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コンタクトレンズ:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(3)

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815170910-1810/08/\100/頁/JCLSソフトコンタクトレンズ装用下の酸素不足を解消ハードコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給はおもにレンズの動きに伴う涙液交換に依存しているため,レンズフィッティングが適正で,良好な涙液交換が確保されていれば,たとえ素材の酸素透過性が低くても,眼への酸素供給は十分に確保される(図1a).一方,ソフトコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給は,おもに素材を透過する酸素に依存しているため,ソフトコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給を増やすためには,より薄いデザインのレンズを作製するか,素材の酸素透過性をあげなければならない(図1b).従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズの酸素透過性は,素材の含水性に依存しているために,水の酸素透過係数である80を超えることは理論的にも不可能であった.ガス透過性ハードコンタクトレンズの素材では酸素透過係数が100を超えるものも少なくなく,従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給はガス透過性ハードコンタクトレンズに比べて大きく劣っていた.そのため,たとえ高性能の使い捨てソフトコンタクトレンズであっても,長時間の装用により眼の酸素不足を生じ,眼感染症,角膜血管新生,角膜内皮細胞障害などの合併症を生じていた.従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズの酸素供給における問題点を解消するために誕生したのが,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズである.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズには水の成分も含まれるが,素材の酸素透過性はおもに素材に含まれるシリコーンに依存している.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズでは水の成分が少なくなるほど,シリコーンの含有率が高まり,素材の酸素透過性が高くなる(図2).現在,国内外で発売されているシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの多くは酸素透過係数が100を超えている.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(47)の登場により,ソフトコンタクトレンズ装用による酸素不足が原因となったさまざまな眼障害が減少することが期待される.燥感の軽減ソフトコンタクトレンズ装用下ではおもにソフトコン糸井素純道玄坂糸井眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純.ハードコンタクトレンズ.ソフトコンタクトレンズ図1コンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給の違いハードコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給は,おもに瞬目によるレンズ移動に伴う涙液交換(青の矢印)に依存しているが,ソフトコンタクトレンズ装用下では涙液交換に伴う酸素供給はわずかであり,おもにレンズ自体を透過する酸素(赤い矢印)に依存している.含水率()Dk値200180101401201008004020010080040200シリコーンハイドロゲルハイドロゲル(従来の含水性SCL素材)水図2含水率と酸素透過係数(Dk値)———————————————————————-Page21518あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(00)タクトレンズを通じて水分が蒸発することにより,眼表面が乾燥する.そのため,ソフトコンタクトレンズ装用下の乾燥感はレンズ素材の含水性とレンズ厚に左右される.含水性が高く,レンズ厚が薄いソフトコンタクトレンズは乾燥感が強く,含水性が低く,レンズ厚が厚いソフトコンタクトレンズが少ない.従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズでは,眼への酸素供給を高めるためには,高い含水性と薄いレンズデザインを採用する必要があったため,高性能(高酸素透過性)のレンズほど乾燥感が強いという宿命があった.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズでは,酸素透過性は素材に含まれるシリコンに依存するために,低含水性でありながら,高酸素透過性を実現できるために,酸素透過性の高いソフトコンタクトレンズでありながら,乾燥感の低減を実現できた(図3).結膜充血の軽減ソフトコンタクトレンズ装用下の慢性の球結膜の軽度~中等度の充血は,ハイドロゲルコンタクトレンズ装用者では頻繁にみられる合併症で,特に輪部に強い.このソフトコンタクトレンズ装用下の球結膜の充血はレンズ素材の酸素透過性,レンズのフィッティング,眼表面の乾燥などが複雑に絡み合って発症する.従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズと違い,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズでは高い酸素透過性と同時に,素材の低含水性を実現できるために,眼表面の乾燥を軽減することができる.その結果として,これまでは対応が困難であったソフトコンタクトレンズ装用下の慢性の球結膜充血を軽減できる.******ハイドロゲルレンズO2オプティクス装用1間O2オプティクス装用4間O2オプティクス装用12間12457124通57良好不良図3乾燥感の強さハイドロゲルコンタクトレンズvsシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(O2オプティクス).ハイドロゲルレンズとの有意差**p<0.01.

写真:多発性骨髄腫に伴う角膜混濁

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815150910-1810/08/\100/頁/JCLS(45)細谷比左志市立豊中病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦294.多発性骨髄腫に伴う角膜混濁図2図1のシェーマ図4図3のシェーマ①:host-graftjunction.②:角膜移植片も全層にわたって混濁している.①①②図1良性M蛋白血症(IgGgammopathy)にみられた角膜混濁(69歳,女性)角膜の全層に混濁がみられる.矯正視力は(0.01).(写真提供:岡本眼科クリニック岡本茂樹先生のご厚意による.図3も同様)図3図1と同一症例の他眼全層角膜移植術を施行され,視力(1.0)を得たが,混濁が再発し視力(0.15)にまで低下した.混濁が角膜全体に広がる.角膜の全層にわたって微細な結晶状混濁がみられる上眼瞼———————————————————————-Page21516あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(00)多発性骨髄腫1)は,骨髄原発の腫瘍で,形質細胞(plasmacell)の腫瘍である.単一クローンの形質細胞が異常増殖し制御不能の状態になり,単一の免疫グロブリン(M蛋白とよばれる)が異常に増加する.40~70歳に好発し,30歳までに発症することはまれといわれている.免疫グロブリンの型はIgG70%,IgA29%,IgD1%である2,3).全身症状として,多発性に骨破壊が生じ,病的骨折が起こる.また骨髄の障害により貧血がひき起こされる.約70%の症例に,頭骸骨,脊椎,肋骨にpunched-outlesionという特徴的なX線所見がみられることで有名である.眼の変化は,眼窩,結膜,角膜,ぶどう膜,網膜,視神経に出現する.眼窩病変は比較的まれではあるが,眼窩内への骨髄腫細胞の浸潤により眼球突出,複視,視力障害が起こる.結膜では,血液の粘稠度亢進により結膜血管のbloodsludgingという現象がみられる.また免疫グロブリンの結晶が結膜に沈着することがある.そして角膜には,本写真セミナーのテーマである,角膜混濁がみられる.これは,角膜上皮および角膜実質内への免疫グロブリン結晶の沈着が本態である.無数の微細な多彩色の結晶が実質中にみられ,角膜のすべてのレベルにみられる.この変化は1958年にBurki4)が最初に報告した.角膜への沈着は,涙液,輪部血管,前房水からの経路が考えられるが,どの経路由来かは不明である.また,高カルシウム血症に合併した帯状角膜変性や,その他,まれに銅の沈着の所見がみられることがある.ぶどう膜では,毛様体に胞がみられたり,脈絡膜腫瘍がみられることがある.網膜には血液の粘稠度亢進により,網膜静脈の怒張,拡張,出血,綿花様白斑,網膜前出血などの所見がみられる.その他,視神経にうっ血乳頭や浸潤などの変化を認めることがある.貧血,骨痛,病的骨折,全身疲労,血沈値亢進のある患者は,多発性骨髄腫が疑われ,高グロブリン血症,BenceJones蛋白尿,蛋白電気分解異常,特徴的X線所見などにより,診断する.鑑別すべき疾患として,マクログロブリン血症,クリオグロブリン血症,良性M蛋白血症などがある.このうち,良性M蛋白血症とは,血中にM蛋白を認めるが,基礎疾患(骨髄腫,マクログロブリン血症,アミロイドーシス,リンパ腫など)を認めないものをいい,健常者の1~3%にみられる.この良性M蛋白血症やクリオグロブリン血症でも,角膜,結膜への免疫グロブリン結晶の沈着がみられ,注意が必要である.今回の症例がそれである.治療として,角膜混濁による視力低下例では,表層角膜移植(特にDLKP:深層層状角膜移植)あるいは全層角膜移植を施行するが,今回の症例のように,原疾患が治療されていなければ再発する.角膜内に沈着する免疫グロブリンがプラスまたはマイナスに荷電しているという性質を利用して,イオントフォレーゼによって除去する試みがなされ,良好な結果を得ているという報告がある.文献1)細谷比左志:多発性骨髄腫.新図説臨床眼科講座3,角結膜疾患,p102-103,メジカルビュー社,20012)OrellanaJ,FriedmanAH:Dysproteinemias.TheEyeinSystemicDisease(edbyGoldDH,WeingeistTA),p134-138,Lippincott,Philadelphia,19903)PietteWW,BlodiCF:Multiplemyelomaandotherplas-macelldyscrasia.TheEyeinSystemicDisease(edbyGoldDH,WeingeistTA),p140-142,Lippincott,Philadel-phia,19904)BurkiE:Cornealchangesinacaseofmultiplemyeloma(plasmocytoma).Ophthalmologica135:565-572,1958

細胞診,細胞表面マーカ,免疫グロブリン遺伝子再構成,眼内液サイトカインの検査

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSがなされるべきなのは当然である.II細胞診前房水や硝子体に遊出した細胞にGiemsa染色やPapanicolaou染色を行い,細胞異型の程度に注目して評価する.わが国ではPapanicolaou分類(表1)に準じて評価されることが多い.細胞診には,当然ある程度の細胞量が必要であり,同時に得られた細胞の質がその検査結果を大きく左右する.一般に悪性度の高いリンパ球は壊れやすく,副腎皮質ステロイド薬には細胞融解作用があるので,時間が経過した加療後の硝子体からのサンプルは腫瘍細胞のコンディションが悪く,不適切試料とされる場合も多い(図1a).これに対して,前房蓄膿をきたした前房からのサンプルを用いると良い標本を得ることができる(図1b).なお,硝子体細胞の採集には硝子体カッターを用いるが,カッターのサイズや回転数には定説がない.可能なかぎり多くの細胞を採集するため工夫は重要で,強はじめに眼内炎症診断の基本は非侵襲的検査であるが,眼内サンプルから得られる情報が診断に決定的な意味をもつ場合がある.その一つは感染性ぶどう膜炎であり,微量であれ病原体遺伝子が証明されれば,治療への大きな足がかりとなる.もう一つは炎症の仮面をかぶった悪性腫瘍の眼内浸潤,いわゆる仮面症候群で,特に腫瘍化したリンパ球細胞の眼内浸潤『眼内悪性リンパ腫』の診断に重要である.本稿では,おもに眼内悪性リンパ腫診断のためにという観点から,細胞診,細胞表面マーカ,DNA検査,眼内液サイトカイン濃度測定について述べる.I眼内悪性リンパ腫診断の難点眼内悪性リンパ腫の診断は“challenging”とされる1).最もchallengingなのは,硝子体の「細胞診」で悪性リンパ腫の診断を下そうとすることで,これは通常リンパ腫を「病理組織診」で診断することから大きく逸脱している.すなわち,リンパ腫は個々の細胞の特徴に加え,生体組織における細胞集積の仕方や振る舞い,といった全体像を通して診断されるのが一般的であり,細胞の異型度に主眼をおいた評価(細胞診)だけから診断を下すことは通常しない.しかし,眼内悪性リンパ腫は中枢神経に転移しやすく生命予後不良の疾患であり,他方,眼球機能を温存しながら眼内組織を得ることは容易でないのだから,入手しやすい硝子体サンプルを詳細に解析して診断を下す努力(41)1511AuiAui眼5831115眼特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):15111514,2008細胞診,細胞表面マーカ,免疫グロブリン遺伝子再構成,眼内液サイトカインの検査CytologyandTestingforCellSurfaceMarkers,ImmunoglobulinGeneRearrangementandIntraocularFluidCytokines安積淳*表1Papanicolaou分類クラスI異型細胞を認めないクラスII異型細胞を認めるが良性であるクラスIII悪性を疑うが断定できないIIIa悪性を少し疑うIIIb悪性をかなり疑うクラスIVきわめて強く悪性を疑うクラスV悪性———————————————————————-Page21512あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(42)わめて低い.細胞量に余裕のある場合に行う.フローサイトメトリーによる細胞表面マーカの解析は,対象とする疾患および試料によって解析内容や方法が若干異なる.眼科領域の試料は組織から採取されるために生きた細胞以外の残屑が細胞浮遊液中に多く含まれる.このため,核染色を行ってコンディションの悪い細胞を除いたうえで解析を行うシステムが推奨される(図2は核染色に7AADを用いたシステム).また,対象とする疾患はリンパ腫がほとんどで骨髄性白血病は考えにくいから,B細胞関連マーカ(CD20,CD19,CD10,k鎖,l鎖など),T細胞関連マーカ(CD2,CD3,CD4,CD5,CD8など),NK(naturalkiller)細胞関連マーカ(CD16,CD56)がおもだったものとして解析される.IVDNA検査サザンブロットによるDNA検査(免疫グロブリンJH鎖遺伝子再構成の検索)はリンパ球増殖の腫瘍性/非腫瘍性の鑑別に力を発揮する(図3).陽性結果は,B細胞性リンパ腫の確定診断と考えてよい.眼内サンプルの問題は,ここでは「量」で,サザンブロットによる解析はDNA量の不足から不可能な場合が多い.この場合は,PCR(polymerasechainreaction)による解析を行うことができる(図4).ただし,PCRを用いた解析は偽陰性/偽陽性となる確率が高く,評価がむずかしい.特にT細胞に関するPCRは,T細胞が非腫瘍性にもクローン増殖することが多いのか,偽陽性となることをしばしば経験する(図4).また,PCRの感度が施設間で異なる可能性も指摘されている2).V眼内液サイトカイン濃度測定悪性リンパ腫では眼内のインターロイキン(IL)-10濃度が異常に高い値になることがしばしば経験される3).一方,炎症性サイトカインであるIL-6濃度は低いことが多く,IL-10/IL-6比は1を越えることがほとんどである.いずれもELISA法(酵素免疫測定法)で検出可能であり,眼内液0.5mlがあれば検査可能である.細胞診の前に遠心分離を行って上清を利用すればよい.IL-10濃度上昇やIL-10/IL-6>1は,眼内悪性リンパ腫では検出頻度がきわめて高いものの,リンパ腫細膜圧迫も行う.III細胞表面マーカ免疫組織染色による細胞表面マーカの解析は悪性リンパ腫を分類するうえで重要な検査である.しかし,硝子体あるいは前房水からのサンプルに免疫組織染色と同等の解析を行うことは一般細胞診のレベルではむずかしい.今日,リンパ腫診断/分類のためにフローサイトメトリーによる細胞表面マーカの解析が行われており,この方法を眼内悪性リンパ腫の診断に応用することができる.硝子体や前房から相当量のコンディションの良い細胞を採集することが不可欠だが,成功すると診断的価値がある(図2).しかし,硝子体サンプルでの成功率はきab図1細胞診2例a:硝子体からのサンプル.細胞破壊が著しい.b:前房水からのサンプル.十分量のコンディションの良い細胞が得られている.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081513(43)得図2硝子体サンプルで成功したフローサイトメトリーによる細胞表面マーカ検索まれな成功例である.———————————————————————-Page41514あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(44)検査を有益なものにする鍵は,より良い状態の細胞を収集できるタイミングを見逃さない臨床家としての態度であることを,最後に付け加えておく.文献1)Levy-ClarkeGA,ChanCC,NussenblattRB:Diagnosisandmanagementofprimaryintraocularlymphoma.HematolOncolClinNorthAm19:739-749,20052)BaggA,BrazielRM,ArberDAetal:Immunoglobulinheavychaingeneanalysisinlymphomas:amulti-centerstudydemonstratingtheheterogeneityofperformanceofpolymerasechainreactionassays.JMolDiagn4:81-89,20023)CassoouxN,GironA,BodaghiBetal:IL-10measure-mentinaqueoushumorforscreeningpatientswithsuspi-cionofprimaryintraocularlymphoma.InvestOphthalmolVisSci48:3253-3259,2007胞増殖を直接証明するものではない.現時点では信頼性の高い傍証として取り扱わざるを得ない.なお,前述の細胞診,フローサイトメトリーによる細胞表面マーカ検索,DNA検索は灌流下に集められる試料(希釈サンプル)でも検査可能である.が,眼内液サイトカイン濃度は希釈されない原液を用いるべきである.表2に4つの検査の特性をまとめる.おわりに上記4つの眼内悪性リンパ腫診断法は,いずれの一つも絶対的なものではない.このため,可能であればすべての検査を施行することが望ましいが,サンプル量が小さいのは眼科の常であり,検査を選択する必要がある場合は,細胞診,眼内サイトカイン濃度測定,DNA検査,細胞表面マーカの順で優先する.図4PCRによる遺伝子再構成両眼から採集されたサンプルを用いて検索を行った.B細胞では同一のバンドがみられるが,T細胞では異なるバンドがみられる(偽陽性バンド).(-)MNCPC112(-)M23419411872NCPC12免疫グロブリン遺伝子TCR遺伝子M:fX174???IIIdigestionsizemarker(-):template(-)NC:negativecontrolPC:positivecontrol1:右眼硝子体サンプル2:左眼硝子体サンプル5.6kb→←11.0kb1212→←陰性コントロール検体図3眼内サンプルを用いたサザンブロットによる遺伝子再構成検索ほぼすべての細胞が腫瘍細胞であったことが推察される.表24つの検査のまとめ必要試料眼内液希釈診断的価値成功率細胞診生体細胞可高中フローサイトメトリー生体細胞可中低DNA検査サザンブロットPCR細胞可高中低高サイトカイン測定眼内液不推奨中高

