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硝子体手術のワンポイントアドバイス71.家族性滲出性硝子体網膜症に伴う網膜剥離に対する硝子体手術(上級編)

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20095070910-1810/09/\100/頁/JCLS家族性滲出性硝子体網膜症(familialexdativevitreo-retinopathy:FEVR)は,小児の網膜硝子体ジストロフィで比較的頻度が高いとされている.病態は未熟児網膜症と同様で,網膜血管の形成不全に起因する種々の眼底変化をきたす.一般的には耳側を中心に網膜無血管野を形成し,周辺部網膜血管は直線化,多分岐を呈する.無血管野との境界部位には血管の異常吻合を認め,その周囲に滲出性変化をきたす.しばしば牽引乳頭,裂孔原性網膜離,増殖膜からの硝子体出血などをきたす.網膜離併発例の裂孔は通常網膜無血管野内あるいは健常網膜の境界部に多発することが多い(図1a).異常な網膜硝子体癒着により,鈎裂き状の裂孔を呈したり(図1b),著明な網膜皺襞を伴うこともある.膜離併発例にする治療FEVRに伴う網膜離の治療戦略として,裂孔が赤道より周辺側に位置し,増殖性変化や硝子体混濁が軽度な例では強膜バックリング手術が第一選択となる.しかし,実際には硝子体手術を必要とする難治例が多い.硝子体手術を施行する場合,筆者は水晶体切除を併用した(75)徹底した硝子体切除術を施行している.ただし,本疾患の硝子体手術の難易度はきわめて高く,肥厚した後部硝子体膜が中間周辺部から面状に網膜と強固に癒着していることが多い(図2a)ので,双手法による人工的後部硝子体離作製が必要となる.この際に網膜が菲薄化,脆弱化しているため,不用意な牽引により容易に医原性裂孔を形成するので注意が必要である.バックルで残存硝子体の牽引を相殺できる赤道部までは確実に人工的後部硝子体離を作製し,その後は輪状締結術,眼内光凝固(必要に応じて経強膜冷凍凝固),20%SF6(あるいは14%C3F8)によるガスタンポナーデを施行する1)(図2b).文献1)IkedaT,FujikadoT,TanoYetal:Vitrectomyforrheg-matogenousandtractionalretinaldetachmentwithfamil-ialexdativevitreoretinopathy.Ophthalmology106:1081-1085,1999硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載71家族性滲出性硝子体網膜症に伴う網膜離に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図2家族性滲出性硝子体網膜症に伴う網膜離に対する治療戦略a:肥厚した後部硝子体膜が中間周辺部から面状に網膜と強固に癒着している.b:赤道部までは確実に人工的後部硝子体離を作製し,その後は輪状締結術で周辺部の残存硝子体牽引を相殺する.図1家族性滲出性硝子体網膜症に生じた網膜離a:裂孔は通常網膜無血管野内あるいは健常網膜の境界部に形成されることが多い.b:鈎裂き状に後極に裂けた裂孔を認める.

