———————————————————————-Page1(111)14390910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14391442,2008cはじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は半波長Qスイッチ:Nd-YAGレーザー(波長532nm)を用いて,線維柱帯の色素細胞のみを選択的に障害し,線維柱帯の房水流出抵抗を減少させることで眼圧を下降させると考えられているレーザー治療である1).アルゴンレーザー線維柱帯形成術(argonlasertrabeculo-plasty:ALT)は線維柱帯構造全体に作用するが,SLTは周囲の線維柱帯組織や無色素細胞には影響しないことが明らかになっており2),線維柱帯への侵襲が少ない.また,ALTは熱凝固組織損傷の合併症である術後一過性の眼圧上昇,周辺部虹彩癒着などを認めることがあるのに対し,SLTはそれらの合併症を認めることが少なく,くり返し治療が可能で,手術治療に影響を与えないため,薬物治療と手術治療の中間的な役割を果たすものとして位置づけられている3).SLTはALT同等の眼圧下降が得られ,その有効性については多くの報告があり4,6,8),狩野ら4),Hodgeら5)は,原発開放隅角緑内障(広義)(POAG)と落屑緑内障(EXG)の2病型において,SLTの眼圧下降効果に有意差を認めなかったと報告している.しかし,最大耐用薬物療法下でのSLT6)や色素緑内障に対するSLT7)には限界があることが示唆されており,患者背景因子を検討することが必要である.また,Wernerら9)により,白内障手術の既往の有無はSLTの眼圧下降効果に影響を及ぼさないと報告されているが,緑内障手〔別刷請求先〕上野豊広:〒669-5392豊岡市日高町岩中81公立豊岡病院組合立豊岡病院日高医療センター眼科センターReprintrequests:ToyohiroUeno,M.D.,EyeCenter,HidakaMedicalCenter,ToyookaHospital,81Iwanaka,Hidaka-cho,Toyooka-shi,Hyogo-ken669-5392,JAPAN選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績上野豊広岩脇卓司湯才勇矢坂幸枝港一美倉員敏明公立豊岡病院組合立豊岡病院日高医療センター眼科センターClinicalResultsofSelectiveLaserTrabeculoplastyToyohiroUeno,TakujiIwawaki,SaiyuuYu,YukieYasaka,KazumiMinatoandToshiakiKurakazuEyeCenter,HidakaMedicalCenter,ToyookaHospital筆者らは選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)の眼圧下降効果を緑内障手術の既往の有無や病型別で比較検討を行った.対象は,当院でSLT施行後3カ月以上観察可能であった44例49眼,年齢は65.59±11.02歳,原発開放隅角緑内障(広義)(POAG)が42眼,落屑緑内障(EXG)が7眼であった.今回検討した全症例の眼圧は術前18.36±2.60mmHg,術後3カ月16.37±2.82mmHgで,有意な眼圧下降を認めた.SLT施行前に緑内障手術の既往の有無の検討では,緑内障手術の既往がない群は有意な眼圧下降があったが,緑内障手術の既往がある群は有意な眼圧下降がなく,病型別の検討では,POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は有意な眼圧下降がなかった.患者背景因子について検討し施行すれば,SLTは有効な眼圧下降を得る一つの方法になると考えた.Weevaluatedtheintraocularpressure(IOP)-loweringecacyofselectivelasertrabeculoplasty(SLT)inrela-tiontothehistoryofpriorglaucomasurgeryanddierenttypesofglaucoma.Subjectscomprised49eyesof44patientswhowerefollowedupfor3monthsormoreafterSLT.Meanpatientagewas65.59±11.02years(mean±standarddeviation);42eyeshadprimaryopen-angleglaucoma(POAG)and7hadexfoliationglaucoma(EXG).IOPdecreasedsignicantly,from18.36