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サプリメントサイエンス:ラクトフェリン

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094990910-1810/09/\100/頁/JCLSサプリメント名腸溶性ラクトフェリン製剤.構造式本製剤に使用される牛乳由来のウシのラクトフェリンは,分子量83,100(アミノ酸残基数689),アスパラギン結合型糖鎖が4カ所に結合している等電点8.28.9の塩基性糖蛋白質で,X線解析によって立体構造も明らかになっている(図1).胃内でペプシンにより容易に消化分解される.ヒトラクトフェリンと約70%のホモロジーがあり,ヒト細胞のレセプターとも結合する.3価の鉄イオンをトランスフェリンより260倍強くキレート結合する.鉄イオン以外に,銅,亜鉛などの金属イオンとも結合する.1分子中に2カ所結合部位があるが,市販されている牛乳由来のラクトフェリンは7090%がアポ型であり,末梢組織で遊離の鉄イオン(3価),銅イオン(2価)を強くキレート結合する.ラクトフェリンは,おもに哺乳動物のミルクに存在しているが,たとえば,涙,唾液,胆汁,精液などの他の外分泌液にも含まれ,また好中球にも存在する1).一般的な薬理・生理作用ラクトフェリンには,古くから抗菌・抗ウイルス作用,抗腫瘍作用,抗炎症作用,抗酸化作用など,さまざまな作用があることが知られている.最近,脂質代謝改善作用1),鎮痛作用,抗ストレス作用2),抗リウマチ作用3),肝ミトコンドリアDNAの酸化障害抑制作用4)なども明らかにされている.特に,ミトコンドリアDNAの酸化障害に対して,異常DNAの生成を抑えるだけでなく,修復酵素系の発現を保持するというエピジェネティックな作用が注目される.動物実験で経口摂取されたラクトフェリンの薬理作用を検討する場合,通常,ラクトフェリンを12%混飼した飼料で飼育する.この場合のラクトフェリン摂取量は,およそ300600mg/kg/dayと推定されている.これを,体重60kgのヒトに換算すると,1日当たり1836g摂取する必要があることになる.ラクトフェリンは胃内の酸性pH条件でペプシン消化されやすい蛋白質であることがわかっており,より少量のラクトフェリン量で臨床効果を発揮できるように,胃内の酸性pHで溶解せず,小腸の中性pH条件で崩壊するような,腸溶性サプリメントが実用化されている.小腸までインタクトな分子として届いたラクトフェリンは腸管からリンパ系を介して体内に移行すること5),脳血液関門を通過して脳内にも移行すること6)が証明されている.ラットで比較した場合,胃内投与と十二指腸投与とで腸管からリンパ液中への移行効率を比較したところ,腸溶製剤は1020倍効率よく体内に移行するこ(67)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑪監修=坪田一男11.ラクトフェリン川北哲也慶應義塾大学医学部眼科ラクトフェリンの実用化研究は,脂質代謝改善作用,鎮痛・抗ストレス作用,ミトコンドリアDNAの酸化障害抑制作用などの発見と腸溶性であることの臨床的な有用性が明らかになり,新たな局面を迎えている.涙腺細胞の若返り効果やSjogren症候群によるドライアイへの応用など,眼科領域においても大きな期待がもたれる.図1ウシラクトフェリンの分子構造黄色の部位がラクトフェリシン,●は鉄イオン.(写真提供:E.N.Baker博士,R.Kidd博士)———————————————————————-Page2500あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009と7)から,臨床的には,胃内滞留時間を考慮するとその差はさらに大きくなるものと推測され,1日当たりの摂取量が0.51g以下で十分な臨床効果が期待できる.実際,1日300mgのラクトフェリン腸溶錠を投与する二重盲検臨床試験を実施した結果,内臓脂肪面積,腹囲および体重が有意に減少した.後述するSjogren症候群による重症ドライアイに対する臨床試験では,270mg/dayのラクトフェリン腸溶製剤の投与で臨床効果が確認されている8).腸溶製剤の一種であるリポソーム包埋ラクトフェリン319mg/dayを健康な成人男性に投与する二重盲検試験の結果,ラクトフェリン投与群のみで顕著なインターフェロン-a産生量の増加が認められた.1日必要量(最低必要量と最適量の2つ)マウス実験感染モデルにおいて,経口投与した抗菌薬とラクトフェリンとの併用効果を調べた結果,ラクトフェリンの最小有効ドーズが0.05mg/mouseであった.これは,マウスの体重を20gと仮定すると,体重60kgのヒトでは150mgに相当する.すでに述べたように腸溶製剤であれば,この1/101/20に相当する約10mg/dayが臨床的な最小有効量と推定される.実際に販売されている腸溶性ラクトフェリン製剤の1日当たり摂取量は,150300mgが適量とされている.ラクトフェリンは,ラットでの13週反復経口投与試験で最大2,000mg/kgまで投与して問題となる有害作用は認められておらず,安全な食品添加物として認められている.これまで,長期にわたりサプリメントとして市販され,安全に摂取されている.したがって,症状に応じて増量しても問題ないと考えられる.どの食べ物にどれくらい入っているかラクトフェリンは,初乳に多く含まれ,昔,中国の西太后が若返りのためにヒトの初乳を飲んだといわれている.ウシの生乳には,20350mg/lのラクトフェリンが含まれる1)が,市販されている牛乳では滅菌工程で失活していると考えられる.眼科的に必要量と眼科の応用眼科領域でもラクトフェリンの臨床効果が認められている.たとえば,Sjogren症候群による重症ドライアイ患者に270mg/dayの腸溶性ラクトフェリン製剤を経口投与し,プラセボ剤投与群と比較した結果,ラクトフェ(68)リン摂取群でドライアイの症状が改善され,ゴブレット細胞の増加およびsquamousmetaplasiaの抑制が認められている8).老齢ラットにラクトフェリンを腸溶性顆粒剤として投与すると,涙腺上皮細胞の微細構造が若齢ラット様に変化したとの報告もある9).涙液中には,1ml中に0.72.2mgのラクトフェリンが含まれており,これは生乳についで多い1).サプリメントとしてのラクトフェリン摂取量としては,1日当たり300mg程度の腸溶剤の摂取で十分である.また,ラクトフェリンは水溶液中では不安定であるため,点眼液としては実用化されていない.摂取すべきかのエビデンスレベルA:摂取すべき(ラクトフェリンに関する基礎および臨床研究の結果から,エビデンスレベルとしては摂取すべきと考える).文献1)TakeuchiT,ShimizuH,AndoKetal:BovinelactoferrinreducesplasmatriacylglycerolandNEFAaccompaniedbydecreasedhepaticcholesterolandtriacylglycerolcon-tentsinrodents.BrJNutrition91:533-538,20042)KamemoriN,TakeuchiT,HayashidaKetal:Suppres-siveeectsofmilk-derivedlactoferrinonpsychologicalstressinadultrats.BrainRes1029:34-40,20043)HayashidaK,KanekoT,TakeuchiTetal:Oraladminis-trationoflactoferrininhibitsinammationandnociceptioninratadjuvant-inducedarthritis.JVetMedSci66:149-154,20044)TsubotaA,YoshikwaT,NariaiKetal:Bovinelactoferrinpotentlyinhibitslivermitochondrial8-OHdGlevelsandretrieveshepaticOGG1activitiesinLong-EvansCinna-monrats.JHepatology48:486-493,20085)TakeuchiT,KitagawaH,HaradaE:Evidenceoflactofer-rintransportationintobloodcirculationfromintestinevialymphaticpathwayinadultrats.ExpPhysiol89:263-270,20046)KamemoriN,TakeuchiT,SugiyamaAetal:Trans-endothelialandtrans-epithelialtransferoflactoferrinintothebrainthroughBBBandBCSFBinadultrats.JVetMedSci70:313-315,20087)TakeuchiT,JyonotsukaT,KamemoriNetal:Enteric-formulatedlactoferrinwasmoreeectivelytransportedintobloodcirculationfromgastrointestinaltractinadultrats.ExpPhysiol91:1033-1040,20068)DogruM,MatsumotoY.YamamotoYetal:LactoferrininSjoegren’ssyndrome.Ophthalmology114:2366-2367(e1-e4),20079)伊藤圭子:ラクトフェリンの経口投与によるラット涙腺の構造変化に関する組織学的観察.解剖誌81:41-52,2006

