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幼小児の眼鏡

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS4Dを超える乱視がみられた場合には乳児期からでも眼鏡処方を考慮する必要がある.一方,近視は弱視になりにくいが,7Dを超える近視では,近見視力も不良なので眼鏡を処方する.年齢相応の視力とは,3歳半で0.8,4歳で1.0である.I眼鏡の適応幼児期~小児期に眼鏡が必要なのは,眼鏡が視機能発達のために不可欠と判断されるときである.代表的なものは,弱視をひき起こす強度の屈折異常(近視,遠視,乱視),不同視,屈折性調節性内斜視(図1)である.したがって,眼鏡は医療用装具として考えられ,療養給付金の対象となる.この時期の小児の視力不良が疑われるのは,3歳児健診や幼稚園での視力検査,見づらそうな仕草があるときなどである.両眼性の視力不良であれば健診などで気づくことが多いが,不同視弱視のような,片眼の視力不良は健診でも見過ごされることがしばしばある.その他,特殊な例として,高AC/A比(調節性輻湊対調節比)を伴う非屈折性調節性内斜視に対する二重焦点眼鏡,先天または発達白内障術後に対する累進屈折力眼鏡,ロービジョン児に対する補助眼鏡などがあげられる.1.屈折異常弱視屈折異常弱視は,両眼の視力が屈折異常のために正常に発達していない状態をさす.正常な小児は遠視のことが多いが,+5D以上の遠視,2.5D以上の乱視の場合に,デフォーカスのために,弱視になりやすいとされており眼鏡処方が勧められる.乱視による弱視を特に経線弱視というが,乱視は年齢による変化が少ないために,(17)741眼4313192121眼特集●眼鏡ケーススタディあたらしい眼科26(6):741~746,2009幼小児の眼鏡SpectaclesforToddlersandChildren佐藤美保*図1調節性内斜視眼鏡を装用すると眼位が良くなる.———————————————————————-Page2742あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(18)た.初診時の眼位は40Δの間欠性内斜視であった.アトロピン調節麻痺下屈折検査で右眼+5.0D,左眼+5.0Dの遠視を認めたため,完全屈折矯正度数で眼鏡を処方した.眼鏡装用によって,眼位は改善したため,手術をせずに経過をみている.現在4歳2カ月.視力は右眼1.2×+4.5D,左眼1.2×+5.0D.立体視は認められない.解説:内斜視のなかには,乳児内斜視との鑑別が困難な症例がしばしばみられる.乳児内斜視であれば,できるだけ早期に手術で眼位を整えることが必要であるが,屈折検査で明らかな遠視があれば屈折矯正を先に行う必要がある.この症例は,間欠性内斜視であったが,斜視角が大きく,不安定であることから早期発症調節性内斜視と診断されて眼鏡が処方された.II眼鏡処方のための視力検査と屈折検査1.視力検査正常に発達している幼児であれば,2歳半ごろから視力検査が可能となる.8歳以下の小児は読み分け困難が強いため,視力検査は片眼ずつの字ひとつ検査を原則とする.小児の視力は近距離から発達するため,遠見視力が不良な場合には,近見視力も測定する.遠見視力よりも近見視力が不良な場合には,真の視力不良を考えるが,特に遠視性弱視の存在を疑う.一般的な小児視力検査の方法としては,絵視標による2.不同視弱視不同視弱視は,左右の屈折異常の程度に差があるために起きる片眼の視力不良である.一般的に遠視では+1.5D,乱視は1.0D以上の場合に,屈折異常の強いほうの眼が弱視になりやすく,眼鏡処方が勧められる.3.斜視弱視乳児内斜視や,屈折性調節性内斜視では,非優位眼が弱視になりやすい.一般的に,遠視性の屈折異常を伴うため,眼鏡による遠視の適切な矯正が必要である.そのうえで,優位眼を遮閉することによって,弱視治療を行い残余斜視があれば手術を考慮する.4.調節性内斜視生後1歳半以降に発症することが多い内斜視で,多くの場合,遠視を伴う.屈折異常を矯正した場合に,完全に斜視がなくなるものを純調節性内斜視,斜視が改善するが,残るものを部分調節性内斜視という.乳児内斜視のなかには,成長とともに遠視度数が増加し,調節性内斜視となるものも少なくない.逆に生後6カ月以内に発症する調節性内斜視もあり,乳児内斜視との鑑別が重要なこともある.〔症例(図2)〕生後すぐから内斜視がみられた.家族が持参した写真で確認できる.斜視は間欠性だったため,眼科は1歳6カ月で初診し生後3カ月1歳6カ月遠視の矯正で眼位が改善図2早期発症調節性内斜視———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009743(19)2.屈折検査3歳児であれば,オートレフラクトメータによる屈折検査可能率が90%になる.したがって,スクリーニングとしては,オートレフラクトメータで可能である1).しかし,小児は調節力が強く,軽度~中等度の遠視や不同視の見逃しがあるため,検影法を用いて遠見時の屈折検査を行い,精密検査は必ず調節麻痺下で行う.調節麻痺薬としては,硫酸アトロピンあるいは塩酸シクロペントラートを用いる.トロピカミドは散瞳作用はあるが,調節麻痺作用はないことに注意する.硫酸アトロピンは1日1回の点眼を5~7日続ける必要がある.劇薬であるため,点眼に際しては副作用と点眼方法を記載した用紙を渡して十分に説明する(表1).特に1歳以下の低年齢児では,副作用を避けるために,眼軟膏を使用するとよい.塩酸シクロペントラートは2回の点眼後45分あけて屈折検査を行う.副作用として精神症状や眠気があるため,外来で待っている間の行動には十分注意する.点眼後に視力の再検査を行う場合には,眠気のために良好な視力が得られないことがしばしばある.硫酸アトロピンの調節麻痺作用は,1週間以上持続するため,学童期以降は塩酸シクロペントラートを用いる2).III眼鏡度数の決定1.眼鏡をいつ処方するか小児は一般的に遠視のことが多く,すべての遠視に対して眼鏡が必要なわけでないことは明らかである.乳児期であれば+5Dの遠視があっても,正位で固視・追視が良好ならば眼鏡を処方する必要はない.しかし,+6D以上の遠視,4D以上の乱視があれば視力検査が不可能な年齢であっても,眼鏡を処方することを原則とするが,家族が拒否したり,装用不可能なことも少なくない.その場合には,くり返し視力検査を行い,視力の変視力検査,Landolt環による字ひとつ視力検査があり,近距離視力検査としては森実ドットカードRがある.視力検査に際しては,検査の環境が重要である.できるだけ他の被検者や検者が眼にはいらない環境をつくること,午睡が日課の小児であれば,その時間帯を避けるか午睡をすませてから来院させること,検査をゆっくり行うことなどである.他院からの紹介患者で,視力不良とされていても,これらに気をつけて行うと,良好な視力が得られることは少なくない.片眼ずつの視力検査に先立って,両眼視力を測定しておく.このことは,片眼ずつの視力検査に非協力的で一方の眼の視力しか測定できなかったときの参考になる.初回の診察で,片眼の視力しか測定できなかった場合,次回の診察で他方の眼の視力検査を先に行うようにする.どうしても視力検査に協力できない幼児に対しては,立体視検査を行うこともある.立体視検査に合格すれば,どちらか一方の視力が著しく不良である可能性は低い.片眼ずつの視力検査に際しては,確実に他眼を遮閉することが重要である.母親の手で隠したり,遮眼子で隠したのでは,隙間から覗いてしまうことがある.前回の視力検査の結果と著しく異なる場合には,アイパッチを2枚重ねて確実に遮閉していることを確認しながら視力検査を行う必要がある.幼児期に眼鏡を処方する際には,家族への説明が必要である.親が十分に眼鏡の必要性を理解していない場合には,せっかく処方しても装用できないということになる.家族の理解を得るためには,近見視力検査が有用なことが多い.特に遠視性弱視では遠見視力に比べて近見視力が不良な場合には眼鏡の適応があると考える.また,近視のように「近づければよく見える」という状態でなく,「近づけても見えない」という状態は,家族にとっては視力不良の問題を理解しやすい.そこで,眼鏡装用に抵抗する家族には,近見視力検査をしているところを見せるとよい.それまで落ち着きのない子,あるいはいつまでたっても文字を覚えない子,として扱われていた幼児が,眼鏡をかけて以来,読書を好み,落ち着きがでてきたということはしばしば経験する.表1調節麻痺薬の副作用硫酸アトロピン塩酸シクロペントラート過敏症,アレルギー性結膜炎,眼瞼結膜炎,血圧上昇,心悸亢進,幻覚,痙攣,興奮,悪心,嘔吐,口渇,便秘,顔面潮紅,頭痛,発熱.過敏症,頻脈,一過性の幻覚,運動失調,情動錯乱,口渇,顔面潮紅.———————————————————————-Page4744あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(20)seikoniaTestRを用いる.3.瞳孔間距離の決定瞳孔間距離の誤りはレンズのプリズム効果をひき起こすので重要である.特に,遠視を伴う内斜視で瞳孔中心が凸レンズのレンズ中心の外側を通ると,基底内方のプリズムを装用したのと同じことになり,眼位の悪化につながるので注意する.IV眼鏡レンズの選び方レンズ素材についてレンズの素材にはプラスチックとガラスがある.眼鏡の重さは,レンズ素材の比重,屈折率,レンズの大きさで決まる.同じ度数,同じサイズのレンズであれば(比重)×(屈折率)で重さが決まってくる.小児の場合,遠視の比較的度数の強いものを必要とする場合が多いこと,鼻が低く,重さによって眼鏡が下がること,不同視があると左右のレンズの重さが変わることなどがあるため,レンズの重さに配慮する必要がある.一方で,小児はレンズに傷をつけたり,度数の変更が頻回に必要であったりするため,廉価であることも重要な要素である.レンズの屈折率は,ガラスレンズのほうがプラスチックレンズより高いが,比重はプラスチックのほうが軽いという特性がある.価格面ではガラスレンズのほうが廉価で耐用年数も長いが,最近はプラスチックレンズでも高屈折率の素材が開発されたこと,レンズの薄型加工が可能になり比較的薄く軽い眼鏡の作製が可能になったこと,療養給付の支給から費用面での負担が少なくなったことなどから,小児にはプラスチックレンズを選択することが多い.図3のように薄型加工を指定するとよい.化を見ながら眼鏡処方の時期を決定する.内斜視があれば,屈折性調節性内斜視と非屈折性調節性内斜視の鑑別のために眼鏡を処方することがある.特に乳児内斜視では,眼鏡を装用しても内斜視の程度が変化しないため,早期の手術が必要となる.逆に,乳児内斜視が後に調節性内斜視に移行してくることもある.内斜視術後の残余斜視に対しては,積極的に眼鏡の処方を行う.外斜視に,屈折異常を伴うことも少なくない.遠視は内斜視をひき起こすと考えられがちだが,遠視による不同視弱視があれば,外斜視となることもある.遠視を矯正することによって,調節力が引き出され,眼位が改善することもあるため,まず眼鏡処方を考慮する.逆に,遠視の矯正をすることによって,眼位が悪化すれば,斜視手術を考慮する.間欠性外斜視に近視を伴う場合は,遠方視時の像のぼけが眼位不良の原因の可能性があるので弱視がなくても眼鏡を処方する.2.調節麻痺下屈折度数と処方度数視力検査がしっかりできる児で,弱視がなければ,眼鏡の装用練習をしたうえで度数を加減することが可能である.近視でも遠視でもやや低矯正にしたほうが適応しやすい.しかし,遠視性屈折異常弱視では,調節麻痺下屈折値をそのまま処方するか,そこから生理的トーヌスを引いた値で処方するかで意見が分かれる.斜視のない遠視性弱視は,5歳以上であれば0.5D減らしたほうが,同等の視力改善で装用可能率が高くなることが報告されている.一方,5歳以下では,低矯正眼鏡にすることで内斜視が発症してくる可能性が高いと報告されており,装用可能であれば完全矯正が望ましい.内斜視を伴う遠視では,完全矯正を原則とする.もし,内斜視が残存すれば調節麻痺下屈折検査をくり返し行い,わずかな残余遠視も矯正する3).不同視弱視では,不等像視が問題となることがある.しかし,片眼の人工的無水晶体眼のような屈折性不同視とは異なり,小児の不同視は眼軸長に左右差がある軸性不同視のため,眼鏡矯正による不等像視の出現は少ない.不等像視を測定するためには,AwayaNewAni-カットされる部分レンズの外径6560図3レンズ薄型加工———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009745(21)することが必要である.処方箋どおりの度数か,乱視の軸は合っているか,レンズ中心間距離は合っているか,をレンズメータを使ってチェックする.また,フレームのチェックをすることも必要で,フィッティングが悪い場合には,フレームの変更も含めて,眼鏡店に指示することもある.フィッティングのチェックポイントは,アイポイントが合っているか,角膜頂点間距離が保たれているか(図4),レンズの前傾角が良いか(図5),などである.患者の正面,上,横から眼鏡のかけ具合をチェックする.最後に眼鏡を外して,顔に傷がついていないかを確認する.鼻パッドの下がかぶれていても,小児では症状を訴えないことがあるので注意する.VI眼鏡処方後のフォロー1.眼鏡をかけられない場合と対応特に遠視の眼鏡を嫌がる場合には,いくつかの原因が考えられる.1)調節麻痺下屈折値で眼鏡を処方するために,調節力が戻ってから眼鏡を装用すると,「遠くがよく見えない」ということがある.眼鏡がかけられても,眼鏡をずり下げて,眼鏡の上から覗いているのも同様の原因で起こる.特に不同視弱視では,優位眼は裸眼でもよく見えることが多いため眼鏡装用に抵抗する.その場合,外来で硫酸アトロピンを点眼したのち,帰宅させることによって調節を再度麻痺させ,裸眼では見づらい間に装用の習慣をつけさせる.どうしても装用できない場合には一旦,遠視度数を下げたレンズに変更することもある.2)フレームが合わないために,眼鏡を装用することが不快:年齢が低いほど,初回の眼鏡を装用できないことは多い.特にフレームがきつくしまりすぎている場合には,痛みのために眼鏡をはずそうとすることがあるので,チェックする必要がある.2.眼鏡再処方のタイミング5歳未満では,最低でも1年に1回はレンズの変更を考慮する必要がある.多くの場合,レンズ表面に傷がついており,視機能に影響を与える可能性がある.外来受診の際には,必ずレンズの傷の有無をチェックする.また,顔の大きさの成長が著しい時期でもあるため,フレV眼鏡フレームの選び方1.小児用眼鏡フレーム小児は鼻根部が広く,顔の大きさもさまざまであるため,フレーム選びが重要となる.また,活動性が高く,扱いも乱暴になるためにフレームの素材やデザインに注意が必要である.ファッション性を重視して,フレームを選ぶとフレームの縦径が短すぎて視界をカバーしきれていなかったり,大きすぎるフレームを無理に合わせるために角膜頂点間距離が長くなりすぎたりしていることがある.眼鏡のテンプルの長さを種々揃えていて,自由に組み合わせることのできるフレームを勧めている.フレームの素材はプラスチックで形状のしっかりしたものが好ましい.成人に好まれるような「縁なし」のフレームは小児には不向きである.2.チェックポイント眼鏡を処方したあとで,眼鏡レンズ度数のチェックをテンプルが短い角膜頂点間距離が短い図4横からのフィッティングチェック図5眼鏡の前傾角不良———————————————————————-Page6746あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009ームも2年に1回くらいの頻度で変更することが必要である.5歳以上で,視力検査が十分にできるようであれば,視力と眼位を参考にして度数変更を考える.再処方に際しては,眼位と視力を参考にして,調節麻痺下屈折検査を行い,度数を決定する.視力が良好な場合には,調節麻痺下屈折値から0.5D引いた値を処方することで将来の調節不全を予防する.VII特殊な眼鏡特殊な幼小児の眼鏡として,高AC/A比を伴う二重焦点眼鏡がある.遠見眼位が良好であっても,近方視に際して調節を行ったときに過剰な輻湊を伴うものである.事前に+3Dのレンズを眼前において,眼位が改善するとともに両眼視機能が改善する場合を適応とする.実際には,眼位が改善しても両眼視機能が改善しない場合が多く,適応を厳密に決めると,対象者は多くはない.また,二重焦点眼鏡を装用し続けて眼鏡から開放されることは決して多くない.この場合に使うレンズとしては,エグゼクティブ型とよばれる上下でレンズが分かれているタイプのもの,小玉の入ったもの,累進屈折力レンズなどである.小児の場合,うまくレンズの下方を利用することは容易ではないため,はっきりと上下が分かれるエグゼクティブ型の利用が理想的であるが,外見上の問題から累進屈折力レンズを使用するほうが装用可能率は高くなる.無水晶体眼のための眼鏡先天・発達白内障術後に眼内レンズを挿入しないことが多いため,術後の屈折矯正は,コンタクトレンズか眼鏡が必要になる.片眼性ではコンタクトレンズが必要であるが,両眼性の場合には眼鏡による矯正が安全で確実である.しかし,現在作製可能な眼鏡レンズ度数に限界があること,二重焦点眼鏡にするとさらに近用部が厚くなり実用的でないことから幼児期には,近方に合わせた単焦点眼鏡を処方することが多い.入学時に中間距離で処方し,成長に伴い遠視度数が減少してきたら二重焦点眼鏡に移行する.文献1)稲泉令巳子,内海隆,中村桂子ほか:小児の眼科スクリーニングにおけるレチノマックスの評価.眼臨92:722-724,19982)森隆史,八子恵子,飯田知弘ほか:乳幼児に対する1%アトロピン点眼液を用いた調節麻痺下の屈折検査.眼臨紀1:157-160,20083)内海隆:わかりやすい臨床講座小児の眼鏡.日本の眼科79:1377-1381,2008(22)

