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0.0015% DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第Ⅲ相検証的試験

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(125)15950910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15951602,2008cはじめにDE-085(一般名:タフルプロスト)は参天製薬株式会社(参天製薬)および旭硝子株式会社で創製された図1の構造式をもつプロスタグランジン(PG)系眼圧下降薬である1).DE-085は,その活性代謝物であるタフルプロストカルボン酸体の各種プロスタノイド受容体に対する結合活性をinvitroで検討した結果,プロスタノイドFP受容体に対する高い親和性を有することを確認した2).また,正常眼圧サルを対象とした点眼試験で,眼圧下降作用を有することを確認した2).DE-085点眼液は,室温で安定な薬剤である.〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島4-2-78大阪厚生年金病院眼科Reprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,4-2-78Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPAN0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第Ⅲ相検証的試験桑山泰明*1米虫節夫*2*1大阪厚生年金病院眼科*2近畿大学農学部PhaseIIIConirmatoryStudyof0.0015%DE-085(Taluprost)OphthalmicSolutionasComparedto0.005%LatanoprostOphthalmicSolutioninPatientswithOpen-AngleGlaucomaorOcularHypertensionYasuakiKuwayama1)andSadaoKomemushi2)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,2)SchoolofAgriculture,KinkiUniversity原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者125例を対象に0.0015%タフルプロスト点眼液(DE-085群)の有効性および安全性について,0.005%ラタノプロスト点眼液(ラタノプロスト群)を対照とした多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験を実施した.治療期4週の眼圧は治療期0週に比べて,DE-085群で6.6±2.5mmHg,ラタノプロスト群で6.2±2.5mmHg下降した.治療期4週の治療期0週からの眼圧変化値の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間は,非劣性基準の上限を超えず,DE-085群はラタノプロスト群と同等(非劣性)であることが検証された.副作用発現率は,DE-085群で40.0%,ラタノプロスト群で48.1%であった.DE-085は,ラタノプロストと同様に原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者に対して,臨床的に有用性の高い薬剤である.Tocomparetheecacyandsafetyof0.0015%tauprostophthalmicsolution(DE-085group)tothatoflatanoprostophthalmicsolution(latanoprostgroup)inprimaryopen-angleglaucoma(POAG)orocularhyperten-sion(OH)inarandomized,single-masked,parallel-groupandmulticenterstudy,125patientswithPOAGorOHwereassignedtoeitheraDE-085grouporalatanoprostgroup.Inbothgroupsthedrugwasinstilledfor4weeks.Meanintraocularpressure(IOP)reductionfrombaselinewas6.6±2.5mmHgintheDE-085groupand6.2±2.5mmHginthelatanoprostgroup.The95%condenceintervalofbetween-groupdierenceinIOPchangesat4weeksoftreatmentwaswithinthenon-inferioritymargin.TheIOP-loweringeectofDE-085fortheprimaryendpointwassimilartothatoflatanoprost.Atotalof40.0%ofpatientsintheDE-085groupand48.1%inthelatanoprostgroupreportedadversereactions.TheseresultsindicatethatbothDE-085andlatanoprostareclinical-lyusefulinthetreatmentofPOAGandOH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15951602,2008〕Keywords:原発開放隅角緑内障,タフルプロスト,DE-085,プロスタグランジン誘導体,臨床試験.primaryopen-angleglaucoma(POAG),tauprost,DE-085,prostaglandinanalogue,clinicalstudy.———————————————————————-Page21596あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(126)第Ⅰ相試験では,日本人および非日本人の健康成人男性を対象に,0.005%までの認容性が確認された.第Ⅱ相試験(用量反応試験)では,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象として,プラセボ点眼液を対照に0.0003,0.0015および0.0025%DE-085点眼液(1日1回,1回1滴,4週間点眼)の眼圧下降作用の用量反応性および安全性を多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験により検討した.その結果,0.0003,0.0015および0.0025%DE-085点眼液はプラセボ点眼液に比して有意な眼圧下降作用がみられ,眼圧下降作用に用量依存性がみられた.また,0.0003および0.0015%DE-085点眼液は安全性に問題はなかったが,0.0025%は副作用による中止例がみられ,安全性と効果のバランスから0.0015%が至適用量として選定された.今回,DE-085点眼液の第Ⅲ相試験,すなわちラタノプロスト点眼液(キサラタンR)を対照薬として臨床的非劣性および安全性を検証することを目的に,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象として行われた多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験の結果を報告する.本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.I対象および試験方法1.実施医療機関および試験責任医師本試験は,平成16年5月16日から平成17年5月6日の間に全国30医療機関において,各々の試験責任医師(表1)のもとに実施された.試験実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.2.対象対象は,両眼性の原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者であり,選択基準は年齢20歳以上の性別を問わない外来患者で,観察期終了時(治療期0週)の眼圧が少なくとも片眼で22mmHg以上,かつ両眼とも35mmHg未満の症例とした(表2).除外基準は表2に示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.HOHOCO2CH(CH3)2OFF図1タフルプロストの構造式表1試験実施医療機関一覧医療機関名試験責任医師名*北海道大学病院眼科陳進輝弘前大学医学部附属病院眼科大黒浩秋田大学医学部附属病院眼科吉冨健志新潟大学医歯学総合病院眼科白柏基宏自治医科大学附属病院眼科原岳,水流忠彦山梨大学医学部附属病院眼科柏木賢治筑波大学附属病院眼科大鹿哲郎東京厚生年金病院眼科藤野雄次郎東邦大学医療センター大森病院眼科杤久保哲男順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科平塚義宗北里大学病院眼科庄司信行岐阜大学医学部附属病院眼科山本哲也小牧市民病院眼科冨田直樹西尾市民病院眼科松崎園子京都府立医科大学附属病院眼科森和彦大阪大学医学部附属病院眼科大鳥安正関西医科大学附属病院眼科南部裕之大阪医科大学附属病院眼科杉山哲也神戸大学医学部附属病院眼科中村誠広島大学病院眼科三嶋弘山口大学医学部附属病院眼科相良健香川大学医学部附属病院眼科馬場哲也徳島大学病院感覚・皮膚・運動機能科塩田洋愛媛大学医学部附属病院眼科大橋裕一研英会林眼科病院林研産業医科大学病院眼科廣瀬直文,久保田敏昭佐賀大学医学部附属病院眼科小林博熊本大学医学部附属病院眼科有村和枝,古賀貴久熊本市立熊本市民病院眼科宮川真一慶明会宮崎中央眼科病院大浦福市*試験期間中の試験責任医師をすべて記載した.(順不同)表2選択基準および除外基準1)選択基準(1)20歳以上である(2)性別は問わない(3)入院・外来の別:外来(4)治療期0週の眼圧が少なくとも片眼で22mmHg以上であり,両眼とも35mmHg未満である2)除外基準(1)同意取得前3カ月以内に内眼手術(緑内障に対するレーザー治療を含む)の既往を有する(2)角膜屈折矯正手術の既往を有する(3)虹彩炎の既往を有する(4)試験期間中に使用する予定の薬剤および本剤の類薬に対し,薬物アレルギーの既往を有する(5)心,肝,腎,血液疾患,その他の中等度以上の合併症をもち,薬効評価上不適当と考えられる(6)コンタクトレンズの装用が必要である(7)血液検査・尿検査で臨床的に問題がある(8)試験責任医師・分担医師が本試験の対象として不適格と判断する———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081597(127)3.試験方法a.試験薬剤被験薬であるDE-085点眼液は,1ml中にタフルプロストを0.015mg含有する無色澄明の水性点眼液であり,対照薬は1ml中にラタノプロストを0.05mg含有する無色澄明の水性点眼液である.被験薬は参天製薬にて充されたもの,対照薬はファイザー株式会社にて充されたものを使用した.両薬剤は容器の外観が異なることから単盲検法とし,試験薬の包装は1本ずつを両群同一の小箱に収め,小箱の状態においては外観上識別不能にした.試験薬の割り付けは,試験薬割付責任者(米虫節夫)が置換ブロック法による無作為化により行った.キーコードは,開鍵時まで試験薬割付責任者が保管していた.b.試験デザイン・投与方法本試験は,多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験として実施した.被験者から文書による同意取得後,観察期(前治療薬のwashout期間)を設け,抗緑内障薬の投与を受けていた被験者については,その薬剤の投与を中止しwashoutした.Washout期間は,交感神経a遮断薬,b遮断薬,ab遮断薬,プロスタグランジン系点眼薬では4週間以上,炭酸脱水酵素阻害薬,交感神経作動薬,副交感神経作動薬では2週間以上に設定した.観察期終了後,登録センターへ症例登録し,治療期に移行した.被験者は0.0015%DE-085点眼液投与群(DE-085群)と0.005%ラタノプロスト点眼液投与群(ラタノプロスト群)のいずれかに無作為に割り付けられ,両群とも1日1回,1回1滴の点眼を朝10時(±1時間)に4週間行った.治療期には2週および4週に,表3のごとく検査,観察を行った.4.観察項目a.被験者背景性別,生年月日,合併症(眼,眼以外),既往歴などの被験者背景は,試験薬投与開始前に調査し記載した.b.自覚症状・点眼遵守状況痒感,刺激感,流涙,羞明感,異物感,眼痛などの自覚症状や点眼遵守状況については,試験期間中の来院時に問診し,その程度を記載した.c.眼圧測定治療期0週,2週および4週の眼圧を午前911時の間に測定し記載した.測定にはGoldmann圧平眼圧計を用いた.d.眼科検査角膜,前房,水晶体,結膜,眼瞼などの他覚所見は,試験期間中の来院時に細隙灯顕微鏡などを用いて観察し,その所見を「」から「3+」の4段階に程度分類し記載した.たとえば,球結膜の充血については,「:球結膜の血管が容易に観察できる.毛様充血もみられない」,「+:球結膜に限局した発赤がみられる」,「2+:球結膜に鮮赤色がみられる」,「3+:球結膜に明らかな充血がみられる」の基準に従い判定した.視力検査は,試験開始時および試験終了時に実施した.e.血圧・脈拍数,臨床検査血圧・脈拍数,血液学的検査,血液生化学検査および尿検査は,試験開始時および試験終了時に実施した.f.有害事象試験期間中に観察された自覚症状の発現・悪化および試験責任医師・分担医師が医学的に有害と判断した他覚所見の発現・悪化を有害事象(あらゆる医療上の好ましくない,あるいは意図しない疾病または徴候:被験者にとって有害・不快な症状・所見)とし,すべて収集し記載した.5.評価項目a.有効性の評価有効性評価眼は,治療期0週の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.主要評価項目は,治療期4週(中止時を含む)における治療期0週からの眼圧変化値とした.また,副次的評価項目は,治療期2週の治療期0週からの眼圧変化値,および治療期2週・4週の治療期0週からの眼圧変化率とした.b.安全性の評価副作用および眼科検査結果,血圧・脈拍数,臨床検査値をもとに安全性を評価した.6.解析方法a.解析対象集団本試験の統計解析には下記の3つのデータセットを用いた.①試験実施計画書に適合した対象集団:PerProtocolSet(PPS)選択基準を満たし,除外基準に抵触しない被験者であ表3検査・観察項目観察期治療期観察期開始時0週2週4週被験者背景●点眼遵守状況●●自覚症状●●●●眼圧測定●●●●眼科検査●●●血圧・脈拍数測定●●臨床(血液・尿)検査●●有害事象●●●———————————————————————-Page41598あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(128)り,治療期間を通じて点眼状況が75%以上で,治療期終了時の眼圧が測定されたすべての症例.②最大の解析対象集団:FullAnalysisSet(FAS)無作為化された被験者のうち,治療期の眼圧が測定されたすべての症例.③安全性評価のための対象集団:SafetyAnalysisSet(SaAS)試験薬を1回でも点眼した症例.有効性はおもにPPSを用い,安全性はSaASを用いて解析を行った.b.データの取り扱い検査前日の点眼を適切に実施していない場合は,当該検査日の眼圧データをPPSおよびFASから除外した.c.解析方法非劣性の検証は,主要評価項目である治療期4週の眼圧変化値の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間を算出し,その上限が2mmHgを超えなければDE-085群の眼圧下降作用はラタノプロスト群に劣らないこととした.DE-085群とラタノプロスト群の副作用・臨床検査値異常変動の発現率の群間比較には,Fisherの直接確率法を用いた.眼科検査,血圧・脈拍数,臨床検査の変動は,DE-085群とラタノプロスト群それぞれの群内で,対応のあるt検定またはWilcoxon1標本検定を用いて比較した.有意水準は,両側5%とした.解析ソフトはStatisticalAnaly-sisSystemversion8.02(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.II試験成績1.被験者の構成被験者の構成を図2に示す.本試験には,125例が参加し,観察期中および症例登録時までに「選択基準を満たさない」,「除外基準に抵触する」,「有害事象(アレルギー性結膜炎)の発現」および「同意の撤回」などの理由で16例が中止した.登録症例は109例で,全例治療期に移行した.内訳は,DE-085群55例,ラタノプロスト群54例であった.うち4例(DE-085群4例)が試験の継続が不可能な有害事象の発現により試験を中止したため,投与完了例はDE-085群51例,ラタノプロスト群54例の計105例であった.2.被験者背景PPSは97例であり,DE-085群は46例,ラタノプロスト群は51例であった.PPSにおける被験者背景を表4に示す.性別,年齢,診断名,外来・入院,眼以外の合併症,緑内障前治療薬,治療期0週時眼圧に関して,両群間に偏りはみられなかった.眼の合併症の有無について両群間に偏りがみられた(p<0.15).3.有効性PPSにおける両群の眼圧実測値の推移を図3および表5に,眼圧変化値および眼圧変化率の推移を表6に,群間比較の結果を表7に示した.眼圧は両群とも治療期2週および4週において治療期0週と比べ有意な下降を示した(p<0.001).主要評価項目である治療期4週における治療期0週からの眼圧変化値は,DE-085群で6.6±2.5mmHg,ラタノプロスト群で6.2±2.5mmHgであった.眼圧変化値の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間は1.420.60mmHgであり,非劣性検証の上限とした2mmHgを超えず,DE-085群の眼圧下降作用はラタノプロスト群に劣らないものと判断できた.副次的評価項目である治療期2週の治療期0週からの眼圧変化値は,DE-085群で6.6±2.5mmHg,ラタノプロスト群で5.9±2.3mmHgであった.治療期2週の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間についても,1.600.33mmHgであった.試験薬投与前の被験者背景において,眼の合併症の有無にDE-085群とラタノプロスト群に偏りがみられたので,各群を合併症の有無によって細分化し,眼圧変化値を比較したが,両群間に偏りはみられなかった.また,FASにおいても同様に解析を行ったが,FASにおける結果はPPSの結果と同様であった.以上のことから,DE-085群の眼圧下降作用は,ラタノプロスト群と同等であることが検証された.治療期4週の眼圧下降率が,20%以上あるいは30%以上であった症例の割合を図4に示した.30%以上の眼圧下降が得られた症例は,DE-085群で39.1%,ラタノプロスト群で31.4%であった.また,20%以上の眼圧下降が得られた症例はDE-085群で80.4%,ラタノプロスト群で70.6%であった.なお,いずれの割合においても両群間に有意差は認められなかった.観察期中止脱例16例治療期開始例109例(症例登録)同意取得症例125例観察期終了例109例ラタノプロスト54例DE-08555例完了例51例中止例4例完了例54例中止例0例図2被験者の構成———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081599(129)4.安全性a.有害事象SaASは,DE-085群55例,ラタノプロスト群54例,計109例であった.治療期に発現した有害事象および副作用発現率を表8に示す.有害事象は,DE-085群の47.3%,ラタノプロスト群の57.4%にみられ,そのうち,試験薬との因果関係が否定できない有害事象と判断された副作用は,DE-085群の40.0%,ラタノプロスト群の48.1%であった(表8,9).両群間の有害事象および副作用発現率に有意差はみられなかった(p=0.340およびp=0.443).すべての有害事象名は,医薬品規制用語集(MedDRA/JV8.1)に準じて分類した.DE-085群のおもな副作用は,結膜充血・眼充血(16.4%および10.9%,計27.3%),眼痒症(9.1%),眼刺激(7.3表4被験者背景分類DE-085ラタノプロストp値検定症例数4651性別男性女性28(60.9)18(39.1)27(52.9)24(47.1)0.539(a)年齢(歳)202930394049505960697079802(4.3)3(6.5)5(10.9)9(19.6)15(32.6)10(21.7)2(4.3)1(2.0)4(7.8)6(11.8)15(29.4)12(23.5)9(17.6)4(7.8)0.734(b)64(非高齢者)65(高齢者)29(63.0)17(37.0)34(66.7)17(33.3)0.832(a)最小最大平均値±標準偏差228459.0±13.9228659.0±14.20.983(c)診断名原発開放隅角緑内障高眼圧症18(39.1)28(60.9)25(49.0)26(51.0)0.414(a)外来・入院外来入院46(100)0(0)51(100)0(0)眼の合併症なしあり13(28.3)33(71.7)22(43.1)29(56.9)0.144(a)眼以外の合併症なしあり12(26.1)34(73.9)19(37.3)32(62.7)0.280(a)緑内障前治療薬なしあり18(39.1)28(60.9)21(41.2)30(58.8)1.000(a)治療期0週時眼圧(評価眼)(mmHg)最小最大平均値±標準偏差223123.8±2.3223423.7±2.30.904(c)(a):Fisher直接確率法,(b):Wilcoxonの2標本検定,(c):t検定.表5眼圧実測値の推移DE-085ラタノプロスト治療期0週23.8±2.3(46)23.7±2.3(51)治療期2週17.2±2.6(45)17.7±2.8(50)治療期4週17.2±2.8(46)17.5±2.7(51)平均値±標準偏差(例数),単位mmHg.30252015100週2週治療期4週眼圧(mmHg)********:DE-085:ラタノプロスト平均値±標準偏差**:p<0.01検定:対応のある?検定(0週との比較)図3眼圧実測値の推移———————————————————————-Page61600あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(130)%)であった.ラタノプロスト群のおもな副作用は,眼刺激(18.5%),結膜充血・眼充血(13.0%および5.6%,計18.6%),眼痒症(11.1%)であった.副作用の程度は,DE-085群の2例(3.6%)で中等度であったが,それ以外は両群ともすべて軽度であった.この中等度の副作用は紅斑および眼瞼紅斑であり,いずれの例も試験中止に至った.また,試験中止に至った症例は,この2例を含めてDE-085群の4例(7.3%)にみられ,ラタノプロスト群ではみられなかった.他の試験中止例2例のうち1例は軽度の副作用発現例であり,試験継続に問題ない程度と判断されたが,被験者の希望により中止した.他の1例は試験薬との因果関係が否定された有害事象により中止した.いずれの症例も試験中止後,臨床的に問題ない程度に回復した.眼以外の副作用は,DE-085群に下痢,紅斑,頭痛が各1例(各1.8%),ラタノプロスト群に好酸球数増加が1例(1.9%)みられた.80.470.631.40102030405060708090症例割合(%)39.1眼圧下降率30%以上眼圧下降率20%以上DE-085ラタノプロストDE-085ラタノプロスト図4治療期4週に眼圧下降率20%以上および30%以上であった症例の割合表6眼圧変化値および眼圧変化率の推移眼圧変化値(mmHg)眼圧変化率(%)DE-085ラタノプロストDE-085ラタノプロスト治療期2週6.6±2.5**(45)5.9±2.3**(50)27.5±9.5**(45)25.9±9.7**(50)治療期4週6.6±2.5**(46)6.2±2.5**(51)27.6±9.6**(46)25.9±9.7**(51)平均値±標準偏差(例数).検定:対応のあるt検定(0週との比較)**:p<0.01.表7眼圧変化値の群間比較DE-085ラタノプロスト平均値の差(DE-085ラタノプロスト)平均値の差の95%信頼区間治療期2週6.6±2.5(45)5.9±2.3(50)0.641.600.33治療期4週6.6±2.5(46)6.2±2.5(51)0.411.420.60平均値±標準偏差(例数),単位mmHg.表8治療期にみられた有害事象発現例数および発現率DE-085ラタノプロスト検定※SaAS例数5554有害事象発現例数(%)26(47.3)31(57.4)p=0.340副作用発現例数(%)22(40.0)26(48.1)p=0.443※Fisherの直接確率法.表9副作用一覧DE-085ラタノプロストSaAS例数5522(40.0)5426(48.1)副作用発現例数(%)眼角膜上皮障害眼痒症眼の異常感眼の異物感眼刺激5(9.1)1(1.8)1(1.8)4(7.3)2(3.7)6(11.1)2(3.7)4(7.4)10(18.5)眼脂眼充血*眼精疲労眼痛眼瞼紅斑1(1.8)6(10.9)1(1.8)2(3.6)3(5.5)1(1.9)3(5.6)2(3.7)1(1.9)眼瞼浮腫結膜充血*結膜出血結膜浮腫点状角膜炎1(1.8)9(16.4)1(1.8)2(3.6)7(13.0)1(1.9)霧視羞明2(3.6)2(3.7)眼以外下痢好酸球数増加紅斑頭痛1(1.8)1(1.8)1(1.8)1(1.9)*眼充血:自覚症状のみ確認された事象,():%結膜充血:他覚所見にて確認された事象.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081601b.眼科検査細隙灯顕微鏡検査所見の球結膜充血において,DE-085群およびラタノプロスト群の両群で治療期0週と比べ有意な変動がみられた.他の所見に問題となる変動はみられなかった.矯正視力も各群において観察期からの有意な変動はみられなかった.球結膜充血スコアの推移を図5に示す.両群とも来院時のスコアは「」から「+」の間で推移し,「2+」以上を示した症例はみられなかった.点眼後のスコアは,両群ともに治療期2週よりも4週のほうがやや低く,程度も両群に差はみられなかった.c.臨床検査DE-085群では,臨床検査値のいずれの検査項目においても,観察期に比して有意な変動はみられなかった.ラタノプロスト群では,白血球数,好酸球比,アルブミン,カリウムに観察期からの有意な変動がみられたが,変動幅は小さく臨床的に問題となるものではなかった.個々の症例で検討すると臨床検査値異常変動は,DE-085群の10.9%,ラタノプロスト群の11.1%の症例にみられた.そのうち,試験薬との因果関係が否定できない臨床検査値異常変動は,DE-085群の1.8%,ラタノプロスト群の11.1%の症例にみられた.DE-085群の1例は好酸球上昇であり,ラタノプロスト群の6例は,それぞれ単球上昇,LDH(乳酸脱水素酵素)上昇,好酸球上昇および尿糖上昇,好酸球上昇,g-GTP上昇および尿蛋白上昇,尿白血球上昇であった.これらは,いずれも他の症状を伴わず,試験終了後に臨床的に問題ない程度に回復した.d.血圧・脈拍数拡張期血圧,収縮期血圧および脈拍数のいずれも,各群において観察期からの有意な変動はみられなかった.III考察緑内障,特に原発開放隅角緑内障(広義)の治療においては,薬物治療などによる眼圧下降が第一選択である3).眼圧下降薬としての第一選択薬は,優れた眼圧下降作用からマレイン酸チモロールなどのb遮断薬が長らく主役の地位を占めており,緑内障点眼薬の臨床試験において対照薬として使用されることが多かった.しかし,近年プロスタグランジン(PG)関連薬の登場に伴い,その強力で持続的な眼圧下降作用により第一選択薬として使用される機会が増えている.現在わが国で発売されているPG関連眼圧下降薬には,イソプロピルウノプロストン(レスキュラR),ラタノプロスト,トラボプロスト(トラバタンズR)がある.そのなかでもラタノプロストは1999年からわが国にて発売され,最もよく使用されている薬剤であるので,本試験では対照薬をラタノプロスト点眼液と選定し,第Ⅲ相試験を実施することとした.本試験は,DE-085点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象としラタノプロスト点眼液を対照とした多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験である.両群の治療期4週の眼圧変化値はDE-085群で6.6±2.5mmHg,ラタノプロスト群で6.2±2.5mmHgと,治療期0週と比べて有意に下降した(p<0.001).眼圧変化値の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間は1.420.60mmHgであり,非劣性検証の上限とした2mmHgを超えなかった.したがって,DE-085点眼液の眼圧下降作用がラタノプロスト点眼液に劣らないと結論できる.ラタノプロスト点眼液の第Ⅲ相試験において,ラタノプロスト点眼液の眼圧下降作用は点眼12週後に6.2mmHgを示した4).この値は,今回の試験結果におけるラタノプロスト群の眼圧下降作用と同等であることから,本試験で得られた眼圧下降値は過去の臨床試験結果と大きな差はなく,DE-085点眼液の眼圧下降作用はラタノプロスト点眼液と同等であると考えられる.また,眼圧変化率も治療期2週および4週において治療期0週と比べ両群とも有意な下降を示した(p<0.001).治療期4週における眼圧変化率は,DE-085群で27.6±9.6%,ラタノプロスト群で25.9±9.7%であった.日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン3)には,無治療時眼圧から20%の眼圧下降,30%の眼圧下降というように,無治療時眼圧からの眼圧下降率を目標として設定することが推奨されている.本試験において,眼圧下降率が20%以上,30%以上であった症例の各群の割合は,それぞれDE-085群で80.4%,39.1%,ラタノプロスト群で70.6%,31.4%であり,両群間に有意差はなかったが,いずれもDE-085群に高い数値であった.目標眼圧に1剤投与のみで達成できる例が多いこと(131)2.01.51.00.50.0充血スコア0週2週治療期4週:DE-085:ラタノプロスト平均値±標準偏差図5球結膜充血スコアの推移———————————————————————-Page81602あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008は,コンプライアンスの点からも重要であると考えられる.安全性については,両群ともに試験期間を通じて,重篤な有害事象はみられなかった.眼以外の全身的副作用には,下痢,紅斑,頭痛,好酸球数増加がみられたが,いずれも1例ずつの発現であり特徴的な事象はなかった.眼における局所的副作用には,DE-085群では,40.0%に副作用がみられ,高頻度にみられた副作用は,結膜充血・眼充血(計27.3%),眼痒症(9.1%),眼刺激(7.3%)であった.ラタノプロスト群では,48.1%に副作用がみられ,高頻度にみられた副作用は,眼刺激(18.5%),結膜充血・眼充血(計18.5%),眼痒症(11.1%)であり,DE-085群と大きな差はなかった.ラタノプロスト点眼液の第Ⅲ相試験4,5)では,25.3%に副作用がみられ,高頻度にみられた副作用は,結膜充血(14.9%),眼局所刺激症状(眼痛,眼局所の違和感,痒感など)(11.5%)であった.本試験とラタノプロスト点眼液の第Ⅲ相試験におけるラタノプロスト点眼液の副作用発現率では,本試験のほうがより高かったが,副作用の種類に大きな差はないと考えられた.本試験では中止に至った副作用発現例は,DE-085群の3例にみられたが,いずれの症例も試験中止により回復した.それ以外の副作用はすべて軽度であり,両群に大きな差はないと考えられた.細隙灯顕微鏡検査所見では,DE-085群およびラタノプロスト群において,球結膜充血スコアに治療期0週と比べ有意な変動がみられたが,点眼後のスコアは両群ともに治療期2週よりも4週のほうがやや低く,程度も両群に大きな差はみられなかった.その他の細隙灯顕微鏡検査所見,臨床検査値,収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍数,矯正視力については,両群とも,臨床的な問題はみられなかった.試験薬との因果関係が否定できない臨床検査値異常変動は,DE-085群の1.8%,ラタノプロスト群の11.1%にみられたが,いずれも他の症状を伴わず,試験薬点眼終了後に臨床的に問題ない程度に回復した.これらのことから,DE-085群およびラタノプロスト群の副作用発現率は同程度であり,両群に発現する副作用も結膜充血・眼充血,眼刺激,眼痒症が特徴的に発現し,程度も大きく違わないことから,安全性においても両群に大きな差はないと考えられた.以上より,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者において,DE-085点眼液の眼圧下降作用はラタノプロスト点眼液と同等(非劣性)であり,安全性についても明確な差はみられなかったことから,DE-085点眼液は,ラタノプロスト点眼液と同様に緑内障治療の第一選択薬となりうる有用性の高い薬剤である.文献1)NakajimaT,MatsugiT,GotoWetal:Newuoropro-staglandinF2aderivativeswithprostanoidFP-receptoragonisticactivityaspotentocular-hypotensiveagents.BiolPharmBull26:1691-1695,20032)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:Pharmacologi-calcharacteristicsofAFP-168(tauprost),anewpros-tanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20043)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20064)三嶋弘,増田寛次郎,新家眞ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とするPhXA41点眼液の臨床第Ⅲ相試験─0.5%マレイン酸チモロールとの多施設二重盲検試験─.眼臨90:607-615,19965)MishimaHK,MasudaK,KitazawaYetal:Acomparisonoflatanoprostandtimololinprimaryopen-angleglauco-maandocularhypertension.A12-weekstudy.ArchOph-thalmol114:929-932,1996(132)***

