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培養角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現に対するマルチパーパスソリューションの影響

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(97)15670910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15671572,2008cはじめに最近,ソフトコンタクトレンズ(SCL)ユーザーでの細菌性角膜炎の発症が問題になっており1),マルチパーパスソリューション(MPS)の使用との関連性が議論されている2).細菌性角膜炎の原因としては,MPSの不十分な殺菌効力3)やユーザーのコンプライアンスの低さ4)などが想定されるが,MPSの細胞毒性が角膜上皮細胞に及ぼす影響も考慮に入れる必要がある.柳井ら5)は14種類の市販MPSを比較し,主成分が同じポリヘキサメチルビグアニド(PHMB)であっても,添加剤の種類によって細胞毒性や殺菌効力が大きく異なることを報告した.一方,角膜上皮細胞は外傷を受けるなどのストレス状態にさらされると炎症性細胞を誘導するためにサイトカインを分泌することが知られている6).毒性の強いMPSの使用は角膜にストレスを与えると考えられる〔別刷請求先〕今安正樹:〒487-0032愛知県春日井市高森台5-1-10(株)メニコン総合研究所Reprintrequests:MasakiImayasu,Ph.D.,CentralR&DLab.,MeniconCo.,Ltd.,5-1-10Takamoridai,Kasugai-shi,Aichi-ken487-0032,JAPAN培養角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現に対するマルチパーパスソリューションの影響今安正樹*1,3白石敦*2大橋裕一*2島田昌一*3*1(株)メニコン総合研究所*2愛媛大学医学部眼科学教室*3名古屋市立大学医学部第2解剖学講座EectsofMultipurposeSolutionsonCytokineGeneExpressionofCornealEpithelialCellsMasakiImayasu1,3),AtsushiShiraishi2),YuichiOhashi2)andShoichiShimada3)1)CentralR&DLab.,MeniconCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,EhimeUniversity,3)DepartmentofAnatomy,NagoyaCityUniversityMedicalSchool目的:コンタクトレンズ用マルチパーパスソリューション(MPS)の角膜への影響を明確にするため,角膜上皮細胞を市販MPSまたは配合成分で処理したときのサイトカイン遺伝子発現量および産生量を解析する.方法:培養ヒト角膜上皮細胞を用い,7種のMPSまたは配合成分を添加した培養液で3,6,24時間培養した.RNAを抽出し,サイトカイン遺伝子〔インターロイキン(IL)-8,トランスフォーミング増殖因子(TGF)-b2,IL-18,IL-1b,IL-6〕発現量をreal-timepolymerasechainreaction(PCR)法で,培養上清中のサイトカイン産生量を抗体アレイで定量した.結果:ホウ酸を含むMPSではIL-8,TGF-b2,IL-18,IL-6の発現量が36時間後に増加し,その後減少した.これらのMPSでは24時間後のIL-8産生量も増加した.配合成分のなかでは,ホウ酸のみがサイトカイン遺伝子発現量を増加させた.結論:MPSの配合成分であるホウ酸が炎症性サイトカインの産生に関与している可能性が示された.Inordertoclarifytheeectsofmultipurposesolutions(MPS)onthecornea,weanalyzedthecytokinegeneexpressionandproteinlevelofcornealepithelialcellstreatedwithMPSoringredients.Humancornealepithelialcellswereculturedfor3,6or24hoursinmediumcontainingcommerciallyavailableMPSoringredients.AfterRNAextraction,geneexpressionsofinterleukin(IL)-8,transforminggrowthfactor(TGF)-b2,IL-18,IL-1bandIL-6wereanalyzedbyreal-timepolymerasechainreaction(PCR).Proteinlevelsweredeterminedbyantibodyarray.MPScontainingboricacidcausedup-regulationofIL-8,TGF-b2,IL-18andIL-6after3and6hours,whichthendecreasedat24hours.TheMPSalsopromotedIL-8productionduring24hour-incubation.Oftheingredientstested,onlyboricacidhadsignicanteectsongeneandproteinexpressionsofinammatorycyto-kines.Theseresultsdemonstratethatboricacidmayhavesignicanteectoninammatorycytokineproductionincornealepithelialcells.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15671572,2008〕Keywords:角膜上皮細胞,サイトカイン,マルチパーパスソリューション,コンタクトレンズ.cornealepithelialcells,cytokine,multipurposesolution,contactlens.———————————————————————-Page21568あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(98)ため,サイトカイン遺伝子の発現量が増加する可能性が想定される.角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現を解析することにより,角膜へのストレスを高感度で定量的に評価できる方法が構築できると思われる.そこで本論文では,ヒト角膜上皮細胞を,種々のMPS製品または配合成分を添加した培養液で培養し,MPSまたは配合成分を添加しない培養液で培養した場合とのサイトカイン遺伝子の発現量の差をreal-timepolymerasechainreac-tion(PCR)法により定量的に解析した.また,蛋白質レベルでの評価のため,培養液中のサイトカイン産生量を抗体アレイで定量した.I実験材料および方法1.実験材料実験に使用したMPSとおもな配合成分を表1に示す.MPS-AからMPS-Gまでの7種類の市販MPSを用いた.主成分の殺菌剤にはPHMB,AlexidineまたはPolyquadが使用されている.このなかでMPS-AとMPS-B以外は緩衝剤としてホウ酸を含む.配合成分単独での実験に使用した成分名,濃度などを表2に示す.MPSに一般的に使用されている界面活性剤,殺菌剤,緩衝剤を実際の配合濃度に近い濃度で使用した.2.実験方法a.培養細胞の準備培養細胞として,SV40ウイルス感染により不死化したヒト角膜上皮細胞(以下,HCET細胞)7)を理化学研究所細胞バンクより購入して使用した.HCET細胞を6cm組織培養用ディシュにコンフルエントになるまで培養した.培養液はDMEM/F12(GIBCO)+5%ウシ胎仔血清(FBS)(GIBCO)を用いた.血清無添加の培養液に各種MPSまたは配合成分を10%添加した試験液を準備し,組織培養用ディシュに4ml添加して37℃,5%CO2で3,6,24時間培養した.b.培養細胞からのRNAの抽出および定量組織培養用ディシュの培養液を捨て,冷PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄後,1mlのTRIZOLR試薬(invitrogen)を添加した(氷冷下).セルスクレーパーを用いてディシュ表面に付着している細胞を離させた(氷冷下).20ゲージの注射針を取り付けた2.5mlのシリンジで,TRIZOLR試薬の吸引を20回程度くり返した後,1.5mlのマイクロチューブに回収した.以下,TRIZOLR試薬の取扱説明書に従ってtotalRNAを精製し,30μlのDEPC(diethylpyrocarbonate)処理水に溶解させた.c.逆転写反応およびrealtimereversetranscription(RT)PCRパーソナルスペクトルモニター(AmershamBiosciences,GeneQuantpro)で260nmの吸光度を測定することによりRNA濃度を定量し,サンプル濃度を800ng/μlに調整した.PrimeScriptTMRTreagentsKit(TaKaRa)の取扱説明書に従い,50μlの反応系にてcDNAに変換した.つぎに,SYBRRPremixExTaqTM(TaKaRa)の取扱説明書に従い,25μlの反応系にてreal-timePCRを行った(TaKaRa,表2実験に使用したMPS配合成分配合成分種類濃度製造元HCO界面活性剤1.0%日光ケミカルズTetronic1107界面活性剤1.0%BASFJapanPoloxamer407界面活性剤1.0%BASFJapanAlexidine殺菌剤1ppmTrontoResearchPHMB殺菌剤1ppmアーチケミカルズホウ酸(Boricacid)緩衝剤0.5%日興製薬1.0%表1実験に使用した市販MPSMPS殺菌剤界面活性剤ホウ酸の有無MPS-APHMB*HCO**MPS-BPHMBPoloxamerMPS-CPHMBTetronic+MPS-DAlexidinePoloxamer/Tetronic+MPS-EPolyquadTetronic+MPS-FPolyquadTetronic+MPS-GPHMB不明+*PHMB:polyhexamethylbiguanid.**HCO:PEGhydrogenatedcastoroil.表3RealtimeRTPCRに使用したプライマーペアの塩基配列ヒト遺伝子F/Rプライマー塩基配列b-actinFATTGCCGACAGGATGCAGARGAGTACTTGCGCTCAGGAGGAIL-8FAAGGAACCATCTCACTGTGTGTAAACRATCAGGAAGGCTGCCAAGAGTGF-b2FGGATGCGGCCTATTGCTTTARCATTTCCACCCTAGATCCCTCTTIL-18FGCCACCTGCTGCAGTCTACARATCTGGAAGGTCTGAGGTTCCTTIL-1bFCCTCTGGATGGCGGCARTGCCTGAAGCCCTTGCTGIL-6FAAAAAGGCAAAGAATCTAGATGCAARGTCAGCAGGCTGGCATTTGTFはセンス,Rはアンチセンスを示す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081569(99)TP800).サイトカインとしてIL-8,TGF-b2,IL-18,IL-1b,IL-6の5種類の遺伝子の発現量を解析した.ハウスキーピング遺伝子としては,角膜上皮細胞での発現量が安定なb-actinを選択し(予備実験で確認),b-actin発現量に対する各遺伝子の相対発現量を求めた.さらに,各遺伝子について,MPS(または配合成分)処理群に対するPBS(+)処理群の相対発現量の比を求め,これを指標とした.なお,各サイトカイン遺伝子およびb-actinのreal-timePCR用プライマーはNCBI(NationalCenterforBiotechnologyInformation)の遺伝子データベースよりmRNAの塩基配列を検索し,PrimerExpress(AppliedBio)でプライマーペア候補を検索し,イントロンをはさんだ配列を選択して,SigmaGenosys社に合成を依頼した.プライマーペアの塩基配列を表3に示す.なお,実験は独立して3回くり返し,平均値と標準偏差を求めた.d.抗体アレイによる培養上清のサイトカイン産生量の定量24時間培養した細胞については培養液を回収し,そのままサイトカイン産生量定量に供試した.アレイ基板としてBS-X1324(住友ベークライト)を使用し,抗ヒトIL-8マウスモノクローナル抗体(BIOSORCE),抗ヒトIL-6マウスモノクローナル抗体(ENDOGEN),抗ヒトTGF-b2マウスモノクローナル抗体(RDS)のプロットを住友ベークライトに依頼した.抗体アレイチャンバー(GenTel,12well)に抗体アレイを固定し,培養液を50μl添加して室温で1時間振盪した.PBSで洗浄後,3種類のサイトカインに対するビオチン化抗体混合液〔抗ヒトIL-8ビオチン化抗体(BIO-SOURCE),抗ヒトIL-6ビオチン化抗体(ENDOGEN),抗ヒトTGF-b2ビオチン化抗体(RDS)〕を調整し,50μl添加して室温で1時間振盪した.PBSで洗浄後,Cy5標識ストレプトアビジン(JacksonImmunoResearch)50μlを添加し,室温で1時間振盪した.PBSで洗浄後,乾燥させ,アレイスキャナー(GSILuminocs,ScanArray5000)でCy5蛍光画像を取得した.