乳児の眼鏡

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS両眼とも振幅の低下をきたしていた.手術:早急に全身麻酔下検査,両眼白内障手術を施行(経角膜輪部水晶体・前部硝子体切除術),術中術後合併症なし.眼鏡の処方:術後炎症や角膜浮腫が消退し眼圧が安定する術後7日目に検影法(skiascopy)による屈折検査を実施,両眼とも屈折値+18Dであった.乳児の視力の発達特性を考慮し,眼前33cmに焦点を合わせて両眼屈折矯正度数+21D,瞳孔間距離は近見で計測し40mmとして眼鏡を処方した.処方時には,乳児用眼鏡枠(フレーム)を紹介し,安全性と重量・収差の軽減のためプラスチックレンズで作製するよう指示する.また,弱視の治療目的に常用する眼鏡であることを家族に十分に説明し,頻回作製の費用負担を少しでも軽減するため,治療用眼鏡の療育費給付について情報提供する.処方後の管理:顔幅に適したフレームを選び,レンズのサイズが十分に広く,正しい位置に安定して装着されているか(フィッティング)を確認する.フレームサイズ44mm,レンズサイズ34mmの乳児用眼鏡(アンファンベビー,オグラ製)を装着したが,レンズの重さのためフレームが下方にずれやすく,はじめはテープ固定を要した.成長とともに良好なフィッティングを維持できるようになった.生後10カ月時に屈折値,瞳孔間距離,顔幅が変化したため屈折矯正度数+16D,瞳孔間距離45mmとして眼鏡を再処方した.はじめに乳児に眼鏡を処方する機会は限られているが,対象となる疾患は,いずれも発達途上の視力や両眼視機能に不可逆的な障害を及ぼす重症疾患である.近年,乳幼児眼疾患の早期発見,治療の進歩とあいまって,より早期に適切な屈折矯正を行う必要性も増してきた.2007年に本誌特集で乳児の眼鏡について概説したが1),本稿では,代表的なケースを呈示し,検査と処方の進め方,処方後の管理と注意点,眼鏡の効果について具体的に述べたい.I無水晶体眼1.症例呈示患児:生後17週,男児.主訴:眼振および異常眼球運動.現病歴:水平および上下に眼が揺れ,異常な眼球運動をすることに気づき近医受診.両眼の白内障を指摘され精査加療目的で紹介され初診となった.妊娠・出産に異常なし.発達の遅れを疑われ小児科で精査したが異常なし.家族歴として母が若年性白内障で手術を受けている.術前所見:瞳孔反応正常.左右眼とも固視・追視不良で,著明な眼振と異常眼球運動を認めた(図1a).両眼に小角膜(9mm×9mm),膜状白内障を認め,散瞳不良であった.眼底透見不能であったが超音波Bモード検査では後眼部に異常なし.視覚誘発電位(VEP)では(11)735aca眼157眼特集●眼鏡ケーススタディあたらしい眼科26(6):735740,2009乳児の眼鏡PrescribingSpectaclesforInfants仁科幸子*———————————————————————-Page2736あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(12)徹照が悪いとき,屈折度の急激な変化を認めた場合には,後発白内障,緑内障,網膜離などの術後合併症の発症が疑われるため十分注意する.顔面の成長も速いため,フレームが顔幅に合っているか,瞳孔間距離は変化していないか,レンズの状態は良好か,つねに注意を払う.術後無水晶体眼では,瞳孔間距離のずれによってプリズム作用が出るため,2mm以上変化したら再処方を検討する.眼鏡はいったん慣れると継続して装用できることが多いが,心身の発達の過程で患児の体動が激しくなったり,取り扱いが粗雑になってコンプライアンスが悪くなることがある.患児の手で眼鏡をいじるようになると,レンズ面に汚れや傷が多くなり,フレームが曲がりやすくなる.頻回にフィッティングを調整して,患児ができ眼鏡の効果:眼鏡の常用により生後24週(術後7週目)には両眼に固視・追視を認め,顕性の眼振が著明に低下した(図1b).眼位は正位軽度内斜視.生後8カ月時に縞視力(gratingacuity)にて両眼開放下矯正視力0.115まで検出された.2.解説乳児期は視性刺激遮断に対する感受性がきわめて高い時期であり,この時期に起こる疾患によって重篤な弱視を起こす.両眼性の先天白内障では,生後10週を過ぎると急速に眼振や異常眼球運動が顕著となるが2),早急に手術を行い3),眼鏡の装用ができると12カ月で眼振が軽減し安定した固視,追視がみられるようになる.視機能が急速に発達する時期であるため,適切な治療を行えばその効果も高い.術後の屈折矯正には眼鏡,コンタクトレンズのほか,最近では眼内レンズの適応も拡大しつつあるが,乳児に対しては,合併症がなく安全で,取り扱いが容易,成長に応じた変更が容易である点など,依然として眼鏡の利点は多い46).術後早期から適正な屈折矯正が可能であり,良好なコンプライアンスが得られやすいため視機能の発達に有利である.成長に伴う屈折度の変化は,視覚の感受性の高い02歳で特に著しい.術後無水晶体眼では,少なくとも23カ月ごとに屈折検査を施行し,眼鏡が+23Dの近見矯正に合っているかどうか調べ,4D以上の過矯正となれば変更する.実際には,眼鏡の装用状態が良好であることを確認し,レンズ装用下で検影法(overrefrac-tion)を施行すると簡便に正確な検査ができる(図2).ab図1生後17週男児,両眼先天白内障a:術前,眼振・異常眼球運動が顕著であった.b:術後7週目,眼鏡常用にて眼振が低下し良好な固視・追視がみられる.図2眼鏡装用下で検影法(overrefraction)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009737(13)辺部全周に網膜血管の走行異常と無血管野を認め,耳下側周辺部の線維組織に向かう牽引乳頭を呈していたが,蛍光眼底造影にて蛍光漏出を認めず,活動性はないと判るだけ快適に眼鏡を装用できるよう注意する.3.今後の課題近年,重症未熟児網膜症(II型,aggressiveposteriorretinopathyofprematurity:AP-ROP)においても,早期硝子体手術技術が進歩し,比較的良好な視力予後が得られる可能性が出てきた7).両眼の硝子体手術に水晶体切除を要することが多いため,術後無水晶体眼に対する屈折矯正の重要性も増している.現在市販されている乳児用眼鏡フレームは,テンプルが柔らかく頭部にバンドで固定するよう工夫されており,仰臥位で体位が変化しても安全に装着できる.サイズ30mm,瞳孔間距離32mmから特注で作製できるため,未熟児の術後無水晶体眼にも対応可能となった.レンズ度数は球面設計で+33.0Dまで作製可能であるが,度数が大きいほど光学的欠点や重量が増すため,良好な装用状態を維持できるかどうかが問題となる.また,瞳孔間距離40mm未満または顔幅に比べて瞳孔間距離の狭い例では,レンズを内寄せして光学間距離を一致させるが,顔幅に比べて極端に瞳孔間距離が狭い例では作製がむずかしい.両眼先天白内障では全身症候群を伴う例が多いため,さまざまな顔面の特徴をもつ患児に対応した眼鏡の開発が望まれる.II強度屈折異常1.症例呈示患児:2歳,男児.主訴:右眼外斜視.現病歴:生後9カ月頃より右眼が外にずれていることが気になり近医受診.精査加療目的で紹介され初診となった.妊娠・出産に異常なし.既往歴,家族歴に特記すべきことなし.所見:瞳孔反応正常.左眼固視良好,右眼は角膜反射法で外斜視を呈していたが,カバー・アンカバーテストで斜視を検出せず,左眼を遮閉すると嫌悪反応がみられた.前眼部・中間透光体に異常なし.眼底検査にて右眼に牽引乳頭を認め,左眼にもごく軽度であるが牽引乳頭を認めた.また両眼とも周辺部網膜に全周にわたる無血管野を認めた.全身麻酔下検査を実施,両眼とも眼底周bca32歳男児,牽引乳頭に伴う強度近視a:右眼眼底所見,周辺部の線維組織に向かう高度の牽引乳頭を認める.b:左眼眼底所見,ごく軽度の牽引乳頭を認める.周辺部には全周にわたる網膜血管の走行異常と無血管野を認めた.c:眼鏡常用,右眼偽外斜視を呈している.———————————————————————-Page4738あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(14)無水晶体眼から強度近視・乱視まで,角膜混濁などの器質病変がある場合でも測定可能である.母親の腕や膝の上で正面を向かせ,自然に開瞼した状態を捉えて短時間で検査できるように,普段から習熟しておく必要がある.やむをえず開瞼器を使用する場合は乱視の混入に注意する.体動が少ない乳児では,手持ちオートレフラクトメータを用いると簡便に検査できる.しかし,測定範囲が限られており,調節の介入や乱視の混入が多い点,眼振や器質病変があると測定値がばらつき不正確である点に注意を要する.強度屈折異常に対する眼鏡処方は原則として図4のように大別している.乳児期に強度の遠視,遠視性乱視,遠視性不同視を認めた場合には,屈折異常弱視の予防のため眼鏡処方を検討する.内斜視のない場合には,調節麻痺剤として1%cyclopentolate点眼を用いることが多いが,強度遠視が疑われる場合は0.25%または0.5%アトロピン点眼による精密屈折検査が望ましい.乳幼児の平均屈折度は生後3カ月で+3.9D,1歳で+1.9D,2歳で+0.9Dと報告されている8).+5.0Dを超える遠視,+3.0Dを超える乱視がある場合は,縞視力(gratingacuity)や眼位を評価のうえ,完全矯正眼鏡を処方する9).両眼の強度の近視,近視性乱視の場合には,近方視で網膜への結像が起こるため遠視に比べて弱視を生じにくい.しかし,年齢とともに遠見障害が視空間認知や視覚に基づく行動の発達に影響を及ぼすため,2歳頃から眼鏡処方を検討する.必ず1%cyclopentolate点眼による調節麻痺下屈折検査を行う.4.0Dを超える近視,3.0Dを超える乱視がある場合は,近視は低矯正,乱断された(図3a,b).家族性滲出性硝子体網膜症が疑われるが,まだ両親の眼底検査は施行していない.眼球打撲に対する注意を促し,定期的に眼底検査を実施している.眼鏡の処方:1%cyclopentolate(サイプレジンR)点眼による調節麻痺下屈折検査を実施したところ,右眼5.5D,左眼6.0Dの近視を検出した.2歳のため眼前50cm1mに焦点を合わせて屈折矯正度数は右眼4.0D,左眼4.5D,瞳孔間距離は遠見で測定し48mmとして眼鏡を処方した.処方後の管理:すぐに眼鏡を好んで常用するようになり,装用状態は良好であった(図3c).牽引乳頭の左右差が著しいため,健眼遮閉による弱視治療は効果が少なく,むしろ遮閉時の眼球打撲などのリスクを考えて行っていない.眼鏡の効果:3歳になり初めて絵視力を測定したところ,眼鏡矯正下で両眼0.4,右眼0.2,左眼0.3と比較的良好な結果が得られている.2.解説このケースでは斜視の精査目的で受診し眼底疾患が発見されたが,乳幼児期に視反応不良,眼位異常,眼振はもとより,他のさまざまな主訴にて来院した際にも,散瞳下の眼底検査,調節麻痺剤を使用した精密屈折検査は必ず施行しておきたい.一方,明らかな症状がない場合でも,乳児期に強度の屈折異常が検出された際には,しばしば器質的疾患が背景にあるため,前眼部から眼底周辺部まで詳細に観察すべきである.強度屈折異常を伴う代表的な疾患を表1に示す.乳児の屈折検査は検影法(skiascopy)が基本である.乳児期の強度屈折異常器質的眼疾患はないか近視性不同視器質病変(+)予後不良両眼強度近視強度近視性乱視両眼強度遠視強度遠視性乱視遠視性不同視乳児期から眼鏡弱視予防2歳頃から眼鏡図4強度屈折異常に対する眼鏡処方表1乳児期に強度屈折異常を伴う代表的疾患強度遠視・遠視性乱視小眼球,Leber先天黒内障,扁平角膜,角膜瘢痕,先天無水晶体症.強度近視・近視性乱視発達緑内障,水晶体偏位,小球状水晶体,円錐水晶体,球状角膜,分娩外傷,角膜混濁,未熟児網膜症,網膜有髄神経線維,先天停止夜盲,Stickler症候群,Marfan症候群,Ehlers-Danlos症候群.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009739(15)による精密屈折検査を実施したところ,両眼に+3Dの遠視を検出した.家族と相談し,完全矯正眼鏡(瞳孔間距離39mm)を処方した.処方後の管理:家族の協力により,はじめから眼鏡を嫌がらずに掛けられ,装用状態は良好であった(図5b).眼鏡フレームのフロントサイズが小さくなったため,生後9カ月時に眼鏡を再処方した.眼鏡の効果:生後6カ月未満発症の大角度の内斜視であったが,眼鏡装用を開始して1カ月後には眼鏡装用下で眼位正位となった.非装用下では左眼内斜視となる.両眼の外転制限は徐々に改善している.2.解説乳児期に眼位異常をきたした場合,放置すると両眼視機能の発達が困難となる.特に生後34カ月は立体視の感受性が高いため11),早期発症内斜視(生後6カ月までに発症)では,迅速な診断と眼位矯正が必要である.このケースでは当初外転神経麻痺を疑い,精査,交代遮閉訓練を実施,早期手術も念頭に置いていたが,完全矯正眼鏡の常用にて眼位は正位となった.生後420週における20Δ以上の内斜視を追跡調査した近年の多施設研究では,小角度,変動する内斜視や,+3.0D以上の遠視を伴う例では自然治癒する可能性もあると指摘されている12,13).しかし,内斜視が遷延する際には,調節性要因の関与を疑い,完全矯正眼鏡を手術に先立って装用させるのが原則である.調節性内斜視のなかには生後4カ月で発症する例もあることが知られている14).視は原則として完全矯正にて眼鏡を処方する.不同視差が5.0D以上の強度近視性不同視の場合,器質病変が潜在しており眼鏡を処方しても予後不良のことが多い.屈折度が10.0D以内で,眼底後極部の萎縮病変がなく,顕性斜視のない例では眼鏡を処方し,健眼遮閉による弱視治療を試みる10).たとえ両眼に重篤な視覚障害をきたす器質的疾患があっても,残存視機能の発達と活用を促すために,強度屈折異常を検出し,適正な眼鏡を処方する必要がある.視距離に合わせた近見矯正とするのがコツである.III早期発症内斜視1.症例呈示患児:生後5カ月,女児.主訴:内斜視.現病歴:生後2カ月頃より左眼が寄り目になることに気づいた.その後右眼も寄るようになった.精査加療目的で紹介され初診となった.妊娠・出産に異常なし.既往歴として心室中隔欠損があり経過観察されている.発達正常.家族歴に特記すべきことなし.所見:瞳孔反応正常.左右眼とも固視良好であったが交代視しており,Krimsky法にて50Δの内斜視を検出した(図5a).両眼に外転制限を認めた.前眼部・中間透光体・眼底に異常なし.散瞳下の屈折検査にて両眼に+4Dの遠視を検出した.神経内科で精査,頭部MRI(磁気共鳴画像)を施行したが異常なし.1日30分の交代遮閉訓練を行ったが外転制限は残存し,斜視角は不変であった.眼鏡の処方:生後7カ月時に0.25%アトロピン点眼ab図55カ月女児,早期発症内斜視a:初診時眼位,内斜視50Δ.b:生後8カ月,完全矯正眼鏡装用にて正位.非装用時は内斜視.———————————————————————-Page6740あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(16)8)山本節:小児遠視の経年変化と眼鏡矯正.眼紀35:1707-1710,19849)WrightKW:Visualdevelopmentandamblyopia.In:WrightKW,SpiegelPH(ed):PediatricOphthalmologyandStrabismus2nded,p157-171,Springer-Verlag,NewYork,200310)大野京子:強度屈折異常.丸尾敏夫(編):眼科診療プラクティス27,p166-170,文光堂,199711)FawcettSL,WangYi-Z,BirchEE:Thecriticalperiodforsusceptibilityofhumanstereopsis.InvestOphthalmolVisSci46:521-525,200512)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Theclinicalspectrumofearly-onsetesotropia:Experienceofthecon-genitalesotropiaobservationalstudy.AmJOphthalmol133:102-108,200213)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Spontaneousresolutionofearly-onsetesotropia:Experienceofthecongenitalesotropiaobservationalstudy.AmJOphthal-mol133:109-118,200214)CoatsDK,AvillaCW,PaysseEAetal:Early-onsetrefractiveaccommodativeesotropia.JPediatrOphthalmolStrabismus35:275-278,1998文献1)仁科幸子:乳児の眼鏡.あたらしい眼科24:1141-1144,20072)LambertSR,LynnMJ,ReevesRetal:IstherealatentperiodforthesurgicaltreatmentofchildrenwithdensebilateralcongenitalcataractsJAAPOS10:30-36,20063)矢ヶ﨑悌司,粟屋忍,高良俊武ほか:術前に眼振が認められた先天白内障早期手術例の予後.眼臨87:342-349,19934)山本節:小児眼内レンズ挿入症例の長期観察.眼科手術13:39-43,20005)LambertSR,LynnM,Drews-BotschCetal:Acompari-sonofgratingvisualacuity,strabismus,andreoperationoutcomesamongchildrenwithaphakiaandpseudophakiaafterunilateralcataractsurgeryduringtherstsixmonthoflife.JAAPOS5:70-75:20016)仁科幸子:小児白内障手術と術後視力.あたらしい眼科23:19-24,20067)AzumaN,MotomuraK,HamaYetal:Earlyvitreoussurgeryforaggressiveposteriorretinopathyofprematuri-ty.AmJOphthalmol142:636-643,2006

