———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS歳以上の全住民」というように地理的・時間的条件によって調査できる集団を限定する.この選ばれた集団を調査対象集団(targetpopulation)とよぶ.しかし,調査対象集団を決定したとはいえ調査対象者が不在であったりあるいは調査に協力的でなかったりして,調査対象者全員を必ずしも調査できるとは限らない.調査に実際に参加した集団(studiedpopulation)をサンプルとよぶ.疫学研究において得られた測定値がどこまで一般化できるか判断するにはサンプルと調査対象集団がどれほど合致するのか(内的妥当性:internalvalidity)検討しなければならない.一般に,健康調査に積極的に参加する人は健康への関心度が高く健全な生活習慣をもち健康であることが多い一方,不参加者はその逆であることが多い.したがって,研究への参加率が低い場合にはある疾病の率を低く見積もってしまう可能性がある.さらに,サンプルから得られた測定値が目標母集団へ一般化できるかどうか(外的妥当性:externalvalidity)についても検討されなければならない.なぜなら,すべての疾病は①時間(年齢),②人種・民族,性別,遺伝的背景といった内的因子,③教育,収入,職業,生活態度,居住環境といった外的因子と関連があり,調査対象集団とサンプルとの背景とは必ずしも一致するとは限らないからである.疫学研究は科学的な手続きで調査地域を決めるというより,研究者の都合により都市部に比較的近く人口移動の少ない地域が選定されることが多い.この外的妥当性は慎重に討議されるべきであるが,多くは研究者たちはじめに国際疫学学会によると,疫学とは「特定の集団における健康に関連する状況あるいは事象の分布あるいは規定因子に関する研究」と定義されている1).具体的には,ある疾病の頻度を推定しさまざまな因子と疾病の因果関係を調査すること,予防・診断・治療方法を評価すること,ある疾病対策に必要な根拠を調査することなど2)が疫学の目的とされている.近年,眼科領域でも多治見スタディ・久山町スタディ・舟形町スタディ・久米島スタディなどで一般住民を対象とした数多くのpopulation-basedstudyが行われ,疫学そのものが注目を浴びるようになってきている.疫学については学生時代に一度学んでいるが,眼科医になってからは個人(患者)を対象とした治療に専念するあまり集団を対象とした考え方からは遠ざかってしまい,疫学と聞くと拒否反応を示すことが多い.本稿では,そのような眼科医に,最低限知っておくべき疫学知識(観察研究を中心に)を仮想的な集団を用いてできるだけ簡単に解説したい.I研究対象者の選定と妥当性疫学において,目標母集団(referencepopulation)とは「40歳以上の日本人男女」といったように各種属性(この場合は年齢と民族)によって定義される集団のことである.しかし,この条件に合うすべての人間を調査することは実際不可能で,「2005年に久山町に住む40(3)3KoiciOnoosineiratska:学学学:1138421本313学学学特集●わかりやすい眼科疫学あたらしい眼科26(1):39,2009疫学の基本:デザイン・統計手法PrinciplesofEpidemiology:StudyDesignandStatisticalAnalysis小野浩一*平塚義宗*———————————————————————-Page24あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(4)も多数ある.このように予測因子と転機結果の因果関係以外にも予測因子と関連があり表には現れていない因子で,転帰に影響を与え予測因子と直接的には関連していないような因子を交絡(confounding)とよぶ.実験研究では無作為に各群に分けるので,交絡が問題になることは少ないが,観察研究では交絡は常に起こる可能性がある.交絡を除去するには研究デザインの段階とデータ解析の段階に工夫が必要となる.研究デザインの段階:最も簡単に交絡を除外する方法は,対象者のもつ交絡因子のレベルを最小限にして,その範囲外の人は対象集団に取り込まないようにすることである.たとえば,「術前点眼の頻度と白内障術後眼内炎の関係」を研究する場合,術前消毒方法を統一し,涙炎や糖尿病を合併していない患者を選択し術中に後破損を起こさないようにすればよい.この方法を,限定(specication)という.一方,症例・対照試験で年齢や性別などの属性を一致させることで交絡因子の影響を最小限にする方法があるが,これをマッチングという.