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眼感染アレルギー:マルチパーパスソリューション(MPS)アレルギー

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815250910-1810/08/\100/頁/JCLSマルチパーパスソリューション(MPS;多目的用剤)アレルギーは,MPSの使用開始から数カ月経過した後に発症する角結膜炎である.遅延型過敏反応(Ⅳ型アレルギー)による免疫学的な発生機序が推測されているが,いまだ明確なメカニズムは解明されていない1).MPSは,ソフトコンタクトレンズ(SCL)の消毒・洗浄を目的として使用されるもので,通常,生体に対する影響はほとんど問題とならない.そのため,MPSを洗い流すことはなく,レンズにMPSが付着した状態で装用する.しかしながら,長期間,くり返し使用された場合にはMPSの含有成分による遅延型反応が発生すると考えられる.MPSアレルギーの診断MPSは主成分である消毒成分のほかに界面活性剤,防腐剤,緩衝剤,潤滑剤などさまざまな化学物質が配合されており,これらのすべての化学物質に対してアレルギー反応が起こりうる2,3).MPSアレルギーの自覚症状は,軽度の場合には違和感,乾燥感,充血であるが,疼痛や流涙などを訴えることもある.他覚的には角膜全体の広い範囲に点状表層角膜症を認め,角結膜輪部には小さな浸潤病巣が1から数個みられる(図1).結膜充血も角結膜輪部を中心にみられ,毛様充血を伴っていることが多い.MPSアレルギーの診断はMPSの使用中止により角結膜障害が治癒し,再度同じMPSを使用することで同様の症状,所見が再現されることから推測される.確定診断のためには原因と考えられる化学物質のアレルギー検査が必要となる.しかしながら,パッチテストやスクラッチテストなどのⅣ型アレルギー検査を行っても皮膚と結膜の薬剤浸透性の違いなどから偽陰性となることがある.このような場合には原因(アレルゲン)を究明することはむずかしい4,5).MPSアレルギーの鑑別疾患MPSアレルギーと鑑別を要する疾患を表1に示す.微生物による感染性角膜炎との鑑別では,MPSアレル(55)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑪監修=木下茂大橋裕一11.マルチパーパスソリューション(MPS)アレルギー柳井亮二西田輝夫山口大学大学院医学系研究科眼科学マルチパーパスソリューション(MPS;多目的用剤)アレルギーはMPSの使用開始から数カ月経過した後に発症する遅延型過敏反応(Ⅳ型アレルギー)による角結膜炎である.感染やアレルギーとの鑑別が重要で,安全性が高いと考えられているMPSにおいても,生体に対する影響は皆無ではなく,角結膜に障害が発生する可能性がある.図1角膜全体にみられた点状表層角膜症MPSの使用後3カ月.レンズケアをヨード製剤に変更してから点状表層角膜症の再発はみられない.表1MPSアレルギーの鑑別鑑別疾患鑑別に重要な症状と所見感染細菌性感染:粘性眼脂,角膜潰瘍ウイルス性感染:眼瞼結膜の濾胞形成,耳前リンパ節腫脹,感冒様症状ドライアイスマイルマークSPKフィッティング不良周辺部角膜のSPK・びらん(10時,2時)アレルギー性結膜炎痒感,眼瞼結膜の充血・浮腫,球結膜浮腫巨大乳頭結膜炎眼瞼結膜の巨大乳頭,レンズの汚れMPSとSCLとの相性CL装用後24時間でのSPKSPK:点状表層角膜症.———————————————————————-Page21526あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008ギーは粘性眼脂を呈することはなく,ウイルス性感染でみられる濾胞形成や耳前リンパ節腫脹や感冒様症状なども呈さないなどの所見が重要である6).確定診断のためには感染の疑われる症例では病巣,レンズおよびレンズケースなどの鏡検,培養検査を行う.ドライアイによる角膜炎では,角膜下方に円弧状の点状表層角膜症がみられることが特徴で,病巣は瞼裂に一致する.フィッティング不良の場合にはレンズが接触する角膜中間周辺部に点状表層角膜症がみられたり,10時あるいは2時に角膜びらんがみられたりする.アレルギー性結膜炎では痒感の訴えがあり,眼瞼結膜の充血,炎症が強く,眼瞼や球結膜の浮腫もみられる.巨大乳頭結膜炎との鑑別では,眼瞼結膜の乳頭増殖,ケア不十分によるレンズ汚れなどの所見が重要となる.その他のMPSによる角膜上皮障害では,特定のSCLと特定のMPSとの相性によって生じるものがある7).この角膜上皮障害はSCL装用後24時間で発生し,6時間以降に消失する.海外の報告では,角膜浸潤の危険性が高くなることも報告されているが,自覚症状はない場合が多く,定期検査で発見される.原因はMPSに含まれる化学物質の相互作用が特定のSCLの場合に増強するものと推測されている8,9).MPSアレルギーの治療MPSアレルギーが疑われる症例には,まず,障害の程度に応じて,SCLの装用を中止し,薬物治療はアレルギー薬,ステロイド薬,抗菌薬の点眼を開始する.SCLの再開にあたっては,1日タイプの使い捨てレンズを選択し,MPSを使用しないほうが好ましい.頻回交換型レンズを使用する際には,異なるMPS製剤を選択しても,同じ消毒成分や洗浄成分を使用していることがあるため,可能であれば過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤などを使用することが大切である.ただし,過酸化水素用剤では誤使用,ポビドンヨード製剤の使用にあ(56)たってはヨードアレルギーに注意が必要である.おわりに一般的には安全性が高いと考えられているMPSにおいても,生体に対する影響は皆無ではなく,MPSアレルギーなどにより角膜上皮障害を生じることがある.角膜上皮バリアが破綻した状態では,感染性角膜炎の危険性が高くなる.SCL消毒剤としてMPSが開発され,レンズケアが簡便になったことは,レンズケアに対するコンプライアンスの面で大きく貢献した.このことは,CLによる眼合併症の発生を予防するうえで大切なことである.一方,簡便なレンズケア操作と引き換えに微生物を消毒する効果のある化学物質を眼表面に直接接触させていることも事実であり,MPSによる障害の発生にも注意しなければならない.文献1)植田喜一:塩化ポリドロニウム(POLYQUADR)による角結膜障害が疑われた1例.眼科42:1833-1837,20002)丸山邦夫,横井則彦:マルチパーパスソリューション(MPS)による前眼部障害.あたらしい眼科18:1283-1284,20013)白石敦:マルチパーパスソリューション(MPS)の現況および問題点.日本の眼科79:17-22,20084)植田喜一:コンタクトレンズによる眼障害─MPSによる障害─.あたらしい眼科20:221-222,20035)柳井亮二:MPSアレルギーが認められたケース.日コレ誌47:290-292,20056)柳井亮二,西田輝夫:コンタクトレンズのケア用品による角膜傷害.臨眼61:706-710,20077)水谷由起夫:レンズケアとアレルギー.日コレ誌46:102-103,20048)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.EyeContactLens31:166-174,20059)PapasEB,CarntN,WillcoxMDetal:Complicationsasso-ciatedwithcareproductuseduringsiliconedailywearofhydrogelcontactlens.EyeContactLens33:392-393,2007☆☆☆

緑内障:トラベクレクトミー・トリプル術後のCapsular block syndrome

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815230910-1810/08/\100/頁/JCLSCとは白内障手術後のcapsularblocksyndrome(CBS)は,continuouscurvilinearcapsulorhexis(CCC)の開口部が眼内レンズ(IOL)の光学部前面で閉鎖されることにより発生する非常にまれな疾患である1).物理的に閉鎖された水晶体内には液体成分の貯留があり(図1),多くの場合,IOL後面と後との距離が大きく乖離している所見が観察される.術後のCBSは,術直後から2週以内に発生しうる早期CBSと,数年を経過した後に発生しうる後期CBSに分類されるが,早期のCBSは浅前房化を招き眼圧上昇をきたす可能性のあることが知られている2).治療はYAGレーザーによる後切開が第一選択とされており,切後は速やかに前房深度の回復が得られる.ラベクレクトミー・トリプル手術とCBS近年の小切開白内障手術手技の向上とともに,トラベクレクトミーを行う際にも積極的に白内障手術が併用されるようになった.トリプル手術の件数が増えれば,当然のことながら術後早期のCBSに出会う頻度も増えることになる.YAGレーザー後切開を行ってしまえば予後良好とはいうものの,一番の問題はトラベクレクトミーを行った直後だということである.いわば医原性に眼球破裂をわざと作り上げているといっても過言ではな(53)●連載101緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄101.トラベクレクトミー・トリプル術後のCapsularblocksyndrome木内貴博筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻眼科学Capsularblocksyndromeは,近代的白内障手術に特有で,まれな合併症であるが,トラベクレクトミー・トリプル手術を行う機会が増している現状を考えると,緑内障術者としても当然起こりうるものとして心構えをしておかねばならない.その際の処置を安全に行うためにも,強膜弁はtightに縫合しておく原則を忘れないようにしたい.図1白内障術後早期のcapsularblocksyndromeのイメージ眼内レンズ(IOL)前面と前は全周にわたり接触し,閉鎖された水晶体内は液体成分の貯留により大きく膨らむ.(文献1より改変)図2後切開前後の前眼部写真a:術後3時間の前眼部所見.眼内レンズ(IOL)と後との距離は大きく乖離している.この後にYAGレーザーによる後切開術を行った.b:後切開翌日の前眼部所見.IOLと後はほぼ接触している.黒矢頭:IOL前面,白矢頭:後.ab———————————————————————-Page21524あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008い状態であり,切用のコンタクトレンズを術眼に当て,眼球を圧迫することなくレーザー照射することはきわめて困難である.コンタクトレンズを使用せずに切することも可能であるが,安全性を考えるとこれもやめたほうがよい.そんななか,トラベクレクトミー・トリプル手術後早期のCBSに遭遇する機会を得た.トラベクレクトミー・トリプル手術後早期CBSの自験例症例は78歳,女性.左眼に開放隅角緑内障と白内障があり,眼圧コントロールが不良であったため,トラベクレクトミー・トリプル手術を施行した.術当日(術後3時間)に診察を行ったところ,IOL前面が虹彩後面と完全に接触しているのが観察され,CCCが施された前はIOLの光学部によってこれでもかと押しつけられている様子がうかがえた(図2a).前房深度もやや浅い状況であった(図3a).「過剰濾過!」と思いつつ眼圧を測定すると15mmHgもある.そこで悪性緑内障を疑い,IOL後面をよく観察してみたが,硝子体線維がまったく見当たらない.細隙光のフォーカスを相当後方にしたときに,ようやく後がみえた(図2a).手術当日にすでに発症していたCBSであった.幸い強膜弁を6糸縫合(54)してあったので,YAGレーザーで注意深く後切開を行った.切後は速やかにIOL後面と後が接触し(図2b),前房も深くなった(図3b).マイトマイシンCを併用したトラベクレクトミーの場合,強膜弁を多糸縫合して術後の過剰濾過を防止し,lasersuturelysisにより段階的に眼圧を調整する方法がすすめられている.今回の場合もその原則を守ったお蔭でレーザー用レンズを術眼に装着することに躊躇することはなかった.トラベクレクトミー・トリプル手術の場合,ある程度過剰濾過にしても前房消失に至ることが少ないため,ともするとやや漏らし気味で手術を終えてしまうことがある.しかし,まれではあるが,術後極早期にYAGレーザーを適応しなければならない可能性のあることも視野に入れて,原則を忠実に守ることの重要性を再認識しておきたいものである.文献1)MiyakeK,OtaI,IchihashiSetal:Newclassicationofcapsularblocksyndrome.JCataractRefractSurg24:1230-1234,19982)HoJD,LeeJS,ChenHCetal:Earlypostoperativecapsu-larblocksyndrome.ChangGungMedJ26:745-753,2003☆☆☆図3前眼部3次元光干渉断層計(CAS-OCT)の所見a:術後3時間のCAS-OCT所見.角膜後面と眼内レンズ(IOL)前面との距離は2.75mmである.b:後切開翌日のCAS-OCT所見.角膜後面からIOL前面までの距離は3.78mmとなり,前房深度が増している.2.75mm3.78mmab

