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眼科専門医志向者“初心”表明

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815430910-1810/08/\100/頁/JCLS自分は大学に入学した当初からある程度眼科に進むことを考えていました.両親が眼科医ということもあって,親の働く姿を見て,子供の頃から医学の道へ進むということが自分のなかで自然な考えとしてあったのです.ただ,大学を卒業して2年間スーパーローテーションでさまざまな科を研修していくうちに,他科への興味が生まれ,特に深く考えずに眼科へ進むことに抵抗を感じる時期もありました.しかしそんななか,初期研修の選択期間で眼科を研修し,入院中の患者さんと接していくうちに,眼科の魅力を実感し改めて眼科へ進む決意をしました.眼は体のごく一部の組織で,専門性が非常に強いイメージがありましたが,全身性の疾患からくるものも少なくなく他科との連携はもちろん必要であり,また診察から検査・診断・手術・治療までの一連の流れがほぼ自科で行えるという点も内科・外科両方の側面をもっていて非常に素晴らしいことと感じました.研修中,白内障手術を受けられた患者さんがとても喜ばれるのを見ていると,視覚とQOLが密接に関連しており,また失明した患者さんを担当して,いかに人が視覚に頼って生活しているかということを痛感しました.患者さんはそれぞれに求めている満足度が違い,治療の効果を過大に期待したり,回復の難しい疾患等で手術・治療によって得られた結果と患者さんの満足度が合わなかったりといったことも経験しました.そうした場合に少しでも良くなるように努力するのも当然のことですが,忙しい診療のなかでも患者さん一人ひとりの要望・期待を受け止めていくことも重要であり,常に真剣に患者さんと向き合える眼科医になりたいと感じました.現在は研修中の施設で白内障手術の指導を受け,自分で手術をさせてもらうと手術の上手な眼科医になってたくさんの疾患を治していきたいという気持ちが芽生えてきます.また,臨床をしていくうえでのさまざまな経験として研究もしてみたいという気持ちもあり,方向性が定まっていない漠然とした将来に対し不安と期待を抱きつつ,とにかく今はできることを一つずつやっていき,少しでも目標に近づけるように日々頑張っています.◎今回は順天堂大学出身の吉武先生にご登場いただきました.診察から検査・診断・治療まで自科で行え,内科の側面も外科の側面も兼ね備えている眼科の魅力を伝えられれば,興味をもつ人がもっと増えるのではないかと思います.(加藤)本シリーズ「“初心”表明」では,連載に登場してくださる眼科に熱い想いをもった研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生を募集します!宛先は≪あたらしい眼科≫「“初心”表明」として,下記のメールアドレスまで.全国の先生に自分をアピールしちゃってください!E-mail:hashi@medical-aoi.co.jp(73)眼科専門医向者“初心”表明●シリーズ⑪患者さん一人ひとりの眼と真剣に向き合える眼科医を目指して吉武信(ShinYoshitake)大津赤十字病院1982年東京生まれ.岡山出身.大学入学資格検定を経て順天堂大学医学部卒業.卒後は同大学付属順天堂医院で2年間のスーパーローテーションを終え,平成20年4月より京都大学眼科学教室へ入局.現在は大津赤十字病院で眼科研修中.学生時代はゴルフ部に所属.(吉武)編集責任加藤浩晃・木下茂本シリーズでは研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生に『なぜ眼科を選んだか,将来どういう眼科医になりたいか』ということを「“初心”表明」していただきます.ベテランの先生方には「自分も昔そうだったな~」と昔を思い出してくださってもよし,「まだまだ甘ちゃんだな~」とボヤいてくださってもよし.同世代の先生達には,おもしろいやつ・ライバルの発見に使ってくださってもよし.連載11回目の今回はこの先生に登場していただきます!▲大津赤十字病院眼科の先生方と

