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加齢黄斑変性の疫学

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSおよび生活様式や疾病構造が全国統計と差異がなく,わが国の平均的な集団を対象とした研究である.1998年からわれわれ九州大学眼科学教室はこの久山町研究に参加し,40歳以上の久山町全住民を対象に前向きな追跡調査を行い,AMDの有病率,発症率および危険因子を調査してきた.各国で行われているpopulation-basedstudyによる大規模疫学研究の結果と筆者らが行っている久山町研究の結果を比較検討しながら,AMDの疫学について概説する.以下の手順でAMDの疫学を理解していくとわかりやすい.1.AMDの国際分類.2.現在どれぐらいの患者がいるのか(AMDの有病率).3.どれぐらいの割合で患者が増加しているのか(AMDの発症率).4.どのような人がAMDにかかりやすいのか(AMDの危険因子).I加齢黄斑症(age-relatedmaculopathy)の分類Birdらは加齢に関連した黄斑の変化を加齢黄斑症(age-relatedmaculopathy:ARM)としてまとめ,国際分類を提唱し,初期と後期に分けた7).初期加齢黄斑症(earlyage-relatedmaculopathy:earlyARM)とは,はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は欧米をはじめとした先進国において成人の失明や視力低下の主原因となっており,近年わが国でも急速に増加傾向にある.今後高齢化社会に向けてますます患者数が増加することが予測される.ひとたび罹患すると視力を改善する有効な治療法がないために高齢者の視力障害の増加として大きな社会問題をひき起こす可能性がある.現時点においてこの疾患の最善の治療は予防であり,疾患の予防対策が今後さらに重要視されるであろうと予測される.AMDに関する疫学はその危険因子を明らかにし,発症を予防するのに役立つ.AMDの疫学を知るには一般住民を母集団とした研究(population-basedstudy)が有用である.ある程度大きな人口をもち,かつ人口の移動が少ない地区を対象に参加率の高い研究を行っている大規模疫学研究として,アメリカ合衆国のFraminghamEyeStudy1)やオーストラリアのBlueMountainEyeStudy2),オランダのRotterdamStudy3),西インド諸島バルバドスのBarbadosEyeStudy4)などが知られている.わが国においてAMDの疫学研究としてpopulation-basedstudyが行われているのは,福岡県久山町の一般住民を対象に行われている久山町研究5)や山形県舟形町6)の一般住民を対象に行われている舟形町研究がある.久山町研究は福岡市東部に隣接する人口約7,500人の都市近郊型農村地域で行われている追跡研究で,久山町の人口の年齢分布や職業構成(3)1191Mihoasuda学学学学811250118221学特集●加齢黄斑変性あたらしい眼科25(9):11911195,2008加齢黄斑変性の疫学EpidemiologyofAge-RelatedMacularDegeneration安田美穂*———————————————————————-Page21192あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(4)1.TheFraminghamEyeStudy1)アメリカ合衆国のマサチューセッツ州Framinghamで5285歳の住人2,477人を対象とし1977年に行われた研究である.人種はほとんどが白人種(Caucasian)であり,いわゆるupper-middleclassの住民が対象となっている.この研究では初期加齢黄斑症(earlyARM)と後期加齢黄斑症(lateARM)のうち脈絡膜新生血管を伴う滲出型AMD(wettype)を合わせてAMDの有病率として報告している.そのため結果の数字はいずれも高く算出されているが,その結果は男性6.7%,女性10.3%であり,女性の有病率が有意に高く,男女合わせた有病率は8.8%であった.年齢階級別の有病率は5264歳で1.6%,6574歳で11.0%,7585歳で27.9%となっており,年齢の増加に伴って有意に有病率が増加する傾向がみられている.2.TheBlueMountainEyeStudy2)オーストラリア,ニューサウスウェールズのBlueMountainsで,49歳以上の住人3,654人を対象とし,1995年に行われた研究である.人種は99%がCauca-sianであった.この研究では後期加齢黄斑症(lateARM)いわゆるAMDの有病率は1.9%であった.またAMDのうち両眼性はおよそ60%,片眼性は40%であったと報告している.この結果から片眼性に比較して両眼性が多いことが示された.この研究でのAMDの年齢階級別の有病率は5564歳で0.2%,6574歳で0.7%,7584歳で5.4%,85歳以上で18.5%となっており,FraminghamEyeStudy1)と同様に加齢に伴って有意に有病率の増加がみられている.ドルーゼンや網膜色素上皮の色素異常(hyperpigmenta-tion,hypopigmentation)などがみられるもので,後期加齢黄斑症(lateage-relatedmaculopathy:lateARM)がいわゆるAMDを指す.後期加齢黄斑症(lateARM)は,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が関与する滲出型(wetAMD)と,CNVが関与せず網膜色素上皮や脈絡膜毛細血管の地図状萎縮病巣を認める萎縮型(dryAMD)に分類される.滲出型(wetAMD)の定義は,網膜色素上皮離,網膜下および網膜色素上皮下新生血管,網膜上および網膜内および網膜下および色素上皮下にフィブリン様増殖組織の沈着,網膜下出血,硬性滲出物などのいずれかを伴うものとされている.萎縮型(dryAMD)の定義は,脈絡膜血管の透見できる円形および楕円形の網膜色素上皮の低色素および無色素および欠損部位で少なくとも175μm以上の直径をもつもの(30°あるいは35°の眼底写真において)とされている.まれに,地図状萎縮から新生血管が発生する場合がある.これらの国際分類に従って,有病率や発症率は算出されている.II現在どれぐらいの患者がいるのか?(加齢黄斑変性の有病率)Population-basedstudyに基づいた加齢黄斑変性の有病率を報告しているおもな研究の対象の詳細については表1に示す.AMDの定義や背景因子が異なることから一概には比較できないことに注意が必要である.表1Populationbasedstudyによる加齢黄斑変性(AMD)の有病率研究対象人数(人)対象年齢(歳)AMDの有病率(%)男性女性合計FraminghamEyeStudy(米国)*2,47752856.710.38.8RotterdamEyeStudy(オランダ)**6,251551.41.91.7BlueMountainsEyeStudy(豪州)3,654551.32.41.9BarbadosEyeStudy(西インド諸島,黒人)3,444400.30.90.6久山町研究(福岡,日本)1,844501.70.30.9*初期加齢黄斑変性(earlyARM)とAMDの両方を含む.**wettypeAMDのみ.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081193(5)ー眼底写真による眼底検査が施行されAMDの程度別分類と有病率の調査が行われた.その結果,AMDの有病率が0.9%であり,おおよそ100人に1人の頻度であった.AMDのうち,脈絡膜新生血管を伴う滲出型(wettype)AMDの有病率が0.7%,地図状萎縮病巣を認める萎縮型(drytype)AMDの有病率が0.2%であった.日本人においても滲出型(wettype)AMDが萎縮型(drytype)AMDよりも多くみられた.また日本人においては滲出型(wettype)AMDの有病率は女性に比べて男性に有意に高い傾向が認められた.年齢階級別および性別の滲出型と萎縮型AMDの頻度を表2に示す.欧米のpopulation-basedstudyによる報告では,加齢黄斑変性の有病率および発症率は女性に多いと報告しているものが多く,わが国で男性のほうが女性より有意に有病率が高いということは非常に興味深い.さらにわが国のAMDの有病率を欧米の結果と比較してみると,日本人では白人より少なく黒人より多いことが推定される.これらの人種差の原因は明らかではないが,遺伝的な要因や環境因子によるものと考えられている.IIIどれぐらいの割合で患者が増加しているのか?(加齢黄斑変性の発症率)つぎにpopulation-basedstudyに基づいた前向きコホート研究において対象住民を追跡調査して加齢黄斑変性の発症率を報告しているおもな研究を紹介し,発症率について検討する(表3).3.RotterdamStudy3)オランダ,ロッテルダムのOmmoord在住で55歳以上の住民6,251人を対象とし,1995年に行われた研究である.この研究では,後期加齢黄斑症(lateARM)のうち脈絡膜新生血管を伴う滲出型(wettype)AMDの有病率が1.7%であったと報告されている.年齢階級別の滲出型(wettype)AMD有病率は5564歳で0.2%,6574歳で0.8%,7584歳で3.7%,85歳以上で11.0%となっており,加齢に伴って有意に有病率の増加がみられている.後期加齢黄斑症(lateARM)いわゆるAMDにおいては地図状萎縮を認める萎縮型より滲出型(wettype)AMDの占める割合が高いことも示された.4.BarbadosEyeStudy4)西インド諸島バルバドスで出生し在住している4080歳の黒人住民3,444人を対象として行われた研究である.この研究では後期加齢黄斑症(lateARM)いわゆるAMDの有病率は0.6%であった.このうち男性の有病率は0.3%,女性の有病率は0.9%で有意に女性の有病率が高い傾向がみられた.欧米の白人を対象とした研究と比較するとAMDの有病率は黒人では低いことが示された.5.久山町研究(TheHisayamaStudy)8)福岡県久山町で,1998年に50歳以上の1,486人を対象として両眼散瞳下で倒像検眼鏡,細隙灯顕微鏡,カラ表2年齢階級別および性別の滲出型と非滲出型加齢黄斑変性(AMD)の頻度:久山町研究(1998)─AMDの2つのタイプである滲出型と非滲出型(萎縮型)の頻度を年齢別,男女別に示す─年齢(歳)男性女性男女込み人数(人)頻度(%)人数(人)頻度(%)人数(人)頻度(%)滲出型AMD505915502850.74400.560692311.73340.35650.970791801.121103910.580以上323.1580901.1合計5971.28890.31,4860.7非滲出型AMD505915502850440060692310.933405650.4707918002110391080以上323.1580901.1合計5970.588901,4860.2———————————————————————-Page41194あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(6)EyeStudyの結果とほぼ同様であり差はみられなかった.この結果から,最近5年間の日本人のAMDの発症率は,ほぼ欧米並みであることが示された.IVどのような人がAMDにかかりやすいのか?(加齢黄斑変性の危険因子)AMDの危険因子としては,加齢,皮膚弾性線維変性,高血圧,喫煙,紫外線,血清ビタミンおよび亜鉛の低値,遠視,虹彩低色素,白内障,中心性漿液性網脈絡膜症の既往など,多数のものが報告されている.しかし,共通して指摘されているのは喫煙のみであり,他の因子は報告により異なっている.前述のRotterdamStudyとBlueMountainsEyeStudyにおいても喫煙は危険因子とされ,禁煙しても禁煙期間が20年未満の場合はリスクを減少させることはできないと報告されている.米国の看護師を対象にしたprospectivestudyおよび医師を対象にしたprospectivestudyでも喫煙はAMD発症の危険因子であり,総喫煙量が多いほどそのリスクが増すことが報告されている.日本人を対象にしたcase-1.TheBeaverDamEyeStudy9,10)アメリカ合衆国のウィスコンシン州BeaverDamで4386歳の住人4,926人を対象とし1988年から1990年にベースライン時の調査を行い,その5年後,10年後に追跡調査を行った研究である.この研究ではAMDの累積5年発症率は0.9%,累積10年発症率は2.1%と報告している.年齢の増加に伴って発症率は有意に増加した.また75歳以上では男性に比べて女性に高率に発症する傾向がみられた.さらに軟性ドルーゼンや網膜色素上皮の色素異常がある部位は脈絡膜新生血管を伴う滲出型(wettype)AMDや地図状萎縮病巣を認める萎縮型(drytype)AMDを有意に発症しやすいことが明らかにされた.2.TheBlueMountainEyeStudy11)オーストラリア,ニューサウスウェールズのBlueMountainsで,49歳以上の住人2,335人を対象とし,1992年から1994年にベースライン時の調査を行い,その5年後に追跡調査を行った研究である.この研究の結果,AMDの累積5年発症率は1.1%であった.これらの発症率はTheBeaverDamEyeStudyの結果とほぼ同様であり差はみられなかった.また,年齢の増加に伴って発症率は有意に増加し,脈絡膜新生血管を伴う滲出型(wettype)AMDは男性に比べて女性に2倍高率に発症する傾向がみられた.3.久山町研究(TheHisayamaStudy)12)福岡県久山町で,50歳以上の住人1,475人を対象とし,1998年にベースライン時の調査を行い,その5年後に追跡調査を行った研究である.この研究の結果,AMDの累積5年発症率は0.8%であった.年齢階級別および性別5年発症率を図1に示す.これらの発症率はTheBeaverDamEyeStudyやTheBlueMountain表3Populationbasedstudyによる加齢黄斑変性(AMD)の5年発症率研究対象人数(人)対象年齢(歳)AMDの5年発症率(%)BeaverDamEyeStudy(米国)4,92643860.9BlueMountainsEyeStudy(豪州)2,335491.1久山町研究(福岡,日本)1,475500.8図1加齢黄斑変性(AMD)の年齢階級別および性別5年発症率:久山町研究(19982003)AMDの5年間の発症率を男女別にグラフで示す.男性は年齢とともに発症率が有意に増加している.:男性:女性50596069年齢(歳)累積5年発症率(%)70798002468———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081195(7)文献1)KiniMM,LeibowitzHM,ColtonTetal:Prevalenceofsenilecataract,diabeticretinopathy,senilemaculardegen-eration,andopen-angleglaucomaintheFraminghameyestudy.AmJOphthalmol85:28-34,19782)MitchellP,SmithW,AtteboKetal:Prevalenceofage-relatedmaculopathyinAustralia.TheBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology102:1450-1460,19953)VingerlingJR,DielemansI,HofmanAetal:Thepreva-lenceofage-relatedmaculopathyintheRotterdamStudy.Ophthalmology102:205-210,19954)SchachatAP,HymanL,LeskeMCetal:Featuresofage-relatedmaculardegenerationinablackpopulation.TheBarbadosEyeStudyGroup.ArchOphthalmol113:728-735,19955)OshimaY,IshibashiT,MurataTetal:PrevalenceofagerelatedmaculopathyinarepresentativeJapanesepopula-tion:theHisayamastudy.BrJOphthalmol85:1153-1157,20016)KawasakiR,WangJJ,JiGetal:Prevalenceandriskfac-torsforage-relatedmaculardegenerationinanadultJap-anesepopulation:TheFunagataStudy.Ophthalmology,inpress,20087)MiyazakiM,NakamuraH,KuboMetal:RiskfactorsforagerelatedmaculopathyinaJapanesepopulation:theHisayamastudy.BrJOphthalmol87:469-472,20038)BirdAC,BresslerNM,BresslerSBetal:Aninternationalclassicationandgradingsystemforage-relatedmaculop-athyandage-relatedmaculardegeneration.TheInterna-tionalARMEpidemiologicalStudyGroup.SurvOphthal-mol39:367-374,19959)KleinR,KleinBE,JensenSCetal:Theve-yearinci-denceandprogressionofage-relatedmaculopathy:theBeaverDamEyeStudy.Ophthalmology104:7-21,199710)KleinR,KleinBE,TomanySCetal:Ten-yearincidenceandprogressionofage-relatedmaculopathy:TheBeaverDameyestudy.Ophthalmology109:1767-1779,200211)MitchellP,WangJJ,ForanSetal:Five-yearincidenceofage-relatedmaculopathylesions:theBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology109:1092-1097,200212)MiyazakiM,KiyoharaY,YoshidaAetal:Theve-yearincidenceandriskfactorsforagerelatedmaculopathyinageneralJapanesepopulation:theHisayamastudy.InvestOphthalmolVisSci46:1907-1910,2005controlstudyにおいても喫煙と滲出型AMDの関連が指摘されている.喫煙は活性酸素を増加させ,脂肪の過酸化を促進するとともに,脈絡膜の血液循環にも影響を及ぼし,黄斑部の変性を生じやすくなると考えられている.日本人のpopulation-basedcohortstudyである久山町研究12)においても日本人におけるAMDの危険因子を調査しており,その結果が表4である.久山町研究の結果から,日本人では加齢,男性,喫煙が有意な危険因子であることが明らかになっている.AMDの予防のためにはぜひ禁煙の重要性を啓蒙する必要がある.おわりに久山町研究の結果では,AMDの頻度が0.9%であり,2001年度の日本人50歳以上の総人口に換算すると,AMD患者は43万人にものぼることが推定される.わが国では今後かつてない超高齢化社会を迎え,AMD患者数はさらに増加することが予想される.わが国においては久山町研究のような大規模住民研究の追跡データが少なく,欧米のデータを参考とすることはできるが,欧米での研究を参考とするには人種が異なる.効率的な発症予防,進展予測のためにもこのような大規模住民研究が必須であり,さらなる追跡調査が望まれる.表4加齢黄斑変性(AMD)発症に関連する危険因子の多変量解析結果:久山町研究(19982003)危険因子オッズ比95%信頼区間年齢1.041.011.07*喫煙2.221.144.33**p<0.05.AMDの発症に関連する危険因子を多変量解析すると,AMDの発症に関連するものは年齢と喫煙であった(年齢,性別,高血圧,糖尿病,高脂血症,喫煙,飲酒,BMI,白血球数の因子で調整).

序説:加齢黄斑変性-最新の情報と今後の展望

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSは定期的にこれまでも加齢黄斑変性について特集を企画し,その時点での現状と問題点を整理して提示することを行ってきた.本特集は2008年のup-to-dateの情報をまとめて提示する構成となっている.すなわち,1)病態研究:疫学研究として貴重なデータを発表してきた久山町研究についての最新のデータを安田美穂先生(九州大学)にご紹介いただいた.また,近年の血管生物学の進歩に,炎症などの生体反応,さらに遺伝子検索の結果を加えて分子病態の研究は長足の進歩がみられる.この成果を永井紀博先生・石田晋先生(慶應義塾大学)に解説をいただいた.2)診断の進歩:眼底疾患の画像解析については,蛍光眼底造影,光干渉断層検査(OCT)の技術革新と機器の開発により,多面的に加齢黄斑変性をとらえることができるようになってきた.われわれ眼科医の加齢黄斑変性という疾患についての理解はこのような診断技術の進歩により深まり,治療戦略の策定に大きな貢献をしている.この分野でのわが国の第一人者である,髙橋寛二教授(関西医科大学枚方病院),丸子一朗先生・飯田知弘教授(福島県立医科大学)にわかりやすい画像データを提示しての解説をいただいた.3)治療法の進歩と検証:上記の進歩を踏まえて近年の治療技術の進歩には目覚ましいものがある.2006年の厚生労働科学研究「厚生労働省難治性疾患克服研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究班」の報告書(主任研究者:石橋達朗九州大学教授)の「わが国における視覚障害の現状」(中江公裕,増田寛次郎,妹尾正,小暮文雄,澤充,金井淳,石橋達朗)によると,20012004年の身体障害者手帳による検討で視力障害の原因のうち,加齢黄斑変性などの黄斑変性症は第4位(視力障害者の9.1%)となっていた.これは1988年における同様の研究での第6位(5.0%)よりわずか20年にも満たない間に倍増がみられたことになる.日本緑内障学会が岐阜県多治見市で行った多治見研究によってもWHO(世界保健機関)基準での視力低下(6/18=0.3未満)の6.6%に及ぶ.欧米において,Caucasianにおける多くの疫学研究では,視力障害の原因は加齢黄斑変性が最も多いとの統計結果があり,生活習慣の欧米化に伴ってわが国でも加齢黄斑変性がますます視力障害の原因として増加することが予想される.加齢黄斑変性の治療戦略としては,疫学研究,分子病態,診断技術のそれぞれの進歩と相互の緊密な連携に基づいて多くの成果がここ数年にあげられ,臨床的なデータも急速に蓄積されつつある.数年前までは患者への説明に窮していた状態からの見違えるような進歩ともいえる.「あたらしい眼科」誌で(1)1189情報●序説あたらしい眼科25(9):11891190,2008加齢黄斑変性最新の情報と今後の展望StateoftheArtandNewHorizonofAge-RelatedMacularDegeneration山下英俊*石橋達朗**———————————————————————-Page21190あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(2)の知見をご紹介いただいた.以上を読むと,加齢黄斑変性が疾患の進行を阻止することが治療のエンドポイントであった時代から進化し,視力予後をなるべく良くして,さらに疾患のactivityを抑制するという治療目標を設定できるようになった医学の進歩を実感できる.ただ,「わが国における視覚障害の現状」のデータにもあるように,視力障害の原因として黄斑疾患の頻度は増加しており,今後のさらなる基礎医学,臨床医学の共同した発展により加齢黄斑変性による社会的な失明が減少し,長寿社会を迎えつつある日本で生涯にわたる高い視覚の質(qualityofvision)を保つ眼科学の新しい展開が切に望まれている.本特集が現時点での日本における加齢黄斑変性診療に必要な情報のsynopsisを提供しつつ,今後のこの分野の発展に少しでも寄与できれば望外の幸である.光凝固(光線力学的療法:PDT)のみならず,分子病態の研究から血管内皮細胞の増殖,血管新生を促進する血管内皮増殖因子(VEGF)の抑制薬の開発と臨床応用が加齢黄斑変性およびその関連疾患の治療を有効で安全なものにしてきた.これら治療法の現時点での効果とその問題点に関して,PDTについては土谷大仁朗先生・山本禎子先生(山形大学)に,薬物治療については澤田智子先生・大路正人教授(滋賀医科大学)に解説をお願いした.また,ポリープ状脈絡膜血管症(PCV),網膜内血管腫状増殖(RA),近視性脈絡膜新生血管などの加齢黄斑変性関連疾患の治療をまとめて鈴木三保子先生・五味文先生・瓶井資弘先生(大阪大学)に解説をしていただいた.これらの治療の検証が大切な時期になっているが,さらに,治療の最終目的である患者視機能の面からの治療成果の検証について藤田京子先生・湯澤美都子教授(駿河台日本大学病院)に最新

