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私が思うこと18.緑内障の木陰で

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091095私が思うことシリーズ⑱(89)この欄は若くてアクチヴな眼科医たちの熱烈な思いが述べられる場と理解していたが,どうゆうわけか高齢の代表みたいな私にお鉢が回ってきた.当方,高齢症状の自覚がないままに,思うことのみぞ多かりけるの心境でいるためであろうか.わが愛するシューベルトが,菩提樹の木蔭でまどろんでは甘い夢をみたり,愛の言葉を幹に刻み込んだりしたように,50年以上も付き合ってきた緑内障の大樹の蔭にまどろみながら,四次元の世界をさまよってみるのも悪くはあるまい.私が付き合いはじめた頃は,緑内障(学)の樹木は今からみればとても未熟であった.この樹木は西暦が始まるはるか前のヒポクラテスの時代から立っていたが,発育停止の状態が長い間つづき,ようやく150年ほど前になってフォン・グレーフェが緑内障学の樹木として科学的に手を加え,樹形も大きくなり,一応形が整えられた.だが,その後も本態不明のままに再び発育停止し,最近まで野ざらしのままであった.私が眼科医になった50数年前当時もそんな状況で,細隙灯はVogtの天然記念物的なもの,眼底カメラはノルデンゾンの写らない壊れ物,眼圧計は錆びているシェッツ・トノメーター,視野計はフェルステルのこれも天然記念物.眼圧下降剤はエゼリン,ピロカルピンのみ.眼底検査はピロカルピン縮瞳下の倒像検査で乳頭陥凹の有無さえ透見できればよいといった低レベルで,現在からは想像もできない貧困な状況であった.近年の幾人かの天才たちによる新分野の開拓に加えて,その普及化に休むことなく努力を続けてきた眼科医たちのお蔭で今日があること,そしてその発展経過の一部始終を自ら体験し,自分のからだに緑内障学発展の歴史が刻まれていると思うと不思議な気持ちだ.現在,緑内障の木は巨木に育ったようで,その幹にも年輪の重なりとともに,歴史が刻みこまれている.私はその木蔭でまどろんだり,いじめたり,いじめられたり,シューベルトの菩提樹にあるように,愛の言葉を幹に刻んだりしてきたようだ.「あばたもえくぼ」のうちは幸せだ.「山に入りて山を見ず」という諺があるが,山に入ると,林や谷間が見えても山全体も頂上もみえなくなるというもので,物ごとに深く入り込むと,全体像がわからず,兎角,目先のことのみに囚われて,本当の姿,真理が見えなくなることを諫めた言葉である.緑内障の大樹の蔭にはいると,同じように,全体像がつかめなくなり,おまけに良い気分になってまどろんだりする誘惑のままに,満足で平和の世界に溶け込み勝ちになる.最近の豊かな情報のお蔭で,国際的なスリーピングがはじまり,まどろみに漬かっているような雰囲気となった.このまどろみの世界を脱出するには,創造力を生むための強烈なエネルギーを爆発寸前まで蓄えなければならない.既成概念の殿堂であるアカデミズムに浸っていては,孫悟空のごとくどんな凄いことをやってもそれはお釈迦様の掌の中の蠢きにすぎず,脱出もできなければ新しい世界も生まれはしない.幸か不幸か,緑内障の巨木をいまだ見きわめた人はいないのだ.近代のフランス絵画の革命をもたらしたゴッホにしろ,セザンヌにしろアカデミーとは関係ない素人であったし,印象派の巨匠モネーにしろ,世紀の天才と評価されているピカソにしろ,アカデミーから得るところなしとて脱出した人たちである.健全で着実な発展はアカデ0910-1810/09/\100/頁/JCOPY岩田和雄(KazuoIwata)新潟大学名誉教授国際的にも数少ない徹底した緑内障学メカニカル・テオリスト.類例のない正常眼圧緑内障の病理所見をベースにした理論体系を樹立.エッセーが趣味で「緑内障百話」執筆中.クラッシック音楽や雑話的エッセーも盛ん.エーデルワイス,エンチアン,数十種類の石楠花などの栽培が道楽.BMWを乗り回す.スペクトラルドメイン3D-OCT(光干渉断層計)で篩状板病態に挑戦中.(岩田)緑内障の木蔭で———————————————————————-Page21096あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009ミズムによるとしても,それは着実にレベルを上げることにすぎず,飛躍は困難である.大志を抱く人は,奥深い教養を蓄えながらも,研ぎ澄まされた創造心にあふれ,飛躍する夢を持ち続けねばなるまい.だが単なる無謀の創造心ではどうにもならない.若い頃,そんな体験をした.私が眼科入局3年のころ,春季カタールで,コーチゾンを点眼すると眼がかすむという人を診察し,眼圧が高いことに驚き,検討の結果,コーチゾン点眼で眼圧が上昇していることを確認し,まだ文献に見ない新しい病気として恐る恐る学会で発表した.だが教養もなく,学問の進め方も知らぬアマチュアではどうにもならず,症例報告に留まった.その後10年ほどしてArmaly,Beckerらがステロイドレスポンス学説を樹立して国際的に有名になったのをみて臍(ほぞ)をかんだものだ.だが,私の報告から50数年も経た現在,なお,その本態はわかってはいない.当時,緑内障の主因は隅角にありというわけで,電顕もなくて,強拡大による隅角生態観察に熱中し,サルコイドジスの線維柱帯壁につらなる隅角結節を発見し,それによる続発眼圧上昇機構をも解明した.結節タイプが他の肉芽性炎症と異なることから,診断に重要なポテンシァルとなり,現在に至っている.さらに,シュレンム管を血液逆流法で可視化し動態観察する装置を考案し,線維柱帯メッシュワークや管腔の房水流出の病態,アウトレットに流れ込む状態などを16ミリ映画に撮り,国内外でデモした.ドイツの学会ではトラベクロトミーの元祖Harms教授や,光凝固の元祖Mayer-Schwickerat教授に大変にお褒めをいただき,Tuebingen大学に招待された.アメリカではNEI(NationalEyeInstitute)に招待されて,コーガン,カッパー,クワバラら超大家の控えている前でデモしたものだ.また「君のおかげでシュレンム管というものがよく理解できた」と4代前の東北大学の桐沢教授に握手を求められたことを思い出した.実際,血液で彩られた房水が,いろいろなパターンで管腔に留まったり流出したりする状況は我ながら感動的で,病態を知るのにずいぶんと役立った.シュレンム管のアウトレット部のメッシュワークに限局して色素が点々と沈着し,そこが房水流出の主路であることも明らかにした.VascularTheoryの大元締めで,尊敬されていたバンクーバーのDrance教授とシンポジユームを担当したときに,私はMechanicalTheoryを病理組織所見をベースに主張し,Drance教授の血管説に反論したが,「ドクター・イワタは前から私の親しい友であるが,緑内障の視神経障害に関しては相容れないのは学問の上のことで,やむを得ないことだ…」.彼我ともにリタイヤーして久しく,当時を懐かしく思い出している.だが相容れない状況は現在も変わってはいない.緑内障の木蔭でまどろんだ夢が次々と思い出されて止めどがない.紙面の都合もあり,話題を変えてみよう.なんといっても,緑内障学が新しい世界に踏み出す契機を作ったのは,多治見スタディである.その十年ほど前に,私は日本眼科学会の特別講演で,眼圧が高くとも,正常でも,より低く眼圧を保持したほうが視野障害を緩めたり,停止させたりすることを後ろ向き調査で明らかにし,眼圧が正常でも進行することを強調し,タイプやステージごとに目標眼圧を設定した.多治見スタディは原発開放隅角緑内障(POAG)の92%は正常眼圧緑内障(NTG)であることを実証したが,私どもの成績とともに眼圧の高いのが緑内障という古典的コンセプトを覆す革命的事実となった.研究者の常識としては,正常眼圧でも緑内障性視神経障害(GON)をきたすのは血流障害など多因子の作用している疾患(multifactorialdisease)だからだと思い込むことになる.その後の研究でNTGでもGONに眼圧依存性の強いことがエヴィデンスとして確認された.しかしそれでも緑内障は進行することから,緑内障の本態がちらりとその姿を露見させたわけで,研究者はそこに喰らい付かねばなるまい.統計学では無視されるが,observationalstudyが新たなモチベーションを与えてくれるに違いない.科学は観察から始まるのだ.GONの解明のために日本に与えられた絶好のチャンスなのだ.話題のNTGの低脳圧現象は病態生理学的にはGONを説明できない.また緑内障で皮質中枢まで障害されるとは,単純には考えにくい.精密な追試が必要だ.現在緑内障の視神経障害は国際的に緑内障視神経症(glau-comatousopticneuropathy:GON)とよばれている.そして緑内障は視神経自身の病気と理解されている.これはきわめていい加減な表現で,惑わされてはならない.GONが自発的な視神経自身の病気とすべき根拠はどこにもない.私はGONという表現は,視神経が退行変性し消えてゆくmolecularbiologicalな複雑な処理過程を示しているにすぎず,病理所見からも視神経炎みたいな自発的疾患ではないとするのが妥当と考える.視神(90)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091097(91)経自身の疾患ならば解決は簡単だ.だが,それは本末転倒で,真の病態がますます見えなくなるのではないか.現在,臨床的に緑内障が進行しているか否かの判定法を巡って視野とか視神経線維層の厚みの変化を対象に論争が激しい.だが,それは年単位程度のごく大まかなものにすぎない.現時点で緑内障の本態がactiveに活動していることを「微分」的に確認する方法はないであろうか.未来の超高解像力OCT(光干渉断層計)が鍵を握っているのではあるまいか.私のフーリエ・ドメインOCTによる探索では,GONで視神経萎縮が起こる場合には,萎縮の前の段階で,視神経線維が腫脹することを確認できた.これこそが現在リアルタイムで観察可能な唯一のactiveなサインと考えている.また私どもは失敗したが,眼圧自動調整中枢のレベルを,エアコンの目盛りを下げてリセットし,室温を下げるみたいに調整できないか.緑内障の巨木の木蔭で見る,夢がつづく.(2009年5月,みどりの日に)岩田和雄(いわた・かずお)1927年生まれ19611963年Bonn大学留学1972年新潟大学教授1993年退官,名誉教授日本眼科学会,日本緑内障学会,日本臨床眼科学会,各総会特別講演☆☆☆

