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ぶどう膜炎に続発する緑内障はこう治す

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS(APAC)とよく似た所見を呈することもある.毛様体の炎症は房水産生を促進することも,抑制することもある.内因性プロスタグランジン(PG)などの作用によりぶどう膜強膜流出路における房水流出量は増加しており,同時に眼圧下降の機序も働いていることもあり,房水流出障害があっても,表面上は眼圧上昇が生じていないことがある.さらに治療で用いたステロイド薬により眼圧上昇が起こることもあり,ぶどう膜炎に伴う眼圧の変化をよりいっそう複雑なものにしている.表2に眼圧上昇をきたしやすいぶどう膜炎を列挙する.2.ぶどう膜炎に続発する緑内障の特徴(表3)続発緑内障に共通する高度の眼圧上昇と原因治療が眼圧下降治療に直結するという面をもつと同時に,前述のはじめにぶどう膜炎に眼圧上昇が合併することは日常診療でよく経験される.ぶどう膜炎の全経過中に眼圧上昇をきたす頻度は40%程度であり,続発緑内障にまで進展するものは1020%くらいと推定される.また,治療に用いるステロイド薬による眼圧上昇もしばしばみられ,ぶどう膜炎と緑内障は関連の深い疾患といえる.ぶどう膜炎に続発する緑内障にはさまざまな病態と程度があり,治療にあたってはその発生機序と病態を正しく理解し,それぞれに適した治療方法を選択することが重要である.Iぶどう膜炎に続発する緑内障1.ぶどう膜炎による眼圧上昇機序(表1)ぶどう膜炎による炎症はさまざまな形で眼圧に影響を及ぼす.開放隅角における房水流出抵抗の増大には炎症細胞やフィブリンなどの炎症産物が線維柱帯間隙を閉塞すること,線維柱帯に炎症が及び線維柱帯細胞の機能が障害されること,細胞外マトリックスが増加することなどが関与する.また,炎症が長期化すれば,線維柱帯以降の房水流出路にも変性が生じてくる.炎症により周辺虹彩前癒着(PAS)が進行すれば,閉塞隅角メカニズムによる眼圧上昇が生じてくる.瞳孔縁で全周性の虹彩後癒着を形成すれば,瞳孔ブロックにより急激な眼圧上昇をきたす(irisbombe).原田病では毛様体の腫脹により虹彩水晶体隔膜が前方移動し,急性原発閉塞隅角症(29)311iosio116116202特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):311315,2009ぶどう膜炎に続発する緑内障はこう治すTreatmentofSecondaryGlaucomawithUveitis吉野啓*表1ぶどう膜炎による眼圧上昇機序開放隅角炎症細胞,炎症産物が線維柱帯間隙を閉塞線維柱帯細胞の機能低下細胞外マトリックスの増加炎症による線維柱帯以降の房水流出路の変性房水産生の促進ステロイド緑内障閉塞隅角虹彩後癒着による瞳孔ブロック(irisbombe)周辺虹彩前癒着(PAS)による隅角閉塞毛様体腫脹による虹彩水晶体隔膜の前方移動(原田病)血管新生緑内障———————————————————————-Page2312あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(30)で,眼圧は大きく変動している.このような症例は診断さえつけばステロイド点眼のみで眼圧コントロールは良好となることが多いだけに,確実な診断が望まれる.わずかな隅角結節(図1)だけが唯一の所見で前房内細胞も,角膜後面沈着物もほとんどない,といった症例は決して珍しくない.IIぶどう膜炎に続発する緑内障の治療1.治療方針ぶどう膜炎に続発する緑内障の治療は,ぶどう膜炎に対する消炎治療と緑内障に対する眼圧治療との2本立てである.いずれも通常は薬物治療から開始するが,irisbombeでは早期に外科的治療が必要となることが多い.また,薬物治療によっても十分な眼圧下降が得られないものや,視野障害の進行が明らかなものは外科的治療の対象となる.2.Irisbombeの治療瞳孔縁が全周性に癒着を起こし,完全瞳孔ブロックを起こした状態である.周辺部の虹彩が角膜に密着して隅角を閉塞し,急激な眼圧上昇をきたす.初期の場合には散瞳剤の点眼や結膜下注射により,虹彩後癒着がはずれてirisbombeが解消できることがあるので,まずは散瞳を試みる.散瞳が無効であった場合はレーザー虹彩切開術(LI)または周辺虹彩切除術(PI)とおり眼圧上昇因子と眼圧下降因子が同時に働いていることから,眼圧の変動がきわめて大きいことが特徴である.また,炎症の程度と眼圧は必ずしも相関せず,炎症所見が非常に乏しい症例が案外多く存在することも一つの特徴と思われる.明らかな炎症所見があれば診断は容易であるが,このような例では原因がぶどう膜炎とは気づかれず,きわめて眼圧が不安定な原発開放隅角緑内障(POAG)としてフォローされていることが多い.大抵多くの緑内障治療薬が処方されているが,反応は不良図1隅角結節写真は典型例であるが,小さな結節1つが唯一の所見である症例もある.表2眼圧上昇をきたしやすいぶどう膜炎強膜炎感染性○梅毒結核帯状疱疹ウイルスによる強膜炎非感染性○慢性関節リウマチWegener肉芽腫症結節性多発性動脈炎サルコイドーシス前部ぶどう膜炎感染性○帯状疱疹ウイルス○単純ヘルペスウイルス非感染性○角膜ぶどう膜炎○Posner-Schlossman症候群HLA-B27関連ぶどう膜炎Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎○若年性関節リウマチ関連ぶどう膜炎中間部ぶどう膜炎感染性トキソカラ症Lyme病梅毒非感染性サルコイドーシス多発性硬化症毛様体扁平部炎汎ぶどう膜炎感染性○急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)眼内炎非感染性サルコイドーシス原田病○:眼圧上昇頻度の高い疾患.表3ぶどう膜炎に続発する緑内障の特徴上昇時の眼圧が高い眼圧の変動が大きい炎症所見がきわめて乏しい症例もある(案外多い)原因治療が眼圧治療に直結する———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009313(31)3.毛様体浮腫による閉塞隅角緑内障原田病などでは急性に毛様体の浮腫が出現し虹彩水晶体隔膜が前方に移動し閉塞隅角をきたすことがある.APACとよく似た所見を呈するが,いきなりピロカルピン点眼やLIなどAPACに対する治療を行わないように注意する.超音波生体顕微鏡(UBM)があれば診断は容易,確実であるが,ない場合は年齢や問診,発症の状況,屈折,他眼との比較などが参考となる.まず1%アトロピンとステロイド薬の点眼を行う.散瞳後,隅角鏡で毛様体突起が確認されれば診断は確定的である.眼圧や角膜の状況により,マンニトール点滴,炭酸脱水酵素阻害薬内服,bブロッカー点眼などを用いる.多くの場合,同日または数日以内にステロイド薬の全身投与(パルス療法または大量漸減療法)が開始されるが,点眼のみでも大抵は12日で前房深度は正常化する.4.薬物治療a.消炎治療1)ステロイド薬ぶどう膜炎治療の基本となる薬剤はステロイド薬である.炎症の程度と部位によって投与方法,投与量などを検討する.ステロイド薬を使用する際には常にステロイド緑内障を念頭に置いておく必要がある.まずは点眼であるが,通常デキサメタゾンやベタメタゾンを1日4,5回から増減する.炎症が高度な場合,1を行う(図2).LIの場合,周辺部にこだわる必要はなく,まずはブロックを解消することを優先すべきである.初めはアルゴンレーザーを用い2段階照射を行う.筆者は通常のLIでは2段階照射はしないが,irisbombeに限っては行うようにしている.第一段階は200μm,0.2秒,200mWで虹彩をフラット化させ,ついで50μm,0.02秒,1,000mWで第二段階照射を行う.ある程度行っても穿孔が得られない場合は早めにYAGレーザーに切り替えたほうが良い.パワーは状態を見ながら調整するが,筆者はできるだけショット数を少なくすることを優先し,34mJと比較的高出力で行うことが多い(表4).とりあえず小さな孔が開けばirisbombeは解消されるが,十分な大きさが得られていないと再閉塞し,irisbombeを再発してしまうので,後日,同じ部位を拡大するか,より周辺部に新たに十分な大きさのLIを開けておく.LI後の消炎治療は通常のLIのときより強めにしたほうが良い.また,LIが困難な例や再閉塞をくり返すものでは大きめにPIを行ったほうが良い(表5).図2Irisbombe典型的なirisbombe(左)とLIによる解除後(右).(慶野博:合併症に対する治療.あたらしい眼科23:1421-1428,2006より転載)表5Irisbombeの治療のポイントまず散瞳LIは周辺部にこだわらないアルゴンレーザー2段階照射→YAGレーザー孔が小さいときは早めに拡大or周辺部に開け直すむずかしいときはPI表4IrisbombeのLI条件アルゴンYAG第一段階第二段階24mJ200μm0.2sec200mW50μm0.05sec1,000mW45発20発前後数発———————————————————————-Page4314あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(32)るとの認識から炎症性疾患での使用は避けられていたが,特に問題ないとする報告も散見される.また,ぶどう膜炎では内因性PGによりPG製剤の有効性が低い例も少なからず存在することから,PG製剤の使用に関してはいまだ意見の分かれるところである.筆者は最近ではPG製剤を第一選択として使用することが比較的多い.今のところ特に大きな問題には遭遇していないが,使用にあたっては炎症や黄斑浮腫の状態に対する注意が必要であること,実際に眼圧下降に有効であるかどうかの評価が必要であることは言うまでもない.ピロカルピンは炎症を悪化させ,虹彩後癒着を作りやすいので炎症眼への使用は避けるべきであるが,それ以外の眼圧下降薬は通常の緑内障と同様に使用してよい.5.外科的治療ぶどう膜炎に続発する緑内障に対する外科的治療には,レーザー治療と観血手術がある.レーザー治療においては前述したirisbombeに対するLIのほか,アルゴンレーザーまたはYAGレーザーによるlasertrabeculoplasty(LTP)があるが,隅角線維柱帯に炎症がある疾患は基本的に適応外と考えられるので割愛する.また,もともと狭隅角がある症例がぶどう膜炎を発症した場合,検査や治療で散瞳が不可欠となるので,Shaer分類2度以下は予防的LIをしておいたほうがよい.観血手術において重要なのはその症例の房水流出障害がどこにあるのかを十分に検討することである.いずれの術式においてもある程度炎症がコントロールされた状態で手術に臨むことが望ましい.以下に代表的な緑内障手術法について述べる.a.隅角癒着解離術(goniosynechialysis:GSL)炎症により広範にPASを生じた続発閉塞隅角緑内障に対するGSLは有効例の報告も少数みられるが,一般的には適応外と考えられる.徐々にPASが進行してきたような慢性炎症のある症例では,線維柱帯自体や線維柱帯以降の房水流出路にも問題がある可能性が高く,PASを解除したとしても房水流出障害は解消できない可能性が高い.さらに,術後もよほど炎症が良くコント2時間ごとの頻回点眼を行う.前眼部炎症が主体で頻回点眼が効果不十分な場合はデキサメタゾン(デカドロンR)の結膜下注射を行う.遷延化する強い後眼部炎症の場合はトリアムシノロンアセトニド(ケナコルトR)のTenon下注射を行う.トリアムシノロンアセトニドは徐放性のステロイド薬であるため長期間の効果が期待でき,全身投与に比べて全身的副作用が少ないとメリットがある.しかし,複数回注射によりステロイド緑内障の発症率は上がっていくので注意が必要である.さらに内服,点滴による投与があるが,菅原らは眼サルコイドーシスにおいて積極的に局所治療を行ったところ,87.5%の症例は局所投与のみで消炎可能であったと報告している1).全身投与になると,副作用のチェックなど全身管理が必要となってくる.筆者も含めてステロイド薬の全身投与に慣れていない一般眼科医は自ら行う治療の限界を定めておき,それ以上の治療が必要な症例はぶどう膜専門医やステロイド薬の扱いに精通した者と連携して治療を行うほうが賢明と思われる.2)免疫抑制薬コルヒチン,シクロスポリン(ネオーラルR)などがおもにBehcet病に対して使用される.副作用が多く,一般眼科医が単独で使いこなすのは困難と思われる.3)生物学的製剤近年の分子生物学の進歩はめざましく,腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)-aやインターロイキン(interleukin:IL)-1,IL-6など多くの炎症性サイトカインに対する抗体療法が実現化してきている.インフリキシマブ(iniximab)(レミケードR)は抗TNF-a抗体で,Behcet病の炎症発作を抑制するのに有用である.抗VEGF抗体であるベバシズマブ(bevacizmab)(アバスチンR)やラニビズマブ(ranibizmab)(ルセンティスR)は血管新生を伴うぶどう膜炎の治療に有用である可能性がある.b.眼圧下降治療ぶどう膜炎における眼圧上昇の際に用いる薬剤は,一般的には房水産生抑制作用のあるbブロッカーや炭酸脱水酵素阻害薬が有効といわれている.通常の緑内障で第一選択として使用される頻度の高いPG製剤は,PG自体が炎症伝達物質であり炎症を悪化させる可能性があ———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009315(33)結膜弁を円蓋部基底にすると無血管濾過胞の発生率が低くなることが指摘されている.濾過胞感染のリスク軽減のためにも結膜弁は円蓋部基底が望ましいと思われる.沖波はぶどう膜炎に続発した緑内障に対して,線維芽細胞増殖阻害薬(MMCまたは5-フルオロウラシル)を用いたトラベクレクトミーを行ったところ,PASが半周以上ある症例では成績は有意に不良であることを報告している3).薬物治療が奏効しにくい例では手術を先延ばしにせず,なるべく早い段階で行うことが望ましいものと考えられる.おわりにぶどう膜炎に続発する緑内障の病態は多彩であり,それぞれの病態を的確に把握し,適切な治療法を選択することが重要である.臨床的には重症例が注目されがちであるが,実際には,診断がつかないために治療の機会を逸している軽症例のほうがはるかに多いと思われる.このような症例を見逃さないためには,日頃からこのような症例の存在を意識して注意深い観察を行うことが大切である.特に眼圧の変動が大きな症例では十分な注意が必要である.また,重症例ではぶどう膜炎と緑内障,双方の専門家が,ときには内科医も交え連携をとり治療にあたることが重要と考える.文献1)菅原道孝,岡田アナベルあやめ,若林俊子ほか:眼サルコイドーシスに対する積極的局所治療の有用性.臨眼60:621-626,20062)HoCL,WangEYM,WaltonDSI:Goniosurgeryforglau-comacomplicatingchronicchildhooduveitis.ArchOph-thalmol122:838-844,20043)沖波聡:ぶどう膜炎の合併症に対する手術治療.眼紀52:361-376,2001ロールされない限り,再癒着をきたす可能性が高いと思われる.Irisbombeなどにより急性に生じたPASのみであれば,ある程度の有効性は期待できる.b.トラベクロトミートラベクロトミーは生理的な流出路を再建する手術であり,眼圧下降を濾過胞に依存せず,大きな合併症がなく術後管理が容易などの利点のある術式である.しかし,線維柱帯以降に流出障害があるものでは無効である可能性が高い.また,線維柱帯自体に炎症があるものも術後にPASを形成しやすいと予測され,その適応はかなり制限されるものと思われる.Hoらは若年性関節リウマチ(JRA)を主とした小児の慢性ぶどう膜炎40例に対し隅角切開術を行い,72%で21mmHg以下にコントロールされたと報告しており2),炎症性疾患であっても一部にはトラベクロトミーなどの流出路再建手術が有効なものがあることを窺わせる.一方,トラベクロトミーはステロイド緑内障に対してはきわめて有効な術式であることが知られている.ぶどう膜炎の高眼圧患者のなかにはステロイド薬の影響か否か,その判断が困難な例も少なくない.筆者がトラベクロトミーを選択する際に考慮するポイントは①若年齢で,②隅角にPASがなく,③炎症も軽度,④ステロイド薬の関与も疑われる,などである(表6).トラベクロトミーを行う際は,将来の濾過手術の可能性も考慮して,下方または耳側からのアプローチとしている.c.トラベクレクトミー濾過手術であるトラベクレクトミーは房水流出障害の部位にかかわらずあらゆるタイプの緑内障に効果を発揮する.ぶどう膜炎による続発緑内障の場合,手術症例の多くは本術式が選択されている.炎症性疾患がベースにある場合,やはり術後炎症は強く,濾過胞瘢痕も起こりやすいため,マイトマイシンC(MMC)の併用が必須と思われる.MMCの併用により濾過手術の術後成績は改善し,濾過胞の維持率も向上したが,一方で無血管濾過胞が高率に形成され,術後濾過胞感染の危険性などが指摘されている.ぶどう膜炎の症例では緑内障手術後も,長期にステロイド点眼が必要なことが多く,より感染のリスクが高い群といえる.近年,トラベクレクトミーの表6トラベクロトミー選択の条件若年齢開放隅角(PASなし)炎症は経度ステロイド薬の関与も疑われる

