩酸ブナゾシン内服0510152025303540:散瞳良 :散瞳不良図 2術前散瞳状況散瞳不良は,女性はすべて塩酸ブナゾシン点眼例であったが,男性は塩酸タムスロシンをはじめとしてさまざまな薬剤でみられた(グラフ左側男性,右側女性).:*併用(例)5101520253035400メシル酸ドキサゾシン塩酸タムスロシンナフトピジルウラピジルシドロシン塩酸ブナゾシン点眼塩酸ブナゾシン内服図 1a1遮断薬使用状況併用例はすべて塩酸タムスロシンを併用していた(グラフ左側男性,右側女性).———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091289(131)ムスロシンが含まれていた.女性は,塩酸ブナゾシン点眼(デタントールR,12 例)が多く,メシル酸ドキサゾシン(3例),塩酸ブナゾシン内服(1 例)と続いた.2. 術前散瞳状態(図 2)男性19例(a1遮断薬使用男性手術患者に対し 33.3%),女性5例(a1遮断薬使用女性手術患者に対し 27.7%)に術前散瞳不良を認めた.そのうち男性では,片眼手術例が 4 例〔うち偽落屑症候群(pseudo-exfoliationツꀀ syndrome:PE)1例〕,両眼手術例で片眼のみ不良例が 1 例(PE1 例)あった.女性では,片眼手術例が 2 例,片眼のみ不良例が 1 例あった.女性はすべて塩酸ブナゾシン点眼例であったが,男性は塩酸タムスロシン 11 例をはじめとして,ナフトピジル,シドロシン(1 例は塩酸タムスロシン併用),メチル酸ドキザゾシン,塩酸ブナゾシン点眼とさまざまに認めた.3. 術前前房深度(図 3)Gradeツꀀ 3 4 は 男 性 71 眼(71.7%), 女 性 10 眼(30.3%),Gradeツꀀ 2 は男性 17 眼(17.1%),女性 9 眼(27.2%),Grade 1 は男性 11 眼(11.1%),女性 14 眼(42.4%)であった.女性では,塩酸ブナゾシン点眼使用例で前房深度が浅かった.4. 器質的眼疾患の有無器質的眼疾患を,男性 42 眼(42.4%),女性 18 眼(54.5%)に認めた.前述の術前前房深度に関係するが,閉塞隅角緑内障や原発閉塞隅角症(疑い)など浅前房眼が男性 14 眼(14.1%),女性 7 眼(21.2%)にあった.ほか糖尿病網膜症をはじめとする網膜硝子体疾患(男性 24 眼,女性 8 眼)などさまざまな眼疾患を認めた.5. IFISの発生頻度と発生状況(図 4)「IFIS 完全型」は男性 12 例 15 眼(23.4%),女性 1 例 2 眼(6.0%),「IFIS 不全型」は男性 49 眼(2 徴候 20 眼,1 徴候29 眼), 女 性 12 眼(2 徴 候 2 眼,1 徴 候 10 眼)に 認 め た.IFIS 完全型は,塩酸タムスロシン(8 眼),女性は塩酸ブナゾシン点眼(2 眼)で最も多かった.2 種のa1遮断薬併用例は男性 3 眼にあり,すべて塩酸タムスロシンと併用(シドロシン 2 眼,塩酸ブナゾシン 1 眼)していた.術前散瞳径が 3 mm と散瞳不良で,手術開始から虹彩リトラクター(グリスハーバー社製)を用いた例が男性 1 眼あり,IFIS 発生状況は不明とした.6. 手術の転帰・IFISに対する処置対処により手術続行したものは男性 41 眼(66.6%),女性7 眼(50%)であった.対処として,男性はフェニレフリン前房内注入(37 眼)が大半であったが,viscoadaptive 粘弾性物質であるビスコートRを使用(5 眼)例や,虹彩リトラクターや分散型粘弾性物質であるヒーロンR V の使用,虹彩縫合を行ったものもそれぞれ 1 眼ずつ認めた.女性はフェニレフリンを使用した 5 眼のみであった.「IFIS 完全型」では,対処により手術続行した例は男性13 眼,女性 2 眼あり,男性 12 眼にフェニレフリン,2 眼にビスコートR,1 眼にヒーロンR V を使用した.女性は 2 眼ともフェニレフリンを使用した.7. 術中合併症術中合併症は男性 7 眼であり,後 破損 3 例 3 眼,虹彩離断 3 例 3 眼,ほか連続円形破 術裂孔,皮質残存,前房出血を 1 眼ずつ認めた.女性では術中合併症を認めなかった.そのうち「IFIS 完全型」では,男性で虹彩離断 3 眼,後 破損 1 眼,連続円形破 術裂孔 1 眼が発生した.8. 術後合併症術後合併症は,男性 17 例 20 眼(18.1%),女性 2 例 3 眼(6.0%)に認めた.男性は,角膜浮腫 10 眼,瞳孔不整 7 眼,(例)メシル酸ドキサゾシン塩酸タムスロシンナフトピジルウラピジルシドロシン塩酸ブナゾシン点眼塩酸ブナゾシン内服05101520253035:G3 4:G2:G1図 3術前の前房深度浅前房例もみられる(グラフ左側男性,右側女性).メシル酸ドキサゾシン塩酸タムスロシンナフトピジルウラピジルシドロシン塩酸ブナゾシン点眼塩酸ブナゾシン内服:1つ:2つ:3つ510015202530354045図 4薬剤別IFISの発生頻度と発生状況a1遮断薬使用者は,IFIS 徴候を発現しやすい(グラフ左側男性,右側女性).