———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSる.しかしながら,「疫学調査」の条件は,「1人でも多くの人を診る」ではなく,「偏りなく十分な人を診る」なのである.1.実施地区の選定とサンプル数日本緑内障学会が計画した疫学調査は,1)母集団を1自治体として無作為抽出法で対象者を決める,2)調査対象人数として想定有病率からサンプル数計算をして3,200人から4,000人(統計誤差0.5%,参加率7580%の計算で約4,000人の対象者が必要),3)実施地域の選択条件として,(a)標準的な地方都市で人口10万人くらいのところで実施(UrbanAreaでの実施),(b)自治体の協力が得られやすいこと,(c)年間を通じて同様の条件で検査が可能なところ,(d)緑内障専門医の協力を受けやすいところ,(e)実施中心病院の関連大学の協力をうけやすいところ,などの条件があり,数カ所の候補のなかで,最終的に「岐阜県多治見市(当時人口10万4,000人)」が候補地として選ばれた.日本の緑内障有病率を出すために「偏りなく十分な人を診る」という意味では,日本全体での無作為抽出が望ましいが,北は北海道から南は沖縄の離島までの各地域から無作為抽出することとなり,それは,たとえばある離島の寒村に抽出された1人のためだけに全国同じクオリティの眼科検査のためのすべての器械と人員を持って移動診療をするため現地に行くことを意味する.通常は1年以内と限るのが普通である疫学調査の期間内にそのはじめに「多治見スタディ」は,「日本緑内障学会多治見疫学調査」の通称である.日本において緑内障有病率調査の試みは,まず,19881989年に実施された「緑内障全国疫学調査」であった.これは,日本緑内障研究会(日本緑内障学会の前身)が日本眼科医会の後援で,潜在患者もふまえた日本全体の緑内障の実態把握を目指したものであった.全国7カ所の住民検診により計8,126人の検査を行い,1)眼圧が高くない開放隅角緑内障(当時,低眼圧緑内障とよばれた)が多いこと,2)眼圧値が欧米の報告の値より低いこと,など画期的な内容が発表された.しかし,7カ所の受診率に地域差(24.690.0%)があり,こうした疫学調査で要求される受診率は7580%が必須といわれる条件をクリアしていなかったことで地域比較が十分できないばかりではなく,まとめて全体としての受診率が50.5%であったことで不十分な参加率と批判も受けた.そこで,日本緑内障学会として,この「緑内障全国疫学調査」の結果の検証をすべく,正式な疫学的手法での調査の計画をたて,20002001年に実施された調査が,「多治見スタディ」であった(表1).I検診と調査「緑内障全国疫学調査」では,8,000人を超える住民の検診を行った.検診機関や医療機関における検診結果の統計をみた報告は数多くある.1人でも多くの人をみれば,その集計は確かなものが得られると思いがちであ(31)31I:多治見:5078511多治見343多治見特集●わかりやすい眼科疫学あたらしい眼科26(1):3138,2009観察研究(断研究):多治見スタディAPopulation-BasedCross-SectionalGlaucomaPrevalenceSurvey:TheTajimiStudy岩瀬愛子*———————————————————————-Page232あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(32)いわれる.したがって,1回限りの調査と考えられていた「多治見スタディ」では母集団は可能な限り多くしたいとの理由で,小さな町ではなく人口10万人の地方都市が選択された.対象は40歳以上の市民54,165人であり,住民基本台帳を元に検診専用の個人番号表を作成し「完全無作為抽出法」で4,000人を「疫学調査対象者」(以下,対象者)に選んだ.住民票だけがあって実在しない人や期間中に死亡・転出した人130人を除き最終的な疫学対象者は3,870人となった.2.疫学対象者と非対象者について通常,「疫学調査」は上記の「対象者」だけにターゲットをあて,このなかでの高い参加率を確保することをめざす.しかし,「多治見スタディ」では,このとき,同時に,非対象者にあたる同年代の市民への同等の検査を行った.これは,多治見市で疫学調査を実施しようと啓蒙活動が開始されたなかで,多治見市から,「この調査には市をあげて全面協力を惜しまないので,こうした二度とない機会に,対象者以外の同年齢の市民にも,同等の検査を実施して欲しい」という条件が出されたからであった.対象者への良好な参加率を確保するために,対象者だけではなくその家族など広く受診者を受け入れて欲しいとの意味もあった.