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コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法(2ウィークアキュビュー邃「 バイフォーカル)

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.7,20099190910-1810/09/\100/頁/JCOPYCL)の選択ワタナベ眼科では,数種類(ハード1種類,ソフト3種類)の老視用のバイフォーカルのコンタクトレンズ(BFCL)を処方している.そのなかで,今回取り上げる2ウィークアキュビューRバイフォーカルは圧倒的に多く使用されている(図1).2ウィークアキュビューRバイフォーカルを使い始めたら満足する者が多く,ワンデーアキュビューRモイストなどとの併用はあっても,他のCLに変更する者は少ない.その理由は,2ウィークアキュビューRバイフォーカルの独特のデザインにある(図2).図3に示すように,光学部は中心から同心円状に5つのゾーンがあり,中心から遠用度数と近用度数が交互に配置された多重同心円のデザインになっている.瞳孔径に影響されず遠近ともに安定した視力が得られる(図4).他のBFCLは,中心部が近用で周辺部が遠用であったり,中心部が遠用で周辺部が近用であったりするため,瞳孔径の変化による視力の変動がある.(53)2ウィークアキュビューRバイフォーカルの場合,図5に示すように,薄明かりの場合は,瞳孔径は大きく,5つのゾーン全部を使って見ることになり,中間の明か渡邉潔ワタナベ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純私のコンタクトレンズ選択法301.2ウィークアキュビューRバイフォーカルレンズ直径14.2mmベースカーブ8.5mmッ厚0.065mm中心厚0.075mm図22ウィークアキュビューRバイフォーカルのレンズデザイン図12ウィークアキュビューRバイフォーカル遠用部近用部図42ウィークアキュビューRバイフォーカルの遠見と近見遠用部近用部遠用部遠用部近用部54231図32ウィークアキュビューRバイフォーカルの多重同心円のゾーン明かるさ瞳孔イズ瞳孔イズに対応したレンズ光学部薄明かり中間明かるい瞳孔径大瞳孔径中瞳孔径図52ウィークアキュビューRバイフォーカルの瞳孔径の変化への対応———————————————————————-Page2920あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(00)るさでは4つのゾーン,明かるい所では3つのゾーンで見ることになる.すなわち,明かるさによって見え方が大きく変化することがない.他のBFCLのデザインで,中央が近用部,周辺部が遠用部のデザインの場合,明かるい所では近くにしかピントが合わないことになる.老視の初期であれば,他のデザインのBFCLでも対応できるが,老視が進行すれば対応できなくなる.なお,視線を変えて度数を使い分ける遠近両用の眼鏡に比べて,同時視型のBFCLは,入ってきた光を遠見と近見に分けるため情報量が減るので,見え方がやや悪いことを説明しておいたほうがよいであろう.BFCLの処方のコツ老視の初期の段階は,BFCLを処方する前に,近視眼の場合は単焦点CLを低矯正にして近見を有利(遠見がやや見えにくい状態)にしておく.これは,つぎにBFCLを処方するためには重要なステップである.なぜなら,BFCLを装用すると遠見視力がやや低下するので,それに慣れるためには,あらかじめ低矯正にしておいたほうが処方しやすいからである.BFCLの処方は,遠見はやや見にくいとの訴えはあっても,日常生活が快適に過ごせる視力を選択する.老視の初期では,遠見視力は1.0以上を狙って度数の決定をする.加入度数の目安は,4650歳は+1.50D,5157歳は+2.00D,58歳以上は+2.50D以上と考える.加入度数は,大きいほど遠見視力が低下することを知っておく必要がある.近視(遠視)度数による満足度の違いがあることを知って処方に臨む必要がある.遠視や中等度以上の近視の場合は良い適応である.軽度近視や正視の場合は,裸眼のほうが見えやすいという訴えがあり,処方に失敗することがある.また,残余乱視が1.25D以上あると見えにくいという訴えがある.おわりに2ウィークアキュビューRバイフォーカル装用者には,ゴルフをするときだけ遠見重視のワンデーアキュビューRモイストを装用させることが多いが,バイフォーカルでも問題なくプレーできるという装用者もいる.2ウィークアキュビューRバイフォーカルの処方の成功の因子には,性格,年齢,近視度数などが大きく影響する.文献1)植田喜一:遠近両用ソフトコンタクトレンズの特性.あたらしい眼科18:435-446,20012)塩谷浩:各種バイフォーカルコンタクトレンズの選択.あたらしい眼科18:463-468,20013)糸井素純:老視に対するコンタクトレンズ処方.あたらしい眼科18:1251-1257,20014)渡邉潔:頻回交換およびディスポーザブルのバイフォーカルコンタクトレンズの多施設試験.あたらしい眼科19:1601-1607,20025)渡邉潔:遠近両用コンタクトレンズによる老視対策.あたらしい眼科22:1041-1044,2005表12ウィークアキュビューRバイフォーカルの性状材質:EtalconAFDA分類:グループⅣ製法:StabilizedSoftMolding製法ベースカーブ:8.5mmパワー:度数+3.00D9.00D+3.00D6.00D(0.25Dステップ),+6.00D9.00D(0.50Dステップ)加入度数+1.00D,+1.50D,+2.00D,+2.50D直径:14.2mm中心厚(3.00D):0.075mm含水率:58%酸素透過係数*(Dk値)28酸素透過率**(Dk/L値)37.3紫外線対策:紫外線カット表裏マーク:“123”マーク付き着色:あり*:×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml・mmHg).**:×109(cm・mlO2/sec・ml・mmHg)測定条件35℃.2000年5月,日本において全国発売.医療用具承認番号20600BZY00128000.

写真:モラクセラ眼瞼結膜炎

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.7,20099170910-1810/09/\100/頁/JCOPY(51)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦302.モラクセラ眼瞼結膜炎図2図1のシェーマ①:充血,②:眼脂の付着,③:眼瞼縁の発赤.②③①図4図3のシェーマ①:びらん,②皮膚の発赤,一部落屑様変化.②①図1眼瞼結膜炎結膜からMoraxellalacunataが分離された小児の症例.(写真提供:金沢医科大学北川和子先生のご厚意による)図3外眼角炎びらんを伴った外眼角炎の症例.細菌培養ではブドウ球菌が分離された.(写真提供:ルミネはたの眼科秦野寛先生のご厚意による)川徳島診療所———————————————————————-Page2918あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(00)モラクセラ(Moraxella)菌はグラム陰性の大型の双桿菌である.古くから外眼部感染症の原因菌として知られ,結膜炎,眼瞼炎などを起こす.なかでも外眼角の眼瞼皮膚にみられる外眼角炎はよく知られている.代表的菌種はMoraxellalacunataで,モラー・アクセンフェルド菌ともよばれ,菌体は長さ1~2μm,幅1μmほどの大きさである.グラム陰性の大型の双桿菌であるため,塗抹標本で非常にわかりやすく,形態学的には診断は容易である.しかし,分離培養が困難でなかなか分離できない.したがって,診断には塗抹検査が非常に重要である1).臨床所見としては結膜の充血,眼脂がみられ,外眼角炎では皮膚のびらんや開瞼時の違和感を自覚することがある.臨床的に眼瞼結膜炎(図1),あるいは外眼角炎と診断することは比較的容易であるが,臨床像から起炎菌を推定することはむずかしい.同様な眼瞼結膜炎や外眼角炎を起こすものとしてブドウ球菌がある(図3)が,両者の鑑別には細菌培養検査が必要である.ここで注意すべきことは,外眼部の場合,培養によって検出された菌が起炎菌(原因菌)とは限らないという点である2).特に,モラクセラのように分離しにくい菌は,原因菌であったとしても培養で検出されないことが十分にありうる.場合によっては皮膚に常在するブドウ球菌のみが分離されて,誤って起炎菌と判定されることがある.正しい起炎菌を捕らえるには塗抹検査を行うことが大切で,塗抹所見と培養結果の乖離がないかを確認して最終的に起炎菌を決定すべきである.前述したようにモラクセラは眼科領域では代表的な眼瞼結膜炎の原因菌であるが,実際に分離される頻度はあまり高くない.金沢医科大学の結膜炎患者からの分離菌の報告3,4)では,M.lacunataの分離頻度は1.26~2.06%程度で,ここ10年ほどはほとんど分離されていないようである.モラクセラは分離されにくい菌であるため,実際の頻度はもう少し高いと考えられるが,現在では眼瞼結膜炎よりもむしろ角膜潰瘍の原因菌として重要な位置を占めている.モラクセラは通常ほとんどの抗菌薬が奏効する.結膜炎にはフルオロキノロン点眼薬1日3回,眼瞼炎,外眼角炎には眼軟膏1日2回程度で治療する.文献1)秦野寛:モラクセラ外眼角炎眼感染症セミナー8.あたらしい眼科21:63-64,20042)工藤成樹,秦野寛,栗田正幸ほか:角膜潰瘍における塗抹検査と培養検査の比較検討.眼紀46:1231-1233,19953)浅野浩一,村山禎一朗,北川和子ほか:外眼部感染症分離菌とその薬剤感受性(1989年~1993年).眼科41:1035-104219994)武田秀利,北川和子,山村敏明ほか:金沢医大受診患者を対象とした外眼部感染検出菌の検討1985~1988年の検討.眼科32:420-442,1990