眼感染アレルギー:膠原病(関節リウマチ)による周辺部角膜浸潤

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094970910-1810/09/\100/頁/JCLS角膜浸潤とは,角膜実質内に生じた白色炎症性混濁である.さまざまな原因で生じるが,病変の部位や形状によって原因疾患を推測することが可能である.角膜中央部の浸潤はヘルペスや流行性角結膜炎などウイルス性疾患によるものが代表である.一方,周辺部に病変を生じるものとしては,慢性関節リウマチやWegener肉芽腫,結節性動脈炎,全身性エリテマトーデスといった非リウマチ性膠原病など全身性血管炎に基づいて発症するものと,ブドウ球菌性眼瞼結膜炎症例で,ブドウ球菌や細菌が産生した毒素に対するアレルギー反応によるカタル性角膜潰瘍がある.また,これらの周辺部角膜浸潤と同様の角膜周辺部に病変を生じる疾患としては,Mooren潰瘍(蚕蝕性角膜潰瘍)やTerrien周辺角膜変性,marginalfurrow,デレン(凹窩)があげられる.それぞれの疾患で特徴的な所見を有するが,病状の進展によりその形態は多彩である.隙灯顕微鏡所見の特徴関節リウマチによる角膜浸潤では,しばしば強膜炎を伴い,この強膜充血の強い部分と隣接して,角膜実質混濁と腫脹,角膜浸潤を伴う.浸潤は,角膜輪部と平行に弧状な形状を呈する.浸潤だけでなく潰瘍を生じることもあり,潰瘍も輪部に沿って拡大し,穿孔をきたすことも多い.角膜輪部と浸潤,潰瘍のあいだには透明帯(lucidinterval)が存在する.病変部,あるいは病変とは別の角膜周辺部に表層や実質深部の血管侵入を伴うことがあり,これは着目すべきポイントである.血管侵入は病変がくり返し再発していること,あるいは血管侵入部分に同様の病変を過去に起こしていることを意味する.また,関節リウマチでは,角膜浸潤や強膜炎以外にもドライアイや,虹彩炎を合併する場合がある.(65)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑯監修=木下茂大橋裕一16.膠原病(関節リウマチ)による周辺部角膜浸潤原祐子愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)関節リウマチをはじめとする膠原病では,角膜輪部に平行な弧状の角膜浸潤を呈するが,この独特な形状を呈する原因はいまだに解明されていない.本稿では,この浸潤の細隙灯顕微鏡所見の特徴と,周辺部角膜の免疫学的特性から,病態を考察する.図1周辺部角膜浸潤角膜輪部と平行に浸潤病巣を形成している.何度も再発しているため,表層血管新入もきたしている.図2壊死性強膜炎の合併図1と同一症例の強膜所見.強膜が薄くなりぶどう膜が透けて見えている.———————————————————————-Page2498あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009辺部角膜の免疫学的特徴周辺部角膜浸潤のメカニズムについてはいまだに判明していない点が多い.なぜ,輪部に平行で,ある一定の距離の部位に病変が出現するのか?再発する場合や反対眼に病変が出現する場合にも輪部からの距離は一定であり,その距離は症例によりほぼ決まっているといった規則性が存在しているようにも思われる.周辺部角膜は輪部血管,リンパ管に近接しており,角膜中央部とは別の免疫学的特徴をもつ13).補体,免疫グロブリンなどの免疫関連物質は,輪部血管網から拡散し角膜に分散する.そのため,これらの物質は角膜中央部に比べて角膜輪部に高濃度に存在する.補体はこの傾向が顕著で周辺部と中央部の濃度差は5倍にもなるとの報告もある.免疫グロブリンでは,IgMの分子量が大きいため,角膜実質内での拡散は制限され,角膜周辺部に蓄積しやすい特徴をもつ.また,Langerhans細胞などの抗原提示細胞も,角膜周辺部に多く存在しており,周辺部角膜の免疫反応は活性化しやすい状態になっている.関節リウマチは,内因性抗原に対する免疫複合体(66)(IgG,IgM)が角膜周辺部に沈着する.リウマチ因子はIgMであり,IgMの濃度は角膜周辺部に高いことは,周辺部に病態を形成する原因の一つになっている可能性がある.この免疫複合体は補体を活性化し,血管透過性を亢進させ,好中球,マクロファージを遊走させる.そして,白血球,角膜実質細胞からコラゲナーゼ,プロテアーゼ活性を上昇させ,組織障害をひき起こすIII型アレルギーが病因と考えられている.このほか,インターロイキン(IL)-1aやIL-1b,trans-forminggrowthfactor(TNF)-aなど各種サイトカインとの関連が示唆されるデータも出ているが,決定的な病態メカニズムには到達していない4).生体共焦点顕微鏡(コンフォーカルマイクロスコピー)を用いて,関節リウマチ患者の角膜を観察した所見が最近報告されている5).細隙灯顕微鏡では異常所見がない症例においても,活性化されたケラチノサイトが正常コントロールよりも多数存在する,また,角膜内神経が減少するなど,分子レベルでの異常が存在することが示唆される.これらの変化が周辺部角膜浸潤,潰瘍などに移行していくのだろうか.この特異な病態の解明につながっていくのではないかと楽しみである.文献1)TaylorPB,TabbaraKF:Peripheralcornealdiseases.IntOphthalmolClin26:29-48,19862)MondinoBJ:Inammatoryofperipheralcornea.Ophthal-mology95:463-472,19883)KervicGN,PugfelderSC,HimoviciRetal:Paracentralrheumatoidcornalulceration.Ophthalmology99:80-88,19924)OkamotoM,OkamotoS,OhashiYetal:Highexpressionofinterleukin-1betainthecornealepitheliumofMRL/lprmiceisunderthecontroloftheirgeneticbackground.ClinExpImmunol136:239-244,20045)VillaniE,GalimbrrtiD,ViolaFetal:Cornealinvolvementinrheumatoidarthritis:Aninvivoconfocalstudy.InvestOphthalmolVisSci49:560-564,2008図3周辺部角膜潰瘍浸潤が存在した同部位に潰瘍を形成し,角膜が菲薄化している.☆☆☆

緑内障:血管新生緑内障と濾過手術

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094950910-1810/09/\100/頁/JCLS血管新生緑内障の発症には,網膜虚血が大きくかかわっており,増殖糖尿病網膜症,網膜中心静脈閉塞症,眼虚血症候群が3大原因疾患となっている1).血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が血管新生の鍵となる分子で,網膜の虚血病変から産生され,前眼部に拡散することによって,隅角線維柱帯組織で血管新生をひき起こし,隅角表面が線維膜で覆われたり周辺虹彩前癒着が形成されたりして,房水流出抵抗が増大し,眼圧が上昇すると考えられる.管新生緑内障の患者の既往歴を聴取した後,散瞳による眼底検査を行う前に,細隙灯顕微鏡で瞳孔周辺の新生血管や,隅角検査で隅角の新生血管および周辺虹彩前癒着を観察する.それから眼底検査を行い,網膜虚血病変の有無をチェックする.明らかな新生血管がなくても蛍光造影を行うと瞳孔縁や隅角に蛍光漏出がみられることがあり,蛍光造影は新生血管の早期発見に有効な手段である2).眼底所見が乏しい割には,瞳孔縁に新生血管がみられるときは,眼虚血症候群を考え頸動脈エコー検査を行う.膜虚血の対処血管新生緑内障の予防および進行阻止には,網膜虚血病変に対する治療がまず必要である.その治療のなかでも汎網膜光凝固術を第一に選択する.汎網膜光凝固術はできる限り密なレーザー凝固を行う.硝子体出血があり,眼底の透見ができない場合には,硝子体手術を行い,眼内レーザーによって,汎網膜光凝固術を完成させる.網膜冷凍凝固術は,結膜に瘢痕形成が強く,将来の濾過手術を考えると,硝子体手術や濾過手術ができない症例に限定すべきである.管新生緑内障に対する濾過手術汎網膜光凝固術を行っても眼圧下降が不十分であれば,緑内障点眼薬を処方する.さらに,高眼圧が持続する場合には,わが国では,マイトマイシンC(MMC)を併用したトラベクレクトミーを施行するのが一般的である.しかし,術後の眼圧コントロールは,原発開放隅角緑内障に対するトラベクレクトミーに比較すると予後がかなり悪いようである.筆者の施設で血管新生緑内障に対するMMC併用トラベクレクトミーの手術成績を後ろ向きに調査したところ,おもに眼圧値で成功を判定すると,1年生存率が62.6%,2年生存率が58.2%,5年生存率が51.7%であった3).つまり,5年間で約半数の症例で再発し,そのうち1/3が1年以内に再発する計(63)●連載106緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也106.血管新生緑内障と濾過手術稲谷大熊本大学医学部附属病院眼科血管新生緑内障に対する濾過手術として,わが国ではマイトマイシンC(MMC)を併用したトラベクレクトミーが行われているが,その手術成績は,他の緑内障病型と比較して予後不良である.その手術予後に影響を与える患者背景として,若年者,硝子体手術の既往,糖尿病網膜症では両眼発症の血管新生緑内障がきわめて予後不良な術前因子である.最近,予後の改善,合併症の軽減を目的に,抗VEGF抗体ベバシズマブ(アバスチンTM)を用いたMMC併用トラベクレクトミーが試みられている.生存率(%)トラベクレクトミー術後(年)100806040200012345図1101例101眼の血管新生緑内障に対するMMC併用トラベクレクトミーの生命表解析22mmHg以上の眼圧値が2回連続,光覚弁視力喪失,再手術を不成功と定義している.(文献3より転載許可)———————————————————————-Page2496あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009算になる(図1).過去に5-フルオロウラシル併用トラベクレクトミーでは50歳以下の血管新生緑内障患者の手術予後はきわめて不良であると指摘されていた4)が,MMC併用トラベクレクトミーでも若年者の手術予後は不良であった(図2).また,血管新生緑内障を両眼発症している糖尿病網膜症患者では,片眼だけ血管新生緑内障を発症している糖尿病網膜症患者よりも手術予後が悪い,硝子体手術の既往のある症例は,MMC併用トラベクレクトミーの成績が有意に悪い,などの予後因子が明らかになった(図3).硝子体手術後のトラベクレクトミーが予後不良である理由としては,硝子体手術をする症例はそうでない症例と比べて病態がより重篤であるから,大きな侵襲の内眼手術を受けている症例は濾過胞形成に不利であるから,硝子体手術による結膜切開が濾過胞の形成維持を阻害しているから,などの理由が考えられる.トラベクレクトミーの前に硝子体手術をすることを控えるべきかどうかに関しては議論の余地がある.ベバシズマブを用いたMMC併用トラベクレクトミーMMC併用トラベクレクトミー以外の選択肢として,海外では,チューブシャント手術が行われている.しかし,EveryとMoltenoらが2006年に報告したMoltenoインプラントを用いた130例145眼の血管新生緑内障に対する手術成績は,1年生存率72%,2年生存率60%,5年生存率40%であり5),チューブシャント手術が,筆者らの報告したMMC併用トラベクレクトミーよりも劇的に良いという印象はない.最近,VEGFに対する中和抗体であるベバシズマブ(アバスチンR)を硝子体内注射した後にMMC併用トラ(64)ベクレクトミーを行う治療が試みられ注目されている.ベバシズマブをトラベクレクトミーの術中かその数日前に,11.25mg硝子体内注射を行うと,術後の前房出血が少なく新生血管も退縮し,手術経過は良いとの症例報告が発表されている6,7).今後,長期的な手術予後や対照群との比較結果など詳細な報告が期待される治療法である.文献1)Sivak-CallcottJA,O’DayDM,GassJDetal:Evidence-basedrecommendationsforthediagnosisandtreatmentofneovascularglaucoma.Ophthalmology108:1767-1776,20012)OhnishiY,IshibashiT,SagawaT:Fluoresceingonioan-giographyindiabeticneovascularization.GraefesArchClinExpOphthalmol232:199-204,19943)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-mywithmitomycinCforneovascularglaucoma:Prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmol147(2009,inpress)4)TsaiJC,FeuerWJ,ParrishRK2ndetal:5-Fluorouracillteringsurgeryandneovascularglaucoma.Long-termfollow-upoftheoriginalpilotstudy.Ophthalmology102:887-892,19955)EverySG,MoltenoAC,BevinTHetal:Long-termresultsofMoltenoimplantinsertionincasesofneovascu-larglaucoma.ArchOphthalmol124:355-360,20066)MikiA,OshimaY,OtoriYetal:Ecacyofintravitrealbevacizumabasadjunctivetreatmentwithparsplanavit-rectomy,endolaserphotocoagulation,andtrabeculectomyforneovascularglaucoma.BrJOphthalmol92:1431-1413,20087)CornishKS,RamamurthiS,SaidkasimovaSetal:Intrav-itrealbevacizumabandaugmentedtrabeculectomyforneovascularglaucomainyoungdiabeticpatients.Eye(2008,inpress)生存率(%)トラベクレクトミー術後(年)50歳£50歳100806040200012345生存率(%)トラベクレクトミー術後(年)硝子体手術の既往なし硝子体手術の既往あり100806040200012345図2血管新生緑内障に対するMMC併用トラベクレクトミーにおける手術予後の年齢での比較50歳以下の手術予後はきわめて不良である.図3血管新生緑内障に対するMMC併用トラベクレクトミーにおける手術予後の硝子体手術の既往の有無での比較硝子体手術の既往のある症例は,既往のない症例に比べて予後不良である.