眼科医のための先端医療100.Reduced fluence photodynamic therapy-低照射エネルギー光線力学的療法-

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20095030910-1810/09/\100/頁/JCLS従来の光線力学的療法(PDT)の問題点加齢黄斑変性()にる治療がでがー治療法いが治療後視力が低る症がいた脈絡膜血管()がの治療をる症がいの問題点が従来のの方法で治療後後にリー光()を行照射にの常脈絡膜血管血管の血管の血管の光が)(図1),この正常脈絡膜血管の閉塞は,続発的に黄斑を含む網膜機能の低下を導き,血管内皮増殖因子(VEGF),VEGF受容体の産生を促し,CNVの再発を誘発する可能性があります2).低侵襲PDTの過去の報告た問題点にい過去にの報告が性性脈絡膜症に照射力を通常ののにたるルポルをのにた照射を通常ののにるいった低侵襲を行い視力の面で成績がたい報告が)に通常の治療ー(照射力照射照射エネルギー)でをた()照射力照射照射エネルギーでをた低照射エネルギー()で治療ーを変治療成績をたプ照二の())のの過に()視力が文るいの視力低がよのでプ移行るのをにいたた)にルポルをで後にの()を行るでの常脈絡膜をんるのがた報告いよ従来のの方法で症によっ侵襲が治療後の過にがる性のでのにいた()◆シリーズ第100回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊白神千恵子(香川大学医学部眼科)Reduceduencephotodynamictherapy―低照射エネルギー光線力学的療法―ABC図1通常のPDTを行ったポリープ状脈絡膜血管症A:治療前のインドシアニングリーン蛍光造影(IA).異常血管網とポリープ状病巣を認める.B:PDT後1週目のIA造影早期.照射領域の正常脈絡膜血管の灌流が障害されて低蛍光を示す.C:PDT後1週目のIA造影晩期.照射領域の脈絡膜血管壁の傷害,あるいは血管炎によると思われる蛍光漏出を認める.———————————————————————-Page2504あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009RFPDTの方法のーー照射力をのいにでるたにを行がでががのーー(ール)にがでんで治療にるの倍率をるでを行っいーーのールネルに照射を力るに倍率のをを変の+1,000μmの照射径に設定します.つぎに,使用コンタクトレンズの選択画面に戻り,コンタクトレンズの倍率をマニュアル設定にて1.00とします.そして,実際の照射のときはTransequatorを用い,通常の方法でベルテポルフィン注入開始後15分のタイミングで83秒間レーザー照射を行います.この方法を用いると,レーザー装置上では倍率1倍のスポットサイズで照射していることになりますが,実際の照射径は倍率1.44倍で,ほぼ2と同値になるため,円の面積として2倍になり,単位面積当たりの照射出力が半分(300mW/cm2)になります(図2).すなわち,83秒間の照射で,25J/cm2の照射エネルギーとなります(標準は50J/cm2).当科におけるRFPDTの治療成績をるにを行過のでた通常の()を行たをたで治療後の照射にた脈絡膜血管のにおい後で()で()にたがで後で()のにるがで(図3),3カ月には36眼(97%)において脈絡膜循環は回復していました.さらに,logMAR視力にて0.3以上を有意な変化とすると,治療後6カ月における視力維持,改善率は,RF群,SF群ともに92%でした.ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)のみでみると,治療後3カ月,6カ月ともにRF群では有意な視力改善を認めましたが,SF群では有意差は認めませんでした(図4).また,PCVのみの視力維持,改善率は,RF群で96%,SF群で87%と,RF群のほうが良好な結果でした.小数視力(72)円の面積pr22倍r=1.00r=1.44≒√2r2=1r2=2r=円の半径図2照射倍率による照射面積のちがいレーザー装置上拡大倍率1倍に設定し,倍率1.44倍のTransequatorを用いると,実際の照射径はほぼ2と同値になるため,円の面積は2倍になり,単位面積当たりの照射出力が半分(300mW/cm2)になる.ABC図3ReduceduencePDTを行った加齢黄斑変性A:治療前のインドシアニングリーン蛍光造影(IA).脈絡膜新生血管の所見を認める.B:PDT後1週目のIA造影早期.照射領域の正常脈絡膜血管の灌流はほとんど障害されていない.C:PDT後1週目のIA造影晩期.照射領域の低蛍光や蛍光漏出はみられない.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009505(73)0.6以上の視力良好例における平均視力は,RF群全体では治療後6カ月には治療前と比較し改善傾向がみられ,RF群のPCV症例のみでみると,治療後3カ月,6カ月ともに有意な改善を認めました.以上より,RFPDTは短期的には治療後の正常脈絡膜血管の障害を最低限に抑制し,CNVの閉塞もSFPDTと同等に効果を得られることがわかりました.さらに,治療前視力が比較的良好な症例に対しては視力改善が期待でき,特にPCVには著効すると考えます.今後の課題にる的にがるたが的視力後のをのでる今後に症をるがたのの療法治療がよでる性に低侵襲の方法照射エネルギーをにる方法に照射るルポルののる方法治療にいがるにいるを行るたに療における治のをるががの的性がにる治療のプるいい文献1)Schmidt-ErfurthU,MichelsS,BarbazettoIetal:Photo-dynamiceectsonchoroidalneovascularizationandphysi-ologicalchoroid.InvestOphthalmolVisSci43:830-841,20022)Schmidt-ErfurthU,Scholotzer-SchrehardU,CursiefenCetal:Inuenceofphotodynamictherapyonexpressionofvascularendothelialgrowthfactor(VEGF),VEGFrecep-tor3,andpigmentepithelium-derivedfactor.InvestOph-thalmolVisSci44:4473-4480,20033)TheVisudyneinMinimallyClassicCNV(VIM)StudyGroup:Verteporntherapyofsubfovealminimallyclassicchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegeneration.ArchOphthalmol123:448-457,20054)MichelsS,HansmannF,GeitzenauerWetal:Inuenceoftreatmentparametersonselectivityofvertepornthera-py.InvestOphthalmolVisSci47:371-376,20065)LaiTY,ChanWM,LiHetal:Safetyenhancedphotody-namictherapywithhalfdosevertepornforchroniccen-tralserouschorioretinopathy:ashorttermpilotstudy.BrJOphthalmol90:869-874,2006図4ポリープ状脈絡膜血管症の治療後平均logMAR視力の推移ポリープ状脈絡膜血管症の平均logMAR視力は治療後3カ月,6カ月ともにRF群では有意な視力改善を認めたが,SF群では有意差を認めない.RF:reduceduencePDT,SF:standarduencePDT.RF群(27眼)LogMAR改善19%不変77%悪化4%2.01.81.61.41.21.0.8.6.4.20.0術前3カ月p<0.001p=0.026カ月SF群(36眼)LogMAR改善23%不変64%悪化13%2.01.81.61.41.21.0.8.6.4.20.0術前3カ月NSp=0.046カ月■「Reduceduencephotodynamictherapy―低照射エネルギー光線力学的療法―」を読んでで加齢黄斑変性治のでの的けんでた光線力学的療法のによ加齢黄斑変性治療にににた血管子()療法によ視力にでた光線力学的療法加齢黄斑変性を治療にた点で的のでたが療法の治療成績が光線力学的療法のをるにるのでったた光線力学的療法のでにっいがにいポリープ状脈絡膜血管症()に光線力学的療法でるにに療法がにいっ光線力学的療法本で今でんに行い光線力学的療法がた当血管の行が的でったた常に———————————————————————-Page4506あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(74)での治療でも,確実に新生血管の進行抑制ができるならば許容されていました.しかし,抗VEGF療法が普及した現在では,正常組織に有害作用をもつ治療は許容されません.そこで,考えられたのが,低照射エネルギー光線力学的療法です.今回白神千恵子先生が紹介されたように,条件を変えることで,光線力学的療法の利点を失くすことなく組織傷害を減少させることが可能になりました.この方法は,わが国の加齢黄斑変性患者にとっては,大きな福音になるでしょう.光線力学的療法はもともと癌治療から始まったものですが,そこでは抗癌作用と正常組織への傷害作用のバランスがうまくとれず普及していません.ところが眼科領域では,今回のような方法をとることで,この問題をいとも簡単に克服できたのです.このように「治療法を成熟」させる研究は,日本人の得意とするところですが,短期間にそれをなしとげられた香川大学の先生方に敬意を表します.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ187.前眼部OCTによる解析:隅角閉塞

