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原発開放隅角緑内障におけるSinusotomyおよびDeep Sclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(97)8210910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(6):821824,2009cはじめに流出路再建術である線維柱帯切開術(trabeculotomy:LOT)は,濾過胞を形成しないため,術後感染症などの重篤な合併症が少ない安全な手術である反面,期待眼圧が1618mmHgであり,眼圧下降は十分とはいえなかった13).しかし,術後短期間での一過性高眼圧を抑制する目的でsinusotomy(SIN)を併施することで,一過性高眼圧の頻度が低下しただけでなく,期待眼圧も1516mmHgに下降し,適応の範囲が広がった37).さらに,LOTと白内障手術(phacoemulsicationandaspirationandintraocularlensimplantation:PEA+IOL)の同時手術では単独手術よりも術後眼圧が低いという報告8)もあり,LOT+SINとPEA+IOLの同時手術では,約1415mmHgの術後眼圧が期待できるとされている911).〔別刷請求先〕後藤恭孝:〒631-0844奈良市宝来町北山田1147永田眼科Reprintrequests:YasutakaGoto,M.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Hourai-cho,Nara-shi631-0844,JAPAN原発開放隅角緑内障におけるSinusotomyおよびDeepSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績後藤恭孝黒田真一郎永田誠永田眼科Long-TermResultsofTrabeculotomyCombinedwithSinusotomyandDeepSclerectomyinEyeswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaYasutakaGoto,ShinichiroKurodaandMakotoNagataNagataEyeClinic線維柱帯切開術(LOT)にsinusotomy(SIN)とdeepsclerectomy(DS)を併施し,術後の長期成績について検討した.対象は永田眼科でLOT+SIN+DSを施行した原発開放隅角緑内障40眼である.白内障手術を同時に施行した同時群は13眼,単独群は27眼であった.術前平均眼圧は同時群18.8±2.7mmHg,単独群19.9±4.3mmHg,術後5年での平均眼圧は同時群15.1±1.6mmHg,単独群13.9±2.2mmHg,Kaplan-Meier生命表法による14mmHg以下へのコントロール率は,同時群が53.8%,単独群が36.0%であった.術後の視野障害進行速度の平均値は0.15dB/Yであり,経過観察可能であった27眼中15眼で進行は停止していた.LOT+SIN+DSはLOT+SINとほぼ同等かより良好な眼圧下降効果が得られ,LOT+SIN+DSは,視野障害の進行を予防できる症例があることが示された.Weevaluatedthelong-termresultsoftrabeculotomycombinedwithsinusotomyanddeepsclerectomyin40eyeswithprimaryopen-angleglaucoma.Trabeculotomywithsinusotomyanddeepsclerectomycombinedwithcataractsurgerywasperformedin13eyes.Trabeculotomywithsinusotomyanddeepsclerectomywasperformedin27eyes.Postoperativeintraocularpressure(IOP)during5yearsaftersurgeryaveraged15.1±1.6mmHgintheformergroupand13.9±2.2mmHginthelatter.WhenthesuccessfulpostoperativeIOPlevelwasdenedas14mmHgandtheKaplan-Meierlifetablemethodwasapplied,thesuccessratewas53.8%intheformergroupand36.0%inthelatter.Thepostoperativevisualelddefectworseningrateaveraged0.15dB/Y;visualelddefectworseningceasedin15of27eyes.Trabeculotomywithsinusotomycombinedwithdeepsclerectomyseemstohaveasomewhathighersuccessratethantrabeculotomywithsinusotomyonly,andalleviatesworseningofvisualelddefect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):821824,2009〕Keywords:原発開放隅角緑内障,線維柱帯切開術,深部切除術,Schlemm管外壁開放術,視野進行速度.prima-ryopen-angleglaucoma(POAG),trabeculotomy,deepsclerectomy,sinusotomy,meandeviationslope.———————————————————————-Page2822あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(98)また,deepsclerectomy(DS)では術後DS単独で約15mmHgへ,PEA+IOLとの同時手術で約13mmHgへの眼圧下降が期待できる12)とされており,現在当施設では,さらなる眼圧下降を期待し,DSも併施している.今回は,LOT+SINにDSを追加しその長期成績を検討したので報告する.I対象および方法対象は,永田眼科において2001年4月から2002年3月までの間に,原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)に初回手術としてLOT+SIN+DSを行い,5年間以上経過観察できた32例40眼,術前の平均眼圧は19.5±3.8mmHg,術前の点眼数は2.4±1.1剤である.手術時の平均年齢は63.4±16.4歳であった.そのうち,白内障手術を併施しなかった単独群は21例27眼,術前の平均眼圧は19.9±4.3mmHg,術前の点眼数は2.9±0.8剤,手術時の平均年齢は57.7±16.1歳であり,白内障手術を併施した同時群は11例13眼,術前の平均眼圧は18.8±2.7mmHg,術前の点眼数は1.4±1.0剤,手術時の平均年齢は75.2±8.0であった.眼圧測定にはすべてGoldmannの圧平式眼圧計を用いた.術前の眼圧値は点眼治療下の眼圧で手術直前3回の平均とし,術後5年間の眼圧経過を検討した.眼圧コントロール率に関しては,眼圧値が14mmHg以下であれば,Goldmann視野では,経過年数にかかわらず視野障害の進行が停止したと報告されている13)ことを考慮して,術後6カ月以降に,眼圧が2回続けて14mmHgを超えた時点,眼圧下降剤の数が術前より増加した時点,アセタゾラミドの内服および追加手術を行った時点をコントロール不良とし,Kaplan-Meier生命表法を用いて検討した.視野障害は静的視野計としてHumphrey自動視野計(HFA:ZEISS社)を用い,そのmeandeviation(MD)で評価した.また,視野障害の進行度は,HFAlesR(B-line社)上で5回以上視野測定を行ったMDslopeによる視野進行速度で評価した.II結果1.眼圧経過単独群,同時群ともに術後6カ月目から有意(p<0.05)に眼圧下降し,術後5年目での眼圧は単独群13.9±2.2mmHg,同時群15.1±1.6mmHg,眼圧下降率は単独群27.5±17.9%,同時群18.8±10.9%であった(図1).2.眼圧コントロール率Kaplan-Meier生命表法による14mmHg以下へのコントロール率は,術後5年で,単独群が34.5%,同時群が47.4%であった(図2).Logrank検定にて両群間に有意差(p<0.05)は認めなかった.3.点眼数術前の平均点眼数は単独群で2.9±0.8剤,同時群で1.4±1.0剤であった.術後5年目での点眼数は単独群が1.5±1.1剤,同時群が0.5±0.8剤と単独群,同時群とも有意(p<0.05)に減少していた.4.術後併発症術後の平均前房出血持続期間は,単独群が2.5±2.4日,同時群が2.77±3.1日とほぼ同等であった.術後1週間以内の30mmHg以上の一過性高眼圧は単独群で1例に認められただけであった.持続性低眼圧,網脈絡膜離,低眼圧黄斑症は認めなかった.経過観察中に術後感染症も認めなかった.5.視野経過視野に関しては,術後5年経過時まで,Humphrey自動視野計のSITAstandard30-2プログラムで経過観察可能であった27眼(単独群20眼,同時群7眼)について検討した.視野進行速度に関しては,0dB/Y以上の場合,すべて0dB/Yとし,進行停止として評価した.術前の平均のMDは11.29±7.3dB(2.5724.79),術後の視野進行速度の平均値は0.15±0.31dB/Y(1.370)であり,27眼中15眼(56%)は0dB/Y以上で進行停止していた.術前の視野0510152025061224364860観察期間(M)眼圧(mmHg):Student-ttestp<0.05************図1術後眼圧経過に術後以に眼圧下生率図2KaplanMeier生命表法による14mmHg以下への術後眼圧コントロール成績にめ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009823(99)障害の程度で,MD>6dBを初期群として,MD≦6dBを中期以降群として分類した場合,初期群では術前の平均のMDは3.13±2.1dB(5.910)で,術後の視野進行速度の平均値は0.17±0.27dB/Y(0.820)であり,9眼中5眼(56%)は0dB/Y以上で進行停止していた.中期以降は術前の平均のMDは15.50±4.8dB(24.797.85)で,術後の視野進行速度の平均値は0.15±0.33dB/Y(1.370)であり,18眼中10眼(56%)は0dB/Y以上で進行停止していた(表1).また,術前後でMDslopeの評価が可能であった9眼では,視野進行速度は,術前が0.77±0.71dB/Y(2.290)であったものが,術後は0.20±0.44dB/Y(1.370)になっていた.術前の視野障害の程度で分類すると,初期群では術前が0.18±0.09dB/Y(0.260.08)であったものが,術後は0.06±0.11dB/Y(0.20)に,中期以降群では術前が0.94±0.76dB/Y(2.290)であったものが,術後は0.27±0.54dB/Y(1.370)となっていた(表2).III考按術後期待眼圧はLOT単独では術後3年で18.4mmHg3),術後5年で16.1mmHg2),10年で16.7mmHg1)という報告があり,また,SINの併施によって術後2年で13.5mmHg4),術後35年で約15mmHg3,57)まで下降したと報告されている.LOT+SINにPEA+IOLを併施した場合,術後1年で14.6mmHg10),術後5年で13.6mmHg11)という報告もある.DSは非穿孔手術であり,その作用機序は,前房内から強膜内のlakeに染み出した房水が,DSの強膜床を通って,経ぶどう膜強膜路から吸収されるか,強膜創を通って結膜下に濾過されるかによるものであるとの報告14)があり,DS単独では約15mmHg,PEA+IOLとの併施で約13mmHgへの眼圧下降が期待できるとされている12).さらに,LOTにDSを併施した場合,眼圧が術後1年で14.4mmHgに下降したと報告されている15).また,LOTに内皮網除去のみを併施した場合の短期成績では,約15mmHgへの眼圧下降が期待できるとされている16).今回の結果では,術後5年目の平均眼圧は単独群においては13.9mmHgであり,以前のLOT+SIN,DS,LOT+DS,LOT+内皮網除去とほぼ同等かやや低い結果となった.同時群においては15.1mmHgとなっており,LOT+SIN+PEA+IOLおよびDS+PEA+IOLとほぼ同等かやや高い結果となった.この結果から,期待眼圧においてはLOT+SINにDSを併施することによる効果は少ない可能性が考えられた.しかし,14mmHg以下への眼圧コントロール率においては,LOT単独では術後10年で12%1),LOT+SINでは術後5年で26%11),LOT+SIN+PEA+IOLでは術後5年で31%という報告11)があるが,今回は単独群で34.5%,同時群で47.4%と,以前のLOTおよびLOT+SINの報告よりもやや良好な結果であった.今回の結果とは観察期間,死亡の定義が異なるため直接比較はできないが,LOTに内皮網除去を併施した場合,術後1年での21mmHg未満へのコントロール率は,単独で約60%,PEA+IOL併施だと約95%であり,LOT+内皮網除去ではLOTの効果を減弱させる可能性があるという報告16)がある一方で,DSにSkGelを使用した場合,術後5年で16mmHg以下へのコントロール率が89.7%であったという報告17),あるいは,DSにPEA+IOLを併施した場合の術後1年の18mmHg以下へのコントロール率は50%であったという報告15)がある.内皮網除去の併施だけでは眼圧コントロールは向上しなかったのかもしれないが,今回はDSも併施したため,DSの眼圧下降効果が相乗的に作用した結果,LOTおよびLOT+SINより長期に眼圧コントロールが維持できた可能性があると考えられた.点眼数は,LOT3),LOT+SIN35,7),LOT+PEA+IOL8),LOT+SIN+PEA+IOL9,11)の報告と同様の傾向を示し,術前は単独群で2.9±0.8剤,同時群で1.4±1.0剤であったものが,術後5年で,単独群が1.5±1.1剤,同時群が0.5±0.8剤と有意に減少していた.前房出血持続期間は以前のLOT+SIN10)の報告と同様であり,DSを併施することで,前房出血が増加していないことが確認された.今回術後一過性高眼圧の発生率が低かったことは,内皮網除去は一過性眼圧上昇を減少させる可能性が表1術後の視野障害進行速度(MDslope)術前平均MD術後視野進行度進行停止11.29±7.3dB(2.5724.79)0.15±0.31dB/Y(1.370)15/27眼(56%)術前MD術前平均MD術後視野進行度進行停止≧6.0dB3.13dB±2.1dB(5.910)0.17±0.27dB/Y(0.820)5/9眼(56%)6.0dB>15.50±4.8dB(7.8524.79)0.15±0.33dB/Y(1.370)10/18眼(56%)上段:観察可能であった全症例,下段:視野障害の程度で分類.表2術前後の視野障害進行速度の変化(MDslope)術前術後進行停止0.77±0.71dB/Y(2.290)0.20±0.44dB/Y(1.370)5/9眼(56%)術前MD術前術後進行停止≧6.0dB0.18±0.09dB/Y(0.260.08)0.06±0.11dB/Y(0.20)2/3眼(67%)6.0dB>0.94±0.76dB/Y(2.290)0.27±0.54dB/Y(1.370)3/6眼(50%)上段:観察可能であった全症例,下段:視野障害の程度で分類.———————————————————————-Page4824あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(100)ある16)とされていることから,内皮網除去を併施したことも影響していると思われた.緑内障ガイドラインでは,緑内障は眼圧を十分下降させれば,視神経障害を改善もしくは抑制しうる疾患であると定義されている.ということは,視神経障害つまり視野障害の進行が抑制されているかどうかが重要であり,眼圧下降が十分であったかどうかの評価となると考えられる.LOT単独では初回手術で眼圧コントロールが良好であった症例の32%で1),LOT+SINでは術後23%で3,5),LOT+SIN+PEA+IOLでは18%で11)視野障害が進行していたとの報告があるが,すべてGoldmann視野検査での評価であった.Goldmann視野では,視野障害の進行の細かな評価が困難であると考えられ,今回は,視野進行速度について静的視野計のMDslopeで評価することとした.今回視野障害が評価可能であった症例の,術後の視野進行速度の平均は0.15dB/Yであった.手術時の平均年齢63.4歳から推定すると平均余命は約20年であり,平均余命中には3.0dBしか進行せず,術前の平均のMD値11.29dBを考慮すると,十分視機能は保持できると考えられた.手術時のMD値を6dBで分け,MD≧6dBを初期群,MD<6dBを中期以降群としても,術後の視野障害の進行速度の平均はそれぞれ0.17dB/Yおよび0.15dB/Yであり,術前の平均のMD値がそれぞれ3.13dBおよび15.50dBであったことを考慮すれば,やはり十分視機能,あるいは視力が保持できる可能性が高いと考えられた.また,視野障害の程度に関係なく,全例中約半数で視野障害の進行が停止しており,LOT+SIN+DSで眼圧を1415mmHgに下降させることで,十分管理可能な症例も存在することが示唆された.さらに,術前の視野進行速度が評価可能であった9症例について検討すると,術後の平均の進行速度は術前より低く,視野障害の進行は術後に抑えられていることが確認された.初期群では,術後,平均でもほぼ0dB/Yとなっており,早期手術を行う意義があることが示された.また,中期以降群でも,術後,進行速度が抑制されており,1415mmHgに眼圧を下降させることで,視野障害の進行を抑えることができることが示唆された.今回の検討から,LOT+SIN+DSはLOT+SINと比較し,期待眼圧を大きく低下させることはできなかったが,LOT+SINより眼圧コントロール率が向上する可能性があり,LOT+SIN+DSの効果が持続している間は,十分視野障害の進行が抑えられていることが示された.LOT+SIN+DSは重篤な術後併発症の発生頻度が低いことから考えると,早期手術として,眼圧が高値の視野障害が中期以降の症例に対しても,十分適応があると考えられた.文献1)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicalefectsoftrabeculotomyabexternoonadulteyeswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfoliationsyndrome.ArchOphthalmol111:1653-1661,19932)寺内博夫,永田誠,松村美代ほか:Trabeculotomypro-spectivestudy(術後10年の成績).あたらしい眼科17:679-682,20003)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独との長期成績の比較.臨眼50:1727-1733,19964)青山裕美子,上野聡:ジヌソトミー併用トラベクロトミーの術後中期眼圧推移.あたらしい眼科12:1297-1303,19955)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌100:611-616,19966)MizoguchiT,NagataM,MatsumuraMetal:Surgicalefectsofcombinedtrabeculotomyandsinusotomycom-paredtotrabeculotomyalone.ActaOphthalmolScand78:191-195,20007)安藤雅子,黒田真一郎,寺内博夫ほか:原発開放隅角緑内障に対するサイヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.臨眼57:1609-1613,20038)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Phacoemulsica-tion,intraocularlensimplantation,andtrabeculotomytotreatpseudoexfoliationsyndrome.JCataractRefractSurg24:781-786,19989)溝口尚則,松村美代,門脇弘之ほか:眼内レンズ手術がシヌソトミー併用トラベクロトミーの術後眼圧におよぼす効果.臨眼52:1705-1709,199810)畑埜浩子,南部裕之,桑原敦子ほか:PEA+IOL+トラベクロトミー+サイヌソトミーの術後早期成績.あたらしい眼科18:813-815,200111)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,200212)D’EliseoD,PastenaB,LonganesiLetal:ComparisonofdeepsclerectomywithimplantandCombinedglaucomasurgery.Ophthalmologica217:208-211,200313)岩田和雄:低眼圧緑内障および開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,199214)MarchiniG,MarrafaM,BrunelliCetal:Ultrasoundbio-microscopyandintraocular-pressureloweringmecha-nismsofdeepsclerectomywithreticulatedhyaluronicacidimplant.JCartaractRefractSurg27:507-517,200115)LukeC,DietleinTS,LukeMetal:Prospectivetrialofphaco-trabeculotomycombinedwithdeepsclerectomyversusphaco-trabeculectomy.GraefesClinExpOphthal-mol246:1163-1168,200816)塩田伸子,岡田丈,稲見達也ほか:内皮網除去を併用したトラベクロトミーの手術成績.あたらしい眼科22:1693-1696,200517)GalassiF,GiambeneB:DeepsclerectomywithSkGelimplant:5-yearresults.JGlaucoma17:52-56,2008

