●連載◯291監修=福地健郎中野匡竹本大輔291.偏光OCT金沢大学医薬保健研究域医学系(眼科学)偏光感受型光干渉断層計(偏光COCT)は,測定によって対象組織の「質的な」情報が得られる次世代のCOCT装置であり,緑内障領域では術後濾過胞の評価など,さまざまな場面での活用が期待されている.本稿では,おもに偏光COCTに関する理論面の要諦について解説する.今後普及が進むと考えられる本装置の理解の足がかりとなれば幸いである.●はじめに光干渉断層計(optocalCcoherenecetomography:OCT)は眼底疾患の診療に不可欠な画像診断装置として定着して久しい.前眼部疾患の診療にもCOCTの活用が進んでおり,緑内障領域では隅角評価や術後の強膜創,濾過胞などの内部構造の評価に使用される機会が増えている.偏光感受型COCT(以下,偏光COCT)は組織の偏光特性を評価することで,従来型COCTにおける厚みや体積といった構造的計量に加えて,組織の質的な観点(たとえば,コラーゲン線維の有無やその方向性)からも評価することができる次世代COCT装置である.C●偏光OCTの原理と緑内障領域への応用従来のCOCTでは組織の各位置からの反射光によって強度を求め,これを画像化している.それに対して偏光OCTによる測定では,各位置のCJones行列(複素数成分のC2×2行列)が得られることが基本的原理である.これは,光をより精密に計測しているということを意味し,強度の情報もこれに含まれる.そもそも光は進行方向に垂直な面内で振動しながら進む横波であり,偏光とはその振動の状態をさし,数学的にはCxy方向の二つの複素数成分からなるベクトルで表現される(xy各成分の振動の位相ずれは,複素平面上での偏角の差となる).Jones行列とは,xy方向それぞれでの入射光→反射光ベクトルの状態変化をあらわすもの(線形変換)である.すなわち,偏光COCTによってCJones行列を取得することで,従来型COCTでは抜け落ちていた偏光に関する情報(偏光特性)をも漏れなく測定することができ,対象物についてより多くの情報が得られる.偏光COCTからの出力には,強度のほかにおもにC2種類のパラメータが存在し,そのキーワードは複屈折および偏光解消性である.取得されたCJones行列はそのままの形ではなく,以下に述べるような計算処理がなされ,(61)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1複屈折と偏光位相差の概念図は偏光位相差を示す.これは,組織の配向性のため入射光の方向によって屈折率が異なる現象(複屈折)に由来する.(図は株式会社トーメーコーポレーション山成正宏氏のご厚意により,提供いただいた)装置より出力される.まず,測定によって得られたJones行列の固有方程式を代数的に解くことにより,複屈折(偏光位相差および軸方向)に関する情報が得られる.これは組織の配向性とその方向を示す量で(図1),生体内ではとくにコラーゲン線維を反映する.これが第一のパラメータである.次に,取得されたCJones行列の統計的性質(randomness)に着目して偏光解消性を定量する.偏光解消性とは,組織内での後方光散乱における偏光特性が空間的にランダムになる現象であり,生体内ではとくにメラニン色素を反映することが知られている.具体的には,量子情報理論におけるCvonNeumannエントロピーに相当する量を計算することで偏光エントロピーを求める.これが偏光COCTの第二のパラメータである1.3).緑内障領域においては,線維柱帯切除術後の濾過胞の瘢痕化を偏光位相差によって定量できることが切除切片での組織学的検討によって示され4),術後早期での濾過胞の偏光COCT所見とその後の眼圧経過との関連が臨床あたらしい眼科Vol.41,No.9,20241103abc図2偏光OCTによる前眼部(側方視)の出力画像例a:強度画像.偏光アーチファクトのない,従来型COCTよりも正確な画像が得られる.筆者らが行った研究では,強膜の赤四角内(幅C500Cμm)の部位について偏光パラメータを評価した.Cb:偏光位相差画像.組織内の配向性の強さ,おもにはコラーゲン線維を反映し黄緑系色調に表示される.とくに外眼筋付着部が高値となる.Cc:偏光エントロピー画像.メラニン色素を反映し赤紫系色調に表示される.とくに,ぶどう膜組織が高値となる.