たとえば,白内障術後眼内炎の発生頻度に年齢差がある場合には,症例と対照の年齢が一致するように対象者を設定する.しかし,マッチングしたデータを解析するには特別な解析方法が必要で,通常の統計学的方法を用いることができない.さらに,マッチングに用いた因子が交絡因子でない場合,統計学的パワーを減少させ真の関連がわかりにくくなることがある(オーバーマッチング).データ解析の段階:データを収集した後,対象者を交絡因子によりサブグループに分割できる場合,そのサブグループごとに分析を行う方法がある.これを層化(stratication)という.上述の白内障手術における「術前抗生物質点眼の頻度と眼内炎発症率の関係」の例では,涙炎の有無,術前消毒方法,術中後破損,糖尿病合併の有無によりいくつかのサブグループに分け,データ解析を行う.欠点は,層化する数が多すぎると極端にサンプル数が少ないサブグループができたり,層が無数にできてしまったりすることがある.逆に層化する数が少なく層の幅が広すぎると交絡の影響を十分に減ずることができなくなってしまう.層化以外にも,統計学的補正(adjustment)を行うことによって交絡をコントロールする方法がある.これを多変量解析といい重回帰分の主観によるところが大きい.II疫学研究における誤差信頼の高い疫学研究とは,誤差(error)の少ない研究である.誤差は系統誤差(systematicerror)と偶然誤差(randomerror)に分けられ,前者はバイアス(bias)と交絡(confounding)に分けられる.これらは測定値が目的とする真の値と一致する度合い(真度:accuracy)に影響する.後者はくり返し行った測定値が一定である度合(精度:precision)に影響する.精度を高めることにより効果判定のパワー(検出力)を高めることになる.1.系統誤差a.バイアス(bias)サンプリングの問題により,調査に参加した人々が目標母集団を代表しないことがある.これを選択バイアス(selectionbias)とよぶ.調査対象集団の選定方法や,調査対象集団の応答率,コホート研究においては参加者の転居・死亡などによる脱落(打ち切り:censoring)などがこの原因となる.選択バイアスを減らすには,①目標母集団を代表するような地理的条件を明確にした調査対象集団の選定,②研究テーマにふさわしい対象者を選定できる取り込み基準と最小限の除外基準の設定,③ランダムサンプリング・系統的サンプリング・クラスターサンプリングなどの確率的サンプリングの選択,④地域と連携した調査内容の事前告知,などを行う必要がある.一方,質問者の先入観,測定・判定の誤差,参加者の思い違いや記憶違いなどによって起こるバイアスを情報バイアス(informationbias)とよぶ.この情報バイアスを減ずるには,①測定方法の標準化,②測定者の技量チェック,③測定方法の自動化と反復,そして④盲検化の実施が勧められる.b.交絡(confounding)疫学研究ではある因子(予測因子)と転機結果を推論することが重要である.白内障手術における「術前抗生物質点眼の頻度と眼内炎発症率の関係」について調査するとしよう.しかし,術前点眼の頻度以外にも涙炎の有無,術前消毒方法,術中後破損,糖尿病合併の有無など,術後眼内炎の発生と関係がありそうな因子が他に———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,20095(5)る.研究しようとする疾病をもっていない群を設定し,追跡調査を行い発症率(incidence)とさまざまな因子との関連性を調べるのが本研究の目的である.たとえば狭隅角の人が急性緑内障発作を起こす頻度を男女間で比較する研究を行ったとする(倫理的に許可が得られる研究とは思われないが).このように,現在から将来に向かって追跡調査を行う研究を前向きコホート(prospectivecohortstudy)という.前向きコホートは時間と費用がかかりすぎるため効率が悪いという欠点があるが,ある疾病の発症率を直接算出できること,発症する前に発症に関係すると思われる因子がすでに測定されているためその因果関係にバイアスが入りにくいなどの長所がある.一方,診療録をもとにコンタクトレンズによる角膜潰瘍の発症率をレンズの種類ごとに調査するような研究を後ろ向きコホート研究(retrospectivecohortstudy)という.後ろ向きコホート研究では観察がすべて過去に行われているので,ほしいデータが必ずしも記載されていないなどデータの質に問題を残すことがあるが,前向きコホート研究に比べ時間や費用が少なくて済む利点や,症例・対照研究に比べ発症した群と発症しなかった群を同じ集団から選んでいるため選択バイアスの介入が少なくて済むという利点がある.