インターネットの眼科応用7.インターネット学会

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910930910-1810/09/\100/頁/JCOPY学会の意義「世界中のすべての情報をネット上に整理し,世界中の人々がアクセスして使えるようにする」1)は,Googleという巨大企業のミッションです.私は,以前にインターネットの利用方法が,軍事→通信→アダルト→物販→交流,と移行していることを紹介しました2).インターネット上の交流にはさまざまな形態があります.参加者が自由に投稿できる掲示板機能は「交流」のひとつです.ただ,静的な情報交流であってリアルタイムではありません.近年では,通信技術の発展に伴い,動的なリアルコミュニケーションがネット上で可能になりました.パソコンにウェブカメラを繋ぎ,遠隔地を繋いで会議をする事例が企業を中心に報告されています.肉声すらデジタル化され,テキスト化され議事録となります.インターネットの本質は「繋ぐ」ことにあります.人とモノを繋ぎ,人と情報を繋ぎ,人と人を繋ぎます.情報がデジタル化されるに伴い,マッチングに要する時間が圧倒的に効率化されました.では,医療現場において「現場臨床医」と「最先端の医療情報」を繋ぐ方法は何でしょうか.従来は,学会であり,論文です.論文はすでにデジタル化されインターネットで検索可能になりました.では学会はどうでしょう.インターネットとどのように融合するでしょう.学会の本質は知の結集です.その場に参加することで最先端の知に触れることができます.参加した人にしか触れることができない「神聖性」は,その場に参加するインセンティブになりますが,本来,学会が担うべき医療水準の向上には,この神聖性は,逆に閉鎖性となり,情報流通のネックとなります.結果として,学会に参加しやすい臨床医と学会に参加できない臨床医の間に,知識格差を生みます.多忙な臨床医は遠いエリアの学会には参加することができません.インターネットはその不自由さをどのように解決して,医療情報の流通をスムーズにするのでしょうか.ひと昔前は,スライドを現像してから学会に参加したものです.何度もでき栄えをチェックして,修正は学会の5日前でないと間に合いません.そんな時代がありました.今ではデジタルプレゼンテーションが主流となり,学会のデジタル化は完了しました.学会の次の進化はIT化です.インターネット上で学会が運営される日が必ず訪れます.物事が大きく変わる際には3つの段階を踏みます.まず,技術的に可能になって,つぎに法律や行政などの外部環境が整備されて,最後に人間の意識が変わって世の中に普及します.学会のIT化も医療のIT化も同じ流れを進んでいます.現在は,「技術的には可能」という段階です.以下に,インターネットを応用した先駆的な実例を紹介します.インターネット学会インターネットを用いた新しい論文投稿の形態として,PLoSONEというオンラインジャーナルがあります3).このオンラインジャーナルは,研究(実験)の方法に特に問題がなければ,結果の意義を問わず,初回投稿から数カ月で掲載されます.研究者はインターネット(87)インターネットの眼科応用第7章インターネット学会武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑦図1オンラインジャーナル「PLoSONE」———————————————————————-Page21094あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009を通じて投稿し,論文はインターネット上に掲載され,世界中の読者からコメントが寄せられます.このシステムでは,有意義な知見が査読者の一存で掲載されない可能性は減るものの,不適切なコメント・修正が増える可能性があります.読者の立場としては,玉石混淆のなかから本物を拾い出す眼力を求められます.投稿の容易さが研究者の間で話題となり,また,来年度以降にはインパクトファクターが認められるため,急速に論文数を増やしています.PLoSONEは,インターネットの特性を活用した,きわめて革新性の高い試みです.サイトの文化を決めるのは,事業者でなく参加者である,というインターネットの潮流を学界に持ち込んでいます.今後の展開に注目です(図1).インターネット学会INABIS(InternetAssociationforBiomedicalScienc-es)という国際学会があります.1994年当時,三重大学の村瀬澄夫先生が世界に先駆けて,インターネット上ですべてが完結した国際会議を開催しました4).演題審査もインターネット上で行われ,発表はポスターセッションと掲示板討論でした.このようなインターネット学会が,通信容量の少ない15年前に可能でした.主催者の先見性に驚かされるばかりです(図2).MVConlineでできること④(インターネット学会)5月号より,インターネットの医療応用の実例を紹介(88)しています.MVC-onlineでは参加する医師・歯科医師がエリアや所属を越えて意見交換しています.臨床に関する相談事が可能です.手術動画を会員限定で共有し,議論を深めることが可能です.演者の同意を得られた講演をインターネット上で共有すれば,地方都市で開催された研究会が全国学会に変貌します(図3).【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に共感いただいた方は,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://www.google.co.jp/corporate/2)武蔵国弘:インターネットの歴史.あたらしい眼科26:221-222,20093)http://www.plosone.org/home.action4)LarkinM:Websiteinbrief.Lancet355:665-666,2000図3MVConlineで講演動画を放送中図2インターネット学会INABIS'98のホームページ☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス75.硝子体手術後に発症するドライアイ(初級編)