臨床に役立つ眼鏡レンズの知識

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSこの後側頂点屈折力の測定にはレンズメータを使用する.現在ではレンズ当てにレンズを置くだけで値が表示されるオートレンズメータの普及が著しいが,マニュアル式レンズメータにはオートレンズメータにない機能,たとえばレンズ表面のあらさや結像性能を実際に眼で直接確認できるので有用である.ただ,接眼鏡をのぞく望遠式の場合は,測定の際に測定者の眼の調節が影響しないように,測定前に接眼スリーブを一旦引き出してからレチクルにピントを合わせるという視度合わせを行うとともに,測定するときは常にマイナス度数からプラス度数側に一方向に測定ハンドルを回転させて,ターゲットのピント合わせを行うなどのノウハウを必要とし,多少手数がかかる.ところで,レンズの屈折力測定は実際に眼に作用する屈折力を測定することが原則であるが,そのためにはレンズの装用状態を再現して測定することが不可欠である.レンズメータのレンズ当てに載せたときにこの装用状態が再現できるのは,一般にはレンズの光学中心位置および枠入れのときの心取り点で測定したときだけに限られる(図1A).一般に光学中心で測定しなければならない理由はここにある.2.レンズ周辺部における屈折力測定眼鏡レンズが頭部に固定されているのに対して眼球は回旋することから,眼を振ったときの視線はレンズの周辺部を通過する.このときレンズの後側頂点にあった基はじめに出来上がった眼鏡の良し悪しは,装用する人自身の印象からなる「視界の見え」,「掛け心地」,「見栄え」などで判断される.近年の眼鏡レンズの製品動向といえば,まずこれらに対する改善が進められてきたことがあげられる.なかでも高屈折率プラスチック材料の普及や,ゆるいカーブの非球面レンズの普及によって,比較的強度の屈折度数までその表示度数を感じさせない薄く軽いレンズが供給可能となり,「掛け心地」,「見栄え」の改善に役立っている.また,フリーフォーム加工装置の普及により,累進面に代表される自由曲面が短時間に精度よく加工できるようになり,さらに最適化や個別設計などの手法の導入によって,個々の装用者に合わせて性能を向上させる新設計の累進屈折力レンズ(以下,累進レンズと略す)が提案されている.本稿では,広く一般的に使用されるようになった非球面レンズと累進レンズに絞り,特性と概要を述べる.I眼鏡レンズの光学特性―球面レンズと非球面レンズ1.眼鏡レンズの屈折力測定と収差眼鏡レンズの屈折力は,レンズの後側頂点から後側焦点までの距離f(メートル単位)の逆数1/fで求められる,いわゆる後側頂点屈折力で表すことになっている.単位は[m1],記号はD(ジオプトリー)を使用する.(3)727Fmiksiン1408601163ン特集●眼鏡ケーススタディあたらしい眼科26(6):727733,2009に役立つ眼鏡レンズの識SurveyofRecentSpectacleLensesforCorrection高橋文男*———————————————————————-Page2728あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(4)図2の表はこのm像面とs像面の差で表される非点収差の値である.この表から,球面設計のレンズはゆるいカーブのレンズほど非点収差が大きく,等価球面度数が強度側に変化することがわかる.また,ここでは図示していないが歪曲収差(ディストーション)もカーブがゆるいレンズほど大きくなる.一方,プラスレンズの場合は符号が逆になるだけで同様の傾向を示し,カーブのゆるいレンズほど非点収差が大きくなり,その等価球面度数の像面はプラス強度に傾くようになる.このように球面設計のレンズで非点収差を削減するにはレンズカーブをきつくしなければならないが,きついカーブのレンズは厚さが増して見栄えが劣ることから,準点の軌跡は,回旋点を中心にした半径25mmの球面となる(図1B).なお,この25mmは国内で慣用としている値で,海外では27mm前後の値を使用している.このような測定を実現するには,この基準球面にレンズ当てが接した状態で測定できるように,眼鏡レンズを空中に保持するための何らかの機構が必要であるが,一般には供給されていないためむずかしい.仮にそのような機構を組み込んだとして眼に作用する屈折力を測定するには,FOA方式のレンズメータが望ましい.このときの屈折度数F¢は基準球面から結像位置までの距離f¢の逆数1/f¢で求められる値となるが,レンズ周辺部を通る光線は一般に非点収差が発生しているため,次項3.で示すような像面度数で考えることになる.3.レンズカーブとレンズの性能図2は,sph6.00Dの球面設計のレンズでレンズカーブを3Dとびに変化させて,回旋角を変化させたとき,実際に眼に作用する屈折力をグラフにしたものである.非点収差が存在するため,ここではメリディオナル(m)像面とサジタル(s)像面の相加平均の値,すなわち等価球面度数をプロットしたものである.カーブのゆるいレンズほど等価球面度数が強めに傾斜してしまい,仮にこのsph6.00Dが処方度数ならレンズ周辺部で見たときは過矯正の度数レンズとして作用することになる.AB25mm図1眼鏡レンズの屈折力測定フィッティングポイントが光学中心または測定基準位置に一致する場合は,Aに示す測定でよいが,フィッティングポイントが測定基準位置と一致しない場合や,レンズ周辺部の屈折力を測定する場合には,Bに示す配置で実際に眼に作用する屈折度数を測定する.なお,台形の枠はレンズメータのレンズ当てを示す.00-8-7.5-7-6.5-6-5.5-5-4.5縦軸:眼球回旋角度(?)横軸:屈折度数(D)Es-3/-3Es-0/-6Es+3/-9Es+6/-12Es+9/-1510102020303040403/-90/-6-3/-39/-156/-126/-123/30/6+3/9+6/12+9/1540°4.321.820.500.200.5530°1.970.990.360.030.2620°0.760.430.180.010.1010°0.180.100.050.010.020°0.000.000.000.000.00図2球面設計レンズの等価球面度数(D)と非点収差(D)本例ではカーブの組み合わせ(前面カーブ/後面カーブ)のなかで,(+6/12)が最小の非点収差を示しているが,等価球面度数としては周辺部で弱度側に傾いてしまう.一方,(+3/9)の組み合わせは非点収差が増加するものの,等価球面度数は周辺部まで表示度数の6.00Dに最も近い値になる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009729(5)きてレンズの体積を小さくできる.強度レンズほど,またレンズ径が大きいほど効果が大きい(図3).一方,高屈折率プラスチック材料は,屈折率と比重の比例係数がガラス材料の1/6と小さいため,いっそうの軽量化が期待できる.②ゆるいカーブのレンズ面を非球面化すると,プラスレンズは中心厚を,マイナスレンズは縁厚を削減できる方向に働くことから,結果としてよりスリムな形状となり軽くすることができる.これら①と②を組み合わせるとその効果が増す.図4はこの効果を示したものである.③薄型軽量化には小さい眼鏡フレームを選ぶことが効果的である.現在流行している小さいフレーム化はこの意味で有効である.ただし,プラス度数のレンズでは眼鏡枠より大きなレンズ径を使用すると不要な厚さが残る.フレームに最適な口径のレンズを提供できればレンズの余分な厚さが削減できることになる.このために外径指定やフレームパターンの選択で特注することが可能になっている.ほかに,フレームの形状をオンラインで測定して玉刷り加工まで行う特注システムが稼動している.最適な厚さに仕上がるばかりでなく,左右のレンズのバランスをとるなどして,そのまま枠入れ可能な状態カーブをゆるくする方策が模索されてきた.カーブをゆるくしたときに発生する非点収差を非球面化で削減する方法が実用化されたことによって,きついカーブのレンズから解放された.4.非球面レンズの光学特性と検眼レンズ,処方プリズムゆるいレンズカーブのレンズ面を非球面にして非球面係数を変化させたとき,発生する非点収差は図2にきわめて類似している.性能を重視した非球面レンズとして,図2のたとえば(+6/12)のように非点収差を削減することができるが,レンズ周辺部における等価球面度数も同様に弱めになることから,眼には表示度数より弱めの屈折度数のレンズとして作用することになる.ゆるいカーブで作られた球面設計のレンズを長年装用してそれに慣れた人が,新しく掛け替えた非球面レンズに違和感を覚えることがある.それは光学特性に大きな差があるためで,装用し続けることでレンズに慣れると問題なく使うことができるようになる.一方,図2からわかるように,断面形状が両凸(3/3)や平凸(0/6)形状の検眼レンズの場合,表示度数通りの性能が保障されるのは,視線がレンズ光学中心を通るように正確に調整されているときに限られ,前傾角などの許容範囲は狭い.このことから非球面レンズの使用が想定される場合の屈折測定には,メニスカスタイプの検眼レンズの使用が望まれる.なお,非球面レンズの場合は,光学性能を重視するため処方プリズムは特注でプリズム加工を行い,球面設計レンズのように偏心処理では行わない.5.レンズの薄型化と軽量化掛けやすく見栄えが良い眼鏡にするには,眼鏡レンズを薄く軽くすることが効果的である.この目的のために,①高屈折率レンズ,②非球面レンズ,③小さい眼鏡フレーム,特注加工などを選択する方法がある.①高屈折率材料を使用すると,同じ曲率半径の屈折面でも面屈折力を大きくする効果がある.同じ屈折度数レンズでは曲率半径をゆるくできる分,レンズの厚さ(プラスレンズは中心厚,マイナスレンズは縁厚)が削減でSph-6D50f70fn=1.8n=1.550fSph+6D図3材料の屈折率とレンズ断面形状レンズ材料の屈折率を1.501.90まで,0.10刻みに変えたときsph±6.00Dのレンズ断面形状.sph6.00Dは前面,sph+6.00Dは後面の曲率半径が同一.レンズ径が大きいほど高屈折率材料を使用する効果は高い.———————————————————————-Page4730あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(6)計」であった.しかし,レンズ面の一部に大きな非点収差が発生するために使いにくく慣れにくい,使えるようになるにもかなりの時間,努力を要するものであった.その後,閉じ込めていた非点収差をレンズ面に薄くばらまくという「ソフトタイプの設計」によって,常用タイプに分類される累進レンズでも最大非点収差を,加入屈折力にほぼ等しい値まで削減させることができるようになって,慣れやすく使いやすいものとなり現在に至っている.とは言うものの,累進レンズを使いこなすにはある程度の慣れが必要である.初めての累進レンズの装用で加入度数が2.00Dを超えるような場合は,レンズの光学特性とともに年齢的な適応力の低下もあって慣れにくい傾向にある.また,累進レンズを使いたいという欲求が累進レンズを使い続けてそのハードルを越えさせる原動となって届くものである.II累進レンズの光学特性と種類1.設計および製造加工技術の進歩遠近の境目がない老視用の累進レンズは,見栄えが良いこともあって年頃の方の関心をひくレンズである.累進レンズの累進面は,レンズ面の中央下部に曲率半径が変化する領域を設けたレンズである.曲率半径の異なる球面の断面を上下につなぐと中心部ではつながっても周辺部では段差が生じる.しかも,この曲率半径を細かく分割して順につないで,それぞれの段差が小さくなっても滑らかな面につながることはない.累進レンズはこの段差を無理やりつないだものなので,結像に貢献する光学面にはできずに,非点収差が残る領域になる.この累進面を数学的に解析したMink-witz1)によれば,非点収差の発生量は,加入屈折力が加わる方向と垂直に,加入屈折力の勾配の2倍の勾配になるという(図5).この法則に従えば,非点収差を削減するには加入屈折力の勾配を小さくすることであるが,それには累進帯を長くしなければならない.眼球の回旋角にも限度があり,遠用部に対して見やすい位置で近用部を使おうとすると,累進帯の長さも自ずと決まってしまうために究極の解決策とはならない.しかし,この法則は遠中重視累進レンズや中近累進レンズ,近々累進レンズなどの新しい製品に生かされている.一方,初期の累進レンズは発生した非点収差をレンズ面の一部の狭い領域に閉じ込めて,できるだけ非点収差のない球面領域を広くするという「ハードタイプの設Sph+6D70(65)f4.48.65.75.715.2屈折率ne=1.74屈折率ne=1.50実線:非球面レンズ破線:球面レンズ16.6g19.4g20.1g(65f)/21.5g(70f)31.4g/26.2g10.18.68.6Sph-6D70f35035図4高屈折率材料使用と非球面化による薄型軽量化の効果Sph±6.00Dのレンズの断面形状を示す.1.50の球面レンズに比べると改善効果は大きい.2b≒a5Minkwitzの法則レンズ面に累進帯を設けることで,その子午線(YY)とは垂直方向(XX)に加入度数勾配bの2倍の非点収差aが発生する.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009731(7)ためのフィッティング測定器なども開発されている.現在までに提案された新しい累進レンズを図6に示す.レンズは前面後面2面だけなので,考えられる組み合わせがほぼ出揃ったといえる.なお,累進レンズの遠用部のレンズカーブは,一般に上述した非球面レンズと同様に,ゆるいカーブが採用されている.この場合,原理的には非球面成分を加えて非点収差を削減している.3.二重表記累進レンズのカスタマイズや最適化などで光学性能を高めようとしたときに課題となるのが,レンズの屈折力測定である.高性能をうたうこれら累進レンズは,装用したときに視線が通過するところで処方度数になるようにレンズ面を設計する.一方,屈折力測定ではレンズメータのレンズ当てに載せるため,実際の視線と測定の光線とではレンズを透過する方向が異なり,測定した屈折度数が処方度数に一致しないという事態が発生する.これは,測定基準位置がレンズのフィッティングポイントに一致していないことに起因している.この解決のために,レンズ袋には処方度数のほかに従来からの測定方法でレンズを測定したときの値も併記している.このような表示を二重表記とよんでいる(図7).4.アライメント基準マーク累進レンズのレイアウトと枠入れ調整に使う基準マークには,ペイントで描かれた一時的マークとレンズ上に描かれた永久マークの2種類ある.永久マークには図8力となっているので,この欲求が低いと早々に使用を中止する可能性もある.若い世代であれば適応力も高く必要な加入度数も小さいので,難なくクリアできることになる.この若い時期から装用を目的としたものではないが,老視にはまだ早い30代で疲れ目を自覚する人向けに,最弱度加入屈折力の累進のレンズを単焦点レンズ感覚で装用してもらって,疲れ目を少しでも軽減しようとする製品が商品化されている.最弱度の加入屈折力なので,発生する非点収差はレンズ全面にわたり許容値を下まわっているため,装用当初からほとんど違和感なく装用できる.2.最適化,カスタマイズ化ガラス材料の時代に比べて,プラスチックレンズは母型を使った成型法が可能となり,累進面のような自由曲面の製造加工の難度がある程度改善されたが,それでもあらかじめ累進面を成型して半製品の形で在庫することが一般的であった.しかし,近年になって旋盤加工装置を原理とした高速で精度の高いフリーフォーム加工装置が普及したことで,特注のように納期が厳しいレンズであっても注文を受けてから累進面を加工して納入することが可能となった.このフリーフォーム加工装置と光学設計を組み合わせることで,最適化設計やカスタマイズとよばれるような,個々の装用者に特有な各種パラメータをできるだけ設計に取り込んで,掛けやすく性能の高いレンズを供給する動きが出て,一部ですでに製品化されている.その外面累進レンズ内面累進レンズ両面複合累進レンズ両面設計累進レンズ線で示した部分は累進面または累進要素をもった面を表す遠用部近用部縦方向累進要素横方向累進要素度数面を表す中間累進帯図6新累進レンズ従来,レンズ前面に累進面を,後面に乱視面という外面累進レンズが主流であったが,新しい高精度な加工装置の開発に成功して内面累進レンズが登場した.その後,自由曲面加工が短時間でできるフリーフォーム加工装置が普及したことから,両面複合累進レンズや両面設計累進レンズなどが製品化された.内面累進レンズの前面は球面もしくは非球面で後面は累進面と乱視面を合成した面になる.両面複合累進レンズは,前面が縦方向の累進要素で後面が横方向の累進要素と乱視面の合成となる.両面設計累進レンズは,前面が累進面で後面には累進要素を含んだ収差フィルター面と乱視面を合成した面となる.———————————————————————-Page6732あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(8)近用部に発生するプリズム屈折力が左右レンズで異なり上下プリズム差が生じる.左右眼の度数差が大きくなると上下プリズム屈折力差も大きくなり,近用部で長時間の両眼視がむずかしくなる.残念ながら,現状では累進レンズの近用部に発生する上下プリズム差をコントロールすることができないため,左右眼で度数差が大きい不同視眼に累進レンズは適していない.に示すように,34mm離れて描かれた2つの水平基準マークを基準にして,この中点が累進帯の子午線になる.ほかに,品種などの識別用のマークや加入度数などが記載されている.ペイントマークはフィッティングポイントのほか,各部の測定基準位置などが描かれている.累進帯の長さは遠用フィッティングポイントから近用参照円の上辺までの距離で,累進帯の長さに違いをもたせた製品の場合には,この図のように両方併せて表示する場合もある.このペイントマークは枠入れ後消去されるので,消えてしまった後でこれら位置を再現するには,図8のようなアライメントシールを使う.累進レンズを枠入れするときに芯取り点となり基準となるのは,フィッティングポイントである.遠用部が存在する累進レンズの場合は,これを遠用瞳孔間距離に一致させる.中近累進レンズや近々累進レンズのように遠用部が明確でない累進レンズ場合は,中間視距離でのフィッティングポイントか近用視でのフィッティングポイントが指示されているほかに,遠用のフィッティングポイントを参考に描いている製品もあるので,どれかに合わせてアライメントすることになる.累進レンズは,他の多焦点レンズと同様に,1枚の遠用度数のレンズに近用部を設けていることから,一般にフィッティングポイントを外れると,遠用度数に応じたプリズム屈折力が発生する.左右眼で度数差があると,①遠用参照円中心を通る視線の方向②遠用度数測定光線の方向(FOA方式,2面当て)図7累進レンズの二重表記測定基準位置がフィッティングポイントから離れているため,上述した装用状態を再現して測定することが必要であるが,一般にはむずかしいため,従来からの通常の測定値を併せて表示している.単単単単本図8累進レンズのマークとアライメントシール一時的マークが消されると永久マークだけが頼りとなる.各位置を正確に再現するには製品ごとに準備されているアライメントシールを使用して確認する.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009733おわりに「掛けていることを忘れるような眼鏡」が,理想の眼鏡といわれている.はるか彼方の目標で実現は覚束ないものの,現状を紹介した.ほかに表面処理やその分光特性などを含めて,いろいろな機能をもつレンズが製品化されている.なかでも撥油コートとよばれる防汚加工が実用化されたことによって,汚れにくく拭きやすいレンズが製品化されてレンズの取り扱いが格段に楽になっていることもあり,眼鏡を掛ける人の使用環境や状況に合わせて最適なレンズを選択していただきたい.また,希望する付加機能が選択した製品の標準装備になくても,別途特注可能になっているものもあるので,各社の窓口などに確認願いたい.一方,ファッション業界に委ねられているフレームであるが,最近流行している小さいフレームが眼鏡の軽量化に効果的で「掛け心地」の改善にも貢献してくれている.しかし,小さくなった分だけ視界も狭くなるために,もろ手を挙げて歓迎できることでもない.流行にとらわれることなく選択して欲しいものである.文献1)MinkwitzG:UberdenFlachenastigmatismusbeigewis-sensymmetriscenAspharen.OptActa10:223-227,1963(9)語解FOA方式:レンズメータの測定方式には,マニュアル式に代表されるFOA(FocusonAxis)と多くのオートレンズメータが採用しているIOA(InnityonAxis)とよばれる2つの方式が存在する.両者は,光学中心位置で測定するときには基本的に同一の値となるが,プリズム屈折力が加わるレンズ周辺位置での測定になると,測定光線の方向の違いなどに起因して微妙な差異が生ずることがある.レンズカーブ:一般にはレンズ面の面屈折力を指す.屈折面の曲率半径をr(m),屈折率をnとすると,面屈折力Sは,S=(n1)/rで求めることができる.記号はジオプトリー(D)で,カーブ(C)を使うこともある.「ゆるいレンズカーブ」とは曲率半径が大きな面の面屈折力を指し,零カーブは平面を指す.ベースカーブは,ある度数範囲を同じベースカーブで共通化させたとき,その共通化させたカーブを指す.非球面:頂点から周辺にかけ曲率が連続的に変化する回転面の一部.(JIST7330眼鏡レンズの用語から)補足)一般には球面以外の面形状をすべて非球面と称しているが,眼鏡レンズの分野に限り,回転対称な面を非球面としている.メリディオナル(m)像面,サジタル(s)像面:非点収差が存在するレンズは,レンズの直径方向の主経線屈折力によってできるメリディオナル像面と,レンズ円周方向の主経線屈折力によってできるサジタル像面に結像する.それぞれの主経線の方向に対して互いに垂直な方向に直線の像ができる.これを焦線とよび,先の基準円から各焦線までの距離(メートル)の逆数が各像面度数となり,その差が非点収差度数となる.等価球面度数:非点収差が残ったレンズや乱視屈折度数をもつレンズで,直交するそれぞれの主経線方向の屈折力PHとPVの平均値PE=(PH+PV)/2.または,PE=Sph+Cyl/2である.無限遠からの平行な光束はこの等価球面度数によって示される位置に円形に収束し,最小の面積に収束することから,最小錯乱円または最良像面ともよばれている.

序説:眼鏡の臨床

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSいる.そこで,この時期には眼鏡が的確であるかを調べるのに検影器を使ったオーバーレフラクションが威力を発する.小学校の低学年では裸眼視力1.0未満でも近視とは限らず,1/3くらいは遠視であるので,必要に応じて調節麻痺薬の点眼や雲霧法を取り入れての屈折検査を行う.近年オートレフラクトメータが使われているが,この正しい使い方にも精通することが大切である.中学,高校にかけて近視は増加傾向にあり,高校生では裸眼視力1.0未満の90%以上が近視である2).近業が近視の発生・進行に関係することから小中学生に累進屈折力レンズを装用させる試みもある3).近視の眼鏡は近視の進行を考えて低矯正眼鏡が好んで使われている.成人になってから近視になったり,近視が進行したりする成人発生近視や成人進行近視が世界的に問題になっている4).この原因はコンピュータの使用が関与するとの推察があるが不明である.近業により調節のヒステレーシスが起こるとか近業により成人でも眼軸が延長するとの報告もある5).いずれにしても成人の眼鏡処方でも調節緊張の分を除いて過矯正にならない眼鏡処方が必要である.乱視は20歳前後までは直乱視が増加し続けるが20歳を過ぎると減少しはじめ,40歳前後から直乱視より倒乱視が増加する傾向にある6).そこで,眼鏡処方にあ屈折の矯正手段には眼鏡,コンタクトレンズ,眼内レンズ(有水晶体眼内レンズ),屈折矯正手術などがあるが,眼鏡は簡便さ,安全性,矯正精度の高さから屈折異常や老視の矯正手段として広く使われている.そして,最近の眼鏡レンズの進歩は著しい.材料ではプラスチック,高屈折率レンズ;レンズデザインではレンズの非球面化,内面トーリック,内面累進レンズの遠近両用レンズなどである.プラスチックレンズは傷がつきやすいといわれていたが,コーティング技術の進歩によりガラスレンズと差がなくなりつつある.年齢による屈折状態の推移は乳児期には軽い遠視であるが,徐々に正視に近づき小学生になると屈折度分布曲線の頂点は正視になり,小学校高学年から中学,高校になると近視が多くなる.その後,高齢になると軽い遠視化が起こる1).乳幼児,学童期は眼球の成長期で眼軸の延長に対して,水晶体屈折力は減少し正視を保つように働くが,このバランスが崩れると屈折異常が起こる.視力発達の感受性期は68歳といわれている.この時期までに外界の物体が網膜に明瞭な像を結ばないと弱視になる可能性がある.そこで,発達期にある乳幼児の屈折異常には適切な眼鏡を装用させ明瞭な像が網膜に結ぶようにしなければならない.この時期には成長とともに眼軸は延長し,これに伴い屈折状態は常に変化して(1)725●序説あたらしい眼科26(6):725726,2009眼鏡の臨床ClinicalKnowledgeofSpectacles所敬*———————————————————————-Page2726あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(2)ある.そこで,快適な生活を送るには適切な眼鏡を処方できる知識が必要であると同時に,視機能発達過程での眼鏡処方に関しての知識ももたなければならない.今回の「眼鏡ケーススタディ」では,まず,臨床に役立つ眼鏡レンズの知識に次いで乳児,幼小児,小学生,中学生,高校生,成人,高齢者と年齢を追って眼鏡について症例を交えた臨床に直結した記載と,最後に眼精疲労に配慮した眼鏡処方が記載されている.この特集によって,あらゆる年齢層での眼鏡処方の全貌が理解できると思う.文献1)桐沢長徳,浜志津子:眼屈折度数分布曲線の年齢的差異.日眼会誌47:886-889,19432)目の屈折力に関する調査研究委員会報告(平成3年度).p1-38,日本学校保健会,19923)HasebeS,OhtsukiH,NonakaTetal:Eectofprogres-siveadditionlensesonmyopiaprogressioninJapanesechildren:aprospective,randomized,double-masked,crossovertrial.InvestOphthalmolVisSci49:2781-2789,20084)所敬:近視の発生時期による分類.あたらしい眼科19:1123-1129,20025)McBrienNA,AdamsDW:Alongitudinalinvestigationofadult-onsetandadult-progressionofmyopiainanoccu-pationalgroup.Refractiveandbiometricndings.InvestOphthalmolVisSci38:321-333,19976)神谷貞義,西信元嗣,魚里博ほか:新しい視点からみた学校近視解析.その7キヤノン・オートケラトによる角膜乱視とニデック・オートレフによる全乱視の乱視軸ならびに乱視度の比較.眼紀37:88-96,1986たって乱視の軸の変化には注意が必要である.このように乱視の軸が変化するのは加齢とともに眼瞼圧が減少することが原因と考えられる.最近は高齢化時代といわれ65歳以上の人口は増加傾向にある.老視人口である45歳以上の総人口に対する割合も増加し,人口の約半数が老視になっている.人生80年の時代には老視での生活は人生の約半分である.Qualityofvision(QOV)時代に如何に老視に対処するかは重要な問題である.単焦点の老眼鏡のほかに,遠近両用の多焦点レンズ(二重焦点レンズ,三重焦点レンズ)や累進屈折力レンズがある.二重焦点レンズ,三重焦点レンズは遠用部と近用部との間にある境界線から敬遠され,継ぎ目のない累進屈折力レンズが使われている.累進屈折力レンズは現在300種類以上あり用途によって選択できる.すなわち,遠方も近方も見える標準型,遠方から中間距離まで見えるゴルフ用,中間距離から近方が見える室内用,近方から一寸遠くが見えるコンピュータ用などの種類のレンズがある.累進屈折力レンズには遠用部から近用部にかけて屈折力が徐々に変化する累進帯をもっているが,最近は眼鏡枠の小型化に伴って累進帯が短く9mmのものもできてきている.累進屈折力レンズにはいろいろな種類があるが,うまく使えない人もいて,最近ではオーダーメイドの累進屈折力レンズも売り出されている.このように,屈折異常はなくても眼鏡は,人生のうちで必ず一度は視力矯正用として使用する用具で

