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黄班円孔はこう読む

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSのベクトルに働き,中心窩網膜の前方牽引がみられる.検眼鏡的所見でも中心窩陥凹の減弱ないし消失がみられる.Gassは細隙灯顕微鏡による観察で,この時期に中心小窩に網膜離が存在すると想定したが,OCT所見では網膜表層に小さな胞を形成することはあるが,網膜離が先行することはなさそうである.図2はstage1-Aのなかでも胞形成のない段階である.中心窩のみ後部硝子体皮質の癒着がみられ,前方へ牽引されて中心窩が浮腫状に描出されている.この前段階として中心窩の形態変化はないが中心窩に後部硝子体の前方牽引がみられるものがあり,一部の研究者はこれをstage0とよんでいる4)が,自覚症状はなく黄斑円孔の僚眼をOCT検査した際に偶発的に見つかることがある.硝子体皮質は自然に離し寛解することが多い.さらに進行すると後部硝子体皮質の牽引は強くなり,図3に示すように中心窩表層に胞形成がみられる.検眼鏡的に胞を確認するのは困難であるが,中心窩に黄色点がみられることがある.2.Stage1BGassは中心窩にみられる黄色輪(yellowring)は網膜離であり,中心窩に裂隙を生じるが濃縮した後部硝子体皮質に覆われている潜伏円孔(occulthole)とし,stage1-Bと分類した.OCTでも黄色輪のみられる症例では,中心窩の胞は網膜全層の裂隙となり,図4のように裂隙周囲の網膜浮腫(層間分離)や網膜離(検はじめに黄斑円孔の分類として現在もGassの新分類1)が使われているが,本来スリットランプでの観察による分類であり,光干渉断層計(OCT)の出現で多くの修正分類や新分類が報告されている.OCT所見の詳細な検討で黄斑円孔の成因は解明されつつあり,これらはそれに則った分類といえる.しかしながら本稿では黄斑円孔の成因を追究することが目的ではないので,これらの諸説には詳しくは言及せず,新しい知見に触れつつも基本的には従来のGass新分類に沿ってOCT所見を解説することにする.図1にGass新分類を示した.Gassは中心窩網膜表面に接した硝子体皮質が網膜接線方向に収縮し,この機械的牽引で中心窩に裂隙が生じると考えた.これに対し岸は,加齢変化による硝子体の液化の際に「後部硝子体皮質ポケット」2)を形成するとし,この後壁をなす硝子体皮質の弧が弦になるような前方に向かうベクトルが働き,特に硝子体皮質の接着の強い中心窩では強い牽引がかかり,中心窩に胞が形成されるとした3).OCT所見からも実際の術中所見からも,現在では岸の考え方が多くの支持を得ていると思われる.I黄斑円孔のステージ別OCT像1.Stage1A後部硝子体離が起き始め,中心窩のみ後部硝子体皮質の癒着がみられる.後部硝子体皮質の牽引は前後方向(17)597TssOtsaTaaas57058071015特集●光干渉断層計(OCT)はこう読む!あたらしい眼科26(5):597603,2009黄斑円孔はこうむOpticalCoherenceTomographyFindingsofMacularHole尾辻剛*髙橋寛二**———————————————————————-Page2598あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(18)A.NormalfoveaVCB.Stage1-AImpendingholeC.Stage1-BImpendingholeD.Stage1-BOccultholeF.Stage2HoleG.Stage2HoleH.Stage3HoleI.Stage4HoleE.Stage1-BOcculthole図1Gassの新ステージ分類Gassは中心小窩の網膜離に始まり(stage1-A),離が中心窩に拡大し(stage1-B),濃縮した後部硝子体皮質の後方にoccultholeが形成されるとした.さらに後部硝子体皮質が眼球接線方向に移動し,occultholeが拡大すると,濃縮した後部硝子体皮質が眼球前方に移動し,pseudo-operculumとなり,この一部に裂隙が生じる(stage2).Stage3では円孔が拡大し,後部硝子体離(PVD)が起きるとstage4となる.(文献1より改変)後部硝子体皮質黄斑浮腫図2Stage1A胞形成のないもの66歳,女性.視力は矯正0.6.中心窩で後部硝子体皮質の癒着が残存しており,中心窩網膜は前方へ牽引されて浮腫状になっている.後部硝子体皮質?胞様図3Stage1A胞形成のあるもの58歳,男性.視力は矯正0.6.後部硝子体皮質の中心窩への強い牽引がみられ,中心窩表層に胞形成がみられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009599(19)5.Stage4検眼鏡的な後部硝子体離の完成,すなわちWeissringが確認できればstage4である.OCTでは円孔の形態はstage3と同様である.図8のように症例によっ眼鏡的にみられるuidcu部)がみられることもある.3.Stage2検眼鏡的に黄色輪の内側に裂隙を生じた状態がstage2である.OCTでも黄斑円孔を蓋のように覆う部分に裂隙があるのがわかる(図5,6)が,この蓋の部分はGassが「pseudo-operculum」と言うように濃縮した後部硝子体皮質であるのか,あるいは胞前壁,すなわち網膜内層の一部であるのかはOCTでも組織学的にも決着はついていないが,近年のOCTでみると症例によってどちらもありうるのかもしれない.4.Stage3部分的な裂隙が拡大し,黄斑円孔が完成した状態である.検眼鏡的に蓋(あるいはpseudo-operculum)は円孔の直前に存在し,後部硝子体離は未完成である.OCTでは図7のように後部硝子体皮質の中心窩への牽引は円孔の完成とともに解除され,円孔前方に後部硝子体皮質に連続して蓋がみえる.蓋の部分は比較的厚く,均一な反射として描出されており,この症例では濃縮した後部硝子体皮質としても矛盾はない.後部硝子体皮質円孔底の残渣様の所見蓋(pseudo-operculum)全層円孔図6Stage265歳,男性.視力は矯正0.2.図5と同様に蓋の一部に裂隙が生じている.この症例ではOptovue(スペクトラルドメインOCT)でみると内顆粒層と思われる反射帯と蓋の反射との連続性があるようにみられる.後部硝子体皮質層間分離網膜?離図4Stage1B61歳,男性.視力は矯正0.5.中心窩の胞は網膜全層の裂隙となり,その周囲にHenle層の層間分離や網膜離がみられるが,網膜最表層の構造物は残存している.後部硝子体皮質層間分離蓋(pseudo-operculum)全層円孔図5Stage266歳,女性.視力は矯正0.4.後部硝子体皮質の牽引はさらに強くなり,黄斑円孔を蓋のように覆う網膜最表層の構造物に裂隙が生じている.OCT3000(タイムドメインOCT)では網膜最表層の構造物が網膜の一部なのか,濃縮した後部硝子体皮質なのかはよくわからない.———————————————————————-Page4600あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(20)るとOCT像は完璧に理解できる.網膜表層には細胞成分を含む網膜上膜がみられ,網膜内の2層の胞様腔は,内側の小さい胞は内顆粒層,外層の大きい胞様腔は外網状層にあるのがわかる.また,網膜が挙上した円孔縁のuidcu部では,視細胞層は萎縮して細胞数が減少して菲薄化し,内節の減少と外節の消失がみられる.III黄斑円孔の特殊例1.分層黄斑円孔Stage1の胞形成から裂隙を生じ全層黄斑円孔となることはすでに述べたが,この段階で,視細胞などの網膜外層の構造は残したままで胞に裂隙ができて分層円孔となることがある.OCTでもIS/OSラインは確認でき,全層円孔でみられる円孔底の残渣様の所見とは異なるが,円孔周囲には全層円孔と同様に網膜浮腫(層間分離)がみられる(図10).2.黄斑円孔の自然治癒例Stage1では後部硝子体皮質の中心窩への牽引が自然に解除されることがある.図11の症例は55歳,女性.中心暗点を自覚していては,後部硝子体皮質が網膜のかなり前方にみられることもあるが,一般的には後部硝子体皮質は画像の撮影範囲外に出てしまい,描出されないことが多い.術前にWeissringがあっても,術中に後部硝子体皮質が残存していることを経験することがあるが,実際の後部硝子体離の有無にかかわらず,Weissringがあればstage4である.II黄斑円孔のOCT組織相関黄斑円孔stage4の組織像はかなり詳細に調べられている.OCT像の解釈には組織像が不可欠なのでOCT像と組織像を対比して解説する.図9の上段はstage4のOCT像の典型例であり,下段はSpencerの教科書から引用した黄斑円孔の組織像である.完成したstage4のOCT像では円孔縁の網膜は挙上し,そのなかに網膜内の胞様変化がみられる.この症例ではよく見ると胞様変化は感覚網膜内の2層にわたって胞様腔がみられ,挙上した網膜外層には視細胞内節外節接合部(IS/OS)ラインが一部みられるが途中で消失している.網膜表層には薄い網膜上膜の反射がみられる.OCT像の白枠で囲んだ部位を組織像と対比して考え後部硝子体皮質層間分離蓋(pseudo-operculum)図7Stage360歳,女性.視力は矯正0.3.黄斑円孔は完成し,円孔周囲には層間分離がみられる.円孔前方に後部硝子体皮質に連続して蓋と思われる均一な厚い反射がみえる.この症例では,蓋は網膜の一部というより濃縮した後部硝子体皮質の可能性もある.後部硝子体皮質層間分離網膜?離図8Stage467歳,女性.視力は矯正0.2.円孔の形態はstage3と同様であるが,この症例では,後部硝子体皮質が網膜の前方にみられる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009601(21)12のように中心窩に後部硝子体離が起きていた.自覚的にも中心暗点が改善し,矯正視力は1.5であった.図13の症例は64歳,女性.変視症と数日前からの飛蚊症を自覚し受診,視力は矯正0.9であった.OCTでは中心窩に胞様変化があるが,すでに後部硝子体皮たが視力は矯正1.2.検眼鏡的には中心窩陥凹の消失を認め,OCTでは後部硝子体皮質の中心窩への牽引と中心窩の網膜浮腫がみられ,stage1-Aと診断した.半年おきにOCTで経過観察とし,約2年後のOCTでは図内顆粒層の?胞様腔外網状層の?胞様腔視細胞層の萎縮Fluidcu?部薄い網膜上膜(細胞成分あり)網膜上膜?胞様腔Fluidcu?部IS/OSラインが途中で消失図9Stage4のOCT所見と病理組織切片との比較本文中に述べたようにスペクトラルドメインOCTと病理組織切片の所見には一致点が数多くみられる.(組織像は「SpencerWH:Ophthalmicpathology:anatlasandtextbook-4thed,p1069,WBSaunders,Philadelphia,PA,1996」から引用した)後部硝子体皮質(網膜上膜)層間分離網膜外層は残存図10黄斑分層円孔76歳,女性.視力は矯正0.6.円孔は網膜外層には及んでおらず,IS/OSラインは確認できる.円孔周囲には全層円孔と同様に層間分離がみられる.後部硝子体皮質網膜浮腫図11Stage1Aの自然治癒例55歳,女性.視力は矯正1.2.後部硝子体皮質の中心窩への牽引と中心窩の網膜浮腫がみられる.———————————————————————-Page6602あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(22)IV黄斑円孔の硝子体手術後経過図15に術後比較的早期のOCT画像で円孔閉鎖の様子が捉えられた症例を提示する.症例は54歳,女性.質の中心窩への牽引は解除され,よく見ると後部硝子体皮質に蓋と思われる反射がみられる.15カ月後には図14のように後部硝子体皮質は撮影範囲内からはずれ,中心窩の形態は正常化した.矯正視力は1.5に回復した.後部硝子体皮質中心窩陥凹は正常化図12図11の2年後後部硝子体皮質による中心窩への牽引は解除されており,中心窩陥凹も正常化していた.視力は1.5に回復した.後部硝子体皮質胞蓋(pseudo-operculum)図13Stage1Bの自然治癒例64歳,女性.視力は矯正0.9.中心窩に胞様変化があるが,すでに後部硝子体皮質の中心窩への牽引は解除され,中心窩前方の後部硝子体皮質に連続する部位に蓋と思われる反射がみられる.中心窩陥凹は正常化図14図13の15カ月後後部硝子体離の完成に伴って後部硝子体皮質は撮影範囲内からはずれ,胞は消失し中心窩の形態は正常化した.矯正視力は1.5に回復した.術後19日術後10日術前図15円孔閉鎖の様子が捉えられた症例54歳,女性.上段は術前でstage4である.中段は術後10日で円孔周囲の層間分離と網膜離は消失しているが,完全な円孔閉鎖は得られていない.下段は術後19日であるが,黄斑円孔は閉鎖し中心窩陥凹もほぼ正常化している.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009603上段は術前でstage4である.中段は術後10日で下段が術後19日である.多くの症例では術後早期に円孔閉鎖すると考えられているが,この症例では比較的緩徐に円孔閉鎖した.図16は図8のstage4の症例の術後8カ月目のOCTである.中心窩の形態は正常化したものの中心窩下でIS/OSラインの途絶を認め,矯正視力は術前の0.2から0.5までの改善にとどまっており,変視も残存している.図17は図5のstage2の症例の術後12カ月めのOCTである.IS/OSラインは回復し,中心窩の形態も正常化している.自覚的な変視は残存するものの矯正視力は術前の0.4から1.2まで回復した.近年,このようなIS/OSラインの回復と視機能回復の間には相関関係があるとの報告がなされている5).おわりにOCTによる画像診断の飛躍的な進歩により,黄斑円孔をはじめとする網膜硝子体疾患の病態解明が進んできた.一般臨床においても,白内障などで他疾患との鑑別が困難な場合OCTを用いると確実に診断できる.文献1)GassJD:Reappraisalofbiomicroscopicclassicationofstagesofdevelopmentofamacularhole.AmJOphthal-mol119:752-759,19952)KishiS,ShimizuK:Posteriorprecorticalvitreouspocket.ArchOphthalmol108:979-982,19903)KishiS,TakahashiH:Three-dimensionalobservationsofdevelopingmacularholes.AmJOphthalmol130:65-75,20004)ChanA,DukerJS,SchumanJSetal:Stage0macularholes:observationsbyopticalcoherencetomography.Ophthalmology111:2027-2032,20045)InoueM,WatanabeY,ArakawaA:Spectral-domainopti-calcoherencetomographyimagesofinner/outersegmentjunctionsandmacularholesurgeryoutcomes.GraefesArchClinExpOphthalmol247:325-330,2009(23)中心窩陥凹は正常化IS/OSラインの途絶図16図8の症例(stage4)の硝子体手術8カ月後中心窩の形態は正常化したものの中心窩下でIS/OSラインの途絶を認め,矯正視力は術前の0.2から0.5までの改善にとどまっている.IS/OSラインも回復中心窩陥凹は正常化図17図5の症例(stage2)の硝子体手術12カ月後術後12カ月でIS/OSラインは回復し,中心窩の形態も正常化している.自覚的な変視は残存するものの矯正視力は術前の0.4から1.2まで回復した.

