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眼科専門医志向者”初心”表明14.患者さんに喜んでいただけるような眼科医を目指して

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093630910-1810/09/\100/頁/JCLS今でも忘れられずにいる瞬間があります.それは小学生のとき,急に視力が下がり眼鏡が必要になりました.そして,初めて眼鏡をかけた瞬間,視界が鮮明になり,世界はこんなにも奇麗だったのかと感動しました.振り返ってみれば,それが自分が眼科医を目指したきっかけだったのかもしれません.自分が専門を選ぶうえで考えたのが,まず,患者さんに喜んでもらえることでした.白内障術後の患者さんが眼帯を外し,「とても明るくなりました!」「すごくよく見えます!」と笑顔で仰しゃるのを聞くと,子供のころの自分の体験を思い出します.眼は「視覚」という日常生活にきわめて重要な感覚を担っており,患者さんのqualityoflife(QOL)を改善するという点において眼科手術以上の手術はないのではないかと思っています.つぎに考えたのが,全身も診たいということでした.「目は口ほどに物を言う」ということわざではありませんが,眼科疾患には全身の疾患と関連したものが多く存在します.眼というスペシャリティの高い分野でありながら,全身の疾患とも密接に関連しているというのも眼科の大きな魅力の一つだと思います.現在は,臨床家として一人ひとりの患者さんと向き合い,その方たちの笑顔を見たい,という思いもありますが,科学者としてまだ見ぬ多くの患者さんの笑顔のために研究を行いたい,という思いもあります.これから先,自分がどのような道を進むのかはまったくわかりません.医師はサイエンス(科学的思考),ヒューマニティ(人間性),アート(技量)のバランスが大切だと思います.これらのうちどれかに偏ってしまえば,たとえ良い仕事をしているようにみえても不十分だと思います.これらを兼ね備え,患者さんに喜んでいただけるような眼科医を目指して頑張ります.◎今回は山梨大学出身の宮崎先生にご登場いただきました.この連載でも今まで何人もの先生が書かれていますが,眼科手術は大いに患者さんのQOLを改善するという点で本当に魅力的だと思います.術前後の患者さんの変化に触れる機会を増やし,この魅力を伝えることができれば,もっと眼科に興味を持つ人が増えていくのではないでしょうか.(加藤)本シリーズ「“初心”表明」では,連載に登場してくださる眼科に熱い想いをもった研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生を募集します!宛先は≪あたらしい眼科≫「“初心”表明」として,下記のメールアドレスまで.全国の先生に自分をアピールしちゃってください!E-mail:hashi@medical-aoi.co.jp(81)眼科専門医向者“初心”表明●シリーズ⑭患者さんに喜んでいただけるような眼科医を目指して宮崎康之(YasuyukiMiyazaki)京都市立病院1982年京都生まれ.山梨医科大学(現山梨大学)医学部卒業.現在は京都市立病院にてスーパーローテート中.4月からは京都府立医科大学で研修予定.(宮崎)編集責任加藤浩晃・木下茂本シリーズでは研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生に『なぜ眼科を選んだか,将来どういう眼科医になりたいか』ということを「“初心”表明」していただきます.ベテランの先生方には「自分も昔そうだったな~」と昔を思い出してくださってもよし,「まだまだ甘ちゃんだな~」とボヤいてくださってもよし.同世代の先生達には,おもしろいやつ・ライバルの発見に使ってくださってもよし.第14回目はこの先生に登場していただきます!▲京都市立病院の同期と