インターフェロンとリバビリンの併用療法中に網膜中心静脈閉塞症を発症した1例

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page11592あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(00)原著あたらしい眼科25(11):15921594,2008cはじめにインターフェロン(IFN)はウイルス性肝炎や各種の腫瘍など多くの疾患の治療に利用されている.これはINFの抗ウイルス作用や抗腫瘍作用によるものである.しかし使用例が増えるにつれ種々の副作用が報告されており,全身的には発熱や倦怠感,食欲不振,白血球の減少,抑うつなどが報告されている1).眼合併症としてはIFN網膜症があり,網膜表層の出血や軟性白斑の出現が特徴的である.このほか網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の発症も報告されている2,3).最近ではC型慢性肝炎に対してペグインターフェロンa-2b(PEGIFN)と抗ウイルス薬であるリバビリン(ribavirin)の併用療法が認可されたが,この併用療法を行った際の眼合併症としてCRVOの発症が報告されている3).今回IFN・リバビリン併用療法中にCRVOを発症した症例で網膜無灌流域が8カ月後まで残存した症例を1例経験したので報告する.I症例60歳の男性が2005年10月初めから倦怠感,腰痛,食欲低下を訴え手稲渓仁会病院(以下,当院)消化器科を受診した.GOT(グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ)95U/l,GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)151U/l,gGTP(gグルタミル・トランスペプチダーゼ)485U/l,HBs(B型肝炎表面)抗原陰性,HCV(C型肝炎ウイルス)抗体陽性でC型肝炎と診断された.2006年1月中旬から当院消化器科でPEGIFN週1回10mg,リバビリン〔別刷請求先〕坂口貴鋭:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座眼科学分野Reprintrequests:TakatoshiSakaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Kita15-Nishi7,Kita-ku,Sapporo-shi,Hokkaido060-8638,JAPANインターフェロンとリバビリンの併用療法中に網膜中心静脈閉塞症を発症した1例坂口貴鋭*1横井匡彦*1勝田聡*1高橋光生*1佐藤克俊*1北明大洲*1加瀬学*1大野重昭*2*1手稲渓仁会病院眼科*2北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座眼科学分野ACaseofCentralRetinalVeinOcclusionduringInterferonandRivabirinTreatmentTakatoshiSakaguchi1),MasahikoYokoi1),SatoshiKatsuta1),MitsuoTakahashi1),KatsutoshiSato1),HirokuniKitamei1),ManabuKase1)andShigeakiOhno2)1)DepartmentofOphthalmology,TeinekeijinkaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicineインターフェロン・リバビリン併用療法中の60歳の男性に発症した網膜中心静脈閉塞症を経験した.フルオレセイン蛍光眼底造影で黄斑部付近の網膜動脈や毛細血管の灌流障害が疑われた.このため併用療法を中止した.8カ月後に視力や視野は改善しなかったが,網膜出血や黄斑浮腫,軟性白斑は消失した.一部に無灌流域が残存していた.Wereporta60-year-oldmalewithcentralretinalveinocclusion(CRVO)inhisrighteyeduringinterferon(IFN)andrivabirintreatment.Fluoresceinangiography(FA)revealedthatretinalarteriolesorcapillariesaroundthemaculawereocculuded.Thetreatmentwasthereforeimmediatelyterminated.Eightmonthslater,visualacu-ityandvisualeldwerenotimproved,butretinalhemorrhage,macularedemaandwhitepatcheshaddisappeared,exceptforsomeoccludedvessels.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15921594,2008〕Keywords:インターフェロン,リバビリン,網膜中心静脈閉塞症.interferon,rivabirin,centralretinalveinocclusion.1592(122)0910-1810/08/\100/頁/JCLS———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081593(123)800mg/日投与によるIFN・リバビリン併用療法を開始した.治療開始時の検査ではGOT115U/l,GPT172U/l,gGTP356U/l,白血球数5,630/μl,赤血球数526×104/μl,血小板数13.7×104/μlであり,糖尿病,高血圧,腎疾患はみられなかった.治療開始2週後に突然右眼に視蒙感が生じ,その約1週間後に眼科を初診した.視力は右眼0.01(矯正不能),左眼1.2(矯正不能)で,眼圧は右眼7.9mmHg,左眼13.8mmHgであった.白内障がみられたほかは前眼部,中間透光体には特記すべき異常はみられなかった.眼底検査では右眼に網膜静脈の拡張と蛇行,火炎状や点状,しみ状の網膜出血がみられた(図1a).乳頭周囲には多数の軟性白斑があったほか,黄斑周囲および乳頭黄斑束を含む領域の網膜が淡く白濁,腫脹していた.このほか両眼の視神経乳頭で陥凹が拡大〔C/D(陥凹乳頭比)=0.8〕し篩板孔が観察された.蛍光眼底造影検査(FA)では腕網膜循環時間が28秒と延長しており,網膜静脈に灌流遅延がみられ造影後期には色素漏出があった.視神経乳頭周囲にみられた軟性白斑に一致して造影剤の流入遅延があったほか,淡く白濁していた黄斑部周囲には限局的な無灌流領域と流入遅延領域が混在していた(図2a,b).光干渉断層計(OCT)では右眼の中心窩網膜厚は333μmと肥厚し漿液性網膜離があったほか,黄斑部周囲に高輝度反射の領域がみられた(図3a).静的視野検査では左眼の下方に弓状暗点がみられ,右眼は中心10°以内と下方領域の感度低下が著明であった(図4).右眼は相対性瞳孔求心路障害(RAPD)が陽性であった.白血球数は2,630/μl,赤血球数は480×104/μl,血小板数は6.2×104/μl,HCV核酸量は発症前後の2週間に4,500KIU/mlから2,300KIU/mlへと低下していた.以上より右眼のCRVOと両眼の正常眼圧緑内図1初診時および8カ月後の右眼眼底a:初診時.網膜血管の拡張蛇行,軟性白斑,火炎状網膜出血がみられ,黄斑部周囲の網膜に淡い白濁がみられる.視神経陥凹拡大(C/D=0.8)もみられた.b:8カ月後.網膜血管の拡張蛇行,軟性白斑,網膜出血は消失したが,nerveberbundledefect様の色調がある.abacbd2初診時および8カ月後の右眼FAa,b:初診時のFA.流入遅延,無灌流領域がみられる.網膜血管透過性亢進もみられた.a:50秒後,b:10分後.c,d:8カ月後のFA.黄斑部周囲は低蛍光であり,限局的な無灌流領域がある.c:50秒後,d:9分後.ab3初診時および3カ月後の右眼黄斑部OCT所見a:初診時.中心窩網膜厚は333μmであり,網膜内層に高輝度反射がある.b:3カ月後.中心窩網膜厚は136μmである.図4初診時の静的視野検査所見右眼は中心10°以内と下方の感度低下,左眼は下方の弓状暗点がみられる.左眼右眼———————————————————————-Page31594あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(124)障(NTG)と診断した.CRVOの発生はIFN・リバビリン併用療法の副作用の可能性が疑われたので同療法を中止のうえ,NTGに対し眼圧下降薬を両眼に開始し経過を観察した.3カ月後の眼底検査では網膜血管の拡張蛇行,軟性白斑,出血などが減少し,OCTでは中心窩網膜厚が136μmと改善していた(図3b).初診から8カ月後には右眼視力は0.04(矯正不能)と少し改善し,眼底所見では網膜血管の拡張蛇行,軟性白斑,出血などは消失していた.しかし視神経乳頭の耳下側にはnerveberbundledefect(NFLD)様の色調がみられた(図1b).FAでは右腕網膜循環時間はまだ延長していた.右黄斑部周囲は低蛍光であり,限局的に無灌流域がみられた(図2c,d).静的視野は,初診時に比較して右眼の上方の感度は改善していたが,下方に著明な感度低下が残っていた.右眼のRAPDは陽性のままであった.II考按今回筆者らはIFN・リバビリン併用療法中に比較的重症なCRVOを発症した症例を経験した.今回の症例はCRVO発症前から両眼にNTGがあったと考えられた.緑内障はCRVO発生の危険因子という報告もあることから4),緑内障がCRVO発症に関与した可能性はある.しかし本症例ではIFN・リバビリン併用療法開始後に発症したことから,同併用療法がCRVOを発症した誘因の一つであったことが推測される.本症例では初診時のFAで無灌流領域が10乳頭径以内であったため非虚血型CRVOと考えられる5).しかし黄斑部周囲にみられた淡い白濁領域には,FAで流入遅延と無灌流領域が混在しており,OCTでも高輝度反射がみられて中心窩網膜厚が肥厚していたこと,9カ月後のFAでも黄斑周囲は低蛍光であったことから,中心窩毛細血管床閉塞があったことが推測された.IFN網膜症の発症機序としては,血小板減少や貧血6),遊出した肝炎ウイルスに対する免疫反応の結果形成された免疫複合体の血管壁への沈着7),IFNによる血管攣縮もしくは白血球塞栓の形成8)などがあげられており,網膜動脈や毛細血管の閉塞病変もひき起こす可能性が高いと考えられる.発症時の血液検査をみると赤血球数480×104/μl,血小板数は6.2×104/μlと低下していたが,この値からは貧血や血小板減少を本例の病態を惹起した原因として積極的に支持することはできない.発症時にHCV核酸量の急激な減少がみられた点は免疫複合体の沈着の可能性を推測させるが,その後の経過中に眼底所見が改善を呈していた時期にも一過性のHCV核酸量の減少がみられたことから発症の原因としては考えにくい.さらに発症時に白血球数の低下がみられ併用療法中止後には5,000/μl以上へと改善していたことから,IFNが白血球に影響を及ぼしていたと推測され,白血球塞栓の形成が今回の症例の原因である可能性が高いと考えられた.しかしながら,本例では単に網膜中心静脈閉塞のみが起こったのではなく,IFN・リバビリン併用療法の結果,末梢の網膜動脈や毛細血管の灌流障害も発生していたことから,複数の病因が関与してひき起こされたと推測された.このために8カ月後に眼底所見は改善したが,視力や視野は改善しなかったものと考えられた.現在IFN・リバビリン併用療法はC型慢性肝炎の患者に広く行われているが,過去の報告ではIFN単独投与に比べ網膜症発症のリスクが高い可能性が示唆されている.IFN網膜症の発症機序は諸説さまざまであり,今後も検討が必要である.IFN・リバビリン併用療法時には事前の眼科受診は重要と考えられた.本併用療法はときに重症の合併症を生じ視力予後不良となる症例があるため,事前に患者によく説明のうえ,インフォームド・コンセントを得る必要があることが示唆された.文献1)三宅和彦:インターフェロン療法─副作用とその対策.肝胆膵43:915-922,20012)中島理幾,大木隆太郎,米谷新ほか:C型慢性肝炎のインターフェロン治療に合併する網膜症とその背景因子.臨眼58:1445-1448,20043)井口俊太郎,鈴木聡志,谷口重雄ほか:新しいリバビリンとシクロスポリン併用インターフェロン療法とインターフェロン網膜症.眼臨98:851-853,20045)野崎実穂,小椋祐一郎:網膜中心静脈閉塞症の治療戦略:放射状視神経切開術(2)─視力予後からの評価.あたらしい眼科22:37-43,20014)大沼郁子:網膜静脈分枝閉塞症・網膜中心静脈閉塞症の疫学─危険因子などを中心に.あたらしい眼科22:9-11,20056)池辺徹,中塚和夫,後藤正雄ほか:インターフェロン投与中に視力障害をきたした1例.眼紀41:2291-2296,19907)宮本和久,須田秩史,本倉雅信ほか:インターフェロンa投与中にみられた網膜血管障害の検討.あたらしい眼科10:497-500,19938)中柄千明,梅津秀夫,柳川俊博ほか:インターフェロン網膜症と免疫複合体.あたらしい眼科18:817-820,2001***

