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遠隔診療支援を行った急性期Stevens-Johnson 症候群の 1 例

2022年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(12):1676.1680,2022c遠隔診療支援を行った急性期Stevens-Johnson症候群の1例伊藤賀一*1,2,3清水映輔*1,4佐藤真理*1小川葉子*1根岸一乃*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2国家公務員共済組合連合会立川病院眼科*3いとう眼科*4株式会社OUICACaseofStevens-JohnsonSyndrome-AssociatedDryEyeDiseasethatImprovedbyTelediagnosisSupportYoshikazuIto1,2,3),EisukeShimizu1,4),ShinriSato1),YokoOgawa1)andKazunoNegishi1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)3)ItoEyeClinic,4)OUIInc.CDepartmentofOphthalmology,TachikawaHospital,Stevens-Johnson症候群(SJS)は,重篤な眼合併症をきたす重症薬疹である.わが国における発症率は年間C100万人当たり約C3.1人とされており,一般の外来診療で目にする機会は多くない.発症早期には全身管理の治療と並行して,眼科領域においても,免疫反応による炎症に対する治療と,線維増殖性変化の抑制のための消炎治療,易感染性に対する感染予防が必要であり早期治療介入が,重篤な視力障害や眼部不快感などの後遺症の予後を改善するとされる.受診早期からの適切な治療選択が患者の予後を左右するが,今回,立川病院眼科を受診したCSJSの患者に対して,スマートフォンアタッチメント型細隙灯顕微鏡を使用し,慶應義塾大学病院眼科のドライアイ外来との間で,医師対医師の遠隔コンサルテーションを行いながら診療した.早期からの専門的な治療介入により,SJS眼合併症の良好な経過を得たC1例を経験したので報告する.CStevens-Johnsonsyndrome(SJS)isaseverelife-threateningdiseaseoftheskinandmucousmembranesthatcanCbeCcausedCbyCadverseCreactionCtoCnon-steroidalCanti-in.ammatoryCdrugs,CandCocularCcomplicationsCcanCoccur.CForCSJSCcases,CtheCprimaryCtreatmentCisCanti-in.ammatoryCandCanti-infectiousCtherapy.CHowever,CtheCyearlyCinci-denceCofCSJSCinCJapanCisCestimatedCtoCbeCapproximatelyC3.1CcasesCperC1-millionCpeople,CsoCitCisCnotCoftenCseenCinCgeneraloutpatientclinics.Inthisstudy,wereportadoctor-to-doctor(DtoD)teleconsultationperformedbetweentheCDepartmentCofCOphthalmologyCatCTachikawaCHospitalCandCtheCDryCEyeCDiseaseCOutpatientCClinicCatCtheCDepartmentCofCOphthalmology,CKeioCUniversityCSchoolCofCMedicineCforCaCcaseCofCSJS-associatedCdry-eyeCdiseaseCusingCourCnewly-developedCportableCandCrecordableCSmartCEyeCCameraCslit-lampCdevice.COurC.ndingsCrevealedCthatCtheCSJSCcaseCthatCweCexperiencedCprogressedCwellCafterCearlyCandCspecializedCtherapeuticCinterventionCusingCtheDtoDteleconsultationsystem.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(12):1676.1680,C2022〕Keywords:スティーヴンス・ジョンソン症候群,ドライアイ,スマートフォン,医療用アプリ,遠隔診療支援.Stevens-Johnsonsyndrome(SJS),dryeyedisease(DED),smartphone,medicalapplication,telediagnosissupport.CはじめにStevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:SJS)は,高熱や倦怠感などの全身症状を伴って,全身の皮膚・粘膜に紅斑・びらん・水疱が多発する重症薬疹である.SJSのわが国における発症率は年間C100万人当たり約C3.1人で,多臓器不全や敗血症などを合併すると致命的となり,死亡率は1.5%と報告されている.急性期には眼病変(結膜充血・角結膜上皮欠損・偽膜形成・瞼球癒着など)を伴いやすく,不可逆的な視力障害や重症ドライアイ(dryCeyedisease:DED)をきたす可能性があるが,早期治療介入で慢性期の合併症の予後は改善するとされる1).本疾患は,救命救急科・皮膚科など他科との連携が必須であり,総合病院〔別刷請求先〕伊藤賀一:〒190-8531東京都立川市錦町C4-2-22国家公務員共済組合連合会立川病院眼科Reprintrequests:YoshikazuIto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TachikawaHospital,4-2-22Nishikimachi,Tachikawa-city,Tokyo190-8531,JAPANC1676(108)図1SmartEyeCamera(SEC)で撮影中の様子と専用アプリ画面スマートフォンアタッチメント型細隙灯顕微鏡CSECは,操作法が簡便で,動画形式で前眼部所見の記録が可能である.や大学病院で診療にあたることが多い.そのため,一般の医療機関において経験することは少ないが,眼科外来で対応する必要が生じた急性期からの適切なマネジメントが視機能の予後を左右するため,本疾患に対する治療経験が豊富な医師への迅速なコンサルテーションが重要と考えられる.遠隔診療とは「通信技術を活用した健康増進,医療,介護に資する行為をいう」と定義されている.遠隔診療の形態は,医師対医師(DCtoD),医師対看護師などのコメディカル(以下,DtoN)と,医師対患者(以下,DtoP)に分類される2).DCtoDの遠隔診療は,医師法でとくに制限はなく,行うことができる.また眼科領域は所見を得る検査機器が必要で,専門性が高いこともあり,DCtoDの遠隔診療が中心となる.そして,信頼性の高い遠隔診療を安全に行うためには,依頼側の医師が患者対象の適切な選択を行い,画像所見を共有するセキュリティ対策の整った環境を準備する必要がある3).今回筆者らは,立川病院眼科を受診したCSJS患者に対して,スマートフォンアタッチメント型細隙灯顕微鏡「SmartCEyeCamera(SEC)」(株式会社OUI)(図1)と遠隔診療が可能な専用アプリケーションを用いた専門医の遠隔診療支援により,早期からの専門的な治療介入を行うことで,SJS眼合併症に対し良好な経過を得たC1例を経験したので報告する.CI症例患者:61歳,男性.主訴:左眼の視力低下.既往歴:C型肝炎.現病歴:発熱などの感冒症状があり,近医で新型コロナウィルスに対するCPCR検査を受け,陰性であったため,アセトアミノフェンを処方された.そのC3日後,発熱は改善せず,皮疹が出現し,総合病院に救急搬送された.総合病院にてCSJSの診断でステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC1,000Cmg点滴C3日間)を実施し,その後,プレドニゾロン(PSL)60Cmgの内服を実施した.しかし,ステロイドパルス療法後も皮疹の改善を認めず,結膜充血および偽膜形成も認めたため,発症C1週間後に高次医療機関である前医に転院し,全身管理とともに眼科併診も開始された.前医眼科の初診時には両眼の結膜充血,偽膜形成,角膜潰瘍を認め,偽膜除去を行い,ヒアルロン酸・人口涙液・ステロイドの点眼が開始された.左眼角膜潰瘍が残存したもの,両眼の前眼部所見が改善傾向となり,発症C3週目にステロイド点眼終了,防腐剤無添加のヒアルロン酸点眼C0.1%一日C4回両眼,レバミピド点眼一日C4回両眼,フラビンアデニンジヌクレオチド軟膏一日C1回両眼で加療継続となって退院した.発症C5週目に住居に近い立川病院眼科を紹介受診した.経過:立川病院初診時,視力は右眼(0.8sph+2.50D(cylC.2.00DAx90°),左眼(0.03Csph+3.00D(cyl.1.50DCAx90°),眼圧は右眼C15mmHg,左眼測定不能で,両眼の偽膜形成,左眼の角膜潰瘍と角膜菲薄化を認めた.PSLの内服はC30Cmgに漸減されていた.偽膜除去を行い,ベタメタゾン点眼C1日C4回両眼を再度追加した.立川病院受診後C2日目(発症C5週目),Schirmer試験は右眼C13,左眼C3Cmm,左眼眼圧はC8CmmHg,両眼の偽膜形成の改善を認めるも,左眼の角膜潰瘍は改善が乏しく,活動性のある急性期CSJS眼合併症と,左眼はそれに伴う遷延性角膜上皮欠損と考えられた.そこで患者同意のもとに,遠隔診療が可能なスマートフォンアタッチメント型細隙灯顕微鏡のSECを用い,慶應義塾大学病院CDED外来の専門医とCDCtoC図2細隙灯顕微鏡所見と前眼部光干渉断層計所見(初回遠隔診療時)細隙灯顕微鏡で,右眼に比べて左眼は結膜充血が強く,角膜潰瘍が観察され,遷延性角膜上皮欠損を認めた.前眼部光干渉断層計では左眼の角膜は菲薄化していた.(患者本人から匿名性を確保するかたちでの検査データの使用を許可していただいたうえ掲載)図3初回の遠隔診療時のSmartEyeCamera(SEC)SECで撮影した左眼所見とチャットの画面.結膜充血や角膜潰瘍が観察でき,チャット形式でCDtoDの遠隔コンサルテーションを行い,点眼の内容などの治療方針を決定した.D遠隔診療を開始した.眼所見を撮影後に,SECの専用アプリケーションのチャット機能を用いて,DED専門医と所見の供覧を行った.左眼角膜中央に角膜混濁と潰瘍,強い充血所見を認めたため,偽膜除去と内反している睫毛抜去を行い,ベタメタゾン点眼を防腐剤無添加のベタメタゾンリン酸エステル点眼C1日C6回両眼に変更,防腐剤無添加のヒアルロン酸点眼C0.1%をC6回に増量,レバミピド点眼C1日C4回両眼の継続,フラビンアデニンジヌクレオチド軟膏の中止,オフロキサシン軟膏の眠前C1日C1回両眼,人口涙液頻回両眼を開始とした(図2,3).立川病院受診後C2週目(発症C7週目),左眼は,視力(0.1Csph+0.50D(cyl.1.50DAx90°),眼圧13mmHg,Schirm-er試験C4Cmmであった.主科の皮膚科より皮疹と粘膜疹は改善傾向のため,PSLの内服はC10Cmgに減量されていた.左眼の角膜潰瘍は改善傾向であるが,完全な上皮化は認めず,同量の点眼を継続した(図4).立川病院受診後C6週目(発症C11週目),左眼は,視力(0.4Csph+1.75D(cyl.2.50DAx30°),眼圧15mmHg,Schirm-er試験C6Cmmであった.PSL内服は終了していたが,同量の点眼で,左眼の角膜上皮化を認めて,遷延性角膜上皮欠損図42週後の遠隔診療時のSEC画面SECで撮影した左眼所見とチャットの画面.左眼の結膜充血は改善して,角膜潰瘍は縮小傾向であることが観察できた.図56週後の遠隔診療時のSEC画面SECで撮影した左眼所見とチャットの画面.左眼の角膜は上皮化し,潰瘍は認めず,遷延性角膜上皮欠損は改善していることが観察できた.は改善した.また,結膜充血所見も改善しており,矯正視力の改善も認めた(図5).PSLの内服投与量の漸減中に眼所見の増悪は認めなかったが,ひきつづき眼所見に注意しながらステロイド点眼の回数を漸減する方針である.CII考按SJSはまれな疾患だが,発症C4日以内に眼科的治療を開始した場合には予後良好といった報告や4),発症C1週間以内のステロイド点眼加療により,視力予後が改善するといった報告が存在する5).そのため,発症早期からの適切な専門的な治療介入が必須である.今回筆者らは,急性期CSJS眼合併症を伴う症例に対して,スマートフォンアタッチメント型細隙灯顕微鏡とその専用アプリケーションを使用してCDCtoD遠隔コンサルテーションによる専門的な治療介入を行うことで,良好な治療経過を得た.SJSの亜急性期に遷延性角膜上皮欠損が生じた場合,治療に難渋することがある.ステロイドの点眼または全身投与を行うが,上皮欠損が長期化した場合には,角膜上皮幹細胞疲弊による角膜混濁や,結膜上皮の分化異常による角化で瞼球癒着が生じ,失明につながる6).本症例は当院初診時も活動性の高い急性期CSJS眼合併症と考えられ,ステロイド投与に加え,涙点プラグ,偽膜除去,内反している睫毛抜去などの処置を組み合わせることで,矯正視力や前眼部所見が改善できた.また,SJS関連重症CDEDの治療は急性期を脱して終了するのではなく.慢性期もマネジメントを継続することが必須だが7),本症例は急性期を脱したこれからも遠隔診療支援を継続して,DED専門外来からのフォローアップを行う予定である.本症例で使用したCSECは,DED8)で既存の細隙灯顕微鏡と同等に評価可能というエビデンスがあり,今回,SJS関連重症CDEDの所見を複数の眼科専門医で共有・評価することが可能であった.SECは動画で前眼部所見を記録することが可能であり,本症例のように,眼瞼・角膜・結膜全体を評価したい場合は,静止画よりも適していると考えられる9).一方,アプリケーションの動画で伝わりづらい所見は,診察医と支援医師の間でチャット機能を用いて情報を共有できた.遠隔診療が可能な医療機器の導入により,あらゆる医療機関で同等の医療が提供できる可能性があり,地域の医療格差の解消にも寄与できると考えられる10).また,本症例では眼科医Cto眼科医のCDCtoD遠隔診療を行ったが,SECは小型で操作が容易であり,島嶼などの眼科専門医が常駐しない医療現場で,非眼科医Cto眼科医のCDtoD遠隔診療を行うことで,眼科医療に直接アクセスできない患者への前眼部診療の提供が可能である.CIII結論重篤な眼合併症を伴うCSJS症例に対して,DED専門医とのCDCtoD遠隔診療による治療介入は有用であった.遠隔診療が可能な医療機器の導入により,あらゆる医療機関で専門的治療が提供できる可能性があり,地域の医療格差の解消にも寄与できると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)塩原哲夫,狩野葉子,水川良子ほか:重症多形滲出性紅斑スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症診療ガイドライン.日皮会誌126:1637-1685,C20162)石子智士,吉田晃敏:眼科における遠隔診療の可能性.眼科C58:43-50,C20163)石子智士,守屋潔,木ノ内玲子ほか:眼科遠隔医療支援ガイドライン(旭川医大版).日本遠隔医療学会雑誌C12:C181-184,C20164)ArakiCY,CSotozonoCC,CInatomiCTCetal:SuccessfulCtreat-mentCofCStevens-JohnsonCsyndromeCwithCsteroidCpulseCtherapyCatCdiseaseConset.CAmCJCOphthalmolC147:1004-1011,C20095)SotozonoCC,CUetaCM,CKoizumiCNCetal:DiagnosisCandCtreatmentofStevens-Johnsonsyndromeandtoxicepider-malCnecrolysisCwithCocularCcomplications.COphthalmologyC116:685-690,C20096)SotozonoCC,CUetaCM,CKinoshitaS:Japan:DiagnosisCandCmanagementCofCStevens-JohnsonCsyndrome/toxicCepider-malCnecrolysisCwithCsevereCocularCcomplications.CFrontMed(Lausanne)C8:657327,C20217)吉川大和,外園千恵:Stevens-Johnson症候群の治療.CFrontiDryEye1:51-54,C20178)ShimizuE,YazuH,AketaNetal:AvalidationstudyforevaluatingCtheCtearC.lmCbreakupCtimeCinCdryCeyeCdiseaseCpatients.TranslVisSciTechnolC10:28,C20219)清水映輔:スマートアイカメラ(SEC)を用いた,前眼部遠隔診療,視覚の科学42:32-34,C202110)石子智士:特集遠隔医療の現状とこれからの展開2.事例紹介:地域における遠隔医療の有用性と課題,医事新報C4840:32-36,C2017***

