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序説:ぶどう膜炎検査の正しい使い方

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLStivity)と特異度(specicity)が存在し,それに基づいてevidence-basedmedicine(EBM)の意味での有用性が決まる.たとえば,流行性角結膜炎(EKC)と診断するためには,ウイルス抗原検出検査を行うことがある.陽性という結果が出ると多くの眼科医はEKCと診断すると思うが,陰性の場合はどう考えるべきなのか?実際にはこのようなウイルス抗原検査の感度と特異度は百パーセントではないので,結果が陰性であっても本当はEKC,ということがありうる.その場合,検査の結果は偽陰性であるという.一方,陽性の結果が出たがEKCではないという場合もあり,検査の結果は偽陽性だったという.ちなみに,よく使われているA社のウイルス抗原検査の感度と特異度は,それぞれ54.7%と97.1%であると報告されている1).したがって,EKC患者の検出はこの検査ではおよそ半々の確率にすぎない.やはりどの検査でも,常に感度と特異度を意識し,実施するべきである.しかし,それだけではない.前記のように,検査を行うためにはコストがかかる.コストには金銭的なものだけでなく,患者の時間,不便,痛みなども含まれる.医師側の時間や負担もある.社会的にみても,医療全体の予算への影響となって現れる.これらの問題は,EBMとともに検討する必要がある.たとえば,EKCの例に戻るが,ウイルス抗原検査学生に理解してもらうために,「ぶどう膜炎は眼科のなかの内科だ」と説明することがある.疾患そのものは全身疾患が多いため,検査あるいは治療において注目するのは眼だけでなく全身になる.しかし,全身(内科)における教育は,治療の副作用にウエイトが置かれがちである.本特集では,その前段階の検査について光を当てたいと思う.それというのも,検査自体も副作用があることがあまり意識されていないためである.医学的な副作用(たとえば,フルオレセイン蛍光眼底造影検査におけるアナフィラキシー)以外にも,個人的な副作用(たとえば,スクリーニング検査で偽陽性所見が出るため,不要な可能性のある追加的精密検査を行うこと)あるいは社会的な副作用(検査の有用性を考えないで,過剰にオーダーしコストが増加する)もある.特殊な検査(たとえば,humanleukocyteanti-gen:HLA検査やpolymerasechainreaction:PCR検査)もあるが,一般の検査については,国民健康保険制度でカバーされるので,コストについてはそれほど気にする必要がないというのが一般的な認識であろう.しかし,本当にそれで良いのであろうか?また,特殊な検査を,保険でカバーされないという理由で施行しないことも適切といえるのだろうか?どの検査でも,調査対象人口における感度(sensi-(1)1471●序説あたらしい眼科25(11):14711472,2008ぶどう膜炎検査の正しい使い方TheProperUseofAncillaryTestsinUveitis岡田アナベルあやめ*———————————————————————-Page21472あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(2)まだほとんど存在していない.したがって,これらの問題点を念頭において,本特集を読んでいただきたい.血液検査については中尾久美子先生,HLA検査については南場研一先生,眼局所画像の検査については橋田徳康・大黒伸行先生,眼内液体検査については杉田直先生,髄液検査については北市伸義・新野正明・大野重昭先生,胸部X線や結核関連検査は丸山和一先生,眼窩や頭部CT(computedtomography)とMRI(magneticresonanceimag-ing)は蕪城俊克先生,そしてリンパ腫関連検査は安積淳先生に担当していただいた.軽々に値段の高い検査をオーダーすることなく,どの患者のどの病期にどの検査をすると効率が良いかをよく考えて診療を行うべきであろう.文献1)UchioE,AokiK,SaitohWetal:Rapiddiagnosisofaden-oviralconjunctivitisonconjunctivalswabsby10-minuteimmunochromatography.Ophthalmology104:1294-1299,19972)岡田アナベルあやめ:巻頭言─日本の眼科におけるValue-BasedMedicine.眼科手術21:1-2,2008の値段はそれほど高くないし,患者や医者の負担は少ないので,検査としては一見適切であると考えがちであろう.しかし,本当のところはどうか?毎年,何千人あるいは何万人の患者にこの検査を行うとすれば,医療制度への影響は無視できない.これらの問いに対して,EBMだけでは答えが出せない.そこで,value-basedmedicine(VBM)という分野が生まれてきた.VBMの研究では,ある検査(や治療)を行うことにより,一人の人生にとって,同時に社会全体にとってどの程度の利点があるかを数字で表す(詳細は文献参照)2).EKCの例に戻ろう.ウイルス抗原検査が登場する以前にも,医師がEKCをきちんと診断できていなかったわけではない.では検査の登場以降,「医師の臨床判断」より「検査」のほうが有効になったのだろうか?残念ながらこの比較検討は行われておらず,もしかしたら,医師判断の感度と特異度は,検査とあまり変わらないかもしれない.VBMの判定では,医師判断のほうのコストパフォーマンスが良い可能性がある.しかし,ぶどう膜炎の検査の場合,感度あるいは特異度のデータ,それからVBMの評価のデータは

アスタキサンチンの家兎眼内動態の検討

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(133)14610910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14611464,2008cはじめにアスタキサンチン(astaxanthin:AX)はb-カロチンなどと同じカロテノイドの仲間で,サケ・エビ・カニや海藻などの魚介類に多く含まれる赤い色素である13).近年,AXには強力な抗酸化作用,抗動脈硬化作用など多くの分野での作用効果が報告されている4,5).さらに,近年,AXの抗炎症作用を介した脈絡膜新生血管抑制効果についても明らかにされている6).眼科領域では実験的ラット眼内炎症モデルに対する抗炎症作用,visualdisplayterminals(VDT)作業者における調節力改善,ヒトにおける調節機能改善などが報告され,これら調節機能改善効果の作用機序として毛様体機能の改善の可能性が考えられている719)が,経口投与されたAXの眼内動態に関する報告はなく,その詳細は不明である.今回,機能性食品素材であるAXの経口投与後の眼内移行動態を家兎で検討した.I実験材料および方法1.使用動物ニュージーランド成熟白色家兎(NZW;体重2.73.1kg)雄性24羽を用いた.2.検討した機能性食品素材アスタキサンチン(AX)含有ヘマトコッカス藻抽出物ア〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,Uchinada,Ishikawa920-0293,JAPANアスタキサンチンの家兎眼内動態の検討福田正道*1高橋二郎*2西田康宏*2佐々木洋*1*1金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)*2富士化学工業株式会社ライフサイエンス事業部IntraocularPenetrationofAstaxanthininRabbitEyesMasamichiFukuda1),JiroTakahashi2),YasuhiroNishida2)andHiroshiSasaki1)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,2)LifeScienceDivision,FujiChemicalIndustryCo.,Ltd.目的:アスタキサンチン(astaxanthin:AX)の経口投与後の眼内移行濃度および血中濃度を測定した.方法:白色家兎にAX100mg/kgを単回経口投与し,0,3,6,9,12,24,48,72,168時間後の各時点で前房水,虹彩・毛様体および血清内移行濃度を測定した.AX濃度測定は高速液体クロマトグラフィー法(HPLC)で行った.AXの移行動態の濃度解析はノンコンパートメントモデルによる解析を行った.結果:最高濃度は,虹彩・毛様体では投与24時間後,血清では9時間後にみられた.モデル式から算出した最高濃度Cmaxは,虹彩・毛様体では79.3ng/g,血清では61.3ng/ml,前房水では検出されなかった.結論:AXは虹彩・毛様体内に達することが明らかになった.この結果はAXが眼内炎症への抗炎症効果や疲労改善に寄与する科学的根拠の一つになるものと考える.Weinvestigatedtheintraocularpenetrationofastaxanthin(AX)afteroraladministrationinalbinorabbiteyes.Theanimalsreceived100mg/kgofAXorallyinasingledose.Theobservationtimepointswereat0,3,6,9,12,24,48,72and168hoursafteradministration.AXconcentrationsinoculartissuesweredeterminedbyhigh-perfor-manceliquidchromatography(HPLC).Pharmacokineticparameterswerecalculatedusingthenon-compartmentmethod.MaximumAXconcentrations(Cmax)iniris/ciliarybodyandserumweremeasurableafter24and9hours,respectively.ThecalculatedCmaxwere79.3ng/gforiris/ciliarybodyand61.3ng/mlforserum.TheCmaxforaque-ouscouldnotbedetectedbythenon-compartmentmethod.AXshowedgoodpenetrationintheserumandiris/ciliarybody.WefeelthatthisresultoersscienticgroundforconcludingthatAXcontributestotheimprove-mentofeyefatigue.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14611464,2008〕Keywords:アスタキサンチン,白色家兎眼,眼内動態,高速液体クロマトグラフィー法(HPLC),経口投与.astaxanthin,albinorabbiteyes,intraocularpenetration,high-performanceliquidchromatography(HPLC),orally.———————————————————————-Page21462あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(134)スタリールオイル50F(富士化学工業株式会社製)を用いた(図1).3.実験方法a.AXの家兎血中および眼内移行動態家兎にAX100mg/kgを単回経口投与し,0(非投与),3,6,9,12,24,48,72,168時間後の各時点で左後耳静脈より約3mlを採血し,その後,前房水を約0.2ml採取し,眼球を摘出した.摘出した眼球は一旦20℃で凍結し,24時間以内に融解後各組織を分離,再度80℃以下の温度で試料処理時まで凍結保存した.b.試料処理法眼組織中の抽出は,Yeumらの方法を改変した方法で行った20).簡略に述べると,眼組織を冷PBS(リン酸緩衝液)中でハサミで細断し,冷却しながらポリトロンホモジナイザー(ポリトロン)を用いホモジナイズした.血清は,2倍にPBSで希釈し,そのまま試料として用いた.得られたホモジネートあるいは血清に50Uのコレステロールエステラーゼ(和光純薬),500Uのリパーゼ(Candidarugosa由来,シグマ-アルドリッチ),10μgのジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を添加し,窒素充後,37℃で1時間インキュベートした.250ng/mlの内部標準(8¢-apo-b-carotene-8¢-oate),10μg/mlのBHTを含む冷EtOH溶液を同容積添加し激しく懸濁し,4倍量の冷塩化メチレンを添加し,窒素ガス充後4℃で60分間振盪した.振盪後,4倍量の冷PBS,20倍容の冷ヘキサンを添加し,再度,窒素ガス充後4℃で30分間振盪した後,4℃,4,000rpmで15分間遠心分離し,上清を集めた.残った下層は塩化メチレン-ヘキサンで3回抽出し,上清を集めた.集められた上清は,窒素ガス気流下で減圧乾固後,tert-ブチルメチルエーテル(MTBE)に再溶解し高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した.4.AX濃度測定方法a.HPLC装置および条件HPLC装置と使用条件は,デガッサ:DGU-20A,ポンプ:島津製作所LC-20A(流速:0.1ml/min),オートインジェクター:島津製作所SIL20A(設定温度4℃),検出器:島津製作所SPD-M20A(フォトダイオードアレイ検出器:測定波長250750nm,定量には474nm,リファレンス波長として630nmを用いた),カラムオーブン:島津製作所CTO20A(設定温度:16℃)分析カラムは,YMCCarote-noidColumn3S(2.0×150mm,YMC社)を用い移動相としてA液:MeOH/MTBE/0.1%リン酸=93:5:2,B液:MeOH/MTBE/0.1%リン酸=8:90:2を用い以下のようにグラジエント溶出を行った.すなわち,100%A液から7.6分でB液が13%,13.3分で20%,29分で50%,43分で100%になるようにリニアグラジエント溶出を行い,その後15分間B液で溶出を行った.b.眼組織および血清中のAX濃度測定法AXの濃度測定は内部標準法を用いた.AXは21,000ng/mlの濃度範囲内で良好な直線性を確認された.本実験に先立って虹彩・毛様体を用い添加回収試験を行った.AX非投与動物から摘出した虹彩・毛様体に100ng/mlになるようにAXおよび200ng/mlの濃度の内部標準を添加し,実験方法で述べた方法で抽出したところ回収率は,それぞれ80110%,85110%であった.AX定量値のCV(coecientsofvariation)値は5.4%であった.また,抽出動作の前後でそれぞれの化合物の分解および幾何異性化などの反応産物はほとんど認められなかったため,本実験で用いた抽出方法は,眼組織内のカロテノイド抽出において妥当な方法であると考えられた.定量下限値は前房水で2ng/ml,血清で2ng/ml,虹彩・毛様体では3ng/gであった.c.AXの薬物動態の解析AXの血清および虹彩・毛様体内移行の濃度推移についてノンコンパートメントモデルによる解析を行った.血清および虹彩・毛様体のCmax(ng/gorng/ml),AUCt(ng・h/gorng・h/ml),Tmax(h),およびT1/2(h)を算出した.〔Cmax:最高組織中濃度,AUCt:最終時点tまでの組織中濃度-時間曲線下面積,Tmax(h):最高組織中濃度到達時間,T1/2(h):組織中濃度半減期〕.II結果1.AX100mg/kgの単回経口投与後の経時的変化(表1,図2)血清および虹彩・毛様体では,経時的なAX濃度の増加および消失が認められた.血清中では,投与後9時間で最高濃度値61.26±26.87ng/ml(mean±SD,n=5)を示し,その後,徐々に減少し,投与72時間後には完全に消失した.一方,虹彩・毛様体では,投与後6時間目から徐々に増加し,24時間で最高濃度値(79.35±37.35ng/g)(mean±SD,n=6)となった.その後,緩やかに低下し,投与後7日目では完全に消失した.前房水では全経過を通してAXは測定限界以下であった.AXを経口投与前の前房水,血清および虹彩・毛様体においてはAXは検出されなかった.2.血清および虹彩・毛様体におけるAX濃度推移のノンコンパートメントモデルによる解析(表2)虹彩・毛様体のCmax(ng/g)は79.3,AUCt(ng・h/g)はOHOOHO図1アスタキサンチンの化学構造式———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081463(135)2955.7,Tmax(h)は24,T1/2(h)はN.C.であった.一方,血清ではCmax(ng/ml)は61.3,AUCt(ng・h/ml)は524.7,Tmax(h)は9,T1/2(h)は5.9であった.III考按AXの調節機能改善効果の機序を考えるうえで,その作用部位と考えられている毛様体へのAX移行動態の検討はきわめて重要である.本研究の目的は経口投与されたAXの眼内動態を明らかにすることである.AXの経口投与後の眼内移行濃度および血中濃度を測定することは投与法の設定,眼に対する安全性および有効性を知るうえで眼科用薬剤と同様に基礎的検討事項の一つであると考える.ところが,これまでにAXの眼内での定量法は筆者らが知る限りにおいては十分に検討されておらず,本研究に先立ちAXの眼組織内濃度測定法の設定を検討した.カロテノイド抽出法による眼組織からのAXの抽出やAXの定量にHPLC法を用いたことで,AXの眼組織内濃度測定が可能になった.AXの経口投与後の眼内移行動態を家兎で検討した今回の結果では,AXは虹彩・毛様体に移行することが確認できた.虹彩・毛様体では,投与6時間から徐々に上昇し,24時間で最高濃度値に達し,その後,徐々に減少した.一方,血清中では投与9時間まで濃度の増加が認められ,その後,徐々に減少傾向がみられた.ヒトの血中濃度の最高値もやはり投与後約9時間である21)ことより,今回の家兎の虹彩・毛様体における成績はヒトの眼内動態に近似している可能性が示唆された.血清に比べAXの虹彩・毛様体内での移行濃度が高く,最高濃度到達時間が遅れた原因については不明であるが,虹彩・毛様体は豊富な血管構造を有すること,また,メラニン色素も豊富なことも,AXが血清濃度以上に組織内濃度に滞留する原因の一つになっている可能性も考えられる.今回の実験で,AXの虹彩・毛様体内への移行が確認できたことはこれまでの種々のAXの眼の調節機能改善効果を証明するうえでも,意義ある結果であると考える.経口投与された抗菌薬が,投与12時間前後で血中最高濃度値に到達し,わずかに遅れて眼組織内最高濃度値に達することと比べると,AXの血中および眼組織内移行濃度の最高濃度到達時間が明らかに遅く,この点はAXの大きな特徴として把握しておく必要があると考える.IT機器の普及により,VDT作業はますます増加することが予想され,眼精疲労改善に寄与すると考えられるカロテノイドの一種であるAXの眼内移行動態の基礎的検討の意義は大きいと考える.文献1)JohnsonEA,AnGH:Astaxanthinfrommicrobialsources.CritRevBiotechnol11:297-326,19912)KobayashiM,KakizonoT,NishioNetal:AntioxidantroleofastaxanthininthegreenalgaHaematococcusplu-vialis.ApplMicrobiolBiotechnol48:351-356,19973)OshimaS,OjimaF,SakamotoHetal:Inhibitoryeectofb-caroteineandastaxanthinonphotosensitizedoxidationofphospholipidbilayers.JNutrSciVitaminol39:607-615,19934)MikiW:Biologicalfunctionsandactivitiesofanimalcaro-tenoids.PureApplChem63:141-146,19915)ShimizuN,GotoM,MikiW:Carotenoidsassingletoxy-genquenchersinmarineorganism.FishSci62:134-137,19966)Izumi-NagaiK,NagaiN,OhgamiKetal:Inhibitationof表1AX100mg/kgの単回経口投与後の経時的変化時間(h)369122472168血清9.10±6.8836.88±17.7761.26±26.8720.46±12.758.26±6.91NDND虹彩・毛様体ND4.76±2.2233.55±12.7446.51±24.1679.35±37.354.43±3.33ND眼房水NDNDNDNDNDNDNDND:検出限界以下.(ng/ml,g)1,0001001010.10.01020406080100120140160180:虹彩・毛様体:血アスタキサンチン濃度(ng/ml,g)投与後時間(分)図2アスタキサンチン100mg/kgの単回経口投与後の経時的変化表2アスタキサンチンの血清および虹彩・毛様体内移行の濃度推移をノンコンパートメントモデルによる解析組織薬物動態パラメータCmax(ng/gorng/ml)AUC(ng・h/gorng・h/ml)Tmax(h)血清61.3524.79虹彩・毛様体79.32955.724———————————————————————-Page41464あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(136)choroidalneovascularizationwithananti-inammatorycarotenoidastaxanthin.InvestOphthalmolVisSci49:1679-1685,20087)OhgamiK,ShiratoriK,KotakeSetal:Eectsofastaxan-thinonlipopolysaccharide-inducedinammationinvitroandvivo.InvestOphthalmolVisSci44:2694-2701,20038)SuzukiY,OhgamiK,ShiratoriKetal:Suppressiveeectsofastaxanthinagainstratendotoxin-induceduveitisbyinhibitingtheNFkBsignalpathway.ExpEyeRes82:275-281,20069)KimJH,KimYS,SongGGetal:Protectiveeectofastaxanthinonnaproxen-inducedgastricantralulcerationinrat.EurJPharmacol514:53-59,200510)UchiyamaK,NaitoY,HasegawaGetal:Astaxanthinprotectsb-cellsagainstglucosetoxicityindiabeticdb/dbmice.RedoxRep7:290-293,200211)AoiW,NaitoY,YoshikawaTetal:Astaxathinlimitsexercise-inducedskeletalandcardiacmuscledamageinmice.AntioxidRedoxSignal5:139-144,200312)NagakiY,HayasakaS,YamadaTetal:Eectsofastax-anthinonaccomodation,criticalickerfusion,andpatternvisualevokedpotentialinvisualdisplayterminalworkers.JTradMed19:170-173,200213)中村彰,磯部綾子,大高康博ほか:アスタキサンチンによる視機能の変化.臨眼58:1051-1054,200414)新田卓也,大神一浩,白取謙治ほか:アスタキサンチンの調節機能および疲れ眼におよぼす影響─健常成人を対象とした摂取量設定試験─.臨床医薬21:543-556,200515)白取謙治,大神一浩,新田卓也ほか:アスタキサンチンの調節機能および疲れ眼におよぼす影響─健常成人を対象とした効果確認試験─.臨床医薬21:637-650,200516)長木康典,三原美晴,塚原寛樹ほか:アスタキサンチン含有ソフトカプセル食品の調節機能及び疲れ眼に及ぼす影響.臨床医薬22:1-14,200617)岩崎常人,田原昭彦:アスタキサンチンの眼疲労に対する有用性.あたらしい眼科23:829-834,200618)高橋奈々子,梶田雅義:アスタキサンチンが調節機能の回復に及ぼす影響.臨床医薬21:432-436,200519)長木康典,三原美晴,高橋二郎ほか:アスタキサンチンの網膜血管血流におよぼす影響.臨床医薬21:537-542,200520)YeumKJ,TaylorA,TangGetal:Measurementofcaro-tenoids,retinoids,andtocopherolsinhumanlenses.InvestOphthalmolVisSci36:2756-2761,199521)OdebergJM,LignellA,PetterssonAetal:Oralbioavail-abilityoftheantioxidantastaxanthininhumansisenhancedbyincorporationoflipidbasedformulations.EurJPharmSci19:299-304,2003***

