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閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切開術+超音波乳化吸引水晶体再建術の効果

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(91)9570910-1810/09/\100/頁/JCOPY19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(7):957960,2009cはじめに原発閉塞隅角緑内障(PACG)は,多治見スタディの日本での有病率は40歳以上の成人の0.6%,原発閉塞隅角症(PAC)も含めると1.3%となる.開放隅角緑内障を含めた全緑内障が5%の有病率で,PACも含めると5.7%となり,その約5分の1程度がPACG,PACで,頻度の少ない疾患とはいえない1,2).急性発作の場合には,レーザー虹彩切開術(LI)あるいは周辺虹彩切除術(PI)が有効な場合が多い.また白内障が存在する場合には,水晶体再建術により前房深度改善,隅角開大,眼圧下降が得られることが報告されている3,4).慢性閉塞隅角緑内障(CACG)は,急性発作と異なり,高眼圧にもかかわらず,角膜は透明で,結膜充血も少なく,自覚症状に乏しいが,持続する高眼圧のため視野異常が進行している例もみられる5).このような周辺虹彩前癒着(PAS)が進行していると考えられる場合には隅角癒着解離術が有用であることが報告されている6,7).水晶体再建術だけでは,〔別刷請求先〕森村浩之:〒664-8533伊丹市車塚3-1公立学校共済組合近畿中央病院眼科Reprintrequests:HiroyukiMorimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KinkiCentralHospital,3-1Kurumazuka,Itami,Hyogo664-8533,JAPAN閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切開術+超音波乳化吸引水晶体再建術の効果森村浩之伊藤暁高野豊久高橋愛公立学校共済組合近畿中央病院眼科EfectivenessofTrabeculotomywithPhacoemulsiicationandAspiration+IntraocularLensImplantationforAngle-ClosureGlaucomaHiroyukiMorimura,SatoruItoh,ToyohisaTakanoandAiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KinkiCentralHospital目的:閉塞隅角緑内障に対しては,従来はレーザー虹彩切開術,最近では白内障があれば水晶体再建術が推奨されるようになってきている.しかし慢性閉塞隅角緑内障ですでに隅角癒着が進行した例,あるいは視野が進行していてより低い眼圧が目標となる例では,隅角癒着解離術での報告が多いが,線維柱帯切開術も有効であると考えられる.今回水晶体再建術+線維柱帯切開術の眼圧下降効果について検討した.対象:平成15年1月から平成20年5月までに当科において閉塞隅角緑内障に対して線維柱帯切開術+水晶体再建術を行った39例46眼.平均年齢69.6歳.結果:術前眼圧平均24.3mmHgから術後眼圧は1カ月後で平均13.3mmHg,6カ月で12.2mmHg,最終観察時(平均24カ月)で12.2mmHgとなり,有意に下降した.結論:慢性閉塞隅角緑内障で隅角癒着が進行し,眼圧コントロール不良例では,水晶体再建術に線維柱帯切開術を併用することは選択肢の一つとなりうると考えられた.Laseriridotomy(LI)orphacoemulsicationandaspiration+intraocularlensimplantation(PEA+IOL)areusu-allyperformedforthetreatmentofangle-closureglaucoma(ACG).Itisalsoreportedthatgoniosynechialysis(GSL)andPEA+IOLiseectiveforchronicACG(CACG)withperipheralanteriorsynechia(PAS).Inthesameway,trabeculotomyisconsideredeectiveforACGtreatment.WereporttheoutcomeoftrabeculotomyandPEA+IOLforCACGinaretrospectivestudyof46eyesof39patientswhoweretreatedwithtrabeculotomyandPEA+IOLduringa5-yearperiod.Ageatsurgeryaveraged69.6years.Intraocularpressure(IOP)averaged24.3mmHgbeforesurgeryand13.3mmHgat1month,12.2mmHgat6monthsand12.2mmHgat24monthaftersurgery.TrabeculotomyandPEA+IOLisonesurgicaloptionforuncontrolledCACGwithPAS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(7):957960,2009〕Keywords:線維柱帯切開術,閉塞隅角,緑内障,超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,眼圧.trabeculotomy,angle-closure,glaucoma,phacoemulsicationandaspiration+intraocularlensimplantation,intraocularpressure.———————————————————————-Page2958あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(92)隅角を開放させることがむずかしい場合には,水晶体再建術と隅角癒着解離術(GSL)を併用することにより,より良好な眼圧下降が得られることも報告されている810).一方,流出路再建術である線維柱帯切開術が閉塞隅角緑内障に対して,眼圧下降効果があったとの報告もある11,12).少数例ではあるが,水晶体再建術+線維柱帯切開術+隅角癒着解離術も有効な例が報告されている13).PASの進行したCACGでは隅角を開大させる水晶体再建術,房水流出路再建術であるGSL,線維柱帯切開術は,有効な手術治療法であると考えられる.閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切開術の効果については報告が少なく,評価も定まっていないので,今回筆者らは,CACGに対して,線維柱帯切開術と水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)の併用手術を初回手術として行った症例を対象に,その眼圧下降成績の検討を行った.I対象および方法平成15年1月から平成20年4月の間に当科で線維柱帯切開術+PEA+IOLを行い,術後3カ月以上経過観察できたCACG39例46眼,隅角検査において正面位で線維柱帯が観察できず,圧迫隅角検査によりPASが確認でき,立体的眼底検査で緑内障性視神経乳頭変化,Humphrey自動視野計あるいはGoldmann視野計で緑内障性視野異常のみられた症例を対象とした.術前の視野異常の程度は,Hum-phrey視野検査では固視不良,偽陰性,偽陽性の信頼性に欠けるデータもあったため,Goldmann視野検査を湖崎分類で行った.IIaからVaまでで,IIaが4例4眼,IIbが1例1眼,IIIaが25例31眼,IIIbが4例5眼,IVが3例3眼,Va期が2例2眼であった.約80%がIII期の症例であった.全例LI以外に手術治療の既往はなかった.LIが行われていたのは18例21眼あった.術前のPASの割合はテント状PASから95%PASの症例まであり,50%以上のPASがみられたのは28例32眼(70%)であった.内訳は男性11例,女性28例,手術時の平均年齢は69.6歳(4188歳)で,術後平均経過観察期間は24.0カ月(363カ月)であった.術式は全例術前のPASの存在する位置とは無関係に,将来線維柱帯切除術が必要になるかもしれないことを考え上方結膜は温存して,耳下側から二重強膜弁を作製し,同一部位からPEA+IOLを行い,その後に線維柱帯切開術を行った.二重強膜弁の内層弁は切除し,外層弁を房水漏出のないよう縫合,結膜縫合で終了した.術前眼圧は,手術直前3回の平均眼圧値とし,手術後は定期的な眼圧測定,緑内障点眼薬投与を含む検査診療を行った.統計学的解析はt-検定を用いて,危険率1%未満を有意差ありとした.累積生存率をKaplan-Meier法で,カットオフ眼圧を18mmHg,15mmHg,12mmHgとして求めた.エンドポイントの定義は,2回連続して条件眼圧を超えた場合の最初の時点あるいは新たな手術治療を行った時点とした.II結果全症例の術前の平均眼圧は24.3±7.2mmHgで,術後最終観察時眼圧(平均24カ月)は12.2±3.3mmHgとなり,有意に低下した.術後1カ月で13.3mmHg,3カ月で12.4mmHg,6カ月で12.2mmHg,12カ月で12.6mmHg(27眼),18カ月で12.8mmHg(23眼),24カ月で12.8mmHg(22眼)といずれの期間においても術前眼圧と比較して有意に低下していた(図1).術後最終観察時眼圧は720mmHgで,全例20mmHg以下にコントロールされていた.しかし1例は,眼圧は1115mmHgに24カ月間コントロールされていたが,視野の進行がみられたため,さらに眼圧下降を行うために線維柱帯切除術が行われた.15mmHg以下に39眼(85%),12mmHg以下に22眼(48%)がコントロールされた.緑内障点眼薬については,アセタゾラミド内服を2剤として計算し,術前平均薬剤数は2.8±1.2本であったが,術後最終観察時の平均薬剤数は0.8±0.9本と有意に減少し,ア0.05.010.015.020.025.030.035.040.0術前46***********観察期間(月)眼圧(mmHg)4643363127252322224613691215182124最終眼圧24.313.312.412.212.112.612.612.812.312.812.2眼数*p0.001図1全症例の術後平均眼圧経過術眼圧眼圧眼図2PASが50%以上認められた症例の術後平均眼圧経過———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009959(93)セタゾラミド内服症例はなかった.術前のPASの程度と術後最終観察時眼圧との関係は,PASが50%未満の症例では12.5mmHg,50%以上PASが存在した症例では12.1mmHgと両者に有意差はみられなかった.50%以上PASが存在した28例32眼について図1と同様に平均眼圧の推移を図2に示した.全期間にわたり全症例と比較して高くなっていたが,1mmHg以上の差はなく,有意差もみられなかった.今回線維柱帯切開術を行った耳側にPASが存在した症例は25例27眼であり,その術前のPAS率は72.4%であった.手術後は全例で線維柱帯切開部のPASは減少し,10例で線維柱帯切開部のクレフトへのテント状PASがみられた.術後最終観察時の平均PAS率は29.3%となり,有意に減少したが,線維柱帯切開を行っていない部位ではPASは残されていた.Kaplan-Meier法を用いた眼圧コントロール率は,術後2年では,18mmHgをカットオフとした場合は96%,15mmHgでは70%,12mmHgでは39%であった.術後3年の結果は,18mmHgで91%,15mmHgで50%,12mmHgで26%であった(図3).III考按原発閉塞隅角緑内障に対しては,瞳孔ブロックの解除のためLIやPIが推奨されており,白内障の存在する眼では,水晶体再建術も行われている3,4).またGSLが単独で有効であったとの報告もある6,7).しかし,それだけではPASが進行しているため眼圧下降不十分な症例もみられ,GSL+PEA+IOLのほうが眼圧コントロールが有効であったとの報告も多数されている8,9).今回の白内障手術術式と同じであるPEA+IOLとGSLの同時手術も長期にわたり有効であったと報告されている10).GSL単独とGSL+PEA+IOLを比べた場合,年代,施設が異なり単純に比較はできないが,GSL単独では“highteen”となり,GSL+PEA+IOLでは15mmHg前後と単独手術より23mmHg低くコントロールできると考えられる7,10).結膜切開を行わないPEA+IOL+GSLは将来線維柱帯切除術が必要になったときにも無傷の結膜が残存しており,生理的房水流出路を再建する優れた術式である.閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切開術の有効性については,白内障手術を併用しない単独手術を行い,点眼治療も含め21mmHgをカットオフ値とした場合,渡辺らは13眼中12眼(93%),山城らは21眼中20眼(95%)でコントロールできたと報告している11,12).単独手術で比較した場合,山城らは,経過観察期間が線維柱帯切開術では45.3±28.5カ月,GSLでは19.8±19.6カ月と異なるが,同様の条件でのGSLの成功率が74%であると報告しており,単独手術ではGSLより線維柱帯切開術の優位が示唆される.しかし症例数が少なく,両術式間に有意差は認められず,両術式とも閉塞隅角緑内障に対して有効であった12).線維柱帯切開術では,単独手術でもGSLより低くなることが報告されている12).施設・年代が異なり,単純に比較できないが,今回の線維柱帯切開術+PEA+IOLでは平均観察期間が24カ月とまだ短いこともあり12.2mmHgと低値となった.PASが50%以上に認められた症例を選択して検討した場合も図2のように平均観察期間が24カ月と短いが12.1mmHgとなり,全期間にわたり平均眼圧14mmHg以下にコントロールできた.今回線維柱帯切開術を行った耳側に術前PASが認められた症例では,術前PAS率72.4%が術後最終観察時のPAS率が29.3%となっていたことは,GSL+PEA+IOLの成績,術前76.3%,術後24.3%10)と比較すると術前のPASに関しては同程度であったが,術後のPAS率は線維柱帯切開術+PEA+IOLのほうが高値であった.施設,観察期間,症例数が異なり,単純に比較はできないが,術後のPAS率が高率にもかかわらず眼圧は低くなっていることを考えると,線維柱帯切開術+PEA+IOLではPASの開放に加えて,線維柱帯切開の効果が眼圧下降に寄与している可能性が考えられた.これらのことより線維柱帯切開術+PEA+IOLでは,より低い眼圧が期待できると考えられる.開放隅角緑内障に線維柱帯切開術が行われた場合には,術後眼圧は1518mmHgになると報告されている14)ので,閉塞隅角緑内障に対して行う線維柱帯切開術+PEA+IOLは,線維柱帯の機能低下が開放隅角緑内障ほど悪くないと推測され,低い眼圧を達成できたのではないかと考えられる.しかし,線維柱帯切開術+PEA+IOLの場合には,最終的な平均眼圧は12.2mmHgと良好であるが,線維柱帯切除術と異なり,日内変動や季節変動があり,緑内障点眼薬を投与する例が多いため点眼薬投与前の眼圧が高値となることから,Kaplan-Meier法を用いた眼圧コントロール率では,18mmHgをカットオフとした場合は9割以上と良好であるが,15mmHg,120102012mmHg15mmHg18mmHg30観察期間(月)405060眼圧コントロール率(%)0102030405060708090100図3全症例のKaplanMeier法による累積眼圧コントロール率———————————————————————-Page4960あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(94)mmHgとより低い眼圧をカットオフとした場合にはそれぞれ5070%,30%程度と成績が悪くなった.視野異常が湖崎分類I期のように早期であれば,目標眼圧が“highteen”で,GSL+PEA+IOLは十分に目標眼圧を可能にすることができ,良い術式選択と思われる.湖崎分類III期と中期に視野進行した症例になると,“middleteen”以下の眼圧が目標になると考えられ,PEA+IOL+線維柱帯切開術は眼圧変動,緑内障点眼薬投与の必要性など,常時“lowteen”を維持することはむずかしいという問題もあるが,平均眼圧として“lowteen”にコントロールすることは可能なので,GSL+PEA+IOLに加えて術式選択肢としてよいと考えられる.しかし線維柱帯切開術の場合,結膜切開の必要性,前房出血,一過性眼圧上昇などの合併症などGSLに比べると不利な点もあるため,慎重な手術症例の選択が必要と考えられる.視野変化が非常に進行した湖崎分類V期のような例では10mmHg程度あるいはそれ以下の十分に低い眼圧が目標とされるので,線維柱帯切除術が第一選択として行われるべきであると考えられる.今回,湖崎分類Va期で線維柱帯切開術+PEA+IOLを行った2眼については,1眼は41歳の症例で,若年であったため初回手術で濾過胞形成がためらわれ今回の術式を選んだ.その結果眼圧は1115mmHgとコントロールできたが24カ月の経過観察でさらに視野進行をきたしたため,結果的には線維柱帯切除術を行った.線維柱帯切除術後は48mmHgに下降し,その後2年経過しているが,視野の進行はまだみられていない.初回手術で,線維柱帯切除術を選択する方法もあったのではないかと思われる.もう1眼は67歳の症例で片眼が慢性閉塞隅角緑内障で高眼圧に気づかず失明に至った僚眼で,合併症などの安全性を考え,初回手術として,線維柱帯切開術+PEA+IOLを行った.経過は術後3年であるが,710mmHgで推移しており,視野,視力とも維持できている.PEA+IOL+線維柱帯切開術は,GSLと線維柱帯切除術の間に位置し,術式選択のむずかしい面もあるが,閉塞隅角緑内障手術治療の選択肢の一つとして考えられてよい術式であると思われた.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20053)GunningFP,GleveEL:Lensextractionforuncontrolledangle-closureglaucoma:Long-termfollow-up.JCataractRefractSurg24:1347-1356,19984)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Changesinanteriorchamberanglewidthanddepthafterintraocularlensimplantationineyeswithglaucoma.Ophthalmology107:698-703,20005)大鳥安正:慢性閉塞隅角緑内障の診断と治療.あたらしい眼科22:1193-1196,20056)CampbellDG,VelaA:Moderngoniosynechialysisforthetreatmentofsynechialangle-closureglaucoma.Ophthal-mology91:1052-1060,19847)永田誠,禰津直久:隅角癒着解離術第1報.臨眼39:707-710,19858)永田誠,禰津直久:隅角癒着解離術第2報.難治性閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術と眼内レンズ併用手術.眼臨80:2149-2152,19869)TaniharaH,NishiwakiK,NagataM:Surgicalresultsandcomplicationsofgoniosynechialysis.GraefesArchClinExpOphthalmol230:309-313,199210)安藤雅子,黒田真一郎,永田誠:閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術と白内障同時手術の長期経過.眼科手術18:229-233,200511)渡辺則夫,竹内正光,三木弘彦:原発閉塞隅角緑内障に対するトラベクロトミーの長期経過.眼紀48:971-974,199712)山城健児,谷原秀信:原発閉塞隅角緑内障に対する手術成績と術前眼圧変動幅.眼臨91:1161-1164,199713)小松務,横田香奈,松下恵理子ほか:緑内障病型別にみた線維柱帯切開術の成績.臨眼61:1039-1043,200714)寺内博夫,永田誠,松村美代ほか:Trabeculotomypro-spectivestudy(術後10年の成績).あたらしい眼科17:679-682,2000***