コンパクトデジタルカメラを用いた眼所見の写真撮影の試み

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(131)11770910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11771181,2008cはじめに今日では,眼科分野におけるデジタル画像撮影装置の開発により,眼科疾患をデジタル画像として撮影することが容易となり,病状の記録,患者への説明,専門医や指導医へのコンサルトなどが比較的容易に可能となっている.一方,そのようなデジタル画像撮影装置は高価でありすべての病院に普及しているとは言い難い.今回筆者らは,市販のコンパクトデジタルカメラを用いて細隙灯顕微鏡による眼疾患の観察像の撮影を行い,その有用性を検討した.I対象および方法対象は種々の眼疾患を有し,京都府立医科大学附属病院およびその関連病院の眼科外来を受診した患者である.今回,汎用のコンパクトデジタルカメラであるIXYDigital700R(Canon社)を用いて,種々の眼科疾患を撮影し,専用の画像撮影装置であるSL-D7R(TOPCON社)による撮影との比較を行った.IXYDigital700Rによる撮影は,細隙灯顕微鏡の接眼レンズ越しに行った.角膜病変については広範照明法とフルオレセイン染色を用いた蛍光撮影を行い,網膜病変に関しては前置レンズを併用して撮影した.いずれの撮影においても,通常の眼科診療用の暗室にて,デジタルカメラの角度を調節することによって角膜反射が生じない角度で,フラッシュを用いない接写モードにて撮影を行った.また,細隙灯の接眼部を支えとしてカメラのレンズ部分を固定させることにより手ぶれを防止した(図1).IXYDigital700R,SL-D7Rによるすべての撮影は眼科臨床経験が1年未満の当院の眼科レジデントが行った.撮影条件として画素数はSL-D7Rが79万画素であるのに対し,IXYDigital700Rは31万画素から708万画素までの範囲で選択した.カメラの撮像素子はIXY〔別刷請求先〕荻田利津子:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学Reprintrequests:RitsukoOgita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefectualUniversityofMedicine,465Hirokouji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyou-ku,Kyoto602-0841,JAPANコンパクトデジタルカメラを用いた眼所見の写真撮影の試み荻田利津子小泉範子奥村直毅木下茂京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学NewlyDiscoveredMethodofPhotographingEyeAspectsthroughSlit-LampBiomicroscopeUsingCompactDigitalCameraRitsukoOgita,NorikoKoizumi,NaokiOkumuraandShigeruKinoshitaDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine細隙灯顕微鏡による眼所見の観察像を,汎用のコンパクトデジタルカメラを用いて撮影することが可能であった.特に,外眼部,前眼部,中間透光体の病変に対しては臨床上有用な画像が得られた.コンパクトデジタルカメラによる撮影を行うことで,専用の画像撮影装置の設備がない病院でも患者の所見を記録することが可能であり,遠隔地の病院においても指導医,専門医へのコンサルトが容易に行えると考えられた.Werecentlydiscoveredamethodofusingacompactdigitalcameratophotographeyeaspectsthroughaslit-lampbiomicroscope.Thismethodisespeciallyusefulforphotographingtheocularsurface,media,fundusandextraocularndings.Thisenablesphotographicrecordingofobservations,eveninahospitalorclinicthathasnoprofessionalcamera-equippedophthalmologicalinstruments.Inaddition,thismethodisofpotentiallygreatbenetforophthalmologistsworkinginremoteruralareas,asthedigitalimagescanbequicklyandeasilytransferredelectronicallytosuperiorsandspecialistsforconsultationondicultdiseasesorcases.Thisimportantnewdiscov-eryisexpectedtocontributegreatlytotelemedicine,aswellastoremoteregionalmedicalservices.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11771181,2008〕Keywords:遠隔医療,地域医療,遠隔画像診断,コンパクトデジタルカメラ.telemedicine,regionalmedicalservice,remotemedicalimagingdiagnosis,digitalcamera.———————————————————————-Page21178あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(132)Digital700R,SL-D7Rともに1/1.8型CCDであった.撮影した写真は,当院の眼科専門医がIXYDigital700Rにより得られた写真とSL-D7Rによる写真とを,外眼部,前眼部,中間透光体,眼底の各項目について通常の写真で用いられることの多いLサイズに印刷した場合と,15インチの液晶ディスプレイ(1,024×768ピクセル)に全画面で表示した場合のおのおのについて得られる臨床所見を比較し評価した.さらに,コンパクトデジタルカメラを用いた撮影における臨床上有用と考えられる画素数について検討するためIXYDigital700Rの最高画質である708万画素で撮影した画像と,31万画素で撮影した画像を比較した.II結果市販のIXYDigital700Rを用いて細隙灯顕微鏡下に観察した外眼部,前眼部,中間透光体,眼底を撮影することができた(図2).同品によるフルオレセイン染色を用いた前眼部の病変の蛍光撮影も可能であり,角膜びらんによる広範な染色像から,点状表層角膜症における微細な染色像まで撮影が可能であった(図3).つぎに,IXYDigital700Rにより得られた画像を,専用の前眼部画像撮影装置であるSL-D7Rで撮影したものと比較すると,Lサイズに印刷した場合,ディスプレイに全画面表示した場合ともに,外眼部,前眼部,中間透光体の撮影において画像から把握可能な臨床情報は同等であり,画像の鮮明さ,明るさ,焦点深度についても臨床上問題となる劣化を認めなかった(図4).IXYDigital700Rにより得られた画像において,たとえば外眼部では眼瞼腫瘍や眼瞼炎の性状や範囲,前眼部では角膜潰瘍や角膜混濁などの性状や範囲や角膜への新生血管,中間透光体では白内障,後混濁の程度,硝子体混濁の有無を把握することができた.眼底の撮影は,前図1撮影方法a:細隙灯顕微鏡の接眼レンズ越しに撮影.眼底の撮影には前置レンズを併用.b:カメラのレンズ部分を,細隙灯の接眼部を支えとし固定させ手ぶれを防止.フラッシュなし,接写モードにて撮影.baa:角膜感染症.b:角膜移植後(移植片不全).c:Avellino角膜ジストロフィ.d:結膜下出血.e:角膜潰瘍.f:YAGレーザー後の眼内レンズ損傷.abcdef図2コンパクトデジタルカメラによる前眼部撮影写真例———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081179(133)置レンズを固定する必要があるため撮影の難度が上がり,眼底専用の撮影装置に比べ撮影範囲が限られるが,たとえば網膜裂孔,視神経乳頭など部位を特定しての撮影は可能であった.さらに,コンパクトデジタルカメラの画素数による解像度を,IXYDigital700Rの31万画素と708万画素で撮影し比較したところ,得られる所見に大きな差は認められなかった(図5).図3コンパクトデジタルカメラによるフルオレセイン染色を用いた前眼部写真例テニスボールによる角膜擦過症の一例.病変像の把握が可能である.図4専用の画像撮影装置との比較専用の撮影装置による撮影画像(上段)と比較して,コンパクトデジタルカメラによる撮影画像(下段)から得られる把握可能な臨床情報量は同程度であった.図5コンパクトデジタルカメラの画素数による写真画質の違いa:3,072×2,304画数(708万画素),b:640×480画数(31万画素).Lサイズの写真上では,ともに眼所見の把握が可能である.ab———————————————————————-Page41180あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(134)III考按今回,筆者らは汎用のコンパクトデジタルカメラを用いて細隙灯顕微鏡下の眼所見をデジタル画像として撮影することが可能であり,特に前眼部に関しては眼病変の所見把握に十分有用な撮影が可能であることを示した.今日のデジタル技術の進歩に伴い,医療業界においても医療情報のデジタル化が急速に進んでいる.電子カルテによる患者情報の管理や,オーダリングシステムによる病院運営など医療情報のデジタル化による医療の効率化,省スペース化といった医療業務の改善例は枚挙にいとまがない.さらに,医療情報のデジタル化による多施設間での情報の共有も一般的となりつつあり,特に遠隔診断で有用に用いられている.遠隔診断を早くから日常診療に取り入れた放射線科や病理組織学をはじめとし1,2),脳外科3),小児科4,5),救急医療6),検診7)に至るまで,画像を利用した遠隔診断の有用性が多数報告されている.さらに頭部外傷の診療でテレビ電話によるリアルタイム遠隔診断が有用であった報告8),腹部疾患の救急診療において電子メールで画像を共有することで遠隔診断を行い救命可能となった報告9)など,検査情報のデジタル化による汎用性の拡大による遠隔医療に対するメリットは多大であると考えられる.眼科診療においても専用のデジタル画像撮影装置の開発により眼科疾患をデジタル画像として撮影することができ,診療経過の記録や患者への説明,専門医へのコンサルトなどに一般的に用いられている.遠隔診療という観点からは,眼科診療では医師が観察する他覚的所見や画像情報が非常に有用であり,なかでも前眼部疾患の多くが細隙灯顕微鏡を用いて診断に至ることを考えると,眼科は遠隔医療を行いやすい要素をもつ診療科であると考えられる.一方,専用のデジタル画像撮影装置は高価でありすべての病院に普及しているとは言い難く,特に小規模病院,診療所,さらには遠隔地の医療機関ではそうした撮影装置を所有していない診療施設も多い.筆者らが本報告で行った市販のコンパクトデジタルカメラを用いた撮影法では,外眼部,前眼部,中間透光体において臨床上診断に過不足ない画像を熟練者でなくても容易に得ることができた.コンパクトデジタルカメラによる31万画素,79万画素,708万画素での撮影を,臨床上用いられることが多いと考えられる条件であるLサイズに印刷またはディスプレイに表示して得られる臨床所見は,専用のデジタル画像撮影装置と比較して同程度であった.一般にカメラによる撮影では,1画素当たりの撮像素子面積が大きいほど受光量に余裕が生じ写真の画質が向上するため,画質に関しては最終的に表示するサイズに応じて,各撮影機器のもつ撮像素子に適切な画素数の選択を行うことが望ましい.本報告で比較を行ったLサイズへの印刷やディスプレイへの表示の場合,撮影時の画素数にかかわらず一定以上のデータは間引かれることが撮影時の画素数に影響せず同程度の臨床所見が得られた理由と考えられた.この方法により,専用の画像撮影装置の設備がない病院でも画像情報を汎用性のあるデジタルデータとして低コストで容易に得ることができる.インターネット回線を用いてデジタルデータのやりとりを行ううえでのデータ容量に関しては,眼科診療で有用な画質を維持できる圧縮法や,公衆回線を使用して伝送することが可能でかつNTSC(NationalTelevisionSystemCommittee)レベルの解像度をもつ眼科立体動画像の圧縮法について報告10)されている.筆者らがコンパクトデジタルカメラを用いて撮影した画像の容量は,31万画素では約100キロバイト,708万画素では約1.0メガバイトとなり,ともに現在一般的となったといえるインターネットブロードバンドを介してのデータの授受が可能であり,個々あるいは施設間での情報交換の場合においても有効に利用しうると考えられた.これにより指導医や専門医へのコンサルトや,眼科医のいない地域におけるプライマリケアへの応用についても十分期待でき,地域医療格差是正や医療費の低減に役立つことも予想された.一方,広く普及した画像撮影装置として,コンパクトデジタルカメラ以外に撮影装置機能付きの携帯電話があげられるが,その携帯電話に付属したメール機能を利用することで即座に送信しリアルタイムのコンサルトが可能という点で優れており,携帯電話機種の改良により今後将来に大きな期待がもてる.インターネットを介した医療情報の共有による遠隔医療は,インターネットの普及によりさらに一般的になることが予想されるが,個人情報保護に関して配慮が必要とされる.高誠11)らは,遠隔地画像診断のための医用画像の個人情報遮蔽と暗号化を行うことで医用画像や個人情報の第三者への漏洩を防止できるシステムの構築を試みている.医療情報の漏洩防止に十分な配慮を行うことにより,眼科領域における遠隔医療のさらなる発展が期待される.文献1)南浩二,青木洋三,嶋田浩介ほか:わが施設のIT戦略遠隔術中迅速病理診断の有用性.地域医療42:44-48,20042)川村直樹,吉田由香里,酒井一博ほか:インターネットを利用した遠隔細胞診の診断成績と課題.日本臨床細胞学会雑誌43:205-213,20043)村上謙介,富田隆浩,松本乾児ほか:脳神経外科領域における画像電送システムによる遠隔医療地域医療,患者サービスの向上にむけて.青森県立中央病院医誌49:90-91,20044)原田潤太:病診連携を活性化する「画像の連携」.小児科診療66:197-201,20035)市川光太郎,山田至康,田中哲郎:小児救急医療における———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081181(135)遠隔医療システムの実験双方向かつリアルタイムの動画像・音声伝送システムの応用.小児科臨床55:995-1001,20026)瀧健治,加藤博之,平原健司:プレホスピタルケアにおける画像伝送システムの有用性.日本救命医療学会雑誌15:99-106,20017)滝沢正臣,村瀬澄夫:日本における遠隔医療のあゆみと課題なぜ実用期に入れないのか.医学のあゆみ200:783-787,20028)WatanabeAtsushi:山岳地帯の冬季スポーツにより持続性頭部損傷を受傷した患者に対するテレビ電話によるリアルタイム遠隔診断の有用性.医療情報学23:215-222,20039)江副英理,伊藤靖,山直也ほか:遠隔地域からのEメールを用いた画像伝送ならびに救急車からの救急現場画像伝送システムについて.日本腹部救急医学会雑誌26:611-616,200610)畠山修東,林弘樹,三田村好矩ほか:眼科遠隔医療支援のための立体動画像伝送システムの開発新圧縮アルゴリズム及び立体視パラメータの検討.電子情報通信学会技術研究報告(MEとバイオサイバネティックス)101:43-46,200111)高誠治郎:遠隔地画像診断のための医用画像の個人情報遮蔽と暗号化の試み.近畿大学医学雑誌26:259-267,2001***