各プロットの蛍光強度をアレイ用画像処理ソフト(ScanAlyze)で数値化した.各サイトカインの標準液としてヒトIL-8(Acris),ヒトIL-6(Acris),ヒトTGF-b2(Acris)を5,10,20,40,80pg/mlに調整して用いた.なお,実験は独立して3回くり返し,平均値と標準偏差を求めた.II結果a.サイトカイン遺伝子発現に対するMPSの影響MPSで3,6および24時間処理したときの対照〔PBS(+)〕に対するサイトカイン遺伝子発現比を図1a,bおよびcに示す.MPS処理3時間後ではMPS-CGでIL-8が35.030.025.020.015.010.05.00.0MPS-AMPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-GExpressionratio:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図1aMPSで3時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.25.020.015.010.05.00.0MPS-AMPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-GExpressionratio:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図1cMPSで24時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.45.040.035.030.025.020.015.010.05.00.0MPS-AMPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-GExpressionratio:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図1bMPSで6時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.———————————————————————-Page41570あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(100)約1025倍に増加した.TGF-b2およびIL-6も増加した.一方,MPS処理6時間後においても,MPS-CGではIL-8が高いレベルを維持したが,特にMPS-EGが約20倍高い発現量を示した.MPS-EおよびMPS-FではIL-6が約2030倍に増加した.MPS処理24時間後においては,全体的にサイトカイン発現比はかなり回復し,特にMPS-Cではほぼ正常レベルになった.MPS-DGではIL-8は回復したが,IL-18とIL-6が約510倍高いレベルを維持していた.すべての処理時間において,MPS-AおよびBではすべてのサイトカイン遺伝子に関し,発現量の増加は認められなかった.すべてのMPS処理において,IL-1bの発現量増加は認められず,IL-8の発現量増加をもたらしたMPS-CGではむしろ発現量が減少する傾向を示した.b.サイトカイン産生量に対するMPSの影響培養24時間で産生されたサイトカイン(IL-8,TGF-b2およびIL-6)を抗体アレイで定量した結果を図2に示す.対照のPBS(+)でのサイトカイン産生量はIL-8が0.5±0.2pg/ml,TGF-b2が4.3±1.3pg/ml,IL-6が0.3±0.2pg/mlであった.対照と比較してMPS-Aではサイトカイン産生量の増加は認められなかったが,MPS-BおよびCではTGF-b2の増加が認められた.MPS-D,EおよびGでは3種のサイトカインすべてが増加した.MPS-FではIL-8が増加した.全体的にサイトカイン産生量が最も大きく増加したのはMPS-Eであった.c.サイトカイン遺伝子発現に対する配合成分の影響図1で示されたMPSによるサイトカイン遺伝子発現量の増加がMPSのどの配合成分によるかを明確にするため,配合成分単独での遺伝子発現に対する影響を検討した.配合成分処理3時間および24時間後の結果を図3aおよび3bに示す.3時間処理では,配合成分のなかでホウ酸のみがIL-8,TGF-b2,IL-6発現量を増加させ,1%濃度ではそれぞれ約45倍,5倍,15倍となった.24時間後では1%ホウ酸の効果は3時間と比較してかなり回復したが,IL-8およびIL-6はまだ高いレベルを維持しており,IL-18発現量への影響もみられた.1%HCOは0.5%ホウ酸と同程度の効果を示した.d.サイトカイン産生量に対する配合成分の影響配合成分単独で24時間作用させたときのサイトカイン産生量への影響を検討した結果を図4に示す.界面活性剤60.050.040.030.020.010.00.0:IL-8:TGF-b2:IL-6pg/m?MPS-APBS(+)MPS-BMPS-CMPS-DMPS-EMPS-FMPS-G図2MPSで24時間処理したHCET細胞のサイトカイン産生量b2:IL-18:IL-1b:IL-6図3a配合成分で3時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.20.015.010.05.00.0Expressionratio1%HCO1%Tetronic1%Poloxamer1ppmAlexidine1ppmPHMB0.5%Boricacid1.0%Boricacid:IL-8:TGF-b2:IL-18:IL-1b:IL-6図3b配合成分で24時間処理したHCET細胞のサイトカイン遺伝子発現比対照〔PBS(+)〕に対する発現比を示す.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081571(101)(HCO,TetronicおよびPoloxamer)および殺菌剤(Alexi-dineおよびPHMB)はTGF-b2産生量を有意に増加させた.ホウ酸は濃度依存的にIL-8産生量を増加させ,1%濃度では約70pg/mlにも達した.TGF-b2産生量への影響も認められた.III考按今回,ヒト角膜上皮細胞へのMPS投与で変化する可能性のあるサイトカイン遺伝子としてIL-8,TGF-b2,IL-18,IL-1b,IL-6を採択した.予備実験においてはその他のサイトカインとしてIL-1a,IFN-g,TNF-aなども検討したが,変化が少なかったため対象から除外した.MPSの影響としては,3時間後にIL-8が,6時間後にIL-8に加えてIL-6が,24時間後にはIL-6とTGF-b2の発現量増加が目立った.IL-8およびIL-6が増加したMPSでは,IL-1bの発現量が減少していた.Xueら8)が報告しているように,IL-1はIL-6やIL-8などの炎症性サイトカインの産生を促進する急性的サイトカインであるため,IL-6・IL-8の増加によるフィードバック制御によって,経時的に発現量が下がったと考えられる.TGF-b2は角膜上皮細胞の増殖,遊走,分化,接着制御など多くの生理作用をもつサイトカインであり,角膜上皮創傷治癒過程において発現量が増加することが知られている9).また,IL-18はマウス角膜に緑膿菌を感染させたときに,24時間後以降に発現量が増加することが知られている10).今回の実験においては,TGF-b2とIL-18は624時間と長時間作用させた場合に発現量が増加しており,外傷や細菌感染などの重篤な障害で初めて発現するサイトカインと考えられる.7種類のMPSを比較すると,MPS-AおよびMPS-Bではサイトカイン遺伝子の変化が認められなかったが,MPS-C,MPS-D,MPS-E,MPS-FおよびMPS-GではIL-8,TGF-b2,IL-6において顕著な発現量増加を示した.前2者のMPSがホウ酸を含まないのに対し,後5者がホウ酸を含むことより,ホウ酸がサイトカイン遺伝子発現に関与した可能性が考えられる.そこで,代表的なMPS配合成分7種類を選択してサイトカインへの影響を検討したところ,ホウ酸のみが顕著な影響を示し,IL-8,IL-6遺伝子発現量を増加させた.また,抗体アレイによるサイトカイン産生量の測定実験においても,ホウ酸を含むMPSおよび0.51.0%のホウ酸が24時間後のサイトカイン産生量を増加させることを確認した.ホウ酸が実使用濃度よりも低い0.1%で細胞毒性を有することは,Santodomingoら11)のV79細胞を用いたコロニー形成阻害試験により報告されている.今回の実験ではサイトカイン遺伝子発現および産生量の増加として細胞毒性が検出されたと考えられる.一方,筆者らは角膜上皮細胞のタイトジャンクション(特にZO-1)に対するMPSの影響を細胞生物学的および電気生理学的手法で検討し,配合成分にホウ酸を含むMPSのみがタイトジャンクションの構造を破壊することを報告している12).サイトカイン遺伝子発現の増加がタイトジャンクションの構造破壊をひき起こすメカニズムの詳細は不明であるが,IL-1やIL-8などの炎症性サイトカインはストレス応答性のMAPK(mitogen-activatedproteinkinase)の活性化をひき起こすことが知られており,MAPKカスケードなどの細胞内シグナル伝達系の活性化を通してタイトジャンクションが破壊されたと考えられる13).角膜上皮最表層細胞のタイトジャンクションは角膜のバリア機能においてきわめて重要な役割を担っているため,その構造破壊は緑膿菌などの病原菌の角膜への侵入を容易にし,細菌性角膜炎感染のリスクを増大させると考えられる1).すなわち,コンタクトレンズ装用とケア用品(特にMPS)使用による細菌性角膜炎発症のリスクをなるべく低くするには,角膜上皮細胞のサイトカイン遺伝子発現への影響の少ないMPSを選択し,角膜バリア機能をなるべく健全に保つことが重要と考えられる.文献1)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,20062)InoueN,ToshidaH,MamadaNetal:Contactlens-inducedkeratitisinJapan.EyeContactLens33:65-69,20073)LevyB,HeilerD,NortonS:ReportontestingfromaninvestigationofFusariumkeratitisincontactlenswear-90.080.070.060.050.040.030.020.010.00.0:IL-8:TGF-b2:IL-6pg/m?1%HCOPBS(+)1%Tetronic1%Poloxamer1ppmAlexidine1ppmPHMB0.5%Boricacid1.0%Boricacid図4配合成分で24時間処理したHCET細胞のサイトカイン産生量———————————————————————-Page61572あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(102)ers,EyeContactLens32:256-261,20064)星合竜太郎,濱田いずみ:レンズケアに対するコンタクトレンズ使用者の意識.日コレ誌49:119-123,20075)柳井亮二,植田喜一,西田輝夫ほか:市販多目的剤の消毒効果と細胞毒性の比較.日コレ誌49(補遺):S13-S18,20076)外園千恵,今西二郎:サイトカイン.眼科NewInsight5(木下茂編),p154-165,メジカルビュー社,19957)Araki-SasakiK,OhashiY,SasabeTetal:AnSV40-immortalizedhumancornealepithelialcelllineanditscharacterization.InvestOphthalmolVisSci36:614-621,19958)XueML,ZhuH,WillcoxMDP:TheroleofIL-1betaintheregulationofIL-8andIL-6inhumancornealepitheli-alcellsduringPseudomonasaeruginosacolonization.CurrEyeRes23:406-414,20019)山下英俊:トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-b)スーパーファミリーの眼組織における作用.日眼会誌101:927-947,199710)HuangX,McClellanSA,BarrettRPetal:IL-18contrib-utestohostresistanceagainstinfectionwithPseudomo-nasaeruginosathroughinductionofIFN-gammaproduc-tion.JImmunol168:5756-5763,200211)Santodomingo-RubidoJ,MoriO,KawaminamiS:Cyto-toxicityandantimicrobialactivityofsixmultipurposesoftcontactlensdisinfectingsolutions.OphthalPhysiolOpt26:476-482,200612)ImayasuM,ShiraishiA,OhashiYetal:Eectsofmulti-purposesolutionsoncornealepithelialtightjunctions.EyeContactLens34:50-55,200813)WangY,ZhangJ,YiXetal:ActivationofERK1/2MAPkinasepathwayinducestightjunctiondisruptioninhumancornealepithelialcells.ExpEyeRes78:125-136,2004***