図1に,狭隅角の男性8人,女性4人を集めて行った仮想的なコホート研究の結果を示す.本コホート内のID1とID9は研究開始後2年で,ID2とID10は3年で,ID3は5年で,急性緑内障発作を呈し,他の7人はコホート研究終了まで(10年間)発症しなかったことを意味している.男性8人中3人,女性4人中2人が急性緑内障発作を発症したのであるから,急性緑内障発作は男性で37.5%(=3/8),女性で50%(=2/4)に発症したこととなる.この一定期間観察された集団における発症者の割合を累積発症率(cumulativeincidence)といい,この2つの比(この場合,男性と女性の累積発症率の比:0.75=37.5/50)を相対危険度(relativerisk/riskratio:以下RR)という.一般に,RRが1の場合,曝露群と非曝露群の発症割合は同じで,1より大きい場合・小さい場合は各々曝露群・非曝露群の発症の割合が大きいことを意味する.しかし,この研究で男性の急性緑内障発作の累積発症率が37.5%というだけでは急性析,因子分析,共分散分析などがある.多変量解析の最大の長所は多くの交絡因子があっても,層化に比べ少ないサンプルサイズで分析できる.しかし,多変量解析モデルは必ずしもデータが統計学的モデルに当てはまるとは限らない.2.偶然誤差(randomerror)偶然誤差とは文字通り偶然に起こる誤差で,この誤差は調査した結果の点推定(たとえば失明率)を中心にこれよりも大きいほうにもあるいは小さいほうにも均等にバラツキを生じる.たとえば,ある発展途上国の真の失明率が1.0%とした場合,その国民から無作為に10,000人を集めて調査すると失明者数は100人となるはずである.しかし,同調査をくり返し行うと,失明者数は必ずしも100人とはならず98人,99人,101人,102人などといった100人前後の値をとる可能性もある.このように,点推定(pointestimate)は,ある誤差を伴うのである.このばらつき(偶然誤差)を減らすにはサンプルサイズを大きくすればよい.しかし,やみくもにサンプルサイズを増やせばいいというものでなく,数学的にサンプルサイズを決定することができる.筆者らは無償ソフトのPowerandSampleSizeCalculation3)を好んで使っている.III研究デザイン疫学は現象をあるがままに記録し分析する観察研究(observationalstudy)と,治験のように研究者が介入してその効果を調べる実験研究(experimentalstudy)とに大別される.観察研究はある一時点のみを研究する横断研究(cross-sectionalstudy)とある期間にわたって観察を行う縦断研究(longitudinalstudy)とに分けられ,後者は診療録などを参考にしながら過去から現在までのデータを扱う後ろ向き研究(retrospectivestudy)と現在からこれから生じる現象を観察する前向き研究(prospectivestudy)とに分けることができる.以下に代表的な研究デザインについて言及する.1.コホート研究(cohortstudy)観察研究かつ縦断研究の代表例にコホート研究があ———————————————————————-Page46あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(6)作を発症する罹患率は男性で5/100PYs,女性で8/100PYsとなり,その2つの比incidencerateratio(IRR)は0.625=5/8となり,男性のほうが女性より罹患率が低いということになる.表1にRRとIRRの計算式とその95%信頼区間の算出方法を示す.経過観察を開始してから転機までの期間により生存率を調査する方法を生存分析と言い,Kaplan-Meier法がよく知られている.ここで,図1の例を用いてKaplan-Meier法による生存分析の方法を述べる(表2).男性はコホート開始時には有効観察者数が8人で急性緑内障発作を発症していない者(生存者)は8人である.したがって,生存率・累積生存率はいずれも1となる.2年後にID1がこのコホート内で初めて急性緑内障発作を発症するため発症率は0.125(8人中1人が発症),生存率は0.875となる.これに研究開始時の累積生存率1を掛け合わせると,2年後の累積生存率は0.875になる.3年後にはID2が発症するため発症率は0.143(7人中1人が発症),生存率は0.857となる.