後期臨床研修医日記8.岐阜大学医学部眼科学教室

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815390910-1810/08/\100/頁/JCLS暇ですが,夜になると,さまざまな患者さんが来院します.救急外来を受診する患者さんの症状は,コンタクトレンズがとれないと受診する軽症のものから眼内炎,網膜離,眼窩底骨折,眼球破裂,アルカリ・酸外傷などさまざまです.そのたびに眼科救急の本をめくりながら患者さんが病院に到着する前に必死で調べています.当初は割れたハードコンタクトレンズの場所がわからないため待機の先生に電話して自宅から来てもらったこともありました.最近では1人で次の日まで大丈夫かどうかをなんとか判断できるようにはなりましたが,自分の処置や判断が間違っていないかいつも不安です.再診の時に受診してもらい,上級医と一緒に診察して良くなっていることを確認してほっとしています.アイバンク当直アイバンク当直とは献眼の意思がある方がお亡くなりになった際,時刻に関係なく眼球摘出に行くというものです.自分が初めて行ったのは5月中旬でした.タクシーで2時間かけて岐阜県明智町の献眼提供者宅まで1人で摘出に向かいます.4月に1回オーベンの先生と真夜(69)岐阜大学眼科学教室では,この4月に後期研修医としてわれわれ2名が入局しました.山本哲也教授をはじめ,各専門分野の先生の指導を受けながら多忙ですが,楽しく,充実した研修生活を送っています.今回は眼科医として入局してからこれまでの半年を振り返って日々の仕事内容や印象深かったことを報告してみたいと思います.病棟業務病棟業務はおもに手術後の患者さんの診察です.毎朝7時30分から回診が始まり,上級医の先生が診察する前に病棟の患者さんの眼圧を測定したり細隙灯で所見を取り,その後,上級医と一緒に診て自身の所見との違いをフィードバックしています.眼科医として最初の難関は眼圧測定でした.初期研修時の4月の点滴と同じくらい眼圧測定が憂鬱でした.上級医との眼圧測定値の違いが誤差範囲(自分の中では12mmHg)ではなく,さらに何回もアプラネーションを当て,角膜にびらんを作り患者さんに迷惑をかけ上級医に叱られていました.「眼圧なんてNCTでいいよ」と何回思ったことか…(教授に怒られますが).最近になりほぼ正確に測定できるようになりましたが,まだまだ修練中です.眼底も最初は全然見えなく上級医がさっと見て診断しているのを見て「本当に眼底見えているの?」と思ったりもし,実は「眼科医として自分は向いていない」と何回も思いました(今では普通に見えます.といっても網膜離術後でガスが入っているとまだしっかり見えませんが…).門前の小僧習わぬ経を読むという言葉があるように自然にできるようになるかと思っています.当直5月から当直業務が始まりました.前日の当直の先生から17時にPHSを受け取ります.19時ぐらいまでは後期臨床研修医日記●シリーズ⑧岐阜大学医学部眼科学教室小森伸也名倉章敏▲外来での診察風景(左より,名倉,山本哲也教授,小森)———————————————————————-Page21540あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(70)分が経験したのは最初の外勤の日に,昨日から眼が赤いとのことにて受診した患者で,角膜に潰瘍があり,表現が難しいですがブヨブヨしていやーな感じ?がして上級医に相談.市民病院へ行ってもらいましたが,アカントアメーバ角膜炎の可能性があるとのことにて大学病院でPCRを試行し確定診断した症例もあり,あなどれません.軽症のなかに重症が紛れていることもあるので毎回外勤時はヒヤヒヤしています.学会発表今年の10月に新人であるにもかかわらず,緑内障学会で口頭発表させていただきました.甲子園に出場していない投手が初先発で巨人戦に登板する感じです.大方の予想通り,見事(?)に壇上死をして参りました.壇上に上がると聴衆の数が多く緊張しまくり頭が真っ白になりました.7分間justの原稿を用意したのに赤ランプがつき後1分となってあせり,早口になりぎりぎり終わる.ほっとしていると質問の嵐が….何を聞かれているのかまったく理解できず,黙ってしまい共同演者に助けてもらいました.いろんな意味でいい経験ができました.後2年くらいは発表時に壇上死するかも知れませんので,学会で自分を見かけたらお手柔らかにお願いします.おわりに眼科医になって思ったのは,世間で言われているような楽な科ではないということです.手術も繊細ですし,実際治るのは白内障だけで治らない病気がたくさんあることがわかりました.眼科医にとって自身が見た眼底,細隙灯所見がすべてです.所見を見逃さないように頑張ります.名医にならなくてもいいので良医になることを目標に努力していきます.(小森伸也)眼科経験の日がまだ浅くわからないことだらけですが,まず,的確な診断ができることです.そして早く手術の執刀ができるように努力します.今後,多忙ながら充実した研修生活を過ごしていきたいと思います.(名倉章敏)中に一緒に行き教えていただきましたが,今回は自分独りです.「手順がわからないぞ??」必死にタクシーの中で教科書を読み,いざ,御対面.開瞼器をかけ結膜を離した後,4直筋に糸をかけ,眼球を脱臼させ,視神経,結合組織を切除し,摘出,眼瞼を縫合して終了と行きたかったのですが….結合組織を離し,脱臼させようと直筋にかけたはずの糸がいざ脱臼させて引っ張りあげたらプッツリと糸が切れて,眼球が….「どうしよう??」角膜だけでも無事に持ち帰らないといけないし,指を入れ眼球をつかみ出し曲がり尖刀で視神経を切り,無事に摘出しました.両眼摘出し帰路につけたのは1時間後でした.大学に戻り,角膜切片をつくり,ほっとして自宅に戻ります.翌日から忙しい毎日が続きます(あれから4回経験し今は普通にできますが).当直がない日は1年目は毎日アイバンク係なので上級医と飲みに行っても実際にはお酒が飲めないのが少し不満です.(名倉章敏)初診外来5月下旬から初診外来を週3日しています.岐阜大学病院は緑内障をメインに各専門分野の外来があります.初診は1日3040人前後の患者さんが大体,紹介状を持参し来院します.来院される患者さんを各専門分野の先生に振り分ける役目が初診係です.紹介されてくる患者さんは全体的に緑内障が多いですが,斜視,ぶどう膜炎,角膜疾患,眼窩腫瘍,網膜疾患などバリエーションに富んでいます.紹介状を持参する患者さんの場合は,病名疑いがついているのでその疾患を疑って検査をオーダーすれば良いのに比べ,紹介状がなく来院される患者さんの場合は,結膜下出血など簡単な疾患もありますが,眼脂で来院した患者さんでMALTリンパ腫が見つかったり,異物感で来院したら東洋眼虫症であった患者さん,視力低下で来院され細隙灯を診るとKP多発?ぶどう膜炎と思い専門外来に振り分けると顆粒状角膜変性症だったり,と毎日失敗と勉強の連続です.自分の知識が全然追いついていないのが実状です.今日も勉強をしなければと思いながら,教科書は開けますが意思が弱いのですぐ寝てしまいます.外勤10月に入りようやく週1日外勤が始まりました.田舎の病院に行き診察しますが,大学病院ではなかなかお目にかからないcommondiseaseをたくさん診ます.そのなかにたまに大物がひそんでいることがあります.自?プロフィール?小森伸也(こもりしんや)藤田保健衛生大学卒業,藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院にて初期研修,平成20年4月より岐阜大学医学部眼科学教室前期専攻医.名倉章敏(なぐらあきとし)島根医科大学卒業,名古屋第一日赤病院にて臨床研修,平成20年4月より岐阜大学医学部眼科学教室前期専攻医.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081541(71)教授からのメッセージ「刮目して相待つべし」研修医はすべての可能性を秘めたいわばiPS細胞です.将来,大きな眼科病院の大院長先生になるかもしれないし,世界的に権威のある偉大な研究者になる可能性もあるのです.今年の新人研修医二人には眼科学に貢献できる優れた医師になることを期待しています.三国志の呉の将軍,呂蒙にこんなエピソードがあります.遊びほうけていた呂蒙が孫権(主君)から書物を読むように言われしばらくたったときのこと.先輩将軍の魯粛と議論になって論破したとき魯粛は思わず「あなたは昔のあなたではない」とつぶやく.それに対して,若い呂蒙曰く,「三日たったらヒトは変わっているのですよ」.そうなのです.ヒトは努力で進歩するのです.1カ月後には,現在より知識がある,技能がある,2カ月後には手術ができる,等々.今が勉強のときなのです.頑張ってください.私も楽しみです.岐阜大学大学院医学系研究科眼科学・教授山本哲也☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス66.乳頭前方へ発達した増殖膜を有する増殖糖尿病網膜症(上級編)

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815370910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに増殖糖尿病網膜症の線維血管性増殖膜は,後部硝子体皮質前ポケットの辺縁に沿って形成されることが多いが,硝子体の構築によっては非典型的な増殖膜の形態を呈することがある.硝子体液化が少なく活動性のきわめて高い症例では,増殖膜が視神経乳頭から前方に向かって垂直方向に発育する症例がまれに存在する.乳頭前方へ発育した増殖膜を有する増殖糖尿病網膜症筆者らは過去にこのような4症例を報告した1)が,その特徴としては,増殖膜の発育形態が視神経乳頭周囲に限局しており前方へ向かってかなりの高さをもって突出すること,全例男性で若年発症の活動性のきわめて高い症例であること,血管新生緑内障を合併していること,汎網膜光凝固術の施行にもかかわらず増殖膜の発育が速いことなどがあげられる.術前の細隙灯顕微鏡(図1)および超音波Bモード所見(図2)でも,視神経乳頭から水晶体に向かってトライアングル状に立ち上がっている増殖膜の様子が確認できた.子体手術の所見4症例とも,全象限で後部硝子体が未離で,蛋白濃度の高い硝子体ゲルが硝子体腔内に均一に充満しており,硝子体の液化所見はほとんど認めなかった.増殖膜は視神経乳頭周辺に限局し,血管アーケード周囲への広がりはほとんど認めなかった.増殖膜と網膜は面状に強固に癒着しており,双手法による増殖膜処理が必要であった.増殖膜は血管を豊富に含んでいたが,組織としてはやや白色調で比較的柔らかい印象があった.術後に全例,血管新生緑内障が増悪したため,トラベクレクトミーを施行した.眼圧コントロールは2眼で可能となったが,視力予後は概して不良であった.(67)症例の増殖膜形成のなぜ増殖膜が垂直方向に立ち上がるのかについては不明な点が多いが,後部硝子体皮質前ポケットなどの液化腔が硝子体中に存在しない場合,Cloquet管などの先天的構造物の間隙に沿って増殖膜が乳頭部より水晶体裏面まで垂直方向に発育していく可能性も考えられる.いずれにしても,このような症例では血管新生緑内障を高率に合併するので,早期に汎網膜光凝固術を施行し,網膜症の活動性を抑制する必要がある.文献1)栗原麻奈,池田恒彦,森和彦ほか:乳頭前方へ発育した増殖膜を有する増殖糖尿病網膜症の4例.眼臨93:1160-1163,1999硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載66乳頭前方へ発育した増殖膜を有する増殖糖尿病網膜症(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1細隙灯顕微鏡所見前置レンズを用いなくても水晶体後面に視神経乳頭から立ち上がった線維血管性増殖膜を認める.図2超音波Bモード検査所見視神経乳頭から前方にトライアングル状に立ち上がった線維血管性増殖膜を認める.

