———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSICTとMRIについて1.CTの特徴と眼科疾患への適応CTはX線照射管と探知管の間に患者を置き,X線を周囲360°全方向から照射した物体の投影データを解析することで画像化を行うものである.CTは,一般にMRIより分解能が劣るが,出血病変(脳出血,くも膜下出血など),肺病変(肺炎や肺癌など),骨化病変(後縦靱帯骨化症や変形性骨関節症など),石灰化病変(胆石や肝内結石,肝胞など)についてはMRIより描出に優れている.また,1回の撮影時間は20秒程度と短く,小児でも施行しやすいこと,体に金属やペースメーカーなどが入っていても撮影できるなどの長所がある(表1).一方,短所としては,放射線に被曝すること,脳幹はじめに頭部CT(computedtomography),MRI(magneticresonanceimaging)検査はぶどう膜炎の原因検索でルーチンに行うべき検査ではない.しかし,頭部CT,MRIによってぶどう膜炎の診断がつく症例が,まれに存在する.また,ぶどう膜炎疾患に頭蓋内・眼窩内病変を合併することはしばしばあり,合併症の精査や経過観察の目的で必要となることがある.一般的にCTよりもMRIのほうが組織分解能に勝るため画像が鮮明で小さな病変まで描出可能であるが,症例によってはCTを選択すべき場合もある.オーダーにあたっては,CTとMRIの特徴と違い,どのような場合に造影が必要であるのか,および推奨される撮影条件などについて,よく理解しておく必要がある.(35)1505Tht11365531特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):15051510,2008頭部CT,MRIBrainComputedTomographyandMagneticResonanceImaging蕪城俊克*表1CTとMRIの長所と短所MRICT長所組織間のコントラスト分解能に優れる骨によるアーチファクトがない放射線被曝がない任意の断層面の画像が得られる造影剤なしで血管の異常がわかる脳,脊髄,脳幹部の診断に優れる脳梗塞に対する感度が高い脳出血の範囲を明瞭に描出できる撮影時間が短い骨の異常がわかる金属が体内にあっても検査できる短所骨など石灰化層の情報が得にくい撮影時間が長い金属が体内にあると検査できない閉所恐怖症の人は検査がむずかしい急性期の脳出血の診断がしにくい放射線被曝する脳幹付近は骨が多いため診断がむずかしい脳梗塞に対する感度が低い詳しい検査にはヨード系造影剤が必要———————————————————————-Page21506あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(36)特に脳・脊髄・腹部臓器・四肢関節・脊椎などの診断に優れる.眼窩病変,特に眼球病変のMRI検査の際は,高いS/N(信号/ノイズ)比を得るために頭部用コイルを用い,両眼眼窩を撮影し,健側と比較することが重要である.撮影時間が長いので,眼球の動きによるアーチファクトを避けるため,安静閉眼で撮影する.眼窩内および眼球内病変のMRI撮影は,スライス厚34mmで,SE(spinecho)法T1強調横断像,FSE(fastspinecho)法T2強調横断像,STIR(shorttauinversionrecove-ry)法冠状断像,脂肪抑制造影後T1強調横断像および冠状断像を基本とする2).MRIは,腫瘍の存在や進展範囲,眼球壁の変化,眼窩内炎症,外眼筋の腫脹,視神経の腫瘍や炎症性変化など,多くの疾患でCTよりも描出に優れる.さらにガドリニウム造影により炎症,血管腫,腫瘍は増強効果を示し,病巣範囲の把握に有用である.特に視神経の活動性炎症の診断には,造影後の脂肪抑制T1強調像が有用である.一方,金属眼内異物が疑われる症例にはMRI検査は禁忌である.IIぶどう膜炎の鑑別に必要な頭部画像検査まず,ぶどう膜炎疾患の鑑別診断の際に,頭部画像検査が必要になる場面について述べる.1.乳頭浮腫(原田病,視神経炎,その他の疾患の鑑別)乳頭浮腫を呈する疾患には,ぶどう膜炎(原田病,サルコイドーシス,Behcet病,ネコひっかき病など)のほかに,視神経炎,うっ血乳頭(脳圧亢進),Leber遺伝性視神経症,糖尿病性乳頭症,前部虚血性視神経症,眼窩内腫瘍などのさまざまな視神経疾患が含まれる.