急性内斜視の2症例

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(127)11730910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11731176,2008cはじめに急性内斜視は,複視の自覚とともに突然発症する共同性の内斜視として知られており,比較的まれな内斜視の一つである.vonNoordenは急性内斜視を人工的な融像の遮断により発症するTypeⅠ(Swantype)と,発症原因が不明のTypeⅡ(Burian-Franceschettitype),頭蓋内病変によるTypeⅢの3つに分類している1).Burianらも急性内斜視を3つに分類している.1型は融像を人工的に中断させて起こるもの,2型(Franceschettietype)は明らかな原因は不明のもの,3型(Bielschowskytype)は5.00D以上の近視を伴うものである2).治療法は原因を除去し,プリズム矯正にて斜視角を減少させ,やがてプリズムなしでも融像できる大きさまで改善することもあるが,多くは手術療法の適応となることが多い.発症原因はさまざまな報告があるが,今回,筆者らは手術療法を施行し経過良好な急性内斜視の2症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕18歳,男性.初診:平成17年2月8日.主訴:平成17年1月から全方向で複視を訴え,近医受診し外直筋麻痺の疑いで紹介受診.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼1.2(矯正不能),左眼1.2(id×+0.50D)で,前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかった.突然発症した内斜視に対し,調節性内斜視と鑑別するために〔別刷請求先〕新井田孝裕:〒324-8501栃木県大田原市北金丸2600-1国際医療福祉大学保健医療学部視覚機能療法学科Reprintrequests:TakahiroNiida,M.D.,DepartmentofOrthopticsandVisualScience,TheSchoolofHealthScience,InternationalUniversityofHealthandWelfare,2600-1Kitakanemaru,Otawara-city,Tochigi324-8501,JAPAN急性内斜視の2症例松田英里子*1山田徹人*1,2三柴恵美子*1,2新井田孝裕*1,2菊池通晴*1*1国際医療福祉大学病院眼科*2国際医療福祉大学保健医療学部視覚機能療法学科TwoCasesofAcuteAcquiredComitantEsotropiaErikoMatsuda1),TetsutoYamada1,2),EmikoMishiba1,2),TakahiroNiida1,2)andMichiharuKikuchi1)1)DepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareHospital,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,TheSchoolofHealthScience,InternationalUniversityofHealthandWelfare手術療法を行った急性内斜視の2症例を報告する.症例1は18歳,男性.突然の複視とともに内斜視を認めた.眼球運動に制限はなく,生理学的・神経学的検査でも異常は認められなかった.発症後,徐々に斜視角は増加し遠見・近見ともに40Δの内斜視を認めた.症例2は10歳,女児.学校検診で内斜視を指摘された.発症後,Fresnel膜プリズム装用にて正位を保っていたが,斜視角は増加し再び複視を自覚した.2症例ともに発症6カ月後に手術療法を行い,術後複視は消失し良好な眼位を維持している.しかし,両眼視機能の結果は両者において差がみられた.Wereport2casesofacuteacquiredcomitantesotropia(AACE)whounderwentsurgery.Therstcase,an18-year-oldmale,experiencedsuddenhorizontaldiplopia.Ductionswerenormal,neurologicaltestwasnegativeandhisesotropicangleincreasedto40prismdiopter.Thesecondcasewasa10-year-oldfemaleinwhomaschooldoctorhaddiscoveredesotropia.Sheunderwentprismaticcorrection,butheresotropicangleincreasedandsheexperiencedhorizontaldiplopia.Bothpatientsunderwentsurgeryat6monthsafteronsetandbothachievednor-malbinocularsinglevisionwasachieved,butbinocularfunctiondieredinthe2cases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11731176,2008〕Keywords:急性内斜視,プリズムアダプテーションテスト,フレネル膜プリズム,手術,立体視.acuteacquiredcomitantesotropia,prismadaptationtest,Fresnel’sprism,surgery,stereopsis.———————————————————————-Page21174あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(128)1%塩酸シクロペントレート(サイプレジンR)点眼後の屈折値を測定したところ,右眼は(1.2×+0.50D(cyl0.50DAx180°),左眼は(1.2×+0.50D(cyl0.50DAx10°)であった.眼位はsingleprismcovertest(以下,SPCT)で遠見25Δ,近見2530Δの内斜視で+3D負荷にて眼位測定を行ったが斜視角に変化はなく,固視交代可能であった.大型弱視鏡による立体視は良好であり,プリズムによる融像幅は正常範囲内であった.特に開散方向は21Δと良好であった.眼筋麻痺との鑑別のため,眼球運動検査を行ったがひき運動で制限はみられず,遠見や側方視で斜視角は変わらず衝動性運動速度の低下もみられなかった.眼窩および頭部CT(コンピュータ断層撮影)・MRI(磁気共鳴画像)でも異常は認められなかった.重症筋無力症との鑑別のためテンシロン試験を施行したが変化はみられなかった.以上の結果より急性内斜視と診断した.経過:発症後,徐々に斜視角は増加し発症5カ月後の眼位はSPCTにて遠見・近見ともに45Δの内斜視を認めた.開散訓練を中心とする視能訓練と同時にFresnel膜プリズムを装用させたが斜視角の減少がみられなかったことから,平成17年8月18日,両内直筋5mm後転術を施行した.術後の眼位はalternateprismcovertest(以下,APCT)で近見・遠見ともに4Δの内斜位を保ち,複視は消失した.近見立体視はTitmusstereotest(以下,TST)でy(+),animal(3/3),circle(9/9),TNOtest(以下,TNO)の結果は60secまでpassと良好な両眼視を保持している.〔症例2〕10歳,女児.初診:平成17年9月1日.主訴:平成17年の学校検診で眼位異常を指摘され,紹介受診.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:小学校3年生より近視の眼鏡を装用.発症2年前に視力改善目的で購入した多孔ピンホール眼鏡を1週間装用していたことがあった.紹介状によると以前より内斜位であり,時折複視は自覚していたが,明らかな内斜視は認めなかったとのことである.初診時所見:視力は右眼(1.2×5.50D(cyl0.50DAx140°),左眼(1.2×5.00D(cyl0.75DAx165°),眼鏡による視力は右眼(0.7p×4.50),左眼(0.8×4.25)で前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかった.トロピカミド(ミドリンPR)点眼後の他覚的屈折検査では変化はなかった.眼位はSPCTにて遠見25Δ,近見18Δの内斜視で右方視,左方視それぞれのむき眼位による斜視角に変化はみられず,右固視のときが多かったが固視交代は可能であった.つぎに眼筋麻痺との鑑別のため眼球運動検査を行ったが,ひき運動で制限はみられず,遠見や側方視で斜視角は変わらず,衝動性運動速度の低下もみられなかった.大型弱視鏡による融像幅は15°+20°(base+20°),立体視はブランコのような大きな視差の視標で片面のみ可能であった.発症年齢や性別を考慮し心因性を疑いGoldmann動的視野計にて視野検査を行ったが,両眼ともに正常範囲であった.上記より急性内斜視と診断した.経過:初診時より1カ月後,Fresnel膜プリズムを装用し斜視角の減少を試みたが,装用当初は複視を自覚しなかったものの,装用2カ月後では遠見にてときどき複視を訴えた.Prismadaptationtest(以下,PAT)にて50Δbaseoutを装用させ30分後に眼位の再検査を行ったところ,遠見・近見ともに正位を保ち,斜視角に変化はみられなかったため,平成18年3月30日両内直筋6mm後転術を施行した.術後の眼位はAPCTにて近見0Δ,遠見6Δの内斜位を保ち,複視は消失した.近見立体視はTSTでy(+),animal(3/3),circle(3/9)で,TNOではスクリーニング用のPlateⅠⅢは可能であったが,定量用のPlateⅤ以降は不可であった.Bagolini線条レンズ法,大型弱視鏡では正常対応であった.II考按急性内斜視の分類についてはさまざまな提唱があるが,vonNoordenは急性内斜視を人工的な融像の遮断により発症するTypeⅠと,発症原因が不明のTypeⅡ(Burian-Fran-ceschettitype),頭蓋内病変によるTypeⅢの3つに分類している1).最も多く遭遇するTypeⅠは外傷や弱視治療後に起こるとされ,片眼遮閉による融像の中断によって潜伏していた内方偏位が顕性化するといわれている.TypeⅡは複視の自覚で始まり,比較的大きな偏位角がある.遮閉の既往はなく,原因不明であるが,元来不十分な融像幅が精神的・身体的ストレスで緊張が失われた影響の結果起こるともされている.Burianらも急性内斜視を3つに分類している.1型は融像を人工的な中断により起こるものとしている.2型(Franceschettietype)は明らかな原因は不明であるが,精神的・身体的ストレスが考えられるもの.3型(Bielschowskytype)は5.00D以上の近視を伴い,遠見時に内斜視で同側性複視,近見時には融像を保てるため複視は訴えないもので,わずかに外転制限はあるが眼球運動に麻痺の兆候はないものである2).両者共通するものとしては,人工的な融像遮断と原因不明であるがストレスによる誘因が認められることがあげられる.症例1は,発症当時18歳で大学受験を控え精神的ストレスにより発症したと考えられた.複視の自覚とともに発症し,術前眼位は45Δと比較的大きな斜視角を認めている点においても一致している.症例2については,原因に不明な点が多い.以前より眠たくなると複視を自覚していたが,発症2年前にピンホール眼鏡を装用しており,その後少しして,母親が内斜視に気づき眼位が顕性化したことがあった———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081175(129)が,一時的なものでしばらくすると眼位は以前のように戻ったため,あまり気にしていなかったそうである.民間療法として孔の多数開いたいわゆるマルチプルピンホール眼鏡は遠視,近視ともに完全矯正下では視力,コントラスト感度が低下するという報告3)もあることから多孔ピンホール眼鏡による一時的な融像遮断の既往があった.しかし,急性内斜視の発症には一眼の融像遮断が起因となるためピンホール眼鏡装用が直接的に関与するかは不明であるが,強い開散により内斜位を保っていたが両眼視を妨げられたことにより,内斜視となったとも考えられる.5.00D以上の近視によるBiel-schowskytypeと考えられるが,症例2の場合,遠見・近見ともに内斜視となり複視の自覚もあり,眼球運動も正常であった.最近では,Bielschowskytypeは開散麻痺との鑑別がむずかしいとされ,急性内斜視の分類に含まれない傾向にある.急性内斜視の診断には調節性を除外するための眼科的検査や,頭蓋内病変によるTypeⅢと眼筋麻痺との鑑別のため神経学的検査が必要である1,3).しかし症例2に対し神経学的検査を行わなかった理由については,発症後2年間ほとんど症状に変化がみられず,明確な遮閉の既往があったためである.急性内斜視の治療法は,ストレスにより発症したTypeⅡで問題の解決とともに自然軽快した5)という報告がある.プリズム矯正にてコントロールされ,やがてプリズムがなくても融像できる大きさまで回復することができる5)という報告もあるが,一般的には手術の適応となることが多い.治験中ではあるがbotulinumtoxin療法を施行6)しているという報告もある.今回2症例いずれも複視が消失した最小の斜視角であるFresnel膜プリズムを装用させ斜視角減少を試みたが,斜位にもち込むことができなかったため両内直筋後転術を施行した.膜プリズムで12Δ以上は視力に影響7)するため,長期間の装用は行わなかった.斜視角の評価にはPATの必要性を強く主張する報告もある5,8).Gustaveらは,急性内斜視の患者にPATを行ったところ,すべてに斜視角の増加がみられたとしている.PATにて安定した角度が得られたことで,術後3カ月で全例が遠見・近見ともに正位になったと報告されている8).本症例においても,症例2の場合,特に開散方向の融像幅が広く,初診時より斜視角の増加はほとんどみられないが,PATでは50Δを認め,手術時の筋移動量の評価に重要であった.手術治療効果についてはTypeⅡ(Burian-Franceschettitype)は,発症以前はほぼ正常の両眼視機能を有しているため,通常の内斜視に比べ低矯正手術を施行しても良好な結果が得られる9)という報告もある.治療開始時期と予後についても一貫した見解が得られていない.Langらは弱視や抑制を防ぐため発症6カ月以内に手術療法を行うべき10)という説の一方,Ohtsukiらは両眼視のある場合,治療開始時期を6カ月以内,724カ月以内,25カ月以上の3群に分け治療開始時期と術後の立体視を比較したが,両者に相関関係はみられない11)という報告もある.しかしLangらは発症年齢平均3歳8カ月(110歳)を,Ohtsukiらは発症年齢平均12歳4カ月(328歳)を対象に検討しており両眼視機能の発達段階に差がみられる.Burkeらも,両眼視のある場合,治療の開始時期と術後の立体視の発達は関係ないとしている.感覚の維持が不安定な若年者にとって,プリズムによる早期治療や手術は調節に伴う偏位が突然起こり,網膜異常対応の発達や抑制をひき起こす5)と報告している.vonNoordenは視覚的に十分発達している子供や成人では抑制や弱視の発達のリスクは存在しないが,5歳以下に発症した急性内斜視は手術治療を数カ月以上延期すべきではない1)としている.Spiererらは,成人(平均年齢38±18.6歳)を対象に検討しており術後良好な両眼視が得られたのはほとんどが平均屈折値4.1±3.2D(+2.08.5D)の近視であり,発症25年後に手術が施行されても良好な立体視を獲得しているため,成人の急性内斜視は特異的な分類とすべきだとしている12).このことから,視覚の感受性期間内であれば視覚は未熟であり治療期間の遅延により両眼視機能に影響が現れるが,十分な両眼視を獲得した後に発症した場合の治療開始時期は術後の立体視に影響しないと考えられる.立体視機能は手術前後ではほとんど変わらない傾向にあるという報告6,13)もある.助川らは8歳で発症し,6カ月後に手術療法を施行したが,遠見・近見ともに正位を保っているにもかかわらず,立体視機能は発症以前の140secと同程度であったとしている.手術時期が遅かったので両眼視機能が損なわれたのではなく,発症以前から両眼視機能はやや劣っていたと報告している13).今回,症例1は発症時年齢18歳,症例2は8歳であった.発症年齢でのみ検討するとどちらも視覚の感受性期間は過ぎており,術後立体視は治療期間に影響されない1,5,6,11,13)ことになる.しかし,症例1の術後立体視はTSTにて40sec,症例2は400secであった.症例1は発症から治療期間も短く,術前の大型弱視鏡による立体視はピエロのような小さな視差の視標でも両面可能で,術後の立体視も良好であった.しかし,症例2は術前の大型弱視鏡による立体視は良好とはいえず,その理由としてもともと立体視機能が劣っていたからか,複視を自覚し始めた頃より治療期間が長かったからかは不明である.1例報告ではあるが石畠らは,複視の自覚と内斜視を指摘され,数日たつと複視は消失し正位となることを数回くり返した8歳,女児について,内方偏位が顕性化したため手術療法を施行したが,術後の両眼視機能は良好とはいえない原因として発症以前より立体視機能がやや劣っていたからと報告している15).また,網———————————————————————-Page41176あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(130)膜対応異常をもつ症例は術後,微小斜視となっている例が多い.山本らは,二次性微小斜視7例で視力低下が軽度であるにもかかわらず,他の微小斜視に比べて立体視が悪かったのは,二次性微小斜視のため術前の眼位ずれの状態が関与しているからだと述べている16).症例2の場合,弱視の既往はないため,視力による立体視不良は考えにくく,今後さらに眼位や網膜対応を含め検討していく必要性があると思われる.今回,急性発症した内斜視について手術療法を行い,術後良好な眼位を獲得した2症例を報告した.しかし,両者ともに術後両眼視機能は良好とはいえず,不明な点も多い.今後,症例数を増やし検討していく必要があると思われる.文献1)vonNoordenGK:BinocularVisionandOcularMotility.p338-340,CVMosby,StLouis,19852)BurianHM:Comitantconvergencestrabismuswithacuteonset.AmJOphthalmol45(part2):55-64,19583)國澤奈緒子,阿曽沼早苗,松田育子ほか:マルチプルピンホールの視力,コントラスト感度に及ぼす影響.日視会誌28:117-121,20004)LegmannSimonA,BorchertM:Etiologyandprognosisofacute,late-onsetesotropia.Ophthalmology104:1348-1352,19975)岩本英子,野上貴公美,古嶋正俊ほか:急性内斜視の1例.眼臨95:263-265,20016)BurkeJP,FirthAY:Temporaryprismtreatmentofacuteesotropiaprecipitatedbyfusiondisruption.BrJOphthalmol73:787,19957)高谷匡雄,大庭間正裕,中川喬:急性内斜視11例の検討.眼紀51:85-88,20008)不二門尚,齋藤純子:プリズムと斜視.p31-43,文光堂,19989)SavinoG,ColucciD,RebecchiMTetal:Acuteonsetcon-comitantesotropia:sensorialevaluation,prismadaptationtest,andsurgeryplanning.JPediatrOphthalmolStrabis-mus53:342-348,200510)福田美子,井崎篤子,三村治:急性内斜視(franceschettitype)の手術治療効果.眼臨88:952-954,199411)LangJ:Criticalperiodforrestorationofnormalstereoa-cuityinacute-onsetcomitantesotropia.AmJOphthalmol119:667-668,199512)OhtsukiH,HasebeS,KobashiRetal:Criticalperiodforrestorationofnormalstereoacuityinacute-onsetcomitantesotropia.AmJOphthalmol118:502-508,199413)SpiererA:Acuteconcomitantesotropiaofadulthood.Ophthalmology110:1053-1056,200314)助川俊介,齋藤友護:発症以前より検査を行った急性内斜視の1症例.眼科38:1391-1395,199615)石畠弘恵,沼田このみ,福尾吉史ほか:急性発症した内斜視の1例.眼臨88:949-951,199416)山本節,文順永:網膜対応異常と二次性微小斜視.眼科25:133-138,1983***