後期臨床研修医日記9.バプテスト眼科クリニック

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093590910-1810/09/\100/頁/JCLS下って家路につきます.火曜日この日は一日手術場です.午前中は角膜移植が多くDSAEK(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty),DLKP(深層表層角膜移植術),PKP(全層角膜移植術)などの手術助手をします.移植がない日は自分の硝子体手術症例を入れて,上級医の先生の指導を受けながら手術を行います.最先端の角膜移植を見て,新しい知見を出している現場にいられることは大変貴重な経験です.火曜日は手術が多いためお昼をとる時間があまりありません.大盛り弁当を5分で食べて午後の手術に臨みます.午後はおもに白内障,眼瞼手術,ごくまれに緑内障手術を行います.白内障手術はほとんどが日帰り手術で,入院の場合は1泊2日です.私の助手はおもに看護師ですが,硝子体・緑内障手術などの手術には指導医の先生が助手についてもらえるため安心して手術症例の勉強ができます.(77)バプテスト眼科クリニックは京都駅から40分ほどの比叡山の麓にある眼科クリニックです.ここでは私を含めた常勤医が5人勤務しています.また非常勤医師として,京都府立医科大学のスタッフの先生方に,外来や手術に来ていただいています.当院では屈折矯正,内皮移植を含めた角膜移植といった最先端の医療に加えて,白内障はもちろん,緑内障,網膜硝子体,眼瞼,斜視手術まで幅広く手術を行っています.外来も一般外来に加えて,特殊外来(角膜,緑内障,網膜,眼形成,ドライアイ,屈折・老視矯正)が曜日ごとにあります.一般臨床を学べる病院としては最適な病院で,そこで働く私の一週間をご紹介いたします.月曜日毎朝7時頃に起床し鴨川沿いにある自宅を出発して,晴れた日には朝日を浴びながら東山にある大文字を目指して病院に向かいます.病院は比叡山の入り口で,登り坂の途中にあります.京都の寒い冬の中,自転車で通う私は,病院に着くころには少し汗ばみます.8時前に病棟に行き入院患者を診察します.病床は9床で,角膜移植後,硝子体手術後,緑内障患者が入院しています.あわただしく診察を終了した後,午前は手術出番のため,症例を確認して手術室へ行きます.手術場は2ルームあります.月曜日の午前は白内障・眼瞼・結膜弛緩症・斜視・硝子体の手術を行います.私自身の手術がないときは,大学スタッフの先生のオペ助手について勉強させていただきます.専門の先生方の素晴らしい手術を生で見ながら自分の手術との比較を行い,反省の毎日です.午後は13時半から外来開始.新患に対応しながら予約再診をします.毎日140人を超える外来患者が集まるため,忙しく診察しているとあっという間に時間が過ぎてしまい,気づくと外は暗く夜になっています.そして,病院での長い一日が終わりまた自転車で坂を後期臨床研修医日記●シリーズ⑨バプテスト眼科クリニック北澤耕司▲月1回の京都府立医科大学スタッフの先生の講演会の後(写真は左から成瀬繁太先生,稗田牧院長,足立絋子先生,筆者,山村陽先生)———————————————————————-Page2360あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(78)が引き締まります.DSAEKやPKPのほかにIEKも当院では行っています.生でその手術をみることができ大変貴重な経験をさせていただいています.ドナー角膜をフェムトセカンドレーザーできれいにジグザグにカットできたときは,外回りですがホッとします.午前の手術が終われば木下教授と近所の中華料理屋にランチに行きます.ここでもいろいろなお話を聞くことができ,お昼時間も勉強になります.ただし,服が中華臭くなり,匂いが気になってしまい,消臭剤が手放せません.午後は相変わらずの外来でバタバタと時間が過ぎます.外来が終わると週に1回の医局会があります.毎週,屈折矯正外来の症例検討を行うほか,一般外来や手術症例の症例検討も月1回行っています.また月末には京都府立医大からスタッフの先生に講演に来ていただき,知識のレベルアップをはかります.土曜日いい天気の日に限って仕事があります.常勤医が隔週で外来診察を行います.外来がないときはオンコールですが,ときどき網膜離などの緊急手術が入ります.そのときは休日を返上して病院にかけつけます.携帯が鳴らないことを祈りながら残りの休日を過ごします.まとめ私の一週間をご紹介いたしました.眼科医になって3年経ちいろいろな手術もできるようになってきた時期ですが,常に専門の先生方が周囲にいる環境で仕事ができていることに刺激をうける毎日です.そういった先生方に少しでも近づけるようこれからも頑張っていく次第です.手術が終わった後は,NICU(新生児集中治療室)にいってベビーの診察を行います.バプテスト眼科クリニックから150mほど離れたところにバプテスト病院があります.新患が月に5人ほどいて,毎週3,4人の診察を行っています.700gぐらいの未熟児を診察することもあり,見落としがないか,急な変化がでていないかなど,いつも緊張しながら診察を行っています.水曜日昨日と代わって一日外来です.午前は府立病院のスタッフの先生が角膜外来をしに来てくださるため,その裏で新患に対応します.午前の新患は多岐にわたります.近くの開業医の先生からの紹介もたくさんあります.また手術症例も多く気が抜けません.白内障手術症例と思いきや水晶体亜脱臼だったなどの症例もあり大変勉強になります.京都の患者はすごく上品で外来にも着物で来られます.「どすえ」とか「でっしゃろ」など京都弁もでて,「私の人工レンズは一番いいレンズでっしゃろか?」などと言われたときにはその返答に困ってしまいます.木曜日この日は一日大学に研修にいっています.木曜日は網膜外来があり一般病院では出会わない珍しい症例や難治性疾患を目に焼き付けます.朝8時から網膜カンファランスで症例検討を行い,その後回診があります.そして外来.網膜外来だけに臨時手術となるような外傷や網膜離の紹介が多く,外来が終わるとそのまま臨時手術ということは日常茶飯事です.臨時手術が立て込むときは夜の12時くらいまで手術が続くこともあります.臨時手術がなければ,その日に診た患者さんのなかで珍しい症例をピックアップしてディスカッションしたり,英文論文の抄読会を行ったりします.網膜専門の先生方のディスカッションを聞くことができ大変勉強になり,充実した一日です.金曜日もうすぐ週末,とテンションが上がってくるところですが,その前に木下茂教授の移植手術があり気持ち?プロフィール?北澤耕司(きたざわこうじ)平成16年京都府立医科大学卒業.大阪府済生会吹田病院と京都府立医科大学で初期臨床研修.平成18年より京都府立医科大学医学部眼科学教室後期研修医.平成19年に町田病院に赴任.平成20年9月からバプテスト眼科クリニックに赴任.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009361(79)指導医からのメッセージ2年間のジェネラルな前期臨床研修を終了し,後期研修で専門とする眼科に入ったことになるわけですが,この後期研修では学会認定の専門医資格を取得することを目的とし,より高度で専門的な医学知識と医療技術を修得していくことになります.大学病院での研修はともすると,その眼科学教室の柱となる専門分野に偏った内容になりがちです.市中病院の当院では,屈折異常,前眼部炎症性疾患,白内障などの実際に多い症例に対する適切な治療を学びつつ,「こなす」テクニックを身につけながら,さらに自分の専門を磨くチャンスでもあります.後期研修医は新しい制度での新しい存在です.なにかと忙しいかもしれませんが,枠にとらわれることなく,興味があることに積極的かつ倫理的にチャレンジしていってください.バプテスト眼科クリニック・院長稗田牧☆☆☆

