———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSII角膜内皮細胞密度減少の臨床的意義大原らは,ヒト角膜内皮細胞密度は10歳代では平均3,410cells/mm2であり,高齢になるほど次第に減少し,80歳代では平均2,777cells/mm2であると報告している5).このデータは馬嶋らの報告6)とも一致し,角膜内皮細胞は加齢に伴って自然減少すると考えられる.ただし,若年時には,角膜内皮細胞密度減少はやや急峻であり,角膜径の増大に伴う,言わば見かけ上の角膜内皮細胞密度減少も加わっている可能性がある7).大原らの示す10歳代から80歳代までの各世代における角膜内皮細胞密度の差は,ある時点での断面であり,同一対象の加齢による角膜内皮細胞密度変化を追ったものではないが,仮にこのデータが同じ対象群を10歳代から80歳代まで追跡した結果であるとした場合,70年の加齢によって18.6%程度の密度減少が発生したことになり,これは毎年平均0.29%の減少率に相当する(表1).角膜内皮細胞密度が500cells/mm2程度まで減少すると,角膜内皮細胞のバリア機能,ポンプ作用が十分に発揮できなくなり,角膜実質の恒常的な浮腫から角膜水疱症に至ると考えられる.白内障手術のように多くのCL装用者が受ける可能性がある眼内手術によっても,角膜内皮細胞密度は低下する.白内障手術による角膜内皮細胞密度低下は,通常5%に達しないが,術者,術式によっては,あるいは破のような合併症,眼内レンズ二次挿入などの事態が発生すれば,さらに大きな角膜内皮細胞密Iコンタクトレンズ(CL)装用と角膜内皮細胞異常角膜内皮細胞は角膜後面にあるため,CL装着による角膜内皮細胞への影響は,CLが物理的な障壁となって,角膜への酸素供給を阻害することによって生ずると考えられる.CL装用によって生ずる角膜実質の浮腫もCLの酸素透過性と関連しており,同様の浮腫は裸眼にゴーグルを装用させ,ゴーグル内の酸素濃度を変えることによって角膜に低酸素負荷を加えることによっても得ることができる.Holdenらは,このような角膜実質浮腫を防ぐためには,角膜上で9.9%以上の等価酸素濃度(equivalentoxygenpercentage)が必要であり,これはCLのDk/t(またはDk/L.素材の酸素透過係数「Dk」をCLの厚さ「t(あるいはL)」で割ったもの)の値では24.1×109(cm×mlO2)/(sec×ml×mmHg)に相当すると報告している1).酸素透過性の低いCLを装用させると,前房内の乳酸が増加し,pHが低下する2).これは角膜に低酸素負荷が加わったためと考えられる.角膜実質浮腫の程度と角膜のアシドーシスが相関するという報告もあり3,4),CL装用によって生ずる低酸素負荷が,角膜のアシドーシスを通じて角膜内皮細胞のバリア機能,細胞形態に異常を発生させると考えられる.(49)187I53000011311特集●角膜内皮疾患を理解するあたらしい眼科26(2):187192,2009コンタクトレンズ装着と角膜内皮細胞減少ContactLensWearandCornealEndothelialCellLoss稲葉昌丸*———————————————————————-Page2188あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(50)で1.9%の誤差が残るとしている.また,大原らは,接触型スペキュラーマイクロスコープを用いて撮影した角膜内皮写真をセンター法で処理しているが,実際のセンター法では非接触型スペキュラーマイクロスコープが使用されるため,画質低下による誤差が加わる可能性もある.ここで基準となったディジタイザー法は,接触型スペキュラーマイクロスコープを用いて撮影した角膜内皮写真を拡大した後,細胞の各頂点を一つずつ,ディジタイザーを用いてパソコンに入力することによって,個々の角膜内皮細胞の形状を算出する.短時間で角膜内皮細胞密度を得るのには適さないが,精度は高い.しかし,この方法自体,誤差の発生が避けられず,伊野田は形状既知の正方形を用いて測定とシミュレーションを行った結果,入力対象となる角膜内皮写真の印画倍率が100倍以下の場合,角膜内皮細胞面積の誤差(この場合,標準偏差の2倍)は面積の27%に達するとしている10).角膜内皮細胞自体,部位によって角膜内皮細胞密度にばらつきがあるうえ,実際のディジタイザー法では細胞輪郭のトレースなどによる誤差も加わるため,筆者の経験では同一写真を450倍に拡大しても,入力細胞数100個では平均2%程度の誤差が発生する.これに系統的誤差が加わる.角膜内皮写真の写りが悪く,ぼやけた部分や暗い部分が多い場合,入力者はそのような部位を避けて細胞輪郭が見やすい部分のみ入力する.また,角膜内皮写真を見慣れていない入力者の場合も,細胞輪郭がわかりやすい,面積の大きな細胞ばかり度の低下が生ずる.