黄班上膜はこう読む

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は1997年に日本に導入され,その後,機器の性能も向上し,現在では黄斑疾患の診療には欠かせないものとなっている.OCTを用いることで,定量的に網膜厚や黄斑体積の評価を行えるようになり,治療効果を瞬時に把握できるようになった.Z軸方向の変化を把握することが可能となり,中心窩の陥凹や黄斑部の肥厚の程度などが詳細に観察できるようになったのは画期的な進はじめに網膜の表面はMuller細胞の基底膜である内境界膜によって覆われている.硝子体皮質は内境界膜に接し,網膜と硝子体の境界面を形成している.硝子体皮質は硝子体ゲルの最外層であるが,黄斑部では硝子体皮質の前方に液化腔(後部硝子体皮質前ポケット)1)(図1上)があり,硝子体皮質がポケットの後壁を構成している.黄斑上膜は黄斑部を中心に網膜上に残存した硝子体皮質が内境界膜上で細胞増殖と線維性結合組織を形成して肥厚・収縮する疾患である.偽黄斑円孔は,黄斑上膜の収縮により中心窩の陥凹が深くなり,一見黄斑円孔のようにみえるが,偽円孔の底の網膜外層は保たれており,網膜色素上皮は露出していない.細隙光を当てると円孔ではくびれを自覚するが,偽円孔では均一の幅の細隙光として認識される(Watz-ke-Allentest).黄斑上膜のほとんどは後部硝子体離(posteriorvit-reousdetachment:PVD)を伴う.この場合,PVDの際に網膜側に残存した硝子体皮質が前膜の骨格となる(図1下左).PVDがない場合でも黄斑前皮質はコラーゲン線維膜として存在しているので,それが前膜としてふるまえば,特発性黄斑上膜となりうる(図1下右).硝子体黄斑牽引症候群は,黄斑部において硝子体皮質が黄斑で癒着し,その周囲でPVDが生じ,中心窩が前後方向に牽引されることによるもので,不完全なPVDを伴った黄斑上膜の病態と同様である(図1下中).(11)59146786021特集●光干渉断層計(OCT)はこう読む!あたらしい眼科26(5):591595,2009黄斑上膜はこうOpticalCoherenceTomographyinEpimacularMembrane平野佳男*図1黄斑上膜と後部硝子体皮質前ポケット上:後部硝子体皮質前ポケット.下左:PVDの際に,ポケット後壁が網膜に残存して黄斑上膜の骨格になる.下中:不完全PVDの場合は硝子体黄斑牽引症候群と同じ病態になる.下右:PVDがなくてもポケット後壁が黄斑上膜としてふるまえば黄斑上膜が発症する.———————————————————————-Page2592あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(12)から黄斑上膜の立体的な構造や範囲を把握することが可能で,きっかけを作る場所を術前より想定することができ,手術の戦略を立てやすい(図4).術後のOCTを図5に示す.網膜上に認められた黄斑上膜は除去されている.この症例では中心窩の陥凹が回復し,術後視力も良好だが網膜の肥厚は残存している.Niwaらは,特発性黄斑上膜の術後に視力は改善し,浮腫が軽減するが,浮腫は依然残存し,多局所網膜電図で僚眼の90%以上にまで回復したものは29眼中3眼にす歩である.硝子体は生体内では眼球運動に伴い絶えず動いており,スキャン速度の遅い初期のOCTでは後部硝子体膜を描出することが容易ではなかった.近年発売されたspectraldomainOCTではスキャン速度が高速化され,後部硝子体膜を描出する性能が格段に向上した.また,3D網膜厚マップでは疑似カラーで網膜厚が表示される.暖色系(赤や白)ほど厚く,寒色系(青や黒)ほど薄いことを示す.3D網膜厚マップで網膜の厚みだけでなく,黄斑上膜の範囲も同定することができる.内境界膜と網膜色素上皮を分離して3D表示するカラーセグメンテーションマップもあり,内境界膜と網膜色素上皮の変化もマップで表示される.以下に黄斑上膜,偽黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群のOCT所見を供覧し,解説する.なお,今回掲載したOCT画像はすべてシラスHD-OCT(CarlZeissMeditec)によるものである.I黄斑上膜OCTでは網膜表面に肥厚した膜様組織がみられ,網膜が肥厚し,中心窩の陥凹が消失する(図2).網膜皺襞を伴っている場合には,波打つ内境界膜の各頂点に黄斑上膜が癒着するようにみえる.通常網膜内層の変化が主で網膜外層に影響が及ぶことは少ない.偽黄斑円孔は黄斑上膜の収縮に伴い黄斑の端が肥厚し,中心窩の陥凹が深くなったもの2)だが,偽円孔の底の網膜外層は保たれており,視力は比較的良好である(図3).黄斑上膜の治療は手術により膜を離することが原則である.通常黄斑上膜離においてはmicro-hookedneedleを使用し,膜組織を引っかけてきっかけを作り,その後,鉗子で把持して離を行う.手術に際しては,きっかけ作りが重要である.きっかけを作る部位は膜の境界がわかればそこから,わからなければ網膜皺襞や膜の肥厚が高度の部位より行うが,OCTを用いると術前図271歳,男性の特発性黄斑上膜視力(0.7).網膜表面に黄斑上膜がみられ,網膜は肥厚し中心窩の陥凹が消失している.黄斑上膜は波打つ内境界膜(網膜皺襞)の各頂点に癒着している.図379歳,女性の偽黄斑円孔視力(0.8).中心窩以外の部分に黄斑上膜がある.黄斑の端は肥厚し,中心窩の陥凹が円筒形に深くなっている.偽円孔の底の網膜外層は保たれている.図4図2と同一症例A:網膜表面に肥厚した黄斑上膜があり,その辺縁では網膜から分離している(矢印).B:共焦点画像と網膜厚マップの重ね合わせ画像.眼底上に疑似カラーで網膜厚が表示され,網膜の肥厚が高度な場所(矢印)がわかる.C:3D網膜厚マップ.疑似カラーで網膜厚が表示される.黄斑上膜の立体的な広がりがわかる.矢印の所は急峻な立ち上がりがあり,黄斑上膜が網膜(内境界膜)から分離しているものと推測される.網膜色素上皮にはほとんど変化はみられない.D:この症例においては中心窩の耳側に網膜から分離した黄斑上膜の断端があり,中心窩の下方が網膜の肥厚の強い所であることがわかる.そういった場所から膜離を開始していこうという手術戦略が立てられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009593(13)AILMRPEILM-RPE500um400um300um200um100umBD図4図2と同一症例(図説明はp.592参照)———————————————————————-Page4594あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(14)硝子体皮質が黄斑部を前後方向に牽引する.その結果,黄斑部に胞様変化や網膜離を合併する疾患である(図6).硝子体黄斑牽引症候群が黄斑上膜を伴うものがあり,また黄斑上膜で硝子体黄斑牽引症候群を伴うものもあり,重なりのある疾患であると考えられている4)(図7).OCTでは一見すると派手にみえるが,網膜外層が保たれていれば視力障害はそれほど顕著ではない.術後のOCT(図6C)では硝子体の牽引が除去され,網膜離が消失している.網膜内の胞様変化が減弱し,中心窩の陥凹も認められるようになっている.おわりに以上,黄斑上膜,偽黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群のOCT所見について解説した.ぎなかったと報告している3).II硝子体黄斑牽引症候群硝子体黄斑牽引症候群はPVDの進行が黄斑近傍で停止すると,後部硝子体皮質前ポケットの後壁である薄いABC図5図4の症例の術後1カ月A:網膜表面にあった黄斑上膜は取り除かれ中心窩の陥凹が回復している.網膜皺襞も軽快している.視力(1.5).B:術後1カ月の3D網膜厚マップ.図4Cと比較すると暖色系(網膜の厚い所)の部分は減ってはいるが,僚眼と比較すると依然として網膜が肥厚していることがわかる.また内境界膜の皺も残存している.C:同一症例の僚眼の3D網膜厚マップ.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009595(15)これらの疾患の診療に関しては,OCTの登場で,構造的な評価はかなりのレベルで可能となったが,微小視野計,多局所網膜電図などを含めた機能的な評価も組み合わせ,病態を評価していくことが必要である.文献1)KishiS,ShimizuK:Posteriorprecorticalvitreouspocket.ArchOphthalmol108:979-982,19902)WilkinsJR,PuliatoCA,HeeMRetal:Characterizationofepiretinalmembraneusingopticalcoherencetomogra-phy.Ophthalmology103:2142-2151,19963)NiwaT,TerasakiH,KondoMetal:Functionandmor-phologyofmaculabeforeandafterremovalofidiopathicepiretinalmembrane.InvestOphthalmolVisSci44:1652-1656,20034)LegarretaJE,GregoriG,KnightonRWetal:Three-dimentionalspectral-domainopticalcoherencetomogra-phyimagesoftheretinainthepresenceofepiretinalmembranes.AmJOphthalmol145:1023-1030,2008ACB667歳,男性の硝子体黄斑牽引症候群A:視力(0.2).硝子体が黄斑を前方に牽引している.それに伴い,網膜内に胞様変化と網膜離(*)がみられる.B:眼底写真.C:術後1カ月.視力(1.5).黄斑の牽引が解除され,中心窩の陥凹が回復している.網膜離は消失しているが,胞様変化が軽度残存している.AB748歳,女性の硝子体黄斑牽引症候群偽黄斑円孔を伴っている.A:視力(0.9).硝子体が黄斑を前方に牽引している(矢印).網膜表面に黄斑上膜がみられ(矢頭),網膜内には胞様変化がみられるが,網膜離はなく,網膜外層も保たれている.B:眼底写真.