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910910910-1810/09/\100/頁/JCOPYはじめに近年,眼科手術における術後のドライアイが問題となっている.なかでもLASIK(laserinsitukeratomileu-sis)では術後高率にドライアイを発症することが知られているが,硝子体手術後に発症するドライアイに関する報告は少ない.筆者らは過去に増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術施行後にドライアイを発症した症例を経験している1).例64歳,女性.左眼の増殖糖尿病網膜症に起因する硝子体出血と牽引性網膜離に対して硝子体手術を施行した.以前に両眼の白内障手術を施行されている.手術は通常のスリーポートシステムで硝子体切除,増殖膜処理,眼内汎網膜光凝固術,ガスタンポナーデを行った.手術時間は約2時間で,術中に角膜上皮擦過は施行しなかった.術直後の経過は良好で退院時の左眼視力は0.6(矯正不能)であった.しかし退院1週間後の外来受診時から左眼に点状表層角膜症(図1)が出現し,視力は0.2(矯正不能)に低下した.涙液分泌量はSchirmerI法にて左眼11mmと右眼の22mmと比較して低下しており,角膜中央部の知覚はCochetandBonnet角膜知覚計での圧力換算値が132.5g/mm3と右眼の2.79g/mm3に比べて上昇し角膜知覚の低下を認めた.ドライアイによる角膜障害と考え防腐剤を含まない人工涙液点眼およびヒアルロン酸を処方したが改善傾向はなく,上下涙点に涙点プラグを挿入したところ1週間後には点状表層角膜症は軽減(図2)し,視力は0.8(矯正不能)まで改善した.子体手術後のドライアイの特自験例では術後に使用される点眼薬およびそれらに含まれる防腐剤による涙液分泌量の低下や手術侵襲による瞬目回数の減少によって涙液クリアランスが低下し,ドライアイが発症したものと考えられる.術後点眼をいたずらに長期間投与することは控えるべきであるが,硝子(85)体手術では術後の炎症が他の手術よりも遷延することが多く,ついつい長期に点眼を使用してしまい,ドライアイが生じやすい環境を提供している可能性がある.バックリングを併用した硝子体手術では,結膜を広範囲に切開することにより不規則な隆起を眼表面に形成し,正常の涙液層が保持しにくい環境をつくっている可能性もあり,硝子体手術ではこれらのことに注意しながら術中・術後管理を行う必要がある.また,糖尿病患者は角膜知覚がもともと低下しており,それによって涙液分泌量が減少することからドライアイになりやすく,上皮細胞のバリアー機能の低下や上皮の接着不良も加わって上皮障害を起こしやすい.以上のことから,特に糖尿病網膜症の硝子体手術後の経過観察の際にはドライアイによる角膜障害に注意する必要がある.文献1)勝村浩三,佐藤孝樹,片岡英樹ほか:増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に発症したドライアイの1例.眼紀56:908-910,2005硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載75硝子体手術後に発症するドライアイ(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1退院1週間後の前眼部写真角膜中央~下方にびまん性の点状表層角膜症を認め,矯正視力は(0.2)であった.(文献1より)図2涙点プラグ挿入1カ月後の前眼部写真涙液メニスカスは上昇と点状表層角膜症の軽減を認め,矯正視力は(0.8)まで改善した.(文献1より)

眼科医のための先端医療104.酸化ストレスと網膜色素変性症

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910870910-1810/09/\100/頁/JCOPY網膜色素変性症における錐体細胞死の謎網膜色素変性症とのとお変で細胞る性性ののとで一にので体細胞のにでのを錐体細胞たてののにとい症ると下てに体細胞るの体細胞のにるのでいのとのい錐体細胞でをて細胞死を今のとていんのに体細胞細胞死をとにをによて錐体細胞るとる説体細胞死によて性化たマ細胞にをるたに錐体細胞るとる説体細胞の細胞るたにをてお体細胞死ととにるたに錐体細胞死るとる説といの説の説体細胞に死たとに錐体細胞にたてけるのるい錐体細胞死るにるのといをに説るとでん酸化ストレス仮説でていたののよ仮説をてたでにの酸素をる体細胞死ると網膜でにた酸素錐体細胞に酸化ストレスを与てに細胞死をのでいとい仮説での仮説にのとる実験たのマウスをとい酸素下でるとの発て網膜るけで細胞で変性をるといのでた実のよていのでにでにによて細胞の酸素性てい網膜色素変性症にのを用マウスを用いた実験での仮説いとをよとたrdマウスを用いた実験にた仮説をるたにトのマウスでるマウスおよマウスを用いて下にたいの実験をいたの実験でマウスにの抗酸化薬aリポ酸,MnTBAP)を生後21日から35日まで腹腔内に注射して錐体細胞のレスキュー効果があるかどうかを調べました.その結果,無治療群に比べて錐体細胞数は有意に維持され,錐体細胞機能を反映する錐体ERG(網膜電図)も有意に大きい振幅を得ました.また,この抗酸化薬をそれぞれ単独で投与してみたところ,脂溶性抗酸化薬であるビタミンEとaリポ酸のみにその効果を認めました3).第二の実験では,マウスをrd1よりも変性の速度が遅いrd10マウスを用いてP18からP35まで同様の抗酸化薬を投与したところ,錐体細胞数,錐体細胞機能ともに有意に維持されました(図1).また,驚いたことに(81)◆シリーズ第104回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊米今敬一(名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座)酸化ストレスと網膜色素変性症酸化25355050505050505050図1抗酸化薬投与による錐体細胞のレスキュー効果rd10マウスに生後21日から4種類の抗酸化薬(ビタミンE,ビタミンC,aリポ酸,MnTBAP)を腹腔内投与した群と,溶剤のみを投与した群の生後25日および35日の代表的錐体ERG(網膜電図)の波形.———————————————————————-Page21088あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009一時的にではありますが,杆体細胞数,杆体細胞機能も有意に維持されるという結果を得ました4).これは杆体細胞数が減少する過程で網膜内酸素濃度が上昇し,錐体細胞だけでなく残っている杆体細胞にも酸化ストレスがかかってくるため,抗酸化薬によって杆体細胞死の速度が多少緩徐になったためと解釈できます.第三の実験では,抗酸化薬の代わりに4種類の一酸化窒素合成酵素阻害薬(L-NNA,L-NAME,L-NMMA,アミノグアニジン)をrd1に腹腔内注射して同様の実験を行いました.一酸化窒素(NO)は生体内で血管拡張や神経伝達に不可欠な生理的役割を果たしていますが,酸化ストレスのかかる環境下ではスーパーオキシドと反応して非常に強い細胞障害能をもつペルオキシナイトライトに変化します.筆者らは,NOもまたRPの錐体細胞死に関与しているのではないかと考えてこの実験を行いました.その結果,錐体細胞が形態学的,機能的に有意にレスキューされることが確認されました5).最後に,留学先で筆者の実験を引き継いでくださった大阪大学眼科の臼井審一先生の仕事を紹介します.ヒトの体の中には生体内で生じたフリーラジカルを消去する機能が存在します.おもにミトコンドリアで生じるスーパーオキシドは,SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)という酵素によって過酸化水素に変化し,さらに過酸化水素はカタラーゼあるいはGPX(グルタチオンペルオキシダーゼ)という酵素によって水に変えられます.そこで,このスーパーオキシドを消去して酸化ストレスから細胞を保護するために,ミトコンドリアに特異的に発現しているSODであるSOD2とミトコンドリア移行シグナルを連結したカタラーゼを視細胞特異的に過剰共発現するトランスジェニックマウスを作製してrd10マウスと交配し,視細胞死に対する影響を調べました.その結果,杆体細胞死には効果はありませんでしたが,錐体細胞に関しては生存細胞数およびその機能に関して有意にレスキュー効果を得ることができました6).酸化ストレスに対する生体内の防御機構を強化することでRPモデルマウスの錐体細胞死を抑制できたわけです.網膜色素変性症の治療法開発に向けて網膜色素変性症のているけで治療をるで一とのににるといのにストに実でんたてのにる細胞死のをにるとによてのにる実法てるとた今たのの錐体細胞死に酸化ストレスといーたので用にのていの実験で抗酸化薬一酸化素素薬のるい抗酸化のをのマウスのとい法を用いて果をたで抗酸化薬の薬をマウス投与た実験でい果をるとでんでた薬のたのにてでる薬のいたのいいとのとよんでたた抗酸化薬のによる性でいで今細胞を効に酸化ストレスるいーの開発文献1)YamadaH,YamadaE,HackettSFetal:Hyperoxiacausesdecreasedexpressionofvascularendothelialgrowthfactorandendothelialcellapoptosisinadultretina.JCellPhysiol179:149-156,19992)NoellWK:Visualcelleectsofhighoxygenpressures.FedProc14:107-108,19553)KomeimaK,RogersBS,LuLetal:Antioxidantsreduceconecelldeathinamodelofretinitispigmentosa.ProcNatlAcadSciUSA103:11300-11305,20064)KomeimaK,RogersBS,CampochiaroPA:Antioxidantsslowphotoreceptorcelldeathinmousemodelsofretinitispigmentosa.JCellPhysiol213:809-815,20075)KomeimaK,UsuiS,ShenJetal:Blockadeofneuronalnitricoxidesynthasereducesconecelldeathinamodelofretinitispigmentosa.FreeRadicBiolMed45:905-912,20086)UsuiS,KomeimaK,LeeSYetal:Increasedexpressionofcatalaseandsuperoxidedismutase2reducesconecelldeathinretinitispigmentosa.MolTher17:778-786,2009(82)***———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091089(83)酸化ストレスと網膜色素変性症を読んで今米今敬一によ網膜色素変性症における網膜細胞のよにてをけるといを酸化ストレスのでをていたいたとてい説で網膜色素変性にのとているの発網膜色素細胞網膜細胞にていると変にているととてでのにるとてー果をていたたのに治療のとるとるとにをるで網膜色素変性の治療でおに治療療網膜開発といでてたので今の米今のとたでの治療とてに効果をる性酸素をーに用いるとによ発ー効をにい化てたとをんたのとての性酸素体でていい酸化てといたてたたをるたに体でる性酸素を化るスを発てた米今の説にてる抗酸化性酸素の素にてる性酸素による効酸のをけるよにているけでののによのるとてたで治療のートとてのでとた性酸素をる治療法治療薬開発てていーーとているの症網膜症てでにているースに細胞にて性酸素にていると実でで性酸素を用とる薬の開発ておん体ているに治療薬とてたのた性酸素による網膜症ののにいの献をているのをにるとでると開発ていいでいでのよ網膜症の治療薬の開発で米今の説をお読て網膜色素変性でのの果網膜症の治療薬開発ににたのでいとたで米今ののの発をてい山山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ191.Conductive Keratoplastyによる老視の治療