したがって累積発症率は前の段階(つまり2年)の累積発症率0.875にこの時点(3年)での生存率0.857を掛け合わせた0.750が緑内障発作が1年で発症するのか,あるいは10年で起こるのか不明である.もし,1年で37.5%に急性緑内障発作が起こるのであれば超高齢者であろうと狭隅角に対する何らかの処置が早急に必要であろうが,10年後に発症するのが37.5%であるならば必ずしも早急に処置を行う必要はない.つまり,累積発症率における最大の問題点はコホート研究という縦断研究であるにもかかわらず時間という概念がまったく考慮されていない点にある.この欠点を補う指標として罹患率(incidencerate)というものがある.これは単なる参加者の人数ではなく,人×観察期間といった人年法(person-year:PY)を用いることによって分析を試みるものである.前述のコホート研究(図1)において,ID1は2年間経過観察されているので2PYs(=1人×2年),ID2は3PYs(=1人×3年),ID3は5PYs(=1人×5年),ID48は50PYs(=5人×10年)ということになり,男性全体で60PYs経過観察されたことになる.そのうち3人が急性緑内障発作を呈したのだから罹患率は0.05/PY(=3/60PYs=5/100PYs)ということになる.これは20人を5年間経過観察すれば5人が(5年で)急性緑内障発作を,100人を1年間経過観察すれば(1年で)5人が発症するということを意味する.女性についても同様に計算を行うと,25PYsの間に2人が発症したため罹患率は0.08/PY(=2/25PYs=8/100PYs)になる.したがって,このコホート研究では狭隅角から急性緑内障発3年で発症2年で発症5年で発症2年で発症コホート研究開始からの期間10年0年3年で発症60PYs25PYs患者ID性別男男男男男男男男女女女女123456789101112図1狭隅角の男性8人,女性4人による仮想的コホート研究急性緑内障発作を転機とした.男性8人中(60PYs)3人,女性4人(25PYs)中2人が発症.発症未発症観察人数男性a(3)b(5)n1(8)PYa(60)女性c(2)d(2)n2(4)PYc(25)()は図1のコホートより算出した値を示す.a)相対危険度(RR)RR=(a/n1n/c(/)2)=)4/2(/)8/3(=0.7595%信頼区間(CI)の算出方法95%CIforLogRR:LogRR±n・a(/b(69.11)+n・c(/d2)=Log0.75±1.96)8・3(/5(+)4・2(/2=-1.61to1.0495%CIforRR:0.20to2.83b)Incidencerateratio(IRR)IRR=)cYP/c(/)aYP/a(=)52/2(/)06/3(=0.62595%信頼区間(CI)の算出方法95%CIforLogIRR:LogIRR±1.96(1/a+1/c)=Log0.625±1.96(1/3+1/2)=-2.26to1.3295%CIforIRR:=0.10to3.74表1狭隅角の仮想的コホートに対する相対危険度(relativeratio/riskratio)とIncidencerateratioの計算方法———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,20097(7)め累積発症率や罹患率を求めることはできない.代わりにある一時点での糖尿病患者における糖尿病網膜症の有無やその重症度分類を調査することとなる.したがって,横断研究ではある一時点での有病者の割合(有病率:prevalence)を調べることが目的になる.血糖のコントロールレベルも測定日のHbA1Cだけから判定することとなり,必ずしも対象者の長期的な血糖コントロールが反映されるとは限らない.したがって,ある時点での疾患の有病率(prevalence)とそれに関連した因子についての関連を調べることが目的である横断研究は,コホート研究に比べ情報量が少なく因果関係の証明は乏しくなる.一般に横断研究はコホート研究を行う準備段階(pilotstudy)で行われることが多い.ある町の学校検診の結果を調べてみたところ,2000年に小学校に入学した児童で裸眼視力が0.7未満の児童の割合が2005年(小学校6年)に40%,2008年(中学校3年)に60%だったとする.一見するとコホート研究にみえるが,ある程度の一定間隔をおいて横断研究をくり返す研究を連続横断研究(serialsurvey)とよぶ.コホート研究は最初に決めた調査対象集団を経時的に追跡調査し,最初に定義された対象者以外の者を研究に追加されることはない.