鳥取大学における若年者の角膜感染症の現状

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(91)8150910-1810/09/\100/頁/JCLS45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(6):815819,2009cはじめに近年,角膜感染症の若年化が問題となっており,2003年に行われた感染性角膜炎の全国サーベイランス1)においても,年齢分布は二峰性を示し,60歳代以外に20歳代にもピークを生じていた.さらに,若年層ではコンタクトレンズ(CL)使用中の感染が9割以上を占め,わが国の感染性角膜炎の発症の低年齢化の大きな原因として,CLの使用がある1,2).この10数年間に,使い捨てソフトCL(DSCL)や頻回交換ソフトCL(FRSCL)の登場により,装用者は急激に増加し,CLの使用状況は大きく変わっている.約1,500万人を超えるといわれるCL装用者がいるなか,近年,CL使用の低年齢化が起こり,10歳代,20歳代の若者の使用が増〔別刷請求先〕池田欣史:〒683-8504米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学Reprintrequests:YoshifumiIkeda,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishi-cho,Yonago,Tottori683-8504,JAPAN鳥取大学における若年者の角膜感染症の現状池田欣史稲田耕大前田郁世大谷史江清水好恵唐下千寿石倉涼子宮大井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学CurrentStatusofInfectiousKeratitisinStudentsatTottoriUniversityYoshifumiIkeda,KohdaiInata,IkuyoMaeda,FumieOtani,YoshieShimizu,ChizuToge,RyokoIshikura,DaiMiyazakiandYoshitsuguInoueDivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity近年,角膜感染症の若年化が問題となっており,重症例が増加している.今回,当院での若年者の角膜感染症の現状を報告する.2004年1月2008年2月に入院加療した角膜感染症患者のうち,発症年齢が30歳未満であった13例14眼を対象に,コンタクトレンズ(CL)使用状況・治療前後の視力・起炎菌について検討した.発症年齢1428歳.男性5例5眼,女性8例9眼.11例で頻回交換ソフトCL,1例でハードCLを使用していた.初診時視力が0.5以下は9例10眼,0.1以下は6例7眼であった.治療後の最高視力は比較的良好であったが,0.04にとどまった例が1例,治療的角膜移植施行例が1例あった.推定起炎菌はアカントアメーバ4眼,細菌10眼であり,分離培養で確認されたものは緑膿菌2眼,黄色ブドウ球菌2眼,セラチア1眼,コリネバクテリウム1眼であった.若年者角膜感染症でも特に重症例が増加しており,早期の的確な診断・治療の重要性とともにCL装用における感染予防策の必要性が示唆された.WereportthecurrentstatusofinfectiouskeratitisinstudentsatTottoriUniversity.Wereviewedtherecordsof14eyesof13patientsbelow30yearsofageamongthosetreatedforinfectiouskeratitisatTottoriUniversityHospitalfromJanuary2004toFebruary2008.Patientswereevaluatedastomethodofcontactlensuse,visualacuitybeforeandaftertreatmentandmicrobiologicaletiology.Theagedistributionrangedfrom14to28years.Ofthe13patients,11usedfrequent-replacementsoftcontactlensesand1usedhardcontactlenses.Atinitialvisit,thevisualacuityof10eyes(9patients)waslessthan20/40,andthatof7eyes(6patients)waslessthan20/200.Bettervisualacuitywasnotedaftertreatmentinallbut2cases,1ofwhichhadpoorvisualacuity,theotherhav-ingreceivedpenetratingkeratoplasty.ThepresumedcausativeagentswereAcanthamoebaspeciesin4eyesandbacteriain10eyes.SomeofthesewereprovenbyculturingtobePseudomonasaeruginosa(2eyes),Staphylococ-cusaureus(2eyes),Serratiamarcescens(1eye)andCorynebacterium(1eye).Reportsofyoungercasesofcontactlens-relatedsevereinfectiouskeratitishavebeenontheincrease.Theimportanceofearlyproperdiagnosisandtreatmentisindicated,asistheneedforstrategyinpreventingcontactlens-relatedinfectiouskeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):815819,2009〕Keywords:角膜感染症,若年者,アカントアメーバ,緑膿菌,コンタクトレンズ.infectiouskeratitis,younggeneration,Acanthamoeba,Pseudomonasaeruginosa,contactlens.———————————————————————-Page2816あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(92)加している.今後ますます若年者のCL原因の感染性角膜炎が増加すると予想される.啓発活動も含めた意味で,今回筆者らは,鳥取大学における角膜感染症のうち,特に30歳未満の若年者を対象に,CLの使用状況・起炎菌・初診時視力・治療後視力などについて検討し,予防策について考察したので報告する.I対象および方法対象は,鳥取大学医学部附属病院眼科において2004年1月から2008年2月までの約4年間に,入院加療を要した角膜感染症117症例(ヘルペス感染を含む)のうち,30歳未満の13例14眼(男性5例5眼,女性8例9眼)である.117症例に対する若年者の割合と若年者全例の年齢・性別・発症から当院紹介までの日数・初診時視力・治療後最高視力・起炎菌・前医での治療の有無・ステロイド使用歴の有無・CLの種類や使用状況についての検討を行った.II結果角膜感染症117症例全体の若年者の年代別の割合を図1に示す.2004年は5.9%,2005年は0%,2006年は9.5%と低かったが,2007年には21.4%と上昇し,2008年には1月,2月のみで,42.9%と高かった.なお,30歳未満13例表1全症例(13例14眼)の内訳症例年齢(歳)性別患眼発症から当院初診までの日数起炎菌初診時視力治療後最高視力前医での治療114女右42アカントアメーバ0.81.2あり(ステロイド)217女右4細菌0.81.2なし322男右11細菌0.091.0なし注1415女左3セラチア0.91.2あり528女右14アカントアメーバ0.21.0あり(ステロイド)621男左22アカントアメーバ0.41.5あり719男左2緑膿菌0.51.0あり(ステロイド)816女左3細菌手動弁/30cm0.9あり928男左3細菌1.21.5なし1024女右4黄色ブドウ球菌0.030.9なし24女左4黄色ブドウ球菌0.011.2なし1118女左33アカントアメーバ指数弁/15cm1.2注2あり(ステロイド)1216女左4緑膿菌手動弁/10cm0.04あり1323男左2コリネバクテリウム0.030.6なし注1:知的障害およびアレルギーあり.注2:治療的全層角膜移植術施行後の視力.症例CLの種類CL誤使用の有無1FRSCL(1M)無2FRSCL(2W)有(就寝時装用)3なし4FRSCL(2W)無5FRSCL(2W)無6FRSCL(2W)無7FRSCL(1M)有(使用期限超え,消毒不適切)8FRSCL(1M)有(連続装用,消毒不適切)9FRSCL(2W)有(連続装用,消毒不適切)10HCL有(消毒不適切)HCL有(消毒不適切)11FRSCL(1M)有(消毒不適切)12FRSCL(1M)有(就寝時装用,消毒不適切)13FRSCL(2W)有(連続装用,消毒不適切)05101520253035402004年2005年2006年2007年2008年(12月):30歳以上:30歳未満2/34(5.9)0/27(0)2/21(9.5)6/28(21.4)3/7(42.9)症例数(人)図1鳥取大学における角膜感染症の若年者の割合の推移(13/117症例)上段の数値は年別の若年者数/全症例数(若年者の割合)を示す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009817(93)14眼の内訳(表1)は,男性5例5眼,女性8例9眼で,発症年齢は1428歳(平均20±5歳)であり,10歳代が7例と半数近くを占めていた.初診時矯正視力は0.5以下が9例10眼で,0.1以下が6例7眼と重症例が目立った.治療後最高視力は0.6以上が11例12眼で,1.0以上が9例9眼と比較的良好であった.しかし,最終的に1例は治療的角膜移植術を行い,1例は最終視力0.04と視力不良であった.症例3は知的障害とアレルギー性結膜炎があり,角膜潰瘍を生じた例で,それ以外は,全例CL使用者で,11例にFRSCL,1例にハードCL(HCL)の装用を認めた.なお,CLの洗浄,擦り洗い,CLケースの定期交換などの適切な消毒を行っていない症例や,CLの使用期限を守らない,就寝時装用,連続装用など不適切なCL装用状況が8例9眼で認められた.