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写真:画像鮮明化技術の眼科外来診療画像への適用

2023年3月31日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦466.画像鮮明化技術の眼科外来診療画像横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科への適用視覚機能再生外科学図1水濡れ性低下型ドライアイのspotbreak像不明瞭であったspotbreak(a)が,鮮明化により明瞭に観察されている(b).図2涙液減少型ドライアイの角膜フルオレセイン染色像まったく見えなかった角膜上皮障害や涙液層の破壊(a)が,鮮明化され可視化されている(b).図3図1bと図2bのシェーマ(83)あたらしい眼科Vol.40,No.3,20233650910-1810/23/\100/頁/JCOPYあらゆる医学領域で画像の重要性はますます増してきているが,眼科外来診療においても,コントラストの良好な画像を用いて,患者に眼の状態や疾患の説明を行うことや,画像を診療録に保存,記録することが求められている.画像を鮮明化する技術は,セキュリティー領域,たとえば,監視カメラ,ドライブレコーダー,ドローンなどで発達してきたが,近年,その技術が医療分野にも応用されるようになってきている.筆者のグループは早い段階でこの技術に触れる機会に恵まれ,医療用リアルタイム画像鮮明化装置MIEr(ロジック・アンド・デザイン)を用いて,フォトスリットランプ画像(ディフューザー画像や各種生体染色画像)1),手術動画2),超広角走査型レーザー検眼鏡画像3),マイボグラフィー画像4)などの鮮明化を試みてきた.そしてその過程で,コントラストが悪く見えにくかった画像が鮮明に可視化され,それが高速変換で得られたことに驚かされるとともに,その大きな可能性,将来性を感じてきた.MIErは,デジタル画像,もしくはアナログ画像からデジタル変換された画像を,画像のオリジナリティ(本来の画像情報)を保持したまま,独自のアルゴリズムで人の眼に認識しやすいように鮮明化できる.この技術は,霧,煙の除去,監視カメラが不得手とする暗所映像,逆光,半逆光映像(相対的に暗い画像)の鮮明化など,すでにさまざまな領域での実績があり,その適用拡大の過程で医療現場の画像への応用が模索され,近年,その成果が徐々に形になってきている.とくに画像を取り扱うことの多い眼科領域においては,今後,大きな力を発揮することが期待される.不鮮明な画像というのは,暗くコントラストが悪い領域に,観察したい対象が存在する画像のことであり,低コントラスト領域に画像処理を行って,そのコントラストを上げるのが画像鮮明化である.一般に,コントラストの悪い画像は画素の明度分布図(=横軸に明度,縦軸に特定明度の画素数)のヒストグラムが偏る傾向にあるため,MIErの技術では,画像を細かく分割し,狭い範囲で個別にヒストグラムを作り,あとで合成する手法を用いている.また,この技術は動画にも適用でき3),PC上の煩雑な処理をリアルタイムで実行することができる.細隙灯顕微鏡で得たモニター画像を患者への説明に用いようとした際に,ディフューザー画像はまだしも,フルオレセイン画像がまったく使用に耐えなかったといった経験はないだろうか?MIErの適用は外来診療の現場であり,細隙灯顕微鏡とCCD(chargecoupleddevice:電荷結合素子)カメラで得たアナログ画像をデジタル変換し,モニター表示の直前にMIErを介入させるだけで,モニター画像を鮮明化することができる.実際に試みてみると,図1~3に示すように,患者への説明に用いるには無理のあった不鮮明な画像が鮮明化され,これがないと外来診療ができないという錯覚さえ覚えた.とくにフルオレセイン像はフィルターを介して得るため,光量が減少するうえに,アナログからデジタルへの変換過程で画像のコントラストがさらに低下してゆく.しかし,MIErの使用により,画像は驚くほど雄弁に疾患やその病態を語る画像へと変化した.まさに,鮮明な画像が医師-患者間のコミュニケーションツールになっていることを実感した瞬間であった.文献1)福岡秀記,横井則彦,外園千恵:画像鮮明化処理ソフトウェアSoftDEFRの眼科画像に対する有用性の検討.あたらしい眼科36:559-565,20192)青木崇倫,横井則彦:画像鮮明化装置LISr-101の眼科手術動画への応用.あたらしい眼科37:443-444,20203)山下耀平,福岡秀記,永田健児ほか:画像鮮明化処理ソフトウェアの超広角走査レーザー検眼鏡画像への有用性の検討.日眼会誌126:574-580,20224)福岡秀記,横井則彦:画像鮮明化ソフトウェアのマイボグラフィー画像への応用.あたらしい眼科40:211-212,2023

総説:大規模医療データサイエンスが拓く新しい 糖尿病網膜症学

2023年3月31日 金曜日

あたらしい眼科40(3):359.364,2023c第27回日本糖尿病眼学会総会特別講演(内科)大規模医療データサイエンスが拓く新しい糖尿病網膜症学NewStudiesonDiabeticRetinopathyStudiesPioneeredbyLarge-ScaleMedicalDataScience曽根博仁*Iわが国独自の大規模臨床エビデンスの重要性多くが無症状である2型糖尿病の内科診療は,HbA1cをはじめとするサロゲート(代替)マーカーやリスク因子の改善により,将来の合併症予防や(健康)寿命延伸が期待できるという前提で成立している.したがって,その期待を裏付ける科学的データが必須である.さらに,糖尿病診療は多くの生活習慣介入を伴うが,その実施努力に見合った効果が期待できるかについても説得力ある根拠が求められる.そのため糖尿病分野では従来から,多数の患者データを収集・解析し科学的エビデンスを確立する大規模臨床研究が盛んであった.一方,2型糖尿病の病態には多因子遺伝と生活習慣との両方が関与し,人種や地域の影響を強く受けるため,他人種におけるエビデンスが日本人に当てはまるとは限らず,わが国独自のエビデンス構築が必要である.II従来型大規模研究の限界糖尿病患者の視力障害を予防するための内科診療の基本は,眼科に定期的な診察をお願いし,その結果を活かしながら網膜症の発症・重症化のリスク因子管理を行っていくことである.それに必要なリスク因子のエビデンスは,従来,住民コホート,患者レジストリー,臨床試験とそれらのメタアナリシスにより確立されてきたが,一方,それら従来型研究については,①登録患者が特殊で結果を一般診療に外挿しにくい,②長期間追跡の労力や費用が厖大である,③追跡中のドロップアウトが多い,④対象者数が限られ,統計パワーが不十分である,⑤事前に設定したアウトカムについてしか解析できない,などの限界点も指摘されてきた.とくに,従来型研究により「早期」網膜症の重要リスク因子は解明されたものの,視力を脅かし生活の質と医療費に多大な悪影響を与える「重症進行」網膜症のリスク因子はまだ検討が不十分であった.幸い近年の治療法の進歩により,そのような重症網膜症は以前より減少してきたが,むしろそのために従来コホートでは解析に必要なイベント数を確保することが困難になりつつある.また,血糖や血圧など既知リスク因子のさらに詳細な解析あるいは残余リスク因子の探索にも,従来型コホートでは患者・イベント数が不足することが多い.III新たな大規模医療データサイエンスの登場これらの従来型研究の限界を補うための研究ツールとして,リアルワールドデータが用いられるようになった.実際に,リアルワールドデータを活用した研究は近年うなぎ登りに増加している(図1).研究に利用できるリアルワールドデータには,健診,人間ドック,レセプト(診療報酬請求),DPC(診断群包括分類),電子カルテ,介護保険などがあり,いずれもその名のとおり現場状況を反映したデータであるうえ,対象者数も膨大で必要イベント数を確保しやすい.しかし,研究目的で作られたデータベースではないため,研究活用時には留意が必要である.たとえばレセプトデータは,全員加入という悉皆性に加え,受診を要する重症疾患がほぼ漏れなく捕捉可能という特長を有する.しかし,検査データが含まれていな*HirohitoSone:新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野〔別刷請求先〕曽根博仁:〒951-8510新潟市中央区旭町通一番町757新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(77)359論文数図1PubMedに登録されたリアルワールドデータ研究の年代別件数の急激な増加である透析導入のリスク因子を検討した筆者らの以前の過去現在未来①コホート研究(前向き)②ケースコントロール研究過去の要因暴(後向き)露状況の調査イベント発症の追跡いことが短所で,健診や電子カルテデータと連結して用いる必要がある.さらに,いわゆる「レセプト病名」や「保険病名」といわれるように,病名が実際のイベント発症を反映しているとは限らないことも問題である.つまり,「糖尿病網膜症」という病名のみでは重症度が不明なうえ,たとえ「増殖網膜症」という病名がつけられていても,実際に処置を要する危険な状態なのか,あるいはすでに鎮静化した状態なのか区別できない.これに対しては,「診断が確定すればほぼ実施されるが,診断が確定しない限りまず実施されない」処置である光凝固術,硝子体手術,抗血管内皮増殖因子(vascularCendo-6,0005,5005,0004,5004,000thelialgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射などが行われたことを手がかりに,当該イベントが実際に起きているか否かを診療行為から判定する必要がある1).データサイズと並ぶリアルワールドデータの最大のメリットは,歴史的コホートデザインを用いることにより,通常のコホート研究に必要な膨大な時間・労力・費用なしに,縦断解析が可能になることである.このデザインは後ろ向きのケースコントロール研究と混同されやすいが,健診結果など過去の確実な測定済みデータが存在し,さらにその後のイベントが確実に捕捉できる際に利用可能になるデザインであり有用性が高い(図2).CIVビッグデータで解明された重症進行糖尿病網膜症のリスク因子わが国のレセプトデータベース解析によって明らかにされた「治療を要する(視力が脅かされる)重症進行糖尿病網膜症」発症の有意な年齢調整リスク因子は,3,5003,0002,5002,0001,5001,000500HbA1c,空腹時血糖,収縮期血圧であった(表1)2).HbA1cについては,6.5%以下の群と比較すると,8.1.8.5%の群で約C6倍,8.6%以上の群で約C14倍と,HbA1c上昇とともに急速に発症リスクが上昇した(図3)2).これは以前にCJapanCDiabetesCComplicationsStudy(JDCS)3)で報告した単純網膜症とCHbA1cとの直線的な関係とはやや異なり,HbA1c8.5%付近を変曲点としたCS字状の関係であったことが判明した(図4)2).一方,同じデータベースを用いて糖尿病腎症の末期像図2各種縦断研究(①コホート研究,②ケースコントロール研究,③歴史的コホート研究)の概念の比較リアルワールドデータ研究ではとくに③が用いやすい.なお,③はレトロスペクティブコホート研究とよばれることもある.研究結果では,収縮期血圧が高くなるほど透析導入リス表1わが国のレセプトデータ解析から判明した糖尿病患者におけクが増大したのに対し,拡張期血圧については意外なこる重症進行糖尿病網膜症の多変量調整リスク因子(Cox回帰)とに,高くなるほど透析導入リスクは逆に低下していた4).この結果より,脈圧(収縮期血圧と拡張期血圧の差)の影響が強い可能性に気づき,収縮期血圧と脈圧をあえて共変量として同時投入してみたところ,収縮期血圧のほうが吸収され脈圧のみが独立因子として残った(表2)4).実際に,収縮気圧(140CmmHg以上または未満),脈圧(60CmmH以上または未満)でそれぞれ層別化して発生率をみたところ,前者より後者のほうが,透析導入者と非導入者をよりよく区別できていた.CHbA1c性別(男性)年齢(/5年)BMI(5Ckg/mC2増加)収縮期血圧(10CmmHg上昇)LDLコレステロール(1Cmg/dl上昇)HDLコレステロール(1Cmg/dl上昇)空腹時血糖(1Cmg/dl上昇)トリグリセリド(対数変換)喫煙HbA1c(%)1.22(0.81.1.86)1.21(1.09.1.34)1.09(0.91.1.31)1.13(1.03.1.23)0.99(0.99.1.00)1.01(0.99.1.02)1.00(1.00.1.00)0.84(0.63.1.13)0.88(0.63.1.23)1.70(1.56.1.86)(文献C2より改変引用)0.100.080.06≦6.5Cref0.046.6.C7.07.1.C7.51.90(C1.03.C3.51)3.60(C1.89.C6.85)C0.04<C0.017.6.C8.03.50(C1.64.C7.47)<C0.010.028.1.C8.55.91(C2.87.C12.2)<C0.01C≧8.614.1(C8.07.C24.6)<C0.010.00調整因子:年齢,性別,BMI,収縮期血圧,空腹時血糖,05001,0001,5002,0002,500HDLコレステロール,CLDLコレステロール,トリグリ観察期間(日)セリド,現在喫煙C重症網膜症累積発症率HbA1c(%)ハザード比(95%信頼区間)p値図3わが国のレセプトデータ解析から判明したHbA1cと重症進行糖尿病網膜症との関連(文献C2より改変引用)Cab10.25網膜症発症率(95%信頼区間)0.80.60.40.20.200.150.100.0500.006.47.48.49.410.411.44567891011121314HbA1c(%)HbA1c(%)図4HbA1cと単純網膜症,重症進行網膜症発症との関連a:JDCSにおける単純網膜症.Cb:レセプトと特定検診の連結データベースにおける重症網膜症.(文献2,3より改変引用)表2わが国のレセプトデータ解析から判明した糖尿病患者にお表3わが国のレセプトデータ解析から判明した収縮期血圧に加えける各種血圧指標を共変量として投入した際の透析導入のてあえて脈圧を共変量として追加した際の糖尿病患者におけ多変量調整リスク因子(Cox回帰)る重症進行糖尿病網膜症の多変量調整リスク因子(Cox回帰)性別(男性)年齢(/5年)BMI(5Ckg/mC2増加)収縮期血圧(10CmmHg上昇)脈圧(10CmmHg上昇)LDLコレステロール(1Cmg/dl上昇)HDLコレステロール(1Cmg/dl上昇)空腹時血糖(1Cmg/dl上昇)トリグリセリド(対数変換)喫煙HbA1c(%)b0.041.41(0.92.2.16)1.18(1.07.1.30)1.13(0.94.1.36)0.91(0.79.1.04)1.50(1.23.1.84)0.99(0.99.1.00)1.01(0.99.1.02)1.00(1.00.1.00)0.88(0.66.1.18)0.82(0.59.1.16)1.73(1.59.1.89)(文献C2より改変引用)0.040.030.020.01重症網膜症累積発症率重症網膜症累積発症率0.030.020.010.000.00観察期間(年)観察期間(年)図5重症進行糖尿病網膜症発症リスクに対する脈圧(a)と収縮期血圧(b)の影響(三分位解析)01234560123456そこで,同じく進行した細小血管合併症である重症進行糖尿病網膜症についても,同様に収縮期血圧と脈圧を共変量として同時投入してみたところ,収縮期血圧は吸収され脈圧のみが有意な因子として残った(表3)2).実際に,脈圧と収縮期圧をいずれも三分位に層別化して発生率をみたところ,収縮期圧を用いるより脈圧を用いたほうが,重症進行糖尿病網膜症高リスク群をよく分離することが可能であった(図5).脈圧は一般に太い血管壁の硬さを反映するとされ,以前の筆者らのメタアナリシス結果5)でも心血管疾患との関連が示されていたが,細小動脈合併症の病態にも関与することが明らかになり,重症進行糖尿病網膜症のリスク評価や発症予測には,収縮期血圧のみならず脈圧も重(文献C2より改変引用)要であることが示唆された.CV糖尿病合併症同士の関連合併症同士の関連についても新たな知見が得られている.筆者らは以前,JDCSにおいて,単純網膜症と微量アルブミン尿が同時にみられる糖尿病患者において,経時的な腎機能低下のリスクが高いことを報告した6).一方,最近のレセプトデータでは,一般尿検査の尿蛋白C1+以上,またはCeGFR低下(30.59Cml/min/1.73CmC2)がみられる患者ではいずれも,それらをもたない患者と比較して重症進行糖尿病網膜症のリスクが約C2倍に上昇していたが,それら両方をもつ患者ではリスクは約C6倍に上昇表4わが国のレセプトデータ解析から判明した尿蛋白陽性(一般尿検査1+以上)とeGFR軽度低下(30~59ml/min/1.73m2)およびそれらの組み合わせによる重症進行糖尿病網膜症の多変量調整リスク因子(Cox回帰)ハザード比(95%信頼区間)p値尿蛋白陽性eGFR軽度低下1.91(C1.90(C1.27.C2.87)C1.11.C3.23)C0.0020.019尿蛋白陽性eGFR軽度低下ハザード比(95%信頼区間)p値--1(reference)-+1.52(0.78.2.95)0.217+-1.73(1.11.2.69)0.015++5.57(2.40.12.94)<0.001(文献C7より改変引用)Cab100100未発症者割合(%)75502575502500123456700123456年数Strata網膜症なし極軽中等度の非増殖性度の非増殖性軽重症の非増殖性年数度の非増殖性最重症の非増殖性図6英国の電子カルテ解析研究から判明した観察開始時の網膜症状態による増殖性網膜症(a)および7硝子体出血(b)の累積発症率していた(表4)7).このようなデータは,糖尿病患者における細小血管合併症間の共通病態の存在を示唆するとともに,網膜症リスク評価の層別化に役立つものと考えられた.CVIリアルワールドデータを活用した他の研究例ビッグデータを活用することにより,ほかにも多くの関連が示されている.たとえば,英国の電子カルテデータベースを解析した結果では,ベースラインの詳細な網膜症ステージ別の増(文献C8より改変引用)殖網膜症や硝子体出血の発症率が報告されている(図6)8).また,白内障手術後に合併症として黄斑浮腫がみられることが知られていたが,実際に網膜症を有する糖尿病患者に対する白内障手術後に,治療を要する糖尿病性黄斑浮腫のリスクがC2.9%からC5.3%に有意に上昇していたことが判明した9).眼科は次々と最先端計測機器類が導入され,リアルワールドデータが蓄積されやすい分野であるが,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)10)やマイクロペリメーター(視感度測定器)11)などの計測値が,糖尿病患者に多い認知症のリスク評価に使える可能性も示されている.糖尿病網膜症の頻度(%)10093.96%908072.16%70.25%66.45%706059.146%52.53%504033.03%34.20%3020100<20%20~30%30~40%40~50%50~60%60~70%70~80%>80%Timeinrangeの割合図7中国人2型糖尿病患者におけるtimeinrange別の網膜症有病率(文献C12より改変引用)一方,内科でも持続血糖モニタリングなどの普及により,血糖値の詳細な日内変動や日較差に関するビッグデータが蓄積されている.糖尿病網膜症のリスク因子としての血糖コントロールも,従来はCHbA1cを中心に評価されていたが,timeinrange(TIR;グルコース値がC70以上C180Cmg/dl未満の時間の割合)など,より新たなコントロール指標との関連が明らかにされ(図7)12),糖尿病網膜症とその重症化予防のためのより詳細なコントロールの指針作りに役立つものと思われる.CVIIリアルワールドデータの今後近年の技術進歩に伴うリアルワールドデータの活用は,現場に役立つ新たなエビデンスを産み出すことを可能にする.ただし,研究活用時には各データベースの長所と短所を理解して,リサーチクエスチョンに合ったデータベースを選ぶ必要があり,さらに複数のデータベースを結合するなどの工夫を要する.一方,リアルワールドデータが使用できるようになっても,コホート,レジストリー,無作為化試験などの従来型研究の価値が低下するわけではなく,新旧の手法を目的によって適宜使い分けることにより,新たな大規模医療データサイエンスの世界が広がり,糖尿病診療や予防の個別化に貢献できるはずである.謝辞:JDCSにご協力いただいた多くの先生方,とくに山形大学の山下英俊先生,大阪大学の川崎良先生,京都大学の田中司朗先生に深謝申し上げます.文献1)FujiharaCK,CYamada-HaradaCM,CMatsubayashiCYCetal:CAccuracyofJapaneseclaimsdatainidentifyingdiabetes-relatedCcomplications.CPharmacoepidemiolCDrugCSafC30:C594-601,C20212)YamamotoCM,CFujiharaCK,CIshizawaCMCetal:PulseCpres-sureCisCaCstrongerCpredictorCthanCsystolicCbloodCpressureCforCsevereCeyeCdiseasesCinCdiabetesCmellitus.CJAmHeartCAssocC8:e010627,C20193)KawasakiCR,CTanakaCS,CTanakaCSCetal;JapanCDiabetesComplicationsStudyGroup:IncidenceandprogressionofdiabeticretinopathyinJapaneseadultswithtype2diabe-tes:8yearfollow-upstudyoftheJapanDiabetesCompli-cationsStudy(JDCS)C.DiabetologiaC54:2288-2294,C20114)OsawaT,FujiharaK,HaradaMetal:Higherpulsepres-sureCpredictsCinitiationCofCdialysisCinCJapaneseCpatientsCwithdiabetes.DiabetesMetabResRevC35:e3120,C20195)KodamaCS,CHorikawaCC,CFujiharaCKCetal:Meta-analysisCofCtheCquantitativeCrelationCbetweenCpulseCpressureCandCmeanarterialpressureandcardiovascularriskinpatientswithCdiabetesCmellitus.CAmCJCCardiolC113:1058-1065,C20146)MoriyaCT,CTanakaCS,CKawasakiCRCetal;JapanCDiabetesCComplicationsCStudyGroup:DiabeticCretinopathyCandCmicroalbuminuriacanpredictmacroalbuminuriaandrenalfunctionCdeclineCinCJapaneseCtypeC2Cdiabeticpatients:CJapanCDiabetesCComplicationsCStudy.CDiabetesCCareC36:C2803-2809,C20137)YamamotoCM,CFujiharaCK,CIshizawaCMCetal:OvertCpro-teinuria,moderatelyreducedeGFRandtheircombinationareCpredictiveCofCsevereCdiabeticCretinopathyCorCdiabeticCmacularCedemaCinCdiabetes.CInvestCOphthalmolCVisCSciC60:2685-2689,C20198)LeeCS,LeeAY,BaughmanDetal;UKDREMRUsersGroup:TheCUnitedCKingdomCDiabeticCRetinopathyCElec-tronicCMedicalCRecordCUsersGroup:report3:baselineCretinopathyCandCclinicalCfeaturesCpredictCprogressionCofCdiabeticretinopathy.AmJOphthalmolC180:64-71,C20179)DennistonCAK,CChakravarthyCU,CZhuCHCetal;UKCDRCEMRCUsersGroup:TheCUKCDiabeticCRetinopathyCElec-tronicMedicalRecord(UKDREMR)UsersGroup,report2:real-worldCdataCforCtheCimpactCofCcataractCsurgeryConCdiabeticCmacularCoedema.CBrCJCOphthalmolC101:1673-1678,C201710)ChanCVTT,CSunCZ,CTangCSCetal:Spectral-domainCOCTCmeasurementsCinCAlzheimer’sdisease:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.COphthalmologyC126:497-510,C201911)CiudinCA,CSimo-ServatCO,CHernandezCCCetal:Retinalmicroperimetry:aCnewCtoolCforCidentifyingCpatientsCwithCtypeC2CdiabetesCatCriskCforCdevelopingCAlzheimerCdisease.CDiabetesC66:3098-3104,C201712)ShengCX,CXiongCGH,CYuCPFCetal:TheCcorrelationCbetweentimeinrangeanddiabeticmicrovascularcompli-cationsCutilizingCinformationCmanagementCplatform.CIntJEndocrinolC2020:8879085,C2020

