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コンタクトレンズ:強度乱視眼へのハードコンタクトレンズ処方(1)

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093410910-1810/09/\100/頁/JCLS3つのタイプ軽度乱視眼に対してはやや広めのベベル幅を有するハードコンタクトレンズ(HCL)をフラットめに合わせれば,ほぼ問題なく良好なフィッティングが得られる(図1)が,中程度以上の乱視眼においては,角膜形状を考慮してHCLの種類を選択する必要性に迫られることが多い.角膜乱視をフォトケラトスコープにて撮影し,カラーコードマップにてその角膜乱視の及ぶ範囲によって分類すると,乱視が角膜周辺部まで及んでいる周辺部型(タ(59)小玉裕司小玉眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純図1軽度乱視眼へのHCL処方ややベベル幅の広いデザインをもったHCLをフラットめに処方する.図2周辺部型(タイプI)角膜乱視が周辺部にまで及んでいる.図5倒乱視周辺部型(タイプIt)倒乱視で角膜乱視が周辺部にまで及んでいる.図3中央部型(タイプII)角膜乱視が中央部に限局している.図6倒乱視中央部型(タイプIIt)倒乱視で角膜乱視が中央部に限局している.図4混合型(タイプIII)角膜乱視が一方は周辺部まで及び,直交する他方は中央部に限局している.図7倒乱視混合型(タイプIIIt)倒乱視で角膜乱視が一方は周辺部まで及び,直交する他方は中央部に限局している.———————————————————————-Page2342あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(00)イプⅠ,図2),角膜中央部に限局した中央部型(タイプⅡ,図3),その2つが混じった混合型(タイプⅢ,図4)の3つのタイプに分けることができる1).その割合は27眼中,タイプⅠが15眼,タイプⅡが5眼,タイプⅢが7眼であった.このような分類は直乱視のみに限らず倒乱視においても認められる.これらを倒乱視周辺部型(タイプⅠ-t,図5),倒乱視中央部型(タイプⅡ-t,図6),倒乱視混合型(タイプⅢ-t,図7)とよぶことにする.中央部型倒乱視中央部型に対するHCL処方以前,強度乱視眼にサイズの大きいHCLを処方して装用感,矯正視力とも満足のいく結果を得られたことがあり,漠然と強度乱視眼にはラージサイズHCLを処方したほうが上手くいくのだという印象をもっていた.しかし,実際はラージサイズHCLを処方しても上手くいかないケースも多々あり,そのような症例には後面トーリックHCLを処方して対応していた.角膜形状をカラーコードマップにて分類することによって,中央部に乱視が限局したタイプⅡやタイプⅡ-tにおいては,乱視の及んでいない部位にベベル部分が存在するようなサイズを選択すれば,良好な装用感を得られることが判明した(図8,9).このような症例では,ラージサイズHCLを処方することによって,ベベル幅が全周で均一となり,良好な装用感が得られる.文献1)小玉裕司:ベベルトーリックハードコンタクトレンズの紹介.あたらしい眼科23:861-865,20068タイプIIに対する通常サイズHCLの処方サイズ8.5mmのHCLを処方.水平方向のベベル幅が狭く,機械的刺激により良好な装用感が得られなかった.9タイプIIに対するラージサイズHCLの処方サイズ9.2mmのHCLを処方.ベベル部分が角膜乱視の及ぶ範囲の周囲に存在し,全周のベベル幅が均一になり,良好な装用感が得られた.

写真:糸条角膜炎

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093390910-1810/09/\100/頁/JCLS(57)御宮知達也鶴見大学歯学部眼科学講座写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦298.糸条角膜炎図2図1のシェーマ①:糸状物.②:点状表層角膜炎.①②①図3図1と同一症例の細隙灯顕微鏡写真症例のような比較的大きい糸状物は見落とす可能性が少ないが,フルオレセイン染色により確実に診断できる.図4ドライアイに生じた軽度の糸状角膜炎(55歳,男性)初期段階の糸状物で,染色することで発見された.未治療のドライアイであり,糸状物の除去後ヒアルロン酸点眼と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)点眼にて経過観察中である.図1薬剤起因性角膜上皮障害に生じた糸状角膜炎(48歳,女性)ドライアイの診断に対してヒアルロン酸点眼を使用していたが,異物感,眼痛の症状が悪化するため当科受診となった.保存液による上皮障害を疑い,糸状物を除去した後,保存液を含まない人工涙液の頻回点眼にて改善し,再発していない.———————————————————————-Page2340あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(00)糸状角膜炎は角膜に付着する変性上皮や粘液からなる糸状物であり,瞬目により眼痛,流涙,異物感,羞明をきたす.慢性にくり返すことが多く,従来の灌流液点眼のみの治療では不十分となることがあった.細隙灯顕微鏡検査にて容易に診断できる(図3)が,フルオレセイン染色にてよりはっきりと観察できる(図1).糸状物の長さは0.510mmと幅があり,はじめ短く細い糸状物が瞬目によりさらに長く絡みついた構造となる.糸状物の付着する角膜の上皮下には顆粒状混濁がみられることがある.ドライアイが主要な原因となる(図4)が,兎眼・上輪部角膜炎・角膜浮腫や,屈折矯正手術・白内障手術・角膜移植手術などの各種手術に伴うこともある.その発生機序は明らかにはされていない.上皮基底膜やBowman膜へのダメージが瞬目により局所の上皮基底膜の離を生じ,糸状物の付着する足場になるといわれている1).糸状物の存在が強い自覚症状をもたらし,より強い炎症を惹起して悪性サイクルに陥る可能性がある.治療として筆者はすべての糸状物を機械的に除去するようにしている.このとき糸状物を引き抜いてしまうと,糸状物の付着部位となる上皮離をさらに拡大させ,また上皮欠損をひき起こす可能性もあるので注意が必要である.機械的除去は糸状角膜炎を悪化させるだけであるとの意見もある.しかし適切な除去により,速やかな症状の改善が得られ,患者の満足とともに瞬目の軽減,炎症の改善は再発防止にもつながると考えている.先の鋭い鑷子(Jeweler鑷子が一般的に用いられる.筆者はミクラの無鈎を愛用している)にて,接線方向のみに力を加え,つまみ切るようにする綿棒などによる擦過では上皮障害が生じる可能性があると考えている.糸状物の除去とともに原因疾患に対する治療および再発防止に努める.人工涙液の点眼に加え,必要に応じてヒアルロン酸点眼,涙点プラグ,自己血清点眼などのドライアイ治療をする.人工涙液は頻回点眼が必要なことが多く,防腐剤の添加されていないものが望ましい.血清点眼は適切な使用により重症なドライアイに対しても劇的な効果をもたらすことがあるが,感染症の危険性を認識する必要がある.医療用コンタクトレンズの使用は,症状の軽減および上皮のバンデージ効果が期待できる.機械的除去をしなくても使い捨てコンタクトレンズの装用のみで完全に消失することがあり,試してみる価値はあると思われる.ただし,常に感染症には注意が必要で,一時的な治療法ととらえるべきである.筆者には使用経験がないが5%の高浸透圧食塩水の点眼は,脱水効果により上皮の接着を補強し,再発の予防効果が報告されている2).糸状物の付着部には炎症細胞や線維芽細胞が存在し,これらがBowman膜に浸潤し上皮基底膜を破壊する.糸状角膜炎の増悪機序には炎症も考えられている1).このためステロイドや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の点眼の効果が確認されており,難治症例に対しては検討されるべきである.ステロイド点眼は慢性の経過をたどる本疾患の性質上,長期使用には白内障,感染症,高眼圧に対する注意が必要であり,急性期の短期治療での使用がすすめられる.一方で,ジクロフェナクの長期投与による糸状角膜炎の消失および再発予防の報告がある3).近年入手が容易となったシクロスポリン点眼もドライアイ治療として使用される国もあり,糸状角膜炎に対しても効果的であると考えられる4).文献1)ZaidmanGW,GeeraetsR,PaylorRRetal:Thehistopa-thologyoflamentarykeratitis.ArchOphthalmol103:1178-1181,19852)HamiltonW,WoodTO:Filamentarykeratitis.AmJOph-thalmol93:466-469,19823)GrinbaumA,YassurI,AnviI:Thebenecialeectofdiclofenacsodiuminthetreatmentoflamentarykeratitis.ArchOphthalmol119:926-927,20014)PerryHD,Doshi-CarnevaleS,DonnefeldEDetal:Topi-calcyclosporineA0.5%asapossiblenewtreatmentforsuperiorlimbickeratocinjunctivitis.Ophthalmology110:1578-1581,2003

時の人

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009337(55)高知大学医学部眼科学教室は開講27年という若い歴史ではあるが,現在,高知県に最先端の「眼科情報」を提供している.本教室は1976(昭和51)年に開設の(旧)高知医科大学に,1981(昭和56)年に開講され,初代の教授として玉井嗣彦先生が就任された.1981年10月に医学部附属病院が開院し,眼科は15床をもって診療を開始した.その後,1982年に20床,翌年には30床に増床された.1986年には第83回中国四国・第35回四国合同眼科学会を主催された.1990年,第2代教授として上野脩幸先生が就任された.2003(平成15)年に国の方針「国立学校設置法改正案」に従って,高知大学と統合され現在に至っている.そして,今回福島敦樹先生が第3代教授として就任された.福島先生は「本教室は歴史が浅いので,玉井先生・上野先生が築かれたベースを元に伝統と呼べるものを造っていきたい.毎日が伝統造りです.」と述べておられる.教室の歴史を振り返ると,玉井教授時代には「電気生理」,上野教授時代は「眼病理」が主な研究テーマであり,大学院生は,以前は基礎の講座において「生理・病理・免疫」の勉強を重ねておられたが,最近の10年位は眼免疫研究室で研鑽を積み,医学博士号を取得してこられたという.現在,臨床的には網膜硝子体領域に興味をもつ医師が多く,先端医療や高知県の地域医療の分野で活躍しておられる.研究ではここ10年来「眼免疫」が中心となっており,なかでも「アレルギー性結膜疾患の発症メカニズムに関する研究」は国際的な評価を得ている.*福島先生は,私立土佐高校を卒業後,1990年に高知医科大学を卒業された生粋の土佐っ子である.その後,199395年の米国国立眼研究所免疫学部門への留学ののち,19962004年に当教室の助手を務められたが,その間,再度の米国国立眼研究所免疫学部門への留学のほか,ジョージア医科大学分子医学遺伝学研究所への留学を経験されている.そして2004年の助教授就任(2007年准教授)を経て,今回,2008年8月に第3代教授に就任された.この間,日本眼科学会学術奨励賞,日本眼炎症学会学術奨励賞,ロートアワード,日本アレルギー学会学術大会賞など,数々の賞を受けられた.福島先生は大学院時代に免疫学教室の藤本重義教授に免疫反応における特異性の重要性を学ばれ,その時の感動が今に続いていると言われ,また留学中にはIgalGery博士,岩島牧夫博士というキャラクターの異なる師匠のもとで多くのことを学ぶことができたと言われた.福島先生の研究テーマは,眼免疫疾患発症機序の解析,特に「T細胞が難治性眼免疫疾患発症においてどのように関与しているか」である.その研究成果の一つとして「アレルギー性結膜疾患重症化のメルクマールである結膜好酸球浸潤にT細胞が重要である」ことを証明された.この事実は実際の臨床においても,シクロスポリンやタクロリムスといったT細胞を選択的に抑制する点眼薬が春季カタルに奏効することを裏付けるものである.今後は,動物モデルでの実験からヒトへの展開を進め,臨床に直結する研究への展開を目指されているとのことである.*福島先生の信念・信条は,大阪大学(故)田野保雄先生から頂いた言葉「継続は力なり」を実証すること,また,留学中の師匠である岩島牧夫先生から頂いた言葉「常にBigPictureを意識せよ」を肝に銘じて研究を続けることであるという.最後に,地方大学である高知大学からでも,世界に向けてキラリと光るような仕事を発信していきたいと力強く述べられた.0910-1810/09/\100/頁/JCLS人の時高知大学医学部眼科学教室・教授福ふく島しま敦あつ樹き先生