±2.60mmHgto16.37±2.82mmHgat3monthsafterSLT,decreasingsignicantlyineyesthathadnotundergoneglaucomasurgerybeforeSLT,butnotdecreasingsignicantlyineyesthathadundergoneglaucomasurgerybeforeSLT.IOPdecreasedsignicantlyineyeswithPOAG,butnotineyeswithEXG.SLTappearstobeaneectivemethodfortreatingglaucoma,consideringpatienthistory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14391442,2008〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,眼圧下降,緑内障.selectivelasertrabeculoplasty(SLT),intra-ocularpressurereduction,glaucoma.———————————————————————-Page21440あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(112)術の既往の有無についてはいまだ報告されていない.今回筆者らは,緑内障手術の既往の有無と緑内障の病型別にて,SLTの眼圧下降効果に関して比較検討を行った.I対象および方法対象は,公立豊岡病院組合眼科でSLTを施行し,3カ月以上観察可能であった,44例49眼とした.内訳は男性24眼,女性25眼,年齢は65.59±11.02(4986)歳であった.全症例とも,術前にALTの既往,術前後での点眼治療に変化はなく,隅角色素はScheie分類でⅡ以下であった.緑内障手術に関しては,SLT施行前に既往がある症例は9眼,既往がない症例は40眼であり,その内訳は,線維柱帯切除術,非穿孔性線維柱帯切除術と線維柱帯切開術であり,濾過手術と流出路再建術に分けて検討を行った.表1に示すように,年齢,性別,病型,Humphrey自動視野計プログラム中心30-2SITA-STANDARDプログラム(HumphreyeldanalyzerⅡ:HFA)の平均偏差(meandeviation:MD)値は緑内障手術既往の有無で有意差はなかった.また,病型別の検討に関しては,POAGが42眼,EXGが7眼であった.表2に示すように,年齢,性別,緑内障手術の既往,HFAのMD値も病型間で有意差はなかった.SLTは施行前に十分な説明をし,患者から同意を得たうえで,緑内障専門外来の熟練した術者2人が行った.SLTには,ellex社製タンゴオフサルミックレーザーを用いた.SLTの照射条件は,スポットサイズが400μm,照射時間が3ns,出力が0.61.5mJ,照射は半周(下方180°)に施行し,照射数は4960発であった.術前,術後処置に1%アプラクロニジン(アイオピジンR)点眼を行った.眼圧測定は術前,術後翌日,1週,1カ月,その後は1カ月ごとにGold-mannapplanationtonometerで測定した.術前眼圧は術前3回の平均を用い,それぞれの術後眼圧と比較した.SLT施行前に緑内障手術の既往の有無や緑内障の病型別の検討では術前眼圧と術後3カ月の眼圧と比較検討した.なお,術前と術後1週,1カ月,2カ月,3カ月の眼圧の比較にはANOVA(analysisofvariance)法および多重比較(Bonferroni/Dunn法),術前眼圧と術後3カ月の眼圧の比較にはMann-Whitney’sUtest,緑内障手術既往の有無と病型の患者背景の比較にはMann-Whitney’sUtestおよびFisher’sexactprobabilitytestを用いた.統計学的有意差は5%未満の危険率をもって有意とした.統計解析にはStat-View5.0(SASInstitute社)を用いた.値の表示はすべて平均値±標準偏差とした.II結果全症例の術前平均眼圧が18.36±2.60mmHg,術後1週の眼圧は16.60±3.67mmHg(p<0.05),術後1カ月の眼圧は16.98±3.24mmHg(p<0.05),術後2カ月の眼圧は16.67±3.40mmHg(p<0.05),術後3カ月の眼圧は16.37±2.82mmHg(p<0.05)であった.術後1週から3カ月まですべて有意な眼圧下降を認めた.図1に示す.SLT施行前に緑内障手術の既往がない群は40眼,術前平均眼圧が18.35±2.42mmHg,術後3カ月の眼圧は15.88±2.33mmHg(p<0.01)であり有意な眼圧下降があった.