———————————————————————-Page1(115)5470910-1810/09/\100/頁/JCLS42回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科26(4):547551,2009cはじめにサルコイドーシスは全身性肉芽腫性疾患で脳神経症状としては顔面・視神経障害の頻度が高く,動眼・滑車・外転神経障害の報告は少ない13).今回筆者らは短期間に両眼瞼下垂をくり返したサルコイドーシスの2例を経験したので,その眼科的所見および臨床症状について報告する.I症例〔症例1〕33歳,男性.主訴:両眼瞼下垂.現病歴:2000年健診にて肺門部リンパ節腫脹(BHL)を指摘され,経気管支肺生検の結果サルコイドーシスと組織診断された.2007年6月中旬より左右の眼瞼下垂をくり返し,〔別刷請求先〕相馬実穂:〒849-8501佐賀市鍋島5丁目1番1号佐賀大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MihoSoma,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine,5-1-1Nabeshima,Saga849-8501,JAPAN眼瞼下垂と眼球運動障害をくり返したサルコイドーシスの2例相馬実穂*1石川慎一郎*1平田憲*1沖波聡*1皆良田研介*2*1佐賀大学医学部眼科学講座*2皆良田眼科TwoCaseofSarcoidosiswithFrequentRecurrenceofBlepharoptosisandOphthalmoplegiaMihoSoma1),ShinichiroIshikawa1),AkiraHirata1),SatoshiOkinami1)andKensukeKairada2)1)DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine,2)KairadaEyeClinic緒言:眼瞼下垂と眼球運動障害をくり返したサルコイドーシスの2例を報告する.症例:症例1は33歳,男性,7年前にサルコイドーシスと診断された.左右の眼瞼下垂をくり返し近医受診.頭部磁気共鳴画像(MRI)に異常なく重症筋無力症も否定され,佐賀大学附属病院眼科を受診した.右眼瞼下垂を認めたが,両眼とも活動性炎症所見はなかった.プレドニゾロン(PSL)20mg内服開始後に下垂は改善したが,漸減に伴い左右下垂と動眼・滑車神経障害の再発をくり返した.症例2は64歳,女性,両眼ぶどう膜炎と左眼瞼下垂で紹介受診.胸部コンピュータ断層撮影(CT)で肺門部リンパ節腫脹(BHL)が判明した.PSL20mg内服,点眼加療後に下垂は改善,眼底所見も改善し内服を中止した.その後,左眼瞼下垂が再発したがミドリンRP点眼で下垂は改善,その後も左右眼瞼下垂と上転障害の再発をくり返したが点眼のみで改善した.結論:反復性の眼瞼下垂と眼球運動障害では,サルコイドーシスも原因疾患として検索を進める必要がある.Wereport2casesofsarcoidosiswithfrequentrecurrenceofblepharoptosisandophthalmoplesia.Case1,a33-year-oldmalewhohadhadsarcoidosisfor7years,noticedrecurrentblepharoptosis.Brainmagneticresonanceimaging(MRI)wasnormal.Myastheniagraviswasruledout.Hewasreferredtousforblepharoptosisoftherighteye.Therewasnoactiveintraocularinammation.Withoralprednisolone,theblepharoptosisdisappearedwithin2weeks.However,whentheprednisolonewasreduced,bilateralblepharoptosisrecurredandophthalmoplegia(CNIII,IVandVI)wasobserved.Case2,a64-year-oldfemale,wasreferredtousforblepharoptosisofthelefteyeanduveitisofbotheyes.Ocularmovementwasnormal.Chestcomputedtomography(CT)revealedbilateralhilarlymphadenopathy.Oralprednisoloneandeyedropsofbetamethasoneandmydriaticsresultedinimprovementofblepharoptosisandintraocularinammation,althoughtheblepharoptosisontheleftsiderecurredwithprednisolo-nediscontinuation;thiswastreatedwithmydriatics.Recurrentblepharoptosisandophthalmoplesiamaybecausedbysarcoidosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):547551,2009〕Keywords:サルコイドーシス,眼瞼下垂,眼球運動障害.sarcoidosis,blepharoptosis,ophthalmoplesia.———————————————————————-Page2548あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(116)近医を受診.頭部磁気共鳴画像(MRI)にて異常なく,7月30日佐賀大学附属病院神経内科に紹介されるも重症筋無力症は否定され,8月6日眼科へ紹介となった.既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.初診時所見(2007年8月6日):視力は右眼0.1(1.5×2.5D(cyl1.0DAx165°),左眼0.15(1.5×2.0D(cyl1.0DAx165°).眼圧は右眼13mmHg,左眼15mmHg.眼位,眼球運動,対光反応は異常なく,瞼裂幅は右3mm,左10mmと右眼瞼下垂を認め,挙筋作用は右5mm,左15mmと右がやや不良であった.前眼部は両眼cell(),フレア(),隅角鏡にて両眼にテント状周辺虹彩前癒着(PAS)を認めた.右眼眼底の下方に軽度硝子体混濁を認めたが,左眼眼底は異常がなかった.検査所見:一般血液学的には異常なく,内分泌学的には甲状腺刺激ホルモン(TSH)1.32μg/dl,f-T33.2ng/dl,f-T41.0ng/dl,抗アセチルコリンレセプター抗体0.2nmol/l,ヘモグロビンA1C(HbA1C)5.3%と正常であった.髄液検査では細胞数0/mm3,蛋白質22mg/dl,糖57mg/dlと正常であった.経過:サルコイドーシスの眼病変の既往があると思われたが,活動性の炎症所見は認めなかった.眼瞼下垂の原因としてサルコイドーシスを考え,同日よりプレドニゾロン(PSL)20mg(0.3mg/kg)の内服を2週間行ったところ右眼瞼下垂は改善したため,10mgを3日間,5mgを4日間内服し3週間後に中止した.内服中止から2週間後に左の眼瞼下垂が出現,3週間後に下垂は両眼性となり両眼の上転障害,右眼の内転・下転・内下転障害も認めた(図1).その後眼瞼下垂・眼球運動障害とも寛解・再発をくり返した(図2).9月20日に再検した頭部・眼窩MRIでは,右海綿静脈洞に軟部腫瘤様構造を認め,サルコイドーシスによる肉芽腫性病変が疑われたが病状とは一致しなかった.病変部位として動眼神経核の障害を考え,10月22日に脳幹部MRIを施行したが異常を認めなかった.鑑別として慢性進行性外眼筋麻痺を疑い精査を行った.筋電図では大腿四頭筋,前脛骨筋に低振幅波を認めたが,筋生左眼右眼図2症例1:2007年10月11日再診時Hessチャート瞼裂幅は右7mm,左9mmと右眼瞼下垂を認め,挙筋作用は右12mm,左15mmであった.右眼の内転・上転障害を認めた.左眼右眼図1症例1:2007年9月20日再診時Hessチャート瞼裂幅は右4mm,左4mmと両眼瞼下垂を認め,挙筋作用は右7mm,左7mmであった.両眼の上転障害,右眼の内転・下転・内下転障害を認めた.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009549(117)検では異常を認めなかった.以上の結果から眼瞼下垂の原因を神経サルコイドーシスと考え,2008年1月23日PSL20mg(0.3mg/kg)の内服が再開された.内服再開に伴い眼瞼下垂は速やかに改善したが,眼球運動障害は残存した.短期間の内服では再燃の可能性が高いと思われたため,PSL内服量は症状の軽快に合わせ20mgを13週間,15mgを2週間,10mgを3週間と漸減した.再開後4カ月を経過した現在,10mg内服中で眼瞼下垂・眼球運動障害とも改善傾向にある(図3).〔症例2〕64歳,女性.主訴:右眼充血,左眼瞼下垂.