細菌性角膜炎臨床分離株に対するFractional Inhibitory Concentration Indexを用いた抗菌薬併用効果の検討

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(91)15610910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15611565,2008cはじめに細菌性角膜炎は,日常臨床においてよく遭遇する疾患で,近年,コンタクトレンズ装用者に急増している.初期例を取り扱うことの多い第一線の診療現場では,臨床所見と的確な問診,起炎菌リスト(コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎を含む感染性角膜炎の原因菌を調査した全国サーベイランスの結果が役立つ1))などから,初診時におおよその原因菌を予測し,有効と考えられる抗菌点眼薬を投与しているのが実情〔別刷請求先〕鈴木崇:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TakashiSuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon-shi,Ehime791-0295,JAPAN細菌性角膜炎臨床分離株に対するFractionalInhibitoryConcentrationIndexを用いた抗菌薬併用効果の検討鈴木崇大橋裕一愛媛大学医学部眼科学教室EectofAntibioticCombinationagainstBacteriaIsolatedfromKeratitisUsingFractionalInhibitoryConcentrationIndexTakashiSuzukiandYuichiOhashiDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicineEhimeUniversity細菌性角膜炎の治療においては,抗菌スペクトルを補う目的で複数の抗菌点眼薬をしばしば併用するが,他方,副次効果として,併用によって互いの薬剤の抗菌力が増強する可能性も考えられる.今回,細菌性角膜炎からの臨床分離株(ブドウ球菌属22株,レンサ球菌属5株,グラム陰性桿菌7株)に対して,レボフロキサシン(LVFX)+セフメノキシム(CMX),LVFX+トブラマイシン(TOB),LVFX+エリスロマイシン(EM),LVFX+クロラムフェニコール(CP)の併用効果をinvitroにおいて検討した.チェッカーボード法により,併用抗菌薬の単独使用時の最小発育阻止濃度(MIC)と併用時のMICを測定し,fractionalinhibitoryconcentrationindex(FICindex)=[併用時のMIC(a)/単独時のMIC(a)]+[併用時のMIC(b)/単独時のMIC(b)]を算出したところ,ブドウ球菌属・レンサ球菌属に対してはLVFX+CMXの平均FICindexが最も低く,グラム陰性桿菌に対してはLVFX+TOBのFICindexが最も低かった.これらの結果は,細菌性角膜炎に対して通常われわれが行っているempirictherapy(グラム陽性球菌→LVFX+CMX,グラム陰性桿菌→LVFX+TOB)の合目的性をさらに高めるものである.Infectiouskeratitisisusuallytreatedwithabroadcombinationofantibacterialeyedrops,inordertocovertheentireantibacterialspectrum.Combinationsofantibacterialagentsmayresultinincreasedantibacterialactivity.Totestthispossibility,weinvestigatedtheeectofcombinationsoflevooxacin(LVFX)withcefmenoxime(CMX),tobramycin(TOB),erythromycin(EM)andchloramphenicol(CP)oninfectiouskeratitisbacterialisolates(22iso-latesofStaphylococcussp.,5isolatesofStreptococcussp.and7isolatesofgram-negativerods).Acheckerboardmicrotitrationmethodwasusedtodeterminetheminimuminhibitoryconcentration(MIC)andfractionalinhibitoryconcentration(FIC)index(FIC=[MICofcombination(a)/MICofdrug(a)alone]+[MICofcombination(b)/MICofdrug(b)alone]).ThelowestaverageFICindexesoccurredwithLVFX+CMXinStaphylococcussp.andStrep-tococcussp.,andwithLVFX+TOBingram-negativerods.TheseresultsindicatethatLVFX+CMXandLVFX+TOBcombinationsareeectivefortreatmentofkeratitiscausedbygram-positivecocciandgram-negativerods,respectively〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15611565,2008〕Keywords:細菌性角膜炎,FICindex,最初発育阻止濃度,併用効果.bacterialkeratitis,FICindex,themini-muminhibitoryconcentration,theeectofcombinations.———————————————————————-Page21562あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(92)である.細菌性角膜炎の治療,特にempirictherapyでは,抗菌点眼薬が併用される場合が多い.おもな目的は,抗菌スペクトルを広げ,できるだけ多くの菌種をカバーする点にある2)が,抗菌点眼薬の併用にさらなる付加価値があるか否かは明らかにされていない.近年,抗菌薬の併用効果の指標として,fractionalinhibitoryconcentrationindex(FICindex)がよく用いられている3).そこで今回,細菌性角膜炎から分離された臨床株に対する汎用抗菌点眼薬のFICindexを算出し,抗菌薬の併用増強効果について比較検討した.I方法対象は,20022006年の間に愛媛大学医学部付属病院眼科で加療した細菌性角膜炎患者から分離された細菌34株である(表1).検討薬剤の軸はニューキノロン系抗菌薬のlevooxacin(LVFX)とし,その併用薬として,cefmenoxi-me(CMX),tobramycin(TOB),erythromycin(EM),およびchloramphenicol(CP)を選択した.抗菌薬の最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)ならびにFICindexの測定は,CLSI(ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute)4,5)およびASM(TheAmericanSocietyforMicrobiology)6)に準じた微量液体希釈法を用い,チェッカーボード法にて実施した.LVFXと各種併用薬剤を種々の濃度に組み合わせた液体培地(cation-adjustedMueller-Hintonbroth:CAMHB,レンサ球菌属はCAMHB+2.5%ウマ溶血液を使用した)に菌液を接種し,35℃で好気培養した.1624時間の培養後に,菌の発育が認められないwellの最小の薬剤濃度をMICとし,FICindexを下記の計算式に従い算出した.FICindex= 併用時のMIC(a)/単独時のMIC(a)+併用時のMIC(b)/単独時のMIC(b)FICindexは小数点以下4桁目を四捨五入して小数点以下3桁で表記した.また,得られたFICindexから,FICindex≦0.5を相乗作用,0.5<FICindex≦1を相加作用,1<FICindex≦2を不関,FICindex>2を拮抗作用と判定した.II結果1.LVFXとの併用によるFICindex全34株の菌種別のFICindexの平均値±標準偏差と,上記評価基準に基づいた分類を表2に示す.ブドウ球菌属(22株)のFICindexは,LVFX+CMXで1.05±0.48と最も優れており,つぎにLVFX+TOBが1.38±0.59で続いた.LVFX+CMX,LVFX+TOBの組み合わせにおいて相加作用を示した菌株の割合は,それぞれ82%,55%であったのに対し,LVFX+EM,LVFX+CPでは,それぞれ,9%,5%ときわめて少なかった.また,レンサ球菌属(5株)に対するFICindexの平均値±標準偏差は,LVFX+CMXで1.05±0.33と,ブドウ球菌属と同じく,最も良好な結果となり,つぎにLVFX+CPが1.20±0.45で続いた.一方,グラム陰性桿菌(7株)におけるFICindexは,LVFX+CMX,LVFX+TOBが,それぞれ1.04±0.44,1.04±0.46と良好な数値を示した.本試験では,すべての菌種に対して相乗作用を示した併用薬剤の組み合わせ,または,拮抗作用を示した併用薬剤の組み合わせは認められなかった.2.併用によるMICの変化ブドウ球菌属において,FICindexの良好であったLVFX+CMX,LVFX+TOBの併用時のMICの変化をMIC累積曲線(図1)とMIC80(表3)で示す.LVFXの感受性は単独では0.12128<μg/mlであったが,CMXあるいはTOBとの併用時には,それぞれ0.015128<μg/ml,0.015128<μg/mlへと高度耐性株を除いて,2倍から8倍程度,MIC累積曲線が感性側へシフトした.また,LVFX単独時表1対象とした臨床分離株菌名株数Methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus(MSSA)6CoagulasenegativeStaphylococcus(CNS)16Streptococcuspneumoniae3StreptococcusspeciesotherthanS.pneumoniae2Pseudomonasaeruginosa5Klebsiellaoxytoca1Serratiamarcescens1合計34表2菌種別のFICindexと評価FICindex評価の割合(%)Mean±SDRange相加不関ブドウ球菌属LVFX+CMX1.05±0.480.56328218LVFX+TOB1.38±0.590.50825545LVFX+EM1.91±0.291.02.0991LVFX+CP1.95±0.211.02.0595レンサ球菌属LVFX+CMX1.05±0.330.7528020LVFX+TOB1.73±0.610.62522080LVFX+EM1.35±0.600.7526040LVFX+CP1.20±0.451.02.08020グラム陰性桿菌LVFX+CMX1.04±0.440.7528614LVFX+TOB1.04±0.460.53128614LVFX+EM1.20±0.570.6252.07129LVFX+CP1.17±0.590.752.07129———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081563(93)のMIC804μg/mlが,CMX併用時およびTOB併用時ともに2μg/mlとなり,2倍の抗菌力増強効果を示した.一方,CMXにおいても,LVFXとの併用により,CMXのMIC累積曲線は左方へシフトした.また,CMX単独時のMIC802μg/mlが,LVFX併用時には1μg/mlと2倍の抗菌力増強効果を示した.TOBの場合には,LVFXとの併用によるMIC累積曲線の変化はみられなかった.表4に,レンサ球菌属において,FICindexの良好であったLVFX+CMXの併用におけるMICの変化を示す.Strep-tococcuspneumoniaeの1株を除き,LVFX+CMXの併用下では,LVFXあるいはCMX単独時よりも,それぞれの抗菌力が24倍に増強していた.図1ブドウ球菌属における各種抗菌薬の単独使用時,併用時のMIC累積曲線LVFXのMIC累積曲線CMXのMIC累積曲線TOBのMIC累積曲線:LVFX単独:LVFX(TOB併用下):LVFX(CMX併用下):CMX単独:CMX(LVFX併用下):TOB単独:TOB(LVFX併用下)0.0150.030.060.120.250.51248163264128128<0.030.060.120.250.5124811010090807060504030201000.0150.030.060.120.250.512481632表5グラム陰性桿菌に対するLVFX,CMX,TOBの単独使用時,併用時のMICの変化菌名MIC(μg/ml)LVFXCMXTOB単独CMX併用下TOB併用下単独LVFX併用下単独LVFX併用下P.aeruginosa0.50.250.25840.50.25P.aeruginosa0.50.120.251680.50.25P.aeruginosa10.50.516810.03P.aeruginosa0.50.120.2516810.5P.aeruginosa0.50.120.2516810.5K.oxytoca0.030.030.030.030.030.50.5S.marcescens0.250.120.120.120.060.50.12表4レンサ球菌属に対するLVFX,CMXの単独使用時,併用時のMICの変化菌名MIC(μg/ml)LVFXCMX単独併用単独併用1S.pneumoniae10.250.50.252S.pneumoniae110.0080.0083S.pneumoniae10.50.120.034Streptococcusspp.*0.50.250.0150.0045Streptococcusspp.*0.50.250.0150.008*StreptococcusspeciesotherthanS.pneumoniae.表3ブドウ球菌属における各種抗菌薬の単独使用時,併用時のMIC80MIC80(μg/ml)LVFX単独4LVFX(CMX併用下)2LVFX(TOB併用下)2CMX単独2CMX(LVFX併用下)1TOB単独4TOB(LVFX併用下)2———————————————————————-Page41564あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(94)表5に,グラム陰性桿菌に対してFICindexの良好であったLVFX+CMX,LVFX+TOBの併用下におけるMICの変化を示す.Klebsiellaoxytocaの1株を除いて,LVFX+TOBの併用により,LVFXおよびTOBの抗菌力は単独時に比べて232倍に増強した.また,同じくK.oxytocaの1株を除いて,LVFX+CMXの併用により,LVFXの抗菌力はLVFX単独時よりも24倍増強した.CMXの抗菌力も,CMX単独時に比較してLVFX併用により2倍増強したが,グラム陰性桿菌に対するCMXのMICがもともと高値のため,抗菌作用は低いレベルにとどまった.III考察細菌性角膜炎の治療においては,原因菌の同定後,最も感受性の良好な薬剤を集中投与するのが理想的である.しかしながら,ときに重症化し,瘢痕形成などで視力低下をきたす場合もある点で,当初のempirictherapyにおいては複数の抗菌点眼薬を使用するケースが多い.近年行われた眼感染症学会の疫学調査によれば,コンタクトレンズ装用者を中心に,ブドウ球菌属,レンサ球菌属などのグラム陽性球菌と,緑膿菌やセラチア属を代表とするグラム陰性桿菌が,細菌性角膜炎の原因菌の大部分を占めているため1),受診時にどちらのタイプの感染かをある程度想定し,治療を開始するのが実際的である.臨床的には,グラム陽性球菌が単発で円形もしくは楕円形の細胞浸潤を,グラム陰性桿菌が輪状膿瘍や不整形の浸潤を示すこと,また,場合によっては角膜擦過物の塗抹検査結果などから,おおよその原因菌推測が可能であるが,原因菌に感受性が高いと思われる抗菌薬点眼を単独で使用すべきか,別の系統を併用すべきかについての議論は抗菌スペクトルの拡大という論点以外にはなかったといえる.今回,筆者らが行ったFICindexの検討より,抗菌薬点眼の併用が,原因菌に対する幅広いスペクトルのカバーに加えて,互いの薬剤の抗菌力増強という副次効果を生む可能性が示された.具体的には,ブドウ球菌属・レンサ球菌属に対してはLVFX+CMXの併用が,グラム陰性桿菌に対してはLVFX+TOBの併用が最もFICindexが低く,また,併用されたどちらの薬剤についても,単独時よりも併用時においてMICが低くなることが明らかとなった.すなわち,臨床所見や病歴などからグラム陽性球菌かグラム陰性桿菌のいずれであるかを類推し,前者の場合にはLVFX+CMXを,後者の場合にはLVFX+TOBを投与するのが合目的的といえる.ブドウ球菌属においては,LVFX+CMXの組み合わせが最も優れていたが,LVFX+TOBの併用でも,相加作用を示す株が55%と比較的多くを占めた.TOB自体のMICはLVFXによって変化しなかったが,LVFXのMICはTOBの存在下で,単独時よりも低下し,また,LVFX単独では比較的MICの高い株が,TOBの併用によって低くなる傾向もみられたのは注目に値する.実際,TOBが外眼部の感染症に第一選択として使用される頻度はほとんどないため,ブドウ球菌属に対する感受性は逆に回復する傾向にある.この意味で,LVFX+TOBの組み合わせは,ブドウ球菌角膜炎の治療において,意外に有効なオプションとなる可能性もある.なお,今後は,増加しつつあるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)に対する併用効果について検討する必要があるであろう.一方,株数が5株と少ないため十分な検討はできなかったが,レンサ球菌属に関してはLVFX+CMXおよびLVFX+CPの組み合わせに併用効果が認められた.特に,CMXとの併用によって,レンサ球菌属に比較的低感受性のLVFXの抗菌力が向上する点は,大きなメリットと考えられる.グラム陰性桿菌に関しては,LVFX+TOB,LVFX+CMXのFICindexが良好であった.興味深いことに,Pseudomonasaeruginosaの5株に対するLVFXのMICは,CMXあるいはTOBとの併用により単独時よりも低下していた.特に,CMXの存在下にLVFXのMICが1/4にまで低下している株が5株中3株もあり,併用により,むしろTOBよりもLVFXの抗菌力を増強させる傾向が認められた.もちろん,CMX自体のグラム陰性桿菌に対する抗菌力が強くないため,第一選択薬とはなりえないが,LVFXの抗菌力を増強させる点において,グラム陰性桿菌に対してもLVFX+CMXの併用が有用である可能性は十分にある.細菌性角膜炎に対する抗菌薬投与の指標としては,MIC以外にpostantibioticeect(PAE)などがよく知られている7).これらに加えて,FICindexは薬剤間の併用効果を評価しうる有益な指標であり,その結果は,複数の抗菌点眼薬を併用することの多い角膜炎の診療を考えるうえで重要である.FICindexの有用性は他科領域においても細菌性髄膜炎などの治療方針に有効であると報告されており,実際,難治性MRSA感染症に対して,FICindexが良好な薬剤を併用したところ,良好な治療効果が得られたとの報告もある8,9).ニューキノロン系の抗菌点眼薬は外眼部感染症の第一選択薬として長年汎用されており,徐々に感受性の低下も認められる.したがってinvitroでの結果ではあるが,今回の知見は,ニューキノロン系と他系統の抗菌点眼薬の併用がより優れた治療効果をもたらす期待をわれわれに抱かせるものである.今後とも,対象菌株を増加させるとともに,併用抗菌薬のバリエーションも拡大し,検討を重ねていく必要がある.謝辞:本検査についてご協力いただいた三菱化学メディエンス・化学療法研究室の松崎薫様,雑賀威様,佐藤弓枝様に御礼申し上げます.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081565(95)文献1)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディーグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌110:961-972,20062)日本眼感染症学会:特集・感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,20073)渋谷泰寛,大野高司,伊東紘一:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対するvancomycinとcephem系薬の併用効果.日本化学療法学会雑誌51:621-625,20034)Performancestandardsforantimicrobialsusceptibilitytesting;Seventeenthinformationalsupplement(CLSIM100-S17,2007)5)Methodsfordilutionantimicrobialsusceptibilitytestsforbacteriathatgrowaerobically;Approvedstandard─seventhedition(CLSIM7-A7,2006)6)Clinicalmicrobiologyprocedureshandbook;secondedi-tion(ASM,2004)7)砂田淳子,上田安希子,井上幸次ほか:感染性角膜炎全国サーベイランス分離菌における薬剤感受性と市販点眼薬のpostantibiticeectの比較.日眼会誌110:773-983,20068)相沢治朗,石和田稔彦,黒木春郎ほか:細菌性髄膜炎の初期治療における臨床細菌学的検討.日本化学療法学会雑誌51:115-119,20039)大塚喜人,島村由起男,吉部貴子ほか:TEICとCMZの併用が著効した心臓大血管術後のMRSA感染症の2例.TheJapaneseJournalofAntibiotics56:55-60,2003***