アジスロマイシン(アジマイシン点眼液1%)の細菌学的効果に 関する特定使用成績調査

2022年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(12):1661.1675,2022cアジスロマイシン(アジマイシン点眼液1%)の細菌学的効果に関する特定使用成績調査山際智充坂本祐一郎末信敏秀千寿製薬株式会社Post-MarketingSurveillanceofAzithromycin(AZIMYCINOphthalmicSolution1%)forBacterialOcularInfectionTomomitsuYamagiwa,YuichiroSakamotoandToshihideSuenobuCSenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.C細菌性外眼部感染症に対するアジスロマイシン(アジマイシン点眼液C1%)の使用成績調査を実施した.安全性解析対象症例C500例,有効性解析対象症例C450例について安全性,有効性の検討を行った.副作用発現率はC3.80%(19/500)で,おもな副作用は,眼刺激(8件),眼瞼炎(3件),眼痛および眼の異物感(各C2件)であり,いずれも眼局所における事象であった.担当医師が,臨床経過などに基づき総合的に判断した全般改善度(有効性)により算出した有効率はC86.9%(391/450)であった.以上の結果,本剤は細菌性外眼部感染症に対して有用な点眼薬であると評価された.CInCthisCstudy,CweCperformedCaCpost-marketingCdrug-useCresultCsurveyCofazithromycin(AZIMYCINCOphthal-micCSolution1%)inCpatientsCwithCbacterialCocularCinfection.CFive-hundredCpatientsCwereCevaluatedConCtheCsafetyCandC450CpatientsCwereCevaluatedConCtheCe.cacy.CTheCincidenceCrateCofCadverseCdrugCreactionsCwas3.80%(19/500)C.TheCadverseCeventsCincludedCeyeirritation(8incidents)C,blepharitis(3incidents)C,Ceyepain(2incidents)C,CandCfor-eignbodysensationintheeyes(2incidents)C,whichwereobservedatthedrugadministrationsite.Inthee.cacyevaluationCbasedConCclinicalC.ndings,CtheCe.cacyCrateCwas86.9%(391/450)C.COurC.ndingsCsuggestCthatCAZIMY-CINRCOphthalmicSolution1%isasafeande.ectivemedicationforthetreatmentofpatientsa.ictedwithbacteri-alocularinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(12):1661.1675,C2022〕Keywords:アジスロマイシン,アジマイシン点眼液C1%,副作用,有効性,細菌学的効果.azithromycin,CAZI-MYCINRophthalmicsolution1%,adversedrugreaction,e.cacy,bacteriologicale.ect.はじめに細菌性外眼部感染症の治療にあたっては,抗菌薬の適正使用の観点から,患者背景や感染経路を考慮するとともに,特徴的な臨床所見から起炎菌を推定して,有効な抗菌薬を選択することが望まれる.しかし,国内の眼感染症に対する抗菌薬の使用実態は,初診時に起炎菌を同定できないため,経験則的に,強い抗菌活性と広い抗菌スペクトルを有するフルオロキノロン系抗菌薬(オフロキサシン,ノルフロキサシン,ロメフロキサシン,レボフロキサシン,ガチフロキサシン,トスフロキサシンおよびモキシフロキサシン)が汎用されている.このようなフルオロキノロン系抗菌薬の眼感染症への応用は,1987年にオフロキサシン点眼液が承認されて以来,1989年にノルフロキサシン点眼液,1994年にロメフロキサシン点眼液,2000年にレボフロキサシン点眼液,2004年にガチフロキサシン点眼液,2006年にトスフロキサシン点眼液およびモキシフロキサシン点眼液と続き,さらには,2010年に従来のC3倍濃度のレボフロキサシン点眼液が承認されてきた.一方,フルオロキノロン系以外の抗菌薬は,1987年にセフェム系のセフメノキシム点眼用,2009年にグリコペプチド系のバンコマイシン眼軟膏の承認に止まり,フルオロキノロン系以外の選択肢はきわめて限定的である.眼科診療における抗菌薬のC9割以上をフルオロキノロン系が占〔別刷請求先〕山際智充:〒541-0048大阪市中央区瓦町C3-1-9千寿製薬株式会社信頼性保証本部医薬情報企画部Reprintrequests:TomomitsuYamagiwa,MedicalInformationPlanningDepartment,Safety&QualityManagementDivision,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-1-9Kawara-machi,Chuo-ku,Osaka541-0048,JAPANCめる1)なか,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA),コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCStaphylococci:CNS),淋菌,コリネバクテリウムの同系抗菌薬への耐性化が問題視されている2.5).アジスロマイシン(AZM)は,ファイザー社が開発した15員環マクロライド系抗生物質であり,細菌のC70SリボゾームのC50Sサブユニットと結合し,細菌の蛋白合成を阻害することにより抗菌作用を示す.国内での点眼への応用は,2019年に結膜炎・眼瞼炎・涙.炎・麦粒腫を適応症とする「アジマイシン点眼液C1%」(以下,本剤)として製造販売承認された.本剤は,製剤化技術(DuraSite)により薬剤滞留性が高められた製剤であり6),結膜炎に対しては最初のC2日間はC1日C2回,その後のC5日間はC1日C1回,眼瞼炎・涙.炎・麦粒腫に対しては最初のC2日間はC1日C2回,その後の12日間はC1日C1回であり,他の抗菌薬に比べて点眼回数が少ない.今回筆者らは,本剤の製造販売後における抗菌活性推移の把握,安全性および有効性の確認を目的に,計C2回の特定使用成績調査を計画し,その第C1回調査(以下,本調査)を2019年C9月.2021年C9月に実施し,製造販売後の使用実態下における成績を得たので報告する.なお,本調査は,GPSP省令(「医薬品の製造販売後の調査および試験の実施の基準に関する省令」平成C16年C12月C20日付厚生労働省令第171号)に従い実施した.CI対象および方法1.調査対象および目標症例数調査対象は,本調査に参加した医療施設において,本剤の使用経験がなく,適応症である細菌性外眼部感染症(結膜炎・眼瞼炎・涙.炎・麦粒腫)に対して本剤が投与された症例とし,目標症例数はC500例とした.C2.調査方法および調査項目本調査は連続調査方式にて実施した.観察期間は,本剤投与開始日から投与終了時までとし,来院ごとに各所見(表1)の観察および細菌検査検体採取を実施し,electronicCdatacapture(EDC)にてデータを収集した.調査項目は,患者背景(性別,年齢,使用理由,発症日,合併症,既往歴,アレルギー歴),本剤の使用状況,併用薬,併用療法,臨床経過,有害事象,全般改善度,細菌学的効果とした.実施医療機関にて採取された細菌検査検体は,輸送用培地(カルチャースワブプラス)を用いて検査施設である一般財団法人阪大微生物病研究会に輸送した.検査施設では,検体からの細菌分離と同定,さらに分離菌に対するCAZMの最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)を測定した.3.安全性評価本剤との因果関係にかかわらず,観察期間中に発現した医学的に好ましくないすべての事象(徴候,症状または疾病)を有害事象とし,そのうち本剤との因果関係が否定できないものを副作用とし,安全性解析対象症例における副作用発現率および内容を評価した.有害事象の器官別大分類および基本語への分類は,ICH国際医薬用語集日本語版(MedDRA/CJVer.24.1)に基づいた.器官別大分類および基本語ごとに副作用の発現症例数とその割合を集計した.副作用発現件数については,同一症例に同一基本語が複数回発現した場合にもC1件として取り扱い,その合計を集計した.C4.有効性評価有効性評価は,有効性解析対象症例における全般改善度および臨床症状とした.全般改善度は,本剤投与終了・中止時に担当医師が本剤投与開始後の臨床経過および初診時検出菌の消失状況などより総合的に判断し,「有効」「無効」「悪化」および「判定不能」のC3段階C4区分で評価した.このうち「無効」および「悪化」と判定された症例を無効例とし,「判定不能」を分母から除いた有効率を算出した.初診時検出菌別の有効率の算出については,初診時検出菌が複数菌種検出された場合は検出菌ごとにC1症例とし,同一症例に同一菌種が複数株検出された場合にもC1症例として取り扱った.臨床症状は,他覚的所見および自覚症状をスコア化(表1)し,本剤投与前後の合計スコアを比較した.C5.統計解析副作用発現率および有効率に影響を及ぼす要因を特定するため,Cc2検定(有意水準は両側C5%)を用いて評価対象症例全体および対象疾患ごとに各患者背景因子別のカテゴリー間で解析を実施し,副作用発現率および有効率を比較した.本剤投与前後の臨床症状の合計スコアの比較は,Wilcoxon符号付順位検定(有意水準は両側C5%)を用いて対象疾患ごとに実施した.統計解析ソフトウェアはCSAS(Ver.9.4)を用いた.なお,複数の対象疾患を併発している場合は,担当医師の判断により症状の重い疾患を対象とした.C6.細菌学的効果細菌学的効果は,細菌学的効果評価対象症例における初診時検出菌別の消失率を評価した.消失については,初診時に検出された菌種ごとに判定し,同一の菌種が検出されなかった時点で「消失」と判定した.C7.最小発育阻止濃度(MIC)抗菌活性評価対象症例における初診時検出菌のCAZMのMICをCClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)M1002018年版(28thEdition)7)に準じた微量液体希釈法にて測定した.ブドウ球菌属はオキサシリン(MPIPC)感受性にて細分類し,MPIPCのCMICがC2Cμg/ml以下の黄色ブドウ球菌をCmethicillin-susceptibleCStaphylococcusCaureusC表1所見・症状スコア対象疾患評価項目結膜炎眼瞼炎涙.炎麦粒腫判定基準(スコア)眼瞼を翻転すれば,円蓋部結膜に眼脂を認める+(1)眼脂〇眼瞼を翻転すれば,眼瞼結膜に眼脂を認める++(2)眼瞼を翻転しなくても,眼瞼縁または眼瞼皮膚に眼脂を認める+++(3)軽度または部分的な充血を認める+(1)結膜充血〇〇中等度の充血を認める++(2)高度の充血を認める+++(3)数本の睫毛根部に分泌物を認める+(1)〇多数の睫毛根部に分泌物を認める++(2)眼瞼縁の軽度の充血を認めるが眼瞼皮膚の発赤がない+(1)眼瞼縁充血・眼瞼発赤〇眼瞼縁の高度の充血を認めるが眼瞼皮膚の発赤がない++(2)眼瞼縁の潰瘍または眼瞼皮膚の発赤を認める+++(3)睫毛根部の分泌物分泌物により複数の睫毛が束になっている来院ごとに各所見を観察し,本剤投与前後の合計スコアを比較した.痛くて開瞼不可能痛いが開瞼可能少し痛い痛くて我慢できない痛むが我慢できる押すと痛むたえずゴロゴロして開瞼不可能ゴロゴロするが開瞼可能〇異物感自覚症状時々ゴロゴロする涙が頻繁にこぼれる涙で眼が潤む眼瞼結膜の充血と眼瞼皮膚全体の発赤を認める眼瞼結膜の充血と眼瞼皮膚の部分的な発赤を認める眼瞼結膜の充血を認めるが眼瞼皮膚の発赤がない全体的に腫脹を認め,開瞼不可能自然に認める眼瞼腫脹〇全体的に腫脹を認めるが開瞼可能部分的な腫脹を認める涙.部の腫脹〇涙.皮膚瘻を形成している発赤を伴った腫脹を認める腫脹を認める圧迫で多量認める〇涙点からの逆流分泌物他覚的所見圧迫で少量認める結膜充血・眼瞼発赤〇流涙〇〇涙が時々こぼれる〇〇〇〇疼痛〇眼痛〇C.±全疾患・全項目共通所見なし:(0),所見ほとんどなし:(0.5).+++(3)++(2)+(1)+++(3)++(2)+(1)+++(3)++(2)+(1)+++(3)++(2)+(1)+++(3)++(2)+(1)+++(3)++(2)+(1)+++(3)++(2)+(1)+++(3)++(2)+(1)+++(3)図1症例構成図調査完了症例C500例に本剤未投与症例はなく,全例を安全性解析対象症例とした.(MSSA),4Cμg/ml以上のものをCMRSAとした.CII結果1.症例構成図1に症例構成図を示した.調査完了症例C500例の全例が安全性解析対象症例(結膜炎C281例,眼瞼炎C63例,涙.炎C48例,麦粒腫C108例)であった.安全性解析対象症例から本剤の過量投与症例および有効性判定不能症例を除外した結果,有効性解析対象症例はC450例(結膜炎C249例,眼瞼炎54例,涙.炎C43例,麦粒腫C104例),安全性解析対象症例から初診時検出菌陰性症例,本剤の過量投与症例および本剤投与終了翌々日以降に検体採取された症例を除いた細菌学的効果評価対象症例はC451例(結膜炎C246例,眼瞼炎C58例,涙.炎C45例,麦粒腫C102例)であった.調査完了症例から初診時検出菌陰性症例を除いた抗菌活性評価対象症例はC484例(結膜炎C271例,眼瞼炎C61例,涙.炎C46例,麦粒腫C106例)であった.C2.患者背景安全性解析対象症例の患者背景因子別の内訳を表2に示した.年齢分布は,65歳以上C75歳未満C96例,75歳以上C80歳未満C64例,80歳以上C139例であり,65歳以上の高齢者がC59.8%(299/500)を占め,全体の平均年齢はC62.1C±23.78であった.対象疾患は,結膜炎がもっとも多く全体のC56.2%を占め,ついで麦粒腫がC21.6%であった.表2患者背景因子別症例数患者背景因子内訳対象疾患全体結膜炎眼瞼炎涙.炎麦粒腫性別男C184C108C18C13C45女C316C173C45C35C63妊娠なしC316C173C45C35C63ありC0C0C0C0C0年齢7歳未満C12C6C0C1C57歳以上C15歳未満C22C6C1C0C1515歳以上C65歳未満C167C81C15C9C6265歳以上C75歳未満C96C64C9C9C1475歳以上C80歳未満C64C35C13C11C580歳以上C139C89C25C18C7平均年齢C62.1±23.78C65.7±21.58C70.0±20.20C73.1±16.08C43.3±24.01罹病期間3日未満C162C86C9C12C553日以上C8日未満C123C75C8C7C338日以上C15日未満C42C30C3C1C815日以上C36C19C6C7C4不明C137C71C37C21C8合併症なしC182C96C11C13C62ありC243C142C48C27C26不明C75C43C4C8C20眼疾患なしC306C168C21C29C88ありC194C113C42C19C20肝疾患なしC381C213C54C34C80ありC0C0C0C0C0不明C119C68C9C14C28腎疾患なしC375C210C52C34C79ありC6C2C2C0C2不明C119C69C9C14C27その他の疾患なしC253C136C32C18C67ありC118C67C20C17C14不明C129C78C11C13C27既往歴なしC292C153C40C28C71ありC128C75C17C11C25不明C80C53C6C9C12眼疾患なしC310C160C44C29C77ありC110C68C13C10C19その他の疾患なしC397C218C52C38C89ありC23C10C5C1C7アレルギー歴なしC357C197C49C32C79ありC73C42C10C4C17不明C70C42C4C12C12投与期間3日未満C0C0C0C0C03日以上C8日未満C291C264C5C4C188日以上C15日未満C205C17C57C43C8815日以上C4C0C1C1C2前治療薬なしC314C182C21C26C85ありC186C99C42C22C23併用薬なしC237C141C21C29C46ありC263C140C42C19C62併用療法なしC444C274C61C28C81ありC56C7C2C20C27対象疾患の内訳は,結膜炎がC56.2%,麦粒腫がC21.6%であった.年齢は,65歳以上がC59.8%を占め,全体の平均年齢はC62.1C±23.78歳であった.(97)あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C1665表3副作用発現率対象疾患全体結膜炎眼瞼炎涙.