‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

眼感染アレルギー:ブドウ球菌による周辺部角膜浸潤

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093490910-1810/09/\100/頁/JCLS眼瞼,結膜にはブドウ球菌を主として常在菌が存在する.これらの菌は眼表面に侵入,定着,増殖し,感染症の原因となるが,たとえ侵入しなくとも,その菌体外毒素によって角膜に免疫反応を生じる.これがブドウ球菌による周辺部角膜浸潤である.菌体としては,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)ほか,黄色ブドウ球菌,アクネ菌,コリネバクテリウムがある.従来さまざまな疾患名でよばれており,ブドウ球菌性周辺部角膜浸潤以外に,たとえば,カタル性角膜辺縁潰瘍,カタル性潰瘍,辺縁部潰瘍など混沌としている.名称はさまざまであっても,すべて同様の病態と考えられる.一般外来にて最も多く遭遇する細菌性角膜炎は,この疾患であると思われる.それほど馴染み深いものであるが,実はその治療にはいくつかの落とし穴が存在する.態病態としては,角膜と接したブドウ球菌をはじめとする眼瞼常在菌の菌体成分あるいは外毒素が抗原となり,輪部血管からの抗体と抗原抗体複合体を形成する.これを受けて補体の古典経路が活性化され,多核白血球,リンパ球が遊走する.この細胞浸潤の状態から,さらに多核白血球から蛋白分解酵素が分泌されて潰瘍を生じる場合もある.いわゆるIII型アレルギーの病態を呈する.床所見中高年女性に好発するといわれている.角膜が眼瞼と接する2時,4時,8時,10時に円形の白色浸潤として観察される.典型所見を図1に示す.同部の軽度毛様充血を伴うが,輪部血管からの抗体が反応しているため,輪部と浸潤の間には一定の透明帯が存在する.侵入,定着,増殖した感染症と違い,その場での細菌増殖に伴う外毒素の加速度的産生は少ないので,びまん性の角膜浮腫は認めにくい.数回にわたり再発をくり返すことが多いため,患眼,僚眼ともに以前の浸潤によると思われる小円形の白濁を認めることがあり,鑑別の一助となる.眼瞼縁の炎症も併発していることが多い.意すべき鑑別周辺部に存在することから,いわゆるリウマチ,膠原病,Mooren潰瘍などの免疫原性角膜潰瘍と鑑別が必要である.①輪部との間に透明帯が存在すること,②自己免疫疾患などの既往がない,③潰瘍形状が深彫れしていない,などのポイントが免疫原性角膜潰瘍の否定とな(67)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑮監修=木下茂大橋裕一15.ブドウ球菌による周辺部角膜浸潤佐々木香る出田眼科病院感染には生体防御という免疫反応が必ず伴う.この両者のバランスを考えたとき,ブドウ球菌による周辺部角膜浸潤は,最も生体防御側に偏った状態である.病態としては,ブドウ球菌の菌体あるいは外毒素に対するⅢ型アレルギー反応である.重要な点は2つ.①治療にステロイドが必須であること,②非典型的な緑膿菌感染症との鑑別,である.図12WDSCL装用者(24歳,女性)角膜が眼瞼と接する8時方向に円形の白色浸潤を認める.同部の軽度毛様充血を伴い,輪部と浸潤の間には一定の透明帯が存在する.びまん性の角膜浮腫は認めず,その他の部位の角膜は透明である.さらに,マイボーム腺の閉塞も認める.———————————————————————-Page2350あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009る.また,上皮欠損が線状に存在することも多いため,ヘルペスとの鑑別を要されることもある.本疾患では,①terminalbalbがないこと,②眼瞼常在菌の慢性刺激が存在するため,広い範囲で微少な血管侵入を認めることが鑑別となる.さらに,近年特に増加している2週間頻回交換型コンタクトレンズ(2WDSCL)装用者における緑膿菌性角膜感染症が本疾患の鑑別対象となりうる.従来,緑膿菌性角膜潰瘍は輪状膿瘍を中心として高度な角膜浮腫,前房蓄膿など比較的特徴的な所見を呈するとされてきた(図2a).ところが,2WDSCL装用下に発症した緑膿菌角膜潰瘍はその病態が修飾される.円形からやや地図状の小さな病巣で,輪状膿瘍や角膜浮腫を認めず,前房炎症も軽く,全体に臨床所見が軽症化し,ブドウ球菌による周辺部潰瘍に類似した所見を呈する(図2b).その軽症化の機序は不明であるが,コンタクトレンズ装用による低酸素状態も一因であると思われる.療治療は抗菌薬点眼とステロイド点眼(0.1%フルオロメトロン点)である.コンタクトレンズ装用による緑膿菌感染症との鑑別が困難な症例もあるので,まず抗菌薬の加療を先行させて,その後ステロイドを追加するのが(68)安全であると思われる.再発予防として眼瞼縁清拭指導などのマイボーム腺のケアが必要となる.マイボーム腺機能不全(MGD)が高度な場合には,ステロイドや抗菌薬(ミノサイクリンやテトラサイクリン)の内服投与を考慮する.ミノサイクリンに関しては文献的には23カ月の内服投与が推奨されているが,膀胱炎症状を呈する場合も多く,テトラサイクリンは小児では,歯芽の着色も報告されているので,眼科単独で処方する場合には注意を要する.文献1)北川和子,浅野浩一,佐々木一之:カタル性角膜辺縁潰瘍の臨床像.臨眼46:720-721,19922)佐々木香る:カタル性角膜浸潤.眼科インストラクションコース16アレルギー性眼疾患とドライアイ(高松悦子,前田直之編),p118-121,メジカルビュー社,20083)山田利津子,栗山茂,久志本晋ほか:移行性角膜浸潤を伴うカタル性角膜潰瘍.あたらしい眼科15:109-112,19984)庄司純,伊藤眞由美,稲田紀子ほか:カタル性角膜潰瘍における結膜内検出菌.あたらしい眼科10:247-251,1993図2a典型的な緑膿菌角膜感染症(18歳,男性)輪状膿瘍を認め,周辺部角膜を含めた高度な角膜浮腫,前房蓄膿が特徴的である.図2b2WDSCL装用下に発症した緑膿菌角膜潰瘍(24歳,男性)円形からやや地図状の小さな病巣で,輪状膿瘍や角膜浮腫を認めず,また前房炎症も軽い.病巣部の角膜擦過物から緑膿菌が検出された.☆☆☆

緑内障:トリアムシノロンと眼圧上昇

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093470910-1810/09/\100/頁/JCLS慢性関節リウマチ患者に対する最初のステロイドの臨床治療が行われてから5年後にはすでに,Sternによってステロイドによる続発性の眼圧上昇(ステロイド緑内障)が報告されており1),ステロイド緑内障は非常に古くから知られている代表的なステロイドの副作用であるといえる.ステロイド緑内障患者の線維柱帯組織には,細胞外マトリックスの異常沈着がみられることから,ステロイドが線維柱帯細胞からの細胞外マトリックスの産生を異常亢進させたり,線維柱帯細胞の貪食機能を低下させたりして,細胞外マトリックスが線維柱帯組織に蓄積し房水流出抵抗が低下してしまうことが,ステロイドによる眼圧上昇機序であると考えられている.ステロイドによって眼圧が上昇しやすい素因がある人(ステロイドレスポンダー)が知られている.ステロイドレスポンダーの素因として,年齢が大きく寄与しており,若年者にステロイドレスポンダーが多く,小児にステロイドを点眼するときは,眼圧上昇が高頻度にみられるため注意が必要である2).Garbeらによると,ステロイドの投与量が多くなればなるほど,投与期間が長くなれば長くなるほど,眼圧上昇のリスクが上がることが示されており,休薬すれば眼圧上昇のリスクがなくなる,つまり,ステロイドによる眼圧上昇は可逆性であることがわかる3).しかし,一方で,長期間投与すると眼圧が正常化しない,不可逆な変化を起こすという症例も報告されている4).リアムシノロン誘発性眼圧上昇の点2000年代に入ってから,徐放性のステロイド薬トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-AR)が,硝子体手術における硝子体の可視化に用いられ,トリアムシノロンの使用が,硝子体手術における合併症の減少に有効であることや,黄斑浮腫の軽減や脈絡膜新生血管の退縮などにも効果があることが知られ,網膜硝子体疾患の治療薬としてや手術補助薬としてトリアムシノロンが広く用いられるようになった.トリアムシノロンは,長期間の効果の持続が長所である反面,いったん眼圧上昇が起こってしまうと,点眼薬のようにすぐに休薬することができず,眼圧上昇が遷延してしまうのが難点である.トリアムシノロン誘発性眼圧上昇多施設調査でわかったこと筆者らは,全国6施設で,過去にトリアムシノロンを投与された患者を対象に眼圧上昇のリスクファクターを(65)●連載105緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也105.トリアムシノロンと眼圧上昇稲谷大熊本大学医学部附属病院眼科徐放性ステロイド薬トリアムシノロンは,硝子体手術時の合併症減少や黄斑浮腫の治療のために,網膜硝子体疾患で近年広く用いられるようになった.しかし,長期間の効果の持続性の反面,眼圧上昇が遷延し,ステロイド緑内障になる症例がある.若年者,高いベースライン眼圧値,硝子体内注射,大量のトリアムシノロンの注射は高頻度に眼圧上昇を合併する.くり返し注射のときは,1回目に眼圧上昇した症例(ステロイドレスポンダー)は避けるべきである.表1トリアムシノロン誘発性眼圧上昇の危険因子変数ハザード比(95%信頼区間)p値年齢(歳)硝子体内注射ベースライン眼圧(mmHg)0.96(0.950.98)1.89(1.412.52)1.15(1.051.27)<0.0001<0.00010.003(文献5より)表2トリアムシノロンTenon下注射による眼圧上昇の危険因子変数ハザード比(95%信頼区間)p値年齢(歳)用量(mg)ベースライン眼圧(mmHg)0.96(0.940.99)1.07(1.031.12)1.31(1.131.52)0.0030.00060.0003(文献5より)———————————————————————-Page2348あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009解析した5).ステロイドレスポンダーとして過去に指摘されていた報告どおり,若年者が眼圧上昇しやすいことが確認された.また,もともと眼圧が高めの患者は眼圧上昇をきたしやすい(表1).さらに,多量のトリアムシノロンの投与(表2)や,Tenon下注射よりも硝子体内注射を行うことが眼圧上昇の頻度を上げることがわかった.黄斑浮腫の再発に対して,トリアムシノロンの投与をくり返す場合も,大量のトリアムシノロンをくり返したり,硝子体内注射をくり返したりすると,眼圧上昇を合併しやすい.1回目の投与の際に,眼圧上昇した症例は,ステロイドレスポンダーなので,2回目の投与のときも眼圧上昇しやすい.眼圧上昇の頻度とトリアムシノロンの薬効とのバランスを考えると,硝子体内注射では4mg,Tenon下注射では20mgが適量と考える.テロイド緑内障の治療ステロイドによる眼圧上昇がみられた場合は,すみやかにステロイドの投薬を中止する.膠原病などの全身疾患でステロイドを中止できない患者やトリアムシノロン誘発性眼圧上昇がみられた患者の場合は,緑内障点眼薬を処方し,眼圧下降を試みる.眼圧上昇が遷延し,視神経障害が出現した場合は,観血治療が必要になる6).ス(66)テロイド緑内障には,トラベクロトミーが効きやすい.筆者らのグループでステロイド緑内障に対するトラベクロトミーの術後成績は,5年生存率(21mmHg以下)で83.6%であった7).海外では,トラベクレクトミーが選択されることが多く,その術後経過も良好であるので,トラベクレクトミーも有効な選択肢である.文献1)SternJJ:Acuteglaucomaduringcortisonetherapy.AmJOphthalmol36:389-390,19532)OhjiM,KinoshitaS,OhmiEetal:Markedintraocularpressureresponsetoinstillationofcorticosteroidsinchil-dren.AmJOphthalmol112:450-454,19913)GarbeE,LeLorierJ,BoivinJFetal:Riskofocularhypertensionoropen-angleglaucomainelderlypatientsonoralglucocorticoids.Lancet350:979-982,19974)EspildoraJ,VicunaP,DiazE:Cortisone-inducedglauco-ma:areporton44aectedeyes.JFrOphtalmol4:503-508,19815)InataniM,IwaoK,KawajiTetal:Intraocularpressureelevationafterinjectionoftriamcinoloneacetonide:amulticenterretrospectivecase-controlstudy.AmJOph-thalmol145:676-681,20086)稲谷大:ステロイド緑内障.眼科手術20:41-43,20077)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Externaltrabecu-lotomyforthetreatmentofsteroid-inducedglaucoma.JGlaucoma9:483-485,2000☆☆☆図140mgのトリアムシノロンTenon下注射で眼圧上昇した胞様黄斑浮腫の27歳,男性の患者もともと正常視野であったのにもかかわらず(A),眼圧値が30mmHg以上で遷延し,注射後10カ月目には緑内障視神経障害と視野障害を出現したため(B),トラベクロトミーを行い(C),眼圧を下降させた.(文献6より)ABC

