———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSのベクトルに働き,中心窩網膜の前方牽引がみられる.検眼鏡的所見でも中心窩陥凹の減弱ないし消失がみられる.Gassは細隙灯顕微鏡による観察で,この時期に中心小窩に網膜離が存在すると想定したが,OCT所見では網膜表層に小さな胞を形成することはあるが,網膜離が先行することはなさそうである.図2はstage1-Aのなかでも胞形成のない段階である.中心窩のみ後部硝子体皮質の癒着がみられ,前方へ牽引されて中心窩が浮腫状に描出されている.この前段階として中心窩の形態変化はないが中心窩に後部硝子体の前方牽引がみられるものがあり,一部の研究者はこれをstage0とよんでいる4)が,自覚症状はなく黄斑円孔の僚眼をOCT検査した際に偶発的に見つかることがある.硝子体皮質は自然に離し寛解することが多い.さらに進行すると後部硝子体皮質の牽引は強くなり,図3に示すように中心窩表層に胞形成がみられる.検眼鏡的に胞を確認するのは困難であるが,中心窩に黄色点がみられることがある.2.Stage1BGassは中心窩にみられる黄色輪(yellowring)は網膜離であり,中心窩に裂隙を生じるが濃縮した後部硝子体皮質に覆われている潜伏円孔(occulthole)とし,stage1-Bと分類した.OCTでも黄色輪のみられる症例では,中心窩の胞は網膜全層の裂隙となり,図4のように裂隙周囲の網膜浮腫(層間分離)や網膜離(検はじめに黄斑円孔の分類として現在もGassの新分類1)が使われているが,本来スリットランプでの観察による分類であり,光干渉断層計(OCT)の出現で多くの修正分類や新分類が報告されている.OCT所見の詳細な検討で黄斑円孔の成因は解明されつつあり,これらはそれに則った分類といえる.しかしながら本稿では黄斑円孔の成因を追究することが目的ではないので,これらの諸説には詳しくは言及せず,新しい知見に触れつつも基本的には従来のGass新分類に沿ってOCT所見を解説することにする.図1にGass新分類を示した.Gassは中心窩網膜表面に接した硝子体皮質が網膜接線方向に収縮し,この機械的牽引で中心窩に裂隙が生じると考えた.これに対し岸は,加齢変化による硝子体の液化の際に「後部硝子体皮質ポケット」2)を形成するとし,この後壁をなす硝子体皮質の弧が弦になるような前方に向かうベクトルが働き,特に硝子体皮質の接着の強い中心窩では強い牽引がかかり,中心窩に胞が形成されるとした3).OCT所見からも実際の術中所見からも,現在では岸の考え方が多くの支持を得ていると思われる.I黄斑円孔のステージ別OCT像1.Stage1A後部硝子体離が起き始め,中心窩のみ後部硝子体皮質の癒着がみられる.後部硝子体皮質の牽引は前後方向(17)597TssOtsaTaaas57058071015特集●光干渉断層計(OCT)はこう読む!あたらしい眼科26(5):597603,2009黄斑円孔はこうむOpticalCoherenceTomographyFindingsofMacularHole尾辻剛*髙橋寛二**———————————————————————-Page2598あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(18)A.NormalfoveaVCB.Stage1-AImpendingholeC.Stage1-BImpendingholeD.Stage1-BOccultholeF.Stage2HoleG.Stage2HoleH.Stage3HoleI.Stage4HoleE.Stage1-BOcculthole図1Gassの新ステージ分類Gassは中心小窩の網膜離に始まり(stage1-A),離が中心窩に拡大し(stage1-B),濃縮した後部硝子体皮質の後方にoccultholeが形成されるとした.さらに後部硝子体皮質が眼球接線方向に移動し,occultholeが拡大すると,濃縮した後部硝子体皮質が眼球前方に移動し,pseudo-operculumとなり,この一部に裂隙が生じる(stage2).Stage3では円孔が拡大し,後部硝子体離(PVD)が起きるとstage4となる.(文献1より改変)後部硝子体皮質黄斑浮腫図2Stage1A胞形成のないもの66歳,女性.視力は矯正0.6.中心窩で後部硝子体皮質の癒着が残存しており,中心窩網膜は前方へ牽引されて浮腫状になっている.後部硝子体皮質?胞様図3Stage1A胞形成のあるもの58歳,男性.視力は矯正0.6.後部硝子体皮質の中心窩への強い牽引がみられ,中心窩表層に胞形成がみられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009599(19)5.Stage4検眼鏡的な後部硝子体離の完成,すなわちWeissringが確認できればstage4である.OCTでは円孔の形態はstage3と同様である.図8のように症例によっ眼鏡的にみられるuidcu部)がみられることもある.3.Stage2検眼鏡的に黄色輪の内側に裂隙を生じた状態がstage2である.OCTでも黄斑円孔を蓋のように覆う部分に裂隙があるのがわかる(図5,6)が,この蓋の部分はGassが「pseudo-operculum」と言うように濃縮した後部硝子体皮質であるのか,あるいは胞前壁,すなわち網膜内層の一部であるのかはOCTでも組織学的にも決着はついていないが,近年のOCTでみると症例によってどちらもありうるのかもしれない.4.Stage3部分的な裂隙が拡大し,黄斑円孔が完成した状態である.