頭部CT,MRI

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSICTとMRIについて1.CTの特徴と眼科疾患への適応CTはX線照射管と探知管の間に患者を置き,X線を周囲360°全方向から照射した物体の投影データを解析することで画像化を行うものである.CTは,一般にMRIより分解能が劣るが,出血病変(脳出血,くも膜下出血など),肺病変(肺炎や肺癌など),骨化病変(後縦靱帯骨化症や変形性骨関節症など),石灰化病変(胆石や肝内結石,肝胞など)についてはMRIより描出に優れている.また,1回の撮影時間は20秒程度と短く,小児でも施行しやすいこと,体に金属やペースメーカーなどが入っていても撮影できるなどの長所がある(表1).一方,短所としては,放射線に被曝すること,脳幹はじめに頭部CT(computedtomography),MRI(magneticresonanceimaging)検査はぶどう膜炎の原因検索でルーチンに行うべき検査ではない.しかし,頭部CT,MRIによってぶどう膜炎の診断がつく症例が,まれに存在する.また,ぶどう膜炎疾患に頭蓋内・眼窩内病変を合併することはしばしばあり,合併症の精査や経過観察の目的で必要となることがある.一般的にCTよりもMRIのほうが組織分解能に勝るため画像が鮮明で小さな病変まで描出可能であるが,症例によってはCTを選択すべき場合もある.オーダーにあたっては,CTとMRIの特徴と違い,どのような場合に造影が必要であるのか,および推奨される撮影条件などについて,よく理解しておく必要がある.(35)1505Tht11365531特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):15051510,2008頭部CT,MRIBrainComputedTomographyandMagneticResonanceImaging蕪城俊克*表1CTとMRIの長所と短所MRICT長所組織間のコントラスト分解能に優れる骨によるアーチファクトがない放射線被曝がない任意の断層面の画像が得られる造影剤なしで血管の異常がわかる脳,脊髄,脳幹部の診断に優れる脳梗塞に対する感度が高い脳出血の範囲を明瞭に描出できる撮影時間が短い骨の異常がわかる金属が体内にあっても検査できる短所骨など石灰化層の情報が得にくい撮影時間が長い金属が体内にあると検査できない閉所恐怖症の人は検査がむずかしい急性期の脳出血の診断がしにくい放射線被曝する脳幹付近は骨が多いため診断がむずかしい脳梗塞に対する感度が低い詳しい検査にはヨード系造影剤が必要———————————————————————-Page21506あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(36)特に脳・脊髄・腹部臓器・四肢関節・脊椎などの診断に優れる.眼窩病変,特に眼球病変のMRI検査の際は,高いS/N(信号/ノイズ)比を得るために頭部用コイルを用い,両眼眼窩を撮影し,健側と比較することが重要である.撮影時間が長いので,眼球の動きによるアーチファクトを避けるため,安静閉眼で撮影する.眼窩内および眼球内病変のMRI撮影は,スライス厚34mmで,SE(spinecho)法T1強調横断像,FSE(fastspinecho)法T2強調横断像,STIR(shorttauinversionrecove-ry)法冠状断像,脂肪抑制造影後T1強調横断像および冠状断像を基本とする2).MRIは,腫瘍の存在や進展範囲,眼球壁の変化,眼窩内炎症,外眼筋の腫脹,視神経の腫瘍や炎症性変化など,多くの疾患でCTよりも描出に優れる.さらにガドリニウム造影により炎症,血管腫,腫瘍は増強効果を示し,病巣範囲の把握に有用である.特に視神経の活動性炎症の診断には,造影後の脂肪抑制T1強調像が有用である.一方,金属眼内異物が疑われる症例にはMRI検査は禁忌である.IIぶどう膜炎の鑑別に必要な頭部画像検査まず,ぶどう膜炎疾患の鑑別診断の際に,頭部画像検査が必要になる場面について述べる.1.乳頭浮腫(原田病,視神経炎,その他の疾患の鑑別)乳頭浮腫を呈する疾患には,ぶどう膜炎(原田病,サルコイドーシス,Behcet病,ネコひっかき病など)のほかに,視神経炎,うっ血乳頭(脳圧亢進),Leber遺伝性視神経症,糖尿病性乳頭症,前部虚血性視神経症,眼窩内腫瘍などのさまざまな視神経疾患が含まれる.両眼性の乳頭浮腫は,小児の視神経乳頭炎,うっ血乳頭(脳圧亢進),視神経周囲炎,原田病,糖尿病性乳頭症などが多く,片眼性は,成人の視神経乳頭炎,眼窩内腫瘍,虚血性視神経炎,サルコイドーシス,乳頭血管炎などに多い3).前房内の炎症所見がはっきりしない乳頭浮腫の症例では,ぶどう膜炎以外の可能性も考慮して鑑別する必要がある.両眼性の乳頭浮腫の症例では,視神経炎と原田病の鑑付近は骨が多いためCTでの画像診断がむずかしいこと,脳梗塞に対する感度が低いこと,炎症性病変の詳しい検査にはヨード系造影剤が必要,といった点があげられる1).近年はヘリカルCTやマルチスライスCTの登場により,従来機種に比べ高速でかつ高分解能画像が得られるようになり,被曝量および患者への負担も軽減されてきている.頭部CT検査は,眼科領域では,おもに脳腫瘍の否定や眼窩底骨折の診断,眼窩内炎症病変の描出(造影),強膜の炎症性肥厚の診断などの目的で用いられる.眼窩内の病変のCT検査は,35mmのスライス厚の横断像を基本とする2).腫瘍性病変あるいは炎症性病変を疑う場合は造影が必要である.軟部条件画像だけでなく,骨条件画像も作製し,石灰化,異物,異常な空気や骨病変の有無を診断する必要がある場合がある.眼窩内にはしばしば生理的な石灰化がみられ(瞼裂斑など),異物や腫瘍と間違えてはならない.外傷時の吹き抜け骨折の診断にはCT検査が有用であるが,横断像よりも冠状断像が診断しやすい.一方,眼球内の病変に対しては解像度の問題から通常はMRI検査が第一選択となるが,外傷時の異物の有無の診断,石灰化病変の描出目的の場合,撮影時間を短くしたい症例やMRIが禁忌の症例に対してはCTが選択される.眼球内病変のCT検査には13mmのスライス厚での撮影が必要である.外傷,異物の診断を除き,通常は造影が必要である.CTでは視神経の炎症の検出率は良くないため,視神経炎の診断には通常MRIが用いられる.2.MRIの特徴と眼科疾患への適応MRIは,患者の体内の水や脂肪組織に含まれる水素原子の磁場を感知して画像化する装置である.MRIは,組織間のコントラスト分解能に優れている,骨によるアーチファクトがない,任意の角度の画像が得られること,放射線被曝がない,などの長所がある反面,体内に金属がある人は受けられない,撮影時間が30分程度と長いなどが問題であった(表1)1).しかし,1.5テスラMRIの登場により高速な検査が可能となり,1回の検査時間は従来機種の半分程度になってきている.MRIは———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081507(37)影後の脂肪抑制T1強調像が有用である(図1)2).視神経炎の診断の際には,全脳の撮影を行い,多発性硬化症やADEM(acutedisseminatedencephalomyelitis)でみられる脳内の多発病巣の有無を検索する必要がある.2.眼内悪性リンパ腫眼内悪性リンパ腫は,眼内に発生した悪性リンパ腫で,ぶどう膜炎症例の約1%を占め5),放置すると脳への播種を起こして生命予後不良となる注意すべき疾患である.眼内悪性リンパ腫の診断は,硝子体生検を行って細胞診にて異型細胞を証明するのが原則であるが,細胞診のみでは偽陰性が30%近く出てしまうことが報告されており6),硝子体液中のインターロイキン(IL)-10/IL-6濃度比(>1),IgH(免疫グロブリンH)モノクローナリティーの証明などの補助診断を組み合わせて診断する必要がある7).全身の画像検査を行って眼以外の臓器での悪性リンパ腫を発見することは,眼内悪性リンパ腫を強く疑う根拠となる.特に眼内悪性リンパ腫は中枢別がしばしば問題になる.通常は前房内炎症がみられないことや中心フリッカー値の低下(20Hz以下)は視神経炎を示唆し,前房内炎症や内耳症状,髄膜炎症状,リンパ球優位の髄液細胞増多は原田病を示唆することから鑑別可能な場合が多い.しかし,原田病で典型的な随伴症状を欠く場合や,発症早期のため虹彩炎が明らかでない時期には,視神経炎と紛らわしい.原田病のMRI像は,T1強調像では肥厚した脈絡膜が網膜下液や硝子体に比べ高信号となり,脂肪抑制画像および造影で脈絡膜は中等度増強されるが,網膜下滲出液は増強されず,T2強調像では脈絡膜,網膜下滲出液,硝子体は高信号で,肥厚した脈絡膜は硝子体や網膜離部と比べて低信号となる4).漿液性網膜離がみられなくても脈絡膜の肥厚を認めることが多い.一方,視神経炎のMRI撮影には,STIR法あるいは脂肪抑制T1強調像が用いられる.視神経炎の病変は視神経のすべての部位で認められるが,特に視神経管領域が侵されることが多い.STIR像は炎症,脱髄病変の検出に有用であり,病巣は脳白質あるいは外眼筋と比較し高信号として描出されるが,慢性期の脱髄性病巣も同程度の高信号となるため,活動性の評価には向かない.視神経炎の活動性の診断には,造図124歳,女性:両眼性の乳頭浮腫矯正視力右眼1.0,左眼0.6.中心フリッカー値は正常.髄液検査でリンパ球優位だが好中球も含まれる髄液細胞増多を認めたため,原田病よりもウイルス性などによる無菌性髄膜炎と推測された.頭部造影MRI(STIR像)にて両眼視神経周囲にリング状の増強効果を認め,髄膜炎に伴う視神経周囲炎と診断された.図254歳,女性:左眼の原因不明の硝子体混濁眼内悪性リンパ腫を疑い硝子体生検を行ったが,細胞診は陰性だった.しかし,半年後に頭部造影MRIにて頭蓋内にT1強調で低信号,造影により増強効果を認める病巣がみつかり,脳生検で悪性リンパ腫と診断された.———————————————————————-Page41508あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(38)および造影効果(造影後明瞭化する眼球後壁を中心とした肥厚)がみられる(図3).MRIではT1像で肥厚した強膜は低信号として,網膜下への炎症の波及による網膜下滲出液はそれより高信号となり,脂肪抑制像で炎症の程度に応じて増強される.原田病や眼窩蜂窩織炎との鑑別がむずかしい場合があり,随伴症状の有無や髄液検査の結果と合わせて鑑別診断する必要がある8,9).4.多発性硬化症多発性硬化症は中枢神経系の白質に,脱髄病巣が時間的,空間的に多発性に出現し,再発と寛解をくり返しながら慢性に経過する疾患である.眼合併症としては視神経炎や眼球運動障害が多いが,欧米ではぶどう膜炎の合併も知られており,網膜静脈炎やparsplanitisの報告が多い.わが国でも,まれではあるが網膜血管炎を伴う肉芽腫性ぶどう膜炎を起こした報告が散見される10).多発性硬化症の診断には頭部MRIが必須であり,脱髄病巣はT1強調像で等信号,T2強調像で高信号域を示す(図4).T1強調像で低信号領域は軸索障害の存在を示神経系悪性リンパ腫に分類され,脳の悪性リンパ腫を合併しやすい.したがって,眼内悪性リンパ腫が強く疑われる症例では,頭部画像検査を行う必要がある.脳の悪性リンパ腫は,単純CT,MRI像では腫瘤を形成する低信号の病変として描出され,造影剤を用いると多くの場合著明な増強効果を認める(図2).1/3は多発性の病巣をもつ.しかし,この画像所見は非特異的なものであり,画像のみから他の腫瘍や非腫瘍性病変と鑑別することはむずかしい場合が多い.3.後部強膜炎後部強膜炎は,後部強膜に炎症を起こす疾患で,炎症が周囲に波及することで多彩な臨床像を示す.Watsonらは後部強膜炎の診断基準として,①疼痛,②視力障害,③強膜の肥厚,網脈絡膜への炎症の波及による眼底変化,④眼球突出,⑤眼球運動障害,⑥結膜充血をあげている.炎症が網脈絡膜に波及した場合,眼底後極部を中心に乳頭発赤,網膜の浮腫状混濁程度のものから,高度な網膜離をきたすものまでさまざまな眼底像を呈するが,基本病像は乳頭浮腫と滲出性網膜離である.強膜の肥厚の診断には超音波エコー検査や頭部CT,MRI検査が用いられる.CTでは,眼球後壁の肥厚,不整像,図353歳,男性:左眼後部強膜炎左眼の前房内炎症,乳頭浮腫,眼底後極部に網膜皺襞,黄斑浮腫,薄い漿液性網膜離がみられた.右眼には炎症所見はみられなかった.頭部CTにて強膜壁の肥厚と造影による増強効果を認め,後部強膜炎と診断した.図435歳,男性:多発性硬化症頭部単純MRIでは,T2強調像にて側脳室周囲の白質に側脳室に直行するような卵円形の高信号の脱髄性病巣が多発している.(東京大学附属病院放射線科國松聡先生より写真提供)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081509(39)中の細胞数,蛋白濃度の増加,IL-6濃度の上昇が神経Behcet病の診断マーカーとされているが,頭部MRI検査を行うことで,正確な病変部位の同定が可能である.頭部MRIで脳の病巣部はT2強調像で高信号,T1強調像で低信号を呈する(図5).ステロイド治療により病巣の消退がみられる.2.サルコイドーシスサルコイドーシスによる非乾酪壊死性肉芽腫は全身に起こりうる.眼科領域でも,眼瞼,視神経,涙腺,外眼筋,脳幹部などに生じることがある.一般に肉芽腫は大きくはないため,造影MRIが検出力に優れる.非神経部位(眼瞼,涙腺,外眼筋)でのサルコイド肉芽腫は,画像上は非特異的な炎症所見となり,造影により異常増強効果を示すが,画像による他の疾患との鑑別は困難である(図6).一方,サルコイドーシスによる視神経病変では視神経自体と視神経周囲の炎症の形態をとり,診断には脂肪抑制造影T1強調像が有用である.また,サルコイドーシスの中枢神経病変では,頭蓋内占拠性病変,髄膜の増強効果,脳室周囲のT2高信号,頭蓋内実質内の血管に沿った増強効果などを呈する.唆する.FLAIR(uidattenuatedinversionrecovery)画像では脳室は黒く,病巣は白く描出されるので,病変と脳室との区別をつけやすい.急性期の病巣はガドリニウム造影で増強される.IIIぶどう膜炎における頭蓋内・眼窩内病変の合併ぶどう膜炎疾患には,頭蓋内・眼窩内病変を合併するものがあり,ぶどう膜炎の診断目的以外にも,合併症の精査の目的で頭部画像検査を行う必要が生じることがある.頭蓋内・眼窩内病変を合併するぶどう膜炎について述べる.1.神経Behcet病Behcet病の10%前後にみられる中枢神経の炎症性病変で,脳静脈血栓症や間脳,中脳,橋,延髄などに病変が生じる脳幹脳炎が多い.病変は,脳幹と基底核周辺部に好発するが,大脳半球,小脳,脊髄,髄膜にも病変がみられることがある.症状としては,発熱,中枢性運動麻痺,脳神経麻痺,言語障害,複視,斜視などのほかに脳血管性痴呆などの精神症状を起こすことがある.髄液図536歳,男性:神経Behcet病発熱,頭痛,意識レベルの低下を起こす.頭部単純MRI(T2強調像)にて脳幹部(中脳,橋)に高信号の炎症病巣を認めた.髄液中のIL-6濃度も高値であり,神経Behcet病と診断された.図665歳,女性:サルコイドーシスによる眼瞼肉芽腫左眼の内眼角付近の上眼瞼皮下に腫瘤を認めた.頭部造影MRI(T1強調像)にて増強効果を認める.生検を行い,非乾酪壊死性肉芽腫との診断からサルコイドーシスと診断された.(癌研究会有明病院眼科田村めぐみ先生より写真提供)———————————————————————-Page61510あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(40)thalmol51:41-44,20076)WhitcupSM,deSmetMD,RubinBIetal:Intraocularlymphoma.Clinicalandhistopathologicdiagnosis.Ophthal-mology100:1399-1406,19937)新井文子:原発性眼内リンパ腫の臨床像.血液・腫瘍科56:625-629,20088)堂園貴保子,野田佳宏,有山章子ほか:片眼の後部強膜炎症状で発症したVogt-小柳-原田病が疑われた1例.眼紀55:403-408,20049)小泉千春,清澤源弘,岩永洋一ほか:眼窩蜂窩織炎との鑑別を要した後部強膜炎の1例.眼臨101:1007-1009,200710)齋藤航,小竹聡,笹本洋一ほか:多発性硬化症に伴う肉芽腫性汎ブドウ膜炎の1例.日眼会誌106:99-102,2002文献1)百島祐貴:ゼッタイわかるMRIの読み方.医学教育出版社,19992)酒井修,藤田晃史:眼窩.頭頚部のCT・MRI(多田信平,黒崎喜久編),p121-178,メディカル・サイエンス・インターナショナル,20023)中村誠:とっても身近な神経眼科乳頭が腫れていたら?あたらしい眼科24:1553-1560,20074)PotterPD,ShieldsCL,ShieldsJA:Inammatorydisor-ders.MRIoftheEyeandOrbit(edbyPotterPD,ShieldsJA,ShieldsCL),p45-53,Lippincott,Pennsylvania,19955)GotoH,MochizukiM,YamakiKetal:EpidemiologicalsurveyofintraocularinammationinJapan.JpnJOph-