眼科医のための先端医療95.マウス酸素誘導網膜症の病理学的所見と臨床応用の可能性

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815330910-1810/08/\100/頁/JCLS概要網膜的ににる病でのでの病理学的の要マのとマウス酸素誘導網膜症にによマウスの網膜を誘導るでと酸素酸素ンマウスをるジをるとのでるを用のマウスをマウスととににと酸素をによの酸素±2%になるように調整します.このまま5日間維持し,生後12日目(P12)で通常の酸素下での管理を行います.病理学的所見マウスの網膜でににる理的をとるのによのに酸素導るとによの網膜で学で網膜のによのをるとでん図1a,矢印).加えて,無血管領域が傍乳頭から周辺部網膜にかけて不整に形成され,未熟児網膜症の病理に類似した網膜血管内皮細胞が退縮します.その後通常の酸素下に戻すことにより,網膜組織は相対的虚血状態に陥ります.そのため虚血網膜からVEGFが過剰に発現されます.産生分泌されたVEGFが受容体を介し,既存の網膜表層血管の内皮細胞や血管前駆細胞の分裂,増殖が起こり,血管網膜柵の脆弱な新生血管が発生し,病理学的血管新生(angiogenesis)が起こります.この血管新生は,通常P17からP21に最大に達します.あらかじめ蛍光物質を結合させた,血管内皮細胞のマーカーでもあるisolectin-B4を経静脈的にマウスに注入することにより,網膜血管造影を行うことが可能です.静注されたマウスの眼球を摘出し,網膜の平坦標本を作製することにより,血管構築を詳細に解析することができます.血管造影により,P17では乳頭周囲の無血管領域の残存,および微細不整な微小網膜血管(63)◆シリーズ第95回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊加瀬諭(南カリフォルニア大学ドヒニー眼研究所/北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座眼科学分野)マウス酸素誘導網膜症の病理学的所見と臨床応用の可能性115abc図1マウス酸素誘導網膜症のヘマトキシリン・エオジン染色による病理組織学的所見a:高圧酸素導入後5日目〔生後12日(P12)〕.網膜血管は閉塞しており,血管の内腔を確認することができない(矢印).b:生後17日(P17).血管内皮細胞の著明な増生が網膜表層にみられ,新生血管が形成されている.内境界膜は凹凸不整になっている.c:生後25日(P25).網膜新生血管はみられず,網膜表層には血管の内腔の確認ができる網膜血管が存在している.———————————————————————-Page21534あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008の増生,大小不同の造影剤の漏出がおもに周辺部網膜に特徴的にみられます.ヒトでいえば未熟児網膜症や糖尿病網膜症に類似した所見を呈します.病理学的には,小型の血管内皮細胞の増生よりなる網膜新生血管が著明に形成されます(図1b).網膜新生血管は,網膜内新生血管および硝子体新生血管に分類されます2)が,ここでは両者の増生がみられます.後者では,増生した血管内皮細胞が硝子体腔への進展を示し,増生集簇した内皮細胞がブドウの房のように増生し,neovasculartuftsとよばれます.内境界膜は凹凸不整になり,周囲には内皮細胞の増生に加え,リンパ球を主体とする炎症細胞浸潤も散在性にみられます.免疫組織化学的には,グリア細胞のマーカーであるglialbrillaryacidicprotein(GFAP)の発現が,進展したアストロサイトの突起に一致してみられます1).GFAPの陽性所見はneovasculartuftsの近傍に及びます.新生血管のマーカーであるCD105の発現を検討すると,新生血管に陽性になることが確認されます.P12からP17にかけてVEGFのmRNA,蛋白発現も上昇します3).加えて,種々の虚血時に発現誘導されるVEGFの転写因子hypoxiainduciblefactor(Hif)-1aの発現も誘導されます.VEGFの免疫活性は,アストロサイトの突起に一致してみられます.よって,網膜新生血管の発生病理は,虚血刺激によるアストロサイトにおけるVEGFの発現亢進が重要な役割を演じていることが想定されます.糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症における硝子体液の解析では,眼内新生血管のない硝子体液に比較しVEGFの濃度が有意に上昇することが知られており,OIRの病理学的所見はこれらの機序を説明しうるかもしれません.網膜新生血管はP17からP21に最大になりますが,その後も経過観察をした場合,P23頃から新生血管は退縮します.図1cに示すP25の病理組織像では,neo-vasculartuftsは消失し,内腔を確認できる網膜血管がみられます(図1c,矢印).ヒト虚血網膜症の進展時にみられる著明な出血や線維血管膜の形成,増殖,虹彩血管新生あるいは眼球癆はみられません.これは,OIRは真の虚血を誘導するものではなく,相対的虚血状態を作製するもので,眼内自己調節機構に伴うサイトカインの発現制御などにより,新生血管内皮細胞がアポトーシス細胞死に陥り,新生血管が退縮するものと考えられます.OIRの有用性と問題点の酸素の要でに性網膜を誘導るとでをるにの要マウスのでのでをの可能性のるるのマウスで要にマウスのにのをるとで的のにを学的理をとで加のよにの的によ網膜をにでにるをるのにののとで可能マウスでとるのウトマウストンスジマウスのマウスを用をると可能でのるマウスで可能でのよにのに有用でるとん問題点酸素マウスにとにのるでよ酸素にマウスにるマウスるとマウスのにのでのののにと臨床応用の可能性本でのの組マウスでの可能でのにるマウスとの病理学的るとによ的の病理に的に的にるとでジのを用るとによマウスにののをのの可能で網膜の病に有用と———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081535文献1)SmithLE,WesolowskiE,McLellanAetal:Oxygen-inducedretinopathyinthemouse.InvestOphthalmolVisSci35:101-111,19942)KramerovAA,SaghizadehM,PanHetal:ExpressionofproteinkinaseCK2inastroglialcellsofnormalandneo-vascularizedretina.AmJPathol168:1722-1736,20063)ChanCK,PhamLN,ZhouJetal:Dierentialexpressionofpro-andantiangiogenicfactorsinmousestrain-depen-denthypoxia-inducedretinalneovascularization.LabInvest85:721-733,20054)RitterMR,BaninE,MorenoSKetal:Myeloidprogeni-torsdierentiateintomicrogliaandpromotevascularrepairinamodelofischemicretinopathy.JClinInvest116:3266-3276,20065)ChenJ,ConnorKM,AdermanCMetal:Erythropoietindeciencydecreasesvascularstabilityinmice.JClinInvest118:526-533,2008(65)「マウス酸素誘導網膜症の病理学的所見と臨床用の可能性」を読んで網膜症病網膜症の性でにのにでのにんのとに読ん本に病網膜症で「ににをるでる」とののによ病網膜症の可能にのに的臨床のにるよによのにとをとでにとのるのでで臨床のにとのにをるのをるのでるとをでののにのにをの加瀬諭マウス酸素誘導網膜症でのスンでにるででののに臨床にるとの本でのをののにのでに理にとを文二をる加瀬のオリジるをんで本のののでのにのによ理とのの学問的をのので臨床にるのでの要性をににで学学坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ185.極小切開硝子体手術の適応

