———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS低眼圧の頻度は,最近の報告によれば,23ゲージのTwo-step法では20%,5mmHg以下では7%,One-step法では6mmHg以下の低眼圧症例は6.5%とのことである2).しかし,Two-step法では,約20%で術後低眼圧がみられたとの報告もあり,一般に,23ゲージでは,術後の低眼圧は生じやすい.一方,25ゲージの低眼圧は,一般にその発症頻度は23ゲージに比較して少ない.また,強膜へのトロカールの刺入方法による違いも検討されている.垂直刺入では斜め刺入より術後低眼圧になりやすく,最近では,斜め刺入が主流になりつつある(図1).また,眼内をガスあるいは空気で満たしたほうが,眼内灌流液よりも,より術後低眼圧が生じにくいとの報告もある.術後の低眼圧を予防するためには,鋭利なトロカールを用いて,結膜をずらして,約30°斜めに強膜に刺入し,術中はできるだけトロカールに負担をかけないような手術を心がけ,トロカール抜去後は,綿棒にて強膜創の鈍的閉鎖を丹念に行う(図2).終刀時に比較的大きな結膜ブレブがみられたり強膜創の非閉鎖が疑わしい場合は,強膜創に1針縫合を加える(図3).さらに,眼軟膏を十分に点入し閉鎖補助剤として使用する.2.術後眼内炎20ゲージ硝子体手術の術後眼内炎は0.07%と報告されている3).硝子体手術後の眼内炎はきわめてまれであり,そのような術後合併症を経験した術者はきわめて少はじめに近年小切開硝子体手術が急速に普及しているが,その特有の合併症に対する配慮は重要である.注意を要する代表的な合併症は,術後低眼圧,術後眼内炎,術後網膜離,術中の小切開器具の損傷などである.本稿では,これらの合併症の特徴と対策を述べたい.小切開硝子体手術の合併症小切開硝子体手術の合併症には,以下のものがあげられる.術後低眼圧,術後脈絡膜離,術後脈絡膜出血,術後網膜離,術後眼内炎,術中の網膜裂孔形成,術後黄斑浮腫,術後黄斑円孔,術中の硝子体器具の破損,損傷などである.それぞれの合併症のなかで,術後低眼圧の頻度が最も多い.1.術後低眼圧Fujiiらによる25ゲージ硝子体手術の最初の報告で,術前16mmHgであった眼圧は,術後1日目で平均12mmHgへと低下すると述べているように,術後の低眼圧は小切開手術の大きな合併症の一つである1).何故,術後の低眼圧が問題になるのだろうか.低眼圧が生じると,術後の炎症が増強・遷延し,脈絡膜離を促し,低眼圧黄斑症を生じることもある.さらに低眼圧眼においては,眼表面の流体物が眼内へ移入しやすくなり,眼内の細菌感染のリスクを高めると考えられている.低眼圧は小切開手術の“malignantfactor”と考えてよい.(27)1355aaabaaa:合:232002445合特集●極小切開硝子体手術あたらしい眼科25(10):13551358,2008小切開硝子体手術:合併症とその対策ComplicationandManagementinMicroincisionVitrectomySurgery渡邉洋一郎*門之園一明*———————————————————————-Page21356あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(28)05101520a術前翌日眼圧(mmHg)1週間ERMVHMHBRVODMERRDBIOPSYVITOPAC0510152025術前翌日1週間b眼圧(mmHg)ERMVHMHBRVODMERRDBIOPSYVITOPAC図1刺入方法の違いによる術後眼圧経過トロカールを垂直に刺入したときの術翌日の眼圧(a)は,トロカールを斜めに刺入したときの術翌日の眼圧(b)よりも低下する傾向にある.ab図2低眼圧を回避するトロカールの刺入方法トロカールの穿孔は斜めに刺入され(a),抜去後は結膜上より強膜創の鈍的整復を行う(b)と,術後の低眼圧は生じにくい.ab図323ゲージ硝子体手術の強膜創の縫合強膜創の閉鎖が不完全な場合(a)は,1針の縫合が望ましい(b).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081357(29)筆者らの施設では,小切開硝子体手術を開始してから現在までの6年間で行われた小切開硝子体手術の全1,940眼のうち,1眼に術後眼内炎を認めている(図4).発症率は約0.05%である.症例は59歳の男性で,網膜静脈分枝閉塞症に対する硝子体手術を受けた.使用した器具は,TSV(Bausch&Lomb社)トロカールを垂直に刺入した.また,周辺部の硝子体ゲルは切除せず空気や膨張ガスを眼内には充しなかった.術後5日目に急激な視力低下をきたし,術後の眼内炎と診断し再度硝子体手術を行った.術中の硝子体よりMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が検出された.幸い術後最高視力は矯正0.9まで回復した.術後眼内炎を防止するための小切開手術として有望と考えられるのは,強膜創の工夫である.一つは,鋭利なトロカールで斜めに刺入する.硝子体ゲルを周辺部までよく切除する.嵌頓した硝子体ゲルを除去する.強膜創の鈍的整復を行い,water-tightな状態にする.