糖尿病網膜症の治療戦略:より良い視力予後を目指した治療戦略確立への道

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPYによる視力障害者は緑内障についで2位であり,依然として約2割を占めていた2).糖尿病発症年齢の若年化もみられ3),若年発症者は老齢者での発症に比較して重症化しやすい4).このため,失明を防ぐのみでなく生涯にわたる良好な視力を保持するには,糖尿病網膜症の早期発見,早期治療がきわめて重要な意義をもつ.本稿では,疫学的な研究による糖尿病網膜症のリスク評価研究による治療戦略について解説したい.I糖尿病網膜症の眼科:内科診療連携と国際重症度分類の意義糖尿病網膜症の眼科的治療としては,血糖や血圧などの全身因子のコントロール,網膜光凝固,硝子体手術が広く行われており,失明を予防するために著しい効果が得られている5).その治療戦略のエビデンスとなっていはじめに糖尿病網膜症は糖尿病の細小血管合併症の一つであり,進行すると重篤な視力障害をきたす.糖尿病患者は世界中で急速に増加しており,WildSらのメタアナリシスによると,2000年で日本での患者数推計約680万人が2030年では約900万人になると予想されている1).しかし,厚生労働省国民栄養調査によると,糖尿病が強く疑われる人の推計値は,1997年690万人,2002年740万人,2006年820万人と上記のペースをはるかに上回るペースで増加していることがわかり,大変重大な問題になっている(表1).糖尿病患者数の増加に伴い糖尿病網膜症を有する患者数も増加していると考えられる.1991年の調査によると糖尿病網膜症は日本人の後天性視覚障害(身体障害者手帳発給をデータベースとして)の第1位を占め,視力障害者の約2割を占めていた.2005年度に同様の方法で調査した結果,糖尿病網膜症(45)9111HidetosiamasitaSaioaano:2obuioamadaHioitoSone:3eioamamoto:病4yoKaasai:CenteoyeeseaAustalianiesityoelboune5aamasaKayama:C:9909585222たしい26(7):911915,2009c第14回日本糖尿病眼学会特別講演糖尿病網膜症の治療戦略:より良い視力予後を目指した治療戦略確立への道StrategyinDevelopingTreatmentModalitiesforDiabeticRetinopathy─NewParadigmforBetterQualityofVision─山下英俊*1山田信博*2曽根博仁*2山本禎子*3川崎良*4中野早紀子*1嘉山孝正*5総説表1日本における糖尿病患者数の動向(厚生労働省調べ)厚生労働省国民栄養調査平成9(1997)年平成14(2002)年平成18(2006)年糖尿病が強く疑われる人約690万人約740万人約820万人糖尿病の可能性が否定できない人約680万人約880万人約1,050万人合計約1,370万人約1,620万人約1,870万人過去9年にわたり急速に糖尿病が強く疑われる人の数が増加している.———————————————————————-Page2912あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(46)る研究であるDiabeticRetinopathyStudy(DRS),EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)は,ハイリスクの増殖糖尿病網膜症への進行のリスクを抑制し,失明を予防するために行うべき適切な治療についての検討であり,その成果はきわめて著しい(図1)5,6).今後,このような重症な糖尿病網膜症による失明を減らすには,網膜症を発症させない(一次予防),重症化させない(二次予防)の体制整備が重要であり,眼科-内科の診療連携がますます必要となる.内科と眼科との連携の基本は診療情報の共有であり,内科医にとってわかりにくい網膜症の重症度をわかりやすく,エビデンスに基づいて作成された国際重症度分類が提唱された7).国際糖尿病網膜症重症度分類は,2002年のAmericanAcademyofOphthalmologyにおいて新たに発表された網膜症分類である7).この国際分類は,米国で行われたETDRS,WisconsinEpidemiologicStudyofDiabeticRetinopathy(WESDR)など大規模な臨床研究のエビデンスに基づき,増殖網膜症に進行する危険性などに観点をおいた重症度分類であること,臨床の現場で検眼鏡所見をもとに分類することなどの特徴がある.これにより眼科医間にとどまらず,眼科医と内科医間における情報交換を行うための重症度分類としても用いられることを目的としている.糖尿病網膜症を網膜症なし(noapparentretinopathy),非増殖糖尿病網膜症(non-pro-liferativediabeticretinopathy:NPDR),増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy),と大きく3群に分け,さらに非増殖糖尿病網膜症を進展するリスクによりmild,moderate,severeの3群に分類している.(1)網膜症なし:糖尿病を発症していても網膜症の発症をみない時期.(2)軽症非増殖網膜症(mildNPDR):網膜毛細血管瘤のみを認めるものである.(3)中等症非増殖網膜症(moderateNPDR):毛細血管瘤以上の病変が認められるが重症非増殖網膜症よりも軽症のものである.血管透過性が亢進するために血漿成分が血管外へ漏出し,網膜浮腫をきたす.浮腫が吸収される過程で蛋白成分が網膜に沈着して硬性白斑として認められる.1年後に早期増殖糖尿病に進展する割合が5.426%,ハイリスクの増殖糖尿病(視神経乳頭部の新生血管や硝子体出血発症例)に進展する割合が1.28.1%とされる.(4)重症非増殖網膜症(severeNPDR):眼底4象限での20個以上の網膜内出血,眼底2象限でのはっきりとした数珠状静脈,明確な網膜内細小血管異常(IRMA),のいずれかの所見を認め,かつ増殖網膜症の所見を認めないものである.この病期では,特に毛細血管レベルの網膜小血管が閉塞し血液循環が悪化する.1年後に早期増殖糖尿病網膜症に進展する割合は50.2%とされる.(5)増殖網膜症(PDR):新生血管もしくは硝子体/網膜前出血のいずれかを認める.新生血管とは,毛細血管閉塞領域から産生される血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)など多くの生理活性物質の作用により生じる脆弱な異常血管である.新生血管は硝子体を足場として伸展し,牽引により容易に出血する.この分類の重症度の基準となるのはハイリスクの増殖網膜症への進行の確率の高さであり,これをもとにした治療戦略もハイリスクの増殖網膜症を阻止して社会的な失明を予防することにある.しかし,現時点での治療の目的は,失明防止に加えてよりよい視力予後(qualityofvisionの改善)であり,今後の問題点としてはいかにして後者の目的を達成するかである.II治療戦略:全身的な危険因子の検討とコントロールの目標の設定糖尿病網膜症において,より良い視力予後を達成する戦略はやはり,早期発見,早期治療を可能にする一次予防,二次予防の対策である.戦略的アプローチをするためには疫学的なエビデンスを積み上げる必要がある.現失明率(%)50403020100:未治療の眼(DRS研究):光凝固術治療の眼(ETDRS研究):光凝固術治療患者(ETDRS研究)246(年)図1増殖網膜症患者における光凝固術の効果ハイリスクの増殖網膜症で治療しなかった場合(△)に比較して,重症非増殖網膜症またはハイリスクになっていない増殖網膜症で光凝固した場合には,眼(□),患者(◆)の双方で失明する確率がきわめて低い.(文献6より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009913(47)状について述べる.1.Hospitalbasedstudyからみた全身因子血糖値や血圧など全身的な危険因子のコントロールは網膜症の発症,進展を抑制するうえで基本的かつ重要な治療であり,網膜症のどの時期でも対象となる.その治療目標の設定はエビデンスに基づいて行う必要がある.日本人におけるhospital-basedstudyによる疫学研究のエビデンスとしては,KumamotoStudy,JapanDiabe-tesComplicationsStudy(JDCS)がある.KumamotoStudyは熊本大学代謝内科で七里教授(当時)を中心として行われた2型糖尿病日本人を対象としたhospital-basedstudyの疫学研究である8).同研究では,10年間の経過観察を行い,空腹時血糖値,ヘモグロビンA1C(HbA1C)値は,中間型インスリン継続治療群(CIT群)に比し,頻回インスリン治療群(MIT群)で有意な低値となったことが示された.MIT群における厳格な血糖コントロールにより網膜症の悪化が一次予防および二次介入ともに,CIT群に比し,MIT群で有意な低率となった(図2).また,KumamotoStudyでの統計解析の結果,HbA1Cが6.5%未満,食後2時間血糖値が180mg/dl未満であれば細小血管合併症の出現する可能性が少ないことが報告されており,日本糖尿病学会でのガイドラインの治療の目標となっている8).JapanDiabetesComplicationsStudy(JDCS)は,1996年にわが国で始められた2型糖尿病の多施設大規模介入研究であり,欧米以外では初めてのものである9).2008年現在も継続中で,生活習慣介入の長期効果を検討する介入研究であると同時に,登録者全体の糖尿病合併症の実態について前向きに追跡研究しており,日本人における糖尿病血管合併症についての貴重な疫学データとなっている9).JDCSでは,網膜症の実態研究としては,2つのグループでの観察となっている.すなわち,登録時に網膜症がない者および軽症中等症非増殖網膜症(単純網膜症)の者を登録し,前者を対象に網膜症の新規発症率(一次予防)を,後者を対象に進展増悪率(二次介入)をそれぞれ検討した.中間結果では,網膜症のない患者の1年当たり3.4%に網膜症が発症していた.これは,以前のわが国における報告10)の年約4%に比較的近い値である.Sasakiらの報告が,19601979年に初診した2型糖尿病患者のうち網膜症のなかった976人(平均年齢52歳,平均糖尿病罹病期間3年)を,平均8.3年間追跡した結果の解析であり10),約20年の間に網膜症発症率ではあまり変化がなかったことになる.また,軽症中等症非増殖網膜症(単純網膜症)を有していた患者の1年当たり1.3%に重症非増殖網膜症(前図3JDCSにおける開始時HbA1Cレベル別の網膜症累積発症率(Kaplan-Meier解析)詳しくは本文を参照.(文献9より)1.00.80.6網膜症未発症者率(%)001234開始時からの経過年数(年):HbA1C:7.0%未満:HbA1C:7.0%以上9.0%未満:HbA1C:9.0%以上図2KumamotoStudyにおける網膜症の推移(文献8より)80706050403020100積悪化率(%)012345678109経過期間(年)一次予防従来インスリン療法群強化インスリン療法群80706050403020100累積悪化率(%)012345678109経過期間(年)二次介入従来インスリン療法群強化インスリン療法群———————————————————————-Page4914あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(48)増殖症)または増殖網膜症の進展増悪が認められた.日本人における進展増悪率のデータは網膜症発症率と比較すると少ないため貴重なデータとなっている9).網膜症発症のリスクファクターの解析の結果(一次予防),糖尿病罹患期間,HbA1C,収縮期血圧であり,進展増悪のリスクファクターとしてはHbA1Cが有意となった9).網膜症発症と層別化したHbA1Cでリスクを計算すると,HbA1Cが7%未満の患者と比較して,HbA1Cが78%の層の網膜症発症のリスクは2倍,810%の層では約3.5倍,10%以上の層では7.6倍にも上ることが明らかになった(図3).このような定量的なリスク評価について,日本人の糖尿病におけるデータはこれまでにあまりないきわめて貴重なものであり,網膜症発症,進展を予防する医療の確立のために大切なエビデンスとなる.2.Populationbasedstudyから山形大学医学部では山形県舟形町における住民健診をもとにした疫学研究(舟形町研究)を行ってきた11)が,山形大学眼科においてのその研究の一環として網膜症の有病率とその関連因子を検討した.その結果,住民のうち9.0%に網膜症がみられ,高齢,BMI(bodymassindex)高値,IFG(impairedfastingglucose),IGT(impairedglucosetolerance)が関連していた.糖尿病患者の23.0%に網膜症がみられ,糖代謝正常者,IFG,IGTにおいてはそれぞれ7.7%,10.3%,14.6%に網膜症が認められた.耐糖能障害がある場合には,網膜症の有病率は1.53倍(オッズ比)に上昇し.IFGではオッズ比が1.23と有意な相関がみられなかったのに対し,IGTでは1.63と有意に相関していることがわかった12).これらは食後高血糖が網膜症有病率に関連することを示している.一方,食後高血糖よりもHbA1C値で表わされる血糖コントロールの平均値のほうが網膜症の発症・進展に影響するという意見もある.Lachinら13)は,DiabetesControlandComplicationsTrial(DCCT)について解析し,従来治療群と強化治療群を比較した場合に,HbA1Cほど網膜症の発症や進展に関連する因子はないと報告している.一次予防,二次介入の戦略策定のためにも今後のさらなる検討が必要と考えられる.舟形町研究ではメタボリックシンドロームと網膜病変の関連についても検討した.メタボリックシンドロームはおもに動脈硬化,心筋梗塞,脳卒中のリスク因子の多様性に着目した概念であるが,近年,網膜病変など細小血管障害との関連も検討されている.筆者らはこれまでにメタボリックシンドロームの構成要素である高血圧,肥満,高脂血症などが網膜細動脈硬化,網膜症と関連していることを検討した.さらに個々の危険因子間での相乗効果を検討した.メタボリックシンドロームはInter-nationalDiabetesFederationの定義で診断した.メタボリックシンドロームの個々の危険因子と網膜所見には,肥満とびまん性静脈拡張および網膜症,高血圧と網膜細動脈の局所狭細化・動静脈交叉現象・血柱反射亢進・びまん性狭細,高トリグリセリド血症と血柱反射亢進などの関連があった.メタボリックシンドローム自体は網膜症(オッズ比1.6,95%信頼区間:1.02.6)とびまん性静脈拡張(+4.7μm95%信頼区間:1.28.2μm)に関連していた14).これらの結果は,メタボリックシンドロームは網膜所見と関連しているものの,個々のメタボリックシンドローム構成要素による相乗効果は認められなかった.III今後の展望1.一次予防,二次予防の推進のための健診体制の整備久山町研究15)は,1960年代よりスタートしており,眼科分野での解析は九州大学眼科が1998年から参加している.1998年には,糖尿病の有病率は16.3%,そのうち網膜症の有病率は15.8%であった.5年後の2003年には,糖尿病の有病率は19.0%にみられたが,そのうち網膜症は10.5%であった.5年間で糖尿病の割合が増加しているが,網膜症の割合は減少していた15).対象者全員が健診実施により厳格な診断基準をもとにした治療が行われるようになったことの効果も考えられ,健診を行うことが網膜症の一次予防に有用であることを示す貴重なエビデンスを提供している.血糖コントロールの大切さを示しているDiabetesControlandComplica-tionTrial(DCCT)/EpidemiologyofDiabetesInterven-tionsandComplications(EDIC)報告より,厳格な血糖コントロールをなるべく早期に行うことが網膜症発症および進展によい効果をもたらすことを示しており,この久山町のエビデンスとあいまって,今後,健診体制の整備が重要であることがわかる.2.網膜症治療薬の開発現時点では網膜症の発症,進展を抑制する一次予防,———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009915(49)二次予防のための治療薬は承認されていない.病態についての詳細な研究成果が上がってきており16),病態に応じてターゲット分子を特定し開発されてきた糖尿病網膜症治療薬の候補薬物としては,糖代謝異常抑制(プロテインキナーゼCb抑制=LY333531),renin-angiotensinsystem(RAS)制御薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬),高脂血症治療薬〔FenobrateInterventionandEventLoweringinDiabetes(FIELD)study〕などがある.また,今後の病態研究から新しいターゲットに対する治療薬の開発も期待される.謝辞:本研究に際して文部科学省科学研究費補助金の補助を受けたことを謝する.文献1)WildS,RoglicG,GreenAetal:GlobalPrevalenceofDia-betes.Estimatesfortheyear2000andprojectionsfor2030.DiabetesCare27:1047-1053,20042)中江公裕,増田寛次郎,妹尾正,小暮文雄,澤充,金井淳,石橋達朗:わが国における視覚障害の現状.厚生労働省難治性疾患克服研究事業.網脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究班.平成17年度研究報告書,p263-267,20063)AlbertiG,ZimmetP,ShawJetal:TheInternationalDia-betesFederationConsensusWorkshop;Type2diabetesintheyoung:theevolvingepidemic.DiabetesCare27:1798-1811,20044)KatoS,TakemoriM,KitanoSetal:Retinopathyinolderpatientswithdiabetesmellitus.DiabetesResClinPract58:187-192,20025)山本禎子,山下英俊:糖尿病網膜症.眼科48:911-921,20066)ChewEY,FerrisFLIII,CsakyKGMDetal:Thelong-termeectsoflaserphotocoagulationtreatmentinpatientswithdiabeticretinopathy.TheEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyFollow-upStudy.Ophthalmology110:1683-1689,20037)WilkinsonCP,FerrisFLIII,KleinREetal:Proposedinternationalclinicaldiabeticretinopathyanddiabeticmacularedemadiseaseseverityscales.Ophthalmology101:1677-1682,20038)岸川秀樹,和気仲庸,荒川栄一ほか:糖尿病の代謝コントロールと網膜症の発症進展阻止─DCCT/EDIC,KumamotoStudy,UKPDSの結果から─.あたらしい眼科24:1275-1280,20079)曽根博仁,山田信博,山下英俊:糖尿病網膜症一次予防および二次予防のエビデンス─他の合併症との関連ならびにJDCS中間報告から─.あたらしい眼科24:1281-1285,200710)SasakiA,HoriuchiN,HasegawaKetal:Developmentofdiabeticretinopathyanditsassociatedriskfactorsintype2diabeticpatientsinOsakadistrict,Japan:along-termprospectivestudy.DiabetesResClinPract10:257-263,199011)大泉俊英,富永真琴:地域住民を対象とした疫学研究(2):日本人における糖尿病の実態─舟形町研究から─.あたらしい眼科21:435-439,200412)KawasakiR,WangJJ,WongTYetal:Impairedglucosetolerance,butnotimpairedfastingglucose,isassociatedwithretinopathyinJapanesepopulation:TheFunagatastudy.DiabetesObesMetab10:514-522,200813)LachinJM,GenuthS,NathanDMetal:DCCT/EDICResearchGroup:Eectofglycemicexposureontheriskofmicrovascularcomplicationsinthediabetescontrolandcomplicationstrial─revisited.Diabetes57:995-1001,200814)KawasakiR,TielschJM,WangJJetal:ThemetabolicsyndromeandretinalmicrovascularsignsinaJapanesepopulation:TheFunagatastudy.BrJOphthalmol92:161-166,200815)安田美穂:糖尿病網膜症一次予防のエビデンス─久山町研究から─.あたらしい眼科24:1287-1290,200716)中野早紀子,山下英俊:糖尿病網膜症の成因と病態.カレントテラピー26:572-576,2008☆☆☆