屈折矯正手術:術前・術後の収差の評価-種類の数値の見方など- 

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093450910-1810/09/\100/頁/JCLS高次波面収差を測定する機器として,ニデック社製のOPD-Scanはユニークな特徴をもっている1).まず,全眼球の屈折度マップを測定して,その後にZernike多項式を用いて波面収差を計算する(図1).角膜輝点を測定中心にしているのもユニークな点である.OPD-Scanの良い点は,収差変化の大きい眼でもほとんどの場合測定が可能な点である.Hartmann-Shackセンサーは現在の高次収差測定のスタンダードといえる方法で,トプコン社のKR-9000PW,AMO社のWavescan,ボシュロム社のZywaveなどのメーカーがこの方法を採用している.図2のごとく,レンズレットアレイで波面の歪みを直接測定しているので,レンズを細かくすることで細密な収差変化まで計測できる.測定時間が短いので,1回の測定で複数回計測を行い平均化することが可能である.測定の参照軸は照準線(瞳孔中心を測定中心とする)のことが多い.常OPD-Scanで解析径6mmの高次収差を測定しようとすると5.5mm程度の瞳孔径は必要となる.自然瞳孔で5.5mm以上瞳孔径があった症例のみを対象として,屈折矯正術前の高次収差を測定すると約0.4μmRMS(rootmeansquare)wavefronterrorの高次収差が認められた2).瞳孔径6mmであれば,RMSwavefronterror×0.7がdefocus換算されるので,0.4μmは0.28Dとなり,トライアルレンズの最も薄い1枚分である.正視の定義が±0.5Dであることを考えると,この高次収(63)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載106監修=木下茂大橋裕一坪田一男106.術前・術後の収差の評価―種類や数値の見方など―稗田牧バプテスト眼科クリニック波面収差とはプリズム,近視,乱視などを含む屈折異常の総称である.このうち高次収差は眼鏡で矯正できないより細かい屈折異常で,以前は不正乱視とよばれていたものである.高次収差の自覚的視機能に与える影響は不明な点が多いが,高次収差が多い眼では原因が水晶体にあるのか角膜にあるのか見きわめて術式を決定する必要がある.屈折度マップ波面収差変換図1波面収差とは瞳孔内の屈折度分布である屈折度マップが作成できれば波面収差に変換可能である.図2HartmannShack型波面センサー黄斑部からランダム反射された光が眼外に出て形成する波面を直接計測する.———————————————————————-Page2346あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009差が視機能に与える影響は少ないと考えられる.LASIK(laserinsitukeratomileusis)などの角膜屈折矯正手術を行うと,Munnerlynフォーミュラを使ったスタンダード照射では,おおよそ1Dにつき瞳孔径6mmにおいて0.1μmRMSwavefronterrorの高次収差が増加し,球面収差が主体である.Wavefront-guidedablation全眼球の波面収差から,それを打ち消すような切除プロフィールでレーザー照射するのが,wavefront-guid-ed(W-G)ablationである3).眼球の高次収差が矯正されれば,視機能は飛躍的に改善するものと期待されたが,角膜を切除することによる誘発高次収差が大きく,現時点では高次収差を減少させることはできないが,コマ収差の増大は抑えられる.球面収差も矯正していないわけではないので,著しく術前に球面収差が大きければ,それがさらに大きくなることは防げる.ーザー照射(laserablation)の使い分け図3に現時点で筆者が考える高次収差による照射方法の選択基準を示す.角膜高次収差よりも全眼球高次収差が著しく大きい場合以外はW-Gablationで対応可能である.1.全眼球高次収差が多い場合角膜高次収差,全眼球高次収差とも大きい眼の場合では,角膜高次収差で矯正(topography-guidedablation)すると症例ごとに高次収差は過・低矯正になってしまう可能性がある.できれば全眼球収差について矯正を行う4).つぎに,角膜高次収差が小さく,全眼球高次収差が大きい場合には,水晶体の収差が大きいのであるから,少しでも白内障があり,調節力が低下していれば非球面眼内レンズを用いたrefractivelensexchange,もしくは多焦点眼内レンズを使用した老視矯正手術を行い,必要があればLASIKを追加する.2.全眼球高次収差が少ない場合非球面照射は術前高次収差に関係なく,球面収差誘発を抑制する照射方法である.高次収差の増加量だけでみれば,矯正量が5Dより多い場合では非球面照射が有利といえる.ただレーザー機種によっては,厳密なレジストレーションがW-Gablationでしか使えない.W-Gablationでも照射径を広くすれば球面収差の誘発は抑制できる.現時点ではW-Gablationで瞳孔中央部のコマ収差の増大を抑制しておいたほうが良い影響があるものと考えて,全例にW-GablationによるカスタムLASIKを行っている.おわりに筆者自身LASIKを受けてみた.約3年たって,すでに眼鏡での見え方や生活をすっかり忘れている.角膜・全眼球高次収差は増大しているが,波面センサーで出てくるシミュレーションほどには,見えている像はぼやけていない.屈折矯正術後眼に関して,高次収差の自覚的視機能に与える影響の評価方法が確立されていないのは確かである.文献1)HiedaO,KinoshitaS:MeasuringofocularwavefrontaberrationinlargepupilsusingOPD-Scan.SemininOph-thalmol18:35-40,20032)稗田牧:屈折矯正手術(LASIK)と高次収差.あたらしい眼科24:1455-1460,20073)稗田牧:ウェーブフロント・レーシック(wavefront-guidedLASIK).IOL&RS18:394-399,20044)稗田牧:トポガイドレーシック(CornealTopography-GuidedLASIK).IOL&RS19:162-167,2005(64)Topography-guidedWavefront-guidedWavefront-guided非球面照射非球面照射Wavefront-guidedRefractivelensexchange角膜高次収差大角膜高次収差小眼球高次収差大眼球高次収差小図3高次収差を考えた術式選択Wavefront-guidedablationによる角膜屈折矯正手術の適応範囲が最も広い.

眼内レンズ:Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(1)術前の基礎

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093430910-1810/09/\100/頁/JCLS本稿では,1994~1995年当時に勤務していた施設(国立療養所多摩全生園)で経験したことをおもにまとめて述べる.前のック目Hansen病の基礎知識まずスタート地点に立つ前に,本疾患をある程度知る必要がある1~3).施設の医療設備などの充実度最新の装置・器具の有無,スタッフの数など.1994年当時,筆者が勤務していた施設では手術時,医師は1人で,助手・外回りは眼科外来の看護師がすべて担当した.今ある手持ちのコマで何とかする.年齢高齢の場合,水晶体の核硬化が進行し手術の難易度が増す.極端な小瞳孔のため事前に核の硬化度がわかりにくい.(61)角膜混濁の範囲・程度(図1,2)角膜混濁は,部位により大まかに上方,下方,中央,全体の4つのタイプに分類できる.各タイプの混濁の範上甲覚武蔵野赤十字病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎271.Hansen病性ぶどう膜炎患者の白内障手術(1)術前の基礎一般の白内障手術は,陸上競技にたとえると「100メートル競走」,ぶどう膜炎併発白内障手術は「障害物競走」といえる.ゴール地点(目的)は同じでも険しい障害を乗り越える必要がある.ただし,Hansen病の場合,小瞳孔や虹彩後癒着のみではなく,強い虹彩萎縮・Zinn小帯脆弱,さらには高率に角膜混濁も合併.技術的難易度は高い.「急がば回れ」,まずは術前の基礎について述べた.図2角膜混濁が全体に強い症例白内障手術単独では改善が困難.Hansen病は高率に角膜疾患も合併する.図3極端な小瞳孔・虹彩萎縮がみられる症例車軸状の虹彩萎縮とよばれている.この症例の手術の結果は実践編で解説する.図1下方の角膜混濁が強い症例どのような術式を選択したか,実践編で解説する.———————————————————————-Page2囲や強さが,白内障手術単独あるいは外科的角膜治療を優先するべきか,術式選択の重要な判断材料となる.また,角膜厚にも注意が必要である.図2の症例は,白内障手術単独では視力の改善は無理である.くれぐれも現実を見据えた対処が望まれる.眼内炎症の術前鎮静期間一般のぶどう膜炎同様,3カ月は鎮静期間を置いて手術を行った.この場合,絶対的基準はない.Hansen病のぶどう膜炎は,ステロイドの反応に良好なので,炎症の再燃が心配な場合は,抗消炎症薬の点眼回数を最小限にして長期に継続する.ただし,角膜疾患にも十分注意して使用する必要がある.虹彩の癒着,小瞳孔,虹彩萎縮の有無(図3)極端な小瞳孔と強い虹彩萎縮の症例が多い.Hansen病性ぶどう膜炎の好発部位は,虹彩と毛様体である.Zinn小帯は脆弱と予測して手術に臨むのがよい.転ばぬ先の杖.備えあれば憂いなし?(続発)緑内障の有無将来の緑内障手術も考慮して,切開創をどうするかの判断材料の一つ.兎眼(閉瞼不全)の有無兎眼があると高率に角膜病変を併発する.術後の角膜疾患の管理は大切である.感染性角膜炎で失明した症例の報告がある.その他:一般の白内障手術と同様の術前チェック高齢者が多いので,全身状態も十分考慮する.手術中は,何が起こるかわからない.当時,術中に抗精神薬を筋注した患者,ショックを起こした症例などを経験した.次回は,実践編を紹介する.文献1)上甲覚:Hansen病の眼合併症と今日的意義について教えてください.あたらしい眼科15(臨増):67-69,19982)上甲覚:ハンセン病のぶどう膜炎.新図説臨床眼科講座─感染症とぶどう膜炎(望月學編),p124-125,メジカルビュー社,19993)井上慎三,上甲覚:眼科.ハンセン病医学─基礎と臨床(大谷藤郎監),p251-264,東海大学出版会,19974)吉野真未:一人勤務医の悩み.日本の眼科76:1331-1332,20055)上甲覚:ハンセン病患者の白内障に対する超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術.日本ハンセン病学会雑誌65:170-173,19966)小郷卓司,渡邊正樹,大月洋ほか:らい患者における白内障手術の検討.眼臨88:859-862,1994

コンタクトレンズ:強度乱視眼へのハードコンタクトレンズ処方(1)