推定起炎菌は細菌が10眼,アカントアメーバが4眼で,細菌10眼のうち6眼が分離培養できたが,アカントアメーバは分離培養できておらず,検鏡にて確認した.HCL使用の1例2眼で黄色ブドウ球菌が検出され,FRSCLでは緑膿菌が2眼,セラチアとコリネバクテリウムが1眼ずつ検出された.なお,セラチアは主要な細菌性角膜炎の起炎菌であり1),病巣部より分離培養できたことから起炎菌と判断した.コリネバクテリウムは結膜の常在菌であり,角膜での起炎性は低いが,この例では病巣部よりグラム陽性桿菌を多量に認め,分離培養結果も一致し,好中球の貪食像も認められたため起炎菌とした.また,発症から当院へ紹介されるまでの日数は平均11日であるが,アカントアメーバ角膜炎は平均28日と約1カ月かかっていた.さらに,前医で治療を受けた8例中半数の4例にステロイドの局所または全身投与がなされており,そのうち,3例がアカントアメーバであった.ここで重症例の症例11と12の経過を報告する.〔症例11〕18歳,女性.現病歴:平成19年12月7日左眼眼痛と充血を主訴に近医を受診し,角膜上皮障害にてSCL装用を中止し,抗菌薬,図3症例11:左眼前眼部写真(平成20年1月22日)ステロイド中止後に角膜混濁は悪化した.図5症例11:ホスト角膜の切片(ファンギフローラYR染色)ホスト角膜にアカントアメーバシスト(矢印)が散在した.図2症例11:初診時左眼前眼部写真(平成20年1月8日)角膜中央に円形の角膜浸潤と毛様充血を認め,角膜擦過物よりアカントアメーバシストを認めた.VS=15cm/指数弁.図4症例11:左眼前眼部写真(平成20年3月12日)2月26日に治療的全層角膜移植術を施行した.VS=(1.0).———————————————————————-Page4818あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(94)角膜保護薬の点眼にて経過観察されていた.12月26日に,角膜後面沈着物が出現し,ヘルペス性角膜炎と診断され,ステロイド点眼・内服を追加されるも,改善しないため,平成20年1月7日に鳥取大学医学部附属病院眼科を紹介となった.なお,CLは1日15時間以上使用し,CLの消毒はマルチパーパスソリューション(multi-purposesolution:MPS)を使用し,週に23回しか消毒しておらず,CLケースもほとんど交換していなかった.初診時所見:左眼視力は15cm指数弁で,角膜中央に円形で境界不明瞭な角膜浸潤と角膜浮腫および上皮欠損を生じており,特に下方では潰瘍となっていた(図2).治療:角膜擦過物のファンギフローラYR染色にてアカントアメーバシストが確認されたため,アカントアメーバ角膜炎との診断で,ステロイド中止のうえ,角膜掻爬に加え,イトラコナゾール内服,0.02%クロルヘキシジン・フルコナゾール・1%ボリコナゾール点眼,オフロキサシン眼軟膏の三者併用療法を開始した.ステロイド中止後,角膜混濁は悪化し(図3),ピマリシン点眼に変更するも,治療に反応せず,角膜混濁もさらに悪化したため,平成20年2月26日に治療的全層角膜移植術を施行した(図4).術後,再発を認めず,矯正視力1.2と安定した.なお,角膜移植時に切除したホスト角膜片の病理検査でのファンギフローラYR染色にてアカントアメーバシストが認められた(図5).〔症例12〕16歳,女性.現病歴:平成20年2月7日からの左眼眼痛にて翌日近医を受診し,角膜上皮離の診断にて点眼加療された.2月9日角膜混濁が出現し,抗菌薬の点眼・内服を追加されるも改善せず,2月10日に,角膜潰瘍と前房蓄膿が出現したため,同日,鳥取大学医学部附属病院眼科を紹介となった.なお,CLは1日16時間以上使用し,毎日MPSにて消毒はしていたが,擦り洗いは週に1回程度であり,ときどき装用して就寝することもあった.初診時所見:左眼視力は10cm手動弁で,角膜中央に輪状膿瘍,角膜潰瘍を認め,さらに,前房蓄膿を伴っていた(図6).治療:急速な進行と臨床所見から,緑膿菌感染と判断し,イミペネムの点滴,ミクロノマイシン点眼,オフロキサシン眼軟膏にて治療を開始した.角膜擦過物の塗抹鏡検にてグラム陰性桿菌を認め,後日培養にて緑膿菌を検出した.治療にはよく反応し,翌日には前房蓄膿は消失し,角膜潰瘍は徐々に軽快した.しかし,最終的に角膜中央に混濁を残して治癒し(図7),最終視力は0.04と良好な視力を得られなかった.III考按2003年の角膜サーベイランス1)での年齢分布のグラフにおけるCL非使用の感染性角膜炎の年齢分布は,1972年から1992年にかけての報告を集計した金井らの論文にみられる60歳代にピークをもつ感染性角膜炎の年齢分布2)とあまり変わっていない.このことから,使用しやすいSCL(DSCL,FRSCL)の登場により,CL使用者(おもに若年者)が急激に増加し,その安易な使用によって,CL使用者の感染性角膜炎が上乗せされた形となり,10歳代,20歳代にもう1つのピークが生じたとみてとれる.さらに,10歳代の感染はほぼ100%CL関連であり,20歳代もCL使用が89.8%であったと報告されている.しかも,20歳代の割合が60歳代を上回る状況となっている1,3).20歳代のCL関連の感染の増加はCL使用割合がその年代に多いためと推察されるが,10年後,20年後には,これがさらに上の年代へと拡大していく危険性をはらんでいる.今回,筆者らは30歳未満の若年者を対象にデータ解析を行ったが,CL関連が92.3%であり,レンズの不適切な使用によると思われる感染が大半を占めていた.若年者の失明は以後のQOL(qualityoflife)を大きく損なうため,早期発見と適切な早期治療が必須である.図6症例12:初診時左眼前眼部写真(平成20年2月10日)角膜中央に輪状膿瘍と前房蓄膿を認めた.VS=10cm/手動弁.図7症例12:左眼前眼部写真(平成20年3月11日)最終的に角膜中央に混濁を残して治癒した.VS=0.04(n.c.).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009819(95)今回の4例のアカントアメーバ角膜炎では,症状発生から適切な治療までに2週間から約1カ月半が経過しており,そのうち3例はヘルペス感染との診断にて,ステロイド加療がされており,最終的に1例に治療的角膜移植術を施行した.そのため,眼科医の早期の適切な診断と治療が重要となってくる.CL装用者の場合には,ヘルペスと思われる上皮・実質病変が存在しても,ヘルペスよりもアカントアメーバの感染をまず念頭に置き,前房内炎症が生じていても,ステロイド投与の開始については慎重に考慮する必要がある.また,SCL装用による両眼性アカントアメーバ角膜炎も報告46)されており,診断,治療が困難な場合には,早急に角膜疾患の専門家のいる病院へ紹介することが重要である.一方,細菌感染の場合は,アメーバと異なり進行が速いため,症状発生から紹介までは約4日と短く,抗菌薬頻回点眼・点滴を含めた早期治療が大切となる.細菌性角膜感染炎ではアカントアメーバ角膜炎よりも診断が容易であるが,緑膿菌では進行が速く,重症化するため,症例12のように治癒しても社会的失明の状態となる.若年者の角膜感染による失明を防止するには,CL関連感染角膜感染症の存在とその予防策について,若年のCL装用者に十分知識をもってもらうことが重要である.さらに,CLケースの洗浄や交換が行われていなかった例や,インターネットにて購入した例もあり,眼科専門医の適切な指導のもと,CLの処方のみならず,洗浄液も処方箋による販売が行われる体制が望ましいのではないかと思われる.現にシリコーンハイドロゲルレンズにおいて,洗浄液との相性があわず,上皮障害をひき起こす場合もあり79).眼科医がしっかりとCL装用者のCL使用状況を把握するうえでも,CLと洗浄液とを同時に眼科医が処方できるようにすべきではないかと考える.今回の症例に使用されたSCLはすべてFRSCLであり,適切に使用した症例でも,感染をひき起こしていることを考慮すると,感染予防という点では,現行のMPSでは限界があり,煮沸消毒に及ばないと考えられる10).また,適切に使用すれば外部からの細菌の持ち込みがないという点において,DSCLへの変更も留意する必要がある.一番の問題点はCL使用者がCLの利便性のみにとらわれ,CLの危険性に関して無知であることである.これは,各CLメーカーの宣伝の影響が大きいと考える.SCLのパンフレットには注意事項は裏面に小さな字で記載されているのみで,内容も「調子よく使用し,異常がなくても,定期検査は必ず受けてください」・「少しでも異常を感じたら,装用を中止し,すぐに眼科医の診察を受けてください」といった,当たり障りのない文句が書かれている.適切な使用を怠ると,感染性角膜炎になり,失明する可能性があることを説明し,実際の感染性角膜炎の写真を掲載するなどして,視覚的に訴えていく必要がある.タバコの外箱に記載されている肺癌の危険性と同様に,常時手にとるCLのパッケージへも失明の可能性ありとの記載があると,CL装用者への啓発となると考える.今後も,若年性CL関連角膜感染症は増加していくと推察されるため,CL装用指導と角膜感染症発症についてのCL装用者への啓発の重要性を改めて認識する必要性がある.文献1)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌110:961-972,20062)金井淳,井川誠一郎:我が国のコンタクトレンズ装用による角膜感染症.日コレ誌40:1-6,19983)宇野敏彦:コンタクトレンズの角膜感染症予防法.あたらしい眼科25:955-960,20084)WilhelmusKR,JonesDB,MatobaAYetal:Bilateralacanthamoebakeratitis.AmJOphthalmol145:193-197,20085)VoyatzisG,McElvanneyA:Bilateralacanthamoebakera-titisinanexperiencedtwo-weeklydisposablecontactlenswearer.EyeContactLens33:201-202,20076)武藤哲也,石橋康久:両眼性アカントアメーバ角膜炎の3例.日眼会誌104:746-750,20007)JonesL,MacdougallN,SorbaraLG:Stainingwithsili-cone-hydrogelcontactlens.OptomVisSci79:753-761,20028)植田喜一,稲垣恭子,柳井亮二:化学消毒剤による角膜ステイニングの発生.日コレ誌49:187-191,20079)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,200510)白石敦:マルチパーパスソリューション(MPS)の現況および問題点.日本の眼科79:727-732,2008***