光線力学的療法(PDT)ガイドライ

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPYしたものである.II標準的な治療適応と方法PDTの保険適用は「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性症」である.PDTが開始された当初,日本人の臨床試験JapaneseAge-RelatedMacularDege-nerationTrialStudy(JATStudy)3)から得られた結果から,わが国での治療推奨基準は,①年齢50歳以上,②術前視力0.1~0.5,③病変サイズ:フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)で計測した病変(classicCNV,occultCNVのほか,出血,漿液性網膜色素上皮離,瘢痕,色素沈着のすべてを含む)の最大直径(greatestlineardimension:GLD)の上限5,400μm未満,④病変タイプ:FAで判定したpredominantlyclassicCNV,mini-mallyclassicCNV,occultwithnoclassicCNVの3タイプのすべてが治療対象,と定められた.標準的な治療方法については,2004年に眼科PDT研究会が定めたPDTガイドライン1)に準じて治療を行う.すなわち,ベルテポルフィン6mg/m2体表面積を5%ぶどう糖液で希釈して総量30mlの注射液とし,10分かけて自動注入器で静脈内注射を行い,注射終了5分後(静注開始15分後)から83秒間,波長689nmのダイオードレーザー(出力600mW/cm2)を病変部に照射する.照射にあたってはFA所見を基にしてレーザー照射領域を決定する方法(FAガイド下PDT)が標準的照射方法として推奨されている(図1).PDTは継続的治療法であり,3はじめに滲出型加齢黄斑変性(滲出型AMD)の脈絡膜新生血管(CNV)の閉塞を目的として,光感受性物質ベルテポルフィン(ビスダインR)を用いた光線力学的療法(pho-todynamictherapy;PDT)がわが国で臨床使用されて約5年が経過した.一般臨床応用が開始された2004年,眼科PDT研究会はPDTの適応と方法を中心としてわが国におけるPDTのガイドラインを定めた1).その後,多くの施設から治療成績が報告され,またわが国独自の新しいPDTガイドラインを作成するため多施設の成績を集めて検討した新ガイドライン調査が行われ,その結果が昨年明らかになった2).本稿では,わが国におけるPDT新ガイドラインを中心に述べる.I治療施設と治療数PDTは規定の講習(眼科PDT講習会)を受講したPDT講習会受講修了認定医によって入院設備のある施設(承認条件として初回治療では原則48時間の入院が課せられたため)において行われる.2004年5月に臨床使用が開始されたのち,認定医と治療施設は急増し,現在,全国226施設において累計約4万例以上の症例にPDTが行われている.PDTは滲出型AMDの治療法として,わが国で広く行われている治療法といえる.新ガイドライン調査は,全国13施設において2004年5月から8月にPDTが行われた469例471眼の治療成績を分析し,日本人におけるPDTの治療指針を検討(39)905aTaaa学573111231学特集●眼科のガイドライン早わかりあたらしい眼科26(7):905~909,2009光線力学的療法(PDT)ガイドラインGuidelinesforPhotodynamicTherapyinAge-RelatedMacularDegeneration髙橋寛二*———————————————————————-Page2906あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(40)調査2)のサブグループ解析によって検討されている.a.病変タイプとの関係欧米においては,PDTのための病変タイプ分類が広く認知されており,PDTが最も有効な病変タイプは,predominantlyclassicCNVであるとされている.特に欧州ではPDTの認可が下りているのはこのタイプのみである.一方,わが国では,すべての病変タイプにおいて12カ月間の平均視力推移,視力変化(率)に有意差がなく,PDTは同等に有効であることが判明している2)(図3).このため,わが国ではどの病変タイプにもPDTの適応があるとされている.カ月ごとにFAを行い,CNVからの漏出がみられる場合には再治療を行う必要があると定められている.IIIPDTの有効性1.滲出型AMD全体での有効性新ガイドライン調査2)から,わが国でのPDTの有効性に関しては以下のような結果が出ている.①平均視力は治療12カ月間にわたって治療前と同じレベルで維持される(図2).②12カ月目の視力変化は,視力改善25.2%,不変54.3%,悪化20.4%で,改善と不変を合わせた視力維持率は79.5%である.③12カ月までの平均治療回数は2.0回である,④フルオレセイン蛍光眼底造影におけるCNVからの蛍光漏出停止率は,治療開始12カ月後において65%である.このようなわが国でのPDTの成績は,PDTを行っても平均視力の低下が続き,視力低下を遅延させるにすぎない欧米の治療成績よりも良好であり,視力改善率,維持率が高いこと,平均治療回数が少ないことが特徴である.2.わが国での有効例の特徴なぜわが国でPDTの成績が良いのか,どのような症例にPDTが良好な効果を示すのかが,新ガイドライン図1PDTのレーザー照射野病変最大径(greatestlineardimension:GLD)に1,000μmを加えた直径のスポットサイズでレーザーを照射する.0.1450.1480.1480.1510.1510.010.101.00平均小数視力*ベースライン3カ月*平均視力:logMAR後平均を求めたのち小数視力で表したもの6カ月9カ月12カ月図2新ガイドライン調査における全例での平均視力推移12カ月間にわたって平均視力は維持された.0.010.101.00小数視力ベースライン3カ月6カ月9カ月12カ月0.180.20.110.110.180.19:OccultwithnoclassicCNV:PredominantlyclassicCNV:MinimallyclassicCNV0.120.130.180.130.130.150.150.140.12図3病変タイプと平均視力推移病変タイプ間で平均視力推移に有意差はみられなかった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009907(41)c.術前視力との関係従来の視力の推奨基準である小数視力0.1~0.5以外,すなわち視力0.1未満の視力不良例,0.6以上の視力良好例でのPDTの効果が新ガイドライン調査において確認されている.術前0.1未満の例においては,12カ月の平均視力が維持され,視力改善率は術前視力が低いほど良好であるという結果が出た.一方,0.6以上の視力良好例では,PDT後に視力が低下する傾向があることが判明している2)(図5).今後,視力良好例には抗血管内皮増殖因子薬(抗VEGF薬)の使用も含めた慎重な治療適応の決定が必要と考えられる.d.年齢との関係年齢とPDTの効果との関係については,12カ月までの平均視力経過において60歳未満の症例では統計学的に有意な視力改善が認められることが判明している2).60歳以上のより高齢な症例においても視力維持は可能であるが,有意の視力改善はみられない(図6).50歳代のAMD患者はPDTの良い適応といえる.e.病型との関係最近わが国のAMDの診断基準において,滲出型AMDには,通常のAMD(狭義AMD)のほか,特殊病型として,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroi-dalvasculopathy:PCV),網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)の2病型を含むと定められた4).過去の多数のPDT成績の報告から,PDTb.病変サイズとの関係病変サイズに関しては,新ガイドライン調査の結果,GLD1,800μm未満の小さい病変を持つ症例でPDTの効果が最も高く,視力も有意に改善することが示されている.一方,従来の治療推奨範囲であるGLD5,400μmを超える大きい病変を持つ症例においても,PDT後に平均視力が維持されることが判明した(図4).しかし,このような大きい病変を持つ症例では,術後出血と視力低下の頻度が高い傾向があることが判明しており,リスク・ベネフィットを熟慮したうえでPDTの適応を決定することが重要である.0.010.101.00小数視力ベースライン3カ月6カ月9カ月12カ月:≦1,800?m:1,800~3,600?m:3,600?m~5,400?m:>5,400?m0.210.260.240.29*0.180.170.130.170.130.170.130.170.120.170.140.110.110.110.120.13*ベースライン─12カ月間の有意差検定(Paired?検定)図4病変サイズと平均視力推移1,800μm以下では視力改善,5,400μmを超える症例においても視力は維持された.0.010.101.00小数視力ベースライン3カ月6カ月9カ月12カ月:>0.5:<0.1:0.1~0.5**ベースライン─12カ月間の有意差検定(Paired?検定)0.680.210.050.520.20.060.060.190.460.440.190.070.460.190.07図5術前視力別と平均視力推移視力0.1未満の症例においても視力は維持された.視力0.5を超える症例では視力は低下傾向にあった.:<60歳:>80歳:60~79歳*ベースライン─12カ月間の有意差検定(Paired?検定)0.10.140.160.150.150.160.160.190.230.240.24*0.10.10.090.110.010.101.00小数視力ベースライン3カ月6カ月9カ月12カ月図6年齢と平均視力推移60歳未満の症例において平均視力は有意に改善した.———————————————————————-Page4908あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(42)RAPは,従来からベルテポルフィンの慎重投与とされてきたが,PDT後の新生血管の再疎通による再発が高率に起こり,PDT単独療法の治療効果は低いことから,ステロイド薬,抗VEGF薬などを併用した薬剤併用PDTが広く行われる傾向にあるが,明確な治療指針は確立されていない.IV平均治療回数と再治療率先に述べたように,新ガイドライン調査において12カ月までの平均治療回数は2.0回であり,欧米よりも非常に少ないが,PCVと狭義AMDの平均治療回数を比較すると,PCVにおいて平均治療回数が有意に少なく,出血を伴う症例では逆に有意に多いことが明らかになっている.一方,平均治療回数は病変タイプや漿液性網膜色素上皮離の有無に左右されないことも明らかになっている.再治療率はPDT後3カ月46%,6カ月27%,9カ月18%と経時的に減少する.V安全性の問題新ガイドライン調査における眼局所の副作用の頻度は9.6%,全身的副作用の頻度は4.9%であった.PDTの全身的副作用として,わが国では光線過敏症の頻度は非常に低く,新ガイドライン調査では0%であったが,その後に報告された使用成績調査での頻度は0.07%である.ほかに薬剤注入時の背部痛が1.9%あるが,その他には薬剤との因果関係が明らかな重篤な全身副作用は少ない.眼の副作用としては,網膜出血(網膜下出血)6.0の効果はPCV>狭義AMD>RAPであるという事実が明らかとなっている.新ガイドライン調査では,PCVにおいてPDT3カ月後から12カ月後までの平均視力がどの時点においても狭義AMDよりも有意に高く,またベースライン(術前)視力と比べて12カ月後の視力に統計学的に有意な視力改善がみられることが判明している2)(図7).欧米とわが国のPDTの成績に差異がみられる主因は,わが国においてこのようにPDTの効果が高いPCVがAMD全体の40~50%という高い比率を占めるためと考えられる.以上のことから,PCVはPDT単独療法が最も適する疾患と考えてよい.一方**0.010.101.00小数視力ベースライン3カ月6カ月治療経過月数*治療間の有意差検定(t検定)**ベースライン12カ月間の有意差検定(Pairedt検定)9カ月12カ月0.150.140.17p=0.045*p=0.015*p=0.026*p=0.004*0.140.18:PCVあり:PCVなし0.140.180.140.140.19図7PCV所見の有無と平均視力推移PCV所見あり(PCV)症例はPCV所見なし(狭義AMD)症例と比べて,3~12カ月のいずれの時点でも有意に平均視力が良好で,12カ月時点での平均視力は有意に改善していた.図8新ガイドラインにおける日本人AMD患者に対するPDT施行アルゴリズム中心窩下CNV,すべての病変タイプ,PCV所見を有する症例,病変最大径1,800μm以下の症例,視力0.1~0.5がPDTに適し,特にPCVと小さい病変サイズが推奨される因子であることを示す.(文献2より改変)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009909(43)の治療成績は視力改善率25%,視力維持率約80%,平均視力は12カ月まで維持可能,12カ月間の平均治療回数は2.0回であり,欧米よりもはるかに治療の反応性が良好であることが判明した.このような好成績の原因として,わが国では滲出型AMDの特殊病型であるPCVが多く,この病型にPDTの有効性が高いことが第一にあげられる.昨年報告されたPDT新ガイドラインに基づいて,わが国でのPDT実施の推奨基準について解説した.文献1)眼科PDT研究会:加齢黄斑変性に対する光線力学的療法のガイドライン.日眼会誌108:234-236,20042)TanoY;OphthalmicPDTStudyGroup:GuidelinesforPDTinJapan.Ophthalmology115:585-585.e6.20083)TheJapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup:Japaneseage-relatedmaculardegenerationtrial:One-yearresultsofphotodynamictherapywithverteporninJapanesepatientswithsubfo-vealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol136:1049-1061,20034)髙橋寛二,石橋達朗,小椋祐一郎,湯澤美都子;厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班加齢黄斑変性診断基準作成ワーキンググループ:加齢黄斑変性の分類と診断基準.日眼会誌112:1076-1084,2008%,視力低下4.9%,硝子体出血1.3%,網膜離0.6%,網膜色素上皮離0.2%などがある2).このような眼の副作用は初回治療に多いので注意を要する.PDTは治療後の注意点を守れば,かなり安全な治療法といえる.VI今後の動向わが国において,PDTは滲出型AMDに対して一定の効果と安全性があることが判明し,以上述べたようなデータに基づいて,新しいPDTガイドラインにおいて治療のためのアルゴリズムが示された(図8).現在,PDTの効果を高めるためにステロイド薬あるいはVEGFを標的とした種々の抗VEGF薬を用いた薬物併用PDTの効果が積極的に検討されている.今後,AMDに対する抗VEGF薬の効果の検証が進み,治療の選択肢が増加していくに従って,さらに新しい薬物治療をも含めた治療ガイドラインが必要となるはずである.まとめわが国においてAMDに対するPDTが開始されて約5年が経過し,PDTはAMDに対して広く行われる治療法となった.わが国においてPDTの臨床使用が開始された直後に行われた新ガイドライン調査において,そ

「感染性角膜炎診療ガイドライン」のポイントと補足

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPYCLの洗浄をしていたか,CLのこすり洗いをしていたか,CLレンズケースの定期交換をしていたか,消毒の種類〔特にMPS(multipurposesolution)の商品名〕,水道水の使用はなかったか,CL装用時に手洗いをしていたか,などについて問診し,問診がそのまま患者教育になるようにするのも一つの姿勢ではないかと思われる.II臨床所見1.細隙灯顕微鏡所見a.上皮病変(樹枝状病変,地図状病変,星芒状病変)角膜に樹枝状病変をみた場合,まず,これが単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)による樹枝状角膜炎(dendritickeratitis)であるかどうかを見定めることが重要である.樹枝状角膜炎の特徴として,末端膨大部(terminalbulb)の存在,上皮内浸潤の存在,ある程度の幅があること,病変部以外の上皮は正常であることがポイントとなる.偽樹枝状病変を示す疾患として,眼部帯状疱疹,薬剤毒性角膜症(epithelialcrackline),再発性角膜びらん(recurrentcornealerosion:RCE),アカントアメーバ角膜炎が重要である.地図状角膜炎は樹枝状角膜炎よりも鑑別がむずかしく,外傷などによる単純性角膜上皮欠損(単純性角膜びらん),細菌・真菌感染に伴う角膜上皮欠損,遷延性角膜上皮欠損,栄養障害性角膜潰瘍,Shield潰瘍などとのはじめに感染症には,ホストと微生物の両者が関係しており,さらに医療環境をはじめとしたさまざまな環境下で,千変万化の様相を呈する.感染性角膜炎もしかりであり,その診療はどうしてもケース・バイ・ケースの対応ということになりがちである.しかしながら,それだけに,基本的な診断・治療の方針を定めたガイドラインの策定が待たれていたのも事実であり,2007年の10月にようやく感染性角膜炎のガイドラインが日本眼科学会雑誌に掲載された1).もちろん,このガイドラインに書かれてあることがすべてではなく,あくまで感染性角膜炎診療のベースラインにすぎないと,ガイドラインの巻頭言にも述べられている.本稿では,このガイドラインのポイントを示すとともに,その後の感染性角膜炎診療の変化も踏まえ,私見もまじえて補足的な解説を行いたい.第1章感染性角膜炎の診断I病歴(問診)角膜感染症においても問診が重要なのは言うまでもない.特に何が感染のきかっけになったかを知ることは重要である.ガイドラインはその辺のポイントについて簡単にまとめているが,コンタクトレンズ(CL)の重要性についてはそれほど述べられておらず,その種類・使用期間・使用方法について詳細に問診するとだけある.実際には商品名,装用日数・時間(誤用がなかったか),(33)899oshitsuguInoue683850486特集●眼科のガイドライン早わかりあたらしい眼科26(7):899904,2009「感染性角膜炎診療ガイドライン」のポイントと補足TheEssenceof“GuidelinesfortheClinicalManagementofInfectiousKeratitis”井上幸次*———————————————————————-Page2900あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(34)c.その他注意すべき所見感染の場合,角膜病巣に目を奪われがちだが,充血・前房内細胞・前房蓄膿・角膜後面沈着物・角膜浮腫・角膜穿孔などの副次的所見が細隙灯顕微鏡にて観察され,診断・治療のうえで重要なヒントとなる.もちろん,角膜ヘルペスでもこれらの所見は重要である.細隙灯顕微鏡検査を行う前に眼瞼浮腫・眼瞼発赤・眼脂・流涙などの肉眼所見にも注意を払う必要があることは言うまでもない.2.角膜知覚検査角膜知覚検査はCochet-Bonnet型角膜知覚計という安価な機器を用いて,臨床の現場で簡単に行えるにもかかわらず,その重要性が等閑視されている.古典的な方法ではあるが,特に角膜ヘルペスの診断において必要不可欠である.その意味で,ガイドラインにしっかりと記載されたことの意義は大きい.III塗抹検鏡角膜感染症の診断において,塗抹検鏡は非常に重要だが,実際に自分で塗抹検鏡を行って診断を行っている眼鑑別が必要である.星芒状角膜炎は樹枝状角膜炎が非常に小規模で発症し,星形と表現したほうが合致する病変を呈したもので,眼部帯状疱疹に伴う星芒状角膜炎,Thygeson点状表層角膜炎(Thygeson’ssupercialpunctatekeratitis)などとの鑑別を要する.b.実質病変感染性角膜炎を疑わせる実質病変に,浸潤,膿瘍,潰瘍がある.浸潤は角膜上皮あるいは実質に生じる好中球やリンパ球を主体とする細胞集積像の総称であり,角膜炎における代表的臨床所見の一つである.一般に,中央部に生じた場合は感染性,周辺部に生じた場合は非感染性のことが多い.膿瘍は角膜内に侵入した細菌や真菌に対して主として好中球が集簇したものである.炎症細胞内に含まれる蛋白質分解酵素や活性酸素などにより組織破壊が生じる.治癒後には通常,組織の菲薄化が生じる.潰瘍は角膜上皮全層および実質に欠損が生じた状態をいい,多くは浸潤から発展する.典型的な感染症のパターンでは,好中球やリンパ球を主体とした炎症細胞の集積を角膜実質内に伴う.中央部の潰瘍は感染や神経麻痺に,周辺部の潰瘍は自己免疫疾患や感染アレルギーに起因することが多い.このようにガイドラインにはこの3つの定義がわかりやすく述べられているが,この3つは排他的な概念ではなく,それぞれ重なりあうところがある.ガイドラインにはないが,3つの関係を図1に示してみた.膿瘍は浸潤に包含されるといってよいが,図1aのような場合は膿瘍ではあるが盛り上がっているため潰瘍という言い方はそぐわない.図1bは膿瘍であり,かつ潰瘍といえる.図1cは感染ではなくMooren潰瘍の写真だが,この場合は潰瘍でかつ浸潤だが膿瘍とは言いがたい.また,図1dの栄養障害性角膜潰瘍は潰瘍ではあるが浸潤や膿瘍とは言いがたい.このような名称をしっかりと使い分けることは病態の理解にも役立つ.たとえば,浸潤や膿瘍とは言いがたい栄養障害性角膜潰瘍の場合,感染ではないという考えがその名称を選んだ判断に含まれているのである.abbddcc潰瘍浸潤膿瘍図1浸潤・膿瘍・潰瘍の3つの関係膿瘍は浸潤に包含される.潰瘍はこの2つと少しずれがある.a:細菌性角膜炎:膿瘍ではあるが潰瘍とは言いがたい.b:細菌性角膜炎:膿瘍であり,かつ潰瘍といえる.この例ではその後に穿孔を起こした.c:Mooren潰瘍:潰瘍でかつ浸潤だが,膿瘍とは言いがたい.d:栄養障害性角膜潰瘍:潰瘍ではあるが浸潤や膿瘍とは言いがたい.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009901(35)HSVが人体に潜伏感染しており,しかもspontaneousshedding*1を生じてくるために,ガイドラインや眼ヘルペス感染症研究会の診断基準2)では補助診断として位置づけられているが,最近はreal-timePCRによって定量が可能となってきており,量的に多い場合は,それによって診断を行ってよいと考えられる3).*1Spontaneousshedding:HSVは神経節に潜伏感染しており,何らかの外的刺激によって再活性化して,神経に沿って支配領域の皮膚や粘膜に出てくるが,実はまったく臨床所見を認めないときにも自発的にウイルスが出てきており,感染力をもったウイルスとして検出される.第2章感染性角膜炎の病態・病型I細菌性角膜炎:起炎菌による特徴と頻度起炎菌による臨床的な特徴が記載されているが,これはあくまで典型例の場合であり,臨床の現場ではそうでない場合が非常に多いことを理解しておく必要がある.たとえば緑膿菌感染でも限局性潰瘍を示すことがある.また,最近増加しているCL関連感染性角膜炎の場合,CLによって臨床所見が著しく修飾される.たとえば通常の外傷性ではあまり認められない多発性の病巣がCLに関連した感染ではいくらでも認められる.「コリネバクテリウムやアクネ菌は,眼表面(結膜や眼瞼)の常在菌叢をなすグラム陽性桿菌であり,角膜炎の起炎菌とはなりにくい.」とガイドラインには記載されている.これについてはかなりの議論がなされたうえでこのような表記となったが,最近の医療環境ではこれらの菌が起炎菌となるケースが増えてきているのがひとつの動向であることを付け加えておきたい4).淋菌は本来結膜炎の起炎菌であり,角膜炎の起炎菌としては非常に頻度の低いものであるが,急速に悪化して潰瘍から穿孔をきたすその重篤性からガイドラインに記載されている.正常な角膜上皮を突破できる唯一の菌であり,そのために結膜炎から角膜炎へと進展しうることを理解しておくことも重要であろう.科医は少ないと思われる.その意味でガイドラインに詳しくその方法が記載された意義は大きい.ただ,ガイドラインに記載された方法が唯一の方法ではないので,その施設に応じたやり方を工夫していけばよいと思われる.たとえば,ガイドラインでは擦過に,Kimuraspatulaを推奨しているが,自分が使いやすい器具であればスパーテルでも,27ゲージ針でもよい.また,採取したサンプルの塗抹にあたって,サンプル量が比較的多ければ転がすように塗抹し,少なければスタンプを押すようにすると書かれているが,角膜炎の場合,多くはサンプル量が十分でなく,スタンプ法をせざるをえない.また,角膜炎ではサンプル量が少ないためにギムザ染色とグラム染色の両者を行うことは実際にはむずかしいことが多いので,どちらか一方をとる場合はグラム染色を優先する.真菌については,パーカーインクKOH法が基本であるが,現在パーカーインクは入手困難なため,ファンギフローラYR染色が役立つ.このほうが検鏡に不慣れな検者でも真菌と判定しやすい.IV臨床検査細菌培養・感受性検査,真菌培養・感受性検査,アカントアメーバ培養,polymerasechainreaction(PCR),血清抗体価について記載されており,一般の眼科医はガイドライン本体の記載のみで概要を知ることができ,少し専門的に知りたい場合は,Appendixを参照できるようになっている.最もよく理解しておく必要があるのは,起炎菌と薬剤感受性の理解である.起炎菌については,外眼部には多くの常在菌が存在するため,塗抹の結果と分離菌名の比較,分離菌名と炎症像の特徴の確認,分離菌名と薬剤治療効果(感受性スペクトル)などを考慮し,総合的に決定する必要がある.薬剤感受性については,一般にMIC(minimuminhibitoryconcentration)によって判定されるが,R(resistant;耐性)と判定された場合でも,点眼薬の場合は濃度が非常に高いため効果が得られる場合もあることを知っておくとよい.PCRについては,特にヘルペスで使用された場合は,———————————————————————-Page4902あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(36)第3章感染性角膜炎の治療I細菌性角膜炎治療方針としては,「起炎菌を同定できるまで,あるいは同定できないときには,患者背景,発症誘因および角膜所見に基づいて起炎菌を推測し,治療計画を立てる.起炎菌を推測できない場合には,角膜炎のおもな原因菌を網羅できるようにニューキノロン系とb-ラクタム系を併用する.」と記載されている.まことにその通りではあるが,このガイドラインが執筆中であった時期,あるいはこのガイドラインの前に行われた感染性角膜炎サーベイランスの段階8)では,ニューキノロン系としてレボフロキサシン点眼が主体として使用されていた.そして,その前身として使用されていたオフロキサシン点眼の頃からのレンサ球菌に対する効果の懸念からセフメノキシム点眼を併用する治療が行われてきたという歴史的背景がこの治療方針に大きく寄与していることを忘れてはならない.現在はトスフロキサシン,ガチフロキサシン,モキシフロキサシンなどレンサ球菌を含めたグラム陽性球菌により強い新しいニューキノロン系点眼が使用できるようになってきており,必ずしもニューキノロン系とb-ラクタム系併用を必要としないと考えられる.あるいは新しい組み合わせの治療があってもよいといえる.感染性角膜炎における耐性菌で最大の問題はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylo-coccusaureus:MRSA)であり,上述のニューキノロン系とb-ラクタム系の両方が効かない.その場合,バンコマイシンがやはり有効であり,点眼や眼軟膏9)として用いる必要が出てくることがある.ただ,この辺は,保険適用のない使用方法であるため,ガイドラインとしてその記載をやや手控えざるをえなかったため,明確に記載されていない点は少し残念なところである.ガイドラインでは「アミノグリコシド系はレンサ球菌には無効である」となっており,確かにMICでみるとその通りであるが,実は点眼薬のような高い濃度ではレンサ球菌にも効果があるとの報告がある10).現在の前眼部・外眼部感染症の治療があまりにニューキノロン系にII真菌性角膜炎:起炎菌による特徴と頻度角膜真菌症については糸状菌と酵母菌に分けての理解が重要であり,ガイドラインもその線に沿って記載されている.角膜真菌症の特徴とされているhyphateulcer(菌糸の伸張により辺縁がギザギザと不整になった潰瘍),endothelialplaque(角膜内皮面に認められる円板状の大きな付着物)は実は糸状菌の特徴であり,酵母菌の病巣はむしろブドウ球菌に似ていることを理解しておく必要があるだろう.IIIアカントアメーバ角膜炎:病態と病期アカントアメーバの診断はむずかしいとされている.確かにそうではあるが,特徴的な所見を示した場合はむしろそれで診断できる場合もあり,偽樹枝状角膜炎や放射状角膜神経炎,円板状浸潤の特徴を知っておくことは重要である.また,他の感染に比べて進行が緩徐であるため,病期分類が重要である5,6).IV角膜ヘルペス:病型分類(病態,基本病変)上皮型,実質型に加えて今回のガイドラインでは内皮炎を内皮型として記載している.ただし,実際の臨床ではHSVによる純粋な内皮炎はむしろ少なく,また,実質炎があると,実質型に伴う内皮炎症なのか,内皮型かの区別はむずかしい.本ガイドラインへの記載は見送られたが,純粋な内皮炎の原因ウイルスとして,最近サイトメガロウイルスが注目されており7),HSVよりも多いという意見も多い.この辺は現在,学会でも活発に論議されており,つぎのガイドラインにはその結果が反映されるだろう.V眼部帯状疱疹:眼合併症帯状疱疹の眼病変について網羅的に記載されている.帯状疱疹の眼病変は多彩であるが,帯状疱疹と同時あるいは引き続いて生じた場合は診断しやすい.しかし,帯状疱疹から時間をおいて発症する場合や無疹性の場合もあるので,帯状疱疹や神経痛の既往の問診の重要性を改めて強調したい.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009903(37)い.この辺はガイドラインの限界といえる.V眼部帯状疱疹眼部帯状疱疹の多くの眼合併症はウイルス増殖によるものではなく,免疫反応によるものであることを理解して治療することがポイントであろう.VI外科的治療薬物治療に反応しない症例における最終手段として重要であるが,その適応のタイミングは非常にむずかしく,ガイドラインの領域を越えている.起炎微生物を判定し,それに有効な薬物で治療することが感染性角膜炎治療の基本であることを改めて認識することは重要であり,むやみと移植に頼るべきではないことは言うまでもない.おわりにガイドラインの巻頭言にも述べられているように,感染性角膜炎の診断・治療のすべての面にわたってevi-dence-basedに書かれたガイドラインが作成されることが本来望ましいが,現状では経験則によらざるをえない部分もかなり残されている.この点については,今後,種々のevidenceの蓄積が必要であろう,また,感染性角膜炎は年々変化していくことから,ガイドラインの改訂がなされていくことが重要であろうと思われる.文献1)井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,20072)下村嘉一(眼ヘルペス感染症研究会):上皮型角膜ヘルペスの新しい診断基準.眼科44:739-742,20023)Kakimaru-HasegawaA,KuoC-H,KomatsuNetal:Clini-calapplicationofreal-timepolymerasechainreactionfordiagnosisofherpeticdiseasesoftheanteriorsegmentoftheeye.JpnJOphthalmol52:24-31,20084)柿丸晶子,川口亜佐子,三原悦子ほか:レボフロキサシン耐性コリネバクテリウム縫合糸感染の1例.あたらしい眼科21:801-804,20045)石橋康久,本村幸子:アカントアメーバ角膜炎の臨床所見─初期から完成期まで─.日本の眼科62:893-896,19916)塩田洋,矢野雅彦,鎌田泰夫ほか:アカントアメーバ角膜炎の臨床経過の病期分類.臨眼48:1149-1154,19947)KoizumiN,SuzukiT,UnoTetal:Cytomegalovirusasan偏りすぎていることから,アミノグリコシド系点眼の強い殺菌力とpostantibitoticeect(PAE)*2は見直されてよいと思われる.*2Postantibioticeect(PAE):抗菌薬が有効濃度で一定時間以上細菌に接触したあとで,薬剤が有効濃度以下になっても細菌増殖がある一定時間抑制される現象.PAEは作用する微生物と薬剤によって異なるが,一般的には核酸合成阻害薬(ニューキノロン系)と蛋白質合成阻害薬(アミノグリコシド系,テトラサイクリン系など)で認められる.II真菌性角膜炎真菌性角膜炎に対する眼局所用の医療用医薬品として存在するのは,ポリエン系のピマリシン(点眼液・眼軟膏)のみであるが,自家調整の形ではあるが,アゾール系,キャンディン系が用いられるようになり,ガイドラインにもその濃度を含めて記載されている.また,ガイドラインでは「評価は定まっていない」とされているボリコナゾールが,フザリウムに対する有効性や1%という高濃度で点眼可能なことから評価が高まり11),真菌性角膜炎の治療に変化が生じてきている.IIIアカントアメーバ角膜炎残念ながら,薬物治療に限界があるため,角膜掻爬が治療において重要な位置を占めていることは否定できない.今後の新しい抗アメーバ薬の開発により,この疾患の治療に大きな変革が生じることを期待するものである.IV角膜ヘルペスアシクロビル眼軟膏によって,その治療は格段に進歩したが,その後は,それ以上の変化なく,逆に言えばアシクロビルに完全に頼った治療になっている.実質型についてはステロイドを使用しないで治療するということも可能であるが,アシクロビル眼軟膏の併用下でステロイドを使用するのが標準であり,ガイドラインにもその方針が述べられている.ただし,実際の臨床では,一旦はじめたステロイドの漸減方法についてすべての症例に当てはまる正解はなく,個々の症例で対応するしかな———————————————————————-Page6904あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(38)46-48,200010)砂田淳子,上田安希子,井上幸次ほか:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌における薬剤感受性と市販点眼薬のpostantibioticeectの比較.日眼会誌110:973-983,200611)小松直樹,堅野比呂子,宮大ほか:ボリコナゾール点眼が奏効したFusariumsolaniによる非定型的な角膜真菌症の1例.あたらしい眼科24:499-501,2007etiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmology115:292-297,20088)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌110:961-972,20069)外園千恵:バンコマイシンの自家調整眼軟膏の調整法と使用法について教えてください.あたらしい眼科17(臨増):