正常若年者におけるBlue on Yellow Flicker Perimetryの検討

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(85)9510910-1810/09/\100/頁/JCOPY19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(7):951955,2009cはじめに近年の視野検査法の進展により,余剰性の少ないKonio-cellular系(K-cell系)を測定するShort-WavelengthAuto-matedPerimetry(SWAP),Magnocellular系(M-cell系)を測定するFlickerPerimetry(FP),FrequencyDoublingTechnology(FDT)などを用いることで,StandardAuto-matedPerimetry(SAP)では検出できない早期の視野異常を検出できるようになってきた.しかし,緑内障の早期には,それぞれの手法を用いても異常部位が異なる症例も報告され,どの経路が先に障害されるのかは必ずしも決まってい〔別刷請求先〕平澤一法:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学Reprintrequests:KazunoriHirasawa,C.O.,DepartmentofVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,MastersProgramofMedicalScience,1-15-1Kitasato,Sagamihara228-8555,JAPAN正常若年者におけるBlueonYellowFlickerPerimetryの検討平澤一法*1浅川賢*2望月浩志*2柳澤美衣子*2庄司信行*1,2,3*1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学*2北里大学大学院医療系研究科眼科学*3北里大学医療衛生学部視覚機能療法学EvaluationofBlueonYellowFlickerPerimetryinNormalSubjectsKazunoriHirasawa1),KenAsakawa2),HiroshiMochizuki2),MiekoYanagisawa2)andNobuyukiShoji1,2,3)1)DepartmentofVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityGraduateSchool,3)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversity,SchoolofAlliedHealthScience目的:正常者におけるBlueonYellowFlickerPerimetry(B/Y-FP)の検討.対象および方法:正常有志者35名35眼(右眼)に対しOCTOPUS311に内蔵されているBlueonYellowとFlickerを組み合わせたB/Y-FPを施行した.5回視野測定を行い15回目の測定より得られた各パラメータ(平均網膜感度,偽陽性反応,偽陰性反応,検査時間)から学習効果を,35回目の測定より得られた網膜感度から短期変動,個人内変動係数,個人間変動係数を算出し結果の再現性を検討するとともに,部位別の網膜感度を検討した.結果:学習効果を判定するために測定した4つのパラメータは,いずれも5回の測定に統計学的に有意な改善はなかった.再現性は,短期変動3.6±0.7Hz,個人内変動係数11.7±2.1%,個人間変動係数18.7±2.3%であった.部位別の網膜感度を比較すると中心領域よりも周辺領域の網膜感度が良かった(p<0.05).結論:B/Y-FPは中心領域よりも周辺領域の網膜感度がよい傾向だが,結果のばらつきが大きいため複数回測定を行って結果を判断する必要がある.WeconductedBlueonYellowFlickerPerimetry(B/Y-FP)in35normalvolunteers,usingtheOCTOPUS311withBlueonYellowFlicker;eachsubjectunderwentB/Y-FP5timesintherighteye.Weevaluatedthelearningeectbycalculatingmeanretinalsensitivity,falsepositiveresponse,falsenegativeresponseandtestdurationinallsessions;test-retestvariabilitywasevaluatedbycalculatingshort-termuctuation,intra-andinterindividualcoecientobtainedinthelast3sessions,andmeanretinalsensitivityobtainedinlast3sessions.Therewasnosta-tisticallysignicantimprovementinlearningeect.Short-termuctuation,intra-andinterindividualcoecientwere3.6±0.7Hz,11.7±2.1%and18.7±2.3%,respectively.Retinalsensitivityintheperipheralareawasbetterthaninthecentralarea(p<0.05).Becauseofhighvariability,itisnecessarytointerpretthroughmultipleexami-nations.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(7):951955,2009〕Keywords:視野,SWAP,Flicker視野,フリッカー融合頻度,短波長感受性錐体.visualeld,short-wave-lengthautomatedperimetry(SWAP),ickerperimetry,criticalfusionfrequency(CFF),short-wavelengthsensitivecone(S-cone).———————————————————————-Page2952あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(86)ないことが知られている1).そのため測定経路が違うSWAPとFDTの結果を組み合わせて統計学的に処理することで早期の視野異常を検討するという報告もあり2),両経路を合わせた視野検査の研究が注目されている.今回筆者らは,SWAPとFPの手法を組み合わせ,短波長感受性錐体(S-cone)のフリッカー融合頻度を測定すると考えられるBlueonYellowFlickerPerimetry(B/Y-FP)を用いて正常者における学習効果,再現性および網膜感度を算出し,B/Y-FPの有用性について検討した.I対象および方法対象は,本研究の趣旨を理解し同意の得られた正常有志者35名35眼(男性5名,女性30名)である.平均屈折値3.49±2.75D(+0.759.00D),平均年齢22.0±1.9歳(2028歳),測定は右眼で行った.OCTOPUS311(HAAG-STREIT)に内蔵されているBlueonYellowとFlickerを組み合わせたBlueonYellowFlickerPerimetry(B/Y-FP)の測定によって得られる結果から,学習効果,再現性,網膜感度を調べた.被験者には5回の視野測定を施行し,1回目と2回目は同一日に行い,数日間空けてから3,4,5回目の測定を同一日に行った.また,連続して測定する際には,少なくとも10分以上の休憩をおいて行った.測定プログラムは32,ストラテジーはTendencyOrientedPerimetry(TOP),視標サイズはGold-mannVで測定を行い,検討項目は以下の3つとした.検討1:学習効果35名のうち視野測定の経験がない16名で検討した.5回の測定によって得られた全測定点を平均した平均網膜感度(Hz),偽陽性反応(%),偽陰性反応(%),検査時間(秒)の4項目において,1回目の測定と比べて2回目以降の測定結果に統計学的に有意な改善があった場合を学習効果ありと判定した(Tukey-Kramer法).検討2:再現性35名全員の3回目から5回目の測定によって得られた網膜感度から,測定点ごとの短期変動と変動係数を検討した.短期変動は,3回の測定によって得られた網膜感度の標準偏差とし,全被験者を平均して算出した.変動係数は,変動係数(%)=平均網膜感度の標準偏差(Hz)/平均網膜感度(Hz)×100で算出し,個人内変動係数と個人間変動係数に分けて検討した.個人内変動係数は,3回の測定によって得られた網膜感度を平均した平均網膜感度とその標準偏差から算出される値とし,全被験者を平均して算出した.また,個人間変動係数は,3回の測定によって得られた網膜感度を平均した値を被験者の網膜感度とし,全被験者を平均して得られた平均網膜感度とその標準偏差から算出される値とした.検討3:網膜感度各測定点における網膜感度は,上記検討2より個人内変動係数が10%未満であった35名中12名で検討した.3回目から5回目の測定によって得られた網膜感度を平均し,測定点ごとの網膜感度とした.さらに,測定点ごとの網膜感度を4つの象限ごとに合計し,象限内の測定点数で除して得られた平均値を象限別網膜感度とし(図1a),4つの象限間で比較した(Tukey-Kramer法).また,測定した30°の範囲を中心から3°,9°,15°,21°,27°の領域に分け,それぞれの領域に含まれる測定点ごとの網膜感度を合計し,その領域内の測定点数で除して得られた平均値を領域別網膜感度として(図1b),領域ごとに比較した(Schee法).II結果検討1:学習効果平均網膜感度は1回目から順番に36.7±5.2Hz,35.6±3.0Hz,33.6±4.6Hz,34.8±4.3Hz,34.6±4.4Hz,偽陽性反応は順番に32.3±22.4%,24.3±21.2%,21.9±21.2%,17.6±22.4%,19.2±17.8%,偽陰性反応は5回とも0%,検査時間は1回目から順番に253.1±54.5秒,252.2±69.6第1象限第2象限第4象限第3象限図1a各測定点の分け方(象限別)3°領域(4点)9°領域(12点)15°領域(18点)21°領域(24点)27°領域(16点)図1b各測定点の分け方(領域別)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009953(87)秒,254.9±59.2秒,259.6±60.1秒,248.5±70.0秒であった(表1).どのパラメータにおいても統計学的に有意な改善はみられなかった.検討2:再現性測定点ごとの短期変動は図2に示すとおりで,全測定点を平均した短期変動は3.6±0.7Hz(2.35.9Hz)であった.測定点ごとの個人内変動係数と個人間変動係数は図3に示すとおりで,全測定点を平均した個人内変動係数は11.7±2.1%(6.917.2%),個人間変動係数は18.7±2.3%(13.824.6%)であった.また,個人内変動係数が10%未満であった被験者は35名中12名(約34%)であった.検討3:網膜感度上記結果より個人内変動係数が10%以内であった35名中12名における測定点ごとの網膜感度と,その標準偏差を図4に示す.象限ごとに計算すると第1象限39.2±5.0Hz,第表1各測定における各パラメータの結果(n=16)パラメータ1回目2回目3回目4回目5回目平均網膜感度(Hz)36.7±5.235.6±3.033.6±4.634.8±4.334.6±4.4偽陽性反応(%)32.3±22.424.3±21.221.9±21.217.6±22.419.2±17.8偽陰性反応(%)00000検査時間(秒)253.1±54.5252.2±69.6254.9±59.2259.6±60.1248.5±70.0平均3.6±0.7Hz図2各測定点における短期変動(Hz)(n=36)平均11.7±2.1%図3a各測定点における個人内変動係数(%)(n=36)平均39.2Hz第1象限平均42.0Hz第2象限第3象限平均41.9Hz第4象限平均39.3Hz図4各測定点における平均網膜感度(上段)と標準偏差(下段)(n=12)平均18.7±2.3%図3b各測定点における個人間変動係数(%)(n=36)———————————————————————-Page4954あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(88)2象限42.0±4.6Hz,第3象限41.9±4.6Hz,第4象限39.3±4.9Hzで,統計学的に有意差は認めなかった.