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20095010910-1810/09/\100/頁/JCLSべて5倍程度の10μmという高解像度で隅角構造を描出できる(図1).使用方法(検査法の実際のやり方)非接触眼圧測定とほぼ同様に検査を行うことができる.被検者は座位にて顎台に顔を乗せて,検者は前眼部モニターに表示されるCCDカメラの正面像とOCTによる断層画像をみながら,適当な位置で測定ボタンを押すだけで,計測が完了する.オートアライメントを採用している機器では,おおよその位置を決めた後で,自動追尾により最適な位置で測定を行うことができる.得られた画像は断面で観察することも可能であるし,立体的な評価も行える.新しい治療と検査シリーズ(69)バックグラウンド隅角には線維柱帯が存在し,眼内にある房水を眼外に出す働きを担い,眼圧をコントロールしている.何らかの原因により隅角が閉塞してしまうと,急激な眼圧上昇をきたし,素早い治療が必要な急性閉塞隅角症となる.慢性炎症が存在すると,徐々に隅角閉塞が起き,その結果として眼圧上昇をきたし,慢性閉塞隅角緑内障となりうる.虹彩の先天的な位置異常も隅角閉塞による緑内障の原因となりうる.これらの病態は,隅角の形態的変化が主体となっている.すなわち,完全な開放隅角緑内障以外では隅角の検査が重要といえる.ただし,隅角は細隙灯顕微鏡で直接みることができない.隅角構造を調べるためには接触式である隅角鏡や超音波生体顕微鏡(UBM)を使用する必要がある.これらの検査法は非常に精細な検査が可能であるが,検者の熟練度に左右される可能性があること,接触式のために患者にとって快適とはいえず,感染症の可能性がある検査であるという問題点があった.近年の前眼部用光干渉断層計(OCT)の登場により1),隅角底まで非接触で観察が行えるようになった.新しい検査法(原理)前眼部OCTは眼底用よりも長い波長の光源(1,310nm)を使用することにより,通常の光ではみることのできない,非透明部を含めてその奥の組織を可視化できる.すなわち,角膜輪部や強膜組織に妨げられずに,線維柱帯,強膜岬,隅角底,虹彩,毛様体扁平部を画像化することが可能である.スエプトソース(Fourierドメインの一種)の原理によるものでは,二次元だけでなく三次元計測も行うことができるようになった2,3).これにより360°の隅角解析を非常に手軽に行うことが可能となった.前眼部OCTはUBMの解像度(50μm)に比187.前眼部OCTによる解析:隅角閉塞プレゼンテーション:川名啓介筑波大学大学院人間総合科学研究科眼科学コメント:柏木賢治山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座図1三次元前眼部OCT(光干渉断層計,CASIA,トーメー社)による前眼部の断面像上段:正常眼,下段:原発閉塞隅角(PAC)眼.正常眼では隅角底まで開いているが,PAC眼では隅角が閉塞していることがわかる.線維柱帯に相当する高輝度の部位が完全に閉塞している.———————————————————————-Page2502あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009本方法の利点非接触かつ高精度(10μm弱)で隅角描出を行えることが最大の利点である.高解像度の検査により虹彩と角膜裏面を見分けることができる.測定自体も容易で被検者にも検者にも優しい検査方法ということができる.さらに,隅角鏡やUBMと異なり,検者の熟練度にほとんど関係なく,閉塞隅角の程度を判定できる.コメディカルによる検査や検診などのスクリーニング,将来的にはそれによる遠隔医療にも利用可能かもしれない.閉塞隅角症のスクリーニングを行ううえで最適の機器と考えられる.最新の前眼部OCTでは三次元的に隅角を再現できるため,どの程度虹彩前癒着が存在するかなどといったことも明らかになる.1)RadhakrishnanS,RollinsAM,RothJEetal:Real-timeopticalcoherencetomographyoftheanteriorsegmentat1310nm.ArchOphthalmol119:1179-1185,20012)YasunoY,MadjarovaVD,MakitaSetal:Three-dimen-sionalandhigh-speedswept-sourceopticalcoherencetomographyforinvivoinvestigationofhumananteriorsegments.OpticsExp13:10652-10663,20053)KawanaK,YasunoY,YatagaiTetal:High-speed,swept-sourceopticalcoherencetomography:a3-dimen-sionalviewofanteriorchamberanglerecession.ActaOph-thalmolScand85:684-685,2007(70)図2Gonioscopicview(CASIA,トーメー社)の画像三次元データから疑似的に眼内から隅角をみた画像を再構築している.上段:正常眼,下段:虹彩前癒着症例.向かって中央やや左から右端まで隅角閉塞がみられている.この画像は360°回転して動画として任意の方向でみることが可能である.表1隅角検査可能な機器の比較スリットランプScheimpugカメラUBMOCT定量化×○○○隅角△×○○接触△○×○混濁の影響△△○○検査の難易度×○×○三次元化×△△○隅角検査可能な機器を比較した.UBM(超音波生体顕微鏡),OCT(光干渉断層計).スリットランプは隅角検査を行う場合について表記してある.も,前眼部OCTによる閉塞隅角眼の検出感度は決して優れたものではなかった.今後は,所見の共有化が可能な定量的解析法と隅角鏡所見,超音波生体顕微鏡などの他の検査所見との複合的な解析や経時的解析も必要である.蛇足であるが著者(川名)のいう完全な開放隅角緑内障というものの存在にはやや疑問を感じる.現在の診断基準による開放隅角眼では隅角開放度によって治療予後が変化することを筆者らは最近確認した.前眼部OCTは近年登場している新たな隅角検査機器の1つである.無侵襲で客観的検査が可能な前眼部OCTは今後隅角形態解析の主役になる可能性がある.しかし問題も多く残っている.隅角の形態異常を伴わない新生血管や線維柱帯部の充血,隅角結節,色素沈着などの所見は得られない,定量的解析に関しては適切なプログラムや判定基準の統一化がされていない,毛様体の所見が得られないことである.筆者(柏木)らがシンガポールの研究者と共同して行った研究で本方法に対するコメント

