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トラボプロスト点眼液の臨床使用成績眼表面への影響

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(101)1010910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):101104,2009cはじめに緑内障の治療は薬物療法が基本であり,最近では,プロスタグランジン(PG)製剤点眼が主流である.しかし,PGは水に溶けにくいという性質をもっている.そのため,溶解補助剤を使用しなければならない.塩化ベンザルコニウム(BAC)は防腐剤としての作用があるが,溶解補助剤としての作用ももっている.そのため,ラタノプロスト点眼液には0.02%のBACが使用されており,BACの有効濃度0.0020.01%の倍以上の濃度である.しかし,BACには角膜上皮細胞や結膜上皮細胞への有害性があり,長期連用により,障害がまれに遷延化されることがある1,2).そこで,BACのかわりに,防腐剤として塩化亜鉛を用いたPG製剤点眼液,トラボプロスト点眼液(トラバタンズR点眼液0.004%)が開発された.このトラボプロスト点眼液の臨床使用成績,特に眼表面への影響を検討したので報告する.〔別刷請求先〕湖淳:〒545-0021大阪市阿倍野区阪南町1-51-10湖崎眼科Reprintrequests:JunKozaki,M.D.,KozakiEyeClinic,1-51-10Hannan-cho,Abeno-ku,Osaka-city,Osaka545-0021,JAPANトラボプロスト点眼液の臨床使用成績眼表面への影響1大谷伸一郎*2鵜木一彦*3竹内正光*4宮田和典*2*1湖崎眼科*2宮田眼科病院*3うのき眼科*4竹内眼科医院ClinicalEcacyofTravoprostOphthalmicSolution:EectOnOcularSurfaceJunKozaki1),SinichiroOhtani2),KazuhikoUnoki3),MasamitsuTakeuchi4)andKazunoriMiyata2)1)KozakiEyeClinic,2)MiyataEyeHospital,3)UnokiEyeClinic,4)TakeuchiEyeClinic目的:緑内障点眼液は多剤を長期にわたり使用する可能性が高く,眼表面への安全性が望まれる.今回筆者らは,塩化ベンザルコニウム(BAC)非含有トラボプロスト点眼液(トラバタンズR点眼液0.004%)の眼表面への影響を調査した.対象および方法:ラタノプロスト点眼液を3カ月以上単剤使用している緑内障患者114名を対象とし,BAC非含有トラボプロスト点眼液に変更して1カ月後の,眼圧,結膜,角膜への影響を調査した.結果:眼圧は変更前が15.4±3.5mmHgで,変更後が14.8±3.6mmHgとほぼ同等であった.約30%の症例では2mmHg以上の眼圧下降がみられた.結膜充血は変更前は23.7%にみられたが,変更後は21.1%であり,悪化した症例はなかった.点状表層角膜症(SPK)は変更前には114眼中67眼にみられたが,変更後は20眼となった.AD分類(Area-Densityclassication)によるSPKスコアの評価では,変更後有意に改善した(p<0.0001,Wilcoxonsigned-ranktest).結論:短期成績ではあるが,BAC非含有トラボプロスト点眼液の眼表面への安全性が確認できた.Glaucomaophthalmicsolutionsaregenerallyusedinlong-termmulti-drugtherapy,andareexpectedtocauselittleharmtotheocularsurface.Weinvestigatedtheocularsurfaceeectoftravoprostwithoutbenzalkoniumchlo-ride(BAC)(TravatanzR0.004%).In114glaucomapatientswhoreceivedlatanoprostmonotherapyover3months,weinvestigatedtheeectonintraocularpressure(IOP),conjunctivaandcorneaatonemonthafterswitchingtotravoprostwithoutBAC.IOPwerealmostequivalent,at15.4±3.5mmHgbeforeswitchingand14.8±3.6mmHgafterswitching.Conjunctivalhyperemiawasobservedin23.7%beforeswitchingand21.1%afterswitching.Supercalpunctatekeratopathy(SPK)wasobservedin67eyesbeforeswitchingandin20eyesafterswitching.TheevaluationofSPKscorebyArea-Densityclassicationwasimprovedsignicantly(p<0.0001,Wilcoxonsignedrank-test).Regardingeectontheocularsurface,theshort-termsafetyoftravoprostwithoutBACwasconrmed.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):101104,2009〕Keywords:塩化ベンザルコニウム(BAC),プロスタグランジン製剤,ラタノプロスト点眼液,トラボプロスト点眼液.benzalkoniumchloride(BAC),prostaglandinanalogous,latanoprostophthalmicsolution,travoprostophthalmicsolution.———————————————————————-Page2102あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(102)I対象および方法1.対象参加4施設で通院中の,眼圧の安定している緑内障および高眼圧症患者で,3カ月以上ラタノプロスト点眼液を単剤で投与されている114名を対象とした.男性は36名,女性は78名であった.評価対象眼は眼圧の高いほうの眼とし,同じ眼圧であれば右眼を対象とした.内訳は原発開放隅角緑内障44眼,正常眼圧緑内障58眼,高眼圧症12眼であった.なお,本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,共同にて設置した倫理委員会の承認の後,患者より参加の同意を得て実施した.2.方法現在使用しているラタノプロスト点眼液をトラボプロスト点眼液に変更し,変更前および変更1カ月後に視力を測定し,結膜を観察した.その後,フルオレセインで角膜を染色し,コバルトブルーフィルターまたは,ブルーフリーフィルターを用いて角膜を観察し,眼圧を測定した.結膜の充血は正常範囲,軽度,中等度,重度の4段階で評価し,角膜所見は点状表層角膜症(SPK)をAD分類3,4)を用いて評価した.II結果変更前の矯正視力の平均は0.96で変更後も0.96と変更前後で有意差はなかった.眼圧は,変更前が15.4±3.5mmHg,変更後が14.8±3.6mmHgで有意差がみられた(p<0.01,pairedt-test).眼圧が2mmHg以上上昇した症例は17眼14.9%,2mmHg以上低下した症例は36眼31.6%であった.結膜充血は変更前が,軽度が24眼,中等度が3眼,重度は0眼で,23.7%に充血がみられた.変更後は軽度が21眼,中等度が3眼,重度が0眼と変化はなかった.SPKは114眼中,A0D0が47眼,A1D1が50眼,A1D2が2眼,A1D3が1眼,A2D1が7眼,A2D2が5眼,A3D2が2眼にみられ,67眼(58.8%)でSPKが認められた.変更後1カ月にはA0D0が94眼に増加,A1D1が15眼に,A1D2が1眼に,A1D3が0眼に,A2D1が2眼に,A2D2が2眼に,A3D2が0眼に減少し,20眼(17.5%)にSPKが認められた.ADスコア(A+D)の評価では変更後有意に改善した(p<0.0001,Wilcoxonsigned-ranktest)(表1).全体では67眼中52眼(77.6%)で角膜所見は改善し,47眼(70.1%)でSPKは消失した.個々の変化は図1のごとくであった.悪化はA1D1からA1D2へ1眼,A1D1からA2D2へ1眼の計2眼であった.III代表症例〔症例1〕73歳,女性.両眼高眼圧症の左眼.図1切り替え前後のSPKスコア比較(p<0.01,chi-squaretest)023451切り替え前1月後153250962(点)47SPKスコア(A+D)表1変更前後のAD分類の変化(眼数)A0A1A2A3D047→94D150→157→2D22→15→22→0D31→0図2症例1:両眼高眼圧症(73歳,女性,左眼)a:角膜全域に軽度のSPK(A3D1)を認める.b:下方にわずかにSPKを認める.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009103(103)5年前から,ラタノプロスト点眼液を使用.自覚症状はないが,慢性的にSPK(A3D1)を両眼に認める(図2a).ラタノプロスト点眼液を中止し,トラボプロスト点眼液に変更した.変更後約1カ月で下方にSPKをわずかに残すのみとなった(図2b).眼圧は左眼=17mmHgから19mmHgへと上昇したが,視神経乳頭と視野に異常がないため,トラボプロスト点眼液は続行した.〔症例2〕81歳,男性.両眼原発開放隅角緑内障の左眼.2年前から,ラタノプロスト点眼液を使用.最近,両眼にかすみを自覚するようになる.両眼の中央部付近に帯状のSPK(A2D2)がみられた(図3a).ラタノプロスト点眼液を中止し,トラボプロスト点眼液に変更した.変更後12日でSPKは消失した(図3b).眼圧は変更の前後とも16mmHgで不変であった.IV考按ラタノプロスト点眼液からトラボプロスト(BAC含有)点眼液への切り替えによる臨床研究では,眼圧は下降もしくは同等との報告が多い57).BACは界面活性剤であるため,薬物の眼内移行を促進させる作用がある.そのため,BAC非含有のトラボプロスト点眼液(トラバタンズR点眼液0.004%)は眼圧下降効果への影響が懸念された.しかし,今回の調査で眼圧はほぼ同等であり,BAC非含有の影響はないものと思われた.また,Lewisら9)もBAC含有と非含有のトラボプロスト点眼液を比較して,眼圧は同等と報告している.今回,約30%の症例で2mmHg以上の眼圧下降がみられ,b遮断薬点眼液と同様にPG製剤内でもラタノプロスト点眼液との相互切り替えに使用できる可能性があると考える.充血については,無作為に抽出した症例での比較ではトラボプロスト点眼液のほうがラタノプロスト点眼液より強いとの報告がある5,6).しかし,切り替え試験では充血の程度は同等とも報告されており8),今回の筆者らの調査でも切り替え試験であり充血に差はみられなかった.同じプロスタグランジン誘導体であるラタノプロスト点眼液からの切り替えの場合,充血の増悪は少ないものと思われた.BAC非含有トラボプロスト点眼液は,BACが含有されていないため,ヒト培養角膜細胞10),ヒト培養結膜細胞11),動物実験12)において安全性が報告されている.しかし,臨床上の安全性の報告はみられない.今回の筆者らの切り替え試験ではSPKスコアは変更後有意に改善されており,変更前にSPKを認めた67眼中52眼(77.6%)の症例で角膜上皮の障害は改善された.緑内障は複数の点眼を長期にわたって使用する可能性が高い疾患である.また,高齢者は角膜上皮の再生予備能が低く涙液の基礎分泌も低下している.そのため,緑内障点眼液には他の点眼液以上に安全性が求められる.日常診療では,臨床上問題がないと思われていた緑内障患者の角膜に軽度(A1D1程度)ではあるが,多数のSPKがみられた.そして,BAC非含有トラボプロスト点眼液に切り替えることで,高率にSPKが改善,消失した.今回の研究は短期成績ではあるが,BAC非含有トラボプロスト点眼液の臨床使用上,眼表面への安全性が確認できたと思われる.今後も長期的な経過観察が必要である.文献1)高橋奈美子,籏福みどり,西村朋子ほか:抗緑内障点眼薬の単剤あるいは2剤併用の長期投与による角膜障害の出現頻度.臨眼53:1199-1203,19992)小室青,横井則彦,木下茂:ラタノプロストによる角膜上皮障害.日眼会誌104:737-739,20003)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19944)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsupercialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrectionwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,2003図3症例2:両眼原発開放隅角緑内障(81歳,男性,左眼)a:角膜中央に帯状のSPK(A2D2)を認める.b:SPKはみられない.ab———————————————————————-Page4104あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(104)5)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol132:472-484,20016)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20037)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveecacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin21:1341-1345,20048)KumarRS,IstiantoroVW,HohSTetal:Ecacyandsafetyofasystematicswitchfromlatanoprosttotravo-prostinpatientswithglaucoma.JGlaucoma16:606-609,20079)LewisRA,KatsGJ,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalkoniumchloride:acomparisonofsafetyandecacy.JGlaucoma16:98-103,200710)YeeRW,NereomEG,ZhaoXC:Comparisonoftherela-tivetoxicityoftravoprost0.004%withoutbenzalkoniumchlorideandlatanoprost0.005%inanimmortalizedhumancorneaepithelialcellculturesystem.AdvanceinTherapy23:511-518,200611)BaudouinC,RianchoL,WarnetJMetal:Invitrostudiesofantiglaucomatousprostaglandinanalogues:travoprostwithandwithoutbenzalkoniumchlorideandpreservedlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci48:4123-4128,200712)KahookMY,NoeckerRJ:Comparisonofcornealandcon-junctivalchangeafterdosingoftravoprostpreservedwithsofZia,latonoprostwith0.02%benzalkonoumchlo-ride,andpreservative-freearticialtears.Cornea27:339-343,2008***

マルチパーパスソリューションとシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとの組み合わせで発生する角膜ステイニングの評

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(93)930910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):9399,2009cはじめにマルチパーパスソリューション(MPS)は,消毒,洗浄,すすぎ,保存を1本で行うことのできるソフトコンタクトレンズ用のレンズケア用品であり,簡便さを特徴としている.しかし,その一方で,MPS特有の角膜上皮障害(角膜ステイニング)1),アレルギー反応2)などの障害も報告されている.コンタクトレンズ(CL)使用者で発生する薬剤毒性による角膜ステイニングは,重篤な角膜障害のリスクファクターになりうるといわれており,それを生じた患者は,生じていない患者と比べ,角膜炎の発生率が3倍と報告されている3).つ〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂1-10-19糸井ビル1F道玄坂糸井眼科医院Reprintrequests:MotozumiItoi,M.D.,DougenzakaItoiEyeClinic,1-10-19-1FDougenzaka,Shibuya-ku,Tokyo150-0043,JAPANマルチパーパスソリューションとシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとの組み合わせで発生する角膜ステイニングの評価糸井素純道玄坂糸井眼科医院CornealStainingwithCombinationsofMultipurposeSolutionsandSiliconeHydrogelContactLensesMotozumiItoiDougenzakaItoiEyeClinic目的:3種のマルチパーパスソリューション(MPS)と4種のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)との組み合わせを,実際の装用サイクルで1週間使用したときに発生する角膜ステイニングの程度を評価した.方法:試験MPSに塩化ポリドロニウムを含むMPS1種(MPS-1)と塩酸ポリヘキサニド(PHMB)を含むMPS2種(MPS-2およびMPS-3)を,試験レンズに4種のSHCLを使用した.対象者は,3種のMPSを1週間ずつランダムに使用した.角膜ステイニングは使用8日目の装用2時間後に観察し,病変の範囲と密度を0(なし)3(重度)にそれぞれスコア化し,2つのスコアを掛け合わせた総スコアを角膜ステイニングのスコアとした.結果:いずれのSHCLとの組み合わせにおいても,角膜ステイニングの程度は,MPS-3が他の2種のMPSより有意に高く,MPS-1とMPS-2で有意な差はなかった.結論:実際の装用サイクルにおいてもMPSとSHCLの組み合わせにより角膜ステイニングが発生した.その程度は,組み合わせにより異なった.Thepurposeofthisstudywastoevaluatecornealstainingwithcombinationsof3multipurposesolutions(MPS)and4siliconehydrogelcontactlenses(SHCL),wornfor1week.Usedwiththe4SHCLwere1polyquad(polyquaternium-1)-basedMPS(MPS-1)and2PHMB(polyhexamethylenebiguanide)-basedMPS(MPS-2,MPS-3).Thesubjectsusedthe3MPSwiththe4SHCLfor1week.Cornealstaining,asgradedbyRangeandDensityfromNone(0)toSevere(3),wasobservedat2hoursafterinstillationatday8afterstartingtolenswear.ThetotalscoreforthecornealstainingwascalculatedbymultiplyingoftheRangeandDensityscores.ThetotalscoreforcornealstainingwithMPS-3wassignicantlyhigherthanthetotalscoresfortheother2MPS.TherewerenosignicantdierencesbetweenMPS-1andMPS-2.ThelevelofcornealstainingdependedonthecombinationofMPSandSHCL.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):9399,2009〕Keywords:多目的用剤,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ,角膜ステイニング.multipurposesolution,siliconehydrogelcontactlens,cornealstaining.———————————————————————-Page294あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(94)まり,MPSによる角膜上皮障害は,重篤な角膜障害のリスクファクターとなりうるため,臨床上,注意をはらう必要がある.MPSによる角膜ステイニングは,MPSに含まれる消毒成分が原因と考えられている.現在,MPSに配合されている消毒成分は,塩酸ポリヘキサニド(PHMB)もしくは塩化ポリドロニウムのいずれかであるが,PHMBを消毒成分として含むMPSのほうが,角膜ステイニングの発生リスクが高いと報告されている4,5).MPSによる角膜ステイニングはCLとの組み合わせによって,その程度が異なるため6),それぞれの組み合わせについて,その発生状況を確認する必要がある.この角膜ステイニングが,CL装用14時間後に最も程度が高くなり,その後は回復する挙動を示す7)ことから,MPSとCLのそれぞれの組み合わせについて装用2時間後の角膜ステイニングを観察し,臨床上のリスクを評価する研究が行われてきた6,8).この研究では,短期間のうちに,多くのMPSとCLの組み合わせにおける臨床上の角膜ステイニングの発生リスクを予測することが可能だが,実際の使用では,CLに付着した蛋白質,脂質,涙液成分(ムチンなど),微生物などの汚れやCLの劣化も角膜に影響を与えると考える.したがって,MPSとCLの組み合わせで発生する角膜ステイニングの臨床上のリスクを評価する場合,これまでの短時間装用試験の結果に加え,実際の装用サイクルに基づいた試験系での評価が望まれる.そこで本試験では,実際の装用サイクルに基づいて,MPSとシリコーンハイドロゲルCL(SHCL)の組み合わせによる角膜ステイニングを評価するため,3種のMPSと4種のSHCLを使用し,それぞれの組み合わせにおける使用8日目の装用2時間後に角膜ステイニングの程度を評価した.I対象および方法1.試験MPS試験MPSは,オプティフリーRプラス〔MPS-1,日本アルコン(株)社製〕,エピカコールド〔MPS-2,(株)メニコン社製〕およびレニューRマルチプラス〔MPS-2,ボシュロムジャパン(株)社製〕を使用した.消毒成分として,MPS-1は塩化ポリドロニウムを,MPS-2およびMPS-3はPHMBを含む.これらの成分を表1に示す.2.試験レンズ試験レンズは,アキュビューRアドバンスR〔CL-1,ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)社製〕,アキュビューRオアシスTM〔CL-2,ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)社製〕,O2オプティクス〔CL-3,チバビジョン(株)社製〕および2ウィークプレミオ〔CL-4,(株)メニコン社製〕の4種のSHCLを使用した.これらの物性値を表2に示す.表1試験マルチパーパスソリューション(MPS)の成分MPS-1MPS-2MPS-3メーカー日本アルコン(株)(株)メニコンボシュロムジャパン(株)消毒成分塩化ポリドロニウム(0.0011%)PHMB(0.0001%)PHMB(0.00011%)洗浄成分クエン酸テトロニックPOE硬化ヒマシ油*1グリコール酸AMPD*2ポロキサミンハイドラネート*1POE硬化ヒマシ油:植物原料の界面活性剤,*2AMPD:アミノメチルプロパンジオール.表2試験シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)の物性値CL-1CL-2CL-3CL-4メーカージョンソン・エンド・ジョンソン(株)ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)チバビジョン(株)(株)メニコンUSAN*1galylconAsenolconAlotralconAasmolconA酸素透過係数(Dk)*260103140129酸素透過率(Dk/L)*386147175161含水率(%)47382440FDA分類*4I*5III*1USAN:米国一般名(UnitedStatesAdopotedNames).*2酸素透過係数:×1011(cm2/sec)・(mlO2/(ml×mmHg)).*3酸素透過率:×109(cm/sec)・(mlO2/(ml×mmHg)).*4FDA分類:米国食品医薬品局(FDA;FoodandDrugAdministration)によるソフトコンタクトレンズの分類.*5FDA分類グループI:非イオン性,低含水性のソフトコンタクトレンズ.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200995(95)3.対象対象者は,試験前にインフォームド・コンセントにより同意を得たボランティア30名で,いずれも屈折異常以外に眼疾患を有さないハイドロゲルCL装用者であった.対象者は無作為に15名ずつ4群に分けた.第1群は計15名(男性11名,女性4名)で,平均年齢は35.3±7.2歳(平均±標準偏差,範囲:2444歳),第2群は計15名(男性11名,女性4名)で,平均年齢は35.3±7.2歳(平均±標準偏差,範囲:2444歳),第3群は計15名(男性11名,女性4名)で,平均年齢は36.5±7.6歳(平均±標準偏差,範囲:2248歳),第4群は計15名(男性11名,女性4名)で,平均年齢は36.5±7.6歳(平均±標準偏差,範囲:2248歳)であった.4群間の年齢に有意差はなかった(p>0.05,Steel-Dwass検定).4.方法a.試験レンズ装用各対象者に適切な度数の試験レンズを選択し,第1群はCL-1,第2群はCL-2,第3群はCL-3,第4群はCL-4をそれぞれランダムに終日装用した.また,4群とも,3種のMPSをランダムに1週間ずつ使用させた.なお,MPSの種類を切り替える際は,1週間以上のウォッシュアウト期間(MPSを使用しない期間)を設け,その期間は1日使い捨てCLもしくは眼鏡を装用するよう指示した.b.角膜ステイニングのスコア化MPSの薬剤毒性による角膜ステイニングは深度が浅く,点状のステイニングの形態をとる.この角膜ステイニングの程度を独自な方法でスコア化して評価した.まず角膜ステイニングを,病変部位の範囲と密度について,それぞれ4段階にスコア化した.範囲については,角膜ステイニングのないものを“0”,染色のある範囲が角膜の125%のものを“1”,2650%のものを“2”,51%以上のものを“3”とした(図1).密度については,角膜ステイニングのないものを“0”,密度が低いものを“1”,中等度のものを“2”,高いものを“3”とした(図1).最終的に範囲のスコアと密度のスコアを掛け合わせた総スコアを角膜ステイニングの程度のスコアとした.c.角膜ステイニングの評価方法MPSとSHCLのそれぞれの組み合わせについて,使用8日目の角膜ステイニングの程度を前述した方法で同一人物が評価した.角膜の観察は,装用2時間後に行った.角膜を観範囲0(0%)密度0範囲1(125%)範囲2(2650%)密度1密度2範囲3(51%)密度3図1角膜ステイニングのスコア1)範囲(上段) 角膜ステイニングなし:スコア0,障害範囲が角膜の125%:スコア1,障害範囲が角膜の2650%:スコア2,障害範囲が角膜の51%以上:スコア3.2)密度(下段) 角膜ステイニングなし:スコア0,障害密度が低い:スコア1,障害密度が中等度:スコア2,障害密度が高い:スコア3.———————————————————————-Page496あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(96)察する際は,CLをはずし,フルオレセインで染色し,イエローフィルターを挿入した細隙灯顕微鏡を使用した.CLのとりはずしは同一人物が実施した.また,角膜ステイニングを評価する際は,MPSとSHCLの種類を評価者には知らせないobserver-maskの方法で実施した.d.統計処理各MPS間で角膜ステイニングの程度の差が生じるか否かをSteel-Dwass検定を用いて,統計学的に解析した.さらに,各SHCL間で角膜ステイニングの程度に差が生じるか否かについても,同様の統計手法で解析した.II結果MPS-3(PHMB含有MPS)は,4種のSHCLとのすべての組み合わせにおいて,MPS-1(塩化ポリドロニウム含有MPS)およびMPS-2(PHMB含有MPS)より,角膜ステイニングのスコアが有意に高かった(Steel-Dwass検定,MPS-1vs.MPS-3:CL-1:p=0.021,CL-2:p=0.0053,CL-3:p=0.00198,CL-4:p=0.00022;MPS-2vs.MPS-3:CL-1:p=0.035,CL-2:p=0.0041,CL-3:p=0.0042,CL-4:p=0.0066,表3,図2).MPS-1とMPS-2の間で図3MPS1(塩化ポリドロニウムを含むMPS)に浸漬したCL1を装用した2時間後の角膜点状の染色はごくわずかであった.(総スコア1:範囲スコア1,密度スコア1)図4MPS2(PHMBを含むMPS)に浸漬したCL1を装用した2時間後の角膜点状の染色はごくわずかであった.(総スコア1:範囲スコア1,密度スコア1)図5MPS3(PHMBを含むMPS)に浸漬したCL1を装用した2時間後の角膜角膜の全面に点状の染色があった.(総スコア6:範囲スコア3,密度スコア2)CL-1CL-2CL-3CL-4100806040200(%)CL-1CL-2CL-3CL-4CL-1CL-2CL-3CL-4MPS-1MPS-2MPS-3:9点:6点:4点:3点:2点:1点:0点***************p0.05,**p0.01,Steel-Dwass検定(n15)図2角膜ステイニングの総スコアの結果表3角膜ステイニングの総スコアの平均値CL-1CL-2CL-3CL-4MPS-11.1±1.51.2±0.61.2±0.61.1±0.7MPS-21.1±0.81.1±1.01.5±1.51.9±1.3MPS-33.1±2.33.1±2.04.5±2.44.7±2.4———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,200997(97)は,4種のSHCLとのいずれの組み合わせにおいても,角膜ステイニングの程度に有意な差はなかった(表3,図2).