屈折矯正手術:屈折矯正手術後の眼圧評価

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815210910-1810/08/\100/頁/JCLS眼圧の評価にはこれまでGoldmann圧平眼圧計(GAT)が用いられている.しかし,GATの測定値は角膜厚の影響を受けることが報告1)されている.一方,パスカルダイナミックカンタートノメーター(DCT:PASCALR,ZeimerOphthalmicSystems)(図1)は屈折矯正手術で角膜を削ることにより角膜厚が減少する場合でも,正確な眼圧が測定できるとも報告されている2).その理由としてDCTでは,角膜カーブに合わせた凹型の7mmのセンサーチップにより圧平時の角膜の歪み・変形を最小限にしている.また,チップ周辺部と角膜の隙間が小さいため,表面張力はより大きく働く.結果として眼球剛性と表面張力が打ち消しあうと圧平する力と眼圧により生じる力が釣り合う.この状態をカンターマッチングとよんでおり,センサーチップに埋め込まれた1.2mmのプレッシャーセンサーが実際の正確な眼圧を測定できる.これまで,筆者らは正常眼のGoldmann視野計測とDCTの眼圧を比較し,正常眼では,GATとDCTは有意の相関(p<0.001)があり,GATと角膜厚も有意の相関(p=0.0167),DCTと角膜厚は有意の傾向(p=0.0647),GAT:14.0±2.1mmHg,DCT:15.8±2.4mmHgとDCTのほうが,1.8mmHg高いことを報告した(渥美一成ほか:屈折矯正術後の眼圧測定.第61回日本臨床眼科学会,2007).一方,LASIK(laserinsitukeratomileusis)眼の眼圧はGAT:12.6±2.2mmHg,DCT:14.9±2.1mmHgと有意(p<0.0001)に相関し,DCTが2.3mmHg高かった.LASIK眼のGATと角膜厚は有意な正の相関(p=0.0049)を示したが,DCTは角膜厚と相関せず(p=0.3794),正常眼と似た結果であった(表1).PRK(photorefractivekeratectomy)眼の眼圧はGAT:13.3±2.4mmHg,DCT:15.1±2.2mmHgと有意に相関(p<0.0001)し,DCTが1.8mmHg高か(51)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載102監修=木下茂大橋裕一坪田一男102.屈折矯正手術後の眼圧評価渥美一成セントラルアイクリニック屈折矯正手術後は角膜厚が薄くなりGoldmann眼圧計による眼圧の値が1mmHg低下する.パスカルの眼圧計では,LASIKでは0.4mmHgの低下,PRK(photorefractivekeratectomy)では0.5mmHgの低下で,角膜厚の影響を受けなかった.表1正常眼,LASIK眼,PRK眼の眼圧と角膜厚GAT(mmHg)DCT(mmHg)眼圧差(mmHg)GATと角膜厚の相関DCTと角膜厚の相関術前後のGAT差術前後のDCT差正常眼14.0±2.115.8±2.41.8正の相関p=0.0167なしp=0.0647LASIK眼12.6±2.214.9±2.12.3正の相関p=0.0049なしp=0.37941.10.3PRK眼13.3±2.415.1±2.21.8なしp=0.3383正の相関p=0.01100.80.4図1パスカルダイナミックカンタートノメーター左:全体像,右:センサーチップ.———————————————————————-Page21522あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008った.GATと角膜厚は相関がなく(p=0.3388),逆にDCTと角膜厚で有意の正の相関(p=0.0110)を認めた.これはLASIK眼や正常眼とは異なる性質である.この原因に関してはPRKの場合,LASIKより削る量が多く脈波の信頼度が低いことも関係しているかもしれない.屈折矯正手術前後のGATの眼圧はLASIK眼が術前13.7±2.0mmHg,術後12.6±2.1mmHgと1.1mmHg低下するが,DCTでは術前15.4±2.5mmHgが,術後15.0±2.0mmHgと0.4mmHgしか低下せず,角膜厚の変化に左右されなかった(図2).PRK眼もGATの眼圧が術前14.3±1.3mmHgが,術後13.5±2.2mmHgと0.9mmHg低下するのに対して,DCTは術前15.8±2.0mmHgが,術後15.4±2.3mmHgと0.4mmHgの低下とLASIKと同様に眼圧の影響が少なかった(図3).PRKは切除量がLASIKより有意に多いため,信頼度がLASIKより低く,LASIKよりバラツキが大きい傾向にあった.LASIK,PRKの切除量と,眼圧変動はGAT,DCTとも相関を認めなかった.屈折矯正手術後は角膜厚が薄くなることより,術後の眼圧変化の信頼度が低下すると考えられている.特に緑内障眼の眼圧コントロールがより困難になるため,現時点では,吸引による視野の悪化から禁忌とされているLASIKだけでなく,PRKもGATによる術後眼圧測定の信頼性から躊躇されている.しかし,今回の結果は屈折矯正手術後のGATの眼圧の低下は切除量が150μm以下であれば,眼圧の低下は平均1mmHg程度であり,LASIK眼0.4mmHgの低下,PRK眼であれば0.5mmHgの低下に過ぎず,吸引の不用なPRK眼の場合,術前,術後にGAT,DCTともに測定されていれば,屈折矯正手術後の正確な眼圧経過観察は可能と考えられた.文献1)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:ComparisonofdynamiccontourtonometrywithGoldmannapplanationtonometry.InvestOphthalmolVisSci45:3118-3121,20042)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:Intraocularpres-suremeasurementsusingdynamiccontourtonometryafterlaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci44:3790-3794,2003(52)☆☆☆01020眼圧(mmHg)GATDCT術前13.715.4術後12.615.1図2LASIK術前後の眼圧眼圧術前術後図3PRK術前後の眼圧

眼内レンズ:Zinn小帯の脆弱度分類

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815190910-1810/08/\100/頁/JCLSZinn小帯が弱い症例の白内障手術では,超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsicationandaspiration:PEA)で行うか,あるいは内摘出術(ICCE)や外摘出術(ECCE)を選択すべきかその判断に迷うことが多い.外来での診察時から脱臼,振盪がみられる重度の脆弱例では手術の方針は立てやすいものの,高年齢で硬い核,水晶体偽落屑症候群,レーザー虹彩切開術後などいわゆる脆弱が疑われる場合では術前に実際の弱さを判定するのは困難である.核の溝掘りや分割などの手術操作で脆弱度が増してPEAからICCEへの術式変更を余儀なくされることも少なくない.手術開始時の可能なかぎり早い段階で脆弱の程度を判定できれば,その後の対処法を講じやすく,より安全な手術が可能になる.連続円形切(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)開始時の水晶体に負荷をかけたときの所見がZinn小帯(49)谷口重雄昭和大学藤が丘病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎267.Zinn小帯の脆弱度分類Zinn小帯が弱い症例の白内障手術では,超音波水晶体乳化吸引術で行うか,あるいは内摘出術(ICCE)や外摘出術(ECCE)を選択すべきか判断に迷うことが多い.連続円形切(CCC)開始時の水晶体に負荷をかけたときの所見がZinn小帯強度を反映すると考え,Zinn小帯の脆弱度を分類した.脆弱度分類は補助器具や術式の選択,眼内レンズ固定法の予測に有用と考えられた.図1ZW0度水晶体の動揺と前の皺襞はない.図2ZW1度前の皺襞を認める.図3ZW3度水晶体が揺れて前を穿刺できない.図4ZW4度水晶体亜脱臼を認める.表1Zinn小帯脆弱度の分類(ZW分類)(谷口,2008)分類所見0度開始時:水晶体の動揺はない.前の皺襞はない.1度開始時:動揺はないかわずかに認める.皺襞を認める.2度開始時:動揺を認めるもBSS(balancedsaltsolution)または粘弾性物質のもとで裂ける.引き裂き時:赤道部に向かう深い前の皺襞を認める.3度開始時:動揺が強くBSSまたは粘弾性物質のもとでは裂けない.高粘度粘弾性物質を用いれば裂ける.細い針,メス(Vランスなど)による穿刺を必要とする.引き裂き時:高粘度粘弾性物質,鑷子を必要とする.4度2度または3度に加えて水晶体振盪,水晶体脱臼を認める.注:1)CCC開始時で針先を前に押しながら引く際の水晶体動揺と前皺襞,穿刺後の引き裂きで赤道部に向かう前皺襞を観察する.2)0~2度にZinn小帯断裂を伴うときにはこれを付記する.———————————————————————-Page2強度を反映すると考え,これをもとにZinn小帯の脆弱度を分類した1)(ZonularWeakness:ZW分類,表1,図1~4).当科でPEAを行った1,045眼の内訳では,ZW0度は22%,1度は70%,2度は6%,3度と4度は各々1%であった.0度と1度ではZinn小帯はほぼ健常と考えられる群で,956眼中953眼ではPEA単独で手術を終えた.2度以上は明らかにZinn小帯が弱いと考えられる群であり,CCC後に水晶体を支える補助器具として水晶体フック(capsuleexpander:CE)2~4)を装着してから核乳化を行った.CEを用いてPEAを施行した割合は,2度では15%,3度,4度はともに100%であった.全例ともECCEやICCEにコンバートすることなくPEAを施行できた.ZW分類0度と1度では問題なくPEAができる群,2度以上ではCE使用によるPEAあるいはECCE,ICCEの術式選択を必要とする群と考えられた(表2).CCC時の水晶体動揺と前皺襞を指標としたZW分類は加齢によるZinn小帯の脆弱性をある程度反映し,補助器具や術式の選択,眼内レンズ固定法の予測に有用と考えられた.文献1)谷口重雄,田口央子,西村栄一ほか:前切開時の水晶体動揺を指標にしたZinn小帯脆弱度分類の試み.臨眼62:879-883,20082)谷口重雄:手術器具/カプセルエキスパンダー.IOL&RS18:82-83,20043)小沢忠彦,谷口重雄:カプセルエキスパンダーを用いたZinn小帯脆弱例の超音波白内障手術.あたらしい眼科21:773-774,20044)NishimuraE,YaguchiS,NishiharaHetal:Capsularsta-bilizationdevicetopreservelenscapsuleintegrityduringphacoemulsicationwithaweakzonule.JCataractRefractSurg32:392-395,2006表2ZW分類と術式の選択ZW分類術式0度PEA1度PEA2度PEA+CE,ECCE3度PEA+CE,ECCE4度PEA+CE,ICCE,vitrectomyPEA:超音波水晶体乳化吸引術,CE:水晶体フック,ECCE:外摘出術,ICCE:内摘出術.