硝子体手術後の続発緑内障はこう治す

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSまった可能性もあり,これらをすべて術後に発症した続発緑内障と区別することはむずかしい.近年は緑内障性視神経症の存在をもって緑内障と診断するといわれているが,続発緑内障の場合,緑内障性視神経症の存在を確認することがむずかしい場合も多い5~7)ので,ここでは,硝子体手術後の眼圧上昇に対してどう治療するかを考えることとする.I治療の前に考えることは?まず,なぜ眼圧が上昇して下がらないのかを考えなければならない(表1).硝子体手術後の眼圧上昇は,血液や充物質による直接的な房水流出障害や,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)の形成などによる隅角の閉塞と,明らかな隅角の閉塞がみられない,いわゆる開放隅角によるものがある.房水流出のメカニズムによって対処方法も異なるため,細隙灯顕微鏡による前眼部・中間透光体・眼底の観察だけでなく,よほど角膜の状態が悪くなければ,隅角検査も行っておくはじめに近年の硝子体手術の進歩あるいは変化はめざましく,総じて手術侵襲は低減し,術後の眼圧上昇の頻度も低くなってきたように感じられる.しかし,ここ数年トリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)の硝子体注入が頻繁に行われるようになり,2005年に行われた全国調査1)をみると,硝子体手術時にTAを硝子体内に注入された26,819眼のうち,眼圧コントロールが不良となり,最終的に濾過手術を施行されたのは0.56%にあたる32眼であったと報告されている.また,難治例にはシリコーンオイル(siliconeoil:SO)を使わざるをえない症例も多く,それに伴う術後の眼圧上昇もある一定の頻度で認められるようである.全国調査2)では,1年間に行われた2,170眼のSO使用例のうち,眼圧上昇は18.4%,緑内障は5.6%と報告されている.一方,硝子体手術後の開放隅角緑内障に関する検討3)によれば,緑内障の進行や発症に関して硝子体手術が不利に働く可能性は少なからずあり,硝子体手術の前には緑内障の合併の有無を確認しておく必要があると思われる.また,硝子体手術において水晶体を温存するか否かに関して,摘出した場合のほうが緑内障発症までの期間が短かったことも報告され,水晶体の存在が硝子体手術後の緑内障発症に抑制的な役目を果たしている可能性を示唆している3,4).このように,硝子体手術後の眼圧上昇例のなかには,術前から緑内障が隠れていたり,手術によって発症が早(49)331b2288111特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):331~336,2009硝子体手術後の続発緑内障はこう治すManagementofEyeswithSecondaryGlaucomaafterVitrectomy庄司信行*表1治療の前に考えること1.なぜ眼圧が上昇したのか?つまり,房水流出障害の原因は何か?2.なぜ眼圧が下がらないのか?つまり,房水流出障害の原因は今後も残るのか?取り除く方法は何か?3.緑内障は進行するのか?緑内障の病期は?今の眼圧でどのくらい待てるのか?進行の速度は?など———————————————————————-Page2332あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(50)眼圧を一定に保つことがむずかしい場合も多い.続発緑内障の場合は正常値を超えた高眼圧が視神経障害の原因と考えられるので,ひとまず正常眼圧の範囲内に収めることを目指す.1.原因別にみた対処法原因として考えられる病態を表2に示した.所見から考えられる鑑別診断に関しては表3に示した.外傷や何らかの原因によって房水流出不全が術前から存在している場合や,硝子体手術前に緑内障の診断で治療を受けていた症例もありうるが,その場合は通常の緑内障治療に準じると思われる.先に引用したChangらの報告3)にもあるように,すでに緑内障の治療が行われていた場合は,硝子体手術後に治療の強化が必要になることが多く,可能な限り視神経の状態や普段の眼圧の経過を術前に評価しておいたほうがよい.血管新生緑内障に関しては,前項を参照していただきたい.a.出血が原因と考えられるときの対処外傷や術中操作による虹彩・毛様体の損傷,隅角離開などで前房出血が残存する場合,通常は1週間程度で吸収し眼圧上昇も一過性のことが多いが,ときに吸収が遅れたり,再出血をくり返して高眼圧が持続することがある.まずは安静と抗炎症薬の点眼で自然吸収を待つ.吸必要がある(表2).当然,経過によって隅角閉塞が進行してくる場合(たとえば血管新生緑内障や炎症に伴う場合など)もあるので,一度の隅角検査だけで隅角の状況を決めつけてはいけない.いわゆる原発開放隅角緑内障の場合,現在の眼圧で進行していく可能性が高いのかどうかを予測し,目標眼圧を一つの目安にして治療を開始する.そして,視野検査をくり返して進行の有無を確認しながら治療内容を調整していく.硝子体手術後の眼圧上昇の場合も,本来なら十分な眼底検査と視野検査を行うべきである.眼圧の割に視神経乳頭のrimの状態がまだ保たれていることもある.しかし,硝子体出血や角膜の混濁・浮腫などで眼底の詳細が不明なことも多い.また,視野検査で異常が認められても,網膜の状態(光凝固も含めて)や硝子体の混濁などの影響と考えられる場合もあり,厳密に緑内障性視神経障害とこれに対応する視野障害を見きわめることはむずかしい.したがって,硝子体手術後の眼圧上昇に対しては,眼圧上昇の程度と期間によって治療方針を立てなければならないことも多い.IIどのように治療方針をたてるか治療の原則はあくまでも原因除去である.眼圧下降療法を行っていても原疾患に伴う炎症や出血などの影響で表2硝子体手術後の眼圧上昇の原因A.隅角が開放している場合1.術前から存在していた開放隅角緑内障2.術前から存在していた房水流出障害(外傷の既往や隅角形成不全など)3.血管新生緑内障(いわゆる第2期くらいまで)4.水晶体に起因するもの(残留皮質による炎症)5.炎症の遷延化6.術中・術後のステロイドによるもの7.その他(上強膜静脈圧の亢進,房水産生の亢進など)B.隅角が閉塞している場合1.術前から存在していた閉塞隅角緑内障2.出血に起因するもの3.血管新生緑内障(いわゆる第3期)4.水晶体に起因するもの(残留皮質による隅角閉塞)5.眼内充物質が直接原因となるもの(粘弾性物質,ガス,シリコーンオイル,パーフルオロカーボンなどの残留)6.眼内充物質による間接的な隅角閉塞7.炎症に伴う隅角の閉塞,瞳孔縁の癒着(瞳孔ブロック)表3所見から推測する眼圧上昇の病態1.前房内に残留物が明らかな場合フィブリン,出血,ガス,シリコーンオイルなどによる房水流出障害.ガスは前房内に迷入しても数日で吸収される.シリコーンオイルは吸収されにくい.2.瞳孔ブロックが認められる場合術後の炎症が高度な場合,またはシリコーンオイルなどの硝子体充物質による水晶体あるいは眼内レンズの前方偏位による場合などがある.3.隅角が狭い場合水晶体損傷による膨化や偏位などの他,過量なガスやシリコーンオイル,注入ガスの膨張などでも狭隅角化は生じる.4.隅角が広い場合前房内の炎症が高度な場合や線維柱帯炎を生じているときなど.ステロイドの点眼・内服,トリアムシノロンの硝子体注入後に生じるステロイド緑内障の場合もある.粘弾性物質やパーフルオロカーボンなどの残留など.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009333(51)も,まず抗炎症薬とともに眼圧下降点眼薬を併用するが,いわゆる縮瞳薬は炎症を増悪させる可能性があるので避ける.薬物に抵抗する場合には,残留皮質を取り除くために前房洗浄を行う.水晶体を温存した場合には,水晶体の損傷による水晶体過敏性緑内障と,Zinn小帯断裂による水晶体形態性の流出障害(水晶体の偏位に伴う浅前房化や瞳孔ブロック)を考える.前者の場合は,抗炎症薬と眼圧下降薬の点眼を併用し,不十分なら炭酸脱水酵素阻害薬内服を併用するが,損傷が高度であれば白内障の進行も速いため,水晶体摘出を行ったほうがよい.後者の場合も,レーザー虹彩切開術を行うより水晶体摘出を考えたほうがよい.c.眼内充物質による眼圧上昇が疑われる場合の対処1)術終了時の除去が不十分で残存した場合術中に併用した粘弾性物質やパーフルオロカーボンなどの洗浄・除去が不十分な場合に生じるので,眼圧上昇が高度であれば,洗浄・除去を試みる.2)充物質の量が多すぎる場合網膜裂孔の閉鎖や網膜のタンポナーデを目的としてガスやシリコーンオイルが注入されるが,過量の場合は眼圧上昇が生じる.また,SF6(六フッ化硫黄)などの膨張性ガスの場合は,術後の膨張による眼圧上昇に注意する.なかには,網膜中心動脈閉塞症を発症して失明した症例も報告されているので,眼圧チェックは重要である.眼圧が上昇している場合,上昇の程度が軽度であれば,まずは点眼薬のみで様子をみる.不十分であれば点眼の併用や炭酸脱水酵素阻害薬の内服,高浸透圧薬の点滴などを行う.眼圧上昇が長期に続き,視神経乳頭障害が進行する場合はこれらの充物質の除去を行うが,タンポナーデ効果を期待して充した物質であるので,完全に除去してよいのか,それとも多少残存させるのがよいのかの判断が必要である.また,大量に抜去すると,急激な眼圧下降により網膜・脈絡膜からの出血をきたすことがある.実際には,無水晶体眼の場合は仰臥位で前房穿刺を行えばよい.人工水晶体挿入眼の場合は,瞳孔領からの除去が行えないので,球後麻酔後,毛様体扁平部から針を刺入し,針先をみながら注射器で吸引し,圧収が遅く眼圧上昇が持続する場合には,眼圧下降薬とともに出血の吸収促進効果を目指してtissueplasminogenactivator(t-PA)を前房内投与することがある.しかし,再出血をきたすこともあるので適応は慎重に考えるべきであり,使用にあたっても十分注意する必要がある.前房出血が前房容積の1/3以上の場合や,受診時すでに眼圧上昇がみられる場合は再出血率が高いといわれる.したがって,これらの危険因子を有する場合には,早期からaminocaproicacid(アミノカプロン酸,ACA)8)やtranexamicacid(トラネキサム酸,TXA)9)などの止血剤の使用が有効であるといわれ,外傷性の前房出血や糖尿病網膜症による硝子体出血の治療などに試みられている.出血の吸収が遅く,角膜染血症や高度な眼圧上昇が持続する場合には,手術による出血塊の除去が必要となる.硝子体出血に対する処置が不十分な場合,変性した赤血球による泡沫細胞緑内障(ghostcellglaucoma)や溶血性緑内障(hemolyticglaucoma)が生じることもある7).この場合,前房内の浮遊細胞に対して抗炎症療法を行っても炎症反応ではないので効果はほとんどない.眼圧のコントロールが不良な場合には,診断を兼ねて前房洗浄を行う.再び変性した赤血球が出現するようなら,硝子体手術で徹底的に細胞を取り除く.それでも眼圧下降が得られない場合には,濾過手術または毛様体破壊術が試みられることもある.b.水晶体に起因する眼圧上昇と考えられる場合の対処は?水晶体摘出術を併用した場合には,まず粘弾性物質の残留を考える.多くは72時間程度で分解され,徐々に眼圧は下降してくるので点眼薬と炭酸脱水酵素阻害薬内服で経過をみることが多いが,あまりにも眼圧が高く視神経への影響が大きいと考えられる場合や頭痛などの症状が強い場合は,前房洗浄を行う.前房内の温流が確認される場合には残留皮質による眼圧上昇も考える.残留皮質に対する炎症反応によって眼圧上昇が生じた場合は,隅角は開放していることが多い.皮質自体で隅角を閉塞することもあり,その場合は吸収後も周辺虹彩前癒着(PAS)を形成し,房水流出不全をもたらす.水晶体過敏性の眼圧上昇が生じることもある.いずれの場合———————————————————————-Page4334あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(52)みながら,たとえばデキサメタゾンからフルオロメトロンへ変更したり,回数を減らすなどして判断する.しかし,ステロイドを減らすことによって炎症の遷延化による隅角の閉塞や瞳孔ブロックなどが生じることを考えれば,あまり安易にステロイド誘発性の眼圧上昇と決めつけて中止することは望ましくない.一般に,虹彩炎による続発緑内障に対して行う線維柱帯切除術の成績はあまり良好とはいえず,結膜も瘢痕化しやすい.一方で,術後の低眼圧による視力低下が生じることも多く眼圧コントロールはむずかしい.炎症の遷延化で生じた眼圧上昇に対して濾過手術を行う場合は,薬物でできる限り炎症を抑えてから計画するほうがよい.e.ステロイドによる眼圧上昇硝子体手術において,硝子体の可視化や炎症の軽減,胞様黄斑浮腫軽減のために,TAを硝子体に投与することが多くなり,それに伴ってステロイド誘発性の眼圧上昇も多く報告されている1).術後のステロイド点眼・内服により眼圧上昇が生じることがあるが,ステロイドによるものか前房内炎症によるものかの区別はむずかしいことが多い.したがって,投与量と炎症の関連から判断するしかないが,ステロイドを中止することがむずかしい症例も多く,眼圧下降薬の点眼や内服では不十分であれば,結局,外科的処置を行わざるを得ない場合も多い.術式としてはステロイド緑内障の場合は線維柱帯切開術がより安全で効果的といわれている硝子体手術後の線維柱帯切除術では濾過胞の維持がむずかしく,糖尿病をはじめとする全身疾患の合併により,濾過胞感染の可能性が高いことを考えれば,まず線維柱帯切開術を最初に試みてもよいのではないだろうか.2.治療薬についてa.点眼薬について現在,緑内障点眼薬で眼圧下降効果が最も高いものはプロスト系点眼薬と考えられるが,炎症の強い眼に同薬剤を使用してよいのかどうかに関しては,多少意見が分かれるようである.自験例では幸いラタノプロストで明らかに炎症が増悪したと考えられる症例はない.新たなプロスト系,つまりトラボプロストやタフルプロストでを調整する.3)炎症などによって瞳孔ブロックやPASを生じた場合シリコーンオイルによる瞳孔ブロックを予防するため,術中に下方の周辺虹彩切除術を行うが,炎症が高度だとフィブリン膜などによって閉塞することがある.また,ガスやシリコーンオイルは比重を利用して効果を発揮するので,体位を守らず仰向けになっていた場合など,水晶体や眼内レンズ,虹彩を後房側から押し上げることによって瞳孔ブロックやPASを生じる.この場合は,隅角癒着解離術を施行することで眼圧下降を得ることは可能であるが,炎症が高度であったり,体位が守れなかったりすると再癒着して眼圧が再び上昇し,結局濾過手術を行わなければならないことも多い.4)長期間留置されていたシリコーンオイルによって隅角が閉塞した場合長期間眼内に留置されると乳化し,シリコーンオイル滴が前房内に入り込むことによって隅角を覆い閉塞することがある.このような場合は前房洗浄を行っても容易には除去できないので,眼圧下降を目的とした手術が必要になる.しかし,どのような術式を選択するかはあまり報告されておらず,術者の経験によって選択されるのではないだろうか.原理的には,シリコーンオイル滴によって覆われるのは上方の線維柱帯であるので,下方の線維柱帯切開術は有効ではないかと思われる.海外では,下方のインプラント手術を薦める論文10)もある.d.炎症の遷延化炎症細胞やフィブリンにより隅角が閉塞したり,その結果として広範囲に生じたPASや瞳孔ブロックによって眼圧上昇が生じる.特に糖尿病患者の場合は術後炎症が強くフィブリンも析出することが多い.瞳孔管理をしっかり行わないと虹彩後癒着を生じる可能性が高い.線維柱帯炎が起こると,周辺虹彩後癒着はほとんどみられないものの,房水流出不全による眼圧上昇が生じることがある.炎症が治まらない場合,ステロイド薬の頻回点眼や結膜下注射を併用し,可能なら全身投与も検討する.しかし,ステロイド誘発性の眼圧上昇がみられることもあり,鑑別はむずかしいことも多い.炎症の程度と眼圧を———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009335(53)は,やむをえず緑内障手術を行わなければならないことも多い.このとき,線維柱帯切除術を選択するか,それとも線維柱帯切開術を選択するかは議論が分かれるところであろう.すでに一度手術(硝子体手術)を受けているので,もうこれ以上手術は勘弁して欲しいという患者の前では,より確実な眼圧下降を目指して線維柱帯切除術を選ぶことが多いだろうし,硝子体手術後の結膜の状態や,濾過胞感染のリスクを考えると,線維柱帯切開術をまず行ってみるほうが安全だと考える術者もいるだろう.筆者の場合は,線維柱帯切除術を行うほうが圧倒的に多いが,硝子体手術後の続発緑内障では目標とする眼圧がそれほど低くないことを考えると,開放隅角であり,切開部位に閉塞するような要因がない場合には,もう少し線維柱帯切開術で対応してもよいのではないかと考えている.ところで,硝子体手術で切開した結膜がどんな状態であるかは,線維柱帯切除術における結膜切開部位や強膜弁作製部位の選択という点で大きな問題となる.輪部付近の結膜が被覆されていなかったり菲薄化している場合は,結膜切開の位置やマイトマイシンC(MMC)の使い方などがむずかしくなることがあり,結膜が術中にちぎれたり穿孔することもまれではない.また,硝子体手術直後の,たとえば結膜充血が残存している時期は創傷治癒が盛んで,MMCを併用しても瘢痕化する可能性が高い.他の原因が明らかであれば,これに対処しながら薬物治療を併用しつつ,炎症反応などが治まって少しでも良い状態になってから手術を行いたい.最近の25ゲージ針を用いた硝子体手術ではほとんど結膜を切らなくてすむため,結膜への侵襲も最小限となり,緑内障手術も施行しやすくなったが,その部位で結膜との癒着が強かったり,強膜弁作製が制限されたりすることは,従来の手技のときと同様である.硝子体手術後に線維柱帯切除術を行う際に最も注意すべき点として,術中の眼球虚脱があげられる.急激な低眼圧や眼球の虚脱によって駆逐性出血を生じるリスクが高く,予防的に前房あるいは強膜にポートを作製し,灌流チューブを留置して眼圧をなるべく下げすぎないようにする工夫が必要である.どちらがよいかは術者の好みによって分かれる.いずれにしても,濾過が得られ,眼炎症が増悪するかどうかに関しては今後の報告待ちではあるが,筆者は禁忌とは考えていない.注意して使用すればよいのではないかと考えている.眼圧上昇の原因のほとんどが房水流出障害によるので,房水産生の抑制を目指してb遮断薬を開始し,不十分であれば他剤を追加するという方針でもよい.眼圧が高いからといって複数を同時に追加すると,果たして効果があるのかどうかが判断できず,かえって角膜障害の出現や悪化を招き,点眼を中止しなければならなくなることもある.コンプライアンスが悪くなり,結局点眼していない可能性もある.角膜上皮障害が高度な場合は,点眼をなるべく少なくし,最初から炭酸脱水酵素阻害薬の内服を行ってもよい.角膜内皮細胞が著しく減少している場合は,内皮にも炭酸脱水酵素が存在するので,これを阻害する炭酸脱水酵素阻害薬の点眼は内皮障害を悪化させることもありうるので慎重に行う.b.炭酸脱水酵素阻害薬内服について先述したように,硝子体手術後の角膜上皮障害が高度な場合は,いたずらに眼圧下降点眼薬を増やすより,最初から炭酸脱水酵素阻害薬の内服を処方したほうがよい.通常はアセタゾラミド250mgを朝晩1錠ずつから始め,眼圧に応じて朝昼晩1錠ずつ,あるいは朝晩2錠ずつなどで管理する.炎症や出血などとの兼ね合いで,眼圧上昇が一時的だと考えられる場合や,手術までの数日間という短期間であれば1日量で6錠まで処方することがある.どの程度の期間使用できるかどうかは全身状態によるが,原疾患によっては腎機能が低下していることもあり,あまり長期に使えない場合も多い.血清電解質など全身状態をチェックしながら用いるようにする.なお,カリウム製剤は炭酸脱水酵素阻害薬内服に併用することがなかばルーチンになっているが,心疾患などの合併症を有する患者も多いことから,やはり血中カリウム濃度を確認しながら投与量を調節したほうがよいと思われる.いずれにしても,漫然と長期に使用することは避ける.3.観血的治療についてa.濾過手術か流出路手術か?各種薬物治療で眼圧コントロールが得られない場合———————————————————————-Page6336あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(54)房内に再出血する場合や,穿刺部に虹彩の一部や硝子体が嵌頓してしまう場合もある.多くの場合一過性であり,1,2時間して測定すると眼圧はまた上昇していることが多いため,あくまでも緊急避難的な処置と考えるべきである.根本的な解決とはならない.おわりに硝子体手術後の続発緑内障に対する治療法をまとめた.眼圧上昇の原因に応じて対策が異なるため,房水流出障害がどこにあるのかをしっかり見定めることが重要である.また,無硝子体眼に線維柱帯切除術を行う場合,眼球虚脱に伴う駆逐性出血のリスクが高く,その予防には細心の注意を払わなければならない.文献1)坂本泰二,樋田哲夫,田野保雄ほか:眼科領域におけるトリアムシノロン使用状況全国調査結果.日眼会誌111:936-945,20072)坂本泰二,樋田哲夫,田野保雄ほか:眼科領域におけるシリコーンオイル使用状況全国調査結果.日眼会誌112:790-800,20083)ChangS:LXIIEdwardJacksonlecture:openangleglau-comaaftervitrectomy.AmJOphthalmol141:1033-1043,20064)LukFO,KwokAK,LaiTYetal:Presenceofcrystallinelensasaprotectivefactorforthelatedevelopmentofopenangleglaucomaaftervitrectomy.Retina29:218-224,20095)澤田明,山本哲也:続発緑内障~硝子体手術後の緑内障.緑内障(北澤克明監修),p276-282,医学書院,20046)庄司信行:硝子体手術後の続発緑内障の病態と治療.みんなの硝子体手術~緑内障と硝子体.眼科プラクティス17,p160-165,文光堂,20077)庄司信行:眼内出血に伴う緑内障.緑内障診療の実際~続発緑内障.眼科プラクティス11,p79-81,文光堂,20068)PieramiciDJ,GoldbergMF,MeliaMetal:AphaseIII,multicenter,randomized,placebo-controlledclinicaltrialoftopicalaminocaproicacid(Caprogel)inthemanagementoftraumatichyphema.Ophthalmology110:2106-2112,20039)RamezaniAR,AhmadiehH,GhaseminejadAKetal:Eectoftranexamicacidonearlypostvitrectomydiabetichaemorrhage;arandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol89:1041-1044,200510)Al-JazzafAM,NetlandPA,CharlesS:Incidenceandmanagementofelevatedintraocularpressureaftersiliconeoilinjection.JGlaucoma14:40-46,2005圧が下がったら,むやみに眼球を動かして虚脱したりしないようにし,ただちに強膜弁を縫合し,なるべく低眼圧の状態を短くするような注意が必要である.なお,眼圧が低すぎる状態で強膜弁を縫合すると,強く縫合しすぎることも多い.濾過量をみながら縫合を追加していく必要がある.線維柱帯切除術を行う際の注意点を表4にまとめた.なお,海外では難治例の濾過手術ではインプラント手術を選択する場合もあり,下方からのインプラント手術を進めているものもある10)が,わが国ではまだインプラントが認可されていないので,慎重な判断が必要である.b.毛様体破壊術濾過手術をくり返しても,どうしても眼圧のコントロールが困難であり,痛みを伴う場合は毛様体破壊術が選択される場合もあるが,眼球癆に陥る可能性も少なくなく,視機能温存という点から考えると,適応は慎重にすべきである.c.前房穿刺は有効か?どうしてもすぐに眼圧を下げる必要がある場合には前房穿刺を行うことがある.外来で,ピンセットと鋭針,シリンジがあればできるので,感染に注意して行えば,比較的手軽に行える手技である.硝子体手術時に角膜にポートが作製されていればここを利用できるので良いが,作製されていない場合には27ゲージ鋭針を用いて穿刺しなければならない.顕微鏡下で行うが,いくら手軽な処置といわれていても,穿刺時にうまく刺入できず,眼球を押しすぎてトンネルが長くなってしまったり,力が入りすぎて針先が虹彩まで到達して出血してしまったりする場合もある.確かに穿刺直後には眼圧はよく下がるが,なかには,眼圧が下がりすぎてしまって前表4無硝子体眼における線維柱帯切除術施行時の注意点1.硝子体手術時の結膜切開や瘢痕部位の把握と濾過胞作製部位のイメージ2.強膜の観察(ポート作製部位の確認)と強膜弁作製部位の選定3.低眼圧・眼球虚脱の予防4.強膜縫合時の濾過量確認5.結膜創の完全な閉鎖の確認