炎麦粒腫安全性解析対象症例数C500C281C63C48C108副作用の発現症例数C19C13C3C1C2副作用の発現症例率3.80%4.63%4.76%2.08%1.85%眼障害18(C3.60%)12(C4.27%)3(4C.76%)1(2C.08%)2(1C.85%)眼刺激8(1C.60%)6(2C.14%)1(1C.59%)C01(0C.93%)眼瞼炎3(0C.60%)2(0C.71%)1(1C.59%)C0C0眼痛2(0C.40%)2(0C.71%)C0C0C0眼の異物感2(0C.40%)1(0C.36%)C01(2C.08%)C0結膜炎1(0C.20%)1(0C.36%)C0C0C0アレルギー性結膜炎1(0C.20%)1(0C.36%)C0C0C0角膜浮腫1(0C.20%)1(0C.36%)C0C0C0点状角膜炎1(0C.20%)1(0C.36%)C0C0C0霧視1(0C.20%)1(0C.36%)C0C0C0眼瞼紅斑1(0C.20%)C01(1C.59%)C0C0眼瞼浮腫1(0C.20%)C01(1C.59%)C0C0結膜充血1(0C.20%)C01(1C.59%)C0C0眼そう痒症1(0C.20%)C01(1C.59%)C0C0麦粒腫1(0C.20%)C0C0C01(0C.93%)一般・全身障害および投与部位の状態1(0C.20%)1(0C.36%)C0C0C0投与部位不快感1(0C.20%)1(0C.36%)C0C0C0副作用名はCICH国際医療用語集日本語版(MedDRA/JVer.24.1)に基づき器官別大分類(SOC)ごとに分類し,基本語(PT)で記載した.3.安全性1)副作用発現状況安全性解析対象症例における副作用発現率を表3に示した.すなわち,19例(26件)に副作用が発現したことから,副作用発現症例率はC3.80%であった.また,2例以上に認められた副作用は「眼刺激」8例C8件(結膜炎C6例C6件,眼瞼炎1例1件,麦粒腫1例1件),「眼瞼炎」3例3件(結膜炎2例2件,眼瞼炎1例1件),「眼痛」2例2件(結膜炎2例2件)および「眼の異物感」2例C2件(結膜炎C1例C1件,涙.炎C1例C1件)であり,いずれも使用上の注意から予測できる非重篤な副作用であった.このほか,重篤な副作用は認められなかった.2)患者背景要因別副作用発現状況安全性解析対象症例を対象とし,対象疾患別,性別,年齢別,罹病期間別,合併症,既往歴,アレルギー歴,前治療薬,併用薬,1日平均投与量および併用療法の有無別にて副作用発現率を比較した(表4).合併症,合併症(眼疾患),合併症(その他の疾患),既往歴,既往歴(眼疾患),前治療薬の有無別およびC1日平均投与量別で有意差が認められた.合併症,合併症(眼疾患),合併症(その他の疾患),既往歴,既往歴(眼疾患)および前治療薬の有無別では,いずれも「あり」群は「なし」群に比べ発現率が有意に高かった.1日平均投与量別では「2滴以上C3滴未満」群は「2滴未満」群に比べ発現率が有意に高かった.累積症例数を母数とした投与期間別および総投与量別では,投与期間が長くなる,または投与量が多くなると副作用発現率が上昇するという傾向は認められなかった.C4.有効性1)有効率有効性解析対象症例の対象疾患別の有効率を表5に示した.すなわち,全例での有効率はC86.9%であり,対象疾患別の有効率は,結膜炎C88.0%,眼瞼炎C75.9%,涙.炎C79.1%および麦粒腫C93.3%であった.2)患者背景要因別有効率有効性解析対象症例を対象とし,患者背景要因別に有効率を比較した(表5).その結果,合併症(眼疾患)の有無別で有意差が認められ,合併症(眼疾患)「あり」群は「なし」群に比べ有効率が有意に低かったが,「あり」群においても82.7%の有効率であった.3)初診時検出菌別の有効率有効性解析対象症例の初診時検出菌別の有効率を表6に示した.ブドウ球菌属でC87.5%,レンサ球菌属でC92.9%,肺炎球菌C100.0%,コリネバクテリウム属でC95.1%,アクネ菌表4患者背景因子別副作用発現率患者背景因子症例数副作用発現症例数副作用発現症例率(%)検定対象疾患結膜炎C281C13C4.63Cp=0.5334眼瞼炎C63C3C4.76涙.炎C48C1C2.08麦粒腫C108C2C1.85性別男C184C4C2.17p=0.1467女C316C15C4.75C妊娠なしC316C15C4.75検定不可ありC0C─C─年齢7歳未満C12C0C0.00Cp=0.56807歳以上C15歳未満C22C0C0.0015歳以上C65歳未満C167C4C2.4065歳以上C75歳未満C96C4C4.1775歳以上C80歳未満C64C3C4.6980歳以上C139C8C5.76罹病期間3日未満C162C6C3.70Cp=0.19913日以上C8日未満C123C3C2.448日以上C15日未満C42C0C0.0015日以上C36C3C8.33不明C137C7C5.11合併症なしC182C3C1.65Cp=0.0219*ありC243C15C6.17不明C75C1C1.33眼疾患なしC306C6C1.96Cp=0.0069*ありC194C13C6.70肝疾患なしC381C17C4.46検定不可ありC0C─C─不明C119C2C1.68腎疾患なしC375C16C4.27Cp=0.6052ありC6C0C0.00不明C119C3C2.52その他の疾患なしC253C6C2.37Cp=0.0167*ありC118C9C7.63不明C129C4C3.10既往歴なしC292C9C3.08Cp=0.0318*ありC128C10C7.81不明C80C0C0.00眼疾患なしC310C10C3.23Cp=0.0317*ありC110C9C8.18その他の疾患なしC397C17C4.28Cp=0.3221ありC23C2C8.70アレルギー歴なしC357C15C4.20Cp=0.9714ありC73C3C4.11不明C70C1C1.43投与期間3日未満C500C9C1.80累積集計のため3日以上C8日未満C500C8C1.60検定不可8日以上C15日未満C209C2C0.9615日以上C4C0C0.001日平均投与量2滴未満C337C7C2.08Cp=0.0111*2滴以上C3滴未満C159C12C7.553滴以上C4C0C0.00総投与量9滴未満C500C10C2.00累積集計のため9滴以上C19滴未満C432C8C1.85検定不可19滴以上C33滴未満C54C1C1.8533滴以上C0C─C─前治療薬なしC314C7C2.23Cp=0.0170*ありC186C12C6.45併用薬なしC237C7C2.95p=0.3474ありC263C12C4.56C併用療法なしC444C16C3.60Cp=0.5178ありC563C5.36C対象疾患別の副作用発現率に有意な差は認められなかったが,複数の因子で有意な差が認められた.表5患者背景因子別有効率患者背景因子症例数有効例無効例判定不能有効率(%)検定対象疾患対象疾患全体C結膜炎C眼瞼炎C涙.炎C麦粒腫C450C249C54C43C104C391C219C41C34C97C59C30C13C9C7C28C14C8C4C2C86.9C88.0C75.979.193.3─p=0.0075*性別男C女C169C281C143C248C26C33C6C22C84.6C88.3p=0.2678妊娠なしCありC281C0C248C─C33C─C22C0C88.3─検定不可年齢7歳未満C7歳以上C15歳未満C15歳以上C65歳未満C65歳以上C75歳未満C75歳以上C80歳未満C80歳以上C11C22C156C85C52C124C10C21C138C73C42C107C1C1C18C12C10C17C0C0C8C6C8C6C90.9C95.588.585.980.886.3p=0.5881罹病期間3日未満C3日以上C8日未満C8日以上C15日未満C15日以上C不明C148C113C39C30C120C134C100C37C26C94C14C13C2C4C26C6C7C1C4C10C90.5C88.594.986.778.3p=0.6300合併症なしCありC不明C172C208C70C151C176C64C21C32C6C5C19C4C87.8C84.691.4p=0.3738眼疾患なしCありC282C168C252C139C30C29C12C16C89.4C82.7p=0.0441*肝疾患なしCありC不明C342C0C108C295C─C96C47C─C12C20C0C8C86.3─88.9検定不可腎疾患なしCありC不明C337C5C108C290C5C96C47C0C12C20C0C8C86.1C100.088.9p=0.3686その他の疾患なしCありC不明C238C98C114C206C83C102C32C15C12C8C7C13C86.6C84.789.5p=0.6549既往歴なしCありC不明C267C109C74C228C97C66C39C12C8C14C10C4C85.4C89.089.2p=0.3553眼疾患なしCありC283C93C241C84C42C9C16C8C85.2C90.3p=0.2071その他の疾患なしCありC356C20C310C15C46C5C22C2C87.1C75.0p=0.1248投与期間3日未満C3日以上C8日未満C8日以上C15日未満C15日以上C0C274C176C0C─C242C149C─C─C32C27C─C0C15C13C0C─C88.384.7─p=0.26141日平均投与量(評価対象眼あたり)1滴未満C1滴以上C2滴未満C2滴以上C0C450C0C─C391C─C─C59C─C0C28C0C─86.9─検定不可総投与量(評価対象眼あたり)5滴未満C5滴以上C10滴未満C10滴以上C17滴未満C17滴以上C0C274C176C0C─C242C149C─C─C32C27C─C0C15C13C0C─C88.384.7─p=0.2614前治療薬なしCありC287C163C254C137C33C26C16C12C88.5C84.0p=0.1786併用薬なしCありC209C241C177C214C32C27C19C9C84.7C88.8p=0.1979併用療法なしCありC396C54C345C46C51C8C27C1C87.1C85.2p=0.6925合併症(眼疾患)の有無で有効率に有意な差が認められた.表6初診時検出菌別有効率対象疾患全体結膜炎眼瞼炎涙.炎麦粒腫初診時検出菌検出有効率検出有効率検出有効率検出有効率検出有効率症例数(%)症例数(%)症例数(%)症例数(%)症例数(%)グラム陽性菌C429C87.2C233C88.4C52C76.9C42C78.6C102C93.1ブドウ球菌属C335C87.5C192C87.5C41C78.0C29C79.3C73C95.9CStaphylococcusepidermidisC186C92.5C110C93.6C25C84.0C14C85.7C37C97.3CStaphylococcusaureus(MSSA)C110C86.4C57C86.0C14C64.3C8C87.5C31C96.8CStaphylococcusaureus(MRSA)C29C62.1C17C52.9C3C66.7C3C66.7C6C83.3その他ブドウ球菌属C59C89.8C38C94.7C5C80.0C6C50.0C10C100.0レンサ球菌属C28C92.9C14C92.9C6C100.0C7C85.7C1C100.0肺炎球菌C2C100.0C2C100.0C0C─C0C─C0C─その他レンサ球菌属C26C92.3C12C91.7C6C100.0C7C85.7C1C100.0CCorynebacteriumCsp.C162C95.1C89C96.6C19C94.7C17C82.4C37C97.3CCutibacteriumacnesC142C88.0C73C91.8C17C82.4C14C78.6C38C86.8その他グラム陽性菌C50C94.0C26C100.0C5C60.0C9C88.9C10C100.0グラム陰性菌C85C89.4C59C89.8C8C87.5C14C85.7C4C100.0CHaemophilusin.uenzaeC13C84.6C10C80.0C0C─C2C100.0C1C100.0その他グラム陰性菌C72C90.3C49C91.8C8C87.5C12C83.3C3C100.0Cutibacteriumacnes:アクネ菌(旧CPropionibacteriumacnes),Haemophilusin.uenzae:インフルエンザ菌.初診時検出菌別の有効率はブドウ球菌属C87.5%,レンサ球菌属C92.9%,肺炎球菌C100.0%,コリネバクテリウム属C95.1%,アクネ菌C88.0%,インフルエンザ菌C84.6%であった.表7症状スコア合計の推移対象疾患症状スコア合計投与開始時C3±1日C7±1日C14±2日最終観察時検定平均値±SDC3.93±1.755C0.81±1.162C1.02±1.315C─C0.96±1.315p<0.0001*結膜炎症例数C243C32C170C─C243スコア比C─C0.21C0.26C─C0.24C眼瞼炎平均値±SDC症例数Cスコア比C5.09±2.387C54C─C4.00±2.828C2C0.79C1.93±1.657C20C0.38C1.82±1.710C31C0.36C2.27±2.341540.45p<C0.0001*涙.炎平均値±SDC症例数Cスコア比C4.15±2.581C43C─C3.50±0.000C2C0.84C2.05±2.087C22C0.49C1.26±0.903C21C0.30C1.67±1.683430.40p<C0.0001*麦粒腫平均値±SDC症例数Cスコア比C4.99±2.875C101C─C1.33±1.277C29C0.27C1.20±1.870C32C0.24C0.63±0.815C23C0.13C0.93±1.3061010.19p<C0.0001*いずれの疾患においても最終観察時のスコアは本剤投与開始時と比較して有意に低下していた.SD:標準偏差.でC88.0%,インフルエンザ菌でC84.6%であった.MRSAの有効率はC62.1%と他の菌種と比較して低い傾向にあった.4)臨床症状スコア有効性解析対象症例の対象疾患別の他覚的所見および自覚症状の合計スコアの推移を表7に示した.いずれの疾患においても最終観察時のスコアは本剤投与開始時と比較して有意に低下していた.C5.細菌学的効果表8に示したとおり,細菌学的効果評価対象症例における初診時分離菌株数はC922株であり,グラム陽性菌および陰性菌の割合は,それぞれC89.4%およびC10.6%であった.菌種別の分布は,ブドウ球菌属C44.6%,レンサ球菌属C3.0%,肺炎球菌C0.2%,コリネバクテリウム属C20.2%,アクネ菌15.9%およびインフルエンザ菌C1.4%がおもな構成員であった.対象疾患別では,結膜炎および眼瞼炎の菌種の構成比は近似していたが,涙.炎ではブドウ球菌属の割合が低くグラム陰性菌の割合が高く,麦粒腫ではブドウ球菌属およびアクネ菌の割合が高くレンサ球菌属およびグラム陰性菌の割合が表8初診時検出菌別消失率対象疾患全体結膜炎眼瞼炎涙.炎麦粒腫初診時検出菌検出検出割合消失率検出検出割合消失率検出検出割合消失率検出検出割合消失率検出検出割合消失率株数(%)(%)株数(%)(%)株数(%)(%)株数(%)(%)株数(%)(%)全菌株C922C─C75.1C531C─C76.3C114C─C60.5C101C─C76.2C176C─C80.1Cグラム陽性菌C824C89.4C73.7C463C87.2C74.3C105C92.1C59.0C84C83.2C76.2C172C97.7C79.7Cブドウ球菌属C411C44.6C75.9C236C44.4C74.6C53C46.5C64.2C34C33.7C79.4C88C50.0C85.2StaphylococcusepidermidisC205C22.2C81.0C123C23.2C81.3C26C22.8C73.1C16C15.8C81.3C40C22.7C85.0Staphylococcusaureus(MSSA)C107C11.6C64.5C55C10.4C61.8C14C12.3C35.7C8C7.9C75.0C30C17.0C80.0Staphylococcusaureus(MRSA)C28C3.0C39.3C16C3.0C25.0C3C2.6C33.3C3C3.0C33.3C6C3.4C83.3その他ブドウ球菌属C71C7.7C93.0C42C7.9C90.5C10C8.8C90.0C7C6.9C100.0C12C6.8C100.0Cレンサ球菌属C28C3.0C92.9C14C2.6C100.0C6C5.3C66.7C7C6.9C100.0C1C0.6C100.0肺炎球菌C2C0.2100.0C2C0.4100.0C0C0.0C─C0C0.0C─C0C0.0C─その他レンサ球菌属C26C2.8C92.3C12C2.3C100.0C6C5.3C66.7C7C6.9C100.0C1C0.6C100.0CCorynebacteriumCsp.C186C20.2C79.6C108C20.3C78.7C21C18.4C66.7C20C19.8C80.0C37C21.0C89.2CutibacteriumacnesC147C15.9C53.1C78C14.7C59.0C19C16.7C26.3C14C13.9C57.1C36C20.5C52.8その他グラム陽性菌C52C5.6C82.7C27C5.1C85.2C6C5.3C83.3C9C8.9C66.7C10C5.7C90.0Cグラム陰性菌C98C10.6C86.7C68C12.8C89.7C9C7.9C77.8C17C16.8C76.5C4C2.3C100.0CHaemophilusin.uenzaeC13C1.4C100.0C10C1.9C100.0C0C0.0C─C2C2.0C100.0C1C0.6C100.0その他グラム陰性菌C85C9.2C84.7C58C10.9C87.9C9C7.9C77.8C15C14.9C73.3C3C1.7C100.0CCutibacteriumacnes:アクネ菌(旧CPropionibacteriumacnes),Haemophilusin.uenzae:インフルエンザ菌.結膜炎および眼瞼炎の菌種の構成比は近似していたが,涙.炎ではブドウ球菌属の割合が低くグラム陰性菌の割合が高く,麦粒腫ではブドウ球菌属およびアクネ菌の割合が高くレンサ球菌属およびグラム陰性菌の割合が低かった.