コンタクトレンズ:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(3)

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815170910-1810/08/\100/頁/JCLSソフトコンタクトレンズ装用下の酸素不足を解消ハードコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給はおもにレンズの動きに伴う涙液交換に依存しているため,レンズフィッティングが適正で,良好な涙液交換が確保されていれば,たとえ素材の酸素透過性が低くても,眼への酸素供給は十分に確保される(図1a).一方,ソフトコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給は,おもに素材を透過する酸素に依存しているため,ソフトコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給を増やすためには,より薄いデザインのレンズを作製するか,素材の酸素透過性をあげなければならない(図1b).従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズの酸素透過性は,素材の含水性に依存しているために,水の酸素透過係数である80を超えることは理論的にも不可能であった.ガス透過性ハードコンタクトレンズの素材では酸素透過係数が100を超えるものも少なくなく,従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給はガス透過性ハードコンタクトレンズに比べて大きく劣っていた.そのため,たとえ高性能の使い捨てソフトコンタクトレンズであっても,長時間の装用により眼の酸素不足を生じ,眼感染症,角膜血管新生,角膜内皮細胞障害などの合併症を生じていた.従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズの酸素供給における問題点を解消するために誕生したのが,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズである.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズには水の成分も含まれるが,素材の酸素透過性はおもに素材に含まれるシリコーンに依存している.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズでは水の成分が少なくなるほど,シリコーンの含有率が高まり,素材の酸素透過性が高くなる(図2).現在,国内外で発売されているシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの多くは酸素透過係数が100を超えている.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(47)の登場により,ソフトコンタクトレンズ装用による酸素不足が原因となったさまざまな眼障害が減少することが期待される.燥感の軽減ソフトコンタクトレンズ装用下ではおもにソフトコン糸井素純道玄坂糸井眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純.ハードコンタクトレンズ.ソフトコンタクトレンズ図1コンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給の違いハードコンタクトレンズ装用下の眼への酸素供給は,おもに瞬目によるレンズ移動に伴う涙液交換(青の矢印)に依存しているが,ソフトコンタクトレンズ装用下では涙液交換に伴う酸素供給はわずかであり,おもにレンズ自体を透過する酸素(赤い矢印)に依存している.含水率()Dk値200180101401201008004020010080040200シリコーンハイドロゲルハイドロゲル(従来の含水性SCL素材)水図2含水率と酸素透過係数(Dk値)———————————————————————-Page21518あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(00)タクトレンズを通じて水分が蒸発することにより,眼表面が乾燥する.そのため,ソフトコンタクトレンズ装用下の乾燥感はレンズ素材の含水性とレンズ厚に左右される.含水性が高く,レンズ厚が薄いソフトコンタクトレンズは乾燥感が強く,含水性が低く,レンズ厚が厚いソフトコンタクトレンズが少ない.従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズでは,眼への酸素供給を高めるためには,高い含水性と薄いレンズデザインを採用する必要があったため,高性能(高酸素透過性)のレンズほど乾燥感が強いという宿命があった.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズでは,酸素透過性は素材に含まれるシリコンに依存するために,低含水性でありながら,高酸素透過性を実現できるために,酸素透過性の高いソフトコンタクトレンズでありながら,乾燥感の低減を実現できた(図3).結膜充血の軽減ソフトコンタクトレンズ装用下の慢性の球結膜の軽度~中等度の充血は,ハイドロゲルコンタクトレンズ装用者では頻繁にみられる合併症で,特に輪部に強い.このソフトコンタクトレンズ装用下の球結膜の充血はレンズ素材の酸素透過性,レンズのフィッティング,眼表面の乾燥などが複雑に絡み合って発症する.従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズと違い,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズでは高い酸素透過性と同時に,素材の低含水性を実現できるために,眼表面の乾燥を軽減することができる.その結果として,これまでは対応が困難であったソフトコンタクトレンズ装用下の慢性の球結膜充血を軽減できる.******ハイドロゲルレンズO2オプティクス装用1間O2オプティクス装用4間O2オプティクス装用12間12457124通57良好不良図3乾燥感の強さハイドロゲルコンタクトレンズvsシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(O2オプティクス).ハイドロゲルレンズとの有意差**p<0.01.

写真:多発性骨髄腫に伴う角膜混濁

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815150910-1810/08/\100/頁/JCLS(45)細谷比左志市立豊中病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦294.多発性骨髄腫に伴う角膜混濁図2図1のシェーマ図4図3のシェーマ①:host-graftjunction.②:角膜移植片も全層にわたって混濁している.①①②図1良性M蛋白血症(IgGgammopathy)にみられた角膜混濁(69歳,女性)角膜の全層に混濁がみられる.矯正視力は(0.01).(写真提供:岡本眼科クリニック岡本茂樹先生のご厚意による.図3も同様)図3図1と同一症例の他眼全層角膜移植術を施行され,視力(1.0)を得たが,混濁が再発し視力(0.15)にまで低下した.混濁が角膜全体に広がる.角膜の全層にわたって微細な結晶状混濁がみられる上眼瞼———————————————————————-Page21516あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(00)多発性骨髄腫1)は,骨髄原発の腫瘍で,形質細胞(plasmacell)の腫瘍である.単一クローンの形質細胞が異常増殖し制御不能の状態になり,単一の免疫グロブリン(M蛋白とよばれる)が異常に増加する.40~70歳に好発し,30歳までに発症することはまれといわれている.免疫グロブリンの型はIgG70%,IgA29%,IgD1%である2,3).全身症状として,多発性に骨破壊が生じ,病的骨折が起こる.また骨髄の障害により貧血がひき起こされる.約70%の症例に,頭骸骨,脊椎,肋骨にpunched-outlesionという特徴的なX線所見がみられることで有名である.眼の変化は,眼窩,結膜,角膜,ぶどう膜,網膜,視神経に出現する.眼窩病変は比較的まれではあるが,眼窩内への骨髄腫細胞の浸潤により眼球突出,複視,視力障害が起こる.結膜では,血液の粘稠度亢進により結膜血管のbloodsludgingという現象がみられる.また免疫グロブリンの結晶が結膜に沈着することがある.そして角膜には,本写真セミナーのテーマである,角膜混濁がみられる.これは,角膜上皮および角膜実質内への免疫グロブリン結晶の沈着が本態である.無数の微細な多彩色の結晶が実質中にみられ,角膜のすべてのレベルにみられる.この変化は1958年にBurki4)が最初に報告した.角膜への沈着は,涙液,輪部血管,前房水からの経路が考えられるが,どの経路由来かは不明である.また,高カルシウム血症に合併した帯状角膜変性や,その他,まれに銅の沈着の所見がみられることがある.ぶどう膜では,毛様体に胞がみられたり,脈絡膜腫瘍がみられることがある.網膜には血液の粘稠度亢進により,網膜静脈の怒張,拡張,出血,綿花様白斑,網膜前出血などの所見がみられる.その他,視神経にうっ血乳頭や浸潤などの変化を認めることがある.貧血,骨痛,病的骨折,全身疲労,血沈値亢進のある患者は,多発性骨髄腫が疑われ,高グロブリン血症,BenceJones蛋白尿,蛋白電気分解異常,特徴的X線所見などにより,診断する.鑑別すべき疾患として,マクログロブリン血症,クリオグロブリン血症,良性M蛋白血症などがある.このうち,良性M蛋白血症とは,血中にM蛋白を認めるが,基礎疾患(骨髄腫,マクログロブリン血症,アミロイドーシス,リンパ腫など)を認めないものをいい,健常者の1~3%にみられる.この良性M蛋白血症やクリオグロブリン血症でも,角膜,結膜への免疫グロブリン結晶の沈着がみられ,注意が必要である.今回の症例がそれである.治療として,角膜混濁による視力低下例では,表層角膜移植(特にDLKP:深層層状角膜移植)あるいは全層角膜移植を施行するが,今回の症例のように,原疾患が治療されていなければ再発する.角膜内に沈着する免疫グロブリンがプラスまたはマイナスに荷電しているという性質を利用して,イオントフォレーゼによって除去する試みがなされ,良好な結果を得ているという報告がある.文献1)細谷比左志:多発性骨髄腫.新図説臨床眼科講座3,角結膜疾患,p102-103,メジカルビュー社,20012)OrellanaJ,FriedmanAH:Dysproteinemias.TheEyeinSystemicDisease(edbyGoldDH,WeingeistTA),p134-138,Lippincott,Philadelphia,19903)PietteWW,BlodiCF:Multiplemyelomaandotherplas-macelldyscrasia.TheEyeinSystemicDisease(edbyGoldDH,WeingeistTA),p140-142,Lippincott,Philadel-phia,19904)BurkiE:Cornealchangesinacaseofmultiplemyeloma(plasmocytoma).Ophthalmologica135:565-572,1958