サプリメントサイエンス:ラクトフェリン

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094990910-1810/09/\100/頁/JCLSサプリメント名腸溶性ラクトフェリン製剤.構造式本製剤に使用される牛乳由来のウシのラクトフェリンは,分子量83,100(アミノ酸残基数689),アスパラギン結合型糖鎖が4カ所に結合している等電点8.28.9の塩基性糖蛋白質で,X線解析によって立体構造も明らかになっている(図1).胃内でペプシンにより容易に消化分解される.ヒトラクトフェリンと約70%のホモロジーがあり,ヒト細胞のレセプターとも結合する.3価の鉄イオンをトランスフェリンより260倍強くキレート結合する.鉄イオン以外に,銅,亜鉛などの金属イオンとも結合する.1分子中に2カ所結合部位があるが,市販されている牛乳由来のラクトフェリンは7090%がアポ型であり,末梢組織で遊離の鉄イオン(3価),銅イオン(2価)を強くキレート結合する.ラクトフェリンは,おもに哺乳動物のミルクに存在しているが,たとえば,涙,唾液,胆汁,精液などの他の外分泌液にも含まれ,また好中球にも存在する1).一般的な薬理・生理作用ラクトフェリンには,古くから抗菌・抗ウイルス作用,抗腫瘍作用,抗炎症作用,抗酸化作用など,さまざまな作用があることが知られている.最近,脂質代謝改善作用1),鎮痛作用,抗ストレス作用2),抗リウマチ作用3),肝ミトコンドリアDNAの酸化障害抑制作用4)なども明らかにされている.特に,ミトコンドリアDNAの酸化障害に対して,異常DNAの生成を抑えるだけでなく,修復酵素系の発現を保持するというエピジェネティックな作用が注目される.動物実験で経口摂取されたラクトフェリンの薬理作用を検討する場合,通常,ラクトフェリンを12%混飼した飼料で飼育する.この場合のラクトフェリン摂取量は,およそ300600mg/kg/dayと推定されている.これを,体重60kgのヒトに換算すると,1日当たり1836g摂取する必要があることになる.ラクトフェリンは胃内の酸性pH条件でペプシン消化されやすい蛋白質であることがわかっており,より少量のラクトフェリン量で臨床効果を発揮できるように,胃内の酸性pHで溶解せず,小腸の中性pH条件で崩壊するような,腸溶性サプリメントが実用化されている.小腸までインタクトな分子として届いたラクトフェリンは腸管からリンパ系を介して体内に移行すること5),脳血液関門を通過して脳内にも移行すること6)が証明されている.ラットで比較した場合,胃内投与と十二指腸投与とで腸管からリンパ液中への移行効率を比較したところ,腸溶製剤は1020倍効率よく体内に移行するこ(67)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑪監修=坪田一男11.ラクトフェリン川北哲也慶應義塾大学医学部眼科ラクトフェリンの実用化研究は,脂質代謝改善作用,鎮痛・抗ストレス作用,ミトコンドリアDNAの酸化障害抑制作用などの発見と腸溶性であることの臨床的な有用性が明らかになり,新たな局面を迎えている.涙腺細胞の若返り効果やSjogren症候群によるドライアイへの応用など,眼科領域においても大きな期待がもたれる.図1ウシラクトフェリンの分子構造黄色の部位がラクトフェリシン,●は鉄イオン.(写真提供:E.N.Baker博士,R.Kidd博士)———————————————————————-Page2500あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009と7)から,臨床的には,胃内滞留時間を考慮するとその差はさらに大きくなるものと推測され,1日当たりの摂取量が0.51g以下で十分な臨床効果が期待できる.実際,1日300mgのラクトフェリン腸溶錠を投与する二重盲検臨床試験を実施した結果,内臓脂肪面積,腹囲および体重が有意に減少した.後述するSjogren症候群による重症ドライアイに対する臨床試験では,270mg/dayのラクトフェリン腸溶製剤の投与で臨床効果が確認されている8).腸溶製剤の一種であるリポソーム包埋ラクトフェリン319mg/dayを健康な成人男性に投与する二重盲検試験の結果,ラクトフェリン投与群のみで顕著なインターフェロン-a産生量の増加が認められた.1日必要量(最低必要量と最適量の2つ)マウス実験感染モデルにおいて,経口投与した抗菌薬とラクトフェリンとの併用効果を調べた結果,ラクトフェリンの最小有効ドーズが0.05mg/mouseであった.これは,マウスの体重を20gと仮定すると,体重60kgのヒトでは150mgに相当する.すでに述べたように腸溶製剤であれば,この1/101/20に相当する約10mg/dayが臨床的な最小有効量と推定される.実際に販売されている腸溶性ラクトフェリン製剤の1日当たり摂取量は,150300mgが適量とされている.ラクトフェリンは,ラットでの13週反復経口投与試験で最大2,000mg/kgまで投与して問題となる有害作用は認められておらず,安全な食品添加物として認められている.これまで,長期にわたりサプリメントとして市販され,安全に摂取されている.したがって,症状に応じて増量しても問題ないと考えられる.どの食べ物にどれくらい入っているかラクトフェリンは,初乳に多く含まれ,昔,中国の西太后が若返りのためにヒトの初乳を飲んだといわれている.ウシの生乳には,20350mg/lのラクトフェリンが含まれる1)が,市販されている牛乳では滅菌工程で失活していると考えられる.眼科的に必要量と眼科の応用眼科領域でもラクトフェリンの臨床効果が認められている.たとえば,Sjogren症候群による重症ドライアイ患者に270mg/dayの腸溶性ラクトフェリン製剤を経口投与し,プラセボ剤投与群と比較した結果,ラクトフェ(68)リン摂取群でドライアイの症状が改善され,ゴブレット細胞の増加およびsquamousmetaplasiaの抑制が認められている8).老齢ラットにラクトフェリンを腸溶性顆粒剤として投与すると,涙腺上皮細胞の微細構造が若齢ラット様に変化したとの報告もある9).涙液中には,1ml中に0.72.2mgのラクトフェリンが含まれており,これは生乳についで多い1).サプリメントとしてのラクトフェリン摂取量としては,1日当たり300mg程度の腸溶剤の摂取で十分である.また,ラクトフェリンは水溶液中では不安定であるため,点眼液としては実用化されていない.摂取すべきかのエビデンスレベルA:摂取すべき(ラクトフェリンに関する基礎および臨床研究の結果から,エビデンスレベルとしては摂取すべきと考える).文献1)TakeuchiT,ShimizuH,AndoKetal:BovinelactoferrinreducesplasmatriacylglycerolandNEFAaccompaniedbydecreasedhepaticcholesterolandtriacylglycerolcon-tentsinrodents.BrJNutrition91:533-538,20042)KamemoriN,TakeuchiT,HayashidaKetal:Suppres-siveeectsofmilk-derivedlactoferrinonpsychologicalstressinadultrats.BrainRes1029:34-40,20043)HayashidaK,KanekoT,TakeuchiTetal:Oraladminis-trationoflactoferrininhibitsinammationandnociceptioninratadjuvant-inducedarthritis.JVetMedSci66:149-154,20044)TsubotaA,YoshikwaT,NariaiKetal:Bovinelactoferrinpotentlyinhibitslivermitochondrial8-OHdGlevelsandretrieveshepaticOGG1activitiesinLong-EvansCinna-monrats.JHepatology48:486-493,20085)TakeuchiT,KitagawaH,HaradaE:Evidenceoflactofer-rintransportationintobloodcirculationfromintestinevialymphaticpathwayinadultrats.ExpPhysiol89:263-270,20046)KamemoriN,TakeuchiT,SugiyamaAetal:Trans-endothelialandtrans-epithelialtransferoflactoferrinintothebrainthroughBBBandBCSFBinadultrats.JVetMedSci70:313-315,20087)TakeuchiT,JyonotsukaT,KamemoriNetal:Enteric-formulatedlactoferrinwasmoreeectivelytransportedintobloodcirculationfromgastrointestinaltractinadultrats.ExpPhysiol91:1033-1040,20068)DogruM,MatsumotoY.YamamotoYetal:LactoferrininSjoegren’ssyndrome.Ophthalmology114:2366-2367(e1-e4),20079)伊藤圭子:ラクトフェリンの経口投与によるラット涙腺の構造変化に関する組織学的観察.解剖誌81:41-52,2006