日本緑内障学会による「緑内障診療ガイドライン(第2版)」の要点

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY第一に,緑内障の定義の明確化であり,緑内障を緑内障性視神経症として定義したことがあげられる.これは,現在国際的に緑内障が視神経症の存在で定義されていることに対応したものである.緑内障性視神経症は,形態的変化(網膜神経節細胞ほかの組織の消失に対応する視神経乳頭ならびに網膜神経線維層の変化)と機能的変化(代表は視野変化)をともに有するものと理解されている.新しい定義による従来との大きな違いは,原発閉塞隅角緑内障,特に急性原発閉塞隅角緑内障に現れている.緑内障発作を呈するものをすべて緑内障とよぶのではなく,視神経症を呈する症例のみが急性原発閉塞隅角緑内障とされることになった.第二には,primaryangle-closure(PAC)の概念を取り入れ,「原発閉塞隅角症」の訳語を当てたことである.原発閉塞隅角症とは相対的瞳孔ブロックによる隅角の変化を有するものの原発閉塞隅角緑内障の診断要件である視神経症を有しない時期をさす.ガイドラインの該当部分には,「狭隅角眼で,他の要因なく,隅角閉塞をきたしながら,緑内障を生じていない症例を原発閉塞隅角症(primaryangle-closure)と定義する.隅角に周辺虹彩前癒着があり隅角閉塞機序が示唆されるが眼圧上昇や緑内障性視神経症のない症例,隅角閉塞機序により眼圧は高値であるがまだ緑内障性視神経症をきたしていない症例などがこれにあたる.原発閉塞隅角症は原発閉塞隅角緑内障の前段階であり,無治療では原発閉塞隅角緑内障に進展する.」と記載されている.したがって,後眼部はじめに多くの緑内障は慢性に経過するため,個々の症例ごとに適切な治療方針を決めそれに沿った管理を進めることがよいとされる.近年,各国あるいは地域単位の緑内障関連学会によって,本症に関する診療ガイドラインが発行され,基本的な管理指針が示されていることは緑内障の性格にあったものであり,望ましい方向に向かっているといえる.諸外国のガイドラインとして,アメリカ眼科学会による原発緑内障用ガイドライン(2005年,改訂版),ヨーロッパ緑内障学会ガイドライン(2008年,第3版),アジア太平洋地区緑内障ガイドライン(2008年,第2版)などがあげられる.緑内障はポピュラーな疾患ではあるものの,病型,眼圧などに人種的特徴があり,また,各国の医療保険制度や使用可能な薬物,手術関連器具などにも相違がある.このため,日本においては日本緑内障学会により作成された緑内障診療ガイドライン(2003年初版1),2006年第2版2))に準拠した診療が勧められる.本稿では,2006年改訂の緑内障診療ガイドラインに関して解説を加える.なお,筆者は当ガイドラインの作成委員を務めたが,拙文の内容はガイドライン作成委員会の公式見解とは必ずしも一致しないことを申し添える.I緑内障診療ガイドライン第2版の特徴最初に,2003年発行の初版1)と2006年の第2版2)のおもな相違点について触れる.(29)895T学学学学本0111911学学学学特集●眼科のガイドライン早わかりあたらしい眼科26(7):895898,2009日本緑内障学会による「緑内障診療ガイドライン(第2版)」の要点KeyPointsof“GuidelinesforGlaucomaManagement”SecondEdition,PublishedbytheJapanGlaucomaSociety山本哲也*———————————————————————-Page2896あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(30)念頭に置くこと(図1),C/D(cup/disc)比やR/D(rim/disc)比(図2)を考慮することが判定に重要である.緑内障性視神経症の機能異常判定には静的視野検査がおもに用いられる.動的視野検査はそれを補完するものである.ごく初期例では,BlueonYellow視野計,FDT視野計,Flicker視野計なども有用である.視野異常と視神経所見の一致性の確認はきわめて重要である.視野と視神経所見が一致しない場合には,頭蓋(乳頭,網膜神経線維層)の変化が証明されて初めて,原発閉塞隅角緑内障の診断となる.これに対応して,緑内障発作を起こしながら視神経症を有していない症例は急性原発閉塞隅角症と呼称される.第三に,視神経乳頭ならびに網膜神経線維層所見から緑内障と判定する基準(表1)を示したことである.この基準はFosterら3)による疫学調査における緑内障診断基準を元としているため,臨床との乖離を指摘する意見もあるが,国内における緑内障診断の標準化に寄与することは間違いないであろう.実際の運用にあたっては,ガイドラインにあるように,最終的な診断は質的,量的所見の組み合わせにより行われるべきであることは述べるまでもない.加えて,隅角分類,視野分類,治療薬一覧,などに関する補足資料を巻末に一覧としてあげたことも読者の便という点で改良点である.II緑内障診療ガイドラインが勧める緑内障の診断筆者の判断を交えて,緑内障診療ガイドラインが勧める緑内障診断に関して記す.1.緑内障の有無の診断・病期診断緑内障の診断は緑内障性視神経症の存在を確認することでなされる.緑内障性視神経症の形態異常の判定は視神経乳頭と網膜神経線維層の所見によりなされる.その診断のための基準はガイドラインの補足資料2として添えられている(一部前述).視神経乳頭の大きさを常にDM図1DM/DD比乳頭の大きさをDM/DD比により考えることが大切.通常DM/DD比は,2.43.0の間であるとされる.DM:disc-maculardistance,DD:discdiameter.乳頭中心乳頭径リム幅図2R/D比の算出リムの幅とそこに対応して乳頭中心を通る乳頭径との比をR/D比と定義する.表1視神経乳頭の量的判定による緑内障診断基準A.信頼性のある視野結果が視神経変化に対応するとき1.垂直C/D比≧0.72.リム幅≦0.1(111時,あるいは57時)3.両眼の垂直C/D比の差≧0.24.NFLD(神経線維層欠損)の存在B.視神経変化だけで緑内障と診断してよい場合(信頼性のある視野検査で正常範囲内の視野である,もしくは明確な緑内障性視野障害が否定されればこの限りではない)1.垂直C/D比≧0.92.リム幅≦0.05(111時,あるいは57時)3.両眼の垂直C/D比の差≧0.3———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009897(31)“目標眼圧”以下に保つことで視神経症の進行を防止することである.目標眼圧は緑内障を発症進行させないために必要な眼圧と捉えられるが,現実には,治療開始時に個々の症例で決定することはできない.このため,目標眼圧は,経験則により,種々の要因(無治療眼圧値,緑内障病期,年齢,他の危険因子,など)を考慮にいれて設定する.視神経症が重症なほど,無治療時眼圧の低い症例ほど,目標眼圧は低く設定されるべきである.ガイドラインは目標眼圧の具体的な設定について明言を避けており,例として,緑内障病期に応じて,初期例19mmHg以下,中期例16mmHg以下,後期例14mmHg以下4)というように設定する,無治療眼圧より30%の眼圧下降59)を目標として設定するなどがあげられているにすぎない.しかしながら,個々の症例による差が大きいために一般化しづらく,そのために明言を避けたことは明らかであり,日常診療においては,ここにあげられた数値を初期の目標眼圧(目標眼圧下降率)として採用することはきわめて合理的である.長期管理においては,設定された目標眼圧の妥当性を視野検査などにより内疾患なども疑うべきである.緑内障の病期の診断には緑内障性視神経症をなす形態異常と機能異常がともに用いられる.視野所見による病期分類に関しては補足資料1にあげられている.2.病型診断緑内障の病型診断には,眼圧検査,隅角検査などが重要である.続発緑内障などの鑑別には問診や細隙灯顕微鏡検査所見なども重要となる.原発開放隅角緑内障は,高眼圧,正常隅角,緑内障性視神経症の存在を特徴とし,正常眼圧緑内障は,眼圧が常に正常範囲内にあるという点で異なるものの,他には原発開放隅角緑内障と同様の所見を呈する.この2病型をまとめた疾患概念として,ガイドラインは原発開放隅角緑内障(広義)の術語を提唱している.原発閉塞隅角緑内障は,前述のとおり,原発閉塞隅角症とは別の捉え方がされている.以前には先天緑内障とよばれた病型は早発型発達緑内障と名称が変更されている.続発緑内障については,議論が残るものの,以前の考え方,すなわち,視神経症の有無ではなく続発性の眼圧上昇をもって診断してよいとされている.これは,たとえば,ぶどう膜炎,糖尿病網膜症などを有する症例で初期の緑内障性視神経症の判断がきわめて困難であるなどの理由によるが,将来再検討が必要となる可能性がある.眼圧には種々の生理的な変動(日内変動,日々変動など)があるため,眼圧異常の判断は複数回の眼圧測定(できれば別の時刻)によりなされることが勧められる.隅角検査は狭隅角,周辺虹彩前癒着,隅角外傷,隅角結節,隅角先天異常,などの眼圧上昇の原因となりうる異常所見を見出すために実施されるが,これもぶどう膜炎などでは短期間に変化することを忘れてはならない.III緑内障診療ガイドラインが勧める緑内障の管理同様に,筆者の判断を加えて,緑内障診療ガイドラインが勧める緑内障管理について述べる.1.管理の原則緑内障管理の原則は,眼圧下降治療により,眼圧を図3目標眼圧を設定した緑内障治療個々の患者の緑内障の状態を勘案して目標眼圧を設定し,その目標眼圧達成を目指して治療を始める.目標眼圧が達成できないときには治療内容の変更を考える.目標眼圧達成の後に視神経症の進行を認めた場合,最初に設定した目標眼圧の妥当性を再度検討する.(日本緑内障学会の許可を得て,文献2から転載,改変)目標眼圧設定治療選択目標眼圧達成治療変更治療続目標眼圧変更視神経所見・視野所見の化()()()()———————————————————————-Page4898あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(32)に対する手術がメインである.瞳孔ブロックに起因する緑内障(原発閉塞隅角緑内障,原発閉塞隅角症,続発緑内障の一部)に対しては瞳孔ブロック解消のための手術が適応とされる.早発型発達緑内障では隅角切開術やトラベクロトミーなどの隅角に対する手術が適応とされる.おわりに日本緑内障学会により作成された緑内障診療ガイドライン第2版について,解説を加えた.本ガイドラインは緑内障診療の指針を示すものであり,基本的にはそれに沿った診療が望まれる.原発閉塞隅角症などの新しい術語の登場,神経所見による緑内障の診断基準,目標眼圧を考慮した治療指針作成の重視,などが特筆される.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:125-157,20032)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20063)FosterPJ,BuhrmannR,QuigleyHAetal:Thedenitionandclassicationofglaucomainprevalencesurveys.BrJOphthalmol86:238-242,20024)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,19925)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpres-sures.AmJOphthalmol126:487-497,19986)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19987)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInter-ventionStudy7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualelddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20008)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal:TheOcularHypertensionTreatmentStudy:arandomizedtrialdeter-minesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,20029)HeijlA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,2002定期的に検証していく必要があり,目標眼圧達成にもかかわらず進行阻止のできない症例では,目標眼圧の設定自体に誤りがある可能性を考える必要がある(図3).管理は病型および重症度により異なるし,仮に臨床所見がまったく同一としても,たとえば,年齢,介護者の有無,患者の職業・生活環境,本症に対する理解度,などの社会的な要因によっても患者により少しずつ変更する必要がある.これが,治療の個別化といわれるもので,緑内障治療の根幹をなす概念である.2.治療内容の選択現在多数の眼圧下降薬物が使用可能である.そのなかから,最初は単剤投与を行う.薬物の選択には,眼圧下降効果,副作用,薬物コンプライアンス,禁忌をおもに考える.眼圧下降の不十分な場合に,複数の薬物の併用療法を行う.一般的には,眼圧下降効果に優れ,また,点眼回数の少ないプロスタグランジン関連薬あるいはb遮断薬が第一選択とされる.レーザートラベクロプラスティは薬物治療を補完する目的で行ってよい.最大耐用可能な薬物療法が不十分の場合,手術療法と薬物療法の得失を考慮のうえ,手術適応が決められる.手術療法として,トラベクレクトミーを代表とする濾過手術やトラベクロトミーを代表とする生理的房水流出路語解説緑内障性視神経症:緑内障を視神経疾患として捉えるのが現在の趨勢であり,視神経疾患としての緑内障が緑内障性視神経症(glaucomatousopticneuropathy:GON)とよばれる.形態異常(乳頭辺縁部の変化や神経線維層欠損など)と対応する機能異常(視野異常など)を併せもつと診断が確定する.原発閉塞隅角症:従来原発閉塞隅角緑内障として統一されていた症例のうち,緑内障を生じていない症例をさす.FDT視野計:Frequencydoublingillusionとよばれる錯視現象を利用し,外側膝状体のMy細胞に対応する網膜神経節細胞の機能異常を検出することで緑内障の早期診断を目指す視野計.

アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン

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———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY態生理」,「原因抗原」の2つの追記という構成とした.以下,この新ガイドラインの内容を,特に旧ガイドラインとの相違点などを中心に述べることにするが,紙面の都合上,定義・分類,検査法,臨床評価基準,診断,治療について,取り上げることにしたい.II定義・分類旧ガイドラインでは,ACDを結膜に増殖性変化のみられないものがアレルギー性結膜炎(allergicconjuncti-vitis;AC),アトピー性皮膚炎(atopicdermatitis:AD)を伴う患者に起こる慢性のACDをアトピー性角結膜炎(atopickeratoconjunctivitis:AKC),結膜に増殖性変化がみられるACDを春季カタル(vernalkerato-conjunctiviti:VKC),コンタクトレンズ(CL),義眼,手術用縫合糸などの機械的刺激による上眼瞼結膜に増殖性変化を伴う結膜炎が巨大乳頭結膜炎(giantpapillaryconjunctivitis:GPC)とそれぞれ分類していた.新ガイドラインではAC,GPCについては以前の定義が踏襲されたが,議論があったAKCおよびVKCには変更が加えられた.AKCとVKCの位置づけを考えるうえで最も重要なのはADの取り扱いである.旧ガイドラインでは増殖性病変を有するものはAD合併にかかわらずに臨床所見からVKCとし,非増殖型はAD合併の有無によって,ACとAKCとに分類した.これに対し,欧米の一般的な分類では,VKCを増殖性病変を有し,好発年齢が10歳前後の男児で,季節性が明らかで自然治はじめに日本眼科アレルギー研究会によって今回「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」が策定された1).これは1995年に日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班によって策定された「アレルギー性結膜疾患の診断と治療のガイドライン」2)を改訂したものである.前ガイドラインは,眼科領域のアレルギー性疾患を「アレルギー性結膜疾患」(allergicconjunctivaldiseases:ACD)と命名し,それまで重複や不明確であった各疾患をアレルギー性結膜炎,アトピー性角結膜炎,春季カタル,巨大乳頭結膜炎とに分類し,その疫学,診断,治療,予防などについての基本的な診療基準を示したものであった.その後の眼科を含めたアレルギー領域のさまざまな変化や進歩を受けて,前ガイドラインを見直し,まったく新しい形で検討された.本稿では,新しい本ガイドラインの概要を解説したい.なお,便宜上,「アレルギー性結膜疾患の診断と治療のガイドライン」を旧ガイドライン,「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」を新ガイドラインとして記述することにする.I構成新ガイドラインはACDの診療全体について,基準とすべき方向を体系的に記述した.そのために,全体を「定義・分類」,「疫学」,「検査法」,「臨床像と評価基準」,「診断と鑑別診断」,「予防:セルフケア」,「治療:メディカルケア」,「その他の関連疾患」の8章および「病(23)889cc14017741特集●眼科のガイドライン早わかりあたらしい眼科26(7):889893,2009アレルギー性結膜疾患診療ガイドラインClinicalGuidelinesforAllergicConjunctivalDiseases内尾英一*———————————————————————-Page2890あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(24)III臨床評価基準臨床評価基準は日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班による重症度分類を改訂する形で,国際的に通用するACD全般を網羅する客観的な臨床評価基準と重症度分類として策定されたものである.これは,ACDにおける主要な10種類の他覚所見について,所見ごとにグレーディングを行い,同時に各重症度に対応する標準写真を選定した(図1,2).さらに臨床評価基準をもとに重症度分類を定めたものを提唱した3).新ガイドラインではこの臨床評価基準と標準写真をガイドラインのなかに取り入れている.今後,臨床研究だけでなく,さまざまな薬剤の治験に際してもこの臨床評価基準が普及することが期待される.IV診断旧ガイドラインでは,ACDをⅠ型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で何らかの自他覚症状を伴うもの癒傾向があるという,いわば古典的なVKCに限定し,ADに伴う角結膜炎はすべてAKCと捉える考え方が主流である.この大きな見解の相違の背景には,ADに関するわが国と欧米諸国の有病率の差があると考えられる.しかし,今後新しい治療薬の臨床試験情報のグローバル化がますます進展していくと予測されている.そこで,疫学的な基準としてのみならず同一条件での臨床試験の必要条件としてACDの定義,そしてそのサブカテゴリーとしての各疾患の病型分類の国際的な一致に向けて,新ガイドラインではAKCを「顔面にアトピー性皮膚炎を伴う患者に起こる慢性のACDがAKCであり,増殖性変化を伴わない症例が多いが,巨大乳頭などの増殖性変化を伴うこともある」と変更され,実質的に欧米型の分類が採用された.ただし,VKCの定義には変更はなく,わが国の臨床的な特徴にも配慮した分類となっている.表1に新ガイドラインの概要を抜粋した.表1アレルギー性結膜疾患の定義,診断基準アレルギー性結膜疾患の定義(概念):Ⅰ型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で何らかの自他覚症状を伴うものアレルギー性結膜疾患の病型:アレルギー性結膜炎(季節性,通年性):結膜に増殖性変化のみられないアレルギー性結膜疾患アトピー性角結膜炎:顔面にアトピー性皮膚炎を伴う患者に起こる慢性のアレルギー性結膜疾患春季カタル:結膜に増殖性変化がみられるアレルギー性結膜疾患アトピー性皮膚炎を伴う症例も多い結膜の増殖性変化とは眼瞼結膜の乳頭増殖・増大あるいは輪部結膜の腫脹や堤防状隆起をさす巨大乳頭性結膜炎:コンタクトレンズ,義眼,手術用縫合糸などの機械的刺激による上眼瞼に増殖性変化を伴う結膜炎をさす.Contactlens-associatedconjunctivitisで最も重症な型に相当するアレルギー性結膜疾患の診断基準:臨床診断:アレルギー性結膜疾患に特有な臨床症状がある準確定診断:臨床診断に加えて,血清総IgE抗体増加や血清抗原特異的IgE抗体陽性,または推定される抗原と一致する皮膚反応陽性確定診断:臨床診断または準確定診断に加えて,結膜擦過物中の好酸球が陽性臨床症状の特異性:特異性が大きい自他覚症状:強度の眼痒感,巨大乳頭,輪部病変,楯状潰瘍特異性が中等度の自他覚症状:中等度の眼痒感,結膜浮腫,結膜濾胞,乳頭増殖,角膜びらん,落屑様点状表層角膜炎,角膜プラーク特異性が小さい自他覚症状:軽度の眼痒感,眼脂,流涙,異物感,眼痛,羞明,結膜充血,点状表層角膜炎除外すべき疾患:ウイルス性結膜炎,細菌性結膜炎,クラミジア結膜炎,結膜濾胞症,ドライアイ合併症・関連疾患:アトピー性眼瞼炎,円錐角膜,アトピー性白内障,アトピー性網膜離,外眼部感染症(文献1より抜粋)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009891(25)証明できていない症例である.臨床症状を表1に示しているが,特異性が大きい自他覚症状である強度の眼痒感,巨大乳頭,輪部病変,楯状(シールド)潰瘍などが眼のアレルギー疾患を強く示唆するものとして重要である.準確定診断群はA+B,つまり臨床症状AがありかつBに該当する症例である.確定診断群はA+B+Cという基準が唯一の診断基準であったが,新ガイドラインでは,以下のように体系的な診断を導入した.診断根拠として,A:臨床症状,B:Ⅰ型アレルギー素因の有無の証明,C:眼局所(結膜)でのⅠ型アレルギー反応の存在が必要であり,表1の診断基準に示すように,臨床診断群はAの臨床症状には当てはまるが,BとCを図1眼瞼結膜濾胞の標準写真aは軽度,bは中等度,cは高度を示す.(文献3より)ac図2輪部トランタス斑の標準写真aは軽度,bは中等度,cは高度を示す.(文献3より)ac———————————————————————-Page4892あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(26)ロジーなどでの結膜細胞診である.しかし,点眼誘発試験は好酸球を直接検出する方法ではないために,Cレベルの方法ではなく,Bレベルとしての扱いになることが明記されている.またはA+Cで,Aの臨床症状に当てはまりかつBとCにも該当する症例か,AがありCを証明できる症例となる.眼局所でのⅠ型アレルギー反応の存在を証明する方法には,結膜擦過物の塗抹標本やブラッシュサイト表2アレルギー性結膜疾患の臨床評価基準眼瞼結膜充血高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()個々の血管の識別不能多数の血管拡張数本の血管拡張所見なし腫脹高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()びまん性の混濁を伴う腫脹びまん性の薄い腫脹わずかな腫脹所見なし濾胞高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()20個以上1019個19個所見なし乳頭*高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()直径0.6mm以上直径0.30.5mm直径0.10.2mm所見なし巨大乳頭高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()上眼瞼結膜の1/2以上の範囲で乳頭が隆起上眼瞼結膜の1/2未満の範囲で乳頭が隆起乳頭は平坦化所見なし眼球結膜充血高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()全体の血管拡張多数の血管拡張数本の血管拡張所見なし浮腫高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()胞状腫脹びまん性の薄い腫脹部分的腫脹所見なし輪部トランタス斑高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()9個以上58個14個所見なし腫脹高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()範囲が2/3周以上範囲が1/3周以上2/3周未満1/3周未満所見なし角膜上皮障害高度(+++)中等度(++)軽度(+)なし()シールド潰瘍(楯型潰瘍)または上皮びらん落屑様点状表層角膜炎点状表層角膜炎所見なし*:直径1mm以上の乳頭は巨大乳頭も併せて評価する.(文献3より)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009893(27)と思われる.おわりに本稿ではすべての項目について触れることはできなかったが,新ガイドラインは現時点における眼科のACD診療の標準的なレベルを示している.ガイドラインの性質上,本ガイドラインが眼科専門医の診療を規定するものではないが,ACDが世界的にも多いわが国で改訂された新ガイドラインが国際的にも一つの指針となっていくことを期待したい.文献1)日本眼科アレルギー研究会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン.日眼会誌110:99-140,20062)日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班:アレルギー性結膜疾患の臨床像と鑑別診断.日本の眼科67:付録,19963)大野重昭,内尾英一,石崎道治ほか:アレルギー性結膜疾患の新しい臨床評価基準と重症度分類.医薬ジャーナル37:1341-1349,20014)UchioE,KimuraR,MigitaHetal:Demographicaspectsofallergicconjunctivaldiseasesandevaluationofnewcri-teriaforclinicalassessmentofocularallergy.GraefesArchClinExpOphthalmol246:291-296,2008V治療旧ガイドライン以後に,大きな変化があったのが治療である.新ガイドラインでは,治療原則がつぎのように示されている.「アレルギー性結膜疾患治療の中心は薬物治療であり,第一選択は抗アレルギー薬である.重症度により非ステロイド性抗炎症点眼薬(NSAID)やステロイド点眼薬などの使い分けが必要となる.さらに症状がコントロールできない難治性重症アレルギー性結膜疾患(AKCやVKC)に対しては,免疫抑制点眼薬の使用,ステロイド内服薬,瞼結膜下注射,そして即効性のある乳頭切除術などの外科的治療も検討する.」と記載された.免疫抑制点眼薬は現在シクロスポリンのみであるが,タクロリムスも治験が終了して,近い将来に臨床応用されることになるであろう.NSAIDについても,ステロイド懸濁液瞼結膜下注射,ステロイド眼軟膏と同様に,眼圧上昇をきたしやすいステロイド点眼薬に対する代替投与法として,その内容が触れられているが,これらは旧ガイドラインにはなかったものである.VI今後の課題このガイドラインでは,まず他のアレルギー疾患診療ガイドラインにあるような重症度別,疾患別の治療ガイドラインが提示されていない.また,免疫抑制点眼薬の使用法については,シクロスポリンの販売開始直後であり,タクロリムス点眼薬については記載されておらず,これら2剤の使い分け方に関しては今後の課題である.免疫抑制点眼薬とステロイド内服,局注との関係なども治療上は必要な内容であるが,本ガイドラインでは含まれていない.アレルギー疾患の治療法の一つとして,治療法をリリーバーとコントローラーとに分けて考えるのが一般的であるが,そのような方向性はまだ示されていない.そして,国際的な認知に向けては臨床評価基準を紹介した研究4)は発表されているが,ガイドラインの英訳版などの試みも今後は必要と考えられる.以上の点については,つぎの改訂においては考慮されることになる解説免疫抑制点眼薬:免疫抑制薬はカルシニューリン阻害薬ともいい,特にTリンパ球への抑制作用に特化した薬剤である.ステロイド薬が細胞性免疫と体液性免疫の両者を抑制するのに対し,免疫抑制薬は細胞性免疫のみを抑制するとされる.点眼薬としては,シクロスポリン(パピロックミニR)に加えてタクロリムス(タリムスR)も臨床応用された.いずれも春季カタルが適応症である.強い抗炎症作用をもつが,ステロイド点眼薬にみられる眼圧上昇の副作用がないので,長期間の使用も可能な点眼薬として,慢性の経過をとる春季カタルの治療・管理に用いられる.ただし,点眼時の刺激感が比較的高いほか,麦粒腫や眼瞼ヘルペスなどの感染症を惹起することが副作用として報告されており,注意が必要である.