胸部X線・胸部CT・クオンティフェロン検査

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS下葉の2葉に胸膜によってそれぞれが分かれる.肺門は肺動脈およびその分枝,上葉肺静脈,主気管支およびリンパ節で構成される.しかし実際X線で撮影されたフィルムでは,気管支の内腔は空気で占められているため,またリンパ節は通常では小さいため陰影には影響を与えない.縦隔陰影の大部分をなすのは心臓および大血管である.つぎに読影に必要な基本的事項であるが,陰影の濃淡は4つに分けて考えられる.その内訳は,カルシウム・水・脂肪・空気(ガス)からなる.この順番でX線吸収率が悪く,吸収率が悪いほうが写真では暗く写る(透過性が高い).このような濃度の違いは物質の原子番号と密度の違いによるものである.それぞれの濃度の代表例であるが,カルシウム濃度には,骨・石灰化・金属,水濃度には血管・筋肉・実質臓器,脂肪濃度には脂肪(皮下・筋肉間),空気濃度には肺・気管支内腔があげられる.陰影の濃淡は上記の4つとともに対象物の厚さ,コントラストによって分けられる.水濃度については診断時,特にコントラストが重要になる.このコントラストに関連する重要なサインとしてシルエットサインがある.これは水濃度のものと水濃度のものが相接している場合,それらの辺縁は不鮮明かまたは認められない.本来鮮明であるはずの辺縁が不鮮明になっていることをシルエットサイン陽性という.縦隔内に存在する大動脈などの辺縁部は正常でもシルエットサイン陽性になるので,サルコイドーシスの縦隔リンパ節の拡張は胸部Xはじめにご存じのとおり,胸部X線,胸部CT(コンピュータ断層撮影),クオンティフェロン(quantiferon)はぶどう膜炎の検査においては欠かせない検査である.特にサルコイドーシスや結核・肺癌などの疾患においては,その画像所見や検査所見が診断補助の大部分を占め,その有用性は高い.胸部X線写真や胸部CTは,現在では多くの病院で放射線科ドクターが写真を読影してくれるため,眼科医が直接写真を読影する機会はほとんどない.しかし,最低限度の知識を有することにより,眼科医でも日常診察においてある程度の緊急性の判断や患者への説明をすることが可能となる.今回筆者に与えられたテーマである胸部X線・胸部CT・クオンティフェロンについて,以下に述べていきたいと思う.I胸部X線検査について胸部X線検査は,おおまかにいえば,胸部にある臓器・組織に異常がないかを確認する検査である.胸部X線正面像では,X線吸収の比較的小さい肺と反対に大きい心臓,大血管および横隔膜などの領域が含まれる.異常を判断するには,まず基本的な解剖と正常像を理解しないといけない1).特に眼科医に必要な胸部X線撮影の基礎知識は結核などの病変が発生する肺野と腫瘍やリンパ節腫脹,あるいは肺血管の拡張が発生する肺門部や縦隔部の正常像である.肺は右肺と左肺に縦隔を隔てて分かれ,さらに右肺は上・中・下葉の3葉に,左肺は上・(31)150162841465特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):15011504,2008胸部X線・胸部CT・クオンティフェロン検査ChestX-Ray,ChestComputedTomographyandQuantiferonTest丸山和一*———————————————————————-Page21502あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(32)若年者発症が増え,気をつけておく疾患である.結核の陰影は小さな円形陰影で内部に石灰化を示すことが多い.ときにsatellitelesionとよばれる主病巣周囲に小結節を伴うことがある.病変は肺尖部と左肺の肺門部周辺に好発する.活動性の判定は胸部X線だけでは判断しにくいが,空洞を形成する結節は活動性が高い症例が多い.以上の2つの疾患は胸部X線検査では確定診断することはできできないが,比較的読影できやすく,内科医への紹介時にどのような検査が必要かを提案することができる.眼科から内科疾患の疑いを提起することで,疾患の早期発見・治療に貢献することが可能である.II胸部CT検査について胸部疾患の診断において,胸部CTは胸部単純X線撮影で異常所見が発見された場合や,臨床的に異常を疑う症例に対して施行する.現在胸部CTは肺縦隔疾患の診断には必要不可欠なものである.CT写真ではCT値の違いにより,組織や病変を画像化する.CT機種により異なるが,原則的には緻密骨を1,000,水を0,空気を1,000として計算されるが,人体の軟部組織は2070前後に分布し,石灰化病巣は100以上のCT値で示される.脂肪組織は30から100前後のCT値を示すので,これを覚えておけばどのような組織に病変が類似するかを判断できる.通常のCTスキャンはスライス厚が710mm程度のX線を利用し描写する.肺野の結節性病変やびまん性肺疾患などでは,病変の形態を詳細に描出するためにスライス厚を変化させて撮影する.特に小さなリンパ節を描写させるためにはスライス厚2mm以下の薄層CTを利用する.腫瘤性病変が胞性か充実性かの判定,腫瘍性病変の血流の評価・壊死の程度,腫瘍性病変と血管の位置関係の評価,血管浸潤の有無の診断,軟部組織陰影と血管陰影の分離などの多くの目的のために造影剤を使用する.造影剤増強撮影は各部位でその有用性が示されている.特に軟部組織陰影と血管陰影の分離で造影剤を使用するときは,血液中の造影剤の濃度が高く,造影剤の組織・細胞外液への移行が少ない造影剤投与後早期に撮影することが適している.造影剤使用時に注意すること線においては判断しづらく,判断にはCT検査を併用することが多い13).以下にぶどう膜炎と関連が深い疾患の胸部X線所見について述べたいと思う.サルコイドーシスの胸部X線撮影で認められる特徴的な所見は両側肺門・縦隔リンパ節腫大である.先にも述べたが縦隔リンパ節腫大はシルエットサインが陽性となることが多いため,胸部X線写真ではわかりづらいことが多い.このようなリンパ節腫脹は肺門部にある傍気管支に存在するリンパ節が腫脹して起こるために肺門部周辺に認められることが多く(図1),サルコイドーシスの特徴的な所見として知られている.またone-two-threesignとよばれる,右傍気管(左気管も腫大しているがシルエットサイン陽性)と両側肺門部リンパ節腫大もサルコイドーシスの特徴的な所見である.サルコイドーシスは病期が進行すると肺内にも結節が発生し,それが空洞・胞を形成することがある(わが国ではまれ)ので他の検査と組み合わせ診断することが重要である.肺結核は肉芽腫性疾患のなかでよく遭遇する.近年は図1胸部X線写真両側の肺門リンパ節腫脹が認められる.特に右傍食道線の偏位が認められる.おそらく縦隔リンパ節腫大による影響が考えられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081503(33)異なる.しかしCT所見からだけでは確定診断が困難なため,最終的には生検や臨床症状を考慮する.つぎに結核性病変であるが,結核症には初期結核症(04歳が好発)と二次性結核症があり,初期結核症は小児に後発し,CT所見上は肺門縦隔リンパ節腫脹(リンパ節の中心部が低吸収域=乾酪壊死で辺縁が輪状に造影される)を伴う中葉ないし下葉の濃厚性浸潤影が特徴的である(空洞形成は少ない).肺野の結節影は結核であることを強く示唆する(石灰化を認めることがある).胸部X線において異常がない場合も,胸部CTで縦隔リンパ節腫脹が認められることがあるので,臨床所見から疑われるときは胸部CTを施行したほうがよい3).IIIクオンティフェロンについて結核の診断法はこれまではツベルクリン反応(表1)や胸部X線写真,CT検査などであったが,感度がそれほど高くない.ツベルクリン反応はまれであるが,非結核性好酸菌と交差反応を起こし陽性となることがあるため注意が必要である.ツベルクリン反応というのは,結核菌の作る蛋白成分であるPPD(精製蛋白誘導体)を抗原として皮内に注射し,これで免疫記憶を担うリンパ球を刺激して一連のサイトカインという活性物質を放出させる.この放出されたサイトカインの作用で皮膚に硬結を作らせたり,発赤を起こさせたりする.ツベルクリン反応に使用される抗原は,ウシ型結核菌から作製したBCG(BacilleCalmette-Guerin)ワクチンとアミノ酸配列が類似している.そのためBCG接種者においても結核菌感染者と同じようなツベルクリン反応を示してしまい判断に困ることがあった.このようなことから,BCG既接種で結核感染を正確に診断する方法が必要であった.そこで開発されたのがクオンティフェロンである.クオンティフェロンでは結核菌に特異的な2種類の抗原(ESAT-6/CFP-10)を使用する.感染を受けたヒはアレルギー反応であるが,現在は非イオン性造影剤を使用するため,副作用は少ないがそれでも1.53%で悪心・嘔吐や発疹などが認められ,2,000例に1例で治療を有する副作用(アナフィラキシーショック)が起こるので,必ず医師がそばについて検査をすることが重要である.元来腎機能が低下している場合は,検査の必要性を十分に考慮し,施行後脱水症状が起こらないよう輸液などを行い注意する.画像表示についてであるが,CTの多くの情報すべてを1枚の画像にすることは不可能である.このため胸部CT画像を表示するためには通常2つの条件でフィルムに表示することが多い.その一つが縦隔や軟部組織を中心に表示する縦隔条件であり,もう一つは肺野を中心に表示する肺野条件である.縦隔条件では肺野が真っ黒に表示され,病変はわからないが,その点は肺野条件でcoverできる.肺野条件では逆に縦隔は真っ黒に写り縦隔所見はわからないが肺野の病変や肺血管がよく表示される.また他には気管支を詳細に診断するための気管支条件や,骨の異常を検索するための骨条件もある.眼科疾患から検査されるのは,特にサルコイドーシス・結核が疑われた場合である.サルコイドーシスの特徴は縦隔肺門リンパ節腫大を効率よく描出できる(図2).縦隔リンパ節腫大は単純CTでも描出可能であるが,造影剤を使用したほうが病変を正確に評価することができる.サルコイドーシスのリンパ節腫大は癒合傾向が少なく,悪性リンパ腫のような癒合が強いタイプとは図2胸部CT写真縦隔リンパ節腫大と傍気管リンパ節腫脹を認める.表1ツベルクリン反応の判定基準測定値判定解釈0.35IU/ml以上陽性結核感染を疑う0.1以上0.35IU/ml未満判定保留感染のリスクの度合を考慮0.1IU/ml未満陰性結核感染していない———————————————————————-Page41504あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(34)文献1)安藤正幸,四元秀毅(監修):サルコイドーシスとその他の肉芽腫性疾患.克誠堂出版,20062)伊藤春海:画像診断新しい診断と治療のABC呼吸器3サルコイドーシス,最新医学別冊,最新医学社,20023)NishimuraK,ItohH,KitaichiMetal:Pulmonarysarcoi-dosis;correlationofCTandhistopathologicndings.Radiology189:105-109,19934)BerthetFX,RasmussenPB,RosenkrandsIetal:AMycobacteriumtuberculosisoperonencodingESAT-6andanovellow-molecular-masscultureltrateprotein(CFP-10).Microbiology144:3195-3203,19985)SkjotRL,OettingerT,RosenkrandsIetal:Comparativeevaluationoflow-molecular-massproteinsfromMycobac-teriumtuberculosisidentiesmembersoftheESAT-6familyasimmunodominantT-cellantigens.InfectImmun68:214-220,20006)AndersenP,AndersenAB,SorensenALetal:Recalloflong-livedimmunitytoMycobacteriumtuberculosisinfec-tioninmice.JImmunol154:3359-3372,19957)SorensenAL,NagaiS,HouenGetal:Puricationandcharacterizationofalow-molecular-massT-cellantigensecretedbyMycobacteriumtuberculosis.InfectImmun63:1710-1717,1995トのT細胞に上記の抗原を作用させ,その後24時間に放出されるサイトカイン(インターフェロンg)をELISA法(酵素抗体法)で測定する.これらの抗原はBCGには存在しないので,BCG接種の影響を受けることはなく確実な結核感染診断が可能となる.本検査の感度は89%,特異度は98.2%である47)(表2).方法は血液を5mlヘパリン採血管に採取し,T細胞の活性を低下させないため,室温で血液を搬送する.採血後12時間以内に分注し,抗原刺激(ESAT-6/CFP-10),陰性コントロール(生理食塩水),陽性コントロール(マイトジェン;phytohemagglutinin)溶液を滴下する.混和後,16時間から20時間かけ細胞を培養する.培養した後,血球成分を除去し,血漿成分のみ採取する.その採取した血漿中のインターフェロンgをELISA法にて測定する(図3).得られた測定値でESAT-6抗原またはCFP-10抗原に対する測定値のうちの大きいほうとする.陽性は測定値が0.35IU/mlであるが陽性対照の測定値が基準より低い場合(0.15IU/ml)は,測定値が0.35IU/mlでも判定保留とする.表2ツベルクリン反応とクオンティフェロンの違いツベルクリン反応クオンティフェロン抗原PPDBCGアミノ酸配列と類似(99.95%)ESAT-6/CFP-10BCGには存在しないBCG接種影響あり影響なし特徴結核菌感染でなくとも陽性になる不必要な予防内服より確実な結核感染が可能となるPPD:puriedproteinderivative.BCG:BacilleCalmette-Guerin.ESAT-6:theearlysecretedantigenictarget6kDaprotein.CFP-10:10kDaculturertrateprotein.機:抗原提示細胞:T細胞:インターフェロンg:抗原図3クオンティフェロンの原理(シェーマ)