結膜弛緩症に対する結膜縫着術

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(87)15570910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15571560,2008cはじめに結膜弛緩症は,おもに下方球結膜が弛緩する状態を指し,加齢性変化によって生じるとされている1).また近年capsu-lopalpebralfascia(CPF)の弛緩により結膜円蓋部が挙上し,結果として結膜が下眼瞼縁を占拠する機序の結膜弛緩症が存在することが報告されている2).結膜弛緩症は決して新しい疾患概念ではなく,高齢者における有病率が高い疾患であるが,長い間,過小評価されてきた疾患の一つである1).しかし米国で1990年代から流涙あるいはドライアイの原因疾患の一つとして再認識され,わが国でも多彩な自覚症状を呈する高齢者の不定愁訴の原因疾患として注目されるようになってきている3).結膜弛緩症の治療として手術が有用であることが知られており,その術式も横井らの結膜切除術3,4),Mellerらの羊膜移植を併用した結膜切除術5),Otakaらの結膜縫着術6)などさまざまな術式が報告されている.筆者らはOtakaらの結〔別刷請求先〕永井正子:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学病院眼科Reprintrequests:MasakoNagai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversityHospital,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN結膜弛緩症に対する結膜縫着術永井正子*1,2羽藤晋*1,2大野建治*1望月弘嗣*1山田昌和*1*1国立病院機構東京医療センター感覚器センター*2慶應義塾大学医学部眼科学教室SurgicalRepairofConjunctivochalasiswithAnchoringSuturesMasakoNagai1,2),ShinHatou1,2),KenjiOhno1),HiroshiMochizuki1)andMasakazuYamada1)1)NationalInstituteofSensoryOrgans,NationalTokyoMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine結膜弛緩症に対するanchoringsutureによる結膜縫着術の治療成績について検討した.対象は東京医療センターで結膜縫着術を施行した結膜弛緩症症例21例38眼で,手術時年齢は平均74.0±6.9歳,性別は男性3例,女性18例であった.本術式により89.5%の例で涙液メニスカスを完全に再建できたが,自覚症状の著明な改善を得ることができたのは63.2%であった.自覚症状の改善率を自覚症状別に比較すると,流涙型では87.5%(16眼中14眼)で高かったが,ドライアイ型では50%(8眼中4眼),炎症型では50%(8眼中4眼)と流涙型以外では低い傾向にあった.また対象には,capsulopalpebralfascia(CPF)の弛緩を伴う円蓋部挙上型5眼が含まれていたが,同じ術式で対応することができた.本方法は,手術手技が比較的容易で短時間に行えること,術後の炎症所見,異物感が少ないこと,CPFの弛緩を伴う円蓋部挙上型にも同じ術式で対応できることなどが利点と考えられた.Surgicalresultsofconjunctivochalasisrepairwithanchoringsutureswerereviewedin38eyesof21patients(meanage:74.0±6.9yrs;3males,18females)whoweretreatedwithanchoringsuturesatNationalTokyoMedi-calCenter.Ofthesepatients,89.5%achievedtheresolutionofconjunctivochalasis,resultingincompleterecon-structionofthetearmeniscus.Subjectivesymptoms,however,werecompletelyresolvedinonly63.2%ofcases.Whenthepatientsweredividedintosubgroupsaccordingtothesubjectivesymptoms,thesuccessrateoflacrima-tiontypewasexcellent(87.5%),whereasthesuccessratesofthedry-eyeandinammationtypeswere50%and50%,respectively.Fivecasesthathadaccompanyingrelaxationofthecapsulopalpebralfascia(CPF)weretreatedbythesameprocedure,withoutproblems.Thissurgicaltechniqueappearstobeeasy,safeandlesstime-consum-ing.Theminimizationofpostoperativeinammationandforeign-bodysensationisadvantageousoverothertech-niques.Surgicalrepairofconjunctivochalasiswithanchoringsuturesappearstobeeectivefortreatingthecondi-tion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15571560,2008〕Keywords:結膜弛緩症,手術,ドライアイ,流涙.conjunctivochalasis,surgery,dryeye,epiphora.———————————————————————-Page21558あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(88)膜縫着術をmodifyして,より簡便で侵襲の少ない術式として10-0ナイロンR糸を用いたanchoringsutureによる結膜縫着術を行っている.今回,その治療成績について検討したので報告する.I対象および方法対象は東京医療センター眼科において,2005年4月から2006年12月に結膜縫着術を施行した結膜弛緩症21例38眼である.対象の手術時年齢は6186歳(74.0±6.9歳,平均±標準偏差),性別は男性3例,女性18例であった.国立病院機構東京医療センター感覚器センター(以下,当科)では,結膜弛緩症の治療の第一選択を手術とはせずに,まず点眼治療を試みている.点眼治療として人工涙液,ヒアルロン酸製剤,ステロイド薬,非ステロイド系消炎薬などを症例に応じていくつか試み,自覚症状の軽快がみられないものを手術適応とした.手術は点眼麻酔の後に2%リドカイン(キシロカインR)を少量,結膜下に注射して行い,6-0シルク糸で6時に制御糸をかけて上転させた状態で眼球を固定した(図1).輪部から結膜円蓋部に向けてスパーテルか鑷子の背の部分を用いて結膜を伸展させた状態を保ちながら,輪部から約8mmの部分に10-0ナイロンR糸で結膜から強膜をすくって縫合した.結膜を伸展させると下直筋の位置が同定できるので,下直筋は避けるようにし,下直筋の耳側に2針,鼻側に3針縫合をかけるようにした.術後は,抗菌薬とステロイド薬(0.1%フルオロメトロンあるいは0.1%リン酸ベタメタゾン)の点眼1日34回を術後23週間行い,原則として抜糸は行わなかった.診療録をもとに結膜弛緩症手術症例の術後の自他覚所見の改善度,合併症,再発についてretrospectiveに検討した.また症例を術前の臨床症状別,もしくはCPF弛緩の有無に基づいて分類し,術後の改善度を比較検討した.CPFには下瞼板枝,円蓋部枝があり,結膜弛緩症は円蓋部枝の弛緩で起こりやすく,ここでいうCPFの弛緩とは円蓋部枝の弛緩である.臨床症状については流涙型,ドライアイ型,炎症型の3型に分けた7).流涙型は角結膜の生体染色所見や刺激症状はあまりみられず,間欠的流涙を主症状とする型,ドライアイ型は眼乾燥症状や異物感があり,弛緩結膜上方の角膜に生体染色がみられる型,炎症型は刺激症状や充血が強く,結膜炎症所見が主体の型とした.ただし,いずれか1つに分類できない症例に関しては,混合型としたものもある.II結果今回の対象である結膜弛緩症手術症例21例38眼を臨床所見別に分類した結果を図2に示す.流涙型10例16眼が最も多く,ドライアイ型4例8眼,炎症型4例8眼で,1つに分類できなかった混合型は炎症型+ドライアイ型2例4眼,流涙型+ドライアイ型1例2眼であった.また,CPF弛緩の有無では,CPF弛緩を伴う円蓋部挙上型が3例5眼,CPF弛緩を伴わないものが18例33眼であった.典型的な症例の術前後の所見を図3に示す.弛緩した結膜が下方の涙液メニスカスを占拠しているが,CPFの弛緩は伴っていない例である.術後1週目には涙液メニスカスは完全に再建されており,下方球結膜の炎症所見は軽度であることがわかる.図4はCPFの弛緩を伴い,結膜が浅くなっている例であるが,術後は結膜が深く保たれていることがわかる.38眼のうち,涙液メニスカスを完全に再建できたものは89.5%(34眼)であったが,自覚症状の著明な改善を得られ①②③④図1手術方法①結膜下注射で局所麻酔を行い,②6時方向に6-0シルク糸で制御糸をかける.③上転させた状態で結膜を伸展し,輪部から約8mmのところに10-0ナイロンR糸で結膜と強膜を縫着する.下直筋を避け,その鼻側と耳側に23針ずつ縫着する.④結膜が伸展し,弛緩が解除されていることを確認して終了.ドライアイ型4例8眼流涙型10例16眼炎症型4例8眼1例2眼2例4眼図2臨床所見別の症例の内訳———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081559(89)たのは63.2%(24眼)にとどまった.臨床所見別の分類では,涙液メニスカスの再建率は流涙型で93.8%(16眼中15眼),炎症型で100%(8眼中8眼)と良好であったが,ドライアイ型では62.5%(8眼中5眼)と低い結果になった.一方,自覚症状の改善率は流涙型87.5%(16眼中14眼)で高かったが,ドライアイ型では50%(8眼中4眼),炎症型では50%(8眼中4眼)と流涙型以外では低い傾向にあった.CPF弛緩の有無では,涙液メニスカス再建率はCPF弛緩による円蓋部挙上型では100%(5眼中5眼),CPF弛緩を伴わない型では87.8%(33眼中29眼)であったが,自覚症状の改善率は円蓋部挙上型においては20%(5眼中1眼),CPF弛緩を伴わない型では69.7%(33眼中23眼)となり,他覚的な涙液メニスカス再建率と自覚症状改善率はあまり一致しなかった.術後の合併症として,異物感と充血・結膜下出血がみられたが,眼球運動障害,感染などの重篤な合併症はみられなかった.異物感は,術後1週間では50%(19眼)にみられたが,術後1カ月では28.9%(11眼)に減少した.術後1カ月を超えて異物感が持続した症例は6眼あったが,2例4眼でマイボーム腺機能不全,1例2眼で眼瞼外反を合併しており,持続する異物感には結膜弛緩症以外の要因が考えられた.充血・結膜下出血は,術後1週間で18.4%(7眼),術後1カ月で7.9%(3眼)の症例で生じたが,これ以上遷延する例はなかった.術後経過観察期間中,10.5%(4眼)に再発がみられた.その内訳は炎症型2例3眼,流涙型1例1眼であり,再発の時期は術後1年後以降であった.このうち,炎症型1例1眼では再手術を施行し,症状,所見ともに改善している.III考按結膜弛緩症に対して施行した10-0ナイロンR糸を用いたanchoringsutureによる結膜縫着術の治療成績について検討した.本術式により89.5%の例で涙液メニスカスを完全に再建できたが,自覚症状の著明な改善を得ることができたのは63.2%であった.他覚的な結膜弛緩の改善率と自覚症状の改善率の間には差があり,手術によって自覚症状の著明な改善を得られなかった症例が1/3以上あったことは,結膜弛緩症以外にマイボーム腺機能不全,眼瞼外反など他の眼表面疾患を合併している症例が含まれていたことが影響していると思われる.当科では手術の適応を点眼治療で症状が改善しない例としているが,愁訴が結膜弛緩症によるものかどうか術前にはさらに慎重な検討を要するものと考えられた.臨床所見,自覚症状により病型を分類した場合,流涙型では自他覚所見の改善率が87.5%と良好であったが,ドライアイ型,炎症型では自覚症状の改善率がいずれも50%と低い傾向にあった.また,CPFの弛緩を伴う円蓋部挙上型においては,5眼全例で涙液メニスカスを完全に再建することができたが,自覚症状が改善したのは1眼にとどまった.これらの結果は,臨床所見や解剖学的な所見によって,手術の予後をある程度推測できることを示しているのかもしれない.ただし,病型別の奏効率に関しては,今回の症例数が十分でない面があり,今後,症例数を増やして検討する必要があるものと考えられた.本手術は1015分程度と短時間で行うことができ,術後の合併症は重篤なものはなかった.また,術後の異物感,充血が軽く,ほとんどの症例で術後1カ月以内に消失することも利点と考えられた.また,新たな円蓋部を作製することで,CPFの弛緩による円蓋部挙上型にも同じ術式で対応できる点で有用と考えられた.ただし,経過観察期間中に10.5%に弛緩症の再発がみられた.結膜切除による結膜弛緩症手術と異なり,球結膜と強膜に癒着が生じる範囲が狭く,結膜に近い部分に限られることが原因と推測される.この術前術後1週図3典型的な症例の術前後の所見弛緩した結膜が下方の涙液メニスカスを占拠しているが,結膜短縮は伴っていない例.術後1週目には涙液メニスカスは完全に再建されており,下方球結膜の炎症所見は軽度である.術前術後1週図4円蓋部挙上型の術前後の所見術前に比べて,術後は結膜はむしろ深くなっており,円蓋部挙上型にも同じ術式で対応できる.———————————————————————-Page41560あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(90)点は,術後の炎症所見が軽いという利点と表裏の関係にあるものと思われるが,再発しにくい術式の改良の余地があるものと考えられた.本論文の要旨は第31回角膜カンファランスで発表した.文献1)MellerD,TsengSC:Conjunctivochalasis,literaturereviewandpossiblepathophysiology.SurvOphthalmol43:225-232,19982)三戸秀哲,井出醇:結膜弛緩症を合併した加齢性下眼瞼内反症.眼紀52:1025-1027,20013)山崎太三,井出醇,三戸秀哲ほか:結膜弛緩症.眼科47:1536-1542,20054)横井則彦,西井正和:結膜弛緩症,結膜弛緩症関連疾患に対する手術.眼科手術18:7-14,20055)MellerD,MaskinSL,PiresRTetal:Amnioticmembranetransplantationforsymptomaticconjunctivochalasisrefractorytomedicaltreatments.Cornea19:796-803,20006)OtakaI,KyuN:Anewsurgicaltechniqueformanage-mentofconjunctivochalasis.AmJOphthalmol129:385-387,20007)山田昌和:結膜弛緩症の考え方.東京都眼科医会報194:2-5,2006***

