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ポリメラーゼ連鎖反応(PCR),Goldmann-Witmer比(Q値)

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSPCR法は臨床診断のための検査法として,すでに定着している.眼科的な検体として,前房水,硝子体液,涙液,網膜下液あるいは虹彩,角膜擦過物などの眼組織などがある.いずれも少量(微量)であるが,PCR法の検体としては十分に行える.また,検体を凍結しておけば,後日利用することもできるので,疑わしい検体は凍結保存しておくのが望ましい.1.臨床診断への使用単純ヘルペスウイルス(HSV),水痘・帯状疱疹ウイIポリメラーゼ連鎖反応(PCR)とはPolymerasechainreaction(PCR)法は,ポリメラーゼ連鎖反応あるいは複製連鎖反応ともいわれる.DNAポリメラーゼ反応を利用した微量DNAの増幅方法で,DNAの特定部位をはさむ2種類のDNA断片(プライマー)とDNAを合成する酵素(DNAポリメラーゼ)によるDNA鎖の合成反応を示す.この反応のくり返しにより,DNA特定部位を数十万倍数百万倍程度まで増幅させることができる.また,DNA合成のプロセスには,時間が数分しかかからないことから,このPCR法の利用が急速に広まった.PCR法は遺伝子配列の決定や遺伝子の定量など,遺伝子研究の基本技術として確立されている.近年では,ウイルス,クラミジア,ヒト免疫不全ウイルス(HIV),結核菌などの診断方法として応用されている.眼科領域では特に検体が少ないことが多く,眼ウイルス感染症の確定診断だけに限らず緑内障や網膜色素変性症の原因遺伝子の検索など広く応用されている.また,眼内リンパ腫でもPCR法を用いて腫瘍細胞のモノクローナルな遺伝子再構成を検索することがある.現在,ぶどう膜炎(内眼炎),特に眼ウイルス感染症では迅速な確定診断のためにはPCR法はきわめて有効な検査手段となっている.一般的にはウイルスDNAのゲル内の検出までには数時間で可能であること(図1),さらにサザンブロット・ハイブリダイゼーションを行えば,感度を上昇させることもできる.(21)1491naoita113-341-5-45特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):14911496,2008ポリメラーゼ連鎖反応(PCR),Goldmann-Witmer比(Q値)PolymeraseChainReaction(PCR),Goldmann-WitmerCoecient杉田直*330bp660bpMNPSHSVVZVNPS図1PCRゲル写真Polymerasechainreaction(PCR)検査で診断がついた水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)感染による急性網膜壊死の1例.アガロースゲル内の660bpのところにVZVDNAの陽性バンドが検出されている.同検体からはHSVDNAは陰性.M:100bpマーカー,N:negativecontrol(陰性コントロール),P:positivecontrol(陽性コントロール),S:検体(硝子体液).———————————————————————-Page21492あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(22)日和見感染症のなかで最も高頻度で出現すること,また臓器移植や,悪性腫瘍治療中に免疫抑制薬を使用する頻度が増えるにつれ,注意を要する疾患である.HSV,VZV,CMVをはじめとするヒトヘルペスウイルス属は,いくつかの原因不明の虹彩毛様体炎をひき起こしていると考えられる.すなわち,再発性で片眼性の虹彩炎を起こし,中等度の眼圧上昇を伴い,経過中に,虹彩脱色素,麻痺性散瞳,あるいは虹彩後癒着を起こしてくるような虹彩炎では,ヘルペスウイルスの関与が疑われる.多くは,ステロイド単独投与では治療に抵抗性を示す.実際,筆者らはこのような症例の前房水から,PCR法により,HSVあるいはVZVDNAを検出することができた2,3).このような症例では,アシクロビル(ゾビラックスR眼軟膏)やバラシクロビル内服の投与を併用することにより,速やかに治癒させることが可能で,ステロイドの投与量も軽減できる.その他に,ヘルペスウイルスの関与が疑われている疾患としては,角膜内皮炎,Posner-Schlossman症候群などがあげられる.近年,上記のようなPosner-Schlossman症候群類似の高眼圧,軽度の虹彩炎患者のなかにCMVDNAが検出さルス(VZV)をはじめとするヒトヘルペスウイルスは,急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)をはじめ,多くのぶどう膜炎の原因ウイルスとして知られている.急性網膜壊死患者の前房水,あるいは,硝子体手術時に得られる硝子体液からは,高率にHSV(HSV1またはHSV2)あるいは,VZV特異的なウイルスDNAがPCR法により検出される.筆者らも以前に,急性網膜壊死患者の14例の前房水または硝子体液から,PCR法により,上記ウイルスに特異的なDNAを検出した.これらの症例では,HSVまたはVZVが眼内炎症の直接的な原因となっているといえる.最近の知見では急性網膜壊死患者眼内液を用いたPCR法により,HSVやVZVに加えてEpstein-Barrウイルス(EBV)DNAが検出されるという報告がある1).また,サイトメガロウイルス網膜炎患者の眼内液からは,サイトメガロウイルス(CMV)のDNAが,血中抗体価の上昇に先んじて検出される.CMV感染症は後天性免疫不全症候群(AIDS)患者の眼図2サイトメガロウイルス(CMV)虹彩炎の前眼部写真角膜後面沈着物(KP,矢印)は白色で少し色素を含み,ぱらぱらと散在性に付着しており,高眼圧を伴っていた.虹彩炎は軽度で眼底に異常所見はない.臨床所見的にはPosner-Schlossman症候群との鑑別は困難である.この症例の前房水からCMVDNAが高コピー数検出された.この症例は経過中に角膜内皮炎(内皮浮腫)などはなかったが,角膜内皮細胞数が減少していた.治療はステロイド点眼に加えてバラガンシクロビルの内服が有効であった.マルチプレックスPCRプローブ液と混合融解曲線分析検体から抽出したDNAプローブ液PCR後融解曲線分析心PCRを行うPCR反応液キャピラリー図3多項目迅速PCR検査法この多項目迅速PCR検査(マルチプレックスPCR)は,数種類(多い場合は10種類以上のウイルスが可)のウイルスなどの外来性抗原を同時に迅速に検出できる新しいPCR検査システムである.具体的には眼局所検体からDNAを抽出後,AccuprimeTaqを用いてそれぞれのウイルス特異的プライマーを混合して,リアルタイムPCRのLightCycler(ロシュ社)で多項目迅速ウイルスPCRを行う.数種類のウイルスを2つのキャピラリーを用いて同時に検査する.PCR反応後,ハイブリダイゼーションプローブの混合液とPCR産物を混合し,meltingcurve解析を行い,ウイルスの同定を行う.これらはTm値(meltingtemperature,融解温度)が重ならないように設定したプローブによってウイルスの種類を判定する.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081493(23)ウイルスのHTLV-1(humanT-lymphotropicvirustype1)などがあげられる.2.PCRの新しい検査法ぶどう膜炎の場合,眼局所からウイルスなどの外来性抗原DNAが同定できれば,病因的価値が高くなる.診断目的には通常前房水が用いられるが,得られる検体量は0.1ml程度であることから可能な検査は限られる.れるという報告がある2).これらの症例では角膜後面沈着物が白色のものが散在性に付着しており臨床所見的にはPosner-Schlossman症候群との鑑別は困難である(図2).また,同様に角膜内皮炎でも前房水からCMVDNAが検出される報告もいくつかなされている.今後の詳細な報告が待たれるところである.その他,PCR法での報告1,2,4)がある眼科関連ウイルスはEBV,HHV6(ヒトヘルペスウイルス6型),レトロ2回目検体:血液および硝子体液3回目検体:血液,前房水,増殖膜1回目検体:血液および前房水HHV-6HHV-6HHV60.00200.00180.00160.00140.00120.00100.00080.00060.00040.00020.00000.00160.00140.00120.00100.00080.00060.00040.00020.0000-0.0002-0.0004-0.00060.000400.000350.000300.000250.000200.000150.000100.00005Fluorescence-d(F3/F1)/dTFluorescence-d(F3/F1)/dTFluorescence-d(F3/F1)/dT1setAH2O1setAH2O7setA5918setA59215setBH2O1setAH2O3setA7284setA7295setA7309setB66710setB6684setA6675setA6686setBH2O17setBH2O19setB72820setB72921setB73042.044.046.048.050.052.054.056.058.060.062.064.066.068.070.072.073.0Temperature(℃)図4眼内検体を用いて多項目迅速PCR検査を施行した代表症例の結果融解曲線カーブで陽性か陰性かの判定を行う.この症例は原因不明の難治性ぶどう膜炎の眼内液(前房水,硝子体液),手術で採取した眼内増殖組織,血液をインフォームド・コンセントのもと採取して,いずれの検体からもHHV6-DNAが検出された.HHV6はTm値が52℃で曲線が検出されるように設定していて,他のヘルペスウイルスDNA(HSV1,HSV2,VZV,EBV,CMV,HHV7,HHV8)はすべて陰性であった.治療にはバラガンシクロビル+ステロイドの内服を使用し,やがて消炎した.———————————————————————-Page41494あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(24)の参考にもなる.近年,筆者らは,VZV関連虹彩毛様体炎の前房水から高コピー数のVZVDNAが検出され,その眼局所のウイルス量と虹彩萎縮や麻痺性散瞳などの組織破壊が相関し(図5),早期診断が重要であることを報告している3).以前は多くの症例で,病因ウイルスが病巣(眼局所)から検出されずに疑いのまま加療されていた.さらに,その病巣からPCR法で特定のDNAが検出されたとしても,その陽性という結果はPCR法の感度が良いためにコンタミネーションなどが避けられないことから偽陽性が含まれる場合があった.近年,PCRシステムの改良により,多種のウイルスを同時にかつ迅速にスクリーニングして,その後異なったプライマーとプローブの組み合わせでウイルス量の定量化検査をする検査システムが報告されている2).その他の利点として,感染性ぶどう膜炎/眼内炎を否定する目的で使用できる.最近では,ウイルスだけではなく,Broad-rangePCRという細菌や真菌の共通保存領域をPCR法で増幅させる方法が報告されている5).これらは何の菌までかはわからなくて数年前まではこのような微量検体を用いて検査可能な核酸の検出や特異抗体の同時測定を行っていた.その頃はPCR法を用いても核酸は12項目,抗体も抗体率(Q値)まで求めるためには数項目が限度であった.現在は,このような微量検体でも迅速に簡易的に多くの項目(10種類以上)の核酸や特異抗体を検査できるシステムが作成され,実際臨床応用されてきている(多項目迅速PCR検査,図3)13).この多項目迅速PCR検査(マルチプレックスPCR)の特徴は,数種類のウイルスなどの外来性抗原を同時に迅速に検出できる.その方法を図3に記載したが,以前のPCR法のようにゲル内のバンド検出で判定するのではなく,融解曲線で陽性か陰性かの判定を行う(図4).曲線が大きい場合,ウイルス量が多いことがわかり半定量できる利点がある.加えて,その核酸の量を定量化する検査が出現した(リアルタイムPCR).このリアルタイムPCRは経過中に何度か検体を採取できればその経過中のウイルスDNAコピー数が把握できる利点がある2).また,治療前に眼局所のウイルス増幅コピー数を把握できるために,実際,治療薬の量の決定症例1症例2前房水VZVDNA量1.2×107copies/m?前房水VZVDNA量1.3×105copies/m?図5VZV虹彩毛様体炎の前眼部写真とその眼局所ウイルス量症例1は前房水中のVZVDNAコピー数が1.2×107copies/mlと非常に高く,経過中に広範囲な虹彩萎縮と麻痺性散瞳がみられた(矢印).症例2はVZVDNAコピー数が1.3×105copies/mlと高コピー数だが,症例1に比べたら2桁以上低く,虹彩萎縮も斑状で範囲が小さく(矢印),麻痺性散瞳はなかった.これらの結果のように眼局所でのウイルス量と眼内組織破壊は相関しており,早期診断,早期治療が重要であることがわかる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081495(25)3.抗体率の判定における注意点今回示した診断基準は急性網膜壊死に対して設けられたものだが,理論上その他多くの病原体に適用できると思われる.病原体が眼以外の臓器に感染した場合,血清抗体価も上昇するので,1≦抗体率<6でも診断的価値があると思われる.抗体率が1未満の場合は,眼内局所での抗体産生はないと考えてよい.眼局所の少ない検体量の問題から,既知のすべての病原体について抗体率を測定することは不可能である.臨床所見から疑える病原体を数種類に絞る必要がある.やはり,最も重要なのは臨床診断であり,加えてPCR法やQ値測定など複数の検査を施行するのが理想である.文献1)杉田直,岩永洋一,川口龍史ほか:急性網膜壊死患者眼内液の多項目迅速ウイルスPCRおよびリアルタイムPCR法によるヘルペスウイルス遺伝子同定.日眼会誌112:30-38,20082)SugitaS,ShimizuN,WatanabeKetal:UseofmultiplexPCRandreal-timePCRtodetecthumanherpesvirusもこれらの感染を否定することができ,治療の中心がステロイドのぶどう膜炎分野ではこれらのPCR法が広く使用されるようになってきている.理論的にはすべての外来性抗原をPCR法で検出することが可能で,今後は眼科関連性のある外来性微生物をすべて網羅できる検査システムの開発が待たれる.IIGoldmann-Witmer比(Q値)とは眼内の抗原に対して免疫反応が生じると,眼内でリンパ球の増殖と抗体産生が起こる(おもにBリンパ球が産生).一般的には眼内炎症時には単位抗体当たりの抗原特異抗体の割合は,血清よりも眼内液(房水あるいは硝子体液)が高値となる.つまり眼内局所のみの感染であれば,血清抗体価は低値のことが多い.眼内における感染が主体の場合,眼内で抗体が産生される.したがって眼内液の抗体価の検討が重要になり,抗体率が診断に用いられる.1.抗体率を検討するうえでのポイント眼内液の抗体価が上昇してくるまでには少なくても眼内炎症性疾患の発症後12週間はかかると考えられている.免疫不全状態(AIDSなど)では眼内液の抗体価が上昇しにくいため,ウイルスの検出(PCR法)など他の診断法が必要である.また眼内ウイルスDNA検出は治療によってやがて陰性化していくが,眼内液の抗体価はゲノムに比べて持続しやすい.発症約数年後にも眼内液の抗体価が高値であったという報告もある.PCRなどの遺伝子検査と比較した抗体率測定の最大の利点は,急性期以外でも眼局所抗体が検出され,後々でも検体が保存されていればQ値を調べることができるという点である.2.抗体率の計算方法(Goldmann-Witmer係数の具体例,図6)【症例】右眼ぶどう膜炎の患者.血清抗VZVIgG160倍,血清総IgG800mg/dl.前房水総IgGは500mg/dl.前房水抗VZVIgG800倍で,計算上の値はQ=8.右眼眼底周辺部の網膜壊死があり,VZV感染による急性網膜壊死と診断した.図6Goldmann-Witmer係数(抗体率,Q値)の計算方法および具体例図のように血清2項目,眼内液2項目の合計4項目の抗体を測定し,図の計算式に当てはめる.急性網膜壊死の場合,発症からの経過が長いときは,眼内液からDNAが検出されないことがあり,Q値測定が必要となる.抗体率(Q)=病原体(A)に対する眼内液*の抗体価眼内液のIgG濃度病原体(A)に対する血清の抗体価血清のIgG濃度判定:Q<1→病原体(A)の眼内感染なし1≦Q<6→病原体(A)の眼内感染の疑い6≦Q→病原体(A)の眼内感染あり,陽性*眼内液:前房水や硝子体抗体率(Q)=VZVに対する前房水の抗体価=800前房水の総IgG濃度=500VZVに対する血清の抗体価=160血清の総IgG濃度=800判定:Q値=8で陽性,最終診断:VZV急性網膜壊死具体的な代表例抗体率(Q,Goldmann-Witmer係数)———————————————————————-Page61496あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(26)humanherpesvirus6inapatientwithsevereunilateralpanuveitis.ArchOphthalmol125:1426-1427,20075)ChiquetC,CornutPL,BenitoYetal;FrenchInstitutionalEndophthalmitisStudyGroup:EubacterialPCRforbacte-rialdetectionandidenticationin100acutepostcataractsurgeryendophthalmitis.InvestOphthalmolVisSci49:1971-1978,2008genomeinocularuidsofpatientswithuveitis.BrJOph-thalmol92:928-932,20083)KidoS,SugitaS,HorieSetal:Associationofvaricella-zostervirus(VZV)loadintheaqueoushumorwithclini-calmanifestationsofanterioruveitisinherpeszosteroph-thalmicusandzostersineherpete.BrJOphthalmol92:505-508,20084)SugitaS,ShimizuN,KawaguchiTetal:Identicationof