表9年代別初診時検出菌15歳未満15歳以上C65歳未満65歳以上C75歳未満75歳以上C80歳未満80歳以上初診時検出菌検出割合検出割合検出割合検出割合検出割合検出株数(%)検出株数(%)検出株数(%)検出株数(%)検出株数(%)全菌株C54C─284─186─108─290─Cグラム陽性菌C49C90.7C266C93.7C168C90.3C93C86.1C248Cブドウ球菌属C29C53.7C138C48.6C84C45.2C48C44.4C112C38.6StaphylococcusepidermidisC7C13.0C78C27.5C46C24.7C22C20.4C52C17.9Staphylococcusaureus(MSSA)C14C25.9C30C10.6C17C9.1C12C11.1C34C11.7Staphylococcusaureus(MRSA)C4C7.4C6C2.1C7C3.8C5C4.6C6C2.1その他ブドウ球菌属C4C7.4C24C8.5C14C7.5C9C8.3C20C6.9Cレンサ球菌属C2C3.7C4C1.4C4C2.2C4C3.7C14C4.8肺炎球菌C0C0.0C00.0C10.5C00.0C10.3その他レンサ球菌属C2C3.7C4C1.4C3C1.6C4C3.7C13C4.5CCorynebacteriumCsp.C9C16.7C44C15.5C43C23.1C17C15.7C73C25.2CutibacteriumacnesC6C11.1C70C24.6C30C16.1C17C15.7C24C8.3その他グラム陽性菌C3C5.6C10C3.5C7C3.8C7C6.5C25C8.6Cグラム陰性菌C5C9.3C18C6.3C18C9.7C15C13.9C42CHaemophilusin.uenzaeC2C3.7C4C1.4C4C2.2C2C1.9C1C0.3その他グラム陰性菌C3C5.6C14C4.9C14C7.5C13C12.0C41C14.1CCutibacteriumacnes:アクネ菌(旧CPropionibacteriumacnes),Haemophilusin.uenzae:インフルエンザ菌.加齢に伴いグラム陽性菌の割合が低下し,とくにC80歳以上ではブドウ球菌属およびアクネ菌の割合が低かったが,コリネバクテリウム属の割合は高かった.表10初診時検出菌の最小発育阻止濃度MIC(μg/ml)初診時検出菌C≦0.06C0.13C0.25C0.5C1C2C4C8C16C32C64C128>128合計最小最大CMIC50CMIC90C全菌株C47C135C110C145C118C34C32C15C23C38C28C61C213C999C≦0.06>128C1>128グラム陽性菌C47C134C107C132C110C27C23C8C13C20C20C44C208C893C≦0.06>128C1>128ブドウ球菌属C0C0C34C103C98C13C5C1C1C10C10C27C135C437C0.25>128C1>128StaphylococcusepidermidisC0C0C20C67C30C1C1C1C1C8C10C22C56C217C0.25>128C1>128Staphylococcusaureus(MSSA)C0C0C0C4C54C8C3C0C0C0C0C3C40C112C0.5>128C1>128Staphylococcusaureus(MRSA)C0C0C0C1C2C1C0C0C0C0C0C0C27C31C0.5>128>128>128その他ブドウ球菌属C0C0C14C31C12C3C1C0C0C2C0C2C12C77C0.25>128C0.5>128レンサ球菌属C8C6C0C5C4C4C2C0C0C0C0C0C332≦0.06>128C0.54肺炎球菌C0C00001000000C122>128C──その他レンサ球菌属C8C6C0C5C4C3C2C0C0C0C0C0C230≦0.06>128C0.54CCorynebacteriumCsp.C22C39C19C14C3C6C7C2C11C9C10C16C46C204C≦0.06>128C2>128CutibacteriumacnesC15C85C45C4C0C1C0C0C0C1C0C1C8C160C≦0.06>128C0.13C0.25その他グラム陽性菌C2C4C9C6C5C3C9C5C1C0C0C0C16C60≦0.06>128C4>128グラム陰性菌C0C1C3C13C8C7C9C7C10C18C8C17C51060.13>128C16C128CHaemophilusin.uenzaeC0C1C1C8C3C0C0C0C0C0C0C0C0C130.13C1C0.5C1その他グラム陰性菌C0C0C2C5C5C7C9C7C10C18C8C17C5C930.25>128C32C128CCutibacteriumacnes:アクネ菌(旧CPropionibacteriumacnes),Haemophilusin.uenzae:インフルエンザ菌.MIC90は,アクネ菌C0.25Cμg/ml,インフルエンザ菌C1Cμg/mlであった.肺炎球菌の検出はC10株未満であったため,MICC50およびCMICC90は算出はしなかった.低かった.一方,MRSAの分離頻度は,結膜炎C3.0%,眼瞼炎C2.6%,涙.炎C3.0%および麦粒腫C3.4%であり,同程度であった.初診時検出菌の消失率はC75.1%で,グラム陽性菌では73.7%,グラム陰性菌ではC86.7%であった.菌種別では,ブドウ球菌属C75.9%,レンサ球菌属C92.9%,肺炎球菌C100.0%,コリネバクテリウム属C79.6%,アクネ菌C53.1%,インフルエンザ菌C100.0%であった.一方,MRSAの消失率はC39.3%であったことから,他の菌種と比較して低い傾向にあった.表9に示したとおり,年代別の初診時検出菌の分布は,加齢に伴いグラム陽性菌の割合が低下し,とくにC80歳以上ではブドウ球菌属およびアクネ菌の割合が低かったが,コリネバクテリウム属の割合は高かった.一方,グラム陰性菌の割合は加齢により上昇していた.また,MRSAの検出割合は15歳未満でC7.4%であり,年代別でもっとも高かった.C6.初診時検出菌に対するAZMのMIC抗菌活性評価対象症例における初診時検出菌のうち,10株以上検出された菌種に対するCAZMのCMIC(最小値,最大値,MICC50,MICC90)は表10に示したとおりであった.すなわち,初診時に分離された全菌株(999株)に対するCMICC90は>128μg/mlで,グラム陽性菌(893株)では>128μg/ml,グラム陰性菌(106株)ではC128Cμg/mlであった.菌種別では,ブドウ球菌属>128Cμg/ml,レンサ球菌属C4Cμg/ml,コリネバクテリウム属>128Cμg/ml,アクネ菌C0.25Cμg/ml,インフルエンザ菌C1Cμg/mlであった.CIII考察医療用医薬品の製造販売承認取得のための臨床試験(治験)は,症例数が限られ,組み入れられる症例の年齢,合併症,併用薬・併用療法などに制限が設けられている.このため,治験では得られないデータが存在することも事実である.そこで筆者らは,医薬品を使用する患者の条件を定めることのない製造販売後の使用実態下における安全性・有効性のデータを早期に収集し,医療現場に提供することは,医薬品の適正使用の観点から重要であると考え,医療機関の協力を得て本調査を実施した.その結果,副作用発現率はC3.80%であり,承認時までの試験成績(治験)における副作用発現症例率C10.06%(73/726)を上回ることはなかった8).本調査で認められたおもな副作用は「眼刺激」1.60%(8件),「眼瞼炎」0.60%(3件),「眼痛」および「眼の異物感」0.40%(各C2件)であり,すべての副作用は使用上の注意から予測できる非重篤な事象であった.また,発現した副作用(26件)はすべて前眼部の事象であり,おもに受診時の問診により検知される事象〔眼刺激(8件),眼痛(2件),眼の異物感(2件),霧視,眼掻痒症および投与部位不快感(各C1件)〕が半数以上を占めていた.このうち,毎回の点眼後に一過性に発現していた霧視は本剤特性である懸濁性9)あるいは粘性によるものと考えられるが,その他の事象は対象疾患による炎症に加え,前眼部の合併症に起因することが示唆された.すなわち,一般に速やかに回復のみられる角膜上皮欠損が遷延化する理由としてドライアイなどがあげられている10)が,類似の症状を有するアレルギー性結膜炎,後天性涙道狭窄およびマイボーム腺機能不全などの涙液層を含めた眼表面の状態が健全でない合併例が存在したことから,眼刺激などが自覚されやすかったものと推察された.このほか,対象疾患別,本剤曝露量の増加に伴う副作用発現率の上昇は認められなかったことから,現状の用法・用量において,本剤の安全性に関する重要な懸念はないものと考えられた.本調査全例における有効率はC86.9%であり,対象疾患別では,結膜炎C88.0%,眼瞼炎C75.9%,涙.炎C79.1%,麦粒腫C93.3%であり,治験における有効率(結膜炎C84.5.85.6%,眼瞼炎C70.0%,涙.炎C50.0%,麦粒腫C90.0%)と大きく乖離するものではなかった8).また,合併症(眼疾患)を有する患者において有効率が低かったが,おもな合併症(眼疾患)はドライアイ,白内障,緑内障,加齢黄斑変性であり,特定の合併症(眼疾患)が有効率に及ぼす影響は認められなかった.臨床所見合計スコアについては,結膜炎および麦粒腫では投与C3C±1日後,眼瞼炎および涙.炎では投与C7C±1日後に,ベースラインからC50%以上の低下を認めた.初診時検出菌の分布については,ブドウ球菌属およびコリネバクテリウム属をはじめとするグラム陽性菌の割合が89.4%であった.また,対象疾患別では,麦粒腫でのグラム陽性菌の割合がC97.7%ともっとも高かった一方で,涙.炎ではグラム陰性菌の割合がC16.8%でもっとも高かった.このような対象疾患別での初診時分離菌の特徴は,既報11)と同様であった.しかしながら,年齢別での分離菌の特徴として,小児期においてはインフルエンザ菌の分離頻度が高いことが知られている11,12)が,本調査におけるC15歳未満での分離頻度はC3.7%でありきわめて低かった.また,加齢に伴いコリネバクテリウム属の分離頻度が上昇する傾向については既報12)と同様であった.外眼部感染症の起炎菌として重要であるCMRSAの分離頻度は,結膜炎C3.0%,眼瞼炎C2.6%,涙.炎C3.0%および麦粒腫C3.4%であり,対象疾患別では同程度であった.一方,年齢別ではC15歳未満での分離頻度がC7.4%ともっとも高かった.全検出菌に占めるCMRSAの分離頻度はC3.0%であり既報(2%)13)と同程度であったが,年齢別においては高齢者(80歳以上)での分離頻度C2.1%に比して,若齢者での分離頻度が高かった原因については不明である.MRSA検出症例における有効率はC62.1%であり,他菌種よりも低い傾向にあり,MICが高値であったこと(MICC90:>128Cμg/ml),消失率がC39.3%と低かったことに起因するものと推察された.レンサ球菌属の全症例に占める分離頻度はC3.0%であり,肺炎球菌に至ってはC0.2%であった.対象疾患別でのレンサ球菌属の分離頻度は,涙.炎でのC6.9%がもっとも高く既報11)と同様の傾向を示した.レンサ球菌属検出症例に対する有効率はC92.9%で良好であり,これは消失率がC92.9%と高かったことに裏付けられるものと推察された.コリネバクテリウム属の分離頻度はC20.2%であり,全分離株数のC1/5を占めた.コリネバクテリウム属については,起炎性に関する議論の余地が残されるが他菌種と同様に評価した結果,有効率はC95.1%で良好であった.一方,MICC90が>128Cμg/mlであったことから低感受性株の存在は明らかであるものの,79.6%が消失し,臨床所見の改善が認められたことにより良好な有効率が得られたものと推察された.インフルエンザ菌の分離頻度はC1.4%で概して低かった.CMIC90はC1μg/ml,消失率はC100%であったが,有効率は84.6%であった.アクネ菌の全症例に占める分離頻度はC15.9%であり,対象疾患別では麦粒腫でC20.5%ともっとも高く,また年齢別ではC15歳以上C65歳未満でC24.6%ともっとも高く,80歳以上でC8.3%ともっとも低かった.また,MICC90はC0.25Cμg/mlであり,全菌種のなかでもっとも高い感受性を示したものの消失率はC53.1%であった.とくに,眼瞼炎での消失率は26.3%であり,対象疾患中,もっとも低かった.一方で,アクネ菌検出症例の全体での有効率はC88.0%で良好であった.初診時検出菌に対するCAZMの抗菌活性(MICC90)は,ブドウ球菌属>128Cμg/ml,レンサ球菌属C4Cμg/ml,コリネバクテリウム属>128Cμg/ml,アクネ菌C0.25Cμg/ml,インフルエンザ菌C1Cμg/mlであった.概して良好な成績とは言い難いが,アクネ菌に対する活性は優秀であった.以上のように,各検出菌に対するCAZMの抗菌活性,本剤投与後の初診時検出菌の消失率,臨床所見スコア推移などを指標とした総合的な有効性評価結果については,一部の考察において,各調査項目の因果が十分に検討できなかった.すなわち,ウサギの黄色ブドウ球菌感染モデルに対する本剤C1日C2回投与は,病原菌に対するCMICがC20倍異なるガチフロキサシンのC0.3%点眼液C1日C3回投与と同程度の感染症状抑制効果が示されており7),また,細菌によるバイオフィルムやエラスターゼ,プロテアーゼなどの毒性物質の産生抑制によって,細菌の病原性を低下させる14,15)ことが知られている.さらに,AZMの組織移行性は非感染部位に比べ感染部位で高い16,17).本調査においても,このようなCAZMの特徴が,臨床評価に影響した可能性は否定できない.以上の結果より,アジマイシン点眼液C1%は外眼部感染症治療に有用であり,フルオロキノロン系抗菌剤に依存した外眼部感染症治療に伴う耐性菌の出現や菌交代現象18)の抑制,少ない点眼回数によるアドヒアランスの向上など,眼感染症治療に貢献できる新たな選択肢の一つとなりうる薬剤であると考えられた.謝辞:本調査の実施に際し,貴重なデータをご提供いただきました医療機関ならびに調査担当医師の先生方に深謝いたします.利益相反::山際智充,坂本祐一郎,末信敏秀(カテゴリーE:千寿製薬)文献1)独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ(医療用医薬品情報検索)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/CiyakuSearch/2)MillerCD,CFlynnCPM,CScottCIUCetal:InCvitroC.uoroqui-noloneCresistanceCinCstaphylococcalCendophthalmitisCiso-lates.ArchOphthalmolC124:479-483,C20063)中川尚:眼感染症の謎を解く,眼科プラクティス28(大橋裕一編),p382-383,文光堂,20094)鈴木崇:眼感染症の謎を解く,眼科プラクティス28(大橋裕一編),p408-409,文光堂,20095)江口洋:眼感染症の謎を解く,眼科プラクティス28(大橋裕一編),p412-413,文光堂,20096)UtineCA:Updateandcriticalappraisaloftheuseoftop-icalCazithromycinCophthalmic1%(AzaSiteCR)solutionCinCtheCtreatmentCofCocularCinfections.CClinCOphthalmolC5:C801-809,C20117)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:Performancestandardsforantimicrobialsusceptibilitytesting;twenty-sixthCinformationalCsupplement,CCLSICdocumentCM100-S28,CClinicalCandCLaboratoryCStandardsCInstitute,CWayne.PA,20188)千寿製薬株式会社:アジマイシン点眼液CR1%医薬品インタビューフォーム(第C7版)9)大鳥聡:眼科プラクティス23眼科薬物治療CACtoCZ,p596-598,文光堂,200810)近間泰一郎,西田輝夫:角膜疾患の細胞生物学(木下茂編),眼科CNewInsight,第C5巻,p35-42,メジカルビュー社,199511)末信敏秀,川口えり子,星最智:ガチフロ点眼液C0.3%の細菌学的効果に関する特定使用成績調査.あたらしい眼科C31:1674-1682,C201412)加茂純子,村松志保,赤澤博美ほか:感受性からみた年代別眼科領域抗菌薬選択C2018.あたらしい眼科C37:484-489,C202013)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関するC5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,C201114)TatedaCK,CComteCR,CPechereCJCCetal:AzithromycinCinhibitsquorumsensinginpseudomonasaeruginosa.Anti-microbAgentsChemotherC45:1930-1933,C200115)SwattonCJE,CDavenportCPW,CMaundersCEACetal:Imapct17)横山秀一,三浦和美,武藤秀弥ほか:Azithromycinの感染CofCazithromycinConCtheCquorumCsensing-controlledCpro-組織への移行─オートラジオグラフィーによる検討─.日CteomeCofCpseudomonasCaeruginosa.CPLoSCOneC11:化療会誌C43:122-126,C1995Ce0147698,C201618)松本治恵,井上幸次,大橋裕一ほか:多施設共同による細16)RetsemaCJA,CBergeronCJM,CGirardCDCetal:Preferential菌性結膜炎における検出菌動向調査.あたらしい眼科C24:CconcentrationCofCazithromycinCinCanCinfectedCmouseCthighC647-654,C2007Cmodel.JAntimicrobChemotherC31:5-16,C1993***