また,同一のMPSと組み合わせた場合,SHCL種類の違いによる角膜ステイニングの程度に差はなかった.CL-1と3種のMPSとのそれぞれの組み合わせで観察された角膜ステイニングの代表例を示す.これらは,同一対象眼のものだが,MPS-1およびMPS-2では角膜ステイニングはごくわずか[MPS-1:総スコア1(図3),MPS-2:総スコア1(図4)]だが,MPS-3では,角膜の全面に密度の高い点状のステイニングが観察された(総スコア6,図5).III考察本試験の結果,実際に1週間の装用サイクルで使用した場合でも,角膜ステイニングが発生することがわかった.過去の報告と同様に,角膜ステイニングの程度はMPSとSHCLの組み合わせにより差があった.ただし,同じ組み合わせでも,角膜上皮障害の発生程度には個人差があった.たとえば,角膜ステイニングの発生の多かったMPS-3とCL-4を例に取ると,軽度な症例はごくわずかなステイニング(総スコア1)で臨床上問題はなかったが,重度な症例では角膜の全面に密度の高い点状のステイニング(総スコア9)が観察され,その組み合わせを継続して使用することは問題と思われるレベルであった.つまり,MPSとSHCLの組み合わせで発生する角膜ステイニングは,それらの相性も重要であるが,個人の眼の状態(角膜の健常性,涙液状態など)も関与することが示唆された.MPSで発生する角膜ステイニングは,それに含まれる消毒成分が原因と考えられており,そのリスクは塩化ポリドロニウムよりPHMBのほうが高いと報告されていた4,5)が,今回の結果では,消毒成分としてほぼ同濃度のPHMBを含むMPS間でも角膜ステイニングの程度に有意な差があった.PHMBを消毒成分として含むMPSのうち,MPS-2に関しては,角膜ステイニングの程度が塩化ポリドロニウムを消毒成分として含むMPS-1と差がなかった.つまり,PHMBの存在のみが角膜ステイニングの発生に関係しているのではなく,MPSに含まれるすべての成分(消毒剤,界面活性剤,緩衝剤,キレート剤など)のバランスが関係することが示唆された.消毒効果の高いMPSは細胞毒性が高くなる,つまり角膜などへの影響が強くなる可能性が懸念されていた9)が,角膜ステイニングの程度に有意な差があったMPS-2とMPS-3に関しては,消毒効果には大きな差がないことが報告されている10).つまり,角膜ステイニングの発生するリスクは,必ずしもMPSの消毒効果とは関係がないと考えられた.今回の結果と,過去に筆者らが実施した短時間装用試験の結果を比較すると,CL-2(アキュビューRオアシスTM)とCL-3(O2オプティクス)に関しては,ともにMPS-1とMPS-2の角膜ステイニングの程度に有意な差はなく,MPS-3はこれら2種類のMPSと比べ,その程度が有意に高かった6).つまり,CL-2とCL-3については,短時間装用試験と実際の装用サイクルでの結果の傾向が一致しており,短時間装用試験で得られる結果で,実際の使用における角膜ステイニングのリスクをある程度,評価できることがわかった.ただし,CL-1(アキュビューRアドバンスR)については,PHMBを含むMPSとの組み合わせにおいて,本試験の角膜ステイニングの総スコアの程度が,短時間装用試験の結果11)よりも有意に軽度であった(MPS-2:p<0.0001,MPS-3:p=0.0008,Mann-WhitneyのU検定,図6).つまり,SHCLの種類によって,短時間装用試験の結果と今回の結果が一致するものと差が生じるものがあるということがわかった.これまでに実施した短時間装用試験では新品のCLを使用しており,そこには蛋白質,脂質,涙液成分(ムチンなど),微生物などの汚れは付着していない.しかし,実際の使用においては,適切に洗浄を行っても,ある程度,汚れが残存し,CLに付着した汚れが角膜ステイニングに影響を与える可能性があるといわれている12).SHCLの種類によって蛋白質,脂質,涙液成分(ムチンなど),微生物などの汚れの付着性は異なると考えられ,それが新品のSHCLと1週間使用したSHCLとの間の差を招いたのではないかと推測される.ただし,どの成分が今回の差を招いたかは明らかではな**p0.01,Mann-Whitney検定(n15)(%)MPS-1MPS-2MPS-3新品のSHCLNS****1009080706050403020100:6,9点:2,3,4点:0,1点MPS-1MPS-2MPS-31週使用したSHCL図6CL1とMPSの組み合わせによる角膜ステイニングの1週間使用したSHCLと新品のSHCLの比較PHMBを含むMPS-2およびMPS-3において新品のSHCLの角膜ステイニングの程度が有意に高かった(新品のSHCLのデータは文献11より引用).———————————————————————-Page698あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(98)い.今回の実験系ではMPSとSHCLの組み合わせによる角膜ステイニングの発生の程度を判定した.角膜ステイニングはMPSの薬剤毒性によるものと考えられており,CLの種類によっては,実際の使用により,薬剤毒性が低下することが判明した.薬剤毒性が低下することは,眼組織にとって非常に良いことであるが,MPSの消毒効果が果たして維持されているのか疑問が残る.粘膜中に含まれるムチンが消毒効果を低下させるという報告があり13),涙液中のムチンがMPSの消毒効果に影響を与える可能性もある.多くのMPSの消毒効果試験は,実際の装用サイクルのレンズを使用していない.この点については,今後の検討課題である.MPSで発生する角膜ステイニングに関しては,装用14時間後に最も程度が高く,6時間後には軽減もしくは解消する性質をもつことから,臨床上問題となるか否かは議論の分かれるところであった.しかし,今回の結果から,実際の装用サイクルで1週間使用した場合でも角膜ステイニングが発生することが明らかになり,角膜ステイニングは,日々,発生と消失をくり返している可能性が示唆された.角膜が障害されたとき,角膜上皮バリア機能が低下しているという報告があり14),MPSによる角膜ステイニングであっても,角膜上皮のバリア機能が低下する可能性がある.正常眼であっても,その結膜に常在菌は存在しており15),角膜ステイニングにより,角膜上皮のバリア機能が低下した場合,角膜感染症のリスクは上がると考える.また,最近では,薬剤毒性による角膜ステイニングがある場合,角膜浸潤などの角膜炎の発生頻度が高くなるとの報告3)や,MPSそのものが角膜上皮バリア機能を低下させる可能性を示唆した報告16)もある.したがって,MPSとSHCLの組み合わせで発生する角膜ステイニングについては,感染症や角膜炎のリスクも考慮し,今後も注意して観察すべきである.MPSで発生する角膜ステイニングは,“深度の浅い,点状のステイニング”という特有の形態をもって現れる.これらは,MPSとSHCLの組み合わせ,あるいは,個人差によって程度が異なるため,その都度,より適切な評価方法で,その程度を評価する必要がある.角膜ステイニングの評価方法で一般的な方法の一つであるCCLRU(CorneaandContactLensResearchUnit)GradingScale17)では,その形態(Type),深度(Depth),面積(Extent)についてそれぞれ分類し,評価している.しかし,MPSで発生する角膜上皮障害の多くは,形態は“点状(1:Micropunctate)”,深度は“1:角膜上皮の表層(1:Supercialepithelial)”に分類され,差が生じるのは面積(Extent)のみである.その点に特化してこれら角膜ステイニングを評価したのが,Andraskoらである.彼らは,10種のケア用品と9種のCL(3種のHyCLと6種のSHCL)の組み合わせで発生する角膜ステイニングを,形態(Type)と面積(Area)でそれぞれ評価したが,形態はすべて“点状(1:Micropunctate)”で差がなかったことから,最終的なリスク判定は角膜ステイニングの面積の結果のみで行っている18).角膜ステイニングの程度を評価するにあたっては,CCLRUGradingScaleにおいても,Andraskoらの研究においても,角膜を5つの領域(中央,上方,下方,耳側,鼻側)に分け,それぞれの領域における角膜の病変面積を算出している.CCLRUGradingScaleでは病変面積の程度をGrade分類し,5領域のGradeを合計して最終的な判定をしている18).また,Andraskoら18)の研究では5領域の病変面積の平均を算出している.研究レベルでは,このような詳細な分類および評価が可能であるが,一般の眼科診療において,個々の患者に対しこれほど詳細な評価を行うのは困難である.宮田らは,びまん性表層角膜炎の重症度を評価する簡便な方法として,障害をAreaとDensityに分け,それぞれを“障害なし(分類:0)”から“重度(分類:3)”の4段階に分けて評価するAD分類を提案している19).この方法は一般診療において,視診のみで角膜上皮障害の重症度を判定できる方法として有用である.しかし,AreaとDensityに分けて評価しているため,全体の重症度を数値で評価できないという問題があると考える.そこで,本試験では,一般の診療現場で簡便にMPSの薬剤毒性による角膜上皮障害を評価でき,かつ,その病変面積を数値で評価する方法として,病変部位の範囲(Range)と密度(Density)を掛け合わせる方法を考案し,MPSによる角膜ステイニングの程度を評価した.この方法を採用するにあたっては,事前にMPSによる角膜ステイニングが発生した300眼を対象に,本評価方法で評価した場合と,CCLRUGradingScaleで評価した場合とで相関が得られるか否かを確認した.その結果,これら2つの評価方法は高い相関(r=0.881)があり(図7),今回採用した病変の範囲(Range)と密度(Density)を掛け合わせ0123456789100510152025(n300)r0.881範囲(R)密度(D)CCLRUGradingScale(5領域の合計)図7角膜上皮障害〔範囲(Range)×密度(Density)〕とCCLRUGradingScaleの相関———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.1,200999(99)る方法は,MPSで発生した角膜ステイニングを評価するのに適切な方法であると判断した.MPSとSHCLの組み合わせで発生する角膜ステイニングは,その評価方法も含め,臨床上どの程度問題となるかが今後も議論されると思われる.ただし,角膜ステイニングが短時間で消失するものであったとしても,一時的に角膜の健常性は損なわれ,感染症や角膜炎のリスクファクターとなりうると考える.MPSとCLの相性も重要であるが,同じ組み合わせを使用しても,個々で角膜ステイニングの発生程度は異なる.今後,MPSとCLを患者に選択する立場にある者は,それらの相性を十分に把握し,さらには角膜ステイニングの発生程度に個人差があることも理解したうえで,最終的には実際の使用のなかで角膜への影響を観察していくことが重要であると考える.文献1)丸山邦夫,横井則彦:マルチパーパスソリューション(MPS)による前眼部障害.あたらしい眼科18:1283-1284,20012)植田喜一:塩化ポリドロニウム(POLYQUAD)による角結膜障害が疑われた1例.日コレ誌42:164-166,20003)CarntN,JalbertI,StrettonSetal:Solutiontoxicityinsoftcontactlensdailywearisassociatedwithcornealinammation.OptomVisSci84:309-315,20074)LebowKA,SchachetJL:Evaluationofcornealstainingandpatientpreferencewithuseofthreemulti-purposesolutionsandtwobrandsofsoftcontactlenses.EyeCon-tactLens29:213-220,20035)JonesL,MacDougallN,SorbaraLG:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbalalconsilicone-hydro-gelcontactlensesdisinfectedwithapolyminopro-pylbiguanide-preservedcareregimen.OptomVisSci79:753-761,20026)工藤昌之,糸井素純:O2オプティクスと各種ソフトコンタクトレンズ消毒剤との組み合わせによる安全性.あたらしい眼科24:513-519,20077)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.EyeContactLens31:166-174,20058)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤の相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20059)植田喜一,稲垣恭子,柳井亮二:化学消毒剤による角膜ステイニングの発生.日コレ誌49:187-191,200710)柳井亮二,植田喜一,西田輝夫ほか:市販多目的用剤の消毒効果と細胞毒性の比較.日コレ誌49:S13-S18,200711)糸井素純:シリコーンハイドロゲルレンズとケア製品の適合性.日コレ誌50(補遺):S11-S15,200812)丸山邦夫,横井則彦:シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズとマルチパーパスソリューションとの組み合わせで発生しうる角膜上皮障害とその考察.あたらしい眼科24:449-450,200713)AnsorgR,RathPM,FabryW:Inhibitationoftheanti-staphylococcalactivityoftheantisepticpolihexanidebymucin.Arzneimittelforschung53:368-371,200314)横井則彦,清水章代,西田幸二ほか:新しいフルオロフォトメーターによる角膜上皮バリアー機能の定量的評価.あたらしい眼科10:1357-1363,199315)金井淳,井川誠一郎:我が国のコンタクトレンズ装用よる角膜感染症.日コレ誌40:1-6,199816)ImayasuM,ShiraishiA,OhashiYetal:Eectsofmulti-purposesolutionsoncornealepithelialtightjunctions.EyeContactLens34:50-55,200817)TerryRL,SchniderCM,HoldenBAetal:CCLRUstan-dardsforsuccessofdailyandextendedwearcontactlenses.OptomVisSci70:234-243,199318)AndraskoGJ,RyenKA:EvaluationofMPSandsiliconehydrogellenscombinations.ReviewofCornea&ContactLenses:36-42,200719)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,1994***