腫瘍随伴視神経症と考えられた1例

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(121)11670910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11671172,2008cはじめに腫瘍随伴症候群(paraneoplasticsyndrome)は,腫瘍の浸潤や転移によらない遠隔効果により,悪性腫瘍患者にさまざまな症状を随伴するもので,腫瘍に対する抗体が,交差反応を起こすという自己免疫機序により発症すると考えられている.眼科領域では網膜が障害される疾患として,上皮由来の〔別刷請求先〕古田祐子:〒453-0801名古屋市中村区太閤3-7-7名古屋セントラル病院眼科Reprintrequests:YukoFuruta,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaCentralHospital,3-7-7Taiko,Nakamura-ku,Nagoya-shi453-0801,JAPAN腫瘍随伴視神経症と考えられた1例古田祐子*1,2中村誠*2熊谷あい*2西原裕晶*2青木はづき*3寺崎浩子*2*1名古屋セントラル病院眼科*2名古屋大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器外科学講座眼科学教室*3一宮市民病院神経内科ACaseofPresumedParaneoplasticOpticNeuropathyYukoFuruta1,2),MakotoNakamura2),AiKumagai2),HiroakiNishihara2),HazukiAoki3)andHirokoTerasaki2)1)DepartmentofOphthalmology,NagoyaCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,NagoyaUniversity,3)DepartmentofNeurology,IchinomiyaMunicipalGeneralHospital68歳,男性が,2週間前からの右眼視力低下を自覚して受診した.初診時視力は右眼手動弁(矯正不能),左眼1.0(1.2)で,前眼部・眼底に視力低下の原因となるような所見を認めず,蛍光眼底造影,網膜電図,頭部コンピュータ断層撮影(CT)/磁気共鳴画像(MRI)上も正常であった.副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイドと略す)パルス療法およびプロスタグランジン製剤の投与を行ったところ,右眼視力は一旦(0.01)に改善した.しかし1カ月後には右眼視力は光覚()に低下し,左眼視力も20cm指数弁に低下した.左眼にも視力低下の原因となる所見はみられなかった.再度ステロイドパルス療法およびプロスタグランジン製剤の投与を施行したところ,一時的に右眼視力は指数弁,左眼視力は(0.3)に回復したが,発症約4カ月後には右眼光覚(),左眼手動弁となった.経過中,知覚異常,意識障害など原因不明の神経症状がみられ,発症約5カ月目には頭蓋内に異常を認めない小脳失調症状を発症した.精査にて肺癌と肝臓への多発転移が認められたため,これらの神経症状は,腫瘍随伴症候群による亜急性小脳変性症と考えられた.このことから,視力障害は腫瘍随伴視神経症によるものと考えられた.原因不明の急激な視力低下をきたす症例では,腫瘍随伴視神経症の可能性も考慮する必要があると考えられた.Wereportthecaseofa68-year-oldmalewithparaneoplasticopticneuropathysecondarytolungcancer.Thepatientnoticedprogressivevisuallossinhisrighteye;hisbest-correctedvisualacuity(BCVA)wasreducedtohandmotion(HM)OD.Noabnormalitywasfoundbyslit-lampexamination,funduscopy,uoresceinangiography,electroretinogramorbraincomputedtomography(CT)/magneticresonanceimaging(MRI).AftertreatmentincludingsystemicmethylprednisoloneandprostaglandinF2a,hisBCVAODimprovedto0.01;however,itreducedtolightsense(LS)()after1month.AtthistimehisBCVAOSwasalsoreducedtocountingingers(CF)from1.2.SystemicmethylprednisoloneandprostaglandinF2awereadministeredagainandhisBCVAtempo-rarilyimprovedtoCFODand0.3OS,butreducedtoLS()ODandHMOSafter2months.At5monthsheshowedcerebellarataxia;meanwhile,lungcancerandmultiplemetastasistotheliverhadbeenfoundbychestX-rayandCTscan.Hewasthendiagnosedwithparaneoplasticneurologicalsyndrome,hisvisuallossbeingduetoparaneoplasticopticneuropathy.Paraneoplasticneurologicalsyndromeshouldbeconsideredinpatientswithvisuallossofunknownetiology.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11671172,2008〕Keywords:腫瘍随伴視神経症,腫瘍随伴小脳変性症,肺癌.paraneoplasticopticneuropathy,paraneoplasticcer-ebellardegenerations,lungcancer.———————————————————————-Page21168あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(122)家族歴:特記すべきことなし.現病歴:平成16年1月14日,2週間前から右眼の視力低下を自覚したため,近医眼科を受診した.視力低下の原因が不明のため,平成16年1月19日名古屋大学眼科を紹介され受診した.初診時所見:視力は右眼10cm手動弁(矯正不能),左眼1.0(1.2×+1.75D(cyl0.50DAx110°)で,眼圧は両眼とも13mmHg.前眼部,中間透光体には両眼とも異常がみられなかった.瞳孔反応は右眼の相対的瞳孔求心路障害(rela-tiveaerentpapillarydefect:RAPD)が陽性であった.眼底は右眼黄斑部にわずかな色素性変化がみられたが,他に異悪性腫瘍に合併する癌関連網膜症(cancer-associatedretin-opathy:CAR)と,悪性黒色腫に合併する悪性黒色腫関連網膜症(melanoma-associatedretinopathy:MAR),および視神経が障害される疾患として,腫瘍随伴視神経症(parane-oplasticopticneuropathy:PON)が知られている.今回筆者らは,PONと考えられる1例を経験した.I症例患者:68歳,男性.主訴:右眼の視力低下.既往歴:脳梗塞(50歳),腹部大動脈瘤(63歳).ab1初診時の眼底写真a:右眼,b:左眼.右眼黄斑部にわずかな色素性の変化がみられたが,他には特記すべき異常はみられない.ab2初診時の蛍光眼底造影写真a:右眼,b:左眼.特に異常はみられない.図3初診時のGoldmann動的量的視野検査右眼鼻上側に孤島状の残存が検出された.左眼は正常であった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081169(123)て抗生物質投与による治療をうけた.また失禁,しびれ感,意識消失発作,呂律障害などの神経症状がみられたため脳外科,神経内科を受診し,MRI,脳血流シンチグラフィーによる検索が行われたが,神経症状の原因は不明で,多発性硬化症の可能性も否定された.またLeber遺伝性視神経症の可能性を考え,ミトコンドリア遺伝子の11778番塩基の検索を行ったが,点変異はみられなかった.約1カ月後の4月17日,視力は右眼光覚(),左眼20cm手動弁と,改善が得られないまま退院となった.約2カ月後の平成16年6月6日,嘔気,嘔吐,歩行困難などの小脳失調症状が現れ,一宮市民病院に緊急搬送され入院した.髄膜刺激症状はみられず,髄膜炎の可能性はないと考えられた.頭部CT/MRIでは,この神経症状の原因となる病変を認めなかったが,胸部X線写真および胸部CTでは,左肺野S6領域に肺癌(腺癌)と考えられる異常陰影がみられ(図6),腹部CTでは肝臓内に多発性の転移巣を認めた(図7).これらのことから小脳失調症状は,腫瘍随伴症候群のうち腫瘍随伴神経症候群に属する亜急性小脳変性症(subacutecelleblardegeneration)1)と,同院神経内科にて診断された.亜急性小脳変性症は肺癌に合併したものが多く,PONを合併する場合もあると報告されているため1),これらの臨床経過より,本症例は腫瘍随伴神経症候群に属するPONにより,視力障害をきたしたと考えられた.経気管支鏡生検を施行したが,肺癌の組織像を明らかにすることはできなかった.同院呼吸器内科にて6月18日より3クールの化学療法〔カルボプラチン(CBDCA)+パクリタキセル常はみられず,視神経乳頭にも異常はみられなかった(図1).蛍光眼底造影でも異常は認めず,腕-眼時間は正常であった(図2).Goldmann視野では,右眼は鼻上側に孤島状の視野の残存を認めるのみで,左眼は正常であった(図3).網膜電図(electreoretinogram:ERG)の反応は,左右ともに正常であった(図4).光干渉断層計(opticalcoherencetomo-graphy:OCT)では,両眼とも黄斑部網膜厚は正常で,視神経乳頭周囲の神経線維層の厚さも全周にわたり正常範囲であった.頭部コンピュータ断層撮影(CT)/磁気共鳴画像(MRI)では,陳旧性の脳梗塞がみられたが,ほかに異常は認められず,占拠性病変や副鼻腔炎,視神経の炎症所見などはみられなかった.念のため脳外科,神経内科,耳鼻科を受診したが,特に異常はないとのことであった.経過:平成16年1月20日より名古屋大学医学部附属病院に入院し,ステロイドパルス療法(ソル・メドロールR1,000mg×3日間後,プレドニンR40mg/日から漸減)およびプロスタグランジン製剤投与(パルクスR10μg×14日間)を行ったところ,右眼視力は一旦(0.01)に改善した.しかしその後指数弁に低下し,2週間後退院となった(図5).退院約3週間後の平成16年2月23日,左眼の急激な視力低下を自覚し,翌2月24日再診した.このとき左眼視力は20cm指数弁で,右眼も光覚()となっていた(図5).両眼とも前眼部,眼底に変化はなく,視力低下の原因となるような異常はみられなかった.同日より再入院して再度ステロイドパルス療法およびプロスタグランジン製剤の投与を行ったところ,2週間後の3月8日に視力は右眼光覚(+),左眼(0.3)に改善したが,この回復は一時的で,その後再び徐々に低下した(図5).3月12日に測定された限界フリッカー値は,右眼は測定不可能,左眼は8Hzと著しく低下していた.右眼の視神経乳頭は徐々に蒼白化した.この2回目の入院中,発熱を伴う尿路感染症のため,内科および泌尿器科に図4初診時の網膜電図(ERG)左右とも正常であった.1,0001,0004040303020201010155メチルプレドニロン投与(mg)視力1/192/22/163/23/163/304/13パルクスR10μg投与1.20.30.01CFHMLS(+)LS(-)0.1:右眼:左眼図5経過表———————————————————————-Page41170あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(124)から否定的であり,症状を説明できる明らかな異常を認めなかった.このため当初診断に苦慮し,経過中は除外診断的に後部虚血性視神経症として,ステロイドパルス療法を主体とする治療を行った.しかし両眼に続けて発症したことなどから,この診断にも疑問が残った.その後肺癌が発見され,この症例でみられた原因不明の小脳失調症状は,腫瘍随伴神経症候群(paraneoplasticneurologicsyndrome:PNS)の古典的症候である亜急性小脳変性症と診断された.これにより初めて,視力低下の原因もPNSの一症状であるPONと考えられるに至った.PNSの診断に関しては,近年Grausらが診断基準を提唱している1).これによれば,PNSで起こるさまざまな症候群を,古典的症候と,非古典的症候に分けて考えており,それぞれに付随する状況から,deinitePNSとpossiblePNSの2段階の診断基準を設けている.古典的症候には,しばしば癌と関連があるとされるencephlomyelitisやlimbicenchep-hlitis,chronicgastrointestinalpseudo-obstraction,Lam-bert-Eaton症候群など8つの神経症候群が定められており,亜急性小脳変性症もこれに含まれる.発症した神経症状が古典的症候と考えられる場合には,ほかに考えられる症状の原因となる神経疾患などを除外したうえで,①神経症状の診断と原因と考えられる癌の発現が[5年以内で]ある,②明らかな癌の存在はないが,癌関連自己抗体のうちPNSと強く関連があるとされるもの[抗CRMP-5(CV2),Yo,Hu,Ri,Ma2,amphysin抗体]が検出されている,のいずれかであればdeinitePNSとするとされている.本症例は小脳失調症状発症直後に肺癌が認められており,ほかに神経症状の原因となりうる病変を認めないことから,deinitePNSに相当した.一方,PONやCAR,MARは古典的症候には含まれず,Grausらの診断基準のなかでは,現在のところ眼症状単独ではPNSの診断の根拠に用いることは推奨されていない.本症例の直接の死因となったイレウスの原因は,剖検が得(TXL)〕が施行されたが,1カ月後にイレウスを発症し,平成16年7月19日に永眠した.剖検は得られなかった.II考按眼底に異常を認めず急激な視力障害を生じる疾患には,①頭蓋内疾患(脳腫瘍・下垂体腫瘍・水頭症・癌の脳転移など),②鼻性視神経炎(後部副鼻腔の膿胞・副鼻腔炎による),③球後視神経炎(多発性硬化症,ウイルス性),④眼窩疾患(眼窩内腫瘍・眼窩蜂窩織炎・眼窩先端症候群など),⑤網膜疾患(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOORなど),⑥遺伝性視神経症(Leber病),⑦後部虚血性視神経症が鑑別として考えられる.これらのうち本症例では,頭蓋内疾患,鼻性視神経炎,球後視神経炎は脳外科,神経内科,耳鼻科で否定され,眼窩疾患はCT/MRIで異常がないこと,網膜疾患はERGが正常であったこと,Leber病は遺伝子検査図63回目の入院時(平成16年6月)の胸部X線写真(左図)と胸部CT(右図)胸部X線写真(左図)では左肺野に肺癌と考えられる陰影(矢頭)が認められ,胸部CT(右図)では左肺野S6領域に肺癌と考えられる陰影(矢頭)を認めた.図73回目入院時(平成16年6月)の腹部CT肝臓内に癌の転移と思われる多発性の低吸収域が認められた(矢頭).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081171(125)症例と同様,急激な視力低下を生じ,視神経以外の中枢または末梢神経症状を伴っていた.またこれらのうちの多くは視神経乳頭浮腫を伴っており,PONでは視神経乳頭浮腫を伴う場合が多いと考えられるが,伴わない場合もある3).PONをきたす原疾患としては,肺小細胞癌が最も多いが,さまざまな原発巣から発症した報告がある(表1).PNSの多くでは,腫瘍の発見に先立ち神経症状が発症するため,これが腫瘍の発見に貢献するとされている8).眼科関連の腫瘍随伴症候群であるCARやMARでも,しばしば腫瘍の発見よりも眼症状が先行するが,本症例のように,PONでも原因となる腫瘍の発見に先立ち眼症状が発症することがある.このため原因不明の視力障害をきたした症例では,これらの疾患の可能性も念頭に置き全身的検索を進める必要がある.CARとMARではERGに明らかな異常が検出されることが診断に役立つ.しかしPONの場合には,視神経乳頭炎から重篤な網膜炎などを合併した場合にERGに異常をきたす場合もあるが,通常は必ずしもERGに異常をきたさない2).このため原因不明の視力障害では,ERGに異常がみられなくても腫瘍随伴症候群の可能性があることに留意する必要がある.PONでは経過中に小脳失調症状などの視神経症以外の神経症状を示すことが多く2),これが診断の一助になると考えられるが,本症例では視神経症以外の神経症状が遅れて発症したことにより,初期の診断がより困難であったと考られなかったため明らかにはされなかったが,PNSの末梢神経症状の一つに,先に述べた古典的症候のchronicgastro-intestinalpseudo-obstractionがあり,イレウスもPNSのために発症した可能性があると考えられた.PNSは腫瘍の浸潤や転移によらない遠隔効果によって神経系が障害される疾患群で,腫瘍が産生した抗原に対してできた抗体が,神経系と交差反応を起こすという自己免疫機序によると考えられている1).腫瘍の遠隔効果による視力低下をきたす疾患としては,網膜が障害されてERGに反応の低下をきたすCARとMARが広く知られているが,ERGに必ずしも変化をきたさないPONの場合もあることに留意すべきだと考えられる.PONはCARやMARよりも頻度は低いと考えられ,筆者らが調べた限りでは,PONは,現在までに,海外で30例前後25),わが国では3例の報告があった6,7)(表1).これらの多くは本表1腫瘍随伴視神経症(Paraneoplasticopticneuropathy)関連疾患症例数報告者肺小細胞癌18例Bennetetal.BrJChest,1986Watersonetal.AustNZMed,1986DelaSayetteetal.ArchNeurol,1998Crossetal.(9例)AnnNeurol,2003Sheorajpandayetal.JNeuroophthalmol,2006など肺腺癌1例大平ほか.眼科,1990悪性リンパ腫2例Coppetoetal.JClinNeuroophthalmol,1988Henchozetal.KlinMonatsblAugenheilkd,2003神経芽細胞腫1例Kennedyetal.PostgradMedJ,1987腎癌2例Hoogenaadetal.Neuroophthalmology,1989Crossetal.AnnNeurol,2003胃癌1例日下部ほか.臨眼,1994気管支癌1例Pillayetal.Neurology,1984喉頭癌1例日下部ほか.臨眼,1994鼻咽腔癌1例Hohetal.SingaporeMedJ,1991表3PONと関連のある自己抗体原因となる自己抗原症例数報告者CRMP5(CV2)10例Yuetal.AnnNeurol,2001DelaSayetteetal.ArchNeurol,1998Sheorajpandayetal.JNeuroophthalmol,2006Yo2例Petersonnetal.Neurology,1992表2腫瘍関連自己抗体合併症状原因疾患認識する抗原抗Hu抗体(ANNA-1,typeⅡa)脳脊髄炎,感覚ニュロパチー亜急性小脳変性症肺小細胞癌神経芽腫前立腺癌など中枢神経細胞核(HuR,Hel-N1,HuC/ple21,HuD)抗Ri抗体(ANNA-2,typeⅡb)オプソクローヌスミオクローヌス乳癌中枢神経細胞核(Nova-1)抗Yo抗体(PCA1)腫瘍随伴小脳変性症乳癌卵巣癌子宮癌など小脳Purukinje細胞抗CRMP5抗体(CV2)脳脊髄炎感覚ニューロパチー亜急性小脳変性症肺小細胞癌末梢・中枢神経細胞———————————————————————-Page61172あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(126)文献1)GrausF,DelattreJY,AntoineJCetal:Recommendeddiagonosticcriteriaforparaneoplasticneurologicalsyn-dromes.JNeurosurgPsychiatry75:1135-1140,20042)CrossSA,SalamaoDR,ParisiJEetal:ParaneoplasticautoimmuneopticneuritiswithretinitisdeinedbyCRMP-5-IgG.AnnNeurol54:38-50,20033)ChanJW:Paraneoplasticretinopathiesandopticneuropa-thies.SurvOphthalmol48:12-38,20034)SheorajpandayR,SlabbynchH,VanDeSompelWetal:Smallcelllungcarcinomapresentingasparaneoplasticopticneuropathy.JNeuro-ophthalmol26:168-172,20065)LuizJE,LeeAG,KeltnerJLetal:Paraneoplasticopticneuropathyandautoantibodyproductioninsmall-cellcar-cinomaofthelung.JNeuro-ophthalmol18:178-181,19986)大平明彦,井上泰,福田直子ほか:Paraneoplasticopticneuropathyの1例.眼科32:1519-1522,19907)日下部健一,池田博之,溝田淳:Paraneoplasticopticneuropathyと考えられた2症例.臨眼88:1354-1357,19948)田中正美,田中恵子:抗Yo抗体と傍腫瘍小脳変性症.医学のあゆみ201:185-187,20029)PetersonK,RosenblumMK,KotanidesHetal:Paraneo-plasticcerebellardegeneration,I:aclinicalanalysisof55anti-Yoantibody-positivepatients.Neurology42:1931-1937,199210)CalvertPC:ACR(I)MPintheopticnerve:Recogni-tionandimplicationsofparaneoplasticopticneuropathy.JNeuro-ophthalmol26:165-167,200611)GuyJ,AptsiauriN:Treatmentofparaneoplasticvisuallosswithinteravenousimmunoglobulin.ArchOphthalmol117:471-477,1999えられる.近年,PNSの原因と考えられるいくつかの腫瘍関連自己抗体が患者血清より同定されている(表2)が,PONでは抗CRMP-5(CV2)抗体が検出された例が最も多く報告されており2),他に抗Yo抗体が検出されたとの報告もある9)(表3).本症例では抗CRMP-5(CV2)抗体,抗Yo抗体,およびPNSで比較的高い頻度で検出される抗Hu抗体や抗Ri抗体1)についても検討したが,いずれも血清から検出されなかった.PONに対する治療に関しては,原因腫瘍に対する治療が第一とされ10),これにより視力が改善したという報告がある2,10)が,視力の改善が得られなかった症例も多い10).また,PONへの対症療法として,ステロイド投与や,g-グロブリン投与の行われた報告もあり,劇的に回復したとされる症例がある10,11).しかしこれらの薬物を投与しても効果が得られない場合もあり,現在のところ,PONに対する治療法は確立されていない10).本症例では,腫瘍に対する治療の前に2回ステロイドパルス療法およびプロスタグランジン製剤投与が行われたが,その結果,いずれの場合も一時的に視力の改善がみられた.その後再び視力障害は進行したが,これらの薬剤がPONに対し有効であった可能性があると考えられる.PONの治療法に関しては,今後の症例の積み重ねが必要であると考えられた.原因不明の急激な視力低下をきたす症例では,PONの可能性も考慮する必要がある.視神経乳頭浮腫がみられ,ほかには眼底に異常がみられず,中心暗点などの視野異常が検出されるといった,視神経炎様の所見を呈する場合は,PONの可能性を考える必要があるが,PONでは視神経乳頭浮腫もみられず,眼底にまったく異常を呈さない場合もあるので注意が必要と考えられた.***