総説:健康寿命の延伸と糖尿病診療─ 眼科の役割

2023年3月31日 金曜日

あたらしい眼科40(3):349.357,2023c第27回日本糖尿病眼学会総会特別講演(眼科)健康寿命の延伸と糖尿病診療─眼科の役割ExtendingHealthyLifeExpectancyandTreatmentforDiabetes:TheRolesofOphthalmology西勝弘*西塚弘一*山下英俊**I糖尿病網膜症診療の意義―健康寿命延伸に貢献厚生労働省の糖尿病実態調査(国民健康・栄養調査とともに行われる)によると,糖尿病患者数は急激に増加している.最新の平成28年度調査では,糖尿病が強く疑われる患者数は約1,000万人となっており,平成19年度の約890万人からわずか9年間で110万人増加したと推計される1).この糖尿病患者数の急激な増加は,世界的にみても同様の傾向で,世界人口の約5%が糖尿病に罹患しているという推計もある.糖尿病網膜症患者数は約300万人,増殖糖尿病網膜症患者数は約70万人,糖尿病黄斑浮腫は約65万人と推計される2).厚生労働省班研究によると,平成27年度.平成28年度調査での日本における視力障害の原因として,糖尿病網膜症は緑内障,網膜色素変性症についで第3位(12.8%)となっており3),平成19年度.平成22年度の調査によると糖尿病網膜症患者の視力障害者のピークは60歳代であった4).以上のような疫学的データは,糖尿病網膜症は眼科診療のなかで大きな比重を占めるだけでなく,働き盛り世代の視力障害を引き起こすという点から社会的負荷になっていることを示している.糖尿病診療ガイドライン2019によれば,「糖尿病治療の目標は,高血糖に起因する代謝異常を改善することに加え,糖尿病に特徴的な合併症,および糖尿病に起こりやすい併発症の発症,増悪を防ぎ,健康人と変わらない生活の質(qualityoflife:QOL)を保ち,健康人と変わらない寿命を全うすること」である5).厚生労働省の推進する「健康日本21」の目標6),すなわち「平均寿命延伸のみでなく健康寿命延伸」を達成するためには視力障害者数を減らす必要がある.このためには糖尿病網膜症による視力低下,視力障害増加を抑制する戦略が必要である.本総説では,健康寿命延伸のために生涯にわたり糖尿病網膜症患者の視力を保持する治療戦略の現状と未来について考察する.II糖尿病網膜症診療の現状1.糖尿病網膜症の診断日常診療で眼科医が糖尿病患者を診察する機会は,健診異常をきっかけとした受診や,糖尿病で内科治療中の患者が紹介されてくる場合が多い.なかには視力低下などの主訴で眼科を受診し,眼底所見から糖尿病網膜症を疑われ,その後内科で未治療の糖尿病の診断につながるケースもある.糖尿病網膜症の基本的な病態は,血管透過性亢進,血管閉塞,血管新生である.これらの病態は眼底所見として,毛細血管瘤,網膜出血,硬性白斑,軟性白斑,血管異常(網膜内細小血管異常,数珠状静脈拡張など),新生血管(その破綻で生じる硝子体出血),増殖膜(それによる牽引性網膜.離)などの所見としてみられる.血管透過性亢進を背景に血管漏出に伴う網膜浮腫を生じる病態は,糖尿病黄斑浮腫とよばれる.眼底所見のみでは無灌流領域を含めた糖尿病網膜症の循環動態の評価は困難であり,正確に判断するためにはフルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)が必要となる.*KatsuhiroNishi&KoichiNishituka:山形大学医学部眼科学教室**HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学教室,山形市保健所〔別刷請求先〕山下英俊:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部眼科学教室0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(67)349FAは造影剤を用いた侵襲的な検査である側面があり,とくにフルオレセインアレルギー患者の場合で施行がためらわれる.そうした患者には,光干渉断層血管造影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)(2018年に保険収載)が近年用いられている.血管漏出は判定できない,機種によっては撮影可能範囲が狭いなど問題はあるものの,無灌流領域や新生血管の有無の判定に役立ち診断治療の一助となる.網膜症所見は両眼性であることが基本だが,眼底所見の重症度に左右差がみられる場合には,その背後に内頸動脈.眼動脈の狭窄・閉塞による眼虚血が潜んでいることがある.高血糖状態により網膜血管障害から血管閉塞が生じると,網膜細胞が虚血に陥り,血管内皮増殖因子(vascu-larendothelialgrowthfactor:VEGF)をはじめとするケミカルメディエーターが眼内に放出される.虚血状態のままで時間が経過すると新生血管を発症し,網膜症としては最重症である増殖糖尿病網膜症へと進行する.さらに時間が経過すると,新生血管が隅角(隅角新生血管)や虹彩(虹彩ルベオーシス)でも認められるようになり,やがて眼圧上昇を伴う血管新生緑内障まで至る.血管新生緑内障は眼圧コントロールにしばしば難渋し,線維柱帯切除術や緑内障インプラント手術などの外科治療を要することが多いが,治療の甲斐なく失明に至る患者も少なくない.2.重症度分類糖尿病網膜症にはわが国や欧米で複数の重症度分類があるが,その臨床的な意義は,重症度分類によって糖尿病網膜症の進展を予測し,適切な治療を選択することに寄与することである.わが国では国際重症度分類,改変Davis分類,新福田分類が広く用いられている.国際重症度分類,改変Davis分類は,糖尿病網膜症の眼底所見のなかでも重症な病態へ進展するリスクが高い所見に着目して病期を分類している.さらには,眼科医と患者の病態に対する共通理解,眼科医同士ならびに内科と眼科の病診連携において重要な役割を果たしている.国際重症度分類は2003年に米国眼科学会により提唱され,糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫について病期分類をしている7).糖尿病網膜症では,ハイリスクの増殖糖尿病網膜症(新生血管を発症した重症な網膜症)への進行リスクの大きさにより重症度を分類している.網膜症の所見がないものを網膜症なし,重篤な虚血状態を示唆しただちに治療が必要な状態である新生血管を認めるものを増殖糖尿病網膜症とし,その間の状態を非増殖糖尿病網膜症として,さらに軽症,中等症,重症の3段階に分類している.初期の変化である毛細血管瘤のみを認めるものは軽症非増殖糖尿病網膜症,4象限の各象限いずれも20個以上の網膜出血,2象限以上での数珠状静脈拡張,1象限以上での網膜内最小血管異常のいずれかを認める(4-2-1ルール)ものは重症非増殖糖尿病網膜症とし,中等症非増殖糖尿病網膜症は軽症と重症の間の状態としている.糖尿病黄斑浮腫では,網膜の後極に網膜肥厚と硬性白斑を認めるものを黄斑浮腫ありとし,黄斑部に網膜浮腫が及ぶと視力に影響を及ぼすことから,黄斑部と病変の関係から軽症(病変が黄斑中央部から離れている),中等症(病変が黄斑中央部に近づきつつある),重症(病変が黄斑中央部に到達している)の3群に分類している.国際重症度分類は,米国で行われたDiabeticReti-nopathyStudy(DRS)8),EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)9)などの大規模な疫学研究のエビデンスに基づいており,増殖糖尿病網膜症への進展の臨床的な予測に有用である.比較的覚えやすく簡潔な分類であるとともに,眼科医が検眼鏡的に把握できる眼底所見からその場で重症度を判定できること,内科と情報が共有しやすいこと,また世界共通な診断基準となっており学術的に有用であることから,臨床現場のみならず,研究論文などでも広く使用されるようになってきている.3.糖尿病網膜症の治療糖尿病網膜症では血管閉塞から網膜虚血が引き起こされるが,それに対する治療の基本は網膜虚血の軽減,すなわち網膜虚血部位の酸素需要を減らし脈絡膜からの酸素供給を増やすことであり,現在もっとも行われている治療が網膜光凝固術(レーザー治療)である.汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)が選択されるのは,重症非増殖糖尿病網膜症と早期の増殖糖尿病網膜症である.重症非増殖糖尿病網膜症ではPRPにより新生血管の出現,すなわち増殖糖尿病網膜症への進展を予防することが期待される.増殖糖尿病網膜症では病態の鎮静化,さらには血管新生緑内障への進展予防のために,可及的速やかに密なPRPが必要とな図1パターンスキャンレーザーを用いて汎網膜光凝固術を施行した重症非増殖糖尿病網膜症の眼底写真網膜最周辺部まで密に凝固斑を認める.る(図1).増殖糖尿病網膜症に対するレーザー治療の施行を妨げるような病態,すなわち硝子体出血(出血量が多い,遷延する,反復する),増殖膜による牽引で生じる牽引性網膜.離(黄斑部にせまるもの)や裂孔併発型牽引性網膜.離に対しては,硝子体手術が適応となる.硝子体手術による出血の除去,網膜の物理的牽引の除去を行い,術中に網膜光凝固を施行することに加え,外来で行うことがむずかしい網膜最周辺部への光凝固も行う.増殖糖尿病網膜症における硝子体手術治療では,従来の失明予防の目的のみならず,より良好な視力を獲得し,長期的に維持することが要求されてきている.硝子体手術は,従来法であった20ゲージ(G)システムから小切開硝子体手術へと手術デバイスが進歩し,低侵襲化している.増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術治療では,20Gのみならず23Gや25Gの小切開硝子体手術でも良好な術後視力が得られている10).実用視力として小数視力0.5(片眼読書視力)や0.7(普通自動車免許更新)を達成するための治療戦略を検討するため,術後視力予後とその関連因子について検討した.山形大学医学部附属病院眼科で2008.2012年に初回硝子体手術を施行した100例128眼を対象に,術後2年,術後4年時点での視力0.5以上,0.7以上に関連する因子を検討した.「術後2年時の視力0.5以上」には術前虹彩ルベオーシスなし,増殖膜なしが,「術後2年時の視力0.7以上」には術前虹彩ルベオーシスなし,手図2増殖糖尿病網膜症における術中OCT所見術中OCTを用いることにより,増殖膜と網膜(点線)の判別や増殖膜の複雑な層状構造を客観的に捉えることが可能である.術のきっかけが硝子体出血であることが関連した.「術後4年時の視力0.5以上」には増殖膜なし,再手術なしが,「術後4年時の視力0.7以上」には術前虹彩ルベオーシスなし,増殖膜なし,再手術なしが関連した.術前の重症度が高くなく再手術を要さないような症例で視力予後が良好であったことから,タイミングを逸することなく硝子体手術治療が行われることが重要であると考えられた11).また近年,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が搭載された手術顕微鏡を用いる術中OCTにより,増殖膜や周辺硝子体の観察が可能となった12.14).増殖糖尿病網膜症における硝子体手術治療でのdecisionmakingの助けとなるだけでなく,安全に手術を遂行し,失明を防ぐ医療から高度な視力を獲得する医療への進歩を支えている(図2).4.糖尿病黄斑浮腫の診断と治療糖尿病黄斑浮腫は網膜浮腫,硬性白斑といった眼底所見に加え,FA,OCTなどの検査所見を組み合わせて診図3抗VEGF薬治療前後のOCT(53歳,男性)左眼の糖尿病黄斑浮腫に対してアフリベルセプト硝子体内注射を施行.施行後C1カ月で黄斑浮腫は軽快した.断される.FAにより局所性浮腫(局所的な毛細血管瘤からの漏出を主体とした限局性浮腫)とびまん性浮腫(広範な血管障害に伴う漏出を主体とした網膜浮腫)の区別,OCTにより網膜厚や浮腫と中心窩の位置関係,網膜硝子体界面の牽引の有無などを判定する.現在の糖尿病黄斑浮腫の薬物治療の第一選択は抗VEGF薬治療である.VEGFがもつ血管透過性亢進作用を抗CVEGF薬により減じることで,黄斑浮腫を引かせる治療である(図3).薬価が高額であることや血栓症をはじめとする全身への副作用の報告から,視力,中心窩網膜厚,全身状態などの医学的見地,患者の経済的,社会的状況などを総合的に判断して行われている.抗VEGF薬無効例や,大血管症などの全身合併症を有し抗CVEGF薬を用いにくい患者ではステロイド(トリアムシノロンアセトニド)のCTenon.下注射が選択されたり,局所光凝固,硝子体手術(網膜牽引の除去)といった複数の治療を組み合わせることによって治療される.非侵襲的な治療としてステロイド点眼治療があり,筆者らの施設で過去に治療成績を報告している15,16).米国で術後抗炎症薬として認可されている副腎皮質ステロイド点眼薬であるジフルプレドナート点眼薬を糖尿病黄斑浮腫に対してC3カ月間点眼治療した.治療後C3カ月時点での網膜厚改善はトリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射と同等だった.点眼であるため,受診した日から治療が始められ,もし副作用が認められたらすぐに点眼を中止できるという治療における柔軟性がある.CIII糖尿病網膜症の進展のリスク因子1.糖尿病網膜症・黄斑症治療戦略のための発症,進展リスク評価糖尿病網膜症による失明,視力低下の患者を減らすためには,糖尿病および糖尿病網膜症を早期発見・早期治療すること,個々の糖尿病患者における糖尿病網膜症発症・進展の高リスクを高い精度で予測してCintensivecareを可能にするテーラーメイド医療を推進すること,さらには糖尿病網膜症発症・進展の病態研究による眼科の新しい治療法の開発などが大切である.糖尿病に限らず,ある集団における(たとえば日本人おける)ある疾患による障害(たとえば糖尿病網膜症による視力障害)を減少させるためには二つのアプローチがある.それは集団アプローチと高リスクアプローチである6,17)(図4).前者はリスクのある患者すべてを減らすアプローチで,糖尿病網膜症の場合には糖尿病患者数そのものを減少させることである.これは大変重要な課題であり,「健康日本C21」でも厚生労働省は数値目標を設定して糖尿病患者数の増加を抑制しようとしている6).一方後者は,疾患のなかでもとくにリスクの高い患者にアプローチするもので,糖尿病網膜症であれば発症・進展リスクを評価し,とくに高いリスクの患者に対して予防,治療を重点的に行うことである.診療の現場ではきわめて有効な戦略と考えられ,有効に作用させるためには,「高リスクアプローチ」を実現するための具体的な戦略を構築する必要がある.C2.糖尿病網膜症の眼底観察の臨床的な意義糖尿病網膜症の進行過程の知識があると診断や治療について理解しやすく,内科-眼科の連携にも資するために策定されたのが,糖尿病網膜症の国際重症度分類である(前述).糖尿病網膜症の基本的な三つの病態は血管透過性亢進,血管閉塞,血管新生であり,この順に進行する.この国際分類は眼底所見により判定される重症度を,今後網膜症が進展していくと予測されるリスクととらえることで構築されている.すなわち,国際重症度分類で重症であると判定されるということは,今まさに網膜症が急速に進展すると予測されるということと同義となる.国際重症度分類を用いて重症度判定することによって,明確で具体的な臨床的メッセージを患者と内科へ発信することができる.糖尿病患者における網膜症の重症度と発症・進展リスクの評価を,日本人における大規模コホート研究において行った結果について報告する.JapanDiabetesCom-plicationsCStudy(JDCS)はC1996年から始められたわが国におけるC2型糖尿病の多施設大規模研究であり,欧米以外では初めてのものである18).全国の糖尿病専門施設59カ所に通院するC2型糖尿病患者のうち,前増殖性以上の網膜症や心血管疾患など進行した合併症をもつ患者を除外したC2,205名を対象とした.登録者全体の糖尿病低高図4高リスクアプローチと集団アプローチ(健康日本C21ホームページより引用)合併症の実態について前向きに追跡研究しており,日本人における糖尿病血管合併症についての貴重な疫学データとなっている.網膜症のない患者ではC1年あたりC3.4%で網膜症を発症していた.これは以前CSasakiらによってなされた日本人のC2型糖尿病患者を対象になされた報告19)の年約C4%に比較的近い値であった.1960.1979年に初診したC2型糖尿病患者のうち網膜症のなかったC976名(平均年齢C52歳,平均糖尿病罹病期間C3年)を平均C8.3年間追跡しており,JDCS開始までの約C20年間において網膜症発症率はあまり変化がなかったということになる.また,軽症.中等症非増殖糖尿病網膜症(単純網膜症)を有していた患者のC1年あたりC1.3%に,重症非増殖糖尿病網膜症(前増殖症)または増殖糖尿病網膜症の進展・増悪が認められた.JDCSの追跡データは日本人における他の疫学研究結果と同等であり,日本人の糖尿病患者に適応できる可能性を示している.JDCSでは糖尿病網膜症を以下のような分類に分けた(ステージC0:網膜症なし,ステージC1:網膜出血のみ,ステージC2:軟性白斑,ステージC3:網膜内最小血管異常,静脈変形,ステージ4:新生血管).経過観察開始時,ステージC0はC1,221例,ステージC1はC410例,ステージC2はC57例であった.8年間の経過観察でステージC3以上に進展するリスクをCCOX回帰モデルにより解析した.