そこで60歳代で白内障手術を受け,術中術後に50%のcelllossが生じたと仮定した場合,加齢による角膜内皮細胞減少率を0.29%と仮定すれば,術前角膜内皮細胞密度が1,200cells/mm2程度あれば,角膜の透明度を保つのに必要な500cells/mm2以上の角膜内皮細胞密度を,100歳代まで維持できることになる(表2).CL装用によって生ずる角膜内皮細胞面積の大小不同や,六角形細胞の出現率低下などが生じても,角膜内皮細胞密度が低下しても,極端でなければ角膜実質浮腫などの角膜内皮機能不全は生じないとされている8).したがって,CL装用による角膜内皮細胞密度減少が生じても,60歳時で1,200cells/mm2程度に留まっていれば,視力を損なう可能性は低いと考えられる.III角膜内皮細胞密度の測定誤差角膜内皮細胞密度測定に広く用いられているのは,センター法とよばれる,各細胞の中心部を人がクリックして入力する方法であるが,この測定方法はより精密なディジタイザー法とよく相関はするものの,一定の誤差が生ずることが知られている.大原らは,センター法によって30個の細胞を入力した場合,細胞密度については,ディジタイザー法による基準値に対して平均5.1%の誤差が生じると報告している9).細胞数を増やすに従って,誤差は減少するが,入力数90個で2.8%,120個表1健常者の角膜内皮細胞密度減少率大原らの各年代別平均角膜内皮細胞密度5)を,同一対象の加齢による変化として処理した場合の,1年当たり角膜内皮細胞密度減少率対象平均角膜内皮細胞密度(cells/mm2)1年当たり減少率10歳代3,41020歳代3,3500.18%30歳代3,2020.45%40歳代3,0810.38%50歳代3,0120.23%60歳代2,9500.21%70歳代2,9070.15%80歳代2,7770.46%10歳代と80歳代の比較(3,410cells/mm2対2,777cells/mm2)0.29%表2臨床的に問題となる角膜内皮細胞密度60歳時に1,200cells/mm2の角膜内皮細胞密度をもって白内障手術を受け,術中術後に50%のcelllossが生じたと仮定し,1年当たり0.29%の角膜内皮細胞減少率が続いた場合の,術後各年齢における角膜内皮細胞密度の推算年齢角膜内皮細胞密度(cells/mm2)60歳術前1,20060歳術後60070歳58380歳56690歳550100歳534110歳518———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009189(51)じ,長期間をかけてゆっくり進行する異常であることを示している.MacRaeらは,PMMA製HCL長期装用者について,角膜中央部,中間周辺部の角膜内皮細胞密度に,ともに顕著な変化がみられない群,角膜中央部の内皮細胞密度のみが減少している群,いずれの部位でも減少している群の3群に分かれることを示しており15),このことからCLに覆われることが多く,低酸素負荷のかかりやすい角膜中央部では角膜内皮細胞密度減少が起きやすく,同時に,低酸素負荷に対する反応には個人差があると考えることができる.PMMA製HCLのような酸素透過性不良のCLの長期装用者においても,角膜内皮細胞密度には変化がなかったとする報告もあり17),CL装用による角膜内皮細胞密度の変化は個人差が大きいと考えるべきである.現在のところ,CL装用自体が原因となって角膜混濁,矯正視力低下に至る角膜内皮細胞密度減少をひき起こした症例は報告されていない.植田らはCL装用によって1,000cells/mm2前後にまで角膜内皮細胞密度が低下したと思われる49歳の症例を報告している20)が,このような極端な例であっても,白内障術後8年を経て良好な矯正視力を維持している.入力してしまう.いずれも角膜内皮細胞密度を過小評価する系統誤差が発生することになる.入力者が変わると,熟練度も変わるため結果が変わってしまうこともある.測定誤差を最小限に留め,正しい結果判定を行うためには,ときどき同じ角膜に対して数回のくり返し測定を行い,自システムにおける誤差の程度を把握しておく必要がある.また,同一症例は可能な限り同一の検査者が撮影,入力を行うべきである.それでも角膜内皮細胞密度の測定結果には数%以上の誤差が伴うものと考えねばならない.IVCL装用による角膜内皮細胞密度低下酸素透過性が不良であるPMMA(ポリメチルメタクリレート)製ハードCL(HCL)の長期装用者を統計的に検討すると,角膜内皮細胞密度に変化が認められることが報告されている1120).塩谷らは角膜内皮細胞密度の異常低下例はPMMA製HCLに最も多く,ついでソフトCL(SCL),ガス透過性HCLの順であることを報告している18).