視神経網膜炎を発症したネコひっかき病の1例

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(117)11630910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11631166,2008cはじめにネコひっかき病(catscratchdisease:CSD)は,グラム陰性桿菌であるBartonellahenselaeの感染により惹起される疾患であり,ネコのノミが中間ベクターとして考えられている.CSDは若年者での報告が多く,秋から冬にかけて発症し,温暖地域に好発するといわれている.多くの症例では,発熱,リンパ節腫脹,皮膚症状といった全身症状を呈するが,眼症状を伴うことも知られている.今回筆者らは視神経網膜炎を発症し,B.henselae抗体が陽性であったことよりCSDと診断した症例を経験したので報告する.I症例患者:31歳,女性.主訴:発熱,頭痛,左眼視力低下と眼痛.現病歴:平成18年11月1日より40℃以上の発熱,頭痛が出現,市販薬を内服するも改善なく,11月4日他院内科を受診し,アジスロマイシン,ロキソプロフェンナトリウム内服開始となる.11月6日再診時WBC(白血球)11,600/μl,CRP(C反応性蛋白)11.4mg/dlと上昇がみられた.11月9日再診時,CRPは改善しておりアジスロマイシン内服は中止,その頃から左眼違和感を自覚し,また左眼視力低下を自覚したため,翌日近医眼科を受診するも原因不明であ〔別刷請求先〕中島史絵:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ChikaeNakashima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine,6-20-2Shinkawa,Mitaka-shi,Tokyo181-8611,JAPAN視神経網膜炎を発症したネコひっかき病の1例中島史絵渡辺交世慶野博岡田アナベルあやめ杏林大学医学部眼科学教室NeuroretinitisinaCaseofCatScratchDiseaseChikaeNakashima,TakayoWatanabe,HiroshiKeinoandAnnabelleAyameOkadaDepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine今回,筆者らは急性期のネコひっかき病の1例を経験したので報告する.症例は,31歳,女性.発熱,頭痛に続く左眼視力低下と眼痛を自覚し,当科を紹介受診した.初診時の左眼矯正視力は0.08,前眼部から中間透光体にかけての異常はなかったが,左眼視神経乳頭上に白色の硝子体混濁と黄斑部の網膜下液がみられた.視野検査では左眼にMariotte盲点の拡大が検出され,蛍光眼底造影では視神経乳頭上の占拠性病変による低蛍光がみられた.経過中,黄斑部に星芒状滲出斑が出現したためネコひっかき病を疑いBartonellahenselae血清抗体価を測定し,クラリスロマイシン内服を開始した.B.henselaeに対する免疫グロブリンIgG,IgM抗体がともに上昇していたことよりネコひっかき病と確定した.治療開始後1カ月で左眼の視力は1.0へ回復し,視野もほぼ正常化した.Wereportacaseofacutecatscratchdisease(CSD).Thepatient,a31-yaer-oldfemale,presentedwithreducedleftvisionandeyepainafterrecentlyexperiencingfeverandheadache.Herbest-correctedvisualacuitywas0.08OS.Theanteriorsegmentandocularmediawerenormalinthelefteye,butfunduscopydisclosedawhiteopacityoverlyingtheopticdisc,withsubretinaluidinthemacula.Anenlargedblindspotwasdetectedbyvisualeldtesting;uoresceinangiographyshowedtheopticdisctobeblockedbytheopacity.Sixdaysafterpre-sentation,maculastarchangesappearedandsystemicclarithromycinwasadministeredforasuspecteddiagnosisofCSD.Elevatedimmunoglobulin(Ig)GandIgMBartonellahenselaeantibodieswerelaterconrmed;recoveryofvisualacuityandvisualeldwereobservedby1month.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11631166,2008〕Keywords:ネコひっかき病,視神経網膜炎,バルトネラヘンセラ,星芒状滲出斑.catscratchdisease,neurore-tinitis,Bartonellahenselae,maculastar.———————————————————————-Page21164あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(118)り,11月13日他大学病院眼科を受診.両視神経炎疑いにて11月15日精査目的に当科紹介受診となる.既往歴:幼少期よりくも膜胞の指摘あり.生活歴:ペット飼育やネコとの接触歴はないが,平成18年7,8月にダニに刺傷されることが多かった.初診時眼所見:視力は右眼1.2(n.c.),左眼0.07(0.08×1.00)で,眼圧は右眼13mmHg,左眼11mmHgであった.直接対光反射は両眼とも異常はなかったが,左眼にはわずかながら相対的瞳孔求心路障害を認めた.前眼部・中間透光体の異常はなく,眼底は右眼は正常であったが,左眼は視神経乳頭上に白色綿状の硝子体混濁と黄斑部の網膜下液がみられた(図1,6).蛍光眼底造影では,左眼視神経上に占拠性病変による低蛍光がみられたが,蛍光漏出はなかった(図2).限界フリッカー値は右眼は異常なかったが,左眼は20Hz以下と低下しており,左眼動的視野検査にてMariotte盲点の拡大を含めた中心暗点が検出された(図3).図1初診時眼底写真VD=1.2(n.c.),VS=(0.08).左眼視神経乳頭上に白色綿状の硝子体混濁,黄斑部の網膜下液を認める.図2初診時蛍光眼底写真(HRA2)右:フルオレセイン蛍光造影,左:インドシアニングリーン蛍光造影.左眼視神経上に占拠性病変を認めたが,蛍光漏出はない.図3初診時(左)と治療後半年(右)の動的視野検査初診時は中心暗点の拡大を認めたが,治療後はほぼ正常化した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081165(119)初診時全身所見:体温37.4℃,脈拍72回/分,血圧84/50mmHg,全身に明らかなリンパ節腫脹はなかった.血液検査所見:Hb(ヘモグロビン)9.0g/dl,RBC(赤血球)447万/μl,Plt(血小板)20.1万/μl,WBC7,300/μl(seg63.6%,eosin1.6%,baso0.0%,mono7.8%,lymph27.1%),血沈1時間値84mm,2時間値118mm,AST(アスパラギン酸・アミノ基転移酵素)34IU/l,ALT(アラニン・アミノ転移酵素)62IU/l,CRP2.4mg/dl,Ig(免疫グロブリン)G2,315mg/dl,CH5080.6IU/ml,RF10IU/ml未満,b-Dグルカン(),エンドトキシン().感染症抗体:梅毒定性検査(),HCV(C型肝炎ウイルス)抗体(),HIV(ヒト免疫不全ウイルス)抗体(),CMV(サイトメガロウイルス)IgM(),CMVIgG(+),マイコプラズマ抗体(),オウム病抗体(),EBV(Epstein-Barrウイルス)IgM(),EBVIgG(+),VZV(水痘・帯状疱疹ウイルス)IgG(+),HTLV(ヒトT細胞白血病ウイルス)-1抗体(),トキソプラズマ抗体().心電図:異常なし.画像検査:頭部CT(コンピュータ断層撮影)では前頭葉から側頭葉にかけて低吸収域があり,眼窩部MRI(磁気共鳴画像)では左眼視神経乳頭部に浮腫がみられた.胸部X線上異常はなかったが,腹部超音波では脾腫,脾臓内に低吸収域を認めた.また,腹部骨盤CTでは中等度の脾腫がみられた.培養:血液・尿とも細菌,真菌は検出されなかった.経過:自然経過観察にて視神経上の混濁および黄斑部の網膜下液は減少傾向を示した.初診後6日目に星芒状滲出斑が出現し(図4),ネコひっかき病を疑い,クラリスロマイシンの内服の開始と同時にBartonella血清抗体価を測定した.免疫蛍光抗体法(IFA)で測定したところ,結果はB.hense-laeIgM128倍(基準値16倍未満),B.henselaeIgG256倍(基準値64倍未満),B.quintanaIgM20倍未満(基準値16倍未満),B.quintanaIgG64倍(基準値64倍未満)であったことより,ネコひっかき病と診断した.眼所見はその後も改善傾向を示し(図5),左眼視力は(1.0)に改善,視野検査もほぼ正常となり(図3),OCT(光干渉断層計)上も黄斑部の網膜下液の減少を認めた(図7).抗生物質開始4カ月後のB.henselae抗体価は酵素抗体法(EIA)で測定したところ,IgG1,024倍と高値であったが,IgM20倍未満と陰性化した.II考按CSDはネコとの接触や咬傷の既往歴と関連があり,発熱,頭痛,倦怠感,食欲不振,皮膚症状,リンパ節腫脹などの全身症状を呈する疾患である.眼所見を伴うこともあり,Par-inaud症候群が有名である.Parinaud症候群とはリンパ節図4初診後6日の左眼眼底写真黄斑に星芒状滲出斑を認めた.図5治療後1カ月の左眼眼底写真VS=(1.2).視神経乳頭上の混濁,網膜下液はほとんど消失した.図6初診時の左眼OCT網膜下液の貯留を認める.図7治療後半年の左眼OCT網膜下液は減少した.———————————————————————-Page41166あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(120)腫脹に急性濾胞性結膜炎を呈するものであるが,今回の症例ではそのような所見はなかった.その他網脈絡膜炎,視神経乳頭浮腫,星芒状滲出斑,網膜動静脈閉塞などがあり,視神経網膜炎は12%に発症したとの報告がある1).本症例は明らかなネコとの接触はなかったが,ダニの刺傷歴はあった.Solleyらは24例中2例でネコとの接触がなかったがCSDと診断した症例を報告している2).また,CunninghamらはネコのノミからB.henselaeが検出されていることからノミはベクターとして考えられると報告している3).イヌなどネコ以外の動物と接触し,それらの動物よりB.henselaeが検出されたと報告4)されていることより,今回の症例はダニを介したB.henselaeの感染であった可能性も考えられる.本症例では,全身症状として弛張熱を呈したが,CSDに伴う発熱として藤井ら5)や萎澤ら6)も弛張熱を呈した後に網脈絡膜炎を生じ,B.henselae抗体が陽性であったことからCSDと診断した症例を報告しており,特徴的な臨床経過の一つと思われた.CSDの診断方法としては,B.henselae抗体価測定,リンパ節生検,髄液PCR(polymerasechainreaction)による細菌の検出などがある.抗体価測定は簡便であり,この検査法が普及したことよりCSDの診断率は向上した.ただし,非典型的な所見を伴っていたが抗体価が陽性であったためCSDと診断した症例もあり,そういった症例では特異性の高い検査の検討も必要である.抗体価測定には,EIAとIFAの2種類がある.EIAではIgG抗体価64倍以上,IgM抗体価20倍以上であった場合を陽性としており,IFAでは急性期においてIgM抗体陽性,IgG抗体価が1:256以上,急性期・回復期ペア血清で4倍以上の抗体上昇のいずれかを認めた場合を陽性としている.本症例では治療前はIgG,IgM抗体とも陽性であり,治療後4カ月目の測定ではIgG抗体は高値のままであったが,IgM抗体は陰性化した.これは本症例がCSDの急性期であったためと考えられる.一方,Rothovaらは全例ともIgMが陰性であったがIgGが高値であった症例を報告していること9)や,CSDの眼症状は全身症状を呈した後しばらく経ってから生じることが多いことより,感染の晩期に生じるのではないかと考えられている.そのため,眼症状はB.henselae自体の直接の感染によって発症するのではなく,何らかの免疫反応が関連して発症する可能性も推測されている.しかし,今までの報告のなかにもIgMが高値であったのちに陰性化した急性期の報告もあり68),CSDの眼症状は晩期だけでなく急性期にも生じることがあると考えられる.CSDは一般的に予後良好な疾患であり,自然治癒することが多いと考えられているが,抗生物質やステロイドの使用で病期が短縮することがある2,6,7).抗生物質としてはニューキノロン,マクロライド,テトラサイクリン,ペニシリンなどさまざまなものが報告がされているが,効果的な薬剤あるいは治療期間についてはまだはっきりとした報告がない.また,抗結核薬の併用が有効であったとの報告2)や,抗炎症を目的としてステロイドの併用が有効であったとの報告がある4,8,10).しかし,依然として確立された治療法は現在のところなく予後不良例の報告2)もある.予後不良例では,血管閉塞症などの合併症を生じていることが多い.当施設でも治療に抵抗し,中心暗点が残存したため視力予後が不良であった症例を経験している11).B.henselae抗体価測定の普及によりCSDと診断された症例は増加しているため,今後さらなる治療法の検討が必要と考える.文献1)川野庸一,山本正洋:ネコひっかき病の眼病変.眼科44:1099-1105,20022)SolleyWA,MartinDF,NewmanNJetal:Catscratchdiseaseposteriorsegmentmanifestation.Ophthalmology106:1546-1553,19993)CunninghamET,KoehlerJE:OcularBartonellosis.AmJOphthalmol130:340-349,20004)山之内寛嗣,泉川欣一,久松貴ほか:犬が感染源と考えられたBartonellahenselae感染症の1例.感染症学雑誌78:270-273,20045)藤井寛,清水浩志,阿部祥子ほか:弛張熱と眼底隆起性病変を伴う網脈絡膜炎を認めた猫ひっかき病の女児例.小児科臨床57:1012-1016,20046)萎澤幸恵,酒井勉,永井祐喜子ほか:Bartonellahenselae感染による視神経網膜炎の1例.眼科47:987-992,20057)辰巳和弘,佐々由季生,三松栄之ほか:猫ひっかき病に伴う両眼の視神経網膜炎の1例.眼科42:213-217,20008)石田貴美子,猪俣孟,藤原恵理子ほか:視神経網膜炎を伴った猫ひっかき病の1例.臨眼54:1503-1507,20009)RothovaA,KerkhoF,HooftHJetal:Bartonellaserolo-gyforpatientswithintraocularinammatorydisease.Ret-ina18:348-353,199810)北善幸,竹内忍:猫ひっかき病による視神経網膜炎の臨床経過.眼科47:1119-1124,200511)宮本裕子,河原澄枝,岡田アナベルあやめほか:両眼の前眼部炎症および視神経乳頭炎を呈したネコひっかき病の1例.臨眼54:792-796,2001***

増殖糖尿病網膜症患者の硝子体手術における抗凝固療法の術後合併症発生への影響

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(111)11570910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11571161,2008c〔別刷請求先〕松下知弘:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野Reprintrequests:TomohiroMatsushita,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,YamagataUniversity,2-2-2Iidanishi,YamagataCity990-9585,JAPAN増殖糖尿病網膜症患者の硝子体手術における抗凝固療法の術後合併症発生への影響松下知弘*1,2,3山本禎子*1菅野誠*1川崎良*1芳賀真理江*1,3神尾聡美*1佐藤浩章*1金子優*1,4鈴木理郎*1,2江口秀一郎*2高村浩*1山下英俊*1*1山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野*2江口眼科病院*3済生会山形済生病院眼科*4山形県立河北病院眼科AnticoagulantTherapyInuenceonPostoperativeComplicationsinProliferativeDiabeticRetinopathyPatientsTreatedwithVitrectomyTomohiroMatsushita1,2,3),TeikoYamamoto1),MakotoKanno1),RyoKawasaki1),MarieHaga1,3),SatomiKamio1),HiroakiSato1),YutakaKaneko1,4),MichiroSuzuki1,2),ShuichiroEguchi2),HiroshiTakamura1)andHidetoshiYamashita1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,YamagataUniversity,2)EguchiEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiYamagataSaiseiHospital,4)DepartmentofOphthalmology,YamagataPrefecturalKahokuHospital目的:硝子体手術を施行した増殖糖尿病網膜症患者において,抗凝固療法の有無による術後合併症への影響について検討した.対象および方法:増殖糖尿病網膜症に対して硝子体手術を施行された50例50眼について検討した.対象症例を抗凝固療法内服群(維持量)と非内服群に分け,ヘモグロビンA1c(HbA1c)や全身合併症の有無について,また,術後合併症として網膜離,硝子体出血,その他の合併症の発生について両群で比較検討した.結果:抗凝固療法内服群11例11眼,非内服群39例39眼であった.HbA1c値は両群間に有意差はなかった.高血圧,高脂血症,心疾患,脳血管疾患は,抗凝固療法内服群で有意に多く合併していた.術後合併症はいずれの項目でも両群間に有意差は認められなかった.結論:増殖糖尿病網膜症に対して硝子体手術を施行するにあたり,抗凝固療法(維持量)を続行しても,合併症の発生頻度に差は認められなかった.Weanalyzedtheinuenceofanticoagulanttherapyonpostoperativeresultsandcomplicationsin50patients(50eyes)withproliferativediabeticretinopathytreatedwithvitrectomy.Thesubjectswereclassiedinto2groups:thosewhounderwentvitrectomyusinganticoagulanttherapyatthemaintenancedose(GroupI;11patients),andthosewhounderwentvitrectomywithoutanticoagulanttherapy(GroupII;39patients).Wecom-paredtheclinicalbackgrounddatabetweenthegroups;itincludedhemoglobinA1c(HbA1c),pasthistoryofsys-temicdisease,andcomplicationsofvitrectomy(retinaldetachment,vitreoushemorrhageetc.).TherewasnosignicantdierenceinHbA1cvalueorpostoperativecomplicationsbetweenthetwogroups.ThoseinGroupIsueredfromhypertension,hyperlipidemia,heartdisease,andcerebrovasculardiseasesignicantlymorethandidthoseinGroupII.Therewasnodierenceinincidenceofpostoperativecomplicationsbetweenthegroups,evenifwecontinuedtheanticoagulanttherapyforproliferativediabeticretinopathypatientstreatedwithvitrectomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11571161,2008〕Keywords:増殖糖尿病網膜症,硝子体手術,術後合併症,抗凝固療法.proliferativediabeticretinopathy,vitre-ctomy,postoperativecomplications,anticoagulanttherapy.———————————————————————-Page21158あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(112)はじめに増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)に対する硝子体手術は,以前は吸収されない硝子体出血例や黄斑部牽引性網膜離例に行われていた1,2)が,手術器具の開発や手技の向上に伴って,手術時間は短縮され,手術適応は拡大している.現在では,超音波水晶体乳化吸引術(PEA)および眼内レンズ挿入術(IOL)が多く併用され3),糖尿病黄斑症4),若年者のPDR57),血管新生緑内障の合併例8,9)など,10年前には禁忌とされていた症例も手術適応となっている.さらに,早期に硝子体手術を行うことの有効性も報告されてきている1,1013).その一方で,術後の視力予後には大きな差異があり,依然として予後不良な経過をたどる症例もみられる.また,糖尿病以外の全身疾患を合併している患者に対しても手術適応が拡大され,そのような症例での背景因子が手術結果に影響する可能性が危惧されている.すなわち,心疾患や脳血管疾患の既往のある患者は抗凝固剤や抗血小板剤などを内服する抗凝固療法を行っていることが多く,術中および術後合併症に少なからず影響を及ぼしていると考えられる.術前に抗凝固剤や抗血小板剤を一定期間休薬することで術中術後への影響が減少すると考えられるが,術前の抗凝固療法休止の必要性については,眼科領域ではこれまでに信頼できるエビデンスは示されておらず,特にPDRで検討された報告は非常に少ない.今回,筆者らは山形大学医学部付属病院眼科(以下,当科)でPDRに対する硝子体手術を施行した患者において,抗凝固療法の有無による術後合併症発生への影響を検討し,硝子体手術を行ううえでの問題点について考察した.I対象および方法2002年10月から2004年6月の間に,当科にて初回硝子体手術を施行したPDRのうち術後経過が少なくとも1カ月以上観察可能であった50例50眼を対象とし,retrospectiveに検討した.対象症例の内訳は,男性:35例35眼,女性:15例15眼で,年齢は3180歳(平均59.1±12.1歳)であった.術後経過観察期間は132カ月(平均8.4±7.4カ月)であった.対象症例を抗凝固療法内服群(以下,内服群):11例11眼,平均年齢:61±8.9歳と抗凝固療法非内服群(以下,非内服群):39例39眼,平均年齢:59±13.0歳とに分けた.対象患者の背景因子としてヘモグロビンA1c(HbA1c),高血圧,高脂血症,心疾患,脳血管疾患,糖尿病性腎症,糖尿病性神経障害の7項目について検討した.全症例とも高血圧,高脂血症,心疾患,糖尿病性腎症,糖尿病性神経障害については内科で,脳血管疾患については脳神経外科で診断,治療されていた.糖尿病性腎症については当科術前検査にて尿中微量アルブミンあるいは持続性尿蛋白陽性,あるいは血清クレアチニン値が腎不全期の基準である2.0mg/dlを上回る例も含めた.術後合併症としては,網膜離,硝子体出血,続発緑内障の発生について検討し,術前および術後1カ月,6カ月の時点での上記合併症の発生の有無について両群間で比較検討した.初回硝子体手術の方法は,20ゲージ3ポートシステムによる経毛様体扁平部硝子体切除(PPV)とし,後部硝子体未離の症例に対しては人工的後部硝子体離を作製した.さらに,可能な限りの周辺部硝子体切除と強膜創の硝子体処理および周辺部まで眼内網膜光凝固術を施行した.対象例で,白内障は内服群のうち10例10眼,非内服群で21例21眼に認められた.硝子体手術施行に伴い白内障の進行が予想されたので,術前より白内障を認める症例,あるいは増殖組織が周辺部にまで及んでおり,その処理のために水晶体の摘出が必要であると判断された症例は白内障手術を併用した.統計学的検討では,患者背景因子における2群間の比較にMann-Whitney’sUtestを,合併症についての2群間比較でFisher’sexactprobabilitytestを用いた.すべての解析において危険率5%未満を有意とした.II結果1.患者背景因子(表1,2)高血圧症,高脂血症,心疾患,脳血管疾患は内服群で有意に多く認められたが,HbA1c,血中尿素窒素(BUN),血清クレアチニン値(Crea),糖尿病性腎症,糖尿病性神経障害は両群間で差はなかった.表1患者背景因子内服群(n=11)非内服群(n=39)p値性別(男/女)10/125/14HbA1c(%)6.52±0.767.15±1.42p>0.05BUN(mg/dl)29.61±8.3320.11±9.49p>0.05Crea(mg/dl)2.06±1.060.96±0.79p>0.05BUN:血中尿素窒素,Crea:血清クレアチニン値.[平均値±標準偏差]<Mann-Whitney’sUtest>表2患者背景因子内服群(n=11)非内服群(n=39)p値高血圧症11例(100%)23例(57.5%)p=0.022高脂血症10例(90.9%)19例(48.9%)p=0.036心疾患7例(63.6%)7例(17.5%)p=0.008脳血管疾患6例(54.5%)7例(17.5%)p=0.035糖尿病性腎症10例(90.9%)23例(59.0%)p>0.05糖尿病性神経障害11例(100%)38例(97.4%)p>0.05<Mann-Whitney’sUtest>———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081159(113)2.抗凝固療法に使用した内服薬の種類今回,内服されていた抗凝固剤および抗血小板剤は,内服群の11例中,ワルファリンカリウム(1mg/日)+アスピリン・ダイアルミネート配合(81mg/日)の併用が2例,アスピリン・ダイアルミネート配合(81mg/日)が5例,アスピリン(100mg/日)が3例,塩酸チクロピジン(200mg/日)が1例であった.全身への影響を考慮し,抗凝固剤と抗血小板剤およびその他の内服は,術前,術中,術後を通して継続された.3.初回手術の術式初回手術でPPVのみを行ったものが20例20眼,PPV+PEA+IOLを行ったものが30例30眼であった.また,50例50眼の全例で眼内網膜光凝固術を併施した.術中において,内服群は非内服群に比べて止血に時間がかかる傾向にあったが,問題なく止血され,手術に支障をきたすことはなかった.4.術後合併症(表3,4)術後合併症を発生時期により分類し,術後1カ月以内に発症したものを早期合併症,術後1カ月以降に発症したものを晩期合併症とした.早期合併症は内服群と非内服群で有意差はなかった.非内服群で硝子体出血を認めた症例が5眼(13%)あったが,そのうち4眼(10%)は出血量が少量であったため経過観察とし,出血は自然に吸収された.残りの1眼(3%)は再出血をきたし自然吸収が期待できなかったため,再度硝子体手術を施行して出血を除去した.晩期合併症も内服群と非内服群で有意差は認められなかった.内服群で血管新生緑内障が1眼(14%)に認められた.この症例は,HbA1cは6.5%であったが,高血圧,高脂血症,心疾患,脳血管疾患,糖尿病性腎症,糖尿病性神経障害のすべての全身合併症を有していた.さらに,両側内頸動脈に狭窄を認めていたが,網膜の虚血は無灌流領域があるも特別ひどい状態ではなく,術前には虹彩新生血管や高眼圧は認められなかった.しかし,術後3カ月目に虹彩新生血管を認め眼圧上昇をきたしたため,術後4カ月で線維柱帯切除術を施行した.一方,非内服群では術後に新たな硝子体出血を認めた症例が5眼(20%)あった.全例経過観察のみで硝子体出血は吸収されたが,術後8カ月で虹彩新生血管を認めた症例が1眼(4%)あった.この症例は,HbA1cは6.8%であったが,高血圧,高脂血症,心疾患,脳血管疾患,糖尿病性神経障害の全身合併症を有していた.新たな硝子体出血の出現と消退をくり返し,その後,眼圧が上昇し血管新生緑内障となったため線維柱帯切除術を施行した.全症例のなかで,前部硝子体線維血管増殖(anteriorhyaloidalbrobascularprolifera-tion:AHFVP)を生じた症例はなかった.III考按近年,糖尿病網膜症に対する硝子体手術は手術手技や器械の改良により安全に行われるようになってきた118).その一方で,症例によっては重篤な合併症が生じることも報告されている.術後合併症に関しては,網膜離315%3,19,20),硝子体出血411%3,20),緑内障6%19)で,再手術を要した症例が8.510%3,20)と報告されている.とりわけ視力予後を不良にする因子の一つとして血管新生緑内障があるが,本検討では50眼中2眼(4%)と過去の報告より低く21,22),その他の術後合併症については過去の報告とほぼ同様の結果となった23,24).糖尿病患者は網膜症のほかにも全身の合併症を有していることが多く,合併症の治療および予防目的で抗凝固療法を行っていることが多い.今回の検討では,抗凝固療法を行っている症例は50症例中11症例(22%)であったが,他施設では541症例中67症例(12.4%)との報告25)もあり,当院における割合は比較的多いと思われた.一方,江川らは糖尿病網膜症に対して手術を施行した患者のなかで,36%にBUN高値,29%に血清クレアチニン高値,63%に高血圧,27%に腎障害,5%に心筋梗塞,7%に脳梗塞がみられたと報告している26).本検討では,BUN高値が29%,血清クレアチニン高値が29%,高血圧が68%,腎障害が66%,心筋梗塞が28%,脳梗塞が26%の患者にみられた.BUN高値,血清クレアチニン高値,高血圧では江川らの報告26)とほぼ同様の結果であったが,腎障害,心筋梗塞,脳梗塞は他の報告26)に比べても高頻度であった.糖尿病性腎症,糖尿病性神経障害は内服群と非内服群で差はなかったが,高血圧,高脂血症,心疾患,脳血管疾患は内服群で多く認められた.以上の結果は,脳血管疾患および心疾患の頻度が全国平均より高い表3早期合併症(術後1カ月以内)合併症眼数内服群非内服群合計網膜離000硝子体出血055血管新生緑内障000なし113445合計113950表4晩期合併症(術後1カ月以降)合併症眼数内服群非内服群合計網膜離000硝子体出血055血管新生緑内障112なし61925合計72532———————————————————————-Page41160あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(114)とされる山形県での検討であるという地域性も関与していると考えられる.外科および整形外科領域における手術の場合,抗凝固療法を行っている患者では基本的には周術期に抗凝固剤および抗血小板剤の休薬を行っている.内服薬の種類によって作用機序が違うとともに効果持続時間が異なるため,術前の服薬中止日数はそれぞれ異なっている.アスピリン,アスピリン・ダイアルミネート配合,塩酸チクロピジンは術前1014日間,ワルファリンカリウムは術前57日間が休薬の目安となっている.歯科口腔外科領域では,抗凝固療法中の患者に対する歯科治療における出血管理として,出血時に十分な止血をすることにより,周術期に抗凝固剤あるいは抗血小板剤の休薬は必要ないとする考えもあり31,32),この場合は,凝固機能の指標となる「PT-INR(prothrombintime-Interna-tionalNormalizedRatio):プロトロンビン時間」の値が3.0未満での手術が望ましいとしている31,32).今回の報告では「PT-INR」についての検討は行っていないが,眼科領域でも「PT-INR」の値が2.5未満であれば術中および術後合併症で重篤なものは起こりにくいとの報告32)がある.しかし,外科や整形外科領域における手術のように最初から周術期の出血量が多いことが予想される場合は,抗凝固療法を休止することはやむをえないと考えられるが,休止したことによる全身合併症の発症の可能性は否定できない.たとえば,心血管疾患を合併した胃癌症例に対する胃切除術や股関節手術,あるいは頭頸部癌再建術では,抗凝固療法の休止を行ったことから脳梗塞や肺梗塞を起こしたとの報告2729)がある.さらに,腎生検のため抗凝固療法を休止したところ腎梗塞を発症したという報告30)もある.眼科領域では,白内障手術で易出血性の軽減のため術前に抗凝固療法を休止,あるいは内服薬の減量を行った症例において,術後に脳梗塞によると思われる言語障害を発症したとの報告34)もあり,欧米の報告では,抗凝固療法を休止したことによる全身合併症の発生を危惧し,一般に眼科手術では抗凝固療法を休止しないとするものが多くみられた3537).その一方で,特にワルファリンカリウムの内服による抗凝固療法中の症例では,術中および術後に脈絡膜下出血や硝子体出血などの重篤な合併症を生じたとする報告25)もあり,抗凝固療法中の症例では十分な注意が必要であると思われる.今回の検討では,PDRに対する硝子体手術において,抗凝固療法の有無で術後合併症に有意差がなかったという結果が得られた.しかし,易出血性の症例の手術では術中の止血を確実に行うことが重要であり,止血を容易にするためには術中の血圧を厳格に管理することが肝要であると考えられる.以上をまとめると,全身合併症を有するPDR患者の硝子体手術において抗凝固療法の有無で術中および術後合併症に有意差は認められなかった.もし,術前に抗凝固剤および抗血小板剤の投与調節をする必要がなければ,PDRの手術を行ううえで適切な手術時期を逸することなく手術を行うことができると考えられる.しかしながら,今回の研究はretro-spectivestudyであることや,対象症例が少数で偏りがあることなど,統計学的解析上の問題もある.また,抗凝固療法を行っている症例の眼科手術中に高度の出血を生じた報告25)もあるので,安易に結論を導くことはできない.今後,より症例を蓄積し,さらなる検討が必要であると考えられる.文献1)TheDiabeticRetinopathyVitrectomyStudyResearchGroup:Earlyvitrectomyforseverevitreoushemorrhageindiabeticretinopathy.Two-yearresultsofrandomizedtrial.DiabeticRetinopathyVitrectomyStudyreport2.ArchOphthalmol103:1644-1652,19852)SmiddyWE,FeuerW,IrvineWDetal:Vitrectomyforcomplicationsofproliferativediabeticretinopathy.Func-tionaloutcomes.Ophthalmology102:1688-1695,19953)LaheyJM,FrancisRR,KearneyJJ:Combiningphaco-emulsicationwithparsplanavitrectomyinpatientswithproliferativediabeticretinopathy.Ophthalmology110:1335-1339,20034)舘奈保子,荻野誠周:糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術の成績.眼科手術8:129-134,19955)齋藤桂子,櫻庭知己,吉本弘志ほか:若年発症の増殖糖尿病網膜症の硝子体手術成績.眼紀47:1353-1357,19966)大西直武,植木麻里,池田恒彦ほか:若年者の増殖糖尿病網膜症硝子体手術成績.眼紀55:214-217,20047)渡辺朗,神前賢一,林敏信:40歳未満の増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術成績.眼科手術18:279-281,20058)松村美代,西澤稚子,田中千春ほか:虹彩隅角新生血管を伴う増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術.臨眼47:653-656,19939)野田徹,秋山邦彦:血管新生緑内障に対する網膜硝子体手術.眼科手術15:447-454,200210)五味文,恵美和幸,本倉雅信:糖尿病網膜症に対する早期硝子体手術の術後経過.臨眼48:1933-1937,199411)池田華子,高木均,大谷篤史ほか:活動性線維血管増殖を伴う糖尿病網膜症に対する早期硝子体手術の成績.眼科手術14:241-244,200112)本倉雅信,恵美和幸,竹中久ほか:増殖糖尿病網膜症に対する早期硝子体手術の意義.臨眼46:233-236,199213)恵美和幸:糖尿病網膜症の早期硝子体手術.臨眼49:1513-1517,199514)田野保雄:硝子体手術の適応と実際.あたらしい眼科3:773-782,198615)佐藤幸裕:糖尿病網膜症に対する硝子体手術.眼科28:903-912,198616)樋口暁子,山田晴彦,松村美代ほか:増殖糖尿病網膜症の硝子体手術成績─10年前との比較─.日眼会誌109:134-141,200517)小田仁,今野公士,三木大二郎ほか:糖尿病網膜症に対する硝子体手術─最近5年間の検討.日眼会誌109:603———————————————————————–Page5あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081161(115)612,200518)村松昌裕,横井匡彦,大野重昭ほか:増殖糖尿病網膜症の硝子体手術成績と手術適応の検討.日眼会誌110:950-960,200619)BlankenshipGW,MachemerR:Long-termdiabeticvit-rectomyresults.Reportof10yearfollow-up.Ophthalmol-ogy92:503-506,198520)BrownGC,TasmanWS,BensonWEetal:Reoperationfollowingdiabeticvitrectomy.ArchOphthalmol110:506-510,199221)茂木豊,北野滋彦,堀貞夫ほか:増殖糖尿病網膜症硝子体手術後の虹彩新生血管と血管新生緑内障.臨眼50:801-804,199622)DiolaiutiS,SennP,SchmidMKetal:Combinedparsplanavitrectomyandphacoemulsicationwithintraocularlensimplantationinsevereproliferativediabeticretinopa-thy.OphthalmicSurgLasersImaging37:468-474,200623)桐生純一,松村美代,高橋扶左乃ほか:60歳未満の糖尿病網膜症に対する硝子体手術成績─周辺部硝子体徹底廓清の有無による検討.臨眼94:1137-1140,200024)花井徹,小柴裕介,吉村長久ほか:50歳未満の増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術成績.臨眼55:1195-1198,200125)NarendranN,WilliamsonTH:Theeectsofaspirinandwarfarintherapyonhaemorrhageinvitreoretinalsurgery.ActaOphthalmolScand81:38-40,200326)江川勲,後藤寿裕,田澤豊ほか:網膜硝子体手術を必要とした糖尿病網膜症患者の全身状態.眼紀54:130-134,200327)門田英輝,木股敬裕,山崎光男ほか:頭頸部癌再建症例における術後全身合併症の検討.頭頸部癌31:570-575,200528)高田秀夫,加畑多文,富田勝郎ほか:股関節手術後の肺塞栓の頻度.HipJoint31:645-647,200529)青柳慶史朗,今泉拓也,白水和雄ほか:心血管疾患合併胃癌症例の検討とくに血液凝固阻止剤使用例について.臨床と研究82:15351539,200530)井上紘輔,吉田俊則,橋本浩三ほか:腎生検のため抗凝固療法休止中に腎梗塞を発症したネフローゼ症候群の一例.日本腎臓学会誌47:637,200531)森本佳成,丹羽均,峰松一夫ほか:抗血栓療法施行患者の歯科治療における出血管理に関する研究.日本歯科医学会誌25:93-98,200632)牧浦倫子,矢坂正弘,峰松一夫:抗凝固療法中患者の抜歯時の出血管理.脳卒中27:424-428,200533)DayaniPN,GrandMG:Maintenanceofwarfarinantico-agulationforpatientsundergoingvitreoretinalsurgery.TransAmOphthalmolSoc104:149-160,200634)SaitohAK,SaitohA,AmemiyaTetal:Anticoagulationtherapyandocularsurgery.OphthalmicSurgLasers29:909-915,199835)FuAD,McDonaldHR,JumperJMetal:Anticoagulationwithwarfarininvitreoretinalsurgery.Retina27:290-295,200736)HirschmanDR,MorbyLJ:Astudyofthesafetyofcon-tinuedanticoagulationforcataractsurgerypatients.NursForum41:30-37,200637)MorrisA,ElderMJ:Warfarintherapyandcataractsur-gery.ClinExpOphthalmol28:419-422,200038)鈴間潔:糖尿病網膜症の分子メカニズム.日本の眼科77:269-272,200639)WatanabeD,SuzumaK,MatsuiSetal:Erythropoietinasaretinalangiogenicfactorinproliferativediabeticretinopathy.NEnglJMed353:782-792,200540)FunatsuH,YamashitaH,NomaHetal:Increasedlevelsofvascularendothelialgrowthfactorandinterleukin-6intheaqueoushumorofdiabeticswithmacularedema.AmJOphthalmol133:70-77,200241)CunninghamETJr,AdamisAP,AltaweelMetal:AphaseⅡrandomizeddouble-maskedtrialofpegaptanib,ananti-vascularendothelialgrowthfactoraptamer,fordiabeticmacularedema.Ophthalmology112:1747-1757,2005***

