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前眼部光干渉断層計を用いて観察した糖尿病角膜症

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1(109)2470910-1810/09/\100/頁/JCLS14回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科26(2):247253,2009cはじめに糖尿病を有する患者の眼に手術を行ったり点眼薬を用いたりすると,角膜上皮障害がなかなか改善しないことを経験する.糖尿病角膜症とよばれるこの病態は平時には無自覚で経過しており,所見はあってもわずかで軽度の点状表層角膜症を有する程度で見過ごされているが,眼表面へのストレスを契機に顕性化,重症化する14).強い角膜上皮障害による霧視感や視力低下が生じ,視機能に影響を与え,ときに再発性角膜上皮びらんや遷延性角膜上皮欠損に移行しきわめて難治となることがある.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,光の波としての性質であるコヒーレンス(可干渉性)に着目し,反射波の時間的遅れを検出し画像化する新しい光断層画像解析装置である.OCTは後眼部の形態観察装置として広く認められ,その優れた画像解析能力は網膜疾患の解剖学的理解を深め,診断・治療に欠かせない要素の一つとなった5).前眼部領域においても,角膜や前房の形態描出に優れ6),角膜手術の術前後の評価7)や緑内障の診断治療8)に用いられ,〔別刷請求先〕花田一臣:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1丁目1-1旭川医科大学医工連携総研講座Reprintrequests:KazuomiHanada,M.D.,DepartmentofMedicineandEngineeringCombinedResearchInstitute,AsahikawaMedicalCollege,2-1-1MidorigaokaHigashi,Asahikawa078-8510,JAPAN前眼部光干渉断層計を用いて観察した糖尿病角膜症花田一臣*1,2五十嵐羊羽*1,3石子智士*1加藤祐司*1小川俊彰*1長岡泰司*1川井基史*1石羽澤明弘*1吉田晃敏*1,3*1旭川医科大学医工連携総研講座*2同眼科学教室*3同眼組織再生医学講座CornealImagingwithOpticalCoherenceTomographyforDiabeticKeratopathyKazuomiHanada1,2),ShoIgarashi1,3),SatoshiIshiko1),YujiKato1),ToshiakiOgawa1),TaijiNagaoka1),MotofumiKawai1),AkihiroIshibazawa1)andAkitoshiYoshida1,3)1)DepartmentofMedicineandEngineeringCombinedResearchInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,3)DepartmentofOcularTissueEngineering,AsahikawaMedicalCollege増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に角膜上皮障害を生じた3例3眼について,Optovue社製のRTVue-100に前眼部測定用アダプタ(corneaanteriormodule:CAM)を装着した前眼部光干渉断層計(OCT)で角膜形状と角膜厚を観察した.OCT像は前眼部細隙灯顕微鏡所見と比較しその特徴を検討した.前眼部OCTによって硝子体手術後の角膜に対して低浸襲かつ安全に角膜断層所見を詳細に描出でき,病変部の上皮の異常や実質の肥厚が観察できた.再発性上皮びらんを生じた症例では上皮下に生じた広範な間隙が観察され,上皮接着能の低下が示唆された.本法は,糖尿病症例にみられる角膜上皮障害の病態の把握に有効である.Wedescribetheuseofanteriorsegmentopticalcoherencetomography(OCT)inevaluatingcornealepithelialdamageaftervitrectomyforproliferativediabeticretinopathy(PDR).ThreecasesofcornealepithelialdamageaftervitrectomyforPDRwereincludedinthisreport.AnteriorsegmentOCTscanswereperformedwiththeanteriorsegmentOCTsystem(RTVue-100withcornealanteriormodule;Optovue,CA).TheOCTimageswerecomparedtoslit-lampmicroscopicimages.TheanteriorsegmentOCTsystemisanoncontact,noninvasivetech-niquethatcanbeperformedsafelyaftersurgery.Theimagesclearlyshowedvariouscornealconditions,e.g.,epi-thelialdetachment,stromaledemaandsubepithelialspaces,ineyeswithrecurrentepithelialerosion.OCTimageshavethepotentialtoassesstheprocessofcornealwoundhealingaftersurgeryandtohelpmanagesurgicalcom-plicationsindiabeticpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):247253,2009〕Keywords:糖尿病角膜症,増殖糖尿病網膜症,硝子体手術,角膜上皮障害,前眼部光干渉断層計.diabetickeratopathy,proliferativediabeticretinopathy,vitrectomy,cornealepithelialdamage,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.———————————————————————-Page2248あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(110)その有効性が多数報告されている.今回筆者らは糖尿病網膜症患者に硝子体手術を行った後にみられた角膜上皮障害について,前眼部OCTを用いて経過を観察した3例3眼を経験し,若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後,遷延性角膜上皮障害を生じた3例3眼である.これらの症例の角膜上皮障害について前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)を用いて測定し修復過程を観察した.筆者らが用いた前眼部OCTはOptovue社製のRTVue-100である.後眼部の計測・画像解析用に開発された機種であるが,前眼部測定用アダプタ(corneaanteriormodule:CAM)を装着することで前眼部OCTとして用いることができる(図1).測定光波長は後眼部用の840nm,組織撮影原理にはFourier-domain方式が用いられており,画像取得に要する時間が最短で0.01秒とtime-domain方式と比べ1/10程度に短縮されている.今回,角膜上皮層と上皮接着の状態,角膜実質層の形態および角膜厚について,前眼部OCTで得られた角膜所見と前眼部細隙灯顕微鏡所見を比較検討した.II症例呈示〔症例1〕32歳,女性.右眼の増殖糖尿病網膜症と白内障に対して硝子体切除術と超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を同時施行,手術所要時間は4時間34分,術中視認性確保のため角膜上皮掻爬を行っている.術後角膜上皮びらんが遷延し,2週間たっても上皮欠損が残存,容易に離する状態を呈していた(図2a).術前の角膜内皮細胞密度は2,848/mm2,六角形細胞変動率は0.35であった.術後2週間目の眼圧は24mmHg,前房内に軽度の炎症細胞を認めた.前眼部OCTでは接着不良部の上皮肥厚と実質浮腫を認めた(図2b).OCTで測定した角膜厚は中央部で675μmであった.この時点まで点眼薬はレボフロキサシンとリン酸ベタメタゾンが用いられていたが,リン酸ベタメタゾンを中止,0.1%フルオロメトロンと0.3%ヒアルロン酸ナトリウムを用いて上皮修復を促進するよう変更,治療用ソフトコンタクトレンズを装用して経過を観察した.術後4週間目で上皮欠損は消失したが,上皮面は不整で一部混濁を伴う隆起を生じていた(図3a).前眼部OCTでは上皮肥厚は残存し,修復した上皮基底に沿って1層の低信号領域が認められた.実質浮腫には改善傾向が認められた(図3b).術後6週間目で上皮混濁は減少し,軽度の点状表層角膜症を認める程度に改善した(図4a).前眼部OCTでは上皮肥厚は消失,上皮基底に沿った低信号領域も消失した.実質浮腫もさらに改善がみられ(図4b),OCTab250μm2症例1a:32歳,女性.硝子体手術後上皮びらんが遷延し,2週間後も上皮が容易に離する.b:前眼部OCT.接着不良を起こした部位の上皮肥厚と実質浮腫を認める.図1前眼部OCTOptovue社製RTVue-100.前眼部測定用アダプタ(corneaanteriormodule:CAM)を装着して前眼部光断層干渉計として用いる———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009249(111)で測定した角膜厚は中央部で517μmであった.〔症例2〕59歳,男性.右眼の増殖糖尿病網膜症と白内障に対して硝子体切除術と超音波乳化吸引術を同時施行,術中視認性確保のため角膜上皮掻爬を行っている.広範な牽引性網膜離があり,増殖膜除去後に硝子体腔内を20%SF6(六フッ化硫黄)ガスで置換して手術を終了,手術所用時間は1時間54分であった.術前の角膜内皮計測は行われていない.経過中に瞳孔ブロックを生じ,レーザー虹彩切開術を追加,初回術後3週間目に生じた網膜再離に対して2度目の硝子体切除術を行っている.手術所用時間は1時間12分.2度目の硝子体手術後4週間目に角膜上皮離が生じた(図5a).点眼薬はレボフロキサシン,0.1%フルオロメトロン,0.5%マレイン酸チモロール,1%ブリンゾラミドおよび0.005%ラタノプロストが用いられていた.術後4週間目の眼圧は17mmHg,前房内に軽度の炎症細胞を認めた.前眼部OCTでは接着不良部の上皮肥厚と実質浮腫を認め,上皮下には大きな間隙が生じていた(図5b).OCTで測定した角膜厚は中央部で793μmであった.治療用ソフトコンタクトレンズを装用し,経過を観察したところ,2週間で上皮欠損は消失したが,上皮面は不整で混濁を伴っていた(図6a).前眼部OCTでは上皮肥厚は残存し,修復した上皮基底に沿って1層の低信号領域が認められた.実質浮腫には改善がみられた(図6b).OCTで測定した角膜厚は中央部で527μmであった.その後も上皮びらんの再発をくり返し,術後12週間目で角膜上は血管侵入を伴う結膜で被覆された(図7a,b).ab250μm3症例1:上皮修復後①a:術後4週間.上皮欠損は消失したが,上皮面は不整で混濁を伴う隆起を生じている.b:前眼部OCT.上皮肥厚は残存し,修復した上皮基底層に沿って1層の低信号領域を認める.実質浮腫には改善傾向がみられる.ab250μm図4症例1:上皮修復後②a:術後6週間.上皮混濁は減少し,軽度の点状表層角膜症を認める程度に改善.b:前眼部OCT.上皮肥厚は消失,角膜上皮の基底層に沿った低信号領域が消失.実質浮腫もさらに改善がみられる.———————————————————————-Page4250あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(112)〔症例3〕48歳,女性.左眼の増殖糖尿病網膜症と白内障に対して硝子体切除術と超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を同時施行,術中視認性確保のため角膜上皮掻爬を行っている.黄斑部に牽引性網膜離を生じており,増殖膜除去後に硝子体腔内を空気置換して手術終了,手術所要時間は2時間3分であった.血管新生緑内障に対して2%塩酸カルテオロール,0.005%ラタノプロスト点眼を用いて眼圧下降を得た.術後3日で角膜上皮は一度修復したが.術後4週間目に強い疼痛とともに上皮欠損が生じた(図8a).上皮離時の角膜内皮細胞密度は2,770/mm2,六角形細胞変動率0.29,眼圧は23mmHg,前房内に軽度の炎症細胞を認めた.点眼薬はレボフロキサシン,0.1%フルオロメトロン,0.5%マレイン酸チモロール,1%ブリンゾラミドおよび0.005%ラタノプロストが用いられていた.前眼部OCTでは上皮欠損とその部位の実質浮腫を認めた(図8b).OCTで測定した角膜厚は中央部で580μmであった.治療用ソフトコンタクトレンズを装用,術後7週間目で上皮欠損は消失し,軽度の点状表層角膜症を認める程度に改善した(図9a).前眼部OCTでは上皮肥厚は消失し実質浮腫も改善がみられた(図9b).OCTで測定した角膜厚は中央部で550μmであった.III考察糖尿病角膜症14)とよばれる病態は,眼表面へのストレスを契機に顕性化,重症化する.強い角膜上皮障害による霧視感や視力低下が生じ,視機能に影響を与え,ときに再発性上ab250μm図5症例2a:59歳,男性.2度目の硝子体手術後4週間目に生じた角膜上皮離.b:前眼部OCT.接着不良を起こした部位の角膜上皮肥厚と実質浮腫.上皮下には大きな間隙が生じている.ab250μm6症例2:上皮修復後①a:術後6週間.上皮欠損は消失したが,上皮面は不整.b:前眼部OCT.角膜上皮の肥厚は残存し,修復した上皮の基底層に沿って1層の低信号領域が認められる.実質浮腫には改善がみられる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009251(113)ab250μm7症例2:上皮修復後②a:術後12週間.角膜上は血管侵入を伴う結膜によって被覆されている.b:前眼部OCT.肥厚した上皮によって角膜実質が覆われている.ab250μm図8症例3a:48歳,女性.術後4週間目に強い疼痛とともに上皮欠損が生じた.b:前眼部OCT.上皮欠損とその部位の実質浮腫を認める.ab図9症例3:上皮修復後a:術後7週間目で上皮欠損は消失.b:前眼部OCT.上皮肥厚は消失し実質浮腫も改善がみられる.250μm———————————————————————-Page6252あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(114)皮びらんや遷延性上皮欠損に移行しきわめて難治となる.この病態の基礎には,角膜知覚の低下911),アンカーリング線維やヘミデスモゾームなどの密度低下による上皮接着能の低下12),上皮基底膜障害13),上皮下へのAGE(advancedgly-cationendproducts)の沈着14),上皮のターンオーバー速度の低下15,16)があるとされる.糖尿病網膜症に対する治療の際,手術侵襲や点眼薬の多剤使用,長期使用で上皮の異常が顕性化,重症化するといわれている1720).加えて,角膜内皮細胞の潜在的異常21),手術を契機とする内皮障害に伴う実質浮腫,術後高眼圧も角膜上皮にとってストレスとなりうる.今回検討した3症例いずれについても,内眼手術と角膜上皮掻爬の施行,術後高眼圧とその対応としての点眼薬の多剤使用が上皮障害の背景にある.この病態を把握し治療にあたるには角膜の様子を生体内でいかに的確に捉えるかが重要である.前眼部OCTは角膜・前房の形態観察装置として開発され,その優れた画像解析能力は種々の角膜手術の術前後の評価や緑内障の診断治療に役立つよう工夫されてきた68).再現性の高い角膜厚測定や形状解析とともに前房や隅角を捉える能力が必要とされ,そのためには混濁した角膜下の様子や結膜や強膜といった不透明な組織の奥にある隅角の所見を得るために見合った光源の波長が選択される.OCTに多く用いられる光源波長には,840nmと1,310nmという2つの帯域が存在する.多くの前眼部OCTは組織深達度の点を考慮して1,310nmを採用して混濁した角膜下の様子や隅角所見の取得を可能にしている.一方,網膜の観察を目的としたOCTでは,軸方向の解像度を優先して840nmを採用しているものが多い.網膜は前眼部の構造物と比べ薄く比較的均一で,光を通しやすいからである.筆者らが用いたOptovue社製のRTVue-100は,後眼部の計測・画像解析用に開発されたOCTであるが,CAMを装着することで前眼部OCTとして用いることができる.測定光の波長は後眼部用の840nmであり,網膜の観察にあわせた光源波長が選択されている.前眼部専用の機種ではないため,光源の特性から組織深達度が低いが逆に解像度が高いという特徴がある22).角膜の形態については詳細な描出が可能で,上皮と実質の境界がはっきりと識別できる.この特徴からRTVue-100とCAMの組み合わせは,糖尿病患者にみられる角膜病変の観察と評価に適しているといえる.筆者らが経験した糖尿病患者の硝子体手術後角膜上皮障害では,OCT画像で接着不良部の上皮の浮腫や不整の様子,上皮下に生じた広範な低信号領域が検出できた.これらは上皮分化の障害と上皮-基底膜間の接着能の低下を示唆する所見である.このような微細な所見は細隙灯顕微鏡ではときに観察や記録が困難であるが,RTVue-100とCAMの組み合わせは高精細な画像所見を簡便かつ低侵襲で取得することにきわめて有効であった.上皮修復過程を経時的に観察,記録することも容易であり,この点は病態の把握に有効で,実際の治療方針の決定にあたってきわめて有用であった.今回の3症例では上皮-基底膜間の接着が十分になるまでの保護として治療用コンタクトレンズの装用を行ったが,OCT画像でみられた上皮下低信号領域の観察はコンタクトレンズ装用継続の必要の評価基準として有用であったと考えている.前眼部OCTを用いて角膜画像所見とともに角膜厚を測定したが,いずれの症例も上皮障害時には角膜実質の浮腫による肥厚があり,上皮修復とともに改善する様子が観察された.上皮障害が遷延している糖尿病患者の角膜では,欠損部はもちろん,上皮化している部位でも,基底細胞からの分化が十分ではなくバリア機能が低下して実質浮腫が生じる.糖尿病患者の角膜内皮細胞については形態学的異常や内眼手術後のポンプ機能障害の遷延が知られており21),さらに術後遷延する前房内炎症や高眼圧がポンプ機能を妨げ角膜浮腫の一因となる.角膜上皮下に形成された低信号領域は上皮-基底膜接着の障害に加え,内皮ポンプ機能を超えて貯留した水分による間隙の可能性も考えられる.糖尿病症例においては十分に上皮-基底膜接着が完成しないことと角膜実質浮腫の遷延とが悪循環を生じて簡単に上皮が離し脱落してしまい,びらんの再発を生じやすい.前眼部OCTでは角膜形態と角膜厚の計測を非接触かつ短時間で行うことができるが,これは糖尿病症例のような脆弱な角膜の評価にきわめて有用である.今回筆者らは,糖尿病網膜症患者に硝子体手術を行った後にみられた角膜上皮障害について前眼部OCTを用いて経過観察することにより,生体内における糖尿病角膜症の形態学的特徴を捉え,従来の報告と比較することでその治癒過程について理解を深めることができた.この3例3眼の経験を今後の糖尿病症例に対する治療方針決定と角膜障害への対応の参考としたい.前眼部OCTの活用についても,引き続き検討を重ねていきたい.文献1)SchultzRO,VanHomDL,PetersMAetal:Diabeticker-atopathy.TransAmOphthalmolSoc79:180-199,19812)大橋裕一:糖尿病角膜症.日眼会誌101:105-110,19973)片上千加子:糖尿病角膜症.日本の眼科68:591-596,19974)細谷比左志:糖尿病角膜上皮症.あたらしい眼科23:339-344,20065)HuangD,SwansonEA,LinCPetal:Opticalcoherencetomography.Science254:1178-1181,19916)RadhakrishnanS,RollinsAM,RothJEetal:Real-timeopticalcoherencetomographyoftheanteriorsegmentat1,310nm.ArchOphthalmol119:1179-1185,20017)LimLS,AungHT,AungTetal:Cornealimagingwith———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009253(115)anteriorsegmentopticalcoherencetomographyforlamel-larkeratoplastyprocedures.AmJOphthalmol145:81-90,20088)RadhakrishnanS,GoldsmithJ,HuangDetal:Compari-sonofopticalcoherencetomographyandultrasoundbio-microscopyfordetectionofnarrowanteriorchamberangles.ArchOphthalmol123:1053-1059,20059)SchwartzDE:Cornealsensitivityindiabetics.ArchOph-thalmol91:174-178,197410)RogellGD:Cornealhypesthesiaandretinopathyindiabe-tesmellitus.Ophthalmology87:229-233,198011)SchultzRO,PetersMA,SobocinskiKetal:Diabeticker-atopathyasamenifestationofperipheralneuropathy.AmJOphthalmol96:368-371,198312)AzarDT,Spurr-MichaudSJ,TisdaleASetal:Decreasedpenetrationofanchoringbrilsintothediabeticstroma.Amorphometricanalysis.ArchOphthalmol107:1520-1523,198913)AzarDT,Spurr-MichaudSJ,TisdaleASetal:Alteredepithelialbasementmembraneinteractionsindiabeticcorneas.ArchOphthalmol110:537-540,199214)KajiY,UsuiT,OshikaTetal:Advancedglycationendproductsindiabeticcorneas.InvestOphthalmolVisSci41:362-368,200015)TsubotaK,ChibaK,ShimazakiJ:Cornealepitheliumindiabeticpatients.Cornea10:156-160,199116)HosotaniH,OhashiY,YamadaMetal:Reversalofabnormalcornealepithelialcellmorphologiccharacteris-ticsandreducedcornealsensitivityindiabeticpatientsbyaldosereductaseinhibitor,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糖尿病患者における白内障術前の結膜嚢細菌叢の検討