正常眼はこう読む

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS深さ方向の情報を得るために参照鏡を機械的に動かすことが必要であった.これに対し,フーリエドメインOCTは,光波の干渉をフーリエ空間(周波数領域または波長領域)で行う.すなわち,1回のAスキャンに含まれる波長を分光器を用いフーリエ変換によりスペクトル分解して,一気に深さと反射強度の情報を計算で求めてしまう.よって,フーリエドメインOCTは,深さ方向の機械的走査が不要となるため高速になる.各フーリエドメインOCT製品はAスキャン速度が17~55kHzであり,400HzのタイムドメインOCTよりも43~138倍高速に撮影可能となり,信号感度(シグナル/ノイズ比)も数十倍高くなる.なお,フーリエドメインOCTは,波長固定光源と分光器を用いてフーリエ空間で検出するスペクトラルドメインOCTと光源の発信波長を高速に変化させることにより光波の干渉を同じくフーリエ空間で行う方式である波長走査型OCT(sweptsourceOCT:SS-OCT)とがあるが,近年製品化された眼底用フーリエドメインOCTはすべてスペクトラルドメインOCTのほうである.IIIOCTのBスキャン画像の質を決める因子1.分解能(resolution)OCTによる画像の分解能(resolution)は,深さ分解能(axialresolution)とXY面分解能(lateralresolu-tion)に分けられる(図1).眼底に入る光に平行な方向はじめに近年,スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)の製品が国内だけでも5社から発売され,高解像度のOCT画像を用いて診療を行うことが可能となったが,「見える」分だけ読影の複雑さも増している.本稿では,初めにOCTの読影や解析を行う際に役に立つであろうと思われる基礎的な知識を紹介し,ついで正常眼の読み方・解析方法について述べる.各論にて諸先生方が述べられる内容の理解にも役立てていただきたい.I光干渉断層計概観1990年に山形大学の丹野らがOCTの原理を提案し,1991年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のFujimo-toらがOCTの画像化に成功し,5年後の1996年(国内では1997年)にHumphrey社(現在CarlZeissMed-itec社)から最初の眼底用商用モデルOCT2000が発売された.最初に開発されたのはタイムドメイン(time-domain)という検出方式をとったが,OCTが市場に出て10年目に至り,フーリエドメイン(Fourier-domain)とよばれる異なる検出技術の一つであるスペクトラルドメイン(spectral-domain)方式を用いた新しいOCT製品群の登場に至った.IIタイムドメインとフーリエドメインOCT3000などのタイムドメインOCTは,原則的に1回の測定で1点の情報を得ることしかできないため,(3)583StarOtasariHaai眼6068507眼特集●光干渉断層計(OCT)はこう読む!あたらしい眼科26(5):583~560,2009正常眼はこう読むOpticalCoherenceTomographyinNormalEyes大音壮太郎*板谷正紀*———————————————————————-Page2584あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(4)らの報告である1).粗いOCT2000の画像を9枚加算平均(multipleB-scanaveraging)してスペックルノイズを取り除くとSD-OCT並の画像に変身することが示された(図2).加算平均処理とはいかなる方法であろうか?画像をの分解能が深さ分解能である.この方向をZ方向ともいうためZ方向分解能ともいう.一方,眼底に入る光に垂直な面がXY面である.単にOCTの分解能をいうとき深さ分解能を指す場合が多い.OCTの深さ分解能は光源によって決まる.すなわち,光源の波長帯域が広ければ広いほど深さ分解能は高くなる.タイムドメインOCTでは深さ分解能が10μm程度であったが,近年,実用化されたスペクトラルドメインOCT(SD-OCT)の製品の深さ分解能はメーカー公表値で3~7μmである.深さ分解能の向上により,外境界膜が可視化されるようになった.また,より正確な網膜厚の測定が可能となる.OCTではXY面分解能は高くない.角膜や水晶体の収差がXY面分解能を不良にする最大の攪乱因子であり,従来のOCT診断装置のXY面分解能は20μm程度であった.これは,SD-OCTになっても変わらない.2.スペックルノイズ(specklenoise)深さ分解能に匹敵してBスキャンの解像力に関係する重要な因子にスペックルノイズがある.OCTの画像が,ブツブツとしたノイズの多い画像であることはお気づきのことと思う.スペックルノイズは,レーザー光で物体を照明すると出現する斑点模様のことである.OCTは,スペックルノイズに埋もれている画像なのである.OCTにおけるスペックルノイズの影響の大きさ,言い換えるとスペックルノイズを除去するといかに画像が良くなるか,を最初に示したのが,2005年のSander図2加算平均処理(multipleB-scanaveraging)によるスペックルノイズ除去効果A:OCT2000による1枚の断層像.B,C:OCT2000の断層像を9枚加算平均処理し,スペックルノイズを除去した画像.疑似カラー(B),グレースケール(C).(文献1より)図3スペックルノイズを減らすための加算平均法(multipleB-scanaveraging)を説明する模式図スペックルノイズは重ね合わせる枚数で除した強さに弱まる.図1眼底における深さ分解能(Z)とXY分解能———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009585(5)OCT3000には,アラインメント機能(alignment)があり,網膜色素上皮の高さをそろえ直線化することで,歪みを解消していた.より問題となるのは,黄斑部網膜厚や視神経周囲網膜神経線維厚を計測するときに,スキャンラインが歪む,あるいはサークルスキャンや放射スキャンにおける中心(中心窩や乳頭中心)がずれる,といった問題が生じ(図5),計測値が同じ日に同じ検者が検査しても数値が異なるリスクがあることである.ましてや,経過観察において,撮影日が異なる,検者が異なる場合,そのリスクは大きい.そして,固視の不良な患重ね合わせ,重ね合わせた枚数で割ると実体は元と変わらないが,虚像であるノイズはランダムであるため,重ね合わせた枚数で除した分だけノイズシグナルは希釈される(図3).しかし,実際には,スペックルノイズを取り除くには,まったく同じ部位でBスキャンを何枚も撮影することが必要であり,撮影速度の遅いタイムドメインOCTでは困難であった.この点において,スペクトラルドメインOCTの高速性が重要となってくる2,3).ここで,加算平均処理においてもう一つ問題になるのは,後述する固視微動である.スペクトラルドメインOCTの撮影速度をもってしても固視の悪い患者では,同一部位でBスキャンを得ることがむずかしく,加算平均処理を行うと,かえってぼやけた画像になってしまう(図4).Heidelberg社のHRAOCTSpectralisは三次元的に固視微動を追尾して撮影するeyetrackingシステムを導入し固視微動の問題を解決し,加算平均処理の成功率を向上させた.100枚重ねることも可能となった.これにより,スペックルノイズが激減した画像を見ることが可能になり,実に驚くべき病変の情報が描出されるに至っている.3.固視微動(eyemovement)固視微動の問題は,タイムドメインOCTでは,1枚のBスキャン画像の波打つ歪みとして認められた.図4加算平均法の失敗例A:4枚スキャンのうち1枚の撮影のみ眼が動いたため重ね合わせがうまくいかず,亡霊のような画像(矢印)がかぶっている.B:糖尿病網膜症の同一眼における加算平均法の失敗と成功例.図5固視微動によるスキャンラインの歪みやスキャン中心(中心窩や乳頭中心)のずれ———————————————————————-Page4586あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(6)インOCTであるOCT3000の後極部水平断である.図8がスペクトラルドメインOCTであるHRA-OCTSpectralisによる後極部の水平断・垂直断で,それぞれ50枚加算平均している.図9のアズール染色をしたヒト眼組織切片と同様の構造を示している.図10は3DOCT-1000による黄斑部6mm×6mmの三次元画像である.①反射強度OCT像と組織切片は同様の層状構造を示している.者ほどこのリスクは高まる.スペクトラルドメインOCTで高速化し,1枚のBスキャン画像の歪みは解消され,OCT3000と同じスキャンプロトコールを用いる範囲では上記したリスクは解消された.しかしながら,三次元撮影が可能になったことで,ここに新たな固視微動の問題が生じている.すなわち,どのメーカーの製品でも,三次元撮影に2秒程度あるいはそれ以上の時間がかかるため,固視微動による三次元像の歪みが生じる(図6).また,中心窩を中心にして三次元スキャンを行った場合,2秒の間に中心がずれたり(図6),スキャン予定範囲をはみ出したりする.すなわち,OCT3000において二次元のBスキャンで起こったのと同じ問題が,スペクトラルドメインOCTでは三次元において起きる.真に三次元を生かすためには,固視微動の問題を解決する必要があり,それには二つの方法がある.一つは,スキャン速度をさらに10倍高速化すること.二つめは,眼球運動を追いかけて(追尾して)スキャンも移動しながら行うこと(eyetracking).現時点で,撮影速度を10倍にする技術の実用化はすぐにはできないため,製品レベルで行われているのはeyetrackingのほうである.最初にeyetrackingを行ったのは,HeidelbergEngineering社のHRA-OCTSpectralisで,同時撮影するSLO画像のパターンからX,Y,Zの3方向にeyetrackingを行っている.IV正常黄斑部網膜像このような技術的な進歩を経て,組織切片に近いOCT像を得ることが可能になった.図7はタイムドメ図6スキャン中心のずれ(A)や固視微動によるスキャンラインのずれ(B)AB7OCT3000における正常網膜水平断ILM:内境界膜,IS/OSline:視細胞内節外節接合部,RPE:網膜色素上皮.ABC図8HRAOCTSpectralisにおける正常網膜黄斑部A:水平断(左が鼻側,右が耳側).矢印:血管によるブロック,矢頭:血管,NFL:神経線維層.B:垂直断(左が下側,右が上側).C:水平断の拡大図.GCL:神経節細胞層,IPL:内網状層,INL:内顆粒層,OPL:外網状層,ONL:外顆粒層,ELM:外境界膜,IS/OS:視細胞内節外節接合部,RPE:網膜色素上皮.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009587(7)しかし,組織切片で濃染されている顆粒層はOCT像では低反射層になっており,逆に組織切片で淡染された神経線維層と網状層が高反射層になっている.網膜では神経線維成分が多いところ(神経線維層・内外網状層)では反射波が大量に発生する一方,細胞体から構成されている層(神経節細胞層・内外顆粒層)では反射波の発生が少なく,薄く表現される.②測定光のブロック測定光が物体で強く反射したり吸収されると,その後方では測定光が急激に減少する.この場合,物体の後方では反射波が生じずにシャドーとなる.正常眼でも網膜大血管の後方はシャドーとなる(図8).また,網膜色素上皮で測定光は反射・吸収され,急速に減少するため脈絡膜の詳細な画像は得られにくい.③神経線維層(NFL)神経線維層(NFL)は線維の方向が測定光に対し直角であるために高反射になっている.神経線維層は水平断では非対称となる.NFLGCLIPLINLOPLGGNNHHHHISOSRPERPEISOSOPLONLONLChoroidChoroidFoveacentralis図9ヒト眼網膜の中心窩矢状断組織切片H:Henle線維層,NFL:神経線維,G,GCL:神経節細胞層,IPL:内網状層,N,INL:内顆粒層,OPL:外網状層,ONL:外顆粒層,ELM:外境界膜,IS:視細胞内節,OS:視細胞外節接合部,RPE:網膜色素上皮.(岩崎雅行,猪俣孟:中心窩(黄斑)の構築.臨眼40:1248-1249,1986より改変して引用)図103DOCT1000における正常網膜黄斑部三次元画像左上:三次元画像.右上:EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyで定義されたセクターにおける平均網膜厚.右下:Thicknessmap表示.———————————————————————-Page6588あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(8)⑦網膜色素上皮(RPE)単層立方上皮で,後極部では個々の細胞の直径は約14μm,高さは約12μmである.周辺では個々の細胞の径は大きくなり,高さは小さくなる.色素上皮は最も強い後方反射をひき起こすため,輝度の最も高い反射帯として描出される.⑧脈絡膜(choroid)脈絡毛細血管板も高反射帯であるが,網膜色素上皮と脈絡膜の間のBruch膜は2μmしかないため,色素上皮と脈絡毛細血管板は一体化した高反射帯となる.網膜色素上皮離が起こったときなどはBruch膜の界面が分離される.V網膜厚の測定OCTを利用した網膜厚の測定は黄斑浮腫の診断や各種黄斑疾患の治療効果判定に大変有用である.網膜厚の測定・解析時に注意するポイントについて述べる.1.セグメンテーションまだ,聞き慣れない言葉であるが,OCT2000より用いられてきた画像処理用語であり,「画像の注目する部分を抽出する」という意味である.網膜の前縁と網膜色素上皮前縁をセグメンテーションすると神経網膜の厚みが計測できるわけである.自動セグメンテーションにおける問題は,エラーである.OCT3000でセグメンテーションエラーが調べられているが,42~92%もの画像にエラーが生じているとされる4).セグメンテーションエラーは,網膜厚や網膜神経線維厚の自動計測において重大な問題になる.スペクトラルドメインOCTになり,深さ分解能が高くなり,鮮明な画像になったことで,セグメンテーションエラーが減ることが期待されるが,実際には図11や図6に示すようなエラーも認められる.このような例では再測定や手動でのセグメンテーション補正を検討する必要がある.2.網膜厚の定義実は,単純な網膜厚の計測に問題がある.網膜厚の定義の問題である.OCT3000は,視細胞内節外節接合部(IS/OS)の前縁までを網膜厚として計測していたため黄斑の乳頭よりにはpapillomacularbindleが存在し,厚い神経線維層を示すのに対し,中心窩の耳側はrapheに相当し,神経線維層がない領域となる.これに対し垂直断では対称な厚みとなる(図8).④顆粒層と網状層(GCL,IPL,INL,OPL,ONL)中心窩外では神経線維層(NFL)の外側に中等度反射の神経節細胞層(GCL),高反射の内網状層(IPL)を認める.つぎに低反射の内顆粒層(INL)が存在し,さらには高反射の外網状層(OPL),低反射の外顆粒層(ONL)と続く.中心窩には錐体系の視細胞が集中している.中心小窩では低反射の外顆粒層が網膜のほとんどの層を占めており,表層にわずかなHenle線維層を認めるだけである.⑤外境界膜(ELM)外境界膜(ELM)は膜ではなく,視細胞とMuller細胞の接合部に相当するが,光学顕微鏡では連続したラインに見える.視細胞内節と外節は外境界膜から外側に突出している.タイムドメインOCTでは外境界膜の可視化は困難であったが,スペクトラルドメインOCTでは外境界膜が可視化される.⑥視細胞内節外節接合部(IS/OS)OCT1000およびOCT2000モデルで網膜色素上皮層(RPE)と考えられていた外側の高反射層はOCT3000では2層に分離された.内側の層が視細胞内節(IS)と外節(OS)の接合部(IS/OS)であり,外側の層が網膜色素上皮層である(図7).さらにスペクトラルドメインOCTではIS/OSと網膜色素上皮層の間にさらに1本の高反射帯を認める.この線が何を示すかは明らかでないが,中心窩では錐体細胞の外節の先ではないかと推測されている.内節はミトコンドリアが豊富で,低反射である.外節は円板状の内部構造をもち,光粒子を効率的に受け止められるようになっており,多量の反射波を発生する.特に外節の始まりの部分で強い反射波が生じると考えられる.これはOCTの測定光は同質の物体内では急速に減衰し,異質な物体に到達すると再び反射のピークを作るという性質があるためである.組織学的検討では内節が約30μm,外節が約50μmである.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009589実際には外節分だけ短く計測していた(図12の①,図7).Optovue社のRTVue-100も当初IS/OSの前縁までを網膜厚として計測していたが,最新のバージョンでは網膜色素上皮の後縁(図12の③)へ変更になった.CarlZeissMeditec社のCirrusやトプコン社の3DOCT-1000は網膜色素上皮の前縁までを網膜厚として計測する.理想的には,網膜色素上皮の前縁まで(図12の②)が本当の神経網膜と考えられるが,実際には網膜色素上皮とIS/OSに挟まれているもう1本の高反射ラインがセグメンテーションエラーの原因となりやすい.高分解能になったが故の悩みでもある.妥協策として,厚みにばらつきの少ないと考えられる網膜色素上皮層を含む網膜色素上皮の後縁(③)の採用が増えそうである.セグメンテーションが高度化すれば,網膜色素上皮の前縁(図12の②)に回帰する可能性もある.網膜厚は多くのソフトでEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)で定められた9つのセクターにおける平均網膜厚として表示される(図10).3.スキャン方法タイムドメインOCTを用いての網膜厚測定ではわずか6つ以下のBスキャン(図13)を用いて平均網膜厚が(9)図11セグメンテーションエラー矢印の部分では硝子体混濁を網膜前縁と誤認識してセグメンテーションエラーが発生している.図12複数ある網膜厚の定義①:OCT3000,Optovue社のRTVue-100の前バージョン.②:トプコン社の3DOCT-1000やCarlZeissMeditech社のCirrus.③:RTVue-100の最新のバージョン,HeidelbergEngineering社のHRA-OCTSpectralis,3DOCT-1000変更予定.理想的には,②が本当の神経網膜厚と考えられるが,実際には網膜色素上皮とIS/OSに挟まれているもう1本の高反射ライン(青矢印)がセグメンテーションエラーの原因となる.次善の策として③を採用する機種が増えている.———————————————————————-Page8590あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009測定されていた.これはスキャンスピードが遅く,黄斑部の全領域を密にスキャンすることが不可能であったためである.そのため各部位の正確な網膜厚算出は困難であったといえる.スペクトラルドメインOCTでは高速化により,黄斑部の全領域をくまなくスキャンすることが可能となった.OCT3000では6つのradialscan上の768点で計測を行っていたが,トプコン社の3DOCT-1000では3Dラスタースキャンを用いると黄斑部6mm×6mmの領域を65,536点で計測可能である(図10).このようにスペクトラルドメインOCTの三次元スキャンを用いることにより,正確で再現性の高い網膜厚解析が可能になると考えられる.VI日本人の正常黄斑部網膜厚最後に筆者らが行った日本人の正常黄斑部網膜厚に関する研究について紹介する.国内7施設(東京大学・群馬大学・大阪大学・新潟大学・金沢大学・多治見市民病院・京都大学)の共同研究として,三次元光干渉断層計(3D-OCT)を用いて日本人健常眼の黄斑部網膜厚を測定し,正常黄斑部網膜厚に関与する因子について検討したところ,男女間で黄斑部平均網膜厚に差を認め(男性の平均網膜厚>女性の平均網膜厚),男性では年齢に相関して中心窩以外の黄斑部網膜厚が減少することが示された(投稿中).網膜厚に年齢・性別が関与していることは大変興味深い.網膜厚の検討には,年齢・性別による補正が必要であると考える.文献1)SanderB,LarsenM,ThraneLetal:Enhancedopticalcoherencetomographyimagingbymultiplescanaverag-ing.BrJOphthalmol89:207-212,20052)HangaiM,YamamotoM,SakamotoAetal:Ultrahigh-resolutionversusspecklenoise-reductioninspectral-domainopticalcoherencetomography.OpticsExpress17:4221-4235,20093)SakamotoA,HangaiM,YoshimuraN:Spectral-domainopticalcoherencetomographywithmultipleB-scanaver-agingforenhancedimagingofretinaldiseases.Ophthal-mology115:1071-1078:20084)SaddaSR,JoeresS,WuZetal:Errorcorrectionandquantitativesubanalysisofopticalcoherencetomographydatausingcomputer-assistedgrading.InvestOphthalmolVisSci48:839-848,2007(10)図13タイムドメインOCTでの網膜厚測定6つ以下のBスキャン像で黄斑部平均網膜厚を測定.

序説:光干渉断層計(OCT)はこう読む

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSのとして取り込んで精力的に有効活用し,新しい知見を生み出すのはわれわれ日本人の最も得意とするところである.その証拠に,現在わが国発のOCTの読影に関する優秀な論文が英文学術誌に次々と掲載され続けている.このような状況から,新しいOCTによって今まで手が届かなかった疾患の病態理解がどんどん進み,一方では,さらなるニーズから高い解像度と新しい分析情報をもったOCTが生まれてくることは確実であろう.ただし,OCT画像は真の組織像を完璧にあらわ光干渉断層計(OCT)の進化が止まらない.OCTが一般臨床に応用され,眼底疾患の診断に革新的な変化をもたらして10年以上が経過した.この間,画像の検出方式はタイムドメイン方式からスペクトラルドメイン方式に進化し,測定速度は100倍以上速くなり,解像度(深さ分解能)はOCT2000当初の20μmから最新のOCTでは3μmレベルへと長足の進歩を遂げた(図1参照).それによって感覚網膜の層構造が非常に明瞭に判別できるようになり,特に網膜外層では,外境界膜や視細胞内節外節接合部(IS/OS)ラインなど,より詳細な情報が得られるようになった.タイムドメイン方式OCTでは検出がかなり不安定でわかりにくかった網膜硝子体界面病変も手に取るように検出でき,網膜色素上皮の反射のため判別がほとんど困難であった脈絡膜の情報もある程度得られるようになった.また,病的状態下では網膜色素上皮とBruch膜を明瞭に分離して検出できるようにさえなった.さらに,進化した解析方法によって三次元的情報や層別の細かい定量的解析など,さまざまな新しい情報が瞬時に得られるようになった.このようなツールをすばやく自分のも(1)581TO●序説あたらしい眼科26(5):581582,2009光干渉断層計(OCT)はこう読HowtoReadOpticalCoherenceTomographyImages髙橋寛二*小椋祐一郎**1997年2002年2007年2008年図1OCTの進化(正常網膜断層像,図中数字は解像度)———————————————————————-Page2582あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(2)最新のOCT画像を用いて,最近の新しい知見を中心に,詳しく,かつわかりやすく述べていただいた.正常眼でのOCT像の標準化,黄斑上膜と網膜硝子体界面病変の形態変化をどのように理解するか,黄斑円孔の形成と治癒過程における網膜形態の変化,中心性漿液性脈絡網膜症の病態と形態の相関,加齢黄斑変性の新分類における病態ごとの典型的断層像,糖尿病黄斑浮腫における網膜の層別解釈,さまざまな近視性黄斑病変におけるOCTの役割など,トピックス満載の特集に仕上がった.読者の皆様にはぜひこの特集をご精読いただき,一歩上をいくOCT読影を目指していただきたいと願っている.しているわけではなく,あくまで,「光の反射と影」を読んでいるという原則を忘れてはならない.その意味で今一度,OCT画像の読影にあたっては,眼解剖学や眼病理学の教科書を紐解く重要性を強調したい.一般的な疾患については眼病理学の教科書に,まれな疾患については過去の臨床病理学的な論文に,OCT画像読影のヒントとなる記載がどこかに隠れているものである.このような努力によって,より正確で深みのあるOCT画像の読影が可能となるはずである.本特集では,正常眼,黄斑上膜,黄斑円孔,中心性漿液性脈絡網膜症,加齢黄斑変性,糖尿病黄斑浮腫,近視性黄斑病変について,実際に多数のOCT画像を読んで診断・治療を行っている若手専門家に