一方,SLT施行前に緑内障手術の既往がある群は9眼,術前平均眼圧が18.40±3.44mmHg,術後3カ月の眼圧は18.56±3.81mmHg(p=0.81)であり有意な眼圧下降がなかった.図2に示す.濾過手術群は男性4眼,女性1眼,POAG4眼,EXG1眼,術前平均眼圧が18.86±2.66mmHg,術後3カ月の眼圧は18.60±3.13mmHg(p=0.81)であった.流出路再建術群は男性2眼,女性2眼,POAG2眼,EXG2眼,表1緑内障手術の既往別の患者背景緑内障手術の既往がない群緑内障手術の既往がある群p値年齢(歳)65.80±11.35(4986)65.22±10.02(5078)0.85*性別男性18眼女性22眼男性6眼女性3眼0.29**病型POAG36眼EXG4眼POAG6眼EXG3眼0.11**MD値(dB)9.46±8.7411.66±9.020.82**:Mann-Whitney’sUtest.**:Fisher’sexactprobabilitytest.表2病型別の患者背景POAG群EXG群p値年齢(歳)64.83±11.15(4986)70.86±9.23(5379)0.11*性別男性19眼女性23眼男性5眼女性2眼0.25**緑内障手術の既往あり6眼(14.3%)あり3眼(42.9%)0.11**MD値(dB)9.36±8.9112.56±9.110.51**:Mann-Whitney’sUtest.**:Fisher’sexactprobabilitytest.2520151050眼圧(mmHg)術前1週1カ月2カ月3カ月術後経過日数****図1全症例におけるSLTの眼圧経過眼圧は術後1週から術後3カ月まですべて有意な眼圧下降を認めた.*p<0.05:ANOVAおよびBonferroni/Dunn法.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081441(113)術前平均眼圧が17.83±4.62mmHg,術後3カ月の眼圧は18.50±5.07mmHg(p=0.32)であり,両群とも有意な眼圧下降を認めなかった.POAG群(42眼)は術前平均眼圧が18.16±2.42mmHg,術後3カ月の眼圧は16.02±2.47mmHg(p<0.01)であり有意な眼圧下降があった.一方,EXG群(7眼)は術前平均眼圧が19.54±3.46mmHg,術後3カ月の眼圧は18.42±3.99mmHg(p=0.34)であり有意な眼圧下降がなかった.図3に示す.SLTに伴う合併症は眼圧上昇のみで,経過中に術前より眼圧の上昇した症例は21眼で,全体の42.9%であった.そのうち5mmHg以上の高度の眼圧上昇が生じた症例は2眼で,全体の4.1%であった.虹彩炎は全例軽微であり,加療を必要とする重篤な炎症所見はなかった.また,前房出血など,他の重篤な合併症はなかった.III考按本研究では,POAGとEXGの2病型に対して,点眼治療,緑内障手術の既往の有無にかかわらず,視野障害の進行を認め,さらなる眼圧下降が望ましいと思われる患者に対しSLTを施行し,検討を行った.過去の報告によるとSLTの予後因子として,年齢,性別,病型,ALTの既往の有無,隅角色素,術前眼圧,手術の既往,術前投薬数,術後一過性眼圧上昇などさまざまな因子が過去に検討されている49).まず,手術の既往に関する過去の報告では,Wernerら9)により,白内障手術の既往の有無はSLTの眼圧下降効果に影響を及ぼさないと報告されているが,緑内障手術の既往の有無についていまだ報告されていないため,筆者らは緑内障手術の既往の有無とSLTによる眼圧下降効果に関して比較検討を行った.SLT施行前に緑内障手術の既往のない群は術後3カ月で,有意な眼圧下降があったが,緑内障手術の既往のある群は術前と術後3カ月の眼圧に変化を認めず,SLTの効果がなかった可能性がある.現在のところ,緑内障手術後の線維柱帯組織にSLTがどのような影響を及ぼすかは不明であり,今後組織学的検討が必要であると考えた.また,今回症例数が少ないので,今後症例数を増加し,術式別にも引き続きさらなる検討を要すると考える.また,緑内障の病型別に関する過去の報告4,10)では,ALT,SLTにおいてもPOAGとEXGの2病型には有効性に差を認めず,両群ともに有効であったとされている.しかし,色素緑内障にはSLT後に追加手術が必要となり7),SLTの限界を指摘されている.今回,筆者らの研究において,POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は眼圧下降があったものの有意な眼圧下降ではなく,POAG群と比較しSLTの効果に差を認める結果となった.EXG眼では,線維柱帯への色素沈着だけでなく,傍Schlemm管結合組織などの水晶体偽落屑の沈着による房水通過抵抗の高まりが眼圧上昇に影響を及ぼしており11),線維柱帯に対するSLTの効果が少なくEXG群がPOAG群に比べて,眼圧下降効果が弱かった可能性がある.