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サプリメントサイエンス:アントシアニン(Anthocyanin)

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,200813930910-1810/08/\100/頁/JCLSアントシアニンを含むサプリメントアントシアニンを含むサプリメントとして,おもなものはビルベリー(ブルーベリーの一種)とカシスである.ビルベリーエキスにはシアニジン3-グルコシドなど約15種,カシスにはデルフィニジン3-ルチノシドなど4種のアントシアニンを含む.アントシアニンの構造式おもなアントシアニンの構造式を図1に示す.Glyと記したところに,グルコース,ガラクトースなどの単糖やルチノースなどの2糖が結合した配糖体になっている.アントシアニンの薬理作用,生理作用アントシアニンを経口摂取すると,代謝・抱合化を受けない未変化体で血中へ移行することが知られており,その血中濃度は108109M程度である1).血中へ吸収されたアントシアニンが,網膜,毛様体,房水などで血中濃度より高い濃度で検出されることが報告されている2).アントシアニンのなかでもカシスに含まれるルチノシド配糖体が,血中への滞留時間,眼球への移行性が他のアントシアニンよりも高いことが報告されている3).アントシアニンの生理作用は抗酸化作用が有名であり,眼科領域においても網膜色素上皮細胞での抗酸化作用が確認されている4).また,毛様体平滑筋において,エンドセリン-1による収縮に対する弛緩作用がアントシアニン濃度107108Mで確認されている5).この毛様体筋弛緩効果は他のフラボノイドには認められず,アントシアニン特有の効果と考えられる.アントシアニンのなかでもカシスに含まれるルチノシド配糖体が,毛様体筋弛緩効果が他のアントシアニンと比べて高いことが報告されている3).その作用機序は,エンドセリンBレセプターを刺激してNO(一酸化窒素)産生を介していると考えられている.なお,似たようなNO産生を介するメカニズムで血管平滑筋の拡張作用6),末梢血管抵抗低下作用7)が報告されており,循環系の改善作用が期待される.さらに,アントシアニンの1つであるシアニジン配糖体が,11-cisレチナールとオプシンからロドプシンへの再生を促進することがカエルの網膜桿体を用いた研究で明らかになっている8).なお,アントシアニンの生理作用として,体脂肪蓄積抑制作用9)や,レチノール結合蛋白質4の低下を介した2型糖尿病抑制作用10)が報告されている.1日必要量(最低必要量と,最適量の2つ)アントシアニンとして50mgを1日に摂取することが望ましい.過剰摂取による悪影響は出にくいと考えられる.(65)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑤監修=坪田一男5.アントシアニン(Anthocyanin)津田孝範*1大澤俊彦*2*1中部大学応用生物学部*2名古屋大学大学院生命農学研究科アントシアニンの機能は抗酸化作用,毛様体筋の弛緩作用,血流改善作用,ロドプシン再生促進作用などが報告されている.眼科領域の臨床試験としては,健常者の暗所での光覚閾値の改善,正視から中等度近視の若年成人者の屈折調節機能低下の軽減,正常眼圧緑内障者の6カ月間内服による視神経乳頭および乳頭周囲網膜の血流量の有意な増加が報告されている.OHOOHOGlyOHR2R1R1R2デルフィニジンOHOHシアニジンOHHマルビジンOCH3OCH3ラルゴニジンHHオニジンOCH3HチュニジンOHOCH3図1アントシアニンの構造式———————————————————————-Page21394あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008食品に含まれるアントシアニン量日本国内の食品中のデータはないが,米国で流通している食品中に含まれるアントシアニン量の比較を表1に示す9).おもにベリー類の果物に多く含まれ,米国人は1日に12.5mgを食事から摂取していると報告されている11).日本人はおそらく米国人より摂取量は少ないと考えられる.眼科的に必要量と眼科の応用アントシアニンの視覚改善効果は,「第二次大戦中の英軍パイロットがブルーベリージャムを食べると暗所での視力が改善した.」という逸話によって有名である.しかし,最近いくつかの検証実験が試みられている1214)が,いずれも有効性は見出されず,ビルベリーの暗視力改善効果を立証する報告はないと結論づけられている15).一方,カシスのアントシアニンを経口摂取して,暗所での光覚閾値を測定したところ,摂取量に用量依存的に光覚閾値が改善し16),アントシアニン50mg摂取群でプラセボ群との有意差が認められており,摂取量としては50mg/dayが適当と考えられる16).(66)また,正視から中等度近視の若年成人者を対象にして,カシスアントシアニン50mgの単回摂取により,2時間のコンピュータ作業負荷で誘発される屈折調節機能低下が軽減されることが報告されている17,18).さらに,弘前大学の緑内障外来において,正常眼圧緑内障者30名へ50mg/dayのカシスアントシアニンを6カ月間内服してもらった結果,視神経乳頭および乳頭周囲網膜の血流量が有意に増加したと報告されている19).内服期間後に視野障害の悪化した症例は1例もなかった.なお,網膜色素変性ラットへ,カシスアントシアニンを2週間投与したところ,網膜電図波形を若干改善し,補助的な効果が期待されている20).これらのことから,アントシアニンは眼科分野のサプリメントとしての可能性があると考えられ,その摂取量はアントシアニンとして50mg/dayが妥当な量であると考えられる.アントシアニンの体内動態から考えると,単糖の配糖体であるブルーベリー(ビルベリー)よりルチノシド配糖体を含むカシスのアントシアニンの効果が強い可能性がある.エビデンスレベルカシスB:リスクある人は摂取すべき.ブルーベリーC:どちらともいえない.文献1)MatsumotoH,InabaH,KishiMetal:Orallyadminis-tereddelphinidin-3-rutinosideandcyanidin-3-rutinosidearedirectlyabsorbedinratsandhumansandappearinbloodasintactforms.JAgricFoodChem49:1546-1551,20012)MatsumotoH,NakamuraY,IidaHetal:Comparativeassessmentofdistributionofblackcurrantanthocyaninsinrabbitandratoculartissues.ExpEyeRes83:348-356,20063)飯田博之,中村裕子,松本均:カシスおよびビルベリーアントシアニンの吸収性と有効性に関する比較検討.医学と薬学59:381-388,20084)MilburyPE,GrafB,Curran-CelentanoJMetal:Bilberry(Vacciniummyrtillus)anthocyaninsmodulatehemeoxy-genase-1andglutathioneS-transferase-piexpressioninARPE-19cells.InvestOphthalmolVisSci48:2343-2349,20075)MatsumotoH,KammKE,StullJTetal:Delphinidin-3-rutinosiderelaxesthebovineciliarysmoothmuscletroughactivationofETbreceptorandNO/cGMPpath-way.ExpEyeRes80:313-322,2005表1米国で流通している果物・野菜中のアントシアニン含量食品名品種アントシアニン総量(mg/100g新鮮重)リンゴフジ1.3レッドデリシャス17.0ブラックベリー245.0ブルーベリー栽培種386.6野生種486.5チェリー122.0チョークベリー1,480.0クランベリー140.0カシス476.0レッドカラント12.8エルダーベリー1,375.0ブドウレッドグレープ26.7コンコード120.1モモ4.8プラム19.0ブラックラズベリー687.0イチゴ21.2黒豆44.5茄子85.7赤キャベツ322.0赤レタス2.2赤タマネギ48.5赤ラディッシュ100.1———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081395(67)6)NakamuraY,MatsumotoH,TodokiK:Endothelium-dependentvasorelaxationinducedbyblackcurrantcon-centrateinratthoracicaorta.JpnJPharmacol89:29-35,20027)Iwasaki-KurashigeK,Loyaga-RendonRY,MatsumotoHetal:Possiblemediatorsinvolvedindecreasingperipher-alvascularresistancewithblackcurrantconcentrate(BC)inhind-limbperfusionmodeloftherat.VasculPharmacol44:215-223,20068)MatsumotoH,NakamuraY,HirayamaMetal:Thestim-ulatoryeectofcyanidinglycosidesontheregenerationofrhodopsin.JAgricFoodChem51:3560-3563,20039)TsudaT,HorioF,UchidaKetal:Dietarycyanidin3-O-b-D-glucoside-richpurplecorncolorpreventsobesi-tyandameliorateshyperglycemiainmice.JNutr133:2125-2130,200310)SasakiR,NishimuraN,HoshinoHetal:Cyanidin3-glu-cosideameliorateshyperglycemiaandinsulinsensitivityduetodownregulationofretinolbindingprotein4expres-sionindiabeticmice.BiochemPharmacol74:1619-1627,200711)WuX,BeecherGR,HoldenJM:Concentrationofantho-cyaninsincommonfoodintheUnitedStatesandEstima-tionofnormalconsumption.JAgricFoodChem54:4069-4075,200612)ZadokD,LevyY,GlovinskyY:Theeectofanthocyano-sidesinamultipleoraldoseonnightvision.Eye13:734-736,199913)LevyY,GlovinskyY:Theeectofanthocyanosidesonnightvision.Eye12:967-969,199814)MuthER,LaurentJM,JasperP:Theeectofbilberrynutritionalsupplementationonnightvisualacuityandcontrastsensitivity.AlternMedRev5:164-173,200015)CanterPH,ErnstE:AnthocyanosidesofVacciniummyr-tillus(bilberry)fornightvision─asystematicreviewofplacebo-controlledtrials.SurvOphthalmol49:38-50,200416)NakaishiH,MatsumotoH,TominagaSetal:EectsofblackcurrantanthocyanosidesintakeondarkadaptationandVDTwork-inducedtransientrefractivealternationinhealthyhumans.AlternMedRev5:553-562,200017)松本均,中村裕子,徳永隆久ほか:VDT作業時の調節機能低下へのカシスアントシアニン摂取の影響.あたらしい眼科23:129-133,200618)飯田博之,松本均,森藤雅史ほか:全身疲労負荷(24時間の覚醒)時の調節機能低下へのカシス摂取の影響.あたらしい眼科25:114-118,200819)大黒幾代,大黒浩,中沢満:正常眼圧緑内障患者におけるカシスアントシアニンの網膜血流に対する作用.弘前医学59:23-32,200720)大黒浩:網膜色素変性に対するあたらしい薬物治療の可能性.日眼会誌112:7-21,2007☆☆☆