細胞診,細胞表面マーカ,免疫グロブリン遺伝子再構成,眼内液サイトカインの検査

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———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSがなされるべきなのは当然である.II細胞診前房水や硝子体に遊出した細胞にGiemsa染色やPapanicolaou染色を行い,細胞異型の程度に注目して評価する.わが国ではPapanicolaou分類(表1)に準じて評価されることが多い.細胞診には,当然ある程度の細胞量が必要であり,同時に得られた細胞の質がその検査結果を大きく左右する.一般に悪性度の高いリンパ球は壊れやすく,副腎皮質ステロイド薬には細胞融解作用があるので,時間が経過した加療後の硝子体からのサンプルは腫瘍細胞のコンディションが悪く,不適切試料とされる場合も多い(図1a).これに対して,前房蓄膿をきたした前房からのサンプルを用いると良い標本を得ることができる(図1b).なお,硝子体細胞の採集には硝子体カッターを用いるが,カッターのサイズや回転数には定説がない.可能なかぎり多くの細胞を採集するため工夫は重要で,強はじめに眼内炎症診断の基本は非侵襲的検査であるが,眼内サンプルから得られる情報が診断に決定的な意味をもつ場合がある.その一つは感染性ぶどう膜炎であり,微量であれ病原体遺伝子が証明されれば,治療への大きな足がかりとなる.もう一つは炎症の仮面をかぶった悪性腫瘍の眼内浸潤,いわゆる仮面症候群で,特に腫瘍化したリンパ球細胞の眼内浸潤『眼内悪性リンパ腫』の診断に重要である.本稿では,おもに眼内悪性リンパ腫診断のためにという観点から,細胞診,細胞表面マーカ,DNA検査,眼内液サイトカイン濃度測定について述べる.I眼内悪性リンパ腫診断の難点眼内悪性リンパ腫の診断は“challenging”とされる1).最もchallengingなのは,硝子体の「細胞診」で悪性リンパ腫の診断を下そうとすることで,これは通常リンパ腫を「病理組織診」で診断することから大きく逸脱している.すなわち,リンパ腫は個々の細胞の特徴に加え,生体組織における細胞集積の仕方や振る舞い,といった全体像を通して診断されるのが一般的であり,細胞の異型度に主眼をおいた評価(細胞診)だけから診断を下すことは通常しない.しかし,眼内悪性リンパ腫は中枢神経に転移しやすく生命予後不良の疾患であり,他方,眼球機能を温存しながら眼内組織を得ることは容易でないのだから,入手しやすい硝子体サンプルを詳細に解析して診断を下す努力(41)1511AuiAui眼5831115眼特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):15111514,2008細胞診,細胞表面マーカ,免疫グロブリン遺伝子再構成,眼内液サイトカインの検査CytologyandTestingforCellSurfaceMarkers,ImmunoglobulinGeneRearrangementandIntraocularFluidCytokines安積淳*表1Papanicolaou分類クラスI異型細胞を認めないクラスII異型細胞を認めるが良性であるクラスIII悪性を疑うが断定できないIIIa悪性を少し疑うIIIb悪性をかなり疑うクラスIVきわめて強く悪性を疑うクラスV悪性———————————————————————-Page21512あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(42)わめて低い.細胞量に余裕のある場合に行う.フローサイトメトリーによる細胞表面マーカの解析は,対象とする疾患および試料によって解析内容や方法が若干異なる.眼科領域の試料は組織から採取されるために生きた細胞以外の残屑が細胞浮遊液中に多く含まれる.このため,核染色を行ってコンディションの悪い細胞を除いたうえで解析を行うシステムが推奨される(図2は核染色に7AADを用いたシステム).また,対象とする疾患はリンパ腫がほとんどで骨髄性白血病は考えにくいから,B細胞関連マーカ(CD20,CD19,CD10,k鎖,l鎖など),T細胞関連マーカ(CD2,CD3,CD4,CD5,CD8など),NK(naturalkiller)細胞関連マーカ(CD16,CD56)がおもだったものとして解析される.IVDNA検査サザンブロットによるDNA検査(免疫グロブリンJH鎖遺伝子再構成の検索)はリンパ球増殖の腫瘍性/非腫瘍性の鑑別に力を発揮する(図3).陽性結果は,B細胞性リンパ腫の確定診断と考えてよい.眼内サンプルの問題は,ここでは「量」で,サザンブロットによる解析はDNA量の不足から不可能な場合が多い.この場合は,PCR(polymerasechainreaction)による解析を行うことができる(図4).ただし,PCRを用いた解析は偽陰性/偽陽性となる確率が高く,評価がむずかしい.特にT細胞に関するPCRは,T細胞が非腫瘍性にもクローン増殖することが多いのか,偽陽性となることをしばしば経験する(図4).また,PCRの感度が施設間で異なる可能性も指摘されている2).V眼内液サイトカイン濃度測定悪性リンパ腫では眼内のインターロイキン(IL)-10濃度が異常に高い値になることがしばしば経験される3).一方,炎症性サイトカインであるIL-6濃度は低いことが多く,IL-10/IL-6比は1を越えることがほとんどである.いずれもELISA法(酵素免疫測定法)で検出可能であり,眼内液0.5mlがあれば検査可能である.細胞診の前に遠心分離を行って上清を利用すればよい.IL-10濃度上昇やIL-10/IL-6>1は,眼内悪性リンパ腫では検出頻度がきわめて高いものの,リンパ腫細膜圧迫も行う.III細胞表面マーカ免疫組織染色による細胞表面マーカの解析は悪性リンパ腫を分類するうえで重要な検査である.しかし,硝子体あるいは前房水からのサンプルに免疫組織染色と同等の解析を行うことは一般細胞診のレベルではむずかしい.今日,リンパ腫診断/分類のためにフローサイトメトリーによる細胞表面マーカの解析が行われており,この方法を眼内悪性リンパ腫の診断に応用することができる.硝子体や前房から相当量のコンディションの良い細胞を採集することが不可欠だが,成功すると診断的価値がある(図2).しかし,硝子体サンプルでの成功率はきab図1細胞診2例a:硝子体からのサンプル.細胞破壊が著しい.b:前房水からのサンプル.十分量のコンディションの良い細胞が得られている.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081513(43)得図2硝子体サンプルで成功したフローサイトメトリーによる細胞表面マーカ検索まれな成功例である.———————————————————————-Page41514あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(44)検査を有益なものにする鍵は,より良い状態の細胞を収集できるタイミングを見逃さない臨床家としての態度であることを,最後に付け加えておく.文献1)Levy-ClarkeGA,ChanCC,NussenblattRB:Diagnosisandmanagementofprimaryintraocularlymphoma.HematolOncolClinNorthAm19:739-749,20052)BaggA,BrazielRM,ArberDAetal:Immunoglobulinheavychaingeneanalysisinlymphomas:amulti-centerstudydemonstratingtheheterogeneityofperformanceofpolymerasechainreactionassays.JMolDiagn4:81-89,20023)CassoouxN,GironA,BodaghiBetal:IL-10measure-mentinaqueoushumorforscreeningpatientswithsuspi-cionofprimaryintraocularlymphoma.InvestOphthalmolVisSci48:3253-3259,2007胞増殖を直接証明するものではない.現時点では信頼性の高い傍証として取り扱わざるを得ない.なお,前述の細胞診,フローサイトメトリーによる細胞表面マーカ検索,DNA検索は灌流下に集められる試料(希釈サンプル)でも検査可能である.が,眼内液サイトカイン濃度は希釈されない原液を用いるべきである.表2に4つの検査の特性をまとめる.おわりに上記4つの眼内悪性リンパ腫診断法は,いずれの一つも絶対的なものではない.このため,可能であればすべての検査を施行することが望ましいが,サンプル量が小さいのは眼科の常であり,検査を選択する必要がある場合は,細胞診,眼内サイトカイン濃度測定,DNA検査,細胞表面マーカの順で優先する.図4PCRによる遺伝子再構成両眼から採集されたサンプルを用いて検索を行った.B細胞では同一のバンドがみられるが,T細胞では異なるバンドがみられる(偽陽性バンド).(-)MNCPC112(-)M23419411872NCPC12免疫グロブリン遺伝子TCR遺伝子M:fX174???IIIdigestionsizemarker(-):template(-)NC:negativecontrolPC:positivecontrol1:右眼硝子体サンプル2:左眼硝子体サンプル5.6kb→←11.0kb1212→←陰性コントロール検体図3眼内サンプルを用いたサザンブロットによる遺伝子再構成検索ほぼすべての細胞が腫瘍細胞であったことが推察される.表24つの検査のまとめ必要試料眼内液希釈診断的価値成功率細胞診生体細胞可高中フローサイトメトリー生体細胞可中低DNA検査サザンブロットPCR細胞可高中低高サイトカイン測定眼内液不推奨中高

