———————————————————————-Page1(91)9570910-1810/09/\100/頁/JCOPY19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(7):957960,2009cはじめに原発閉塞隅角緑内障(PACG)は,多治見スタディの日本での有病率は40歳以上の成人の0.6%,原発閉塞隅角症(PAC)も含めると1.3%となる.開放隅角緑内障を含めた全緑内障が5%の有病率で,PACも含めると5.7%となり,その約5分の1程度がPACG,PACで,頻度の少ない疾患とはいえない1,2).急性発作の場合には,レーザー虹彩切開術(LI)あるいは周辺虹彩切除術(PI)が有効な場合が多い.また白内障が存在する場合には,水晶体再建術により前房深度改善,隅角開大,眼圧下降が得られることが報告されている3,4).慢性閉塞隅角緑内障(CACG)は,急性発作と異なり,高眼圧にもかかわらず,角膜は透明で,結膜充血も少なく,自覚症状に乏しいが,持続する高眼圧のため視野異常が進行している例もみられる5).このような周辺虹彩前癒着(PAS)が進行していると考えられる場合には隅角癒着解離術が有用であることが報告されている6,7).水晶体再建術だけでは,〔別刷請求先〕森村浩之:〒664-8533伊丹市車塚3-1公立学校共済組合近畿中央病院眼科Reprintrequests:HiroyukiMorimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KinkiCentralHospital,3-1Kurumazuka,Itami,Hyogo664-8533,JAPAN閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切開術+超音波乳化吸引水晶体再建術の効果森村浩之伊藤暁高野豊久高橋愛公立学校共済組合近畿中央病院眼科EfectivenessofTrabeculotomywithPhacoemulsiicationandAspiration+IntraocularLensImplantationforAngle-ClosureGlaucomaHiroyukiMorimura,SatoruItoh,ToyohisaTakanoandAiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KinkiCentralHospital目的:閉塞隅角緑内障に対しては,従来はレーザー虹彩切開術,最近では白内障があれば水晶体再建術が推奨されるようになってきている.しかし慢性閉塞隅角緑内障ですでに隅角癒着が進行した例,あるいは視野が進行していてより低い眼圧が目標となる例では,隅角癒着解離術での報告が多いが,線維柱帯切開術も有効であると考えられる.今回水晶体再建術+線維柱帯切開術の眼圧下降効果について検討した.対象:平成15年1月から平成20年5月までに当科において閉塞隅角緑内障に対して線維柱帯切開術+水晶体再建術を行った39例46眼.平均年齢69.6歳.結果:術前眼圧平均24.3mmHgから術後眼圧は1カ月後で平均13.3mmHg,6カ月で12.2mmHg,最終観察時(平均24カ月)で12.2mmHgとなり,有意に下降した.結論:慢性閉塞隅角緑内障で隅角癒着が進行し,眼圧コントロール不良例では,水晶体再建術に線維柱帯切開術を併用することは選択肢の一つとなりうると考えられた.Laseriridotomy(LI)orphacoemulsicationandaspiration+intraocularlensimplantation(PEA+IOL)areusu-allyperformedforthetreatmentofangle-closureglaucoma(ACG).Itisalsoreportedthatgoniosynechialysis(GSL)andPEA+IOLiseectiveforchronicACG(CACG)withperipheralanteriorsynechia(PAS).Inthesameway,trabeculotomyisconsideredeectiveforACGtreatment.WereporttheoutcomeoftrabeculotomyandPEA+IOLforCACGinaretrospectivestudyof46eyesof39patientswhoweretreatedwithtrabeculotomyandPEA+IOLduringa5-yearperiod.Ageatsurgeryaveraged69.6years.Intraocularpressure(IOP)averaged24.3mmHgbeforesurgeryand13.3mmHgat1month,12.2mmHgat6monthsand12.2mmHgat24monthaftersurgery.TrabeculotomyandPEA+IOLisonesurgicaloptionforuncontrolledCACGwithPAS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(7):957960,2009〕Keywords:線維柱帯切開術,閉塞隅角,緑内障,超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,眼圧.trabeculotomy,angle-closure,glaucoma,phacoemulsicationandaspiration+intraocularlensimplantation,intraocularpressure.