ぶどう膜炎関連緑内障の病因

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS例も緑内障に含める」という意味であり,原発緑内障と比べ定義が甘いことに注意したい.過去の報告および自験例では,ぶどう膜炎関連続発緑内障の頻度は,ぶどう膜炎患者で続発緑内障の定義を①眼圧上昇のみ(22mmHg以上)とすると20~35%,②眼圧上昇+眼圧下降薬の使用と定義すると18~27%,③眼圧上昇+緑内障性の視野欠損ありと定義すると7~10%であった(表1)2~7).IIぶどう膜炎による眼圧上昇の原因ぶどう膜炎により眼圧が上昇することもあれば,下降することもある.ぶどう膜炎による房水の性状の変化はIぶどう膜炎関連緑内障の頻度ぶどう膜炎患者で続発緑内障を起こす割合は20~40%程度と考えられているが,この数値は「続発緑内障」の定義によって違ってくる.緑内障診療ガイドライン(第2版)では,続発緑内障の定義は,「緑内障性視神経症(GON)を有する症例のみで定義するのが本ガイドラインの緑内障の定義に沿った一貫性のある解釈であるが,本症(続発緑内障)の一部では,原疾患,他疾患の存在により緑内障性視神経症による視神経の形態的変化,機能変化(視野変化)の評価が困難である.このため,経過措置として,続発性の眼圧上昇を有する症例を含める」と記載されている1).これは,続発緑内障については「眼底検査,視野検査が困難な症例も多いため,discの変化,視野障害が明らかでない眼圧上昇のみの症(23)305oshasuaura病uroFuno病1138655731病特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):305~310,2009ぶどう膜炎関連緑内障の病因EtiologyofSecondaryGlaucomaAssociatedwithUveitis蕪城俊克*藤野雄次郎**表2ぶどう膜炎続発緑内障の眼圧上昇機序ぶどう膜炎による前房水の変化1.前房水中の炎症細胞2.蛋白質3.プロスタグランジン4.ケミカルメディエーター前房隅角の形態学的変化1.続発閉塞隅角緑内障瞳孔ブロック,膨隆虹彩周辺虹彩前癒着毛様体の前方回旋(原田病)2.続発開放隅角緑内障線維柱帯への炎症性物質の沈着による機械的閉塞線維柱帯炎房水分泌過多線維柱帯および内皮の障害ステロイド緑内障表1ぶどう膜炎続発緑内障の頻度①眼圧上昇症例数(例)頻度(%)箕田ら(1992)沖波ら(1999)蕪城ら(2004)296257376203235.4②眼圧上昇+眼圧下降薬使用眼数(眼)頻度(%)TakahashiT(2002)蕪城ら(2004)1,60458818.326.9③眼圧上昇+眼圧下降薬使用+視野障害あり眼数(眼)頻度(%)Merayo-Llovesetal(1999)TakahashiT(2002)蕪城ら(2004)1,2541,6045889.67.18.5———————————————————————-Page2306あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(24)に周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)の範囲が拡大し閉塞隅角緑内障の機序により眼圧が上昇してきた場合がこれにあたる.サルコイドーシスぶどう膜炎では,隅角結節部に虹彩根部が癒着してテント状PAS(図1)を呈することが多いが,さらに幅の広い台形PASを作ることもある.ぶどう膜炎のない眼では2/3~3/4周以上の隅角癒着をきたすと眼圧が上昇するとされている9)が,ぶどう膜炎の続発緑内障ではステロイド緑内障や線維柱帯のフィルター機能の低下などの要因も加わっており,PASの範囲が2/3周より少なくても眼圧上昇をきたすことが多い.3.開放隅角時の眼圧上昇線維柱帯への炎症細胞やフィブリンなどの炎症性物質の沈着より,房水流出抵抗が増加して眼圧上昇をきたすことがある.また,サルコイドーシスなど肉芽腫性ぶどう膜炎では,線維柱帯やSchlemm管内に肉芽腫(隅角結節)を生じたり,線維柱帯細胞の浮腫(線維柱帯炎)により房水流出を障害され,眼圧上昇をきたすことがある(図2)10).前房内に炎症細胞がみられなくとも,隅角検査で結節が確認されることも多く,隅角検査は必須の検査である.これらの機序による眼圧上昇は,活動性の炎症が眼圧上昇に関与していると考えられ,消炎により眼圧上昇の原因が除去されれば眼圧下降が期待できる.眼圧上昇の要因となりうる(表2)8).たとえば,炎症細胞や蛋白質などによる線維柱帯の目詰まりや線維柱帯の浮腫は濾過抵抗を上昇させ,眼圧上昇をひき起こす.一方,プロスタグランジン(PGE1など)やインターロイキン(IL-1)などの炎症性サイトカインは,眼血液柵の破綻から房水産生増加をひき起こし,眼圧上昇に働く.また,活性酸素などのケミカルメディエーターは線維柱帯細胞を障害し,眼圧上昇の原因となる.その一方で,眼内の慢性炎症の持続は,毛様体機能を低下させ,房水産生低下,眼圧下降の原因となる.これらの房水の性状に加えて,ぶどう膜炎の続発緑内障を分類する場合,隅角の状態から続発閉塞隅角緑内障と続発開放隅角緑内障に分けて考えるのが一般的である(表2)8).前者は隅角閉塞の機序から,瞳孔ブロック・膨隆虹彩によるもの,周辺虹彩前癒着によるもの,毛様体の前方回旋によるもの,血管新生緑内障に分けられる.後者は線維柱帯への炎症性物質の沈着による機械的閉塞や線維柱帯炎,房水分泌過多,線維柱帯および内皮の障害,ステロイド緑内障などの要素が複雑に関与して眼圧上昇をきたしていると考えられる.したがって,続発緑内障の眼圧上昇機序を推測するにあたり,隅角検査は必要不可欠な検査である.代表的な病像について以下に述べる.1.瞳孔ブロック・膨隆虹彩による眼圧上昇前部ぶどう膜炎では,虹彩後面と水晶体前面が炎症性に癒着(虹彩後癒着:posteriorsynechia)を起こし,その範囲が瞳孔縁全周に及ぶと,後房から前房への房水の流れが妨げられる.その結果後房圧が上昇し,虹彩を前方へ押し出して膨隆虹彩(irisbombe)となり,隅角閉塞を起こすことになる.膨隆虹彩が一度起きると眼圧40mmHg以上の急激な眼圧上昇をきたしやすく,閉塞隅角緑内障発作と同様,迅速な対処が必要になる.レーザー虹彩切開術か周辺虹彩切除術の適応となるが,レーザー虹彩切開術ではレーザー後にフィブリン膜を形成し,再閉塞することがしばしばある.2.周辺虹彩前癒着による眼圧上昇ぶどう膜炎による前房内炎症をくり返すうちに,徐々図1隅角結節とテント状虹彩前癒着強膜岬に小型白色の隅角結節2個を認め,その部位にテント状虹彩前癒着を作っている.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009307(25)所投与はしばしば眼圧上昇の原因となる(ステロイド緑内障).通常,ステロイド薬使用開始から2週間以上経過したころから眼圧が上昇し,ステロイド薬の中止あるいは減量によって数日から数週間で正常に戻る11).ステロイド緑内障の発症機序は完全には解明されていないが,ステロイド薬により線維柱帯細胞からのグリコサミ一方,活動性の眼炎症がなくとも眼圧が上昇することがある.たとえば,眼血液柵の破綻は房水産生増加をひき起こし,眼圧上昇の要因となる.慢性の前部ぶどう膜炎は線維柱帯および内皮,Schlemm管の瘢痕化などの不可逆的な障害をひき起こし,房水流出抵抗を増大させる8).また,ステロイド薬の全身投与あるいは眼への局図2サルコイドーシスぶどう膜炎続発緑内障の線維柱帯組織の走査型電子顕微鏡写真Schlemm管内に肉芽腫(G)がみられ,線維柱帯にはマクロファージ(M),単球(Mn),リンパ球(Ly)の浸潤がみられる(bar=10μm).右下図:同じ組織の光学顕微鏡写真.Schlemm管は肉芽腫で閉塞されている(bar=50μm).AC:前房.(文献9,濱中輝彦先生のご厚意による)———————————————————————-Page4308あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(26)であり,治療法は通常のぶどう膜炎と大きく異なる.これらのぶどう膜炎の原因疾患のなかで,眼圧上昇をきたしやすい疾患ときたしにくい疾患がある.自験例の検討を紹介する.1996年1月~2000年12月に東京大学附属病院眼科を初診し3カ月以上経過観察できた内因性ぶどう膜炎症例376例(男性186例,女性190例)588眼のうち,21mmHg以上の高眼圧があり,かつ眼圧下降治療(点眼,内服または手術)が施された続発緑内障症例は,114例(30.3%)158眼(26.9%)であった4).この続発緑内障症例をぶどう膜炎の原因疾患別に検討した結果,および同じ続発緑内障の定義で同様の検討を行っているTakahashiらの報告5)を示す(表3).Takahashiらの報告は南九州地方での検討であり,HTLV-1(humanT-lymphotropicvirustype1)関連ぶどう膜炎,眼トキソプラズマ症の症例数が多くなっている.これらの結果から,眼圧上昇をきたしやすいぶどう膜炎としてPosner-Schlossman症候群,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎,サルコイドーシス,HLA(humanleuko-cyteantigen)-B27関連ぶどう膜炎,ヘルペス性虹彩炎,原田病があげられる.これらのうち,Posner-Schloss-man症候群,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎,ヘルペス性虹彩炎について述べる.1.PosnerSchlossman症候群Posner-Schlossman症候群は,片眼性の軽度の虹彩ノグリカンなどの細胞外無構造物質の産生が増加し,線維柱帯からの房水流出抵抗が増大することがおもな原因と考えられている12).ステロイド緑内障は当初はステロイド薬の中止により眼圧下降が得られるが,経過が長くなり慢性化するとステロイド薬を中止しても眼圧が下降しなくなる場合が多い.これらの機序による眼圧上昇は,活動性の炎症は眼圧上昇に関与していないと考えられ,消炎治療では眼圧下降は期待できない.IIIぶどう膜炎の原因と続発緑内障ぶどう膜炎の原因となる疾患は約50種類ぐらいあるといわれており,それらは①内因性ぶどう膜炎(非感染性ぶどう膜炎),②感染性ぶどう膜炎,③仮面症候群に分類される.①内因性ぶどう膜炎は,感染や外傷によらず,自己免疫疾患など異常な免疫反応で起こるぶどう膜炎である.ぶどう膜炎の約8割を占めると考えられ,原因疾患としては,Behcet病,サルコイドーシス,Vogt-小柳-原田病(以下,原田病)など多くの疾患がここに入る.②感染性ぶどう膜炎は,ウイルス,真菌,寄生虫,細菌などの病原体の感染によりひき起こされるぶどう膜炎で,ぶどう膜炎の約2割を占める.具体的にはヘルペス性虹彩炎,急性網膜壊死,真菌性眼内炎,眼トキソプラズマ症などである.③仮面症候群は,ぶどう膜炎の約1%を占め,眼内悪性リンパ腫や白血病の眼内浸潤である.ぶどう膜炎と類似した所見を呈するが,血液の腫瘍表3ぶどう膜炎疾患別の続発緑内障頻度臨床病型自験例(1996~2000)Takahashiら(1974~2000)症例数続発緑内障の頻度(%)症例数続発緑内障の頻度(%)サルコイドーシスBehcet病原田病ヘルペス性虹彩炎Posner-Schlossman症候群HLAB27AAUFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎眼トキソプラズマ症HTLV-1関連ぶどう膜炎その他原因不明938251191514532782262822315310036400018237155107102185194924423421161002012161615合計588271,07718———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009309(27)い.虹彩異色とは両眼で虹彩の色調が異なることを指すが,有色人種では不明瞭で,びまん性の虹彩表面の萎縮と考えたほうがよい(図3).前房内炎症は軽度で,角膜後面沈着物は小~中型で数が少なく,角膜後面全体に上方まで分布することが多い.虹彩後癒着は起こさない.前房穿刺時に出血することがある(Amslersign).近年,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎患者の前房水で風疹ウイルスDNAに対するPCR検査が陽性となる症例や,風疹ウイルスの抗体価率(風疹ウイルス抗体価と総免疫グロブリンG(IgG)値の比率を前房水と血清中で算出し,それらを割り算した比率,Goldmann-Wit-mercoecientdeterminationまたはQ値ともよばれる)が高値である症例が多いことが報告され,この疾患の発症に風疹ウイルスが関与している可能性が報告されている18).deVisserらは,前房水PCR検査または抗体価率で風疹ウイルス陽性であった30症例について臨床像を検討し,小型の角膜後面沈着物,虹彩異色,白内障,虹彩後癒着なしの4項目のすべてを満たす症例が10例(33%),3つを満たす症例が13例(43%),2つを満たす症例が7例(23%)であり,従来からいわれているFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の臨床像とよく合致するものであったと報告している19).炎とともに急激な眼圧上昇をきたす疾患であり,疾患の定義のなかに眼圧上昇が含まれるため全症例で眼圧上昇をきたす.近年,Posner-Schlossman症候群の前房水polymerasechainreaction(PCR)検査により単純ヘルペスウイルス13)やサイトメガロウイルス(CMV)14,15)のDNAが陽性となる症例が報告されている.Cheeらは眼圧上昇を伴う前部ぶどう膜炎105眼の前房水を採取してPCR検査を行ったところ,24眼(22.8%)がCMV-DNA陽性で,それらのうち18眼(75%)は臨床的にPosner-Schlossman症候群,5眼(20.8%)はFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎,1眼はヘルペス性虹彩炎疑いと診断された,と報告した15).またCheeらは別の報告で,Posner-Schlossman症候群が疑われた67眼のうち前房水PCR検査でCMV-DNAが陽性であった35眼と陰性であった32眼の間に,患者の年齢,性別,最高眼圧値,角膜内皮細胞減少度,虹彩萎縮の出現率などに有意差は認めなかった,と報告している16).これらの報告から,臨床所見からPosner-Schlossman症候群と診断される患者の半数近くがCMVによる虹彩炎である可能性が推測される.Posner-Schlossman症候群に対しては,通常ステロイド点眼と眼圧下降薬点眼(あるいは炭酸脱水酵素阻害薬の内服)が行われるが,CMV-DNAが陽性である症例に対しては,さらにガンシクロビル(デノシンR)の硝子体注射あるいはバルガンシクロビル(バリキサR)内服などの抗ウイルス治療を行うことが推奨されている15).筆者らの経験でも抗ウイルス治療の併用によりほとんどの症例で消炎と眼圧下降が得られるが,しばしば再発をくり返す症例も存在する.このような再発症例にどのような治療を行うべきかが,今後の課題であると思われる.2.Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎は,通常片眼性の虹彩毛様体炎,白内障,虹彩異色を3主徴とする疾患である.眼圧上昇を起こす症例が20%程度ある17).この際にはPosner-Schlossman症候群と類似し,鑑別がむずかしいことがあるが,Posner-Schlossman症候群ほど急峻な眼圧上昇ではなく,慢性的な上昇であることが多図3CMV虹彩炎10年前から右眼のPosner-Schlossman症候群と診断され,年1回程度軽度の虹彩炎と眼圧上昇を起こしていた.下方を中心に色素性角膜後面沈着物,一部白色で小型の角膜後面沈着物を認める.———————————————————————-Page6310あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(28)4)蕪城俊克,川島秀俊:ブドウ膜炎併発緑内障における手術の適応・術式の選択・術後処置.あたらしい眼科21:13-19,20045)TakahashiT,OhtaniS,MiyataKetal:Aclinicalevalua-tionofuveitis-associatedsecondaryglaucoma.JpnJOph-thalmol46:556-562,20026)Merayo-LlovesJ,PowerWJ,RodriguezAetal:Second-aryglaucomainpatientswithuveitis.Ophthalmologica213:300-304,19997)沖波聡:続発緑内障ぶどう膜炎.眼科44:1632-1638,20028)MoorthyRS,MermoudA,BaerveldtGetal:Glaucomaassociatedwithuveitis.SurvOphthalmol41:361-394,19979)山岸和矢:隅角癒着解離術.眼科学大系9,眼科手術(増田寛次郎編),p315-318,中山書店,199310)HamanakaT,TakeiA,TakemuraTetal:Pathologicalstudyofcaseswithsecondaryopen-angleglaucomaduetosarcoidosis.AmJOphthalmol134:17-26,200211)BeckerB,MillsDW:Corticosteroidandintraocularpres-sure.ArchOphthalmol70:500-507,196312)JohnsonDH,BradleyJM,AcottTS:Theeectofdexam-ethasoneonglycosaminoglycansofhumantrabecularmeshworkinperfusionorganculture.InvestOphthalmolVisSci31:2568-2571,199013)YamamotoS,Pavan-LangstonD,TadaRetal:PossibleroleofherpessimplexvirusintheoriginofPosner-Schlossmansyndrome.AmJOphthalmol119:796-798,199514)TeohSB,TheanL,KoayE:CytomegalovirusinaetiologyofPosner-Schlossmansyndrome:evidencefromquantita-tivepolymerasechainreaction.Eye19:1338-1340,200515)CheeSP,BacsalK,JapAetal:Clinicalfeaturesofcyto-megalovirusanterioruveitisinimmunocompetentpatients.AmJOphthalmol145:834-840,200816)CheeSP,JapA:Presumedfuchsheterochromiciridocy-clitisandPosner-Schlossmansyndrome:comparisonofcytomegalovirus-positiveandnegativeeyes.AmJOph-thalmol146:883-889,200817)JonesNP:Fuchs’heterochromicuveite:anupdate.SurvOphthalmol37:253-272,199318)QuentinCD,ReiberH:Fuchsheterochromiccyclitis:rubellavirusantibodiesandgenomeinaqueoushumor.AmJOphthalmol138:46-54,200419)deVisserL,BraakenburgA,RothovaAetal:Rubellavirus-associateduveitis:clinicalmanifestationsandvisualprognosis.AmJOphthalmol146:292-297,200820)AmanoS,OshikaT,KajiYetal:Herpessimplexvirusinthetrabeculumofaneyewithcornealendotheliitis.AmJOphthalmol127:721-722,1999一方,臨床的にFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎と診断された症例のなかに前房水PCR検査でCMV-DNAが陽性となる症例があることも報告されている.Cheeらは,臨床的にFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎と診断された36眼のうち,前房水PCR検査でCMV-DNAが陽性であった15眼と陰性であった21眼を比較すると,CMV陽性群では高齢の男性が多く,角膜内皮に虹彩色素を伴う結節状の病変を高率(60%)に認めると報告している16).このように,これまで臨床的にPosner-Schlossman症候群あるいはFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎と診断されてきた症例が,今後検査法の普及によって,より病因に即した診断名として風疹性ぶどう膜炎(rubellavirus-associateduveitis)あるいはCMV虹彩炎(cyto-megalovirusanterioruveitis)とよばれるようになっていくのではないか,と思われる.3.ヘルペス性虹彩炎ヘルペス性虹彩炎は,単純ヘルペスウイルス1型(herpessimplexvirus-type1:HSV-1),単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2),水痘・帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV)によってひき起こされる虹彩炎である.一度皮膚や粘膜に感染したHSVあるいはVZVが,眼の知覚神経節である三叉神経節に潜伏感染し,その再活性化が三叉神経節第1枝領域に沿って起きて,虹彩毛様体にウイルスが感染することによって虹彩炎が発症する.ヘルペス性虹彩炎の活動期にはしばしば眼圧上昇を伴うが,ヘルペス性虹彩炎患者の線維柱帯でのヘルペスウイルスの発現が報告されており20),ヘルペス感染による線維柱帯炎が房水流出抵抗の上昇をひき起こし,眼圧を上昇させることが推測されている.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20062)箕田宏,坂井潤一,臼井正彦:ぶどう膜炎による続発性緑内障.眼臨86:2369-2374,19923)沖波聡,小川明子,大坪貴子ほか:ぶどう膜炎による続発緑内障の治療.臨眼53:1759-1765,1999

アミロイド緑内障はなぜ起こる

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS異や欠失によって起こる常染色体優性の全身性アミロイドーシスと定義され,すでに現在までに100以上の遺伝子変異が報告されている.TTRは生体内では四量体を形成し,サイロキシンおよびレチノール結合蛋白質を介したビタミンAの輸送体として機能するとともに,反急性期反応蛋白質としても機能しており,炎症,腫瘍,低栄養などで血中レベルが低下するため,栄養状態の新たな有用な指標として注目されている.FAPは従来,さまざまな全身症状(末梢神経障害,自律神経障害,心疾患)をきたし,発症後約10年で死に至る予後不良の疾患であった.しかしながら,血中のTTRの90%以上は肝臓で産生されるため,1990年代より肝移植が積極的に施行され良好な結果を得ており,生命予後は飛躍的に延びてきている.また,FAP患者の肝臓は異型TTRを産生する以外,肝機能自体には問題ないことが多いので,ドミノ肝移植(正常肝臓をFAP患者へ,FAP患者の肝臓を重篤な肝疾患患者へ移植する)の適応疾患としても知られている.FAPの数ある遺伝子変異のなかで最も多いタイプは,TTRの30番目のアミノ酸がバリンからメチオニンに変化しているFAPVal30Metというタイプであるが,日本においては熊本と長野が2大集積地であり,これまでは地方病との認識が強かった.若年発症例(30歳代)に関しては集積地と関連のある患者が多いが,最近集積地とは関係のない患者が高齢発症を中心に,全国各地でつぎつぎと見つかっている.加えて,Val30Met以外の変はじめに続発緑内障の1型として分類されているアミロイド緑内障は,日常診療上で遭遇することは稀な疾患と思われるが,細隙灯顕微鏡検査を行ったときに水晶体面上や瞳孔縁に白色物質のアミロイド沈着物を認めるため,落屑症候群との鑑別が重要な疾患である.このような眼内へのアミロイド沈着を生じうる代表的疾患として,全身性アミロイドーシスの一つである家族性アミロイドポリニューロパチー(familialamyloidoticpolyneuropathy:FAP)がある1).従来は集積地のみに認められる疾患と考えられていたが,近年の検査医学の進歩に伴い,集積地だけでなく,全国各地で遭遇する可能性のある疾患であることがわかってきている.本稿では,FAPにおける緑内障の臨床像とそのメカニズムについて述べていく.I家族性アミロイドポリニューロパチーとトランスサイレチンアミロイドーシスとは,線維性の構造をもつアミロイドとよばれる特異な蛋白質が,種々の臓器のおもに細胞外に沈着し,それにより機能障害をひき起こす疾患群である.アミロイドはヘマトキシリンエオジン(HE)染色では,淡いピンク色の無構造な物質として認められ,Congored染色では赤紫色に染まり,偏光顕微鏡下ではアップルグリーンの複屈折を示す.FAPは,トランスサイレチン(TTR)遺伝子の点変(19)301aaaa8608556111特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):301304,2009アミロイド緑内障はな起こるMechanismofAmyloidoticGlaucoma川路隆博*———————————————————————-Page2302あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(20)IIIFAPにおける緑内障の臨床的特徴FAPVal30Metの46名,Tyr114Cysの7名,の2つのタイプに関して緑内障の臨床像について検討したところ,緑内障の発症率はVal30Metが10名(22%),Tyr114Cysが6名(86%)であり,FAP発症から緑内障発症までの平均期間はともに約8年であった.緑内障発症の危険因子を検討したところ,①瞳孔縁や水晶体面上へのアミロイド沈着(図3A),②fringedpupilといわれる脱円様所見(図3B),③硝子体混濁が危険因子として明らかとなった5).また,隅角所見は一般的に開放隅角で色素沈着も高度であることが多く,なかにはアミロイドの白色物質塊を認めることもある.Tyr114Cys(眼症状および中枢神経症状が強いタイプで,眼髄膜型といわれている)においては,眼アミロイドアンギオパチー6)を高率に発症し虚血を生じるため,血管新生緑内異も数多く見つかっており,FAPは集積地のみでなく全国各地で遭遇する可能性のある疾患であることがわかってきた(図1).IIFAPにおける眼症状FAPにおける代表的な眼症状は,結膜血管異常(毛細血管瘤様や蛇行を示す),ドライアイ,瞳孔異常(瞳孔縁へのアミロイド沈着や,進行例で認められるfringedpupilといわれる脱円様の瞳孔),硝子体混濁,緑内障,アミロイドアンギオパチーなどである.初期には結膜血管異常やドライアイを中心に認めるが,病期が長くなるにつれすべての症状の発症頻度が増え始め2),10年過ぎると約80%に硝子体混濁を,約50%に緑内障を認めるようになる.肝移植の導入以前においては,発症後の生命予後が短かったため,視機能に重篤な障害を与えうる眼症状の発症は少なかった.しかし近年の肝移植の導入により,生命予後が飛躍的に改善されるようになったことに加え,TTRは眼内においては網膜色素上皮や毛様体色素上皮3)からも全身とは関係なく独自に産生されるため,肝移植により全身症状の進行は抑制されても,眼症状の進行は抑制できず4),眼症状の発症頻度は増加の一途であり,FAP患者のQOL(qualityoflife)を脅かす大きな問題となっている(図2).:FAPATTRMet30(熊本,長野など):その他の点異変(23種類)図1日本におけるFAP患者の分布図2肝移植後の硝子体混濁の進行A:肝移植後1年,B:肝移植後3年.AB———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009303(21)IVFAPにおける緑内障発症のメカニズムTTRがアミロイドになるメカニズムに関しては,種々の要因によるTTRの四量体の不安定化から単量体,ミスフォールディングを経てアミロイドを形成するといわれているが,まだまだ未知の部分も多い.眼組織においては,前述のように網膜色素上皮がTTRのおもな産生部位であるが,毛様体色素上皮からも一部産生されている.これらの遺伝子変異による異型TTRがアミロイ障を4名(67%)に認めた.つぎにFAPにおける緑内障に対する治療戦略であるが,まずは点眼加療を行うが,ほとんどの症例において抵抗性であり,手術を要している.本稿では詳細を割愛させていただく(投稿準備中)が,第一選択はマイトマイシン併用線維柱帯切除術であり,多くの症例で再手術を要し,他の緑内障病型と比較して明らかに成績は不良であった.合併症が特徴的であり,encapsulatedbleb(図4)とoculardecompressionretinopathy7)を高率に認めた.Encapsulatedblebは,比較的おだやかな刺激による線維芽細胞の活性化が示唆されているが,筆者らの基礎実験の結果でも結膜下へのアミロイド沈着が軽度の炎症を惹起し,encapsulatedbleb形成に関与している可能性が示唆されている.Oculardecompressionretinopathyは,線維柱帯切除術直後に生じるびまん性の点状・斑状出血であり,比較的まれな合併症といわれており,急激な眼圧下降による網膜血管の自己調節能の破綻が原因といわれているが,FAPの場合全身症状として自律神経失調があるため,よりこの病態を生じやすいと考えられる.前述したように,最近FAPは集積地のみでなく全国各地で遭遇する可能性のある疾患であることがわかってきており,水晶体面上や瞳孔縁の白色物質や硝子体混濁を見たときに,これをFAPと疑い,内科との連携のうえでFAPの診断へと導くことは,その患者に早期に肝移植への道を拓くことになり,眼科医の果たす役割は重要であると思われる.図3瞳孔縁や水晶体面上へのアミロイド沈着(A)と瞳孔の変化(fringedpupil)(B)AB4FAP患者におけるencapsulatedblebEncapsulatedblebは,血管に富んだ隆起性かつ限局性の濾過胞で,壁は厚く,表面はドーム状で平滑であり,機能的なblebと異なり,多胞性でない.術後28週に生じることが多く,発症頻度は2.529%といわれている.———————————————————————-Page4304あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(22)おわりにFAPにおける緑内障の臨床像とメカニズムについて概説した.肝移植の導入による生命予後の改善に伴い,今後もつぎつぎと新たな緑内障症例の発症・進行が予想される.他の緑内障病型に比べ難治であり,新たな術式の開発やさらなる病態の解明が必要である.文献1)ArakiS:TypeIfamilialamyloidoticpolyneuropathy(Jap-anesetype).BrainDev6:128-133,19842)AndoE,AndoY,OkamuraRetal:OcularmanifestationsoffamilialamyloidoticpolyneuropathytypeI:long-termfollowup.BrJOphthalmol81:295-298,19973)KawajiT,AndoY,NakamuraMetal:Transthyretinsynthesisinrabbitciliarypigmentepithelium.ExpEyeRes81:306-312,20054)AndoE,AndoY,HaraokaK:Ocularamyloidinvolve-mentafterlivertransplantationforpolyneuropathy.AnnInternMed135:931-932,20015)KimuraA,AndoE,FukushimaMetal:Secondaryglau-comainpatientswithfamilialamyloidoticpolyneuropathy.ArchOphthalmol121:351-356,20036)KawajiT,AndoY,NakamuraMetal:Ocularamyloidangiopathyassociatedwithfamilialamyloidoticpolyneu-ropathycausedbyamyloidogenictransthyretinY114C.Ophthalmology112:2212-2218,20057)WakitaM,KawajiT,AndoEetal:OculardecompressionretinopathyfollowingtrabeculectomywithmitomycinCassociatedwithfamilialamyloidoticpolyneuropathy.BrJOphthalmol90:515-516,20068)FutaR,InadaK,NakashimaHetal:Familialamyloidoticpolyneuropathy:ocularmanifestationswithclinicopatho-logicalobservation.JpnJOphthalmol28:289-298,19849)Silva-AraujoAC,TavaresMA,CottaJSetal:Aqueousoutowsysteminfamilialamyloidoticpolyneuropathy,Portuguesetype.GraefesArchClinExpOphthalmol231:131-135,199310)NelsonGA,EdwardDP,WilenskyJT:Ocularamyloidosisandsecondaryglaucoma.Ophthalmology106:1363-1366,1999ドとなり,一番の好発部位である血管周囲に加え,硝子体,毛様体,虹彩,水晶体面上などに沈着する.そして房水の流れに乗って,房水流出路にも沈着するのであるが,特に内皮網への沈着が著明で,図5に示すように,べったりとSchlemm管内壁の内皮網にアミロイドが沈着している.電子顕微鏡で観察すると,アミロイド沈着に加え微小構造の変性を認め8,9),アミロイドそのものによる影響と思われる.したがって,アミロイド沈着により房水流出路の構造変化が生じ,房水流出抵抗が増加し眼圧上昇をきたすのが,アミロイド緑内障の主要なメカニズムと考えられる.また,もう一つの可能性として,血管周囲へのアミロイド沈着に伴う上強膜静脈圧の上昇が示唆されている9).上強膜静脈圧は眼圧を規定する重要な因子であり,剖検眼での血管周囲への強いアミロイド沈着を見ると,その可能性は十分に考えられると思われる.図5内皮網へのアミロイド沈着Congored染色にて赤紫色に染まるアミロイドをSchlemm管内壁の内皮網に認める(矢印).