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093410910-1810/09/\100/頁/JCLS3つのタイプ軽度乱視眼に対してはやや広めのベベル幅を有するハードコンタクトレンズ(HCL)をフラットめに合わせれば,ほぼ問題なく良好なフィッティングが得られる(図1)が,中程度以上の乱視眼においては,角膜形状を考慮してHCLの種類を選択する必要性に迫られることが多い.角膜乱視をフォトケラトスコープにて撮影し,カラーコードマップにてその角膜乱視の及ぶ範囲によって分類すると,乱視が角膜周辺部まで及んでいる周辺部型(タ(59)小玉裕司小玉眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純図1軽度乱視眼へのHCL処方ややベベル幅の広いデザインをもったHCLをフラットめに処方する.図2周辺部型(タイプI)角膜乱視が周辺部にまで及んでいる.図5倒乱視周辺部型(タイプIt)倒乱視で角膜乱視が周辺部にまで及んでいる.図3中央部型(タイプII)角膜乱視が中央部に限局している.図6倒乱視中央部型(タイプIIt)倒乱視で角膜乱視が中央部に限局している.図4混合型(タイプIII)角膜乱視が一方は周辺部まで及び,直交する他方は中央部に限局している.図7倒乱視混合型(タイプIIIt)倒乱視で角膜乱視が一方は周辺部まで及び,直交する他方は中央部に限局している.———————————————————————-Page2342あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(00)イプⅠ,図2),角膜中央部に限局した中央部型(タイプⅡ,図3),その2つが混じった混合型(タイプⅢ,図4)の3つのタイプに分けることができる1).その割合は27眼中,タイプⅠが15眼,タイプⅡが5眼,タイプⅢが7眼であった.このような分類は直乱視のみに限らず倒乱視においても認められる.これらを倒乱視周辺部型(タイプⅠ-t,図5),倒乱視中央部型(タイプⅡ-t,図6),倒乱視混合型(タイプⅢ-t,図7)とよぶことにする.中央部型倒乱視中央部型に対するHCL処方以前,強度乱視眼にサイズの大きいHCLを処方して装用感,矯正視力とも満足のいく結果を得られたことがあり,漠然と強度乱視眼にはラージサイズHCLを処方したほうが上手くいくのだという印象をもっていた.しかし,実際はラージサイズHCLを処方しても上手くいかないケースも多々あり,そのような症例には後面トーリックHCLを処方して対応していた.角膜形状をカラーコードマップにて分類することによって,中央部に乱視が限局したタイプⅡやタイプⅡ-tにおいては,乱視の及んでいない部位にベベル部分が存在するようなサイズを選択すれば,良好な装用感を得られることが判明した(図8,9).このような症例では,ラージサイズHCLを処方することによって,ベベル幅が全周で均一となり,良好な装用感が得られる.文献1)小玉裕司:ベベルトーリックハードコンタクトレンズの紹介.あたらしい眼科23:861-865,20068タイプIIに対する通常サイズHCLの処方サイズ8.5mmのHCLを処方.水平方向のベベル幅が狭く,機械的刺激により良好な装用感が得られなかった.9タイプIIに対するラージサイズHCLの処方サイズ9.2mmのHCLを処方.ベベル部分が角膜乱視の及ぶ範囲の周囲に存在し,全周のベベル幅が均一になり,良好な装用感が得られた.

写真:糸条角膜炎

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,20093390910-1810/09/\100/頁/JCLS(57)御宮知達也鶴見大学歯学部眼科学講座写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦298.糸条角膜炎図2図1のシェーマ①:糸状物.②:点状表層角膜炎.①②①図3図1と同一症例の細隙灯顕微鏡写真症例のような比較的大きい糸状物は見落とす可能性が少ないが,フルオレセイン染色により確実に診断できる.図4ドライアイに生じた軽度の糸状角膜炎(55歳,男性)初期段階の糸状物で,染色することで発見された.未治療のドライアイであり,糸状物の除去後ヒアルロン酸点眼と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)点眼にて経過観察中である.図1薬剤起因性角膜上皮障害に生じた糸状角膜炎(48歳,女性)ドライアイの診断に対してヒアルロン酸点眼を使用していたが,異物感,眼痛の症状が悪化するため当科受診となった.保存液による上皮障害を疑い,糸状物を除去した後,保存液を含まない人工涙液の頻回点眼にて改善し,再発していない.———————————————————————-Page2340あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(00)糸状角膜炎は角膜に付着する変性上皮や粘液からなる糸状物であり,瞬目により眼痛,流涙,異物感,羞明をきたす.慢性にくり返すことが多く,従来の灌流液点眼のみの治療では不十分となることがあった.細隙灯顕微鏡検査にて容易に診断できる(図3)が,フルオレセイン染色にてよりはっきりと観察できる(図1).糸状物の長さは0.510mmと幅があり,はじめ短く細い糸状物が瞬目によりさらに長く絡みついた構造となる.糸状物の付着する角膜の上皮下には顆粒状混濁がみられることがある.ドライアイが主要な原因となる(図4)が,兎眼・上輪部角膜炎・角膜浮腫や,屈折矯正手術・白内障手術・角膜移植手術などの各種手術に伴うこともある.その発生機序は明らかにはされていない.上皮基底膜やBowman膜へのダメージが瞬目により局所の上皮基底膜の離を生じ,糸状物の付着する足場になるといわれている1).糸状物の存在が強い自覚症状をもたらし,より強い炎症を惹起して悪性サイクルに陥る可能性がある.治療として筆者はすべての糸状物を機械的に除去するようにしている.このとき糸状物を引き抜いてしまうと,糸状物の付着部位となる上皮離をさらに拡大させ,また上皮欠損をひき起こす可能性もあるので注意が必要である.機械的除去は糸状角膜炎を悪化させるだけであるとの意見もある.しかし適切な除去により,速やかな症状の改善が得られ,患者の満足とともに瞬目の軽減,炎症の改善は再発防止にもつながると考えている.先の鋭い鑷子(Jeweler鑷子が一般的に用いられる.筆者はミクラの無鈎を愛用している)にて,接線方向のみに力を加え,つまみ切るようにする綿棒などによる擦過では上皮障害が生じる可能性があると考えている.糸状物の除去とともに原因疾患に対する治療および再発防止に努める.人工涙液の点眼に加え,必要に応じてヒアルロン酸点眼,涙点プラグ,自己血清点眼などのドライアイ治療をする.人工涙液は頻回点眼が必要なことが多く,防腐剤の添加されていないものが望ましい.血清点眼は適切な使用により重症なドライアイに対しても劇的な効果をもたらすことがあるが,感染症の危険性を認識する必要がある.医療用コンタクトレンズの使用は,症状の軽減および上皮のバンデージ効果が期待できる.機械的除去をしなくても使い捨てコンタクトレンズの装用のみで完全に消失することがあり,試してみる価値はあると思われる.ただし,常に感染症には注意が必要で,一時的な治療法ととらえるべきである.筆者には使用経験がないが5%の高浸透圧食塩水の点眼は,脱水効果により上皮の接着を補強し,再発の予防効果が報告されている2).糸状物の付着部には炎症細胞や線維芽細胞が存在し,これらがBowman膜に浸潤し上皮基底膜を破壊する.糸状角膜炎の増悪機序には炎症も考えられている1).このためステロイドや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の点眼の効果が確認されており,難治症例に対しては検討されるべきである.ステロイド点眼は慢性の経過をたどる本疾患の性質上,長期使用には白内障,感染症,高眼圧に対する注意が必要であり,急性期の短期治療での使用がすすめられる.一方で,ジクロフェナクの長期投与による糸状角膜炎の消失および再発予防の報告がある3).近年入手が容易となったシクロスポリン点眼もドライアイ治療として使用される国もあり,糸状角膜炎に対しても効果的であると考えられる4).文献1)ZaidmanGW,GeeraetsR,PaylorRRetal:Thehistopa-thologyoflamentarykeratitis.ArchOphthalmol103:1178-1181,19852)HamiltonW,WoodTO:Filamentarykeratitis.AmJOph-thalmol93:466-469,19823)GrinbaumA,YassurI,AnviI:Thebenecialeectofdiclofenacsodiuminthetreatmentoflamentarykeratitis.ArchOphthalmol119:926-927,20014)PerryHD,Doshi-CarnevaleS,DonnefeldEDetal:Topi-calcyclosporineA0.5%asapossiblenewtreatmentforsuperiorlimbickeratocinjunctivitis.Ophthalmology110:1578-1581,2003

時の人

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009337(55)高知大学医学部眼科学教室は開講27年という若い歴史ではあるが,現在,高知県に最先端の「眼科情報」を提供している.本教室は1976(昭和51)年に開設の(旧)高知医科大学に,1981(昭和56)年に開講され,初代の教授として玉井嗣彦先生が就任された.1981年10月に医学部附属病院が開院し,眼科は15床をもって診療を開始した.その後,1982年に20床,翌年には30床に増床された.1986年には第83回中国四国・第35回四国合同眼科学会を主催された.1990年,第2代教授として上野脩幸先生が就任された.2003(平成15)年に国の方針「国立学校設置法改正案」に従って,高知大学と統合され現在に至っている.そして,今回福島敦樹先生が第3代教授として就任された.福島先生は「本教室は歴史が浅いので,玉井先生・上野先生が築かれたベースを元に伝統と呼べるものを造っていきたい.毎日が伝統造りです.」と述べておられる.教室の歴史を振り返ると,玉井教授時代には「電気生理」,上野教授時代は「眼病理」が主な研究テーマであり,大学院生は,以前は基礎の講座において「生理・病理・免疫」の勉強を重ねておられたが,最近の10年位は眼免疫研究室で研鑽を積み,医学博士号を取得してこられたという.現在,臨床的には網膜硝子体領域に興味をもつ医師が多く,先端医療や高知県の地域医療の分野で活躍しておられる.研究ではここ10年来「眼免疫」が中心となっており,なかでも「アレルギー性結膜疾患の発症メカニズムに関する研究」は国際的な評価を得ている.*福島先生は,私立土佐高校を卒業後,1990年に高知医科大学を卒業された生粋の土佐っ子である.その後,199395年の米国国立眼研究所免疫学部門への留学ののち,19962004年に当教室の助手を務められたが,その間,再度の米国国立眼研究所免疫学部門への留学のほか,ジョージア医科大学分子医学遺伝学研究所への留学を経験されている.そして2004年の助教授就任(2007年准教授)を経て,今回,2008年8月に第3代教授に就任された.この間,日本眼科学会学術奨励賞,日本眼炎症学会学術奨励賞,ロートアワード,日本アレルギー学会学術大会賞など,数々の賞を受けられた.福島先生は大学院時代に免疫学教室の藤本重義教授に免疫反応における特異性の重要性を学ばれ,その時の感動が今に続いていると言われ,また留学中にはIgalGery博士,岩島牧夫博士というキャラクターの異なる師匠のもとで多くのことを学ぶことができたと言われた.福島先生の研究テーマは,眼免疫疾患発症機序の解析,特に「T細胞が難治性眼免疫疾患発症においてどのように関与しているか」である.その研究成果の一つとして「アレルギー性結膜疾患重症化のメルクマールである結膜好酸球浸潤にT細胞が重要である」ことを証明された.この事実は実際の臨床においても,シクロスポリンやタクロリムスといったT細胞を選択的に抑制する点眼薬が春季カタルに奏効することを裏付けるものである.今後は,動物モデルでの実験からヒトへの展開を進め,臨床に直結する研究への展開を目指されているとのことである.*福島先生の信念・信条は,大阪大学(故)田野保雄先生から頂いた言葉「継続は力なり」を実証すること,また,留学中の師匠である岩島牧夫先生から頂いた言葉「常にBigPictureを意識せよ」を肝に銘じて研究を続けることであるという.最後に,地方大学である高知大学からでも,世界に向けてキラリと光るような仕事を発信していきたいと力強く述べられた.0910-1810/09/\100/頁/JCLS人の時高知大学医学部眼科学教室・教授福ふく島しま敦あつ樹き先生