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815310910-1810/08/\100/頁/JCLSある.6,000本のイメージファイバーの23ゲージのものが使用でき,25ゲージは現時点では使用できない.20ゲージのものと比較し,画角は70°でほぼ同じであるが,20ゲージの内視鏡のイメージファイバーが10,000新しい治療と検査シリーズ(61)バックグラウンド眼科手術において低侵襲手術が求められており,25ゲージ1),23ゲージ2)の極小切開のカニューラシステムが用いられてきている.しかし従来の20ゲージシステムに比較し,器具の脆弱性や器具の種類が限られることから,適応も黄斑円孔,黄斑上膜,黄斑浮腫などの黄斑疾患に限られることが多かった.最近の器具ほかの発達で,極小切開硝子体手術の適応はどこまで広げることができるのだろうか.新しい器具・道具極小切開硝子体手術の場合は,結膜切開を行わない経結膜で行うため,眼球を圧迫し,観察することがややむずかしい.特に結膜が浅い下方の周辺観察は限られてしまう.そのこともあり従来は適応疾患が黄斑疾患に限られてきた.それを克服するため,周辺部の観察に広角観察系や内視鏡を導入することが必要になる.また,下方結膜に1カ所切開を入れることをためらわなければ,従来の20ゲージ手術とほぼ同じ状態で手術ができる.使用方法広角観察系で一番最初に使用できるようになったのはBIOM(オクルス社)3)で,その他現在使用可能な広角観察系は,OFFISS(OpticalFiberFreeIntravitrealSur-gerySystem)(トプコン社),EIBOS(メーラー社)P-W-L(Payman-Wessels-Landers)lens(オキュラー社)などがあり,前2社は上下の像を反転させるインバーターが必要であるが,後2社はインバーターの必要がない.各々若干の観察角度の違いはあるが,どの観察系もある程度の慣れは必要で,しばらくは使い続ける必要がある.内視鏡は現在ファイバーテック社のものが使用可能で185.極小切開硝子体手術の適応プレゼンテーション:北岡隆長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科・視覚科学教室コメント:小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学図1広角観察系を用いた極小切開硝子体手術赤道部を越えて硝子体基底部近くまで観察できる.図223ゲージ内視鏡鋸状縁(矢印)近くの網膜裂孔(矢尻)周囲の硝子体も内視鏡下で切除できる.———————————————————————-Page21532あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008本であるのに対して,画素数が少なく,同じ条件で像をモニターに出すと,かなり小さくなる.しかし,電気的に拡大することができ,実際の使用上は20ゲージの内視鏡とほぼ同じように,遜色なく使用できる.下方結膜の切開であるが,ほとんどの場合は広角観察系,内視鏡を使用すれば,下方結膜を切開しないでも手術遂行可能である.ただ,周辺の増殖を徹底して切除しないといけないときは,下方結膜の切開が必要になり,そのときは躊躇せずに結膜切開を併用し,強膜を圧迫する.下方に1カ所角膜輪部に垂直に切開すればほぼ下方半周は圧迫できる.強膜圧迫子は先があまり大きくないものが使いやすい.適応疾患従来極小切開硝子体手術の適応は黄斑疾患に限られてきたが,現状では裂孔原性網膜離,増殖糖尿病網膜症は十分に適応とすることができる.液体パーフルオロカーボンの使用を前提とすれば,増殖硝子体網膜症も適応として問題はないと思われる.カッターは23ゲージ,25ゲージともに20ゲージカッターより開口部が先端に近く,剪刀を用いなくとも,増殖組織の切除ができる.ただし,器具が限られることから,双手法を行わないといけない場面は多く,広角観察系の使用が望ましいことを考えても,フォトンやブライトスターのような高輝度の光源が必要である(表1).以上のように極小切開硝子体手術では,ほぼ20ゲージと同様の疾患を適応とすることができるようになってきている.1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuture-lessvitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1813,20022)EckardtC:Transconjunctivalsutureless23-gaugevitrec-tomy.Retina25:208-211,20053)SpitznasM,ReinerJ:Astereoscopicdiagonalinverter(SDI)forwide-anglevitreoussurgery.GraefesArchClinExpOphthalmol225:9-12,1987(62)20ゲージから最初に移行するには23ゲージのほうが容易であると考えられる.しかし,私はほとんどの症例を25ゲージで行っており,創口はやはり小さいほうが術後はきれいである.極小切開硝子体手術の唯一の欠点は,術後眼内炎の発症頻度が20ゲージと比較すると高いことである.現在,その原因究明や対策が研究されているが,この問題が早期に解決されることが本術式のさらなる普及には必須であろう.本稿で述べられているように,最近,極小切開硝子体手術の適応は飛躍的に拡大しており,眼内異物などの特殊症例を除けば,ほとんどすべての硝子体手術をこの手技で行うことができるようになっている.しかし,そのためには広角観察システムやキセノンシャンデリア照明などの装置を整えることが重要であり,手術手技も剛性が弱く,細い25ゲージや23ゲージの器具で行えるよう工夫が必要である.25ゲージと23ゲージとの選択は現時点では術者の好みによるが,本方法に対するコメント☆☆☆表1極小切開硝子体手術に併用が望ましい器具広角観察系インバーター要インバーター不要BIOM,OFFISSEIBOS,P-W-Llens内視鏡23ゲージ高輝度照明フォトン,フォトンII,ブライトスターなど