屈折矯正手術:エクタジアに対する角膜内リング(ICRS)治療

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094930910-1810/09/\100/頁/JCLS世界的にlaserinsitukeratomileusis(LASIK)が普及し,国内でも年間20万件を超えるようになった現在でも,LASIKの長期的な合併症である角膜拡張症(以下,エクタジア)に対する治療方法は確立していない.今回扱うエクタジアとは,潜在的に存在する円錐角膜に対してエキシマレーザー照射を行い,角膜の前方突出と菲薄化が顕在化したものを含める.ICRS治療ICRS(intracornealringsegments,角膜内リング)手術は,LASIK後のエクタジアや円錐角膜に対して,変形した角膜の非対称性を軽減できる唯一の方法である.本来は軽度近視用の手術手技であったが,普及せず,2000年にColinらが円錐角膜に対する治療として報告した後,変形角膜に対する治療として注目されるようになった1,2).その後,エクタジアに対しての治療報告もされるようになり,最近ではより高度の角膜変形に対しても効果の期待できるタイプも開発されるようになった(図1).術の目的・適応エクタジアに対するICRS手術の目的は,角膜移植を回避し,コンタクトレンズ装用時間を延長させることにあり,裸眼視力の向上を目的とするものではない.この目的を術前に執刀医・患者双方が十分に理解しておくことが重要である.筆者らがおもに使用しているICRSは,IntacsR,IntacsSKR(AdditionTechnology社製)である.円錐角膜・エクタジアの程度が軽度~中等度であれば,IntacsRを使用し,変形が高度ならばIntacsSKRを使用する.一般にICRSで矯正可能なK値の最大値は55D付近であるといわれている.また,瞳孔領が瘢痕性に混濁している場合には適応外となる.そして,ICRSの固定・挿入部(角膜中央部から5.5~6.0mm)の角膜厚が400μm以上必要である.角膜下方が特に薄い場合などは注意が必要で,PentacumRなどの角膜厚分布にてリングの通過部がすべて基準値を満たしていることを確認する.ICRSサイズの選択IntacsRおよびIntacsSKRにはその厚みにより,0.25~0.45mmまでのサイズがある.屈折度数・乱視度数・角膜前面の非対称性・角膜後面の突出部の位置と大きさなどの要素を鑑み,サイズを決定する.2対のリングを同サイズに挿入するか(symmetric),異なるサイズを(61)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載107監修=木下茂大橋裕一坪田一男107.エクタジアに対する角膜内リング(ICRS)治療荒井宏幸南青山アイクリニック横浜エクタジアに対するICRS(角膜内リング)治療は,エクタジアの進行予防・コンタクトレンズ装用時間の延長・角膜移植の回避が期待できる.最近では角膜突出度の大きいケースにも対応可能なリングも開発されている.今後はICRS後にphakicintraocularlens手術を行い,良好な裸眼視力を回復させる方法も普及してくるであろう.図1IntacsR術後3カ月の前眼部写真図2AdditionTechnology社によるIntacsSKRの挿入アドバイス結果———————————————————————-Page2494あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009挿入するか(asymmetric)は,各データをもとに経験を生かして決定する.IntacsRを製造しているAdditionTechnology社では,多くのデータをもとに解析された各症例ごとのケースアドバイスを行っており,筆者らはおもにこのコンサルタントサービスを利用してリングを決定している(図2).術方法筆者が行っているマニュアルによる方法を以下に述べる3).前述のケースアドバイスに基づき,強主経線方向の指定部位に角膜厚の70~80%の深さにて切開を入れる.先端の短いL字スパーテルから順次長いものに変更して,リングを挿入するグルーブとよばれるトンネルの導入部を作製する.角膜を吸引固定した後,専用の器具にて対側までトンネルを完成させ2つのグルーブを作製する.それぞれに指定のリングを挿入し,創を1針縫合して手術を終了する.角膜実質は層構造になっているため,導入部分が適切に作製されていれば,上皮側や内皮側に穿孔するようなことはない.最近ではフェムトセコンドレーザーによりグルーブを作製することができるようになった.簡便で正確な手技であるが,リング留置部が全周にわたり均一な厚みをもっていればよいが,角膜厚の分布が不均一の場合にはリングの効果が部位により異なる可能性があるので,注意が必要であろう.〔合併症〕ICRS手術において,感染症以外の重篤な合併症はない.まれに,術後長期においてパーティクルとよばれる非炎症性の沈着がみられる場合があるが,視機能には問題はなく,リングを抜去すれば消失するため大きな問題にはならないと思われる.〔症例〕37歳,男性.平成14年に非眼科専門医にて両眼LASIK施行.術後約1年後に当院に相談のため受診.視力:VD=0.1(1.5×2.0D(cyl0.5DAx10°)VS=0.1(1.2×2.75D(cyl1.0DAx50°).角膜厚:右眼422μm,左眼410μm.細隙灯顕微鏡にて角膜所見には異常なし.以後,経過を観察していたが,経過とともに徐々に近視化が進行したため,エクタジアと判断し,平成16年5月に左眼,同年9月に右眼にICRS(両眼ともIntacsR0.45mm×2)を施行した.初診時および最終観察時のトポグラフィを図3,4に示す.<Phakicintraocularlens(IOL)との組み合わせ>ICRS手術を行うことにより,多くの症例で矯正視力が向上する.LASIK後のエクタジア症例は,裸眼での生活を希望してLASIKを受けたため,最終的には裸眼での生活を望むケースも多い.ICRSの術後,検眼レンズでの矯正視力が向上した場合,phakicIOL手術を追加することにより,良好な裸眼視力を獲得できるケースも多い.文献1)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctiongkerato-cornuswithintracornealrings.JCataractRefractSurg26:1117-1122,20002)SiganosCS,KymionisGD,KartakisNetal:ManagementofkeratocornuswithIntacs.AmJOphthalmol135:64-70,20033)荒井宏幸:角膜拡張症(エクタジア)(治療編).IOL&RS22:175-180,2008(62)図3症例の初診時のトポグラフィ照射径は小さく,左眼にはdecentrationも認められる.図4症例の最終観察時(23カ月)のトポグラフィ光学部領域は広くなり,扁平度は増加している.

眼内レンズ:Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(2)実践編

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094910910-1810/09/\100/頁/JCLS筆者は,本疾患での水晶体外摘出術(ECCE)の経験は3例と少ないので,水晶体乳化吸引術(PEA)が中心の内容である.Hansen病は,同一疾患でも非常に多彩な眼病変をきたすので,1例1例異なるアプローチが必要である.今回,3症例とその選んだ術式の解説を具体的に記載する.〔症例1(図1)〕(術前写真は前号の基礎編の図1である)下方の角膜混濁が異常に強く,核硬化も強そうで,見るからに難症例であった.ECCEを選択した理由は,つぎの2点である.①当時は,今ほど超音波装置の性能は良くない.ECCEにコンバートする可能性が高いときは,上方強角膜切開を選択したほうが無難である.②上方切開の場合,下方の角膜混濁が強いとPEAの操作は視認性の関係でむずかしい.上方強角膜切開の場合,PEAの操作は,上部の角膜(59)混濁より下部の角膜混濁のほうがむずかしい.逆に,I/A(灌流/吸引)の操作は,上部の角膜混濁のほうがむずかしくなる.あちらを立てればこちらが立たずか.上甲覚武蔵野赤十字病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎272.Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(2)実践編角膜混濁かつ小瞳孔・虹彩萎縮の対応が中心の手術内容にした.すべての施設で,最新の医療器具・装置が整っているわけではないので,その点も考慮して記載した(1994~1995年当時の療養所の状況に基づいた).図2症例2(65歳,男性)1995年6月,PEA+IOL施行.基礎編(前号)の図3が術前写真である.術後,瞳孔領の拡大.IOLの偏位が見られる.図3症例3(74歳,女性)2007年2月,PEA+IOL施行.半月型の角膜上方の強い混濁と菲薄.前の強い混濁・収縮が見られる.図1症例1(74歳,女性)1995年3月,ECCE+IOL施行.基礎編(前号)の図1が術前写真である.下方の強い角膜混濁.兎眼あり.———————————————————————-Page2〔症例2(図2)〕(術前写真は前号の基礎編の図3である).視認性は良好.PEAを選択.この症例のように小瞳孔で虹彩萎縮が強い症例では以下の点に注意する.①Irisretractorで無理に虹彩を広げない.虹彩は大きく裂け,瞳孔領は拡大する.②PEAの吸引力が強いと,虹彩を誤吸引しやすい.PEAは弱い吸引圧のもと,divided&conquer(D&C)法で行った.③術中,Zinn小帯が一部断裂したので眼内レンズ(IOL)は偏位している.Zinn小帯は脆弱と予測して手術に臨むこと.〔症例3(図3)〕(過去の経験を生かして,最近手術を行った症例)ほぼ上半分の角膜混濁が強く,上方の角膜は菲薄化していた.非手術眼は失明(義眼).非常にプレッシャーを感じた症例である.①耳側角膜切開でPEAを選択.②小瞳孔に対しては,虹彩縁部分切開を行い,瞳孔領を拡大.③PEAは低吸引圧のもと,D&C法で行った.角膜混濁の強い部位では,前鑷子で前切開片を持ち替えないよう注意を払った.再度,前片を把持するのはむずかしくなる.その他,治療的角膜切除術後にPEAを行った症例も経験した.その症例の術前,術後の写真は文献1に呈示した.おわりに最新の医療設備が整っていても,角膜混濁だけでなく小瞳孔,虹彩萎縮,Zinn小帯脆弱も併発の症例は難易度が高い.借りものの知識では,一朝一夕にはいかない.術前に治療方針をしっかりたてる必要がある.文献1)上甲覚,藤野雄次郎,増田寛次郎ほか:ぶどう膜炎の既往のあるらい患者のアクリルソフト眼内レンズの術後成績.臨眼51:615-617,19972)上甲覚,堀江大介:片眼失明のハンセン病性ぶどう膜炎患者の白内障手術成績.臨眼63(2009,印刷中)3)黒坂大次郎:ウエットラボ用の豚眼白内障モデル(1)核処理の練習用.あたらしい眼科15:1553-1554,19984)石田千秋,西村栄一,早田光考ほか:豚眼を用いたチン小帯断裂眼のチン小帯強度測定.眼科手術22(抄録集):48,2009

コンタクトレンズ:強度乱視眼へのハードコンタクトレンズ処方(2)

