———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,200814090910-1810/08/\100/頁/JCLSこの本の著者であるメレディス(MeredithAverill)には,2007年の11月にアメリカのカロリーリストリクション・ソサエティー(CRソサエティー)で初めて会った.夜の着席パーティーで何も食事をせずに,にこやかに会話に参加していたのが印象的であった.まずはCRから解説しないとわからないと思うので,そこから始めたい.現在,エイジング研究の最も確固たるエビデンスは,カロリーリストリクション(CR)であり,CRにより,ほとんどすべての動物で寿命の延長がみられることが報告されている.その分子メカニズムもだいぶ解明されてきている.現在,僕たちヒトでも同様に寿命の延長がおきるかどうか実際に研究されていて,みんな注目しているところだ.その研究対象となるCRを実践している人たちのグループがアメリカにあると聞いて,大変興味をもった.噂を聞くと,このCRをやっている人たちは,すごくやせていて,元気がないという.「CRをやっていると寒いし,おいしいものは食べられないし,もう本当はやめたいんだけど,もうここまでやってきてしまったし,こうなったら長生きをして元をとるしかない」なんていうことを言っているという.そんなつまらない人生だったらCRをやる意味がない.いくらアンチエイジング医学で長生きしても,寒くて辛くておもしろくない人生なんて意味がない.本末転倒である.でも,やっぱりCRって興味があるなあ.そうだ,アメリカに行ったときに実際にCRソサエティーの人に会ってみよう!と思いたった.ちょうどアメリカで開催される学会の後にCRソサエティーのパーティーがあったので,早速そのパーティーを訪ねた.まず,いちばん興味があったのは“CRをやっていて幸せかどうか?”ということ.この質問には,僕がインタビューしたすべての人が「私は幸せよ.これほど幸せなことはない」と言っていた.みんな元気で,明るく,おしゃべりなのもおもしろかった.プレジデントのメレディスは,夕食中,いつも持ち歩いている自分のレモン水の入ったペットボトルだけでテーブルについている.みんなが食べているのにちょっと異様ではある.「何も食べないで辛くありませんか?」と聞いたら,「ぜんぜん大丈夫.私は今日の割り当ての1,600キロカロリーを朝とお昼で食べたからもういいの.だってパーティーって食べるのが目的じゃなくて,みんなと楽しく話しをすることが大切でしょ.もう慣れてしまったわ」と平然としている.僕は,お皿に何もないメレディスの前のテーブルを見ながら,CRはすごいと思った.当然ではあるが,すべての人が自分の身体,職業から,摂取すべき必要なカロリーを知っており,それをもとに80%,70%と決めて食事のカロリーを計算している.一番低い人で1,400キロカロリー,高い人で2,000キロカロリー.みんな食べていないのに幸せだという.「だってあたりまえでしょう.食事は食べ物がおいしいからおいしく感じるだけじゃないのよ.体調がよくて,健康なら,CRやっていても最高においしく感じられるの」ということらしい.そして,みんなひどくやせているわけじゃない.日本人の感覚だったら,まあ普通という感じである.つまりCRとは“栄養を真剣に考える”こと,なのである.CRの実践はまず自分の食事パターンの認識から始まる.蛋白質,脂質,炭水化物などの栄養素(overallnutrients)に加えて,ビタミンと微量ミネラルについても自分たちの食事のパターンでどれだけ摂取できている(81)■10月の推薦図書■theCRwayPaulMcGlothin,MeredithAverill著(Collins社)シリーズ─85◆坪田一男慶應義塾大学医学部眼科———————————————————————-Page21410あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008のかをしっかりと把握する.そのうえで,1日の必要量を摂取するための食事メニューを考えたり,サプリメントで補給したりする.このようにして1,800キロカロリー以下でもちゃんと必要なものをとっていくことができる.いろいろと話しをしてみて,CRソサエティーの人はとても勉強しているし,しっかりしていると思った.「CRとは単にカロリーを減らすことじゃないのよ.自分たちがどんな食べ物を食べているのか,きちんと検証して,いいもの,必要なものを食べていくんだ.一男は今,自分が1日に何キロカロリーを摂っているか知っているかい?不足しているアミノ酸はない?お肉を食べないっていうけど,ビタミンB12は不足していない?」なとど逆に聞かれてしまうはめに.たしかにCRをやるということは,食べものをきっちりと考えることだ.CRソサエティーの合言葉はこうだ.Calorierestrictionwithoptimalnutrition!(最適な栄養を考えたカロリーリストリクション!).日本には昔から“腹八分”という素晴らしい考え方がある.欧米人に比べたら,食べる量は少ない傾向だ.そういった意味では,全国民が軽いCRをしているとも考えられる.もちろん最近はメタボリックシンドロームに代表されるように肥満が増えていることも問題だが,アメリカと比較したらまだまだ低カロリーの国ではある.もし腹八分ですでに2割のCRをしているとしたら,あと10%だけCRをすれば,楽しくアンチエイジングを実践することになるのではないか?これが今,日本における健全なCRソサエティーの方向性ではないかと個人的には考えている.無理して2530%のCRをすることはない.軽いCRをしたり,あるいはプチ断食を勉強してたまに取り入れてみたり,何よりOptimalNutri-tionを考えきっちりとコントロールしていくことはアンチエイジングにとって核ともいえる重要なポイントと考える.日本でも今年9月にCRソサエティーがスタートしたので,興味のある人はぜひ入会していっしょにやってみましょう.そんなCRソサエティーのことを詳しく解説した本が,この『theCRway』である.まだ日本語版が出ていないので英語での挑戦になってしまうけれど,平易な英語で書かれており,CRを理解するには最適の本だ.また10月には新潮社から“長寿遺伝子を鍛える(坪田一男著)”という本が出版される.もし日本語でも読みたい先生がいらしたら,こちらをぜひどうぞ.2冊いっしょに読めばさらに理解が深まること間違いなしです.日本でのカロリーリストリクションの研究会「カロリスジャパン」がスタートしました.詳細は,http://www.crs-j.jp/をご覧ください.(82)☆☆☆