光干渉断層計,フルオレセイン蛍光眼底造影,インドシアニングリーン蛍光眼底造影,超音波検査

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSる場合には明瞭な画像が得られにくく,また固視不良な場合には,歪んだ画像が得られる場合も多い.しかしながら,特に眼底後極の漿液性網膜離,黄斑浮腫などを患者に侵襲を加えずに負担が少なく行えるので経過を追って病態を観察記録したり,治療効果を客観的に判定したりするのに有用である.ただ,周辺部網膜の観察は困難なところが難点である.また,網膜色素上皮よりも外層の脈絡膜の情報は得にくい.OCTがその力を発揮する代表的な病態に黄斑浮腫や脈絡膜新生血管がある.黄斑浮腫に関して,検眼鏡的にはわからない軽微な浮腫でも,OCTでは検出することができ,視力低下の原因検索に役立つことがある.網膜の浮腫は,OCTでは,網膜外層への水分貯留により層構造の乱れや網膜厚の肥厚として検出される.胞様変化は中心窩と周辺に形成され,ぶどう膜炎でみられる浮腫はこのタイプの浮腫を呈することが多い(図1).原田病に伴う漿液性網膜離では,離した神経網膜と網膜色素上皮に囲まれた低反射領域として観察される(図3).ステロイド治療などにより,適切に炎症がコントロールできれば網膜浮腫の改善と視力向上が期待でき,結果として画像所見の改善として評価することができる(図2,4,5).脈絡膜新生血管に関しては,ぶどう膜炎の長期経過観察中に,脈絡膜新生血管を生じることがあり,検眼鏡的には検出されない微小な病変の検出と非侵襲的な経過観察が可能である(図6).はじめにぶどう膜炎患者の診察に際して,初診時に必ず行うべき眼科検査として,視力検査・眼圧測定・細隙灯顕微鏡による前眼部検査・隅角検査・眼底検査があげられる.加えて,網膜血管や脈絡膜血管の状態を評価するためのフルオレセイン蛍光眼底造影検査(uoresceinangiog-raphy:FA)・インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(indocyaninegreenangiography:IA)などは,蛍光色素漏出の形態より血管炎や浮腫の存在を明らかにでき,診断に結びつく特徴的な所見が得られるため有効な検査である.超音波検査(ultrasonography:US)は,眼底が透見できないようなときに,眼内の状態を検索・評価する場合に有用で,光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)も,非侵襲的に検査を施行できるために,黄斑浮腫のような網膜病変を経時的に評価するのに有効な検査である.上記の検査法は,鑑別診断に役立つ重要な情報を提供してくれるので,疾患ごとの特徴的検査所見を覚えておくことは診断と治療に大切なことである.I光干渉断層計(OCT)OCTは,近赤外領域の低干渉ビームにより網膜断層像を描出するものであり,後極部眼底の網膜断層像の評価や,黄斑部の網膜厚測定に通常使用されている.OCTは,光によるエコー断層造影検査であるので慢性のぶどう膜炎患者のように白内障や硝子体混濁が存在す(15)1485sushduuOu眼565087122眼特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):14851490,2008光干渉断層計,フルオレセイン蛍光眼底造影,インドシアニングリーン蛍光眼底造影,超音波検査OpticalCoherenceTomography,FluoresceinAngiography,IndocyanineGreenAngiographyandUltrasonography———————————————————————-Page21486あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(16)図1胞様黄斑浮腫網膜内に房状の低反射領域として,隔壁に囲まれたいくつかの部屋からなる胞様黄斑浮腫が認められる.胞様変化によって中心窩の陥凹が消失している.図2胞様黄斑浮腫(ケナコルトTenon下投与後)炎症所見が改善し浮腫が軽快した.図3原田病における漿液性網膜離(治療開始前)感覚網膜と網膜色素上皮が分離した網膜離が認められる.網膜下液は低反射領域になっている.図4原田病における漿液性網膜離(治療開始後)治療により改善傾向にある.図5原田病における漿液性網膜離(治療開始後)網膜下液は消退しつつあり,中心窩陥凹は回復してきている.このようにOCTは,非侵襲的に時間経過を追って治療効果の判定を行うことができる.図6脈絡膜新生血管———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081487(17)に得られる可能性があり,疾患ごとの特徴的な造影所見を覚えておくと便利である.例をあげるとBehcet病でよくみられる毛細血管レベルでの炎症は,検眼鏡では観察が困難であるがFA所見では網膜毛細血管からのシダ状の蛍光漏出として捉えることができる(図7).原田病における後極部の網膜離に一致した多発性蛍光漏出点と蛍光色素の貯留(図8),急性後極部多発性円板上網膜色素上皮症(acuteposteriormultifocalplacoidpigmentIIフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)の撮影の目的は,網膜循環動態の評価と,網膜血管および網膜色素上皮がもつ血液網膜関門の状態を把握することにある.FAでは,検眼鏡的には判然としない網膜血管炎の所在や蛍光漏出などが過蛍光として描出され,診断に有用である.FAでは,鑑別診断につながる特徴的な所見が疾患ごと図7Behcet病におけるシダ状の蛍光漏出網膜毛細血管からのびまん性色素漏出が認められる.図8原田病における多発性の過蛍光と貯留図9胞様黄斑浮腫菊花様の蛍光貯留造影後期に菊花様の過蛍光を認め,蛍光色素の貯留が認められる.図10サルコイドーシス静脈に沿って多発性結節状の蛍光漏出点を認める.———————————————————————-Page41488あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(18)後での網膜血管炎の活動状態を比較することにより,治療法の選択や投与量の検討を客観的に把握できる点で重要な検査である.IV超音波断層検査(US)ぶどう膜炎疾患における超音波診断は,さまざまな検査機器の進歩にかかわらず,依然として日常不可欠の重要な検査診断法の一つである.その理由として,ぶどうepitheliopathy:APMPPE)における早期の低蛍光と晩期の過蛍光などは診断的価値が高い所見である.また,胞様黄斑浮腫の検出や診断,血管閉塞の診断にも不可欠である(図9).その他,サルコイドーシス(図10)やトキソプラズマ症(図11)などにおいても特徴的な検査所見を得ることができる.IIIインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(IA)インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(IA)では,FAでは検出が困難な脈絡膜新生血管や脈絡膜の循環障害の検出などに有用な検査である.具体例をあげると,原田病では,脈絡膜循環障害により充盈遅延が認められる(図12).これは,脈絡膜毛細管板での血管閉塞が局所に生じているからで,造影後期まで続く斑状低蛍光が認められる.脈絡膜の循環不全をきたす地図状脈絡膜炎・APMPPEでは,IAでは早期から後期まで低蛍光であり,脈絡毛細管板,毛細血管前細動脈の循環障害が観察され診断の根拠となる.また,multifocalchoroidi-tis(MFC)などのように脈絡膜を主座とする疾患の診断にも有効である(図13,14).以上述べてきたように,FA/IA蛍光眼底所見はぶどう膜炎の活動性と治療効果の判定に有用であり,治療前図11トキソプラズマEdmundJensen型視神経乳頭近傍に生じ,造影後期に組織染する蛍光漏出領域を認める.図12原田病のIA脈絡膜血管が不鮮明で低蛍光斑と脈絡膜血管の透過性亢進による過蛍光が認められる.図13多発性脈絡膜炎(MFC)のFA———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081489(19)おわりに以上述べてきたように,疾患ごとに特徴的な検査所見を得ることができるためにOCT,FA,IA,USは,臨床所見と検査結果を組み合わせて,鑑別診断から確定診断へと導くことのできる診療を進めるうえでの重要な検査方法であると考えられる.膜炎患者によくみられる硝子体混濁があっても観察でき,眼球内病変の診断が容易に可能であることがあげられる.眼炎症疾患でよく用いられるのは,B-modeである.これは,超音波の反射波の強度を直接,白黒の濃淡をつけることにより表示し観察する方式である.走査プローブの動きにより,組織の二次元的断層像を表示することにより眼球内の形態が捉えられるため,腫瘍などの眼球内構造物の全眼球における位置関係やその全体像,大きさの把握などが同時に行える点で有効な検査方法である.特に高度の前房炎症や硝子体混濁,出血により眼底の観察が困難な場合,エコーで眼底の状態を推察することができる(図15).その他の例として,後部強膜炎における強膜の肥厚像など診断に役立つ情報を得ることができる(図16).USによりびまん性の脈絡膜肥厚を認める所見は,原田病の診断基準の一つにもあげられている.一般的に,眼科領域で使用している超音波診断装置は520MHz周波数の振動数をもつものであるが,この低周波の超音波では毛様体を含んだ前眼部組織の描出には適しておらず,前眼部組織の超音波検査には最近実用化されている3050MHzの高周波超音波装置(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)が使用されるようになった.UBMでは,隅角や毛様体の状態位置関係をはっきりと描出することができる.図14多発性脈絡膜炎(MFC)のIA図13のFA所見と比較して脈絡膜病変がより広範囲であることがわかる.図15細菌性眼内炎症例のUS所見前眼部の強い炎症のため眼底が透見不能であったが,USにより網膜全離していることが明らかにされた.図16後部強膜炎のTサイン像後極部組織の肥厚が明らかである.———————————————————————-Page61490あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(20)3)飯田知弘:インドシアニングリーン蛍光眼底造影.眼科検査ガイド,p606-613,文光堂,20044)大島佑介:超音波検査.眼科検査ガイド,p560-564,文光堂,20045)湯澤美都子(編著):インドシアニングリーン蛍光眼底アトラス─フルオレセイン蛍光眼底との比較,南山堂,1999参考文献1)大谷倫裕:OCT.眼科検査ガイド,p576-582,文光堂,20042)髙橋寛二:フルオレセイン蛍光眼底造影.眼科検査ガイド,p600-605,文光堂,2004

ヒト白血球抗原(HLA)

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSる.クラスⅠ分子は細胞自身がもつ内在性蛋白質が分解されてできたペプチドと結合し,CD8+T細胞がこれを認識して活性化する.HLAクラスⅡ分子はa鎖とb鎖のヘテロダイマーからなる膜貫通型糖蛋白質で,B細胞,抗原提示細胞(皮膚のLangerhans細胞,樹状細胞,単球,マクロファージ)および活性化T細胞のみに分布している.クラスⅡ分子は抗原提示細胞が細胞外より取り込んだ抗原を分解してできたペプチドを結合して細胞表面に発現し,これをCD4+T細胞に提示して活性化する2).MHCはヒトではHLAとよばれるが,他の動物(種)では名称が異なる(表1).はじめにさまざまな要素が関わり合い疾患に罹患することになるが,そのなかには生まれもっている遺伝子も含まれる.もちろん,遺伝子の異常によって発症する疾患もあるが,遺伝子そのものに異常がなくとも,その遺伝子により疾患感受性が規定されていることがある.その一つが,抗原提示あるいは自己認識に関わる主要組織適合遺伝子複合体(majorhistocompatibilitycomplex:MHC)抗原である.MHCは個人により保有する型が異なり,ある種の型をもっている場合,ある疾患に罹りやすいことが知られている.IMHC抗原糖蛋白質であるMHC抗原はヒトの場合ではヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)とよばれ,1954年にJ.Dausset博士によってパリ大学で発見された1).その支配遺伝子座は第6染色体短腕上に存在し,高度の遺伝的多型性がある.免疫応答制御の中心的な役割を果たし,全長約4,000kbでありヒトゲノムのなかでも早くから詳細な解析が進んでいる遺伝子領域である.HLAは構造上の違いからHLA-A,B,Cに代表されるクラスⅠ分子とHLA-DR,DQ,DPからなるクラスⅡ分子に分けられる.また補体関連の蛋白質をクラスⅢということがある.MHCクラスⅠ分子はa鎖とb鎖のヘテロダイマーからなる膜貫通型糖蛋白質で全身の有核細胞に発現してい(9)1479eh838157特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):14791483,2008ヒト白血球抗原(HLA)HumanLeukocyteAntigen(HLA)南場研一*表1MHCの名称種MHCヒトマウスラットウサギネコブタHLAH-2RT1RLAFLASLAHLA:humanleukocyteantigen.H-2:histocompatibility-2.RLA:rabbitleukocyteantigen.FLA:felineleukocyteantigen.SLA:swineleukocyteantigen.———————————————————————-Page21480あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(10)III人類の進化とHLA個体はその個体のもつ遺伝情報により作られる.遺伝子の多くは個体間で差がなく,ほぼ共通の個体が形成される.たとえば,眼は2個,鼻は1個,耳は2個である.しかし,個体間で異なる部分もあり,たとえば皮膚の色,虹彩の色の違いは遺伝子の差により決定される.遺伝子の変化に富んだ部分を遺伝子多型があるというII抗原提示抗原に対する免疫反応は,以下のメカニズムにより成立する.蛋白抗原は抗原提示細胞内で,アミノ酸820個の直鎖であるペプチドへと分解される.ペプチドはMHCに結合し細胞表面へ運ばれ,T細胞へ提示される(図1).一般にMHCクラスIは内因性抗原を提示しCD8+T細胞,NK(naturalkiller)細胞により認識されるのに対し,MHCclassIIは外来抗原を提示し,CD4+T細胞に認識される.ところが,すべてのペプチドが抗原提示されるわけではなく,MHCに結合可能なペプチドのみが抗原提示される.このことがMHCにより疾患感受性が規定される鍵となる部分である.たとえば,aというペプチドに反応するT細胞が,ある疾患の発症に関与している場合,AさんのMHCにはaが結合するがBさんのMHCにはaが結合しないとすると,Aさんはa反応性T細胞により発症の可能性があるが,Bさんには発症の可能性がないというわけである(図2).さらにいえば,MHCにはペプチドが結合する溝があり,その溝には特定のアミノ酸のみ結合可能なポケットが2カ所ある.そのポケットに結合可能なアミノ酸が配列されたペプチドだけがMHCに結合するのである(図3).抗原抗原ペプチドMHC抗原提示細胞T細胞レセプターT細胞図1抗原提示抗原蛋白はアミノ酸820個の直鎖であるペプチドへと分解され,MHCに結合して細胞表面へ運ばれ,T細胞へ提示される.MHCクラスIとクラスIIとで蛋白分解,MHCへの結合の過程が異なる.a(抗原ペプチド)AさんのMHC(HLA)結合T細胞活性化発症Aさんa(抗原ペプチド)BさんのMHC(HLA)結合しないTT細胞活性化せず発症せずBさんT図2HLAの違いによる疾患感受性aというペプチドに反応するT細胞がある疾患の発症に関与している場合,aが結合可能なMHCをもつAさんはa反応性T細胞により発症.しかし,aがMHCに結合しないBさんではa反応性T細胞へ抗原提示が行われないため,Bさんは発症しない.ポケットMHCアンカーアンカーペプチド図3ペプチドのMHCへの結合MHCにはペプチドが結合する溝があり,その溝には特定のアミノ酸のみ結合可能なポケットが2カ所ある.ペプチドのアミノ酸配列のなかにポケットに結合するアンカーとよばれる部位があるが,そのアンカー部位のアミノ酸の種類によりそのペプチドがMHCに結合可能かどうかが決定される.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081481(11)HLAタイピング抗血清,新鮮な十分量のリンパ球が必要であった.一方,最近ではHLA遺伝子の塩基配列が明らかとなり,遺伝子レベルでサブタイプに分類されるようになった.その結果得られたものを遺伝子型という.遺伝子型の検査法にはいくつかあるがPCR-SSO(polymerasechainreaction-sequencespecicoligonu-cleotide)法が最も普及している.遺伝子特異的なプライマーを使ってPCR増幅を行い,多型性部位配列に特異的なプローブと反応させて,陽性プローブの位置に発色バンドが出るようにしたものがキットとして用いられている.遺伝子型は「*」をつけて4桁の数字で示されるが,最近ではより詳細に遺伝子サブタイプの解析が進み8桁まで示されることもある.上2桁が血清型と一致することが多いが,違うものもあるので注意が必要である(表2).VIぶどう膜炎とHLAぶどう膜炎のなかでHLAがその発症に関与が示されているのは以下の疾患である.1.Behcet病Behcet病とHLA-B51との相関については,1973年に大野ら3)により(その当時はHL-A5)初めて報告された.その後の解析により,Behcet病の61%にHLA-B51がみられ,日本人のHLA-B51遺伝子表現頻度が15%(遺伝子頻度は8.6%)であることから高い危険率で疾患との相関がみられることが判明し,現在では疾患原因遺伝子の一つと考えられている.そして遺伝子型ではB*5101であることが判明した.最近ではさらに遺伝子サブタイプの分類が進みHLA-B*510101と6桁まで表記される.またB51陰性患者においてHLA-A*2601との相関も明らかにされている4).2.HLAB27関連ぶどう膜炎HLA-B27(HLA-B*2704,*2705)陽性者に発症する急性前部ぶどう膜炎である.日本人のHLA-B27遺伝子表現頻度が1%未満(遺伝子頻度は0.25%)であることを考えると診断的意味が大きい.他のHLA-B27関連疾が,HLAも遺伝子多型のある部位であり,人類の進化とともに変化してきたと考えられている.人類は700万年前にアフリカで誕生し,2万年前にユーラシア大陸へ入った後,一部はヨーロッパへ,一部はアジアへと広がった.ヨーロッパへ広がった白人のもつHLAと,アジアへ広がったモンゴロイドのもつHLAはまったく異なるパターンを示し,HLAの多型を調べることにより人類の足跡をたどることができるともいわれている.また,人類の進化とともにHLAが変化し,そのために出現した疾患もあると考えられる.たとえば,恐らく人類が誕生したときにはHLA-B51は存在しなかったし,Behcet病はこの世になかったと考えられる.白人,黒人にはHLA-B51が少ないことから,HLA-B51はユーラシア大陸に入った人類が,ヨーロッパとアジアへ別れた後,アジアへ向かった人類のなかから突如としてトルコ近辺で出現したと考えられており,その後にBehcet病も出現するようになったことが考えられる.人類は過酷な環境のなかで生存すべく遺伝子を変化させ適応してきたが,逆に不要な疾患も作り出してしまったようだ.IV疾患感受性とHLAある疾病は単一遺伝子の異常,欠損によって生じる.たとえば,アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症などである.しかし,多くの疾病は複数の原因遺伝子が発症に関与すると考えられており,その複数の原因遺伝子をすべて保有しなくても,ある程度保有していると発症すると考えられている.たとえば,Behcet病もそのような多遺伝子が原因と考えられている疾患であり,その原因遺伝子の一つがHLA-B51である.Behcet病のなかにはHLA-B51陰性の患者もいるのはそのためである.V血清型と遺伝子型以前は,リンパ球混合培養あるいは血清に対する反応性(抗血清反応)によりHLA型の決定が行われていた.その結果得られたものを血清型という.その方法は,検査対象者のリンパ球を分離し,これを標的として多数の厳選されたHLAタイピング抗血清との反応をもとにHLA型を決定するものであるが,この方法では良質な———————————————————————-Page41482あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(12)VII実際の検査HLA検査は,地域によって異なるが,ぶどう膜炎には保険適用がないため自費もしくは研究費で行っているのが現状である.これまで述べてきたように診断に重要な検査であることを考えると,この状況は決して望ましくなく,早期に保険適用となることが期待される.稿を終えるにあたり,ご校閲いただきました北海道大学医学研究科炎症眼科学講座大野重昭教授に深謝いたします.文献1)DaussetJ:Leuco-agglutinins.IV.Leuco-agglutininsand患(強直性脊椎炎,炎症性腸疾患,乾癬,Reiter病)を合併することもある.3.Vogt小柳原田病HLA-DR4(HLA-DRB1*0405,*0410)との関連が示されている.実際,原田病の82100%がDR4陽性である57).しかし,日本人のDR4頻度が2943%57)と高いことを考えると,DR4陽性であることは原田病である根拠にはならず,むしろDR4陰性の場合に原田病ではない可能性を示唆するものであると理解すべきである.また,日本人の交感性眼炎でもVogt-小柳-原田病と同一のHLA相関を示す.表2HLABの遺伝子型と対応する血清型血清型遺伝子型遺伝子頻度(%)血清型遺伝子型遺伝子頻度(%)B7B*0702015.54B61B*4002017.75B*0705010.01B*40030.42B13B*13011.20B*400601014.70B*1302010.26B60B*40070.01B62B*150101019.37B44B*440201010.45B75B*15020.04B*4403016.97B62B*15070.63B46B*4601014.59B75B*1511010.96B48B*48012.93B71B*15181.57B51B*5101018.62B62B*15280.10B*5102010.23B*15380.01B*51030.01B27B*2704010.20B52B*52010111.43B*2705020.05B54B*54017.55B35B*3501018.15B55B*5502012.43B37B*3701010.52B*55040.16B38B*3802010.25B56B*56010.91B39B*390101013.34B*56030.17B*3902010.04B58B*58010.65B*39040.25B59B*59011.94B*39230.04B67B*6701010.99B60B*4001015.41遺伝子頻度は日本赤十字社中央骨髄データセンター骨髄提供希望登録者のHLA型遺伝子頻度より抜粋(http://www.bmdc.jrc.or.jp/stat.html).頻度が0.01%未満のものは省いた.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081483(13)patients.MolVis12:1601-1605,20066)IslamSM,NumagaJ,MatsukiKetal:InuenceofHLA-DRB1genevariationontheclinicalcourseofVogt-Koy-anagi-Haradadisease.InvestOphthalmolVisSci35:752-756,19947)ShindoY,InokoH,YamamotoT,OhnoS:HLA-DRB1typingofVogt-Koyanagi-Harada’sdiseasebyPCR-RFLPandthestrongassociationwithDRB1*0405andDRB1*0410.BrJOphthalmol78:223-226,1994bloodtransfusion.VoxSanguinis4:190-198,19542)菊地浩吉:周り道免疫学.メディカルレビュー社,19983)OhnoS,AokiK,SugiuraSetal:HL-A5andBehcet’sdis-ease.Lancet2:1383-1384,19734)上石智子,伊藤良樹,目黒明ほか:PCR-SSOP-Luminex法を用いた日本人Behcet病患者における症状別HLA-A,-B遺伝子解析.日眼会誌112:451-458,20085)HorieY,TakemotoY,MiyazakiAetal:TyrosinasegenefamilyandVogt-Koyanagi-HaradadiseaseinJapanese