当院におけるベバシズマブ(アバスチン)分注液の混濁浮遊物について

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(141)5730910-1810/09/\100/頁/JCLS投稿欄あたらしい眼科26(4):573575,2009c当院におけるベバシズマブ(アバスチン?)分注液の混濁浮遊物について尾花明*1渡辺慎也*2辻大樹*2中道秀徳*2浅野正宏*3*1聖隷浜松病院眼科*2同薬剤部*3同臨床研究管理センターはじめに眼内新生血管には血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の関与1)が大きいことから,VEGF阻害薬による新生血管治療が考案され,2005年には米国で抗VEGFアプタマーであるpegaptanib(商品名:Macu-genR)2)が承認された.また,転移性結腸癌あるいは直腸癌に対する治療薬(注射薬)として開発されたrecombinanthumanizedmonoclonalIgG1VEGF抗体であるbevacizum-ab(商品名:AvastinR100mg/4ml)も眼疾患への有効性が報告3)され,未承認下での使用が拡大している.2006年にbevacizumabのFabフラグメントからなりbevacizumabより分子量の小さなranibizumab(商品名:LucentisR)4)が承認販売されたが,ranibizumabが比較的高価格なこともあって,現在もbevacizumabは広く使用されている.わが国でも2005年後半に一部の施設でbevacizumabの使用が始まり,2006年以降は多数の施設で使用されだした.2008年10月にpegaptanib(商品名:マクジェンR硝子体内注射キット0.3mg,ファイザー),2009年3月にranibizumab(商品名:ルセンティスR硝子体内注射液2.3mg,ノバルティス)が承認販売されたが,適応症が限定されるため,現在もbevacizumabの使用は続いている.飯島らが国内の光線力学的療法(PDT)実施201施設を対象に2008年8月に行ったアンケート調査によると,回答の得られた106施設中bevacizumab治療を実施しているのは89施設で,報告された注射回数の合計は21,328回であった.当科でもbevacizumab治療に関する自主臨床試験が2007年8月に院内倫理委員会の承認を受け,2008年10月までに延べ114眼にbevacizumab硝子体内注射を施行している.bevacizumabはバイアルから分注保存したものを用事使用していたが,最近,その過程で注射液に混濁浮遊物を発見した.そこで,混濁原因を検査した結果,細菌繁殖ではなく蛋白質の凝集と判明したが,今後もbevacizumabの使用は継続されると思われるため,使用者の参考になるように今回の事象を報告する.I混濁発見状況2008年6月16日,加齢黄斑変性患者にbevacizumab硝子体内注射を実施しようとしたところ,術者が注射液内の白色混濁物浮遊に気づいた.薬剤は薬剤部冷蔵庫内に保管されていた注射筒を,治療直前にプラスチックケースに入れて常温で手術室に運んだもので,術者が手にするまでは冷蔵庫から取り出した薬剤師以外には誰も触れていない.当該患者は6月13日にPDTを施行し,この日にbevaci-zumab硝子体内注射予定であった.患者には薬液の異常を説明したうえで了解を得て注射を中止した.そして,17日にトリアムシノロン後部Tenon内注入を施行した.しかし,3カ月後に脈絡膜新生血管の残存がみられたため,9月26日に再度PDTと29日にbevacizumab硝子体内注射を施行したところ,病巣は線維化して滲出性変化が消失し視力は維持された.当日,分注保存されていた9本の注射液を検査したところ,6本に肉眼で混濁が確認された(図1).ただちに,院内感染対策委員会に連絡のうえ,細菌検査と成分分析検査を依頼した.〔別刷請求先〕尾花明:〒430-8558浜松市中区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼科図1Bevacizumabの混濁シリンジに分注された液のピストン表面に混濁物がみられる.右は左写真の□部分の拡大で,混濁物(矢印)がみられる.———————————————————————-Page2574あたらしい眼科Vol.26,No.4,20082008年6月9日と12日に同治療を施行した3例について,治療翌日の検査で異常はなかったが,再度来院を促し,6月17日と18日に治療後2回目の眼底および前眼部検査を施行し,異常のないことを確認した.これより以前に施行した延べ80眼に合併症はみられなかった.IIBevacizumab硝子体内注射液の分注方法Bevacizumab(アバスチンR)は製造元のGenentech,Inc(米国)からRHCUSACorporation(海外処方医薬品個人輸入サービス)を介して個人輸入した.分注は薬剤部内で薬剤師が1バイアル(100mg/4ml)から1mlディスポシリンジ内に0.1ml採取し,三方活栓をキャップ代わりに使用して密閉した.すべての操作はクリーンベンチ内で行われた.この方法で1バイアルから最多37本が分注された.使用直前まで薬剤部冷蔵庫内(46℃)で保存した.本事象の発生までに同様の方法で2バイアルを分注し,すべて問題なく使用した.今回,混濁のみつかったものは,4月1日に新しいバイアルを開封後32本に分注して22本を使用し,そのあとに残った10本のうちの1本であった.分注から使用までの期間は77日であった.III細菌検査1.方法混濁のある分注液2本を検査した.対照にはアバスチンR(Roche)を用いた.グラム染色による顕微鏡観察と培養を行った.培地には血液寒天培地,クロモアガー培地,ポテト培地,ガム半流動培地を使用した.2.結果いずれの検体にも顕微鏡検査にて菌は検出されず,すべての培地で菌の発育を認めなかった.IV成分分析1.方法混濁のある分注液1本を遠心分離(12,000rpm,3分,4℃,2回)して,上清と沈殿に分けた.陽性対照にはアバスチンR(Roche)を用いた.上清と沈殿を電気泳動〔SDS-polyacrylamidegelelectro-phoresis(PAGE)〕し分子量を検索した.電気泳動(native-PAGE)後にウエスタンブロット法を行った.2.結果SDS-PAGEでは上清と沈殿とも25kDaと50kDaにバンドがみられた.Native-PAGEでは分子量が大きすぎるため泳動できなかったが,すべての標本はproteinAに反応した.標本および対照のpH測定ではともにpH5.5であった.V考察Bevacizumabはアミノ酸214個の軽鎖2分子と453個の重鎖2分子からなる分子量約149,000の蛋白質で,その注射用溶液は無色透明である.SDS-PAGEでみられた25kDaと50kDaのバンドはbevacizumabの軽鎖と重鎖に一致するので,沈殿した混濁物は蛋白質でbevacizumabの可能性が高いと考えられた.上清にも同じバンドがみられたことから,溶液の一部が沈殿したと考えられた.また,native-PAGEでは上清と沈殿の両方がproteinAと反応したことから,両方とも抗体機能を有していたと考えられた.以上と細菌検査が陰性であったことから,今回の混濁は蛋白質が凝集した可能性が高い.凝集原因には,濃度,塩濃度,pH,温度変化などが考えられる.分注しても濃度と塩濃度は変わらないことと,pHが対照液と同じであったことから,温度変化が原因と推測された.結腸癌などに認可されているアバスチンR(中外製薬)は28℃で遮光保存と規定されている.今回も薬剤部冷蔵庫(46℃)に保存していたので保存方法に問題はないと思われたが,分注時にいったん常温になった溶液を再冷蔵したために何らかの要因で凝集をきたした可能性も考えられる.しかし,本事象以前にも同じ方法で使用したにもかかわらず同様の問題を生じなかったので,今回の混濁原因は不明である.分注使用は規定外の使用法なので保存期間に関する確かな指針はない.分注後の保存期間は3カ月以内と取り決めている施設もあるようだが,当院での試験実施計画書には保存期間を明記していない.ただし,今回の保存期間は77日であり,常識的範囲内かと思われる.Bevacizumabの眼疾患への使用は目的外使用にあたり未承認治療である.しかし,これまでの報告から明らかなように眼内血管新生を伴ういくつかの疾患の治療3,5)において有効性が高く,かつ,合併症発生率6,7)も海外におけるpegap-tanib2),ranibizumab4)と変わるところがなく,国内のアンケート調査でも大きな問題はみられていない.Pegaptanibは実験的にもbevacizumabより抗VEGF作用が弱いことが指摘されている8).Ranibizumabも認可されたが,加齢黄斑変性以外の疾患には認可された薬剤がないため,今後もbevacizumabの使用は継続されると思われる.当科でも安全性が確認された2008年7月以降,bevacizumab硝子体内注射を再開し,この事例以降2008年10月末までに延べ30眼に施行しているが,問題は生じていない.Bevacizumab使用は医師の自主臨床試験として行われており,万一の事故発生時には医療者責任は免れないと思われる.今回は使用前に異常に気づき,医学的問題を生じなかった.混濁液の分析で抗体作用は維持されていたのでそのまま使用しても有効性は維持されていた可能性はあるが,凝集物(142)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009575の安全性と有効性に関しては不明である.しかし,混濁発見時点では細菌感染の可能性もあるので,異常を認めた場合は使用を中止するべきであると考える.今後の使用に際しては,安全確実な保存と,使用前に必ず目視で混濁などの異常のないことを確認することを勧めたい.文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-lialgrowthfactorinocularuidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19942)GragoudasES,AdamisAP,CunninghamETetal:Pegaptanibforneovascularage-relatedmaculardegenera-tion.NEnglJMed351:2805-2816,20043)AveryRL,PieramiciDJ,RabenaMDetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)forneovascularage-relatedmacu-lardegeneration.Ophthalmology113:363-372,20064)RoseneldPJ,BrownDM,HeierJSetal:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20065)IkunoY,SayanagiK,SogaKetal:Intravitrealbevaci-zumabforchoroidalneovascularizationattributabletopathologicmyopia.One-yearresults.AmJOphthalmol147:94-100,20096)FungAE,RoseneldPJ,ReichelE:TheInternationalIntravitrealBevacizumabSafetySurvey:usingtheinter-nettoassessdrugsafetyworldwide.BrJOphthalmol90:1344-1349,20067)ShimaC,SakaguchiH,GomiFetal:Complicationsinpatientsafterintravitrealinjectionofbevacizumab.ActaOphthalmol86:372-376,20088)KlettnerA,RoiderJ:Comparisonofbevacizumab,ranibi-zumab,andpegaptanibinvitro:Eciencyandpossibleadditionalpathways.InvestOphthalmolVisSci49:4523-4527,2008(143)***