心因性視覚障害に発達緑内障を合併した1例

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(117)15870910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15871591,2008cはじめに学童児の原因不明の視機能障害は,心因性視覚障害の診断で経過観察されていることが少なくなく,器質的疾患が潜在あるいは発症しても,その非特異的な視野異常ゆえ,その発見が遅れたり,見逃されたりする場合がある1).今回筆者らは,心因性視力低下および高眼圧の診断で経過観察されていた11歳児に対し,眼科学的検査を行い,発達緑内障が合併していることをつきとめた.さらに眼圧下降目的に線維柱帯切開術を施行したところ,視力および視野の改善が得られ,まれな1症例と思われたので報告する.I症例患者:11歳,男児.主訴:両眼視力低下.既往歴:なし.家族歴:いとこに心因性視力低下.〔別刷請求先〕竹森智章:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目291番地札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TomoakiTakemori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,S-1W1-16,Chuo-ku,Sapporo060-8543,JAPAN心因性視覚障害に発達緑内障を合併した1例竹森智章*1片井麻貴*2田中祥恵*1大黒幾代*1大黒浩*1*1札幌医科大学医学部眼科学講座*2札幌逓信病院眼科ACaseofPsychogenicVisualDisturbanceComplicatingDevelopmentalGlaucomaTomoakiTakemori1),MakiKatai2),SachieTanaka1),IkuyoOhguro1)andHiroshiOhguro1)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,SapporoTeishinHospital症例は11歳,男児.両心因性視力低下,高眼圧の精査目的に札幌医科大学附属病院眼科を紹介受診.初診時視力は右眼0.02(0.25×3.0D),左眼0.04(0.32×2.5D),眼圧は右眼26mmHg,左眼26mmHgであった.隅角所見は,虹彩の高位付着と多数の虹彩突起を認めた.眼底所見は,両眼とも視神経乳頭陥凹拡大あり,緑内障性変化が考えられた.静的視野検査で両眼に著明な求心性視野狭窄を認め,緑内障性変化は不明であったが,以前にも動的視野検査にて求心性視野狭窄があることから,心因性視覚障害も有しているものと思われた.両眼に対し線維柱帯切開術を行ったところ,視力,眼圧に加えて視野も改善がみられた.本症例は緑内障と心因性視力障害が合併し,緑内障の発見が遅れた可能性がある.よって,心因性視覚障害が疑われた場合にも,くり返し隅角検査や眼底検査,眼圧検査などを行い,緑内障の有無を検索することが必要と思われた.本症例が緑内障手術を契機に視力,視野が改善した詳細な機序については不明であり,今後も経過をみていきたいと考えている.An11-yearoldmalewasreferredtoourhospitalcomplainingofbothvisualdisturbanceandocularhyperten-sion.VisualacuitywasVD=0.02(0.25×3.0D),VS=0.04(0.32×2.5D).Intraocularpressurewas26mmHginbotheyes.Gonioscopydisclosedhighinsertionoftheirisandmanyirisprocessesinbotheyes,buttherewasnoperipheralanteriorsynechia.Funduscamerashowedenlargedcuppingoftheopticnerveheadinbotheyes,indi-catingglaucomatouschange.Furthermore,staticperimetryrevealedconcentriccontractioninbotheyes,indicatingpsychogenicvisualdisturbance.Weperformedtrabeculotomyinbotheyes,afterwhichvisualacuity,intraocularpressureandvisualeldimproved,whichsuggestedthatthepatienthadalsodevelopmentalglaucoma.Althoughitisrareforapatienttohavebothglaucomaandpsychogenicvisualdisturbance,sinceglaucomamaybediscoveredlateritisnecessarytorepeatedlyperformgonioscopy,funduscopy,andtonometry,soastodeterminewhetherthepatienthasglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15871591,2008〕Keywords:心因性視覚障害,発達緑内障,求心性視野狭窄,トラベクロトミー.psychogenicvisualdisturbance,developmentalglaucoma,concentriccontraction,trabeculotomy.———————————————————————-Page21588あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(118)現病歴:2004年5月(9歳時),学校健診の際に視力低下を指摘され近医初診.視力右眼0.1(1.2×1.0D),左眼0.1(1.2×1.25D)で眼鏡処方.2005年4月(10歳時),再度学校健診の際に視力低下を指摘され前医再診.視力右眼0.02(0.06),左眼0.03(0.2)と矯正視力の低下を認め,眼圧右眼21mmHg,左眼21mmHgとやや高値であった.また,動的視野検査(図1)で右眼に著明な求心性視野狭窄,左眼にはイソプター全体の軽度の沈下が認められたため,心因性視覚障害の診断で経過観察していたところ,7月に右眼0.05(0.1),左眼0.1(1.2)と矯正視力改善するも,2006年11月(11歳時),視力右眼0.04(0.1),左眼0.04(0.1)と再び低下,眼圧も右眼24.7mmHg,左眼22.0mmHgと高値となったため,精査加療目的で2007年1月札幌医科大学附属病院(以下,当院)眼科外来を紹介受診となった.初診時所見:瞳孔は正円同大,対光反応迅速,左右差を認めなかった.視力;右眼0.02(0.25×3.0D),左眼0.04(0.32×2.5D).眼圧;右眼26mmHg,左眼26mmHg.隅角所見;虹彩の高位付着と多数の虹彩突起を認めた.前眼部,中間透光体;異常所見なし.眼底所見(図2);両眼とも乳頭径(DD)と乳頭中心から中心窩までの距離(DM)の比(DM/DD)は2.5で正常範囲であった.右眼の陥凹乳頭比(C/D比)は0.8で,上耳側にリムのnotchを認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.左眼はC/D比は0.7で,上方リムの狭細化を認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.黄斑部および周辺網膜に異常はなかった.静的視野検査(図3,当院初診時施行);両眼に著明な求図1前医で施行の動的視野検査(2005年5月)右眼に著明な求心性視野狭窄を認めた.また,左眼も軽度の求心性視野狭窄を認める.右左右左図2初診時の眼底所見両眼ともDM/DD比は2.5で正常範囲であった.右眼のC/D比は0.8で,上耳側にリムのnotchを認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.左眼はC/D比は0.7で,上方リムの狭細化を認め,laminadotsign(+),血管の鼻側偏位を認めた.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081589(119)心性視野狭窄を認めた.経過:2007年1月29日に当院眼科に入院.隅角所見,視神経乳頭所見,および高眼圧が続いていることから,以前より発達緑内障があるものと考えられた.さらに,視力の動揺がみられること,今回の視野検査で乳頭所見から想定される以上の著しい求心性の視野狭窄が認められることから,心因性視覚障害も合併していると考えられた.そこで,眼圧下降目的に1月31日,全身麻酔下にて両トラベクロトミーを施行した.手術は下耳側より行い,二重強膜弁を作製し,内方弁は後に切除するという定型的なもので,特に合併症はなか図4眼圧推移1月31日手術施行前は両眼とも20mmHg台の高眼圧であったが,施行後は1517mmHgで推移している.1月31日トラベクロトミー05101520253011月1月19日1月29日2月1日2月28日4月4日5月9日6月22日7月18日眼圧(mmHg)右眼眼圧左眼眼圧図3初診時当院で施行の静的視野検査両眼に著明な求心性視野狭窄を認めた.1月31日トラベクロトミー矯正視力00.20.40.60.811.21.42007/1/172007/1/312007/2/142007/2/282007/3/142007/3/282007/4/112007/4/252007/5/92007/5/232007/6/62007/6/202007/7/42007/7/182007/8/12007/8/152007/8/292007/9/12:右眼:左眼図5矯正視力の経過術後早期は測定ごとにばらつきがみられたが,4月頃改善傾向となり,9月には右眼1.25,左眼1.0まで回復している.図6平成19年6月22日施行の動的視野検査内部イソプターでnasalstepを示しており,緑内障性の変化があることをうかがわせるが,視野は両眼とも著明に改善している.———————————————————————-Page41590あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(120)った.手術施行前は両眼とも20mmHg台の高眼圧であったが,施行後は1517mmHgで推移した(図4).また,矯正視力も徐々に改善し,術後半年以上経過した9月には右眼1.25,左眼1.0であった(図5).さらに,2007年6月22日施行の動的視野検査において,右眼下耳側内部イソプターのわずかな低下を認めたほかに異常なく,両眼とも著明な改善がみられた(図6).II考按心因性視覚障害に発達緑内障を合併した症例を経験した.心因性視覚障害は,近年小児によくみられ,このなかでも視力障害が最も多いが,視野障害,色覚異常なども検査を行うと合併していることも多い1).発症は614歳の小中学校学齢期に集中し,女子が男子の34倍を占めている2).本疾患に明らかな心因を見出せることはまれで,あっても思春期によくみられる学校や家庭などの身近な問題であり,普遍的一般的で何ら特有のものではない.一方で,同胞間の葛藤や母子関係などに心因との関連を見出すことも多いとの報告もある3).一般に心因性視覚障害では,裸眼視力の大部分(75%)が0.20.7にあり矯正不能で,ほとんど(95%以上)が両眼性である.Goldmann視野検査においては,約半数が正常であるが,らせん状視野・求心狭窄・不規則反応が約半数にみられる4).また,SPP(標準色覚検査表)-Ⅱ検査で約半数に色覚のメカニズムからは説明しえない異常がみられる5).治療法としては箱庭療法に代表される芸術療法,行動療法,精神療法などがあげられおり6),予後はGoldmann視野検査所見ならびにSPP-Ⅱ所見に異常がみられた場合に視力上昇が遅れることが多いが,ほとんどが16歳までに視力を回復し,いわば学童期にみられる特異的な疾患とされている7).今回の症例は視力右眼0.02(0.25),左眼0.04(0.32)と両眼に強い視力低下および両眼の著しい求心性視野狭窄を認め,黄斑に器質的変化を認めなかったことにより心因性視覚障害と診断された.さらに,眼圧推移,隅角検査,視神経乳頭所見より発達緑内障が合併していると考えられたが,視野は非特異的であったため,緑内障の発見が遅れた可能性がある.また,本症例はトラベクロトミー施行により良好な眼圧コントロールが得られたばかりか,以降の経過において矯正視力,視野の改善もみられたことは非常に興味深い点である.もし緑内障が進行していれば視野所見は改善しないはずであり,当初の視野障害は心因性の要素も関連していると考えられた.問題点としては,視野障害のうち,何%が発達緑内障の影響で,何%が心因性視覚障害の影響なのかを定量的に測定できないこと,および前医のGoldmann視野検査と当院のGoldmann視野検査の施行者が当然ながら異なるため,アプローチの方法により得られる結果が異なっていたかもしれないという点がある.実際,他院より著明な両求心性視野狭窄にて紹介された小児の症例に対し,以下の方法によってGoldmann視野検査を行ったところ,両眼とも正常視野が得られたとの報告もある8).その方法とは,1.検者は患児に対して毅然とした態度で接する,2.測定前に30cmのところに示される視標を識別する検査であると説明する,3.両眼性であれば,低視力のほうから測定する,4.視認可能な最小の視標(可能ならⅠ/1)からⅤ/4のイソプターへと逆順に測定する,5.視標を切り替える際に,患児に視標が見やすくなることを伝える,というものである.したがって,図2のような著明な求心性視野狭窄が,はたしてどこまで正確に測定されたものであるかというところに議論の余地は残る.ただし,図6に示すように,視野が改善した後も内部イソプターでnasalstepを示しており,緑内障性の変化があったことをうかがわせる.まとめとしては,当院受診時,心因性視覚障害と発達緑内障を合併していた可能性が非常に高いと考えられ,海外の文献においても心因性視覚障害の原因,もしくは同時期の発症として発達緑内障を取り上げている文献は調べる限りにおいてなく911),非常にまれな症例であると考えられた.しかし,経過および大学初診時の所見から考えるに,発達緑内障が元々あり,それに心因性視覚障害を合併したという可能性も否定できない.特に小児においては,実際に器質的な疾患があるが,その症状を自分でうまく形容しづらいがために,その転換反応として心因性視覚障害が現れた可能性もあるからである.本症例では明らかな心因は発見できなかったが,手術を契機に視覚障害が改善しており,早期の発達緑内障が手術により進行が抑えられ,治療がうまくいったということが心身の安定にもつながったのではないかと考える.本例は11歳という就学児童であり,今後心因性視覚障害の再発もありうると思われるので,注意して経過をみていくつもりである.本症例のように,心因性視覚障害が疑われた場合でも,くり返し隅角検査や眼底検査,眼圧検査などを行い,緑内障の有無の検索をすることが必要と考えられた.本論文の要旨は第18回日本緑内障学会にて発表した.文献1)小口芳久:心因性視力障害.日眼会誌104:61-67,20022)横山尚洋:心因性視覚障害の病態と治療方針─精神医学の立場から─.眼臨92:669-673,19983)大辻順子,内海隆:心因性視覚障害児の治療経験およびその母子関係.眼臨89:750-754,19954)大辻順子,内海隆:心因性視覚障害児の病態と治療方針─母子関係に注目して─.眼臨92:658-664,1998———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081591(121)5)山出新一,黄野桃世:エゴグラムから見た心因性視覚障害.眼臨89:247-253,19956)松村香代子,中田記久子,児嶋加代ほか:心因性視力障害児の治療.眼臨94:626-630,20007)内海隆:小児の心因性視覚障害の病態と治療.神経眼科21:417-422,20048)山本節:小児の視野検査.あたらしい眼科19:1297-1301,20029)CatalanoRA,SimonJW,KrohelGBetal:Functionalvisuallossinchildren.Ophthalmology93:385-390,198610)BrodskyMC,BakerRS,HamedLM:Transient,unex-plained,andpsychogenicvisuallossinchildren.Pediatric-Neuro-Ophthalmology,p164-200,Springer-Verlag,NewYork,199611)BainKE,BeattyS,LloydC:Non-organicvisuallossinchildren.Eye14:770-772,2000***