———————————————————————-Page2958あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(92)隅角を開放させることがむずかしい場合には,水晶体再建術と隅角癒着解離術(GSL)を併用することにより,より良好な眼圧下降が得られることも報告されている810).一方,流出路再建術である線維柱帯切開術が閉塞隅角緑内障に対して,眼圧下降効果があったとの報告もある11,12).少数例ではあるが,水晶体再建術+線維柱帯切開術+隅角癒着解離術も有効な例が報告されている13).PASの進行したCACGでは隅角を開大させる水晶体再建術,房水流出路再建術であるGSL,線維柱帯切開術は,有効な手術治療法であると考えられる.閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切開術の効果については報告が少なく,評価も定まっていないので,今回筆者らは,CACGに対して,線維柱帯切開術と水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)の併用手術を初回手術として行った症例を対象に,その眼圧下降成績の検討を行った.I対象および方法平成15年1月から平成20年4月の間に当科で線維柱帯切開術+PEA+IOLを行い,術後3カ月以上経過観察できたCACG39例46眼,隅角検査において正面位で線維柱帯が観察できず,圧迫隅角検査によりPASが確認でき,立体的眼底検査で緑内障性視神経乳頭変化,Humphrey自動視野計あるいはGoldmann視野計で緑内障性視野異常のみられた症例を対象とした.術前の視野異常の程度は,Hum-phrey視野検査では固視不良,偽陰性,偽陽性の信頼性に欠けるデータもあったため,Goldmann視野検査を湖崎分類で行った.IIaからVaまでで,IIaが4例4眼,IIbが1例1眼,IIIaが25例31眼,IIIbが4例5眼,IVが3例3眼,Va期が2例2眼であった.約80%がIII期の症例であった.全例LI以外に手術治療の既往はなかった.LIが行われていたのは18例21眼あった.術前のPASの割合はテント状PASから95%PASの症例まであり,50%以上のPASがみられたのは28例32眼(70%)であった.内訳は男性11例,女性28例,手術時の平均年齢は69.6歳(4188歳)で,術後平均経過観察期間は24.0カ月(363カ月)であった.術式は全例術前のPASの存在する位置とは無関係に,将来線維柱帯切除術が必要になるかもしれないことを考え上方結膜は温存して,耳下側から二重強膜弁を作製し,同一部位からPEA+IOLを行い,その後に線維柱帯切開術を行った.二重強膜弁の内層弁は切除し,外層弁を房水漏出のないよう縫合,結膜縫合で終了した.術前眼圧は,手術直前3回の平均眼圧値とし,手術後は定期的な眼圧測定,緑内障点眼薬投与を含む検査診療を行った.統計学的解析はt-検定を用いて,危険率1%未満を有意差ありとした.累積生存率をKaplan-Meier法で,カットオフ眼圧を18mmHg,15mmHg,12mmHgとして求めた.エンドポイントの定義は,2回連続して条件眼圧を超えた場合の最初の時点あるいは新たな手術治療を行った時点とした.II結果全症例の術前の平均眼圧は24.3±7.2mmHgで,術後最終観察時眼圧(平均24カ月)は12.2±3.3mmHgとなり,有意に低下した.術後1カ月で13.3mmHg,3カ月で12.4mmHg,6カ月で12.2mmHg,12カ月で12.6mmHg(27眼),18カ月で12.8mmHg(23眼),24カ月で12.8mmHg(22眼)といずれの期間においても術前眼圧と比較して有意に低下していた(図1).術後最終観察時眼圧は720mmHgで,全例20mmHg以下にコントロールされていた.しかし1例は,眼圧は1115mmHgに24カ月間コントロールされていたが,視野の進行がみられたため,さらに眼圧下降を行うために線維柱帯切除術が行われた.15mmHg以下に39眼(85%),12mmHg以下に22眼(48%)がコントロールされた.緑内障点眼薬については,アセタゾラミド内服を2剤として計算し,術前平均薬剤数は2.8±1.2本であったが,術後最終観察時の平均薬剤数は0.8±0.9本と有意に減少し,ア0.05.010.015.020.025.030.035.040.0術前46***********観察期間(月)眼圧(mmHg)4643363127252322224613691215182124最終眼圧24.313.312.412.212.112.612.612.812.312.812.2眼数*p0.001図1全症例の術後平均眼圧経過術眼圧眼圧眼図2PASが50%以上認められた症例の術後平均眼圧経過———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009959(93)セタゾラミド内服症例はなかった.