領域別網膜感度は3°,9°,15°,21°,27°それぞれ36.1±5.2Hz,38.2±5.4Hz,41.0±4.8Hz,41.8±4.2Hz,41.7±4.4Hzであり,3°と9°の間に統計学的な感度の差は認めなかったが,15°,21°,27°の感度は3°の感度に比べ有意に良好であった(p<0.05).III考按今回検討したB/Y-FPは,市販されているOCTOPUS311視野計に内蔵された測定方法であるにもかかわらず報告はみられない.しかし,原理のうえからはより早期の緑内障性視野異常を検出することが可能な測定方法ではないかと期待される.そこで筆者らは,臨床に用いる前に確認しておくことが必要な学習効果の有無や再現性などを検討するとともに,測定部位による差がみられるのかどうかを正常者で検討した.検討1の学習効果では平均網膜感度の改善はなく,その他のパラメータにおいても,測定回数を重ねても統計学的に有意な変化はなく,学習効果はなかったと考えられる.しかし,偽陽性反応をみると平均値自体は減少しており,標準偏差が大きかったために統計学的な有意差がみられなかったことがわかる.つまり,学習効果がみられなかった理由としては,各測定間における結果のばらつきが大きかったことが影響している可能性があり,ばらつきを大きくした原因としてS-cone系のフリッカー光に対する時間分解能と,測定に用いたTOPストラテジーの2つの要因が考えられる.S-cone系の性質について,網膜電図を用いて視細胞のフリッカー光に対する反応を記録した報告によると,白色背景に白色フリッカー光を用いた場合およそ40Hzまでは追従できるのに対し,高輝度黄色背景の下で青色フリッカー光を用いた場合S-cone系はおよそ20Hzを超える高時間周波数の刺激に対して正しくフリッカー光を追従できなくなることが知られ,S-cone系は時間分解能が他の視細胞に比べ良くないことが明らかとなっている3).TOPストラテジーについて,TOPは各測定点を4stageに分けて各測定点に対し年齢別正常網膜感度の半分の視標を1回ずつ呈示し,その反応の有無からstageごとに測定点とその隣接点の網膜感度を補間し推定しながら視野計測を行う方法で,stage1では正常網膜感度の4/16,stage2では3/16,stage3では2/16,stage4では1/16が補間される4).今回測定に使用したB/Y-FPの正常値はOCTOPUS311に内蔵されていないため,白色視標を用いるFPの正常値が使用されていた.正常値が公開されていないため正しい数値は明らかではないが,過去の正常者を対象とした報告5,6)から,測定点ごとの平均網膜感度はおよそ2739Hzであり,FPおよびB/Y-FPの各測定点に呈示される視標の周波数は1420Hzであることが予想される.以上より,B/Y-FPでは呈示される視標はFPと同じ1420HzであるためS-cone系が追従できる限界周波数に近く,呈示された視標が点滅していると認識しにくかった可能性も考えられる.その結果,前半のstage1の段階で認識できなかった場合と,後半のstage4で認識できなかった場合とでは推定閾値に大きな差が生じるため結果がばらつき,統計学的には有意差がみられなかったと考えられる.検討2の再現性では,以下のようなことが考えられる.明度識別視野における短期変動,変動係数はSAPに比べSWAPでは大きくなることは過去に報告されている7,8).フリッカー融合頻度を測定するフリッカー視野においても白色視標を使用するFPの短期変動,個人内変動係数,個人間変動係数はそれぞれ,5.1±1.1Hz,6.4±1.5%,11.2±2.8%であるのに対し6),B/Y-FPは3.6±0.7Hz,11.7±2.1%,18.7±2.3%である.FPの短期変動が大きいが,FPは3回の測定における網膜感度の最大値と最小値の差を短期変動としているためで,FPの短期変動の算出方法に合わせてB/Y-FPの短期変動を算出すると7.2±1.2Hzである.S-cone系は余剰性の少なさからか明度識別視野とフリッカー視野においても結果のばらつきが大きい.検討1の考按で述べたように,FPの正常値が使用されたTOPストラテジーを用いたため,本来のTOPストラテジーとしての測定ができなかったこともさらに結果のばらつきを大きくした原因であると言えるが,S-cone系の測定を行う場合は結果のばらつきが大きいため,複数回の測定が必要である.検討3の網膜感度では,白色視標を使用するFPでは6),象限ごとに有意な感度差はなく閾値はおよそ38Hzであり,B/Y-FPにおいても第2,第3象限よりも第1,第4象限の網膜感度が良いが統計学的な有意差はなくFPと同様な結果を示した.また,FPの部位別網膜感度では15°領域を境に中心領域と周辺領域で分けたとき,それぞれ38.8±3.7Hz,38.0±5.0Hzであり,中心領域の網膜感度のほうがわずかであるが統計学的に有意に良好である結果であった6)が,B/Y-FPの結果は中心領域よりも周辺領域の網膜感度が良い傾向を示した.視細胞と神経節細胞の多くは網膜の中心部分に分布し,周辺部分では減少する9,10).しかし全視細胞に対するS-cone,全神経節細胞に対するM-cell系に対応する神経節細胞の比率はそれぞれ増加し1113),M-cell系に対応する神経節細胞の受容野は網膜周辺部では他の神経節細胞に比べ広くなる12,13).その結果,中心領域の感度より周辺領域の感度が良好になったと予想される.今回は複数回の測定を行うため1回の測定に要する時間が被験者の大きな負担となることや,実際の診療においてはTOPがよく用いられることから,TOPストラテジーでの検———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009955(89)討を行った.しかし,FPの正常値を代用したTOPストラテジーをB/Y-FPに用いたため,推定された網膜感度は正しい値とは言いがたい.S-cone系の性質から考える3)と,今回推定された40Hz近い閾値より低いと予想される.再現性に関してもストラテジーを変えると良くなる可能性も考えられ,B/Y-FPの網膜感度も含め,ストラテジーをdynamicまたはnormalに変えての再検討が必要である.TOPストラテジーは明度識別視野に用いられ良好な再現性が認められ14),現在ではFPにも用いられるようになり緑内障患者において高い検出力を示すといった報告がある15).また,最大視標輝度を使用してフリッカー融合頻度を測定するためコントラスト閾値を測定するSWAPよりは中間透光体の影響が少ないこと,理論的にはより早期の緑内障性視野異常を検出することが可能な測定方法ではないかと予想され,B/Y-FPによる初期緑内障のスクリーニングという点では期待が深まる.残念ながら今回の検討では結果のばらつきが大きく,良好な再現性を認めたのは32名中わずか12名(約34%)であったが,反対に34%ではB/Y-FPの評価が可能とも考えられる.今後は,B/Y-FPの正常値の決定とそれに適したストラテジーの選択または改良を行い,臨床上有用な検査方法となるよう検討を行っていく必要があると思われる.文献1)SamplePA,BosworthCF,WeinrebRN:Short-wave-lengthautomatedperimetryandmotionautomatedperim-etryinpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol115:1129-1133,19972)HornFK,BrenningA,JunemannAGetal:Glaucomadetectionwithfrequencydoublingperimetryandshort-wavelengthperimetry.JGlaucoma16:363-371,20073)横山実:眼病と青の感覚.臨眼33:111-125,19794)GonzalezdelaRosaM,MartinezA,SanchezMetal:Accuracyoftendency-orientedperimetrywiththeOCTOPUS1-2-3perimeter.InWallM,HeijlA,ed.PerimetryUpdate1996/1997,p119-123,KuglerPubl,GhediniPubl,Amsterdam/NewYork,19975)MatsumotoC,UyamaK,OkuyamaSetal:AutomatedickerperimetryusingtheOCTOPUS1-2-3.InMillsRPed:PerimetryUpdate1992/1993,p435-440,Kugler,Amsterdam/NewYork,19936)BernardiL,CostaVP,ShiromaLO:Flickerperimetryinhealthysubjects:inuenceofageandgender,learningeectandshort-termuctuation.ArqBrasOftalmol70:91-99,20077)WildJM,CubbidgeRP,PaceyIEetal:Statisticalaspectsofthenormalvisualeldinshort-wavelengthautomatedperimetry.InvestOphthalmolVisSci39:54-63,19988)KwonYH,ParkHJ,JapAetal:Test-retestvariabilityofblue-on-yellowperimetryisgreaterthanwhite-on-whiteperimetryinnormalsubjects.AmJOphthalmol126:29-36,19989)CurcioCA,SloanKR,KalinaREetal:Humanphotore-ceptortopography.JCompNeurol292:497-523,199010)CurcioCA,AllenKA:Topographyofganglioncellsinhumanretina.JCompNeurol200:5-25,199011)CurcioCA,AllenKA,SloanKRetal:Distributionandmorphologyofhumanconephotoreceptorsstainedwithanti-blueopsin.JCompNeurol312:610-624,199112)ScheinSJ,MonasterioFM:Mappingofretinalgeniculateneuronsontostriatecortexofmacaque.JNeurosci7:996-1009,198713)DaceyDM:Morphologyofasmall-eldbistratiedgan-glioncelltypeinthemacaqueandhumanretina.VisNeu-rosci10:1081-1098,199314)GonzalezdelaRosaM,MartinezPineroA,GonzalesHernandezM:ReproducibilityofTOPalgorithmresultsversusthoseobtainedwiththebracketingprocedure.InWallM,WildJMed.PerimetryUpdate1998/1999,p51-58,Kugler,TheHague,TheNetherlands,199915)GonzalezdelaRosaM,RodriguezJ,RodriguezM:Flick-erperimetryinnormalsandpatientswithocularhyper-tensionandearlyglaucoma.InWallM,WildJMed.PerimetryUpdate1998/1999,p59-66,Kugler,TheHague,TheNetherlands,1999***