髄液検査

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSII髄液の生理髄液は大部分が脳室内の脈絡叢で産生されるが,脳室上衣,くも膜下腔でも産生される.髄液産生量はイヌリンなどのトレーサーを髄液腔内に灌流させて計算される.トレーサー入り人工髄液の流入量(Vi),流出量(Vo)と,それぞれのトレーサー濃度(Ci,Co)から髄液産生量(Vf)と髄液吸収量(Va)を求めることができる.髄液産生量:Vf=Vi(CiCo)/Co髄液吸収量:Va=Vi(CiVoCo)/Coはじめに脳脊髄液(髄液)は頭蓋内容積の510%を占め,髄液腔内で一定の組成を保ちながら産生・吸収・循環をくり返しているが,今なおその生理機構には不明な点もある.髄液検査は検査の適応,禁忌,解剖学的知識や合併症を知って行えば安全な検査であり,髄膜炎,眼科領域では特にVogt-小柳-原田病などが疑われる場合にしばしば決定的な意味をもつ.本稿では髄液の生理,正常所見から適応症,留意点,さらに眼科領域での施行意義について解説したい.I髄液研究の歴史髄液の存在はすでに古代ギリシアのHippocrates(BC460375)によって記載されている.しかし,科学的見地からの記載はCotugno(1764),医学的見地からの記載はMagendieの剖検例での観察による(1828).Magendie(図1)は健常者にも髄液が存在すること,脳室・脳表・脊髄くも膜下腔が連続していることを明らかにした.さらに1875年にはKeyとRetziusにより,髄液の大部分は脳室の脈絡叢で産生され,脳室系を経てくも膜下腔へ流れ,やがてくも膜絨毛を介して吸収されるという髄液循環の基本事項が明らかになった.今日では髄液は血液,リンパ液につぐ第3循環と認識されている.(27)14971oosiitaiiigeaino2Masaaiiino6157特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):14971500,2008髄液検査CerebrospinalFluidExamination北市伸義*1新野正明*2大野重昭*11FrancoisMagendie(17831855)フランスの医学者で実験生理学の先駆者.剖検例の観察から髄液・髄腔の基本構造を明らかにした.ベル・マジャンディーの法則(求心性神経線維は脊髄後根から入り,遠心性神経線維は脊髄前根から出る)の発見者でもある.———————————————————————-Page21498あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(28)う.4)0.51.0%リドカイン溶液約2mlで局所麻酔.5)穿刺部に針先はわずかに頭側へ向け,体に対して80°の角度に針を進める.手応えを確かめながら針を進め,骨にあたったら皮下組織まで針先を戻し,再度進入する.ヒトでの産生量は約0.35ml/分,1日では500700mlとなり,計算上髄液は1日に34回入れ替わっていることになる.III髄液検査の適応1.適応脳血管障害,脳腫瘍,脊髄疾患,髄膜炎,脳炎,多発性硬化症,Guillain-Barre症候群などほとんどの神経疾患が適応となる.眼科領域ではVogt-小柳-原田病,多発性硬化症,頭蓋内腫瘍などで関係が深い.どのような疾患を念頭におくかで髄液の検査項目は異なる(表1).特にVogt-小柳-原田病は自己免疫性のぶどう膜炎と髄膜炎を合併するため診断に有意義である1).ステロイド薬全身投与を開始するうえで重要な検査であるが,漫然とするのではなく,鑑別診断を考えて行う.2.禁忌頭蓋内圧亢進時,穿刺部の感染病巣,出血傾向,脊椎変形例では禁忌である.今日神経内科領域では髄液検査前に頭部単純CT(computedtomography)検査が推奨されている.3.手技1)脊柱をできる限り後弯させ棘突起を開き,椎間腔を広げる.そのまま検査終了まで同一体位を保つ.2)穿刺部を触診して位置をよく確認する.穿刺部はJacoby線(左右腸骨稜の最高点を結ぶ仮線)と腰椎の交差点である(図2).ここは第4腰椎と第5腰椎間にあたり,穿刺は正中から行う.3)穿刺部を消毒.滅菌手袋を着用し,孔あき布で覆図2穿刺の位置Jacoby線を目印にして第4と第5腰椎間を穿刺する.図3腰椎穿刺の断面図針がくも膜下腔に達すると髄液が流出する.表1おもな疾患に対する髄液検査項目疾患検査項目脳血管障害,髄液細胞診,腫瘍特異抗原,生化学的検査,ミエログラフィなど脳腫瘍,水頭症脊髄疾患髄膜炎(含Vogt-小柳-原田病),脳炎細胞数,蛋白質,糖,抗体価,(塗抹標本)多発性硬化症,脱髄疾患,蛋白質,細胞数,電気泳動(gグロブリン),酵素濃度神経変性疾患Guillain-Barre症候群蛋白質,細胞数(髄液蛋白細胞解離)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081499(29)1)一過性頭痛2)一過性脊髄根性疼痛3)頭蓋内圧亢進時の脳ヘルニア4)局所感染による髄膜炎5)髄液大量採取後の一過性神経麻痺(特に外転神経麻痺)6)硬膜下血腫IV髄液の正常値と病的意義1.髄液圧髄液圧の正常値は側臥位で70180mmH2Oであり,200mmH2O以上は病的亢進とされる.髄液圧は体動,緊張,咳漱などで変動するためしばらく観察して一定になってから圧を測定するとよい(図4).髄液圧が40mmH2O以下は低髄圧であり,脊髄くも膜下腔ブロック,脱水,循環虚脱,穿刺部からの髄液漏出などを考える.2.外観正常髄液は水様,無色透明である.わずかでも着色,混濁があれば病的と考える.混濁は細菌や細胞成分の増加による.血性髄液はくも膜下出血か医原性を含めた血管損傷を考える.採取髄液が黄色調を呈する場合をキサントクロミーとよび,くも膜下出血後にみられる(表2).3.細胞数と細胞成分正常髄液の細胞成分はおよそ5個/mm3以下とされ,おもにリンパ球である.北海道大学病院では検体3mm3で計数し,10個/3mm3(3.3個/mm3)以下を正常値としている.10個/mm3以上は病的である.長時間放置すると髄液内の細胞が破壊されるため採取後は速やかに細胞数を計測する.細胞増多がみられる場合にはその種類を特定することが重要である.多核白血球が増加して6)棘間靱帯を貫通する際は抵抗が強く,硬膜を貫通すると抵抗がなくなる.これで針は皮膚,皮下組織,筋膜,棘上靱帯,黄靱帯,硬膜,くも膜を順に穿通してくも膜下腔に達したことになる(図3).内針を抜くと髄液がでる.7)髄液の流出を少量にとどめ,圧棒を接続して初圧を測定する(図4).同時に液の性状,液面の上昇速度も観察する.正しく穿通していれば呼吸性動揺がみられる.血性の場合はすぐに抜去する.8)液圧を確認しながら髄液を採取する.初圧の半分以下にならない範囲でとどめる.一般的には10ml以内である.9)髄液採取後終圧を測定する.10)針を抜去し,局部をガーゼなどで強く圧迫する.検査後2時間以上は枕なしでベッド上絶対安静とし,その後も当日はできるだけ安静を心がける.4.合併症合併症は種々報告があるが,代表的なものは以下の通りである.最も一般的なものは一過性頭痛で,約20%にみられる.その他は比較的まれである.表2髄液外観と関連疾患正常水様,無色透明混濁血性黄色(キサントクロミー)細菌や細胞成分の増加くも膜下出血,血管損傷くも膜下出血後図4初圧の測定髄液が流出したら圧棒で初圧を測定する.同時に髄液の性状,液面の上昇速度もみる.正しく穿通していると呼吸性動揺がみられる.———————————————————————-Page41500あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(30)患の病態から考えて,診断時の髄液検査の重要性はコンセンサスが得られているといってよい.したがって現在の診断基準を「髄液検査は不要」と誤解してはならない.また,発症初期にはぶどう膜炎のみで髄膜炎がまだ発症していないことがあり,その時点では髄液細胞増多はみられない.そのような場合には数日後に再度髄液検査を行うとよい.おわりに髄液検査は基本事項を理解・習得すれば安全できわめて有効な検査である.特にVogt-小柳-原田病ではステロイド薬を大量に用いるかどうかの決定的な根拠となることが多い.しかし本稿で示したように,髄液検査でリンパ球増多がみられる鑑別疾患は多く,また原田病でも初期には髄液細胞増多がみられないことなどを理解し,しっかり眼所見を見きわめて診断・治療を進めることが基本であり,かつ重要である.文献1)KitaichiN,MatobaH,OhnoS:Thepositiveroleoflum-barpunctureinthediagnosisofVogt-Koyanagi-Haradadisease:lymphocytesubsetsintheaqueoushumorandcerebralspinaluid.IntOphthalmol27:97-103,20072)KitaichiN,HorieY,OhnoS:PrompttherapyreducesthedurationofsystemiccorticosteroidsinVogt-Koyanagi-Haradadisease.GraefesArchClinExpOphthalmol246:1641-1642,20083)SugiuraS:Vogt-Koyanagi-Haradadisease.JpnJOphthal-mol22:9-35,19784)ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportofanInternationalCommitteeonNomenclature.AmJOphthal-mol131:647-652,2001いる場合には化膿性髄膜炎,脳膿瘍,硬膜下膿瘍,脊髄硬膜外膿瘍などを考える.リンパ球増多の場合はウイルス性髄膜炎,Vogt-小柳-原田病,サルコイドーシス,神経Behcet病,脳炎,脳脊髄炎,結核性髄膜炎,真菌性髄膜炎,梅毒性髄膜炎,神経梅毒,多発性硬化症,外傷,脳脊髄腫瘍などを考える.好酸球増多は肺吸虫,旋毛虫,トキソプラズマ,マラリア,原虫感染などによる.また,伝染性単核症では異型リンパ球,白血病では白血球,転移性腫瘍では腫瘍細胞などの異常細胞がみられることがある(表3).VVogt小柳原田病における髄液検査Vogt-小柳-原田病はモンゴロイドに多発し,わが国ではぶどう膜炎の3大原因の一つである.疾患の本態はメラノサイトに対する自己免疫疾患であるため,ぶどう膜(おもに脈絡膜),髄膜,皮膚,内耳などに炎症が惹起される.その証拠に本疾患では眼内リンパ球の表面マーカーを解析すると髄液中のリンパ球と同じサブセットであり,血中リンパ球とはまったく異なる1).本疾患ではステロイド薬の大量療法かパルス療法が治療法として確立しているが,いずれにせよ大量のステロイド薬を長期間全身投与するため,確実な診断が重要である.しかも早期にステロイド薬投与を開始したほうが結果的にステロイド薬投与期間は短く済む2).これまで長く世界的に用いられてきた杉浦の診断基準では眼所見とともに無菌性髄膜炎所見が重視されてきた3)が,2001年に提唱された新診断基準では髄液検査を行わなくても診断できる例がある4).しかし,これは米国で髄液検査が保険適用とならないことがおもな理由の一つであり,日本をはじめアジア,ヨーロッパなど米国以外では本疾表3髄液細胞と関連疾患正常5(または3.3)個/mm3以下(10個/mm3以上は病的),リンパ球多核白血球増多化膿性髄膜炎,脳膿瘍,硬膜下膿瘍,脊髄硬膜外膿瘍などリンパ球増多ウイルス性髄膜炎,Vogt-小柳-原田病,サルコイドーシス,神経Behcet病,脳炎,脳脊髄炎,結核性髄膜炎,真菌性髄膜炎,梅毒性髄膜炎,神経梅毒,多発性硬化症,外傷,脳脊髄腫瘍など好酸球増多肺吸虫,旋毛虫,トキソプラズマ,マラリア,原虫感染など異常細胞伝染性単核球症,白血病,転移性髄膜癌腫症など

ポリメラーゼ連鎖反応(PCR),Goldmann-Witmer比(Q値)