ベースラインでステージC0であった症例をCreferenceとすると,ベースラインでステージ1の症例がステージC3以上に進展するリスクは約C4倍,ベースラインでステージC2の症例がステージC3以上に進展するリスクは約C16倍であった20).この結果は,眼科医が診察した眼底所見による網膜症重症度の評価がその後の網膜症の進展を予測するツールとなっていると考えられ,眼科医による散瞳下での眼底検査を受けることの重要性を示している.しかし,OrganisationCforCEco-nomicCCo-operationCandDevelopment(OECD)による2005年の調査によると,日本における糖尿病患者に対する眼底検査施行率はC4割を切っており,最高レベルのイギリス,スウェーデンの約C8割に大きく水をあけられている21).その後の厚生労働省による国民栄養調査では,眼科受診率は改善しているが,まだまだC100%には届いていない(文献:平成C28年度調査報告書).眼底検査は眼科医により眼底全体の評価を行うべきで,健康診断で行われるような非散瞳下の眼底写真撮影のみでは周辺部の眼底の病変は検出できず不十分である.日本における糖尿病網膜症による視力障害を減少させるための第一歩は,糖尿病患者の眼科受診率を向上させることにある.C3.全身因子―Hospital-basedstudyから血糖値や血圧など全身的な危険因子のコントロールは網膜症の発症,進展を抑制するうえで基本的かつ重要な治療であり,網膜症のどの重症度でも対象となる.その治療目標の設定はエビデンスに基づいて行う必要がある.日本人におけるChospital-basedstudyによる疫学研究のエビデンスとしては,KumamotoStudy,JDCSがある.JDCSによると,登録時に単純網膜症を認めない群における網膜症発症のリスクファクターは,糖尿病罹病期間,HbA1c,収縮期血圧だった.さらに,すでに糖尿病網膜症を発症していた群における網膜症進展の有意なリスクファクターもCHbA1cだった.網膜症発症について層別化したCHbA1cでリスク評価すると,HbA1c7%未満の患者と比較して,HbA1c7.8%の層で網膜症発症リスクはC2倍,8.10%の層で約C3.5倍,10%以上の層ではC7.6倍にも上ることが明らかになった22).CKumamotoStudyは熊本大学医学部代謝内科で七里教授(当時)を中心として行われた日本人のC2型糖尿病患者を対象にしたChospital-basedstudyである.同研究ではC10年間の経過観察を行い,空腹時血糖値,HbA1c値は,中間型インスリン継続治療(conventionalinsulininjectiontherapy:CIT)群に比し,頻回インスリン治療(multipleCinsulininjectionCtherapy:MIT)群で有意な低値となったことが示された.MIT群で行われる厳格な血糖コントロールにより,網膜症の悪化は,一次予防および二次介入ともにCCIT群に比べCMIT群で有意に低率だった.また,HbA1c6.5%未満,食後C2時間血糖値C180Cmg/dl未満であれば細小血管合併症の出現する可能性が少ないことも報告されており,日本糖尿病学会でのガイドラインの治療の目標となっている23).以上のような定量的なリスク評価において,日本人の糖尿病患者を対象にした研究データは少なく,きわめて貴重で,網膜症の発症・進展を予防する医療の確立のために大切なエビデンスとなる.糖尿病網膜症を含む細小血管症,脳卒中などの大血管症への進展のリスクを評価するためのリスクエンジンを上記のCJDCSのデータをもとにCTanakaらが構築し,Web上に公開している.5年の期間で網膜症が進展するリスクエンジンを構築しており,それを構成する危険因子は,年齢,HbA1c,糖尿病罹病期間,肥満度(bodymassindex:BMI),腎機能である.このリスクエンジンを用いると,5年での進展はC10.96%と予測された.実測値はC10.20%だったことから,きわめて良好な予測結果であった.他の細小血管症,大血管症の進展のリスクもきわめて正確に予測可能であった.このようなリスクエンジンが臨床応用され,電子カルテなどのデータを基に高リスク患者の選定が行われるようになると,高リスクアプローチ実現の有力なツールになると考えられる24).CIV大血管症,腎症の予測前項で述べた分析は,糖尿病患者を対象としたChospi-tal-basedstudyでの解析結果である.健常人の網膜血管系は全身状態によってどのように影響を受けるかについて,健常人を対象にしたCpopulation-basedCstudyにおいて検討し,hospital-basedCstudyでの解析結果と比較した.山形大学医学部では山形県舟形町における住民健診をもとにした疫学研究(舟形町研究)をC1979年から行ってきた25.27).また,山形県高畠町のコホート研究である高畠町研究でも眼科学的な研究が行われている.これらの研究は山形県コホート研究(主任研究者:嘉山孝正教授)として包括され,健康人約C2万人のデータベースが整備されており,山形県全体のコホートをもとにした分子疫学的研究が行われている.舟形町研究の一環として,網膜症の有病率とその関連因子を検討した.舟形町検診の住民のうちC9.0%に網膜症がみられ,高齢,BMI高値,空腹時血糖異常(impairedfastingCglucose:IFG),耐糖能異常(impairedCglucosetolerance:IGT)が関連していた.糖尿病患者のC23.0%に網膜症がみられ,糖代謝正常者,IFG,IGTにおいてそれぞれC7.7%,10.3%,14.6%に網膜症が認められた.耐糖能障害がある場合には,網膜症の有病率はC1.53倍(オッズ比)に上昇し,IFGではオッズ比がC1.23と有意な相関がみられなかったのに対し,IGTではC1.63と有意に相関していることがわかった.これらは食後高血糖が網膜症有病率に関連することを示している28).一方,食後高血糖よりもCHbA1c値で表わされる血糖コントロールの平均値のほうが網膜症の発症・進展に影響するという意見もある.Lachinらは,DiabetesCControlCandCComplicationsTrial(DCCT)について解析し,従来治療群と強化治療群を比較した場合に,HbA1cほど網膜症の発症や進展に関連する因子はないと報告した29).舟形町研究ではメタボリックシンドロームと網膜病変の関連についても検討した.メタボリックシンドロームはおもに動脈硬化,心筋梗塞,脳卒中のリスク因子の多様性に着目した概念であるが,近年,網膜病変など細小血管障害との関連も検討されている.筆者らはこれまでにメタボリックシンドロームの構成要素である高血圧,肥満,高脂血症などが網膜細動脈硬化,網膜症とどのように関連しているかを検討した.さらに,個々の危険因子間での相乗効果を検討した.メタボリックシンドロームはCInternationalDiabetesFederationの定義で診断した.メタボリックシンドロームの個々の危険因子と網膜所見との間には,肥満とびまん性静脈拡張および網膜症,高血圧と網膜細動脈の局所狭細化・動静脈交叉現象・血柱反射亢進・びまん性狭細,高トリグリセリド血症と血柱反射亢進などの関連があった.メタボリックシンドローム自体は網膜症(実際には網膜出血)(オッズ比1.6)とびまん性静脈拡張(+4.7Cμm)に関連していた30).これらの結果は,メタボリックシンドロームは網膜所見と関連していること,個々のメタボリックシンドロームを構成するリスクが重なると網膜疾患のリスクが高くなることを示している.これらは,これまで報告されたhospital-basedCstudyである糖尿病データマネジメント研究会(JapanCDiabetesCClinicalCDataCManagementCStudyGroup:JDDM)レポートC40の結果(血糖コントロール不良,高脂血症,高血圧の三つの因子について異常値をとる因子数が増えると網膜症有病率が上昇することが報告されている)31),JDCSにおけるリスクエンジンの創設の試み(年齢,HbA1c,糖尿病罹病期間,BMI,腎機能が糖尿病網膜症の進展予測に有効)24)と,因子の組み合わせは異なるものの全身因子と糖尿病網膜症の関連を強く示すエビデンスとなっている.全身因子が網膜血管疾患に影響すること,網膜血管系の形状などに影響することは上記の研究により推察されるが,その分子メカニズム(どのような分子が関連しているのか)は不明な点が多い.メタボリックシンドロームの病態を理解するうえで,アディポネクチンが重要と考えられている32).アディポネクチンは脂肪細胞のみが分泌する抗動脈硬化因子であり,血中濃度は内臓脂肪濃度と逆相関する.アディポネクチンが低下すると,血圧異常,耐糖能異常,脂質代謝異常の重症化に寄与するだけではなく,動脈硬化の独立した危険因子にもなることが知られている33,34).アディポネクチンはアディポサイトカインの一つであり,これは脂肪細胞により分泌される脂肪組織由来生理活性物質であり,生理作用により生体内の恒常性を維持するため,産生・分泌のバランスが破綻することで,動脈硬化イベントが発症,進展する35.37).そのため,アディポネクチンの減少と,その他の炎症性・血栓性の性質を有するアディポサイトカインの増加が,メタボリックシンドロームと動脈硬化発症に重要であると考えられており,さまざまな関連を示す研究が行われている38).高畠町研究(山形県コホート研究の一部)において,アディポネクチンと網膜血管径の関連について検討した.高畠町研究に参加した住民C1,473人(男性C658人,女性C815人)を対象とし,眼底写真撮像,採血,身体データ測定,アンケートによる問診を施行した.網膜血管の状態を示す指標として,血流を保った状態で網膜血管(動脈,静脈)がそれぞれC1本であったと仮定した場合の仮想的血管径である網膜中心動脈径(centralCretinalarteryCequivalent:CRAE),網膜中心静脈径(centralCretinalCveinequivalent:CRVE),その比であるCAVR(CRAE/CREV)を,血管径測定専用ソフトウエアを用いて眼底写真から計測した39).低アディポネクチン血症がCCRAEの狭細化との関連し,これはアディポネクチン低下と細動脈硬化の関連を示唆している40).また,舟形町研究のデータを用いた研究によると,網膜動脈径狭細化が高血圧発症増加と有意な関連をもつこと41)に加えて,高血圧,冠動脈疾患,動脈硬化との関連が知られるアンギオテンシン変換酵素(angiotensinCconvertingenzyme:ACE)はレニン・アンギオテンシン系において重要な役割を果たしているが,ACE遺伝子多型が網膜動脈径狭細化と関連をもつこと42)が認められた.網膜血管は,肥満,高血圧などの全身因子に強く影響されるが,これらの分子病態に関連するCACEや血中のアディポネクチンの関与により網膜血管(動脈や静脈)が変化する.さらに高血圧,肥満などメタボリック症候群と脳卒中,心筋梗塞などの大血管症と網膜血管病態は共通するリスク因子をもつことから,網膜血管の病態を示す定性的,定量的指標により大血管症の発症を予測することが可能になると考えられる43,44).眼底検査は単に眼科診療において行うのみでなく,全身疾患の発症や重症化を抑制する先制医療の重要なデータを提供する情報源であり,これは全身疾患の高リスクアプローチにつながる.眼底検査により判定された糖尿病網膜症の重症度が,その後の大血管症の発症を予測する因子になることについてはエビデンスが蓄積されつつあり45),ますます眼底検査の重要性は増してくると考えられる.われわれ眼科医はこのことを意識して,医学全体に貢献するという視点をもつ必要があると考える.おわりにこれからの糖尿病網膜症診療は,個々の患者の病態に応じたテーラーメイド診療が必要となるだろう.そのうえで必要なこととしてC2点を考えたい.一つは人工知能(arti.cialintelligence:AI)を利用して適切な治療時期を見出し診療に生かしていく工夫である.眼底写真やCOCT,OCTAなどの画像データからの学習が必要になることから,データベース構築を急ぎ行う必要がある.一方で,診断を確定し,光凝固術,注射,手術など侵襲的治療を担うのは眼科医であり,AIが参入しても眼科医が不要となることはない.われわれ眼科医が,AIをうまく利用しながら眼科診療,治療を行っていくことが理想的な形であると考えられる.もう一つは,糖尿病患者で網膜症の進展を阻止するような非侵襲的薬物治療(点眼や内服など)の開発と,その有効で安全な治療法選択のためのアルゴリズムの開発があげられる.たとえば採血検査など比較的侵襲が低く,繰り返しての検査が可能な方法で糖尿病網膜症の病態が判定され,それに合わせて適切な内服薬や点眼薬が選択できるようになれば,テーラーメイド医療は大きく前進すると考えられる.文献1)厚生労働省:平成C28年国民健康・栄養調査結果の概要.Chttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h28-houCkoku.html2)YauJW,RogersSL,KawasakiRetal:GlobalprevalenceandCmajorCriskCfactorsCofCdiabeticCretinopathy.CDiabetesCCareC35:556-564,C20123)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentCinJapan:theC.rstCnation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividuals.CJpnCJCOphthalmolC63:26-33,C20194)若生里奈,安川力,加藤亜紀ほか:日本における視覚障害の原因と現状.日眼会誌118:495-501,C20145)日本糖尿病学会:糖尿病診療ガイドラインC2019.南江堂,C20196)厚生労働省:健康日本C21計画書7)WilkinsonCCP,CFerrisCFL,CKleinCRECetal;GlobalCDiabeticRetinopathyCProjectCGroup:ProposedCinternationalCclini-calCdiabeticCretinopathyCandCdiabeticCmacularCedemaCdis-easeCseverityCscales.COphthalmologyC101:1677-1682,C20038)DiabeticCRetinopathyCStudyCResearchGroup:ACmodi.cationCofCtheCAirlieCHouseCclassi.cationCofCDiabeticCretinopathy.CDRSCReportCNumberC7.CInvestCOphthalmolCVisSciC21:210-226,C19819)EarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyCStudyCResearchGroup:GradingCdiabeticCretinopathyCfromCstereoscopicCcolorCfundusCphotographsC.CanCextensionCofCtheCmodi.edCAirlieCHouseCclassi.cation.CETDRSCreportCnumberC10.COphthalmologyC98(5CSuppl):786-806,C199110)西勝弘,後藤早紀子,西塚弘一ほか:手術時期の異なる増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術成績の検討.臨眼C67:69-75,C201311)NishiCK,CNishitsukaCK,CYamamotoCTCetal:FactorsCcorre-latedCwithCvisualCoutcomesCatCtwoCandCfourCyearsCafterCvitreousCsurgeryCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CPLoSOneC16:e0244281,C202112)NishitsukaCK,CNishiCK,CNambaCHCetal:IntraoperativeCopticalCcoherenceCtomographyCimagingCofCtheCperipheralCvitreousandretina.RetinaC38:e20-e22,C201813)NishitsukaCK,CNishiCK,CNambaCHCetal:Quanti.cationCofCtheperipheralvitreousaftervitreousshavingusingintra-operativeCopticalCcoherenceCtomography.CBMJCOpenCOph-thalmolC6:e000605,C202014)西塚弘一:糖尿病網膜症に対する硝子体手術における術中OCTの所見や有用性について教えてください.あたらしい眼科37(臨増):171-174,C202015)NakanoCS,CYamamotoCT,CKiriiCECetal:SteroidCeyeCdroptreatment(di.upredonateCophthalmicemulsion)isCe.ectiveCinCreducingCrefractoryCdia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ドライアイとデジタルヘルス

