考える手術.監修松井良諭・奥村直毅理想的な白内障手術中村竜大中村眼科医院白内障手術は,紀元前800年,インド亜大陸のベンガル地方,学者スシュルタによる鍼針金を用いた墜下法に始まる.日本では,西暦1355年頃(室町時代)にインドから中国を経て白内障手術が伝わり,名古屋の馬島清眼僧都という高僧により墜下法が始まった.さらに西暦1745年頃,フランス宮廷医ダビエルにより白内障摘出術が考案された.日本には,西暦1823年頃にオランダのシーボルトにより白内障摘出術が伝授された.そして19世紀に入り,ドイツのGraefeが線状切開法を開発,英国のRidleyが眼内レンズを開発,米国のそのような流れの中で今も昔も不変であることは,白内障手術の理想は,安全に,効率的に,そしてできるかぎり低侵襲に水晶体を摘出し,人工眼内レンズを精度高く,眼内に挿入し固定することに尽きるという点である.しかし,最近の白内障手術では,効率性=手術時間の短縮を追求するあまり,超音波装置の設定はhighvacuum,high.owに,そして,そのような設定でも前房が安定するようにと,highIOPまたは加圧システムによる前房内圧制御を必要とする傾向にある.しかし,超音波チップの種類や超音波装置の選択肢が広がった現代では,その特徴を理解し,手術手技や設定を見直すことで,円熟期にある白内障手術をさらに理想に近づけられる可能性がある.聞き手:白内障手術装置は何を使用していますか?を変えています.CENTURION,Constellationでの手中村:主にDORC社のeva,Alcon社のCENTURION術では,divide&conquermethodをおもに選択してを使用し,ときにConstellationを使用しています.います.その理由は,Alcon社の最大の特徴はBal-ancedTipと回旋発振超音波による核破砕力にあり,そ聞き手:それぞれの器械の特徴に合わせて,どのようにの力をもっとも効率よく使えるのは,手術の序盤でまだ手技を変えていますか?核が固定されている状態のときで,分割する前に水晶体中村:DORC社とAlcon社の装置で核処理の際の手技の中心部の核の硬い部分を溝を掘りながら処理してしま(63)あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024630910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術うのがより効率的だと考えるからです.また,水晶体を乳化し液体に近づけることで,それほど高い吸引圧を必要とせず,より安全な設定で,十分効率よく手術を行えると考えるからです.evaでは,当初,DORC社の純正チップを使用しており,水晶体乳化吸引(phacoemulsi.-cationandaspiration:PEA)が縦発振超音波装のため,回旋発振超音波の装置と比較すると効率の悪さを感じました.しかしSCIMENDESIGN社のチップを使用した時からevaの印象は大きく変わりました.動画のとおり,各社のチップを比較すると,SCIMEN社のチップは吸引口が大きくなっており,BalanceTipと比較しても大きく,吸引効率がよいことが伺えます.さらに,そのリムは刃物のように薄く加工してあり,縦発振超音波方式でもチップによる核の前方への弾きが軽減され,pulseなどの設定を使用せずとも効率的にPEAが行えます.さらにevaの特徴は,吸引系がdiaphragmpumpである点で,術中に二種類のmodeを切り替えることで,vacuumcontrolmodeではventuripumpのような手術を,.owcontrolmodeではperistalticpumpのような手術を行うことができます.例えば,硬い核を処理する際,核を閉塞させることで,吸引圧を上げる仕組みである.owmodeでは,peristalticpumpのマシンと同様に核が詰まりやすい特徴があります.そのような場合は,vacuummodeでなるべくチップの先端を閉塞させないように核を乳化吸引すると詰まりにくくなります.また,Zinn小帯脆弱や術中虹彩緊張低下症の場合には,ペダルリングで吸引圧と吸引流量をコントロールできるvacuummodeが適しています.吸引効率とコントロールが良好なevaでの手術では,phacochopmethodを主に選択しています.CENTURIONのように乳化して液体に近づけて吸引するというより,核を吸引可能な大きさに切り分けて,そのまま吸引していくイメージです.聞き手:それぞれの手術装置の設定値はどうですか?中村:CENTURIONでは分割前は眼圧(intraocularpressure:IOP):55mmhg,Asp:21-23-25ml/min,Vac:150.300mmHg,分割後はIOP:55mmHg,Asp:28.36ml/min,Vac:120.400mmHgとしています.evaでは,分割前は.owmodeIOP:52mmHg,Asp:0.20ml/min,Vac:280mmHg,分割後はvac-uummodeIOP:40mmHg,Vac:220mmHg,.ow64あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024modeIOP:40mmHg,Asp:25.30ml/min,Vac:200mmHgです.設定値にはチップの形状による影響も大きいと思っています.例えると,ストローでスムージーを飲むようなイメージで,細いストローを使用すればそれだけ高い吸引圧を必要とします.CENTURIONでは,チップが細いため,吸引効率のよいevaと比較して,吸引圧と吸引流量を若干高めに設定しています.IOPはもう少し下げることも可能ですが,当院では,創口2.1mm切開で行っており,創口がややタイトであるために,灌流不全になりにくいように少し余裕をみた設定になっています.聞き手:USpowerについては何かこだわりはありますか?中村:powerを0スタートにせず,15.20%スタートにしている点です.私がPEAを習得しはじめた頃は,できるだけ吸引口を閉塞させて核を保持してから分割し,閉塞させて核を中心に引き出してからUSをかけて核を吸引するというのが一つのセオリーでした.しかし,サージの原因の一つは閉塞した際に上昇する吸引圧によるもので,特にperistalticpumpや.owmodeの手術で起こります.最近のマシンでは,センサーや加圧システムにより,閉塞後に起こるサージに備え灌流圧を上昇させることで前房を安定させる対策が取られています.しかし,そもそも閉塞による急激な吸引圧上昇を抑えることができればサージは小さくなります.そのため,USの立ち上がりをよくすることで,閉塞が起こる前に核を乳化吸引していくことが目的です.聞き手:最後に,先生にとっての理想の白内障手術とは?中村:理想の白内障手術というと,麻酔に始まり,術後のqualityofvisionまで,奥が深くとてもむずかしい質問ですが,手術装置設定に関していえば,白内障手術は比較的ノーマルなものから超難症例まで千差万別ですが,なるべく大きく設定を変更せずに対応できる設定を基本とすることが理想であると考えます.また,術者のペダリングの好み(踏み込みが浅い人,深い人,細かい人など),使用している手術装置の特徴などをvideooverlayなどで分析してみることが,各自の理想設定に到達するための近道であると思います.(64)