MNREAD- Jk読書速度調査―未就学児の読書の特性―

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(135)7150910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(5):715719,2009cはじめに今日,子どもたちの多くは小学校入学前に平仮名の読み書きが可能となっている.子どもたちは生活のなかで文字に関連した活動に参加し,遊びのなかで文字の読み書きを自然と覚える13).しかし,視覚障害児は視的経験の不足から意図的に文字学習を行う必要がある.視覚障害児の就学にあたっては望ましい学習環境を整えるために,就学前に十分な視機能の評価がされる必要がある.読書は学童期の学習の基礎となるが,未就学児に関する研究は少ない4).視覚障害が学習に与える影響を知るためには正常視覚児の読書傾向を把握する必要がある.今回筆者らは,正常視覚の未就学児に対して読書速度の測定を行い,成人の読書傾向と比較し,未就学児の読書に適する文字サイズについて若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,保育園検診において視力障害がなく,近見視力1.0以上で情緒障害をもたないと保育園側で判断された年長児48名のうち,平仮名の音読ができ検査可能であった40名(以下,未就学児群),年齢5歳1カ月6歳4カ月,男児〔別刷請求先〕石井雅子:〒950-2076新潟市西区上新栄町5-13-3新潟医療技術専門学校視能訓練士科Reprintrequests:MasakoIshii,OrthoptistCourse,NiigataCollegeofMedicalTechnology,5-13-3Kamishinei-cho,Nishi-ku,Niigata-shi,Niigata950-2076,JAPANMNREAD-Jk読書速度調査―未就学児の読書の特性―石井雅子*1,2樺沢優*2張替涼子*2阿部春樹*2*1新潟医療技術専門学校視能訓練士科*2新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野InvestigationofMNREAD-JkReadingRate─TendenciesinPreschoolChildren’sReadingPerformance─MasakoIshii1,2),YuuKabasawa2),RyokoHarigai2)andHarukiAbe2)1)OrthoptistCourse,NiigataCollegeofMedicalTechnology,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduatedSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity視覚障害児の就学においては,学習環境の整備として視覚補助具や拡大教科書が必要となる.就学前にそれらの選定および客観的評価に役立てる目的で読書チャートMNREAD-Jkを用いて正常視覚の未就学児の読書速度を測定し,読書速度と文字サイズについて成人の読書傾向と比較した.その結果,最大文字サイズでの読書速度を読書効率100%とすると成人では臨界文字サイズまでは読書効率は一定に保たれるが,未就学児では文字サイズが小さくなるに従って読書効率が次第に低下し,成人の読書傾向とは異なっていた.このことから未就学児の読書においても臨界文字サイズより大きい文字が読書に適しており,その大きさの選択には成人以上に検討が必要である.Toacceptvisuallyimpairedchildrenatschool,thelearningenvironmentmustbeequippedwithvisualaids,larger-fonttextbooksetc.Fortheselectionandobjectiveevaluationofsuchequipmentbeforeitsuseinschool,weusedthereadingchartMNREAD-Jktoassessthereadingrateofpreschoolchildrenwithnormalvision,andcom-paredtheirreadingrateandlettersizewiththoseinadults.Withthereadingrateusingthemaximumlettersize(55.39point)denedas100%readingeciency,thereadingeciencyinadultsremainedxeduntillettersizewasreducedtoathreshold,whereasinpreschoolchildrenthereadingeciencydeclinedwithdecreaseinlettersize.Thelettersizethatwaslargerthanthecriticalthresholdoflettersizeforpreschoolchildrenwassuitableforreading.Forpreschoolchildren,lettersizeismoreimportantthanitisforadults.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):715719,2009〕Keywords:未就学児,MNREAD-Jk,文字サイズ,読書効率.preschoolchildren,MNREAD-Jk,lettersize,readingeciency.———————————————————————-Page2716あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(136)22名,女児18名である.なお,調査を行った保育園では特別な文字学習指導は行われていない.検査に先立ち,あらかじめ検査内容について保護者に説明し同意を得た.測定は,はじめに練習用チャートを使用して方法を十分に理解させたうえで実施した.MNREAD-Jkの黒文字/白背景チャート(以下,通常チャート),白文字/黒背景チャート(以下,反転チャート)の2種類のチャート(図1)を用いて,読書速度を測定した.測定条件は,書見台を用いて視距離30cmとし,両眼開放の状態とした.大きな文字サイズから小さな文字サイズへ1ブロックごとに順にできるだけ速く正確に音読するよう指示し,読みに要した時間と読み間違えた文字数を記録した.文字サイズと読みに要した時間と誤読文字数より,読書能力を評価するパラメータである最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力を算出し,筆者らの自験データ5)である眼疾患がなく遠見・近見視力1.0以上の20歳の学生40名(以下,20歳成人群),年齢20歳1カ月20歳10カ月,男性16名,女性24名の読書のパラメータと比較した.II結果1.読書能力の評価(表1)読書能力を評価する最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力を算出した.通常チャートにおいて,最大読書速度は,未就学児群では96.59文字/分,20歳成人群は359.13文字/分であった.臨界文字サイズは未就学児群では0.20logMAR(4.40pt),20歳成人群は0.01logMAR(2.84pt)であった.読書視力は未就学児群では0.04logMAR(3.04pt),20歳成人群は0.18logMAR(1.83pt)であった.反転チャートにおいて,最大読書速度は,未就学児群では98.06文字/分,20歳成人群は374.97文字/分であった.臨界文字サイズは未就学児群では0.24logMAR(4.82pt),20歳成人群は0.09logMAR(3.41pt)であった.読書視力は未就学児群では0.09logMAR(3.41pt),20歳成人群は0.12図1MNREAD-Jk読書チャート上段:通常チャート(黒文字/白地),下段:反転チャート(白文字/黒地).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009717(137)logMAR(2.11pt)であった.最大読書速度は,両群とも通常チャートより反転チャートのほうが速く,臨界文字サイズおよび読書視力は,両群とも通常チャートより反転チャートのほうが大きかったが,統計学的有意差は認められなかった(pairedt-test).2.文字サイズと読書速度(図2)通常チャートにおいて,未就学児群では0.20logMAR(4.40pt)より大きい文字サイズではほぼ一定の読書速度を示し,0.20logMAR(4.40pt)付近を境に速度の低下がみられた.20歳成人群では0.00logMAR(2.78pt)より大きい文字サイズではほぼ一定の読書速度を示し,0.00logMAR(2.78pt)付近を境に急激な速度の低下がみられた.反転チャートにおいて,未就学児群では最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)よりなだらかに速度が低下し急激な速度の低下はみられなかった.20歳成人群では0.20logMAR(4.40pt)より大きい文字サイズではほぼ一定の読書速度を示し,0.20logMAR(4.40pt)付近を境に急激な速度の低下がみられた.両群とも読書速度には個人差が大きかった.3.文字サイズと読書効率(図3)最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)での読書速度を読書効率100%とし,各文字サイズでの読書効率を示した.通常チャートにおいて,未就学児群では読書速度は最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)が最も速く,徐々に読書効率が低下し0.20logMAR(4.40pt)より急激な低下がみられた.臨界文字サイズ0.20logMAR(4.40pt)での読書効率は75%であった.20歳成人群では最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)よりも小さな文字サイズで読書効率が向上し0.20logMAR(4.40pt)より急激な低下がみられた.臨界文字サイズ0.01logMAR(2.84pt)付近での読書効率は95%であった.反転チャートにおいて,未就学児群では読書速度は最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)が最も速く,小さな文字サイズになるに従い徐々に読書効率が低下した.臨界文字サ表1読書能力の評価最大読書速度臨界文字サイズ読書視力未就学児群n=4020歳成人群n=40未就学児群n=4020歳成人群n=40未就学児群n=4020歳成人群n=40平均(文字/分)分散平均(文字/分)分散平均(logMAR(pt*))分散平均(logMAR(pt*))分散平均(logMAR(pt*))分散平均(logMAR(pt*))分散通常チャート96.591988.40359.132907.580.20(4.40)0.020.01(2.84)0.010.04(3.04)0.010.18(1.83)0.00反転チャート98.062121.98374.973546.410.24(4.82)0.040.09(3.41)0.010.09(3.41)0.010.12(2.11)0.00*換算値ポイントサイズpt=tan(10logMAR値×5/60)×1,908最大読書速度………文字サイズが適当な場合に得られる最も速い読書速度:個人差が大きい.臨界文字サイズ……効率よく読める文字サイズの最小値:視機能により大きく左右される.読書視力……………読むことのできる最小文字サイズ:ほぼ近見視力に匹敵する.〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕?〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕0100200300400500600読書速度(文字/分)通常チャート反転チャート文字サイズlogMAR〔pt〕文字サイズlogMAR〔pt〕◆:未就学児群n=40平均±標準偏差■:20歳成人群n=40平均±標準偏差●:臨界文字サイズ◆:未就学児群n=40平均±標準偏差■:20歳成人群n=40平均±標準偏差●:臨界文字サイズ0100200300400500600読書速度(文字/分)図2文字サイズと読書速度———————————————————————-Page4718あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(138)イズ0.24logMAR(4.82pt)付近での読書効率は50%であった.20歳成人群では最大文字サイズ1.30logMAR(55.39pt)よりも小さな文字サイズでわずかに読書効率が向上し0.60logMAR(11.05pt)まで変動がみられるものの,ほぼ最大文字サイズと同様の読書効率であるが,0.60logMAR(11.05pt)より徐々に読書効率が低下し,0.20logMAR(4.40pt)より急激な低下がみられた.臨界文字サイズ0.09logMAR(3.41pt)付近での読書効率は78%であった.両群とも通常チャートより反転チャートにおいて文字サイズが小さくなると読書効率が低下した.未就学群では,20歳成人群に比べ臨界文字サイズでの読書効率が低かった.III考按視覚障害児の就学では,教科書が効率よく読めないことから学習に支障をきたす可能性があり,教科書を拡大する視覚補助具や各々の見え方に合わせた拡大教科書が必要となる.視覚補助具の処方や拡大教科書の申請にあたっては,読書検査の結果を基にアドバイスすることが望ましい6).視覚補助具は就学前に十分な指導を行い,学習に対応できるようにしておく必要がある.拡大教科書は,製作に時間を要するため,原則として就学の半年前までに市町村教育委員会に申請することとなっている.これらの理由から今回の未就学児の調査は就学前の5月から9月にかけて行った.MNREAD-Jkは,幼児の語彙の研究7)から,多くの幼児が共通して使用している284語からランダムに単語を組み合わせて作成されている.用いられる品詞は名詞,動詞,形容詞に限定されている.日本語の音節は比較的単純で,平仮名との対応がよく,ほぼ発音の自然な区切りが文字に対応している.MNREAD-Jkは,音読により読書を評価する自覚的検査であるが,平仮名を覚えたばかりの幼児においても比較的,検査の難易度が低く,今回の調査では,未就学児の83%が検査可能であった.最大読書速度は,未就学児,成人ともに個人差が大きかった.読書速度は知的発達,学習経験などに影響され,未就学児では,文字への関心および文字学習の完成度に大きく左右されると推測される.正常視覚児の読書傾向を知ることは,視覚障害が文字への関心および文字学習に与える影響を類推する手がかりとなる.文字サイズが読書速度に与える影響を知る目的で,MNREAD-Jkチャートにおける最大文字サイズでの読書速度を読書効率100%と定義した.未就学児では成人に比べて小さな文字サイズでの読書効率が低かった.文字学習は小学校入学後に急速に進む.学習開始時に適切な大きさの文字で学習を進めることは重要であり,就学前に読書を評価することは意義がある.正常視覚では通常チャートに比べ反転チャートで読書速度が向上したものの有意差はみられなかった.視覚障害者の読書では視表面の白い反射が読書のパフォーマンスを低下させ白黒反転が有用であるという報告8)があり,視覚障害児の文字学習には反転チャートの利用も考慮する必要がある.MNREADにおいて効率よく読める最小の文字の大きさとされている臨界文字サイズは,読書速度が急激に低下する一つ手前の文字サイズであり,読書にとって重要な指標である.〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕?〔55.39〕〔43.99〕〔34.94〕〔27.75〕〔22.04〕〔17.51〕〔13.91〕〔11.05〕〔8.78〕〔6.97〕〔5.54〕〔4.40〕〔3.49〕〔2.78〕〔2.20〕〔1.75〕〔1.39〕〔1.10〕通常チャート反転チャート◆:未就学児群n=40平均■:20歳成人群n=40平均●:臨界文字サイズ◆:未就学児群n=40平均■:20歳成人群n=40平均●:臨界文字サイズ020406080100120140文字サイズlogMAR〔pt〕020406080100120140文字サイズlogMAR〔pt〕95%75%50%78%最大文字サイズを100%とした場合の読書効率(%)最大文字サイズを100%とした場合の読書効率(%)図3文字サイズと読書効率———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009719(139)筆者らの先行研究5)では小学生の臨界文字サイズは成人とほぼ等しく,学年による差がなかったことより,視覚正常の学童においては文字の大きさが読書効率に与える影響は成人と同様と考えた.しかし,今回の調査では,未就学児の臨界文字サイズは成人と比べて大きかった.また,読書速度を文字サイズ別に測定すると,成人では比較的大きな文字サイズでは読書速度は一定であるが,文字を次第に小さくしてゆくと,ある文字サイズで急激に読書速度が低下する.小学生では,ほぼ成人と同様の読書傾向をとる.未就学児においても,成人,小学生と同様に最も急激に読書速度が低下する一つ手前の文字サイズを臨界文字サイズとして算出できた.しかし,文字サイズが小さくなるに従って読書速度が緩やかに低下するため,はっきりとしたプラトーが得られない(図4).視覚発達の未熟性および高次大脳機能の未熟性に起因すると思われる.視覚においては,視対象が空間的に互いに接近すると認知成績が低下する読み分け困難9,10)とよばれる現象が生じる.文字サイズが小さくなることによる読み分け困難が幼児の読書に影響を及ぼす.また,文字を読むという過程は高次大脳機能の神経機構が関与しており11),小さな文字サイズになるに従い,文字の視覚的記憶から語の聴覚的記憶への変換が遅れることが考えられる.本稿の要旨は,第105回新潟眼科集談会にて発表した.文献1)HomanSJ:Playandtheacquisitionofliteracy.TheQuarterlyNewsletteroftheLaboratoryofComparativeHumanCognition7:89-95,19852)柴崎正行:幼児は平仮名をいかにして覚えるか.保育の科学,p187-199,ミネルヴァ書房,19873)内田伸子:発達心理学─ことばの獲得と教育.p185-204,岩波書店,19994)東洋:幼児期における文字獲得過程とその環境的要因の影響に関する研究.平成46年度科学研究費補助金研究報告書,19955)石井雅子,張替涼子,阿部春樹:MNREAD-Jk読書速度調査.日視会誌35:147-154,20066)石井雅子,張替涼子,阿部春樹:就学にあたり読書検査をおこなった6例の検討.日視会誌37:179-186,20087)藤友雄暉:幼児における語彙の発達的研究.北海道教育大学紀要31:71-79,19808)LeggeGE,RubinGS,SchleskeMM:Contrastpolarityeectsinlowvisionreading.LowVisionPrinciplesandApplications(edbyWooG),p288-307,SpringerVerlag,Berlin,19879)丸尾敏夫,粟屋忍(編):視能矯正学.p214-215,金原出版,200310)川嶋英嗣,小田浩一:字詰まり効果と読書困難.第7回視覚障害リハビリテーション研究発表大会論文集,p125-128,199811)岩田誠:読み書きの脳機構.第18回日本生体磁気学会論文集16:6-7,2003***文字サイズ読書速度成人小学生未就学児(大)(小)(遅)(速)図4年齢層別による文字サイズと読書速度のシェーマ

インターフェロン-γおよびリポ多糖による併用刺激処理したヒト水晶体上皮細胞株SRA 01/04における過剰産生一酸化窒素の細胞膜Ca2+-ATPase遺伝子発現に対する影響