2023年3月31日 金曜日

ドライアイとデジタルヘルスDryEyeandDigitalHealth梛野健*猪俣武範**はじめにドライアイは世界で10億人以上が罹患する最多の眼疾患であり,今後も増加が予測されている.ドライアイによる眼乾燥感や眼不快感といった症状は長期にわたり視覚の質や集中力・労働生産性を低下させ,多大な経済的損失を引き起こすことが問題となっている.ドライアイはその多様な自覚症状から不定愁訴と判断され,適切な診断を受けられず,未治療のまま症状に苦しみ続けているドライアイ患者が多数存在する.さらにドライアイに対する治療は点眼による対症療法が中心であり,完治する方法はこれまでのところ存在しない.そのため,ドライアイの発症や重症化に対する予防医療・早期診断・早期治療が求められている.近年急速に進展しているデジタルヘルスは,これらの問題を解決できる可能性を秘めている.すでに他の疾患領域における遠隔診療では,疾患の早期発見や早期治療介入について成果が示されつつある.筆者らは,2016年よりドライアイ研究用スマートフォンアプリケーション「ドライアイリズム」を開発し,デジタルヘルスを用いたドライアイ診療の実現に向けて,多数の臨床研究を実施してきた.本稿では,ドライアイ診療におけるデジタルヘルスを概説し,これまで筆者らが実施してきたスマホアプリを用いた臨床研究の成果とその展望について解説する.Iドライアイとデジタルヘルスドライアイはわが国では約2,000万人,世界では10億人以上が罹患する最多の眼疾患であり,超高齢社会やウィズ・アフターコロナにおけるデジタル社会の到来により,今後も増加していくと予測されている1~3).また,ドライアイによる眼乾燥感や眼不快感といった症状は人生の長期にわたり視覚の質や労働生産性を低下させ,多大な経済的損失を引き起こすことが問題となっている4,5).一方,ドライアイの症状は眼乾燥感や眼不快感のみならず,羞明,眼精疲労,視力低下など多岐にわたり,多様性と不均一性をもつ6).そのため,不定愁訴と判断され未治療のまま症状に苦しみ続けているドライアイ患者が多数存在する7).さらに,ドライアイと診断されても,学業や仕事,COVID-19の蔓延といった理由から継続的な受診が不可能な患者も多い.ドライアイの治療は,点眼による対症療法が中心であり,これまでのところ完治する方法は存在しない.そのため,ドライアイの発症・重症化に対する予防医療・早期診断・適切な治療介入が重要である6).デジタルヘルスとは,病気の管理や健康増進を目的に情報通信技術を活用する医療をさす8).その概念は幅広く,ウェアラブルデバイスや人工知能の活用,モバイルヘルス,遠隔医療,個別化医療を含む8).デジタルヘルスは従来の医療における障壁となっていた距離・場所・*KenNagino:順天堂大学医学部眼科学講座,順天堂大学大学院研究科医学病院管理学講座,順天堂大学大学院医学研究科デジタル医療講座**TakenoriInomata:順天堂大学医学部眼科学講座,順天堂大学大学院研究科医学病院管理学講座,順天堂大学大学院医学研究科デジタル医療講座,順天堂大学大学院医学研究科AIインキュベーションファーム〔別刷請求先〕梛野健:〒113-8213東京都文京区本郷2-1-1順天堂大学A棟6階南眼科研究室順天堂大学医学部病院管理学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(55)337図1ドライアイ研究用スマートフォンアプリケーション「ドライアイリズム」(文献6より許可を得て改変引用)年齢性別(女性)花粉症うつ病うつ病・統合失調症以外の精神疾患現在のコンタクトレンズ装用8時間を超えるデジタル作業時間喫煙オッズ比(95%信頼区間)0.99(0.987~0.999)1.99(1.61~2.46)1.35(1.18~1.55)1.78(1.18~2.69)1.87(1.24~2.82)1.27(1.09~1.48)1.55(1.25~1.91)1.65(1.37~1.98)0123オッズ比(95%信頼区間)図2ドライアイの関連因子症候性ドライアイなしの症候性ドライアイありに対して関連する因子のフォレストプロット.(文献7より許可を得て改変引用)年齢性別(女性)膠原病うつ病・統合失調症以外の精神疾患白内障・レーシック以外の眼科手術歴現在のコンタクトレンズ装用過去のコンタクトレンズ装用オッズ比(95%信頼区間)0.96(0.95~0.97)0.55(0.42~0.72)0.23(0.09~0.60)0.50(0.36~0.69)0.41(0.27~0.64)0.64(0.54~0.77)0.45(0.34~0.58)01オッズ比(95%信頼区間)図3ドライアイ未診断の関連因子ドライアイ未診断者のドライアイ診断者に対して関連する因子のフォレストプロット.(文献7より許可を得て改変引用)オッズ比(95%信頼区間)年齢0.99(0.98~0.99)性別(女性)1.85(1.60~2.14)膠原病2.81(1.34~5.90)うつ病1.68(1.23~2.29)現在のコンタクトレンズ装用1.24(1.09~1.41)デジタル作業時間1.02(1.01~1.03)花粉症1.18(1.04~1.33)喫煙1.53(1.31~1.79)オッズ比(95%信頼区間)図4ドライアイ重症化の関連因子ドライアイの重症化と関連する因子のフォレストプロット.(文献16の結果より作成)0123456IIIスマホアプリを用いたドライアイ症状評価とePRO1.ePROによるドライアイの症状評価ドライアイの自覚症状は個人差が大きいため,定性的な問診ではなく疾患特異的質問紙票を用いた定量的な評価が推奨されている27).このように質問紙票を介して,患者自身の主観に基づき報告される疾患の症状や治療の満足度に関する指標をpatient-reportedoutcome(PRO)とよぶ28).PROを用いることで,患者の自覚症状という定性的な情報を定量評価することが可能である.また,近年のデジタルヘルスの広がりとともに,electricPRO(ePRO)に注目が集まっている29).ePROは電子化された質問紙票を介して収集されるPROのことである28).スマホアプリによるePROを用いれば,これまで医療機関を受診できなかったドライアイ患者に対して,遠隔でのドライアイ自覚症状の評価が可能となる.ePROにより,従来の医療の課題であった未診断のドライアイ患者の早期発見や,日常生活におけるドライアイ自覚症状の継続的なモニタリングを実現できる可能性がある.2.ePROの課題:妥当性の検証ePROによる評価は,紙媒体による評価よりも患者の負担を軽減し,患者に受け入れられやすい可能性が示されている28).しかし,紙媒体のPROとePROは,その見た目や記載・入力方法,患者に与える印象が大きく異なる場合があるため,収集されたPROに影響を与えることがある28).そのため,ePROを用いた臨床研究やePROの臨床応用を行う際には,ePROの妥当性を検証する必要がある28).そこで筆者らは,紙媒体のJ-OSDIに対するスマホアプリに搭載した電子媒体のJ-OSDIの妥当性を検証した16).本研究では,ドライアイまたはドライアイ疑いの患者を対象に,紙媒体のJ-OSDIと電子媒体のJ-OSDIを用いて収集したJ-OSDI合計スコアの相関,一致性,診断能を評価した.その結果,紙媒体のJ-OSDI合計スコアと電子媒体のJ-OSDI合計スコアの間には有意な正の相関があり(r=0.752,p<0.001,図5a)16),臨床的一致性に関するBland-Altman解析の結果では,臨床的差(bias)は3.52点であった(図5b)16).また,紙媒体のJ-OSDI合計スコアと電子媒体のJ-OSDI合計スコアはいずれもドライアイ群において有意に高く,両媒体のスコア間に有意差はなかった(図5c)16).筆者らの研究から,電子化されたJ-OSDIの従来の紙媒体のJ-OSDIに対する妥当性が示された.これにより,スマホアプリに搭載された電子媒体のJ-OSDIを,紙媒体のJ-OSDIの代わりに従来のドライアイ診察の場や遠隔診療で使用することが可能となる.3.ePROの応用:ドライアイ自覚症状の層別化これまでのところ,ドライアイに対する根治療法は存在しておらず,点眼薬による対症療法が中心である30).ドライアイの自覚症状は多様性と不均一性をもつ6).そのため,ドライアイに対する診療の質のさらなる向上には,個々人の多様なドライアイの自覚症状に対する層別化医療や個別化医療により,それぞれの症状に合わせた治療を提供していくことが重要である.近年は,スマートフォンなどのモバイルデバイスから個人の行動情報や精神的・身体的情報を包括的に収集・解析し,個人のデジタル表現型の定量化を行うデジタルフェノタイピングの手法が発展してきている31).デジタルフェノタイピングを活用した治療アプローチは,患者の個人差が大きく,症状の定量的評価がむずかしい精神科領域において,層別化医療や個別化医療への有用性が示されている31).このデジタルフェノタイピングを用いた層別化の手法は,個人差や症状の多様性や不均一性が大きいドライアイの診療においても,層別化医療や個別化医療による治療の質向上に有用である可能性がある.そこで筆者らは,スマホアプリ「ドライアイリズム」によって収集したドライアイ健康関連医療ビッグデータを用いて,ドライアイの多様な症状を層別化するデジタルフェノタイピング手法の開発を行った6).本研究では,ドライアイリズムユーザーのうち,3,593人を対象とし,次元削減アルゴリズムUniformMani-foldApproximationandProjection(UMAP)と階層型クラスタリング手法を用いて,J-OSDIの12項目の質問への回答結果に基づく層別化を行った32).その結果,342あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023(60)305020OSDITotalScore4010300Bias:3.524020-10-12.32010-200-30002040608010020406080Paper-basedOSOIAverage図5紙媒体のJ-OSDIと電子媒体のJ-OSDIの比較a:紙媒体のCJ-OSDIと電子媒体のCJ-OSDIの相関.Cb:紙媒体のCJ-OSDIと電子媒体のCJ-OSDIの臨床的一致性に関するBland-Altmanプロット.Y軸は紙媒体のCJ-OSDI合計スコアと電子媒体のCJ-OSDI合計スコアの差を,X軸は紙媒体のJ-OSDI合計スコアと電子媒体のCJ-OSDI合計スコアの平均を示す.Cc:紙媒体のCJ-OSDIと電子媒体のCJ-OSDIのドライアイ識別能.紙媒体と電子媒体いずれもドライアイ群で有意に高いCJ-OSDI合計スコアを示す.OSDI:ocularsurfacediseaseindex,DED:dryeyedisease.(文献C16より許可を得て引用)CaSpectralclusteringbUMAPscatterplot-10-11Cluster1234-10-11SeverityMildModerateSevere56-127-12UMAP2UMAP2-13-13-14-14-15-1520222426282022242628UMAP1UMAP1図6次元削減手法UMAPとスペクトラルクラスタリングの組み合わせによるドライアイ患者層別化a:スペクトラルクラスタリングにより同定した各クラスターのCUMAPプロット.J-OSDIのC12項目の質問への回答に基づき,ドライアイ患者を七つのクラスターに層別化した.b:J-OSDIの重症度カテゴリに基づくドライアイ自覚症状の重症度を示すCUMAPプロット.UMAP:uniformCmanifoldCapproximationCandCprojection,J-OSDI:japaneseCversionCofCtheCocularCsurfaceCdiseaseindex.(文献C6より許可を得て改変引用)Cluster■1■2■3■4■5■6■743210図7層別化された各クラスターの階層的クラスタリングと自覚症状のヒートマップJ-OSDIのC12項目の質問それぞれにおける重症度の傾向をクラスターごとにヒートマップで示す.J-OSDI:JapaneseCversionCofCtheCOcularCSurfaceCDiseaseIndex.(文献C6より許可を得て改変引用)涙液層破壊時間最大開瞼時間図8涙液層破壊時間と最大開瞼時間涙液層破壊時間は瞬目してから角膜を覆う涙液層が破壊されるまでの時間を示す.最大開瞼時間は患者に可能な限り開瞼を保持してもらい,眼不快感が生じて閉瞼するまでの時間を示す.(文献C35より許可を得てえ改変引用)①疾患特異的質問紙票による自覚症状の収集ドライアイ判定②最大開瞼時間の測定図9スマホアプリを用いたドライアイ診断スマホアプリによる疾患特異的質問紙票(J-OSDI)を用いた自覚症状の評価と最大開瞼時間の測定を組み合わせによりドライアイ判定を行う.0.000.250.500.751.001-Speci.city図10標準的ドライアイ診断に対するスマホアプリによるドライアイ診断の診断精度に関するROC解析ROC曲線下面積が大きいほど,診断能が高いことを示す.スマホアプリによるドライアイ診断におけるCROC曲線下面積はC0.910であり,高い診断精度を示唆している.ROC:receiveroperatingcharacteristic.(文献C18より許可を得て改変引用)文献1)GaytonCJL:Etiology,Cprevalence,CandCtreatmentCofCdryCeyedisease.ClinOphthalmolC3:405-412,C20092)InomataT,ShiangT,IwagamiMetal:Changesindistri-butionofdryeyediseasebythenew2016diagnosticcri-teriaCfromCtheCAsiaCDryCEyeCSociety.CSciCRepC8:1918,C20183)DingCJ,CSullivanDA:AgingCandCdryCeyeCdisease.CExpCGerontolC47:483-490,C20124)YamadaCM,CMizunoCY,CShigeyasuC:ImpactCofCdryCeyeConCworkCproductivity.CClinicoeconCOutcomesCResC4:307-312,C20125)UchinoM,SchaumbergDA:Dryeyedisease:impactonqualityCofClifeCandCvision.CCurrCOphthalmolCRepC1:51-57,C20136)InomataCT,CNakamuraCM,CSungCJCetal:Smartphone-basedCdigitalCphenotypingCforCdryCeyeCtowardCP4Cmedi-cine:aCcrowdsourcedCcross-sectionalCstudy.CNPJCDigitCMedC4:171,C20217)InomataCT,CIwagamiCM,CNakamuraCMCetal:Characteris-ticsCandCriskCfactorsCassociatedCwithCdiagnosedCandCundi-agnosedCsymptomaticCdryCeyeCusingCaCsmartphoneCappli-cation.JAMAOphthalmolC138:58-68,C20208)RonquilloCY,CMeyersCA,CKorvekSJ:DigitalChealth.In:CStatPearls,StatPearlsPublishing,LLC,20229)KuwabaraA,SuS,KraussJ:Utilizingdigitalhealthtech-nologiesCforCpatientCeducationCinClifestyleCmedicine.CAmJLifestyleMedC14:137-142,C202010)JhaCS,CTopolEJ:AdaptingCtoCarti.cialintelligence:radi-ologistsCandCpathologistsCasCinformationCspecialists.CJamaC316:2353-2354,C201611)CookBL,ProgovacAM,ChenPetal:Noveluseofnatu-rallanguageCprocessing(NLP)toCpredictCsuicidalCideationCandCpsychiatricCsymptomsCinCaCtext-basedCmentalChealthCinterventionCinCMadrid.CComputCMathCMethodsCMedC2016:8708434,C201612)DuttS,NagarajanS,VadivelSSetal:Designandperfor-mancecharacterizationofanovel,smartphone-based,por-tableCdigitalCslitClampCforCanteriorCsegmentCscreeningCusingtelemedicine.TranslVisSciTechnolC10:29,C202113)Llorens-QuintanaCC,CRico-del-ViejoCL,CSygaCPCetal:ACnovelautomatedapproachforinfrared-basedaAssessmentofmeibomianglandmorphology.TranslationalVisionSci-ence&TechnologyC8:17,C201914)GonzalezCN,CIloroCI,CSoriaCJCetal:HumanCtearCpeptide/Cproteinpro.lingstudyofocularsurfacediseasesbySPE-MALDI-TOFCmassCspectrometryCanalyses.CEuPACOpenCProteomicsC3:206-215,C201415)SverdlovCO,CvanCDamCJ,CHannesdottirCKCetal:Digitaltherapeutics:anCintegralCcomponentCofCdigitalCinnovationCinCdrugCdevelopment.CClinCPharmacolCTherC104:72-80,C2018C16)InomataCT,CNakamuraCM,CIwagamiCMCetal:RiskCfactorsCforseveredryeyedisease:crowdsourcedresearchusingDryEyeRhythm.OphthalmologyC126,C201917)InomataT,NakamuraM,IwagamiMetal:Strati.cationofindividualsymptomsofcontactlens-associateddryeyeusingCtheCiPhoneCAppDryEyeRhythm:crowdsourcedCcross-sectionalCstudy.CJCMedCInternetCResC22:e18996,C202018)OkumuraCY,CInomataCT,CMidorikawa-InomataCACetal:DryEyeRhythm:aCreliableCandCvalidCsmartphoneCapplica-tionCforCtheCdiagnosisCassistanceCofCdryCeye.COculCSurfC25:19-25,C202219)StapletonCF,CAlvesCM,CBunyaCVYCetal:TFOSCDEWSCIICepidemiologyreport.OculSurfC15:334-365,C201720)Wol.sohnJS,AritaR,ChalmersRetal:TFOSDEWSIIdiagnosticCmethodologyCreport.COculCSurfC15:539-574,C201721)UchinoCM,CSchaumbergCDA.,CDogruCMCetal:PrevalenceCofdryeyediseaseamongJapanesevisualdisplayterminalusers.OphthalmologyC115:1982-1988,C200822)RoszkowskaAM,ColosiP,FerreriFMetal:Age-relatedmodi.cationsofcornealsensitivity.OphthalmologicaC218:C350-355,C200423)CourtinR,PereiraB,NaughtonGetal:Prevalenceofdryeyediseaseinvisualdisplayterminalworkers:asystem-aticCreviewCandCmeta-analysis.CBMJCOpenC61:e009675,C201624)EkStefan:GenderCdi.erencesCinChealthCinformationbehaviour:aCFinnishCpopulation-basedCsurvey.CHealthCPromotIntC30:736-745,C201325)HuaCR,CYaoCK,CHuCYCetal:DiscrepancyCbetweenCsubjec-tivelyCreportedCsymptomsCandCobjectivelyCmeasuredCclini-cal.ndingsindryeye:apopulationbasedanalysis.BMJOpenC4:e005296,C201426)KimberleyY,VatineeB,MaguireMetal:Systemiccon-ditionsCassociatedCwithCseverityCofCdryCeyeCsignsCandCsymptomsCinCtheCdryCeyeCassessmentCandCmanagementCstudy.OphthalmologyC128:1384-1392,C202127)Wol.sohnJS,AritaR,ChalmersRetal:TFOSDEWSIIdiagnosticCmethodologyCreport.COculCSurfC15:539-574,C201728)CoonsSJ,GwaltneyCJ,HaysRDetal:RecommendationsonCevidenceCneededCtoCsupportCmeasurementCequivalenceCbetweenelectronicandpaper-basedpatient-reportedout-come(PRO)measures:ISPORCePROCGoodCResearchCPracticesCTaskCForceCreport.CValueCHealthC12:419-429,C200929)GrayCCS,CGillCA,CKhanCAICetal:TheCelectronicCpatientCreportedCoutcometool:testingCusabilityCandCfeasibilityCofCamobileAppandportaltosupportcareforpatientswithcomplexCchronicCdiseaseCandCdisabilityCinCprimaryCcareCsettings.JMIRMHealthUHealthC4:e58,C201630)JonesL,DownieLE,KorbDetal:TFOSDEWSIIman-(65)あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023C347