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1(105)2430910-1810/09/\100/頁/JCLS14回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科26(2):243246,2009cはじめに白内障手術に限らず術後眼内炎は一度発症すると,それによる患者側の負担や不利益のみならず,術者側にもあらゆる面で大きな負担と責任とが重くのしかかる.白内障手術における術後眼内炎発症率は0.05%と報告されている1)が,それを低減するために危険因子の軽減が重要である.術後眼内炎における危険因子のうち,患者側のものとしては,糖尿病の合併が報告されている2,3).一方,近年白内障手術における術後眼内炎の起因菌として結膜内常在菌が関与していることも知られている.特に,糖尿病患者における血糖コントロールは慢性合併症の発症に大きく関わり,血糖コントロール不良状態では易感染性が増すとの報告もある4).このため結膜内常在菌叢が何らかの影響を受ける可能性が考えられることから,術後眼内炎の危険因子になることが懸念される.〔別刷請求先〕須藤史子:〒349-1105埼玉県北葛飾郡栗橋町大字小右衛門714-6埼玉県済生会栗橋病院眼科Reprintrequests:ChikakoSuto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaitamakenSaiseikaiKurihashiHospital,714-6Koemon,Kurihashi-machi,Kitakatsushika-gun,Saitama349-1105,JAPAN糖尿病患者における白内障術前の結膜細菌叢の検討屋宜友子*1,2須藤史子*1,2森永将弘*1,2八代智恵子*3土至田宏*4堀貞夫*2*1埼玉県済生会栗橋病院眼科*2東京女子医科大学眼科学教室*3埼玉県済生会栗橋病臨床検査部*4順天堂大学医学部眼科学教室StudyofConjunctivalSacBacterialFlorainDiabeticPatientsbeforeCataractSurgeryTomokoYagi1,2),ChikakoSuto1,2),MasahiroMorinaga1,2),ChiekoYashiro3),HiroshiToshida4)andSadaoHori2)1)DepartmentofOphthalmology,SaitamakenSaiseikaiKurihashiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,3)LaboratoryDepartment,SaitamakenSaiseikaiKurihashiHospital,4)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine白内障術前患者249例406眼の下眼瞼結膜擦過培養および検出菌薬剤感受性検査結果を糖尿病の有無により比較検討した.糖尿病患者(DM群)は75例126眼,非糖尿病患者(非DM群)は174例280眼で,平均年齢は各々70.2±9.4歳,72.6±8.9歳,細菌検出率は36.5%,34.3%といずれも両群間に統計学的有意差を認めず,DM群ヘモグロビン(Hb)A1C8%以上とそれ未満との比較でも有意差は認められなかった.菌種別では,両群ともにコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS),コリネバクテリウムの順に多く,これらで大半を占め,3位はメチシリン耐性CNS(MRCNS)であったがDM群で統計学的に有意に多く検出された(p<0.05).薬剤耐性率はレボフロキサシン(LVFX),セフメノキシム(CMX),トブラマイシン(TOB)のいずれにおいても両群間の差は認められなかった.MRCNSの薬剤耐性率は近年増加傾向にあるが,特に糖尿病患者において注意を要する.Conjunctivalscrapingsfromthelowereyelidwereculturedin249patients(406eyes)beforecataractsur-gery;thedrugsensitivityofthebacteriadetectedwascomparedbetweenpatientswithandwithoutdiabetes.Therewere126eyesof75patientswithdiabetes(DMgroup)and280eyesof174patientswithoutdiabetes.Indiabeticpatientswithhemoglobin(Hb)A1Clevels8%or<8%,meanage(70.2±9.4vs.72.6±8.9years)andbac-terialdetectionrate(36.5%vs.34.3%)werenotsignicantlydierent.Themajorbacterialstrainsfoundwerecoagulase-negativeStaphylococcus(CNS)andCorynebacterium,followedbymethicillin-resistantCNS(MRCNS).TherewasasignicantlyhigherbacterialdetectionrateintheDMgroup(p<0.05).Therewerenodierencesbetweenthegroupsregardingratesofresistancetolebooxacin(LVFX),cefmenoxime(CMX),andtobramycin(TOB).MRCNSresistancehasbeenincreasingrecently,socareshouldbetaken,especiallyindiabeticpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):243246,2009〕Keywords:白内障手術,結膜細菌叢,糖尿病患者,メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS),耐性菌.cataractsurgery,conjunctivalsacbacterialora,diabeticpatients,methicillin-resistantcoagulase-negativeStaphylococcus(MRCNS),antibiotics-resistance———————————————————————-Page2244あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(106)さらに血糖コントロール不良患者では細菌検出率が有意に高いとの報告もある5).その一方で糖尿病は術後眼内炎の危険因子ではないとの報告もある6).そこで今回筆者らは,糖尿病の有無による結膜細菌叢および検出菌の抗菌薬耐性の差に関する検討を行った.I対象および方法対象は,2006年1月から2007年6月の1年半の間に埼玉県済生会栗橋病院で白内障手術を施行した249例406眼で,その内訳は男性107例171眼(43.0%),女性142例235眼(57.0%)であった.年齢は71.8±9.1歳(平均±標準偏差)であった.結膜細菌検査は手術の約2週間前に行い,検体は滅菌綿棒(トランシステムクリア,スギヤマゲン社,東京)を用いて無麻酔下で下眼瞼結膜を擦過し採取,1時間以内に当院臨床検査部に移送し,血液寒天培地およびチョコレート寒天培地上で35℃,2448時間培養後に,従来法で判定した.なお,嫌気性培養,増菌培養は未施行であった.薬剤感受性検査は,CLSI(ClinicalandLaboratoryStandardsInsti-tute)M100-S177)に準拠し,Disc拡散法(Sensi-Discを用いたKirby-Bauer法),およびRAISUS(全自動迅速同定感受性測定装置)を用いた微量液体希釈法にて測定した.検討項目は,1.結膜細菌検出率,2.検出菌の内訳,3.検出菌の薬剤耐性率で,さらにこれらを糖尿病の有無により比較検討した.薬剤感受性検査の対象薬剤は,レボフロキサシン(LVFX),セフメノキシム(CMX),トブラマイシン(TOB)の3種とした.なお,本研究においては白内障術前結膜の減菌を理想としているため,感受性が中間のものは耐性として扱った.II結果1.対象患者の内訳(表1)対象患者249例406眼のうち,糖尿病患者(以下,DM群)は75例126眼(31.0%),非糖尿病患者(以下,非DM群)は174例280眼(69.0%)であった.年齢はDM群70.2±9.4歳,非DM群72.6±8.9歳,男女比はDM群で男性36例(48.0%),女性39例(52.0%),非DM群で男性71例(40.8%),女性103例(59.2%)であった.年齢および性差は,両群間で統計学的有意差を認めなかった.2.結膜細菌検出率分離された細菌は全体で406眼中142眼で検出され,細菌検出率は35.0%であった.DMの有無別ではDM群では126眼中46眼(36.5%),非DM群では280眼中96眼(34.3%)であり,両群間に統計学的有意差は認めなかった.さらにDM群を血糖コントロールの面から検討すべくヘモグロビンA1C(HbA1C)8%以上のコントロール不良例と8%未満とで比較したところ,HbA1C8%以上の群では14例25眼中7眼で細菌分離され,その検出率は28.0%,8%未満は61例101眼中39眼で細菌分離され,その検出率は38.6%と,両群間に統計学的有意差は認めなかった.3.検出菌の内訳(表2)菌種別では,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)67株(37.6%),コリネバクテリウム66株(37.1%)が大半を占め,これら2種で75%近くを占めた.3位にはメチシリン耐性CNS(MRCNS)が21株(11.8%)検出され,続いて腸球菌が6株(3.4%)検出された.検出菌をDM群,非DM群に分けて検討した結果,CNSは各々31.3%,41.2%,コリネバクテリウムは各々37.5%,36.8%と,ともに上位2種の順位および割合は不変であったが,MRCNSの検出率は各々20.3%,7.0%と,DM群で非DM群に比べて統計学的に有意に高かった(c2検定p<0.05).DM群のうちMRCNS陽表1対象患者の内訳患者総数(249例406眼)糖尿病患者75例126眼(31%)非糖尿病患者174例280眼(69%)平均年齢70.2±9.4歳72.6±8.9歳男性36例(48.0%)71例(40.8%)女性39例(52.0%)103例(59.2%)年齢および性差は,両群間で統計学的有意差を認めなかった.表2検出菌の内訳全患者糖尿病患者非糖尿病患者株%株%株%CNS6737.62031.34741.2Colynebacterium6637.12437.54236.8MRCNS2111.81320.3*87.0*腸球菌63.4MSSA52.8*:MRCNSの検出率のみDM群で非DM群に比べて統計学的に有意に高かった(c2検定p<0.05).:DM群:非DM群2520151050薬剤耐性率(%)13.518.823.114.623.117.7LVFXCMXTOB図1検出菌の薬剤耐性率両群間の薬剤耐性率は3剤ともに統計学的有意差を認めなかった.LVFX:レボフロキサシン,CMX:セフメノキシム,TOM:トブラマイシン.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009245(107)性群と陰性群それぞれの抗菌点眼薬の使用既往の有無について検討したところ,陽性群で30.7%,陰性群で28.3%であり,統計学的有意差は認められなかった.4.検出菌の薬剤耐性率(図1)薬剤耐性率は検出菌全体でLVFX16.9%,CMX17.6%,TOB19.6%であった.DM群,非DM群別にみると,LVFXは各々13.5%,18.8%,CMXは各々23.1%,14.6%,TOBは各々23.1%,17.7%と,両群間の薬剤耐性率は3剤ともに統計学的有意差を認めなかった.III考察糖尿病患者は網膜症の管理の必要性があるため眼科を受診し,合併症が発見されれば加療が必要となるケースが多い.糖尿病患者における易感染性は眼科領域に限らず一般によく知られており8,9),機序としては細小血管障害による循環障害,インスリン代謝異常に基づく低栄養状態により組織での細胞性免疫能低下や好中球遊走能低下などが考えられている.なかでも眼科領域では糖尿病が術後眼内炎の危険因子となるとの報告もある2,3).血糖コントロールに関しても,HbA1C8%以上のコントロール不良例では細菌検出率が有意に高いとの報告もある5).今回筆者らは白内障術前患者を対象に細菌検出率,検出菌内訳,薬剤耐性率を糖尿病の有無別に検討したが,両群間に統計学的有意差を認めなかった.本報告では細菌検出率が35%と,既報1013)と比べると低めの数値を示しているが,これは細菌検出の際の設備や検査方法の違いによるものと思われる.宮永らの報告14)では,細菌培養結果を5施設間で検討したところ,検査施設により細菌検出率や菌種検出傾向に差があることが指摘されており,検出率を単純に比較できない可能性が示唆される.さらに,好気培養のほかに嫌気培養も合わせて施行しているところが多いが,本研究では保険点数上のコストの問題から,嫌気培養は施行していなかった.そのため検出の際に嫌気状態を必要とする,結膜内常在菌の主要菌であるPropionibac-teriumacnes(P.acnes)15)は今回の結果には反映されていない.増菌培養が未施行である点も,細菌検出率が低い一因と考えられる.しかし,菌種の内訳としてはCNSが最多であった点は,既報と同様の傾向であった16,17).本研究では,コリネバクテリウムは2番目に多く検出されているが,この順位は既報1013,16,17)と比較すると,同様のもの13)と相違するもの1012,16,17)に分かれる.これは各施設の検査結果の報告方法の違いにより影響されると思われる.すなわち,Staphylo-coccus属の菌を種レベルまで同定しているか否か,あるいはCNSとしてまとめて報告しているかによって変わってくるからである.コリネバクテリウムは通常は病原性に乏しいが,近年ではLVFX耐性コリネバクテリウムが増えており,眼感染症の一因となるとの報告もあり注意を要する18).今回の検討で,細菌検出率で唯一有意差を認めたのはMRCNSで,DM群で非DM群に対し統計学的に有意に高率であった.CNSには表皮ブドウ球菌をはじめ多くの菌種が存在するが,本来は病原性が弱いといわれている.しかし近年は耐性率が増加しつつあり,特にMRCNSによる眼感染症の報告も増加している1921).DM群でMRCNSが高率であった理由として考えられるのは,糖尿病の易感染性,日和見感染や不顕性感染などがあげられる.抗菌点眼薬の使用歴のない症例が対象であったKatoらの報告では,高齢者の健常者の結膜からもMRCNSとMRSAが常在菌として検出されたと報告している22).また,マイボーム腺および結膜内の常在細菌叢における薬剤耐性率は一般に高齢者で増加する傾向がある13).自験例においても同様に高齢者は60歳以下に比べて有意に細菌検出率が高かった(森永将弘ほか:第31回日本眼科手術学会で発表).今回DM群のMRCNS陽性群と陰性群それぞれの抗菌点眼薬の使用既往の有無について検討したが,統計学的に有意差は認められなかった.以上のことより,何らかの眼感染症に対し抗菌薬を使用したことによって薬剤耐性を獲得したと考えるよりも,高齢者とDM患者に共通している抵抗力低下,易感染性によるものと考えられる.しかし一方で,眼感染症の既往がなくても多臓器や他の部位における感染症治療で過去に抗菌薬が投与され,常在菌が薬剤耐性を獲得した可能性も考慮すべきではないかと思われた.自験例での結膜細菌叢からの検出菌は,本報告で対象としたLVFX,CMX,TOBのすべての抗菌薬において何らかの耐性菌が認められ,反対に薬剤感受性検査を施行したすべての菌種で,いずれかの抗菌薬に対する耐性が認められた.特にMRCNSは多剤耐性を示したことから,MRCNSが検出された場合その薬剤感受性検査結果に基づいた抗菌薬の選択をすべきと考えられた.日本眼感染症学会は1994年CMX点眼,2006年にはLVFXの術前点眼を推奨している23,24)が,画一的に抗菌薬を術前投与していたのでは少なからず抜け道がある可能性も否定できないと思われた.今回糖尿病の有無および血糖コントロールの良否で結膜細菌叢の検討を行ったが,菌検出に際し目立った差異は認められなかった.薬剤耐性菌でのみ有意差が出たのは,糖尿病による易感染性が背景にあることは無視できない事実であると考えられた.文献1)OshikaT,HatanoH,KuwayamaYetal:IncidenceofendophthalmitisaftercataractsurgeryinJapan.ActaOphthalmolScand85:848-851,20072)KattanHM,FlynnHWJr,PugfelderSCetal:Nosoco-mialendophthalmitissurvey.Currentincidenceofinfec———————————————————————–Page4246あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(108)tionafterintraocularsurgery.Ophthalmology98:227-238,19913)PhillipsWB2nd,TasmanWS:Postoperativeendophthal-mitisinassociationwithdiabetesmellitus.Ophthalmology101:508-518,19944)有山泰代,上原豊,清水弘行ほか:感染性眼内炎を併発したコントロール不良糖尿病の4例.眼紀57:726-729,20065)稗田牧,山口哲男,北川厚子ほか:糖尿病患者の白内障手術時における結膜内常在菌叢.眼紀46:1148-1151,19956)MontanPG,KoranyiG,SetterquistHEetal:Endophthal-mitisaftercataractsurgery:Riskfactorsrelatingtotech-niqueandeventsoftheoperationandpatienthistory:Aretrospectivecase-controlstudy.Ophthalmology105:2171-2177,19887)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute.PerformanceStandardsforAntimicrobialSusceptibilityTesting,Seven-teenthInformationalSupplement(M100-S17);CLSI,Wayne,PA,20078)GottrupF,AndreassenTT:Healingofincisionalwoundsinstomachandduodenum:Theinuenceofexperimentaldiabetes.JSurgRes31:61-68,19819)RayeldEJ,AultMJ,KeuschGTetal:Infectionanddia-betes:Thecaseforglucosecontrol.AmJMed72:439-450,198210)丸山勝彦,藤田聡,熊倉重人ほか:手術前の外来患者における結膜内常在菌.あたらしい眼科18:646-650,200111)宇野敏彦:術前感染症予防とEBM.あたらしい眼科22:889-893,200512)大鹿哲郎:術後眼内炎.眼科プラクティス1,p2-11,文光堂,200513)荒川妙,太刀川貴子,大橋正明ほか:高齢者におけるマイボーム腺および結膜内の常在菌叢についての検討.あたらしい眼科21:1241-1244,200414)宮永将,佐々木香る,宮井尊史ほか:5検査施設間での白内障術前結膜培養結果の比較.臨眼61:2143-2147,200715)浅利誠志:細菌検査の落とし穴.あたらしい眼科23:479-480,200616)関奈央子,亀井裕子,松原正男:高齢者の結膜内コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の検出率と薬剤感受性.あたらしい眼科20:677-680,200317)宮尾益也:眼感染症と耐性菌.眼科43:923-931,200118)外園千恵:常在微生物叢と眼感染症.あたらしい眼科25:59-60,200819)稲垣香代子,外園千恵,佐野洋一郎ほか:眼科領域におけるMRSA検出動向と臨床経過.あたらしい眼科20:1129-1132,200320)西崎暁子,外園千恵,中井義典ほか:眼感染症におけるMRSAおよびMRCNSの検出頻度と薬剤感受性.あたらしい眼科23:1461-1463,200621)外園千恵:MRSA,MRCNSによる眼感染症.日本の眼科77:1413-1414,200622)KatoT,HayasakaS:Methicillin-resistantStaphylococcusaureusandmethicillin-resistantcoagulase-negativestaph-ylococcifromconjunctivasofpreoperativepatients.JpnJOphthalmol42:461-465,199823)北野周作:白内障手術:戦略のたてかた─白内障術前無菌法─.眼科手術8:717-719,199524)井上幸次:術前減菌法.眼科手術19:493-495,2006***