アレルギー性結膜炎に対する塩酸オロパタジン点眼液の臨床効果─併用療法との比較─

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(83)15530910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15531556,2008cはじめにアレルギー性結膜炎は,アレルゲンが結膜に侵入にすることに起因するⅠ型アレルギー反応である.免疫グロブリンE(IgE)抗体を介してマスト細胞からメディエーター(ヒスタミン,セロトニン,ロイコトリエンなど)が遊離することによりひき起こされる一連の炎症性疾患である.日本における〔別刷請求先〕小木曽光洋:〒108-8329東京都港区三田1-4-3国際医療福祉大学三田病院眼科Reprintrequests:TeruhiroOgiso,M.D.,DepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareMitaHospital,1-4-3Mita,Minato-ku,Tokyo108-8329,JAPANアレルギー性結膜炎に対する塩酸オロパタジン点眼液の臨床効果─併用療法との比較─小木曽光洋高野洋之川島晋一藤島浩国際医療福祉大学三田病院眼科ClinicalEcacyofOlopatadineHydrochlorideOphthalmicSolutionforAllergicConjunctivitis:ComparisonWithCombinationTherapyUsingAnti-HistamineandMastCellStabilizerOphthalmicSolutionsTeruhiroOgiso,YojiTakano,ShinichiKawashimaandHiroshiFujishimaDepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareMitaHospital2006年に発売された塩酸オロパタジン点眼液(パタノールR)にはヒスタミンH1受容体拮抗作用とメディエーター遊離抑制作用の2つの薬理作用を有することが示されている.今回,筆者らは,塩酸オロパタジン点眼液のアレルギー性結膜炎に対する臨床効果をH1拮抗薬とメディエーター遊離抑制薬の併用療法と比較検討したので報告する.眼痒感が中等度以上のアレルギー性結膜炎の患者27例を対象として,塩酸オロパタジン点眼液・人工涙液の併用投与群と塩酸レボカバスチン(リボスチンR)点眼液・クロモグリク酸ナトリウム(インタールR)点眼液の併用投与群に無作為に分け,上記薬剤をそれぞれ1回12滴,1日4回,7日間投与し,経時的に両群比較検討した.両群ともに自覚症状,他覚所見の有意な改善を認めた.点眼1日目において,塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感スコアを抑制した.他覚所見,使用感,満足度は両群間で有意な差は認められなかった.また,両群ともに点眼による角膜上皮障害の悪化は認められなかった.塩酸オロパタジン点眼液は早期に2つの作用で痒を抑制していると考えられた.Olopatadineophthalmicsolutionreportedlyhasbothanti-histamine-andmastcell-stabilizingactions.Wecom-paredtheclinicalecacyofolopatadineophthalmicsolutionforallergicconjunctivitiswithacombinationofH1receptorantagonist-andmastcell-stabilizingeyedrops.Subjectsofthisprospectiverandomizedclinicalstudycom-prised27patientswithallergicconjunctivitiswithmorethanmoderateitching.Thesubjectsweredividedintotwogroups:onegroupwasinstilledwitholopatadineophthalmicsolutionandarticialteardrops;theothergroupwasinstilledwithlevocabastineophthalmicsolutionandcromoglicateophthalmicsolution(fourdosesdaily,1-2drops/dose,for7days).Symptomsandclinicalsignsweresignicantlyimprovedinbothgroupsaftertreatment.At1dayaftercommencementoftreatment,olopatadinewasfoundtobemoreeectivethancombinationtherapyinreduc-ingitching.Nosignicantdierencesbetweenthegroupswereobservedinobjectivendings,comfortorsatisfac-tion.Exacerbationofcornealepitheliallesionswasnotobservedineithergroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15531556,2008〕Keywords:塩酸オロパタジン,アレルギー性結膜炎,ヒスタミンH1受容体拮抗作用,メディエーター遊離抑制作用,併用療法.olopatadinehydrochloride,allergicconjunctivitis,H1-selectivehistamineantagonist,anti-allergicagent,combinationtherapy.———————————————————————-Page21554あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(84)アレルギー性結膜炎の罹患率は疫学調査によると全人口の1520%と報告されている1).治療薬としては抗アレルギー薬とステロイド点眼薬が中心に用いられている.ステロイド点眼薬には即効性や強力な抗アレルギー作用があるが,眼圧上昇などの副作用の発現の危険性があるため,一般的には抗アレルギー点眼薬が第一選択として用いられる2).抗アレルギー点眼薬は,メディエーター遊離抑制薬とヒスタミンH1受容体拮抗薬に大別される.これまで日本で承認されているヒスタミンH1受容体拮抗薬は塩酸レボカバスチン(リボスチンR)とフマル酸ケトフェチン(ザジテンR)のみであったが,2006年10月に塩酸オロパタジン(パタノールR)が追加された.塩酸オロパタジンは選択的ヒスタミンH1受容体拮抗作用3),化学伝達物質遊離抑制作用4,5)の両作用を有するが,その経口薬であるアレロックR錠は日本では2001年より発売され,アレルギー性鼻炎,蕁麻疹,皮膚疾患に伴う痒に対して用いられている.今回,アレルギー性結膜炎患者を対象として,両作用を有するといわれている塩酸オロパタジン点眼液単剤治療とヒスタミンH1受容体拮抗薬/メディエーター遊離抑制薬の併用療法の臨床効果を比較検討したので報告する.I対象および方法本試験は飯田橋眼科クリニック,市川シャポー眼科,品川イーストクリニック,藤島眼科医院,谷津駅前あじさい眼科の5医療施設により実施された.1.対象中等度以上の眼痒感を有するアレルギー性結膜炎と診断される患者のうち,表1の基準を満たすものを対象とした.2.試験方法0.1%塩酸オロパタジン点眼液・人工涙液の併用投与群(以下,P+A群)と0.025%塩酸レボカバスチン点眼液・クロモグリク酸ナトリウム点眼液の併用投与群(以下,L+I群)の2群に,封筒法による無作為化を実施し,上記薬剤をそれぞれ1回12滴,1日4回(朝・昼・夕および就寝前),7日間投与した.なお,試験期間中の副腎皮質ステロイド薬,非ステロイド性抗炎症薬,血管収縮薬,抗ヒスタミン薬,抗アレルギー薬の使用は禁止とした.3.観察項目a.患者背景試験薬投与開始前に,患者の性別,年齢,合併症,既往歴,併用禁止薬の使用歴,眼手術歴について調査した.b.臨床症状第1回来院時(0日目)と第2回来院時(7日目)に他覚所見(眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,角膜上皮障害)および使用感(0=大変満足している10=全く満足してない),患者満足度(0=大変満足している10=全く満足してない)について評価した.c.アレルギー日記患者にアレルギー日記を配布し,毎日,痒感の程度,点眼状況を記録させ,7日後に回収した.d.統計・解析法他覚所見(眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,角膜上皮障害),使用感および満足度に関してはpairedt-testにて,眼痒感スコアに対してはmulti-variateanalysisにて解析を施行した.II結果1.対象患者の構成本試験では,38例(P+A群:20例,L+I群:18例)が登録され,1週間後に来院しなかった症例が9例(P+A群:3例,L+I群:6例)あった.再来院しなかった症例のうち,P+A群2例,L+I群3例ではアレルギー日記も回収できなかった.アレルギー日記回収症例は33例(P+A群:18例,L+I群:15例)で,プロトコール逸脱は3症例(P+A群:2例,L+I群:1例)であった.逸脱理由は全症例とも併用禁止薬を使用したためであった.2.患者背景表2に本試験の患者背景を示した.患者は年齢1980歳表1選択基準および除外基準[選択基準]1年齢:13歳以上2性別は問わない3全ての指導に従い,規定の来院日に来院できる患者4試験期間中に併用禁止薬の投与を中止できる患者5Ⅰ型アレルギー反応(結膜浸潤好酸球の同定,血清抗原特異的IgE測定,皮膚テスト)のいずれかが陽性の患者[除外基準」1アレルギー性結膜炎以外の疾患により,薬効評価に影響を及ぼす眼掻痒感および充血を有している患者2本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者3眼感染症(細菌,ウイルス又は真菌など),重症ドライアイ,再発性角膜びらんがある患者43カ月以内に持続性副腎皮質ステロイドの結膜下注射による治療を受けた患者53カ月以内にステロイド薬の全身投与を受けた患者6免疫療法(脱感作療法,変調療法など)を受けた患者7試験期間中に手術の予定がある患者8コンタクトレンズの装用を中止できない患者9妊婦,授乳婦10担当医師が試験参加は不適当と判断した患者———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081555(85)で,アレルギー性結膜炎の原因はスギ花粉が23例,スギ花粉以外が7例であった.P+A群,L+I群の両群間において,性別,年齢,スギ花粉症の有無,合併症の有無で有意差は認めなかった.3.有効性他覚所見については点眼開始後7日目において,P+A群,L+I群の両群ともに,眼瞼結膜充血,眼球結膜充血,眼瞼結膜浮腫(図1)のスコアを有意に改善したが,両群の間には有意な差は認めなかった.両群ともに点眼による角膜上皮障害の悪化は認められなかった.点眼開始後7日目における点眼薬の使用感(図2),満足度(図3)は両群ともおおむね良好であったが,両群間において有意な差は認めなかった.眼痒感については,点眼開始後1日目においてP+A群がL+I群に比べ有意に眼痒感スコアを抑制した(図4).表2患者背景P+AL+ITestp値性別男性女性7959c2検定0.6540年齢(歳)20未満2029303940495059606970以上04701221231421U検定0.5935MinimumMaximum21801971平均±SD(歳)41.3±19.245.2±16.3アレルゲンスギ花粉非スギ花粉115122c2検定0.2731合併症アトピー性皮膚炎ドライアイ鼻側ポリープ100021c2検定0.1353**:p<0.01(vs.Baseline)*:p<0.05(vs.Baseline)Paired?-testMean±SD:眼瞼結膜充血P+A:眼瞼結膜充血L+I:眼球結膜充血P+A:眼球結膜充血L+I:眼球結膜浮腫P+A:眼球結膜浮腫L+I:角膜上皮障害P+A:角膜上皮障害L+I**********3210-1スコア0日目(n=16)(n=11)7日目(n=16)(n=11)P+AL+I図1投与後の各所見のスコアスコア+A(n=15)L+I(n=12)Mean±SD図2点眼薬の使用感(0=大変満足している,10=全く満足していない)876543210スコアP+A(n=15)L+I(n=12)Mean±SD図3点眼薬の満足度(0=大変満足している,10=全く満足していない)*:p<0.05(vs.L+I)Multi-variateanalysisMean±SD0-1-2-3-4-5-6-7-8-9スコアの変化量P+A(n=14)L+I(n=13)0日目(n=14)(n=13)1日目(n=14)(n=11)2日目(n=14)(n=11)3日目(n=14)(n=12)4日目(n=14)(n=11)5日目(n=14)(n=11)6日目(n=12)(n=10)7日目:P+A:L+I*図4眼痒感スコアの推移———————————————————————-Page41556あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(86)本試験中に両群とも副作用はみられなかった.III考察筆者らはすでにヒスタミンH1受容体拮抗薬単独よりもメディエーター遊離抑制薬との併用療法のほうが有意にアレルギー炎症を軽減することを報告している8).このことから両治療薬を同時に使用するほうがアレルギー性結膜炎に対しより効果的であると考えられる.塩酸オロパタジンにはヒスタミンH1受容体拮抗作用とメディエーター遊離抑制作用の2つの薬理作用を有することが非臨床試験において示されている.そこで,今回筆者らは両作用をもつ塩酸オロパタジン点眼液を投与した場合と,ヒスタミンH1受容体拮抗作用をもつ塩酸レボカバスチン点眼液およびメディエーター遊離抑制作用をもつクロモグリク酸ナトリウム点眼液を併用投与した場合において,臨床的に他覚所見,痒感,使用感,満足度について比較検討してみた.結果としては,他覚所見,使用感,満足度は両群間で有意な差は認められなかった.唯一,点眼開始後1日目において,塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感を抑制した.眼痒感は三叉神経終末のヒスタミンH1受容体を介して伝達されるため,点眼開始後1日目においての痒感に対する効果の差は塩酸オロパタジンが塩酸レボカバスチンよりも多くのヒスタミンH1受容体に結合したためだと考えられる.実際,非臨床試験において塩酸オロパタジンはヒスタミン受容体のH1受容体選択性が塩酸レボカバスチンより高いことが示されている3).今回の試験では日本で承認されている濃度で実施したため,塩酸オロパタジンの濃度が0.1%であるのに対し塩酸レボカバスチンは0.025%であるため(米国では塩酸レボカバスチンは0.05%で承認され販売されている),両者の濃度の違いも効果に影響していると思われる.大野らは無症状期の花粉症患者を対象に0.1%塩酸オロパタジン点眼液と0.025%塩酸レボカバスチン点眼液の有効性を結膜抗原誘発試験にて比較検討しているが,塩酸オロパタジン点眼のほうが塩酸レボカバスチン点眼よりも痒感の抑制に有効であり,点眼後のレスポンダーの割合も高いことを報告している.この塩酸オロパタジン点眼のレスポンダーの割合の高いことも,点眼開始後1日目における痒感に対する効果の差につながったと思われる.点眼開始後27日目において両群間において痒感に有意差が生じなかった.また,7日目における他覚所見でも両群間において有意差が認められなかった.非臨床試験において,塩酸オロパタジンは濃度依存性にヒト結膜マスト細胞からのヒスタミン遊離を抑制したり4),ヒト結膜上皮細胞からIL(インターロイキン)-6,IL-8の遊離を抑制したり10)することなどが示されており,これらのメディエーター遊離抑制作用ももつことが両群間において差が生じなかったことに関連していると思われた.今回の検討で点眼1日目において塩酸オロパタジン点眼群が併用療法群より有意に眼痒感スコアを抑制した.痒みに対する即効性が期待される疾患において早期に有意差が出たことは,本剤が臨床的にも有用であることを示していると思われる.文献1)東こずえ,大野重昭:アレルギー性眼疾患.1概説.NEWMOOK眼科6,p1-5,金原出版,20032)日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班:「アレルギー性結膜疾患の診断と治療のガイドライン」.大野重昭(編):日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班業績集,日本眼科医会,19953)SharifNA,XuSX,YanniJM:Olopatadine(AL-4943A):ligandbindingandfunctionalstudiesonanovel,longact-ingH1-selectivehistamineantagonistandanti-allergicagentforuseinallergicconjunctivitis.JOculPharmacolTher12:401-407,19964)YanniJM,MillerST,GamacheDAetal:Comparativeeectsoftopicalocularanti-allergydrugsonhumancon-junctivalmastcells.AnnAllergy79:541-545,19975)CookEB,StahlJL,BarneyNPetal:OlopatadineinhibitsTNFareleasefromhumanconjunctivalmastcells.AnnAllergy84:504-508,20006)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン.日眼会誌110:99-140,20067)UchioE,KimuraR,MigitaHetal:Demographicaspectsofallergicoculardiseasesandevaluationofnewcriteriaforclinicalassessmentofocularallergy.GraefesArchClinExpOphthalmol246:291-296,20088)FujishimaH,FukagawaK,TanakaMetal:TheeectofacombinedtherapywithahistamineH1antagonistandachemicalmediatorreleaseinhibitoronallergicconjunctivi-tis.Ophthalmologica222:232-239,20089)大野重昭,内尾英一,高村悦子ほか:日本人のアレルギー性結膜炎に対する0.1%塩酸オロパタジン点眼液の有効性と使用感の検討─0.025%塩酸レボカバスチン点眼液との比較─.臨眼61:251-255,200710)YanniJM,WeimerLK,SharifNAetal:Inhibitionofhis-tamine-inducedhumanconjunctivalepithelialcellresponsesbyocularallergydrugs.ArchOphthalmol117:643-647,1999***