血管新生緑内障はこう治す

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSIINVGの診断(前緑内障期)1.前眼部新生血管の観察ポイント前緑内障期では,まず新生血管を見つけることである.これには,通常の細隙灯顕微鏡では十分に拡大率を上げて観察し,隅角鏡の使用も必須である.虹彩面の新生血管が不明瞭でも,隅角には新生血管が顕著にみられることがある.隅角検査はNVGの病期判定と鑑別診断にも欠かせない.新生血管は瞳孔縁に生じやすいが,眼底検査のために散瞳すると,観察困難となる(図1).また,散瞳剤による血管収縮のために,隅角の新生血管も不明瞭となるため,新生血管の観察は必ず散瞳剤使用前に行う.細隙灯顕微鏡でみると新生血管が微細で不明瞭な場合には,虹彩・隅角の蛍光造影検査が有用である.2.ハイリスク眼の同定NVGでは,前眼部新生血管はほとんどの場合網膜虚血により発症するため,原因となった網膜疾患の存在を確認する必要がある.NVGには3大原因疾患があり,日本では増殖糖尿病網膜症によるものが最も多い.しかし,増殖糖尿病網膜症では,網膜症ばかりに目を奪われがちである.眼底検査のために毎回散瞳後にのみ診察していると,前眼部新生血管の発見が遅れる可能性がある.また,検眼鏡的な網膜症の重症度と前眼部新生血管の有無は一致しないことも多い.たとえば,硝子体出血や増殖膜の形成がみられる重症網膜症眼に必ずしもI血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)とは?NVGは,隅角に生じた線維血管膜により房水流出抵抗が増大し,眼圧上昇が起こる続発緑内障である.前眼部新生血管は,網膜虚血をきたすさまざまな眼疾患で起こりうる.なかでも,増殖糖尿病網膜症,網膜中心静脈閉塞症,眼虚血症候群が原因として頻度が高い1).NVGは3つの病期に分けられる.前緑内障期では,虹彩(特に瞳孔縁)や隅角に新生血管がみられるが,眼圧上昇と周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechiae:PAS)がみられない.隅角の新生血管は,虹彩根部から立ち上がり,分枝しながら隅角色素帯レベルで円周方向に網状に伸展する.隅角の新生血管が著明となり線維血管膜が形成されると,隅角が開いているにもかかわらず,眼圧上昇をきたす(開放隅角緑内障期).さらに,虹彩と隅角の表面を覆う線維血管膜が収縮することによって,周辺部虹彩が線維柱帯に向かって引き上げられPASが進展していく.また,虹彩の前方偏位,散瞳やぶどう膜外反(瞳孔縁が遠心性に牽引されることによる)をきたすことがある(閉塞隅角緑内障期).NVGの病期を判定することは,治療方針の決定や予後の推測に非常に重要である.(41)323mmiiaie9208641131特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):323329,2009血管新生緑内障はこう治すDiagnosisandTreatmentofNeovascularGlaucoma東出朋巳*———————————————————————-Page2324あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(42)糖尿病の合併が多く,眼底像も軽度の網膜中心静脈閉塞症や糖尿病網膜症と混同されやすい.網膜症の左右差が大きい場合や眼底所見に比べて視力障害が顕著な場合には本疾患を疑う必要がある.以上のように,NVGを前緑内障期で診断するには,ハイリスク眼であるかを念頭において,前眼部新生血管の有無を注意深く診察する習慣が必要である.IIINVGの診断(緑内障期)鑑別疾患と緑内障性視神経症の評価開放隅角緑内障期および閉塞隅角緑内障期では,他の緑内障病型との鑑別と緑内障性視神経症の程度の評価が重要である.開放隅角緑内障期の鑑別疾患として,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎がある.これは,続発緑内障を起こし,隅角新生血管がみられることがある.この疾患の隅角新生血管は微細であり,その他の前眼部所見や眼底所見から鑑別可能である.また,正常でも隅角に血管がみられることがある.これは,比較的太く毛様体から立ち上がり,分枝・蛇行せず,網状となることはない.たとえば,正常隅角血管を有する原発開放隅角緑内障や落屑緑内障眼では,開放隅角緑内障期のNVGと鑑別が必要となる.さらに,落屑緑内障など他の緑内障病型にNVGが合併する場合もあり,他眼の所見を含めNVGが多発するわけではない.逆に,検眼鏡的に出血や白斑が目立たないために網膜光凝固が不足し,前眼部新生血管の発生を招くことがある.したがって,前眼部新生血管がみられた症例では,蛍光眼底造影により網膜虚血の存在を確認することが重要である.一方,白内障手術や硝子体手術など観血的手術後に網膜症が増悪し,NVGが発症することがある.当科でのNVG症例の約3割は,先行する内眼手術が誘因であったと考えられた.特に糖尿病網膜症を有する眼では,網膜光凝固が不十分であると,白内障手術や黄斑浮腫・硝子体出血などに対する硝子体手術の術後にNVGが発症することは珍しくない.したがって,糖尿病網膜症を含め虚血性網膜疾患の既往のある眼の手術後は,NVGのハイリスク眼として注意深く経過観察する必要がある.網膜中心静脈閉塞症では,虚血型において発症3カ月以内にNVGを発症しやすいので,発症後の時間経過を念頭においた経過観察が必要である.さらに,原発開放隅角緑内障に網膜中心静脈閉塞症が合併することもまれではない.特に若年者や両眼性の場合には基礎疾患の精査も必要である.眼虚血症候群では,内頸動脈閉塞によって眼灌流圧が低下し房水産生が低下しているので,隅角の新生血管が伸展しても眼圧が上昇しにくく要注意である.高血圧や図1血管新生緑内障眼の虹彩新生血管と散瞳の影響51歳,女性,右眼増殖糖尿病網膜症による血管新生緑内障(前緑内障期).非散瞳時(左)よりも散瞳時(右)には,特に瞳孔縁の新生血管の観察が困難である.矢印と丸は同一部位を示す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009325(43)圧下降薬のみによる眼圧コントロールには限界がある.特に閉塞隅角期では新生血管を抑制できても薬物療法のみで眼圧下降が得られる可能性は低く,眼圧が下降しても前眼部新生血管が持続すれば隅角閉塞が進行しやがて高眼圧となる.網膜光凝固では新生血管の消退までに時間がかかる症例が少なくない.高眼圧の状態ではどれだけ光凝固を追加しても新生血管が消退しないことがある.さらに,高眼圧による角膜浮腫,白内障,硝子体出血などにより経瞳孔的網膜光凝固が困難な場合も少なくない.トラベクレクトミーをはじめとする緑内障手術は,新生血管の活動性がある状態では,術中・術後出血や術後炎症により手術成績は不良である.毛様体破壊術は,速効性でないこと,定量性がないことが問題であり,濾過手術不成功例・非適応例に対する術式とされることが多い.以上の問題点によって,従来の治療法では高眼圧が遷延し,それによって視神経障害が進行してしまう症例が少なくなかった.VNVGの新たな治療方針1.血管内皮増殖因子とその抑制NVGにおける眼圧上昇の原因である前眼部新生血管の形成には,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が深く関与している.これに関する最初の報告は,1994年にさかのぼる3).Aielloらは,増殖糖尿病網膜症による虹彩新生血管を有する眼において前房水中のVEGF濃度が上昇していることを報告した.その後,サル眼の硝子体にVEGFを注入すると虹彩新生血管が惹起されることや,網膜中心静脈閉塞症によるNVGにおける虹彩新生血管の消長に前房水中VEGF濃度が密接に相関していることなどが報告された.したがって,VEGFを抑制することによるNVGの治療の可能性が期待されていた.抗VEGF薬として最初に市販された薬剤は,Avas-tinR(bevacizumab)である.これは,VEGFに対するヒト化マウス抗体であり,転移性大腸癌の治療に対して2004年2月に米国食品医薬品局に認可された.眼疾患では,MacugenR(pegaptanib,VEGFのアイソフォームの一つであるVEGF165を特異的に阻害するRNAアプタマー)とLucentisR(ranibizumab,VEGFに対するて慎重に診断する必要がある.閉塞隅角緑内障期では,PASをきたす疾患との鑑別が必要である.これには,原発閉塞隅角緑内障,ぶどう膜炎,内眼手術既往などがある.NVGでは,血液眼関門の破綻により前房内の細胞やフレアが増加するため,ぶどう膜炎と誤診してしまう可能性がある.また,PASと隅角新生血管が併存する場合には,PASの形成が新生血管によるのか他の原因によるのか鑑別が困難な場合がある.NVGでは眼圧にのみ気をとられて,緑内障性視神経症の評価がおろそかになりやすい.視神経乳頭の観察と視野検査は治療開始前に必須である.しかし,著明な白内障や硝子体出血などにより評価困難な場合がある.また,糖尿病網膜症での汎網膜光凝固や網膜中心静脈閉塞症では著明な視野障害をきたしうるので,緑内障性の視野障害の程度を正確に評価できない場合が少なくない.その場合,視神経乳頭所見と対比して緑内障性視神経症の程度を判定する.高眼圧による視神経のダメージを把握しておくことは治療方針の決定や視機能予後の推測に不可欠であるので,視神経乳頭の観察と視野検査は可能な限り行うべきである.IVNVGの治療方針従来の治療法とその問題点NVGは続発緑内障であるため,緑内障に対する眼圧下降療法に加えて,原因療法としての前眼部新生血管の抑制を並行して進める必要がある2).前緑内障期であれば,前眼部新生血管の抑制によって眼圧上昇の防止を図る.網膜虚血が原因である場合,前眼部新生血管抑制のための治療は,経瞳孔的網膜光凝固術が主体である.しかし,中間透光体の混濁などによってこれが困難である場合,白内障手術や硝子体手術を行い,術中あるいは術後に網膜光凝固を追加する.網膜冷凍凝固など眼底透見性に依存せずに網膜を凝固する方法の有用性も報告されている.一方,眼圧下降療法は,薬物・手術療法ともに他の緑内障病型と基本的に共通である.しかし,NVGは最も難治性の緑内障の一つとされ,視機能予後は一般に不良とされている2).その原因として従来の治療法が抱える問題点があげられる.まず,眼———————————————————————-Page4326あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(44)うるので,これらの疾患の発症後間のない症例あるいはコントロール不十分な症例には投与を控えている.当科でのbevacizumabの具体的な投与法を紹介する.当科ではできるだけ入院にてbevacizumabの硝子体内投与を行っている.注入器具として,デッドスペースが少なく針が短いインスリン注射用29ゲージ針付きシリンジを使用している.Bevacizumabは当院薬剤部にて100mg/4mlのバイアルから必要量を無菌的にシリンジに分注し冷蔵保存している.注射前に散瞳し,点眼麻酔の後にイソジンRで瞼縁を含めた皮膚消毒を行う.洗眼後開瞼器をかけて,手術用あるいは処置用顕微鏡下で1%キシロカインRを注射予定部位付近に少量結膜下注射する.数分待ってキャリパーで輪部から3.5mm(眼内レンズ挿入眼または無水晶体眼)あるいは4mm(有水晶体眼)をはかり,注射針を毛様体扁平部から硝子体内に進め,bevacizumab1.25mg(0.05ml)を注入する.薬液の逆流を防ぐために刺入時はなるべく斜めに強膜を通るようにする.注射針の抜去後,すぐに結膜上から刺入部を鑷子などで十分に圧迫する.硝子体内注射直後にはしばしは眼圧上昇が起こるが,通常は一過性である.しかしNVG眼では眼圧上昇が高度かつ遷延化する可能性があるので,高眼圧症例ではサイドポートをつくり前房水を抜くことで眼圧を正常化させている.その後,手動弁の確認(網膜中心動脈閉塞症の除外),抗生物質の点眼あるいは軟膏点入を行い,眼帯を装用させる.前房ヒト化マウス抗体断片)が,それぞれ2004年12月と2006年6月に滲出型の加齢黄斑変性症に対して米国食品医薬品局に認可され,最近日本でも同疾患に対して使用が認可された.しかし,NVGに対して適応とされる薬剤は,日本に限らず現時点では存在しない.このような状況にもかかわらず,2006年3月のAvery4)の報告以降NVGに対する抗VEGF薬の使用が続々と報告されてきた.2.抗VEGF薬の使用法2008年6月末現在のPubMedの検索では,前緑内障期を含むNVG眼に対する抗VEGF薬の投与が記載されている論文は26報あり,ranibizumabの1報以外はすべてbevacizumabが使用されていた.NVGに対する抗VEGF薬の投与経路は,ranibizumabの1報では硝子体内投与であり,bevacizumabでは硝子体内投与が22報と多数を占め,前房内投与が4報みられた.抗VEGF薬の投与量は,ranibizumabの1報は0.5mgであり,bevacizumabの硝子体内投与では0.125mgが1報,1.0mgが4報,1.25mgが15報,1.5mgが2報,2.5mgが1報であり,加齢黄斑変性症などの他疾患に対する硝子体内投与量と同様の用量であった.Bevacizumabの前房内投与では1.0mgが1報,1.25mgが3報あり,硝子体内投与と同様の用量であった.当科では,適応外使用であるbevacizumabの眼疾患に対する使用について,学内倫理委員会での承認を経て,2007年より網膜硝子体疾患に対するbevacizumabの使用を開始した.その一環として,慎重な適応の決定と十分なインフォームド・コンセントの取得の下に,NVGに対してbevacizumabの硝子体内投与を行っている.NVGに対するbevacizumab硝子体内投与の適応は,NVGの病期,他の治療〔抗緑内障薬,汎網膜光凝固(panretinalphotocoagulation:PRP),白内障手術・硝子体手術・緑内障手術など〕の既往を踏まえたうえで,前眼部新生血管の活動性,観血的手術の必要性,眼圧,緑内障性視神経症の程度,残存視機能などを総合的に判断し決定している(図2).Bevacizumab全身投与による副作用である血圧上昇,心筋梗塞,脳梗塞などは,硝子体内から全身への薬剤の移行によって理論的に起こりNoNoYesNoNoYesNoYesYesYes*:白内障手術,硝子体手術,濾過手術適応なし適応ありPRP優先#適応なしPRP優先#適応あり#:PRP追加困難な場合はbevacizumab投与を考慮前眼部新生血管高眼圧緑内障性視神経症視機能残存観血的治療の必要性*図2当科における血管新生緑内障に対するbevacizumab硝子体内投与の適応———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009327(45)当科では,2008年12月まで50例63眼のNVGに対してbevacizumab硝子体内投与を行い,眼局所あるいは全身性の合併症はみられなかった.初回投与例連続26例29眼(経過観察期間6カ月以上)について検討したところ,投与後16日で新生血管の明らかな退縮が全例にみられた(図3).しかし,新生血管の再発は,1.57.5カ月後に7眼(24%)にみられ,PRPの追加とbevacizumab再注入によって消退した.また,bevaci-zumab硝子体内投与後(9.2±11.1日,148日,中央値5日)に初回マイトマイシンC併用トラベクレクトミーを施行した連続21症例21眼(経過観察期間6カ月以上,使用群)と当科においてbevacizumab使用開始以前にNVGに対して施行された初回トラベクレクトミー連続症例32例32眼(非使用群,bevacizumab使用群と患者背景に有意差なし)とを比較すると,術翌日の前房出血は使用群で5眼(24%),非使用群で20眼(63%)と使用群で有意に少なかった(p<0.01).7日を超える前房出血の持続は使用群で0眼,非使用群で8眼(25%)穿刺を行わない症例では,眼圧測定と診察(細隙灯顕微鏡・眼底検査:視神経での血流確認,出血,網膜離などの合併症の有無)を行う.術後は,数日間抗生物質の点眼を行う.原則として翌日に術後診察を行っている.3.抗VEGF薬の効果NVGに対する抗VEGF薬の効果として,過去の報告511)では前眼部新生血管の速やかな退縮,眼圧下降,緑内障手術時の出血性合併症の抑制などがあげられている.前眼部新生血管の退縮は,多くは1週間以内に明らかとなり翌日にみられる症例もある.前眼部新生血管の退縮および眼圧下降効果は,PRPよりも速効性と確実性の点で優れる.しかし,前眼部新生血管の再発は起こりうる.眼圧下降による観血的手術の回避は開放隅角期では期待できるが,閉塞隅角期ではむずかしい.NVGの原因疾患や抗VEGF薬の種類,投与法(硝子体内投与vs前房内投与など)による効果の相違は今のところ明らかではない.図3Bevacizumab硝子体内投与による前眼部新生血管の消退65歳,女性,右眼増殖糖尿病網膜症による血管新生緑内障(開放隅角緑内障期).左:初診時.右:Bevacizumab硝子体内投与後1週.Bevacizumab硝子体内投与により虹彩,隅角の新生血管が著明に退縮した.———————————————————————-Page6328あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(46)と予想される症例では濾過手術の術中あるいは術後に白内障手術あるいは硝子体手術の併用を考慮する.小切開手術の普及とbevacizumabによる出血性合併症の抑制効果を考えると,濾過手術との同時手術あるいは濾過手術前後での併用が従来ほど濾過手術の成績に悪影響を与えない可能性がある.当科でのbevacizumab眼内投与後のトラベクレクトミー症例のうち術中に白内障・硝子体手術の併用が4眼(19%)に行われたが,いずれも術後眼圧経過は良好であった.以上のように,bevacizumabの眼内投与による速やかな前眼部新生血管の退縮によって,隅角閉塞進展の抑制による難治・進行例の減少,濾過手術の出血性合併症の抑制と成績向上,さらにNVGの予後改善が期待される(図4).今後,bevacizumab以外の抗VEGF薬が頻用されるようになった場合,その薬剤との効果の比較も注目される.しかし,bevacizumab投与後に前眼部新生血管の再発を見逃すと難治化させる恐れがあり,濾過手術後では眼圧上昇の原因となる.注意深い経過観察に加えてPRPの追加やbevacizumabの再投与,濾過手術などの他の治療法について,その適応やタイミングを適切に判断する必要がある.しかし,現時点ではそのガイドラインは存在しない.NVGに対するbevacizumabの眼内投与について,現時点では大規模な多施設臨床治験は報告されておらず,現在多く用いられている1mg程度のbevacizumabは過剰量であるとの指摘もあり,今後安全性など未知の問題が生じてくる可能性もある.何よりもbevacizumabの眼内投与は適応外使用であることから,慎重な使用と厳重な経過観察が不可欠である.と使用群で有意に少なかった(p=0.012).このほか,bevacizumab使用群において,脈絡膜出血や高度の硝子体出血などの合併症はみられなかった.さらに,トラベクレクトミー術後の眼圧コントロールを比較すると,1カ月以降の術後眼圧が2回連続して21mmHgを超える,観血的緑内障手術・毛様体破壊術の追加,光覚喪失・眼球癆を死亡と定義した場合,術後点眼加療の有無にかかわらずbevacizumab使用群のほうが有意に生存率が良好であった(1年生存率=点眼あり:使用群95.2%,非使用群68.5%;点眼なし:使用群90.5%,非使用群43.3%).4.抗VEGF薬の位置づけ抗VEGF薬であるbevacizumabの眼内投与は,前眼部新生血管抑制のための薬物療法という新しいカテゴリーに位置づけられる(表1).根本的に網膜虚血を解消するわけではないので,PRPの代替療法ではないが,新生血管退縮や眼圧下降には速効性があり,中間透光体混濁の影響を受けないというPRPよりも優れた特徴がある.さらに,硝子体手術や濾過手術の術前処置として出血性合併症の抑制に有効である.NVGの治療において従来はとにかくPRPの徹底が最優先とされ,周辺部網膜の徹底した光凝固のために硝子体手術が施行された.しかし,たとえば無治療・高眼圧・進行した視神経障害をもつ重症例では,bevacizumabの眼内投与に引き続き比較的早期に濾過手術を行うことが,高眼圧の持続による視神経障害の進行抑制の観点からは望ましいかもしれない.硝子体手術既往がトラベクレクトミー術後成績悪化の因子である12)ことからも濾過手術の先行が有利と思われる.濾過手術後にPRPが不足している症例では,術後に経瞳孔的にPRPを追加するが,それが困難表1血管新生緑内障治療における抗VEGF薬の位置づけ前眼部新生血管抑制眼圧下降薬物療法抗VEGF薬(VEGF抑制)眼圧下降薬(房水産生抑制)手術療法網膜光凝固・冷凍凝固(網膜虚血解消)濾過手術(房水排出促進)毛様体破壊術(房水産生抑制)VEGF:vascularendothelialgrowthfactorPRP:panretinalphotocoagulation2.濾過手術の出血性合併症抑制と成績の改善1.悪循環を速やかに断ち隅角閉塞進行を防ぐ図4血管新生緑内障治療における抗VEGF薬への期待———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009329文献1)BrownGC,MagargalLE,SchachatAetal:Neovascularglaucoma.Etiologicconsiderations.Ophthalmology91:315-320,19842)Sivak-CallcottJA,O’DayDM,GassJDetal:Evidence-basedrecommendationsforthediagnosisandtreatmentofneovascularglaucoma.Ophthalmology108:1767-1776,20013)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendotheli-algrowthfactorinocularuidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEngJMed331:1480-1487,19944)AveryRL:Regressionofretinalandirisneovasculariza-tionafterintravitrealbevacizumab(Avastin)treatment.Retina26:352-354,20065)DavidorfFH,MouserJG,DerickRJ:Rapidimprovementofrubeosisiridisfromasinglebevacizumab(Avastin)injection.Retina26:354-356,20066)MasonJO3rd,AlbertMAJr,MaysAetal:Regressionofneovascularirisvesselsbyintravitrealinjectionofbevacizumab.Retina26:839-841,20067)GheithME,SiamGA,deBarr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角膜移植後の緑内障はこう治す