ステロイド緑内障の今

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSに有効であることが明らかになったこと3)や,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞疾患に合併する黄斑浮腫の軽減や脈絡膜新生血管の退縮などにも効果があることがわかり,トリアムシノロンが網膜硝子体疾患の治療薬としてや手術補助薬として広く用いられるようになった.トリアムシノロンの投与が増えるに伴い,近年,トリアムシノロン誘発性眼圧上昇がクローズアップされるようになった.IIステロイド緑内障の発症機序ステロイド緑内障患者の線維柱帯組織には,細胞外マトリックスの異常蓄積がみられること4)や,培養実験でステロイド刺激による線維柱帯細胞の細胞外マトリックスの産生亢進5)や貪食作用の低下6)がみられることなどがさまざまな研究グループから報告されている.また,グルココルチコイド受容体アルファとよばれる細胞内の受容体がステロイドと結合し,核内転写因子を活性化させることが知られている7).したがって,ステロイドが線維柱帯細胞のステロイド受容体に作用して,細胞外マトリックスの産生亢進や貪食機能低下を惹起させ,線維Iステロイド緑内障の歴史ステロイドの臨床応用は,1948年にアメリカのHenchらが副腎皮質から単離されたステロイドを慢性関節リウマチの患者に投与し劇的にその症状が改善した報告が始まりとされている1).この臨床応用の後,さまざまな自己免疫疾患でステロイドが用いられるようになったが,同時に,ステロイドによる副作用もつぎつぎ指摘され,Henchはこの功績でノーベル医学生理学賞を受賞したにもかかわらず,ステロイドによる副作用があまりにも深刻であるため,晩年,意気消沈していたという(表1).ステロイド投与による眼副作用には,緑内障や白内障,ヘルペス性角膜炎などの眼感染症の誘発などがあり,特に,緑内障は,1950年代からすでにステロイドの副作用として報告されており2),ステロイドを全身投与されている患者でも点眼治療を受けている患者でも常に注意の必要な眼合併症の一つである.2000年代に入ってから,徐放性ステロイド薬トリアムシノロンが硝子体手術における硝子体の可視化に用いられ,トリアムシノロンの使用が,硝子体手術における合併症の減少(13)295Inn8608556111特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):295299,2009ステロイド緑内障の今Steroid-InducedGlaucomaNow稲谷大*表1ステロイドの副作用眼局所投与全身投与ステロイド緑内障,白内障,角膜ヘルペス,角膜真菌症,創傷治癒遅延緑内障,白内障,感染症誘発,糖尿病,高血圧,消化性潰瘍,精神障害,骨粗鬆症,血栓,副腎不全,脂肪沈着,多毛,皮膚萎縮,心不全,月経異常,更年期症状,白血球増加———————————————————————-Page2296あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(14)ともと続発性の眼圧上昇をしやすい疾患であるために,ステロイドレスポンダーかどうかの判断がむずかしい.ステロイドレスポンダーの頻度に関する報告は,ステロイドの投薬内容や患者背景に大きく依存しているので,その頻度についてはまちまちであるが,一般的に正常人のおおよそ1040%で存在するようであり,そのうち約5%で著しい眼圧上昇をきたす素因があるとされている.ステロイドレスポンダーの鑑別方法として,ステロイド負荷試験があり,Armalyの方法10)とBeckerの方法11)とが有名である(表3).しかし,過去にステロイドによる眼圧上昇の既往がなくても,徐放性ステロイド薬であるトリアムシノロンを注射すると,13%の症例で眼圧上昇をきたしたという報告もある12).したがって,ステロイド負荷試験で陽性の患者に関しては,その患者ではステロイド投与による眼圧上昇が起こりやすいという情報が得られたという程度にとどめておくべきであり,陰性の患者がステロイドで眼圧が上がらないという保証ではないことに注意したい.Vステロイド緑内障に対する対処ステロイドによる眼圧上昇がみられた場合は,速やかにステロイド投薬を中止する.Garbeらの1997年の報告13)によると,ステロイドの内服治療を受けていた症例のうち,眼圧上昇のリスクが高いのは,ステロイドの柱帯組織への細胞外マトリックスの異常蓄積による房水流出抵抗の増大がひき起こされていると考えられている.IIIステロイド緑内障の診断ステロイド緑内障は,隅角や前房に特徴的な所見がなく,原発開放隅角緑内障や高眼圧症の臨床所見と非常に似ている.ステロイドによる眼圧上昇は,休薬すれば眼圧が下降する症例がほとんどであり,ステロイドが投薬されていることが問診で判明すれば,まず,ステロイドの休薬を行う.ステロイドの点眼薬が処方されていて,片眼のみに点眼されている症例では,左右眼の眼圧値の差が鑑別のポイントになる.また,両眼に点眼されている症例では,片眼のみ休薬して,休薬した眼のみ眼圧が下降すればステロイド緑内障と診断できる.ステロイド緑内障では,ステロイドを投与されてからの眼圧上昇であるために高眼圧の期間が短く,慢性的な緑内障と比較して,眼圧が高い割には,緑内障視神経症の所見に乏しい症例が多い傾向にある.IVステロイドレスポンダーの診断法とその患者背景ステロイドを投与すると,眼圧が上昇しやすい人とそうでない人がいる.ステロイドで眼圧が上がりやすい人をステロイドレスポンダーとよぶ.若年者には,ステロイドレスポンダーが多いことが知られている.斜視手術を行った10歳未満の小児の術後点眼で0.1%デキサメタゾンを処方すると,ほとんどの患者で高眼圧を合併するが,同じ点眼処方でも10歳以上の患者では,眼圧上昇を合併しないことが報告されている8).一方,10歳未満の小児の斜視手術後のステロイド点眼で,0.1%デキサメタゾン点眼薬の代わりに,0.1%フルオロメトロン点眼薬を投与しても眼圧上昇を起こすことはないことから,眼圧上昇は,ステロイドの投薬内容にも依存している9)(表2).その他,ステロイドレスポンダーの危険因子として,開放隅角緑内障を合併した患者,強度近視の症例,糖尿病患者に多いという報告がある.また,ぶどう膜炎や網膜中心静脈閉塞症を合併している症例では,ステロイドで眼圧上昇しやすいという報告もあるが,も表3ステロイド負荷試験Armalyの方法Beckerの方法使用薬物使用法分類陰性陽性強陽性0.1%デキサメタゾン3回/日,4週間眼圧上昇度6mmHg未満615mmHg16mmHg以上0.1%ベタメタゾン4回/日,6週間眼圧絶対値20mmHg未満2031mmHg32mmHg以上表2ステロイド点眼薬の種類と眼圧上昇作用との関係0.1%ベタメタゾン(リンデロンR)0.1%デキサメタゾン(ビジュアリンR)0.1%フルオロメトロン(フルメトロンR)0.02%フルオロメトロン(フルメトロンR)眼圧上昇作用(文献9より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009297(15)り多い投与量,投与前のより高い眼圧値が,リスクファクターであることが確認された(表4,5).トリアムシノロンは,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞疾患の黄斑浮腫の治療に用いられるため,黄斑浮腫の再発した症例には,くり返しトリアムシノロンが投与されることも多い.くり返し投与の際も硝子体内注射をくり返したり,大量のトリアムシノロンの注射をくり返したりした場合に眼圧上昇しやすい.また,2回目の注射の際に,1回目の注射で眼圧上昇する症例は,ステロイドレスポンダーを意味するので,1回目の注射で眼圧上昇が著しい症例には,2回目の注射は控えたほうがよい.VIIトリアムシノロン誘発性眼圧上昇の特徴筆者らが行った多施設調査からわかったこととして,トリアムシノロンを投与して眼圧が上がり始める時期は,1カ月以内が圧倒的に多く,2カ月以内,3カ月以内の順で頻度は少なくなっていく.3カ月以上経ってから,眼圧が上がり始めることはきわめてまれであり,トリアムシノロンを注射してから,最初の3カ月間は,こまめに眼圧を測っておいたほうがよい.眼圧が上昇する症例の約9割が,無治療か緑内障点眼薬を処方するだけで正常眼圧に回復していたことがわかり,やはり,トリアムシノロンによる眼圧上昇もその他のステロイドによる眼圧上昇と同様に可逆性の眼圧上昇ということになる.一方,緑内障手術が必要となってしまった症例は,投薬が継続している症例であり,15日以上休薬していた症例には,眼圧上昇のリスクは有意ではないということが示されており,ステロイドによる眼圧上昇はステロイドを中止することで可逆的に眼圧が正常化するということになる.しかし,きわめて長期にステロイドを投与され続けた場合には,ステロイドを中止しても,眼圧が正常化しない症例もある.膠原病や白血病の化学療法のためのステロイドの全身投与のために中止が無理な場合には,緑内障点眼薬によって,眼圧下降治療を行う.VIトリアムシノロン誘発性眼圧上昇の危険因子とその治療ブリストルマイヤーズ社が製造するトリアムシノロンアセトニド(ケナコルトR-A)が網膜硝子体疾患で用いられている.1アンプル1mlに40mgのケナコルトRが含まれている.もともと,整形外科の治療で慢性関節リウマチや関節周囲炎で関節腔内に注射する目的のための薬剤であるが,現在では皮膚炎やアレルギー性鼻炎にも用いられている.徐放性のステロイド薬であり,1回の注射後,組織内に滞留し,効果の持続時間が長いのが特徴であるため,眼圧上昇が起こってしまうと,眼圧上昇が遷延してしまうのが問題点である.トリアムシノロン誘発性眼圧上昇の頻度は,10%前後から50%まで,報告によってまちまちである.トリアムシノロンの投与方法や投与量が異なると,眼圧上昇の頻度が大きく異なるようである1419).筆者の施設でも,トリアムシノロン1アンプルすべて(40mg)をTenon下注射で行うと,全体の22.6%で眼圧上昇をきたした20)が,半量の20mgに減量すると,眼圧上昇した症例はきわめて少なくなることがわかった.そこで,筆者らは,トリアムシノロン誘発性眼圧上昇の頻度とその危険因子を決定するために,全国6施設で,多施設調査を行っている21).その結果では,トリアムシノロンを投与して,眼圧上昇(24mmHg以上)をきたした割合は11.7%であった.トリアムシノロンの投与方法には,Tenon下注射と硝子体内注射の2種類の方法があるが,硝子体内注射のほうがTenon下注射よりも眼圧が上昇しやすい.トリアムシノロンによる眼圧上昇も過去のステロイドレスポンダーとして指摘されていた因子である若年者,よ表4トリアムシノロン誘発性眼圧上昇の危険因子変数ハザード比(95%信頼区間)p値年齢(歳)糖尿病硝子体内注射含むベースライン眼圧(mmHg)0.96(0.950.98)0.76(0.551.02)1.89(1.412.52)1.15(1.051.27)<0.00010.068<0.00010.003(文献21より)表5トリアムシノロンTenon下注射による眼圧上昇の危険因子変数ハザード比(95%信頼区間)p値年齢(歳)糖尿病用量(mg)ベースライン眼圧(mmHg)0.96(0.940.99)0.91(0.601.38)1.07(1.031.12)1.31(1.131.52)0.0030.6470.00060.0003(文献21より)———————————————————————-Page4298あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(16)イド緑内障に対しては,トラベクレクトミーが選択されることが多いようであり,その術後経過も良好である2426).ステロイドの投与は,トラベクレクトミーで作製された濾過胞を維持安定化させる効果があることが知られており27),すでにステロイドを長期間継続しているステロイド緑内障は,濾過胞が形成維持されやすく,手術成績がよいのかもしれない(図2).しかし,トラベクレクトミーでは,濾過胞感染のリスクがあり,膠原病などの全身疾患のためにステロイドを継続して投薬され続けなければならない患者で,緑内障視神経障害が進行していない症例にも,トラベクレクトミーで厳格に眼圧下降すべきかどうかに関しては,議論の余地があり,ステロイド緑内障に対する適切な観血治療の選択についてはさらに検証が必要である.文献1)HenchPS,KendallEC,SlocumbCHetal:Eectsofcorti-soneacetateandpituitaryACTHonrheumatoidarthritis,rheumaticfeverandcertainotherconditions.ArchInternMed85:545-666,19502)SternJJ:Acuteglaucomaduringcortisonetherapy.AmJOphthalmol36:389-390,19533)YamakiriK,SakamotoT,NodaYetal:Reducedinci-全体の1.4%,眼圧が上昇した症例の約1割であり,特に,8mgのトリアムシノロンを硝子体内注射した症例のなかでは,17.9%も観血治療を要していたことがわかり,大量の硝子体内注射は,緑内障点眼薬だけではコントロールしきれない頑固な眼圧上昇をきたすおそれがある.Tenon下注射では,半アンプル以下(20mg)で注射すると,観血治療を必要とした症例はみられなかった.薬効と副作用のバランスを考えると,硝子体内注射では4mg,Tenon下注射では20mgが適量である.VIIIステロイド緑内障に対する観血治療トリアムシノロンを含めて,ステロイド緑内障に対する観血治療は,トラベクロトミーが選択されることが多い(図1).筆者らのグループでステロイド緑内障に対するトラベクロトミーの術後成績を評価したところ,5年生存率(21mmHg以下)は,83.6%であった22).原発開放隅角緑内障に対するトラベクロトミーの成功率に関する過去の報告23)と比べても,ステロイド緑内障にはトラベクロトミーが効きやすいようである.ステロイド緑内障では,線維柱帯組織における細胞外マトリックスの増生によって,房水流出抵抗が増悪していると考えられる.したがって,その部位を切り開くトラベクロトミーが効きやすいのかもしれない.一方,海外では,ステロ1015202530354000.5123456789101112131415眼圧(mmHg)トラベクロトミー40mgトリアムシノロンTenon下注射緑内障薬物治療経過(カ月)図1トリアムシノロンTenon下注射で眼圧上昇した症例27歳,男性の糖尿病網膜症患者の胞様黄斑浮腫に対して,40mgのTenon下注射を行った.術後眼圧上昇をきたし,緑内障点眼薬で眼圧下降を試みたが,眼圧が上昇し続け,10カ月目にトラベクロトミーを施行した.その後,20mmHg未満に下降したが,視野障害が合併した.図2膠原病を合併したステロイド緑内障眼に対するトラベクレクトミー後の濾過胞写真眼圧は10mmHg前後で推移し経過良好であるが,濾過胞の壁が薄く,ステロイド内服も継続しており,今後も濾過胞感染のリスクもつきまとう.(文献9より)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009299(17)intravitrealinjectionoftriamcinolone:resultsfromaran-domizedclinicaltrial.ArchOphthalmol122:336-340,200418)ParkCH,JaeGJ,FekratS:Intravitrealtriamcinoloneacetonideineyeswithcystoidmacularedemaassociatedwithcentralretinalveinocclusion.AmJOphthalmol136:419-425,200319)MassinP,AudrenF,HaouchineBetal:Intravitrealtri-amcinoloneacetonidefordiabeticdiusemacularedema:preliminaryresultsofaprospectivecontrolledtrial.Oph-thalmology111:218-224,200420)IwaoK,InataniM,KawajiTetal:Frequencyandriskfactorsforintraocularpressureelevationafterposteriorsub-Tenoncapsuletriamcinoloneacetonideinjection.JGlaucoma16:251-256,200721)InataniM,IwaoK,KawajiTetal:Intraocularpressureelevationafterinjectionoftriamcinoloneacetonide:amulticenterretrospectivecase-controlstudy.AmJOph-thalmol145:676-681,200822)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Externaltrabecu-lotomyforthetreatmentofsteroid-inducedglaucoma.JGlaucoma9:483-485,200023)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicaleectsoftrabeculotomyabexternoonadulteyeswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfoliationsyndrome.ArchOphthalmol111:1653-1661,199324)SihotaR,KonkalVL,DadaTetal:Prospective,long-termevaluationofsteroid-inducedglaucoma.Eye22:26-30,200825)GilliesMC,SutterFK,SimpsonJMetal:Intravitrealtri-amcinoloneforrefractorydiabeticmacularedema:two-yearresultsofadouble-masked,placebo-controlled,ran-domizedclinicaltrial.Ophthalmology113:1533-1538,200626)GregoriNZ,RosenfeldPJ,PuliatoCAetal:One-yearsafetyandecacyofintravitrealtriamcinoloneacetonideforthemanagementofmacularedemasecondarytocen-tralretinalveinocclusion.Retina26:889-895,200627)AraujoSV,SpaethGL,RothSMetal:Aten-yearfollow-uponaprospective,randomizedtrialofpostoperativecor-ticosteroidsaftertrabeculectomy.Ophthalmology102:1753-1759,1995denceofintraoperativecomplicationsinamulticentercon-trolledclinicaltrialoftriamcinoloneinvitrectomy.Oph-thalmology114:289-296,20074)RohenJW,LinnerE,WitmerR:Electronmicroscopicstudiesonthetrabecularmeshworkintwocasesofcorti-costeroid-glaucoma.ExpEyeRes17:19-31,19735)YunAJ,MurphyCG,PolanskyJRetal:Proteinssecretedbyhumantrabecularcells.Glucocorticoidandothereects.InvestOphthalmolVisSci30:2012-2022,19896)MatsumotoY,JohnsonDH:Dexamethasonedecreasesphagocytosisbyhumantrabecularmeshworkcellsinsitu.InvestOphthalmolVisSci38:1902-1907,19977)EvansRM:Thesteroidandthyroidhormonereceptorsuperfamily.Science240:889-895,19888)OhjiM,KinoshitaS,OhmiEetal:Markedintraocularpressureresponsetoinstillationofcorticosteroidsinchil-dren.AmJOphthalmol112:450-454,19919)稲谷大:ステロイド緑内障.眼科手術20:41-43,200710)ArmalyMF:Statisticalattributesofthesteroidhyperten-siveresponseintheclinicallynormaleye.I.Thedemon-strationofthreelevelsofresponse.InvestOphthalmol4:187-197,196511)BeckerB:Intraocularpressureresponsetotopicalcorti-costeroids.InvestOphthalmol4:198-205,196512)LevinDS,HanDP,DevSetal:Subtenon’sdepotcorti-costeroidinjectionsinpatientswithahistoryofcortico-steroid-inducedintraocularpressureelevation.AmJOph-thalmol133:196-202,200213)GarbeE,LeLorierJ,BoivinJFetal:Riskofocularhypertensionoropen-angleglaucomainelderlypatientsonoralglucocorticoids.Lancet350:979-982,199714)JonasJB,KreissigI,DegenringR:Intraocularpressureafterintravitrealinjectionoftriamcinoloneacetonide.BrJOphthalmol87:24-27,200315)HirookaK,ShiragaF,TanakaSetal:Riskfactorsforelevatedintraocularpressureaftertrans-Tenonretrobul-barinjectionsoftriamcinolone.JpnJOphthalmol50:235-238,200616)BakriSJ,BeerPM:Theeectofintravitrealtriamcinolo-neacetonideonintraocularpressure.OphthalmicSurgLasersImaging34:386-390,200317)GilliesMC,SimpsonJM,BillsonFAetal:Safetyofan