眼感染アレルギー:膠原病(関節リウマチ)による周辺部角膜浸潤

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094970910-1810/09/\100/頁/JCLS角膜浸潤とは,角膜実質内に生じた白色炎症性混濁である.さまざまな原因で生じるが,病変の部位や形状によって原因疾患を推測することが可能である.角膜中央部の浸潤はヘルペスや流行性角結膜炎などウイルス性疾患によるものが代表である.一方,周辺部に病変を生じるものとしては,慢性関節リウマチやWegener肉芽腫,結節性動脈炎,全身性エリテマトーデスといった非リウマチ性膠原病など全身性血管炎に基づいて発症するものと,ブドウ球菌性眼瞼結膜炎症例で,ブドウ球菌や細菌が産生した毒素に対するアレルギー反応によるカタル性角膜潰瘍がある.また,これらの周辺部角膜浸潤と同様の角膜周辺部に病変を生じる疾患としては,Mooren潰瘍(蚕蝕性角膜潰瘍)やTerrien周辺角膜変性,marginalfurrow,デレン(凹窩)があげられる.それぞれの疾患で特徴的な所見を有するが,病状の進展によりその形態は多彩である.隙灯顕微鏡所見の特徴関節リウマチによる角膜浸潤では,しばしば強膜炎を伴い,この強膜充血の強い部分と隣接して,角膜実質混濁と腫脹,角膜浸潤を伴う.浸潤は,角膜輪部と平行に弧状な形状を呈する.浸潤だけでなく潰瘍を生じることもあり,潰瘍も輪部に沿って拡大し,穿孔をきたすことも多い.角膜輪部と浸潤,潰瘍のあいだには透明帯(lucidinterval)が存在する.病変部,あるいは病変とは別の角膜周辺部に表層や実質深部の血管侵入を伴うことがあり,これは着目すべきポイントである.血管侵入は病変がくり返し再発していること,あるいは血管侵入部分に同様の病変を過去に起こしていることを意味する.また,関節リウマチでは,角膜浸潤や強膜炎以外にもドライアイや,虹彩炎を合併する場合がある.(65)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑯監修=木下茂大橋裕一16.膠原病(関節リウマチ)による周辺部角膜浸潤原祐子愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)関節リウマチをはじめとする膠原病では,角膜輪部に平行な弧状の角膜浸潤を呈するが,この独特な形状を呈する原因はいまだに解明されていない.本稿では,この浸潤の細隙灯顕微鏡所見の特徴と,周辺部角膜の免疫学的特性から,病態を考察する.図1周辺部角膜浸潤角膜輪部と平行に浸潤病巣を形成している.何度も再発しているため,表層血管新入もきたしている.図2壊死性強膜炎の合併図1と同一症例の強膜所見.強膜が薄くなりぶどう膜が透けて見えている.———————————————————————-Page2498あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009辺部角膜の免疫学的特徴周辺部角膜浸潤のメカニズムについてはいまだに判明していない点が多い.なぜ,輪部に平行で,ある一定の距離の部位に病変が出現するのか?再発する場合や反対眼に病変が出現する場合にも輪部からの距離は一定であり,その距離は症例によりほぼ決まっているといった規則性が存在しているようにも思われる.周辺部角膜は輪部血管,リンパ管に近接しており,角膜中央部とは別の免疫学的特徴をもつ13).補体,免疫グロブリンなどの免疫関連物質は,輪部血管網から拡散し角膜に分散する.そのため,これらの物質は角膜中央部に比べて角膜輪部に高濃度に存在する.補体はこの傾向が顕著で周辺部と中央部の濃度差は5倍にもなるとの報告もある.免疫グロブリンでは,IgMの分子量が大きいため,角膜実質内での拡散は制限され,角膜周辺部に蓄積しやすい特徴をもつ.また,Langerhans細胞などの抗原提示細胞も,角膜周辺部に多く存在しており,周辺部角膜の免疫反応は活性化しやすい状態になっている.関節リウマチは,内因性抗原に対する免疫複合体(66)(IgG,IgM)が角膜周辺部に沈着する.リウマチ因子はIgMであり,IgMの濃度は角膜周辺部に高いことは,周辺部に病態を形成する原因の一つになっている可能性がある.この免疫複合体は補体を活性化し,血管透過性を亢進させ,好中球,マクロファージを遊走させる.そして,白血球,角膜実質細胞からコラゲナーゼ,プロテアーゼ活性を上昇させ,組織障害をひき起こすIII型アレルギーが病因と考えられている.このほか,インターロイキン(IL)-1aやIL-1b,trans-forminggrowthfactor(TNF)-aなど各種サイトカインとの関連が示唆されるデータも出ているが,決定的な病態メカニズムには到達していない4).生体共焦点顕微鏡(コンフォーカルマイクロスコピー)を用いて,関節リウマチ患者の角膜を観察した所見が最近報告されている5).細隙灯顕微鏡では異常所見がない症例においても,活性化されたケラチノサイトが正常コントロールよりも多数存在する,また,角膜内神経が減少するなど,分子レベルでの異常が存在することが示唆される.これらの変化が周辺部角膜浸潤,潰瘍などに移行していくのだろうか.この特異な病態の解明につながっていくのではないかと楽しみである.文献1)TaylorPB,TabbaraKF:Peripheralcornealdiseases.IntOphthalmolClin26:29-48,19862)MondinoBJ:Inammatoryofperipheralcornea.Ophthal-mology95:463-472,19883)KervicGN,PugfelderSC,HimoviciRetal:Paracentralrheumatoidcornalulceration.Ophthalmology99:80-88,19924)OkamotoM,OkamotoS,OhashiYetal:Highexpressionofinterleukin-1betainthecornealepitheliumofMRL/lprmiceisunderthecontroloftheirgeneticbackground.ClinExpImmunol136:239-244,20045)VillaniE,GalimbrrtiD,ViolaFetal:Cornealinvolvementinrheumatoidarthritis:Aninvivoconfocalstudy.InvestOphthalmolVisSci49:560-564,2008図3周辺部角膜潰瘍浸潤が存在した同部位に潰瘍を形成し,角膜が菲薄化している.☆☆☆