眼内炎・肥厚性硬膜炎を発症した糖尿病網膜症患者の1例

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1(101)2390910-1810/09/\100/頁/JCLS14回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科26(2):239242,2009cはじめに肥厚性硬膜炎は脳硬膜の炎症と線維性の肥厚を生じ,多発性脳神経麻痺を中核とする多彩な症候を示す疾患であり1),多彩な原因で起こる2).磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)の発達により診断されることが多くなり3),眼科領域においてもさまざまな眼病変の報告419)が増加してきている.今回眼内炎と肥厚性硬膜炎を発症した糖尿病患者の1例を経験したので報告する.I症例患者:60歳,男性.主訴:左眼視力低下.初診:2004年9月8日.現病歴:2003年9月から左眼視力低下があり,2004年9月6日近医を受診し,紹介され国立国際医療センター眼科初診となった.既往歴:47歳頃左眼白内障手術を受けた.〔別刷請求先〕武田憲夫:〒162-8655東京都新宿区戸山1-21-1国立国際医療センター戸山病院眼科Reprintrequests:NorioTakeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ToyamaHospital,InternationalMedicalCenterofJapan,1-21-1Toyama,Shinjuku-ku,Tokyo162-8655,JAPAN眼内炎・肥厚性硬膜炎を発症した糖尿病網膜症患者の1例武田憲夫*1竹内壮介*2蓮尾金博*3*1国立国際医療センター戸山病院眼科*2同神経内科*3同放射線科ACaseofDiabeticRetinopathywithEndophthalmitisandHypertrophicPachymeningitisNorioTakeda1),SosukeTakeuchi2)andKanehiroHasuo3)1)DepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofNeurology,3)DepartmentofRadiology,ToyamaHospital,InternationalMedicalCenterofJapan肥厚性硬膜炎は多彩な原因で起こり,磁気共鳴画像(MRI)の発達により報告例が増加している疾患である.今回眼内炎と肥厚性硬膜炎を合併した糖尿病網膜症患者の1例を報告する.症例は60歳,男性の糖尿病患者で,糖尿病網膜症に対しては網膜光凝固術が施行されていた.左眼は網膜症が悪化し硝子体手術も施行された.以後眼内炎と眼窩蜂巣炎を発症し薬物療法で加療し軽快したが,頭痛が継続した.造影MRIにて肥厚性硬膜炎が発見され,抗生物質を約9カ月間継続し,頭痛は消失しMRI所見も改善した.肥厚性硬膜炎の診断・経過観察には造影MRIが有用であり,治療には長期の抗生物質投与が有効であった.肥厚性硬膜炎と眼内炎・眼窩蜂巣炎・糖尿病網膜症悪化の関連性が推察された.Hypertrophicpachymeningitisoccursduetovariouscauses;casereportsoftheconditionhaveincreasedwiththedevelopmentofmagneticresonanceimaging(MRI).Inthisreport,wepresentthecaseofa60-year-oldmalewhohaddiabeticretinopathywithendophthalmitisandhypertrophicpachymeningitis.Thediabeticretinopathywastreatedbyphotocoagulation,buttheretinopathyinhislefteyeworsenedandvitreoussurgerywasperformed.Endophthalmitisandorbitalcellulitissubsequentlyoccurred;theywereimprovedbyantibiotictherapy,buthead-achepersisted.HypertrophicpachymeningitiswasdetectedbyenhancedMRI.Afterabout9monthsofantibiotictherapy,theheadachehaddisappearedandMRIndingsimproved.MRIwasusefulindiagnosingandfollowingupthehypertrophicpachymeningitis,andantibiotictherapyoveralongperiodwaseective.Itissuggestedthathypertrophicpachymeningitisisrelatedtoendophthalmitis,orbitalcellulitisanddeteriorationofdiabeticretinopa-thy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):239242,2009〕Keywords:肥厚性硬膜炎,眼内炎,糖尿病網膜症,MRI,糖尿病.hypertrophicpachymeningitis,endophthal-mitis,diabeticretinopathy,MRI,diabetesmellitus.———————————————————————-Page2240あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(102)家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力はVD=0.08(1.5×3.00D(cyl0.50DAx80°),VS=0.03(0.3×5.50D(cyl2.00DAx20°),眼圧は右眼18mmHg,左眼17mmHg,両眼開放隅角(Shaer分類Grade3)であった.細隙灯顕微鏡検査では右眼に初発白内障を認め,左眼は眼内レンズ挿入眼であった.眼底検査では両眼に網膜出血・硬性白斑,左眼に黄斑浮腫を認めた.糖尿病は推定発症年齢35歳で未治療,血糖は246mg/dl,ヘモグロビン(Hb)A1Cは11.2%で,早期腎症(第2期)(尿蛋白:0.40g/日),神経症,高血圧(156/80mmHg),高脂血症(総コレステロール:231mg/dl)がみられた.貧血,低アルブミン血症はみられなかった.経過:蛍光眼底造影検査(uoresceinangiography:FAG)にて左眼に網膜無血管野がみられ,増殖前網膜症であり,10月15日から汎網膜光凝固術を施行した.右眼にもFAGで網膜無血管野がみられ増殖前網膜症へと進行したため,2005年3月7日から汎網膜光凝固術を施行した.左眼黄斑浮腫の増悪がみられ,2006年6月1日に左眼硝子体手術を施行した.その後硝子体出血が起こり9月20日に硝子体手術を施行し,術中増殖膜が認められ網膜症が増殖網膜症へと進行していた.術後胞状網膜離が起こり10月5日左眼硝子体手術を施行したが,裂孔は不明であり滲出性網膜離が疑われた.術後網膜は復位していたが浮腫状であった.10月30日より左眼眼圧上昇が起こりアセタゾラミド錠(ダイアモックスR錠250mg)を内服した.硝子体出血と前房出血もみられ,12月18日には視力は0であった.12月25日には虹彩血管新生が顕著に認められた.2007年1月8日に左眼眼痛と頭痛が起こり,1月9日受診した.左眼に角膜浮腫,前房蓄膿,前房内白色塊がみられた.房水を採取しての検査では鏡検で桿菌状細菌がみられたが,培養では菌の発育を認めなかった.細菌性眼内炎と考えたが視力が0のため硝子体手術は行わず,イミペネム・シラスタチンナトリウム(チエナムR)点滴,レボフロキサシン(クラビットR)内服,レボフロキサシン(クラビットR),トブラマイシン(トブラシンR),リン酸ベタメタゾンナトリウム(リンデロンR液),トロピカミド・塩酸フェニレフリン(ミドリンPR)点眼で治療した.眼瞼腫脹もみられたため1月17日にコンピュータ断層撮影を施行し,左眼周囲の軟部組織腫脹,上眼瞼結膜の著明な増強,下眼瞼の腫脹,涙腺の腫脹,強膜に沿って後方へも広がるTenonの炎症所見がみられ,眼窩蜂巣炎と考えた.1月23日退院となり外来加療となった.しかし頭痛が継続するため2月14日にMRIを撮影し,硬膜の肥厚がみられ肥厚性硬膜炎と診断した(図1,2).2月16日からミノサイクリン塩酸塩(ミノマイシンR錠50mg)2錠内服で加療した.2月23日には眼瞼腫脹は減少し,2月28日には左眼は眼球癆となった.MRIで経過観察しながら加療を継続し硬膜炎は約9カ月後の10月31日のMRIで治癒し(図3,4),11月6日にミノサイクリン塩酸塩(ミノマイシンR錠50mg)内服を中止し,以後再発はみられていない.なお,右眼はFAGで網膜無血管野が増加し,3月7日から網膜光図12007年2月14日のGd(ガドリニウム)造影・T1強調MRI(水平断)左眼は右眼に比べてやや小さく,網膜に沿う層状の増強,強膜の増強,視神経に沿うわずかな増強がみられる.眼球周囲の脂肪織にも混濁と増強がみられ,涙腺も軽度腫脹している.図22007年2月14日のGd造影・T1強調MRI(冠状断)左前頭蓋底の硬膜が肥厚し増強されている(矢印).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009241(103)凝固術を追加したが増殖前網膜症のまま経過している.また,原発開放隅角緑内障を認め7月18日から点眼加療を開始した.黄斑部に硬性白斑の沈着を認め視力は低下した.なお,HbA1Cの推移は2006年3月までは9.011.2%,2006年5月以降は7.08.1%であった.軽度の貧血が起こってきた以外は内科での検査所見に著変はみられなかった.II考按肥厚性硬膜炎は宮田ら1)によると2000年までのわが国における文献報告は22例であり,性差はなく,40歳代以降に多く,臨床症候として多いものは末梢性多発性脳神経症候と頭痛であるとされている.診断には画像診断が重要であり,特にMRIの造影後T1強調画像の検討が必要で20),造影によって初めて異常所見が明瞭となることが多い1).したがって,近年の画像診断の進歩により報告が増加してきている1,3).本症には基礎疾患を明らかにすることができない特発性と,なんらかの基礎疾患を有する続発性があり,続発性の基礎疾患としては感染症,膠原病や血管炎などの慢性炎症性疾患,悪性腫瘍などがある2).治療としては特発性の場合はステロイドが最も多く使用されるが,原因が明らかでなくとも抗生物質や抗結核薬が著効する場合もある21).ステロイドで効果が不十分な場合には免疫抑制薬も使用される21).続発性の場合は基礎疾患に対する治療が主体となる21).また組織診断のための生検,脳神経や脳の圧迫症状に対する減圧術などの外科的治療が必要となることもある22).肥厚性硬膜炎の眼科領域における報告419)を検討すると,視神経症などの視神経障害4,5,811,13,1618)と外眼筋麻痺を含めた視神経以外の脳神経障害48,11,1316,18)の報告が多いが,眼振14),眼窩部痛12),眼球突出16),眼周囲炎症性腫瘍12)などの報告もみられる.さらに結膜浮腫9),結膜充血18),毛様充血11,18),強膜菲薄化11,16,18),交感性眼炎12),上強膜炎15,17),強膜炎18),虹彩毛様体炎11,15,18),虹彩の結節様隆起11),軽度眼圧上昇9),毛様体扁平部の黄白色隆起性病変11),硝子体混濁11,18),網膜血管・静脈拡張9),網膜静脈炎15),網膜出血5,9,11),胞様黄斑浮腫5),網膜浸出物15),滲出性網膜離15)といった外眼部および内眼部所見の多彩な報告がなされている.本症例では肥厚性硬膜炎・眼内炎・眼窩蜂巣炎・糖尿病網膜症悪化がみられたが,これらの関連についてはつぎのような機序が考えられる.1)眼窩蜂巣炎の波及により肥厚性硬膜炎が発症した.2)肥厚性硬膜炎から眼窩蜂巣炎・眼内炎が発症した.3)肥厚性硬膜炎・眼内炎・眼窩蜂巣炎・糖尿病網膜症悪化が互いに関連しあっており,肥厚性硬膜炎が糖尿病網膜症を悪化させた.以下に1)3)をそれぞれ考察する.1)鼻性視神経炎から肥厚性硬膜炎を発症した報告14,19)もなされており,眼窩蜂巣炎の波及により肥厚性硬膜炎を発症した可能性が考えられる.2)肥厚性硬膜炎が多彩な眼症状をきたすという報告は多くなされており,肥厚性硬膜炎から眼窩蜂巣炎・眼内炎が発症したことも考えられる.特に左眼には硝子体手術の手術創があったため眼内炎の原因となりえた可能性もある.また視力が比較的早期に0となったことは肥厚性硬膜炎による視神経障害が起こっていたことも否定図32007年10月31日のGd造影・T1強調MRI(水平断)左眼は縮小・変形し眼球癆の状態である.増強は減弱している.眼球周囲の脂肪織の混濁や増強も消失している.図42007年10月31日のGd造影・T1強調MRI(冠状断)左前頭蓋底の硬膜肥厚および増強が消失している(矢印).———————————————————————-Page4242あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(104)はできない.3)門田ら12)は慢性肥厚性脳硬膜炎と眼球癆となっている右眼周囲炎症性腫瘍を合併した左眼の交感性眼炎の1例を報告し,いずれも自己免疫機序が考えられていること,ステロイドで寛解したことからこれらの疾患の関連性を推測しており,本症例においても眼内炎・眼窩蜂巣炎・肥厚性硬膜炎が互いに関連し合っていたことが考えられる.肥厚性硬膜炎により前述のような多彩な眼内病変が起こりえることから,肥厚性硬膜炎が左眼の糖尿病網膜症になんらかの影響を与えていた可能性も否定はできない.硝子体手術を契機にして原因不明の非裂孔原性網膜離を起こしたり,硝子体出血・前房出血・虹彩血管新生など糖尿病網膜症の悪化をきたしたとも考えられる.本症例においては糖尿病網膜症の悪化が頭痛に先行した.しかし上強膜炎と滲出性網膜離のみで経過し,2年後に多発性脳神経麻痺を発症し確定診断に至ったという浅井ら15)の特発性肥厚性硬髄膜炎の報告がみられる.本症例においても肥厚性硬膜炎が以前より存在した可能性があり,糖尿病網膜症への関与も否定はできない.以上をまとめると,本症例においては特発性肥厚性硬膜炎が先に存在し,手術侵襲と相まって糖尿病網膜症を悪化させ,眼窩蜂巣炎と眼内炎を起こしたのではないかと考えた.今回の肥厚性硬膜炎の診断・経過観察には造影MRI検査が有用であり,治療には長期間の薬物療法が有効であった.肥厚性硬膜炎はMRIにより経過観察を行いながら,長期にわたり根気よく加療することが重要である.糖尿病診療においては多彩な病変を起こす肥厚性硬膜炎にも注意を払う必要がある.文献1)宮田和子,藤井滋樹,高橋昭:肥厚性脳硬膜炎の臨床特徴.神経内科55:216-224,20012)伊藤恒,伊東秀文,日下博文:肥厚性脳硬膜炎─基礎疾患との関連─.神経内科55:197-202,20013)瀬高朝子,塚本忠,大田恵子ほか:肥厚性硬膜炎の臨床的検討.脳神経54:235-240,20024)HamiltonSR,SmithCH,LessellS:Idiopathichypertro-phiccranialpachymeningitis.JClinNeuroophthalmol13:127-134,19935)池田晃三,白井正一郎,山本有香:眼症状を呈した肥厚性脳硬膜炎の1例.臨眼49:877-880,19956)JacobsonDM,AndersonDR,RuppGMetal:Idiopathichypertrophiccranialpachymeningitis:Clinical-radiologi-cal-pathologicalcorrelationofboneinvolvement.JNeu-roophthalmol16:264-268,19967)橋本雅人,大塚賢二,中村靖ほか:外転神経麻痺を初発症状とした慢性肥厚性脳硬膜炎の1例.臨眼51:1893-1896,19978)GirkinCA,PerryJD,MillerNRetal:Pachymeningitiswithmultiplecranialneuropathiesandunilateralopticneuropathysecondarytopseudomonasaeruginosa.Casereportandreview.JNeuroophthalmol18:196-200,19989)清水里美,松崎忠幸,宮原保之ほか:肥厚性脳硬膜炎による視神経症の1例.眼科41:673-677,199910)石井敦子,石井正三,高萩周作ほか:視交叉部および周辺に肥厚性硬膜炎を認めた1例.臨眼54:637-641,200011)斉藤信夫,松倉修司,気賀澤一輝ほか:多彩な眼症状を呈した肥厚性硬膜炎の1例.臨眼55:1255-1258,200112)門田健,金森章泰,瀬谷隆ほか:慢性肥厚性脳硬膜炎と眼周囲炎症性腫瘍を合併した交感性眼炎の1例.眼紀53:462-466,200213)永田竜朗,徳田安範,西尾陽子ほか:肥厚性硬膜炎による視神経症の1例.臨眼57:1109-1114,200314)三宮曜香,八代成子,武田憲夫ほか:外転神経麻痺を初発とし肥厚性硬膜炎に至った鼻性視神経炎の1例.眼紀54:462-465,200315)浅井裕,森脇光康,柳原順代ほか:上強膜炎,滲出性網膜離から発症した特発性肥厚性硬髄膜炎の1例.眼臨96:853-856,200216)藤田陽子,吉川洋,久冨智朗ほか:眼窩先端部症候群の6例.臨眼59:975-981,200517)新澤恵,山野井貴彦,飯田知弘:Cogan症候群と視神経症を呈したWegener肉芽腫症による肥厚性硬膜炎の1例.神経眼科22:410-417,200518)上田資生,林央子,河野剛也ほか:肥厚性硬膜炎により眼球運動障害をきたした1例.臨眼60:553-557,200619)宋由伽,奥英弘,菅澤淳ほか:副鼻腔炎手術を契機に発症したアスペルギルス症による眼窩先端症候群の一例.神経眼科23:71-77,200620)柳下章:肥厚性脳硬膜炎の画像診断.神経内科55:225-230,200121)大越教夫,庄司進一:肥厚性脳硬膜炎の内科的治療.神経内科55:231-236,200122)吉田一成:肥厚性脳硬膜炎の外科的治療.神経内科55:237-240,2001***