両眼性の乳頭浮腫は,小児の視神経乳頭炎,うっ血乳頭(脳圧亢進),視神経周囲炎,原田病,糖尿病性乳頭症などが多く,片眼性は,成人の視神経乳頭炎,眼窩内腫瘍,虚血性視神経炎,サルコイドーシス,乳頭血管炎などに多い3).前房内の炎症所見がはっきりしない乳頭浮腫の症例では,ぶどう膜炎以外の可能性も考慮して鑑別する必要がある.両眼性の乳頭浮腫の症例では,視神経炎と原田病の鑑付近は骨が多いためCTでの画像診断がむずかしいこと,脳梗塞に対する感度が低いこと,炎症性病変の詳しい検査にはヨード系造影剤が必要,といった点があげられる1).近年はヘリカルCTやマルチスライスCTの登場により,従来機種に比べ高速でかつ高分解能画像が得られるようになり,被曝量および患者への負担も軽減されてきている.頭部CT検査は,眼科領域では,おもに脳腫瘍の否定や眼窩底骨折の診断,眼窩内炎症病変の描出(造影),強膜の炎症性肥厚の診断などの目的で用いられる.眼窩内の病変のCT検査は,35mmのスライス厚の横断像を基本とする2).腫瘍性病変あるいは炎症性病変を疑う場合は造影が必要である.軟部条件画像だけでなく,骨条件画像も作製し,石灰化,異物,異常な空気や骨病変の有無を診断する必要がある場合がある.眼窩内にはしばしば生理的な石灰化がみられ(瞼裂斑など),異物や腫瘍と間違えてはならない.外傷時の吹き抜け骨折の診断にはCT検査が有用であるが,横断像よりも冠状断像が診断しやすい.一方,眼球内の病変に対しては解像度の問題から通常はMRI検査が第一選択となるが,外傷時の異物の有無の診断,石灰化病変の描出目的の場合,撮影時間を短くしたい症例やMRIが禁忌の症例に対してはCTが選択される.眼球内病変のCT検査には13mmのスライス厚での撮影が必要である.外傷,異物の診断を除き,通常は造影が必要である.CTでは視神経の炎症の検出率は良くないため,視神経炎の診断には通常MRIが用いられる.2.MRIの特徴と眼科疾患への適応MRIは,患者の体内の水や脂肪組織に含まれる水素原子の磁場を感知して画像化する装置である.MRIは,組織間のコントラスト分解能に優れている,骨によるアーチファクトがない,任意の角度の画像が得られること,放射線被曝がない,などの長所がある反面,体内に金属がある人は受けられない,撮影時間が30分程度と長いなどが問題であった(表1)1).しかし,1.5テスラMRIの登場により高速な検査が可能となり,1回の検査時間は従来機種の半分程度になってきている.MRIは———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081507(37)影後の脂肪抑制T1強調像が有用である(図1)2).視神経炎の診断の際には,全脳の撮影を行い,多発性硬化症やADEM(acutedisseminatedencephalomyelitis)でみられる脳内の多発病巣の有無を検索する必要がある.2.眼内悪性リンパ腫眼内悪性リンパ腫は,眼内に発生した悪性リンパ腫で,ぶどう膜炎症例の約1%を占め5),放置すると脳への播種を起こして生命予後不良となる注意すべき疾患である.眼内悪性リンパ腫の診断は,硝子体生検を行って細胞診にて異型細胞を証明するのが原則であるが,細胞診のみでは偽陰性が30%近く出てしまうことが報告されており6),硝子体液中のインターロイキン(IL)-10/IL-6濃度比(>1),IgH(免疫グロブリンH)モノクローナリティーの証明などの補助診断を組み合わせて診断する必要がある7).全身の画像検査を行って眼以外の臓器での悪性リンパ腫を発見することは,眼内悪性リンパ腫を強く疑う根拠となる.特に眼内悪性リンパ腫は中枢別がしばしば問題になる.通常は前房内炎症がみられないことや中心フリッカー値の低下(20Hz以下)は視神経炎を示唆し,前房内炎症や内耳症状,髄膜炎症状,リンパ球優位の髄液細胞増多は原田病を示唆することから鑑別可能な場合が多い.しかし,原田病で典型的な随伴症状を欠く場合や,発症早期のため虹彩炎が明らかでない時期には,視神経炎と紛らわしい.原田病のMRI像は,T1強調像では肥厚した脈絡膜が網膜下液や硝子体に比べ高信号となり,脂肪抑制画像および造影で脈絡膜は中等度増強されるが,網膜下滲出液は増強されず,T2強調像では脈絡膜,網膜下滲出液,硝子体は高信号で,肥厚した脈絡膜は硝子体や網膜離部と比べて低信号となる4).