同時に,この調査の予算確保を決定した「日本失明予防協会」の理事会からも,「多治見市で調査を実施するのを支援する.1人でも多くの市民を診てあげること,緑内障以外の疾患についてもスクリーニングすること」という条件があった.すなわち,対象者(3,870人)のなかでは高参加率をめざし,調査非対象者(50,165人の市民)には「一般検診」をして1人でも多くの眼疾患スクリーニングをするという二重構造となり,総合して「多治見市民眼科検診」(EyeHealthCareProjectinTajimi)と名づけて実施した.このプロジェクトは当時まだ制定されていなかった個人情報保護法,疫学調査倫理指針の完成レベルを予想し実施され,調査であることを明記し,同意の撤回などの自己情報コントロール権の説明も含めたインフォームド・コンセント後,自筆による文書の同意書をとり実施された.調査実施期間内に,疫学対象者は3,021人(78.1%)が参加した.非対象者の検診は14,779人が参加し個別調査を全被抽出者に行うことは不可能であると考え,1自治体で可能な限り多くの人口の中から無作為抽出をする手法をとった.無作為抽出法で選ばれた観察対象集団(サンプル)は,標的集団(母集団)を偏りなく代表するため標的集団全体を調べたのと同じ価値があると表1多治見スタディ実施機構(平成12年1月平成15年まで)総括責任者:北澤克明日本緑内障学会理事長(岐阜大学名誉教授)疫学調査委員会:東郁郎(大阪医科大学名誉教授)阿部春樹(新潟大学眼科教授)新家眞(東京大学眼科教授)**井上洋一(オリンピア病院院長)岩瀬愛子(多治見市民病院眼科診療部長)宇治幸隆(三重大学眼科教授)勝島晴美(かつしま眼科・札幌)桑山泰明(大阪厚生年金病院眼科部長)澤口昭一(琉球大学眼科教授)塩瀬芳彦(塩瀬眼科・名古屋)清水弘之(岐阜大学公衆衛生学(疫学・予防医学)教授)白土城照(東京医科大学八王子医療センター眼科教授)鈴木康之(東京大学眼科講師)田原昭彦(産業医科大学眼科教授)塚原重雄(山梨医大副学長)富田剛司(東京大学眼科助教授)富所敦男(東京大学眼科講師)根木昭(神戸大学眼科教授)三嶋弘(広島大学眼科教授)*山本哲也(岐阜大学眼科教授)五十音順・敬称略・H12年当時の役職*:疫学調査会委員長**:実行小委員会委員長下線は疫学調査実行小委員会及びデータ解析検討小委員会メンバー(二重線はデータ解析委員会から参加)参加スタッフ医師:多治見市民病院医師・日本緑内障学会理事・日本緑内障学会評議員・岐阜大学眼科医師他ORT:近隣医療機関及び東海4県視能訓練士協会から派遣看護師&OMA:多治見市民病院スタッフ・多治見スタディ特別編成チーム多治見市職員:多治見市民病院職員・健康福祉部多治見市保健センター設営メンテナンス:使用機材関連会社スタッフ後援財団法人日本失明予防協会財団法人日本眼科学会社団法人日本眼科医会多治見市医師会岐阜県東濃地域保健所———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200933(33)blingtechnology)による視野スクリーニング→眼底写真→HRT(HeidelbergRetinaTomograph)II→細隙灯顕微鏡検査・眼圧検査・vanHerick法による隅角スクリーニング→最終チェックと説明,という検査順を遵守した.二次検査には,通常の診察以外に,視野検査としてHumphrey視野計のSITA(SwedishInteractiveThresholdingAlgorithm)プログラムを採用し,隅角検査はGoldmann2ミラーを用いた検査をし,眼底の立体写真撮影は可能なかぎり散瞳して実施した.III巡回検診と常設検診過去に多治見市で実施された健康診断関連の検診受診率を検討すると,定点における検診と比較して,巡回検診あるいは地域別に複数の検診施設がある場合のほうが,圧倒的に検診受診率が高かった.したがって,対象者における調査参加率を上げるためには,検査の実施場所は複数必要であると考え,実施中心施設である多治見市民病院では「常設検診」(期間中220回)と「二次検査(精密検査)」(期間中165回)を予約制で行い,その他の複数の一時検査検診場所としては,市内の公民館・体育館などの公共施設を「臨時診療所登録」として土日を中心とした巡回検診を行った(期間中43回,当日整理券制).この巡回検診場所は毎日移動するため,前日あるいは当日早朝よりの検査場所の設営を必要としたた.この合計17,800人の市民は,多治見市の当時の40歳以上の32.9%にあたる.調査を終わって検討してみると,受診者の年齢と性別において,一般検診では偏りがあり,得られたデータにも疫学データと一般データには有意差がみられたので,「偏りなく十分な数を診る」ことと「1人でも多くの人を診る」ことは異なることを実感した.