「コンタクトレンズ診療ガイドライン」の読み方

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY一方,ソフト系の歴史は1961年にWichterleがHEMA(2-hydroxyethylmethacrylate)製SCLを製造したことに始まる.1972年頃からいわゆる従来型ソフトコンタクトレンズ(SCL)がマーケットに現れ,装用感の良さから広く普及することとなった.しかし,ソフト系の難点は酸素透過性の低さと耐久性にあり,これを克服するために,高含水,イオン性の素材による頻回交換(FRSCL)あるいは毎日使い捨て(DSCL)の世界へと移行したのである(図1).このように,CLの歴史は,酸素透過性の向上と装用感および耐久性改善との戦いであり,相反する問題を根本的には解決しえなかったというのが真実である.しかし近年,ソフト系並みの装用感とハード系以上の酸素透過性をもつシリコーンハイドロゲルレンズが登場し,まさに,トレンドは変わろうとしている.はじめに今から4年前,平成17年の日本眼科学会雑誌(以下,日眼会誌)(第109巻)の第10号に「コンタクトレンズ(CL)診療ガイドライン」が掲載された.このガイドラインは,当時,1,500万人を超えるとされた装用者が存在するなか,素材面,機能面において急速に多様化するコンタクトレンズについて,基礎的あるいは臨床的な知識を整理しておこうという趣旨でまとめられた.しかしながら,その後もCL診療の環境変化は著しく,すでに見直す必要性が生じている.この解説では基本事項を今一度整理するとともに,ガイドラインのアップデートも兼ね,最近の知見についても紹介する.ICLの歴史を知る―革命は起こるか?かのレオナルド・ダ・ヴィンチが考案したとされるCLの一般への普及は,1938年ObrigがPMMA(poly-methylmethacrylate)製の強角膜レンズを考案したことに始まる.わが国においては1951年の水谷による円錐角膜への応用が記念すべき第一歩であったことも知っておきたい.PMMAの利点は優れた生体適合性にあったが,酸素を通さないという欠点のため長期使用による角膜内皮細胞障害が問題となり,次第に淘汰されていく.その後,ハード系においては高い酸素透過性を有するガス透過性CL(RGPCL)が主流とはなるが,装用感の面でソフト系には及ばないのが現状である.(13)879AtsshiShiraishiihiOhashi71025特集●眼科のガイドライン早わかりあたらしい眼科26(7):879888,2009「コンタクトレンズ診療ガイドライン」の読み方PracticalGuidelinesforContactLensClinic白石敦*大橋裕一*1950196019701980199019952005(年)現在2000HCL(PMMA製)RGPCL従来型SCLシリコーンハイドロゲルレンズDSCLFRSCL図1わが国のCLの歴史———————————————————————-Page2880あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(14)材を組み合わせたシリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)が登場した.従来のソフト系レンズの数倍以上の酸素透過性を有しており,装用感の良さを維持したまま,ソフト系の弱点である酸素不足を改善している点が画期的である.ただし,このレンズは先のFDA分類への組み入れが困難なため,新たなグループとしての分類が考えられている(表1).3.CLの装用方法と装用スケジュールCLはさらに装用方法や装用スケジュールなどによって細かく分類されている.これらはユーザーへの説明には不可欠な基本事項であり,必ず把握しておく必要がある.詳しくは日眼会誌(第109巻第10号)「コンタクトレンズ診療ガイドライン」の表46を参照されたい.略語に慣れることも重要だが,要は,①終日装用か連続装用か,②レンズケースに保管するかしないか,の2点が起こりうる合併症を考えるうえで重要なポイントであり,前者では角膜上皮障害,後者ではレンズ汚染が問題となる.酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲルレンズの登場により,連続装用での合併症が軽減したとの報告が海外であるが,連続装用に慎重なわが国ではデータに乏しい.各種レンズの特性と適応を表2にまとめる.IIICLケアレンズケースに保管しつつ継続的に使用するCLについては適切なケアを行うことが不可欠であり,ユーザーII基本事項を理解する!1.フィッティング理論を知るCLの種類は素材により大きくハードコンタクトレンズ(HCL)とSCLに分類されるが,そのフィッティング原理も大きく異なる.HCLの場合,レンズと角膜間に貯留した涙液により生ずる接着力が重要で,重力とのバランスのなかで良好な動きを生みだされるが,SCLの場合は,レンズ周辺部の弾性が鍵であり,瞬目で引き伸ばされたときの復元力が安定したフィッティングにつながる.2.レンズ素材を覚える快適な装用感のなかで,いかに良好な視力と酸素透過性を得るかがレンズ素材開発のポイントである.現在のHCLではシロキサン化合物などを導入した結果,PMMAとは異なり,含水率がほぼゼロのなかで良好な通気性を得ているが,反面,機械的強度や水濡れ性に劣り,汚れやすいという欠点がある.SCLについては,含水率(50%未満かそれ以上)とイオン性(1mol%未満かそれ以上)の違いによってFDA(米国食品医薬品局)によりIからIVまでの4グループに分類されており,1999年4月にわが国にも導入された.通常,含水率やイオン性が高いほど酸素透過性が良いが,汚れやすく耐久性が低いという欠点がある.近年,高い酸素透過性をもつシリコーンに含水性の素表1SCLの材質分類現行低含水(含水率50%未満)高含水(含水率50%以上)非イオン性グループI主に従来型のSCLグループII従来型および一部のDSCL,FRSCLイオン性グループIIIほとんどないグループIVほとんどのDSCL,FRSCL米国食品医薬品局(FDA)分類新分類案低含水(含水率50%未満)高含水(含水率50%以上)グループⅤSHCL非イオン性グループI主に従来型のSCLグループII従来型および一部のDSCL,FRSCLイオン性グループIIIほとんどないグループIVほとんどのDSCL,FRSCL———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009881(15)洗い」である.適切に行われた場合,前者は1/1,000以下に,後者は1/100以下にSCLに付着した微生物を減少させると報告されている.3.消毒SCLに対して行うもので,煮沸,過酸化水素,ポビドンヨード,MPSの4つの様式があり,それぞれの特徴は日眼会誌のCL診療ガイドラインの表14を参照されたい.表3に現在市販されているおもなSCL消毒液についてまとめる.現在の主流であるMPSは,操作が簡便ではあるものの,消毒力が十分ではないため,前述した擦り洗い,すすぎの操作を併用しないとCLの汚染を招きやすくなる.また,MPSは主剤である消毒成分(polyhexamethylenebiguanide:PHMBなど)以外にも,界面活性剤,保湿剤,キレート剤などの多くの配合成分を含んでおり,互いの相互作用がMPSのトータルとしての消毒効果に影響を与えることがわかってきた.つぎに使用者の多い過酸化水素製剤は,MPSよりもはるかに消毒効果が得られるが,中和作業の煩雑さが普及の障害となっていた.より簡便なワンステップタイプが登場したが,消毒開始後すぐに中和が開始するため,使用状況によっては十分な消毒効果が得られない場合もある.ポビドンヨード製剤も操作が煩雑で一部のSCLに使用できないなどの問題点を抱えていたが,最近発売に対してその重要性を伝える必要がある.CLケアの基本は,CLをはずした後,付着した汚れや微生物を除去する“洗浄”,CLから遊離した汚れ,微生物や薬剤を洗い流す“すすぎ”,CLを安定した状態で保管する“保存”,SCLではこれに微生物の繁殖防止を目的とした“消毒”からなる.現在,MPS(multi-purposesolu-tion:多目的用剤)がSCLケアの中心となっているが,近年,頻回交換型SCLとMPSの使用者に角膜感染症が増加しているほか,特定のMPS使用者に発症した真菌性角膜炎やアカントアメーバ角膜炎が報告されるなど,CLケアのあり方が大きな論点となっている.CLケアにおいては,ユーザーのライフスタイルや使用法,性格などをよく見きわめて指導し,コンプライアンスが不良な場合には,見直しを検討すべきである.ここでは,CLケアの重要ポイントについて解説する.1.手指の洗浄手指には常在細菌あるいは環境菌が多数存在するため,十分に手洗いをしてからケアを行うように指導する.基本中の基本と言える.2.洗浄とすすぎ原理は物理的な除去であるが,CLケアでは最も重要なステップといえる.重要な作業は「すすぎ」と「擦り表2各種CLの特性と適応RGPCL従来型SCLFRSCLDSCLSHCL乱視矯正◎△△△△装用感△◎◎◎◎スポーツ時装用△◎◎◎◎夜間のグレア△◎◎◎◎酸素透過性◎▲△△◎角膜上皮障害危険性○△▲○△アレルギー性結膜炎(GPC)△▲▲○△ドライアイ△△▲▲○レンズケア(簡便さ)○▲△◎△消毒不要要要不要要蛋白除去要要不要不要不要費用◎○△▲△———————————————————————-Page4882あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(16)開始となった製品はすべてのSCLに使用可能であり,使用方法も比較的簡便なことから,アカントアメーバに対する優れた消毒効果からも,その有用性が見直されるべきであろう.4.StandAlone(スタンドアロン)試験とは?MPSの消毒効果を把握するうえで,SCL消毒評価試験(ISO14729standardduringdevelopmentoftheproducts),いわゆる“スタンドアロン試験”について知っておく必要がある.スタンドアロン試験とは,CL感染の原因となりやすい5菌種〔細菌3株:緑膿菌(ATCC9027),黄色ブドウ球菌(ATCC6538),セラチア(ATCC13880),真菌2株:カンジダ(ATCC10231),フザリウム(ATCC36031)〕を対象に消毒効果を評価するもので,第一・第二の2つの基準がある.第一基準では,一定時間で細菌を3log(1/1,000)に,真菌を1log(1/10)に減少させることが要求され,合格すれば“コンタクトレンズ消毒液”として認められる.第一基準に合格しなかった場合には,第二基準で判定される(図2)が,細菌に対する最低限の消毒効果(3種類の細菌に対し1log以上で,かつその和が5log以上)と真菌を増殖させないとの条件をクリアする必要がある.これを満たせば,さらに擦り洗い試験(十分な擦り洗いとすすぎを併用することにより,レンズ上の微生物が除去できるかを確認する試験)を行い,合格すれば初めて表3洗面所の汚染状況菌種分離株数細菌グラム陰性桿菌Pseudomonas属Klebsiella属Sphingomonas属Flavimonas属Acinetobacter属Serratia属Stenotrophomas属他のグラム陰性桿菌2913131075521計103株グラム陽性桿菌Bacillus属Corynebacterium属他のグラム陽性桿菌12623計41株グラム陽性球菌Micrococcus属Streptococcus属他のグラム陽性球菌1355計23株真菌糸状菌Penicillium属Aspergillus属同定不能な糸状菌201592計127株酵母様真菌Candida属同定不能な酵母様真菌127計28株その他アカントアメーバ4株Multi-purposesolutionMPDSMulti-purposedisinfectingsolution3log1log5log図2ISO/FDAスタンドアロン基準———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009883(17)6.レンズケースの管理「擦り洗い」などに比べて,意外に見過ごされているのがレンズケースの管理である.最近の調査でも,適切なCLケアを行っているユーザーのほとんどがレンズケースのケア(管理)を行っていない事実が浮かび上がっている.一般に,レンズケースの汚染率は4080%とされるが,これはおもにCLケアを行う場所が洗面所であることに起因している可能性もある.筆者らが行った洗面所の環境菌調査では,細菌,真菌ともに検出率はほぼ100%で,ほとんどの調査においてグラム陰性桿菌や“コンタクトレンズ消毒システム”として認められる.5.保存つぎの装用までの間,CLの恒常性,清浄性を維持しつつ,レンズケース内に保管するステップである.通常,オーバーナイトとなるが,万一,レンズケース内に微生物が生息している場合にはCLが汚染する危険性が高くなる.表4主要SCL消毒液の組成分類製品名メーカー消毒薬洗浄成分緩衝剤MPSレニューマルチプラスBausch&Lomb1.1ppmPHMBHYDRANATE,ポロキサミンホウ酸,リン酸コンプリートアミノモイストAMO1ppmPHMBポロクサマーリン酸エピカコールドメニコン1ppmPHMBPOE硬化ヒマシ油()オプティフリープラスAlcon11ppmPolyquadポロキサミンクエン酸,ホウ酸バイオクレンワンオフテクス1ppmPHMBポロクサマーホウ酸,リン酸フレッシュルックケア10ミニッツチバビジョン1ppmPHMBポロクサマーリン酸ロートCキューブソフトワンモイストロート1ppmPHMBポロクサマーリン酸過酸化水素剤製剤コンセプトワンステップAMO3.0w/v%過酸化水素()()エーオーセプトクリアケアチバビジョン3.42w/v%過酸化水素ポロクサマーリン酸ヨード製剤エファールオフテクス0.05%ポビドンヨードポロクサマーホウ酸分類製品名等張化剤その他の成分/中和剤MPSレニューマルチプラスNaClEDTA(安定化剤)コンプリートアミノモイストNaCl,KClHPMC(浸潤成分),EDTA(安定化剤),プロピレングリコール(保湿成分),蛋白分解酵素エピカコールドプロピレングリコール,フルーツ酸,AMPD,アミノ酸EDTA(安定化剤),プロピレングリコール(保湿成分),蛋白分解酵素オプティフリープラスNaClEDTA(安定化剤),蛋白分解酵素バイオクレンワンNaClEDTA(安定化剤),蛋白分解酵素フレッシュルックケア10ミニッツNaCl,KClEDTA(安定化剤),蛋白分解酵素ロートCキューブソフトワンモイストNaClHPMC(浸潤成分),蛋白分解酵素過酸化水素剤製剤コンセプトワンステップ()HPMC(浸潤成分),中和剤・カタラーゼエーオーセプトクリアケアNaCl中和・白金ディスクヨード製剤エファールNaClEDTA(安定化剤),中和・亜硫酸ナトリウム():無添加または不明.———————————————————————-Page6884あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(18)コーンハイドロゲルレンズの登場によりすべての問題がクリアされたわけではなく,その特性をよく理解したうえで処方することが必要である.表5に現在わが国において市販されているシリコーンハイドロゲルレンズの詳細をまとめる.シリコーンハイドロゲルレンズは,親水性のハイドロゲルと,疎水性で酸素透過性の高いシリコーンポリマーを重合した素材からなる.疎水性のシリコーンポリマーが表面に露出するため,各メーカーは水濡れ性を高めるべく表面処理に工夫を施している.疎水性で酸素透過性の高いシリコーンポリマーを重合したことにより水分中の蛋白質との結合は少なくなったが,一方で,脂質とは結合しやすくなった.このため,付着した脂質による撥水作用が生じ,くもりが生じることがある,また脂質汚れに起因するCPLC(contactlens-inducedpapillaryconjunctivitis)を起こしやすいとの報告もある.シリコーンハイドロゲルレンズは含水率が低くなるほど硬くなるため,従来のハイドロゲルレンズに比べて硬くなっているが,これによる高い形状保持能を通じて良好なセンタリングが得られる.他方,硬いレンズの宿命的な合併症であるSEALs(superiorepithelialarcuatelesions)やムチンボールの発生率が高いとことも念頭に置く必要がある.現在,シリコーンハイドロゲルレンズとMPSとの相性による一過性の角膜上皮障害が注目されている.特にPHMB系のMPSと特定のシリコーンハイドロゲルレン糸状菌を中心に数菌種が検出されており,レンズケースが汚染される条件は整っているといえる(表4).このように,HCLケースも含めたレンズケースはグラム陰性桿菌を主体とする環境菌の温床であり,ケース内に形成されたバイオフィルム内の細菌はMPSなどにより除菌することは困難となる.したがって,CL装用後にはケース内の液を捨てて洗浄し,よく乾燥させておくとともに,定期的に交換することが肝要である.IVCLアップデート日眼会誌(第109巻第10号)のCL診療ガイドラインのうち,第4章CLの適応と選択,第5章CL処方,第7章特殊なCL処方について,最近の話題を一括して解説したい.1.シリコーンハイドロゲルレンズ酸素透過性が高く,装用感にも優れる.欧米ではSCL処方の50%以上がシリコーンハイドロゲルレンズとなったとの報告もあり,今後,わが国においても第一選択として処方されていく可能性が高い.しかし,シリ表5わが国で市販されているシリコーンハイドロゲルレンズO2オプティクスエアー/オプティクスボシュロムメダリストプレミア[1週間連続装用](旧ピュアビジョン)ボシュロムメダリストプレミアアキュビューアドバンス装用期間1カ月終日1カ月連続2週間終日1週間連続2週間終日2週間終日製造者CIBAVISIONCIBAVISIONBausch&LombBausch&LombJohnson&Johnson素材lotalconAlotralconBbatalconAbalalconAgalylconA含水率2433363647Dk1401101019160Dk/t17513811010186アキュビューオアシスメニコン2WEEKプレミオ装用期間2週間終日2週間終日製造者Johnson&Johnsonメニコンプレミオ素材senolconA含水率3840Dk103129Dk/t147161———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009885ズの組み合わせにより角膜上皮障害が発生しやすいとの報告がなされており,装用後に違和感を訴える場合,レンズを外して角膜上皮の観察を注意深くする必要がある.現在のところ臨床的には問題となってはいないが,高度の角膜上皮障害を認めた場合には,消毒剤とレンズ,またはどちらかを変更する必要もある(図3).2.カラーコンタクトレンズいわゆるおしゃれ用度なしカラーCLで,一般名は,非視力補正用色付コンタクトレンズである.視力補正の目的ではないため,眼球に直接接触するにもかかわらず,医療機器の承認を受けていない雑貨として長らく取り扱われてきた.しかし,眼障害が多発したことから,国民生活センターが高度管理医療機器の承認を受けている2製品と受けていない12製品の安全性試験を行ったところ,承認を受けていないほとんどの製品では細胞毒性を認め,なかには色素や金属元素の流出する製品が認められた.これらの報告を受け,医療機器に指定することを定めた薬事法施行令の改正が閣議決定され,今年(平成21年)の11月からは,視力矯正用の度付きコンタクトレンズと同様,都道府県知事の許可がなければ販売できなくなり,販売店は管理者を置くことが義務付けられる.一方で,カラーCLは透明なCLに比べて眼障害の発生率が高いことや,アカントアメーバ角膜炎の発生例も報告されたこともあってか,昨年(平成20年)12月で従来型およびFRSCL型のカラーCLはすべて販売中止となり,現在承認を得ている製品はワンデータイプの2種類のみとなっている(表6).カラーCL処方時に注意しないといけない点として,表6でもわかるように酸化鉄や,酸化チタンなどの金属を着色剤として含有していることがある.添付文書にも注意喚起がなされているが,MRI(磁気共鳴画像)検査を受けると発熱による角膜や眼球への障害の可能性があるため,カラーCLをはずしてMRI検査を受けるよう指示することが必要である.3.オルソケラトロジーレンズオルソケラトロジー(オルソK)レンズは,“屈折異常を一時的に除去または軽減するためのRGPCL”と定義される.一般的名称は,角膜矯正用コンタクトレンズで,睡眠時に装用して角膜の形状を変化させることにより,日中の裸眼視力の向上を図る目的で使用される.オルソKの歴史は1962年に“Orthofocus”としてJessenが報告したことに始まり,現在では図4に示すように4つのカーブからなる第3世代のオルソKレンズへと移行している.わが国においても4種類のレンズ〔エメラルドレンズ(テクノピア),ドリームレンズ(アルファコーポレーション),コンテックスレンズ(ボシュロム),マウントフォードBE(エイコー)〕の治験がすでに終了(19)表6カラーCLに含有される着色剤着色剤ワンデーアキュビューディファインフレッシュルックデイリーズ酸化チタン○○酸化鉄○○アントラキノン系着色剤○酸化第二クロム○フタロシアニン系着色剤○図3MPSによる角膜上皮障害———————————————————————-Page8886あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009し,ドリームレンズが本年の2月に承認を受けた.これを受け,平成21年の日眼会誌(第113巻)の第6号に「オルソケラトロジー・ガイドライン」が掲載された.これまでは,眼科専門医によるオルソKの処方よりも並行輸入などによる非眼科医による処方が中心であり,小児などへの安易な処方から重大な合併症をひき起こすケースも散見された.そこでガイドラインでは,オルソKレンズが有効かつ安全に行われるようにまとめられている.詳細は日眼会誌のガイドラインを参照していただきたいが,重要点は処方者をオルソKレンズに精通している眼科専門医とし,適応者として患者本人の十分な判断と同意を得られることとして20歳以上とした点にある.また,禁忌または慎重処方症例としても,眼表面の詳細な検査のみならず,全身状態・疾患に対しても詳細にまとめ,処方前の十分なスクリーニングを求めている.今後は,ガイドラインのもと,眼科専門医によって承認を受けたレンズが適切に処方されることとなろう.以下に,オルソKの代表的処方例,合併症につき述べる.a.オルソKの処方処方時には,HCL,SCLともに23週間装用を中止する.ベースカーブ(BC)の決定方法は各種レンズに共通であり,BC=FlatK(弱主経線)からtargetpower(TP:目標矯正度数)とcompressionfactor(0.75D)を加えた値を引いた値となる.つまり,例)FlatK(弱主経線)=43.0Dtargetpower(TP:目標矯正度数)=3.0Dの場合BC=43.0(3.0+0.75)=39.25Dとなる.b.オルソKの合併症(1)角膜上皮障害:睡眠時に装用するため,閉瞼と涙液交換減少による低酸素状態は不可避であり,opticalzoneが常にレンズに接触しているため,角膜上皮障害が容易にひき起こされる.(2)角膜感染症:低酸素状態と角膜上皮障害は角膜感染症の重大なリスクファクターであり,不適切なレンズケアにより感染症の発生につながることがある.海外からはオルソKに起因したアカントアメーバ角膜炎の報告も多くなされており,十分な指導と観察が必要である.(3)Tightlenssyndrome:レンズのセンタリングを重視するあまりタイト気味に処方されたときに生じる.患者は,疼痛,羞明,充血,流涙を訴える.(4)不正乱視:睡眠時(閉瞼時)のCLのセンタリング不良により,不正乱視が起こる.(5)グレア:瞳孔径に比してopticalzoneが小さいときにグレアが生じることがある.夜間や黄昏時に問題となりやすい.(6)Dimpleveil:ルーズなフィッティングで,レンズ下に迷入した空気が泡状となってBC部後面に移動した場合,角膜上皮面に多数の点状陥凹が生じ,霧視をひき起こすことがある.VCL合併症CL装用に伴う眼合併症は,その病態から,CLのフィッティング不良,CLの汚染,酸素不足,ドライアイなどに分けられる.ガイドラインでは,結膜障害と角(20)FC:0.6mmAC:1.0mmBC:6mmPC:0.4mmオルソK用コンタクトレンズフィッティング白く染まっている部分が涙液層.図4第3世代オルソケラトロジーレンズのデザインAC:Alignmentcurve,BC:Basecurve,FC:Fittingcurve,PC:Peripheralcurve.(吉野健一:オルソケラトロジー.あたらしい眼科20:465-470,2003より)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009887膜障害に分けて記載されているが,ここではよりプラクティカルな立場からおもな合併症についてのみ解説する.1.CLのフィッティング異常SEALs(superiorepithelialarcuatelesions)(図5):別名,epithelialsplittingともよばれる.SCL装用者にみられる弓状の上皮びらんで,角膜上方,輪部から12mm離れた部位にみられる.異物感を伴うこともあるが,無症状のなか,定期検査で発見されることも多い.SCLの変形,素材の固さ,角膜周辺部とレンズのフィッティング不良などが原因と考えられている.中止すれば23日で治癒するが,CL処方の変更を考慮する必要がある.シリコーンハイドロゲルレンズでは従来のSCLより素材の硬い製品が多く,SEALsの発症頻度が高くなる可能性がある.2.CL汚染CL関連角膜感染症不適切なレンズケア,過剰装用などが原因となり,環境菌や常在菌による感染が生じる.CLユーザーの増加に伴って急増中であり,若年層に多発する点で,大きな社会的問題ともなりつつある.(1)細菌性角膜炎:起炎菌として頻度が高いのは緑膿菌,セラチアなどのグラム陰性桿菌とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)を主体とするブドウ球菌属である.前者はレンズケース内の微生物汚染を介して,後者は過剰装用に伴う上皮障害をベースに生じる.なかでも,緑膿菌感染は最も炎症所見が強く,輪状膿瘍と強い実質浮腫をきたすため注意が必要である(図6).角膜擦過物あるいはレンズケースなどを培養して起炎菌を同定するとともに,ニューキノロン系を軸とした抗菌薬の点眼を行う.(2)アカントアメーバ角膜炎:レンズケアのルーズなCL装用者に生じ,近年,増加傾向を示している.初期像として,多発性の斑状角膜上皮下浸潤,偽樹枝状角膜炎,放射状角膜神経炎などが特徴的で,進行すれば輪状浸潤,円板状浸潤に至る(図7).レンズケース内で増殖したアカントアメーバがCLを介して角膜に侵入し,薬(21)図5SEALs6緑膿菌図7アカントアメーバ———————————————————————-Page10888あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009剤抵抗性の強いシストとして角膜に残存するため難治となる.特効薬はなく,角膜掻爬,抗真菌薬およびクロルヘキシジンやPHMB(polyhexamethylenebiguanide)などの抗シスト薬(消毒薬)の点眼により治療する.3.ドライアイLid-wiperepitheliopathy(LWE)(図8):2002年,Korbにより初めて記載された疾患で,眼瞼縁結膜に特異な帯状の染色所見を認める.CL装用者に好発し,ドライアイ症状を訴えるが,発症には瞬目による摩擦が関与していると考えられている.図8に示すようにLWEは上眼瞼のみならず下眼瞼にも認められ,無症状であることも多い.しかし,無症状でも下眼瞼にLWEを認める患者がCLを装用するとLWEが悪化し,症状を訴えることもあるためCL処方前に眼瞼結膜の状態も観察することが重要である.治療にはCL装用の中止が必要だが,症状が軽い場合は,ヒアルロン酸あるいは人工涙液の点眼で改善することもある.おわりに以上,「コンタクトレンズ診療ガイドライン」の読み方と題して,おもに最近の知見を中心に解説した.ガイドライン制定時から診療環境は大きく変化しており,今後のバージョンアップは急務である.なお,誌面の都合上,最終章の基礎知識については割愛させていただいた.(22)図8Lidwiperepitheliopathy