角膜内皮移植と全層角膜移植の術後外傷性創離開に関する 検討

2022年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(12):1655.1660,2020c角膜内皮移植と全層角膜移植の術後外傷性創離開に関する検討奥拓明*1,2脇舛耕一*1福岡秀記*2稗田牧*2山崎俊秀*1稲富勉*2,3横井則彦*2外園千恵*2木下茂*1,4*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学*3国立長寿医療研究センター*4京都府立医科大学感覚器未来医療学CAnalysisofTraumaticWoundDehiscenceAfterDescemetStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyandPenetratingKeratoplastyHiroakiOku1,2)C,KoichiWakimasu1),HidekiFukuoka2),OsamuHieda2),ToshihideYamasaki1),TsutomuInatomi2,3)C,NorihikoYokoi2),ChieSotozono2)andShigeruKinoshita1,4)1)BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)NationalCenterforGeriatricsandGerontology,4)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:角膜内皮移植術(DSAEK)と全層角膜移植術(PKP)における角膜移植後の外傷性創離開について検討する.方法:2007年C8月.2020年C3月にバプテスト眼科クリニックで角膜移植術(DSAEK:895眼およびCPKP:733眼)を施行した症例を対象とした.そのうち,外傷症例に関して,外傷前矯正視力,移植から外傷までの期間,創離開の範囲,水晶体または眼内レンズ脱臼の有無,外傷後の移植片の状態を検討した.結果:DSAEK症例,PKP症例それぞれの術後外傷性創離開はC2眼(0.2%),15眼(2.0%)であり,DSAEK症例のほうがCPKP症例より有意に発症率が低かった(p<0.01).外傷前視力がC0.1未満の症例はCDSAEK症例でC0眼,PKP症例でC2眼であった.外傷性創離開の時期はCDSAEK症例,PKP症例それぞれ移植後平均C58.0C±38.0カ月,66.0C±39.0カ月であり,PKP症例に関しては移植片縫合糸抜去後C1カ月以内に外傷性創離開が生じた症例はC3眼(20.0%)であった.創離開の範囲はCDSAEK症例ではC2眼ともC180°未満であったが,PKP症例では15眼中8眼(53.3%)が180°以上であった.外傷時,水晶体または眼内レンズ脱出を認めた症例はCDSAEK症例ではC0眼,PKP症例ではC8眼であった.外傷性創離開後の経過ではCDSAEK症例はC2眼ともに移植片の透明性が維持できたが,PKP症例ではC8眼に移植片機能不全を認めた.結論:DSAEKはPKPと比較し,外傷性創離開の発症率は低く,重症度も低かった.CPurpose:ToinvestigatetraumaticwounddehiscenceafterDescemetstrippingautomatedendothelialkerato-plasty(DSAEK)andpenetratingCkeratoplasty(PKP)C.CMethods:ThisCstudyCinvolvedCeyesCthatChadCundergoneCDSAEKorPKPattheBaptistEyeInstitute,Kyoto,JapanfromAugust2007toMay2020.PatientswhodevelopedtraumaticCwoundCdehiscenceCafterCDSAEKCandCPKPCwereCevaluatedCforCtheCincidenceCrateCofCtraumaticCwoundCdehiscence,CtheCintervalCbetweenCtransplantationCandCtrauma,CtheCrangeCofCwoundCdehiscence,CdislocationCorCpro-lapseoflens,andthestateofthegraftaftertrauma.Results:Thisstudyinvolved895post-DSAEKeyesand733post-PKPeyes.Ofthe895post-DSAEKeyes,traumaticwounddehiscenceoccurredin2(0.2%)C.Ofthe733post-PKPCeyes,CtraumaticCwoundCdehiscenceCoccurredCin15(2.0%)C.CThereCwasCaCsigni.cantlyClowerCtraumaticCwoundCdehiscenceratepostDSAEKthanpostPKP(p<0.01)C.ThemeantimeintervalsbetweentransplantationandonsetofCtraumaCpostCDSAEKCandCPKPCwasC58.0±38.0CmonthsCandC66.0±39.0Cmonths,Crespectively.CIn3(20%)ofCtheCcasesthatunderwentPKP,traumaticwounddehiscenceoccurredwithin1monthpostremovalofthePKPsuture.TheareaofwounddehiscenceinallDSEAKcaseswaswithin180degrees,yetwasover180degreesin8(53.3%)CofthePKPcases.Dislocationorprolapseofthelensattraumaoccurredin8ofthePKPcasesandinnoneofthe〔別刷請求先〕奥拓明:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町C12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:HiroakiOku,BaptistEyeInstitute,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(87)C1655DSAEKcases.Followingtraumaticwounddehiscence,allDSAEKgraftsremainedclear,yetgraftfailureoccurre-din8ofthePKPeyes.Conclusions:ThereisalowerincidencerateoftraumaticwounddehiscenceandseveritypostDSAEKthanpostPKP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(12):1655.1660,C2022〕Keywords:角膜内皮移植術,全層角膜移植術,外傷,創離開.Descemetstrippingautomatedendothelialkerato-plasty,penetratingkeratoplasty,trauma,traumaticwounddehiscence.Cはじめに水疱性角膜症に対する外科的治療法としては,全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)がおもに行われていた.しかし,近年国内では角膜内皮移植術,とくにCDes-cemet膜.離角膜内皮移植術(Descemetstrippingautomat-edCendothelialkeratoplasty:DSAEK)が主流となってきている.バプテスト眼科クリニック(以下,当院)ではC2007年よりCDSAEKを施行しており,既報と同様にC2010年以降には,DSAEKがC1年あたりの角膜移植件数の半数以上を占めるようになっている1).PKPと比較し,DSAEKは術後乱視が少ないこと,視力の回復が早いこと,術後縫合糸管理が不要であることが利点であるとされる2).一方,角膜移植後の外傷による創離開は,視力低下の原因となる重篤な合併症である3).PKP後の外傷性創離開の報告は多数あり,1.3.6.3%程度とされている3.15).しかし,DSAEK術後外傷性創離開を検討した報告,PKPとCDSAEK間での発症率を比較した報告は少ない16).今回,角膜移植後外傷性創離開症例について後ろ向き観察研究にて検討したので報告する.CI対象および方法2007年C8月.2020年C3月に当院で角膜移植(DSAEKおよびPKP)を施行した症例を対象とした.複数回にわたり角膜移植を施行した症例に関しては全手術を分析対象とした.対象症例を術式によってCDescemet群とCPKP群に分け,手術時年齢,性別,術眼,経過観察期間を後ろ向きに検討して2群間で,手術時年齢,性別,術眼,経過観察期間の差をCc2検定,Wilcoxonの順位和検定にて比較した.また,術式,手術時年齢,性別,術眼に関して角膜移植後外傷の創離開にかかわる因子を多変量ロジスティック回帰分析にて検討した.外傷症例における,外傷前視力,移植から外傷までの期間,創離開の範囲,水晶体または眼内レンズ脱臼の有無,外傷後の移植片の状態に関して検討した.外傷時年齢,性別,術眼,創離開の範囲,水晶体の脱出と外傷後の移植片の状態との関係をCFisherの正確検定にて検討した.CII結果今回,DSAEK群895眼(男性410眼,女性485眼)およびPKP群733眼(男性374眼,女性359眼)であった(表1).角膜移植の原疾患は,DSAEK群では全例が水疱性角膜症であり,PKP群では角膜混濁(274眼,37.4%),移植片機能不全(175眼,23.9%),円錐角膜(171眼,23.3%),水疱性角膜症(110眼,15.0%)の順に多かった.DSAEK群で術後外傷性創離開を認めた症例はC2眼(0.2%),PKP群で術後外傷性創離開を認めた症例はC15眼(2.0%)であった.PKP群はCDSAEK群と比較し有意に術後外傷性創離開の発症率が高かった(p<0.01).また,手術時年齢がC75歳未満であることも術後創離開の発症率と有意に関連していた(p=0.04).一方,性別,術眼とは関連を認めなかった(表2).外傷性創離開症例C17眼の背景因子とその予後を表3に示す.また,DSAEK後の外傷性創離開症例のC1例(症例C17)を図1,PKP後の外傷性創離開症例のC1例(症例5)を図2に示す.外傷前視力がC0.1未満の症例はC2眼(11.8%)であり,いずれもCPKP症例であった.15眼(88.2%)では外傷前視力はC0.1以上であった.外傷性創離開の時期は移植後平均C65.1C±38.9カ月(術後C6カ月からC138カ月)であった.また,移植片縫合糸抜去後C1カ月以内に外傷性創離開が生じた症例は3眼(17.6%)であった.創離開の範囲はCDSAEK症例ではC2眼ともC180°未満,PKP症例ではC15眼中C8眼(53.3%)が180°以上であった.DSAEK後の外傷症例のうち,1眼(症例C17)はCDSAEK時に作製した移植片挿入用切開創の離開であった.もうC1眼(症例C16)はCDSAEK時の移植片挿入用切開創ではなく,角膜移植以前の水晶体.外摘出時に作製された創の離開であった.外傷時,水晶体または眼内レンズの脱出はCDSAEK症例では認めなかったが,PKP症例ではC15眼中C8眼(53.3%)で認めた.なお,いずれの症例も外傷前は有水晶体眼または眼内レンズ挿入眼であった.創離開に対する手術に関しては,PKP症例C1眼(6.7%,症例C11)は受傷後来院時に移植片を喪失しており,角膜移植術を施行した.他のC16眼では創離開部位の縫合を行った.創離開の縫合に伴う合併症は認めなかった.外傷性創離開後の経過ではCDSAEK症例はC2眼ともに移植片の透明性が維持できた.一方,PKP症例ではC7眼(46.7%)で透明性が維持できたが,7眼(46.7%)で移植片機能不全が生じた.外表1DSAEK群およびPKP群の比較DSAEK群PKP群p値症例数C895C733C-手術時平均年齢(C±標準偏位)C72.3±11.8歳C63.6±17.0歳<C0.001性別(男性/女性)410/485人374/359人C0.04術眼(右眼/左眼)503/392眼367/366眼C0.01平均経過観察期間(C±標準偏位)C39.8±35.6月C50.5±38.2月<C0.001表2角膜移植後の外傷性創離開の発症に関与する因子の検討症例数外傷発症眼数オッズ比95%信頼区間p値(n=1,628)(n=17)PKP(vsDSAEK)733人15眼C7.161.62.31.63<0.01手術時平均年齢<75歳(vs≧75歳)940人16眼C8.291.08.63.31C0.04男性(vs女性)784人11眼C1.580.58.4.32C0.38右眼(vs左眼)870人9眼C1.090.42.2.87C0.86CPKP:penetratingCkeratoplasty,DSAEK:DescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplas-ty.表3外傷性創離開症例17眼の背景因子と予後手術外傷時外傷前僚眼視覚創離開水晶体移植からの外傷後症例時年齢年齢性別術眼術式視力*視力*等級の範囲脱出抜糸時期期間(月)移植片の経過視力*受傷機転1C24C27男右眼CPKPC1.2C1.0C─C210+10日前C31透明C0.6打撲(バネ)C2C45C45女右眼CPKPC0.2C0.2C─C60C─14日前C6透明C0.8打撲(手)C348C50男左眼PKPC0.5C1C─90C─5日前C21透明C0.3不詳C4C54C64女左眼CPKPC0.03手動弁2級C180C─40カ月前C108透明C0.02打撲(ドア)C5C54C58女左眼CPKPC0.1C0.55級C180+抜糸未C37移植片機能不全光覚弁打撲(蛇口)C6C63C71男右眼CPKPC0.4C0.5C─C60C─67カ月前C99透明C0.2打撲(手)C7C63C66男左眼CPKPC0.4C0.35級C150C─16カ月前C34透明C0.4打撲(棒)C8C63C72男右眼CPKPC0.8C1.0C─C90C─82カ月前C108移植片機能不全C0.09不詳C9C65C68男右眼CPKPC0.06C0.5C─C120+15カ月前C37移植片機能不全光覚弁打撲(壁)C10C67C77女右眼CPKPC0.8光覚弁─C240+120カ月前C120移植片機能不全手動弁転倒C11C69C75男右眼CPKPC0.2C0.9C─C360+抜糸未C70移植片喪失手動弁**打撲(角材)C12C70C82男左眼CPKPC0.6C0.6C─C240+抜糸未C138移植片機能不全手動弁転倒C13C73C79女左眼CPKPC0.1C0.3C─C240+64カ月前C68移植片機能不全光覚弁転倒C14C74C78女右眼CPKPC1.2C1.0C─C360+21カ月前C44移植片機能不全光覚弁転倒C15C81C87男右眼CPKPC0.2C0.015級C30C─抜糸未C69透明C0.3打撲(ゴム)C16C60C62男左眼DSAEKC0.5C1.0C─C30C─抜糸未C20透明C0.5打撲(杭)C17C64C72男左眼CDSAEKC0.4C1.2C─C60C─84カ月前C96透明C0.6打撲(蛇口)*:矯正視力,**:角膜移植後視力.PKP:penetratingkeratoplasty,DSAEK:Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty.傷時,水晶体脱出の有無は有意に移植片の透明性の維持に関与していた(p<0.003).CIII考按PKP後の外傷性創離開の発症頻度はC1.3.6.3%とさまざまである3.15).本検討では,PKP後の外傷性創離開の発症頻度はC2.0%と既報と同等であった.一方,DSAEKは外傷性創離開のリスクが低いとの報告があるが16),PKPと比較した報告は筆者の知る限りではない.今回の検討ではDSAEK後の外傷性創離開の発症頻度はC0.2%であり,PKPと比較して有意に低い結果であった.白内障手術後の外傷性創離開の発症率は水晶体.外摘出術症例ではC0.4%,超音波乳化吸引術症例ではC0.02%程度と報告されている17).また,当院で経験したCDSAEKの外傷性創離開の症例のうち,1例はCDSAEK時に作製した創口ではなく,水晶体.外摘出時に作製した創口であった.そのため,DSAEKの術後創離開図1DSAEK術後創離開症例(症例17)a:外傷前の前眼部写真.Cb:外傷直後の前眼部写真.Cc:外傷後の前眼部写真(外傷後C1カ月).の発症頻度は水晶体.外摘出術よりは低い可能性が示された.PKP後の経過観察において,外傷性創離開は術後成績に影響する重篤な合併症であることはよく知られている.一方,DSAEKに関しては眼窩底骨折が生じるほどの強い外傷に対しても創離開が生じなかったとの症例報告がある18).今回の検討において,DSAEKはCPKPと比較し,創離開の範囲が小さく,水晶体,眼内レンズ脱出が生じにくい傾向があった.また,外傷性創離開後の移植片の経過は,DSAEK症例ではC2例ともに透明性が維持されたが,PKPではC733例中C15例(53.3%)で移植片喪失または移植片機能不全を認め図2PKP術後創離開症例(症例5)a:外傷前の前眼部写真.Cb:外傷直後の前眼部写真.Cc:外傷後の前眼部写真(外傷後C18カ月).た.眼内レンズ脱出を認める,または創離開の範囲がC180°を超える創離開症例は予後が悪いとの既報もあり6,13,19,20),今回の検討でも外傷時に水晶体の脱出を認める症例では移植片の予後が有意に悪いことが示された.360°の創を作製するPKPと比較し,最大切開創がC4.5CmmであるCDSAEKは創離開の発症頻度が少なく,かつ,生じても軽傷であることが多いことを示唆している.一方,角膜移植後の創離開に関して,術式以外に移植時年齢も発症に関与している可能性が示唆された.角膜移植後の創離開の症例の外傷時年齢は平均C16.6.76.2歳と報告によってさまざまである3,6).本検討では角膜移植時年齢がC75歳未満の症例に有意に外傷性創離開が多かった.一見,Activi-tiesofdailyliving(ADL)の低下を認める高齢者では転倒などが外傷のリスクとして考えられるが12,21),実際にはC75歳未満の外傷例が多く,作業による外傷リスクに注意が必要であると考えられた.また,外傷症例のうち,視覚障害に該当する症例はC17例中C4例であり,必ずしも視力が悪い症例に外傷性創離開が多いというわけではなかった.外傷性創離開の時期は術後早期がとくに多いとの報告がある5,8,22).今回の検討では外傷性創離開の発症時期は術後C6.138カ月と広範囲で,平均はC65カ月であった.PKP後早期はとくに角膜の強度が弱く,また数年経過しても本来の角膜強度まで回復しないとされており23,24),PKP後長期経過した角膜移植症例の外傷性創離開の報告もある25,26).今回の検討からも,外傷後長期にわたる経過観察が必要であると考えられた.一方,抜糸後C1カ月以内に生じた症例はC17.6%と,抜糸後早期の外傷性創離開の発症が多かった.縫合糸の抜糸により創の構造,創にかかる圧が変化し,ホスト・グラフト接合部にかかる圧が増えること,縫合糸の支えがなくなり創強度の低下を認めることより創離開が生じやすくなるとされる27).そのため移植片縫合糸抜糸後は,とくに外傷に注意する必要がある.外傷に関しては縫合糸の存在が外傷後創離開のリスクを下げる19)一方,筆者らの過去の報告にもあるように,感染症に関しては縫合糸の存在がリスクになる可能性がある28,29).そのため移植片縫合糸の抜糸の時期に関しては慎重に検討する必要があると考える.今回の検討により,DSAEKはCPKPと比較し,外傷性創離開の発症頻度が低く,創離開が生じても予後がよいと考えられた.文献1)EyeCBankCAssociationCofAmerica:2015CEyeCBankingCStatisticalReport.AccessedNovember12,20162)中川紘子,宮本佳菜絵:角膜内皮移植の成績.あたらしい眼科32:77-81,C20153)小野喬,森洋斉,子島良平ほか:角膜移植後に外傷により創口離開した症例の検討.あたらしい眼科C35:253-257,C20184)AgrawalV,WaghM,KrishnamacharyMetal:Traumat-icCwoundCdehiscenceCafterCpenetratingCkeratoplasty.CCor-neaC14:601-603,C19955)ElderMJ,StackRR:Globerupturefollowingpenetratingkeratoplasty:HowCoften,Cwhy,CandCwhatCcanCweCdoCtoCpreventit?CorneaC23:776-780,C20046)BowmanCRJC,CYorstenCD,CAitchisonCTCCetal:TraumaticCwoundCruptureCafterCpenetratingCkeratoplastyCinCAfrica.CBrJOphthalmolC83:530-534,C19997)HiratsukaCY,CSasakiCS,CNakataniCSCetal:TraumaticCwoundCdehiscenceCafterCpenetratingCkeratoplasty.CJpnJOphthalmolC51:146-147,C2007表4外傷後の移植片機能不全にかかわる因子の検討移植片機能不全p値なしあり*外傷時年齢7C5歳未満7C5歳以上性別男女術眼右眼左眼創離開の範囲1C80°未満1C80°以上水晶体脱出ありなし8例(7C2.8%)3例(2C7.3%)C1例(1C6.7%)5例(8C3.3%)7例(6C3.6%)4例(3C6.4%)C2例(3C3.3%)4例(6C6.7%)4例(4C4.4%)5例(5C5.6%)C5例(6C2.5%)3例(3C7.5%)7例(7C7.8%)2例(2C2.2%)C2例(2C5.0%)6例(7C5.0%)1例(1C2.5%)7例(8C7.5%)C8例(8C8.9%)1例(1C1.1%)0.050.330.640.060.003*移植片喪失も含める.8)JafarinasabCMR,CFeiziCS,CEsfandiariCHCetal:TraumaticCwoundCdehiscenceCfollowingCcornealCtransplantation.CJOphthalmicVisResC7:214-218,C20129)山田由希子,佐々木秀次,佐々木環ほか:東京医科歯科大学における角膜移植術後成績.あたらしい眼科C20:1699-1702,C200310)村松治,五十嵐羊羽,花田一臣ほか:旭川医科大学眼科における過去C5年間の角膜移植術の成績.あたらしい眼科C21:1229-1232,C200411)TsengCSH,CLinCSC,CChenFK:TraumaticCwoundCdehis-cenceafterpenetratingkeratoplasty:clinicalfeaturesandoutcomein21cases.CorneaC18:553-558,C99912)WilliamsCMA,CGawleyCSD,CJacksonCAJCetal:TraumaticCgraftCdehiscenceCafterCpenetratingCkeratoplasty.COphthal-mologyC115:276-278,C200813)KawashimaCM,CKawakitaCT,CShimmuraCSCetal:Charac-teristicsCofCtraumaticCglobeCruptureCafterCkeratoplasty.COphthalmologyC116:2071-2076,C200914)WangX,LiuT,ZhangSetal:Outcomesofwounddehis-cenceCafterCpenetratingCkeratoplastyCandClamellarCkerato-plasty.JOphthalmolC2018:1435389,C201815)OnoCT,CIshiyamaCS,CHayashideraCTCetal:Twelve-yearCfollow-upCofCpenetratingCkeratoplasty.CJpnCJCOphthalmolC61:131-136,C201716)PriceCMO,CGorovoyCM,CPriceCFWCJrCetal:DescemetC’sCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty:three-yearCgraftCandCendothelialCcellCsurvivalCcomparedCwithCpene-tratingkeratoplasty.OphthalmologyC120:246-251,C201317)BallCJL,CMcLeodBK:TraumaticCwoundCdehiscenceCfol-lowingcataractsurgery:athingofthepast?.Eye(Lond)15(Pt1):42-44,C200118)TachibanaCE,CKohCS,CMaedaCNCetal:BlowoutCfractureCafterCDescemet’sCstrippingCautomatedCendothelialCkerato-plasty.CaseRepOphthalmolC5:357-360,C201419)MeyerJJ,McGheeCN:Incidence,severityandoutcomesoftraumaticwounddehiscencefollowingpenetratinganddeepCanteriorClamellarCkeratoplasty.CBrCJCOphthalmolC100:1412-1415,C201620)LamCFC,CRahmanCMQ,CRamaeshK:TraumaticCwoundCdehiscenceCafterCpenetratingCkeratoplastyC─CaCcauseCforCconcern.Eye(Lond)C21:1146-1150,C200721)SteinbergCJ,CEddyCMT,CKatzCTCetal:TraumaticCwoundCdehiscenceCafterCpenetratingkeratoplasty:caseCseriesCandCliteratureCreview.CEurCJCOphthalmolC22:335-341,C201222)GoweidaCMB,CHelalyCHA,CGhaithAA:TraumaticCwounddehiscenceafterkeratoplasty:characteristics,riskfactors,andvisualoutcome.JOphthalmolC2015:631409,C201523)MauriceDM:Thebiologyofwoundhealinginthecorne-alstroma.Castroviejolecture.CorneaC6:162-168,C198724)GliedmanCML,CKarlsonKE:WoundChealingCandCwoundCstrengthCofCsuturedClimbalCwounds.CAmCJCOphthalmolC39:859-866,C195525)GunasekaranCS,CSharmaCN,CTitiyalJS:ManagementCofCtraumaticwounddehiscenceofafunctionalgraft34yearsafterCpenetratingCkeratoplasty.CBMJCCaseCRepC2014:Cbcr2014205903,C201426)PettinelliDJ,StarrCE,StarkWJ:LatetraumaticcornealwoundCdehiscenceCafterCpenetratingCkeratoplasty.CArchCOphthalmolC123:853-856,C200527)Abou-JaoudeCE,CBrooksCM,CKatzCDGCetal:SpontaneousCwounddehiscenceafterremovalofsinglecontinuouspen-etratingCkeratoplastyCsuture.COphthalmologyC109:1291-1296,C200228)井村泰輔,脇舛耕一,粥川佳菜絵ほか:全層角膜移植後感染症の発症背景と起炎菌,予後に関する検討.日眼会誌C124:484-493,C202029)奥拓明,脇舛耕一,稗田牧ほか:角膜内皮術後と全層角膜移植術後の角膜感染症に関する比較検討.日眼会誌C125:22-29,C2021***