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS一方,近年の角膜移植術の進歩に伴い,数多くの難治性眼表面疾患を「治す」ことが可能となってきた.さらにその移植方法も従来の角膜全層移植や表層移植のみならず,培養上皮シートを用いた角膜上皮移植やさらにはDSAEK(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty)に代表される内皮シート移植などのような角膜のパーツ移植へと進化してきている.このような進歩の背景にはLASIK(laserinsitukeratomileusis)などの屈折矯正手術の普及のみならず,シクロスポリンに代表される免疫抑制療法の発展が大きく寄与している.今では眼類天疱瘡やStevens-Johnson症候群,急性期化学外傷などのように従来は禁忌とされてきた疾患に対しても積極的に外科的治療が施され,これらの疾患はじめにはたして緑内障とは治すことができる疾患であろうか.それは「治る」の言葉の定義次第である.「治る」を「完全に健康な元の状態に戻ること」とするなら,障害された神経を再生させることは現在の医学でもまだ不可能であるため,緑内障は不治の病ということになる.「治る」を「それ以上の進行を食い止めること」と定義するならば,現在の緑内障治療はすべからくこれを目標としており,かなりの症例で実行が可能となっている.しかし実際には眼圧を十分に下降させても進行を食い止めきれない症例が存在しており,「悪化のスピードを遅らせること」で何とか患者さんに納得してもらうしかない場合も多い.(35)317aioori6020841465特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):317321,2009角膜移植後の緑内障はこう治すHowtoTreatGlaucomaafterCornealTransplantation森和彦*図1化学外傷による瘢痕性眼表面疾患図2図1と同一症例の羊膜移植を併用した眼表面再建術後———————————————————————-Page2318あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(36)ド緑内障の頻度も減少傾向にある.いずれの時期においても角膜移植後に生じた続発緑内障は,角膜移植片の生着ならびに透明性維持にも悪影響を与え,かつ緑内障手術自体も炎症を惹起することから,移植片拒絶のリスクを高める結果となるため十分な管理上の注意が必要である.II角膜移植後緑内障の治療方針治療の基本は他の続発緑内障と特に変わるところはない.視神経の障害程度を見きわめたうえで,必要最小限の薬物で最大限の効果を狙いつつ,眼圧上昇の原因に応じた治療を行う.しかし,角膜移植後眼の特殊性として基本的には眼底の透見性が不良なことが多いため,ついつい本来の対象臓器である前眼部ばかりに目が行きがちであり,気がついたら視野検査所見や視神経乳頭所見を取る努力すらなされていなかったという場合もある.眼圧測定も角膜表面が不整な状態であることが多い(図4)ため,トノペンRやアイケアなどの角膜接触面積の小さい眼圧計のほうが有利(図5)ではあるが,いかなる眼圧計を用いても正確に測定できず眼瞼上から触診で類推するしかない場合もある.いわんや接触検査である隅角検査などはもってのほかで,移植片拒絶反応や移植した上皮細胞の脱落の恐れから触ることすら制限されることがある.そのような場合でも緑内障手術適応決定時には隅角検査は必須であり,Susman型圧迫隅角鏡のようなが「治る」疾患へと変貌してきている(図1,2).I角膜移植後の合併症眼表面疾患は移植さえしてしまえば完全に「治す」ことができるのであろうか.否,世の中はそれほど甘くはない.角膜移植後に生じる治療困難な合併症には,移植片拒絶反応,免疫抑制に伴う感染症,続発緑内障などがある.なかでも続発緑内障は角膜移植後の失明原因として常に上位に位置しており,角膜がきれいになっても視神経が障害されてしまっては元も子もない.術後の一過性高眼圧を除いた角膜移植後続発緑内障の発症頻度は全体では30%程度とされているが,角膜移植の原因疾患によってその頻度が大きく異なっている.たとえば,無水晶体性水疱性角膜症では続発緑内障発症頻度が2070%と最も高く,円錐角膜や先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED)などでは低いとされている1).一般に,角膜移植後の続発緑内障発症・増悪のリスクとしては,角膜移植前から存在している緑内障の既往,無水晶体無硝子体眼,眼内レンズ(IOL)摘出術併用例などがあげられている.また眼圧上昇メカニズムとしては移植後の経過期間によりその機序が異なっており,移植後早期には前房内残留粘弾性物質,出血,炎症,角膜浮腫や浅前房による周辺虹彩前癒着,瞳孔ブロック,悪性緑内障などが考えられている.一方,移植後に一定の期間が経過した晩期では,ステロイド緑内障,拒絶反応に伴う炎症・虹彩前癒着の進行(図3),悪性緑内障などの機序があげられる.近年はシクロスポリンに代表されるステロイド以外の免疫抑制療法が広く用いられるようになり,ステロイドを長期にわたって使用しなくてはならない症例が減少してきているため,必然的にステロイ図4全層角膜移植術後の眼表面不整図3Creepingメカニズムによる周辺虹彩前癒着の進行———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009319(37)な限り添加されていないかもしくは濃度が少ないほうが望ましい.しかし,抗緑内障薬の使用は眼圧下降を主目的としていることから,その決定にあたっては主剤の効果を基準にすべきであり,副作用を恐れて眼圧下降効果の劣る薬剤を投与することは本末転倒である.b2交感神経刺激薬や副交感神経刺激薬は無水晶体眼における胞様黄斑浮腫(CME)の危険性,虹彩前癒着の進行などの副作用を考慮したうえで,使用することのメリットがデメリットを上回るならば使用を考慮する.しかし,抗緑内障点眼薬はいずれも角膜の上皮障害ならびに結膜充血などの副作用をひき起こす可能性があるので,基本的には多剤併用は可能な限り3剤までにとどめるべきであり,点眼薬使用中には眼表面状態の十分な管理・注意が必要である.IV角膜移植後緑内障に対する手術療法先に述べた内科的療法によっても眼圧がコントロールできない場合には,観血的療法を選択せざるをえない.選択的レーザー線維柱帯形成術などのレーザー治療は角膜の状態が良好でかつ開放隅角症例のみが適応となりうるが,角膜移植後緑内障における安全性と効果に関しては報告がない.角膜移植後緑内障に対する手術術式としては,移植した角膜内皮に対する影響や免疫抑制に伴う易感染性を考慮すれば,少しでも適応があるならまずはトラベクレクトミー(図7)よりもトラベクロトミーを選択したほうがよいと思われる(図8).すなわち角膜の透明性が良好で隅角の状態が確認でき周辺虹彩前癒着が少ない症例では,眼圧上昇の機序としてステロイド緑内障の関与が強く疑われるため,トラベクロトミーが非常に良い適応となる.部分的な周辺虹彩前癒着が存在していても癒着期間が短い場合,もしくは面状ではなく線状に癒着をきたしている場合であれば隅角癒着解離術とトラベクロトミーの併用が可能である.しかし,実際には前述の条件を満たさないときには,他の難治続発緑内障の場合と同様にマイトマイシンC併用トラベクレクトミーが必要となる症例が多い.マイトマイシンC併用トラベクレクトミーの成功率は3070%(経過観察期間15年)と報告によりさまざまであるが,角膜再移植例,無水晶体眼,周辺虹彩前癒着による閉塞隅角を認角膜接触面積の小さな隅角鏡(図6)を用いて,角膜上皮に負担をかけない隅角検査手技を日頃からマスターしておくことが必要である.以上のように,緑内障治療の面からはかなり制限を課された状況下で診断・治療を進めてゆかねばならない点で,角膜移植後の緑内障は他の続発緑内障と比べてきわめて特殊であるといえる.III薬物療法の基本通常,早期の眼圧上昇に対しては,bブロッカーやプロスタグランジン製剤などの点眼や炭酸脱水酵素阻害薬の点眼・内服治療から開始する.ステロイドは可能であるならば,より力価の弱いものに変更するか完全に中止するかして,シクロスポリンなどのステロイド以外の免疫抑制療法に切り替える.炭酸脱水酵素は角膜内皮にも存在し,角膜の透明性維持に関与していることから内皮細胞が減少しているような状況下では,可能な限り使用を制限したほうが望ましい.塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤は眼表面に対して障害的に作用するため,可能図5アイケア眼圧計(左)とGoldmann眼圧計(右)の接触面積の差図6各種隅角鏡の角膜接触面積の差a:Goldmann三面鏡,b:Susman型圧迫隅角鏡,c:マグナビュー拡大一面鏡.abc———————————————————————-Page4320あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(38)めに術後の眼圧予測がむずかしいだけでなく,惹起された炎症による移植片拒絶反応,低眼圧,視力低下,眼球癆などの合併症がある.近年,これらの合併症を予防し過剰凝固を抑制するために,眼内内視鏡を用いて直視下に毛様体突起部のみを選択的に光凝固する手法や毛様体扁平部凝固など,種々の新しい手法が開発されてきている.まとめ角膜移植に伴う緑内障では,通常の緑内障検査を正確に行うことができないために,その診断が困難であり,発見や治療が遅れることが多い.しかし,緑内障の眼圧コントロールが角膜移植の治療成績にも影響することから,眼圧上昇時の抗緑内障点眼薬による角膜上皮障害には十分に注意して診察する必要がある.さらに眼表面炎症の抑制や角膜移植片の拒絶予防の目的で長期にわたりステロイドや免疫抑制薬を使用する例も多いため,ステロイド緑内障の発症のみならずトラベクレクトミー後の濾過胞感染にも十分な注意が必要である.昨今,眼表面の再建方法が向上し,角膜移植や羊膜移植の適応疾患は広がりつつある.これに伴い眼表面全体に再建術を行っているような難症例に対する続発緑内障の治療も増加してきている.このような症例に対する治療として,現状のマイトマイシンC併用トラベクレクトミーでは限界がある.羊膜移植併用トラベクレクトミめる症例では眼圧コントロール成績が低下する1).また,5-フルオロウラシル(5-FU)の併用は角膜移植片における上皮障害と創傷治癒の遅延が懸念されるため,一般的には角膜移植後には禁忌とされる.さらに眼表面も同時に障害されている化学外傷やStevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡など眼表面疾患を有する症例では,濾過胞作製部位の結膜も障害されていることからマイトマイシンC併用トラベクレクトミー自体が施行困難となるため,シャント手術の適応と考えられる.しかし,Mol-tenoimplantsやAhmedimplantsなどのドレナージデバイス移植は,デバイス先端の角膜内皮への慢性的接触が発生するために,内皮脱落や移植片の拒絶反応などの合併症が多いのが難点である.毛様体扁平部から硝子体腔にデバイスの先を挿入する方法は角膜内皮への影響を最小化できるが,必ず硝子体手術を併用する必要があるため,角膜混濁による眼底透見性の程度が硝子体手術の可否を決める条件となる.眼内内視鏡を用いた硝子体手術も盛んに行われるようになっており,角膜混濁があっても硝子体手術の制限にはならなくなってきている.以上のような観血的手術療法によっても眼圧コントロールが得られない症例には,最終手段としての毛様体破壊術を考慮せざるをえない.Nd-YAGレーザーや半導体レーザーを用いた経強膜毛様体レーザー光凝固術が最も一般的であるが,眼内炎症が遷延したような症例では毛様体突起の位置自体が大幅にずれている場合もあるた図7全層角膜移植術後眼に対するマイトマイシンC併用線維柱帯切除術図8全層角膜移植術後眼に対する線維柱帯切開術(下鼻側アプローチ)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009321(39)20063)MermoudA,HeuerDK:Glaucomaassociatedwithtrau-ma.Chemicalburns,TheGlaucomas.ClinicalScience,2nded(edbyRitchR,ShieldsMB,KrupinT),Chapter59,p1271-1275,Mosby,StLouis,19964)GreenK,PatersonCA,SiddiquiA:Ocularbloodowafterexperimentalalkaliburnsandprostaglandinadminis-tration.ArchOphthalmol103:569-571,19855)樋野景子,森和彦,外園千恵ほか:羊膜移植併用線維柱帯切除術を施行した薬剤性偽眼類天疱瘡の1例.日眼会誌110:312-317,20066)森和彦:角膜移植と緑内障.眼科プラクティス11緑内障診療の進めかた(根木昭編),p70-71,文光堂,2006ー(図9)は濾過胞の形成,強化に有効であるが,長期成績についてはまだ不明である5).今後は眼表面状態に左右されない新しい眼圧測定法や緑内障手術の開発が待ち望まれる.文献1)LeePP,McDonnellPJ:Penetratingkeratoplastyandglaucoma.PrinciplesandPracticeofOphthalmology,2nded(edbyAlbertDM,JakobiecFA),Chapter219,p2860-2873,Saunders,Philadelphia,20002)荒木やよい,森和彦,成瀬繁太ほか:角膜移植後緑内障に対する緑内障手術成績の検討.眼科手術19:229-232,図9羊膜移植併用トラベクレクトミー層膜羊膜膜基膜層膜と線維柱帯を切除羊膜を膜に合羊膜を膜と羊膜接しる羊膜を膜にしたの膜合

