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選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(111)14390910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14391442,2008cはじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は半波長Qスイッチ:Nd-YAGレーザー(波長532nm)を用いて,線維柱帯の色素細胞のみを選択的に障害し,線維柱帯の房水流出抵抗を減少させることで眼圧を下降させると考えられているレーザー治療である1).アルゴンレーザー線維柱帯形成術(argonlasertrabeculo-plasty:ALT)は線維柱帯構造全体に作用するが,SLTは周囲の線維柱帯組織や無色素細胞には影響しないことが明らかになっており2),線維柱帯への侵襲が少ない.また,ALTは熱凝固組織損傷の合併症である術後一過性の眼圧上昇,周辺部虹彩癒着などを認めることがあるのに対し,SLTはそれらの合併症を認めることが少なく,くり返し治療が可能で,手術治療に影響を与えないため,薬物治療と手術治療の中間的な役割を果たすものとして位置づけられている3).SLTはALT同等の眼圧下降が得られ,その有効性については多くの報告があり4,6,8),狩野ら4),Hodgeら5)は,原発開放隅角緑内障(広義)(POAG)と落屑緑内障(EXG)の2病型において,SLTの眼圧下降効果に有意差を認めなかったと報告している.しかし,最大耐用薬物療法下でのSLT6)や色素緑内障に対するSLT7)には限界があることが示唆されており,患者背景因子を検討することが必要である.また,Wernerら9)により,白内障手術の既往の有無はSLTの眼圧下降効果に影響を及ぼさないと報告されているが,緑内障手〔別刷請求先〕上野豊広:〒669-5392豊岡市日高町岩中81公立豊岡病院組合立豊岡病院日高医療センター眼科センターReprintrequests:ToyohiroUeno,M.D.,EyeCenter,HidakaMedicalCenter,ToyookaHospital,81Iwanaka,Hidaka-cho,Toyooka-shi,Hyogo-ken669-5392,JAPAN選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績上野豊広岩脇卓司湯才勇矢坂幸枝港一美倉員敏明公立豊岡病院組合立豊岡病院日高医療センター眼科センターClinicalResultsofSelectiveLaserTrabeculoplastyToyohiroUeno,TakujiIwawaki,SaiyuuYu,YukieYasaka,KazumiMinatoandToshiakiKurakazuEyeCenter,HidakaMedicalCenter,ToyookaHospital筆者らは選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)の眼圧下降効果を緑内障手術の既往の有無や病型別で比較検討を行った.対象は,当院でSLT施行後3カ月以上観察可能であった44例49眼,年齢は65.59±11.02歳,原発開放隅角緑内障(広義)(POAG)が42眼,落屑緑内障(EXG)が7眼であった.今回検討した全症例の眼圧は術前18.36±2.60mmHg,術後3カ月16.37±2.82mmHgで,有意な眼圧下降を認めた.SLT施行前に緑内障手術の既往の有無の検討では,緑内障手術の既往がない群は有意な眼圧下降があったが,緑内障手術の既往がある群は有意な眼圧下降がなく,病型別の検討では,POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は有意な眼圧下降がなかった.患者背景因子について検討し施行すれば,SLTは有効な眼圧下降を得る一つの方法になると考えた.Weevaluatedtheintraocularpressure(IOP)-loweringecacyofselectivelasertrabeculoplasty(SLT)inrela-tiontothehistoryofpriorglaucomasurgeryanddierenttypesofglaucoma.Subjectscomprised49eyesof44patientswhowerefollowedupfor3monthsormoreafterSLT.Meanpatientagewas65.59±11.02years(mean±standarddeviation);42eyeshadprimaryopen-angleglaucoma(POAG)and7hadexfoliationglaucoma(EXG).IOPdecreasedsignicantly,from18.36±2.60mmHgto16.37±2.82mmHgat3monthsafterSLT,decreasingsignicantlyineyesthathadnotundergoneglaucomasurgerybeforeSLT,butnotdecreasingsignicantlyineyesthathadundergoneglaucomasurgerybeforeSLT.IOPdecreasedsignicantlyineyeswithPOAG,butnotineyeswithEXG.SLTappearstobeaneectivemethodfortreatingglaucoma,consideringpatienthistory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14391442,2008〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,眼圧下降,緑内障.selectivelasertrabeculoplasty(SLT),intra-ocularpressurereduction,glaucoma.———————————————————————-Page21440あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(112)術の既往の有無についてはいまだ報告されていない.今回筆者らは,緑内障手術の既往の有無と緑内障の病型別にて,SLTの眼圧下降効果に関して比較検討を行った.I対象および方法対象は,公立豊岡病院組合眼科でSLTを施行し,3カ月以上観察可能であった,44例49眼とした.内訳は男性24眼,女性25眼,年齢は65.59±11.02(4986)歳であった.全症例とも,術前にALTの既往,術前後での点眼治療に変化はなく,隅角色素はScheie分類でⅡ以下であった.緑内障手術に関しては,SLT施行前に既往がある症例は9眼,既往がない症例は40眼であり,その内訳は,線維柱帯切除術,非穿孔性線維柱帯切除術と線維柱帯切開術であり,濾過手術と流出路再建術に分けて検討を行った.表1に示すように,年齢,性別,病型,Humphrey自動視野計プログラム中心30-2SITA-STANDARDプログラム(HumphreyeldanalyzerⅡ:HFA)の平均偏差(meandeviation:MD)値は緑内障手術既往の有無で有意差はなかった.また,病型別の検討に関しては,POAGが42眼,EXGが7眼であった.表2に示すように,年齢,性別,緑内障手術の既往,HFAのMD値も病型間で有意差はなかった.SLTは施行前に十分な説明をし,患者から同意を得たうえで,緑内障専門外来の熟練した術者2人が行った.SLTには,ellex社製タンゴオフサルミックレーザーを用いた.SLTの照射条件は,スポットサイズが400μm,照射時間が3ns,出力が0.61.5mJ,照射は半周(下方180°)に施行し,照射数は4960発であった.術前,術後処置に1%アプラクロニジン(アイオピジンR)点眼を行った.眼圧測定は術前,術後翌日,1週,1カ月,その後は1カ月ごとにGold-mannapplanationtonometerで測定した.術前眼圧は術前3回の平均を用い,それぞれの術後眼圧と比較した.SLT施行前に緑内障手術の既往の有無や緑内障の病型別の検討では術前眼圧と術後3カ月の眼圧と比較検討した.なお,術前と術後1週,1カ月,2カ月,3カ月の眼圧の比較にはANOVA(analysisofvariance)法および多重比較(Bonferroni/Dunn法),術前眼圧と術後3カ月の眼圧の比較にはMann-Whitney’sUtest,緑内障手術既往の有無と病型の患者背景の比較にはMann-Whitney’sUtestおよびFisher’sexactprobabilitytestを用いた.統計学的有意差は5%未満の危険率をもって有意とした.統計解析にはStat-View5.0(SASInstitute社)を用いた.値の表示はすべて平均値±標準偏差とした.II結果全症例の術前平均眼圧が18.36±2.60mmHg,術後1週の眼圧は16.60±3.67mmHg(p<0.05),術後1カ月の眼圧は16.98±3.24mmHg(p<0.05),術後2カ月の眼圧は16.67±3.40mmHg(p<0.05),術後3カ月の眼圧は16.37±2.82mmHg(p<0.05)であった.術後1週から3カ月まですべて有意な眼圧下降を認めた.図1に示す.SLT施行前に緑内障手術の既往がない群は40眼,術前平均眼圧が18.35±2.42mmHg,術後3カ月の眼圧は15.88±2.33mmHg(p<0.01)であり有意な眼圧下降があった.一方,SLT施行前に緑内障手術の既往がある群は9眼,術前平均眼圧が18.40±3.44mmHg,術後3カ月の眼圧は18.56±3.81mmHg(p=0.81)であり有意な眼圧下降がなかった.図2に示す.濾過手術群は男性4眼,女性1眼,POAG4眼,EXG1眼,術前平均眼圧が18.86±2.66mmHg,術後3カ月の眼圧は18.60±3.13mmHg(p=0.81)であった.流出路再建術群は男性2眼,女性2眼,POAG2眼,EXG2眼,表1緑内障手術の既往別の患者背景緑内障手術の既往がない群緑内障手術の既往がある群p値年齢(歳)65.80±11.35(4986)65.22±10.02(5078)0.85*性別男性18眼女性22眼男性6眼女性3眼0.29**病型POAG36眼EXG4眼POAG6眼EXG3眼0.11**MD値(dB)9.46±8.7411.66±9.020.82**:Mann-Whitney’sUtest.**:Fisher’sexactprobabilitytest.表2病型別の患者背景POAG群EXG群p値年齢(歳)64.83±11.15(4986)70.86±9.23(5379)0.11*性別男性19眼女性23眼男性5眼女性2眼0.25**緑内障手術の既往あり6眼(14.3%)あり3眼(42.9%)0.11**MD値(dB)9.36±8.9112.56±9.110.51**:Mann-Whitney’sUtest.**:Fisher’sexactprobabilitytest.2520151050眼圧(mmHg)術前1週1カ月2カ月3カ月術後経過日数****図1全症例におけるSLTの眼圧経過眼圧は術後1週から術後3カ月まですべて有意な眼圧下降を認めた.*p<0.05:ANOVAおよびBonferroni/Dunn法.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081441(113)術前平均眼圧が17.83±4.62mmHg,術後3カ月の眼圧は18.50±5.07mmHg(p=0.32)であり,両群とも有意な眼圧下降を認めなかった.POAG群(42眼)は術前平均眼圧が18.16±2.42mmHg,術後3カ月の眼圧は16.02±2.47mmHg(p<0.01)であり有意な眼圧下降があった.一方,EXG群(7眼)は術前平均眼圧が19.54±3.46mmHg,術後3カ月の眼圧は18.42±3.99mmHg(p=0.34)であり有意な眼圧下降がなかった.図3に示す.SLTに伴う合併症は眼圧上昇のみで,経過中に術前より眼圧の上昇した症例は21眼で,全体の42.9%であった.そのうち5mmHg以上の高度の眼圧上昇が生じた症例は2眼で,全体の4.1%であった.虹彩炎は全例軽微であり,加療を必要とする重篤な炎症所見はなかった.また,前房出血など,他の重篤な合併症はなかった.III考按本研究では,POAGとEXGの2病型に対して,点眼治療,緑内障手術の既往の有無にかかわらず,視野障害の進行を認め,さらなる眼圧下降が望ましいと思われる患者に対しSLTを施行し,検討を行った.過去の報告によるとSLTの予後因子として,年齢,性別,病型,ALTの既往の有無,隅角色素,術前眼圧,手術の既往,術前投薬数,術後一過性眼圧上昇などさまざまな因子が過去に検討されている49).まず,手術の既往に関する過去の報告では,Wernerら9)により,白内障手術の既往の有無はSLTの眼圧下降効果に影響を及ぼさないと報告されているが,緑内障手術の既往の有無についていまだ報告されていないため,筆者らは緑内障手術の既往の有無とSLTによる眼圧下降効果に関して比較検討を行った.SLT施行前に緑内障手術の既往のない群は術後3カ月で,有意な眼圧下降があったが,緑内障手術の既往のある群は術前と術後3カ月の眼圧に変化を認めず,SLTの効果がなかった可能性がある.現在のところ,緑内障手術後の線維柱帯組織にSLTがどのような影響を及ぼすかは不明であり,今後組織学的検討が必要であると考えた.また,今回症例数が少ないので,今後症例数を増加し,術式別にも引き続きさらなる検討を要すると考える.また,緑内障の病型別に関する過去の報告4,10)では,ALT,SLTにおいてもPOAGとEXGの2病型には有効性に差を認めず,両群ともに有効であったとされている.しかし,色素緑内障にはSLT後に追加手術が必要となり7),SLTの限界を指摘されている.今回,筆者らの研究において,POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は眼圧下降があったものの有意な眼圧下降ではなく,POAG群と比較しSLTの効果に差を認める結果となった.EXG眼では,線維柱帯への色素沈着だけでなく,傍Schlemm管結合組織などの水晶体偽落屑の沈着による房水通過抵抗の高まりが眼圧上昇に影響を及ぼしており11),線維柱帯に対するSLTの効果が少なくEXG群がPOAG群に比べて,眼圧下降効果が弱かった可能性がある.合併症については,これまでの他施設でのSLTの報告ではそれぞれに基準が異なるものの,19.433%4)に一過性の眼圧上昇がみられている.しかしながら,今回の症例では4.1%にみられたのみであり,眼圧上昇がきわめて少なかった理由として,術前,術後処置に1%アプラクロニジン(アイオピジンR)点眼を行ったことが考えられた.SLTは,線維柱帯に対して侵襲が少ないので,降圧手段の一つとして積極的に試みてよい方法であり,点眼数の減少や手術に至るまでの期間の延長が期待される.しかし,緑内障手術の既往の有無,緑内障の病型によって眼圧下降効果が減弱する可能性があるため,施行前に患者背景因子について検討を重ねたうえで施行する必要があることが示唆された.SLTの効果についてはいまだ一定した見解が得られていないこともあり,今後症例数の増加および術後の経過観察期間を延長し,引き続き検討を行っていく予定である.2520151050眼圧(mmHg)術前3カ月術後経過日数:SLT施行前に緑内障手術の既往がない群:SLT施行前に緑内障手術の既往がある群*図2緑内障手術の既往の有無によるSLTの効果緑内障手術の既往がない群は有意な眼圧下降があったが,既往がある群は有意な眼圧下降がなかった.*p<0.01:Mann-Whitney’sUtest.図3緑内障の病型別によるSLTの効果POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は有意な眼圧下降がなかった.*p<0.01:Mann-Whitney’sUtest.2520151050眼圧(mmHg)術前3カ月術後経過日数:POAG:EXG*———————————————————————-Page41442あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(114)文献1)LatinaMA,ParkC:SelectivetargetingoftrabecularmeshworkcellsinvitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-372,19952)KramerTR,NoeckerRJ:Comparisonofthemorphologicchangesafterselectivelasertrabeculoplastyandargonlasertrabeculoplastyinhumaneyebankeyes.Ophthal-mology108:773-779,20013)DamjiKF,ShahKC,RockWJetal:Selectivelasertra-beculoplastyvargonlasertrabeculoplasty:aprospectiverandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol83:718-722,19994)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,19995)HodgeWG,DamjiKF,RockWetal:BaselineIOPpre-dictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultsfromarandomizedclinicaltraial.BrJOphthalmol89:1157-1160,20056)齋藤代志明,東出朋巳,杉山和久:原発開放隅角緑内障症例への選択的レーザー線維柱帯形成術の追加治療成績.日眼会誌111:953-958,20077)若林卓,東出朋巳,杉山和久:薬物療法,レーザー治療および線維柱帯切開術を要した色素緑内障の1例.日眼会誌111:95-101,20078)SongJ,LeePP,EpsteinDLetal:Highfailurerateassociatedwith180degreesselectivelasertrabeculo-plasty.JGlaucoma14:400-408,20059)WernerM,SmithMF,DoyleJW:Selectivelasertrabecu-loplastyinphakicandpseudophakiceyes.OphthalmicSurgLasersImaging38:182-188,200710)安達京,白土城照,蕪城俊克ほか:アルゴンレーザートラベクロプラスティの10年の成績.日眼会誌98:374-378,199411)Schlozer-SchrehardtUM,KocaMR,NaumannGOetal:Pseudoexfoliationsyndrome.OcularmanifestationofasystemicdisorderArchOphthalmol110:1752-1756,1992***