疫学調査としての参加率は80%にわずかに及ばないものの,諸外国の緑内障有病率調査と並ぶ数字であったので,初めて,世界に通じる日本の緑内障の疫学調査といえるデータを得たことになった.同時に行った一般検診の結果からは,多くの眼疾患,全身疾患の方を発見し,この事業の住民への貢献度は非常に大であった.しかし,50,000人を超えるいわゆるUrbanAreaの市民を相手に,無作為抽出対象者に厳密な診察を必要とする調査を行うということは容易ではない.「多治見スタディ」は,国や自治体からの強制された検査ではなく,日本緑内障学会の学問的な調査にすぎない.「日本には緑内障がどのぐらいあるかを知りたい」「眼科検診はご自身の健康管理に有効である」という大義名分のみを市民に説明し続け調査を実施し,こうした結果を得たことは幸運であった.本来の目的であった疫学調査とともに,一般検診で多くの疾患を発見できたことは,眼科医冥利につきることであった.II検査項目「多治見スタディ」の検査項目は表2に示す.世界的にみて緑内障疫学調査の眼圧測定はGoldmann圧平式眼圧計により行うのが標準であったのに対して,「緑内障全国疫学調査」の眼圧測定の中心が「非接触型空気眼圧計」であった点も批判されたことをふまえ,眼圧は一次検査も二次検査も専門医による「Goldmann圧平式眼圧計」で測定を行い,二次検査(精密検査)には緑内障学会理事・評議員を中心とした専門医による診察を行いデータのクオリティを厳密に確保した.一次検査では,眼圧測定以外は,眼圧値に影響を与えない「非接触」の検査を採用した.インフォームド・コンセント→問診→血圧→身長・体重→レフ・ケラト→視力→角膜厚(スペキュラーによる非接触検査)→FDT(frequencydou-表2多治見スタディ検査項目一次検査インフォームド・コンセント問診・血圧・身長・体重屈折・視力・角膜曲率・角膜厚FDT(C-20-1)眼底写真(無散瞳眼底検査)HRTII細隙灯顕微鏡検査(vanHerick法隅角検査)精密眼圧検査(Goldmann圧平式眼圧計)二次検査細隙灯顕微鏡検査視野検査(Humphrey自動視野計:SITAProgram)眼圧測定(Goldmann圧平式眼圧計)隅角検査(Goldmann2ミラー)眼底検査・3D観察ステレオ眼底写真———————————————————————-Page434あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(34)を薦めた.4.二次検査対象者および一般検診ともに緑内障疑いあるいは再検査を要する場合は,すべて多治見市民病院で行う精密検査を受診してもらい,他疾患の場合,対象者は多治見市民病院の二次検査に,一般検診者は本人が受診を希望される医療機関への紹介状を発行した.必要に応じて,既往歴などの調査について精密検査を依頼し,主治医との連絡などを行い,他疾患との鑑別診断に努めた.5.判定会議二次検査後,対象者については,GONを3人の判定者が独立して読み,並行して視神経乳頭のC/D比(陥凹乳頭比),R/D比(リム乳頭径比)測定を1人の専門医が実施した.視野判定は異なる2人の判定者が行い,が,地域を回ることで参加率は上昇し効果的であった.さらに,施設入所者・病院入院者,自宅から出られない人には対象者を優先して往診(期間中17回)を行った.IV判定失明予防協会の指導により,緑内障だけを判定していることはできなかった.緑内障の診断には時間的な余裕があるが,他疾患では時間的に余裕のない場合がある.このため,判定も二重構造として行った.1.緊急性疾患の判定被験者のなかには緊急性疾患をもっているのを気づかず受診している方もあり,受診者の眼底写真の簡単なスクリーニング読影と検査結果のすべてのチェックを,当日あるいは翌日までに岩瀬が実施した(緊急性スクリーニング).また,検診会場でもただちに対応が必要な人を発見した場合は,救急対応を手配した.巡回検診は1日600700人あり,選ばれて受診している疫学対象者よりも,何か症状があって検診を希望して受診した非対象者市民のなかにそれらの緊急性の疾患が多く,検診の途中で紹介状を発行したことも多数あった.発見した眼科疾患は,高眼圧,虹彩炎,網膜動静脈切迫閉塞,網膜裂孔,網膜離などであった.なお,検査中に全身的な緊急性対応が必要なこともあった.異常高血圧,不整脈発作を発見し,準備していた救急セットを使用したうえに,救急車に同乗して対応したことは2回のみであったが,幸いどちらも良好な経過をたどった.2.