ぶどう膜炎に続発する緑内障はこう治す

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS(APAC)とよく似た所見を呈することもある.毛様体の炎症は房水産生を促進することも,抑制することもある.内因性プロスタグランジン(PG)などの作用によりぶどう膜強膜流出路における房水流出量は増加しており,同時に眼圧下降の機序も働いていることもあり,房水流出障害があっても,表面上は眼圧上昇が生じていないことがある.さらに治療で用いたステロイド薬により眼圧上昇が起こることもあり,ぶどう膜炎に伴う眼圧の変化をよりいっそう複雑なものにしている.表2に眼圧上昇をきたしやすいぶどう膜炎を列挙する.2.ぶどう膜炎に続発する緑内障の特徴(表3)続発緑内障に共通する高度の眼圧上昇と原因治療が眼圧下降治療に直結するという面をもつと同時に,前述のはじめにぶどう膜炎に眼圧上昇が合併することは日常診療でよく経験される.ぶどう膜炎の全経過中に眼圧上昇をきたす頻度は40%程度であり,続発緑内障にまで進展するものは1020%くらいと推定される.また,治療に用いるステロイド薬による眼圧上昇もしばしばみられ,ぶどう膜炎と緑内障は関連の深い疾患といえる.ぶどう膜炎に続発する緑内障にはさまざまな病態と程度があり,治療にあたってはその発生機序と病態を正しく理解し,それぞれに適した治療方法を選択することが重要である.Iぶどう膜炎に続発する緑内障1.ぶどう膜炎による眼圧上昇機序(表1)ぶどう膜炎による炎症はさまざまな形で眼圧に影響を及ぼす.開放隅角における房水流出抵抗の増大には炎症細胞やフィブリンなどの炎症産物が線維柱帯間隙を閉塞すること,線維柱帯に炎症が及び線維柱帯細胞の機能が障害されること,細胞外マトリックスが増加することなどが関与する.また,炎症が長期化すれば,線維柱帯以降の房水流出路にも変性が生じてくる.炎症により周辺虹彩前癒着(PAS)が進行すれば,閉塞隅角メカニズムによる眼圧上昇が生じてくる.瞳孔縁で全周性の虹彩後癒着を形成すれば,瞳孔ブロックにより急激な眼圧上昇をきたす(irisbombe).原田病では毛様体の腫脹により虹彩水晶体隔膜が前方移動し,急性原発閉塞隅角症(29)311iosio116116202特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):311315,2009ぶどう膜炎に続発する緑内障はこう治すTreatmentofSecondaryGlaucomawithUveitis吉野啓*表1ぶどう膜炎による眼圧上昇機序開放隅角炎症細胞,炎症産物が線維柱帯間隙を閉塞線維柱帯細胞の機能低下細胞外マトリックスの増加炎症による線維柱帯以降の房水流出路の変性房水産生の促進ステロイド緑内障閉塞隅角虹彩後癒着による瞳孔ブロック(irisbombe)周辺虹彩前癒着(PAS)による隅角閉塞毛様体腫脹による虹彩水晶体隔膜の前方移動(原田病)血管新生緑内障———————————————————————-Page2312あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(30)で,眼圧は大きく変動している.このような症例は診断さえつけばステロイド点眼のみで眼圧コントロールは良好となることが多いだけに,確実な診断が望まれる.わずかな隅角結節(図1)だけが唯一の所見で前房内細胞も,角膜後面沈着物もほとんどない,といった症例は決して珍しくない.IIぶどう膜炎に続発する緑内障の治療1.治療方針ぶどう膜炎に続発する緑内障の治療は,ぶどう膜炎に対する消炎治療と緑内障に対する眼圧治療との2本立てである.いずれも通常は薬物治療から開始するが,irisbombeでは早期に外科的治療が必要となることが多い.また,薬物治療によっても十分な眼圧下降が得られないものや,視野障害の進行が明らかなものは外科的治療の対象となる.2.Irisbombeの治療瞳孔縁が全周性に癒着を起こし,完全瞳孔ブロックを起こした状態である.周辺部の虹彩が角膜に密着して隅角を閉塞し,急激な眼圧上昇をきたす.初期の場合には散瞳剤の点眼や結膜下注射により,虹彩後癒着がはずれてirisbombeが解消できることがあるので,まずは散瞳を試みる.散瞳が無効であった場合はレーザー虹彩切開術(LI)または周辺虹彩切除術(PI)とおり眼圧上昇因子と眼圧下降因子が同時に働いていることから,眼圧の変動がきわめて大きいことが特徴である.また,炎症の程度と眼圧は必ずしも相関せず,炎症所見が非常に乏しい症例が案外多く存在することも一つの特徴と思われる.明らかな炎症所見があれば診断は容易であるが,このような例では原因がぶどう膜炎とは気づかれず,きわめて眼圧が不安定な原発開放隅角緑内障(POAG)としてフォローされていることが多い.大抵多くの緑内障治療薬が処方されているが,反応は不良図1隅角結節写真は典型例であるが,小さな結節1つが唯一の所見である症例もある.表2眼圧上昇をきたしやすいぶどう膜炎強膜炎感染性○梅毒結核帯状疱疹ウイルスによる強膜炎非感染性○慢性関節リウマチWegener肉芽腫症結節性多発性動脈炎サルコイドーシス前部ぶどう膜炎感染性○帯状疱疹ウイルス○単純ヘルペスウイルス非感染性○角膜ぶどう膜炎○Posner-Schlossman症候群HLA-B27関連ぶどう膜炎Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎○若年性関節リウマチ関連ぶどう膜炎中間部ぶどう膜炎感染性トキソカラ症Lyme病梅毒非感染性サルコイドーシス多発性硬化症毛様体扁平部炎汎ぶどう膜炎感染性○急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)眼内炎非感染性サルコイドーシス原田病○:眼圧上昇頻度の高い疾患.表3ぶどう膜炎に続発する緑内障の特徴上昇時の眼圧が高い眼圧の変動が大きい炎症所見がきわめて乏しい症例もある(案外多い)原因治療が眼圧治療に直結する———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009313(31)3.毛様体浮腫による閉塞隅角緑内障原田病などでは急性に毛様体の浮腫が出現し虹彩水晶体隔膜が前方に移動し閉塞隅角をきたすことがある.APACとよく似た所見を呈するが,いきなりピロカルピン点眼やLIなどAPACに対する治療を行わないように注意する.超音波生体顕微鏡(UBM)があれば診断は容易,確実であるが,ない場合は年齢や問診,発症の状況,屈折,他眼との比較などが参考となる.まず1%アトロピンとステロイド薬の点眼を行う.散瞳後,隅角鏡で毛様体突起が確認されれば診断は確定的である.眼圧や角膜の状況により,マンニトール点滴,炭酸脱水酵素阻害薬内服,bブロッカー点眼などを用いる.多くの場合,同日または数日以内にステロイド薬の全身投与(パルス療法または大量漸減療法)が開始されるが,点眼のみでも大抵は12日で前房深度は正常化する.4.薬物治療a.消炎治療1)ステロイド薬ぶどう膜炎治療の基本となる薬剤はステロイド薬である.炎症の程度と部位によって投与方法,投与量などを検討する.ステロイド薬を使用する際には常にステロイド緑内障を念頭に置いておく必要がある.まずは点眼であるが,通常デキサメタゾンやベタメタゾンを1日4,5回から増減する.炎症が高度な場合,1を行う(図2).LIの場合,周辺部にこだわる必要はなく,まずはブロックを解消することを優先すべきである.初めはアルゴンレーザーを用い2段階照射を行う.筆者は通常のLIでは2段階照射はしないが,irisbombeに限っては行うようにしている.第一段階は200μm,0.2秒,200mWで虹彩をフラット化させ,ついで50μm,0.02秒,1,000mWで第二段階照射を行う.ある程度行っても穿孔が得られない場合は早めにYAGレーザーに切り替えたほうが良い.パワーは状態を見ながら調整するが,筆者はできるだけショット数を少なくすることを優先し,34mJと比較的高出力で行うことが多い(表4).とりあえず小さな孔が開けばirisbombeは解消されるが,十分な大きさが得られていないと再閉塞し,irisbombeを再発してしまうので,後日,同じ部位を拡大するか,より周辺部に新たに十分な大きさのLIを開けておく.LI後の消炎治療は通常のLIのときより強めにしたほうが良い.また,LIが困難な例や再閉塞をくり返すものでは大きめにPIを行ったほうが良い(表5).図2Irisbombe典型的なirisbombe(左)とLIによる解除後(右).(慶野博:合併症に対する治療.あたらしい眼科23:1421-1428,2006より転載)表5Irisbombeの治療のポイントまず散瞳LIは周辺部にこだわらないアルゴンレーザー2段階照射→YAGレーザー孔が小さいときは早めに拡大or周辺部に開け直すむずかしいときはPI表4IrisbombeのLI条件アルゴンYAG第一段階第二段階24mJ200μm0.2sec200mW50μm0.05sec1,000mW45発20発前後数発———————————————————————-Page4314あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(32)るとの認識から炎症性疾患での使用は避けられていたが,特に問題ないとする報告も散見される.また,ぶどう膜炎では内因性PGによりPG製剤の有効性が低い例も少なからず存在することから,PG製剤の使用に関してはいまだ意見の分かれるところである.筆者は最近ではPG製剤を第一選択として使用することが比較的多い.今のところ特に大きな問題には遭遇していないが,使用にあたっては炎症や黄斑浮腫の状態に対する注意が必要であること,実際に眼圧下降に有効であるかどうかの評価が必要であることは言うまでもない.ピロカルピンは炎症を悪化させ,虹彩後癒着を作りやすいので炎症眼への使用は避けるべきであるが,それ以外の眼圧下降薬は通常の緑内障と同様に使用してよい.5.外科的治療ぶどう膜炎に続発する緑内障に対する外科的治療には,レーザー治療と観血手術がある.レーザー治療においては前述したirisbombeに対するLIのほか,アルゴンレーザーまたはYAGレーザーによるlasertrabeculoplasty(LTP)があるが,隅角線維柱帯に炎症がある疾患は基本的に適応外と考えられるので割愛する.また,もともと狭隅角がある症例がぶどう膜炎を発症した場合,検査や治療で散瞳が不可欠となるので,Shaer分類2度以下は予防的LIをしておいたほうがよい.観血手術において重要なのはその症例の房水流出障害がどこにあるのかを十分に検討することである.いずれの術式においてもある程度炎症がコントロールされた状態で手術に臨むことが望ましい.以下に代表的な緑内障手術法について述べる.a.隅角癒着解離術(goniosynechialysis:GSL)炎症により広範にPASを生じた続発閉塞隅角緑内障に対するGSLは有効例の報告も少数みられるが,一般的には適応外と考えられる.徐々にPASが進行してきたような慢性炎症のある症例では,線維柱帯自体や線維柱帯以降の房水流出路にも問題がある可能性が高く,PASを解除したとしても房水流出障害は解消できない可能性が高い.さらに,術後もよほど炎症が良くコント2時間ごとの頻回点眼を行う.前眼部炎症が主体で頻回点眼が効果不十分な場合はデキサメタゾン(デカドロンR)の結膜下注射を行う.遷延化する強い後眼部炎症の場合はトリアムシノロンアセトニド(ケナコルトR)のTenon下注射を行う.トリアムシノロンアセトニドは徐放性のステロイド薬であるため長期間の効果が期待でき,全身投与に比べて全身的副作用が少ないとメリットがある.しかし,複数回注射によりステロイド緑内障の発症率は上がっていくので注意が必要である.さらに内服,点滴による投与があるが,菅原らは眼サルコイドーシスにおいて積極的に局所治療を行ったところ,87.5%の症例は局所投与のみで消炎可能であったと報告している1).全身投与になると,副作用のチェックなど全身管理が必要となってくる.筆者も含めてステロイド薬の全身投与に慣れていない一般眼科医は自ら行う治療の限界を定めておき,それ以上の治療が必要な症例はぶどう膜専門医やステロイド薬の扱いに精通した者と連携して治療を行うほうが賢明と思われる.2)免疫抑制薬コルヒチン,シクロスポリン(ネオーラルR)などがおもにBehcet病に対して使用される.副作用が多く,一般眼科医が単独で使いこなすのは困難と思われる.3)生物学的製剤近年の分子生物学の進歩はめざましく,腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)-aやインターロイキン(interleukin:IL)-1,IL-6など多くの炎症性サイトカインに対する抗体療法が実現化してきている.インフリキシマブ(iniximab)(レミケードR)は抗TNF-a抗体で,Behcet病の炎症発作を抑制するのに有用である.抗VEGF抗体であるベバシズマブ(bevacizmab)(アバスチンR)やラニビズマブ(ranibizmab)(ルセンティスR)は血管新生を伴うぶどう膜炎の治療に有用である可能性がある.b.眼圧下降治療ぶどう膜炎における眼圧上昇の際に用いる薬剤は,一般的には房水産生抑制作用のあるbブロッカーや炭酸脱水酵素阻害薬が有効といわれている.通常の緑内障で第一選択として使用される頻度の高いPG製剤は,PG自体が炎症伝達物質であり炎症を悪化させる可能性があ———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009315(33)結膜弁を円蓋部基底にすると無血管濾過胞の発生率が低くなることが指摘されている.濾過胞感染のリスク軽減のためにも結膜弁は円蓋部基底が望ましいと思われる.沖波はぶどう膜炎に続発した緑内障に対して,線維芽細胞増殖阻害薬(MMCまたは5-フルオロウラシル)を用いたトラベクレクトミーを行ったところ,PASが半周以上ある症例では成績は有意に不良であることを報告している3).薬物治療が奏効しにくい例では手術を先延ばしにせず,なるべく早い段階で行うことが望ましいものと考えられる.おわりにぶどう膜炎に続発する緑内障の病態は多彩であり,それぞれの病態を的確に把握し,適切な治療法を選択することが重要である.臨床的には重症例が注目されがちであるが,実際には,診断がつかないために治療の機会を逸している軽症例のほうがはるかに多いと思われる.このような症例を見逃さないためには,日頃からこのような症例の存在を意識して注意深い観察を行うことが大切である.特に眼圧の変動が大きな症例では十分な注意が必要である.また,重症例ではぶどう膜炎と緑内障,双方の専門家が,ときには内科医も交え連携をとり治療にあたることが重要と考える.文献1)菅原道孝,岡田アナベルあやめ,若林俊子ほか:眼サルコイドーシスに対する積極的局所治療の有用性.臨眼60:621-626,20062)HoCL,WangEYM,WaltonDSI:Goniosurgeryforglau-comacomplicatingchronicchildhooduveitis.ArchOph-thalmol122:838-844,20043)沖波聡:ぶどう膜炎の合併症に対する手術治療.眼紀52:361-376,2001ロールされない限り,再癒着をきたす可能性が高いと思われる.Irisbombeなどにより急性に生じたPASのみであれば,ある程度の有効性は期待できる.b.トラベクロトミートラベクロトミーは生理的な流出路を再建する手術であり,眼圧下降を濾過胞に依存せず,大きな合併症がなく術後管理が容易などの利点のある術式である.しかし,線維柱帯以降に流出障害があるものでは無効である可能性が高い.また,線維柱帯自体に炎症があるものも術後にPASを形成しやすいと予測され,その適応はかなり制限されるものと思われる.Hoらは若年性関節リウマチ(JRA)を主とした小児の慢性ぶどう膜炎40例に対し隅角切開術を行い,72%で21mmHg以下にコントロールされたと報告しており2),炎症性疾患であっても一部にはトラベクロトミーなどの流出路再建手術が有効なものがあることを窺わせる.一方,トラベクロトミーはステロイド緑内障に対してはきわめて有効な術式であることが知られている.ぶどう膜炎の高眼圧患者のなかにはステロイド薬の影響か否か,その判断が困難な例も少なくない.筆者がトラベクロトミーを選択する際に考慮するポイントは①若年齢で,②隅角にPASがなく,③炎症も軽度,④ステロイド薬の関与も疑われる,などである(表6).トラベクロトミーを行う際は,将来の濾過手術の可能性も考慮して,下方または耳側からのアプローチとしている.c.トラベクレクトミー濾過手術であるトラベクレクトミーは房水流出障害の部位にかかわらずあらゆるタイプの緑内障に効果を発揮する.ぶどう膜炎による続発緑内障の場合,手術症例の多くは本術式が選択されている.炎症性疾患がベースにある場合,やはり術後炎症は強く,濾過胞瘢痕も起こりやすいため,マイトマイシンC(MMC)の併用が必須と思われる.MMCの併用により濾過手術の術後成績は改善し,濾過胞の維持率も向上したが,一方で無血管濾過胞が高率に形成され,術後濾過胞感染の危険性などが指摘されている.ぶどう膜炎の症例では緑内障手術後も,長期にステロイド点眼が必要なことが多く,より感染のリスクが高い群といえる.近年,トラベクレクトミーの表6トラベクロトミー選択の条件若年齢開放隅角(PASなし)炎症は経度ステロイド薬の関与も疑われる