これらは,CL装用による角膜内皮細胞密度の低下は,角膜内皮への低酸素負荷が原因となって生表3CL装用による角膜内皮細胞密度減少率既報をもとに,CL装用によって生ずると考えられる,角膜内皮細胞密度の年間減少率を計算した結果.さまざまな仮定を置いて計算を行っているため,正確なデータではない報告者(年)装用CL装用年数コメント各報告から計算される1年当たり角膜内皮細胞減少率二宮ら(1987)11)HCL117年片眼装用者のみで非装用眼を対象としており,装用年数も個別に記載されているため,精度が高い0.51%中井ら(1989)12)PMMA製HCL520年以上対照者の年齢詳細不明0.681.32%稲葉ら(1989)13)PMMA製HCL020年?装用年数の詳細データ不明のため,20歳から装用開始と仮定して計算0.29%桐村ら(1994)14)PMMA製HCL1523年細胞密度最小の症例を同年齢の健常者データと比較して計算した場合の最悪例2.38%MacRaeら(1994)15)PMMA製HCL26.8年81症例平均0.06%(増加)同上同上2434年減少率が大きい3症例から,同年齢の健常データと比較して計算3.003.43%小針ら(1991)16)PMMA製HCL515年以上症例の平均年齢不明のため,40歳と仮定して健常データと比較.15年以上の症例から計算2.84%門ら(1992)17)PMMA製HCL対照とした非装用者の年齢詳細不明0.37(増加)0.06%塩谷ら(1991)18)各種CL平均10.3年同年齢の健常者データと比較3.087.99%青木ら(1992)19)各種CL1025年以上PMMA製HCLおよびSCL,同年齢の健常者データと比較0.331.25%(PMMA製HCL),0.031.87%(SCL)植田(2008)20)SCL19年顕著な減少を示した一症例の左右眼を同年齢の健常者データと比較5.06%,6.05%———————————————————————-Page4190あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(52)間経過を観察するなどの方法によって,実際に角膜内皮細胞密度の減少が生じていることを確認し,その程度を見きわめた後に,CLの種別変更,装用時間制限などを考えるべきである.V角膜内皮細胞密度減少の予測と予防角膜内皮細胞密度の減少は角膜への低酸素負荷が原因と考えるのが妥当であるから,一定の酸素透過性が維持されていれば,CL装用による角膜内皮細胞密度減少は生じにくいと考えられる.一つの基準はHoldenらの示す終日装用時に角膜浮腫を生じさせないための酸素透過率,24.1×109(cm×mlO2)/(sec×ml×mmHg)である.角膜浮腫発生の有無と,長期間装用時の角膜内皮細胞密度減少率との因果関係は明らかでないし,装用したまま仮眠,就寝することの有無も考える必要があるが,ひとまずこのレベルを満たすCLを選択するのが妥当であろう.CLの酸素透過性は素材の酸素透過係数(Dk)をCLの平均厚さ(t)で割った,Dk/tで表されるが,近視矯正用CLの場合,中心部が最も薄くなるため,一般に表示されているCLの中心厚さから計算するとDk/tを過大評価することになる.CLと度数によるが,CLの平均厚さは中心厚さよりも30%程度厚い1)と仮定するほうがよい.逆に言えば,実際のDk/tはカタログデータの酸素透過係数と中心厚さから計算した値の約3/4と考えればよい.このように計算して得たDk/tが十分高いにもかかわらず,角膜内皮細胞密度の急激な低下をみた場合には測定誤差の可能性が高いが,同時に他の角膜疾患の可能性や,そのCLが指示した使用方法どおりに装用されているかどうかも検討する必要がある.角膜内皮細胞減少を予測するもう一つの手段は,角膜内皮ブレッブの観察である.角膜内皮ブレッブとは角膜内皮に内皮細胞1個数個大の暗点が出現する,一時的,可逆的な変化であり(図1),CL装用後1030分で生じ,CL装用を中止すれば数十分で完全に消失する.Holdenらは酸素を含まない雰囲気や,酸素を正常に含んでも二酸化炭素が多い雰囲気に角膜をさらすと,裸眼において同じ現象が発生することを発見し,この現象の原因がアシドーシスであることを示唆した21).Kaufmanらは共焦点顕微鏡を用いてブレッブを観察した結果,角CL装用による角膜内皮細胞密度の減少率を計算するためには,個々の症例を装用前のデータからはじめて長期間フォローする必要があるが,そのようなデータは存在しない.前述した報告1120)および,各年代の健常者の角膜内皮細胞密度データ5)から,強引に角膜内皮細胞密度減少率を推算すると,表3の結果となる.角膜内皮細胞密度は,スペキュラーマイクロスコープの種類,解析方法などによって結果が変わるため,このような推測には大きな誤差が伴う可能性があるが,全体を通してみると,CL装用による角膜内皮細胞密度の減少は,酸素透過性の不良なCLを装用している症例であっても,年間5%程度を超えることは少ないだろうと考えられる.