視神経の読影緑内障性視神経症(GON)の判定については,表3に示すシステムで複数の施設での判定をしGONを疑う記載が1カ所の判定でもあった場合は,すべて二次検査受診の連絡をした.3.他疾患の判定視神経中心の各大学での読影と並行して,現地にてすべての検査データをチェックしたうえで疾患疑いの場合,対象者はすべて二次検査によび,一般受診者の場合は,最寄りの眼科へ受診するための紹介状を作成し受診表3判定の流れ緑内障性視神経症の判定(一次スクリーニング)疫学対象者視神経判定(他疾患のコメントを含む)東京大学(富田剛司)・新潟大学(白柏基弘)・岐阜大学(内田英哉・杉山和久・谷口徹)一般検診者視神経判定(他疾患のコメントを含む)東京医科大学八王子(白土城照)・山梨大学(柏木賢治)・日本大学(山崎芳夫)・神戸大学(根木昭)・広島大学(三嶋弘)・琉球大学(澤口昭一)+現地総合判定および結果送付(判定結果とコメントを記載した手紙を発送)当日検査で得られた数値データ視野データ眼底写真チェック緑内障確定診断のための判定会議視神経読影班:新家眞(東京大学),阿部春樹(新潟大学),山本哲也(岐阜大学)視野判定班:白土城照(東京医科大学八王子),桑山泰明(大阪厚生年金病院)現地:岩瀬愛子(多治見市民病院)視神経乳頭比計測二次検査データ,他疾患情報データ管理他———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,200935(35)式眼圧計を使用して初めて得られたこの疫学的眼圧値は,欧米人などよりは低いものの,他のアジアの国と比較して大きな差はない.緑内障の危険因子の解析からも,「眼圧」,「近視」,「年齢」が関連が高いことがわかった26).2.視覚障害統計「多治見スタディ」の検査結果から,目的とした有病率以外の結果も得ることができた.身体障害者手帳からみた視覚障害の統計の報告はあるものの,疫学的視覚障害統計は多治見スタディで初めて得られた.多治見市においては,他の国の疫学調査での報告と比較すると,ロービジョン率は低いが,特に,失明原因疾患として,「白内障」,「近視性変性症」と「緑内障」が上位疾患であるのが特徴であった27)(表6).3.屈折状態に関する統計28)近視は東アジアにおいて多いことが報告されているが,実際に日本人の屈折状態についての疫学調査は詳細には行われていなかったが,多治見スタディの結果から屈折異常についての疫学的データも初めて得られたことになった.結果として,等価球面度数0.5D未満の近視が41.8%(95%信頼区間:40.043.6),5.0D未満の強度近視が8.2%(同:7.29.2)という高率に認められた.これは他のアジアの地域や欧米に比較して非常に高い結果であった.緑内障の関連因子としても,視覚障害の原因因子としても,日本において「近視」は失明予防上の大きな課題であることを指摘する結果であった.最後にすべての結果を総合し,他疾患情報,二次検査データなどを総合的に判定し有病率計算を行った.診断は,最初は,緑内障診療ガイドライン第1版に基づいて,緑内障有病率は5.8%(95%信頼区門(CI):5.06.6)と判定された.しかし,同時期に「緑内障性視神経症をもって緑内障とする」というISGEO(Interna-tionalSocietyofGeographicalEpidemiologicalOph-thalmology)判定で緑内障の定義を標準化する主旨の論文が先行の海外の緑内障疫学調査グループから出たことで,再度,多治見スタディの結果をこれにあわせて再計算した.この定義によると閉塞隅角緑内障および続発緑内障の有病率が変わり,緑内障有病率は5.0%(95%CI:4.25.8)となった.V疫学調査の結果1.緑内障有病率他表4に確定した緑内障の各病型有病率を示す1,2).また,検査により発見された緑内障患者のうち全体の89%は未治療・無自覚の潜在患者であり,特に,正常眼圧緑内障のそれは95.5%であった.原発開放隅角緑内障の有病率を世界の調査と比較する(表5)324)と,多治見スタディで得られた有病率は,欧米の報告より高く,黒人の報告より低い値であった.眼圧についての結果は,参加者での平均眼圧(95%CI)は,男性14.6mmHg(95%CI:14.414.7),女性14.5mmHg(95%CI:14.414.6)であった25)が,緑内障眼の平均眼圧は15.4±2.8mmHg,非緑内障眼では14.5±2.5mmHgであり,両者には有意差が認められた(p=0.0004).Goldmann圧平表4多治見スタディによる緑内障有病率男性女性計原発開放隅角緑内障(広義)4.1(3.05.2)3.7(2.84.6)3.9(3.24.6)眼圧>21mmHg(狭義)0.3(0.00.7)0.2(0.00.5)0.3(0.10.5)眼圧≦21mmHg(正常眼圧緑内障)3.7(2.74.8)3.5(2.64.4)3.6(2.94.3)原発閉塞隅角緑内障0.3(0.00.7)0.9(0.51.3)0.6(0.40.9)続発緑内障0.6(0.21.0)0.4(0.10.7)0.5(0.20.7)計5.0(3.96.2)5.0(4.06.0)5.0(4.25.8)高眼圧症0.6(0.21.0)0.9(0.51.4)0.8(0.51.1)()内は95%CI.