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910850910-1810/09/\100/頁/JCOPYン組織内を通る際の組織抵抗により熱(約70℃)が発生し,角膜周辺部のコラーゲンを収縮し,角膜中央部が急峻化し遠視矯正効果を発揮する(図1).瞳孔中心にマーキングを行った後,専用のOptiPointCornealTemplate(図2)をマーキング位置に合わせて角膜表面に吸着固定する.ノモグラム(図3)に応じて予定した部位のTemplateの各ホールに沿って垂直に刺入凝固を行う.実際の治療適応は,正視または軽度遠視かつ乱視0.75D以下の患者で,モノビジョンを目標に手術を行う.したがって正視眼では非優位眼のみの手術となる.新しい治療と検査シリーズ(79)バックグラウンド近年,老視に対する外科的アプローチとして,マルチフォーカル眼内レンズ,老視LASIK(laserinsitukeratomileusis),モノビジョンLASIK,conductivekeratoplasty(CK)などの方法が施行されている.なかでも,CKは本来は侵襲の少ない遠視に対する治療方法として開発されたが,モノビジョンと組み合わせることより,老視治療方法としての応用が注目され,2004年に老視治療方法として米国FDA(食品医薬品局)の認可を得た1,2).治療の原理と方法Keratoplasttip(長さ450μm,直径90μm)とよばれるプローブを,角膜周辺部の実質に刺入し,先端から高周波(350kHz)の電流を作用させる.電流がコラーゲ191.ConductiveKeratoplastyによる老視の治療プレゼンテーション:戸田郁子南青山アイクリニックコメント:荒井宏幸南青山アイクリニック横浜BeforeAfter図1CKの原理(下)と術後の前眼部写真(上)図2Refratec社のViewPointsystemTemplateのホールに沿ってプローブを刺入する.8mm7mm6mm+1.0D+2.5D+1.75D+3.5D図3CKのノモグラム4つの矯正パターンがある.———————————————————————-Page21086あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009〔症例〕44歳,女性.術前の遠方視力はVD=1.5(1.5×+0.75D),VS=1.5(1.5×+0.5D).シミュレーションを行ったところ,右眼+1.0D,左眼+2.5D矯正下にて両眼遠方視力=1.5,両眼近方視力=1.0で,シミュレーションの見え方を希望された.図3のノモグラムにより実際の矯正は右眼+1.0D(8mm径8スポット),左眼+2.5D(7mm径8スポット,8mm径8スポット)を施行した.術後4カ月において,右眼遠方視力=1.5(n.c.),左眼遠方視力=0.15(1.5×2.5D(cyl-0.75DAx50),右眼近方視力=0.6(1.0×+1.0D),左眼近方視力=1.0,両眼遠方視力=1.5,両眼近方視力=1.0で,遠近ともに満足されていた.角膜形状解析にて中央部角膜の急峻化が認められた(図4).本方法の利点と欠点CKの利点は瞳孔領から離れた手術であるため,安全性が高く,また,短時間で技術的にも容易である.このため,他の屈折矯正術後のタッチアップなどにも応用できる3).しかしながら,正視眼に行う場合は遠方視力低下,惹起乱視,regressionなどの問題がある.特にregressionによる効果の減弱は遠視矯正LASIKに比較して大きく,再手術率が高いため,メーカー推奨のノモグラムよりやや強めの矯正度数選択がよいと考えられる.また,ノモグラム自体も4パターンのみであり,レーザー屈折矯正術と同等の矯正精度は期待できないので,術前の説明が大切である.1)McDonaldMB,DavidorfJ,MaloneyRKetal:Conductivekeratoplastyforthecorrectionoflowtomoderatehyper-opia:1-yearresultsontherst54eyes.Ophthalmology109:637-649;discussion649-650,20022)McDonaldMB,DurrieD,AsbellPetal:Treatmentofpresbyopiawithconductivekeratoplasty:six-monthresultsofthe1-yearUnitedStatesFDAclinicaltrial.Cornea23:661-668,20043)AlioJL,RamzyMI,GalalAetal:Conductivekerato-plastyforthecorrectionofresidualhyperopiaafterLASIK.JRefractSurg21:698-704,2005(80)右眼左眼術前術後図4CK前後の角膜形状グ術のとるいリクとにするしるよにといにい本方法に方に点いし点のい視のするノモグラム術後視症例に対しる術方法上前ににい方法するとによ角膜実の部るとるよにのるの例ンートしいるのいに視ののる術とすると本術本方法に対するコメント☆☆☆