硝子体手術のワンポイントアドバイス68.先天緑内障眼の網膜剥離(中級編)

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009870910-1810/09/\100/頁/JCLS先天緑内障眼に生じた裂孔原性網膜離例は,種々の解剖学的特性のため,診断および手術が困難であることが多く,手術成績も一般に不良とされている.その理由として,先天緑内障眼ではDescemet膜破裂による角膜混濁や長期縮瞳薬点眼による散瞳不良(図1)などにより,眼底の視認性がしばしば不良であることに加えて,生来弱視の症例が多く,網膜離を発症しても自覚症状に乏しいために発見が遅れがちとなることがあげられる1,2).また,強度近視眼と同様に硝子体が高度に液化変性していることが多く,胞状の網膜離や脈絡膜離を合併しやすい(図2).膜硝子体手術を施行する際の注意点先天緑内障眼では,強度近視眼のように前後方向のみ眼球が長いのではなく,眼球全体が球状に拡張する形態をとる.よって輪状締結を施行する場合は,通常の強膜バックリング手術よりはバックルの全長が長くなる.また,角膜径が大きいので硝子体手術用コンタクトレンズ設置時にはセンタリングがややむずかしい.強膜も通常高度に菲薄化しているため,通糸時には細心の注意が必要である.バックル設置後の再手術の際には,強膜破裂などの合併症に注意が必要である.硝子体は強度近視と同様に一見後部硝子体離が生じているように見えても,薄い硝子体皮質が網膜全面に付着していることが多い.トリアムシノロンで残存硝子体を可視化したうえで,ダイアモンドダストイレイサーを用い丁寧に硝子体を処理する必要がある.後の眼圧上昇に注意緑内障眼であるため,当然術後の眼圧コントロールが問題となる.トラベクレクトミーがすでに施行され濾過胞が機能している症例では,小切開硝子体手術が有用であるが,強膜が菲薄化しているため自己閉鎖しにくい.(87)また,硝子体の容積が非常に大きいため,ガスタンポナーデを施行した場合には長期にわたってガスが眼内に滞留し,無水晶体眼では隅角癒着が生じやすい.まずは網膜を確実に復位させることに主眼をおかなければならないが,できる限り術後の眼圧上昇をきたす要因を排除するように努力する必要がある.文献1)中村貴子,田聖花,濱田潤ほか:先天緑内障に合併した裂孔原性網膜離の1例.眼臨94:1238-1240,20002)藤尾裕子,池田恒彦,檀上真次ほか:牛眼にみられた網膜離の2症例.眼紀45:1087-1090,1994硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載68先天緑内障眼の網膜離(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1自験例の前眼部所見先天緑内障によるDescemet膜破裂を認め,角膜径は著明に拡大し,散瞳不良であった.図2術前眼底写真網膜離と脈絡膜離を認めたが,裂孔は術前には検出できなかった.硝子体手術中,下耳側周辺部に小裂孔を認めた.

眼科医のための先端医療97.ミトコンドリアの功罪

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009830910-1810/09/\100/頁/JCLSProgrammedcelldeath/Apoptosis12errのecrosisの1のapoptosisアトのprogrammedcelldeathのののののののアトののののンアcaspaseのcaspasecaspasecascadeAのcaspasedepedetcelldeathミトコンドリア細胞死とミトコンドリアミトコンドリアを細胞で細胞とでく細細胞取りとミトコンドリアの子を細胞で分ミトコンドリアで子リンりアシンリンを細胞ーを細胞をのミトコンドリアのををアポトーシスを子をのりの子をとで細胞のとのをの細胞でーとをんでのででミトコンドリア細胞をミトコンドリアのく子をりくの分子ミリー子と子りとでの子のをりミトコンドリアン分子のをと細胞ーをで細胞をを視細胞とミトコンドリア視細胞の細胞分を細胞でをとをドシンの視をとで細胞ををのでのーをと視細胞でミトンドリアを細胞の視細胞ミトコンドリアと視を視細胞のを分を分の細胞と視細胞リア細胞で細胞ととリアを視細胞のミトコンドリアをとをの視をくををくををシリアと細でを視をと下細胞取り視細胞とでリ分を細胞でをシスのをシリアを分子群の子とをと◆シリーズ第97回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊久冨智朗(九州大学大学院医学研究院眼科学)ミトコンドリアの功罪———————————————————————-Page284あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009視細胞のアポトーシスででとの視とで視細胞アポトーシスをの下くとシリー「視下」18:61-63,2001参照).この過程ではミトコンドリアから放出されるAIFやcytochromecが重要な役割を占めています2).視細胞死をひき起こすmonocytechemoattractantpro-tein-1(MCP-1)の発現増加やミクログリアの活性化4),high-mobilitygroupbox1(HMGB-1)の遊離の抑制に加えて5),ミトコンドリアの透過性を維持によるpro-apoptoticproteinの放出抑制など6),さまざまなアプローチで視細胞死を抑制する試みがなされています.また,色素変性症や加齢黄斑変性など,視細胞変性疾患においてもこうした治療法の応用が考えられ,手術療法に加えて神経細胞保護という新しい分野が発展することが期待されています.文献1)KerrJF,WyllieAH,CurrieAR:Apoptosis:abasicbio-logicalphenomenonwithwide-rangingimplicationsintis-suekinetics.BrJCancer26:239-257,19722)HisatomiT,SakamotoT,MurataTetal:Relocalizationofapoptosis-inducingfactorinphotoreceptorapoptosisinducedbyretinaldetachmentinvivo.AmJPathol158:1271-1278,20013)TsujikawaM,MalickiJ:Intraagellartransportgenesareessentialfordierentiationandsurvivalofvertebratesensoryneurons.Neuron42:703-716,20044)NakazawaT,HisatomiT,NakazawaCetal:Monocytechemoattractantprotein1mediatesretinaldetachment-inducedphotoreceptorapoptosis.ProcNatlAcadSciUSA104:2425-2430,20075)ArimuraN,Ki-IY,HashiguchiTetal:High-mobilitygroupbox1proteininendophthalmitis.GraefesArchClin(84)1ミトコンドリアを取り巻くアポトーシス関連分子群ミトコンドリアにはアポトーシスを促進する分子群が内蔵されており,この透過性を促進・抑制する制御分子群が発達している.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200985ExpOphthalmol246:1053-1058,20086)HisatomiT,NakazawaT,NodaKetal:HIVproteaseinhibitorsprovideneuroprotectionthroughinhibitionofmitochondrialapoptosisinmice.JClinInvest118:2025-2038,2008(85)「ミトコンドリアの」を読んでの久冨智朗視細胞のをーのりく視細胞くのの細胞でをトンスーーのをのをーミトコンドリアのくとりのを視細胞ののののりで視下のくとりのトス分でりのとのをとのートと細胞のーくとの久冨のの細胞のミを読細胞のをく細胞のをーとをのくと視をのミ細胞とのをく久冨「視細胞でミトコンドリアを細胞の」と視細胞のミトコンドリアをと細胞のーと細胞のをとくでとのをのの分アーーをと山視分山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ186.Noncontact Meibographyの開発