糖尿病網膜症に高度な黄斑部滲出性網膜剥離を認めた症例

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1(97)2350910-1810/09/\100/頁/JCLS14回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科26(2):235238,2009cはじめに糖尿病網膜症に併発する黄斑部漿液性網膜離には,糖尿病黄斑症の悪化がまず考えられる.しかし,高度な黄斑部漿液性網膜離が出現した場合は,他の疾患の合併なども考える必要がある.今回,安定していた糖尿病網膜症に,中心性漿液性脈絡網膜症を合併し,急激に高度の黄斑部漿液性網膜離を生じた症例を経験したので報告する.I症例患者:65歳,男性.初診:平成10年1月30日.主訴:左眼視力低下.既往歴:高血圧(この時点では糖尿病は指摘されていなかった).〔別刷請求先〕緒方奈保子:〒570-8507守口市文園町10-15関西医科大学眼科学教室Reprintrequests:NahokoOgata,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,Fumizono-cho10-15,Moriguchi,Osaka570-8507,JAPAN糖尿病網膜症に高度な黄斑部滲出性網膜離を認めた症例嶋千絵子*1緒方奈保子*1松山加耶子*1松岡雅人*1和田光正*1髙橋寛二*2松村美代*2*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2関西医科大学附属枚方病院眼科SevereSerousMacularDetachmentinaCaseofQuiescentDiabeticRetinopathyChiekoShima1),NahokoOgata1),KayakoMatsuyama1),MasatoMatsuoka1),MitsumasaWada1),KanjiTakahashi2)andMiyoMatsumura2)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital目的:治療後安定していた糖尿病網膜症に,急激に高度な黄斑部滲出性網膜離を生じ,中心性漿液性脈絡網膜症の併発が疑われた症例を経験したので報告する.症例:65歳,男性.初診時左眼中心性漿液性脈絡網膜症と診断し,光凝固治療を行った.7年後,再診時に両眼増殖糖尿病網膜症を認め,汎網膜光凝固と硝子体手術を施行.以後眼底所見は安定していたが,1年後に突然左眼黄斑部に高度の滲出性網膜離を生じた.フルオレセイン蛍光眼底造影検査で網膜色素上皮離とその辺縁からの蛍光漏出を認めた.同部に光凝固を行い,網膜離は消失した.結論:糖尿病網膜症に合併する黄斑部の滲出性網膜離には,糖尿病黄斑症の増悪によるものだけではなく,中心性漿液性脈絡網膜症の併発によることがあり,注意を要する.Wereportacaseofsevereserousretinaldetachmentinthemacularregioninquiescentdiabeticretinopathy.Thepatient,a65-year-oldmale,hadbeentreatedwithphotocoagulationinhislefteyeforcentralserouschori-oretinopathy.Sevenyeaslater,hevisitedourhospitalwithdecreasedvisioninbotheyes.Hepresentedwithprolif-erativediabeticretinopathyinbotheyesandunderwentvitrectomyfollwingpanretinalphotocoagulation.Thereafter,hiseyesshowedquiescentcondition.Oneyearslater,severeserousretinaldetachmentinthemacularregionabruptlyoccurredinhislefteye.Fluoresceinangiographyrevealedpigmentepithelialdetachmentaccompa-niedbydyeleakagefromtheedge.Laserphotocoagulationattheleakagepointsledtocompleteimprovement.Serousretinaldetachmentinthemacularregion,originatingfromcentralserouschorioretinopathy,canappeareveninstableproliferativediabeticretinopathy.Itisimportanttodierentiatecentralserouschorioretinopathyfromseverediabeticmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):235238,2009〕Keywords:漿液性網膜離,糖尿病網膜症,中心性漿液性脈絡網膜症,色素上皮離,糖尿病黄斑浮腫.serousretinaldetachment,diabeticretinopathy,centralserouschorioretinopathy,pigmentepithelialdetachment,diabeticmacularedema.———————————————————————-Page2236あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(98)家族歴:父が高血圧.現病歴:10日前からの左眼視力低下が出現し,近医より左眼黄斑変性疑いにて紹介受診.初診時所見:視力は右眼矯正1.5,左眼矯正0.7.眼圧は右眼15mmHg,左眼16mmHgで,前眼部には異常なく,中間透光体は両眼とも軽度白内障のみであった.眼底には左眼に黄斑部を含む漿液性網膜離と眼底後極部に網膜毛細血管瘤を認め,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)と,光干渉断層計(OCT)にてmicroripと思われる点状漏出を伴う色素上皮離(PED)を認めた(図1a,b).インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)では,早期に脈絡膜充盈遅延と脈絡膜静脈の拡張,中後期に脈絡膜異常組織染を認めた(図1c).右眼に異常は認めなかった.経過:以上より,左眼の中心性漿液性脈絡網膜症と診断し,毛細血管瘤は傍中心窩毛細血管拡張症と診断した.PED辺縁と漏出点に光凝固を施行したところ,3カ月後網膜離は消失し,PEDも扁平化し,視力は矯正1.0まで回復した.しかし,以後受診が途絶えた.平成11年頃より糖尿病を指摘されていたが眼科受診はしなかった.3カ月前からの両眼視力低下を主訴に,7年ぶりに平成17年2月19日眼科受診.視力は右眼矯正0.5,左眼矯正0.2で,両眼ともに眼底に網膜出血と綿花様白斑が多発し,進行した糖尿病網膜症を認めた(図2a).左眼はFAにて広範な無血管野と網膜新生血管を認め,増殖糖尿病網膜症の眼底所見であった.後極部には初診時にも認められたPEDと新たに出現したPEDを認めた(図2b).両眼に汎網膜光凝固を開始し,その後発生した両眼硝子体出血に対して早期早期中期中期動脈相動脈相静脈相静脈相後期後期後期後期中心窩中心窩abc1初診時の左眼眼底所見(H10.1.30)a:FAにて,漏出を伴うPEDと網膜毛細血管瘤を認める.b:OCTにて,黄斑部を含む滲出性網膜離とその上方のPED(矢印)を認める.c:IAにて,上段:動脈相(22秒)で脈絡膜充盈遅延(矢印),中段:静脈相(27秒)で脈絡膜静脈拡張(矢印),下段:後期(12分)に異常脈絡膜組織染(矢印)を認める.ab図2初診から7年後の再診時眼底所見(H17.2.19)a:両眼の眼底写真.綿花様白斑,網膜出血を多数認め,左右同様の糖尿病網膜症を認める.b:左眼のFA.広範な無血管野と網膜新生血管を認め,枠外では以前認めたPED(黒矢印)と,新たに出現したPED(白矢印)を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009237(99)硝子体手術を施行し,以後網膜症は活動性が低下し安定していた(図3).1年後(平成18年6月13日),左眼に突然高度の漿液性網膜離が出現し(図4a),視力は矯正0.09となった.OCTにて黄斑部を含む漿液性網膜離とPEDを認め(図4b),FAでPED辺縁から網膜下への蛍光漏出を認めた(図4c).IAでは,動脈相で脈絡膜充盈遅延と脈絡膜の血管透過性亢進所見を認めた.しかし脈絡膜新生血管を示す網目状血管やポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の所見は認めなかった.以上より,中心性漿液性脈絡網膜症の再発と診断し,PED周囲と漏出部に光凝固を施行した.1カ月後,中心窩の漿液性網膜離とPEDは消失した(図5a,b).視力は糖尿病黄斑症による変性萎縮により矯正0.1にとどまったが,その後1年経過した現在も再発なく安定している.II考察糖尿病網膜症に高度な黄斑部漿液性網膜離が出現した場合,糖尿病黄斑浮腫以外で考えられる病態としては,全身状態の変化,加齢黄斑変性の合併,過剰な汎網膜光凝固,中心性漿液性脈絡網膜症の合併,炎症性疾患(原田病,強膜炎,梅毒性ぶどう膜炎など)の合併,その他の疾患(腫瘍,ピット黄斑症候群など)の合併などがあげられる.今回報告した症例は,初診時,中心性漿液性脈絡網膜症と傍中心窩毛細血管拡張症の併発と診断したが,このときすでに糖尿病網膜症があった可能性がある.7年後再診時には増殖糖尿病網膜症となっており,光凝固と硝子体手術にて眼底所見は約1年間安定していた.しかし,左眼に突然高度漿液性網膜離が出現し,FAにてPED辺縁からの強い漏出を認めた.このFA所見より,本症例は糖尿病網膜症に中心性漿液性脈絡網膜症が併発し,漿液性網膜離が出現したと考え,光凝固を施行し,網膜離は消失した.ab図5治癒後の左眼眼底所見(H19.3.17)a:眼底写真,b:OCT.網膜離は消失し,滲出性変化は認めない.図3安定時の左眼FA(H18.2.17)PEDのみ過蛍光を示すが,滲出性変化は認めない.①②①②acb図4漿液性網膜離出現時の左眼眼底所見(H18.6.13)a:眼底写真.黄斑部を含む広範な高度漿液性網膜離が出現.b:aの眼底写真の①②に対応するOCT所見.黄斑部を含む漿液性網膜離とPEDを認める.c:FAにて,PED辺縁からの漏出を認める(矢印).上:早期,下:後期.———————————————————————-Page4238あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(100)糖尿病網膜症とともに,糖尿病脈絡膜症の存在も明らかにされてきており1,2),糖尿病脈絡膜症の組織では,内皮基底膜の肥厚による脈絡膜毛細血管の狭細化,閉塞や脱落,脈絡膜内微小血管異常や血管瘤,新生血管などが知られている.一方,中心性漿液性脈絡網膜症は,脈絡膜血管透過性が亢進し,二次的に網膜色素上皮が障害され,漿液性網膜離が生じると考えられているが,なぜ脈絡膜病変が生じるか,循環不全と血管透過性亢進との関係は不明である.他の眼疾患や全身状態の変化の際に中心性漿液性脈絡網膜症が合併することもある.ステロイドの全身投与による併発はよく知られているが,高血圧性網膜症3)や正常妊娠4)での合併,糖尿病黄斑浮腫に対するステロイド局所治療による発症5)などの報告もある.それぞれ,高血圧性脈絡膜症と同様の変化や,血栓傾向による脈絡膜循環障害から二次性中心性漿液性脈絡網膜症をきたすこと,ステロイドによる色素上皮の損傷修復過程の抑制などが原因と考えられている.糖尿病網膜症では,脈絡膜循環障害や遷延する黄斑浮腫などにより網膜色素上皮の障害を受けやすい.さらに糖尿病網膜症では中心窩脈絡膜血流量が低下しているとの報告もある6).従来少ないとされていた糖尿病網膜症に合併する加齢黄斑変性の報告は散見される79).しかし中心性漿液性脈絡網膜症の合併の報告は筆者らの検索の限りではみられなかった.この理由として,一つには好発年齢の違いがあげられる.中心性漿液性脈絡網膜症は3050歳と比較的若年であり,高齢者には少ないのに対して,糖尿病網膜症は40歳代から増加し60歳代が最も多く,好発年齢に差がある.2つ目の理由として,糖尿病網膜症では網膜血管透過性亢進,網膜色素上皮障害や網膜毛細血管瘤からの漏出所見などを伴うため,中心性漿液性脈絡網膜症を合併しても漏出点がマスクされて糖尿病黄斑浮腫と診断され,診断しにくいことがあげられる.糖尿病網膜症に併発した黄斑部漿液性網膜離は,高度な黄斑部滲出性網膜離の場合,中心性漿液性脈絡網膜症を併発していることもあり,注意を要する.文献1)竹田宗泰:糖尿病脈絡膜症─病態研究の新しい視点─.あたらしい眼科20:919-924,20032)福島伊知郎:糖尿病脈絡膜症の病態と脈絡膜循環.DiabetesFrontier15:293-296,20043)山田英里,山田晴彦,山田日出美:中心性漿液性脈絡網膜症を発症した高血圧性網脈絡膜症.臨眼61:1867-1872,20074)今義勝,永富智浩,西岡木綿子ほか:正常妊娠後期に合併した中心性漿液性脈絡網膜症の1例.臨眼60:473-476,20065)ImasawaM,OhshiroT,GotohTetal:Centralserouschorioretinopathyfollowingvitrectomywithintravitrealtriamcinoloneacetonidefordiabeticmacularedema.ActaOphthalmolScand83:132-133,20056)NagaokaT,KitayaN,SugawaraRetal:Alterationofchoroidalcirculationinthefovealregioninpatientswithtype2diabetes.BrJOphthalmol88:1060-1063,20047)KleinR,BarbaraE,ScotEetal:Diabetes,hyperglycemiaandage-relatedmaculopathy.Thebeavereyestudy.Oph-thalmology99:1527-1534,19928)ZylbermannR,LandauD,RozenmanYetal:Exudativeage-relatedmaculardegenerationinpatientswithdiabet-icretinopathyanditsrelationtoretinallaserphotocoagu-lation.Eye11:872-875,19979)宮嶋秀彰,竹田宗泰,今泉寛子ほか:糖尿病網膜症に伴う脈絡膜新生血管の臨床像と経時的変化.眼紀52:498-504,2001***

