———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094990910-1810/09/\100/頁/JCLSサプリメント名腸溶性ラクトフェリン製剤.構造式本製剤に使用される牛乳由来のウシのラクトフェリンは,分子量83,100(アミノ酸残基数689),アスパラギン結合型糖鎖が4カ所に結合している等電点8.28.9の塩基性糖蛋白質で,X線解析によって立体構造も明らかになっている(図1).胃内でペプシンにより容易に消化分解される.ヒトラクトフェリンと約70%のホモロジーがあり,ヒト細胞のレセプターとも結合する.3価の鉄イオンをトランスフェリンより260倍強くキレート結合する.鉄イオン以外に,銅,亜鉛などの金属イオンとも結合する.1分子中に2カ所結合部位があるが,市販されている牛乳由来のラクトフェリンは7090%がアポ型であり,末梢組織で遊離の鉄イオン(3価),銅イオン(2価)を強くキレート結合する.ラクトフェリンは,おもに哺乳動物のミルクに存在しているが,たとえば,涙,唾液,胆汁,精液などの他の外分泌液にも含まれ,また好中球にも存在する1).一般的な薬理・生理作用ラクトフェリンには,古くから抗菌・抗ウイルス作用,抗腫瘍作用,抗炎症作用,抗酸化作用など,さまざまな作用があることが知られている.最近,脂質代謝改善作用1),鎮痛作用,抗ストレス作用2),抗リウマチ作用3),肝ミトコンドリアDNAの酸化障害抑制作用4)なども明らかにされている.特に,ミトコンドリアDNAの酸化障害に対して,異常DNAの生成を抑えるだけでなく,修復酵素系の発現を保持するというエピジェネティックな作用が注目される.動物実験で経口摂取されたラクトフェリンの薬理作用を検討する場合,通常,ラクトフェリンを12%混飼した飼料で飼育する.この場合のラクトフェリン摂取量は,およそ300600mg/kg/dayと推定されている.これを,体重60kgのヒトに換算すると,1日当たり1836g摂取する必要があることになる.ラクトフェリンは胃内の酸性pH条件でペプシン消化されやすい蛋白質であることがわかっており,より少量のラクトフェリン量で臨床効果を発揮できるように,胃内の酸性pHで溶解せず,小腸の中性pH条件で崩壊するような,腸溶性サプリメントが実用化されている.小腸までインタクトな分子として届いたラクトフェリンは腸管からリンパ系を介して体内に移行すること5),脳血液関門を通過して脳内にも移行すること6)が証明されている.ラットで比較した場合,胃内投与と十二指腸投与とで腸管からリンパ液中への移行効率を比較したところ,腸溶製剤は1020倍効率よく体内に移行するこ(67)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑪監修=坪田一男11.ラクトフェリン川北哲也慶應義塾大学医学部眼科ラクトフェリンの実用化研究は,脂質代謝改善作用,鎮痛・抗ストレス作用,ミトコンドリアDNAの酸化障害抑制作用などの発見と腸溶性であることの臨床的な有用性が明らかになり,新たな局面を迎えている.涙腺細胞の若返り効果やSjogren症候群によるドライアイへの応用など,眼科領域においても大きな期待がもたれる.図1ウシラクトフェリンの分子構造黄色の部位がラクトフェリシン,●は鉄イオン.(写真提供:E.N.Baker博士,R.Kidd博士)———————————————————————-Page2500あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009と7)から,臨床的には,胃内滞留時間を考慮するとその差はさらに大きくなるものと推測され,1日当たりの摂取量が0.51g以下で十分な臨床効果が期待できる.実際,1日300mgのラクトフェリン腸溶錠を投与する二重盲検臨床試験を実施した結果,内臓脂肪面積,腹囲および体重が有意に減少した.後述するSjogren症候群による重症ドライアイに対する臨床試験では,270mg/dayのラクトフェリン腸溶製剤の投与で臨床効果が確認されている8).腸溶製剤の一種であるリポソーム包埋ラクトフェリン319mg/dayを健康な成人男性に投与する二重盲検試験の結果,ラクトフェリン投与群のみで顕著なインターフェロン-a産生量の増加が認められた.1日必要量(最低必要量と最適量の2つ)マウス実験感染モデルにおいて,経口投与した抗菌薬とラクトフェリンとの併用効果を調べた結果,ラクトフェリンの最小有効ドーズが0.05mg/mouseであった.これは,マウスの体重を20gと仮定すると,体重60kgのヒトでは150mgに相当する.すでに述べたように腸溶製剤であれば,この1/101/20に相当する約10mg/dayが臨床的な最小有効量と推定される.