短波長視標を用いた新しいフリッカー視野測定

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(137)5690910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):569572,2009cはじめにStandardautomatedperimetry(SAP)によって510dBの網膜感度の低下が検出される頃にはその部位に対応する網膜神経節細胞はおよそ2040%失われている1).しかし,余剰性の少ない神経経路を測定することで,より早期の網膜感度の低下を検出できるようになってきた.これらの測定方法は大きく分けて2つあげられる.1つは短波長視標を用いた視野測定で余剰性の少ないkoniocellular系(K-cell系)を測定するshort-wavelengthautomatedperimetry(SWAP).もう1つは視標に点滅や錯視などの動きを用いた視野測定で余剰性の少ないmagnocellular系(M-cell系)を測定するickerperimetry(FP),frequencydoublingtechnology(FDT)である.FPは視標と背景のコントラストを固定し各網膜部位のフリッカー融合頻度を測定する.FDTは視標の〔別刷請求先〕平澤一法:〒228-8555相模原市北里1丁目15番地1号北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学Reprintrequests:KazunoriHirasawa,C.O.,DepartmentofVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,MastersProgramofMedicalScience,1-15-1Kitasato,Sagamihara,Kanagawa228-8555,JAPAN短波長視標を用いた新しいフリッカー視野測定平澤一法*1鈴木武敏*2浅川賢*3望月浩志*3柳澤美衣子*3庄司信行*1,3,4*1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学*2鈴木眼科吉小路*3北里大学大学院医療系研究科眼科学*4北里大学医療衛生学部視覚機能療法学NewShort-WavelengthAutomatedPerimetrywithFlickerTargetKazunoriHirasawa1),TaketoshiSuzuki2),KenAsakawa3),HiroshiMochizuki3),MiekoYanagisawa3)andNobuyukiShoji1,3,4)1)DepartmentofVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,2)SuzukiEyeClinicKichikoji,3)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityGraduateSchool,4)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversity,SchoolofAlliedHealthScience目的:Short-wavelengthautomatedperimetry(SWAP)とickerperimetry(FP)の手法を組み合わせたSWAP-FPとSWAP,FPの正常者における網膜感度を比較すること.対象および方法:対象者は正常有志者30名30眼である.視野測定には興和社製の網膜機能検査装置を用い,中心から3°,9°,15°,21°の同心円状に配置された計58点における網膜感度を測定した.SWAP,FP,SWAP-FPの各領域から得られる網膜感度を平均し3群間で比較した.結果:SWAPとSWAP-FPの15°と21°領域においてSWAP-FPの有意な網膜感度低下がみられた(p<0.05,p<0.01).SWAPとFP,FPとSWAP-FPの網膜感度には有意な差はみられなかった.結論:SWAP-FPは9°以内の視野検査法としてはSWAPやFPと同等であり,Bjerrum領域においては,網膜感度の低下をより早期に検出できる可能性が示唆された.Wecomparedretinalsensitivityin30eyesof30normalvolunteers,using3programs:short-wavelengthauto-matedperimetry(SWAP),ickerperimetry(FP)andSWAPwithFP(SWAP-FP).Weevaluatedtheaveragereti-nalsensitivityineacharea(3°,9°,15°and21°)usinganewperimeterforretinalfunction(KOWACo.),andcom-paredtheresultsamong3programs.RetinalsensitivityasmeasuredwithSWAP-FPwassignicantlylowerthanthatwithSWAPinzones15°and21°(p<0.05,p<0.01),whereastherewasnosignicantdierenceinretinalsen-sitivitymeasurementbetweenSWAPandFP,orbetweenFPandSWAP-FP,ineachzone.RetinalsensitivityasmeasuredwithSWAP-FPwasequaltoSWAPandFPwithinthe9°area.ItissuggestedthatdecreasedretinalsensitivitymaybedetectableintheBjerrumareaatanearlystage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):569572,2009〕Keywords:視野,SWAP,Flicker視野,FDT,S-錐体.visualeld,shortwavelengthautomatedperimetry(SWAP),ickerperimetry,frequencydoublingtechnology(FDT),shortwavelengthsensitivecone(S-cone).———————————————————————-Page2570あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(138)時間周波数を固定し各網膜部位のコントラスト閾値を測定する.症例によってはK-cell系が先に異常を示す場合や,またはM-cell系のほうが先に異常を示すこともあり,必ずどちらか一経路が先に選択的に障害されるわけではない2).そのため,SWAPの結果とFDTの測定結果を統合し統計学的に解析することで,より早期の異常を検出する報告もある3).そこで筆者らは興和社製の網膜機能検査装置を用いてSWAPとFPの手法を組み合わせたSWAP-FPを作成し,実際に正常者の網膜感度の測定を試みた.そして同装置を用いてSWAP,FPも作成し,3群間の網膜感度を比較した.I対象および方法対象者は眼圧,眼底に異常がなく,30cm近見視力1.0以上,本研究の趣旨を理解し同意を得た正常有志者30名30眼(男性5名,女性25名)である.対象者の詳細は,平均屈折値1.93±2.17D(+1.506.50D),平均眼軸長24.45±1.11mm(21.0025.93mm),平均年齢22.7±3.0歳(2030歳)である.眼底に豹紋状の変化が顕著である者,眼軸長が26mm以上の者,色覚異常者は除外した.視野測定には,鈴木らによって開発された興和社製の網膜機能検査装置を使用した(図1).本装置は視標が呈示されるディスプレイ(LA-17SO1-1M,MITSUBISHI社製)とそれを制御するノートパソコンからなる単純な構造であるが,背景色や視標色,視標の形や大きさ,測定範囲や測定点などが自由に設定できる.それらのなかから黄色背景に青色視標を呈示するSWAP,白色背景に黒色点滅視標を呈示するFP,黄色背景に青色点滅視標を呈示するSWAP-FPを作成し,以下の条件で測定を行った.今回作成したFP,SWAP-FPはフリッカー融合頻度を測定するのではなくコントラスト閾値を測定する手法である.1.測定環境検査は遮光カーテンで仕切られた暗室で行った.視標が呈示されるモニターと被験者の距離は40cm,必要に応じて近方40cmの屈折矯正を行った.測定点は中心の固視部より3°,9°,15°,21°の同心円状に配列された計58点,視標の形は『#』模様を採用した(図2).その理由はモニターの性能の関係上,通常視野検査に使用される円形視標を10Hzで点滅させると視標を等しい時間で反転することができないが,面積を減らした線形視標を点滅させると反転時間が等しくなるためである.視標サイズは直径9.02mm(GoldmannV相当)を使用し,フリッカー視標は10Hzで測定した.フリッカー視標の呈示条件は,背景輝度と視標輝度の間を点滅させ最高視標輝度のみを変化させる方法を用いた.2.網膜感度・測定プログラム網膜感度はパソコン画面の色を256段階で調節するRGB(red-green-blue)基盤の比率を約25ずつ変化させ010の11段階で表した(図3).図3に示す網膜感度はRGB基盤の比率を変えて表現したもので,通常の視野検査のように輝度を均等に変化させたものとは異なるため単位はないが,各段階における視標輝度をRGB基盤の数値の横に供覧する.固視監視カメラ制御PC視標提示モニター図1網膜機能検査装置()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()視標度()網膜感度視標度()図3網膜感度の表現方法(左は黒視標,右は青視標)RGB表記の横に視標輝度(cd/m2)を供覧した.10°10°10°10°10°10°20°20°20°20°20°20°9.02mm9.02mm図2測定点(左)と視標(右)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009571(139)測定プログラムは2段階の上下法を用いた.たとえば,はじめに網膜感度5を呈示し,反応があれば7,反応がなければ3を呈示し,反応の有無で折り返し網膜感度を決定した.上記をまとめた測定条件は表1に示す.SWAP,FP,SWAP-FPの測定順序はランダムに選択し,測定前に練習を行い,各測定の間の休憩は5分以上とった.Mariotte盲点を挟む上下2点を除外した各領域の網膜感度を平均し,SWAP,FP,SWAP-FPの3群間で比較した(Schee法).SWAP-FPの再現性を検討するために,30名中5名の協力を得て3回測定を行い,再現性(変動係数=標準偏差/平均網膜感度×100)とそれぞれの方法における検査時間も検討した.II結果はじめにSWAP-FPの再現性は,各測定点10%未満と安定していた.SWAP,FP,SWAP-FPの検査時間はそれぞれ5:08±0:19,5:30±0:29,5:22±0:27であり統計学的な有意差はなかった.つぎに,それぞれの測定領域における3つの検査方法で得られた網膜感度を比較すると,3°と9°の領域では3群間に有意差はなかったが,SWAPとSWAP-FPの網膜感度は15°と21°領域でSWAP-FPの網膜感度が有意に低下していた(p<0.05,p<0.01).しかし,SWAPとFP,FPとSWAP-FPの網膜感度に有意差はなかった(図4).III考按今回筆者らは早期緑内障性視野異常の検出を目的としたSWAP-FPの手法を作成し,正常者においては再現性のある安定した結果を得た.視野検査は心理物理学的検査であり,自覚的要素と他覚的要素が複雑にかかわってくる.過去の報告をまとめると,コントラスト閾値を測定するSAP,SWAP,FDTの各測定点における正常者の短期変動は約12dBであるのに対し4,5),フリッカー融合頻度を測定するFPは約5Hzである6).同じM-cell系を測定しているFDTとFPを比べてもFDTのほうが変動は小さく,フリッカー融合頻度を測る方法とコントラスト閾値を測る方法では変動幅が異なる.SWAP-FPはコントラスト閾値を測る手法を用いているため再現性のある安定した結果を導いたと考えられる.また,網膜電図を用いた短波長感受性錐体(S-錐体)機能の他覚的測定では,S-錐体はフリッカー刺激に弱く20Hzを超える高時間周波数の刺激ではS-錐体系は波形が乱れ正しく追従できなくなるという報告がある7).今回筆者らが使用した10HzはS-錐体系の検査に適しており安定した結果を導いたのではないかと考えられる.SWAPとSWAP-FPの比較では15°と21°の2つの領域でSWAP-FPの有意な網膜感度の低下が検出された.解剖学的にも視細胞8)や網膜神経節細胞9)は網膜の中心部位に多く分布しており,特にS-錐体はほとんどが10°以内に分布し全視細胞のなかでも出現頻度は少なく,網膜周辺部分ではさらに少なくなる10).そのためSWAP-FPは9°以内の視野測定では従来の視野計と同等の結果が予想されるが,Bjer-rum領域に網膜感度の低下を生じやすい緑内障患者ではSWAP-FPはSWAPより早期に検出できるかもしれない.また,FPとSWAP-FPを比較するとSWAP-FPの有意な網膜感度の低下は認められなかったが,15°,21°の周辺領域では網膜感度は低くなる傾向であった.今回の黄色背景の輝度は100cd/m2に達していないため正しくS-錐体系を測定できていない可能性があるが,背景輝度が100cd/m2であるSWAP-FPを用いることで9°以内中心視野や15°より外側の周辺視野の網膜感度は変わってくるかもしれない.他に,フリッカー融合頻度とコントラスト閾値を測定するフリッカー視野測定では同じM-cell系を測定していても緑内障の検出力はコントラスト閾値を測定するほうが優れているといった報告もあり11),コントラスト閾値を測定しているSWAP-FPはより鋭敏な検出力を有する可能性もあり,さらなる検討が期待される.しかし,SWAP-FPは短波長視標を用いてコントラスト閾値を測定するため,加齢による中間透光体混濁の影響12)を受けやすい欠点が予想される.モニターの性能の関係で背景輝度が100cd/m2に達しなかったため,正しくS-錐体を分離できていない可能性や,視標呈示時間が0.3secであり1.0secの刺激でなかったこと,液晶モニターを使用して色を表現しているため,肉眼では認表1測定条件の詳細SWAPFPSWAP-FP背景輝度77.3cd/m280.6cd/m277.3cd/m2視標色/背景色青/黄黒/白青/黄周波数0Hz10Hz10Hz視標提示時間0.3sec0.3sec0.3sec視標提示時間1.2sec1.2sec1.2sec視標サイズ直径=9.02mm(GoldmannV相当):SWAP***:FP:SWAP-FP網膜感度測定部位789100n=30Mean±SDSche??test*p<0.05**p<0.013?9?15?21?~~図4各測定方法の網膜感度の結果———————————————————————-Page4572あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(140)識できないが厳密には他の波長成分が混入しているなど,さまざま問題点があげられ,それらは今後の検討課題である.文献1)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalgan-glioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol107:453-464,19892)SamplePA,BosworthCF,WeinrebRN:Short-wave-lengthautomatedperimetryandmotionautomatedperim-etryinpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol115:1129-1133,19973)HornFK,BrenningA,JunemannAGetal:Glaucomadetectionwithfrequencydoublingperimetryandshort-wavelengthperimetry.JGlaucoma16:363-371,20074)BlumenthalEZ,SamplePA,BerryCCetal:EvaluatingseveralsourcesofvariabilityforstandardandSWAPvisualeldsinglaucomapatients,suspects,andnormal.Ophthalmology110:1895-1902,20035)HoraniA,FrenkelS,BlumenthalEZ:Test-retestvari-abilityinvisualeldtestingusingfrequencydoublingtechnology.EurJOphthalmol17:203-207,20076)BernardiL,CostaVP,ShirotaOLetal:Flickerperimetryinhealthysubjects:inuenceofageandgender,learningeectshort-termuctuation.ArqBrasOftalmol70:91-99,20077)横山実:眼病と青の感覚.臨眼33:111-125,19798)CurcioCA,SloanKR,KalinaREetal:Humanphotore-ceptortopography.JCompNeurol292:497-523,19909)CurcioCA,AllenKA:Topographyofganglioncellinhumanretina.JCompNeurol300:5-25,199010)CurcioCA,AllenKA,SloanKRetal:Distributionandmorphologyofhumanconephotoreceptorsstainedwithanti-blueopsin.JCompNeurol312:610-624,199111)YoshiyamaKK,JohnsonCA:Whichmethodofickerperimetryismosteectivefordetectionofglaucomatousvisualeldloss.InvestOphthalmolVisSci38:2270-2277,199712)JohnsonCA,AdamsAJ,TwelkerJDetal:Age-relatedchangesinthecentralvisualeldforshort-wavelength-sensitivepathways.JOptSocAm5:2131-2139,1988***