アスタキサンチンによる房水中Superoxide消去活性への影響

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1(91)2290910-1810/09/\100/頁/JCLS47回日本白内障学会原著》あたらしい眼科26(2):229234,2009cはじめにさまざまな病態の発症進展の要因として過酸化反応(オキシデーション)の関与が明らかになるにつれ,その防御策として抗酸化物質への期待が高まっている.眼科領域においても例外ではなく,白内障や糖尿病網膜症,ぶどう膜炎や加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)など種々の病態に対し,抗酸化剤が期待されている1).われわれが日常,経口的に摂取する天然抗酸化物質としては,ビタミンAの前駆体であるカロテノイド,ビタミンC,ビタミンEがあげられるが,近年,カロテノイドの一種であるアスタキサンチン(astaxanthin:AX)が,その強力な抗酸化作用や天然抗酸化物質としての安全性から注目され,多方面からの研究が進められている2)(図1).筆者らも,AXに関し現在研究を進めているが,第46回日本白内障学会総会において,AXが白内障手術後の抗炎症効果として有用であったことを報告している3).〔別刷請求先〕橋本浩隆:〒305-0021つくば市古来530つくば橋本眼科Reprintrequests:HirotakaHashimoto,M.D.,TsukubaHashimotoOpticalClinic,530Furuku,Tsukuba-shi305-0021,JAPANアスタキサンチンによる房水中Superoxide消去活性への影響橋本浩隆*1,2新井清美*2高橋二郎*3筑田眞*2小原喜隆*4*1つくば橋本眼科*2獨協医科大学越谷病院眼科*3富士化学工業株式会社*4国際医療福祉大学視機能療法学科EectofAstaxanthinConsumptiononSuperoxideScavengingActivityinAqueousHumorHirotakaHashimoto1,2),KiyomiArai2),JiroTakahashi3),MakotoChikuda2)andYoshitakaObara4)1)TsukubaHashimotoOpticalClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KoshigayaHospital,DokkyoUniversitySchoolofMedicine,3)FujiChemicalIndustryCo.,LTD.,4)DepartmentofOrthopticsandVisualSciences,InternationalUniversityofHealthandWelfareアスタキサンチン(AX)摂取によるsuperoxide消去活性(O2・活性)への影響をヒト房水から検討した.対象は両眼の白内障手術を施行した35例であり,両眼の手術をAX摂取(2週間,6mg/日)前後で行い,術中採取した房水からニトロブルーテトラゾリウム(NBT)還元法でO2・活性(U/ml)を測定した.糖尿病(DM)の有無で非DM群19例とDM群16例に分類し,O2・活性,変化率(%),性差から比較した.AX摂取前後のO2・活性は,DM群が摂取後で有意に上昇した.変化率もDM群で大きい傾向があった.性差では,非DM群のAX摂取前後の比較で,O2・活性は有意に男性の摂取後で上昇した.AX摂取前値のO2・活性の男女比較では,有意に男性が低値であった.DM群のO2・活性は,有意に男性の摂取後で上昇した.変化率では,非DM群の男性で有意に変化率が高かった.糖尿病者では低下していたO2・活性がAX摂取で正常人レベルに上昇した可能性があり,特に男性がより有効であった.Weexaminedtheeectofastaxanthin(AX)consumptiononsuperoxide-scavengingactivity(O2・activity)inaqueoushumor.Thesubjectscomprised35patientswhowerescheduledforcataractsurgeryonbotheyes.Sur-geryononeeyewasperformedbeforeAXconsumption(for2weeks,6mg/day);surgeryontheothereyewasperformedafterAXconsumption,andO2・activity(U/ml)wasmeasured.Basedonthepresenceofdiabetes(DM),thesubjectswereclassiedintotwogroups,thenon-DMgroupandtheDMgroup;O2・activityandrateofchange(%)werecomparedbetweenthegroupsbysex.O2・activitywassignicantlyincreasedbyAXconsump-tionintheDMgroup.Regardingdierencesbysex,O2・activitybeforeAXconsumptionwassignicantlylowerinmalesandincreasedsignicantlyafterAXconsumptioninmales.Therateofchangewassignicantlyhighformalesinthenon-DMgroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):229234,2009〕Keywords:アスタキサンチン,房水,スーパーオキサイド,抗酸化,活性酸素.astaxanthin,aqueoushumor,superoxide,antioxidant,activeoxygen.———————————————————————-Page2230あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(92)眼疾患においては,カロテノイドの一種であるルテインがサプリメントとしてAMDに対し有効とされ広く推奨されている3,4)が,AXも眼内における抗酸化作用が明らかとなれば,白内障をはじめとしてオキシデーションが関連した種々の疾患に有用な物質として認識される可能性がある.今回筆者らは,AX摂取による眼内への影響について,ヒト房水中のsuperoxide消去活性の変化から検討を行うこととした.I対象および方法1.対象対象は,つくば橋本眼科にて両眼の白内障手術を施行した35例である.ぶどう膜炎など,炎症をきたしやすい疾患を有する例や8ジオプトリー以上の高度な屈折以上を有する例,核の硬化が著しい例,散瞳が不良な例,手術に難渋が予想された例,また,他のサプリメントを摂取している者は除外した.AXの摂取にあたっては,対象者に研究の趣旨をよく説明し,本人の同意を得て研究を行った.研究のためAXの摂取が必要である期間中において,何らかの理由により摂取継続を希望しない例は,速やかに摂取を中止することとし対象外とした.糖尿病者は過酸化反応が進行しやすいことから,対象者を糖尿病の有無で分類し,非糖尿病群(以下,非DM群と略)19例と,糖尿病群(以下,DM群と略)16例の2群に分けて比較検討した.平均年齢は,非DM群71.5±7.6歳,DM群70.3±6.2歳であり両群に差はなかった.2.方法両眼の白内障手術を行うにあたり,1眼目の手術の直後からAX摂取を開始し,2週間後に2眼目の手術を施行した.各々の手術において術中に1次房水を採取し,採取液(房水)を速やかに窒素ガス充のうえ,40℃で測定までの間冷凍保存した.その採取液から,ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)還元法でsuperoxide消去活性の測定を行った5).試薬は,和光純薬のSODテストワコーRを用いた.今回用いたこの方法では,superoxidedismutase(SOD)のほか,還元型グルタチオン(GSH:glutathione)やL-アスコルビン酸などSOD以外のsuperoxide消去物質の活性も含めたtotalのsuperoxide消去活性を測定している.得られたデータを解析し,非DM群とDM群の2群で,消去活性値,変化率,性差から比較検討を行った.AX摂取前後のsuperoxide消去活性の変化率は,以下の式を用いて算出した.AX摂取前後のsuperoxide消去活性の変化率(%)=(摂取後のsuperoxide消去活性摂取前のsuperoxide消去活性)/摂取後のsuperoxide消去活性×100データの解析には,Mann-WhitneyのU検定とWilcoxonの符号付順位和検定を,比較する対象に応じて用いた.AXの摂取量は6mg/日であり,1眼目の手術当日から2眼目の手術までの間,毎日継続して摂取した.AXの摂取には,市販品サプリメントであるアスタビータR(富士化学工業株式会社製)を用いた.II結果(図26)1.DMの有無での比較1)AX摂取とsuperoxide消去活性値の関係は,非DM群で摂取前18.8±3.1U/ml,摂取後19.7±2.5U/ml,DM群で摂取前17.5±5.1U/ml,摂取後20.1±4.7U/mlであり,両群ともに摂取後にsuperoxide消去活性が高くなったが,特にDM群では有意(p<0.05,Wilcoxonの符号付順位和検定)に上昇した(図2).2)AX摂取前後の変化率は,非DM群で3.6±18.3%,DMHOOHOO図1アスタキサンチンの構造式変化率(%)806040200-20-40非DM群(n=19)DM群(n=16)図3AX摂取によるsuperoxide消去活性の変化率消去活性摂取摂取=19):DM群(n=16)**:p<0.05,Wilcoxonの符号付順位和検定図2AX摂取とsuperoxide消去活性の関係———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009231(93)群で12.0±20.6%であり,DM群で変化率は高い傾向があったが,両群間で有意差はなかった(図3).2.男女の比較1)性差による比較では,非DM群でsuperoxide消去活性値をAX摂取前後で比べると,男性はAX摂取前16.9±1.7U/ml,AX摂取後20.0±1.4U/ml,女性ではAX摂取前20.0±3.3U/ml,AX摂取後19.6±3.0U/mlであり,AX摂取後において有意(p<0.05,Wilcoxonの符号付順位和検定)に男性が上昇した.AX摂取前値においては,男女比較で,有意(p<0.05,Mann-WhitneyのU検定)に男性が低値であった(図4-a).DM群の男性はAX摂取前16.7±5.2U/ml,AX摂取後20.0±5.0U/ml,女性はAX摂取前18.7±5.3U/ml,AX摂取後20.2±5.2U/mlであり,男性の摂取前後で有意(p<0.05,Wilcoxonの符号付順位和検定)に上昇した.DM群ではAX摂取前後で男女差はなかった(図4-b).2)変化率では,非DM群で男性15.2±9.1%,女性3.2±19.2%,DM群で男性16.1±20.7%,女性6.8±20.6%であり,両群ともに男性で変化率が高くなっていた.特に,非DM群では値にばらつきも少なく,男性で有意(p<0.05,Mann-WhitneyのU検定)に変化率が高くみられた(図5).3)全体的に性差の影響を検討するため,非DM群とDMSuperoxide消去活性値(U/ml)262422201816141210摂取前a.非DM群b.DM群2週間摂取後:非DM群男性(n=7):非DM群女性(n=12)****:p<0.05,Mann-WhitneyUtest**:p<0.05,Wilcoxonの符号付順位和検定Superoxide消去活性値(U/m?)262422201816141210摂取前2週間摂取後:DM群男性(n=9):DM群女性(n=7)**:p<0.05,Wilcoxonの符号付順位和検定図4AX摂取とsuperoxide消去活性の関係(男女比較)*a.非DM群b.DM群*:p<0.05,Mann-WhitneyUtest変化率(%)806040200-20-40男性(n=7)女性(n=12)変化率(%)806040200-20-40男性(n=9)女性(n=7)図5AX摂取によるsuperoxide消去活性の変化率(男女比較)Superoxide消去活性値(U/ml)262422201816141210摂取前2週間摂取後:総男性群(n=16):総女性群(n=19)****:p<0.05,Mann-WhitneyUtest**:p<0.05,Wilcoxonの符号付順位和検定図6AX摂取とsuperoxide消去活性の関係(総男女比較)———————————————————————-Page4232あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(94)群を合わせて(非DM+DM)総男性群と総女性群として検討すると,総男性群で摂取前16.8±3.9U/ml,摂取後20.0±3.5U/ml,総女性群で摂取前19.5±4.0U/ml,摂取後19.8±3.8U/mlであり,総男性群においてAX摂取前後で有意(p<0.05,Wilcoxonの符号付順位和検定)な上昇がみられ,AX摂取前値において総男性群と総女性群の間に有意(p<0.05,Mann-WhitneyのU検定)な差がみられた(図6).III考按好気性生物には,活性酸素・フリーラジカルによる酸化的障害を防御する抗酸化物質機構として,その産生を抑制する予防的抗酸化物(preventiveantioxidant)と,生成された活性酸素・ラジカルを捕捉する連鎖切断型抗酸化剤(chain-breakingantioxidant)がある.