眼感染アレルギー:春季カタルに対する新しい治療戦略

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,200813910910-1810/08/\100/頁/JCLS春季カタルの病態1)には,Ⅰ型アレルギーの遅発相(アレルゲンの曝露から1224時間にアレルギー炎症が起こる)の関与が考えられている.ヘルパーT細胞2型(Th2)が主体となり,結膜局所で産生され,涙液中に増加した各種サイトカインが関与して,眼局所でのアレルギー性炎症の増悪化が起こる.すなわち,結膜下組織の線維芽細胞の増殖が起こり,巨大な石垣状乳頭が形成される.また,結膜下の血管から局所に浸潤した好酸球は活性化され,涙液中の腫瘍壊死因子(TNF)-aやインターロイキン(IL-4)などのサイトカインにより好酸球遊走活性を有するサイトカイン,エオタキシンの角膜実質での産生が高まり,涙液を介して角膜に浸潤し,好酸球の脱顆粒により局所に放出されたECP(eosinophiliccationicprotein)やMBP(majorbasicprotein)といった組織障害性蛋白により角膜障害が形成される.季カタルの新しい治療薬免疫抑制点眼薬新しい免疫抑制点眼薬である0.1%シクロスポリン点眼薬と0.1%タクロリムス(FK506)点眼薬はいずれもカルシニューリン阻害薬である.強力なT細胞特異的免疫抑制作用,すなわち,T細胞の細胞質内におけるカルシニューリンの活性化を抑制し,引き続くNFAT(nuclearfactorofactivatedTcell)の核内への移行,サイトカインのmRNA転写を抑制し,T細胞からの各種サイトカインの産生を抑制し,アレルギー炎症を抑える(図12)).クロスポリン点眼薬0.1%シクロスポリン点眼薬(パピロックRミニ点眼液0.1%)は0.4mlのシングルユースの容器で,防腐剤は含まれていない.1回1本,1滴,1日3回点眼する.2006年1月から処方可能となったが,希少疾患用医薬品としての認可であり,その後,眼科専門医による使用と全症例を対象に使用成績調査が義務づけられ,現在,約1,000例の調査結果がまとまった.それによれば,抗アレルギー点眼薬,ステロイド点眼薬など今までの治療に0.1%シクロスポリン点眼薬を併用すると,約1カ月後には,眼痒感をはじめとする自覚症状の改善がみられている.1カ月後には,約30%の症例で,今まで用いていたステロイド点眼薬を中止することができ,また,高濃度のステロイド点眼薬の使用の割合が減ってい(63)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑩監修=木下茂大橋裕一10.春季カタルに対する新しい治療戦略高村悦子東京女子医科大学眼科春季カタルの治療には,抗アレルギー点眼薬とステロイドが用いられていたが,最近,免疫抑制点眼薬であるシクロスポリンとタクロリムスが処方可能となり,治療の選択肢が広がった.春季カタルには抗アレルギー点眼薬と免疫抑制点眼薬をベースに重症度に応じたステロイドの併用が有用である.シクロスポリンFK結合蛋白シクロフィリンタクロリムスT細胞抗原提示TCRチロシンリン酸化ZAP70PLCgRasMAPKKIP3Ca2+小胞体CN:カルシニューリン,CaM:カルモジュリンMARKCNCaMPPPPNFATNFATNFAT核mRNAIL-2遺伝子AP-1AP-1TCR図1タクロリムス・シクロスポリンのサイトカイン産生抑制作用シクロスポリンはシクロフィリンと,タクロリムスはFK結合蛋白と結合し,活性化カルシニューリンに結合することで不活化する.(文献2より)———————————————————————-Page21392あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008る.これらの結果から,春季カタルに対し,0.1%シクロスポリン点眼薬は,高濃度ステロイド点眼薬に比較し,効果の発現は緩徐だが,ステロイド点眼薬との併用で,重症な角結膜所見の改善が期待でき,症状がおちつけば,ステロイド点眼薬の減量や中止が期待できる点眼薬ということができる(図2).一方,輪部型の春季カタルに対しては,抗アレルギー点眼薬にシクロスポリン点眼薬を併用するだけで,ステロイド点眼薬を用いなくても短期間で輪部の所見が改善する.シクロスポリン点眼薬は高分子であり,眼内へはほとんど浸透しないため,全身への副作用はあまり心配する必要はないが,まれに,点眼中に角膜感染症を伴うことが報告されている.いずれもアトピー性皮膚炎合併例であり,ステロイド点眼薬も併用されている.アトピー性皮膚炎では顔面の皮膚に,細菌や単純ヘルペスウイルスの感染症が広がりやすく,同時に,角膜感染症を伴いやすいという特徴があり,免疫抑制点眼薬の直接的な副作用とは断定できない.いずれにせよ,眼感染症の合併が疑われた場合,1,2週間シクロスポリン点眼薬やステロイド点眼薬を中止し,感染症に対する治療を優先する必要がある.クロリムス点眼薬0.1%タクロリムス点眼薬は,5mlの点眼瓶に入っており,防腐剤は含有されている.1回1滴,1日2回点眼する.2008年5月に処方可能となり,現在使用成績調査中であるが,治験時の使用経験では,効果発現は約1週間と短期間である.0.1%タクロリムスは軟膏製剤による経皮吸収に比べれば低濃度とはいえ,点眼によっても血中濃度を軽度上昇させる場合がある.今後はより安全な使用法について検討されるであろう.(64)季カタルの治療春季カタルの治療を重症度別に考えてみると,重症例では,抗アレルギー点眼薬,ステロイド点眼薬,シクロスポリン点眼薬で治療を開始し,症状の改善に伴い,ステロイド点眼薬の濃度,点眼回数を漸減する(表1).抗アレルギー点眼薬と免疫抑制薬はできるだけ継続したほうがよい.効果不十分な場合は,ステロイドの投与ルートを瞼板下注射や内服に変更したり,乳頭切除などの外科的治療を併用したりする(表1).中等症,輪部型春季カタルでは,抗アレルギー点眼薬と免疫抑制点眼薬を併用し,効果不十分な場合にステロイド点眼薬を追加する.春季カタルは慢性,再発性の疾患であり,アレルギー炎症の長期の沈静化には,抗アレルギー点眼薬と免疫抑制点眼薬をできるだけ継続する.文献1)アレルギー結膜疾患診断ガイドライン編集委員会:アレルギー結膜疾患診断ガイドライン.日眼会誌110:99-140,20062)海老原伸行:カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン,タクロリムス)によって変わる春季カタルの治療.あたらしい眼科25:137-141,2008表1春季カタルの治療の実際重症抗アレルギー点眼薬+ステロイド点眼薬+免疫抑制点眼薬効果不十分な場合ステロイド薬内服,ステロイド瞼板下注射,外科的治療を追加中等症,輪部型春季カタル抗アレルギー点眼薬+免疫抑制点眼薬効果不十分な場合ステロイド点眼薬を追加寛解時の治療抗アレルギー点眼薬+免疫抑制点眼薬図2春季カタルに対する0.1%シクロスポリン点眼薬の効果抗アレルギー点眼薬,0.1%フルオロメトロン点眼薬では十分な改善が得られなかった(a)が,シクロスポリン点眼薬併用により2週間後には,乳頭の平坦化,充血の改善がみられた(b).a.0.1%シクロスポリン点眼薬使用前b.0.1%シクロスポリン点眼薬使用後

緑内障:正常眼圧緑内障の危険因子

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,200813890910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに開放隅角緑内障は慢性神経変性疾患であり,その進行のスピードが病気の重症度を決定しているといえる.よって進行を的確に判断し治療法にフィードバックをかけることがわれわれ眼科医の責務である.しかし,視野検査は自覚的検査であり,被検者は高齢者が多いことから,信頼ある視野検査を得るにもストレスを有するだけでなく,進行を判断するには数年間の年月を要する.そこで,緑内障患者の初診時に問診や既往歴,眼科検査における所見から危険因子を十分把握する努力が必要と思われる.正常眼圧緑内障有病の危険因子として,わが国では多治見スタディの結果から,眼圧,加齢,近視があげられる.一方,進行における危険因子の報告はこれまでわが国からはなく,CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroupから乳頭出血,片頭痛が重要であると報告された.こうして眼圧や加齢現象が緑内障有病,進行の危険因子であることはよく知られているので,本稿ではそれ以外の因子についての報告例を総括する.内障と有意に相関する遺伝子群最近の緑内障と相関する遺伝子の一塩基多形変異の報告を表1にまとめた.OPA1は家族性の視神経萎縮の原因遺伝子の一つとして報告され,最近緑内障との強い相関が報告されている1).軸索流に関与する遺伝子が緑内障と相関することは,緑内障の病態を考えるうえからも興味深い.その他,ApoE2)は動脈硬化やグリア細胞の恒常性維持に関与し,エンドセリン3)は血管収縮(血流低下)や慢性炎症に関与する.障乳頭周囲脈絡網膜萎縮(PPA)のベータ領域や乳頭出血は視野進行の危険因子である.疫学的には乳頭出血は眼圧低下治療が奏効しないといわれている4).他に緑内障有病者に静脈拍動がみられない患者が有意に多いこと,拍動がみられない緑内障はその乳頭陥凹が約2倍進行しやすいことなどが報告されている5).(61)●連載緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄100.正常眼圧緑内障の危険因子中澤徹東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座・眼科視覚学分野正常眼圧緑内障において眼圧,加齢,近視は重要な危険因子である.それ以外に片頭痛,線状出血,眼静脈の拍動,脳梗塞,心疾患の既往などが重要となる.緑内障に強く相関する遺伝子群は動脈硬化や視神経近傍の血流,グリア細胞の恒常性の維持,軸索流に関係するものが報告されている.正常眼圧緑内障に関与する危険因子を理解することは治療方針に参考となる.しかし,眼圧以外の要素に対しては格別の治療手段がないのが現状である.表1正常眼圧緑内障と関連が示唆された遺伝子異常遺伝子役割OPA1軸索流Methylenetetrahydrofolatereductase血管形成エンドセリン1血管収縮マイクログリアの活性化eNOS血管の維持ANP血圧ApoE動脈硬化グリア細胞の維持AB1傾斜乳頭をもつ緑内障患者の眼底写真A:非進行例(MDslope0.17dB/Y),B:進行例(1.44dB/Y).A,Bともに近視は4D程度,Aに比較しBは視神経乳頭が蒼白で耳側血管が退縮し,PPAが大きく虚血が強い.———————————————————————-Page21390あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008視日本人の5D以上の高度近視有病率は8.2%と白人の1%と比較すると異常に高いことが示された6).近視が緑内障危険因子とする報告は多数認められる.近視で緑内障を有病する人の多くが傾斜乳頭とその耳側に三日月状のPPAが認められる(図1).さらに進行した近視眼底の多くは,耳側色調が蒼白で,脈絡膜萎縮の強い症例が多い(図1).神経乳頭形状視神経乳頭を形状別に分類したところその進行率に差があったという報告がある7).彼らは視神経乳頭をノッチのあるFocal,傾斜乳頭であるMyopic,浅い乳頭陥(62)凹で乳頭周囲全周に脈絡膜萎縮のみられるSenilescle-rotic,全体的に深い陥凹を認めるGenralizedに分類したところ(図2),Focal,Generalizedの形状群で進行が高頻度に認められたと報告している7).乳頭形状により進行率が異なることは日常臨床においても助けになる報告である.まとめ日本では明らかに諸外国と緑内障の病型が異なり,正常眼圧緑内障が多いことが知られている.このことは日常診療でエビデンスとなる内容は,日本から発信された報告を基準に考えないといけないことを示している.自分のクリニックに訪れる人の緑内障有病や進行の危険因子をしっかり把握する努力は必要であると思われる.文献1)MabuchiF,TangS,KashiwagiKetal:TheOPA1genepolymorphismisassociatedwithnormaltensionandhightensionglaucoma.AmJOphthalmol143:125-130,20072)FanBJ,WangDY,FanDSetal:SNPsandinteractionanalysesofmyocilin,optineurin,andapolipoproteinEinprimaryopenangleglaucomapatients.MolVis11:625-631,20053)IshikawaK,FunayamaT,OhtakeYetal:AssociationbetweenglaucomaandgenepolymorphismofendothelintypeAreceptor.MolVis11:431-437,20054)AndersonDR,DranceSM,SchulzerM:Factorsthatpre-dictthebenetofloweringintraocularpressureinnormaltensionglaucoma.AmJOphthalmol136:820-829,20035)BalaratnasingamC,MorganWH,HazeltonMLetal:Valueofretinalveinpulsationcharacteristicsinpredictingincreasedopticdiscexcavation.BrJOphthalmol91:441-444,20076)SawadaA,TomidokoroA,AraieMetal:RefractiveerrorsinanelderlyJapanesepopulation:theTajimistudy.Ophthalmology115:363-370e363,20087)NicolelaMT,McCormickTA,DranceSMetal:Visualeldandopticdiscprogressioninpatientswithdierenttypesofopticdiscdamage:alongitudinalprospectivestudy.Ophthalmology110:2178-2184,2003ACBD2視神経の乳頭形状分類A:Focalischemicdisc,B:Generalizedenlargementoftheopticdisc,C:Myopicglaucomatousdisc,D:Senilesclerot-icdisc.☆☆☆

