———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSめている6).本稿では,ROPに対する抗VEGF抗体併用硝子体手術の実際と,今後の課題についておもに述べる.I現在の治療法Bevacizumabを硝子体内投与するROP症例のおもな適応は,牽引性網膜離をきたしている(stage4以上)にもかかわらず血管活動性が高い症例であるが,僚眼にすでに牽引性離を生じている対象眼で,網膜光凝固が十分に行われているにもかかわらず高い血管活動性を保つ,stage3症例も対象としている.なお,本治療は大阪大学医学部附属病院先進医療審査会(倫理審査委員会)の承認を得たうえ,患者の家族に十分な説明を行い,書面による厳格なインフォームド・コンセントを得て行っている.病態の評価は,全身麻酔下あるいは新生児集中治療室(neonatalintensivecareunit:NICU)内での鎮静下で行う.眼底検査はスリットランプとコンタクトレンズ(VolkQuadPediatricLens)を用いて行い,RetCam120Rデジタル眼底カメラを用いて眼底写真および蛍光眼底造影写真の撮影を行う.眼底検査では国際分類7)に従って評価する.特にaggressiveposteriorROP(AP-ROP)に相当する変化は,病態が急激に悪化する可能性が高く注意が必要である.造影検査ではおもに新生血管の活動性を評価する.広範囲に広がる厚い線維血管増殖膜でも意外に蛍光漏出はじめに未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)は,未熟な網膜血管を基盤に発症する眼内血管新生病である.成人の代表的な眼内血管新生病である糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などと同様に,その病態には血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が中心的な役割を果たしていると考えられている1).実際,ROP眼における硝子体内VEGF濃度を測定した報告によると,VEGF濃度は対照(先天白内障眼)のVEGF濃度と比較して有意に高値を示し,その濃度は血管活動性に応じて高値を示していた2,3).ROPに対する治療は,網膜離を生じる前に周辺部無血管野に対して十分な光凝固を行うことが基本であるが,十分な光凝固を行っても網膜離に至る重症例もまれではない.このような症例では,網膜を復位させるために網膜硝子体牽引を解除することが必要で,筆者らの施設では積極的に早期硝子体手術4)を施行している.しかし,網膜離発症早期に硝子体手術を行うためには,ある程度血管活動性が鎮静化している(鎮静化されている)ことが必要である5).このため,筆者らの施設では,2006年9月より,網膜離を併発しているにもかかわらず高い血管活動性を保つ症例に対し,術前に抗VEGF抗体(bevacizumab,AvastinR)を硝子体内投与し血管活動性を鎮静化させたのち硝子体手術を施行する,「抗VEGF抗体併用硝子体手術」を行っており,これまでのところ重篤な合併症のない良好な手術成績を収(49)481atsuhioatohuniusaa565087122特集●未熟児網膜症診療―最近の考え方あたらしい眼科26(4):481486,2009抗VEGF抗体治療現在の治療法と今後のAnti-VEGFTherapy-NowandinFuture佐藤達彦*日下俊次*———————————————————————-Page2482あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(50)く,黄斑部離を伴っていないstage4A症例では,網膜離が進行しそうな場合には硝子体手術を行う.網膜離を伴っていても増殖膜の範囲が限局している場合にはそれ以上進行しない場合もあるので,手術適応は慎重に判断する.網膜離を伴っており新生血管の活動性が高いstage4A症例では,bevacizumabを0.5mg硝子体内投与する.症例にもよるが,bevacizumabを投与すると,翌日から検眼鏡的に水晶体血管膜の退縮,増殖膜の白鞘化が観察される.当科では27日後に眼底検査を行い,必要があれば硝子体手術を施行している.Stage4B以降の症例は手術適応であることがほとんが少なかったり,線維血管増殖の範囲は狭くても旺盛な蛍光漏出を認めたりすることがあるので,造影検査は血管活動性の評価に非常に有用である.網膜離がなく,新生血管の活動性が低い眼(僚眼の評価のために全身麻酔がなされている症例)は,多くの場合経過観察となる.網膜離がなく新生血管の活動性の高い眼では,光凝固が十分でなければ光凝固を追加する.光凝固が十分に行われており,かつ僚眼がすでに網膜離に至っているstage3症例にはbevacizumabを0.5mg硝子体内投与している.