———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS4Dを超える乱視がみられた場合には乳児期からでも眼鏡処方を考慮する必要がある.一方,近視は弱視になりにくいが,7Dを超える近視では,近見視力も不良なので眼鏡を処方する.年齢相応の視力とは,3歳半で0.8,4歳で1.0である.I眼鏡の適応幼児期~小児期に眼鏡が必要なのは,眼鏡が視機能発達のために不可欠と判断されるときである.代表的なものは,弱視をひき起こす強度の屈折異常(近視,遠視,乱視),不同視,屈折性調節性内斜視(図1)である.したがって,眼鏡は医療用装具として考えられ,療養給付金の対象となる.この時期の小児の視力不良が疑われるのは,3歳児健診や幼稚園での視力検査,見づらそうな仕草があるときなどである.両眼性の視力不良であれば健診などで気づくことが多いが,不同視弱視のような,片眼の視力不良は健診でも見過ごされることがしばしばある.その他,特殊な例として,高AC/A比(調節性輻湊対調節比)を伴う非屈折性調節性内斜視に対する二重焦点眼鏡,先天または発達白内障術後に対する累進屈折力眼鏡,ロービジョン児に対する補助眼鏡などがあげられる.1.屈折異常弱視屈折異常弱視は,両眼の視力が屈折異常のために正常に発達していない状態をさす.正常な小児は遠視のことが多いが,+5D以上の遠視,2.5D以上の乱視の場合に,デフォーカスのために,弱視になりやすいとされており眼鏡処方が勧められる.乱視による弱視を特に経線弱視というが,乱視は年齢による変化が少ないために,(17)741眼4313192121眼特集●眼鏡ケーススタディあたらしい眼科26(6):741~746,2009幼小児の眼鏡SpectaclesforToddlersandChildren佐藤美保*図1調節性内斜視眼鏡を装用すると眼位が良くなる.———————————————————————-Page2742あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(18)た.初診時の眼位は40Δの間欠性内斜視であった.アトロピン調節麻痺下屈折検査で右眼+5.0D,左眼+5.0Dの遠視を認めたため,完全屈折矯正度数で眼鏡を処方した.眼鏡装用によって,眼位は改善したため,手術をせずに経過をみている.現在4歳2カ月.視力は右眼1.2×+4.5D,左眼1.2×+5.0D.立体視は認められない.解説:内斜視のなかには,乳児内斜視との鑑別が困難な症例がしばしばみられる.乳児内斜視であれば,できるだけ早期に手術で眼位を整えることが必要であるが,屈折検査で明らかな遠視があれば屈折矯正を先に行う必要がある.この症例は,間欠性内斜視であったが,斜視角が大きく,不安定であることから早期発症調節性内斜視と診断されて眼鏡が処方された.II眼鏡処方のための視力検査と屈折検査1.視力検査正常に発達している幼児であれば,2歳半ごろから視力検査が可能となる.8歳以下の小児は読み分け困難が強いため,視力検査は片眼ずつの字ひとつ検査を原則とする.小児の視力は近距離から発達するため,遠見視力が不良な場合には,近見視力も測定する.遠見視力よりも近見視力が不良な場合には,真の視力不良を考えるが,特に遠視性弱視の存在を疑う.一般的な小児視力検査の方法としては,絵視標による2.不同視弱視不同視弱視は,左右の屈折異常の程度に差があるために起きる片眼の視力不良である.一般的に遠視では+1.5D,乱視は1.0D以上の場合に,屈折異常の強いほうの眼が弱視になりやすく,眼鏡処方が勧められる.3.斜視弱視乳児内斜視や,屈折性調節性内斜視では,非優位眼が弱視になりやすい.一般的に,遠視性の屈折異常を伴うため,眼鏡による遠視の適切な矯正が必要である.そのうえで,優位眼を遮閉することによって,弱視治療を行い残余斜視があれば手術を考慮する.4.調節性内斜視生後1歳半以降に発症することが多い内斜視で,多くの場合,遠視を伴う.屈折異常を矯正した場合に,完全に斜視がなくなるものを純調節性内斜視,斜視が改善するが,残るものを部分調節性内斜視という.乳児内斜視のなかには,成長とともに遠視度数が増加し,調節性内斜視となるものも少なくない.逆に生後6カ月以内に発症する調節性内斜視もあり,乳児内斜視との鑑別が重要なこともある.〔症例(図2)〕生後すぐから内斜視がみられた.家族が持参した写真で確認できる.