———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSI開放隅角,続発緑内障の原因遺伝子の解析以前より緑内障には家族歴が関係するとされており24),外来にても家族歴を有する症例に遭遇する頻度は1020%程度ある.緑内障原因遺伝子,緑内障感受性遺伝子が存在することは,個々の疾患に寄与する比率に違いはあるにせよ,明らかであると考えられる.1993年にPOAGの原因遺伝子が,大きな若年性開放隅角緑内障家系を用いて常染色体1番1q21-31へマッピング5)されたことが大きなきっかけとなり,それ以降の分子遺伝学的解析につながってきた.続発緑内障としては,後部多形性角膜ジストロフィ(posteriorpolymorphouscornealdystrophy:PPCD)の原因遺伝子座が,1995年に常染色体20番長腕(20q11)にマップされた6)時点あたりから,徐々に解析が進行してきた.原因がわかったおもな遺伝子として,線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座のある続発緑内障の原因遺伝子としてPPCD2のCOL8A2遺伝子,TCF8遺伝子,落屑症候群・落屑緑内障のLOXL1遺伝子,家族性アミロイドポリニューロパチーのtran-sthyretin遺伝子などがあげられる.他にも,原因遺伝子は単離されていないが,色素散布症候群,色素緑内障,小眼球症に伴う緑内障の原因遺伝子座がマップされている.まだまだ解析は途上であり,原因が究明されていない続発緑内障も多いが,以下に緑内障ガイドライン(表はじめに現在わが国における40歳以上の緑内障有病率は5%1)とされ,人口から概算して緑内障患者は約200万人にものぼり,高齢化に伴いその比率は増加する一方と推定される.病型別にみてみると閉塞隅角緑内障に比べ原発開放隅角緑内障(狭義)(primaryopen-angleglauco-ma:POAG)の比率が高く,なおかつわが国においては開放隅角である正常眼圧緑内障(normal-tensionglau-coma:NTG)が,POAGに対し10倍以上の頻度で存在する.続発緑内障は,緑内障診療ガイドラインによれば,他の眼疾患,全身疾患あるいは薬物使用が原因となって眼圧上昇が生じる緑内障と定義されている.多治見スタディではその有病率は0.5%と報告され,決して少ない数字ではない.実際に,診療の場において日々遭遇し,しばしば治療に苦慮することがある.緑内障特にPOAGに関しては,環境因子の関与や浸透率の低さ(遺伝子変異をもっていても必ずしも発症しない)などから一般的な病気(commondisease)と考えられる.続発緑内障に関しては,原因が一元的なものに関しては,その原因遺伝子がわかりつつある.発症初期において,開放隅角緑内障かまたは続発緑内障かどうか,その原因は何か,臨床的に診断するのが困難な例では,今後遺伝子診断が効果を発揮する場合もあると考えられる.以下に,続発緑内障遺伝子の今までの研究の概要と新しい情報を示したい.(3)285NobuoFuse980857411特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):285293,2009続発緑内障に関連した遺伝子はここまでわかったNewInsightsintoSecondaryGlaucoma-RelatedGenes布施昇男*———————————————————————-Page2286あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(4)PPCD2は角膜内皮基底膜の短鎖コラーゲンであるVIII型コラーゲンのa2鎖であるCOL8A2遺伝子が原因遺伝子である7).またこのCOL8A2遺伝子は早発のFuchs角膜内皮ジストロフィ(Fuchsendothelialcorne-aldystrophy:FECD)(図1,2)の原因遺伝子でもある.PPCD2もFECDも神経堤細胞由来の角膜内皮細胞の分化に影響を与えるコラーゲンをコードする遺伝子(COL8A2遺伝子)が原因ということになる.PPCD3は,角膜後面に突出した膜の形成,瞳孔偏位,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechiae:PAS)がみられ,トラベクレクトミー,Moltenoチューブ,Baerveldtチューブを使ったシャント手術が必要となった難治性の続発緑内障の発端者をもつ家系を用いて,常染色体10番にマップされ8),Znフィンガーホメオドメインをもつ転写因子であるTCF8遺伝子が原因であることが明らかにされた9).1;太字)の順番に沿って,紹介していく.1.続発開放隅角緑内障A.