続発緑内障に関連した遺伝子はここまでわかった

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSI開放隅角,続発緑内障の原因遺伝子の解析以前より緑内障には家族歴が関係するとされており24),外来にても家族歴を有する症例に遭遇する頻度は1020%程度ある.緑内障原因遺伝子,緑内障感受性遺伝子が存在することは,個々の疾患に寄与する比率に違いはあるにせよ,明らかであると考えられる.1993年にPOAGの原因遺伝子が,大きな若年性開放隅角緑内障家系を用いて常染色体1番1q21-31へマッピング5)されたことが大きなきっかけとなり,それ以降の分子遺伝学的解析につながってきた.続発緑内障としては,後部多形性角膜ジストロフィ(posteriorpolymorphouscornealdystrophy:PPCD)の原因遺伝子座が,1995年に常染色体20番長腕(20q11)にマップされた6)時点あたりから,徐々に解析が進行してきた.原因がわかったおもな遺伝子として,線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座のある続発緑内障の原因遺伝子としてPPCD2のCOL8A2遺伝子,TCF8遺伝子,落屑症候群・落屑緑内障のLOXL1遺伝子,家族性アミロイドポリニューロパチーのtran-sthyretin遺伝子などがあげられる.他にも,原因遺伝子は単離されていないが,色素散布症候群,色素緑内障,小眼球症に伴う緑内障の原因遺伝子座がマップされている.まだまだ解析は途上であり,原因が究明されていない続発緑内障も多いが,以下に緑内障ガイドライン(表はじめに現在わが国における40歳以上の緑内障有病率は5%1)とされ,人口から概算して緑内障患者は約200万人にものぼり,高齢化に伴いその比率は増加する一方と推定される.病型別にみてみると閉塞隅角緑内障に比べ原発開放隅角緑内障(狭義)(primaryopen-angleglauco-ma:POAG)の比率が高く,なおかつわが国においては開放隅角である正常眼圧緑内障(normal-tensionglau-coma:NTG)が,POAGに対し10倍以上の頻度で存在する.続発緑内障は,緑内障診療ガイドラインによれば,他の眼疾患,全身疾患あるいは薬物使用が原因となって眼圧上昇が生じる緑内障と定義されている.多治見スタディではその有病率は0.5%と報告され,決して少ない数字ではない.実際に,診療の場において日々遭遇し,しばしば治療に苦慮することがある.緑内障特にPOAGに関しては,環境因子の関与や浸透率の低さ(遺伝子変異をもっていても必ずしも発症しない)などから一般的な病気(commondisease)と考えられる.続発緑内障に関しては,原因が一元的なものに関しては,その原因遺伝子がわかりつつある.発症初期において,開放隅角緑内障かまたは続発緑内障かどうか,その原因は何か,臨床的に診断するのが困難な例では,今後遺伝子診断が効果を発揮する場合もあると考えられる.以下に,続発緑内障遺伝子の今までの研究の概要と新しい情報を示したい.(3)285NobuoFuse980857411特集●続発緑内障は変わった!あたらしい眼科26(3):285293,2009続発緑内障に関連した遺伝子はここまでわかったNewInsightsintoSecondaryGlaucoma-RelatedGenes布施昇男*———————————————————————-Page2286あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(4)PPCD2は角膜内皮基底膜の短鎖コラーゲンであるVIII型コラーゲンのa2鎖であるCOL8A2遺伝子が原因遺伝子である7).またこのCOL8A2遺伝子は早発のFuchs角膜内皮ジストロフィ(Fuchsendothelialcorne-aldystrophy:FECD)(図1,2)の原因遺伝子でもある.PPCD2もFECDも神経堤細胞由来の角膜内皮細胞の分化に影響を与えるコラーゲンをコードする遺伝子(COL8A2遺伝子)が原因ということになる.PPCD3は,角膜後面に突出した膜の形成,瞳孔偏位,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechiae:PAS)がみられ,トラベクレクトミー,Moltenoチューブ,Baerveldtチューブを使ったシャント手術が必要となった難治性の続発緑内障の発端者をもつ家系を用いて,常染色体10番にマップされ8),Znフィンガーホメオドメインをもつ転写因子であるTCF8遺伝子が原因であることが明らかにされた9).1;太字)の順番に沿って,紹介していく.1.続発開放隅角緑内障A.線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:pretrabecularform)まずは続発開放隅角緑内障(前房内上皮増殖による緑内障)の原因ともなるPPCDの大きな家系が,1995年Heonらによって常染色体20番長腕(20q11)にマップされた6).PPCDでは角膜内皮細胞のmetaplasia化生と異常増殖をきたすが,線維柱帯を覆うようになると続発開放隅角緑内障をひき起こすことがある.またHeonらは2002年に,VSX1(visualsystemhomeoboxgene1)遺伝子というホメオボックス(形態形成に関わる遺伝子のカスケードを制御する)をもつ遺伝子が原因遺伝子であることを明らかにした.このPPCDはPPCD1(OMIM#122000)とされ,PPCDには違う遺伝子座があることも解明されてきた.表1続発緑内障の分類Ⅱ.続発緑内障secondaryglaucoma1.続発開放隅角緑内障A.線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障secondaryopen-angleglaucoma:pretrabecularform例:血管新生緑内障,虹彩異色虹彩毛様体炎による緑内障,前房内上皮増殖による緑内障,などB.線維柱帯に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障secondaryopen-angleglaucoma:trabecularform例:ステロイド緑内障,落屑緑内障,原発アミロイドーシスに伴う緑内障,ぶどう膜炎による緑内障,水晶体に起因する緑内障,外傷による緑内障,硝子体手術後の緑内障,ghostcellglaucoma,白内障手術後の緑内障,角膜移植後の緑内障,眼内異物による緑内障,眼内腫瘍による緑内障,Schwartz症候群,色素緑内障,色素散布症候群,などC.Schlemm管より後方に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障secondaryopen-angleglaucoma:posttrabecularform例:眼球突出に伴う緑内障,上大静脈圧亢進による緑内障,などD.房水過分泌による続発開放隅角緑内障secondaryopen-angleglaucoma:hypersecretoryform2.続発閉塞隅角緑内障A.瞳孔ブロックによる続発閉塞隅角緑内障secondaryangle-closureglaucoma:posteriorformwithpupillaryblock例:膨隆水晶体による緑内障,小眼球症に伴う緑内障,虹彩後癒着による緑内障,水晶体脱臼による緑内障,前房内上皮増殖による緑内障,などB.水晶体より後方に存在する組織の前方移動による続発閉塞隅角緑内障secondaryangle-closureglaucoma:posteriorformwith-outpupillaryblock例:悪性緑内障,網膜光凝固後の緑内障,強膜短縮術後の緑内障,眼内腫瘍による緑内障,後部強膜炎・原田病による緑内障,網膜中心静脈閉塞症による緑内障,眼内充物質による緑内障,大量硝子体出血による緑内障,未熟児網膜症による緑内障などC.瞳孔ブロックや水晶体虹彩隔膜の移動によらない隅角癒着による続発閉塞隅角緑内障secondaryangle-closureglaucoma:ante-riorform例:前房消失あるいは浅前房後の緑内障,ぶどう膜炎による緑内障,角膜移植後の緑内障,血管新生緑内障,ICE症候群,虹彩分離症に伴う緑内障,など太字部分は本文中に詳述.(日眼会誌110:785-788,2006より抜粋引用)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009287(5)内障患者において顕著であること,家族歴,高度近視,糖尿病,関節リウマチなどの膠原病がある場合に眼圧が上がりやすいことが報告されており,何らかの因子が関係していると考えられている.もちろん,これらの因子がなくとも眼圧の上昇はありうるので,注意が必要である.Polanskyらは,線維柱帯にステロイドを加え培養したときに発現が誘導される蛋白を見出し,これをtrabe-cularmeshworkinducibleglucocorticoidresponse(TIGR)遺伝子と名づけた11).またKubotaらは,眼特異的に発現する遺伝子をクローニングし,細胞骨格蛋白と考えられるMyocilin遺伝子を発見した12).これら2つの遺伝子は同一のものであった.1993年に原発開放隅角緑内障の原因遺伝子が,大きな若年性開放隅角緑内障家系を用いて常染色体1番1q21-31へマッピング5)されていたが,ついに1997年にその原因がMYOC/TIGR遺伝子であることが明らかとされた13).培養ヒト線維柱帯にデキサメタゾンを添加したとき,816時間置いてMyocilin蛋白が発現誘導される14).当然,MYOC遺伝子はステロイドレスポンダーや,ステロイド緑内障の原因の候補遺伝子であるが,MYOC遺伝子の変異との統計学的相関はないとされている15).デキサメタゾンを培養ヒト線維柱帯に添加したときB.線維柱帯に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:trabecularform)(1)ステロイド緑内障一般にステロイドの点眼,眼周囲への投与,もしくは内服によって,眼圧が上昇する症例があるということはよく知られる.以前より,ステロイドによる眼圧の上昇は,いわゆるメンデルの法則に従う,単一遺伝子による常染色体遺伝と考えられてきた.しかし,眼圧上昇までのステロイド投与期間,眼圧上昇幅,投与量などにかなりばらつきがあること,デキサメタゾン点眼試験による眼圧上昇の再現性の検討では,眼圧上昇程度の再現性は低いことが報告されている10).眼圧の上昇は開放隅角緑図2Fuchs角膜内皮ジストロフィ内皮細胞数の減少と個々の細胞の拡大が認められる.内皮細胞の中に円形のdarkareaが散在する.図1Fuchs角膜内皮ジストロフィのスリット写真a:弱拡大,b:強拡大.Guttataを伴う角膜浮腫がみられる.ab———————————————————————-Page4288あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(6)されている(表2)1618).注目すべきは,どの報告においてもMYOC遺伝子の発現が上昇しており,何らかの形でステロイド緑内障に関わっている可能性が高いと考えられる.また,MYOC遺伝子と相互作用のある遺伝子(蛋白質)の解析は有用であり,これらの解析からステロイド緑内障の原因が究明される可能性もあると考えられる(図3).に,発現が上昇する遺伝子はステロイドレスポンダーや,ステロイド緑内障の原因解明のために非常に重要であり,今までいくつかのグループでDNAアレイが施行表2デキサメタゾンを培養ヒト線維柱帯に添加したときに発現が上昇する遺伝子発表者Ishibashiら(2002)Loら(2003)Rozsaら(2006)遺伝子Myocilin(MYOC)Decorin(プロテオグリカン;結合織の構成要素)Insulin-likegrowthfactorbindingprotein2(脳など諸臓器の機能調節)Ferritinlchain(細胞内における鉄の吸収や貯蔵)Fibulin-1C(細胞外の基底膜や弾性線維に関係する糖蛋白)Alpha1-antichymotrypsin(セリンプロテアーゼインヒビター;蛋白分解酵素であるプロテアーゼの活性を阻害)Myocilin(MYOC)Pigmentepithelium-derivedfactor(神経保護因子)Cornea-derivedtranscript6(抗血管新生因子,細胞外基質沈着)ProstaglandinD(2)synthase(プロスタグランジン合成)Angiopoietin-like7(酸化ストレスに反応)Myocilin(MYOC)SerumamyloidA1(急性期蛋白,炎症時に発現上昇)Alpha1-antichymotrypsin(セリンプロテアーゼインヒビター;蛋白分解酵素であるプロテアーゼの活性を阻害)ZincngerandBTBdomaincontaining16(細胞周期を制御する転写因子)おもな遺伝子名とその機能を5つずつ列挙した.図3文献に基づくMYOC遺伝子を中心とする遺伝子ネットワーク〔日本語バイオポータルサイト(http://www.bioportal.jp/)内コンテンツ,ゲノムビューアから許可を得て転載〕———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009289(7)70歳以上3.293.68%(緑内障0.820.86%)とされた20).最大3:1の割合で両側性が多く,日本,米国などでは片眼性が多い.落屑物質を有する症例は,315年で315%が緑内障に移行するとされる.2007年Thorleifssonらによるゲノムワイドな一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)解析により,常染色体15番長腕に位置するlysyloxidase-likeprotein1(LOXL1)遺伝子のエクソン1およびイントロン1の計3つのSNPが,落屑症候群,落屑緑内障と強く相関すると発表された21).LOXL1遺伝子はlysyloxidaseファミリーであり,tropoelastinのリジン残基の酸化的脱アミノ化を触媒し,エラスチンポリマーファイバーの架橋に関係する.LOXL1遺伝子は7つのエクソンからなり,篩状板,水晶体上皮,角膜,毛様体筋,線維柱帯に発現している.日本人においても多施設から,LOXL1遺伝子が落屑緑内障と強く関連していることが報告された(図5)2227).なお,今のところ緑内障を発症した症例群と非発症群との間には有意差は認められていない.SNPがLOXL1遺伝子のどのような機能に関係しているのか,これからの機能解析が待たれる.(3)アミロイドーシスに伴う緑内障家族性アミロイドポリニューロパチー(familialamy-loidoticpolyneuropathy:FAP)FAPとは,常染色体優性遺伝の全身性アミロイドーシスであり,さまざまな全身症状をきたす.眼症状として,緑内障,瞳孔異常,硝子体混濁,アミロイドアンギオパチーなどを示す.FAPでは,落屑症候群,落屑緑内障と同様に,瞳孔縁や水晶体前面に沈着物を認める.(2)落屑症候群,落屑緑内障落屑症候群(XFS;OMIM#177650)は,臨床的には落屑物質が前眼部に蓄積し緑内障神経症をひき起こす,extracellularmatrixの異常を原因とする疾患である.落屑物質は水晶体前面,瞳孔縁(図4),Zinn小帯,角膜内皮,隅角など眼組織のみならず,皮膚,心臓,肺,肝臓などの全身臓器にも存在する.落屑物質にはグリコサミノグリカンの存在が示唆されており,その過剰産生や異常代謝が病因の一つであると考えられてきた.落屑物質には基底膜成分や,弾性線維組織のエピトープが含まれる.落屑緑内障の有病率には地域差があり,高い有病率を示す地域として,アイスランド,フィンランドなどのスカンジナビア諸国とサウジアラビアがあげられる19).加齢とともに増加し,7090代で最大となる.多治見スタディでは40歳以上0.71%(緑内障0.25%),図4水晶体前面,瞳孔縁に沈着した落屑物質()コントロール落屑症候群POAGExon15¢3¢:T/T:T/G:G/G:T/T:T/G:G/G:T/T:T/G:G/G図5LOXL1遺伝子のR141L(rs1048661)の遺伝子型落屑症候群と,POAG,コントロール間に有意差を認める.T/T:Tアレルホモ接合.T/G:T/Gヘテロ接合.G/G:Gアレルホモ接合.落屑症候群ではT/Tが有意に多い.———————————————————————-Page6290あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(8)しないという報告もされている34).今のところ,色素散布症候群において眼圧が上昇し色素緑内障になるためには,遺伝子を含め多因子が絡みあうことが必要と考えられる.2.続発閉塞隅角緑内障A.瞳孔ブロックによる続発閉塞隅角緑内障(secondaryangleclosureglaucoma:posteriorformwithpupillaryblock)小眼球症に伴う緑内障“Simple(pure)microphthalmos”とよばれるnano-phthalmosは全身的な合併症を伴わない小眼球症である.常染色体優性,劣性の両方が報告されている.その臨床像は,短眼軸長,高度の遠視,高い水晶体/眼球体積比,小角膜径(図6)と高率に閉塞隅角緑内障を合併することである.閉塞隅角緑内障は,解剖学的な虹彩,水晶体の位置関係による瞳孔ブロックが発症起点となる.小眼球は胎生期に眼球の発達が障害されたと考えられ,動物モデルでは,種々の転写因子が関係することは示唆されているが,遺伝的,生化学的原因はよくわかっていない.Othmanらは22例の小眼球症を含む常染色体優性遺伝を示す家系autosomaldominantnanophthalmos(NNO1)において,連鎖解析を行いこの家系が常染色体11番短腕に連鎖することを報告した35).この22症進行すると,脱円様の瞳孔(fringedpupil)を認めるようになる.緑内障発症の危険因子は,沈着物,fringedpupil,硝子体混濁とされる28).FAPの原因遺伝子は,トランスサイレチン(transthyretin)遺伝子であり,その変異によって起こるアミロイドパチーが報告されている29).(4)色素散布症候群,色素緑内障色素緑内障は,虹彩からの色素顆粒と関係があるといわれる.虹彩色素上皮から遊離したメラニン顆粒は,前房水によって前房に運ばれ,線維柱帯に沈着する.線維柱帯への色素の沈着は房水抵抗を上昇させ,眼圧上昇をひき起こす.色素散布症候群のうち50%は色素緑内障をひき起こすといわれる30).白人における頻度は12%と少なくないが,日本人での症例報告は少ない.Andersonらは,4家系のおもにアイルランド系の大きな家系を用いて常染色体7番長腕7q35-q36にマップされることを示した31).これはPOAGの原因遺伝子座の一つGLC1Fに非常に近いがオーバーラップはしていない.色素散布症候群,色素緑内障のモデル動物であるDBA/2Jマウスにおいて,色素散布はメラノソーム蛋白のGpnmbという遺伝子が関係していることが示された32).メラニン合成系に関与するチロシナーゼ関連蛋白(tyrosinase-relatedprotein1:TYRP1)遺伝子が虹彩萎縮に関与することが示唆され,実際DBA/2JマウスはTYRP1遺伝子Cys110Tyr,Arg326Hisの変異をもつことが示されている.DBA/2Jマウスの隅角では,著明な虹彩前癒着がみられる.ヒトにおいても,線維柱帯の変性がみられるが,異なる遺伝子が原因の可能性がある.色素散布症候群において,マウスGpnmbに相当するヒトGPNMBの蛋白翻訳領域のスクリーニングでは,変異が認められていない.TYRP1遺伝子でも,色素散布症候群,色素緑内障において変異は見つかっていない33).このTYRP1遺伝子は,常染色体劣性の白子症(non-syndromicoculocutaneousalbinism3:OCA3)の原因として報告されているが,白子症において色素緑内障のリスクが高まるという報告はない.また,前述の落屑症候群,落屑緑内障の原因遺伝子LOXL1遺伝子は色素散布症候群,色素緑内障には関与図6小眼球の前眼部角膜径9mmと小さい.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009291(9)例は眼軸長平均18.13mmと短く,屈折平均+9.88Dとかなりの遠視であり,12症例で閉塞隅角緑内障を発症していた.ちなみにこのNNO1遺伝子座の近くには,無虹彩症の原因で有名なPAX6遺伝子(OMIM#106210)があるが,マイクロサテライトマーカーの位置関係により除外されている.また,臨床像,遺伝形式,染色体の位置などは常染色体14番14q32の先天小眼球(congenitalmicrophthal-mia;OMIM#251600)やlenzmicrophthalmia(OMIM#309800)やoculodentodigitalsyndrome(OMIM#164200)に伴う小眼球症とは異なっており,小眼球症の原因も多岐にわたっていることが推測される.B.水晶体より後方に存在する組織の前方移動による続発閉塞隅角緑内障(secondaryangleclosureglau-coma:posteriorformwithoutpupillaryblock)例として悪性緑内障,網膜光凝固後の緑内障,強膜短縮術後の緑内障,眼内腫瘍による緑内障などが列記されているが,組織の前方移動という機械的原因にもよるため,現在この項目にあてはまる疾患の原因遺伝子は報告がされていない.C.瞳孔ブロックや水晶体虹彩隔膜の移動によらない隅角癒着による続発閉塞隅角緑内障(secondaryangleclosureglaucoma:anteriorform)虹彩角膜内皮症候群(iridocornealendothelialsyn-drome:ICE症候群),虹彩分離症臨床所見として,角膜内皮細胞数の低下,虹彩萎縮,瞳孔偏位,眼圧上昇がみられる.ICE症候群は臨床上Chandler,Cogan-Reese,進行性本態性虹彩萎縮(pro-gressiveessentialirisatrophy)に分類されるが,その原因は同定されていない.基本的に病態は前眼部の形成異常であり,iridogoniodysgenesisやanteriorchambercleavagesyndromeなどの原因遺伝子である,FOXC1遺伝子やPITX2遺伝子のような形態形成に関与する転写因子の可能性があると考えられる.II一塩基多型(singlenucleotidepolymor-phism:SNP)を用いた相関解析全ゲノム・SNPジェノタイピングゲノム情報を個人個人で比べると,ほとんどの部分はまったく同じ配列だが,一部に個人によって異なる配列が存在する.これを「DNA多型」とよび,その多型にもいくつかの種類が存在する.そのうちゲノム上に最も高頻度に存在するのが,一つの塩基のみが異なる塩基の変異の頻度が1%以上の「SNP」とよばれる最も一般的な多型である(現時点で数百万カ所以上のSNPが確認されている).SNPは全ゲノム上にわたり非常に高密度(250300bpごと)に存在する.このSNPを用いた表現型・遺伝型の相関解析が盛んに行われており,たとえば緑内障原因遺伝子であるWDR36遺伝子のSNPとPOAGの表現型(視野の重症度)に相関があることが報告されている36).当然,遺伝子,SNP間でも相互作用があり,遺伝子間相互作用gene-geneinteractionが解析されてきている.これからは,遺伝子間の相互作用の研究とともに,環境因子との関連(gene-environmentinteraction)解析も必要となってくるであろう.近年国際HapMapプロジェクトに基づく30万カ所以上のSNPを用いた,全ゲノム・SNPジェノタイピング用のDNAチップが利用可能となってきている.2007年にLOXL1遺伝子のSNPにより落屑緑内障の疾患感受性が高まることが報告され,続発緑内障の解析に大きく道を開いたが,用いられた手法は約30万カ所ものSNPマーカーを測定するチップを用いた,全ゲノムのタイピングであった.おわりに緑内障遺伝子診断を行う目的は,2つ存在すると考えられる.一つは,すでに緑内障を発症している患者の確定診断と,もう一つは緑内障発症前診断である.発症初期において,原発開放隅角緑内障かまたは続発緑内障かどうか,続発緑内障としたらその原因は何か,臨床的に診断するのが困難な例では,遺伝子診断が効果を発揮することになる場合もあると考えられる.近年,緑内障の治療はすぐれた薬物療法,手術療法はあるが,それでも緑内障性視神経症を食い止められない症例が存在する.さらに,遺伝子診断が進めば,各疾患に対する標的治療も可能になってくると考えられる.———————————————————————-Page8292あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)WilsonMR,HertzmarkE,WalkerAMetal:Acase-con-trolstudyofriskfactorsinopenangleglaucoma.ArchOphthalmol105:1066-1071,19873)SungVC,KoppensJM,VernonSAetal:Longitudinalglaucomascreeningforsiblingsofpatientswithprimaryopenangleglaucoma:theNottinghamFamilyGlaucomaScreeningStudy.BrJOphthalmol90:59-63,20064)LeskeMC,WuSY,HennisAetal:Riskfactorsforinci-dentopen-angleglaucoma:theBarbadosEyeStudies.Ophthalmology115:85-93,20085)SheeldVC,StoneEM,AlwardWLetal:Geneticlink-ageoffamilialopenangleglaucomatochromosome1q21-q31.NatGenet4:47-50,19936)HeonE,MathersWD,AlwardWLetal:Linkageofpos-teriorpolymorphouscornealdystrophyto20q11.HumMolGenet4:485-488,19957)BiswasS,MunierFL,YardleyJetal:MissensemutationsinCOL8A2,thegeneencodingthealpha2chainoftypeVIIIcollagen,causetwoformsofcornealendothelialdys-trophy.HumMolGenet10:2415-2423,20018)MoroiSE,GokhalePA,SchteingartMTetal:Clinico-pathologiccorrelationandgeneticanalysisinacaseofposteriorpolymorphouscornealdystrophy.AmJOphthal-mol135:461-470,20039)KrafchakCM,PawarH,MoroiSEetal:MutationsinTCF8causeposteriorpolymorphouscornealdystrophyandectopicexpressionofCOL4A3bycornealendothelialcells.AmJHumGenet77:694-708,200510)PalmbergPF,MandellA,WilenskyJTetal:Therepro-ducibilityoftheintraocularpressureresponsetodexame-thasone.AmJOphthalmol80:844-856,197511)PolanskyJR,FaussDJ,ChenPetal:Cellularpharmacol-ogyandmolecularbiologyofthetrabecularmeshworkinducibleglucocorticoidresponsegeneproduct.Ophthal-mologica211:126-139,199712)KubotaR,NodaS,WangYetal:Anovelmyosin-likeprotein(myocilin)expressedintheconnectingciliumofthephotoreceptor:molecularcloning,tissueexpression,andchromosomalmapping.Genomics41:360-369,199713)StoneEM,FingertJH,AlwardWLetal:Identicationofagenethatcausesprimaryopenangleglaucoma.Science275:668-670,199714)ShepardAR,JacobsonN,FingertJHetal:Delayedsec-ondaryglucocorticoidresponsivenessofMYOCinhumantrabecularmeshworkcells.InvestOphthalmolVisSci42:3173-3181,200115)FingertJH,ClarkAF,CraigJEetal:Evaluationofthemyocilin(MYOC)glaucomageneinmonkeyandhumansteroid-inducedocularhypertension.InvestOphthalmolVisSci42:145-152,200116)IshibashiT,TakagiY,MoriKetal:cDNAmicroarrayanalysisofgeneexpressionchangesinducedbydexame-thasoneinculturedhumantrabecularmeshworkcells.InvestOphthalmolVisSci43:3691-3697,200217)LoWR,RowletteLL,CaballeroMetal:Tissuedieren-tialmicroarrayanalysisofdexamethasoneinductionrevealspotentialmechanismsofsteroidglaucoma.InvestOphthalmolVisSci44:473-485,200318)RozsaFW,ReedDM,ScottKMetal:Geneexpressionproleofhumantrabecularmeshworkcellsinresponsetolong-termdexamethasoneexposure.MolVis12:125-141,200619)ForsiusH:PrevalenceofpseudoexfoliationofthelensinFinns,Lapps,Icelanders,Eskimos,andRussians.TransOphthalmolSocUK99:296-298,197920)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecond-aryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,200521)ThorleifssonG,MagnussonKP,SulemPetal:CommonsequencevariantsintheLOXL1geneconfersusceptibilitytoexfoliationglaucoma.Science317:1397-1400,200722)HayashiH,GotohN,UedaYetal:Lysyloxidase-like1polymorphismsandexfoliationsyndromeintheJapanesepopulation.AmJOphthalmol145:391-393,200823)OzakiM,LeeKY,VithanaENetal:AssociationofLOXL1genepolymorphismswithpseudoexfoliationintheJapanese.InvestOphthalmolVisSci49:3976-3980,200824)MoriK,ImaiK,MatsudaAetal:LOXL1geneticpoly-morphismsareassociatedwithexfoliationglaucomaintheJapanesepopulation.MolVis14:1037-1040,200825)MabuchiF,SakuradaY,KashiwagiKetal:Lysyloxi-dase-like1genepolymorphismsinJapanesepatientswithprimaryopenangleglaucomaandexfoliationsyndrome.MolVis14:1303-1308,200826)FuseN,MiyazawaA,NakazawaTetal:EvaluationofLOXL1polymorphismsineyeswithexfoliationglaucomainJapanese.MolVis14:1338-1343,200827)TanitoM,MinamiM,AkahoriMetal:LOXL1variantsinelderlyJapanesepatientswithexfoliationsyndrome/glaucoma,primaryopen-angleglaucoma,normaltensionglaucoma,andcataract.MolVis14:1898-1905,200828)KimuraA,AndoE,FukushimaMetal:Secondaryglau-comainpatientswithfamilialamyloidoticpolyneuropathy.ArchOphthalmol121:351-356,200329)KawajiT,AndoY,NakamuraMetal:Ocularamyloidangiopathyassociatedwithfamilialamyloidoticpolyneu-ropathycausedbyamyloidogenictransthyretinY114C.Ophthalmology112:2212,200530)RichterCU,RichardsonTM,GrantWM:Pigmentarydis-persionsyndromeandpigmentaryglaucoma.Aprospec-(10)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009293tivestudyofthenaturalhistory.ArchOphthalmol104:211-215,198631)AndersenJS,PraleaAM,DelBonoEAetal:Ageneresponsibleforthepigmentdispersionsyndromemapstochromosome7q35-q36.ArchOphthalmol115:384-388,199732)AndersonMG,SmithRS,HawesNLetal:MutationsingenesencodingmelanosomalproteinscausepigmentaryglaucomainDBA/2Jmice.NatGenet30:81-85,200233)LynchS,YanagiG,DelBonoEetal:DNAsequencevari-antsinthetyrosinase-relatedprotein1(TYRP1)genearenotassociatedwithhumanpigmentaryglaucoma.MolVis8:127-129,200234)RaoKN,RitchR,DorairajSKetal:Exfoliationsyndromeandexfoliationglaucoma-associatedLOXL1variationsarenotinvolvedinpigmentdispersionsyndromeandpigmen-taryglaucoma.MolVis14:1254-1262,200835)OthmanMI,SullivanSA,SkutaGLetal:Autosomaldom-inantnanophthalmos(NNO1)withhighhyperopiaandangle-closureglaucomamapstochromosome11.AmJHumGenet63:1411-1418,199836)MiyazawaA,FuseN,MengkegaleMetal:Associationbetweenprimaryopen-angleglaucomaandWDR36DNAsequencevariantsinJapanese.MolVis13:1912-1919,2007(11)