線維柱帯切除術におけるAdjustable Suturesとレーザー切糸術との比較

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(105)14330910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14331438,2008c〔別刷請求先〕小林博:〒802-8555北九州市小倉北区貴船町1-1小倉記念病院眼科Reprintrequests:HiroshiKobayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital,1-1Kifune-machi,Kitakyusyu802-8555,JAPAN線維柱帯切除術におけるAdjustableSuturesとレーザー切糸術との比較小林博*1小林かおり*2*1小倉記念病院眼科*2倉敷中央病院眼科ComparisonofIntraocularPressure-loweringEfectofAdjustableSuturesandLaserSutureLysisinTrabeculectomyHiroshiKobayashi1)andKaoriKobayashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KurashikiCentralHospital目的:強膜縫合に対してadjustablesuturesおよび従来のレーザー切糸術を用いた線維柱帯切除術の降圧効果を比較検討した.方法:対象は線維柱帯切除術を施行し,6カ月以上経過観察を行った40名である.20名に対してはadjustablesuturesを用い,20名に対してはレーザー切糸術を使用した.Adjustablesuturesは,Khawらが報告した方法を用い,強膜弁の両隅を10-0ナイロン糸で3-1-1で縫合した後,3辺を1本ずつのナイロン糸で4-0-0で仮縫合した.術後,仮縫合を結膜上から鑷子で緩めて眼圧を調節した.レーザー切糸群は強膜弁を7本のナイロン糸で縫合し,術後眼圧はレーザー切糸で調整した.結果:ベースライン眼圧は,adjustablesuture群が28.1±2.9mmHg,レーザー切糸群が27.6±3.0mmHgであり,両群間に有意差はなかった.手術1カ月後,3カ月後および6カ月後の眼圧はadjustablesuture群が11.2±2.0mmHg,11.8±2.0mmHg,11.9±2.4mmHg,レーザー切糸群が10.5±2.0mmHg,11.7±2.9mmHg,13.0±3.3mmHgであり,術後のいずれの時期においても,両群とも術前に比較して有意に下降していた(すべての時期においてp<0.0001).手術1カ月後,3カ月後および6カ月後の眼圧の変化は,adjustablesuture群が16.9±3.3mmHg(59.9±7.9%),16.3±3.2mmHg(57.7±7.7%),16.2±3.8mmHg(57.1±9.6%),レーザー切糸群が17.1±5.5mmHg(61.4±9.0%),16.0±4.3mmHg(57.3±11.5%),14.7±4.5mmHg(52.6±12.8%)であり,術後のいずれの時期においても,adjustablesuture群は眼圧下降が大きかったが両群間に有意差はなかった.Adjustablesuture群では仮縫合を緩める操作あるいはレーザー切糸術後に浅前房をきたした症例はなかったが,レーザー切糸術群では4名がみられた.結語:眼圧下降作用は,adjustablesuture群はレーザー切糸術群と同等であった.Adjustablesuturesは,仮縫合を緩める操作あるいはレーザー切糸術後に低眼圧および浅前房をきたすことが減少させる可能性があると考えられた.Tocomparetheintraocularpressure-loweringeectandsafetyofadjustablesuturesandlasersuturelysisintrabeculectomy,weconductedaprospectiveclinicalstudycomprising40patientswithopen-angleglaucomahav-ingintraocularpressuregreaterthanorequalto22mmHg.Ofthesepatients,20underwenttrabeculectomyusingadjustablesuturesand20underwenttrabeculectomyusingconventionalsuturesandlasersuturelysis.AdjustablesutureswereimplementedasreportedbyKhawetal.Meanbaselineintraocularpressurewas28.1±2.9mmHgintheadjustablesuturegroupand27.6±3.0mmHginthelasersuturelysisgroup.Meanpostoperativeintraocularpressurewas11.2±2.0mmHg,11.8±2.0mmHgand11.9±2.4mmHgintheadjustablesuturegroupand10.5±2.0mmHg,11.7±2.9mmHgand13.0±3.3mmHginthelasersuturelysisgroupat1,3and6months,respective-ly;therewasnosignicantdierencebetweenthetwogroupsatanyvisit.Shallowanteriorchamberwasfoundinnopatientintheadjustablesuturegroupandin4patientsinthelasersuturelysisgroupafterlooseningoftheadjustablesuturesorlasersuturelysis.Therewasnosignicantdierenceinhypotensiveeectbetweentheadjustablesuturegroupandthelasersuturelysisgroup.Theuseofadjustablesuturesmayreducetheincidence———————————————————————-Page21434あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(106)はじめに薬物治療で制御できない緑内障に対しては,一般的に線維柱帯切除術が行われている.しかし,線維柱帯切除術の合併症としては,術後早期での低眼圧,浅前房,脈絡膜離,前房出血,術後晩期での白内障の進行および濾過胞に由来する眼内炎が知られており,その頻度は決して低くない14).術後早期の合併症の多くは過剰な濾過に起因しているために,術中,強膜弁をしっかりと縫合し,術後に眼圧を調節するためにレーザーで切糸することが行われる5)が,Khawらが線維柱帯切除術において術中に仮縫合しておいた10-0ナイロン糸を,術後に鑷子などで緩められるadjustablesutures法を報告しており6),筆者らも良好な成績を報告している7).今回,線維柱帯切除術において,adjustablesutures法と従来の縫合してレーザー切糸で眼圧を調節する方法を比較検討した.I対象および方法対象は,薬物治療にかかわらず眼圧が22mmHg以上の開放隅角緑内障40名40眼である.全例とも緑内障手術を含めた内眼手術の既往がない症例である.閉塞隅角緑内障,外傷性緑内障,ぶどう膜炎による緑内障,血管新生緑内障および高血圧,糖尿病などの全身性合併症は除外した.6カ月間において,眼圧の変化について観察した.対象患者に対してすべて,Humphrey視野検査,隅角鏡検査,共焦点レーザートモグラフを含む眼科的検査を施行した.患者を登録後,封筒法によって無作為に2群に分け,1群は強膜縫合にadjustablesuturesを用い(adjustablesuture群),もう1群は従来の縫合を使用した(レーザー切糸群).経過観察開始後の眼圧はベースライン眼圧測定時±1時間に測定した.ベースライン眼圧は,経過観察前2週間ごとに3回眼圧を測定し,その平均値とした.眼圧はGoldmann圧平眼圧計で3回測定し,その平均値を統計処理には用いた.安全性は,術中および術後の合併症の頻度によって評価した.低眼圧は,術後に眼圧が4mmHg以下に下降した場合と定義した.浅前房はTeehasaeneeとRitchの報告に拠ったが,術後,仮縫合を緩めた場合あるいはレーザー切糸の場合,処置後の前房深度が処置前に比較して30%以上減少した場合は処置後前房深度減少とした.前房出血は,術後に前房の下方に細隙灯顕微鏡で出血が確認できた場合とした.高眼圧は,術翌日の眼圧が術前に比較して3mmHg以上上昇した場合とした.1.手術手技(図1)12時部位の球結膜をできるだけ輪部に沿って8mm切開して,円蓋部基底の結膜弁を作製した.外方強膜弁を作製する部位を露出し,マイトマイシンC0.04%を強膜に塗布した後,250mlBSS(平衡食塩液)を用いて洗浄した.輪部を基底として,大きさが4×4mm,厚さは強膜全層の1/3の方形の外方強膜弁を作製した.その内側に,大きさが3×1.5mmで,強膜床が50100μmになるように内方弁を作製した.さらに,Schlemm管外壁を開放し,角膜側に離した後に幅2mmのDescemet膜を露出した.内方弁を切除した後に,離したDescemet膜の中央に0.5×0.5mmの切開を加えた.その後,虹彩切除を施行した.強膜外方弁は以下のように縫合した.1)Adjustablesuture群:外方弁の両隅を10-0ナイロン糸を用いて3-1-1で縫合した.外強膜弁の3辺の中央を10-0ナイロン糸を4回の仮縫合でしっかりと縫合した.2)レーザー切糸群:外方弁を57本の10-0ナイロン糸を縫合に用いて3-1-1で縫合した.その後,両群とも結膜を10-0ナイロン糸35糸で,結膜の両切断端をピーンと張るように伸ばして角膜縁に縫合するwingstretch法を用いて縫合した.2.術後管理手術後,すべての緑内障薬を中止し,デキサメタゾン0.1%およびレボフロキサシン0.1%を3回/日,1カ月間点眼させた.術後眼圧下降あるいは濾過胞形成が不十分な場合,以下のように調整した(図2).1)Adujustablesuture群:仮縫合を無鉤鑷子あるいは綿棒を用いて結膜上から緩めた.それで十分に眼圧が下降しない場合,両隅の10-0ナイロン糸をレーザーで切断した.2)レーザー切糸群:レーザーを用いて10-0ナイロン糸を切断した.中止例は,(1)連続して2回の検査で,眼圧が21mmHg以上であった場合,(2)予定された診察を受けなかった場合とした.脱落・中止症例では,脱落・中止直前の診察時の眼圧を最終診察時の眼圧とした.3.統計解析標本の大きさは,標準偏差3mmHg,危険率5%として,少なくとも3mmHgの眼圧の差異を90%の検出力で検出でofshallowanteriorchamberandhypotonyafterlooseningofadjustablesuturesorlasersuturelysis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14331438,2008〕Keywords:線維柱帯切除術,adjustablesuture,レーザー切糸.trabeculectomy,adjustablesuture,lasersuturelysis.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081435(107)きる症例数とした.連続変数の比較には,両側Studentt-検定を用いた.分割表での比較には,c2検定,Fisher検定を用いた.生命表での生死判定に関しては,2回連続して21mmHg以上であるときは「死亡」とした.II結果表1に,患者の背景をまとめた.平均年齢は,adjustablesuture群が69.9±9.0歳,レーザー切糸群が69.7±7.9歳であり,年齢,性,視力,視野,視神経乳頭陥凹において両群BCDE強膜弁縫合虹彩切除Descemet膜に小孔Adjustablesuture群外方弁作製内方弁作製Descemet膜?離4mm4mm1.5mm2.5mm2mm円蓋部結膜切開マイトマイシンC3分間塗布BSSで洗浄結膜縫合Wingstretchレーザー切糸群AF図1手術術式A:12時部位の球結膜をできるだけ輪部に沿って8mm切開して,円蓋部基底の結膜弁を作製した.外方強膜弁を作製する部位を露出し,マイトマイシンC0.04%を強膜に塗布した後,250mlBSSを用いて洗浄した.