検眼鏡的に蓋(あるいはpseudo-operculum)は円孔の直前に存在し,後部硝子体離は未完成である.OCTでは図7のように後部硝子体皮質の中心窩への牽引は円孔の完成とともに解除され,円孔前方に後部硝子体皮質に連続して蓋がみえる.蓋の部分は比較的厚く,均一な反射として描出されており,この症例では濃縮した後部硝子体皮質としても矛盾はない.後部硝子体皮質円孔底の残渣様の所見蓋(pseudo-operculum)全層円孔図6Stage265歳,男性.視力は矯正0.2.図5と同様に蓋の一部に裂隙が生じている.この症例ではOptovue(スペクトラルドメインOCT)でみると内顆粒層と思われる反射帯と蓋の反射との連続性があるようにみられる.後部硝子体皮質層間分離網膜?離図4Stage1B61歳,男性.視力は矯正0.5.中心窩の胞は網膜全層の裂隙となり,その周囲にHenle層の層間分離や網膜離がみられるが,網膜最表層の構造物は残存している.後部硝子体皮質層間分離蓋(pseudo-operculum)全層円孔図5Stage266歳,女性.視力は矯正0.4.後部硝子体皮質の牽引はさらに強くなり,黄斑円孔を蓋のように覆う網膜最表層の構造物に裂隙が生じている.OCT3000(タイムドメインOCT)では網膜最表層の構造物が網膜の一部なのか,濃縮した後部硝子体皮質なのかはよくわからない.———————————————————————-Page4600あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(20)るとOCT像は完璧に理解できる.網膜表層には細胞成分を含む網膜上膜がみられ,網膜内の2層の胞様腔は,内側の小さい胞は内顆粒層,外層の大きい胞様腔は外網状層にあるのがわかる.また,網膜が挙上した円孔縁のuidcu部では,視細胞層は萎縮して細胞数が減少して菲薄化し,内節の減少と外節の消失がみられる.III黄斑円孔の特殊例1.分層黄斑円孔Stage1の胞形成から裂隙を生じ全層黄斑円孔となることはすでに述べたが,この段階で,視細胞などの網膜外層の構造は残したままで胞に裂隙ができて分層円孔となることがある.OCTでもIS/OSラインは確認でき,全層円孔でみられる円孔底の残渣様の所見とは異なるが,円孔周囲には全層円孔と同様に網膜浮腫(層間分離)がみられる(図10).2.黄斑円孔の自然治癒例Stage1では後部硝子体皮質の中心窩への牽引が自然に解除されることがある.図11の症例は55歳,女性.中心暗点を自覚していては,後部硝子体皮質が網膜のかなり前方にみられることもあるが,一般的には後部硝子体皮質は画像の撮影範囲外に出てしまい,描出されないことが多い.術前にWeissringがあっても,術中に後部硝子体皮質が残存していることを経験することがあるが,実際の後部硝子体離の有無にかかわらず,Weissringがあればstage4である.II黄斑円孔のOCT組織相関黄斑円孔stage4の組織像はかなり詳細に調べられている.OCT像の解釈には組織像が不可欠なのでOCT像と組織像を対比して解説する.図9の上段はstage4のOCT像の典型例であり,下段はSpencerの教科書から引用した黄斑円孔の組織像である.完成したstage4のOCT像では円孔縁の網膜は挙上し,そのなかに網膜内の胞様変化がみられる.この症例ではよく見ると胞様変化は感覚網膜内の2層にわたって胞様腔がみられ,挙上した網膜外層には視細胞内節外節接合部(IS/OS)ラインが一部みられるが途中で消失している.網膜表層には薄い網膜上膜の反射がみられる.OCT像の白枠で囲んだ部位を組織像と対比して考え後部硝子体皮質層間分離蓋(pseudo-operculum)図7Stage360歳,女性.視力は矯正0.3.黄斑円孔は完成し,円孔周囲には層間分離がみられる.円孔前方に後部硝子体皮質に連続して蓋と思われる均一な厚い反射がみえる.この症例では,蓋は網膜の一部というより濃縮した後部硝子体皮質の可能性もある.後部硝子体皮質層間分離網膜?離図8Stage467歳,女性.視力は矯正0.2.円孔の形態はstage3と同様であるが,この症例では,後部硝子体皮質が網膜の前方にみられる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009601(21)12のように中心窩に後部硝子体離が起きていた.自覚的にも中心暗点が改善し,矯正視力は1.5であった.図13の症例は64歳,女性.変視症と数日前からの飛蚊症を自覚し受診,視力は矯正0.9であった.OCTでは中心窩に胞様変化があるが,すでに後部硝子体皮たが視力は矯正1.2.検眼鏡的には中心窩陥凹の消失を認め,OCTでは後部硝子体皮質の中心窩への牽引と中心窩の網膜浮腫がみられ,stage1-Aと診断した.半年おきにOCTで経過観察とし,約2年後のOCTでは図内顆粒層の?胞様腔外網状層の?胞様腔視細胞層の萎縮Fluidcu?部薄い網膜上膜(細胞成分あり)網膜上膜?胞様腔Fluidcu?部IS/OSラインが途中で消失図9Stage4のOCT所見と病理組織切片との比較本文中に述べたようにスペクトラルドメインOCTと病理組織切片の所見には一致点が数多くみられる.