インターネットの眼科応用2. インターネットは個と個を繋ぐ

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093570910-1810/09/\100/頁/JCLSWeb2.0とよばれる現象インターネットの新しい利用方法が,「交流」というコンセプトであることは,第1章で紹介しました.インターネットが国家機関や研究機関や民間企業にかぎられた所有物であった時代には,情報発信者は国家であり,研究機関であり,民間企業でした.インターネットの情報発信者の主体が民間企業から個人へ移行している,現在の潮流を「Web2.0」としばしば表現します.その例が,ブログや,ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)といったユーザー参加型の交流サイトであり,Wikiシステムを用いた文書作成Webサイトです.日本最大のSNSサイトはmixiといいます.参加登録者は1,000万人ともいわれていますので,活用されている方もいらっしゃるかもしれません.インターネットの世界では,これまで情報の受け手であったユーザー個人が情報の発信者へとシフトし,ユーザー参加型のモデルが広まっています.情報の発信者が飛躍的に増えたことで,「情報発信者の共同作業によって,より有益な情報が生み出される」という,現象が起こりつつあります.このようにして積み上げられた付加価値の高いインターネット上の情報を「集合知」とよびます.その成功例がインターネット上のフリー百科事典「ウィキペディア」です.ここでいう「フリー」とは,「無料」と「フリーアクセス」の両方の意味をもちます.Web2.0は単一の技術やキーワードを指すのではなく,いくつもの要素が折り重なりパラダイムシフトが起こっていくなかで,誰しもが感じていたインターネットの変化をTimO’Reilly(ティム・オライリー)氏らが言葉で表現したものです.2005年9月に同氏が発表した論文「WhatIsWeb2.0」(副題:Web2.0とは何か次世代ソフトウェアのデザインパターンとビジネスモデル)のなかで,次世代インターネットを象徴する言葉として紹介されたことで注目されるようになりました.彼のインタビュー記事からWeb2.0について理解することができます.『私が人に理解してほしいのは,コンピューター業界の根本的構造が変わりつつあるってことだ.(中略)つまり,インターネットはソフトウェアの価値を何か違うところに持っていこうとしている.それは何か.それが,Web2.0なんだ.私が考えているのは,まず,ユーザーが中心となって巨大データベースを作り,多くの人が使えば使うほどそのデータベースは良くなっているってこと.“ネットワーク外部性”が成功を導いている.1997年に私はこのことを“Infoware”と呼んでいた.でもそれは正しくなかった.きっと“People-ware”って言うのが正しいと思う.』1)Web2.0の世界観を簡潔に表現すると,インターネットが個人と個人の情報発信を繋ぐ「交流」として使われるようになり,無限の広がりと組み合わせを持つネットワークと巨大なデータベースがわれわれの生活のすぐそばにある,という状態です.そのような技術の進歩と意識の流れのなか,変わらぬものがあります.人の営みです.医療行為はどこまでいってもアナログな行為です.しかし医療情報のデジタル化はどんどん進んでいます.インターネットの潮流はどのように眼科医療と合流していくでしょうか.ファイリングシステムでしょうか,電子カルテでしょうか,私はもっと先に大きな合流点があるように思います.ティム・オライリー氏は,インターネット業界において,ハードウェアからソフトウェアに価値が移り,ソフトウェアも皆が同じモノを使うようになると,その先に価値を産むのは“Peopleware”であると述べています.個人の知識ノウハウが個人だけのものでなくなり皆でシェアできる環境,それがWeb2.0の世界です.医療情報の巨大なデータベースを世界の医療人がシェアできる環境って魅力的ではないですか?(75)インターネットの眼科応用第2章インターネットは個と個を繋ぐ武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ②———————————————————————-Page2358あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009Web2.0と医療Web2.0とよばれる,情報発信源が民間企業から個人へと移る,この大きなパラダイムシフトを医療界にあてはめるとどうなるでしょうか.私は,情報発信者が「大学」や「病院」から「医師個人」へシフトする,と考えます.従来,学会や研究会といった,実際に顔を合わせる場を通じて情報の発信・交流は行われました.この場合,所属は必須です.Web2.0の世界はこの既存の場に参加することなく,医師個人が所属に関係なく,自分の意思と管理のもと,自身の治療方針や治療成績を外部データベースに蓄積します.さらに別の医師が上書きをする,という新しい医療情報の交流形態を意味します.情報の蓄積量,情報の信頼度を,組織と個人で比較した場合,組織である「大学」,「病院」の優位性は揺らぎません.しかし,日本中の医師個人の知識が蓄積するとどうなるか,一人の専門家の知識との差はどう縮まっていくのでしょうか.その答えはブリタニカ百科事典とウィキペディアとの比較をみれば明らかです.ウィキペディアの記事の正確性は,世界で最も権威があるとされるブリタニカ百科事典と比べて遜色がありません.2005年12月のネイチャー誌によると,同程度の情報を含んだ双方の辞書項目を比較したところ,誤った記載の数は,一つの記事につき,ブリタニカが2.92個でウィキペディアが3.86個でした2).一人の専門家による記述と,多数の人間の集合知にはさほどの差がなかった,という証明です.一定の資格を得た専門家が参加し,インターネットで知的交流を行うのは時代の流れです.医療の世界でも,大学や病院といった組織からの情報発信だけでなく,医師個人が情報を発信し,ディスカッションしながら,集合知を創るのが次の10年に起こる流れと予測します.インターネットは個人を無限に繋ぐ道具です.個人と個人がエリアを越えて繋がる不思議な道具です.参加するメンバーの指向性によって,生き物のような変化を生みます.インターネットによる外部ネットワークがいい意味でも悪い意味でも人間性を帯びてくると,そのネットワーク自体が文化を持つようになります.先述したmixiにはmixiに参加するユーザーが作り上げた文化が(76)ありますが,残念ながら知的交流には不向きのようです.医療に関する媒体の文化は,医療者であるわれわれ自身で作ることになるでしょう.専門知識を持った医師同士がインターネットを「交流」の道具として用いると,どのような文化を創造できるかは,われわれが医療をどのように考えているかで決まります.医療行為が単なる生計を立てる手段ではないはずです.いい医療を目の前の患者に伝えたい,という基本のスタンスさえ変わらなければ,ウィキペディアのような成功事例を後世に伝えることができるでしょう.インターネットによって,医師個人と医師個人がエリアを越えて繋がれば,さまざまな臨床上の相談事が可能です.症例検討会の開催も可能です.医療機関と医療機関が繋がれば難症例の遠隔診断や,離島の医療を支援することができます.私は大阪で眼科クリニックを営む傍ら,有志とNPO法人MVCメディカルベンチャー会議(以下,MVC)を設立し活動しています.MVCは医療人の知的・人的な交流を活性化させ,蓄積された知的共有物を広く一般生活者に伝え,医療水準の向上に貢献したい,という理念のもとに活動しています.私は一臨床医ですので,システムやプログラムのことはよくわかりません.ですが,インターネットにはさらなる可能性を感じ実践してきました.連載を通じて,医療というアナログな行為と,眼科という職人的な業をインターネットでどう補完するか,実例を交えながら紹介していきたいと思います.皆さんとの意見交換を通じて,30年後の医療環境をともにつくっていければ幸いです.MVCの活動に共感いただき,k.musashi@mvc-japan.orgにご連絡いただければ,医療者限定インターネット会議室「MVC-online」http://mvc-online.jpから招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.参考文献1)鳴海淳義CNETJapanhttp://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20361105,00.htm2)JimGiles.NaturePublishingGroup.http://www.nature.com/news/2005/051212/full/438900a.html

硝子体手術のワンポイントアドバイス70.術後疼痛緩和の重要性(初級編)

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093550910-1810/09/\100/頁/JCLS近年の網膜硝子体手術は,手術器具や術式の改良により短時間かつ低侵襲で施行できるようになり,術後の疼痛は以前よりも大幅に軽減しているものと思われる.しかし,増殖硝子体網膜症などの難治性疾患では手術侵襲が大きく,術後の疼痛に苦しむ患者が依然として存在する.手術が長時間に及んだ場合,幅広い強膜バックリングを設置した場合,再手術で既存のバックルを除去したうえで新しいバックルに置き換えた場合,角膜上皮擦過を施行した場合,術後に高度の眼圧上昇をきたした場合などに術後疼痛が強くなる傾向がある.ガスタンポナーデ施行眼では,疼痛のために術後の確実な体位保持が困難となることもある.また,糖尿病や高血圧などの全身疾患を有する患者では,術後の疼痛が全身状態を悪化させる可能性も考えられる.術後疼痛を緩和することは,患者の肉体的,精神的負担を軽減するのみならず,手術成績を向上させるうえでも重要である.剤による鎮痛効果眼科領域の術後疼痛の抑制には,従来から鎮痛剤の内服,坐薬,筋肉注射などが頻用されている.しかし,患者の疼痛がピークに達した時点で薬剤を投与しても,効果が発現するまでには一定時間を要するだけでなく,疼痛緩和効果が予防投与よりも弱くなる傾向がある.筆者は疼痛が出現しはじめた時点で,速やかに鎮痛剤を使用するように指示している.(73)術終了時の局所麻酔薬注射による鎮痛効果筆者は,強い術後疼痛が予測される症例に対して,塩酸ロピバカイン(アナペインTM)や塩酸ブピバカイン(マーカインTM)のTenon下注射(あるいは球後注射)を術終了時に行っている.これらの局所麻酔薬はリドカイン(キシロカインTM)よりも効果持続時間が約3倍長く,術後疼痛を数時間にわたって確実に軽減できる1).Tenon下注射の場合には各象限に約0.5mlの麻酔薬を注入している.瞼のテーピング角膜上皮擦過を施行した症例では,術終了時に滅菌テープで上下の眼瞼を貼り,開瞼できない状況にしておく(図1).この処置は術後疼痛緩和に有効なだけでなく,術後の上皮再生を促進する効果も期待できる2).文献1)DukerJS,NielsenJ,VanderJFetal:Retrobulbarbupiva-caineirrigationforpostoperativepainafterscleralbuck-lingsurgery.Aprospectivestudy.Ophthalmology98:514-518,19912)池田恒彦:網膜硝子体手術のトラブルと対処3.術後のトラブル.眼科41:1305-1311,1999硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載70術後疼痛緩和の重要性(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1角膜上皮擦過施行例に対する眼瞼のテーピング術後疼痛緩和に有効なだけでなく,術後の上皮再生を促進する効果も期待できる.