しかし,連続横断研究では調査時期に一定の地域にいる者を対象とするため死亡・転出のほか,出産・転入などでもともとの集団に別の集団が追加されてしまい,コホート研究とは明らかに異なる研究デザインとなってしまう.3年における累積生存率となる.同様の計算を5年後においても行うと生存率は0.833となり,これに3年後の累積生存率0.750を掛け合わせた0.624が5年後における累積生存率ということになる.その後,コホート内の生存者のうち誰も発症しないことからこの0.624が10年後の生存率ということになる.女性についても同様に計算を行いプロットしたのが図2である.このように,ある集団の生存割合を調べてこれをプロットしていくと,その変化を視覚的に理解できる.しかし,今回の例のように観察対象者全員の経過を追えるとは限らず,実際の疫学調査はより複雑である.打ち切りの原因としては研究そのものが終わってしまった場合や参加者が転居や死亡などにより調査できなくなったことなどがある.2.横断研究(cross-sectionalstudy)あるコミュニティで糖尿病網膜症と血糖コントロール(グリコヘモグロビン:HbA1C)の関係を研究するとしよう.コホート研究でこの研究を行うのであれば,たとえば,糖尿病網膜症のない糖尿病患者を集め定期的にHbA1Cの測定と眼底検査を行い,長期的な血糖コントロールの状況と網膜症発症の時期(もちろん,打ち切り例もある)を判定することになる.HbA1Cは定期的に測定されるため血糖コントロールの状況をより正確に記録することができ,長期的な血糖コントロールの状況と糖尿病網膜症の累積発症率あるいは罹患率との関連を調査することができる.一方,横断研究ではすべての測定をある一時点で行い,そのときのHbA1Cのレベルと眼底所見からその関連性を調査することとなる.横断研究のデザインでは,ある一時点でしか眼底検査をしないた観察時期(t)生存数発症者数(r)有効観察者数(n)発症した割合(r/n)生存率累積生存率S(t)080801127180.1250.8750.87536170.1430.8570.75055160.1670.8330.62410505010.624のついた2つの値を掛けて累積生存率を求める表2各観察時期における生存率・累積生存率の計算(Kaplan-Meier法)0.000.250.500.751.000246810分析期間(年)累積生存率(%)Stata/SE10.0forindows(StataCorpLP,USA)により作成:男性:女性図2KaplanMeier法による男女別生存曲線2群間の比較はlog-ranktestで,それ以上あるいは他の因子も考える場合はCox比例ハザードモデルを用いる.———————————————————————-Page68あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(8)ことを意味する.表3はCRAOと喫煙歴の有無を調査した仮想的な症例・対照研究(マッチングなし)の結果を示す.今回の仮想的結果では,ORは2.0(=2.0/1.0)ということになる.したがって,この結果は喫煙歴がある者はない者に対しCRAOのオッズが2倍高く,喫煙歴があるとCRAOになりやすいということを意味する.しかしながら,95%信頼区間は0.75.7となり,ORが1を含んでしまい,統計学的には有意とはいえない(偶然誤差).図3は喫煙がある疾患に及ぼす影響について調べた仮想的な症例・対照研究で,マッチングしなかった場合と3.症例・対照(ケース・コントロール)研究(case-controlstudy)コホート研究や横断研究では費用と時間がかかりすぎ研究成果をすぐに出すことができない.たとえば,網膜中心動脈閉塞症(CRAO)と喫煙歴の関係を研究しようとした場合,網膜中心動脈閉塞症は比較的まれな疾患でありコホート研究ではきわめて多くの調査(観察)対象者が必要となってしまう.このような場合,CRAOの既往がある群(症例)と既往のない群(対照)との間で特定の因子の曝露状況を比較し,因子と疾患の関連性を検討する方法がある.これを症例・対照研究(case-controlstudy)という.症例・対照ともに喫煙という曝露因子は本人あるいは家族・友人から聞き取り調査などを行い,喫煙歴の有無を確認し情報バイアスの介入を最小限にする.しかし,対照者の選択方法によってはこの喫煙歴あり・なしの人数が大きく変わる可能性がある.この選択バイアスを防ぐには症例と対象をマッチングしたり,同一集団から症例・対照などを選択したり,家族や友人を対照に選ぶ(測定できない遺伝的あるいは環境的要因をマッチできる)方法をとる.症例と対照の数は研究者が任意に決定するため,症例・対照研究では疾患の有病率や罹患率を算出することはできない.