網膜離を伴っているものの新生血管の活動性が低図1aBevacizumab投与前の眼底写真(A,B)および蛍光眼底造影写真(C)ROPstage4Aの症例.後極部の血管蛇行・拡張に加えて,造影で耳側周辺部の線維血管増殖膜から旺盛な蛍光漏出を認める.(文献6より改変)ACB図1bBevacizumab投与1週間後の眼底写真(D,E)および蛍光眼底造影写真(F)後極部の血管蛇行・拡張は消退し,増殖膜からの蛍光漏出も著明に減少している.当日,硝子体手術を施行し,手術開始時に採取した硝子体液中のVEGF濃度は10pg/mlであった.(文献6より改変)DFE———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009483(51)mgを硝子体内投与した.1週間後に眼底検査,造影検査にて再評価を行った(図1b)後,硝子体手術を施行した.術後,網膜は復位し,増殖膜は著明に消退して,再増殖などは認めていない(図1c).III今後の課題以上のように,ROPに対する抗VEGF抗体併用硝子体手術は,硝子体手術前にbevacizumab投与を行うことにより,血管活動性が高く,そのままの状態では手術が躊躇される症例に対しても,早期に硝子体手術を安全に施行することを可能とした.また,血管活動性の高い一部のstage3症例に対してもbevacizumabを投与しはじめているが,これまでのところ,局所的にも全身的にもbevacizumab投与によると思われる重篤な合併症は経験しておらず,少なくとも短期的には安全で有効性の高い治療法ではないかと考えられるが,今後検討しなければならない問題点もいくつかある.1.局所および全身への影響VEGFは病的血管のみならず,正常血管の発達にも重要な役割を果たしている8).そのため,ROPのように正常血管が発達途上である疾患に対して,抗VEGF抗体を投与することが正常血管の発達障害につながらないどであるが,血管活動性が高い場合にはbevacizumab0.5mgの硝子体内投与を併用する.つぎに具体的な症例を提示する.II症例在胎週数25週,出生時体重744gの男児.出生後約11週より光凝固が施行されたが,ROPstage4Aに進行した.出生後約14週の時点で全身麻酔下にて眼底検査,蛍光造影眼底検査を行い(図1a),bevacizumab0.5図1c硝子体手術施行後,約4週の眼底写真後極部の血管の蛇行・拡張は認めず,増殖膜も著明に消退している.*Highlyvascular-activeROP(n=16)Moderatelyvascular-activeROP(n=10)Mildlyvascular-activeROP(n=14)Congenitalcataract(n=5)1,4001,2001,0008006004002000VEGFlevel(pg/m?)図2硝子体内VEGF濃度ROPstage4眼は血管活動性によって3群に分類された.最も血管活動性の高いhighlyvascular-activeROP眼に対しては術前にbevacizumab0.5mgが硝子体内投与されている.p<0.001,Kruskal-WallisOneWayANOVAonRanks,fol-lowedbyDunn’smethod,*p<0.05.(文献3より)———————————————————————-Page4484あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(52)症例で新生血管からの蛍光漏出が完全に抑制されると報告されている12)が,筆者らは,ROPにおいてbevaci-zumab投与後,新生血管からの蛍光漏出が完全に抑制された症例は経験していない6).この原因として,VEGFの産生量とbevacizumabの投与量のバランスによるもの,と考えられる一方で,ROPstage4眼に対するbevacizumab投与後の硝子体内VEGF濃度は対照(先天白内障眼)と比較して高値でない3)ことから(図2),VEGF以外の因子がROPの新生血管活動性に関与している可能性も考えられる.この点についても検討していかなければならない.3.最適な投与時期,手術時期現在,bevacizumabは血管活動性の高いROPstage4眼におもに投与しているが,投与時期についてもさらに検討が必要である.筆者らの行ったROPモデルマウスにおける包括的遺伝子発現解析の結果13)によると,VEGFは新生血管の発現にほぼ一致して発現上昇が認められた(図3).この結果をヒトROPに置き換えると,現在のbevacizumab投与時期よりも早い時期にVEGFの発現上昇が認められていることになる.実際,ROPstage3眼にbevacizumabを投与した報告9)によると,bevacizumab投与後,新生血管の退縮のみならず網膜周辺部への網膜内血管の発達を認めている.現在,筆者らの施設でも一部の症例に対してROPstage3眼に対して抗VEGF抗体を投与しはじめており,今後の検討か,という問題については今後,検討が必要である.