眼科医のための先端医療99.細胞死と生体反応―Danger associated molecular patterns(DAMPs)―

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093530910-1810/09/\100/頁/JCLS個体にとっての細胞死と生体反応生体での原因で細胞死り生に生のにの反応にの個体死とり細胞死個体のでり生細胞死細胞での生のでり個体の生にとってと細胞死わりで細胞死てお反応のりととでの原因で生細胞死に生体反応とて死細胞の細胞の反応結末(図1).この細胞死後の生体反応には,免疫が関与し,炎症反応の一つととらえることができます1).Dangerassociatedmolecularpatternsと細胞死反応とollliereceptors(s)本64(ol2o4)s生と体s生pathogenassociatedmolecularpatterns(PAMPs)とと細胞死生体反応体体生と細胞死反応とPAMPsdangerassociatedmolecularpatterns(DAMPs)とDAMPsalarminsendoinesdangersignalsと細胞死細胞と2)(表1).Highmobilitygroupbox1proteinHighmobilitygroupbox1protein(HM1)DAと細胞死細胞ととDAMPsHM1細胞DAMPsと細胞HM1体とreceptororadancedglycationendproducts(A)24Aadancedglycationendproducts100bなどとともにHMGB1を認識するパターン認識受容体です.(71)表1DAMPsとその受容体DAMPs受容体HMGB1RAGE,TLR2,TLR4尿酸TLR2,TLR4,CD14DNATLR9ヒートショックプロテインCD14,CD40,CD91,TLR2,TLR4ATPP1受容体,P2X/P2Y受容体S100プロテインRAGEヒアルロン酸CD44,TLR2,TLR4ヘパラン硫酸TLR4ATP:アデノシン三リン酸.(文献2より抜粋)◆シリーズ第99回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊有村昇(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科感覚器病学眼科学)細胞死と生体反応―Dangerassociatedmolecularpatterns(DAMPs)―図1細胞死の原因と結末生反応死細胞反応反応細胞死———————————————————————-Page2354あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009臨床的には,敗血症患者の血中でHMGB1が高値であり,敗血症モデルマウスにおいて抗HMGB1抗体を投与すると敗血症死が抑制できることから,敗血症の治療標的として注目されています.関節リウマチ患者の関節液中や,心筋梗塞,脳梗塞患者の血清中でも高値となることが知られ,現在さまざまな疾患におけるHMGB1の機能について研究が進められています.眼科領域では,増殖糖尿病網膜症患者,眼内炎患者3),網膜離患者4)の眼内液中でHMGB1が高値を示すことが報告されています.放出されたHMGB1は,状況に応じて,創傷治癒反応へかかわったり,他の炎症誘導物質と協働して炎症を増強したり,樹状細胞の成熟化やT細胞の活性化を促す免疫アジュバントとして働くなど,さまざまな機能をもっていることが報告されています5).おわりにDAMPsの眼疾患への関与はまだ十分に検討されていません.一方で,網膜神経節細胞死,視細胞死,網膜色素上皮細胞死など,細胞死とそれに伴う生体反応は多くの眼疾患において病態の中心となるものであり,網膜光凝固や冷凍凝固といった手術加療に伴っても生じる臨床的にもありふれた現象です.緻密に制御された眼内環境において,DAMPsがどのように機能しているかを探ることは,眼疾患のさらなる病態理解と治療の進歩につながる可能性があり,細胞死と生体反応は,眼科領域においても今後注目すべき研究分野といえます.文献1)MedzhitovR:Originandphysiologicalrolesofinamma-tion.Nature454:428-435,20082)KonoH,RockKL:Howdyingcellsalerttheimmunesys-temtodanger.NatRevImmunol8:279-289,20083)ArimuraN,Ki-IY,HashiguchiTetal:High-mobilitygroupbox1proteininendophthalmitis.GraefesArchClinExpOphthalmol246:1053-1058,20084)ArimuraN,Ki-IY,HashiguchiTetal:Intraocularexpressionandreleaseofhigh-mobilitygroupbox1pro-teininretinaldetachment.LabInvest89:278-289,20095)BianchiME,ManfrediAA:High-mobilitygroupbox1(HMGB1)proteinatthecrossroadsbetweeninnateandadaptiveimmunity.ImmunolRev220:35-46,2007(72)細胞死と生体反応Dangerassociatedmolecularpatterns(DAMPs)―」を読んでの有村昇生の細胞死のでての生体生てにとををってととをてにをってとでわっておそ生体の()をりての生ので有村生てっのとにてそのの因にて受容体てをわりてにりとのにてとのとでわわでってのにをて細胞死にととのとででののとのでと体の()をにでりそののをりんでをのにに細胞とりわ細胞死にてのをてそののをわてとのとで有てとでとでと有村生でのにりんでととでのでをとのをりにとてており山山下英俊