基礎研究コラム :67.脂質と眼科疾患

2022年12月31日 土曜日

脂質と眼科疾患眼における脂質の働き脂質は,おもに生体膜の構成成分,エネルギー源,シグナル分子,バリア構築因子などの機能をもち,生体のさまざまな局面で恒常性の調節から疾患制御に至るまで,重要な役割を担うものと考えられています.眼科領域も例外ではなく,臨床的に,シグナル脂質の一群である脂質メディエーターのうち,アラキドン酸由来のプロスタグランジンCFC2aの誘導体は房水の排出を促進して眼圧を下げ,緑内障の治療に用いられています.また,リゾリン脂質メディエーターの一種であるスフィンゴシンC1-リン酸(S1P)は,S1PC1受容体を介して眼内血管新生および眼内血管透過性抑制作用を示し,本受容体に対するモノクローナル抗体が加齢黄斑変性の治療薬の候補として研究が行われています.リン脂質の生合成.リモデリングと網膜疾患網膜変性は網膜色素上皮細胞や視細胞における構造の異常,網膜色素上皮細胞による視細胞の貪食の不全,ビジュアルサイクルの異常などに起因すると考えられていますが,脂質代謝の異常もまた網膜変性をもたらします.生体膜の主要構成成分であるリン脂質は,6種の極性基に加え,グリセロール骨格の一位,二位の多様な脂肪酸の組み合わせにより,1千種類を超える異なる分子種から構成されます(図1).このリン脂質の構造多様性は上述の脂質の四大機能に大きな影響を及ぼします.網膜変性モデルであるCrd11マウスでは,主要リン脂質であるホスファジジルコリン(PC)の二位に飽小野喬東京大学大学院医学系研究科眼科学教室東京大学疾患生命工学センター健康環境医工学和脂肪酸の一種であるパルミチン酸を導入する酵素LPCAT1の遺伝子変異により,パルミチン酸含有CPCレベルが減少して光受容体の機能障害をもたらします(図2)1).また,多価不飽和脂肪酸の一種であるドコサヘキサエン酸(DHA)をリン脂質の二位に導入する酵素CLPAAT3の欠損により,DHA含有リン脂質が顕著に減少して網膜が変性することが報告されました(図2)2).今後の展望網膜において,膜リン脂質は絶えず生合成と分解を繰り返すことで,網膜の恒常性の維持にかかわっており,リン脂質の分子種構成のバランスの異常は網膜変性をもたらすことが想定されますが,その詳細な分子機序は未だ明らかではありません.筆者らは,網膜色素変性症の原因遺伝子群の中から膜リン脂質の新陳代謝にかかわる責任酵素の一つを同定し,網膜変性との関連で研究を進めています.近い将来,脂質を基軸に網膜変性の新しい分子機序が解明されることが期待されます.文献1)FriedmanCJS,CChangCB,CKrauthCDSCetal:LossCofClyso-phosphatidylcholineacyltransferase1leadstophotorecep-torCdegenerationCinCrd11Cmice.CProcCNatlCAcadCSciCUSAC107:15523-15528,C20102)ShindouCH,CKosoCH,CSasakiCJCetal:DocosahexaenoicCacidCpreservesCvisualCfunctionCbyCmaintainingCcorrectCdiscCmorphologyCinCretinalCphotoreceptorCcells.CJBiolCChemC292:12054-12064,C2017リゾリン脂質(リゾホスファチジルコリン)図1リン脂質の生合成とリモデリング生体におけるリン脂質はdenovoの脂質合成経路(Kennedy経路,緑枠)により合成され,ホスホリパーゼにより分解される.産生されたリゾリン脂質は,LPCAT1やLPAAT3などのリゾリン脂質アシル基転移酵素(LPLAT)によってアシル基が付与されてC1千種を超える多様なリン脂質が再構成される(Lands回路,青枠).(79)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY脂肪酸(ドコサヘキサエン酸:DHA)図2リン脂質を合成するアシル基転移酵素LPCAT1やCLPAAT3などのリゾリン脂質アシル基転移酵素によって,リゾリン脂質に脂肪酸が組み込まれ,特有のリン脂質が合成される.これらの酵素の機能異常は網膜変性をもたらす.あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C1647

硝子体手術のワンポイントアドバイス :235.傾斜乳頭症候群に生じた黄斑円孔に対する硝子体手術(中級編)

2022年12月31日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載235235傾斜乳頭症候群に生じMH辺縁の網膜の伸展性がやや低下していた.術後,全例でMHの閉鎖が得られたが,2眼で中心窩網膜厚が薄く,1眼で中心窩網膜の層状構造の修復が不良であった.た黄斑円孔に対する硝3例とも術後矯正視力はC0.3.0.5に留まった.子体手術(中級編)●3症例の臨床的特徴池田恒彦大阪回生病院眼科今回のC3症例は術後CMH閉鎖が得られたが,術後の中心窩網膜厚は症例C1,2で薄く,症例C3では術後C1年経過しても中心窩の層状構造は明瞭に回復しなかった.これは中心窩網膜にCIPSに起因する牽引力が影響を与C●はじめにえた可能性が考えられる.また,MH発症前にみられた傾斜乳頭症候群(tilteddiscsyndrome:TDS)は胎生SRDやCCNVが視力予後に影響した可能性も考えられ期の眼胚裂閉鎖不全に起因する視神経の先天異常である.今回のC3症例では残念ながらCMH発症前におけるる.TDSに伴う下方後部ぶどう腫(inferiorCposterior経時的変化の状態を正確に把握できなかったが,いずれstaphyloma:IPS)の辺縁が黄斑部をCsplitする症例では,にしてもCTDSのCIPS辺縁に生じるCMHは,MH発症前しばしば漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:からCSRD,RS,CNVなどの黄斑合併症をきたしているSRD),脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:可能性が考えられるので,術後CMHが閉鎖しても視力CNV),網膜分離(retinoschisis:RS),網膜色素上皮萎改善度が低い可能性を念頭においておく必要がある.縮などの黄斑合併症をきたすが,黄斑円孔(macular文献hole:MH)を併発したとする報告はまれである1.3).筆者らは過去にCTDSのCIPS辺縁にCMHをきたしたC3症例1)CohenCSY,CDuboisCL,CNghiem-Bu.etCSCetal:SpectralCdomainopticalcoherencetomographyanalysisofmacularを経験し報告したことがある4).CchangesCinCtiltedCdiskCsyndrome.CRetinaC33:1338-1345,C2013C●症例2)CocoCRM,CSanabriaCMR,CAlegriaJ:PathologyCassociatedCwithCopticalCcoherenceCtomographyCmacularCbendingCdue年齢はC73.84歳,性別は全例女性,屈折はC1例が軽CtoCeitherCdome-shapedCmaculaCorCinferiorCstaphylomaCin度近視,2眼が強度近視であった.いずれもCIPSの辺縁Cmyopicpatients.COphthalmologica228:7-12,C20123)BrueC,RossielloI,GuidottiJMetal:Spontaneousclosureあるいはその近傍にCMHが生じていた.1眼ではCMHCofCaCfullyCdevelopedCmacularCholeCinCaCseverelyCmyopic辺縁のCRS範囲がやや広く,1眼ではCCNVに対する治Ceye.CaseRepOphthalmolMedC2014:182892,C2014療歴があった.手術は人工的後部硝子体.離作製後に4)MizunoCH,CSuzukiCH,CMimuraCMCetal:ThreeCcasesCofMH周囲の内境界膜を.離し,ガスタンポナーデを施行CmacularCholeCthatCoccurredCinCinferiorCscleralCstaphylomaした.術中所見として,3例とも通常のCMHと比べてCassociatedwithtilteddiscsyndrome:acaseseries.CJMedCCaseRep16:36,C2022図1症例2(a:術前眼底写真,b:術前OCT,c:術後OCT,.:IPSの辺縁)術前に軽度の網膜分離を伴うMHを認めた.術後CMHは閉鎖したが,中心窩の網膜厚がやや菲薄化していた.(文献C4より引用)図2症例3(a:術前眼底写真,b:術前OCT,c:術後OCT,.:IPSの辺縁)術後CMHは閉鎖したが,層状構造の修復がやや不完全の状態で留まった.(文献C4より引用)(77)あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C16450910-1810/22/\100/頁/JCOPY