眼科医にすすめる100冊の本-6月の推薦図書-

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20098070910-1810/09/\100/頁/JCLS以前からなんとなくポックリ死ねたらよいなあと思っていた私は,この本のタイトルを見て思わず購入してしまいました.これまでに自分の頭のなかにあった『ポックリ死』というものは,まだボケる前にそして自分の身の回りの世話ができている間に,あっさりと死ぬといったような漠然としたイメージでした.しかし,ポックリ死ぬというのは,どうもそういうものではないようです.そもそも,「ポックリ」という言葉は「長く久しく永久にご利益を保ってくださる」との意味を持つ浄土宗の言葉,「保久利」が語源とのことです.つまり,『ポックリ死』というのは浄土へ往生するということなのでしょう.ということは,日頃から何の功徳も積んでいない凡夫の鑑のような私には,とても叶わぬ夢ということになります.しかし「ポックリ死ぬこと」は,もともとは「功徳を積んだ人の死に方」だったのが,長い年月を経て徐々に意味が変わり,「長生きして自分も苦しまず,家族にも迷惑をかけない死に方」になったそうです.こういう意味なら,まだ私にもポックリ死できるチャンスはありそうです.加齢老年医学に長く携わってこられた佐藤琢磨先生による『ポックリ死』についての考え方をまとめてみます.まずは,死に方の3つのパターンです.脳が体より先に衰えるパターン,体が脳より先に衰えるパターン,脳と体が同じように衰えるパターンの3つですが,最初のパターンの代表例は認知症になります.2番目のパターンの代表例は心筋梗塞や脳梗塞,脳出血ということになるでしょう.最後のパターンが『ポックリ死』に近いようですね.この最後のパターンをとるのはかなり高齢まで健康で長生きした人が多いようで,著者は『ポックリ死』の条件として,①健康に長生きしたこと,②脳と体が同じような時期に衰え,体調が悪くなってから比較的短い期間で,しかも苦しまずに他界したこと,③家族も「長生きしてもらった」という達成感や納得感,安堵感,満足感を得られたこと,の3つをあげています.私の頭の中では『突然死』という要素が,なんとなく『ポックリ死』のなかに入っていました.突然死というのは,後に残された家族の苦しみ・悲しみが付き物ですし,本人もその瞬間はきっと恐怖と苦しみ・痛みを感じるものなのでしょう.そう考えると,『突然死』と『ポックリ死』はまったく違うものだということに気づかされました.さて,それでは,脳と体が同じように衰えるには,どうしたらよいのでしょうか.一言で言うと「健康で長生きすること」ということになりそうです.健康で長生きする人というのは,まず,マイペース型人間,これには私もまあまあ当てはまるかなと思います.かなりアバウトな性格ですので.つぎに,高齢になるまで仕事を続けられる環境にある人ということになりますが,眼科開業医というのは理想的な環境かもしれません.つぎに,男性.日本人の平均寿命は男性が78.53歳,女性が85.49歳(2005年厚生労働省)といことになり,年齢だけからいうと,女性のほうが『ポックリ死』には有利なようですが,夫婦の場合,先に要介護状態になるのはたいていが男性とのことです.夫が老衰によって病院で終末期を迎える場合,介護を続けてきた妻は過度の医療や延命治療はほとんど望まないとのことで,過度な医療を受けない夫は自然な死,つまり,『ポックリ死』を迎えることができるのだそうです.それに引き替え,夫を看取った女性は,子供たちがなんらかの事情で介護できず病院に任せていた場合,終末期にはやや積極的な延命治療を希望しがちで,自然な死を迎えたいと思っていても,叶わ(83)■6月の推薦図書■ポックリ死ぬためのコツ佐藤琢磨著(アスベクト出版)シリーズ─89◆小玉裕司小玉眼科医院———————————————————————-Page2808あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009ないことが多々あるそうです.この点も私はクリアしそうだと思って読み進めると,なんと,これはあくまでも奥さんに大切にされた場合とのことです.そうでない男性が要介護状態になると,在宅での介護を妻から拒否されて早々に入院となって,過剰医療や延命治療を施され,『ポックリ死』とはほど遠い死に方になりかねないと書いてありました.『ポックリ死』をしたい男性は,日頃から奥さんを大切にしたほうがよいかもしれません,と読み進むうちに,私の『ポックリ死』にはちょっと危険信号が灯ってしまいました.ポックリ死ぬために必要なこととして,脳と体の老化を一致させることが大切で,そのためには,まず,脳のなかでも古脳を活性化しなければならないようです.古脳を活性化する方法としては,①早寝早起きを心掛ける,②三食きちんと食べる,③身だしなみを整える,④趣味を持つ,⑤コミュニケーションを積極的に図るの5つのポイントがあげられています.私自身は①②が駄目で③④⑤はクリアできそうです.体の強化のポイントは下半身の強化だそうです.下半身の運動系と神経系を鍛える方法がいくつか書かれていますので,ぜひ,参考にされればよいと思います.つぎに食生活ですが,ポックリ死した人の共通点として,①好き嫌いがなく,三食しっかり食べる,②節制しない,③タンパク質の摂取量が多い,④旬の野菜や果物を多く食べている,の4つがあげられています.私は好き嫌いはないのですが,三食はきちんと食べないことが多いので,①は半分クリアということになるのでしょう.②③④はクリアしています.さて,40~50代の死因として,真っ先に頭に浮かぶものは,やはり癌だと思います.実際,その年代の死亡原因の第1位は癌が占めているとのことです.早期発見,早期治療で,かなり癌を克服している人が増えてきてはいますが,それでもやはり癌と告知を受けた場合の不安感や恐怖感は,その経験者でなければわからないほど大きなものだと思います.癌の臓器別死亡数をみると,男性では1位が肺癌,2位が胃癌,3位が肝癌,4位が大腸癌,女性では1位が胃癌,2位が大腸癌,3位が肺癌,4位が乳癌となります.私自身,3年ほど前に,人間ドッグにて便潜血反応が出て,大腸癌の疑いのもとに大腸ファイバー検査を受けましたが,幸いなことに大腸ポリープが発見されただけで,内視鏡による摘出手術により完治したようです.しかし,一時的なものでも,癌ではないかという不安は,予想を遙かに超えたものでした.癌は自覚症状が出たときは,すでに手遅れになっていることもありますので,早期発見,早期治療のためにも,定期的な検査を受けておくことが,『ポックリ死』を迎える必要条件かもしれません.この本に書いてある項目別にチェックすると,ある程度の条件はクリアするものの,喫煙,飲酒,不摂生という生活を送っていた私などは,到底『ポックリ死』を迎えることは叶いそうもなく,『突然死』への道を邁進していたことになるのでしょう.先日も同年齢の眼科医5人で話す機会があったのですが,話題は自然と健康のことになり,最後にやはり「ポックリ死にたいよね!」という結論に達しました.ところが『ポックリ死』への道のりはそんなに甘いものではないみたいです.『ポックリ死』を迎えたい眼科医は皆さん!!ぜひ,本書をお読みください.(84)☆☆☆