そこで,疾患と曝露因子の関連の強さをオッズ比(oddsratio:OR)で計算する.ORが1の場合,曝露群と非曝露群の発症割合は同じで,1より大きい場合・小さい場合はそれぞれ,曝露群・非曝露群の発症の割合のほうが大きい図3マッチングの有無によるオッズ比(OR)変化症例・対照研究ではマッチングの有無によりその統計解析法が異なることに注意が必要である.マッチングしていない場合は通常通りに「2×2表」を埋めていく.一方,マッチングしている場合は①症例・対照とも曝露されている,②症例・対象ともに曝露されていない,③症例のみ曝露されていて対照は曝露されていない,④症例は曝露されていないが対照は曝露されているというペアがいくつあるかを「2×2表」に埋めていく.マッチングしていない場合OR=ad/bc,c2値はc21=122=++++nadbcacbaabcd()()()()()で求めるのに対し,マッチングしている場合,OR=b/cでc2値はc21=121=(bc2()bcで求める.b症例対照喫煙(+)喫煙(+)喫煙(+)喫煙(+)喫煙(+)喫煙(-)喫煙(+)喫煙(-)喫煙(+)喫煙(-)喫煙(+)喫煙(-)喫煙(-)喫煙(+)喫煙(-)喫煙(-)喫煙(-)喫煙(-)喫煙(-)喫煙(-)マッチングなしマッチングあり対照症例()人数症例対照喫煙歴ありa(6)(3)喫煙歴なしc(4)d(7)喫煙歴あり喫煙歴なし喫煙歴ありa(2)b(4)喫煙歴なしc(1)d(3)()ペアー数n=a+b+c+d=6+3+4+7=20OR=(a/c)/(b/d)=(6/4)/(3/7)=3.5OR=b/c=4/1=4表3網膜中心動脈閉塞症と喫煙の関係を調べた仮想的な症例・対照研究とオッズ比の計算方法網膜中心動脈閉塞症のり(症例)網膜中心動脈閉塞症のな(対照)計喫煙り()()+b(35)喫煙歴なしc(10)d(15)c+d(25)合計a+c(30)b+d(30)a+b+c+d(60)()は仮想的な数値.オッズ比(OR):OR=)d/b(/)c/a(=)51/51(/)01/02(=2.095%信頼区間(CI)の算出95%CIforLogOR:LogOR±1.96(1/a+1/b+1/c+1/d)=Log2.0±1.96(1/20+1/15+1/10+1/15)=-0.35to1.7495%CIforRR:0.70to5.70———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.1,20099年齢と性別などでマッチングした場合のそれぞれの「2×2表」を示す.マッチングしていないとき,マッチングしたときで「2×2表」もさることながらORの計算方法が異なることに注意したい.4.実験的試験盲検的ランダム比較研究に代表される実験的研究はすでに観察研究で知見を得られ,治療方針が明確な場合において最終的な因果関係を証明するデザインである.介入群と非介入群(プラセボ)に分ける以外は上述の前向きコホート研究のデザインをとる.盲検的ランダム比較研究は疫学調査の最高峰に位置するが,サンプルサイズが少ないために,まれな副作用例に関しては検出能力が乏しいことに注意したい.おわりにHospital-basedstudyであろうとpopulation-basedstudyであろうとその疫学的な手法は同様である.正しい疫学デザインや基礎的な解析方法を理解していなければどんなに優れた統計学的手法を用いてもその結論の導き方に限界がある.本稿が今後のpopulation-basedsurveyの理解と臨床研究に役立てていただければ幸いである.本稿のきっかけを与えてくださいました山形大学医学部視覚病態学分野山下英俊教授,川崎良先生に深く感謝いたします.また,ご校閲いただきました順天堂大学眼科村上晶教授に感謝申し上げます.文献全般・GordisL:Epidemiology.3rdEdition,Elsevier-Saunders,Philadelphia,2004・SzkloM,NietoFJ:EpidemiologyBeyondtheBasis.JonesandBartlettPublisher,Boston,20041)日本疫学会:翻訳,『疫学辞典第3版国際疫学学会後援図書』,財団法人日本公衆衛生協会,20002)GordisL:Epidemiology.3rdEdition,Elsevier-Saunders,Philadelphia,20043)URLavailablefromhttp://biostat.mc.vanderbilt.edu/twiki/bin/view/Main/PowerSampleSize(9)