屈折矯正手術:屈折矯正手術の術式選択-アメリカの現状

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,200813870910-1810/08/\100/頁/JCLS屈折矯正手術分野においては,エキシマレーザー屈折矯正手術,特にlaserinsitukeratomileusis(LASIK)が術式のスタンダードになってから久しいが,屈折矯正手術の術式選択はその国の認可状況や保険制度などによって影響され,日本,アメリカ,ヨーロッパそれぞれに異なる.海外の学会では,白内障手術後の眼内レンズ(IOL)挿入は屈折矯正手術の一分野として扱われつつある.特に老視矯正IOL(調節IOL,多焦点IOL)は後述のアンケートでも屈折矯正手術の項目に入れられている.以下は2008年4月4日から9日まで行われたアメリカ白内障・屈折矯正手術学会(ASCRS)でDr.Leamingにより発表された2007年ASCRS会員アンケート結果(2005年8月に4,658名にアンケート配布,回収率15%,691名)などをもとに,アメリカの現状について紹介する.ただし,これはあくまでも一つのアンケートの結果1)であり,母集団に偏りがあることを念頭において参考にしていただきたい.折矯正手術の術式選択全体的な傾向をみると,LASIKなどのエキシマレーザー角膜屈折矯正手術が術式の主流であることには変わ(59)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載101監修=木下茂大橋裕一坪田一男101.屈折矯正手術の術式選択─アメリカの現状根岸一乃慶應義塾大学医学部眼科屈折矯正手術分野においては,laserinsitukeratomileusis(LASIK)が術式のスタンダードになってから久しいが,屈折矯正手術の術式選択はその国の認可状況や保険制度などによって影響され,日本,アメリカ,ヨーロッパそれぞれに異なる.2008年のアメリカ白内障・屈折矯正手術学会(ASCRS)で発表された2007年会員アンケート結果をもとに,アメリカの現状について紹介する.図1有水晶体眼内レンズa:VerisyseTM(AMO社),ヨーロッパではArtisanの名称.b:VisianICLTM(STARRSurgical社).(バプテスト眼科クリニック・稗田牧先生提供)ab図2フェムトセカンドレーザー(iFSTMAdvancedFemtosecondLaser,AMO社)———————————————————————-Page21388あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008りない.しかし毎年行われている「30歳の10Dの近視に対する術式として何を選ぶか」,という問いの回答はphakicIOL(36%),手術しないで待つ(25%),LASIK(22%)の順で,phakicIOLの割合が年々増加している.アメリカでは前房虹彩支持型のVerisyseTMや後房型のVisianICLTM(STARRSurgical社)がおもに用いられているphakicIOLである(図1).そのほかアルコン社の隅角支持型の前房レンズが治験中である.PhakicIOLは年々選択される割合が増加しているとはいえ1),白内障などの長期的な合併症の報告もあり2),全体的には一部の術者によって慎重に使用されているのが現状のようである.一方,「45歳の+3Dの遠視に対する術式選択」に対する回答は,LASIK(51%),Refractivlensexchang(21%),手術しないで待つ(17%)の順で過去5年と比較して大きな変化はなかった.LASIKフラップの作製機種に関する回答ではフェムトセカンドレーザー(図2)を使用する術者が年々増加している.輪分減張切開(limbalrelaxingincition:LRI)に関しては67%が白内障手術と同時に行っていると回答しており,日本よりはLRIを行う白内障術者の割合は高いものと推察される.視患者への対・多焦点IOL老視患者への外科的治療の選択肢をたずねたアンケート結果では,モノビジョン33%,モディファイドモノビジョン(0.51Dの左右差)23%,調節IOL(crys-talens)8%,レストア17%,リズーム10%で,conduc-tivekeratoplastyやその他の術式は5%未満であった.モノビジョンを選択する術者が1/3以上を占めるという事実は日本とは大きく異なる点であろう.日本でも昨年新しい多焦点IOLが承認され,先進医療としても可能になったが,日本での多焦点IOLのシェアは現在1%未満と推定されている.一方,多焦点IOLのアメリカにおけるシェアは10%程度であるとのマーケティング調査があり(いずれも非公式データ),現状では,もし多焦点IOLを使用しないとしても選択肢の一つとして説明することは訴訟対策上必要であると考えられている.日本は,比較的眼鏡の使用に寛容であり,アメリカほど嫌う人は少ないこと,日本では現状では費用が高額であることなどの社会背景から多焦点IOLのシェアは急激に増加することはないと考えられるが,徐々に普及してくれば,諸外国と同様に,選択肢の一つとして説明しないとトラブルになる可能性はでてくるであろう.文献1)LemaingDV:PracticestylesandpreferencesofU.S.ASCRSMembers-2007Survey.ASCRS2008,SanFrancisco2)ChenLJ,ChangYJ,KuoJCetal:Metaanalysisofcataractdevelopmentafterphakicintraocularlenssurgery.JCataractRefractSurg34:1181-1200,2008(60)☆☆☆

眼内レンズ:後房型有水晶体眼内レンズ挿入眼における白内障手術

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,200813850910-1810/08/\100/頁/JCLS後房型有水晶体眼内レンズ(phakicIOL)は,laserinsitukeratomileusis(LASIK)に比較して高い安全性・有効性だけでなく術後視機能の優位性が報告されている1).角膜創傷治癒反応も受けにくいため,予測精度・安定性もきわめて良好である.当初強度近視における屈折矯正方法として注目されていたが,中等度近視まで適応が拡大しつつある.また,新たな治療法として円錐角膜やLASIK,RK(radialkeratotomy)後の屈折異常に対する有用性も報告されている24).しかしながら,術後合併症として二次性白内障が問題点の一つとしてあげられる.通常前下白内障を生じる場合が多い(図1)が,核白内障を認めることもある.いずれも手術による直接的侵襲や房水の灌流不全による代謝障害が原因と考えられるが,発症機序についてはいまだ不明な点も多い.これまで高齢者,旧型レンズ(version2,3)使用例,後房型有水晶体眼内レンズ(implantablecollamerlens:ICLTM,STAARSurgical社)と水晶体の距離(vaulting)が短い症例ほど,術後白内障を発症しやすいことが報告されている5).今後普及が予想されるICLTMの予後を考えるうえで,白内障を発症した症例に対する管理も重要と考えられる.多くの場合,視機能に影響はなく経過観察を行うが,視機能が低下した場合は,phakicIOLの摘出だけでなく,超音波水晶体乳化吸引・眼内レンズ挿入術を同時に行う.耳側3.0mm角膜切開より粘弾性物質を入れ,近接する支持部を虹彩上へ移動した後,眼内レンズ鑷子を用いてレンズを摘出する.レンズの素材はcollagenとHEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)の共重合体であり,軟らかく厚みも薄いので,切開部位からの摘出は容易である(図2).その後,同一切開部位を用いて通常どおり超音波水晶体乳化吸引・眼内レンズ挿入を同時に行う6,7).(57)自験例による検討では,術前平均矯正視力が0.74であったのに対し,術後視力が1.15へと有意に改善した.予測精度は目標矯正度数に対して±0.5D以内の症例が80%,±1.0D以内が90%であった.現在の眼内レンズ度数の決定には,光学式超音波眼軸長測定装置(IOLMasterTM,CarlZeissMeditec社)により眼軸長,角膜屈折力を測定し,SRK-T式を使用している.Hoerら神谷和孝北里大学医学部眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎266.後房型有水晶体眼内レンズ挿入眼における白内障手術後房型有水晶体眼内レンズ(phakicIOL)の問題点として術後白内障があげられる.視機能が低下した場合は,耳側3.0mm角膜切開よりphakicIOLの摘出および超音波水晶体乳化吸引・眼内レンズ挿入術を同時に行う.手術自体の安全性・有効性は高く,予測精度も優れており,患者の満足度も良好であった.図1後房型phakicIOL挿入後に生じた前下白内障一般に視機能への影響は少なく経過観察を行うが,視力低下が著明であればphakicIOL摘出および白内障手術が必要となる.図2耳側3.0mm角膜切開部位からのphakicIOLの摘出ICLTMのcollamer素材は軟らかく厚みも薄いので,切開部位からの摘出は容易である.———————————————————————-Page2は,ICLTMのcollamer素材は眼軸長の測定において最も影響を受けにくく,測定誤差を生じにくいと報告している8).平均内皮細胞減少率は8.9%であり,網膜離を含めた重篤な術後合併症は全例認めていない.最も危惧される調節力の低下に関しては,平均発症年齢が47.2歳であり,比較的軽度であった.患者満足度も良好であり,実際には調節力の低下はあまり大きな問題となりにくいのかもしれない9).LASIK後のワーストシナリオとされる角膜拡張症(keratectasia)とは異なり,ICLTMは術後合併症に対する管理が比較的容易であり,患者・医師ともに不幸な転帰を迎えにくいと考えられる.文献1)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Comparisonoftoricimplantablecollamerlensimplantationandwave-front-guidedlaserinsitukeratomileusisforhighmyopicastigmatism.JCataractRefractSurg34:1687-1693,20082)KamiyaK,ShimizuK,AndoWetal:Phakictoricimplantablecollamerlensimplantationforthecorrectionofhighmyopicastigmatismineyeswithkeratoconus.JRefractSurg,inpress.3)KamiyaK,ShimizuK:Implantablecollamerlensimplan-tationforthecorrectionofhyperopiaafterradialkeratoto-my.JCataractRefractSurg34:1403-1404,20084)KamiyaK,ShimizuK,KomatsuM:Implantablecollamerlensimplantationandlimbalrelaxingincisionsforthecor-rectionofhyperopicastigmatismafterlaserinsituker-atomileusis.Cornea,inpress5)KamiyaK,ShimizuK,KomatsuM:Factorsaectingthevaultingafterimplantablecollamerimplantation.JRefractSurg,inpress6)BleckmannH,KeuchRJ:Resultsofcataractextractionafterimplantablecontactlensremoval.JCataractRefractSurg31:2329-2333,20057)MoralesAJ,ZadokD,TardioEetal:Outcomeofsimulta-neousphakicimplantablecontactlensremovalwithcata-ractextractionandpseudophakicintraocularlensimplan-tation.JCataractRefractSurg32:595-598,20068)HoerKJ:Ultrasoundaxiallengthmeasurementinbiphakiceyes.JCataractRefractSurg29:961-965,20039)KamiyaK,ShimizuK,AizawaDetal:Timecourseofaccommodationafterimplantablecollamerlensimplanta-tion.AmJOphthalmol,2008Aug7.[Epubaheadofprint]