現病歴:2006年12月22日より右眼充血,12月25日よ左眼右眼図3症例1:2008年6月13日再診時Hessチャート瞼裂幅は右9mm,左9mm,挙筋作用は右14mm,左15mmで両眼瞼下垂はほぼ消失している.右眼の上転・内転障害が残存し,正面視にて外斜している.左眼右眼図4症例2:2008年4月4日再診時Hessチャート瞼裂幅は右4mm,左6mmと右眼瞼下垂を認め,挙筋作用は右7mm,左11mmであった.右眼上転障害を認めた.———————————————————————-Page4550あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(118)り左眼瞼下垂があり近医を受診.12月27日精査・加療目的にて当科へ紹介となった.既往歴:高コレステロール血症,胆石にて内服中.家族歴:特記事項なし.初診時所見(2006年12月27日):視力は右眼1.2(矯正不能),左眼1.2(矯正不能).眼圧は右眼19mmHg,左眼20mmHg.眼位,眼球運動,対光反応は異常なく,瞼裂幅は右8mm,左2mmと左眼瞼下垂を認め,挙筋作用は右11mm,左4mmと左が不良であった.前眼部は両眼ともcell(),フレア(),隅角鏡にて両眼に結節,右眼にテント状PASを認めた.前部硝子体に右眼cell(3+),左眼cell(2+)で右眼に網膜静脈周囲炎と網膜滲出斑,左眼に数珠状硝子体混濁と網膜滲出斑を認めた.経過:初診時に施行したツベルクリン反応は陰性,血清アンギオテンシン変換酵素活性(ACE)・カルシウム値とも正常,胸部単純X線撮影ではBHLはないとのことであった.胸部コンピュータ断層撮影(CT)による再検で縦隔内・肺門部にリンパ節腫脹を指摘され呼吸器内科を紹介受診した.本人が生検を希望せず組織診断は行っていないが,サルコイドーシス(臨床診断群)の診断基準(2006年)を満たすことからサルコイドーシス(臨床診断群)と診断した.重症筋無力症は精査の結果,否定的とされている.眼炎症所見に対しPSL20mg(0.47mg/kg)を開始したところ,開始1週間後に左眼瞼下垂は改善,眼底所見も軽快したため,20mgを10日間内服した後,15mgを1週間,10mgを3週間,5mgを2週間と漸減し7週間後に中止となった.2007年4月に左眼瞼下垂を認めたが,自己判断にてトロピカミド(ミドリンRP)を点眼したところ軽快した.その後も7月・8月に右,10月・12月に左眼瞼下垂,2008年4月に右眼瞼下垂と右眼上転障害を認めた(図4)が点眼のみで寛解した(図5).2007年11月に頭部・眼窩MRIを施行したところ,眼窩内に異常所見なく,動脈硬化による左動眼神経の圧排を認めたが病状とは一致しなかった.本人の希望もあり,現在も点眼のみで経過観察中である.II考按サルコイドーシスは全身性肉芽腫性疾患であり,眼球への浸潤は約25%といわれる.眼症状としてはぶどう膜炎によるものが一般的だが,その他眼球突出,眼瞼下垂,ドライアイ,複視も報告されている4).神経サルコイドーシスの頻度は127%(日本では6.4%)で,脳神経症状としては顔面・視神経障害が最も多く,動眼・滑車・外転神経障害はまれである13).サルコイドーシスに伴う眼瞼下垂は眼窩や眼付属器への明らかな肉芽の浸潤5)以外に病変が特定できない症例も報告されている6,7).今回の2症例では,いずれも眼瞼下垂の原因として重症筋無力症は否定され,画像診断では眼筋の腫脹や眼窩内の肉芽左眼右眼図5症例2:2008年5月28日再診時Hessチャート瞼裂幅は右7mm,左7mm,挙筋作用は右11mm,左11mmで右眼瞼下垂と右眼上転障害はほぼ消失している.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009551(119)腫性病変は認めなかった.しかし症例1では受診時すでにサルコイドーシスと診断されていたこと,症例2では特徴的なぶどう膜炎症状を伴っていたことから眼瞼下垂の原因として神経サルコイドーシスが考えられた.神経サルコイドーシスの障害レベルとしては一般に末梢性の病変が多いとされ,その発生機序については髄膜炎による炎症,脳圧亢進による神経の圧迫,神経への肉芽腫の直接浸潤,肉芽腫による塞栓などが関与していると考えられており8),脳神経障害が伴う場合は一般にステロイドに良く反応し予後が良いといわれる.症例1の障害部位としては眼瞼下垂のほか両眼の上転障害,右眼の内転・下転・内下転障害を伴ったことより動眼神経核のレベルの異常を疑ったが,MRIでは異常所見は検出されなかった.症例2においては下垂側の上転障害を伴っており,対光反応は正常であったことから動眼神経上枝の障害が疑われたが,やはり画像上異常所見は検出されなかった.