緑内障:血管新生緑内障と濾過手術

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094950910-1810/09/\100/頁/JCLS血管新生緑内障の発症には,網膜虚血が大きくかかわっており,増殖糖尿病網膜症,網膜中心静脈閉塞症,眼虚血症候群が3大原因疾患となっている1).血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が血管新生の鍵となる分子で,網膜の虚血病変から産生され,前眼部に拡散することによって,隅角線維柱帯組織で血管新生をひき起こし,隅角表面が線維膜で覆われたり周辺虹彩前癒着が形成されたりして,房水流出抵抗が増大し,眼圧が上昇すると考えられる.管新生緑内障の患者の既往歴を聴取した後,散瞳による眼底検査を行う前に,細隙灯顕微鏡で瞳孔周辺の新生血管や,隅角検査で隅角の新生血管および周辺虹彩前癒着を観察する.それから眼底検査を行い,網膜虚血病変の有無をチェックする.明らかな新生血管がなくても蛍光造影を行うと瞳孔縁や隅角に蛍光漏出がみられることがあり,蛍光造影は新生血管の早期発見に有効な手段である2).眼底所見が乏しい割には,瞳孔縁に新生血管がみられるときは,眼虚血症候群を考え頸動脈エコー検査を行う.膜虚血の対処血管新生緑内障の予防および進行阻止には,網膜虚血病変に対する治療がまず必要である.その治療のなかでも汎網膜光凝固術を第一に選択する.汎網膜光凝固術はできる限り密なレーザー凝固を行う.硝子体出血があり,眼底の透見ができない場合には,硝子体手術を行い,眼内レーザーによって,汎網膜光凝固術を完成させる.網膜冷凍凝固術は,結膜に瘢痕形成が強く,将来の濾過手術を考えると,硝子体手術や濾過手術ができない症例に限定すべきである.管新生緑内障に対する濾過手術汎網膜光凝固術を行っても眼圧下降が不十分であれば,緑内障点眼薬を処方する.さらに,高眼圧が持続する場合には,わが国では,マイトマイシンC(MMC)を併用したトラベクレクトミーを施行するのが一般的である.しかし,術後の眼圧コントロールは,原発開放隅角緑内障に対するトラベクレクトミーに比較すると予後がかなり悪いようである.筆者の施設で血管新生緑内障に対するMMC併用トラベクレクトミーの手術成績を後ろ向きに調査したところ,おもに眼圧値で成功を判定すると,1年生存率が62.6%,2年生存率が58.2%,5年生存率が51.7%であった3).つまり,5年間で約半数の症例で再発し,そのうち1/3が1年以内に再発する計(63)●連載106緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也106.血管新生緑内障と濾過手術稲谷大熊本大学医学部附属病院眼科血管新生緑内障に対する濾過手術として,わが国ではマイトマイシンC(MMC)を併用したトラベクレクトミーが行われているが,その手術成績は,他の緑内障病型と比較して予後不良である.その手術予後に影響を与える患者背景として,若年者,硝子体手術の既往,糖尿病網膜症では両眼発症の血管新生緑内障がきわめて予後不良な術前因子である.最近,予後の改善,合併症の軽減を目的に,抗VEGF抗体ベバシズマブ(アバスチンTM)を用いたMMC併用トラベクレクトミーが試みられている.生存率(%)トラベクレクトミー術後(年)100806040200012345図1101例101眼の血管新生緑内障に対するMMC併用トラベクレクトミーの生命表解析22mmHg以上の眼圧値が2回連続,光覚弁視力喪失,再手術を不成功と定義している.(文献3より転載許可)———————————————————————-Page2496あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009算になる(図1).過去に5-フルオロウラシル併用トラベクレクトミーでは50歳以下の血管新生緑内障患者の手術予後はきわめて不良であると指摘されていた4)が,MMC併用トラベクレクトミーでも若年者の手術予後は不良であった(図2).また,血管新生緑内障を両眼発症している糖尿病網膜症患者では,片眼だけ血管新生緑内障を発症している糖尿病網膜症患者よりも手術予後が悪い,硝子体手術の既往のある症例は,MMC併用トラベクレクトミーの成績が有意に悪い,などの予後因子が明らかになった(図3).硝子体手術後のトラベクレクトミーが予後不良である理由としては,硝子体手術をする症例はそうでない症例と比べて病態がより重篤であるから,大きな侵襲の内眼手術を受けている症例は濾過胞形成に不利であるから,硝子体手術による結膜切開が濾過胞の形成維持を阻害しているから,などの理由が考えられる.トラベクレクトミーの前に硝子体手術をすることを控えるべきかどうかに関しては議論の余地がある.ベバシズマブを用いたMMC併用トラベクレクトミーMMC併用トラベクレクトミー以外の選択肢として,海外では,チューブシャント手術が行われている.しかし,EveryとMoltenoらが2006年に報告したMoltenoインプラントを用いた130例145眼の血管新生緑内障に対する手術成績は,1年生存率72%,2年生存率60%,5年生存率40%であり5),チューブシャント手術が,筆者らの報告したMMC併用トラベクレクトミーよりも劇的に良いという印象はない.最近,VEGFに対する中和抗体であるベバシズマブ(アバスチンR)を硝子体内注射した後にMMC併用トラ(64)ベクレクトミーを行う治療が試みられ注目されている.ベバシズマブをトラベクレクトミーの術中かその数日前に,11.25mg硝子体内注射を行うと,術後の前房出血が少なく新生血管も退縮し,手術経過は良いとの症例報告が発表されている6,7).今後,長期的な手術予後や対照群との比較結果など詳細な報告が期待される治療法である.文献1)Sivak-CallcottJA,O’DayDM,GassJDetal:Evidence-basedrecommendationsforthediagnosisandtreatmentofneovascularglaucoma.Ophthalmology108:1767-1776,20012)OhnishiY,IshibashiT,SagawaT:Fluoresceingonioan-giographyindiabeticneovascularization.GraefesArchClinExpOphthalmol232:199-204,19943)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-mywithmitomycinCforneovascularglaucoma:Prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmol147(2009,inpress)4)TsaiJC,FeuerWJ,ParrishRK2ndetal:5-Fluorouracillteringsurgeryandneovascularglaucoma.Long-termfollow-upoftheoriginalpilotstudy.Ophthalmology102:887-892,19955)EverySG,MoltenoAC,BevinTHetal:Long-termresultsofMoltenoimplantinsertionincasesofneovascu-larglaucoma.ArchOphthalmol124:355-360,20066)MikiA,OshimaY,OtoriYetal:Ecacyofintravitrealbevacizumabasadjunctivetreatmentwithparsplanavit-rectomy,endolaserphotocoagulation,andtrabeculectomyforneovascularglaucoma.BrJOphthalmol92:1431-1413,20087)CornishKS,RamamurthiS,SaidkasimovaSetal:Intrav-itrealbevacizumabandaugmentedtrabeculectomyforneovascularglaucomainyoungdiabeticpatients.Eye(2008,inpress)生存率(%)トラベクレクトミー術後(年)50歳£50歳100806040200012345生存率(%)トラベクレクトミー術後(年)硝子体手術の既往なし硝子体手術の既往あり100806040200012345図2血管新生緑内障に対するMMC併用トラベクレクトミーにおける手術予後の年齢での比較50歳以下の手術予後はきわめて不良である.図3血管新生緑内障に対するMMC併用トラベクレクトミーにおける手術予後の硝子体手術の既往の有無での比較硝子体手術の既往のある症例は,既往のない症例に比べて予後不良である.

屈折矯正手術:エクタジアに対する角膜内リング(ICRS)治療

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094930910-1810/09/\100/頁/JCLS世界的にlaserinsitukeratomileusis(LASIK)が普及し,国内でも年間20万件を超えるようになった現在でも,LASIKの長期的な合併症である角膜拡張症(以下,エクタジア)に対する治療方法は確立していない.今回扱うエクタジアとは,潜在的に存在する円錐角膜に対してエキシマレーザー照射を行い,角膜の前方突出と菲薄化が顕在化したものを含める.ICRS治療ICRS(intracornealringsegments,角膜内リング)手術は,LASIK後のエクタジアや円錐角膜に対して,変形した角膜の非対称性を軽減できる唯一の方法である.本来は軽度近視用の手術手技であったが,普及せず,2000年にColinらが円錐角膜に対する治療として報告した後,変形角膜に対する治療として注目されるようになった1,2).その後,エクタジアに対しての治療報告もされるようになり,最近ではより高度の角膜変形に対しても効果の期待できるタイプも開発されるようになった(図1).術の目的・適応エクタジアに対するICRS手術の目的は,角膜移植を回避し,コンタクトレンズ装用時間を延長させることにあり,裸眼視力の向上を目的とするものではない.この目的を術前に執刀医・患者双方が十分に理解しておくことが重要である.筆者らがおもに使用しているICRSは,IntacsR,IntacsSKR(AdditionTechnology社製)である.円錐角膜・エクタジアの程度が軽度~中等度であれば,IntacsRを使用し,変形が高度ならばIntacsSKRを使用する.一般にICRSで矯正可能なK値の最大値は55D付近であるといわれている.また,瞳孔領が瘢痕性に混濁している場合には適応外となる.そして,ICRSの固定・挿入部(角膜中央部から5.5~6.0mm)の角膜厚が400μm以上必要である.角膜下方が特に薄い場合などは注意が必要で,PentacumRなどの角膜厚分布にてリングの通過部がすべて基準値を満たしていることを確認する.ICRSサイズの選択IntacsRおよびIntacsSKRにはその厚みにより,0.25~0.45mmまでのサイズがある.屈折度数・乱視度数・角膜前面の非対称性・角膜後面の突出部の位置と大きさなどの要素を鑑み,サイズを決定する.2対のリングを同サイズに挿入するか(symmetric),異なるサイズを(61)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載107監修=木下茂大橋裕一坪田一男107.エクタジアに対する角膜内リング(ICRS)治療荒井宏幸南青山アイクリニック横浜エクタジアに対するICRS(角膜内リング)治療は,エクタジアの進行予防・コンタクトレンズ装用時間の延長・角膜移植の回避が期待できる.最近では角膜突出度の大きいケースにも対応可能なリングも開発されている.今後はICRS後にphakicintraocularlens手術を行い,良好な裸眼視力を回復させる方法も普及してくるであろう.図1IntacsR術後3カ月の前眼部写真図2AdditionTechnology社によるIntacsSKRの挿入アドバイス結果———————————————————————-Page2494あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009挿入するか(asymmetric)は,各データをもとに経験を生かして決定する.IntacsRを製造しているAdditionTechnology社では,多くのデータをもとに解析された各症例ごとのケースアドバイスを行っており,筆者らはおもにこのコンサルタントサービスを利用してリングを決定している(図2).術方法筆者が行っているマニュアルによる方法を以下に述べる3).前述のケースアドバイスに基づき,強主経線方向の指定部位に角膜厚の70~80%の深さにて切開を入れる.先端の短いL字スパーテルから順次長いものに変更して,リングを挿入するグルーブとよばれるトンネルの導入部を作製する.角膜を吸引固定した後,専用の器具にて対側までトンネルを完成させ2つのグルーブを作製する.それぞれに指定のリングを挿入し,創を1針縫合して手術を終了する.角膜実質は層構造になっているため,導入部分が適切に作製されていれば,上皮側や内皮側に穿孔するようなことはない.最近ではフェムトセコンドレーザーによりグルーブを作製することができるようになった.簡便で正確な手技であるが,リング留置部が全周にわたり均一な厚みをもっていればよいが,角膜厚の分布が不均一の場合にはリングの効果が部位により異なる可能性があるので,注意が必要であろう.〔合併症〕ICRS手術において,感染症以外の重篤な合併症はない.まれに,術後長期においてパーティクルとよばれる非炎症性の沈着がみられる場合があるが,視機能には問題はなく,リングを抜去すれば消失するため大きな問題にはならないと思われる.〔症例〕37歳,男性.平成14年に非眼科専門医にて両眼LASIK施行.術後約1年後に当院に相談のため受診.視力:VD=0.1(1.5×2.0D(cyl0.5DAx10°)VS=0.1(1.2×2.75D(cyl1.0DAx50°).角膜厚:右眼422μm,左眼410μm.細隙灯顕微鏡にて角膜所見には異常なし.以後,経過を観察していたが,経過とともに徐々に近視化が進行したため,エクタジアと判断し,平成16年5月に左眼,同年9月に右眼にICRS(両眼ともIntacsR0.45mm×2)を施行した.初診時および最終観察時のトポグラフィを図3,4に示す.<Phakicintraocularlens(IOL)との組み合わせ>ICRS手術を行うことにより,多くの症例で矯正視力が向上する.LASIK後のエクタジア症例は,裸眼での生活を希望してLASIKを受けたため,最終的には裸眼での生活を望むケースも多い.ICRSの術後,検眼レンズでの矯正視力が向上した場合,phakicIOL手術を追加することにより,良好な裸眼視力を獲得できるケースも多い.文献1)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctiongkerato-cornuswithintracornealrings.JCataractRefractSurg26:1117-1122,20002)SiganosCS,KymionisGD,KartakisNetal:ManagementofkeratocornuswithIntacs.AmJOphthalmol135:64-70,20033)荒井宏幸:角膜拡張症(エクタジア)(治療編).IOL&RS22:175-180,2008(62)図3症例の初診時のトポグラフィ照射径は小さく,左眼にはdecentrationも認められる.図4症例の最終観察時(23カ月)のトポグラフィ光学部領域は広くなり,扁平度は増加している.