液状後発白内障の2例

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(107)11530910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11531156,2008cはじめに液状後発白内障とは,白内障手術後,眼内レンズ(intra-ocularlens:IOL)とcontinuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)縁とが密着して眼房と水晶体内との交通が遮断され,レンズ後面と後の間に水分が貯留し,術後数カ月から数年して内容物が白く混濁する状態である1).その結果,視力低下や近視化などの視機能障害を起こすことがある.本論文では,視機能障害をきたした液状後発白内障にyttrium-aluminum-garnet(YAG)レーザーによる後切開術が有効であった2例を報告する.さらに液状後発白内障の発生機序についても考察する.I症例〔症例1〕81歳,女性.1983年に右眼網膜静脈分枝閉塞症を発症し網膜光凝固術を受けた.そのときの視力は右眼0.06(矯正不能),左眼0.5〔別刷請求先〕川添理恵:〒807-8555北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1産業医科大学眼科学教室Reprintrequests:RieKawasoe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japan,1-1Iseigaoka,Yahatanishi-ku,Kitakyusyu-shi807-8555,JAPAN液状後発白内障の2例川添理恵*1田原昭彦*1宮本秀久*1藤紀彦*1廣瀬直文*2久保田敏昭*1向野利彦*3*1産業医科大学眼科学教室*2さっか眼科医院*3眼科向野医院TwoCasesofLiqueedafterCataractRieKawasoe1),AkihikoTawara1),HidehisaMiyamoto1),NorihikoTou1),NaofumiHirose2),ToshiakiKubota1)andToshihikoKohno3)1)DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japan,2)SakkaEyeClinic,3)KohnoEyeClinic白内障手術後視機能障害をきたした液状後発白内障の2例を報告する.症例1は81歳の女性で,両眼白内障手術6年後に視力低下を自覚した.矯正視力は右眼(0.15),左眼(0.1)であった.両眼の眼内レンズ後面と後の間に液状物質の貯留と残存皮質が存在した.両眼yttrium-aluminum-garnet(YAG)レーザー後切開術を施行し,矯正視力は右眼(0.3),左眼(0.4)に改善した.症例2は67歳の女性で,両眼白内障手術約10年後に右眼の霧視を自覚した.矯正視力は右眼(1.2),左眼(1.2)であった.右眼は眼内レンズ後面と後の間に液状物質の貯留と残存皮質が存在した.右眼にYAGレーザー後切開術を施行した.術後矯正視力は右眼(1.5)で,自覚的に霧視は軽減し,他覚的に高次収差は術後減少した.2例の視機能障害をきたした液状後発白内障に対してYAGレーザー後切開術は有効であった.Wereporttwocasesofliqueedaftercataractaccompaniedbyvisualdisturbanceaftercataractsurgery.Case1,an81-year-oldfemale,noticeddecreasedvisualacuityinbotheyes6yearsaftercataractsurgeries.Hercorrect-edvisualacuitywas0.15intherighteye,0.1intheleft.Inbotheyes,thespacebetweentheposteriorsurfaceoftheintraocularlensandtheposteriorlenscapsulewerelledwithliquidwithlenscortex.Yttrium-aluminum-gar-net(YAG)lasercapsulotomysuccessfullyimprovedthecorrectedvisualacuityto0.3intherighteyeand0.4intheleft.Case2,a67-year-oldfemale,noticedblurredvisionintherighteyeabout10yearsaftercataractsurgery.Herbestvisualacuitywas1.2inbotheyes.Liquidmaterialwithremainingcortexwasobservedbetweentheintraocularlensandtheposteriorlenscapsuleintherighteye.YAGlasercapsulotomyinthatrighteyeimprovedthebestvisualacuityto1.5,andeliminatedtheblurredvision,asconrmedbywavefront.TheseresultssuggestthatYAGlasercapsulotomyiseectiveforliqueedaftercataractwithvisualdisturbance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11531156,2008〕Keywords:液状後発白内障,YAGレーザー後切開術,高次収差.liqueedaftercataract,yttrium-aluminum-garnet(YAG)lasercapsulotomy,wavefront.———————————————————————-Page21154あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(108)(矯正不能)であった.1998年に両眼の視力低下を自覚し超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(phacoe-mulsicationandaspiration:PEA+IOL)を受けた.術後の矯正視力は右眼(0.4),左眼(0.7)であった.平成16年1月から両眼の視力低下を自覚し眼科向野医院を受診し,産業医科大学眼科を紹介された.既往歴に高血圧がある.初診時所見:視力は右眼0.1(0.15×sph1.0D(cyl0.75DAx75°),左眼0.1(矯正不能)で,眼圧は右眼7mmHg,左眼10mmHgであった.両眼とも眼内レンズ挿入眼であり,アクリル樹脂素材(AcrySofRMA60BM,アルコン社製)のレンズが使用されていた.眼内レンズは内固定されており,CCC縁が眼内レンズの前面と密着し全周を覆いブロックしていた.また,眼内レンズ後面と後との間隙に液状物質が貯留し,右眼は間隙の上方に,左眼は間隙の下方に水晶体皮質が残存していた.さらに,淡い後混濁も生じていた(図1a,b).右眼眼底は上耳側に陳旧性網膜静脈分枝閉塞症と網膜光凝固斑を認め,視神経乳頭周囲には多数のドルーゼンがあった.左眼眼底はアーケード血管に沿ってドルーゼンが多数存在し,黄斑部には軽度網膜の萎縮があった.経過:2004年6月8日に左眼,7月13日に右眼にYAGレーザー後切開術を行い,術後視力は右眼0.1(0.3×sph1.5D(cyl0.5DAx40°),左眼0.15(0.4×sph+0.75D(cyl1.25DAx110°)と改善した.術前後の屈折値は等価球面度数にて変化はなかった.レンズ後面と後との間隙の液状物質は消失した(図2a).〔症例2〕67歳,女性.1994年に右眼,1995年に左眼の白内障手術を受けた.2004年10月4日,右眼の霧視を主訴にさっか眼科医院を受図1a症例1:初診時の右眼前眼部写真CCC縁がレンズの前面を全周覆い,ブロックしている.レンズ後面と後の間にスペースと液状物質の貯留があり,スペースの上方には残存皮質がある.また淡い後混濁もある.図1b症例1:初診時の左眼前眼部写真左眼も右眼(図1a)と同様に,液状物質の貯留と下方に残存皮質がある.図2a症例1:右眼後切開3カ月後の前眼部写真レンズ後面と後とのスペースの液状物質は消失している.図2b症例1:左眼後切開3カ月後の前眼部写真右眼同様レンズ後面と後とのスペースの液状物質は消失している.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081155(109)診し,産業医科大学眼科に紹介された.既往歴,家族歴に特記事項はない.初診時所見:視力は右眼0.1(1.2×sph2.0D(cyl2.0DAx100°),左眼0.5(1.2×sph1.5D(cyl1.75DAx90°)であり,眼圧は右眼12mmHg,左眼12mmHgであった.両眼とも眼内レンズ挿入眼で,右眼にポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate:PMMA)素材(HOYAUY-5NE6),左眼にアクリル樹脂素材(AcrySofRMA60BA:アルコン社製)の眼内レンズが挿入されていた.右眼の眼内レンズは内固定されており,CCC縁は眼内レンズ前面に密着していた.レンズ後面と後の間には液状物質の貯留があり,間隙の下方には残存皮質があった(図3a).左眼眼内レンズは内固定されておりCCC縁が眼内レンズの前面を全周覆っていた.しかし,残存皮質はなくレンズ後面図3a症例2:初診時の右眼前眼部写真眼内レンズは内固定されCCC縁は完全にブロックされている.レンズ後面と後の間にスペースに液状物質の貯留がある.スペースの下方には残存皮質がある.図3b症例2:初診時の左眼前眼部写真眼内レンズは内固定されており,CCCがレンズ前面を全周覆っている.残存皮質はなく,レンズ後面と後との間のスペースや液状物質の貯留はない.図4症例2:波面収差a,bは右眼YAGレーザー後切開術前の角膜の不正乱視(高次収差)を示す.c,dは右眼角膜・水晶体・硝子体などの全屈折高次収差を示す.YAGレーザー後切開術前(a)と術後(b)で角膜の不正乱視を示すマップに大きな変化はない.全屈折の不正乱視を示すマップでは,後切開術前(c)術後(d)で,波面の遅い部分は減少し高次収差は減少している.badc図5症例2:収差解析からシミュレーションした網膜像YAGレーザー後切開術前(a)と術後(b)とを比較すると,術後のシミュレーションによる像は鮮明となっている.ba———————————————————————-Page41156あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(110)と後との間に間隙や液状物質の貯留はなかった(図3b).経過:2004年11月11日に右眼にYAGレーザー後切開術を行った.術後視力は右眼0.5(1.5×sph1.75D(cyl2.5DAx100°)であり,術前後の屈折値は等価球面度数では変化はなかった.後切開術前後で高次収差を評価した(図4).角膜の不正乱視を示すマップ(図4a,b)では後切開術前後で大きな変化はなかったが,全屈折の不正乱視を示すマップ(図4c,d)では後切開術後に高次収差は減少していた.収差解析による網膜像のシミュレーションでは後切開術後に改善があった(図5).II考按液状後発白内障は,比較的まれな白内障手術の術後合併症である.太田2)による新しいcapsularblocksyndrome(CBS)の分類では術後晩期のCBSとして分類される.新しい分類では術中に起こる術中CBSと,通常術後1日2週間の術後早期に起こるCBS,術後数年を経て発生する術後晩期CBSがあると述べられている2).術中CBSはCCC後のhydrodissectionにより水晶体核がCCC縁を閉鎖し後破や核落下を起こす.術後早期CBSとは,原因は明らかではないが内に残存した粘弾性物質が主要因と考えられている.術後晩期CBSは先に述べたように術後数年して発症し,いくつかの特徴がある.完全で小さなCCC施行後,眼内レンズが内固定されている症例に多く,水晶体腔は閉鎖腔となっており,そこに白色の液状物質が貯留する.今回の2症例は白内障手術の数年後に眼内レンズと後との間隙に混濁した液が貯留しており,術後晩期のCBSに分類される液状後発白内障である.術後晩期の液状後発白内障の発生要因や発生機序は明らかではなく,さまざまな仮説がある.太田2)は,内に残留した水晶体上皮細胞が偽仮性と増殖をくり返し,細胞外マトリックスが産生されこれらが内に貯留した可能性を指摘している.また,房水と形成された閉鎖腔の間に浸透圧差が生じ,内に房水が吸収され液性成分が変化した可能性があるとも述べている.永田ら3)は,手術中に採取した貯留液を分析して,発生には残存皮質や増殖した水晶体が関与していると述べている.今回の液状後発白内障の症例では,CCC縁は眼内レンズなどで完全にブロックされ,眼内レンズ後面と後の間のスペースに皮質が残存していた.しかし,症例2の左眼においては,CCCは全周が完全に覆われていたが残存皮質は認めず,液状後発白内障は発症していなかった.このことは,CCC縁が眼内レンズなどで完全にブロックされているとともに,水晶体皮質が残存していることが液状後発白内障の発症に関与している可能性を示唆している.眼内レンズの材質については,アクリル製やPMMA製,ハイドロゲル製の眼内レンズなどで報告されている3,4,6).液状後発白内障をきたした本症例は,症例1ではアクリル素材の眼内レンズが使用されており,症例2ではPMMA素材の眼内レンズが使用されていた.どのような眼内レンズの素材でも起こりうる可能性があるといえる.今回,症例1では視力低下をきたしたが,症例2では視力低下はなく霧視のみであった.液状後発白内障が発症しても貯留物質の混濁の程度が軽度であれば無症状のこともあるが,強く混濁していたり,後混濁を合併している場合に視力障害を自覚するといわれている3).症例1では後混濁を合併していたことも視力低下の原因と考えられる.症例2では視力は良好であったが,霧視を訴えていた.YAGレーザー後切開術後に霧視は軽快し,波面センサーでも高次収差は減少していた.このことは,液状後発白内障では視力が良好であっても高次収差を生じ,視機能に障害を与えることがあると考えられる.液状後発白内障は長期経過観察後,自然軽快した報告4)もある.しかし,液状後発白内障に続発閉塞隅角緑内障や悪性緑内障を発症した例6),液状後発白内障が進行しYAGレーザー後切開術が困難となり外科的除去を要した症例の報告7)もある.このような合併症を起こす可能性もあり,YAGレーザー後切開術は合併症予防面からも考慮する必要がある.今回は,視機能障害をきたした2症例にYAGレーザー後切開術を施行し,自覚的・他覚的症状は改善した.視機能障害を伴った液状後発白内障ではYAGレーザーによる処置は有効と考えられる.文献1)西起史,飽浦淳介:後発白内障.眼科学(丸尾敏夫,本田孔士,臼井正彦ほか編),p226-227,文光堂,20032)太田一郎:特殊な後発白内障である液状後発白内障と新しいCapusularblocksyndromeの分類.日本の眼科70:1317-1320,19993)永田万由美,松島博之,泉雅子ほか:液状後発白内障の成分分析.眼紀52:1020-1023,20014)中村昌弘,梶原万祐子,小俣仁ほか:自然消失した液状後発白内障の2例.眼科手術15:537-540,20025)MiyakeK,OtaI,MiyakeSetal:Liqueedaftercata-ract:Acomplicationofcontinuouscurvilinearcapsulor-rhexisandintraocularlensimplantationinthelenscap-sule.AmJOphthalmol125:429-435,19986)斉藤信一郎,林みゑ子,橋本尚子ほか:CapsularBlockSyndromeに悪性緑内障を合併した1症例.眼臨95:723-726,20017)三上尚子,桜庭知巳,原信哉ほか:外科的除去を要した特異な後発白内障の2例.IOL&RS17:42-46,2003