漿液性網膜離がみられなくても脈絡膜の肥厚を認めることが多い.一方,視神経炎のMRI撮影には,STIR法あるいは脂肪抑制T1強調像が用いられる.視神経炎の病変は視神経のすべての部位で認められるが,特に視神経管領域が侵されることが多い.STIR像は炎症,脱髄病変の検出に有用であり,病巣は脳白質あるいは外眼筋と比較し高信号として描出されるが,慢性期の脱髄性病巣も同程度の高信号となるため,活動性の評価には向かない.視神経炎の活動性の診断には,造図124歳,女性:両眼性の乳頭浮腫矯正視力右眼1.0,左眼0.6.中心フリッカー値は正常.髄液検査でリンパ球優位だが好中球も含まれる髄液細胞増多を認めたため,原田病よりもウイルス性などによる無菌性髄膜炎と推測された.頭部造影MRI(STIR像)にて両眼視神経周囲にリング状の増強効果を認め,髄膜炎に伴う視神経周囲炎と診断された.図254歳,女性:左眼の原因不明の硝子体混濁眼内悪性リンパ腫を疑い硝子体生検を行ったが,細胞診は陰性だった.しかし,半年後に頭部造影MRIにて頭蓋内にT1強調で低信号,造影により増強効果を認める病巣がみつかり,脳生検で悪性リンパ腫と診断された.———————————————————————-Page41508あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(38)および造影効果(造影後明瞭化する眼球後壁を中心とした肥厚)がみられる(図3).MRIではT1像で肥厚した強膜は低信号として,網膜下への炎症の波及による網膜下滲出液はそれより高信号となり,脂肪抑制像で炎症の程度に応じて増強される.原田病や眼窩蜂窩織炎との鑑別がむずかしい場合があり,随伴症状の有無や髄液検査の結果と合わせて鑑別診断する必要がある8,9).4.多発性硬化症多発性硬化症は中枢神経系の白質に,脱髄病巣が時間的,空間的に多発性に出現し,再発と寛解をくり返しながら慢性に経過する疾患である.眼合併症としては視神経炎や眼球運動障害が多いが,欧米ではぶどう膜炎の合併も知られており,網膜静脈炎やparsplanitisの報告が多い.わが国でも,まれではあるが網膜血管炎を伴う肉芽腫性ぶどう膜炎を起こした報告が散見される10).多発性硬化症の診断には頭部MRIが必須であり,脱髄病巣はT1強調像で等信号,T2強調像で高信号域を示す(図4).T1強調像で低信号領域は軸索障害の存在を示神経系悪性リンパ腫に分類され,脳の悪性リンパ腫を合併しやすい.したがって,眼内悪性リンパ腫が強く疑われる症例では,頭部画像検査を行う必要がある.脳の悪性リンパ腫は,単純CT,MRI像では腫瘤を形成する低信号の病変として描出され,造影剤を用いると多くの場合著明な増強効果を認める(図2).1/3は多発性の病巣をもつ.しかし,この画像所見は非特異的なものであり,画像のみから他の腫瘍や非腫瘍性病変と鑑別することはむずかしい場合が多い.3.後部強膜炎後部強膜炎は,後部強膜に炎症を起こす疾患で,炎症が周囲に波及することで多彩な臨床像を示す.Watsonらは後部強膜炎の診断基準として,①疼痛,②視力障害,③強膜の肥厚,網脈絡膜への炎症の波及による眼底変化,④眼球突出,⑤眼球運動障害,⑥結膜充血をあげている.炎症が網脈絡膜に波及した場合,眼底後極部を中心に乳頭発赤,網膜の浮腫状混濁程度のものから,高度な網膜離をきたすものまでさまざまな眼底像を呈するが,基本病像は乳頭浮腫と滲出性網膜離である.強膜の肥厚の診断には超音波エコー検査や頭部CT,MRI検査が用いられる.CTでは,眼球後壁の肥厚,不整像,図353歳,男性:左眼後部強膜炎左眼の前房内炎症,乳頭浮腫,眼底後極部に網膜皺襞,黄斑浮腫,薄い漿液性網膜離がみられた.右眼には炎症所見はみられなかった.頭部CTにて強膜壁の肥厚と造影による増強効果を認め,後部強膜炎と診断した.図435歳,男性:多発性硬化症頭部単純MRIでは,T2強調像にて側脳室周囲の白質に側脳室に直行するような卵円形の高信号の脱髄性病巣が多発している.(東京大学附属病院放射線科國松聡先生より写真提供)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081509(39)中の細胞数,蛋白濃度の増加,IL-6濃度の上昇が神経Behcet病の診断マーカーとされているが,頭部MRI検査を行うことで,正確な病変部位の同定が可能である.