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(129)7090910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(5):709713,2009c〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,SchoolofPharmacy,KindaiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPANインターフェロン-gおよびリポ多糖による併用刺激処理したヒト水晶体上皮細胞株SRA01/04における過剰産生一酸化窒素の細胞膜Ca2+-ATPase遺伝子発現に対する影響長井紀章*1伊藤吉將*1,2臼井茂之*3平野和行*3*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2同薬学総合研究所*3岐阜薬科大学薬剤学研究室EectofEnhancedNitricOxideProductiononPlasmaMembraneCa2+-ATPaseExpressioninHumanLensEpithelialCellLineSRA01/04TreatedwithCombinationofInterferon-gandLipopolysaccharideNoriakiNagai1),YoshimasaIto1,2),ShigeyukiUsui3)andKazuyukiHirano3)1)SchoolofPharmacy,2)PharmaceutialResearchandTechnologyInstitute,KindaiUniversity,3)LaboratoryofPharmaceutics,GifuPharmaceuticalUniversity本研究はヒト水晶体上皮由来細胞株SRA01/04(HLE細胞)を用いインターフェロン-g(IFN-g)およびリポ多糖(LPS)併用刺激により誘導される誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)が細胞膜Ca2+-ATPase(PMCA)遺伝子発現に与える影響について検討を行った.HLE細胞では4種類のPMCAアイソフォーム(PMCA1,2,3および4)のうちPMCA1および4のみの発現が確認された.iNOS遺伝子発現を介した過剰な一酸化窒素(NO)産生がみられるIFN-g1,000IU/ml)およびLPS(100ng/ml)の併用処理を行ったところ処理時間に従ってPMCA1および4両遺伝子発現量が増加し,この増加は処理後6時間以降18時間まで未処理群と比較し顕著に上昇した.これらIFN-g,LPS併用刺激によるPMCA1および4両遺伝子発現量の上昇はiNOSの選択的阻害薬であるアミノグアニジン(250μM)を添加することで有意に抑制された.さらに,PMCA1および4両遺伝子発現量の上昇はNO産生量と高い相関関係を示した.以上の結果からHLE細胞においてiNOS誘導を介したNOの過剰産生はPMCA1および4両遺伝子発現量増加をひき起こすことを明らかとした.WeinvestigatedthechangesinplasmamembraneCa2+-ATPase(PMCA)mRNAexpressioninhumanlensepithelialcelllineSRA01/04(HLEcell)followingtreatmentwithinterferon-gamma(INF-g,1,000IU/ml)andlipopolysaccharide(LPS,100ng/ml),whichinduceinduciblenitricoxidesynthase(iNOS)expression.PMCAhasseveralisoforms(PMCA1-4);PMCA1and4mRNAwereexpressedintheHLEcell.PMCA1and4mRNAexpressionlevelsintheHLEcellwereincreasedwithdurationofincubationwithINF-gandLPS.Furthermore,aminoguanidine,aselectiveinhibitorofiNOS,attenuatedtheincreaseinexpressionofPMCA1and4mRNA.AcloserelationshipwasobservedbetweenPMCA1and4mRNAexpressionandNOproduction.Inconclusion,thepresentstudydemonstratedthatexcessiveproductionofNObyiNOSmaycauseincreasedPMCA1and4mRNAexpressionintheHLEcell.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):709713,2009〕Keywords:ヒト水晶体上皮細胞,細胞膜Ca2+-ATPase,一酸化窒素,白内障,アミノグアニジン.humanlensepithelialcell,plasmamembraneCa2+-ATPase,nitricoxide,cataract,aminoguanidine.———————————————————————-Page2710あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(130)はじめに白内障とは水晶体が白く混濁するすべての現象をいい,現在日本において最も多いのが加齢白内障である1).この加齢白内障のおもな発症機構として,紫外線などにより誘導される酸化的ストレスが水晶体上皮細胞に傷害を与えることで細胞内恒常性が破綻をきたし水晶体Ca2+量上昇をひき起こす2,3).この水晶体中Ca2+上昇はCa2+依存性蛋白分解酵素であるカルパインを活性化し,これにより,クリスタリン蛋白質が分解・凝集され水晶体が白く混濁するという報告がなされている2,3).このように,水晶体混濁には水晶体中Ca2+量の変化が大きな役割を果たしていると考えられる.筆者らは遺伝性白内障モデル動物を用いたこれまでの研究で,この水晶体中Ca2+量上昇に誘導型一酸化窒素(iNOS)由来一酸化窒素(NO)の過剰産生が関与することを明らかとした4).したがって,過剰なNO産生は水晶体上皮細胞においてCa2+制御機構の崩壊をひき起こすことが示唆された.これら水晶体Ca2+量の調節には,細胞内のATP(アデノシン三リン酸)を駆動力とし細胞内から細胞外へとCa2+を汲み出す細胞膜Ca2+-ATPase(PMCA)が知られているため5),このPMCAの障害が水晶体Ca2+量の上昇に関与することが予想された.しかしこれらの予想に反し,ヒト水晶体上皮細胞において水晶体Ca2+量上昇の要因とされる過剰な一酸化窒素産生はCa2+-ATPase活性の増加をひき起こした6).iNOSの選択的阻害薬であるアミノグアニジン(AG)の投与により,このCa2+-ATPase活性の増加は強く抑制された7,8).したがって,ヒト水晶体における詳細なNOと水晶体中Ca2+制御機構の関わりを明らかとすることは,白内障発症機構解明を進めていくうえできわめて重要であると考えられた.ヒト白内障発症機構解明に関する研究を進めていくうえで培養細胞の使用は有効である.しかし,ヒトからの正常水晶体上皮細胞は入手することが非常に困難であり,個々間でばらつきがみられる.一方,HLE細胞はヒト由来であり,世代によるばらつきが少ないため基礎研究において使用されている.筆者らも,これまでの研究で水晶体上皮の基礎研究に有効であることを報告している6).そこで今回,ヒト水晶体上皮由来細胞株SRA01/04(HLE細胞)9)におけるPMCAアイソフォームの存在を確認するとともに,iNOS誘導能が知られるインターフェロン-g(IFN-g)およびリポ多糖(LPS)併用刺激がHLE細胞中PMCA遺伝子発現へ与える影響について検討を行った.I対象および方法1.HLE細胞培養および薬物処理実験HLE細胞は10%ウシ胎児血清を含むDMEM(Dulbecco変法Eagle培地)(GIBCO社製,東京,日本)を用い37oC,5%CO2条件下で80%コンフルエンスになるまで培養した.薬物処理実験では80%コンフルエンス状態のHLE細胞にIFN-g(終濃度1,000IU/ml,PeproTech社製,ロンドン,UK)を添加し1時間インキュベーションを行った.その後,LPS(終濃度100ng/ml,シグマ・ケミカル社製,東京,日本)を添加し,それぞれ618時間インキュベーションを行った後,細胞を回収した.AG(終濃度250μM,ナカライテスク社製,京都,日本)処理はLPS添加12時間後にそれぞれを添加し,その6時間後に細胞の回収を行った.2.PMCA遺伝子発現量の測定0,6,12,18時間IFN-gおよびLPSにて併用処理したHLE細胞をスクレイパーにて回収を行った.この回収したHLE細胞をRNeasyminkit(QIAGEN社製,東京,日本)を用いてtotalRNAを抽出し,oligodTプライマー(宝酒造社製,京都,日本)と逆転写酵素(宝酒造社製,京都,日本)を用い1μgのtotalRNAからcDNAを合成した4).合成したcDNAに各遺伝子特異的プライマーを加え,TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造社製,京都,日本)を用いpoly-merasechainreaction(PCR)反応を行った.PCR条件はdenaturation(94oC,30s),annealing(62oC,30s),exten-sion(72oC,45s)で30または35cycle行い,プライマーは以下のものを用いた.5¢-ACTGAGTCTCTCTTGCTTCGGAAAC-3¢および5¢-ACGAAATGCATTCACCACTCG-3¢(PMCA1),5¢-ACAGTGGTACAGGCCTATGTCG-3¢および5¢-CGAGCCGTGTTGATATTGTCG-3¢(PMCA2),5¢-CACACTGGTCAAAGGGATTATCG-3¢および5¢-AGAGCTGCATCATGACGAACG-3¢(PMCA3),5¢-GTTCTCCATCATCCGAAACGG-3¢および5¢-CAAGCATCCAAGTGCCGTACTAG-3¢(PMCA4),5¢-CATCACCATCTTCCAGGAGCGAGA-3¢および5¢-CCACCACCCTGTTGCTGTAGCCA-3¢(glyceraldehydes-3-phosophatedehydroge-nase:GAPDH).PCR増幅産物はアガロースゲル電気泳動を行いエチジウムブロマイドにより染色し,写真撮影を行った.得られた結果はハウスキーピング遺伝子であるGAPDHに対する比として表した.3.NO産生量の測定0,6,12,18時間IFN-gおよびLPSにて併用処理したHLE細胞の培地をNO測定に用いた.回収した培地にエイコム社製マイクロダイアリシスプローブ(A-1-20-05,5mmlength)を浸し,酸化窒素分析システムENA-20(エイコム社製,京都,日本)にて水晶体中NO量を測定した.本研究でのNO産生量は,NO2とNO3の総和として表した.4.総蛋白質量の測定回収した細胞の総蛋白質量はBradfordの方法10)に従いBio-RadProteinAssayKit(Bio-RadLaboratories社製,CA,USA)を用いて測定した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009711(131)5.細胞内Ca2+含量の測定未処理およびIFN-gおよびLPSにて併用処理したHLE細胞を,冷Ca2+,Mg2+-freebuer(NaCl145mM,KCl5mM,NaHCO35mM,4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazine-ethanesulfonicacid(HEPES)15mM,Tris8mM,EDTA0.5mM,pH7.4,290mOsm)にて洗浄し,スクレイパーにて細胞の回収を行った.回収した細胞に等張緩衝液(mannitol10mM,HEPES5.75mM,Trisbase6.25mM,pH7.4)を添加しホモジナイズ後,遠心分離(1,500rpm,10min)により上清を採取した.この得られた上清を用い細胞内Ca2+量の測定を行った.細胞内Ca2+含量の測定にはカルシウムE-テストワコー(Wako社製,大阪,日本)を用い,総蛋白質量当たりの量として表した.II結果1.HLE細胞におけるPMCAアイソフォームの発現図1にはPCR法を用い,HLE細胞におけるPMCAアイソフォーム(PMCA1,2,3および4)遺伝子発現について示した.HLE細胞において4種類のPMCAアイソフォーム(PMCA14)のうちPMCA1および4が強く発現していることが確認されたが,PMCA2および3遺伝子発現は認められなかった.2.HLE細胞へのIFNg,LPS併用刺激がCa2+制御機構へ及ぼす影響図2にはHLE細胞へのIFN-g,LPS併用処理がPMCA1および4遺伝子発現へ与える影響について示した.iNOS遺12345図1HLE細胞におけるPMCA遺伝子発現1:PMCA1,2:PMCA2,3:PMCA3,4:PMCA4,5:マーカー.0.00.21.01.20.40.60.8PMCA1/GAPDH0.00.21.01.20.40.60.8PMCA4/GAPDH*p0.005,vs.Controln=4~5*p<0.005,vs.Controln=4~5Control18hr6hr12hrTreatmentwithIFN-g(1,000IU)andLPS(100ng/m?)Control18hr6hr12hrTreatmentwithIFN-g(1,000IU)andLPS(100ng/m?)PMCA4PMCA1***図2HLE細胞へのIFNg,LPS併用刺激によるPMCA遺伝子発現量の経時的変化Control0.00.21.01.20.40.60.8PMCA1/GAPDH0.00.21.01.20.40.60.8PMCA4/GAPDH*p<0.005,vs.Control**p<0.005,vs.TreatmentwithIFN-gandLPSn=4~5*p<0.005,vs.Control**p<0.005,vs.TreatmentwithIFN-gandLPSn=4~5******IFN-g(1,000IU)LPS(100ng/m?)IFN-g(1,000IU)LPS(100ng/m?)AG(250?M)ControlIFN-g(1,000IU)LPS(100ng/m?)IFN-g(1,000IU)LPS(100ng/m?)AG(250?M)図318時間IFNg,LPS併用刺激によるPMCA遺伝子発現量の変化とAGによる影響———————————————————————-Page4712あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(132)伝子発現およびNOの誘導がみられるIFN-g,LPS併用処理することでPMCA1および4両遺伝子発現量の増加が認められ,PMCA1では処理後18時間で,PMCA4では処理後12時間以降18時間まで未処理群と比較し有意に上昇した.このIFN-g,LPS併用刺激によるPMCA1および4両遺伝子発現量および細胞内Ca2+含量の上昇は選択的iNOS阻害薬であるAGを添加することで有意に抑制された(図3).さらに,IFN-g,LPS併用処理によるNO産生量とPMCA1および4遺伝子発現量には高い相関関係が認められた(図4).III考按水晶体混濁には水晶体中Ca2+量の変化が大きな役割を果たしていることが考えられる.筆者らはこれまで遺伝性白内障モデルUPLラットにおいて,iNOS由来の過剰なNO産生がこの水晶体中Ca2+量上昇に関与することを明らかとした4).さらに選択的iNOS阻害薬として知られるAGを遺伝性白内障モデルラットへ経口投与することで水晶体中Ca2+量の上昇および混濁化を強く抑制することも報告した7,8).また,白内障患者では正常人と比較し水晶体中NO量の増加が報告されており11),ヒトにおいてもNO産生量は水晶体中Ca2+量と密接に関わることが示唆された.しかしながら,水晶体中Ca2+量調整に重要なPMCA発現とNOの関係については未だ明らかとされていない.そこで今回,ヒト水晶体上皮細胞であるHLE細胞9)を用い,iNOS誘導がPMCAへ与える影響について検討を行った.PMCAには複数のアイソフォームが存在し,臓器によりその発現が異なることが報告されている5,12).本研究では始めに,HLE細胞中のPMCAアイソフォーム(PMCA14)遺伝子発現に関する検討を行った.HLE細胞では4種類のPMCAアイソフォーム(PMCA14)のうちPMCA2および3遺伝子発現は認められず,PMCA1および4のみが強く発現していることが確認された.そこでつぎにiNOS由来NO過剰産生がこれらPMCA1および4遺伝子発現量へ与える影響について検討を行った.iNOS遺伝子発現を誘導する生理活性物質はIFN-g,IL(インターロイキン)-1,TNF(腫瘍壊死因子),LPSなど数多く知られている13).これまでの報告から,iNOS遺伝子発現にはinterferon-gammaactivat-edsite(GAS)やnuclearfactorkappaBが関与し,これらはIFN-gおよびLPS刺激によって活性化することが知られている14,15).筆者らもすでに12時間以上IFN-gおよびLPSにより併用刺激を行ったHLE細胞にて,iNOS遺伝子発現およびNO産生が有意に上昇することを明らかとし報告している6).そこで本研究では,iNOS由来NO産生誘導にIFN-g,LPS併用処理を用いた.このNO産生の誘導がみられるIFN-g,LPS併用処理により,PMCA1および4両遺伝子発現量の増加が認められた.Bartlettらは水晶体中へのCa2+流入量増加はCa2+-ATPaseの増加をひき起こすことを報告している16).本研究においても,PMCA遺伝子発現量の有意な上昇がみられた12時間IFN-g,LPS併用処理時に,細胞内Ca2+含量の上昇が認められた(未処理群;1.83±0.34,12時間IFN-g,LPS併用処理群;6.94±1.52μmol/mgpro-tein,n=6).したがって,これらIFN-g,LPS併用刺激によるPMCA遺伝子発現誘導にはCa2+流入量増加が関与するものと示唆された.さらに,IFN-g,LPS併用刺激によるPMCA1および4両遺伝子発現量の上昇は選択的iNOS阻害薬AGをiNOSおよびNOの上昇が開始する12時間の時点で添加することで抑制され,PMCA遺伝子発現とNO産生量間で高い相関関係が認められた.これらの結果から,ヒト水晶体上皮細胞内でiNOS由来のNO過剰産生時にはPMCA1および4遺伝子発現の誘導が起こり,細胞内Ca2+量の制御が行われるものと示唆された.以上の結果はヒト培養細胞を用いたinvitro実験系のものであるが,筆者らは遺伝性白内障UPLラットにおいても39日齢において急速なNO上昇に伴った水晶体混濁を認めており,同時にPMCA遺伝子発現上昇という現象を報告しており,実際の生体内においてもこれらの作用機構により水晶体中Ca2+制御が行われるものと十分考えられる.一方,このラットにおいて長期にわたるiNOS由来の過剰なNO産生は,ミトコンドリアの電子伝達系終末にあたるチトクロムcオキシダーゼ活性低下によるATP産生低下をひき起こし,PMCA機能不全が起0.00.20.40.60.81.01.2PMCA1/GAPDHPMCA4/GAPDH0.00.20.40.60.81.01.2y=0.2478x+0.3513r=0.97430.00.51.01.52.02.53.0y=0.3853x+0.117r=0.9701NOrelease(nmol/106cells)0.00.51.01.52.02.53.0NOrelease(nmol/106cells):Control:6hr:12hr:18hr:Control:6hr:12hr:18hr図40,6,12,18時間IFNg,LPS併用刺激時におけるPMCA遺伝子発現量とNO量の関係———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009713(133)こることも明らかとしてきた4).したがって,初期の過剰なNOによるCa2+上昇はPMCA1および4遺伝子により制御されるが,長期にわたるNO過剰産生は細胞内ATPの枯渇を招きPMCA機能停止により最終的にはCa2+上昇をひき起こすことが示唆された.現在,筆者らはiNOS由来NOによるヒト水晶体上皮細胞でのCa2+恒常性破綻をより明確にするため,HLE細胞へのIFN-g,LPS併用処理時間増加がチトクロムcオキシダーゼへ与える影響について解析を行っているところである.以上,本研究ではHLE細胞において4種のPMCAのうち,PMCA1および4が発現していることを明らかとした.また,iNOS誘導能を有するIFN-g,LPS併用刺激がPMCA1および4両遺伝子発現量増加をひき起こすことを明らかとし,このPMCA遺伝子発現量上昇が急速なNO過剰産生を介したCa2+恒常性破綻の結果として誘導される可能性を示唆した.このように,白内障発症以前の段階で関与する因子がヒト水晶体へ与える影響を明確にしていくことは,白内障発症機構解明を進めていくうえできわめて重要であると考える.文献1)HardingJJ:Cataract;biochemistry,epidemiologyandpharmacology.ChapmanandHall,London,19912)ShearerTR,DavidLL,AndersonRSetal:Reviewofsel-enitecataract.CurrEyeRes11:357-369,19923)SpectorA:Oxidativestress-inducedcataract:mecha-nismofaction.FASEBJ9:1173-1182,19954)NagaiN,ItoY:AdverseeectsofexcessivenitricoxideoncytochromecoxidaseinlensesofhereditarycataractUPLrats.Toxicology242:7-15,20075)CarafoliE:TheCa2+pumpoftheplasmamembrane.JBiolChem267:2115-2118,19926)NagaiN,LiuY,FukuhataTetal:Inhibitorsofinduciblenitricoxidesynthasepreventdamagetohumanlensepi-thelialcellsinducedbyinterferon-gammaandlipopolysac-charide.BiolPharmBull29:2077-2081,20067)InomataM,HayashiM,ShumiyaSetal:InvolvementofinduciblenitricoxidesynthaseincataractformationinShumiyacataractrat(SCR).CurrEyeRes23:307-311,20018)NabekuraT,KoizumiY,NakaoMetal:DelayofcataractdevelopmentinhereditarycataractUPLratsbydisul-ramandaminoguanidine.ExpEyeRes76:169-174,20039)IbarakiN,ChenSC,LinLRetal:Humanlensepithelialcellline.ExpEyeRes67:577-585,199810)BradfordMM:Arapidandsensitivemethodforthequantitationofmicrogramquantitiesofproteinutilizingtheprincipleofprotein-dyebinding.AnalBiochem72:248-254,197611)OrnekK,KarelF,BuyukbingolZ:Maynitricoxidemole-culehavearoleinthepathogenesisofhumancataractExpEyeRes76:23-27,200312)KeetonTP,BurkSE,ShullGE:Alternativesplicingofexonsencodingthecalmodulin-bindingdomainsandCterminiofplasmamembraneCa(2+)-ATPaseisoforms1,2,3,and4.JBiolChem268:2740-2748,199313)平田結喜:血管系におけるNO合成酵素とその制御.実験医学13:917-922,199514)LowensteinCJ,AlleyEW,RavalPetal:Macrophagenitricoxidesynthasegene:twoupstreamregionsmedi-ateinductionbyinterferongammaandlipopolysaccharide.ProcNatlAcadSciUSA.90:9730-9734,199315)XieQW,WhisnantR,NathanC:Promoterofthemousegeneencodingcalcium-independentnitricoxidesynthaseconfersinducibilitybyinterferongammaandbacteriallipopolysaccharide.JExpMed177:1779-1784,199316)BartlettRK,BieberUrbauerRJ,AnbanandamAetal:OxidationofMet144andMet145incalmodulinblockscalmodulindependentactivationoftheplasmamembraneCa-ATPase.Biochemistry42:3231-3238,2003***