ぶどう膜炎関連緑内障の病因

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS例も緑内障に含める」という意味であり,原発緑内障と比べ定義が甘いことに注意したい.過去の報告および自験例では,ぶどう膜炎関連続発緑内障の頻度は,ぶどう膜炎患者で続発緑内障の定義を①眼圧上昇のみ(22mmHg以上)とすると20~35%,②眼圧上昇+眼圧下降薬の使用と定義すると18~27%,③眼圧上昇+緑内障性の視野欠損ありと定義すると7~10%であった(表1)2~7).IIぶどう膜炎による眼圧上昇の原因ぶどう膜炎により眼圧が上昇することもあれば,下降することもある.ぶどう膜炎による房水の性状の変化はIぶどう膜炎関連緑内障の頻度ぶどう膜炎患者で続発緑内障を起こす割合は20~40%程度と考えられているが,この数値は「続発緑内障」の定義によって違ってくる.緑内障診療ガイドライン(第2版)では,続発緑内障の定義は,「緑内障性視神経症(GON)を有する症例のみで定義するのが本ガイドラインの緑内障の定義に沿った一貫性のある解釈であるが,本症(続発緑内障)の一部では,原疾患,他疾患の存在により緑内障性視神経症による視神経の形態的変化,機能変化(視野変化)の評価が困難である.このため,経過措置として,続発性の眼圧上昇を有する症例を含める」と記載されている1).これは,続発緑内障については「眼底検査,視野検査が困難な症例も多いため,discの変化,視野障害が明らかでない眼圧上昇のみの症(23)305oshasuaura病uroFuno病1138655731病特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):305~310,2009ぶどう膜炎関連緑内障の病因EtiologyofSecondaryGlaucomaAssociatedwithUveitis蕪城俊克*藤野雄次郎**表2ぶどう膜炎続発緑内障の眼圧上昇機序ぶどう膜炎による前房水の変化1.前房水中の炎症細胞2.蛋白質3.プロスタグランジン4.ケミカルメディエーター前房隅角の形態学的変化1.続発閉塞隅角緑内障瞳孔ブロック,膨隆虹彩周辺虹彩前癒着毛様体の前方回旋(原田病)2.続発開放隅角緑内障線維柱帯への炎症性物質の沈着による機械的閉塞線維柱帯炎房水分泌過多線維柱帯および内皮の障害ステロイド緑内障表1ぶどう膜炎続発緑内障の頻度①眼圧上昇症例数(例)頻度(%)箕田ら(1992)沖波ら(1999)蕪城ら(2004)296257376203235.4②眼圧上昇+眼圧下降薬使用眼数(眼)頻度(%)TakahashiT(2002)蕪城ら(2004)1,60458818.326.9③眼圧上昇+眼圧下降薬使用+視野障害あり眼数(眼)頻度(%)Merayo-Llovesetal(1999)TakahashiT(2002)蕪城ら(2004)1,2541,6045889.67.18.5———————————————————————-Page2306あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(24)に周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)の範囲が拡大し閉塞隅角緑内障の機序により眼圧が上昇してきた場合がこれにあたる.サルコイドーシスぶどう膜炎では,隅角結節部に虹彩根部が癒着してテント状PAS(図1)を呈することが多いが,さらに幅の広い台形PASを作ることもある.ぶどう膜炎のない眼では2/3~3/4周以上の隅角癒着をきたすと眼圧が上昇するとされている9)が,ぶどう膜炎の続発緑内障ではステロイド緑内障や線維柱帯のフィルター機能の低下などの要因も加わっており,PASの範囲が2/3周より少なくても眼圧上昇をきたすことが多い.3.開放隅角時の眼圧上昇線維柱帯への炎症細胞やフィブリンなどの炎症性物質の沈着より,房水流出抵抗が増加して眼圧上昇をきたすことがある.また,サルコイドーシスなど肉芽腫性ぶどう膜炎では,線維柱帯やSchlemm管内に肉芽腫(隅角結節)を生じたり,線維柱帯細胞の浮腫(線維柱帯炎)により房水流出を障害され,眼圧上昇をきたすことがある(図2)10).前房内に炎症細胞がみられなくとも,隅角検査で結節が確認されることも多く,隅角検査は必須の検査である.これらの機序による眼圧上昇は,活動性の炎症が眼圧上昇に関与していると考えられ,消炎により眼圧上昇の原因が除去されれば眼圧下降が期待できる.眼圧上昇の要因となりうる(表2)8).たとえば,炎症細胞や蛋白質などによる線維柱帯の目詰まりや線維柱帯の浮腫は濾過抵抗を上昇させ,眼圧上昇をひき起こす.一方,プロスタグランジン(PGE1など)やインターロイキン(IL-1)などの炎症性サイトカインは,眼血液柵の破綻から房水産生増加をひき起こし,眼圧上昇に働く.また,活性酸素などのケミカルメディエーターは線維柱帯細胞を障害し,眼圧上昇の原因となる.その一方で,眼内の慢性炎症の持続は,毛様体機能を低下させ,房水産生低下,眼圧下降の原因となる.これらの房水の性状に加えて,ぶどう膜炎の続発緑内障を分類する場合,隅角の状態から続発閉塞隅角緑内障と続発開放隅角緑内障に分けて考えるのが一般的である(表2)8).前者は隅角閉塞の機序から,瞳孔ブロック・膨隆虹彩によるもの,周辺虹彩前癒着によるもの,毛様体の前方回旋によるもの,血管新生緑内障に分けられる.後者は線維柱帯への炎症性物質の沈着による機械的閉塞や線維柱帯炎,房水分泌過多,線維柱帯および内皮の障害,ステロイド緑内障などの要素が複雑に関与して眼圧上昇をきたしていると考えられる.したがって,続発緑内障の眼圧上昇機序を推測するにあたり,隅角検査は必要不可欠な検査である.代表的な病像について以下に述べる.1.瞳孔ブロック・膨隆虹彩による眼圧上昇前部ぶどう膜炎では,虹彩後面と水晶体前面が炎症性に癒着(虹彩後癒着:posteriorsynechia)を起こし,その範囲が瞳孔縁全周に及ぶと,後房から前房への房水の流れが妨げられる.その結果後房圧が上昇し,虹彩を前方へ押し出して膨隆虹彩(irisbombe)となり,隅角閉塞を起こすことになる.膨隆虹彩が一度起きると眼圧40mmHg以上の急激な眼圧上昇をきたしやすく,閉塞隅角緑内障発作と同様,迅速な対処が必要になる.レーザー虹彩切開術か周辺虹彩切除術の適応となるが,レーザー虹彩切開術ではレーザー後にフィブリン膜を形成し,再閉塞することがしばしばある.2.周辺虹彩前癒着による眼圧上昇ぶどう膜炎による前房内炎症をくり返すうちに,徐々図1隅角結節とテント状虹彩前癒着強膜岬に小型白色の隅角結節2個を認め,その部位にテント状虹彩前癒着を作っている.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009307(25)所投与はしばしば眼圧上昇の原因となる(ステロイド緑内障).通常,ステロイド薬使用開始から2週間以上経過したころから眼圧が上昇し,ステロイド薬の中止あるいは減量によって数日から数週間で正常に戻る11).ステロイド緑内障の発症機序は完全には解明されていないが,ステロイド薬により線維柱帯細胞からのグリコサミ一方,活動性の眼炎症がなくとも眼圧が上昇することがある.たとえば,眼血液柵の破綻は房水産生増加をひき起こし,眼圧上昇の要因となる.慢性の前部ぶどう膜炎は線維柱帯および内皮,Schlemm管の瘢痕化などの不可逆的な障害をひき起こし,房水流出抵抗を増大させる8).また,ステロイド薬の全身投与あるいは眼への局図2サルコイドーシスぶどう膜炎続発緑内障の線維柱帯組織の走査型電子顕微鏡写真Schlemm管内に肉芽腫(G)がみられ,線維柱帯にはマクロファージ(M),単球(Mn),リンパ球(Ly)の浸潤がみられる(bar=10μm).右下図:同じ組織の光学顕微鏡写真.Schlemm管は肉芽腫で閉塞されている(bar=50μm).AC:前房.(文献9,濱中輝彦先生のご厚意による)———————————————————————-Page4308あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(26)であり,治療法は通常のぶどう膜炎と大きく異なる.これらのぶどう膜炎の原因疾患のなかで,眼圧上昇をきたしやすい疾患ときたしにくい疾患がある.自験例の検討を紹介する.1996年1月~2000年12月に東京大学附属病院眼科を初診し3カ月以上経過観察できた内因性ぶどう膜炎症例376例(男性186例,女性190例)588眼のうち,21mmHg以上の高眼圧があり,かつ眼圧下降治療(点眼,内服または手術)が施された続発緑内障症例は,114例(30.3%)158眼(26.9%)であった4).この続発緑内障症例をぶどう膜炎の原因疾患別に検討した結果,および同じ続発緑内障の定義で同様の検討を行っているTakahashiらの報告5)を示す(表3).Takahashiらの報告は南九州地方での検討であり,HTLV-1(humanT-lymphotropicvirustype1)関連ぶどう膜炎,眼トキソプラズマ症の症例数が多くなっている.これらの結果から,眼圧上昇をきたしやすいぶどう膜炎としてPosner-Schlossman症候群,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎,サルコイドーシス,HLA(humanleuko-cyteantigen)-B27関連ぶどう膜炎,ヘルペス性虹彩炎,原田病があげられる.これらのうち,Posner-Schloss-man症候群,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎,ヘルペス性虹彩炎について述べる.1.PosnerSchlossman症候群Posner-Schlossman症候群は,片眼性の軽度の虹彩ノグリカンなどの細胞外無構造物質の産生が増加し,線維柱帯からの房水流出抵抗が増大することがおもな原因と考えられている12).ステロイド緑内障は当初はステロイド薬の中止により眼圧下降が得られるが,経過が長くなり慢性化するとステロイド薬を中止しても眼圧が下降しなくなる場合が多い.これらの機序による眼圧上昇は,活動性の炎症は眼圧上昇に関与していないと考えられ,消炎治療では眼圧下降は期待できない.IIIぶどう膜炎の原因と続発緑内障ぶどう膜炎の原因となる疾患は約50種類ぐらいあるといわれており,それらは①内因性ぶどう膜炎(非感染性ぶどう膜炎),②感染性ぶどう膜炎,③仮面症候群に分類される.①内因性ぶどう膜炎は,感染や外傷によらず,自己免疫疾患など異常な免疫反応で起こるぶどう膜炎である.ぶどう膜炎の約8割を占めると考えられ,原因疾患としては,Behcet病,サルコイドーシス,Vogt-小柳-原田病(以下,原田病)など多くの疾患がここに入る.②感染性ぶどう膜炎は,ウイルス,真菌,寄生虫,細菌などの病原体の感染によりひき起こされるぶどう膜炎で,ぶどう膜炎の約2割を占める.具体的にはヘルペス性虹彩炎,急性網膜壊死,真菌性眼内炎,眼トキソプラズマ症などである.③仮面症候群は,ぶどう膜炎の約1%を占め,眼内悪性リンパ腫や白血病の眼内浸潤である.ぶどう膜炎と類似した所見を呈するが,血液の腫瘍表3ぶどう膜炎疾患別の続発緑内障頻度臨床病型自験例(1996~2000)Takahashiら(1974~2000)症例数続発緑内障の頻度(%)症例数続発緑内障の頻度(%)サルコイドーシスBehcet病原田病ヘルペス性虹彩炎Posner-Schlossman症候群HLAB27AAUFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎眼トキソプラズマ症HTLV-1関連ぶどう膜炎その他原因不明938251191514532782262822315310036400018237155107102185194924423421161002012161615合計588271,07718———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009309(27)い.虹彩異色とは両眼で虹彩の色調が異なることを指すが,有色人種では不明瞭で,びまん性の虹彩表面の萎縮と考えたほうがよい(図3).前房内炎症は軽度で,角膜後面沈着物は小~中型で数が少なく,角膜後面全体に上方まで分布することが多い.虹彩後癒着は起こさない.前房穿刺時に出血することがある(Amslersign).近年,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎患者の前房水で風疹ウイルスDNAに対するPCR検査が陽性となる症例や,風疹ウイルスの抗体価率(風疹ウイルス抗体価と総免疫グロブリンG(IgG)値の比率を前房水と血清中で算出し,それらを割り算した比率,Goldmann-Wit-mercoecientdeterminationまたはQ値ともよばれる)が高値である症例が多いことが報告され,この疾患の発症に風疹ウイルスが関与している可能性が報告されている18).deVisserらは,前房水PCR検査または抗体価率で風疹ウイルス陽性であった30症例について臨床像を検討し,小型の角膜後面沈着物,虹彩異色,白内障,虹彩後癒着なしの4項目のすべてを満たす症例が10例(33%),3つを満たす症例が13例(43%),2つを満たす症例が7例(23%)であり,従来からいわれているFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の臨床像とよく合致するものであったと報告している19).炎とともに急激な眼圧上昇をきたす疾患であり,疾患の定義のなかに眼圧上昇が含まれるため全症例で眼圧上昇をきたす.近年,Posner-Schlossman症候群の前房水polymerasechainreaction(PCR)検査により単純ヘルペスウイルス13)やサイトメガロウイルス(CMV)14,15)のDNAが陽性となる症例が報告されている.Cheeらは眼圧上昇を伴う前部ぶどう膜炎105眼の前房水を採取してPCR検査を行ったところ,24眼(22.8%)がCMV-DNA陽性で,それらのうち18眼(75%)は臨床的にPosner-Schlossman症候群,5眼(20.8%)はFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎,1眼はヘルペス性虹彩炎疑いと診断された,と報告した15).またCheeらは別の報告で,Posner-Schlossman症候群が疑われた67眼のうち前房水PCR検査でCMV-DNAが陽性であった35眼と陰性であった32眼の間に,患者の年齢,性別,最高眼圧値,角膜内皮細胞減少度,虹彩萎縮の出現率などに有意差は認めなかった,と報告している16).これらの報告から,臨床所見からPosner-Schlossman症候群と診断される患者の半数近くがCMVによる虹彩炎である可能性が推測される.Posner-Schlossman症候群に対しては,通常ステロイド点眼と眼圧下降薬点眼(あるいは炭酸脱水酵素阻害薬の内服)が行われるが,CMV-DNAが陽性である症例に対しては,さらにガンシクロビル(デノシンR)の硝子体注射あるいはバルガンシクロビル(バリキサR)内服などの抗ウイルス治療を行うことが推奨されている15).筆者らの経験でも抗ウイルス治療の併用によりほとんどの症例で消炎と眼圧下降が得られるが,しばしば再発をくり返す症例も存在する.このような再発症例にどのような治療を行うべきかが,今後の課題であると思われる.2.Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎は,通常片眼性の虹彩毛様体炎,白内障,虹彩異色を3主徴とする疾患である.眼圧上昇を起こす症例が20%程度ある17).この際にはPosner-Schlossman症候群と類似し,鑑別がむずかしいことがあるが,Posner-Schlossman症候群ほど急峻な眼圧上昇ではなく,慢性的な上昇であることが多図3CMV虹彩炎10年前から右眼のPosner-Schlossman症候群と診断され,年1回程度軽度の虹彩炎と眼圧上昇を起こしていた.下方を中心に色素性角膜後面沈着物,一部白色で小型の角膜後面沈着物を認める.———————————————————————-Page6310あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(28)4)蕪城俊克,川島秀俊:ブドウ膜炎併発緑内障における手術の適応・術式の選択・術後処置.あたらしい眼科21:13-19,20045)TakahashiT,OhtaniS,MiyataKetal:Aclinicalevalua-tionofuveitis-associatedsecondaryglaucoma.JpnJOph-thalmol46:556-562,20026)Merayo-LlovesJ,PowerWJ,RodriguezAetal:Second-aryglaucomainpatientswithuveitis.Ophthalmologica213:300-304,19997)沖波聡:続発緑内障ぶどう膜炎.眼科44:1632-1638,20028)MoorthyRS,MermoudA,BaerveldtGetal:Glaucomaassociatedwithuveitis.SurvOphthalmol41:361-394,19979)山岸和矢:隅角癒着解離術.眼科学大系9,眼科手術(増田寛次郎編),p315-318,中山書店,199310)HamanakaT,TakeiA,TakemuraTetal:Pathologicalstudyofcaseswithsecondaryopen-angleglaucomaduetosarcoidosis.AmJOphthalmol134:17-26,200211)BeckerB,MillsDW:Corticosteroidandintraocularpres-sure.ArchOphthalmol70:500-507,196312)JohnsonDH,BradleyJM,AcottTS:Theeectofdexam-ethasoneonglycosaminoglycansofhumantrabecularmeshworkinperfusionorganculture.InvestOphthalmolVisSci31:2568-2571,199013)YamamotoS,Pavan-LangstonD,TadaRetal:PossibleroleofherpessimplexvirusintheoriginofPosner-Schlossmansyndrome.AmJOphthalmol119:796-798,199514)TeohSB,TheanL,KoayE:CytomegalovirusinaetiologyofPosner-Schlossmansyndrome:evidencefromquantita-tivepolymerasechainreaction.Eye19:1338-1340,200515)CheeSP,BacsalK,JapAetal:Clinicalfeaturesofcyto-megalovirusanterioruveitisinimmunocompetentpatients.AmJOphthalmol145:834-840,200816)CheeSP,JapA:Presumedfuchsheterochromiciridocy-clitisandPosner-Schlossmansyndrome:comparisonofcytomegalovirus-positiveandnegativeeyes.AmJOph-thalmol146:883-889,200817)JonesNP:Fuchs’heterochromicuveite:anupdate.SurvOphthalmol37:253-272,199318)QuentinCD,ReiberH:Fuchsheterochromiccyclitis:rubellavirusantibodiesandgenomeinaqueoushumor.AmJOphthalmol138:46-54,200419)deVisserL,BraakenburgA,RothovaAetal:Rubellavirus-associateduveitis:clinicalmanifestationsandvisualprognosis.AmJOphthalmol146:292-297,200820)AmanoS,OshikaT,KajiYetal:Herpessimplexvirusinthetrabeculumofaneyewithcornealendotheliitis.AmJOphthalmol127:721-722,1999一方,臨床的にFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎と診断された症例のなかに前房水PCR検査でCMV-DNAが陽性となる症例があることも報告されている.Cheeらは,臨床的にFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎と診断された36眼のうち,前房水PCR検査でCMV-DNAが陽性であった15眼と陰性であった21眼を比較すると,CMV陽性群では高齢の男性が多く,角膜内皮に虹彩色素を伴う結節状の病変を高率(60%)に認めると報告している16).このように,これまで臨床的にPosner-Schlossman症候群あるいはFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎と診断されてきた症例が,今後検査法の普及によって,より病因に即した診断名として風疹性ぶどう膜炎(rubellavirus-associateduveitis)あるいはCMV虹彩炎(cyto-megalovirusanterioruveitis)とよばれるようになっていくのではないか,と思われる.3.ヘルペス性虹彩炎ヘルペス性虹彩炎は,単純ヘルペスウイルス1型(herpessimplexvirus-type1:HSV-1),単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2),水痘・帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV)によってひき起こされる虹彩炎である.一度皮膚や粘膜に感染したHSVあるいはVZVが,眼の知覚神経節である三叉神経節に潜伏感染し,その再活性化が三叉神経節第1枝領域に沿って起きて,虹彩毛様体にウイルスが感染することによって虹彩炎が発症する.ヘルペス性虹彩炎の活動期にはしばしば眼圧上昇を伴うが,ヘルペス性虹彩炎患者の線維柱帯でのヘルペスウイルスの発現が報告されており20),ヘルペス感染による線維柱帯炎が房水流出抵抗の上昇をひき起こし,眼圧を上昇させることが推測されている.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20062)箕田宏,坂井潤一,臼井正彦:ぶどう膜炎による続発性緑内障.眼臨86:2369-2374,19923)沖波聡,小川明子,大坪貴子ほか:ぶどう膜炎による続発緑内障の治療.臨眼53:1759-1765,1999