多施設による緑内障患者の実態調査─薬物治療─

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(111)15810910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15811585,2008cはじめに眼圧下降は緑内障治療として現在のところ唯一根拠が明確に示された治療法である14).EBM(evidence-basedmedi-cine)に沿った治療が広く求められ,緑内障診療ガイドライン5)にもその治療方針が明記された.筆者らは,まず緑内障診断の確定,病型分類,治療開始,治療の効果判定,治療法〔別刷請求先〕中井義幸:〒225-0002横浜市青葉区美しが丘2-14-7眼科中井医院Reprintrequests:YoshiyukiNakai,M.D.,Ph.D.,NakaiEyeCenter,2-14-7Utsukushi-gaoka,Aoba-ku,Yokohama225-0002,JAPAN多施設による緑内障患者の実態調査─薬物治療─中井義幸*1井上賢治*2森山涼*2若倉雅登*2井上治郎*2富田剛司*3*1眼科中井医院*2井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院第2眼科CurrentStatusofGlaucomaTherapyatPrivatePracticesandaPrivateOphthalmologyHospitalYoshiyukiNakai1),KenjiInoue2),RyoMoriyama2),MasatoWakakura2),JiroInouye2)andGojiTomita3)1)NakaiEyeCenter,2)InouyeEyeHospital,3)SecondDepartmentofOphthalmology,TohoUniversity,MedicalCenterOhashiHospital緑内障患者の治療に関する実態を本研究の趣旨に賛同した施設で調査し,検討した.本研究の趣旨に賛同した22施設あるいは井上眼科病院に,平成19年3月12日から19日の間に外来受診した緑内障,高眼圧症患者1,935例1,935眼(男性768例,女性1,167例)を対象とした.受診患者の緑内障病型,手術既往歴,使用薬剤を調査した.緑内障病型は,正常眼圧緑内障47.4%,(狭義)原発開放隅角緑内障34.4%,原発閉塞隅角緑内障7.2%,続発緑内障6.1%,高眼圧症3.7%であった.手術既往歴は,なし1,772例,線維柱帯切除術122例,線維柱帯切開術11例であった.使用薬剤数は,なし11.9%,1剤44.7%,2剤27.5%,3剤12.1%,4剤3.3%,5剤0.4%,6剤0.05%であった.使用薬剤は,ラタノプロスト1,125例,イオン応答ゲル化チモロール240例,カルテオロール209例,チモロール205例,ブリンゾラミド195例,ドルゾラミド184例などであった.単剤使用例(865例)では,ラタノプロスト47.6%,カルテオロール9.7%,チモロール7.3%,イオン応答ゲル化チモロール7.1%,ニプラジロール6.2%,b遮断薬後発品6.0%,ウノプロストン5.8%であった.2剤使用例(532例)では,ラタノプロスト+b遮断点眼薬54.5%,ラタノプロスト+炭酸脱水酵素阻害薬15.6%であった.今回調査した施設では正常眼圧緑内障患者が多く,薬剤は2剤までの使用が多く,ラタノプロストが最も多く使用されていた.Weinvestigatedthecurrentstatusofglaucomatherapyatprivatepracticesandaprivateophthalmichospital.Includedinthisstudywere1,935patientswithglaucomaandocularhypertensionwhovisited22privatepracticesandInouyeEyeHospitalduringtheweekofMar12,2007.Ofthesepatients,47.7%hadnormal-tensionglaucoma,34.4%hadprimaryopen-angleglaucomaand7.2%hadprimaryangle-closureglaucoma.Medicaltherapyonlywasreceivedby1,772patients;122patientsunderwenttrabeculectomyand11patientsunderwenttrabeculoto-my.Onedrugalonewasprescribedin44.7%ofcases,2drugsin27.5%,3in12.1%,4in3.3%,5in0.4%and6in0.05%.Latanoprostwasmostoftenprescribed(1,125cases);beta-blockingagentwasprescribedthesecondmostoften(654cases).Topicalcarbonicanhydraseinhibitoryagentwasprescribedin379cases.Latanoprostandbeta-blockingagentwereusedincombinationin54.5%ofcases.Useoftopicalcarbonicanhydraseinhibitorasanadjuncttolatanoprostwasseenin15.6%ofcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15811585,2008〕Keywords:眼科診療所,眼科専門病院,緑内障治療薬,治療の実際.privatepractice,ophthalmichospital,glau-comamedication,currentstatus.———————————————————————-Page21582あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(112)の見直しといった,第一段階として現状の把握と,その対策が必要であると考えている.日本の緑内障の疫学調査として多治見スタディの報告がある6).また過去に,国立大学病院や,公的中核病院での緑内障治療の実態に関する報告がなされた7,8).しかしながら,眼科医療の前線である一般医院などにおいての緑内障全般ならびに高眼圧症に対する治療の実態は,これまで報告されていない.そこで今回筆者らは,私立の眼科診療所ならびに眼科専門病院での緑内障治療の実態につき調査した.I対象および方法研究の趣旨に賛同した23施設(図1)において,平成19年3月12日から同19日までの調査期間内に,外来を受診した緑内障および高眼圧症を対象とし,片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している場合は右眼を調査対象眼とした.緑内障の診断,管理は,緑内障診療ガイドライン8)に則り,各施設の判断で行った.これらの各施設にあらかじめ調査票を送付して,診療録から最終診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤,手術既往を調査し,すべての調査票を(医)済安堂井上眼科病院医局に設置した集計センターにて回収し集計を行った.II結果対象の内訳は,1,935例1,935眼(男性768例,女性1,167例),年齢は66.8±13.5歳(平均±標準偏差,9102歳)であった.病型の内訳を図2に示す.正常眼圧緑内障918例(47.4%)で,(狭義)原発開放隅角緑内障665例(34.4%),続発緑内障119例(6.1%),原発閉塞隅角緑内障139例(7.2%),高眼圧症は72例(3.7%)であった.緑内障手術は163例(8.4%)で行われていた.術式は線維図1参加施設じ井おの井上お原は中中井おおお山の山田正常眼圧緑内障原発閉塞隅角緑内障7.2%高眼圧症3.7%その他1.1%原発開放隅角緑内障34.4%続発緑内障6.1%47.4%図2病型の内訳———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081583(113)柱帯切除術が122例(74.8%),線維柱帯切開術が11例(6.7%),線維柱帯切除術と線維柱帯切開術の両方の手術が1例(0.6%)であった.何らかの眼圧下降手術を行ってあるものの,術式不明であったものが25例(15.3%)であった.手術施行の有無が不明であったものが5例(3.1%)あった.緑内障および高眼圧症に対する薬剤数は,1剤が865例(44.7%),2剤が532例(27.5%),3剤が235例(12.1%),4剤が64例(3.3%),5剤が8例(0.4%),6剤が1例(0.05%)であった(図3).正常眼圧緑内障で経過観察中の症例,高眼圧症で緑内障視神経症を認めず,視野が正常であるため,経過観察のみ行っている症例,すでに濾過手術などの眼圧下降手術を施行してある症例などで,無投薬であったものが230例(11.9%)であった.使用薬剤の内訳は,ラタノプロストが圧倒的に多く,1,125例で使用されていた(表1).すべてのb遮断薬ならびにab遮断薬は合わせて931例に使用されていた.炭酸脱水酵素阻害薬の点眼薬はブリンゾラミド195例,ドルゾラミド184例で使用されていた.炭酸脱水酵素阻害薬の内服薬は47例で使用されていた.単剤のみ使用している症例の使用薬剤は,ラタノプロスト412例(47.6%),ゲル化剤を含めたチモロール125例(14.4%),カルテオロール84例(9.7%),ニプラジロール54例(6.2%)などであった(図4).2剤併用例の組み合わせは,ラタノプロスト+b遮断薬が最も多く290例(54.5%),b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬は103例(19.4%),ラタノプロスト+炭酸脱水酵素阻害薬は83例(15.6%)であった(図5).III考按平成18年10月に緑内障診療ガイドライン(第2版)が発表された8).ガイドラインに明確に示されているように,緑内障性視神経症の有無の判定,そして病型診断,あらゆるベースライン値の取得が,緑内障診療の基本である.それらの基本データを踏まえ,治療の必要性の有無を判断し,適切な管理がなされなければならない.治療が必要となった場合,表1使用薬剤の内訳プロスタグランジン関連薬イソプロピルウノプロストン95眼ラタノプロスト1,125眼b遮断薬(ab遮断薬含む)チモロール205眼1,076眼チモロールゲル化剤240眼チモロール熱応答型ゲル化剤91眼カルテオロール230眼ベタキソロール36眼レボブノロール30眼ニプラジロール124眼後発品120眼炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミド184眼ブリンゾラミド195眼アセタゾラミド47眼a1遮断薬ブナゾシン162眼交感神経遮断薬ジピベフリン40眼副交感神経刺激薬ピロカルピン28眼9.7%ラタノプロスト47.6%ウノプロストン5.8%その他10.3%b遮断薬後発品6.0%ニプラジロール6.2%チモロールゲル化製剤7.1%チモロール7.3%カルテオロール(n=865)図4使用薬物の内訳(単剤使用時)1剤44.72剤27.53剤12.14剤3.35剤0.46剤0.05なし11.9(n=1,935)図3使用薬剤数+炭酸脱水酵素阻害薬10.5%ラタノプロスト+b遮断薬54.5%ラタノプロストを含まない組み合わせ19.4%ラタノプロスト+その他(n=532)図52剤併用の内訳———————————————————————-Page41584あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(114)原疾患のあるものはまず原疾患の治療が優先されるべきである.原発性であるならば,唯一有効性が確認されている治療である,眼圧下降を行う必要がある.今回の研究は,個人眼科医院ならびに眼科専門病院における緑内障診療の実態に迫るのが目的であった.診療内容につき調査すべき項目は非常に多岐にわたるため,特に薬物治療に主眼を置いて調査を行った.病型診断,治療目標については緑内障診療ガイドラインに沿って行い,その詳細は各施設の判断に任せた.病型は広義の原発開放隅角緑内障が約80%を占めた.正常眼圧緑内障は47.4%,狭義の原発開放隅角緑内障は34.4%であった.原疾患にかかわらず,手術既往の有無,眼圧下降薬の使用状況のみに的を絞り,その治療内容を調査した.眼圧下降薬を選択する際,第一選択薬は,強力な眼圧下降作用のあるプロスタグランジン関連製剤が使用されることが近年多くなっている.古くより使用されていたb遮断薬は,呼吸器系,循環器系に対する影響が無視できず制約があるため使いづらい面がある.今回の調査でもこのことを反映している結果が得られた.第一選択薬のみで十分な眼圧下降が得られない場合,他剤に変更するなどして,それでもなお眼圧下降が不十分であればもう1剤追加をする.プロスタグランジン関連薬がすでに使用されている場合は,全身状態が許せばb遮断薬を,b遮断薬がすでに使用されている場合はプロスタグランジン関連薬を追加するのが効果的であるとされている9,10).今回の調査結果では,12剤までを使用し治療されている症例が実に72.2%を占めた.その組み合わせはプロスタグランジン関連薬+b遮断薬が最も多く,ついでb遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬,そしてプロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬となった.これは上述したような組み合わせの「ガイドライン」に沿った治療法が一般的に浸透していることを示していると考えられる.3剤以上使用している例は15.9%にみられた.3剤以上を使用する場合コンプライアンスの低下が問題となる.このため,できるかぎり2剤までの使用で目標眼圧を達成することが望ましいわけで,その組み合わせが重要となる.調査対象の平均年齢が66.8歳で,治療を必要とする患者の大半が高齢者であることを考慮すると,少ない薬剤数,点眼回数による治療が望ましく,個人眼科医院,眼科専門病院でも治療の原則が実践されていると理解できる.過去に,石澤らが手術既往のない,正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,偽落屑緑内障に対する大学病院における薬物治療の実態を報告した7).この報告ではラタノプロストとb遮断薬の使用頻度が高く,薬物数は3剤までが多かった.一方,清水らは大学病院およびその関連病院における薬物治療の実態を,手術既往のない症例で,1)正常眼圧緑内障,2)原発開放隅角緑内障,3)その他の緑内障の3つの群に分けて調査した8).すべての群において,プロスタグランジン関連薬が第一選択であった.薬物数は正常眼圧緑内障群ではすべてで,他の2群でも約90%は3剤までであった.これらの報告と今回の調査を比較すると,プロスタグランジン関連薬の使用が最も多く,3剤までの使用が多いという点で同様であった.一方,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼薬の使用も一般的になりつつある.炭酸脱水酵素阻害薬は単剤での使用は眼圧下降効果がやや劣るため単剤では使用しづらい913).しかしながら,眼局所ならびに全身に対する副作用が少ないことから,併用療法には有利であると期待される1113).今回の調査でも,2剤併用療法でプロスタグランジン関連薬に加えるまたはb遮断薬に加えて使用される傾向が確認できた.緑内障は高齢者に対する治療が多く,今後わが国においても合剤の使用が認められるならば,治療のコンプライアンス向上ならびにさらに多様な併用療法の実行に結びつくと考えられる.今回の調査では手術既往のない症例が大多数を占めたのは,入院施設を持たない診療所による管理の特徴の表れといえよう.薬物のみでの治療が可能であれば一般医院・眼科専門病院における緑内障管理が可能となり,患者のQOL(qualityoflife)の向上にもつながると考えられる.本論文の要旨は第18回日本緑内障学会にて発表した.謝辞:本調査に参加し,診療録の調査,集計作業にご協力いただいた各施設の諸先生方に,深く感謝します.文献1)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInter-ventionStudy(AGIS)7:Therelationshipbetweencon-trolofintraocularpressureandvisualelddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20002)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal,fortheCIGTSStudyGroup:InterimclinicaloutcomesintheCollabora-tiveInitialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthal-mology108:1943-1953,20013)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal,andtheOcularHypertensionTreatmentStudyGroup:TheOcu-larHypertensionTreatmentStudy.Arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglau-coma.ArchOphthalmol120:701-713,20024)HeijlA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,20025)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20066)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal,fortheTajimiStudyGroupandJapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,2004———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081585(115)7)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大学附属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼69:1679-1684,20068)清水美穂,今野伸介,片井麻貴ほか:札幌医科大学およびその関連病院における緑内障治療薬の実態調査.あたらしい眼科23:529-532,20069)SchwartzK,BudenzD:Currentmanagementofglauco-ma.CurrOpinOphthalmol15:119-126,200410)白土城照:緑内障の薬物療法他剤併用の考え方.眼科診療プラクティス70(緑内障の薬物治療):2-6,200111)MichaudJ-E,FrirenB,TheInternationalBrinzolamideAdjunctiveStudyGroup:Comparisonoftopicalbrinzol-amide1%anddorzolamide2%eyedropsgiventwicedailyinadditiontotimolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol132:235-243,200112)MarchWF,OchsnerKI,TheBrinzolamideLong-TermTherapyStudyGroup:Thelong-termsafetyandecacyofbrinzolamide1.0%(AzoptTM)inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol129:136-143,200013)ShojiN,OgataH,SuyamaHetal:Intraocularpressureloweringeectofbrinzolamide1.0%asadjunctivethera-pytolatanoprost0.005%inpatientswithopenangleglaucomaorocularhypertension:anuncontrolled,open-labelstudy.CurrMedResOpin21:503-508,2005***

顔面神経麻痺形成術によって角膜混濁に対する角膜移植が施行できた1例

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(107)15770910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15771579,2008cはじめに顔面神経麻痺による兎眼は,眼輪筋機能低下に伴う閉瞼機能不全と下眼瞼の下垂および外反によって発症する.眼科医による兎眼に対する治療はおもに点眼や眼軟膏などの内科的治療であるが,角膜表面の障害は慢性的に残存し,乾燥感や異物感の治療に難渋することも多い.眼輪筋麻痺によるlidwiping機能の破綻は角膜のバリア機能の減弱・喪失を意味し,慢性的な角膜上皮障害と角膜感染をひき起こすことがある1).角膜白斑は慢性兎眼性角膜炎のみでも発症することがあるが,特に角膜感染例では感染が消退した後でも重篤な視力障害が残存する.このような角膜白斑に対し角膜移植を施行するにあたっては眼表面が良好な状態であることが望ましいが,眼表面と眼瞼は密接にかかわっているため,開閉瞼を含めた眼瞼機能が正常であることが必要とされる.今回筆者らは,顔面神経麻痺と兎眼に伴った感染性角膜炎後の角膜混濁に対し,lidloading法と下眼瞼形成術を施行す〔別刷請求先〕鹿嶋友敬:〒430-8558浜松市中区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼形成眼窩外科Reprintrequests:TomoyukiKashima,M.D.,DepartmentofOculoplasticandOrbitalSurgery,SeireiHamamatsuHospital,2-12-12Sumiyoshi,Naka-ku,Hamamatsu-shi430-8558,JAPAN顔面神経麻痺形成術によって角膜混濁に対する角膜移植が施行できた1例鹿嶋友敬*1嘉鳥信忠*1柳田和夫*2*1聖隷浜松病院眼形成眼窩外科*2やなぎだ眼科医院ACaseofKeratoplastyfollowingEyelidReconstructionforFacialNervePalsyTomoyukiKashima1),NobutadaKatori1)andKazuoYanagida2)1)DepartmentofOculoplasticandOrbitalSurgery,SeireiHamamatsuHospital,2)YanagidaEyeClinic緒言:兎眼による角膜混濁などの視力障害には角膜移植が適応となるが,兎眼の改善が必要である.筆者らは顔面神経麻痺再建術で兎眼の改善が得られたため角膜移植が施行できた症例を報告する.症例:53歳,女性.18歳時に左顔面神経麻痺による兎眼を発症.2年前に角膜潰瘍を発症し視力は光覚弁となった.角膜移植には兎眼の改善が必要であることから顔面神経麻痺再建術を施行した.上眼瞼はgoldplateを瞼板に縫着し眼瞼挙筋腱膜で被覆した.下眼瞼は耳介軟骨を採取し,内眼角靱帯と眼窩外側縁より後方の骨膜に縫着,挙上させた.結果:術翌日より閉瞼可能となり,整容的にも満足が得られた.3カ月後に角膜移植と白内障手術を施行し矯正視力(1.0)に改善した.考按:顔面神経麻痺による兎眼患者に対して手術を施行することで角膜障害のリスク自体を低下させることができた可能性がある.眼科医こそ眼表面の改善のために再建術を考慮すべきと考えられた.Lagophthalmoscausesvisualimpairment,followedbyinfection.Wereportapatientwithlagophthalmoswhorecoveredfollowingeyelidreconstruction.Shewasabletoundergocornealkeratoplastyafterresolutionofthelagophthalmos.Thepatient,a53-year-oldfemale,presentedwitha35-yearhistoryofleftfacialpalsy.Visualacu-itywaslightperception,asaresultofcornealinfection.Wetransplantedgoldplatetothetarsusoftheuppereye-lid;earcartilage,anchoredtothemedialcanthaltendonandperiosteumofthelateralrim,wasusedtoxandliftthelowereyelid.Thepatientwasabletoclosetheeyeonthefollowingday.Cosmeticsatisfactionwasachieved.Keratoplastyandcataractsurgerywerethenperformed,afterwhichthecorrectedvisualacuityimprovedto20/20.Thereconstructionoflagophthalmosdecreasestheriskofcornealdamage.Thepresentcasesuggeststhatsurgicalreconstructionoflagophthalmosisrecommended,inordertoprotecttheocularsurface.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15771579,2008〕Keywords:顔面神経麻痺,兎眼,角膜移植,再建術,lidloading法.facialnervepalsy,lagophthalmos,kerato-plasty,reconstruction,lidloadingmethod.———————————————————————-Page21578あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(108)ることで兎眼の改善が得られたため,角膜移植を施行し良好な視力回復が得られた症例を報告する.I症例症例は53歳,女性.18歳時に脳腫瘍手術を施行され,その後左顔面神経麻痺による兎眼を発症した.兎眼性角膜炎に対し点眼や軟膏点入による加療を行っていたが,2年前に真菌性角膜潰瘍を発症した.角膜潰瘍は抗真菌薬で軽快したが,角膜混濁が残存し視力障害をきたした.兎眼があり角膜移植は適応外であったため,兎眼の改善とその後の角膜移植を目的に聖隷浜松病院眼形成眼窩外科を紹介受診となった.初診時,左眼矯正視力は光覚弁であった.顔面神経本幹の完全麻痺による眉毛下垂,上眼瞼皮膚弛緩を認めた.強閉瞼で閉瞼不全と下眼瞼下垂および外反のため,角膜中央部で4mmの兎眼を呈し,通常の瞬目では強度の閉瞼不全を起こしていた.細隙灯顕微鏡所見では,角膜全体に及ぶ新生血管侵入と実質混濁,乾燥による強度の結膜充血がみられた(図1).術前に重りを上眼瞼に貼布し,十分な開閉瞼機能の獲得に最適な重量と思われた1.4gのgoldplateを選択した.手術は全身麻酔下で施行した(図2).上眼瞼は重瞼線に沿って25mm幅で皮膚切開ののち,眼輪筋と瞼板前面のleva-toraponeurosisを切開し瞼板に到達した.そこから尾側に瞼板とaponeurosisの間を離,頭側にMuller筋とlevatoraponeurosisの間を離しgoldplate移植のための空間を作製した.Goldplateは眼瞼の形状に合わせて弯曲させた.これを瞼板に7-0ナイロン糸で縫着し,levatoraponeurosisでその前方を被覆した.睫毛内反の予防のため睫毛側皮下と瞼板を縫着した.下眼瞼の下垂・外反には,睫毛下2mmで25mmの幅で皮膚切開し瞼板まで到達した後lowereyelidretractorsを露出し,瞼板との境界で切離し,そのまま下方へ結膜から離した.耳介軟骨の一部を30×5mmで採取し,内側はmedialcanthaltendonに,外側は眼窩外側縁より2mm後方の骨膜に5-0ナイロン糸で縫着した.瞼板と耳介軟骨,lowereyelidretractorsと耳介軟骨を7-0ナイロン糸で固定した.最後に皮膚を縫合した.II結果術翌日からgoldplateによって上眼瞼が容易に降下し,下眼瞼下垂も矯正されたため,強閉瞼せずとも平常の瞬目でも完全閉瞼が得られ,兎眼は消失した.これらに伴い術1カ月図2手術所見(上:頭側,右:耳側)左上:上眼瞼切開の後,Muller筋と挙筋腱膜を離.右上:aponeurosisの後方にgoldplateを移植する.左下:耳介軟骨採取.右下:耳介軟骨をmedialcanthaltendonと眼窩外壁骨膜へ縫着.図1初診時写真上:開瞼時.左側眉毛下垂,下眼瞼下垂および外反症による下方強膜露出とそれらに伴う兎眼性充血を認める.下:閉瞼時.強く閉瞼するが,5mmの兎眼が存在する.右:前眼部.角膜全体に全層性角膜混濁と角膜輪部の新生血管がみられる.図3顔面神経麻痺形成術後写真上:開瞼時.下眼瞼下垂は修正されており下方強膜は露出していない.Goldplateは目立たない.下:閉瞼時.軽い閉瞼でも兎眼0mmへ改善した.Goldplateが軽度浮き上がる.右:前眼部.角膜移植+白内障手術後.移植角膜の透明性は保たれている.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081579(109)後には下方強膜の露出や結膜充血は改善された.Marginreexdistanceは3mmであり,goldplateの移植に伴う開瞼障害はなかった.また,goldplateは閉瞼時には上眼瞼の皮下にその輪郭が軽度浮き上がるが,開瞼時にはlevatoraponeurosisの運動ベクトルと同様に後上方の眼窩内に引き込まれるため外見上問題とならなかった.兎眼形成手術3カ月後に角膜移植術と白内障手術を施行し,最終的に左眼矯正視力(1.0)と大幅に改善した.下眼瞼下垂や結膜充血のため醜形となっていたが,手術によって改善されたため整容的にも満足が得られた(図3).頻回の内科的治療は不要となったが,就寝時にはgoldplateの重力がかからず兎眼が残存しているため,就寝前の眼軟膏は継続している.III考按顔面神経麻痺に伴う兎眼症例に対し,形成術を施行し,完全な閉瞼を得,後に角膜移植を施行し良好な視力を得ることができた.兎眼に対する治療には,点眼や眼軟膏を用いられることが多いが,これらは姑息的加療である.本症例のように完全麻痺の患者の場合,眼瞼形態の異常は重篤となり,眼表面の正常化は困難であることが多い.よって,顔面神経麻痺による兎眼患者に対しては,良好な視機能を維持するために兎眼矯正が選択されるべきであると思われた.本症例は18歳時の手術から33年間慢性的な角膜障害が存在するものの,その程度は軽度であった.しかしその後重篤な角膜障害を発症した.原因として,慢性的な角膜炎に加え,加齢による涙液・油脂分泌低下および眼輪筋の痙性低下や弾性線維などの支持組織の退行性変化による下眼瞼の下垂の増悪が考えられた.よって,手術を早期に施行することによって角膜障害発症のリスク自体も低下させることができた可能性があると思われた.顔面神経麻痺では眼輪筋および前頭筋の麻痺によって眉毛下垂や上眼瞼皮膚余剰,下眼瞼外反が起こる.その一方でlevatoraponeurosisやMuller筋は神経支配が異なるため正常である.顔面神経麻痺に対する再建術は眼瞼周囲の構造を吊り上げるのと同時に,goldplateの重量で閉瞼させるlidloadingという一見矛盾した術式であるが,眼瞼挙上が正常であればgoldplate1.4gの重量は眼瞼下垂を起こすような重さではなく,機能の回復を目指した理にかなった術式である.Goldplate移植の術後合併症としてgoldplateが露出すること2)や,乱視成分が増加することが知られている3).これはgoldplateの形状が眼表面と微細な差があるためであると考えられる.今回の症例では角膜移植を施行しており乱視についての検討はしていないがgoldplateの露出はなく,goldplateを眼表面の形状に合わせて曲げることでこれらの合併症を回避できると考えた.顔面神経麻痺による兎眼に対してはgoldplate移植29),platinumchain移植9),耳介軟骨移植10)やlateraltarsalstrip11)など多くの報告がある.しかしその多くは形成外科による整容面,開閉瞼機能面での報告であり眼科からの報告はわずかである4,5,10).眼表面の診察を行う眼科外来で内科的治療が行われていることも多く経験するが,角膜びらんや結膜充血などの前眼部所見やバリア機能の改善のためにも眼科医が率先して早期より兎眼形成術を選択すべきと思われた.本論文の要旨は第32回角膜カンファランスで報告した.文献1)KakizakiH,ZakoM,MitoHetal:Filamentarykeratitisimprovedbyblepharoptosissurgery:twocases.ActaOphthalmolScand81:669-671,20032)ChoiHY,HongSE,LewJM:Long-termcomparisonofanewlydesignedgoldimplantwiththeconventionalimplantinfacialnerveparalysis.PlastReconstrSurg104:1624-1634,19993)SalehGM,MavrikakisI,deSousaJLetal:Cornealastig-matismwithuppereyelidgoldweightimplantationusingthecombinedhighpretarsalandlevatorxationtech-nique.OphthalPlastReconstrSurg23:381-383,20074)太根伸浩:麻痺性兎眼症の静的再建における長期間の検討GoldWeightImplantによるLidLoading法について.眼臨101:990-996,20075)渡辺彰英,嘉鳥信忠:オキュラーサーフェスを考慮した眼瞼へのアプローチ─オキュラーサーフェスを考慮した眼瞼の形態的・機能的再建.眼科手術20:339-345,20076)AggarwalE,NaikMN,HonavarSG:Eectivenessofthegoldweighttrialprocedureinpredictingtheidealweightforlidloadinginfacialpalsy:aprospectivestudy.AmJOphthalmol143:009-1012,20077)TerzisJK,KyereSA:Experiencewiththegoldweightandpalpebralspringinthemanagementofparalyticlago-phthalmos.PlastReconstrSurg121:806-815,20088)SeiSR,SullivanJH,FreemanLNetal:Pretarsalxationofgoldweightsinfacialnervepalsy.OphthalPlastRecon-strSurg5:104-109,19899)BerghausA,NeumannK,SchromT:Theplatinumchain:anewupper-lidimplantforfacialpalsy.ArchFacialPlastSurg5:166-170,2003.10)丸山直樹,渡辺彰英,嘉鳥信忠ほか:耳介軟骨を用いた下眼瞼の形態的,機能的再建.あたらしい眼科24:943-946,200711)ChangL,OlverJ:Ausefulaugmentedlateraltarsalstriptarsorrhaphyforparalyticectropion.Ophthalmology113:84-91,2006***