前者にはSOD,カタラーゼ,グルタチオンリダクターゼ,グルタチオンペルオキシダーゼ(glutathioneperoxidase:Gpx)などの酵素類があり,後者には水溶性のL-アスコルビン酸など還元糖,GSH,尿酸,ビリルビン,脂溶性のビタミンE,ユビキノール,カロテノイド類があげられる.また,カテキンなどポリフェノール類のなかには,水溶性・脂溶性双方に親和性をもつ両親媒性の抗酸化物質も知られている.脂溶性の抗酸化剤は脂質膜内で脂質ペルオキシラジカルを捕捉してラジカル連鎖反応を停止する作用をもっている6).カロテノイドは主として炭素数40個からなる一種のテルペノイド色素であり,カロテン類とキサントフィル類に大別される.キサントフィル類の代表例として,高等植物や藻類の光合成色素として重要なルテインやフコキサンチン,魚介類の体表などに広く分布するAX,ツナキサンチン,ゼアキサンチンなどがあげられる2).カロテノイドは,植物や微生物によってのみ合成され,動物は生合成することができないため,食餌などの方法により体内に取り込み,代謝・蓄積をして抗酸化剤として役立てている.AXは,エビ,カニなどの甲殻類,サケ,タイなど魚類に広く分布する赤橙色の色素であり,1937年にKuhnとSoe-rensenによりロブスターから初めて分離された物質7)である(図1).AXは,強力な抗酸化作用があることが報告されており,その活性の強さはビタミンEの約1,000倍,b-カロテンの約40倍とされている8,9).AXは近年注目されているものの,存在自体は古くから知られており,色素として食品添加物への使用実績が長く,そして,食品として通常に摂取していることからその安全性は高く評価されている物質である10,11).活性酸素・フリーラジカルによる障害の生体内標的分子としては脂質,核酸,蛋白質などが重要であるが,なかでも脂質が活性酸素の作用を受けやすい.特に生体膜の脂質中に局在する高度不飽和脂肪酸がそのターゲットとなりやすく,脂質過酸化連鎖反応を介して過酸化脂質を生成する.生体膜の脂質過酸化反応は膜構造の破壊だけでなく,機能も障害を被ることになる.図7は,AXの活性酸素種に対する消去効果として,今回の結果をふまえて,現段階で筆者らが考えている各活性酸素の生成と消去機構についての経路の模式図である.非水系内では,幹らによると,invitroの実験でAXは,一重項酸素消去と過酸化脂質への抑制効果は大きいが,superoxideの消去作用は弱いことが報告されている2).非水系内ではAXは蛋白質と結合していないfreeタイプで存在していると考えられており,この「freeタイプのAX」は脂溶性で,膜などおもに脂質richな部位で抗酸化に機能していると考えられる.一方,水系内ではAXは蛋白質あるいはアミノ酸などと結合して存在している可能性が高いと考えられ,AXの輸送と代謝にはリポ蛋白質などが関与していると推察されている.今回筆者らが測定を行った房水中でも,AXは蛋白質結合型で存在している可能性が高いと考えられるが,この蛋白質と結合した「蛋白質結合型のAX」の水溶液中での生体への影響については,近年,各方面で検討が始まったばかりである.また,invivoのAX摂取後の水系内での影響についての研究も徐々に進んでおり,AX摂取後のラットでは,幹らにより血液中の過酸化脂質の生成抑制が報告されている2,8).水溶液中でのAXのsuperoxide消去に関する報告としては,invitroの系では,アミノ酸(L-リジン:di-L-lysinate)結合型のAXが,水溶液中での高い拡散を示しsuperoxideを直接消去するという報告12)や,invivoの系では,ラット,O2・-H2O・OHLHLOOHAX1O2消去産生抑制Superoxide消去活性補助SODカタラーゼGpx+GSHFe,Cuイオン存在下Gpx+GSH消去H2O2L・,LO・,LOO・L-AAGSH活性酸素の生成経路と過酸化脂質の生成1O2:一重項酸素O2・-:スーパーオキシドアニオンラジカルH2O2:過酸化水素・OH:ヒドロシキルラジカルAX:アスタキサンチンSOD:スパーオキシドジスムターゼL-AA:L-アスコルビン酸Superoxide消去物質LH:脂質L・:脂質ラジカルLO・:アルコキシルラジカルLOO・:ペルオキシラジカルLOOH:過酸化脂質GSH:還元型グルタチオンGpx:グルタチオンペルオキシダーゼH2O2消去物質図7AXの活性酸素種に対する消去効果———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009233(95)ウサギ,イヌなどで二ナトリウム二コハク酸塩のAX(CardaxTM,disodiumdisuccinateastaxanthin:DDA)が虚血再還流時に産生されるsuperoxideを直接消去し,心臓の保護効果を示す報告などがある13).最近,水溶液中での蛋白質結合型のAXのsuperoxide消去効果についても明らかとなりつつあり,今後,これらの複合体は臨床医学的な応用を含め,水系内での作用の解明に期待が寄せられている.現時点においては,DDAのような複合体を形成していないAXの摂取後における水系内でのsuperoxide消去活性についてはまだ報告がないため,今回,水系である房水中で本研究を行う意義があると考え検討を行うこととした.今回筆者らが測定を行った房水では,superoxideの消去活性が摂取後の房水で高値であり,直接あるいは間接的にAXがsuperoxideの消去に関与した可能性が考えられる.すなわち,房水中のAXが蛋白質結合型で存在し,その蛋白質結合型のAXが直接superoxideの消去能を示したか,あるいはAXが直接superoxide消去に働かない場合でも,間接的に他のsuperoxide消去物質の活性を高める補助効果を示したことも考えられる.たとえば,ビタミンE(a-トコフェロール)が過酸化物消去に働くGpxの必要量を減少させるのと同様に,AX摂取によって,房水中のGpxやGSHが過酸化脂質,過酸化水素など過酸化物の消去に消費される割合が減少したために,相対的にGSHが増加し,superox-ide消去活性に余裕が出たという可能性も考えられる.あるいは,AXが血液あるいはリンパ液中など体液中や肝臓などその他全身の各組織で抗酸化機能を発揮して過酸化率が減少し,その結果として房水中へ移行する以前で過酸化度合いが減少し,L-アスコルビン酸,GSHなどのsuperoxide消去物質の半減期が延長など,間接的な効果も推察される.今回の測定結果によると,両群ともにAX摂取後でsuper-oxide消去活性値が高くなり,DM群で有意な上昇がみられた(図2).糖尿病者は過酸化反応が進行しやすいので,AX摂取前のDM群のsuperoxide消去活性値は非DM群に比べ低値であったが,AX摂取により低下していた消去活性が非DM群レベルに上昇した.変化率でみても,非DM群に比べDM群は高い傾向があった(図3).性差による検討では,両群ともに男性で変化が大きくみられた(図46).AX摂取前値では総男性と総女性の間で有意に男性が低値であったが,特に非DM群において男性が女性に対し低値であった.現時点においてヒト房水のsuper-oxide消去活性の性差に関する報告はないが,今回の結果は,元来,抗酸化作用に性差の影響があることを反映しているものと予想される.性差の原因として喫煙の関与を検討したが,本研究の対象者のなかで喫煙の習慣がある例は女性に1例(1日20本未満)のみであり,データ解析に影響したことは考えられない.今回は6mg/日のAX摂取量で測定を行ったが,AX摂取量の増加により性差の影響が変わる可能性も考えられる.今後,AX摂取量を各段階に分けた用量設定での測定に興味がもたれる.今回は,市販品サプリメントであるアスタビータR(富士化学工業株式会社製)を用いて研究を行ったため,サプリメントとしての推奨摂取量であるAX6mg/日をそのまま用いて研究を行った.推奨量の決定に関しては,健常成人を対象とした摂取量設定試験が報告14)されており,そのなかでAX6mg/日以上の摂取で眼の調節力向上および眼精疲労でみられる自覚症状改善効果があったとされていることから,アスタビータRの摂取量としてAX6mg/日が現在採用されている.今回の研究から,糖尿病時など,ヒト房水中でsuperox-ide消去活性が不足している場合には,AXは活性を補助し高める可能性が考えられ,特に男性でその効果が高いことが判明した.AXは今後,白内障をはじめとして,オキシデーションが関連した種々の疾患に有用な抗酸化剤として期待される.文献1)小原喜隆:第99回日本眼科学会総会宿題報告Ⅰ活性酸素・フリーラジカルと眼疾患活性酸素・フリーラジカルと白内障.日眼会誌99:1303-1341,19962)幹渉:カロテノイドの食品機能性─特に「抗酸化」活性について─.ILSI76:27-35,20033)橋本浩隆,高橋二郎,筑田眞ほか:白内障手術後におけるアスタキサンチンの炎症抑制効果.あたらしい眼科24:1357-1360,20074)MoellerSM,ParekhN,TinkerLetal:Associationsbetweenintermediateage-relatedmaculardegenerationandluteinandzeaxanthinintheCarotenoidsinAge-relatedEyeDiseaseStudy(CAREDS):ancillarystudyoftheWomen’sHealthInitiative.ArchOphthalmol124:1151-1162,20065)花田寿郎,茂手木晧喜:血清(漿)スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)測定法の基礎的検討と臨床的意義.臨床検査機器・試薬8:629-635,19856)二気鋭雄,野口範子:生体のもつ活性酸素・フリーラジカルの消去作用.フリーラジカル(近藤元治編),p22-26,メジカルビュー社,19937)KuhnR,SoerensenNA:Thecoloringmattersofthelob-ster(AstacusgammarusL.).ZAngewChem51:465-466,19388)MikiW:Biologicalfunctionsandactivitiesofanimalcaro-tenoids.Pure&ApplChem63:141-146,19919)ShimizuN,GotoM,MikiW:Carotenoidsassingletoxy-genguenchersmarineorganism.FishSci62:134-137,199610)塚原寛樹,福原育夫,竹原功:アスタキサンチン含有ソフトカプセル食品の健常成人に対する長期摂取における安全性の検討.健康・栄養食品研究8:27-37,2005———————————————————————-Page6234あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(96)11)高橋二郎,塚原寛樹,湊貞正:ヘマトコッカス藻アスタキサンチンの毒性試験─Ames試験,ラット単回投与毒性試験,ラット90日反復経口投与亜慢性毒性試験─.臨床医薬20:867-881,200412)ZsilaF,FitosI,BikadiZetal:Invitroplasmaproteinbindingandaqueousaggregationbehaviorofastaxanthindilysinatetetrahydrochloride.BioorgMedChemLett14:5357-5366,200413)LockwoodSF,PennMS,HazenSLetal:TheeectsoforalCardax(disodiumdisuccinateastaxanthin)onmulti-pleindependentoxidativestressmarkersinamouseperi-tonealinammationmodel:inuenceon5-lipoxygenaseinvitroandinvivo.LifeSci79:162-172,200614)新田卓也,大神一浩,白取謙治ほか:アスタキサンチンの調節機能および疲れ眼におよぼす影響─健常成人を対象とした摂取量設定試験─.臨床医薬21:543-556,2005***

眼科専門医志向者”初心”表明13.患者さんの生活を少しでも明るくしたい!