硝子体手術後の続発緑内障はこう治す

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSまった可能性もあり,これらをすべて術後に発症した続発緑内障と区別することはむずかしい.近年は緑内障性視神経症の存在をもって緑内障と診断するといわれているが,続発緑内障の場合,緑内障性視神経症の存在を確認することがむずかしい場合も多い5~7)ので,ここでは,硝子体手術後の眼圧上昇に対してどう治療するかを考えることとする.I治療の前に考えることは?まず,なぜ眼圧が上昇して下がらないのかを考えなければならない(表1).硝子体手術後の眼圧上昇は,血液や充物質による直接的な房水流出障害や,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)の形成などによる隅角の閉塞と,明らかな隅角の閉塞がみられない,いわゆる開放隅角によるものがある.房水流出のメカニズムによって対処方法も異なるため,細隙灯顕微鏡による前眼部・中間透光体・眼底の観察だけでなく,よほど角膜の状態が悪くなければ,隅角検査も行っておくはじめに近年の硝子体手術の進歩あるいは変化はめざましく,総じて手術侵襲は低減し,術後の眼圧上昇の頻度も低くなってきたように感じられる.しかし,ここ数年トリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)の硝子体注入が頻繁に行われるようになり,2005年に行われた全国調査1)をみると,硝子体手術時にTAを硝子体内に注入された26,819眼のうち,眼圧コントロールが不良となり,最終的に濾過手術を施行されたのは0.56%にあたる32眼であったと報告されている.また,難治例にはシリコーンオイル(siliconeoil:SO)を使わざるをえない症例も多く,それに伴う術後の眼圧上昇もある一定の頻度で認められるようである.全国調査2)では,1年間に行われた2,170眼のSO使用例のうち,眼圧上昇は18.4%,緑内障は5.6%と報告されている.一方,硝子体手術後の開放隅角緑内障に関する検討3)によれば,緑内障の進行や発症に関して硝子体手術が不利に働く可能性は少なからずあり,硝子体手術の前には緑内障の合併の有無を確認しておく必要があると思われる.また,硝子体手術において水晶体を温存するか否かに関して,摘出した場合のほうが緑内障発症までの期間が短かったことも報告され,水晶体の存在が硝子体手術後の緑内障発症に抑制的な役目を果たしている可能性を示唆している3,4).このように,硝子体手術後の眼圧上昇例のなかには,術前から緑内障が隠れていたり,手術によって発症が早(49)331b2288111特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):331~336,2009硝子体手術後の続発緑内障はこう治すManagementofEyeswithSecondaryGlaucomaafterVitrectomy庄司信行*表1治療の前に考えること1.なぜ眼圧が上昇したのか?つまり,房水流出障害の原因は何か?2.なぜ眼圧が下がらないのか?つまり,房水流出障害の原因は今後も残るのか?取り除く方法は何か?3.緑内障は進行するのか?緑内障の病期は?今の眼圧でどのくらい待てるのか?進行の速度は?など———————————————————————-Page2332あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(50)眼圧を一定に保つことがむずかしい場合も多い.続発緑内障の場合は正常値を超えた高眼圧が視神経障害の原因と考えられるので,ひとまず正常眼圧の範囲内に収めることを目指す.1.原因別にみた対処法原因として考えられる病態を表2に示した.所見から考えられる鑑別診断に関しては表3に示した.外傷や何らかの原因によって房水流出不全が術前から存在している場合や,硝子体手術前に緑内障の診断で治療を受けていた症例もありうるが,その場合は通常の緑内障治療に準じると思われる.先に引用したChangらの報告3)にもあるように,すでに緑内障の治療が行われていた場合は,硝子体手術後に治療の強化が必要になることが多く,可能な限り視神経の状態や普段の眼圧の経過を術前に評価しておいたほうがよい.血管新生緑内障に関しては,前項を参照していただきたい.a.出血が原因と考えられるときの対処外傷や術中操作による虹彩・毛様体の損傷,隅角離開などで前房出血が残存する場合,通常は1週間程度で吸収し眼圧上昇も一過性のことが多いが,ときに吸収が遅れたり,再出血をくり返して高眼圧が持続することがある.まずは安静と抗炎症薬の点眼で自然吸収を待つ.吸必要がある(表2).当然,経過によって隅角閉塞が進行してくる場合(たとえば血管新生緑内障や炎症に伴う場合など)もあるので,一度の隅角検査だけで隅角の状況を決めつけてはいけない.いわゆる原発開放隅角緑内障の場合,現在の眼圧で進行していく可能性が高いのかどうかを予測し,目標眼圧を一つの目安にして治療を開始する.そして,視野検査をくり返して進行の有無を確認しながら治療内容を調整していく.硝子体手術後の眼圧上昇の場合も,本来なら十分な眼底検査と視野検査を行うべきである.眼圧の割に視神経乳頭のrimの状態がまだ保たれていることもある.しかし,硝子体出血や角膜の混濁・浮腫などで眼底の詳細が不明なことも多い.また,視野検査で異常が認められても,網膜の状態(光凝固も含めて)や硝子体の混濁などの影響と考えられる場合もあり,厳密に緑内障性視神経障害とこれに対応する視野障害を見きわめることはむずかしい.したがって,硝子体手術後の眼圧上昇に対しては,眼圧上昇の程度と期間によって治療方針を立てなければならないことも多い.IIどのように治療方針をたてるか治療の原則はあくまでも原因除去である.眼圧下降療法を行っていても原疾患に伴う炎症や出血などの影響で表2硝子体手術後の眼圧上昇の原因A.隅角が開放している場合1.術前から存在していた開放隅角緑内障2.術前から存在していた房水流出障害(外傷の既往や隅角形成不全など)3.血管新生緑内障(いわゆる第2期くらいまで)4.水晶体に起因するもの(残留皮質による炎症)5.炎症の遷延化6.術中・術後のステロイドによるもの7.その他(上強膜静脈圧の亢進,房水産生の亢進など)B.隅角が閉塞している場合1.術前から存在していた閉塞隅角緑内障2.出血に起因するもの3.血管新生緑内障(いわゆる第3期)4.水晶体に起因するもの(残留皮質による隅角閉塞)5.眼内充物質が直接原因となるもの(粘弾性物質,ガス,シリコーンオイル,パーフルオロカーボンなどの残留)6.眼内充物質による間接的な隅角閉塞7.炎症に伴う隅角の閉塞,瞳孔縁の癒着(瞳孔ブロック)表3所見から推測する眼圧上昇の病態1.前房内に残留物が明らかな場合フィブリン,出血,ガス,シリコーンオイルなどによる房水流出障害.ガスは前房内に迷入しても数日で吸収される.シリコーンオイルは吸収されにくい.2.瞳孔ブロックが認められる場合術後の炎症が高度な場合,またはシリコーンオイルなどの硝子体充物質による水晶体あるいは眼内レンズの前方偏位による場合などがある.3.隅角が狭い場合水晶体損傷による膨化や偏位などの他,過量なガスやシリコーンオイル,注入ガスの膨張などでも狭隅角化は生じる.4.隅角が広い場合前房内の炎症が高度な場合や線維柱帯炎を生じているときなど.ステロイドの点眼・内服,トリアムシノロンの硝子体注入後に生じるステロイド緑内障の場合もある.粘弾性物質やパーフルオロカーボンなどの残留など.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009333(51)も,まず抗炎症薬とともに眼圧下降点眼薬を併用するが,いわゆる縮瞳薬は炎症を増悪させる可能性があるので避ける.薬物に抵抗する場合には,残留皮質を取り除くために前房洗浄を行う.水晶体を温存した場合には,水晶体の損傷による水晶体過敏性緑内障と,Zinn小帯断裂による水晶体形態性の流出障害(水晶体の偏位に伴う浅前房化や瞳孔ブロック)を考える.前者の場合は,抗炎症薬と眼圧下降薬の点眼を併用し,不十分なら炭酸脱水酵素阻害薬内服を併用するが,損傷が高度であれば白内障の進行も速いため,水晶体摘出を行ったほうがよい.後者の場合も,レーザー虹彩切開術を行うより水晶体摘出を考えたほうがよい.c.眼内充物質による眼圧上昇が疑われる場合の対処1)術終了時の除去が不十分で残存した場合術中に併用した粘弾性物質やパーフルオロカーボンなどの洗浄・除去が不十分な場合に生じるので,眼圧上昇が高度であれば,洗浄・除去を試みる.2)充物質の量が多すぎる場合網膜裂孔の閉鎖や網膜のタンポナーデを目的としてガスやシリコーンオイルが注入されるが,過量の場合は眼圧上昇が生じる.また,SF6(六フッ化硫黄)などの膨張性ガスの場合は,術後の膨張による眼圧上昇に注意する.なかには,網膜中心動脈閉塞症を発症して失明した症例も報告されているので,眼圧チェックは重要である.眼圧が上昇している場合,上昇の程度が軽度であれば,まずは点眼薬のみで様子をみる.不十分であれば点眼の併用や炭酸脱水酵素阻害薬の内服,高浸透圧薬の点滴などを行う.眼圧上昇が長期に続き,視神経乳頭障害が進行する場合はこれらの充物質の除去を行うが,タンポナーデ効果を期待して充した物質であるので,完全に除去してよいのか,それとも多少残存させるのがよいのかの判断が必要である.また,大量に抜去すると,急激な眼圧下降により網膜・脈絡膜からの出血をきたすことがある.実際には,無水晶体眼の場合は仰臥位で前房穿刺を行えばよい.人工水晶体挿入眼の場合は,瞳孔領からの除去が行えないので,球後麻酔後,毛様体扁平部から針を刺入し,針先をみながら注射器で吸引し,圧収が遅く眼圧上昇が持続する場合には,眼圧下降薬とともに出血の吸収促進効果を目指してtissueplasminogenactivator(t-PA)を前房内投与することがある.しかし,再出血をきたすこともあるので適応は慎重に考えるべきであり,使用にあたっても十分注意する必要がある.前房出血が前房容積の1/3以上の場合や,受診時すでに眼圧上昇がみられる場合は再出血率が高いといわれる.したがって,これらの危険因子を有する場合には,早期からaminocaproicacid(アミノカプロン酸,ACA)8)やtranexamicacid(トラネキサム酸,TXA)9)などの止血剤の使用が有効であるといわれ,外傷性の前房出血や糖尿病網膜症による硝子体出血の治療などに試みられている.出血の吸収が遅く,角膜染血症や高度な眼圧上昇が持続する場合には,手術による出血塊の除去が必要となる.硝子体出血に対する処置が不十分な場合,変性した赤血球による泡沫細胞緑内障(ghostcellglaucoma)や溶血性緑内障(hemolyticglaucoma)が生じることもある7).この場合,前房内の浮遊細胞に対して抗炎症療法を行っても炎症反応ではないので効果はほとんどない.眼圧のコントロールが不良な場合には,診断を兼ねて前房洗浄を行う.再び変性した赤血球が出現するようなら,硝子体手術で徹底的に細胞を取り除く.それでも眼圧下降が得られない場合には,濾過手術または毛様体破壊術が試みられることもある.b.水晶体に起因する眼圧上昇と考えられる場合の対処は?水晶体摘出術を併用した場合には,まず粘弾性物質の残留を考える.多くは72時間程度で分解され,徐々に眼圧は下降してくるので点眼薬と炭酸脱水酵素阻害薬内服で経過をみることが多いが,あまりにも眼圧が高く視神経への影響が大きいと考えられる場合や頭痛などの症状が強い場合は,前房洗浄を行う.前房内の温流が確認される場合には残留皮質による眼圧上昇も考える.残留皮質に対する炎症反応によって眼圧上昇が生じた場合は,隅角は開放していることが多い.皮質自体で隅角を閉塞することもあり,その場合は吸収後も周辺虹彩前癒着(PAS)を形成し,房水流出不全をもたらす.水晶体過敏性の眼圧上昇が生じることもある.いずれの場合———————————————————————-Page4334あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(52)みながら,たとえばデキサメタゾンからフルオロメトロンへ変更したり,回数を減らすなどして判断する.しかし,ステロイドを減らすことによって炎症の遷延化による隅角の閉塞や瞳孔ブロックなどが生じることを考えれば,あまり安易にステロイド誘発性の眼圧上昇と決めつけて中止することは望ましくない.一般に,虹彩炎による続発緑内障に対して行う線維柱帯切除術の成績はあまり良好とはいえず,結膜も瘢痕化しやすい.一方で,術後の低眼圧による視力低下が生じることも多く眼圧コントロールはむずかしい.炎症の遷延化で生じた眼圧上昇に対して濾過手術を行う場合は,薬物でできる限り炎症を抑えてから計画するほうがよい.e.