眼内レンズ:Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(2)実践編

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094910910-1810/09/\100/頁/JCLS筆者は,本疾患での水晶体外摘出術(ECCE)の経験は3例と少ないので,水晶体乳化吸引術(PEA)が中心の内容である.Hansen病は,同一疾患でも非常に多彩な眼病変をきたすので,1例1例異なるアプローチが必要である.今回,3症例とその選んだ術式の解説を具体的に記載する.〔症例1(図1)〕(術前写真は前号の基礎編の図1である)下方の角膜混濁が異常に強く,核硬化も強そうで,見るからに難症例であった.ECCEを選択した理由は,つぎの2点である.①当時は,今ほど超音波装置の性能は良くない.ECCEにコンバートする可能性が高いときは,上方強角膜切開を選択したほうが無難である.②上方切開の場合,下方の角膜混濁が強いとPEAの操作は視認性の関係でむずかしい.上方強角膜切開の場合,PEAの操作は,上部の角膜(59)混濁より下部の角膜混濁のほうがむずかしい.逆に,I/A(灌流/吸引)の操作は,上部の角膜混濁のほうがむずかしくなる.あちらを立てればこちらが立たずか.上甲覚武蔵野赤十字病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎272.Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(2)実践編角膜混濁かつ小瞳孔・虹彩萎縮の対応が中心の手術内容にした.すべての施設で,最新の医療器具・装置が整っているわけではないので,その点も考慮して記載した(1994~1995年当時の療養所の状況に基づいた).図2症例2(65歳,男性)1995年6月,PEA+IOL施行.基礎編(前号)の図3が術前写真である.術後,瞳孔領の拡大.IOLの偏位が見られる.図3症例3(74歳,女性)2007年2月,PEA+IOL施行.半月型の角膜上方の強い混濁と菲薄.前の強い混濁・収縮が見られる.図1症例1(74歳,女性)1995年3月,ECCE+IOL施行.基礎編(前号)の図1が術前写真である.下方の強い角膜混濁.兎眼あり.———————————————————————-Page2〔症例2(図2)〕(術前写真は前号の基礎編の図3である).視認性は良好.PEAを選択.この症例のように小瞳孔で虹彩萎縮が強い症例では以下の点に注意する.①Irisretractorで無理に虹彩を広げない.虹彩は大きく裂け,瞳孔領は拡大する.②PEAの吸引力が強いと,虹彩を誤吸引しやすい.PEAは弱い吸引圧のもと,divided&conquer(D&C)法で行った.③術中,Zinn小帯が一部断裂したので眼内レンズ(IOL)は偏位している.Zinn小帯は脆弱と予測して手術に臨むこと.〔症例3(図3)〕(過去の経験を生かして,最近手術を行った症例)ほぼ上半分の角膜混濁が強く,上方の角膜は菲薄化していた.非手術眼は失明(義眼).非常にプレッシャーを感じた症例である.①耳側角膜切開でPEAを選択.②小瞳孔に対しては,虹彩縁部分切開を行い,瞳孔領を拡大.③PEAは低吸引圧のもと,D&C法で行った.角膜混濁の強い部位では,前鑷子で前切開片を持ち替えないよう注意を払った.再度,前片を把持するのはむずかしくなる.その他,治療的角膜切除術後にPEAを行った症例も経験した.その症例の術前,術後の写真は文献1に呈示した.おわりに最新の医療設備が整っていても,角膜混濁だけでなく小瞳孔,虹彩萎縮,Zinn小帯脆弱も併発の症例は難易度が高い.借りものの知識では,一朝一夕にはいかない.術前に治療方針をしっかりたてる必要がある.文献1)上甲覚,藤野雄次郎,増田寛次郎ほか:ぶどう膜炎の既往のあるらい患者のアクリルソフト眼内レンズの術後成績.臨眼51:615-617,19972)上甲覚,堀江大介:片眼失明のハンセン病性ぶどう膜炎患者の白内障手術成績.臨眼63(2009,印刷中)3)黒坂大次郎:ウエットラボ用の豚眼白内障モデル(1)核処理の練習用.あたらしい眼科15:1553-1554,19984)石田千秋,西村栄一,早田光考ほか:豚眼を用いたチン小帯断裂眼のチン小帯強度測定.眼科手術22(抄録集):48,2009