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092250910-1810/09/\100/頁/JCLS私が眼科に興味をもったのは,私自身目が悪かったという単純なことがきっかけでした.生活に困るほどではなかったので,幼少期から活発だった私は眼鏡をかけることを拒み続け,大学に進学.しかし広い教室では黒板の文字が見えず,見えないと頭に入ってこない.そこで仕方なく眼鏡をかけてみると…そこには感動の世界がありました.遠いから誰しも見えないと思っていたのに,こんな世界があるのかと….また,大学のポリクリで細隙灯顕微鏡を覗かせてもらってたくさんの虹彩を観ていると,その華のような模様は個々で少しずつ違い,とても美しいものでした.その発見以来,細隙灯顕微鏡を覗くことが私のささやかな楽しみとなっていました.何を隠そう私の母も眼科医なのですが,幼少期から「目の奥は宇宙みたい」とか「海の底みたいにキレイでワクワクするの」と聞かされていましたが,その気持ちがわかるような気がしました.そんな私も研修医となり多科でさまざまな経験をさせていただいて,いざ進路を決めるとなると本当に悩まされました.どの科も非常に興味深くやりがいがあり,特に救命救急や麻酔科など命にかかわる科には,また違った魅力がありました.しかしQOL(qualityoflife)となると,やはり眼に勝る器官はないのではないかと思わされるのです.それに眼科でも多発外傷にもかかわれる,救急疾患だってある,未熟児から高齢者とかかわっていける,内科的疾患にかかわりつつ,手術もできる,眼科医にしかできないことがたくさんある.そんなことを考え悩んだ末に私は眼科医となる道を選びました.いずれにしてもこうしたローテート制度だからこそ,そして将来眼科に進むからこそ,この2年間は貴重な時間であり,1つでも多くの疾患を診て,他科での経験を1つでも多く身につけ,目の前の患者さんの眼以外の部分に何かしらでもかかわっていける,そんな眼科医になりたいと思っています.5年後,10年後にこのページをみて笑っていられるよう頑張ります.◎今回は兵庫医科大学出身の多田先生にご登場いただきました.眼科は未熟児から高齢者まで診られて,救急疾患もありながら内科的疾患にかかわりつつ手術もできる本当に魅力的な科です.ジェネラリスト志向の世代でもこの魅力を知れば興味をもつ人が増えるのではないかと思います.(加藤)本シリーズ「“初心”表明」では,連載に登場してくださる眼科に熱い想いをもった研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生を募集します!宛先は≪あたらしい眼科≫「“初心”表明」として,下記のメールアドレスまで.全国の先生に自分をアピールしちゃってください!E-mail:hashi@medical-aoi.co.jp(87)眼科医志向者“初心”表明●シリーズ⑬患者さんの生活を少しでも明るくしたい!多田香織(KaoriTada)京都第二赤十字病院1982年生まれ.2007年兵庫医科大学卒業後,2年間京都第二赤十字病院で研修中.どんな患者さんにも笑顔を与えられる医師をめざして頑張ります.(多田)編集責任加藤浩晃・木下茂本シリーズでは研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生に『なぜ眼科を選んだか,将来どういう眼科医になりたいか』ということを「“初心”表明」していただきます.ベテランの先生方には「自分も昔そうだったな~」と昔を思い出してくださってもよし,「まだまだ甘ちゃんだな~」とボヤいてくださってもよし.同世代の先生達には,おもしろいやつ・ライバルの発見に使ってくださってもよし.この連載も2年目に突入!第13回目はこの先生に登場していただきます!▲部長の溝部恵子先生(左)と筆者

私が思うこと15.地域の視覚障害者との共生を目指して

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009223私が思うことシリーズ⑮(85)2人の恩師と臨床遺伝学私が生まれたのは昭和24年で,小学校の頃の思い出のなかには,“敗戦国日本”の情景が浮かんできます.その頃の日本の地域社会では,みんなで夕日を見て明日のことを考えていたように思います.勤務医の父と3人の子育てをしながら開業医をしていた母のもとで育ちました.そのためか,知らず知らずのうちに医師とは地域の人とともにあるものという考えが身についていました.小学生の頃だったと思いますが,皆が寝ていた夜中か明け方に,見るからに苦しそうな喘息発作の男性が急患で駆け込んできました.治療後しばらくして診療室から出てきた男性は,別人のように穏やかな笑顔で帰っていきました.「ステロイドが効いたのよ」という母の言葉とともに,地域に生きる開業医のすばらしさを感じたことを覚えています.勤務医を続けるか開業をするか迷った時期に開業の決断をした原点でもあったと思います.医学部を卒業して,眼科医としての手ほどきをしていただいたのが,当時東京医科歯科大学講師(現名誉教授)の所敬先生でした.所先生は,「目的をもたない研究ならするな」といわれ,研究テーマに迷っていた私に「強度近視の遺伝」を与えてくださいました.この頃は,ほとんどの医学部に遺伝学講座はなく,私も生物学における遺伝の知識程度しかなく,所先生は東京医科歯科大学難治疾患研究所助教授(当時)大倉興司先生を紹介してくださいました.大倉先生は日本における臨床遺伝学の先駆者で,遺伝学を0から教えていただきました.大倉先生には「学問は,国民に還元されなければならない」「臨床遺伝学は生命の質の受容か排除にかかわるもので,過去の歴史から学ぶもの」という医学者としての姿勢を教えていただきました.地域医療における視覚障害者大倉先生とのご縁から,昭和55年頃から社団法人日本家族計画協会遺伝相談センターで遺伝相談を担当することになりました.眼科関連の遺伝性疾患は多く,また他科領域にかかわる疾患も含めると膨大な知識を要求されます.遺伝相談は,遺伝性疾患にかかわる医学的・遺伝学的情報だけでなく,教育・療育・社会の対応・行政サービスなどの情報提供をすることにより,遺伝性疾患の当事者および家族の,自己決定権に基づいた将来設計への手助けをするための医療サービスです.遺伝相談センターには,全国から来所者がありました.地域で生活する方々にはその地域でないと支援できないこともあり,地域支援の必要性を感じたことも多くありました.また,「遺伝」は秘密でなければならないという日本的価値観をおもちのため,遠方より上京された方もあり,遺伝相談の重要性を強く認識することも多くありました.遺伝性眼科疾患の多くは視覚障害をきたします.たとえば,網膜色素変性は臨床症状,眼科的検査から診断は容易ですが,有効な治療法がありません.そのため,「遺伝性視覚障害者」であるという自らの不運と罪悪感から社会より遠ざかり,また治療法がないため医療から離れてしまう方も多くおられます.そのために新しい情報や希望を見いだせないまま,視覚障害者は,他の身体障害者と比べ,行動範囲が狭く,社会からの情報取得の少ないのが実状です.身近なところで視覚障害者が集い励ましあうことは必要であり,それをしたいと考え,私0910-1810/09/\100/頁/JCLS福下公子(KimikoFukushita)烏山眼科医院1949年東京生まれ.東京医科歯科大学医学部附属病院などの勤務を経て東京都世田谷区にて開業(烏山眼科医院).「強度近視の臨床遺伝学的研究」にて学位取得.日本眼科学会認定眼科専門医,日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医.専門は眼科学一般および遺伝相談.2006年より,視覚障害者同士の交流の場として「烏山さわやかクラブ」を主宰している.(福下)地域の視覚障害者との共生を目指して———————————————————————-Page2224あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009のしている遺伝相談の仕事が視覚障害者との共生社会の実現に向けて何ができるかを模索したのでした.私にできること私が開業している世田谷区には区立総合福祉センター(現在は財団法人)があり,当時の担当者に,区民の身近な場所で視覚障害者を対象とした支援の会を開くことを提案したところ賛同していただき,それこそ総合福祉センター職員が手弁当で参加してくれました.翌年から予算がつき,以来毎年,現在は区内3カ所で,眼科医の講演と拡大読書器やロービジョングッズの紹介の会が開催されています.行政側からもきっかけがあると協力をしていただけますし,熱意のある職員の存在を知ることができましたのは,うれしいことでした.しかし,行政の立場には自ずと限界があります.私は,支援者も視覚障害者も自由な環境で自由な発想での交流会を開催したいと考え,「烏山さわやかクラブ」を立ち上げました.わたしのクリニックは,眼科医1人,非常勤視能訓練士1人,眼科コメディカル4人の小規模な診療所です.それでも何かできることを示したかったのです.「烏山さわやかクラブ」は毎月1回第4土曜日に開かれます.小説・随筆などの朗読またはミニコンサート,医学・社会・行政からの情報提供,ロービジョン・エイドの紹介,おしゃべり,などなどです.参加者は12~17名前後です.診療所従業員の理解と協力,福祉センター職員の個人的協力,各ボランティアの協力があって成り立っています.参加される障害者の家族の方は,その時間が,介助から解放され自由になります.また,世田谷区内に,多くのボランティア団体があることを知り,地域の暖かさを再認識することもできました.3年前の開始以来,顔と顔が見える,声と声がわかる小さい集まりが安心感につながっているのでしょうか,参加者は毎回を楽しみに出席されています.治療という医療行為では限界を感じながら,このように同じ時間を共有することで医療者である私も癒されます.同じ疾患の患者さんが皆参加されるわけではありませんが,望み望まれる場合は暖かな交流が生まれます.“Ihaveadream”日本の医療は研究者と病院勤務医と開業医の3者が支えていると思います.すべてを経験した私からみて,どの立場も決して楽ではありませんが,学んだ知識・経験を国民に還元するという目的をしっかりもって,地域医療での仕事をしていきたいと思っています.まだ申し上げられない夢をもち続けながら.福下公子(ふくした・きみこ)1974年東京女子医科大学医学部卒業1974年東京医科歯科大学医学部眼科学教室入局1975年東京医科歯科大学医学部助手1981年東京医科歯科大学医学部講師1983年取手協同病院眼科医長1984年烏山眼科医院院長現在,社団法人日本眼科医会常任理事,社団法人東京都眼科医会常任理事,社団法人日本家族計画協会遺伝相談センター専門委員.(86)烏山眼科医院:〒157-0062東京都世田谷区南烏山5-16-20ハラシマビル3FTEL:03-3308-0777ロービジョンルーム「烏山さわやかクラブ」へのお誘い烏山眼科医院目のご不自由な方々が、集まり、交流し、社会の情報を得る場所が、身近な地域社会の中にあっても良いと考えて、交流会「烏山さわやかクラブ」を作りました。「烏山さわやかクラブ」では、朗読会やミニコンサート、講演会等を企画しております。また、拡大読書器やルーペ、日用品等日常生活に便利なものを紹介し、実際に手にとって試すことが出来るよう考えております。小さな場所で、充分に整った設備ではございませんが、皆様と共に考えて、過ごしやすい場所にしていきたいと考えております。皆様のご利用をお待ちしております。***「烏山さわやかクラブ」の日***7月15日(土)午後1時30分~2時ミニコンサート“懐かしい日本の歌”午後2時~3時30分交流会・自由展示拡大読書器、ルーペ、日常生活用品等次回は8月19日(土):朗読会を予定☆☆☆

インターネットの眼科応用1. インターネットの歴史と発展

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092210910-1810/09/\100/頁/JCLSインターネットの歴史は,アメリカの軍事目的から始まりました.1961年ユタ州で3つの電話中継基地が爆破され,同時にアメリカの国防回線も一時的に完全停止する事件が起きました.アメリカ国防総省は従来の電話網ではいざという時にはまったく役に立たないことを危惧し,核戦争にも耐えうる通信システムの研究を開始しました.基地が爆破されても国防上重要な情報を保護できる,情報基盤の設立が目的でした.情報をパケット(小包)化し,いくつかの中継所が遮断されても情報を迂回させ目的地まで伝達されるシステムが,1969年9月,UCLA(カリフォルニア大学ロスアンゼルス校)スタンフォード大学,カリフォルニア大学サンタバーバラ校,ユタ大学が回線に接続されて誕生しました.この,24時間回線をつなげっぱなしのコンピュータ・ネットワークは,ARPA(国防総省高等研究計画局)が主導しており,ARPANETと名づけられインターネットのもととなりました.このネットワークは時代とともに,国家機関から研究機関へ,研究機関から民間企業へその主役を譲ります.1979年にはネットニュースが登場し,商用オンラインサービスがアメリカで産声をあげました.1985年に全国科学財団による学術研究用のネットワーク基盤NSFNetがつくられ,インターネットのバックボーンの役割がARPANETからNSFNetへ移行します.1989年に商用ネットワークとNSFNetとの接続が開始され,1995年にはNSFNetは民間へ移管され,Windows95の登場で一般個人でのインターネットの利用が広がりました.インターネットはWeb(クモの巣)とよばれる,あくまで道具です.時代の流れによって,その用途は拡大してきました.前述のとおり,最初の利用目的は「軍事」でした.つぎに研究機関の「通信」として使われ,画像を転送できるようになると,成人向け画像を見るために個人利用が広がります.さらに,インターネットで商品を購入する「物販」として使われ世のなかに爆発的に広がりました.メールを送ったり,ネットで商品を購入したりすることは今や当たり前になりましたが,これはすべてこの15年足らずの出来事です.技術の進歩から始まり,人間の意識と行動の変容を招いた,この15年の出来事はまさに革命です.医療の進歩も日進月歩ですが,インターネットによる情報革命を,農業革命,産業革命に次ぐ,第三の革命とよぶのはもっともな話です.その革命の波は,本来アナログな行為の医療にも迫っています.アメリカではインターネット上にクリニックを開設した医師も現れました.これは2008年の話です.インターネットの利用目的は「軍事」「通信」「アダルト」「物販」と,時代の流れとともに人間の欲求を満たす道具として使われてきました.家電や車にもインターネットが搭載され,インターネットの用途は拡大の一途(83)インターネットの眼科応用第1章インターネットの歴史と発展武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科私はNPO法人MVCメディカルベンチャー会議(以下,MVC)の理事長の武蔵国弘といいます.大阪で眼科クリニックを営む傍ら,医療者の人的・知的交流を活性化させる,という理念のもと,有志とNPO法人を設立し活動しています.MVCというのは,MedicalのM,VentureのV,ConferenceのCの3つの単語の頭文字をとっています.つまり,「ベンチャースピリットをもった医療者の集まり」という意味になります.その活動の一つが,インターネット上の各種媒体の運営です.医師限定インターネット会議室「MVC-online」,ウェブ医学事典「Medipedia」,臨床動画共有サイト「Medisa-lon」など,医療者間の人的・知的交流を行う情報基盤の設立を目指しています.医療というアナログな行為と,眼科という職人的な業をインターネットでどう補完するか,実例を交えながら紹介していきたいと思います.連載にあたってシリーズ①———————————————————————-Page2222あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009です.次号の第2章に詳細を紹介しますが,インターネットの最新の活用方法は「交流」です.ブログに代表されるように,これまで情報の受け手であったユーザー個人が情報の発信者へとシフトし,ユーザー参加型のモデルが広まっています.ARPANETから始まったインターネットの主役がついに,国家機関から個人へと移行しています.ブログとは,「Web(ウェブ)」と「Log(ログ)」を合わせた造語で「Web上に残される記録」を意味します.1999年にアメリカで管理作成が容易なブログツールが開発されたことがきっかけで爆発的に広がりました.1999年以前にも,米英によるイラク侵攻の際にイラクから更新されるブログが話題となり,その知名度を大きく引き上げる結果となりました.日本では,ツールの日本語化などにより,2002年ごろから急速に広まり,総務省によると,2006年3月末の日本でのブログ利用者数は2,539万人に達するようです.この「交流」という用途でインターネットを使うと,場合によっては凶器にもなりますし,有用なツールにもなります.インターネット上での嫌がらせや誹謗中傷が犯罪や自殺を招いた,という報道をしばしば耳にします.それに対し,人間の表現意欲をインターネット上に有益に引き出して成功した例の代表が,フリー百科事典「Wikipedia(ウィキペディア)」です.ウィキペディアは,アクセス数が全世界で5本の指に入るサイトですが,15万人を超えるボランティアたちの全世界的コミュニティを中核として成り立っています.このボランティアの力で,誕生から8年の間に,265の言語版において,千百万以上の項目が生まれました.彼が親日家だからでしょうか,日本語版は第3位の単語数を誇ります.その世界的な事業にもかかわらず,訴訟社会のアメリカにおいて,ウィキペディアを運営するウィキメディア財団は一切の訴訟を抱えていないそうです.創設者のジミー・ウェールズ氏は,その理由を,「人の善意を信じて運営しているからだ」と明言していました.(第32回MVC定例会,2007年3月10日)MVCが運営する,医師限定インターネット会議室「MVC-online」もウィキペディア同様,医療者の善意を信じて運営しています.「荒れる」「炎上」といった現象とは無縁です.一定の資格を得た専門家が参加し,イ(84)ンターネットで知的交流を行うのは時代の流れです.医療の世界でも,大学や病院といった組織からの情報発信だけでなく,医師個人が情報を発信し,ディスカッションし,集合知を創るのが次の10年に起こる流れと予測します.インターネットの歴史と利用の拡大について,実例を交えて紹介しましたが,インターネットが十分に活かされていない分野は今でもあります.私が思い浮かぶのは,医療と教育と農業です.インターネットの農業応用はさておき,医療の分野でどのようにインターネットと付き合えば,われわれ医療者の業務が効率化できて,知識の獲得が効率的にできるのか,医療者の教育はどう効率化できるのか,答えはまだありません.その答えをつくるのは民間企業ではなくて,医療者われわれの意識です.私は一臨床医です.システムやプログラムのことはよくわかりませんが,インターネットの使い道についてはまだまだ可能性を感じ実践してきました.連載を通じて,インターネットの医療応用の可能性について実例を交えて紹介していきます.皆さんとの意見交換を通じて,30年後の医療環境を共に作っていければ幸いです.MVCは医療人の知的・人的な交流を活性化させ,蓄積された知的共有物を広く一般生活者に伝え,医療水準の向上に貢献したい,という理念の下に活動しています.MVCの活動に共感され,k.musashi@mvc-japan.orgに連絡いただければ,MVC-onlineの招待メールをお送りいたします.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.武蔵国弘(むさし・くにひろ)平成10年京都大学医学部卒業平成10年神戸市立中央市民病院眼科平成12年日本赤十字社和歌山医療センター眼科平成18年NPO法人MVCメディカルベンチャー会議理事長平成19年京都大学大学院医学研究科卒業平成19年むさしドリーム眼科院長<プロフィール>