私が思うこと17.人生のアイテム

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009805私が思うことシリーズ⑰(81)子供たちの間でゲーム機が流行っている.覗いてみると,なんでもアイテムとやらを手に入れながら,それを駆使してステージを駆け上がっていくシステムである.すべてが終わると全クリ(全部クリア)となり,卒業となるらしい.なにげなく横目で見ながら,まるで人生だなあと思った.自分の人生を振り返ってみると,「しまった,若いころにゲットしておけばよかった」というアイテムがいくつもある.まずは「座右の銘というべき書物」.私が1年前からどっぷりはまった書物がある.「山岡荘八著・徳川家康全26巻」.最近,お隣の中国で大人気らしい.時代の流行のキャッチが早いのか,時代の行き先を見据える目があるのかと自負していたら,単に「ミーハーの先端なだけ」と家族から指摘された.読みながら思わずラインマーカーを引いてしまうほど,指針になる言葉が出てくる.“がまん”“じっくり”“引かず押さず”追い風が来るのをじっと待つ.なんとまあ,せっかちな私には,ことごとく欠如していたものだ.しかも,その根底には,「自分のため」ではなく,「世の中のため,後世のため」というゆるぎない信念がある.すべて得たものは天からの授かり物という考え方である.こう考えれば,目的に向かって共に平行して進むことはあっても,人との競争なるものもありえない.人生において仲良しの人が増えるだけで,世の中を渡ることが随分ラクになる.たとえ,子育てや介護で大変なことがあっても,「世のため,天から授かった仕事」と考えれば,多少救われる(実際には,そこまで生易しいものではないが…).仕事の上下関係でむずかしいことがあっても,次世代のため,世の中のためと考えると,立腹することなどは,ぐんと減少する.この本に若いころ出会っていたら,今頃私の人生も変わっていたことだろう.後悔しきり!次は「耳を使うこと」.ジャズなどというおしゃれなものは大阪の田舎育ちの私にはとんと縁がなかった.これに最近,はまった.20年ぶりにピアノに向かった.クラシック,ポピュラー,演歌しか入れたことのない耳には何とも不協和音の連続だ.もちろん慣れればこれが結構心地よい.今までの経験から私の耳では「ド・ミ・ソの次はド」がくるはずである.ところが,これが「ド・ミ・ソ・シ」なのである.しかもテンションとやら,ありえない音が混じってくる.一度弾いていただきたい.さらに3拍子,4拍子で手を打つことしか習わなかった耳には8ビート,16ビートなるものが,どうにも忙しい.関西人の私であっても,どうにもせからしい(熊本弁でせわしないこと).ジャズにはアドリブが付き物であるが,アドリブに入った途端,私が生み出す音楽は音,リズムともに70年代歌謡曲に変わってしまう.0910-1810/09/\100/頁/JCLS佐々木香る(KaoruAraki-Sasaki)出田眼科病院大阪市立大学を卒業後,同大学の先輩のすすめで,「大阪大学眼科」に入局.今世紀最高と思われるほど,仲のよい医局で優秀な指導者に恵まれて,のびのび,ぬくぬく育つ.角膜の臨床,研究を通じて同輩,後輩,大学を越えた学兄にも恵まれ,宝となる.家族の転勤に伴い,2003年より九州人となり,土地柄,感染症への興味がさらに高まるとともに,日本の広さを実感している.(佐々木)Dr.ささき人生のアイテム26巻徳川の旦那———————————————————————-Page2806あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009この音感,リズム感なるものは人生半ばをすぎてからでは,到底身につかない.後悔しきり!さらに「習字」.子供のころに,ご多分にもれず数年間習字教室なるものに通った.手本を見ながら書く分にはいいのだが,手本がなく,しかも忙しい外来でばたばた書くとこれが乱れに乱れてくる.周りを見回すと確かに字は性格をあらわしているように思う.のびのびしたでかい字を書く人は,確かに肝っ玉もでかい.小さく緻密な字を書く人は確かに律儀な性格なようである.単純な私は字を見るだけで,「この人はいい人だ!この人は信じていい」と単純に思う.勤務先も,結婚相手も「字」で選んだ節がある.ともすれば“ちまちま”とした字になりがちな私は,最近努めて「でかーい字」を書くように心がけている.体は小さいが,でかーい人になりたいとの気持ちをこめて.子供のころから身につけていればよかった.後悔しきり!それから「顔」.帰宅後,必死で時間と戦いながらごはんをつくっているとき,よく子供から「母ちゃん,怖い顔して料理するねー.笑った方がいいよ」と言われる.いやいや,怒っているわけではなく,必死なのである.指摘されて鏡をみると確かに必死の形相.これはいかん.よく料理に愛情エキスを注ぐなどというが,これではまるでイカリ(怒り)ソースを注いでいるようなものである.そのわりに気遣いのA型なものだから,外では愛想が良いことで通っている.愛想笑いと必死の形相の繰り返しだと,だんだん顔が貧弱になってくる.生まれつきの資質は仕方がないとしても,内面は顔に出る.一段と大きく構えてポーカーフェイスを身につければよかった.後悔しきり!このように考えると,足らずのアイテムが続々と思い当たる.そのうえ,同年代である京都府立医大の外園千恵先生に「私たちも,もう人生折り返したよね.」と指摘された.「えっ,いつの間に?」しっかり,地面を踏みしめて歩んでいる先生と違って,折り返した自覚がまったくなかった.ときどき素人のマラソンレースでもあるように,気持ちよく風を感じて走っているうちに,コースをはずれて折り返しコーンを無視して,まったく違う方向へ向かって走っているようである.世の中には同じように,アイテム不足を感じる同年代の女医さんが多いようで,一旦臨床の前線から離れているものの「もう一度勉強しなおそうと思う」という声を最近,周りでよく耳にする.ところが,残念ながら大学でも,民間病院でも,個人病院でも,どこもかしこも人手不足.若者の教育すらままならないのに,中年女医に教えてあげるなどというゆとりのあるところはほとんどない.もちろん,学会やテキストなど,学ぶための教材はあるのだが,やはり患者を目の前に診ながら経過を追って勉強する,という昔ながらの手法が一番効果的で実際的だと思う.アイテムを取り忘れた本人が悪いといえばそれまでだが,前のステージに戻って得たいときに得られるシステムがあるといいと思う.後悔しきり!振り返ってばかりではいけないので,せめてこれからできるだけ「前向きに楽しく明るくそして正しく」,広い意味で世の中のためになることを目標にアイテムをゲットしながら過ごしていこうと思う.敬愛する先生のお一人である田野保雄教授が遠くへいってしまわれてから,人生はゲームと違ってリセットが効かないことに気づいた.佐々木香る(ささき・かおる)1986年大阪市立大学卒業,大阪大学眼科入局1988年公立学校共済組合近畿中央病院医長1992年東京工業大学生命理工学部研究生1994年大阪大学大学院博士課程卒業1998年多根記念病院眼科2006年出田眼科病院診療部長(82)☆☆☆怒イカリソース