序説:続発緑内障は変わった!

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS急での手術件数が多いことも続発緑内障の特徴である.ちなみに昨年1年間に岐阜大学附属病院で施行した単独のトラベクレクトミーの35%が続発緑内障を対象としていた.こうした臨床的な重要性と,診断治療の多様性は本誌特集の趣旨に馴染んでいる.さらに,より根源的な理由として,医学や周辺科学の進歩により,新しい続発緑内障の発生,続発緑内障の新たな理解,新しい治療法など,いくつか重要なテーマが生まれていることが見逃せない.網膜硝子体疾患に対するトリアムシノロン使用頻度の増加に伴うステロイド緑内障の頻度増加,アミロイド緑内障の発症機序解明,血管新生緑内障に対する抗VEGF抗体の利用,新しい緑内障手術の本症への応用,等々,知識のアップデートが必要とされる事項は枚挙に暇がない.これらの知識をまとめることは本誌の発刊趣旨に沿ったものである.こうした事情に鑑み,今回は,続発緑内障の基本的な理解を深めるとともに,近年の新たな状況(疾患,病因の理解,治療の進歩など)を正しく伝えることを念頭に入れ,この分野に造詣の深い先生方に執筆をお願いした.最初に,続発緑内障関連遺伝子について,布施昇男先生(東北大)に総説をお願いした.各論では,ステロイド緑内障とアミロイド緑内障をまず取り上げ,それぞれ熊本大の稲谷大今月号では,特集として,続発緑内障を取り上げた.その理由としていくつかあげたい.第一に,続発緑内障がまったく異なるいくつもの疾患の集合体であるがゆえに,従来から体系的な疾患理解の試みが少ないからである.TheSecondaryGlaucomas(Ritch&Shields,Mosby,1982)のような名著の出現は期待しにくい分野である.現代緑内障の主流である緑内障の視神経画像診断や視野の研究といえば,基本的には原発開放隅角緑内障(広義)が対象にされると直感的に理解されるであろう.また,狭隅角眼といえば原発閉塞隅角症・原発閉塞隅角緑内障を思い浮かべるし,新規薬剤の眼圧下降効果は原発開放隅角緑内障・高眼圧症で検討されるのが当然である.このように,現在の続発緑内障の診断,治療は,原発緑内障における知識と理解を前提として,それを適宜修飾することでなされているのである.この,光の当たらない緑内障病型に日の目を見せたいというのが一つの理由である.第二に,続発緑内障が原発緑内障ほどには体系だって理解されていないにもかかわらず,臨床の場では,症例数や眼圧上昇の程度から,原発緑内障と並ぶ重要な疾患であることがあげられる.血管新生緑内障,ぶどう膜炎に続発する緑内障など,急性原発閉塞隅角緑内障と同レベルの急激な眼圧上昇をきたすことは珍しくない.このため,緊急あるいは準緊(1)283●序説あたらしい眼科26(3):283284,2009続発緑内障は変わったCurrentUnderstandingofSecondaryGlaucomas山本哲也*岡田アナベルあやめ**———————————————————————-Page2284あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(2)療に関しては東出朋巳先生(金沢大)に手術療法を重点に記載していただいた.さらに,眼科手術と関連した緑内障として,角膜移植後の続発緑内障と硝子体手術後の続発緑内障を取り上げ,豊富な治療経験に基づく治療のあり方を,森和彦先生(京都府立医大)と庄司信行先生(北里大)にご執筆いただいた.各項目ともに,力作ぞろいであり,熟読吟味に値するものと信じている.最後に,玉稿をいただいたことに対して著者の先生方に感謝いたします.先生,川路隆博先生にお願いした.ステロイド緑内障はその疾患概念の変化とトリアムシノロン投与に伴う頻度の増加により注目されている.アミロイド緑内障は,病態がかなり明らかにされてきたことと全身管理の変化に伴う重症例の増加により,地域性の偏りはあるものの眼科医の基礎知識として重要と考える.ぶどう膜炎関連緑内障は日常的な疾患である.このため,二人の先生に病因と治療を分けて記述していただくこととし,病因を蕪城俊克先生(東京大),治療を吉野啓先生(杏林大)にお願いした.治療に難渋することの多い血管新生緑内障の治お方法:おとりつけの,また,その宜のない場合は直あてご注ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2009Vol.26月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2009Vol.22■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544??://www.medical-aoi.co.jp