サプリメントサイエンス:レスベラトロール

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910810910-1810/09/\100/頁/JCOPYレスベラトロールとはレスベラトロール(resveratrol:RSVT)はポリフェノール類のスチルベノイドに属し,短鎖の共役二重結合と両端のベンゼン環がヒドロキシル基で置換された化学構造(図1)を有する白色の天然物質である.ブドウの皮や赤ワイン,ピーナッツの皮などに多く含まれる.RSVTは1940年にユリ科シュロソウ属のコバイケイソウの根から初めて単離された.植物にはフィトアレキシンという外的ストレスや感染などから生体を防御する物質が存在し,そのうちの一つと考えられていた.RSVTは植物の細菌感染やUV(紫外線)照射により植物中で合成が促進する.植物中ではスチルビンシンターゼという合成酵素によりRSVTが合成されるのだが,その酵素は限られた植物にのみ存在し,その植物中にRSVTが存在する.細菌はRSVTの分解酵素を合成することができるので,長期に細菌感染を生じた植物のRSVT量は低下する.しかし,通常はRSVT合成の速度が分解酵素合成の速度を上回るため,それらの植物は細菌感染を防御することができると考えられている.ただ,フィトアレキシンとして発見当時はあまり注目された物質ではなかった1).古くから脂肪分の過剰摂取が動脈硬化をもたらし,心血管病変をひき起こすといわれてきたが,動物性脂肪をヨーロッパで多く摂取するフランス人にはこれらの病気が少ないことが知られており,この現象は「フレンチ・パラドックス」とよばれてきた.赤ワインにポリフェノールの一種であるレスベラトロールが多く含まれていることがわかり,RSVTを含むポリフェノール類に抗酸化作用があることからその抗酸化作用がワインを多く摂取するフランス人に恩恵をもたらしているのではないかと考えられている2).ポリフェノールは芳香族炭化水素に結合した水酸基を多数分子内にもつ化合物の総称である.その水酸基は酸化還元電位が低く,自身が酸化されることで抗酸化作用を示す.その後RSVTにはシクロオキシゲナーゼを抑制する抗炎症作用が見いだされ,ほかにも血管拡張作用,抗血管新生作用,神経保護作用,抗癌作用,抗加齢作用など多くの生理活性について報告されている3).抗加齢作用2000年にcaloricrestriction(CR;カロリー摂取制限)によりsilencinginformationregulator2(Sir2)という酵素が活性化し,酵母の寿命が延長する抗加齢作用が報告された4).その後Sir2の哺乳類ホモログであるヒトSIRT1によるp53ペプチドのinvitroでの脱アセチル化を定量することにより低分子物質ライブラリーをスクリーニングし,RSVTをはじめとする植物性ポリフェノール化合物がSIRT1活性を亢進し,酵母の寿命を延長させることがわかった.そのなかでも特にRSVTは13.4倍という最も高いSIRT1活性化作用があることがわかった5).RSVT投与による抗加齢作用は酵母,線虫,ショウジョウバエ,魚類で確認されている3).眼科への応用筆者らのグループはぶどう膜炎の動物モデルとして知(75)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑫(最終回)監修=坪田一男12.レスベラトロール久保田俊介*1石田晋*2*1慶應義塾大学医学部眼科網膜細胞生物学研究室*2北海道大学大学院医学研究科眼科学分野レスベラトロールはポリフェノールの一種でブドウの皮や赤ワイン,ピーナッツの皮などに多く含まれる.筆者らはレスベラトロールをぶどう膜炎モデル動物に投与し,レスベラトロールの抗炎症効果を示し報告した.レスベラトロールは安全性は高いと考えられ,将来の抗炎症治療の一つとして有望な候補と考えられる.HOOHOH図1レスベラトロールの構造式———————————————————————-Page21082あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009られる,エンドドキシン誘発ぶどう膜炎モデル(EIU)におけるRSVTの治療効果を検討した.C57BL/6JマウスにRSVTを5日間内服投与し,その後リポ多糖類(LPS)を投与後24時間で網膜血管への白血球接着数と網膜・脈絡膜における白血球接着因子(ICAM-1,MCP-1)を測定した.LPS投与3時間後の網膜の酸化ストレス(8-OHdG)と脈絡膜の核内のNF-kBを測定した.その結果,LPS投与24時間後の白血球接着数はRSVT(76)の濃度依存性に抑制されることがわかった(図2).そのメカニズムとして白血球接着因子であるICAM-1,MCP-1はRSVT投与により有意に減少することがわかった(図3).LPS投与3時間後における8-OHdGとNF-kBもRSVT投与により有意に減少することがわかった(図4).抗加齢作用として重要なSIRT1生体内活性が脈絡膜において上昇することを明らかにした(図5).今回の報告により,RSVTは眼における酸化ストレスと炎症を抑制する作用を有することが示唆された(図6)6).後極部網膜中間部網膜周辺部網膜ControlVehicleEIUResveratrol(50mg/kgBW)図2網膜血管への白血球接着数*p<0.05,**p<0.01,NS:有意差なし.矢印は網膜血管内に接着している白血球を示す.〔図2~6は文献6から許可を得て引用〕JControlVehicleResveratrol(mg/kgBW)550100200白血球接着数(cells/retina)EIU***NS**300250200150100500ControlVehicleResveratrol網膜ICAM-1発現量(ng/mgtotalprotein)網膜MCP-1発現量(ng/mgtotalprotein)脈絡膜ICAM-1発現量(ng/mgtotalprotein)脈絡膜MCP-1発現量(ng/mgtotalprotein)EIUControlVehicleResveratrolEIUControlVehicleResveratrolEIUControlVehicleResveratrolEIU*************2520151050605040302010060504030201005004003002001000ABCD図3ICAM1,MCP1の発現量*p<0.05,**p<0.01.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.8,20091083(77)1日の摂取レベルと摂取すべきエビデンスレベルRSVTはサプリメントとして多く販売されているが,その最適な摂取量はいまだ不明であるのが現状である.RSVTが多く含まれることで有名な赤ワインには一杯につき約3mgのRSVTが含まれる.ピーナッツには100g当たり約0.1mgのRSVTが含まれる3).RSVTは現在いくつかの臨床応用のための治験が米国にて行われている7).臨床応用としての対象疾患は2型糖尿病,癌,そしてMELAS症候群である.なかでもMELAS症候群に対しては2008年にFDA(米国食品医薬品局)よりorphandrug(希少疾病用医薬品)としての承認が下りており,臨床応用の先駆けとして注目されている.2型糖尿病の患者を対象にした臨床試験では,28日間RSVTを5g経口投与したところ有意に血糖値の効果を得たとのことである.同様の摂取量でほかの治験も行われているため,疾病の治療目的におけるRSVT摂取は用量を考えると食事からの摂取は不可能であり,サプリメントとしての摂取となる.安全性については多くの報告が寄せられているが,明らかな副作用の報告はなく安全性は高いと考えられる.RSVTの眼科的な作用というものはあまり報告が多くなく,まだ不明な点が多い.特に動物実験で使用された報告は数少ない.そのなかでは,RSVTを40mg/kg体重でラットに4日間投与することにより,酸化ストレスが減少し白内障の発生が抑制されたと2006年に報告されている8).筆者らは2009年に,RSVTを50mg/kg体重でマウスに5日間投与することにより,生体内SIRT1を活性化し酸化ストレスと炎症が減少しぶどう膜炎を抑制したと報告した.この量はヒトに換算すると1日2.5~3gとなり,米国で施行されている治験の投与量に近似していて眼科的にも応用できる量といえる.眼科的疾患の多くは酸化ストレスや炎症が関与するものが多い.人間社会も長寿社会となり,それ伴う多くの眼科的加齢性疾患も増加している.この加齢や酸化ストレス,炎症に対する効果をもつRSVTは,疾患の予防的見地から考えても非常に重要と考えられる.現在RSVTの臨床試験は進行中であり,摂取すべきエビデンスレベルはまだどちらともいえないと考えられる.*****網膜8-OHdG発現量(ng/mgtotalDNA)ControlVehicleResveratrolEIUControlVehicleResveratrolEIU302520151050NF-kBp65核内移行量(ng/mgtotalprotein)109876543210AB図48OHdGの発現量(A)とNFkBの核内移行量(B)*p<0.05,**p<0.01.NS***脈絡膜SIRT1体内活性(ofcontrol)ControlVehicleResveratrolEIU11511010510095908580図5SIRT1の成体内活性*p<0.05,**p<0.01,NS:有意差なし.図6RSVTの作用機序———————————————————————-Page41084あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009(78)文献1)CucciollaV,BorrielloA,OlivaAetal:Resveratrol:frombasicsciencetotheclinic.CellCycle6:2495-2510,20072)DoreS:Uniquepropertiesofpolyphenolstilbenesinthebrain:morethandirectantioxidantactions;gene/proteinregulatoryactivity.Neurosignals14:61-70,20053)BaurJA,SinclairDA:Therapeuticpotentialofresvera-trol:theinvivoevidence.NatRevDrugDiscov5:493-506,20064)GuarenteL,KenyonC:Geneticpathwaysthatregulateageinginmodelorganisms.Nature408:255-262,20005)HowitzKT,BittermanKJ,CohenHYetal:Smallmole-culeactivatorsofsirtuinsextendSaccharomycescerevisi-aelifespan.Nature425:191-196,20036)KubotaS,KuriharaT,MochimaruHetal:Preventionofocularinammationinendotoxin-induceduveitiswithres-veratrolbyinhibitingoxidativedamageandnuclearfac-tor-kappaBactivation.InvestOphthalmolVisSci50:3512-3519,20097)BoocockDJ,FaustGE,PatelKRetal:PhaseIdoseesca-lationpharmacokineticstudyinhealthyvolunteersofres-veratrol,apotentialcancerchemopreventiveagent.Can-cerEpidemiolBiomarkersPrev16:1246-1252,20078)DoganayS,BorazanM,IrazMetal:Theeectofres-veratrolinexperimentalcataractmodelformedbysodiumselenite.CurrEyeRes31:147-153,2006☆☆☆