術前のPASの程度と術後最終観察時眼圧との関係は,PASが50%未満の症例では12.5mmHg,50%以上PASが存在した症例では12.1mmHgと両者に有意差はみられなかった.50%以上PASが存在した28例32眼について図1と同様に平均眼圧の推移を図2に示した.全期間にわたり全症例と比較して高くなっていたが,1mmHg以上の差はなく,有意差もみられなかった.今回線維柱帯切開術を行った耳側にPASが存在した症例は25例27眼であり,その術前のPAS率は72.4%であった.手術後は全例で線維柱帯切開部のPASは減少し,10例で線維柱帯切開部のクレフトへのテント状PASがみられた.術後最終観察時の平均PAS率は29.3%となり,有意に減少したが,線維柱帯切開を行っていない部位ではPASは残されていた.Kaplan-Meier法を用いた眼圧コントロール率は,術後2年では,18mmHgをカットオフとした場合は96%,15mmHgでは70%,12mmHgでは39%であった.術後3年の結果は,18mmHgで91%,15mmHgで50%,12mmHgで26%であった(図3).III考按原発閉塞隅角緑内障に対しては,瞳孔ブロックの解除のためLIやPIが推奨されており,白内障の存在する眼では,水晶体再建術も行われている3,4).またGSLが単独で有効であったとの報告もある6,7).しかし,それだけではPASが進行しているため眼圧下降不十分な症例もみられ,GSL+PEA+IOLのほうが眼圧コントロールが有効であったとの報告も多数されている8,9).今回の白内障手術術式と同じであるPEA+IOLとGSLの同時手術も長期にわたり有効であったと報告されている10).GSL単独とGSL+PEA+IOLを比べた場合,年代,施設が異なり単純に比較はできないが,GSL単独では“highteen”となり,GSL+PEA+IOLでは15mmHg前後と単独手術より23mmHg低くコントロールできると考えられる7,10).結膜切開を行わないPEA+IOL+GSLは将来線維柱帯切除術が必要になったときにも無傷の結膜が残存しており,生理的房水流出路を再建する優れた術式である.閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切開術の有効性については,白内障手術を併用しない単独手術を行い,点眼治療も含め21mmHgをカットオフ値とした場合,渡辺らは13眼中12眼(93%),山城らは21眼中20眼(95%)でコントロールできたと報告している11,12).単独手術で比較した場合,山城らは,経過観察期間が線維柱帯切開術では45.3±28.5カ月,GSLでは19.8±19.6カ月と異なるが,同様の条件でのGSLの成功率が74%であると報告しており,単独手術ではGSLより線維柱帯切開術の優位が示唆される.しかし症例数が少なく,両術式間に有意差は認められず,両術式とも閉塞隅角緑内障に対して有効であった12).線維柱帯切開術では,単独手術でもGSLより低くなることが報告されている12).施設・年代が異なり,単純に比較できないが,今回の線維柱帯切開術+PEA+IOLでは平均観察期間が24カ月とまだ短いこともあり12.2mmHgと低値となった.PASが50%以上に認められた症例を選択して検討した場合も図2のように平均観察期間が24カ月と短いが12.1mmHgとなり,全期間にわたり平均眼圧14mmHg以下にコントロールできた.今回線維柱帯切開術を行った耳側に術前PASが認められた症例では,術前PAS率72.4%が術後最終観察時のPAS率が29.3%となっていたことは,GSL+PEA+IOLの成績,術前76.3%,術後24.3%10)と比較すると術前のPASに関しては同程度であったが,術後のPAS率は線維柱帯切開術+PEA+IOLのほうが高値であった.施設,観察期間,症例数が異なり,単純に比較はできないが,術後のPAS率が高率にもかかわらず眼圧は低くなっていることを考えると,線維柱帯切開術+PEA+IOLではPASの開放に加えて,線維柱帯切開の効果が眼圧下降に寄与している可能性が考えられた.これらのことより線維柱帯切開術+PEA+IOLでは,より低い眼圧が期待できると考えられる.開放隅角緑内障に線維柱帯切開術が行われた場合には,術後眼圧は1518mmHgになると報告されている14)ので,閉塞隅角緑内障に対して行う線維柱帯切開術+PEA+IOLは,線維柱帯の機能低下が開放隅角緑内障ほど悪くないと推測され,低い眼圧を達成できたのではないかと考えられる.しかし,線維柱帯切開術+PEA+IOLの場合には,最終的な平均眼圧は12.2mmHgと良好であるが,線維柱帯切除術と異なり,日内変動や季節変動があり,緑内障点眼薬を投与する例が多いため点眼薬投与前の眼圧が高値となることから,Kaplan-Meier法を用いた眼圧コントロール率では,18mmHgをカットオフとした場合は9割以上と良好であるが,15mmHg,120102012mmHg15mmHg18mmHg30観察期間(月)405060眼圧コントロール率(%)0102030405060708090100図3全症例のKaplanMeier法による累積眼圧コントロール率———————————————————————-Page4960あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(94)mmHgとより低い眼圧をカットオフとした場合にはそれぞれ5070%,30%程度と成績が悪くなった.