輪部を基底として,大きさが4×4mm,厚さは強膜全層の1/3の方形の外方強膜弁を作製した.B:その内側に,大きさが3×1.5mmで,強膜床が50100μmになるように内方弁を作製した.C:さらに,Schlemm管外壁を開放し,角膜側に離した後に幅2mmのDescemet膜を露出した.D:内方弁を切除した後に,離したDescemet膜の中央に0.5×0.5mmの切開を加えた.E:その後,虹彩切除を施行した.F:強膜外方弁は以下のように縫合した.Adjustablesuture群では外方弁の両隅を10-0ナイロン糸を用いて3-1-1で縫合した.外強膜弁の3辺の中央を10-0ナイロン糸を4回の仮縫合でしっかりと縫合した.レーザー切糸群では外方弁を57本の10-0ナイロン糸を縫合に用いて3-1-1で縫合した.その後,両群とも結膜を10-0ナイロン糸35糸で,結膜の両切断端をピーンと張るように伸ばして角膜縁に縫合するwingstretch法を用いて縫合した.A.Adjustablesuture群B.レーザー切糸群鑷子レーザーレーザー図2術後処置A:術後眼圧下降あるいは濾過胞形成が不十分な場合,adujustablesuture群では仮縫合を無鉤鑷子あるいは綿棒を用いて結膜上から緩めた.それで十分に眼圧が下降しない場合,両隅の10-0ナイロン糸をレーザーで切断した.B:レーザー切糸群ではレーザーを用いて10-0ナイロン糸を切断した.———————————————————————-Page41436あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(108)間に有意差はなかった.1.眼圧の変化ベースライン眼圧は,adjustablesuture群が28.1±2.9mmHg,レーザー切糸群が27.6±3.0mmHgであり,両群間に有意差はなかった.手術1カ月後,3カ月後および6カ月後の眼圧はadjustablesuture群が11.2±2.0mmHg,11.8±2.0mmHg,11.9±2.4mmHg,レーザー切糸群が10.5±2.0mmHg,11.7±2.9mmHg,13.0±3.3mmHgであり,術後のいずれの時期においても,両群とも術前に比較して有意に下降していた(すべての時期においてp<0.0001)(図3).手術1カ月後,3カ月後および6カ月後の眼圧の変化は,adjustablesuture群が16.9±3.3mmHg(59.9±7.9%),16.3±3.2mmHg(57.7±7.7%),16.2±3.8mmHg(57.1±9.6%),レーザー切糸群が17.1±5.5mmHg(61.4±9.0%),16.0±4.3mmHg(57.3±11.5%),14.7±4.5mmHg(52.6±12.8%)であり,手術3カ月後のいずれの時期においても,adjustablesuture群がレーザー切糸群に比較して大きかったが両群間に有意差はなかった(図4).手術6カ月後において,無治療で眼圧が20mmHg以下である症例数は,adjustablesuture群が19名(95%),レーザー切糸群が19名(95%)であり,両群に差はなかった(図4,表2).無治療で眼圧が16mmHg以下である症例数は,図4生命表における無治療での20mmHg以下(A)および16mmHg以下(B)の生存確率生命表での生死判定に関しては,2回連続して21mmHg以上であるときは「死亡」とした.:Adjustablesuture群:Lasersuturelysis群期間(月)確率1.00.80.60.40.20.0012345期間(月)1.00.80.60.40.20.001234566A.眼圧20mmHgB.眼圧16mmHg表1患者の背景Adjustablesuture群レーザー切糸群患者数20名20名男性女性9(45%)11(55%)10(50%)10(50%)年齢69.9±9.0歳(4784歳)69.7±7.9歳(5382歳)視力0.889(0.31.0)0.827(0.81.0)LogMAR視力0.051±0.1320.082±0.222Humphrey視野測定(Meandeviation)15.67±6.46dB(5.6726.33dB)15.95±5.57dB(4.8827.48dB)陥凹面積/乳頭面積比0.613±0.178(0.348to0.842)0.621±0.185(0.358to0.882)眼圧28.1±2.9mmHg(2332mmHg)27.6±3.0mmHg(2334mmHg)図3眼圧の変化A:眼圧の推移,B:眼圧変化値の推移,C:眼圧変化率の推移B眼圧変化値(mmHg)0-5-10-15-20-25期間(月)0123456C眼圧変化率(%)100-10-20-30-40-50-60-70-80期間(月)0123456A眼圧(mmHg)3530252015105期間(月)0123456:Adjustablesuture群:Lasersuturelysis群———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081437(109)adjustablesuture群が19名(90%),レーザー切糸群が17名(85%)であり,adjustablesuture群が良好であったが有意差はなかった(図4).2.術後処置および合併症術後処置としては,adjustablesuture群の11名(55%)は仮縫合を緩めたが,それで不十分であったので4名(20%)は両隅のナイロン糸をレーザーで切断した.レーザー切糸群は13名(65%)がレーザーで10-0ナイロン糸を切断した(表3).その後,レーザー切糸群では前房深度が有意に減少したのに対して,adjustablesuture群では認められなかった(p=0.0350).各群とも,1名(5%)にニードリング濾過胞形成術を施行した(表3).術中合併症は,両群ともみられなかった.術後合併症として,低眼圧および浅前房がadjustablesuture群で1名(5%),レーザー切糸群で2名(10%)に認められたが,いずれの合併症でも両群間に有意差はなかった(表4).III考按強膜弁の縫合にadjustablesutureを用いた線維柱帯切除術は,従来のレーザー切糸を使用した線維柱帯切除術とほぼ同様な眼圧下降効果が得られた.低眼圧および浅前房の発症頻度が5%であり,過剰な濾過による合併症が従来のレーザー切糸を用いた線維柱帯切除術と有意差はなかった.従来,術後早期の眼圧調整には,レーザー切糸術や鑷子などで糸を抜くreleasablesuturesで行われてきた5,8).その問題点として,糸を切ったり抜いたりするとその糸が弁を抑えられなくなり,その処置直後に浅前房あるいは低眼圧をきたす危険性があった.それに対して,adjustablesuturesでは糸を緩めることで糸が弁を抑える加減を調整でき,浅前房を起こしにくいことが特徴である.今回の研究では,adjust-ablesuturesを緩めた場合あるいはレーザー切糸後に30%以上前房深度減少が,adjustablesutureを用いた症例ではみられなかったのに対して,レーザー切糸群では4名に認められた.また,レーザー切糸術では,切糸の本数で眼圧を調整するために7本かけていたのに,糸が弁を抑える力を調整できるためにかける糸の本数を減少させることができるようになった.レーザー切糸術では,低熱量のレーザーとはいえ,結膜,Tenon,強膜に熱傷が起こり,炎症が起こることは否めない.それによって,‘ringofsteel’などの結膜瘢痕化が生じる可能性があると考えられ,adjustablesutureではレーザーによる熱作用を減らすことができると思われた.元来,Khawの報告では10-0ナイロン糸を緩める際には,特殊な鑷子が用いられていた5)が,基本的はに無鉤鑷子であればよく,綿棒でも代用できた.眼球マッサージでも糸を緩めることができるので,マッサージしながら糸を緩めて眼圧を調整することも可能であった.術中手技も簡単であり,今後,レーザー切糸術の代用になるものと考えられた.本研究の第一の問題点は,単盲検試験であるために,バイアスの可能性が高く信頼性が低いことである.第二の問題点は,症例数が少ないことである.そのため,手術3カ月以降のいずれの時期でも,adjustablesutureを用いた線維柱帯切除術群は,レーザー切糸群に比較して眼圧下降は大きかっ表2術前および6カ月後の眼圧,薬剤数の変化と成功率Adjustablesuture群レーザー切糸群p値患者数20名20名─術前眼圧28.1±2.9(2334)27.6±3.0(2334)─薬剤数3.3±0.6(24)3.2±0.7(24)─6カ月後眼圧12.6±2.7(818)12.6±4.3(824)─薬剤数0.05±0.22(01)0.15±0.67(03)─無投薬で≦20mmHg19(95%)19(95%)─投薬(+/)で≦20mmHg20(100%)19(95%)─無投薬で≦16mmHg19(95%)17(85%)─表4合併症の頻度Adjustablesuture群(20名)レーザー切糸群(20名)p値低眼圧1(5%)2(10%)─浅前房1(5%)2(10%)─脈絡膜離1(5%)1(5%)─高眼圧2(10%)2(10%)─前房出血0(0%)1(5%)─虹彩前癒着0(0%)0(0%)─虹彩後癒着0(0%)0(0%)─濾過胞の平坦化0(0%)1(5%)─白内障0(0%)0(0%)─濾過胞炎/眼内炎0(0%)0(0%)─表3術後処置Adjustablesuture群レーザー切糸群眼数20眼20眼Adjustablesutureを緩める11(55%)─レーザー切糸4(20%)12(60%)Adjustablesuture調整あるいはレーザー切糸後の前房深度減少0(0%)4(20%)ニードリング1(5%)1(5%)5-フルオロウラシル注射0(0%)0(0%)———————————————————————-Page61438あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(110)たが,有意差がなかった.さらに症例数を増加して検定力を上げる必要があると思われた.また,安全性に関しても,合併症の頻度の比較が困難であり,稀有な合併症の検出もむずかしいと思われた.今回,adjustablesutureを用いた線維柱帯切除術の降圧作用は,従来報告されているレーザー切糸術を使用した線維柱帯切除術の成績に比較して同様であり,合併症に関しては術後眼圧を下降させる処置後の前房深度の安定性が良好であった.さらに症例数を増加させて検討する必要があると考えられた.文献1)LehmannOJ,BunceC,MathesonMMetal:Riskfactorsfordevelopmentofpost-trabeculectomyendophthalmitis.BrJOphthalmol84:1349-1353,20002)PoulsenEJ,AllinghamRR:Characteristicsandriskfac-torsofinfectionsafterglaucomalteringsurgery.JGlau-coma9:438-443,20003)DeBryPW,PerkinsTW,HeatleyGetal:Incidenceoflate-onsetbleb-relatedcomplicationsfollowingtrabeculec-tomywithmitomycin.ArchOphthalmol120:297-300,20024)RothmanRF,Liebmann,RitchR:Low-dose5-uoroura-ciltrabeculectomyasinitialsurgeryinuncomplicatedglaucoma:long-termfollow-up.Ophthalmology107:1184-1190,20005)SavegeJA,CondonGP,LytleRAetal:Lasersuturelysisaftertrabeculectomy.Ophthalmology95:1631-1638,19886)KhawPT:Improvementintrabeculectomyandtech-niquesofantimetabolitesusetopreventscarring.Pro-ceedingof3rdInternationalCongressonGlaucomaSur-gery,Toronto,Canada,20067)小林博,小林かおり:AdjustableSuturesの線維柱帯切除術への応用.あたらしい眼科25:1301-1305,20088)StarkWJ,GoyalRK:Combinedphacoemulsication,intra-ocularlensimplantation,andtrabeculectomywithreleasablesutures.ProceedingofCurrentConceptinOph-thalmology,Baltimore,USA,2000***