眼感染アレルギー:Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の病因

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910790910-1810/09/\100/頁/JCOPY1906年にFuchs1)によって報告されたFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎は,慢性虹彩毛様体炎,患眼の虹彩萎縮(異色),併発白内障を特徴とする疾患である.びまん性の小さな白色角膜後面沈着物や瞳孔縁の小結節,硝子体混濁などの所見に加え,白内障手術時や前房穿刺に際して前房出血をきたすことが知られている(Amslar徴候).続発緑内障に至る例も多い.青壮年期に片眼の後下水晶体混濁をきたす慢性の虹彩毛様体炎では,本症を疑って虹彩の左右差を確認することが大切である.病因についてはこれまでにもさまざまな推察がされてきたが,近年になって風疹ウイルスとの関係が注目されるようになっている.れまでに推察されてきた病因1.変性疾患説本症はステロイド薬に反応せず,虹彩萎縮に至ることから,その本態を変性疾患とする考えがある.新生児期の交感神経障害に虹彩萎縮が生じることや,本症とHorner症候群との合併例が報告されたことも,変性疾患としての可能性が疑われた根拠となっている.2.血管異常説本症の虹彩組織にはリンパ球や形質細胞の浸潤に加え,血管内皮細胞や周皮細胞の変性がみられることから,何らかの虹彩血管の異常が病態に関与している可能性が指摘されている.3.免疫異常説本症の発症に関して,免疫複合体や抑制性T細胞の異常について言及した報告のほか,角膜抗原や水晶体蛋白に対する自己免疫としての発症メカニズムを考察した(73)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑳監修=木下茂大橋裕一20.Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の病因後藤浩東京医科大学眼科Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の原因として風疹ウイルスの関与が注目されている.眼内液(前房水)中の風疹ウイルスに対する特異抗体の上昇に加え,PCR法によるウイルスゲノムの検出,さらには分離培養の成功など,外堀が埋まりつつある.発症メカニズムの解析など,今後の研究の展開が期待される.図1Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の患眼(A)と健眼(B)患眼は虹彩が全体に粗で,萎縮傾向にあり,健眼と比較してやや明るく見える.患眼には併発白内障もみられる.白内障は急速に進行し,短期間で全白内障の状態となることがある.AB———————————————————————-Page21080あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009研究がある.また,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎と特発性前部ぶどう膜炎患者の前房水を比較すると,前者ではCD8陽性T細胞の浸潤が多いほか,インターフェロン(IFN)-gやインターロイキン(IL)-10が多く,IL-12が少なかったという2).硝子体中よりT細胞を分離,培養し,そのサイトカイン産生能を調べたところ,IL-10の産生が多かったとする報告もある3).遺伝的素因については,T細胞上に発現する抑制性の補助刺激分子であるCTLA4の遺伝子多形性が本症の疾患感受性に関与するという報告がみられる4).染症1.これまでの報告従来からさまざまな病原微生物が本症の原因として候補にあがっている.本症では眼底に網脈絡膜瘢痕巣がみられることがあり,トキソプラズマとの関係が注目されたこともあるが,眼底には異常のない症例も多いうえ,血清中のトキソプラズマ抗体価が上昇していないこともあるため,懐疑的である.前房水中から単純ヘルペスウイルスDNAが検出された報告や,血清トキソカラ抗体価の上昇がみられたとの報告もあるが,追試は少ない.2.最近になって注目されるようになった風疹ウイルス前房水と血清中の風疹ウイルス抗体価を測定して抗体率を求めると,本症では風疹ウイルスの抗体率が上昇していること,18%の症例からRT-PCR(real-timepoly-merasechainreaction)法で前房水中に風疹ウイルスゲノムが検出されたとの報告がある5).また,予防接種の既往のある米国人と既往のない移民では,後者のほうが本症の発症率が高いことが示されている6).筆者らもFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の診断のもと,併発白内障もしくは続発緑内障に対して手術を行った8例を対象に,眼内液を用いて同様の検討を行ったところ,8例全例で前房水中の風疹ウイルス抗体価が上昇していることが確認され,抗体率はいずれも6以上の高値を示した.なかでも硝子体を検索した1例では抗体率が30.6ときわめて高値を示した.対照として行ったその他のぶどう膜炎では,風疹ウイルスの抗体率の上昇は(74)みられなかった.さらに3例についてはRT-PCR法により前房水中から風疹ウイルスのゲノムが検出され,RK-13細胞を用いたウイルス分離を試みたところ,2例でウイルスが検出され,1例でウイルス分離にも成功した(未発表データ).これまで硝子体液での検討やウイルス分離に関する報告はなく,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の発症や病態形成における風疹ウイルスの関与をさらに支持するデータと考えている.後の展昨今の研究結果から,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の病態に風疹ウイルスが関与している可能性は高いと考えられる.おそらく,ある種の背景因子をもった個体では風疹ウイルスが抗原となり,免疫反応が生じて眼内に炎症が発症するプロセスが推察される.しかし,ウイルスの感染経路や部位,感染の時期などについては何も解明されておらず,今後の課題である.また,本症の前房水からサイトメガロウイルス(CMV)のDNAが検出されることも報告されていることから,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎は複数の病原微生物によって発症する可能性もある.文献1)FuchsE:UberKomplikationenderHeterochromie.ZAugenheilk15:191-212,19062)MuhayaM,CalderV,TowlerHMetal:CharacterizationofTcellsandcytokinesintheaqueoushumour(AH)inpatientswithFuchs’heterochromiccyclitis(FHC)andidiopathicanterioruveitis(IAU).ClinExpImmunol111:123-128,19983)MuhayaM,CalderVL,TowlerHMetal:Characteriza-tionofphenotypeandcytokineprolesofTcelllinesderivedfromvitreoushumourinocularinammationinman.ClinExpImmunol116:410-414,19994)GoverdhanSV,LoteryAJ,HowellWM:HLAandeyedisease:asynopsis.IntJImmunogenet32:333-342,20055)QuentinCD,ReiberH:Fuchsheterochromiccyclitis:rubellavirusantibodiesandgenomeinaqueoushumor.AmJOphthalmol138:46-54,20046)BirnbaumAD,TesslerHH,SchultzKL:EpidemiologicrelationshipbetweenFuchsheterochromiciridocyclitisandtheUnitedStatesrubellavaccinationprogram.AmJOphthalmol144:424-428,2007☆☆☆