コンタクトレンズ:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(2)

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,200813830910-1810/08/\100/頁/JCLS海外のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ市場1998年に世界で初めてのシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとしてCIBAVision社のNIGHT&DAYR(日本で発売されているO2オプティクスと同一製品)がメキシコで発売開始され,1999年にはスペインをはじめヨーロッパで展開,日本ではO2オプティクスとして2004年に発売された.Bausch&Lomb社のPureVisionRは1999年に欧米で発売開始され,日本では2007年に発売された.両レンズともに非常に酸素透過性が高いレンズであり,当初,海外では1カ月連続装用使い捨てとして普及した.しかし,すべてのシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用者が1カ月間の連続装用を継続することは事実上,困難であり,徐々に,終日装用して使用される割合が高くなっていった.このような状況のなかで,2004年1月にJohnson&Johnson社がACUVUERADVANCETMを2週間終日装用のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとして米国で発売開始した.その後,CIBAVision社がO2OPTIXTM(日本で発売されているO2オプティクスとは異なる製品)を2週間終日装用と1週間連続装用のカテゴリーで2004年6月にヨーロッパで発売開始し,2005年にはJohnson&Johnson社がACUVUEROASYSTMを2週間(55)終日装用というカテゴリーで,CooperVision社がbionityTMをヨーロッパで,それぞれ1カ月間終日装用というカテゴリーで発売開始した.このように海外ではシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズがすでに6製品(表1)発売され,急速な普及をしている.2007年,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは米国のソフトコンタクトレンズ市場の56%を占めた(図1).シリコーンハイドロゲル素材のコンタクトレンズは酸素透過性が高く,デザイン上,レンズ厚が厚くなってしまう乱視用(トーリック)コンタクトレンズで非常に有用性が高い.海外ではすでにJohnson&Johnson社のACUVUERADVANCETMforAstigmatism,Bausch&Lomb社のPureVisionRToricが発売されている.糸井素純道玄坂糸井眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純表1海外で発売されているシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズレンズ名NIGHT&DAYR(日本ではO2オプティクス)PureVisionRACUVUERADVANCETMO2OPTIXTMACUVUEROASYSTMbionityTM販売会社CIBAVisionBausch&LombVistakonCIBAVisionVistakonCooperVisionDk値*114010160110103128Dk/L値*217511086138147160含水率(%)243647333848装用方法1カ月間連続装用1カ月間終日装用1カ月間連続装用1カ月間終日装用2週間終日装用2週間終日装用1週間連続装用2週間終日装用1カ月間終日装用*1Dk:酸素透過係数〔Dk値単位=×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕.*2Dk/L:酸素透過率〔Dk値単位=×109(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕.■□:低含水性■□:中含水性■□:高含水性■□:シリコーンハイドロゲル13%13%19%56%図1米国のソフトコンタクトレンズ市場─素材による分類(2007年)———————————————————————-Page21384あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(00)CIBAVision社のO2OPTIXToricも限定的な市場であるが米国で発売されている.日本のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ市場日本では2004年10月にチバビジョン社がO2オプティクス(海外ではNIGHT&DAYRとして発売)を1カ月交換終日装用レンズのカテゴリーで発売開始した.2007年23月の調査では日本のソフトコンタクトレンズ市場の4.6%を占めているに過ぎなかった(図2).諸外国に比べて,シリコーンハイドロゲルレンズの市場拡大が遅い理由にはいくつか考えられるが,最も大きな理由は1カ月交換というカテゴリーであったと考える.ヨーロッパでは1カ月交換レンズのカテゴリーが圧倒的なシェアを占めていたが,日本では頻回(2週間)交換レンズがソフトコンタクトレンズ市場の47.3%,1日使い捨てレンズが37.6%であり,1カ月交換レンズは8.3%と一般的ではない(図3).このため1カ月交換レンズであるO2オプティクスは爆発的な普及が日本ではできなかったと考える.その後,2007年3月にジョンソン・エンド・ジョンソン社からアキュビューRアドバンスTMとアキュビューRオアシスTMが発売され,同年8月にはメニコン社から2ウィークプレミオが発売開始された.3種類のレンズともに2週間終日装用レンズのカテゴリーであり,装用感も既存のハイドロゲルコンタクトレンズに勝るとも劣らない.特にアキュビューRアドバンスTMとアキュビューRオアシスTMは発売当初から急速に市場に浸透している.また2008年2月からはジョンソン・エンド・ジョンソン社からアキュビューRオアシスTM乱視用が発売開始された.これらのレンズ以外にもボシュロム社のピュアビジョンとピュアビジョントーリックが1週間連続装用のカテゴリーとして発売されている.今後も,各社からシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの発売が計画されており,日本市場においても今後はシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの急激な市場拡大が予想される.17.162.216.14.6■■□:高含水性■□:中含水性■□:低含水性■■□:シリコーンハイドロゲル■□:1日使い捨て■□:2週間交換■□:不定期(従来型)■□:1カ月交換■□:3~6カ月交換■□:1年■□:1週間連続装用■:その他37.6%5.7%0.2%8.3%0.4%0.5%0.0%47.3%図2日本のソフトコンタクトレンズ市場(2007年23月)─素材による分類図3日本のソフトコンタクトレンズ市場(2007年23月)─カテゴリーによる分類本誌前号Vol.25,No.9の本セミナーp1247-表1中,“bio?nityTM”の装用方法の記述に誤りがありました.お詫び申しあげますと共に,下記に訂正いたします.[誤]10日間終日装用→[正]1カ月間終日装用〈お詫びと訂正〉《あたらしい眼科》編集部

写真:角膜移植後の上皮型拒絶反応

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.10,200813810910-1810/08/\100/頁/JCLS(53)中村隆宏京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学/同志社大学再生医療研究センター写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦293.角膜移植後の上皮型拒絶反応図2図1のシェーマ①:周辺部角膜に著明な結膜充血を認める.②:線状の上皮欠損部位.①②図1培養角膜上皮移植後の上皮型拒絶反応Stevens-Johnson症候群の症例.角膜周辺部の10時から2時の方向にかけて,培養角膜上皮移植シートを中心に強い結膜充血を認める.図4図1~3の症例の2年後の前眼部写真拒絶反応後に周辺部より,結膜の侵入が認められる.図3図1のフルオレセイン染色像結膜充血部位に一致して,線状の角膜上皮欠損が認められる.———————————————————————-Page21382あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(00)上皮型拒絶反応は,全層角膜移植,表層角膜移植,輪部移植術などの角膜移植後に生じるドナー角膜上皮に対するレシピエントのリンパ球が主体となった排除反応で,臨床的には移植角膜片表面の線状の角膜浮腫および浸潤性混濁(拒絶反応線:epithelialrejectionline)として認められる.上皮型拒絶反応の発症率は110%と報告に差があるが,通常3カ月前後に生じることが多いとされている1).拒絶反応線は,角膜周辺部から横断する形で進行し,通過した部分の角膜上皮は消失して,レシピエント上皮や結膜上皮に置き換わっており,フルオレセイン染色で,上皮の流れが観察できる.また,円状の拒絶反応線が角膜中央部に収束するように進行する場合もある.ただし,100%ホストの上皮に置換されているかどうかは不明の点もある.上皮型拒絶反応は,レシピエントがドナー角膜により感作された証拠であり,同時にあるいは引き続いて内皮型拒絶反応などが起こる可能性があるため,臨床的に注意を要する.難治性眼表面疾患(Stevens-Johnson症候群,熱化学外傷など)に対する輪部移植や培養上皮移植術などの角膜上皮移植後では,移植片を中心とした強い充血を認め,視力予後に大きく影響するため迅速に適切な治療を施す必要がある.治療としては,ステロイド薬が主流である.シクロスポリンなどの免疫抑制薬は効果発現までのタイムラグがあるため,急性期拒絶反応の治療としてはあまり有効ではない.基本はステロイド薬の頻回点眼であり,重症度によりこれに内服,点滴などを加える.筆者らの施設では,コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム(ソルメドロールR)125mgの点滴治療の有効性を確認している.文献1)ShapiroMB,MandelM,KrachmerJH:Rejection:clinicalforms,diagnosis,andtreatment.p394-398,Mosby,StLouis,1999