仮にCL装用による角膜内皮細胞密度減少率を年間5%とした場合,10年間装用を継続した時点で,角膜内皮細胞密度は約40%減少する(表4).年間10%という極端な角膜内皮細胞減少率を仮定した場合,約5年の装用で約40%の減少が生じ,10年では約65%減少することになる.この場合でも2年程度なら放置しても変化は限定的であり,5年放置しても,ただちに臨床的に重大な結果にはつながらない.前述のように,通常の方法で得られる角膜内皮細胞密度には数%以上の誤差が避けられない.1年間隔でCL装用者の角膜内皮細胞密度測定を行い,5%の減少率が得られたとしても,それが真の減少を示しているのか,単なる誤差に過ぎないのかは不明である.したがって,1年間隔の測定によって大きな角膜内皮細胞密度減少が観測されても,ただちにCL装用中止などの対策を講ずる必要はない.くり返し測定を行う,6カ月ごとに2年表4角膜内皮細胞密度減少率と一定期間装用後の角膜内皮細胞密度CL装用による角膜内皮細胞密度の各年間減少率に対する,一定期間装用後の角膜内皮細胞減少率(対策を講ぜず,同じ年間減少率が続いたと仮定して)角膜内皮細胞減少率(年間)2年間装用後5年間装用後10年間装用後0.5%1.00%2.48%4.89%3.0%5.91%14.13%26.26%5.0%9.75%22.62%40.13%8.0%15.36%34.09%56.56%10.0%19.00%40.95%65.13%———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009191(53)れる症例を対象とするとよい.現在使用しているCLの装用がブレッブを発生させることが明らかになれば,より高い酸素透過性を有するCLへの転換,装用時間の短縮などを考えることになる.まとめ酸素透過性の悪いCLを長期間装用すると,一部の装用者では角膜内皮細胞密度の減少が生ずる.しかし,短期間で明瞭な減少を観察した場合には,まず測定誤差を考えるべきである.角膜内皮細胞の減少が疑われる場合には,くり返し測定を行う,観察間隔を短くする,角膜内皮ブレッブ発生の有無を確認するなどの方法によって,まずその真偽を確かめたうえで,ゆっくり対処すればよい.文献1)HoldenBA,MertzGW:Criticaloxygenlevelstoavoidcornealedemafordailyandextendedwearcontactlenses.InvestOphthalmolVisSci25:1161-1167,19842)HamanoH,HoriM,HamanoTetal:Eectsofcontactlenswearonmitosisofcornealepitheliumandlactatecon-tentinaqueoushumorofrabbit.JpnJOphthalmol27:451-458,19833)CohenSR,KennethAP,BrandRJetal:Stromalacidosisaectscornealhydrationcontrol.InvestOphthalmolVisSci33:134-142,19924)McNamaraNA,PolseKA,BonannoJA:Stromalacidosismodulatescornealswelling.InvestOphthalmolVisSci35:846-850,19945)大原國俊,水流忠彦,伊野田繁:角膜内皮細胞形態のパラメーター.日眼会誌91:1073-1078,19876)馬嶋慶直,野川秀利,湯浅英治:Specularmicroscopeによる角膜内皮細胞の考察─経年変化ならびに白内障術後変化について─.日眼会誌83:936-946,19797)LauleA,CableMK,HomanCEetal:Endothelialcellpopulationchangesofhumancorneaduringlife.ArchOphthalmol96:2031-2035,19788)BourneWM,HodgeDO,MclarenJW:Estimationofcor-nealendothelialpumpfunctioninlong-termcontactlenswearers.InvestOphthalmolVisSci40:603-611,19999)大原國俊,郡司桂子,高橋浩ほか:非接触型スペキュラーマイクロスコープの簡易細胞形態計測ソフト(センター法)の精度.眼紀56:328-331,200510)伊野田繁:角膜内皮形態計測における測定誤差.日眼会誌92:1149-1153,198811)二宮久子,金井淳,伊東延子ほか:片眼コンタクトレンズ装用者の角膜内皮細胞について.