緑内障:緑内障患者のロービジョンケア

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910770910-1810/09/\100/頁/JCOPYロービジョンケアは,残存視機能を最大限に使うことにより,生活の質(qualityoflife:QOL)を向上させることを目的とする.適応となる視力・視野障害の程度の基準はなく,見づらさを訴えている患者が対象になる.内障患者のロービジョンケア導入のポイント慢性緑内障では,患者自身が見づらさに慣れてしまうことにより,日常生活にあまり不自由を感じていないことがある.また,治療経過が長いため,患者が見づらさを感じていても,それを担当医に訴えることが少ないこともあり,ロービジョンケア導入のタイミングがつかみにくい.しかし,見づらさの訴えがない,もしくは訴えが少ない場合でも,補助具を使用することにより,QOLが向上することがあり,医師側が,ロービジョンケアが必要であると感じた場合,声かけが必要である.声かけにあたっては,「不自由なことはないですか」という漠然とした質問よりも,「文字が読みづらいことはないですか」「人ごみの中で,ぶつかりませんか」など,具体的な質問のほうが,患者も答えやすい.もちろん,治療中の患者に対して,ロービジョンケアを勧めると,言い方によっては「見放された」と勘違いされることもあり,治療と並行して行う旨,慎重に話をしなくてはいけない.内障患者のロービジョンケアの方緑内障患者のロービジョンケアを行う場合は,まずは,視野障害のパターンを把握し,患者がどのようなことに不自由を感じているかを聞き出す.このとき,生活不自由度の定量にふさわしいとされている問診票13)を使用してもよい.つぎに,患者のニーズにあわせて,ルーペや単眼鏡,遮光眼鏡,拡大読書器といった光学的補助具や,調理道具・文具・白杖など日常生活用具を紹介する.1.使用頻度の高い光学的補助具は?柳沢らは,ロービジョン外来で使用頻度の高い光学的補助具について,疾患別に調査した4).それによると,緑内障(87名),黄斑変性(37名),糖尿病網膜症(41名)と,どの疾患に対しても,一番使用頻度の高いものは拡大読書器であった.緑内障患者では,拡大読書器(85%),ドーム型ルーペ(40%),単眼鏡(29%),ライト付き手持ちルーペ(29%)の順であった.2.どのような日常生活用具を紹介するとよいか?緑内障患者の場合,視野狭窄により,「人ごみの中でぶつかりやすい」という訴えを聞くことがある.緑内障患者は,外見上は,健常人と見分けがつかないため,自分の身を守るため,白杖の使用を勧めている.近所の方(71)●連載110緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也110.緑内障患者のロービジョンケア国松志保自治医科大学眼科徐々に進行する緑内障という疾患の場合,患者が見づらいと訴えることが少なく,ロービジョンケア導入のタイミングがつかみにくい.しかし,ロービジョンケアを導入することにより,文字が見やすくなったり,将来の失明に対する不安が薄れたりと,有用であることも少なくない.ab図1日常生活用具の例a:折りたたみ式の白杖.b:タイポスコープ.———————————————————————-Page21078あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009には目が悪いことを知られたくない,という患者には,折りたたみ式の白杖を案内し,ふだんはかばんの中に収納し,駅などの人ごみの中で伸ばして使用することを勧めている(図1a).視野狭窄により文字や文章を目で追うことがむずかしくなり,「文章の読み書きの不自由」を訴えることがしばしばある.このような場合,タイポスコープを用いることにより,文字の読み書きがしやすくなり,周囲の余白による羞明も防げるため,有用である(図1b).3.若年の末期緑内障患者への対応?すでに末期の緑内障性視野障害のある患者では,緑内障が進行性の病気であると知ると,失明するのではないか,という将来に対する不安を抱くことが多い.この場合,「万が一視野障害が進行して,日常生活に不自由をきたした場合でも,さまざまな補助をする道具がある」と,光学的補助具や日常生活用具を紹介することにより,患者は,漠然とした不安から解放され,前向きに治療に取り組めることがある.内障患者のロービジョンケアの意外な盲点最後に,緑内障患者のロービジョンケアを行うにあたり,意外な盲点になりうる事項について述べる.1.近用眼鏡を処方して,解決?!視野の狭窄した緑内障患者では,「矯正しても見えるようにならないから」と,近用眼鏡が処方されていないことがある.また,遠近両用眼鏡を処方されている場合で,視野障害が下方に強い例や,中心視野がわずかに残る例では,遠近両用眼鏡の近用部分からのぞいてみることができず,「眼鏡をかけても見えない」とあきらめてしまっていることがある.このような患者で,近方矯正をしたうえで拡大鏡を使うことにより,スムーズに本や新聞を読むことができる症例を経験する(図2).文字や文章の読みづらさを訴える患者には,近用眼鏡の使用状況を確認する必要がある.2.手術適応を見逃さずに!治療経過の長い患者では,白内障が進行しているケースがある.視野障害が高度な場合は,患者の訴える見づらさが,どの程度,白内障によるものなのかを判断するのはむずかしいが,白内障によりQOLが改善すると考えられる場合は,白内障手術を勧める(図3).日頃から,定期的な視神経乳頭・視野検査のチェックに加えて,視力を測定し,白内障進行の有無を細隙灯顕微鏡検査で確認するべきである.(72)文献1)MangioneCM,LeePP,GutierrezPRetal:Developmentofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.ArchOphthalmol119:1050-1058,20012)MangioneCM,BerryS,SpritzerKetal:Identifyingthecontentareaforthe51-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire:resultsfromfocusgroupswithvisuallyimpairedpersons.ArchOphthalmol116:1496-1504,19983)SumiI,ShiratoS,MatsumotoSetal:Therelationshipbetweenvisualdisabilityandvisualeldinpatientswithglaucoma.Ophthalmology110:332-339,20034)柳澤美衣子,国松志保,加藤聡ほか:眼科ロービジョン外来における使用頻度の高い光学的補助具.臨眼61:363-366,2007図2正常眼圧緑内障患者(62歳,男性)のHumphrey視野中心302プログラム「眼鏡をかけても見えないから」と眼鏡を持っていなかった.近方矯正をして拡大鏡を使用したところ,文字を読むことができた.VS=(0.1)VD=(0.6)VS=(0.1)VD=(0.1)図3原発開放隅角緑内障患者(61歳,男性)1987年初診時視力は右眼(1.2),左眼(1.2).2003年ロービジョン外来受診時には右眼(0.01),左眼(0.01)であった.拡大読書器を利用して,文字が読めると喜んだが,両眼とも強い白内障を認めたため,手術を勧めた.2004年両眼水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を施行,視力は右眼(0.1),左眼(0.1)へと回復.Humphrey視野中心10-2プログラムでは,依然として高度の視野狭窄を認めるが,「明るくなった,人から顔がよく動くようになったと言われた」と喜ばれた.その後,ロービジョン外来にて,遮光眼鏡,拡大読書器を購入した.