頭部CT,MRI

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSICTとMRIについて1.CTの特徴と眼科疾患への適応CTはX線照射管と探知管の間に患者を置き,X線を周囲360°全方向から照射した物体の投影データを解析することで画像化を行うものである.CTは,一般にMRIより分解能が劣るが,出血病変(脳出血,くも膜下出血など),肺病変(肺炎や肺癌など),骨化病変(後縦靱帯骨化症や変形性骨関節症など),石灰化病変(胆石や肝内結石,肝胞など)についてはMRIより描出に優れている.また,1回の撮影時間は20秒程度と短く,小児でも施行しやすいこと,体に金属やペースメーカーなどが入っていても撮影できるなどの長所がある(表1).一方,短所としては,放射線に被曝すること,脳幹はじめに頭部CT(computedtomography),MRI(magneticresonanceimaging)検査はぶどう膜炎の原因検索でルーチンに行うべき検査ではない.しかし,頭部CT,MRIによってぶどう膜炎の診断がつく症例が,まれに存在する.また,ぶどう膜炎疾患に頭蓋内・眼窩内病変を合併することはしばしばあり,合併症の精査や経過観察の目的で必要となることがある.一般的にCTよりもMRIのほうが組織分解能に勝るため画像が鮮明で小さな病変まで描出可能であるが,症例によってはCTを選択すべき場合もある.オーダーにあたっては,CTとMRIの特徴と違い,どのような場合に造影が必要であるのか,および推奨される撮影条件などについて,よく理解しておく必要がある.(35)1505Tht11365531特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):15051510,2008頭部CT,MRIBrainComputedTomographyandMagneticResonanceImaging蕪城俊克*表1CTとMRIの長所と短所MRICT長所組織間のコントラスト分解能に優れる骨によるアーチファクトがない放射線被曝がない任意の断層面の画像が得られる造影剤なしで血管の異常がわかる脳,脊髄,脳幹部の診断に優れる脳梗塞に対する感度が高い脳出血の範囲を明瞭に描出できる撮影時間が短い骨の異常がわかる金属が体内にあっても検査できる短所骨など石灰化層の情報が得にくい撮影時間が長い金属が体内にあると検査できない閉所恐怖症の人は検査がむずかしい急性期の脳出血の診断がしにくい放射線被曝する脳幹付近は骨が多いため診断がむずかしい脳梗塞に対する感度が低い詳しい検査にはヨード系造影剤が必要———————————————————————-Page21506あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(36)特に脳・脊髄・腹部臓器・四肢関節・脊椎などの診断に優れる.眼窩病変,特に眼球病変のMRI検査の際は,高いS/N(信号/ノイズ)比を得るために頭部用コイルを用い,両眼眼窩を撮影し,健側と比較することが重要である.撮影時間が長いので,眼球の動きによるアーチファクトを避けるため,安静閉眼で撮影する.眼窩内および眼球内病変のMRI撮影は,スライス厚34mmで,SE(spinecho)法T1強調横断像,FSE(fastspinecho)法T2強調横断像,STIR(shorttauinversionrecove-ry)法冠状断像,脂肪抑制造影後T1強調横断像および冠状断像を基本とする2).MRIは,腫瘍の存在や進展範囲,眼球壁の変化,眼窩内炎症,外眼筋の腫脹,視神経の腫瘍や炎症性変化など,多くの疾患でCTよりも描出に優れる.さらにガドリニウム造影により炎症,血管腫,腫瘍は増強効果を示し,病巣範囲の把握に有用である.特に視神経の活動性炎症の診断には,造影後の脂肪抑制T1強調像が有用である.一方,金属眼内異物が疑われる症例にはMRI検査は禁忌である.IIぶどう膜炎の鑑別に必要な頭部画像検査まず,ぶどう膜炎疾患の鑑別診断の際に,頭部画像検査が必要になる場面について述べる.1.乳頭浮腫(原田病,視神経炎,その他の疾患の鑑別)乳頭浮腫を呈する疾患には,ぶどう膜炎(原田病,サルコイドーシス,Behcet病,ネコひっかき病など)のほかに,視神経炎,うっ血乳頭(脳圧亢進),Leber遺伝性視神経症,糖尿病性乳頭症,前部虚血性視神経症,眼窩内腫瘍などのさまざまな視神経疾患が含まれる.両眼性の乳頭浮腫は,小児の視神経乳頭炎,うっ血乳頭(脳圧亢進),視神経周囲炎,原田病,糖尿病性乳頭症などが多く,片眼性は,成人の視神経乳頭炎,眼窩内腫瘍,虚血性視神経炎,サルコイドーシス,乳頭血管炎などに多い3).前房内の炎症所見がはっきりしない乳頭浮腫の症例では,ぶどう膜炎以外の可能性も考慮して鑑別する必要がある.両眼性の乳頭浮腫の症例では,視神経炎と原田病の鑑付近は骨が多いためCTでの画像診断がむずかしいこと,脳梗塞に対する感度が低いこと,炎症性病変の詳しい検査にはヨード系造影剤が必要,といった点があげられる1).近年はヘリカルCTやマルチスライスCTの登場により,従来機種に比べ高速でかつ高分解能画像が得られるようになり,被曝量および患者への負担も軽減されてきている.頭部CT検査は,眼科領域では,おもに脳腫瘍の否定や眼窩底骨折の診断,眼窩内炎症病変の描出(造影),強膜の炎症性肥厚の診断などの目的で用いられる.眼窩内の病変のCT検査は,35mmのスライス厚の横断像を基本とする2).腫瘍性病変あるいは炎症性病変を疑う場合は造影が必要である.軟部条件画像だけでなく,骨条件画像も作製し,石灰化,異物,異常な空気や骨病変の有無を診断する必要がある場合がある.眼窩内にはしばしば生理的な石灰化がみられ(瞼裂斑など),異物や腫瘍と間違えてはならない.外傷時の吹き抜け骨折の診断にはCT検査が有用であるが,横断像よりも冠状断像が診断しやすい.一方,眼球内の病変に対しては解像度の問題から通常はMRI検査が第一選択となるが,外傷時の異物の有無の診断,石灰化病変の描出目的の場合,撮影時間を短くしたい症例やMRIが禁忌の症例に対してはCTが選択される.眼球内病変のCT検査には13mmのスライス厚での撮影が必要である.外傷,異物の診断を除き,通常は造影が必要である.CTでは視神経の炎症の検出率は良くないため,視神経炎の診断には通常MRIが用いられる.2.MRIの特徴と眼科疾患への適応MRIは,患者の体内の水や脂肪組織に含まれる水素原子の磁場を感知して画像化する装置である.MRIは,組織間のコントラスト分解能に優れている,骨によるアーチファクトがない,任意の角度の画像が得られること,放射線被曝がない,などの長所がある反面,体内に金属がある人は受けられない,撮影時間が30分程度と長いなどが問題であった(表1)1).しかし,1.5テスラMRIの登場により高速な検査が可能となり,1回の検査時間は従来機種の半分程度になってきている.MRIは———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081507(37)影後の脂肪抑制T1強調像が有用である(図1)2).視神経炎の診断の際には,全脳の撮影を行い,多発性硬化症やADEM(acutedisseminatedencephalomyelitis)でみられる脳内の多発病巣の有無を検索する必要がある.2.眼内悪性リンパ腫眼内悪性リンパ腫は,眼内に発生した悪性リンパ腫で,ぶどう膜炎症例の約1%を占め5),放置すると脳への播種を起こして生命予後不良となる注意すべき疾患である.眼内悪性リンパ腫の診断は,硝子体生検を行って細胞診にて異型細胞を証明するのが原則であるが,細胞診のみでは偽陰性が30%近く出てしまうことが報告されており6),硝子体液中のインターロイキン(IL)-10/IL-6濃度比(>1),IgH(免疫グロブリンH)モノクローナリティーの証明などの補助診断を組み合わせて診断する必要がある7).全身の画像検査を行って眼以外の臓器での悪性リンパ腫を発見することは,眼内悪性リンパ腫を強く疑う根拠となる.特に眼内悪性リンパ腫は中枢別がしばしば問題になる.通常は前房内炎症がみられないことや中心フリッカー値の低下(20Hz以下)は視神経炎を示唆し,前房内炎症や内耳症状,髄膜炎症状,リンパ球優位の髄液細胞増多は原田病を示唆することから鑑別可能な場合が多い.しかし,原田病で典型的な随伴症状を欠く場合や,発症早期のため虹彩炎が明らかでない時期には,視神経炎と紛らわしい.原田病のMRI像は,T1強調像では肥厚した脈絡膜が網膜下液や硝子体に比べ高信号となり,脂肪抑制画像および造影で脈絡膜は中等度増強されるが,網膜下滲出液は増強されず,T2強調像では脈絡膜,網膜下滲出液,硝子体は高信号で,肥厚した脈絡膜は硝子体や網膜離部と比べて低信号となる4).