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSPCR法は臨床診断のための検査法として,すでに定着している.眼科的な検体として,前房水,硝子体液,涙液,網膜下液あるいは虹彩,角膜擦過物などの眼組織などがある.いずれも少量(微量)であるが,PCR法の検体としては十分に行える.また,検体を凍結しておけば,後日利用することもできるので,疑わしい検体は凍結保存しておくのが望ましい.1.臨床診断への使用単純ヘルペスウイルス(HSV),水痘・帯状疱疹ウイIポリメラーゼ連鎖反応(PCR)とはPolymerasechainreaction(PCR)法は,ポリメラーゼ連鎖反応あるいは複製連鎖反応ともいわれる.DNAポリメラーゼ反応を利用した微量DNAの増幅方法で,DNAの特定部位をはさむ2種類のDNA断片(プライマー)とDNAを合成する酵素(DNAポリメラーゼ)によるDNA鎖の合成反応を示す.この反応のくり返しにより,DNA特定部位を数十万倍数百万倍程度まで増幅させることができる.また,DNA合成のプロセスには,時間が数分しかかからないことから,このPCR法の利用が急速に広まった.PCR法は遺伝子配列の決定や遺伝子の定量など,遺伝子研究の基本技術として確立されている.近年では,ウイルス,クラミジア,ヒト免疫不全ウイルス(HIV),結核菌などの診断方法として応用されている.眼科領域では特に検体が少ないことが多く,眼ウイルス感染症の確定診断だけに限らず緑内障や網膜色素変性症の原因遺伝子の検索など広く応用されている.また,眼内リンパ腫でもPCR法を用いて腫瘍細胞のモノクローナルな遺伝子再構成を検索することがある.現在,ぶどう膜炎(内眼炎),特に眼ウイルス感染症では迅速な確定診断のためにはPCR法はきわめて有効な検査手段となっている.一般的にはウイルスDNAのゲル内の検出までには数時間で可能であること(図1),さらにサザンブロット・ハイブリダイゼーションを行えば,感度を上昇させることもできる.(21)1491naoita113-341-5-45特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):14911496,2008ポリメラーゼ連鎖反応(PCR),Goldmann-Witmer比(Q値)PolymeraseChainReaction(PCR),Goldmann-WitmerCoecient杉田直*330bp660bpMNPSHSVVZVNPS図1PCRゲル写真Polymerasechainreaction(PCR)検査で診断がついた水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)感染による急性網膜壊死の1例.アガロースゲル内の660bpのところにVZVDNAの陽性バンドが検出されている.同検体からはHSVDNAは陰性.M:100bpマーカー,N:negativecontrol(陰性コントロール),P:positivecontrol(陽性コントロール),S:検体(硝子体液).———————————————————————-Page21492あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(22)日和見感染症のなかで最も高頻度で出現すること,また臓器移植や,悪性腫瘍治療中に免疫抑制薬を使用する頻度が増えるにつれ,注意を要する疾患である.HSV,VZV,CMVをはじめとするヒトヘルペスウイルス属は,いくつかの原因不明の虹彩毛様体炎をひき起こしていると考えられる.すなわち,再発性で片眼性の虹彩炎を起こし,中等度の眼圧上昇を伴い,経過中に,虹彩脱色素,麻痺性散瞳,あるいは虹彩後癒着を起こしてくるような虹彩炎では,ヘルペスウイルスの関与が疑われる.多くは,ステロイド単独投与では治療に抵抗性を示す.実際,筆者らはこのような症例の前房水から,PCR法により,HSVあるいはVZVDNAを検出することができた2,3).このような症例では,アシクロビル(ゾビラックスR眼軟膏)やバラシクロビル内服の投与を併用することにより,速やかに治癒させることが可能で,ステロイドの投与量も軽減できる.その他に,ヘルペスウイルスの関与が疑われている疾患としては,角膜内皮炎,Posner-Schlossman症候群などがあげられる.近年,上記のようなPosner-Schlossman症候群類似の高眼圧,軽度の虹彩炎患者のなかにCMVDNAが検出さルス(VZV)をはじめとするヒトヘルペスウイルスは,急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)をはじめ,多くのぶどう膜炎の原因ウイルスとして知られている.急性網膜壊死患者の前房水,あるいは,硝子体手術時に得られる硝子体液からは,高率にHSV(HSV1またはHSV2)あるいは,VZV特異的なウイルスDNAがPCR法により検出される.筆者らも以前に,急性網膜壊死患者の14例の前房水または硝子体液から,PCR法により,上記ウイルスに特異的なDNAを検出した.これらの症例では,HSVまたはVZVが眼内炎症の直接的な原因となっているといえる.最近の知見では急性網膜壊死患者眼内液を用いたPCR法により,HSVやVZVに加えてEpstein-Barrウイルス(EBV)DNAが検出されるという報告がある1).また,サイトメガロウイルス網膜炎患者の眼内液からは,サイトメガロウイルス(CMV)のDNAが,血中抗体価の上昇に先んじて検出される.CMV感染症は後天性免疫不全症候群(AIDS)患者の眼図2サイトメガロウイルス(CMV)虹彩炎の前眼部写真角膜後面沈着物(KP,矢印)は白色で少し色素を含み,ぱらぱらと散在性に付着しており,高眼圧を伴っていた.虹彩炎は軽度で眼底に異常所見はない.臨床所見的にはPosner-Schlossman症候群との鑑別は困難である.この症例の前房水からCMVDNAが高コピー数検出された.この症例は経過中に角膜内皮炎(内皮浮腫)などはなかったが,角膜内皮細胞数が減少していた.治療はステロイド点眼に加えてバラガンシクロビルの内服が有効であった.マルチプレックスPCRプローブ液と混合融解曲線分析検体から抽出したDNAプローブ液PCR後融解曲線分析心PCRを行うPCR反応液キャピラリー図3多項目迅速PCR検査法この多項目迅速PCR検査(マルチプレックスPCR)は,数種類(多い場合は10種類以上のウイルスが可)のウイルスなどの外来性抗原を同時に迅速に検出できる新しいPCR検査システムである.具体的には眼局所検体からDNAを抽出後,AccuprimeTaqを用いてそれぞれのウイルス特異的プライマーを混合して,リアルタイムPCRのLightCycler(ロシュ社)で多項目迅速ウイルスPCRを行う.数種類のウイルスを2つのキャピラリーを用いて同時に検査する.PCR反応後,ハイブリダイゼーションプローブの混合液とPCR産物を混合し,meltingcurve解析を行い,ウイルスの同定を行う.これらはTm値(meltingtemperature,融解温度)が重ならないように設定したプローブによってウイルスの種類を判定する.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081493(23)ウイルスのHTLV-1(humanT-lymphotropicvirustype1)などがあげられる.2.PCRの新しい検査法ぶどう膜炎の場合,眼局所からウイルスなどの外来性抗原DNAが同定できれば,病因的価値が高くなる.診断目的には通常前房水が用いられるが,得られる検体量は0.1ml程度であることから可能な検査は限られる.れるという報告がある2).これらの症例では角膜後面沈着物が白色のものが散在性に付着しており臨床所見的にはPosner-Schlossman症候群との鑑別は困難である(図2).また,同様に角膜内皮炎でも前房水からCMVDNAが検出される報告もいくつかなされている.今後の詳細な報告が待たれるところである.その他,PCR法での報告1,2,4)がある眼科関連ウイルスはEBV,HHV6(ヒトヘルペスウイルス6型),レトロ2回目検体:血液および硝子体液3回目検体:血液,前房水,増殖膜1回目検体:血液および前房水HHV-6HHV-6HHV60.00200.00180.00160.00140.00120.00100.00080.00060.00040.00020.00000.00160.00140.00120.00100.00080.00060.00040.00020.0000-0.0002-0.0004-0.00060.000400.000350.000300.000250.000200.000150.000100.00005Fluorescence-d(F3/F1)/dTFluorescence-d(F3/F1)/dTFluorescence-d(F3/F1)/dT1setAH2O1setAH2O7setA5918setA59215setBH2O1setAH2O3setA7284setA7295setA7309setB66710setB6684setA6675setA6686setBH2O17setBH2O19setB72820setB72921setB73042.044.046.048.050.052.054.056.058.060.062.064.066.068.070.072.073.0Temperature(℃)図4眼内検体を用いて多項目迅速PCR検査を施行した代表症例の結果融解曲線カーブで陽性か陰性かの判定を行う.この症例は原因不明の難治性ぶどう膜炎の眼内液(前房水,硝子体液),手術で採取した眼内増殖組織,血液をインフォームド・コンセントのもと採取して,いずれの検体からもHHV6-DNAが検出された.HHV6はTm値が52℃で曲線が検出されるように設定していて,他のヘルペスウイルスDNA(HSV1,HSV2,VZV,EBV,CMV,HHV7,HHV8)はすべて陰性であった.治療にはバラガンシクロビル+ステロイドの内服を使用し,やがて消炎した.———————————————————————-Page41494あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(24)の参考にもなる.近年,筆者らは,VZV関連虹彩毛様体炎の前房水から高コピー数のVZVDNAが検出され,その眼局所のウイルス量と虹彩萎縮や麻痺性散瞳などの組織破壊が相関し(図5),早期診断が重要であることを報告している3).以前は多くの症例で,病因ウイルスが病巣(眼局所)から検出されずに疑いのまま加療されていた.さらに,その病巣からPCR法で特定のDNAが検出されたとしても,その陽性という結果はPCR法の感度が良いためにコンタミネーションなどが避けられないことから偽陽性が含まれる場合があった.近年,PCRシステムの改良により,多種のウイルスを同時にかつ迅速にスクリーニングして,その後異なったプライマーとプローブの組み合わせでウイルス量の定量化検査をする検査システムが報告されている2).その他の利点として,感染性ぶどう膜炎/眼内炎を否定する目的で使用できる.最近では,ウイルスだけではなく,Broad-rangePCRという細菌や真菌の共通保存領域をPCR法で増幅させる方法が報告されている5).これらは何の菌までかはわからなくて数年前まではこのような微量検体を用いて検査可能な核酸の検出や特異抗体の同時測定を行っていた.その頃はPCR法を用いても核酸は12項目,抗体も抗体率(Q値)まで求めるためには数項目が限度であった.現在は,このような微量検体でも迅速に簡易的に多くの項目(10種類以上)の核酸や特異抗体を検査できるシステムが作成され,実際臨床応用されてきている(多項目迅速PCR検査,図3)13).この多項目迅速PCR検査(マルチプレックスPCR)の特徴は,数種類のウイルスなどの外来性抗原を同時に迅速に検出できる.その方法を図3に記載したが,以前のPCR法のようにゲル内のバンド検出で判定するのではなく,融解曲線で陽性か陰性かの判定を行う(図4).曲線が大きい場合,ウイルス量が多いことがわかり半定量できる利点がある.加えて,その核酸の量を定量化する検査が出現した(リアルタイムPCR).このリアルタイムPCRは経過中に何度か検体を採取できればその経過中のウイルスDNAコピー数が把握できる利点がある2).また,治療前に眼局所のウイルス増幅コピー数を把握できるために,実際,治療薬の量の決定症例1症例2前房水VZVDNA量1.2×107copies/m?前房水VZVDNA量1.3×105copies/m?図5VZV虹彩毛様体炎の前眼部写真とその眼局所ウイルス量症例1は前房水中のVZVDNAコピー数が1.2×107copies/mlと非常に高く,経過中に広範囲な虹彩萎縮と麻痺性散瞳がみられた(矢印).症例2はVZVDNAコピー数が1.3×105copies/mlと高コピー数だが,症例1に比べたら2桁以上低く,虹彩萎縮も斑状で範囲が小さく(矢印),麻痺性散瞳はなかった.これらの結果のように眼局所でのウイルス量と眼内組織破壊は相関しており,早期診断,早期治療が重要であることがわかる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081495(25)3.抗体率の判定における注意点今回示した診断基準は急性網膜壊死に対して設けられたものだが,理論上その他多くの病原体に適用できると思われる.病原体が眼以外の臓器に感染した場合,血清抗体価も上昇するので,1≦抗体率<6でも診断的価値があると思われる.抗体率が1未満の場合は,眼内局所での抗体産生はないと考えてよい.眼局所の少ない検体量の問題から,既知のすべての病原体について抗体率を測定することは不可能である.臨床所見から疑える病原体を数種類に絞る必要がある.やはり,最も重要なのは臨床診断であり,加えてPCR法やQ値測定など複数の検査を施行するのが理想である.文献1)杉田直,岩永洋一,川口龍史ほか:急性網膜壊死患者眼内液の多項目迅速ウイルスPCRおよびリアルタイムPCR法によるヘルペスウイルス遺伝子同定.日眼会誌112:30-38,20082)SugitaS,ShimizuN,WatanabeKetal:UseofmultiplexPCRandreal-timePCRtodetecthumanherpesvirusもこれらの感染を否定することができ,治療の中心がステロイドのぶどう膜炎分野ではこれらのPCR法が広く使用されるようになってきている.理論的にはすべての外来性抗原をPCR法で検出することが可能で,今後は眼科関連性のある外来性微生物をすべて網羅できる検査システムの開発が待たれる.IIGoldmann-Witmer比(Q値)とは眼内の抗原に対して免疫反応が生じると,眼内でリンパ球の増殖と抗体産生が起こる(おもにBリンパ球が産生).一般的には眼内炎症時には単位抗体当たりの抗原特異抗体の割合は,血清よりも眼内液(房水あるいは硝子体液)が高値となる.つまり眼内局所のみの感染であれば,血清抗体価は低値のことが多い.眼内における感染が主体の場合,眼内で抗体が産生される.したがって眼内液の抗体価の検討が重要になり,抗体率が診断に用いられる.1.抗体率を検討するうえでのポイント眼内液の抗体価が上昇してくるまでには少なくても眼内炎症性疾患の発症後12週間はかかると考えられている.免疫不全状態(AIDSなど)では眼内液の抗体価が上昇しにくいため,ウイルスの検出(PCR法)など他の診断法が必要である.また眼内ウイルスDNA検出は治療によってやがて陰性化していくが,眼内液の抗体価はゲノムに比べて持続しやすい.発症約数年後にも眼内液の抗体価が高値であったという報告もある.PCRなどの遺伝子検査と比較した抗体率測定の最大の利点は,急性期以外でも眼局所抗体が検出され,後々でも検体が保存されていればQ値を調べることができるという点である.2.抗体率の計算方法(Goldmann-Witmer係数の具体例,図6)【症例】右眼ぶどう膜炎の患者.血清抗VZVIgG160倍,血清総IgG800mg/dl.前房水総IgGは500mg/dl.前房水抗VZVIgG800倍で,計算上の値はQ=8.右眼眼底周辺部の網膜壊死があり,VZV感染による急性網膜壊死と診断した.図6Goldmann-Witmer係数(抗体率,Q値)の計算方法および具体例図のように血清2項目,眼内液2項目の合計4項目の抗体を測定し,図の計算式に当てはめる.急性網膜壊死の場合,発症からの経過が長いときは,眼内液からDNAが検出されないことがあり,Q値測定が必要となる.抗体率(Q)=病原体(A)に対する眼内液*の抗体価眼内液のIgG濃度病原体(A)に対する血清の抗体価血清のIgG濃度判定:Q<1→病原体(A)の眼内感染なし1≦Q<6→病原体(A)の眼内感染の疑い6≦Q→病原体(A)の眼内感染あり,陽性*眼内液:前房水や硝子体抗体率(Q)=VZVに対する前房水の抗体価=800前房水の総IgG濃度=500VZVに対する血清の抗体価=160血清の総IgG濃度=800判定:Q値=8で陽性,最終診断:VZV急性網膜壊死具体的な代表例抗体率(Q,Goldmann-Witmer係数)———————————————————————-Page61496あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(26)humanherpesvirus6inapatientwithsevereunilateralpanuveitis.ArchOphthalmol125:1426-1427,20075)ChiquetC,CornutPL,BenitoYetal;FrenchInstitutionalEndophthalmitisStudyGroup:EubacterialPCRforbacte-rialdetectionandidenticationin100acutepostcataractsurgeryendophthalmitis.InvestOphthalmolVisSci49:1971-1978,2008genomeinocularuidsofpatientswithuveitis.BrJOph-thalmol92:928-932,20083)KidoS,SugitaS,HorieSetal:Associationofvaricella-zostervirus(VZV)loadintheaqueoushumorwithclini-calmanifestationsofanterioruveitisinherpeszosteroph-thalmicusandzostersineherpete.BrJOphthalmol92:505-508,20084)SugitaS,ShimizuN,KawaguchiTetal:Identicationof