(組織像は「SpencerWH:Ophthalmicpathology:anatlasandtextbook-4thed,p1069,WBSaunders,Philadelphia,PA,1996」から引用した)後部硝子体皮質(網膜上膜)層間分離網膜外層は残存図10黄斑分層円孔76歳,女性.視力は矯正0.6.円孔は網膜外層には及んでおらず,IS/OSラインは確認できる.円孔周囲には全層円孔と同様に層間分離がみられる.後部硝子体皮質網膜浮腫図11Stage1Aの自然治癒例55歳,女性.視力は矯正1.2.後部硝子体皮質の中心窩への牽引と中心窩の網膜浮腫がみられる.———————————————————————-Page6602あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(22)IV黄斑円孔の硝子体手術後経過図15に術後比較的早期のOCT画像で円孔閉鎖の様子が捉えられた症例を提示する.症例は54歳,女性.質の中心窩への牽引は解除され,よく見ると後部硝子体皮質に蓋と思われる反射がみられる.15カ月後には図14のように後部硝子体皮質は撮影範囲内からはずれ,中心窩の形態は正常化した.矯正視力は1.5に回復した.後部硝子体皮質中心窩陥凹は正常化図12図11の2年後後部硝子体皮質による中心窩への牽引は解除されており,中心窩陥凹も正常化していた.視力は1.5に回復した.後部硝子体皮質胞蓋(pseudo-operculum)図13Stage1Bの自然治癒例64歳,女性.視力は矯正0.9.中心窩に胞様変化があるが,すでに後部硝子体皮質の中心窩への牽引は解除され,中心窩前方の後部硝子体皮質に連続する部位に蓋と思われる反射がみられる.中心窩陥凹は正常化図14図13の15カ月後後部硝子体離の完成に伴って後部硝子体皮質は撮影範囲内からはずれ,胞は消失し中心窩の形態は正常化した.矯正視力は1.5に回復した.術後19日術後10日術前図15円孔閉鎖の様子が捉えられた症例54歳,女性.上段は術前でstage4である.中段は術後10日で円孔周囲の層間分離と網膜離は消失しているが,完全な円孔閉鎖は得られていない.下段は術後19日であるが,黄斑円孔は閉鎖し中心窩陥凹もほぼ正常化している.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009603上段は術前でstage4である.中段は術後10日で下段が術後19日である.多くの症例では術後早期に円孔閉鎖すると考えられているが,この症例では比較的緩徐に円孔閉鎖した.図16は図8のstage4の症例の術後8カ月目のOCTである.中心窩の形態は正常化したものの中心窩下でIS/OSラインの途絶を認め,矯正視力は術前の0.2から0.5までの改善にとどまっており,変視も残存している.図17は図5のstage2の症例の術後12カ月めのOCTである.IS/OSラインは回復し,中心窩の形態も正常化している.自覚的な変視は残存するものの矯正視力は術前の0.4から1.2まで回復した.近年,このようなIS/OSラインの回復と視機能回復の間には相関関係があるとの報告がなされている5).おわりにOCTによる画像診断の飛躍的な進歩により,黄斑円孔をはじめとする網膜硝子体疾患の病態解明が進んできた.一般臨床においても,白内障などで他疾患との鑑別が困難な場合OCTを用いると確実に診断できる.文献1)GassJD:Reappraisalofbiomicroscopicclassicationofstagesofdevelopmentofamacularhole.AmJOphthal-mol119:752-759,19952)KishiS,ShimizuK:Posteriorprecorticalvitreouspocket.ArchOphthalmol108:979-982,19903)KishiS,TakahashiH:Three-dimensionalobservationsofdevelopingmacularholes.AmJOphthalmol130:65-75,20004)ChanA,DukerJS,SchumanJSetal:Stage0macularholes:observationsbyopticalcoherencetomography.Ophthalmology111:2027-2032,20045)InoueM,WatanabeY,ArakawaA:Spectral-domainopti-calcoherencetomographyimagesofinner/outersegmentjunctionsandmacularholesurgeryoutcomes.GraefesArchClinExpOphthalmol247:325-330,2009(23)中心窩陥凹は正常化IS/OSラインの途絶図16図8の症例(stage4)の硝子体手術8カ月後中心窩の形態は正常化したものの中心窩下でIS/OSラインの途絶を認め,矯正視力は術前の0.2から0.5までの改善にとどまっている.IS/OSラインも回復中心窩陥凹は正常化図17図5の症例(stage2)の硝子体手術12カ月後術後12カ月でIS/OSラインは回復し,中心窩の形態も正常化している.自覚的な変視は残存するものの矯正視力は術前の0.4から1.2まで回復した.