サプリメントサイエンス:オメガ-3多価不飽和脂肪酸

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815270910-1810/08/\100/頁/JCLS現在米国において進行中のAge-RelatedEyeDis-easeStudy(AREDS)2では,ルテインとともにw(オメガ)-3多価不飽和脂肪酸(polyunsaturatedfattyacid:PUFA)であるエイコサペンタエン酸(eicosapen-taenoicacid:EPA)/ドコサヘキサエン酸(docosahex-saenoicacid:DHA)の加齢黄斑変性(age-relatedmac-ulardegeneration:AMD)進行に対する影響が検討されている.PUFAとは炭素結合間に複数の二重結合を有する脂肪酸の総称であり,メチル基側から数えて3番目の炭素間結合に最初に二重結合が存在するものをw-3PUFA(図1),6番目に存在するものをw-6PUFAとよぶ.いずれも体内では合成されない必須脂肪酸であるため,食事などによって摂取する必要がある.魚由来のw-3PUFAであるEPA/DHAの摂取は,1975年にグリーンランドイヌイットの疫学調査において動脈硬化のリスクを低下することが報告されて以来1),現在まで種々の疾患においてその有用性が指摘されている.EPA/DHAによる高脂血症および心血管疾患の予防効果は,種々の臨床試験によって証明されている.高脂血症への効果についてはEPA/DHAの2~4g/日の摂取により血中トリグリセリド値が容量依存的に25~40%低下するとの報告があり2),w-3PUFAの一つであるEPAはその高純度製剤が抗高脂血症剤(エパデールR)として臨床的に用いられている.また,心臓発作の既往歴のある患者がEPA/DHAを摂取することにより死亡リスクが低下するとの報告もある3).w-3PUFAは,どのように高脂血症,虚血性心疾患などのリスクを低下させるのだろうか.その作用機序は以下のように考えられている.w-3およびw-6PUFAはともにエイコサノイド〔プロスタグランジン(PG),ロイコトリエン(LT),トロンボキサン(TX)〕の前駆体であるが,w-6PUFAはアラキドン酸を経て,生理活性(血管収縮作用,血小板凝集作用,炎症惹起作用)の強いPGE2,PGI2,TXA2,やLTA4などの代謝産物を生成するのに対して,w-3PUFAは弱い生理活性しかもたないPGE3,PGI3,TXA3,LTA5などに代謝される(図2).この際,w-3およびw-6は体内の代謝経路において律速段階酵素を共有するため,w-3PUFAの摂取は相対的にw-6系列からのエイコサノイドの合成を阻害することになる4).つまり,その代謝産物による生理活性も相対的に低下することが,種々の抗炎症作用につながるとされている.EPA/DHAは魚由来の脂肪に多く存在し,イワシやアジなどの青魚,サケやマグロなどに非常に多く含まれ(57)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑥監修=坪田一男6.オメガ3多価不飽和脂肪酸厚東隆志野田航介慶應義塾大学医学部眼科w(オメガ)-3多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸/ドコサヘキサエン酸(EPA/DHA)には抗炎症作用があり,その摂取は高脂血症,虚血性心疾患などに対する予防効果がある.眼科領域においても以前より加齢黄斑変性(AMD)発症との関係が示唆されており,現在AREDS2においてEPA/DHA投与によるAMD抑制効果を検討する大規模調査が行われている.図1w3PUFAの構造式w-3PUFA:メチル基(*)側から③番目の炭素間結合に最初に二重結合が存在するPUFA.↓②→↑③↑③①↓②→**エイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoicacid:EPA)H3CH3COHOHOOドコサヘキサエン酸(Docosahexaenoicacid:DHA)———————————————————————-Page21528あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008る(表1).厚生労働省によりまとめられた「2005年版日本人の食事摂取基準」において,w-3PUFAの摂取目標量は2.2~2.9g/日とされている.日本人の摂取するw-3PUFAのうち植物由来のa-リノレン酸が約60%,魚由来のEPA/DHAが約40%であり,EPA/DHAとしては1~1.2g/日以上の摂取が望ましいと考えられる.しかし,その一方で4g/日以上の摂取は出血時間を延長し,血小板数の減少をきたすため注意を要する5).また,w-3PUFAを魚油サプリメントで摂取する場合など,EPA/DHAの含有量が製品により大きく異なってくるため,摂取量はEPA/DHAの含有量に基づいて決定するべきである.近年,わが国において高純度EPA製剤の虚血性心疾患に対する発症抑制効果を検討したランダム化比較対照臨床試験が施行された(JapanEPALipidInterventionStudy:JELIS).高脂血症患者を対象にHMG-CoA還元酵素阻害薬治療をベースとして1.8g/日のEPA投与の有無を比較したところ,EPAの投与は主要冠動脈イベント発症リスクを19%軽減したとする報告である6).元来魚食の多いわが国においても,w-3PUFAの投与が有用であることを示す意味でも意義深い研究である.AMDとw-3PUFAの摂取の関連については,w-3PUFAを豊富に含む魚の摂食がAMDのリスクを低下させるとの報告も多くあるが,大規模なランダム化試験の結果は前述のAREDS2の結果を待たねばならない.筆者らの研究グループは,マウス実験的脈絡膜血管新生モデルにおいてEPAの経口投与が脈絡膜血管新生を抑制することを報告し(図3)7),そのメカニズムとしてEPA投与がアラキドン酸を減少させ炎症関連分子を抑制することを解明したが,これはAREDS2の生物学的(58)根拠となりうる知見である.EPA/DHAに代表されるw-3PUFAの摂取は,高脂血症の治療や心血管病変の予防に役立つことがすでに明らかとなっている.今後の医療が疾患に対してより早期に介入していく方向へと進むなか,w-3PUFAの豊富な魚を積極的に摂取するというライフスタイルを患者に勧めていくことは,さまざまな疾患を未然に防ぐ予防医学的アプローチにつながるであろう.w-3PUFAによるAMDの進行抑制効果が示されるか否か,初の大規模ランダム化試験であるAREDS2の結果に大きな期待が集まる.表1食物中のEPA/DHA含有量食品EPADHAイワシ(生)サンマ(生)サバ(生)アジ(干物)ウナギ(蒲焼き)本マグロ(トロ)1.200.890.500.560.751.401.301.700.701.301.303.20(g/100g)w-3PUFAの代謝経路w-6PUFAの代謝経路PGE3,PGI3,TXA3,LTA5など弱い生理活性ドコサヘキサエン酸(DHA)エイコサペンタエン酸(EPA)PGE2,PGI2,TXA2,LTA4などアラキドン酸強力な生理活性リノール酸6-desaturaseΔ親和性大親和性小図2w3/w6PUFAの代謝経路図3EPAによる脈絡膜新生血管の抑制(マウスレーザー誘導脈絡膜新生血管モデル)(×10-13m3)76543210EPA(w-3PUFA)*p<0.001リノール酸(w-6PUFA)EPA(w-3PUFA)リノール酸(w-6PUFA)bar=100?m———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081529(59)文献1)DyerbergJ,BangHO,HjorneN:FattyacidcompositionoftheplasmalipidsinGreenlandEskimos.AmJClinNutr28:958-966,19752)MontoriVM,FarmerA,WollanPCetal:Fishoilsupple-mentationintype2diabetes:aquantitativesystematicreview.DiabetesCare23:1407-1415,20003)Kris-EthertonPM,HarrisWS,AppelLJ:Fishconsump-tion,shoil,omega-3fattyacids,andcardiovasculardis-ease.ArteriosclerThrombVascBiol23:e20-30,20034)RodriguezA,SardaP,NessmannCetal:Delta6-anddelta5-desaturaseactivitiesinthehumanfetalliver:kineticaspects.JLipidRes39:1825-1832,19985)SimopoulosAP:Essentialfattyacidsinhealthandchron-icdisease.AmJClinNutr70:560S-569S,19996)YokoyamaM,OrigasaH,MatsuzakiMetal:Eectsofeicosapentaenoicacidonmajorcoronaryeventsinhyperc-holesterolaemicpatients(JELIS):arandomisedopen-label,blindedendpointanalysis.Lancet369:1090-1098,20077)KotoT,NagaiN,MochimaruHetal:Eicosapentaenoicacidisanti-inammatoryinpreventingchoroidalneovas-cularizationinmice.InvestOphthalmolVisSci48:4328-4334,2007☆☆☆