斜視は間欠性だったため,眼科は1歳6カ月で初診し生後3カ月1歳6カ月遠視の矯正で眼位が改善図2早期発症調節性内斜視———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009743(19)2.屈折検査3歳児であれば,オートレフラクトメータによる屈折検査可能率が90%になる.したがって,スクリーニングとしては,オートレフラクトメータで可能である1).しかし,小児は調節力が強く,軽度~中等度の遠視や不同視の見逃しがあるため,検影法を用いて遠見時の屈折検査を行い,精密検査は必ず調節麻痺下で行う.調節麻痺薬としては,硫酸アトロピンあるいは塩酸シクロペントラートを用いる.トロピカミドは散瞳作用はあるが,調節麻痺作用はないことに注意する.硫酸アトロピンは1日1回の点眼を5~7日続ける必要がある.劇薬であるため,点眼に際しては副作用と点眼方法を記載した用紙を渡して十分に説明する(表1).特に1歳以下の低年齢児では,副作用を避けるために,眼軟膏を使用するとよい.塩酸シクロペントラートは2回の点眼後45分あけて屈折検査を行う.副作用として精神症状や眠気があるため,外来で待っている間の行動には十分注意する.点眼後に視力の再検査を行う場合には,眠気のために良好な視力が得られないことがしばしばある.硫酸アトロピンの調節麻痺作用は,1週間以上持続するため,学童期以降は塩酸シクロペントラートを用いる2).III眼鏡度数の決定1.眼鏡をいつ処方するか小児は一般的に遠視のことが多く,すべての遠視に対して眼鏡が必要なわけでないことは明らかである.乳児期であれば+5Dの遠視があっても,正位で固視・追視が良好ならば眼鏡を処方する必要はない.しかし,+6D以上の遠視,4D以上の乱視があれば視力検査が不可能な年齢であっても,眼鏡を処方することを原則とするが,家族が拒否したり,装用不可能なことも少なくない.その場合には,くり返し視力検査を行い,視力の変視力検査,Landolt環による字ひとつ視力検査があり,近距離視力検査としては森実ドットカードRがある.視力検査に際しては,検査の環境が重要である.できるだけ他の被検者や検者が眼にはいらない環境をつくること,午睡が日課の小児であれば,その時間帯を避けるか午睡をすませてから来院させること,検査をゆっくり行うことなどである.他院からの紹介患者で,視力不良とされていても,これらに気をつけて行うと,良好な視力が得られることは少なくない.片眼ずつの視力検査に先立って,両眼視力を測定しておく.このことは,片眼ずつの視力検査に非協力的で一方の眼の視力しか測定できなかったときの参考になる.初回の診察で,片眼の視力しか測定できなかった場合,次回の診察で他方の眼の視力検査を先に行うようにする.どうしても視力検査に協力できない幼児に対しては,立体視検査を行うこともある.立体視検査に合格すれば,どちらか一方の視力が著しく不良である可能性は低い.片眼ずつの視力検査に際しては,確実に他眼を遮閉することが重要である.母親の手で隠したり,遮眼子で隠したのでは,隙間から覗いてしまうことがある.前回の視力検査の結果と著しく異なる場合には,アイパッチを2枚重ねて確実に遮閉していることを確認しながら視力検査を行う必要がある.幼児期に眼鏡を処方する際には,家族への説明が必要である.親が十分に眼鏡の必要性を理解していない場合には,せっかく処方しても装用できないということになる.家族の理解を得るためには,近見視力検査が有用なことが多い.特に遠視性弱視では遠見視力に比べて近見視力が不良な場合には眼鏡の適応があると考える.また,近視のように「近づければよく見える」という状態でなく,「近づけても見えない」という状態は,家族にとっては視力不良の問題を理解しやすい.そこで,眼鏡装用に抵抗する家族には,近見視力検査をしているところを見せるとよい.それまで落ち着きのない子,あるいはいつまでたっても文字を覚えない子,として扱われていた幼児が,眼鏡をかけて以来,読書を好み,落ち着きがでてきたということはしばしば経験する.表1調節麻痺薬の副作用硫酸アトロピン塩酸シクロペントラート過敏症,アレルギー性結膜炎,眼瞼結膜炎,血圧上昇,心悸亢進,幻覚,痙攣,興奮,悪心,嘔吐,口渇,便秘,顔面潮紅,頭痛,発熱.過敏症,頻脈,一過性の幻覚,運動失調,情動錯乱,口渇,顔面潮紅.———————————————————————-Page4744あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(20)seikoniaTestRを用いる.3.