エキシマレーザー屈折矯正手術のガイドライン

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPY平成12年(2000年)1月28日,波長193nmのエキシマレーザー装置の2機種がPRK手術用として厚生省により承認を受けたが,諸外国ではエキシマレーザー装置によるlaserinsitukeratomileusis(LASIK)が主流となってきたことを踏まえて,平成12年5月12日にLASIK手術を含めたエキシマレーザー屈折手術のガイドラインが報告された4).金井淳日本眼科学会エキシマレーザー屈折矯正手術ガイドライン起草委員会委員長のもとである.ここでは,第一次,第二次答申を踏まえて手術適応には大幅な変更は加えられなかったが,大きな変更点は,両眼の手術間隔をPRKで1カ月,LASIKで7日程度に緩めたところであり,国際的な整合性をみながら,ガイドラインとしてLASIKを大きな意味で容認したところであった.IIエキシマレーザー屈折矯正手術のガイドライン(2004年版)5)の骨子2004年,すなわち4年の歳月を経て,大橋裕一委員長のもとにエキシマレーザー屈折矯正手術のガイドラインが改訂された.表1に示すように,手術適応は,20歳以上の屈折値が安定している屈折異常(遠視,近視,乱視)とされ,近視矯正における屈折矯正量は,PRK手術に対するエキシマレーザー装置の承認条件である6Dまで,LASIK手術についてもこれに準じることとされた.6Dを超える矯正を実施する場合には,十分な医学的根拠とともにIエキシマレーザー屈折矯正手術のガイドライン作成の経緯屈折矯正手術の適応についての最初の答申は,平成5年(1993年)6月18日付けで,当時の内田幸男日本眼科学会理事長あてに,所敬屈折矯正手術適応検討委員会委員長から提出された1).その背景にはエキシマレーザー装置によるphotorefractivekeratectomy(PRK)の臨床試験が厚生省へ申請されたことがあった.当時は角膜前面放射状切開術が依然としてかなりの数行われていた時期でもあり,この手術方法に対してきわめて慎重な態度がとられていた.たとえば,この手術の適応となる患者は,20歳以上で,1)不同視,2)2Dを超える角膜乱視,3)3Dを超える屈折度の安定した近視のいずれかに該当するもの,と規定された.さらに,両眼の手術時期は6カ月以上の間隔を空けることとされていた.この答申作成者の慧眼は,安全性への殊の外の配慮であった.すなわち,この手術を行うためには,日本眼科学会認定の専門医であり,かつ指定の講習会を受講することが必須であると決められた.筆者が知るかぎりでは,この答申が眼科専門医であることを義務付けた最初の眼科手技である.平成7年(1995年)10月1日には,エキシマレーザー手術の臨床治験が実施されたことを受け,その評価をもとに適応について改めて審議され,第二次答申が行われた2).さらに安全管理のための屈折矯正手術に関するアンケート調査結果がまとめられた3).(9)875heKha6020841465特集●眼科のガイドライン早わかりあたらしい眼科26(7):875877,2009エキシマレーザー屈折矯正手術のガイドラインTheGuidelineforExcimerLaser-AssistedRefractiveSurgery木下茂*———————————————————————-Page2876あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(10)や炎症眼,さらには白内障などが記載されているが,特に,円錐角膜あるいは円錐角膜疑い例,抗精神薬の服用者,緑内障などが注意すべき患者と思われる(表2).そのほかに,インフォームド・コンセントの必要性,術前スクリーニング項目,手術における留意点,術後の経過観察のポイント,エンハンスメントのための再手術などについて記載されている.重要な術後合併症である角膜感染症6,7)はMycobacteriumchelonaeやMRSA(methicillin-resistantStaphylococcusaureus)によって生じることが多いのが特徴である.また,その他の合併症としてPRKではhazeとよばれる角膜混濁(図1),LASIKではdiuselamellarkeratitis(DLK)(図2),フ10Dを超えないことが望ましいと規定された.また,両眼同時手術については,術者が十分な注意を払うことを条件に初めて認められた.エキシマレーザー装置を用いた屈折矯正手術は,眼科専門領域で取り扱うべき治療法であり,したがって日本眼科学会認定の眼科専門医であり,かつ角膜の生理,病態,疾患そして眼光学に精通していることが必須条件である.この装置の使用に際しては,日本眼科学会の指定する屈折矯正手術講習会,そして製造業者が実施する設置時講習会の両者を受講することが必要条件となっている.エキシマレーザー手術の禁忌例としては,感染症眼表12004年版における答申の骨子1)年齢lateonsetmyopiaを考慮に入れ,20歳以上とする.2)対象屈折値が安定しているすべての屈折異常(遠視,近視,乱視)とする.3)屈折矯正量①近視PRK,LASIKについては,矯正量の限度を原則として6D.十分なインフォームド・コンセントのもと,10Dまでの範囲で実施することとする.LASEK(laserepithe-lialkeratomileusis)は近視PRKに準じるものとする.近視LASIK術後に十分な角膜厚が残存するように配慮すること.③遠視LASIKについては,矯正量の限度を6Dとして実施すべきこととする.④両眼同時手術については,術者が十分な注意を払うことを条件にこれを認める.表2手術の禁忌例と慎重な応例を必要とする例実施が禁忌とされるもの①活動性の外眼部炎症②円錐角膜③白内障(核性近視)④ぶどう膜炎や強膜炎に伴う活動性の内眼部炎症⑤重症の糖尿病や重症のアトピー性疾患など,創傷治癒に影響を与える可能性の高い全身性あるいは免疫不全疾患⑥妊娠中または授乳中の女性実施に慎重を要するもの①抗精神薬(ブチロフェノン系向精神薬など)の服用者②緑内障③全身性の結合組織疾患④乾性角結膜炎⑤角膜ヘルペスの既往⑥屈折矯正手術の既往図1PRK後に生じたhaze図2角膜上皮障害に伴って生じたDLK———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009877(11)インの重要性が再認識させられる.近々にも,エキシマレーザによる屈折矯正手術を行う眼科専門医がある一定期間内に講習会を受講することが日本眼科学会により義務付けられる可能性が高く,社会に向けて医療安全管理,危機管理,そして感染対策は必須の項目であることをわれわれ医療従事者は肝に銘ずる必要がある.文献1)屈折矯正手術の適応について,屈折矯正手術適応検討委員会答申.日眼会誌97:1087-1089,19932)屈折矯正手術の指針:日眼会誌100:95-98,19963)エキシマレーザー屈折矯正手術について,屈折矯正手術に関する第一次,第二次アンケート調査結果.日眼会誌100:1010-1012,19964)エキシマレーザー屈折矯正手術のガイドライン─エキシマレーザー屈折矯正手術ガイドライン起草委員会答申─.日眼会誌104:513-515,20005)エキシマレーザー屈折矯正手術のガイドライン─日本眼科学会エキシマレーザー屈折矯正手術ガイドライン委員会答申─.日眼会誌108:237-239,20046)FreitasD,AlvarengaL,SampaioJetal:AnoutbreakofMycobacteriumchelonaeinfectionafterLASIK.Ophthal-mology110:276-285,20037)NorimasaN,MorishigeN,YamadaNetal:Twocasesofmethicillin-resistantStaphylococcusaureuskeratitisafterEpi-LASIK.JpnJOphthalmol52:440-443,2008ラップトラブル(図3),角膜拡張症(ケラトエクタジア)などがある.III将来に向けて現在の答申は約5年前に作成されたものであり,日進月歩のエキシマレーザー屈折矯正手術に関する安全管理という面からみると,更新が望ましい時期にきている.さらに,東京の一診療所で発症した多数例のLASIK術後感染症を考えると,日本眼科学会の作成するガイドラ図3ボタンホールによる角膜上皮迷入(intraepithelialcyst)