眼感染アレルギー:マルチパーパスソリューション(MPS)アレルギー

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815250910-1810/08/\100/頁/JCLSマルチパーパスソリューション(MPS;多目的用剤)アレルギーは,MPSの使用開始から数カ月経過した後に発症する角結膜炎である.遅延型過敏反応(Ⅳ型アレルギー)による免疫学的な発生機序が推測されているが,いまだ明確なメカニズムは解明されていない1).MPSは,ソフトコンタクトレンズ(SCL)の消毒・洗浄を目的として使用されるもので,通常,生体に対する影響はほとんど問題とならない.そのため,MPSを洗い流すことはなく,レンズにMPSが付着した状態で装用する.しかしながら,長期間,くり返し使用された場合にはMPSの含有成分による遅延型反応が発生すると考えられる.MPSアレルギーの診断MPSは主成分である消毒成分のほかに界面活性剤,防腐剤,緩衝剤,潤滑剤などさまざまな化学物質が配合されており,これらのすべての化学物質に対してアレルギー反応が起こりうる2,3).MPSアレルギーの自覚症状は,軽度の場合には違和感,乾燥感,充血であるが,疼痛や流涙などを訴えることもある.他覚的には角膜全体の広い範囲に点状表層角膜症を認め,角結膜輪部には小さな浸潤病巣が1から数個みられる(図1).結膜充血も角結膜輪部を中心にみられ,毛様充血を伴っていることが多い.MPSアレルギーの診断はMPSの使用中止により角結膜障害が治癒し,再度同じMPSを使用することで同様の症状,所見が再現されることから推測される.確定診断のためには原因と考えられる化学物質のアレルギー検査が必要となる.しかしながら,パッチテストやスクラッチテストなどのⅣ型アレルギー検査を行っても皮膚と結膜の薬剤浸透性の違いなどから偽陰性となることがある.このような場合には原因(アレルゲン)を究明することはむずかしい4,5).MPSアレルギーの鑑別疾患MPSアレルギーと鑑別を要する疾患を表1に示す.微生物による感染性角膜炎との鑑別では,MPSアレル(55)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑪監修=木下茂大橋裕一11.マルチパーパスソリューション(MPS)アレルギー柳井亮二西田輝夫山口大学大学院医学系研究科眼科学マルチパーパスソリューション(MPS;多目的用剤)アレルギーはMPSの使用開始から数カ月経過した後に発症する遅延型過敏反応(Ⅳ型アレルギー)による角結膜炎である.感染やアレルギーとの鑑別が重要で,安全性が高いと考えられているMPSにおいても,生体に対する影響は皆無ではなく,角結膜に障害が発生する可能性がある.図1角膜全体にみられた点状表層角膜症MPSの使用後3カ月.レンズケアをヨード製剤に変更してから点状表層角膜症の再発はみられない.表1MPSアレルギーの鑑別鑑別疾患鑑別に重要な症状と所見感染細菌性感染:粘性眼脂,角膜潰瘍ウイルス性感染:眼瞼結膜の濾胞形成,耳前リンパ節腫脹,感冒様症状ドライアイスマイルマークSPKフィッティング不良周辺部角膜のSPK・びらん(10時,2時)アレルギー性結膜炎痒感,眼瞼結膜の充血・浮腫,球結膜浮腫巨大乳頭結膜炎眼瞼結膜の巨大乳頭,レンズの汚れMPSとSCLとの相性CL装用後24時間でのSPKSPK:点状表層角膜症.———————————————————————-Page21526あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008ギーは粘性眼脂を呈することはなく,ウイルス性感染でみられる濾胞形成や耳前リンパ節腫脹や感冒様症状なども呈さないなどの所見が重要である6).確定診断のためには感染の疑われる症例では病巣,レンズおよびレンズケースなどの鏡検,培養検査を行う.ドライアイによる角膜炎では,角膜下方に円弧状の点状表層角膜症がみられることが特徴で,病巣は瞼裂に一致する.フィッティング不良の場合にはレンズが接触する角膜中間周辺部に点状表層角膜症がみられたり,10時あるいは2時に角膜びらんがみられたりする.アレルギー性結膜炎では痒感の訴えがあり,眼瞼結膜の充血,炎症が強く,眼瞼や球結膜の浮腫もみられる.巨大乳頭結膜炎との鑑別では,眼瞼結膜の乳頭増殖,ケア不十分によるレンズ汚れなどの所見が重要となる.その他のMPSによる角膜上皮障害では,特定のSCLと特定のMPSとの相性によって生じるものがある7).この角膜上皮障害はSCL装用後24時間で発生し,6時間以降に消失する.海外の報告では,角膜浸潤の危険性が高くなることも報告されているが,自覚症状はない場合が多く,定期検査で発見される.原因はMPSに含まれる化学物質の相互作用が特定のSCLの場合に増強するものと推測されている8,9).MPSアレルギーの治療MPSアレルギーが疑われる症例には,まず,障害の程度に応じて,SCLの装用を中止し,薬物治療はアレルギー薬,ステロイド薬,抗菌薬の点眼を開始する.SCLの再開にあたっては,1日タイプの使い捨てレンズを選択し,MPSを使用しないほうが好ましい.頻回交換型レンズを使用する際には,異なるMPS製剤を選択しても,同じ消毒成分や洗浄成分を使用していることがあるため,可能であれば過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤などを使用することが大切である.ただし,過酸化水素用剤では誤使用,ポビドンヨード製剤の使用にあ(56)たってはヨードアレルギーに注意が必要である.おわりに一般的には安全性が高いと考えられているMPSにおいても,生体に対する影響は皆無ではなく,MPSアレルギーなどにより角膜上皮障害を生じることがある.角膜上皮バリアが破綻した状態では,感染性角膜炎の危険性が高くなる.SCL消毒剤としてMPSが開発され,レンズケアが簡便になったことは,レンズケアに対するコンプライアンスの面で大きく貢献した.このことは,CLによる眼合併症の発生を予防するうえで大切なことである.一方,簡便なレンズケア操作と引き換えに微生物を消毒する効果のある化学物質を眼表面に直接接触させていることも事実であり,MPSによる障害の発生にも注意しなければならない.文献1)植田喜一:塩化ポリドロニウム(POLYQUADR)による角結膜障害が疑われた1例.眼科42:1833-1837,20002)丸山邦夫,横井則彦:マルチパーパスソリューション(MPS)による前眼部障害.あたらしい眼科18:1283-1284,20013)白石敦:マルチパーパスソリューション(MPS)の現況および問題点.日本の眼科79:17-22,20084)植田喜一:コンタクトレンズによる眼障害─MPSによる障害─.あたらしい眼科20:221-222,20035)柳井亮二:MPSアレルギーが認められたケース.日コレ誌47:290-292,20056)柳井亮二,西田輝夫:コンタクトレンズのケア用品による角膜傷害.臨眼61:706-710,20077)水谷由起夫:レンズケアとアレルギー.日コレ誌46:102-103,20048)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.EyeContactLens31:166-174,20059)PapasEB,CarntN,WillcoxMDetal:Complicationsasso-ciatedwithcareproductuseduringsiliconedailywearofhydrogelcontactlens.EyeContactLens33:392-393,2007☆☆☆