ニプラジロール点眼の眼圧日内変動に与える薬剤効果 ─正常眼圧緑内障における検討─

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page11426あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(00)1426(98)0910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14261432,2008c〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島4-2-78大阪厚生年金病院眼科Reprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,PhD.,DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,4-2-78Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPANニプラジロール点眼の眼圧日内変動に与える薬剤効果─正常眼圧緑内障における検討─桑山泰明*1狩野廉*1中田敦子*1鈴木三保子*1菅波秀規*2,3浜田知久馬*3吉村功*3*1大阪厚生年金病院眼科*2興和株式会社臨床解析部*3東京理科大学大学院工学研究科EfectofNipradilolonCircadianVariationofIntraocularPressureinNormal-TensionGlaucomaYasuakiKuwayama1),KiyoshiKano1),AtsukoNakata1),MihokoSuzuki1),HidekiSuganami2,3),ChikumaHamada3)andIsaoYoshimura3)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,2)BiostatisticsandDataManagementDepartment,KowaCompanyLimited,3)GraduateSchoolofEngineering,TokyoUniversityofScience目的:正常眼圧緑内障(NTG)患者の眼圧日内変動に対するニプラジロール点眼の効果を検討した.対象および方法:NTG28例の眼圧日内変動を3時間ごとに自己測定空気眼圧計で測定した.ニプラジロール点眼の治療前,治療開始後1日目および3カ月目について,各時刻の眼圧の比較,交互作用項を含む線形モデルを用いた日内変動パターンの変化の検討を行った.さらに,コサインカーブに薬剤効果を表すパラメータを加えた周期線形混合効果モデルにより,本剤の効果を解析した.結果:治療開始後1日の21,3,9,12時と3カ月の21,0,9,12時で有意な眼圧下降が認められた(p<0.05).日内変動のパターンは治療前後で変化していた(交互作用:p<0.001)が,1日と3カ月では変化がなかった(交互作用:p=0.317,時期効果:p=0.965).日内変動は周期線形混合効果モデルによってよく説明でき,薬剤効果を表すパラメータは昼間と夜間で差がなかった(切片:p=0.71,傾き:p=1.00).結論:ニプラジロール点眼の効果は,3カ月継続使用でも減弱せず,昼夜で差がないことが示された.Theeectofnipradiloloncircadianvariationofintraocularpressure(IOP)wasexaminedin28patientswithnormal-tensionglaucoma(NTG).IOPwasmeasuredevery3hours,usingaself-measuringpneumatictonometer,before,1dayafterand3daysaftertreatmentwithnipradilol.Changesinthepatternofcircadianvariationwereexaminedusingalinearmodelthatincludedinteractionterms.Theeectofthedrugwasalsoanalyzedusingacircularlinearmixed-eectmodel,towhichwasaddedaparametershowingthedrugeectinacosinecurve.IOPreducedsignicantlyat21:00,03:00,09:00and12:00after1day,andat21:00,0:00,09:00and12:00after3monthsoftreatment(p<0.05).Thepatternofcircadianvariationchangedaftertreatment(interaction:p<0.001),butnochangewasobservedbetweentherstdayandafter3monthsoftreatment(interaction:p=0.317,periodeect:p=0.965).Circadianvariationwaswellexplainablebythecircularlinearmixed-eectmodel,andtheparametershowingdrugecacydidnotdierbetweendaytimeandnighttime(intercept:p=0.71,slope:p=1.00).Theeectofnipradilolwasnotreducedevenafter3monthsofcontinuoususe,andtheeectdidnotdierbetweendayandnight.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14261432,2008〕Keywords:ニプラジロール,正常眼圧緑内障,眼圧,日内変動,自己測定眼圧計.nipradilol,normal-tensionglaucoma,intraocularpressure,circadianvariation,self-measuringtonometer.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081427(99)はじめに緑内障はさまざまな要因により視神経障害をきたし,その結果として視野障害をひき起こす疾患であるが,正常眼圧緑内障(NTG)を含め緑内障性視神経症の最大の危険因子は眼圧とされている1).眼圧は常に一定の値を示すわけではなく,日内変動,季節変動などさまざまな周期で変動することが知られている24).診療時眼圧が目標値に調整されていると判断されても,診療時間外に眼圧が上昇している可能性があるため,NTG患者における眼圧日内変動の測定は,緑内障の病態把握,治療方針の決定,治療効果の判定を行ううえで重要な情報を提供する.筆者らは,NTG患者に持ち運び可能な自己測定空気眼圧計を貸し出し,自宅で眼圧日内変動を測定し,診療に活用してきた.しかし,眼圧日内変動は,個体,時点,周期性など多数の因子を含んだ複雑な構造を擁しており,薬物治療の効果を評価するうえでその解析方法は定まっていない.今回,a1,b遮断薬であるニプラジロール点眼液(ハイパジールコーワR点眼液)を使用したNTG患者の眼圧日内変動に対して統計モデルを当てはめた解析を行うことにより,ニプラジロールの薬剤効果の特徴を明らかにすることができたので報告する.I対象および方法1.対象本調査は,ハイパジールコーワR点眼液の眼圧日内変動に関する特別調査として「医薬品の市販後調査の基準に関する省令(GPMSP)」および「医療用医薬品の使用成績調査等の実施方法に関するガイドライン」に則り実施した.2000年8月1日から2003年7月31日までに大阪厚生年金病院眼科を受診したNTG患者のうち,緑内障手術の既往がなく,無治療時の眼圧日内変動を把握する必要があり,ニプラジロール点眼単独による治療を開始した患者28名を本研究の対象として登録した.なお,NTGの診断基準は,初診時およびそれ以降の複数回の外来診察時の眼圧がGoldmann圧平式眼圧計による測定で常に21mmHg以下であること,正常開放隅角であること,緑内障性視神経乳頭変化(網膜神経線維層欠損を含む)とそれに対応する緑内障性視野変化を有すること,視神経乳頭の緑内障性変化をきたしうる他疾患の既往もしくは存在がないこととした.対象の内訳は,男性12例,女性16例で,年齢は51.7±9.4歳(平均値±標準偏差)であった.2.眼圧日内変動の測定眼圧日内変動の測定には,自己測定空気眼圧計(Home-tonometer)5)を用いた.Hometonometerの測定値と,Gold-mann圧平眼圧計,通常の非接触式空気眼圧計の測定値の相関については,以前に85例85眼を対象に検討している.同一症例に対し,眼圧計ごとに異なる検者が,他の眼圧計の測定結果をマスクした状態で眼圧測定したところ,Home-tonometerとGoldmann圧平眼圧計の相関係数はr=0.86,Hometonometerと非接触式空気眼圧計の相関係数はr=0.84と,互いに高い相関があることを確認された(未発表データ).Hometonometerの使用方法を説明したうえで患者に貸し出し,自宅で患者自身が眼圧日内変動を測定した.ニプラジロール点眼の処方開始日にHometonometerを貸し出し,点眼開始前24時間の無治療時(0日)と点眼後24時間(1日)の眼圧日内変動を測定した.また,点眼後3カ月(3カ月)にもHometonometerを貸し出し,眼圧日内変動を測定した.眼圧は21時から3時間ごとに計8点/日(21,0,3,6,9,12,15,18時)を24時間1日とし,それぞれの時刻に両眼を5回ずつ測定するように指導した.ニプラジロール点眼は,用法・用量に従い,1回1滴,1日2回,朝は78時の間に,夜は1920時の間に両眼に点眼するよう指導した.3.眼圧日内変動の解析各時刻の,5つの測定値のうち,最大値と最小値を除いた3つの測定値の平均を各眼で算出し,左右眼の平均値をその時刻の眼圧とした69).まず,0日,1日および3カ月における各時刻(21,0,3,6,9,12,15,18時)の眼圧値について,繰り返しの1標本t-検定を用いて,0日と1日,0日と3カ月および1日と3カ月との間で比較した.つぎに,時期(測定日)を固定効果,患者を変量効果とした線形混合効果モデル10)を用い,一日の最高眼圧を0日,1日および3カ月の間で比較した.また,時刻と時期を主効果とし,時刻×時期の交互作用項を含む線形モデルの当てはめ11)により,点眼後に眼圧日内変動のパターンが変化しているかどうかを検討した.眼圧(mmHg)時間b0b1b2図1コサインカーブモデルIOP=(b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))IOP:モデルより推定された眼圧値,b0:位置(平均眼圧),b1:振幅(日内変動幅),b2:位相(最高眼圧時刻),t:時刻.全症例の眼圧日内変動データに一つのコサインカーブを当てはめ,個体差は変量効果を示すパラメータ(b0,b1,b2)を導入することで表現した.———————————————————————-Page31428あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(100)さらに,眼圧日内変動に及ぼす薬剤効果の解析を統計モデルによって試みた.線形モデルの当てはめによる検討から1日と3カ月の眼圧日内変動は変わっていないとみなすことができたため,周期性を利用した解析においては,1日と3カ月の眼圧は投与後の測定としてまとめて取り扱った.無治療時(0日)の眼圧日内変動には,個体差を変量効果としてコサインカーブを当てはめ(図1),得られたパラメータ(位置,振幅,位相)から一日の平均眼圧,眼圧変動幅,最高眼圧時刻を推定した.点眼後(1日,3カ月)の眼圧日内変動には,コサインカーブに,点眼後の眼圧下降作用を線形モデルとして追加した周期線形混合効果モデルを当てはめ(図2),得られたパラメータから眼圧下降作用を推定した.ここで用いた周期線形混合効果モデルとは,非線形混合効果モデル12)の一種であり,眼圧の周期的な変動に個体差があることを認めたうえで,眼圧日内変動の大きさと点眼による眼圧の下降の程度とを分離して推定ができる方法である.なお,有意水準は両側5%未満とした.本研究で使用した統計解析手法の詳細と統計学的な解説は別報を参照されたい13).II結果登録した28例のうち,4例はニプラジロール点眼を中止したなどの理由により,3カ月時の測定値が欠測となった.副作用としては,眼瞼炎が1例に,点状表層角膜症が2例に認められた.無治療時(0日),点眼後1日および3カ月における3時間ごとの各時刻における眼圧の推移を図3に,各時刻での眼圧表1各時刻での眼圧の変化測定時刻1日0日p値*3カ月0日p値*3カ月1日p値*21時1.64±1.23mmHg<0.0011.37±1.60mmHg0.0010.36±1.57mmHg0.2990時0.43±1.61mmHg0.1820.76±1.38mmHg0.0130.12±1.12mmHg0.6023時0.75±1.56mmHg0.0300.31±2.02mmHg0.4660.29±1.55mmHg0.4106時0.20±1.05mmHg0.3240.04±1.76mmHg0.9090.30±1.39mmHg0.3049時1.55±1.24mmHg<0.0011.56±1.90mmHg<0.0010.05±1.41mmHg0.88112時1.00±1.37mmHg0.0011.28±1.67mmHg0.0010.28±1.45mmHg0.37615時0.16±1.22mmHg0.4990.44±1.68mmHg0.2350.23±1.76mmHg0.55618時0.26±1.65mmHg0.4260.54±1.97mmHg0.1910.59±1.55mmHg0.088*:1標本t-検定.眼圧(mmHg)時刻(時)216+918b3b4b5b6図2周期線形混合効果モデル21=<t=<6のとき,IOP= (b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))+b3+b4・│t21│9=<t=<18のとき,IOP= (b0+b0)+(b1+b1)cos2p(t/24(b2+b2))+b5+b6・│t9│b0b2,b0b2,tの説明は図1参照のこと.b3:夜点眼切片(夜点眼直後の眼圧変化量).b4:夜点眼傾き(夜点眼後に眼圧下降が経時的に変化する割合).b5:朝点眼切片(朝点眼直後の眼圧変化量).b6:朝点眼傾き(朝点眼後に眼圧下降が経時的に変化する割合).もともと存在する生理的な日内変動を表すコサインカーブに,ニプラジロール点眼の薬剤効果として,点眼直後が最大となりその後経時的に一定の割合で眼圧下降作用が変化する線形モデルを加えた.1日2回の点眼時刻から,9時から18時までを昼間,21時から翌朝6時までを夜間とし,薬剤効果を示す定数(b3,b4,b5,b6)は昼間と夜間に分割した.薬剤効果の項をいずれも0とすると,無治療時(0日)の眼圧に当てはめたコサインカーブモデルとなる.眼圧(mmHg)211615141312点眼0#3691215:0日:1日:3カ月18時刻(時)点眼#*#*#**図3ニプラジロール点眼前後における眼圧の変化平均値(mmHg).0日n=28,1日n=27,3カ月n=24点眼時刻を矢印で示す.各時刻の眼圧を1標本t-検定にて比較した.*:1日目の眼圧が0日と比較し有意に低下(p<0.05).#:3カ月の眼圧が0日と比較し有意に低下(p<0.05).1日目と3カ月の比較では差はなかった.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081429(101)の変化量を表1に示す.点眼後1日では0日と比較して,21,3,9,12時に眼圧の有意な低下がみられ,点眼後3カ月でも0日と比較して,21,0,9,12時において眼圧の有意な低下が認められた(p<0.05,1標本t-検定).一方,点眼後1日と3カ月との比較では,いずれの時刻においても有意な差は認められなかった.線形混合効果モデルから推定された1日の最高眼圧は,0日,1日および3カ月で,それぞれ16.5mmHg,15.5mmHgおよび15.7mmHgとなり,1日と3カ月の最高眼圧は0日と比較して有意に低下していた(0日対1日:p=0.001,0日対3カ月:p=0.016).1日対3カ月では,最高眼圧に有意な差は認められなかった(p=0.685).