合併症については,これまでの他施設でのSLTの報告ではそれぞれに基準が異なるものの,19.433%4)に一過性の眼圧上昇がみられている.しかしながら,今回の症例では4.1%にみられたのみであり,眼圧上昇がきわめて少なかった理由として,術前,術後処置に1%アプラクロニジン(アイオピジンR)点眼を行ったことが考えられた.SLTは,線維柱帯に対して侵襲が少ないので,降圧手段の一つとして積極的に試みてよい方法であり,点眼数の減少や手術に至るまでの期間の延長が期待される.しかし,緑内障手術の既往の有無,緑内障の病型によって眼圧下降効果が減弱する可能性があるため,施行前に患者背景因子について検討を重ねたうえで施行する必要があることが示唆された.SLTの効果についてはいまだ一定した見解が得られていないこともあり,今後症例数の増加および術後の経過観察期間を延長し,引き続き検討を行っていく予定である.2520151050眼圧(mmHg)術前3カ月術後経過日数:SLT施行前に緑内障手術の既往がない群:SLT施行前に緑内障手術の既往がある群*図2緑内障手術の既往の有無によるSLTの効果緑内障手術の既往がない群は有意な眼圧下降があったが,既往がある群は有意な眼圧下降がなかった.*p<0.01:Mann-Whitney’sUtest.図3緑内障の病型別によるSLTの効果POAG群は有意な眼圧下降があったが,EXG群は有意な眼圧下降がなかった.*p<0.01:Mann-Whitney’sUtest.2520151050眼圧(mmHg)術前3カ月術後経過日数:POAG:EXG*———————————————————————-Page41442あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(114)文献1)LatinaMA,ParkC:SelectivetargetingoftrabecularmeshworkcellsinvitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-372,19952)KramerTR,NoeckerRJ:Comparisonofthemorphologicchangesafterselectivelasertrabeculoplastyandargonlasertrabeculoplastyinhumaneyebankeyes.Ophthal-mology108:773-779,20013)DamjiKF,ShahKC,RockWJetal:Selectivelasertra-beculoplastyvargonlasertrabeculoplasty:aprospectiverandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol83:718-722,19994)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,19995)HodgeWG,DamjiKF,RockWetal:BaselineIOPpre-dictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultsfromarandomizedclinicaltraial.BrJOphthalmol89:1157-1160,20056)齋藤代志明,東出朋巳,杉山和久:原発開放隅角緑内障症例への選択的レーザー線維柱帯形成術の追加治療成績.日眼会誌111:953-958,20077)若林卓,東出朋巳,杉山和久:薬物療法,レーザー治療および線維柱帯切開術を要した色素緑内障の1例.日眼会誌111:95-101,20078)SongJ,LeePP,EpsteinDLetal:Highfailurerateassociatedwith180degreesselectivelasertrabeculo-plasty.JGlaucoma14:400-408,20059)WernerM,SmithMF,DoyleJW:Selectivelasertrabecu-loplastyinphakicandpseudophakiceyes.OphthalmicSurgLasersImaging38:182-188,200710)安達京,白土城照,蕪城俊克ほか:アルゴンレーザートラベクロプラスティの10年の成績.日眼会誌98:374-378,199411)Schlozer-SchrehardtUM,KocaMR,NaumannGOetal:Pseudoexfoliationsyndrome.OcularmanifestationofasystemicdisorderArchOphthalmol110:1752-1756,1992***