Laser Speckle Flowgraphyを用いた新しい血流波形解析手法

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1(131)2690910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(2):269275,2009cはじめに筆者らはこれまでLaserSpeckleFlowgrapy(LSFG)とよばれる眼底の血流分布をリアルタイムに測定するシステムを,国内外の研究機関と共同で開発・研究してきた116).LSFGの研究成果は眼撮影装置〔レーザースペックルフローグラフィーLSFG-NAVI,ソフトケア(有)社製〕として製品化され,2008年1月に医療機器認証を取得して,研究機関だけでなく病院など臨床の現場でも安全に利用できるようになった.LSFG-NAVIでは,750×350画素,毎秒30フレームの連続したスペックル画像を取り込み,4秒間(または6秒間)の連続した血流マップ120枚(または160枚)が得られる.一般にLSFGを用いた眼底血流測定では,ある患者の同一部位における血流速度の相対的変化は観測できるが,視神経乳頭と脈絡膜の血流など,組織の組成や散乱特性の異なる部位の血流を数値で直接比較したり,同じ視神経乳頭であっても別の患者のデータと直接数値で比較して論じることは困難とされてきた1,4).そのため学会発表などでは,薬効の確認や,測定領域の組成が大きく変化しないケースでの施術前後の血流改善など,比較可能な場合に限定された応用が報告されてきた.これまで発表されてきたものは,測定データから1心拍に合成した静止画の合成マップを用いることが多く,LSFGの特長である動画情報を直接取り扱った研究は,残念ながらあまり見受けられない.これはプレゼンテーションなどでは動画は迫力のある映像であるため見る者に強い印象を残すが,じっくり理解しようとする第三者に理解されづらく,1枚のマップ上に血流の変動率として動画情報〔別刷請求先〕岡本兼児:〒820-0066飯塚市幸袋576-14飯塚リサーチパーク内トライバレーセンターB209ソフトケア有限会社Reprintrequests:KenjiOkamoto,SoftcareLtd.,TryvalleyCenterB209,IizukaResearchPark,576-14Kobukuro,Iizuka-city,Fukuoka820-0066,JAPANLaserSpeckleFlowgraphyを用いた新しい血流波形解析手法岡本兼児*1高橋則善*1藤居仁*2*1ソフトケア有限会社*2九州工業大学情報工学部電子情報工学科NewMethodofTemporalBloodFlowAnalysisUsingLaserSpeckleFlowgraphyKenjiOkamoto1),NoriyoshiTakahashi1)andHitoshiFujii2)1)SoftcareLtd.,2)DepartmentofComputerScienceandElectronics,KyushuInstituteofTechnologyレーザースペックルフローグラフィー(LSFG)で測定したヒト眼の眼底血流動画マップについて,新たな時間的解析手法を導入し,各部位の血流が動脈性か静脈性かを区別して1枚のマップに表示できるようにした.判定結果の確認のため,17例17眼からデータをサンプルし,判定を行った結果,網膜上の大きな血管の動静脈の分離では有意な差が得られ,動静脈の判定に有効であることが認められた.従来のLSFGが備えていた血流速度を相対値で表示する機能に,新たに血流波形の歪度を表示する機能を加え,眼底血流の拍動の強弱をある程度数値化できる指標BeatRatioofArterytoVein(BRAV:仮称)として提案している.AnewtechniquehasbeendevelopedforusingLaserSpeckleFlowgraphytovisualizethepulsationcharacter-isticsofbloodowina2-Dmap,byanalyzingtheskewnessofthetime-varyingbloodowvelocityobservedateachpixelpoint.Weconductedmeasurementsin17eyes(17cases)toconrmtheskewnessresult.Thetechniqueisusefulfordistinguishingbetweenretinalarteryandvein,onthebasisoftheirsignicantdierence.Skewnessisfoundtobeusefulforevaluatingbloodcirculationinretinalvessels,aswellasinchoroidsvessels.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):269275,2009〕Keywords:血流計,血流可視化,レーザースペックル,眼撮影装置,血流波形解析.bloodowmetry,bloodowvisualization,laserspeckles,medicalinstruments,heartbeatanalysis.———————————————————————-Page2270あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(132)を集約したとしても,変化の激しい血流の経時変化をわかりやすく的確に表現することがむずかしいからと思われる.特定の部位間の経時変化を観察する際には,マップ上に矩形の指定領域(以下,ラバーバンド)を設定して,グラフからその変化の様子を観察していたが,マップ上の大血管や視神経乳頭上の組織血流など,異なる部位を同じグラフ上に並べても,MBR(meanblurrate)の振幅が異なることから血流のピーク位置の違いを認識する程度で,血流波形の概形などまで比較しているわけではなかった.また同一部位にラバーバンドを設定し,時間変化について波形を比較するといっても,拍動に同期して刻々と変化する血流動態の様子を客観的に判断できる指標値などはなく,比較しづらいものであった.I目的LSFGで測定した領域すべてについて部位ごとに血流速度(指標)を正規化し,部位間で波形のピークのみならず波形自体を比較できるようにし,客観的な指標値である歪度を用いた時間解析手法を構築する.さらにLSFGから得られた血流速度の経時変化から動静脈を判断したものと比較し,構築した手法の妥当性を検証した結果を報告し,本解析手法の今後の可能性について述べる.II方法:時間的解析手法で用いる評価量と妥当性の確認方法1血流マップは粒状のノイズを多く含んだ画像であるが,通常の解析では,統計的誤差を抑えるため,複数心拍の血流マップを1心拍の血流マップに集積した後(心拍マップ),さらに平均化し(合成マップ),画質の向上を図っている.4秒間のデータを取得した場合,通常の心拍数の人であれば大体46心拍程度あり,心拍マップは46個のデータを平均化した動画マップとなる.これらをさらに平均した合成マップの一例を図1に示す.図1上に設定したラバーバンドでの血流の経時変化の波形をわかりやすくするため,正規化した血流速度(指標)の経時変化をプロットし,動静脈の波形の違いを確認する.方法2血流波形の時間的な変化の様子を表す数値として,新たに歪度(skewness)を導入する.歪度は統計学で確率密度関数の偏りの違いを示す統計量で,確率変数の三次モーメントで定義されている.歪度の一例として図2aのように確率密度関数が左に偏るほど歪度はプラスの値に,図2bのように左②②①①図1血流合成マップの測定例(グレースケール表示)ラバーバンド①はartery,②はvein.a:skew>0b:skew=0c:skew<0図2波形による歪度(skewness)の変化LSFG-NAVI機で得られる血流波形に適用した場合,動脈性の拍動であれば正の大きい値になり,静脈性の拍動であれば小さい値になる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009271(133)右対称に分布する場合は歪度=0,逆に図2cのように分布が右に偏るほどマイナスの値になる.実際のLSFG-NAVIでは血流マップで得られる血流画像は非常に粗いため,歪度の計算はつぎの手順で行っている.まず当該ピクセル周辺で空間的に平均し(5×5ピクセル),複数心拍のマップを1心拍にまとめる心拍解析を行い,各点の統計的誤差を抑えた心拍マップを作成する.つぎにマップ上の各点は振幅が異なるので,時間的な上昇・下降を見やすくするため,各点での最大値,最小値をもとに正規化し,1心拍の正規化した血流速度(指標)を求める.この正規化した血流速度(指標)を元に,歪度をつぎの式で求めている.SkewmnkAvemnStdevmnpk(,)(,)(,)()=(){}ꀀ3=∑kh1(1)Avemnkpkkh(,)()=()=1(2)h(,)(,)()={}ꀀ=∑21(3)h()(,,)(,,)==1(4)ここで,NH(k,m,n)は,一心拍に正規化した血流速度(指標)(MBR)であり,正規化した心拍マップ群の先頭からk番目のマップの(m,n)ピクセルの値,hは1心拍のマップ数を表す定数である.(3)式で求めたSkew(m,n)はまだ値がばらついているため,さらに当該ピクセルの周辺7×7ピクセルの領域で空間的に平均し,歪度<SK(m,n)>を出力している.mnCSkewmxnyxy(,)(,)=()++==773333(5)ここでCは定数で,歪度マップを血流マップと同じカラースケールで見やすくするため,便宜的に=25に設定している.このため一般的な歪度と数字は一致しないが,比例関係は保持されている.方法3網膜上の比較的太い血管の動静脈の判別について歪度<SK>が有効であるか調べるため,健康成人17名(年齢38.8±13.1歳)について歪度<SK>を用いて網膜血管の動静脈分離を行った結果と,LSFGを用いて血流速度(指標)の経時変化のピーク位置から動静脈を判断した結果を比較した.比較実験では,一人の被験者につき血管が重なっていない動脈3カ所,静脈3カ所を選択し,歪度<SK>を測定した.歪度<SK>はマップ状に観察されるが,まずLSFG-NAVIを使用して得られる血流合成マップから血管と識別できる領域をラバーバンドで設定し,つぎに歪度<SK>マップ上のラバーバンド内平均値を測定した.III結果結果1正規化した血流速度(指標)の経時変化をプロットしたものを図3に示す.波形のピーク位置から図1の①は動脈であり,②は静脈と判断できる.詳細に観察すると,動脈は立ち上がりが急峻で,ピークを過ぎると早く落ち込んでいく特徴があり,静脈は動脈に比べ立ち上がりがゆるく,ピーク後も緩やかに下降する特徴がある.すなわち,動静脈の違いは血流波形のピークまでの立ち上がり方とピーク後の下降の様子に違いがあることがわかる.結果2歪度をLSFG-NAVI機で得られる血流波形に適用した場合,動脈性の拍動であれば正の大きい値になり,静脈性の拍動であれば小さい値になる.実際に図1の血流マップについて歪度を計算しマップ表示した結果を図4に示す.図において,大きな血管と重なる赤い部分は動脈性の拍動部分であり,青い部分は静脈性の拍動部位であると推定される.太い血管部位以外でも,色が暖系色の部位ほど動脈性の拍動部分であり,寒系色の部位は静脈性の拍動部位であると考えられる.図4で①で囲まれた領域は,暖系色の部位のつながりとして血管のように連なっており,この部分が動脈であると考えられ,先の経時変化のグラフ図3の結果と一致している.また同様に寒系色の部位のつながりが静脈であると考えられ,図3の②と一致している.結果3網膜血管上で動静脈分離判別した比較位置について,ラバーバンドの設定例を示す.眼底写真を図5aに,LSFG上でのラバーバンド設定位置を図5bに,ラバーバンド設定位置での血流速度(指標)の経時変化を図5cに,歪度<SK>のマップ例を図5dに示す.図5cから,①,④,⑤が動脈であり,0246810121416182000.20.40.60.8Time(sec)MBR(arb.unit)①:artery②:vein図3図1のラバーバンド内の正規化した血流速度(指標)の経時変化①:arteryのピークが②:veinに先行していることが確認できる.ピーク後の下り方にも違いがあり,arteryではveinよりも速く低下する傾向がある.———————————————————————-Page4272あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(134)①①②②図4歪度マップの例色が赤く暖系色の部位ほど動脈性の拍動部分であり,青など寒系色の部位は静脈性の拍動部位と考えられる.①:arteryが暖系色,②:veinが寒系色になっている.ab①①②②⑤⑤⑥⑥③③④④⑦⑦①①⑤⑤⑥⑥④④⑦⑦③③②②0246810121416182000.20.40.60.81Time(sec)cMBR(arb.unit):①:②:③:④:⑤:⑥図5動脈・静脈の分離測定例―a,b,c(図説明はp.273参照)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009273(135)②,③,⑥が静脈であることが確認できる.図5aの眼底写真から,動脈の血管色が静脈に比べ鮮やかに見えることから,上記判断が正しいことを確認できる.図5bでは,乳頭辺縁部の背景血流の少ない部位を選んで①⑥のようにラバーバンドを設定しているが,測定サンプルのなかには視神経乳頭上のはっきりとした太い血管を選択した場合もあった.参考のため,脈絡膜についても図5b⑦のような黄斑部を含むやや広い領域を設定し,歪度<SK>を求めた.健康成人17名のデータをもとにラバーバンドを設定した部位の血流速度の経時変化からそれぞれ動脈・静脈と判定した部位に対して,歪度<SK>を測定した結果を図6に示す.動脈では歪度<SK>=17.9±3.6で,静脈では=6.0±3.6であった.動脈と静脈の分離では有意な差(p<0.0001:t-test)を示した.これらの結果から太い血管について動脈・静脈が分離できていることが認められる.図5において黄斑部を含む脈絡膜血流に対して,同様にラバーバンド⑦を設定し,歪度を求めると,図6のように網膜動脈・静脈血管の中間的な値になっていた.これは脈絡膜では動脈・静脈が複雑に混在するため,波形が平均化された結果と考えられる.脈絡膜の歪度マップには細かい斑点模様が重畳しているが,この模様は測定のたびに変化しているので,統計的ばらつきと考えられる.健常者では脈絡膜の歪度はどの部位でもほぼ一様な値になっているが,被験者によっては脈絡膜の太い血管の走行を反映した歪度のむらが見えるときもあり,今後も詳しい分析を進める必要がある.IV考察:血流速度の経時変化から得られる歪度指標値の可能性について歪度がさまざまな血流波形に対してどのような応答を示すか確認するため,血流波形に見立てた模擬的な入力波形を作成し,歪度の変化をシミュレーションにより調べた.実際の血流波形は,人によりさまざまな波形パターンを形成するが,ここではまず血流波形を単純な三角波に近似し,波形のピーク位置を前後にずらしたときに,歪度の値がどのように変化するかを調べた.図7aに入力波形を,図7bにそれぞれの歪度をプロットしている.波形のピークが後に移動するに従って,歪度の値が下降していることが確認できる.実際d①①⑤⑤⑥⑥④④⑦⑦③③②②図5動脈・静脈の分離測定例a:眼底写真,b:合成マップ.ラバーバンド設定例①⑦,c:各ラバーバンドの血流速度経時変化.グラフよりartery:①④⑤,vein:②③⑥と判別できる.d:歪度マップ.眼底写真,合成マップ,歪度マップから動脈・静脈判別のため設定したラバーバンド位置の対応が確認できる.0510152025ArteryVeinChoroid歪度<SK>(arb.unit)17.96.013.8図6網膜上の動脈・静脈の分離結果Arteryとveinの分離では有意な差(p<0.0001:t-test)を示した.脈絡膜については,動脈と静脈の中間的な値を示した.———————————————————————-Page6274あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(136)の血流を想定すると,マップ全域を観察し,太い血管に重なった部分について平均値に比べ,高い値の部位は動脈,低い値は静脈であると推測できる.眼底血流波形を調べていくと,収縮期と拡張期のそれぞれにさまざまな特徴があることがわかってきた.たとえば,高齢者になるほど血流の立ち上がりは鋭く,下降も急速になる傾向がみられた.図7から前者については立ち上がりが急峻になるほど歪度が増加することを示している.一方,歪度が波形の非対称性を示すことから,その値に大きく影響するのは後者であり,波形の下降時の形が重要と考えられる.実際図8aのように適当に数値を配列して下降曲線を何種類か作り,それぞれについて歪度を求めると,図8bのように下降曲線が下に凸の場合は歪度は高く,上に凸になるに従ってほぼ線形に低下する結果を得た.図3に示したように,実際の血流波形は図7,8の要素を組み合わせたものになっており,動脈の血流波形には二次ピークが出る場合もある.歪度のみですべてを論じることはできないが,ここでは歪度に影響する要因として,以下の諸点について考察を加える.まず加齢とともに動脈硬化が進めば,収縮期に動脈系に突入する血流が眼内にも急速に流れ込み,血流の立ち上がりが急峻になる.この結果,歪度は高く表示される.動脈硬化は末梢抵抗と連動していると考えられるので,血流がピークを過ぎると末梢の流れが悪いため,速度は急に減少すると考えられ,波形の立ち下がりも急になる.これらの要因により歪度は増加すると考えられる.脈絡膜は動脈・静脈が混在しているため,両方を合算した波形が得られる.このときもし血管抵抗などの要因により,動脈側の押しに比べて静脈側の引きが悪ければ,拡張期の血流が低めに推移し,歪度は上昇すると推察できる.逆に動脈側の流入路に問題がある場合は,拍動による立ち上がりが緩やかになり,歪度は減少することが予想される.このように眼底血流波形を示す指標として今回導入した歪度は,循環系全体の拍動による流速変化と密接に関係しているものと推察されるので,今後この歪度をBeatRatioofArterytoVein(BRAV:仮称)と見なして詳細な研究を続けていけば,眼循環に新たな情報を提供できるものと思われる.まとめ測定点ごとに血流速度(指標)を正規化した複数の動画情報にさらに統計的な処理を加え,各部位の経時変化の違いを1枚のわかりやすい静止画で出力できるようなった.これまで測定部位に依存していた血流速度(指標)だけを扱ってい024681000.20.40.60.81Time(sec)NormalizedMBR(arb.unit)12345024681012141612345ShapeNo歪度<SK>(arb.unit)ab図7ピーク位置を変化させたときの歪度の応答a:入力波形,b:出力結果,ピークが後退するにつれ歪度は低下する.0510152025ba12345ShapeNo歪度<SK>(arb.unit)024681000.20.40.60.81Time(sec)12345NormalizedMBR(arb.unit)図8血流下降時の波形を変えたときの歪度の応答a:入力波形,b:出力結果,下降曲線が上に凸になるほど,歪度は低下する.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009275(137)たため,部位間の比較はむずかしかったが,血流速度(指標)を正規化し,血流波形の偏りの度合いを新しい尺度にすることで,同一人の部位間の比較はもとより,他人間でも血流波形については比較できるようになった.実際の血流速度の経時変化をもとに判断した結果と歪度<SK>の比較から,太い血管については動静脈分離が可能であることが確認できた.歪度=BRAVと言えるかどうかは,今後の研究で明らかになると思われるが,この仮説が正しければ,眼疾患のメカニズムの解明のみならず,高血圧症や動脈硬化症など循環系疾患の診断にも利用の道が拓かれる.LSFGであまり利用されてこなかった動画情報の応用が,今後進展することを切望する.本研究の一部は久留米リサーチパーク・バイオベンチャー等育成事業,NEDO大学発事業創出実用化研究開発事業,および科研費(18300173)などの助成を受けたものである.文献1)KonishiN,TokimotoY,KohraKetal:NewlaserspeckleowgraphyusingCCDcamera.OptRev9:163-169,20022)SugiyamaT,UtsumiT,AzumaIetal:Measurementofopticnerveheadcirculation:comparisonoflaserspeckleandhydrogenclearancemethods.JpnJOphthalmol40:339-343,19963)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Real-Timemeasure-mentofhumanopticnerveheadandchoroidcirculationusingthelaserspecklephenomenon.JpnJOphthalmol41:49-54,19974)藤居仁:レーザースペックルフローグラフィーの原理.あたらしい眼科15:175-180,19985)永谷建,高橋広,秋谷忍ほか:正常眼視神経乳頭循環への加齢の影響─レーザースペックル法による検討.あたらしい眼科15:1465-1469,19986)新家眞,玉置泰裕,永原幸ほか:レーザースペックル法による生体眼循環測定.日眼会誌103:871-909,19997)YaoedaK,ShirakashiM,FunakiSetal:Measurementofmicrocirculationinopticnerveheadbylaserspeckleowgraphyinnormalvolunteers.AmJOphthalmol130:606-610,20008)前田貴美人,鈴木純一,田川博ほか:網膜動脈閉塞症の治療成績.眼紀51:148-152,20009)YamanaY,MatsuoM,KokersuYetal:Dysregulationofthepostprandialretinalbloodowintype2diabetes.22ndEuro.Soc.Microcircul18:95-98,200210)IsonoH,KishiS,KimuraYetal:Observationofchoroi-dalcirculationusingindexoferythrocyticvelocity.ArchOphthalmol121:225-231,200311)今野伸介,田川博,大塚賢二:ラタノプロスト点眼と正常人視神経乳頭および脈絡膜─網膜循環に及ぼす影響.あたらしい眼科21:695-698,200412)SugiyamaT,OkuH,KomoriAetal:EectofP2X7receptoractivationontheretinalbloodvelocityofdiabeticrabbits.ArchOphthalmol124:1143-1149,200613)前田祥恵,今野伸介,松本奈緒美ほか:CCDカメラを用いた新しいレーザースペックルフローグラフィーによる健常人における視神経乳頭および網脈絡膜組織血流測定.眼科48:129-133,200614)廣石悟朗,廣石雄二郎,長谷川裕平ほか:炭酸脱水酵素阻害点眼薬による視神経乳頭循環への影響.臨眼62:733-737,200815)江内田寛:新しいレーザースペックルフローグラフィー(LSFG-NAVI)による網脈絡膜の血流測定.あたらしい眼科25:827-829,200816)WatanabeG,FujiiH,KishiS:Imagingofchoroidalhemo-dynamicsineyeswithpolypoidalchoroidalvasculopathyusinglaserspecklephenomenon.JpnJOphthalmol52:204-210,2008***