———————————————————————-Page636あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(36)へと引き継いだ.日本緑内障学会として「緑内障疫学調査の手法」は確立できた.「久米島スタディ」における結果と比較することで,1989年の「緑内障全国疫学調査」で計画したものの低受診率地域があったことで実現しなかった地域差の検討が可能となり,この結果の比較は,日本の地域差の検討ばかりではなく,アジアの緑内障有病率,ひいては欧米との比較検討に非常に興味深い結果を得ることが可能となった.多治見スタディの実施過程に考案されたデータ管理方法,保管方法におけるコンピュータソフトの開発は,眼科領域の電子カルテ化用ソフトとして,現在臨床応用されているものがあり非常に有効であった.2.「多治見スタディ」から今後の課題「多治見スタディ」は,失明予防協会の予算を用い,多治見市の現場をふまえて「日本緑内障学会疫学調査委員会・同実行小委員会」が中心となって実施の詳細を同VI多治見スタディ後1.緑内障疫学調査の手法多治見スタディを実施するにあたって考案した「緑内障の疫学調査の手法」は,その後反省点などを考慮し,これらをすべて改善した形で「久米島スタディ」の手法表5各国の原発開放隅角緑内障(POAG)有病率国スタディ名論文出版年度人種対象年齢NoofsamplePartici-pationrate(%)POAG粗有病率(%)POAG標準化有病率(%)JapanJapanNationWide3)1991日本人40歳<8,12650.52.53.5USABaltimoreEyeSurvey4)1991黒人40歳<5,30879.24.23.5USABaltimoreEyeSurvey4)1991白人40歳<5,67379.21.10.9USABeaverDamEyeStudy5)1992白人4386歳1,06283.12.1NetherlandTheRotterdamStudy6)1995白人5595歳3,27179.71.10.7WestIndiesTheBarbadosEyeStudy7)1997白人,黒人4084歳4,63184.07.15.3ItalyTheEgna-NeumarktStudy8)1998白人40歳<50073.921.6AustraliaTheMelbourneVisualImpairmentProject9)1998白人40歳<3,27183.01.81.3IndiatheAndhraPradeshEyeDiseaseStudy10)2000インド人40歳<2,52285.41.93.4Tanzania(Kongwadistrict)11)2000黒人40歳<3,26890.03.13.2USAProyectVER12)2001ラテン系アメリカ人40歳<4,77472.021.7SouthAfrica(Kwazulu-Natal)13)2002黒人40歳<1,00590.12.82.3AustraliaTheBlueMountainEyeStudy14)2002白人59歳<4,29782.431.3SingaporetheTanjongPagarStudy15)2003中国人4079歳1,23271.81.8IndiatheAravindComprehensiveEyeSurvey16)2003インド人40歳<5,15093.01.21.3Thailand(RomKlao)17)2003タイ人50歳<70188.72.3SouthAfricaTheTembaGlaucomaStudy18)2003黒人40歳<83974.93.72.9JapanTheTajimiStudy1)2004日本人40歳<3,02178.13.93.5BangladeshBangladeshStudy19)2004バングラディッシュ人35歳<2,34765.91.22.1USALALES(LosAngelesLatinoEyeStudy)20)2004ラテン系アメリカ人40歳<6,14296.64.75SpainTheSegoviaStudy21)2004スペイン人4079歳5,22389.621.5IndiatheWestBengalGlaucomaStudy22)2005インド人50歳<1,59483.133MyanmartheMeiktilaEyeStudy23)2007ミャンマー人40歳<2,07683.74.9GreecetheThessalonikiEyeStudy24)2007白人60歳<2,55471.03.8表6多治見市の年齢別人口補正した疾患別の視力障害率(40歳以上の住民におけるロービジョン+失明,アメリカ合衆国基準)疾患%95%信頼区間世界人口補正白内障0.440.230.650.25緑内障0.110.040.310.09近視性黄斑変性0.100.030.290.11角膜混濁0.090.030.280.04糖尿病網膜症0.060.020.240.06視神経萎縮0.070.020.240.05ぶどう膜炎0.080.020.260.06網脈絡膜萎縮0.090.030.280.04網膜色素変性0.030.010.190.03弱視0.040.010.210.02———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.1,200937時進行で決定しながら実施された.すなわち緑内障専門医による緑内障にターゲットを絞った疫学調査であった.市民には「緑内障の有病率を調べることの大切さと眼科検診の大切さ」を訴えるという「大義名分」だけで実施した.この手法は,欧米や他の日本のスタディでみられるように他科領域の疾患の調査との協力を国などの予算で行う場合や,多数の疾患の調査を目的とした調査の場合と異なり,他疾患の情報が限定されており,またアピール度や強制力も小さい.緑内障という多因子が関与しているであろうと推測される疾患において他科領域の情報の検討が今後必要かと思う.もう一つの課題は,遺伝情報である.多治見スタディを行い,その後久米島スタディを行い,同じ手法で同じ診断基準でみて緑内障の地域差は遺伝的要因と環境要因で決定されると考えられる.特に,閉塞隅角緑内障の有病率に反映されるような解剖学的な問題は,欧米との比較の意味も含めて,人種差,民族差の検討が必要である.そこに遺伝情報が必要かと考えている.しかし,「多治見スタディ」では「緑内障全国疫学調査」で達成できなかった「高い参加率」を目標にしていたことから,拒否されやすい「遺伝子調査」は実施できなかった.この点も,今後のスタディに期待するしかない.「参加率」に関していえば,「多治見スタディ」は54,000人からの無作為抽出という方法を取り,「UrbanArea」としては高い参加率を得て終了したが,本来は地域特性の調査を目的とした「RuralArea」としての久米島のように,サンプル数に近い人口の地域での全員調査が実施しやすいと考えられる.それでも「高参加率」を得るにはハードルは高く,今後行われるかもしれない疫学調査は,限られたチャンスに何を目的として行うかについては,緑内障専門医の多施設共同研究という枠を超え,実施内容を検討されるべきかもしれない.疫学調査は,その時点での最高の眼科的知識と考えられる最高の器材を使用して行われるべきであるが,一方で後の時代に追試可能な方法で客観的に行われるべきである.また,世界での比較をするには,もちろん統計的な意味での「世界人口の使用」などによる「標準化」だけではなく,「診断基準の標準化」が必須である.この点が緑内障領域ではまだ進行形であるように思う.「有病率(Prevalence)」は知ることができたが,だからといって,多因子が関与しているであろう病態の解明には至っていない.「多治見スタディ」により「緑内障の疫学調査としての手法」は確立された.しかし,その後「多治見市」の事情で,残念ながら「罹患率(Inci-dence)」をみるFollowUpStudyはできていない.今後,他の緑内障の疫学調査にすべての知識を継承し,発症機序の解明を期待するしかないのが残念である.まとめ「多治見スタディ」は,日本緑内障学会実施の緑内障有病率調査で20002001年に岐阜県多治見市において実施された.40歳以上の市民54,165人から無作為抽出法で選ばれた4,000人を対象者として実施され参加率は78.1%であった.結果から,全緑内障の有病率は5.0%(95%信頼区間:4.25.8)であり,疑い例を含むと7.5%(同:6.58.4)であった.解析より,原発開放隅角緑内障の危険因子としては,「眼圧」,「近視」,「年齢」が関与することがわかった.調査結果からは,過去に眼科領域の疫学調査による報告のなかった「視覚障害者統計」,「眼圧」,「屈折」などの疫学データを得た.