硝子体手術のワンポイントアドバイス69.角膜移植後の網膜剥離(中級編)

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092190910-1810/09/\100/頁/JCLSはじめに角膜移植の術後合併症には,拒絶反応,graftfailure,角膜感染症,続発緑内障,胞様黄斑浮腫などが報告されているが,裂孔原性網膜離も2~5%に発症するとされており,術後合併症の一つとして留意しておく必要がある.膜移植後の網膜離発症の危険因子角膜移植術後に発症する網膜離の危険因子として,手術時に併施する水晶体切除,前部硝子体切除などがあり,有水晶体眼の角膜移植後に網膜離が生じることはまれとされている.つまり通常の白内障手術と同様の機序で網膜離の発症リスクが高くなり,それに角膜移植術自体の侵襲が加わって眼内炎症が遷延化し,二次的に硝子体の変性収縮を惹起する可能性が考えられる.もちろん強度近視,網膜格子状変性巣を有する症例では発症のリスクが高くなる.角膜移植後の網膜離に対する網膜硝子体手術角膜移植眼の網膜離の手術成績は他の網膜離に比(81)較して一般に不良とされている.その理由として,角膜浮腫や混濁,移植片と宿主角膜の境界部に残存する輪状混濁などのため眼底の視認性が不良となり(図1),裂孔検出率が低いことがあげられる1).もともと視力不良例では自覚症状に乏しく,すでに網膜全離や増殖硝子体網膜症に進行している症例が多いことも復位率が低い原因と考えられる.網膜硝子体手術の施行に際しては,眼底の視認性を十分に確保することが大切である.散瞳不良例に対する瞳孔拡張術,残存水晶体皮質の処理による眼底周辺部の視認性確保などが特に重要であるが,手術眼の屈折状態(強度近視の有無など)や僚眼の眼底から得られる種々の情報(硝子体変性や網膜格子状変性巣の有無)を必ず把握し,どのようなタイプの網膜離が生じているのかを予め予測しておく必要がある.また,網膜硝子体手術時に使用するタンポナーデ物質の角膜内皮障害や術後炎症により惹起される拒絶反応を最小限に抑える必要がある.特に無水晶体眼ではタンポナーデ物質が直接角膜内皮に影響を与えるので拒絶反応が生じやすい(図2).このような拒絶反応のハイリスク例では,術前からステロイドやシクロスポリンの内服を行い,可能なかぎり予防に努める必要がある2).文献1)川崎諭,池田恒彦,西田幸二ほか:全層角膜移植後の網膜離.臨眼52:1723-1727,19982)前田直之,細谷比左志,池田恒彦ほか:ハイリスク角膜移植に対するシクロスポリン内服の効果.臨眼46:1071-1076,1992硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載69角膜移植後の網膜離(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科←図1自験例の細隙灯顕微鏡所見角膜移植片と宿主角膜の境界は混濁しており,眼底周辺部の観察が困難であった.→図2術前眼底写真胞状の網膜離が黄斑部に進行している.無水晶体眼で硝子体脱出の既往があるため網膜離の進行は速かった.強膜バックリング手術とガスタンポナーデで復位が得られた.

眼科医のための先端医療98.眼から全身疾患への治療応用について

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092150910-1810/09/\100/頁/JCLS近年,眼科領域でのトピックスの一つに血管新生抑制があります.このコンセプトは昨年(2008)逝去されたChildren’sHospitalBoston,VascularBiologyGroupの故JudahFolkman教授がVPF(vascularper-meabilityfactor)=VEGF(vascularendotheliumgrowthfactor)を抑制することで癌細胞への血液供給を低下させることから癌細胞の発育が抑制され,同時に血管播種も抑制されることがわかり,研究が進められてきたものです.近年,このような全身疾患,特に癌治療で使用されている薬剤が眼科領域の血管新生に応用されています.血管新生とその血管からの漏出現象により視力低下をきたす加齢黄斑変性症へは大腸癌治療薬であるLucentisR(ranibizumab),AvastinR(bevacizumab)が使用され,現在では高い治療効果が期待できる薬剤の一つとして各大学・病院倫理委員会の承認を得て用いられています(LucentisRは近々,黄斑変性症の臨床へ使用できるようになります).また,加齢黄斑変性症に眼科領域の実験で開発されたMacugenR(pegaptanib)は,単独投与と同時に今後PDT(photodynamictherapy)との併用でいっそうの効果が望まれる薬剤としても期待されています.さらに,角膜においても角膜血管新生に対してAvastinRが使用され,いくつかの報告がみられます.角膜における血管新生抑制薬としてAvastinRのほかにVEGF-TRAPが動物実験において高い拒絶反応抑制効果が確認されており,すでに欧米では臨床応用に用いられる一歩手前まできています.この薬剤も元来は癌治療への応用で研究・開発されたものでありますが,やはり眼科領域から全身疾患への治療応用についてはほとんど報告されていません.最近になりようやく血管新生ではありませんが,血管新生に類似したメカニズムであるリンパ管新生にKentucky大学のグループが眼の前房水中にあるリンパ管抑制因子を発見し,リンパ管新生を抑制し癌のリンパ管転移を抑制することへの応用を試みています(ARVO2008).このように治療の分野においては眼から発見された知見が全身に応用されることが少ないことがわかります.眼において発見された現象が他の臓器や組織で確認されることも少ないのが実状です.そこで今回,眼においてその現象が発見され他臓器・組織で応用される可能性のある治療法などについて自検例をもとに述べたいと思います.角膜という無血管・リンパ管組織を実験に使用するのはなぜか?角膜には血管・リンパ管はんなぜ角膜に血管リンパ管ていないかについてはいつかのの組ののをていす角膜にはの血管新生でる角膜皮にから角膜にけてるうにているとというのリンでるとに血管・リンパ管をているというすかののと考えらす角膜傷・・疾患において角膜に血管てるとはの実ですに眼ではるとでんリンパ管てるとかていす角膜に生するリンパ管はにを状なリンパにとてらていすのリンパ管をするとで状のリンパへのをリンパでのを角膜の応るとていすにらリンパをするのとうにをでないうにするですはのうなの状態では無血管・リンパ管でのに血管・リンパ管新生するという角膜組織を用するとで使用する血管・リンパ管新生のをつかです眼は全身疾患をするとの実でのうなをとなけ全身疾患への治療応用を考えるとですとえつにる糖尿病下です糖尿病状態での角膜血管・リンパ管新生についてらは糖尿病下の角膜において血管・リンパ管新生生にいとをのとは全身の・組織にするマの◆シリーズ第98回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊丸山和一(京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学)眼から全身疾患への治療応用について———————————————————————-Page2216あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009が低下しており,血管・リンパ管などの創傷治癒過程に関連する現象が正確に誘導されていないために起こることを突き止めました.マクロファージは元来,炎症期にTNF(腫瘍壊死因子)-aなどの炎症性サイトカインを分泌し炎症部位へのさらなる炎症細胞の浸潤を促進させることや,VEGFを産生し血管・リンパ管を誘導する機能をもっています.しかし,糖尿病の特徴である高血糖環境がその機能を抑制する原因の一つであることが判明しています.特に筆者らは,マクロファージのもつVEGFレセプター-1,-3の発現やマクロファージが産生するであろうVEGF-A,-Cの発現を確認したところ,その発現は高血糖により減少していたことを突き止めました.このため,血管やリンパ管を誘導するサイトカインが存在していたとしても,それを受け取るレセプターがなく存在自体が意味のない細胞が局所に集合することになります.そのため,角膜に縫合をし,炎症を誘導する実験系では血管・リンパ管誘導がⅡ型糖尿病マウスモデルで起こりにくいことがわかりました.糖尿病状態における創傷治癒過程の回復のは角膜けでな皮膚でら皮膚創傷治癒するとからは創傷のマのを回復創傷にリンパ管を組織のをら創傷治癒をるというンを実験は糖尿病マウスのを回のをなでてマへを血糖な下において実験に使用実糖尿病の創傷はているのの創傷治癒過程になのはておらないている創傷治癒過程にをていすのらはのをている創傷治癒過程をからでないかと考え創傷治癒過程には創傷へののでにいをすとで創傷治癒過程回復でるのではないかと考えにのは糖尿病ではにとするとないとらの〔d7〕〔d7〕*p=0.02Saline修復エリア(%)db/dbM?db/dbM?(IL-1b)db/+M?Salinedb/dbM?untreateddb/dbM?IL-1b-treateddb/+M?*図1糖尿病マウスにおける皮膚創傷治癒過程(細胞治療による創傷治癒の促進について)写真は糖尿病マウス背中に傷を作製し,その周囲に細胞・生理食塩水を投与したもの(d7:術後7日目,saline:生理食塩水のみ注入,db/dbMountreated:糖尿病マウスマクロファージを投与,db/dbMoIL-1btreatedMo:糖尿病マウスマクロファージをIL-1b刺激した細胞を投与,db/+Mo:ヘテロマウスマクロファージを投与).グラフは術後7日目の創傷治癒面積(範囲が広いほど傷の治りが速いことを意味する).(文献5より抜粋)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009217究から判明しています.このことより,急性期の炎症とそれに伴う適切な細胞導入を試みました.方法は,先ほど述べた骨髄から採取した何も外からの刺激を入れていないマクロファージをⅡ型糖尿病マウスの皮膚欠損部位に注射したところ,創傷治癒過程が促進し,実際に傷は治癒しましたが,劇的なものではありませんでした.しかし,炎症刺激を加えたマクロファージを投与したところ劇的に創傷治癒過程が促進しました(図1).このことより,糖尿病環境下の創傷治癒過程には外からの急性炎症を誘導することが大事であることが判明しました.この急性炎症の誘導にはサイトカインだけでは不十分で,マクロファージなどの細胞成分が必ず必要であることも付け加えておきます.眼から全身疾患の治療を考えるのうに眼でとを実に全身疾患へ応用すると眼のなら全身疾患の治療にすると考えていすらのンはマリンパ管にするというのンを用治療でとのを考えなをるとをとていす文献1)AmbatiBK,NozakiM,SinghNetal:Cornealavasculari-tyisduetosolubleVEGFreceptor-1.Nature443:993-997,20062)CursiefenC,ChenL,Saint-GeniezMetal:NonvascularVEGFreceptor3expressionbycornealepitheliummain-tainsavascularityandvision.ProcNatlAcadSciUSA103:11405-11410,20063)CursiefenC,CaoJ,ChenLetal:Inhibitionofhemangio-genesisandlymphangiogenesisafternormal-riskcornealtransplantationbyneutralizingVEGFpromotesgraftsur-vival.InvestOphthalmolVisSci45:2666-2673,20044)YamagamiS,DanaMR:Thecriticalroleoflymphnodesincornealalloimmunizationandgraftrejection.InvestOphthalmolVisSci42:1293-1298,20015)MaruyamaK,AsaiJ,IiMetal:Decreasedmacrophagenumberandactivationleadtoreducedlymphaticvesselformationandcontributetoimpaireddiabeticwoundheal-ing.AmJPathol170:1178-1191,20076)MaruyamaK,IiM,CursiefenCetal:Inammation-inducedlymphangiogenesisinthecorneaarisesfromCD11b-positivemacrophages.JClinInvest115:2363-2372,2005(79)「眼から全身疾患への治療応用について」を読んで生のをするにの生ではの「」のをなるかのうにをて生らには生のをてでの生のでるうになの「」にはかておすンにかをていになのにからいな生全の生をとらえるのはてですの生のではからは生のとなるとえス創傷治癒血管新生リンパ管新生なをのとて疾患の病態生をするというえすではす回の丸山和一生ののするとは生全ではんにのな一をて生ののとての病態を生のをるとにうというのです丸山生はマリンパ管にするというンをておす組織応のににするマをととていですて文にておらすのうなな生は全身にするでると眼におけるい全身ののの病態に応用るとのリいと考えすウンスをするのに生をから生生のでにするとにえてでのとて疾患の病態生のをするとでののはすすていでう眼ていはのうなでをリでる実をておをリでると考えす丸山生のをリると考えす山病態山下英俊