インターネットの眼科応用5.インターネット手術見学

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20098030910-1810/09/\100/頁/JCLSインターネットと手術動画私が医学部を卒業した平成10年当時,手術のライブ映像を医局や病棟のテレビで見ることができました.その通信技術に驚いたものですが,10年経った今日,手術映像はインターネットを使えば世界同時中継すら可能になりました.インターネットの通信容量が格段に上昇したため,テレビ番組や高画質の動画などの大容量の情報をパソコンで見ることができます.まさに情報革命といえます.ただ,革命のスピードと相対する力が,人間の意識であり倫理感です.最先端の技術を開拓する人間には,常にバランス感覚と倫理感を求められますが,遺伝子工学や再生医療といったライフサイエンスの領域だけでなく,インターネットの世界にも求められます.手術という医療行為は,ショーではなく患者の個人情報に深く関わりますので,ネット放送は技術的には可能であっても,安易に行わないよう医療人に倫理感を問いかけます.厚生労働省が平成16年12月24日に公布した「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な扱いのためのガイドライン」1)によると,「医療機関等は,患者の傷病の回復等を目的として,(中略)必要に応じて他の医療機関と連携を図ったり当該傷病を専門とする他の医療機関の医師等に指導,助言等を求めたりすることが日常的に行われる.」とあります.医療機関が,診療結果の向上のために個人情報を持ち出すことは「本人の同意が得られていると考えられる場合」として認められていますが,通信手段については記載がありません.また,同ガイドラインには,「学問の自由の保障への配慮から,大学その他の学術研究を目的とする機関等が,学術研究を目的として個人情報を取り扱う場合においては,法による義務等の規定は適応しない」とあります.つまり,純粋な「学術目的」のためなら,個人情報保護法の適用外となるため,文字通りに解釈するとインターネットに手術動画などの医療情報を制限なしに公開して良いことになります.ただし,刑法134条1項に「医師(略)が正当な理由がないのに,その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは,6カ月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する.」とあります.インターネットという新しいメディアを医療で扱うには,われわれ自身がインターネットの特性を理解し,患者の個人情報への配慮を今まで以上に強くもって利用しないといけません.21世紀のビジネスマンに求められるのは「会計力と英語力とITリテラシー」と言われます.なぜ,ITリテラシーなのかというと,良い書類を作るためではありません.インターネットを使えば,検索したい情報に瞬時に到達することができるからです.多忙な臨床医は,ビジネスの最先端に生きる方たちと同等の情報へのアプローチをしないといけません.時間を有効に使うためにインターネットはきわめて有効な手段です.ある手術を詳しく見たい,習得したい場合どうするか.その手術をしている施設を見学する,主催される技術講習会に参加する.が従来の方法です.当然ながら時間と労力を必要とします.いずれ,インターネットで検索して手術などの医療情報が自由に得られる時代が必ず訪れます.文献検索が容易になったように,手術動画検索はもっと効率化されるでしょう.モニターに映る情報以外に,患者の動線,スタッフの動線,モノの配置,モノの流れも貴重な手術情報です.これらの総合的な手術情報がインターネット上に掲載されれば,手術見学はきわめて効率化されます.インターネットの医療応用は時代の流れです.今後,医療コンテンツがインターネット上に整備されていくでしょう.ただし,先述したように治療行為・手術に関する医療動画は,医療者の倫理を強く求めます.各種学会(79)インターネットの眼科応用第5章インターネット手術見学武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ⑤———————————————————————-Page2804あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009のサイト内や,MVC-online2)のような医療者限定のサイトで行われるべきです.医療の動画がインターネット上に集まる世界では,提供する側には倫理感が求められ,閲覧する側にはITリテラシーが求められます.MVConlineでできること②(インターネット手術見学)先月号より,実例を交えて紹介しておりますが,MVC-onlineでは参加する医療者がエリアを越えて意見交換しています.学会場や手術室でしか見られなかった手術動画を自宅でも閲覧できます.ディスカッションに参加しなくても,その意見交換を見聞きするだけで自分の引き出しが増えていきます.MVC-onlineで投稿された実際の手術動画を簡単に紹介します.Case1:「白内障手術」大津日赤病院の栗山晶治先生から,白内障手術の動画をご投稿いただきました(図1)3).この症例が,MVC-onlineに投稿された初めての手術動画です.前の徹照やCCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)のフラップが確実に見える画質の高さを維持したまま,メンバーであれば世界中のどこからでもインターネット上で閲覧できます.Case2:「春季カタルに対する乳頭切除術」国際医療福祉大学三田病院の藤島浩先生より,春季カタルの難治例に対する手術症例をご提示いただきました(図2)4).この症例では,術中に低濃度のマイトマイシン(80)Cを併用しています.手術の現場をインターネットで表現できる時代になりました.医師限定のSNSサイト,MVC-onlineでは,われわれ医療者の知識・ノウハウをインターネット上で共有しています.この試みは,インターネットの眼科応用の可能性を示しており,WEB2.0とよばれる潮流を具現化しています.【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に共感いただき,k.musashi@mvc-japan.orgにご連絡いただければ,医師限定インターネット会議室「MVC-online」http://mvc-online.jpからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な扱いのためのガイドライン」.厚生労働省,平成16年12月24日医政発12240012)http://mvc-online.jp3)http://www.mvc-online.jp/community/com_c_comment_result.phpmode=new&ccid=76944)http://www.mvc-online.jp/community/com_c_comment_result.phpmode=new&ccid=8330図2結膜乳頭切除術の手術動画図1白内障手術の手術動画

硝子体手術のワンポイントアドバイス73.内部排液のための意図的裂孔作製時の注意点(初級編)

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20098010910-1810/09/\100/頁/JCLSはじめに網膜離に対する硝子体手術では,気圧伸展網膜復位術を施行する際に,中間周辺部に意図的裂孔を作製し,同部位から内部排液を行うことがある.この場合,意図的裂孔の作製部位としては,黄斑部からある程度距離をおき,網膜血管を避けるのが原則である.通常は,先端の鋭利な眼内ジアテルミーで,小さな裂孔を作製し,気圧伸展網膜復位術後に裂孔周囲に眼内光凝固を施行する.図的裂孔の作製部位と視野網膜離が黄斑部に及んでいる症例では,意図的裂孔をできるだけ後極に作製したほうが,網膜下液を吸引しやすいが,術中に眼球を適宜傾けることで,中間周辺部から後極部の排液は十分に可能である.初心者では往々にして視神経乳頭や血管アーケード近傍に意図的裂孔を作製してしまうことがあるが,この場合,視神経乳頭から周囲に伸びる網膜神経線維の走行をよく理解しておく必要がある.同じ大きさの瘢痕病巣でも視神経乳頭に近いほど,障害される神経線維束の数は当然多くなるので,視神経乳頭近傍に意図的裂孔を作製すると,術後に周辺視野狭窄をきたしやすくなる(図1a,b,c).意図的裂孔は内部排液が可能な範囲でできるだけ小さく,しかもその周囲に光凝固を施行する際には,網膜下液を確実に吸引したうえで過剰凝固にならないよう注意する.図的裂孔周囲に生じる再増殖増殖硝子体網膜症や増殖糖尿病網膜症などの眼内増殖疾患の硝子体手術後には,眼内の増殖機転が亢進しているため,往々にして意図的裂孔周囲に再増殖が生じる.また,意図的裂孔周囲の血管を損傷して出血が生じた後にも再増殖が生じやすい.このような再増殖が黄斑部に影響を与えて変視症や視力低下の原因となることがあるので,黄斑部に影響が生じにくい部位(たとえば鼻側)に意図的裂孔を作製する必要がある.(77)硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載73内部排液のための意図的裂孔作製時の注意点(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科黄斑部神経線維障害範囲乳頭意図的裂孔水平縫線図1意図的裂孔による視野狭窄例増殖硝子体網膜症に対する硝子体手術後で,周辺部の過剰な冷凍凝固や輪状締結による要素もあるが,上方の血管アーケード周囲の意図的裂孔に対する過剰光凝固が下鼻側視野狭窄の一因になっていると考えられる.a:術後の眼底写真,b:術後Goldmann動的視野検査結果,c:神経線維の走行と視野障害の関係.acb

眼科医のための先端医療102.Small-interfering RNAを眼内に投与してもよいのか?

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20097970910-1810/09/\100/頁/JCLSSmall-interferingRNA(siRNA)について今の生のしのをに抑制として干渉望てい干渉についてにしと干渉と細胞内にいてのメ()をにしで)図1に概略を示しますが,二本鎖RNA(double-strandedRNA:dsRNA)は細胞内に入ると,DicerというRNA分解酵素により2123ヌクレオチドの長さのdsRNAに分解されます(①).これがsiRNAで,RNA干渉のなかで重要な役割を果たします.細胞内でsiRNAは幾つかの蛋白質分子と結合してRNA-inducedsilencingcomplex(RISC)を形成した後(②),そのRISCがsiRNAと相補的な配列をもつmRNAを認識し(③),結合し,分解します(④).RNA干渉の利点はRISCが標的遺伝子の分解のためにくり返し再利用されることです(⑤).標的遺伝子に対して特異的配列をもつsiRNAを作製することは可能ですから,従来の中和抗体などの薬物は標的分子の作用を1対1の割合で阻害するところを,siRNAの場合は理論上,たとえば1対10といった割合で発現自体を阻害しますので,従来の薬物よりも効果的と思われます.そのため,さまざまな領域で種々の難治性疾患の標的分子の発現を選択的に阻害する治療手段として臨床応用が期待されています.NakedsiRNAと脈絡膜血管新生抑制眼でも脈絡膜新生血管をのにし血管新生にを血管内()をとしのもの()()◆シリーズ第102回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊武田篤信(九州大学大学院医学研究院眼科学)Small-interferingRNAを眼内に投与してもよいのか?AAAsiRNADicerPO4PO4-OHOH-PO4PO4PO4図1RNA干渉のメカニズム(文献1より改変)———————————————————————-Page2798あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009を硝子体中に投与する治験が行われており,合併症もなく治療効果があると報告されました.ところが,nakedsiRNAを直接生体内に投与しても組織中の細胞内には取り込まれず,RNA干渉が作動しないことが知られています2).ですから,この治験はメカニズムが不明ですが,ドラッグデリバリーシステムを利用せずにRNA干渉が利用できる例外例として報告されてきました3).これに対し,筆者らのグループは実験的脈絡膜血管新生モデルを用いた検討により,nakedsiRNAによる血管新生抑制効果はRNA干渉によるものではなく,脈絡膜血管内皮細胞表面に発現している,dsRNAの配列とは無関係にdsRNAを認識する受容体Toll-likereceptor3(TLR3)を介した免疫反応からの抑制によるものであることを示しました4).ある長さ以上のdsRNAであれば,配列とは無関係に脈絡膜血管新生を抑制する可能性があります.siRNAの細胞内導入と脈絡膜血管新生抑制のによをで膜細胞にしていの膜のとし)で投与によ新生血管抑制でとして膜生かもしん眼内にいてものとを導に干渉によをにを細胞内に導入とを細胞内に導入としてをといをしをてい)でを(図1:siRNAの赤い鎖)の3¢末端に共役結合させたマウスVEGFA特異的siRNAを作製し,マウス実験的脈絡膜血管新生モデルでこのsiRNAの効果を検討しました.このsiRNAの硝子体中への投与により野生型マウスでもTLR3欠損マウスでもVEGFAの発現がmRNAレベルで抑制され,脈絡膜血管新生が抑制されました4).このsiRNAは細胞内に移行しており,TLR3とは無関係に,RNA干渉により血管新生を抑制できたと考えています.今後の展望のよにを望ていによ眼ののしいにかにてていの眼内にを投与とでしも膜生とんの投与にかもしんをいて干渉といをにを細胞内に導入と今いよにをしをとによ眼にしてよかつと文献1)RanaM:Illuminatingthesilence:understandingthestructureandfunctionofsmallRNAs.NatureRevMolCellBiol8:23-36,20072)CoreyDR:Chemicalmodication:thekeytoclinicalapplicationofRNAinterferenceJClinInvest117:3615-3622,20073)deFougerollesA,VornlocherHP,MaraganoreJetal:Interferingwithdisease:aprogressreportonsiRNA-basedtherapeutics.NatureRevDrugDiscov6:443-453,20074)KleinmanME,YamadaK,TakedaAetal:Sequence-andtarget-independentangiogenesissuppressionbysiRNAviaTLR3.Nature452:591-597,20085)YangZ,StrattonC,FrancisPJetal:Toll-likereceptor3andgeographicatrophyinage-relatedmaculardegenera-tion.NEngJMed359:1456-1463,2008(74)Small-interferingRNAを眼内に投与してもよいのか?」を読んで今武田篤信生のの眼についてのでとてい脈絡膜血管新生ののをしかしていしいのとして血管内()にでもかにでよにしのいでで脈絡膜血管新生のに与していとかにてしにもと今後眼のにいてをしでてのでてのでのでで———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009799(75)ません.臨床的にはVEGF以外にも多くの因子が関与する可能性があること,VEGFの制御についてもVEGFが発現されたあとに叩く抗VEGF薬による治療で本当に十分かという疑問などがでてきます.いろいろな作用機序をもつ治療薬候補が臨床の現場にもたらされることにより治療の対象となる重症度,病期が広がる可能性があります.また,脈絡膜血管新生の動物モデルがヒトの疾患とすべてが同じということは考えにくいので,十分な事前研究のあとに臨床治験を行うことでわれわれの脈絡膜血管新生に分子病態についての理解が深まるという利点もあります.今後,さまざまな角度から研究が進行し,研究の成果が臨床に応用されることにより,治療の進歩と病態の研究があたかも車の両輪のようにあいまって眼科治療の進歩がもたらされると考えます.眼疾患はいろいろな治療薬候補のアクセスがしやすく,その効果の検証もこれまでの眼科学の進歩により十分に高いレベルで行うことができるようになってきております.眼科から有効で安全な新しい治療薬が提示できると考えます.今回の武田先生の解説はまさに眼科学の臨床と基礎の研究レベルがきわめて高く,臨床医学をリードできる可能性を示すものとしてきわめて重要と考えます.山形大学医学部情報構造制御学講座視覚病態学分野山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ189.抗VEGF抗体による血管新生緑内障の治療