眼科専門医志向者“初心”表明

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815430910-1810/08/\100/頁/JCLS自分は大学に入学した当初からある程度眼科に進むことを考えていました.両親が眼科医ということもあって,親の働く姿を見て,子供の頃から医学の道へ進むということが自分のなかで自然な考えとしてあったのです.ただ,大学を卒業して2年間スーパーローテーションでさまざまな科を研修していくうちに,他科への興味が生まれ,特に深く考えずに眼科へ進むことに抵抗を感じる時期もありました.しかしそんななか,初期研修の選択期間で眼科を研修し,入院中の患者さんと接していくうちに,眼科の魅力を実感し改めて眼科へ進む決意をしました.眼は体のごく一部の組織で,専門性が非常に強いイメージがありましたが,全身性の疾患からくるものも少なくなく他科との連携はもちろん必要であり,また診察から検査・診断・手術・治療までの一連の流れがほぼ自科で行えるという点も内科・外科両方の側面をもっていて非常に素晴らしいことと感じました.研修中,白内障手術を受けられた患者さんがとても喜ばれるのを見ていると,視覚とQOLが密接に関連しており,また失明した患者さんを担当して,いかに人が視覚に頼って生活しているかということを痛感しました.患者さんはそれぞれに求めている満足度が違い,治療の効果を過大に期待したり,回復の難しい疾患等で手術・治療によって得られた結果と患者さんの満足度が合わなかったりといったことも経験しました.そうした場合に少しでも良くなるように努力するのも当然のことですが,忙しい診療のなかでも患者さん一人ひとりの要望・期待を受け止めていくことも重要であり,常に真剣に患者さんと向き合える眼科医になりたいと感じました.現在は研修中の施設で白内障手術の指導を受け,自分で手術をさせてもらうと手術の上手な眼科医になってたくさんの疾患を治していきたいという気持ちが芽生えてきます.また,臨床をしていくうえでのさまざまな経験として研究もしてみたいという気持ちもあり,方向性が定まっていない漠然とした将来に対し不安と期待を抱きつつ,とにかく今はできることを一つずつやっていき,少しでも目標に近づけるように日々頑張っています.◎今回は順天堂大学出身の吉武先生にご登場いただきました.診察から検査・診断・治療まで自科で行え,内科の側面も外科の側面も兼ね備えている眼科の魅力を伝えられれば,興味をもつ人がもっと増えるのではないかと思います.(加藤)本シリーズ「“初心”表明」では,連載に登場してくださる眼科に熱い想いをもった研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生を募集します!宛先は≪あたらしい眼科≫「“初心”表明」として,下記のメールアドレスまで.全国の先生に自分をアピールしちゃってください!E-mail:hashi@medical-aoi.co.jp(73)眼科専門医向者“初心”表明●シリーズ⑪患者さん一人ひとりの眼と真剣に向き合える眼科医を目指して吉武信(ShinYoshitake)大津赤十字病院1982年東京生まれ.岡山出身.大学入学資格検定を経て順天堂大学医学部卒業.卒後は同大学付属順天堂医院で2年間のスーパーローテーションを終え,平成20年4月より京都大学眼科学教室へ入局.現在は大津赤十字病院で眼科研修中.学生時代はゴルフ部に所属.(吉武)編集責任加藤浩晃・木下茂本シリーズでは研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生に『なぜ眼科を選んだか,将来どういう眼科医になりたいか』ということを「“初心”表明」していただきます.ベテランの先生方には「自分も昔そうだったな~」と昔を思い出してくださってもよし,「まだまだ甘ちゃんだな~」とボヤいてくださってもよし.同世代の先生達には,おもしろいやつ・ライバルの発見に使ってくださってもよし.連載11回目の今回はこの先生に登場していただきます!▲大津赤十字病院眼科の先生方と

後期臨床研修医日記8.岐阜大学医学部眼科学教室

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815390910-1810/08/\100/頁/JCLS暇ですが,夜になると,さまざまな患者さんが来院します.救急外来を受診する患者さんの症状は,コンタクトレンズがとれないと受診する軽症のものから眼内炎,網膜離,眼窩底骨折,眼球破裂,アルカリ・酸外傷などさまざまです.そのたびに眼科救急の本をめくりながら患者さんが病院に到着する前に必死で調べています.当初は割れたハードコンタクトレンズの場所がわからないため待機の先生に電話して自宅から来てもらったこともありました.最近では1人で次の日まで大丈夫かどうかをなんとか判断できるようにはなりましたが,自分の処置や判断が間違っていないかいつも不安です.再診の時に受診してもらい,上級医と一緒に診察して良くなっていることを確認してほっとしています.アイバンク当直アイバンク当直とは献眼の意思がある方がお亡くなりになった際,時刻に関係なく眼球摘出に行くというものです.自分が初めて行ったのは5月中旬でした.タクシーで2時間かけて岐阜県明智町の献眼提供者宅まで1人で摘出に向かいます.4月に1回オーベンの先生と真夜(69)岐阜大学眼科学教室では,この4月に後期研修医としてわれわれ2名が入局しました.山本哲也教授をはじめ,各専門分野の先生の指導を受けながら多忙ですが,楽しく,充実した研修生活を送っています.今回は眼科医として入局してからこれまでの半年を振り返って日々の仕事内容や印象深かったことを報告してみたいと思います.病棟業務病棟業務はおもに手術後の患者さんの診察です.毎朝7時30分から回診が始まり,上級医の先生が診察する前に病棟の患者さんの眼圧を測定したり細隙灯で所見を取り,その後,上級医と一緒に診て自身の所見との違いをフィードバックしています.眼科医として最初の難関は眼圧測定でした.初期研修時の4月の点滴と同じくらい眼圧測定が憂鬱でした.上級医との眼圧測定値の違いが誤差範囲(自分の中では12mmHg)ではなく,さらに何回もアプラネーションを当て,角膜にびらんを作り患者さんに迷惑をかけ上級医に叱られていました.「眼圧なんてNCTでいいよ」と何回思ったことか…(教授に怒られますが).最近になりほぼ正確に測定できるようになりましたが,まだまだ修練中です.眼底も最初は全然見えなく上級医がさっと見て診断しているのを見て「本当に眼底見えているの?」と思ったりもし,実は「眼科医として自分は向いていない」と何回も思いました(今では普通に見えます.といっても網膜離術後でガスが入っているとまだしっかり見えませんが…).門前の小僧習わぬ経を読むという言葉があるように自然にできるようになるかと思っています.当直5月から当直業務が始まりました.前日の当直の先生から17時にPHSを受け取ります.19時ぐらいまでは後期臨床研修医日記●シリーズ⑧岐阜大学医学部眼科学教室小森伸也名倉章敏▲外来での診察風景(左より,名倉,山本哲也教授,小森)———————————————————————-Page21540あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(70)分が経験したのは最初の外勤の日に,昨日から眼が赤いとのことにて受診した患者で,角膜に潰瘍があり,表現が難しいですがブヨブヨしていやーな感じ?がして上級医に相談.市民病院へ行ってもらいましたが,アカントアメーバ角膜炎の可能性があるとのことにて大学病院でPCRを試行し確定診断した症例もあり,あなどれません.軽症のなかに重症が紛れていることもあるので毎回外勤時はヒヤヒヤしています.学会発表今年の10月に新人であるにもかかわらず,緑内障学会で口頭発表させていただきました.甲子園に出場していない投手が初先発で巨人戦に登板する感じです.大方の予想通り,見事(?)に壇上死をして参りました.壇上に上がると聴衆の数が多く緊張しまくり頭が真っ白になりました.7分間justの原稿を用意したのに赤ランプがつき後1分となってあせり,早口になりぎりぎり終わる.ほっとしていると質問の嵐が….何を聞かれているのかまったく理解できず,黙ってしまい共同演者に助けてもらいました.いろんな意味でいい経験ができました.後2年くらいは発表時に壇上死するかも知れませんので,学会で自分を見かけたらお手柔らかにお願いします.おわりに眼科医になって思ったのは,世間で言われているような楽な科ではないということです.手術も繊細ですし,実際治るのは白内障だけで治らない病気がたくさんあることがわかりました.眼科医にとって自身が見た眼底,細隙灯所見がすべてです.所見を見逃さないように頑張ります.名医にならなくてもいいので良医になることを目標に努力していきます.(小森伸也)眼科経験の日がまだ浅くわからないことだらけですが,まず,的確な診断ができることです.そして早く手術の執刀ができるように努力します.今後,多忙ながら充実した研修生活を過ごしていきたいと思います.(名倉章敏)中に一緒に行き教えていただきましたが,今回は自分独りです.「手順がわからないぞ??」必死にタクシーの中で教科書を読み,いざ,御対面.開瞼器をかけ結膜を離した後,4直筋に糸をかけ,眼球を脱臼させ,視神経,結合組織を切除し,摘出,眼瞼を縫合して終了と行きたかったのですが….結合組織を離し,脱臼させようと直筋にかけたはずの糸がいざ脱臼させて引っ張りあげたらプッツリと糸が切れて,眼球が….「どうしよう??」角膜だけでも無事に持ち帰らないといけないし,指を入れ眼球をつかみ出し曲がり尖刀で視神経を切り,無事に摘出しました.両眼摘出し帰路につけたのは1時間後でした.大学に戻り,角膜切片をつくり,ほっとして自宅に戻ります.翌日から忙しい毎日が続きます(あれから4回経験し今は普通にできますが).当直がない日は1年目は毎日アイバンク係なので上級医と飲みに行っても実際にはお酒が飲めないのが少し不満です.(名倉章敏)初診外来5月下旬から初診外来を週3日しています.岐阜大学病院は緑内障をメインに各専門分野の外来があります.初診は1日3040人前後の患者さんが大体,紹介状を持参し来院します.来院される患者さんを各専門分野の先生に振り分ける役目が初診係です.紹介されてくる患者さんは全体的に緑内障が多いですが,斜視,ぶどう膜炎,角膜疾患,眼窩腫瘍,網膜疾患などバリエーションに富んでいます.紹介状を持参する患者さんの場合は,病名疑いがついているのでその疾患を疑って検査をオーダーすれば良いのに比べ,紹介状がなく来院される患者さんの場合は,結膜下出血など簡単な疾患もありますが,眼脂で来院した患者さんでMALTリンパ腫が見つかったり,異物感で来院したら東洋眼虫症であった患者さん,視力低下で来院され細隙灯を診るとKP多発?ぶどう膜炎と思い専門外来に振り分けると顆粒状角膜変性症だったり,と毎日失敗と勉強の連続です.自分の知識が全然追いついていないのが実状です.今日も勉強をしなければと思いながら,教科書は開けますが意思が弱いのですぐ寝てしまいます.外勤10月に入りようやく週1日外勤が始まりました.田舎の病院に行き診察しますが,大学病院ではなかなかお目にかからないcommondiseaseをたくさん診ます.そのなかにたまに大物がひそんでいることがあります.自?プロフィール?小森伸也(こもりしんや)藤田保健衛生大学卒業,藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院にて初期研修,平成20年4月より岐阜大学医学部眼科学教室前期専攻医.名倉章敏(なぐらあきとし)島根医科大学卒業,名古屋第一日赤病院にて臨床研修,平成20年4月より岐阜大学医学部眼科学教室前期専攻医.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081541(71)教授からのメッセージ「刮目して相待つべし」研修医はすべての可能性を秘めたいわばiPS細胞です.将来,大きな眼科病院の大院長先生になるかもしれないし,世界的に権威のある偉大な研究者になる可能性もあるのです.今年の新人研修医二人には眼科学に貢献できる優れた医師になることを期待しています.三国志の呉の将軍,呂蒙にこんなエピソードがあります.遊びほうけていた呂蒙が孫権(主君)から書物を読むように言われしばらくたったときのこと.先輩将軍の魯粛と議論になって論破したとき魯粛は思わず「あなたは昔のあなたではない」とつぶやく.それに対して,若い呂蒙曰く,「三日たったらヒトは変わっているのですよ」.そうなのです.ヒトは努力で進歩するのです.1カ月後には,現在より知識がある,技能がある,2カ月後には手術ができる,等々.今が勉強のときなのです.頑張ってください.私も楽しみです.岐阜大学大学院医学系研究科眼科学・教授山本哲也☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス66.乳頭前方へ発達した増殖膜を有する増殖糖尿病網膜症(上級編)