血液検査

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS結果に影響する可能性がある.ステロイド内服治療が必要となる場合には,治療を始める前に全身的な問題がないかをチェックするための血液検査が必要となる.また,ステロイドやその他の免疫抑制薬などを内服治療中は,定期的に全身的な副作用がないかをチェックするための血液検査が必要である.II血液検体の取り扱い溶血しないように採血し,各検査にあった専用の容器に分注する.採取した血液中の細胞は生きて代謝をするため,室温に放置する時間によって検査結果に影響がでる場合がある.よって原則として検体はできるだけ早く提出することが望ましい.特殊な検査では,受付曜日や時間に制限があったり,予約が必要な場合がある(例:結核のクオンティフェロン検査)ので注意が必要である.ウイルス抗体価のペア血清での測定など,後の確認検査や追加検査のために血清を保存しておく場合は,採血して20分室温放置後3,000rpmで5分間遠心し,分離した血清を別の容器に移して凍結保存する.III検査項目の選択問診,視診と眼科学的検査からある程度診断を推測して,何を検査すべきかを決める.スクリーニング検査と称して,どんな症例にも画一的にたくさんの検査を行うことは勧められない.すべてのぶどう膜炎に行う基本検査に,推測される疾患に合わせて表1に示すような検査はじめに血液検査をする目的は,(1)診断のため,(2)病態把握のため,(3)重症度・活動性判定のため,(4)治療効果判定のため,(5)薬物副作用チェックのため,(6)経過観察のためなどである.これらの検査の目的を意識したうえで検査計画をたてて,医学的にも医療経済面にも効率の良い感度・特異度の高い検査,すなわち患者の病態にあった最小限でかつ最適な検査を施行することが望まれる.I検査する症例の選択と検査のタイミングすべてのぶどう膜炎患者で診断のための血液検査をする必要はない.軽い片眼性の非肉芽腫性前部ぶどう膜炎で,潜在的な疾患を疑わせる全身的症候や所見のない症例では,血液検査を行う必要はほとんどない.このようなぶどう膜炎では血液検査で異常がみられることはほとんどなく,点眼治療ですぐに治癒する.また,問診と眼所見から十分に診断を予測できる症例にも,診断のための血液検査をあえて行う必要はない.たとえば,術後や外傷後のぶどう膜炎,眼所見や眼外症状などから原田病と診断できる場合,またはサルコイドーシスやBehcet病などの全身性疾患がすでに判明している場合などでは,診断のための血液検査は不要である.診断のための血液検査は,基本的には治療をはじめる前に施行するほうがよい.ステロイド点眼治療ではほとんど問題ないが,ステロイド全身投与は種々の血液検査(3)1473Naa52351特集●ぶどう膜炎検査の正しい使い方あたらしい眼科25(11):14731478,2008血液検査BloodTests中尾久美子*———————————————————————-Page21474あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(4)ではHTLV-1(humanT-lymphotropicvirustype1)関連ぶどう膜炎やトキソプラズマ症が比較的多いという特徴があり,HTLV-1関連ぶどう膜炎は眼所見だけでは診断ができないので,HTLV-1抗体をすべてのぶどう膜炎で検査している.トキソプラズマ抗体は眼所見から疑われる症例で検査していたが,典型的な病像を呈しない場合もあると報告されてからは,念のためすべての症例で検査している.これらの疾患の少ない地域では,これらの検査を基本検査に入れる必要はないかもしれない.一つの検査項目に対して複数の検査方法がある場合,どの検査法を選ぶかが問題となる.まずスクリーニングとなる検査法で検査して,陽性になったら精密検査を行うのが基本である.確認検査や追加検査が必要になる場合,深追いはせずにあとは専門の内科に依頼するのもよい方法と思われる.また,保険診療のルールにのっとっ項目を加えて検査するとよい.基本検査をどこまでやるかは個人の考え方で変わるし,ぶどう膜炎には地域差があるので,それによっても基本検査は変わってくると思われる.表2に示したのは鹿児島大学病院眼科で行っているぶどう膜炎の診断のための基本検査である.鹿児島表1ぶどう膜炎の診断の参考になる血液検査所見ぶどう膜炎血液検査所見サルコイドーシスアンギオテンシン変換酵素↑原田病HLA-DRB1*0405,DRB1*0410Behcet病CRP↑,白血球↑,HLA-B51梅毒RPR陽性,TPHA陽性結核クオンティフェロン陽性サイトメガロウイルス網膜炎サイトメガロウイルス抗原陽性,CD4↓,CD4/CD8↓HTLV-1関連ぶどう膜炎HTLV-1抗体陽性Epstein-Barrウイルス関連ぶどう膜炎EA抗体,VCA抗体,EBNA抗体の異常高値トキソプラズマ症トキソプラズマ抗体陽性トキソカラ症トキソカラ幼虫に対する抗体陽性,好酸球増多ネコひっかき病Bartonellahenselae抗体陽性内因性真菌性眼内炎b-D-グルカン陽性若年性関節リウマチ抗核抗体陽性,RF陽性関節リウマチRF陽性強直性脊椎炎HLA-B27HLA-B27関連急性前部ぶどう膜炎HLA-B27全身性エリテマトーデスに伴う網膜血管炎抗核抗体陽性,抗DNA抗体陽性,CRP↑糖尿病性虹彩毛様体炎血糖↑,HbA1c↑CRP:C-反応性蛋白,RPR:急速血漿レアギン試験,TPHA:梅毒トレポネーマ赤血球凝集反応,HTLV-1:humanT-lymphotropicvirustype1,EA:earlyantigen,VCA:viruscapcidantigen,EBNA:Epstein-Barrnuclearantigen,RF:リウマトイド因子,HbA1c:ヘモグロビンA1c.表2鹿児島大学病院におけるぶどう膜炎の基本的血液検査・末梢血液一般検査赤血球数白血球数血色素測定ヘマトクリット値血小板数・末梢血液像・CRP定量・アンギオテンシン変換酵素・梅毒定性検査RPRTPHA・HTLV-1抗体(PA)・トキソプラズマ抗体(LA)CRP:C-反応性蛋白,HTLV-1:humanT-lymphotropicvirustype1,RPR:急速血漿レアギン試験,TPHA:梅毒トレポネーマ赤血球凝集反応,PA:粒子凝集試験,LA:ラテックス凝集試験.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081475(5)する.白血球の増加,減少がみられる場合には必ず分画を確認し,白血球数×分画(%)でどの白血球の絶対数に異常があるかをみる.好中球の絶対数が500/μl以下になると易感染性となる.好酸球が500600/μlを超えると好酸球増多症で,寄生虫感染やアレルギー疾患が疑われる.リンパ球が減少して免疫不全が疑われる場合にはT細胞,B細胞分画を調べる必要がある.c.赤血球沈降速度(赤沈)急性および慢性感染症,自己免疫性疾患,悪性腫瘍,心筋梗塞,熱傷,貧血,白血病,肝硬変などで促進する.2.生化学的検査a.アンギオテンシン変換酵素(ACE)ACEはサルコイドーシスの類上皮細胞肉芽腫に多量に存在していることから,サルコイドーシスの補助診断や病態把握,経過観察に用いられ,活動性サルコイドーシス患者の80%以上で高値を示すといわれる.ただし,サルコイドーシスでも病変が両側肺門リンパ節腫脹のみである場合には,ACEは軽度上昇ないし基準範囲内にとどまることがある.肝硬変,腎不全,Gaucher病,糖尿病,甲状腺機能亢進症などでも高値を示すが,サルコイドーシス以外の疾患でのACE値上昇は通常軽度である.ステロイド内服治療を開始すると速やかにACEが低下することがあるので,ステロイド治療開始前に測定する必要がある.b.免疫グロブリン免疫異常(自己免疫や慢性炎症疾患,免疫不全)が疑われる場合に検査する.通常は血中濃度が高く,さまざまな病態との関連が示されているIgG,IgA,IgMの3種を調べる.アレルギー疾患や寄生虫感染症を疑う場合はIgEを測定する.慢性感染症(結核,亜急性心内膜炎,慢性気管支炎など),膠原病,慢性肝炎,悪性腫瘍,IgA腎症で多クローン性に増加し,多発性骨髄腫,原発性マクログロブリン血症,本態性M蛋白血症で単クローン性に増加する.リンパ増殖性疾患,急性ウイルス感染症,後天性免疫不全症候群(AIDS),蛋白漏出性疾患,免疫抑制療法施行時,内分泌異常で減少する.c.C反応性蛋白(CRP)炎症マーカーの代表で,細菌感染症,膠原病などの炎た検査をすることも必要である.ぶどう膜炎の血液検査として保険適用となる検査は地域によって多少異なるので,確認したうえで検査する.IV検査結果の解釈各検査には基準値・基準範囲があり,それを参考に異常があるかを判定する.基準範囲とは,定量検査について基準個体が示す基準値のうち,95%を含む中央部分の上限値と下限値の間に含まれる測定値範囲をいう1).よって,基準範囲に入っていても病的でないとはいえないし,基準範囲から外れていても病的であるとはいえないことに留意する必要がある.感染症に関する検査では,血液検査は全身的な感染を証明しても,ぶどう膜炎の原因であることを証明することはできない.感染初期に上昇するIgM抗体が検出されるか,発症初期と23週間後の回復期のペア血清でIgG抗体が有意に上昇すれば,急性感染または感染の活動性が高いことが推測されるが,あくまでも全身的な状況を示しているのであり,必ずしも眼の状態を反映しているわけではない.感染によるぶどう膜炎の診断には,眼内液での抗体率や病原微生物のDNAの検索が必要となることが多い.以下に,ぶどう膜炎に関連する検査項目の臨床的意義や検査結果の解釈について概説する.また,表3におもな検査の基準値・基準範囲と臨床的意義をまとめ1),参考として各検査の保険点数を併記した2).検査を依頼する際にコストがいくらかかるかを意識することはほとんどないと思うが,意外に点数の高い検査もある.1.血液学的検査a.赤血球減少(貧血)と増多(多血症)とに分けられる.貧血はぶどう膜炎の原因となる感染,炎症,腫瘍などに伴って二次的にひき起こされることがある.b.白血球白血球減少(3,000/μl以下)がみられる場合は,易感染性がないかと,使用している薬剤をチェックする.増加(10,000/μl以上)がみられる場合は,喫煙歴,使用薬剤をチェックし,発熱の有無と体重減少の有無を確認———————————————————————-Page41476あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(6)表3ぶどう膜炎に関連するおもな検査項目検査項目基準値・基準範囲1)臨床的意義保険点数2)末梢血液一般検査白血球数4,00010,000/μl感染症,ステロイド薬で増加22赤血球数男性450610×104/μl女性380530×104/μl感染,炎症,腫瘍で貧血を伴うことがある血小板1335×104/μlウイルス感染で一過性に減少末梢血液像好中球桿状核球215%分葉核球4060%増加:感染症,炎症,ステロイド投与,急性出血,悪性腫瘍減少:血液疾患,ウイルス感染症,薬剤,放射線照射,膠原病18好酸球15%増加:寄生虫症,薬剤,アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患,血管炎,悪性腫瘍好塩基球02%単球210%リンパ球2050%増加:ウイルス感染症,リンパ系増殖疾患減少:SLE,リンパ腫,AIDS,薬剤赤沈男性210mm女性315mm急性および慢性感染症,自己免疫性疾患,悪性腫瘍,心筋梗塞,貧血,白血病,肝硬変などで促進9CRP0.3mg/dl以下細菌感染症,膠原病などの炎症性疾患,心筋梗塞,悪性腫瘍で増加.赤沈に先立って陽性化し,赤沈値改善の前に陰性化16アンギオテンシン変換酵素7.729.4IU/l活動性サルコイドーシスの80%で上昇160梅毒脂質抗原試験RPR,VDRL,陰性感染後46週間に陽性となる梅毒以外の疾患でも陽性に出ることがある(生物学的偽陽性)15梅毒トレポネーマ抗原試験TPHA陰性(60倍未満)梅毒第2期以降は陽性.治癒しても一生陽性が続く32トキソプラズマ抗体PHA<160倍LA<6不顕性感染が多い.急性感染かを調べるにはIFAでIgG抗体,IgM抗体を調べる27ネコひっかき病抗体IFAIgG<128倍,IgM<20倍IgM抗体の上昇は活動性感染を意味するb-D-グルカン比色法(ファンギテックGテスト)陽性:20pg/ml以上,要経過観察:1020pg/mlカンジダ症,アスペルギルス症,ニューモシスチス症などの深在性真菌感染症で陽性220ウイルス抗体価HI<8倍,NT<4倍EIAIgG<4.0IgM<2.0ペア血清でIgM抗体の出現やIgG抗体の4倍以上の上昇は,急性感染や感染の活動性が高いことを示唆する1項目80グロブリンクラス別ウイルス抗体価1項目230HTLV-1抗体PA陰性抗体陽性者の大部分はキャリアで,白血病や脊髄疾患を発症するリスクは低い85サイトメガロウイルス抗原アンチジェネミア法陽性細胞数0個陽性の場合は全身的にウイルス活性化がある410抗核抗体IFA40倍未満陽性になる疾患は膠原病であるが,健常者の1020%が陽性120抗DNA抗体10IU/ml未満SLEで陽性.薬剤により陽性になることがある180リウマトイド因子(RF)RAテスト陰性RAHA<40倍慢性関節リウマチで陽性になるが,その他の膠原病,慢性肝疾患,慢性感染症,サルコイドーシスでも陽性になることがある30免疫グロブリンIgG8701,700mg/dl増加:慢性感染症,慢性肝障害,自己免疫性疾患,悪性腫瘍低下:免疫不全症,免疫抑制薬の投与,リンパ増殖性疾患,急性ウイルス感染症38IgA110410mg/dl38IgM男性35190mg/dl女性45260mg/dl38IgD11.5mg/dl以下38血糖下限5070mg/dl上限空腹時110mg/dl高値:糖尿病,膵疾患,肝疾患,内分泌疾患,薬剤(ステロイド,経口避妊薬など)低値:薬剤,膵疾患,肝疾患,内分泌疾患,先天代謝異常11HbA1c4.35.8%過去1,2カ月の平均血糖値を反映50基準値・基準範囲は最新臨床検査のABC(日本医師会雑誌)から引用.基準範囲は検査施設により多少異なる.CRP:C-反応性蛋白,HTLV-1:humanT-lymphotropicvirustype1,HbA1c:ヘモグロビンA1c,RPR:急速血漿レアギン試験,VDRL:米国性病研究所試験,TPHA:梅毒トレポネーマ赤血球凝集反応,PHA:受身赤血球凝集試験,IFA:間接蛍光抗体法,HI:赤血球凝集抑制試験,NT:中和試験,EIA:酵素免疫測定法,PA:粒子凝集試験,RA:関節リウマチ,RAHA:関節リウマチ赤血球凝集反応,SLE:全身性エリテマトーデス,AIDS:後天性免疫不全症候群.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081477(7)で陽性になる場合がある.間接蛍光抗体法による抗核抗体(FANA)は核の不溶性・可溶性成分との反応をすべてカバーしうるので,一次スクリーニングとして適している.40倍をカットオフ値とすると健常者の1020%が陽性を示す.しかし健常者の抗体価は通常80倍以下であり,疾患標識自己抗体が検出されることはない.健常者のANA陽性率は性別と年齢層によっても異なり,10歳代の女性で最も高い.抗核抗体価が高い場合(160倍以上)は二次スクリーニングとして疾患特異的自己抗体の検査を行う.c.抗DNA抗体SLEにおいてDNAと反応する自己抗体が比較的特異的に産生されることから,SLEの診断に際して測定される.活動期SLEの70%程度で高値となる.薬剤により陽性となることがある(薬剤性ループス).4.感染症検査a.梅毒血清反応梅毒の血清学的診断法には脂質抗原による梅毒血清反応(STS)〔米国性病研究所試験(VDRL),急速血漿レアギン試験(RPR)など〕と梅毒トレポネーマ特異的血清反応〔蛍光トレポネーマ抗体吸収試験(FTA-ABS),梅毒トレポネーマ赤血球凝集反応(TPHA)など〕の2種類がある.梅毒感染後約4週以後に両者が陽性となる.感染初期でSTSのみが陽性になる場合もまれにあるが,STSのみが陽性の場合ほとんどは生物学的偽陽性であり,SLE,関節リウマチなどの膠原病,Epstein-Barrウイルス,マイコプラズマなどの感染,妊婦などでみられる.晩期の潜伏梅毒やIII期梅毒ではFTA-ABSやTPHAは陽性でもSTSが陰性となる場合が約25%ある.定性検査で陽性の場合はVDRLとTPHAの抗体価を測定する.STSで16倍以上,TPHAで1,280倍以上であれば梅毒の活動性が高く,ぶどう膜炎の原因として考慮する.VDRLが32倍以上の場合は中枢神経梅毒の有無をみるため髄液検査を行う.治療効果の判定は約3カ月ごとにVDRL抗体価,TPHA抗体価を測定して行う.VDRL抗体価が6カ月後にはじめの1/4以下にならない場合,4倍以上上昇する場合は治療無効または神経梅毒を考えて再評価と再治療を行う.TPHA症性疾患,心筋梗塞,悪性腫瘍で増加する.炎症性疾患のなかでウイルス感染症や膠原病での上昇は軽微で,明らかな上昇時には細菌感染などの合併を考える.赤沈上昇に先立ち陽性化し,赤沈値改善の前に陰性化する.d.グルコース(血糖)糖尿病の有無がはっきりしない場合は検査する必要がある.早朝空腹時血糖値が126mg/dl以上,または随時血糖値が200mg/dl以上であれば糖尿病型と判定できる.明確な判定ができない場合,75g経口ブドウ糖負荷試験が診断の助けになる.血糖コントロール不良な例で急性の線維素性虹彩炎が発症することがある.e.ヘモグロビンA1c(HbA1c)過去1,2カ月の平均血糖値を反映するので,血糖コントロールの良否の判定に有用な臨床的指標となる.日本糖尿病学会ではHbA1c値により血糖コントロールを優(5.8未満)・良(5.86.5未満)・不十分(6.57.0未満)・不良(7.08.0未満)・不可(8.0以上)の5段階に区分している.偽高値を示す場合として,腎不全,アルコール多飲,アスピリンやビタミンCの大量服用などがある.3.免疫学的検査a.リウマトイド因子(RF)RFは関節リウマチの80%で陽性となるが,RFは関節リウマチ以外のさまざまな疾患でも陽性となるため,診断的特異度は低い.RFが陽性となる疾患として関節リウマチ,膠原病,慢性肝疾患,慢性感染症(結核,梅毒,Hansen病),サルコイドーシスがある.健常者にも数%の陽性者があり,高齢者ほど陽性率は上昇する.b.抗核抗体(ANA)ANAはさまざまな細胞核成分と反応する自己抗体の総称である.膠原病の免疫学的検査として行われるが,特定の疾患の診断やフォローアップのための検査ではない.ANA陽性を示す疾患は全身性エリテマトーデス(SLE)(95100%),混合性結合組織病(100%),全身性硬化症(強皮症)(8090%),多発性筋炎/皮膚筋炎(5070%),Sjogren症候群(6070%),関節リウマチ(4060%)である.若年性関節リウマチやchroniciridocyclitisinyounggirlsなど,若年性のぶどう膜炎———————————————————————-Page61478あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(8)のである.NTは感度・特異性ともに最も優れ,型特異抗体の検出に最も適している.EIAはIgG,IgM,IgA抗体の分別測定を高感度で行うことができる.ぶどう膜炎の原因としてウイルスの関与を想定した場合に,血清抗体価の測定を行うが,実際には血清抗体価の測定のみでは病因ウイルスを同定できない.抗体陰性の場合にはそのウイルスの関与を否定することができる.e.HTLV1抗体スクリーニング検査法としてPAやEIA,確認検査としてウエスタンブロット法がある.スクリーニング検査を行って陽性であった場合には確認検査を行う.感染率には地域差があり,九州・沖縄に感染者が多い.f.サイトメガロウイルス抗原サイトメガロウイルス(CMV)感染症の早期診断および治療の効果判定に用いる.ウイルス抗原陽性細胞が末梢血多形核白血球中に何個あるかの定量が可能なため,一定量以上で検出された場合には抗ウイルス薬の適応があるとされる.ただし,あくまで全身のCMVの活性化の指標と考えるべきで,CMV網膜炎があっても必ずしも陽性にはならない.g.トキソカラ抗体一部の施設でELISA(enzyme-linkedimmunosor-bentassay)によるイヌ回虫幼虫に対する抗体価の測定が行われている.また,イヌ回虫幼虫排泄物抗体を検出する迅速診断キット(ToxocaraCHEK)は検査時間が短く,スクリーニングに有用である.抗寄生虫抗体スクリーニングは12種類の寄生虫の抗体を検出するスクリーニング検査で,このなかにイヌ回虫も含まれるが,成虫に対する抗体を検査するので,幼虫移行症であるトキソカラ症の検査としては適切ではない.健常人でも犬の飼育歴の長い人には抗体価の上昇がみられることがある.文献1)橋本信也(編):最新臨床検査のABC.日医師会誌135〔特別号(2)〕57-354,20062)医科点数表の解釈平成20年4月版.p218-250,社会保険研究所,2008とFTA-ABSは治癒しても生涯陽性が続く.b.トキソプラズマ抗体スクリーニング検査として受身赤血球凝集試験(PHA)やラテックス凝集試験(LA)を用い,陽性の場合,初感染かどうかを判断するためにIgG,IgM別に測定できる間接蛍光抗体法(IFA)や酵素免疫測定法(EIA)を用いる.IgG抗体は感染後12週以内で出現し,12カ月以内にピークとなり,以後徐々に低下するが,一般的には生涯残存する.IgM抗体は感染後1週以内に出現し,23カ月以内に消失するのが一般的であるが,感染から数年間にわたって抗体陽性が持続することもあり,偽陽性もみられるので注意を要する.不顕性感染が多いため,血清抗体陽性が必ずしも治療の必要な感染症を意味しない.3週間以上間隔をあけたペア血清でIgG抗体,IgM抗体の新規の出現あるいは4倍以上の抗体価上昇,単回採取の血清IgG抗体(IFA)の1,024倍以上の血清抗体価は急性感染を示唆する所見とされる.典型的な浸出性網脈絡膜炎にIgM抗体の上昇がみられれば後天性眼トキソプラズマ症が示唆され,ペア血清で確認する.c.(1→3)bDグルカン細胞壁にb-D-グルカンを豊富に保有する真菌(カンジダ,アスペルギルス,ニューモシスチスなど)の深在性真菌感染症のスクリーニングに有用である.真菌性眼内炎を疑った場合に血清学的補助診断として検査する.カンジダ症で感度は約90%,特異度7080%,アスペルギルス症で感度6080%,特異度7080%,ニューモシスチス感染症での感度は約90%,特異度は約80%とされている.透析中の患者,一部の抗腫瘍薬を使用した癌患者,高gグロブリン血症の患者などに測定値に影響する因子がみられる.d.ウイルス抗体価・グロブリンクラス別ウイルス抗体価測定ウイルス抗体検査法には補体結合試験(CF),赤血球凝集抑制試験(HI),中和試験(NT),蛍光抗体法(FAT),EIA,粒子凝集試験(PA)と種々の検査法があり,その特性を理解して目的にあわせて測定する.CFはウイルス抗体の検出に用いられる最も基本的なも

