———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092110910-1810/09/\100/頁/JCLSビタミンは便宜上,油にとける脂溶性ビタミンと水にとける水溶性ビタミンに分けられる.脂溶性ビタミンは,A,D,E,Kの4種類である.これらのビタミンはそれぞれ生命活動の維持に必要な作用を担っており,そうした作用は「生理作用」または「栄養素作用」とよばれている.ビタミンの生理作用が十分に得られないと,体に欠乏症が生じるが,そうならないために1日に最低必要なビタミン摂取量が「最低必要量」とされている.さらに,この最低必要量に安全性を見積もって2割前後の上乗せをした量が,または飽和量がそのビタミンの「1日所要量」とされている.ところが,最近,1日所要量の3100倍という大量のビタミンを摂取しつづけると,生理作用にとどまらない効果を示すことが期待され,こうしたビタミンの「薬理作用」あるいは「疾病予防作用」が期待されている現状が生まれつつある.しかし,気をつけたいのはビタミンのとりすぎによる過剰症である.本稿では,脂溶性ビタミンのなかでもビタミンAとビタミンEに焦点をあて,解説する.ビタミンA構造式:化学名レチノールとよばれ,構造が少し異なるレチナール,レチノイン酸などの形でも存在しており,これらのビタミンA類縁体をレチノイドと総称している(図1).薬理作用・生理作用:bカロテンが体内で分解・代謝されてビタミンAとなる.ビタミンAは眼球の網膜上にある視細胞のうち,薄明視に重要な桿状体細胞において,桿体オプシンとリジン残基を介して結合し,ロドプシンとなる.ロドプシンは視色素とよばれる一群の物質の一つで,視細胞における光による興奮の情報伝達に重要な作用をしている.さらに,ビタミンAは,皮膚や粘膜などの外界に接する上皮細胞に機能し,生体防御反応を修飾する作用もある.ビタミンAの薬理作用には,発癌抑制作用が最も注目されている.ビタミンAの癌抑制作用は確認されているものの,摂取により過剰症を起こす危険があり,最近ではビタミンAに変わってカロテノイドが注目されている.カロテノイドは自然界には500種類以上が知られている橙色や黄色の色素で,このなかで約30種類は体内でレチノイドに変化するプロビタミンAとしての活性がある.その代表はbカロチンであるが,喫煙者を対象とした臨床試験により肺癌が増加したことで有名になり,bカロテン単剤,あるいはbカロテンを含むビタミン剤は,癌や心血管疾患の予防目的では摂取すべきでないと勧告されている.やはり,bカロテンの摂取は野菜や果実から摂取するのが基(73)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑨監修=坪田一男9.脂溶性ビタミン(ビタミンA,ビタミンE)内藤裕二吉川敏一京都府立医科大学消化器内科学消化器先進医療開発講座脂溶性ビタミンは,A,D,E,Kの4種類である.最近,ビタミンの「薬理作用」あるいは「疾病予防作用」が期待され,特に生活習慣病に対する予防効果が注目されている.動物実験では有用性を示唆する報告も多いが,ヒトを対象とした試験によるエビデンスは十分ではない.ビタミンAとビタミンEについて基礎的事項ならびに最近の話題について解説した9シスレチノイン酸オールトランスレチノール(ビタミンA)オールトランスレチナールオールトランスレチノイン酸CHCHCHCHCH2H13シスレチノイン酸図1代表的なレチノイドの構造式———————————————————————-Page2212あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009本である.1日必要量:単位としては,国際単位(IU)を用い,レチノール0.3μgRE(レチノール当量)を1IUとしている.bカロテンの場合には,生体内におけるレチノールへの変換の収率が質量比で1/2であり,消化吸収率がレチノールの1/3になるため,bカロテン6μgがレチノール1μgに相当する.ビタミンAの1日所要量は成人男性で2,000IU,女性で1,800IUと設定されている.許容上限摂取量は成人で5,000IU.ビタミンAを多く含む食品:ビタミンAは動物性食品からはレチニルエステルとして,植物性食品からはカロテノイド(特にbカロテン)として摂取される.1日に2,000IU(600μgRE)の摂取が必要と考えると,動物性レチノールを300μgと植物性bカロテンを1,800μg摂取することが勧められている.具体的には表1にレチノール300μgREを含む食品を示した.眼科的に必要量:レチノールの血中濃度は通常0.5μg/ml程度であり,0.3μg/mlをきるとビタミンA欠乏症状としての夜盲症に注意が必要である.食事からの摂取以上にサプリメントとしての過剰摂取の必要性はなく,科学的根拠もない.サプリメントとして摂取すべきかのエビデンスレベル:B(血中濃度が低いなどリスクのある人は摂取すべき)ビタミンE構造式:トコフェロール(Tocopherol)の「Tocos」はギリシャ語で“子供を産む”という意味があり,「Phero」は“力を与える”という意味がある.ビタミンE同族体として自然界に存在するものには,トコフェロール4種とトコトリエノール4種の合計8種類がある(74)(図2).これらのビタミンEは,穀物,緑葉植物,海藻類,野菜,植物油,魚類,肉類など自然界に広く分布するも,その生物活性(効力)はそれぞれ異なり,a-トコフェロールを100とすると,b-トコフェロール3050,g-トコフェロール10,d-トコフェロール2以下で,トコトリエノール類は,トコフェロール類に比べ低いことが知られている.薬理作用・生理作用:ビタミンEのおもな生理作用は活性酸素による細胞の酸化障害を抑制する抗酸化作用である.癌,心臓病,脳卒中,動脈硬化,糖尿病,白内障などのさまざまな生活習慣病の発症・進展に活性酸素の関与が明らかとなり,ビタミンEはその酸化を抑制する作用が強く,これら疾病の予防効果が期待され,現在多くの臨床試験が行われている.ビタミンEはその強い抗酸化作用から,酸化ストレスの軽減,酸化LDL(低比重リポ蛋白)の生成抑制,脂質過酸化反応の抑制などにより,動脈硬化の発症・進展に抑制的に作用することが期待されている.