しかしいずれの症例もPSL20mgからの投与を行うことで,下垂は速やかに軽快した.Lukeらは神経サルコイドーシスの患者25例について検討・報告している9).これによれば8例(32%)に110年間隔で14回の再発を認め,脳神経障害の再発・寛解をくり返したのは4例で,外眼筋麻痺のみをくり返した症例はなかったとしている.Pentlandらも神経サルコイドーシス10例を報告しているが,再発例3例中に脳神経障害の再発例を認めた症例はなかったとしている10).今回の場合,症例1では発症から12カ月が経過しているが右3回,左2回の眼瞼下垂をくり返しており,PSL内服再開後は眼瞼下垂の再発は認めていない.症例2では発症から1年6カ月の経過観察中,右3回,左4回の眼瞼下垂をくり返している.筆者らの調べ得た限り,今回のように短期間に頻回の眼瞼下垂・眼球運動障害をくり返した神経サルコイドーシスの症例はわが国における2例の報告6,7)しかない.いずれもPSL60mgより内服を開始し,眼瞼下垂・眼球運動障害とも正常化している.今回の報告ではいずれもPSL20mgより内服を開始し眼瞼下垂は速やかに消失したが,症例1では眼球運動障害は改善したものの残存している.このことから眼瞼下垂単独の症状や動眼神経上枝レベルの眼瞼下垂と眼球運動障害であればPSL初期投与量は20mgでも十分効果を期待できるが,動眼神経核レベルの眼球運動障害であればさらに多量のPSL初期投与が必要と考えられた.症例2ではPSL内服を20mgから開始し7週間後に中止,その後に再発した眼瞼下垂に対してはミドリンRPの点眼加療により症状の寛解が得られた.これは点眼液中のフェニレフリン(アドレナリン作動薬)が交感神経系を介して上瞼板筋(Muller筋)に作用し眼瞼が挙上することで下垂症状が一時的に軽快したものと思われ,根本的治療になったとは考えにくい.しかしこの経過から,神経サルコイドーシスの症状が眼瞼下垂単独や動眼神経上枝レベルの眼瞼下垂と眼球運動障害として現れた場合は自然寛解の可能性があるとも考えられる.症例1がPSLの再開後に眼瞼下垂の再発を認めていないことに対し,症例2はPSL20mg投与中止後に計6回の眼瞼下垂の再発を認めていることから,やはり眼瞼下垂・外眼筋麻痺を症状とする神経サルコイドーシスにはPSL投与が有効であり,再発を少なくするためには中・長期間の内服が必要であると思われる.PSLの初期投与量・投与期間については今後もさらに検討が必要と思われる.眼科的にサルコイドーシスが疑われ,画像診断で肉芽腫は認めなかったものの両眼に交代性・反復性に眼瞼下垂をくり返す症例を経験した.器質的異常を伴わない眼瞼下垂を認めた場合,重症筋無力症のほかにサルコイドーシスも原因となる可能性があると思われた.文献1)SternBJ,KrumholtzA,JohnsCetal:Sarcoidosisanditsneurologicalmanifestation.ArchNeurol42:909-917,19852)SharmaOP,SharmaAM:Sarcoidosisofthenervoussys-tem.ArchInternMed151:1317-1321,19913)作田学:神経サルコイドーシス.日本臨牀52:1590-1594,19944)PrabhakaranVC,SaeedP,EsmaeliBetal:Orbitalandadnexalsarcoidosis.ArchOphthalmol125:1657-1662,20075)SneadJW,SeidensteinL,KnicRJetal:Isolatedorbitalsarcoidosisasacauseforblepharoptosis.AmJOphthal-mol112:739-740,19916)上古真理,安田斎,寺田雅彦ほか:頻回に眼筋麻痺を繰り返したサルコイドーシスの1例.臨床神経34:882-885,19947)植田美加,竹内恵,太田宏平ほか:交代性,反復性外眼筋麻痺を呈したサルコイドーシス.臨床神経37:1021-1023,19978)HeckAW,PhillipsLHII:Sarcoidosisandthenervoussystem.NeuroClin7:641-654,19899)LukeRA,SternBJ,KrumholzAetal:Neurosarcoido-sis:Thelong-termclinicalcourse.Neurology37:461-463,198710)PentlandB,MitchellJD,CullREetal:Centralnervoussystemsarcoidosis.QJMed220:457-465,1985***