漿液性網膜離がみられなくても脈絡膜の肥厚を認めることが多い.一方,視神経炎のMRI撮影には,STIR法あるいは脂肪抑制T1強調像が用いられる.視神経炎の病変は視神経のすべての部位で認められるが,特に視神経管領域が侵されることが多い.STIR像は炎症,脱髄病変の検出に有用であり,病巣は脳白質あるいは外眼筋と比較し高信号として描出されるが,慢性期の脱髄性病巣も同程度の高信号となるため,活動性の評価には向かない.視神経炎の活動性の診断には,造図124歳,女性:両眼性の乳頭浮腫矯正視力右眼1.0,左眼0.6.中心フリッカー値は正常.髄液検査でリンパ球優位だが好中球も含まれる髄液細胞増多を認めたため,原田病よりもウイルス性などによる無菌性髄膜炎と推測された.頭部造影MRI(STIR像)にて両眼視神経周囲にリング状の増強効果を認め,髄膜炎に伴う視神経周囲炎と診断された.図254歳,女性:左眼の原因不明の硝子体混濁眼内悪性リンパ腫を疑い硝子体生検を行ったが,細胞診は陰性だった.しかし,半年後に頭部造影MRIにて頭蓋内にT1強調で低信号,造影により増強効果を認める病巣がみつかり,脳生検で悪性リンパ腫と診断された.———————————————————————-Page41508あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(38)および造影効果(造影後明瞭化する眼球後壁を中心とした肥厚)がみられる(図3).MRIではT1像で肥厚した強膜は低信号として,網膜下への炎症の波及による網膜下滲出液はそれより高信号となり,脂肪抑制像で炎症の程度に応じて増強される.原田病や眼窩蜂窩織炎との鑑別がむずかしい場合があり,随伴症状の有無や髄液検査の結果と合わせて鑑別診断する必要がある8,9).4.多発性硬化症多発性硬化症は中枢神経系の白質に,脱髄病巣が時間的,空間的に多発性に出現し,再発と寛解をくり返しながら慢性に経過する疾患である.眼合併症としては視神経炎や眼球運動障害が多いが,欧米ではぶどう膜炎の合併も知られており,網膜静脈炎やparsplanitisの報告が多い.わが国でも,まれではあるが網膜血管炎を伴う肉芽腫性ぶどう膜炎を起こした報告が散見される10).多発性硬化症の診断には頭部MRIが必須であり,脱髄病巣はT1強調像で等信号,T2強調像で高信号域を示す(図4).T1強調像で低信号領域は軸索障害の存在を示神経系悪性リンパ腫に分類され,脳の悪性リンパ腫を合併しやすい.したがって,眼内悪性リンパ腫が強く疑われる症例では,頭部画像検査を行う必要がある.脳の悪性リンパ腫は,単純CT,MRI像では腫瘤を形成する低信号の病変として描出され,造影剤を用いると多くの場合著明な増強効果を認める(図2).1/3は多発性の病巣をもつ.しかし,この画像所見は非特異的なものであり,画像のみから他の腫瘍や非腫瘍性病変と鑑別することはむずかしい場合が多い.3.後部強膜炎後部強膜炎は,後部強膜に炎症を起こす疾患で,炎症が周囲に波及することで多彩な臨床像を示す.Watsonらは後部強膜炎の診断基準として,①疼痛,②視力障害,③強膜の肥厚,網脈絡膜への炎症の波及による眼底変化,④眼球突出,⑤眼球運動障害,⑥結膜充血をあげている.炎症が網脈絡膜に波及した場合,眼底後極部を中心に乳頭発赤,網膜の浮腫状混濁程度のものから,高度な網膜離をきたすものまでさまざまな眼底像を呈するが,基本病像は乳頭浮腫と滲出性網膜離である.強膜の肥厚の診断には超音波エコー検査や頭部CT,MRI検査が用いられる.CTでは,眼球後壁の肥厚,不整像,図353歳,男性:左眼後部強膜炎左眼の前房内炎症,乳頭浮腫,眼底後極部に網膜皺襞,黄斑浮腫,薄い漿液性網膜離がみられた.右眼には炎症所見はみられなかった.頭部CTにて強膜壁の肥厚と造影による増強効果を認め,後部強膜炎と診断した.図435歳,男性:多発性硬化症頭部単純MRIでは,T2強調像にて側脳室周囲の白質に側脳室に直行するような卵円形の高信号の脱髄性病巣が多発している.(東京大学附属病院放射線科國松聡先生より写真提供)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081509(39)中の細胞数,蛋白濃度の増加,IL-6濃度の上昇が神経Behcet病の診断マーカーとされているが,頭部MRI検査を行うことで,正確な病変部位の同定が可能である.頭部MRIで脳の病巣部はT2強調像で高信号,T1強調像で低信号を呈する(図5).ステロイド治療により病巣の消退がみられる.2.サルコイドーシスサルコイドーシスによる非乾酪壊死性肉芽腫は全身に起こりうる.眼科領域でも,眼瞼,視神経,涙腺,外眼筋,脳幹部などに生じることがある.一般に肉芽腫は大きくはないため,造影MRIが検出力に優れる.非神経部位(眼瞼,涙腺,外眼筋)でのサルコイド肉芽腫は,画像上は非特異的な炎症所見となり,造影により異常増強効果を示すが,画像による他の疾患との鑑別は困難である(図6).一方,サルコイドーシスによる視神経病変では視神経自体と視神経周囲の炎症の形態をとり,診断には脂肪抑制造影T1強調像が有用である.また,サルコイドーシスの中枢神経病変では,頭蓋内占拠性病変,髄膜の増強効果,脳室周囲のT2高信号,頭蓋内実質内の血管に沿った増強効果などを呈する.唆する.FLAIR(uidattenuatedinversionrecovery)画像では脳室は黒く,病巣は白く描出されるので,病変と脳室との区別をつけやすい.急性期の病巣はガドリニウム造影で増強される.IIIぶどう膜炎における頭蓋内・眼窩内病変の合併ぶどう膜炎疾患には,頭蓋内・眼窩内病変を合併するものがあり,ぶどう膜炎の診断目的以外にも,合併症の精査の目的で頭部画像検査を行う必要が生じることがある.頭蓋内・眼窩内病変を合併するぶどう膜炎について述べる.1.神経Behcet病Behcet病の10%前後にみられる中枢神経の炎症性病変で,脳静脈血栓症や間脳,中脳,橋,延髄などに病変が生じる脳幹脳炎が多い.病変は,脳幹と基底核周辺部に好発するが,大脳半球,小脳,脊髄,髄膜にも病変がみられることがある.症状としては,発熱,中枢性運動麻痺,脳神経麻痺,言語障害,複視,斜視などのほかに脳血管性痴呆などの精神症状を起こすことがある.髄液図536歳,男性:神経Behcet病発熱,頭痛,意識レベルの低下を起こす.頭部単純MRI(T2強調像)にて脳幹部(中脳,橋)に高信号の炎症病巣を認めた.髄液中のIL-6濃度も高値であり,神経Behcet病と診断された.図665歳,女性:サルコイドーシスによる眼瞼肉芽腫左眼の内眼角付近の上眼瞼皮下に腫瘤を認めた.頭部造影MRI(T1強調像)にて増強効果を認める.生検を行い,非乾酪壊死性肉芽腫との診断からサルコイドーシスと診断された.(癌研究会有明病院眼科田村めぐみ先生より写真提供)———————————————————————-Page61510あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(40)thalmol51:41-44,20076)WhitcupSM,deSmetMD,RubinBIetal:Intraocularlymphoma.Clinicalandhistopathologicdiagnosis.Ophthal-mology100:1399-1406,19937)新井文子:原発性眼内リンパ腫の臨床像.血液・腫瘍科56:625-629,20088)堂園貴保子,野田佳宏,有山章子ほか:片眼の後部強膜炎症状で発症したVogt-小柳-原田病が疑われた1例.眼紀55:403-408,20049)小泉千春,清澤源弘,岩永洋一ほか:眼窩蜂窩織炎との鑑別を要した後部強膜炎の1例.眼臨101:1007-1009,200710)齋藤航,小竹聡,笹本洋一ほか:多発性硬化症に伴う肉芽腫性汎ブドウ膜炎の1例.日眼会誌106:99-102,2002文献1)百島祐貴:ゼッタイわかるMRIの読み方.医学教育出版社,19992)酒井修,藤田晃史:眼窩.頭頚部のCT・MRI(多田信平,黒崎喜久編),p121-178,メディカル・サイエンス・インターナショナル,20023)中村誠:とっても身近な神経眼科乳頭が腫れていたら?あたらしい眼科24:1553-1560,20074)PotterPD,ShieldsCL,ShieldsJA:Inammatorydisor-ders.MRIoftheEyeandOrbit(edbyPotterPD,ShieldsJA,ShieldsCL),p45-53,Lippincott,Pennsylvania,19955)GotoH,MochizukiM,YamakiKetal:EpidemiologicalsurveyofintraocularinammationinJapan.JpnJOph-