瞳孔間距離の決定瞳孔間距離の誤りはレンズのプリズム効果をひき起こすので重要である.特に,遠視を伴う内斜視で瞳孔中心が凸レンズのレンズ中心の外側を通ると,基底内方のプリズムを装用したのと同じことになり,眼位の悪化につながるので注意する.IV眼鏡レンズの選び方レンズ素材についてレンズの素材にはプラスチックとガラスがある.眼鏡の重さは,レンズ素材の比重,屈折率,レンズの大きさで決まる.同じ度数,同じサイズのレンズであれば(比重)×(屈折率)で重さが決まってくる.小児の場合,遠視の比較的度数の強いものを必要とする場合が多いこと,鼻が低く,重さによって眼鏡が下がること,不同視があると左右のレンズの重さが変わることなどがあるため,レンズの重さに配慮する必要がある.一方で,小児はレンズに傷をつけたり,度数の変更が頻回に必要であったりするため,廉価であることも重要な要素である.レンズの屈折率は,ガラスレンズのほうがプラスチックレンズより高いが,比重はプラスチックのほうが軽いという特性がある.価格面ではガラスレンズのほうが廉価で耐用年数も長いが,最近はプラスチックレンズでも高屈折率の素材が開発されたこと,レンズの薄型加工が可能になり比較的薄く軽い眼鏡の作製が可能になったこと,療養給付の支給から費用面での負担が少なくなったことなどから,小児にはプラスチックレンズを選択することが多い.図3のように薄型加工を指定するとよい.化を見ながら眼鏡処方の時期を決定する.内斜視があれば,屈折性調節性内斜視と非屈折性調節性内斜視の鑑別のために眼鏡を処方することがある.特に乳児内斜視では,眼鏡を装用しても内斜視の程度が変化しないため,早期の手術が必要となる.逆に,乳児内斜視が後に調節性内斜視に移行してくることもある.内斜視術後の残余斜視に対しては,積極的に眼鏡の処方を行う.外斜視に,屈折異常を伴うことも少なくない.遠視は内斜視をひき起こすと考えられがちだが,遠視による不同視弱視があれば,外斜視となることもある.遠視を矯正することによって,調節力が引き出され,眼位が改善することもあるため,まず眼鏡処方を考慮する.逆に,遠視の矯正をすることによって,眼位が悪化すれば,斜視手術を考慮する.間欠性外斜視に近視を伴う場合は,遠方視時の像のぼけが眼位不良の原因の可能性があるので弱視がなくても眼鏡を処方する.2.調節麻痺下屈折度数と処方度数視力検査がしっかりできる児で,弱視がなければ,眼鏡の装用練習をしたうえで度数を加減することが可能である.近視でも遠視でもやや低矯正にしたほうが適応しやすい.しかし,遠視性屈折異常弱視では,調節麻痺下屈折値をそのまま処方するか,そこから生理的トーヌスを引いた値で処方するかで意見が分かれる.斜視のない遠視性弱視は,5歳以上であれば0.5D減らしたほうが,同等の視力改善で装用可能率が高くなることが報告されている.一方,5歳以下では,低矯正眼鏡にすることで内斜視が発症してくる可能性が高いと報告されており,装用可能であれば完全矯正が望ましい.内斜視を伴う遠視では,完全矯正を原則とする.もし,内斜視が残存すれば調節麻痺下屈折検査をくり返し行い,わずかな残余遠視も矯正する3).不同視弱視では,不等像視が問題となることがある.しかし,片眼の人工的無水晶体眼のような屈折性不同視とは異なり,小児の不同視は眼軸長に左右差がある軸性不同視のため,眼鏡矯正による不等像視の出現は少ない.不等像視を測定するためには,AwayaNewAni-カットされる部分レンズの外径6560図3レンズ薄型加工———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009745(21)することが必要である.処方箋どおりの度数か,乱視の軸は合っているか,レンズ中心間距離は合っているか,をレンズメータを使ってチェックする.また,フレームのチェックをすることも必要で,フィッティングが悪い場合には,フレームの変更も含めて,眼鏡店に指示することもある.フィッティングのチェックポイントは,アイポイントが合っているか,角膜頂点間距離が保たれているか(図4),レンズの前傾角が良いか(図5),などである.患者の正面,上,横から眼鏡のかけ具合をチェックする.最後に眼鏡を外して,顔に傷がついていないかを確認する.鼻パッドの下がかぶれていても,小児では症状を訴えないことがあるので注意する.VI眼鏡処方後のフォロー1.眼鏡をかけられない場合と対応特に遠視の眼鏡を嫌がる場合には,いくつかの原因が考えられる.1)調節麻痺下屈折値で眼鏡を処方するために,調節力が戻ってから眼鏡を装用すると,「遠くがよく見えない」ということがある.