遠見立体視におけるコントラストの影響

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(129)14570910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14571460,2008cはじめに立体視は両眼視機能のなかでも高度な視機能であり,奥行きを知覚するための重要な役割を担う.眼科臨床では小児の正常な視機能の発達評価や,弱視治療の治癒基準などの重要な指標となっており,その検査法としてTNOstereotests(以下,TNO)やTitmusstereotests(以下,TST)などが一般的に用いられている.この立体視に対して,両眼のコントラストの差が影響を及ぼすとの報告14)がされている.しかしながら,コントラストの影響を検討した報告で使用される立体視検査法は,TNOやTSTが多く用いられており,両眼分離法として赤緑眼鏡や偏光眼鏡の装用が必要である.これら両眼分離用眼鏡は,それ自体が左右眼のコントラストや輝度を変化させる.さらに,コントラスト差を変化させる方法として漸増遮閉膜を用いており,同時に視力や照度も変化させている.これらのことから,従来の報告では立体視に影響を及ぼす多因子が混在した条件下で検討されており,左右眼のコントラスト差のみを検討した結果とは言い難い.そこで今回筆者らは,赤緑眼鏡や偏光眼鏡を装用することなく両眼分離し,呈示する視標のコントラストのみを変化させることが可能な,小型液晶ディスプレイを用いた遠見立体視検査装置を使用し,左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視に及ぼす影響を検討した.〔別刷請求先〕藤村芙佐子:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻Reprintrequests:FusakoFujimura,DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Sagamihara,Kanagawa228-8555,JAPAN遠見立体視におけるコントラストの影響藤村芙佐子*1半田知也*1石川均*1魚里博*1庄司信行*1清水公也*2*1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学*2北里大学医学部眼科学教室EfectsofContrastonStereopsisFusakoFujimura1),TomoyaHanda1),HitoshiIshikawa1),HiroshiUozato1),NobuyukiShoji1)andKimiyaShimizu2)1)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity遠見立体視へのコントラストの影響について検討した.屈折異常以外の眼科的疾患を有さない健常者28名を対象とした.遠見立体視測定には4.3インチ小型液晶ディスプレイ(PlayStationPortableR,SONY社)を用いた立体視検査装置を使用した.両眼視差100secofarcの立体視視標を呈示し,遠見屈折矯正下にて両眼または片眼(優位眼,非優位眼)の視標コントラストを100%10%まで低下させ,各条件下で立体視の有無を確認した.コントラストを両眼等量に低下した場合,ほぼ全例,全条件下で立体視が得られたのに対し,片眼(優位眼,非優位眼)のみの視標コントラストを低下させた場合では,ともに65%以下の条件下で,立体視は有意に低下した(ともにp<0.05).左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視の成立に影響を及ぼすことが示された.Weinvestigatedtheinuenceofcontrastsensitivityondistancestereopsis.Participatinginthestudywere28younghealthyvolunteerswithnoophthalmologicaldiseaseexceptrefactiveerror.A4.3-inchliquidcrystalscreen(PlayStationPortableR,SONY)wasusedasthebasisofthestereoscopicapparatus.Distancestereopsiswithparal-laxof100secondswasmeasuredwithdistancecorrection.Stereoscopicgurecontrastwasdecreasedgraduallyfrom100%to10%in10or5steps,thesamequantityinbotheyesorinonlyoneeye(dominanteye,non-domi-nanteye).Whencontrastforbotheyeswasdecreasedequally,almostallsubjectswereabletorecognizetheste-reoscopicguredowntoacontrastof10%.Whencontrastforoneeyeonly(dominanteyeornon-dominanteye)wasdecreased,stereoacuitydecreasedsolongasthecontrastforoneeyewasunder65%(p<0.05).Theresultssuggestthattheinterocularimbalanceofcontrastonastereoscopicgureisinuencedbydistancestereopsis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14571460,2008〕Keywords:遠見立体視,コントラスト感度.distantstereopsis,contrastsensitivity.———————————————————————-Page21458あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(130)I対象両眼とも遠見矯正視力1.0以上を有し,眼位は正位または10Δ以内の斜位で,屈折異常以外の眼科的疾患のない健常者28名,平均年齢22.5±3.3歳(2032歳)を対象とした.平均自覚的屈折値(等価球面値)は優位眼2.29±2.41D(7.00D+1.00D),非優位眼2.28±2.47D(7.00D+1.25D)であり,優位眼と非優位眼の間に自覚的屈折値の差は認められなかった.なお,2.0D以上の不同視は除外した.優位眼の決定にはhole-in-cardtestを用いた.II方法遠見立体視の検査には,立体視図形の呈示装置として4.3インチ小型液晶ディスプレイを用いた(PlayStationPorta-bleR,SONY社).本機器は視差のある静的・動的立体視図形を呈示し,筒状の両眼分離用のビューアー越しに視標を見せることで立体視を知覚させる.ビューアーの接眼部からディスプレイまでの距離は40cmであり,左右の接眼部に+2.50Dのレンズを組み込み,検査距離を光学的遠見(遠見立体視検査)に設定している(図1).立体視図形の両眼視差は2,000100secofarc(以下,秒)まで100秒間隔で20段階の等間隔に変化させることが可能である5).本検討においては,静的立体視図形としてサイズ9,000秒のサークルを用い,両眼視差は正常両眼視とされる6)100秒に設定した.静的立体視の有無の評価は,眼鏡もしくはコンタクトレンズによる遠見屈折矯正下にて視標を呈示し,4つのサークル(黒字に白のサークル)のうち,とびだす1つのサークルを選択させ(強制選択法)その正誤により立体視の有無を判定した.このとき,最低4回の測定を行いその過半数以上の正誤回答を採用した.また視標のコントラストを100%10%まで変化させ,その都度,立体視の有無を確認した.視標のコントラストはディスプレイの中心に表示可能な256通りすべての視標を呈示し,輝度計(LS-100,MINOLTA社)を用い暗黒下にてその輝度を5回測定した.その平均値からMichelsonコントラスト「コントラスト=(LmaxLmin)/(Lmax+Lmin)×100(Lmax:最大輝度,Lmin:最小輝度)」により算出し,以下のように定義した.100%(99.7%),90%(90.2%),80%(80.1%),70%(70.1%),65%(65.2%),60%(60.1%),55%(55.1%),50%(49.9%),45%(44.8%),40%(40.0%),35%(35.0%),30%(30.0%),25%(25.6%),20%(19.8%),15%(16.0%),10%(10.2%)〔()内は実測値,小数第2位以下四捨五入〕.さらに,コントラストを低下させる際,両眼等量,もしくは片眼(優位眼・非優位眼)のみ低下させ(他眼の立体視図形のコントラストは100%に固定)(図2),両眼の視標コントラストが100%の条件下での立体視の正答数と,各条件下での正答数とを比較し,左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視に及ぼす影響を検討した.統計学的検討にはWilcoxon符号付順位和検定を用い,有意水準5%未満を有意差ありとした.III結果両眼の視標コントラストが100%の条件下において,全例,両眼視差100秒の遠見立体視が知覚された.視標コントラストを両眼等量に低下させた場合では,コントラスト100%10%の条件下において遠見立体視の有意な低下は認めなかった(図3).視標コントラストを片眼のみ(優位眼または非優位眼)低下させた場合では,片眼65%10%の条件にて遠見立体視が有意に低下した(p<0.05)(図4,5).優位眼を低下させた場合と,非優位眼を低下させた場合とで,立体視の低下に有意な差は認めなかった.また,片眼コントラストが40%時に比べ,30%20%時に立体視の正答数が増加する傾向にあった.IV考按両眼の視標コントラストが100%の条件下にて,全例,遠見立体視を知覚した.また,視標コントラストを両眼等量に両眼低下片眼低下図2立体視検査図形左:両眼等量に視標コントラストを低下.右:片眼(優位眼,非優位眼)のみ視標コントラストを低下.図1遠見立体視測定装置右:ビューアーの接眼部からディスプレイまでの距離は40cm.左右の接眼部に+2.50Dのレンズを組み込み,検査距離を光学的遠見(遠見立体視検査)に設定.左:4.3インチ小型液晶ディスプレイ(PlayStationPortableR,SONY社).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081459(131)低下させた場合,ほぼ全例遠見立体視が維持されたのに対し,片眼(優位眼・非優位眼)のみ低下させた場合では65%10%の条件下,すなわち左右眼の視標コントラストの比が1.67以上の条件下にて有意に遠見立体視が低下した.このことから,左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視の成立に影響を及ぼしていることが示された.今回の検討結果では,片眼の視標コントラストが100%,他眼の視標コントラストが65%以下の条件下にて遠見立体視が有意に低下した.このことから,遠見立体視においても過去の報告と同等の結果が得られたと考える.現在,眼科臨床において行われるおもな立体視検査としてTNO,TSTがあげられる.両者とも両眼分離用眼鏡(赤緑眼鏡,偏光眼鏡)を装用して検査を行う.両眼鏡ともフィルター越しの視標コントラストを変化させ,立体視に影響を及ぼすことが考えられる.大畑ら4)は,偏光フィルター越しでのTST検査表のコントラストは左右眼で差は小さく80%以上であり,TNO検査表のコントラストは赤フィルター越しでは28.2%,緑フィルター越しでは79.7%でその比は2.83に及んだとしている.さらに矢ヶ﨑ら3)は赤フィルター越しでは49.7%,緑フィルター越しでは81.1%であり,その比が1.63になり,TNOを用いた近見立体視の検討において120秒以上の良好な立体視力を正常値とすると,この条件を成立させるための左右眼のコントラスト比は2.00から1.47間であったとしている.さらに,TNOはTSTに比べて正常者であっても本来の立体視より低く検出されてしまう危険性がある3)と述べている.加えて,高齢者では,コントラスト感度が低下しており79)高齢者の立体視測定においてもTNOの結果判定には留意することが必要4)とされている.また,各種弱視症例では,コントラスト感度が低下していると報告1014)されており,Simonsら14)は,不同視弱視症例においてTNO用の赤緑フィルターを左右眼で交換して立体視力を測定すると約2倍の立体視力の差が生じたと結論づけている.これらのことから,左右眼のコントラストを変化させる可能性のある赤緑眼鏡,偏光眼鏡装用下での立体視検査では,その評価に十分注意する必要があると考えられる.これに対し,今回使用した小型液晶ディスプレイを用いた遠見立体視検査装置は,両眼分離用の眼鏡を用いないため,コントラストの影響を受けることなく立体視検査が可能となり,被検者本来の立体視機能をより正確に定量できる可能性が示唆される.今回の検討結果では,片眼のみ視標コントラストを低下させた条件下において,片眼コントラスト65%以下で遠見立体視が低下した.しかし,さらに片眼コントラストを低下させていくと30%20%のときに,65%40%時に比べて立体視の正答数が増加する現象がみられた(図4,5).この現象は再現性があったため,以下のように推論した.視標の視差は図形の左右への位置ずれであり,両眼で融像することで正答数()302520151050100908070656055504540353025201510両眼コントラスト(%)<両眼等量に低下>(n=28)図3立体視検査結果両眼等量に視標コントラストを低下させた場合.ほぼ全例,全条件下にて立体視を維持.正答数()302520151050100908070656055504540353025201510非優位眼コントラスト(%)<非優位眼のみ低下>(n=28)*****************************図5立体視検査結果片眼(非優位眼)のみ視標コントラストを低下させた場合.優位眼の視標コントラスト65%以下の条件にて立体視低下.*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001.正答数()302520151050100908070656055504540353025201510優位眼コントラスト(%)<優位眼のみ低下>(n=28)***************************図4立体視検査結果片眼(優位眼)のみ視標コントラストを低下させた場合.優位眼の視標コントラスト65%以下の条件にて立体視低下.*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001.———————————————————————-Page41460あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(132)初めて立体的に知覚される.今回の検討にあたり被検者には十分な検査説明を行ったうえで,遠見立体視の測定を実施した.しかしながら,片眼のみ視標のコントラストを低下させるという検査条件下にて,2つの視標図形が融像できなくても「位置ずれ」を「立体感」と誤認し回答した可能性は否定できず,これにより片眼コントラストが65%40%時に比べ,30%20%時に立体視の正答数が増加した可能性が推察される.他の原因についてさらに検討を行うとともに,今後,検査中の固視や融像の有無をより詳細にチェックし検討する必要があると考える.今回,視標コントラストのみならず視力や照度も変化させる漸減遮閉膜を使用することなく,視標コントラストのみを変化させることが可能な小型液晶ディスプレイ(PlayStationPortableR,SONY社)を用いて,遠見立体視検査を行った結果,左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視の成立に影響を及ぼすことが示された.文献1)FrisbyJP,MayhewJEW:Contrastsensitivityfunctionforstereopsis.Perception7:423-429,19782)LeggeGE,GuY:Stereopsisandcontrast.VisionRes29:989-1004,19893)矢ヶ﨑悌司,田小路寿子,栃倉浪代ほか:ランダムドットパターンを用いた立体視検査表に対するコントラストの影響.眼臨96:424-429,20024)大畑晶子,市川一夫,玉置明野ほか:コントラスト感度の立体視検査法への影響.日本視能訓練士協会誌29:185-188,20015)半田知也,石川均,魚里博ほか:小型液晶ディスプレイを用いた立体視検査装置の開発.臨眼61:389-392,20076)岩田美雪,粟屋忍:ステレオテスト.眼科MOOK31:93-102,19877)渥美一成,田中英成:加齢によるコントラスト感度の変化.視覚の科学13:54-57,19928)鵜飼一彦,松野彩子,大木千佳ほか:多数例におけるコントラスト感度空間周波数特性の検討正常者の年齢・弱視者の視力をパラメーターとした解析.眼臨92:756-760,19989)NomuraH,AndoF,NiinoNetal:Age-relatedchangeincontrastsensitivityamongJapaneseadults.JpnJOphthal-mol47:299-303,200310)HessRF,HowellER:Thethresholdcontrastsensitivityfunctioninstrabismicamblyopia:evidenceforatwotypeclassication.VisionRes17:1049-1055,197711)RogersGL,BremerDL,LeguireLE:Thecontrastsensi-tivityfunctionandchildhoodamblyopia.AmJOphthalmol104:64-68,198712)RydbergA,HanY,LennerstrandG:Acomparisonbetweendierentcontrastsensitivitytestsinthedetec-tionamblyopia.Strbismus5:167-184,199713)CamposEC,PrampoliniML,GulliR:Contrastsensitivitydierencesbetweenstrabismicandanisometropicamblyo-pia:objectivecorrelatebymeansofvisualevokedresponses.DocOphthalmol58:45-50,198414)SimonsK,ElhattonK:Artifactsinfusionandstereopsistestingbasedonred/greendichopticimageseparation.JPediatrOphthalmolStrabismus31:290-297,1994***