サプリメントサイエンス:ビタミンCと眼科

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1OOOHHOOHCH2OHHあたらしい眼科Vol.26,No.3,20093510910-1810/09/\100/頁/JCLSビタミンCの構造式ビタミンC(L-アスコルビン酸:VC)の構造式を図1に示す.VCは分子式C6H8O6のラクトン環構造を有する化合物である.サプリメントとして市販されるVCは淡黄色を帯びていることが多い.しかし,純粋なVCは白色の結晶である.VCは固体で安定であるため,サプリメントに含まれる固体のVCも比較的安定である.ビタミンCの薬理,生理作用VCは活性酸素を消去して酸化ストレスを軽減することが知られる.また,VCはコラーゲンの重合やカテコールアミンを合成する酵素の補因子として働く.コラーゲンの重合やカテコールアミンを合成する酵素の反応にはFe2+など2価の金属イオンを必要とする.酵素反応の結果,2価の金属イオンは酸化される.VCは酸化された金属イオンをすみやかに還元して,コラーゲンの重合やカテコールアミンの合成を円滑に進める.ビタミンCの1日必要量(最低必要量と最適量)日本の食事摂取基準による1日当たりのVCの推奨摂取量は100mgである.しかし,100mgが本当に最適な摂取量であるかは明らかではない.冠動脈疾患の患者ではVCを1日に500mg摂取することにより血管内皮機能に改善効果が認められている1).イギリスのビタミン・ミネラル専門家委員会ではVCの過剰摂取による影響を包括的に検証した結果,VCの1回の過剰摂取による影響はほとんど認められないが,1日に1,000mg以上のVCを継続的に摂取すると悪影響を及ぼす可能性も否定できないと報告している2).このことから,VCの摂取は食品もしくはサプリメントによって,100mgのVCを1日に数回程度摂取することが効果的であると考えられる.食品中に含まれるビタミンC量五訂増補日本食品成分表に収載されている食品について,可食部100g中に含まれるVC含有量が多い食品を表1に示した.VCはアセロラに最も多く含まれており,そのつぎに乾燥パセリ,緑茶に多く含まれる.しかし,乾燥パセリや緑茶を1回に100g食べるのはむずかしい.一方,ジャガイモはVCを効率的に摂取できる.ジャガイモにはVCが可食部100g中35mg含まれており,デンプンを多く含むため調理による損失を受けにくいこと(69)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑩監修=坪田一男10.ビタミンCと眼科佐藤安訓*1丸山直記*2石神昭人*1*1東邦大学薬学部生化学*2東京都老人総合研究所ビタミンCは抗酸化作用のほか,コラーゲンの重合やカテコールアミンを合成する酵素の補因子として働く.眼科領域において,ビタミンCの摂取は白内障の発症リスクを軽減し,加齢黄斑変性の進行を抑制することが報告されている.また,ビタミンCは1日に100mg以上1,000mgを超えない範囲で摂取するのが効果的である.表1五訂増補日本食品成分表に収載されている食品中のビタミンC含有量(抜粋)食品名ビタミンC含有量(mg/可食部100g)アセロラ乾燥パセリ緑茶グァバ焼きのり赤ピーマン芽キャベツイチゴレモン(果汁)ジャガイモ1,700820260220210170160625035図1ビタミンCの構造式———————————————————————-Page2352あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009が知られる3).1日1個のジャガイモ(約150g)を摂取することで,1日のVC推奨摂取量のうち,約50%を満たすことができる.摂取カロリーもジャガイモ1個当たり約125kcalと低いため,食品からのVC摂取源として適している.VCの摂取には,VC含有量の多い食品から摂取するのがよい.眼科領域におけるビタミンCの効果1日に150~250mgのVC摂取は,眼球のVC濃度を高い状態に維持する4).Jacquesらは,1日に400mg以上のVCサプリメントを10年以上使用していた人は,使用していない人に比べて白内障(cataract)の発症リスクが77%も少なかったと報告している5).また,Lyleらは1日に摂取した食事から総カロリー摂取量を計算して,1,000kcal当たりのVC摂取量で白内障の発症リスクを比較している.その結果,喫煙者でVCを多く摂取している集団(1,000kcal当たりVCは236mg摂取)はVC摂取量の少ない集団(1,000kcal当たりVCは19mg摂取)に比べて白内障の発症リスクが70%も少ないと報告している6).日本では食事からのVC摂取と白内障発症との関係について,約35,000人を対象とした5年間にも及ぶ大規模な追跡調査が行われた.その結果,食事から1日に平均211mgのVCを摂取した集団は,平均52mgのVCを摂取した集団に比べて,白内障の発症リスクが男性で35%,女性で41%も少なかった7).その一方でVCの摂取と白内障の発症には相関性がないという報告もある8).このように,白内障の予防についてVCの摂取が有効かどうかははっきりとした結論は出ていない.しかし,VCの摂取により白内障発症リスクが増加したという報告はない9).アメリカで加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration)に対して行われた多施設無作為化対照試験の結果から,VCを500mg,ビタミンEを400IU,b-カロテンを15mg,亜鉛を80mg含むサプリメントの長期投与により加齢黄斑変性の進行度が非投与群に比べて低下するとの報告がある10).(70)このように,VCは白内障や加齢黄斑変性に対してよい効果がいくつか報告されていることから,眼科領域におけるサプリメントとして有効であると考えられる.VCは1,000mgを超えない範囲で摂取するのが効果的である.摂取すべきかのエビデンスレベルA:摂取すべき(1日に100mg以上1,000mgを超えない範囲で摂取するのが効果的).文献1)GokceN,KeaneyJFJr,FreiBetal:Long-termascorbicacidadministrationreversesendothelialvasomotordys-functioninpatientswithcoronaryarterydisease.Circula-tion99:3234-3240,19992)ExpertGrouponVitaminsandMinerals:Safeupperlim-itsforvitaminsandminerals.Availableat:www.food.gov.uk/multimedia/pdfs/vitmin2003.pdf20033)HanJS,KozukueN,YoungKSetal:Distributionofascorbicacidinpotatotubersandinhome-processedandcommercialpotatofoods.JAgricFoodChem52:6516-6521,20044)CarrAC,FreiB:TowardanewrecommendeddietaryallowanceforvitaminCbasedonantioxidantandhealtheectsinhumans.AmJClinNutr69:1086-1107,19995)JacquesPF,TaylorA,HankinsonSEetal:Long-termvitaminCsupplementuseandprevalenceofearlyage-relatedlensopacities.AmJClinNutr66:911-916,19976)LyleBJ,Mares-PerlmanJA,KleinBEetal:Antioxidantintakeandriskofincidentage-relatednuclearcataractsintheBeaverDamEyeStudy.AmJEpidemiol149:801-809,19997)YoshidaM,TakashimaY,InoueMetal:ProspectivestudyshowingthatdietaryvitaminCreducedtheriskofage-relatedcataractsinamiddle-agedJapanesepopula-tion.EurJNutr46:118-124,20078)VitaleS,WestS,HallfrischJetal:Plasmaantioxidantsandriskofcorticalandnuclearcataract.Epidemiology4:195-203,19939)TaylorA,HobbsM:2001assessmentofnutritionalinuencesonriskforcataract.Nutrition17:845-857,200110)AREDSResearchGroup:Arandomized,placebo-con-trolled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,2001☆☆☆