アミロイド緑内障はなぜ起こる

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS異や欠失によって起こる常染色体優性の全身性アミロイドーシスと定義され,すでに現在までに100以上の遺伝子変異が報告されている.TTRは生体内では四量体を形成し,サイロキシンおよびレチノール結合蛋白質を介したビタミンAの輸送体として機能するとともに,反急性期反応蛋白質としても機能しており,炎症,腫瘍,低栄養などで血中レベルが低下するため,栄養状態の新たな有用な指標として注目されている.FAPは従来,さまざまな全身症状(末梢神経障害,自律神経障害,心疾患)をきたし,発症後約10年で死に至る予後不良の疾患であった.しかしながら,血中のTTRの90%以上は肝臓で産生されるため,1990年代より肝移植が積極的に施行され良好な結果を得ており,生命予後は飛躍的に延びてきている.また,FAP患者の肝臓は異型TTRを産生する以外,肝機能自体には問題ないことが多いので,ドミノ肝移植(正常肝臓をFAP患者へ,FAP患者の肝臓を重篤な肝疾患患者へ移植する)の適応疾患としても知られている.FAPの数ある遺伝子変異のなかで最も多いタイプは,TTRの30番目のアミノ酸がバリンからメチオニンに変化しているFAPVal30Metというタイプであるが,日本においては熊本と長野が2大集積地であり,これまでは地方病との認識が強かった.若年発症例(30歳代)に関しては集積地と関連のある患者が多いが,最近集積地とは関係のない患者が高齢発症を中心に,全国各地でつぎつぎと見つかっている.加えて,Val30Met以外の変はじめに続発緑内障の1型として分類されているアミロイド緑内障は,日常診療上で遭遇することは稀な疾患と思われるが,細隙灯顕微鏡検査を行ったときに水晶体面上や瞳孔縁に白色物質のアミロイド沈着物を認めるため,落屑症候群との鑑別が重要な疾患である.このような眼内へのアミロイド沈着を生じうる代表的疾患として,全身性アミロイドーシスの一つである家族性アミロイドポリニューロパチー(familialamyloidoticpolyneuropathy:FAP)がある1).従来は集積地のみに認められる疾患と考えられていたが,近年の検査医学の進歩に伴い,集積地だけでなく,全国各地で遭遇する可能性のある疾患であることがわかってきている.本稿では,FAPにおける緑内障の臨床像とそのメカニズムについて述べていく.I家族性アミロイドポリニューロパチーとトランスサイレチンアミロイドーシスとは,線維性の構造をもつアミロイドとよばれる特異な蛋白質が,種々の臓器のおもに細胞外に沈着し,それにより機能障害をひき起こす疾患群である.アミロイドはヘマトキシリンエオジン(HE)染色では,淡いピンク色の無構造な物質として認められ,Congored染色では赤紫色に染まり,偏光顕微鏡下ではアップルグリーンの複屈折を示す.FAPは,トランスサイレチン(TTR)遺伝子の点変(19)301aaaa8608556111特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):301304,2009アミロイド緑内障はな起こるMechanismofAmyloidoticGlaucoma川路隆博*———————————————————————-Page2302あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(20)IIIFAPにおける緑内障の臨床的特徴FAPVal30Metの46名,Tyr114Cysの7名,の2つのタイプに関して緑内障の臨床像について検討したところ,緑内障の発症率はVal30Metが10名(22%),Tyr114Cysが6名(86%)であり,FAP発症から緑内障発症までの平均期間はともに約8年であった.緑内障発症の危険因子を検討したところ,①瞳孔縁や水晶体面上へのアミロイド沈着(図3A),②fringedpupilといわれる脱円様所見(図3B),③硝子体混濁が危険因子として明らかとなった5).また,隅角所見は一般的に開放隅角で色素沈着も高度であることが多く,なかにはアミロイドの白色物質塊を認めることもある.Tyr114Cys(眼症状および中枢神経症状が強いタイプで,眼髄膜型といわれている)においては,眼アミロイドアンギオパチー6)を高率に発症し虚血を生じるため,血管新生緑内異も数多く見つかっており,FAPは集積地のみでなく全国各地で遭遇する可能性のある疾患であることがわかってきた(図1).IIFAPにおける眼症状FAPにおける代表的な眼症状は,結膜血管異常(毛細血管瘤様や蛇行を示す),ドライアイ,瞳孔異常(瞳孔縁へのアミロイド沈着や,進行例で認められるfringedpupilといわれる脱円様の瞳孔),硝子体混濁,緑内障,アミロイドアンギオパチーなどである.初期には結膜血管異常やドライアイを中心に認めるが,病期が長くなるにつれすべての症状の発症頻度が増え始め2),10年過ぎると約80%に硝子体混濁を,約50%に緑内障を認めるようになる.肝移植の導入以前においては,発症後の生命予後が短かったため,視機能に重篤な障害を与えうる眼症状の発症は少なかった.しかし近年の肝移植の導入により,生命予後が飛躍的に改善されるようになったことに加え,TTRは眼内においては網膜色素上皮や毛様体色素上皮3)からも全身とは関係なく独自に産生されるため,肝移植により全身症状の進行は抑制されても,眼症状の進行は抑制できず4),眼症状の発症頻度は増加の一途であり,FAP患者のQOL(qualityoflife)を脅かす大きな問題となっている(図2).:FAPATTRMet30(熊本,長野など):その他の点異変(23種類)図1日本におけるFAP患者の分布図2肝移植後の硝子体混濁の進行A:肝移植後1年,B:肝移植後3年.AB———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009303(21)IVFAPにおける緑内障発症のメカニズムTTRがアミロイドになるメカニズムに関しては,種々の要因によるTTRの四量体の不安定化から単量体,ミスフォールディングを経てアミロイドを形成するといわれているが,まだまだ未知の部分も多い.眼組織においては,前述のように網膜色素上皮がTTRのおもな産生部位であるが,毛様体色素上皮からも一部産生されている.これらの遺伝子変異による異型TTRがアミロイ障を4名(67%)に認めた.つぎにFAPにおける緑内障に対する治療戦略であるが,まずは点眼加療を行うが,ほとんどの症例において抵抗性であり,手術を要している.本稿では詳細を割愛させていただく(投稿準備中)が,第一選択はマイトマイシン併用線維柱帯切除術であり,多くの症例で再手術を要し,他の緑内障病型と比較して明らかに成績は不良であった.合併症が特徴的であり,encapsulatedbleb(図4)とoculardecompressionretinopathy7)を高率に認めた.Encapsulatedblebは,比較的おだやかな刺激による線維芽細胞の活性化が示唆されているが,筆者らの基礎実験の結果でも結膜下へのアミロイド沈着が軽度の炎症を惹起し,encapsulatedbleb形成に関与している可能性が示唆されている.Oculardecompressionretinopathyは,線維柱帯切除術直後に生じるびまん性の点状・斑状出血であり,比較的まれな合併症といわれており,急激な眼圧下降による網膜血管の自己調節能の破綻が原因といわれているが,FAPの場合全身症状として自律神経失調があるため,よりこの病態を生じやすいと考えられる.前述したように,最近FAPは集積地のみでなく全国各地で遭遇する可能性のある疾患であることがわかってきており,水晶体面上や瞳孔縁の白色物質や硝子体混濁を見たときに,これをFAPと疑い,内科との連携のうえでFAPの診断へと導くことは,その患者に早期に肝移植への道を拓くことになり,眼科医の果たす役割は重要であると思われる.図3瞳孔縁や水晶体面上へのアミロイド沈着(A)と瞳孔の変化(fringedpupil)(B)AB4FAP患者におけるencapsulatedblebEncapsulatedblebは,血管に富んだ隆起性かつ限局性の濾過胞で,壁は厚く,表面はドーム状で平滑であり,機能的なblebと異なり,多胞性でない.術後28週に生じることが多く,発症頻度は2.529%といわれている.———————————————————————-Page4304あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(22)おわりにFAPにおける緑内障の臨床像とメカニズムについて概説した.肝移植の導入による生命予後の改善に伴い,今後もつぎつぎと新たな緑内障症例の発症・進行が予想される.他の緑内障病型に比べ難治であり,新たな術式の開発やさらなる病態の解明が必要である.文献1)ArakiS:TypeIfamilialamyloidoticpolyneuropathy(Jap-anesetype).BrainDev6:128-133,19842)AndoE,AndoY,OkamuraRetal:OcularmanifestationsoffamilialamyloidoticpolyneuropathytypeI:long-termfollowup.BrJOphthalmol81:295-298,19973)KawajiT,AndoY,NakamuraMetal:Transthyretinsynthesisinrabbitciliarypigmentepithelium.ExpEyeRes81:306-312,20054)AndoE,AndoY,HaraokaK:Ocularamyloidinvolve-mentafterlivertransplantationforpolyneuropathy.AnnInternMed135:931-932,20015)KimuraA,AndoE,FukushimaMetal:Secondaryglau-comainpatientswithfamilialamyloidoticpolyneuropathy.ArchOphthalmol121:351-356,20036)KawajiT,AndoY,NakamuraMetal:Ocularamyloidangiopathyassociatedwithfamilialamyloidoticpolyneu-ropathycausedbyamyloidogenictransthyretinY114C.Ophthalmology112:2212-2218,20057)WakitaM,KawajiT,AndoEetal:OculardecompressionretinopathyfollowingtrabeculectomywithmitomycinCassociatedwithfamilialamyloidoticpolyneuropathy.BrJOphthalmol90:515-516,20068)FutaR,InadaK,NakashimaHetal:Familialamyloidoticpolyneuropathy:ocularmanifestationswithclinicopatho-logicalobservation.JpnJOphthalmol28:289-298,19849)Silva-AraujoAC,TavaresMA,CottaJSetal:Aqueousoutowsysteminfamilialamyloidoticpolyneuropathy,Portuguesetype.GraefesArchClinExpOphthalmol231:131-135,199310)NelsonGA,EdwardDP,WilenskyJT:Ocularamyloidosisandsecondaryglaucoma.Ophthalmology106:1363-1366,1999ドとなり,一番の好発部位である血管周囲に加え,硝子体,毛様体,虹彩,水晶体面上などに沈着する.そして房水の流れに乗って,房水流出路にも沈着するのであるが,特に内皮網への沈着が著明で,図5に示すように,べったりとSchlemm管内壁の内皮網にアミロイドが沈着している.電子顕微鏡で観察すると,アミロイド沈着に加え微小構造の変性を認め8,9),アミロイドそのものによる影響と思われる.したがって,アミロイド沈着により房水流出路の構造変化が生じ,房水流出抵抗が増加し眼圧上昇をきたすのが,アミロイド緑内障の主要なメカニズムと考えられる.また,もう一つの可能性として,血管周囲へのアミロイド沈着に伴う上強膜静脈圧の上昇が示唆されている9).上強膜静脈圧は眼圧を規定する重要な因子であり,剖検眼での血管周囲への強いアミロイド沈着を見ると,その可能性は十分に考えられると思われる.図5内皮網へのアミロイド沈着Congored染色にて赤紫色に染まるアミロイドをSchlemm管内壁の内皮網に認める(矢印).