この点に関して,ROPstage3眼にbevacizumabを硝子体内投与した検討9)によると,bevacizumab投与後,新生血管の退縮と網膜周辺無血管野に向かう網膜内血管を認めたことから,正常血管の発達が完全に抑制されてしまうことはないようである.また,筆者らの検討3)では,ROPstage4眼に対してbevacizumabを硝子体内投与後約1週間の硝子体内VEGF濃度は,対象(先天白内障眼)と比較して有意差を認めなかった(図2).この結果から,0.5mgのbevacizumab硝子体内投与によって,VEGF濃度が生理的濃度以下には抑制されていないと考えられる.また,VEGFには神経保護因子10)としての働きもある.ラットを用いた実験では,抗VEGF抗体は短期間では網膜神経節細胞の細胞死に有意な影響を与えないことが報告されている11)が,ROPのように黄斑形成も不十分な症例に対して抗VEGF抗体を投与することが悪影響につながらないか,今後も検討が必要である.さらに,bevacizumabが眼以外の臓器に対して影響を与える可能性も考えられるので,局所および全身への影響について,今後も検討しなければならない.2.最適な投与量現在,bevacizumabの投与量は0.5mgとしているが,投与量についてはさらに検討が必要である.増殖糖尿病網膜症に対してbevacizumabを投与すると,約7割の図3aROPモデルマウスにおける経時的形態変化(P=postnatal)網膜外新生血管はP17に最も著明に発現しており,P21にはほぼ対照群(正常飼育マウス)と同様の形態を示している.(Bar:500μm)(文献13より)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009485(53)考慮されうる選択肢であると考える.4.VEGF以外の因子の病態への関与先に述べたように,ROPstage4眼に対してbevaci-zumab0.5mgを硝子体内投与し,約1週間後に硝子体内VEGF濃度を測定した結果,VEGF濃度は対照(先天白内障眼)と比較して有意差を示さなかった3)が,bevacizumab投与後に新生血管からの蛍光漏出が完全に抑制された症例は経験していない6).これらの結果から,ROPの血管活動性には,VEGF以外の因子も関与している可能性が示唆される.筆者らの検討3)では,増殖糖尿病網膜症においてVEGFとは独立した血管新生促進作用を示すと報告14)されたerythropoietinのROP眼における硝子体内濃度が,血管活動性に応じて高値を示した(図5).VEGF濃度が十分に抑制されているにもかかわらず血管活動性が残存し,血管活動性に応じて硝子体内erythropoietin濃度が高値を示していることから,ROPにおいて増殖糖尿病網膜症以上にerythropoietinが病態に関与している可能性がある.これら以外にもどのような因子が病態に関与しているのかについては,今後も検討が必要である.が必要である.ただし,有硝子体眼に対して抗VEGF抗体を硝子体内投与すると,新生血管の活動性の低下のみならず,線維血管増殖膜の急激な収縮をきたし,それに伴い牽引性網膜離が悪化することがあり6)(図4),安易なbevaci-zumab投与は慎むべきで,十分な体制を整えたうえで21.61.20.80.40P12P13P14P15Postnatalday(day)P16P17P18P19P20P21Relativevalue図3bROPモデルマウスにおけるVEGFAの経時的遺伝子発現変化横軸は日齢,縦軸は対照マウスに対するROPモデルマウスでの相対的遺伝子発現値.VEGFAの遺伝子発現は網膜外新生血管が最も著明に発現する時期にほぼ一致して発現上昇している.AB図4ROPstage4眼にbevacizumab0.5mg投与前後の眼底写真A:Bevacizumab投与前の眼底写真.後極血管の蛇行・拡張と,耳下側周辺部網膜に線維血管増殖膜に伴う牽引性網膜離(stage4A)を認める.B:Bevacizumab投与6日後,線維血管増殖膜の白鞘化と収縮を認め,収縮に伴い黄斑部離(stage4B)を伴うようになった.