———————————————————————- Page 41290あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(132)続発緑内障 3 眼,IOLツꀀ 外固定 3 眼,その他 2 眼であり,女性は,皮質残存(続発緑内障)2 眼,角膜浮腫 1 眼であった.角膜浮腫というのは術後に出た一過性の炎症性の強い浮腫である.「IFIS 完全型」では,男性は,瞳孔不整 4 眼,IOLツꀀ 外固定 1 眼などを認めたが,女性では大きな術後合併症は認めなかった.III考按a1遮断薬は排尿改善薬以外にも降圧薬,眼科では眼圧下降薬として使われている.IFIS は,当初排尿改善薬である塩酸タムスロシン使用患者に特異的に IFIS が発症するとされていた1)が,現在ではa1受容体サブタイプ(a1A,a1B,a1D)のうちa1A受容体サブタイプに選択性が高い薬剤(塩酸タムスロシン,ナフトピジル,シドロシン)により生じやすいといわれている2).これは,a1A遮断薬が前立腺のみならず虹彩散大筋でも同受容体がドミナントとなっているからである.また,a1A受容体サブタイプと同様a1a 遺伝子由来でありながら代表的なa1作動薬 prazosin 低親和性のa1L受容体サブタイプも最近報告されており3,4),ヒト瞳孔散大筋に分布するa受容体のサブタイプはa1L受容体であることを示唆する試験報告もある5).本研究では,塩酸タムスロシン以外にもナフトピジル,シドロシン(塩酸タムスロシン併用),メシル酸ドキサゾシン,塩酸ブナゾシンで IFIS を認めた.村松ら3)は,シドロシンや塩酸タムスロシンは,a1Lサブタイプにもa1Aサブタイプ同様の高い親和性を示すが,ウラピジルなどはa1Lサブタイプにきわめて低い親和性を示し,ナフトピジルはすべてのa1サブタイプで親和性は低いがa1Dサブタイプ選択的と報表 1IFIS患者一覧番号服用期間術前散瞳不良転帰IFIS に対する処置術中合併症術後合併症その他眼疾患前房深度(男性)1①メシル酸ドキサゾシン120 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用なしなしなしG-3 42②塩酸タムスロシン(0 . 2)4 8 Mなしなしなしなしなし原発閉塞隅角症疑いG-13③塩酸タムスロシン(0 . 2)3 6 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用虹彩離断前 離断瞳孔不整角膜浮腫原発閉塞隅角症疑いG-24④塩酸タムスロシン(0 . 2)3 6 Mあり対処で手術続行フェニレフリン使用なしなしなしG-3 4⑤あり対処で手術続行なしなしなしなしG-3 45⑥塩酸タムスロシン(0 . 2)6 0 Mあり対処で手術続行フェニレフリン使用なしなしなしG-3 46⑦ナフトピジル3 6 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用ビスコートR使用後 破損眼内レンズ 外固定なしG-3 47⑧シドロシン8 4 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用なしなし加齢性黄斑変性症注視麻痺G-3 4⑨(塩酸タムスロシン併用)なし対処で手術続行フェニレフリン使用なし皮質残存加齢性黄斑変性症注視麻痺G-3 48⑩メシル酸ドキサゾシン120 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用なしなし翼状片G-3 49⑪塩酸ブナゾシン点眼8 4 Mあり対処で手術続行フェニレフリン使用なしなし甲状腺眼症G-2⑫(塩酸タムスロシン併用)8 4 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用虹彩離断連続円形破 術裂孔瞳孔不整角膜浮腫原発閉塞隅角症疑いG-210⑬塩酸タムスロシン6 0 Mなし対処で手術続行フェニレフリン使用なし瞳孔不整角膜浮腫なしG-3 411⑭塩酸タムスロシン(0 . 2)4 8 Mあり対処で手術続行ビスコートR使用なしなし網膜静脈分枝閉塞症G-1⑮あり対処で手術続虹彩縫合,ヒーロンR V 使用虹彩離断瞳孔不整なしG-1(女性)12⑯塩酸ブナゾシン点眼6 0 Mあり対処で手術続行フェニレフリン使用なし皮質残存・続発緑内障なしG-1⑰あり対処で手術続行フェニレフリン使用なしなしなしG-1———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,20091291(133)告している.緑内障治療として用いられているa1遮断薬点眼の塩酸ブナゾシンは,虹彩に対する影響を直接検討されていないが,点眼後の瞳孔径変化を検討した報告が複数あ り6,7), いずれも縮瞳傾向を示しているが点眼濃度においては有意な差はなかったと述べている.