転移性結膜腫瘍の1例

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(125)14530910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14531456,2008cはじめに近年悪性新生物の罹患率が上昇し,また一方で5年生存率が向上しており1),これに伴い全身諸臓器への転移巣が発見される機会も増加している26).眼部腫瘍のなかで転移性腫瘍は近年増加しており,Shieldsらの報告によれば7%を占めている3).原発巣として男性では肺癌が,女性では乳癌が最多とされ,眼部の転移巣としてはぶどう膜,ついで眼窩が多く,結膜転移はまれである4).今回筆者らは,乳癌の転移性結膜腫瘍の症例を経験し,原発巣と転移巣の組織像を比較検討したので報告する.I症例患者:55歳,女性.主訴:右眼異物感.現病歴:2007年5月22日右眼の異物感を自覚し,近医眼科を受診したところ右眼球結膜に腫瘤を指摘され,同年6月8日当科を紹介受診した.既往歴:2005年2月に左乳癌に対し乳房切除術を受け,2007年2月に胸腰椎・肝・肺転移と診断され,化学療法を施行されていた.〔別刷請求先〕高山圭:〒664-0012伊丹市緑ヶ丘6-46-1-1-201Reprintrequests:KeiTakayama,M.D.,46-1-1-201-6-chome,Midorigaoka,Itami-shi,Hyogo664-0012,JAPAN転移性結膜腫瘍の1例高山圭*1鷲尾紀章*1小島照夫*1若栗隆志*1勝本武志*1石田政弘*1西川真平*1沖坂重邦*1,2*1防衛医科大学校眼科学教室*2眼病理教育研究所ACaseofMetastaticConjunctivalTumorKeiTakayama1),NoriakiWashio1),TeruoKojima1),TakashiWakaguri1),TakeshiKatsumoto1),MasahiroIshida1),ShimpeiNishikawa1)andShigekuniOkisaka1,2)1)DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege,2)LaboratoryofOphthalmicPathologyEducation乳癌の転移性結膜腫瘍の1症例を経験した.症例は55歳,女性.右眼の異物感を自覚し近医で右結膜腫瘤を指摘され,2006年6月紹介受診した.既往歴として,2005年2月左乳癌に対し左乳房切除術を施行され,2007年2月に胸腰椎・肝・肺転移の診断を受け化学療法が施行されている.初診時,右眼上耳側に結膜腫瘤を認め,弾性硬,境界明瞭で可動性があった.右結膜腫瘤摘出術を施行.腫瘤は結膜下組織にあり,Tenon・強膜に癒着はなく一塊として摘出された.腫瘤はマクロでは黄色調,弾性硬であり,ミクロでは胞巣は腺管構造を形成し,索状・小塊状・篩状増殖を呈し組織全体に浸潤した低分化腺癌を示し,原発巣の乳癌のものと一致したため転移性腫瘍と診断した.乳癌の眼部への転移先には,ぶどう膜が最も多く,ついで眼窩,視神経であり結膜転移はまれである.結膜腫瘤を認め,悪性腫瘍の既往歴がある際は転移性腫瘍の可能性を考慮すべきである.Wereportacaseofmetastaticconjunctivaltumorina55-year-oldfemalewhopresentedwithforeign-bodysensationinherrighteye.Shehadundergonesurgeryforleft-breastcancerinwhichmultiplemetastaseswerediscovered,andhadbeentreatedwithchemotherapy.Thepresenttumorwasfoundinthesuperotemporalcon-junctivaofherrighteyeandwasnotadherenttothebulbarconjunctivaortheunderlyingsclera.Thetumorwasyellowincolor,plateaushapedandmobile.Pathologicalexaminationshowedthetumortobepoorlydierentiatedadenocarcinoma,thesameasinthebreastcarcinomaexcised2yearspreviously.Metastasestotheeyeandadnexaaregenerallyfoundintheintraocularstructureandorbit;metastasestotheconjunctivaareextremelyrare.Thepresenceofaconjunctivalmassshouldalerttheophthalmologisttothepossibilityofconjunctivalmetastasis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14531456,2008〕Keywords:結膜腫瘍,乳癌,転移.conjunctivaltumor,breastcancer,metastasis.———————————————————————-Page21454あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(126)家族歴:特記事項はなし.初診時所見:視力は右眼(1.2×1.00D(cyl1.75DAx90°),左眼(1.2×+0.25D(cyl2.50DAx85°).眼圧は右眼14mmHg,左眼15mmHg.眼位・眼球運動に異常はみられなかった.右眼上耳側の球結膜に約10×6mm大の腫瘤があり(図1),弾性硬,境界明瞭,可動性良好であり,腫瘤上の結膜血管の拡張が観察された.中間透光体および眼底には異常がなかった.経過:複数臓器への転移があることから乳癌の結膜転移の可能性が最も考えられた.本人が異物感の改善のみを希望したため,2007年6月15日単純切除術を施行した.術中所見では,腫瘤は結膜下組織中にありTenon・強膜との癒着はなかった.組織病理所見:結膜腫瘤は大きさが10×6×5mmで黄色調,弾性硬であった(図2).胞巣構造の腫瘍細胞塊が標本全体に認められ,一部で篩状・索状を呈していた(図3a).索状の浸潤部では,腫瘍細胞の間に線維性間質を認め,硬性癌の組織像を呈していた.塊状を呈している部分では核の異型性が強く,有糸様分裂も多く認められた(図3b).腫瘍の中央に壊死も認められた.これら病理所見は浸潤性乳管癌の転移として矛盾しない所見であった.平成17年に切除された原発巣である乳癌の病理所見(図4)は,腫瘍細胞が管状・塊状となり,胞巣構造を呈している部分と硬性癌を呈している部分が混在していた.Her-2/neu(3+),estrogenrecep-tor(ER)(),progesteronereceptor(PgR)()の乳管癌であり,今回の組織病理所見と一致していた.結膜腫瘍の病理所見が原発巣と一致したこと,乳癌が肺・肝・骨に転移していることから乳癌の結膜転移と診断した.術後,主訴は消失し,その後外科で化学療法を増量し外来で経過観察を行っているが,術後6カ月(2007年1月末)の段階で眼局所の明らかな再発はみられていない.図1右外眼部写真上耳側結膜下に10×6mmの黄色調,弾性硬,境界明瞭な腫瘤を認め,可動性は良好であった.図2摘出した結膜腫瘍の実体顕微鏡写真10×6×5mmの黄色調,弾性硬であった.ab図3結膜腫瘍の病理組織の拡大像(HE染色)a:弱拡大では腫瘍細胞が結膜上皮下組織全体に認められ,小塊状,一部で篩状・索状を呈していた.b:強拡大では塊状を呈している胞巣部分では核の異形性が強く有糸核分裂も多数認められる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081455(127)II考按眼部への転移性悪性腫瘍は1872年に最初の報告があり,眼部腫瘍の8%を,眼部悪性腫瘍の約19%を占める5).悪性腫瘍の眼部への転移巣として,Castroらの報告6)によるとぶどう膜が最多(64%),つぎに眼窩(29%),視神経(3%)であり,結膜転移はその他(2%)の一部でまれな転移巣である.原発巣として乳癌が最多であり,ついで肺,消化管,腎,皮膚,前立腺との報告がある4).今回の症例では,既往に乳癌がありすでに複数臓器に転移が認められていたこと,病理所見で以前切除した乳癌と一致したことから乳癌の結膜転移と診断した.原発巣の腫瘍細胞はHer-2/neu(3+),ER(),PgR()であった.Her-2/neuの遺伝子増幅ないし蛋白過剰発現を示す乳癌は,臨床的に予後が不良であり,Her-2/neuが陽性で7),ER・PgR陰性である癌は治療抵抗性が高いこと8)が知られており,今回の症例は原発巣術後より2年3カ月で肺・肝・骨に転移をきたしており,病理学的にも臨床的にも悪性度が高いと考えられる.眼部転移を初発とし診断的切除と全身精査により原発巣が判明した症例911)も報告されており,結膜に腫瘤がみられた場合には,悪性腫瘍の既往を問うのはもちろんであるが,診断的切除を行い転移性が疑われる結果であった場合はおもに胸部・腹部を中心とした全身精査を行う必要がある.結膜に転移性腫瘍が認められた場合は他臓器へも転移をきたしている場合が多く,1996年の報告では結膜転移発見後の平均余命は9カ月であった12)が,2006年の報告では切除・放射線治療・分子標的薬による化学療法などを施行することにより5年生存率が72%,10年生存率が38%としていることもあり13),悪性度や原発巣を精査した後にQOL(qualityoflife)を高めるために適切な治療を行うことが必要であると考える.本症例では,患者の希望により放射線療法は施行されずに,化学療法が継続された.結膜下に腫瘤を認めた際には,まず局所原発性腫瘍の検索を行うが,転移性腫瘍の可能性が考えられる場合にはさらに全身検索を行う必要がある.稿を終えるにあたり,原発巣の病理標本の借用に快諾していただいた三井病院秦怜志先生に深謝いたします.文献1)国立がんセンター中央病院:主要部位別・病期別生存率.がん統計’05,p25-26,20052)工藤麻里,後藤浩,村松大弐:転移性眼窩腫瘍17例の検討.眼臨101:450-453,20073)ShieldsJA,ShieldsCL,ScartozziR:Surveyof1264patientswithorbitaltumorsandsimulatinglesion.Oph-thalmology111:997-1008,20044)FerryAP,FontRL:Carcinomametastatictotheeyeandorbit.ArchOphthalmol92:276-286,19745)高村浩:日本での眼科領域の腫瘍の現状と国際比較.あたらしい眼科19:535-541,20026)CastroPA,AlbertDM,WangWJetal:Tumormetasta-tictotheeyeandadnexsa.IntOphthalmolClin38:189-223,1982図4原発巣である乳癌の病理組織像a:腫瘍は胞巣構造の部分と硬性癌の部分が混在する乳管癌である(HE染色).b:胞巣部分では核の異型性が強くみられる(HE染色).c:胞巣構造から硬性癌に移行している部分では,腫瘍細胞はHer-2/neu免疫染色に強陽性(3+)であった.abc———————————————————————-Page41456あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(128)7)TsudaH:Prognosticandpredictivevalueofc-erb-2(HER-2/neu)geneamplicationinhumanbreastcancer.BreastCancer8:10-15,20018)ElledgeRM,GreenS,PughRetal:Estrogenreceptor(ER)andprogesteronereceptor(PgR),byligand-bindingassaycomparedwithER,PgR,pS2byimmuno-his-tochemistryinpredictingresponsetotamoxifeninmeta-staticbreastcancer:aSoutheastOncologyGroupStudy.IntJCancer89:111-117,20009)ShieldsJA,GunduzK,ShieldsCLetal:Conjunctivalmetastasisastheinitialmanifestationoflungcancer.AmJOphthalmol124:399-400,199710)ShieldsCA,ShieldsJA,GrossNAetal:Surveyof520eyeswithuvealmetastases.Ophthalmology104:1265-1276,199711)森英恵,前川直子,里田直樹ほか:眼窩内転移による症状を初発として発見された原発性肺癌の1例.日呼吸会誌41:19-24,200312)KiratliH,ShieldsCL,ShieldsJAetal:Metastaticstumorstotheconjunctiva:reportof10cases.BrJOph-thalmol80:5-8,199613)MehtaJS,Abou-RayyahY,RoseGE:Orbitalcarcinoidmetastases.Ophthalmology113:466-472,2006***

Leber 遺伝性視神経症と診断した女性の一家系

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(119)14470910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14471452,2008cはじめにLeber遺伝性視神経症(Leber’shereditaryopticneuropa-thy:LHON)は母系遺伝形式をとる急性ないし亜急性の両眼性視神経症で,ミトコンドリアDNAの点突然変異によりもたらされることが知られている.好発年齢は1020歳代であるが,4050歳代にも小さなピークがある.患者の8090%は男性であり,女性はキャリアにとどまることが多いといわれている.今回筆者らは治療が奏効しない球後視神経炎疑いで受診した女性に遺伝子診断を施行し,LHONと診断できた家系より,数名の女性発症例を確認したので報告する.I症例〔症例1〕発端者:28歳,女性.現病歴:23歳のとき,急激な視力障害を自覚し近医眼科,県立病院などを受診.片眼発症10カ月後に他眼も発症.球後視神経炎として入院し,ステロイド加療を行ったが改善なく,原因不明のまま近医にて経過観察されていた.セカンドオピニオンを求め,平成14年7月19日西葛西・井上眼科病院(以下,当院)を受診した.家族歴:母方の叔父が片眼視力不良(詳細不明).初診時所見:視力は右眼0.03(0.05×3.0D),左眼0.03(0.04×3.0D),眼圧は右眼17mmHg,左眼16mmHg,対光反応正常,相対的求心性瞳孔障害(relativeaerentpupillaridefect:RAPD)なし.前眼部,中間透光体に特記すべき異常は認めず,両眼底に視神経萎縮を認めた(図1a).Goldmann動的視野検査にて求心性視野狭窄とⅠ-4にて中心部の絶対暗点を認めた(図1b).パネルD-15にて第〔別刷請求先〕野崎令恵:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:NorieNozaki,M.D.,Nishikasai-InouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPANLeber遺伝性視神経症と診断した女性の一家系野崎令恵*1宮永嘉隆*1中井倫子*2菊池俊彦*3井上治郎*4*1西葛西・井上眼科病院*2眼科中井医院*3水戸大久保病院眼科*4井上眼科病院FamilyofaFemaleDiagnosedwithLeber’sHereditaryOpticNeuropathyNorieNozaki1),YoshitakaMiyanaga1),NorikoNakai2),ToshihikoKikuchi3)andJiroInouye4)1)Nishikasai-InouyeEyeHospital,2)NakaiEyeHospital,3)DepartmentofOphtalmology,MitoOkuboHospital,4)InouyeEyeHospital症例:原因不明の視神経炎と診断された女性に遺伝子検査を行い,Leber遺伝性視神経症と診断した.その後姪に原因不明の視力障害と視神経萎縮を認め,遺伝子解析を行ったところ11778番ヘテロプラスミー変異を確認した.そこで可能な限りの家系調査を施行したところ,同様の点突然変異を妹,姪,甥と母に認めた.結論:女性や幼小児においてもLeber遺伝性視神経症を発症する場合があり,原因不明の視力障害を診た場合には性別や年齢によらずLeber遺伝性視神経症も念頭に置く必要があると考えられた.Weconductedgenetictestingonafemalediagnosedwithopticneuritisofuncertainetiology,anddiagnosedLeber’shereditaryopticneuropathy.Subsequently,blurredvisionandopticnerveatrophyofuncertainetiologywereidentiedinherniece.Geneticanalysisconrmedheteroplasmyforthe11778mutation.Thepatient’slineagewastheninvestigatedtotheextentpossible,andasimilarpointmutationwasfoundinheryoungersister,niece,nephewandmother.Leber’shereditaryopticneuropathycanaectevengrownfemalesandinfants.Whenblurredvisionofuncertainetiologyisexamined,Leber’shereditaryopticneuropathyshouldbekeptinmind,regardlessofpatientsexorage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14471452,2008〕Keywords:Leber遺伝性視神経症,女性,11778番ヘテロプラスミー変異,家系.Leber’shereditaryopticneu-ropathy,female,heteroplasmyforthe11778mutation,lineage.———————————————————————-Page21448あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(120)3色盲は認めなかった.蛍光眼底造影検査,中心フリッカー試験は施行していない.経過:患者の同意を得,ミトコンドリアDNAについて検査を行い,11778番の正常型と変異型の混在型ヘテロプラスミーを確認し,LHONと診断した(図5a).その後経過をみながらビタミンB群(ビタメジンR),ビタミンB12(メチコバールR),コエンザイムQ10などの内服を行っており,視力は右眼(0.1),左眼(0.3)となっている.経過観察中に結婚,出産を経て現在は2児の母となり,3歳の長女はすでに右眼の視神経萎縮を認め,視力は0.06となっている.2歳の長男については不明である.〔症例2〕発端者の姪(妹の長女):9歳,女児.現病歴:平成15年,就学前健診で視力不良を指摘(右眼0.2,左眼0.3ともに矯正不能).総合病院にて毛様体過緊張と診断され,近医にて経過みるも改善せず,視神経萎縮を認めるようになり,精査加療目的に平成17年7月27日当院紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.6(0.8×0.25D(cyl0.5DAx30°),左眼0.8(1.2×0.25D(cyl0.5DAx40°),眼圧は右眼18mmHg,左眼17mmHg,輻湊反応良好,立体視はほぼ正常.対光反射・RAPDについては記載なし.前眼部,中間透光体に特記すべき異常は認めず,両眼底に軽度の視神経萎縮を認めた(図2a).Goldmann動的視野検査にて傍中心比較暗点を認めた(図2b).中心フリッカー試験は右眼1914mmHg,左眼3631mmHgであった.全屈折検査,石原式色覚検査では両眼とも異常は認めなかった.蛍光眼底造影検査は施行していない.経過:母親が症例1の妹であり,同意を得てミトコンドリアDNA検査を行ったところ,同様の11778番の正常型と変異型の混在型ヘテロプラスミーを認め,LHONと診断した(図6b).トロピカミド(ミドリンMR)右眼就寝前点眼にて経過観察中にMRD(marginreexdistance)右眼6mm,左眼図1a症例1(28歳,女性)の眼底写真上:右眼,下:左眼.視神経萎縮を認める.図1b症例1のGoldmann動的視野検査所見上:右眼,下:左眼.Mariotte盲点拡大と中心暗点を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081449(121)8mmと右上眼瞼下垂を認めている.また,平成18年12月27日左方視時に複視を訴え,動眼神経麻痺についても注意して経過をみている.平成19年12月26日,視力は右眼(0.4),左眼(1.0)で,両眼とも視神経萎縮が進行している.そこで遺伝性の確認のため同意を得,本患者の3世代にわたる家系について調査した.家系図を示す(図3).〔症例3〕症例2の母:31歳,女性.現病歴:自覚症状はなかったが家族性の確認のため平成17年12月28日当院初診.初診時所見:ミトコンドリアDNA検査を行ったところ,同様の11778番の正常型と変異型の混在型ヘテロプラスミーを認めた.前眼部,中間透光体に特記すべき異常は認めなかった.経過:平成19年2月28日,視力は右眼0.01(0.04×cyl1.5DAx90°),左眼0.1(0.9×cyl1.75DAx70°)と右眼の視力障害を認めたが,眼底に視神経萎縮は認めなかった.同年3月14日,右眼(0.02),左眼(0.8)となったため,プレドニゾロン(プレドニンR)15mgを14日,5mgを14日図2a症例2の眼底写真上:右眼,下:左眼.右眼に視神経萎縮を認める.図2b症例2のGoldmann動的視野検査所見上:右眼,下:左眼.傍中心暗点を認める.4症例6症例712432135症例5126345:発端者:正常または未定:発症者:保因者:DNA検査済図3家系図———————————————————————-Page41450あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(122)間内服.このとき右眼の視神経の色調はやや不良となっていた(図4).その後はビタミンB群(ビタメジンR)の内服にて経過をみており,同年12月26日右眼(0.03),左眼(0.02)となり右眼の視神経萎縮は進行している.対光反応については記載なし.視野検査や蛍光眼底造影検査,色覚検査,中心フリッカー試験は行っていない.〔症例4〕症例2の妹:8歳,女児.〔症例5〕症例2の弟:3歳,男児.〔症例6〕症例1の父:65歳,男性.〔症例7〕症例1の母:56歳,女性.現病歴:症例47においては自覚症状はなかったが,家族性の確認のため平成17年12月28日当院初診.初診時所見:ミトコンドリアDNA検査を行ったところ,11778番ヘテロプラスミー変異を症例4,5,7に認めた.症例6では異常は認めなかった(図5c).眼底検査を行ったところ症例5に両眼,特に右眼の視神経萎縮を認めた(図6).症例5の視力は両眼とも0.8で,他の家族に異常は認めなかった.経過:全症例で現在視力障害の訴えはないが,症例5では行動異常知能発達障害を認めている.II考按今回筆者らは原因不明の視神経萎縮を認めた若年女性につ未1131.124bp(異変型)正常型2混在型3図5a症例1のmtDNA11778解析1131.124bp(異変型)正常型2混在型3図5b症例2のmtDNA解析1正常型2混在型3図5c父親のmtDNA点突然変異を認めず正常.図4症例3(31歳,女性)の眼底写真上:右眼,下:左眼.右眼視神経萎縮を認める.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081451(123)いてミトコンドリアDNA解析を施行し,LHONと診断できた家系より数名の女性発症者を認めた.8歳の姉が発症していないにもかかわらず,男児では3歳という若年齢ですでに視神経萎縮を認めていたことより,従来の報告通り1)同じ遺伝子をもっていても性別により浸透率に相違があることがわかる.女性より男性のほうが発症率が高いことについて,X染色体劣性遺伝子の可能性や核遺伝子の影響が考えられたこともあったが,現時点ではこれらの考えは否定的である.深水ら7)は女性に発症した場合は男性に比べて少なくとも片眼は症状が軽い可能性があると報告しているが,本症例においてはそうともいえない.一方,女性は同じ遺伝子をもっていても発症する者としない者が存在し,また発症する者でも時期に違いがあり,発症には何らかの誘因が関わっていることが示唆される.過去の報告では発症因子として喫煙やアルコール,性ホルモンが考えられている2,5).思春期以降から更年期までの発症を認めることより性ホルモンの関与4)や授乳が発症のトリガーになる可能性が指摘されている3)が今回,思春期以前,10歳以下の幼児においても発症することがわかった.中年発症例も報告されていることより6,7),年齢においてLHONを否定することはできない.発症にはさまざまな因子が関係していると思われる.LHONは日本人家系でも欧米人家系でも女性における浸透率は低いと考えられており4,5),特に幼小児だと弱視11)や心因性視力障害,検査に非協力的であるためなどと考えられる可能性があり,確定診断としてLHONは見落とされる可能性がある.またLHONでは初期には視神経萎縮が出現しないことも診断を困難にする一因である.遺伝子解析という複雑な検査や母系遺伝であることも家族間のトラブルを生む可能性があり8),説明には十分慎重を要する.いくつかの独立した研究により,LHONを発症した女性の子孫は未発症の女性の子孫より有意に高い率で発症することが示されている4,9,10).LHONの患者を診た場合,現時点でその家系に眼疾患歴がなくともできる限りの家系単位で定期的な検査を継続していくべきであると考える.一方で女性発症は年々減少している5)との報告もある.今回経験した症例より,稀であっても女性や女児においてもLHONを発症する可能性があり,原因不明の視力障害や治療が奏効しない視神経炎を認めたときにはLHONも念頭に置き注意して経過観察を行う必要があると考えられた.今後できる限り症例を増やし,女性発症と男性発症を比較し,トリガーとなるものが何かを解明することが本症の予防や治療につながると考える.また,2008年2月5日,イギリスのニューカッスル大学の研究チームが体外受精で残った不完全な胚を使って,男性1人と女性2人のDNAからヒトの胚を合成することに成功したと発表した.体外受精の過程で卵子の細胞の核を第三者の卵子に入れ,核の遺伝子は親のもの,ミトコンドリアDNAは第三者のものになるようにし,ミトコンドリアDNAに含まれる欠陥が子供に遺伝しないようにしたという.倫理面上の問題もあるが,同研究チームは5年以内に遺伝病の治療に活用できるようになるようになることを期待している.将来LHONの発症を未然に防ぐことができるようになる日が来るかもしれない.文献1)PovaikoN,ZakharovaE,RudenskaiaGetal:AnewsequencevariantinmitochondrialDNAassociatedwithhighpenetranceofRussianLeberhereditaryopticneu-ropathy.Mitochondrion5:194-199,20052)真島行彦:レーベル病.神経眼科11:34-41,19943)井街譲:レーベル氏病.附.優性型幼児性視神経萎縮症.図6症例5(弟,3歳)の眼底写真上:右眼,下:左眼.右眼視神経の色調が蒼白である.———————————————————————-Page61452あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(124)日眼会誌77:1685-1735,19734)中村誠:Leber遺伝性視神経症.臨眼61(増):98-102,20075)中村誠:レーベル遺伝性視神経症の発症分子メカニズムの展望.日眼会誌109:189-196,20056)筒井一夫,新田進人,西信元嗣:ミトコンドリアDNA解析により診断確定したレーベル病の中年発症例.眼臨94:434-438,20007)深水真,藤江和貴,若倉雅登:女性に発症したレーベル遺伝子性視神経症の特徴.臨眼57:427-430,20038)若倉雅登:視神経疾患のロービジョンケア.眼紀58:138-141,20079)CarelliV,GiordanoC,d’AmatiG:PathogenicexpressionofhomoplasmicmtDNAmutationsneedsacomplexnuclear-mitochondrialinteraction.TrendsGenet19:257-262,200310)PuomilaA,HamalainenP,KiviojaSetal:EpidemiologyandpenetranceofLeberhereditaryopticneuropathyinFinland.EurJHumGenet(Epubaheadofprint):200711)YokoyamaT,FujiiK,MurakamiAetal:Long-termfol-low-upoftwosisterswithLeber’shereditaryopticneu-ropathy.JpnJOphthalmol50:78-80,2006***