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009790910-1810/09/\100/頁/JCLS射される.マイボーム腺で赤外光が反射される理由はわからないが脂の性状によるものと考えている.赤外線透過フィルターは遷移波長が700~850nmの範囲で,光源はスリットランプの光学系をそのまま利用する.赤外線カメラは,700~1,000nmの近赤外線領域に感度を有するCCDカメラを用いる.使用方法非接触型マイボグラフィーは,以下に示すように,一般外来のドライアイ患者を診察する流れのなかに自然に組み込まれる.まず,患者に細隙灯顕微鏡の顎台に顔を乗せてもらう.マイボーム腺開口部周辺や眼瞼の状態を細隙灯顕微鏡の散乱光を用いて観察したのち,フルオレセイン染色をして,ブルーフィルター(もしくはブルーフリーフィルター)で角結膜上皮障害の観察,涙液破綻時間(BUT)の計測を行う.その後,さらにフィルター新しい治療と検査シリーズ(79)バックグラウンドマイボーム腺は皮脂腺の一種であり,涙液の油層を形成し,過剰な涙液の蒸発を防ぐ役割をしている.マイボグラフィーとはマイボーム腺を皮膚側から透過することによりマイボーム腺構造を生体内で形態学的に観察する唯一の方法である.30年以上前Tapie1)によって初めての報告があって以来,赤外線フィルム2,3)や赤外線ビデオカメラ4),赤外線プローブ5)といった改良がなされてきたが,光源プローブが患者眼瞼に直接接触することによる,疼痛や不快感を解消することはできなかった.また,従来の光源プローブの照射範囲も狭く,上下眼瞼耳側から鼻側まで全体を把握するためには時間と苦痛を伴う侵襲的検査と位置づけられ,一般外来で普及することはなかった.しかし一般臨床の場で,われわれ眼科医が,最も多く遭遇する慢性疾患の一つである,マイボーム腺機能不全(MGD)を診断するうえで,マイボグラフィーによるマイボーム腺の脱落は,スリットランプで観察する眼瞼所見とともに最も重要な所見である.今回,筆者らは細隙灯顕微鏡を利用し,フィルターを1枚回転させるだけで,非接触的,非侵襲的にマイボーム腺を観察できるマイボグラフィーの開発を行ったので報告する.新しい検査法(原理)観察用の光が可視光線である場合,散乱が大きくマイボーム腺を観察することはできない.それに対して,可視光線カットフィルター(以下,赤外線透過フィルター)により,可視光線を排除して赤外線を用いて観察を行うと,散乱の問題は生じず,良好にマイボーム腺を観察することができる.可視光は瞼板によって光が反射されるので奥にあるマイボーム腺は見えないが,赤外光は深部到達度が高く,瞼板を透過し,マイボーム腺によって反186.NoncontactMeibographyの開発プレゼンテーション:有田玲子1,2)天野史郎1)1)伊藤医院/2)東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学コメント:横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学1非接触型マイボグラフィー装置細隙灯顕微鏡のブルーフィルターをはさむ部分に,赤外線透過フィルターをはめ込み,小型赤外線CCDカメラを搭載しただけのものである.(文献6より)———————————————————————-Page280あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009を1枚回転させ,赤外線透過フィルターにし,患者の下眼瞼の瞼結膜を観察するときのように下に翻転しながら,観察用モニターでマイボーム腺を観察,評価する(図1).このとき,倍率は細隙灯顕微鏡の範囲内であれば自由に変更できるので,まず弱拡大で下眼瞼全体を観察し(マイボーム腺は本方法では白く見える),マイボーム腺が脱落,短縮,途絶,拡張,歪曲など異常所見を見つけたら,その部分を強拡大にして腺房まで詳細に観察する.また,同部に一致したマイボーム腺の開口部を再度観察したいときにはフィルターを1枚回すだけでよい.同様に上眼瞼のマイボーム腺も上眼瞼を翻転し,全体から細部まで観察する.ここまで通常3分以内で終了する6)(図2,3).本方法のよい点(表1)今回筆者らが新しく開発した非接触型マイボグラフィーは,特殊で大掛かりな装置やそのスペースを必要とするものでなく,眼科施設であればどこにでもあり,眼科医であれば誰でも使えて,マイボーム腺関連疾患を診断するうえで最もたくさんの情報を提供してくれる細隙灯顕微鏡に小型赤外線CCDカメラと赤外線透過フィルターを搭載しただけのものである.細隙灯顕微鏡の光源を利用して観察するため,従来のように患者へ直接接する光源プローブは一切必要ないことが非接触,非侵襲(80)グレード2グレード0グレード3グレード1図2マイボスコア(文献6より)非接触型マイボグラフィーを用いてマイボーム腺の消失面積をグレード分類した.グレード0:マイボーム腺の脱落面積なし.グレード1:マイボーム腺の脱落面積が全体の1/3以下.グレード2:マイボーム腺の脱落面積が全体の1/3以上2/3以下.グレード3:マイボーム腺の脱落面積が全体の2/3以上.図3マイボーム腺機能不全症例(74歳,男性,右眼)a:右上眼瞼結膜散乱光で観察.マイボーム腺は観察できない.b:非接触型マイボグラフィーによる,右上眼瞼マイボーム腺所見.鼻側から中央にかけてマイボーム腺が脱落(dropout)していることがはっきりわかる.耳側にかけても短縮していたり,開口部周辺のみ認めるが,途絶しているマイボーム腺など詳しく観察できる.c:右下眼瞼結膜散乱光で観察.一部のマイボーム腺は観察できている.d:非接触型マイボグラフィーによる,右下眼瞼マイボーム腺所見.右下中央部,脱落するマイボーム腺を認める.鼻側1/3のマイボーム腺は認められない.acbd———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200981(81)的マイボグラフィーの最大の利点である.さらに,倍率も自由に変えることができ,スリットランプの長所をそのまま生かしながら,それに新しい機能を付加させるものといえる.文献1)TapieR:BiomicroscopialstudyofMeibomianglands(inFrench).AnnOcul(Paris)210:637-648,19772)RobinJB,JesterJV,NobeJetal:Invivotransillumina-tionbiomicroscopyandphotographyofmeibomianglanddysfunction.Ophthalmology92:1423-1426,19853)MathersWD,ShieldsWJ,SachdevMSetal:Meibomianglanddysfunctioninchronicblepharitis.Cornea10:277-285,19914)MathersWD,DaleyT,VerdickR:Videoimagingofthemeibomiangland.ArchOphthalmol112:448-449,19945)YokoiN,KomuroA,YamadaHetal:Anewlydevelopedvideo-meibographysystemfeaturinganewlydesignedprobe.JpnJOphthalmol51:53-56,20076)AritaR,ItohK,InoueK,AmanoS:Noncontactinfraredmeibographytodocumentage-relatedchangesofthemeibomianglandsinanormalpopulation.Ophthalmology115:911-915,2008表1マイボグラフィーの比較(従来型と非接触型)従来型非接触型プローブが直接接触疼痛,羞明,侵襲的非接触非侵襲的特別な技術,熟練が必要スリットランプが使えれば誰でもできる光源が必要スリットランプの光源倍率の変更も自由ほぼ下眼瞼中央部しか見えない上下眼瞼,耳側から鼻側まで全部簡単に見えるも,低侵襲で鮮明なマイボーム腺像を得るProbeを開発したが,本法では,Probeなしに,白黒反転像として同様の像を得ることができる.眼瞼結膜側から観察できることは,上眼瞼が厚い場合のマイボーム腺の観察には有用と考えられる.マイボグラフィーはあくまでも形態検査であり,機能検査ではない.この限界を知ったうえで,この新しいマイボグラフィーがマイボーム腺疾患の病態に深く迫ってくれることを期待したい.マイボーム腺は,赤外光を翻転した眼瞼皮膚側から照射し,その透過光を赤外線ビデオカメラでとらえるのが,最も鮮明な画像を得るための常識と考えられてきたが,その常識を覆す新しいマイボグラフィーが開発された.その成功のポイントは,赤外線CCDカメラを用いたこと,および,赤外光がマイボーム腺組織で反射されるということを見出したことであろうか.本法は,Noncontactというよりむしろ,Probe-freeといったほうがよいのかもしれない.筆者(横井)ら本方法に対するコメント☆☆☆