視野異常が湖崎分類I期のように早期であれば,目標眼圧が“highteen”で,GSL+PEA+IOLは十分に目標眼圧を可能にすることができ,良い術式選択と思われる.湖崎分類III期と中期に視野進行した症例になると,“middleteen”以下の眼圧が目標になると考えられ,PEA+IOL+線維柱帯切開術は眼圧変動,緑内障点眼薬投与の必要性など,常時“lowteen”を維持することはむずかしいという問題もあるが,平均眼圧として“lowteen”にコントロールすることは可能なので,GSL+PEA+IOLに加えて術式選択肢としてよいと考えられる.しかし線維柱帯切開術の場合,結膜切開の必要性,前房出血,一過性眼圧上昇などの合併症などGSLに比べると不利な点もあるため,慎重な手術症例の選択が必要と考えられる.視野変化が非常に進行した湖崎分類V期のような例では10mmHg程度あるいはそれ以下の十分に低い眼圧が目標とされるので,線維柱帯切除術が第一選択として行われるべきであると考えられる.今回,湖崎分類Va期で線維柱帯切開術+PEA+IOLを行った2眼については,1眼は41歳の症例で,若年であったため初回手術で濾過胞形成がためらわれ今回の術式を選んだ.その結果眼圧は1115mmHgとコントロールできたが24カ月の経過観察でさらに視野進行をきたしたため,結果的には線維柱帯切除術を行った.線維柱帯切除術後は48mmHgに下降し,その後2年経過しているが,視野の進行はまだみられていない.初回手術で,線維柱帯切除術を選択する方法もあったのではないかと思われる.もう1眼は67歳の症例で片眼が慢性閉塞隅角緑内障で高眼圧に気づかず失明に至った僚眼で,合併症などの安全性を考え,初回手術として,線維柱帯切開術+PEA+IOLを行った.経過は術後3年であるが,710mmHgで推移しており,視野,視力とも維持できている.PEA+IOL+線維柱帯切開術は,GSLと線維柱帯切除術の間に位置し,術式選択のむずかしい面もあるが,閉塞隅角緑内障手術治療の選択肢の一つとして考えられてよい術式であると思われた.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20053)GunningFP,GleveEL:Lensextractionforuncontrolledangle-closureglaucoma:Long-termfollow-up.JCataractRefractSurg24:1347-1356,19984)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Changesinanteriorchamberanglewidthanddepthafterintraocularlensimplantationineyeswithglaucoma.Ophthalmology107:698-703,20005)大鳥安正:慢性閉塞隅角緑内障の診断と治療.あたらしい眼科22:1193-1196,20056)CampbellDG,VelaA:Moderngoniosynechialysisforthetreatmentofsynechialangle-closureglaucoma.Ophthal-mology91:1052-1060,19847)永田誠,禰津直久:隅角癒着解離術第1報.臨眼39:707-710,19858)永田誠,禰津直久:隅角癒着解離術第2報.難治性閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術と眼内レンズ併用手術.眼臨80:2149-2152,19869)TaniharaH,NishiwakiK,NagataM:Surgicalresultsandcomplicationsofgoniosynechialysis.GraefesArchClinExpOphthalmol230:309-313,199210)安藤雅子,黒田真一郎,永田誠:閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術と白内障同時手術の長期経過.眼科手術18:229-233,200511)渡辺則夫,竹内正光,三木弘彦:原発閉塞隅角緑内障に対するトラベクロトミーの長期経過.眼紀48:971-974,199712)山城健児,谷原秀信:原発閉塞隅角緑内障に対する手術成績と術前眼圧変動幅.眼臨91:1161-1164,199713)小松務,横田香奈,松下恵理子ほか:緑内障病型別にみた線維柱帯切開術の成績.臨眼61:1039-1043,200714)寺内博夫,永田誠,松村美代ほか:Trabeculotomypro-spectivestudy(術後10年の成績).あたらしい眼科17:679-682,2000***