ラタノプロストへのブリンゾラミド点眼追加療法

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(103)15730910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15731576,2008cはじめにブリンゾラミド点眼薬は,懸濁性点眼液で緑内障および高眼圧症の治療薬として1日2回点眼で使用する炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)で,わが国では2002年に承認された.眼圧下降のメカニズムは,炭酸脱水酵素(carbonicanhydrase:CA)のアイソザイムII型に対する選択的な阻害作用によって房水産生を抑制することである1).ラタノプロスト点眼薬はその強力な眼圧下降作用により近年緑内障治療の第一選択薬となっている.しかし,眼圧下降が不十分な症例では他の点眼薬の追加投与が必要となる.眼圧下降の機序を考慮すると,房水産生を抑制するb遮断点眼薬や炭酸脱水酵素阻害薬点眼薬があげられる.ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与の報告はある26)が,投与期間が8週間3カ月間と短期間の報告が多く25),1年間以上の長期間の報告は少ない6).さらに原発開放隅角緑内障(広義)や高眼圧症に対する報告は多い36)が,正常眼圧緑内障に対する報告は少なく7),投与期間も3カ月間と短い.今回,ラタノプロスト点眼薬を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障(広義)患者に,ブリンゾラミド点眼薬を12カ月間追加投与した際の眼圧下降と視野維持効果,副作用を検討した.さらに,緑内障の病型〔原発開放隅角緑内障(狭義)と正常眼圧緑内障〕による眼圧下降効果の違いを検討した.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANラタノプロストへのブリンゾラミド点眼追加療法井上賢治*1小尾明子*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座OcularHypotensiveEectandSafetyofBrinzolamideAddedtoLatanoprostKenjiInoue1),AkikoKoh1),MasatoWakakura1),JiroInouye1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)SecondDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineラタノプロスト点眼薬を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障22例22眼に1%ブリンゾラミドを追加投与し,12カ月間の眼圧下降効果および副作用を検討した.ブリンゾラミド追加投与前の眼圧は17.0±2.2mmHg,投与1カ月後15.0±2.6mmHg,3カ月後14.8±2.4mmHg,6カ月後14.8±2.2mmHg,12カ月後14.8±1.7mmHgで投与前に比べ有意に眼圧が下降した(p<0.0001).Humphrey視野計のmeandeviation(MD)値は,追加投与6カ月後9.7±6.7dB,12カ月後10.3±5.5dBで追加投与時(10.6±6.7dB)と同等であった.副作用は20.8%で出現し,霧視2例,頭痛1例,異物感1例,眼の鈍痛1例であった.ブリンゾラミド点眼薬は,ラタノプロスト点眼薬に12カ月間追加投与した際に強力な眼圧下降作用を示し,視野が悪化した症例はなく,安全性においても重大な副作用を認めなかった.Overaperiodof12months,weevaluatedthesafetyandhypotensiveeectof1%brinzolamidetherapyaddedtolatanoprostin22eyesof22cases.Glaucomatypesexaminedcomprisedprimaryopen-angleglaucomain9eyesandnormal-tensionglaucomain13eyes.Inalleyes,thebaselineintraocularpressure(IOP)averaged17.0±2.2mmHg;IOPafter1monthoftreatmentaveraged15.0±2.6mmHg,after3months14.8±2.4mmHg,after6months14.8±2.2andafter12months14.8±1.7mmHg(p<0.0001).TheHumphreyvisualeldtestmeandevia-tionat12monthsaftertreatmentwassimilartothatbeforetreatment.Theoccurrenceofadverseeventsin5cases(20.8%)shouldbenoted.Inconclusion,thesendingsshowthatbrinzolamideissafeandeectiveforopen-angleglaucomaasanadditionaltherapytolatanoprostfor12months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15731576,2008〕Keywords:ラタノプロスト点眼薬,ブリンゾラミド点眼薬,原発開放隅角緑内障,眼圧,視野.latanoprost,brinzolamide,primaryopen-angleglaucoma,intraocularpressure,visualeld.———————————————————————-Page21574あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(104)I対象および方法2003年3月から2006年6月の間に井上眼科病院に通院中の原発開放隅角緑内障(広義)患者で,ラタノプロスト点眼薬を単剤で2カ月間以上使用(平均使用期間26.7±20.8カ月,264カ月)(平均±標準偏差)しているが,緑内障病期に応じた目標眼圧に到達していない症例に対して,1%ブリンゾラミド点眼薬を追加投与し,12カ月間以上の経過観察ができた22例22眼(男性7例,女性15例)を対象とした.年齢は66.5±9.5歳(4782歳)であった.緑内障の病型は,原発開放隅角緑内障(狭義)9例,正常眼圧緑内障13例であった.点眼薬追加投与前の眼圧(追加投与1カ月前と追加投与時の平均)は17.0±2.2mmHg(1321.5mmHg),Humph-rey視野中心30-2SITA-STANDARDプログラムのmeandeviation(MD)値は9.7±6.7dB(23.60.9dB)であった.Humphrey視野は追加投与前3カ月以内に行った検査での値を用いた.固視不良が20%を超える,あるいは偽陽性や偽陰性が30%を超える症例は除外した.ブリンゾラミド点眼は1日2回で,原則として朝夕12時間ごとの点眼とした.アセタゾラミド内服中の症例,白内障以外の内眼手術やレーザー手術の既往例は除外した.白内障手術既往例(5例)は術後3カ月以内の症例は除外した.眼圧は,原則として1カ月ごと12カ月間にわたりGold-mann圧平眼圧計で同一の検者が測定した.患者ごとにほぼ同一の時間に毎月来院してもらい,眼圧を測定した.全症例(22例),原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例),正常眼圧緑内障症例(13例)に分けて,ベースライン(ブリンゾラミド点眼追加投与時と投与1カ月前の平均)とブリンゾラミド点眼薬追加投与1,3,6,12カ月後の眼圧をANOVA(analy-sisofvariance)およびBonferroni/Dunnet法で比較した.投与12カ月後の眼圧とベースラインとの差から眼圧下降率を算出した.Humphrey自動視野計のプログラム中心30-2SITA-STANDARDを,追加投与前と投与6,12カ月後に行い,そのMD値をANOVAで比較した.両眼投与例では右眼を,片眼投与例では患眼を解析眼とした.有意水準は,p<0.05とした.各検査は趣旨と内容を説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果眼圧は,全症例(22例)ではベースライン17.0±2.2mmHg,追加投与1カ月後15.0±2.6mmHg,3カ月後14.8±2.4mmHg,6カ月後14.8±2.2mmHg,12カ月後14.8±1.7mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1a).病型別では,原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例)では,ベースライン18.7±1.8mmHg,追加投与1カ月後16.8±1.9mmHg,3カ月後16.4±2.4mmHg,6カ月後15.8±1.9mmHg,12カ月後15.6±1.4mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1b).正常眼圧緑内障症例(13例)では,ベースライン15.8±1.5mmHg,追加投与1カ月後13.8±2.3mmHg,3カ月後13.6±1.7mmHg,6カ月後14.1±2.2mmHg,12カ月後14.3±1.8mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1c).全症例での投与12カ月後の眼圧下降幅は1.5±1.6mmHg(1.53.5mmHg),眼圧下降率は12.0±10.2%(10.330.0%)で,眼圧下降率10%未満が9例(40.9%),10%以上20%未満が8例(36.4%),20%以上が5例(22.7%)であった.Humphrey視野計のMD値は全症例では,追加投与6カ月後9.7±6.7dB,12カ月後10.3±5.5dBで追加投与時追加投与前b.原発開放隅角緑内障(狭義)症例c.正常眼圧緑内障症例a.全症例1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後追加投与前1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後追加投与前1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後0101214161820************眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)0101214161820220101214161820図1ブリンゾラミド追加投与前後の眼圧(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法;*p<0.0001)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081575(105)(10.6±6.7dB)と同等であった(p=0.87)(図2).副作用は20.8%(5例/24例)で出現した.その内訳は霧視2例,頭痛1例,異物感1例,眼の鈍痛1例であった.ブリンゾラミド点眼薬が中止になったのは,異物感と眼の鈍痛が追加投与1カ月後に出現した各1例であった.これら2症例は眼圧下降効果の解析からは除外した.III考按0.5%チモロール点眼薬やラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与による眼圧下降効果が報告されている28).0.5%チモロール点眼薬にブリンゾラミド点眼薬を追加投与した原発開放隅角緑内障および高眼圧症118例では,3カ月間投与で眼圧がベースライン(24.125.5mmHg)から3.65.3mmHg(眼圧下降率14.122.0%)有意に下降した2).ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与の眼圧下降効果は,原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症に対して多数報告されている36).8週間投与(11例)でベースライン(20.6±2.9mmHg)から2.42.5mmHg(眼圧下降率11.612.1%)3),3カ月間投与(14例)でベースライン(21.1±4.8mmHg)から4.25.2mmHg(眼圧下降率19.924.6%)4),12週間投与(15例)でベースライン(17.8±1.7mmHg)から1.92.0mmHg(眼圧下降率10.711.2%)5),12カ月間投与(10例)でベースライン(19.8±5.3mmHg)から4.05.7mmHg(眼圧下降率18.223.0%)6)それぞれ有意に眼圧が下降した.一方,正常眼圧緑内障に対しては3カ月間投与(20例)で眼圧がベースライン(14.6±1.0mmHg)から1.6mmHg(眼圧下降率10.1%)7)有意に下降した.ラタノプロスト点眼薬あるいはb遮断点眼薬に6カ月間投与(18例)で眼圧がベースライン(16.3±2.5mmHg)から0.91.4mmHg(眼圧下降率5.58.6%)有意に下降した8).今回の12カ月間の追加投与の眼圧下降幅と眼圧下降率は,全症例(22例)では2.2mmHgと12.0%,原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例)では3.1mmHgと16.6%,正常眼圧緑内障症例(13例)では1.5mmHgと9.5%で,過去の報告38)とほぼ同等であった.ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与による視野の変化についての報告は過去になく,今回の12カ月間投与においては視野が悪化した症例はなかった.しかし,視野に関してはさらに長期的に評価する必要があり,今後も経過観察を続ける予定である.ラタノプロスト点眼薬への追加投与によるブリンゾラミド点眼薬の副作用は,12週間投与では,角膜上皮障害1例(6.3%),顔面紅潮1例(6.3%)で,顔面紅潮症例が投与中止になった5).3カ月間投与では,角膜上皮障害2例(14.3%),結膜充血2例(14.3%),眼脂増加1例(7.1%)で,投与中止となった症例はなかった4).12カ月間投与では,角膜上皮障害2例(11.8%),結膜充血1例(5.9%),頭痛1例(5.9%)で,結膜充血と頭痛の症例が投与中止になった6).0.5%チモロール点眼薬への追加投与では副作用が3カ月間投与で14.7%(17例/116例)出現した2).そのうち1%以上の症例で発現した副作用は,気分不快感2例(1.7%),霧視2例(1.7%),味覚倒錯3例(2.6%)であった.報告により副作用発現の頻度は違うが,これは副作用をどのように定義するかによっても異なるためと思われる.今回は,過去の報告2,4,5)と同様あるいはそれ以上の20.8%に副作用が出現したが,重大な副作用は認められず,ブリンゾラミド点眼薬は比較的安全に使用できると考えられる.ブリンゾラミド点眼薬は,原発開放隅角緑内障(広義)症例に対して,ラタノプロスト点眼薬に12カ月間追加投与した際に強力な眼圧下降作用を示し,視野が悪化した症例はなく,安全性においても重大な副作用を認めなかった.ラタノプロスト点眼薬につぐ緑内障治療薬の第二選択薬として期待できる薬剤である.文献1)DeSantisL:Preclinicaloverviewofbrinzolamide.SurvOphthalmol44(Suppl2):S119-S129,20002)MichaudJ-E,FrirenB,TheInternationalBrinzolamideAdjunctiveStudyGroup:Comparisonoftopicalbrinzol-amide1%anddorzolamide2%eyedropsgiventwicedailyinadditiontotimolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol132:235-243,20013)廣岡一行,馬場哲也,竹中宏和ほか:開放隅角緑内障におけるラタノプロストへのチモロールあるいはブリンゾラミド追加による眼圧下降効果.あたらしい眼科22:809-811,20054)ShojiN,OgataH,SuyamaHetal:Intraocularpressurelowingeectofbrinzolamide1.0%asadjunctivetherapytolatanoprost0.005%inpatientswithopenangleglauco-MD値(dB)追加投与前6カ月後12カ月後0.0-2.0-4.0-6.0-8.0-10.0-12.0-14.0-16.0-18.0-20.0図2全症例でのブリンゾラミド追加投与前後のmeandeviation値(ANOVA)———————————————————————-Page41576あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(106)maorocularhypertension:anuncontrolled,open-labelstudy.CurrMedResOpin21:503-508,20055)MiuraK,ItoK,OkawaCetal:Comparisonofocularhypotensiveeectandsafetyofbrinzolamideandtimololaddedtolatanoprost.JGlaucoma17:233-237,20086)緒方博子,庄司信行,陶山秀夫ほか:ラタノプロスト単剤使用例へのブリンゾラミド追加による1年間の眼圧下降効果.あたらしい眼科23:1369-1371,20067)江見和雄:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストとブリンゾラミド併用効果.あたらしい眼科24:1085-1089,20078)新田進人,湯川英一,森下仁子ほか:正常眼圧緑内障に対する1%ブリンゾラミド点眼液と1%ドルゾラミド点眼液の眼圧下降効果.臨眼60:193-196,2006***