マイボーム腺関連ドライアイの治療

2023年3月31日 金曜日

マイボーム腺関連ドライアイの治療TreatmentofMeibomianGland-relatedDryEye鈴木智*はじめにマイボーム腺は,上下眼瞼の瞼板内に存在する独立皮脂腺であり,正常では眼瞼縁で粘膜皮膚移行部のすぐ皮膚側に開口し,脂質を分泌している(マイボーム腺分泌脂をCmeibumとよぶ).Meibumは,涙液の最表層にある油層を形成し,涙液の蒸発抑制,涙液の表面張力の低下,瞬目の潤滑化,光学的に平滑な表面の形成,といった良好な視機能を維持するための重要な役割を果たしている.涙液の安定性の維持に重要なマイボーム腺に異常が生じると,涙液が不安定化し眼表面に異常が生じ,結果として視機能に影響することもある.マイボーム腺機能不全(meibomianCglandCdysfunc-tion:MGD)という用語は,臨床的にはC1980年にCKorbとCHenriquezにより「マイボーム腺開口部の閉塞によってCmeibumの分泌が低下し,ドライアイ,コンタクトレンズ不耐症を生じるマイボーム腺の機能障害」として最初に報告された1).以降,蒸発亢進型ドライアイの原因としてCMGDの認知度が上がり,日本ではC2010年に「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う」と定義された2).MGDの有病率は欧米人よりはアジア人に多く,また加齢に伴い増加する3).一方,ドライアイの有病率もアジア人に多く,男性よりは女性に多く,加齢に伴い増加する4).すなわち,日本では,MGDとドライアイの両方を有している高齢者が多いと推測される.しかし,MGDとドライアイは完全にオーバーラップしている疾患ではなく,とくに角膜の点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK)の原因が常にドライアイとは限らない.MGDは,分泌減少型と分泌増加型の大きく二つに分類されるが,日本人は分泌減少型のなかでも閉塞性MGDが多く,meibumの質的・量的異常と開口部の閉塞を特徴とする.この閉塞性CMGDは,さらに,マイボーム腺開口部周囲の発赤・腫脹などの明らかな炎症を伴う場合(マイボーム腺炎,meibomitis)(図1b)と,そういった炎症が明らかでない場合(図1a)に分類することができる5).そして,おのおのの病態に対応する眼表面の異常が存在する(図2)5).角膜に異常を認めた際,MGDの有無,そして付随する炎症の有無を確認することで,それぞれに合併する眼表面の異常かどうかを把握することが容易となり,効果的な治療を行うことが可能となる.本稿では,マイボーム腺と眼表面を一つのユニットとして捉えるCmeibomianCglandsCandCocularCsur-face(MOS)(図2)5)の考え方に基づき,治療法について解説する.CI非炎症性・閉塞性MGDに伴うドライアイの治療日常診療で,女性あるいは高齢者の炎症のない閉塞性MGDに伴う眼表面の異常を認めることは多い.このようなCMGDには,「新聞を読んでいるとすぐ眼がぼやける」というような視機能にかかわる症状を訴えることが*TomoSuzuki:地方独立行政法人京都市立病院機構京都市立病院眼科〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町C1-2地方独立行政法人京都市立病院機構京都市立病院眼科C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(49)C331図1閉塞性マイボーム腺機能不全(MGD)a:非炎症性閉塞性MGD.Cb:炎症性閉塞性CMGD(マイボーム腺炎).図2MeibomianglandsandOcularSurface(MOS)閉塞性マイボーム腺機能不全は「非炎症性」と「炎症性」に分類でき,それぞれに対応する眼表面の異常が存在する.(文献C5より改変引用)ScpreScpre眼が重い眼がぼやける43ScpreScpre21100視力低下焦点が合わない44YoungElderlyMGDYoungElderlyMGD321100図3加齢,マイボーム腺機能不全に伴う自覚症状(文献C6より改変引用)YoungElderlyMGDYoungElderlyMGD図4非炎症性分泌減少型マイボーム腺機能不全(閉塞性MGD)a:マイボーム腺開口部のところどころに閉塞所見を認める.b:フルオレセイン染色で涙液の不安定性を認める.図5非炎症性分泌減少型閉塞性マイボーム腺機能不全(萎縮性MGD)a:マイボーム腺開口部が萎縮し,眼瞼縁に不整(irregularity)を認める.Cb:フルオレセイン染色で涙液蒸発亢進と角膜下方,球結膜下方に上皮障害を認める.図6マイボーム腺炎角結膜上皮症(MRKC)非フリクテン型a:マイボーム腺開口部が閉塞しその周囲に発赤・腫脹を伴っている(マイボーム腺炎).球結膜に充血を認める.b:フルオレセイン染色で角膜にCSPKを認めるが,球結膜には上皮障害を認めない.Cabc図7マイボーム腺炎角結膜上皮症(MRKC)非フリクテン型a:マイボーム腺炎,球結膜充血とともに角膜にびまん性の密な点状表層角膜症(SPK)を認める.Cb:ミノサイクリン内服治療により,マイボーム腺炎,球結膜充血は軽快したが,閉塞性マイボーム腺機能不全(MGD)とそれに伴う涙液の蒸発亢進とCSPKが残存している.Cc:閉塞性CMGDは軽度残存しているが,ドライアイ点眼治療の追加により涙液の安定性は回復しCSPKは認めない.1C