強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミーの手術成績

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(115)14430910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14431446,2008cはじめに弘前大学眼科(以下,当科)では改良非穿孔トラベクレクトミー(advancednon-penetratingtrabeculectomy:ad-N)の変法として強膜弁を無縫合で終了し,サイヌソトミーを併施しない強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー(free-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy:ad-N)を独自に行っている.本法は強膜弁を無縫合にすることによって,濾過量の増加およびlaser-suturelysisなどの術後処置の簡略化を期待して発案された.以前,筆者らは本術式の短期間の手術成績を報告した1).しかし,術後平均観察期間は約5カ月と短かったので,今回は,本法を用い最低12カ月以上(平均観察期間24カ月)経過が観察できた症例をad-Nと比較検討して報告する.I対象および方法1.対象対象は2002年4月から2007年3月までにad-Nまたはad-Nを施行された緑内障患者48例75眼で,その内訳はad-N群が30例46眼(男性15例女性15例,平均年齢67.1±10.4歳),ad-N群が18例29眼(男性8例,女性10例,平均年齢67.6±8.45歳)である.なお,この期間中2005年4月以降はほぼ全症例をad-Nではなくad-Nで行ってい〔別刷請求先〕盛泰子:〒036-8562弘前市在府町5弘前大学大学院医学研究科眼科学講座Reprintrequests:TaikoMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HirosakiUnivesitySchoolofMedicine,5Zaifu-cho,Hirosaki036-8562,JAPAN強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミーの手術成績盛泰子石川太山崎仁志伊藤忠竹内侯雄木村智美中澤満弘前大学大学院医学研究科眼科学講座SurgicalResultofFree-FlapAdvancedNon-PenetratingTrabeculectomyTaikoMori,FutoshiIshikawa,HitoshiYamazaki,TadashiIto,KimioTakeuchi,SatomiKimuraandMitsuruNakazawaDepartmentofOphthalmology,HirosakiUnivesitySchoolofMedicine弘前大学眼科で独自に行っている強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー(ad-N)と従来の改良非穿孔トラベクレクトミー(ad-N)の手術成績を比較検討した.対象は2002年4月から2007年3月までに当院でad-Nまたはad-Nを施行され,術後12カ月以上観察された48例75眼である.術前眼圧(平均±標準偏差)はad-N群,ad-N群で18.2±4.1mmHg,17.5±4.3mmHg,最終眼圧(平均±標準偏差)はad-N群,ad-N群で13.6±2.6mmHg,13.6±2.2mmHgであった.術後合併症は両群とも一過性の脈絡膜離をきたした症例が1眼ずつあったが,その他重篤な合併症はなかった.以上の結果からad-Nは従来のad-Nと同等の手術成績を有すると考えられた.Toevaluatetheoutcomesofnon-penetratingtrabeculectomiesperformedatHirosakiUniversityHospitalfromApril2002toMarch2007,werecordedintraocularpressure(IOP)andcomplicationsforatleast12monthsaftersurgeryin75eyesof48patientswhounderwentfree-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy(ad-N)oradvancednon-penetratingtrabeculectomy(ad-N).ThemeanpreoperativeIOPwas18.2±4.1mmHginthead-Ngroupand17.5±4.3mmHginthead-Ngroup.ThemeanpostoperativeIOPwas13.6±2.6mmHgand13.6±2.2mmHg,respectively.Therewasonecaseofchoroidaldetachmentineachgroup,buttherewerenoothersignicantcomplications.Theseresultssuggestthatad-Nseemstoachievealmostthesamesurgicalresultsasad-N.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14431446,2008〕Keywords:非穿孔トラベクレクトミー,改良非穿孔トラベクレクトミー,強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー,手術成績,緑内障.non-penetratingtrabeculectomy,advancednon-penetratingtrabeculectomy,free-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy,surgicaloutcome,glaucoma.———————————————————————-Page21444あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(116)る.両群とも観察期間は最低12カ月以上で角膜切開白内障手術を併施した症例を対象とし,後ろ向き研究を行った.これらの患者背景を表1にまとめる.両群間の年齢に有意差はなかった(p<0.05,t検定).2.手術手技今回の検討対象となった2つの術式を表2にまとめる.両術式は表のごとく手技⑨以外は共通手技である.当科で独自に行っているad-Nの特徴はサイヌソトミー非併施かつ強膜外方弁を無縫合のまま結膜縫合することにある.また,両術式ともに利点や予想される合併症を十分に説明した後,文書による同意を得て行った.3.検討項目各群の術前平均眼圧,術後1,3,6,12,24カ月での眼圧,眼圧下降率,術前,術後1,3,6,12,24カ月での薬剤スコア,術中,術後合併症,術後処置,再手術の有無について検討した.術前平均眼圧は術直前3回の平均眼圧とした.再手術例は再手術前の最終受診時を最終眼圧とし,それ以降は検討から除外とした.術前および術後各時点での眼圧値の比較はWilcoxon符号付き順位検定で評価した.眼圧下降率は術前平均眼圧と最終受診時眼圧から算出した.また,眼圧はすべてGoldmann圧平眼圧計を用いて測定した.薬剤スコアは抗緑内障点眼薬を1剤1点,内服薬を2点とした.薬剤スコアの術前後の比較はSpearman順位相関係数検定で行った.再手術は術後,眼圧下降が不十分なために何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例と定義した.II結果1.眼圧(平均±標準偏差)術前眼圧はad-N群が18.2±4.1mmHg,ad-N群が17.5±4.3mmHgで,両群間に統計学的有意差はなかった(p<0.05,Wilcoxon符号付き順位検定).術後眼圧は術後1,3,6,12,24カ月の順にad-N群で13.2±3.1mmHg,12.6±3.7mmHg,13.0±2.7mmHg,13.7±1.8mmHg,13.6±2.5mmHgであり,ad-N群では13.7±2.9mmHg,13.8±2.9mmHg,14.0±2.9mmHg,13.9±2.7mmHg,13.4±1.9mmHgであった.術後各時点の眼圧値は術前に比較して両群ともに有意に低下していた(p<0.05,Wilcoxon符号付き順位検定)が,両群間には統計学的な有意差はなかった(p<0.05,Wilcoxon符号付き順位検定).両群の眼圧経過を図表2手術手技adN①結膜輪部切開②4×4mm強膜外方弁作製③0.04%mitomycinC塗布,4分間④300ml生理食塩水で洗浄⑤超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑥4×3.5mmの強膜内方弁作製⑦線維柱帯内皮網擦過,除去⑧強膜内方弁を角膜側に伸ばし,Descemet膜を露出した後,強膜内方弁除去⑨強膜外方弁を縫合後半円形切除2カ所⑩結膜縫合adN①結膜輪部切開②4×4mm強膜外方弁作製③0.04%mitomycinC塗布,4分間④300ml生理食塩水で洗浄⑤超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑥4×3.5mmの強膜内方弁作製⑦線維柱帯内皮網擦過,除去⑧強膜内方弁を角膜側に伸ばし,Descemet膜を露出した後,強膜内方弁除去⑨強膜外方弁を縫合せず整復⑩結膜縫合⑨以外は共通手技である.表1患者背景ad-Nad-N性差(男:女)眼25:2111:18年齢(歳・平均±標準偏差)67.1±10.467.6±8.45病型:開放隅角緑内障4125性緑内障32発達緑内障10閉塞隅角緑内障12合計(眼)4629術前平均眼圧(mmHg・平均±標準偏差)17.5±4.318.2±4.1術前平均薬剤スコア(点・平均±標準偏差)2.7±0.92.6±0.8ad-N:advancednon-penetratingtrabeculectomy,ad-N:free-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy.1カ月術前3カ月6カ月12カ月24カ月2520151050眼圧(mmHg):ad-N:ad-N図1平均眼圧経過各時点で両群間に統計学的な有意差なし(Wilcoxon符号付き順位検定p<0.05).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081445(117)1に示す.2.眼圧下降率ad-N群の平均眼圧下降率は19.6%であった.眼圧下降率30%以上の症例は8眼(27.6%),20%以上30%未満の症例は6眼(20.7%),0%以上20%未満の症例は13眼(44.8%)であった.ad-N群の平均眼圧下降率は19.6%であった.眼圧下降率30%以上の症例は13眼(28.3%),20%以上30%未満の症例は8眼(17.4%),0%以上20%未満の症例は17眼(40.0%)であった.ad-N群とad-N群の眼圧下降率散布図を図2に示す.3.薬剤スコア(平均±標準偏差)術前の薬剤スコアはad-N群で2.6±0.8点,ad-N群で2.7±0.9点,最終受診時の薬剤スコアはad-N群で1.2±0.9点,ad-N群で1.0±0.9点であり,両群ともに術前に比較して有意に低下していた(p<0.05,Spearman順位相関係数検定).両群間差は術前,術後ともになかった(p<0.05,Spear-man順位相関係数検定).ad-N群とad-N群の薬剤スコアの経過を図3に示す.4.術後処置Lasersuturelysisはad-N群で0眼(0%),ad-N群で13眼(28.2%),lasergoniopunctureはad-N群で18眼(62.0%),ad-N群で25眼(54.3%),lasergonioplastyが14眼(48.2%),ad-N群で19眼(41.3%),needlingがad-N群で1眼(3.4%),ad-N群で2眼(6.9%)行われていた.5.合併症術後に一過性の脈絡膜離がad-N群で1眼(3.4%),ad-N群で1眼(2.2%)みられたが,その他重篤な合併症は両群ともになかった.6.再手術術後,眼圧下降が不十分なために何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例はad-N群で2眼(6.9%),ad-N群で4眼(8.7%)みられた.III考按緑内障における外科的眼圧降下法には種々の方法がある.進行期緑内障では,緑内障治療で唯一エビデンスが得られている治療が眼圧下降であるため,眼圧下降効果の大きさから流出路再建術よりも濾過手術が選択される場合が多い.濾過手術の中でもトラベクレクトミー(trabeculectomy:TLE)は主流の術式であるが,その強い眼圧下降効果の一方で,過剰濾過に伴う前房消失,低眼圧,ひいては低眼圧黄斑症などの忌むべき合併症が多い術式であることも知られている24).その反省から前房に穿孔しない,いわゆる非穿孔トラベクレクトミー(non-penetratingtrabeculectomy:NPT)が考案された5,6).NPTにおいては過剰濾過に伴う合併症は少なくなったものの,逆に眼圧下降の面が不十分になるという新たな問題が生じた.そのためNPTの眼圧下降効果を補うため改良非穿孔トラベクレクトミー(advancednon-penetratingtrabeculectomy:ad-N)がその後さらに考案された7).当科ではこのad-Nの変法として強膜弁を無縫合で終了35302520151050術後眼圧(mmHg)15105020術前眼圧(mmHg)25303520下降30下降35302520151050術後眼圧(mmHg)05101520253035術前眼圧(mmHg)20下降30下降ad-N?ad-N図2眼圧下降率左:ad-N群,右:ad-N群.両群ともに平均眼圧下降率は19.6%.1カ月術前3カ月6カ月12カ月24カ月4.03.02.01.00.0薬剤スコア:ad-N:ad-N図3平均薬剤スコア各時点で両群間に統計学的な有意差なし(Spearman順位相関係数検定p<0.05).———————————————————————-Page41446あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(118)し,サイヌソトミーを併施しない強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー(free-apadvancednon-penetratingtra-beculectomy:ad-N)を独自に行っている1).本法は強膜弁を無縫合にすることによって,濾過量の増加およびlasersuturelysisなどの術後処置の簡略化を期待して発案した術式である.また,無縫合かつサイヌソトミーを行わないことで強膜弁の欠損は生じえず,眼圧下降が不十分な場合,同一創からのTLEでの再手術が可能であるという利点を併せもっている.今回の検討では,術後最終眼圧平均(平均±標準偏差)は術前眼圧平均(平均±標準偏差)に比較して両群ともに有意に低下していた.また,術後各時点の眼圧値は術前に比較して両群ともに有意に低下していたが,両群間には統計学的な有意差はなかった.眼圧下降率も両群間に有意差はなかった.最終受診時の薬剤スコア(平均±標準偏差)は術前の薬剤スコア(平均±標準偏差)と比較して両群ともに有意に低下していたが,両群間差は術前,術後ともにみられなかった.眼圧下降が不十分なために何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例はad-N群で2眼(6.9%),ad-N群で4眼(8.7%)であった.以上の結果はすなわちad-Nは眼圧下降効果,眼圧下降率,術後薬剤スコア,再手術の頻度においてad-Nと同等の成績であることを示し,強膜弁を無縫合にすることによって濾過量を増加させるという試みはさほど効果がなかったと考えられた.合併症の面では両群ともに術後に一過性の脈絡膜離が1眼みられたのみで,その他重篤な合併症はなかった.ad-Nでは強膜弁無縫合にすることによる特別な合併症もみられなかった.この点においてもad-Nはad-Nと同等の成績といえる.ad-Nとad-Nは眼圧下降,合併症などの手術成績は同等であるが,ad-Nにはサイヌソトミー非併施,強膜外方弁無縫合と若干の手術手技簡略化という利点があると思われた.術後処置については,ad-N群においてlasersuturelysisが0眼(0%)なのは強膜弁無縫合であるから当然であり,この点に関しては術後処置の簡略化に成功したと考えてよい.ad-N群,ad-N群ともに濾過胞の維持,眼圧下降のために必要に応じてlasergoniopuncture,lasergonioplasty,nee-dling施行が必要であり,この術後管理は術後の眼圧下降効果維持のために非常に重要であったと思われる.両術式ともに結膜輪部切開での施行であること,濾過量がTLEよりも少ないことから濾過胞は扁平になる傾向があり,当科では術後2週間をめどに積極的にlasergoniopuncture,lasergonioplasty,needlingを施行している.したがってこれらの処置は施行率が高い傾向にあったと思われる.今回の検討では濾過胞の維持率は検討していない.後ろ向き研究であるので濾過胞の生存を客観的に,厳密に判断することがむずかしいと考えたためである.この点については光学的干渉断層計などの前眼部解析装置を用いての厳密な検討を今後,考慮する必要があると思われる.また,両術式は眼圧下降効果,合併症の面で同等の手術成績であるという結果が得られた.しかしad-Nでは手術手技,術後処置の面でad-Nに比較して若干の簡略化があり,その点に関しては有用と思われた.文献1)大黒浩,大黒幾代,山崎仁志ほか:理想的な術後濾過胞形成を目指した強膜弁非縫合非穿孔トラベクレクトミー(Free-apAdvancedNPT)の手術成績.あたらしい眼科23:515-518,20062)JongsareejitB,TomidokoroA,MimuraTetal:EcacyandcomplicationsaftertrabeculectomywithmitomycinCinnormal-tentionglaucoma.JpnJOphthalmol49:223-227,20053)大黒幾代,大黒浩,中澤満:弘前大学眼科における緑内障手術成績.あたらしい眼科20:821-824,20034)八鍬のぞみ,丸山幾代,清水美穂ほか:札幌医科大学眼科における0.04%マイトマイシンC併用トラベクレクトミーの長期成績.あたらしい眼科17:263-266,20005)Gonzalez-BouchonJ,Gonzalez-MathiesenI,Gonzalez-GalvezMetal:NonpenetratingdeeptrabeculectomytreatedwithmitomycinCwithoutimplant.Aprospectiveevaluationof55cases.JFrOphtalmol27:907-911,20046)ShyongMP,ChouJC,LiuCJetal:Non-penetratingtrab-eculectomyforopenangleglaucoma.ZhonghuaYiXueZaZhi(Taipei)64:408-413,20017)黒田真一郎,溝口尚則,寺内博夫ほか:Non-PenetratingTrabeculectomyを改良した緑内障手術(advancedNPT:仮称)の評価.あたらしい眼科17:845-849,2000***