交互作用項を含む線形モデルの当てはめでは,0日対1日および0日対3カ月の比較においていずれも交互作用が有意となり(p<0.001),ニプラジロール点眼後は眼圧日内変動の形状が変化していることが統計学的に示された.一方,1日対3カ月の比較では,交互作用は有意とならず(p=0.317),時期効果も認められなかった(p=0.965).無治療時(0日)の眼圧にコサインカーブを当てはめた結果を図4に示す.推定されたコサインカーブのパラメータは,位置(b0)が14.70mmHg,振幅(b1)が0.60mmHg,位相(b2)は0.49(およそ12時を指す)であった.点眼後(1日,3カ月)の眼圧に周期線形混合効果モデルを当てはめた結果を図5に,モデルから得られたパラメータを表3統計モデル当てはめにより得られた薬剤効果に関するパラメータパラメータ夜点眼朝点眼朝と夜の差p値*切片**b3=1.30(0.19)mmHgb5=1.29(0.19)mmHg<0.01mmHg0.71傾き***b4=0.13(0.03)mmHg/時間b6=0.12(0.03)mmHg/時間0.01mmHg/時間1.00*:1標本t-検定.**:ニプラジロール点眼直後の眼圧下降量(mmHg).***:点眼後,経時的に眼圧下降が減弱する割合(mmHg/時間).各パラメータの説明は図2を参照.表中かっこ内の数値は標準誤差.表2統計モデル当てはめにより得られた生理的日内変動に関するパラメータパラメータ無治療時(0日)点眼後(1日,3カ月)前後差p値*位置:b014.70(0.29)mmHg14.69(0.28)mmHg──振幅:b10.60(0.10)mmHg0.57(0.11)mmHg0.040.71位相:b2**0.49(0.04)0.49(0.04)0.010.90*:1標本t-検定.**:21時を起点に表示.b2=0.49は午前11時46分に相当する.眼圧日内変動に,無治療時はコサインカーブモデルを,点眼後は周期線形混合効果モデルを当てはめた.各パラメータの説明は図1,2を参照.表中かっこ内の数値は標準誤差.眼圧(mmHg)1615141312:測定値:推定値210369121518時刻(時)図4無治療時の眼圧日内変動に対するコサインカーブモデルの当てはめコサインカーブモデルによって得られた眼圧値(推定値)は,実際の眼圧測定値の平均(測定値)によく一致した.(コサインカーブモデルの式)IOP(mmHg)=(14.70+b0)+(0.60+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))図5点眼後の眼圧日内変動に対する周期線形混合効果モデルの当てはめ周期線形混合効果モデルによって得られた眼圧値(推定値)は,実際の眼圧測定値の平均(測定値)によく一致した.(周期線形混合効果モデルの式)21=<t=<6のとき,IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))1.30+0.13・│t21│9=<t=<18のとき,IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))1.29+0.12・│t9│点眼時刻を矢印で示す.眼圧(mmHg)211615141312点眼0369121518時刻(時)点眼:測定値:推定値———————————————————————-Page51430あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(102)表2,3にそれぞれ示す.周期線形混合効果モデルから得られた推定値のカーブは,実際の測定値のカーブとよく一致しており,当てはまりは良好であった.モデルから得られたパラメータのうち,夜の点眼時における点眼直後の眼圧変化量(b3:1.30mmHg)と朝の点眼時における点眼直後の眼圧変化量(b5:1.29mmHg)に差は認められなかった(p=0.71).また,夜間点眼後(21翌朝6時)に眼圧下降が経時的に変化する割合(b4:0.13mmHg/hr)と昼間点眼後(918時)に眼圧下降が経時的に変化する割合(b6:0.12mmHg/hr)の間にも差は認められなかった(p=1.00).無治療時の眼圧日内変動から得られたコサインカーブと周期線形混合効果モデルのコサインカーブ成分では,振幅と位相に有意な差はみられなかった(振幅:p=0.71,位相:p=0.90).III考按眼圧日内変動は,緑内障の病態把握,治療方針の決定,治療効果の判定を行ううえで重要な情報を提供する.薬剤の日内変動に及ぼす影響については,これまで各時刻について点眼前後の眼圧値を1標本t-検定で比較するという手法が用いられてきた.今回のニプラジロール点眼についても,点眼後1日では0日と比較して21,3,9,12時に,点眼後3カ月では21,0,9,12時に眼圧が有意に低下していた(表1).しかし,薬剤効果を精密に評価するためには,個体,時刻,周期性など多数の因子を含んでいるため,各時刻の眼圧を薬剤点眼前後で比較するだけでは十分に評価できないことがある.たとえば,ニプラジロール点眼の使用前後の眼圧日内変動のプロット(図3)からは,「点眼直後(21,9時)と比較して,つぎの点眼直前(6,18時)の眼圧下降は小さくなっている」,「昼間のほうが夜間と比べて眼圧下降が大きい」などの解釈が直感的に得られる.また,1日と3カ月では眼圧日内変動は同じにみえる.点眼前後で各時刻の眼圧を1標本t-検定により比較した結果(表1)は,上述の解釈の幾つかをよく裏付けてはいるが,夜間と昼間の違いを説明できていない.また,1日と3カ月で検定結果が異なる時刻が存在したことを1日と3カ月の違いと捉えるか,ばらつきの結果と捉えるかで,薬剤の効果の維持性に対する解釈が異なることになる.1標本t-検定のみでは十分納得のいく解析法とはいえない.そこで,これらの問題に対し客観的な回答を与える解析手法を考案し,ニプラジロール点眼の効果を評価することを試みた.統計学的な詳細は別報に譲るが,その概要は以下のとおりである.一つ目は,「1日の最高眼圧」の解析である.1日の最高眼圧が低下したかどうかは,薬剤治療の効果を評価する単純で明確な指標と考えた.この検討では,各患者の「1日の最高眼圧」を0日,1日および3カ月で比較するため,時期を固定効果,患者を変量効果とした線形混合効果モデルを用いた.二つ目は,「眼圧日内変動の形状」の解析である.各測定時刻で得られた眼圧の測定値を直線で結ぶことで,眼圧日内変動の形状がイメージされる.この形状が薬剤効果により変化したか否かを検討することで,日内変動の変化の有無がわかる.この検討では,時点(測定時刻)と時期(0日,1日,3カ月)を主効果とし,時点×時期の交互作用項を有する線形モデルを用いた.線形モデルの交互作用が有意であるという場合には,時期効果が各時点で一定ではなく,日内変動の形状が変化したということになる.一方,交互作用が有意ではないが,時期効果が有意という場合には,日内変動の形状が保持された状態で,日内変動が上下に平行移動するように変化したということになる.また,交互作用も時期効果も有意でない場合には,各測定時期の間で眼圧日内変動が変化したとはいえないことを意味している.三つ目は,「眼圧日内変動への統計モデルの当てはめ」である.Horieらは無治療時の原発開放隅角緑内障患者の日内変動にコサインカーブモデルを当てはめた14).筆者らは,先の1標本t-検定の結果からニプラジロール点眼は,点眼直後の時刻では眼圧下降効果が最大で,点眼直前の時刻ではその効果が減弱していると推察した.薬剤効果が点眼後速やかに発現し,時間の経過とともに徐々に減少していくことが前後差の比較から読み取れたため,これを線形項としてコサインカーブモデルに追加した.この日内変動を表す部分と薬剤効果を表す部分を同時にもつ“周期線形混合効果モデル”を当てはめることにより,ニプラジロール点眼の効果を数値で表現できると考えたわけである.これら三つの手法を用いてニプラジロール点眼の効果を解析した結果から,つぎのような解釈が成り立つ.線形混合効果モデルによる「1日の最高眼圧」の比較からは,点眼後1日と3カ月のいずれにおいても有意に最高眼圧を低下させていること,点眼後1日と3カ月の間では最高眼圧に差はみられないことが示された.交互作用項を含む線形モデルの当てはめによる「眼圧日内変動の形状」の解析結果から,眼圧日内変動の形状はニプラジロール点眼を点眼することにより変化し,1日と3カ月の間では変化していないことが示された.これら二つの解析結果から,ニプラジロール点眼は一日のなかの最高眼圧を有意に低下させているものの,時刻によって眼圧下降量が異なり,また,その眼圧下降効果は3カ月後も維持されているといえる.緑内障治療薬のなかでも特にb遮断薬は,長期間使用を継続した際に眼圧下降効果が減弱する,いわゆる薬剤耐性がみられることがあり,臨床上の問題の一つとなっている15).a1遮断作用とb遮断作用を併せ持———————————————————————-Page6あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081431(103)つニプラジロール点眼では眼圧下降効果が3カ月後も維持されることが示されたのは,興味深い結果である.「眼圧日内変動への統計モデルの当てはめ」の結果では,無治療時の日内変動から推定されたコサインカーブは,Yamagamiらの報告16)と比較すると日内変動幅を表す振幅が小さめであったが,平均眼圧および最高眼圧を示す時刻はほぼ一致した.また,NTG患者における日内変動の挙動に関する既存の報告と比べても,平均的な眼圧日内変動とみなせるものであった(表2)5).周期線形混合効果モデルから推定されたパラメータのうち,生理的日内変動に該当するコサインカーブ成分は振幅,位相のいずれも,無治療時のものと変わらなかった(表2).すなわち,このモデルによって,点眼後の眼圧日内変動は生理的な眼圧日内変動とニプラジロール点眼の効果に分離されたといえる(図6).分離されたニプラジロール点眼の効果は,点眼直後に最大の眼圧下降を示し,その後は時間の経過に伴い一定の割合で減弱するという線形項で十分に説明された.このモデルは測定値から直感的に得られた解釈のうち,「点眼後一定の割合で薬効が減弱する」ということを支持している.一方,「昼間のほうが夜間と比べて眼圧下降が大きい」という直感的解釈に対しては,朝点眼と夜点眼の間で薬剤効果に該当する成分のパラメータに違いはみられないという否定的な結果となった(表3).代表的なb遮断薬の一つであるチモロール点眼は,昼間は有意に眼圧を下降させるが,夜間,特に明け方にかけて眼圧下降作用がみられない時刻が存在することが報告されている17,18).このように緑内障治療薬の眼圧下降効果に日内変動がみられる原因は,それぞれの薬剤の眼圧下降機序によると考えられている19).すなわち,b遮断薬の眼圧下降機序は房水産生の抑制によるものであり,房水産生の多い昼間は眼圧下降効果が大きく,房水産生の少ない夜間は眼圧下降効果が小さくなると考えられる.一方,a1遮断薬の眼圧下降機序は,ぶどう膜強膜流出路を介した房水流出の促進によるものと考えられている.ぶどう膜強膜流出路からの房水流出は眼圧非依存性であるので,ぶどう膜強膜流出を促進する薬剤は,一般的に眼圧が高いとされる昼間も,眼圧が低いとされる夜間も同じように眼圧を下降させると考えることができる.今回,ニプラジロール点眼では夜間にも昼間と同様の眼圧下降効果が認められたが,これはニプラジロール点眼が,b遮断作用に加えa1遮断作用を併せ持つことに起因していると推測される.今までの解析方法ではグラフから読み取れることを直接証明できなかったが,周期線形混合効果モデルを用いることで,眼圧日内変動および薬剤効果についてこれまで以上に詳細な解析結果を得ることができた.本検討により,ニプラジロール点眼は夜間も昼間と同様の眼圧下降作用を示し,その作用は3カ月の継続使用においても維持されていることが示された.このような薬剤効果の特性は,治療薬の選択や治療効果を確認するうえで有用な情報である.ニプラジロール以外の緑内障治療薬についても,今後これらの統計学的手法を用いることにより薬剤効果の特性がさらに明らかになれば,眼圧日内変動に合わせた薬剤選択に役立つと考える.文献1)桑山泰明:眼圧.正常眼圧緑内障(新家眞,谷原秀信編),p17-23,金原出版,20002)ZeimerRC:Circadianvariationsinintraocularpressure.TheGlaucomas(edbyRitchRetal),p429-445,Mosby,StLouis,19963)ShieldsMB:TextbookofGlaucoma4thed.p48-49,Wil-liams&Wilkins,Baltimore,19974)古賀貴久,谷原秀信:緑内障と眼圧の季節変動.臨眼55:1519-1522,20015)狩野廉,桑山泰明:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動.日眼会誌107:375-379,20036)石井玲子,山上淳吉,新家眞:低眼圧緑内障における眼圧日内変動測定の臨床的意義.臨眼44:1445-1448,19907)山上淳吉,新家眞,白土城照ほか:低眼圧緑内障の眼圧日内変動.日眼会誌95:495-499,19918)堀江武:眼圧日内変動に関する臨床的研究.日眼会誌79:232-249,19759)梶浦祐子,坂井護,溝上國義:低眼圧緑内障の眼圧日内変動.あたらしい眼科8:587-590,1991図6周期線形混合効果モデルの生理的日内変動および薬剤効果への分割周期線形混合効果モデル(推定値)を,もともとの生理的な眼圧日内変動(生理的日内変動)と,ニプラジロール点眼液による眼圧下降(薬剤効果,眼圧変化量として図に示す)に分割して示した.(生理的日内変動を表す項の式)IOP(mmHg)=(14.69+b0)+(0.57+b1)cos2p(t/24(0.49+b2))(薬剤効果を表す項の式)21=<t=<6のとき,IOP(mmHg)=1.30+0.13・│t21│9=<t=<18のとき,IOP(mmHg)=1.29+0.12・│t9│眼圧(mmHg)眼圧変化量(mmHg)210369121518161514131210-1-2時刻(時):生理的日内変動:薬剤効果:推定値———————————————————————-Page71432あたらしい眼科Vol.25,No.10,200810)松山裕,山口拓洋:医学統計のための線型混合モデル─SASによるアプローチ初版.p43-46,株式会社サイエンティスト社,200111)鷲尾泰俊:実験の計画と解析.p102-115,岩波書店,198812)GeertM,GeertV:ModelsforDiscreteLongitudinalData.p265-276,Springer,NewYork,200513)SuganamiH,KanoK,KuwayamaYetal:Comparisonofestimationmethodsforparametersinthecircularlinearmixedeectmodelincorpotatingdiurnalvariationforevaluatingglaucomatherapy.JapaneseJournalofBiomet-rics28:1-18,200714)HorieT,KitazawaY:Theclinicalsignicanceofdiurnalpressurevariationinprimaryopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol23:310-333,197915)WilliamPB:Shortterm“Escape”andlongterm“Drift”Thedissipationeectofthebetaadrenergicblockingagents.SurvOphthalmol28:235-240,198316)YamagamiJ,AraieM,AiharaMetal:Diurnalvariationinintraocularpressureofnormal-tensionglaucomaeyes.Ophthalmology100:643-650,199317)吉冨健志,春野功:低眼圧緑内障の眼圧日内変動に対するチモロールの効果.あたらしい眼科10:965-967,199318)McCannelCA,HeinrichSR,BrubakerRF:Acetazolamidebutnottimolollowersaqueoushumorowinsleepinghumans.GraefesArchClinExpOphthalmol230:518-520,199219)赤石貴浩,島崎敦,松木雄ほか:自動眼圧測定系を用いた家兎眼圧日内変動に対する各種眼圧下降剤の評価.日眼会誌107:513-518,2003(104)***