考える手術:12.急性網膜壊死に対する硝子体手術

2022年12月31日 土曜日

考える手術⑫監修松井良諭・奥村直毅急性網膜壊死に対する硝子体手術南高正JCHO大阪病院眼科急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)はウイルスの眼内感染により生じ,急速に進行する予後不良な疾患であり,続発する網膜.離の有無は視力予後を左右する重要な因子の一つである.その発症率は50~70%であると報告されており,高率に続発する網膜.離を予防するために,ARNと診断したのち速やかにシリコーンオイルタンポナーデ併用硝子体手術を行うことが有用であると考えられている(図1).受診時にARNを疑った場合には前房水を採取し,ポリメラーゼ連鎖反応(polymerasechainreaction:れば結果を待たずに薬物治療を開始することもある.その後,4~10日程度経過してから硝子体手術を行う.多くの場合はその間に治療の効果から白色病巣の進行の停止,炎症の消退傾向を認める.手術は,有水晶体眼であれば白内障手術を行い,その後,前部硝子体,中心部硝子体を切除する.後部硝子体.離(posteriorvitre-ousdetachment:PVD)が起こっていなければPVDを作製した後に,広角観察システムで可能な限りの周辺部の硝子体切除を行い,強膜圧迫を行いながら最周辺部の硝子体を切除する.また,続発性黄斑前膜の予防から内境界膜.離を施行する.液空気置換を行い,白色病巣がいずれ脱落し裂孔となることから,それを囲むように光凝固を行い,シリコーンオイルを注入して手術終了とする.ARNは強く慢性的な炎症が続くことから硝子体が増殖性変化を起こす可能性が高い.そのことから術中に硝子体の観察を怠らず,可能な限りの硝子体切除を行うことが肝要である.聞き手:網膜.離予防の早期手術は必要なのでしょうか.病巣が及んだものをzone1,そのラインから赤道部ま南:施設,術者によって賛否が分かれるところかと思いでに及んでいるものをzone2,赤道部より最周辺部のますが,当院では,網膜.離(黄斑.離)の予防,炎症ものをzone3としています.ただし,透見良好であり,性物質の除去,透見性向上などの目的から早期に予防手周辺にわずかな病巣を認める程度のzone3の場合は,術を行っています.また,ARNの評価については,サ手術をせず外来での光凝固のみで様子をみていく場合もイトメガロウイルス網膜炎の治療における評価方法,あります.Hollandの分類にならい,アーケード内,乳頭周囲まで(75)あたらしい眼科Vol.39,No.12,202216430910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:早期手術のタイミングはいつでしょうか.南:ARNを疑う所見を認めた際にPCR検査を行い,抗ウイルス薬による加療を開始するわけですが,当院では初診時にスケジュールを調整し,4~10日後に入院のうえで硝子体手術を計画します.抗ウイルス薬による加療を開始すると病巣の進展,悪化は抑制できますので,当日緊急手術を実施しなくても問題はないと考えています.聞き手:硝子体手術において,タンポナーデは実施しますか?タンポナーデ物質の選択はどうすればよいでしょうか.南:Zone3の場合にはタンポナーデは実施せずに手術終了としています.Zone1,2の場合には術後の眼底管理の意味からガスよりシリコーンオイルが望ましいと考えています.聞き手:シリコーンオイルの抜去のタイミングはいつ頃ですか.南:当院では白色病巣が脱落する,また光凝固の瘢痕化を認める約1カ月後から2カ月後を基本としています.長期のシリコーンオイル下で増殖性変化が生じた経験もあることから,比較的短期間で抜去を実施することが望ましいと考えます.ただし,アーケード内まで病巣が及んでいるzone1の場合や,zone2であっても病巣が広範囲に大きく癒合している場合は低眼圧となる場合が多く,シリコーンオイル抜去がむずかしい症例もあります.聞き手:白色病巣を中心に網膜周辺部において網膜.離がある場合,どのようにすればよいのでしょうか.南:病巣網膜と硝子体との癒着が強く,一般的な疾患の硝子体手術と比較して,硝子体のみ切除するのが困難な場合が多々あります.とくに網膜.離の領域では,硝子体のみ切除することがかなり困難です.可能な限り網膜を残すべきですが,病巣の網膜を多少切除しても硝子体術前術後2週間をきれいに切除することが重要と考えています.なお,網膜を温存できたとしてもウイルスが感染している白色の網膜はいずれ脱落します.聞き手:輪状締結術は併用したほうがよいでしょうか.南:周辺部硝子体切除を可能な限り実施すれば,前部硝子体の増殖性変化は抑止できることから,基本的に行っておりません.低眼圧に対して術後に輪状締結術を施行した症例もありますが,大きな変化は認めませんでした.また,輪状締結術併用症例でも,術後10年経過してから牽引性網膜.離を認めた症例も経験しています.しかし,増殖性変化へ効果や術後低眼圧の予防効果などを考え,症例に応じて対応を変化させることは施設,術者の判断に委ねられるところだと思います.聞き手:PVDの有無は予後を左右すると思われますか.南:私が経験したPVDが既存であった症例の多くは問題なく経過しましたが,PVDが生じておらず,術中にPVDを作成した症例の約半数がシリコーンオイル抜去時までに増殖膜による牽引性網膜.離を発症しました.PVDが生じていない症例は硝子体が残りやすく,そこにARNの炎症が加わることから,牽引性網膜.離を発症する確率は高いと思われます.それよりPVDの有無は予後を左右すると思われます.聞き手:視力予後についてはいかかでしょうか.南:早期手術を行うことによって多くの場合,黄斑.離を予防できますが,視神経障害,慢性的な黄斑浮腫,低眼圧黄斑症による視力低下を予防できるわけではありません.手術を問題なく施行し,シリコーンオイル抜去後の眼底がきれいであったとしても一定以上の視力を保つことが困難な疾患です.ありきたりな結論ですが,ARNは早期発見,早期治療が基本です.手術により視力を守ることが可能なこともありますが,手術は治療の一助にすぎません.術後3カ月術後1カ月(シリコーンオイル抜去後1カ月半)図1シリコーンオイルタンポナーデ併用硝子体手術の経過1644あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022(76)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性の長期治療継続のコツ

2022年12月31日 土曜日

●連載126監修=安川力髙橋寛二106加齢黄斑変性の長期治療継続のコツ渡辺五郎羔羊会弥生病院眼科滲出型加齢黄斑変性は慢性疾患であり,長期にわたる治療や経過観察が必要である.正確な診断と病型分類をもって治療に臨む必要がある.抗CVEGF薬治療の治療レジメンを個々の患者に合わせて調整し,場合によっては光線力学的療法の併用も検討する.的確な病状説明で患者の信頼を獲得することも重要である.はじめに滲出型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmacu-lardegeneration:nAMD)は高齢者の慢性疾患であり,その治療は長期にわたって継続していくこととなる.造影検査,抗CVEGF薬硝子体内注射,光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)など,検査・治療は侵襲的なものとなるうえに,経済的な負担も無視することはできない.良好な医師・患者関係の構築はもとより,治療に積極的に参加してもらうための病状説明,検査・治療への抵抗感を減らす努力も必要である.長期治療継続のためには,まずは短期視力の改善・維持がなくてはならない,そのためのポイントを以下にあげていく.正確な診断と症例の特徴を捉える病変サブタイプ,新しいCnAMD分類,pachychoroid関連疾患を加えた考え方(柳分類,図1)など.nAMDの分類は臨床的特徴から典型CAMD,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV),網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousCproliferation:RAP)の三つのサブタイプに分けて治療方針を立てていくことが一般的となっている.診断手順としては,日本人に多いCPCV,特徴的な所見のあるCRAPをまず診断し,典型CAMDは除外診断とするのがよい.近年,網膜由来の新生血管であるCRAPをCtype3として,typeC1MNV(macularCneovascular-ization),typeC2MNV,typeC3MNV,PCVと分類することが国際的に提唱されている(表1)1).また,わが国で多くみられるCpachychoroid(厚い脈絡膜)の概念が広まってきており,nAMDの分類は変化の途中といえる2)(図1).Type3MNVは,高齢・女性に多い,急速に進行しやすい,両眼性になりやすい,萎縮が進行しやすいなどの特徴があり,抗CVEGF薬に対する反応は良好なことが多いが,萎縮の進行や僚眼の発症などを常に注意しながら治療していく必要がある.僚眼の発症を見(73)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY表1滲出型加齢黄斑変性の分類新しい用語古い用語CType1MNVCOccultCNVCPCVCPCVCType2MNVCClassicCNVCMixedtype1andtype2MNVCMinimallyclassicCNVCType3MNVCRAPMNV:macularneovascularization,CNV:choroidalCneovascu-larization,PCV:polypoidalchoroidalvasculopathy,RAP:reti-nalangiomatousproliferation.(文献C1より改変引用)逃しやすいので,他の病型よりも短期間でモニタリングすることが望ましい.治療レジメン固定投与,必要時投与(proCrenata:PRN),TAE,その他がある.どの投与レジメンでも適切なタイミングで治療をすることにより視力の維持が可能と考えられる.固定投与は必要十分な治療が可能であるが,過剰投与となりやすく,患者の状態に合わせた個別化治療という観点では長期にわたるCnAMD治療では継続がむずかしくなってくる可能性が高い.PRNでも,悪化の際に迷わず即時治療ができれば視力維持可能という報告もあるが,医療側・患者側の環境・気持ちなどに左右されて過小治療になりやすく,長期になると視力維持がむずかしくなる傾向にある.TAEは現在多くの専門家に支持されているレジメンであり,長期に耐えうることが実証された治療法である.オリジナルの方法ではC2週間間隔の短縮・延長だが,ALTAIRstudyのようにC4週ごとの投与間隔の短縮・「維持」・延長の調整でもよいと考えられる3).過去の多くの報告では,おおむね最初のC2年間の治療をしっかりとすることで,3年目以降の治療回数は少なくすむ可能性がある.患者によるが,最初のC2年程度は気を緩あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C1641めず治療に望むことが長期視力維持のコツということになる4).光線力学的療法の考え方従来,わが国のCnAMDと欧米との違いとしてドルーゼンの少なさやCPCVの多さがあげられていたが,pachychoroidの概念の登場により,脈絡膜の厚みや循環動態との関連が示唆されている.日本人のCnAMDにPDTが有効である原因はCPCVが多いからとされていたが,pachychoroidの概念をあてはめると,脈絡膜が厚いような患者にはCPDTが有効な可能性がある.EVER-EST2studyにより,抗CVEGF薬併用CPDTがCPCVに効果的で,治療回数減少に寄与することがわかっている5).Pachychoroidの比率が多いわが国のCnAMDには,長期的にはCPDTを絡めた治療のほうが向いている可能性がある.良好な医師・患者関係の構築長期治療は良好な医師・患者関係の構築が大切である.眼底写真,OCT画像を毎回の診療で患者に見せ,なぜ治療が必要なのか,今後どうやって治療をしていくとよいのかを示し,患者自身に自分の病状を理解してもらう努力が必要である.本稿執筆時点で新たなCnAMD治療薬が発売された.治療の選択肢が増えていくことは喜ばしいことである.C1642あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022図1Pachychoroid関連疾患(文献C2より引用)筆者も常に正確な診断を心がけ,患者にとってどの治療法がよいのかを考え続け,二人三脚の医療を心がけていきたいと願っている.文献1)SpaideRF,Ja.eGJ,SarrafDetal:Consensusnomencla-tureforreportingneovascularage-relatedmaculardegen-erationdata:ConsensusConCNeovascularCAge-RelatedCMacularCDegenerationCNomenclatureCStudyCGroup.COph-thalmology127:616-636,C20202)YanagiY:Pachychoroiddisease:aCnewCperspectiveConCexudativeCmaculopathy.CJpnCJCOphthalmolC64:323-337,C20203)OkadaAA,TakahashiK,OhjiMetal:E.cacyandsafetyofCintravitrealCa.iberceptCtreat-and-extendCregimensCinCtheALTAIRStudy:96-weekoutcomesinthepolypoidalchoroidalCvasculopathyCsubgroup.CAdvCTherC39:2984-2998,C20224)YamashiroCK,COishiCA,CHataCMCetal:VisualCacuityCout-comesCofCanti-VEGFCtreatmentCforCneovascularCage-relat-edCmacularCdegenerationCinCclinicalCtrials.CJpnCJCOphthal-molC65:741-760,C20215)LimCTH,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetal:ComparisonCofCranibizumabCwithCorCwithoutCvertepor.nCphotodynamicCtherapyCforCpolypoidalCchoroidalvasculopathy:TheCEVERESTCIICRandomizedCClinicalCTrial.CJAMACOphthal-mol135:1206-1213,C2017(74)