インターネットの眼科応用6.インターネット医療機器開発

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.7,20099370910-1810/09/\100/頁/JCOPY消費者参加型商品開発医療機器に限らず,世の中のほとんどの商品は,研究段階から商品化に至るまで,その開発過程は一方向です.研究開発→設計→製造→販売→消費者へと流れる商業化の流れを,リニアモデルとよびます.消費者アンケートなどの市場調査を行って,開発段階に消費者のニーズが反映されることがありますが,このような何らかのフィードバックを行う流れをループモデルとよびます.今ではリニアモデルではなく,ループモデルが主流になりましたが,インターネットの普及に伴って,このループモデルがさらに大きく変容しています.インターネットを使えば,多数の意見を集約することが容易になり,今まで「黒子」だった消費者が「主役」として開発・企画段階から商品開発に関わるようになりました.某文具メーカーが,業務を効率化し生活を豊かにする「時間を生み出す文具」のアイデアを,あるネットコミュニティの参加者に募集したところ,4,000人以上が議論に参加し650件を超えるコメントが寄せられたそうです.具体的には,「アイデアを展開したり,記録したりできる創発(ひらめき)ノート」や「移動中にも簡単に記録できるモバイルメモ帳」など,実際に商品化できそうなレベルのアイデアもあったようです.日常業務に使う文具開発へのビジネスパーソンの関心の高さをうかがわせます.濡れても平気な文具が欲しいといったアイデアや,濡れていても収納しやすい折り畳み傘があると便利といった意見など,より具体的な状況を意識したアイデアもみられました1).インターネットの潮流は医療界も無縁ではありません.近い将来,全国の有志の医師がインターネットを通じて医療機器の開発に参加する日が必ず訪れます.臨床の現場の不具合や新しいアイデアを集約するインターネット媒体の誕生を期待しています.では,そのような媒体に参加するわれわれはどのように関わればよいでしょう.産業界の実例を紹介します.2001年某時計メーカーが,女性向けサイトの会員に商品開発のモニター的役割を依頼しました2).1万人を超える会員が開発に参加し,ネット上でデザインがつぎつぎと更新されました.これも黒子であった消費者が主役になった一例です.インターネットがもの作りに関わる可能性を示しています.一般消費者ではなく,専門知識をもったプロが知を集約した代表例は,LinuxというコンピュータのOS(oper-atingsystem)です.さまざまな企業に所属するプログラマーがこのソフトの開発に参加しました.シェアはWindowsに迫るほどのものではありませんが,動作性の軽さと安価なソフトとして官公庁などで利用されています.医療界に目を移しますと,開発した医師の名前が付けられた手術小道具も,参加型商品開発といえますが,インターネットを使えばより多くのアイデアを集約できるでしょう.将来,Linuxのようなオープンソースで開発ができる,電子カルテソフトができるかもしれません.ブレインストーミング開発というのは,どのような頭脳作業なのかというと,論文を書いたり,スライドを作ったりする作業とは少し異なります.新製品の開発段階によく行われるブレインストーミングという手法についてご紹介します.ブレインストーミングとは,連想を集団で行うことによって,相互交錯の連鎖反応や発想の誘発を期待する技法です.あくまでも独創性を高めるための手段であり,判断や批判などは行わないことが重要です.ブレインストーミングには基本ルールが4つあります.一つは,アイデア創出の段階では質よりも量を重視します.一般的な考え方・アイデアはもちろん,一般的でなく新規性のある考え方・アイデアまで,あらゆる提(71)インターネットの眼科応用第6章インターネット医療機器開発武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑥———————————————————————-Page2938あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009案を歓迎します.二つ目は,多くのアイデアが出揃うまでは,各個人のアイデアに対して批評・批判することは慎みます.個々のメリット・デメリットなどの評価は,ブレインストーミングのつぎの段階で行います.三つ目は,誰もが思いつきそうなアイデアよりも,奇抜な考え方やユニークで斬新なアイデアを重視します.新規性のある発明は,たいてい最初は笑いものにされることが多く,そういった提案こそを重視します.四つ目は,別々のアイデアを合わせたり,一部を変化させたりすることで,新たなアイデアを生み出していきます.この過程こそが,ブレインストーミングの最大のメリットです.ブレインストーミングの例を示します.「硝子体手術で周辺部の硝子体を見たい.どうすれば良いか」という問いに対して,自由にアイデアを出します.「内視鏡で見る」「圧迫して見る」ここまでは現状の解決法です.一歩踏み込んで,「解像度の高い内視鏡で見る」「圧迫子の先端を工夫する」というアイデアから始まり,もっと奔放に,「割を入れてオープンスカイにしてみる」「超広角の接眼レンズを作る」「鏡を硝子体腔内に入れる」「硝子体に入る手術ロボットを作る」…実現性を無視したアイデアですが,このようなディスカッションから新しい手術法のイノベーションが起こります.インターネット空間で,ブレインストーミングを行えば,全国の医師の頭脳を繋ぐことができます.医師集団が開発に関わって創られた集合知は,Linux以上に産業的価値と社会貢献性が高いと考えます.「インターネット医療機器開発」は,インターネットの医療応用としてはまだ実験的な段階ですが,医師限定のインターネット会議室「MVC-online」から実例をご紹介します.MVConlineでできること③(インターネット機器開発)5月号より,インターネットの医療応用の実例を紹介しています.MVC-onlineでは参加する医師・歯科医師がエリアや所属を越えて意見交換しています.サイト内の一部に産業界の方にアクセスしていただいて,医療界と産業界の意見交流を通じて,新しい商品を創造しています.MVC-onlineで企画された実際の機器開発を紹介します.Casereport:新規オゾン水精製装置の開発従来のオゾン水精製装置にどのようなコンセプトで改良を行えば,より良い医療環境を創造できるか,という(72)テーマをインターネット会議室「MVC-online」で議論しました.まず,2つの方向性を検討しました.一つは,精製装置をDVDデッキ程度にまで徹底的にコンパクトにする方向性です.白内障,硝子体の手術機械に設置できるほどコンパクトにします(図1).もう一つは,移動可能なモバイル型にする方向性です.外来から手術室までの移動が容易になります.MVC-onlineに参加している眼科医の先生方からインターネットを通じてご意見を頂戴しました.近い将来,アイデアが集約された新しい医療機器が登場することでしょう.インターネットを使えばエリアを越えて,医療機器の開発に参加できる時代になりました.インターネット会議室「MVC-online」では,医療者の知識・ノウハウをインターネット上で共有しています.この試みは,インターネットの眼科応用の可能性を示しており,WEB2.0とよばれる潮流を具現化しています.【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動にご共感いただいた方は,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080421/299693/2)http://techon.nikkeibp.co.jp/members/DM/DMNEWS/20010312/1/ST=print精製水入りバック水者へ白内障手術機械図1コンパクト化したオゾン水精製装置のラフスケッチ