ウイルス性結膜炎ガイドライン

2009年7月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCOPYはじめに厚生労働省の感染症サーベイランスの報告数から推計すると,流行性角結膜炎(epidemickeratoconjunctivi-tis:EKC)(図1)はわが国では年間約70万~130万人が罹患すると考えられている.夏期に発症数のピークがみられる分布を例年くり返すが,眼科における感染症のなかでは,きわめて多数の患者がみられる疾患である.EKCに加えて,咽頭結膜熱(pharyngoconjunctivalfever:PCF)(図2),急性出血性結膜炎(acutehemor-rhagicconjunctivitis:AHC)(図3)の3疾患がいわゆるウイルス性結膜炎として臨床的に取り扱われる.ウイルス性結膜炎は市中感染だけでなく,院内感染の原因としても重要であり,2003年にはじめてその診療ガイドラインが「ウイルス性結膜炎ガイドライン」1)としてまとめられた.このガイドラインは日本眼科学会雑誌(日(3)869炎81401807451特集●眼科のガイドライン早わかりあたらしい眼科26(7):869~873,2009ウイルス性結膜炎ガイドラインGuidelinesforViralConjunctivitis内尾英一*大野重昭**図1流行性角結膜炎アデノウイルス37型による症例.強い結膜充血と偽膜を呈する重症例.図3急性出血性結膜炎エンテロウイルス70により,広範な球結膜下出血がみられた.図2咽頭結膜熱白苔を伴う咽頭炎の症例で,中等度の濾胞性結膜炎を示した.———————————————————————-Page2870あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(4)III鑑別診断鑑別診断については,結膜炎を呈する代表的な疾患のなかで,ウイルス性結膜炎を診断するためのポイントが記載され,フローチャートでわかりやすく解説されている.鑑別の着目点としては,眼脂の性状,耳前リンパ節腫脹,両眼性か否か,結膜病変の特徴などである4).IV臨床像この章ではアデノウイルス,エンテロウイルス,単純ヘルペスウイルス,クラミジアのそれぞれの結膜炎の臨床症状が詳しく述べられている5).アデノウイルス結膜炎の臨床像のなかでは,結膜炎症状が重症なD種の病変に関して,B種に比して増殖速度が遅いことから,重層上皮の結膜において,上層部が脱落してもより深層に感染が持続しているために,ウイルス量が多く,症状の持続も長くなるという説明がされている.発症10日後頃からしばしば出現する角膜上皮下混濁病変について,点状表層角膜症との混同を防ぎ,その病態をより直接的に表現する用語として,多発性角膜上皮下浸潤(multi-plesubepithelialcornealinltration:MSI)という用語が提唱されている.MSIはその後の論文や学会発表などの場では使用されるようになっており,ガイドラインから新しい用語が定着した例といえる.単純ヘルペスウイルス結膜炎は角膜炎に特徴的な所見や眼瞼病変を欠く病型であり,1型で確認されている6)が,感染症サーベイランスの検査定点から得られたデータにおいて,ウイルス結膜炎とりわけアデノウイルス結膜炎と診断される症例のなかで単純ヘルペスイウルスが約5%を占めることが報告されてから,その存在が明らかになったものである.単純ヘルペスウイルス2型結膜炎は単独ではみられず,初感染例で,通常眼瞼病変を伴う.V検査ウイルス性結膜炎の診断は迅速診断キットを中心に行われているが,最初に導入されたアデノチェックR(明治乳業)に代表されるように7),すべて免疫クロマトグラフィー法による迅速診断キットである(表1).キットは最近も新しい製品が販売されているが,代表的なキッ眼会誌)に掲載され,その後に続いて,種々の眼科領域のガイドラインが同誌に掲載される最初のものにあたる.I構成このガイドラインは,疫学,鑑別診断,臨床像,検査,治療,院内感染対策,ウイルス性結膜炎の説明例の順に記載されている.日眼会誌の体裁で,35ページと,全体として,かなり詳細にわたる内容で,他のガイドラインと比較してボリュームが多いものであった.紙面の都合上,すべての内容に触れることはできないが,以下このガイドラインの内容の概略を述べてみたい.II疫学「疫学」についてまず述べられているが,これはウイルス性結膜炎が感染症サーベイランスとして,眼科医によって診断された患者数が全国的に把握されている唯一の眼疾患であるということと,EKCには夏期に大きく,冬期に小さなピークがある特徴的な流行パターンがあることなど,疫学上の知見が臨床的に重要な疾患であるからである2).主要な血清型が年によって変化することが触れられているが,これはその後も続いており,2004年は37型,2005年は8型,2006年は3型,2007年は37型がそれぞれ最も多かった.現在臨床で後述するように汎用されている免疫クロマトグラフィー法診断キットは,使用している抗体によって血清型および種による感度が異なっている.そのためインターネット上で若干のタイムラグはあるが,得ることのできる感染症サーベイランスデータは眼科の臨床と無関係ではなくなっている.従来8型に分類されていた8型変異株は約10年前頃から,わが国の多くの施設から分離されていたが,最近53型という新しい血清型であることが確定した3)ので,今後は報告される血清型の分布にも変動が生じると考えられる.本ガイドラインではアデノウイルス以外にエンテロウイルス,単純ヘルペスウイルス,クラミジアによる結膜炎についても記載されている.エンテロウイルスの大流行は近年みられなくなっているが,感染症のグローバル化や新興感染症の面から今後も注意が必要である.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009871(5)ロマトグラフィー法キット(アレルウォッチR涙液IgE;日立化成)が認可され,臨床応用された11).アレルギー性結膜疾患においては,重症型の春季カタルでは感度は100%だが,アレルギー性結膜炎では63.3~66.7%と高率ではない.アデノウイルス免疫クロマトグラフィー法キットと同様に,特異度は100%とされているので,陽性であれば,ウイルス性結膜炎を否定する根拠となる.今後は非感染性結膜炎との鑑別の点から数種類の診断キットを組み合わせた検査法が診断のスタンダードとなることが推測される.VI治療アデノウイルスに対する特異的な抗微生物薬は現時点ではなく,アデノウイルス結膜炎の治療は,発症初期には,感染予防の目的で抗生物質ないし合成抗菌薬の点眼治療で経過を観察し,MSIに対してステロイド薬点眼を行うのが一般的であり,ガイドラインにもこのように記載されている12).抗菌点眼薬の選択については,クラミジアに対する効果が期待されることから,マクロライド系,ニューキノロン系が候補となるが,使用上の注意が必要である.また,初期の角膜病変から角膜ヘルペスをアデノウイルス結膜炎と見誤ることがあるため,ステロイド点眼薬は慎重に用いる必要がある.非ステロイド性抗炎症点眼薬は抗ウイルス作用はないが,他薬剤と比べると安全性の点でメリットがあるため,再認識が必要ではないかとガイドラインで記載されている.結膜偽膜の除去については,瘢痕化の防止から除去が考慮されているが,小児例などでは無理にがすことによる出血がかえって瘢痕化を助長する可能性もあるので,慎重に行トにおいても,感度を向上させた新型ないし改良キットが導入されている8,9).アデノチェックRの結膜炎からの感度は73.5%に達しており8),キャピリアRアデノアイ(日本ベクトンディッキンソン)は66.4%である9).原理的にいずれも同じであるため,迅速診断キットの感度に大きな差はない.しかし,ヘキソンに対する抗体の血清型が異なっているところに各キットの相違点がある.そのために,年によって感度の優劣が結果としてみられる.これは流行する血清型が年によって異なるわが国の疫学的特徴に由来するものであり,流行し続けているアデノウイルスの生物学的性質が免疫クロマトグラフィー法を通して臨床に影響を与えていることになる.このように向上したとはいえ,免疫クロマトグラフィー法キットの感度は100%ではないので,陰性であってもアデノウイルス結膜炎を否定できない.その場合は結膜擦過物の塗抹検体の鏡検を積極的に行うべきとガイドラインでは記載されている10).それでも診断がつかない場合は,エンテロウイルス,単純ヘルペスウイルス,クラミジアに関する病因検査を進めていくということになる.これらには単純ヘルペスウイルス,クラミジアの蛍光抗体法キット(MicroTrakR)やクラミジアの酵素抗体法キット(イデイアTMPCEクラミジア)など,診察室レベルで行えるものもあるが,最近はpolymerasechainreaction(PCR)法が広く行われている.健康保険が適用されない問題点はあるが,アデノウイルスを含め,単純ヘルペスウイルス,エンテロウイルス,クラミジアを同時に鑑別することもできるので,今後も用いられる頻度は増加すると考えられる.ごく最近,アレルギー性結膜炎の診断用に涙液総IgE(免疫グロブリンE)検出用の免疫ク表1アデノウイルス免疫クロマトグラフィー法キット製品名発売元保存法有効期間保険点数アデノチェックR明治乳業室温17カ月210ディップスティック・アデノR栄研化学室温18カ月60*イムノカードSTRアデノウイルス東レフジバイオニクス4~30℃12カ月210アデノテストADRシード室温17カ月210キャピリアRアデノ日本ベクトンディッキンソン2~30℃13カ月210クイックチェイサーRAdeno咽頭/角結膜ミズホテディー室温18カ月210*:糞便検査用,いずれのキットも検体検査判断量144点を別に請求.———————————————————————-Page4872あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(6)て,網膜離などの緊急手術を行う必要がある場合は,原則的に避けたほうがよいが,やむをえず手術を行わざるをえないこともある点などが述べられている.院内感染によって罹患した患者から訴訟を提起される問題については,本来病気のなかった眼に医療行為によって結膜炎を発症させてしまうことは「リスク」に他ならないので,誠意ある対応が訴訟に至るかどうかの分岐点になることも触れられている.おわりにウイルス性結膜炎は原因治療法が確立されていないにもかかわらず,経過期間中に自然治癒する疾患であるために,積極的な治療の対象となることは少なかった.しかし,ひとたび院内感染が眼科病棟で発生すると,入院患者への手術などの必要な治療が行えなくなることも隣り合わせである.本ガイドラインはウイルス性結膜炎の検査,診断,治療を網羅したガイドラインであり,眼科臨床医はその内容を理解することが望まれる.なお,ウイルス性結膜炎の院内感染に対する新たなガイドラインが現在まとめられており,近く日眼会誌誌上で提示されることになっていることを最後に付け加えておく.追記:本稿を執筆後,日眼会誌第113巻1号(2009年)に「アデノウイルス結膜炎院内感染対策ガイドライン」が掲載されたので参照されたい.うべきであると述べられている.VII院内感染対策アデノウイルスによる大規模な院内感染は依然として起こっており,近年の医療を取りまく状況の変化もあって,社会問題化する事例もある.防止できるかどうかははっきりしていないにもかかわらず,ひとたび院内感染を生じると医療者側の責任が追及されることも少なくない.ガイドラインでは,院内感染対策に一つの章を割いて,院内感染防止対策として,滅菌消毒法,発症者発見の方法,感染者への対応などを,院内感染発生後の対策として,状況把握法,拡大防止策,患者への対応の仕方などが記載されている13).免疫クロマトグラフィー法キットはその簡便さから広く臨床で使用されており,院内感染の場合も同様だが,感度の問題もあり,その結果が特に陰性の場合の取り扱いについては医師以外のスタッフにも十分な理解を徹底させることが必要である.鋭敏なPCR法によって,最近,院内感染例における無症候例からアデノウイルスDNAが検出された報告がある14)が,これはその後に典型的な結膜炎所見を生じていないことや術後炎症との鑑別の困難さなどもあり,潜伏期症例がアデノウイルス感染のリスクとなるかどうかについては,まだ意見が定まっていない.本ガイドラインではすべての潜伏期患者がウイルスを排出しているとして対応すべきであるとしている.VIIIウイルス性結膜炎の説明例本ガイドラインの末尾には,診療現場で患者や家族から寄せられることの多い質問にどう答えるかというテーマが,Q&A形式でまとめられている.他のガイドラインではあまり目にすることのない部分だが,伝染性疾患であるウイルス性結膜炎の性質からガイドラインに組み入れられたものである15).患者からの質問として,登校,就労までの期間やプールには治癒後1カ月は控えるべきであること,コンタクトレンズ装用を中止すべきこと,特異的な治療薬はないが,点眼薬の過剰使用は避けるべきことなどがわかりやすく述べられている.また医療従事者からの質問に関する回答例も述べられている.迅速診断キットの限界を理解すること,発症者に対し語解説アデノウイルス53型:1995年以降日本各地の多くの院内感染株で同定されていた8型の変異株は,中和反応では,8型,9型中和血清により,ともに不完全に中和される性質があり,遺伝子解析からは,ファイバーとヘキソンがともに変異した新しい遺伝子型であることがわかった.2008年の第14回国際ウイルス学会議(InternationalCongressofVirology;Istanbul)で新しい血清型として52型とともに承認され,今後53型と呼称されることが決まった.D種の新しい血清型であり,わが国で発見された初めてのアデノウイルスの血清型でもある.近年,8型に属する遺伝子型の株は他に分離されておらず,わが国のD種アデノウイルス血清型は19型,37型と53型の3血清型に変化した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009873(7)8)有賀俊英,三浦里香,田川義継ほか:改良版アデノチェックRの臨床的検討.臨眼59:1183-1188,20059)大口剛司,有賀俊英,三浦里香ほか:アデノウイルス迅速診断キット「キャピリアRアデノ」の検討.臨眼59:1189-1192,200510)中川尚:第4章検査.日眼会誌107:17-23,200311)中川やよい,石崎道治,岡本茂樹ほか:アレルギー性結膜疾患に対する涙液中総IgEのイムノクロマトグラフィー測定法の臨床的検討.臨眼60:951-954,200612)井上幸次:第5章治療.日眼会誌107:24-26,200313)薄井紀夫:第6章院内感染対策.日眼会誌107:27-32,200314)KanekoH,MarukoI,IidaTetal:Thepossibilityofhumanadenovirusdetectionfromtheconjunctivainasymptomaticcasesduringnosocomialinfection.Cornea27:527-530,200815)薄井紀夫:第7章ウイルス性結膜炎に関する説明例.日眼会誌107:33-35,2003文献1)大野重昭,青木功喜:ウイルス性結膜炎のガイドライン.日眼会誌107:1,20032)内尾英一:第1章疫学.日眼会誌107:2-7,20033)IshikoH,ShimadaY,KonnoTetal:Novelhumanadeno-viruscausingnosocomialepidemickeratoconjunctivitis.JClinMicrobiol46:2002-2008,20084)岡本茂樹:第2章結膜炎の鑑別診断.日眼会誌107:8-10,20035)青木功喜,井上幸次:第3章臨床象.日眼会誌107:11-16,20036)UchioE,TakeuchiS,ItohNetal:Clinicalandepidemio-logicalfeaturesofacutefollicularconjunctivitiswithspe-cialreferencetothatcausedbyherpessimplexvirustype1.BrJOphthalmol84:968-972,20007)UchioE,AokiK,SaitohWetal:Rapiddiagnosisofaden-oviralconjunctivitisonconjunctivalswabsby10-minuteimmunochromatography.Ophthalmology104:1294-1299,1997