緑内障:トラベクレクトミー・トリプル術後のCapsular block syndrome

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815230910-1810/08/\100/頁/JCLSCとは白内障手術後のcapsularblocksyndrome(CBS)は,continuouscurvilinearcapsulorhexis(CCC)の開口部が眼内レンズ(IOL)の光学部前面で閉鎖されることにより発生する非常にまれな疾患である1).物理的に閉鎖された水晶体内には液体成分の貯留があり(図1),多くの場合,IOL後面と後との距離が大きく乖離している所見が観察される.術後のCBSは,術直後から2週以内に発生しうる早期CBSと,数年を経過した後に発生しうる後期CBSに分類されるが,早期のCBSは浅前房化を招き眼圧上昇をきたす可能性のあることが知られている2).治療はYAGレーザーによる後切開が第一選択とされており,切後は速やかに前房深度の回復が得られる.ラベクレクトミー・トリプル手術とCBS近年の小切開白内障手術手技の向上とともに,トラベクレクトミーを行う際にも積極的に白内障手術が併用されるようになった.トリプル手術の件数が増えれば,当然のことながら術後早期のCBSに出会う頻度も増えることになる.YAGレーザー後切開を行ってしまえば予後良好とはいうものの,一番の問題はトラベクレクトミーを行った直後だということである.いわば医原性に眼球破裂をわざと作り上げているといっても過言ではな(53)●連載101緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄101.トラベクレクトミー・トリプル術後のCapsularblocksyndrome木内貴博筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻眼科学Capsularblocksyndromeは,近代的白内障手術に特有で,まれな合併症であるが,トラベクレクトミー・トリプル手術を行う機会が増している現状を考えると,緑内障術者としても当然起こりうるものとして心構えをしておかねばならない.その際の処置を安全に行うためにも,強膜弁はtightに縫合しておく原則を忘れないようにしたい.図1白内障術後早期のcapsularblocksyndromeのイメージ眼内レンズ(IOL)前面と前は全周にわたり接触し,閉鎖された水晶体内は液体成分の貯留により大きく膨らむ.(文献1より改変)図2後切開前後の前眼部写真a:術後3時間の前眼部所見.眼内レンズ(IOL)と後との距離は大きく乖離している.この後にYAGレーザーによる後切開術を行った.b:後切開翌日の前眼部所見.IOLと後はほぼ接触している.黒矢頭:IOL前面,白矢頭:後.ab———————————————————————-Page21524あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008い状態であり,切用のコンタクトレンズを術眼に当て,眼球を圧迫することなくレーザー照射することはきわめて困難である.コンタクトレンズを使用せずに切することも可能であるが,安全性を考えるとこれもやめたほうがよい.そんななか,トラベクレクトミー・トリプル手術後早期のCBSに遭遇する機会を得た.トラベクレクトミー・トリプル手術後早期CBSの自験例症例は78歳,女性.左眼に開放隅角緑内障と白内障があり,眼圧コントロールが不良であったため,トラベクレクトミー・トリプル手術を施行した.術当日(術後3時間)に診察を行ったところ,IOL前面が虹彩後面と完全に接触しているのが観察され,CCCが施された前はIOLの光学部によってこれでもかと押しつけられている様子がうかがえた(図2a).前房深度もやや浅い状況であった(図3a).「過剰濾過!」と思いつつ眼圧を測定すると15mmHgもある.そこで悪性緑内障を疑い,IOL後面をよく観察してみたが,硝子体線維がまったく見当たらない.細隙光のフォーカスを相当後方にしたときに,ようやく後がみえた(図2a).手術当日にすでに発症していたCBSであった.幸い強膜弁を6糸縫合(54)してあったので,YAGレーザーで注意深く後切開を行った.切後は速やかにIOL後面と後が接触し(図2b),前房も深くなった(図3b).マイトマイシンCを併用したトラベクレクトミーの場合,強膜弁を多糸縫合して術後の過剰濾過を防止し,lasersuturelysisにより段階的に眼圧を調整する方法がすすめられている.今回の場合もその原則を守ったお蔭でレーザー用レンズを術眼に装着することに躊躇することはなかった.トラベクレクトミー・トリプル手術の場合,ある程度過剰濾過にしても前房消失に至ることが少ないため,ともするとやや漏らし気味で手術を終えてしまうことがある.しかし,まれではあるが,術後極早期にYAGレーザーを適応しなければならない可能性のあることも視野に入れて,原則を忠実に守ることの重要性を再認識しておきたいものである.文献1)MiyakeK,OtaI,IchihashiSetal:Newclassicationofcapsularblocksyndrome.JCataractRefractSurg24:1230-1234,19982)HoJD,LeeJS,ChenHCetal:Earlypostoperativecapsu-larblocksyndrome.ChangGungMedJ26:745-753,2003☆☆☆図3前眼部3次元光干渉断層計(CAS-OCT)の所見a:術後3時間のCAS-OCT所見.角膜後面と眼内レンズ(IOL)前面との距離は2.75mmである.b:後切開翌日のCAS-OCT所見.角膜後面からIOL前面までの距離は3.78mmとなり,前房深度が増している.2.75mm3.78mmab

屈折矯正手術:屈折矯正手術後の眼圧評価

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815210910-1810/08/\100/頁/JCLS眼圧の評価にはこれまでGoldmann圧平眼圧計(GAT)が用いられている.しかし,GATの測定値は角膜厚の影響を受けることが報告1)されている.一方,パスカルダイナミックカンタートノメーター(DCT:PASCALR,ZeimerOphthalmicSystems)(図1)は屈折矯正手術で角膜を削ることにより角膜厚が減少する場合でも,正確な眼圧が測定できるとも報告されている2).その理由としてDCTでは,角膜カーブに合わせた凹型の7mmのセンサーチップにより圧平時の角膜の歪み・変形を最小限にしている.また,チップ周辺部と角膜の隙間が小さいため,表面張力はより大きく働く.結果として眼球剛性と表面張力が打ち消しあうと圧平する力と眼圧により生じる力が釣り合う.この状態をカンターマッチングとよんでおり,センサーチップに埋め込まれた1.2mmのプレッシャーセンサーが実際の正確な眼圧を測定できる.これまで,筆者らは正常眼のGoldmann視野計測とDCTの眼圧を比較し,正常眼では,GATとDCTは有意の相関(p<0.001)があり,GATと角膜厚も有意の相関(p=0.0167),DCTと角膜厚は有意の傾向(p=0.0647),GAT:14.0±2.1mmHg,DCT:15.8±2.4mmHgとDCTのほうが,1.8mmHg高いことを報告した(渥美一成ほか:屈折矯正術後の眼圧測定.第61回日本臨床眼科学会,2007).一方,LASIK(laserinsitukeratomileusis)眼の眼圧はGAT:12.6±2.2mmHg,DCT:14.9±2.1mmHgと有意(p<0.0001)に相関し,DCTが2.3mmHg高かった.LASIK眼のGATと角膜厚は有意な正の相関(p=0.0049)を示したが,DCTは角膜厚と相関せず(p=0.3794),正常眼と似た結果であった(表1).PRK(photorefractivekeratectomy)眼の眼圧はGAT:13.3±2.4mmHg,DCT:15.1±2.2mmHgと有意に相関(p<0.0001)し,DCTが1.8mmHg高か(51)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載102監修=木下茂大橋裕一坪田一男102.屈折矯正手術後の眼圧評価渥美一成セントラルアイクリニック屈折矯正手術後は角膜厚が薄くなりGoldmann眼圧計による眼圧の値が1mmHg低下する.パスカルの眼圧計では,LASIKでは0.4mmHgの低下,PRK(photorefractivekeratectomy)では0.5mmHgの低下で,角膜厚の影響を受けなかった.表1正常眼,LASIK眼,PRK眼の眼圧と角膜厚GAT(mmHg)DCT(mmHg)眼圧差(mmHg)GATと角膜厚の相関DCTと角膜厚の相関術前後のGAT差術前後のDCT差正常眼14.0±2.115.8±2.41.8正の相関p=0.0167なしp=0.0647LASIK眼12.6±2.214.9±2.12.3正の相関p=0.0049なしp=0.37941.10.3PRK眼13.3±2.415.1±2.21.8なしp=0.3383正の相関p=0.01100.80.4図1パスカルダイナミックカンタートノメーター左:全体像,右:センサーチップ.———————————————————————-Page21522あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008った.GATと角膜厚は相関がなく(p=0.3388),逆にDCTと角膜厚で有意の正の相関(p=0.0110)を認めた.これはLASIK眼や正常眼とは異なる性質である.この原因に関してはPRKの場合,LASIKより削る量が多く脈波の信頼度が低いことも関係しているかもしれない.屈折矯正手術前後のGATの眼圧はLASIK眼が術前13.7±2.0mmHg,術後12.6±2.1mmHgと1.1mmHg低下するが,DCTでは術前15.4±2.5mmHgが,術後15.0±2.0mmHgと0.4mmHgしか低下せず,角膜厚の変化に左右されなかった(図2).PRK眼もGATの眼圧が術前14.3±1.3mmHgが,術後13.5±2.2mmHgと0.9mmHg低下するのに対して,DCTは術前15.8±2.0mmHgが,術後15.4±2.3mmHgと0.4mmHgの低下とLASIKと同様に眼圧の影響が少なかった(図3).PRKは切除量がLASIKより有意に多いため,信頼度がLASIKより低く,LASIKよりバラツキが大きい傾向にあった.LASIK,PRKの切除量と,眼圧変動はGAT,DCTとも相関を認めなかった.屈折矯正手術後は角膜厚が薄くなることより,術後の眼圧変化の信頼度が低下すると考えられている.特に緑内障眼の眼圧コントロールがより困難になるため,現時点では,吸引による視野の悪化から禁忌とされているLASIKだけでなく,PRKもGATによる術後眼圧測定の信頼性から躊躇されている.しかし,今回の結果は屈折矯正手術後のGATの眼圧の低下は切除量が150μm以下であれば,眼圧の低下は平均1mmHg程度であり,LASIK眼0.4mmHgの低下,PRK眼であれば0.5mmHgの低下に過ぎず,吸引の不用なPRK眼の場合,術前,術後にGAT,DCTともに測定されていれば,屈折矯正手術後の正確な眼圧経過観察は可能と考えられた.文献1)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:ComparisonofdynamiccontourtonometrywithGoldmannapplanationtonometry.InvestOphthalmolVisSci45:3118-3121,20042)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:Intraocularpres-suremeasurementsusingdynamiccontourtonometryafterlaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci44:3790-3794,2003(52)☆☆☆01020眼圧(mmHg)GATDCT術前13.715.4術後12.615.1図2LASIK術前後の眼圧眼圧術前術後図3PRK術前後の眼圧