網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の短期成績

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(133)5650910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):565568,2009cはじめに網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫は,視力低下の原因となる合併症である1).これまで,黄斑浮腫に対する治療として格子状網膜光凝固が試みられているが,黄斑浮腫に対しては有効であったが視力の改善は得られなかった2).トリアムシノロンアセトニド(TA)Tenon下注射または硝子体内注射3,4)も行われてきたが,効果は一時的であり,副作用として眼圧上昇や白内障進行などがみられた.さらに放射状視神経切開術が有効であったとする報告57)もあるが,硝子体手術はリスクも少なくなく,硝子体術者のいる一〔別刷請求先〕新垣孝一郎:〒040-0053函館市末広町7-13江口眼科病院Reprintrequests:KoichiroArakaki,M.D.,EguchiEyeHospital,7-13Suehiro-cho,Hakodate-shi040-0053,JAPAN網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の短期成績新垣孝一郎*1森文彦*1昌原英隆*1外山琢*1田邉智子*1森洋斉*2江口まゆみ*1江口秀一郎*1*1江口眼科病院*2宮田眼科病院Short-TermEectofIntravitrealBevacizumabforMacularEdemainCentralRetinalVeinOcclusionKoichiroArakaki1),FumihikoMori1),HidetakaMasahara1),TakuToyama1),TomokoTanabe1),YousaiMori2),MayumiEguchi1)andShuichiroEguchi1)1)EguchiEyeHospital,2)MiyataEyeHospital目的:網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内単回投与の効果を検討した.対象および方法:CRVO発症後3カ月以内の男性3例,女性4例の7例7眼について,CRVOに伴った黄斑浮腫に対しベバシズマブ(1.25mg/0.05ml)を硝子体内に投与した.年齢は5587歳(平均68歳).ベバシズマブ硝子体内投与前に,トリアムシノロンTenon下投与を施行されている症例はなかった.投与前後の矯正視力と中心窩網膜厚を測定した.結果:中心窩網膜厚は投与前(676±158μm)と比較し,投与1週間(338±73.6μm),1カ月後(437±184μm)で有意に減少した.logMAR視力は,投与前(0.74±0.40),投与後1週間(0.67±0.51),1カ月後(0.78±0.49)の3群間で有意差はみられなかった.結論:CRVOに伴う黄斑浮腫に対して,ベバシズマブ硝子体内投与は中心窩網膜厚を改善させたが,視力の改善は得られなかった.Westudiedtheeectofintravitrealbevacizumabinpatientswithmacularedemasecondarytocentralretinalveinocclusion(CRVO).Subjectscomprised7patients(7eyes)withmacularedemainCRVOwhoreceivedintrav-itrealinjectionofbevacizumab(1.25mg);thecriterionforstudyinclusionwasintravitrealinjectionofbevacizum-abwithinthreemonthsofCRVOonset.Subjectagesrangedfrom55to87years(average68years).Wemeasuredcorrectedvisionandcentralmacularthickness.Centralmacularthicknesswasfoundtohavedecreasedfrom676±158μmatpre-injectionto338±73.6μmat1week,andto437±184μmat1month.MeanvisualacuitylogMARwasnotsignicantlydierentbetweenthethreegroups:0.74±0.40atpre-injection,0.67±0.51at1weekafterinjectionand0.78±0.49at1monthafter.Intravitrealbevacizumabtreatmentwaseectiveforthesecondarymac-ularedemainCRVO,butnotforvisualacuity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):565568,2009〕Keywords:ベバシズマブ,網膜中心静脈閉塞症,黄斑浮腫.bevacizumab,centralretinalveinocclusion,maculaedema.———————————————————————-Page2566あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(134)部の施設でしか行えない制限もある.これまでの報告からも,CRVOに伴った黄斑浮腫に対する治療方法はいまだに確立していない.網膜静脈閉塞症のような血管閉塞病変に伴う黄斑浮腫には,血管内皮増殖因子(VEGF)が関連していることが知られており8,9),近年そのモノクローナル抗体である抗VEGF抗体を硝子体内に投与する治療が報告されている1012).わが国でも,CRVOに伴った黄斑浮腫に対して,抗VEGF抗体であるベバシズマブ(アバスチンR,Genentech,USA)を硝子体内投与した報告がある13,14)が,単回投与での詳細な経過を追っていない.今回筆者らは発症後3カ月以内のCRVOに伴う黄斑浮腫に対し,ベバシズマブ硝子体内単回投与の効果を検討した.I対象および方法発症後3カ月以内のCRVOに伴う黄斑浮腫に対して,TA投与歴のない男性3例,女性4例の7例7眼を対象とした.年齢は平均68歳(5587歳)である.CRVO発症からベバシズマブ投与までの期間は平均37日(789日)で,ベバシズマブ投与後1カ月経過観察を行った.眼底所見,フルオレセイン蛍光眼底検査からCRVOStudy15)の基準と照らし合わせて,5眼は虚血型,2眼は非虚血型であった(表1).虚血型については,汎網膜光凝固を予定した.院内倫理委員会の承認後,十分な説明にて患者の同意を得てベバシズマブ1.25mg/0.05mlを硝子体内に投与した.ベバシズマブ投与前,投与後1週間,1カ月におけるlogMAR視力(小数視力を後にlogMAR換算した)と中心窩網膜厚を検討し,Wil-coxonの符合付順位検定にてp<0.05を有意とした.中心窩網膜厚は光干渉断層計(ZEISS製:OCT3000もしくはCir-rusHD-OCT,以下OCT)を用いて測定した.II結果各症例の視力経過は図1に示すとおりであった.平均logMAR視力は投与前0.74±0.40に対して,投与後1週間,1カ月でそれぞれ0.67±0.51,0.78±0.49となり,3群間で有意差はみられなかった(図2).平均中心窩網膜厚は投与前676±158μmに対して,投与後1週間,1カ月でそれぞれ338±73.6μm,437±184μmとなり,投与後1週間,1カ月で有意に減少した(図3).全症例の中心網膜厚の経過を図4に示した.全症例ともベバシズマブ投与後1週間で網膜厚は減少した.しかし,1カ月後まで減少傾向が持続した症例は2例のみであり,その他の5例は少なくとも網膜厚の再燃がみられた(症例①と④のOCT所見:図5).全例において,投与前よりも悪化する症例はみられなかった.今回の観察期表1各症例一覧症例年齢(歳)性別ベバシズマブ投与までの期間(日)虚血型/非虚血型全身疾患について①73女性73虚血型高血圧症②87女性89虚血型特記事項なし③78女性30虚血型高血圧症,糖尿病④60男性34虚血型高血圧症,糖尿病⑤61女性19虚血型特記事項なし⑥63男性7非虚血型高血圧症,糖尿病⑦55男性10非虚血型高血圧症:症例①:症例②:症例③:症例④:症例⑤:症例⑥:症例⑦投与前1週間後1カ月後00.20.40.60.811.21.41.6logMAR視力図1各症例の視力推移投与前後後平均±標準偏差0.74±0.400.67±0.510.78±0.49logMAR視力図2ベバシズマブ投与前後の平均視力推移———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009567(135)間では,ベバシズマブ投与に関連した眼内炎,眼圧上昇,網膜離,硝子体出血,水晶体損傷などの合併症はみられなかった.III考按今回の結果,CRVOに伴う黄斑浮腫に対してベバシズマブ硝子体内投与後1週間で黄斑浮腫は改善した.中心窩網膜厚は,投与前と比較し1週間後,1カ月後において有意に減少していたが,logMAR視力では,3群間に有意差はみられなかった.Ferraraらは,発症後3カ月以内のCRVOに伴う黄斑浮腫6眼に対して,初回治療としてベバシズマブ1.25mg/0.05ml硝子体内投与を行った経過を報告している10).彼らの報告では,中心窩網膜厚はベバシズマブ投与1カ月後より有意に減少したが,視力の改善が得られたのは2カ月後からであった.最終結果は,6カ月の経過で中心窩網膜厚および視力の有意な改善を得ている.しかし,プロトコールでは1カ月ごとの診察を行い,網膜出血に伴う視力低下,黄斑浮腫の残存,再燃があればベバシズマブを再投与したため,最終観察期間7カ月から15カ月において,4回から10回の投与中心窩網膜厚(m)9008007006005004003002001000**投与前1週間後1カ月後平均±標準偏差437±184338±73.6676±158図3ベバシズマブ投与前後の平均中心窩網膜厚推移*Wilcoxonの符号付順位検定p<0.05.:症例①:症例②:症例③:症例④:症例⑤:症例⑥:症例⑦投与前1週間後1カ月後1,0009008007006005004003002001000中心窩網膜厚(m)図4各症例の中心窩網膜厚推移症例①症例④投与前後後図5症例①と④のOCT所見———————————————————————-Page4568あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(136)が必要であったとしている.Priglingerらの報告11)では,過去にTA投与や放射状視神経切開術,汎網膜光凝固術などを施行された症例も含む46眼に対して,ベバシズマブ1.25mg/0.05ml硝子体内投与を,初回投与と4週間後に再投与している.さらなる追加投与については,視力,黄斑浮腫の経過により個々で判断され,14眼が2回,20眼で3回,12眼で4回投与を行い,6カ月の経過で有意な中心窩網膜厚の減少と視力の改善を得ている.今回の結果では,ベバシズマブ単回投与では中心窩網膜厚の改善はあったが,視力の改善は得られなかった.また,1カ月という短期間において黄斑浮腫の再燃をきたす症例がみられた.視機能回復には,黄斑浮腫を消退させ持続させる必要があるため,CRVOに伴った黄斑浮腫に対する有効なベバシズマブ投与は,複数回必要であることが考えられる.しかし,ベバシズマブ硝子体内投与は適応外使用という問題もあり,角膜障害,水晶体損傷,網膜離,眼内炎などの眼合併症のほかに,血圧上昇や脳血管障害などの全身合併症の可能性も示唆されている16).現状においては,それぞれの施設基準や倫理委員会などにおいて投与の判断がされており,どのような症例に有効なのか,どこまで続けていくか,いつ投与するかなどの問題がある.今後症例数を増やし投与時期や投与回数,長期予後なども含め検討していく必要がある.文献1)ChenJC,KleinML,WatzkeRCetal:Naturalcourseofperfusedcentralretinalveinocclusion.CanJOphthalmol30:21-24,19952)Evaluationofgridpatternphotocoagulationformacularedemaincentralveinocclusion.TheCentralVeinOcclu-sionStudyGroupMreport.Ophthalmology102:1425-1433,19953)KaracorluM,KaracorluSA,OsdemirHetal:Intravitrealtriamcinoloneacetonidefortreatmentofserousmaculardetachmentincentralretinalveinocclusion.Retina27:1026-1030,20074)JonasJB,AkkoyunI,KamppeterBetal:Intravitrealtri-amcinoloneacetonidefortreatmentofcentralretinalveinocclusion.EurJOphthalmol15:751-758,20055)築城英子,三島一晃,北岡隆:網膜中心静脈閉塞症に対する放射状視神経切開術の長期経過.眼紀57:755-758,20066)金子卓,石田政弘,竹内忍:網膜中心静脈閉塞症に対するradialopticneurotomyの成績.臨眼58:923-926,20047)ArevaloJF,GarciaRA,WuLetal:Pan-AmericanCol-laborativeRetinaStudyGroup.Radialopticneurotomyforcentralretinalveinocclusion:resultsofthePan-Ameri-canCollaborativeRetinaStudyGroup(PACORES).Retina28:1044-1052,20088)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-lialgrowthfactorinocularuidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19949)Pe’erJ,FolbergR,ItinAetal:Vascularendothelialgrowthfactorupregulationinhumancentralretinalveinocclusion.Ophthalmology105:412-416,199810)FerraraDC,KoizumiH,SpaideRF:Earlybevacizumabtreatmentofcentralretinalveinocclusion.AmJOphthal-mol144:864-871,200711)PriglingerSG,WolfAH,KreutzerTCetal:Intravitrealbevacizumabinjectionsfortreatmentofcentralretinalveinocclusion:six-monthresultsofaprospectivetrial.Retina27:1004-1012,200712)HsuJ,KaiserRS,SivalingamAetal:Intravitrealbevaci-zumab(avastin)incentralretinalveinocclusion.Retina27:1013-1019,200713)元村憲文,三浦雅博,岩崎琢也:網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するベバシズマブ硝子体内投与の短期成績.臨眼62:533-536,200814)梅基光良,山口泰孝,木村忠貴ほか:網膜静脈閉塞による遷延性類胞状黄斑浮腫に対する硝子体ベバシズマブ投与の短期効果.臨眼62:537-541,200815)Baselineandearlynaturalhistoryreport.TheCentralVeinOcclusionStudy.ArchOphthalmol111:1087-1095,199316)FungAE,RosenfeldPJ,ReichelE:TheInternationalIntravitrealBevacizumabSafetySurvey:usingtheinter-nettoassessdrugsafetyworldwide.BrJOphthalmol90:1344-1349,2006***

SA40N とクラリフレックスの術後比較

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(129)5610910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):561563,2009cはじめにわが国では画一的な診療報酬点数のなかで,種々の眼内レンズが使用されている.今回筆者らはクラリフレックスRにおけるNEIVFQ-25(The25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire)の実施に伴い,SA40NでのNEIVFQ-25を比較検討した.NEIVFQ-25Ver1.3は国際的に広く認められたQOL(qualityoflife)尺度であり,その日本語版は計量心理学的な手法に則り,信頼性と妥当性が確認されたものである1).VFQ-25は視覚関連QOLを測定する25項目からなる.I対象および方法フォルダブル眼内レンズはAMO社製クラリフレックスRで,2006年4月2007年4月の期間に術前視力0.7以下,術後視力1.0以上で,白内障の程度はLOCS(水晶体混濁分類法)III分類にて核16,ASC(前下混濁)とPSC(後下混濁)15の150例(平均年齢68.3±11.4歳,男性70例,女性80例)を対象とした.術式は同一術者により3.0mm上方角膜切開,超音波乳化吸引術,内固定とした.予測屈折値は優位眼は-0.25D-0.75D,僚眼は-1.75D-2.00Dとした.多焦点レンズでは2006年4月2007年4月の期間に術前視力0.7以下,術後視力1.0以上で,白内障の程度はLOCSIII分類にて核16,PSC15の15例(5976歳,平均年齢67歳,男性7例,女性8例)を対象とした.観察期間は90365日(平均290日)であった.術式は同一術者により3.0mm上方角膜切開,超音波乳化吸引,内固定とした.予測屈折値は0+0.50Dとした.使用したレンズはAMO社製フォルダブル屈折型多焦点眼内レンズ(SA40N:2007年12月にわが国での販売は終了している)で近方加入度は+3.50Dであり,適応基準は,角膜乱視-2.00D以内であること,夜間の運転を職業としないこと,明室で瞳孔径〔別刷請求先〕佐藤功:〒253-8558茅ヶ崎市幸町14-1茅ヶ崎徳洲会総合病院眼科Reprintrequests:IsaoSato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ChigasakiTokushukaiMedicalCenter,14-1Saiwaicho,ChigasakiCity,Kanagawa253-8558,JAPANSA40NとクラリフレックスRの術後比較佐藤功石原兵治高梠智彰吉田正至茅ヶ崎徳洲会総合病院眼科PostoperativeComparison:SA40Nvs.CLARIFLEXRIsaoSato,HeijiIshihara,TomoakiKourokiandTadashiYoshidaDepartmentofOphthalmology,ChigasakiTokushukaiMedicalCenterわが国では画一的な診療報酬点数のなかで,種々の眼内レンズが使用されている.今回筆者らは国内での使用が少ない多焦点眼内レンズが,満足度を十分得られているか検討した.対象は3.0mmの上方角膜切開よりSA40Nを挿入した5976歳までの15例で,患者満足度の評価方法はVFQ-25Ver1.3を用いた.検討項目に対して,ほぼ全項でポイントの上昇を認めた.SA40Nでの評価は,当院におけるVFQ-25Ver1.3を用いたクラリフレックスR(CLARI-FLEXR)での評価を上回った.VariousintraocularlensesareusedinuniformmedicaltreatmentfeepointsinJapan.WeinvestigatedwhetherornottherewasacorrespondinghighlevelofsatisfactionwithamultifocalintraocularlensthatisnotwidelyusedinJapan.TheSA40Nwasinsertedinto15patients,from59to76yearsofage,viaa3.0mmuppercornealincision.VFQ-25Ver1.3wasusedasanecacymeasure,forpatientsatisfaction.Thescoreofallpatientsincreasedinalmostallscales.ThescoreforSA40NexceededthatforCLARIFLEXRinthehospitalusingVFQ-25Ver1.3.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):561563,2009〕Keywords:多焦点眼内レンズ,単焦点眼内レンズ,VFQ-25Ver1.3.multifocalintraocularlens,monofocalin-traocularlens,VFQ-25Ver1.3.———————————————————————-Page2562あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(130)3.5mm以上であること2),白内障以外に視力に影響を及ぼす眼疾患がないこと,両眼挿入可能であること,多焦点機能について理解し十分なインフォームド・コンセントの得られたものであった3).検討項目は術後1年において5mの遠方視力,遠方視時の等価球面度数,近方視力(任意距離),近点距離,VFQ-25の測定(12項目),多焦点レンズに関連した項目として遠方,近方視時の満足度,眼鏡装用状況,グレア・ハローの有無とした.II結果術後視力(図1,多焦点レンズ)は,遠方視では裸眼視力1.0以上は74%だが,矯正視力で1.0以上出なかったものは1眼のみであった.近方視力では裸眼視力0.6以上が50%だが,矯正視力では全症例において1.0以上であった.等価球面度数と近点距離(図2,多焦点レンズ)では2カ月後にやや一時的に遠視化するものの3カ月後以降では予測どおり近点距離が平均32cmであった.白内障術前後のVFQ-25スコア(図3)では,大鹿ら4),当院でのフォルダブル眼内レンズ,当院での多焦点レンズの3グループにてスコアをそれぞ0102030405060708090100:大鹿ら術前:大鹿ら術後:フォルダブルIOL術前:フォルダブルIOL術後:多焦点IOL術前:多焦点IOL術後VFQ-25スコア総合得点心の健康役割制限自立社会生活機能色覚周辺視野運転遠見視力行動近見視力行動目の痛み全体的見え方図3白内障手術前後のVFQ25スコア(手術前後で3グループとも改善):大鹿ら:フォルダブルIOL:多焦点眼内レンズVFQ-25スコア051015202530総合得点心の健康役割制限自立社会生活機能色覚周辺視野運転遠見視力行動近見視力行動目の痛み全体的見え方図4VFQ25スコア改善度0.5-0.2500.250.50.7511.251.51.751週間1カ月2カ月3カ月1週間1カ月2カ月3カ月24262830323436384042(cm)(D)術後観察期間術後観察期間近点距離等価球面度数図2等価球面度数と近点距離(多焦点レンズ)1.0以上15眼(50%)30眼(100%)1.0以上遠方近方裸眼矯正0.7~1.07眼(23%)0.7未満1眼(3%)0.91眼(3%)1.0以上22眼(74%)0.4~0.613眼(43%)0.4~0.613眼(43%)0.4未満2眼(7%)0.6以上15眼(50%)1.0以上30眼(100%)1.0以上29眼(97%)図1術後視力(多焦点レンズ)(n=30)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009563(131)れ表示した.白内障によって患者の術前のQOLは著しく障害されているが,術後のQOLは大鹿らと同様に改善した.当院でのフォルダブル眼内レンズを用いたVFQスコアも,大鹿らと類似した結果が得られた.3グループにおける術後スコアから術前スコアをそれぞれ引いたものを改善度(図4)とした.全体的見え方,近見視力行動,遠見視力行動,社会生活機能,心の健康,総合得点の6項目は多焦点レンズにおいて他よりも改善度が上回った.近見視力行動,遠見視力行動,運転,役割制限において,4項目は当院におけるフォルダブル眼内レンズは大鹿らを上回っていたが,これは狙い度数の違いによるものと考えられた.心の健康や総合得点では大鹿らのフォルダブル眼内レンズと当院での多焦点レンズが当院でのフォルダブル眼内レンズを上回った.全体的見え方,心の健康,総合得点では多焦点眼内レンズが最も高い改善度を認めた.III考按多焦点眼内レンズは術後の眼鏡への依存度を軽減するために使用されるもので,それがこのレンズの特徴であり,多焦点眼内レンズを使用した場合,理論上も臨床上も視機能低下が起きることが知られている(コントラスト感度低下,グレア・ハローなど)511).一方,VFQ-25は設問前の患者への注意にあるように,眼鏡(またはコンタクトレンズ)矯正下での視機能や見え方への満足度を調べるものである.患者への説明には,「もし,眼鏡やコンタクトをお使いの方は使っているときのことを答えてください.時々しか使わない場合でも,すべての質問に使っているものとして答えてください.」とあるため,このアンケートでは多焦点眼内レンズの「眼鏡依存度の減少」というQOLへのメリットは反映されず,「視機能低下」の面のみが反映されることが予想される.実際のスコアにおいて「自立」の改善度が低いことから,「眼鏡依存度の減少」というQOLへのメリットは予想どおり反映されなかった.しかし「視力行動」と「全体的見え方」の改善度が高いことからは,「視機能低下」の面のみが反映される予想とは異なる結果が得られた.これはQOLの改善度において,白内障に対する「水晶体再建術」の効果が高いためと思われた.わが国では画一的な診療報酬点数のなかで,さまざまな眼内レンズが使用されているが,SA40Nの使用によりVFQ-25スコアでの術後総合得点改善率は28.3%が32.8%になる程度であった.しかしSA40Nは新しい多焦点眼内レンズに比べ成績が不良であることも報告されており,新しい回折型多焦点眼内レンズとは評価が異なる.それらを使用することによる満足度を患者が十分得られているかどうかは,屈折矯正手術に使用するアンケート方法12,13)などを用いたQOLの評価に基づき,今後の「水晶体再建術」の眼科診療報酬点数は,術式などによる差別化の必要があることを示唆していると思われた.文献1)大鹿哲郎,杉田元太郎,林研ほか:白内障手術による健康関連qualityoflifeの変化.日眼会誌109:753-760,20052)谷口重雄:多焦点眼内レンズ屈折型多焦点眼内レンズ(HOYASFX-MV1).あたらしい眼科25:1081-1086,20083)江口秀一郎:多焦点眼内レンズ多焦点眼内レンズの適応とインフォームド・コンセント.あたらしい眼科25:1049-1054,20084)大鹿哲郎:白内障手術とQOL.日本の眼科76:1399-1402,20055)根岸一乃:眼内レンズ選択多焦点眼内レンズ─屈折型.眼科手術21:293-296,20086)荒井宏幸:多焦点眼内レンズ回折型レンズ(アクリリサ)の術後成績.あたらしい眼科25:1076-1080,20087)藤田善史:多焦点眼内レンズレストアの術後成績.あたらしい眼科25:1071-1075,20088)大木孝太郎:多焦点眼内レンズテクニス回折型多焦点眼内レンズの治療成績.あたらしい眼科25:1066-1070,20089)佐伯めぐみ:多焦点眼内レンズ多焦点眼内レンズ挿入術の術前・術後検査.あたらしい眼科25:1061-1065,200810)林研:多焦点眼内レンズ屈折型と回折型レンズの特徴と使い分け.あたらしい眼科25:1087-1091,200811)ビッセン宮島弘子:多焦点眼内レンズ多焦点眼内レンズと乱視矯正.あたらしい眼科25:1093-1096,200812)ScheinOD:Themeasurementofpatient-reportedout-comesofrefractivesurgery:therefractivestatusandvisionprole.TransAmOphthalmolSoc98:439-469,200013)PesudovsK,GaramendiE,ElliottDB:Thequalityoflifeimpactofrefractivecorrection(QIRC)questionnaire:Developmentandvalidation.OptomVisSci81:769-777,2004***