序説:ぶどう膜炎検査の正しい使い方

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———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLStivity)と特異度(specicity)が存在し,それに基づいてevidence-basedmedicine(EBM)の意味での有用性が決まる.たとえば,流行性角結膜炎(EKC)と診断するためには,ウイルス抗原検出検査を行うことがある.陽性という結果が出ると多くの眼科医はEKCと診断すると思うが,陰性の場合はどう考えるべきなのか?実際にはこのようなウイルス抗原検査の感度と特異度は百パーセントではないので,結果が陰性であっても本当はEKC,ということがありうる.その場合,検査の結果は偽陰性であるという.一方,陽性の結果が出たがEKCではないという場合もあり,検査の結果は偽陽性だったという.ちなみに,よく使われているA社のウイルス抗原検査の感度と特異度は,それぞれ54.7%と97.1%であると報告されている1).したがって,EKC患者の検出はこの検査ではおよそ半々の確率にすぎない.やはりどの検査でも,常に感度と特異度を意識し,実施するべきである.しかし,それだけではない.前記のように,検査を行うためにはコストがかかる.コストには金銭的なものだけでなく,患者の時間,不便,痛みなども含まれる.医師側の時間や負担もある.社会的にみても,医療全体の予算への影響となって現れる.これらの問題は,EBMとともに検討する必要がある.たとえば,EKCの例に戻るが,ウイルス抗原検査学生に理解してもらうために,「ぶどう膜炎は眼科のなかの内科だ」と説明することがある.疾患そのものは全身疾患が多いため,検査あるいは治療において注目するのは眼だけでなく全身になる.しかし,全身(内科)における教育は,治療の副作用にウエイトが置かれがちである.本特集では,その前段階の検査について光を当てたいと思う.それというのも,検査自体も副作用があることがあまり意識されていないためである.医学的な副作用(たとえば,フルオレセイン蛍光眼底造影検査におけるアナフィラキシー)以外にも,個人的な副作用(たとえば,スクリーニング検査で偽陽性所見が出るため,不要な可能性のある追加的精密検査を行うこと)あるいは社会的な副作用(検査の有用性を考えないで,過剰にオーダーしコストが増加する)もある.特殊な検査(たとえば,humanleukocyteanti-gen:HLA検査やpolymerasechainreaction:PCR検査)もあるが,一般の検査については,国民健康保険制度でカバーされるので,コストについてはそれほど気にする必要がないというのが一般的な認識であろう.しかし,本当にそれで良いのであろうか?また,特殊な検査を,保険でカバーされないという理由で施行しないことも適切といえるのだろうか?どの検査でも,調査対象人口における感度(sensi-(1)1471●序説あたらしい眼科25(11):14711472,2008ぶどう膜炎検査の正しい使い方TheProperUseofAncillaryTestsinUveitis岡田アナベルあやめ*———————————————————————-Page21472あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(2)まだほとんど存在していない.したがって,これらの問題点を念頭において,本特集を読んでいただきたい.血液検査については中尾久美子先生,HLA検査については南場研一先生,眼局所画像の検査については橋田徳康・大黒伸行先生,眼内液体検査については杉田直先生,髄液検査については北市伸義・新野正明・大野重昭先生,胸部X線や結核関連検査は丸山和一先生,眼窩や頭部CT(computedtomography)とMRI(magneticresonanceimag-ing)は蕪城俊克先生,そしてリンパ腫関連検査は安積淳先生に担当していただいた.軽々に値段の高い検査をオーダーすることなく,どの患者のどの病期にどの検査をすると効率が良いかをよく考えて診療を行うべきであろう.文献1)UchioE,AokiK,SaitohWetal:Rapiddiagnosisofaden-oviralconjunctivitisonconjunctivalswabsby10-minuteimmunochromatography.Ophthalmology104:1294-1299,19972)岡田アナベルあやめ:巻頭言─日本の眼科におけるValue-BasedMedicine.眼科手術21:1-2,2008の値段はそれほど高くないし,患者や医者の負担は少ないので,検査としては一見適切であると考えがちであろう.しかし,本当のところはどうか?毎年,何千人あるいは何万人の患者にこの検査を行うとすれば,医療制度への影響は無視できない.これらの問いに対して,EBMだけでは答えが出せない.そこで,value-basedmedicine(VBM)という分野が生まれてきた.VBMの研究では,ある検査(や治療)を行うことにより,一人の人生にとって,同時に社会全体にとってどの程度の利点があるかを数字で表す(詳細は文献参照)2).EKCの例に戻ろう.ウイルス抗原検査が登場する以前にも,医師がEKCをきちんと診断できていなかったわけではない.では検査の登場以降,「医師の臨床判断」より「検査」のほうが有効になったのだろうか?残念ながらこの比較検討は行われておらず,もしかしたら,医師判断の感度と特異度は,検査とあまり変わらないかもしれない.VBMの判定では,医師判断のほうのコストパフォーマンスが良い可能性がある.しかし,ぶどう膜炎の検査の場合,感度あるいは特異度のデータ,それからVBMの評価のデータは