眼感染アレルギー:ブドウ球菌による周辺部角膜浸潤

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093490910-1810/09/\100/頁/JCLS眼瞼,結膜にはブドウ球菌を主として常在菌が存在する.これらの菌は眼表面に侵入,定着,増殖し,感染症の原因となるが,たとえ侵入しなくとも,その菌体外毒素によって角膜に免疫反応を生じる.これがブドウ球菌による周辺部角膜浸潤である.菌体としては,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)ほか,黄色ブドウ球菌,アクネ菌,コリネバクテリウムがある.従来さまざまな疾患名でよばれており,ブドウ球菌性周辺部角膜浸潤以外に,たとえば,カタル性角膜辺縁潰瘍,カタル性潰瘍,辺縁部潰瘍など混沌としている.名称はさまざまであっても,すべて同様の病態と考えられる.一般外来にて最も多く遭遇する細菌性角膜炎は,この疾患であると思われる.それほど馴染み深いものであるが,実はその治療にはいくつかの落とし穴が存在する.態病態としては,角膜と接したブドウ球菌をはじめとする眼瞼常在菌の菌体成分あるいは外毒素が抗原となり,輪部血管からの抗体と抗原抗体複合体を形成する.これを受けて補体の古典経路が活性化され,多核白血球,リンパ球が遊走する.この細胞浸潤の状態から,さらに多核白血球から蛋白分解酵素が分泌されて潰瘍を生じる場合もある.いわゆるIII型アレルギーの病態を呈する.床所見中高年女性に好発するといわれている.角膜が眼瞼と接する2時,4時,8時,10時に円形の白色浸潤として観察される.典型所見を図1に示す.同部の軽度毛様充血を伴うが,輪部血管からの抗体が反応しているため,輪部と浸潤の間には一定の透明帯が存在する.侵入,定着,増殖した感染症と違い,その場での細菌増殖に伴う外毒素の加速度的産生は少ないので,びまん性の角膜浮腫は認めにくい.数回にわたり再発をくり返すことが多いため,患眼,僚眼ともに以前の浸潤によると思われる小円形の白濁を認めることがあり,鑑別の一助となる.眼瞼縁の炎症も併発していることが多い.意すべき鑑別周辺部に存在することから,いわゆるリウマチ,膠原病,Mooren潰瘍などの免疫原性角膜潰瘍と鑑別が必要である.①輪部との間に透明帯が存在すること,②自己免疫疾患などの既往がない,③潰瘍形状が深彫れしていない,などのポイントが免疫原性角膜潰瘍の否定とな(67)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑮監修=木下茂大橋裕一15.ブドウ球菌による周辺部角膜浸潤佐々木香る出田眼科病院感染には生体防御という免疫反応が必ず伴う.この両者のバランスを考えたとき,ブドウ球菌による周辺部角膜浸潤は,最も生体防御側に偏った状態である.病態としては,ブドウ球菌の菌体あるいは外毒素に対するⅢ型アレルギー反応である.重要な点は2つ.①治療にステロイドが必須であること,②非典型的な緑膿菌感染症との鑑別,である.図12WDSCL装用者(24歳,女性)角膜が眼瞼と接する8時方向に円形の白色浸潤を認める.同部の軽度毛様充血を伴い,輪部と浸潤の間には一定の透明帯が存在する.びまん性の角膜浮腫は認めず,その他の部位の角膜は透明である.さらに,マイボーム腺の閉塞も認める.———————————————————————-Page2350あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009る.また,上皮欠損が線状に存在することも多いため,ヘルペスとの鑑別を要されることもある.本疾患では,①terminalbalbがないこと,②眼瞼常在菌の慢性刺激が存在するため,広い範囲で微少な血管侵入を認めることが鑑別となる.さらに,近年特に増加している2週間頻回交換型コンタクトレンズ(2WDSCL)装用者における緑膿菌性角膜感染症が本疾患の鑑別対象となりうる.従来,緑膿菌性角膜潰瘍は輪状膿瘍を中心として高度な角膜浮腫,前房蓄膿など比較的特徴的な所見を呈するとされてきた(図2a).ところが,2WDSCL装用下に発症した緑膿菌角膜潰瘍はその病態が修飾される.円形からやや地図状の小さな病巣で,輪状膿瘍や角膜浮腫を認めず,前房炎症も軽く,全体に臨床所見が軽症化し,ブドウ球菌による周辺部潰瘍に類似した所見を呈する(図2b).その軽症化の機序は不明であるが,コンタクトレンズ装用による低酸素状態も一因であると思われる.療治療は抗菌薬点眼とステロイド点眼(0.1%フルオロメトロン点)である.コンタクトレンズ装用による緑膿菌感染症との鑑別が困難な症例もあるので,まず抗菌薬の加療を先行させて,その後ステロイドを追加するのが(68)安全であると思われる.再発予防として眼瞼縁清拭指導などのマイボーム腺のケアが必要となる.マイボーム腺機能不全(MGD)が高度な場合には,ステロイドや抗菌薬(ミノサイクリンやテトラサイクリン)の内服投与を考慮する.ミノサイクリンに関しては文献的には23カ月の内服投与が推奨されているが,膀胱炎症状を呈する場合も多く,テトラサイクリンは小児では,歯芽の着色も報告されているので,眼科単独で処方する場合には注意を要する.文献1)北川和子,浅野浩一,佐々木一之:カタル性角膜辺縁潰瘍の臨床像.臨眼46:720-721,19922)佐々木香る:カタル性角膜浸潤.眼科インストラクションコース16アレルギー性眼疾患とドライアイ(高松悦子,前田直之編),p118-121,メジカルビュー社,20083)山田利津子,栗山茂,久志本晋ほか:移行性角膜浸潤を伴うカタル性角膜潰瘍.あたらしい眼科15:109-112,19984)庄司純,伊藤眞由美,稲田紀子ほか:カタル性角膜潰瘍における結膜内検出菌.あたらしい眼科10:247-251,1993図2a典型的な緑膿菌角膜感染症(18歳,男性)輪状膿瘍を認め,周辺部角膜を含めた高度な角膜浮腫,前房蓄膿が特徴的である.図2b2WDSCL装用下に発症した緑膿菌角膜潰瘍(24歳,男性)円形からやや地図状の小さな病巣で,輪状膿瘍や角膜浮腫を認めず,また前房炎症も軽い.病巣部の角膜擦過物から緑膿菌が検出された.☆☆☆