ステロイドによる眼圧上昇硝子体手術において,硝子体の可視化や炎症の軽減,胞様黄斑浮腫軽減のために,TAを硝子体に投与することが多くなり,それに伴ってステロイド誘発性の眼圧上昇も多く報告されている1).術後のステロイド点眼・内服により眼圧上昇が生じることがあるが,ステロイドによるものか前房内炎症によるものかの区別はむずかしいことが多い.したがって,投与量と炎症の関連から判断するしかないが,ステロイドを中止することがむずかしい症例も多く,眼圧下降薬の点眼や内服では不十分であれば,結局,外科的処置を行わざるを得ない場合も多い.術式としてはステロイド緑内障の場合は線維柱帯切開術がより安全で効果的といわれている硝子体手術後の線維柱帯切除術では濾過胞の維持がむずかしく,糖尿病をはじめとする全身疾患の合併により,濾過胞感染の可能性が高いことを考えれば,まず線維柱帯切開術を最初に試みてもよいのではないだろうか.2.治療薬についてa.点眼薬について現在,緑内障点眼薬で眼圧下降効果が最も高いものはプロスト系点眼薬と考えられるが,炎症の強い眼に同薬剤を使用してよいのかどうかに関しては,多少意見が分かれるようである.自験例では幸いラタノプロストで明らかに炎症が増悪したと考えられる症例はない.新たなプロスト系,つまりトラボプロストやタフルプロストでを調整する.3)炎症などによって瞳孔ブロックやPASを生じた場合シリコーンオイルによる瞳孔ブロックを予防するため,術中に下方の周辺虹彩切除術を行うが,炎症が高度だとフィブリン膜などによって閉塞することがある.また,ガスやシリコーンオイルは比重を利用して効果を発揮するので,体位を守らず仰向けになっていた場合など,水晶体や眼内レンズ,虹彩を後房側から押し上げることによって瞳孔ブロックやPASを生じる.この場合は,隅角癒着解離術を施行することで眼圧下降を得ることは可能であるが,炎症が高度であったり,体位が守れなかったりすると再癒着して眼圧が再び上昇し,結局濾過手術を行わなければならないことも多い.4)長期間留置されていたシリコーンオイルによって隅角が閉塞した場合長期間眼内に留置されると乳化し,シリコーンオイル滴が前房内に入り込むことによって隅角を覆い閉塞することがある.このような場合は前房洗浄を行っても容易には除去できないので,眼圧下降を目的とした手術が必要になる.しかし,どのような術式を選択するかはあまり報告されておらず,術者の経験によって選択されるのではないだろうか.原理的には,シリコーンオイル滴によって覆われるのは上方の線維柱帯であるので,下方の線維柱帯切開術は有効ではないかと思われる.海外では,下方のインプラント手術を薦める論文10)もある.d.炎症の遷延化炎症細胞やフィブリンにより隅角が閉塞したり,その結果として広範囲に生じたPASや瞳孔ブロックによって眼圧上昇が生じる.特に糖尿病患者の場合は術後炎症が強くフィブリンも析出することが多い.瞳孔管理をしっかり行わないと虹彩後癒着を生じる可能性が高い.線維柱帯炎が起こると,周辺虹彩後癒着はほとんどみられないものの,房水流出不全による眼圧上昇が生じることがある.炎症が治まらない場合,ステロイド薬の頻回点眼や結膜下注射を併用し,可能なら全身投与も検討する.しかし,ステロイド誘発性の眼圧上昇がみられることもあり,鑑別はむずかしいことも多い.炎症の程度と眼圧を———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009335(53)は,やむをえず緑内障手術を行わなければならないことも多い.このとき,線維柱帯切除術を選択するか,それとも線維柱帯切開術を選択するかは議論が分かれるところであろう.すでに一度手術(硝子体手術)を受けているので,もうこれ以上手術は勘弁して欲しいという患者の前では,より確実な眼圧下降を目指して線維柱帯切除術を選ぶことが多いだろうし,硝子体手術後の結膜の状態や,濾過胞感染のリスクを考えると,線維柱帯切開術をまず行ってみるほうが安全だと考える術者もいるだろう.筆者の場合は,線維柱帯切除術を行うほうが圧倒的に多いが,硝子体手術後の続発緑内障では目標とする眼圧がそれほど低くないことを考えると,開放隅角であり,切開部位に閉塞するような要因がない場合には,もう少し線維柱帯切開術で対応してもよいのではないかと考えている.ところで,硝子体手術で切開した結膜がどんな状態であるかは,線維柱帯切除術における結膜切開部位や強膜弁作製部位の選択という点で大きな問題となる.輪部付近の結膜が被覆されていなかったり菲薄化している場合は,結膜切開の位置やマイトマイシンC(MMC)の使い方などがむずかしくなることがあり,結膜が術中にちぎれたり穿孔することもまれではない.また,硝子体手術直後の,たとえば結膜充血が残存している時期は創傷治癒が盛んで,MMCを併用しても瘢痕化する可能性が高い.他の原因が明らかであれば,これに対処しながら薬物治療を併用しつつ,炎症反応などが治まって少しでも良い状態になってから手術を行いたい.最近の25ゲージ針を用いた硝子体手術ではほとんど結膜を切らなくてすむため,結膜への侵襲も最小限となり,緑内障手術も施行しやすくなったが,その部位で結膜との癒着が強かったり,強膜弁作製が制限されたりすることは,従来の手技のときと同様である.硝子体手術後に線維柱帯切除術を行う際に最も注意すべき点として,術中の眼球虚脱があげられる.急激な低眼圧や眼球の虚脱によって駆逐性出血を生じるリスクが高く,予防的に前房あるいは強膜にポートを作製し,灌流チューブを留置して眼圧をなるべく下げすぎないようにする工夫が必要である.どちらがよいかは術者の好みによって分かれる.いずれにしても,濾過が得られ,眼炎症が増悪するかどうかに関しては今後の報告待ちではあるが,筆者は禁忌とは考えていない.注意して使用すればよいのではないかと考えている.眼圧上昇の原因のほとんどが房水流出障害によるので,房水産生の抑制を目指してb遮断薬を開始し,不十分であれば他剤を追加するという方針でもよい.眼圧が高いからといって複数を同時に追加すると,果たして効果があるのかどうかが判断できず,かえって角膜障害の出現や悪化を招き,点眼を中止しなければならなくなることもある.コンプライアンスが悪くなり,結局点眼していない可能性もある.角膜上皮障害が高度な場合は,点眼をなるべく少なくし,最初から炭酸脱水酵素阻害薬の内服を行ってもよい.角膜内皮細胞が著しく減少している場合は,内皮にも炭酸脱水酵素が存在するので,これを阻害する炭酸脱水酵素阻害薬の点眼は内皮障害を悪化させることもありうるので慎重に行う.b.炭酸脱水酵素阻害薬内服について先述したように,硝子体手術後の角膜上皮障害が高度な場合は,いたずらに眼圧下降点眼薬を増やすより,最初から炭酸脱水酵素阻害薬の内服を処方したほうがよい.通常はアセタゾラミド250mgを朝晩1錠ずつから始め,眼圧に応じて朝昼晩1錠ずつ,あるいは朝晩2錠ずつなどで管理する.炎症や出血などとの兼ね合いで,眼圧上昇が一時的だと考えられる場合や,手術までの数日間という短期間であれば1日量で6錠まで処方することがある.どの程度の期間使用できるかどうかは全身状態によるが,原疾患によっては腎機能が低下していることもあり,あまり長期に使えない場合も多い.血清電解質など全身状態をチェックしながら用いるようにする.なお,カリウム製剤は炭酸脱水酵素阻害薬内服に併用することがなかばルーチンになっているが,心疾患などの合併症を有する患者も多いことから,やはり血中カリウム濃度を確認しながら投与量を調節したほうがよいと思われる.いずれにしても,漫然と長期に使用することは避ける.3.観血的治療についてa.濾過手術か流出路手術か?各種薬物治療で眼圧コントロールが得られない場合———————————————————————-Page6336あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(54)房内に再出血する場合や,穿刺部に虹彩の一部や硝子体が嵌頓してしまう場合もある.多くの場合一過性であり,1,2時間して測定すると眼圧はまた上昇していることが多いため,あくまでも緊急避難的な処置と考えるべきである.根本的な解決とはならない.おわりに硝子体手術後の続発緑内障に対する治療法をまとめた.眼圧上昇の原因に応じて対策が異なるため,房水流出障害がどこにあるのかをしっかり見定めることが重要である.また,無硝子体眼に線維柱帯切除術を行う場合,眼球虚脱に伴う駆逐性出血のリスクが高く,その予防には細心の注意を払わなければならない.文献1)坂本泰二,樋田哲夫,田野保雄ほか:眼科領域におけるトリアムシノロン使用状況全国調査結果.日眼会誌111:936-945,20072)坂本泰二,樋田哲夫,田野保雄ほか:眼科領域におけるシリコーンオイル使用状況全国調査結果.日眼会誌112:790-800,20083)ChangS:LXIIEdwardJacksonlecture:openangleglau-comaaftervitrectomy.AmJOphthalmol141:1033-1043,20064)LukFO,KwokAK,LaiTYetal:Presenceofcrystallinelensasaprotectivefactorforthelatedevelopmentofopenangleglaucomaaftervitrectomy.Retina29:218-224,20095)澤田明,山本哲也:続発緑内障~硝子体手術後の緑内障.緑内障(北澤克明監修),p276-282,医学書院,20046)庄司信行:硝子体手術後の続発緑内障の病態と治療.みんなの硝子体手術~緑内障と硝子体.眼科プラクティス17,p160-165,文光堂,20077)庄司信行:眼内出血に伴う緑内障.緑内障診療の実際~続発緑内障.眼科プラクティス11,p79-81,文光堂,20068)PieramiciDJ,GoldbergMF,MeliaMetal:AphaseIII,multicenter,randomized,placebo-controlledclinicaltrialoftopicalaminocaproicacid(Caprogel)inthemanagementoftraumatichyphema.Ophthalmology110:2106-2112,20039)RamezaniAR,AhmadiehH,GhaseminejadAKetal:Eectoftranexamicacidonearlypostvitrectomydiabetichaemorrhage;arandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol89:1041-1044,200510)Al-JazzafAM,NetlandPA,CharlesS:Incidenceandmanagementofelevatedintraocularpressureaftersiliconeoilinjection.JGlaucoma14:40-46,2005圧が下がったら,むやみに眼球を動かして虚脱したりしないようにし,ただちに強膜弁を縫合し,なるべく低眼圧の状態を短くするような注意が必要である.なお,眼圧が低すぎる状態で強膜弁を縫合すると,強く縫合しすぎることも多い.濾過量をみながら縫合を追加していく必要がある.線維柱帯切除術を行う際の注意点を表4にまとめた.なお,海外では難治例の濾過手術ではインプラント手術を選択する場合もあり,下方からのインプラント手術を進めているものもある10)が,わが国ではまだインプラントが認可されていないので,慎重な判断が必要である.b.毛様体破壊術濾過手術をくり返しても,どうしても眼圧のコントロールが困難であり,痛みを伴う場合は毛様体破壊術が選択される場合もあるが,眼球癆に陥る可能性も少なくなく,視機能温存という点から考えると,適応は慎重にすべきである.c.前房穿刺は有効か?どうしてもすぐに眼圧を下げる必要がある場合には前房穿刺を行うことがある.外来で,ピンセットと鋭針,シリンジがあればできるので,感染に注意して行えば,比較的手軽に行える手技である.硝子体手術時に角膜にポートが作製されていればここを利用できるので良いが,作製されていない場合には27ゲージ鋭針を用いて穿刺しなければならない.顕微鏡下で行うが,いくら手軽な処置といわれていても,穿刺時にうまく刺入できず,眼球を押しすぎてトンネルが長くなってしまったり,力が入りすぎて針先が虹彩まで到達して出血してしまったりする場合もある.確かに穿刺直後には眼圧はよく下がるが,なかには,眼圧が下がりすぎてしまって前表4無硝子体眼における線維柱帯切除術施行時の注意点1.硝子体手術時の結膜切開や瘢痕部位の把握と濾過胞作製部位のイメージ2.強膜の観察(ポート作製部位の確認)と強膜弁作製部位の選定3.低眼圧・眼球虚脱の予防4.強膜縫合時の濾過量確認5.結膜創の完全な閉鎖の確認

