———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815270910-1810/08/\100/頁/JCLS現在米国において進行中のAge-RelatedEyeDis-easeStudy(AREDS)2では,ルテインとともにw(オメガ)-3多価不飽和脂肪酸(polyunsaturatedfattyacid:PUFA)であるエイコサペンタエン酸(eicosapen-taenoicacid:EPA)/ドコサヘキサエン酸(docosahex-saenoicacid:DHA)の加齢黄斑変性(age-relatedmac-ulardegeneration:AMD)進行に対する影響が検討されている.PUFAとは炭素結合間に複数の二重結合を有する脂肪酸の総称であり,メチル基側から数えて3番目の炭素間結合に最初に二重結合が存在するものをw-3PUFA(図1),6番目に存在するものをw-6PUFAとよぶ.いずれも体内では合成されない必須脂肪酸であるため,食事などによって摂取する必要がある.魚由来のw-3PUFAであるEPA/DHAの摂取は,1975年にグリーンランドイヌイットの疫学調査において動脈硬化のリスクを低下することが報告されて以来1),現在まで種々の疾患においてその有用性が指摘されている.EPA/DHAによる高脂血症および心血管疾患の予防効果は,種々の臨床試験によって証明されている.高脂血症への効果についてはEPA/DHAの2~4g/日の摂取により血中トリグリセリド値が容量依存的に25~40%低下するとの報告があり2),w-3PUFAの一つであるEPAはその高純度製剤が抗高脂血症剤(エパデールR)として臨床的に用いられている.また,心臓発作の既往歴のある患者がEPA/DHAを摂取することにより死亡リスクが低下するとの報告もある3).w-3PUFAは,どのように高脂血症,虚血性心疾患などのリスクを低下させるのだろうか.その作用機序は以下のように考えられている.w-3およびw-6PUFAはともにエイコサノイド〔プロスタグランジン(PG),ロイコトリエン(LT),トロンボキサン(TX)〕の前駆体であるが,w-6PUFAはアラキドン酸を経て,生理活性(血管収縮作用,血小板凝集作用,炎症惹起作用)の強いPGE2,PGI2,TXA2,やLTA4などの代謝産物を生成するのに対して,w-3PUFAは弱い生理活性しかもたないPGE3,PGI3,TXA3,LTA5などに代謝される(図2).この際,w-3およびw-6は体内の代謝経路において律速段階酵素を共有するため,w-3PUFAの摂取は相対的にw-6系列からのエイコサノイドの合成を阻害することになる4).つまり,その代謝産物による生理活性も相対的に低下することが,種々の抗炎症作用につながるとされている.EPA/DHAは魚由来の脂肪に多く存在し,イワシやアジなどの青魚,サケやマグロなどに非常に多く含まれ(57)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑥監修=坪田一男6.オメガ3多価不飽和脂肪酸厚東隆志野田航介慶應義塾大学医学部眼科w(オメガ)-3多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸/ドコサヘキサエン酸(EPA/DHA)には抗炎症作用があり,その摂取は高脂血症,虚血性心疾患などに対する予防効果がある.眼科領域においても以前より加齢黄斑変性(AMD)発症との関係が示唆されており,現在AREDS2においてEPA/DHA投与によるAMD抑制効果を検討する大規模調査が行われている.図1w3PUFAの構造式w-3PUFA:メチル基(*)側から③番目の炭素間結合に最初に二重結合が存在するPUFA.↓②→↑③↑③①↓②→**エイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoicacid:EPA)H3CH3COHOHOOドコサヘキサエン酸(Docosahexaenoicacid:DHA)———————————————————————-Page21528あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008る(表1).厚生労働省によりまとめられた「2005年版日本人の食事摂取基準」において,w-3PUFAの摂取目標量は2.2~2.9g/日とされている.日本人の摂取するw-3PUFAのうち植物由来のa-リノレン酸が約60%,魚由来のEPA/DHAが約40%であり,EPA/DHAとしては1~1.2g/日以上の摂取が望ましいと考えられる.しかし,その一方で4g/日以上の摂取は出血時間を延長し,血小板数の減少をきたすため注意を要する5).また,w-3PUFAを魚油サプリメントで摂取する場合など,EPA/DHAの含有量が製品により大きく異なってくるため,摂取量はEPA/DHAの含有量に基づいて決定するべきである.