生体共焦点顕微鏡を用いた角膜疾患の研究

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS生体観察できるようになり,研究のみならず臨床にも応用されてきた1,2).筆者らはこれまでに,白色光(ハロゲンランプ)を光源とする生体共焦点角膜顕微鏡(Con-foscanR2,NIDEK社)を用いた角膜研究を行ってきた310).近年,レーザーを光源とする生体共焦点角膜顕微鏡(HRTIIロストック角膜モジュール,ハイデルベルグ社,ドイツ)が開発され,より高解像度の角膜・結膜の生体画像が得られるようになった11,12).本稿では,筆者らがこれまでに生体共焦点顕微鏡を使用して行った研究を中心に概観し,本装置の臨床的有用性について紹介する.I生体共焦点角膜顕微鏡の特徴コンフォスキャンR2は白色光(ハロゲンランプ)を光源とし,2枚のスリットが同期して作動する走査型生体共焦点顕微鏡である.約330×440μmの画像サイズでの角膜全層における前額断面画像を得ることができる.やや厚めの光学切片(被写界深度10μm)として観察されるため,解像度では後述するHRTIIロストック角膜モジュールに劣るが,実質内の神経の走行や内皮の描出能が優れている.一方,HRTIIロストック角膜モジュールでは光源として単一波長670nmのダイオードレーザーを用いているため散乱光が少なく,より鮮明で解像度の高い細胞レベルでの断面像を得ることが可能となった.その結果,角膜のみならず,結膜やマイボーム腺の観察も可能となった13).得られる画像のサイズは約400×400μmであり,薄い光学切片(被写界深度4μm)での観察が可能である14).はじめに共焦点顕微鏡は,厚みのある試料中の特定の面に焦点を合わせ,同時に焦点の合っていない上下の面からの余分な反射光を除外することで,一定の焦点面のみのコントラスト比の高い鮮明な画像を得ることができる.共焦点顕微鏡の角膜への応用は1990年代から始められ,角膜を構成する細胞層や神経線維が前額断面で非侵襲的に(45)1373ArKoys研究顕9208641131研究たい25(10):13731380,2008c第5回日本角膜学会学術奨励賞受賞記念講演生体共焦点顕微鏡を用いた角膜疾患の研究InVivoConfocalMicroscopyofCornea小林顕*総説共焦点顕微鏡の角膜への応用は1990年代から始められ,角膜を構成する細胞層や神経線維を短時間で非侵襲的に,しかもくり返して生体観察(invivobiopsy)することが可能となった.筆者らはこれまでに,白色光を光源とするスリット走査型生体共焦点顕微鏡を使用し,粉状角膜(corneafarinata),フランコイス(Francois)角膜ジストロフィなど,病理組織学的報告がきわめて少ない疾患を解析し,特徴的な生体病理組織所見を報告してきた.近年,波長670nmのダイオードレーザーを光源とする角膜専用生体レーザー共焦点顕微鏡が開発され,解像度の高い生体角膜前額断画像が得られるようになった.筆者らは,本装置を用いて正常ボウマン層,シールベンケ/ライスビュックラーボウマン層ジストロフィ,アベリノ/格子状/斑状角膜実質ジストロフィなどの生体病理組織所見について報告してきた.また,本装置は現在急増中のアカントアメーバ角膜炎の迅速診断において非常に有用であるなど,前眼部疾患の診断や治療効果を判定する補助手段に,あるいは眼表面疾患の自然経過などを観察する検査機器として有用であると思われる.キーワード:生体共焦点顕微鏡,invivobiopsy,角膜,ボウマン層,アカントアメーバ角膜炎,角膜ジストロフィ.要約———————————————————————-Page21374あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(46)II粉状角膜(corneafarinata)粉状角膜は角膜実質深層に微細な混濁を認める両眼性の稀な病態で,加齢性の変化と考えられている.通常視力低下をきたさないため,眼科受診時に偶然に発見されることが多い.粉状角膜に関する唯一の病理組織学的報告では,角膜実質に脂肪滴様の封入物を含む異常なケラトサイトを認めたという15).コンフォスキャンR2を用いた生体観察では,角膜実質深層のデスメ膜近傍のケラトサイト細胞質内に高輝度の小顆粒を全例に認め,病理組織学的報告と対応する所見が得られた(図1)4).IIIフランコイス角膜ジストロフィ(centralcloudydystrophyofFrancois)フランコイス角膜ジストロフィは,両眼の角膜中央部実質深層のレベルで,透明ラインに仕切られたモザイク状の淡い混濁をきたす非進行性の角膜ジストロフィ(図2A)で,1955年にJ.Francoisにより最初に報告された16).常染色体優性遺伝とされているが,孤発例もみられ,原因遺伝子は同定されていない.角膜上皮や内皮機能は正常である.通常視力障害はきたさないため,眼科受診時に偶然発見されることが多い.病理組織学的には,実質深層のコラーゲンラメラの波打ち状の変化や,上皮基底層・デスメ膜近傍への酸性ムコ多糖類の沈着が報告されている17).コンフォスキャンR2を用いた生体観察では,実質浅層とデスメ膜近傍の高輝度点状沈着物と,実質最深部の高輝度の背景の中に,低輝度のストリエを多数認め(図2B),これまでの病理組織所見と対応する生体組織所見が得られた5).IVボウマン層ジストロフィ1.シールベンケ角膜ジストロフィシールベンケ角膜ジストロフィは,1967年にThielとBehnkeにより,小児期から角膜上皮びらんをくり返す,ボウマン層レベルの蜂巣状角膜混濁をきたす角膜ジストロフィとして報告された疾患である(図3A)18).電子顕微鏡で角膜上皮下にcurlyberがみられるのが特徴とされる.ボウマン層ジストロフィの一つとして,CDB2型(cornealdystrophyofBowman’slayerandtheanteriorstroma,type2)として分類されている19).図1粉状角膜患者角膜のコンフォスキャンR2による観察実質深層のケラトサイト細胞質内に顆粒状高輝度物質の沈着を認めた(矢印).画像サイズ330×440μm.図2フランコイス角膜ジストロフィA:前眼部所見.透明ラインに仕切られたモザイク状の混濁を角膜中央部実質深層に認めた.B:A症例のコンフォスキャンR2による角膜生態観察所見.実質最深部のレベルにおいて,高輝度の背景の中に,低輝度のストリエを多数認めた.画像サイズ330×440μm.AB———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081375(47)Transforminggrowthfactorbeta-induced遺伝子(TGFBI)のR555Q変異で本ジストロフィが生じる.生体レーザー共焦点顕微鏡では,上皮基底層とボウマン層レベルに,低輝度のハローを伴う中輝度・非顆粒状陰影を認めた(図3B,C)20).2.ライスビュックラー角膜ジストロフィ(表在型顆粒状角膜ジストロフィ)TGFBI遺伝子のR124L変異で生じる稀な常染色体優性の角膜ボウマン層ジストロフィ(CDB1型)で,5歳頃から再発性の角膜びらんを生じ,地図状に細かい角膜混濁をきたす(図4A)2125).病理組織所見では,アミロイドの沈着はみられず,顆粒状角膜ジストロフィでみられるマッソン(Masson)トリクロム染色で赤色に染まるヒアリン様物質が上皮下に強くみられる.電子顕微鏡では,角膜上皮下にrodshapedbodyがみられるのが特徴とされる.生体レーザー共焦点顕微鏡所見は前述したシールベンケ角膜ジストロフィとまったく異なり,上皮基底層とボウマン層レベルに,ハローを伴わない高輝度・顆粒状陰影を認め,鑑別診断の際に参考となる(図4B,C)20).V角膜実質ジストロフィ1.アベリノ角膜ジストロフィアベリノ角膜ジストロフィは顆粒状角膜ジストロフィと格子状角膜ジストロフィの両者の特徴を有する角膜実質ジストロフィとして,1992年に提唱された疾患で,顆粒状の角膜混濁とともに,実質中層に白色の線状,星状,刺状,雪の結晶状の混濁など,多彩な角膜所見を認める(図5A)26).この常染色体優性の角膜ジストロフィはTGFBI遺伝子のR124H変異によって生じる.生体ABC4ライスビュックラー角膜ジストロフィ(TGFBIR124Lヘテロ遺伝子変異)A:前眼部写真.ボウマン層のレベルに,地図状角膜混濁を認めた.B:レーザー共焦点顕微鏡による生体観察では,上皮基底層とボウマン層レベルに,ハローを伴わない高輝度・顆粒状陰影を認めた.C:ボウマン層は高輝度陰影を示す沈着物で置換されていた.画像サイズ400×400μm.ABC3シールベンケ角膜ジストロフィ(TGFBIR555Qヘテロ遺伝子変異)A:前眼部写真.ボウマン層のレベルに,蜂巣状角膜混濁を認めた.B:レーザー共焦点顕微鏡による生体観察では,上皮基底層とボウマン層レベルに,低輝度のハローを伴う中輝度・非顆粒状陰影を認めた.C:ボウマン層は中輝度陰影を示す沈着物で置換されていた.画像サイズ400×400μm.———————————————————————-Page41376あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(48)レーザー共焦点顕微鏡では,病理組織に対応したさまざまな大きさの,辺縁不整な高輝度陰影が実質に散在して認められる(図5B)27).2.格子状角膜ジストロフィ格子状角膜ジストロフィは角膜実質に半透明の線状または糸状の混濁が生じる遺伝性疾患であり,原因遺伝子の違いによりいくつかのサブタイプが知られている.格子状角膜ジストロフィの多くはⅠ型であり,TGFBIR124C変異が原因とされている(図5C)28).レーザー共焦点顕微鏡では,実質浅層・中層に枝分かれした線状・糸状・サンゴ礁様の高輝度陰影が認められ,病理組織所見との対応が確認された(図5D)27).3.斑状角膜ジストロフィ斑状角膜ジストロフィは常染色体劣性の遺伝性疾患であり,角膜実質全層の多発性斑状混濁とびまん性混濁を特徴とする疾患である(図5E).硫酸転移酵素(carbo-hydratesulfotransferase6:CHST6)の遺伝子変異により生じる29).レーザー共焦点顕微鏡では,実質は均一に高輝度を呈しており,低輝度のストリエ様陰影を同時に認めた(図5F)27).AB5A,Bアベリノ角膜ジストロフィ(TGFBIR124H)A:前眼部所見.さまざまな大きさの,辺縁不整な高輝度陰影が実質に散在して認められた.B:生体レーザー共焦点顕微鏡では,病理組織に対応したさまざまな大きさの,辺縁不整な高輝度陰影が実質に散在して認められた.画像サイズ400×400μm.CD5C,D格子状角膜ジストロフィ(TGFBIR124C)C:前眼部所見.角膜中央部の実質混濁と半透明の線状または糸状の混濁を認めた.D:レーザー共焦点顕微鏡では,実質浅層・中層に枝分かれした線状・糸状・サンゴ礁様の高輝度陰影が認められた.画像サイズ400×400μm.EF5E,F斑状角膜ジストロフィ(CHST6A217T)E:前眼部所見.角膜実質全層の多発性斑状混濁とびまん性混濁を認めた.F:レーザー共焦点顕微鏡では,実質は均一に高輝度を呈しており,低輝度のストリエ様陰影も同時に認めた.画像サイズ400×400μm.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081377(49)VIアカントアメーバ角膜炎アカントアメーバ角膜炎はコンタクトレンズ装用者に多くみられる難治性の角膜炎であり(図6A)3032),近年若年者を中心に大変な増加傾向が認められる.本症はしばしばヘルペスと誤診され,抗生物質やゾビラックス,ステロイドなどの治療に抵抗するためいくつかの眼科を転医し,経過が長いことが多い.