選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(111)14390910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14391442,2008cはじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は半波長Qスイッチ:Nd-YAGレーザー(波長532nm)を用いて,線維柱帯の色素細胞のみを選択的に障害し,線維柱帯の房水流出抵抗を減少させることで眼圧を下降させると考えられているレーザー治療である1).アルゴンレーザー線維柱帯形成術(argonlasertrabeculo-plasty:ALT)は線維柱帯構造全体に作用するが,SLTは周囲の線維柱帯組織や無色素細胞には影響しないことが明らかになっており2),線維柱帯への侵襲が少ない.また,ALTは熱凝固組織損傷の合併症である術後一過性の眼圧上昇,周辺部虹彩癒着などを認めることがあるのに対し,SLTはそれらの合併症を認めることが少なく,くり返し治療が可能で,手術治療に影響を与えないため,薬物治療と手術治療の中間的な役割を果たすものとして位置づけられている3).SLTはALT同等の眼圧下降が得られ,その有効性については多くの報告があり4,6,8),狩野ら4),Hodgeら5)は,原発開放隅角緑内障(広義)(POAG)と落屑緑内障(EXG)の2病型において,SLTの眼圧下降効果に有意差を認めなかったと報告している.しかし,最大耐用薬物療法下でのSLT6)や色素緑内障に対するSLT7)には限界があることが示唆されており,患者背景因子を検討することが必要である.また,Wernerら9)により,白内障手術の既往の有無はSLTの眼圧下降効果に影響を及ぼさないと報告されているが,緑内障手〔別刷請求先〕上野豊広:〒669-5392豊岡市日高町岩中81公立豊岡病院組合立豊岡病院日高医療センター眼科センターReprintrequests:ToyohiroUeno,M.D.,EyeCenter,HidakaMedicalCenter,ToyookaHospital,81Iwanaka,Hidaka-cho,Toyooka-shi,Hyogo-ken669-5392,JAPAN選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績上野豊広岩脇卓司湯才勇矢坂幸枝港一美倉員敏明公立豊岡病院組合立豊岡病院日高医療センター眼科センターClinicalResultsofSelectiveLaserTrabeculoplastyToyohiroUeno,TakujiIwawaki,SaiyuuYu,YukieYasaka,KazumiMinatoandToshiakiKurakazuEyeCenter,HidakaMedicalCenter,ToyookaHospital筆者らは選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)の眼圧下降効果を緑内障手術の既往の有無や病型別で比較検討を行った.対象は,当院でSLT施行後3カ月以上観察可能であった44例49眼,年齢は65.59±11.02歳,原発開放隅角緑内障(広義)(POAG)が42眼,落屑緑内障(EXG)が7眼であった.今回検討した全症例の眼圧は術前18.36±2.60mmHg,術後3カ月16.37±2.82mmHgで,有意な眼圧下降を認めた.SLT施行前に緑内障手術の既往の有無の検討では,緑内障手術の既往がない群は有意な眼圧下降があったが,緑内障手術の既往がある群は有意な眼圧下降がなく,病型別の検討では,POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は有意な眼圧下降がなかった.患者背景因子について検討し施行すれば,SLTは有効な眼圧下降を得る一つの方法になると考えた.Weevaluatedtheintraocularpressure(IOP)-loweringecacyofselectivelasertrabeculoplasty(SLT)inrela-tiontothehistoryofpriorglaucomasurgeryanddierenttypesofglaucoma.Subjectscomprised49eyesof44patientswhowerefollowedupfor3monthsormoreafterSLT.Meanpatientagewas65.59±11.02years(mean±standarddeviation);42eyeshadprimaryopen-angleglaucoma(POAG)and7hadexfoliationglaucoma(EXG).IOPdecreasedsignicantly,from18.36±2.60mmHgto16.37±2.82mmHgat3monthsafterSLT,decreasingsignicantlyineyesthathadnotundergoneglaucomasurgerybeforeSLT,butnotdecreasingsignicantlyineyesthathadundergoneglaucomasurgerybeforeSLT.IOPdecreasedsignicantlyineyeswithPOAG,butnotineyeswithEXG.SLTappearstobeaneectivemethodfortreatingglaucoma,consideringpatienthistory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14391442,2008〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,眼圧下降,緑内障.selectivelasertrabeculoplasty(SLT),intra-ocularpressurereduction,glaucoma.———————————————————————-Page21440あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(112)術の既往の有無についてはいまだ報告されていない.今回筆者らは,緑内障手術の既往の有無と緑内障の病型別にて,SLTの眼圧下降効果に関して比較検討を行った.I対象および方法対象は,公立豊岡病院組合眼科でSLTを施行し,3カ月以上観察可能であった,44例49眼とした.内訳は男性24眼,女性25眼,年齢は65.59±11.02(4986)歳であった.全症例とも,術前にALTの既往,術前後での点眼治療に変化はなく,隅角色素はScheie分類でⅡ以下であった.緑内障手術に関しては,SLT施行前に既往がある症例は9眼,既往がない症例は40眼であり,その内訳は,線維柱帯切除術,非穿孔性線維柱帯切除術と線維柱帯切開術であり,濾過手術と流出路再建術に分けて検討を行った.表1に示すように,年齢,性別,病型,Humphrey自動視野計プログラム中心30-2SITA-STANDARDプログラム(HumphreyeldanalyzerⅡ:HFA)の平均偏差(meandeviation:MD)値は緑内障手術既往の有無で有意差はなかった.また,病型別の検討に関しては,POAGが42眼,EXGが7眼であった.表2に示すように,年齢,性別,緑内障手術の既往,HFAのMD値も病型間で有意差はなかった.SLTは施行前に十分な説明をし,患者から同意を得たうえで,緑内障専門外来の熟練した術者2人が行った.SLTには,ellex社製タンゴオフサルミックレーザーを用いた.SLTの照射条件は,スポットサイズが400μm,照射時間が3ns,出力が0.61.5mJ,照射は半周(下方180°)に施行し,照射数は4960発であった.術前,術後処置に1%アプラクロニジン(アイオピジンR)点眼を行った.眼圧測定は術前,術後翌日,1週,1カ月,その後は1カ月ごとにGold-mannapplanationtonometerで測定した.術前眼圧は術前3回の平均を用い,それぞれの術後眼圧と比較した.SLT施行前に緑内障手術の既往の有無や緑内障の病型別の検討では術前眼圧と術後3カ月の眼圧と比較検討した.なお,術前と術後1週,1カ月,2カ月,3カ月の眼圧の比較にはANOVA(analysisofvariance)法および多重比較(Bonferroni/Dunn法),術前眼圧と術後3カ月の眼圧の比較にはMann-Whitney’sUtest,緑内障手術既往の有無と病型の患者背景の比較にはMann-Whitney’sUtestおよびFisher’sexactprobabilitytestを用いた.統計学的有意差は5%未満の危険率をもって有意とした.統計解析にはStat-View5.0(SASInstitute社)を用いた.値の表示はすべて平均値±標準偏差とした.II結果全症例の術前平均眼圧が18.36±2.60mmHg,術後1週の眼圧は16.60±3.67mmHg(p<0.05),術後1カ月の眼圧は16.98±3.24mmHg(p<0.05),術後2カ月の眼圧は16.67±3.40mmHg(p<0.05),術後3カ月の眼圧は16.37±2.82mmHg(p<0.05)であった.術後1週から3カ月まですべて有意な眼圧下降を認めた.図1に示す.SLT施行前に緑内障手術の既往がない群は40眼,術前平均眼圧が18.35±2.42mmHg,術後3カ月の眼圧は15.88±2.33mmHg(p<0.01)であり有意な眼圧下降があった.一方,SLT施行前に緑内障手術の既往がある群は9眼,術前平均眼圧が18.40±3.44mmHg,術後3カ月の眼圧は18.56±3.81mmHg(p=0.81)であり有意な眼圧下降がなかった.図2に示す.濾過手術群は男性4眼,女性1眼,POAG4眼,EXG1眼,術前平均眼圧が18.86±2.66mmHg,術後3カ月の眼圧は18.60±3.13mmHg(p=0.81)であった.流出路再建術群は男性2眼,女性2眼,POAG2眼,EXG2眼,表1緑内障手術の既往別の患者背景緑内障手術の既往がない群緑内障手術の既往がある群p値年齢(歳)65.80±11.35(4986)65.22±10.02(5078)0.85*性別男性18眼女性22眼男性6眼女性3眼0.29**病型POAG36眼EXG4眼POAG6眼EXG3眼0.11**MD値(dB)9.46±8.7411.66±9.020.82**:Mann-Whitney’sUtest.**:Fisher’sexactprobabilitytest.表2病型別の患者背景POAG群EXG群p値年齢(歳)64.83±11.15(4986)70.86±9.23(5379)0.11*性別男性19眼女性23眼男性5眼女性2眼0.25**緑内障手術の既往あり6眼(14.3%)あり3眼(42.9%)0.11**MD値(dB)9.36±8.9112.56±9.110.51**:Mann-Whitney’sUtest.**:Fisher’sexactprobabilitytest.2520151050眼圧(mmHg)術前1週1カ月2カ月3カ月術後経過日数****図1全症例におけるSLTの眼圧経過眼圧は術後1週から術後3カ月まですべて有意な眼圧下降を認めた.*p<0.05:ANOVAおよびBonferroni/Dunn法.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081441(113)術前平均眼圧が17.83±4.62mmHg,術後3カ月の眼圧は18.50±5.07mmHg(p=0.32)であり,両群とも有意な眼圧下降を認めなかった.POAG群(42眼)は術前平均眼圧が18.16±2.42mmHg,術後3カ月の眼圧は16.02±2.47mmHg(p<0.01)であり有意な眼圧下降があった.一方,EXG群(7眼)は術前平均眼圧が19.54±3.46mmHg,術後3カ月の眼圧は18.42±3.99mmHg(p=0.34)であり有意な眼圧下降がなかった.図3に示す.SLTに伴う合併症は眼圧上昇のみで,経過中に術前より眼圧の上昇した症例は21眼で,全体の42.9%であった.そのうち5mmHg以上の高度の眼圧上昇が生じた症例は2眼で,全体の4.1%であった.虹彩炎は全例軽微であり,加療を必要とする重篤な炎症所見はなかった.また,前房出血など,他の重篤な合併症はなかった.III考按本研究では,POAGとEXGの2病型に対して,点眼治療,緑内障手術の既往の有無にかかわらず,視野障害の進行を認め,さらなる眼圧下降が望ましいと思われる患者に対しSLTを施行し,検討を行った.過去の報告によるとSLTの予後因子として,年齢,性別,病型,ALTの既往の有無,隅角色素,術前眼圧,手術の既往,術前投薬数,術後一過性眼圧上昇などさまざまな因子が過去に検討されている49).まず,手術の既往に関する過去の報告では,Wernerら9)により,白内障手術の既往の有無はSLTの眼圧下降効果に影響を及ぼさないと報告されているが,緑内障手術の既往の有無についていまだ報告されていないため,筆者らは緑内障手術の既往の有無とSLTによる眼圧下降効果に関して比較検討を行った.SLT施行前に緑内障手術の既往のない群は術後3カ月で,有意な眼圧下降があったが,緑内障手術の既往のある群は術前と術後3カ月の眼圧に変化を認めず,SLTの効果がなかった可能性がある.現在のところ,緑内障手術後の線維柱帯組織にSLTがどのような影響を及ぼすかは不明であり,今後組織学的検討が必要であると考えた.また,今回症例数が少ないので,今後症例数を増加し,術式別にも引き続きさらなる検討を要すると考える.また,緑内障の病型別に関する過去の報告4,10)では,ALT,SLTにおいてもPOAGとEXGの2病型には有効性に差を認めず,両群ともに有効であったとされている.しかし,色素緑内障にはSLT後に追加手術が必要となり7),SLTの限界を指摘されている.今回,筆者らの研究において,POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は眼圧下降があったものの有意な眼圧下降ではなく,POAG群と比較しSLTの効果に差を認める結果となった.EXG眼では,線維柱帯への色素沈着だけでなく,傍Schlemm管結合組織などの水晶体偽落屑の沈着による房水通過抵抗の高まりが眼圧上昇に影響を及ぼしており11),線維柱帯に対するSLTの効果が少なくEXG群がPOAG群に比べて,眼圧下降効果が弱かった可能性がある.合併症については,これまでの他施設でのSLTの報告ではそれぞれに基準が異なるものの,19.433%4)に一過性の眼圧上昇がみられている.しかしながら,今回の症例では4.1%にみられたのみであり,眼圧上昇がきわめて少なかった理由として,術前,術後処置に1%アプラクロニジン(アイオピジンR)点眼を行ったことが考えられた.SLTは,線維柱帯に対して侵襲が少ないので,降圧手段の一つとして積極的に試みてよい方法であり,点眼数の減少や手術に至るまでの期間の延長が期待される.しかし,緑内障手術の既往の有無,緑内障の病型によって眼圧下降効果が減弱する可能性があるため,施行前に患者背景因子について検討を重ねたうえで施行する必要があることが示唆された.SLTの効果についてはいまだ一定した見解が得られていないこともあり,今後症例数の増加および術後の経過観察期間を延長し,引き続き検討を行っていく予定である.2520151050眼圧(mmHg)術前3カ月術後経過日数:SLT施行前に緑内障手術の既往がない群:SLT施行前に緑内障手術の既往がある群*図2緑内障手術の既往の有無によるSLTの効果緑内障手術の既往がない群は有意な眼圧下降があったが,既往がある群は有意な眼圧下降がなかった.*p<0.01:Mann-Whitney’sUtest.図3緑内障の病型別によるSLTの効果POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は有意な眼圧下降がなかった.*p<0.01:Mann-Whitney’sUtest.2520151050眼圧(mmHg)術前3カ月術後経過日数:POAG:EXG*———————————————————————-Page41442あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(114)文献1)LatinaMA,ParkC:SelectivetargetingoftrabecularmeshworkcellsinvitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-372,19952)KramerTR,NoeckerRJ:Comparisonofthemorphologicchangesafterselectivelasertrabeculoplastyandargonlasertrabeculoplastyinhumaneyebankeyes.Ophthal-mology108:773-779,20013)DamjiKF,ShahKC,RockWJetal:Selectivelasertra-beculoplastyvargonlasertrabeculoplasty:aprospectiverandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol83:718-722,19994)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,19995)HodgeWG,DamjiKF,RockWetal:BaselineIOPpre-dictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultsfromarandomizedclinicaltraial.BrJOphthalmol89:1157-1160,20056)齋藤代志明,東出朋巳,杉山和久:原発開放隅角緑内障症例への選択的レーザー線維柱帯形成術の追加治療成績.日眼会誌111:953-958,20077)若林卓,東出朋巳,杉山和久:薬物療法,レーザー治療および線維柱帯切開術を要した色素緑内障の1例.日眼会誌111:95-101,20078)SongJ,LeePP,EpsteinDLetal:Highfailurerateassociatedwith180degreesselectivelasertrabeculo-plasty.JGlaucoma14:400-408,20059)WernerM,SmithMF,DoyleJW:Selectivelasertrabecu-loplastyinphakicandpseudophakiceyes.OphthalmicSurgLasersImaging38:182-188,200710)安達京,白土城照,蕪城俊克ほか:アルゴンレーザートラベクロプラスティの10年の成績.日眼会誌98:374-378,199411)Schlozer-SchrehardtUM,KocaMR,NaumannGOetal:Pseudoexfoliationsyndrome.OcularmanifestationofasystemicdisorderArchOphthalmol110:1752-1756,1992***