硝子体手術のワンポイントアドバイス74.硝子体手術後晩期に発症する開放隅角緑内障(初級編)

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.7,20099350910-1810/09/\100/頁/JCOPYはじめに硝子体手術後に生じる開放隅角緑内障は,手術によって惹起された炎症や出血などに起因するものが多く,通常は術後早期に生じる.一方,Changらは硝子体切除術後晩期に発症する開放隅角緑内障が少なからず存在することを報告している1).筆者らも,これに該当すると考えられる2症例を経験している2).硝子体手術後晩期に発症する開放隅角緑内障の臨床像Changらは硝子体手術の既往のある緑内障疑い例65例68眼を対象に平均56.9カ月間,追加経過観察を行い,以下の3群に分け眼圧の推移を検討した.それによると,最終的に緑内障が疑われたグループでは,術眼の平均眼圧が僚眼に比べて有意に高く,新たに緑内障が発症したと思われるグループでは,僚眼に異常を認めない34眼中23眼(67.6%)において硝子体手術眼のみで緑内障が発症していた.はじめから緑内障の存在したグループでは抗緑内障薬の平均投薬数が術眼で僚眼よりも有意に多くなった.硝子体手術から緑内障発症までの期間は,有水晶体眼で有意に長いという結果であった1).硝子体手術後晩期に発症する開放隅角緑内障の原因硝子体手術は,網膜・硝子体の病的状態を取り除くのみならず,眼内環境を大きく変化させる.硝子体切除により,硝子体腔内の酸素分圧は均一となり水晶体近傍の酸素分圧は上昇する.硝子体切除による,銅や鉄などの微量元素の欠乏はアスコルビン酸の酸化を促し,過酸化水素の産生が増加する.通常,過酸化水素は水晶体に含まれるグルタチオンやカタラーゼにより無毒化されるが,酸素濃度の上昇により水晶体による代謝能は低下する.そして白内障手術後は,増加した酸化ストレスにより,線維柱帯の細胞を障害し,眼房水の流出能力を妨(69)げ,開放隅角緑内障が発症すると推測される.と対このような症例は,もちろん黄斑円孔や黄斑上膜など硝子体手術の侵襲が少ない疾患でも生じうる.筆者らの経験した2例は,いずれも特発性黄斑上膜の症例で,硝子体手術後の経過はまったく問題なかった.よって,硝子体手術施行例は,経過が良くても,長期にわたり緑内障発症の有無に注意を払う必要がある.わが国においては,硝子体手術時に白内障手術も併施されることが多く,これが緑内障の進行を速めている可能性も考えられるので,今後のさらなる検討が必要である.文献1)ChangS:LXIIEdwardJacksonlecture:openangleglau-comaaftervitrectomy.AmJOphthalmol141:1033-1043,20062)河本良輔,福本雅格,佐藤孝樹ほか:硝子体手術後晩期に開放隅角緑内障を生じた2例.眼臨紀2:120-124,2009硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載74硝子体手術後晩期に発症する開放隅角緑内障(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科:右眼:左眼(月)(年)眼圧(mmHg)視野狭窄自覚し来院ラタノプロスト点眼ベタメタゾン点眼治療を自己中断PPV+PEA+IOL2520151050345812537図1自験例の眼圧推移術後約3年の間は,眼圧は20mmHg以下で経過していた.術後,約5年の時点で眼圧上昇を認めたが,点眼薬1剤にてコントロールできている.図2自験例のGoldmann動的視野左眼は特に異常を認めないが,右眼は弓状暗点を認め,眼底では視神経乳頭に視野欠損部に一致したリムの菲薄化を認めた.(文献2より)

眼科医のための先端医療103.網膜血管系の幾何学的特徴から眼科疾患および全身疾患を予測できるか?

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.7,20099310910-1810/09/\100/頁/JCOPY網膜血管系の幾何学的特徴を数値化するれで網膜血管系の化の,のなしにく的定がおもでしたた,「網膜の径」なの的なですた,「の血管らかに蛇行しているな」的にできる化がても,れを数値化するができないたにれで的なしているができんでしたしかし,のをいたのによ,網膜血管系のさな幾何学的特徴をに定量するが可能なてきしたのよなをいて,網膜血管径,血管分岐角,血管蛇行なの幾何学的特,さらにの幾何学的特いるなを測定するもできるよになしたのよな定量的なよのをするが可能なるかでなく,よな疾患の予測るいの定にいるな,さな可能性がるていす図1).網膜血管径網膜血管径を測定するいくかすが,のなかでもくしているのの化性疾患にする疫学研究のたに定された学のいす図2)1,2).この方法は通常の眼底写真1枚から血管径を測定することができるという敷居の低さ,測定範囲を一定にして再現性の高い測定が可能であること,個々の細動脈あるいは細静脈径を理論式で統合し「網膜中心動脈径の推定値(centralretinalarteryequivalent:CRAE)」と「網膜中心静脈径の推定値(centralretinalveinequivalent:CRVE)」という代表値として算出する簡潔さから多くの大規模疫学研究に応用されています.この方法を用いることによってごくわずかな網膜血管径の変化を簡便に捉えることができるようになりました.山形県舟形町研究でもこの方法で測定した動脈径CRAEは高血圧などの結果として細くなる3)だけでなく,もともと動脈径が細い人が将来高血圧を発症する危険が高いことなど興味深い結果が得られています4).また,これまでは動脈径あるいは動静脈比だけが注目されてきていたのに対し,静脈径CRVEが肥満や糖尿病などと関連しているということもわかってきました5).眼底検診は循環器疾患の一部として行われてきた経緯があります.そのような検診に網膜血管径を定量的に評価する方法を導入することにより,より正確な循環器疾患の発症予測が可能になるのではないかと期待しています.(65)◆シリーズ第103回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊川崎良(CentreforEyeResearchAustralia,RoyalVictorianEyeandEarHospital,UniversityofMelbourne)網膜血管系の幾何学的特徴から眼科疾患および全身疾患を予測できるか?的?毛細血管瘤?血管径狭細・口径不同?交叉現象…“定量的な幾何学的特徴”?網膜血管径?血管分岐角?血管蛇行?フラクタル次元…+より早期の病態を捉える.より詳細な疾患発症予測.薬物治療の効果判定.図1定量的な幾何学的特徴がもたらす可能性図2TheAtherosclerosisRiskInCommunitiesStudyによる網膜血管径の定量測定法視神経乳頭縁から1/2乳頭径から1乳頭径の円を通過する血管を動脈,静脈それぞれについて測定する.その後,統合式を用いて一つの代表値(CRAEとCRVE)を算出する.———————————————————————-Page2932あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009血管分岐角たの血管に定のをているれがですが,の化する血量や血,なにしてをているられるよになてきしたた,的に血量をにさる血管の分岐角がさくなるながされていすれ,血管から血管分岐するに,血管がのでよよく血をする理の分岐をよにされるいにいてされていす新しいによ網膜の血管分岐角をに測定するが可能なしたの測定をもに,たの網膜血管の分岐角が理の血管分岐角からのくらいしているのか,た,のが眼疾患るいの全身の疾患のしているいのもにいくかの研究が行です図3).古くて新しい眼底検診の可能性のにも血管の蛇行,なの定量が可能なていすのよな定量的なのの特徴,れらがによて的に測定が可能でるですのによ,究的に眼科疾患のなら全身の疾患をでできる眼底検診のの可能性もきくするされていす文献1)HubbardLD,BrothersRJ,KingWNetal:Methodsforevaluationofretinalmicrovascularabnormalitiesassociat-edwithhypertension/sclerosisintheatherosclerosisriskincommunitiesstudy.Ophthalmology106:2269-2280,19992)KnudtsonMD,LeeKE,HubbardLDetal:Revisedfor-mulasforsummarizingretinalvesseldiameters.CurrEyeRes27:143-149,20033)KawasakiR,WangJJ,RochtchinaEetal:CardiovascularriskfactorsandretinalmicrovascularsignsinanadultJapanesepopulation:theFunagataStudy.Ophthalmology113:1378-1384,20064)TanabeY,KawasakiR,WangJJetal:Angiotensincon-vertingenzymegeneandretinalarteriolarnarrowing:TheFunagataStudy.JHumanHypertension,2009(inpress)5)KawasakiR,TielschJM,WangJJetal:ThemetabolicsyndromeandretinalmicrovascularsignsinaJapanesepopulation:theFunagatastudy.BrJOphthalmol92:161-166,20086)DjonovV,KurzH,BurriPH:OptimalityintheDevelop-ingVascularSystem:Branchingremodelingbymeansofintussuseptionasanecientadaptationmechanism.DevelopDynamics224:391-402,20027)WittN,WongTY,HughesADetal:Abnormalitiesofretinalmicrovascularstructureandriskofmortalityfromischemicheartdiseaseandstroke.Hypertension47:975-981,20068)LiewG,WangJJ,CheungNetal:Theretinalvascula-tureasafractal:Methodology,reliability,andrelationshiptobloodpressure.Ophthalmology115:1951-1956,2008(66)血管蛇行分岐角図3血管の蛇行や分岐角の定量的測定これらは専用のコンピュータプログラムを用いることにより半自動的に測定され,高い再現性をもっている.「網膜血管系の幾何学的特徴から眼科疾患および全身疾患を予測できるか」を読んで―今,疫学研究が重要視される理由―最近,眼科領域でも疫学研究が重要視されています.疫学自体は古くからある学問ですし,その重要性は理解できても,なぜ今なのかということについてはよくわからない方が多いと思います.その理由を私は以下のように考えます.一つ目は,疾患の変化です.疫学の歴史は19世紀初頭のスノー(JohnSnow)によるロンドンにおけるコレラ制圧事件に始まります.当時,コレラは空気感染するとされていましたが,感染家族は密集して分布しているのではなく,とびとびに分布していたことから,スノーは経口感染すると仮定しました.そこで今でいう疫学調査をしたところ,原因が飲み水にあることがわかり,コ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009933(67)レラを制圧することができました.重要なことは,スノーはコレラ菌を発見することはできませんでしたが,コレラを実際に制圧し得たということです.このように疫学研究では,原因がはっきりしない疾患,あるいは多くの因子で構成される疾患についても有効な対策を立てることが可能であるという優れた点があります.現代医学の最重要疾患は,糖尿病や高血圧などの多因子疾患であり,一つの因子を制御しても有効な対策には結びつき難いとされています.遺伝子解析など,多因子の一つひとつを解析していく方法は有効ですが,より効率的な対策を立てるには,疫学研究のほうが優れていることがわかってきたからです.二つ目は,コンピュータテクノロジーの普及です.川崎良先生が本文中に引用されているAtherosclerosisRiskInCommunitiesStudy(ARICstudy)研究では約15,000人分のデータを収集・解析する必要がありますが,この作業はインターネットの普及で初めて可能になりました.従来のように,ファックス・郵便でのやり取りでは,データ収集・解析に莫大な労力と時間が必要で,事実上不可能でした.さらに本文中で述べられている血管形態解析も,コンピュータテクノロジーが普及して初めて一般疫学調査で使用可能になりました.以前から,専門機関では形態解析が行われていましたが,現在のように一般化しておらず眼科の疫学研究のような分野に用いられることはありませんでした.このような条件が揃った結果として,現在の疫学研究の隆盛があります.現在もいくつかの疫学研究が進行中であり,多くの成果が期待されています.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ190.緑内障インプラント