近年,わが国において高純度EPA製剤の虚血性心疾患に対する発症抑制効果を検討したランダム化比較対照臨床試験が施行された(JapanEPALipidInterventionStudy:JELIS).高脂血症患者を対象にHMG-CoA還元酵素阻害薬治療をベースとして1.8g/日のEPA投与の有無を比較したところ,EPAの投与は主要冠動脈イベント発症リスクを19%軽減したとする報告である6).元来魚食の多いわが国においても,w-3PUFAの投与が有用であることを示す意味でも意義深い研究である.AMDとw-3PUFAの摂取の関連については,w-3PUFAを豊富に含む魚の摂食がAMDのリスクを低下させるとの報告も多くあるが,大規模なランダム化試験の結果は前述のAREDS2の結果を待たねばならない.筆者らの研究グループは,マウス実験的脈絡膜血管新生モデルにおいてEPAの経口投与が脈絡膜血管新生を抑制することを報告し(図3)7),そのメカニズムとしてEPA投与がアラキドン酸を減少させ炎症関連分子を抑制することを解明したが,これはAREDS2の生物学的(58)根拠となりうる知見である.EPA/DHAに代表されるw-3PUFAの摂取は,高脂血症の治療や心血管病変の予防に役立つことがすでに明らかとなっている.今後の医療が疾患に対してより早期に介入していく方向へと進むなか,w-3PUFAの豊富な魚を積極的に摂取するというライフスタイルを患者に勧めていくことは,さまざまな疾患を未然に防ぐ予防医学的アプローチにつながるであろう.w-3PUFAによるAMDの進行抑制効果が示されるか否か,初の大規模ランダム化試験であるAREDS2の結果に大きな期待が集まる.表1食物中のEPA/DHA含有量食品EPADHAイワシ(生)サンマ(生)サバ(生)アジ(干物)ウナギ(蒲焼き)本マグロ(トロ)1.200.890.500.560.751.401.301.700.701.301.303.20(g/100g)w-3PUFAの代謝経路w-6PUFAの代謝経路PGE3,PGI3,TXA3,LTA5など弱い生理活性ドコサヘキサエン酸(DHA)エイコサペンタエン酸(EPA)PGE2,PGI2,TXA2,LTA4などアラキドン酸強力な生理活性リノール酸6-desaturaseΔ親和性大親和性小図2w3/w6PUFAの代謝経路図3EPAによる脈絡膜新生血管の抑制(マウスレーザー誘導脈絡膜新生血管モデル)(×10-13m3)76543210EPA(w-3PUFA)*p<0.001リノール酸(w-6PUFA)EPA(w-3PUFA)リノール酸(w-6PUFA)bar=100?m———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081529(59)文献1)DyerbergJ,BangHO,HjorneN:FattyacidcompositionoftheplasmalipidsinGreenlandEskimos.AmJClinNutr28:958-966,19752)MontoriVM,FarmerA,WollanPCetal:Fishoilsupple-mentationintype2diabetes:aquantitativesystematicreview.DiabetesCare23:1407-1415,20003)Kris-EthertonPM,HarrisWS,AppelLJ:Fishconsump-tion,shoil,omega-3fattyacids,andcardiovasculardis-ease.ArteriosclerThrombVascBiol23:e20-30,20034)RodriguezA,SardaP,NessmannCetal:Delta6-anddelta5-desaturaseactivitiesinthehumanfetalliver:kineticaspects.JLipidRes39:1825-1832,19985)SimopoulosAP:Essentialfattyacidsinhealthandchron-icdisease.AmJClinNutr70:560S-569S,19996)YokoyamaM,OrigasaH,MatsuzakiMetal:Eectsofeicosapentaenoicacidonmajorcoronaryeventsinhyperc-holesterolaemicpatients(JELIS):arandomisedopen-label,blindedendpointanalysis.Lancet369:1090-1098,20077)KotoT,NagaiN,MochimaruHetal:Eicosapentaenoicacidisanti-inammatoryinpreventingchoroidalneovas-cularizationinmice.InvestOphthalmolVisSci48:4328-4334,2007☆☆☆