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815370910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに増殖糖尿病網膜症の線維血管性増殖膜は,後部硝子体皮質前ポケットの辺縁に沿って形成されることが多いが,硝子体の構築によっては非典型的な増殖膜の形態を呈することがある.硝子体液化が少なく活動性のきわめて高い症例では,増殖膜が視神経乳頭から前方に向かって垂直方向に発育する症例がまれに存在する.乳頭前方へ発育した増殖膜を有する増殖糖尿病網膜症筆者らは過去にこのような4症例を報告した1)が,その特徴としては,増殖膜の発育形態が視神経乳頭周囲に限局しており前方へ向かってかなりの高さをもって突出すること,全例男性で若年発症の活動性のきわめて高い症例であること,血管新生緑内障を合併していること,汎網膜光凝固術の施行にもかかわらず増殖膜の発育が速いことなどがあげられる.術前の細隙灯顕微鏡(図1)および超音波Bモード所見(図2)でも,視神経乳頭から水晶体に向かってトライアングル状に立ち上がっている増殖膜の様子が確認できた.子体手術の所見4症例とも,全象限で後部硝子体が未離で,蛋白濃度の高い硝子体ゲルが硝子体腔内に均一に充満しており,硝子体の液化所見はほとんど認めなかった.増殖膜は視神経乳頭周辺に限局し,血管アーケード周囲への広がりはほとんど認めなかった.増殖膜と網膜は面状に強固に癒着しており,双手法による増殖膜処理が必要であった.増殖膜は血管を豊富に含んでいたが,組織としてはやや白色調で比較的柔らかい印象があった.術後に全例,血管新生緑内障が増悪したため,トラベクレクトミーを施行した.眼圧コントロールは2眼で可能となったが,視力予後は概して不良であった.(67)症例の増殖膜形成のなぜ増殖膜が垂直方向に立ち上がるのかについては不明な点が多いが,後部硝子体皮質前ポケットなどの液化腔が硝子体中に存在しない場合,Cloquet管などの先天的構造物の間隙に沿って増殖膜が乳頭部より水晶体裏面まで垂直方向に発育していく可能性も考えられる.いずれにしても,このような症例では血管新生緑内障を高率に合併するので,早期に汎網膜光凝固術を施行し,網膜症の活動性を抑制する必要がある.文献1)栗原麻奈,池田恒彦,森和彦ほか:乳頭前方へ発育した増殖膜を有する増殖糖尿病網膜症の4例.眼臨93:1160-1163,1999硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載66乳頭前方へ発育した増殖膜を有する増殖糖尿病網膜症(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1細隙灯顕微鏡所見前置レンズを用いなくても水晶体後面に視神経乳頭から立ち上がった線維血管性増殖膜を認める.図2超音波Bモード検査所見視神経乳頭から前方にトライアングル状に立ち上がった線維血管性増殖膜を認める.

眼科医のための先端医療95.マウス酸素誘導網膜症の病理学的所見と臨床応用の可能性

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815330910-1810/08/\100/頁/JCLS概要網膜的ににる病でのでの病理学的の要マのとマウス酸素誘導網膜症にによマウスの網膜を誘導るでと酸素酸素ンマウスをるジをるとのでるを用のマウスをマウスととににと酸素をによの酸素±2%になるように調整します.このまま5日間維持し,生後12日目(P12)で通常の酸素下での管理を行います.病理学的所見マウスの網膜でににる理的をとるのによのに酸素導るとによの網膜で学で網膜のによのをるとでん図1a,矢印).加えて,無血管領域が傍乳頭から周辺部網膜にかけて不整に形成され,未熟児網膜症の病理に類似した網膜血管内皮細胞が退縮します.その後通常の酸素下に戻すことにより,網膜組織は相対的虚血状態に陥ります.そのため虚血網膜からVEGFが過剰に発現されます.産生分泌されたVEGFが受容体を介し,既存の網膜表層血管の内皮細胞や血管前駆細胞の分裂,増殖が起こり,血管網膜柵の脆弱な新生血管が発生し,病理学的血管新生(angiogenesis)が起こります.この血管新生は,通常P17からP21に最大に達します.あらかじめ蛍光物質を結合させた,血管内皮細胞のマーカーでもあるisolectin-B4を経静脈的にマウスに注入することにより,網膜血管造影を行うことが可能です.静注されたマウスの眼球を摘出し,網膜の平坦標本を作製することにより,血管構築を詳細に解析することができます.血管造影により,P17では乳頭周囲の無血管領域の残存,および微細不整な微小網膜血管(63)◆シリーズ第95回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊加瀬諭(南カリフォルニア大学ドヒニー眼研究所/北海道大学大学院医学研究科病態制御学専攻感覚器病学講座眼科学分野)マウス酸素誘導網膜症の病理学的所見と臨床応用の可能性115abc図1マウス酸素誘導網膜症のヘマトキシリン・エオジン染色による病理組織学的所見a:高圧酸素導入後5日目〔生後12日(P12)〕.網膜血管は閉塞しており,血管の内腔を確認することができない(矢印).b:生後17日(P17).血管内皮細胞の著明な増生が網膜表層にみられ,新生血管が形成されている.内境界膜は凹凸不整になっている.c:生後25日(P25).網膜新生血管はみられず,網膜表層には血管の内腔の確認ができる網膜血管が存在している.———————————————————————-Page21534あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008の増生,大小不同の造影剤の漏出がおもに周辺部網膜に特徴的にみられます.ヒトでいえば未熟児網膜症や糖尿病網膜症に類似した所見を呈します.病理学的には,小型の血管内皮細胞の増生よりなる網膜新生血管が著明に形成されます(図1b).網膜新生血管は,網膜内新生血管および硝子体新生血管に分類されます2)が,ここでは両者の増生がみられます.後者では,増生した血管内皮細胞が硝子体腔への進展を示し,増生集簇した内皮細胞がブドウの房のように増生し,neovasculartuftsとよばれます.内境界膜は凹凸不整になり,周囲には内皮細胞の増生に加え,リンパ球を主体とする炎症細胞浸潤も散在性にみられます.免疫組織化学的には,グリア細胞のマーカーであるglialbrillaryacidicprotein(GFAP)の発現が,進展したアストロサイトの突起に一致してみられます1).GFAPの陽性所見はneovasculartuftsの近傍に及びます.新生血管のマーカーであるCD105の発現を検討すると,新生血管に陽性になることが確認されます.P12からP17にかけてVEGFのmRNA,蛋白発現も上昇します3).加えて,種々の虚血時に発現誘導されるVEGFの転写因子hypoxiainduciblefactor(Hif)-1aの発現も誘導されます.VEGFの免疫活性は,アストロサイトの突起に一致してみられます.よって,網膜新生血管の発生病理は,虚血刺激によるアストロサイトにおけるVEGFの発現亢進が重要な役割を演じていることが想定されます.糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症における硝子体液の解析では,眼内新生血管のない硝子体液に比較しVEGFの濃度が有意に上昇することが知られており,OIRの病理学的所見はこれらの機序を説明しうるかもしれません.網膜新生血管はP17からP21に最大になりますが,その後も経過観察をした場合,P23頃から新生血管は退縮します.図1cに示すP25の病理組織像では,neo-vasculartuftsは消失し,内腔を確認できる網膜血管がみられます(図1c,矢印).ヒト虚血網膜症の進展時にみられる著明な出血や線維血管膜の形成,増殖,虹彩血管新生あるいは眼球癆はみられません.これは,OIRは真の虚血を誘導するものではなく,相対的虚血状態を作製するもので,眼内自己調節機構に伴うサイトカインの発現制御などにより,新生血管内皮細胞がアポトーシス細胞死に陥り,新生血管が退縮するものと考えられます.OIRの有用性と問題点の酸素の要でに性網膜を誘導るとでをるにの要マウスのでのでをの可能性のるるのマウスで要にマウスのにのをるとで的のにを学的理をとで加のよにの的によ網膜をにでにるをるのにののとで可能マウスでとるのウトマウストンスジマウスのマウスを用をると可能でのるマウスで可能でのよにのに有用でるとん問題点酸素マウスにとにのるでよ酸素にマウスにるマウスるとマウスのにのでのののにと臨床応用の可能性本でのの組マウスでの可能でのにるマウスとの病理学的るとによ的の病理に的に的にるとでジのを用るとによマウスにののをのの可能で網膜の病に有用と———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081535文献1)SmithLE,WesolowskiE,McLellanAetal:Oxygen-inducedretinopathyinthemouse.InvestOphthalmolVisSci35:101-111,19942)KramerovAA,SaghizadehM,PanHetal:ExpressionofproteinkinaseCK2inastroglialcellsofnormalandneo-vascularizedretina.AmJPathol168:1722-1736,20063)ChanCK,PhamLN,ZhouJetal:Dierentialexpressionofpro-andantiangiogenicfactorsinmousestrain-depen-denthypoxia-inducedretinalneovascularization.LabInvest85:721-733,20054)RitterMR,BaninE,MorenoSKetal:Myeloidprogeni-torsdierentiateintomicrogliaandpromotevascularrepairinamodelofischemicretinopathy.JClinInvest116:3266-3276,20065)ChenJ,ConnorKM,AdermanCMetal:Erythropoietindeciencydecreasesvascularstabilityinmice.JClinInvest118:526-533,2008(65)「マウス酸素誘導網膜症の病理学的所見と臨床用の可能性」を読んで網膜症病網膜症の性でにのにでのにんのとに読ん本に病網膜症で「ににをるでる」とののによ病網膜症の可能にのに的臨床のにるよによのにとをとでにとのるのでで臨床のにとのにをるのをるのでるとをでののにのにをの加瀬諭マウス酸素誘導網膜症でのスンでにるででののに臨床にるとの本でのをののにのでに理にとを文二をる加瀬のオリジるをんで本のののでのにのによ理とのの学問的をのので臨床にるのでの要性をににで学学坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ185.極小切開硝子体手術の適応