眼鏡がかけられても,眼鏡をずり下げて,眼鏡の上から覗いているのも同様の原因で起こる.特に不同視弱視では,優位眼は裸眼でもよく見えることが多いため眼鏡装用に抵抗する.その場合,外来で硫酸アトロピンを点眼したのち,帰宅させることによって調節を再度麻痺させ,裸眼では見づらい間に装用の習慣をつけさせる.どうしても装用できない場合には一旦,遠視度数を下げたレンズに変更することもある.2)フレームが合わないために,眼鏡を装用することが不快:年齢が低いほど,初回の眼鏡を装用できないことは多い.特にフレームがきつくしまりすぎている場合には,痛みのために眼鏡をはずそうとすることがあるので,チェックする必要がある.2.眼鏡再処方のタイミング5歳未満では,最低でも1年に1回はレンズの変更を考慮する必要がある.多くの場合,レンズ表面に傷がついており,視機能に影響を与える可能性がある.外来受診の際には,必ずレンズの傷の有無をチェックする.また,顔の大きさの成長が著しい時期でもあるため,フレV眼鏡フレームの選び方1.小児用眼鏡フレーム小児は鼻根部が広く,顔の大きさもさまざまであるため,フレーム選びが重要となる.また,活動性が高く,扱いも乱暴になるためにフレームの素材やデザインに注意が必要である.ファッション性を重視して,フレームを選ぶとフレームの縦径が短すぎて視界をカバーしきれていなかったり,大きすぎるフレームを無理に合わせるために角膜頂点間距離が長くなりすぎたりしていることがある.眼鏡のテンプルの長さを種々揃えていて,自由に組み合わせることのできるフレームを勧めている.フレームの素材はプラスチックで形状のしっかりしたものが好ましい.成人に好まれるような「縁なし」のフレームは小児には不向きである.2.チェックポイント眼鏡を処方したあとで,眼鏡レンズ度数のチェックをテンプルが短い角膜頂点間距離が短い図4横からのフィッティングチェック図5眼鏡の前傾角不良———————————————————————-Page6746あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009ームも2年に1回くらいの頻度で変更することが必要である.5歳以上で,視力検査が十分にできるようであれば,視力と眼位を参考にして度数変更を考える.再処方に際しては,眼位と視力を参考にして,調節麻痺下屈折検査を行い,度数を決定する.視力が良好な場合には,調節麻痺下屈折値から0.5D引いた値を処方することで将来の調節不全を予防する.VII特殊な眼鏡特殊な幼小児の眼鏡として,高AC/A比を伴う二重焦点眼鏡がある.遠見眼位が良好であっても,近方視に際して調節を行ったときに過剰な輻湊を伴うものである.事前に+3Dのレンズを眼前において,眼位が改善するとともに両眼視機能が改善する場合を適応とする.実際には,眼位が改善しても両眼視機能が改善しない場合が多く,適応を厳密に決めると,対象者は多くはない.また,二重焦点眼鏡を装用し続けて眼鏡から開放されることは決して多くない.この場合に使うレンズとしては,エグゼクティブ型とよばれる上下でレンズが分かれているタイプのもの,小玉の入ったもの,累進屈折力レンズなどである.小児の場合,うまくレンズの下方を利用することは容易ではないため,はっきりと上下が分かれるエグゼクティブ型の利用が理想的であるが,外見上の問題から累進屈折力レンズを使用するほうが装用可能率は高くなる.無水晶体眼のための眼鏡先天・発達白内障術後に眼内レンズを挿入しないことが多いため,術後の屈折矯正は,コンタクトレンズか眼鏡が必要になる.片眼性ではコンタクトレンズが必要であるが,両眼性の場合には眼鏡による矯正が安全で確実である.しかし,現在作製可能な眼鏡レンズ度数に限界があること,二重焦点眼鏡にするとさらに近用部が厚くなり実用的でないことから幼児期には,近方に合わせた単焦点眼鏡を処方することが多い.入学時に中間距離で処方し,成長に伴い遠視度数が減少してきたら二重焦点眼鏡に移行する.文献1)稲泉令巳子,内海隆,中村桂子ほか:小児の眼科スクリーニングにおけるレチノマックスの評価.眼臨92:722-724,19982)森隆史,八子恵子,飯田知弘ほか:乳幼児に対する1%アトロピン点眼液を用いた調節麻痺下の屈折検査.眼臨紀1:157-160,20083)内海隆:わかりやすい臨床講座小児の眼鏡.日本の眼科79:1377-1381,2008(22)