初発・再発翼状片の手術成績と翼状片再発の危険因子

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(93)14210910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14211425,2008cはじめに翼状片は結膜下組織の異常増殖による角膜への侵入を本態とする疾患である.再発時には瘢痕形成や結膜短縮による眼球運動障害が問題になり,再発をくり返す難治症例に遭遇することもある.したがって,手術の目的は角膜内侵入組織の切除だけでなく,結膜下増殖組織を十分に除去し再増殖を抑え,再発を防止することである.単純切除のみでは再発率が高いため,線維芽細胞増殖抑制の意味から術中マイトマイシンC(MMC)を使用する併用療法も考案された1).初発例は結膜欠損部を健常な結膜で被覆する有茎弁移植が一般的な術式となっている2).再発例は結膜下増殖組織が厚く広範囲であるため,羊膜移植を併用する術式が一般的に用いられるようになっている3).羊膜は瘢痕抑制と上皮修復促進作用が期待でき,瘢痕性角結膜疾患や翼状片に対する羊膜移植の有効性が報告されている4).またMMC術中塗布と羊膜移植の併用によりさらに安定して再発を抑えることが可能になると〔別刷請求先〕檜森紀子:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科視覚科学分野Reprintrequests:NorikoHimori,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1Seiryo-machi,Aoba-ku,Sendai,Miyagi980-8574,JAPAN初発・再発翼状片の手術成績と翼状片再発の危険因子檜森紀子中澤徹劉孟林横山悠横倉俊二久保田享西田幸二東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科視覚科学分野ClinicalOutcomeforPrimaryandRecurrentPterygiumandRiskFactorsforPrimaryPterygiumRecurrenceNorikoHimori,ToruNakazawa,MorinRyu,YuYokoyama,ShunjiYokokura,AkiraKubotaandKohjiNishidaDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,TohokuUniversityGraduateSchoolofMedicine初発・再発翼状片の手術成績と翼状片再発の危険因子を検討した.対象は2006年5月2007年7月に当教室で施行した初発翼状片11例12眼(有茎弁移植10眼,羊膜移植2眼),平均年齢63歳(3779歳),術後平均観察期間12カ月(721カ月).再発翼状片16例16眼(すべて羊膜移植),平均年齢67歳(4474歳),術後平均観察期間12カ月(821カ月).初発翼状片12眼中3眼(25%)で再発し,再発翼状片は現在まで再発例を認めていない.そこで,初発翼状片12眼で再発危険因子として報告されている術中マイトマイシンC使用の有無,年齢,翼状片面積と侵入距離,結膜下線維組織増生について検討した.若年,線維組織増生の強い症例は再発率が高い傾向があり,翼状片面積が小さい場合有意に再発率が高いと認識された(p=0.023).再発する可能性の高い症例は術式を慎重に選択することが重要であると考える.Wereporttheclinicaloutcomeforprimaryandrecurrentpterygium,andriskfactorsforprimarypterygiumrecurrence.Of12eyeswithprimarypterygium,10eyesunderwentsuperiorconjunctivalautografttransplantationand2eyesunderwentamnioticmembranetransplantation(AMT).Themeanfollow-uptimewas12months(range:7to21months).Recurrencewasseenin3cases(recurrencerate:25%).In16eyeswithrecurrentpterygium,weperformedAMT.Theirmeanfollow-uptimewas12months(range:8to21months).Nopatientsshowedanysignsofrecurrence.Therecurrencerateforprimarypterygiumwashigherthanthatforrecurrentpterygium.Wethereforeevaluatedriskfactors(useofmitomycinCduringsurgery,age,pterygiumsizeandsub-conjunctivalbroustissue)in12casesofprimarypterygium.Therecurrenceratewashigherintheyoungeragegroup,smallerpterygiumsizeandmoresubconjunctivalbroustissue.Itisthereforeimportant,beforesurgery,toselectasuitableproceduresoastoreducepterygiumrecurrence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14211425,2008〕Keywords:初発翼状片,再発翼状片,有茎弁移植,羊膜移植,再発の危険因子.primarypterygium,recurrentpterygium,conjunctivalautograft,amnioticmembranetransplantation,riskfactorsforpterygiumrecurrence.———————————————————————-Page21422あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(94)報告されている5).このように手術方法は多岐にわたり,術式の選択は各術者あるいは各施設がそれぞれの経験や判断で行っているのが現状であり,どの術式が最良であるかの評価は定まっていない.2006年5月から2007年7月に当教室で施行した初発翼状片11例12眼(有茎弁移植10眼,羊膜移植2眼)と再発翼状片16例16眼(羊膜移植16眼)の手術成績を検討したところ,再発例と比べ初発例は再発率が高いという結果になった.再発をくり返さないために初回の手術が重要であるという観点から,術前に再発の可能性を考え,より適切な術式を選択することが重要である.したがって筆者らは初発・再発翼状片の手術成績とともに,初発翼状片12眼の再発の危険因子について検討したので報告する.I対象および方法当教室では基本的に初発翼状片に対し翼状片切除と有茎弁移植,再発翼状片に対して翼状片切除と羊膜移植を行っている.有茎弁移植の手術方法は山口らが考案した上方結膜有茎弁移植法2)を採用しており,以下に概略を記す.角膜輪部上にスプリング剪刀を挿入し,角膜実質を切除しないように注意しながら鈍的に翼状片組織を離する.Tenonの異常組織を切除し(綿抜き法),露出した強膜部上方より耳側に向かって結膜を切開し有茎弁を作り,下方に伸展させて縫合する.術翌日より0.1%ベタメタゾン,レボフロキサシン点眼を1日4回,オフロキサシン軟膏1日1回点入を開始する.羊膜移植の手術方法は結膜下異常組織を十分に切除するまで上記と同様である.内直筋に制御糸をかけ眼球運動を制御し,筋周囲の増殖組織を十分に切除する.0.04%MMCを染み込ませたマイクロスポンジをTenonと結膜間に5分間塗布し,ラクテック約300mlでよく洗浄する(筆者らは再発翼状片16例中5例でMMCを使用した).結膜欠損部に羊膜の上皮側を上にして羊膜と強膜を縫合する.羊膜は同意を得た提供者から帝王切開時に清潔操作で採取し,絨毛膜から離して生理食塩水でよく洗浄した後5×5cm大に切り,80℃で1枚ずつ冷凍保存したものを室温で解凍し使用する.角結膜上皮の創傷を治癒させるためソフトコンタクトレンズを装着し手術を終了する.術後は消炎のためベタメタゾン2mgを術後3日間点滴し,術後4日目からベタメタゾン1mgを2週間内服,2週目以降はプレドニゾロン5mgを2週間内服へ変更した.術翌日より0.1%ベタメタゾン,レボフロキサシン,ブロムフェナクナトリウム点眼を1日2回とベタメタゾン,オフロキサシン軟膏の眠前1回点入を開始した.有茎弁移植,羊膜移植ともに眼圧上昇などの副作用がない限り0.1%ベタメタゾン点眼を13カ月程度使用し,以後0.1%フルオロメトロンに切り替え,トラニラストを追加している.上記の方法に従って2006年5月から2007年7月に当教室で施行した初発翼状片11例12眼,再発翼状片16例16眼の手術成績についてretrospectiveに検討した.II結果初発翼状片11例12眼の詳細を表1に示す.平均年齢63歳(3779歳),男女比は5:7,術前矯正視力は0.8から1.0,術後平均観察期間は12カ月(721カ月)であった.術前に癒着が強いため生じたと考えられる眼球運動障害は2眼,瞼球癒着を1眼に認めた.再発翼状片16例16眼の詳細を表2に示す.平均年齢67歳(4474歳),男女比は10:6,過去の手術回数は2.2回,表1初発翼状片症例一覧症例年齢(歳)性別術式術前視力術後視力眼球運動障害瞼球癒着複視観察期間再発179女性切除+AMT0.20.321248女性切除+有茎弁移植0.91.216+372女性切除+有茎弁移植0.91.212+461男性切除+有茎弁移植+MMC0.61.511569女性切除+AMT+MMC+(PEA+IOL)0.70.7++11670女性切除+有茎弁移植1.0p1.0p11761男性切除+有茎弁移植+MMC0.61.511848女性切除+有茎弁移植+(PEA+IOL)0.7p1.2+10960女性切除+有茎弁移植0.90.8101037男性切除+有茎弁移植+MMC1.51.29+1175男性切除+有茎弁移植0.70.671251女性切除+有茎弁移植0.71.2p7AMT:羊膜移植術,MMC:マイトマイシンC,PEA:水晶体乳化吸引術,IOL:眼内レンズ.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081423(95)術後平均観察期間は12カ月(721カ月)であった.矯正視力は術前後で0.9と変化なく,術前に眼球運動障害は9眼,瞼球癒着は8眼,複視は3眼に認めた.手術成績を表3に示す.病的増殖組織が角膜輪部を超えて侵入したものを再発と定義した.初発翼状片10眼で有茎弁移植を行い,翼状片の面積が大きく有茎弁移植が不可能と考えた2眼で羊膜移植を施行したところ,12眼中3眼で再発を認めた(再発率25%).再発翼状片16眼で羊膜移植を行ったところ,観察期間中再発を認めなかった.術後の0.1%ベタメタゾン点眼による眼圧上昇を初発・再発ともに2眼で認めたが,0.1%フルオロメトロンへ変更することによって正常眼圧となった.また副腎皮質ステロイド剤点眼の副作用として易感染性があげられ,再発翼状片1眼で翼状片の再発は認めないものの,角膜真菌症を併発した.角膜擦過培養にてカンジダが検出され,抗真菌薬の点滴,点眼により軽快した.術中にMMCを初発4例,再発5例で使用したが強膜軟化症などの副作用は認めなかった.再発の危険因子を検討するために角膜輪部の透見性をGrade13(G1G3)に分類した.これはTanら6,7)が結膜下増殖が強い症例が再発率が高いことを報告した際に強膜血管の透見性を指標にしていることを参考にして輪部の透見性によって分類した.角膜輪部を追うことができればG1,まったく透見できない場合をG3とし,部分的に透見できない場合をG2とした.初発翼状片12眼における再発と4つの危険因子(①術中MMC使用の有無,②年齢,③結膜下線維組織増生,④翼状片の面積と侵入距離)との関連を検討した.①MMC術中塗布に関してMMCを使用した4眼中1眼で再発し(再発率25%),使用しなかった8眼中2眼で再発した(再発率25%).②翼状片患者の年齢を50歳未満2眼,5070歳5眼,70歳以上5眼と分類し,年齢と再発の関係を調べたところ,それぞれの再発率は100%,20%,0%となった.③Grade13(G1G3)各グレードにおける再発率を検討した.12眼をG1・3眼,G2・2眼,G3・7眼と分類したところ,G1・G2では再発例はなく,G3でのみ7眼中3眼に再発を認めた(再発率43%).④翼状片の角膜への侵入距離と面積(面積はZeiss社のAxioVision4.5LEを使用した)の関係を調べた.角膜への侵入距離は再発を認めた症例(3眼)で平均182pixel,再発を認めなかった症例(9眼)は平均197pixelで差を認めなかった(p=0.708).翼状片の面積は再発を認めた症例で平均11,210pixel,再発のなかった症例では平均23,109pixelで,再発群は非再発群の約半分の面積であり,その差は有意であった(p=0.023).表2再発翼状片症例一覧症例年齢(歳)性別術式既手術回数術前視力術後視力眼球運動障害瞼球癒着複視観察期間再発169男性切除+AMT31.01.0+++21264男性切除+AMT10.91.0++18371女性切除+AMT+MMC11.50.7p+++18444女性切除+AMT11.51.516573男性切除+AMT30.50.4++16664男性切除+AMT30.80.9++12755男性切除+AMT+MMC10.71.212869男性切除+AMT10.9p1.211973男性切除+AMT10.5p0.4+111065女性切除+AMT+LT70.90.1p++111171男性切除+AMT10.20.3+101274男性切除+AMT11.01.2++101372男性切除+AMT+MMC80.20.6++91463女性切除+AMT+MMC11.21.281574女性切除+AMT11.00.781667女性切除+AMT+MMC11.01.08AMT:羊膜移植,MMC:マイトマイシンC,LT:角膜輪部移植.表3手術成績初発再発合計術式Resection+AMT2眼16眼18眼Resection+有茎弁移植10眼0眼10眼術後成績再発(再発率)3/12眼(25%)0/16眼(0%)3/28眼(10.7%)眼圧上昇2眼2眼4眼合併症感染症0眼1眼(角膜真菌症)1眼強膜軟化症0眼0眼0眼———————————————————————-Page41424あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(96)III考按今回我々は15カ月間に施行した初発・再発翼状片の術後成績をレトロスペクティブに検討した.初発翼状片11例12眼の再発率は25%で半年以内に再発を認め,再発翼状片16例16眼の再発率は0%であった.初発翼状片,再発翼状片の術後観察期間はともに721カ月であり,有意差はないと考えた.報告されている他施設の翼状片手術成績をみると,羊膜移植は単純切除や有茎弁移植と比べ良好な成績で再発は010%台3,5)となっている.単純切除の再発率は61%6)と高率で,有茎弁移植は1.4%2),2%6)と好成績のものから39%8)と成績の差がある.施設間での違いを埋めるには情報量が乏しいため判断はむずかしいが,術者の結膜下線維組織の除去の程度といった手術手技の違いや術後の投薬の違いなどが再発率に影響すると考えられる.自験例での再発は術後3カ月から6カ月で認めるのがほとんどであった.Laurenceら9)は50%が術後120日以内に再発し,97%が術後1年以内に再発したと報告している.したがって,術後半年間は診察を頻繁に行い,経過観察をする必要があることを再確認した.本検討でも術後最短観察期間を6カ月としている.従来より羊膜を使用した眼表面再建術の有用性が報告されている3,4).当科で羊膜移植を行った初発・再発翼状片は再発を認めず良好な成績であるが,有茎弁移植を行った初発翼状片の再発率は30%と改善の余地を認める.したがって,我々は初発翼状片12眼の再発の危険因子について検討することにした.前谷ら1)は線維芽細胞増殖抑制の意味から手術時MMCを使用することで再発を減らすことを指摘し,西田ら10)は若年者または充血に富んだ厚みのある翼状片は再発する傾向があると報告している.Tanら6,7)は翼状片体部のスリット所見から結膜下線維量が多い場合再発率が高いことを述べている.山口ら11)は年齢が若く,翼状片体部の強い充血,厚みがあるものほど再発の可能性が高い傾向があると報告している.これらを踏まえて①術中のMMC使用の有無,②年齢,③結膜下線維組織増生,④翼状片の面積と侵入距離に注目し,経験した初発翼状片12眼における再発との関連を検討することにした.①術中のMMC使用の有無で再発率に差を認めず,今回経験した初発翼状片12眼においてMMCの使用は再発防止に有用とはいえなかった.②50歳未満の再発率が100%,5070歳は20%,70歳以上は0%という結果から,年齢に関して従来の報告と同様に若年者ほど再発のリスクが高まると考えられる.③結膜下線維組織増生についてTanらは結膜下線維組織増生が強いものほど再発率が高いと報告している6,7).本研究でも結膜下線維組織増生の強いと考えられるG3でのみ再発を認めたことから,Tanらが指摘していたように翼状片のTenonの厚みは再発と密接な関連があると考えられる.④再発の有無で翼状片の侵入距離の差は認めないものの,再発例の翼状片の面積は小さいという結果になった.佐々木ら12)は1/82/8角膜径の翼状片において最もPCNA(proliferationcellnuclearantigen)陽性細胞を認め,再発率が高かったことから翼状片が小さいと増殖能力が強いことを指摘している.以上より,若年,面積が小さく,線維組織増生が強い症例では特に再発に注意すべきと考えられた.翼状片の病因や再発要因についてまだ十分に解明されていないが,最近の研究では神経伝達物質のsubstancePが線維芽細胞や血管内皮細胞の化学遊走物質としても働き,翼状片の形態や成長に寄与していると示されている13).また紫外線照射によるDNA二重らせん構造が破壊されたとき,修復するKU70のプロモーターにT991Cの変位があると翼状片になりやすいと報告された14).再発要因遺伝子としてperios-tin,TIMP-2,PSPHLがあげられ,これらをターゲットとした製薬が開発される可能性も考えられている15).今後,翼状片の発症や術後再発のメカニズムが詳細に解明され,確実な治療法や補助療法の開発が期待される.今回の検討によって,術前の形態から有茎弁移植手術に対し再発の危険因子が想定できることが示された.再発ハイリスク群の患者に対し,術直後のステロイド加療の強化や羊膜移植の併用などを考慮に入れた治療が必要である.また,患者へ再発のリスクを十分説明し,手術に臨むことは重要であり,術後の点眼コンプライアンスを上げる教育も必要であると考えられる.本論文の要旨は第32回角膜カンファランスにて発表した.文献1)前谷悟,杉山哲也,山口ひとみほか:マイトマイシンCを用いた翼状片手術の基礎的検討と治療成績.臨眼49:345-348,19952)山口達夫:改良した結膜有茎弁移植術とHost結膜断端部反転縫合法.あたらしい眼科22:511-519,20053)福岡秀記,稲富勉,中村隆宏ほか:羊膜移植による再発翼状片手術の術後成績.あたらしい眼科24:381-385,20074)島﨑潤:羊膜移植の基礎と臨床.臨眼55:719-723,20015)川﨑史朗,宇野敏彦,島村一郎ほか:マイトマイシンC術中塗布と羊膜移植を併用した再発翼状片の手術成績.日眼会誌107:316-321,20026)TanDT,CheeSP,DearKBetal:Eectofpterygiummorphologyonpterygiumrecurrenceinacontrolledtrialcomparingconjunctivalautograftingwithbarescleraexcision.ArchOphthalmol115:1235-1240,1997———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081425(97)7)TanDT,LiuYP,SunL:FlowcytometorymeasurementsofDNAcontentinprimaryandrecurrentpterygia.InvestOphthalmolVisSci41:1684-1686,20008)ChenPP,AriyasuRG,KazaVetal:RandomizedtrialcomparingmitomycinCconjunctivalautograftafterexci-sionofprimarypterygium.AmJOphthalmol120:151-160,19959)HirstLW,SebbenA,ChantD:Pterygiumrecurrencetime.Ophthalmology101:755-758,199410)西田保子,林研,林文彦:翼状片に対する上方結膜有茎弁移植術の術後成績.臨眼59:983-989,200511)山口達夫:再発性翼状片の手術について教えてください.あたらしい眼科10:172-178,199312)佐々木かおる,宍戸明美,細畠淳ほか:翼状片の組織像による病期分類.臨眼51:1135-1138,199713)ChuiJ,GirolamoN:TheroleofsubstancePinthepatho-genesisofpterygia.InvestOphthalmolVisSci48:4482-4489,200714)TsaiYY,BauDT,ChiangCCetal:PterygiumandgeneticpolymorphismofDNAdoublestrandbreakrepairgeneKu70.MolVis13:1436-1440,200715)KuoCH,MiyazakiD,NawataNetal:Prognosis-determi-nantcandidategenesidentiedbywholegenomescan-ningineyeswithpterygia.InvestOphthalmolVisSci48:3566-3575,2007***