血管新生緑内障はこう治す

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSIINVGの診断(前緑内障期)1.前眼部新生血管の観察ポイント前緑内障期では,まず新生血管を見つけることである.これには,通常の細隙灯顕微鏡では十分に拡大率を上げて観察し,隅角鏡の使用も必須である.虹彩面の新生血管が不明瞭でも,隅角には新生血管が顕著にみられることがある.隅角検査はNVGの病期判定と鑑別診断にも欠かせない.新生血管は瞳孔縁に生じやすいが,眼底検査のために散瞳すると,観察困難となる(図1).また,散瞳剤による血管収縮のために,隅角の新生血管も不明瞭となるため,新生血管の観察は必ず散瞳剤使用前に行う.細隙灯顕微鏡でみると新生血管が微細で不明瞭な場合には,虹彩・隅角の蛍光造影検査が有用である.2.ハイリスク眼の同定NVGでは,前眼部新生血管はほとんどの場合網膜虚血により発症するため,原因となった網膜疾患の存在を確認する必要がある.NVGには3大原因疾患があり,日本では増殖糖尿病網膜症によるものが最も多い.しかし,増殖糖尿病網膜症では,網膜症ばかりに目を奪われがちである.眼底検査のために毎回散瞳後にのみ診察していると,前眼部新生血管の発見が遅れる可能性がある.また,検眼鏡的な網膜症の重症度と前眼部新生血管の有無は一致しないことも多い.たとえば,硝子体出血や増殖膜の形成がみられる重症網膜症眼に必ずしもI血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)とは?NVGは,隅角に生じた線維血管膜により房水流出抵抗が増大し,眼圧上昇が起こる続発緑内障である.前眼部新生血管は,網膜虚血をきたすさまざまな眼疾患で起こりうる.なかでも,増殖糖尿病網膜症,網膜中心静脈閉塞症,眼虚血症候群が原因として頻度が高い1).NVGは3つの病期に分けられる.前緑内障期では,虹彩(特に瞳孔縁)や隅角に新生血管がみられるが,眼圧上昇と周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechiae:PAS)がみられない.隅角の新生血管は,虹彩根部から立ち上がり,分枝しながら隅角色素帯レベルで円周方向に網状に伸展する.隅角の新生血管が著明となり線維血管膜が形成されると,隅角が開いているにもかかわらず,眼圧上昇をきたす(開放隅角緑内障期).さらに,虹彩と隅角の表面を覆う線維血管膜が収縮することによって,周辺部虹彩が線維柱帯に向かって引き上げられPASが進展していく.また,虹彩の前方偏位,散瞳やぶどう膜外反(瞳孔縁が遠心性に牽引されることによる)をきたすことがある(閉塞隅角緑内障期).NVGの病期を判定することは,治療方針の決定や予後の推測に非常に重要である.(41)323mmiiaie9208641131特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):323329,2009血管新生緑内障はこう治すDiagnosisandTreatmentofNeovascularGlaucoma東出朋巳*———————————————————————-Page2324あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(42)糖尿病の合併が多く,眼底像も軽度の網膜中心静脈閉塞症や糖尿病網膜症と混同されやすい.網膜症の左右差が大きい場合や眼底所見に比べて視力障害が顕著な場合には本疾患を疑う必要がある.以上のように,NVGを前緑内障期で診断するには,ハイリスク眼であるかを念頭において,前眼部新生血管の有無を注意深く診察する習慣が必要である.IIINVGの診断(緑内障期)鑑別疾患と緑内障性視神経症の評価開放隅角緑内障期および閉塞隅角緑内障期では,他の緑内障病型との鑑別と緑内障性視神経症の程度の評価が重要である.開放隅角緑内障期の鑑別疾患として,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎がある.これは,続発緑内障を起こし,隅角新生血管がみられることがある.この疾患の隅角新生血管は微細であり,その他の前眼部所見や眼底所見から鑑別可能である.また,正常でも隅角に血管がみられることがある.これは,比較的太く毛様体から立ち上がり,分枝・蛇行せず,網状となることはない.たとえば,正常隅角血管を有する原発開放隅角緑内障や落屑緑内障眼では,開放隅角緑内障期のNVGと鑑別が必要となる.さらに,落屑緑内障など他の緑内障病型にNVGが合併する場合もあり,他眼の所見を含めNVGが多発するわけではない.逆に,検眼鏡的に出血や白斑が目立たないために網膜光凝固が不足し,前眼部新生血管の発生を招くことがある.したがって,前眼部新生血管がみられた症例では,蛍光眼底造影により網膜虚血の存在を確認することが重要である.一方,白内障手術や硝子体手術など観血的手術後に網膜症が増悪し,NVGが発症することがある.当科でのNVG症例の約3割は,先行する内眼手術が誘因であったと考えられた.特に糖尿病網膜症を有する眼では,網膜光凝固が不十分であると,白内障手術や黄斑浮腫・硝子体出血などに対する硝子体手術の術後にNVGが発症することは珍しくない.したがって,糖尿病網膜症を含め虚血性網膜疾患の既往のある眼の手術後は,NVGのハイリスク眼として注意深く経過観察する必要がある.網膜中心静脈閉塞症では,虚血型において発症3カ月以内にNVGを発症しやすいので,発症後の時間経過を念頭においた経過観察が必要である.さらに,原発開放隅角緑内障に網膜中心静脈閉塞症が合併することもまれではない.特に若年者や両眼性の場合には基礎疾患の精査も必要である.眼虚血症候群では,内頸動脈閉塞によって眼灌流圧が低下し房水産生が低下しているので,隅角の新生血管が伸展しても眼圧が上昇しにくく要注意である.高血圧や図1血管新生緑内障眼の虹彩新生血管と散瞳の影響51歳,女性,右眼増殖糖尿病網膜症による血管新生緑内障(前緑内障期).非散瞳時(左)よりも散瞳時(右)には,特に瞳孔縁の新生血管の観察が困難である.矢印と丸は同一部位を示す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009325(43)圧下降薬のみによる眼圧コントロールには限界がある.特に閉塞隅角期では新生血管を抑制できても薬物療法のみで眼圧下降が得られる可能性は低く,眼圧が下降しても前眼部新生血管が持続すれば隅角閉塞が進行しやがて高眼圧となる.網膜光凝固では新生血管の消退までに時間がかかる症例が少なくない.高眼圧の状態ではどれだけ光凝固を追加しても新生血管が消退しないことがある.さらに,高眼圧による角膜浮腫,白内障,硝子体出血などにより経瞳孔的網膜光凝固が困難な場合も少なくない.トラベクレクトミーをはじめとする緑内障手術は,新生血管の活動性がある状態では,術中・術後出血や術後炎症により手術成績は不良である.毛様体破壊術は,速効性でないこと,定量性がないことが問題であり,濾過手術不成功例・非適応例に対する術式とされることが多い.以上の問題点によって,従来の治療法では高眼圧が遷延し,それによって視神経障害が進行してしまう症例が少なくなかった.VNVGの新たな治療方針1.血管内皮増殖因子とその抑制NVGにおける眼圧上昇の原因である前眼部新生血管の形成には,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が深く関与している.これに関する最初の報告は,1994年にさかのぼる3).Aielloらは,増殖糖尿病網膜症による虹彩新生血管を有する眼において前房水中のVEGF濃度が上昇していることを報告した.その後,サル眼の硝子体にVEGFを注入すると虹彩新生血管が惹起されることや,網膜中心静脈閉塞症によるNVGにおける虹彩新生血管の消長に前房水中VEGF濃度が密接に相関していることなどが報告された.したがって,VEGFを抑制することによるNVGの治療の可能性が期待されていた.抗VEGF薬として最初に市販された薬剤は,Avas-tinR(bevacizumab)である.これは,VEGFに対するヒト化マウス抗体であり,転移性大腸癌の治療に対して2004年2月に米国食品医薬品局に認可された.眼疾患では,MacugenR(pegaptanib,VEGFのアイソフォームの一つであるVEGF165を特異的に阻害するRNAアプタマー)とLucentisR(ranibizumab,VEGFに対するて慎重に診断する必要がある.閉塞隅角緑内障期では,PASをきたす疾患との鑑別が必要である.これには,原発閉塞隅角緑内障,ぶどう膜炎,内眼手術既往などがある.NVGでは,血液眼関門の破綻により前房内の細胞やフレアが増加するため,ぶどう膜炎と誤診してしまう可能性がある.また,PASと隅角新生血管が併存する場合には,PASの形成が新生血管によるのか他の原因によるのか鑑別が困難な場合がある.NVGでは眼圧にのみ気をとられて,緑内障性視神経症の評価がおろそかになりやすい.視神経乳頭の観察と視野検査は治療開始前に必須である.しかし,著明な白内障や硝子体出血などにより評価困難な場合がある.また,糖尿病網膜症での汎網膜光凝固や網膜中心静脈閉塞症では著明な視野障害をきたしうるので,緑内障性の視野障害の程度を正確に評価できない場合が少なくない.その場合,視神経乳頭所見と対比して緑内障性視神経症の程度を判定する.高眼圧による視神経のダメージを把握しておくことは治療方針の決定や視機能予後の推測に不可欠であるので,視神経乳頭の観察と視野検査は可能な限り行うべきである.IVNVGの治療方針従来の治療法とその問題点NVGは続発緑内障であるため,緑内障に対する眼圧下降療法に加えて,原因療法としての前眼部新生血管の抑制を並行して進める必要がある2).前緑内障期であれば,前眼部新生血管の抑制によって眼圧上昇の防止を図る.網膜虚血が原因である場合,前眼部新生血管抑制のための治療は,経瞳孔的網膜光凝固術が主体である.しかし,中間透光体の混濁などによってこれが困難である場合,白内障手術や硝子体手術を行い,術中あるいは術後に網膜光凝固を追加する.網膜冷凍凝固など眼底透見性に依存せずに網膜を凝固する方法の有用性も報告されている.一方,眼圧下降療法は,薬物・手術療法ともに他の緑内障病型と基本的に共通である.しかし,NVGは最も難治性の緑内障の一つとされ,視機能予後は一般に不良とされている2).その原因として従来の治療法が抱える問題点があげられる.まず,眼———————————————————————-Page4326あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(44)うるので,これらの疾患の発症後間のない症例あるいはコントロール不十分な症例には投与を控えている.当科でのbevacizumabの具体的な投与法を紹介する.当科ではできるだけ入院にてbevacizumabの硝子体内投与を行っている.注入器具として,デッドスペースが少なく針が短いインスリン注射用29ゲージ針付きシリンジを使用している.Bevacizumabは当院薬剤部にて100mg/4mlのバイアルから必要量を無菌的にシリンジに分注し冷蔵保存している.注射前に散瞳し,点眼麻酔の後にイソジンRで瞼縁を含めた皮膚消毒を行う.洗眼後開瞼器をかけて,手術用あるいは処置用顕微鏡下で1%キシロカインRを注射予定部位付近に少量結膜下注射する.数分待ってキャリパーで輪部から3.5mm(眼内レンズ挿入眼または無水晶体眼)あるいは4mm(有水晶体眼)をはかり,注射針を毛様体扁平部から硝子体内に進め,bevacizumab1.25mg(0.05ml)を注入する.薬液の逆流を防ぐために刺入時はなるべく斜めに強膜を通るようにする.注射針の抜去後,すぐに結膜上から刺入部を鑷子などで十分に圧迫する.硝子体内注射直後にはしばしは眼圧上昇が起こるが,通常は一過性である.しかしNVG眼では眼圧上昇が高度かつ遷延化する可能性があるので,高眼圧症例ではサイドポートをつくり前房水を抜くことで眼圧を正常化させている.その後,手動弁の確認(網膜中心動脈閉塞症の除外),抗生物質の点眼あるいは軟膏点入を行い,眼帯を装用させる.前房ヒト化マウス抗体断片)が,それぞれ2004年12月と2006年6月に滲出型の加齢黄斑変性症に対して米国食品医薬品局に認可され,最近日本でも同疾患に対して使用が認可された.しかし,NVGに対して適応とされる薬剤は,日本に限らず現時点では存在しない.このような状況にもかかわらず,2006年3月のAvery4)の報告以降NVGに対する抗VEGF薬の使用が続々と報告されてきた.2.