ドライアイの外科療法

2023年3月31日 金曜日

ドライアイの外科療法SurgicalTreatmentforDryEye横井則彦*はじめにドライアイ(dryeye:DE)は,開瞼維持時の涙液層の安定性低下と瞬目時の摩擦亢進(瞬目摩擦の亢進)をおもなメカニズムとする疾患であり(図1),これらはともに結果として炎症を招いて,さまざまな慢性の眼不快感の原因となる.涙液が潤滑剤としての特性をもつことを考えに入れると,瞬目摩擦亢進のメカニズムは,とくに涙液減少型DE(aqueousde.cientDE:ADDE)に関与する1).DEの治療の基本は点眼治療であり,涙液層の安定性低下や瞬目摩擦の軽減に作用する点眼液が利用できるわが国においては,点眼治療の守備範囲は広く,それがDE治療において日本が世界トップを行くといえるゆえんであると思われる.しかし,点眼治療に限界のあるDEも存在し,それらにおいては涙液層の安定性の低下,あるいは瞬目摩擦亢進のメカニズムが点眼治療では対応できない程度に重症であることを意味する.そのようなDEに対して,外科療法が選択できる場合がある.本稿では,外科療法を要するDEの難症例の病態とその具体的な治療法について紹介する.I外科療法の対象となるDE外科療法の対象となるDEとして,まず重症のADDEがある.その背景として,Sjogren症候群(Sjogrensyndrome:SS),SS以外のADDE(non-SSADDE),移植片対宿主病(graft-versus-hostdisease:GVHD),眼類天疱瘡(ocularcicatricialpemphigoid:OCP),Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyn-drome:SJS)をあげることができる.一般にADDEは眼表面炎症を多少なりとも伴うが,重症度としてSSまでは涙点プラグを用いた上下の涙点閉鎖術が著効する(図2).しかし,ここで強調しておきたいのは,ADDEには多少なりとも水濡れ性低下型ドライアイ(decreasedwettabilityDE:DWDE)が合併する点である.すなわち,ADDEでは涙液のクリアランスが多少なりとも悪いために,涙液中に蓄積した炎症性メディエーターが上皮表面の水濡れ性を支配する膜型ムチン(とくに,もっとも多くの糖鎖を含むMUC16)にshedding(炎症性メディエーターによって膜型ムチンがそのpro-teolyticcleavagesiteで切断され,水分子を保持する糖鎖部分を大きく失うことを意味する)を引き起こし,水濡れ性が低下する2).しかし,炎症の程度が軽度であれば,上下の涙点への涙点プラグ挿入で眼表面の水分量を増やせば,角膜上皮障害に著明な改善が得られるのが一般的である.しかし,GVHD,OCP,SJSといった重症眼表面疾患に伴うADDEは,涙点プラグ治療を行っても,予想に反して十分な角膜上皮障害の改善が得られない場合がある(図3).これはおそらく,これらのADDEでは疾患特異的な免疫炎症が強く働くために,眼表面上皮に分化障害を伴い,MUC16の発現そのものが低下して角結膜上皮表面に水分を保持しにくくなっていることがその理由として考えられる.免疫抑制薬の点眼剤をもたない日本においては,ベースライン治療とし*NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(39)321図1ドライアイのコア・メカニズムドライアイの病態の鍵を握るメカニズムとして,開瞼維持時の涙液層の安定性低下と瞬目時の摩擦亢進があり,これらのメカニズムがドライアイにおける眼表面の他覚所見を表現するとともに,眼不快感/視機能異常に総括されるドライアイ症状を引き起こす原因となる.(文献2より改変引用)図2Sjogren症候群に対する上下涙点プラグ挿入術の前(a)・後(b)の角膜所見Partialareabreakのケースでareabreakより軽症であるため,プラグ後,涙液メニスカス高は高くなり,角膜上皮障害は完全に消失している.図3上下涙点プラグが挿入された移植片対宿主病の涙液減少型ドライアイ涙液メニスカスが高くなっているにもかかわらず高度の角膜上皮障害が認められる.図4涙丘下線維組織充.涙点閉鎖術(横井法)局所麻酔を行い(a),ドリルで涙小管垂直部の上皮を除去(b)し,涙丘下の線維組織を切除して採取し(c),8-0吸収糸を涙点壁-線維組織-涙点壁と通して縫合し(d),さらに縫合を最低3本加え(e),涙点を完全に閉鎖する(f).図5瞼裂斑に隣接する強い角膜上皮障害のために異物感と眼痛を訴える症例術前に瞼裂斑(Ca)とそれに隣接する角膜上皮障害(Cb)を認める.瞼裂斑切除と羊膜移植を施行し,再発なく瞼裂斑は消失し(Cc),角膜上皮障害も消失している(Cd:手術C7カ月後).いる場合はCCCh手術のよい適応となり,弛緩結膜を除けば少なからず症状の改善が得られる.ただし,CChに対して手術を考慮する場合は,涙液層の破壊に対してはジクアホソルナトリウム点眼液などの点眼治療を,瞬目摩擦亢進に対してはレバミピド点眼液を低力価ステロイド点眼液(0.1%フルオロメトロンC2回/日程度)とともに,最低C1カ月は使用してみて,まったく改善が得られない場合に考慮すべきである.CVICChに対する筆者の手術(3分割切除法,横井法)(図6)CChの本体は結膜の強膜からの.離であり,結膜下組織の異常16)(膠原線維や弾性線維の変性に基づく減少や構造および機能異常,およびリンパ管拡張症)が結膜を強膜から.離させる要因になっている.とくに輪部からC3Cmmまでの結膜は本来,強膜と融合しているが,それが強膜からはずれるとたわみを生じて,弛緩結膜がTMに現れてそれを占拠したり,瞬目時に周囲組織との強い摩擦を生じるようになる.さらに,弛緩結膜の上に異所性のCTMが形成されて角膜下方における涙液層の破壊を促進する要因となる.つまり,TMに現れたCChは涙液層の安定性低下や瞬目摩擦の亢進を増幅させうる.さらに,TMを占拠した弛緩結膜は,TMにおける涙液の流れを遮断する原因となり,導涙性流涙の原因にもなる.したがって,CChの手術目標は,1)外眼角から涙点までの健常なCTMを再建すること,2)結膜下の異常な線維組織を除去して,術後の炎症を利用し,.離した結膜を強膜に癒着させて,結膜表面の起伏や可動性をなくすことに尽きる(図7).そして,忘れてはならないのは,次に述べる上輪部角結膜炎(superiorlim-bickeratoconjunctivitis:SLK)でみられるような上皮障害や結膜炎症を示していない上方の結膜弛緩や,TMにおける涙液の流れを涙点の手前でブロックしている半月ヒダや涙丘を見逃すことなく外科療法の対象とすることである.つまり,結膜弛緩の完全消失とCTMの完全再建が症状改善の鍵を握る.結膜弛緩症には単純型7,8)と円蓋部挙上型9)が存在し,後者の詳述は避けるが,術式が異なるため注意が必要である.要点は,後者は円蓋部形成を行ってからCCChに対する手術を行うことである.CVIISLKの病態SLKは上眼瞼を引き上げ下方視させて診察を行わないと,しばしば見落とすことがあるため注意が必要である.通常,上方の球結膜に充血,血管の蛇行(corkscrewsign)や直線化,および上皮障害がみられ,角膜輪部の肥厚,角膜上皮障害,あるいは糸状角膜炎を伴うこともある1).瞬目摩擦の亢進が病態の鍵を握るため,1日の終わりにかけて症状が悪化するのが一般的である.SLKにはCDEがC25%に,甲状腺疾患がC30%程度に合併するとされ,合わせて甲状腺ホルモンホルモン(T3,T4,TSH)や自己抗体CthyroidCstimulatingCantibody(TSAb),thyroidCperoxidaseCantibody(TPOAb),CTSHreceptorCantibody(TSHRAb)を調べ,これらに異常がみられたら,内分泌内科などに対診を求めることが重要である.ADDEにはCSLKが合併しやすいが,DEがなくてもCSLKは存在しうる.SLKはClidCwiper15)の後方で結膜.円蓋部を頂点とする,本来,瞬目摩擦が生じないCKessingspaceにおける瞬目摩擦の亢進が病態を形成していると考えられ1),CChのところで述べたように,上方結膜が強膜から.離していることが瞬目摩擦亢進の原因となっている.つまり,上方のCCChと考えることができる12).そのため,下方視させてCSLKの結膜領域を眼瞼越しに擦りおろすと,弛緩結膜が上方のCTMから顔を出す様子が観察される.そして,上方の弛緩結膜と眼瞼結膜との間で瞬目摩擦亢進が生じるため,眼瞼結膜にも充血や浮腫,乳頭形成がしばしば認められる.CVIIISLKの手術(Kessingspace再建術,横井法)(図8)CChと同様,SLKに対する外科治療の目標はCTenon.を含む結膜下の線維組織を切除して,はずれた上方の球結膜を強膜に炎症性に癒着させCKessingspaceを再建することに尽きる1).手術の要点としては,手術は下方視させたまま行うこと,結膜切開は輪部からC2Cmmの位置でC2時からC10時にかけて行い,弛緩の程度に応じて舟形の結膜切除を行い縫合する.オリジナルには,ロー326あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023(44)図6結膜弛緩症に対する3分割切除法(横井法)カレーシスマーカーでマーキングしてから局所麻酔を行い(Ca),マーキングに沿ってカレーシス剪刀で弧状の結膜切開を行う(Cb).続いて結膜下のCTenon.を切除し(Cc),子午線方向の結膜切開を行い(Cd),下方ブロックで弛緩程度に応じた結膜切除を行い(Ce),下方ブロックの縫合を行う(Cf).その後,耳側ブロックでも同様に弛緩程度に応じた結膜切除を行って縫合し(Cg),耳側の上下の合わせ目で弛緩程度に応じた調整の結膜切除を水平方向で行って縫合する(Ch).最後に鼻側ブロックでも同様に弛緩程度に応じた結膜切除を行って縫合し(Ci),手術を完了する(Cj).以上の結膜切除において切除ブロックと反対方向に視線を向けてもらって切除することで過剰な結膜切除を回避でき,術後の術創の離開を回避することができる.図73分割切除法(横井法)の術前(a)と術3カ月後(b)のパノラマ写真外眼角から涙点までの下方の涙液メニスカスが完全再建され,結膜表面の起伏も完全に消失している.図8上輪部角結膜炎に対する手術(Kessingspace再建術,横井法)カレーシスマーカーでマーキング(Ca)したあと,弧状の結膜切開をC10時からC2時までで行う(Cb).弧状切開部の遠位の結膜下のCTenon.を引き出して切除し(Cc),弧状切開の遠位の結膜表面にC12時の位置で弛緩程度に応じたマーキングを行い(Cd),2時(あるいはC10時)からマーキングを通るようにC10時(あるいはC2時)までの結膜切開を行う(Ce).その結果,結膜切除部は舟形となる.結膜を縫合して手術を完了する(Cf).図9上輪部角結膜炎に対する手術(Kessingspace再建術,横井法)の術前(a)および術2日後(b)リサミングリーン染色後.術C2日目にはまだ結膜の縫合糸が残存している(リサミングリーンで染色されているのがわかる)にもかかわらず,すでに輪部の肥厚や結膜上皮障害,血管の蛇行が消失しているのがわかる.C-

ドライアイの点眼療法

2023年3月31日 金曜日

ドライアイの点眼療法EyeDropTreatmentforDryEye堀裕一*はじめに2016年に改訂されたわが国におけるドライアイの定義では,ドライアイとは「涙液層の安定性の低下」が病態の中心であることが強調されている1).そのため,わが国におけるドライアイ治療の中心は「眼表面の涙液層を安定化させる」ことにあり,その観点で点眼薬が開発,発売されてきた.2019年に発表された「ドライアイ診療ガイドライン」においても,眼表面の層別治療(tearC.lmCorientedtherapy:TFOT)の重要性が強調され,ジクアホソルナトリウムやレバミピドといった涙液層を安定化させる点眼が高い推奨を得ている2).一方,世界に目を向けると,シクロスポリン点眼をはじめとする抗炎症療法がドライアイに対する点眼治療の第一選択とされている国も散見される3).本稿では,ドライアイに対する点眼療法について,TFOTや日本の「ドライアイ診療ガイドライン」に則って解説するとともに,日本以外の国で使われているドライアイ点眼についても言及する.CI眼表面の層別治療(TFOT)涙液層は,マイボーム腺からのマイバムによる油層と,水および分泌型ムチンを含む液層からなり,膜型ムチンを発現している角結膜上皮の上に薄く均一に存在することが理想とされる.これらの成分が不足していると,眼表面における涙液層の安定性が低下し,ドライアイの状態となる.TFOTは,涙液層および眼表面の不足分を補うことで涙液層の安定性を高めてドライアイを治療しようとする概念であり,日本・アジアを中心に広がっているドライアイ治療の考え方である(図1)2,4).このような概念が実現できたのも,わが国のドライアイ治療薬として,2010年にムチンや水分を増加させるジクアホソルナトリウムが,またC2012年にムチンを増加させ角結膜上皮細胞のバリア機能を向上させるレバミピドがそれぞれ上市され,層別治療な点眼を使うことができるというブレイクスルーがあったことが大きいと考える.CII眼表面の層別診断(TFOD)眼表面の層別治療(tearC.lmCorienteddiagnosis:TFOD)を成立させるためには,涙液層のどの成分が不足しているかを正しく見きわめる(診断する)必要がある.そのような考え方がCTFODである.TFODを正しく行うためには,フルオレセイン染色時の涙液層の破壊パターン(break-uppattern:BUP)から判断する方法が有用である.BUPはline,area,spot,dimple,rapidexpansion,randomのC6つのCbreakに分類されるが,この分類によって自動的に涙液層のどこに異常があるかを判断することができる.正しくCBUPを観察するためにはフルオレセイン染色の方法が重要で,理想的なフルオレセイン染色としては,1)涙液貯留量を変化させず,2)侵襲が少なく(反射性涙液分泌を起こさない),3)簡便に外来で行える方法があげられる2).「ドライアイ診*YuichiHori:東邦大学医療センター大森病院眼科〔別刷請求先〕堀裕一:〒143-8541東京都大田区大森西C6-11-1東邦大学医療センター大森病院眼科C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(33)C315【正しい方法】フルオレセイン試験紙に点眼液をC2滴たらす.試験紙をよく振って水分を十分に切る.試験紙を下眼瞼のメニスカスに軽く触れて染色する.【患者への声かけ】「目を軽く閉じてください.ぱっと眼を開けて,そのまま眼を開けたままにしてください」☆軽い閉瞼と早い開瞼を促すことが重要.表2Breakupパターンとドライアイの分類,層別異常,推奨される治療法の選択Breakupパターン(BUP)ドライアイの分類眼表面の層別異常推奨される治療法CLinebreak涙液減少型(軽度.中等度)液層ジクアホソルナトリウムヒアルロン酸人工涙液CAreabreak涙液減少型(重症)液層上皮涙点プラグCSpotbreak水濡れ性低下型表層上皮(膜型ムチン)ジクアホソルナトリウムレバミピドCDimplebreak水濡れ性低下型表層上皮(膜型ムチン)ジクアホソルナトリウムレバミピドCRapidexpansion水濡れ性低下型表層上皮(膜型ムチン)ジクアホソルナトリウムレバミピドCRandombreak蒸発亢進方油層人工涙液ヒアルロン酸ジクアホソルナトリウムに上市されており,長年広く各科で使用されてきた.眼表面も粘膜組織であるため,ドライアイ治療薬としても開発され,ムコスタ点眼液CUD2%としてC2012年に上市された11).レバミピド点眼はヒトにおいて結膜の杯細胞数を増加させることが証明されており12),涙液中への分泌型ムチン量を増加させる.「ドライアイ診療ガイドライン」では,レバミピド点眼は従来の点眼治療と比べて自覚症状,角結膜上皮障害を改善させる特徴があり,エビデンスレベルは「B(中)」で,推奨の強さは「強い:実施することを推奨する」位置づけとなった2).レバミピドは,結膜だけでなく,角膜上皮細胞に対するバリア機能保護作用が上市後のさまざまな基礎研究により明らかになっている13,14).さらにジクアホソルナトリウムと同様にレバミピドも眼表面の膜型ムチン発現を増加させることが報告されている15).レバミピド点眼も「水濡れ性低下型」ドライアイの患者に対し有用であり,CspotbreakやCdimplebreakなどのCBUPを呈する患者に対して第一選択となっている(表2).また,レバミピドには消炎効果があり,ドライアイにする抗炎症療法としての側面にも期待が寄せられており,基礎研究の結果からもとくにCSjogren症候群のような眼表面の炎症が強い患者には有効であると思われる16).また,眼表面の炎症とドライアイの自覚症状は密接に関連していると思われ,実際,ドライアイに対する長期の臨床研究の報告では,レバミピド点眼後C1年間にわたって自覚症状のスコアが改善し続けており17),一見,充血などの炎症がひどくない通常のドライアイ患者に対しても,症状を改善させる意味で抗炎症作用を有するレバミピド点眼は期待できると思われる.C3.ヒアルロン酸点眼液と人工涙液2010年代初め以降のジクアホソルナトリウムやレバミピドが上市されるまでは,ドライアイの患者に対しての点眼治療はヒアルロン酸点眼液と人工涙液,またコンドロイチンなどの角膜保護薬しか存在していなかった.そのため,長期にわたってヒアルロン酸点眼や人工涙液を使用している患者は非常に多く,長期安全性という意味では大変優れた点眼薬である.「ドライアイ診療ガイドライン」では,ヒアルロン酸点眼と人工涙液のエビデンスレベルは「B(中)」であり,推奨の強さについては,ヒアルロン酸が「強い:実施することを推奨する」であり,人工涙液が「弱い:実施することを提案する」となっている2).ジクアホソルナトリウムやレバミピドが上市されてからこれらの点眼の使用状況について,リアルワールドでの上市前後の処方の変化の比較を検討した山田の大変興味深い総説がある18).それによると,ジクアホソルナトリウムやレバミピドが上市される前(2005.2008年)の調査19)と上市後20)を比べて,人工涙液の使用割合は33.9%からC15.6%と半分以上減少しているが,ヒアルロン酸点眼液はC73.7%からC65.9%とあまり減少していなかった18).ヒアルロン酸はわが国では角結膜上皮障害治療薬としても承認されており,世界の多くの国々でドライアイの治療薬として承認されている(米国ではCOTC医薬品の扱い).日本でもC2020年にC0.1%ヒアルロン酸点眼液の一部がスイッチCOTC化しており,そのようなOTC化の流れが続く可能性はあると思われるが,山田の総説でも述べられているように,ヒアルロン酸点眼の角膜上皮の創傷治癒促進作用と涙液の安定化作用は他のドライアイ治療薬にはない独特のものであり18),これからもヒアルロン酸点眼液のニーズは続くと考えられる.CIVドライアイにおける抗炎症療法ドライアイは炎症性疾患であることは以前からいわれており,海外では免疫抑制薬であるシクロスポリン点眼がドライアイ治療薬として承認されており広く使われている.しかし,わが国では未承認となっており,実臨床では,炎症が強いドライアイ患者に対しては,シクロスポリン点眼ではなく副腎皮質ステロイド点眼をC1日C2回程度使用することが多い.ここでは,ドライアイに対する抗炎症療法について言及する.C1.副腎皮質ステロイド「ドライアイ診療ガイドライン」では,副腎皮質ステロイド点眼は従来の点眼治療と比べて自覚症状,涙液の安定性を改善させる特徴があり,エビデンスレベルは「B(中)」で,推奨の強さは「弱い:実施することを提案する」位置づけとなっている2).フルオロメトロンな318あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023(36)どの低力価のステロイド点眼をC1日C2回C1カ月程度続けると,ドライアイ患者の自覚症状が劇的に改善する場合がある.ランダム化比較試験の報告においてもステロイド点眼はドライアイ患者の自覚症状および上皮障害の改善に有効であると報告されている21).ただし,ステロイドの長期投与は眼圧上昇や,角膜感染症のリスクがあるため,実際の臨床で使用する場合は適正な使用が求められる.やはり涙液の安定性の向上の観点からは,ステロイド点眼のみよりも,なんらかの涙液安定性を向上させる点眼液(ジクアホソルナトリウム,レバミピド,ヒアルロン酸,人工涙液)と併用したほうがよいと考える.C2.シクロスポリン点眼「ドライアイ診療ガイドライン」では,シクロスポリン点眼は自覚症状,角結膜上皮障害を改善させる特徴があり,エビデンスレベルは「B(中)」であるが,わが国では未承認であるため,推奨の強さは「弱い:実施しないことを提案する」の位置づけとなっている2).しかし,世界的には,ドライアイ治療薬としてシクロスポリン点眼が有効であることは,広く認識されており,米国では,0.05%シクロスポリン点眼(Restasis,CAllergan社)がドライアイ治療薬としてC2003年に食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration:FDA)に承認され,ヨーロッパではC0.1%シクロスポリン点眼(Ikervis,参天製薬)がC2015年に欧州医薬品庁(EuropeanCMedicinesAgency:EMA)に承認され,現在,アジアを含め世界各国で使用されている3).今後はわが国でもシクロスポリン点眼がドライアイに対する治療の選択肢の一つとして使用することができるようになることを期待する.C3.その他の抗炎症治療現在もドライアイに対する抗炎症治療について多くの研究や治験が行われている.実際に海外で上市されている抗炎症をターゲットとしたドライアイ治療薬としては,lymphocyteCfunction-associatedCantigen1(LFA-1)アンタゴニストであるCli.tegrastがあげられる).免疫グロブリン・スーパーファミリーに属する細胞間接着分子であるCintercellularCadhesionmolecule-1(ICAM-1)と,そのリガンドであるCLFA-1の結合はCT細胞の活性化に重要な役割を担っており,ドライアイと関連しているとされている22).Li.tegrastはCICAM-1のLFA-1の結合を阻害する競合的アンタゴニストであり,T細胞の遊走やサイトカインの放出を阻害する22).米国ではC5%Cli.tegrast点眼(商品名:Xiidra)がC2016年にFDAよりドライアイ治療薬として承認された.おわりに今回,2019年に発表された「ドライアイ診療ガイドライン」に沿ってドライアイの点眼療法について解説した.ガイドラインはC5年も経過すると新しいエビデンスが報告され,内容もやや古くなり,改定する必要があるといわれている.今後わが国でも抗炎症療法を含め,新しいドライアイ治療薬が上市されることが期待され,治療法も少しずつ変わっていくと予想される.しかし,ドライアイ診療の基本であるフルオレセイン染色を行ってドライアイのサブタイプ分類を行い,治療法を選択するというCTFODおよびCTFOTという理念は今後も変わらないと思われる.文献1)島﨑潤,横井則彦,渡辺仁ほか:日本のドライアイの定義と診断基準の改定(2016年度版).あたらしい眼科C34:309-313,C20172)ドライアイ研究会診療ガイドライン作成委員会:ドライアイ診療ガイドライン.日眼会誌123:489-592,C20193)堀裕一:ドライアイにおける抗炎症治療の功罪.あたらしい眼科37:667-669,C20204)YokoiCN,CGeorgievGA:TearC.lm-orientedCdiagnosisCandCtear.lm-orientedtherapyfordryeyebasedontear.lmdynamics.CInvestCOphthalmolCVisCSciC59:DES13-DES22,C20185)山口昌彦,大橋裕一:ムチンと水分を供給するジクアス点眼薬.あたらしい眼科32:935-942,C20156)MatsumotoCY,COhashiCY,CWatanabeCHCetal:E.cacyCandCsafetyCofCdiquafosolCophthalmicCsolutionCinCpatientsCwithCdryeyesyndrome:aJapanesephase2clinicaltrial.Oph-thalmologyC119:1954-1960,C20127)TakamuraCE,CTsubotaCK,CWatanabeCHCetal:ACrandom-ized,Cdouble-maskedCcomparisonCstudyCofCdiquafosolCver-susCsodiumChyaluronateCophthalmicCsolutionsCinCdryCeyeCpatients.BrJOphthalmol96:1310-1315,C20128)七條優子:培養ヒト角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用.あたらしい眼科28:425-429,C2011(37)あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023C319-