コンタクトレンズ:強度乱視眼へのハードコンタクトレンズ処方(2)

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094890910-1810/09/\100/頁/JCLSHCL処方角膜周辺部にまで乱視が及んでいるタイプIやタイプI-tにおいては,ラージサイズハードコンタクトレンズ(HCL)を処方しても,弱主経線方向のベベル幅が狭くなり(図1),その部位での機械的刺激による異物感が強(57)い.この症例の角膜曲率半径は8.40mm(40.17D)(3°),7.42mm(45.48D)(93°)である.このような症例に対しては,これまで後面トーリックHCLによって対処していた(図2).ベベル幅は比較的全周において均一になっている.異物感もかなり減少した.しかし,まだ若干の異物感を訴えるので,サンコンマイルドIIツイ小玉裕司小玉眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純図1タイプIに対するラージサイズHCLの処方8.05/3.0/9.0のラージサイズ球面HCLを装用させた場合,3時・9時方向のベベル幅が狭く,その部位の機械的刺激による異物感が強かった.図2タイプIに対する後面トーリックHCLの処方7.45/8.45/±0.0/9.0の後面トーリックHCLを処方した.ベベル幅は比較的全周において均一となり,異物感もかなり減少した.図3ベベルトーリックHCLのイメージ図サンコンマイルドIIツインベルタイプのレンズのダブルベベル部位がトーリック差を付けてデザインされている.CIC2IC1IC3ントベベルBCIC1IC3IC2CIC:ItmtC:l図4ベベルトーリックHCL断面のイメージ図たとえば,ベースカーブ(BC)8.0mmでトーリック差を0.4にすると,垂直方向はツインベルタイプのBCより0.4mm小さい7.60mmのBCのときのゲタの高さ(赤い部分)になる.図5タイプIに対するベベルトーリックHCLの処方8.25/4.5/9.0(トーリック差0.3)のベベルトーリックHCLを処方した.全周のベベル幅がほぼ均一となり異物感は大幅に減少した.———————————————————————-Page2490あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(00)ンベルタイプのダブルベベル部位をトーリック状に作製したベベルトーリックHCL(図3,4)を処方してみた(図5).このようなデザインを有したHCLを処方することによって,全周のベベル幅がほぼ均一になり,異物感をさらに減少することができた1).合型・倒乱視合型に対するHCL処方角膜乱視が一方は周辺部まで及び直交し他方は中央部に限局しているタイプIIIやタイプIII-tにおいては,やはり後面トーリックHCLかベベルトーリックHCLによって対処する.ベルトーリックHCLの処方についてベベルトーリックHCLのサイズは8.5mm,8.8mm,9.0mm,9.3mm,10.0mmと用意されており,ダブルベベル部位のトーリック差は指定できる.よって,中央部型・倒乱視中央部型においてもラージサイズHCLが不都合であれば,スモールサイズのベベルトーリックHCLによって対処できる.また,周辺部型・倒乱視周辺部型において,かなり周辺部まで乱視が及んでいても,サイズ的には十分対応が可能である.軽度乱視眼や中程度乱視眼において,球面HCLを処方し,3時・9時ステイニングや瞼裂斑炎の悪化(図6)に悩まされた場合は,このベベルトーリックHCLを処方することでそのような症状を解決することができる場合がある(図7)ので,一度試みられたらよいと思う.文献1)小玉裕司:ベベルトーリックハードコンタクトレンズの紹介.あたらしい眼科23:861-865,2006図6中程度乱視眼における球面HCL装用による3時・9時ステイニングと瞼裂斑炎2.68Dの角膜乱視眼に対して7.80/2.5/8.8の球面HCLを処方し,経過観察中,3時・9時ステイニングと瞼裂斑炎の悪化を認めた.図7図6の症例の1カ月後図6の症例に800/1.25/9.0(トーリック差0.2)のベベルトーリックHCLを処方した.3時・9時ステイニングはほぼ消滅し,瞼裂斑炎もかなり改善した.

写真:フェムトセカンドレーザーを用いた全層角膜移植

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094870910-1810/09/\100/頁/JCLS(55)稗田牧バプテスト眼科クリニック写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦299.フェムトセカンドレーザーを用いた全層角膜移植図2図1のシェーマ①:Katzin剪刀,②:前房より漏出したヒアルロン酸,③:ringlamellarcut,④:マーキング.①②③④図3フェムトセカンドレーザーでレシピエント切開混濁した角膜がアプラネーションコーンで圧平され,円周状にレーザーで切開されている.図4ジグザグ形状の全層角膜移植後通常の角膜移植と同様の8本の端々縫合と16糸の連続縫合を行っている.図1ジグザグ形状の全層切開レシピエントの切開は全層にはせず数十ミクロン残しているので,剪刀で切断し取り除く.———————————————————————-Page2488あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(00)フェムトセカンドレーザーは近赤外線のレーザーで,焦点外の角膜組織は通過し,超短パルス(約500800フェムト秒パルス,フェムト秒=1015seconds)の特性から瞬間ピーク出力が大きく,焦点の合った照射組織のみを光ディスラプション(photodisruption)させて,気泡の発生とともに数ミクロンの空隙をつくることができる.これを一定の間隔で数多く照射することで,周辺組織に熱拡散の影響を及ぼさずに,透明角膜を切開することができる.従来laserinsitukeratomileusis(LASIK)のフラップ作製に使用されてきたが,性能が向上することで,切開を深く複雑な形状にすることができるようになった.これを利用して角膜移植におけるドナーとレシピエントの角膜を同一形状の複雑な切断面にすることも可能になった.筆者らの施設では,手術室にIntraLaseFS-60(AMO社製)を設置し,ジグザグ形状の全層角膜移植を施行している.まずレーザーでレシピエントの切開を行い,手術用顕微鏡下に歩いて移動してもらう.その間の眼球虚脱を避けるため,切開予定部位の最薄点の数十ミクロン前方から切開を開始している.したがって,レシピエントの切開を完成させるには,前房内に粘弾性物質を注入したのち,マーキングを行い,ジグザグの創を確かめてダイアモンドメスで一部穿孔し,Katzin剪刀で切離する(図1).レシピエントの切開は90秒ほど時間がかかるので球後麻酔を行い,開瞼器を使用している(図3).ドナーはリム3mm以上の強角膜片を人工前房にセットし切開する.この場合には前房内の圧をコントロールできるので前房から(角膜表面から1,200μmの深さ)切開をはじめて,完全に切断する.ドナーの場合,マーキングをした後,Shinskyフックで層を少し開き,移植片を鑷子で軽く引っ張れば外れる.移植は8本の端々縫合と16糸の連続縫合を行っている(図4).少数例の経験であるが,創の接着面積は広く,術翌日の前房水漏出もまったくない.ジグザグの創は角膜前面,後面とも生体適合性に優れており,前眼部OCT(光干渉断層計)で見た断面も接合部は滑らかである(図5).移植片は透明で合併症を認めていないので,比較的早く抜糸することが可能となり,早期の視力改善が期待できる.図5術後前眼部OCTの所見ジグザグの移植片がホストと適合し,接合部分はスムーズである.