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal;TajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Oph-thalmology111:1641-1648,20042)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal;TajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20053)ShioseY,KitazawaY,TsukaharaSetal:EpidemiologyofglaucomainJapan.Anationwideglaucomasurvey.JpnJOphthalmol35:133-155,19914)TielschJM,SommerA,KatzJetal:Racialvariationintheprevalenceofprimaryopen-angleglaucoma.TheBal-timoreEyeSurvey.JAMA266:369-374,19915)KleinBEK,KleinR,SponselWEetal:Prevalenceofglaucoma.TheBeaverDamEyeStudy.Ophthalmology99:1499-1504,19926)WolfsRC,BorgerPH,RamrattanRSetal:Changingviewsonopen-angleglaucoma:Denitionandprevalenc-es─TheRotterdamStudy.InvestOphthalmolVisSci(37)———————————————————————-Page838あたらしい眼科Vol.26,No.1,200941:3309-3321,20007)LeskeMC,ConnelAMS,SchachatAPetal;theBarbadosEyeStudyGroup:TheBarbadosEyeStudy.Prevalenceofopenangleglaucoma.ArchOphthalmol112:821-829,19948)BoromiL,MarchiniG,MarraaMetal:Prevalenceofglaucomaandintraocularpressuredistributioninadenedpopulation.TheEgna-NeumarktStudy.Ophthal-mology105:209-215,19989)WensorMD,McCartyCA,StanislavskyYLetal:TheprevalenceofglaucomaintheMelbourneVisualImpair-mentProject.Ophthalmology105:733-739,199810)DandonaL,DandonaR,SrinivasMetal:Open-angleglaucomainanurbanpopulationinSouthernIndia.TheAndhraPradeshEyeDiseaseStudy.Ophthalmology107:1702-1709,200011)BuhrmannRR,QuigleyHA,BarronYetal:PrevalenceofglaucomainaruraleastAfricanpopulation.InvestOph-thalmolVisSci41:40-48,200012)QuigleyHA,WestSK,RodriguezJetal:Theprevalenceofglaucomainapopulation-basedstudyofHispanicsub-jects.ProyectoVER.ArchOphthalmol119:1819-1826,200113)RotchfordAP,JohnsonGJ:GlaucomainZulus.Apopula-tion-basedcross-sectionalsurveyinaruraldistrictinSouthAfrica.ArchOphthalmol120:471-478,200214)MitchellP,SmithW,AtteboKetal:Prevalenceofopen-angleglaucomainAustralia.TheBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology103:1661-1669,199615)FosterPF,OenFTS,MachinDetal:TheprevalenceofglaucomainChineseresidentsofSingapore.Across-sec-tionalpopulationsurveyoftheTanjongPagardistrict