さらに,ポピドンヨードの点眼を術終刀時に行う施設もある.ない.ところが,Kunimotoらによる大規模な研究4)が,25ゲージと20ゲージの硝子体手術の術後眼内炎発症率に関して行われた.それによると,20ゲージ硝子体手術の全症例5,498眼のうち,1眼(0.018%)に術後眼内炎が生じたが,25ゲージ硝子体手術では,全症例3,103眼のうち,7眼(0.23%)であった.25ゲージでは12倍術後眼内炎が生じやすいと述べている.小切開硝子体手術における術後眼内炎の発症リスクの原因は,強膜創が縫合されていないこと,眼表面液が眼内に誘導されやすいこと,硝子体ゲルの強膜創部への嵌頓が存在することがあげられる.ba5創口の大きさの違いによる嵌頓硝子体量25ゲージ硝子体手術の強膜創の硝子体の嵌頓(a)は,20ゲージ硝子体手術の強膜創の嵌頓(b)に比較して十分に減少する.図425ゲージ硝子体手術後5日目の前眼部所見著明な前房蓄膿をみる.表125ゲージ硝子体手術後の術後網膜離の発症の報告GuptaOP.AmatoJE.OshimaY.IbarraMS.FujiiGY.200720072006200520021.4%2.00.72.23.4———————————————————————-Page41358あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(30)ることはないが,器具の出し入れの際に注意が必要である.特に,近年は斜め刺入することが多いため,カッターの挿入の際に,トロカールを損傷することがある.また,トロカールの術中の脱落が生じることがある.硝子体内の血腫除去手術の場合に,しばしばトロカールが硝子体カッターの抜き差しにより脱落することがある.おわりに小切開硝子体手術には,特有の手術後合併症がある.特に,術後低眼圧と術後眼内炎に対する対策は重要である.合併症に対する術中・術後の適切な管理により,これらの合併症は克服されるであろう.文献1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Initialexperi-enceusingthetransconjunctivalsuturelessvitrectomysystemforvitreoretinalsurgery.Ophthalmology109:1814-1820,20022)GuptaOP,HoAC,KaiserPKetal:Short-termoutcomesof23-gaugeparsplanavitrectomy.AmJOphthalmol146:193-197,20083)ScottIU,FlynnHWJr,DevSetal:Endophthalmitisafter25-gaugeand20-gaugeparsplanavitrectomy:inci-denceandoutcomes.Retina28:138-142,20084)KunimotoDY,KaiserRS:Incidenceofendophthalmitisafter20-and25-gaugevitrectomy.Ophthalmology114:2133-2137,20075)ScartozziR,BessaAS,GuptaOPetal:Intraoperativesclerotomy-relatedretinalbreaksformacularsurgery,20-vs25-gaugevitrectomysystems.AmJOphthalmol143:155-156,20076)InoueM,NodaK,IshidaSetal:Intraoperativebreakageofa25-gaugevitreouscutter.AmJOphthalmol138:867-869,20043.術中の網膜裂孔・術後網膜離小切開硝子体手術が普及しはじめた当初,術後網膜離の発症率が20ゲージ硝子体手術よりも高くなる可能性が指摘されていた.しかし,術後網膜離の発症率は概して低い(表1).現在では,小切開硝子体手術では,おもに,トロカールを使用するため硝子体の嵌頓が非常に少なく,術後網膜離の発症がむしろ減少するといわれている5)(図5).4.その他23ゲージ硝子体手術では,トロカールの不十分な設置により,まれに急激な脈絡膜離を生じることがある.23ゲージトロカールはステンレスで構成されているため滑りやすく,その留置には十分に注意を要する.5.小切開器具の損傷25ゲージの口径は約0.5mm,23ゲージでも約0.7mmと非常に細いため荷重による小切開器具の曲げが容易に生じる.特に,25ゲージの硝子体鑷子や硝子体カッターは術中の不用意な操作で器具の破損を生じることがある.小切開器具の硬性度は低く,23ゲージでは20ゲージの半分,25ゲージでは20ゲージの4分の1であり,負荷に弱い構造である6).硝子体鑷子や硝子体剪刀は先端部を保護する専用のカバーをかける必要がある.また,硝子体カッターのプライミングの際には,先端部分をコップの底に当てないように注意する必要がある.現在市販されている25ゲージのトロカールの周囲は,ポリイミドで合成されているため,比較的損傷しやすい.仮に破損してトロカールの一部が眼内に残った場合でも,ポリイミドの生体適合性は高いので特別に問題にな