眼科医にすすめる100冊の本-10月の推薦図書-

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,200814090910-1810/08/\100/頁/JCLSこの本の著者であるメレディス(MeredithAverill)には,2007年の11月にアメリカのカロリーリストリクション・ソサエティー(CRソサエティー)で初めて会った.夜の着席パーティーで何も食事をせずに,にこやかに会話に参加していたのが印象的であった.まずはCRから解説しないとわからないと思うので,そこから始めたい.現在,エイジング研究の最も確固たるエビデンスは,カロリーリストリクション(CR)であり,CRにより,ほとんどすべての動物で寿命の延長がみられることが報告されている.その分子メカニズムもだいぶ解明されてきている.現在,僕たちヒトでも同様に寿命の延長がおきるかどうか実際に研究されていて,みんな注目しているところだ.その研究対象となるCRを実践している人たちのグループがアメリカにあると聞いて,大変興味をもった.噂を聞くと,このCRをやっている人たちは,すごくやせていて,元気がないという.「CRをやっていると寒いし,おいしいものは食べられないし,もう本当はやめたいんだけど,もうここまでやってきてしまったし,こうなったら長生きをして元をとるしかない」なんていうことを言っているという.そんなつまらない人生だったらCRをやる意味がない.いくらアンチエイジング医学で長生きしても,寒くて辛くておもしろくない人生なんて意味がない.本末転倒である.でも,やっぱりCRって興味があるなあ.そうだ,アメリカに行ったときに実際にCRソサエティーの人に会ってみよう!と思いたった.ちょうどアメリカで開催される学会の後にCRソサエティーのパーティーがあったので,早速そのパーティーを訪ねた.まず,いちばん興味があったのは“CRをやっていて幸せかどうか?”ということ.この質問には,僕がインタビューしたすべての人が「私は幸せよ.これほど幸せなことはない」と言っていた.みんな元気で,明るく,おしゃべりなのもおもしろかった.プレジデントのメレディスは,夕食中,いつも持ち歩いている自分のレモン水の入ったペットボトルだけでテーブルについている.みんなが食べているのにちょっと異様ではある.「何も食べないで辛くありませんか?」と聞いたら,「ぜんぜん大丈夫.私は今日の割り当ての1,600キロカロリーを朝とお昼で食べたからもういいの.だってパーティーって食べるのが目的じゃなくて,みんなと楽しく話しをすることが大切でしょ.もう慣れてしまったわ」と平然としている.僕は,お皿に何もないメレディスの前のテーブルを見ながら,CRはすごいと思った.当然ではあるが,すべての人が自分の身体,職業から,摂取すべき必要なカロリーを知っており,それをもとに80%,70%と決めて食事のカロリーを計算している.一番低い人で1,400キロカロリー,高い人で2,000キロカロリー.みんな食べていないのに幸せだという.「だってあたりまえでしょう.食事は食べ物がおいしいからおいしく感じるだけじゃないのよ.体調がよくて,健康なら,CRやっていても最高においしく感じられるの」ということらしい.そして,みんなひどくやせているわけじゃない.日本人の感覚だったら,まあ普通という感じである.つまりCRとは“栄養を真剣に考える”こと,なのである.CRの実践はまず自分の食事パターンの認識から始まる.蛋白質,脂質,炭水化物などの栄養素(overallnutrients)に加えて,ビタミンと微量ミネラルについても自分たちの食事のパターンでどれだけ摂取できている(81)■10月の推薦図書■theCRwayPaulMcGlothin,MeredithAverill著(Collins社)シリーズ─85◆坪田一男慶應義塾大学医学部眼科———————————————————————-Page21410あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008のかをしっかりと把握する.そのうえで,1日の必要量を摂取するための食事メニューを考えたり,サプリメントで補給したりする.このようにして1,800キロカロリー以下でもちゃんと必要なものをとっていくことができる.いろいろと話しをしてみて,CRソサエティーの人はとても勉強しているし,しっかりしていると思った.「CRとは単にカロリーを減らすことじゃないのよ.自分たちがどんな食べ物を食べているのか,きちんと検証して,いいもの,必要なものを食べていくんだ.一男は今,自分が1日に何キロカロリーを摂っているか知っているかい?不足しているアミノ酸はない?お肉を食べないっていうけど,ビタミンB12は不足していない?」なとど逆に聞かれてしまうはめに.たしかにCRをやるということは,食べものをきっちりと考えることだ.CRソサエティーの合言葉はこうだ.Calorierestrictionwithoptimalnutrition!(最適な栄養を考えたカロリーリストリクション!).日本には昔から“腹八分”という素晴らしい考え方がある.欧米人に比べたら,食べる量は少ない傾向だ.そういった意味では,全国民が軽いCRをしているとも考えられる.もちろん最近はメタボリックシンドロームに代表されるように肥満が増えていることも問題だが,アメリカと比較したらまだまだ低カロリーの国ではある.もし腹八分ですでに2割のCRをしているとしたら,あと10%だけCRをすれば,楽しくアンチエイジングを実践することになるのではないか?これが今,日本における健全なCRソサエティーの方向性ではないかと個人的には考えている.無理して2530%のCRをすることはない.軽いCRをしたり,あるいはプチ断食を勉強してたまに取り入れてみたり,何よりOptimalNutri-tionを考えきっちりとコントロールしていくことはアンチエイジングにとって核ともいえる重要なポイントと考える.日本でも今年9月にCRソサエティーがスタートしたので,興味のある人はぜひ入会していっしょにやってみましょう.そんなCRソサエティーのことを詳しく解説した本が,この『theCRway』である.まだ日本語版が出ていないので英語での挑戦になってしまうけれど,平易な英語で書かれており,CRを理解するには最適の本だ.また10月には新潮社から“長寿遺伝子を鍛える(坪田一男著)”という本が出版される.もし日本語でも読みたい先生がいらしたら,こちらをぜひどうぞ.2冊いっしょに読めばさらに理解が深まること間違いなしです.日本でのカロリーリストリクションの研究会「カロリスジャパン」がスタートしました.詳細は,http://www.crs-j.jp/をご覧ください.(82)☆☆☆

眼科専門医志向者“初心”表明

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,200814070910-1810/08/\100/頁/JCLS私はスポーツが趣味で,学生時代から研修医の今に至るまで取り組んでいるスポーツが2種類あります.一つはロッククライミングで7年間続けています.マルセイユに1カ月間滞在して地中海の断崖へ通い詰めたこともあり,段級位制では三段に相当します.もう一つは自転車で4年間続けています.走行距離は年に10,000kmほどになります.現在でも各地のレースに参戦しており,表彰台の中央に立つこともたまにあります.このような生活背景からはスポーツ整形に興味が沸くものと思っていましたが,学生時代に最も興味を抱いたのは意外にも眼科でした.とりわけ硝子体手術を初めて目にしたとき,両手にマイクロ器具,両足にフットスイッチを構え,全身を駆使して流れるように進められていく微細な手術に衝撃を受けました.電子化されたさまざまな検査機器にも非常に興味を抱きました.人間が情報の大半を視覚から得ている以上,見えないという窮地に差し掛かったとき,それは対症療法で軽減させたり,現時点では他の手段で代償の仕様がありません.臓器は小さくとも眼科医の役割はとても大きいと思います.話しは少しずれますが,スポーツをする際に最も重要な役割を果たすのは,骨格筋ではなく目にあると次第に考えるようになりました.ロッククライミングでは岩にあるミリ単位の手掛かり・足掛かりを,まず目で探します.フォール(ロープやマットで安全は確保されていますが…)する最大の原因は,手掛かり・足掛かりの見落としにあります.時速60km以上にも達するロードーレースや,岩だらけの急斜面を下るマウンテンバイクにおいては,一瞬たりとも目線を外した瞬間に命取りとなりかねません.このような緊張感は,眼科のオペにも通じるものがあるのではないかと想像しています.日々のスポーツ活動を通して,目の存在の大きさを再認識しています.眼科のなかでもサブスペシャル分野で一人前の仕事ができるようこれから精進し,眼疾患に悩む方々の力になりたいと考えています.まだまだ若輩者の私ですが,体力だけには自信があります.どうか厳しく揉んでやってください.◎今回は滋賀医科大学研修医2年目の藤川先生にご登場いただきました.どのスポーツにおいても目が重要な役割を担っているのは間違いないと思います.その存在の大きさを伝えれば,今まで興味がなかった人も眼科の魅力に気づくのではないでしょうか.(加藤)本シリーズ「“初心”表明」では,連載に登場してくださる眼科に熱い想いをもった研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生を募集します!宛先は≪あたらしい眼科≫「“初心”表明」として,下記のメールアドレスまで.全国の先生に自分をアピールしちゃってください!E-mail:hashi@medical-aoi.co.jp(79)眼科医者“初心”表明●シリーズ⑩Athleticophthalmicsurgeonを目指して藤川正人(MasatoFujikawa)滋賀医科大学附属病院1982年滋賀県生まれ.滋賀医科大学医学部卒業.現在初期研修2年目で眼科ローテ中.座右の銘はNopain,Nogain.(藤川)編集責任加藤浩晃・木下茂本シリーズでは研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生に『なぜ眼科を選んだか,将来どういう眼科医になりたいか』ということを「“初心”表明」していただきます.ベテランの先生方には「自分も昔そうだったな~」と昔を思い出してくださってもよし,「まだまだ甘ちゃんだな~」とボヤいてくださってもよし.同世代の先生達には,おもしろいやつ・ライバルの発見に使ってくださってもよし.連載10回目の今回はこのパワフルな先生に登場していただきます!SHIMANOBIKER’SFESTIVAL2008(4時間MTBチームエンデューロオープン優勝)

私が思うこと13.私の現在の楽しみ

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081405私が思うことシリーズ⑬(77)自分が医師になった動機は恥ずかしながら不明確です.学生時代は,ひたすら遊びました.今とつながる傾向としては,遊びのサークルを作り,ディスコを借り切ってダンスパーティー(当時はやっていた)を企画したりすることに喜びを感じていました.こう書くと活動的な人間にみえますが,当時5月病とよんだ状態を引きずった怠惰な生活でもありました.学生時代後半は,映画監督を志し,アマチュアで8mm短編を撮ったりしました.テレビ局を受け,TBSは年齢制限でひっかかり,日本テレビは筆記や第1面接は通りましたが,最終面接で落ちました.映画監督になりたいと正直に述べ,勘違い志望者と見なされたのでしょう.下積みの道も選べましたが,結局断念し,医師になりました.突破できなかった原因を探すと,中途半端な人間であったこと,出会いが足りなかったこと,情熱が足りなかったことなどがあげられます.ただ,少なくとも,何かを生み出す仕事をしたいという欲求はあったのだろうと思います.自分は新しいことに取り組むとき無上の喜びを感じます.2005年に京都大学にスペクトラルドメイン光干渉断層計(OCT)のプロトタイプがきたときは感動の毎日でした(図1).今から思うとプロトタイプですから,操作も大変ですし,しょっちゅう調子が悪くなりましたが,日々嬉々として機械の前に張り付いていました.この技術により世の中が少し変わると実感できるのが何より快楽でした.2003年に京都大の助手として戻ってからは,これまでやってきた生物学をやる気になれず,格好良く言いますと,人の病気を理解したいという想いに駆られ,「眼底の細胞を見ること」や「これまで対象とならなかった病変を治療する技術」を追い求めて,工学系の学会に足を運ぶ日々でした.当時ナノテクノロジーや光技術が注目され,国内のさまざまな目を見張るような技術を見学し,どう医療に生かすかを想像することは楽しかった.その暇があったことと,それを許した京都大の学風に感謝します.20032005年には,網膜静脈閉塞を治療する「網膜血管内治療用マイクロカテーテル」の開発を,振興調整費の助成を得て,産学協同研究開発を行うことができました.異分野の研究者やベンチャー企業の方と集まり,何かを起こそうと知恵を絞る日々は楽しかった.要素技術の開発に成果は出たが(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/shiryo/001/07021516/009/002.htm,http://scfdb.tokyo.jst.go.jp/pdf/20031100/2005/200311002005er.pdf),前臨床の段階で止まっ0910-1810/08/\100/頁/JCLS板谷正紀(MasamoriHangai)京都大学大学院医学研究科眼科学1963年滋賀県生まれ,子供の頃より何か言って人を笑わせてやろう,人があっと言うことをやってやろう,という基本的欲求で今日まで生きてきた典型的な関西人です.何か一生懸命笑わせようとしゃべっている自分をみたら,今日は絶好調なんだと思ってください.趣味は眼底と手術,最近緑内障が好み.(板谷)私の現在の楽しみ図1スペクトラルドメイン光干渉断層計のプロトタイプに夢中な時代当科大学院生の後藤謙元先生と.プロトタイプ機は,筑波大COGと(株)トプコンによる.———————————————————————-Page21406あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008ています.理由は,自分がスペクトラルドメイン光干渉断層計に夢中になり時間がなくなったこと,ベンチャー企業の経営が不安定であったことなどがあげられますが,何よりも医療技術は前臨床から臨床までもってくる過程が最も大変で多くの技術が「死の谷」に眠ってしまうのです.2005年より,熱望していた眼底イメージングプロジェクトを始めることができました.NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成を得て,国内の技術者が集結し,産官学連携で眼底の細胞や酸素飽和度を観察できるイメージング技術の開発に取り組んでいます(http://www.nedo.go.jp/activities/portal/p05002.html).吉村長久教授の強いリーダーシップで4年目には成果が現れ,現在京都大学病院には視細胞が見えるadaptiveopticsSLO(AO-SLO)というプロトタイプがあります.いまだ眼科医には扱えぬ代物でたいへんですが,ニデック社の優れた研究者の方々と若い大音壮太郎助教,坂本篤助教の尽力で疾患眼の眼底の撮影に成功しています.今後どうなるかが現在の楽しみです.さらには網膜神経節細胞を可視化する特殊なOCTもTOP-CONAdvancedBiomedicalImagingLaboratory(TABIL;図2)でヒト眼への応用が佳境に入っており,もし見えたらたいへんなこととわくわくします.もう一つ,現在の楽しみがあります.HeidelbergEngineeringのSpectralisです.あのスペックルノイズを除去した美しい網膜断層像を見ることは,自分にとって快楽以外のなにものでもありません.日々疾患に発見があり楽しい.発見は論文に結びつくため,論文を書かねばという大学人としてのプレッシャーも軽減されてよい.また,医学と医療にも微々たるものであるが貢献していると思えることが医師として精神衛生上よい.ここまで書くと,順調に進んでいるように見えますが,無駄になった研究開発は数知れず,上記したプロジェクトも思うようにいかず事務的仕事だけ降りかかってきて嫌になることもありました.私は,映画監督にはなれませんでしたが,現在,眼科研究者としての楽しみがあります.学生時代と今との違いは,自分はもう眼科の世界しかないと思い切れたこと,新しいことをしたいという欲求に従ったこと,そのなかで良い出会いがたくさんあったこと,なのだと思っています.そして,これらのおかげで自分は変われたのです.では,今後の10年はどうするか?現在の楽しみは10年も続かないでしょうから,先々が心配です.しかし,後戻りはできません.自分の楽しみを若い人たちに伝えること,さらなる出会いを求めて異分野を探検し自分を変えること,などと考えることは簡単ですが,さてさて,この忙しい生活にその余裕が残っているかが最大の問題です.板谷正紀(はんがい・まさのり)1990年京都大学医学部卒業1997年南カルフォルニア大学ドヘニー眼研究所留学2000年神戸市立中央市民病院・副医長2003年京都大学医学部附属病院眼科・助手2005年京都大学大学院医学研究科眼科学・講師現在に至る(78)図2TOPCONAdvancedBiomedicalImagingLaboratory(TABIL)の方々と打ち合わせ左から秋葉正博先生,陳建培先生,福間康文所長,吉村長久教授,私.ヒトの網膜神経節細胞のイメージングへ夢が膨らむ.☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス65.Bloch-Sulzberger症候群に対する硝子体手術(上級編)

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,200814030910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめにBloch-Sulzberger症候群は,色素失調症ともよばれ,特有の皮膚症状(図1)に加え,中枢神経系異常,骨異常,心疾患,眼病変などを合併する先天異常である.本疾患の眼合併症は多彩であるが,網膜病変としては未熟児網膜症に類似しており,周辺網膜無血管野,血管蛇行,網膜動静脈吻合,網膜中心動静脈閉塞症,網膜前線維性増殖膜,網膜離などが知られている.治療の基本は網膜無血管野に対する冷凍凝固(あるいは光凝固)であるが,網膜離を併発した場合には硝子体手術の適応(75)となる.Bloch-Sulzberger症候群に伴う牽引性網膜離に対する硝子体手術未熟児網膜症のように出生後早期に牽引性網膜離が進行することもあるが,進行が緩徐で学童期に網膜離が発症することもある.発症時期が若年であるため,後部硝子体が未離かつ網膜硝子体癒着が強固で手術の難易度は高い.未熟児網膜症や家族性滲出性硝子体網膜症と同様に周辺部網膜無血管野で硝子体は面状に網膜と癒着しており,双手法での人工的後部硝子体離作製が必要である.筆者らが経験した8歳,女児の症例では,視神経乳頭周囲の著明な線維血管性増殖膜(図2)に加えて,周辺部(特に耳側)にも著明な滲出性病変と線維血管性増殖膜を認め(図3),完全な硝子体切除は困難であった.赤道部まで確実に人工的後部硝子体離を作製し,周辺部の残存硝子体の牽引に対しては輪状締結術を併用する方針とした(図4).期発見が大切本疾患はきわめてまれな疾患であるが,患者が若年のため,網膜病変の発見が遅れる可能性が高い.眼内増殖性変化が高度に進行した時点での硝子体手術は難易度がきわめて高くなり,予後不良の転帰をたどることが多い.本疾患と診断された場合には,継続的に眼底検査を施行することが重要であり,小児科医と眼科医の連携が必須である.文献1)今村裕,大林亜希,南政宏ほか:黄斑部牽引性網膜離に進行したBloch-Sulzberger症候群に対する硝子体手術.臨眼58:99-103,2004硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載65Bloch-Sulzberger症候群に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1自験例の生下時皮膚所見水疱,紅斑が出現,数日で痂皮化し,その後は疣贅状丘疹が数カ月続いた.図2自験例の術前後極部眼底写真視神経乳頭周囲に線維血管性増殖膜を認める.図3自験例の術前周辺部眼底写真線維血管性増殖膜と牽引性網膜離を認める.図4自験例の術後眼底写真網膜は復位し,矯正視力は0.2に改善した.