(文献6より)———————————————————————-Page6486あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(54)999,20058)FerraraN:Roleofvascularendothelialgrowthfactorinregulationofphysiologicalangiogenesis.AmJPhysiolCellPhysiol280:1358-1366,20019)Mintz-HittnerHA,KuelRRJr:Intravitrealinjectionofbevacizumab(avastin)fortreatmentofstage3retinopa-thyofprematurityinzoneIorposteriorzoneII.Retina28:831-838,200810)NishijimaK,NgYS,ZhongLetal:Vascularendothelialgrowthfactor-Aisasurvivalfactorforretinalneuronsandacriticalneuroprotectantduringtheadaptiveres-ponsetoischemicinjury.AmJPathol171:53-67,200711)IriyamaA,ChenYN,TamakiYetal:Eectofanti-VEGFantibodyonretinalganglioncellsinrats.BrJOph-thalmol91:1230-1233,200712)AveryRL,PearlmanJ,PieramiciDJetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)inthetreatmentofproliferativediabeticretinopathy.Ophthalmology113:1695-1705.e6,200613)SatoT,KusakaS,HashidaNetal:Comprehensivegeneexpressionproleinmurineoxygen-inducedretinopathy.BrJOphthalmol93:96-103,200914)WatanabeD,SuzumaK,MatsuiSetal:Erythropoietinasaretinalangiogenicfactorinproliferativediabeticretinop-athy.NEnglJMed353:782-792,2005文献1)ClarkD,MandalK:Treatmentofretinopathyofprema-turity.EarlyHumDev84:95-99,20082)SonmezK,DrenserKA,CaponeAJretal:Vitreouslev-elsofstromalcell-derivedfactor1andvascularendotheli-algrowthfactorinpatientswithretinopathyofprematu-rity.Ophthalmology115:1065-1070,20083)SatoT,KusakaS,ShimojoHetal:Vitreouslevelsoferythropoietinandvascularendothelialgrowthfactorineyeswithretinopathyofprematurity.Ophthalmology,inpress4)AzumaN,IshikawaK,HamaYetal:Earlyvitreoussur-geryforaggressiveposteriorretinopathyofprematurity.AmJOphthalmol142:636-643,20065)HartnettME:Featuresassociatedwithsurgicaloutcomeinpatientswithstage4and5retinopathyofprematurity.Retina23:322-329,20036)KusakaS,ShimaC,WadaKetal:Ecacyofintravitrealinjectionofbevacizumabforsevereretinopathyofprema-turity:apilotstudy.BrJOphthalmol92:1450-1455,20087)InternationalCommitteefortheClassicationofRetinopa-thyofPrematurity:Internationalclassicationofretinop-athyofprematurityrevisited.ArchOphthalmol123:991-**Highlyvascular-activeROP(n=16)Moderatelyvascular-activeROP(n=10)Mildlyvascular-activeROP(n=14)Congenitalcataract(n=5)1,0008006004002000EPOlevel(mIU/m?)図5硝子体内erythropoietin濃度ROPstage4眼は血管活動性によって3群に分類された.最も血管活動性の高いhighlyvascular-activeROP眼に対しては術前にbevacizumab0.5mgが硝子体内投与されている.p<0.001,Kruskal-WallisOneWayANOVAonRanks,fol-lowedbyDunn’smethod,*p<0.05.(文献3より)