フーリエ変換波面パターン作製を用いたWavefront-guided LASIKの臨床効果

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(125)7050910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(5):705708,2009cはじめにレーザー屈折矯正手術の臨床成績の向上は,laserinsitukeratomileusis(LASIK)の技術的な進歩による寄与が大きい.球面度数と円柱度数と矯正するconventionalLASIK(C-LASIK)に加えて,レーザー照射時の眼球運動を追尾するトラッキング機能,さらに,患者眼がもっている収差を〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KazunoriMiyata,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANフーリエ変換波面パターン作製を用いたWavefront-guidedLASIKの臨床効果宮田和典*1加賀谷文絵*1子島良平*1宮井尊史*1尾方美由紀*1南慶一郎*1天野史郎*2*1宮田眼科病院*2東京大学大学院医学系研究科眼科学ClinicalOutcomesofWavefront-guidedLASIKUsingFourierTransformAblationPatternReconstructionKazunoriMiyata1),FumieKagaya1),RyoheiNejima1),TakeshiMiyai1),MiyukiOgata1),KeiichiroMinami1)andShiroAmano2)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,TheUniversityofTokyo目的:フーリエ変換を使ったwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusis(WF-LASIK)の視機能に対する効果を従来のconventionalLASIK(C-LASIK)と比べて,後向きに検討した.方法:C-LASIKを行った16例32眼(C群)とWF-LASIKを行った22例44眼(W群)の術後1,3,6カ月時の裸眼視力,屈折誤差,波面収差,コントラスト感度を比較検討した.波面収差は,6mm径全屈折における3次,4次,全高次のRMS(rootmeansquare)値を評価した.コントラスト感度は,縞コントラスト感度(CSV-1000,VectorVision)から求めたAULCSF(areaunderlogcontrastsensitivityfunction)と文字コントラスト(CSV-1000LC,VectorVision)で評価した.結果:裸眼視力,屈折誤差には両群間で差はなかった.収差は,術後全期間で3次,4次,全高次ともW群が有意に減少した(p<0.001).コントラスト感度は,AULCSFが術後3カ月でW群が有意に向上し(p=0.037),文字コントラストでも術後全期間で有意に良かった(p<0.05).結論:フーリエ変換を使ったWF-LASIKは,C-LAIKに比べて惹起高次収差を有意に低減し,より高いコントラスト感度が得られると考えられた.Weretrospectivelyexaminedtheimprovementinvisualfunctionbetweenwavefront-guidedlaserinsituker-atomileusis(WF-LASIK)usingFourierpatternreconstructionandconventionalLASIK(C-LASIK).In32eyesof16patientswhounderwentC-LASIKand44eyesof22patientswhounderwentWF-LASIK,wemeasureduncor-rectedvisualacuity(UCVA),refractionerror,wavefrontaberration(3rd,4thandhigherorders),andcontrastsen-sitivityat1,3,and6monthspostoperatively.Contrastsensitivityincludedareaunderlogcontrastsensitivityfunc-tion(AULCSF)ofCSV-1000(VectorVision)dataandlettercontrastsensitivityofCSV-1000LC(VectorVision).TherewasnodierenceinUCVAbutwavefrontaberrationinWF-LASIKwassignicantlylowertheninC-LASIK.TherewassignicantdierenceinAULCSFat3monthandlettercontrastforallpostoperativeperiods.WF-LASIKusingFourierpatternreconstructionsignicantlyreducedresidualhigh-orderaberrationandprovidedhighercontrastsensitivitythandidC-LASIK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):705708,2009〕Keywords:laserinsitukeratomileusis(LASIK),wavefront-guided,波面収差,コントラスト感度,エキシマレーザー.laserinsitukeratomileusis(LASIK),wavefront-guided,wavefrontaberration,contrastsensitivity,excimerlaser.———————————————————————-Page2706あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(126)Hartmann-Shackセンサーで測定し,矯正後の全収差を最小になるように矯正を行うwavefront-guidedLASIK(WF-LASIK)が開発され,広く臨床使用されている1).このWF-LASIKは,不正乱視症例への治療が可能となるだけでなく,C-LASIKでみられた高次収差の増加とコントラスト感度の低下2,3)の抑制も期待されている.波面収差データからカスタムメードの照射パターンを作製する処理においても,従来はZernike多項式に基づいて行われていたが,フーリエ変換を用いた方法が開発された4).汎用性が高いフーリエ変換を用いることで,精巧な照射パターン作製が可能となった5).これらの高度な技術が導入され,それによって臨床結果が向上すると期待できるが,実際に臨床結果を評価した報告は少ない6,7).本論文では,フーリエ変換を使ったWF-LASIKの臨床的な効果を従来のC-LASIKと比べて,後向きに検討した.I対象および方法対象は,2005年6月から2007年11月まで宮田眼科病院にてC-LASIKを行った16例32眼(C群)と,2007年5月から2008年1月までフーリエ変換アルゴリズムで照射パターンを作製しWF-LASIKを行った22例44眼(W群)である.両群の年齢,術前の屈折値,暗所瞳孔径は表1のとおりで,両群間に有意差はなかった.C群は術前の自覚屈折度数から正視狙いで矯正度数を決定し,W群は術前に波面収差をHartmenn-ShackセンサーWaveScan(AMO)で測定し,照射パターンを作製した.両群とも,マイクロケラトームMK-2000(ニデック)にて9mm径の吸引リング,160μmヘッドを用いて角膜フラップを作製した.エキシマレーザーVISXエキシマレーザーS4またはS4IR用いて,眼球トラッキング下で,opticalzone6mm径,transitionzone8mm径で照射を行った.レーザー切除量は,C群は56.4±19.6μm,W群は73.1±21.7μmとW群が有意に大きかった(p<0.01).術前,1週間,1,3,6カ月時に測定した,裸眼視力,自覚屈折誤差,波面収差,コントラスト感度を後向きに検討した.波面収差は,Hartmenn-Shackセンサーを有する波面収差センサーKR-9000PW(トプコン)で測定し,光学径6mmの全屈折における,球面様(Zernike4次),コマ様(Zernike3次),全高次収差のRMS(rootmeansquare)値を評価した8).コントラスト感度は,CSV-1000(VectorVision)で縞コントラスト感度を測定し,AULCSF(areaunderlogcontrastsensitivityfunction)を求めた.さらに,CSV-1000LV(VectorVision)で文字コントラスト測定し,正しく読解された文字数で評価した8).統計処理は,群間に対しては対応のないt検定,または,Mann-Whitney検定を行い,p<0.05を有意差ありとした.波面収差の群内の変化に対しては,Steel-Dwass多重検定を行った.結果は,平均±SDで表記した.II結果裸眼視力(図1)は,C群では術前平均0.05が術後1週間で1.54と回復し,6カ月まで安定していた.W群も同様に術前平均0.07が術後1週間1.60,6カ月時1.55と回復した.両群間では,術後1カ月のみW群が有意に大きかった(p=0.018,Mann-Whitney検定)が,それ以外では差がなかった.術後の屈折誤差は,C群では術後1週間で0.09±0.24で6カ月(0.25±0.38)まで安定していた.W群も同様に術後1週間(0.16±0.27)から6カ月(0.22±0.34)と安定していた.両群の間に有意な差はなかった.光学径6mmの全屈折の収差を図3に示す.3次のコマ様収差(図2a)は,両群とも術後に有意に増加したが,術後においてC群(1カ月時平均0.52μm)はW群(同0.33μm)に比べて有意に大きくなった.4次の球面様収差(図2b)も,両群とも術後に有意に増加したが,W群(1カ月時平均0.26μm)はC群(同0.48μm)に比べて有意に少なかった.全高次収差(図2c)は,両群とも術後に有意に増加したが,W群はC群に比べてその増加は有意に少なかった.両群とも術後1カ月から6カ月の間,各収差の値は有意な変動はなく,安定していた.縞コントラスト感度から求めたAULCSF(図3)は,術後3カ月でW群が有意に良くなっていた(p=0.037,t検定)が,術後1,6カ月で群間に差はなかった.各時の縞コントラスト(図4)では,術後1カ月では空間周波数6cpdのみW群が有意に良かった.3カ月後は,空間周波数6,12,18cpdでW群が有意に良くなった.6カ月後は群間のコント表1両群の年齢,術前の屈折値,暗所瞳孔径の術群群年齢±7.728.1±6.9矯正屈折量(D)5.5±1.94.7±1.7暗所瞳孔径(mm)5.2±0.65.3±0.82.01.51.00.50.0p<0.001:C-LASIK:WF-LASIK術前1週1カ月3カ月6カ月裸眼視力図1術前,術後1,3,6カ月の裸眼視力術後1カ月でW群が有意に良くなった(p<0.001,Mann-Whitney検定).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009707(127)ラスト感度の差は小さくなり,有意差はなくなった.文字コントラストは,術後全期間でW群が有意に大きくなった(図5).III考按WF-LASIKは,C-LASIKに比べて裸眼視力,屈折誤差に差はなく,高次波面収差(3次,4次,全高次)とコントラスト感度の向上がみられた.視力の改善という点では両LASIKは同等であった.WF-LASIKは,LASIK手術で惹起する高次収差がC-LASIKより少なく,その結果コントラスト感度が上がり2),視機能が改善することが確認された.しかし,WF-LASIKによる高次収差の抑制は全高次収差で0.3μm(RMS)程度で,コントラスト感度への寄与はそれほど多くなく,縞コントラスト感度検査では顕著にはみられなかった.明所に加えて,瞳孔径が大きくなる暗所での検討も必要と思われる.コントラスト感度向上の効果は,文字コントラストでは安定していたが,縞コントラスト感度は術後3カ月から6カ月(図4)で効果は小さくなっている.LASIK術後長期では,中心角膜厚の増加にみられる角膜のゆっくりした変化9)などにより,WF-LASIKの効果が減少する可能性が考えられる.C-LASIKは,フラップを作製しないPRK(photorefrac-tivekeratectomy)に比べて高次収差が増加する10).これは,角膜フラップの作製と照射による収差増加と考えられる7).1.00.80.60.40.20.0:C-LASIK:WF-LASIK:C-LASIK:WF-LASIK術前1カ月3カ月6カ月収差RMS(μm)a.全屈折6mm径コマ様収差1.00.80.60.40.20.0:C-LASIK:WF-LASIK術前1カ月3カ月6カ月収差RMS(?m)♯♯♯♯♯♯†††b.全屈折6mm径球面様収差1.21.00.80.60.40.20.0術前1カ月3カ月6カ月収差RMS(?m)c.全屈折6mm径全高次収差図2光学径6mmの全屈折収差(RMS)の変化a:3次のコマ様収差,b:4次の球面様収差,c:全高次収差.†:p<0.001群間のt検定.#:p<0.05群内でのSteel-Dwass多重比較.2.52.01.51.0p=0.024p=0.037:C-LASIK:WF-LASIK術前1カ月3カ月6カ月AULCSF図3AULCSFの変化術後3カ月のみでW群が有意に向上(t検定).2.52.01.51.00.50.02.52.01.51.00.50.02.52.01.51.00.50.02.52.01.51.00.50.0:C-LASIK:WF-LASIK3cpd6cpd12cpd18cpd3cpd6cpd12cpd18cpd3cpd6cpd12cpd対数コントラスト対数コントラスト対数コントラスト対数コントラスト18cpd3cpd6cpd12cpd18cpd術前コントラスト術後1カ月コントラスト術後3カ月コントラスト術後6カ月コントラストp=0.045p=0.011p=0.002p=0.002p=0.047図4術前,術後1,3,6カ月時の縞コントラスト感度p値はt検定で有意差ありの場合のみ表示.2524232221201918p=0.011p=0.007p<0.001:C-LASIK:WF-LASIK術前1カ月3カ月6カ月文字コントラスト(文字数)図5文字コントラスト感度の変化p値はt検定で有意差ありの場合のみ表示.———————————————————————-Page4708あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(128)Pallikarisらの報告11)では,鼻側角膜フラップ作製によって高次収差(6mm径)は術前RMS値0.344±0.125μmから作製後0.440±0.221μmに増加し,球面収差(Z40)とヒンジ軸に沿ったコマ収差(Z31)が変化した.WF-LASIKにおける術後1カ月の高次収差は0.46±0.12μmであり,フラップ作製後の高次収差とほとんど同じであった.このことから,フーリエ変換を使ったWF-LASIKでは,照射による高次収差の増加は良好に減少していると考えられた.フーリエ変換を用いたWF-LASIKの高次収差を抑制する効果をより詳細に調べるため,術後1カ月時の6mm径波面収差のZernike係数をC-LASIKと比較した(表2).コマ収差のZ31,球面収差Z40,さらに,6次高次収差のZ60,Z62が両群間で有意に減少した.従来のZernikeに基づくWF-LASIKでも,ZernikeのZ31とZ40(球面収差)は減少できると考えられる4)が,Z60,Z62のより高次収差の減少は詳細な照射パターンが可能なフーリエ変換も用いた照射によると考えられた.高次収差が減少するとコントラスト感度は良くなることが知られている2)が,両群において,術前後で高次収差もコントラスト感度は増加している.コントラスト感度検査時には,最良矯正とするために矯正レンズが加入される.加入された度数をW群の術前と術後1カ月で比較してみると,術前は,球面4.29±1.80D,円柱0.87±0.71Dであったが,術後1カ月で球面0.13±0.21D,円柱0.07±0.27Dと顕著に減少した(p<0.001,t検定).加入度数が大きくなると,矯正レンズのステップ(球面0.25D,円柱0.5Dごと)による矯正誤差に加えて,加入した球面,円柱レンズによる収差(球面収差など)が増加する影響により,術前のコントラスト感度が過少測定されと考えられる.文献1)宮田和典,宮井尊史:Wavefront-guidedLASIK.IOL&RS19:150-153,20052)OshikaT,MiyataK,TokunagaTetal:Higherorderwavefrontaberrationsofcorneaandmagnitudeofrefrac-tivecorrectioninlaserinsitukeratomileusis.Ophthalmol-ogy109:1154-1158,20023)YamaneN,MiyataK,SamejimaTetal:Ocularhigher-orderaberrationsandcontrastsensitivityafterconven-tionallaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci45:3986-3990,20044)DaiG:ComparisonofwavefrontreconstructionswithZernikepolynomialsandFouriertransforms.JRefractSurg22:943-948,20065)南慶一郎,宮田和典:レーザー照射としてのゼルニケvsフーリエ.IOL&RS21:223-226,20076)VongthongsriA,PhusitphoykaiN,NaripthapanP:Com-parisonofwavefront-guidedcustomizedablationvs.con-ventionalablationinlaserinsitukeratomileusis.JRefractSurg18:332-335,20027)AizawaD,ShimizuK,KomatsuMetal:Clinicalout-comesofwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusis:6-monthfollow-up.JCataractRefractSurg29:1507-1513,20038)HiraokaT,OkamotoC,IshiiYetal:Contrastsensitivityfunctionandocularhigh-orderaberrationsfollowingover-nightorthokeratology.InvestOphthalmolVisSci48:550-556,20079)MiyaiT,MiyataK,NejimaRetal:Comparisonoflaserinsitukeratomileusisandphotorefractivekeratectomyresults:long-termfollow-up.JCataractRefractSurg34:1527-1531,200810)OshikaT,KlyceS,ApplegateRetal:Comparisonofcor-nealwavefrontaberrationsafterphotorefractivekeratec-tomyandlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol127:1-7,199911)PallikarisI,KymionisG,PanagopoulouSetal:Inducedopticalaberrationsfollowingformationofalaserinsitukeratomileusisap.JCataractRefractSurg28:1737-1741,2002表2術後1カ月のZernike係数Zernike係数C群W群p値(t検定)Z330.062±0.1860.047±0.1310.708Z310.344±0.2820.122±0.190<0.001Z310.039±0.2740.021±0.2000.759Z330.018±0.1530.047±0.1090.371Z440.006±0.0620.012±0.0550.640Z420.019±0.0560.005±0.0540.280Z400.395±0.1770.193±0.118<0.001Z420.106±0.1550.045±0.0800.052Z440.024±0.0860.039±0.0600.429Z550.004±0.0390.005±0.0450.897Z530.005±0.0430.002±0.0360.473Z510.001±0.0560.011±0.0510.469Z510.001±0.0490.004±0.0470.805Z530.002±0.0300.003±0.0390.882Z550.012±0.0510.007±0.0430.641Z660.004±0.0390.000±0.0270.660Z640.001±0.0200.002±0.0180.491Z620.000±0.0270.002±0.0200.692Z600.075±0.0650.043±0.0540.033Z620.023±0.0480.000±0.0310.029Z640.007±0.0340.001±0.0200.379Z660.005±0.0580.003±0.0340.846

強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(Free-flap Advanced NPT)の手術成績

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1700あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(00)19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):700704,2009cはじめにAdvancednon-penetratingtrabeculectomy(ad-NPT)は,トラベクレクトミーと比較して重篤な合併症が少なく,比較的行いやすい術式であるが,術後の眼圧コントロールはトラベクレクトミーと比較するとやや劣るとの報告15)が多い.以前,筆者らはad-NPTの効果・安全性を維持しつつ,より良好な術後濾過胞の形成を目指して,強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(free-apadvancedNPT)を考案し,その手術成績を報告6)した.このときは,術後の前房形成不良の危険を最小限にするため,すべて白内障との同時手術の症例を対象としたが,特に重篤な合併症などはみられなかったため,今回は単独手術も施行した.札幌医科大学眼科(以下,当科)で行ったfree-apadvancedNPTの手術成績および単独手術と同時手術の比較検討を合わせて報告する.I対象および方法1.対象対象は,緑内障手術既往を問わない原発開放隅角緑内障で,当科でfree-apadvancedNPTを行い,1カ月以上経過観察できた18例27眼とした.年齢は平均68.1±5.4(60〔別刷請求先〕田中祥恵:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:SachieTanaka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S1W16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(Free-apAdvancedNPT)の手術成績田中祥恵鶴田みどり片井麻貴石川太大黒幾代大黒浩札幌医科大学医学部眼科学教室OutcomesofFree-apAdvancedNon-penetratingTrabeculectomySachieTanaka,MidoriTsuruta,MakiKatai,FutoshiIshikawa,IkuyoOhguroandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(free-apadvancedNPT)を行い,その手術成績および単独手術と同時手術の比較について検討した.対象は術後1カ月以上経過観察できた原発開放隅角緑内障18例27眼(単独手術8例10眼,白内障手術との同時手術12例17眼).年齢は平均68.1±5.4(6081)歳,術後経過観察期間は11.6±7.6(124)カ月であった.平均眼圧は術前17.0±3.2mmHgであったのに対し,術後1,6,12カ月の眼圧は13.0±3.9mmHg,13.1±2.5mmHg,13.7±3.2mmHgと有意に低下し,術後12カ月での14mmHg以下へのコントロール率は70.6%であった.単独手術と同時手術では,手術成績に有意差はみられなかった.Weevaluatedthesurgicaloutcomeafterfree-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy(NPT)andcom-paredfree-apadvancedNPTonlywithfree-apadvancedNPTplusphacoemulsicationandintraocularlensimplantation(combinedsurgery).Free-apadvancedNPTwasperformedin18eyesof27primaryopen-angleglaucomapatients(10eyesof8patientsunderwentfree-apadvancedNPTonly,17eyesof12patientsunder-wentcombinedsurgery).Meanagewas68.1±5.4years;meanfollow-upperiodwas11.6±7.6months.intraocularpressure(IOP)at1,6and12monthspostoperativelywas13.0±3.9mmHg,13.1±2.5mmHg,and13.7±3.2mmHg,respectively,signicantlylowerthanthebaselineIOPof17.0±3.2mmHg.TheprobabilityofIOPsuccessfullyreaching14mmHgat12monthswas70.6%.TherewasnosignicantdierenceineciencyofIOPreductionbetweenthefree-apadvancedNPTonlygroupandthecombinedsurgerygroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):700704,2009〕Keywords:強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー,手術成績,同時手術.free-apadvancedNPT,surgicaloutcome,combinedsurgery.700(120)0910-1810/09/\100/頁/JCLS———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009701(121)81)歳,術後経過観察期間は11.6±7.6(124)カ月であった.そのうち単独手術は8例10眼,白内障手術との同時手術は12例17眼であった(表1).2.術式手術方法を表2に示す.強膜内方弁切除までは,従来のマイトマイシンC(MMC)併用ad-NPTと同じである.その後,従来のad-NPTでは強膜外方弁を縫合するが,free-apadvancedNPTでは,縫合せずに整復するのみとした.手術終了時に前房深度を確認し,前房形成が不良の場合は,サイドポートよりbalancedsalinesolusion(BSS)を注入して前房を形成した.3.検討項目a)全体(単独手術+同時手術),単独手術,同時手術それぞれについて,術前後の眼圧,抗緑内障薬点眼数,術後処置,合併症につき検討した.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて,術後1,3,6(以後3カ月ごと)カ月に測定した.眼圧経過の判定は,術前後の平均眼圧を対応のあるt-検定を用いて検定した.また,眼圧下降率,眼圧コントロール率についても検討した.眼圧下降率(%)は術前眼圧術後眼圧/術前眼圧×100の式を用いて算出し,眼圧コントロール率はKaplan-Meier法を用いて検討した.そのエンドポイントは,①2回連続して14mmHgを超えた最初の時点,または②アセタゾラミドの内服や追加の緑内障手術を行った時点とした.抗緑内障点眼薬数の増減の判定は,術前の平均点眼薬数に対して,術後の平均点眼薬数をWilcoxonsignedranktestを用いて検定した.b)上記a)のそれぞれの項目について,単独手術と同時手術の比較を行った.2群間の統計学的検討方法は,平均眼圧の比較には対応のないt-検定,眼圧コントロール率の比較にはlog-ranktestを用い,抗緑内障点眼薬数の減少程度の比較には分散分析,術後処置・合併症の頻度の比較にはc2検定を用いた.II結果a),b)合わせて示す.1.眼圧経過術前後の眼圧経過を表3と図1に示す.全体において術前17.0±3.2mmHgの眼圧が,術後1カ月で13.0±3.9mmHg,3カ月で13.4±3.3mmHg,6カ月で13.1±2.5mmHg,12カ月後には13.7±2.7mmHg,最終観察時には14.0±3.6mmHgと有意に低下した(p<0.05).単独手術と同時手術の比較においては,同時手術のほうが単独手術よりも術後眼圧が低い傾向を示したが,統計学的な有意差は認めなかった.2.眼圧下降率術後の眼圧下降率を表4に示す.最終観察時における眼圧下降率は,全体では17.3±17.2%,単独手術では13.7±13.1%,同時手術では19.3±19.3%であった.表1患者背景全体18例27眼単独手術8例10眼同時手術12例17眼p値病型POAGPOAGPOAG年齢(歳)68.1±5.4(6081)65.6±2.5(6167)69.6±6.1(6081)<0.05術前眼圧(mmHg)17.0±3.2(1426)18.1±4.4(1426)16.2±2.0(1422)術後観察期間(カ月)11.6±7.6(124)10.6±6.5(121)12.1±8.4(124)手術既往*症例の重複含むLEC2眼PEA-IOL+VCS1眼ICCE1眼ECCE-IOL1眼PEA-IOL1眼ALT1眼SLT2眼LEC1眼LOT1眼POAG:原発開放隅角緑内障,LEC:トラベクレクトミー,PEA-IOL:超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,VCS:ビスコカナロストミー,ICCE:水晶体内摘出術,ECCE:水晶体外摘出術,ALT:レーザー線維柱帯形成術,SLT:選択的レーザー線維柱帯形成術,LOT:トラベクロトミー.表2術式1.結膜切開(fornix-base)2.強膜外方弁作製(4×4mmの四角形)3.0.02%マイトマイシンC塗布(3分間)4.生理食塩水250mlで洗浄5.同時手術ではPEA-IOL(角膜切開)6.強膜内方弁作製(4×3mmの四角形)7.線維柱帯内皮網擦過8.強膜内方弁を角膜側Descemet膜まで進める9.強膜内方弁切除10.強膜外方弁を整復(強膜弁は縫合しない)11.結膜縫合fornix-base:円蓋部基底,PEA-IOL:超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術.———————————————————————-Page3702あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(122)3.眼圧コントロール率眼圧コントロール率を図2に示す.術後12カ月の時点での14mmHg以下へのコントロール率は全体で70.6%,単独手術45.0%,同時手術88.3%であった.単独手術と同時手術において統計学的な有意差はみられなかった.4.抗緑内障点眼薬数(表5)点眼薬数は,単独手術,同時手術ともに,術後抗緑内障点眼薬数は有意に減少した(p<0.05).単独手術と同時手術では有意な差はみられなかった.5.術後処置(表6)YAG-laserによるgonio-punctureを施行して,眼圧調整をしたものは全体では16眼(59.3%)で,術後平均7.9±10.5(124)日に施行されていた.単独手術と同時手術においてgonio-punctureの施行率に有意差はみられなかった.Gonio-punctureの施行時期は,同時手術のほうが単独手術表3術前後の眼圧術前1カ月3カ月6カ月12カ月最終観察時全体17.0±3.213.0±3.9**13.4±3.3*13.1±2.5**13.7±2.7**14.0±3.6**単独手術18.4±4.4(n=10)14.6±4.5(n=10)13.8±4.2*(n=9)13.6±2.2**(n=8)15.2±3.4(n=6)15.7±3.6同時手術16.2±2.0(n=17)12.1±3.3**(n=17)13.3±2.7**(n=13)12.7±2.7**(n=12)12.8±1.9**(n=10)13.0±3.3***p<0.05,**p<0.01.(mmHg)全体においては,術前に比べ術後有意に眼圧は下降した.単独手術と同時手術の比較においては,同時手術のほうが単独手術よりも術後眼圧が低い傾向を示したが,統計学的な有意差はみられなかった.表4眼圧下降率(%)の推移術後1カ月3カ月6カ月12カ月最終観察時全体23.2±20.018.4±17.317.9±14.914.7±13.617.3±17.2単独手術19.6±22.3(n=10)21.0±18.8(n=10)17.1±13.7(n=9)12.4±16.8(n=8)13.7±13.1(n=6)同時手術25.3±18.9(n=17)16.7±16.7(n=17)18.5±16.3(n=13)16.1±12.1(n=12)19.3±19.3(n=10)0510152025術前13612眼圧(mmHg)経過観察期間(月):全体:単独手術:同時手術図1術前後の眼圧経過率術後経過術術図2眼圧コントロール率術後12カ月での14mmHg以下へのコントロール率は全体で70.6%,単独手術45.0%,同時手術88.3%であった.表5抗緑内障点眼薬数全体単独手術同時手術術前3.7±1.14.3±1.33.3±0.7術後(最終観察時)0.9±1.11.4±1.20.5±0.8(剤)単独手術,同時手術ともに,術後抗緑内障点眼薬数は有意に減少した(Wilcoxonsignedranktest).2群間において有意な差はみられなかった(分散分析).表6術後処置:YAG-lasergonio-puncture全体単独手術同時手術眼数施行時(日)16(59.3%)7.9±10.56(60%)2.3±1.5(15)10(58.8%)11.3±12.2(124)単独手術と同時手術において有意な差はみられなかった(c2検定).***———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009703(123)よりも遅かった.Gonio-puncture施行後の眼圧推移を図3に示す.同時手術群はgonio-puncture直後より有意に眼圧下降が得られたが,単独手術群は翌日になると眼圧が再上昇し,その後下降していく傾向がみられた.6.術後併発症術後併発症を表7に示す.全体としては,術後早期併発症として軽度中等度の浅前房を4眼(29.3%),軽度中等度の前房出血を3眼(11.1%),5mmHg以下の低眼圧を2眼(7.4%)に認めたが,いずれも保存療法で数日のうちに軽快した.また経過観察中1眼(3.7%)にgonio-puncture部位に虹彩嵌頓を認めたが,嵌頓虹彩へのYAG-laserおよびlasergonioplastyにて解除され,以後眼圧コントロールも良好であった.輪部結膜切開部位から房水漏出がみられたものが3眼(11.1%)あったが,いずれもヒアルロン酸製剤の点眼で軽快した.単独手術と同時手術の比較では,前房出血のみ,単独手術と同時手術とで発症率に有意差がみられた(p<0.05).III考按筆者らはad-NPTの安全性を維持しつつ,より良好な濾過胞形成を目指して,free-apadvancedNPTを考案し,その手術成績を報告した6).その手術成績から,free-apadvancedNPTはad-NPT同様の眼圧下降効果および安全性を有すること,下降した眼圧を維持するためには,適宜YAGlasertrabeculopuncture(YLT)を施行して濾過量を調整していくことが必要であることがわかった.Free-apadvancedNPTでは強膜弁を縫合しないため,術後のlasersuturelysisが不要であるため,術後処置が軽減されるという利点をもつ.その反面,術後の過剰濾過・前房形成不良などの併発症が増すことが懸念される.このため,前回はすべて白内障との同時手術で行ったが,術後重篤な合併症などを認めなかったため,今回はfree-apadvancedNPTの単独手術も施行し,同時手術と単独手術の比較検討も行った.ad-NPTの術後眼圧については,黒田1)が術後12カ月で,単独手術13.4mmHg,白内障との同時手術では13.0mmHgと報告している.溝口2)は単独手術で術後6カ月13.9mmHg,12カ月13.6mmHg,山本ら7)は3カ月で,単独手術,同時手術合わせて13.5mmHgと報告している.Free-apadvancedNPTの術後眼圧については,前回,筆者らは同時手術では,術後3カ月で12.9mmHgと報告6)した.今回のfree-apadvancedNPTの結果は,術後12カ月の眼圧13.7mmHgとこれまでのad-NPTの報告1,2,7)と同等であり,また前回の筆者らの報告とも同等であった.しかしながら,14mmHg以下へのコントロール率は全体で70.6%と穿孔性トラベクレクトミー4,8)には及ばなかった.ad-NPTにおける単独手術と白内障との同時手術の術後眼圧に関しては,Kurodaら9)は単独手術と同時手術では,術後眼圧コントロール率に有意差はなかったと報告している.今回筆者らの行ったfree-apadvancedNPT単独手術と同時手術の比較では,統計学的な有意差はなかったが,同時手術のほうが単独手術よりも術後眼圧が低い傾向を示した.この理由としては,単独手術群のほうに緑内障手術既往例が多いことが関係している可能性が考えられた.抗緑内障薬点眼数に関しては,術前に比べ,術後有意に減少しており,これまでのad-NPTでの報告1,2,7)と同様であった.術後gonio-punctureの施行に関しては,初期の報告においては,黒田1)が4/56眼(7.1%),溝口2)は2/32眼(6.3%)と報告しているが,積極的に施行した場合では,山本ら7)は9/14眼(64.3%)と報告し,前回の筆者らのデータでも5/10眼(50%)程度であった.今回も,眼圧上昇傾向や,濾過胞の縮小傾向がみられた場合に積極的に施行したため,施行率が60%程度になったと思われる.単独手術と同時手術の比較では,施行率に差はなかったが,施行時期に関しては,同時手術のほうが遅かった.術後の併発症に関しては,単独手術で,同時手術に比べて,前房出血が多くみられた.症例数が少なく,原因は不明であるが,今後症例数を増やして,再度検討が必要と考えている.懸念された前房形成不全はみられず,free-ap表7術後併発症全体単独手術同時手術p値浅前房4(29.3%)04前房出血3(11.1%)30<0.01低眼圧(5mmHg以下)2(7.4%)02虹彩嵌頓1(3.7%)01Seidel陽性3(11.1%)21前房出血のみ,単独手術と同時手術とで発症率に有意差がみられた(c2検定).前直後翌日1W1M経過観察期間3M6M9M12M*p<0.0135302520151050眼圧(mmHg):全体:単独:同時*****図3Gonio-puncture施行後の眼圧の推移同時手術群はgonio-puncture直後より有意に眼圧下降が得られたが,単独手術群は翌日になると眼圧が再上昇し,その後下降していく傾向がみられた.———————————————————————-Page5704あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(124)advancedNPTは単独手術,同時手術ともにad-NPT同様,術後併発症の少ない安全な術式と思われた.文献1)黒田真一郎,溝口尚則,寺内博夫ほか:Non-PenetratingTrabeculectomyを改良した緑内障手術(advancedNPT:仮称)の評価.あたらしい眼科17:845-849,20002)溝口博夫:AdvancedNPT─テクニックと中期成績─.眼科手術14:305-309,20013)福地健郎,阿部春樹:非穿孔性線維柱帯切除術(NPT)術式と中期成績.眼科手術14:311-314,20014)FukuchiT,SudaK,HaraHetal:MidtermresultandtheproblemsofnonpenetratinglamellartrabeculectomywithmitomycinCforJapaneseglaucomapatients.JpnJOph-thalmol51:34-40,20075)川嶋美和子,山崎芳夫,水木健二ほか:原発開放隅角緑内障に対する非穿孔性線維柱帯切除術の術後成績の検討.日眼会誌108:103-109,20046)大黒浩,大黒幾代,山崎仁志ほか:理想的な術後濾過胞形成を目指した強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(Free-apAdvancedNPT)の手術成績.あたらしい眼科23:515-518,20067)山本陽子,大黒幾代,大黒浩ほか:弘前大学眼科における改良非穿孔トラベクレクトミーの手術成績.あたらしい眼科22:813-816,20058)FontanaH,Nouri-MahdaviK,LumbaJetal:Trabeculec-tomywithmitomycinC.Ophthalmology113:930-936,20069)KurodaS,MizoguchiT,TerauchiHetal:Advancednon-penetratingtrabeculectomy(advancedNPT)andcom-binedsurgeryofadvancedNPTandphacoemulsicationandintraocularlensimplantation.SeminOphthalmol16:172-176,2001***