頭部MRIで脳の病巣部はT2強調像で高信号,T1強調像で低信号を呈する(図5).ステロイド治療により病巣の消退がみられる.2.サルコイドーシスサルコイドーシスによる非乾酪壊死性肉芽腫は全身に起こりうる.眼科領域でも,眼瞼,視神経,涙腺,外眼筋,脳幹部などに生じることがある.一般に肉芽腫は大きくはないため,造影MRIが検出力に優れる.非神経部位(眼瞼,涙腺,外眼筋)でのサルコイド肉芽腫は,画像上は非特異的な炎症所見となり,造影により異常増強効果を示すが,画像による他の疾患との鑑別は困難である(図6).一方,サルコイドーシスによる視神経病変では視神経自体と視神経周囲の炎症の形態をとり,診断には脂肪抑制造影T1強調像が有用である.また,サルコイドーシスの中枢神経病変では,頭蓋内占拠性病変,髄膜の増強効果,脳室周囲のT2高信号,頭蓋内実質内の血管に沿った増強効果などを呈する.唆する.FLAIR(uidattenuatedinversionrecovery)画像では脳室は黒く,病巣は白く描出されるので,病変と脳室との区別をつけやすい.急性期の病巣はガドリニウム造影で増強される.IIIぶどう膜炎における頭蓋内・眼窩内病変の合併ぶどう膜炎疾患には,頭蓋内・眼窩内病変を合併するものがあり,ぶどう膜炎の診断目的以外にも,合併症の精査の目的で頭部画像検査を行う必要が生じることがある.頭蓋内・眼窩内病変を合併するぶどう膜炎について述べる.1.神経Behcet病Behcet病の10%前後にみられる中枢神経の炎症性病変で,脳静脈血栓症や間脳,中脳,橋,延髄などに病変が生じる脳幹脳炎が多い.病変は,脳幹と基底核周辺部に好発するが,大脳半球,小脳,脊髄,髄膜にも病変がみられることがある.症状としては,発熱,中枢性運動麻痺,脳神経麻痺,言語障害,複視,斜視などのほかに脳血管性痴呆などの精神症状を起こすことがある.髄液図536歳,男性:神経Behcet病発熱,頭痛,意識レベルの低下を起こす.頭部単純MRI(T2強調像)にて脳幹部(中脳,橋)に高信号の炎症病巣を認めた.髄液中のIL-6濃度も高値であり,神経Behcet病と診断された.図665歳,女性:サルコイドーシスによる眼瞼肉芽腫左眼の内眼角付近の上眼瞼皮下に腫瘤を認めた.頭部造影MRI(T1強調像)にて増強効果を認める.生検を行い,非乾酪壊死性肉芽腫との診断からサルコイドーシスと診断された.(癌研究会有明病院眼科田村めぐみ先生より写真提供)———————————————————————-Page61510あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(40)thalmol51:41-44,20076)WhitcupSM,deSmetMD,RubinBIetal:Intraocularlymphoma.Clinicalandhistopathologicdiagnosis.Ophthal-mology100:1399-1406,19937)新井文子:原発性眼内リンパ腫の臨床像.血液・腫瘍科56:625-629,20088)堂園貴保子,野田佳宏,有山章子ほか:片眼の後部強膜炎症状で発症したVogt-小柳-原田病が疑われた1例.眼紀55:403-408,20049)小泉千春,清澤源弘,岩永洋一ほか:眼窩蜂窩織炎との鑑別を要した後部強膜炎の1例.眼臨101:1007-1009,200710)齋藤航,小竹聡,笹本洋一ほか:多発性硬化症に伴う肉芽腫性汎ブドウ膜炎の1例.日眼会誌106:99-102,2002文献1)百島祐貴:ゼッタイわかるMRIの読み方.医学教育出版社,19992)酒井修,藤田晃史:眼窩.頭頚部のCT・MRI(多田信平,黒崎喜久編),p121-178,メディカル・サイエンス・インターナショナル,20023)中村誠:とっても身近な神経眼科乳頭が腫れていたら?あたらしい眼科24:1553-1560,20074)PotterPD,ShieldsCL,ShieldsJA:Inammatorydisor-ders.MRIoftheEyeandOrbit(edbyPotterPD,ShieldsJA,ShieldsCL),p45-53,Lippincott,Pennsylvania,19955)GotoH,MochizukiM,YamakiKetal:EpidemiologicalsurveyofintraocularinammationinJapan.JpnJOph-