さらに,最近では,抗酸化作用によらない,いわゆる“beyondantioxidant”作用についても注目が集まっている2).特にinvitroの検討では多くの知見が集積しているが,ヒトに対するビタミンE投与の介入試験では一致した結果が得られていない.ビタミンE投与量,吸収,代謝,細胞内移行性などを含めたさらなる検討が必要である.しかし,ビタミンEとb-カロテン併用による試験では前立腺癌の発生が有表1ビタミンAの1日推奨量(600μgRE)を動物性とbカロテンで50%ずつ摂取するための基準bカロテン(1,800μg=300μgRE)レチノール(300μg)ニンジン25g鶏レバー23gカボチャ50gあん肝34gホウレンソウ43g卵400gシュンギク40g牛乳800mlブロッコリー220gウナギかば焼き13gトマト330gシシャモ300gビワ220gホタルイカ20g温州ミカン180gノリ4g図2トコフェロールとトコトリエノールa-Tocopherol/TocotrienolCH3CH3CH3b-Tocopherol/TocotrienolCH3HCH3g-Tocopherol/TocotrienolHCH3CH3d-Tocopherol/TocotrienolHHCH3———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009213(75)意に少ないことが明らかとなり1),さらに血清のa-トコフェロールやg-トコフェロールの低値は前立腺癌のリスクファクターであることも明らかとなった2).トコフェロールとは側鎖に二重結合が2個多いトコトリエノールの作用が注目されはじめている(図1).両者の違いは十分には解明されていないが,最も大きな相違点はトコトリエノールは細胞を使用した実験においてきわめて低濃度で種々の作用を示す点である.nMオーダーでの細胞保護作用なども報告されており,種々のシグナル伝達抑制効果から中枢神経領域ではその作用解明が進んでいる3).臨床的には乳癌治療への応用,皮膚疾患治療薬への応用が期待されているが科学的証拠は十分ではない.トコトリエノールはパーム油などに高濃度に含まれており,今後の応用が期待される抗酸化剤であるが,その吸収,代謝,組織分布など十分には解明されていない点も多い.1日必要量:厚生労働省が策定した2005年版の食事摂取基準においては,a-トコフェロールのみの目安量(adequateintake:AI)および上限量(tolerableupperintakelevel:UL)を定めている.目安量は成人男性で9mg/day,女性で8mg/day,上限量は成人男性で800mg/day,女性で600mg/dayとなっている.一般的には成人ではビタミンE欠乏はみられない.ビタミンEは脂溶性ビタミンとしては毒性がきわめて低く,大量に摂取した場合でもその重篤な過剰症は報告されていない.ビタミンEを多く含む食品:植物油やナッツ類に多く含まれるが,1日の目安量8mgを摂取するためには,木綿豆腐56丁,アーモンド22粒,調合サラダ油49g,ホウレンソウ320g,カボチャ1/6個が必要である.健康増進を目的に300mg程度を摂取することは食品からは不可能である.眼科的に必要量:ビタミンEの抗酸化作用を考慮したときに最も期待される眼科疾患は白内障の予防である.最近の45歳以上の女性35,000人を対象とした観察研究では,食事とサプリメントの双方から最もビタミンEを摂取したグループでは白内障発症リスクが14%低かったことが報告されている4).しかし,ビタミンE(600IU)を投与した前向き二重盲検他施設比較試験では,平均9.7年間の臨床試験で有意な有効性は証明できていない5).摂取すべきかのエビデンスレベル:B(閉経後など白内障のリスクの高い人は摂取すべき)おわりに脂溶性ビタミンにはその欠乏症状からその存在が発見された.その後,それらの生活習慣病予防効果に対する有効性を示唆する基礎的検討結果とともに動物実験においてもその作用が確認されてきている.疫学調査では効果を期待する成績もあるが,臨床医学における高いエビデンスレベルでヒトにおける有効性が実証できた脂溶性サプリメントはない.文献1)VirtamoJ,PietinenP,HuttunenJKetal:Incidenceofcancerandmortalityfollowingalpha-tocopherolandbeta-carotenesupplementation:apostinterventionfollow-up.JAMA290:476-485,20032)WeinsteinSJ,WrightME,PietinenPetal:Serumalpha-tocopherolandgamma-tocopherolinrelationtoprostatecancerriskinaprospectivestudy.Incidenceofcancerandmortalityfollowingalpha-tocopherolandbeta-caro-tenesupplementation:apostinterventionfollow-up.JNatlCancerInst97:396-399,20053)SenCK,KhannaS,RoySetal:Molecularbasisofvita-minEaction.Tocotrienolpotentlyinhibitsglutamate-inducedpp60(c-Src)kinaseactivationanddeathofHT4neuronalcells.JBiolChem275:13049-13055,20004)ChristenWG,LiuS,GlynnRJetal:Dietarycarotenoids,vitaminsCandE,andriskofcataractinwomen:apro-spectivestudy.ArchOphthalmol126:102-109,20085)ChristenWG,GlynnRJ,ChewEYetal:VitaminEandage-relatedcataractinarandomizedtrialofwomen.Oph-thalmology115:822-829,2008☆☆☆