Dynamic Contour Tonometerによる眼圧測定と緑内障治療

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(115)6950910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):695699,2009cはじめに現在,精密眼圧測定にはGoldmann圧平眼圧計(GAT)が一般的に使用されている.しかし,圧平式眼圧計は角膜厚や前眼部のさまざまな影響を受けることが知られている1,2).近年,角膜厚・形状の影響をほとんど受けない眼圧計としてdynamiccontourtonometer(DCT)が開発された.緑内障の視神経障害の機序は,いまだに詳細不明であるが,眼圧下降によって視野障害の進行を阻止することができるとされている35).現在の臨床において眼圧測定の標準はGATである.DCTがより真の眼内圧に近い眼圧を測定しても,GATと同様に緑内障治療において安定して眼圧を計測できなければ意味がない.これまでDCTの有用性についてGATと比較した報告はいくつかなされており,DCTはGATより高い眼圧値を示しさらに中心角膜厚の影響が少ないとされている69).また,角膜屈折矯正手術の術前後でDCTとGATの眼圧値を比較した報告もあり,GATでは術前と比べ術後低い眼圧値を示したがDCTでは術前後で差を認めなかったとされている10,11).今回筆者らは,DCTを用いて健常眼および緑内障眼の治療前後で眼圧を測定し,同時に測定したGATの眼圧値と比較し検討した.〔別刷請求先〕山口泰孝:〒526-8580長浜市大戌亥町313市立長浜病院眼科Reprintrequests:YasutakaYamaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospital,313Ohinui-cho,Nagahama526-8580,JAPANDynamicContourTonometerによる眼圧測定と緑内障治療山口泰孝梅基光良木村忠貴植田良樹市立長浜病院眼科DynamicContourTonometerUseinGlaucomaTherapyYasutakaYamaguchi,MitsuyoshiUmemoto,TadakiKimuraandYoshikiUedaDepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospitalDynamiccontourtonometer(DCT)で測定した眼圧値の緑内障治療における有用性につき,Goldmann圧平眼圧計(GAT)と比較し検討した.対象は,健常眼50例100眼,トラベクロトミーを施行した緑内障16例18眼および緑内障点眼(ラタノプロスト,チモロール)を使用する緑内障72例125眼である.緑内障治療眼ではDCT眼圧測定値はGATと同様に有意な下降を認めた.健常眼と比較し無治療緑内障眼で眼球脈波(OPA)は有意に高値を示し,トラベクロトミー術後とラタノプロスト点眼後に有意に下降した.チモロール点眼後は有意な変動を示さなかった.DCTは緑内障眼の眼圧測定において,GATと同様に用いることができた.Theaimofthisstudywastoinvestigatethereliabilityofintraocularpressuremeasurementusingthedynamiccontourtonometer(DCT),incomparisontotheGoldmannapplanationtonometer(GAT),specicallyasusedinglaucomatherapy.Thesubjectscomprised50normaleyesof100patients,18glaucomatouseyesof16patientsthathadundergonetrabeculotomyand125glaucomatouseyesof72patientsthathadreceivedmonotherapywithlatanoprostortimolol.Followingtreatmentbyallmethods,bothDCTandGATmeasurementsshowedsignicantlowering.Theocularpulseamplitude(OPA)oftheglaucomatouseyeswasremarkablyhigherthanthatofthenor-maleyes.OPAdecreasedsignicantlyaftertrabeculotomyortreatmentwithlatanoprost,whiletimololelicitednosignicantchange.BothDCTandGATwereusefulinmeasuringintraocularpressureinglaucomatouseyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):695699,2009〕Keywords:ダイナミックカンタートノメーター,Goldmann圧平眼圧計,トラベクロトミー,ラタノプロスト,チモロール.dynamiccontourtonometer,Goldmannapplanationtonometer,trabeculotomy,latanoprost,timolol.———————————————————————-Page2696あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(116)I対象および方法対象は,白内障以外の内眼疾患を有さない健常眼50例100眼(男性22例,女性28例,平均年齢72.4±1.1歳),トラベクロトミーを施行した緑内障16例18眼(男性8例,女性8例,平均年齢69.2±3.8歳)および緑内障点眼(ラタノプロスト,チモロール)を使用する隅角の開放した緑内障72例125眼(男性36例,女性36例,平均年齢68.5±1.0歳)である.緑内障眼は視神経乳頭所見および視野から診断された.各症例でdynamiccontourtonometer(PascalR,ZeimerOphthalmic社)を用いて眼圧ならびに眼球脈波(ocularpulseamplitude:OPA)を測定し(信頼度の高いQ=13を用いた),同時にGAT(Haag-Streit社)でも眼圧を測定し比較した.また,各症例の角膜厚は,超音波角膜厚測定装置(AL-1000,TOMEY社)によって測定した.各値の相関は直線回帰分析によって解析し,Pearsonの相関係数を求めた.検定はt検定を用い,有意水準は5%とした.トラベクロトミー症例は術前日と術翌日午前に眼圧を測定した.術前点眼数は平均2.2±0.3剤で,術後は無点眼下で測定した.症例の内訳は,正常眼圧緑内障3眼,原発開放隅角緑内障4眼,落屑緑内障5眼,ステロイド緑内障4眼および続発緑内障2眼であった.緑内障点眼はwashout後,24週間の点眼期間を設け,その前後で眼圧を測定した.症例の内訳は,正常眼圧緑内障89眼,狭義の原発性開放隅角緑内障26眼および落屑緑内障10眼であった.また,視野欠損の進行した症例はすでに緑内障手術を施行されているものが多いため,今回はGold-mann型動的視野計において湖崎分類IIaIIIbを示す内眼手術の既往のない症例103眼と偽水晶体眼22眼とを対象とした.II結果1.健常眼におけるDCT今回筆者らの計測した健常眼100眼の平均値はGAT眼圧測定値13.9±0.3mmHg,DCT眼圧測定値18.9±0.3mmHg,OPA2.4±0.1mmHg,中心角膜厚536.0±3.4μmであった.GATとDCTの眼圧測定値は強い相関(r=0.61,p<0.0001,図1a)があった.中心角膜厚はGAT測定値に影響(r=0.29,p=0.003,図1b)したが,DCT測定値には影響しないようであった(r=0.002,p=0.98,図1c).中心角膜厚値が小さいほど,DCT測定値はGAT測定値より高くなった(図1d).また,OPAは1.53.0mmHgに多く分布し,DCT測3025201510551015GAT測定値(mmHg)202530DCT測定値(mmHg)図1a健常眼のGAT測定値とDCT測定値中心角膜厚測定値図1c健常眼の中心角膜厚とDCT測定値測定値図1e健常眼のDCT測定値とOPA30252015105400450500m550600650GAT測定mm図1b健常眼の中心角膜厚とGAT測定値中心角膜厚測定値図1d健常眼の中心角膜厚とDCT,GAT測定値の差———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009697(117)定値と弱い相関があった(r=0.31,p=0.02,図1e).2.緑内障眼におけるDCT今回緑内障点眼の対象となった125眼の無点眼下での値について検討した.平均値はGAT眼圧測定値17.9±0.4mmHg,DCT眼圧測定値23.6±0.4mmHg,OPA2.9±0.1mmHgであり,いずれの値も健常眼より有意に高かった(p<0.0001,p<0.0001,p<0.0001).中心角膜厚は521.1±3.5μmであり,健常眼より角膜は有意に薄かった(p<0.0001).健常眼と同様に,GATとDCTの測定値は強い相関(r=0.85,p<0.0001,図2a)があった.無治療緑内障眼でもOPAはDCT測定値と弱い相関があった(r=0.26,p=0.003,図2b).DCT測定値の同一範囲内(26.8mmHg以下)で比較しても健常眼に比べ緑内障眼は有意にOPAが高値であり(p=0.0007),これは特に眼圧の低い症例で顕著であった.3.緑内障治療前後の比較DCTによる眼圧測定値は,トラベクロトミー術前31.7±2.4mmHgから術後20.6±1.3mmHg(p<0.0001)に,緑内障点眼は点眼前23.6±0.5mmHgからラタノプロスト点眼後19.5±0.4mmHg(p<0.0001)に,またチモロール点眼後20.7±0.4mmHg(p<0.0001)に,いずれの治療でも治療後で有意な下降を認めた(図3a).GAT測定でも各治療で有意な眼圧下降を認めた(図3b).OPAはトラベクロトミー術前3.6±0.3mmHgから術後2.6±0.3mmHg(p=0.0006)に有意に下降した.緑内障点眼は点眼前2.9±0.1mmHgからラタノプロスト点眼後2.5±0.1mmHgに下降した(p<0.0001).一方,チモロール点眼後は2.8±0.1mmHgと下降する傾向があったが有意差はなかった(p=0.08,図3c).また,各治療前後のDCT測定値とOPAの関係を比較した(図3d,各症例の分布は数が多く煩雑なため,回帰線のみ示した).トラベクロトミー術後およびラタノプロスト点眼後は健常眼の分布に近づく傾向にあった.チモロール点眼後はDCT測定値は下降するもののOPAの明らかな変化はみられなかった.4.緑内障点眼の比較ラタノプロスト点眼とチモロール点眼について,DCTお453525155515GAT測定値(mmHg)253545DCT測定値(mmHg)図2a緑内障眼のGAT測定値とDCT測定値測定値図2b緑内障眼のDCT測定値とOPA403020100治療治療<0.0001p<0.0001p<0.0001チモロールGAT測定値(mmHg)図3b各治療前後のGAT測定値治療前治療後<0.0001p<0.0001NSチモロールOPA(mmHg)図3c各治療前後のOPA403020100治療治療<0.0001p<0.0001p<0.0001チモロールDCT測定値(mmHg)図3a各治療前後のDCT測定値———————————————————————-Page4698あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(118)よびGATによる眼圧測定値の眼圧下降率を図4a,bに示した.ほぼ同様の分布と思われた.DCT測定での30%および20%眼圧下降の達成率は,ラタノプロスト単剤使用でそれぞれ17%と41%,チモロール単剤使用では8%と21%であった(図4c,d).また,2剤とも有効がそれぞれ5%と14%であり,2剤とも無効が80%と52%であった.III考按DCTは角膜カーブに合わせた凹型のセンサーチップを用いることで,圧平時の角膜の歪みや変形を最小限にし,角膜厚・角膜剛性の影響を受けずに眼圧を直接測定するよう理論づけられている.Kniestedtら12)は,摘出眼の検討で直接測定した真の眼内圧は,GAT測定値よりもDCT測定値により近かったと報告している.角膜形状とチップ先端形状の完全な一致は困難と考えられるが,今回の筆者らの検討でもDCTによる眼圧測定値はGATに比べ角膜厚の影響が少ないことが改めて確認され,DCTはより正確に眼内圧を計測していると考えられる.今回の検討で,DCTは緑内障治療前後における眼圧の相対的変動の指標として,GATと同様に用いることができた.緑内障眼の眼圧管理において,視野の欠損に応じた目標眼圧の設定が望ましいといわれており13,14),DCTの眼圧測定値86420OPA(mmHg)5103020405060DCT測定値(mmHg)トラベクロトミー:健常眼:治療前:治療後86420OPA(mmHg)5103020405060DCT測定値(mmHg)ラタノプロスト:健常眼:治療前:治療後6420OPA(mmHg)5103020405060DCT測定値(mmHg)チモロール:健常眼:治療前:治療後図3d各治療前後のDCTOPA分布60-400-20ラタノプロストチモロール2040606040020-20-40-60図4aDCT測定による眼圧下降率(%)ラタノプロストチモロール有効有効1280(%)35n=125無効無効図4c30%眼圧下降達成率(DCT)60-400-20ラタノプロストチモロール2040606040020-20-40-60図4bGAT測定による眼圧下降率(%)ラタノプロストチモロール有効有効2752(%)714n=125無効無効図4d20%眼圧下降達成率(DCT)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009699(119)がより真の眼内圧に近い値であるのならば,DCTを用いて,改めて視神経障害の程度に合わせた目標眼圧を検討せねばならない.今後もDCTのデータを重ねて,長期的に眼圧の変動と視野の変化の関わりを解析することで,さらにDCTを有効に利用できると考えられる.ただし,眼圧は緑内障のリスクファクターとして大きい35)とはいえ,特に日本人において正常眼圧緑内障が多いとの報告15)もあり,今後はより症例の状態を細分化したうえでの検討にならざるをえないと思われる.DCTは眼圧と同時にOPAも測定できる.今回の検討では,緑内障眼のOPAは健常眼より有意に高値を示した.またOPAの変動は治療法により異なることが明らかになった.血液動態や循環系に作用があると考えられるb-blockerでOPAへの作用がより少なかったが,その機序は不明である.各種薬剤の眼圧下降機構は詳細に解析されているわけではなく,OPAへの作用を介して点眼の作用機構や治療効果の解析が可能となるかもしれない.文献1)WolfsRC,KlaverCC,VingerlingJRetal:Distributionofcentralcornealthicknessanditsassociationwithintraocu-larpressure.TheRotterdamStudy.AmJOphthalmol123:767-772,19972)GunvantP,BaskaranM,VijayaLetal:EfectofcornealparametersonmeasurementsusingthepulsatileocularbloodlowtonographandGoldmannapplanationtonome-ter.BrJOphthalmol88:518-522,20043)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy:Compari-sonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswith-therapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOph-thalmol126:487-497,19984)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19985)GordonMO,KassMA:TheOcularHypertensionTreat-mentStudy:designandbaselinedescriptionofthepar-ticipants.ArchOphthalmol117:573-583,19996)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:ComparisonofdynamiccontourtonometrywithGoldmannapplanationtonometry.InvestOphthalmolVisSci45:3118-3121,20047)KotechaA,WhiteET,ShewryJMetal:TherelativeefectsofcornealthicknessandageonGoldmannapplana-tiontonometryanddynamiccontourtonometry.BrJOphthalmol89:1572-1575,20058)FrancisBA,HsiehA,LaiMYetal:Efectsofcornealthickness,cornealcarvature,andintraocularpressurelevelonGoldmannapplanationtonometryanddynamiccontourtonometry.Ophthalmology114:20-26,20079)冨山浩志,石川修作,新垣淑邦ほか:DynamicContourTonometer(DCT)とGoldmann圧平眼圧計,非接触型眼圧計の比較.あたらしい眼科25:1022-1026,200810)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:Intraocularpres-suremeasurementsusingdynamiccontourtonometryafterlaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci44:3790-3794,200311)SiganosDS,PapastegioiuGI,MoedasC:AssessmentofthePascaldynamiccontourtonometerinmonitouringintraocularpressureinunoperatedeyesandeyesafterLASIK.JCataractRefractSurg30:746-751,200412)KniestedtC,MichelleN,StamperRL:Dynamiccontourtonometry:acomparativestudyonhumancadavereyes.ArchOphthalmol122:1287-1293,200413)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,199214)TheAdvancedGlaucomaInterventionStudyInvestiga-tors:AdvancedGlaucomaInterventionStudy:2.Visualeldtestscoringandreliability.Ophthalmology101:1445-1455,199415)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,2004***