塩酸ブナゾシンは,a1L受容体への親和性が有意に低かったという報告もある8).これらから塩酸ブナゾシンは瞳孔散大筋に分布するといわれているa1Aサブタイプに作用するがa1Lへの親和性が低く,瞳孔径に対する影響が軽微であると解釈できる.また,メシル酸ドキサゾシン9)や塩酸テラゾシン10)にも IFIS 発生の報告があるが,これらもa1Aサブタイプが関与していると考えられている.IFIS の発生頻度は,海外では 1 2%1),わが国では大鹿ら11)が約 1%と報告している.本研究では,超音波白内障手術患者の 0.49%(男性 1.08%,女性 0.10%)と他の報告に比べ低値であった.a1遮断薬頻度が少ない女性の母集団が多いからと思われたが,a1遮断薬使用者の IFIS の割合が 12.1%(男性 14.1%,女性 6.0%),a1A遮断薬使用者の IFIS 割合が 10.0%(男性 10.4%,女性 8.3%)と他の報告12)(40 60%)に比べ低値であったことからも,本研究は IFIS の頻度が少ないといわざるをえない.IFIS の重篤な術中合併症である虹彩離断を起こした 3 眼は,すべて塩酸タムスロシンを使用し前房が浅めの症例であった.IFIS は 3 徴以外に術前散瞳状態が悪い1)といわれているが,前房深度との関係を示した報告はない.今回比較的客観性が高い検査法である vanツꀀ Herick 法を用いたが,van Herick Grade 2 以下の IFIS 症例は 8 眼であった.女性にa1遮断薬使用例で浅前房が多かったのは,浅前房・狭隅角に対し塩酸ブナゾシン点眼が使用されていたためと考えられるが,IFIS がa1遮断薬使用浅前房例で起こると仮定すると,浅前房が多かった女性で IFIS が少なく,重篤な合併症例を認めなかったことは矛盾する.塩酸タムスロシンをはじめとした虹彩に影響が強いと考えられるa1A遮断薬を使用し前房が浅めの白内障手術例は,IFIS を生じた場合重篤な合併症を生じやすいのではないかと考えている.IFIS は薬剤の使用目的・白内障手術という観点からも高齢者に多いことが示唆される.本報告の IFIS 症例 13 例 17眼のうち,男性は塩酸ドキサゾシン使用者の 40 歳代 1 眼を除くとすべて 70 歳代以上,女性は 80 歳代であった.IFISにa1遮断薬使用期間は関与しないという報告6)もあるが,塩酸タムスロシンは半減期が長く,長期間受容体を阻害し,虹彩の瞳孔散大筋の廃用性萎縮をさせる13).3 年前から点眼していたメラニン親和性の高い塩酸ブナゾシンが,虹彩色素に沈着し平滑筋の空胞形成をひき起こした14)という報告からも,瞳孔散大筋の萎縮が起こるある一定期間以上a1遮断薬を使用している場合は,IFIS を起こしやすいと考えら れる.小瞳孔,成熟白内障,角膜内皮細胞が少ない,落屑症候群などを伴った白内障手術は,さまざまな術中・術後合併症を起こす可能性がありハイリスク症例といわれる15).IFIS を起こすa1遮断薬も今後ハイリスク因子となるであろう.最近では IFIS を起こす要因として,a1遮断薬以外にクロルプロマジンなどの薬剤16)や糖尿病や高血圧症,うっ血性心不全などの疾病17)や硝子体手術眼,高度近視眼など18)も示唆されている.当院では,a1遮断薬使用症例を「IFIS 注意例」,加えて散瞳不良で前房が浅めの症例を,「IFIS 要注意例」として術前再確認している.このような症例には,非常時に備えて前房深度と散瞳径を保つため分散型粘弾性物質ビスコートR19)や散瞳薬フェニレフリンをすぐに使用できるよう常に準備している.また,今回は示してはいないが,本研究では「IFIS 完全型」の僚眼に「IFIS 不全型」例が多かった.IFIS 症例は,両眼注意が必要と考えられる.IFIS の概念が浸透した現在,IFIS が予測されるa1遮断薬使用超音波白内障手術例では,術者の技量による症例の選択,散瞳を促す非ステロイド抗炎症薬術前点眼や低濃度アドレナリンの術中前房灌流,場合により術中虹彩リトラクターの使用や高分子量粘弾性物質による viscomydriasis の必要があると考えている.このようにa1遮断薬使用者の超音波白内障手術時には,IFIS を十分留意し重篤な合併症を起こさないようにしなければならない.本研究より,IFIS は点眼・内服すべてa1遮断薬使用症例で発症する可能性があると判明した.今回はa1遮断薬使用症例を術前確認し IFIS の検討を行ったため,ニプラジノールを含めたa作用もあるといわれるb遮断薬の内服・点眼による検討は行っていない.また,a1遮断薬未使用症例での IFIS 様所見を呈した症例も少数であったが見受けられた.Retrospective 研究も含め今後検討する予定である.本論文は,第 47 回日本白内障学会総会・第 23 回日本眼内レンズ屈折手術学会総会にて「a1 遮断薬使用中の白内障手術成績─術中虹彩緊張低下症候群の年齢別発生状況と特徴─」で発表した.