屈折矯正手術:瞳孔径の多焦点眼内レンズへの影響

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910750910-1810/09/\100/頁/JCOPY多焦点眼内レンズ(multifocalintraocularlens:以下,多焦点IOL)の術後視機能に瞳孔径が関与することが知られているが,個々のIOLデザインにより,その影響は異なる.今回は,多焦点機構により屈折型多焦点IOL(refractivemultifocalintraocularlens:以下,屈折型IOL)と回折型多焦点IOL(diractivemultifocalintraocularlens:以下,回折型IOL)に分け,多焦点IOL挿入時に必要な基礎知識を紹介させていただく.光学的瞳孔評価の基礎知識瞳孔は眼光学的に絞り(stop)の役割を果たしている.われわれが日常で観察できる角膜面上の瞳孔(入射瞳)は,実際の瞳孔径(実瞳孔径)より角膜・前房水の屈折のため約13%拡大されている1).瞳孔測定器のなかには補正した値を表示しているものもあり,多焦点IOL使用に際する評価時には念頭におく必要がある.以下記載は実瞳孔径の値である.折型IOL遠用と近用の屈折ゾーンが同心円状に配置されており,各IOLでゾーンの数・幅・遠近の配置が異なる.構造上どの種類でも十分な近用ゾーンの露出がないと近見視力は得られない.たとえばReZoomTM(AMO社)では,近用ゾーンの直径は2.13.45mmであり,中央遠用部の第1ゾーンの2.1mmに実瞳孔径が満たない場合,単焦点IOLと同等の役割しか果たさない(図1).加齢により縮瞳することは知られているが,Nakamuraらは60歳以上では近見時の平均瞳孔径が2.0mm程度になると報告しており2),高齢者では特に瞳孔径の確認が必要である.一方で,屈折型IOLで問題となるグレア・ハローは,瞳孔径が大きいほどその影響は大きく,夜間の見え方に注意が必要になる.折型IOL入射光をレンズ表面に作った多数の溝で回折させる原(69)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載111監修=木下茂大橋裕一坪田一男111.瞳孔径の多焦点眼内レンズへの影響稗田朋子稗田牧京都府立医科大学病院眼科多焦点眼内レンズ(IOL)挿入の際,レンズデザインの把握と術後瞳孔状態の予測が成功に関与する.屈折型多焦点IOLは,近見時に十分な近用ゾーンの露出を得られる瞳孔径が必須であり,回折型多焦点IOLは小瞳孔でも良好な近方視力が得られる.瞳孔を考慮した適応決定,経過観察が望まれる.0.00.10.20.30.40.50.60.70.80.91.01.52.53.54.5瞳孔径(mm):遠距離(distance):近距離(near)相対エネルギー図2回折型IOL(TecnisTMMultifocal)の理論的光エネルギーバランス瞳孔径にかかわらず,遠方と近方の両方に光エネルギーが均等に配分される.0.00.10.20.30.40.50.60.70.80.91.01.52.53.54.5瞳孔径(mm):遠距離(distance):近距離(near)相対エネルギーZone5Zone4Zone3Zone2Zone1543214.60mm~4.60mm4.30mm3.45mm2.10mm図1屈折型IOL(ReZoomTM)の外観写真とデザインと理論的光エネルギーバランス5ゾーンの設計,中心部より遠用ゾーン・近用ゾーンと交互に配置されており,遠近各屈折ゾーンの露出面積が直接光エネルギーバランスに反映される.———————————————————————-Page21076あたらしい眼科Vol.26,No.8,2009理のIOLで,遠近の比率と加入度数は回折部のデザインで調節が可能である.回折型IOLの利点は,近方視力が瞳孔径に依存しにくいことである.一方で,入射光を遠近へ配分するため,コントラスト低下が生じる.特に夜間で瞳孔径が大きい場合は収差の増加も加わり,また,極端に小さい場合3)でも光量減少によりコントラスト低下の増悪に注意が必要である.1)TecnisTMMultifocal(AMO社)は,レンズ全面に同じ高さのステップと同じ曲率の回折領域を有し,光エネルギーは瞳孔径にかかわらず遠近両方に均等に配分される(図2).よって瞳孔径に依存しにくく,良好な遠近の視力が得られる.また,非球面構造のため,瞳孔径が大きくなる場合のコントラスト低下が従来の回折型IOLと比較し軽減される.2)ReSTORTM(Alcon社)は,光学径6.0mmに対し回折ゾーンの径は中心3.6mmであり,その周辺は単焦点の遠用ゾーンである.回折ステップは周辺に向かうに従い低くなり(apodization),瞳孔が小さいときは遠近の光エネルギーはほぼ等しく,瞳孔径の大きい夜間などは遠方焦点が優先されコントラスト感度の低減を抑える設計である(図3).瞳孔径が3.6mmより大きな場合では遠方優位となるため,十分な近方視力を得られない可能性があり注意を要する.多焦点IOL検討時の瞳孔径評価の注意点・問題点1.測定方法瞳孔は自律神経支配であり,近見刺激や精神状態などさまざまな因子により変化を生じるため評価がむずかしく,多焦点IOL挿入時も統一された評価方法がないのが現状である.術前測定が必須なのは,屈折型IOLを考慮する場合で,明所(400500lux)・両眼開放・近方視での瞳孔径が必要になる.FP-10000R(TMI社)など,自然瞳孔に近い状態で測定可能な赤外線瞳孔径での評価が望ましいが,装置がない場合には「入射瞳は実瞳孔径より約13%拡大・両眼開放下では単眼視下より縮瞳4)・測定機器による差」などを考慮し,手持ちの瞳孔径測定値を各自修正することで代用が可能と考えられる.加えて,各々の生活照度にあった測定を行い,起こりえる視機能を予測し,IOLを選択・説明することも重要である.2.術後の瞳孔変化白内障術後の瞳孔径は,術前と同等もしくはやや縮小するといわれており,術前測定値時の参考になると考えられる.しかし,術前後で屈折力・調節力が大幅に変化する症例などには予測時に注意が必要である.また,手術当初は瞳孔径が十分に確保されていても加齢に伴い必要な瞳孔径に満たなくなる可能性も指摘されているが,加齢による縮瞳原因のなかには調節力低下の代償との説もあり,今後多焦点IOL挿入眼での短期・長期的な瞳孔径の変化と視機能の経過観察を術前適応評価にフィードバックしていく必要がある.文献1)西信元嗣:眼光学の基礎,第Ⅳ章眼球光学.p134-136,金原出版,19902)NakamuraK,Bissen-MiyajimaH,OkiSetal:PupilsizesindierentJapaneseagegroupsandtheimplicationsforintraocularlenschoice.JCataractRefractSurg35:134-138,20093)中村邦彦:多焦点眼内レンズ─回折型.眼科手術21:297-302,20084)魚里博,川守田拓志:両眼視と単眼視下の視機能に及ぼす瞳孔径と収差の影響.あたらしい眼科22:93-95,2005(70)瞳孔径(mm):遠方:近方瞳孔径明るさ小明大対エネルギー(%)100806040200123456図3Apodize型回折型IOL(ReSTORTM)の理論的光エネルギーバランス瞳孔径が小さいうちは遠近等配分であるが,大きくなるにつれ遠距離への光配分が大きくなる.(DavisonJA,SimpsonMJ:Historyanddevelopmentoftheapodizidderactiveintraocularlens.JCataractRefractSurg32:849-858,2006より引用)

眼内レンズ:小角膜症例の水晶体摘出術

2009年8月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.8,200910730910-1810/09/\100/頁/JCOPY(67)宮城秀考木内良明広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎276.小角膜症例の水晶体摘出術小角膜症例で水晶体内摘出あるいは外摘出を行う場合,角膜径に比べ水晶体容積が大きくいずれの術式も容易ではない.従来の強角膜輪部切開に加えて放射状に強膜切開を追加することで,比較的簡便に創口を拡大する方法を紹介する.図2クライオプローブによるICCE角膜径に比べ巨大な球状の水晶体が娩出された.図4豚眼による実践②中央に放射状の強膜切開を1本加えると,創口の横径が拡大した.図1強膜放射状切開輪部切開の中央に放射状に減張切開を加える.この症例の角膜横径は8mmであり,ぶどう膜欠損を伴っていた.小瞳孔・Zinn小帯脆弱であったため,計画的ICCEを選択した.図3豚眼による実践①型通りに180°の輪部切開を作製し,創口の両端を一定の力(15g程度)で横方向に引く.———————————————————————-Page2小角膜は角膜の直径が10mm未満のものと定義され,胎生4~16週に胎生裂の閉鎖から角強膜境界の形成に至る期間の異常により生じ1),先天白内障や緑内障,ぶどう膜欠損を合併することも多い.小角膜症例の白内障手術として小切開超音波乳化吸引術の報告もある2,3)が,必ずしも容易ではなく,水晶体内摘出(ICCE)もしくは外摘出(ECCE)を選択せざるをえない場合もある.しかし,小角膜症例では眼球の発生段階において前眼部と後眼部の成長過程が異なるため,小角膜でありながら水晶体の大きさは正常であると報告4)されており,ICCEやECCEを行うにしても,角膜径と比べ相対的に水晶体の体積が大きく,180°に及ぶ従来の強角膜切開だけでは水晶体の摘出に難渋する.そこで,従来の強角膜輪部切開に加えて放射状に強膜切開を追加することで創口を拡大し,水晶体を摘出する方法を紹介する.まず,従来どおりの方法で180°の強角膜創を作製する.つぎに,小角膜症例では散瞳不良例が多いため,12時の虹彩に減張切開を加えておく.ここまでで水晶体の娩出が困難であると判断した場合,輪部切開の中央に放射状の減張切開を加えることで,創口径を拡大することができる(図1,2,5).さらに,この方法であれば,1本の放射状切開では水晶体の娩出が困難な場合に,切開の数を増やすことにより,さらなる創口の拡大を図ることも可能である(図3,4).文献1)LaibsonPR,WaringGO:Diseaseofcornea.PediatricOphthalmology,3rded,p191,WBSaunders,Philadelphia,19912)渡辺交世,中野淳雄,並木泉ほか:ぶどう膜欠損における白内障手術.眼科手術21:519-523,20083)BrannanSO,KyleG:Bilateralmicrocorneaandunilateralmicrophthalmiaresultinginincorrectintraocularlensselection.JCataractRefractSurg25:1016-1018,19994)AuarthGU,BlumM,FallerUetal:Relativeanteriormicrophthalmosmorphometricanalysisanditsimplicationforcataractsurgery.Ophthalmology107:1555-1560,2000図5強膜放射状切開輪部切開に放射状の強膜切開を加えることで,理論的には切開の2倍の長さの創口が延長される.