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20097950910-1810/09/\100/頁/JCLS使用方法Bevacizumabの使用は適応外使用であり,治療を行うには事前に各所属施設の倫理委員会などによる承認を受けること,患者に効果,副作用および適応外使用であることを伝えて文書で同意を得ることが不可欠である.実際の投与手順は,術野の消毒,点眼麻酔の後に30ゲージ針を用いて硝子体内投与は毛様体扁平部より,前房内投与は角膜輪部より,結膜下投与は直接結膜を穿刺して投与する.投与量は1.25mg(0.05ml)が一般的であるが,筆者の施設では硝子体内投与については低用量(0.25mg)での効果を検討中である.投与後,後眼部への合併症の有無をチェックし,感染予防を目的とした抗生物質の投与を併用する.ただ,bevacizumabの効果持続期間は1~3カ月であり,新生血管が消失した後も最低6カ月間は再発の有無をチェックしている.本方法の良い点(表1)血管新生緑内障に対する抗VEGF抗体の効果として新しい治療と検査シリーズ(71)バックグラウンド血管新生緑内障は,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などによる眼内虚血に起因して発症する難治性の緑内障であり,血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が血管内皮細胞に作用することで新生血管が形成され房水流出路を閉塞するために眼圧上昇をきたす.眼圧が上昇すると,それに伴って眼内虚血が増悪,新生血管が増加し,さらに眼圧上昇につながるという悪循環におちいると加速度的に病状が増悪する.治療として,眼内虚血の改善に対しては網膜光凝固術や硝子体手術,眼圧上昇に対しては薬物治療および線維柱帯切除術が施行されているが,新生血管自体に対する治療方法はなかった.それに対して,新生血管に直接作用する抗VEGF抗体の応用が,血管新生緑内障の新しい治療として注目されている(図1).新しい治療法現在,国内で眼科領域において認可されている抗VEGF抗体には,ranibizumab(LucentisR)とpegap-tanib(MacugenR)があるが,適応疾患は滲出型加齢黄斑変性に限られており,血管新生緑内障は適応疾患になっていない.そのため,血管新生緑内障に対しては,再発性大腸癌に対して認可されているが,眼科領域では適応外使用になるbevacizumab(AvastinR)が投与されている.一般に行われているbevacizumabの投与は硝子体内投与1.25mg(0.05ml)であり,血管新生緑内障に対する効果も多数報告されているが,投与方法に関して隅角・虹彩への効果を考慮した前房内投与,投与手技による合併症が少ない結膜下投与が,また,用量に関して正常組織に対する合併症を予防することを目的とした低用量投与など,本症により適した治療法をめざした模索が試みられている.189.抗VEGF抗体による血管新生緑内障の治療プレゼンテーション:馬場哲也香川大学医学部眼科学講座コメント:東出朋巳金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学(眼科学)図1血管新生緑内障の病態と抗VEGF抗体の作用部位抗VEGF抗体は,新生血管に直接作用してVEGF活性を抑制するとともに,線維柱帯切除術による出血や術後炎症を抑制する.———————————————————————-Page2796あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009は,まず虹彩・隅角新生血管の抑制があげられ(図2),特筆すべきは効果が速やかなことである.投与翌日には効果が発現し,数日中に新生血管は消退する.また,開放隅角期の症例では投与により眼圧が下降し,緑内障手術の中止,延期ができることもある.さらに,速やかに血管新生緑内障の活動性を低下させることで,網膜光凝固,硝子体手術,緑内障手術による永続的な効果が発現するまでの期間に,閉塞隅角期への進行を遅延させる緊急避難的な効果もある.線維柱帯切除術に対する効果としては,術中・術後出血が減少したことで術後早期の合併症も減少した.それに伴い,患者にとっては術後合併症や術後処置が少なくなったことで精神的・肉体的苦痛が軽減されたこと,われわれ眼科医にとっては眼圧コントロールを達成するまでの労力が軽減されたことが福音となっている.また,線維柱帯切除術の術後長期成績向上についても期待されている.文1)OshimaY,SakaguchiH,GomiFetal:Regressionofirisneovascularizationafterintravitrealinjectionofbeva-cizumabinpatientswithproliferativediabeticretinopathy.AmJOphthalmol142:155-158,20062)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intra-vitrealbevacizumabtotreatirisneovascularizationandneovascularglaucomasecondarytoischemicretinaldiseasein41consecutivecases.Ophthalmology115:1571-1580,20083)AveryRL,PearlmanJ,PieramiciDJetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)inthetreatmentofproliferativediabeticretinopathy.Ophthalmology113:1695-1705,20064)FungAE,RosenfeldPJ,ReichelE:Theinternationalintravitrealbevacizumabsafety:usingtheinteresttoassessdrugsafetyworldwide.BrJOphthalmol90:1344-1349,2006(72)表1期待される血管新生緑内障に対する抗VEGF抗体の効果1.虹彩・隅角新生血管の抑制2.眼圧下降3.閉塞隅角期への進行抑制4.線維柱帯切除術の術中・術後合併症減少5.線維柱帯切除術の術後成績向上の可能性図2Bevacizumab投与前後の前眼部写真a:投与前には瞳孔領に著明な新生血管を認める.b:投与7日目には新生血管はほぼ消失している.ab本方法に対するコメント☆☆☆