線維柱帯切除術におけるAdjustable Suturesとレーザー切糸術との比較

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(105)14330910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14331438,2008c〔別刷請求先〕小林博:〒802-8555北九州市小倉北区貴船町1-1小倉記念病院眼科Reprintrequests:HiroshiKobayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital,1-1Kifune-machi,Kitakyusyu802-8555,JAPAN線維柱帯切除術におけるAdjustableSuturesとレーザー切糸術との比較小林博*1小林かおり*2*1小倉記念病院眼科*2倉敷中央病院眼科ComparisonofIntraocularPressure-loweringEfectofAdjustableSuturesandLaserSutureLysisinTrabeculectomyHiroshiKobayashi1)andKaoriKobayashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KurashikiCentralHospital目的:強膜縫合に対してadjustablesuturesおよび従来のレーザー切糸術を用いた線維柱帯切除術の降圧効果を比較検討した.方法:対象は線維柱帯切除術を施行し,6カ月以上経過観察を行った40名である.20名に対してはadjustablesuturesを用い,20名に対してはレーザー切糸術を使用した.Adjustablesuturesは,Khawらが報告した方法を用い,強膜弁の両隅を10-0ナイロン糸で3-1-1で縫合した後,3辺を1本ずつのナイロン糸で4-0-0で仮縫合した.術後,仮縫合を結膜上から鑷子で緩めて眼圧を調節した.レーザー切糸群は強膜弁を7本のナイロン糸で縫合し,術後眼圧はレーザー切糸で調整した.結果:ベースライン眼圧は,adjustablesuture群が28.1±2.9mmHg,レーザー切糸群が27.6±3.0mmHgであり,両群間に有意差はなかった.手術1カ月後,3カ月後および6カ月後の眼圧はadjustablesuture群が11.2±2.0mmHg,11.8±2.0mmHg,11.9±2.4mmHg,レーザー切糸群が10.5±2.0mmHg,11.7±2.9mmHg,13.0±3.3mmHgであり,術後のいずれの時期においても,両群とも術前に比較して有意に下降していた(すべての時期においてp<0.0001).手術1カ月後,3カ月後および6カ月後の眼圧の変化は,adjustablesuture群が16.9±3.3mmHg(59.9±7.9%),16.3±3.2mmHg(57.7±7.7%),16.2±3.8mmHg(57.1±9.6%),レーザー切糸群が17.1±5.5mmHg(61.4±9.0%),16.0±4.3mmHg(57.3±11.5%),14.7±4.5mmHg(52.6±12.8%)であり,術後のいずれの時期においても,adjustablesuture群は眼圧下降が大きかったが両群間に有意差はなかった.Adjustablesuture群では仮縫合を緩める操作あるいはレーザー切糸術後に浅前房をきたした症例はなかったが,レーザー切糸術群では4名がみられた.結語:眼圧下降作用は,adjustablesuture群はレーザー切糸術群と同等であった.Adjustablesuturesは,仮縫合を緩める操作あるいはレーザー切糸術後に低眼圧および浅前房をきたすことが減少させる可能性があると考えられた.Tocomparetheintraocularpressure-loweringeectandsafetyofadjustablesuturesandlasersuturelysisintrabeculectomy,weconductedaprospectiveclinicalstudycomprising40patientswithopen-angleglaucomahav-ingintraocularpressuregreaterthanorequalto22mmHg.Ofthesepatients,20underwenttrabeculectomyusingadjustablesuturesand20underwenttrabeculectomyusingconventionalsuturesandlasersuturelysis.AdjustablesutureswereimplementedasreportedbyKhawetal.Meanbaselineintraocularpressurewas28.1±2.9mmHgintheadjustablesuturegroupand27.6±3.0mmHginthelasersuturelysisgroup.Meanpostoperativeintraocularpressurewas11.2±2.0mmHg,11.8±2.0mmHgand11.9±2.4mmHgintheadjustablesuturegroupand10.5±2.0mmHg,11.7±2.9mmHgand13.0±3.3mmHginthelasersuturelysisgroupat1,3and6months,respective-ly;therewasnosignicantdierencebetweenthetwogroupsatanyvisit.Shallowanteriorchamberwasfoundinnopatientintheadjustablesuturegroupandin4patientsinthelasersuturelysisgroupafterlooseningoftheadjustablesuturesorlasersuturelysis.Therewasnosignicantdierenceinhypotensiveeectbetweentheadjustablesuturegroupandthelasersuturelysisgroup.Theuseofadjustablesuturesmayreducetheincidence———————————————————————-Page21434あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(106)はじめに薬物治療で制御できない緑内障に対しては,一般的に線維柱帯切除術が行われている.しかし,線維柱帯切除術の合併症としては,術後早期での低眼圧,浅前房,脈絡膜離,前房出血,術後晩期での白内障の進行および濾過胞に由来する眼内炎が知られており,その頻度は決して低くない14).術後早期の合併症の多くは過剰な濾過に起因しているために,術中,強膜弁をしっかりと縫合し,術後に眼圧を調節するためにレーザーで切糸することが行われる5)が,Khawらが線維柱帯切除術において術中に仮縫合しておいた10-0ナイロン糸を,術後に鑷子などで緩められるadjustablesutures法を報告しており6),筆者らも良好な成績を報告している7).今回,線維柱帯切除術において,adjustablesutures法と従来の縫合してレーザー切糸で眼圧を調節する方法を比較検討した.I対象および方法対象は,薬物治療にかかわらず眼圧が22mmHg以上の開放隅角緑内障40名40眼である.全例とも緑内障手術を含めた内眼手術の既往がない症例である.閉塞隅角緑内障,外傷性緑内障,ぶどう膜炎による緑内障,血管新生緑内障および高血圧,糖尿病などの全身性合併症は除外した.6カ月間において,眼圧の変化について観察した.対象患者に対してすべて,Humphrey視野検査,隅角鏡検査,共焦点レーザートモグラフを含む眼科的検査を施行した.患者を登録後,封筒法によって無作為に2群に分け,1群は強膜縫合にadjustablesuturesを用い(adjustablesuture群),もう1群は従来の縫合を使用した(レーザー切糸群).経過観察開始後の眼圧はベースライン眼圧測定時±1時間に測定した.ベースライン眼圧は,経過観察前2週間ごとに3回眼圧を測定し,その平均値とした.眼圧はGoldmann圧平眼圧計で3回測定し,その平均値を統計処理には用いた.安全性は,術中および術後の合併症の頻度によって評価した.低眼圧は,術後に眼圧が4mmHg以下に下降した場合と定義した.浅前房はTeehasaeneeとRitchの報告に拠ったが,術後,仮縫合を緩めた場合あるいはレーザー切糸の場合,処置後の前房深度が処置前に比較して30%以上減少した場合は処置後前房深度減少とした.前房出血は,術後に前房の下方に細隙灯顕微鏡で出血が確認できた場合とした.高眼圧は,術翌日の眼圧が術前に比較して3mmHg以上上昇した場合とした.1.手術手技(図1)12時部位の球結膜をできるだけ輪部に沿って8mm切開して,円蓋部基底の結膜弁を作製した.外方強膜弁を作製する部位を露出し,マイトマイシンC0.04%を強膜に塗布した後,250mlBSS(平衡食塩液)を用いて洗浄した.輪部を基底として,大きさが4×4mm,厚さは強膜全層の1/3の方形の外方強膜弁を作製した.その内側に,大きさが3×1.5mmで,強膜床が50100μmになるように内方弁を作製した.さらに,Schlemm管外壁を開放し,角膜側に離した後に幅2mmのDescemet膜を露出した.内方弁を切除した後に,離したDescemet膜の中央に0.5×0.5mmの切開を加えた.その後,虹彩切除を施行した.強膜外方弁は以下のように縫合した.1)Adjustablesuture群:外方弁の両隅を10-0ナイロン糸を用いて3-1-1で縫合した.外強膜弁の3辺の中央を10-0ナイロン糸を4回の仮縫合でしっかりと縫合した.2)レーザー切糸群:外方弁を57本の10-0ナイロン糸を縫合に用いて3-1-1で縫合した.その後,両群とも結膜を10-0ナイロン糸35糸で,結膜の両切断端をピーンと張るように伸ばして角膜縁に縫合するwingstretch法を用いて縫合した.2.術後管理手術後,すべての緑内障薬を中止し,デキサメタゾン0.1%およびレボフロキサシン0.1%を3回/日,1カ月間点眼させた.術後眼圧下降あるいは濾過胞形成が不十分な場合,以下のように調整した(図2).1)Adujustablesuture群:仮縫合を無鉤鑷子あるいは綿棒を用いて結膜上から緩めた.それで十分に眼圧が下降しない場合,両隅の10-0ナイロン糸をレーザーで切断した.2)レーザー切糸群:レーザーを用いて10-0ナイロン糸を切断した.中止例は,(1)連続して2回の検査で,眼圧が21mmHg以上であった場合,(2)予定された診察を受けなかった場合とした.脱落・中止症例では,脱落・中止直前の診察時の眼圧を最終診察時の眼圧とした.3.統計解析標本の大きさは,標準偏差3mmHg,危険率5%として,少なくとも3mmHgの眼圧の差異を90%の検出力で検出でofshallowanteriorchamberandhypotonyafterlooseningofadjustablesuturesorlasersuturelysis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14331438,2008〕Keywords:線維柱帯切除術,adjustablesuture,レーザー切糸.trabeculectomy,adjustablesuture,lasersuturelysis.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081435(107)きる症例数とした.連続変数の比較には,両側Studentt-検定を用いた.分割表での比較には,c2検定,Fisher検定を用いた.生命表での生死判定に関しては,2回連続して21mmHg以上であるときは「死亡」とした.II結果表1に,患者の背景をまとめた.平均年齢は,adjustablesuture群が69.9±9.0歳,レーザー切糸群が69.7±7.9歳であり,年齢,性,視力,視野,視神経乳頭陥凹において両群BCDE強膜弁縫合虹彩切除Descemet膜に小孔Adjustablesuture群外方弁作製内方弁作製Descemet膜?離4mm4mm1.5mm2.5mm2mm円蓋部結膜切開マイトマイシンC3分間塗布BSSで洗浄結膜縫合Wingstretchレーザー切糸群AF図1手術術式A:12時部位の球結膜をできるだけ輪部に沿って8mm切開して,円蓋部基底の結膜弁を作製した.外方強膜弁を作製する部位を露出し,マイトマイシンC0.04%を強膜に塗布した後,250mlBSSを用いて洗浄した.輪部を基底として,大きさが4×4mm,厚さは強膜全層の1/3の方形の外方強膜弁を作製した.B:その内側に,大きさが3×1.5mmで,強膜床が50100μmになるように内方弁を作製した.C:さらに,Schlemm管外壁を開放し,角膜側に離した後に幅2mmのDescemet膜を露出した.D:内方弁を切除した後に,離したDescemet膜の中央に0.5×0.5mmの切開を加えた.E:その後,虹彩切除を施行した.F:強膜外方弁は以下のように縫合した.Adjustablesuture群では外方弁の両隅を10-0ナイロン糸を用いて3-1-1で縫合した.外強膜弁の3辺の中央を10-0ナイロン糸を4回の仮縫合でしっかりと縫合した.レーザー切糸群では外方弁を57本の10-0ナイロン糸を縫合に用いて3-1-1で縫合した.その後,両群とも結膜を10-0ナイロン糸35糸で,結膜の両切断端をピーンと張るように伸ばして角膜縁に縫合するwingstretch法を用いて縫合した.A.Adjustablesuture群B.レーザー切糸群鑷子レーザーレーザー図2術後処置A:術後眼圧下降あるいは濾過胞形成が不十分な場合,adujustablesuture群では仮縫合を無鉤鑷子あるいは綿棒を用いて結膜上から緩めた.それで十分に眼圧が下降しない場合,両隅の10-0ナイロン糸をレーザーで切断した.B:レーザー切糸群ではレーザーを用いて10-0ナイロン糸を切断した.———————————————————————-Page41436あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(108)間に有意差はなかった.1.眼圧の変化ベースライン眼圧は,adjustablesuture群が28.1±2.9mmHg,レーザー切糸群が27.6±3.0mmHgであり,両群間に有意差はなかった.手術1カ月後,3カ月後および6カ月後の眼圧はadjustablesuture群が11.2±2.0mmHg,11.8±2.0mmHg,11.9±2.4mmHg,レーザー切糸群が10.5±2.0mmHg,11.7±2.9mmHg,13.0±3.3mmHgであり,術後のいずれの時期においても,両群とも術前に比較して有意に下降していた(すべての時期においてp<0.0001)(図3).手術1カ月後,3カ月後および6カ月後の眼圧の変化は,adjustablesuture群が16.9±3.3mmHg(59.9±7.9%),16.3±3.2mmHg(57.7±7.7%),16.2±3.8mmHg(57.1±9.6%),レーザー切糸群が17.1±5.5mmHg(61.4±9.0%),16.0±4.3mmHg(57.3±11.5%),14.7±4.5mmHg(52.6±12.8%)であり,手術3カ月後のいずれの時期においても,adjustablesuture群がレーザー切糸群に比較して大きかったが両群間に有意差はなかった(図4).手術6カ月後において,無治療で眼圧が20mmHg以下である症例数は,adjustablesuture群が19名(95%),レーザー切糸群が19名(95%)であり,両群に差はなかった(図4,表2).無治療で眼圧が16mmHg以下である症例数は,図4生命表における無治療での20mmHg以下(A)および16mmHg以下(B)の生存確率生命表での生死判定に関しては,2回連続して21mmHg以上であるときは「死亡」とした.:Adjustablesuture群:Lasersuturelysis群期間(月)確率1.00.80.60.40.20.0012345期間(月)1.00.80.60.40.20.001234566A.眼圧20mmHgB.眼圧16mmHg表1患者の背景Adjustablesuture群レーザー切糸群患者数20名20名男性女性9(45%)11(55%)10(50%)10(50%)年齢69.9±9.0歳(4784歳)69.7±7.9歳(5382歳)視力0.889(0.31.0)0.827(0.81.0)LogMAR視力0.051±0.1320.082±0.222Humphrey視野測定(Meandeviation)15.67±6.46dB(5.6726.33dB)15.95±5.57dB(4.8827.48dB)陥凹面積/乳頭面積比0.613±0.178(0.348to0.842)0.621±0.185(0.358to0.882)眼圧28.1±2.9mmHg(2332mmHg)27.6±3.0mmHg(2334mmHg)図3眼圧の変化A:眼圧の推移,B:眼圧変化値の推移,C:眼圧変化率の推移B眼圧変化値(mmHg)0-5-10-15-20-25期間(月)0123456C眼圧変化率(%)100-10-20-30-40-50-60-70-80期間(月)0123456A眼圧(mmHg)3530252015105期間(月)0123456:Adjustablesuture群:Lasersuturelysis群———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081437(109)adjustablesuture群が19名(90%),レーザー切糸群が17名(85%)であり,adjustablesuture群が良好であったが有意差はなかった(図4).2.術後処置および合併症術後処置としては,adjustablesuture群の11名(55%)は仮縫合を緩めたが,それで不十分であったので4名(20%)は両隅のナイロン糸をレーザーで切断した.レーザー切糸群は13名(65%)がレーザーで10-0ナイロン糸を切断した(表3).その後,レーザー切糸群では前房深度が有意に減少したのに対して,adjustablesuture群では認められなかった(p=0.0350).各群とも,1名(5%)にニードリング濾過胞形成術を施行した(表3).術中合併症は,両群ともみられなかった.術後合併症として,低眼圧および浅前房がadjustablesuture群で1名(5%),レーザー切糸群で2名(10%)に認められたが,いずれの合併症でも両群間に有意差はなかった(表4).III考按強膜弁の縫合にadjustablesutureを用いた線維柱帯切除術は,従来のレーザー切糸を使用した線維柱帯切除術とほぼ同様な眼圧下降効果が得られた.低眼圧および浅前房の発症頻度が5%であり,過剰な濾過による合併症が従来のレーザー切糸を用いた線維柱帯切除術と有意差はなかった.従来,術後早期の眼圧調整には,レーザー切糸術や鑷子などで糸を抜くreleasablesuturesで行われてきた5,8).その問題点として,糸を切ったり抜いたりするとその糸が弁を抑えられなくなり,その処置直後に浅前房あるいは低眼圧をきたす危険性があった.それに対して,adjustablesuturesでは糸を緩めることで糸が弁を抑える加減を調整でき,浅前房を起こしにくいことが特徴である.今回の研究では,adjust-ablesuturesを緩めた場合あるいはレーザー切糸後に30%以上前房深度減少が,adjustablesutureを用いた症例ではみられなかったのに対して,レーザー切糸群では4名に認められた.また,レーザー切糸術では,切糸の本数で眼圧を調整するために7本かけていたのに,糸が弁を抑える力を調整できるためにかける糸の本数を減少させることができるようになった.レーザー切糸術では,低熱量のレーザーとはいえ,結膜,Tenon,強膜に熱傷が起こり,炎症が起こることは否めない.それによって,‘ringofsteel’などの結膜瘢痕化が生じる可能性があると考えられ,adjustablesutureではレーザーによる熱作用を減らすことができると思われた.元来,Khawの報告では10-0ナイロン糸を緩める際には,特殊な鑷子が用いられていた5)が,基本的はに無鉤鑷子であればよく,綿棒でも代用できた.眼球マッサージでも糸を緩めることができるので,マッサージしながら糸を緩めて眼圧を調整することも可能であった.術中手技も簡単であり,今後,レーザー切糸術の代用になるものと考えられた.本研究の第一の問題点は,単盲検試験であるために,バイアスの可能性が高く信頼性が低いことである.第二の問題点は,症例数が少ないことである.そのため,手術3カ月以降のいずれの時期でも,adjustablesutureを用いた線維柱帯切除術群は,レーザー切糸群に比較して眼圧下降は大きかっ表2術前および6カ月後の眼圧,薬剤数の変化と成功率Adjustablesuture群レーザー切糸群p値患者数20名20名─術前眼圧28.1±2.9(2334)27.6±3.0(2334)─薬剤数3.3±0.6(24)3.2±0.7(24)─6カ月後眼圧12.6±2.7(818)12.6±4.3(824)─薬剤数0.05±0.22(01)0.15±0.67(03)─無投薬で≦20mmHg19(95%)19(95%)─投薬(+/)で≦20mmHg20(100%)19(95%)─無投薬で≦16mmHg19(95%)17(85%)─表4合併症の頻度Adjustablesuture群(20名)レーザー切糸群(20名)p値低眼圧1(5%)2(10%)─浅前房1(5%)2(10%)─脈絡膜離1(5%)1(5%)─高眼圧2(10%)2(10%)─前房出血0(0%)1(5%)─虹彩前癒着0(0%)0(0%)─虹彩後癒着0(0%)0(0%)─濾過胞の平坦化0(0%)1(5%)─白内障0(0%)0(0%)─濾過胞炎/眼内炎0(0%)0(0%)─表3術後処置Adjustablesuture群レーザー切糸群眼数20眼20眼Adjustablesutureを緩める11(55%)─レーザー切糸4(20%)12(60%)Adjustablesuture調整あるいはレーザー切糸後の前房深度減少0(0%)4(20%)ニードリング1(5%)1(5%)5-フルオロウラシル注射0(0%)0(0%)———————————————————————-Page61438あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(110)たが,有意差がなかった.さらに症例数を増加して検定力を上げる必要があると思われた.また,安全性に関しても,合併症の頻度の比較が困難であり,稀有な合併症の検出もむずかしいと思われた.今回,adjustablesutureを用いた線維柱帯切除術の降圧作用は,従来報告されているレーザー切糸術を使用した線維柱帯切除術の成績に比較して同様であり,合併症に関しては術後眼圧を下降させる処置後の前房深度の安定性が良好であった.さらに症例数を増加させて検討する必要があると考えられた.文献1)LehmannOJ,BunceC,MathesonMMetal:Riskfactorsfordevelopmentofpost-trabeculectomyendophthalmitis.BrJOphthalmol84:1349-1353,20002)PoulsenEJ,AllinghamRR:Characteristicsandriskfac-torsofinfectionsafterglaucomalteringsurgery.JGlau-coma9:438-443,20003)DeBryPW,PerkinsTW,HeatleyGetal:Incidenceoflate-onsetbleb-relatedcomplicationsfollowingtrabeculec-tomywithmitomycin.ArchOphthalmol120:297-300,20024)RothmanRF,Liebmann,RitchR:Low-dose5-uoroura-ciltrabeculectomyasinitialsurgeryinuncomplicatedglaucoma:long-termfollow-up.Ophthalmology107:1184-1190,20005)SavegeJA,CondonGP,LytleRAetal:Lasersuturelysisaftertrabeculectomy.Ophthalmology95:1631-1638,19886)KhawPT:Improvementintrabeculectomyandtech-niquesofantimetabolitesusetopreventscarring.Pro-ceedingof3rdInternationalCongressonGlaucomaSur-gery,Toronto,Canada,20067)小林博,小林かおり:AdjustableSuturesの線維柱帯切除術への応用.あたらしい眼科25:1301-1305,20088)StarkWJ,GoyalRK:Combinedphacoemulsication,intra-ocularlensimplantation,andtrabeculectomywithreleasablesutures.ProceedingofCurrentConceptinOph-thalmology,Baltimore,USA,2000***