眼内レンズ:Zinn小帯の脆弱度分類

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815190910-1810/08/\100/頁/JCLSZinn小帯が弱い症例の白内障手術では,超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsicationandaspiration:PEA)で行うか,あるいは内摘出術(ICCE)や外摘出術(ECCE)を選択すべきかその判断に迷うことが多い.外来での診察時から脱臼,振盪がみられる重度の脆弱例では手術の方針は立てやすいものの,高年齢で硬い核,水晶体偽落屑症候群,レーザー虹彩切開術後などいわゆる脆弱が疑われる場合では術前に実際の弱さを判定するのは困難である.核の溝掘りや分割などの手術操作で脆弱度が増してPEAからICCEへの術式変更を余儀なくされることも少なくない.手術開始時の可能なかぎり早い段階で脆弱の程度を判定できれば,その後の対処法を講じやすく,より安全な手術が可能になる.連続円形切(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)開始時の水晶体に負荷をかけたときの所見がZinn小帯(49)谷口重雄昭和大学藤が丘病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎267.Zinn小帯の脆弱度分類Zinn小帯が弱い症例の白内障手術では,超音波水晶体乳化吸引術で行うか,あるいは内摘出術(ICCE)や外摘出術(ECCE)を選択すべきか判断に迷うことが多い.連続円形切(CCC)開始時の水晶体に負荷をかけたときの所見がZinn小帯強度を反映すると考え,Zinn小帯の脆弱度を分類した.脆弱度分類は補助器具や術式の選択,眼内レンズ固定法の予測に有用と考えられた.図1ZW0度水晶体の動揺と前の皺襞はない.図2ZW1度前の皺襞を認める.図3ZW3度水晶体が揺れて前を穿刺できない.図4ZW4度水晶体亜脱臼を認める.表1Zinn小帯脆弱度の分類(ZW分類)(谷口,2008)分類所見0度開始時:水晶体の動揺はない.前の皺襞はない.1度開始時:動揺はないかわずかに認める.皺襞を認める.2度開始時:動揺を認めるもBSS(balancedsaltsolution)または粘弾性物質のもとで裂ける.引き裂き時:赤道部に向かう深い前の皺襞を認める.3度開始時:動揺が強くBSSまたは粘弾性物質のもとでは裂けない.高粘度粘弾性物質を用いれば裂ける.細い針,メス(Vランスなど)による穿刺を必要とする.引き裂き時:高粘度粘弾性物質,鑷子を必要とする.4度2度または3度に加えて水晶体振盪,水晶体脱臼を認める.注:1)CCC開始時で針先を前に押しながら引く際の水晶体動揺と前皺襞,穿刺後の引き裂きで赤道部に向かう前皺襞を観察する.2)0~2度にZinn小帯断裂を伴うときにはこれを付記する.———————————————————————-Page2強度を反映すると考え,これをもとにZinn小帯の脆弱度を分類した1)(ZonularWeakness:ZW分類,表1,図1~4).当科でPEAを行った1,045眼の内訳では,ZW0度は22%,1度は70%,2度は6%,3度と4度は各々1%であった.0度と1度ではZinn小帯はほぼ健常と考えられる群で,956眼中953眼ではPEA単独で手術を終えた.2度以上は明らかにZinn小帯が弱いと考えられる群であり,CCC後に水晶体を支える補助器具として水晶体フック(capsuleexpander:CE)2~4)を装着してから核乳化を行った.CEを用いてPEAを施行した割合は,2度では15%,3度,4度はともに100%であった.全例ともECCEやICCEにコンバートすることなくPEAを施行できた.ZW分類0度と1度では問題なくPEAができる群,2度以上ではCE使用によるPEAあるいはECCE,ICCEの術式選択を必要とする群と考えられた(表2).CCC時の水晶体動揺と前皺襞を指標としたZW分類は加齢によるZinn小帯の脆弱性をある程度反映し,補助器具や術式の選択,眼内レンズ固定法の予測に有用と考えられた.文献1)谷口重雄,田口央子,西村栄一ほか:前切開時の水晶体動揺を指標にしたZinn小帯脆弱度分類の試み.臨眼62:879-883,20082)谷口重雄:手術器具/カプセルエキスパンダー.IOL&RS18:82-83,20043)小沢忠彦,谷口重雄:カプセルエキスパンダーを用いたZinn小帯脆弱例の超音波白内障手術.あたらしい眼科21:773-774,20044)NishimuraE,YaguchiS,NishiharaHetal:Capsularsta-bilizationdevicetopreservelenscapsuleintegrityduringphacoemulsicationwithaweakzonule.JCataractRefractSurg32:392-395,2006表2ZW分類と術式の選択ZW分類術式0度PEA1度PEA2度PEA+CE,ECCE3度PEA+CE,ECCE4度PEA+CE,ICCE,vitrectomyPEA:超音波水晶体乳化吸引術,CE:水晶体フック,ECCE:外摘出術,ICCE:内摘出術.