培養角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現に対するマルチパーパスソリューションの影響

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(97)15670910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15671572,2008cはじめに最近,ソフトコンタクトレンズ(SCL)ユーザーでの細菌性角膜炎の発症が問題になっており1),マルチパーパスソリューション(MPS)の使用との関連性が議論されている2).細菌性角膜炎の原因としては,MPSの不十分な殺菌効力3)やユーザーのコンプライアンスの低さ4)などが想定されるが,MPSの細胞毒性が角膜上皮細胞に及ぼす影響も考慮に入れる必要がある.柳井ら5)は14種類の市販MPSを比較し,主成分が同じポリヘキサメチルビグアニド(PHMB)であっても,添加剤の種類によって細胞毒性や殺菌効力が大きく異なることを報告した.一方,角膜上皮細胞は外傷を受けるなどのストレス状態にさらされると炎症性細胞を誘導するためにサイトカインを分泌することが知られている6).毒性の強いMPSの使用は角膜にストレスを与えると考えられる〔別刷請求先〕今安正樹:〒487-0032愛知県春日井市高森台5-1-10(株)メニコン総合研究所Reprintrequests:MasakiImayasu,Ph.D.,CentralR&DLab.,MeniconCo.,Ltd.,5-1-10Takamoridai,Kasugai-shi,Aichi-ken487-0032,JAPAN培養角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現に対するマルチパーパスソリューションの影響今安正樹*1,3白石敦*2大橋裕一*2島田昌一*3*1(株)メニコン総合研究所*2愛媛大学医学部眼科学教室*3名古屋市立大学医学部第2解剖学講座EectsofMultipurposeSolutionsonCytokineGeneExpressionofCornealEpithelialCellsMasakiImayasu1,3),AtsushiShiraishi2),YuichiOhashi2)andShoichiShimada3)1)CentralR&DLab.,MeniconCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,EhimeUniversity,3)DepartmentofAnatomy,NagoyaCityUniversityMedicalSchool目的:コンタクトレンズ用マルチパーパスソリューション(MPS)の角膜への影響を明確にするため,角膜上皮細胞を市販MPSまたは配合成分で処理したときのサイトカイン遺伝子発現量および産生量を解析する.方法:培養ヒト角膜上皮細胞を用い,7種のMPSまたは配合成分を添加した培養液で3,6,24時間培養した.RNAを抽出し,サイトカイン遺伝子〔インターロイキン(IL)-8,トランスフォーミング増殖因子(TGF)-b2,IL-18,IL-1b,IL-6〕発現量をreal-timepolymerasechainreaction(PCR)法で,培養上清中のサイトカイン産生量を抗体アレイで定量した.結果:ホウ酸を含むMPSではIL-8,TGF-b2,IL-18,IL-6の発現量が36時間後に増加し,その後減少した.これらのMPSでは24時間後のIL-8産生量も増加した.配合成分のなかでは,ホウ酸のみがサイトカイン遺伝子発現量を増加させた.結論:MPSの配合成分であるホウ酸が炎症性サイトカインの産生に関与している可能性が示された.Inordertoclarifytheeectsofmultipurposesolutions(MPS)onthecornea,weanalyzedthecytokinegeneexpressionandproteinlevelofcornealepithelialcellstreatedwithMPSoringredients.Humancornealepithelialcellswereculturedfor3,6or24hoursinmediumcontainingcommerciallyavailableMPSoringredients.AfterRNAextraction,geneexpressionsofinterleukin(IL)-8,transforminggrowthfactor(TGF)-b2,IL-18,IL-1bandIL-6wereanalyzedbyreal-timepolymerasechainreaction(PCR).Proteinlevelsweredeterminedbyantibodyarray.MPScontainingboricacidcausedup-regulationofIL-8,TGF-b2,IL-18andIL-6after3and6hours,whichthendecreasedat24hours.TheMPSalsopromotedIL-8productionduring24hour-incubation.Oftheingredientstested,onlyboricacidhadsignicanteectsongeneandproteinexpressionsofinammatorycyto-kines.Theseresultsdemonstratethatboricacidmayhavesignicanteectoninammatorycytokineproductionincornealepithelialcells.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15671572,2008〕Keywords:角膜上皮細胞,サイトカイン,マルチパーパスソリューション,コンタクトレンズ.cornealepithelialcells,cytokine,multipurposesolution,contactlens.———————————————————————-Page21568あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(98)ため,サイトカイン遺伝子の発現量が増加する可能性が想定される.角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現を解析することにより,角膜へのストレスを高感度で定量的に評価できる方法が構築できると思われる.そこで本論文では,ヒト角膜上皮細胞を,種々のMPS製品または配合成分を添加した培養液で培養し,MPSまたは配合成分を添加しない培養液で培養した場合とのサイトカイン遺伝子の発現量の差をreal-timepolymerasechainreac-tion(PCR)法により定量的に解析した.また,蛋白質レベルでの評価のため,培養液中のサイトカイン産生量を抗体アレイで定量した.I実験材料および方法1.実験材料実験に使用したMPSとおもな配合成分を表1に示す.MPS-AからMPS-Gまでの7種類の市販MPSを用いた.主成分の殺菌剤にはPHMB,AlexidineまたはPolyquadが使用されている.このなかでMPS-AとMPS-B以外は緩衝剤としてホウ酸を含む.配合成分単独での実験に使用した成分名,濃度などを表2に示す.MPSに一般的に使用されている界面活性剤,殺菌剤,緩衝剤を実際の配合濃度に近い濃度で使用した.2.実験方法a.培養細胞の準備培養細胞として,SV40ウイルス感染により不死化したヒト角膜上皮細胞(以下,HCET細胞)7)を理化学研究所細胞バンクより購入して使用した.HCET細胞を6cm組織培養用ディシュにコンフルエントになるまで培養した.培養液はDMEM/F12(GIBCO)+5%ウシ胎仔血清(FBS)(GIBCO)を用いた.血清無添加の培養液に各種MPSまたは配合成分を10%添加した試験液を準備し,組織培養用ディシュに4ml添加して37℃,5%CO2で3,6,24時間培養した.b.培養細胞からのRNAの抽出および定量組織培養用ディシュの培養液を捨て,冷PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄後,1mlのTRIZOLR試薬(invitrogen)を添加した(氷冷下).セルスクレーパーを用いてディシュ表面に付着している細胞を離させた(氷冷下).20ゲージの注射針を取り付けた2.5mlのシリンジで,TRIZOLR試薬の吸引を20回程度くり返した後,1.5mlのマイクロチューブに回収した.以下,TRIZOLR試薬の取扱説明書に従ってtotalRNAを精製し,30μlのDEPC(diethylpyrocarbonate)処理水に溶解させた.c.逆転写反応およびrealtimereversetranscription(RT)PCRパーソナルスペクトルモニター(AmershamBiosciences,GeneQuantpro)で260nmの吸光度を測定することによりRNA濃度を定量し,サンプル濃度を800ng/μlに調整した.PrimeScriptTMRTreagentsKit(TaKaRa)の取扱説明書に従い,50μlの反応系にてcDNAに変換した.つぎに,SYBRRPremixExTaqTM(TaKaRa)の取扱説明書に従い,25μlの反応系にてreal-timePCRを行った(TaKaRa,表2実験に使用したMPS配合成分配合成分種類濃度製造元HCO界面活性剤1.0%日光ケミカルズTetronic1107界面活性剤1.0%BASFJapanPoloxamer407界面活性剤1.0%BASFJapanAlexidine殺菌剤1ppmTrontoResearchPHMB殺菌剤1ppmアーチケミカルズホウ酸(Boricacid)緩衝剤0.5%日興製薬1.0%表1実験に使用した市販MPSMPS殺菌剤界面活性剤ホウ酸の有無MPS-APHMB*HCO**MPS-BPHMBPoloxamerMPS-CPHMBTetronic+MPS-DAlexidinePoloxamer/Tetronic+MPS-EPolyquadTetronic+MPS-FPolyquadTetronic+MPS-GPHMB不明+*PHMB:polyhexamethylbiguanid.**HCO:PEGhydrogenatedcastoroil.表3RealtimeRTPCRに使用したプライマーペアの塩基配列ヒト遺伝子F/Rプライマー塩基配列b-actinFATTGCCGACAGGATGCAGARGAGTACTTGCGCTCAGGAGGAIL-8FAAGGAACCATCTCACTGTGTGTAAACRATCAGGAAGGCTGCCAAGAGTGF-b2FGGATGCGGCCTATTGCTTTARCATTTCCACCCTAGATCCCTCTTIL-18FGCCACCTGCTGCAGTCTACARATCTGGAAGGTCTGAGGTTCCTTIL-1bFCCTCTGGATGGCGGCARTGCCTGAAGCCCTTGCTGIL-6FAAAAAGGCAAAGAATCTAGATGCAARGTCAGCAGGCTGGCATTTGTFはセンス,Rはアンチセンスを示す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081569(99)TP800).サイトカインとしてIL-8,TGF-b2,IL-18,IL-1b,IL-6の5種類の遺伝子の発現量を解析した.ハウスキーピング遺伝子としては,角膜上皮細胞での発現量が安定なb-actinを選択し(予備実験で確認),b-actin発現量に対する各遺伝子の相対発現量を求めた.さらに,各遺伝子について,MPS(または配合成分)処理群に対するPBS(+)処理群の相対発現量の比を求め,これを指標とした.なお,各サイトカイン遺伝子およびb-actinのreal-timePCR用プライマーはNCBI(NationalCenterforBiotechnologyInformation)の遺伝子データベースよりmRNAの塩基配列を検索し,PrimerExpress(AppliedBio)でプライマーペア候補を検索し,イントロンをはさんだ配列を選択して,SigmaGenosys社に合成を依頼した.プライマーペアの塩基配列を表3に示す.なお,実験は独立して3回くり返し,平均値と標準偏差を求めた.d.抗体アレイによる培養上清のサイトカイン産生量の定量24時間培養した細胞については培養液を回収し,そのままサイトカイン産生量定量に供試した.アレイ基板としてBS-X1324(住友ベークライト)を使用し,抗ヒトIL-8マウスモノクローナル抗体(BIOSORCE),抗ヒトIL-6マウスモノクローナル抗体(ENDOGEN),抗ヒトTGF-b2マウスモノクローナル抗体(RDS)のプロットを住友ベークライトに依頼した.抗体アレイチャンバー(GenTel,12well)に抗体アレイを固定し,培養液を50μl添加して室温で1時間振盪した.PBSで洗浄後,3種類のサイトカインに対するビオチン化抗体混合液〔抗ヒトIL-8ビオチン化抗体(BIO-SOURCE),抗ヒトIL-6ビオチン化抗体(ENDOGEN),抗ヒトTGF-b2ビオチン化抗体(RDS)〕を調整し,50μl添加して室温で1時間振盪した.PBSで洗浄後,Cy5標識ストレプトアビジン(JacksonImmunoResearch)50μlを添加し,室温で1時間振盪した.PBSで洗浄後,乾燥させ,アレイスキャナー(GSILuminocs,ScanArray5000)でCy5蛍光画像を取得した.各プロットの蛍光強度をアレイ用画像処理ソフト(ScanAlyze)で数値化した.各サイトカインの標準液としてヒトIL-8(Acris),ヒトIL-6(Acris),ヒトTGF-b2(Acris)を5,10,20,40,80pg/mlに調整して用いた.なお,実験は独立して3回くり返し,平均値と標準偏差を求めた.II結果a.サイトカイン遺伝子発現に対するMPSの影響MPSで3,6および24時間処理したときの対照〔PBS(+)〕に対するサイトカイン遺伝子発現比を図1a,bおよびcに示す.MPS処理3時間後ではMPS-CGでIL-8が35.030.025.020.015.010.05.00.0MPS-AMPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-GExpressionratio:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図1aMPSで3時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.25.020.015.010.05.00.0MPS-AMPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-GExpressionratio:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図1cMPSで24時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.45.040.035.030.025.020.015.010.05.00.0MPS-AMPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-GExpressionratio:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図1bMPSで6時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.———————————————————————-Page41570あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(100)約1025倍に増加した.TGF-b2およびIL-6も増加した.一方,MPS処理6時間後においても,MPS-CGではIL-8が高いレベルを維持したが,特にMPS-EGが約20倍高い発現量を示した.MPS-EおよびMPS-FではIL-6が約2030倍に増加した.MPS処理24時間後においては,全体的にサイトカイン発現比はかなり回復し,特にMPS-Cではほぼ正常レベルになった.MPS-DGではIL-8は回復したが,IL-18とIL-6が約510倍高いレベルを維持していた.すべての処理時間において,MPS-AおよびBではすべてのサイトカイン遺伝子に関し,発現量の増加は認められなかった.すべてのMPS処理において,IL-1bの発現量増加は認められず,IL-8の発現量増加をもたらしたMPS-CGではむしろ発現量が減少する傾向を示した.b.サイトカイン産生量に対するMPSの影響培養24時間で産生されたサイトカイン(IL-8,TGF-b2およびIL-6)を抗体アレイで定量した結果を図2に示す.対照のPBS(+)でのサイトカイン産生量はIL-8が0.5±0.2pg/ml,TGF-b2が4.3±1.3pg/ml,IL-6が0.3±0.2pg/mlであった.対照と比較してMPS-Aではサイトカイン産生量の増加は認められなかったが,MPS-BおよびCではTGF-b2の増加が認められた.MPS-D,EおよびGでは3種のサイトカインすべてが増加した.MPS-FではIL-8が増加した.全体的にサイトカイン産生量が最も大きく増加したのはMPS-Eであった.c.サイトカイン遺伝子発現に対する配合成分の影響図1で示されたMPSによるサイトカイン遺伝子発現量の増加がMPSのどの配合成分によるかを明確にするため,配合成分単独での遺伝子発現に対する影響を検討した.配合成分処理3時間および24時間後の結果を図3aおよび3bに示す.3時間処理では,配合成分のなかでホウ酸のみがIL-8,TGF-b2,IL-6発現量を増加させ,1%濃度ではそれぞれ約45倍,5倍,15倍となった.24時間後では1%ホウ酸の効果は3時間と比較してかなり回復したが,IL-8およびIL-6はまだ高いレベルを維持しており,IL-18発現量への影響もみられた.1%HCOは0.5%ホウ酸と同程度の効果を示した.d.サイトカイン産生量に対する配合成分の影響配合成分単独で24時間作用させたときのサイトカイン産生量への影響を検討した結果を図4に示す.界面活性剤60.050.040.030.020.010.00.0:IL-8:TGF-b2:IL-6pg/m?MPS-APBS(+)MPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-G図2MPSで24時間処理したHCET細胞のサイトカイン産生量b2:IL-18:IL-1b:IL-6図3a配合成分で3時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.20.015.010.05.00.0Expressionratio1%HCO1%Tetronic1%Poloxamer1ppmAlexidine1ppmPHMB0.5%Boricacid1.0%Boricacid:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図3b配合成分で24時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081571(101)(HCO,TetronicおよびPoloxamer)および殺菌剤(Alexi-dineおよびPHMB)はTGF-b2産生量を有意に増加させた.ホウ酸は濃度依存的にIL-8産生量を増加させ,1%濃度では約70pg/mlにも達した.TGF-b2産生量への影響も認められた.III考按今回,ヒト角膜上皮細胞へのMPS投与で変化する可能性のあるサイトカイン遺伝子としてIL-8,TGF-b2,IL-18,IL-1b,IL-6を採択した.予備実験においてはその他のサイトカインとしてIL-1a,IFN-g,TNF-aなども検討したが,変化が少なかったため対象から除外した.MPSの影響としては,3時間後にIL-8が,6時間後にIL-8に加えてIL-6が,24時間後にはIL-6とTGF-b2の発現量増加が目立った.IL-8およびIL-6が増加したMPSでは,IL-1bの発現量が減少していた.Xueら8)が報告しているように,IL-1はIL-6やIL-8などの炎症性サイトカインの産生を促進する急性的サイトカインであるため,IL-6・IL-8の増加によるフィードバック制御によって,経時的に発現量が下がったと考えられる.TGF-b2は角膜上皮細胞の増殖,遊走,分化,接着制御など多くの生理作用をもつサイトカインであり,角膜上皮創傷治癒過程において発現量が増加することが知られている9).また,IL-18はマウス角膜に緑膿菌を感染させたときに,24時間後以降に発現量が増加することが知られている10).今回の実験においては,TGF-b2とIL-18は624時間と長時間作用させた場合に発現量が増加しており,外傷や細菌感染などの重篤な障害で初めて発現するサイトカインと考えられる.7種類のMPSを比較すると,MPS-AおよびMPS-Bではサイトカイン遺伝子の変化が認められなかったが,MPS-C,MPS-D,MPS-E,MPS-FおよびMPS-GではIL-8,TGF-b2,IL-6において顕著な発現量増加を示した.前2者のMPSがホウ酸を含まないのに対し,後5者がホウ酸を含むことより,ホウ酸がサイトカイン遺伝子発現に関与した可能性が考えられる.そこで,代表的なMPS配合成分7種類を選択してサイトカインへの影響を検討したところ,ホウ酸のみが顕著な影響を示し,IL-8,IL-6遺伝子発現量を増加させた.また,抗体アレイによるサイトカイン産生量の測定実験においても,ホウ酸を含むMPSおよび0.51.0%のホウ酸が24時間後のサイトカイン産生量を増加させることを確認した.ホウ酸が実使用濃度よりも低い0.1%で細胞毒性を有することは,Santodomingoら11)のV79細胞を用いたコロニー形成阻害試験により報告されている.今回の実験ではサイトカイン遺伝子発現および産生量の増加として細胞毒性が検出されたと考えられる.一方,筆者らは角膜上皮細胞のタイトジャンクション(特にZO-1)に対するMPSの影響を細胞生物学的および電気生理学的手法で検討し,配合成分にホウ酸を含むMPSのみがタイトジャンクションの構造を破壊することを報告している12).サイトカイン遺伝子発現の増加がタイトジャンクションの構造破壊をひき起こすメカニズムの詳細は不明であるが,IL-1やIL-8などの炎症性サイトカインはストレス応答性のMAPK(mitogen-activatedproteinkinase)の活性化をひき起こすことが知られており,MAPKカスケードなどの細胞内シグナル伝達系の活性化を通してタイトジャンクションが破壊されたと考えられる13).角膜上皮最表層細胞のタイトジャンクションは角膜のバリア機能においてきわめて重要な役割を担っているため,その構造破壊は緑膿菌などの病原菌の角膜への侵入を容易にし,細菌性角膜炎感染のリスクを増大させると考えられる1).すなわち,コンタクトレンズ装用とケア用品(特にMPS)使用による細菌性角膜炎発症のリスクをなるべく低くするには,角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現への影響の少ないMPSを選択し,角膜バリア機能をなるべく健全に保つことが重要と考えられる.文献1)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,20062)InoueN,ToshidaH,MamadaNetal:Contactlens-inducedkeratitisinJapan.EyeContactLens33:65-69,20073)LevyB,HeilerD,NortonS:ReportontestingfromaninvestigationofFusariumkeratitisincontactlenswear-90.080.070.060.050.040.030.020.010.00.0:IL-8:TGF-b2:IL-6pg/m?1%HCOPBS(+)1%Tetronic1%Poloxamer1ppmAlexidine1ppmPHMB0.5%Boricacid1.0%Boricacid図4配合成分で24時間処理したHCET細胞のサイトカイン産生量———————————————————————-Page61572あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(102)ers,EyeContactLens32:256-261,20064)星合竜太郎,濱田いずみ:レンズケアに対するコンタクトレンズ使用者の意識.日コレ誌49:119-123,20075)柳井亮二,植田喜一,西田輝夫ほか:市販多目的剤の消毒効果と細胞毒性の比較.日コレ誌49(補遺):S13-S18,20076)外園千恵,今西二郎:サイトカイン.眼科NewInsight5(木下茂編),p154-165,メジカルビュー社,19957)Araki-SasakiK,OhashiY,SasabeTetal:AnSV40-immortalizedhumancornealepithelialcelllineanditscharacterization.InvestOphthalmolVisSci36:614-621,19958)XueML,ZhuH,WillcoxMDP:TheroleofIL-1betaintheregulationofIL-8andIL-6inhumancornealepitheli-alcellsduringPseudomonasaeruginosacolonization.CurrEyeRes23:406-414,20019)山下英俊:トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-b)スーパーファミリーの眼組織における作用.日眼会誌101:927-947,199710)HuangX,McClellanSA,BarrettRPetal:IL-18contrib-utestohostresistanceagainstinfectionwithPseudomo-nasaeruginosathroughinductionofIFN-gammaproduc-tion.JImmunol168:5756-5763,200211)Santodomingo-RubidoJ,MoriO,KawaminamiS:Cyto-toxicityandantimicrobialactivityofsixmultipurposesoftcontactlensdisinfectingsolutions.OphthalPhysiolOpt26:476-482,200612)ImayasuM,ShiraishiA,OhashiYetal:Eectsofmulti-purposesolutionsoncornealepithelialtightjunctions.EyeContactLens34:50-55,200813)WangY,ZhangJ,YiXetal:ActivationofERK1/2MAPkinasepathwayinducestightjunctiondisruptioninhumancornealepithelialcells.ExpEyeRes78:125-136,2004***