胸部X線・胸部CT・クオンティフェロン検査

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS下葉の2葉に胸膜によってそれぞれが分かれる.肺門は肺動脈およびその分枝,上葉肺静脈,主気管支およびリンパ節で構成される.しかし実際X線で撮影されたフィルムでは,気管支の内腔は空気で占められているため,またリンパ節は通常では小さいため陰影には影響を与えない.縦隔陰影の大部分をなすのは心臓および大血管である.つぎに読影に必要な基本的事項であるが,陰影の濃淡は4つに分けて考えられる.その内訳は,カルシウム・水・脂肪・空気(ガス)からなる.この順番でX線吸収率が悪く,吸収率が悪いほうが写真では暗く写る(透過性が高い).このような濃度の違いは物質の原子番号と密度の違いによるものである.それぞれの濃度の代表例であるが,カルシウム濃度には,骨・石灰化・金属,水濃度には血管・筋肉・実質臓器,脂肪濃度には脂肪(皮下・筋肉間),空気濃度には肺・気管支内腔があげられる.陰影の濃淡は上記の4つとともに対象物の厚さ,コントラストによって分けられる.水濃度については診断時,特にコントラストが重要になる.このコントラストに関連する重要なサインとしてシルエットサインがある.これは水濃度のものと水濃度のものが相接している場合,それらの辺縁は不鮮明かまたは認められない.本来鮮明であるはずの辺縁が不鮮明になっていることをシルエットサイン陽性という.縦隔内に存在する大動脈などの辺縁部は正常でもシルエットサイン陽性になるので,サルコイドーシスの縦隔リンパ節の拡張は胸部Xはじめにご存じのとおり,胸部X線,胸部CT(コンピュータ断層撮影),クオンティフェロン(quantiferon)はぶどう膜炎の検査においては欠かせない検査である.特にサルコイドーシスや結核・肺癌などの疾患においては,その画像所見や検査所見が診断補助の大部分を占め,その有用性は高い.胸部X線写真や胸部CTは,現在では多くの病院で放射線科ドクターが写真を読影してくれるため,眼科医が直接写真を読影する機会はほとんどない.しかし,最低限度の知識を有することにより,眼科医でも日常診察においてある程度の緊急性の判断や患者への説明をすることが可能となる.今回筆者に与えられたテーマである胸部X線・胸部CT・クオンティフェロンについて,以下に述べていきたいと思う.I胸部X線検査について胸部X線検査は,おおまかにいえば,胸部にある臓器・組織に異常がないかを確認する検査である.胸部X線正面像では,X線吸収の比較的小さい肺と反対に大きい心臓,大血管および横隔膜などの領域が含まれる.異常を判断するには,まず基本的な解剖と正常像を理解しないといけない1).特に眼科医に必要な胸部X線撮影の基礎知識は結核などの病変が発生する肺野と腫瘍やリンパ節腫脹,あるいは肺血管の拡張が発生する肺門部や縦隔部の正常像である.肺は右肺と左肺に縦隔を隔てて分かれ,さらに右肺は上・中・下葉の3葉に,左肺は上・(31)150162841465特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):15011504,2008胸部X線・胸部CT・クオンティフェロン検査ChestX-Ray,ChestComputedTomographyandQuantiferonTest丸山和一*———————————————————————-Page21502あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(32)若年者発症が増え,気をつけておく疾患である.結核の陰影は小さな円形陰影で内部に石灰化を示すことが多い.ときにsatellitelesionとよばれる主病巣周囲に小結節を伴うことがある.病変は肺尖部と左肺の肺門部周辺に好発する.活動性の判定は胸部X線だけでは判断しにくいが,空洞を形成する結節は活動性が高い症例が多い.以上の2つの疾患は胸部X線検査では確定診断することはできできないが,比較的読影できやすく,内科医への紹介時にどのような検査が必要かを提案することができる.眼科から内科疾患の疑いを提起することで,疾患の早期発見・治療に貢献することが可能である.II胸部CT検査について胸部疾患の診断において,胸部CTは胸部単純X線撮影で異常所見が発見された場合や,臨床的に異常を疑う症例に対して施行する.現在胸部CTは肺縦隔疾患の診断には必要不可欠なものである.CT写真ではCT値の違いにより,組織や病変を画像化する.CT機種により異なるが,原則的には緻密骨を1,000,水を0,空気を1,000として計算されるが,人体の軟部組織は2070前後に分布し,石灰化病巣は100以上のCT値で示される.脂肪組織は30から100前後のCT値を示すので,これを覚えておけばどのような組織に病変が類似するかを判断できる.通常のCTスキャンはスライス厚が710mm程度のX線を利用し描写する.肺野の結節性病変やびまん性肺疾患などでは,病変の形態を詳細に描出するためにスライス厚を変化させて撮影する.特に小さなリンパ節を描写させるためにはスライス厚2mm以下の薄層CTを利用する.腫瘤性病変が胞性か充実性かの判定,腫瘍性病変の血流の評価・壊死の程度,腫瘍性病変と血管の位置関係の評価,血管浸潤の有無の診断,軟部組織陰影と血管陰影の分離などの多くの目的のために造影剤を使用する.造影剤増強撮影は各部位でその有用性が示されている.特に軟部組織陰影と血管陰影の分離で造影剤を使用するときは,血液中の造影剤の濃度が高く,造影剤の組織・細胞外液への移行が少ない造影剤投与後早期に撮影することが適している.造影剤使用時に注意すること線においては判断しづらく,判断にはCT検査を併用することが多い13).以下にぶどう膜炎と関連が深い疾患の胸部X線所見について述べたいと思う.サルコイドーシスの胸部X線撮影で認められる特徴的な所見は両側肺門・縦隔リンパ節腫大である.先にも述べたが縦隔リンパ節腫大はシルエットサインが陽性となることが多いため,胸部X線写真ではわかりづらいことが多い.このようなリンパ節腫脹は肺門部にある傍気管支に存在するリンパ節が腫脹して起こるために肺門部周辺に認められることが多く(図1),サルコイドーシスの特徴的な所見として知られている.またone-two-threesignとよばれる,右傍気管(左気管も腫大しているがシルエットサイン陽性)と両側肺門部リンパ節腫大もサルコイドーシスの特徴的な所見である.サルコイドーシスは病期が進行すると肺内にも結節が発生し,それが空洞・胞を形成することがある(わが国ではまれ)ので他の検査と組み合わせ診断することが重要である.肺結核は肉芽腫性疾患のなかでよく遭遇する.近年は図1胸部X線写真両側の肺門リンパ節腫脹が認められる.特に右傍食道線の偏位が認められる.おそらく縦隔リンパ節腫大による影響が考えられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081503(33)異なる.しかしCT所見からだけでは確定診断が困難なため,最終的には生検や臨床症状を考慮する.つぎに結核性病変であるが,結核症には初期結核症(04歳が好発)と二次性結核症があり,初期結核症は小児に後発し,CT所見上は肺門縦隔リンパ節腫脹(リンパ節の中心部が低吸収域=乾酪壊死で辺縁が輪状に造影される)を伴う中葉ないし下葉の濃厚性浸潤影が特徴的である(空洞形成は少ない).肺野の結節影は結核であることを強く示唆する(石灰化を認めることがある).胸部X線において異常がない場合も,胸部CTで縦隔リンパ節腫脹が認められることがあるので,臨床所見から疑われるときは胸部CTを施行したほうがよい3).IIIクオンティフェロンについて結核の診断法はこれまではツベルクリン反応(表1)や胸部X線写真,CT検査などであったが,感度がそれほど高くない.ツベルクリン反応はまれであるが,非結核性好酸菌と交差反応を起こし陽性となることがあるため注意が必要である.ツベルクリン反応というのは,結核菌の作る蛋白成分であるPPD(精製蛋白誘導体)を抗原として皮内に注射し,これで免疫記憶を担うリンパ球を刺激して一連のサイトカインという活性物質を放出させる.この放出されたサイトカインの作用で皮膚に硬結を作らせたり,発赤を起こさせたりする.ツベルクリン反応に使用される抗原は,ウシ型結核菌から作製したBCG(BacilleCalmette-Guerin)ワクチンとアミノ酸配列が類似している.そのためBCG接種者においても結核菌感染者と同じようなツベルクリン反応を示してしまい判断に困ることがあった.このようなことから,BCG既接種で結核感染を正確に診断する方法が必要であった.そこで開発されたのがクオンティフェロンである.クオンティフェロンでは結核菌に特異的な2種類の抗原(ESAT-6/CFP-10)を使用する.感染を受けたヒはアレルギー反応であるが,現在は非イオン性造影剤を使用するため,副作用は少ないがそれでも1.53%で悪心・嘔吐や発疹などが認められ,2,000例に1例で治療を有する副作用(アナフィラキシーショック)が起こるので,必ず医師がそばについて検査をすることが重要である.元来腎機能が低下している場合は,検査の必要性を十分に考慮し,施行後脱水症状が起こらないよう輸液などを行い注意する.画像表示についてであるが,CTの多くの情報すべてを1枚の画像にすることは不可能である.このため胸部CT画像を表示するためには通常2つの条件でフィルムに表示することが多い.その一つが縦隔や軟部組織を中心に表示する縦隔条件であり,もう一つは肺野を中心に表示する肺野条件である.縦隔条件では肺野が真っ黒に表示され,病変はわからないが,その点は肺野条件でcoverできる.肺野条件では逆に縦隔は真っ黒に写り縦隔所見はわからないが肺野の病変や肺血管がよく表示される.また他には気管支を詳細に診断するための気管支条件や,骨の異常を検索するための骨条件もある.眼科疾患から検査されるのは,特にサルコイドーシス・結核が疑われた場合である.サルコイドーシスの特徴は縦隔肺門リンパ節腫大を効率よく描出できる(図2).縦隔リンパ節腫大は単純CTでも描出可能であるが,造影剤を使用したほうが病変を正確に評価することができる.サルコイドーシスのリンパ節腫大は癒合傾向が少なく,悪性リンパ腫のような癒合が強いタイプとは図2胸部CT写真縦隔リンパ節腫大と傍気管リンパ節腫脹を認める.表1ツベルクリン反応の判定基準測定値判定解釈0.35IU/ml以上陽性結核感染を疑う0.1以上0.35IU/ml未満判定保留感染のリスクの度合を考慮0.1IU/ml未満陰性結核感染していない———————————————————————-Page41504あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(34)文献1)安藤正幸,四元秀毅(監修):サルコイドーシスとその他の肉芽腫性疾患.克誠堂出版,20062)伊藤春海:画像診断新しい診断と治療のABC呼吸器3サルコイドーシス,最新医学別冊,最新医学社,20023)NishimuraK,ItohH,KitaichiMetal:Pulmonarysarcoi-dosis;correlationofCTandhistopathologicndings.Radiology189:105-109,19934)BerthetFX,RasmussenPB,RosenkrandsIetal:AMycobacteriumtuberculosisoperonencodingESAT-6andanovellow-molecular-masscultureltrateprotein(CFP-10).Microbiology144:3195-3203,19985)SkjotRL,OettingerT,RosenkrandsIetal:Comparativeevaluationoflow-molecular-massproteinsfromMycobac-teriumtuberculosisidentiesmembersoftheESAT-6familyasimmunodominantT-cellantigens.InfectImmun68:214-220,20006)AndersenP,AndersenAB,SorensenALetal:Recalloflong-livedimmunitytoMycobacteriumtuberculosisinfec-tioninmice.JImmunol154:3359-3372,19957)SorensenAL,NagaiS,HouenGetal:Puricationandcharacterizationofalow-molecular-massT-cellantigensecretedbyMycobacteriumtuberculosis.InfectImmun63:1710-1717,1995トのT細胞に上記の抗原を作用させ,その後24時間に放出されるサイトカイン(インターフェロンg)をELISA法(酵素抗体法)で測定する.これらの抗原はBCGには存在しないので,BCG接種の影響を受けることはなく確実な結核感染診断が可能となる.本検査の感度は89%,特異度は98.2%である47)(表2).方法は血液を5mlヘパリン採血管に採取し,T細胞の活性を低下させないため,室温で血液を搬送する.採血後12時間以内に分注し,抗原刺激(ESAT-6/CFP-10),陰性コントロール(生理食塩水),陽性コントロール(マイトジェン;phytohemagglutinin)溶液を滴下する.混和後,16時間から20時間かけ細胞を培養する.培養した後,血球成分を除去し,血漿成分のみ採取する.その採取した血漿中のインターフェロンgをELISA法にて測定する(図3).得られた測定値でESAT-6抗原またはCFP-10抗原に対する測定値のうちの大きいほうとする.陽性は測定値が0.35IU/mlであるが陽性対照の測定値が基準より低い場合(0.15IU/ml)は,測定値が0.35IU/mlでも判定保留とする.表2ツベルクリン反応とクオンティフェロンの違いツベルクリン反応クオンティフェロン抗原PPDBCGアミノ酸配列と類似(99.95%)ESAT-6/CFP-10BCGには存在しないBCG接種影響あり影響なし特徴結核菌感染でなくとも陽性になる不必要な予防内服より確実な結核感染が可能となるPPD:puriedproteinderivative.BCG:BacilleCalmette-Guerin.ESAT-6:theearlysecretedantigenictarget6kDaprotein.CFP-10:10kDaculturertrateprotein.機:抗原提示細胞:T細胞:インターフェロンg:抗原図3クオンティフェロンの原理(シェーマ)