ニプラジロール点眼の眼圧日内変動に与える薬剤効果 ─正常眼圧緑内障における検討─

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page11426あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(00)1426(98)0910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14261432,2008c〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島4-2-78大阪厚生年金病院眼科Reprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,PhD.,DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,4-2-78Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPANニプラジロール点眼の眼圧日内変動に与える薬剤効果─正常眼圧緑内障における検討─桑山泰明*1狩野廉*1中田敦子*1鈴木三保子*1菅波秀規*2,3浜田知久馬*3吉村功*3*1大阪厚生年金病院眼科*2興和株式会社臨床解析部*3東京理科大学大学院工学研究科EfectofNipradilolonCircadianVariationofIntraocularPressureinNormal-TensionGlaucomaYasuakiKuwayama1),KiyoshiKano1),AtsukoNakata1),MihokoSuzuki1),HidekiSuganami2,3),ChikumaHamada3)andIsaoYoshimura3)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,2)BiostatisticsandDataManagementDepartment,KowaCompanyLimited,3)GraduateSchoolofEngineering,TokyoUniversityofScience目的:正常眼圧緑内障(NTG)患者の眼圧日内変動に対するニプラジロール点眼の効果を検討した.対象および方法:NTG28例の眼圧日内変動を3時間ごとに自己測定空気眼圧計で測定した.ニプラジロール点眼の治療前,治療開始後1日目および3カ月目について,各時刻の眼圧の比較,交互作用項を含む線形モデルを用いた日内変動パターンの変化の検討を行った.さらに,コサインカーブに薬剤効果を表すパラメータを加えた周期線形混合効果モデルにより,本剤の効果を解析した.結果:治療開始後1日の21,3,9,12時と3カ月の21,0,9,12時で有意な眼圧下降が認められた(p<0.05).日内変動のパターンは治療前後で変化していた(交互作用:p<0.001)が,1日と3カ月では変化がなかった(交互作用:p=0.317,時期効果:p=0.965).日内変動は周期線形混合効果モデルによってよく説明でき,薬剤効果を表すパラメータは昼間と夜間で差がなかった(切片:p=0.71,傾き:p=1.00).結論:ニプラジロール点眼の効果は,3カ月継続使用でも減弱せず,昼夜で差がないことが示された.Theeectofnipradiloloncircadianvariationofintraocularpressure(IOP)wasexaminedin28patientswithnormal-tensionglaucoma(NTG).IOPwasmeasuredevery3hours,usingaself-measuringpneumatictonometer,before,1dayafterand3daysaftertreatmentwithnipradilol.Changesinthepatternofcircadianvariationwereexaminedusingalinearmodelthatincludedinteractionterms.Theeectofthedrugwasalsoanalyzedusingacircularlinearmixed-eectmodel,towhichwasaddedaparametershowingthedrugeectinacosinecurve.IOPreducedsignicantlyat21:00,03:00,09:00and12:00after1day,andat21:00,0:00,09:00and12:00after3monthsoftreatment(p<0.05).Thepatternofcircadianvariationchangedaftertreatment(interaction:p<0.001),butnochangewasobservedbetweentherstdayandafter3monthsoftreatment(interaction:p=0.317,periodeect:p=0.965).Circadianvariationwaswellexplainablebythecircularlinearmixed-eectmodel,andtheparametershowingdrugecacydidnotdierbetweendaytimeandnighttime(intercept:p=0.71,slope:p=1.00).Theeectofnipradilolwasnotreducedevenafter3monthsofcontinuoususe,andtheeectdidnotdierbetweendayandnight.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14261432,2008〕Keywords:ニプラジロール,正常眼圧緑内障,眼圧,日内変動,自己測定眼圧計.nipradilol,normal-tensionglaucoma,intraocularpressure,circadianvariation,self-measuringtonometer.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081427(99)はじめに緑内障はさまざまな要因により視神経障害をきたし,その結果として視野障害をひき起こす疾患であるが,正常眼圧緑内障(NTG)を含め緑内障性視神経症の最大の危険因子は眼圧とされている1).眼圧は常に一定の値を示すわけではなく,日内変動,季節変動などさまざまな周期で変動することが知られている24).診療時眼圧が目標値に調整されていると判断されても,診療時間外に眼圧が上昇している可能性があるため,NTG患者における眼圧日内変動の測定は,緑内障の病態把握,治療方針の決定,治療効果の判定を行ううえで重要な情報を提供する.筆者らは,NTG患者に持ち運び可能な自己測定空気眼圧計を貸し出し,自宅で眼圧日内変動を測定し,診療に活用してきた.しかし,眼圧日内変動は,個体,時点,周期性など多数の因子を含んだ複雑な構造を擁しており,薬物治療の効果を評価するうえでその解析方法は定まっていない.今回,a1,b遮断薬であるニプラジロール点眼液(ハイパジールコーワR点眼液)を使用したNTG患者の眼圧日内変動に対して統計モデルを当てはめた解析を行うことにより,ニプラジロールの薬剤効果の特徴を明らかにすることができたので報告する.I対象および方法1.対象本調査は,ハイパジールコーワR点眼液の眼圧日内変動に関する特別調査として「医薬品の市販後調査の基準に関する省令(GPMSP)」および「医療用医薬品の使用成績調査等の実施方法に関するガイドライン」に則り実施した.2000年8月1日から2003年7月31日までに大阪厚生年金病院眼科を受診したNTG患者のうち,緑内障手術の既往がなく,無治療時の眼圧日内変動を把握する必要があり,ニプラジロール点眼単独による治療を開始した患者28名を本研究の対象として登録した.なお,NTGの診断基準は,初診時およびそれ以降の複数回の外来診察時の眼圧がGoldmann圧平式眼圧計による測定で常に21mmHg以下であること,正常開放隅角であること,緑内障性視神経乳頭変化(網膜神経線維層欠損を含む)とそれに対応する緑内障性視野変化を有すること,視神経乳頭の緑内障性変化をきたしうる他疾患の既往もしくは存在がないこととした.対象の内訳は,男性12例,女性16例で,年齢は51.7±9.4歳(平均値±標準偏差)であった.2.眼圧日内変動の測定眼圧日内変動の測定には,自己測定空気眼圧計(Home-tonometer)5)を用いた.Hometonometerの測定値と,Gold-mann圧平眼圧計,通常の非接触式空気眼圧計の測定値の相関については,以前に85例85眼を対象に検討している.同一症例に対し,眼圧計ごとに異なる検者が,他の眼圧計の測定結果をマスクした状態で眼圧測定したところ,Home-tonometerとGoldmann圧平眼圧計の相関係数はr=0.86,Hometonometerと非接触式空気眼圧計の相関係数はr=0.84と,互いに高い相関があることを確認された(未発表データ).Hometonometerの使用方法を説明したうえで患者に貸し出し,自宅で患者自身が眼圧日内変動を測定した.ニプラジロール点眼の処方開始日にHometonometerを貸し出し,点眼開始前24時間の無治療時(0日)と点眼後24時間(1日)の眼圧日内変動を測定した.また,点眼後3カ月(3カ月)にもHometonometerを貸し出し,眼圧日内変動を測定した.眼圧は21時から3時間ごとに計8点/日(21,0,3,6,9,12,15,18時)を24時間1日とし,それぞれの時刻に両眼を5回ずつ測定するように指導した.ニプラジロール点眼は,用法・用量に従い,1回1滴,1日2回,朝は78時の間に,夜は1920時の間に両眼に点眼するよう指導した.3.眼圧日内変動の解析各時刻の,5つの測定値のうち,最大値と最小値を除いた3つの測定値の平均を各眼で算出し,左右眼の平均値をその時刻の眼圧とした69).まず,0日,1日および3カ月における各時刻(21,0,3,6,9,12,15,18時)の眼圧値について,繰り返しの1標本t-検定を用いて,0日と1日,0日と3カ月および1日と3カ月との間で比較した.つぎに,時期(測定日)を固定効果,患者を変量効果とした線形混合効果モデル10)を用い,一日の最高眼圧を0日,1日および3カ月の間で比較した.また,時刻と時期を主効果とし,時刻×時期の交互作用項を含む線形モデルの当てはめ11)により,点眼後に眼圧日内変動のパターンが変化しているかどうかを検討した.眼圧(mmHg)時間b0b1b2図1コサインカーブモデルIOP=(b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))IOP:モデルより推定された眼圧値,b0:位置(平均眼圧),b1:振幅(日内変動幅),b2:位相(最高眼圧時刻),t:時刻.全症例の眼圧日内変動データに一つのコサインカーブを当てはめ,個体差は変量効果を示すパラメータ(b0,b1,b2)を導入することで表現した.———————————————————————-Page31428あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(100)さらに,眼圧日内変動に及ぼす薬剤効果の解析を統計モデルによって試みた.線形モデルの当てはめによる検討から1日と3カ月の眼圧日内変動は変わっていないとみなすことができたため,周期性を利用した解析においては,1日と3カ月の眼圧は投与後の測定としてまとめて取り扱った.無治療時(0日)の眼圧日内変動には,個体差を変量効果としてコサインカーブを当てはめ(図1),得られたパラメータ(位置,振幅,位相)から一日の平均眼圧,眼圧変動幅,最高眼圧時刻を推定した.点眼後(1日,3カ月)の眼圧日内変動には,コサインカーブに,点眼後の眼圧下降作用を線形モデルとして追加した周期線形混合効果モデルを当てはめ(図2),得られたパラメータから眼圧下降作用を推定した.ここで用いた周期線形混合効果モデルとは,非線形混合効果モデル12)の一種であり,眼圧の周期的な変動に個体差があることを認めたうえで,眼圧日内変動の大きさと点眼による眼圧の下降の程度とを分離して推定ができる方法である.なお,有意水準は両側5%未満とした.本研究で使用した統計解析手法の詳細と統計学的な解説は別報を参照されたい13).II結果登録した28例のうち,4例はニプラジロール点眼を中止したなどの理由により,3カ月時の測定値が欠測となった.副作用としては,眼瞼炎が1例に,点状表層角膜症が2例に認められた.無治療時(0日),点眼後1日および3カ月における3時間ごとの各時刻における眼圧の推移を図3に,各時刻での眼圧表1各時刻での眼圧の変化測定時刻1日0日p値*3カ月0日p値*3カ月1日p値*21時1.64±1.23mmHg<0.0011.37±1.60mmHg0.0010.36±1.57mmHg0.2990時0.43±1.61mmHg0.1820.76±1.38mmHg0.0130.12±1.12mmHg0.6023時0.75±1.56mmHg0.0300.31±2.02mmHg0.4660.29±1.55mmHg0.4106時0.20±1.05mmHg0.3240.04±1.76mmHg0.9090.30±1.39mmHg0.3049時1.55±1.24mmHg<0.0011.56±1.90mmHg<0.0010.05±1.41mmHg0.88112時1.00±1.37mmHg0.0011.28±1.67mmHg0.0010.28±1.45mmHg0.37615時0.16±1.22mmHg0.4990.44±1.68mmHg0.2350.23±1.76mmHg0.55618時0.26±1.65mmHg0.4260.54±1.97mmHg0.1910.59±1.55mmHg0.088*:1標本t-検定.眼圧(mmHg)時刻(時)216+918b3b4b5b6図2周期線形混合効果モデル21=<t=<6のとき,IOP= (b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))+b3+b4・│t21│9=<t=<18のとき,IOP= (b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))+b5+b6・│t9│b0b2,b0b2,tの説明は図1参照のこと.b3:夜点眼切片(夜点眼直後の眼圧変化量).b4:夜点眼傾き(夜点眼後に眼圧下降が経時的に変化する割合).b5:朝点眼切片(朝点眼直後の眼圧変化量).b6:朝点眼傾き(朝点眼後に眼圧下降が経時的に変化する割合).もともと存在する生理的な日内変動を表すコサインカーブに,ニプラジロール点眼の薬剤効果として,点眼直後が最大となりその後経時的に一定の割合で眼圧下降作用が変化する線形モデルを加えた.1日2回の点眼時刻から,9時から18時までを昼間,21時から翌朝6時までを夜間とし,薬剤効果を示す定数(b3,b4,b5,b6)は昼間と夜間に分割した.薬剤効果の項をいずれも0とすると,無治療時(0日)の眼圧に当てはめたコサインカーブモデルとなる.眼圧(mmHg)211615141312点眼0#3691215:0日:1日:3カ月18時刻(時)点眼#*#*#**図3ニプラジロール点眼前後における眼圧の変化平均値(mmHg).0日n=28,1日n=27,3カ月n=24点眼時刻を矢印で示す.各時刻の眼圧を1標本t-検定にて比較した.*:1日目の眼圧が0日と比較し有意に低下(p<0.05).#:3カ月の眼圧が0日と比較し有意に低下(p<0.05).1日目と3カ月の比較では差はなかった.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081429(101)の変化量を表1に示す.点眼後1日では0日と比較して,21,3,9,12時に眼圧の有意な低下がみられ,点眼後3カ月でも0日と比較して,21,0,9,12時において眼圧の有意な低下が認められた(p<0.05,1標本t-検定).一方,点眼後1日と3カ月との比較では,いずれの時刻においても有意な差は認められなかった.線形混合効果モデルから推定された1日の最高眼圧は,0日,1日および3カ月で,それぞれ16.5mmHg,15.5mmHgおよび15.7mmHgとなり,1日と3カ月の最高眼圧は0日と比較して有意に低下していた(0日対1日:p=0.001,0日対3カ月:p=0.016).1日対3カ月では,最高眼圧に有意な差は認められなかった(p=0.685).交互作用項を含む線形モデルの当てはめでは,0日対1日および0日対3カ月の比較においていずれも交互作用が有意となり(p<0.001),ニプラジロール点眼後は眼圧日内変動の形状が変化していることが統計学的に示された.一方,1日対3カ月の比較では,交互作用は有意とならず(p=0.317),時期効果も認められなかった(p=0.965).無治療時(0日)の眼圧にコサインカーブを当てはめた結果を図4に示す.推定されたコサインカーブのパラメータは,位置(b0)が14.70mmHg,振幅(b1)が0.60mmHg,位相(b2)は0.49(およそ12時を指す)であった.点眼後(1日,3カ月)の眼圧に周期線形混合効果モデルを当てはめた結果を図5に,モデルから得られたパラメータを表3統計モデル当てはめにより得られた薬剤効果に関するパラメータパラメータ夜点眼朝点眼朝と夜の差p値*切片**b3=1.30(0.19)mmHgb5=1.29(0.19)mmHg<0.01mmHg0.71傾き***b4=0.13(0.03)mmHg/時間b6=0.12(0.03)mmHg/時間0.01mmHg/時間1.00*:1標本t-検定.**:ニプラジロール点眼直後の眼圧下降量(mmHg).***:点眼後,経時的に眼圧下降が減弱する割合(mmHg/時間).各パラメータの説明は図2を参照.表中かっこ内の数値は標準誤差.表2統計モデル当てはめにより得られた生理的日内変動に関するパラメータパラメータ無治療時(0日)点眼後(1日,3カ月)前後差p値*位置:b014.70(0.29)mmHg14.69(0.28)mmHg──振幅:b10.60(0.10)mmHg0.57(0.11)mmHg0.040.71位相:b2**0.49(0.04)0.49(0.04)0.010.90*:1標本t-検定.**:21時を起点に表示.b2=0.49は午前11時46分に相当する.眼圧日内変動に,無治療時はコサインカーブモデルを,点眼後は周期線形混合効果モデルを当てはめた.各パラメータの説明は図1,2を参照.表中かっこ内の数値は標準誤差.眼圧(mmHg)1615141312:測定値:推定値210369121518時刻(時)図4無治療時の眼圧日内変動に対するコサインカーブモデルの当てはめコサインカーブモデルによって得られた眼圧値(推定値)は,実際の眼圧測定値の平均(測定値)によく一致した.(コサインカーブモデルの式)IOP(mmHg)=(14.70+b0)+(0.60+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))図5点眼後の眼圧日内変動に対する周期線形混合効果モデルの当てはめ周期線形混合効果モデルによって得られた眼圧値(推定値)は,実際の眼圧測定値の平均(測定値)によく一致した.(周期線形混合効果モデルの式)21=<t=<6のとき,IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))1.30+0.13・│t21│9=<t=<18のとき,IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))1.29+0.12・│t9│点眼時刻を矢印で示す.眼圧(mmHg)211615141312点眼0369121518時刻(時)点眼:測定値:推定値———————————————————————-Page51430あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(102)表2,3にそれぞれ示す.周期線形混合効果モデルから得られた推定値のカーブは,実際の測定値のカーブとよく一致しており,当てはまりは良好であった.モデルから得られたパラメータのうち,夜の点眼時における点眼直後の眼圧変化量(b3:1.30mmHg)と朝の点眼時における点眼直後の眼圧変化量(b5:1.29mmHg)に差は認められなかった(p=0.71).また,夜間点眼後(21翌朝6時)に眼圧下降が経時的に変化する割合(b4:0.13mmHg/hr)と昼間点眼後(918時)に眼圧下降が経時的に変化する割合(b6:0.12mmHg/hr)の間にも差は認められなかった(p=1.00).無治療時の眼圧日内変動から得られたコサインカーブと周期線形混合効果モデルのコサインカーブ成分では,振幅と位相に有意な差はみられなかった(振幅:p=0.71,位相:p=0.90).III考按眼圧日内変動は,緑内障の病態把握,治療方針の決定,治療効果の判定を行ううえで重要な情報を提供する.薬剤の日内変動に及ぼす影響については,これまで各時刻について点眼前後の眼圧値を1標本t-検定で比較するという手法が用いられてきた.今回のニプラジロール点眼についても,点眼後1日では0日と比較して21,3,9,12時に,点眼後3カ月では21,0,9,12時に眼圧が有意に低下していた(表1).しかし,薬剤効果を精密に評価するためには,個体,時刻,周期性など多数の因子を含んでいるため,各時刻の眼圧を薬剤点眼前後で比較するだけでは十分に評価できないことがある.たとえば,ニプラジロール点眼の使用前後の眼圧日内変動のプロット(図3)からは,「点眼直後(21,9時)と比較して,つぎの点眼直前(6,18時)の眼圧下降は小さくなっている」,「昼間のほうが夜間と比べて眼圧下降が大きい」などの解釈が直感的に得られる.また,1日と3カ月では眼圧日内変動は同じにみえる.点眼前後で各時刻の眼圧を1標本t-検定により比較した結果(表1)は,上述の解釈の幾つかをよく裏付けてはいるが,夜間と昼間の違いを説明できていない.また,1日と3カ月で検定結果が異なる時刻が存在したことを1日と3カ月の違いと捉えるか,ばらつきの結果と捉えるかで,薬剤の効果の維持性に対する解釈が異なることになる.1標本t-検定のみでは十分納得のいく解析法とはいえない.そこで,これらの問題に対し客観的な回答を与える解析手法を考案し,ニプラジロール点眼の効果を評価することを試みた.統計学的な詳細は別報に譲るが,その概要は以下のとおりである.一つ目は,「1日の最高眼圧」の解析である.1日の最高眼圧が低下したかどうかは,薬剤治療の効果を評価する単純で明確な指標と考えた.この検討では,各患者の「1日の最高眼圧」を0日,1日および3カ月で比較するため,時期を固定効果,患者を変量効果とした線形混合効果モデルを用いた.二つ目は,「眼圧日内変動の形状」の解析である.各測定時刻で得られた眼圧の測定値を直線で結ぶことで,眼圧日内変動の形状がイメージされる.この形状が薬剤効果により変化したか否かを検討することで,日内変動の変化の有無がわかる.この検討では,時点(測定時刻)と時期(0日,1日,3カ月)を主効果とし,時点×時期の交互作用項を有する線形モデルを用いた.線形モデルの交互作用が有意であるという場合には,時期効果が各時点で一定ではなく,日内変動の形状が変化したということになる.一方,交互作用が有意ではないが,時期効果が有意という場合には,日内変動の形状が保持された状態で,日内変動が上下に平行移動するように変化したということになる.また,交互作用も時期効果も有意でない場合には,各測定時期の間で眼圧日内変動が変化したとはいえないことを意味している.三つ目は,「眼圧日内変動への統計モデルの当てはめ」である.Horieらは無治療時の原発開放隅角緑内障患者の日内変動にコサインカーブモデルを当てはめた14).筆者らは,先の1標本t-検定の結果からニプラジロール点眼は,点眼直後の時刻では眼圧下降効果が最大で,点眼直前の時刻ではその効果が減弱していると推察した.薬剤効果が点眼後速やかに発現し,時間の経過とともに徐々に減少していくことが前後差の比較から読み取れたため,これを線形項としてコサインカーブモデルに追加した.この日内変動を表す部分と薬剤効果を表す部分を同時にもつ“周期線形混合効果モデル”を当てはめることにより,ニプラジロール点眼の効果を数値で表現できると考えたわけである.これら三つの手法を用いてニプラジロール点眼の効果を解析した結果から,つぎのような解釈が成り立つ.線形混合効果モデルによる「1日の最高眼圧」の比較からは,点眼後1日と3カ月のいずれにおいても有意に最高眼圧を低下させていること,点眼後1日と3カ月の間では最高眼圧に差はみられないことが示された.交互作用項を含む線形モデルの当てはめによる「眼圧日内変動の形状」の解析結果から,眼圧日内変動の形状はニプラジロール点眼を点眼することにより変化し,1日と3カ月の間では変化していないことが示された.これら二つの解析結果から,ニプラジロール点眼は一日のなかの最高眼圧を有意に低下させているものの,時刻によって眼圧下降量が異なり,また,その眼圧下降効果は3カ月後も維持されているといえる.緑内障治療薬のなかでも特にb遮断薬は,長期間使用を継続した際に眼圧下降効果が減弱する,いわゆる薬剤耐性がみられることがあり,臨床上の問題の一つとなっている15).a1遮断作用とb遮断作用を併せ持———————————————————————-Page6あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081431(103)つニプラジロール点眼では眼圧下降効果が3カ月後も維持されることが示されたのは,興味深い結果である.「眼圧日内変動への統計モデルの当てはめ」の結果では,無治療時の日内変動から推定されたコサインカーブは,Yamagamiらの報告16)と比較すると日内変動幅を表す振幅が小さめであったが,平均眼圧および最高眼圧を示す時刻はほぼ一致した.また,NTG患者における日内変動の挙動に関する既存の報告と比べても,平均的な眼圧日内変動とみなせるものであった(表2)5).周期線形混合効果モデルから推定されたパラメータのうち,生理的日内変動に該当するコサインカーブ成分は振幅,位相のいずれも,無治療時のものと変わらなかった(表2).すなわち,このモデルによって,点眼後の眼圧日内変動は生理的な眼圧日内変動とニプラジロール点眼の効果に分離されたといえる(図6).分離されたニプラジロール点眼の効果は,点眼直後に最大の眼圧下降を示し,その後は時間の経過に伴い一定の割合で減弱するという線形項で十分に説明された.このモデルは測定値から直感的に得られた解釈のうち,「点眼後一定の割合で薬効が減弱する」ということを支持している.一方,「昼間のほうが夜間と比べて眼圧下降が大きい」という直感的解釈に対しては,朝点眼と夜点眼の間で薬剤効果に該当する成分のパラメータに違いはみられないという否定的な結果となった(表3).代表的なb遮断薬の一つであるチモロール点眼は,昼間は有意に眼圧を下降させるが,夜間,特に明け方にかけて眼圧下降作用がみられない時刻が存在することが報告されている17,18).このように緑内障治療薬の眼圧下降効果に日内変動がみられる原因は,それぞれの薬剤の眼圧下降機序によると考えられている19).すなわち,b遮断薬の眼圧下降機序は房水産生の抑制によるものであり,房水産生の多い昼間は眼圧下降効果が大きく,房水産生の少ない夜間は眼圧下降効果が小さくなると考えられる.一方,a1遮断薬の眼圧下降機序は,ぶどう膜強膜流出路を介した房水流出の促進によるものと考えられている.ぶどう膜強膜流出路からの房水流出は眼圧非依存性であるので,ぶどう膜強膜流出を促進する薬剤は,一般的に眼圧が高いとされる昼間も,眼圧が低いとされる夜間も同じように眼圧を下降させると考えることができる.今回,ニプラジロール点眼では夜間にも昼間と同様の眼圧下降効果が認められたが,これはニプラジロール点眼が,b遮断作用に加えa1遮断作用を併せ持つことに起因していると推測される.今までの解析方法ではグラフから読み取れることを直接証明できなかったが,周期線形混合効果モデルを用いることで,眼圧日内変動および薬剤効果についてこれまで以上に詳細な解析結果を得ることができた.本検討により,ニプラジロール点眼は夜間も昼間と同様の眼圧下降作用を示し,その作用は3カ月の継続使用においても維持されていることが示された.このような薬剤効果の特性は,治療薬の選択や治療効果を確認するうえで有用な情報である.ニプラジロール以外の緑内障治療薬についても,今後これらの統計学的手法を用いることにより薬剤効果の特性がさらに明らかになれば,眼圧日内変動に合わせた薬剤選択に役立つと考える.文献1)桑山泰明:眼圧.正常眼圧緑内障(新家眞,谷原秀信編),p17-23,金原出版,20002)ZeimerRC:Circadianvariationsinintraocularpressure.TheGlaucomas(edbyRitchRetal),p429-445,Mosby,StLouis,19963)ShieldsMB:TextbookofGlaucoma4thed.p48-49,Wil-liams&Wilkins,Baltimore,19974)古賀貴久,谷原秀信:緑内障と眼圧の季節変動.臨眼55:1519-1522,20015)狩野廉,桑山泰明:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動.日眼会誌107:375-379,20036)石井玲子,山上淳吉,新家眞:低眼圧緑内障における眼圧日内変動測定の臨床的意義.臨眼44:1445-1448,19907)山上淳吉,新家眞,白土城照ほか:低眼圧緑内障の眼圧日内変動.日眼会誌95:495-499,19918)堀江武:眼圧日内変動に関する臨床的研究.日眼会誌79:232-249,19759)梶浦祐子,坂井護,溝上國義:低眼圧緑内障の眼圧日内変動.あたらしい眼科8:587-590,1991図6周期線形混合効果モデルの生理的日内変動および薬剤効果への分割周期線形混合効果モデル(推定値)を,もともとの生理的な眼圧日内変動(生理的日内変動)と,ニプラジロール点眼液による眼圧下降(薬剤効果,眼圧変化量として図に示す)に分割して示した.(生理的日内変動を表す項の式)IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))(薬剤効果を表す項の式)21=<t=<6のとき,IOP(mmHg)=1.30+0.13・│t21│9=<t=<18のとき,IOP(mmHg)=1.29+0.12・│t9│眼圧(mmHg)眼圧変化量(mmHg)210369121518161514131210-1-2時刻(時):生理的日内変動:薬剤効果:推定値———————————————————————-Page71432あたらしい眼科Vol.25,No.10,200810)松山裕,山口拓洋:医学統計のための線型混合モデル─SASによるアプローチ初版.p43-46,株式会社サイエンティスト社,200111)鷲尾泰俊:実験の計画と解析.p102-115,岩波書店,198812)GeertM,GeertV:ModelsforDiscreteLongitudinalData.p265-276,Springer,NewYork,200513)SuganamiH,KanoK,KuwayamaYetal:Comparisonofestimationmethodsforparametersinthecircularlinearmixedeectmodelincorpotatingdiurnalvariationforevaluatingglaucomatherapy.JapaneseJournalofBiomet-rics28:1-18,200714)HorieT,KitazawaY:Theclinicalsignicanceofdiurnalpressurevariationinprimaryopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol23:310-333,197915)WilliamPB:Shortterm“Escape”andlongterm“Drift”Thedissipationeectofthebetaadrenergicblockingagents.SurvOphthalmol28:235-240,198316)YamagamiJ,AraieM,AiharaMetal:Diurnalvariationinintraocularpressureofnormal-tensionglaucomaeyes.Ophthalmology100:643-650,199317)吉冨健志,春野功:低眼圧緑内障の眼圧日内変動に対するチモロールの効果.あたらしい眼科10:965-967,199318)McCannelCA,HeinrichSR,BrubakerRF:Acetazolamidebutnottimolollowersaqueoushumorowinsleepinghumans.GraefesArchClinExpOphthalmol230:518-520,199219)赤石貴浩,島崎敦,松木雄ほか:自動眼圧測定系を用いた家兎眼圧日内変動に対する各種眼圧下降剤の評価.日眼会誌107:513-518,2003(104)***