細菌性角膜炎臨床分離株に対するFractional Inhibitory Concentration Indexを用いた抗菌薬併用効果の検討

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(91)15610910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15611565,2008cはじめに細菌性角膜炎は,日常臨床においてよく遭遇する疾患で,近年,コンタクトレンズ装用者に急増している.初期例を取り扱うことの多い第一線の診療現場では,臨床所見と的確な問診,起炎菌リスト(コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎を含む感染性角膜炎の原因菌を調査した全国サーベイランスの結果が役立つ1))などから,初診時におおよその原因菌を予測し,有効と考えられる抗菌点眼薬を投与しているのが実情〔別刷請求先〕鈴木崇:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakashiSuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon-shi,Ehime791-0295,JAPAN細菌性角膜炎臨床分離株に対するFractionalInhibitoryConcentrationIndexを用いた抗菌薬併用効果の検討鈴木崇大橋裕一愛媛大学医学部眼科学教室EectofAntibioticCombinationagainstBacteriaIsolatedfromKeratitisUsingFractionalInhibitoryConcentrationIndexTakashiSuzukiandYuichiOhashiDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicineEhimeUniversity細菌性角膜炎の治療においては,抗菌スペクトルを補う目的で複数の抗菌点眼薬をしばしば併用するが,他方,副次効果として,併用によって互いの薬剤の抗菌力が増強する可能性も考えられる.今回,細菌性角膜炎からの臨床分離株(ブドウ球菌属22株,レンサ球菌属5株,グラム陰性桿菌7株)に対して,レボフロキサシン(LVFX)+セフメノキシム(CMX),LVFX+トブラマイシン(TOB),LVFX+エリスロマイシン(EM),LVFX+クロラムフェニコール(CP)の併用効果をinvitroにおいて検討した.チェッカーボード法により,併用抗菌薬の単独使用時の最小発育阻止濃度(MIC)と併用時のMICを測定し,fractionalinhibitoryconcentrationindex(FICindex)=[併用時のMIC(a)/単独時のMIC(a)]+[併用時のMIC(b)/単独時のMIC(b)]を算出したところ,ブドウ球菌属・レンサ球菌属に対してはLVFX+CMXの平均FICindexが最も低く,グラム陰性桿菌に対してはLVFX+TOBのFICindexが最も低かった.これらの結果は,細菌性角膜炎に対して通常われわれが行っているempirictherapy(グラム陽性球菌→LVFX+CMX,グラム陰性桿菌→LVFX+TOB)の合目的性をさらに高めるものである.Infectiouskeratitisisusuallytreatedwithabroadcombinationofantibacterialeyedrops,inordertocovertheentireantibacterialspectrum.Combinationsofantibacterialagentsmayresultinincreasedantibacterialactivity.Totestthispossibility,weinvestigatedtheeectofcombinationsoflevooxacin(LVFX)withcefmenoxime(CMX),tobramycin(TOB),erythromycin(EM)andchloramphenicol(CP)oninfectiouskeratitisbacterialisolates(22iso-latesofStaphylococcussp.,5isolatesofStreptococcussp.and7isolatesofgram-negativerods).Acheckerboardmicrotitrationmethodwasusedtodeterminetheminimuminhibitoryconcentration(MIC)andfractionalinhibitoryconcentration(FIC)index(FIC=[MICofcombination(a)/MICofdrug(a)alone]+[MICofcombination(b)/MICofdrug(b)alone]).ThelowestaverageFICindexesoccurredwithLVFX+CMXinStaphylococcussp.andStrep-tococcussp.,andwithLVFX+TOBingram-negativerods.TheseresultsindicatethatLVFX+CMXandLVFX+TOBcombinationsareeectivefortreatmentofkeratitiscausedbygram-positivecocciandgram-negativerods,respectively〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15611565,2008〕Keywords:細菌性角膜炎,FICindex,最初発育阻止濃度,併用効果.bacterialkeratitis,FICindex,themini-muminhibitoryconcentration,theeectofcombinations.———————————————————————-Page21562あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(92)である.細菌性角膜炎の治療,特にempirictherapyでは,抗菌点眼薬が併用される場合が多い.おもな目的は,抗菌スペクトルを広げ,できるだけ多くの菌種をカバーする点にある2)が,抗菌点眼薬の併用にさらなる付加価値があるか否かは明らかにされていない.近年,抗菌薬の併用効果の指標として,fractionalinhibitoryconcentrationindex(FICindex)がよく用いられている3).そこで今回,細菌性角膜炎から分離された臨床株に対する汎用抗菌点眼薬のFICindexを算出し,抗菌薬の併用増強効果について比較検討した.I方法対象は,20022006年の間に愛媛大学医学部付属病院眼科で加療した細菌性角膜炎患者から分離された細菌34株である(表1).検討薬剤の軸はニューキノロン系抗菌薬のlevooxacin(LVFX)とし,その併用薬として,cefmenoxi-me(CMX),tobramycin(TOB),erythromycin(EM),およびchloramphenicol(CP)を選択した.抗菌薬の最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)ならびにFICindexの測定は,CLSI(ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute)4,5)およびASM(TheAmericanSocietyforMicrobiology)6)に準じた微量液体希釈法を用い,チェッカーボード法にて実施した.LVFXと各種併用薬剤を種々の濃度に組み合わせた液体培地(cation-adjustedMueller-Hintonbroth:CAMHB,レンサ球菌属はCAMHB+2.5%ウマ溶血液を使用した)に菌液を接種し,35℃で好気培養した.1624時間の培養後に,菌の発育が認められないwellの最小の薬剤濃度をMICとし,FICindexを下記の計算式に従い算出した.FICindex= 併用時のMIC(a)/単独時のMIC(a)+併用時のMIC(b)/単独時のMIC(b)FICindexは小数点以下4桁目を四捨五入して小数点以下3桁で表記した.また,得られたFICindexから,FICindex≦0.5を相乗作用,0.5<FICindex≦1を相加作用,1<FICindex≦2を不関,FICindex>2を拮抗作用と判定した.II結果1.LVFXとの併用によるFICindex全34株の菌種別のFICindexの平均値±標準偏差と,上記評価基準に基づいた分類を表2に示す.ブドウ球菌属(22株)のFICindexは,LVFX+CMXで1.05±0.48と最も優れており,つぎにLVFX+TOBが1.38±0.59で続いた.LVFX+CMX,LVFX+TOBの組み合わせにおいて相加作用を示した菌株の割合は,それぞれ82%,55%であったのに対し,LVFX+EM,LVFX+CPでは,それぞれ,9%,5%ときわめて少なかった.また,レンサ球菌属(5株)に対するFICindexの平均値±標準偏差は,LVFX+CMXで1.05±0.33と,ブドウ球菌属と同じく,最も良好な結果となり,つぎにLVFX+CPが1.20±0.45で続いた.一方,グラム陰性桿菌(7株)におけるFICindexは,LVFX+CMX,LVFX+TOBが,それぞれ1.04±0.44,1.04±0.46と良好な数値を示した.本試験では,すべての菌種に対して相乗作用を示した併用薬剤の組み合わせ,または,拮抗作用を示した併用薬剤の組み合わせは認められなかった.2.併用によるMICの変化ブドウ球菌属において,FICindexの良好であったLVFX+CMX,LVFX+TOBの併用時のMICの変化をMIC累積曲線(図1)とMIC80(表3)で示す.LVFXの感受性は単独では0.12128<μg/mlであったが,CMXあるいはTOBとの併用時には,それぞれ0.015128<μg/ml,0.015128<μg/mlへと高度耐性株を除いて,2倍から8倍程度,MIC累積曲線が感性側へシフトした.また,LVFX単独時表1対象とした臨床分離株菌名株数Methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus(MSSA)6CoagulasenegativeStaphylococcus(CNS)16Streptococcuspneumoniae3StreptococcusspeciesotherthanS.pneumoniae2Pseudomonasaeruginosa5Klebsiellaoxytoca1Serratiamarcescens1合計34表2菌種別のFICindexと評価FICindex評価の割合(%)Mean±SDRange相加不関ブドウ球菌属LVFX+CMX1.05±0.480.56328218LVFX+TOB1.38±0.590.50825545LVFX+EM1.91±0.291.02.0991LVFX+CP1.95±0.211.02.0595レンサ球菌属LVFX+CMX1.05±0.330.7528020LVFX+TOB1.73±0.610.62522080LVFX+EM1.35±0.600.7526040LVFX+CP1.20±0.451.02.08020グラム陰性桿菌LVFX+CMX1.04±0.440.7528614LVFX+TOB1.04±0.460.53128614LVFX+EM1.20±0.570.6252.07129LVFX+CP1.17±0.590.752.07129———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081563(93)のMIC804μg/mlが,CMX併用時およびTOB併用時ともに2μg/mlとなり,2倍の抗菌力増強効果を示した.一方,CMXにおいても,LVFXとの併用により,CMXのMIC累積曲線は左方へシフトした.また,CMX単独時のMIC802μg/mlが,LVFX併用時には1μg/mlと2倍の抗菌力増強効果を示した.TOBの場合には,LVFXとの併用によるMIC累積曲線の変化はみられなかった.表4に,レンサ球菌属において,FICindexの良好であったLVFX+CMXの併用におけるMICの変化を示す.Strep-tococcuspneumoniaeの1株を除き,LVFX+CMXの併用下では,LVFXあるいはCMX単独時よりも,それぞれの抗菌力が24倍に増強していた.図1ブドウ球菌属における各種抗菌薬の単独使用時,併用時のMIC累積曲線LVFXのMIC累積曲線CMXのMIC累積曲線TOBのMIC累積曲線:LVFX単独:LVFX(TOB併用下):LVFX(CMX併用下):CMX単独:CMX(LVFX併用下):TOB単独:TOB(LVFX併用下)0.0150.030.060.120.250.51248163264128128<0.030.060.120.250.5124811010090807060504030201000.0150.030.060.120.250.512481632表5グラム陰性桿菌に対するLVFX,CMX,TOBの単独使用時,併用時のMICの変化菌名MIC(μg/ml)LVFXCMXTOB単独CMX併用下TOB併用下単独LVFX併用下単独LVFX併用下P.aeruginosa0.50.250.25840.50.25P.aeruginosa0.50.120.251680.50.25P.aeruginosa10.50.516810.03P.aeruginosa0.50.120.2516810.5P.aeruginosa0.50.120.2516810.5K.oxytoca0.030.030.030.030.030.50.5S.marcescens0.250.120.120.120.060.50.12表4レンサ球菌属に対するLVFX,CMXの単独使用時,併用時のMICの変化菌名MIC(μg/ml)LVFXCMX単独併用単独併用1S.pneumoniae10.250.50.252S.pneumoniae110.0080.0083S.pneumoniae10.50.120.034Streptococcusspp.*0.50.250.0150.0045Streptococcusspp.*0.50.250.0150.008*StreptococcusspeciesotherthanS.pneumoniae.表3ブドウ球菌属における各種抗菌薬の単独使用時,併用時のMIC80MIC80(μg/ml)LVFX単独4LVFX(CMX併用下)2LVFX(TOB併用下)2CMX単独2CMX(LVFX併用下)1TOB単独4TOB(LVFX併用下)2———————————————————————-Page41564あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(94)表5に,グラム陰性桿菌に対してFICindexの良好であったLVFX+CMX,LVFX+TOBの併用下におけるMICの変化を示す.Klebsiellaoxytocaの1株を除いて,LVFX+TOBの併用により,LVFXおよびTOBの抗菌力は単独時に比べて232倍に増強した.また,同じくK.oxytocaの1株を除いて,LVFX+CMXの併用により,LVFXの抗菌力はLVFX単独時よりも24倍増強した.CMXの抗菌力も,CMX単独時に比較してLVFX併用により2倍増強したが,グラム陰性桿菌に対するCMXのMICがもともと高値のため,抗菌作用は低いレベルにとどまった.III考察細菌性角膜炎の治療においては,原因菌の同定後,最も感受性の良好な薬剤を集中投与するのが理想的である.しかしながら,ときに重症化し,瘢痕形成などで視力低下をきたす場合もある点で,当初のempirictherapyにおいては複数の抗菌点眼薬を使用するケースが多い.近年行われた眼感染症学会の疫学調査によれば,コンタクトレンズ装用者を中心に,ブドウ球菌属,レンサ球菌属などのグラム陽性球菌と,緑膿菌やセラチア属を代表とするグラム陰性桿菌が,細菌性角膜炎の原因菌の大部分を占めているため1),受診時にどちらのタイプの感染かをある程度想定し,治療を開始するのが実際的である.臨床的には,グラム陽性球菌が単発で円形もしくは楕円形の細胞浸潤を,グラム陰性桿菌が輪状膿瘍や不整形の浸潤を示すこと,また,場合によっては角膜擦過物の塗抹検査結果などから,おおよその原因菌推測が可能であるが,原因菌に感受性が高いと思われる抗菌薬点眼を単独で使用すべきか,別の系統を併用すべきかについての議論は抗菌スペクトルの拡大という論点以外にはなかったといえる.今回,筆者らが行ったFICindexの検討より,抗菌薬点眼の併用が,原因菌に対する幅広いスペクトルのカバーに加えて,互いの薬剤の抗菌力増強という副次効果を生む可能性が示された.具体的には,ブドウ球菌属・レンサ球菌属に対してはLVFX+CMXの併用が,グラム陰性桿菌に対してはLVFX+TOBの併用が最もFICindexが低く,また,併用されたどちらの薬剤についても,単独時よりも併用時においてMICが低くなることが明らかとなった.すなわち,臨床所見や病歴などからグラム陽性球菌かグラム陰性桿菌のいずれであるかを類推し,前者の場合にはLVFX+CMXを,後者の場合にはLVFX+TOBを投与するのが合目的的といえる.ブドウ球菌属においては,LVFX+CMXの組み合わせが最も優れていたが,LVFX+TOBの併用でも,相加作用を示す株が55%と比較的多くを占めた.TOB自体のMICはLVFXによって変化しなかったが,LVFXのMICはTOBの存在下で,単独時よりも低下し,また,LVFX単独では比較的MICの高い株が,TOBの併用によって低くなる傾向もみられたのは注目に値する.実際,TOBが外眼部の感染症に第一選択として使用される頻度はほとんどないため,ブドウ球菌属に対する感受性は逆に回復する傾向にある.この意味で,LVFX+TOBの組み合わせは,ブドウ球菌角膜炎の治療において,意外に有効なオプションとなる可能性もある.なお,今後は,増加しつつあるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)に対する併用効果について検討する必要があるであろう.一方,株数が5株と少ないため十分な検討はできなかったが,レンサ球菌属に関してはLVFX+CMXおよびLVFX+CPの組み合わせに併用効果が認められた.特に,CMXとの併用によって,レンサ球菌属に比較的低感受性のLVFXの抗菌力が向上する点は,大きなメリットと考えられる.グラム陰性桿菌に関しては,LVFX+TOB,LVFX+CMXのFICindexが良好であった.興味深いことに,Pseudomonasaeruginosaの5株に対するLVFXのMICは,CMXあるいはTOBとの併用により単独時よりも低下していた.特に,CMXの存在下にLVFXのMICが1/4にまで低下している株が5株中3株もあり,併用により,むしろTOBよりもLVFXの抗菌力を増強させる傾向が認められた.もちろん,CMX自体のグラム陰性桿菌に対する抗菌力が強くないため,第一選択薬とはなりえないが,LVFXの抗菌力を増強させる点において,グラム陰性桿菌に対してもLVFX+CMXの併用が有用である可能性は十分にある.細菌性角膜炎に対する抗菌薬投与の指標としては,MIC以外にpostantibioticeect(PAE)などがよく知られている7).これらに加えて,FICindexは薬剤間の併用効果を評価しうる有益な指標であり,その結果は,複数の抗菌点眼薬を併用することの多い角膜炎の診療を考えるうえで重要である.FICindexの有用性は他科領域においても細菌性髄膜炎などの治療方針に有効であると報告されており,実際,難治性MRSA感染症に対して,FICindexが良好な薬剤を併用したところ,良好な治療効果が得られたとの報告もある8,9).ニューキノロン系の抗菌点眼薬は外眼部感染症の第一選択薬として長年汎用されており,徐々に感受性の低下も認められる.したがってinvitroでの結果ではあるが,今回の知見は,ニューキノロン系と他系統の抗菌点眼薬の併用がより優れた治療効果をもたらす期待をわれわれに抱かせるものである.今後とも,対象菌株を増加させるとともに,併用抗菌薬のバリエーションも拡大し,検討を重ねていく必要がある.謝辞:本検査についてご協力いただいた三菱化学メディエンス・化学療法研究室の松崎薫様,雑賀威様,佐藤弓枝様に御礼申し上げます.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081565(95)文献1)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディーグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌110:961-972,20062)日本眼感染症学会:特集・感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,20073)渋谷泰寛,大野高司,伊東紘一:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対するvancomycinとcephem系薬の併用効果.日本化学療法学会雑誌51:621-625,20034)Performancestandardsforantimicrobialsusceptibilitytesting;Seventeenthinformationalsupplement(CLSIM100-S17,2007)5)Methodsfordilutionantimicrobialsusceptibilitytestsforbacteriathatgrowaerobically;Approvedstandard─seventhedition(CLSIM7-A7,2006)6)Clinicalmicrobiologyprocedureshandbook;secondedi-tion(ASM,2004)7)砂田淳子,上田安希子,井上幸次ほか:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌における薬剤感受性と市販点眼薬のpostantibiticeectの比較.日眼会誌110:773-983,20068)相沢治朗,石和田稔彦,黒木春郎ほか:細菌性髄膜炎の初期治療における臨床細菌学的検討.日本化学療法学会雑誌51:115-119,20039)大塚喜人,島村由起男,吉部貴子ほか:TEICとCMZの併用が著効した心臓大血管術後のMRSA感染症の2例.TheJapaneseJournalofAntibiotics56:55-60,2003***

結膜弛緩症に対する結膜縫着術

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(87)15570910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15571560,2008cはじめに結膜弛緩症は,おもに下方球結膜が弛緩する状態を指し,加齢性変化によって生じるとされている1).また近年capsu-lopalpebralfascia(CPF)の弛緩により結膜円蓋部が挙上し,結果として結膜が下眼瞼縁を占拠する機序の結膜弛緩症が存在することが報告されている2).結膜弛緩症は決して新しい疾患概念ではなく,高齢者における有病率が高い疾患であるが,長い間,過小評価されてきた疾患の一つである1).しかし米国で1990年代から流涙あるいはドライアイの原因疾患の一つとして再認識され,わが国でも多彩な自覚症状を呈する高齢者の不定愁訴の原因疾患として注目されるようになってきている3).結膜弛緩症の治療として手術が有用であることが知られており,その術式も横井らの結膜切除術3,4),Mellerらの羊膜移植を併用した結膜切除術5),Otakaらの結膜縫着術6)などさまざまな術式が報告されている.筆者らはOtakaらの結〔別刷請求先〕永井正子:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学病院眼科Reprintrequests:MasakoNagai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversityHospital,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN結膜弛緩症に対する結膜縫着術永井正子*1,2羽藤晋*1,2大野建治*1望月弘嗣*1山田昌和*1*1国立病院機構東京医療センター感覚器センター*2慶應義塾大学医学部眼科学教室SurgicalRepairofConjunctivochalasiswithAnchoringSuturesMasakoNagai1,2),ShinHatou1,2),KenjiOhno1),HiroshiMochizuki1)andMasakazuYamada1)1)NationalInstituteofSensoryOrgans,NationalTokyoMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine結膜弛緩症に対するanchoringsutureによる結膜縫着術の治療成績について検討した.対象は東京医療センターで結膜縫着術を施行した結膜弛緩症症例21例38眼で,手術時年齢は平均74.0±6.9歳,性別は男性3例,女性18例であった.本術式により89.5%の例で涙液メニスカスを完全に再建できたが,自覚症状の著明な改善を得ることができたのは63.2%であった.自覚症状の改善率を自覚症状別に比較すると,流涙型では87.5%(16眼中14眼)で高かったが,ドライアイ型では50%(8眼中4眼),炎症型では50%(8眼中4眼)と流涙型以外では低い傾向にあった.また対象には,capsulopalpebralfascia(CPF)の弛緩を伴う円蓋部挙上型5眼が含まれていたが,同じ術式で対応することができた.本方法は,手術手技が比較的容易で短時間に行えること,術後の炎症所見,異物感が少ないこと,CPFの弛緩を伴う円蓋部挙上型にも同じ術式で対応できることなどが利点と考えられた.Surgicalresultsofconjunctivochalasisrepairwithanchoringsutureswerereviewedin38eyesof21patients(meanage:74.0±6.9yrs;3males,18females)whoweretreatedwithanchoringsuturesatNationalTokyoMedi-calCenter.Ofthesepatients,89.5%achievedtheresolutionofconjunctivochalasis,resultingincompleterecon-structionofthetearmeniscus.Subjectivesymptoms,however,werecompletelyresolvedinonly63.2%ofcases.Whenthepatientsweredividedintosubgroupsaccordingtothesubjectivesymptoms,thesuccessrateoflacrima-tiontypewasexcellent(87.5%),whereasthesuccessratesofthedry-eyeandinammationtypeswere50%and50%,respectively.Fivecasesthathadaccompanyingrelaxationofthecapsulopalpebralfascia(CPF)weretreatedbythesameprocedure,withoutproblems.Thissurgicaltechniqueappearstobeeasy,safeandlesstime-consum-ing.Theminimizationofpostoperativeinammationandforeign-bodysensationisadvantageousoverothertech-niques.Surgicalrepairofconjunctivochalasiswithanchoringsuturesappearstobeeectivefortreatingthecondi-tion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15571560,2008〕Keywords:結膜弛緩症,手術,ドライアイ,流涙.conjunctivochalasis,surgery,dryeye,epiphora.———————————————————————-Page21558あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(88)膜縫着術をmodifyして,より簡便で侵襲の少ない術式として10-0ナイロンR糸を用いたanchoringsutureによる結膜縫着術を行っている.今回,その治療成績について検討したので報告する.I対象および方法対象は東京医療センター眼科において,2005年4月から2006年12月に結膜縫着術を施行した結膜弛緩症21例38眼である.対象の手術時年齢は6186歳(74.0±6.9歳,平均±標準偏差),性別は男性3例,女性18例であった.国立病院機構東京医療センター感覚器センター(以下,当科)では,結膜弛緩症の治療の第一選択を手術とはせずに,まず点眼治療を試みている.点眼治療として人工涙液,ヒアルロン酸製剤,ステロイド薬,非ステロイド系消炎薬などを症例に応じていくつか試み,自覚症状の軽快がみられないものを手術適応とした.手術は点眼麻酔の後に2%リドカイン(キシロカインR)を少量,結膜下に注射して行い,6-0シルク糸で6時に制御糸をかけて上転させた状態で眼球を固定した(図1).輪部から結膜円蓋部に向けてスパーテルか鑷子の背の部分を用いて結膜を伸展させた状態を保ちながら,輪部から約8mmの部分に10-0ナイロンR糸で結膜から強膜をすくって縫合した.結膜を伸展させると下直筋の位置が同定できるので,下直筋は避けるようにし,下直筋の耳側に2針,鼻側に3針縫合をかけるようにした.術後は,抗菌薬とステロイド薬(0.1%フルオロメトロンあるいは0.1%リン酸ベタメタゾン)の点眼1日34回を術後23週間行い,原則として抜糸は行わなかった.診療録をもとに結膜弛緩症手術症例の術後の自他覚所見の改善度,合併症,再発についてretrospectiveに検討した.また症例を術前の臨床症状別,もしくはCPF弛緩の有無に基づいて分類し,術後の改善度を比較検討した.CPFには下瞼板枝,円蓋部枝があり,結膜弛緩症は円蓋部枝の弛緩で起こりやすく,ここでいうCPFの弛緩とは円蓋部枝の弛緩である.臨床症状については流涙型,ドライアイ型,炎症型の3型に分けた7).流涙型は角結膜の生体染色所見や刺激症状はあまりみられず,間欠的流涙を主症状とする型,ドライアイ型は眼乾燥症状や異物感があり,弛緩結膜上方の角膜に生体染色がみられる型,炎症型は刺激症状や充血が強く,結膜炎症所見が主体の型とした.ただし,いずれか1つに分類できない症例に関しては,混合型としたものもある.II結果今回の対象である結膜弛緩症手術症例21例38眼を臨床所見別に分類した結果を図2に示す.流涙型10例16眼が最も多く,ドライアイ型4例8眼,炎症型4例8眼で,1つに分類できなかった混合型は炎症型+ドライアイ型2例4眼,流涙型+ドライアイ型1例2眼であった.また,CPF弛緩の有無では,CPF弛緩を伴う円蓋部挙上型が3例5眼,CPF弛緩を伴わないものが18例33眼であった.典型的な症例の術前後の所見を図3に示す.弛緩した結膜が下方の涙液メニスカスを占拠しているが,CPFの弛緩は伴っていない例である.術後1週目には涙液メニスカスは完全に再建されており,下方球結膜の炎症所見は軽度であることがわかる.図4はCPFの弛緩を伴い,結膜が浅くなっている例であるが,術後は結膜が深く保たれていることがわかる.38眼のうち,涙液メニスカスを完全に再建できたものは89.5%(34眼)であったが,自覚症状の著明な改善を得られ①②③④図1手術方法①結膜下注射で局所麻酔を行い,②6時方向に6-0シルク糸で制御糸をかける.③上転させた状態で結膜を伸展し,輪部から約8mmのところに10-0ナイロンR糸で結膜と強膜を縫着する.下直筋を避け,その鼻側と耳側に23針ずつ縫着する.④結膜が伸展し,弛緩が解除されていることを確認して終了.ドライアイ型4例8眼流涙型10例16眼炎症型4例8眼1例2眼2例4眼図2臨床所見別の症例の内訳———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081559(89)たのは63.2%(24眼)にとどまった.臨床所見別の分類では,涙液メニスカスの再建率は流涙型で93.8%(16眼中15眼),炎症型で100%(8眼中8眼)と良好であったが,ドライアイ型では62.5%(8眼中5眼)と低い結果になった.一方,自覚症状の改善率は流涙型87.5%(16眼中14眼)で高かったが,ドライアイ型では50%(8眼中4眼),炎症型では50%(8眼中4眼)と流涙型以外では低い傾向にあった.CPF弛緩の有無では,涙液メニスカス再建率はCPF弛緩による円蓋部挙上型では100%(5眼中5眼),CPF弛緩を伴わない型では87.8%(33眼中29眼)であったが,自覚症状の改善率は円蓋部挙上型においては20%(5眼中1眼),CPF弛緩を伴わない型では69.7%(33眼中23眼)となり,他覚的な涙液メニスカス再建率と自覚症状改善率はあまり一致しなかった.術後の合併症として,異物感と充血・結膜下出血がみられたが,眼球運動障害,感染などの重篤な合併症はみられなかった.異物感は,術後1週間では50%(19眼)にみられたが,術後1カ月では28.9%(11眼)に減少した.術後1カ月を超えて異物感が持続した症例は6眼あったが,2例4眼でマイボーム腺機能不全,1例2眼で眼瞼外反を合併しており,持続する異物感には結膜弛緩症以外の要因が考えられた.充血・結膜下出血は,術後1週間で18.4%(7眼),術後1カ月で7.9%(3眼)の症例で生じたが,これ以上遷延する例はなかった.術後経過観察期間中,10.5%(4眼)に再発がみられた.その内訳は炎症型2例3眼,流涙型1例1眼であり,再発の時期は術後1年後以降であった.このうち,炎症型1例1眼では再手術を施行し,症状,所見ともに改善している.III考按結膜弛緩症に対して施行した10-0ナイロンR糸を用いたanchoringsutureによる結膜縫着術の治療成績について検討した.本術式により89.5%の例で涙液メニスカスを完全に再建できたが,自覚症状の著明な改善を得ることができたのは63.2%であった.他覚的な結膜弛緩の改善率と自覚症状の改善率の間には差があり,手術によって自覚症状の著明な改善を得られなかった症例が1/3以上あったことは,結膜弛緩症以外にマイボーム腺機能不全,眼瞼外反など他の眼表面疾患を合併している症例が含まれていたことが影響していると思われる.当科では手術の適応を点眼治療で症状が改善しない例としているが,愁訴が結膜弛緩症によるものかどうか術前にはさらに慎重な検討を要するものと考えられた.臨床所見,自覚症状により病型を分類した場合,流涙型では自他覚所見の改善率が87.5%と良好であったが,ドライアイ型,炎症型では自覚症状の改善率がいずれも50%と低い傾向にあった.また,CPFの弛緩を伴う円蓋部挙上型においては,5眼全例で涙液メニスカスを完全に再建することができたが,自覚症状が改善したのは1眼にとどまった.これらの結果は,臨床所見や解剖学的な所見によって,手術の予後をある程度推測できることを示しているのかもしれない.ただし,病型別の奏効率に関しては,今回の症例数が十分でない面があり,今後,症例数を増やして検討する必要があるものと考えられた.本手術は1015分程度と短時間で行うことができ,術後の合併症は重篤なものはなかった.また,術後の異物感,充血が軽く,ほとんどの症例で術後1カ月以内に消失することも利点と考えられた.また,新たな円蓋部を作製することで,CPFの弛緩による円蓋部挙上型にも同じ術式で対応できる点で有用と考えられた.ただし,経過観察期間中に10.5%に弛緩症の再発がみられた.結膜切除による結膜弛緩症手術と異なり,球結膜と強膜に癒着が生じる範囲が狭く,結膜に近い部分に限られることが原因と推測される.この術前術後1週図3典型的な症例の術前後の所見弛緩した結膜が下方の涙液メニスカスを占拠しているが,結膜短縮は伴っていない例.術後1週目には涙液メニスカスは完全に再建されており,下方球結膜の炎症所見は軽度である.術前術後1週図4円蓋部挙上型の術前後の所見術前に比べて,術後は結膜はむしろ深くなっており,円蓋部挙上型にも同じ術式で対応できる.———————————————————————-Page41560あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(90)点は,術後の炎症所見が軽いという利点と表裏の関係にあるものと思われるが,再発しにくい術式の改良の余地があるものと考えられた.本論文の要旨は第31回角膜カンファランスで発表した.文献1)MellerD,TsengSC:Conjunctivochalasis,literaturereviewandpossiblepathophysiology.SurvOphthalmol43:225-232,19982)三戸秀哲,井出醇:結膜弛緩症を合併した加齢性下眼瞼内反症.眼紀52:1025-1027,20013)山崎太三,井出醇,三戸秀哲ほか:結膜弛緩症.眼科47:1536-1542,20054)横井則彦,西井正和:結膜弛緩症,結膜弛緩症関連疾患に対する手術.眼科手術18:7-14,20055)MellerD,MaskinSL,PiresRTetal:Amnioticmembranetransplantationforsymptomaticconjunctivochalasisrefractorytomedicaltreatments.Cornea19:796-803,20006)OtakaI,KyuN:Anewsurgicaltechniqueformanage-mentofconjunctivochalasis.AmJOphthalmol129:385-387,20007)山田昌和:結膜弛緩症の考え方.東京都眼科医会報194:2-5,2006***