実際に販売されている腸溶性ラクトフェリン製剤の1日当たり摂取量は,150300mgが適量とされている.ラクトフェリンは,ラットでの13週反復経口投与試験で最大2,000mg/kgまで投与して問題となる有害作用は認められておらず,安全な食品添加物として認められている.これまで,長期にわたりサプリメントとして市販され,安全に摂取されている.したがって,症状に応じて増量しても問題ないと考えられる.どの食べ物にどれくらい入っているかラクトフェリンは,初乳に多く含まれ,昔,中国の西太后が若返りのためにヒトの初乳を飲んだといわれている.ウシの生乳には,20350mg/lのラクトフェリンが含まれる1)が,市販されている牛乳では滅菌工程で失活していると考えられる.眼科的に必要量と眼科の応用眼科領域でもラクトフェリンの臨床効果が認められている.たとえば,Sjogren症候群による重症ドライアイ患者に270mg/dayの腸溶性ラクトフェリン製剤を経口投与し,プラセボ剤投与群と比較した結果,ラクトフェ(68)リン摂取群でドライアイの症状が改善され,ゴブレット細胞の増加およびsquamousmetaplasiaの抑制が認められている8).老齢ラットにラクトフェリンを腸溶性顆粒剤として投与すると,涙腺上皮細胞の微細構造が若齢ラット様に変化したとの報告もある9).涙液中には,1ml中に0.72.2mgのラクトフェリンが含まれており,これは生乳についで多い1).サプリメントとしてのラクトフェリン摂取量としては,1日当たり300mg程度の腸溶剤の摂取で十分である.また,ラクトフェリンは水溶液中では不安定であるため,点眼液としては実用化されていない.摂取すべきかのエビデンスレベルA:摂取すべき(ラクトフェリンに関する基礎および臨床研究の結果から,エビデンスレベルとしては摂取すべきと考える).文献1)TakeuchiT,ShimizuH,AndoKetal:BovinelactoferrinreducesplasmatriacylglycerolandNEFAaccompaniedbydecreasedhepaticcholesterolandtriacylglycerolcon-tentsinrodents.BrJNutrition91:533-538,20042)KamemoriN,TakeuchiT,HayashidaKetal:Suppres-siveeectsofmilk-derivedlactoferrinonpsychologicalstressinadultrats.BrainRes1029:34-40,20043)HayashidaK,KanekoT,TakeuchiTetal:Oraladminis-trationoflactoferrininhibitsinammationandnociceptioninratadjuvant-inducedarthritis.JVetMedSci66:149-154,20044)TsubotaA,YoshikwaT,NariaiKetal:Bovinelactoferrinpotentlyinhibitslivermitochondrial8-OHdGlevelsandretrieveshepaticOGG1activitiesinLong-EvansCinna-monrats.JHepatology48:486-493,20085)TakeuchiT,KitagawaH,HaradaE:Evidenceoflactofer-rintransportationintobloodcirculationfromintestinevialymphaticpathwayinadultrats.ExpPhysiol89:263-270,20046)KamemoriN,TakeuchiT,SugiyamaAetal:Trans-endothelialandtrans-epithelialtransferoflactoferrinintothebrainthroughBBBandBCSFBinadultrats.JVetMedSci70:313-315,20087)TakeuchiT,JyonotsukaT,KamemoriNetal:Enteric-formulatedlactoferrinwasmoreeectivelytransportedintobloodcirculationfromgastrointestinaltractinadultrats.ExpPhysiol91:1033-1040,20068)DogruM,MatsumotoY.YamamotoYetal:LactoferrininSjoegren’ssyndrome.Ophthalmology114:2366-2367(e1-e4),20079)伊藤圭子:ラクトフェリンの経口投与によるラット涙腺の構造変化に関する組織学的観察.解剖誌81:41-52,2006