線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:pretrabecularform)まずは続発開放隅角緑内障(前房内上皮増殖による緑内障)の原因ともなるPPCDの大きな家系が,1995年Heonらによって常染色体20番長腕(20q11)にマップされた6).PPCDでは角膜内皮細胞のmetaplasia化生と異常増殖をきたすが,線維柱帯を覆うようになると続発開放隅角緑内障をひき起こすことがある.またHeonらは2002年に,VSX1(visualsystemhomeoboxgene1)遺伝子というホメオボックス(形態形成に関わる遺伝子のカスケードを制御する)をもつ遺伝子が原因遺伝子であることを明らかにした.このPPCDはPPCD1(OMIM#122000)とされ,PPCDには違う遺伝子座があることも解明されてきた.表1続発緑内障の分類Ⅱ.続発緑内障secondaryglaucoma1.続発開放隅角緑内障A.線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障secondaryopen-angleglaucoma:pretrabecularform例:血管新生緑内障,虹彩異色虹彩毛様体炎による緑内障,前房内上皮増殖による緑内障,などB.線維柱帯に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障secondaryopen-angleglaucoma:trabecularform例:ステロイド緑内障,落屑緑内障,原発アミロイドーシスに伴う緑内障,ぶどう膜炎による緑内障,水晶体に起因する緑内障,外傷による緑内障,硝子体手術後の緑内障,ghostcellglaucoma,白内障手術後の緑内障,角膜移植後の緑内障,眼内異物による緑内障,眼内腫瘍による緑内障,Schwartz症候群,色素緑内障,色素散布症候群,などC.Schlemm管より後方に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障secondaryopen-angleglaucoma:posttrabecularform例:眼球突出に伴う緑内障,上大静脈圧亢進による緑内障,などD.房水過分泌による続発開放隅角緑内障secondaryopen-angleglaucoma:hypersecretoryform2.続発閉塞隅角緑内障A.瞳孔ブロックによる続発閉塞隅角緑内障secondaryangle-closureglaucoma:posteriorformwithpupillaryblock例:膨隆水晶体による緑内障,小眼球症に伴う緑内障,虹彩後癒着による緑内障,水晶体脱臼による緑内障,前房内上皮増殖による緑内障,などB.水晶体より後方に存在する組織の前方移動による続発閉塞隅角緑内障secondaryangle-closureglaucoma:posteriorformwith-outpupillaryblock例:悪性緑内障,網膜光凝固後の緑内障,強膜短縮術後の緑内障,眼内腫瘍による緑内障,後部強膜炎・原田病による緑内障,網膜中心静脈閉塞症による緑内障,眼内充物質による緑内障,大量硝子体出血による緑内障,未熟児網膜症による緑内障などC.瞳孔ブロックや水晶体虹彩隔膜の移動によらない隅角癒着による続発閉塞隅角緑内障secondaryangle-closureglaucoma:ante-riorform例:前房消失あるいは浅前房後の緑内障,ぶどう膜炎による緑内障,角膜移植後の緑内障,血管新生緑内障,ICE症候群,虹彩分離症に伴う緑内障,など太字部分は本文中に詳述.(日眼会誌110:785-788,2006より抜粋引用)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009287(5)内障患者において顕著であること,家族歴,高度近視,糖尿病,関節リウマチなどの膠原病がある場合に眼圧が上がりやすいことが報告されており,何らかの因子が関係していると考えられている.もちろん,これらの因子がなくとも眼圧の上昇はありうるので,注意が必要である.Polanskyらは,線維柱帯にステロイドを加え培養したときに発現が誘導される蛋白を見出し,これをtrabe-cularmeshworkinducibleglucocorticoidresponse(TIGR)遺伝子と名づけた11).またKubotaらは,眼特異的に発現する遺伝子をクローニングし,細胞骨格蛋白と考えられるMyocilin遺伝子を発見した12).これら2つの遺伝子は同一のものであった.1993年に原発開放隅角緑内障の原因遺伝子が,大きな若年性開放隅角緑内障家系を用いて常染色体1番1q21-31へマッピング5)されていたが,ついに1997年にその原因がMYOC/TIGR遺伝子であることが明らかとされた13).培養ヒト線維柱帯にデキサメタゾンを添加したとき,816時間置いてMyocilin蛋白が発現誘導される14).当然,MYOC遺伝子はステロイドレスポンダーや,ステロイド緑内障の原因の候補遺伝子であるが,MYOC遺伝子の変異との統計学的相関はないとされている15).デキサメタゾンを培養ヒト線維柱帯に添加したときB.