日コレ誌29:83-90,膜内皮細胞の暗点発生とともに,角膜実質細胞の細胞核の反射率亢進を認め,低酸素負荷による細胞内代謝の阻害が,角膜実質細胞,角膜内皮細胞両者の変化をひき起こすものと推察した22).濱野23),Inagaki24)らは各種の酸素透過性を有するCLの装用や,閉瞼時のCL装用を用いて,角膜上酸素分圧が低いと考えられる条件下で角膜内皮ブレッブが多発することを観察し,この現象が角膜の低酸素負荷と相関することを明らかにした.角膜内皮ブレッブは酸素透過性が極端に低いSCLを装用させた場合でも,全例には発生せず23),低酸素負荷を確実,敏感に検出できる方法ではないが,低酸素負荷に対する個人差も含めて,実際のCLを装用した状態における角膜の反応を観察することができる.一時的変化であるため,観察時には裸眼で来院させ,角膜内皮写真を撮影した後,常用しているCLを装用させ,20分後にブレッブの観察を行うのが適当だろう.待ち時間に閉瞼していると余分な低酸素負荷が加わるため,仮眠などさせないよう注意する必要がある.酸素透過性の高いCLであっても,わずかな暗点が発生するため25),ブレッブの判定は明瞭な暗点,たとえば角膜内皮細胞1個を超えるサイズに限るべきであろう.スクリーニングとして全例に行える検査ではないため,角膜内皮細胞密度の低下が疑わ図1角膜内皮ブレッブ角膜内皮に低酸素負荷が加わった際に生じる,角膜内皮細胞1数個大の暗点.一過性,可逆性の変化である.———————————————————————-Page6192あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(54)20)植田喜一,属佑二:コンタクトレンズ装用により顕著な角膜内皮細胞密度の減少をきたし白内障手術を施行した1症例.あたらしい眼科25:95-98,200821)HoldenBA,WilliamsL,ZantosSG:Theetiologyoftran-sientendothelialchangesinthehumancornea.InvestOphthalmolVisSci26:1354-1359,198522)KaufmanSC,HamanoH,BeuermanRWetal:Transientcornealstromalandendothelialchangesfollowingsoftcontactlenswear:Astudywithconfocalmicroscopy.CLAOJ22:127-132,199623)濱野光,渡邊潔,光永サチ子:ソフトコンタクトレンズ装用直後の角膜内皮細胞の変化─非接触スペキュラーマイクロスコープ(SP-1000)によるレンズ上からの観察─.日コレ誌35:140-145,199324)InagakiY,AkahoriA,SugimotoKetal:Comparisonofcornealendothelialblebformationanddisappearancepro-cessesbetweenregidgas-permeableandsoftcontactlensesinthreeclassesofDk/L.EyeContactLens29:234-237,200325)BrennanNA,ColesML,ConnorHRetal:Short-termcornealendothelialresponsetowearofsilicone-hydrogelcontactlensesinEastAsianeyes.EyeContactLens34:317-321,2008198712)中井義秀,中井義昌,北大路浩史ほか:コンタクトレンズ装用年数と角膜内皮.日コレ誌31:133-137,198913)稲葉昌丸,松田司:PMMA製HCLの長期装用と角膜内皮細胞.眼科31:1429-1433,198914)桐村麻理,小橋俊子,金山るりほか:20年間のハードコンタクトレンズ装用による角膜内皮の変化.日コレ誌36:35-39,199415)MacRaeSM,MatsudaM,PhillipsDS:Thelong-termeectsofpolymethylmethacrylatecontactlenswearonthecornealendothelium.Ophthalmology101:365-370,199416)小針香,梶田雅義,塩谷浩ほか:コンタクトレンズ長期装用者の装用状況と角膜内皮障害.日コレ誌33:230-233,199117)門正則,吉田晃敏,実藤誠ほか:ハードコンタクトレンズ長期装用者の角膜内皮細胞変化.日コレ誌34:105-108,199218)塩谷浩:コンタクトレンズ装用者における角膜内皮細胞密度について─細胞密度減少例と装用条件─.日コレ誌33:39-45,199119)青木弘美,木村亘,木村徹ほか:長期コンタクトレンズ装用者の角膜内皮および上皮細胞の解析.日コレ誌34:173-180,1992