光干渉断層計,フルオレセイン蛍光眼底造影,インドシアニングリーン蛍光眼底造影,超音波検査

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSる場合には明瞭な画像が得られにくく,また固視不良な場合には,歪んだ画像が得られる場合も多い.しかしながら,特に眼底後極の漿液性網膜離,黄斑浮腫などを患者に侵襲を加えずに負担が少なく行えるので経過を追って病態を観察記録したり,治療効果を客観的に判定したりするのに有用である.ただ,周辺部網膜の観察は困難なところが難点である.また,網膜色素上皮よりも外層の脈絡膜の情報は得にくい.OCTがその力を発揮する代表的な病態に黄斑浮腫や脈絡膜新生血管がある.黄斑浮腫に関して,検眼鏡的にはわからない軽微な浮腫でも,OCTでは検出することができ,視力低下の原因検索に役立つことがある.網膜の浮腫は,OCTでは,網膜外層への水分貯留により層構造の乱れや網膜厚の肥厚として検出される.胞様変化は中心窩と周辺に形成され,ぶどう膜炎でみられる浮腫はこのタイプの浮腫を呈することが多い(図1).原田病に伴う漿液性網膜離では,離した神経網膜と網膜色素上皮に囲まれた低反射領域として観察される(図3).ステロイド治療などにより,適切に炎症がコントロールできれば網膜浮腫の改善と視力向上が期待でき,結果として画像所見の改善として評価することができる(図2,4,5).脈絡膜新生血管に関しては,ぶどう膜炎の長期経過観察中に,脈絡膜新生血管を生じることがあり,検眼鏡的には検出されない微小な病変の検出と非侵襲的な経過観察が可能である(図6).はじめにぶどう膜炎患者の診察に際して,初診時に必ず行うべき眼科検査として,視力検査・眼圧測定・細隙灯顕微鏡による前眼部検査・隅角検査・眼底検査があげられる.加えて,網膜血管や脈絡膜血管の状態を評価するためのフルオレセイン蛍光眼底造影検査(uoresceinangiog-raphy:FA)・インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(indocyaninegreenangiography:IA)などは,蛍光色素漏出の形態より血管炎や浮腫の存在を明らかにでき,診断に結びつく特徴的な所見が得られるため有効な検査である.超音波検査(ultrasonography:US)は,眼底が透見できないようなときに,眼内の状態を検索・評価する場合に有用で,光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)も,非侵襲的に検査を施行できるために,黄斑浮腫のような網膜病変を経時的に評価するのに有効な検査である.上記の検査法は,鑑別診断に役立つ重要な情報を提供してくれるので,疾患ごとの特徴的検査所見を覚えておくことは診断と治療に大切なことである.I光干渉断層計(OCT)OCTは,近赤外領域の低干渉ビームにより網膜断層像を描出するものであり,後極部眼底の網膜断層像の評価や,黄斑部の網膜厚測定に通常使用されている.OCTは,光によるエコー断層造影検査であるので慢性のぶどう膜炎患者のように白内障や硝子体混濁が存在す(15)1485sushduuOu眼565087122眼特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):14851490,2008光干渉断層計,フルオレセイン蛍光眼底造影,インドシアニングリーン蛍光眼底造影,超音波検査OpticalCoherenceTomography,FluoresceinAngiography,IndocyanineGreenAngiographyandUltrasonography———————————————————————-Page21486あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(16)図1胞様黄斑浮腫網膜内に房状の低反射領域として,隔壁に囲まれたいくつかの部屋からなる胞様黄斑浮腫が認められる.胞様変化によって中心窩の陥凹が消失している.図2胞様黄斑浮腫(ケナコルトTenon下投与後)炎症所見が改善し浮腫が軽快した.図3原田病における漿液性網膜離(治療開始前)感覚網膜と網膜色素上皮が分離した網膜離が認められる.網膜下液は低反射領域になっている.図4原田病における漿液性網膜離(治療開始後)治療により改善傾向にある.図5原田病における漿液性網膜離(治療開始後)網膜下液は消退しつつあり,中心窩陥凹は回復してきている.このようにOCTは,非侵襲的に時間経過を追って治療効果の判定を行うことができる.図6脈絡膜新生血管———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081487(17)に得られる可能性があり,疾患ごとの特徴的な造影所見を覚えておくと便利である.例をあげるとBehcet病でよくみられる毛細血管レベルでの炎症は,検眼鏡では観察が困難であるがFA所見では網膜毛細血管からのシダ状の蛍光漏出として捉えることができる(図7).原田病における後極部の網膜離に一致した多発性蛍光漏出点と蛍光色素の貯留(図8),急性後極部多発性円板上網膜色素上皮症(acuteposteriormultifocalplacoidpigmentIIフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)の撮影の目的は,網膜循環動態の評価と,網膜血管および網膜色素上皮がもつ血液網膜関門の状態を把握することにある.FAでは,検眼鏡的には判然としない網膜血管炎の所在や蛍光漏出などが過蛍光として描出され,診断に有用である.FAでは,鑑別診断につながる特徴的な所見が疾患ごと図7Behcet病におけるシダ状の蛍光漏出網膜毛細血管からのびまん性色素漏出が認められる.図8原田病における多発性の過蛍光と貯留図9胞様黄斑浮腫菊花様の蛍光貯留造影後期に菊花様の過蛍光を認め,蛍光色素の貯留が認められる.図10サルコイドーシス静脈に沿って多発性結節状の蛍光漏出点を認める.———————————————————————-Page41488あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(18)後での網膜血管炎の活動状態を比較することにより,治療法の選択や投与量の検討を客観的に把握できる点で重要な検査である.IV超音波断層検査(US)ぶどう膜炎疾患における超音波診断は,さまざまな検査機器の進歩にかかわらず,依然として日常不可欠の重要な検査診断法の一つである.その理由として,ぶどうepitheliopathy:APMPPE)における早期の低蛍光と晩期の過蛍光などは診断的価値が高い所見である.また,胞様黄斑浮腫の検出や診断,血管閉塞の診断にも不可欠である(図9).その他,サルコイドーシス(図10)やトキソプラズマ症(図11)などにおいても特徴的な検査所見を得ることができる.IIIインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(IA)インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(IA)では,FAでは検出が困難な脈絡膜新生血管や脈絡膜の循環障害の検出などに有用な検査である.具体例をあげると,原田病では,脈絡膜循環障害により充盈遅延が認められる(図12).これは,脈絡膜毛細管板での血管閉塞が局所に生じているからで,造影後期まで続く斑状低蛍光が認められる.脈絡膜の循環不全をきたす地図状脈絡膜炎・APMPPEでは,IAでは早期から後期まで低蛍光であり,脈絡毛細管板,毛細血管前細動脈の循環障害が観察され診断の根拠となる.また,multifocalchoroidi-tis(MFC)などのように脈絡膜を主座とする疾患の診断にも有効である(図13,14).以上述べてきたように,FA/IA蛍光眼底所見はぶどう膜炎の活動性と治療効果の判定に有用であり,治療前図11トキソプラズマEdmundJensen型視神経乳頭近傍に生じ,造影後期に組織染する蛍光漏出領域を認める.図12原田病のIA脈絡膜血管が不鮮明で低蛍光斑と脈絡膜血管の透過性亢進による過蛍光が認められる.図13多発性脈絡膜炎(MFC)のFA———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081489(19)おわりに以上述べてきたように,疾患ごとに特徴的な検査所見を得ることができるためにOCT,FA,IA,USは,臨床所見と検査結果を組み合わせて,鑑別診断から確定診断へと導くことのできる診療を進めるうえでの重要な検査方法であると考えられる.膜炎患者によくみられる硝子体混濁があっても観察でき,眼球内病変の診断が容易に可能であることがあげられる.眼炎症疾患でよく用いられるのは,B-modeである.これは,超音波の反射波の強度を直接,白黒の濃淡をつけることにより表示し観察する方式である.走査プローブの動きにより,組織の二次元的断層像を表示することにより眼球内の形態が捉えられるため,腫瘍などの眼球内構造物の全眼球における位置関係やその全体像,大きさの把握などが同時に行える点で有効な検査方法である.特に高度の前房炎症や硝子体混濁,出血により眼底の観察が困難な場合,エコーで眼底の状態を推察することができる(図15).その他の例として,後部強膜炎における強膜の肥厚像など診断に役立つ情報を得ることができる(図16).USによりびまん性の脈絡膜肥厚を認める所見は,原田病の診断基準の一つにもあげられている.一般的に,眼科領域で使用している超音波診断装置は520MHz周波数の振動数をもつものであるが,この低周波の超音波では毛様体を含んだ前眼部組織の描出には適しておらず,前眼部組織の超音波検査には最近実用化されている3050MHzの高周波超音波装置(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)が使用されるようになった.UBMでは,隅角や毛様体の状態位置関係をはっきりと描出することができる.図14多発性脈絡膜炎(MFC)のIA図13のFA所見と比較して脈絡膜病変がより広範囲であることがわかる.図15細菌性眼内炎症例のUS所見前眼部の強い炎症のため眼底が透見不能であったが,USにより網膜全離していることが明らかにされた.図16後部強膜炎のTサイン像後極部組織の肥厚が明らかである.———————————————————————-Page61490あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(20)3)飯田知弘:インドシアニングリーン蛍光眼底造影.眼科検査ガイド,p606-613,文光堂,20044)大島佑介:超音波検査.眼科検査ガイド,p560-564,文光堂,20045)湯澤美都子(編著):インドシアニングリーン蛍光眼底アトラス─フルオレセイン蛍光眼底との比較,南山堂,1999参考文献1)大谷倫裕:OCT.眼科検査ガイド,p576-582,文光堂,20042)髙橋寛二:フルオレセイン蛍光眼底造影.眼科検査ガイド,p600-605,文光堂,2004

ヒト白血球抗原(HLA)