抗VEGF薬の使用法2008年6月末現在のPubMedの検索では,前緑内障期を含むNVG眼に対する抗VEGF薬の投与が記載されている論文は26報あり,ranibizumabの1報以外はすべてbevacizumabが使用されていた.NVGに対する抗VEGF薬の投与経路は,ranibizumabの1報では硝子体内投与であり,bevacizumabでは硝子体内投与が22報と多数を占め,前房内投与が4報みられた.抗VEGF薬の投与量は,ranibizumabの1報は0.5mgであり,bevacizumabの硝子体内投与では0.125mgが1報,1.0mgが4報,1.25mgが15報,1.5mgが2報,2.5mgが1報であり,加齢黄斑変性症などの他疾患に対する硝子体内投与量と同様の用量であった.Bevacizumabの前房内投与では1.0mgが1報,1.25mgが3報あり,硝子体内投与と同様の用量であった.当科では,適応外使用であるbevacizumabの眼疾患に対する使用について,学内倫理委員会での承認を経て,2007年より網膜硝子体疾患に対するbevacizumabの使用を開始した.その一環として,慎重な適応の決定と十分なインフォームド・コンセントの取得の下に,NVGに対してbevacizumabの硝子体内投与を行っている.NVGに対するbevacizumab硝子体内投与の適応は,NVGの病期,他の治療〔抗緑内障薬,汎網膜光凝固(panretinalphotocoagulation:PRP),白内障手術・硝子体手術・緑内障手術など〕の既往を踏まえたうえで,前眼部新生血管の活動性,観血的手術の必要性,眼圧,緑内障性視神経症の程度,残存視機能などを総合的に判断し決定している(図2).Bevacizumab全身投与による副作用である血圧上昇,心筋梗塞,脳梗塞などは,硝子体内から全身への薬剤の移行によって理論的に起こりNoNoYesNoNoYesNoYesYesYes*:白内障手術,硝子体手術,濾過手術適応なし適応ありPRP優先#適応なしPRP優先#適応あり#:PRP追加困難な場合はbevacizumab投与を考慮前眼部新生血管高眼圧緑内障性視神経症視機能残存観血的治療の必要性*図2当科における血管新生緑内障に対するbevacizumab硝子体内投与の適応———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009327(45)当科では,2008年12月まで50例63眼のNVGに対してbevacizumab硝子体内投与を行い,眼局所あるいは全身性の合併症はみられなかった.初回投与例連続26例29眼(経過観察期間6カ月以上)について検討したところ,投与後16日で新生血管の明らかな退縮が全例にみられた(図3).しかし,新生血管の再発は,1.57.5カ月後に7眼(24%)にみられ,PRPの追加とbevacizumab再注入によって消退した.また,bevaci-zumab硝子体内投与後(9.2±11.1日,148日,中央値5日)に初回マイトマイシンC併用トラベクレクトミーを施行した連続21症例21眼(経過観察期間6カ月以上,使用群)と当科においてbevacizumab使用開始以前にNVGに対して施行された初回トラベクレクトミー連続症例32例32眼(非使用群,bevacizumab使用群と患者背景に有意差なし)とを比較すると,術翌日の前房出血は使用群で5眼(24%),非使用群で20眼(63%)と使用群で有意に少なかった(p<0.01).7日を超える前房出血の持続は使用群で0眼,非使用群で8眼(25%)穿刺を行わない症例では,眼圧測定と診察(細隙灯顕微鏡・眼底検査:視神経での血流確認,出血,網膜離などの合併症の有無)を行う.術後は,数日間抗生物質の点眼を行う.原則として翌日に術後診察を行っている.3.抗VEGF薬の効果NVGに対する抗VEGF薬の効果として,過去の報告511)では前眼部新生血管の速やかな退縮,眼圧下降,緑内障手術時の出血性合併症の抑制などがあげられている.前眼部新生血管の退縮は,多くは1週間以内に明らかとなり翌日にみられる症例もある.前眼部新生血管の退縮および眼圧下降効果は,PRPよりも速効性と確実性の点で優れる.しかし,前眼部新生血管の再発は起こりうる.眼圧下降による観血的手術の回避は開放隅角期では期待できるが,閉塞隅角期ではむずかしい.NVGの原因疾患や抗VEGF薬の種類,投与法(硝子体内投与vs前房内投与など)による効果の相違は今のところ明らかではない.図3Bevacizumab硝子体内投与による前眼部新生血管の消退65歳,女性,右眼増殖糖尿病網膜症による血管新生緑内障(開放隅角緑内障期).左:初診時.右:Bevacizumab硝子体内投与後1週.Bevacizumab硝子体内投与により虹彩,隅角の新生血管が著明に退縮した.———————————————————————-Page6328あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(46)と予想される症例では濾過手術の術中あるいは術後に白内障手術あるいは硝子体手術の併用を考慮する.小切開手術の普及とbevacizumabによる出血性合併症の抑制効果を考えると,濾過手術との同時手術あるいは濾過手術前後での併用が従来ほど濾過手術の成績に悪影響を与えない可能性がある.当科でのbevacizumab眼内投与後のトラベクレクトミー症例のうち術中に白内障・硝子体手術の併用が4眼(19%)に行われたが,いずれも術後眼圧経過は良好であった.以上のように,bevacizumabの眼内投与による速やかな前眼部新生血管の退縮によって,隅角閉塞進展の抑制による難治・進行例の減少,濾過手術の出血性合併症の抑制と成績向上,さらにNVGの予後改善が期待される(図4).今後,bevacizumab以外の抗VEGF薬が頻用されるようになった場合,その薬剤との効果の比較も注目される.しかし,bevacizumab投与後に前眼部新生血管の再発を見逃すと難治化させる恐れがあり,濾過手術後では眼圧上昇の原因となる.注意深い経過観察に加えてPRPの追加やbevacizumabの再投与,濾過手術などの他の治療法について,その適応やタイミングを適切に判断する必要がある.しかし,現時点ではそのガイドラインは存在しない.NVGに対するbevacizumabの眼内投与について,現時点では大規模な多施設臨床治験は報告されておらず,現在多く用いられている1mg程度のbevacizumabは過剰量であるとの指摘もあり,今後安全性など未知の問題が生じてくる可能性もある.何よりもbevacizumabの眼内投与は適応外使用であることから,慎重な使用と厳重な経過観察が不可欠である.と使用群で有意に少なかった(p=0.012).このほか,bevacizumab使用群において,脈絡膜出血や高度の硝子体出血などの合併症はみられなかった.さらに,トラベクレクトミー術後の眼圧コントロールを比較すると,1カ月以降の術後眼圧が2回連続して21mmHgを超える,観血的緑内障手術・毛様体破壊術の追加,光覚喪失・眼球癆を死亡と定義した場合,術後点眼加療の有無にかかわらずbevacizumab使用群のほうが有意に生存率が良好であった(1年生存率=点眼あり:使用群95.2%,非使用群68.5%;点眼なし:使用群90.5%,非使用群43.3%).4.抗VEGF薬の位置づけ抗VEGF薬であるbevacizumabの眼内投与は,前眼部新生血管抑制のための薬物療法という新しいカテゴリーに位置づけられる(表1).根本的に網膜虚血を解消するわけではないので,PRPの代替療法ではないが,新生血管退縮や眼圧下降には速効性があり,中間透光体混濁の影響を受けないというPRPよりも優れた特徴がある.さらに,硝子体手術や濾過手術の術前処置として出血性合併症の抑制に有効である.NVGの治療において従来はとにかくPRPの徹底が最優先とされ,周辺部網膜の徹底した光凝固のために硝子体手術が施行された.しかし,たとえば無治療・高眼圧・進行した視神経障害をもつ重症例では,bevacizumabの眼内投与に引き続き比較的早期に濾過手術を行うことが,高眼圧の持続による視神経障害の進行抑制の観点からは望ましいかもしれない.硝子体手術既往がトラベクレクトミー術後成績悪化の因子である12)ことからも濾過手術の先行が有利と思われる.濾過手術後にPRPが不足している症例では,術後に経瞳孔的にPRPを追加するが,それが困難表1血管新生緑内障治療における抗VEGF薬の位置づけ前眼部新生血管抑制眼圧下降薬物療法抗VEGF薬(VEGF抑制)眼圧下降薬(房水産生抑制)手術療法網膜光凝固・冷凍凝固(網膜虚血解消)濾過手術(房水排出促進)毛様体破壊術(房水産生抑制)VEGF:vascularendothelialgrowthfactorPRP:panretinalphotocoagulation2.濾過手術の出血性合併症抑制と成績の改善1.悪循環を速やかに断ち隅角閉塞進行を防ぐ図4血管新生緑内障治療における抗VEGF薬への期待———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009329文献1)BrownGC,MagargalLE,SchachatAetal:Neovascularglaucoma.Etiologicconsiderations.Ophthalmology91:315-320,19842)Sivak-CallcottJA,O’DayDM,GassJDetal:Evidence-basedrecommendationsforthediagnosisandtreatmentofneovascularglaucoma.Ophthalmology108:1767-1776,20013)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendotheli-algrowthfactorinocularuidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEngJMed331:1480-1487,19944)AveryRL:Regressionofretinalandirisneovasculariza-tionafterintravitrealbevacizumab(Avastin)treatment.Retina26:352-354,20065)DavidorfFH,MouserJG,DerickRJ:Rapidimprovementofrubeosisiridisfromasinglebevacizumab(Avastin)injection.Retina26:354-356,20066)MasonJO3rd,AlbertMAJr,MaysAetal:Regressionofneovascularirisvesselsbyintravitrealinjectionofbevacizumab.Retina26:839-841,20067)GheithME,SiamGA,deBarrosDSetal:Roleofintravi-trealbevacizumabinneovascularglaucoma.JOculPhar-macolTher23:487-491,20078)ChalamKV,GuptaSK,GroverSetal:IntracameralAvastindramaticallyresolvesirisneovascularizationandreversesneovascularglaucoma.EurJOphthalmol18:255-262,20089)KubotaT,AokiR,HaradaYetal:Intravitrealinjectionofbevacizumabtotreatneovascularglaucoma.JpnJOphthalmol52:410-412,200810)KitnarongN,ChindasubP,MetheetrairutA:Surgicaloutcomeofintravitrealbevacizumabandltrationsurgeryinneovascularglaucoma.AdvTher25:438-443,200811)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intravi-trealbevacizumabtotreatirisneovascularizationandneovascularglaucomasecondarytoischemicretinaldiseasesin41consecutivecases.Ophthalmology115:1571-1580,200812)KiuchiY,SugimotoR,NakaeKetal:TrabeculectomywithmitomycinCfortreatmentofneovascularglaucomaindiabeticpatients.Ophthalmologica220:383-388,2006(47)