サプリメントサイエンス:亜鉛と微量ミネラル

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009750910-1810/09/\100/頁/JCLSミネラルとは地球上に存在する118種類の元素のうち,水素(H),炭素(C),窒素(N),酸素(O)のように蛋白質や脂質,炭水化物の主要元素となっているものを除いた114種類の元素はミネラルとよばれる.ヒトの体も元素によって構成されており,ミネラルは生体組織の構成や生理機能の維持,調節に重要な役割を果たしている.ミネラルのうち,ヒトの体内に存在し,栄養素として欠かせないとされるものを必須ミネラルとよび,1日の摂取量がおおむね100mg以上の主要(マクロ)ミネラルとしてナトリウム(Na),マグネシウム(Mg),リン(P),硫黄(S),塩素(Cl),カリウム(K),カルシウム(Ca),1日の摂取量がおおむね100mgまでの微量(ミクロ)ミネラルとして鉄(Fe),亜鉛(Zn),銅(Cu),クロム(Cr),マンガン(Mn),コバルト(Co),セレン(Se),モリブデン(Mo),ヨウ素(I)の16種類がこれまでに知られている(表1,今後増える可能性もある).わが国の食生活はメニューも豊富であり,これまでよほどのことがなければミネラル欠乏は起こらないと考えられてきた.一方で,特異な生活習慣や,加熱するダイエットブームによる偏食などもみられるようになった.最近の国民栄養調査によるとFe,Zn,Cu,Ca,Mgが欠乏傾向にあるとされている.日本でも2001年にCaとFe,2004年にはMg,Zn,Cuのサプリメントとしての規格基準が厚生労働省から示され,一般にも入手しやすくなったが,欠乏も過剰摂取もいずれも問題となるものである.本稿では,亜鉛を中心に微量ミネラルの視覚に対する効果について述べる.必須微量ミネラル:特に亜鉛と銅について1.亜鉛(Zn)人体では鉄のつぎに多い必須微量元素である.炭酸脱水酵素,DNAポリメラーゼをはじめ300種類を超える酵素の活性に関与し,おもに酵素の構造形成および維持に必須であり,これらの酵素の生理的役割は,骨組織の成長と石灰化,免疫機構の補助,創傷治癒,精子形成,味蕾の形成・維持,糖代謝など多岐にわたる.また,強い抗酸化作用をもつ.人体に入る亜鉛はすべて食品に由来するとされる.脳(海馬),前立腺などで濃度が高く,眼球にも比較的多くの亜鉛が存在する.母乳中の亜鉛含量は初乳で最も高い.ビタミンAの活性化にも関与するため,亜鉛の欠乏により,ビタミンA欠乏症が現れ(75)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑧監修=坪田一男8.亜鉛と微量ミネラル寺田佳子広島市立広島市民病院眼科ヒトの体内に存在し,栄養素として欠かせないとされるものを必須ミネラルとよび,1日の摂取量がおおむね100mgまでの微量(ミクロ)ミネラルとして鉄(Fe),亜鉛(Zn),銅(Cu),クロム(Cr),マンガン(Mn),コバルト(Co),セレン(Se),モリブデン(Mo),ヨウ素(I)の9種類がこれまでに知られている.米国で行われたAREDSの結果から,亜鉛と亜鉛摂取時の銅の摂取は加齢黄斑変性の進行を遅らせるというエビデンスがあり,リスクのある人には摂取が勧められる.表1必須ミネラルのいろいろ主要(マクロ)ミネラルナトリウム(Na),マグネシウム(Mg),リン(P),硫黄(S),塩素(Cl),カリウム(K),カルシウム(Ca)微量(ミクロ)ミネラル鉄(Fe),亜鉛(Zn),銅(Cu),クロム(Cr),マンガン(Mn),コバルト(Co),セレン(Se),モリブデン(Mo),ヨウ素(I)表2亜鉛含有量(可食部100g当たり)6)食品亜鉛含有量(mg)カキ13.2にぼし7.2ブタレバー(生)6.9牛肉約5ゴマ5.5玄米1.8(文献6より)———————————————————————-Page276あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009ることがある.金属としての亜鉛は人体に有害であり,蒸気(ヒューム)を吸引することで痙攣や呼吸困難をひき起こす.カキをはじめとする魚介類,鳥獣鯨肉の内臓,ゴマ,玄米などに多く含まれる(表2).眼科領域で注目されるのはその強い抗酸化作用である.抗酸化作用を期待し,米国で行われた加齢性眼疾患についての無作為前向き多施設研究(AREDS)1)では亜鉛単体あるいは抗酸化ビタミンとの組み合わせで投与された(いずれも亜鉛80mg).平均6.3年の経過観察の結果,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)について,AMDの進行率は亜鉛単独投与群でプラセボ群に対しオッズ比0.75(99%信頼区間0.551.03),亜鉛+抗酸化剤投与群でプラセボ群に対しオッズ比0.72(99%信頼区間0.520.98)と進行予防効果が認められた.比較的軽いものには予防効果は大きくなかったが,多くのあるいは大きなdrusenが認められる眼,geographicatrophyやすでに脈絡膜新生血管(choroidalneovascu-larization:CNV)がみられる眼やその僚眼といったハイリスク群(カテゴリー3,4)で,発症予防およびさらに重症のAMDへの進行をより予防するという結果であった2).残念ながら白内障の進行予防については効果が認められなかった3).一方で,亜鉛摂取により貧血が進行するとの報告もあり,現在進行中のAREDS2では亜(76)鉛は80mg/日あるいは25mg/日の2群に振り分けられ,減量が可能かどうか検討される4).その他,亜鉛100mg/日の大量摂取を継続すると前立腺癌の発症頻度が上がるとの報告もあり5),摂取量に留意する必要がある.2.銅(Cu)おもに骨や筋肉に多く存在し,濃度が高いのは脳,肝臓,腎臓である.銅は,各種の酸化還元酵素の補因子として生理活性を示す.鉄の輸送系にも銅は必要であり,ヘモグロビンを合成するために銅は不可欠であるため,銅が欠乏することで鉄欠乏性貧血に似た病態をひき起こす(節足動物や軟体動物では,哺乳類のヘモグロビンに相当する酸素結合蛋白質であるヘモシアニンの活性中心は銅である).抗酸化にも重要な役割を果たしており,スーパーオキシドディスムターゼ,ミトコンドリアにおける呼吸鎖関連酵素のシトクロムcオキシダーゼ,コラーゲン合成に必須なモノアミンオキシダーゼやリジルオキシダーゼなどの活性中心である.遺伝的な銅の過剰症としてWilson病が知られる.比較的摂取量が多く,通常の食生活では銅が不足することはまれであるが,欠乏症では神経障害,貧血,下痢などがみられる.亜鉛の過剰摂取によって小腸で金属結合性蛋白質であるメタロチオネインが誘導され,銅がこの蛋白質と結合してしまうために銅の摂取が阻害される.これによる銅の不足を防表3日本人成人の微量ミネラル食事摂取基準(1日当たり)男性女性推定平均必要量推奨量目安量上限量推定平均必要量推奨量目安量上限量亜鉛(mg)7889306730銅(mg)0.60.8100.50.60.710鉄(mg)5.56.56.57.54555月経なし40455.05.56.06.5月経あり9.010.5セレン(μg)253030354004502025350ヨウ素(μg)951503,000951503,000クロム*(μg)2535304020252530マンガン(mg)4113.511ビタミンB12**(μg)2.02.4***2.02.4***モリブデン*(μg)20252703201520230250*クロム,モリブデンは暫定値.**コバルトの代替として抜粋した.***上限量は策定しなかったが,過剰摂取しても胃から分泌される内因子が飽和するため吸収されない.(文献7より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200977(77)ぐため,AREDSでは銅が含まれる内容になった(2mg/日).AREDS2でも同量が採用されている.その他の必須微量ミネラル3.鉄(Fe)鉄はヘモグロビンの活性中心として造血機能に必須である.鉄欠乏により貧血になることは周知のとおりである.鉄剤の過剰投与ではヘモクロマトーシス/ヘモジデローシスといった組織への鉄の沈着をひき起こし,有害である.鉄はレバー,小松菜などに多く含まれるほか,鉄製の鍋を用いた調理も良いとされる.4.セレン(Se)セレンは体内で蛋白質と結合しセレノプロテインとして存在し,ビタミンEと協調して抗酸化物質として働く.中国黒竜江省では土壌に含まれるセレンが不足し,そのために克山病といわれる風土病が知られるが,一般には欠乏は非常にまれである.セレンは摂取量の安全域が狭く,過剰摂取による発癌性や催奇形性,流産の増加も指摘されており,サプリメントとして安易に接取すべきではない.5.ヨウ素(I)ヨウ素は甲状腺機能の維持に必要であるが,過剰摂取では甲状腺機能亢進症と同様の症状となるため,いわゆる甲状腺眼症の症状が現れる可能性はある.海苔やワカメといった海藻を食べる習慣のある日本では比較的欠乏しにくい.食事からのヨウ素摂取量が少ない米国などでは,食塩にヨウ素を添加したものも売られている.6.クロム(Cr)クロムは正常な糖代謝を維持するために重要かつ必須である.食品で摂取する限りは問題ないが,多量,長期摂取では変異原性となる可能性が示されている.7.マンガン(Mn)ミトコンドリア内などに存在し,抗酸化や脂質代謝などに関わる.穀類,ナッツのほか茶葉に多く含まれる.過剰摂取で中枢神経障害の可能性がある.8.コバルト(Co)コバルト化合物として重要なのはシアノコバラミン(ビタミンB12)で,コバルトの必須性はビタミンB12の必須性と考えてよい.コバルト単体またはコバルトイオンとしての体内での働きは不明であり,単独での欠乏症はないとされる.9.モリブデン(Mo)酸化還元反応を触媒するモリブデン酵素の構成成分として必須である.大量摂取で血中尿酸値の上昇をひき起こす.貧血予防の観点から,若年女性などでは鉄の摂取は以前から推奨されてきた.その他,亜鉛と亜鉛摂取時の銅以外の微量ミネラルについて,「眼に良い」という信頼できるエビデンスを備えた報告はまだない.また,いずれの微量ミネラルも,通常欠乏はまれであり,過剰摂取となったときの有害性があることから,亜鉛と亜鉛摂取時の銅,鉄以外の安易な摂取は勧められない.文献1)TheAge-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:“TheAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS):DesignimplicationsAREDSreportno.1”.ControlClinTrials20:573-600,19992)TheAge-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,20013)TheAge-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:TheAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)systemforclassifyingcataractsfromphotographs:AREDSreportno.4.AmJOphthalmol131:167-175,20014)EmilyChew,MDNationalEyeInstitute(NEI)DivisionofEpidemiologyandClinicalResearchClinicalTrialsBranch.AGE-RELATEDEYEDISEASESTUDY2PROTOCOLAge-RelatedEyeDiseaseStudy2(AREDS2):AMulti-center,RandomizedTrialofLutein,Zeaxanthin,andOmega-3Long-ChainPolyunsaturatedFattyAcids(Doco-sahexaenoicAcid[DHA]andEicosapentaenoicAcid[EPA])inAge-RelatedMacularDegenerationIND#74,781.Version5.1,3December20075)LeitzmannMF,StampferMJ,WuKetal:Zincsupple-mentuseandriskofprostatecancer.JNatlCancerInst95:1004-1007,20036)食品成分研究調査会編:五訂日本食品成分表.医歯薬出版,20027)「日本人の栄養所要量─食事摂取基準─策定検討会」(座長:田中平三独立行政法人国立健康・栄養研究所理事長).「日本人の食事摂取基準(2005年版)」.厚生労働省ホームページより<参考図書>1)吉川敏一,桜井弘:サプリメントデータブック,オーム社,20062)坪田一男(編):眼科プラクティス22,抗加齢眼科学,文光堂,2008