発症初期での診断・治療開始は視力予後に関係するため,早期発見が何より重要である.生体共焦点顕微鏡の最大の眼科臨床的価値は,アカントアメーバ角膜炎の迅速初期診断にあると考えている33).レーザー生体共焦点顕微鏡を用いることにより,アカントアメーバのシストは直径1020μmの円形高輝度物質として上皮内に観察される(図6B).従来は,アカントアメーバの疑いが濃厚である場合に初めて上皮の掻破,鏡検などの侵襲的な検査を行っており,早期診断の機会を逃す場合もみられた.その点,生体共焦点顕微鏡は非侵襲的な検査であるため,本症の疑い例には躊躇なくただちに施行できる利点がある.筆者らは,角膜内におけるアメーバシストの観察(invivoobservation)に加えて,アメーバ生食培地で培養したアメーバシストもレーザー共焦点顕微鏡で観察(exvivoobservation)した.その結果,生体の角膜上皮内では円形に観察されることが多いシストが,培養液中ではより自然な金平糖状の形態をしておりクラスターを形成する傾向にあることを報告した(図6C).VIIKstructureの発見ボウマン層と角膜実質の境界面領域には,角膜上皮下神経より若干輝度の低い線維状の不定形構造物が認められ(図7),網目状のネットワークを形成しているように思われる.この構造物は上皮下神経叢よりわずかに実質側に位置しており,幅は515μm程度である.本構造物は,筆者らが調べたすべての健常人(男性10人,女性9人,平均年齢46.2±21.7歳,1877歳)において観察され,角膜中央部と同様に,周辺部角膜でも確認できた34).従来の白色光源生体共焦点顕微鏡(コンフォスABC62週間交換ソフトコンタクトレンズ使用中の19歳男性の初診時A:前眼部写真.上皮下混濁と多くの放射状角膜神経炎を認めた.B:レーザー共焦点顕微鏡による観察では,上皮基底層のレベルに,円形(直径1020μm)で高輝度の物質を多数確認でき,アカントアメーバのシストと思われた.画像サイズ400×400μm.C:アカントアメーバシストのexvivoレーザー共焦点顕微鏡所見.同一症例の角膜より得られた検体をアメーバ培地で培養し,レーザー共焦点顕微鏡で観察した.シストはクラスターを形成し,直径1020μmの高輝度星状物質(stel-late-shapedparticles)として観察された.画像サイズ400×400μm.図7ボウマン層と角膜実質の境界面領域に観察された角膜実質のコラーゲン線維の終末部と考えられる構造(白矢印)(K-structure)黒矢印は上皮下神経を示す.———————————————————————-Page61378あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(50)キャンR2)では同定が不可能であり,レーザー生体共焦点顕微鏡にて初めて可視化に成功した.これまでに報告のない構造物のため,筆者らはKobayashi-structure(K-structure)と命名した34).また,顕微鏡先端部のカバー(トモキャップR)を用いて角膜に軽く圧迫を加えながら角膜を観察することにより,本構造物に一致した隆起(ridge)を角膜上皮基底層レベルにおいて確認できる.この隆起は,直下に観察されるK-structureの方向に完全に一致しており,K-structureとの強い関連性が示唆された.過去において,TripathiとBronらは,角膜を圧迫する際(ゴールドマン眼圧計などでの圧平時)に角膜上皮基底層レベルにおいて観察される隆起と角膜フルオレセインモザイク(フルオレセイン存在下で眼瞼の上から角膜を軽くマッサージすると出現する)との関係に興味をもち,角膜実質表層コラーゲン線維がボウマン層実質側に融合しているという解剖学的な構造が角膜フルオレセインモザイクの発生原因であると結論した35).これら過去の報告やK-structureの解剖学的な位置などから,本構造物は角膜実質コラーゲン線維終末部の前額断面の所見であると推測した34).なお,K-struc-tureはボウマン層ジストロフィ(シールベンケ角膜ジストロフィ,ライスビュックラース角膜ジストロフィ)においては消失していた20).さらに,角膜屈折矯正手術後において,ボウマン層が温存されるlaserinsituker-atomileusis後にはK-strucrureは観察されるが,ボウマン層が破壊されるepipolislaserinsitukeratomileu-sis後にはK-structureは消失していた(unpublishedobservation).また,ボウマン層が存在しないとされるブタやウサギ角膜を本装置で観察したところ,K-struc-tureは確認できなかった(unpublishedobservation).これらの事実は,ボウマン層とK-structureの強い関連性を示唆する所見であり,K-structureはボウマン層の健常性の指標として有用かもしれない.なお,K-struc-tureの広範囲マッピングを使用した最近の筆者らの研究では,K-structureは角膜フルオレセインモザイク発生の解剖学的原因であることが強く示唆されるデータを得ている36).おわりに生体共焦点顕微鏡を用いることにより,短時間で非侵襲的に,しかもくり返して経時的な角結膜の生体観察(invivobiopsy)を行うことが可能となった.コンフォスキャンでは,光学切片が厚いため,実質内の神経の走行や内皮の描出に適している.一方,HRTIIロストック角膜モジュールは高解像度であり,より詳細な細胞レベルの画像が得られるようになった.その結果,本稿で述べたような,これまでに報告のない構造物を可視化することに成功した.また臨床面においては,現在急増中のアカントアメーバ角膜炎の迅速診断において非常に有用であるなど,前眼部疾患の診断や治療効果を判定する補助手段に,あるいは眼表面疾患の自然経過などを観察する検査機器として有用であると思われる.画像解像度のさらなる上昇や,広範囲スキャンを可能にするソフトウェアの開発,3次元画像の作成を容易にするソフトウェアの搭載など,今後の発展が期待される.謝辞:稿を終えるにあたり,受賞講演の機会を与えてくださいました学術奨励賞選考委員各位,角膜学会理事長西田輝夫教授,第32回日本角膜学会会長天野史郎准教授に心より感謝申し上げます.また,研究のご指導を賜りました金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学の杉山和久教授,研究に協力していただいた金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学の横川英明先生,吉田都是先生,井尻茂之先生と外来スタッフに深謝いたします.文献1)CavanaghHD,PetrollWM,AlizadehHetal:Clinicalanddiagnosticuseofinvivoconfocalmicroscopyinpatientswithcornealdisease.Ophthalmology100:1444-1454,19932)KaufmanSC,MuschDC,BelinMWetal:Confocalmicroscopy:areportbytheAmericanAcademyofOph-thalmology.Ophthalmology111:396-406,20043)KobayashiA,SugiyamaK:InvivocornealconfocalmicroscopicndingsofpalisadesofVogtanditsunderly-inglimbalstroma.Cornea24:435-437,20054)KobayashiA,OhkuboS,TagawaSetal:Invivoconfocalmicroscopyinthepatientwithcorneafarinata.Cornea22:578-581,20035)KobayashiA,SugiyamaK,HuangAJ:InvivoconfocalmicroscopyinpatientswithcentralcloudydystrophyofFrancois.ArchOphthalmol122:1676-1679,20046)KobayashiA,MaedaA,SugiyamaK:In-vivoconfocalmicroscopyintheacutephaseofcornealinammation.OphthalmicSurgLasersImaging34:433-436,20037)KobayashiA,SakuraiM,ShiraoYetal:In-vivoconfocalmicroscopyandgenotypingofafamilywithThiel-Behnke(Honeycomb)cornealdystrophy.ArchOphthalmol121:1498-1499,20038)KobayashiA,YoshitaT,SugiyamaK:White-lightandlaserconfocalmicroscopicndingsofrabbitconjunctiva.OphthalmicSurgLasersImaging35:146-148,20049)KobayashiA,YoshitaT,SugiyamaK:Invivolaserandwhite-lightconfocalmicroscopicndingsofhumancon-junctiva.OphthalmicSurgLasersImaging35:482-484,2004———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081379(51)10)KobayashiA,SugiyamaK:Invivoconfocalmicroscopyinapatientwithkeratopigmentation(cornealtatooing).Cornea24:238-240,200511)StaveJ,ZinserG,GrummerGetal:ModiedHeidelbergRetinalTomographHRT.Initialresultsofinvivopresen-tationofcornealstructures.[DermodizierteHeidelberg-Retina-TomographHRT.Ersteergebnisseeinerin-vivo-darstellungvonkornealenstrukturen]Ophthalmologe99:276-280,200212)ZhivovA,StachsO,KraakRetal:Invivoconfocalmicroscopyoftheocularsurface.TheOcularSurface4:81-93,200613)KobayashiA,YoshitaT,SugiyamaK:Invivondingsofbulbar/palpebralconjunctivaandpresumedmeibomianglandbylaserscanningconfocalmicroscopy.Cornea24:985-988,200514)HeidelbergRetinaTomograph2(RostockCorneaModule)OperatingInstructionsofSoftwareVersion1.1.Dossen-heim,Germany,200415)DurandL,BouvierR,BurillonCetal:Corneafarinata.Reportofacase:clinical,histologicandultrastructuralstudy.JFrOphtalmol13:449-455,199016)F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極小切開硝子体手術:黄斑部以外