線維柱帯に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:trabecularform)(1)ステロイド緑内障一般にステロイドの点眼,眼周囲への投与,もしくは内服によって,眼圧が上昇する症例があるということはよく知られる.以前より,ステロイドによる眼圧の上昇は,いわゆるメンデルの法則に従う,単一遺伝子による常染色体遺伝と考えられてきた.しかし,眼圧上昇までのステロイド投与期間,眼圧上昇幅,投与量などにかなりばらつきがあること,デキサメタゾン点眼試験による眼圧上昇の再現性の検討では,眼圧上昇程度の再現性は低いことが報告されている10).眼圧の上昇は開放隅角緑図2Fuchs角膜内皮ジストロフィ内皮細胞数の減少と個々の細胞の拡大が認められる.内皮細胞の中に円形のdarkareaが散在する.図1Fuchs角膜内皮ジストロフィのスリット写真a:弱拡大,b:強拡大.Guttataを伴う角膜浮腫がみられる.ab———————————————————————-Page4288あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(6)されている(表2)1618).注目すべきは,どの報告においてもMYOC遺伝子の発現が上昇しており,何らかの形でステロイド緑内障に関わっている可能性が高いと考えられる.また,MYOC遺伝子と相互作用のある遺伝子(蛋白質)の解析は有用であり,これらの解析からステロイド緑内障の原因が究明される可能性もあると考えられる(図3).に,発現が上昇する遺伝子はステロイドレスポンダーや,ステロイド緑内障の原因解明のために非常に重要であり,今までいくつかのグループでDNAアレイが施行表2デキサメタゾンを培養ヒト線維柱帯に添加したときに発現が上昇する遺伝子発表者Ishibashiら(2002)Loら(2003)Rozsaら(2006)遺伝子Myocilin(MYOC)Decorin(プロテオグリカン;結合織の構成要素)Insulin-likegrowthfactorbindingprotein2(脳など諸臓器の機能調節)Ferritinlchain(細胞内における鉄の吸収や貯蔵)Fibulin-1C(細胞外の基底膜や弾性線維に関係する糖蛋白)Alpha1-antichymotrypsin(セリンプロテアーゼインヒビター;蛋白分解酵素であるプロテアーゼの活性を阻害)Myocilin(MYOC)Pigmentepithelium-derivedfactor(神経保護因子)Cornea-derivedtranscript6(抗血管新生因子,細胞外基質沈着)ProstaglandinD(2)synthase(プロスタグランジン合成)Angiopoietin-like7(酸化ストレスに反応)Myocilin(MYOC)SerumamyloidA1(急性期蛋白,炎症時に発現上昇)Alpha1-antichymotrypsin(セリンプロテアーゼインヒビター;蛋白分解酵素であるプロテアーゼの活性を阻害)ZincngerandBTBdomaincontaining16(細胞周期を制御する転写因子)おもな遺伝子名とその機能を5つずつ列挙した.図3文献に基づくMYOC遺伝子を中心とする遺伝子ネットワーク〔日本語バイオポータルサイト(http://www.bioportal.jp/)内コンテンツ,ゲノムビューアから許可を得て転載〕———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009289(7)70歳以上3.293.68%(緑内障0.820.86%)とされた20).最大3:1の割合で両側性が多く,日本,米国などでは片眼性が多い.落屑物質を有する症例は,315年で315%が緑内障に移行するとされる.2007年Thorleifssonらによるゲノムワイドな一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)解析により,常染色体15番長腕に位置するlysyloxidase-likeprotein1(LOXL1)遺伝子のエクソン1およびイントロン1の計3つのSNPが,落屑症候群,落屑緑内障と強く相関すると発表された21).LOXL1遺伝子はlysyloxidaseファミリーであり,tropoelastinのリジン残基の酸化的脱アミノ化を触媒し,エラスチンポリマーファイバーの架橋に関係する.LOXL1遺伝子は7つのエクソンからなり,篩状板,水晶体上皮,角膜,毛様体筋,線維柱帯に発現している.日本人においても多施設から,LOXL1遺伝子が落屑緑内障と強く関連していることが報告された(図5)2227).なお,今のところ緑内障を発症した症例群と非発症群との間には有意差は認められていない.SNPがLOXL1遺伝子のどのような機能に関係しているのか,これからの機能解析が待たれる.