白内障手術を併用した上方および下方からの線維柱帯切開術の検討

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page11148あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(00)原著あたらしい眼科25(8):11481152,2008cはじめに白内障手術を併用した線維柱帯切開術は,単独手術に比べ,眼圧下降効果が優れていると報告されている1).しかし,濾過手術に比べれば眼圧下降効果は劣り2,3),将来に濾過手術が必要となる可能性があるため上方結膜を広範囲に温存することが望ましいと考えられる.また線維柱帯切開術は濾過手術ではなく術後感染の危険性が少ないため下方からのアプローチが可能である46)が,下方からのアプローチからの線維柱帯切開術と白内障同時手術成績の報告は少ない7).今回,筆者らは白内障手術を併用した線維柱帯切開術を上方からのアプローチ(以下,上方群)と下方からのアプローチ(以下,下方群)による手術成績を比較検討したので報告する.〔別刷請求先〕浦野哲:〒830-0011久留米市旭町67久留米大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ToruUrano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,67Asahi-machi,Kurume-city,Fukuoka830-0011,JAPAN白内障手術を併用した上方および下方からの線維柱帯切開術の検討浦野哲*1三好和*2山本佳乃*1鶴丸修士*1原善太郎*1山川良治*1*1久留米大学医学部眼科学教室*2社会保険田川病院眼科ComparisonbetweenSuperiorly-approachedandInferiorly-approachedTrabeculotomyCombinedwithCataractSurgeryToruUrano1),MutsubuMiyoshi2),YoshinoYamamoto1),NaoshiTsurumaru1),ZentaroHara1)andRyojiYamakawa1)1)DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,SocialInsuranceTagawaHospital白内障手術を併用したサイヌソトミー併用線維柱帯切開術の上方(上方群)および下方からのアプローチ(下方群)について検討した.対象は,上方群は,落屑緑内障41眼と原発開放隅角緑内障15眼の計56眼,平均年齢77歳,経過観察期間17.5カ月.下方群は,落屑緑内障12眼と原発開放隅角緑内障11眼の計23眼,平均年齢69歳,経過観察期間9.4カ月.上方群は12時方向で,下方群は8時方向から行った.眼圧(手術前→最終)は上方群22.4±5.4→14.3±3.4mmHg,下方群21.9±5.9→13.6±2.6mmHg,薬剤スコアは上方群3.3±1.1→0.8±1.1,下方群3.4±1.3→1.0±1.4と有意に低下した.一過性眼圧上昇は上方群11眼(19.6%),下方群5眼(21.7%)とみられたが有意差はなかった.下方群は上方群と同等な成績であり,将来濾過手術をするスペースを確保できる有用な手術法である.Wecomparedsuperior-approachtrabeculotomy(SUP)withinferior-approachtrabeculotomy(INF)incom-binedcataract-glaucomasurgery.TheSUPgroupcomprised56eyes〔exfoliationglaucoma:41eyes;primaryopen-angleglaucoma(POAG):15eyes〕withameanageof77yearsandameanfollow-upperiodof17.5months.TheINFgroupcomprised23eyes(exfoliationglaucoma:12eyes;POAG:11eyes)withameanageof69yearsandameanfollow-upperiodof9.4months.Trabeculotomycombinedwithsinusotomywasperformedatthe12-o’clockpositioninSUPandatthe8-o’clockpositioninINF.Intraocularpressuresignicantlydecreasedto14.3±3.4mmHgfrom22.4±5.4mmHginSUPandto13.6±2.6mmHgfrom21.9±5.9mmHginINF.Transientelevationinintraocularpressurewasobservedin11SUPeyes(19.6%)and5INFeyes(21.7%),buttherewasnosignicantdierencebetweenthetwogroups.INFhadsurgicalresultsequivalenttothoseofSUP,andisusefulinpreservingsuperiorkeratoconjunctivalareasforpossiblelteringsurgeryinfuture.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11481152,2008〕Keywords:緑内障,トラベクロトミー,同時手術,超音波水晶体乳化吸引術,眼圧.glaucoma,trabeculotomy,combinedsurgery,phacoemulsication,intraocularpressure.1148(102)0910-1810/08/\100/頁/JCLS———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081149(103)検討項目は,眼圧,薬剤スコア,視力,合併症,湖崎分類での視野とした.岩田8)の提唱した目標眼圧に基づき,術前のGoldmann視野で,I期(Goldmann視野では正常),Ⅱ期(孤立暗点,弓状暗点,鼻側階段のみ),Ⅲ期(視野欠損1/4以上)に分類し,個々の症例の最終眼圧値がそれぞれ19,16,14mmHg以下であった割合を達成率とし,その目標眼圧と視野進行について検討した.なお,Kaplan-Meier生命表法を用いた眼圧のコントロール率の検討では,規定眼圧値を2回連続して超えた時点,炭酸脱水酵素阻害薬内服を追加また内眼手術を追加した時点をエンドポイントとした.II結果術前の眼圧は,上方群は22.4±5.4mmHg(n=56),下方群は21.9±5.6mmHg(n=23)で,術後1カ月から12カ月まで,両群間ともに13mmHg前後で推移し,18カ月で上方群は14.6±3.7mmHg(n=31),下方群は18.2±10.1mmHg(n=5)であった.両群ともに術前眼圧に比較して有意に下降(p<0.001)し,両群間に有意差はなかった(図1).薬剤スコアは術前において上方群が3.3±1.1点,下方群が3.4±1.3点と両群とも3点以上あったが,術後3カ月は1点以下に減少した.その後,下方群は徐々に増加する傾向がみられた.術後9,12カ月においては下方群が上方群に比べて有意に増加(p<0.05)していた.しかし,最終的に術後18カ月で上方群が0.5±1.1点,下方群が1.5±1.4点で術前の薬剤スコアを上回ることはなかった(図2).Kaplan-Meier生命表を用いた眼圧コントロール率は,20mmHg以下へは,術後2年で,上方群84.0%,下方群87.0%と両群間に有意差はみられなかった(図3).同様に,眼圧14mmHg以下へは,術後2年で,上方群40.2%,下方群39.4%と有意差はみられなかった(図4).視野狭窄にあわせた目標眼圧の達成率は,I期では両群ともに100%達成しており,Ⅱ期では,上方群77%,下方群80%であった.I対象および方法対象は,2003年1月から2006年2月までに,久留米大学病院眼科,社会保険田川病院眼科において,初回手術として,超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(以下,PEA+IOL)を併用した線維柱帯切開術+サイヌソトミー(以下,LOT)を行い,術後3カ月以上経過観察が可能であった症例66例79眼で,男性41例48眼,女性25例31眼である.内訳は上方群が落屑緑内障41眼,原発開放隅角緑内障15眼の計56眼.下方群が落屑緑内障12眼,原発開放隅角緑内障11眼の計23眼であった.平均術前眼圧(平均値±標準偏差)は,上方群22.4±5.4mmHg,下方群21.9±5.6mmHgで,平均薬剤スコアは,点眼1点,炭酸脱水酵素阻害薬内服2点とすると,上方群は3.3±1.1点,下方群は3.4±1.3点で有意差はなかった.平均年齢は上方群が76.6±1.5歳,下方群が68.9±8.3歳で,上方群に比べて下方群は有意に若かった(p<0.01:Mann-WhitneyのU検定).術後平均観察期間は,上方群は17.5±4.2カ月,下方群は9.4±6.9カ月と有意に下方群が短期間であった(p<0.01:Mann-WhitneyのU検定).手術は,球結膜を円蓋部基底で切開後,輪部基底で4×4mmの3分の1層の強膜外方弁を作製し,さらに同じように輪部基底で,その内方に強膜内方弁を作製,Schlemm管を同定した.その後,前切開し,Schlemm管にロトームを挿入,回転して,PEA+IOLを施行した.その後,強膜内方弁を切除し,外方弁は10-0ナイロン糸4カ所で縫合した.Schlemm管直上の強膜弁両断端を切除してサイヌソトミーを施行した.なお,上方群は,LOTをPEA+IOLと同一創で12時方向から,下方群は,LOTを8時方向から施行し,PEA+IOLは耳側角膜切開で施行した.術後は,前房内に逆流した血液がSchlemm管内壁切開部を覆い,前房流出障害を起こさないように,就寝まではできるだけ左側臥位をとらせた.図1眼圧の経過上方群下方群*********眼圧()()***図2薬剤スコア*の()**上方群下方群スコア()———————————————————————-Page31150あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(104)術後最終視力は術前と比較して2段階以上悪くなった症例は,上方群4眼(7.1%),下方群2眼(8.7%)の計6眼みられた.その原因は視野進行2眼,末期緑内障(湖崎ⅣVb)2眼,後発白内障1眼であった(図7).術後合併症は,術後7日以内に30mmHg以上の一過性眼Ⅲ期では,上方群59%,下方群100%であり,Ⅲ期に対してのみ下方群のコントロールが有意に良好であった(p<0.05).しかし全体では,上方群70%,下方群91%で両群間に有意差はなかった(表1).術前,術後最終の視野を図5に上方群,図6に下方群を示した.視野進行は,上方群3眼(5.4%),下方群3眼(13.0%)の計6眼にみられた.この6眼の視野進行はすべて1段階の進行であり,落屑緑内障,原発開放隅角緑内障の各3眼あった.このうち3眼(50%)は目標眼圧以下にコントロールされていた.表1目標眼圧と達成率時期:目標眼圧上方群眼数(%)下方群眼数(%)p値Ⅰ期:19mmHg以下3/3(100%)3/3(100%)NSⅡ期:16mmHg以下20/26(77%)8/10(80%)NSⅢ期:14mmHg以下16/27(59%)10/10(100%)p<0.05計39/56(70%)21/23(91%)NSNS:notsignicant.(Fisherexactprobabilitytest)図3KaplanMeier生命表でのコントロール率(20mmHg以下)上方群下方群コントロール率()()()の以上は図4KaplanMeier生命表でのコントロール率(14mmHg以下)上方群下方群コントロール率()()()の以上は図5視野の経過(上方群)ⅠbⅡaⅡbⅢaⅢbⅣⅤaⅤb術前視野ⅠbⅡaⅡbⅢaⅢbⅣⅤaⅤb:目標眼圧達成眼:目標眼圧非達成眼最終視野図6視野の経過(下方群)ⅠbⅡaⅡbⅢaⅢbⅣⅤaⅤb術前視野ⅠbⅡaⅡbⅢaⅢbⅣⅤaⅤb:目標眼圧達成眼:目標眼圧非達成眼最終視野図7視力の経過1.50.010.11.00.010.11.01.5HMFCFC入院時視力:上方群:下方群HM最終最視———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081151(105)下方群91%と同等であった.症例数の違いはあるが視野障害が進行した症例には線維柱帯切除術を施行する前に下方からのLOTを施行することも選択肢として考えてよい可能性がある.視野進行した6眼は上方群,下方群の各3眼であった.このうち目標眼圧に達しなかったものは上方群2眼,下方群1眼の計3眼にみられ,下方群の1眼は上方より線維柱帯切除術を追加したが特に問題なく施行できた.術後の一過性眼圧上昇は,著しく視神経萎縮が進行した症例では中心視野が消失する危険性がある.30mmHg以上の一過性の眼圧上昇について発生頻度は,下方群での報告は有水晶体眼で30.8%2)と10.5%5),偽水晶体眼においては20.0%6)であった.白内障同時手術の場合は45.5%7)であり,今回は21.7%であった.白内障手術の付加そのものが眼圧上昇の割合を大きくする要素との報告7)があり,サイヌソトミーを併用すること10)や強膜外方弁の縫合糸を5糸から2糸へと減数したことが一過性眼圧上昇の予防に寄与しているとの報告5)がある.今回はサイヌソトミーを併用していたが,縫合糸は5から4糸へと減少することで一過性眼圧上昇が予防され,2糸までを減少させることでさらに予防できる可能性がある.下方からのLOTを施行する場合の白内障同時手術は耳側角膜切開という組み合わせになる11).しかし白内障手術にて角膜切開は強角膜切開に比べ術後眼内炎の頻度が高率であるとの報告12)があり,そのため白内障同時手術を下方強膜弁同一創から行うほうがよいという考えがある7).久留米大学病院眼科では緑内障・白内障同時手術においてバイマニュアルの極小切開白内障手術(micro-incisioncataractsurgery:MICS)を導入している13).2カ所の19ゲージのVランスを用いた切開とIOLを下方強膜弁からインジェクターを用いて挿入を行えば,通常の耳側角膜切開より感染の危険性は少ないのではないかと考えられる.また術中術者の移動もなく安定して手術することが可能である.上方,下方からのアプローチについて検討したが,眼圧経過,視野経過ともに,有意差は認めなかった.LOT単独手術と同様,白内障手術を併用したLOTを行う場合,将来濾過手術をするスペースを確保するため下方で行うのはよい選択肢であると思われた.本稿の要旨は第17回日本緑内障学会で発表した.文献1)TaniharaH,HonjoM,InataniMetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsicationandimplantationofanintraocularlensforthetreatmentofprimary-openangleglaucomaandcoexistingcataract.OphthalamicSurgLasers28:810-817,1997圧上昇を示した症例は上方群11眼(19.6%),下方群5眼(21.7%)にみられ,術後7日以上続く4mmHg以下の低眼圧は上方群にのみ2眼(3.6%)にみられた.フィブリン析出は上方群において1眼(1.8%)みられたが,数日後に消失する軽度なものであった.全例においてbloodreuxを認め,1週間以上遷延した症例はなかった.また,処置の必要なDescemet膜離や浅前房を生じた症例はなく,術後合併症の発生に有意差はみられなかった.サイヌソトミーによる濾過効果のために丈の低い平坦な濾過胞が生じるがほとんど短期間に消失して,残存している症例はなかった.なお,術中合併症はみられなかった.III考按松原ら9)の報告によれば,上方アプローチによるLOTと同一創白内障同時手術の術後成績は,視力低下につながる重篤な合併症の少ない安全な術式であり,20mmHg以下への眼圧コントロールは術後3年で94%,5年で86.8%,眼圧下降効果においても長期的に1415mmHgにコントロールされるとしている.下方からの報告は,LOTの単独手術の成績5),偽水晶体眼に対しの成績6),同一創からのLOTと白内障手術の成績7)があり,どれも上方アプローチと同様な眼圧効果の結果となっている.今回の検討においてもまず上方群は術後24カ月の眼圧は14.1±4.1mmHg(n=16),眼圧コントロール率が20mmHg以下へは84.0%,14mmHg以下へは40.2%と過去の報告と同等の手術成績であった.下方群は術後18カ月の眼圧は16.2±3.6mmHg(n=5),眼圧コントロール率が20mmHg以下へは87.0%,14mmHg以下へは39.4%という結果であり,上方群と比較して,今回の成績は過去の報告とも同等の成績であった.薬剤スコアにおいては,術前と比較して術後は両群ともに有意に減少していたが,全体的に薬剤スコアは下方群と上方群を比較して下方群の薬剤スコアが高かった.下方群は徐々に増加傾向がみられ,術後9,12カ月後では上方群と比較して下方群が有意に高かった.術後18カ月では1点前後に落ち着いて両群間に有意差はなかった.今回は白内障同時手術を施行しておりLOT単独より眼内の炎症が強く起こっている可能性がある.また落屑緑内障も多く含まれておりこれらのことがこの時期に下方隅角の線維柱帯に影響を与え下方群は薬剤スコアが高い可能性も否定はできない.しかし,下方群のほうが症例も少なく経過観察期間が短いため,今後のさらなる経過観察を待つ必要がある.視野狭窄の程度に基づいた目標眼圧の達成率は,Ⅰ期とⅡ期においては上方群と下方群は同等の結果であった.Ⅲ期(目標眼圧14mmHg以下)においては上方群59%,下方群100%と有意差がみられた(p<0.05).合計では上方群70%,———————————————————————-Page51152あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(106)らしい眼科23:673-676,20068)岩田和雄:低眼圧緑内障および開放隅角緑内障の病態と視機能障害.日眼会誌96:1501-1531,19929)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,200210)熊谷英治,寺内博夫,永田誠:TrabeculotomyとSinuso-tomy併用手術の眼圧.臨眼46:1007-1011,199211)溝口尚則:トラベクロトミー・白内障同時手術.永田誠(監):眼科マイクロサージェリー,p474-482,エルゼビア・ジャパン,200512)CooperBA,HolekampNM,BohigianGetal:Case-con-trolstudyofendophthalmitisaftercataractsurgerycom-paringscleraltunnelandclearcornealwounds.AmJOphthalmol136:300-305,200313)山川良治,原善太郎,鶴丸修士ほか:極小切開白内障手術と緑内障同時手術.臨眼60:1379-1383,20062)寺内博夫,永田誠,松村美代ほか:TrabeculotomyPro-spectiveStudy(術後10年の成績).あたらしい眼科17:679-682,20003)堀暢英,山本哲也,北澤克明:マイトマイシンC併用トラベクレクトミーの長期成績─眼圧コントロールと視機能─.眼科手術12:15-19,19994)寺内博夫,永田誠,黒田真一郎ほか:緑内障の術後成績(Trabeculectomy+MMC・Trabeculotomy・Trabeculoto-my+Sinusotomy).眼科手術8:153-156,19955)南部裕之,尾辻剛,桑原敦子ほか:下方から行ったトラベクロトミー+サイヌストミーの成績.眼科手術15:389-391,20026)鶴丸修士,三好和,新井三樹ほか:偽水晶体眼緑内障に行った下方からの線維柱帯切開術の成績.眼臨100:859-862,20067)石井正宏,目加田篤,岡田明ほか:下方同一創からのトラベクロトミーと白内障同時手術の術後早期経過.あた***