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.7,20099290910-1810/09/\100/頁/JCOPY実際の手術方法インプラントは直筋の間に挿入する形になる(図1).チューブ刺入予定部位に線維柱帯切除術と同様に四角形の強膜弁を作製する.強膜弁を作製せずに,チューブ刺入部位に保存強膜や心内膜などを縫合する方法もある.強膜弁の後方にさらに強膜トンネルを作製することで,術後のチューブの露出の頻度は低くなる.Ahmedの場合は弁があるため,チューブの通水がよくないことがある.デバイスの挿入前に,通水を確認しておく必要がある.デバイスの固定は本体に開いている穴に縫合糸を通して強膜に固定する.輪部から8~10mm後方で,非吸収糸で2カ所固定する.チューブの先端は前房内に挿入しやすく,虹彩を吸引しないように,上方に流出口が向くように斜めに切開する.23ゲージ針で前房穿刺し,粘弾性物質で前房を形成し,チューブを挿入する.前房にチューブを挿入した後,強膜弁,結膜弁の縫合を行う.弁のないインプラントでは術後早期の低眼圧,過剰濾過を予防するために,チューブの縫合やチューブ内に吸収糸の留置を行う.低眼圧のリスクが低くなる術後4週新しい治療と検査シリーズ(63)バックグラウンド緑内障濾過手術は眼内から結膜下に房水を流す手術であり,濾過手術が成功するには濾過孔を維持する必要がある.緑内障インプラント手術は濾過孔をチューブで確保するため,濾過孔の閉塞が起こらない術式である.わが国ではインプラントは認可されていないが,海外では数種類のインプラント装置が使用されている.難治性緑内障といわれている,血管新生緑内障,ぶどう膜炎,小児の緑内障,ICE(虹彩角膜内皮)症候群,外傷眼,無虹彩症,Sturge-Weber症候群に対する報告がある.近年,インプラント手術とマイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術とのrandomizedclinicaltrialが報告されている1,2).まだ短期成績のみであるが,術後1年の眼圧や合併症はほぼ同等である.インプラント手術の原理インプラント手術はチューブを通して房水を眼外に濾過する方法である.チューブを前房内に挿入し,排出部となる本体を強膜に固定する.通常の濾過手術と異なり,チューブが流出路となるため,流出路の閉塞はきたすことはない.また,房水の排出部が後方のため,房水も眼球後方に排出される(図1).そのために,線維柱帯切除術と異なり下方の手術でも感染のリスクは上方と変わりない.結膜の瘢痕化が強い例や,術野が狭い例でも手術が可能である.チューブを硝子体腔に挿入するタイプもあり,硝子体手術後の無硝子体眼では良い適応になる.インプラントの装置には眼圧調整弁をもつものともたないものの2種類がある.現在おもに使用されているものはMolteno,Baerveldt,Ahmedの3種類である.MoltenoとBaerveldtは弁をもたないものであり,Ahmedは弁を有する.190.緑内障インプラントプレゼンテーション:井上立州オリンピア眼科病院コメント:阿部春樹新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野図1インプラント手術の模式図直筋の間にインプラントを挿入する.矢印が房水の流れとなる.———————————————————————-Page2930あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009間以降にレーザーによる切糸,糸の自然吸収,糸の抜去を行う.図2は複数回の線維柱帯切除術の既往のある眼に,下耳側にインプラントを挿入した前眼部写真である.現在MMC併用線維柱帯切除術が最も多く施行されており,難治緑内障に対する手術成績も向上している.インプラント手術の適応としては,通常の濾過手術の不成功例,硝子体手術,網膜離手術,角膜移植,輪部移植例など,術後結膜の瘢痕化が強く,通常の手術が困難な症例となる.日本人では,海外の報告と比較して眼圧再上昇例も多く3),排出部周囲の結合組織の除去を施行する必要がある.これにより再度眼圧のコントロールが可能となる.現在は対象が難治例のためその成績も悪いが,インプラント手術でしか視機能を維持できない症例もあり,適応を十分考慮して行う必要がある.本法の利点インプラント手術は眼内操作が前房穿刺のみで,手術侵襲が少ない.また,瘢痕化のため複数回濾過手術が不成功であった眼でも手術が可能である.房水の流出部位も線維柱帯切除術と比較しても後方になるため,下方に挿入することも可能である.眼圧再上昇例では,排出部周囲の結合組織の除去により,再度眼圧のコントロールが可能となる.眼内に侵襲を与えずに再手術が可能な点もインプラント手術の利点である.1)GeddeSJ,SchimanJC,FeuerWJetal:Treatmentoutcomeinthetubeversustrabeculectomystudyafteroneyearoffollow-up.AmJOphthalmol143:9-22,20072)GeddeSJ,HerndonLW,BrandtJDetal:Surgicalcompli-cationsinthetubeversustrabeculectomystudyduringtherstyearoffollow-up.AmJOphthalmol143:23-31,20073)高本紀子,林康司,井上洋一:AhmedGlaucomaValveの手術成績.あたらしい眼科17:281-285,2000(64)図2インプラント術後の前眼部写真複数回濾過手術が施行された眼に対して,インプラントを下耳側に挿入した.障は比較的良好である.術後合併症として,浅前房,低眼圧,前房出血,角膜内皮障害,白内障,硝子体出血,脈絡膜離,脈絡膜出血,網膜離,チューブの閉塞,眼内炎など,種々の重篤な合併症が報告されている.専用インプラントはわが国では医療器具として認可されていない.インプラント手術は毛様体破壊術とともに眼圧下降の最終手段である.ただし,欧米ではこの手術が増加してきており,80%近い比率で眼圧下降が得られているので,今後の進歩,発展が期待される.インプラント手術は専用インプラントを用いて前房と眼外の間に房水流出路を作製する手術である.代謝拮抗薬併用線維柱帯切除術が不成功に終わった症例,手術既往により結膜瘢痕化が高度な症例,線維柱帯切除術の成功が見込めない症例,濾過手術が技術的に施行困難な症例などに行われる.下方での濾過手術は術後感染のリスクが高いことから,上方の手術野が濾過手術に適さない場合もインプラント手術が考慮される.緑内障の病型別の手術成績については,血管新生緑内障は一般に不良であるが,ぶどう膜炎による緑内本方法に対するコメント☆☆☆

眼感染アレルギー:リグニアス結膜炎

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.7,20099270910-1810/09/\100/頁/JCOPYリグニアス結膜炎は,慢性,再発性の偽膜性結膜炎を特徴とする非常にまれな結膜炎で,その偽膜が木のように厚く硬いことから「木質結膜炎=ligneousconjunctivitis(リグニアス結膜炎)」と名づけられた.リグニアス結膜炎は1847年にはじめてフランスで報告されてから,世界各国で100例以上報告されており,わが国でも数例報告されている1,2).20世紀までは原因が明らかである他の偽膜を有する結膜炎を除外した原因不明の偽膜性結膜炎をリグニアス結膜炎と診断していたが,近年,リグニアス結膜炎の詳細な病態が明らかになり,診断も変化している.本稿では,リグニアス結膜炎の病態,臨床所見,検査・診断,治療について解説する.グニアス結膜炎の病態1994年に先天性プラスミノーゲン欠損症の症例にリグニアス結膜炎が合併したことから,リグニアス結膜炎の病態にプラスミノーゲンが強く関与していることが明らかになった1).プラスミノーゲンはフィブリン溶解酵素プラスミンの前駆体であり,プラスミノーゲンの量的,機能的低下があると,フィブリンを溶解する機能が低下する.リグニアス結膜炎に認めた偽膜の組織所見では,フィブリンの集積を認めるため,プラスミノーゲンの欠損によって,フィブリンが溶解できずに偽膜として出現していると考えられる(図1).そのため,リグニアス結膜炎は多くの場合,感染や手術や外傷を契機に出現する場合が多く,さらにプラスミンのフィブリン分解作用阻害をもつ止血剤(トラネキサム酸)の服用を契機に発現した報告もある1).また,プラスミノーゲン欠損症に認めることから,眼部だけでなく他の粘膜組織にも偽膜を認めることが多い.先天性プラスミノーゲン欠損症のなかでも遺伝子変異(ホモ接合性または複合ヘテロ接合性)を有する場合にリグニアス結膜炎を発症する.リグニアス結膜炎の罹患率は,イギリスでは100万人に1.6人とされている1).グニアス結膜炎の臨床所見リグニアス結膜炎の症状としては小児から高齢者まで幅広い年代に,粘性の眼脂,充血,異物感を生じる.臨床所見として眼瞼結膜上の硬くて比較的厚い偽膜を認める(図2).また,眼瞼の硬結も観察される.通常,偽膜を除去しても,再発する.偽膜が長期に存在すると,角膜混濁や角膜潰瘍などをひき起こす場合もある.眼部以外の粘膜症状として,耳,鼻腔,上気道,子宮などの粘膜に膜形成を示し,また,歯肉炎もひき起こす場合がある.そのことから,oculo-oro-genitalligneousdiseaseともよばれ,リグニアス結膜炎は全身性の粘膜疾患の一つの表現形とされる.しかしながら,脳梗塞や心筋梗塞といった血栓症の合併はまれである.(61)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑲監修=木下茂大橋裕一19.リグニアス結膜炎鈴木崇SchepensEyeResearchInstituteリグニアス結膜炎は,慢性,再発性の偽膜を特徴とする結膜炎で,眼部以外に鼻・子宮・歯肉など他の粘膜にも膜形成を認めることが多い.病態にはフィブリン溶解酵素プラスミンの前駆体であるプラスミノーゲンの量的,機能的低下が関与しているため,治療としてフィブリン産生抑制とプラスミノーゲンの補充が重要である.感染・外傷・手術組織偽膜感染・外傷・手術図1リグニアス結膜炎の病態———————————————————————-Page2928あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009グニアス結膜炎の検査・診断前述のように,臨床所見として,慢性,再発性の偽膜性結膜炎を認める以外に,組織検査や全身検査を行い診断していく必要がある.摘出した偽膜の組織所見では,炎症細胞を伴ったフィブリンの集積を認める.また,全身検査では血液中のプラスミノーゲン量,活性値の低下を認め,他の粘膜疾患の有無を検索する必要がある.それらの検査をもとに①偽膜性結膜炎,②組織所見でフィブリンの集積,③プラスミノーゲン量,活性値の低下,④他の粘膜疾患,が認められればリグニアス結膜炎と診断できる.また,遺伝的素因が関与していることが多いため,両親が血族結婚をしていないかなど,家族歴の問診も診断に重要になってくる.鑑別疾患としてウイルス性結膜炎,クラミジア結膜炎などを考慮する必要がある.グニアス結膜炎の治療前述のように,リグニアス結膜炎の病態として,プラスミノーゲンの質的,量的低下によるフィブリンの溶解機能の欠失が考えられるため,病態に沿った治療戦略を講じる必要がある.その治療戦略としては,フィブリン産生の抑制とフィブリン溶解の促進の点を考慮するべきである.フィブリン産生の抑制としては,フィブリン産生の契機となっている炎症を抑えるために,ステロイド(62)やシクロスポリンの局所投与を行い,また,フィブリン産生を直接抑えるヘパリンやアルガトロバンの局所投与も有効である1,2).フィブリン溶解の促進においては,プラスミノーゲン製剤の補充が理想的であり,効果についても報告されているが,精製や入手が困難であることが多いため,プラスミノーゲンの量や活性値が正常な血漿(新鮮凍結血漿など)の局所投与も有効である1,2).これらの治療を偽膜摘出後に行うことで速やかな治療効果が得られると思われる.グニアス結膜炎のリグニアス結膜炎は治療を中止すれば再発することもあるため,全身的なプラスミノーゲンの補充を含めた今後の治療の検討が必要であると思われる.さらに,プラスミノーゲン値などに異常がなく診断ができない偽膜性結膜炎も多く存在するため,偽膜性結膜炎の病態の解明が今後望まれる.文献1)SchusterV,SeregardS:Ligneousconjunctivitis.SurvOphthalmol48:369-388,20032)SuzukiT,IkewakiJ,IwataHetal:ThersttwoJapa-nesecasesofseveretypeIcongenitalplasminogende-ciencywithligneousconjunctivitis:successfultreatmentwithdirectthrombininhibitorandfreshplasma.AmJHematol84:363-365,2009図2先天性プラスミノーゲン欠損症に認めたリグニアス結膜炎の1例上眼瞼結膜に厚い偽膜形成,角膜混濁を認める.図3図2の治療後(治療開始2週間後)偽膜除去後,アルガトロバン点眼,プラスミノーゲン正常者の血漿点眼を投与.偽膜は消失.☆☆☆