全身疾患とドライアイ

2023年3月31日 金曜日

全身疾患とドライアイSystemicDiseaseandDryEye重安千花*はじめにドライアイのなかには全身疾患に関連して発症するものがある1).「ドライアイ診療ガイドライン」においてもテーマとして取りあげられ,「ドライアイと全身疾患(糖尿病,うつ病,顔面神経麻痺,眼瞼けいれん,C型肝炎,慢性関節リウマチ,甲状腺疾患)との関係は?」というクリニカルクエスチョンに対し,文献検索がなされている2).そのなかで,免疫が関連する疾患がドライアイに罹患するリスクを上げているものの,生活習慣病とドライアイの関連は明らかではなかった.本稿では,指定難病のなかで免疫に関連した重症なドライアイをきたすSjogren症候群(Sjogrensyndrome:SS),Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyn-drome:SJS),眼類天疱瘡(ocularcicatricialpemphi-goid:OCP)を取りあげ,解説する(なおOCPは指定難病の類天疱瘡に含まれるが,眼粘膜病変のみの場合は診断基準を満たさないことが多い).すでに他科で診断を受けている場合には迷うことはないが,初診が眼科であった場合の対応についても解説する.ISjogren症候群1.疾患の概念SSは涙腺,唾液腺の分泌障害による乾燥症状を主体とし,外分泌腺の腺房細胞がリンパ球の浸潤により破壊される,自己免疫性疾患である3).患者数は約10万人(平成29年厚生労働省患者調査)と推計されているが,潜在的な患者を含めると10~30万人とも推計され,男女比は1:17と50歳代の女性に発症ピークをもつ.他の膠原病の合併のない一次性のSSと,関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病に合併する二次性SSがあり,関節リウマチの患者の約20%にSSの合併がみられると報告されている.一次性SSは病変が涙腺,唾液腺に限局する腺型と全身諸臓器に及ぶ腺外型に分類される.根治的な治療方法はなく,障害臓器への対症療法が中心となる.2.症状および身体所見外分泌腺の障害に伴うドライアイ,ドライマウスが症状の主体であることが多いが,腺外病変として関節症状,呼吸器症状,肝症状,消化管症状,腎症状,皮膚症状やその他(Raynaud現象,筋炎,末梢神経炎,血管炎,悪性リンパ腫など)を生じることがある.3.特徴的な眼所見涙腺の腺房細胞がリンパ球に破壊されることにより,涙液減少型ドライアイの所見を示す.とくに瞼裂部の結膜障害がみられることが多く,涙液減少に加え,結膜上皮下へのリンパ球の浸潤の影響も考えられている.涙液減少の進行に伴い角膜障害も下方から全面に広がり,フルオレセイン染色で染色点が融合したpatchypattern(斑状染色)(図1),糸状角膜炎を示すことがある.ま*ChikaShigeyasu:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕重安千花:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(25)307図1Sjogren症候群の前眼部所見フルオレセイン染色後(ブルーフリーフィルター)の前眼部所見.瞼裂部の結膜障害,角膜全面にCpatchypatternがみられた.表1Sjogren症候群の診断基準(厚生労働省研究班,1999年)1.生検病理組織検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)口唇腺組織でリンパ球浸潤がC4CmmC2当たりC1focus*以上(図2)B)涙腺組織でリンパ球浸潤がC4CmmC2当たりC1focus*以上*1focus:導管周囲にC50個以上のリンパ球浸潤2.口腔検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)唾液腺造影でCstageI(直径C1Cmm以下の小点状陰影)以上の異常所見B)唾液分泌量低下(ガムテストC10分間でC10Cml以下,またはサクソンテストC2分間2Cg以下)があり,かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見3.眼科検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)シルマー(Schirmer)試験でC5Cmm/5Cmin以下で,かつローズベンガルテスト(vanBijsterveldスコア)で陽性B)シルマー(Schirmer)試験でC5Cmm/5Cmin以下で,かつ蛍光色素(フルオレセイン)試験で陽性(図1)4.血清検査で次のいずれかの陽性所見を認めることA)抗CSS-A抗体陽性B)抗CSS-B抗体陽性1,2,3,4のいずれかC2項目が陽性であればCSjogren症候群と診断する.指定難病はCEULARSjogren’sSyndromeDiseaseActivityIndexによる重症度分類の重症(5点以上)を対象とする.図2Sjogren症候群の口唇腺の組織学的所見口唇腺の導管周囲に多数のリンパ球浸潤がみられた.図4Stevens-Johnson症候群の急性結膜炎図3Stevens-Johnson症候群の汎発性紅斑(前腕)広範囲に角結膜の上皮欠損がみられた.皮膚の汎発性の紅斑が全身にみられた.表2Stevens-Johnson症候群の診断基準(厚生労働省研究班)主要所見(必須)1.皮膚粘膜移行部に重篤な粘膜疹がみられる.2.皮膚の汎発性紅斑に伴い,表皮の壊死性障害に基づく水疱・びらんがみられる(図3).3.発熱がある.4.病理組織学的に,表皮の壊死性変化を認める.5.多形紅斑重症型,ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群を除外できる.副所見1.紅斑は顔面,頸部,体幹有意に全身性に分布する.2.皮膚粘膜移行部の粘膜病変を伴う.眼表面では,偽膜形成と眼表面上皮欠損のどちらかあるいは両方を伴う両眼性の急性結膜炎がみられる(図4).3.全身症状として他覚的に重症感,自覚的には倦怠感を伴う.4.自己免疫性水疱症を除外できる.副所見を考慮のうえ,主要所見全C5項目を満たした場合にCSJSと診断する.初期のみの評価でなく,全経過の評価により診断する.慢性期(発症後C1年以上経過)では眼瞼および角結膜の瘢痕化がみられる.慢性期で粘膜病変が眼瞼および角結膜の瘢痕化の場合,主要所見C4は必須ではない.指定難病は重症度分類において中等度以上を対象とする.5.SJSを疑う所見経過が重要であり,高熱や全身倦怠感に加え,時間単位で急性に進行する両眼性の結膜炎を生じる.一般的にも風邪に伴い急性結膜炎を生じることもあるので迷う症例もあるが,眼所見のみでなく,発熱に加え全身性の皮膚粘膜に重篤な紅斑・びらん・水疱が多発し粘膜疹を伴うことが必須である.ただし先述のように,眼症状が先行し,2日程度遅れて皮膚病変が生じることもあるので注意が必要である8).CIII眼類天疱瘡1.疾患の概要指定難病の類天疱瘡群は表皮基底膜部に自己抗体(IgG)が線状に沈着する表皮下水疱症であり,類天疱瘡と後天性表皮水疱症に大別される9).類天疱瘡のおもな亜型は,皮膚病変が主体の水疱性類天疱瘡(bullouspemphigoid:BP)と粘膜病変が主体の粘膜類天疱瘡(mucousmembranepemphigoid:MMP)であり,OCPはCMMPに分類される10).MMPは眼粘膜や口腔粘膜にびらん性病変を生じ高率に瘢痕形成を生じるため,以前は瘢痕性類天疱瘡とよばれた11).表皮基底膜部抗原であるCBP180(COL17),ラミニンC332などに対する自己抗体(おもにCIgG)により,粘膜病変を生じる自己免疫性水疱症である.眼粘膜病変のみの眼型CMMPはC35%程度にみられ,現時点では類天疱瘡の診断基準を満たさないことが多い.類天疱瘡群の治療は皮膚科が中心となり,ガイドラインに準じて重症度に応じて,局所および全身のステロイド治療に加え免疫抑制薬,免疫グロブリン大量静注療法,血漿交換療法などが必要になる.C2.症状および身体所見MMPはおもに眼粘膜や口腔粘膜に水疱やびらんが生じるが,咽頭や喉頭,食道,鼻腔内,外陰部,肛囲の粘膜が侵されることもある.びらんが上皮化したのちに瘢痕を残すことがある.重篤な場合は食道病変に伴う嚥下困難,喉頭病変による呼吸困難を生じることがあり,他科との連携が必須である.なお,抗ラミニンC332型MMPでは悪性腫瘍発生の相対的危険度が高いことが知られており,精査が必要である.C3.特徴的な眼所見OCPによる両眼性の結膜炎は急性のものと慢性のものがあるが,非感染性であり,また眼科手術や外傷などを契機に急性増悪するものもある.初期は両眼性の結膜炎像を示し,進行期は結膜.短縮,瞼球癒着を示し(図5),重症のドライアイや輪部機能不全に至る(図6).結膜の瘢痕化の程度によるCFosterの病期分類(I~IV期)があり12),I期は慢性的な結膜炎症から結膜.下組織に白色の線維性増殖がみられ,IV期では角膜は結膜上皮により被覆された状態になる.急性増悪時には炎症の抑制のためにステロイド点眼,角膜上皮障害が強い場合には角膜上皮保護を行う.局所管理に加え,全身的な免疫抑制療法が必要となることも多く,ステロイドに加え免疫抑制薬が必要となる.慢性炎症に対しては低濃度ステロイドを中心に,感染と眼圧,涙液状態の管理と治療を行う.C4.診断MMPの眼型粘膜類天疱瘡の症状として発症している場合は診断基準(厚生労働省研究班)に準じるが(表3),眼粘膜病変のみの場合は,現時点では類天疱瘡の診断基準を満たさないことが多い.医療費助成の対象は,Bul-lousCPemphigoidCDiseaseCAreaIndex(BPDAI)を用いて中等症以上である.C5.OCPを疑う所見中年から高齢者の両眼同時発症の慢性的な非感染性の結膜炎で,結膜.短縮や瞼球癒着を伴う場合には注意を要する.MMPの全身的な症状として眼粘膜病変がみられる場合は,口腔粘膜のびらんなどを伴うため確定診断に至ることが多いが,眼型CMMPの場合は診断が困難であることも多い.なお,OCPに類似した瘢痕性角結膜症を生じる偽眼類天疱瘡との鑑別も重要である.組織学的に上皮基底層への免疫複合体の沈着は通常みられず,幼少時のトラコーマ感染後の瘢痕性変化などでも生じることがあるが,点眼薬の長期使用に伴うことが多い.リスクの高い点眼(29)あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023C311図5眼類天疱瘡による瞼球癒着図6眼類天疱瘡による輪部機能不全初診時所見.両眼性の結膜炎がみられ,結膜.短縮,瞼球輪部機能不全による遷延性上皮欠損を生じた.癒着を生じていた.表3類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診断基準(厚生労働省研究班)A.臨床的診断項目1.皮膚に多発する,.痒性紅斑2.皮膚に多発する,緊満性水疱およびびらん3.口腔粘膜を含む粘膜部の非感染性水疱およびびらんB.検査所見1.病理組織学的診断項目1)表皮下水疱を認める.2.免疫学的診断項目1)蛍光抗体直接法により,皮膚の表皮基底膜部にIgG,あるいは補体の沈着を認める.2)蛍光抗体間接法により,血中の抗表皮基底膜部抗体(IgG)を検出する.あるいはELISA(CLEIA)法により,血中の抗CBP180抗体(IgG),抗CBP230抗体(IgG)あるいは抗CVII型コラーゲン抗体(IgG)を検出する.De.nite:以下の①または②を満たすもの①CAのうちC1項目以上かつCB-1と,さらにCB-2のうちC1項目以上を満たし,Cの鑑別すべき疾患を除外したもの②CAのうちC1項目以上かつCB-2のC2項目を満たし,Cの鑑別すべき疾患を除外したもの指定難病はCBullousPemphigoidDiseaseAreaIndexを用いて中等症以上を対象とする.