(3)アミロイドーシスに伴う緑内障家族性アミロイドポリニューロパチー(familialamy-loidoticpolyneuropathy:FAP)FAPとは,常染色体優性遺伝の全身性アミロイドーシスであり,さまざまな全身症状をきたす.眼症状として,緑内障,瞳孔異常,硝子体混濁,アミロイドアンギオパチーなどを示す.FAPでは,落屑症候群,落屑緑内障と同様に,瞳孔縁や水晶体前面に沈着物を認める.(2)落屑症候群,落屑緑内障落屑症候群(XFS;OMIM#177650)は,臨床的には落屑物質が前眼部に蓄積し緑内障神経症をひき起こす,extracellularmatrixの異常を原因とする疾患である.落屑物質は水晶体前面,瞳孔縁(図4),Zinn小帯,角膜内皮,隅角など眼組織のみならず,皮膚,心臓,肺,肝臓などの全身臓器にも存在する.落屑物質にはグリコサミノグリカンの存在が示唆されており,その過剰産生や異常代謝が病因の一つであると考えられてきた.落屑物質には基底膜成分や,弾性線維組織のエピトープが含まれる.落屑緑内障の有病率には地域差があり,高い有病率を示す地域として,アイスランド,フィンランドなどのスカンジナビア諸国とサウジアラビアがあげられる19).加齢とともに増加し,7090代で最大となる.多治見スタディでは40歳以上0.71%(緑内障0.25%),図4水晶体前面,瞳孔縁に沈着した落屑物質()コントロール落屑症候群POAGExon15¢3¢:T/T:T/G:G/G:T/T:T/G:G/G:T/T:T/G:G/G図5LOXL1遺伝子のR141L(rs1048661)の遺伝子型落屑症候群と,POAG,コントロール間に有意差を認める.T/T:Tアレルホモ接合.T/G:T/Gヘテロ接合.G/G:Gアレルホモ接合.落屑症候群ではT/Tが有意に多い.———————————————————————-Page6290あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(8)しないという報告もされている34).今のところ,色素散布症候群において眼圧が上昇し色素緑内障になるためには,遺伝子を含め多因子が絡みあうことが必要と考えられる.2.続発閉塞隅角緑内障A.瞳孔ブロックによる続発閉塞隅角緑内障(secondaryangleclosureglaucoma:posteriorformwithpupillaryblock)小眼球症に伴う緑内障“Simple(pure)microphthalmos”とよばれるnano-phthalmosは全身的な合併症を伴わない小眼球症である.常染色体優性,劣性の両方が報告されている.その臨床像は,短眼軸長,高度の遠視,高い水晶体/眼球体積比,小角膜径(図6)と高率に閉塞隅角緑内障を合併することである.閉塞隅角緑内障は,解剖学的な虹彩,水晶体の位置関係による瞳孔ブロックが発症起点となる.小眼球は胎生期に眼球の発達が障害されたと考えられ,動物モデルでは,種々の転写因子が関係することは示唆されているが,遺伝的,生化学的原因はよくわかっていない.Othmanらは22例の小眼球症を含む常染色体優性遺伝を示す家系autosomaldominantnanophthalmos(NNO1)において,連鎖解析を行いこの家系が常染色体11番短腕に連鎖することを報告した35).この22症進行すると,脱円様の瞳孔(fringedpupil)を認めるようになる.緑内障発症の危険因子は,沈着物,fringedpupil,硝子体混濁とされる28).FAPの原因遺伝子は,トランスサイレチン(transthyretin)遺伝子であり,その変異によって起こるアミロイドパチーが報告されている29).(4)色素散布症候群,色素緑内障色素緑内障は,虹彩からの色素顆粒と関係があるといわれる.虹彩色素上皮から遊離したメラニン顆粒は,前房水によって前房に運ばれ,線維柱帯に沈着する.線維柱帯への色素の沈着は房水抵抗を上昇させ,眼圧上昇をひき起こす.色素散布症候群のうち50%は色素緑内障をひき起こすといわれる30).白人における頻度は12%と少なくないが,日本人での症例報告は少ない.Andersonらは,4家系のおもにアイルランド系の大きな家系を用いて常染色体7番長腕7q35-q36にマップされることを示した31).これはPOAGの原因遺伝子座の一つGLC1Fに非常に近いがオーバーラップはしていない.色素散布症候群,色素緑内障のモデル動物であるDBA/2Jマウスにおいて,色素散布はメラノソーム蛋白のGpnmbという遺伝子が関係していることが示された32).メラニン合成系に関与するチロシナーゼ関連蛋白(tyrosinase-relatedprotein1:TYRP1)遺伝子が虹彩萎縮に関与することが示唆され,実際DBA/2JマウスはTYRP1遺伝子Cys110Tyr,Arg326Hisの変異をもつことが示されている.DBA/2Jマウスの隅角では,著明な虹彩前癒着がみられる.ヒトにおいても,線維柱帯の変性がみられるが,異なる遺伝子が原因の可能性がある.色素散布症候群において,マウスGpnmbに相当するヒトGPNMBの蛋白翻訳領域のスクリーニングでは,変異が認められていない.TYRP1遺伝子でも,色素散布症候群,色素緑内障において変異は見つかっていない33).