熱応答ゲル化チモロール点眼薬およびブリンゾラミド点眼薬のラタノプロスト点眼薬への追加効果

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(97)11430910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11431147,2008cはじめにラタノプロストはぶどう膜強膜流出促進による優れた眼圧下降作用と,全身に対する副作用が少なく認容性が良好なことから,現在わが国ではb遮断薬とともに緑内障治療の第一選択薬として使用されている1).しかし日常診療においてはラタノプロスト単剤では十分な眼圧下降効果が得られない症例もあり,他の薬剤に変更あるいは追加の投与が必要となる.薬剤の併用を行う場合は薬理学的に作用機序が異なる薬剤の追加が望ましいため,ラタノプロストが第一選択薬のときには房水産生抑制作用を有するb遮断薬点眼や炭酸脱水〔別刷請求先〕塩川美菜子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:MinakoShiokawa,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN熱応答ゲル化チモロール点眼薬およびブリンゾラミド点眼薬のラタノプロスト点眼薬への追加効果塩川美菜子*1井上賢治*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座OcularHypotensiveEectofGel-formingTimololSolutionorBrinzolamideSolutionAddedtoLatanoprostMinakoShiokawa1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1),JiroInouye1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)SecondDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineラタノプロスト点眼薬単剤で治療中の緑内障,高眼圧症49例49眼に2剤目として熱応答ゲル化チモロール点眼あるいは1%ブリンゾラミド点眼を追加投与したときの眼圧下降効果,使用感,副作用についてprospectiveに検討した.総投与症例49例中,解析対象となった症例は42例であった.ゲル化チモロール投与群の平均眼圧は追加投与前18.4±2.4mmHg,投与12週後で15.1±2.5mmHgと有意に下降した(p<0.01).ブリンゾラミド投与群の平均眼圧は追加投与前17.8±2.3mmHg,投与12週後で15.0±2.5mmHgと有意に下降した(p<0.01).追加投与12週後まででは眼圧下降は両群間に差はなかった.使用感はゲル化チモロール群ではしみる,ブリンゾラミド群ではかすみが多く,副作用出現率は両群間に差はなかった.ラタノプロスト点眼と熱応答ゲル化チモロール点眼あるいはブリンゾラミド点眼の併用は,ともに眼圧下降に効果的である.In49patients(49eyes)withglaucomaandocularhypertensionundertreatmentwithlatanoprostophthalmicsolutionalone,weprospectivelyevaluatedocularhypertensiveeect,sensationofuseandadversereactionswhenthermo-settinggeltimololophthalmicsolutionor1%brinzolamideophthalmicsolutionwasaddedasthesecondconcomitantmedication.Thecasethatbecameananalysissubjectintotaladministrationcase49patientswas42patients.Themeanintraocularpressure(IOP)ofthegel-formingtimololgroupdecreasedsignicantly,from18.4±2.4mmHgbeforeadditionto15.1±2.5mmHgatthe12weeksafteraddition(p<0.01).ThemeanIOPofbrinzor-amide-treatedgroupsalsodecreasedsignicantly,from17.8±2.3mmHgbeforeadditionto15.0±2.5mmHgatthe12weeksafteraddition(p<0.01).Therewasnodierenceinocularhypertensiveeectbetweenthetwogroupsuptothe12weeksafteraddition.Asforthesensationofuse,irritationwascomplaintinthegel-formingtimololgroup,whereasblurredvisionwascomplainedduringbrinzolamidegroup.Nodierenceintheincidenceofadversereactionwasseenbetweenthetwogroups.Thisstudydemonstratesthatthecombinationoflatanoprostwitheitherthermo-settinggeltimololorbrinzolamideiseectiveforIOPreduction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11431147,2008〕Keywords:熱応答ゲル化チモロール,ブリンゾラミド,ラタノプロスト,眼圧下降効果.gel-formingtimolol,brinzolamide,latanoprost,ocularhypotensiveeects.———————————————————————-Page21144あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(98)酵素阻害薬点眼を選択することが多くなる.これらの薬剤をラタノプロストに追加併用した場合の眼圧下降効果については,数多く報告されている28)が,b遮断薬として熱応答ゲル化チモロールを使用した報告は少ない7,8).今回はラタノプロスト点眼薬を使用中に熱応答ゲル化チモロール(リズモンRTG,以下ゲル化チモロール)点眼あるいはブリンゾラミド(エイゾプトR)点眼を2剤目として追加投与した際の眼圧下降効果についてprospectiveに検討した.I対象および方法井上眼科病院に通院中で,ラタノプロスト点眼単剤による治療を2カ月間以上行っていても眼圧下降効果が不十分,あるいは視野障害が進行している緑内障および高眼圧症患者49例を対象とした.眼圧下降効果,視野障害の進行については臨床的判断で評価した.調査の目的を十分に説明し,インフォームド・コンセントを得たうえで,封筒法により2剤目をゲル化チモロール点眼,ブリンゾラミド点眼のいずれかに決定して追加投与した.点眼は疾患が両眼の症例では両眼に,片眼例では患眼に行った.追加投与前眼圧は測定値が数回安定していることを前提に追加直前1回の眼圧測定値とし,追加投与12週後までの眼圧を投与前と比較し,眼圧下降値と下降率をゲル化チモロール群とブリンゾラミド群間で比較した.各薬剤の点眼時間は限定しなかったが,ラタノプロストは単独投与時より夜1回点眼を指示しており,追加投与を行ったゲル化チモロールは朝1回点眼,ブリンゾラミドは朝夜12時間ごとの点眼を指示した.眼圧測定はGold-mann圧平眼圧計を用いて行い,測定者は全例に対し同一検者で行った.検者は点眼内容について把握しているが過去の眼圧測定値についてはブラインドで測定を行った.眼圧測定時間は9時から17時の外来診療時間内で全例一定はしていないが,症例ごとの眼圧測定は,追加投与前から調査期間中ほぼ一定時刻に行った.さらに選択式のアンケート(追加投与12週後に施行)により点眼状況と使用感を調査した.点眼薬による副作用も診察ごとに調査した.副作用については追加投与後に出現した患者の訴えおよび眼科的所見とし,ラタノプロストの副作用と考えられる所見を含めて追加投与前から存在したものは除外した.解析は両眼症例では右眼,片眼症例では患眼について行い,統計解析にはWilcoxon符号付順位和検定とMann-Whitney検定を用い,p<0.05を有意水準とした.II結果1.患者背景(表1)副作用の発現や通院中断により,調査中止になった症例はゲル化チモロール群が3例,ブリンゾラミド群が4例であった.そのため,眼圧下降効果の解析はゲル化チモロール群21例,ブリンゾラミド群21例で行った.視野障害の進行により,追加投与となったのは4例であった.患者背景に有意差はなかった.2.眼圧平均眼圧の推移を図1に示す.眼圧はラタノプロスト単独投与時(追加投与前)ではゲル化チモロール群が18.4±2.4mmHg(平均値±標準偏差),ブリンゾラミド群が17.8±2.3*p<0.01*p<0.01ゲル化チモロール群ブリンゾラミド群眼圧(mmHg)追加前4週後8週後12週後******2520151050眼圧(mmHg)追加前4週後8週後12週後2520151050図1熱応答ゲル化チモロールおよびブリンゾラミド点眼追加前後の眼圧表1患者背景ゲル化チモロール群ブリンゾラミド群性別男性9例女性12例男性8例女性13例年齢4279歳(63.7±11.0歳)5681歳(69.6±7.9歳)追加前眼圧Meandeviation値*18.4±2.4mmHg9.6±7.4dB17.8±2.3mmHg11.9±8.9dB病型原発開放隅角緑内障原発閉塞隅角緑内障正常眼圧緑内障高眼圧症10(例)38012(例)261*Meandeviation値はHumphrey視野プログラム中心30-2Sita-Standardによる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081145(99)mmHgで両群に有意差はなかった.ゲル化チモロール群の追加4週後,8週後,12週後の眼圧は各々15.7±2.3mmHg,15.1±2.2mmHg,15.1±2.5mmHg,ブリンゾラミド群は15.8±2.5mmHg,15.3±2.6mmHg,15.0±2.5mmHgであった.ゲル化チモロール群,ブリンゾラミド群ともに追加投与12週後までは有意に眼圧が下降した(p<0.01).眼圧下降値の推移を図2に示す.眼圧下降値は追加4週後,8週後,12週後でゲル化チモロール群では各々2.8±0.9mmHg,2.9±1.0mmHg,3.3±1.1mmHg,ブリンゾラミド群では2.2±1.1mmHg,2.7±1.4mmHg,2.8±1.0mmHgで両群間に有意差はなかった.眼圧下降率を図3に示す.眼圧下降率は追加4週後,8週後,12週後でゲル化チモロール群では各々15.0±4.8%,16.2±5.9%,18.3±6.1%,ブリンゾラミド群では12.2±6.2%,15.1±7.7%,15.7±6.0%で両群間に有意差はなかった.3.点眼状況点眼を忘れた回数はゲル化チモロール群で平均0.4±0.7回/週,ブリンゾラミド群で0.4±0.8回/週で有意差はなかった.4.使用感患者の自覚症状を図4に示す.「しみる」という刺激症状がゲル化チモロール群(39.3%)で,ブリンゾラミド群(11.1%)より有意に多かった(p=0.0088).「かすむ」という霧視がブリンゾラミド群(40.7%)で,ゲル化チモロール群(14.3%)より有意に多かった(p=0.024).「べたつく」,「かゆみがある」,「異物感がある」などの自覚症状も発現したが,両群間に差はなかった.5.副作用調査中止例を含めたすべての対象患者49例における副作用出現率はゲル化チモロール群が12.5%(3例/24例),ブリンゾラミド群が16.0%(4例/25例)であった.ゲル化チモロール群では咳と痰,違和感,点状表層角膜炎が各1例で出現し,このうち咳と痰,違和感の2例が点眼中止となった.ブリンゾラミド群ではヒリヒリする鈍痛,悪心,口の中が苦くなる,頭痛が各1例で出現し,全例点眼中止となった.III考按緑内障治療は,患者にとって侵襲,リスク,合併症(副作用)が少ないものから行っていく必要がある.また,啓蒙,健康診断,診断技術の進歩などから,早期発見,早期治療の傾向が進み,今後個々の緑内障患者の治療歴も伸びていくことが予想される.そのため,緑内障診療において最も侵襲が少ない点眼薬治療は重要視されており,眼圧下降効果,コンプライアンス,副作用,防腐剤など各方面から利点がある点眼薬が近年次々に発売され,われわれの選択肢は大幅に広がった.一方で多くの点眼薬から選択する際に,患者背景などを考慮すると迷うことが多くなった.ラタノプロストが眼圧下降効果と全身への影響の少なさ911)から第一選択薬として使用されることが多いが,その治療効果が不十分で点眼薬の追加が必要となった場合の2剤目の選択が問題となる.ラタノプロストと他の薬剤の併用効果については多数報告されている28)が,b遮断薬点眼と炭酸脱水酵素阻害薬点眼のどちらが優れているかの結論はでていない.今回,コンプライアンスを考え,1日1回の熱応答:ゲル化チモロール群:ブリンゾラミド群5432104週後8週後12週後眼圧下降値(mmHg)図2熱応答ゲル化チモロールおよびブリンゾラミド点眼追加前後の眼圧下降値後後後眼圧下降率ゲル化チモロールブリンゾラミド*図3熱応答ゲル化チモロールおよびブリンゾラミド点眼追加前後の眼圧下降率ラ感じに感の下感ゲル化チモロールブリンゾラミド******図4熱応答ゲル化チモロールおよびブリンゾラミドの使用感———————————————————————-Page41146あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(100)ゲル化チモロール点眼と1日2回のブリンゾラミド点眼を用いて調査した.熱応答ゲル化チモロール点眼は,水溶性チモロール点眼やイオン応答ゲル化チモロール(チモプトールRXE)点眼と眼圧下降効果は同等で12),1日1回点眼,防腐剤の少なさとゲル基剤の特性から角膜保護作用が高いと報告されている.ブリンゾラミド点眼はドルゾラミド(トルソプトR)点眼と眼圧下降作用は同等で,1日2回点眼,刺激感が少なく14),夜間の眼圧下降にも有用である10)と報告されている.今回の結果は,追加投与12週後で眼圧下降幅はゲル化チモロール群が平均3.3mmHg,ブリンゾラミド群が平均2.8mmHg,眼圧下降率はゲル化チモロール群が平均18.3%,ブリンゾラミド群が平均15.7%であった.ラタノプロストにb遮断薬の追加投与したときの眼圧下降効果は,水谷ら2)はラタノプロスト単剤使用中の正常眼圧緑内障患者にニプラジロールを追加投与24週後の眼圧下降幅は2.0mmHg,河合ら3)はラタノプロスト単剤使用中の開放隅角緑内障患者および正常眼圧緑内障患者にカルテオロールを追加,投与6カ月後の眼圧下降率が11.8%,橋本ら4)はラタノプロスト単剤使用中の正常眼圧緑内障患者にゲル化チモロールを追加投与4週後の眼圧下降幅は1.2mmHg,本田ら5)はラタノプロスト単剤使用の開放隅角緑内障および高眼圧症患者にチモロールあるいはカルテオロールを追加,追加投与4週後の眼圧下降幅はチモロールで1.6mmHg,カルテオロールで2.2mmHgと報告している.また,b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の比較では,廣岡ら6)はラタノプロスト単剤治療中の開放隅角緑内障患者に対する追加投与で,眼圧下降率は投与8週後でチモロールが14.7±14.5%,ブリンゾラミドが12.1±16.2%,井上ら7)はラタノプロスト単剤使用の緑内障患者でb遮断薬あるいは炭酸脱水酵素阻害薬を追加投与し,16カ月の眼圧下降率がb遮断薬で15.819.3%,炭酸脱水酵素阻害薬で12.717.0%と報告している.対象や調査期間,使用薬剤の種類が各々異なるため,単純に数値を比較するのが妥当かはわからないが,今回の結果はゲル化チモロール群,ブリンゾラミド群ともに,追加投与により過去の報告27)と同等の眼圧下降効果を示した.またゲル化チモロール群とブリンゾラミド群では眼圧下降幅および眼圧下降率に統計学的な有意差はみられなかったが,ゲル化チモロール群のほうがブリンゾラミド群よりやや眼圧下降効果が大きい傾向がみられた.これは廣岡ら6)のチモロールとブリンゾラミドを8週間使用した報告でも述べられている.症例数を増やし,長期間の調査を行い,さらに検討を加える必要があると考えた.点眼コンプライアンスは,ゲル化チモロール群とブリンゾラミド群で有意差はなかった.緑内障患者のなかには,点眼回数が少ないことに不安を感じたり,逆に少ないからこそ治療を軽んじたりする者もおり9),使用薬剤が2剤までにおいては1日1,2回点眼の薬剤については個々の患者の性格や生活リズムを考慮して点眼薬を選択するほうが重要であることが示唆された.使用感はゲル化チモロール群では「しみる」「べたつく」が多く,これは井上ら13)の報告と同様であった.ブリンゾラミド群では刺激感は少なく,「かすむ」という見え方の変化が多いのは過去の報告14,15)と同様であった.副作用はラタノプロストへのb遮断薬点眼の追加投与では,点状表層角膜炎や充血,涙液異常などが多く,河合ら3)はカルテオロール追加投与後に37.5%でBUT(涙液層破壊時間)が悪化し,25.0%で角膜上皮障害が悪化した,本田ら5)はb遮断薬の追加により,角結膜障害,結膜充血が悪化したと報告しているが,今回はこれらのような局所副作用はほとんど出現しなかった.これは,追加投与前からみられる副作用については除外してあること,ゲル化チモロールが角膜保護作用を有していることによると考えられた.今回の結果により,ラタノプロスト投与例への2剤目の追加投与として熱応答ゲル化チモロール点眼とブリンゾラミド点眼では眼圧下降効果に差はなかった.薬剤には特有の使用感,副作用があるので薬剤が十分に効果を発揮できるかどうかはコンプライアンスの良し悪しに影響される.2剤目としてどの薬剤を選択するかは,まず喘息,慢性閉塞性肺疾患,不整脈,心不全などの既往について問診し全身状態を把握し,個々の患者の性格や生活リズム,患者が点眼回数や使用感など何に重点をおくかを理解したうえで決定する必要があると考えられた.今回の調査では,症例ごとの眼圧日内変動の把握,全症例での点眼時間,眼圧測定時間の限定は行わなかったが,薬剤の作用時間を考慮すると,点眼時間や眼圧測定時間を一定させること,12週間と調査期間も短かかったためさらに長期間にわたる調査を続けること,症例数を増やすこと,そのうえで緑内障の分類別に検討してみることでまた別の知見が得られるかもしれない.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)水谷匡宏,竹内篤,小池伸子ほか:プロスタグランディン系点眼単独使用の正常眼圧緑内障に対する追加点眼としてのニプラジロール.臨眼56:799-803,20023)河合裕美,林良子,庄司信行ほか:カルテオロールとラタノプロストの併用による眼圧下降効果.臨眼57:709-713,20034)橋本尚子,原岳,高橋康子ほか:正常眼圧緑内障に対するチモロール・ゲルとラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果.臨眼57:288-291,20035)本田恭子,杉山哲也,植木麻理ほか:ラタノプロストと2種のb遮断薬併用による眼圧下降効果の比較検討.眼紀———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081147(101)11)北澤克明,ラタノプロスト共同試験グループ:ラタノプロスト点眼液156週間長期投与による有効性および安全性に関する多施設共同オープン試験.臨眼60:2047-2054,200612)佐々田知子,永山幹夫,山口樹一郎ほか:チモロールゲル製剤の比較.あたらしい眼科18:1443-1446,200113)井上賢治,曽我部真紀,若倉雅登ほか:水溶性チモロールから熱応答ゲル化製剤への変更.臨眼60:1971-1976,200614)新田進人,湯川英一,森下仁子ほか:正常眼圧緑内障に対する1%ブリンゾラミド点眼液と1%ドルゾラミド点眼液の眼圧下降効果.臨眼60:193-196,200615)小林博,小林かおり,沖波聡:ブリンゾラミド1%とドルゾラミド1%の降圧効果と使用間の比較─切り替え試験.臨眼58:205-209,200454:801-805,20036)廣岡一行,馬場哲也,竹中宏和ほか:開放隅角緑内障におけるラタノプロストへのチモロールあるいはブリンゾラミド追加による眼圧下降効果.あたらしい眼科22:809-811,20057)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:b遮断点眼薬および炭酸脱水酵素阻害点眼薬のラタノプロストへの追加効果.あたらしい眼科24:387-390,20078)比嘉弘文,名城知子,上條由美ほか:チモロール熱応答型ゲル点眼液の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科24:103-106,20079)植木麻里,川上剛,奥田隆章ほか:ラタノプロストの眼圧下降作用と副作用.あたらしい眼科18:655-658,200110)木内良明:緑内障治療薬の選択基準と治療指針─緑内障の薬物治療の第1選択には何を選ぶか.眼科43:155-161,2001***