超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を第一選択の治療とした急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(109)6890910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):689694,2009c〔別刷請求先〕西野和明:〒062-0020札幌市豊平区月寒中央通10-4-1回明堂眼科医院Reprintrequests:KazuakiNishino,M.D.,KaimeidohOphthalmicClinic,10-4-1,Tsukisamuchu-o-dori,Toyohiraku,Sapporo062-0020,JAPAN超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を第一選択の治療とした急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障西野和明*1吉田富士子*1齋藤三恵子*1齋藤一宇*1山本登紀子*2岡崎裕子*3木村早百合*4*1医療法人社団ひとみ会回明堂眼科医院*2山本内科・眼科クリニック*3江別市立病院眼科*4西岡眼科クリニックPrimaryPhacoemulsicationandAspirationandIntraocularLensImplantationforAcutePrimaryAngle-ClosureandAcutePrimaryAngle-ClosureGlaucomaKazuakiNishino1),FujikoYoshida1),MiekoSaitoh1),KazuuchiSaitoh1),TokikoYamamoto2),HirokoOkazaki3)andSayuriKimura4)1)KaimeidohOphthalmicClinic,2)YamamotoInternalMedcine&OphthalmicClinic,3)DepartmentofOphthalmology,EbetsuCityHospital,4)NishiokaOphthalmicClinic目的:急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障に対し初回手術として,超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を行った症例について,手術の有効性と安全性につき検討した.対象および方法:急性原発閉塞隅角症4例6眼および急性原発閉塞隅角緑内障1例1眼の合計5例7眼(男性1例2眼,女性4例5眼).平均年齢69.6±8.4歳.平均観察期間7.6±8.2カ月.術前,術後の眼圧,視力,角膜内皮細胞密度,周辺前房深度(vanHerick法)などを比較検討するとともに,術後の合併症についても検討した.結果:発作時の眼圧58.7±14.7mmHgは,術翌日14.7±4.0mmHgに低下,さらに最終観察日の眼圧も9.9±1.8mmHgと良好な結果が得られた.また,術前の矯正視力0.63±0.24は術後0.93±0.11に改善(p<0.05).角膜内皮細胞密度(cells/mm2)は,術前2,587.3±548.3が,術後2,278.4±657.9へと大きな減少は認められなかったものの(p=0.25),54%の減少が1眼,20%の減少が1眼に認められた.周辺前房深度は十分に深くなり(p<0.00005),隅角も開大した.しかしながら,手術時間が22±7.7分とやや長いこと,また眼内レンズ挿入後に円形の前切開の変形(楕円)が4眼に認められたほか,術後,中等度の角膜浮腫が2眼,前房内に中等度のフィブリン析出が2眼に認められた.結論:急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障に対する第一選択の超音波水晶体乳化吸引術は,前房深度や隅角の開大により眼圧を正常化する有用な方法の一つと考えられるが,角膜内皮細胞密度の減少や術後の炎症などに注意する必要がある.Toevaluatetheecacyandsafetyofprimaryphacoemulsicationandaspiration(PEA)andintraocularlens(IOL)implantationforacuteprimaryangle-closureandacuteprimaryangle-closureglaucoma,weanalyzed5eyesof4Japanesefemalepatientsand2eyesof1Japanesemalepatientwho,undertopicalanesthesia,hadundergoneprimaryPEA+IOLforacuteprimaryangle-closure(6eyesof4patients)andacuteprimaryangle-closureglauco-ma(1eyeof1patient),withoutlaseriridotomy.Averageagewas69.6±8.4;meanfollowupdurationwas7.6±8.2months.Outcomessuchasvisualacuity,intraocularpressure(IOP),endothelialcelldensity,depthofperipheralanteriorchamber(vanHerick)andinammationwerecomparedpre-andpostoperatively.PreoperativeIOP,58.7±14.7mmHg,decreasedto14.7±4.0mmHgontherstpostoperativeday.ThenalobservedIOPwas9.9±1.8mmHg.Meanpreoperativebestcorrectedvisualacuity,0.63±0.24,improvedto0.93±0.11postoperatively(p<0.05).Meanpreoperativeendothelialcelldensityof2,587.3±548.3cells/mm2showedanon-signicantdecreaseto2,278.4±657.9cells/mm2postoperatively(p=0.25),but54%decreasein1eyeand20%decreasein1eyewere———————————————————————-Page2690あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(110)はじめに急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障は視神経に緑内障性の変化が認められるかどうかで区別される1)が,それぞれで治療が異なるわけではない.初期治療として点眼,点滴などを十分に行った後,レーザー虹彩切開術(laseriri-dotomy:LI)あるいは,観血的な虹彩切除術が行われるのが一般的である.急激な眼圧上昇を早期に改善する必要があるため,LIは比較的簡単でかつ有効な治療法であるが,施行した後に問題がないわけではない.軽症なものでは虹彩後癒着や白内障の進行から,重篤なものでは内皮細胞密度の減少から水疱性角膜症をきたし失明につながる疾患までさまざまである2,3).また近年,急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障のメカニズムは,単純ではなく,相対的な瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,虹彩水晶体隔壁の前進などが複雑に絡み合って発症すると考えられるようになり4),LI単独だけでは,解決しない場合があることがわかってきた.つまり隅角を開大する目的のLI後にも,暗室うつむき試験が陰性化せず,機能的閉塞が残存し,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)の拡大が停止しないことなどは,それらの複雑なメカニズムによるものと思われる.そこで近年,十分に前房および隅角を開大することで,それらのメカニズムをまとめて解決する有用な方法として,最初から超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsicationandaspiration:PEA)を選択する報告がみられるようになり,しかも良好な結果が得られている58).しかし急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障は,極端な浅前房,Zinn小帯の脆弱性,散瞳が不十分,眼軸が短く度数の高い厚めの眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入しなければならないなど,技術的にはむずかしい手術と考えられ,有効性はもちろんのこと,合併症の有無や頻度について冷静で詳細な検討が必要になる.そこで今回筆者らは,急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障に対し,LIを行わず,最初からPEAおよびIOL挿入術(PEA+IOL)を施行した症例を経験したので,その安全性や有効性など臨床経過につき報告する.I対象および方法2006年12月から2008年9月までの間,回明堂眼科医院(当院)で,LIを行わず,PEA+IOLを治療の第一選択とした,急性原発閉塞隅角症(4例6眼)および急性原発閉塞隅角緑内障(1例1眼)の合計5例7眼(男性1例2眼,女性4例5眼).発作時の平均年齢は69.6±8.4(標準偏差)歳,平均観察期間7.6±8.2カ月.主訴,既往歴などについては表1に別記した.各眼の眼軸長の平均は22.13±0.62mm,等価球面度数の平均は0.75±1.79D(diopters)と軽度の近視であった.白内障の核硬度の程度はEmery-Little分類で平均2以下と軽度であった(表2).眼圧(mmHg)は発作日,手術日,手術翌日,最終観察日に,矯正視力(少数視力)は手術日,最終観察日に,角膜内皮細胞密度(cells/mm2)は手術前日,最終観察日に,周辺前房深度(vanHerick法)は手術日,最終観察日にそれぞれ測定し比較検討した.予想屈折度と術後屈折度の差についても検討した.使用機種はすべてAlcon社製INFINITITM(OZILTM)であるが,症例1の両眼と他の症例では,異なる超音波振動を用いたため,手術の侵襲を検討する際の超音波積算値(cumula-tivedissipatedenergy:CDE)をつぎのように計算した.従来の縦振動の超音波のみを使用した症例2から症例5では,CDE=平均超音波パワー(%)×超音波使用時間(秒)として計算,症例1では縦振動の超音波とtorsional(横振動)を併用したので,CDE=平均超音波パワー×超音波使用時間+0.4×(torsionalパワー×torsional使用時間)として計算した.すべての患者にLIおよびPEA+IOLの利点,合併症などを説明した後,PEA+IOLを初回手術として選択することの同意を得た.手術はすべて同一術者(K.N.)により行われた.今回の対象となる症例数はごくわずかであり,統計学的な解析をするには不十分ではあるが,参考までに検討した.視力はWilcoxon符号付順位和検定,その他はそれぞれ対応のfound.Peripheralanteriorchamberdepthimprovedinalleyes(p<0.00005).Meanoperationtime,22±7.7minutes,wasslightlylong;continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)in4eyeswastransformedtoovalafterIOLimplantation.Middlecornealedemawasfoundin2eyesandmiddlebrinofanteriorchamberwasfoundin2eyes.PEA+IOLmightbeaneectiveprimaryprocedureforacuteprimaryangle-closureandacuteprimaryangle-clo-sureglaucoma,butitisnecessarytopayattentiontoinammationoftheanteriorsegmentanddecreaseinendothelialcelldensity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):689694,2009〕Keywords:急性原発閉塞隅角症,急性原発閉塞隅角緑内障,第一選択の治療,超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術.acuteprimaryangle-closure,acuteprimaryangle-closureglaucoma,primaryprocedure,phacoemulsi-cationandaspiration(PEA),intraocularlensimplantation(IOL).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009691(111)あるt検定を用いた.危険率5%未満を有意差ありと判定した.II結果手術時のデータを表3に示した.手術は塩酸リドカインの局所麻酔下に,PEA+IOLを行った.切開はやや角膜よりの強膜切開で行い,粘弾性物質は通常のヒアルロン酸ナトリウムのほか,角膜内皮細胞の保護を目的としてヒアルロン酸ナトリウム・コンドロイチン硫酸ナトリウム配合(ビスコートR)を使用した.Continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)の際には前染色としてindocyaninegreen(ICG)を全例に使用.散瞳不良の症例1の左眼と虹彩後癒着がみら表1患者の背景症例12345年齢(発作発症時)(歳)5678747268性別女性女性女性女性男性患眼両眼左眼右眼左眼両眼診断APACAPACAPACGAPACAPAC主訴頭痛眼痛視力低下頭痛充血充血充血違和感霧視嘔気霧視過去の発作様所見2カ月前3カ月前既往歴統合失調症左耳下腺腫瘍切除観察期間(月)226532APAC=acuteprimaryangle-closure:急性原発閉塞隅角症.APACG=acuteprimaryangle-closureglaucoma:急性原発閉塞隅角緑内障.表2各眼の術前のデータ症例1右1左2左3右4左5右5左等価球面度数(D)0.880.2540.9201.25術前中央前房深度(mm)2.12n.r.2.322.062.442.082.09水晶体厚(mm)5.36n.r.5.345.865.275.895.71眼軸長(mm)21.621.622.922.721.322.522.3白内障の核硬度1.51.522.521.51.5術前中央前房深度や眼軸長は角膜後面からの距離.使用機種はTOMEY社製AL-1000.n.r.=記録なし.白内障の核硬度はEmery-Little分類を用いた.表3手術時のデータ症例1右1左2左3右4左5右5左手術日06.12.1206.12.1908.4.2208.5.708.7.208.8.608.8.19発作から手術日までの日数(日)6370172114ICG使用使用使用使用使用使用使用瞳孔拡張せず施行せずせずせず癒着解除せず超音波振動横と縦横と縦縦縦縦縦縦CDE31.0719.8017.2211.749.745.4IOLパワー(D)2727.523.523.525.525.524.5手術時間(分)14151919223233ICG=indocyaninegreen.縦=従来の縦振動の超音波(phaco).横=横振動の超音波(torsional).CDE=cumulativedissipatedenergy(超音波積算値).———————————————————————-Page4692あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(112)れた症例5の右眼に対しては機械的に瞳孔を拡張した.手術時間が22±7.7分と通常よりやや長めであった.各眼の術前術後の眼圧の推移(図1a)およびその平均値と標準偏差(図1b)を示した.観察期間が2カ月から22カ月とばらつきがあり,しかも平均観察期間が7.6±8.2カ月と短かったため,最終受診日を最終観察日とした.発作日の高眼圧(58.7±14.7mmHg)は点眼などの初期処置により,術直前には正常化した(12.9±2.7mmHg).術翌日は術後の炎症などでやや眼圧が上昇したものの(14.7±4.0mmHg),最終観察日には落ち着いている(9.9±1.8mmHg).症例3のみ緑内障で,視野がAulhorn分類Greve変法のstage5と進行した緑内障であったため,ラタノプロストを点眼中である.各眼の術前術後の視力を比較した結果を図2に示した.手術前の矯正視力0.63±0.24は,手術後0.93±0.11と有意に改善している(p<0.05:Wilcoxon符号付順位和検定).症例3は緑内障による暗点が中心部まで及んでいるためか,視力の回復が十分でない.各眼の術前術後の角膜内皮細胞密度を比較した結果を図380706050403020100眼圧(mmHg)発作日術直前術翌日最終観察日経過観察:症例1右:症例1左:症例2左:症例3右:症例4左:症例5右:症例5左図1a各眼の眼圧の推移術後術前図2各眼の白内障手術前後の矯正視力の比較術前術後の少数視力をlogMARに換算して比較検討した.(p<0.05:Wilcoxon符号付順位和検定)80706050403020100眼圧(mmHg)発作日術直前術翌日最終観察日経過観察図1b眼圧の推移(平均値と標準偏差)3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000術後(cells/mm2)05001,0003,5002,5003,0002,0001,500術前(cells/mm2)#1#2図3白内障手術前後の角膜内皮細胞密度の比較#1:症例3の右眼(約54%減少),#2:症例5の左眼(約20%減少).表4周辺前房深度(vanHerick法)の術後の比較1右1左2左3右4左5右5左術前1111111術後4443343周辺前房深度はvanHerick法により,Grade0からGrade4までに分類.手術直前のvanHerickは1/4未満であったので,Grade1として統計処理した.周辺前房深度は十分に深くなり隅角も開大した(p<0.00005:対応のあるt検定).表5術後の合併症症例1右1左2左3右4左5右5左角膜浮腫なしなしなし少中中少前房フィブリンなしなしなし少中中少CCCの変形なしなしなし楕円楕円楕円楕円瞳孔変形なしなしなしなしなし散大なし角膜浮腫の少は,その程度が角膜の1/3以下,中は角膜の1/32/3と定義した.フィブリンの少は,その程度が瞳孔領域内,中は瞳孔領域を超えるが全体に及んでないと定義した.CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)の変形とは,ほぼ円形であったCCCが,IOL挿入後に,CCCが楕円形に変形したことを意味する.症例5の右眼の瞳孔変形は,左眼に対して2mm以上の麻痺性散大していることを意味する.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009693(113)に示した.術前の角膜内皮細胞密度(cells/mm2)は2,587.3±548.3で,術後2,278.4±657.9と全体では大きな減少は認められなかった(p=0.25:対応のあるt検定).しかし症例3では約54%,症例5の左眼では約20%減少している.各眼の術前術後の周辺前房深度(vanHerick法)を比較した結果を表4に示した.術後の合併症を表5に,予想屈折度と術後屈折度の比較を表6に示した.III考按急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障に対する治療は従来,LIあるいは観血的な虹彩切除術が一般的であった.ところが近年,初回手術としてPEA+IOLを行い良好な結果が得られているとの報告が相ついでいる59).これは白内障手術の技術的な進歩にもよるが,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)などの各種検査機器の発達により,急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障のメカニズムが単純ではなく,相対的な瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,虹彩水晶体隔壁の前進などが複雑に絡み合って発症すると考えられようになり4),LI単独では,解決しない場合があるという考え方が大きな背景となっている.今回の筆者らの経験では,すべての症例で周辺前房深度や隅角が広がり,眼圧も翌日には,正常化するという良好な手術成績が得られた.さらに視力が改善しただけでなく,術後の屈折度も予想と変わらず,軽度の近視が得られたことで,副産物的な患者の満足感も得られた.そのなかで一番重要なのは,術後に多少の角膜浮腫や前房の炎症は認められたものの,早期に眼圧下降という目的が達成されたということである.しかしその一方で,角膜内皮細胞密度がかなり減少する症例も経験した.症例3では約54%,症例5の左眼では約20%の減少で,短期間にこのような合併症を経験し,急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障に対する手術の危険性を改めて痛感した.ただいずれの症例も,とりわけトラブルのない手術であっただけに,角膜内皮細胞密度のほとんど減少していない症例と減少した症例のどこに違いがあったのか疑問が残る.そこでその要因として,中央前房深度,水晶体厚,眼軸長,白内障の核硬度(表2)や発症から手術までの期間,CDE,手術時間(表3)などを考え,角膜内皮細胞密度の減少との関係についても検討してみた.その結果,症例3と症例5の左眼で,中央前房深度が2.1mm以下,水晶体厚が5.7mm以上という共通点がみられた.症例5の右眼も同様の共通点をもつが,減少はみられない.これは症例3で角膜内皮細胞密度の減少という経験をし,術者がビスコートRを増量して使用するなど工夫したためと思われる.もちろん角膜内皮細胞に及ぼす影響は単一ではなく,白内障の核硬度,CDE,手術時間などが複合的に関与すると思うが,とりわけ術前の検査で中央前房深度が2mm近く,水晶体厚が6mm近い症例では手術の侵襲が,角膜内皮細胞に及ぼす影響が大きいと考え,相当の注意が必要であると考えた.術後の隅角鏡検査で,症例3以外の4例6眼ではPASを認めなかったことから,LIも眼圧を正常化させるという目的では結果的には成功したと思われる.しかしながら症例3のように3/4以上のPASが存在するような症例では,長期的にみればLI単独では十分な効果は得られなかったであろう.一方,このようなPASの多い症例に対しては,白内障手術だけでは不十分で,PEA+IOLと同時に隅角癒着解離術の併用を行うことが有効であるとの報告もある9).今回の症例3では,術前かなりのPASを認めたが,その詳細な範囲がはっきりせず,術後に詳細な隅角鏡検査をしたうえで,隅角癒着解離術の適否を検討することにしたため,最初から併用を行わなかった.また,隅角癒着解離術そのものにも,前房出血やそれに伴う一過性の眼圧上昇など,合併症が発症する可能性もあると考えたことも併用しなかった理由である.仮に解除しないPASが存在しても,術後の眼圧が安定していれば,経過観察するか,あるいは眼圧の推移をみながら,追加の手術として隅角癒着解離術を検討してもよいと思われる.症例3は,今後の眼圧の推移を注意深く見守りながら,隅角癒着解離術の適否を検討していきたい.今後は手術の技術的な議論だけでなく,手術をしなければわからない急性発作のメカニズムも検討していく必要があると思われる.今回の手術で感じたのは「Zinn小帯の脆弱性も急性発作に関与しているのではないか」ということである.今回のすべての症例でCCCの際,水晶体表面の張りが少なく,また7眼中4眼で,ほぼ円形であったCCCがIOL挿入後に楕円形に変形した事実は,Zinn小帯が脆弱であったことを意味すると思う.この脆弱性は急性発作の後遺症と考えることもできるが,発作以前からZinn小帯が何らかの原因で脆弱化していたとすれば,その結果,水晶体が前方に移動し,瞳孔ブロックをひき起こしたと考えることもでき,メカニズムを知るうえで貴重な経験であったと思う.急性ではない原発閉塞隅角症あるいは原発閉塞隅角緑内障に対してでさえ,LIとPEA+IOLのいずれを選択するべきか,議論の多いところである1012).なぜならこのような症例に対するPEA+IOLは,利点は多いものの,やはりLIと比較すれば,危険性も高く,ある程度以上の技術が必要にな表6予想屈折度(D)と術後屈折度(D)の比較症例1右1左2左3右4左5右5左予想屈折度(D)1.471.21.311.370.941.631.61術後屈折度(D)111.251.750.751.752術前の予想屈折度(D)は1.36±0.24Dで,術後は1.35±0.24Dと有意差を認めなかった(p=0.97:対応のあるt検定).———————————————————————-Page6694あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(114)るためと思われる.ましてや症例が急性である場合や,白内障がわずかな症例であれば,初回手術としてPEA+IOLを選択するという考え方に対する批判は多くなるかもしれない.もちろん筆者らが経験した症例数はわずかであり,しかも短期間の経過観察であったので,どちらの立場を支持するというレベルにはない.急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障の発症機序は複雑であり,しかも来院時の状況は千差万別である.今後さらに症例を追加し,長期の経過観察をするとともに,従来,当院で行っていた,「LIを治療の第一選択とした群や,LIを最初に施行し,後日白内障が進行した場合にPEA+IOLを行った群」と比較検討する予定である.そのうえで急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内症に対するより安全でかつ有効な治療法につきさらに検討していきたい.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)島潤:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症─国内外の状況─.あたらしい眼科24:851-853,20073)澤口昭一:レーザーか手術か:古くて新しい問題─レーザー虹彩切開術の問題点と白内障手術(clearlensectomyを含む)─.あたらしい眼科23:1013-1018,20064)上田潤:閉塞隅角の画像診断:瞳孔ブロックと非瞳孔ブロックメカニズム.あたらしい眼科24:999-1003,20075)ZhiZM,LimASM,WongTY:Apilotstudyoflensextractioninthemanagementofacuteprimaryangle-clo-sureglaucoma.AmJOphthamol135:534-536,20036)JacobiPC,DietleinTS,LuekeCetal:Primaryphaco-emulsicationandintraocularlensimplantationforacuteangle-closureglaucoma.Ophthalmology109:1597-1603,20027)MiuraS,IekiY,OginoKetal:Primaryphacoemulsi-cationandaspirationcombinedwith25-gaugesingle-portvitrectomyformanagementofacuteangleclosure.EurJOphthamol18:450-452,20088)LamDSC,LeungDYL,ThamCCYetal:Randomizedtrialofearlyphacoemulsicationversusperipheraliridoto-mytopreventintraocularpressureriseafteracuteprima-ryangleclosure.Ophthalmology115:1134-1140,20089)大江敬子,秦裕子,塩田洋ほか:ヒーロンVRを用いた隅角癒着解離術の成績.眼科手術21:251-254,200810)野中淳之:原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:PEA+IOL推進の立場から.あたらしい眼科24:1027-1032,200711)大鳥安正:原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術か水晶体再建術(PEA+IOL)か?.あたらしい眼科24:1015-1020,200712)山本哲也:原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:レーザー虹彩切開術擁護の立場から.あたらしい眼科24:1021-1025,2007***