アスタキサンチンの家兎眼内動態の検討

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(133)14610910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14611464,2008cはじめにアスタキサンチン(astaxanthin:AX)はb-カロチンなどと同じカロテノイドの仲間で,サケ・エビ・カニや海藻などの魚介類に多く含まれる赤い色素である13).近年,AXには強力な抗酸化作用,抗動脈硬化作用など多くの分野での作用効果が報告されている4,5).さらに,近年,AXの抗炎症作用を介した脈絡膜新生血管抑制効果についても明らかにされている6).眼科領域では実験的ラット眼内炎症モデルに対する抗炎症作用,visualdisplayterminals(VDT)作業者における調節力改善,ヒトにおける調節機能改善などが報告され,これら調節機能改善効果の作用機序として毛様体機能の改善の可能性が考えられている719)が,経口投与されたAXの眼内動態に関する報告はなく,その詳細は不明である.今回,機能性食品素材であるAXの経口投与後の眼内移行動態を家兎で検討した.I実験材料および方法1.使用動物ニュージーランド成熟白色家兎(NZW;体重2.73.1kg)雄性24羽を用いた.2.検討した機能性食品素材アスタキサンチン(AX)含有ヘマトコッカス藻抽出物ア〔別刷請求先〕福田正道:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)Reprintrequests:MasamichiFukuda,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,Uchinada,Ishikawa920-0293,JAPANアスタキサンチンの家兎眼内動態の検討福田正道*1高橋二郎*2西田康宏*2佐々木洋*1*1金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)*2富士化学工業株式会社ライフサイエンス事業部IntraocularPenetrationofAstaxanthininRabbitEyesMasamichiFukuda1),JiroTakahashi2),YasuhiroNishida2)andHiroshiSasaki1)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,2)LifeScienceDivision,FujiChemicalIndustryCo.,Ltd.目的:アスタキサンチン(astaxanthin:AX)の経口投与後の眼内移行濃度および血中濃度を測定した.方法:白色家兎にAX100mg/kgを単回経口投与し,0,3,6,9,12,24,48,72,168時間後の各時点で前房水,虹彩・毛様体および血清内移行濃度を測定した.AX濃度測定は高速液体クロマトグラフィー法(HPLC)で行った.AXの移行動態の濃度解析はノンコンパートメントモデルによる解析を行った.結果:最高濃度は,虹彩・毛様体では投与24時間後,血清では9時間後にみられた.モデル式から算出した最高濃度Cmaxは,虹彩・毛様体では79.3ng/g,血清では61.3ng/ml,前房水では検出されなかった.結論:AXは虹彩・毛様体内に達することが明らかになった.この結果はAXが眼内炎症への抗炎症効果や疲労改善に寄与する科学的根拠の一つになるものと考える.Weinvestigatedtheintraocularpenetrationofastaxanthin(AX)afteroraladministrationinalbinorabbiteyes.Theanimalsreceived100mg/kgofAXorallyinasingledose.Theobservationtimepointswereat0,3,6,9,12,24,48,72and168hoursafteradministration.AXconcentrationsinoculartissuesweredeterminedbyhigh-perfor-manceliquidchromatography(HPLC).Pharmacokineticparameterswerecalculatedusingthenon-compartmentmethod.MaximumAXconcentrations(Cmax)iniris/ciliarybodyandserumweremeasurableafter24and9hours,respectively.ThecalculatedCmaxwere79.3ng/gforiris/ciliarybodyand61.3ng/mlforserum.TheCmaxforaque-ouscouldnotbedetectedbythenon-compartmentmethod.AXshowedgoodpenetrationintheserumandiris/ciliarybody.WefeelthatthisresultoersscienticgroundforconcludingthatAXcontributestotheimprove-mentofeyefatigue.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14611464,2008〕Keywords:アスタキサンチン,白色家兎眼,眼内動態,高速液体クロマトグラフィー法(HPLC),経口投与.astaxanthin,albinorabbiteyes,intraocularpenetration,high-performanceliquidchromatography(HPLC),orally.———————————————————————-Page21462あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(134)スタリールオイル50F(富士化学工業株式会社製)を用いた(図1).3.実験方法a.AXの家兎血中および眼内移行動態家兎にAX100mg/kgを単回経口投与し,0(非投与),3,6,9,12,24,48,72,168時間後の各時点で左後耳静脈より約3mlを採血し,その後,前房水を約0.2ml採取し,眼球を摘出した.摘出した眼球は一旦20℃で凍結し,24時間以内に融解後各組織を分離,再度80℃以下の温度で試料処理時まで凍結保存した.b.試料処理法眼組織中の抽出は,Yeumらの方法を改変した方法で行った20).簡略に述べると,眼組織を冷PBS(リン酸緩衝液)中でハサミで細断し,冷却しながらポリトロンホモジナイザー(ポリトロン)を用いホモジナイズした.血清は,2倍にPBSで希釈し,そのまま試料として用いた.得られたホモジネートあるいは血清に50Uのコレステロールエステラーゼ(和光純薬),500Uのリパーゼ(Candidarugosa由来,シグマ-アルドリッチ),10μgのジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を添加し,窒素充後,37℃で1時間インキュベートした.250ng/mlの内部標準(8¢-apo-b-carotene-8¢-oate),10μg/mlのBHTを含む冷EtOH溶液を同容積添加し激しく懸濁し,4倍量の冷塩化メチレンを添加し,窒素ガス充後4℃で60分間振盪した.振盪後,4倍量の冷PBS,20倍容の冷ヘキサンを添加し,再度,窒素ガス充後4℃で30分間振盪した後,4℃,4,000rpmで15分間遠心分離し,上清を集めた.残った下層は塩化メチレン-ヘキサンで3回抽出し,上清を集めた.集められた上清は,窒素ガス気流下で減圧乾固後,tert-ブチルメチルエーテル(MTBE)に再溶解し高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した.4.AX濃度測定方法a.HPLC装置および条件HPLC装置と使用条件は,デガッサ:DGU-20A,ポンプ:島津製作所LC-20A(流速:0.1ml/min),オートインジェクター:島津製作所SIL20A(設定温度4℃),検出器:島津製作所SPD-M20A(フォトダイオードアレイ検出器:測定波長250750nm,定量には474nm,リファレンス波長として630nmを用いた),カラムオーブン:島津製作所CTO20A(設定温度:16℃)分析カラムは,YMCCarote-noidColumn3S(2.0×150mm,YMC社)を用い移動相としてA液:MeOH/MTBE/0.1%リン酸=93:5:2,B液:MeOH/MTBE/0.1%リン酸=8:90:2を用い以下のようにグラジエント溶出を行った.すなわち,100%A液から7.6分でB液が13%,13.3分で20%,29分で50%,43分で100%になるようにリニアグラジエント溶出を行い,その後15分間B液で溶出を行った.b.眼組織および血清中のAX濃度測定法AXの濃度測定は内部標準法を用いた.AXは21,000ng/mlの濃度範囲内で良好な直線性を確認された.本実験に先立って虹彩・毛様体を用い添加回収試験を行った.AX非投与動物から摘出した虹彩・毛様体に100ng/mlになるようにAXおよび200ng/mlの濃度の内部標準を添加し,実験方法で述べた方法で抽出したところ回収率は,それぞれ80110%,85110%であった.AX定量値のCV(coecientsofvariation)値は5.4%であった.また,抽出動作の前後でそれぞれの化合物の分解および幾何異性化などの反応産物はほとんど認められなかったため,本実験で用いた抽出方法は,眼組織内のカロテノイド抽出において妥当な方法であると考えられた.定量下限値は前房水で2ng/ml,血清で2ng/ml,虹彩・毛様体では3ng/gであった.c.AXの薬物動態の解析AXの血清および虹彩・毛様体内移行の濃度推移についてノンコンパートメントモデルによる解析を行った.血清および虹彩・毛様体のCmax(ng/gorng/ml),AUCt(ng・h/gorng・h/ml),Tmax(h),およびT1/2(h)を算出した.〔Cmax:最高組織中濃度,AUCt:最終時点tまでの組織中濃度-時間曲線下面積,Tmax(h):最高組織中濃度到達時間,T1/2(h):組織中濃度半減期〕.II結果1.AX100mg/kgの単回経口投与後の経時的変化(表1,図2)血清および虹彩・毛様体では,経時的なAX濃度の増加および消失が認められた.血清中では,投与後9時間で最高濃度値61.26±26.87ng/ml(mean±SD,n=5)を示し,その後,徐々に減少し,投与72時間後には完全に消失した.一方,虹彩・毛様体では,投与後6時間目から徐々に増加し,24時間で最高濃度値(79.35±37.35ng/g)(mean±SD,n=6)となった.その後,緩やかに低下し,投与後7日目では完全に消失した.前房水では全経過を通してAXは測定限界以下であった.AXを経口投与前の前房水,血清および虹彩・毛様体においてはAXは検出されなかった.2.血清および虹彩・毛様体におけるAX濃度推移のノンコンパートメントモデルによる解析(表2)虹彩・毛様体のCmax(ng/g)は79.3,AUCt(ng・h/g)はOHOOHO図1アスタキサンチンの化学構造式———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081463(135)2955.7,Tmax(h)は24,T1/2(h)はN.C.であった.一方,血清ではCmax(ng/ml)は61.3,AUCt(ng・h/ml)は524.7,Tmax(h)は9,T1/2(h)は5.9であった.III考按AXの調節機能改善効果の機序を考えるうえで,その作用部位と考えられている毛様体へのAX移行動態の検討はきわめて重要である.本研究の目的は経口投与されたAXの眼内動態を明らかにすることである.AXの経口投与後の眼内移行濃度および血中濃度を測定することは投与法の設定,眼に対する安全性および有効性を知るうえで眼科用薬剤と同様に基礎的検討事項の一つであると考える.ところが,これまでにAXの眼内での定量法は筆者らが知る限りにおいては十分に検討されておらず,本研究に先立ちAXの眼組織内濃度測定法の設定を検討した.カロテノイド抽出法による眼組織からのAXの抽出やAXの定量にHPLC法を用いたことで,AXの眼組織内濃度測定が可能になった.AXの経口投与後の眼内移行動態を家兎で検討した今回の結果では,AXは虹彩・毛様体に移行することが確認できた.虹彩・毛様体では,投与6時間から徐々に上昇し,24時間で最高濃度値に達し,その後,徐々に減少した.一方,血清中では投与9時間まで濃度の増加が認められ,その後,徐々に減少傾向がみられた.ヒトの血中濃度の最高値もやはり投与後約9時間である21)ことより,今回の家兎の虹彩・毛様体における成績はヒトの眼内動態に近似している可能性が示唆された.血清に比べAXの虹彩・毛様体内での移行濃度が高く,最高濃度到達時間が遅れた原因については不明であるが,虹彩・毛様体は豊富な血管構造を有すること,また,メラニン色素も豊富なことも,AXが血清濃度以上に組織内濃度に滞留する原因の一つになっている可能性も考えられる.今回の実験で,AXの虹彩・毛様体内への移行が確認できたことはこれまでの種々のAXの眼の調節機能改善効果を証明するうえでも,意義ある結果であると考える.経口投与された抗菌薬が,投与12時間前後で血中最高濃度値に到達し,わずかに遅れて眼組織内最高濃度値に達することと比べると,AXの血中および眼組織内移行濃度の最高濃度到達時間が明らかに遅く,この点はAXの大きな特徴として把握しておく必要があると考える.IT機器の普及により,VDT作業はますます増加することが予想され,眼精疲労改善に寄与すると考えられるカロテノイドの一種であるAXの眼内移行動態の基礎的検討の意義は大きいと考える.文献1)JohnsonEA,AnGH:Astaxanthinfrommicrobialsources.CritRevBiotechnol11:297-326,19912)KobayashiM,KakizonoT,NishioNetal:AntioxidantroleofastaxanthininthegreenalgaHaematococcusplu-vialis.ApplMicrobiolBiotechnol48:351-356,19973)OshimaS,OjimaF,SakamotoHetal:Inhibitoryeectofb-caroteineandastaxanthinonphotosensitizedoxidationofphospholipidbilayers.JNutrSciVitaminol39:607-615,19934)MikiW:Biologicalfunctionsandactivitiesofanimalcaro-tenoids.PureApplChem63:141-146,19915)ShimizuN,GotoM,MikiW:Carotenoidsassingletoxy-genquenchersinmarineorganism.FishSci62:134-137,19966)Izumi-NagaiK,NagaiN,OhgamiKetal:Inhibitationof表1AX100mg/kgの単回経口投与後の経時的変化時間(h)369122472168血清9.10±6.8836.88±17.7761.26±26.8720.46±12.758.26±6.91NDND虹彩・毛様体ND4.76±2.2233.55±12.7446.51±24.1679.35±37.354.43±3.33ND眼房水NDNDNDNDNDNDNDND:検出限界以下.(ng/ml,g)1,0001001010.10.01020406080100120140160180:虹彩・毛様体:血アスタキサンチン濃度(ng/ml,g)投与後時間(分)図2アスタキサンチン100mg/kgの単回経口投与後の経時的変化表2アスタキサンチンの血清および虹彩・毛様体内移行の濃度推移をノンコンパートメントモデルによる解析組織薬物動態パラメータCmax(ng/gorng/ml)AUC(ng・h/gorng・h/ml)Tmax(h)血清61.3524.79虹彩・毛様体79.32955.724———————————————————————-Page41464あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(136)choroidalneovascularizationwithananti-inammatorycarotenoidastaxanthin.InvestOphthalmolVisSci49:1679-1685,20087)OhgamiK,ShiratoriK,KotakeSetal:Eectsofastaxan-thinonlipopolysaccharide-inducedinammationinvitroandvivo.InvestOphthalmolVisSci44:2694-2701,20038)SuzukiY,OhgamiK,ShiratoriKetal:Suppressiveeectsofastaxanthinagainstratendotoxin-induceduveitisbyinhibitingtheNFkBsignalpathway.ExpEyeRes82:275-281,20069)KimJH,KimYS,SongGGetal:Protectiveeectofastaxanthinonnaproxen-inducedgastricantralulcerationinrat.EurJPharmacol514:53-59,200510)UchiyamaK,NaitoY,HasegawaGetal:Astaxanthinprotectsb-cellsagainstglucosetoxicityindiabeticdb/dbmice.RedoxRep7:290-293,200211)AoiW,NaitoY,YoshikawaTetal:Astaxathinlimitsexercise-inducedskeletalandcardiacmuscledamageinmice.AntioxidRedoxSignal5:139-144,200312)NagakiY,HayasakaS,YamadaTetal:Eectsofastax-anthinonaccomodation,criticalickerfusion,andpatternvisualevokedpotentialinvisualdisplayterminalworkers.JTradMed19:170-173,200213)中村彰,磯部綾子,大高康博ほか:アスタキサンチンによる視機能の変化.臨眼58:1051-1054,200414)新田卓也,大神一浩,白取謙治ほか:アスタキサンチンの調節機能および疲れ眼におよぼす影響─健常成人を対象とした摂取量設定試験─.臨床医薬21:543-556,200515)白取謙治,大神一浩,新田卓也ほか:アスタキサンチンの調節機能および疲れ眼におよぼす影響─健常成人を対象とした効果確認試験─.臨床医薬21:637-650,200516)長木康典,三原美晴,塚原寛樹ほか:アスタキサンチン含有ソフトカプセル食品の調節機能及び疲れ眼に及ぼす影響.臨床医薬22:1-14,200617)岩崎常人,田原昭彦:アスタキサンチンの眼疲労に対する有用性.あたらしい眼科23:829-834,200618)高橋奈々子,梶田雅義:アスタキサンチンが調節機能の回復に及ぼす影響.臨床医薬21:432-436,200519)長木康典,三原美晴,高橋二郎ほか:アスタキサンチンの網膜血管血流におよぼす影響.臨床医薬21:537-542,200520)YeumKJ,TaylorA,TangGetal:Measurementofcaro-tenoids,retinoids,andtocopherolsinhumanlenses.InvestOphthalmolVisSci36:2756-2761,199521)OdebergJM,LignellA,PetterssonAetal:Oralbioavail-abilityoftheantioxidantastaxanthininhumansisenhancedbyincorporationoflipidbasedformulations.EurJPharmSci19:299-304,2003***