眼科医のための先端医療94.落屑症候群・落屑緑内障の原因遺伝子LOXL1遺伝子

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,200813990910-1810/08/\100/頁/JCLS落屑症候群,落屑緑内障とは落屑症候群()()は,には落屑が前眼部に緑内障症をこす,のを原因とするです落屑は前,(図1),Zinn小帯,角膜内皮,隅角など眼組織のみならず,皮膚,心臓,肺,肝臓などの全身臓器にも存在します1).落屑物質にはグリコサミノグリカンの存在が示唆されており,その過剰産生や異常代謝が病因の一つであると考えられてきました2).落屑物質には基底膜成分や,弾性線維組織のエピトープが含まれます3).検眼鏡的に落屑症候群,落屑緑内障は診断可能のことが多いですが,問題点は1)散瞳による眼圧の急激な上昇2)Zinn小帯が脆弱3)散瞳不良で,白内障手術中の合併症が多い(Zinn小帯断裂,硝子体脱出など)4)進行が急激で,薬物療法に抵抗性で,予後不良ということがあげられます.落屑症候群・落屑緑内障の疫学落屑緑内障のにはが,を示すと,ン,ンンのンとがす)とともに,で)とす多では(緑内障),(緑内障)とす)のでが多,日本,では眼が多す落屑をする症はでが緑内障にするとす落屑症候群,落屑緑内障の原因遺伝子Lysyloxidaselikeprotein1(LOXL1)遺伝子に一塩基多型()解析に,にする遺伝子のエクソンおンンのの(図2)が,落屑症候群,落屑緑内障と強く相関すると発表されました7).LOXL1遺伝子はLysyloxidaseファミリーであり,Tropoelastinのリジン残基の酸化的脱アミノ化を触媒します.Tropoelastinはエラスチンポリマーファイバーの架橋に関係します.LOXL1遺伝子は7つのエクソンからなり,篩状板,水晶体上皮,角膜,毛様体筋,線維柱帯に発現しています.Lysyloxidaselikeprotein1(LOXL1)遺伝子の日本人における解析日本人におもが,遺伝子を解析お,はこの遺伝子が落屑緑内障とることを)このは,多施けるがす)(),()ともにがが,()におは,()◆シリーズ第94回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊布施昇男(東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科視覚学分野)落屑症候群・落屑緑内障の原因遺伝子LOXL1遺伝子図1落屑症候群の前眼部写真瞳孔縁の萎縮,落屑物質の沈着を認める.Exon1ATG5?rs1048661(T/G)R141Lrs3825942(A/G)G153Drs2165241(C/T)3?図2LOXL1遺伝子エクソン1の一塩基多型(SNP)———————————————————————-Page21400あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008頻度がThorleifssonらの報告とはまったく逆の結果となりました(表1;落屑緑内障のrs1048661アリル頻度;日本0.042,アイスランド0.827).なお,今のところ緑内障を発症した症例群と非発症群との間には有意差は認められていません.以上の一塩基多型がLOXL1遺伝子のどのような機能に関係しているのか,これからの機能解析が待たれます.この遺伝子が示唆するもの緑内障は,にはがをこ,緑内障症()にす,眼のの因子因子にをけ,このことが緑内障原因遺伝子解析をす緑内障のでも表型がもの,原因がとる症をで,子遺伝学は緑内障の原因解にもをするを示唆す文献1)Schlotzer-SchrehardtUM,KocaMR,NaumannGOetal:Pseudoexfoliationsyndrome.Ocularmanifestationofasys-temicdisorderArchOphthalmol110:1752-1756,19922)Schlotzer-SchrehardtUM,DorerS,NaumannGO:Immunohistochemicallocalizationofbasementmembranecomponentsinpseudoexfoliationmaterialofthelenscap-sule.CurrEyeRes11:343-355,19923)VogiatzisA,MarshallGE,KonstasAGetal:Immunogoldstudyofnon-collagenousmatrixcomponentsinnormalandexfoliativeiris.BrJOphthalmol78:850-858,19944)ForsiusH:PrevalenceofpseudoexfoliationofthelensinFinns,Lapps,Icelanders,Eskimos,andRussians.TransOphthalmolSocUK99:296-298,19795)HillerR,SperdutoRD,KruegerDE:Pseudoexfoliation,intraocularpressure,andsenilelenschangesinapopula-tion-basedsurvey.ArchOphthalmol100:1080-1082,19826)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecond-aryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20057)ThorleifssonG,MagnussonKP,SulemPetal:CommonsequencevariantsintheLOXL1geneconfersusceptibilitytoexfoliationglaucoma.Science317:1397-1400,20078)HayashiH,GotohN,UedaYetal:Lysyloxidase-like1polymorphismsandexfoliationsyndromeintheJapanesepopulation.AmJOphthalmol145:582-585,20089)OzakiM,LeeKY,VithanaENetal:AssociationofLOXL1genepolymorphismswithpseudoexfoliationintheJapanese.InvestOphthalmolVisSci49:3976-3980,200810)MoriK,ImaiK,MatsudaAetal:LOXL1geneticpoly-morphismsareassociatedwithexfoliationglaucomaintheJapanesepopulation.MolVis14:1037-1040,200811)MabuchiF,SakuradaY,KashiwagiKetal:Lysyloxi-dase-like1genepolymorphismsinJapanesepatientswithprimaryopenangleglaucomaandexfoliationsyndrome.MolVis14:1303-1308,200812)FuseN,MiyazawaA,NakazawaTetal:EvaluationofLOXL1polymorphismsineyeswithexfoliationglaucomainJapanese.MolVis14:1338-1343,2008(72)***表1LOXL1遺伝子対象(n=検体数)rs1048661(R141L)Grs3825942(G153D)Gアリル数(頻度)p値アリル数(頻度)p値日本12)コントロール(n=138)140/276(0.507)242/276(0.877)落屑症候群(n=56)2/112(0.036)7.7×1018112/112(1.000)4.1×104落屑緑内障(n=36)3/72(0.042)1.7×101272/72(1.000)5.2×103落屑症候群,緑内障なし(n=20)1/40(0.025)1.5×10840/40(1.000)0.0027アイスランドコントロール(n=1,024or490)1,305/2,048(0.637)839/980(0.856)落屑緑内障(n=75)124/150(0.827)1.8×106148/150(0.987)4.1×109落屑症候群,緑内障なし(n=55)83/106(0.783)1.3×103106/108(0.982)8.5×107LOXL1遺伝子は,Lysyloxidaseファミリーであり,Tropoelastinのリジン残基の酸化的脱アミノ化を触媒する.Tropoelastinはエラスチンポリマーファイバーの架橋に関係している.7つのエクソンからなり,篩状板,水晶体上皮,角膜,毛様体筋,線維柱帯に発現している.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081401(73)「落屑症候群・落屑緑内障の原因遺伝子LOXL1遺伝子」を読んでは学の布施昇男の落屑症候群・落屑緑内障の原因遺伝子ンンですにする遺伝子もは遺伝子多型にのはクがでもクですクで解のは塩基ので,こにの遺伝子がる,のもは多型がるとがるはを多のを解析するとに,ので候遺伝子の解析をにでをがすので,にとはすが,,に遺伝子多型を,とのを学に解析一塩基多型()解析はも候遺伝子をるにはです布施のす解にるに,落屑症候群・落屑緑内障の原因遺伝子はにるこの一塩基多型()解析に,にする遺伝子でるが示,こが原因遺伝子とるけでは,文に「エクソンおンンののが,落屑症候群,落屑緑内障とする」とるのはことですすることと因がることはです原因遺伝子でるにはのことをけが,布施にとすので,読んでけすが,この遺伝子ンンはのですとののとです,ここにこ多のをにをものがす子学に候遺伝子の学がとのにするをるがですが,このにるの子を遺伝子ですることは基学,学のがで,のはののにすンとにすで,基学学ののとのののをにするとるとす布施がこのを「この遺伝子が示唆するもの」ので「子遺伝学は緑内障の原因解にもをするを示唆す」とんでおるに,基学は学が日するを解するに多献をすることです学とるとすはこののとのの解とのとものをお,もではものこの基とののに,がにンすることがるにす山学学部学学山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ184.Femtosecond laser装置を使用した全層角膜移植

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,200813970910-1810/08/\100/頁/JCLS特に,IntraLaseTMを使った全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PKP)は米国で頻度が高まっている1,2).IntraLaseTMEnabledKeratoplasty(IEK)とは,3つの異なる切開,anteriorsidecut,lamellarcut,posteriorsidecutを組み合わせることで蝶番のような角膜切開で全層角膜移植を行う方法である.その切開形状にはマッシュルーム,トップハット,ジグザグなどが提唱されている(図1).すでにアイバンクでドナーをIntraLaseTMで切開してから供給する体制ができており,全世界で2,000眼程度のIEKが実施されている.実際の手術法筆者らの施設では,手術室にIntraLaseTMFS-60を新しい治療と検査シリーズ(69)バックグラウンドフェムトセカンドレーザー(femtosecondlaser)は近赤外線レーザーで,焦点外の角膜組織は通過し,超短パルスの特性から瞬間ピーク出力が大きくなり,焦点の合った照射組織のみを光分裂(photodisruption)させて数ミクロンの空隙をつくることができる.これを一定の間隔で数多く照射することで,周辺組織に熱拡散の影響を及ぼさずに,透明角膜を切開することができる.従来laserinsitukeratomileusis(LASIK)のフラップ作製に使用されてきたが,性能が向上することで,切開を深く,複雑な形状にすることができるようになった.これを利用して角膜移植におけるドナーとレシピエントの角膜を同一形状の複雑な切断面にすることが可能となった.新しい治療法現時点では角膜移植ができるフェムトセカンドレーザーはIntraLaseTM(AMO社製)とFEMTECfemto-secondlaser(20/10PerfectVision社製)のみである.184.Femtosecondlaser装置を使用した全層角膜移植プレゼンテーション:稗田牧バプテスト眼科クリニックコメント:ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科1IntraLaseTMによる角膜切開:全層角膜移植(IEK)図2ZigZagIEK術前・後写真左:角膜周辺部が透明であれば良い適応となる.右:術後はホスト-グラフト移行部分が平滑である.———————————————————————-Page21398あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008設置しているので,先にレシピエントの切開を行う.LASIKより切開に時間がかかるので,球後麻酔を行い,開瞼器を使用する.レシピエント角膜は,完全に切開すると前房が消失する可能性があるので,切開予定部位の最薄点から数十ミクロン前方から,posteriorsidecutを開始している.つぎに,人工前房にセットしたドナー角膜を切開するが,この場合には前房内の圧をコントロールできるので前房から(角膜表面から1,200μmの深さ)切開を始めて,完全に切断する.ドナーの場合,Sinskeyフックで層を少し開いたのち,グラフトを鑷子で軽く引っ張れば外れる.全身麻酔がかけられたレシピエントの角膜は,前房まで切断されていないので,Sin-skeyフックで創の形状を確認した後に,前房に進入し剪刀で切断する.8本の端々縫合と16糸の連続縫合を行っている(図2).本法の利点ドナーとレシピエントの角膜は完全に同一形状の蝶番断面になっているので,生体適合性が良い.外傷による創の離開は,角膜移植後の大きな問題であるが,この方法により,怪我に強い角膜移植術後眼となることは間違いない.さらに,角膜表面から一段目の層状切開までの厚みは非常に精確なので,角膜前面でホスト-グラフト接合部に段差ができて,不正乱視が強くでてしまったり,角膜障害がでやすくなることがない,などの利点はある.ただし,現時点では多くの角膜縫合をしているので,惹起乱視や不正乱視が本当に少なくなるかどうかはわからない.今後,有効性の検討が必要と考えられる.1)PriceFWJr,PriceMO:Femtosecondlasershapedpene-tratingkeratoplasty:One-yearresultsutilizingatop-hatconguration.AmJOphthalmol145:210-214,2008.Epub2007Dec3.2)FaridM,KimM,SteinertRF:Resultsofpenetratingker-atoplastyperformedwithafemtosecondlaserzigzaginci-sioninitialreport.Ophthalmology114:2208-2212,2007(70)ず,切開形状を精密にプログラミングできる点で魅力的だが,角膜移植においては,混濁の程度によりフェムトレーザーが使えないこと,全層移植ではあまり問題にならないが,角膜を層状に残す部分移植では,レーザー照射による角膜実質の炎症反応が危惧されている.ブレードを用いる手術に比べ,すべてが優っているのではなく,レーザー照射による組織反応など,今後まだ検討されるべき点を残している.フェムトセカンドレーザーは,自由自在に角膜を切開できるため,角膜手術に関する広い範囲での使用が試みられている.現在,最も普及しているのがLASIKにおけるフラップ作製であろう.マイクロケラトームを用いたフラップに比べ,フラップを戻した際に非常に適合性が良いことを経験しているが,角膜移植においてもドナーとレシピエントが完全に同一形状であるため,生体適合性が良く,今後,縫合なしの手術が期待される.レーザーというブレードを使用せ本方法に対するコメント☆☆☆