ステロイド緑内障の今

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSに有効であることが明らかになったこと3)や,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞疾患に合併する黄斑浮腫の軽減や脈絡膜新生血管の退縮などにも効果があることがわかり,トリアムシノロンが網膜硝子体疾患の治療薬としてや手術補助薬として広く用いられるようになった.トリアムシノロンの投与が増えるに伴い,近年,トリアムシノロン誘発性眼圧上昇がクローズアップされるようになった.IIステロイド緑内障の発症機序ステロイド緑内障患者の線維柱帯組織には,細胞外マトリックスの異常蓄積がみられること4)や,培養実験でステロイド刺激による線維柱帯細胞の細胞外マトリックスの産生亢進5)や貪食作用の低下6)がみられることなどがさまざまな研究グループから報告されている.また,グルココルチコイド受容体アルファとよばれる細胞内の受容体がステロイドと結合し,核内転写因子を活性化させることが知られている7).したがって,ステロイドが線維柱帯細胞のステロイド受容体に作用して,細胞外マトリックスの産生亢進や貪食機能低下を惹起させ,線維Iステロイド緑内障の歴史ステロイドの臨床応用は,1948年にアメリカのHenchらが副腎皮質から単離されたステロイドを慢性関節リウマチの患者に投与し劇的にその症状が改善した報告が始まりとされている1).この臨床応用の後,さまざまな自己免疫疾患でステロイドが用いられるようになったが,同時に,ステロイドによる副作用もつぎつぎ指摘され,Henchはこの功績でノーベル医学生理学賞を受賞したにもかかわらず,ステロイドによる副作用があまりにも深刻であるため,晩年,意気消沈していたという(表1).ステロイド投与による眼副作用には,緑内障や白内障,ヘルペス性角膜炎などの眼感染症の誘発などがあり,特に,緑内障は,1950年代からすでにステロイドの副作用として報告されており2),ステロイドを全身投与されている患者でも点眼治療を受けている患者でも常に注意の必要な眼合併症の一つである.2000年代に入ってから,徐放性ステロイド薬トリアムシノロンが硝子体手術における硝子体の可視化に用いられ,トリアムシノロンの使用が,硝子体手術における合併症の減少(13)295Inn8608556111特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):295299,2009ステロイド緑内障の今Steroid-InducedGlaucomaNow稲谷大*表1ステロイドの副作用眼局所投与全身投与ステロイド緑内障,白内障,角膜ヘルペス,角膜真菌症,創傷治癒遅延緑内障,白内障,感染症誘発,糖尿病,高血圧,消化性潰瘍,精神障害,骨粗鬆症,血栓,副腎不全,脂肪沈着,多毛,皮膚萎縮,心不全,月経異常,更年期症状,白血球増加———————————————————————-Page2296あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(14)ともと続発性の眼圧上昇をしやすい疾患であるために,ステロイドレスポンダーかどうかの判断がむずかしい.ステロイドレスポンダーの頻度に関する報告は,ステロイドの投薬内容や患者背景に大きく依存しているので,その頻度についてはまちまちであるが,一般的に正常人のおおよそ1040%で存在するようであり,そのうち約5%で著しい眼圧上昇をきたす素因があるとされている.ステロイドレスポンダーの鑑別方法として,ステロイド負荷試験があり,Armalyの方法10)とBeckerの方法11)とが有名である(表3).しかし,過去にステロイドによる眼圧上昇の既往がなくても,徐放性ステロイド薬であるトリアムシノロンを注射すると,13%の症例で眼圧上昇をきたしたという報告もある12).したがって,ステロイド負荷試験で陽性の患者に関しては,その患者ではステロイド投与による眼圧上昇が起こりやすいという情報が得られたという程度にとどめておくべきであり,陰性の患者がステロイドで眼圧が上がらないという保証ではないことに注意したい.Vステロイド緑内障に対する対処ステロイドによる眼圧上昇がみられた場合は,速やかにステロイド投薬を中止する.Garbeらの1997年の報告13)によると,ステロイドの内服治療を受けていた症例のうち,眼圧上昇のリスクが高いのは,ステロイドの柱帯組織への細胞外マトリックスの異常蓄積による房水流出抵抗の増大がひき起こされていると考えられている.IIIステロイド緑内障の診断ステロイド緑内障は,隅角や前房に特徴的な所見がなく,原発開放隅角緑内障や高眼圧症の臨床所見と非常に似ている.ステロイドによる眼圧上昇は,休薬すれば眼圧が下降する症例がほとんどであり,ステロイドが投薬されていることが問診で判明すれば,まず,ステロイドの休薬を行う.ステロイドの点眼薬が処方されていて,片眼のみに点眼されている症例では,左右眼の眼圧値の差が鑑別のポイントになる.また,両眼に点眼されている症例では,片眼のみ休薬して,休薬した眼のみ眼圧が下降すればステロイド緑内障と診断できる.ステロイド緑内障では,ステロイドを投与されてからの眼圧上昇であるために高眼圧の期間が短く,慢性的な緑内障と比較して,眼圧が高い割には,緑内障視神経症の所見に乏しい症例が多い傾向にある.IVステロイドレスポンダーの診断法とその患者背景ステロイドを投与すると,眼圧が上昇しやすい人とそうでない人がいる.ステロイドで眼圧が上がりやすい人をステロイドレスポンダーとよぶ.若年者には,ステロイドレスポンダーが多いことが知られている.斜視手術を行った10歳未満の小児の術後点眼で0.1%デキサメタゾンを処方すると,ほとんどの患者で高眼圧を合併するが,同じ点眼処方でも10歳以上の患者では,眼圧上昇を合併しないことが報告されている8).一方,10歳未満の小児の斜視手術後のステロイド点眼で,0.1%デキサメタゾン点眼薬の代わりに,0.1%フルオロメトロン点眼薬を投与しても眼圧上昇を起こすことはないことから,眼圧上昇は,ステロイドの投薬内容にも依存している9)(表2).その他,ステロイドレスポンダーの危険因子として,開放隅角緑内障を合併した患者,強度近視の症例,糖尿病患者に多いという報告がある.また,ぶどう膜炎や網膜中心静脈閉塞症を合併している症例では,ステロイドで眼圧上昇しやすいという報告もあるが,も表3ステロイド負荷試験Armalyの方法Beckerの方法使用薬物使用法分類陰性陽性強陽性0.1%デキサメタゾン3回/日,4週間眼圧上昇度6mmHg未満615mmHg16mmHg以上0.1%ベタメタゾン4回/日,6週間眼圧絶対値20mmHg未満2031mmHg32mmHg以上表2ステロイド点眼薬の種類と眼圧上昇作用との関係0.1%ベタメタゾン(リンデロンR)0.1%デキサメタゾン(ビジュアリンR)0.1%フルオロメトロン(フルメトロンR)0.02%フルオロメトロン(フルメトロンR)眼圧上昇作用(文献9より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009297(15)り多い投与量,投与前のより高い眼圧値が,リスクファクターであることが確認された(表4,5).トリアムシノロンは,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞疾患の黄斑浮腫の治療に用いられるため,黄斑浮腫の再発した症例には,くり返しトリアムシノロンが投与されることも多い.くり返し投与の際も硝子体内注射をくり返したり,大量のトリアムシノロンの注射をくり返したりした場合に眼圧上昇しやすい.また,2回目の注射の際に,1回目の注射で眼圧上昇する症例は,ステロイドレスポンダーを意味するので,1回目の注射で眼圧上昇が著しい症例には,2回目の注射は控えたほうがよい.VIIトリアムシノロン誘発性眼圧上昇の特徴筆者らが行った多施設調査からわかったこととして,トリアムシノロンを投与して眼圧が上がり始める時期は,1カ月以内が圧倒的に多く,2カ月以内,3カ月以内の順で頻度は少なくなっていく.3カ月以上経ってから,眼圧が上がり始めることはきわめてまれであり,トリアムシノロンを注射してから,最初の3カ月間は,こまめに眼圧を測っておいたほうがよい.眼圧が上昇する症例の約9割が,無治療か緑内障点眼薬を処方するだけで正常眼圧に回復していたことがわかり,やはり,トリアムシノロンによる眼圧上昇もその他のステロイドによる眼圧上昇と同様に可逆性の眼圧上昇ということになる.一方,緑内障手術が必要となってしまった症例は,投薬が継続している症例であり,15日以上休薬していた症例には,眼圧上昇のリスクは有意ではないということが示されており,ステロイドによる眼圧上昇はステロイドを中止することで可逆的に眼圧が正常化するということになる.しかし,きわめて長期にステロイドを投与され続けた場合には,ステロイドを中止しても,眼圧が正常化しない症例もある.膠原病や白血病の化学療法のためのステロイドの全身投与のために中止が無理な場合には,緑内障点眼薬によって,眼圧下降治療を行う.VIトリアムシノロン誘発性眼圧上昇の危険因子とその治療ブリストルマイヤーズ社が製造するトリアムシノロンアセトニド(ケナコルトR-A)が網膜硝子体疾患で用いられている.1アンプル1mlに40mgのケナコルトRが含まれている.もともと,整形外科の治療で慢性関節リウマチや関節周囲炎で関節腔内に注射する目的のための薬剤であるが,現在では皮膚炎やアレルギー性鼻炎にも用いられている.徐放性のステロイド薬であり,1回の注射後,組織内に滞留し,効果の持続時間が長いのが特徴であるため,眼圧上昇が起こってしまうと,眼圧上昇が遷延してしまうのが問題点である.トリアムシノロン誘発性眼圧上昇の頻度は,10%前後から50%まで,報告によってまちまちである.トリアムシノロンの投与方法や投与量が異なると,眼圧上昇の頻度が大きく異なるようである1419).筆者の施設でも,トリアムシノロン1アンプルすべて(40mg)をTenon下注射で行うと,全体の22.6%で眼圧上昇をきたした20)が,半量の20mgに減量すると,眼圧上昇した症例はきわめて少なくなることがわかった.そこで,筆者らは,トリアムシノロン誘発性眼圧上昇の頻度とその危険因子を決定するために,全国6施設で,多施設調査を行っている21).その結果では,トリアムシノロンを投与して,眼圧上昇(24mmHg以上)をきたした割合は11.7%であった.トリアムシノロンの投与方法には,Tenon下注射と硝子体内注射の2種類の方法があるが,硝子体内注射のほうがTenon下注射よりも眼圧が上昇しやすい.トリアムシノロンによる眼圧上昇も過去のステロイドレスポンダーとして指摘されていた因子である若年者,よ表4トリアムシノロン誘発性眼圧上昇の危険因子変数ハザード比(95%信頼区間)p値年齢(歳)糖尿病硝子体内注射含むベースライン眼圧(mmHg)0.96(0.950.98)0.76(0.551.02)1.89(1.412.52)1.15(1.051.27)<0.00010.068<0.00010.003(文献21より)表5トリアムシノロンTenon下注射による眼圧上昇の危険因子変数ハザード比(95%信頼区間)p値年齢(歳)糖尿病用量(mg)ベースライン眼圧(mmHg)0.96(0.940.99)0.91(0.601.38)1.07(1.031.12)1.31(1.131.52)0.0030.6470.00060.0003(文献21より)———————————————————————-Page4298あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(16)イド緑内障に対しては,トラベクレクトミーが選択されることが多いようであり,その術後経過も良好である2426).ステロイドの投与は,トラベクレクトミーで作製された濾過胞を維持安定化させる効果があることが知られており27),すでにステロイドを長期間継続しているステロイド緑内障は,濾過胞が形成維持されやすく,手術成績がよいのかもしれない(図2).しかし,トラベクレクトミーでは,濾過胞感染のリスクがあり,膠原病などの全身疾患のためにステロイドを継続して投薬され続けなければならない患者で,緑内障視神経障害が進行していない症例にも,トラベクレクトミーで厳格に眼圧下降すべきかどうかに関しては,議論の余地があり,ステロイド緑内障に対する適切な観血治療の選択についてはさらに検証が必要である.文献1)HenchPS,KendallEC,SlocumbCHetal:Eectsofcorti-soneacetateandpituitaryACTHonrheumatoidarthritis,rheumaticfeverandcertainotherconditions.ArchInternMed85:545-666,19502)SternJJ:Acuteglaucomaduringcortisonetherapy.AmJOphthalmol36:389-390,19533)YamakiriK,SakamotoT,NodaYetal:Reducedinci-全体の1.4%,眼圧が上昇した症例の約1割であり,特に,8mgのトリアムシノロンを硝子体内注射した症例のなかでは,17.9%も観血治療を要していたことがわかり,大量の硝子体内注射は,緑内障点眼薬だけではコントロールしきれない頑固な眼圧上昇をきたすおそれがある.Tenon下注射では,半アンプル以下(20mg)で注射すると,観血治療を必要とした症例はみられなかった.薬効と副作用のバランスを考えると,硝子体内注射では4mg,Tenon下注射では20mgが適量である.VIIIステロイド緑内障に対する観血治療トリアムシノロンを含めて,ステロイド緑内障に対する観血治療は,トラベクロトミーが選択されることが多い(図1).筆者らのグループでステロイド緑内障に対するトラベクロトミーの術後成績を評価したところ,5年生存率(21mmHg以下)は,83.6%であった22).原発開放隅角緑内障に対するトラベクロトミーの成功率に関する過去の報告23)と比べても,ステロイド緑内障にはトラベクロトミーが効きやすいようである.ステロイド緑内障では,線維柱帯組織における細胞外マトリックスの増生によって,房水流出抵抗が増悪していると考えられる.したがって,その部位を切り開くトラベクロトミーが効きやすいのかもしれない.一方,海外では,ステロ1015202530354000.5123456789101112131415眼圧(mmHg)トラベクロトミー40mgトリアムシノロンTenon下注射緑内障薬物治療経過(カ月)図1トリアムシノロンTenon下注射で眼圧上昇した症例27歳,男性の糖尿病網膜症患者の胞様黄斑浮腫に対して,40mgのTenon下注射を行った.術後眼圧上昇をきたし,緑内障点眼薬で眼圧下降を試みたが,眼圧が上昇し続け,10カ月目にトラベクロトミーを施行した.その後,20mmHg未満に下降したが,視野障害が合併した.図2膠原病を合併したステロイド緑内障眼に対するトラベクレクトミー後の濾過胞写真眼圧は10mmHg前後で推移し経過良好であるが,濾過胞の壁が薄く,ステロイド内服も継続しており,今後も濾過胞感染のリスクもつきまとう.(文献9より)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009299(17)intravitrealinjectionoftriamcinolone:resultsfromaran-domizedclinicaltrial.ArchOphthalmol122:336-340,200418)ParkCH,JaeGJ,FekratS:Intravitrealtriamcinoloneacetonideineyeswithcystoidmacularedemaassociatedwithcentralretinalveinocclusion.AmJOphthalmol136:419-425,200319)MassinP,AudrenF,HaouchineBetal:Intravitrealtri-amcinoloneacetonidefordiabeticdiusemacularedema:preliminaryresultsofaprospectivecontrolledtrial.Oph-thalmology111:218-224,200420)IwaoK,InataniM,KawajiTetal:Frequencyandriskfactorsforintraocularpressureelevationafterposteriorsub-Tenoncapsuletriamcinoloneacetonideinjection.JGlaucoma16:251-256,200721)InataniM,IwaoK,KawajiTetal:Intraocularpressureelevationafterinjectionoftriamcinoloneacetonide:amulticenterretrospectivecase-controlstudy.AmJOph-thalmol145:676-681,200822)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Externaltrabecu-lotomyforthetreatmentofsteroid-inducedglaucoma.JGlaucoma9:483-485,200023)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicaleectsoftrabeculotomyabexternoonadulteyeswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfoliationsyndrome.ArchOphthalmol111:1653-1661,199324)SihotaR,KonkalVL,DadaTetal:Prospective,long-termevaluationofsteroid-inducedglaucoma.Eye22:26-30,200825)GilliesMC,SutterFK,SimpsonJMetal:Intravitrealtri-amcinoloneforrefractorydiabeticmacularedema:two-yearresultsofadouble-masked,placebo-controlled,ran-domizedclinicaltrial.Ophthalmology113:1533-1538,200626)GregoriNZ,RosenfeldPJ,PuliatoCAetal:One-yearsafetyandecacyofintravitrealtriamcinoloneacetonideforthemanagementofmacularedemasecondarytocen-tralretinalveinocclusion.Retina26:889-895,200627)AraujoSV,SpaethGL,RothSMetal:Aten-yearfollow-uponaprospective,randomizedtrialofpostoperativecor-ticosteroidsaftertrabeculectomy.Ophthalmology102:1753-1759,1995denceofintraoperativecomplicationsinamulticentercon-trolledclinicaltrialoftriamcinoloneinvitrectomy.Oph-thalmology114:289-296,20074)RohenJW,LinnerE,WitmerR:Electronmicroscopicstudiesonthetrabecularmeshworkintwocasesofcorti-costeroid-glaucoma.ExpEyeRes17:19-31,19735)YunAJ,MurphyCG,PolanskyJRetal:Proteinssecretedbyhumantrabecularcells.Glucocorticoidandothereects.InvestOphthalmolVisSci30:2012-2022,19896)MatsumotoY,JohnsonDH:Dexamethasonedecreasesphagocytosisbyhumantrabecularmeshworkcellsinsitu.InvestOphthalmolVisSci38:1902-1907,19977)EvansRM:Thesteroidandthyroidhormonereceptorsuperfamily.Science240:889-895,19888)OhjiM,KinoshitaS,OhmiEetal:Markedintraocularpressureresponsetoinstillationofcorticosteroidsinchil-dren.AmJOphthalmol112:450-454,19919)稲谷大:ステロイド緑内障.眼科手術20:41-43,200710)ArmalyMF:Statisticalattributesofthesteroidhyperten-siveresponseintheclinicallynormaleye.I.Thedemon-strationofthreelevelsofresponse.InvestOphthalmol4:187-197,196511)BeckerB:Intraocularpressureresponsetotopicalcorti-costeroids.InvestOphthalmol4:198-205,196512)LevinDS,HanDP,DevSetal:Subtenon’sdepotcorti-costeroidinjectionsinpatientswithahistoryofcortico-steroid-inducedintraocularpressureelevation.AmJOph-thalmol133:196-202,200213)GarbeE,LeLorierJ,BoivinJFetal:Riskofocularhypertensionoropen-angleglaucomainelderlypatientsonoralglucocorticoids.Lancet350:979-982,199714)JonasJB,KreissigI,DegenringR:Intraocularpressureafterintravitrealinjectionoftriamcinoloneacetonide.BrJOphthalmol87:24-27,200315)HirookaK,ShiragaF,TanakaSetal:Riskfactorsforelevatedintraocularpressureaftertrans-Tenonretrobul-barinjectionsoftriamcinolone.JpnJOphthalmol50:235-238,200616)BakriSJ,BeerPM:Theeectofintravitrealtriamcinolo-neacetonideonintraocularpressure.OphthalmicSurgLasersImaging34:386-390,200317)GilliesMC,Simpso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