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSる.クラスⅠ分子は細胞自身がもつ内在性蛋白質が分解されてできたペプチドと結合し,CD8+T細胞がこれを認識して活性化する.HLAクラスⅡ分子はa鎖とb鎖のヘテロダイマーからなる膜貫通型糖蛋白質で,B細胞,抗原提示細胞(皮膚のLangerhans細胞,樹状細胞,単球,マクロファージ)および活性化T細胞のみに分布している.クラスⅡ分子は抗原提示細胞が細胞外より取り込んだ抗原を分解してできたペプチドを結合して細胞表面に発現し,これをCD4+T細胞に提示して活性化する2).MHCはヒトではHLAとよばれるが,他の動物(種)では名称が異なる(表1).はじめにさまざまな要素が関わり合い疾患に罹患することになるが,そのなかには生まれもっている遺伝子も含まれる.もちろん,遺伝子の異常によって発症する疾患もあるが,遺伝子そのものに異常がなくとも,その遺伝子により疾患感受性が規定されていることがある.その一つが,抗原提示あるいは自己認識に関わる主要組織適合遺伝子複合体(majorhistocompatibilitycomplex:MHC)抗原である.MHCは個人により保有する型が異なり,ある種の型をもっている場合,ある疾患に罹りやすいことが知られている.IMHC抗原糖蛋白質であるMHC抗原はヒトの場合ではヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)とよばれ,1954年にJ.Dausset博士によってパリ大学で発見された1).その支配遺伝子座は第6染色体短腕上に存在し,高度の遺伝的多型性がある.免疫応答制御の中心的な役割を果たし,全長約4,000kbでありヒトゲノムのなかでも早くから詳細な解析が進んでいる遺伝子領域である.HLAは構造上の違いからHLA-A,B,Cに代表されるクラスⅠ分子とHLA-DR,DQ,DPからなるクラスⅡ分子に分けられる.また補体関連の蛋白質をクラスⅢということがある.MHCクラスⅠ分子はa鎖とb鎖のヘテロダイマーからなる膜貫通型糖蛋白質で全身の有核細胞に発現してい(9)1479eh838157特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):14791483,2008ヒト白血球抗原(HLA)HumanLeukocyteAntigen(HLA)南場研一*表1MHCの名称種MHCヒトマウスラットウサギネコブタHLAH-2RT1RLAFLASLAHLA:humanleukocyteantigen.H-2:histocompatibility-2.RLA:rabbitleukocyteantigen.FLA:felineleukocyteantigen.SLA:swineleukocyteantigen.———————————————————————-Page21480あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(10)III人類の進化とHLA個体はその個体のもつ遺伝情報により作られる.遺伝子の多くは個体間で差がなく,ほぼ共通の個体が形成される.たとえば,眼は2個,鼻は1個,耳は2個である.しかし,個体間で異なる部分もあり,たとえば皮膚の色,虹彩の色の違いは遺伝子の差により決定される.遺伝子の変化に富んだ部分を遺伝子多型があるというII抗原提示抗原に対する免疫反応は,以下のメカニズムにより成立する.蛋白抗原は抗原提示細胞内で,アミノ酸820個の直鎖であるペプチドへと分解される.ペプチドはMHCに結合し細胞表面へ運ばれ,T細胞へ提示される(図1).一般にMHCクラスIは内因性抗原を提示しCD8+T細胞,NK(naturalkiller)細胞により認識されるのに対し,MHCclassIIは外来抗原を提示し,CD4+T細胞に認識される.ところが,すべてのペプチドが抗原提示されるわけではなく,MHCに結合可能なペプチドのみが抗原提示される.このことがMHCにより疾患感受性が規定される鍵となる部分である.たとえば,aというペプチドに反応するT細胞が,ある疾患の発症に関与している場合,AさんのMHCにはaが結合するがBさんのMHCにはaが結合しないとすると,Aさんはa反応性T細胞により発症の可能性があるが,Bさんには発症の可能性がないというわけである(図2).さらにいえば,MHCにはペプチドが結合する溝があり,その溝には特定のアミノ酸のみ結合可能なポケットが2カ所ある.そのポケットに結合可能なアミノ酸が配列されたペプチドだけがMHCに結合するのである(図3).抗原抗原ペプチドMHC抗原提示細胞T細胞レセプターT細胞図1抗原提示抗原蛋白はアミノ酸820個の直鎖であるペプチドへと分解され,MHCに結合して細胞表面へ運ばれ,T細胞へ提示される.MHCクラスIとクラスIIとで蛋白分解,MHCへの結合の過程が異なる.a(抗原ペプチド)AさんのMHC(HLA)結合T細胞活性化発症Aさんa(抗原ペプチド)BさんのMHC(HLA)結合しないTT細胞活性化せず発症せずBさんT図2HLAの違いによる疾患感受性aというペプチドに反応するT細胞がある疾患の発症に関与している場合,aが結合可能なMHCをもつAさんはa反応性T細胞により発症.しかし,aがMHCに結合しないBさんではa反応性T細胞へ抗原提示が行われないため,Bさんは発症しない.ポケットMHCアンカーアンカーペプチド図3ペプチドのMHCへの結合MHCにはペプチドが結合する溝があり,その溝には特定のアミノ酸のみ結合可能なポケットが2カ所ある.ペプチドのアミノ酸配列のなかにポケットに結合するアンカーとよばれる部位があるが,そのアンカー部位のアミノ酸の種類によりそのペプチドがMHCに結合可能かどうかが決定される.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081481(11)HLAタイピング抗血清,新鮮な十分量のリンパ球が必要であった.一方,最近ではHLA遺伝子の塩基配列が明らかとなり,遺伝子レベルでサブタイプに分類されるようになった.その結果得られたものを遺伝子型という.遺伝子型の検査法にはいくつかあるがPCR-SSO(polymerasechainreaction-sequencespecicoligonu-cleotide)法が最も普及している.遺伝子特異的なプライマーを使ってPCR増幅を行い,多型性部位配列に特異的なプローブと反応させて,陽性プローブの位置に発色バンドが出るようにしたものがキットとして用いられている.遺伝子型は「*」をつけて4桁の数字で示されるが,最近ではより詳細に遺伝子サブタイプの解析が進み8桁まで示されることもある.上2桁が血清型と一致することが多いが,違うものもあるので注意が必要である(表2).VIぶどう膜炎とHLAぶどう膜炎のなかでHLAがその発症に関与が示されているのは以下の疾患である.1.Behcet病Behcet病とHLA-B51との相関については,1973年に大野ら3)により(その当時はHL-A5)初めて報告された.その後の解析により,Behcet病の61%にHLA-B51がみられ,日本人のHLA-B51遺伝子表現頻度が15%(遺伝子頻度は8.6%)であることから高い危険率で疾患との相関がみられることが判明し,現在では疾患原因遺伝子の一つと考えられている.そして遺伝子型ではB*5101であることが判明した.最近ではさらに遺伝子サブタイプの分類が進みHLA-B*510101と6桁まで表記される.またB51陰性患者においてHLA-A*2601との相関も明らかにされている4).2.HLAB27関連ぶどう膜炎HLA-B27(HLA-B*2704,*2705)陽性者に発症する急性前部ぶどう膜炎である.日本人のHLA-B27遺伝子表現頻度が1%未満(遺伝子頻度は0.25%)であることを考えると診断的意味が大きい.他のHLA-B27関連疾が,HLAも遺伝子多型のある部位であり,人類の進化とともに変化してきたと考えられている.人類は700万年前にアフリカで誕生し,2万年前にユーラシア大陸へ入った後,一部はヨーロッパへ,一部はアジアへと広がった.ヨーロッパへ広がった白人のもつHLAと,アジアへ広がったモンゴロイドのもつHLAはまったく異なるパターンを示し,HLAの多型を調べることにより人類の足跡をたどることができるともいわれている.また,人類の進化とともにHLAが変化し,そのために出現した疾患もあると考えられる.たとえば,恐らく人類が誕生したときにはHLA-B51は存在しなかったし,Behcet病はこの世になかったと考えられる.白人,黒人にはHLA-B51が少ないことから,HLA-B51はユーラシア大陸に入った人類が,ヨーロッパとアジアへ別れた後,アジアへ向かった人類のなかから突如としてトルコ近辺で出現したと考えられており,その後にBehcet病も出現するようになったことが考えられる.人類は過酷な環境のなかで生存すべく遺伝子を変化させ適応してきたが,逆に不要な疾患も作り出してしまったようだ.IV疾患感受性とHLAある疾病は単一遺伝子の異常,欠損によって生じる.たとえば,アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症などである.しかし,多くの疾病は複数の原因遺伝子が発症に関与すると考えられており,その複数の原因遺伝子をすべて保有しなくても,ある程度保有していると発症すると考えられている.たとえば,Behcet病もそのような多遺伝子が原因と考えられている疾患であり,その原因遺伝子の一つがHLA-B51である.Behcet病のなかにはHLA-B51陰性の患者もいるのはそのためである.V血清型と遺伝子型以前は,リンパ球混合培養あるいは血清に対する反応性(抗血清反応)によりHLA型の決定が行われていた.その結果得られたものを血清型という.その方法は,検査対象者のリンパ球を分離し,これを標的として多数の厳選されたHLAタイピング抗血清との反応をもとにHLA型を決定するものであるが,この方法では良質な———————————————————————-Page41482あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(12)VII実際の検査HLA検査は,地域によって異なるが,ぶどう膜炎には保険適用がないため自費もしくは研究費で行っているのが現状である.これまで述べてきたように診断に重要な検査であることを考えると,この状況は決して望ましくなく,早期に保険適用となることが期待される.稿を終えるにあたり,ご校閲いただきました北海道大学医学研究科炎症眼科学講座大野重昭教授に深謝いたします.文献1)DaussetJ:Leuco-agglutinins.IV.Leuco-agglutininsand患(強直性脊椎炎,炎症性腸疾患,乾癬,Reiter病)を合併することもある.3.Vogt小柳原田病HLA-DR4(HLA-DRB1*0405,*0410)との関連が示されている.実際,原田病の82100%がDR4陽性である57).しかし,日本人のDR4頻度が2943%57)と高いことを考えると,DR4陽性であることは原田病である根拠にはならず,むしろDR4陰性の場合に原田病ではない可能性を示唆するものであると理解すべきである.また,日本人の交感性眼炎でもVogt-小柳-原田病と同一のHLA相関を示す.表2HLABの遺伝子型と対応する血清型血清型遺伝子型遺伝子頻度(%)血清型遺伝子型遺伝子頻度(%)B7B*0702015.54B61B*4002017.75B*0705010.01B*40030.42B13B*13011.20B*400601014.70B*1302010.26B60B*40070.01B62B*150101019.37B44B*440201010.45B75B*15020.04B*4403016.97B62B*15070.63B46B*4601014.59B75B*1511010.96B48B*48012.93B71B*15181.57B51B*5101018.62B62B*15280.10B*5102010.23B*15380.01B*51030.01B27B*2704010.20B52B*52010111.43B*2705020.05B54B*54017.55B35B*3501018.15B55B*5502012.43B37B*3701010.52B*55040.16B38B*3802010.25B56B*56010.91B39B*390101013.34B*56030.17B*3902010.04B58B*58010.65B*39040.25B59B*59011.94B*39230.04B67B*6701010.99B60B*4001015.41遺伝子頻度は日本赤十字社中央骨髄データセンター骨髄提供希望登録者のHLA型遺伝子頻度より抜粋(http://www.bmdc.jrc.or.jp/stat.html).頻度が0.01%未満のものは省いた.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081483(13)patients.MolVis12:1601-1605,20066)IslamSM,NumagaJ,MatsukiKetal:InuenceofHLA-DRB1genevariationontheclinicalcourseofVogt-Koy-anagi-Haradadisease.InvestOphthalmolVisSci35:752-756,19947)ShindoY,InokoH,YamamotoT,OhnoS:HLA-DRB1typingofVogt-Koyanagi-Harada’sdiseasebyPCR-RFLPandthestrongassociationwithDRB1*0405andDRB1*0410.BrJOphthalmol78:223-226,1994bloodtransfusion.VoxSanguinis4:190-198,19542)菊地浩吉:周り道免疫学.メディカルレビュー社,19983)OhnoS,AokiK,SugiuraSetal:HL-A5andBehcet’sdis-ease.Lancet2:1383-1384,19734)上石智子,伊藤良樹,目黒明ほか:PCR-SSOP-Luminex法を用いた日本人Behcet病患者における症状別HLA-A,-B遺伝子解析.日眼会誌112:451-458,20085)HorieY,TakemotoY,MiyazakiAetal:TyrosinasegenefamilyandVogt-Koyanagi-HaradadiseaseinJapanese