このTYRP1遺伝子は,常染色体劣性の白子症(non-syndromicoculocutaneousalbinism3:OCA3)の原因として報告されているが,白子症において色素緑内障のリスクが高まるという報告はない.また,前述の落屑症候群,落屑緑内障の原因遺伝子LOXL1遺伝子は色素散布症候群,色素緑内障には関与図6小眼球の前眼部角膜径9mmと小さい.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009291(9)例は眼軸長平均18.13mmと短く,屈折平均+9.88Dとかなりの遠視であり,12症例で閉塞隅角緑内障を発症していた.ちなみにこのNNO1遺伝子座の近くには,無虹彩症の原因で有名なPAX6遺伝子(OMIM#106210)があるが,マイクロサテライトマーカーの位置関係により除外されている.また,臨床像,遺伝形式,染色体の位置などは常染色体14番14q32の先天小眼球(congenitalmicrophthal-mia;OMIM#251600)やlenzmicrophthalmia(OMIM#309800)やoculodentodigitalsyndrome(OMIM#164200)に伴う小眼球症とは異なっており,小眼球症の原因も多岐にわたっていることが推測される.B.水晶体より後方に存在する組織の前方移動による続発閉塞隅角緑内障(secondaryangleclosureglau-coma:posteriorformwithoutpupillaryblock)例として悪性緑内障,網膜光凝固後の緑内障,強膜短縮術後の緑内障,眼内腫瘍による緑内障などが列記されているが,組織の前方移動という機械的原因にもよるため,現在この項目にあてはまる疾患の原因遺伝子は報告がされていない.C.瞳孔ブロックや水晶体虹彩隔膜の移動によらない隅角癒着による続発閉塞隅角緑内障(secondaryangleclosureglaucoma:anteriorform)虹彩角膜内皮症候群(iridocornealendothelialsyn-drome:ICE症候群),虹彩分離症臨床所見として,角膜内皮細胞数の低下,虹彩萎縮,瞳孔偏位,眼圧上昇がみられる.ICE症候群は臨床上Chandler,Cogan-Reese,進行性本態性虹彩萎縮(pro-gressiveessentialirisatrophy)に分類されるが,その原因は同定されていない.基本的に病態は前眼部の形成異常であり,iridogoniodysgenesisやanteriorchambercleavagesyndromeなどの原因遺伝子である,FOXC1遺伝子やPITX2遺伝子のような形態形成に関与する転写因子の可能性があると考えられる.II一塩基多型(singlenucleotidepolymor-phism:SNP)を用いた相関解析全ゲノム・SNPジェノタイピングゲノム情報を個人個人で比べると,ほとんどの部分はまったく同じ配列だが,一部に個人によって異なる配列が存在する.これを「DNA多型」とよび,その多型にもいくつかの種類が存在する.そのうちゲノム上に最も高頻度に存在するのが,一つの塩基のみが異なる塩基の変異の頻度が1%以上の「SNP」とよばれる最も一般的な多型である(現時点で数百万カ所以上のSNPが確認されている).SNPは全ゲノム上にわたり非常に高密度(250300bpごと)に存在する.このSNPを用いた表現型・遺伝型の相関解析が盛んに行われており,たとえば緑内障原因遺伝子であるWDR36遺伝子のSNPとPOAGの表現型(視野の重症度)に相関があることが報告されている36).当然,遺伝子,SNP間でも相互作用があり,遺伝子間相互作用gene-geneinteractionが解析されてきている.これからは,遺伝子間の相互作用の研究とともに,環境因子との関連(gene-environmentinteraction)解析も必要となってくるであろう.近年国際HapMapプロジェクトに基づく30万カ所以上のSNPを用いた,全ゲノム・SNPジェノタイピング用のDNAチップが利用可能となってきている.2007年にLOXL1遺伝子のSNPにより落屑緑内障の疾患感受性が高まることが報告され,続発緑内障の解析に大きく道を開いたが,用いられた手法は約30万カ所ものSNPマーカーを測定するチップを用いた,全ゲノムのタイピングであった.おわりに緑内障遺伝子診断を行う目的は,2つ存在すると考えられる.一つは,すでに緑内障を発症している患者の確定診断と,もう一つは緑内障発症前診断である.発症初期において,原発開放隅角緑内障かまたは続発緑内障かどうか,続発緑内障としたらその原因は何か,臨床的に診断するのが困難な例では,遺伝子診断が効果を発揮することになる場合もあると考えられる.近年,緑内障の治療はすぐれた薬物療法,手術療法はあるが,それでも緑内障性視神経症を食い止められない症例が存在する.