アレルギー性結膜炎に対する塩酸オロパタジン点眼液の臨床効果─併用療法との比較─

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(83)15530910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15531556,2008cはじめにアレルギー性結膜炎は,アレルゲンが結膜に侵入にすることに起因するⅠ型アレルギー反応である.免疫グロブリンE(IgE)抗体を介してマスト細胞からメディエーター(ヒスタミン,セロトニン,ロイコトリエンなど)が遊離することによりひき起こされる一連の炎症性疾患である.日本における〔別刷請求先〕小木曽光洋:〒108-8329東京都港区三田1-4-3国際医療福祉大学三田病院眼科Reprintrequests:TeruhiroOgiso,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareMitaHospital,1-4-3Mita,Minato-ku,Tokyo108-8329,JAPANアレルギー性結膜炎に対する塩酸オロパタジン点眼液の臨床効果─併用療法との比較─小木曽光洋高野洋之川島晋一藤島浩国際医療福祉大学三田病院眼科ClinicalEcacyofOlopatadineHydrochlorideOphthalmicSolutionforAllergicConjunctivitis:ComparisonWithCombinationTherapyUsingAnti-HistamineandMastCellStabilizerOphthalmicSolutionsTeruhiroOgiso,YojiTakano,ShinichiKawashimaandHiroshiFujishimaDepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareMitaHospital2006年に発売された塩酸オロパタジン点眼液(パタノールR)にはヒスタミンH1受容体拮抗作用とメディエーター遊離抑制作用の2つの薬理作用を有することが示されている.今回,筆者らは,塩酸オロパタジン点眼液のアレルギー性結膜炎に対する臨床効果をH1拮抗薬とメディエーター遊離抑制薬の併用療法と比較検討したので報告する.眼痒感が中等度以上のアレルギー性結膜炎の患者27例を対象として,塩酸オロパタジン点眼液・人工涙液の併用投与群と塩酸レボカバスチン(リボスチンR)点眼液・クロモグリク酸ナトリウム(インタールR)点眼液の併用投与群に無作為に分け,上記薬剤をそれぞれ1回12滴,1日4回,7日間投与し,経時的に両群比較検討した.両群ともに自覚症状,他覚所見の有意な改善を認めた.点眼1日目において,塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感スコアを抑制した.他覚所見,使用感,満足度は両群間で有意な差は認められなかった.また,両群ともに点眼による角膜上皮障害の悪化は認められなかった.塩酸オロパタジン点眼液は早期に2つの作用で痒を抑制していると考えられた.Olopatadineophthalmicsolutionreportedlyhasbothanti-histamine-andmastcell-stabilizingactions.Wecom-paredtheclinicalecacyofolopatadineophthalmicsolutionforallergicconjunctivitiswithacombinationofH1receptorantagonist-andmastcell-stabilizingeyedrops.Subjectsofthisprospectiverandomizedclinicalstudycom-prised27patientswithallergicconjunctivitiswithmorethanmoderateitching.Thesubjectsweredividedintotwogroups:onegroupwasinstilledwitholopatadineophthalmicsolutionandarticialteardrops;theothergroupwasinstilledwithlevocabastineophthalmicsolutionandcromoglicateophthalmicsolution(fourdosesdaily,1-2drops/dose,for7days).Symptomsandclinicalsignsweresignicantlyimprovedinbothgroupsaftertreatment.At1dayaftercommencementoftreatment,olopatadinewasfoundtobemoreeectivethancombinationtherapyinreduc-ingitching.Nosignicantdierencesbetweenthegroupswereobservedinobjectivendings,comfortorsatisfac-tion.Exacerbationofcornealepitheliallesionswasnotobservedineithergroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15531556,2008〕Keywords:塩酸オロパタジン,アレルギー性結膜炎,ヒスタミンH1受容体拮抗作用,メディエーター遊離抑制作用,併用療法.olopatadinehydrochloride,allergicconjunctivitis,H1-selectivehistamineantagonist,anti-allergicagent,combinationtherapy.———————————————————————-Page21554あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(84)アレルギー性結膜炎の罹患率は疫学調査によると全人口の1520%と報告されている1).治療薬としては抗アレルギー薬とステロイド点眼薬が中心に用いられている.ステロイド点眼薬には即効性や強力な抗アレルギー作用があるが,眼圧上昇などの副作用の発現の危険性があるため,一般的には抗アレルギー点眼薬が第一選択として用いられる2).抗アレルギー点眼薬は,メディエーター遊離抑制薬とヒスタミンH1受容体拮抗薬に大別される.これまで日本で承認されているヒスタミンH1受容体拮抗薬は塩酸レボカバスチン(リボスチンR)とフマル酸ケトフェチン(ザジテンR)のみであったが,2006年10月に塩酸オロパタジン(パタノールR)が追加された.塩酸オロパタジンは選択的ヒスタミンH1受容体拮抗作用3),化学伝達物質遊離抑制作用4,5)の両作用を有するが,その経口薬であるアレロックR錠は日本では2001年より発売され,アレルギー性鼻炎,蕁麻疹,皮膚疾患に伴う痒に対して用いられている.今回,アレルギー性結膜炎患者を対象として,両作用を有するといわれている塩酸オロパタジン点眼液単剤治療とヒスタミンH1受容体拮抗薬/メディエーター遊離抑制薬の併用療法の臨床効果を比較検討したので報告する.I対象および方法本試験は飯田橋眼科クリニック,市川シャポー眼科,品川イーストクリニック,藤島眼科医院,谷津駅前あじさい眼科の5医療施設により実施された.1.対象中等度以上の眼痒感を有するアレルギー性結膜炎と診断される患者のうち,表1の基準を満たすものを対象とした.2.試験方法0.1%塩酸オロパタジン点眼液・人工涙液の併用投与群(以下,P+A群)と0.025%塩酸レボカバスチン点眼液・クロモグリク酸ナトリウム点眼液の併用投与群(以下,L+I群)の2群に,封筒法による無作為化を実施し,上記薬剤をそれぞれ1回12滴,1日4回(朝・昼・夕および就寝前),7日間投与した.なお,試験期間中の副腎皮質ステロイド薬,非ステロイド性抗炎症薬,血管収縮薬,抗ヒスタミン薬,抗アレルギー薬の使用は禁止とした.3.観察項目a.患者背景試験薬投与開始前に,患者の性別,年齢,合併症,既往歴,併用禁止薬の使用歴,眼手術歴について調査した.b.臨床症状第1回来院時(0日目)と第2回来院時(7日目)に他覚所見(眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,角膜上皮障害)および使用感(0=大変満足している10=全く満足してない),患者満足度(0=大変満足している10=全く満足してない)について評価した.c.アレルギー日記患者にアレルギー日記を配布し,毎日,痒感の程度,点眼状況を記録させ,7日後に回収した.d.統計・解析法他覚所見(眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,角膜上皮障害),使用感および満足度に関してはpairedt-testにて,眼痒感スコアに対してはmulti-variateanalysisにて解析を施行した.II結果1.対象患者の構成本試験では,38例(P+A群:20例,L+I群:18例)が登録され,1週間後に来院しなかった症例が9例(P+A群:3例,L+I群:6例)あった.再来院しなかった症例のうち,P+A群2例,L+I群3例ではアレルギー日記も回収できなかった.アレルギー日記回収症例は33例(P+A群:18例,L+I群:15例)で,プロトコール逸脱は3症例(P+A群:2例,L+I群:1例)であった.逸脱理由は全症例とも併用禁止薬を使用したためであった.2.患者背景表2に本試験の患者背景を示した.患者は年齢1980歳表1選択基準および除外基準[選択基準]1年齢:13歳以上2性別は問わない3全ての指導に従い,規定の来院日に来院できる患者4試験期間中に併用禁止薬の投与を中止できる患者5Ⅰ型アレルギー反応(結膜浸潤好酸球の同定,血清抗原特異的IgE測定,皮膚テスト)のいずれかが陽性の患者[除外基準」1アレルギー性結膜炎以外の疾患により,薬効評価に影響を及ぼす眼掻痒感および充血を有している患者2本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者3眼感染症(細菌,ウイルス又は真菌など),重症ドライアイ,再発性角膜びらんがある患者43カ月以内に持続性副腎皮質ステロイドの結膜下注射による治療を受けた患者53カ月以内にステロイド薬の全身投与を受けた患者6免疫療法(脱感作療法,変調療法など)を受けた患者7試験期間中に手術の予定がある患者8コンタクトレンズの装用を中止できない患者9妊婦,授乳婦10担当医師が試験参加は不適当と判断した患者———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081555(85)で,アレルギー性結膜炎の原因はスギ花粉が23例,スギ花粉以外が7例であった.P+A群,L+I群の両群間において,性別,年齢,スギ花粉症の有無,合併症の有無で有意差は認めなかった.3.有効性他覚所見については点眼開始後7日目において,P+A群,L+I群の両群ともに,眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼瞼結膜浮腫(図1)のスコアを有意に改善したが,両群の間には有意な差は認めなかった.両群ともに点眼による角膜上皮障害の悪化は認められなかった.点眼開始後7日目における点眼薬の使用感(図2),満足度(図3)は両群ともおおむね良好であったが,両群間において有意な差は認めなかった.眼痒感については,点眼開始後1日目においてP+A群がL+I群に比べ有意に眼痒感スコアを抑制した(図4).表2患者背景P+AL+ITestp値性別男性女性7959c2検定0.6540年齢(歳)20未満2029303940495059606970以上04701221231421U検定0.5935MinimumMaximum21801971平均±SD(歳)41.3±19.245.2±16.3アレルゲンスギ花粉非スギ花粉115122c2検定0.2731合併症アトピー性皮膚炎ドライアイ鼻側ポリープ100021c2検定0.1353**:p<0.01(vs.Baseline)*:p<0.05(vs.Baseline)Paired?-testMean±SD:眼瞼結膜充血P+A:眼瞼結膜充血L+I:眼球結膜充血P+A:眼球結膜充血L+I:眼球結膜浮腫P+A:眼球結膜浮腫L+I:角膜上皮障害P+A:角膜上皮障害L+I**********3210-1スコア0日目(n=16)(n=11)7日目(n=16)(n=11)P+AL+I図1投与後の各所見のスコアスコア+A(n=15)L+I(n=12)Mean±SD図2点眼薬の使用感(0=大変満足している,10=全く満足していない)876543210スコアP+A(n=15)L+I(n=12)Mean±SD図3点眼薬の満足度(0=大変満足している,10=全く満足していない)*:p<0.05(vs.L+I)Multi-variateanalysisMean±SD0-1-2-3-4-5-6-7-8-9スコアの変化量P+A(n=14)L+I(n=13)0日目(n=14)(n=13)1日目(n=14)(n=11)2日目(n=14)(n=11)3日目(n=14)(n=12)4日目(n=14)(n=11)5日目(n=14)(n=11)6日目(n=12)(n=10)7日目:P+A:L+I*図4眼痒感スコアの推移———————————————————————-Page41556あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(86)本試験中に両群とも副作用はみられなかった.III考察筆者らはすでにヒスタミンH1受容体拮抗薬単独よりもメディエーター遊離抑制薬との併用療法のほうが有意にアレルギー炎症を軽減することを報告している8).このことから両治療薬を同時に使用するほうがアレルギー性結膜炎に対しより効果的であると考えられる.塩酸オロパタジンにはヒスタミンH1受容体拮抗作用とメディエーター遊離抑制作用の2つの薬理作用を有することが非臨床試験において示されている.そこで,今回筆者らは両作用をもつ塩酸オロパタジン点眼液を投与した場合と,ヒスタミンH1受容体拮抗作用をもつ塩酸レボカバスチン点眼液およびメディエーター遊離抑制作用をもつクロモグリク酸ナトリウム点眼液を併用投与した場合において,臨床的に他覚所見,痒感,使用感,満足度について比較検討してみた.結果としては,他覚所見,使用感,満足度は両群間で有意な差は認められなかった.唯一,点眼開始後1日目において,塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感を抑制した.眼痒感は三叉神経終末のヒスタミンH1受容体を介して伝達されるため,点眼開始後1日目においての痒感に対する効果の差は塩酸オロパタジンが塩酸レボカバスチンよりも多くのヒスタミンH1受容体に結合したためだと考えられる.実際,非臨床試験において塩酸オロパタジンはヒスタミン受容体のH1受容体選択性が塩酸レボカバスチンより高いことが示されている3).今回の試験では日本で承認されている濃度で実施したため,塩酸オロパタジンの濃度が0.1%であるのに対し塩酸レボカバスチンは0.025%であるため(米国では塩酸レボカバスチンは0.05%で承認され販売されている),両者の濃度の違いも効果に影響していると思われる.大野らは無症状期の花粉症患者を対象に0.1%塩酸オロパタジン点眼液と0.025%塩酸レボカバスチン点眼液の有効性を結膜抗原誘発試験にて比較検討しているが,塩酸オロパタジン点眼のほうが塩酸レボカバスチン点眼よりも痒感の抑制に有効であり,点眼後のレスポンダーの割合も高いことを報告している.この塩酸オロパタジン点眼のレスポンダーの割合の高いことも,点眼開始後1日目における痒感に対する効果の差につながったと思われる.点眼開始後27日目において両群間において痒感に有意差が生じなかった.また,7日目における他覚所見でも両群間において有意差が認められなかった.非臨床試験において,塩酸オロパタジンは濃度依存性にヒト結膜マスト細胞からのヒスタミン遊離を抑制したり4),ヒト結膜上皮細胞からIL(インターロイキン)-6,IL-8の遊離を抑制したり10)することなどが示されており,これらのメディエーター遊離抑制作用ももつことが両群間において差が生じなかったことに関連していると思われた.今回の検討で点眼1日目において塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感スコアを抑制した.痒みに対する即効性が期待される疾患において早期に有意差が出たことは,本剤が臨床的にも有用であることを示していると思われる.文献1)東こずえ,大野重昭:アレルギー性眼疾患.1概説.NEWMOOK眼科6,p1-5,金原出版,20032)日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班:「アレルギー性結膜疾患の診断と治療のガイドライン」.大野重昭(編):日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班業績集,日本眼科医会,19953)SharifNA,XuSX,YanniJM:Olopatadine(AL-4943A):ligandbindingandfunctionalstudiesonanovel,longact-ingH1-selectivehistamineantagonistandanti-allergicagentforuseinallergicconjunctivitis.JOculPharmacolTher12:401-407,19964)YanniJM,MillerST,GamacheDAetal:Comparativeeectsoftopicalocularanti-allergydrugsonhumancon-junctivalmastcells.AnnAllergy79:541-545,19975)CookEB,StahlJL,BarneyNPetal:OlopatadineinhibitsTNFareleasefromhumanconjunctivalmastcells.AnnAllergy84:504-508,20006)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン.日眼会誌110:99-140,20067)UchioE,KimuraR,MigitaHetal:Demographicaspectsofallergicoculardiseasesandevaluationofnewcriteriaforclinicalassessmentofocularallergy.GraefesArchClinExpOphthalmol246:291-296,20088)FujishimaH,FukagawaK,TanakaMetal:TheeectofacombinedtherapywithahistamineH1antagonistandachemicalmediatorreleaseinhibitoronallergicconjunctivi-tis.Ophthalmologica222:232-239,20089)大野重昭,内尾英一,高村悦子ほか:日本人のアレルギー性結膜炎に対する0.1%塩酸オロパタジン点眼液の有効性と使用感の検討─0.025%塩酸レボカバスチン点眼液との比較─.臨眼61:251-255,200710)YanniJM,WeimerLK,SharifNAetal:Inhibitionofhis-tamine-inducedhumanconjunctivalepithelialcellresponsesbyocularallergydrugs.ArchOphthalmol117:643-647,1999***