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094890910-1810/09/\100/頁/JCLSHCL処方角膜周辺部にまで乱視が及んでいるタイプIやタイプI-tにおいては,ラージサイズハードコンタクトレンズ(HCL)を処方しても,弱主経線方向のベベル幅が狭くなり(図1),その部位での機械的刺激による異物感が強(57)い.この症例の角膜曲率半径は8.40mm(40.17D)(3°),7.42mm(45.48D)(93°)である.このような症例に対しては,これまで後面トーリックHCLによって対処していた(図2).ベベル幅は比較的全周において均一になっている.異物感もかなり減少した.しかし,まだ若干の異物感を訴えるので,サンコンマイルドIIツイ小玉裕司小玉眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純図1タイプIに対するラージサイズHCLの処方8.05/3.0/9.0のラージサイズ球面HCLを装用させた場合,3時・9時方向のベベル幅が狭く,その部位の機械的刺激による異物感が強かった.図2タイプIに対する後面トーリックHCLの処方7.45/8.45/±0.0/9.0の後面トーリックHCLを処方した.ベベル幅は比較的全周において均一となり,異物感もかなり減少した.図3ベベルトーリックHCLのイメージ図サンコンマイルドIIツインベルタイプのレンズのダブルベベル部位がトーリック差を付けてデザインされている.CIC2IC1IC3ントベベルBCIC1IC3IC2CIC:ItmtC:l図4ベベルトーリックHCL断面のイメージ図たとえば,ベースカーブ(BC)8.0mmでトーリック差を0.4にすると,垂直方向はツインベルタイプのBCより0.4mm小さい7.60mmのBCのときのゲタの高さ(赤い部分)になる.図5タイプIに対するベベルトーリックHCLの処方8.25/4.5/9.0(トーリック差0.3)のベベルトーリックHCLを処方した.全周のベベル幅がほぼ均一となり異物感は大幅に減少した.———————————————————————-Page2490あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(00)ンベルタイプのダブルベベル部位をトーリック状に作製したベベルトーリックHCL(図3,4)を処方してみた(図5).このようなデザインを有したHCLを処方することによって,全周のベベル幅がほぼ均一になり,異物感をさらに減少することができた1).合型・倒乱視合型に対するHCL処方角膜乱視が一方は周辺部まで及び直交し他方は中央部に限局しているタイプIIIやタイプIII-tにおいては,やはり後面トーリックHCLかベベルトーリックHCLによって対処する.ベルトーリックHCLの処方についてベベルトーリックHCLのサイズは8.5mm,8.8mm,9.0mm,9.3mm,10.0mmと用意されており,ダブルベベル部位のトーリック差は指定できる.よって,中央部型・倒乱視中央部型においてもラージサイズHCLが不都合であれば,スモールサイズのベベルトーリックHCLによって対処できる.また,周辺部型・倒乱視周辺部型において,かなり周辺部まで乱視が及んでいても,サイズ的には十分対応が可能である.軽度乱視眼や中程度乱視眼において,球面HCLを処方し,3時・9時ステイニングや瞼裂斑炎の悪化(図6)に悩まされた場合は,このベベルトーリックHCLを処方することでそのような症状を解決することができる場合がある(図7)ので,一度試みられたらよいと思う.文献1)小玉裕司:ベベルトーリックハードコンタクトレンズの紹介.あたらしい眼科23:861-865,2006図6中程度乱視眼における球面HCL装用による3時・9時ステイニングと瞼裂斑炎2.68Dの角膜乱視眼に対して7.80/2.5/8.8の球面HCLを処方し,経過観察中,3時・9時ステイニングと瞼裂斑炎の悪化を認めた.図7図6の症例の1カ月後図6の症例に800/1.25/9.0(トーリック差0.2)のベベルトーリックHCLを処方した.3時・9時ステイニングはほぼ消滅し,瞼裂斑炎もかなり改善した.

写真:フェムトセカンドレーザーを用いた全層角膜移植

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20094870910-1810/09/\100/頁/JCLS(55)稗田牧バプテスト眼科クリニック写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦299.フェムトセカンドレーザーを用いた全層角膜移植図2図1のシェーマ①:Katzin剪刀,②:前房より漏出したヒアルロン酸,③:ringlamellarcut,④:マーキング.①②③④図3フェムトセカンドレーザーでレシピエント切開混濁した角膜がアプラネーションコーンで圧平され,円周状にレーザーで切開されている.図4ジグザグ形状の全層角膜移植後通常の角膜移植と同様の8本の端々縫合と16糸の連続縫合を行っている.図1ジグザグ形状の全層切開レシピエントの切開は全層にはせず数十ミクロン残しているので,剪刀で切断し取り除く.———————————————————————-Page2488あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(00)フェムトセカンドレーザーは近赤外線のレーザーで,焦点外の角膜組織は通過し,超短パルス(約500800フェムト秒パルス,フェムト秒=1015seconds)の特性から瞬間ピーク出力が大きく,焦点の合った照射組織のみを光ディスラプション(photodisruption)させて,気泡の発生とともに数ミクロンの空隙をつくることができる.これを一定の間隔で数多く照射することで,周辺組織に熱拡散の影響を及ぼさずに,透明角膜を切開することができる.従来laserinsitukeratomileusis(LASIK)のフラップ作製に使用されてきたが,性能が向上することで,切開を深く複雑な形状にすることができるようになった.これを利用して角膜移植におけるドナーとレシピエントの角膜を同一形状の複雑な切断面にすることも可能になった.筆者らの施設では,手術室にIntraLaseFS-60(AMO社製)を設置し,ジグザグ形状の全層角膜移植を施行している.まずレーザーでレシピエントの切開を行い,手術用顕微鏡下に歩いて移動してもらう.その間の眼球虚脱を避けるため,切開予定部位の最薄点の数十ミクロン前方から切開を開始している.したがって,レシピエントの切開を完成させるには,前房内に粘弾性物質を注入したのち,マーキングを行い,ジグザグの創を確かめてダイアモンドメスで一部穿孔し,Katzin剪刀で切離する(図1).レシピエントの切開は90秒ほど時間がかかるので球後麻酔を行い,開瞼器を使用している(図3).ドナーはリム3mm以上の強角膜片を人工前房にセットし切開する.この場合には前房内の圧をコントロールできるので前房から(角膜表面から1,200μmの深さ)切開をはじめて,完全に切断する.ドナーの場合,マーキングをした後,Shinskyフックで層を少し開き,移植片を鑷子で軽く引っ張れば外れる.移植は8本の端々縫合と16糸の連続縫合を行っている(図4).少数例の経験であるが,創の接着面積は広く,術翌日の前房水漏出もまったくない.ジグザグの創は角膜前面,後面とも生体適合性に優れており,前眼部OCT(光干渉断層計)で見た断面も接合部は滑らかである(図5).移植片は透明で合併症を認めていないので,比較的早く抜糸することが可能となり,早期の視力改善が期待できる.図5術後前眼部OCTの所見ジグザグの移植片がホストと適合し,接合部分はスムーズである.