遠見立体視におけるコントラストの影響

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(129)14570910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14571460,2008cはじめに立体視は両眼視機能のなかでも高度な視機能であり,奥行きを知覚するための重要な役割を担う.眼科臨床では小児の正常な視機能の発達評価や,弱視治療の治癒基準などの重要な指標となっており,その検査法としてTNOstereotests(以下,TNO)やTitmusstereotests(以下,TST)などが一般的に用いられている.この立体視に対して,両眼のコントラストの差が影響を及ぼすとの報告14)がされている.しかしながら,コントラストの影響を検討した報告で使用される立体視検査法は,TNOやTSTが多く用いられており,両眼分離法として赤緑眼鏡や偏光眼鏡の装用が必要である.これら両眼分離用眼鏡は,それ自体が左右眼のコントラストや輝度を変化させる.さらに,コントラスト差を変化させる方法として漸増遮閉膜を用いており,同時に視力や照度も変化させている.これらのことから,従来の報告では立体視に影響を及ぼす多因子が混在した条件下で検討されており,左右眼のコントラスト差のみを検討した結果とは言い難い.そこで今回筆者らは,赤緑眼鏡や偏光眼鏡を装用することなく両眼分離し,呈示する視標のコントラストのみを変化させることが可能な,小型液晶ディスプレイを用いた遠見立体視検査装置を使用し,左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視に及ぼす影響を検討した.〔別刷請求先〕藤村芙佐子:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻Reprintrequests:FusakoFujimura,DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Sagamihara,Kanagawa228-8555,JAPAN遠見立体視におけるコントラストの影響藤村芙佐子*1半田知也*1石川均*1魚里博*1庄司信行*1清水公也*2*1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学*2北里大学医学部眼科学教室EfectsofContrastonStereopsisFusakoFujimura1),TomoyaHanda1),HitoshiIshikawa1),HiroshiUozato1),NobuyukiShoji1)andKimiyaShimizu2)1)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity遠見立体視へのコントラストの影響について検討した.屈折異常以外の眼科的疾患を有さない健常者28名を対象とした.遠見立体視測定には4.3インチ小型液晶ディスプレイ(PlayStationPortableR,SONY社)を用いた立体視検査装置を使用した.両眼視差100secofarcの立体視視標を呈示し,遠見屈折矯正下にて両眼または片眼(優位眼,非優位眼)の視標コントラストを100%10%まで低下させ,各条件下で立体視の有無を確認した.コントラストを両眼等量に低下した場合,ほぼ全例,全条件下で立体視が得られたのに対し,片眼(優位眼,非優位眼)のみの視標コントラストを低下させた場合では,ともに65%以下の条件下で,立体視は有意に低下した(ともにp<0.05).左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視の成立に影響を及ぼすことが示された.Weinvestigatedtheinuenceofcontrastsensitivityondistancestereopsis.Participatinginthestudywere28younghealthyvolunteerswithnoophthalmologicaldiseaseexceptrefactiveerror.A4.3-inchliquidcrystalscreen(PlayStationPortableR,SONY)wasusedasthebasisofthestereoscopicapparatus.Distancestereopsiswithparal-laxof100secondswasmeasuredwithdistancecorrection.Stereoscopicgurecontrastwasdecreasedgraduallyfrom100%to10%in10or5steps,thesamequantityinbotheyesorinonlyoneeye(dominanteye,non-domi-nanteye).Whencontrastforbotheyeswasdecreasedequally,almostallsubjectswereabletorecognizetheste-reoscopicguredowntoacontrastof10%.Whencontrastforoneeyeonly(dominanteyeornon-dominanteye)wasdecreased,stereoacuitydecreasedsolongasthecontrastforoneeyewasunder65%(p<0.05).Theresultssuggestthattheinterocularimbalanceofcontrastonastereoscopicgureisinuencedbydistancestereopsis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14571460,2008〕Keywords:遠見立体視,コントラスト感度.distantstereopsis,contrastsensitivity.———————————————————————-Page21458あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(130)I対象両眼とも遠見矯正視力1.0以上を有し,眼位は正位または10Δ以内の斜位で,屈折異常以外の眼科的疾患のない健常者28名,平均年齢22.5±3.3歳(2032歳)を対象とした.平均自覚的屈折値(等価球面値)は優位眼2.29±2.41D(7.00D+1.00D),非優位眼2.28±2.47D(7.00D+1.25D)であり,優位眼と非優位眼の間に自覚的屈折値の差は認められなかった.なお,2.0D以上の不同視は除外した.優位眼の決定にはhole-in-cardtestを用いた.II方法遠見立体視の検査には,立体視図形の呈示装置として4.3インチ小型液晶ディスプレイを用いた(PlayStationPorta-bleR,SONY社).本機器は視差のある静的・動的立体視図形を呈示し,筒状の両眼分離用のビューアー越しに視標を見せることで立体視を知覚させる.ビューアーの接眼部からディスプレイまでの距離は40cmであり,左右の接眼部に+2.50Dのレンズを組み込み,検査距離を光学的遠見(遠見立体視検査)に設定している(図1).立体視図形の両眼視差は2,000100secofarc(以下,秒)まで100秒間隔で20段階の等間隔に変化させることが可能である5).本検討においては,静的立体視図形としてサイズ9,000秒のサークルを用い,両眼視差は正常両眼視とされる6)100秒に設定した.静的立体視の有無の評価は,眼鏡もしくはコンタクトレンズによる遠見屈折矯正下にて視標を呈示し,4つのサークル(黒字に白のサークル)のうち,とびだす1つのサークルを選択させ(強制選択法)その正誤により立体視の有無を判定した.このとき,最低4回の測定を行いその過半数以上の正誤回答を採用した.また視標のコントラストを100%10%まで変化させ,その都度,立体視の有無を確認した.視標のコントラストはディスプレイの中心に表示可能な256通りすべての視標を呈示し,輝度計(LS-100,MINOLTA社)を用い暗黒下にてその輝度を5回測定した.その平均値からMichelsonコントラスト「コントラスト=(LmaxLmin)/(Lmax+Lmin)×100(Lmax:最大輝度,Lmin:最小輝度)」により算出し,以下のように定義した.100%(99.7%),90%(90.2%),80%(80.1%),70%(70.1%),65%(65.2%),60%(60.1%),55%(55.1%),50%(49.9%),45%(44.8%),40%(40.0%),35%(35.0%),30%(30.0%),25%(25.6%),20%(19.8%),15%(16.0%),10%(10.2%)〔()内は実測値,小数第2位以下四捨五入〕.さらに,コントラストを低下させる際,両眼等量,もしくは片眼(優位眼・非優位眼)のみ低下させ(他眼の立体視図形のコントラストは100%に固定)(図2),両眼の視標コントラストが100%の条件下での立体視の正答数と,各条件下での正答数とを比較し,左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視に及ぼす影響を検討した.統計学的検討にはWilcoxon符号付順位和検定を用い,有意水準5%未満を有意差ありとした.III結果両眼の視標コントラストが100%の条件下において,全例,両眼視差100秒の遠見立体視が知覚された.視標コントラストを両眼等量に低下させた場合では,コントラスト100%10%の条件下において遠見立体視の有意な低下は認めなかった(図3).視標コントラストを片眼のみ(優位眼または非優位眼)低下させた場合では,片眼65%10%の条件にて遠見立体視が有意に低下した(p<0.05)(図4,5).優位眼を低下させた場合と,非優位眼を低下させた場合とで,立体視の低下に有意な差は認めなかった.また,片眼コントラストが40%時に比べ,30%20%時に立体視の正答数が増加する傾向にあった.IV考按両眼の視標コントラストが100%の条件下にて,全例,遠見立体視を知覚した.また,視標コントラストを両眼等量に両眼低下片眼低下図2立体視検査図形左:両眼等量に視標コントラストを低下.右:片眼(優位眼,非優位眼)のみ視標コントラストを低下.図1遠見立体視測定装置右:ビューアーの接眼部からディスプレイまでの距離は40cm.左右の接眼部に+2.50Dのレンズを組み込み,検査距離を光学的遠見(遠見立体視検査)に設定.左:4.3インチ小型液晶ディスプレイ(PlayStationPortableR,SONY社).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081459(131)低下させた場合,ほぼ全例遠見立体視が維持されたのに対し,片眼(優位眼・非優位眼)のみ低下させた場合では65%10%の条件下,すなわち左右眼の視標コントラストの比が1.67以上の条件下にて有意に遠見立体視が低下した.このことから,左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視の成立に影響を及ぼしていることが示された.今回の検討結果では,片眼の視標コントラストが100%,他眼の視標コントラストが65%以下の条件下にて遠見立体視が有意に低下した.このことから,遠見立体視においても過去の報告と同等の結果が得られたと考える.現在,眼科臨床において行われるおもな立体視検査としてTNO,TSTがあげられる.両者とも両眼分離用眼鏡(赤緑眼鏡,偏光眼鏡)を装用して検査を行う.両眼鏡ともフィルター越しの視標コントラストを変化させ,立体視に影響を及ぼすことが考えられる.大畑ら4)は,偏光フィルター越しでのTST検査表のコントラストは左右眼で差は小さく80%以上であり,TNO検査表のコントラストは赤フィルター越しでは28.2%,緑フィルター越しでは79.7%でその比は2.83に及んだとしている.さらに矢ヶ﨑ら3)は赤フィルター越しでは49.7%,緑フィルター越しでは81.1%であり,その比が1.63になり,TNOを用いた近見立体視の検討において120秒以上の良好な立体視力を正常値とすると,この条件を成立させるための左右眼のコントラスト比は2.00から1.47間であったとしている.さらに,TNOはTSTに比べて正常者であっても本来の立体視より低く検出されてしまう危険性がある3)と述べている.加えて,高齢者では,コントラスト感度が低下しており79)高齢者の立体視測定においてもTNOの結果判定には留意することが必要4)とされている.また,各種弱視症例では,コントラスト感度が低下していると報告1014)されており,Simonsら14)は,不同視弱視症例においてTNO用の赤緑フィルターを左右眼で交換して立体視力を測定すると約2倍の立体視力の差が生じたと結論づけている.これらのことから,左右眼のコントラストを変化させる可能性のある赤緑眼鏡,偏光眼鏡装用下での立体視検査では,その評価に十分注意する必要があると考えられる.これに対し,今回使用した小型液晶ディスプレイを用いた遠見立体視検査装置は,両眼分離用の眼鏡を用いないため,コントラストの影響を受けることなく立体視検査が可能となり,被検者本来の立体視機能をより正確に定量できる可能性が示唆される.今回の検討結果では,片眼のみ視標コントラストを低下させた条件下において,片眼コントラスト65%以下で遠見立体視が低下した.しかし,さらに片眼コントラストを低下させていくと30%20%のときに,65%40%時に比べて立体視の正答数が増加する現象がみられた(図4,5).この現象は再現性があったため,以下のように推論した.視標の視差は図形の左右への位置ずれであり,両眼で融像することで正答数()302520151050100908070656055504540353025201510両眼コントラスト(%)<両眼等量に低下>(n=28)図3立体視検査結果両眼等量に視標コントラストを低下させた場合.ほぼ全例,全条件下にて立体視を維持.正答数()302520151050100908070656055504540353025201510非優位眼コントラスト(%)<非優位眼のみ低下>(n=28)*****************************図5立体視検査結果片眼(非優位眼)のみ視標コントラストを低下させた場合.優位眼の視標コントラスト65%以下の条件にて立体視低下.*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001.正答数()302520151050100908070656055504540353025201510優位眼コントラスト(%)<優位眼のみ低下>(n=28)***************************図4立体視検査結果片眼(優位眼)のみ視標コントラストを低下させた場合.優位眼の視標コントラスト65%以下の条件にて立体視低下.*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001.———————————————————————-Page41460あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(132)初めて立体的に知覚される.今回の検討にあたり被検者には十分な検査説明を行ったうえで,遠見立体視の測定を実施した.しかしながら,片眼のみ視標のコントラストを低下させるという検査条件下にて,2つの視標図形が融像できなくても「位置ずれ」を「立体感」と誤認し回答した可能性は否定できず,これにより片眼コントラストが65%40%時に比べ,30%20%時に立体視の正答数が増加した可能性が推察される.他の原因についてさらに検討を行うとともに,今後,検査中の固視や融像の有無をより詳細にチェックし検討する必要があると考える.今回,視標コントラストのみならず視力や照度も変化させる漸減遮閉膜を使用することなく,視標コントラストのみを変化させることが可能な小型液晶ディスプレイ(PlayStationPortableR,SONY社)を用いて,遠見立体視検査を行った結果,左右眼の視標コントラストの差が遠見立体視の成立に影響を及ぼすことが示された.文献1)FrisbyJP,MayhewJEW:Contrastsensitivityfunctionforstereopsis.Perception7:423-429,19782)LeggeGE,GuY:Stereopsisandcontrast.VisionRes29:989-1004,19893)矢ヶ﨑悌司,田小路寿子,栃倉浪代ほか:ランダムドットパターンを用いた立体視検査表に対するコントラストの影響.眼臨96:424-429,20024)大畑晶子,市川一夫,玉置明野ほか:コントラスト感度の立体視検査法への影響.日本視能訓練士協会誌29:185-188,20015)半田知也,石川均,魚里博ほか:小型液晶ディスプレイを用いた立体視検査装置の開発.臨眼61:389-392,20076)岩田美雪,粟屋忍:ステレオテスト.眼科MOOK31:93-102,19877)渥美一成,田中英成:加齢によるコントラスト感度の変化.視覚の科学13:54-57,19928)鵜飼一彦,松野彩子,大木千佳ほか:多数例におけるコントラスト感度空間周波数特性の検討正常者の年齢・弱視者の視力をパラメーターとした解析.眼臨92:756-760,19989)NomuraH,AndoF,NiinoNetal:Age-relatedchangeincontrastsensitivityamongJapaneseadults.JpnJOphthal-mol47:299-303,200310)HessRF,HowellER:Thethresholdcontrastsensitivityfunctioninstrabismicamblyopia:evidenceforatwotypeclassication.VisionRes17:1049-1055,197711)RogersGL,BremerDL,LeguireLE:Thecontrastsensi-tivityfunctionandchildhoodamblyopia.AmJOphthalmol104:64-68,198712)RydbergA,HanY,LennerstrandG:Acomparisonbetweendierentcontrastsensitivitytestsinthedetec-tionamblyopia.Strbismus5:167-184,199713)CamposEC,PrampoliniML,GulliR:Contrastsensitivitydierencesbetweenstrabismicandanisometropicamblyo-pia:objectivecorrelatebymeansofvisualevokedresponses.DocOphthalmol58:45-50,198414)SimonsK,ElhattonK:Artifactsinfusionandstereopsistestingbasedonred/greendichopticimageseparation.JPediatrOphthalmolStrabismus31:290-297,1994***

転移性結膜腫瘍の1例

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(125)14530910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14531456,2008cはじめに近年悪性新生物の罹患率が上昇し,また一方で5年生存率が向上しており1),これに伴い全身諸臓器への転移巣が発見される機会も増加している26).眼部腫瘍のなかで転移性腫瘍は近年増加しており,Shieldsらの報告によれば7%を占めている3).原発巣として男性では肺癌が,女性では乳癌が最多とされ,眼部の転移巣としてはぶどう膜,ついで眼窩が多く,結膜転移はまれである4).今回筆者らは,乳癌の転移性結膜腫瘍の症例を経験し,原発巣と転移巣の組織像を比較検討したので報告する.I症例患者:55歳,女性.主訴:右眼異物感.現病歴:2007年5月22日右眼の異物感を自覚し,近医眼科を受診したところ右眼球結膜に腫瘤を指摘され,同年6月8日当科を紹介受診した.既往歴:2005年2月に左乳癌に対し乳房切除術を受け,2007年2月に胸腰椎・肝・肺転移と診断され,化学療法を施行されていた.〔別刷請求先〕高山圭:〒664-0012伊丹市緑ヶ丘6-46-1-1-201Reprintrequests:KeiTakayama,M.D.,46-1-1-201-6-chome,Midorigaoka,Itami-shi,Hyogo664-0012,JAPAN転移性結膜腫瘍の1例高山圭*1鷲尾紀章*1小島照夫*1若栗隆志*1勝本武志*1石田政弘*1西川真平*1沖坂重邦*1,2*1防衛医科大学校眼科学教室*2眼病理教育研究所ACaseofMetastaticConjunctivalTumorKeiTakayama1),NoriakiWashio1),TeruoKojima1),TakashiWakaguri1),TakeshiKatsumoto1),MasahiroIshida1),ShimpeiNishikawa1)andShigekuniOkisaka1,2)1)DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege,2)LaboratoryofOphthalmicPathologyEducation乳癌の転移性結膜腫瘍の1症例を経験した.症例は55歳,女性.右眼の異物感を自覚し近医で右結膜腫瘤を指摘され,2006年6月紹介受診した.既往歴として,2005年2月左乳癌に対し左乳房切除術を施行され,2007年2月に胸腰椎・肝・肺転移の診断を受け化学療法が施行されている.初診時,右眼上耳側に結膜腫瘤を認め,弾性硬,境界明瞭で可動性があった.右結膜腫瘤摘出術を施行.腫瘤は結膜下組織にあり,Tenon・強膜に癒着はなく一塊として摘出された.腫瘤はマクロでは黄色調,弾性硬であり,ミクロでは胞巣は腺管構造を形成し,索状・小塊状・篩状増殖を呈し組織全体に浸潤した低分化腺癌を示し,原発巣の乳癌のものと一致したため転移性腫瘍と診断した.乳癌の眼部への転移先には,ぶどう膜が最も多く,ついで眼窩,視神経であり結膜転移はまれである.結膜腫瘤を認め,悪性腫瘍の既往歴がある際は転移性腫瘍の可能性を考慮すべきである.Wereportacaseofmetastaticconjunctivaltumorina55-year-oldfemalewhopresentedwithforeign-bodysensationinherrighteye.Shehadundergonesurgeryforleft-breastcancerinwhichmultiplemetastaseswerediscovered,andhadbeentreatedwithchemotherapy.Thepresenttumorwasfoundinthesuperotemporalcon-junctivaofherrighteyeandwasnotadherenttothebulbarconjunctivaortheunderlyingsclera.Thetumorwasyellowincolor,plateaushapedandmobile.Pathologicalexaminationshowedthetumortobepoorlydierentiatedadenocarcinoma,thesameasinthebreastcarcinomaexcised2yearspreviously.Metastasestotheeyeandadnexaaregenerallyfoundintheintraocularstructureandorbit;metastasestotheconjunctivaareextremelyrare.Thepresenceofaconjunctivalmassshouldalerttheophthalmologisttothepossibilityofconjunctivalmetastasis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14531456,2008〕Keywords:結膜腫瘍,乳癌,転移.conjunctivaltumor,breastcancer,metastasis.———————————————————————-Page21454あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(126)家族歴:特記事項はなし.初診時所見:視力は右眼(1.2×1.00D(cyl1.75DAx90°),左眼(1.2×+0.25D(cyl2.50DAx85°).眼圧は右眼14mmHg,左眼15mmHg.眼位・眼球運動に異常はみられなかった.右眼上耳側の球結膜に約10×6mm大の腫瘤があり(図1),弾性硬,境界明瞭,可動性良好であり,腫瘤上の結膜血管の拡張が観察された.中間透光体および眼底には異常がなかった.経過:複数臓器への転移があることから乳癌の結膜転移の可能性が最も考えられた.本人が異物感の改善のみを希望したため,2007年6月15日単純切除術を施行した.術中所見では,腫瘤は結膜下組織中にありTenon・強膜との癒着はなかった.組織病理所見:結膜腫瘤は大きさが10×6×5mmで黄色調,弾性硬であった(図2).胞巣構造の腫瘍細胞塊が標本全体に認められ,一部で篩状・索状を呈していた(図3a).索状の浸潤部では,腫瘍細胞の間に線維性間質を認め,硬性癌の組織像を呈していた.塊状を呈している部分では核の異型性が強く,有糸様分裂も多く認められた(図3b).腫瘍の中央に壊死も認められた.これら病理所見は浸潤性乳管癌の転移として矛盾しない所見であった.平成17年に切除された原発巣である乳癌の病理所見(図4)は,腫瘍細胞が管状・塊状となり,胞巣構造を呈している部分と硬性癌を呈している部分が混在していた.Her-2/neu(3+),estrogenrecep-tor(ER)(),progesteronereceptor(PgR)()の乳管癌であり,今回の組織病理所見と一致していた.結膜腫瘍の病理所見が原発巣と一致したこと,乳癌が肺・肝・骨に転移していることから乳癌の結膜転移と診断した.術後,主訴は消失し,その後外科で化学療法を増量し外来で経過観察を行っているが,術後6カ月(2007年1月末)の段階で眼局所の明らかな再発はみられていない.図1右外眼部写真上耳側結膜下に10×6mmの黄色調,弾性硬,境界明瞭な腫瘤を認め,可動性は良好であった.図2摘出した結膜腫瘍の実体顕微鏡写真10×6×5mmの黄色調,弾性硬であった.ab図3結膜腫瘍の病理組織の拡大像(HE染色)a:弱拡大では腫瘍細胞が結膜上皮下組織全体に認められ,小塊状,一部で篩状・索状を呈していた.b:強拡大では塊状を呈している胞巣部分では核の異形性が強く有糸核分裂も多数認められる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081455(127)II考按眼部への転移性悪性腫瘍は1872年に最初の報告があり,眼部腫瘍の8%を,眼部悪性腫瘍の約19%を占める5).悪性腫瘍の眼部への転移巣として,Castroらの報告6)によるとぶどう膜が最多(64%),つぎに眼窩(29%),視神経(3%)であり,結膜転移はその他(2%)の一部でまれな転移巣である.原発巣として乳癌が最多であり,ついで肺,消化管,腎,皮膚,前立腺との報告がある4).今回の症例では,既往に乳癌がありすでに複数臓器に転移が認められていたこと,病理所見で以前切除した乳癌と一致したことから乳癌の結膜転移と診断した.原発巣の腫瘍細胞はHer-2/neu(3+),ER(),PgR()であった.Her-2/neuの遺伝子増幅ないし蛋白過剰発現を示す乳癌は,臨床的に予後が不良であり,Her-2/neuが陽性で7),ER・PgR陰性である癌は治療抵抗性が高いこと8)が知られており,今回の症例は原発巣術後より2年3カ月で肺・肝・骨に転移をきたしており,病理学的にも臨床的にも悪性度が高いと考えられる.眼部転移を初発とし診断的切除と全身精査により原発巣が判明した症例911)も報告されており,結膜に腫瘤がみられた場合には,悪性腫瘍の既往を問うのはもちろんであるが,診断的切除を行い転移性が疑われる結果であった場合はおもに胸部・腹部を中心とした全身精査を行う必要がある.結膜に転移性腫瘍が認められた場合は他臓器へも転移をきたしている場合が多く,1996年の報告では結膜転移発見後の平均余命は9カ月であった12)が,2006年の報告では切除・放射線治療・分子標的薬による化学療法などを施行することにより5年生存率が72%,10年生存率が38%としていることもあり13),悪性度や原発巣を精査した後にQOL(qualityoflife)を高めるために適切な治療を行うことが必要であると考える.本症例では,患者の希望により放射線療法は施行されずに,化学療法が継続された.結膜下に腫瘤を認めた際には,まず局所原発性腫瘍の検索を行うが,転移性腫瘍の可能性が考えられる場合にはさらに全身検索を行う必要がある.稿を終えるにあたり,原発巣の病理標本の借用に快諾していただいた三井病院秦怜志先生に深謝いたします.文献1)国立がんセンター中央病院:主要部位別・病期別生存率.がん統計’05,p25-26,20052)工藤麻里,後藤浩,村松大弐:転移性眼窩腫瘍17例の検討.眼臨101:450-453,20073)ShieldsJA,ShieldsCL,ScartozziR:Surveyof1264patientswithorbitaltumorsandsimulatinglesion.Oph-thalmology111:997-1008,20044)FerryAP,FontRL:Carcinomametastatictotheeyeandorbit.ArchOphthalmol92:276-286,19745)高村浩:日本での眼科領域の腫瘍の現状と国際比較.あたらしい眼科19:535-541,20026)CastroPA,AlbertDM,WangWJetal:Tumormetasta-tictotheeyeandadnexsa.IntOphthalmolClin38:189-223,1982図4原発巣である乳癌の病理組織像a:腫瘍は胞巣構造の部分と硬性癌の部分が混在する乳管癌である(HE染色).b:胞巣部分では核の異型性が強くみられる(HE染色).c:胞巣構造から硬性癌に移行している部分では,腫瘍細胞はHer-2/neu免疫染色に強陽性(3+)であった.abc———————————————————————-Page41456あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(128)7)TsudaH:Prognosticandpredictivevalueofc-erb-2(HER-2/neu)geneamplicationinhumanbreastcancer.BreastCancer8:10-15,20018)ElledgeRM,GreenS,PughRetal:Estrogenreceptor(ER)andprogesteronereceptor(PgR),byligand-bindingassaycomparedwithER,PgR,pS2byimmuno-his-tochemistryinpredictingresponsetotamoxifeninmeta-staticbreastcancer:aSoutheastOncologyGroupStudy.IntJCancer89:111-117,20009)ShieldsJA,GunduzK,ShieldsCLetal:Conjunctivalmetastasisastheinitialmanifestationoflungcancer.AmJOphthalmol124:399-400,199710)ShieldsCA,ShieldsJA,GrossNAetal:Surveyof520eyeswithuvealmetastases.Ophthalmology104:1265-1276,199711)森英恵,前川直子,里田直樹ほか:眼窩内転移による症状を初発として発見された原発性肺癌の1例.日呼吸会誌41:19-24,200312)KiratliH,ShieldsCL,ShieldsJAetal:Metastaticstumorstotheconjunctiva:reportof10cases.BrJOph-thalmol80:5-8,199613)MehtaJS,Abou-RayyahY,RoseGE:Orbitalcarcinoidmetastases.Ophthalmology113:466-472,2006***