眼感染症:HTLV-Iぶどう膜炎

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009730910-1810/09/\100/頁/JCLSはじめにHTLV-Iは成人T細胞白血病の原因ウイルスとして同定されたhumanT-lymphotropicvirustypeIである.HTLV-Iぶどう膜炎(HTLV-Iuveitis:HUまたはHTLV-Iassociateduveitis:HAU)とは,わが国で検討が進んでいる疾病である13).この疾患は,ヘルペスウイルスなど他のウイルス眼感染症とは異なり,直接的に眼組織を障害するのではなく,リンパ球の眼内浸潤が病像形成の中心的役割をしていると考えられている.生体内ではおもにCD4陽性Tリンパ球に感染している.HTLV-IレトロウイルスHTLV-Iは,CD4陽性Tリンパ球を標的宿主細胞とするRNAウイルスである.染色体DNAにランダムに組み込まれてプロウイルス(provirus)になるが,細胞障害効果は弱く,感染細胞は増殖可能であるから持続感染が容易に成立する.感染細胞が癌化して増殖しつづける場合(成人T細胞白血病:ATL)と遅発性ウイルス感染症(HTLV-I関連脊髄症:HAMおよびHTLV-I関連症候群)の病像を示す場合とがある.HTLV-Iの感染経路には,胎盤や母乳を介した垂直感染,輸血を介した水平感染が知られている.感染は世界に広がり,日本,カリブ諸島,南米,中央アフリカなどに濃厚感染地域がある.わが国では九州,沖縄で感染率が特に高い.感染頻度と疾病集積度との間には明らかな相関がある.HTLV-I感染リンパ球は接着分子や炎症性サイトカインを構成的に過剰発現していることが知られており,この性質がリンパ球の組織浸潤に重要なかかわりをもっていると考えられている4).本症の特徴の一つとして,女性のHTLV-Iぶどう膜炎患者の1/4にGraves病(バセドウ病)の既往が認められている.Graves病を発症したキャリアが,なぜぶどう膜炎を起こしやすくなるのか,その詳細は不明である.近年の分子生物学的研究により,甲状腺ホルモンがHTLV-Iの転写活性化因子であるTaxなどのウイルス遺伝子発現を誘導することが明らかになっている5).HTLV-Iぶどう膜炎の臨床像HTLV-Iぶどう膜炎は,HAMやHTLV-I関連症候群のみならずHTLV-Iキャリアにもみることがある.一般に急性に発症し,肉芽腫性ぶどう膜炎の病像をとることが多い.発症年齢は2050歳で,性差はない.患者は軽度中等度の霧視,異物感,飛蚊を訴える.片眼性罹患と両眼性罹患とがある.両眼性罹患の場合は間隔をおくことが多い.眼科的検査所見として,角膜は異常なく毛様充血は軽(73)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑬監修=木下茂大橋裕一13.HTLVIぶどう膜炎杉田直東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学HTLV-Iぶどう膜炎はCD4陽性Tリンパ球の眼内浸潤でなる眼内炎症性疾患である.硝子体の炎症が中心で,軽度中等度の微塵状,顆粒状,雪玉状,小塊状,ひも状,ベール状,あるいはびまん性などの多彩で特徴的な混濁がみられる.診断に必要なのは血清のHTLV-I抗体価で,治療には副腎皮質ステロイド薬の局所または全身投与を行う.図1特徴的なベール状硝子体混濁所見組織破壊はあまりなく,眼底は比較的きれいなことが多い.本症例は網膜血管炎がみられていた.———————————————————————-Page274あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009度である.前房中に軽度の細胞遊出,フレアをみる.角膜の後面に白色,小型の豚脂様沈着物,瞳孔縁に小型の虹彩結節をみることがある.硝子体には軽度中等度の混濁があり,混濁の形状は,微塵状,顆粒状,雪玉状,小塊状,ひも状,ベール状とさまざまである(図1).眼底検査では網膜の大小血管に,拡張,血管壁の白鞘,黄白色斑点や白色顆粒状混濁物の数珠状付着などをみる.後極部に綿花状白斑が散在することもある.蛍光眼底血管造影検査では,おもに網膜血管から蛍光色素の漏出や網膜血管壁の蛍光色素染色,いわゆる網膜血管炎所見や視神経乳頭の過蛍光などをみる.全身検査所見で最も重要なのは血清中の抗HTLV-I抗体価所見である.HTLV-Iキャリアでも高値を示す.HAMに罹患していれば,該当する神経学的異常をみる.HTLV-Iキャリアの場合では,全身的には健康で,諸(74)検査所見にも異常をみない.ただし,HTLV-I関連症候群としての乾性角結膜炎や関節炎を合併することがある.筆者らの施設ではHTLV-IproviralDNAの定量PCR(polymerasechainreaction)検査を行っており,眼内から高コピー数のHTLV-IproviralDNAが検出されれば診断的価値は高いと考えられる(図2).鑑別診断はいくつかのぶどう膜炎があげられる.ぶどう膜炎で血清の抗HTLV-I抗体が陽性だからといって直ちにHTLV-Iぶどう膜炎とみなすのは無理である.上記の臨床像に加えて,既知の疾病(特にサルコイドーシス)を除外することが大切である.療および経過副腎皮質ステロイド薬の局所または全身投与によって数週で寛解する事例が多い.自然寛解することもある.硝子体混濁を残して飛蚊症や視力低下が持続する事例があり,この場合,硝子体手術を行う.炎症の再燃・再発がまれではない.文献1)NakaoK,OhbaN,MatsumotoM:NoninfectiousanterioruveitisinpatientsinfectedwithhumanT-lymphotropicvirustypeI.JpnJOphthalmol33:472-481,19892)MochizukiM,YamaguchiK,TakatsukiKetal:HTLV-Ianduveitis.Lancet339:1110,19923)WatanabeT,MochizukiM,YamaguchiK:HTLV-Iuveitis(HU).Leukemia11:582-584,19974)SagawaK,MochizukiM,MasuokaKetal:Immunopatho-logicalmechanismsofhumanTcelllymphotropicvirustype1(HTLV-I)uveitis.DetectionofHTLV-I-infectedTcellsintheeyeandtheirconstitutivecytokineproduction.JClinInvest95:852-858,19955)MatsudaT,TomitaM,UchiharaJNetal:HumanTcellleukemiavirustypeI-infectedpatientswithHashimoto’sthyroiditisandGraves’disease.JClinEndocrinolMetab90:5704-5710,2005図2びまん性硝子体混濁所見本症例はその後硝子体混濁が増悪し,硝子体手術を施行した.硝子体から1.2×106copies/mlと高コピー数のHTLV-Ipro-viralDNAが定量PCRにて検出された.☆☆☆

緑内障:緑内障における神経保護研究

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009710910-1810/09/\100/頁/JCLS緑内障の原因として,以前からグルタミン酸毒性の関与が指摘されている.たとえば,高眼圧負荷を受けた眼球内ではグルタミン酸濃度が上昇するが,グルタミン酸受容体阻害薬はそれらが受容体と結合し,神経興奮毒性を発揮するのを抑制しようとするものである.最近注目されているグルタミン酸受容体阻害薬は,Alzheimer病治療薬として米国で認可されているmemantineであり,すでに緑内障に対する治験が開始されている.しかし,第三相試験においては有効性が確認されなかったとの情報もあり,実際に眼科臨床の現場で使用可能になるかどうかは,まだ不明である.他の手法としては,たとえばグルタミン酸輸送体の機能を賦活化することによって,細胞外グルタミン酸濃度を低下させることが考えられる.筆者らは培養Muller細胞を用いた検討により,interleukin-1(IL-1)がGLASTによるグルタミン酸取り込み能を増大させることを示した1).さらにIL-1を前投与することで,グルタミン酸による網膜神経節細胞死を有意に抑制できることがわかった(図1).その他にも筋萎縮性側索硬化症の治療薬であるriluzole2)や脳梗塞の治療薬であるONO-2506(arundicacid)3)は複数のグルタミン酸輸送体の発現量を上昇させることが報告されており,今後の研究の進展が期待される.胞死実行伝子の抑制これまでの細胞死研究のなかから,アポトーシス実行(71)●連載103緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也103.緑内障における神経保護研究原田知加子原田高幸東京都神経科学総合研究所分子神経生物学現在行われている緑内障治療は眼圧下降が中心だが,近年では多くの研究者や企業が,細胞死の分子メカニズムに注目した新薬の開発を目指している.神経変性疾患の分野ではグルタミン酸毒性や細胞死実行因子などをターゲットとした神経保護薬の開発が進められており,緑内障治療への応用も可能となるかもしれない.GCLINLONLABC200p<0.05p<0.05150100500Glutamate1切片当たりの網膜神経節細胞数IL-1D--+-++図1IL1前処置によるグルタミン酸興奮毒性の抑制培養網膜組織片のNeuN染色像.A:無処置,B:グルタミン酸投与,C:IL-1の前処置後にグルタミン酸投与.D:IL-1の前投与により,残存する網膜神経節細胞数の増加が認められた.GCL:網膜神経節細胞層,INL:内顆粒層,ONL:外顆粒層.(文献1より改変)———————————————————————-Page272あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009因子としてのcaspasefamilyの重要性が明らかにされている.また,細胞死抑制因子についての研究も進展し(72)ており,たとえばBcl-2はcaspaseより上流で細胞死を抑制できると考えられている.Caspase阻害薬はAlzheimer病や脳虚血などにも有効な可能性があり,今後は網膜神経細胞を含めた神経保護薬としての臨床応用が期待される.一方,筆者らは,さまざまな環境ストレスに応答して細胞の生死を制御するmitogen-activatedproteinkinasekinasekinase(MAPKKK)の1つであるapopto-sissignal-regulatingkinase1(ASK1)の機能に注目している4).ASK1欠損マウスに対して高眼圧負荷を行ったところ,野生型マウス網膜と比較して,caspase-3の活性低下と網膜神経節細胞死の軽減が確認された(図2).さらにASK1欠損マウス由来の培養網膜神経節細胞では,酸化ストレスに対する耐性も高まっていた5).つまり酸化ストレスの関与が示唆される緑内障の新たな治療標的として,ASK1caspase-3pathwayを阻害することの有用性が示されたといえる.前号で紹介したGLAST欠損マウスはグルタミン酸毒性に加えて,酸化ストレスが複合的に関与する正常眼圧緑内障モデル動物と考えられることから,現在はASK1欠損マウスとの交配によって,症状が軽快するかを検討中である.文献1)NamekataK,HaradaC,KohyamaKetal:Interleukin-1stimulatesglutamateuptakeinglialcellsbyacceleratingmembranetrackingofNa+/K+-ATPaseviaactindepo-lymerization.MolCellBiol28:3273-3280,20082)FumagalliE,FunicelloM,RauenTetal:Riluzoleenhanc-estheactivityofglutamatetransportersGLAST,GLT1andEAAC1.EurJPharmacol578:171-176,20083)MoriT,TateishiN,KagamiishiYetal:Attenuationofadelayedincreaseintheextracellularglutamatelevelintheperi-infarctareafollowingfocalcerebralischemiabyanovelagentONO-2506.NeurochemInt45:381-387,20044)原田知加子:虚血網膜におけるapoptosissignal-regulatingkinase1(ASK1)シグナルの伝達機構と機能解明.日眼会誌112:965-974,20085)HaradaC,NakamuraK,NamekataKetal:Roleofapop-tosissignal-regulatingkinase1instress-inducedneuralcellapoptosisinvivo.AmJPathol168:261-269,2006WTヘマトキシリン・エオジン染色TUNEL染色活性型caspase-3ASK1KO☆☆☆図2ASK1欠損マウスの網膜における虚血耐性の解析野生型マウス(WT)および同腹のASK1欠損マウス(ASK1KO)を用いた虚血網膜の検討.上段:虚血負荷7日後のヘマトキシリン・エオジン染色.中段:虚血負荷1日後のTUNEL染色.下段:虚血負荷3時間後の活性型caspase-3抗体による免疫染色.ASK1欠損マウスでは,網膜神経節細胞層におけるアポトーシスの減少と残存細胞数の増加が認められた(矢印).(文献5より改変)

屈折矯正手術:新しくLASIK手術を導入する

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009690910-1810/09/\100/頁/JCLSエキシマレーザー屈折矯正手術(laserinsituker-atomileusis/photorefractivekeratectomy:LASIK/PRK)が,2007年に日本で推計25万眼に行われた.2008年は35万眼が予想されている.美容外科系,コンタクトクリニック系の上位3グループが90%以上を行っている.当院は,通常の眼科診療を行っている眼科医院として,国内最多の実績(2007年には4,600眼)があり,いま白内障の日帰り手術を行っており,これからエキシマレーザー手術を導入しようとする眼科に,経験を紹介したい.械入検査機械としては,適応決定のために角膜形状解析器としてPENTACAM(中央産業社)が必須で,さらに,不正乱視の確認のために波面収差解析用にOPD-scanⅡ(NIDEK社)があるほうが望ましい.エキシマレーザーとのリンクの関係で業者との相談が必須である.角膜内皮測定も必要である.キシマレーザー筆者は,機能として①眼球追尾照射装置がある,②TOPO-LINK照射ができる,③瞳孔の位置補正ができ(69)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載104監修=木下茂大橋裕一坪田一男104.新しくLASIK手術を導入する安渕幸雄安渕眼科医院日本でも年間30万眼以上のLASIK(laserinsitukeratomileusis)手術が行われ,社会的にも認知されたと思われる.今から始めても,通常の眼科診療所でもよく使われている機種を採用すれば,採算可能と考えられる.図1WaveLightAllegrettoEyeQ図2NIDEKEC5000CXⅢ図3IntraLaseFS60———————————————————————-Page270あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009る,④球面収差惹起抑制照射ができる,という4点が,屈折矯正手術で良い結果を得るには必要と考えている.日本で入手可能なのはWaveLight社(ルミナス社,図1),NIDEKEC-5000CXⅢ(図2)のみとなる.イクロラトームフェムトレーザーなら,実績ではIntraLaseFS60(AMO社,図3)だが,ZIEMER(JFCセールスプラン社)も急速に改良中である.他の製品は大きすぎて開業医にはスペースがとりきれない.機械式は,MoriaM2(モリアジャパン社,図4)が第一選択であるが,それ以外ではNIDEKMK-2000となる.ユーザーの少ない機械は,当院が導入したBD/ITIK-3000やGebauerEPILIFTのようにメンテナンス不能になることがある.全国の手術件数としては,上位3グループがIntraLaseを使っている関係で,件数ベースでフェムトレーザーの頻度は80%を超えていると思われるが,機械式の結果が悪いわけではない.当院のデータでは,フラップ厚はLASIK(M290)91±14μm,IntraLaseFS6097±11μmと実績的に差がなく,視力成績も同等である.IntraLASIKのほうが手術時間が長いことを説明し,同一価格で患者に自由選択させると,2007年はLASIK79%で,IntraLASIK8%となった.また,PRKが13%ある.当院では,予測残存角膜厚350380μm,中等度以上のドライアイ,陸上自衛隊員,プロボクサー,虹彩炎既往者はPRKのみの適応となる.イさせるのはしい手術料金が高いと患者は来ない.大手は経験なしの眼科専門医を年収3,000万で募集している.毎週2日,1日に15人(34時間),両眼で12万行えば,これくらいの追加収入は達成できる.ただし,等比級数的に手術件数が増加するので,採算ベースにたどり着くには数年は必要である.がない日本眼科学会の講習があるが,それで手術ができるようになるわけではない.一応,教科書もある1)が,十分でもない.手術自体は白内障手術よりは簡単なので,いろいろ見学に行けばよい.不要不急の手術なので,条件の良い患者のみを選んで,経験を積めばよい.地方では,『大都市の美容整形系列に行ってだまされるよりも,近くの信用がある眼科を選択する』人も多いと思う.文献1)GimbelHV,PennoEEA:LASIK合併症予防と処置(杉田達監訳),エム・ビー・エス,1999(70)☆☆☆図4MoriaM2