抗 VEGF抗体治療-現在の治療法と今後の展望

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———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSめている6).本稿では,ROPに対する抗VEGF抗体併用硝子体手術の実際と,今後の課題についておもに述べる.I現在の治療法Bevacizumabを硝子体内投与するROP症例のおもな適応は,牽引性網膜離をきたしている(stage4以上)にもかかわらず血管活動性が高い症例であるが,僚眼にすでに牽引性離を生じている対象眼で,網膜光凝固が十分に行われているにもかかわらず高い血管活動性を保つ,stage3症例も対象としている.なお,本治療は大阪大学医学部附属病院先進医療審査会(倫理審査委員会)の承認を得たうえ,患者の家族に十分な説明を行い,書面による厳格なインフォームド・コンセントを得て行っている.病態の評価は,全身麻酔下あるいは新生児集中治療室(neonatalintensivecareunit:NICU)内での鎮静下で行う.眼底検査はスリットランプとコンタクトレンズ(VolkQuadPediatricLens)を用いて行い,RetCam120Rデジタル眼底カメラを用いて眼底写真および蛍光眼底造影写真の撮影を行う.眼底検査では国際分類7)に従って評価する.特にaggressiveposteriorROP(AP-ROP)に相当する変化は,病態が急激に悪化する可能性が高く注意が必要である.造影検査ではおもに新生血管の活動性を評価する.広範囲に広がる厚い線維血管増殖膜でも意外に蛍光漏出はじめに未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)は,未熟な網膜血管を基盤に発症する眼内血管新生病である.成人の代表的な眼内血管新生病である糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などと同様に,その病態には血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が中心的な役割を果たしていると考えられている1).実際,ROP眼における硝子体内VEGF濃度を測定した報告によると,VEGF濃度は対照(先天白内障眼)のVEGF濃度と比較して有意に高値を示し,その濃度は血管活動性に応じて高値を示していた2,3).ROPに対する治療は,網膜離を生じる前に周辺部無血管野に対して十分な光凝固を行うことが基本であるが,十分な光凝固を行っても網膜離に至る重症例もまれではない.このような症例では,網膜を復位させるために網膜硝子体牽引を解除することが必要で,筆者らの施設では積極的に早期硝子体手術4)を施行している.しかし,網膜離発症早期に硝子体手術を行うためには,ある程度血管活動性が鎮静化している(鎮静化されている)ことが必要である5).このため,筆者らの施設では,2006年9月より,網膜離を併発しているにもかかわらず高い血管活動性を保つ症例に対し,術前に抗VEGF抗体(bevacizumab,AvastinR)を硝子体内投与し血管活動性を鎮静化させたのち硝子体手術を施行する,「抗VEGF抗体併用硝子体手術」を行っており,これまでのところ重篤な合併症のない良好な手術成績を収(49)481atsuhioatohuniusaa565087122特集●未熟児網膜症診療―最近の考え方あたらしい眼科26(4):481486,2009抗VEGF抗体治療現在の治療法と今後のAnti-VEGFTherapy-NowandinFuture佐藤達彦*日下俊次*———————————————————————-Page2482あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(50)く,黄斑部離を伴っていないstage4A症例では,網膜離が進行しそうな場合には硝子体手術を行う.網膜離を伴っていても増殖膜の範囲が限局している場合にはそれ以上進行しない場合もあるので,手術適応は慎重に判断する.網膜離を伴っており新生血管の活動性が高いstage4A症例では,bevacizumabを0.5mg硝子体内投与する.症例にもよるが,bevacizumabを投与すると,翌日から検眼鏡的に水晶体血管膜の退縮,増殖膜の白鞘化が観察される.当科では27日後に眼底検査を行い,必要があれば硝子体手術を施行している.Stage4B以降の症例は手術適応であることがほとんが少なかったり,線維血管増殖の範囲は狭くても旺盛な蛍光漏出を認めたりすることがあるので,造影検査は血管活動性の評価に非常に有用である.網膜離がなく,新生血管の活動性が低い眼(僚眼の評価のために全身麻酔がなされている症例)は,多くの場合経過観察となる.網膜離がなく新生血管の活動性の高い眼では,光凝固が十分でなければ光凝固を追加する.光凝固が十分に行われており,かつ僚眼がすでに網膜離に至っているstage3症例にはbevacizumabを0.5mg硝子体内投与している.網膜離を伴っているものの新生血管の活動性が低図1aBevacizumab投与前の眼底写真(A,B)および蛍光眼底造影写真(C)ROPstage4Aの症例.後極部の血管蛇行・拡張に加えて,造影で耳側周辺部の線維血管増殖膜から旺盛な蛍光漏出を認める.(文献6より改変)ACB図1bBevacizumab投与1週間後の眼底写真(D,E)および蛍光眼底造影写真(F)後極部の血管蛇行・拡張は消退し,増殖膜からの蛍光漏出も著明に減少している.当日,硝子体手術を施行し,手術開始時に採取した硝子体液中のVEGF濃度は10pg/mlであった.(文献6より改変)DFE———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009483(51)mgを硝子体内投与した.1週間後に眼底検査,造影検査にて再評価を行った(図1b)後,硝子体手術を施行した.術後,網膜は復位し,増殖膜は著明に消退して,再増殖などは認めていない(図1c).III今後の課題以上のように,ROPに対する抗VEGF抗体併用硝子体手術は,硝子体手術前にbevacizumab投与を行うことにより,血管活動性が高く,そのままの状態では手術が躊躇される症例に対しても,早期に硝子体手術を安全に施行することを可能とした.また,血管活動性の高い一部のstage3症例に対してもbevacizumabを投与しはじめているが,これまでのところ,局所的にも全身的にもbevacizumab投与によると思われる重篤な合併症は経験しておらず,少なくとも短期的には安全で有効性の高い治療法ではないかと考えられるが,今後検討しなければならない問題点もいくつかある.1.局所および全身への影響VEGFは病的血管のみならず,正常血管の発達にも重要な役割を果たしている8).そのため,ROPのように正常血管が発達途上である疾患に対して,抗VEGF抗体を投与することが正常血管の発達障害につながらないどであるが,血管活動性が高い場合にはbevacizumab0.5mgの硝子体内投与を併用する.つぎに具体的な症例を提示する.II症例在胎週数25週,出生時体重744gの男児.出生後約11週より光凝固が施行されたが,ROPstage4Aに進行した.出生後約14週の時点で全身麻酔下にて眼底検査,蛍光造影眼底検査を行い(図1a),bevacizumab0.5図1c硝子体手術施行後,約4週の眼底写真後極部の血管の蛇行・拡張は認めず,増殖膜も著明に消退している.*Highlyvascular-activeROP(n=16)Moderatelyvascular-activeROP(n=10)Mildlyvascular-activeROP(n=14)Congenitalcataract(n=5)1,4001,2001,0008006004002000VEGFlevel(pg/m?)図2硝子体内VEGF濃度ROPstage4眼は血管活動性によって3群に分類された.最も血管活動性の高いhighlyvascular-activeROP眼に対しては術前にbevacizumab0.5mgが硝子体内投与されている.p<0.001,Kruskal-WallisOneWayANOVAonRanks,fol-lowedbyDunn’smethod,*p<0.05.(文献3より)———————————————————————-Page4484あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(52)症例で新生血管からの蛍光漏出が完全に抑制されると報告されている12)が,筆者らは,ROPにおいてbevaci-zumab投与後,新生血管からの蛍光漏出が完全に抑制された症例は経験していない6).この原因として,VEGFの産生量とbevacizumabの投与量のバランスによるもの,と考えられる一方で,ROPstage4眼に対するbevacizumab投与後の硝子体内VEGF濃度は対照(先天白内障眼)と比較して高値でない3)ことから(図2),VEGF以外の因子がROPの新生血管活動性に関与している可能性も考えられる.この点についても検討していかなければならない.3.最適な投与時期,手術時期現在,bevacizumabは血管活動性の高いROPstage4眼におもに投与しているが,投与時期についてもさらに検討が必要である.筆者らの行ったROPモデルマウスにおける包括的遺伝子発現解析の結果13)によると,VEGFは新生血管の発現にほぼ一致して発現上昇が認められた(図3).この結果をヒトROPに置き換えると,現在のbevacizumab投与時期よりも早い時期にVEGFの発現上昇が認められていることになる.実際,ROPstage3眼にbevacizumabを投与した報告9)によると,bevacizumab投与後,新生血管の退縮のみならず網膜周辺部への網膜内血管の発達を認めている.現在,筆者らの施設でも一部の症例に対してROPstage3眼に対して抗VEGF抗体を投与しはじめており,今後の検討か,という問題については今後,検討が必要である.この点に関して,ROPstage3眼にbevacizumabを硝子体内投与した検討9)によると,bevacizumab投与後,新生血管の退縮と網膜周辺無血管野に向かう網膜内血管を認めたことから,正常血管の発達が完全に抑制されてしまうことはないようである.また,筆者らの検討3)では,ROPstage4眼に対してbevacizumabを硝子体内投与後約1週間の硝子体内VEGF濃度は,対象(先天白内障眼)と比較して有意差を認めなかった(図2).この結果から,0.5mgのbevacizumab硝子体内投与によって,VEGF濃度が生理的濃度以下には抑制されていないと考えられる.また,VEGFには神経保護因子10)としての働きもある.ラットを用いた実験では,抗VEGF抗体は短期間では網膜神経節細胞の細胞死に有意な影響を与えないことが報告されている11)が,ROPのように黄斑形成も不十分な症例に対して抗VEGF抗体を投与することが悪影響につながらないか,今後も検討が必要である.さらに,bevacizumabが眼以外の臓器に対して影響を与える可能性も考えられるので,局所および全身への影響について,今後も検討しなければならない.2.最適な投与量現在,bevacizumabの投与量は0.5mgとしているが,投与量についてはさらに検討が必要である.増殖糖尿病網膜症に対してbevacizumabを投与すると,約7割の図3aROPモデルマウスにおける経時的形態変化(P=postnatal)網膜外新生血管はP17に最も著明に発現しており,P21にはほぼ対照群(正常飼育マウス)と同様の形態を示している.(Bar:500μm)(文献13より)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009485(53)考慮されうる選択肢であると考える.4.VEGF以外の因子の病態への関与先に述べたように,ROPstage4眼に対してbevaci-zumab0.5mgを硝子体内投与し,約1週間後に硝子体内VEGF濃度を測定した結果,VEGF濃度は対照(先天白内障眼)と比較して有意差を示さなかった3)が,bevacizumab投与後に新生血管からの蛍光漏出が完全に抑制された症例は経験していない6).これらの結果から,ROPの血管活動性には,VEGF以外の因子も関与している可能性が示唆される.筆者らの検討3)では,増殖糖尿病網膜症においてVEGFとは独立した血管新生促進作用を示すと報告14)されたerythropoietinのROP眼における硝子体内濃度が,血管活動性に応じて高値を示した(図5).VEGF濃度が十分に抑制されているにもかかわらず血管活動性が残存し,血管活動性に応じて硝子体内erythropoietin濃度が高値を示していることから,ROPにおいて増殖糖尿病網膜症以上にerythropoietinが病態に関与している可能性がある.これら以外にもどのような因子が病態に関与しているのかについては,今後も検討が必要である.が必要である.ただし,有硝子体眼に対して抗VEGF抗体を硝子体内投与すると,新生血管の活動性の低下のみならず,線維血管増殖膜の急激な収縮をきたし,それに伴い牽引性網膜離が悪化することがあり6)(図4),安易なbevaci-zumab投与は慎むべきで,十分な体制を整えたうえで21.61.20.80.40P12P13P14P15Postnatalday(day)P16P17P18P19P20P21Relativevalue図3bROPモデルマウスにおけるVEGFAの経時的遺伝子発現変化横軸は日齢,縦軸は対照マウスに対するROPモデルマウスでの相対的遺伝子発現値.VEGFAの遺伝子発現は網膜外新生血管が最も著明に発現する時期にほぼ一致して発現上昇している.AB図4ROPstage4眼にbevacizumab0.5mg投与前後の眼底写真A:Bevacizumab投与前の眼底写真.後極血管の蛇行・拡張と,耳下側周辺部網膜に線維血管増殖膜に伴う牽引性網膜離(stage4A)を認める.B:Bevacizumab投与6日後,線維血管増殖膜の白鞘化と収縮を認め,収縮に伴い黄斑部離(stage4B)を伴うようになった.(文献6より)———————————————————————-Page6486あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(54)999,20058)FerraraN:Roleofvascularendothelialgrowthfactorinregulationofphysiologicalangiogenesis.AmJPhysiolCellPhysiol280:1358-1366,20019)Mintz-HittnerHA,KuelRRJr:Intravitrealinjectionofbevacizumab(avastin)fortreatmentofstage3retinopa-thyofprematurityinzoneIorposteriorzoneII.Retina28:831-838,200810)NishijimaK,NgYS,ZhongLetal:Vascularendothelialgrowthfactor-Aisasurvivalfactorforretinalneuronsandacriticalneuroprotectantduringtheadaptiveres-ponsetoischemicinjury.AmJPathol171:53-67,200711)IriyamaA,ChenYN,TamakiYetal:Eectofanti-VEGFantibodyonretinalganglioncellsinrats.BrJOph-thalmol91:1230-1233,200712)AveryRL,PearlmanJ,PieramiciDJetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)inthetreatmentofproliferativediabeticretinopathy.Ophthalmology113:1695-1705.e6,200613)SatoT,KusakaS,HashidaNetal:Comprehensivegeneexpressionproleinmurineoxygen-inducedretinopathy.BrJOphthalmol93:96-103,200914)WatanabeD,SuzumaK,MatsuiSetal:Erythropoietinasaretinalangiogenicfactorinproliferativediabeticretinop-athy.NEnglJMed353:782-792,2005文献1)ClarkD,MandalK:Treatmentofretinopathyofprema-turity.EarlyHumDev84:95-99,20082)SonmezK,DrenserKA,CaponeAJretal:Vitreouslev-elsofstromalcell-derivedfactor1andvascularendotheli-algrowthfactorinpatientswithretinopathyofprematu-rity.Ophthalmology115:1065-1070,20083)SatoT,KusakaS,ShimojoHetal:Vitreouslevelsoferythropoietinandvascularendothelialgrowthfactorineyeswithretinopathyofprematurity.Ophthalmology,inpress4)AzumaN,IshikawaK,HamaYetal:Earlyvitreoussur-geryforaggressiveposteriorretinopathyofprematurity.AmJOphthalmol142:636-643,20065)HartnettME:Featuresassociatedwithsurgicaloutcomeinpatientswithstage4and5retinopathyofprematurity.Retina23:322-329,20036)KusakaS,ShimaC,WadaKetal:Ecacyofintravitrealinjectionofbevacizumabforsevereretinopathyofprema-turity:apilotstudy.BrJOphthalmol92:1450-1455,20087)InternationalCommitteefortheClassicationofRetinopa-thyofPrematurity:Internationalclassicationofretinop-athyofprematurityrevisited.ArchOphthalmol123:991-**Highlyvascular-activeROP(n=16)Moderatelyvascular-activeROP(n=10)Mildlyvascular-activeROP(n=14)Congenitalcataract(n=5)1,0008006004002000EPOlevel(mIU/m?)図5硝子体内erythropoietin濃度ROPstage4眼は血管活動性によって3群に分類された.最も血管活動性の高いhighlyvascular-activeROP眼に対しては術前にbevacizumab0.5mgが硝子体内投与されている.p<0.001,Kruskal-WallisOneWayANOVAonRanks,fol-lowedbyDunn’smethod,*p<0.05.(文献3より)