Leber 遺伝性視神経症と診断した女性の一家系

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(119)14470910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14471452,2008cはじめにLeber遺伝性視神経症(Leber’shereditaryopticneuropa-thy:LHON)は母系遺伝形式をとる急性ないし亜急性の両眼性視神経症で,ミトコンドリアDNAの点突然変異によりもたらされることが知られている.好発年齢は1020歳代であるが,4050歳代にも小さなピークがある.患者の8090%は男性であり,女性はキャリアにとどまることが多いといわれている.今回筆者らは治療が奏効しない球後視神経炎疑いで受診した女性に遺伝子診断を施行し,LHONと診断できた家系より,数名の女性発症例を確認したので報告する.I症例〔症例1〕発端者:28歳,女性.現病歴:23歳のとき,急激な視力障害を自覚し近医眼科,県立病院などを受診.片眼発症10カ月後に他眼も発症.球後視神経炎として入院し,ステロイド加療を行ったが改善なく,原因不明のまま近医にて経過観察されていた.セカンドオピニオンを求め,平成14年7月19日西葛西・井上眼科病院(以下,当院)を受診した.家族歴:母方の叔父が片眼視力不良(詳細不明).初診時所見:視力は右眼0.03(0.05×3.0D),左眼0.03(0.04×3.0D),眼圧は右眼17mmHg,左眼16mmHg,対光反応正常,相対的求心性瞳孔障害(relativeaerentpupillaridefect:RAPD)なし.前眼部,中間透光体に特記すべき異常は認めず,両眼底に視神経萎縮を認めた(図1a).Goldmann動的視野検査にて求心性視野狭窄とⅠ-4にて中心部の絶対暗点を認めた(図1b).パネルD-15にて第〔別刷請求先〕野崎令恵:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:NorieNozaki,M.D.,Nishikasai-InouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPANLeber遺伝性視神経症と診断した女性の一家系野崎令恵*1宮永嘉隆*1中井倫子*2菊池俊彦*3井上治郎*4*1西葛西・井上眼科病院*2眼科中井医院*3水戸大久保病院眼科*4井上眼科病院FamilyofaFemaleDiagnosedwithLeber’sHereditaryOpticNeuropathyNorieNozaki1),YoshitakaMiyanaga1),NorikoNakai2),ToshihikoKikuchi3)andJiroInouye4)1)Nishikasai-InouyeEyeHospital,2)NakaiEyeHospital,3)DepartmentofOphtalmology,MitoOkuboHospital,4)InouyeEyeHospital症例:原因不明の視神経炎と診断された女性に遺伝子検査を行い,Leber遺伝性視神経症と診断した.その後姪に原因不明の視力障害と視神経萎縮を認め,遺伝子解析を行ったところ11778番ヘテロプラスミー変異を確認した.そこで可能な限りの家系調査を施行したところ,同様の点突然変異を妹,姪,甥と母に認めた.結論:女性や幼小児においてもLeber遺伝性視神経症を発症する場合があり,原因不明の視力障害を診た場合には性別や年齢によらずLeber遺伝性視神経症も念頭に置く必要があると考えられた.Weconductedgenetictestingonafemalediagnosedwithopticneuritisofuncertainetiology,anddiagnosedLeber’shereditaryopticneuropathy.Subsequently,blurredvisionandopticnerveatrophyofuncertainetiologywereidentiedinherniece.Geneticanalysisconrmedheteroplasmyforthe11778mutation.Thepatient’slineagewastheninvestigatedtotheextentpossible,andasimilarpointmutationwasfoundinheryoungersister,niece,nephewandmother.Leber’shereditaryopticneuropathycanaectevengrownfemalesandinfants.Whenblurredvisionofuncertainetiologyisexamined,Leber’shereditaryopticneuropathyshouldbekeptinmind,regardlessofpatientsexorage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14471452,2008〕Keywords:Leber遺伝性視神経症,女性,11778番ヘテロプラスミー変異,家系.Leber’shereditaryopticneu-ropathy,female,heteroplasmyforthe11778mutation,lineage.———————————————————————-Page21448あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(120)3色盲は認めなかった.蛍光眼底造影検査,中心フリッカー試験は施行していない.経過:患者の同意を得,ミトコンドリアDNAについて検査を行い,11778番の正常型と変異型の混在型ヘテロプラスミーを確認し,LHONと診断した(図5a).その後経過をみながらビタミンB群(ビタメジンR),ビタミンB12(メチコバールR),コエンザイムQ10などの内服を行っており,視力は右眼(0.1),左眼(0.3)となっている.経過観察中に結婚,出産を経て現在は2児の母となり,3歳の長女はすでに右眼の視神経萎縮を認め,視力は0.06となっている.2歳の長男については不明である.〔症例2〕発端者の姪(妹の長女):9歳,女児.現病歴:平成15年,就学前健診で視力不良を指摘(右眼0.2,左眼0.3ともに矯正不能).総合病院にて毛様体過緊張と診断され,近医にて経過みるも改善せず,視神経萎縮を認めるようになり,精査加療目的に平成17年7月27日当院紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.6(0.8×0.25D(cyl0.5DAx30°),左眼0.8(1.2×0.25D(cyl0.5DAx40°),眼圧は右眼18mmHg,左眼17mmHg,輻湊反応良好,立体視はほぼ正常.対光反射・RAPDについては記載なし.前眼部,中間透光体に特記すべき異常は認めず,両眼底に軽度の視神経萎縮を認めた(図2a).Goldmann動的視野検査にて傍中心比較暗点を認めた(図2b).中心フリッカー試験は右眼1914mmHg,左眼3631mmHgであった.全屈折検査,石原式色覚検査では両眼とも異常は認めなかった.蛍光眼底造影検査は施行していない.経過:母親が症例1の妹であり,同意を得てミトコンドリアDNA検査を行ったところ,同様の11778番の正常型と変異型の混在型ヘテロプラスミーを認め,LHONと診断した(図6b).トロピカミド(ミドリンMR)右眼就寝前点眼にて経過観察中にMRD(marginreexdistance)右眼6mm,左眼図1a症例1(28歳,女性)の眼底写真上:右眼,下:左眼.視神経萎縮を認める.図1b症例1のGoldmann動的視野検査所見上:右眼,下:左眼.Mariotte盲点拡大と中心暗点を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081449(121)8mmと右上眼瞼下垂を認めている.また,平成18年12月27日左方視時に複視を訴え,動眼神経麻痺についても注意して経過をみている.平成19年12月26日,視力は右眼(0.4),左眼(1.0)で,両眼とも視神経萎縮が進行している.そこで遺伝性の確認のため同意を得,本患者の3世代にわたる家系について調査した.家系図を示す(図3).〔症例3〕症例2の母:31歳,女性.現病歴:自覚症状はなかったが家族性の確認のため平成17年12月28日当院初診.初診時所見:ミトコンドリアDNA検査を行ったところ,同様の11778番の正常型と変異型の混在型ヘテロプラスミーを認めた.前眼部,中間透光体に特記すべき異常は認めなかった.経過:平成19年2月28日,視力は右眼0.01(0.04×cyl1.5DAx90°),左眼0.1(0.9×cyl1.75DAx70°)と右眼の視力障害を認めたが,眼底に視神経萎縮は認めなかった.同年3月14日,右眼(0.02),左眼(0.8)となったため,プレドニゾロン(プレドニンR)15mgを14日,5mgを14日図2a症例2の眼底写真上:右眼,下:左眼.右眼に視神経萎縮を認める.図2b症例2のGoldmann動的視野検査所見上:右眼,下:左眼.傍中心暗点を認める.4症例6症例712432135症例5126345:発端者:正常または未定:発症者:保因者:DNA検査済図3家系図———————————————————————-Page41450あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(122)間内服.このとき右眼の視神経の色調はやや不良となっていた(図4).その後はビタミンB群(ビタメジンR)の内服にて経過をみており,同年12月26日右眼(0.03),左眼(0.02)となり右眼の視神経萎縮は進行している.対光反応については記載なし.視野検査や蛍光眼底造影検査,色覚検査,中心フリッカー試験は行っていない.〔症例4〕症例2の妹:8歳,女児.〔症例5〕症例2の弟:3歳,男児.〔症例6〕症例1の父:65歳,男性.〔症例7〕症例1の母:56歳,女性.現病歴:症例47においては自覚症状はなかったが,家族性の確認のため平成17年12月28日当院初診.初診時所見:ミトコンドリアDNA検査を行ったところ,11778番ヘテロプラスミー変異を症例4,5,7に認めた.症例6では異常は認めなかった(図5c).眼底検査を行ったところ症例5に両眼,特に右眼の視神経萎縮を認めた(図6).症例5の視力は両眼とも0.8で,他の家族に異常は認めなかった.経過:全症例で現在視力障害の訴えはないが,症例5では行動異常知能発達障害を認めている.II考按今回筆者らは原因不明の視神経萎縮を認めた若年女性につ未1131.124bp(異変型)正常型2混在型3図5a症例1のmtDNA11778解析1131.124bp(異変型)正常型2混在型3図5b症例2のmtDNA解析1正常型2混在型3図5c父親のmtDNA点突然変異を認めず正常.図4症例3(31歳,女性)の眼底写真上:右眼,下:左眼.右眼視神経萎縮を認める.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081451(123)いてミトコンドリアDNA解析を施行し,LHONと診断できた家系より数名の女性発症者を認めた.8歳の姉が発症していないにもかかわらず,男児では3歳という若年齢ですでに視神経萎縮を認めていたことより,従来の報告通り1)同じ遺伝子をもっていても性別により浸透率に相違があることがわかる.女性より男性のほうが発症率が高いことについて,X染色体劣性遺伝子の可能性や核遺伝子の影響が考えられたこともあったが,現時点ではこれらの考えは否定的である.深水ら7)は女性に発症した場合は男性に比べて少なくとも片眼は症状が軽い可能性があると報告しているが,本症例においてはそうともいえない.一方,女性は同じ遺伝子をもっていても発症する者としない者が存在し,また発症する者でも時期に違いがあり,発症には何らかの誘因が関わっていることが示唆される.過去の報告では発症因子として喫煙やアルコール,性ホルモンが考えられている2,5).思春期以降から更年期までの発症を認めることより性ホルモンの関与4)や授乳が発症のトリガーになる可能性が指摘されている3)が今回,思春期以前,10歳以下の幼児においても発症することがわかった.中年発症例も報告されていることより6,7),年齢においてLHONを否定することはできない.発症にはさまざまな因子が関係していると思われる.LHONは日本人家系でも欧米人家系でも女性における浸透率は低いと考えられており4,5),特に幼小児だと弱視11)や心因性視力障害,検査に非協力的であるためなどと考えられる可能性があり,確定診断としてLHONは見落とされる可能性がある.またLHONでは初期には視神経萎縮が出現しないことも診断を困難にする一因である.遺伝子解析という複雑な検査や母系遺伝であることも家族間のトラブルを生む可能性があり8),説明には十分慎重を要する.いくつかの独立した研究により,LHONを発症した女性の子孫は未発症の女性の子孫より有意に高い率で発症することが示されている4,9,10).LHONの患者を診た場合,現時点でその家系に眼疾患歴がなくともできる限りの家系単位で定期的な検査を継続していくべきであると考える.一方で女性発症は年々減少している5)との報告もある.今回経験した症例より,稀であっても女性や女児においてもLHONを発症する可能性があり,原因不明の視力障害や治療が奏効しない視神経炎を認めたときにはLHONも念頭に置き注意して経過観察を行う必要があると考えられた.今後できる限り症例を増やし,女性発症と男性発症を比較し,トリガーとなるものが何かを解明することが本症の予防や治療につながると考える.また,2008年2月5日,イギリスのニューカッスル大学の研究チームが体外受精で残った不完全な胚を使って,男性1人と女性2人のDNAからヒトの胚を合成することに成功したと発表した.体外受精の過程で卵子の細胞の核を第三者の卵子に入れ,核の遺伝子は親のもの,ミトコンドリアDNAは第三者のものになるようにし,ミトコンドリアDNAに含まれる欠陥が子供に遺伝しないようにしたという.倫理面上の問題もあるが,同研究チームは5年以内に遺伝病の治療に活用できるようになるようになることを期待している.将来LHONの発症を未然に防ぐことができるようになる日が来るかもしれない.文献1)PovaikoN,ZakharovaE,RudenskaiaGetal:AnewsequencevariantinmitochondrialDNAassociatedwithhighpenetranceofRussianLeberhereditaryopticneu-ropathy.Mitochondrion5:194-199,20052)真島行彦:レーベル病.神経眼科11:34-41,19943)井街譲:レーベル氏病.附.優性型幼児性視神経萎縮症.図6症例5(弟,3歳)の眼底写真上:右眼,下:左眼.右眼視神経の色調が蒼白である.———————————————————————-Page61452あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(124)日眼会誌77:1685-1735,19734)中村誠:Leber遺伝性視神経症.臨眼61(増):98-102,20075)中村誠:レーベル遺伝性視神経症の発症分子メカニズムの展望.日眼会誌109:189-196,20056)筒井一夫,新田進人,西信元嗣:ミトコンドリアDNA解析により診断確定したレーベル病の中年発症例.眼臨94:434-438,20007)深水真,藤江和貴,若倉雅登:女性に発症したレーベル遺伝子性視神経症の特徴.臨眼57:427-430,20038)若倉雅登:視神経疾患のロービジョンケア.眼紀58:138-141,20079)CarelliV,GiordanoC,d’AmatiG:PathogenicexpressionofhomoplasmicmtDNAmutationsneedsacomplexnuclear-mitochondrialinteraction.TrendsGenet19:257-262,200310)PuomilaA,HamalainenP,KiviojaSetal:EpidemiologyandpenetranceofLeberhereditaryopticneuropathyinFinland.EurJHumGenet(Epubaheadofprint):200711)YokoyamaT,FujiiK,MurakamiAetal:Long-termfol-low-upoftwosisterswithLeber’shereditaryopticneu-ropathy.JpnJOphthalmol50:78-80,2006***