髄液検査

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSII髄液の生理髄液は大部分が脳室内の脈絡叢で産生されるが,脳室上衣,くも膜下腔でも産生される.髄液産生量はイヌリンなどのトレーサーを髄液腔内に灌流させて計算される.トレーサー入り人工髄液の流入量(Vi),流出量(Vo)と,それぞれのトレーサー濃度(Ci,Co)から髄液産生量(Vf)と髄液吸収量(Va)を求めることができる.髄液産生量:Vf=Vi(CiCo)/Co髄液吸収量:Va=Vi(CiVoCo)/Coはじめに脳脊髄液(髄液)は頭蓋内容積の510%を占め,髄液腔内で一定の組成を保ちながら産生・吸収・循環をくり返しているが,今なおその生理機構には不明な点もある.髄液検査は検査の適応,禁忌,解剖学的知識や合併症を知って行えば安全な検査であり,髄膜炎,眼科領域では特にVogt-小柳-原田病などが疑われる場合にしばしば決定的な意味をもつ.本稿では髄液の生理,正常所見から適応症,留意点,さらに眼科領域での施行意義について解説したい.I髄液研究の歴史髄液の存在はすでに古代ギリシアのHippocrates(BC460375)によって記載されている.しかし,科学的見地からの記載はCotugno(1764),医学的見地からの記載はMagendieの剖検例での観察による(1828).Magendie(図1)は健常者にも髄液が存在すること,脳室・脳表・脊髄くも膜下腔が連続していることを明らかにした.さらに1875年にはKeyとRetziusにより,髄液の大部分は脳室の脈絡叢で産生され,脳室系を経てくも膜下腔へ流れ,やがてくも膜絨毛を介して吸収されるという髄液循環の基本事項が明らかになった.今日では髄液は血液,リンパ液につぐ第3循環と認識されている.(27)14971oosiitaiiigeaino2Masaaiiino6157特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):14971500,2008髄液検査CerebrospinalFluidExamination北市伸義*1新野正明*2大野重昭*11FrancoisMagendie(17831855)フランスの医学者で実験生理学の先駆者.剖検例の観察から髄液・髄腔の基本構造を明らかにした.ベル・マジャンディーの法則(求心性神経線維は脊髄後根から入り,遠心性神経線維は脊髄前根から出る)の発見者でもある.———————————————————————-Page21498あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(28)う.4)0.51.0%リドカイン溶液約2mlで局所麻酔.5)穿刺部に針先はわずかに頭側へ向け,体に対して80°の角度に針を進める.手応えを確かめながら針を進め,骨にあたったら皮下組織まで針先を戻し,再度進入する.ヒトでの産生量は約0.35ml/分,1日では500700mlとなり,計算上髄液は1日に34回入れ替わっていることになる.III髄液検査の適応1.適応脳血管障害,脳腫瘍,脊髄疾患,髄膜炎,脳炎,多発性硬化症,Guillain-Barre症候群などほとんどの神経疾患が適応となる.眼科領域ではVogt-小柳-原田病,多発性硬化症,頭蓋内腫瘍などで関係が深い.どのような疾患を念頭におくかで髄液の検査項目は異なる(表1).特にVogt-小柳-原田病は自己免疫性のぶどう膜炎と髄膜炎を合併するため診断に有意義である1).ステロイド薬全身投与を開始するうえで重要な検査であるが,漫然とするのではなく,鑑別診断を考えて行う.2.禁忌頭蓋内圧亢進時,穿刺部の感染病巣,出血傾向,脊椎変形例では禁忌である.今日神経内科領域では髄液検査前に頭部単純CT(computedtomography)検査が推奨されている.3.手技1)脊柱をできる限り後弯させ棘突起を開き,椎間腔を広げる.そのまま検査終了まで同一体位を保つ.2)穿刺部を触診して位置をよく確認する.穿刺部はJacoby線(左右腸骨稜の最高点を結ぶ仮線)と腰椎の交差点である(図2).ここは第4腰椎と第5腰椎間にあたり,穿刺は正中から行う.3)穿刺部を消毒.滅菌手袋を着用し,孔あき布で覆図2穿刺の位置Jacoby線を目印にして第4と第5腰椎間を穿刺する.図3腰椎穿刺の断面図針がくも膜下腔に達すると髄液が流出する.表1おもな疾患に対する髄液検査項目疾患検査項目脳血管障害,髄液細胞診,腫瘍特異抗原,生化学的検査,ミエログラフィなど脳腫瘍,水頭症脊髄疾患髄膜炎(含Vogt-小柳-原田病),脳炎細胞数,蛋白質,糖,抗体価,(塗抹標本)多発性硬化症,脱髄疾患,蛋白質,細胞数,電気泳動(gグロブリン),酵素濃度神経変性疾患Guillain-Barre症候群蛋白質,細胞数(髄液蛋白細胞解離)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081499(29)1)一過性頭痛2)一過性脊髄根性疼痛3)頭蓋内圧亢進時の脳ヘルニア4)局所感染による髄膜炎5)髄液大量採取後の一過性神経麻痺(特に外転神経麻痺)6)硬膜下血腫IV髄液の正常値と病的意義1.髄液圧髄液圧の正常値は側臥位で70180mmH2Oであり,200mmH2O以上は病的亢進とされる.髄液圧は体動,緊張,咳漱などで変動するためしばらく観察して一定になってから圧を測定するとよい(図4).髄液圧が40mmH2O以下は低髄圧であり,脊髄くも膜下腔ブロック,脱水,循環虚脱,穿刺部からの髄液漏出などを考える.2.外観正常髄液は水様,無色透明である.わずかでも着色,混濁があれば病的と考える.混濁は細菌や細胞成分の増加による.血性髄液はくも膜下出血か医原性を含めた血管損傷を考える.採取髄液が黄色調を呈する場合をキサントクロミーとよび,くも膜下出血後にみられる(表2).3.細胞数と細胞成分正常髄液の細胞成分はおよそ5個/mm3以下とされ,おもにリンパ球である.北海道大学病院では検体3mm3で計数し,10個/3mm3(3.3個/mm3)以下を正常値としている.10個/mm3以上は病的である.長時間放置すると髄液内の細胞が破壊されるため採取後は速やかに細胞数を計測する.細胞増多がみられる場合にはその種類を特定することが重要である.多核白血球が増加して6)棘間靱帯を貫通する際は抵抗が強く,硬膜を貫通すると抵抗がなくなる.これで針は皮膚,皮下組織,筋膜,棘上靱帯,黄靱帯,硬膜,くも膜を順に穿通してくも膜下腔に達したことになる(図3).内針を抜くと髄液がでる.7)髄液の流出を少量にとどめ,圧棒を接続して初圧を測定する(図4).同時に液の性状,液面の上昇速度も観察する.正しく穿通していれば呼吸性動揺がみられる.血性の場合はすぐに抜去する.8)液圧を確認しながら髄液を採取する.初圧の半分以下にならない範囲でとどめる.一般的には10ml以内である.9)髄液採取後終圧を測定する.10)針を抜去し,局部をガーゼなどで強く圧迫する.検査後2時間以上は枕なしでベッド上絶対安静とし,その後も当日はできるだけ安静を心がける.4.合併症合併症は種々報告があるが,代表的なものは以下の通りである.最も一般的なものは一過性頭痛で,約20%にみられる.その他は比較的まれである.表2髄液外観と関連疾患正常水様,無色透明混濁血性黄色(キサントクロミー)細菌や細胞成分の増加くも膜下出血,血管損傷くも膜下出血後図4初圧の測定髄液が流出したら圧棒で初圧を測定する.同時に髄液の性状,液面の上昇速度もみる.正しく穿通していると呼吸性動揺がみられる.———————————————————————-Page41500あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(30)患の病態から考えて,診断時の髄液検査の重要性はコンセンサスが得られているといってよい.したがって現在の診断基準を「髄液検査は不要」と誤解してはならない.また,発症初期にはぶどう膜炎のみで髄膜炎がまだ発症していないことがあり,その時点では髄液細胞増多はみられない.そのような場合には数日後に再度髄液検査を行うとよい.おわりに髄液検査は基本事項を理解・習得すれば安全できわめて有効な検査である.特にVogt-小柳-原田病ではステロイド薬を大量に用いるかどうかの決定的な根拠となることが多い.しかし本稿で示したように,髄液検査でリンパ球増多がみられる鑑別疾患は多く,また原田病でも初期には髄液細胞増多がみられないことなどを理解し,しっかり眼所見を見きわめて診断・治療を進めることが基本であり,かつ重要である.文献1)KitaichiN,MatobaH,OhnoS:Thepositiveroleoflum-barpunctureinthediagnosisofVogt-Koyanagi-Haradadisease:lymphocytesubsetsintheaqueoushumorandcerebralspinaluid.IntOphthalmol27:97-103,20072)KitaichiN,HorieY,OhnoS:PrompttherapyreducesthedurationofsystemiccorticosteroidsinVogt-Koyanagi-Haradadisease.GraefesArchClinExpOphthalmol246:1641-1642,20083)SugiuraS:Vogt-Koyanagi-Haradadisease.JpnJOphthal-mol22:9-35,19784)ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportofanInternationalCommitteeonNomenclature.AmJOphthal-mol131:647-652,2001いる場合には化膿性髄膜炎,脳膿瘍,硬膜下膿瘍,脊髄硬膜外膿瘍などを考える.リンパ球増多の場合はウイルス性髄膜炎,Vogt-小柳-原田病,サルコイドーシス,神経Behcet病,脳炎,脳脊髄炎,結核性髄膜炎,真菌性髄膜炎,梅毒性髄膜炎,神経梅毒,多発性硬化症,外傷,脳脊髄腫瘍などを考える.好酸球増多は肺吸虫,旋毛虫,トキソプラズマ,マラリア,原虫感染などによる.また,伝染性単核症では異型リンパ球,白血病では白血球,転移性腫瘍では腫瘍細胞などの異常細胞がみられることがある(表3).VVogt小柳原田病における髄液検査Vogt-小柳-原田病はモンゴロイドに多発し,わが国ではぶどう膜炎の3大原因の一つである.疾患の本態はメラノサイトに対する自己免疫疾患であるため,ぶどう膜(おもに脈絡膜),髄膜,皮膚,内耳などに炎症が惹起される.その証拠に本疾患では眼内リンパ球の表面マーカーを解析すると髄液中のリンパ球と同じサブセットであり,血中リンパ球とはまったく異なる1).本疾患ではステロイド薬の大量療法かパルス療法が治療法として確立しているが,いずれにせよ大量のステロイド薬を長期間全身投与するため,確実な診断が重要である.しかも早期にステロイド薬投与を開始したほうが結果的にステロイド薬投与期間は短く済む2).これまで長く世界的に用いられてきた杉浦の診断基準では眼所見とともに無菌性髄膜炎所見が重視されてきた3)が,2001年に提唱された新診断基準では髄液検査を行わなくても診断できる例がある4).しかし,これは米国で髄液検査が保険適用とならないことがおもな理由の一つであり,日本をはじめアジア,ヨーロッパなど米国以外では本疾表3髄液細胞と関連疾患正常5(または3.3)個/mm3以下(10個/mm3以上は病的),リンパ球多核白血球増多化膿性髄膜炎,脳膿瘍,硬膜下膿瘍,脊髄硬膜外膿瘍などリンパ球増多ウイルス性髄膜炎,Vogt-小柳-原田病,サルコイドーシス,神経Behcet病,脳炎,脳脊髄炎,結核性髄膜炎,真菌性髄膜炎,梅毒性髄膜炎,神経梅毒,多発性硬化症,外傷,脳脊髄腫瘍など好酸球増多肺吸虫,旋毛虫,トキソプラズマ,マラリア,原虫感染など異常細胞伝染性単核球症,白血病,転移性髄膜癌腫症など