トラニラスト微粒子懸濁液を用いた硝子体可視化

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1(125)2630910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(2):263267,2009cはじめにPeymanら1)が市販トリアムシノロン懸濁液による硝子体の可視化を報告して以来,市販トリアムシノロン懸濁液による硝子体の可視化を利用した多数の報告がされている.この方法により硝子体を容易に可視化できるようになり,従来よりはるかに多くの硝子体を切除することが可能となった2).しかし,市販トリアムシノロン懸濁液は副腎皮質ステロイド薬であるがゆえに,その副作用として,眼科領域では白内障,緑内障が問題となる3).そこで筆者らはラット斜視モデルの瘢痕抑制として開発したヒアルロン酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液が硝子体可視化に使用できるか4),さらにコンドロイチン硫酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液も作製し比較検討したので報告する.I対象および方法1.トラニラスト超微粒子懸濁液の調整と市販トリアムシノロン懸濁液の比較生理食塩水(大塚製薬)にヒアルロン酸ナトリウム(和光純薬)を溶解し0.5%ヒアルロン酸ナトリウム溶液調製後にトラニラスト(キッセイ薬品工業)(平均粒子径34.0μm)を混合し0.4%トラニラスト懸濁液を作製した.つぎに,生理食塩水(大塚製薬)にコンドロイチン硫酸ナトリウム(和光純薬)を溶解し1%コンドロイチン硫酸ナトリウム溶液調製後にトラニラスト(キッセイ薬品工業)を混合し0.4%トラニラスト懸濁液を作製した.これらの2種類の懸濁液を米国のマイクロフルイディックス社が開発したマイクロフルイダイザーRにてトラニラスト超微粒子懸濁液を調製した.調製〔別刷請求先〕岡本紀夫:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:NorioOkamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANトラニラスト微粒子懸濁液を用いた硝子体可視化岡本紀夫*1伊藤吉將*2大野新一郎*1張野正誉*3長井紀章*2三村治*1*1兵庫医科大学眼科学教室*2近畿大学薬学部製剤学研究室*3淀川キリスト教病院眼科VitreousBodyVisualizationUsingFineParticleChemicalAgentofTranilastNorioOkamoto1),YoshimasaIto2),ShinichirouOono1),SeiyoHarino3),NoriakiNagai2)andOsamuMimura1)1)DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,2)LaboratoryofAdvancedDesignforPharmaceuticals,SchoolofPharmacy,KindaiUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,YodogawaChristianHospital抗アレルギー薬の一つであるトラニラストの局所使用が可能な製剤の調製を試みた.調製法として強力な剪断力,衝撃力およびキャビテーション力を有する衝撃型乳化粉砕装置マイクロフルイダイザーRを用いて天然高分子であるヒアルロン酸ナトリウムを分散媒としてトラニラストの微粒子化懸濁液とコンドロイチン硫酸ナトリウムを分散媒としてトラニラストの微粒子化懸濁液を作製した.この2種類の分散剤を用いたトラニラスト微粒子化懸濁液を豚眼の硝子体に塗布したところ,2種類のトラニラスト微粒子化懸濁液ともに硝子体を可視化することができた.本剤は硝子体を可視化できることから,今後,硝子体の可視化剤として幅広く使用できる可能性が示唆された.Wepreparedadrugformulationtoenabletopicalapplicationoftheanti-allergicagenttranilast.EmployingaMicrouidizerR,animpact-typeemulsifyingcomminutiondevicewithastrongshearingforce,aswellasimpactiveandcavitativeforces,wecreatedoneparticulatesuspensionoftranilastusingnaturalmolecularsodiumhyaluronateasthedispersionmedia,andanotherparticulatesuspensionusingsodiumchondroitinsulfateasthedispersionmedia.Whenweappliedthesuspensionstothevitreousbodyofpig’seyes,bothagentsenabledobser-vationofthevitreousbody.Theresultsindicatethataformulationcontainingneparticlesoftranilastcanbewidelyusedasanagentforobservingthevitreousbody.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):263267,2009〕Keywords:トラニラスト,マイクロフルイダイザーR,微粒子.tranilast,MicrouidizerR,neparticles.———————————————————————-Page2264あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(126)の条件はチェンバー内の原料の流れを140Mpaの超高圧で細管内を通過させて2方向より衝突させ微粒子化を行った.対照製剤として市販トリアムシノロン懸濁液(ブリストルマイヤーズ)を用いた.つぎに,市販トリアムシノロン懸濁液と今回作製したトラニラスト超微粒子懸濁液の粒子径を測定した.Nikkiso社製マイクロトラック粒度分布測定装置MT3300EXで粒子径を測定した.結果は,計算によって求められた仮想の個数分布から求められた平均径(meannumberdiameter:以下MN)と標準偏差(standarddeviation:以下±SD)で表した.ただし,ここで求められた標準偏差は,測定した粒度分布の分布幅の目安となるもので,統計学上の標準偏差(統計的誤差)を意味するものではない.2.硝子体の可視化白色家兎の眼球から硝子体を摘出しシャーレに入れトラニラスト超微粒子懸濁液を塗布し,生理食塩水で洗浄し薬剤添加前後の硝子体の視認性を目視にて比較した.さらに豚眼を用いて硝子体手術を行い,顕微鏡下で硝子体の可視化を確認した.3.毒性試験白色家兎3匹の6眼に対し,生理食塩水,コンドロイチン硫酸ナトリウム含有のトラニラスト超微粒子懸濁液,ヒアルロン酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液をそれぞれ2眼ずつ硝子体腔内に0.1ml投与した.1週間後に眼球摘出を行い,組織切片を作製しヘマトキシリンエオジン染色にて比較検討した.II結果1.トラニラスト超微粒子懸濁液と市販トリアムシノロン懸濁液の比較目視下では,市販トリアムシノロン懸濁液はさらさらした溶液であったが,ヒアルロン酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液は粒子が細かく,やや粘度があった.一方のコンドロイチン硫酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液は市販トリアムシノロン懸濁液ほどではないがさらさらした溶液であった.今回調製したトラニラスト超微粒子懸濁液と市販トリアムシノロン懸濁液を1時間放置したが,コンドロイチン硫酸ナトリウム含有のトラニラスト超微粒子懸濁液は市販トリアムシノロンより沈降が遅く,シリンジ内に付着することが確認できた.ヒアルロン酸ナトリウム含有のトラニラスト超微粒子懸濁液は1時間経っても沈降物が認められず安定した懸濁状態であった4).市販トリアムシノロン懸濁液の粒子径は6.8±7.56μm,ヒアルロン酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液の粒子径は0.87±1.22μm(原末の約1/34の大きさ),コンドロイチン硫酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液の粒子径は5.33±3.75μm(原末の約1/7の大きさ)であった.実際に粒子がどのような状態であるか確認するためにキーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX-900(5,400万画素)を用いた.ヒアルロン酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液(図1A)は市販トリアムシノロン懸濁液(図1B)に比べて分散性がよかった.2.硝子体可視化目視下で,各トラニラスト超微粒子懸濁液を白色家兎の硝子体に塗布し生理食塩水にて洗浄したところ,ヒアルロン酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液は硝子体に付着しているようには見えなかった.しかし,コンドロイチン含有トラニラスト超微粒子懸濁液は硝子体に付着していた(図2).つぎに豚眼を用いた硝子体手術で2種類のトラニラスト超微粒子懸濁液を硝子体に塗布したところ,コンドロイチン硫酸ナトリウム含有トラニラスト懸濁液は粒子が凝集しまだ10.00μmAB10.00μm図1デジタルマイクロスコープで撮影した写真A:ヒアルロン酸ナトリウム含有トラニラスト懸濁液の粒子.B:市販トリアムシノロンの粒子.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009265(127)らに硝子体に付着した(図3A,B)が,ヒアルロン酸ナトリウム含有トラニラスト懸濁液は最周辺部の硝子体表面にゲル状に付着し,一部は硝子体が染色されるようになっていた(図3C,D).3.毒性試験生理食塩水,コンドロイチン硫酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液,ヒアルロン酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液とも硝子体に炎症所見はなく,網膜厚や構造に異常を認めなかった(図4A,B,C).III考按トラニラストは,アレルギー性疾患の治療薬として開発され,現在ではケロイド・肥厚性瘢痕の治療にも用いられてい図2トラニラスト(コンドロイチン硫酸ナトリウム含有)が付着している(生理食塩水で洗浄後)白色家兎の硝子体ACBD3豚眼を用いた硝子体手術A:コンドロイチン硫酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液を硝子体中に注入中.B:硝子体表面に粒子がまだらに付着している.C:ヒアルロン酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液を硝子体表面に注入中.D:硝子体表面にゲル状に付着している.図4病理組織像A:生理食塩水0.1mlを硝子体腔内に投与.B:コンドロイチン硫酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液0.1mlを硝子体腔内に投与.C:ヒアルロン酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液0.1mlを硝子体腔内に投与.ABC———————————————————————-Page4266あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(128)る5).また,眼科領域でもアレルギー性結膜炎の治療薬として販売されているが,それ以外にもエキシマレーザー屈折矯正手術後の角膜上皮下混濁6,7)や緑内障術後の濾過胞の維持8,9)にも応用され,その有効性が報告されている.トラニラストは細胞からのインターロイキン-1,サブスタンスP,ロイコトリエンなどのケミカルメディエーターの遊離抑制作用により血管透過性を抑制する10,11)ことから黄斑浮腫の改善効果が期待されている.さらに,血管新生抑制作用も報告されている12).硝子体は無色透明組織である.硝子体手術では,この見えないものを切除する.硝子体切除が不十分であれば,残存硝子体が足場となり再増殖,再離をきたす恐れがある.そのため硝子体術者はできる限り残存がない硝子体切除を考えなければならない.近年では眼内組織を可視化するテクニックとして市販トリアムシノロン懸濁液による硝子体の可視化が報告された1,2).具体的には,市販トリアムシノロン懸濁液の白色粒子が硝子体ゲルに付着することにより硝子体が描出されるものである.この手技により周辺部まで徹底的な硝子体の郭清が可能となり,硝子体手術の効率性,安全性が飛躍的に高まった3).しかしながらトリアムシノロンは硝子体可視化という面で優れているが,その一方でトリアムシノロン懸濁液に含まれる添加物や副腎皮質ステロイド薬の合併症としての併発緑内障や白内障の発生,あるいは術後感染症が危惧される3).トリアムシノロンには添加物として防腐剤であるベンジルアルコールや,乳化剤のポリソルベート80,カルボキシメチルセルロースが含まれている(ケナコルトAR添付文書).もちろんこれらは眼内毒性を示すほど高濃度ではないが,使用にあたり低濃度であることが好ましい.近年ではベンジルアルコールを除去したトリアムシノロン懸濁液13)やステロイド薬で副作用の少ない11-デオキシコルチゾール14),または炭酸脱水阻害薬(炭酸脱水酵素阻害作用を有する化合物を含有する硝子体可視化剤.特開2007-106704)で硝子体の可視化する手技が報告されている.今回,筆者らはトリアムシノロンにない薬理作用をもち,副作用も少ないと考えられるトラニラストに注目し硝子体可視化用に開発を試みた.まず,このトラニラストをトリアムシノロンと同じ懸濁用の基剤を用いて調製し,トラニラストの懸濁を試みたがただちに凝集した.つぎにヒアルロン酸ナトリウム溶液にトラニラストを混合してみたがトラニラストが十分分散できなかった.そこで,超微粒子化することにより均一に分散できないかと考え,マイクロフルイダイザーRを用いて懸濁液の調製を試みた.マイクロフルイダイザーRは化粧品やカラーインクジェットプリンターの顔料系インクを微粒子化することに使用されている15).この器械は,撹拌および乳化装置のなかでも特に強力な剪断力,衝撃力,キャビテーション力をもっており,処理対象とする液体に超高圧でエネルギーを加えることで,均一化されたサブミクロンの粒子を生成できる.そこで,ヒアルロン酸ナトリウム溶液とコンドロイチン硫酸ナトリウム溶液のそれぞれにトラニラスト粉末を混合してキャビテーションしたところ超微粒子懸濁液となった.マイクロフルイダイザーRを用いることにより,通常の撹拌方法では不可能であった微粒子の分散性および保持性の問題をクリアーできた.井上ら13)は,ベンジルアルコールを除去したトリアムシノロン懸濁液を作製して市販トリアムシノロン懸濁液と比較し,調製トリアムシノロン懸濁液は1時間放置後もほとんど沈殿せず,市販トリアムシノロンと比較して硝子体に対しての付着が悪かったと報告している.彼らはベンジルアルコール除去による粘性低下が硝子体可視化に不向きになった原因と考えている13).しかし,筆者らが調製したヒアルロン酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液も,井上らの調製トリアムシノロン懸濁液と同様に1時間静置後もほとんど沈殿しなかった.しかし,ヒアルロン酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液を硝子体に塗布したところ硝子体表面にゲル状に付着し,さらに硝子体が染色されて見えた.これは,トラニラストの粒子径が1μm以下であるため硝子体線維内に入り込んだと考えた.井上らの報告と異なるのは,筆者らは含有物にヒアルロン酸ナトリウムを用いたことによる違いにより生じたと推察している.つぎにコンドロイチン硫酸ナトリウムとトラニラストを混合してキャビテーションした.その結果トラニラストの粒子径はトリアムシノロンより小さい粒子径であった.つぎに1時間静置後,コンドロイチン硫酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液は沈殿したが,ヒアルロン酸ナトリウム含有トラニラスト超微粒子懸濁液と異なりトラニラストの粒子が凝集している様子が観察された.これを硝子体に塗布したところ市販トリアムシノロン懸濁液よりも硝子体の可視化できることが確認できた.これは先ほど述べた1時間放置後の状態でシリンジ内に懸濁粒子の付着を認めることから,市販トリアムシノロン懸濁液よりも硝子体に対して付着性が高いことを裏付けているものと考えられる.つぎにデジタルマイクロスコープに各懸濁液を撹拌直後に観察したところ,トラニラスト懸濁液はトリアムシノロンより分散性が良好であった.この分散性の違いは,トラニラスト懸濁液の作製時に使用したマイクロフルタイザーRによるものである.マイクロフルイタイザーRは先ほど述べたとおり,粒子を衝突させることにより微粒子化する方法であり,これによりトラニラスト粒子の表面に含有高分子がコーティングされ,粒子同士が凝集しにくくなったと推察した.筆者らの作製した2種類のトラニラスト超微粒子懸濁液は,従来報告された可視化剤とは異なり粒子は白色ではなく淡黄色の結晶または結晶性の粉末であるので視認性にも優れ———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009267(129)ていた.2種類のトラニラスト超微粒子懸濁液はいずれも同条件でマイクロフルイタイザーRを施行したにもかかわらず粒子径に差を認めた.これは今回使用した含有高分子の違いにより生じたものと推察される.これに加えて含有高分子の特性により硝子体への付着に差が生じたものと考えられた.本論文の内容は第10回ボーダレス臨床眼科研究会で発表した.現在,特許出願中である.豚眼を用いた硝子体手術にご協力頂いた日本アルコン(株)の小林正道氏,岩谷佳樹氏に深謝いたします.文献1)PeymanGA,CheemaR,ConwayMDetal:Triamcinolo-neacetonideasanaidtovisualizationofthevitreousandtheposteriorhyaloidduringparsplanavitrectomy.Retina20:554-555,20002)SakamotoT,MiyazakiM,HisatomiTetal:Triamcinolo-ne-assistedparsplanavitrectomyimprovedthesurgicalproceduresanddecreasesthepostoperativeblood-ocularbarrierbreakdown.GraefesArchClinExpOphthalmol240:423-429,20023)坂本泰二,樋田哲夫,田野保雄ほか:眼科領域におけるトリアムシノロン使用状況全国調査結果.日眼会誌111:936-945,20074)岡本紀夫,伊藤吉將,長井紀章ほか:ヒアルロン酸ナトリウムを分散安定化剤とするトラニラスト超微粒子懸濁液.眼科50:455-459,20085)須澤東夫,菊池伸次,市川潔ほか:アレルギー性疾患治療薬Tranilastのケロイド組織に対する作用.日本薬理学雑誌99:231-239,19926)岡本進:エキシマレーザー(PRK)術後の角膜上皮下混濁に対するトラニラストの抑制効果.あたらしい眼科14:239-243,19977)酒井達朗,岡本進,岩城陽一:トラニラスト点眼液のエキシマレーザー照射後の角膜上皮下混濁に対する抑制効果.日眼会誌101:783-787,19978)千原悦夫,落合春幸,董瑾ほか:緑内障濾過胞に対するTGFb1阻害剤トラニラストの効果.眼紀50:260-266,19999)青山裕美子,石橋朋和,橋本真理子:シヌソトミー併用トラベクロトミーにおけるトラニラスト点眼の効果.あたらしい眼科17:439-442,200010)須澤東夫,市川潔,菊池伸次ほか:アレルギー性疾患治療薬tranilastのカラゲニン肉芽形成および血管透過性亢進に対する作用.日本薬理誌99:241-246,199211)IsajiM,MiyataH,AjisawaYetal:Inhibitionbytranilastofvascularendotherialgrowthfactor(VEGF)/vascularpermeabilityfactor(VPF)-inducedincreaseinvascularpermeabilityinrats.LifeSci63:71-74,199812)IsajiM,MiyataH,AjisawaYetal:Tranilastinhibitstheproliferation,chemotaxisisandtubeformationofhumanmicrovascularendothelialcellsinvitroandangiogenesisinvivo.BrJPharmacol122:1061-1066,199713)井上真,植竹美香,武田香陽子ほか:ベンジルアルコールを除去した硝子体投与用のトリアムシノロンアセトニド溶液の作成.眼紀55:445-449,200414)KajiY,HiraokaT,OkamotoFetal:Visualizingvitreousbodyintheanteriorchamberusing11-deoxycortisolafterposteriorcapsuleruptureinananimalmodel.Ophthalmol-ogy111:1334-1339,200415)高木和行:処方的乳化と機械的乳化のバランスを考えた乳化技術.FragranceJournal,(臨時増刊)19:131-138,2005***

糖尿病網膜症術後に硝子体出血が遷延化した症例のVascular Endothelial Growth Factor濃度

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1260あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(00)260(122)0910-1810/09/\100/頁/JCLS14回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科26(2):260262,2009cはじめに増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に硝子体出血が遷延化する症例がある.活動性の高い症例や若年者などに多い印象を受けるが,その遷延化の原因として術後に新生血管が維持されている可能性も否定できない.新生血管の維持には血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が必要である1).VEGFはIL(インターロイキン)-1,TNF(腫瘍壊死因子)-aなどの炎症性サイトカインで誘導されることが知られており2,3),手術侵襲や術中の光凝固が炎症を惹起し,活動性の高い症例では術後VEGFが上昇し,新生血管が維持され術後の硝子体出血を遷延化させている可能性がある.しかし,硝子体術後に硝子体液のVEGF濃度を検討した報告は少なくその詳細は不明である.今回,糖尿病網膜症術後に硝子体出血の遷延化がみられた症例の初回手術時と再手術時に硝子体液を採取し,そのVEGF濃度を検討したので報告する.〔別刷請求先〕小林貴樹:〒020-8505盛岡市内丸19-1岩手医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakakiKobayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,IwateMedicalUniversitySchoolofMedicine,19-1Uchimaru,Morioka020-8505,JAPAN糖尿病網膜症術後に硝子体出血が遷延化した症例のVascularEndothelialGrowthFactor濃度小林貴樹早坂朗石部禎黒坂大次郎岩手医科大学医学部眼科学講座VascularEndothelialGrowthFactorLevelofVitreousHumorinPersistentVitreousHemorrhageafterVitrectomyinProliferativeDiabeticRetinopathyTakakiKobayashi,AkiraHayasaka,TadashiIshibeandDaijiroKurosakaDepartmentofOphthalmology,IwateMedicalUniversitySchoolofMedicine目的:増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後にみられる硝子体出血の遷延化に血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が関与しているかどうかを検討した.方法:増殖糖尿病網膜症に対し硝子体手術を施行し,初回手術後に硝子体出血が遷延化した症例のうち,VEGF濃度の測定が可能であった5例5眼を対象とした.初回手術後,316週に再手術を行い,各手術時に硝子体液を採取し,VEGF濃度をenzyme-linkedimmunosor-bentassay(ELISA)法で測定した.結果:VEGF濃度は初回手術時1,510±1,518.1pg/ml,再手術時62.6±86.5pg/mlであり,再手術時のVEGF濃度は低下していた.結論:今回の症例では硝子体液中のVEGF濃度は術後316週の時点で著しく低下しており,硝子体出血の遷延化にVEGF濃度は影響していない可能性がある.Todeterminewhethervitreoushumorvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)levelisrelatedtopersistentvitreoushemorrhageaftervitrectomyforproliferativediabeticretinopathy,weevaluated5eyesof5patientswhounderwentvitrectomyforproliferativediabeticretinopathyandhadpersistentvitreoushemorrhageafterthepri-maryoperation.Thepatientsunderwentreoperationat3-16weeksaftertheprimaryoperation.Weobtainedvit-reoushumorateachoperationandmeasuredVEGFlevelbyusingtheenzyme-linkedimmunosorbentassaymeth-od.VEGFlevelwas1,510±1,518.1pg/mlattheprimaryoperationandhaddecreasedto62.6±86.5pg/mlatreoperation.TheVEGFlevelinthevitreoushumorofthesecasesdecreasedremarkablyat3-16weeksaftertheprimaryoperation.ThereisapossibilitythatVEGFleveldoesnotinuencetheprotractionofpostoperativevitre-oushemorrhage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):260262,2009〕Keywords:糖尿病網膜症,血管内皮増殖因子,術後硝子体出血,硝子体.diabeticretinopathy,vascularendothelialgrowthfactor,postoperativevitreoushemorrhage,vitreous.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009261(123)I対象および方法1.対象2004年10月2007年3月の間に岩手医科大学眼科で硝子体手術を施行し,術後に硝子体出血が2週間以上遷延化した糖尿病網膜症症例のうち,初回手術時と再手術時の硝子体液のVEGF濃度を測定しえた5例5眼を対象とした.内訳は男性3例3眼,女性2例2眼,年齢2864歳(平均46.4±14.2歳)であった.増殖糖尿病網膜症5例5眼,うち1例1眼で血管新生緑内障を伴っていた.初回手術の216週に再手術を行った.当科では硝子体術後に硝子体手術の遷延化がみられた場合,初回手術の23週後に再手術を行っているが,症例4ではしばらく再手術の希望がなかったために16週後に施行することになった.出血傾向,抗凝固薬の投与が行われている症例はなかった.2.方法VEGF濃度の測定はQuantikineRhumanVEGFimmuno-assayキット(R&DSystems社,MN,USA)を用いて,enzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)法で行った.すなわち,抗VEGFモノクローナル抗体が固相化されたプレートの各ウェルに検体および標準液を注入し,室温で2時間抗原抗体反応を行った.結合しなかった抗原を十分に洗浄した後,ペルオキシダーゼ標識抗VEGFポリクローナル抗体を加え室温で2時間反応させた.過剰な抗体を十分洗浄して除去した後,酵素反応基質液で発色させ,各ウェルの吸光度を測定した.標準液の測定値から検量線を作成し,各検体のVEGF濃度を算出した.硝子体の採取については,全症例でインフォームド・コンセントを得て行った.方法は,初回手術の場合は硝子体手術を行う際,毛様体扁平部に3ポートを作製した後,眼内灌流を行う前にポリプロピレンチューブを装着した硝子体カッターを眼内に挿入し,硝子体をチューブ内に吸引し,そこから0.20.6ml採取した.再手術の場合は,手術の際にツベルクリンシリンジ付き30ゲージ針を毛様体扁平部に刺入し硝子体液を0.10.2ml採取した.検体は速やかに冷凍し,測定まで80℃で凍結保存した.3.統計解析初回手術時と再手術時の硝子体液中VEGF濃度の統計解析にはMann-Whitney’sUtestを用いた.II結果各検体のVEGF濃度の結果を表1に示した.初回手術時の硝子体中VEGF濃度は64.33,080pg/ml(1,510±1,518.1pg/ml)であった.再手術時に採取された硝子体液のVEGF濃度は15.6134pg/ml(62.6±86.5pg/ml)で,初回手術時に対する再手術時のVEGF濃度の割合は7.825.5%であった.全例で初回手術時よりVEGF濃度は有意に低下していた(p<0.05).III考按糖尿病網膜症の硝子体手術後に硝子体出血が遷延化する症例では,手術時の網膜光凝固による網膜のablationが不十分でVEGF分泌が維持され,新生血管が消退していない可能性があるのみならず,手術侵襲により炎症が惹起され一過性にVEGF発現が増加し増殖性変化が高まっている可能性も否定できない2,3).Itakuraら4)はそれを裏付けるように術後536日の長期にわたり硝子体中にVEGFが高いレベルで遷延化して保たれていることを報告している.筆者らは術後再出血を起こす症例では,再増殖や前部硝子体線維血管増殖(anteriorhyaloidalbrovascularproliferation:AHFVP)に移行する例があり,そのような例では術中の徹底した網膜光凝固により網膜のablationを行っても術後VEGF濃度が上昇していることを報告した(第59回日本臨床眼科学会,2005).また,遷延化が長引けばVEGFが依然上昇しており,増殖性変化が進行するのではないかといった危惧も出てくると思われる.そこで今回,術後硝子体出血が遷延化した症例のVEGF濃度を調査し,初回手術時とどのように違っているかを検討した.しかしながら今回の症例では硝子体液中のVEGF濃度は術後216週の時点で著しく低下しており,そのレベルは初回手術時の4.324.5%になっていることが明らかとなっ表1各症例の概要と硝子体液のvascularendothelialgrowthfactor(VEGF)濃度症例年齢・性疾患再手術までの期間初回手術時のVEGF(pg/ml)再手術時のVEGF(pg/ml)初回手術時のVEGF濃度に対する再手術時のVEGF濃度の割合(%)128歳・男性PDR2週1,87045924.5264歳・女性PDR3週64.315.624.3346歳・女性PDR2週1,4101107.8438歳・男性PDR2週38152.213.7556歳・男性NVG+PDR16週3,0801344.4PDR:増殖糖尿病網膜症,NVG:血管新生緑内障.———————————————————————-Page3262あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(124)た.このことから初回手術により再手術時にはVEGF分泌が大幅に抑制されていたことがわかり,硝子体出血の遷延化にVEGF濃度は大きく影響していないことが考えられる.今回の症例でVEGF濃度が低下したにもかかわらず硝子体出血が遷延化した原因については,消退途中の新生血管からや術中の網膜裂孔から術後も出血が持続した可能性が考えられる.今回検討した症例のなかにも術中裂孔が生じたものが2例存在した.出血傾向のある症例や抗凝固剤を服用している症例はなかったが,何らかの原因で止血しにくい状態にあったものと思われる.また,新生血管の維持にはVEGFの供給が必要である1)が,網膜光凝固によってVEGF供給が減少しても新生血管の消退までにタイムラグがあり,出血が遷延化している可能性もある.VEGF濃度は個々の症例によってバリエーションがあり,正常値を規定するのは困難であると思われる.たとえば,症例2では64.2pg/mlで増殖性変化をきたしていたのに対し,症例5では3,080pg/mlであった.VEGFは糖尿病網膜症を悪化させる主要因であるが,レセプターなどの感受性の問題や抑制因子の問題5,6),他の増殖因子の介入7,8)などでどの値までVEGFレベルを下げればよいのかは症例ごとに変化してくるものと考えられる.今回は糖尿病網膜症の主要因であるとされているVEGFのみを検討したが,その他の因子により新生血管が維持されている可能性は否定できず,今後の検討が必要である.今回対象になった症例はすべて初回手術時に網膜最周辺部まで徹底した光凝固を施行した.Itakuraらは術後長期にわたり硝子体中にVEGFが高いレベルで保たれていると報告しているが,そのなかで網膜光凝固をどの程度どの範囲まで施行したかについては触れられておらず4),光凝固による網膜ablationの程度の違いが今回の結果との違いになったことが考えられる.今回の結果より,硝子体出血が遷延化した症例の再手術を行う場合は,初回手術で最周辺部までの徹底した光凝固を施行したのであれば,明らかに不足している箇所への追加にとどめ,さらなる鎮静化目的の積極的な凝固斑の間隙への追加は必要ないものと考えられる.光凝固の追加でVEGFの分泌を減少させることには症例によっては限界があると思われ,過剰な凝固は視機能の低下を招くおそれも考えられる.また,超音波エコーなどで網膜離や再増殖が確認されない症例では再手術をせず,しばらく経過をみるのも選択肢の一つであると思われる.今回の症例でも,先に測定しえた症例2,3,5で再手術時にVEGF濃度が上昇していないことがわかっていたので,症例1,4では再手術時に明らかに少ない箇所に光凝固をわずかに追加するにとどめた.しかし,再出血や網膜症の再燃はみられず良好な経過をたどっている.今回の症例は術後遷延化した硝子体出血の症例であった.手術で硝子体出血が消退し,しばらく沈静化していたものに再出血を起こした場合は,今回とは異なりVEGFが上昇している可能性もあると考えられる.これについては今後の検討が必要であるが,AHFVPや強膜創血管新生など重篤な変化に移行している場合もあり注意が必要であると思われる.文献1)TolentinoMJ,MillerJW,GragoudasESetal:Vascularendothelialgrowthfactorissucienttoproduceirisneo-vascularizationandneovascularglaucomainanonhumanprimate.ArchOphthalmol114:964-970,19962)KvantaA:Expressionandregulationofvascularendo-thelialgrowthfactorinchoroidalbroblasts.CurrEyeRes14:1015-1020,19953)YoshidaS,OnoM,ShonoTetal:Involvementofinter-leukin-8,vascularendothelialgrowthfactor,andbasicbroblastgrowthfactorintumornecrosisfactoralpha-dependentangiogenesis.MolCellBiol17:4015-4023,19974)ItakuraS,KishiN,KotajimaMetal:Persistentsecretionofvascularendothelialgrowthfactorintothevitreouscavityinproliferativediabeticretinopathyaftervitrecto-my.Ophthalmology111:1880-1884,20045)SprangerJ,OsterhoM,ReimannMetal:Lossoftheantiangiogenicpigmentepithelium-derivedfactorinpatientswithangiogeniceyedisease.Diabetes50:2641-2645,20016)OgataN,NishikawaM,NishimuraTetal:Unbalancedvitreouslevelsofpigmentepithelium-derivedfactorandvascularendothelialgrowthfactorindiabeticretinopathy.AmJOphthalmol134:348-353,20027)FunatsuH,YamashitaH,NakanishiYetal:AngiotensinIIandvascularendothelialgrowthfactorinthevitreousuidofpatientswithproliferativediabeticretinopathy.BrJOphthalmol86:311-315,20028)RuberteJ,AyusoE,NavarroMetal:IncreasedocularlevelsofIGF-1intransgenicmiceleadtodiabetes-likeeyedisease.JClinInvest113:1149-1157,2004***