強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミーの手術成績

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(115)14430910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14431446,2008cはじめに弘前大学眼科(以下,当科)では改良非穿孔トラベクレクトミー(advancednon-penetratingtrabeculectomy:ad-N)の変法として強膜弁を無縫合で終了し,サイヌソトミーを併施しない強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー(free-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy:ad-N)を独自に行っている.本法は強膜弁を無縫合にすることによって,濾過量の増加およびlaser-suturelysisなどの術後処置の簡略化を期待して発案された.以前,筆者らは本術式の短期間の手術成績を報告した1).しかし,術後平均観察期間は約5カ月と短かったので,今回は,本法を用い最低12カ月以上(平均観察期間24カ月)経過が観察できた症例をad-Nと比較検討して報告する.I対象および方法1.対象対象は2002年4月から2007年3月までにad-Nまたはad-Nを施行された緑内障患者48例75眼で,その内訳はad-N群が30例46眼(男性15例女性15例,平均年齢67.1±10.4歳),ad-N群が18例29眼(男性8例,女性10例,平均年齢67.6±8.45歳)である.なお,この期間中2005年4月以降はほぼ全症例をad-Nではなくad-Nで行ってい〔別刷請求先〕盛泰子:〒036-8562弘前市在府町5弘前大学大学院医学研究科眼科学講座Reprintrequests:TaikoMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HirosakiUnivesitySchoolofMedicine,5Zaifu-cho,Hirosaki036-8562,JAPAN強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミーの手術成績盛泰子石川太山崎仁志伊藤忠竹内侯雄木村智美中澤満弘前大学大学院医学研究科眼科学講座SurgicalResultofFree-FlapAdvancedNon-PenetratingTrabeculectomyTaikoMori,FutoshiIshikawa,HitoshiYamazaki,TadashiIto,KimioTakeuchi,SatomiKimuraandMitsuruNakazawaDepartmentofOphthalmology,HirosakiUnivesitySchoolofMedicine弘前大学眼科で独自に行っている強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー(ad-N)と従来の改良非穿孔トラベクレクトミー(ad-N)の手術成績を比較検討した.対象は2002年4月から2007年3月までに当院でad-Nまたはad-Nを施行され,術後12カ月以上観察された48例75眼である.術前眼圧(平均±標準偏差)はad-N群,ad-N群で18.2±4.1mmHg,17.5±4.3mmHg,最終眼圧(平均±標準偏差)はad-N群,ad-N群で13.6±2.6mmHg,13.6±2.2mmHgであった.術後合併症は両群とも一過性の脈絡膜離をきたした症例が1眼ずつあったが,その他重篤な合併症はなかった.以上の結果からad-Nは従来のad-Nと同等の手術成績を有すると考えられた.Toevaluatetheoutcomesofnon-penetratingtrabeculectomiesperformedatHirosakiUniversityHospitalfromApril2002toMarch2007,werecordedintraocularpressure(IOP)andcomplicationsforatleast12monthsaftersurgeryin75eyesof48patientswhounderwentfree-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy(ad-N)oradvancednon-penetratingtrabeculectomy(ad-N).ThemeanpreoperativeIOPwas18.2±4.1mmHginthead-Ngroupand17.5±4.3mmHginthead-Ngroup.ThemeanpostoperativeIOPwas13.6±2.6mmHgand13.6±2.2mmHg,respectively.Therewasonecaseofchoroidaldetachmentineachgroup,buttherewerenoothersignicantcomplications.Theseresultssuggestthatad-Nseemstoachievealmostthesamesurgicalresultsasad-N.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14431446,2008〕Keywords:非穿孔トラベクレクトミー,改良非穿孔トラベクレクトミー,強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー,手術成績,緑内障.non-penetratingtrabeculectomy,advancednon-penetratingtrabeculectomy,free-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy,surgicaloutcome,glaucoma.———————————————————————-Page21444あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(116)る.両群とも観察期間は最低12カ月以上で角膜切開白内障手術を併施した症例を対象とし,後ろ向き研究を行った.これらの患者背景を表1にまとめる.両群間の年齢に有意差はなかった(p<0.05,t検定).2.手術手技今回の検討対象となった2つの術式を表2にまとめる.両術式は表のごとく手技⑨以外は共通手技である.当科で独自に行っているad-Nの特徴はサイヌソトミー非併施かつ強膜外方弁を無縫合のまま結膜縫合することにある.また,両術式ともに利点や予想される合併症を十分に説明した後,文書による同意を得て行った.3.検討項目各群の術前平均眼圧,術後1,3,6,12,24カ月での眼圧,眼圧下降率,術前,術後1,3,6,12,24カ月での薬剤スコア,術中,術後合併症,術後処置,再手術の有無について検討した.術前平均眼圧は術直前3回の平均眼圧とした.再手術例は再手術前の最終受診時を最終眼圧とし,それ以降は検討から除外とした.術前および術後各時点での眼圧値の比較はWilcoxon符号付き順位検定で評価した.眼圧下降率は術前平均眼圧と最終受診時眼圧から算出した.また,眼圧はすべてGoldmann圧平眼圧計を用いて測定した.薬剤スコアは抗緑内障点眼薬を1剤1点,内服薬を2点とした.薬剤スコアの術前後の比較はSpearman順位相関係数検定で行った.再手術は術後,眼圧下降が不十分なために何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例と定義した.II結果1.眼圧(平均±標準偏差)術前眼圧はad-N群が18.2±4.1mmHg,ad-N群が17.5±4.3mmHgで,両群間に統計学的有意差はなかった(p<0.05,Wilcoxon符号付き順位検定).術後眼圧は術後1,3,6,12,24カ月の順にad-N群で13.2±3.1mmHg,12.6±3.7mmHg,13.0±2.7mmHg,13.7±1.8mmHg,13.6±2.5mmHgであり,ad-N群では13.7±2.9mmHg,13.8±2.9mmHg,14.0±2.9mmHg,13.9±2.7mmHg,13.4±1.9mmHgであった.術後各時点の眼圧値は術前に比較して両群ともに有意に低下していた(p<0.05,Wilcoxon符号付き順位検定)が,両群間には統計学的な有意差はなかった(p<0.05,Wilcoxon符号付き順位検定).両群の眼圧経過を図表2手術手技adN①結膜輪部切開②4×4mm強膜外方弁作製③0.04%mitomycinC塗布,4分間④300ml生理食塩水で洗浄⑤超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑥4×3.5mmの強膜内方弁作製⑦線維柱帯内皮網擦過,除去⑧強膜内方弁を角膜側に伸ばし,Descemet膜を露出した後,強膜内方弁除去⑨強膜外方弁を縫合後半円形切除2カ所⑩結膜縫合adN①結膜輪部切開②4×4mm強膜外方弁作製③0.04%mitomycinC塗布,4分間④300ml生理食塩水で洗浄⑤超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入(角膜切開)⑥4×3.5mmの強膜内方弁作製⑦線維柱帯内皮網擦過,除去⑧強膜内方弁を角膜側に伸ばし,Descemet膜を露出した後,強膜内方弁除去⑨強膜外方弁を縫合せず整復⑩結膜縫合⑨以外は共通手技である.表1患者背景ad-Nad-N性差(男:女)眼25:2111:18年齢(歳・平均±標準偏差)67.1±10.467.6±8.45病型:開放隅角緑内障4125性緑内障32発達緑内障10閉塞隅角緑内障12合計(眼)4629術前平均眼圧(mmHg・平均±標準偏差)17.5±4.318.2±4.1術前平均薬剤スコア(点・平均±標準偏差)2.7±0.92.6±0.8ad-N:advancednon-penetratingtrabeculectomy,ad-N:free-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy.1カ月術前3カ月6カ月12カ月24カ月2520151050眼圧(mmHg):ad-N:ad-N図1平均眼圧経過各時点で両群間に統計学的な有意差なし(Wilcoxon符号付き順位検定p<0.05).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081445(117)1に示す.2.眼圧下降率ad-N群の平均眼圧下降率は19.6%であった.眼圧下降率30%以上の症例は8眼(27.6%),20%以上30%未満の症例は6眼(20.7%),0%以上20%未満の症例は13眼(44.8%)であった.ad-N群の平均眼圧下降率は19.6%であった.眼圧下降率30%以上の症例は13眼(28.3%),20%以上30%未満の症例は8眼(17.4%),0%以上20%未満の症例は17眼(40.0%)であった.ad-N群とad-N群の眼圧下降率散布図を図2に示す.3.薬剤スコア(平均±標準偏差)術前の薬剤スコアはad-N群で2.6±0.8点,ad-N群で2.7±0.9点,最終受診時の薬剤スコアはad-N群で1.2±0.9点,ad-N群で1.0±0.9点であり,両群ともに術前に比較して有意に低下していた(p<0.05,Spearman順位相関係数検定).両群間差は術前,術後ともになかった(p<0.05,Spear-man順位相関係数検定).ad-N群とad-N群の薬剤スコアの経過を図3に示す.4.術後処置Lasersuturelysisはad-N群で0眼(0%),ad-N群で13眼(28.2%),lasergoniopunctureはad-N群で18眼(62.0%),ad-N群で25眼(54.3%),lasergonioplastyが14眼(48.2%),ad-N群で19眼(41.3%),needlingがad-N群で1眼(3.4%),ad-N群で2眼(6.9%)行われていた.5.合併症術後に一過性の脈絡膜離がad-N群で1眼(3.4%),ad-N群で1眼(2.2%)みられたが,その他重篤な合併症は両群ともになかった.6.再手術術後,眼圧下降が不十分なために何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例はad-N群で2眼(6.9%),ad-N群で4眼(8.7%)みられた.III考按緑内障における外科的眼圧降下法には種々の方法がある.進行期緑内障では,緑内障治療で唯一エビデンスが得られている治療が眼圧下降であるため,眼圧下降効果の大きさから流出路再建術よりも濾過手術が選択される場合が多い.濾過手術の中でもトラベクレクトミー(trabeculectomy:TLE)は主流の術式であるが,その強い眼圧下降効果の一方で,過剰濾過に伴う前房消失,低眼圧,ひいては低眼圧黄斑症などの忌むべき合併症が多い術式であることも知られている24).その反省から前房に穿孔しない,いわゆる非穿孔トラベクレクトミー(non-penetratingtrabeculectomy:NPT)が考案された5,6).NPTにおいては過剰濾過に伴う合併症は少なくなったものの,逆に眼圧下降の面が不十分になるという新たな問題が生じた.そのためNPTの眼圧下降効果を補うため改良非穿孔トラベクレクトミー(advancednon-penetratingtrabeculectomy:ad-N)がその後さらに考案された7).当科ではこのad-Nの変法として強膜弁を無縫合で終了35302520151050術後眼圧(mmHg)15105020術前眼圧(mmHg)25303520下降30下降35302520151050術後眼圧(mmHg)05101520253035術前眼圧(mmHg)20下降30下降ad-N?ad-N図2眼圧下降率左:ad-N群,右:ad-N群.両群ともに平均眼圧下降率は19.6%.1カ月術前3カ月6カ月12カ月24カ月4.03.02.01.00.0薬剤スコア:ad-N:ad-N図3平均薬剤スコア各時点で両群間に統計学的な有意差なし(Spearman順位相関係数検定p<0.05).———————————————————————-Page41446あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(118)し,サイヌソトミーを併施しない強膜弁無縫合改良非穿孔トラベクレクトミー(free-apadvancednon-penetratingtra-beculectomy:ad-N)を独自に行っている1).本法は強膜弁を無縫合にすることによって,濾過量の増加およびlasersuturelysisなどの術後処置の簡略化を期待して発案した術式である.また,無縫合かつサイヌソトミーを行わないことで強膜弁の欠損は生じえず,眼圧下降が不十分な場合,同一創からのTLEでの再手術が可能であるという利点を併せもっている.今回の検討では,術後最終眼圧平均(平均±標準偏差)は術前眼圧平均(平均±標準偏差)に比較して両群ともに有意に低下していた.また,術後各時点の眼圧値は術前に比較して両群ともに有意に低下していたが,両群間には統計学的な有意差はなかった.眼圧下降率も両群間に有意差はなかった.最終受診時の薬剤スコア(平均±標準偏差)は術前の薬剤スコア(平均±標準偏差)と比較して両群ともに有意に低下していたが,両群間差は術前,術後ともにみられなかった.眼圧下降が不十分なために何らかの観血的緑内障手術を追加的に行う必要があった症例はad-N群で2眼(6.9%),ad-N群で4眼(8.7%)であった.以上の結果はすなわちad-Nは眼圧下降効果,眼圧下降率,術後薬剤スコア,再手術の頻度においてad-Nと同等の成績であることを示し,強膜弁を無縫合にすることによって濾過量を増加させるという試みはさほど効果がなかったと考えられた.合併症の面では両群ともに術後に一過性の脈絡膜離が1眼みられたのみで,その他重篤な合併症はなかった.ad-Nでは強膜弁無縫合にすることによる特別な合併症もみられなかった.この点においてもad-Nはad-Nと同等の成績といえる.ad-Nとad-Nは眼圧下降,合併症などの手術成績は同等であるが,ad-Nにはサイヌソトミー非併施,強膜外方弁無縫合と若干の手術手技簡略化という利点があると思われた.術後処置については,ad-N群においてlasersuturelysisが0眼(0%)なのは強膜弁無縫合であるから当然であり,この点に関しては術後処置の簡略化に成功したと考えてよい.ad-N群,ad-N群ともに濾過胞の維持,眼圧下降のために必要に応じてlasergoniopuncture,lasergonioplasty,nee-dling施行が必要であり,この術後管理は術後の眼圧下降効果維持のために非常に重要であったと思われる.両術式ともに結膜輪部切開での施行であること,濾過量がTLEよりも少ないことから濾過胞は扁平になる傾向があり,当科では術後2週間をめどに積極的にlasergoniopuncture,lasergonioplasty,needlingを施行している.したがってこれらの処置は施行率が高い傾向にあったと思われる.今回の検討では濾過胞の維持率は検討していない.後ろ向き研究であるので濾過胞の生存を客観的に,厳密に判断することがむずかしいと考えたためである.この点については光学的干渉断層計などの前眼部解析装置を用いての厳密な検討を今後,考慮する必要があると思われる.また,両術式は眼圧下降効果,合併症の面で同等の手術成績であるという結果が得られた.しかしad-Nでは手術手技,術後処置の面でad-Nに比較して若干の簡略化があり,その点に関しては有用と思われた.文献1)大黒浩,大黒幾代,山崎仁志ほか:理想的な術後濾過胞形成を目指した強膜弁非縫合非穿孔トラベクレクトミー(Free-apAdvancedNPT)の手術成績.あたらしい眼科23:515-518,20062)JongsareejitB,TomidokoroA,MimuraTetal:EcacyandcomplicationsaftertrabeculectomywithmitomycinCinnormal-tentionglaucoma.JpnJOphthalmol49:223-227,20053)大黒幾代,大黒浩,中澤満:弘前大学眼科における緑内障手術成績.あたらしい眼科20:821-824,20034)八鍬のぞみ,丸山幾代,清水美穂ほか:札幌医科大学眼科における0.04%マイトマイシンC併用トラベクレクトミーの長期成績.あたらしい眼科17:263-266,20005)Gonzalez-BouchonJ,Gonzalez-MathiesenI,Gonzalez-GalvezMetal:NonpenetratingdeeptrabeculectomytreatedwithmitomycinCwithoutimplant.Aprospectiveevaluationof55cases.JFrOphtalmol27:907-911,20046)ShyongMP,ChouJC,LiuCJetal:Non-penetratingtrab-eculectomyforopenangleglaucoma.ZhonghuaYiXueZaZhi(Taipei)64:408-413,20017)黒田真一郎,溝口尚則,寺内博夫ほか:Non-PenetratingTrabeculectomyを改良した緑内障手術(advancedNPT:仮称)の評価.あたらしい眼科17:845-849,2000***