VDT とドライアイ

2023年3月31日 金曜日

VDTとドライアイVisualDisplayTerminalUseandDryEyeDisease山西竜太郎*内野美樹**はじめにパーソナル・コンピューター(以下,パソコン)やスマートフォン(以下,スマホ)といったCVDT(visualCdisplayterminals)機器が普及し,長期間画面を見続けることでの眼の疲れや見えにくさを引き起こすドライアイが問題になっている.CTFOSCDEWSCIICEpidemiologyCReport1)には,VDT機器の使用がドライアイのリスクファクターと示されている.VDT機器を注視すると瞬目回数が減ることがドライアイの誘因の一つである2)が,長時間に及ぶCVDT作業は眼だけではなく全身にも影響を及ぼすことが知られている.そこで,厚生労働省はC2002年におもにパソコンなどのCVDT作業に携わる労働者向けに「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて」を公表した.その後,VDT作業の形態はより一層多様化しているという点をふまえて,2019年には「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に改められた.本稿ではオフィスワーカーを対象とした大規模な疫学調査であるCOsakastudyより得られた知見をふまえつつ,VDT作業がドライアイにもたらす影響や,上記ガイドラインに示されているCVDT健診についても紹介する.CIVDT症候群VDT作業による座位時間の増加が原因となる運動不足,また食生活の変化やパソコンやスマホなどディスプレイ機器の長時間利用が増加している環境下では,身体や心の健康に影響を及ぼす可能性がある.長時間のVDT作業が引き起こす心身の変化はCVDT症候群といわれている.厚生労働省が実施した「平成C20年技術革新と労働に関する実態調査」3)では,回答者の約半数がC1日C4時間以上CVDT作業をしていた.パソコン作業時間の増加と,それに伴う疲労は顕著に現れ,約C91%が眼の疲れ・痛み,そして約C75%が首,肩のこり・痛みがあると回答した.さらに,VDT作業による精神的な疲労やストレスを感じているとする労働者は約C35%で,1日あたりの連続作業時間が長くなるほどストレスを感じているとする労働者の割合が高かった.VDT症候群のおもな症状を表1に示す.長時間の作業は,眼を酷使することでの眼乾燥感や眼精疲労だけではなく,首,肩のこりや,心身にも影響を及ぼしうる.それゆえ,作業の適切な管理が必要とされている.CIIオフィスワーカーにおけるドライアイの実態調査(Osakastudy)2011年に行われたCOsakaStudyは,オフィスワーカーを対象に行った大規模なドライアイの疫学調査4)で,ドライアイの有病率だけでなく,さまざまな生活関連のアンケートを実施し,ドライアイの危険因子などを調査した.対象はオフィスワーカーC672名で,このうちC561名が調査に参加した.*RyutaroYamanishi:東京都済生会中央病院眼科,慶應義塾大学医学部眼科学教室**MikiUchino:ケイシン五反田アイクリニック,慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山西竜太郎:〒108-0073東京都港区三田C1-4-17東京都済生会中央病院眼科C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(19)C301表1VDT症候群が全身に及ぼす症状眼の症状ディスプレイを長時間見続けるドライアイ,眼精疲労,視力低下など体の症状同じ姿勢で作業を続ける首,肩,腰の凝り,背部痛,頭痛や嘔気など心の症状眼や体の不調がストレスとなる食欲減退,不安感,抑うつ症状など参考:慶應義塾大学保健管理センター【在宅勤務における健康管理】VDT症候群の予防Chttp://www.hcc.keio.ac.jp/ja/health/health/other/wfh401.html表2Osakastudyで示されたVDT作業者のドライアイ確定・疑いのリスクファクタードライアイ確定例・疑いの割合(%)オッズ比性別男性女性60.2%C76.5%C1.002.00年齢22.2C9歳≧30歳55.9%C66.2%C1.002.22VDT作業時間0.8時間≧8時間62.0%C77.3%C1.001.94(文献C4より作成)表3OsakaStudy対象者のドライアイ有病率(2006年のドライアイ診断基準による)分類ドライアイ確定(%)ドライアイ疑い(%)非ドライアイ(%)計(%)2016年のドライアイ診断基準ドライアイ確定(%)非ドライアイ(%)計(%)65(C100)0(0C.0)65(C100)264(C87.1)39(C12.9)303(C100)0(0C.0)193(C100)193(C100)329(C58.6)232(C41.4)561(C100)(文献C6より作成)2006年の診断基準2016年の診断基準図12006年と2016年のドライアイ診断基準によるOsakastudy対象者のドライアイ有病率の比較(文献C6より作成)表4さまざまな条件下での瞬目回数自発的瞬目数回/分(中央値)不完全瞬目割合%(中央値)ベースライン15.5(C16)14.5(C29.5)タブレット読書台に6(11)14.5(C28.5)パソコン画面拡大なし6.5(C11)9(20)パソコン画面拡大C330%11.5(C11)13.5(C25.8)A4用紙ディスプレイに貼付7(12)0(C16.3)A4用紙読書台使用5(10)5(C22.8)A4用紙音読しながら4(9)0(C14.5)(文献C10より作成)※事務所則:事務所衛生基準規則情報機器作業ガイドライン:情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン図2テレワークの際の環境整備(厚生労働省ホームページ:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01603.htmlより引用)表5VDT健診(作業者に対する健康診断の項目)配置前健康診断定期健康診断業務量や既往歴の調査自覚症状眼の症状首肩腕や腰など筋骨格系の症状ストレスに関する症状業務量や既往歴の調査自覚症状眼の症状首肩腕や腰など筋骨格系の症状ストレスに関する症状眼科検査視力検査遠見視力近見視力(5C0Ccm視力またはC30Ccm視力)屈折検査眼位検査(交代遮蔽試験または眼位検査付き視力計で斜位の有無)調節機能検査(普段作業を行っている状態での近点距離)眼科検査視力検査遠見視力近見視力(5C0Ccm視力またはC30Ccm視力)筋骨格系に関する検査(上肢の運動機能や圧痛点の有無)筋骨格系に関する検査(上肢の運動機能や圧痛点の有無)

ドライアイとアレルギー性結膜疾患

2023年3月31日 金曜日

ドライアイとアレルギー性結膜疾患DryEyeandAllergicConjunctivalDiseases庄司純*はじめにアレルギー性結膜疾患とドライアイの関係は,長年にわたり議論が続けられている課題である.どちらの疾患もある種の免疫学的異常を背景として発症してくる炎症性疾患という側面をもつが,その病態においてオーバーラップする部分があるかどうかは未だに不明である.また,非感染性結膜炎の代表である両疾患では,自覚症状,他覚所見,臨床検査などによる臨床データと眼局所の病態解析とにより,両疾患の類似点や相違点が明らかになりつつある.アレルギー性結膜疾患は,即時型アレルギー反応を主要病態とする結膜の炎症性疾患であり,アレルギー性結膜炎,春季カタル,アトピー性角結膜炎,巨大乳頭結膜炎などの病型が含まれる1).一方,わが国(2016年)でのドライアイの定義2)は,「様々な要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある」とされている.両者の定義を満たす場合に,アレルギー性結膜疾患とドライアイが併発していることになるが,実際の臨床の場では治療を抗アレルギー薬中心で行うのか,ドライアイ治療を優先するのかなど,臨床的にむずかしい課題に直面する.ここでは,アレルギー性結膜疾患患者の自覚症状,他覚所見および涙液検査や眼表面検査のデータから,アレルギー性結膜疾患に併発するドライアイについて既報を中心に解説する.Iアレルギー性結膜疾患の自覚症状とドライアイアレルギー性結膜疾患における重要な自覚症状としては,「眼掻痒感」「異物感」「充血」「流涙」「眼脂」があげられているが3,4),「眼乾燥感」や「眼灼熱感」などの訴えもみられる5)(表1).とくに眼乾燥感は,流涙がみられる季節性アレルギー性結膜炎症例や軽症~中等症の通年性アレルギー性結膜炎症例でみられることがあり,結膜充血を伴う眼表面のアレルギー炎症によって出現する症状である.これらのアレルギー性結膜疾患の自覚症状は,ドライアイの眼不快感を示す自覚症状とオーバーラップするものが多い.しかし,両疾患とも結膜炎であるという視点では,結膜炎による非特異的な自覚症状と考えることもできる.したがって,アレルギー性結膜炎に合併するドライアイ患者を診断するための自覚症状については,今後の検討課題である.一方,ドライアイの自覚症状からアレルギー性結膜炎の合併を検討した報告がある.Dermerらは,問診票を使ってドライアイ症状を有する被験者75名の涙液をSchirmer試験紙で採取し,涙液中の総IgE値を測定するとともに,環境因子についても調査した.その結果,涙液中に総IgEが検出された被験者は全体の76%であり,17.3%で高値を示していたと報告している6).また,この報告では,涙液中総IgE値が高値を示した症例では,ペットや喫煙など屋内の環境因子との関係が有意に*JunShoji:庄司眼科医院,日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕庄司純:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(11)293表1アレルギー性結膜疾患における代表的な自覚症状と出現頻度SAC(84例)PAC(52例)AKC(41例)VKC(38例)GPC(8例)総計(223例)陽性例(陽性率%)陽性例(陽性率%)陽性例(陽性率%)陽性例(陽性率%)陽性例(陽性率%)陽性例(陽性率%)眼.痒感充血眼異物感流涙眼灼熱感眼疲労感乾燥感眼脂76(90.5)67(79.8)44(52.4)47(56.0)10(11.9)29(34.5)33(39.3)41(48.8)41(78.8)41(78.8)27(51.9)18(34.6)4(7.7)24(46.2)26(50.0)30(57.7)32(78.0)30(73.2)20(48.8)21(51.2)3(7.3)15(36.6)13(31.7)24(58.5)27(71.1)29(76.3)29(76.3)24(63.2)10(26.3)12(31.6)12(31.6)30(78.9)6(75.0)6(75.0)6(75.0)5(62.5)3(37.5)1(12.5)4(50.0)1(12.5)182(81.6)173(77.6)126(56.5)115(51.6)30(13.5)81(36.3)88(39.5)126(56.5)SAC:seasonalallergicconjunctivitis,PAC:perennialallergicconjunctivitis,AKC:atopickeratoconjunctivitis,VKC:vernalkera-toconjunctivitis,GPC:giantpapillaryconjunctivitis(文献5より引用)ab*40*703560MUC5ACmRNA相対発現量302520151010500鎮静期活動期鎮静期活動期図1慢性アレルギー性結膜炎患者における重症度別眼表面SPDEFmRNAおよびMUC5AC発現量の比較活動期の慢性アレルギー性結膜炎患者では,鎮静期の患者と比較して,有意に眼表面CSPDEFmRNAおよびCMUC5AC発現量が低値を示した.(文献C12より改変引用)C100SPDEFmRNA相対発現量1010.11101001,000臨床スコア(点)図2慢性アレルギー性結膜疾患患者における臨床スコアと眼表面SPDEFmRNA発現量との関係SPDEFmRNA発現量と臨床スコア(5-5-5方式重症度観察スケール)との間に有意な負の相関がみられる.Cr=.0.484,Cp=0.049(文献C12より改変引用)SPDEFmRNA相対発現量・涙液採取:Schirmer試験紙・涙液検体:緩衝液で溶出・測定:ELLA法標識アルカリホスファターゼレクチン(WGA)ムチン(MUC5AC)抗MUC5ACモノクローナル抗体図3涙液中MUC5ACの測定涙液はCSchirmer試験紙で採取し,緩衝液で涙液を溶出したものを涙液検体とする.涙液検体をCenzyme-linkedClectinCassay(ELLA)法で測定して,涙液中CMUC5AC濃度を算出する.ELLA法は,ムチンを抗ムチンコア蛋白抗体とアルカリフォスファターゼ標識レクチンとでサンドイッチして測定する方法である.C–涙液中MUC5AC値(mg/ml)200150100500020406080100年齢(歳)図4涙液中MUC5AC-WGA値健常者では,年齢とともに涙液中CMUC5ACが減少傾向を示した(直線).Steel-Dwass法**:p<0.01NSNS:notsigni.cantNS****NSNS160140120100806040MUC5AC-UAE-1(mg/ml)250200150100500ControlドライアイACMUC5AC-WGAMUC5AC-UEA-1図5涙液MUC5AC値涙液中CMUC5ACをCELLA法で測定する場合,シアル酸と反応する小麦胚芽レクチン(WGA)を使って測定する場合とフコースと反応するハリエニシダレクチン(UAE-1)を使って測定する場合とでは,測定結果が異なる.コア蛋白が同じでも,糖鎖の構成が異なるムチンが存在し,ムチンにはさまざまなバリエーションが存在することがわかる.AC:アレルギー性結膜炎,WGA:小麦胚芽レクチン,UEA-1:ハリエニシダレクチン.ControlドライアイACMUC5AC-WGA(mg/ml)ビロード状乳頭増殖角膜老人環様混濁点状表層角膜炎図6アトピー性角結膜炎症例42歳,男性.重症のアトピー性角結膜炎を発症しており,他覚所見では乳頭増殖,角膜老人環様混濁および点状表層角膜炎がみられた.涙液中CMUC5AC-WGA量は右眼C2Cmg/ml,左眼C3Cmg/mlと低値を示した.短縮型ドライアイが発症すると考えられる.C2.涙液の生化学検査眼表面疾患において診断,重症度判定および治療効果判定が行える眼表面検査は,血液検査に代わる臨床検査として実用化が待望されている.涙液は眼表面の病態を反映する物質が検出可能な検体であることから,涙液検査は臨床応用可能な眼表面検査の一つとして有望視されている.涙液中の何を測定すれば臨床応用可能であるのかは,今後の課題である.これまでに,アレルギー性結膜疾患とドライアイの涙液中では,個々の疾患で病態や病状を反映する物質が検討されてきた.そのなかで,両者に共通して報告がある物質は,Th1サイトカイン(IFN-c,IL-12),Th2サイトカイン(IL-4,IL-5),炎症性サイトカイン(IL-1Ca,IL-1Cb),その他の炎症関連物質(NGF,IL-6,CXCL8,MMP-9,NGF)のC11項目である19).その一方で,疾患特異性が高い物質は,診断価値が高いとして注目されている.アレルギー性結膜疾患では好酸球炎症を特徴とすることから,好酸球関連因子であるCeosinophilCcationicCprotein20),eotaxin-221),およびヒスタミンCH4受容体22)がバイオマーカーとしても有用であることが報告されている.また,ドライアイではCMMP-9が診断に有用とされ,諸外国ではCIn.ammaDry23)をはじめとしてさまざまなCMMP-9検査キットが使用されている.おわりにアレルギー性結膜疾患とドライアイは,どちらも非感染性眼表面疾患の代表的疾患である.両疾患の病態解明は,近年の研究により飛躍的に向上したが,まだまだ未解決な問題を多く含んでいる.両疾患に生じる特異的病態を解き明かすことが,今後のアレルギー診療やドライアイ診療をスキルアップする確実な道筋ではないかと考えられる.本稿を終えるにあたり,診療および研究のご指導をいただいている日本大学医学部視覚科学系眼科学分野主任教授山上聡先生に深謝いたします.文献1)日本眼科アレルギー学会診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌C125:741-785,C20212)島﨑潤,橫井則彦,渡辺仁ほか;ドライアイ研究会:日本のドライアイの定義と診断基準の改定(2016年版).あたらしい眼科34:309-313,C20173)中川やよい,内尾英一,岡本茂樹ほか:アレルギー性結膜炎患者の求める診断・治療ニーズについて─インターネット患者アンケート全国調査C2009年度報告.新薬と臨床C58:2086-2098,C20094)深川和己:アレルギー性結膜疾患患者に対する治療実態および治療ニーズ調査-人口構成比に基づくインターネット全国調査.アレルギー免疫15:1554-1564,C20085)庄司純,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診断における自覚症状,他覚所見および涙液総CIgE検査キットの有用性の検討.日眼会誌116:485-493,C20126)DermerH,TheotokaD,LeeJCetal:TotaltearIgElev-elsCcorrelateCwithCallergicCandCirritatingCenvironmentalCexposuresCinCindividualsCwithCdryCeye.CJCClinCMedC8:C1627,C20197)SwamynathanCSK,CWellsA:ConjunctivalCgobletcells:CocularCsurfaceCfunctions,CdisordersCthatCa.ectCthem,CandCtheCpotentialCforCtheirCregeneration.COculCSurfC18:19-26,C20208)KunertCKS,CKeane-MyersCAM,CSpurr-MichaudCSCetal:CAlterationingobletcellnumbersandmucingeneexpres-sionCinCaCmouseCmodelCofCallergicCconjunctivitis.CInvestCOphthalmolVisSciC42:2483-2489,C20019)DogruM,Asano-KatoN,TanakaMetal:OcularsurfaceandCMUC5ACCalterationCinCatopicCpatientsCwithCcornealCshieldulcer.CurrEyeResC30:897-908,C200510)DogruCM,COkadaCN,CAsano-KatoCNCetal:AlterationsCofCtheCocularCsurfaceCepithelialCmucinsC1,C2,C4CandCtheCtearCfunctionsinpatientswithatopickeratoconjunctivitis.ClinExpAllergy36:1556-1565,C200611)DogruCM,CMatsumotoCY,COkadaCNCetal:AlterationsCofCtheCocularCsurfaceCepithelialCMUC16CandCgobletCcellCMUC5ACCinCpatientsCwithCatopicCkeratoconjunctivitis.CAllergyC63:1324-1334,C200812)HorinakaCM,CShojiCJ,CTomiokaCACetal:AlterationsCinCmucin-associatedgeneexpressionontheocularsurfaceinactiveCandCstableCstagesCofCatopicCandCvernalCkeratocon-junctivitis.JOphthalmol31:9914786,C202113)DarttDA,MasliS:ConjunctivalepithelialandgobletcellfunctionCinCchronicCin.ammationCandCocularCallergicCin.ammation.CCurrCOpinCAllergyCClinCImmunolC14:464-470,C201414)LobefaloCL,CAntonioCED,CColangeloCLCetal:DryCeyeCinallergicconjunctivitis:roleofin.ammatoryin.ltrate.CIntJImmunopatholPharmacol12:133-137,C199915)SuzukiCS,CGotoCE,CDogruCMCetal:TearC.lmClipidClayerC(17)あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023C299-