緑内障:トリアムシノロンと眼圧上昇

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093470910-1810/09/\100/頁/JCLS慢性関節リウマチ患者に対する最初のステロイドの臨床治療が行われてから5年後にはすでに,Sternによってステロイドによる続発性の眼圧上昇(ステロイド緑内障)が報告されており1),ステロイド緑内障は非常に古くから知られている代表的なステロイドの副作用であるといえる.ステロイド緑内障患者の線維柱帯組織には,細胞外マトリックスの異常沈着がみられることから,ステロイドが線維柱帯細胞からの細胞外マトリックスの産生を異常亢進させたり,線維柱帯細胞の貪食機能を低下させたりして,細胞外マトリックスが線維柱帯組織に蓄積し房水流出抵抗が低下してしまうことが,ステロイドによる眼圧上昇機序であると考えられている.ステロイドによって眼圧が上昇しやすい素因がある人(ステロイドレスポンダー)が知られている.ステロイドレスポンダーの素因として,年齢が大きく寄与しており,若年者にステロイドレスポンダーが多く,小児にステロイドを点眼するときは,眼圧上昇が高頻度にみられるため注意が必要である2).Garbeらによると,ステロイドの投与量が多くなればなるほど,投与期間が長くなれば長くなるほど,眼圧上昇のリスクが上がることが示されており,休薬すれば眼圧上昇のリスクがなくなる,つまり,ステロイドによる眼圧上昇は可逆性であることがわかる3).しかし,一方で,長期間投与すると眼圧が正常化しない,不可逆な変化を起こすという症例も報告されている4).リアムシノロン誘発性眼圧上昇の点2000年代に入ってから,徐放性のステロイド薬トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-AR)が,硝子体手術における硝子体の可視化に用いられ,トリアムシノロンの使用が,硝子体手術における合併症の減少に有効であることや,黄斑浮腫の軽減や脈絡膜新生血管の退縮などにも効果があることが知られ,網膜硝子体疾患の治療薬としてや手術補助薬としてトリアムシノロンが広く用いられるようになった.トリアムシノロンは,長期間の効果の持続が長所である反面,いったん眼圧上昇が起こってしまうと,点眼薬のようにすぐに休薬することができず,眼圧上昇が遷延してしまうのが難点である.トリアムシノロン誘発性眼圧上昇多施設調査でわかったこと筆者らは,全国6施設で,過去にトリアムシノロンを投与された患者を対象に眼圧上昇のリスクファクターを(65)●連載105緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也105.トリアムシノロンと眼圧上昇稲谷大熊本大学医学部附属病院眼科徐放性ステロイド薬トリアムシノロンは,硝子体手術時の合併症減少や黄斑浮腫の治療のために,網膜硝子体疾患で近年広く用いられるようになった.しかし,長期間の効果の持続性の反面,眼圧上昇が遷延し,ステロイド緑内障になる症例がある.若年者,高いベースライン眼圧値,硝子体内注射,大量のトリアムシノロンの注射は高頻度に眼圧上昇を合併する.くり返し注射のときは,1回目に眼圧上昇した症例(ステロイドレスポンダー)は避けるべきである.表1トリアムシノロン誘発性眼圧上昇の危険因子変数ハザード比(95%信頼区間)p値年齢(歳)硝子体内注射ベースライン眼圧(mmHg)0.96(0.950.98)1.89(1.412.52)1.15(1.051.27)<0.0001<0.00010.003(文献5より)表2トリアムシノロンTenon下注射による眼圧上昇の危険因子変数ハザード比(95%信頼区間)p値年齢(歳)用量(mg)ベースライン眼圧(mmHg)0.96(0.940.99)1.07(1.031.12)1.31(1.131.52)0.0030.00060.0003(文献5より)———————————————————————-Page2348あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009解析した5).ステロイドレスポンダーとして過去に指摘されていた報告どおり,若年者が眼圧上昇しやすいことが確認された.また,もともと眼圧が高めの患者は眼圧上昇をきたしやすい(表1).さらに,多量のトリアムシノロンの投与(表2)や,Tenon下注射よりも硝子体内注射を行うことが眼圧上昇の頻度を上げることがわかった.黄斑浮腫の再発に対して,トリアムシノロンの投与をくり返す場合も,大量のトリアムシノロンをくり返したり,硝子体内注射をくり返したりすると,眼圧上昇を合併しやすい.1回目の投与の際に,眼圧上昇した症例は,ステロイドレスポンダーなので,2回目の投与のときも眼圧上昇しやすい.眼圧上昇の頻度とトリアムシノロンの薬効とのバランスを考えると,硝子体内注射では4mg,Tenon下注射では20mgが適量と考える.テロイド緑内障の治療ステロイドによる眼圧上昇がみられた場合は,すみやかにステロイドの投薬を中止する.膠原病などの全身疾患でステロイドを中止できない患者やトリアムシノロン誘発性眼圧上昇がみられた患者の場合は,緑内障点眼薬を処方し,眼圧下降を試みる.眼圧上昇が遷延し,視神経障害が出現した場合は,観血治療が必要になる6).ス(66)テロイド緑内障には,トラベクロトミーが効きやすい.筆者らのグループでステロイド緑内障に対するトラベクロトミーの術後成績は,5年生存率(21mmHg以下)で83.6%であった7).海外では,トラベクレクトミーが選択されることが多く,その術後経過も良好であるので,トラベクレクトミーも有効な選択肢である.文献1)SternJJ:Acuteglaucomaduringcortisonetherapy.AmJOphthalmol36:389-390,19532)OhjiM,KinoshitaS,OhmiEetal:Markedintraocularpressureresponsetoinstillationofcorticosteroidsinchil-dren.AmJOphthalmol112:450-454,19913)GarbeE,LeLorierJ,BoivinJFetal:Riskofocularhypertensionoropen-angleglaucomainelderlypatientsonoralglucocorticoids.Lancet350:979-982,19974)EspildoraJ,VicunaP,DiazE:Cortisone-inducedglauco-ma:areporton44aectedeyes.JFrOphtalmol4:503-508,19815)InataniM,IwaoK,KawajiTetal:Intraocularpressureelevationafterinjectionoftriamcinoloneacetonide:amulticenterretrospectivecase-controlstudy.AmJOph-thalmol145:676-681,20086)稲谷大:ステロイド緑内障.眼科手術20:41-43,20077)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Externaltrabecu-lotomyforthetreatmentofsteroid-inducedglaucoma.JGlaucoma9:483-485,2000☆☆☆図140mgのトリアムシノロンTenon下注射で眼圧上昇した胞様黄斑浮腫の27歳,男性の患者もともと正常視野であったのにもかかわらず(A),眼圧値が30mmHg以上で遷延し,注射後10カ月目には緑内障視神経障害と視野障害を出現したため(B),トラベクロトミーを行い(C),眼圧を下降させた.(文献6より)ABC

屈折矯正手術:術前・術後の収差の評価-種類の数値の見方など- 

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093450910-1810/09/\100/頁/JCLS高次波面収差を測定する機器として,ニデック社製のOPD-Scanはユニークな特徴をもっている1).まず,全眼球の屈折度マップを測定して,その後にZernike多項式を用いて波面収差を計算する(図1).角膜輝点を測定中心にしているのもユニークな点である.OPD-Scanの良い点は,収差変化の大きい眼でもほとんどの場合測定が可能な点である.Hartmann-Shackセンサーは現在の高次収差測定のスタンダードといえる方法で,トプコン社のKR-9000PW,AMO社のWavescan,ボシュロム社のZywaveなどのメーカーがこの方法を採用している.図2のごとく,レンズレットアレイで波面の歪みを直接測定しているので,レンズを細かくすることで細密な収差変化まで計測できる.測定時間が短いので,1回の測定で複数回計測を行い平均化することが可能である.測定の参照軸は照準線(瞳孔中心を測定中心とする)のことが多い.常OPD-Scanで解析径6mmの高次収差を測定しようとすると5.5mm程度の瞳孔径は必要となる.自然瞳孔で5.5mm以上瞳孔径があった症例のみを対象として,屈折矯正術前の高次収差を測定すると約0.4μmRMS(rootmeansquare)wavefronterrorの高次収差が認められた2).瞳孔径6mmであれば,RMSwavefronterror×0.7がdefocus換算されるので,0.4μmは0.28Dとなり,トライアルレンズの最も薄い1枚分である.正視の定義が±0.5Dであることを考えると,この高次収(63)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載106監修=木下茂大橋裕一坪田一男106.術前・術後の収差の評価―種類や数値の見方など―稗田牧バプテスト眼科クリニック波面収差とはプリズム,近視,乱視などを含む屈折異常の総称である.このうち高次収差は眼鏡で矯正できないより細かい屈折異常で,以前は不正乱視とよばれていたものである.高次収差の自覚的視機能に与える影響は不明な点が多いが,高次収差が多い眼では原因が水晶体にあるのか角膜にあるのか見きわめて術式を決定する必要がある.屈折度マップ波面収差変換図1波面収差とは瞳孔内の屈折度分布である屈折度マップが作成できれば波面収差に変換可能である.図2HartmannShack型波面センサー黄斑部からランダム反射された光が眼外に出て形成する波面を直接計測する.———————————————————————-Page2346あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009差が視機能に与える影響は少ないと考えられる.LASIK(laserinsitukeratomileusis)などの角膜屈折矯正手術を行うと,Munnerlynフォーミュラを使ったスタンダード照射では,おおよそ1Dにつき瞳孔径6mmにおいて0.1μmRMSwavefronterrorの高次収差が増加し,球面収差が主体である.Wavefront-guidedablation全眼球の波面収差から,それを打ち消すような切除プロフィールでレーザー照射するのが,wavefront-guid-ed(W-G)ablationである3).眼球の高次収差が矯正されれば,視機能は飛躍的に改善するものと期待されたが,角膜を切除することによる誘発高次収差が大きく,現時点では高次収差を減少させることはできないが,コマ収差の増大は抑えられる.球面収差も矯正していないわけではないので,著しく術前に球面収差が大きければ,それがさらに大きくなることは防げる.ーザー照射(laserablation)の使い分け図3に現時点で筆者が考える高次収差による照射方法の選択基準を示す.角膜高次収差よりも全眼球高次収差が著しく大きい場合以外はW-Gablationで対応可能である.1.全眼球高次収差が多い場合角膜高次収差,全眼球高次収差とも大きい眼の場合では,角膜高次収差で矯正(topography-guidedablation)すると症例ごとに高次収差は過・低矯正になってしまう可能性がある.できれば全眼球収差について矯正を行う4).つぎに,角膜高次収差が小さく,全眼球高次収差が大きい場合には,水晶体の収差が大きいのであるから,少しでも白内障があり,調節力が低下していれば非球面眼内レンズを用いたrefractivelensexchange,もしくは多焦点眼内レンズを使用した老視矯正手術を行い,必要があればLASIKを追加する.2.全眼球高次収差が少ない場合非球面照射は術前高次収差に関係なく,球面収差誘発を抑制する照射方法である.高次収差の増加量だけでみれば,矯正量が5Dより多い場合では非球面照射が有利といえる.ただレーザー機種によっては,厳密なレジストレーションがW-Gablationでしか使えない.W-Gablationでも照射径を広くすれば球面収差の誘発は抑制できる.現時点ではW-Gablationで瞳孔中央部のコマ収差の増大を抑制しておいたほうが良い影響があるものと考えて,全例にW-GablationによるカスタムLASIKを行っている.おわりに筆者自身LASIKを受けてみた.約3年たって,すでに眼鏡での見え方や生活をすっかり忘れている.角膜・全眼球高次収差は増大しているが,波面センサーで出てくるシミュレーションほどには,見えている像はぼやけていない.屈折矯正術後眼に関して,高次収差の自覚的視機能に与える影響の評価方法が確立されていないのは確かである.文献1)HiedaO,KinoshitaS:MeasuringofocularwavefrontaberrationinlargepupilsusingOPD-Scan.SemininOph-thalmol18:35-40,20032)稗田牧:屈折矯正手術(LASIK)と高次収差.あたらしい眼科24:1455-1460,20073)稗田牧:ウェーブフロント・レーシック(wavefront-guidedLASIK).IOL&RS18:394-399,20044)稗田牧:トポガイドレーシック(CornealTopography-GuidedLASIK).IOL&RS19:162-167,2005(64)Topography-guidedWavefront-guidedWavefront-guided非球面照射非球面照射Wavefront-guidedRefractivelensexchange角膜高次収差大角膜高次収差小眼球高次収差大眼球高次収差小図3高次収差を考えた術式選択Wavefront-guidedablationによる角膜屈折矯正手術の適応範囲が最も広い.