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815310910-1810/08/\100/頁/JCLSある.6,000本のイメージファイバーの23ゲージのものが使用でき,25ゲージは現時点では使用できない.20ゲージのものと比較し,画角は70°でほぼ同じであるが,20ゲージの内視鏡のイメージファイバーが10,000新しい治療と検査シリーズ(61)バックグラウンド眼科手術において低侵襲手術が求められており,25ゲージ1),23ゲージ2)の極小切開のカニューラシステムが用いられてきている.しかし従来の20ゲージシステムに比較し,器具の脆弱性や器具の種類が限られることから,適応も黄斑円孔,黄斑上膜,黄斑浮腫などの黄斑疾患に限られることが多かった.最近の器具ほかの発達で,極小切開硝子体手術の適応はどこまで広げることができるのだろうか.新しい器具・道具極小切開硝子体手術の場合は,結膜切開を行わない経結膜で行うため,眼球を圧迫し,観察することがややむずかしい.特に結膜が浅い下方の周辺観察は限られてしまう.そのこともあり従来は適応疾患が黄斑疾患に限られてきた.それを克服するため,周辺部の観察に広角観察系や内視鏡を導入することが必要になる.また,下方結膜に1カ所切開を入れることをためらわなければ,従来の20ゲージ手術とほぼ同じ状態で手術ができる.使用方法広角観察系で一番最初に使用できるようになったのはBIOM(オクルス社)3)で,その他現在使用可能な広角観察系は,OFFISS(OpticalFiberFreeIntravitrealSur-gerySystem)(トプコン社),EIBOS(メーラー社)P-W-L(Payman-Wessels-Landers)lens(オキュラー社)などがあり,前2社は上下の像を反転させるインバーターが必要であるが,後2社はインバーターの必要がない.各々若干の観察角度の違いはあるが,どの観察系もある程度の慣れは必要で,しばらくは使い続ける必要がある.内視鏡は現在ファイバーテック社のものが使用可能で185.極小切開硝子体手術の適応プレゼンテーション:北岡隆長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科・視覚科学教室コメント:小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学図1広角観察系を用いた極小切開硝子体手術赤道部を越えて硝子体基底部近くまで観察できる.図223ゲージ内視鏡鋸状縁(矢印)近くの網膜裂孔(矢尻)周囲の硝子体も内視鏡下で切除できる.———————————————————————-Page21532あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008本であるのに対して,画素数が少なく,同じ条件で像をモニターに出すと,かなり小さくなる.しかし,電気的に拡大することができ,実際の使用上は20ゲージの内視鏡とほぼ同じように,遜色なく使用できる.下方結膜の切開であるが,ほとんどの場合は広角観察系,内視鏡を使用すれば,下方結膜を切開しないでも手術遂行可能である.ただ,周辺の増殖を徹底して切除しないといけないときは,下方結膜の切開が必要になり,そのときは躊躇せずに結膜切開を併用し,強膜を圧迫する.下方に1カ所角膜輪部に垂直に切開すればほぼ下方半周は圧迫できる.強膜圧迫子は先があまり大きくないものが使いやすい.適応疾患従来極小切開硝子体手術の適応は黄斑疾患に限られてきたが,現状では裂孔原性網膜離,増殖糖尿病網膜症は十分に適応とすることができる.液体パーフルオロカーボンの使用を前提とすれば,増殖硝子体網膜症も適応として問題はないと思われる.カッターは23ゲージ,25ゲージともに20ゲージカッターより開口部が先端に近く,剪刀を用いなくとも,増殖組織の切除ができる.ただし,器具が限られることから,双手法を行わないといけない場面は多く,広角観察系の使用が望ましいことを考えても,フォトンやブライトスターのような高輝度の光源が必要である(表1).以上のように極小切開硝子体手術では,ほぼ20ゲージと同様の疾患を適応とすることができるようになってきている.1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuture-lessvitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1813,20022)EckardtC:Transconjunctivalsutureless23-gaugevitrec-tomy.Retina25:208-211,20053)SpitznasM,ReinerJ:Astereoscopicdiagonalinverter(SDI)forwide-anglevitreoussurgery.GraefesArchClinExpOphthalmol225:9-12,1987(62)20ゲージから最初に移行するには23ゲージのほうが容易であると考えられる.しかし,私はほとんどの症例を25ゲージで行っており,創口はやはり小さいほうが術後はきれいである.極小切開硝子体手術の唯一の欠点は,術後眼内炎の発症頻度が20ゲージと比較すると高いことである.現在,その原因究明や対策が研究されているが,この問題が早期に解決されることが本術式のさらなる普及には必須であろう.本稿で述べられているように,最近,極小切開硝子体手術の適応は飛躍的に拡大しており,眼内異物などの特殊症例を除けば,ほとんどすべての硝子体手術をこの手技で行うことができるようになっている.しかし,そのためには広角観察システムやキセノンシャンデリア照明などの装置を整えることが重要であり,手術手技も剛性が弱く,細い25ゲージや23ゲージの器具で行えるよう工夫が必要である.25ゲージと23ゲージとの選択は現時点では術者の好みによるが,本方法に対するコメント☆☆☆表1極小切開硝子体手術に併用が望ましい器具広角観察系インバーター要インバーター不要BIOM,OFFISSEIBOS,P-W-Llens内視鏡23ゲージ高輝度照明フォトン,フォトンII,ブライトスターなど

サプリメントサイエンス:オメガ-3多価不飽和脂肪酸

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815270910-1810/08/\100/頁/JCLS現在米国において進行中のAge-RelatedEyeDis-easeStudy(AREDS)2では,ルテインとともにw(オメガ)-3多価不飽和脂肪酸(polyunsaturatedfattyacid:PUFA)であるエイコサペンタエン酸(eicosapen-taenoicacid:EPA)/ドコサヘキサエン酸(docosahex-saenoicacid:DHA)の加齢黄斑変性(age-relatedmac-ulardegeneration:AMD)進行に対する影響が検討されている.PUFAとは炭素結合間に複数の二重結合を有する脂肪酸の総称であり,メチル基側から数えて3番目の炭素間結合に最初に二重結合が存在するものをw-3PUFA(図1),6番目に存在するものをw-6PUFAとよぶ.いずれも体内では合成されない必須脂肪酸であるため,食事などによって摂取する必要がある.魚由来のw-3PUFAであるEPA/DHAの摂取は,1975年にグリーンランドイヌイットの疫学調査において動脈硬化のリスクを低下することが報告されて以来1),現在まで種々の疾患においてその有用性が指摘されている.EPA/DHAによる高脂血症および心血管疾患の予防効果は,種々の臨床試験によって証明されている.高脂血症への効果についてはEPA/DHAの2~4g/日の摂取により血中トリグリセリド値が容量依存的に25~40%低下するとの報告があり2),w-3PUFAの一つであるEPAはその高純度製剤が抗高脂血症剤(エパデールR)として臨床的に用いられている.また,心臓発作の既往歴のある患者がEPA/DHAを摂取することにより死亡リスクが低下するとの報告もある3).w-3PUFAは,どのように高脂血症,虚血性心疾患などのリスクを低下させるのだろうか.その作用機序は以下のように考えられている.w-3およびw-6PUFAはともにエイコサノイド〔プロスタグランジン(PG),ロイコトリエン(LT),トロンボキサン(TX)〕の前駆体であるが,w-6PUFAはアラキドン酸を経て,生理活性(血管収縮作用,血小板凝集作用,炎症惹起作用)の強いPGE2,PGI2,TXA2,やLTA4などの代謝産物を生成するのに対して,w-3PUFAは弱い生理活性しかもたないPGE3,PGI3,TXA3,LTA5などに代謝される(図2).この際,w-3およびw-6は体内の代謝経路において律速段階酵素を共有するため,w-3PUFAの摂取は相対的にw-6系列からのエイコサノイドの合成を阻害することになる4).つまり,その代謝産物による生理活性も相対的に低下することが,種々の抗炎症作用につながるとされている.EPA/DHAは魚由来の脂肪に多く存在し,イワシやアジなどの青魚,サケやマグロなどに非常に多く含まれ(57)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑥監修=坪田一男6.オメガ3多価不飽和脂肪酸厚東隆志野田航介慶應義塾大学医学部眼科w(オメガ)-3多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸/ドコサヘキサエン酸(EPA/DHA)には抗炎症作用があり,その摂取は高脂血症,虚血性心疾患などに対する予防効果がある.眼科領域においても以前より加齢黄斑変性(AMD)発症との関係が示唆されており,現在AREDS2においてEPA/DHA投与によるAMD抑制効果を検討する大規模調査が行われている.図1w3PUFAの構造式w-3PUFA:メチル基(*)側から③番目の炭素間結合に最初に二重結合が存在するPUFA.↓②→↑③↑③①↓②→**エイコサペンタエン酸(Eicosapentaenoicacid:EPA)H3CH3COHOHOOドコサヘキサエン酸(Docosahexaenoicacid:DHA)———————————————————————-Page21528あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008る(表1).厚生労働省によりまとめられた「2005年版日本人の食事摂取基準」において,w-3PUFAの摂取目標量は2.2~2.9g/日とされている.日本人の摂取するw-3PUFAのうち植物由来のa-リノレン酸が約60%,魚由来のEPA/DHAが約40%であり,EPA/DHAとしては1~1.2g/日以上の摂取が望ましいと考えられる.しかし,その一方で4g/日以上の摂取は出血時間を延長し,血小板数の減少をきたすため注意を要する5).また,w-3PUFAを魚油サプリメントで摂取する場合など,EPA/DHAの含有量が製品により大きく異なってくるため,摂取量はEPA/DHAの含有量に基づいて決定するべきである.近年,わが国において高純度EPA製剤の虚血性心疾患に対する発症抑制効果を検討したランダム化比較対照臨床試験が施行された(JapanEPALipidInterventionStudy:JELIS).高脂血症患者を対象にHMG-CoA還元酵素阻害薬治療をベースとして1.8g/日のEPA投与の有無を比較したところ,EPAの投与は主要冠動脈イベント発症リスクを19%軽減したとする報告である6).元来魚食の多いわが国においても,w-3PUFAの投与が有用であることを示す意味でも意義深い研究である.AMDとw-3PUFAの摂取の関連については,w-3PUFAを豊富に含む魚の摂食がAMDのリスクを低下させるとの報告も多くあるが,大規模なランダム化試験の結果は前述のAREDS2の結果を待たねばならない.筆者らの研究グループは,マウス実験的脈絡膜血管新生モデルにおいてEPAの経口投与が脈絡膜血管新生を抑制することを報告し(図3)7),そのメカニズムとしてEPA投与がアラキドン酸を減少させ炎症関連分子を抑制することを解明したが,これはAREDS2の生物学的(58)根拠となりうる知見である.EPA/DHAに代表されるw-3PUFAの摂取は,高脂血症の治療や心血管病変の予防に役立つことがすでに明らかとなっている.今後の医療が疾患に対してより早期に介入していく方向へと進むなか,w-3PUFAの豊富な魚を積極的に摂取するというライフスタイルを患者に勧めていくことは,さまざまな疾患を未然に防ぐ予防医学的アプローチにつながるであろう.w-3PUFAによるAMDの進行抑制効果が示されるか否か,初の大規模ランダム化試験であるAREDS2の結果に大きな期待が集まる.表1食物中のEPA/DHA含有量食品EPADHAイワシ(生)サンマ(生)サバ(生)アジ(干物)ウナギ(蒲焼き)本マグロ(トロ)1.200.890.500.560.751.401.301.700.701.301.303.20(g/100g)w-3PUFAの代謝経路w-6PUFAの代謝経路PGE3,PGI3,TXA3,LTA5など弱い生理活性ドコサヘキサエン酸(DHA)エイコサペンタエン酸(EPA)PGE2,PGI2,TXA2,LTA4などアラキドン酸強力な生理活性リノール酸6-desaturaseΔ親和性大親和性小図2w3/w6PUFAの代謝経路図3EPAによる脈絡膜新生血管の抑制(マウスレーザー誘導脈絡膜新生血管モデル)(×10-13m3)76543210EPA(w-3PUFA)*p<0.001リノール酸(w-6PUFA)EPA(w-3PUFA)リノール酸(w-6PUFA)bar=100?m———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081529(59)文献1)DyerbergJ,BangHO,HjorneN:FattyacidcompositionoftheplasmalipidsinGreenlandEskimos.AmJClinNutr28:958-966,19752)MontoriVM,FarmerA,WollanPCetal:Fishoilsupple-mentationintype2diabetes:aquantitativesystematicreview.DiabetesCare23:1407-1415,20003)Kris-EthertonPM,HarrisWS,AppelLJ:Fishconsump-tion,shoil,omega-3fattyacids,andcardiovasculardis-ease.ArteriosclerThrombVascBiol23:e20-30,20034)RodriguezA,SardaP,NessmannCetal:Delta6-anddelta5-desaturaseactivitiesinthehumanfetalliver:kineticaspects.JLipidRes39:1825-1832,19985)SimopoulosAP:Essentialfattyacidsinhealthandchron-icdisease.AmJClinNutr70:560S-569S,19996)YokoyamaM,OrigasaH,MatsuzakiMetal:Eectsofeicosapentaenoicacidonmajorcoronaryeventsinhyperc-holesterolaemicpatients(JELIS):arandomisedopen-label,blindedendpointanalysis.Lancet369:1090-1098,20077)KotoT,NagaiN,MochimaruHetal:Eicosapentaenoicacidisanti-inammatoryinpreventingchoroidalneovas-cularizationinmice.InvestOphthalmolVisSci48:4328-4334,2007☆☆☆