緑内障:眼圧制御機構の謎

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.7,20099250910-1810/09/\100/頁/JCOPY常々考えていることであるが,どうして眼圧が制御され変動されているのか不思議でならない.生理的眼圧については,人種差,日々変動,体位による変動が明らかとなり,動物実験では,ヒトと同様な生理的変動,種差に加えて,光周期による変動,生物時計による中枢性制御など動物モデルならではの知見が報告されている.最近は魚類でも眼圧が測定されているが,脊椎動物の眼圧はほとんど1020mmHgに保たれている.多種多様な生活をしている動物で安定している眼圧は非常に重要な生理機能であることの裏づけであるが,その維持機構はいまだに不明である.眼圧の維持には房水産生と流出,それに日内変動が加わるため複雑をきわめている.それでも,日内変動にはいくつかの手がかりがあって,たとえばchickenでは交感神経切断により日内変動がなくなることがわかっているが,眼圧が0になるわけではない.同様に,マウスでも時計遺伝子を欠損させれば日内変動はなくなる.では,眼圧のベースライン自体を上下させるようなものはないだろうか.と思ったところ,それは単純に眼圧下降薬が該当するではないか.1990年代からさまざまな作用点を有する眼圧下降薬が開発されてきており,20年前と比較しても薬物治療により十分な眼圧下降効果を得ることができるようになってきた.眼圧下降薬の作用機序を詳細に検討することは,眼圧制御あるいは逆に眼圧上昇の機構を知ることにもつながるはずである.すでに,古典的薬剤はもちろん,開発著しいプロスタグランジン(PG)関連眼圧下降薬について,少なくとも受容体や細胞内酵素レベルでの作用機序は明らかにされてきている.したがって,眼圧下降機序に関与するシグナルが,通常の眼圧値を制御している可能性が高いはずだと考えた.ところが,そう簡単ではないことが最近筆者らが検討しているマウスを用いた眼圧測定で明らかになっている.まず,今や最も眼圧が下がる第一選択薬として不動(59)●連載109緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也109.眼圧制御機構の謎相原一東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学現在判明している眼圧下降薬の受容体が生体内の眼圧をコントロールしている可能性がある.しかしプロスタノイド受容体や交感神経a2受容体欠損マウスの眼圧は,ベースライン,日内変動ともに野生型と変化がみられなかった.薬物作用機序の基礎実験や臨床データから眼圧を制御しているものは何かを今後紐解く必要がある.日中眼圧夜間眼圧20眼圧(mmHg)右眼FP+/+FP+/-FP-/-151050左眼両眼右眼左眼両眼日中眼圧(9:00)夜間眼圧(21:00)WT20眼圧(mmHg)EP1WTEP1EP2EP3FPEP2EP3FP遺伝子型(欠損受容体)151050図2FP受容体欠損マウスの眼圧FP受容体ヘテロおよびホモ欠損マウスの左右両眼比較を行った眼圧データ.特にFP受容体は眼圧を強く下げるため,その欠損による眼圧値をより詳細に検討したが,野生型と変化はみられないため,日内変動と眼圧ベースライン値そのものへの影響はないと考えられる.(CrowstonJGetal:InvestOphthal-molVisSci48:2095-2098,2007より)図1プロスタノイド受容体欠損マウスの眼圧マイクロニードル法を用いた測定による眼圧値.WT:野生型.日中夜間眼圧ともに各受容体欠損マウスでも眼圧値は変わらない.マウスは夜間,日中より眼圧が高いことが知られている.(文献1,2より改変)———————————————————————-Page2926あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009の地位を築いたPG関連眼圧下降薬による眼圧下降には,PGF2aの受容体であるプロスタノイドFP受容体が必須であることが判明しているが,遺伝子改変マウスでFP受容体を欠損させても生理的な眼圧値も日内変動もまったく影響を受けない(図1,2).また,炎症を惹起し眼圧をむしろ上昇させると認識されていたPGE2に対する受容体EP1,EP2,EP3の欠損マウスでも同様である(図1)1,2).プロスタノイド受容体は眼圧にかなり関係していると予想していただけに,この結果は意外であった.FP受容体は眼以外では,子宮収縮や黄体退縮といった重要な生体内機能をもっているが,眼圧下降に関与していることは外から点眼して始めてわかった機能であり,何のために眼内に発現しているかは疑問が残る.そもそも体内に発現している分子は何らかの生体維持のための役割や,外的要素に対する防御など生きるために必要な役割を果たしていると思っているのだが,FP受容体が,PG関連薬を点眼してもらうことを予想して,手ぐすね引いて待っているとは考えにくく,何かしら内的刺激に対しての役割をもっていると考えるのが普通ではないだろうか.眼圧を最も下げるのに,それがなくても眼圧の変動もベースラインも変わらなかったのである.つぎに前述の交感神経切断による日内変動消失モデルがあることと,交感神経系の薬剤,b遮断薬,a2作動薬,a1遮断薬が眼圧を下げることに注目してみると,交感神経が眼圧をコントロールしている可能性は高いと考えた.そこで,a2adrenergicreceptorの欠損マウスで眼圧がどう変化しているかを調べてみたのが,図3である3).a2受容体にはA,B,Cの3つのサブタイプ受容体があり,それぞれの欠損マウスで検討してみたところ,夜間に高い日内変動も,眼圧値そのものも野生型マウスと変化がなかった.これらの結果から考えられることは,単純に眼圧下降薬の作用点であるプロスタノイド受容体や交感神経系受容体は眼圧を下げるだけで,日内変動や眼圧値のコントロールには関係ないだけだとする解釈である.もう一つは,遺伝子欠損マウスの限界であるが,ある分子がなく(60)ても他の分子群が代償している可能性が考えられる.いずれにしろ,眼にとって重要な眼圧維持機構には多くの分子が複雑なネットワークを形成していると考えざるをえない.今後の展開としては,さらに受容体レベル以下の眼圧下降機序を解明すること,また臨床的に目の当たりにする眼圧下降,眼圧上昇の原因となるものから眼圧の生理機構を紐解く重要な手がかりを見いだすことが重要となってくる.24時間眼圧をモニターする方法や,invivoでの房水動態実験系の開発が望まれる.文献1)OtaT,AiharaM,NarumiyaSetal:Theeectsofprosta-glandinanaloguesonIOPinprostanoidFP-receptor-decientmice.InvestOphthalmolVisSci46:4159-4163,20052)OtaT,AiharaM,SaekiTetal:Theeectsofprostaglan-dinanaloguesonprostanoidEP1,EP2,andEP3receptor-decientmice.InvestOphthalmolVisSci47:3395-3399,20063)AiharaM,LindseyJD,WeinrebRN:Eectondiurnalintraocularpressurevariationofeliminatingthealpha-2adrenergicreceptorsubtypesinthemouse.InvestOph-thalmolVisSci49:929-933,2008図3交感神経a2受容体欠損マウスの眼圧a2受容体にはA,B,Cの3つのサブタイプ受容体が存在する.それぞれの欠損マウスとbackground系統種(WT)およびB受容体の同腹野生型(B+/+)との比較.いずれの受容体も日内変動と眼圧ベースライン値そのものへの影響はないと考えられる.(文献3より)日中眼圧(9:00)夜間眼圧(21:00)WTA-/-B+/+B-/-C-/-WTA-/-B+/+a2受容体subtypegenotypea2受容体subtypegenotypeB-/-C-/-2520151050眼圧(mmHg)☆☆☆