糖尿病網膜症の治療段階と就業

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1(117)2550910-1810/09/\100/頁/JCLS14回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科26(2):255259,2009cはじめに糖尿病網膜症(以下,網膜症)は,進行すると急速かつ高度な視力低下をきたし,個人の社会活動および勤労に多大な影響を及ぼす疾患であり,わが国における中途失明原因の第2位であると報告されている1).通常,網膜症発症前(nondiabeticretinopathy:NDR)や単純糖尿病網膜症(simplediabeticretinopathy:SDR)では経過観察,前増殖糖尿病網膜症(preproliferativediabeticretinopathy:prePDR)および増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)では網膜光凝固,増殖糖尿病網膜症のうち硝子体出血や増殖膜形成による牽引性網膜離,続発性の血管新生緑内障発症例などでは硝子体手術が選択される2).近年,単純糖尿病網膜症や前増殖糖尿病網膜症であっても,高度の視力低下をきたす黄斑浮腫を生じた場合には硝子体手術が有効であると報告され3,4),硝子体手術の適応が拡大されてきている5).慢性疾患全般に共通することではある〔別刷請求先〕佐藤茂:〒591-8025堺市北区長曽根町1179-3大阪労災病院勤労者感覚器障害研究センターReprintrequests:ShigeruSato,M.D.,Ph.D.,ClinicalResearchCenterforOccupationalSensoryOrganDisability,OsakaRosaiHospital,1179-3Nagasone-cho,Kita-ku,Sakai,Osaka591-8025,JAPAN糖尿病網膜症の治療段階と就業佐藤茂恵美和幸上野千佳子澤田憲治澤田浩作大浦嘉仁大八木智仁森田真一坂東肇大喜多隆秀池田俊英大阪労災病院勤労者感覚器障害研究センターRelationbetweenMedicationalStageandOccupationinDiabeticRetinopathyShigeruSato,KazuyukiEmi,ChikakoUeno,KenjiSawada,KosakuSawada,YoshihitoOura,TmohitoOyagi,ShinichiMorita,HajimeBando,TakahideOkitaandToshihideIkedaClinicalResearchCenterforOccupationalSensoryOrganDisability,OsakaRosaiHospital糖尿病網膜症に対する各治療段階における視力,糖尿病コントロール状況,就業状況の変化を調査し,就業者の糖尿病網膜症に対する治療状況と治療の就業へ及ぼす影響を検討した.対象を調査開始時の治療状況で,経過観察群,網膜光凝固群,硝子体手術群の3群に分け各群間で比較した.1年後の視力は,経過観察群および網膜光凝固群では維持されており,硝子体手術群では有意に視力改善が得られていた.糖尿病コントロール状況は,すべての群で有意に改善が得られていた.また治療段階が進むにつれて,平均通院・在院日数は有意に増加していた.調査開始より1年間に眼の病気を理由に退職した例は,硝子体手術群のみにみられた.就業者における糖尿病網膜症の加療,特に硝子体手術を要する症例では,視機能の改善のみではなく,入院期間の短縮など経済的,社会的負担の軽減も考慮する必要があると考えられた.Toevaluatetheconditionsofworkerswithdiabeticretinopathyandtheeectoftheirmedicaltreatmentsonthecontinuityoftheirwork,weinvestigatedchangeinvisualacuity,diabeticretinopathycondition,diabeticcondi-tionandstatusofoccupation.Thesubjectswereclassiedintothreegroupsbystageofmedicaltreatment,i.e.,observation,retinalphotocoagulationandvitrectomy.Meanvisualacuitywasmaintainedintheobservationandretinalphotocoagulationgroups,andwassignicantlyimprovedinthevitrectomygroup.Diabeticconditionwassignicantlyimprovedinallgroups.Duringthetermoftheinvestigation,all4patientswhoresignedfromworkforeyediseasehadundergonevitrectomy.Whentreatingworkerswithdiabeticretinopathy,especiallythosewhoneedvitrectomy,itisimportantnotonlytoimprovetheirvisualacuity,butalsotoeasetheireconomicandsocialburden.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):255259,2009〕Keywords:糖尿病網膜症,網膜光凝固術,硝子体手術,就業.diabeticretinopathy,retinalphotocoagulation,vitrectomy,work.———————————————————————-Page2256あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(118)が,就業している網膜症患者では治療に時間を割くと失職してしまうリスクがあり,逆に治療に時間を割かなければ高度の視力低下をきたし失職するリスクがある.この就業と治療のジレンマの実態を調査することは,網膜症による失職のリスク軽減へ向けて有用であると考えられる.本研究では,就業している網膜症患者に限定し,各治療段階における視力,糖尿病コントロール状況,就業状況とその変化について調査した.調査開始から1年以内に眼の病気を理由として退職した個々の症例についての検討も行った.I対象および方法平成17年1月から平成19年10月の間に大阪労災病院眼科(以下,当科)を受診し,当科にて治療をうけた網膜症患者のうち,独立行政法人労働者健康福祉機構「労災疾病等13分野医学研究・開発,普及事業」への研究参加の同意を得たのは508例である.これらの症例に対しては,本研究の内容や倫理規定に関する説明と,本研究への参加あるいは不参加が治療の方針に変化をもたらさないことの説明を担当医から十分に行い,理解と同意を得たのち,参加同意書にサインを記入していただいた.全508例のうち,調査開始時に就業しており,かつ1年後のアンケート調査が施行できた167例(男性130例,女性37例)を抽出し,今回の検討対象とした.対象を調査開始時の網膜症の状態により,経過観察群,網膜光凝固群,硝子体手術群の3群に分けた.経過観察群は調査開始時において,網膜光凝固術,硝子体手術などの治療を受けていない者(55例),網膜光凝固群は調査開始時に光凝固を開始した者(38例),硝子体手術群は調査開始時に硝子体手術を受けた者(74例)であった.各群に対して視力,糖尿病コントロール状況,就業状況を調査した.各群とも視力や病期など眼に関連するデータは,基本的に右眼のデータを採用した.ただし,網膜光凝固群や硝子体手術群で左眼のみ加療された症例に関しては,左眼のデータを採用した.視力測定は少数視力表を用いて行い,その結果をlogMAR値へ換算して統計処理した.糖尿病コントロール状況は,アンケートに加え,かかりつけ内科医への照会によって血液検査結果などの情報提供を受けた.就業状況は,アンケートにて調査した.アンケートは,診察および検査など医療行為に関わらない専属の調査員が行った.それぞれ,調査開始後1年の時点で再調査を行い,それらの変化についても検討した.就業に関しては,調査開始から1年以内に退職した例に対しては退職理由を調査した.本研究は,大阪労災病院における倫理委員会による承認を受けて行われた.II結果1.各群の内訳および背景各群の対象症例数は,経過観察群55例,網膜光凝固群38例,硝子体手術群74例であった.対象の年齢分布は,各群ともに5665歳の間にピークを認めた(図1).各群のDavis分類による病期の内訳を表1に示す.SDRやprePDRであっても,黄斑浮腫による視力低下をきたした症例には硝子体手術を施行した.硝子体手術は有水晶体眼(70例)に対しては全例超音波白内障手術を同時に施行した.各群の背景を表2に示す.調査開始時において各群間で明らかな有意差はな2520151050(例)年齢(歳)26303135364041454650515556606165667071757680:経過観察群(55例):網膜光凝固群(38例):硝子体手術群(74例)図1対象症例数の内訳および各群の年齢分布各群ともに5665歳にピークを認めた.表1各群の病期の内訳(例数)経過観察群網膜光凝固群硝子体手術群NDR3000SDR1631prePDR92412PDR01161計553874NDR:nondiabeticretinopathy,SDR:simplediabeticretinopathy,prePDR:preproliferativediabeticretinopathy,PDR:proliferativediabeticretinopathy.表2各群の調査開始時の背景経過観察群網膜光凝固群硝子体手術群症例数55例38例74例性別(男/女)47/832/651/23年齢(歳)ns58.9±10.254.1±10.656.9±8.6糖尿病罹病期間(年)ns10.0±7.812.0±9.012.3±8.1空腹時血糖(mg/dl)ns187.9±93.6196.8±97.5178.4±72.8HbA1C(%)ns8.5±2.18.2±1.58.0±1.6BUN(mg/dl)ns15.3±5.716.0±6.118.0±8.7Crea(mg/dl)ns0.8±0.30.9±0.41.1±1.7高血圧(+)38%39%47%(平均±SD)(ns;Kruskal-Wallistest,有意差なし)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009257(119)かったが,治療段階が進むにつれて腎機能の悪化,高血圧の合併頻度の上昇傾向が認められた(表2).2.糖尿病および糖尿病網膜症のコントロール状況調査開始時より1年以上前から継続して通院している症例を通院歴ありとした場合における各群の眼科通院歴,内科通院歴を示す(図2a).経過観察群では55例中27例,網膜光凝固群では38例中29例,硝子体手術群では74例中43例が眼科定期通院していなかった.また各群ともに内科には定期通院していても,眼科には定期通院していない症例が2430%存在していた.調査開始1年後では,各群ともに有意にヘモグロビン(Hb)A1C値が低下していた(Wilcoxonsigned-rankstest,p<0.05;図2b)が,各群ともに腎機能は低下傾向にあり,網膜光凝固群と硝子体手術群では高血圧の合併者が増加傾向にあった(データ未掲載).3.視力の変化調査開始時と1年後の群別平均視力を示す(図3).病期が進むに従い,調査開始時,1年後ともに平均視力は低下していた(Kruskal-Wallistest,p<0.05).経過観察群と網膜光凝固群では1年後の平均視力に有意な変化はなかったが,硝子体手術群では平均視力が有意に改善していた(Wilcoxonsigned-rankstest,p<0.05).4.眼科通院日数と就業状況の変化1年間の眼科通院・入院日数を図4に示す.治療段階が進むにつれて有意に通院・入院日数が増加していた(Mann-Whitney’sUtest;p<0.05).調査開始から1年間に退職した症例数を表3に示す.眼の病気を理由に退職したものは硝子体手術群のみ(4例)であった.この4例の詳細を表4に示す.職種はトラック運転手2名,事務員2名であった.視力低下によって退職に至った具体的な理由として,症例2で(%)100806040200a(%)98.587.576.565.5b経過観察群網膜光凝固群硝子体手術群経過観察群(55例)網膜光凝固群(38例)硝子体手術群(74例):眼科通院歴あり:内科通院歴あり:調査開始時:1年後HbA1C***図2糖尿病コントロール状況a:調査開始時より1年以上前から定期通院をしている場合を通院歴ありとした場合の内科,眼科通院歴.各群ともに眼科通院歴のある例がほぼ半数以下である.また内科通院歴があっても眼科通院していない症例が相当数存在する.b:HbA1C値の変化.各群ともに有意にHbA1C値が改善していた(*:Wilcoxonsigned-rankstest,p<0.05).1.21.00.80.60.40.20経過観察群(55例)網膜光凝固群(38例)硝子体手術群(74例):調査開始時:1年後少数視力*****図3各群の視力変化硝子体手術群のみ1年後の視力が有意に改善していた(*:Wilcoxonsigned-rankstest,p<0.05).また治療段階が進むにつれて調査開始時,1年後ともに視力が低下していた(**:Kruskal-Wallistest,p<0.05).統計処理は少数視力をlogMAR値に換算して行った.グラフはlogMAR値を再度少数視力に変換して表示している.2520151050経過観察群網膜光凝固群硝子体手術群:入院:外通院・入院日数(日)***図4各群の通院および入院日数治療段階が進むにつれて,有意に通院および入院日数が長くなっている(*:Mann-Whitney’sUtest,p<0.05).表3調査開始より1年以内に退職した症例の退職理由退職理由眼の病気眼以外の病気病気以外経過観察群(n=55)012網膜光凝固群(n=38)001硝子体手術群(n=74)401———————————————————————-Page4258あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(120)は硝子体手術を受けることが決まった直後に解雇されたとのことである.症例3はコンピュータをおもに使用する仕事をされていたが,画面が見にくく作業ができなくなったとのことであり,症例4では,数字の3,6,8,9がすべて同じに見えて事務作業ができなくなったことを退職の理由としていた.1年間の通院および入院日数は4例ともに網膜光凝固群の平均通院日数を上回っていた.III考按視覚障害が顕著になると仕事の継続は容易ではなく,一度離職すると視覚障害者の再就職はむずかしい6).視覚障害の原因疾患を糖尿病とその他の疾患に分けて就業率を検討した過去の報告では,就業者の割合は糖尿病以外の疾患による視覚障害者が34.0%に対して糖尿病による視覚障害者は16.7%であり,糖尿病網膜症患者の就業率が低かった.視覚障害が原因で仕事を辞めた人は,糖尿病以外の疾患の人は33.0%に対して糖尿病の人は50.0%であった6).このように,視覚障害者の就労,特に糖尿病による視覚障害者の就労は厳しい状況にある.今回,就業している糖尿病網膜症患者における各治療段階での現状を調べ,それぞれの治療が就業の継続につながっているかを検討した.対象の年齢分布は調査開始時において各群ともに5665歳にピークがあり,いわゆる就労年齢の後期以降の症例が多かった.この年齢層においては,糖尿病網膜症がわが国における中途失明原因の第1位であると報告されている1).内科および眼科通院歴をみると,網膜光凝固群や硝子体手術群でも眼科通院歴のあるものは半数以下であった.網膜光凝固群は,軽度視力低下などの自覚症状が出現しはじめる時期にあたる(図3).硝子体手術を要する症例ではかなり視力が下がっている(図3).このことから就業者では,自覚症状が現れてはじめて眼科受診している症例,さらには自覚症状が出ても放置している症例が多く存在することが示唆される.内科通院歴と眼科通院歴の関係をみると,内科は定期通院しているが,眼科は定期通院していない症例が2430%存在した.そのなかには,内科以外の科を専門とする医師に糖尿病治療を受けている患者もおり,糖尿病患者における眼科定期検査の重要性を内科医だけでなく他科の医師にも広く啓蒙する必要があると考えられた.糖尿病のコントロールは,各群ともに有意に改善していた.これは,患者教育により,患者本人に病識が生まれ,血糖管理に注意を払うようになったこと,内科の管理下に置かれたことが考えられる.したがって今回の結果は,糖尿病治療における患者教育や社会的啓蒙の重要性を改めて認識させる結果と思われる.以前筆者らは,糖尿病網膜症に対する硝子体手術により健康関連qualityoflife(QOL)が改善することを報告した7,8).しかし,調査開始から1年以内に退職した症例の退職理由では,眼の病気によると回答した症例は硝子体手術群の4例のみであった(表3).これら4例ではすべて1年間の通院・入院日数が網膜光凝固群の平均通院日数を上回っていた.具体的な職業ではトラック運転手や事務員であり,高いレベルの視機能を要求される職業であった.全体の平均通院・入院日数をみても,硝子体手術群が他の2群に比し有意に長い.こうした背景から,硝子体手術目的に入院した時点で即解雇された症例もあり,網膜症患者の就業継続は視機能だけでなく,職場環境や社会的背景とも関連していることがわかった.近年注目されている低侵襲硝子体手術は,早期の視力回復だけでなく,入院日数や社会復帰への期間が短くなる可能性があり,就業継続のために今後ますます重要になると考えられる.抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrwothfactor:VEGF)抗体の硝子体内投与のような新しい治療法が,日本でも限られた施設のみではあるが開始されている.糖尿病黄斑浮腫に対しても効果が認められるという報告もあり9),通院・入院期間の短縮や社会復帰への期間が短縮される可能性を秘めているので,今後の展開が期待される.謝辞:本研究を施行するにあたり,大阪労災病院勤労者感覚器障害センターの北方悦代氏,廣瀬望氏,藤本妙子氏,瓜生恵氏,葛野ひとみ氏,谷美由紀氏に協力いただいた.なお,本研究は,独立行政法人労働者健康福祉機構「労災疾病等13分野医学研究・開発,普及事業」によるものである.表4眼の病気を理由とした退職者の詳細調査時(術前)1年後通院日数入院日数職種具体的経緯症例160歳,男性IIO対象眼0.011.0710トラック運転手詳細不明反対眼0.80.8症例248歳,男性IIO対象眼0.060.71422トラック運転手硝子体手術受けることが決まった直後に解雇反対眼0.50.6症例360歳,男性IIO対象眼0.150.558事務員パソコンが見にくく作業が困難になった反対眼0.40.5症例459歳,女性IIO対象眼0.50.1138事務員数字の3,6,8,9が判別できなくなった反対眼0.80.7———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009259(121)文献1)中江公裕,増田寛次郎,妹尾正ほか:わが国における視覚障害の現状.平成17年度厚生労働省研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究.p263-267,厚生労働省,20052)永田誠,松村美代,黒田真一郎ほか:眼科マイクロサージェリー(第5版),p657-658,エルゼビア・ジャパン,20053)LewisH,AbramsGW,BlumenkranzMSetal:Vitrecto-myfordiabeticmaculartractionandedemaassociatedwithposteriorhyaloidaltraction.Ophthalmology99:753-759,19924)TachiN,OginoN:Vitrectomyfordiusemacularedemaincasesofdiabeticretinopathy.AmJOphthalmol122:258-260,19965)樋田哲夫,田野保雄,根木昭ほか:眼科プラクティス7,糖尿病眼合併症の診療指針.p81-85,文光堂,20066)山田幸男,平沢由平,大石正夫ほか:中途視覚障害者のリハビリテーション第8報視覚障害者の就労.眼紀54:16-20,20037)恵美和幸,大八木智仁,池田俊英ほか:糖尿病網膜症の硝子体手術前後におけるqualityoflifeの変化.日眼会誌112:141-147,20088)大八木智仁,上野千佳子,豊田恵理子ほか:糖尿病網膜症の片眼硝子体手術例における健康関連QOLへの僚眼視力の影響.臨眼62:253-257,20089)坂東肇,恵美和幸:抗VEGF抗体─糖尿病黄斑浮腫に対するBevacizumab硝子体内投与の効果.あたらしい眼科24:156-160,2007***