血液検査

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS結果に影響する可能性がある.ステロイド内服治療が必要となる場合には,治療を始める前に全身的な問題がないかをチェックするための血液検査が必要となる.また,ステロイドやその他の免疫抑制薬などを内服治療中は,定期的に全身的な副作用がないかをチェックするための血液検査が必要である.II血液検体の取り扱い溶血しないように採血し,各検査にあった専用の容器に分注する.採取した血液中の細胞は生きて代謝をするため,室温に放置する時間によって検査結果に影響がでる場合がある.よって原則として検体はできるだけ早く提出することが望ましい.特殊な検査では,受付曜日や時間に制限があったり,予約が必要な場合がある(例:結核のクオンティフェロン検査)ので注意が必要である.ウイルス抗体価のペア血清での測定など,後の確認検査や追加検査のために血清を保存しておく場合は,採血して20分室温放置後3,000rpmで5分間遠心し,分離した血清を別の容器に移して凍結保存する.III検査項目の選択問診,視診と眼科学的検査からある程度診断を推測して,何を検査すべきかを決める.スクリーニング検査と称して,どんな症例にも画一的にたくさんの検査を行うことは勧められない.すべてのぶどう膜炎に行う基本検査に,推測される疾患に合わせて表1に示すような検査はじめに血液検査をする目的は,(1)診断のため,(2)病態把握のため,(3)重症度・活動性判定のため,(4)治療効果判定のため,(5)薬物副作用チェックのため,(6)経過観察のためなどである.これらの検査の目的を意識したうえで検査計画をたてて,医学的にも医療経済面にも効率の良い感度・特異度の高い検査,すなわち患者の病態にあった最小限でかつ最適な検査を施行することが望まれる.I検査する症例の選択と検査のタイミングすべてのぶどう膜炎患者で診断のための血液検査をする必要はない.軽い片眼性の非肉芽腫性前部ぶどう膜炎で,潜在的な疾患を疑わせる全身的症候や所見のない症例では,血液検査を行う必要はほとんどない.このようなぶどう膜炎では血液検査で異常がみられることはほとんどなく,点眼治療ですぐに治癒する.また,問診と眼所見から十分に診断を予測できる症例にも,診断のための血液検査をあえて行う必要はない.たとえば,術後や外傷後のぶどう膜炎,眼所見や眼外症状などから原田病と診断できる場合,またはサルコイドーシスやBehcet病などの全身性疾患がすでに判明している場合などでは,診断のための血液検査は不要である.診断のための血液検査は,基本的には治療をはじめる前に施行するほうがよい.ステロイド点眼治療ではほとんど問題ないが,ステロイド全身投与は種々の血液検査(3)1473Naa52351特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):14731478,2008血液検査BloodTests中尾久美子*———————————————————————-Page21474あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(4)ではHTLV-1(humanT-lymphotropicvirustype1)関連ぶどう膜炎やトキソプラズマ症が比較的多いという特徴があり,HTLV-1関連ぶどう膜炎は眼所見だけでは診断ができないので,HTLV-1抗体をすべてのぶどう膜炎で検査している.トキソプラズマ抗体は眼所見から疑われる症例で検査していたが,典型的な病像を呈しない場合もあると報告されてからは,念のためすべての症例で検査している.これらの疾患の少ない地域では,これらの検査を基本検査に入れる必要はないかもしれない.一つの検査項目に対して複数の検査方法がある場合,どの検査法を選ぶかが問題となる.まずスクリーニングとなる検査法で検査して,陽性になったら精密検査を行うのが基本である.確認検査や追加検査が必要になる場合,深追いはせずにあとは専門の内科に依頼するのもよい方法と思われる.また,保険診療のルールにのっとっ項目を加えて検査するとよい.基本検査をどこまでやるかは個人の考え方で変わるし,ぶどう膜炎には地域差があるので,それによっても基本検査は変わってくると思われる.表2に示したのは鹿児島大学病院眼科で行っているぶどう膜炎の診断のための基本検査である.鹿児島表1ぶどう膜炎の診断の参考になる血液検査所見ぶどう膜炎血液検査所見サルコイドーシスアンギオテンシン変換酵素↑原田病HLA-DRB1*0405,DRB1*0410Behcet病CRP↑,白血球↑,HLA-B51梅毒RPR陽性,TPHA陽性結核クオンティフェロン陽性サイトメガロウイルス網膜炎サイトメガロウイルス抗原陽性,CD4↓,CD4/CD8↓HTLV-1関連ぶどう膜炎HTLV-1抗体陽性Epstein-Barrウイルス関連ぶどう膜炎EA抗体,VCA抗体,EBNA抗体の異常高値トキソプラズマ症トキソプラズマ抗体陽性トキソカラ症トキソカラ幼虫に対する抗体陽性,好酸球増多ネコひっかき病Bartonellahenselae抗体陽性内因性真菌性眼内炎b-D-グルカン陽性若年性関節リウマチ抗核抗体陽性,RF陽性関節リウマチRF陽性強直性脊椎炎HLA-B27HLA-B27関連急性前部ぶどう膜炎HLA-B27全身性エリテマトーデスに伴う網膜血管炎抗核抗体陽性,抗DNA抗体陽性,CRP↑糖尿病性虹彩毛様体炎血糖↑,HbA1c↑CRP:C-反応性蛋白,RPR:急速血漿レアギン試験,TPHA:梅毒トレポネーマ赤血球凝集反応,HTLV-1:humanT-lymphotropicvirustype1,EA:earlyantigen,VCA:viruscapcidantigen,EBNA:Epstein-Barrnuclearantigen,RF:リウマトイド因子,HbA1c:ヘモグロビンA1c.表2鹿児島大学病院におけるぶどう膜炎の基本的血液検査・末梢血液一般検査赤血球数白血球数血色素測定ヘマトクリット値血小板数・末梢血液像・CRP定量・アンギオテンシン変換酵素・梅毒定性検査RPRTPHA・HTLV-1抗体(PA)・トキソプラズマ抗体(LA)CRP:C-反応性蛋白,HTLV-1:humanT-lymphotropicvirustype1,RPR:急速血漿レアギン試験,TPHA:梅毒トレポネーマ赤血球凝集反応,PA:粒子凝集試験,LA:ラテックス凝集試験.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081475(5)する.白血球の増加,減少がみられる場合には必ず分画を確認し,白血球数×分画(%)でどの白血球の絶対数に異常があるかをみる.好中球の絶対数が500/μl以下になると易感染性となる.好酸球が500600/μlを超えると好酸球増多症で,寄生虫感染やアレルギー疾患が疑われる.リンパ球が減少して免疫不全が疑われる場合にはT細胞,B細胞分画を調べる必要がある.c.赤血球沈降速度(赤沈)急性および慢性感染症,自己免疫性疾患,悪性腫瘍,心筋梗塞,熱傷,貧血,白血病,肝硬変などで促進する.2.生化学的検査a.アンギオテンシン変換酵素(ACE)ACEはサルコイドーシスの類上皮細胞肉芽腫に多量に存在していることから,サルコイドーシスの補助診断や病態把握,経過観察に用いられ,活動性サルコイドーシス患者の80%以上で高値を示すといわれる.ただし,サルコイドーシスでも病変が両側肺門リンパ節腫脹のみである場合には,ACEは軽度上昇ないし基準範囲内にとどまることがある.肝硬変,腎不全,Gaucher病,糖尿病,甲状腺機能亢進症などでも高値を示すが,サルコイドーシス以外の疾患でのACE値上昇は通常軽度である.ステロイド内服治療を開始すると速やかにACEが低下することがあるので,ステロイド治療開始前に測定する必要がある.b.免疫グロブリン免疫異常(自己免疫や慢性炎症疾患,免疫不全)が疑われる場合に検査する.通常は血中濃度が高く,さまざまな病態との関連が示されているIgG,IgA,IgMの3種を調べる.アレルギー疾患や寄生虫感染症を疑う場合はIgEを測定する.慢性感染症(結核,亜急性心内膜炎,慢性気管支炎など),膠原病,慢性肝炎,悪性腫瘍,IgA腎症で多クローン性に増加し,多発性骨髄腫,原発性マクログロブリン血症,本態性M蛋白血症で単クローン性に増加する.リンパ増殖性疾患,急性ウイルス感染症,後天性免疫不全症候群(AIDS),蛋白漏出性疾患,免疫抑制療法施行時,内分泌異常で減少する.c.C反応性蛋白(CRP)炎症マーカーの代表で,細菌感染症,膠原病などの炎た検査をすることも必要である.ぶどう膜炎の血液検査として保険適用となる検査は地域によって多少異なるので,確認したうえで検査する.IV検査結果の解釈各検査には基準値・基準範囲があり,それを参考に異常があるかを判定する.基準範囲とは,定量検査について基準個体が示す基準値のうち,95%を含む中央部分の上限値と下限値の間に含まれる測定値範囲をいう1).よって,基準範囲に入っていても病的でないとはいえないし,基準範囲から外れていても病的であるとはいえないことに留意する必要がある.感染症に関する検査では,血液検査は全身的な感染を証明しても,ぶどう膜炎の原因であることを証明することはできない.感染初期に上昇するIgM抗体が検出されるか,発症初期と23週間後の回復期のペア血清でIgG抗体が有意に上昇すれば,急性感染または感染の活動性が高いことが推測されるが,あくまでも全身的な状況を示しているのであり,必ずしも眼の状態を反映しているわけではない.感染によるぶどう膜炎の診断には,眼内液での抗体率や病原微生物のDNAの検索が必要となることが多い.以下に,ぶどう膜炎に関連する検査項目の臨床的意義や検査結果の解釈について概説する.また,表3におもな検査の基準値・基準範囲と臨床的意義をまとめ1),参考として各検査の保険点数を併記した2).検査を依頼する際にコストがいくらかかるかを意識することはほとんどないと思うが,意外に点数の高い検査もある.1.血液学的検査a.赤血球減少(貧血)と増多(多血症)とに分けられる.貧血はぶどう膜炎の原因となる感染,炎症,腫瘍などに伴って二次的にひき起こされることがある.b.白血球白血球減少(3,000/μl以下)がみられる場合は,易感染性がないかと,使用している薬剤をチェックする.増加(10,000/μl以上)がみられる場合は,喫煙歴,使用薬剤をチェックし,発熱の有無と体重減少の有無を確認———————————————————————-Page41476あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(6)表3ぶどう膜炎に関連するおもな検査項目検査項目基準値・基準範囲1)臨床的意義保険点数2)末梢血液一般検査白血球数4,00010,000/μl感染症,ステロイド薬で増加22赤血球数男性450610×104/μl女性380530×104/μl感染,炎症,腫瘍で貧血を伴うことがある血小板1335×104/μlウイルス感染で一過性に減少末梢血液像好中球桿状核球215%分葉核球4060%増加:感染症,炎症,ステロイド投与,急性出血,悪性腫瘍減少:血液疾患,ウイルス感染症,薬剤,放射線照射,膠原病18好酸球15%増加:寄生虫症,薬剤,アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患,血管炎,悪性腫瘍好塩基球02%単球210%リンパ球2050%増加:ウイルス感染症,リンパ系増殖疾患減少:SLE,リンパ腫,AIDS,薬剤赤沈男性210mm女性315mm急性および慢性感染症,自己免疫性疾患,悪性腫瘍,心筋梗塞,貧血,白血病,肝硬変などで促進9CRP0.3mg/dl以下細菌感染症,膠原病などの炎症性疾患,心筋梗塞,悪性腫瘍で増加.赤沈に先立って陽性化し,赤沈値改善の前に陰性化16アンギオテンシン変換酵素7.729.4IU/l活動性サルコイドーシスの80%で上昇160梅毒脂質抗原試験RPR,VDRL,陰性感染後46週間に陽性となる梅毒以外の疾患でも陽性に出ることがある(生物学的偽陽性)15梅毒トレポネーマ抗原試験TPHA陰性(60倍未満)梅毒第2期以降は陽性.治癒しても一生陽性が続く32トキソプラズマ抗体PHA<160倍LA<6不顕性感染が多い.急性感染かを調べるにはIFAでIgG抗体,IgM抗体を調べる27ネコひっかき病抗体IFAIgG<128倍,IgM<20倍IgM抗体の上昇は活動性感染を意味するb-D-グルカン比色法(ファンギテックGテスト)陽性:20pg/ml以上,要経過観察:1020pg/mlカンジダ症,アスペルギルス症,ニューモシスチス症などの深在性真菌感染症で陽性220ウイルス抗体価HI<8倍,NT<4倍EIAIgG<4.0IgM<2.0ペア血清でIgM抗体の出現やIgG抗体の4倍以上の上昇は,急性感染や感染の活動性が高いことを示唆する1項目80グロブリンクラス別ウイルス抗体価1項目230HTLV-1抗体PA陰性抗体陽性者の大部分はキャリアで,白血病や脊髄疾患を発症するリスクは低い85サイトメガロウイルス抗原アンチジェネミア法陽性細胞数0個陽性の場合は全身的にウイルス活性化がある410抗核抗体IFA40倍未満陽性になる疾患は膠原病であるが,健常者の1020%が陽性120抗DNA抗体10IU/ml未満SLEで陽性.薬剤により陽性になることがある180リウマトイド因子(RF)RAテスト陰性RAHA<40倍慢性関節リウマチで陽性になるが,その他の膠原病,慢性肝疾患,慢性感染症,サルコイドーシスでも陽性になることがある30免疫グロブリンIgG8701,700mg/dl増加:慢性感染症,慢性肝障害,自己免疫性疾患,悪性腫瘍低下:免疫不全症,免疫抑制薬の投与,リンパ増殖性疾患,急性ウイルス感染症38IgA110410mg/dl38IgM男性35190mg/dl女性45260mg/dl38IgD11.5mg/dl以下38血糖下限5070mg/dl上限空腹時110mg/dl高値:糖尿病,膵疾患,肝疾患,内分泌疾患,薬剤(ステロイド,経口避妊薬など)低値:薬剤,膵疾患,肝疾患,内分泌疾患,先天代謝異常11HbA1c4.35.8%過去1,2カ月の平均血糖値を反映50基準値・基準範囲は最新臨床検査のABC(日本医師会雑誌)から引用.基準範囲は検査施設により多少異なる.CRP:C-反応性蛋白,HTLV-1:humanT-lymphotropicvirustype1,HbA1c:ヘモグロビンA1c,RPR:急速血漿レアギン試験,VDRL:米国性病研究所試験,TPHA:梅毒トレポネーマ赤血球凝集反応,PHA:受身赤血球凝集試験,IFA:間接蛍光抗体法,HI:赤血球凝集抑制試験,NT:中和試験,EIA:酵素免疫測定法,PA:粒子凝集試験,RA:関節リウマチ,RAHA:関節リウマチ赤血球凝集反応,SLE:全身性エリテマトーデス,AIDS:後天性免疫不全症候群.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081477(7)で陽性になる場合がある.間接蛍光抗体法による抗核抗体(FANA)は核の不溶性・可溶性成分との反応をすべてカバーしうるので,一次スクリーニングとして適している.40倍をカットオフ値とすると健常者の1020%が陽性を示す.しかし健常者の抗体価は通常80倍以下であり,疾患標識自己抗体が検出されることはない.健常者のANA陽性率は性別と年齢層によっても異なり,10歳代の女性で最も高い.抗核抗体価が高い場合(160倍以上)は二次スクリーニングとして疾患特異的自己抗体の検査を行う.c.抗DNA抗体SLEにおいてDNAと反応する自己抗体が比較的特異的に産生されることから,SLEの診断に際して測定される.活動期SLEの70%程度で高値となる.薬剤により陽性となることがある(薬剤性ループス).4.感染症検査a.梅毒血清反応梅毒の血清学的診断法には脂質抗原による梅毒血清反応(STS)〔米国性病研究所試験(VDRL),急速血漿レアギン試験(RPR)など〕と梅毒トレポネーマ特異的血清反応〔蛍光トレポネーマ抗体吸収試験(FTA-ABS),梅毒トレポネーマ赤血球凝集反応(TPHA)など〕の2種類がある.梅毒感染後約4週以後に両者が陽性となる.感染初期でSTSのみが陽性になる場合もまれにあるが,STSのみが陽性の場合ほとんどは生物学的偽陽性であり,SLE,関節リウマチなどの膠原病,Epstein-Barrウイルス,マイコプラズマなどの感染,妊婦などでみられる.晩期の潜伏梅毒やIII期梅毒ではFTA-ABSやTPHAは陽性でもSTSが陰性となる場合が約25%ある.定性検査で陽性の場合はVDRLとTPHAの抗体価を測定する.STSで16倍以上,TPHAで1,280倍以上であれば梅毒の活動性が高く,ぶどう膜炎の原因として考慮する.VDRLが32倍以上の場合は中枢神経梅毒の有無をみるため髄液検査を行う.治療効果の判定は約3カ月ごとにVDRL抗体価,TPHA抗体価を測定して行う.VDRL抗体価が6カ月後にはじめの1/4以下にならない場合,4倍以上上昇する場合は治療無効または神経梅毒を考えて再評価と再治療を行う.TPHA症性疾患,心筋梗塞,悪性腫瘍で増加する.炎症性疾患のなかでウイルス感染症や膠原病での上昇は軽微で,明らかな上昇時には細菌感染などの合併を考える.赤沈上昇に先立ち陽性化し,赤沈値改善の前に陰性化する.d.グルコース(血糖)糖尿病の有無がはっきりしない場合は検査する必要がある.早朝空腹時血糖値が126mg/dl以上,または随時血糖値が200mg/dl以上であれば糖尿病型と判定できる.明確な判定ができない場合,75g経口ブドウ糖負荷試験が診断の助けになる.血糖コントロール不良な例で急性の線維素性虹彩炎が発症することがある.e.ヘモグロビンA1c(HbA1c)過去1,2カ月の平均血糖値を反映するので,血糖コントロールの良否の判定に有用な臨床的指標となる.日本糖尿病学会ではHbA1c値により血糖コントロールを優(5.8未満)・良(5.86.5未満)・不十分(6.57.0未満)・不良(7.08.0未満)・不可(8.0以上)の5段階に区分している.偽高値を示す場合として,腎不全,アルコール多飲,アスピリンやビタミンCの大量服用などがある.3.免疫学的検査a.リウマトイド因子(RF)RFは関節リウマチの80%で陽性となるが,RFは関節リウマチ以外のさまざまな疾患でも陽性となるため,診断的特異度は低い.RFが陽性となる疾患として関節リウマチ,膠原病,慢性肝疾患,慢性感染症(結核,梅毒,Hansen病),サルコイドーシスがある.健常者にも数%の陽性者があり,高齢者ほど陽性率は上昇する.b.抗核抗体(ANA)ANAはさまざまな細胞核成分と反応する自己抗体の総称である.膠原病の免疫学的検査として行われるが,特定の疾患の診断やフォローアップのための検査ではない.ANA陽性を示す疾患は全身性エリテマトーデス(SLE)(95100%),混合性結合組織病(100%),全身性硬化症(強皮症)(8090%),多発性筋炎/皮膚筋炎(5070%),Sjogren症候群(6070%),関節リウマチ(4060%)である.若年性関節リウマチやchroniciridocyclitisinyounggirlsなど,若年性のぶどう膜炎———————————————————————-Page61478あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(8)のである.NTは感度・特異性ともに最も優れ,型特異抗体の検出に最も適している.EIAはIgG,IgM,IgA抗体の分別測定を高感度で行うことができる.ぶどう膜炎の原因としてウイルスの関与を想定した場合に,血清抗体価の測定を行うが,実際には血清抗体価の測定のみでは病因ウイルスを同定できない.抗体陰性の場合にはそのウイルスの関与を否定することができる.e.HTLV1抗体スクリーニング検査法としてPAやEIA,確認検査としてウエスタンブロット法がある.スクリーニング検査を行って陽性であった場合には確認検査を行う.感染率には地域差があり,九州・沖縄に感染者が多い.f.サイトメガロウイルス抗原サイトメガロウイルス(CMV)感染症の早期診断および治療の効果判定に用いる.ウイルス抗原陽性細胞が末梢血多形核白血球中に何個あるかの定量が可能なため,一定量以上で検出された場合には抗ウイルス薬の適応があるとされる.ただし,あくまで全身のCMVの活性化の指標と考えるべきで,CMV網膜炎があっても必ずしも陽性にはならない.g.トキソカラ抗体一部の施設でELISA(enzyme-linkedimmunosor-bentassay)によるイヌ回虫幼虫に対する抗体価の測定が行われている.また,イヌ回虫幼虫排泄物抗体を検出する迅速診断キット(ToxocaraCHEK)は検査時間が短く,スクリーニングに有用である.抗寄生虫抗体スクリーニングは12種類の寄生虫の抗体を検出するスクリーニング検査で,このなかにイヌ回虫も含まれるが,成虫に対する抗体を検査するので,幼虫移行症であるトキソカラ症の検査としては適切ではない.健常人でも犬の飼育歴の長い人には抗体価の上昇がみられることがある.文献1)橋本信也(編):最新臨床検査のABC.日医師会誌135〔特別号(2)〕57-354,20062)医科点数表の解釈平成20年4月版.p218-250,社会保険研究所,2008とFTA-ABSは治癒しても生涯陽性が続く.b.トキソプラズマ抗体スクリーニング検査として受身赤血球凝集試験(PHA)やラテックス凝集試験(LA)を用い,陽性の場合,初感染かどうかを判断するためにIgG,IgM別に測定できる間接蛍光抗体法(IFA)や酵素免疫測定法(EIA)を用いる.IgG抗体は感染後12週以内で出現し,12カ月以内にピークとなり,以後徐々に低下するが,一般的には生涯残存する.IgM抗体は感染後1週以内に出現し,23カ月以内に消失するのが一般的であるが,感染から数年間にわたって抗体陽性が持続することもあり,偽陽性もみられるので注意を要する.不顕性感染が多いため,血清抗体陽性が必ずしも治療の必要な感染症を意味しない.3週間以上間隔をあけたペア血清でIgG抗体,IgM抗体の新規の出現あるいは4倍以上の抗体価上昇,単回採取の血清IgG抗体(IFA)の1,024倍以上の血清抗体価は急性感染を示唆する所見とされる.典型的な浸出性網脈絡膜炎にIgM抗体の上昇がみられれば後天性眼トキソプラズマ症が示唆され,ペア血清で確認する.c.(1→3)bDグルカン細胞壁にb-D-グルカンを豊富に保有する真菌(カンジダ,アスペルギルス,ニューモシスチスなど)の深在性真菌感染症のスクリーニングに有用である.真菌性眼内炎を疑った場合に血清学的補助診断として検査する.カンジダ症で感度は約90%,特異度7080%,アスペルギルス症で感度6080%,特異度7080%,ニューモシスチス感染症での感度は約90%,特異度は約80%とされている.透析中の患者,一部の抗腫瘍薬を使用した癌患者,高gグロブリン血症の患者などに測定値に影響する因子がみられる.d.ウイルス抗体価・グロブリンクラス別ウイルス抗体価測定ウイルス抗体検査法には補体結合試験(CF),赤血球凝集抑制試験(HI),中和試験(NT),蛍光抗体法(FAT),EIA,粒子凝集試験(PA)と種々の検査法があり,その特性を理解して目的にあわせて測定する.CFはウイルス抗体の検出に用いられる最も基本的なも