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS切開など創口の閉鎖率が改善されたため,低眼圧の発生頻度も低下し,周辺部の硝子体まで圧迫しても安定した創口の閉鎖が可能になった.そのため,さらにMIVSに対する手術適応が広がっている.I増殖糖尿病網膜症MIVSではトロッカーカニューラシステムを用いているため,使用できる器具に制限がある.特に増殖糖尿病網膜症では増殖膜処理に用いる水平剪刀がカニューラを通して挿入できず,当初は増殖膜処理が困難であるため重症例ではMIVSが適応外と考えられてきた.挿入できるのはカーブ剪刀であるが,先端の曲がり角に制限があり,網膜の面に対して剪刀の方向が垂直になってしまいやすく,水平剪刀のように網膜面に対して接線方向での操作がむずかしい(図1).特に器具を挿入する対側の操作であれば網膜面に対して接線方向での操作が可能だが,器具を挿入した手元の操作となれば剪刀の先端しか増殖膜に接触せず,増殖膜の分層(delamination)はますます困難となる.しかし,xenon光源によるシャンデリア照明が進歩して,増殖膜を器具の切除しやすい方向に誘導できるようになり,増殖膜処理が行いやすくなっている(図2).また23G硝子体カッターは先端から開口部までの距離が短くなっているため,増殖膜と網膜の間に硝子体カッターを挿入でき,硝子体カッターだけで膜操作が行えるようになった(図3).この術式は硝子体カッターを用いたmembranectomyとして新しい術式はじめに白内障手術において小切開手術(micro-incisioncata-ractsurgery:MICS)が進歩するなかで,硝子体手術においても小切開手術(microincisionvitrectomysur-gery:MIVS)が広がっている.それは,2002年にFujiiら1)が経結膜的強膜創にカニューラを設置する25ゲージ(以下,25G)硝子体手術システムを開発して幕開けした.その手術システムは小切開かつ経結膜的無縫合硝子体手術が可能で,当初は黄斑疾患にのみ限定された術式であった.現在ではその有用性から,徐々にその適応を拡大してさまざまな疾患に施行されている.25G硝子体手術システムでは器具の口径が0.5mmであり,器具のしなりや脆弱性が問題であった.しかし,器具の剛性も改良によってかなり改善されている.さらに23G硝子体手術システム(口径約0.7mm)も加わり,MIVSでの選択肢が増え,ますます広がりつつある.25G硝子体手術や23G硝子体手術では強膜創の作製にトロッカーとカニューラを用いる.カニューラを設置することで,術中の器具の出し入れによる強膜創に硝子体が嵌頓して生じる強膜創近傍の医原性網膜裂孔が発生しにくくなる.このことは黄斑手術においてというより,器具の出し入れがより多い疾患に対して有用であると考えられる.小切開硝子体手術は周辺部硝子体を残して創口に硝子体を嵌頓させて創口を閉鎖する術式であり,術直後に生じる低眼圧はMIVSでの一つの合併症であった.斜め(39)1367MaotoInoe::1806202部特集●極小切開硝子体手術あたらしい眼科25(10):13671371,2008極小切開硝子体手術:黄斑部以外MicroincisionVitrectomyinNon-MacularSurgery井上真*———————————————————————-Page21368あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(40)創血管新生とよばれていた(図5).これは強膜創に線維血管増殖を生じて,それが収縮することで周辺部の網膜離を生じさせたり再発性の硝子体出血を起こしたりする病態で,重症例での術後予後が不良である原因とされてきた.この強膜創血管新生は,糖尿病網膜症以外の症例でも強膜創の創傷治癒過程で生じ,一過性で自然消失するbrousingrowthと異なり,強膜創に嵌頓した硝子体を基盤に強膜創から硝子体基底部に沿って輪状の線維性血管増殖に発展するため,予後不良であった2).前部硝子体線維血管増殖(anteriorhyaloidsbrovascularproliferation:AHFVP)は硝子体手術のあるなしにかかに発展しているため,剪刀を使用する頻度が減少していることも事実である(図4).最近広がっている増殖糖尿病網膜症への抗血管内皮細胞増殖因子(vascularendo-thelialgrowthfactor:VEGF)抗体であるベバシズマブ(アバスチンR)の硝子体内投与により,術前に新生血管の活動性を低下できるようになった.これによる術中の出血も少なくなるため,硝子体カッターのmembranec-tomyのみで増殖膜処理ができる症例が増加している要因にもなっている.また術後に投与して術後の重症化を予防できる可能性もある.糖尿病網膜症においては術後に強膜創に関連した合併症が問題となっていた.硝子体手術後に強膜創に嵌頓した硝子体を足場に眼内に向かって血管新生が生じ,強膜図4硝子体カッターでのmembranectomy23G硝子体カッターの先端を増殖膜の下に滑らせて切除を行っている.図2双手法での増殖膜処理23G鉗子と23Gカーブ剪刀で増殖組織を切除している.25G23G20G増殖膜網膜図3硝子体カッターの比較MIVSでの硝子体カッターは先端から開口部までの距離が短いが,23G硝子体カッターでは特に短い.図1カーブ剪刀での増殖膜切除増殖糖尿病網膜症の増殖組織を23Gカーブ剪刀で切除している.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081369(41)は糖尿病網膜症でMIVSを使用すると強膜創に嵌頓した硝子体を足がかりに,より強膜創血管新生が発症するのではと危惧されていた.しかし,創口が小さいためかMIVSによる強膜創の新生血管増殖はあまり生じないようである.術後の再出血の頻度を比較した検討では20G手術とMIVSでは差がないようではあるが,自験例ではMIVSの術後に著しい強膜創血管新生を経験していない.同時期に広がった増殖糖尿病網膜症への抗VEGF抗体であるアバスチンRの硝子体内投与で重症例では術前に新生血管の活動性を低下できるようになったり4),術後に投与して重症化を予防できるようになったことも要因の一つである可能性はある.創口が小さいため強膜創での血管新生を予防できている可能性も高いが20Gの1mmの切開と23Gの0.7mm切開,25Gでの0.5mm切開と著しく発生率が異なることは考えにくい.MIVSではカニューラシステムを用いていて手術中の強膜創にかかるストレスが少ないため強膜創周囲の色素上皮細胞,ひいては線維芽細胞を刺激しないように眼内操作ができていることが誘因である可能性はある.II裂孔原性網膜離網膜離手術で重要なことは,硝子体をできるだけ切除して網膜への硝子体牽引を除去することである.小切開硝子体手術であっても強膜圧迫するか,wideeldviewingsystemを用いて最周辺部まで十分に硝子体を切除して硝子体牽引を除去しなければならない.MIVSでは結膜を展開していないため,通常のプリズムコンタクトレンズでは赤道部より前方に死角ができてしまうとわらず,前部硝子体膜に沿って線維血管増殖が起こり,同様に周辺部網膜離や再発性硝子体出血を起こして予後不良の因子になる3).AHFVPは硝子体手術が要因となる強膜創血管新生とは異なった病態であるが,網膜周辺部での虚血が生じている点では共通している.強膜創血管新生は20G硝子体手術での報告であり,強膜創を縫合しても硝子体の嵌頓が避けられないこと,または強膜創を縫合する縫合糸が刺激しているなどの説があった.小切開硝子体手術では経結膜無縫合手術であり,強膜創に硝子体が嵌頓して創口が閉鎖されると報告されている.実際UBM(ultrasoundbiomicriscope)を用いた検討でも強膜創に嵌頓した硝子体が観察されている.当初図5硝子体手術後の再出血に対する手術所見スリット光で観察すると強膜創での血管新生(白矢印)による硝子体出血と考えられた.プリズムコンタクトレンズWideeldviewingsystem死角になりやすい図6プリズムコンタクトレンズとwideeldviewingsystemの視野プリズムコンタクトレンズでの眼底観察では最周辺部の後方が死角になりやすい.———————————————————————-Page41370あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(42)網膜下に流入してさらに胞状の離になることがある.しかし,25G手術では灌流量が少ないため灌流液の勢いで網膜下に流入することはない.同様に25G手術では胞状に離した網膜が創口に嵌頓することはほとんどないが,23G手術の場合には眼内灌流量も20G手術と差がないため,こまめにプラグを挿入するか眼内灌流圧を少し下げるなどの注意が必要である.23G手術での胞状の網膜離に対する手術の場合は20G手術と同様に後極に少量の液体パーフルオロカーボンを注入しておくと網膜の挙動が少なくなる.また,MIVSではトロッカーカニューラシステムを用いているために術中に強膜創に硝子体が嵌頓しづらい(図8).このことは術中に強膜創に嵌頓した硝子体によって離した網膜が牽引されたり,網膜離が胞状離にならないようにする予防に役立っている.いう問題がある.これはwideeldviewingsystemを用いれば対処可能である(図6).結膜が浅くプリズムコンタクトレンズを用いた周辺部圧迫では制限がある場合には特に有用である.MIVSでの網膜離手術も通常の方法と同様に,まず網膜裂孔周囲の硝子体牽引を除去すると胞状の網膜離がゆっくり下がってくる(図7).MIVSでは眼内灌流量も少ないため,離した網膜の挙動が少ないといった利点もある.たとえば,20G手術ではインフュージョンの対側に網膜裂孔があれば,灌流液が網膜裂孔を通って図7MIVSでの網膜離手術網膜裂孔への硝子体牽引を早めに除去すると網膜離が少しずつ下がり,網膜が復位してくる.カニューラありカニューラなし強膜強膜硝子体硝子体図8トロッカーシステムと硝子体嵌頓トロッカーカニューラシステムを用いているため,術中に強膜創に硝子体が嵌頓しにくい.図9液体パーフルオロカーボン下での光凝固パーフルオロカーボン下(矢印)で網膜を復位させ,強膜を圧迫して手術顕微鏡による直視下で周辺部網膜裂孔(矢頭)への光凝固を行う.図10ライト付き同軸レーザープローブによる光凝固ライト付き同軸レーザープローブを挿入し強膜を圧迫して網膜裂孔(矢印)に光凝固を行っている.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081371(43)ときに数回の手術を行っていれば結膜の癒着が強く,結膜を展開して強膜創を作製しづらい症例にも遭遇する.その場合には結膜を展開せず,経結膜で強膜創を作製するMIVSで治療を行うほうが簡便である場合もある.しかし術後の感染が問題となるので強膜創は結膜と一緒に縫合したほうがよい.シリコーンオイル注入後においても1針縫合を追加する.文献1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-guageinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessvitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1812,20022)池田恒彦,田野保雄,前田直之ほか:増殖糖尿病網膜症の硝子体手術後の再増殖─特に強膜創血管新生について.眼科手術4:111-114,19913)LewisH,AbramsGW,WilliamGA:Anteriorhyaloidbrovascularproliferationafterdiabeticvitrectomy.AmJOphthalmol104:607-613,19874)ChenE,ParkCH:Useofintravitrealbevacizumabasapreoperativeadjunctfortractionalretinaldetachmentrepairinsevereproliferativediabeticretinopathy.Retina26:699-700,2006網膜離手術で重要なことは網膜裂孔への十分な術中光凝固である.MIVSではレーザースポット径が20Gよりもやや小さくはなるが,レーザーファイバー自体にレーザー光を集光させて,眼内では広げることにより25Gであっても十分なスポットサイズが得られるようになっている.光凝固の方法は後極の裂孔であれば液-空気置換後に光凝固を行うが,周辺部裂孔の場合は液体パーフルオロカーボンを裂孔の高さを越えて注入して液体パーフルオロカーボン下で網膜が復位した状態で光凝固を行う(図9).また,液-空気置換を行いシャンデリア照明下で光凝固を行う方法,助手に強膜を圧迫してもらい光凝固を行う方法,ライト付きの同軸レーザープローブで光凝固を行う方法などがある(図10).シャンデリア照明は空気灌流下では先端が発熱する報告もあり,空気灌流下では照度を少し落とすようにしている.アトピー性皮膚炎に伴う網膜離は網膜最周辺部に原因裂孔が存在するため強膜バックリング手術が基本ではあるが,ときとして後極裂孔を伴ったり,増殖硝子体網膜症を合併した場合には硝子体手術が必要になる.この