II 型/Aggressive Posterior ROPに対する硝子体手術の適応と時期

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS病期として順を追って進行するROPをI型とし,これに対して,わずか12週のうちに急速に網膜離に進む劇症型をII型と名付けて注意を喚起していた13).最初に作成された国際分類では,このII型が通常とは全く異なる病態をもつという考えに理解が得られず,重症兆候として,眼底後方の網膜血管が拡張・蛇行する虚血所見に対し,stage記載の後に+の文字を加えてplusdiseaseと称するに止まった10,11).しかしその後,欧米でもわが国の考えが認識され,2005年に改訂された国際分類では,II型の概念を全面的に取り入れて,AP-ROPと規定した4).これは,1)眼底の後方で起こり,2)網膜血管は顕著に拡張・蛇行し,シャントを形成,3)通常のstage1から3への段階的な進行は示さず,急速に悪化してstage5の網膜離に至ることが特徴である.森実は,1976年にすでにII型(後のAP-ROP)の特徴を詳述している3).(1)耳側血管の先端は黄斑部外輪予定部付近,鼻側は乳頭から23乳頭径の範囲にある.(2)網膜動脈は4象限すべての方向で蛇行し,さらに静脈も拡張・蛇行する.(3)有血管帯と無血管帯との境界部に新生血管が叢状をなし吻合形成を多数に認め,所々に出血斑も存在する.これら3所見が揃えば診断が確定する.しかし,すべてが揃えばすでに相当進んでしまっており,以降は急速に進行する.したがって,3所見が揃ってII型の確証を得てから治療を開始するのでは,時期を失しかねない.はじめに未熟児網膜症(ROP)のなかで,劇症の厚生省分類II型/国際分類aggressiveposteriorROP(AP-ROP)は急速に網膜離に進み,失明に至ることが多い14).以前は,光凝固治療が奏効せず網膜離が起これば,stage5(全離)まで進行してから硝子体手術が行われてきた.その場合,増殖組織内の血管の活動性が高いと,術中に大出血を起こして術中操作を妨げ,術後は不十分な切除部や血液塊に沿って再増殖を起こすので,増殖組織内の血管が退縮するのを待ってから,硝子体手術を行わなければならない.網膜ががれてから通常12カ月を要し,この間に網膜の変性が進んでしまうので,手術で復位が得られても,視力は大部分が光覚手動弁にとどまる5,6).やがて,良好な視力予後を求めて,stage4の早期に手術が行われるようになり,I型/classicROPではバックリング7)や水晶体温存硝子体手術(lens-sparingvit-rectomy)8)の良好な成績が報告されてきたが,II型/AP-ROPの増殖や網膜離の程度は強く,進行も急速なので,これらの術式はほとんど無効である.この重症ROPに対して,早期硝子体手術が開発され,良好な成果が得られるようになった9).本稿では,この早期硝子体手術の適応と時期について述べる.III型/APROPの眼底検査と初期兆候わが国の「未熟児網膜症厚生省分類」では,活動期の(41)473oriiAa15785352101特集●未熟児網膜症診療―最近の考え方あたらしい眼科26(4):473479,2009II型/AggressivePosteriorROPに対する硝子体手術の適応と時期IndicationsandTimingofVitrectomyforAggressivePosteriorRetinopathyofPrematurity東範行*———————————————————————-Page2474あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(42)熟性であり,在胎週数が短いほど,出生時体重が少ないほど重篤である12,13).II型/AP-ROPの発生では,網膜血管成長がごくわずかであることが要因なので,体重の極端に小さい超低出生体重児の生存率が向上している現在,急速に増加している14,15).したがって,眼底検査の開始時期も重要で,以前の米国のCRYO-ROPStudy16)に比べて,最近のEarlyTreatmentforROP(ETROP)Studyでは,早期にROPを発見し治療するようになり,出生時在胎28週未満であれば修正在胎31週から,出生時在胎28週以上であれば生後4週に初回検査を行うよう勧めている17,18).しかし,II型/AP-ROPを発症する超低出生体重児に対してはこれでは不足であり,筆者らは発症を初期から把握するために,出生時在胎26週未満なら修正在胎29週から,出生時在胎26週以上ならさらに,ごく初期の特徴を記載しているのが参考になる3).初め(修正在胎29週頃)は,乳頭とその周囲に辛うじて血管を追跡できるが,それ以上の末梢では血管が途絶えて追えない.血管は全体に色調が淡く,狭細化が著明で,周囲網膜との色のコントラストがきわめて悪い.鼻側の血管先端がコイル状,あるいはちぢれ毛状で,環状に走行するものや,吻合形成するものもみられる.約1週間後(修正3031週頃),鼻側にうっすらと境界線形成の兆しが認められ,乳頭から伸びる動脈がわずかに蛇行してくる.これらの所見の出現をもって発症と定義している.発症から約1週間後に鼻側に細い境界線を形成し,数個の発芽や出血がみられ,その数日後には特徴的な後極部の拡張・蛇行が現れると述べている.ROPの病態に最も大きく関与するのは網膜血管の未ACBD1II型/aggressiveposteriorROPの初期像と光凝固後の経過(22週,470gで出生,脳内出血後水頭症)A:生後13週,網膜血管はzoneIで視神経乳頭より56乳頭径程度しか伸びていない.静脈の拡張はないが,動脈に軽度の蛇行があり,血管末端が一部コイル状になっている.多数の網膜内出血があり,網膜内で血管新生が始まっている証拠である.この段階でただちに光凝固を行った.B:生後13週,Aの2日後に血管の拡張と蛇行が顕著となったので,後方まで密に光凝固を追加した.C:生後16週では,一過性にROPが落ち着いたようにみえる.D:生後18週に凝固斑のなかから増殖組織が立ち上がり,この後急速に網膜離が進行した.(文献9より,許可を得て,一部改変掲載)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009475(43)る.ひとたび増殖が始まると,予想をはるかに超えて急速に進行し,12週間で高度な網膜離になることが多い.これを予測して,ただちに準備を開始しなければならない.出生時の週数や体重が少ない超低出生体重児では,全身状態が悪かったり,硝子体混濁,硝子体血管の遺残などのために十分に光凝固できないこともある.このような状態で増殖が進めば,早期硝子体手術を行っても再増殖となり,良好な結果は得られない.III早期硝子体手術の概念と方法II型/AP-ROPでは,増殖組織が後方でほぼ全周にわたって立ち上がるので,バックリング手術はほとんど無効である.Lens-sparingvitrectomyを行っても,水晶体後面や硝子体基底部の硝子体は切除できないので,高度な増殖がこれに沿って伸展し,網膜離に至る.したがって,ここの有形硝子体を十分に切除するためには,水晶体切除が必要である.手術では,増殖組織周囲と,水晶体後面あるいは硝子体基底部までの硝子体線維を広汎に切除して(図2A,B),増殖の伸展する足場を除去する.血管を含む増殖組織は極力手をつけない9).25ゲージの硝子体手術システムと未熟児用にデザインした観察用コンタクトレンズを用いて,毛様体皺襞部アプローチで,まず水晶体を切除する.硝子体切除は,増殖が進行する方向の増殖組織周囲,ことに前方と硝子体基底部を丁寧に行う必要がある.後極の硝子体切除も生後3週には初回検査を行うのが適切と考えている19).II光凝固光凝固は,血管新生因子を産生している場所を広汎に凝固し,新生血管の発生を抑制することが目的である.I型/classicROPの治療開始時期は,CRYO-ROPStudy16)の基準では有用な視力を得るには遅すぎるとの考えから,EarlyTreatmentforROP(ETROP)Study17)が行われ,早期へ移った.その凝固部位は無血管領域を広汎に行っておけば十分なことが多く,plusdiseaseが顕著であれば,蛍光眼底造影で血管先端部後方の有血管領域にも無血管部位が少し存在している20)ので,12列後方に凝固を行うこともある.しかし,II型/AP-ROPの循環動態はI型/classicROPとまったく異なる.後方の網膜にも広汎に無血管領域が存在し,眼底全体から大量の血管新生因子が放出されると推測される21).したがって,初期兆候が発見されればただちに,無血管領域のみならず有血管領域にまで数列踏み込んで密に凝固を行うべきである.初回凝固を行っても,後極血管の拡張・蛇行が増加し,糖尿病網膜症の汎光凝固のように後極を残して広く凝固しなければならないことも多い(図1).このような広汎かつ密な光凝固を行って,いったんは落ち着いたようにみえても,初回凝固から1カ月ほど経って,凝固瘢痕のなかの血管先端部から増殖が立ち上がってくることがある.この段階が早期硝子体手術の最も良い手術適応時期であAB図2早期硝子体手術の術中所見A:水晶体切除後,25ゲージカッターで増殖組織周囲の硝子体を切除.B:強膜を圧迫しつつ,硝子体基底部を切除.———————————————————————-Page4476あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(44)IV早期硝子体手術を行うべき時期手術の成否は,網膜離の範囲より,増殖組織の進行程度に強く左右される.一般に,網膜から立ち上がった増殖組織は,硝子体線維の走行に沿って,水晶体後面に向かう(図3A).その後,増殖は硝子体密度が最も高い周辺部(硝子体基底部)へ向かう(図3B)が,対側組織に接着すれば把持部を得て牽引力が非常に強くなり,網膜離は急速に進行する(図3C).早期硝子体手術では,水晶体後面と硝子体基底部の硝子体線維構築を除去し,この接続を断つことが重要なので,ひとたび増殖組織が硝子体基底部に強く接着してしまえば,術後予後は非常に悪くなる(図3D).増殖組織が硝子体基底部に強く接着してしまえば,血管の二次侵入が始まって出血が多く,癒着が強く安全に解除することはできず,その奥で行わなければならないが,小児では後部硝子体離を起こすことは困難である.しかし,後述するような光凝固が不足している状態でなければ,後極網膜上の残存硝子体に沿って,増殖が後方に反転し進行することはまれである.体重の少ない未熟児では全身麻酔をかけての手術時間には制限があり22),無駄な手術操作を極力排する必要がある.医原性裂孔を作ることは厳に戒めるべきで,止血や光凝固の追加を行う時間もない.増殖組織は粘性があって切除しにくく,これを積極的に切除すれば出血や医原性裂孔を起こしやすい.あくまでも増殖の足場である硝子体の除去だけにして,余計な操作は一歩手前で止まることが大切である.手術前手術後ABCDE図3II型/aggressiveposteriorROPの進行と早期硝子体手術の結果〔術前〕A:増殖組織の伸展と牽引網膜離の開始(国際分類stage4A初期),B:網膜離は黄斑に及びはじめ(stage4A後期stage4B初期),線維組織は周辺部へ向かう,C:Stage4B,増殖線維組織の一部が硝子体基底部に接着,D:Stage4後期,線維組織が広汎に硝子体基底部に接着,E:網膜全離(stage5).早ければ1週間ほどでAからEへ進行する.〔術後〕A,Bでは網膜は復位し,黄斑が形成されているが,Cでは一部網膜襞を残して黄斑は形成されず,Dでは網膜離が治癒しない.Eは進行し過ぎており,もはや早期硝子体手術の適応ではない.