初発・再発翼状片の手術成績と翼状片再発の危険因子

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(93)14210910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14211425,2008cはじめに翼状片は結膜下組織の異常増殖による角膜への侵入を本態とする疾患である.再発時には瘢痕形成や結膜短縮による眼球運動障害が問題になり,再発をくり返す難治症例に遭遇することもある.したがって,手術の目的は角膜内侵入組織の切除だけでなく,結膜下増殖組織を十分に除去し再増殖を抑え,再発を防止することである.単純切除のみでは再発率が高いため,線維芽細胞増殖抑制の意味から術中マイトマイシンC(MMC)を使用する併用療法も考案された1).初発例は結膜欠損部を健常な結膜で被覆する有茎弁移植が一般的な術式となっている2).再発例は結膜下増殖組織が厚く広範囲であるため,羊膜移植を併用する術式が一般的に用いられるようになっている3).羊膜は瘢痕抑制と上皮修復促進作用が期待でき,瘢痕性角結膜疾患や翼状片に対する羊膜移植の有効性が報告されている4).またMMC術中塗布と羊膜移植の併用によりさらに安定して再発を抑えることが可能になると〔別刷請求先〕檜森紀子:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科視覚科学分野Reprintrequests:NorikoHimori,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1Seiryo-machi,Aoba-ku,Sendai,Miyagi980-8574,JAPAN初発・再発翼状片の手術成績と翼状片再発の危険因子檜森紀子中澤徹劉孟林横山悠横倉俊二久保田享西田幸二東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科視覚科学分野ClinicalOutcomeforPrimaryandRecurrentPterygiumandRiskFactorsforPrimaryPterygiumRecurrenceNorikoHimori,ToruNakazawa,MorinRyu,YuYokoyama,ShunjiYokokura,AkiraKubotaandKohjiNishidaDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine初発・再発翼状片の手術成績と翼状片再発の危険因子を検討した.対象は2006年5月2007年7月に当教室で施行した初発翼状片11例12眼(有茎弁移植10眼,羊膜移植2眼),平均年齢63歳(3779歳),術後平均観察期間12カ月(721カ月).再発翼状片16例16眼(すべて羊膜移植),平均年齢67歳(4474歳),術後平均観察期間12カ月(821カ月).初発翼状片12眼中3眼(25%)で再発し,再発翼状片は現在まで再発例を認めていない.そこで,初発翼状片12眼で再発危険因子として報告されている術中マイトマイシンC使用の有無,年齢,翼状片面積と侵入距離,結膜下線維組織増生について検討した.若年,線維組織増生の強い症例は再発率が高い傾向があり,翼状片面積が小さい場合有意に再発率が高いと認識された(p=0.023).再発する可能性の高い症例は術式を慎重に選択することが重要であると考える.Wereporttheclinicaloutcomeforprimaryandrecurrentpterygium,andriskfactorsforprimarypterygiumrecurrence.Of12eyeswithprimarypterygium,10eyesunderwentsuperiorconjunctivalautografttransplantationand2eyesunderwentamnioticmembranetransplantation(AMT).Themeanfollow-uptimewas12months(range:7to21months).Recurrencewasseenin3cases(recurrencerate:25%).In16eyeswithrecurrentpterygium,weperformedAMT.Theirmeanfollow-uptimewas12months(range:8to21months).Nopatientsshowedanysignsofrecurrence.Therecurrencerateforprimarypterygiumwashigherthanthatforrecurrentpterygium.Wethereforeevaluatedriskfactors(useofmitomycinCduringsurgery,age,pterygiumsizeandsub-conjunctivalbroustissue)in12casesofprimarypterygium.Therecurrenceratewashigherintheyoungeragegroup,smallerpterygiumsizeandmoresubconjunctivalbroustissue.Itisthereforeimportant,beforesurgery,toselectasuitableproceduresoastoreducepterygiumrecurrence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14211425,2008〕Keywords:初発翼状片,再発翼状片,有茎弁移植,羊膜移植,再発の危険因子.primarypterygium,recurrentpterygium,conjunctivalautograft,amnioticmembranetransplantation,riskfactorsforpterygiumrecurrence.———————————————————————-Page21422あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(94)報告されている5).このように手術方法は多岐にわたり,術式の選択は各術者あるいは各施設がそれぞれの経験や判断で行っているのが現状であり,どの術式が最良であるかの評価は定まっていない.2006年5月から2007年7月に当教室で施行した初発翼状片11例12眼(有茎弁移植10眼,羊膜移植2眼)と再発翼状片16例16眼(羊膜移植16眼)の手術成績を検討したところ,再発例と比べ初発例は再発率が高いという結果になった.再発をくり返さないために初回の手術が重要であるという観点から,術前に再発の可能性を考え,より適切な術式を選択することが重要である.したがって筆者らは初発・再発翼状片の手術成績とともに,初発翼状片12眼の再発の危険因子について検討したので報告する.I対象および方法当教室では基本的に初発翼状片に対し翼状片切除と有茎弁移植,再発翼状片に対して翼状片切除と羊膜移植を行っている.有茎弁移植の手術方法は山口らが考案した上方結膜有茎弁移植法2)を採用しており,以下に概略を記す.角膜輪部上にスプリング剪刀を挿入し,角膜実質を切除しないように注意しながら鈍的に翼状片組織を離する.Tenonの異常組織を切除し(綿抜き法),露出した強膜部上方より耳側に向かって結膜を切開し有茎弁を作り,下方に伸展させて縫合する.術翌日より0.1%ベタメタゾン,レボフロキサシン点眼を1日4回,オフロキサシン軟膏1日1回点入を開始する.羊膜移植の手術方法は結膜下異常組織を十分に切除するまで上記と同様である.内直筋に制御糸をかけ眼球運動を制御し,筋周囲の増殖組織を十分に切除する.0.04%MMCを染み込ませたマイクロスポンジをTenonと結膜間に5分間塗布し,ラクテック約300mlでよく洗浄する(筆者らは再発翼状片16例中5例でMMCを使用した).結膜欠損部に羊膜の上皮側を上にして羊膜と強膜を縫合する.羊膜は同意を得た提供者から帝王切開時に清潔操作で採取し,絨毛膜から離して生理食塩水でよく洗浄した後5×5cm大に切り,80℃で1枚ずつ冷凍保存したものを室温で解凍し使用する.角結膜上皮の創傷を治癒させるためソフトコンタクトレンズを装着し手術を終了する.術後は消炎のためベタメタゾン2mgを術後3日間点滴し,術後4日目からベタメタゾン1mgを2週間内服,2週目以降はプレドニゾロン5mgを2週間内服へ変更した.術翌日より0.1%ベタメタゾン,レボフロキサシン,ブロムフェナクナトリウム点眼を1日2回とベタメタゾン,オフロキサシン軟膏の眠前1回点入を開始した.有茎弁移植,羊膜移植ともに眼圧上昇などの副作用がない限り0.1%ベタメタゾン点眼を13カ月程度使用し,以後0.1%フルオロメトロンに切り替え,トラニラストを追加している.上記の方法に従って2006年5月から2007年7月に当教室で施行した初発翼状片11例12眼,再発翼状片16例16眼の手術成績についてretrospectiveに検討した.II結果初発翼状片11例12眼の詳細を表1に示す.平均年齢63歳(3779歳),男女比は5:7,術前矯正視力は0.8から1.0,術後平均観察期間は12カ月(721カ月)であった.術前に癒着が強いため生じたと考えられる眼球運動障害は2眼,瞼球癒着を1眼に認めた.再発翼状片16例16眼の詳細を表2に示す.平均年齢67歳(4474歳),男女比は10:6,過去の手術回数は2.2回,表1初発翼状片症例一覧症例年齢(歳)性別術式術前視力術後視力眼球運動障害瞼球癒着複視観察期間再発179女性切除+AMT0.20.321248女性切除+有茎弁移植0.91.216+372女性切除+有茎弁移植0.91.212+461男性切除+有茎弁移植+MMC0.61.511569女性切除+AMT+MMC+(PEA+IOL)0.70.7++11670女性切除+有茎弁移植1.0p1.0p11761男性切除+有茎弁移植+MMC0.61.511848女性切除+有茎弁移植+(PEA+IOL)0.7p1.2+10960女性切除+有茎弁移植0.90.8101037男性切除+有茎弁移植+MMC1.51.29+1175男性切除+有茎弁移植0.70.671251女性切除+有茎弁移植0.71.2p7AMT:羊膜移植術,MMC:マイトマイシンC,PEA:水晶体乳化吸引術,IOL:眼内レンズ.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081423(95)術後平均観察期間は12カ月(721カ月)であった.矯正視力は術前後で0.9と変化なく,術前に眼球運動障害は9眼,瞼球癒着は8眼,複視は3眼に認めた.手術成績を表3に示す.病的増殖組織が角膜輪部を超えて侵入したものを再発と定義した.初発翼状片10眼で有茎弁移植を行い,翼状片の面積が大きく有茎弁移植が不可能と考えた2眼で羊膜移植を施行したところ,12眼中3眼で再発を認めた(再発率25%).再発翼状片16眼で羊膜移植を行ったところ,観察期間中再発を認めなかった.術後の0.1%ベタメタゾン点眼による眼圧上昇を初発・再発ともに2眼で認めたが,0.1%フルオロメトロンへ変更することによって正常眼圧となった.また副腎皮質ステロイド剤点眼の副作用として易感染性があげられ,再発翼状片1眼で翼状片の再発は認めないものの,角膜真菌症を併発した.角膜擦過培養にてカンジダが検出され,抗真菌薬の点滴,点眼により軽快した.術中にMMCを初発4例,再発5例で使用したが強膜軟化症などの副作用は認めなかった.再発の危険因子を検討するために角膜輪部の透見性をGrade13(G1G3)に分類した.これはTanら6,7)が結膜下増殖が強い症例が再発率が高いことを報告した際に強膜血管の透見性を指標にしていることを参考にして輪部の透見性によって分類した.角膜輪部を追うことができればG1,まったく透見できない場合をG3とし,部分的に透見できない場合をG2とした.初発翼状片12眼における再発と4つの危険因子(①術中MMC使用の有無,②年齢,③結膜下線維組織増生,④翼状片の面積と侵入距離)との関連を検討した.①MMC術中塗布に関してMMCを使用した4眼中1眼で再発し(再発率25%),使用しなかった8眼中2眼で再発した(再発率25%).②翼状片患者の年齢を50歳未満2眼,5070歳5眼,70歳以上5眼と分類し,年齢と再発の関係を調べたところ,それぞれの再発率は100%,20%,0%となった.③Grade13(G1G3)各グレードにおける再発率を検討した.12眼をG1・3眼,G2・2眼,G3・7眼と分類したところ,G1・G2では再発例はなく,G3でのみ7眼中3眼に再発を認めた(再発率43%).④翼状片の角膜への侵入距離と面積(面積はZeiss社のAxioVision4.5LEを使用した)の関係を調べた.角膜への侵入距離は再発を認めた症例(3眼)で平均182pixel,再発を認めなかった症例(9眼)は平均197pixelで差を認めなかった(p=0.708).翼状片の面積は再発を認めた症例で平均11,210pixel,再発のなかった症例では平均23,109pixelで,再発群は非再発群の約半分の面積であり,その差は有意であった(p=0.023).表2再発翼状片症例一覧症例年齢(歳)性別術式既手術回数術前視力術後視力眼球運動障害瞼球癒着複視観察期間再発169男性切除+AMT31.01.0+++21264男性切除+AMT10.91.0++18371女性切除+AMT+MMC11.50.7p+++18444女性切除+AMT11.51.516573男性切除+AMT30.50.4++16664男性切除+AMT30.80.9++12755男性切除+AMT+MMC10.71.212869男性切除+AMT10.9p1.211973男性切除+AMT10.5p0.4+111065女性切除+AMT+LT70.90.1p++111171男性切除+AMT10.20.3+101274男性切除+AMT11.01.2++101372男性切除+AMT+MMC80.20.6++91463女性切除+AMT+MMC11.21.281574女性切除+AMT11.00.781667女性切除+AMT+MMC11.01.08AMT:羊膜移植,MMC:マイトマイシンC,LT:角膜輪部移植.表3手術成績初発再発合計術式Resection+AMT2眼16眼18眼Resection+有茎弁移植10眼0眼10眼術後成績再発(再発率)3/12眼(25%)0/16眼(0%)3/28眼(10.7%)眼圧上昇2眼2眼4眼合併症感染症0眼1眼(角膜真菌症)1眼強膜軟化症0眼0眼0眼———————————————————————-Page41424あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(96)III考按今回我々は15カ月間に施行した初発・再発翼状片の術後成績をレトロスペクティブに検討した.初発翼状片11例12眼の再発率は25%で半年以内に再発を認め,再発翼状片16例16眼の再発率は0%であった.初発翼状片,再発翼状片の術後観察期間はともに721カ月であり,有意差はないと考えた.報告されている他施設の翼状片手術成績をみると,羊膜移植は単純切除や有茎弁移植と比べ良好な成績で再発は010%台3,5)となっている.単純切除の再発率は61%6)と高率で,有茎弁移植は1.4%2),2%6)と好成績のものから39%8)と成績の差がある.施設間での違いを埋めるには情報量が乏しいため判断はむずかしいが,術者の結膜下線維組織の除去の程度といった手術手技の違いや術後の投薬の違いなどが再発率に影響すると考えられる.自験例での再発は術後3カ月から6カ月で認めるのがほとんどであった.Laurenceら9)は50%が術後120日以内に再発し,97%が術後1年以内に再発したと報告している.したがって,術後半年間は診察を頻繁に行い,経過観察をする必要があることを再確認した.本検討でも術後最短観察期間を6カ月としている.従来より羊膜を使用した眼表面再建術の有用性が報告されている3,4).当科で羊膜移植を行った初発・再発翼状片は再発を認めず良好な成績であるが,有茎弁移植を行った初発翼状片の再発率は30%と改善の余地を認める.したがって,我々は初発翼状片12眼の再発の危険因子について検討することにした.前谷ら1)は線維芽細胞増殖抑制の意味から手術時MMCを使用することで再発を減らすことを指摘し,西田ら10)は若年者または充血に富んだ厚みのある翼状片は再発する傾向があると報告している.Tanら6,7)は翼状片体部のスリット所見から結膜下線維量が多い場合再発率が高いことを述べている.山口ら11)は年齢が若く,翼状片体部の強い充血,厚みがあるものほど再発の可能性が高い傾向があると報告している.これらを踏まえて①術中のMMC使用の有無,②年齢,③結膜下線維組織増生,④翼状片の面積と侵入距離に注目し,経験した初発翼状片12眼における再発との関連を検討することにした.①術中のMMC使用の有無で再発率に差を認めず,今回経験した初発翼状片12眼においてMMCの使用は再発防止に有用とはいえなかった.②50歳未満の再発率が100%,5070歳は20%,70歳以上は0%という結果から,年齢に関して従来の報告と同様に若年者ほど再発のリスクが高まると考えられる.③結膜下線維組織増生についてTanらは結膜下線維組織増生が強いものほど再発率が高いと報告している6,7).本研究でも結膜下線維組織増生の強いと考えられるG3でのみ再発を認めたことから,Tanらが指摘していたように翼状片のTenonの厚みは再発と密接な関連があると考えられる.④再発の有無で翼状片の侵入距離の差は認めないものの,再発例の翼状片の面積は小さいという結果になった.佐々木ら12)は1/82/8角膜径の翼状片において最もPCNA(proliferationcellnuclearantigen)陽性細胞を認め,再発率が高かったことから翼状片が小さいと増殖能力が強いことを指摘している.以上より,若年,面積が小さく,線維組織増生が強い症例では特に再発に注意すべきと考えられた.翼状片の病因や再発要因についてまだ十分に解明されていないが,最近の研究では神経伝達物質のsubstancePが線維芽細胞や血管内皮細胞の化学遊走物質としても働き,翼状片の形態や成長に寄与していると示されている13).また紫外線照射によるDNA二重らせん構造が破壊されたとき,修復するKU70のプロモーターにT991Cの変位があると翼状片になりやすいと報告された14).再発要因遺伝子としてperios-tin,TIMP-2,PSPHLがあげられ,これらをターゲットとした製薬が開発される可能性も考えられている15).今後,翼状片の発症や術後再発のメカニズムが詳細に解明され,確実な治療法や補助療法の開発が期待される.今回の検討によって,術前の形態から有茎弁移植手術に対し再発の危険因子が想定できることが示された.再発ハイリスク群の患者に対し,術直後のステロイド加療の強化や羊膜移植の併用などを考慮に入れた治療が必要である.また,患者へ再発のリスクを十分説明し,手術に臨むことは重要であり,術後の点眼コンプライアンスを上げる教育も必要であると考えられる.本論文の要旨は第32回角膜カンファランスにて発表した.文献1)前谷悟,杉山哲也,山口ひとみほか:マイトマイシンCを用いた翼状片手術の基礎的検討と治療成績.臨眼49:345-348,19952)山口達夫:改良した結膜有茎弁移植術とHost結膜断端部反転縫合法.あたらしい眼科22:511-519,20053)福岡秀記,稲富勉,中村隆宏ほか:羊膜移植による再発翼状片手術の術後成績.あたらしい眼科24:381-385,20074)島﨑潤:羊膜移植の基礎と臨床.臨眼55:719-723,20015)川﨑史朗,宇野敏彦,島村一郎ほか:マイトマイシンC術中塗布と羊膜移植を併用した再発翼状片の手術成績.日眼会誌107:316-321,20026)TanDT,CheeSP,DearKBetal:Eectofpterygiummorphologyonpterygiumrecurrenceinacontrolledtrialcomparingconjunctivalautograftingwithbarescleraexcision.ArchOphthalmol115:1235-1240,1997———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081425(97)7)TanDT,LiuYP,SunL:FlowcytometorymeasurementsofDNAcontentinprimaryandrecurrentpterygia.InvestOphthalmolVisSci41:1684-1686,20008)ChenPP,AriyasuRG,KazaVetal:RandomizedtrialcomparingmitomycinCconjunctivalautograftafterexci-sionofprimarypterygium.AmJOphthalmol120:151-160,19959)HirstLW,SebbenA,ChantD:Pterygiumrecurrencetime.Ophthalmology101:755-758,199410)西田保子,林研,林文彦:翼状片に対する上方結膜有茎弁移植術の術後成績.臨眼59:983-989,200511)山口達夫:再発性翼状片の手術について教えてください.あたらしい眼科10:172-178,199312)佐々木かおる,宍戸明美,細畠淳ほか:翼状片の組織像による病期分類.臨眼51:1135-1138,199713)ChuiJ,GirolamoN:TheroleofsubstancePinthepatho-genesisofpterygia.InvestOphthalmolVisSci48:4482-4489,200714)TsaiYY,BauDT,ChiangCCetal:PterygiumandgeneticpolymorphismofDNAdoublestrandbreakrepairgeneKu70.MolVis13:1436-1440,200715)KuoCH,MiyazakiD,NawataNetal:Prognosis-determi-nantcandidategenesidentiedbywholegenomescan-ningineyeswithpterygia.InvestOphthalmolVisSci48:3566-3575,2007***