眼感染アレルギー:周辺部角膜ヘルペスMarginal herpes

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20097930910-1810/09/\100/頁/JCLS単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)による角膜ヘルペスは,角膜のどの部位に生じてもよさそうなものだが,通常は角膜の中心部や傍中心部に発症することが多い.特にウイルスの増殖が主体となる上皮型ヘルペスはほとんどがそれらの部位に発症する.これはウイルス増殖を抑制する免疫系から最も遠い部位,つまりウイルスにとってはより増殖しやすい部位に生じると考えると納得がいく.しかし,周辺部に角膜ヘルペスを発症することもあり,その診断はかなりむずかしい.このようなmarginalherpesはまれと考えられているが,実際にはヘルペスと診断されぬままに免疫によってウイルス増殖が抑え込まれて瘢痕を残して治癒している例が結構あるのではないかと思われる.いずれにしても文献的に詳細に述べられたものがあまりなく,本稿では,筆者の経験に基づいてmarginalherpesの特徴についてまとめてみたい.例〔症例1〕77歳,男性.主訴:左眼の充血と掻痒感.現病歴と経過:左眼翼状片の先進部に浸潤と上皮欠損を認め,ステロイド治療に反応せず,次第に欠損部の辺縁が偽樹枝状を呈してきた(図1).そこで角膜擦過物をreal-timePCR(polymerasechainreaction)によるHSV-DNA検索に供したところ,7.7×105コピーのHSV-DNAが検出された.アシクロビル眼軟膏投与を行ったところ,すみやかに上皮欠損部は縮小し,軽快した.〔症例2〕77歳,男性.主訴:左眼の異物感.現病歴と経過:2週前に木の枝で左眼を受傷したが,その後異物感が継続するため来院した.角膜下方に不整形の混濁を認め(図2),フルオレセインで染色すると樹枝状に染色された(図3).フルオレセインできれいな縁どりを認めることから角膜ヘルペスが疑われたが,混濁が強い点,外傷の既往がある点は非定型的であり,確認のため角膜擦過物を採取してreal-timePCRを行ったところ5.1×107コピーのHSV-DNAが検出された.アシクロビル眼軟膏の投与にてすみやかに軽快した.Marginalherpesの特徴角膜周辺部は前述したように,中心部よりも免疫力が強いためにヘルペスが発症したときに定型的な形をとらず,非定型的な形をとることが多く,症例1のように偽樹枝状を呈することもある.あるいは症例2のように強い免疫力の影響で当初から強い角膜浸潤を伴ってくることも多い.最近,Gabisonらは輪部からはじまって半島状に伸びるように角膜中心へ向かって進展していく角膜上皮炎をarchipelagokeratitisと名づけ,上皮型角膜ヘルペスの一つの病型としてまとめている1)が,これは(69)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑱監修=木下茂大橋裕一18.周辺部角膜ヘルペスMarginalherpes井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学単純ヘルペスウイルスによる角膜ヘルペスは通常中心部から傍中心部に発症するが,たまに周辺部に生じることもあり,その場合は非定型的な所見・経過をとるとともに強い混濁を生じやすく,診断がむずかしい.診断には臨床所見のみならず,real-timePCR(polymerasechainreacton)などのlaboratorytestを駆使してウイルスの存在を確かめる必要がある.図1翼状片の先進部に生じたmarginalherpes翼状片の先進部に沿ってフルオレセインで染色され,下方に偽樹枝状の部分を認める.———————————————————————-Page2794あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009marginalherpesとして発症したものが診断がつかずに経過をみているうちに免疫力の弱い中心へ向かって進展したものではないかと思われる.Marginalherpesの診断Marginalherpesの細隙灯顕微鏡所見のみによる診断はむずかしく,また,角膜知覚低下は上皮型角膜ヘルペスの特徴とされているが,周辺部の発症例,特に初発ではあまり低下しないために,診断上は役に立たないことが多い.あるいはヘルペスの既往があれば情報として重要であるが,周辺部のヘルペスはしばしば初発の形をとる.このように臨床所見や問診だけで診断することは困難なことが多く,ウイルス分離や蛍光抗体法,PCRによって診断を確かめることが必要になってくる.PCRの場合注意しなければならないのは,HSVは人体に潜伏感染しており,病変をつくらないときでもウイルスが少量検出されるsheddingという現象がある2)ので,たとえPCRで検出されてもそのまま病因とは断定できない.Real-timePCRにて量的な評価を行い,ある程度の量(目安として104コピー以上のHSV-DNA)が検出されることを確認する必要がある3).Marginalherpesと鑑別すべき疾患鑑別すべき疾患として,つぎのようなものを考える必要がある.①カタル性角膜潰瘍(浸潤):Marginalherpesは輪部に沿って広がるときに決して輪部に平行に伸びることはないが,カタル性角膜浸潤は透明帯(lucidinterval)を保ちながら輪部に平行に広がる点が特徴である.②周辺部細菌性,真菌性角膜炎:周辺部に感染した(70)場合,混濁は好中球浸潤が主体となるため,非常に濃い混濁となり,加えて,炎症所見が強い(前房細胞・角膜後面沈着物・Descemet膜皺襞).③Mooren潰瘍:周辺部に透明帯なしに生じる下掘れ状の特徴的な潰瘍を呈する.④関節リウマチに伴う周辺部角膜潰瘍:Mooren潰瘍に似るが前房反応が強いことが多い.関節症状や血中のリウマチ因子陽性を伴う.Marginalherpesの治療アシクロビル眼軟膏投与(5回/日)を行うことになる.強い角膜混濁が当初からあったり,上皮型の消退後に角膜混濁が強くなることがあるが,瞳孔領が障害されていないので,多少の混濁は生じてもよい.ただし,炎症が遷延して上皮欠損が継続する症例や血管侵入を伴ってきた症例では軽いステロイド(フルオロメトロン0.1%など)を短期で使用する.Evidenceはないが経験的には,周辺部ヘルペスで混濁がかなり残った例では免疫によってウイルスが制御された状態となるため,かえって再発が生じにくいと思われる.文献1)GabisonEE,AlfonsiN,DoanSetal:Archipelagokeratitis.AclinicalvariationofrecurrentherpetickeratitisOph-thalmology114:2000-2005,20072)KaufmanHE,AzcuyAM,VarnellEDetal:HSV-1DNAintearsandsalivaofnormaladults.InvestOphthalmolVisSci46:241-247,20053)Kakimaru-HasegawaA,KuoC-H,KomatsuNetal:Clini-calapplicationofreal-timepolymerasechainreactionfordiagnosisofherpeticdiseasesoftheanteriorsegmentoftheeye.JpnJOphthalmol52:24-31,2008図2下方角膜周辺部に生じたmarginalherpes上皮型であるにもかかわらず強い角膜浸潤を伴っている.図3図2の症例をフルオレセイン染色したもの角膜下方に樹枝状の病変を認め,樹枝状角膜炎に特徴的な縁どりが認められる.

緑内障:網膜神経節細胞の可視化モデル

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.6,20097910910-1810/09/\100/頁/JCLS眼は体内で唯一生きたままの細胞を見ることができる臓器であり,網膜というおもに神経細胞とグリア系細胞で構成された組織を対象にすれば,表面に網膜神経節細胞(RGC)が無数に並んでいるのである.緑内障性疾患に限らず,どんな網膜障害疾患でもRGCを細胞レベルで観察できればこんなに望ましいことはない.最近の画像解析の進歩によりヒトでも高解像度のspec-traldomainOCT(光干渉断層計)ではRGCを可視化することが現実のものとなりつつある.この方法は大動物では可能になるであろうが,小動物ではいまだ光学系と解像度の問題で容易ではない.しかし,基礎実験には欠かせない小動物モデルでもRGCの可視化は重要なテーマである.もちろん,以前より実験動物を用いてRGC障害モデルにおける細胞死を可視化して評価する方法が試みられており,最も汎用されているのは脳内上丘付近に細胞に取り込まれる色素を注入する逆行性染色法である.細胞内に取り込まれた色素は顆粒状であり軸索を含めた細胞質に存在するので,それを組織切片にして蛍光顕微鏡で確認するのが通常の方法であるが,ラットでは走査レーザー検眼鏡(SLO)を用いて確認することができるようになった1).このようにあらかじめRGCを染色しておく方法では生き残った細胞を評価することになるが,逆に死にゆく細胞を評価する方法もある.細胞死の一形態であるアポトーシスの際に細胞質表面に表れるマーカーであるphosphatidylethanolamineを染色する蛍光色素がついたAnnexinVを硝子体中に注入する方法である2).ほかにも過去にはウイルスベクターによる遺伝子導入も試みられている.これら細胞死を示すマーカー分子を標識する方法,遺伝子導入,前者の逆行性染色法も,欠点としては侵襲的操作を必要とすることと,不均一な発現あるいは染色になる可能性があることがあげられる.また,逆行性染色法の色素は分解されにくいため,細胞死の後も残り貪食されてミクログリアなどに取り込まれるため,RGCの検出力に誤差を生じる.これらの欠点を克服する可能性がある方法は,遺伝子改変マウスで,RGC特異的に標識蛋白が発現するように組み込まれた動物を用いた解析である3,4).筆者らはB6.Cg-Tg(Thy1-CFP)23Jrs/Jという系統を用いているが,このマウスでは組織学的にはRGCにほとんど蛍光蛋白CFPが発現することが確認済みであり,逆行性染色の色素と異なり蛋白質で細胞質に均一に存在するため,細胞体全体が捉えられ計数しやすいうえに,細胞死に至ると蛋白合成も止まるため,死後も蛍光蛋白が分解されて残らないことが利点である(図1).(67)●連載108緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也108.網膜神経節細胞の可視化モデル相原一東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学蛍光蛋白を網膜神経節細胞(RGC)特異的に発現するマウスを対象に眼底カメラによる写真撮影でinvivoで経時的に単一の細胞減少を追うことができるようになった.無侵襲に経時的に単一個体でのRGC死を観察できることは,RGC障害の機序,パターン,治療法の確立に役立つ有用な方法である.acb図1B6.CgTg(Thy1CFP)23Jrs/Jマウス(CFPマウス)におけるCFP発現とDiIによる逆行性染色蛍光顕微鏡を用いてa:CFP,b:DiIそれぞれの波長で撮影した画像.c:その合成画像.CFPは細胞体全体と軸索に均一に分布しているのに対し,DiIは顆粒として細胞体内に蓄積している点に注目.———————————————————————-Page2792あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009さて,いくらRGCが標識されてもそれを捉える眼,すなわちカメラの撮影技術が重要である.しかも,invivoで経時的に捉える必要がある.SLOも解像度がよいが,本来は動画用であり,画角が小さいのが難点である5,6).筆者らは通常の眼底カメラに高感度CCDカメラを装して高分解能の広画角画像を得ている3).本法によりRGC障害モデルの経時的な細胞減少を追うことができ,単一細胞レベルでの細胞死を観察することが可能となった(図2).無侵襲に経時的に単一個体でのRGC死を観察できることは,将来的にはヒトでも可能となるだろうが,当面はRGC障害の機序,治療法の確立に役立つ方法として有用であると考える.文献1)HigashideT,KawaguchiI,OhkuboSetal:Invivoimag-(68)ingandcountingofratretinalganglioncellsusingascan-ninglaserophthalmoscope.InvestOphthalmolVisSci47:2943-2950,20062)CordeiroMF,GuoL,LuongVetal:Real-timeimagingofsinglenervecellapoptosisinretinalneurodegeneration.ProcNatlAcadSciUSA101:13352-13356,20043)MurataH,AiharaM,ChenYNetal:Imagingmousereti-nalganglioncellsandtheirlossinvivobyafunduscam-erainthenormalandischemia-reperfusionmodel.InvestOphthalmolVisSci49:5546-5552,20084)WalshMK,QuigleyHA:Invivotime-lapseuorescenceimagingofindividualretinalganglioncellsinmice.JNeu-rosciMethods169:214-221,20085)LeungCK,LindseyJD,CrowstonJGetal:Invivoimag-ingofmurineretinalganglioncells.JNeurosciMethods168:475-478,20086)LeungCK,LindseyJD,CrowstonJGetal:Longitudinalproleofretinalganglioncelldamageafteropticnervecrushwithblue-lightconfocalscanninglaserophthalmo-scopy.InvestOphthalmolVisSci49:4898-4902,2008☆☆☆図2CFPマウスを用いた虚血再灌流モデルにおけるRGC障害術前および1週から4週までのCFP発現を追った画像とRGC生存細胞のグラフ.最初の1週間で7割程度の細胞が障害されるものの,その後生き残っていることがわかる.術前1週2週3週4週1007550250012期間(週)34RGC(%):対照:虚血再灌流モデル