入院加療を要したコンタクトレンズ装用が原因と考えられる感染性角膜炎の検討

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(125)5570910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):557560,2009cはじめに感染性角膜炎全国サーベイランスによると,2003年に全国24施設に来院した感染性角膜炎患者の年齢分布は20歳代と60歳代にピークを認める二峰性を示し,20歳代の患者のコンタクトレンズ(CL)使用率は89.8%であったという1).2002年以降の東邦大学医学部医療センター大森病院(以下,当院)にて入院を要した感染性角膜炎の症例においても同様の傾向を示しており,2005年,2006年では約半数がCL使用者であった.近年,CL装用は従来型のハードコンタクトレンズ(HCL)やソフトコンタクトレンズ(SCL)からディス〔別刷請求先〕岡島行伸:〒143-8451東京都大田区大森西7-5-23東邦大学医学部医療センター大森病院眼科学教室Reprintrequests:YukinobuOkajima,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine,7-5-23Omori-nishi,Ota-ku,Tokyo143-8451,JAPAN入院加療を要したコンタクトレンズ装用が原因と考えられる感染性角膜炎の検討岡島行伸小早川信一郎松本直平田香代菜杤久保哲男東邦大学医学部眼科学教室EvaluationofClinicalandEpidemiologicalFindingsinContactLens-RelatedInfectiousCornealUlcersRequiringHospitalizationatTohoUniversity,OmoriHospitalYukinobuOkajima,ShinichiroKobayakawa,TadashiMatsumoto,KayonaHirataandTetsuoTochikuboDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine2005年1月から2007年12月の期間に東邦大学医学部大森病院にて入院加療を要したコンタクトレンズ(CL)が起因と思われる感染性角膜炎18例19眼(男性8例8眼,女性10例11眼,平均年齢25.5±7.9歳)を対象に,①視力(入院時および治療終了時),②種類,③装用方法,④原因と推測される検出細菌の種類と検出経路,⑤発生年について検討した.入院時視力は0.1未満が7眼(36%),0.1から0.6以下は6眼(31%)であり,治療終了時視力は0.7以上が18眼(94%)であった.種類は,使い捨てソフトコンタクトレンズ(DSCL)が3眼(16%),頻回交換型SCL(FRSCL)が9眼(47%)であった.装用方法は,守っていなかった例が8眼(42%)であった.角膜擦過から2眼(11%),CLあるいはCL保存液からは12眼中9眼(75%),細菌あるいはアカントアメーバが検出された.種類は角膜擦過から全例Pseudomonasaeruginosaが検出され,CLあるいはCL保存液からはPseudomonasaeruginosa8例,Serratiamarce-scens5例,Acanthamoeba1例などが検出された.発生数は,2005年2眼(11%),2006年9眼(47%),2007年8眼(42%)であった.CL使用についてさらなる啓蒙が必要であると考えられた.AretrospectiveanalysiswascarriedoutinTohoUniversity,OmoriHospitaltoevaluatetheclinicalandepide-miologicalaspectsofcontactlens(CL)-relatedinfectiouscornealulcersrequiringhospitalization.Allpatientsinfor-mationastocultures,type,usage,outcomeandyearwasobtainedfromthe18patients(19eyes)includedinthestudy.Thevisualacuityof13eyesathospitalizationwasbelow12/20.ThreeeyesuseddailydisposableCL,9eyesusedfrequentlyreplacementCL.CLusagewasincorrectin8eyes.Bacteriawereculturedfromthecorneain2eyes,andfromCLstoragein10eyes.ThemostfrequentlyculturedorganismswerePseudomonas(8cases)andSerratia(5cases);Acanthamoebawasculturedin1case.Thenalvisualacuityof18eyeswasabove14/20.Therehadbeennooutbreakbefore2004;infectionoccurredin9eyesduring2006andin8eyesduring2007.ItiscriticaltoeducateCLwearersregardingproperwearingtechniques.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):557560,2009〕Keywords:コンタクトレンズ,感染性角膜炎,使い捨てソフトコンタクトレンズ(DSCL),頻回交換型ソフトコンタクトレンズ(FRSCL),Pseudomonasaeruginosa.contactlens,infectiouskeratitis,disposablesoftcontactlens,frequentlyreplacementcontactlens,Pseudomonasaeruginosa.———————————————————————-Page2558あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(126)ポーザブルコンタクトレンズ(DSCL)や頻回交換型ソフトコンタクトレンズ(FRSCL)へと急速に変化しており,さらにインターネットによって高度医療管理機器であるCLを眼科受診することなく購入できる環境となっている.今回,CLに関連した感染性角膜炎の動向を把握する目的で,当院にて入院加療を要した感染性角膜炎(角膜潰瘍)の症例について,検討を行った.I対象および方法対象は,2005年1月から2007年12月の3年間に当院に入院加療を要したCLに起因した感染性角膜炎(角膜潰瘍)18例19眼(男性8例8眼,女性10例11眼)で,平均年齢は25.5±7.9歳(1748歳)であった.入院加療の適応は,CLに起因した明らかな感染性角膜炎(角膜潰瘍)かつ角膜全体の混濁を認め,初診医が入院加療の必要性を認めた症例とした.各々の症例について,①視力(入院時および治療終了時),②使用CLの種類,③CLの装用方法,④原因と推測される検出細菌の種類と検出経路,⑤発生年,⑥その他特記すべき背景について検討した.③CLの装用方法については,問診にて装用時間とCLケア方法を調査した.④病原体の分離,検出は,患者の同意を得たうえで病巣部(角膜)擦過およびCLやCLケースからの培養を施行した.角膜擦過は開瞼器をかけ,点眼麻酔下にて,円刃などを使用し病巣部の周辺部から中心へ擦過した.角膜擦過の検体,患者の使用していたCLおよびCLケース内の保存液は,シードスワブ2号(栄研化学㈱)および蒸留水入り滅菌試験管の2つに保存し当院検査部にて,培養を施行した.入院後の治療は,培養結果が得られるまで,レボフロキサシン(クラビッドR)またはガチフロキサシン(ガチフロR),トブラマイシン(トブラシンR),および塩酸セフメノキシム(ベストロンR)の計4種類の点眼を1時間ごと,オフサロキサシン眼軟膏(タリビッド眼軟膏R)の1日4回点入,および病巣部擦過を全症例に行った.さらに症状に応じて角膜掻破,抗菌薬の点滴および内服を追加した.培養結果が得られた後,計4種の点眼薬は適宜漸減した.なお,アカントアメーバが検出された症例では,イトラコナゾール(イトリゾールR)およびピマリシン(ピマリシン5%点眼液R)を追加した.対象となった症例に対しては治療経過中に臨床研究への参加の同意を得た.II結果1.視力(入院時および治療終了時)入院時視力:入院時0.01未満が5眼(26%),0.010.1以下が2眼(11%),0.1以上0.6以下が6眼(35%),0.7以上が4眼(21%),測定不能が2眼(11%)であった(図1).測定不能とは,痛みが強く検査に協力が得られず,正確な測定が行えなかった症例とした.7眼(37%)が入院時0.1未満であり,0.6以下は計13眼(68%)であった.治療終了時視力:治療終了時の矯正視力は,0.10.6が1眼(5%),0.7以上が18眼(95%)であった(図1).0.10.6の1眼は0.6であった.図中には示していないが,1.0以上得られた症例が14眼(74%)認められた.2.使用CLの種類入院前に使用されていたCLの種類については,不明の3眼(16%)を除き全例SCLが使用されていた(図2).DSCLが3眼(16%),FRSCL(2週間型)が9眼(47%),従来型SCLが4眼(21%)で,FRSCL(2週間型)を使用していた症例が最も多かった.3.CLの装用方法入院時に装用時間とCLケア方法について問診を行った.装用時間を守り,正しくケアを行っていた症例が7眼(37%),両方ともに怠っていた症例が8眼(42%),不明が4眼(21%)であった(図3).ほぼ行っていた,ときどき行っていなかったなどの回答は,守っていなかったと判定した.10.10.01LP治療終了時視力LPHMCF0.010.11入院時視力図1入院時および治療終了時の視力(n=19)LP:Lightperception(光覚弁),HM:Handmotion(手動弁),CF:Countingngers(指数弁).不明(3眼16%)従来型SCL(4眼21%)FRSCL(9眼47%)DSCL(3眼16%)図2使用CLの種類(n=19)DSCL:使い捨てSCL,FRSCL:頻回交換型SCL,SCL:softcontactlens.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009559(127)4.原因と推測される検出菌の種類と検出経路入院時に行った病巣部擦過および提供されたCLあるいはCLケース内の保存液の培養を行った(表1a,b).角膜擦過は全例(n=19),CLあるいはCLケース内の保存液の培養は12眼施行可能であった.角膜擦過では2眼(11%)のみ検出されたのに対し,CLあるいはCLケース内保存液からは9眼(47%)検出された.検出細菌の種類については,角膜擦過の検体からは,全例Pseudomonasaeruginosaが検出された(表1a).一方,CLあるいはCLケース内保存液からは,Pseudomonasaeruginosa8例,Serratiamarcescens5例,Flavobacteriumindologenes4例,Bacillus属1例,Acanthamoeba1例が検出された(表1b).同一検体から複数の細菌が検出されることが多かった.5.発生年時2005年2眼,2006年9眼,2007年8眼であった(図4).2005年以降の増加が著しくみられた.2004年以前には入院治療となるような重症例はみられなかった.6.その他特記すべき背景両眼発症が1例2眼,過去に同様のトラブルを起こして加療したことがある症例が2例2眼(10%),アトピー性皮膚炎4例4眼(20%),カラーCL使用例が1例1眼(5%)であった.III考按現在,わが国でのCL使用者人口は1,500万人ともいわれている.特にDSCLやFRSCLは多様化し,利用者はさらに増加傾向にある.今回,筆者らが特に印象的であったのは,入院加療を要したCL由来の感染性角膜炎(角膜潰瘍)の症例が2005年以降急増していたことであった.この原因については,CL人口の自然増加にあるためとは考えにくく,むしろDSCLやFRSCL使用者を取り巻く環境や使用者の意識の変化といったものが関与していると思われる.平成18年6月から平成19年7月までに日本コンタクトレンズ協議会が行った,CLの装用が原因と思われる眼のトラブルによりCLの装用中止あるいは一時装用中止を経験したことのある人を対象とした調査では,眼科医療機関に併設する販売店から購入しているユーザーは全体の35.5%にすぎず,53.254.6%のユーザーは眼鏡店または量販店から,3.53.9%のユーザーはインターネットで購入している2).さらに同報告では,トラブル経験者では,27.649.2%のユーザーは定期検査すら受けていない.筆者らの結果,あるいは感染性角膜炎全国サーベイランスの結果から1),DSCLやFRSCLのトラブル例は20歳代が中心である.20歳代のユーザーが量販店やインターネットでCLを購入,定期検査をほとんど受けないで使用し,その結果感染性角膜炎を発症し医療機関を受診するという実態が浮かび上がる.また,症例にFRSCL装用者が多いことは,一度の購入価格が比較的低いことが影響しているのであろう.CLは高度医療管理機器であり,眼科医の管理下で適切に使用すべきであることをこれまで以上に社会に発信していくべきであると考える.今回筆者らは入院加療を要した症例を対象に検討を行ったが,病巣部あるいはCLケースや保存液からの検出菌はPseudomonasaeruginosaやSerratia属,Flavobacterium属といったグラム陰性菌が多数を占めた.感染性角膜炎の原因菌は,かつてPseudomonasaeruginosaが最大の原因菌であ不明(4眼21%)守っていなかった(8眼42%)守っていた(7眼37%)図3CLの装用方法(n=19)表1原因と推測される検出菌a:角膜擦過からの検出細菌ならびに検出数(n=19)Pseudomonasaeruginosa2眼検出されず17眼b:CLやCL保存液からの検出細菌ならびに検出数(n=19)検体提出なし(検査不可)7眼検体提出あり(検査可)12眼(検出なし3眼,検出あり9眼同一検体からの複数の細菌が検出)検出菌症例数P.aeruginosa8例Serratia属5例Flavobacterium属4例Bacillus属1例Acanthamoeba1例02468102005年2006年症例数2007年2例11%8例42%9例47%図4発生年———————————————————————-Page4560あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(128)ったが,1980年代以降はグラム陰性桿菌よりもグラム陽性球菌,特にStaphylococcusaureus,Staphylococcusepider-midis,Streptococcuspneumoniaeがかなりの割合を占めるとされる1).CL障害による角膜感染症では,通常の角膜感染症よりもグラム陰性菌の比率が高いとされ3),なかでもPseudomonasaeruginosaが最も多く検出される4,5).各施設,地域により原因菌の種類には差が出ると予測されるが,前者の報告は入院外来の別を問わず集計されたものであり,後者は大学病院における結果である.筆者らが今回対象としたような入院が必要な程度の角膜炎(重篤な症例)では,やはりPseudomonasaeruginosaが最多となるのであろう.さらに,難治例や特殊例の集中する施設では真菌やアカントアメーバが検出される割合が高い6).今回の筆者らの結果からは,真菌は検出されず,アカントアメーバが1例,CL保存液から検出されたが,原因病原体と考えるには疑わしい経過であった.今後,PseudomonasaeruginosaやSerratia属といったグラム陰性桿菌はもちろんのこと,真菌,アカントアメーバの可能性も念頭におく必要性があると考えられた.また,角膜擦過で細菌が検出された症例は全体の11%(2眼)にすぎなかったが,CLや保存液からは47%の症例にて細菌が検出された.すでに他院にて治療が行われていたこと,擦過するときに十分な協力が得られなかったことなども考えられるが,他の報告においても病巣からの検出率とCLからの検出率は一致しにくいとされる7).高浦らも述べているが,角膜感染症の起因菌はグラム陰性菌,特に緑膿菌の比率が非常に高く,CLや保存液からの検出菌もグラム陰性菌が高率に検出されることからCLや保存液,ケースの汚染が発症に深く関与していると考えられる8).大橋らは,感染様式として環境菌によるレンズケースの汚染+不完全なレンズケア→レンズの汚染→細菌性角膜炎発症という考えを述べているが,筆者らの症例の大部分はまさにその様式に該当するものと考えられる9).今回検討したなかでは,装用方法を正しく守っていたとされる例が8眼(40%)存在する.このことは,定期的なレンズケースの管理および洗浄の重要性を装用方法の順守とともに,医療従事者も含め,強く指導していく必要があると思われる.今回の結果では,来院時視力(入院時視力)はおおむね不良であったが,治療終了時の矯正視力は良好(0.7以上が95%)であった.症例の大部分が20歳代の健常人であることも大きく影響しているが,全般的に転帰は悪いものではなかった.しかし,潰瘍の位置によっては視力の数字だけでは評価できない影響があることは容易に想像され,長期加療による経済的損失も大きい.特に10歳代,20歳代のCL使用者に対しては,適切なCL管理の必要性を指導していくことが重要であると考えられる.文献1)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌110:961-972,20062)日本コンタクトレンズ協議会:コンタクトレンズ眼障害アンケート調査の集計結果報告.日本の眼科78:1378-1387,20073)庄司純:細菌性角膜潰瘍.臨眼57(増刊号):162-169,20034)Mah-SadorraJH,YavuzSG,NajjarDMetal:Trendsincontactlens-relatedcornealulcers.Cornea24:51-58,20055)VerhelstD,KoppenC,VanLooverenJetal:BelgianKeratitisStudyGroup.Clinical,epidemiologicalandcostaspectsofcontactlensrelatedinfectiouskeratitisinBel-gium:resultsofaseven-yearretrospectivestudy.BullSocBelgeOphtalmol297:7-15,20056)三木篤也,井上幸次,大黒伸行ほか:大阪大学眼科における角膜感染症の最近の動向.あたらしい眼科17:839-843,20007)白根授美,福田昌彦,宮本裕子ほか:近畿大学眼科におけるコンタクトレンズによる細菌性角膜潰瘍.日コレ誌43:57-60,20018)高浦典子:コンタクトレンズにおける感染症と角結膜障害.臨眼58:2242-2246,20049)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,2006***

シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(121)5530910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):553556,2009cはじめに臨床の場においてはコンタクトレンズ(CL)を装用したまま点眼薬を使用することを希望する症例が少なからず認められ,特にアレルギー性結膜炎やドライアイなどの患者で多く認められる1).しかし,CL装用中に防腐剤を含有する点眼薬を使用した場合,CLに防腐剤が吸着,蓄積されることによって,CLの変性をきたしたり2),吸着された防腐剤が角結膜に障害を与える可能性があるため,CLを装用したまま点眼することは原則として避けるよう指導されている3).点眼薬の防腐剤として最も繁用されているものは塩化ベンザルコニウム(BAC)であるが,一方で角膜上皮障害や接触性皮膚炎などの副作用が問題視されている46).筆者は過去に〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitosaka,Terada,Joyo610-0121,JAPANシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリンR点眼液)の安全性小玉裕司小玉眼科医院SafetyStudyofAcitazanolastHydrateOphthalmicSolution(ZEPELINROphthalmicSolution)forSiliconeHydrogelContactLensWearersYujiKodamaKodamaEyeClinic抗アレルギー点眼薬のアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリンR点眼液)は防腐剤にクロロブタノール,パラベン類が使用されており,角結膜やコンタクトレンズ(CL)に対する影響が塩化ベンザルコニウムを防腐剤に使用している点眼薬よりも少ない可能性が考えられる.今回,アレルギー性結膜炎患者を対象として2種類のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(アキュビューRオアシスTM,O2オプティクス)装用中にゼペリンR点眼液を点眼した場合の安全性およびCLへの主成分ならびに防腐剤の吸着について検討を行った.その結果,各CL中に主成分またはクロロブタノールが検出されたが,検出量はいずれも微量であり,フィッティングの変化も認められなかった.また,ゼペリンR点眼液による角結膜の障害や副作用は認められなかった.医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上においてゼペリンR点眼液を使用しても,問題はないものと考えられた.Theanti-allergicagentacitazanolasthydrateophthalmicsolution(ZEPELINRophthalmicsolution)containschlorobutanolandp-aminobenzoicacidsaspreservatives.Therefore,itsinuenceonthekeratoconjunctivaandcontactlens(CL)maybelessthanthatofophthalmicsolutionsthatusebenzalkoniumchlorideasapreservative.AllergicconjunctivitispatientswereincludedinthisstudytoinvestigatethesafetyandCLabsorptionofactiveingredientandpreservativesinZEPELINRophthalmicsolution,instilledinwearesof2typesofsiliconehydrogelcontactlenses(ACUVUEROASISTM,O2OPTIX).Resultsshowedthattheactiveingredientorchlorobutanol,wasdetectedineachCL;however,thelevelsdetectedwereverylowandnochangewasobservedinthetting.Fur-thermore,nokeratoconjunctivaldisordersorotheradverseeectswereobserved.Withsucientperiodicinspec-tionsunderadoctor’ssupervision,theuseofZEPELINRophthalmicsolutioninthepresenceofcontactlensesisconsideredsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):553556,2009〕Keywords:アシタザノラスト水和物点眼液,防腐剤,クロロブタノール,パラベン類,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ,角結膜障害,吸着.acitazanolasthydrateophthalmicsolution,preservatives,siliconehydrogelcontactlens,adverseeectsonthekeratoconjunctiva,absorption.———————————————————————-Page2554あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(122)BAC以外の防腐剤のクロロブタノールとパラベン類(パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル)を使用した抗アレルギー点眼薬であるアシタザノラスト水和物点眼液(以下,ゼペリンR点眼液)の酸素透過性ハードコンタクトレンズ,1日使い捨てソフトコンタクトレンズおよび2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用上点眼における安全性について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した7).しかし,その後日本におけるCLの市場はシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの普及が進み,今後もシェアの拡大傾向が予想される.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは従来型CLと材質や表面処理,含水率などが異なるため,主成分や防腐剤のCLへの吸着が異なる可能性が考えられる.今回,ゼペリンR点眼液のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびに防腐剤の吸着について検討を行ったので,その結果について報告する.I対象および方法1.対象当院を受診したアレルギー性結膜炎患者でCLの継続使用を希望し,かつ使用可能な患者5名(年齢2142歳,平均31.4歳,女性5名)を対象とした.2.使用レンズ2週間交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ:アキュビューRオアシスTM〔FDA(米国食品・医薬品局)分類:グループI,酸素透過係数(Dk値:103[×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)]),含水率:38%,中心厚:0.07mm(3.00D),直径:14.0mm〕.1カ月交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ:O2オプティクス〔FDA分類:グループI,酸素透過係数(Dk値:140[×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)]),含水率:24%,中心厚:0.08mm(3.00D),直径:13.8mm〕.3.方法試験開始前に試験の趣旨と内容を説明し,患者の同意を得た.ゼペリンR点眼液を1回2滴,1日4回(朝,昼,夕および就寝前),両眼に4週間点眼した.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズはアキュビューRオアシスTM,O2オプティクスともに両眼に終日装用で4週間使用させ,アキュビューRオアシスTMは2週間ごとに交換し,点眼開始2週間目に交換したCLを回収した.O2オプティクスは4週間装用し,点眼開始4週間目にCLを回収した.回収したCLの1枚は主成分のアシタザノラスト定量用とし,他方1枚は防腐剤のクロロブタノールおよびパラベン類定量用とした.4.CLに吸着した主成分および防腐剤の定量a.主成分の定量被験者から装脱・回収したCLを1枚ずつpH7.0リン酸緩衝液2mlが入ったバイアルに入れ,20分間2回超音波処理した後,CLを取り出し,得られた抽出液について液体クロマトグラフ法によりCLに吸着していたアシタザノラストを定量した.b.防腐剤の定量被験者から装脱・回収したCLを1枚ずつアセトニトリル2mlが入ったバイアルに入れ,20分間2回超音波処理した後,CLを取り出し,得られた抽出液についてガスクロマトグラフ法によりCLに吸着していたクロロブタノールおよびパラベン類を定量した.5.自覚症状試験開始前,試験開始2週,4週目に掻痒感,異物感,眼脂について問診した.6.細隙灯顕微鏡検査試験開始前,試験開始2週,4週目にフルオレセイン染色による角結膜の観察と眼瞼結膜および眼球結膜の充血,浮腫,乳頭の観察と試験開始時,CL装脱直前に角結膜の観察およびCLフィッティング状態の判定を行った.7.副作用投与期間中に発現した症状のうち,試験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした.II結果A.アキュビューRオアシスTM(2週間交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)1.CLから検出された主成分および防腐剤量結果を表1に示す.主成分のアシタザノラストは5検体すべてから検出され,平均検出量は2.44±1.43μg/CLであっNNNHNH2ONHCOCOOH有効成分のアシタザノラスト水和物有効成分の含量:1.08mg/ml添加物:モノエタノールアミン,イプシロン-アミノカプロン酸,パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル,クロロブタノール,プロピレングリコール,ポリソルベート80pH:4.56.0浸透圧比:約1(生理食塩液に対する比)図1ゼペリンR点眼液の概要———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009555(123)た.クロロブタノールは1検体のみから検出され,検出量は10μg/CLであった.パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピルは5検体すべて検出限界以下であった.2.自覚症状試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められなかった.3.細隙灯顕微鏡検査試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められず,すべての症例において試験開始時,CL装脱直前の角結膜に異常は認められず,CLフィッティング状態も良好であった.4.副作用すべての症例において副作用は認められなかった.B.O2オプティクス(1カ月交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)1.CLから検出された主成分および防腐剤量結果を表2に示す.主成分のアシタザノラストは4検体から検出され,平均検出量は0.40±0.45μg/CLであった.クロロブタノールは3検体から検出され,平均検出量は2.58±2.78μg/CLであった.パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピルは5検体すべて検出限界以下であった.2.自覚症状試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められなかった.3.細隙灯顕微鏡検査試験開始前に比べ試験開始2週および4週間目において症状が悪化した症例は認められなかった.また,すべての症例において試験開始時,CL装脱直前の角結膜に異常は認められず,CLフィッティング状態も良好であった.4.副作用すべての症例において副作用は認められなかった.III考按現在市販されているほとんどの点眼薬には防腐剤としてBAC,パラベン類,クロロブタノールなどが含有されてお表2O2オプティクス(1カ月交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)から検出された主成分および防腐剤量検出量(μg/CL)アシタザノラストクロロブタノールパラオキシ安息香酸メチルパラオキシ安息香酸プロピル0.753.4NDND0.075NDNDNDNDNDNDND0.152.8NDND1.06.7NDND平均値±SD0.40±0.452.58±2.78検出限界(μg/CL)0.0110.840.400.56ND:検出限界以下.表1アキュビューRオアシスTM(2週間交換シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)から検出された主成分および防腐剤量検出量(μg/CL)アシタザノラストクロロブタノールパラオキシ安息香酸メチルパラオキシ安息香酸プロピル0.60NDNDND1.9NDNDND2.1NDNDND4.4NDNDND3.210NDND平均値±SD2.44±1.432.00±4.47検出限界(μg/CL)0.0100.880.440.60ND:検出限界以下.———————————————————————-Page4556あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(124)り,これらの防腐剤が角膜上皮に障害をもたらすことは基礎および臨床の面から多くの報告がなされている814).また,防腐剤はCLに吸着することが報告されている2,1518).筆者はBACよりも角膜上皮に対する影響が少ないクロロブタノールとパラベン類を防腐剤に使用したゼペリンR点眼液の従来型CL装用上点眼における安全性について検討を行い,問題がないことを報告した7)が,日本におけるCLの市場は2004年にわが国で初めてのシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるO2オプティクス(チバビジョン)が発売されて以降,普及が進み,現在ではこのレンズを含め同タイプのレンズは5種類7製品が販売されている.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは従来型素材のハイドロゲルコンタクトレンズの欠点である酸素透過性を改善するため,酸素透過性に優れたシリコーンを含む含水性の素材,シリコーンハイドロゲルを用いることにより,低含水性でありながら高酸素透過性を実現したCLである.これにより,従来型ハイドロゲルコンタクトレンズで問題となっていた慢性的な酸素不足による角膜障害や眼の乾燥感を軽減することが可能となった.しかし,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは従来型ハイドロゲルコンタクトレンズと素材や表面処理,含水率などが異なるため,点眼薬の主成分や防腐剤のCLへの吸着が異なる可能性が考えられる.今回,ゼペリンR点眼液を用いて,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびに防腐剤の吸着について検討を行った.その結果,CLの種類により,主成分のCLへの吸着量に差が認められたが,防腐剤の吸着量は差が認められなかった.主成分についてはO2オプティクスと比較し,アキュビューRオアシスTMからの検出量が有意に多く(p<0.05:Student’st-test),CLへの主成分の吸着は使用期間よりもCLの素材と主成分の相互作用やCLの表面処理および含水率の違いにより,CL中に取り込まれる点眼液の量が影響している可能性が示唆された.また,検出量は通常の1日投与量に対して約1/4,2671/73と非常に少ない量であった.防腐剤については,クロロブタノールのみが検出され,アキュビューRオアシスTMとO2オプティクスで検出量に差は認められず,検出量は通常の1日投与量に対して約1/2861/80と非常に少ない量であった.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用中の点眼使用による症状の悪化やCLフィッティング状態に異常は認められず,副作用も認められなかった.以上の結果より,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上においてゼペリンR点眼液を使用しても,問題はほとんどないものと考えられた.文献1)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,20002)岩本英尋,山田美由紀,萩野昭彦ほか:塩化ベンザルコニウム(BAK)による酸素透過性ハードコンタクトレンズ表面の変質について.日コレ誌35:219-225,19933)上田倫子:眼科病棟の服薬指導4.月刊薬事36:1387-1397,19944)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,19895)平塚義宗,木村泰朗,藤田邦彦ほか:点眼薬防腐剤によると思われる不可逆的角膜上皮障害.臨眼48:1099-1102,19946)山田利律子,山田誠一,安室洋子ほか:保存剤塩化ベンザルコニウムによるアレルギー性結膜炎─第2報─.アレルギーの臨床7:1029-1031,19877)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリンR点眼液)の安全性.あたらしい眼科20:373-377,20038)GassetAR:Benzalkoniumchloridetoxicitytothehumancornea.AmJOphthalmol84:169-171,19779)PsterRR,BursteinN:Theeectofophthalmicdrugs,vehiclesandpreservativesoncornealepithelium:Ascan-ningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmol15:246-259,197610)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplidedrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,198011)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,198712)島﨑潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533-538,199113)濱野孝,坪田一男,今安正樹:点眼薬中の防腐剤が角膜上皮に及ぼす影響─涙液中LDH活性を指標として─.眼紀42:780-783,199114)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,199315)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,199216)河野素子,伊藤孝雄,水谷潤ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第2報)─RGPCL素材におけるBAKの研究─.日コレ誌34:277-282,199217)﨑元卓:治療用コンタクトレンズへの防腐剤の吸着.日コレ誌35:177-182,199318)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとマルチパーパスソリュージョン,点眼薬.あたらしい眼科25:923-930,2008***