従来どおり血管の退縮を待って手術するが,網膜変性が進んでしまう.(文献9より,許可を得て,一部改変掲載)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009477(45)増殖組織は強く収縮して,後の除去がむずかしくなる.進行した増殖組織から大量な出血や裂孔形成が起これば予後が悪くなる.増殖が進行してしまえば,早期手術を行うことはやめ,しばらくは経過をみて,従来の後期硝子体手術を行うしかない.V早期硝子体手術の成績と術前の光凝固の関係国立成育医療センターでは2004年7月2008年3月の期間に38例58眼〔男児18例,女児20例,出生週数2230週(平均25週),出生体重3661,676g(平均737g)〕に早期硝子体手術を行った.手術時の修正在胎週数は3446週(平均38週),体重は1,0502,602網膜がどのようにがれているのかを透見できないので網膜裂孔を形成しやすい.網膜は強く伸展され黄斑が形成されないので視力予後は不良となる.したがって,早期硝子体手術は,増殖組織が硝子体基底部に接着していない前の段階で行うべきで,きわめて短期間に限られる(図3A,B).II型/AP-ROPは急速に進むので,この手術が有効な時期は増殖が立ち上がり始めてから1週間程度にすぎない.かなり進んだ状態であれば(図3E),増殖組織内の血管が枯れるのを待って,従来の後期硝子体手術を行うことになる.この手術に備え,状態を少しでも良くしておく目的で,早期手術をしておく選択も考えられるが,これは勧められない.ひとたび硝子体手術を行うと,残存ACBD4術前の光凝固範囲による早期硝子体手術結果の違いA:24週800gで出生,修正44週に手術.増殖の立ち上がりは図3のA程度であり,光凝固は有血管領域の後方まで行われている.増殖が立ち上がっている部位が本来の網膜血管先端部にあたる.B:術後,ROPの活動性は低下し,網膜は復位している.C:26週980gで出生,修正34週に手術.増殖の立ち上がりは図3のA程度であり,光凝固は無血管領域(増殖組織の前方)のみに行われている.D:術後,残存硝子体に沿って再増殖が起こり,網膜は全離となった.———————————————————————-Page6478あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(46)目安としている.抜管後に声帯や気管の浮腫,無呼吸を生じやすいため,短期間のくり返し麻酔は極力避けたいので,両眼で増殖と網膜離が急速に進行する可能性がある場合には,両眼同時手術を行うこともやむをえない.体重1,500gで両眼に手術を行う場合には,片眼を45分以内で終える必要がある.VII手術眼の選択II型/AP-ROPは大部分が両眼に起こる.両眼ともに早期手術の適応と判断された場合,短期間のくり返し麻酔ができないので,増殖と網膜離の急速な進行を考慮して,両眼同時手術を行うことが多い.優先順位は,増殖と網膜離が軽度で,手術時間が短く,視力予後が期待できるほうの眼を先に行う.万一,全身状態の急変によって手術を早期に切り上げなければならない場合や,最初の眼の手術が長引いて麻酔の許容時間を使い果たしてしまう場合があるので,状態の良い片眼を優先して救うためである.2回の機会に分けて手術を計画するときも,全身状態の急変で2回目の麻酔がかけられない可能性もあるので,症状が軽度な眼を優先している.片眼が光凝固で落ち着いていて有用な視力が期待でき,生活には支障がないと推測される一方で,他眼がかなり網膜離へ進んでいる場合は,積極的には治療を勧めない.手術によってわずかの視力が得られても使うことがなく,良いほうの眼が万一失明した場合のspareeyeにすぎない.また,小眼球となるので後に整容的にコンタクト義眼を装用することも多い.しかし,網膜離が始まるごく初期(図3A,B)であれば,水晶体を除去して術後のコンタクトレンズ装用や視能訓練の労があっても,ある程度の視力が期待でき,手術を勧めてよいと考える.VIII病院や診療科間の連携と家族への説明早期硝子体手術の適応は,先に述べたROPの状態のみならず,全身状態が大きく関与する.移送ができなかったり,全身麻酔がかけられない状態であれば,適応とはならない.移送前に,各病院の眼科間ではROPの状態について,新生児科,麻酔科間では全身状態の情報を十分に共有して,連携をとらねばならない.また,転院g(平均1,939g)であった.術前に無血管領域だけでなく後方の有血管領域まで十分な光凝固が行われていた47眼では,網膜全復位42眼(90%),部分復位5眼(10%)で,黄斑の保存が35眼(74%)ときわめて良好な結果が得られた.しかし,光凝固が無血管領域のみに行われていた11眼では,網膜全復位1眼(9%),部分復位5眼(45%),非復位5眼(45%)で,いずれも黄斑形成が障害された(図4).したがって,術前に後方を含めて十分な光凝固が行われていることが手術の成否に大きく関わる.この光凝固は増殖が立ち上がる前に行われていなければならない.ひとたび増殖膜が硝子体腔に立ち上がり始めれば,ごく初期であっても,その下にすでに牽引網膜離が生じている.かなり離れた不足部位ならまだしも,この付近に光凝固を追加することは,増殖膜の牽引・癒着増強や網膜裂孔形成を惹起するので,禁忌である.II型/AP-ROPが疑われれば,最初から後方まで十分な光凝固を行っておくことが重要である.VI時間的制約早期硝子体手術には,さまざまな時間的制約がある.まず,AP-ROPは23日の遅れであっても,増殖組織が硝子体基底部に接着し,網膜離もstage4Bまたは5へ急速に進行する恐れがある.ROPの硝子体手術を専門とする施設は限られているので,患児の迅速な移送が必要となる.新生児科医が付き添って,比較的近隣なら救急車のみでも可能だが,遠方であれば飛行機・救急車や新幹線・救急車の連携,あるいはヘリコプターによる移送を考えねばならない.この移送に準備を含めて12日かかるうえに,転院後も全身麻酔の術前評価のために最低1日は要する.手術を行って良好な視力が期待できる期間は,網膜離が起こり始めてからごくわずかにすぎない.程度の差はあるが,おおむね1週間も猶予はないと考えるべきである.手術自体にも時間制限があり,超あるいは極小低出生体重児はストレス障害に陥りやすいので可及的速やかに行う必要がある22).国立成育医療センターでは,全身合併症の有無にもよるが,通常は手術時体重が2,000gであれば2時間,1,500gであれば1時間半を手術時間の———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009479後も全身状態が変わって,しばらく麻酔がかけられない状況となり,その間に増殖・網膜離が進行してしまうことがある.麻酔の挿管を試みても,気道狭窄で行えないこともある.実際に手術をどのくらいの時間・回数で行えるかは,その時になってみないと予測がつかない.術後も,抜管できず長期にNICU(新生児集中治療室)やICU(集中治療室)管理となることもある.インフォームド・コンセントでは,新生児科医・麻酔科医とともに,保護者に眼と全身の状態や手術,麻酔の内容と推定予後,リスクを十分に説明する.早期硝子体手術は確かに効果があるが,手術を行える時期が限られ,全身状態にも制限があるので,予想どおりに手術が終わり,十分な結果が得られるとは限らない.II型/AP-ROPは,依然失明の恐れをもつ疾患であることを前提にして話すべきである.おわりに早期硝子体手術に導入によって,II型/AP-ROPの予後は飛躍的に改善し,治療適応は大きく変わった.しかし,手術の適応となる時期は短期間に限られる.また,前もって十分な光凝固が行われており,適切な時期に専門施設に移送でき,全身麻酔がかけられるなど,手術が奏効するまでには多くの前提がある.この手術によって,すべての予後が改善するわけではない.II型/AP-ROPは,これまで比較的まれであったが,体重が極端に少ない超低出生体重児の生存率が上昇するにつれ,今後急速に増加することが危惧される.従来のI型/classicROPとII型/AP-ROPでは,初期像も光凝固に対する反応も大きく異なっており,ある時に急激な変化が起こるので,適切な診断法と治療法を理解しておくことが重要である.文献1)植村恭夫,塚原勇,永田誠ほか:未熟児網膜症の診断および治療に関する研究─厚生省特別研究費補助金昭和49年度研究報告.日本の眼科46:553-559,19752)植村恭夫,馬嶋昭生,永田誠ほか:未熟児網膜症の分類(厚生省未熟児網膜症診断基準,昭和49年度報告)の再検討について.眼紀34:1940-1944,19833)森実秀子:未熟児網膜症第II型(劇症型)の初期像及び臨床経過について.日眼会誌80:54-61,19764)AnInternationalCommitteeforClassicationofRetinopa-thyofPrematurity:TheInternationalClassicationofRetinopathyofPrematurityRevised.ArchOphthalmol123:991-999,20055)ChongLP,MachemerR,deJuanE:Vitrectomyforadvancedstagesofretinopathyofprematurity.AmJOph-thalmol102:710-716,19866)東範行:未熟児網膜症の硝子体手術.眼科手術9:135-140,19957)GrevenC,TasmanW:Scleralbucklinginstage4Band5retinopathyofprematurity.Ophthalmology97:817-820,19908)TreseMT,DrostePJ:Long-termpostoperativeresultsofaconsecutiveseriesofstage4and5retinopathyofpre-maturity.Ophthalmology105:992-997,19989)AzumaN,IshikawaK,HamaYetal:Earlyvitreoussur-geryforaggressiveposteriorretinopathyofprematurity.AmJOphthalmol142:636-643,200610)TheCommitteefortheClassicationofRetinopathyofPrematurity:Aninternationalclassicationofretinopathyofprematurity.ArchOphthalmol102:1130-1134,198411)TheCommitteefortheClassicationoftheLateStageofRetinopathyofPrematurity:Aninternationalclassica-tionofretinopathyofprematurity.II.Theclassicationofretinaldetachment.ArchOphthalmol105:906-912,198712)FlynnJT,PhelpsDL(eds):RetinopathyofPrematurity:ProblemandChallenge.AlanRLiss,NewYork,198813)FlynnJT,TasmanW(eds):RetinopathyofPrematurity,AClinician’sGuide.Springer-Verlag,NewYork,199214)園田和孝,井上和彦,梶原眞人:超低出生体重児にかかわる疫学.周産期31:1273-1278,200115)大川原潔,香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手術の適応時期と方法-I型に対して