角膜移植後の緑内障はこう治す

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS一方,近年の角膜移植術の進歩に伴い,数多くの難治性眼表面疾患を「治す」ことが可能となってきた.さらにその移植方法も従来の角膜全層移植や表層移植のみならず,培養上皮シートを用いた角膜上皮移植やさらにはDSAEK(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty)に代表される内皮シート移植などのような角膜のパーツ移植へと進化してきている.このような進歩の背景にはLASIK(laserinsitukeratomileusis)などの屈折矯正手術の普及のみならず,シクロスポリンに代表される免疫抑制療法の発展が大きく寄与している.今では眼類天疱瘡やStevens-Johnson症候群,急性期化学外傷などのように従来は禁忌とされてきた疾患に対しても積極的に外科的治療が施され,これらの疾患はじめにはたして緑内障とは治すことができる疾患であろうか.それは「治る」の言葉の定義次第である.「治る」を「完全に健康な元の状態に戻ること」とするなら,障害された神経を再生させることは現在の医学でもまだ不可能であるため,緑内障は不治の病ということになる.「治る」を「それ以上の進行を食い止めること」と定義するならば,現在の緑内障治療はすべからくこれを目標としており,かなりの症例で実行が可能となっている.しかし実際には眼圧を十分に下降させても進行を食い止めきれない症例が存在しており,「悪化のスピードを遅らせること」で何とか患者さんに納得してもらうしかない場合も多い.(35)317aioori6020841465特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):317321,2009角膜移植後の緑内障はこう治すHowtoTreatGlaucomaafterCornealTransplantation森和彦*図1化学外傷による瘢痕性眼表面疾患図2図1と同一症例の羊膜移植を併用した眼表面再建術後———————————————————————-Page2318あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(36)ド緑内障の頻度も減少傾向にある.いずれの時期においても角膜移植後に生じた続発緑内障は,角膜移植片の生着ならびに透明性維持にも悪影響を与え,かつ緑内障手術自体も炎症を惹起することから,移植片拒絶のリスクを高める結果となるため十分な管理上の注意が必要である.II角膜移植後緑内障の治療方針治療の基本は他の続発緑内障と特に変わるところはない.視神経の障害程度を見きわめたうえで,必要最小限の薬物で最大限の効果を狙いつつ,眼圧上昇の原因に応じた治療を行う.しかし,角膜移植後眼の特殊性として基本的には眼底の透見性が不良なことが多いため,ついつい本来の対象臓器である前眼部ばかりに目が行きがちであり,気がついたら視野検査所見や視神経乳頭所見を取る努力すらなされていなかったという場合もある.眼圧測定も角膜表面が不整な状態であることが多い(図4)ため,トノペンRやアイケアなどの角膜接触面積の小さい眼圧計のほうが有利(図5)ではあるが,いかなる眼圧計を用いても正確に測定できず眼瞼上から触診で類推するしかない場合もある.いわんや接触検査である隅角検査などはもってのほかで,移植片拒絶反応や移植した上皮細胞の脱落の恐れから触ることすら制限されることがある.そのような場合でも緑内障手術適応決定時には隅角検査は必須であり,Susman型圧迫隅角鏡のようなが「治る」疾患へと変貌してきている(図1,2).I角膜移植後の合併症眼表面疾患は移植さえしてしまえば完全に「治す」ことができるのであろうか.否,世の中はそれほど甘くはない.角膜移植後に生じる治療困難な合併症には,移植片拒絶反応,免疫抑制に伴う感染症,続発緑内障などがある.なかでも続発緑内障は角膜移植後の失明原因として常に上位に位置しており,角膜がきれいになっても視神経が障害されてしまっては元も子もない.術後の一過性高眼圧を除いた角膜移植後続発緑内障の発症頻度は全体では30%程度とされているが,角膜移植の原因疾患によってその頻度が大きく異なっている.たとえば,無水晶体性水疱性角膜症では続発緑内障発症頻度が2070%と最も高く,円錐角膜や先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED)などでは低いとされている1).一般に,角膜移植後の続発緑内障発症・増悪のリスクとしては,角膜移植前から存在している緑内障の既往,無水晶体無硝子体眼,眼内レンズ(IOL)摘出術併用例などがあげられている.また眼圧上昇メカニズムとしては移植後の経過期間によりその機序が異なっており,移植後早期には前房内残留粘弾性物質,出血,炎症,角膜浮腫や浅前房による周辺虹彩前癒着,瞳孔ブロック,悪性緑内障などが考えられている.一方,移植後に一定の期間が経過した晩期では,ステロイド緑内障,拒絶反応に伴う炎症・虹彩前癒着の進行(図3),悪性緑内障などの機序があげられる.近年はシクロスポリンに代表されるステロイド以外の免疫抑制療法が広く用いられるようになり,ステロイドを長期にわたって使用しなくてはならない症例が減少してきているため,必然的にステロイ図4全層角膜移植術後の眼表面不整図3Creepingメカニズムによる周辺虹彩前癒着の進行———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009319(37)な限り添加されていないかもしくは濃度が少ないほうが望ましい.しかし,抗緑内障薬の使用は眼圧下降を主目的としていることから,その決定にあたっては主剤の効果を基準にすべきであり,副作用を恐れて眼圧下降効果の劣る薬剤を投与することは本末転倒である.b2交感神経刺激薬や副交感神経刺激薬は無水晶体眼における胞様黄斑浮腫(CME)の危険性,虹彩前癒着の進行などの副作用を考慮したうえで,使用することのメリットがデメリットを上回るならば使用を考慮する.しかし,抗緑内障点眼薬はいずれも角膜の上皮障害ならびに結膜充血などの副作用をひき起こす可能性があるので,基本的には多剤併用は可能な限り3剤までにとどめるべきであり,点眼薬使用中には眼表面状態の十分な管理・注意が必要である.IV角膜移植後緑内障に対する手術療法先に述べた内科的療法によっても眼圧がコントロールできない場合には,観血的療法を選択せざるをえない.選択的レーザー線維柱帯形成術などのレーザー治療は角膜の状態が良好でかつ開放隅角症例のみが適応となりうるが,角膜移植後緑内障における安全性と効果に関しては報告がない.角膜移植後緑内障に対する手術術式としては,移植した角膜内皮に対する影響や免疫抑制に伴う易感染性を考慮すれば,少しでも適応があるならまずはトラベクレクトミー(図7)よりもトラベクロトミーを選択したほうがよいと思われる(図8).すなわち角膜の透明性が良好で隅角の状態が確認でき周辺虹彩前癒着が少ない症例では,眼圧上昇の機序としてステロイド緑内障の関与が強く疑われるため,トラベクロトミーが非常に良い適応となる.部分的な周辺虹彩前癒着が存在していても癒着期間が短い場合,もしくは面状ではなく線状に癒着をきたしている場合であれば隅角癒着解離術とトラベクロトミーの併用が可能である.しかし,実際には前述の条件を満たさないときには,他の難治続発緑内障の場合と同様にマイトマイシンC併用トラベクレクトミーが必要となる症例が多い.マイトマイシンC併用トラベクレクトミーの成功率は3070%(経過観察期間15年)と報告によりさまざまであるが,角膜再移植例,無水晶体眼,周辺虹彩前癒着による閉塞隅角を認角膜接触面積の小さな隅角鏡(図6)を用いて,角膜上皮に負担をかけない隅角検査手技を日頃からマスターしておくことが必要である.以上のように,緑内障治療の面からはかなり制限を課された状況下で診断・治療を進めてゆかねばならない点で,角膜移植後の緑内障は他の続発緑内障と比べてきわめて特殊であるといえる.III薬物療法の基本通常,早期の眼圧上昇に対しては,bブロッカーやプロスタグランジン製剤などの点眼や炭酸脱水酵素阻害薬の点眼・内服治療から開始する.ステロイドは可能であるならば,より力価の弱いものに変更するか完全に中止するかして,シクロスポリンなどのステロイド以外の免疫抑制療法に切り替える.炭酸脱水酵素は角膜内皮にも存在し,角膜の透明性維持に関与していることから内皮細胞が減少しているような状況下では,可能な限り使用を制限したほうが望ましい.塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤は眼表面に対して障害的に作用するため,可能図5アイケア眼圧計(左)とGoldmann眼圧計(右)の接触面積の差図6各種隅角鏡の角膜接触面積の差a:Goldmann三面鏡,b:Susman型圧迫隅角鏡,c:マグナビュー拡大一面鏡.abc———————————————————————-Page4320あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(38)めに術後の眼圧予測がむずかしいだけでなく,惹起された炎症による移植片拒絶反応,低眼圧,視力低下,眼球癆などの合併症がある.近年,これらの合併症を予防し過剰凝固を抑制するために,眼内内視鏡を用いて直視下に毛様体突起部のみを選択的に光凝固する手法や毛様体扁平部凝固など,種々の新しい手法が開発されてきている.まとめ角膜移植に伴う緑内障では,通常の緑内障検査を正確に行うことができないために,その診断が困難であり,発見や治療が遅れることが多い.しかし,緑内障の眼圧コントロールが角膜移植の治療成績にも影響することから,眼圧上昇時の抗緑内障点眼薬による角膜上皮障害には十分に注意して診察する必要がある.さらに眼表面炎症の抑制や角膜移植片の拒絶予防の目的で長期にわたりステロイドや免疫抑制薬を使用する例も多いため,ステロイド緑内障の発症のみならずトラベクレクトミー後の濾過胞感染にも十分な注意が必要である.昨今,眼表面の再建方法が向上し,角膜移植や羊膜移植の適応疾患は広がりつつある.これに伴い眼表面全体に再建術を行っているような難症例に対する続発緑内障の治療も増加してきている.このような症例に対する治療として,現状のマイトマイシンC併用トラベクレクトミーでは限界がある.羊膜移植併用トラベクレクトミめる症例では眼圧コントロール成績が低下する1).また,5-フルオロウラシル(5-FU)の併用は角膜移植片における上皮障害と創傷治癒の遅延が懸念されるため,一般的には角膜移植後には禁忌とされる.さらに眼表面も同時に障害されている化学外傷やStevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡など眼表面疾患を有する症例では,濾過胞作製部位の結膜も障害されていることからマイトマイシンC併用トラベクレクトミー自体が施行困難となるため,シャント手術の適応と考えられる.しかし,Mol-tenoimplantsやAhmedimplantsなどのドレナージデバイス移植は,デバイス先端の角膜内皮への慢性的接触が発生するために,内皮脱落や移植片の拒絶反応などの合併症が多いのが難点である.毛様体扁平部から硝子体腔にデバイスの先を挿入する方法は角膜内皮への影響を最小化できるが,必ず硝子体手術を併用する必要があるため,角膜混濁による眼底透見性の程度が硝子体手術の可否を決める条件となる.眼内内視鏡を用いた硝子体手術も盛んに行われるようになっており,角膜混濁があっても硝子体手術の制限にはならなくなってきている.以上のような観血的手術療法によっても眼圧コントロールが得られない症例には,最終手段としての毛様体破壊術を考慮せざるをえない.Nd-YAGレーザーや半導体レーザーを用いた経強膜毛様体レーザー光凝固術が最も一般的であるが,眼内炎症が遷延したような症例では毛様体突起の位置自体が大幅にずれている場合もあるた図7全層角膜移植術後眼に対するマイトマイシンC併用線維柱帯切除術図8全層角膜移植術後眼に対する線維柱帯切開術(下鼻側アプローチ)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009321(39)20063)MermoudA,HeuerDK:Glaucomaassociatedwithtrau-ma.Chemicalburns,TheGlaucomas.ClinicalScience,2nded(edbyRitchR,ShieldsMB,KrupinT),Chapter59,p1271-1275,Mosby,StLouis,19964)GreenK,PatersonCA,SiddiquiA:Ocularbloodowafterexperimentalalkaliburnsandprostaglandinadminis-tration.ArchOphthalmol103:569-571,19855)樋野景子,森和彦,外園千恵ほか:羊膜移植併用線維柱帯切除術を施行した薬剤性偽眼類天疱瘡の1例.日眼会誌110:312-317,20066)森和彦:角膜移植と緑内障.眼科プラクティス11緑内障診療の進めかた(根木昭編),p70-71,文光堂,2006ー(図9)は濾過胞の形成,強化に有効であるが,長期成績についてはまだ不明である5).今後は眼表面状態に左右されない新しい眼圧測定法や緑内障手術の開発が待ち望まれる.文献1)LeePP,McDonnellPJ:Penetratingkeratoplastyandglaucoma.PrinciplesandPracticeofOphthalmology,2nded(edbyAlbertDM,JakobiecFA),Chapter219,p2860-2873,Saunders,Philadelphia,20002)荒木やよい,森和彦,成瀬繁太ほか:角膜移植後緑内障に対する緑内障手術成績の検討.眼科手術19:229-232,図9羊膜移植併用トラベクレクトミー層膜羊膜膜基膜層膜と線維柱帯を切除羊膜を膜に合羊膜を膜と羊膜接しる羊膜を膜にしたの膜合