文献 1) Chang DF, Campbell JR:Intraoperativeツꀀ oppy iris syn-drome associated with tamsulosin. J Cataract Refract Surg 31:664-673, 2005 2) 大鹿哲郎:術中虹彩緊張低下症候群(IFIS).眼科手術 20:195-199, 2007 3) 村松郁延,鈴木史子,田中高志ほか:a1アドレナリン受容体の分類とa1遮断薬の最新情報.薬学雑誌 126:187-198, 2006 4) Hiraizumi-Hiraoka Y, Tanaka T, Yamamoto H et al:Identi cation of alpha-1L adrenoceptor in rabbit earar-tery. J Pharmacol Exp Ther 310:995-1002, 2004———————————————————————- Page 61292あたらしい眼科Vol. 26,No. 9,2009(134) 5) Nakamuraツꀀ S,ツꀀ Taniguchiツꀀ T,ツꀀ Suzukiツꀀ Fツꀀ etツꀀ al:Evaluationツꀀ of a1-adrenocepters in the rabbit iris:pharmacological characterizationツꀀ andツꀀ expressionツꀀ ofツꀀ mRNA.ツꀀ Brツꀀ Jツꀀ Pharma-col 127:1367-1374, 1999 6) 渡邊敏夫,内海隆,杉山哲也ほか:最近の緑内障点眼薬の瞳孔に及ぼす影響.神経眼科 22:42-45, 2006 7) 大鹿哲郎,新家眞:塩酸ブナゾシン点眼による正常人眼及び房水動態の変化.日眼会誌 94:762-768, 1990 8) Maruyamaツꀀ K,ツꀀ Ohmuraツꀀ N,ツꀀ Yagiツꀀ Yツꀀ etツꀀ al:Alpha-1ツꀀ adreno-ceptor subtypes in canine aorta. Jpn J Pharmacol 62:263-267, 1993 9) Herd MK:Intraoperativeツꀀ oppy-iris syndrome with dox-azosin. J Cataract Refract Surg 33:562, 2007 10) Venkatesh R, Veena K, Gupta S et al:Intraoperativeツꀀ oppy iris syndrome associated with terazosin. Indian J Ophthalmol 55:395-396, 2007 11) Oshika T, Ohashi Y, Inamura M et al:Incidence of intra-operativeツꀀ oppy iris syndrome in patients on either sys-temic or topical a1-adrenocepter antagonist. Am J Oph-thalmol 143:150-151, 2007 12) Chadha V, Borooah S, Tey A et al:Floppy iris behaviour during cataract surgery:associations and variations. Br J Ophthalmol 91:40-42, 2007 13) 清水盛充,吉田正至,石原兵冶ほか:塩酸タムスロシン長期服用により IFIS をきたした 1 例.眼臨 100:874-876, 2006 14) 後関利明,清水公也,石川均ほか:デタントールR点眼使用中に生じた Intraoperativeツꀀツꀀ oppyツꀀ irisツꀀ syndrome.眼科手術(日本眼科手術学会誌臨時増刊号) 20:95, 2007 15) 松島博之,佐々木洋,松田章男ほか:白内障手術の傾向と対策術中・術後合併症と難治症例.臨眼 58:20-99, 2004 16) Unal M, Yucel I, Tenlik A:Intraoperativeツꀀ oppy-iris syn-drome associated with chronic use of chlorpromazine. Eye 21:1241-1242, 2007 17) Schwinn DA, Afshari NA:Alpha 1-adrenergic antago-nists andツꀀ oppy iris syndrome:tip of the icebergツꀀ Oph-thalmology 112:2059-2060, 2005 18) 安間哲史:IFIS(術中虹彩緊張低下症候群).眼科手術 20:457-463, 2007 19) 大鹿哲郎:排尿障害改善剤による Intraoperative Floppy Iris Syndrome. IOL&RS 21:55-58, 2007***