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSで修正32.5週,光凝固の時期は修正35.7週であった.一度の光凝固で活動性が低下しなければさらに追加を要するが,それでも未熟児網膜症を鎮静化することができない場合,自施設での対応が困難ならば以降の手術治療が可能な施設への速やかな転院計画を立てる必要がある.光凝固後の診察でまだ活動性が高く,増殖膜による牽引が生じてきた場合,網膜離の出現は1週間以内に生じてくる可能性が高い.当院にて2007年2月から2年間でバックリングまたはエンサークリングを行ったstage4(15眼)の手術時期を調べると,修正37~45週(39.4±2.6週)であった.特に最近は修正37~38週での手術が多い.しかし,この時点ではまだ週数が早く体重も小さいことが多いため,搬送,転院による体調変化を最小限にするよう態勢を整えなければならない.眼の状態だけでなく他の合併症などの情報も,術式選択や許される手術時間に影響を与えるため重要である.Stage5では,2004年8月から2006年10月までの期間で13例20眼に初回の硝子体手術(すべて水晶体-硝子体切除術)を行っているが,このときの児の修正在胎週数は修正38~67週(平均49.7±7.3週)であった.2007年以降は手術時期が早まる傾向にあり,2007年1月から2009年2月まで15眼で修正41~52週(平均45.3±3.6週)であった.このうち3眼(手術時期は41,41,43週)は抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬であるベバシズマブを術前4はじめに未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)についての知識が新生児集中治療室(neonatalintensivecareunit:NICU)に携わる医師,看護師などに広がり,眼科診察開始時期や重症型の概念が随分普及してきた.しかし,より早期に生まれた超低出生体重児が救えるようになり,網膜血管の伸びが極端に短い例や定型的でない重症例にも遭遇する機会が増えた.このような未熟性の高い児ほど全身状態の悪さや合併症の処置のために眼科診察,治療が遅れがちになることもあり,このような場合,光凝固を行っても網膜離に進行してしまう症例がある.これまで日本で通常I型とよばれてきた,stage1からstage5へと順を追って進行する未熟児網膜症の網膜離に対しては,バックリング,エンサークリング,lens-sparingvitrectomy,水晶体-硝子体切除などがstageや活動性に応じて行われている.以前は白色瞳孔となってから行っていた硝子体手術も,最近はII型に対する早期硝子体手術1)の概念が普及したこともあって,I型であっても紹介時期が早まり非常に活動性の高い時期での治療方針の選択を迫られる例が増えている.そこで本稿では,I型に対する術式選択や治療時期などについて当院での方針を述べる.I手術時期平岡ら2)の東京都多施設研究によると,1,000g未満の超低出生体重児の場合,未熟児網膜症の発症時期は平均(35)467baa466806特集●未熟児網膜症診療―最近の考え方あたらしい眼科26(4):467~471,2009手術の適応時期と方法─I型に対してIndicationsandProceduresforSurgeryinClassicRetinopathyofPrematurity野々部典枝*寺崎浩子*———————————————————————-Page2468あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(36)位が残ることもあるが,偏心固視で日常生活を送っている児の視機能がかなり高い場合もあり,バックリングは試みてよい方法と考えられる.また,活動期のstage5に対しても,網膜下出血がある例などで一刻も早く網膜下出血を除去したい場合などには一次手術としてエンサークリングと出血のドレナージを行うこともある.一方,stage4Bでも増殖がかなり後極から発生している場合や活動性の低下したstage5では水晶体-硝子体切除を行っている.Lens-sparingvitrectomyは特にstage4Aに対してよい結果が報告されている4,5)が,小児は水晶体の眼球に占める割合が大きく,水晶体を残して手術を行うには後極部の操作に限定されてしまい,周辺部の増殖膜処理はできないため適応は限定される.III手術の実際〔症例1〕在胎27週0日,988gにて出生.修正35週より網膜離が出現し,修正37週で当院NICUへ転院となった.初診時の眼底写真を示す(図1a).右眼はstage4A,左眼はstage4Bであり,修正37週で右眼にバックリング,左眼にエンサークリングを行い,両眼に光凝固の追加を行った(図1b).両眼とも瘢痕期3度となっている(図1c)が,1歳の時点でご飯粒が拾えるほどの視力が獲得できている.〔症例2〕在胎28週5日,1,130gにて緊急帝王切開にて出生.修正在胎週数34週より両眼に光凝固が行われるも増殖の進行がみられ,全網膜離となったため修正45週で当院紹介となった.前房はきわめて浅く,増殖膜で押し上げられている(図2).修正47週に右眼の水晶体-硝子体切除術,修正50週に左眼の水晶体-硝子体切除術を行った.手術は角膜輪部からのアプローチで,前房灌流針,25ゲージカッター,23ゲージ剪刀と鑷子を用いた(図3).術後6カ月が経過し,両眼とも一部増殖膜が残存しているものの後極の復位が得られているが,全離,網膜下出血が生じる前の手術が望ましいと考えられる.本症例ではすでに漏斗の後極部は閉じ,網膜下出血が生じていることが超音波B-modeでわかる(図4).現在屈折矯正,視能訓練を行っている.~7日前に投与して血管の活動性を低下させてから手術を行っているが,その他の例も紹介時期が早まっているため,血管の活動性が低下するタイミングを見計らって手術の予定を立てておき,増殖膜が軟らかい比較的早い段階で手術を行っている.II術式選択当院では,I型で徐々に進行してきた離の場合,活動性が高い時期,瘢痕期に向かっていく時期やzoneIIで増殖膜が周辺部にみられるような症例では増殖膜の広がりに応じてバックリングまたはエンサークリング,そのタイミングを逸し,すでに全離となってしまってから紹介された例は活動性が低下し瘢痕期となるまで待ち,水晶体-硝子体切除術のように選択していることが多い.増殖膜は周辺にいくほど固く,zoneIIの例では眼球は比較的大きいがむしろ難易度が高い.周辺部の増殖膜切除の際に裂孔が形成されるリスクも高く,バックリングでの対処が必要となることもある.最近では活動性の高い例でもバックリングとベバシズマブ投与を併用したり,ベバシズマブを硝子体手術前投与し,全身状態と両親の承諾が得られればより早期の手術が行える3).この場合十分な光凝固が行われていることが術後の再増殖を防ぐため必須である.発見が遅く,前房が消失し,角膜が混濁しているようなstage5の例ではopenskyvitrectomyも考えられるが,この段階での手術で得られる視機能は長期間の網膜離による網膜色素上皮のダメージにより非常に限られており,手術適応自体が検討を要する.また,最近はより早い段階で紹介されることが多いため,ここまで進行してから手術となることは少ない.当院では眼底検査のほかに,手術前の超音波B-modeを参考にし,網膜離の範囲や漏斗の形状,網膜下出血の有無なども検討して術式を選択している.Stage4A,stage4Bに対しては,可能な限りバックリング,エンサークリングを第一選択としているが,それは小児の硝子体が手術で完全に取りきることができず術後合併症のリスクが高いこと,硝子体手術では網膜神経機能が障害されやすいことや視機能的には水晶体を温存するのが有利なことによる.バックリングでは術後に黄斑の外方偏———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009469(37)図1a術前の眼底写真右眼はstage4A,左眼はstage4Bで,血管の活動性が高い.図1b術式のシェーマ右眼に#506スポンジによるバックリング,左眼に#40によるエンサークリングを行った.図1c術後6カ月の眼底写真両眼とも瘢痕期3度となっているが,網膜の色調はよい.図2白色瞳孔となった眼の手術時水晶体が前方に押し出され,前房が非常に浅くなっている.水晶体と虹彩が癒着している.図3硝子体手術時の周辺部増殖膜切除の様子助手がコンタクトレンズの上からライトガイドで眼内を照らし,術者は双手法で左手に23ゲージの鑷子,右手に23ゲージの剪刀を持ち増殖膜を切除している.———————————————————————-Page4470あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(38)あるが,離してから手術までの期間が短くなってきているので,視力予後の改善が期待される.おわりに適切な時期の十分な光凝固で網膜症が鎮静化するのが最も良いが,一旦離の兆候がみえ始めたら一刻も早くつぎの手段を検討し,児がより良い視力を獲得できるよう準備を進めるのが良い.I型の場合は特に増殖膜が周辺部に近く,硝子体手術を選択すると水晶体切除が必要になってしまう.現状のバックリングの成績や視機能発達の面からみても,バックリングのタイミングを見逃さないようにすることが重要である.術前の光凝固のみでなく,バックリング後も光凝固の追加を行うと活動性の低下に有効なことがある.全体的に手術を早期に行う傾向にあるが,全身麻酔のリスクや,術後合併症などの可能性も念頭に置き,児の全身状態,両眼のバランスを考慮して手術適応を検討することが重要である.文献1)AzumaN,IshikawaK,HamaYetal:Earlyvitreoussur-geryforaggressiveposteriorretinopathyofprematurity.IV治療成績当院において2007年2月から2年間にバックリングまたはエンサークリングを行ったstage4の復位率をみてみると,全体では15眼中12眼(80%),stage4Aでは9眼中8眼(89%),stage4Bでは6眼中4眼(67%)であった.このうち,stage4Aはバックリングのみが3眼,エンサークリングのみが6眼,バックリングとエンサークリングの併用が1眼であった.Stage4Bはすべてエンサークリングを選択していた.このうちベバシズマブ投与を併用したものが2眼あり,いずれも進行は停止し復位を得ている.視力については,精神発達遅滞などがあり測定できない児もあるが,短期間の結果としては0.1が最高視力であった.しかし,まだ視力の発達途上でもあり,適切な屈折矯正を行って訓練を行うことで,前述のようにご飯粒を拾ったり,風船のひもをつかむなど日常生活に役立つ視力が得られていることも多い.2007年1月から2009年2月までに初回硝子体手術を行ったstage5では,復位しているものが15眼中9眼(60%,このうちシリコーンオイル下での復位は2眼),離が残存しているものが15眼中6眼(40%)であった.復位率はこれまでの報告とほぼ同様6)の結果で図4網膜下出血を伴う全網膜離の例超音波B-modeで増殖膜(→)や出血(※)は高輝度に描出される.この例では網膜下出血(※)がニボーを形成している.ZoneIの例と比較して,trough(網膜が谷のようになっている部分)はなく,増殖膜と網膜は隙間なく癒着している(▼).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009471(39)prematurity.Ophthalmology111:2274-2277,20045)HartnettME,MaguluriS,ThompsonHWetal:Compari-sonofretinaloutcomesafterscleralbuckleorlens-spar-ingvitrectomyforstage4retinopathyofprematurity.Retina24:753-757,20046)Mintz-HittnerHA,O’MalleyRE,KretzerFL:Long-termformidenticationvisionafterearly,closed,lensectomy-vitrectomyforstage5retinopathyofprematurity.Oph-thalmology104:454-459,1997AmJOphthalmol142:636-643,20062)平岡美依奈,渡辺とよ子,川上義ほか:超低出生体重児における未熟児網膜症:東京都多施設研究.日眼会誌108:600-605,20043)KusakaS,ShimaC,WadaKetal:Ecacyofintravitrealinjectionofbevacizumabforsevereretinopathyofprema-turity:apilotstudy.BrJOphthalmol92:1450-1455,20084)PrennerJL,CaponeAJr,TreseMT:Visualoutcomesafterlens-sparingvitrectomyforstage4Aretinopathyof