眼内レンズ:Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(1)術前の基礎

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093430910-1810/09/\100/頁/JCLS本稿では,1994~1995年当時に勤務していた施設(国立療養所多摩全生園)で経験したことをおもにまとめて述べる.前のック目Hansen病の基礎知識まずスタート地点に立つ前に,本疾患をある程度知る必要がある1~3).施設の医療設備などの充実度最新の装置・器具の有無,スタッフの数など.1994年当時,筆者が勤務していた施設では手術時,医師は1人で,助手・外回りは眼科外来の看護師がすべて担当した.今ある手持ちのコマで何とかする.年齢高齢の場合,水晶体の核硬化が進行し手術の難易度が増す.極端な小瞳孔のため事前に核の硬化度がわかりにくい.(61)角膜混濁の範囲・程度(図1,2)角膜混濁は,部位により大まかに上方,下方,中央,全体の4つのタイプに分類できる.各タイプの混濁の範上甲覚武蔵野赤十字病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎271.Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(1)術前の基礎一般の白内障手術は,陸上競技にたとえると「100メートル競走」,ぶどう膜炎併発白内障手術は「障害物競走」といえる.ゴール地点(目的)は同じでも険しい障害を乗り越える必要がある.ただし,Hansen病の場合,小瞳孔や虹彩後癒着のみではなく,強い虹彩萎縮・Zinn小帯脆弱,さらには高率に角膜混濁も合併.技術的難易度は高い.「急がば回れ」,まずは術前の基礎について述べた.図2角膜混濁が全体に強い症例白内障手術単独では改善が困難.Hansen病は高率に角膜疾患も合併する.図3極端な小瞳孔・虹彩萎縮がみられる症例車軸状の虹彩萎縮とよばれている.この症例の手術の結果は実践編で解説する.図1下方の角膜混濁が強い症例どのような術式を選択したか,実践編で解説する.———————————————————————-Page2囲や強さが,白内障手術単独あるいは外科的角膜治療を優先するべきか,術式選択の重要な判断材料となる.また,角膜厚にも注意が必要である.図2の症例は,白内障手術単独では視力の改善は無理である.くれぐれも現実を見据えた対処が望まれる.眼内炎症の術前鎮静期間一般のぶどう膜炎同様,3カ月は鎮静期間を置いて手術を行った.この場合,絶対的基準はない.Hansen病のぶどう膜炎は,ステロイドの反応に良好なので,炎症の再燃が心配な場合は,抗消炎症薬の点眼回数を最小限にして長期に継続する.ただし,角膜疾患にも十分注意して使用する必要がある.虹彩の癒着,小瞳孔,虹彩萎縮の有無(図3)極端な小瞳孔と強い虹彩萎縮の症例が多い.Hansen病性ぶどう膜炎の好発部位は,虹彩と毛様体である.Zinn小帯は脆弱と予測して手術に臨むのがよい.転ばぬ先の杖.備えあれば憂いなし?(続発)緑内障の有無将来の緑内障手術も考慮して,切開創をどうするかの判断材料の一つ.兎眼(閉瞼不全)の有無兎眼があると高率に角膜病変を併発する.術後の角膜疾患の管理は大切である.感染性角膜炎で失明した症例の報告がある.その他:一般の白内障手術と同様の術前チェック高齢者が多いので,全身状態も十分考慮する.手術中は,何が起こるかわからない.当時,術中に抗精神薬を筋注した患者,ショックを起こした症例などを経験した.次回は,実践編を紹介する.文献1)上甲覚:Hansen病の眼合併症と今日的意義について教えてください.あたらしい眼科15(臨増):67-69,19982)上甲覚:ハンセン病のぶどう膜炎.新図説臨床眼科講座─感染症とぶどう膜炎(望月學編),p124-125,メジカルビュー社,19993)井上慎三,上甲覚:眼科.ハンセン病医学─基礎と臨床(大谷藤郎監),p251-264,東海大学出版会,19974)吉野真未:一人勤務医の悩み.日本の眼科76:1331-1332,20055)上甲覚:ハンセン病患者の白内障に対する超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術.日本ハンセン病学会雑誌65:170-173,19966)小郷卓司,渡邊正樹,大月洋ほか:らい患者における白内障手術の検討.眼臨88:859-862,1994