研究によっても示されている5).濾過胞の瘢痕化は緑内障手術の成績を規定するもっとも重要な因子であるが,それを細隙灯顕微鏡によって早期の段階で見いだすことは必ずしも容易ではない.本装置を緑内障術後管理に用いることで,これまでエキスパートが経験的に判断していた濾過胞や強膜フラップなどの内部構造を多面的かつ定量的に評価することが可能になり,それによってニードリングなどの処置を行う最適なタイミングについて臨床医が判断するのをサポートできることが期待される.C●緑内障眼における前眼部組織の質的評価の試み筆者の施設において,緑内障C40例C40眼をトーメーコーポレーション製偏光COCTおよび各検査機器にて前眼部組織を評価したところ(図2),原発開放隅角緑内障群と落屑緑内障群において,強膜の偏光エントロピー(0.23C±0.05CvsC0.28±0.08),角膜ヒステレシス(9.3C±1.3CmmHgCvs.C6.6±1.6CmmHg)の平均値に両群間で有意差を認め,病型による前眼部組織の質的な差異が示唆された.また,強膜の偏光位相差および偏光エントロピーは角膜ヒステレシスと有意な相関を示し(それぞれCr=.0.34,C.0.33),角膜ヒステレシスは眼圧と強い相関(r=.0.70)を示したが,偏光位相差および偏光エントロピーはいずれも眼圧との相関は弱かった.生体力学特性をあらわす角膜ヒステレシスは,眼組織から得られる質的情報のひとつとして緑内障評価で臨床的に用いられているが,測定原理上,眼圧値の影響を受けると考えられる.一方で,偏光特性は眼圧非依存的に眼組織を質的に評価できる手段と筆者らは考えている.C●おわりに偏光COCTは,従来のCOCTとはまったく異質で新規C1104あたらしい眼科Vol.41,No.9,2024なものではなく,これを包括した多機能なものであると捉えていただいきたい.測定対象を質・量の両面から評価が可能なオールインワンのCOCTとして今後普及が期待される.現段階では上述した筆者らの検討も含めて研究段階での使用に留まっているものが多いが,前眼部および後眼部の各領域において本機の特性を生かした興味深い研究結果が報告されている.緑内障分野に関して,本機の臨床実用に向けて直近でもっとも有望と考えられるのは,本稿でも一部紹介した術後濾過胞の評価と思われる.セグメンテーションなどの画像取得後の解析方法に関する技術的課題はまだあるものの,偏光COCTによる前眼部撮影の実用化が期待される状況と考えられる.文献1)山成正宏:偏光感受型COCTの技術.視覚の科学C38:C98-106,C20172)DeCBoerCJF,CHitzenbergerCCK,CYasunoY:PolarizationCsensitiveCopticalCcoherenceCtomographyC-aCreview.CBiomedOpticsExpressC8:1838-1873,C20173)YamanariCM,CTsudaCS,CKokubunCTCetal:EstimationCofCJonesCmatrix,CbirefringenceCandCentropyCusingCCloude-PottierCdecompositionCinCpolarization-sensitiveCopticalCcoherenceCtomography.CBiomedCOptCExpressC7:3551-3573,C20164)TsudaCS,CKunikataCH,CYamanariCMCetal:AssociationCbetweenChistologicalC.ndingsCandCpolarization-sensitiveCopticalCcoherenceCtomographyCanalysisCofCaCpost-trabecu-lectomyChumanCeye.CClinCExpCOphthalmolC43:685-688,C20155)FukudaCS,CFujitaCA,CKasaragodCACetal:ComparisonCofCintensity,phaseretardation,andlocalbirefringenceimagesCforC.lteringCblebsCusingCpolarization-sensitiveCopticalCcoherencetomography.SciRepC8:7519,C2018(62)