さらに,遺伝子診断が進めば,各疾患に対する標的治療も可能になってくると考えられる.———————————————————————-Page8292あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)WilsonMR,HertzmarkE,WalkerAMetal:Acase-con-trolstudyofriskfactorsinopenangleglaucoma.ArchOphthalmol105:1066-1071,19873)SungVC,KoppensJM,VernonSAetal:Longitudinalglaucomascreeningforsiblingsofpatientswithprimaryopenangleglaucoma:theNottinghamFamilyGlaucomaScreeningStudy.BrJOphthalmol90:59-63,20064)LeskeMC,WuSY,HennisAetal:Riskfactorsforinci-dentopen-angleglaucoma:theBarbadosEyeStudies.Ophthalmology115:85-93,20085)SheeldVC,StoneEM,AlwardWLetal:Geneticlink-ageoffamilialopenangleglaucomatochromosome1q21-q31.NatGenet4:47-50,19936)HeonE,MathersWD,AlwardWLetal:Linkageofpos-teriorpolymorphouscornealdystrophyto20q11.HumMolGenet4:485-488,19957)BiswasS,MunierFL,YardleyJetal:MissensemutationsinCOL8A2,thegeneencodingthealpha2chainoftypeVIIIcollagen,causetwoformsofcornealendothelialdys-trophy.HumMolGenet10:2415-2423,20018)MoroiSE,GokhalePA,SchteingartMTetal:Clinico-pathologiccorrelationandgeneticanalysisinacaseofposteriorpolymorphouscornealdystrophy.AmJOphthal-mol135:461-470,20039)KrafchakCM,PawarH,MoroiSEetal:MutationsinTCF8causeposteriorpolymorphouscornealdystrophyandectopicexpressionofCOL4A3bycornealendothelialcells.AmJHumGenet77:694-708,200510)PalmbergPF,MandellA,WilenskyJTetal:Therepro-ducibilityoftheintraocularpressureresponsetodexame-thasone.AmJOphthalmol80:844-856,197511)PolanskyJR,FaussDJ,ChenPetal:Cellularpharmacol-ogyandmolecularbiologyofthetrabecularmeshworkinducibleglucocorticoidresponsegeneproduct.Ophthal-mologica211:126-139,199712)KubotaR,NodaS,WangYetal:Anovelmyosin-likeprotein(myocilin)expressedintheconnectingciliumofthephotoreceptor:molecularcloning,tissueexpression,andchromosomalmapping.Genomics41:360-369,199713)StoneEM,FingertJH,AlwardWLetal:Identicationofagenethatcausesprimaryopenangleglaucoma.Science275:668-670,199714)ShepardAR,JacobsonN,FingertJHetal:Delayedsec-ondaryglucocorticoidresponsivenessofMYOCinhumantrabecularmeshworkcells.InvestOphthalmolVisSci42:3173-3181,200115)FingertJH,ClarkAF,CraigJEetal:Evaluationofthemyocilin(MYOC)glaucomageneinmonkeyandhumansteroid-inducedocularhypertension.InvestOphthalmolVisSci42:145-152,200116)IshibashiT,TakagiY,MoriKetal:cDNAmicroarrayanalysisofgeneexpressionchangesinducedbydexame-thasoneinculturedhumantrabecularmeshworkcells.InvestOphthalmolVisSci43:3691-3697,200217)LoWR,RowletteLL,CaballeroMetal:Tissuedieren-tialmicroarrayanalysisofdexamethasoneinductionrevealspotentialmechanismsofsteroidglaucoma.InvestOphthalmolVisSci44:473-485,200318)RozsaFW,ReedDM,ScottKMetal:Geneexpressionproleofhumantrabecularmeshworkcellsinresponsetolong-termdexamethasoneexposure.MolVis12:125-141,200619)ForsiusH:PrevalenceofpseudoexfoliationofthelensinFinns,Lapps,Icelanders,Eskimos,andRussians.TransOphthalmolSocUK99:296-298,197920)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecond-aryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,200521)ThorleifssonG,MagnussonKP,SulemPetal:CommonsequencevariantsintheLOXL1geneconfersusceptibilitytoexfoliationglaucoma.Science317:1397-1400,200722)HayashiH,GotohN,UedaYetal:Lysyloxidase-like1polymorphismsandexfoliationsyndromeintheJapanesepopulation.AmJOphthalmol145:391-393,200823)OzakiM,LeeKY,VithanaENetal:AssociationofLOXL1genepolymorphismswithpseudoexfoliationintheJapanese.InvestOphthalmolVisSci49:3976-3980,200824)MoriK,ImaiK,MatsudaAetal:LOXL1geneticpoly-morphismsareassociatedwithexfoliationglaucomaintheJapanesepopulation.MolVis14:1037-1040,200825)MabuchiF,SakuradaY,KashiwagiKetal:Lysyloxi-dase-like1genepolymorphismsinJapanesepatientswithprimaryopenangleglaucomaandexfoliationsyndrome.MolVis14:1303-1308,200826)FuseN,MiyazawaA,NakazawaTetal:EvaluationofLOXL1polymorphismsineyeswithexfoliationglaucomainJapanese.MolVis14:1338-1343,200827)TanitoM,MinamiM,AkahoriMetal:LOXL1variantsinelderlyJapanesepatientswithexfoliationsyndrome/glaucoma,primaryopen-angleglaucoma,normaltensionglaucoma,andcataract.MolVis14:1898-1905,200828)KimuraA,AndoE,FukushimaMetal:Secondaryglau-comainpatientswithfamilialamyloidoticpolyneuropathy.ArchOphthalmol121:351-356,200329)KawajiT,AndoY,NakamuraMetal:Ocularamyloidangiopathyassociatedwithfamilialamyloidoticpolyneu-ropathycausedbyamyloidogenictransthyretinY114C.Ophthalmology112:2212,200530)RichterCU,RichardsonTM,Gr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