.ArchOphthalmol118:1105-1111,200016)RamakrishnanR,NirmalanPK,KrishnadasRetal:Glau-comainaruralpopulationofsouthernIndia.TheAravindComprehensiveEyeSurvey.Ophthalmology110:1484-1490,200317)BourneRR,SukudomP,FosterPJetal:PrevalenceofglaucomainThailand:apopulationbasedsurveyinRomKlaoDistrict,Bangkok.BrJOphthalmol87:1069-1074,200318)RotchfordAP,KirwanJF,MullerMAetal:TembaGlau-comaStudy:Apopulation-basedcross-sectionalsurveyinUrbanSouthAfrica.Ophthalmology110:376-382,200319)RahmanMM,RahmanN,FosterPJetal:TheprevalenceofglaucomainBangladesh:apopulationbasedsurveyinDhakadivision.BrJOphthalmol88:1493-1497,200420)VarmaR,Ying-LaiM,FrancisBAetal:Prevalenceofopen-angleglaucomaandocularhypertensioninLati-nos:TheLosAngelesLatinoEyeStudy.Ophthalmolgy111:1439-1448,200421)AntonA,AndradaMT,MujicaVetal:Prevalenceofpri-maryopenangleglaucomainaSpanishpopulation:theSegoviastudy.JGlaucoma13:371-376,200422)RaychaudhuriA,LahiriSK,BandyopadhyayMetal:ApopulationbasedsurveyoftheprevalenceandtypesofglaucomainruralWestBengal:theWestBengalGlauco-maStudy.BrJOphthalmol89:1559-1564,200523)CassonRJ,NewlandHS,MueckeJetal:PrevalenceofglaucomainruralMyanmar:theMeiktilaEyeStudy.BrJOphthalmol91:710-714,200724)TopouzisF,WilsonMR,HarrisAetal:Prevalenceofopen-angleglaucomainGreece:theThessalonikiEyeStudy.AmJOphthalmol144:511-519,200725)KawaseK,TomidokoroA,AraieMetal;TajimiStudyGroup;JapanGlaucomaSociety:OcularandsystemicfactorsrelatedtointraocularpressureinJapaneseadults:theTajimistudy.BrJOphthalmol92:1175-1179,200826)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal;TajimiStudyGroup:Riskfactorsforopen-angleglaucomainaJapanesepopu-lation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:1613-1617,2006Epub2006,Jul727)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal;TajimiStudyGroup:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:theTajimiStudy.Oph-thalmology113:1354-1362,200628)SawadaA,TomidokoroA,AraieMetal;TajimiStudyGroup:RefractiveerrorsinanelderlyJapanesepopula-tiontheTajimiStudy.Ophthalmology115:363-370,2008(38)