極小切開硝子体手術の実際:黄斑疾患

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSI黄斑疾患1.黄斑疾患とMIVS増殖糖尿病網膜症や増殖硝子体網膜症と比べて黄斑上膜(ERM),黄斑円孔(MH)などの黄斑疾患は硝子体手術のなかでは合併症が比較的少なく安定した結果が得られる疾患群であり,それだけに患者の期待度も高く,最終視力のみならず,早期からの視力改善や異物感の軽減,早期退院などと要求も多い.そういった要求に応えるためにも結膜への侵襲が少ないMIVSは非常に理にかなったものである.2.20G手術との違い手術を行うにあたって従来の20Gシステムとの違いはなんといっても器具の剛性の違いである.黄斑疾患の場合は周辺部硝子体の完全な郭清までは必要としないため硝子体カッターの性能はそれほど手術に影響しないが,ERMの膜離や内境界膜(ILM)離は鉗子で行うため,従来の20Gシステムに慣れている術者は最初はMIVSの鉗子,とりわけ25Gシステムでは剛性が低く戸惑うこともあるかもしれない.しかしながら徐々に慣れてゆくのでほとんど20Gの鉗子と遜色なく操作を行うことが可能になる.ところが25Gシステムでは従来の20Gシステムのように眼球を両手に持った眼内照明と硝子体カッターでコントロールすることはむずかしく,考え方を改めMIVSではできるだけ両手のポートはじめに今でこそ極小切開硝子体手術(microincisionvitrec-tomysurgery:MIVS)において強膜創は斜め切り(obliqueincision)1)による自己閉鎖が常識となっているが,当初MIVSが紹介された手技では25ゲージ(G)のトロッカーを経結膜的に強膜に垂直に刺入し,周辺部硝子体を残すことによって自己閉鎖させるように考案されたものであった2).つまり,MIVSは周辺部硝子体を郭清しなくてよい黄斑疾患しか適応でないと考えられていた.さらには慣れない繊細な25Gの器具では従来の20Gほど安定して強膜圧迫などの操作が行いにくいこともそういった考えを定着させることになった.しかしながら,現在では裂孔原性網膜離や増殖糖尿病網膜症などほとんどすべての疾患にMIVSは対応可能となり,必ずしも経結膜手術にこだわらなくともトロッカーを使うことによる強膜への侵襲の低下や硝子体創口への嵌頓の減少,25Gや23Gの小口径硝子体カッターを使うことによる増殖膜処理時の有効性などMIVSの有効性の評価はさまざまな場面に及ぶようになった.とはいえ,MIVSを初めて導入する場合など,後極部への操作が主体の黄斑疾患はMIVSと非常に相性がよい疾患であることに変わりない.本稿では黄斑疾患に対してMIVSを初めて導入する際の注意点について述べたい.(31)1359aaaa::761079317501特集●極小切開硝子体手術あたらしい眼科25(10):13591365,2008極小切開硝子体手術の実際:黄斑疾患MicroincisionVitrectomySurgeryforMacularDisease山地英孝*———————————————————————-Page21360あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(32)面からいえば,23Gシステムがより20Gシステムに近い感覚で行えるので,いきなり25Gシステムを導入するよりも23Gから始めるというのも一法である.3.MIVSは本当に低侵襲かMIVSは視力の立ち上がりが早いことなどが報告されで眼球をコントロールせずに行う手術を心がける必要がある.MIVSでは患者の眼球運動も押さえ込むことはむずかしく,よく眼球が動く症例には球後麻酔などを追加し眼球運動を抑制する必要がある.また,器具の剛性のVA=(0.4)VA=(1.5)VA=(1.5)図3症例68歳,女性:ERMに対する25GMIVSの経過術前(左),術1週後(中),術3カ月後(右).術1週後で視力は(1.5)に達し,惹起乱視はほとんど認めない.0.0000.0500.1000.1500.2000.2500.3000.3500.4000.450logMAR視力p0.017p0.040p0.010p0.014p0.021p0.570術前術後1週術後経過1カ月3カ月25G20Gpairedttest図1黄斑上膜(ERM)術前後の視力経過20G群では有意な視力改善は1カ月後からであるが,25G群では1週後より有意に視力は改善する.00.511.522.53術前術後1週術後1カ月術後経過*惹起乱視クトル対値(D)*p0.001:Mann-WhitneyU-test25G20G図2惹起乱視の変化術後1週では20G群に比べて25G群では有意に惹起乱視が少ない.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081361(33)は極小切開の内径の細いライトパイプでは十分な光量が得られないため,キセノンもしくは水銀蒸気灯の光源を用意する必要がある.各メーカーから発売されているが,筆者らはsynergetics社のPhotonもしくはPhotonⅡ(図4)を用いている.Dorc社製のBrightStarや,Alcon社製のハイブライトイルミネーターなどがあるが,アタッチメントの豊富さからはPhotonが優れていている3,4)が,本当に20Gと比べて低侵襲であるかどうかを検討してみた.筆者らはERMに対して硝子体手術を行った53眼に対し20G群(24眼)と25G群(29眼)の2群について術前と術後1週,1カ月,3カ月の視力について検討した.術前の平均年齢や視力などは2群間に差がなく,50歳以上では両群で2.4mmの角膜切開または強角膜切開にて白内障手術を行った.20G群では術前と比べ術後1カ月目に初めて有意に視力が改善したのに対し,25G群では術後1週目から有意な視力の改善がみられた(図1).この原因として術後の惹起乱視や手術時間との関連が疑われたため,術後の惹起乱視と手術時間について検討を行ったが,術1週後において20Gに対して25Gでは有意に惹起乱視が少なく,術1カ月後には両群で差はなくなっていた(図2).手術時間では20Gでは中央値が33.5分であったのに対し,25Gでは25.0分と有意に短い(p=0.001:Mann-WhitneyU-test).つまり,20G手術では強膜創の縫合が必要であり,この強膜創の縫合によって少なからず乱視が発生し,視力の回復を遅らせている可能性があり,逆に25Gでは強膜創の縫合が不要であるため惹起乱視が少なく,さらに手術時間も短いため手術侵襲が少なく早期の視力回復に寄与していることがわかる(図3).4.黄斑疾患のMIVSでは何を揃える?MIVSを行うにあたり,まず揃えなくていけないものは眼内照明の光源装置であろう.従来のハロゲン光源で図4眼内照明の光源装置synergetics社製PhotonとPhotonⅡ.Photonはキセノン光源,PhotonⅡは水銀蒸気灯光源.PhotonⅡがやや緑がかった色調である.図525G通常照明(右)とワイド照明(左)硝子体ゲルの視認性には通常照明が優れるが,眼底全体や周辺部の把握にはワイド照明が使いやすい.———————————————————————-Page41362あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(34)移る.MVR(microvitreoretinal)ブレードを曲げたマイクロフックトニードルで取っ掛かりを作り,後は鉗子で膜を除去する(図8).黄斑部を通過するときは癒着が強い場合があり,無理に引っ張ると黄斑円孔を生じるので慎重に行う.筆者らは膜の取り残しや再増殖を防ぐために内境界膜(ILM)の離も行っている.さらに,トリアムシノロンアセトニド(TA)を眼底に散布し,ILMを鉗子のまま離する.ERMを除去すると部分的にILMの断裂がみられるので,そこからILM離を始めると容易に行える.このときMIVSの鉗子では把持する面積が20Gと比べて小さくILMが切れやすいので慎重に力を加えながらapを大きくしていくのがコツである(図9).ILMが取れれば周辺部の確認およびポート周辺の硝子体を切除する.最低限トロッカーに嵌頓した硝子体は切除する(図10).後はトロッカーを除去し,自己閉鎖の確認を行うが,トロッカー抜去直後には若干の漏出を認めてもポートの位置を確認して綿棒もしくは比較的鈍な鑷子の先端で創口をしばらく押さえるとほとんどの場合ポートからの漏出は止まる.それでも漏出が止まらない場合は,結膜上から創口が確認できれば結膜上から,確認がむずかしければ結膜切開を行い直接強膜ると筆者は考えている.23Gもしくは25Gシステムでの硝子体鉗子,照明プローブ,硝子体カッターとバックフラッシュニードルなどが必要である.黄斑疾患については3ポートシステムで十分行えるが,ライトパイプが通常のタイプでは照射角度が狭いためワイドタイプの照明を用いるのがよい(図5).ワイドタイプのものにも術者が眩しくないようにシールド付のライトパイプや,特に鉗子の操作に集中するためにはカニューラに取り付けるシャンデリア(図6)があり,それらを用いると,鉗子を両手で持つこともでき便利である.II実際の手技1.黄斑上膜(ERM)創口の作製は別項に譲るが,3ポート作製した後,MIVSの経験が少ない場合にはコンタクトレンズのリングは縫着する.縫着不要のSuturelessring(HOYA社)など便利な器具もあるが角膜とリングがずれることがあり,まずはMIVSに慣れるためになるべく20Gと同様な環境を心がける.筆者らは接触型レンズのワイドビューイングシステムを用いてコアビトレクトミーを行う.ワイドビューイングレンズでは散瞳が良好な症例ではほぼ鋸状縁まで視認できる(図7)ので,ワイドビューイングレンズを用いて可能な限り周辺部硝子体を切除する.その後,後極部拡大レンズに替えてERMの離に図6カニューラシャンデリアカニューラ用のシャンデリアは簡単に位置を変更でき,固定すれば両手で鉗子を操作することができて便利である.図7ワイドビューイングレンズとカニューラシャンデリアの組み合わせワイドビューイングレンズでは倒像となるため反転装置(インバーター)が必要であるが,シャンデリア照明と組み合わせることによって鋸状縁近くまで一度に観察できる(黄斑円孔症例).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081363(35)ERMの手術と同様にコアビトレクトミーを行う.このときstage4を除き後部硝子体は未離であるためPVD作製時に誤って周辺部の硝子体を誤吸引しないように硝子体カッターを入れたポートから視神経乳頭までの硝子体を可能な限り切除しておき,その後TAを後極部に散布する.ワイドビューイングレンズでも行える(図11)が(筆者は普段行っている),慣れるまではより創に一糸縫合をおく.2.黄斑円孔(MH)黄斑円孔も基本的にはERMの手術に後部硝子体離(PVD)作製とガス置換の2つの手技の追加があるだけなので,この2点について解説する.ab8ERMの離MVRブレードの先端を曲げたマイクロフックトニードルでERMを撫でるとERMが引っかかってくる(a)ので鉗子に持ち替えて断端を把持して膜離を行う(b).図9ILM離ERMの離後TAを後極部網膜に散布すると大抵ILMが一部ERMと一緒に取れているのでその断端をつかみ離する.図10トロッカー周辺の硝子体切除シャンデリアを挿入したトロッカー周辺を圧迫して硝子体を切除している.———————————————————————-Page61364あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(36)離を行う.ILM離は再度トリアムシノロンを後極部網膜に散布して行うが,ILM離にはMVRブレードなどで取っ掛かりを作らなくても鉗子でILMをつまんで裂け目を作り,それを取っ掛かりとして離してゆけばよい.今後はブリリアントブルーG(BBG)などの新しい染色剤も視認性が高く期待されている(図12).3.黄斑浮腫網膜静脈分枝閉塞症(BRVO),糖尿病黄斑症(DME)に対するMIVSも手技的にはほとんどERMと同様であり,しいて言えばILM離時に黄斑浮腫や漿液性網膜離などによって網膜に可動性があるのでILM離を行う際,ILMを鉗子でつかむと網膜ごとついてくることがあり,ERMやMHよりさらにゆっくりとした操作が必要となる.IIIさらなる低侵襲をめざす以前は白内障手術でも翌日強い術後炎症や角膜浮腫を認める症例は少なくなく,翌日に見えにくいのは手術侵襲によるもので仕方がないと考えられていたが,現在では白内障手術の翌日に角膜に浮腫はなく視力も改善しているのが当たり前である.同様に硝子体手術でも成績はもとよりいっそうの低侵襲が求められている.しかしながら通常のルーチン検査では検出できないような侵襲が実際には起きていることがある.黄斑円孔術後早期に自詳細な観察ができる後極部拡大レンズを用いて硝子体カッターの吸引でPVDを作ってゆく.この作業は20Gと変わらないが,灌流量がMIVSでは少ないため眼球の虚脱に注意し,無意味な灌流液の吸引を行わないように注意する.一旦部分的にでもPVDが起こり始めれば眼底全体を確認できるワイドビューイングレンズに交換して硝子体カッターで断端を軽く吸引しPVDを進めていき,後は硝子体カッターで切除していけば徐々にPVDは進んでゆく.ワイドビューイングレンズで見える範囲を切除できれば後極部拡大レンズに交換しILM図12BBGを用いたILM離BBGを用いればICGと同様かそれ以上に鮮明にILMを確認することができる.abc11後部硝子体離の作製ワイドビューイングレンズを用いているがTAを散布した後,さらに視神経乳頭付近の硝子体を切除する(a).その後視神経乳頭から少し黄斑よりで硝子体カッターの吸引をかけて後部硝子体離を作ってゆく(b).1カ所後部硝子体膜に穴ができれば後はそこを吸引することで広げてゆく(c).———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081365発蛍光(AF)を撮影するとこのように鉗子で取っ掛かりをつけた部位に一致した低蛍光が認められる.これはいまだ原因は明らかではないが,手術侵襲によって神経線維に浮腫を生じ,その浮腫が軸索を逆行性に進んだものと推測されている(図13).こういった変化も3カ月後には消失しており,視力などには影響はないものの侵襲をどこまで減らせるかが今後の課題である.おわりに20G手術と比べると結膜切開が不要で,創口が小さく乱視の発生を抑えることができるMIVS手術は,手術侵襲を大幅に低減する効果がある.若干の器具の脆弱性は認めるものの,20Gとほぼ同様なシステムで行え,少しの慣れで十分習得できる黄斑疾患はMIVSを始めるにあたり非常によい適応である.黄斑疾患に慣れてくれば他の疾患に対しても適応を広げてゆけばよい.文献1)ShimadaH,NakashizukaH,MoriRetal:25-gaugescler-altunneltransconjunctivalvitrectomy.AmJOphthalmol142:871-873,20062)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessvitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1812,20023)KadonosonoK,YamakawaT,UchioEetal:Comparisonofvisualfunctionafterepiretinalmembraneremovalby20-gaugeand25-gaugevitrectomy.AmJOphthalmol142:513-515,20064)RizzoS,Genovesi-EbertF,MurriSetal:25-gauge,suturelessvitrectomyandstandard20-gaugeparsplanavitrectomyinidiopathicepiretinalmembranesurgery:acomparativepilotstudy.GraefesArchClinExpOphthal-mol244:472-479,2006(37)図13黄斑円孔後の眼底自発蛍光(FAF)術1週後には取っ掛かりを作った部位に一致した低蛍光がみられる(矢印)が,術3カ月後では消失した.視力や視野に異常はない.1週目3カ月目