屈折矯正手術:角膜屈折矯正手術後のハローの評価

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.7,20099230910-1810/09/\100/頁/JCOPYLaserinsitukeratomileusis(LASIK),photorefrac-tivekeratectomy(PRK)などの角膜屈折矯正手術における主要な合併症の一つがハローである1).ハローの症状は,夜間に街灯などの光源の周囲に光輪が現れ,映画の字幕の文字がにじんだように見えるといったものである(図1).角膜屈折矯正手術は,角膜の形状,特に曲率半径を変化させることによって角膜での屈折力を変化させて屈折異常を外科的に矯正するものであるが,手術により屈折力がコントロール可能な部分は,角膜中央部の直径6.5mm程度のopticalzoneと,その周囲2mm程度の帯状のtransitionzoneとよばれる移行部分にすぎない.そのため,wavefront-guided照射といえども角膜全体としての生理的な非球面性を維持することはできない.また,瞳孔中心と角膜中心は位置がずれており,特に暗所の瞳孔中心は大きく偏位することがあり,本来の生理的な角膜とは異なる光学的特性が生じる可能性がある.波面センサーなどで測定される高次収差は,眼球全体の光学的特性の変化を客観的に評価する指標であり,ハローとの関連が示唆されている2).しかし,ハローの訴えには個人差が大きく,測定された高次収差のみだけではハローを説明することは困難である.屈折矯正手術後の視機能評価としてコントラスト感度測定が普及しており3),夜間運転を想定した薄暮時のコントラスト感度測定4)も行われ,屈折矯正手術後の暗所でのコントラスト感度低下についても報告されている.しかし,夜間のハローが暗闇(黒)を背景にした光源(白)の見え方の問題であるのに対して,一般的なコントラスト感度測定では背景が白で黒いLandolt環などの視標が用いられている.したがって,コントラスト感度測定の結果そのものは直接ハローの訴えを反映するとは限らない.筆者は,ラップトップPCのモニター上でパワーポイントRスライドを表示することでハローを検出し,定量化する簡便な方法「Halo-Checker」を開発した(図2).暗室にて点の間隔が視角で5分(視力0.2に相当)程度となるように約1.5mの距離で測定する.スライドごとに位置番号が振られている.スライドを進めて被検者にはハローの辺縁に相当する赤の位置番号を0.5きざみ(たとえば,ハローの辺縁が位置番号の2と3の中間辺りにあると2.5のようにする)で8方向ごとに答えさせ(57)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載110監修=木下茂大橋裕一坪田一男110.角膜屈折矯正手術後のハローの評価後藤浩也防衛医科大学校眼科角膜屈折矯正手術(LASIK,PRK)後のハローは,眼球の光学的特性の変化により生じる夜間視力低下であり,手術に対する満足度に大きく影響する.不満へ対処するためには,まず訴えとなっているハローを評価すべきであるが,通常の視力検査とは異なる検査を行う必要がある.図1暗所での光源の見え方イメージ正視(左),近視による焦点ボケ(中央),屈折矯正手術後のハロー(右).ハローでは,光源の輪郭はシャープであるが,周囲に光輪が見える.図2HaloChecker基本画面(Scotopic)直径約2cmの境界不鮮明な白い円を中心に,8方向に点線を伸ばし,点の脇に赤で位置番号を示す.———————————————————————-Page2924あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009ると,ハローの形,大きさが容易に把握できる.また,Halo-Checkerでは暗所の瞳孔径拡大とハローの関係を推測することも可能である.画面周辺部に円を表示すると,視標の円およびその周囲の輝度は変化しないが,画面全体の平均輝度が上昇するため被検眼の瞳孔径は縮小する(図3).ハローが瞳孔径に依存し,縮瞳剤の点眼が有効な例5)ではハローは小さくなることが予測される.ハローの形状,大きさを評価するために,図4のように8方向それぞれでのハロー辺縁の位置番号を記載する.筆者は,簡単のため8方向での位置番号を合計してハロースコアとしている.図4の例ではScotopicでスコア8.5,Photopicで5.0であり,画面全体の輝度を上げて縮瞳させることでハローが縮小したことを数値で表現することができた.図4の例は,LASIK術後で視力は2.0(2.0×sph0.25D)であった.Halo-Checkerでのスコアは,裸眼Scotopicで8.5(図4左),裸眼Photopicで5.0(図4右)であり,完全矯正(0.25D)ではScotopicで6.5,Pho-topicで4となった.完全矯正によりハローはわずかに縮小し,縮瞳を誘導するとさらにハローが軽減するとはいえ,通常の眼鏡矯正ではハローの訴えは解消しないことがわかった.この症例に対して,WaveScan(AMO社)で眼球の波面収差を測定し,そのデータを用いて術後の見え方をシミュレートするPreVueレンズを作製してHalo-Checkerで検査した.PreVueレンズ装用ではScotopic,Photopicのいずれでもハローが消失し,ハローは高次収差の補正で消失することが予測できた.この症例では,裸眼視力2.0で残余近視が0.25Dに過ぎなかったが,高次収差の補正を主目的にVISXStar4レーザーによるwavefront-guidedLASIKによる再手術を施行し,術後ハローは消失して満足を得た.屈折矯正手術後のハローを訴える例では,その不便さ,わずらわしさを的確に表現することの困難さも不満を増強させる可能性がある.患者の訴えを描出し,さまざまな処置による改善効果を判定することで,ハローそのものの改善とともに,感情的な問題を解決することも期待できる.ハローで光源の周囲に発生する光輪は,背景が暗黒でなければ認識しづらい.通常の視力検査では,背景が白で視標が黒く,ハローの評価には不向きである.筆者のHalo-Checkerは,背景を黒とし,視標を明るい白色にしたパワーポイントスライドであり,作成,配布ともに容易に行える.各施設で工夫を凝らしたHalo-Checker画面を作成して活用していただきたい.文献1)Fan-PaulNI,LiJ,MillerJSetal:Nightvisiondistur-bancesaftercornealrefractivesurgery.SurvOphthalmol47:533-546,20022)VillaC,GutierrezR,JimenezJRetal:Nightvisiondistur-bancesaftersuccessfulLASIKsurgery.BrJOphthalmol91:1031-1037,20073)後藤浩也:コントラスト感度.角膜トポグラファーと波面センサー(前田直之ほか編),p211-223,メジカルビュー社,20024)後藤浩也,前田直之,不二門尚ほか:MesotestⅡを用いた薄暮時コントラスト感度の測定.視覚の科学23:41-46,20035)EdwardsJD,BurkaJM,BowerKSetal:Eectofbrimo-nidinetartrate0.15%onnight-visiondicultyandcon-trasttestingafterrefractivesurgery.JCataractRefractSurg34:1538-1541,2008(58)図4LASIK後のハロー(右眼)の1例角膜形状解析によりわずかに上方に偏心照射されていることが判明し,波面収差解析では球面収差とコマ収差が検出された例.瞳孔径の縮小に伴いハローが縮小している.図3HaloChecker高輝度画面(Photopic)視標となる中心部の円とその周囲の輝度を変化させず,画面周辺部に白い円を配置することにより画面全体の輝度を上昇させ,暗所での自然散瞳からの自然な縮瞳を誘導する.

眼内レンズ:Fuchs角膜内皮ジストロフィと水晶体嚢真性落屑

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.7,20099210910-1810/09/\100/頁/JCOPY80歳,女性,平成11年近医にて両眼の白内障と滴状角膜を指摘され,当科紹介受診,Fuchs角膜内皮ジストロフィと診断.左眼には平成13年全層角膜移植(PKP)+白内障手術(外摘出術+眼内レンズ:ECCE+IOL)を施行されており,手術時水晶体に異常は認められなかった.今回,右眼の水疱性角膜症および白内障の進行による視力低下のため,平成19年11月14日PKP+ECCE+IOL施行.入院時の散瞳検査にて,水晶体の異常を指摘.既往歴に右眼外傷,ガラス工など赤外線・熱曝露の職歴はない.図1~4に前眼部写真および組織所見を示す.(55)Fuchs角膜内皮ジストロフィ疾患:Fuchs角膜内皮ジストロフィは常染色体優性遺伝とされており,中年女性に多くみられる(男性の3~4倍).その病態は角膜内皮細胞機能障害とDescemet膜白石敦愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎275.Fuchs角膜内皮ジストロフィと水晶体真性落屑Fuchs角膜内皮ジストロフィは両眼性の角膜内皮障害であり,進行性の実質・上皮浮腫をきたす疾患である.水晶体真性落屑は,水晶体の一部が層間離して前房側に立ち上がるまれな疾患である.本症例はこの2疾患の合併した症例である.図2水晶体真性落屑の前眼部写真水晶体から前房側に立ち上がる膜状組織を認める.図1Fuchs角膜内皮ジストロフィの前眼部写真角膜後面に多数の疣状の突起が観察される(滴状角膜:cor-neaguttata).図3Fuchs角膜内皮ジストロフィの組織像肥厚したDescemet膜が疣状に前房側に突出し,内皮細胞は菲薄化している.図4水晶体真性落屑の組織像水晶体の一部が層間離している組織像が認められる.———————————————————————-Page2の肥厚であり,1~3病期に分けられる.第1期は滴状角膜や色素沈着を認めるもののほぼ無症状.第2期となると,角膜実質・上皮浮腫が出現して羞明・眼痛・霧視・視力低下などの症状を呈するようになる.第3期は持続する浮腫により,実質混濁や血管侵入を認めるようになる.治療:症状が出現するまでは経過観察のみでよいが,角膜浮腫による症状が出現するようになると高張食塩水の点眼・軟膏などで浮腫の軽減治療や,疼痛除去目的にソフトコンタクトレンズ装用をする.さらに視力低下が生じると角膜移植の適応となる.最近までは全層角膜移植が第一選択であったが,現在はDSAEK(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty)の良い適応疾患として積極的にDSAEKが行われるようになっている.滴状角膜Fuchs角膜内皮ジストロフィの特徴とされる滴状角膜であるが,滴状角膜を認めても本症に移行しない症例も多数あり,鑑別は容易ではない.しかし,滴状角膜は角膜内皮細胞がストレスを受けたときにコラーゲンを異常に産生する結果として生じると考えられており,角膜内皮細胞の機能低下や脆弱な状態と推測される.白内障術前検査で無症状な滴状角膜を偶然認めることもあるが,このようなときには術後の内皮機能回復の遅れや,細胞数の低下の可能性を十分に説明しておく必要がある.晶体真性落屑水晶体真性落屑は1922年にElschnigが最初に報告1)した,水晶体の一部が層間離して前房側に立ち上がるまれな疾患である.当初はガラス工などの熱照射を受ける職業の人や,外傷や炎症の既往による発症の報告が相ついで行われていたが,近年これらの既往のない発症例の報告が相ついでなされ,発生原因は不明である.しばしば偽落屑症候群と混同されがちであるが,組織学的に両者はまったく別の疾患である.組織学的検討を行った報告もなされているが,水晶体の離部位も表層2/3,1/3,1/4とさまざまである.正常水晶体でコラーゲンの染色を行ってみると密度により二層性を示すことがわかっており2),離部位との関連が示唆されている(図5).本疾患は無症状であり,白内障手術前検査時に偶然発見されることが多く,通常の白内障手術が可能である.本症例も術前に指摘され,白内障手術が通常に施行されたが,術中,術後経過に特記すべき異常所見は認めていない.近年Fuchs角膜内皮ジストロフィの発症にVIII型コラーゲン(COL8A2)の遺伝子異常が報告されており3),筆者らも各種コラーゲンの検討を行ったが,Fuchs角膜内皮ジストロフィと水晶体真性落屑との合併の明らかな因果関係は現在のところ不明である.文献1)ElschnigA:AblosungderZonulalamellabeiGlasblasern.KlinMonatsblAugenheikd68:732-734,19222)尾形徹也:水晶体及び上皮細胞に関する電子顕微鏡的研究,第1報.正常水晶体について.日眼会誌74:541-548,19703)BiswasS,MunierFL,YardleyJetal:MissensemutationsinCOL8A2,thegeneencodingthealpha2chainoftypeVIIIcollagen,causetwoformsofcornealendothelialdys-trophy.HumMolGenet10:2415-2423,2001図5正常水晶体前のマロリー染色水晶体は密度の違いにより2層に染色される.