眼内レンズ:硝子体手術用25ゲージトロカールを用いた眼内レンズ縫着術

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009670910-1810/09/\100/頁/JCLS眼内レンズ(IOL)偏位,脱臼の原因は後破損などの術中トラブルの場合と,術眼のZinn小帯脆弱などに起因する場合がある.その治療は眼内で外固定し直すか,毛様溝縫着1~3)を行うかである.外固定できる場合はごく限られた症例で全周の水晶体が残っており,Zinn小帯がしっかりしている場合のみである.IOL縫着にはIOLを取り出す場合と偏位,脱臼したIOLをそのまま利用する場合4,5)がある.〔症例〕80歳,男性,2007年7月,右眼の超音波水晶体乳化吸引術の際,後破損が生じIOLは外固定となっていた.9月11日突然の視力低下にてIOL落下を認め当院紹介となる.初診時所見:視力は右眼=(0.8×sph+1.0D),左眼=(1.0×sph7.25D),眼圧は右眼=16mmHg,左眼=14mmHg,前は12時方向に亀裂を認めた.落下したIOLが6時方向眼底に確認できた.治療:落下したIOLを引き上げるために通常のスリー(67)ポート(20ゲージ)にて硝子体手術を行い,できる限り周辺部硝子体も切除した後,落下したIOLを前房へ持ち上げ片方の支持部を下方に残存している前を利用し外固定した.つぎに,上方2時の部分に角膜に接して強膜半層フラップを作製し,半層切開部の輪部から1.5mmの部位で10-0ナイロン糸付き直針を用い,前房内櫻井寿也多根記念眼科病院眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎269.硝子体手術用25ゲージトロカールを用いた眼内レンズ縫着術白内障手術時に挿入した眼内レンズ(IOL)が偏位,脱臼する場合の一つの対処法としてIOL縫着術がある.この術式のなかでも一部の前が残存する場合に片方ループのみを対面通糸により固定する方法がある.本法はIOLを摘出しないことから手術侵襲が少なく,簡便に,縫着できる.この手法の角膜通糸の際に硝子体手術用25ゲージトロカールを用いたより簡便な手法を提示する.図1縫着糸による角膜通糸図3IOL縫着図2縫着糸を反転し角膜通糸———————————————————————-Page2のIOL支持部の横を硝子体側から通糸し,対側の角膜周辺部に前もって留置した硝子体手術用25ゲージトロカールを通じて直針を眼外へ誘導した(図1).その針を反転し逆方向に25ゲージトロカールを通しIOL支持部の往路とは対側を通過させ,半層切開部から27ゲージ針のガイド針を通じて眼内から通糸する(図2).10-0ナイロン糸を結紮することで片方の支持部が毛様溝に固定される(図3).術後6カ月の時点で右眼視力=(1.0×sph8.25D(cyl1.0DAx90°),右眼眼圧=15mmHgであった.落下したIOL症例に対してIOL縫着を行う場合,IOLを眼外に摘出して新しいIOLを縫着する方法は簡便であるが,IOL取り出しの際に角膜内皮への侵襲,術中の低眼圧の発生,強角膜創の縫合不全,強角膜切開による術後乱視を若起するなどの合併症も考えられる.IOLをそのまま縫着する方法は手術手技が複雑で,IOLの光学径によっては偏心が生じたり,もともと挿入されているIOLが内固定用の度数であったならば縫着によるIOLの位置が前房側への移動に伴い近視化が生じたりもする.しかし,もし前の一部が残っており,外固定を考慮した度数で縫着に適した光学径のIOLが挿入されていたとするなら,今回の手法は合併症も少なく,また,角膜創の25ゲージトロカールを留置することでさらに手術手技が平易になった.ただし,片方であってもIOL縫着を行っていることから,周辺部の硝子体はできうる限り切除したほうがよい.この手法でやはり最も注意すべき点はIOL光学部のセンタリングの問題であり,IOLの大きさ(光学部と支持部),支持部縫着部位と前残在部の位置関係を十分検討し適応を考えるべきである.文献1)MalbranES:LensguidesuturefortransportandxationinsecondaryIOLimplantationafterintracapsularextrac-tion.IntOphthalmolClin9:151,19862)StarkWJ,GoodmanG,GoodmanDetal:Posteriorcham-berintraocularlensimplantationintheabsenceofposteri-orcapsularsupport.OphthalmicSurg19:240-243,19883)HuBV,ShinDH,GibbsKAetal:Implantationofposteri-orchamberlensintheabsenceofcapsularandzonularsupport.ArchOphthalmol106:416-420,19884)DueyRJ,HollandEJ,AgapitosPJetal:Anatomicstudyoftranssclerallysuturedintraocularlensimplantation.AmJOphthalmol108:300-309,19895)HanemotoT,IdetaH,KawasakiT:Dislocatedintraocularlensxationusingintraocularcowhitchknot.AmJOph-thalmol131:265-267,2001

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009670910-1810/09/\100/頁/JCLS眼内レンズ(IOL)偏位,脱臼の原因は後破損などの術中トラブルの場合と,術眼のZinn小帯脆弱などに起因する場合がある.その治療は眼内で外固定し直すか,毛様溝縫着1~3)を行うかである.外固定できる場合はごく限られた症例で全周の水晶体が残っており,Zinn小帯がしっかりしている場合のみである.IOL縫着にはIOLを取り出す場合と偏位,脱臼したIOLをそのまま利用する場合4,5)がある.〔症例〕80歳,男性,2007年7月,右眼の超音波水晶体乳化吸引術の際,後破損が生じIOLは外固定となっていた.9月11日突然の視力低下にてIOL落下を認め当院紹介となる.初診時所見:視力は右眼=(0.8×sph+1.0D),左眼=(1.0×sph7.25D),眼圧は右眼=16mmHg,左眼=14mmHg,前は12時方向に亀裂を認めた.落下したIOLが6時方向眼底に確認できた.治療:落下したIOLを引き上げるために通常のスリー(67)ポート(20ゲージ)にて硝子体手術を行い,できる限り周辺部硝子体も切除した後,落下したIOLを前房へ持ち上げ片方の支持部を下方に残存している前を利用し外固定した.つぎに,上方2時の部分に角膜に接して強膜半層フラップを作製し,半層切開部の輪部から1.5mmの部位で10-0ナイロン糸付き直針を用い,前房内櫻井寿也多根記念眼科病院眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎269.硝子体手術用25ゲージトロカールを用いた眼内レンズ縫着術白内障手術時に挿入した眼内レンズ(IOL)が偏位,脱臼する場合の一つの対処法としてIOL縫着術がある.この術式のなかでも一部の前が残存する場合に片方ループのみを対面通糸により固定する方法がある.本法はIOLを摘出しないことから手術侵襲が少なく,簡便に,縫着できる.この手法の角膜通糸の際に硝子体手術用25ゲージトロカールを用いたより簡便な手法を提示する.図1縫着糸による角膜通糸図3IOL縫着図2縫着糸を反転し角膜通糸———————————————————————-Page2のIOL支持部の横を硝子体側から通糸し,対側の角膜周辺部に前もって留置した硝子体手術用25ゲージトロカールを通じて直針を眼外へ誘導した(図1).その針を反転し逆方向に25ゲージトロカールを通しIOL支持部の往路とは対側を通過させ,半層切開部から27ゲージ針のガイド針を通じて眼内から通糸する(図2).10-0ナイロン糸を結紮することで片方の支持部が毛様溝に固定される(図3).術後6カ月の時点で右眼視力=(1.0×sph8.25D(cyl1.0DAx90°),右眼眼圧=15mmHgであった.落下したIOL症例に対してIOL縫着を行う場合,IOLを眼外に摘出して新しいIOLを縫着する方法は簡便であるが,IOL取り出しの際に角膜内皮への侵襲,術中の低眼圧の発生,強角膜創の縫合不全,強角膜切開による術後乱視を若起するなどの合併症も考えられる.IOLをそのまま縫着する方法は手術手技が複雑で,IOLの光学径によっては偏心が生じたり,もともと挿入されているIOLが内固定用の度数であったならば縫着によるIOLの位置が前房側への移動に伴い近視化が生じたりもする.しかし,もし前の一部が残っており,外固定を考慮した度数で縫着に適した光学径のIOLが挿入されていたとするなら,今回の手法は合併症も少なく,また,角膜創の25ゲージトロカールを留置することでさらに手術手技が平易になった.ただし,片方であってもIOL縫着を行っていることから,周辺部の硝子体はできうる限り切除したほうがよい.この手法でやはり最も注意すべき点はIOL光学部のセンタリングの問題であり,IOLの大きさ(光学部と支持部),支持部縫着部位と前残在部の位置関係を十分検討し適応を考えるべきである.文献1)MalbranES:LensguidesuturefortransportandxationinsecondaryIOLimplantationafterintracapsularextrac-tion.IntOphthalmolClin9:151,19862)StarkWJ,GoodmanG,GoodmanDetal:Posteriorcham-berintraocularlensimplantationintheabsenceofposteri-orcapsularsupport.OphthalmicSurg19:240-243,19883)HuBV,ShinDH,GibbsKAetal:Implantationofposteri-orchamberlensintheabsenceofcapsularandzonularsupport.ArchOphthalmol106:416-420,19884)DueyRJ,HollandEJ,AgapitosPJetal:Anatomicstudyoftranssclerallysuturedintraocularlensimplantation.AmJOphthalmol108:300-309,19895)HanemotoT,IdetaH,KawasakiT:Dislocatedintraocularlensxationusingintraocularcowhitchknot.AmJOph-thalmol131:265-267,2001