緑内障:小児緑内障に対する緑内障インプラント手術

2022年12月31日 土曜日

●連載270監修=福地健郎中野匡270.小児緑内障に対する緑内障松田彰順天堂大学医学部眼科学講座インプラント手術小児緑内障治療の第一選択は多くの場合手術であり,トラベクロトミーなどの流出路再建術がまず試みられる.トラベクロトミーが奏効しない難治例では,濾過手術あるいは緑内障インプラント手術を施行することになるが,成人例とは異なるむずかしさがある.本稿では小児緑内障に対するインプラント手術の実際について述べる.●難治小児緑内障に対する術式流出路再建術が奏効しなかった難治小児緑内障に対する外科的なアプローチとしては,トラベクレクトミーなどの濾過手術,緑内障インプラント手術,毛様体破壊術が選択肢として考えられるが,どの術式にも問題点がある.小児緑内障に対する濾過手術は長期にわたる濾過胞感染のリスクを抱えることや,続発小児緑内障に多い無水晶体眼の緑内障に成績が悪いといった問題点が指摘されている1).一方で緑内障インプラントにはチューブの露出や眼の成長に伴う再手術などの問題点が,毛様体破壊術には網膜.離や眼球勞のリスクが指摘されてい図1Peters奇形に続発した小児緑内障に対するBaerveldt緑内障インプラント挿入術生後7カ月のPeters奇形の小児にBG101-250を前房内挿入したが,初回チューブの挿入時にの部位を角膜輪部と考えて,その1.5mm後方からチューブを挿入した.実際にはの部位が角膜輪部に相当していた(a).手術から5カ月後の僚眼手術時にチューブが輪部から露出していることが判明し(b),その後チューブの挿入位置を後方に移動した.チューブの後方移動の際は前房内に十分量のヒーロンVを注入し,前房を深く保って,後方から(角膜輪部から2mm程度後方の部位()から)前房内に27ゲージ→23ゲージの順に穿刺し(c),チューブを前房内に再挿入した(d).角膜径が拡大していることもあり,後方からの針の穿刺時には感覚的にかなりの違和感を感じながらの手技であった.その後チューブ露出は認めず,眼圧もコントロールされている.(71)あたらしい眼科Vol.39,No.12,202216390910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2先天白内障術後の続発緑内障に対するBaerveldt緑内障インプラント挿入術先天白内障に対して8カ月時に両眼の水晶体吸引術+前部硝子体切除を施行し,6歳時に緑内障と診断され,12歳時にトラベクロトミーを施行するも眼圧コントロールが得られなかった症例.耳上側にBaerveldt緑内障インプラントのプレートを挿入し,前房内にチューブ先端を留置した.術後5年経過した現在でも良好な眼圧コントロールを維持している.る1).小児緑内障に対する緑内障インプラント手術における手技上の注意は成人例と共通の部分も多く,まずは成人例で十分な経験を積んでから難治小児例の手術に向かうのが適当と考える.●小児緑内障に対するインプラント手術の実際筆者自身は小児緑内障のインプラント手術では原則としてBaerveldt緑内障インプラントBG103-250を使用している.長期の眼圧コントロールがAhmed緑内障バルブより優れていることと,多くの場合,小児眼ではBG101-350を挿入することが容積的に困難であることがその理由である.また,特殊な場合を除いてチューブは前房内に挿入することになる.角膜径が拡大した小児緑内障では,隅角の位置を正確に同定することがむずかしく,実際の隅角よりも角膜寄りからチューブを挿入しがちである.図1に実際の例を示す.小児緑内障の場合は強膜が菲薄化していることが多く,チューブ位置の修正のために穿刺部位を変更することは術後過剰濾過の原因になることがあるため,できる限り避けるべきで,やむを得ない場合にも穿刺部位は必ず縫合しておく必要がある.また,チューブ周囲からの房水の漏出も過剰濾過を誘発することがあるため,強膜が薄い患者では,まず25ゲージで穿刺し,タイトな刺入部位からのチューブ挿入を心がけている.成人例であれば過剰濾過の場合でも前房形成やチューブ内へのステント挿入などのこまめな対処が可能であるが,小児では,そういった処置であっても全身麻酔をかける必要があり,追加処置のハードルが高いことを常に念頭におく必要がある.多重手術眼にみられる上方結膜の瘢痕化症例,先天白内障手術後の無水晶体眼に続発する緑内障,濾過手術の施行がむずかしいPeters奇形などの小児緑内障に対しては,濾過手術と比較して,緑内障インプラント手術に相対的なメリットがあると考えられる(図2).●小児緑内障インプラント手術の注意点小児緑内障に対するBaerveldt緑内障インプラント挿入術における注意点をあげる.①結膜を丁寧に扱う.②プレートは角膜輪部から9mm後方に8-0ナイロン糸で確実に固定する.眼球・眼窩の大きさが小さく挿入が困難な場合はプレートの一部をハサミで切断してトリミングすることもある.③安全性を考えてチューブの根部2カ所で7-0バイクリル糸を用い確実に(watertightに)結紮する.④術後の過剰濾過を防ぐためにSher-wood’sslitは置かない.⑤前房内へのチューブ挿入は虹彩と並行よりはやや虹彩向きに挿入する.⑥強膜パッチを用いてチューブを被覆し,丁寧に結膜縫合をする.⑦手術終了時には分散型の粘弾性物質を前房に残し,指で眼圧を確認して手術を終了する.こういったことを筆者は心がけている.文献1)WernerM,GrajewskiAL:Furthersurgicaloptionsinchildren.In:Glaucoma,2nded(ShaarawyTMed),p1137-1149,Elsevier,20151640あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022(72)

屈折矯正手術:AIを用いたICLサイズの最適化

2022年12月31日 土曜日

●連載271監修=稗田牧神谷和孝271.AIを用いたICLサイズの最適化神谷和孝北里大学医療衛生学部視覚生理学後房型有水晶体眼内レンズの問題点として,レンズが大きすぎると隅角閉塞や眼圧上昇が,小さすぎると白内障やトーリックレンズの軸回転が生じるリスクがある.従来ノモグラムでは,サイズ選択ミスによる摘出・交換例が散見される.術前前眼部光干渉断層計データを機械学習させた人工知能(AI)でCvault量を予測したところ,すべての学習モデルにおいて従来より有意に予測誤差が軽減した.とくにランダムフォレストの予測性が高く,適切なサイズ選択に貢献できる可能性が示唆された.C●はじめに後房型有水晶体眼内レンズであるCimplantablecollam-erlens(ICL)は,挿入したレンズが大きすぎると隅角閉塞や眼圧上昇を生じるリスクがあり,小さすぎると外傷性白内障やトーリックレンズの軸回転を生じるリスクがある.したがって,適切なCICLサイズ選択は手術自体の安全性を考えるうえで重要な問題である.近年,機械学習をはじめとする人工知能(arti.cialintelligence:AI)による画像診断が注目されており,眼科医療においても広く応用されているが,機械学習についてはほとんど応用されていない.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)の普及も加速しており,さまざまなバイオメトリー(生体計測)データを非侵襲的かつ高精度に得ることができるようになった.前眼部OCTによるさまざまなバイオメトリーデータをCAIに機械学習させてCICLのCvault量(レンズと水晶体の距離)を予測し,最適CICLサイズを決定することが可能となれば,ICL手術の術後合併症を大幅に軽減し,手術の安全性が向上するとともに,患者満足度も改善できる可能性が高い.しかし,これまで前眼部COCTを用いた予測式はいずれも線形重回帰によるアプローチであり,機械学習モデルを組み合わせたアプローチについては検討されていない.本稿では,韓国との国際多施設共同研究により,前眼部COCTによる多くの生体計測データをCAIに機械学習させることによってCvault量予測とCICLサイズの最適化を試みたので紹介する1,2).C●対象と方法通常のCICL手術を施行し,術後C1カ月の経過観察が可能であったC1,745例C1,745眼を対象として,前眼部OCT(CASIA2,トーメーコーポレーション)を用いて(69)術前前眼部形状データを計測し,術後C1カ月の時点において,同装置を用いてCvault量を定量した.屈折異常以外に眼疾患を有する症例や術中・術後合併症を生じた症例は解析から除外した.術前因子として,年齢,性別,球面度数,乱視度数,等価球面度数,矯正視力,ICLパワー,ICLサイズ,角膜横径(whitetowhite:WTW),前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD),隅角間距離(angleCtoangle:ATA),水晶体膨隆度(CLR,ACW,LV),中心角膜厚,隅角開大度(AOD500,TISA500),瞳孔径を用いた.術後因子として,各レンズサイズ別の術後Cvault量を実測し,いくつかの機械学習モデルを用いて術後Cvault量予測を行い,予測Cvault量がC500Cμmにもっとも近いものを最適サイズとして選択した.全体をC5グループに分け,4グループのデータを機械学習に用いて,残りC1グループで術後Cvault量を予測し,5分割交差検証によって予測式の精度を検証した.機械学習モデルとして①サポートベクター回帰(supportCvectorregressor:SVR),②ランダムフォレスト回帰(randomforestregressor:RFR),③勾配ブースティング回帰(gradientCboostregressor:GBR),④線形回帰(linearregressor:LR)を用いて,もっとも予測性の高い手法を選択した.さらに,従来のCWTWとACDを用いたメーカー推奨ノモグラムとも比較した.C●結果術前患者背景因子について表1に示す.1,745眼中C12眼(0.7%)にCICL交換(9眼:lowvault,1眼:highvault,2眼:頻回の軸回転によるノントーリックCICLへの変更),27眼(1.5%)にトーリックCICLの軸整復を施行した.さまざまな機械学習によるCICLvault量予測性の結果を図1,2に示す.従来ノモグラムと比較して,すべての機械学習モデルにおいて有意に術後誤差が軽減し,とくにCRFRの予測性が高く,ついでCGBR,LR,あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C16370910-1810/22/\100/頁/JCOPY1250表1術前患者背景因子1250SVRGBR10001000眼数C1,745C750750500500年齢(歳)C26.2±6.8(95%CCI:12.9~39.4)356.3250250達成vault量-予測vault量達成vault量-予測vault量達成vault量-予測vault量達成vault量-予測vault量男:女(人)656:1089等価球面度数(diopter)-8.67±2.52(95%CI:-13.61~-3.72)0-250-327.20-250-500025050075010001250025050075010001250-500-1.78±1.16(95%CI:-4.04~0.49)達成vault量と予測vault量の和の平均達成vault量と予測vault量の和の平均乱視度数(diopter)RFR12501250LR矯正視力(logMAR)-0.02±0.09(95%CI:-0.19~0.16)WTW(角膜横径)(mm)C11.74±0.37(C95%CCI:C11.03~C12.46)ACD(前房深度)(mm)C3.34±0.24(C95%CCI:C2.87~C3.82)ATA(隅角間距離)(mm)C11.79±0.36(C95%CCI:C11.09~C12.49)100075050025001000750500250264.20-250-262.4-250CLR(mm)-46.18±181.31(C95%CCI:-401.55~C309.18)ACW(mm)C11.89±0.43(C95%CCI:C11.06~C12.72)LV(mm)-0.20±0.22(95%CI:-0.63~C0.23)中心角膜厚(Cμm)C528.4±34.1(C95%CCI:C461.7~C595.2)AOD500(mm)C0.74±0.27(C95%CCI:C0.21~C1.27)TISA500(degree)C57.04±13.76(C95%CCI:C30.07~C84.02)CLR:crystallinelensrise,ACW:anteriorchamberwidth,LV:lensvault,AOD:angleofdistance,TISA:trabecularirisspacearea,CI:con.dentinterval(信頼区間)C100■≦50μm■≦100μm■≦150μm■≦200μm90-500025050075010001250-500025050075010001250達成vault量と予測vault量の和の平均達成vault量と予測vault量の和の平均図1機械学習を用いたICL手術の予測vault量と達成vault量のBland.Altman解析点線範囲内がC95%信頼区間であり,とくにCRFRの予測性が高く,ついでGBR,LR,SVRの順であった.SVR:サポートベクター回帰,GBR:勾配ブースティング回帰,RFR:ランダムフォレスト回帰,LR:線形回帰.C32.52特微量の重要度8070601.51眼数(%)50400.530200ICLICLLVACDCLRATAACWAgeMSECCTWTWSphPupilsizepowersize10術前因子0SVRGBRRFRLRNomogram図3ランダムフォレスト回帰による特徴量の重要度ICLサイズがもっとも高く,ついでCICLパワー,LV,図2機械学習を用いたICL手術のvault量予測性ACD,CLR,ATAの順であった.従来サイズノモグラムと比較して,すべての機械学習モデルにおいて有意に予測性が向上したが,とくにCRFRの予測性が高かった.SVR:サポートベクター回帰,GBR:勾配ブースティング回帰,RFR:ランダムフォレスト回帰,LR:線形回帰,Nomogram:従来ノモグラム.SVRの順であった.RFRによるCvault量予測の特徴量の重要度を図3に示す.ICLサイズがもっとも高く,ついでCICLパワー,lensvault,ACD,CLR,ATAの順であった.以上の結果より,前眼部COCTとCAIを組み合わせることでCvault量予測性が著明に向上し,ICLサイズ選択ミスにより生じる閉塞隅角,眼圧上昇,外傷性白内障の発症リスクを軽減し,さらなる安全性の向上につながるC1638あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022可能性が示唆された.さらに,複数のモデルを融合させたアンサンブル学習によって予測性がより向上する可能性があり3),今後さらなる研究の発展が期待される.文献1)KamiyaK,RyuIH,YooTKetal:Predictionofphakicintraocularlensvaultusingmachinelearningofanteriorsegmentopticalcoherencetomographymetrics.AmJOphthalmol226:90-99,20212)神谷和孝:AIを用いた予測式.有水晶体眼内レンズ手術(神谷和孝,清水公也編),医学書院,20223)KangEM,RyuIH,LeeGetal:Developmentofaweb-basedensemblemachinelearningapplicationtoselecttheoptimalsizeofposteriorchamberphakicintraocularlens.TranslVisSciTechnol10:5,2021(70)

眼内レンズ:美容超音波HIFUによる急性白内障の1例

2022年12月31日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋生駒透433.美容超音波HIFUによる急性白内障の1例金沢医科大学眼科学講座肌のリフトアップを目的とした高密度焦点式超音波(HIFU)が美容治療として世間で注目を浴びている.今回そのCHIFUを眼瞼に施行し,急性の白内障を生じたC1例を報告する.●はじめに高密度焦点式超音波(highCintensityCfocusedCultra-sound:HIFU)は,超音波を利用して深部組織を破壊し,治療効果を得るものである.以前から前立腺癌の治療に用いられ1),最近では緑内障の代替治療法としても注目されている2).また,HIFUは美容治療としても使用されており,強集束超音波(intenseCfocusedCultra-sound:IFUS)により表在性筋膜を含めた真皮および皮下を選択的に熱凝固することによってコラーゲン線維を増生させ,皮膚の弛緩および皺を改善する3).近年,IFUSは眼周囲への照射によって眼瞼の弛緩を治す「切らない眼瞼治療」として用いられているが,その場合にはアイシールドによる眼球保護が必要とされている.今回,上眼瞼にCIFUSを施行したあとに,急速に進行した白内障のC1例を報告する.C●症例患者はC47歳,女性.上眼瞼皮膚の弛みの治療目的で,エステサロンにて両上眼瞼にCIFUSを施行されたあとに左眼のかすみを訴え,当院外来を受診した.保護用のアイシールドを使用せずCIFUSを両眼瞼に施行された(照射時間・強度などは不明).眼科既往歴は近視以外になく,IFUS施行前の視力は良好であり,外傷歴や全身疾患の既往歴,ステロイドを含めた内服歴はなかった.視力は右眼C0.08(1.0×-3.50D(cyl-0.50DCAx20°),左眼C0.02(矯正不能)であった.結膜・角膜・虹彩,対光反射に異常はなく眼圧も正常だった.左眼には耳側上方に向かって並んだC7個の滴状・円錐状の混濁とC3個の小円形後.下混濁が認められた(図1a).また,後.全面に広がるロゼット状の後.下混濁も生じていた(図1b).前眼部光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)でも水晶体内の滴状・円錐状混濁と後.下(67)混濁(図2)を認めたが後.破損はなかった.眼底写真は後.下混濁が強く撮影不能であったが,黄斑部COCTでは異常は認められなかった.右眼の水晶体には混濁は認められなかった.初診からC1カ月後の診察では左眼の水晶体内の滴状・円錐状混濁に変化はなかったが,後.下のロゼット状混濁は若干の改善を認めた(図3a).しかし,視力は初診時から改善がなかったため,左眼の水晶体再建術を施行した.術前の前眼部COCTでは明らかな後.破損を認めなかったが,円錐状混濁の底部は後.に接着し,強い混濁を生じていたため,ハイドロダイセクションは施行しなかった.また,核の硬化がほとんどなかったため,水晶体はフェイコを施行せずCI/Aのみで吸引した(図3b).後.破損などの合併症もなく手術は終了し,術後C7日目には左眼視力はC0.2(1.5×-2.00D)に改善した.C●考察とまとめアイガードを使用せずに行った両眼瞼へのCIFUSによる急性発症の白内障のC1例を経験した.今回CIFUSは患者の左眼眼瞼を通して水晶体に到達し,水晶体蛋白質の熱凝固を引き起こし,その結果多数の滴状・円錐状水晶体混濁とロゼット状後.下混濁を生じたと考えられる.同じくアイシールドを装着せずに行ったにもかかわらず右眼に混濁が生じなかったのは,超音波のプローブの照射角度や時間,水晶体との距離に違いがあったためと考えられる.今回観察されたロゼット状後.下混濁は,一般的には鈍的または貫通性の眼球外傷にみられる所見であり,電気外傷やCYAGレーザーによる外傷でもまれに観察される4).水晶体皮質の浮腫や水晶体.の損傷が可逆的な病理変化をきたしたものとされており,今回の症例も経過のなかで後.下混濁の若干の改善を認めた.IFUSの眼瞼周囲や顎下のたるみに対する有効性は以あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C16350910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1初診時の顕微鏡検査所見に示す水平に並んだC7個の滴状・円錐状混濁とに示す後.から前方に伸びた小円形混濁が認められた(Ca).徹照像ではロゼット状後.下混濁が認められた(Cb).(文献C6から引用)図3初診から1カ月後の徹照像ならびに術中所見後.の混濁はやや軽減したが,滴状・円錐状混濁に変化は認められない(Ca).水晶体核硬度は高くなく,I/Aで吸引可能であった.滴状・円錐状混濁部分は硬く,チョッパーを用い破砕して吸引した(Cb).(文献C6より引用)前から報告されていたが,近年急速に普及するようになった.そのなかで今回の症例と同じように白内障を生じたなど,眼損傷のケースが次々と報告されており,そのどれもが眼瞼周囲にCIFUSを施行する際にアイシールドを用いていなかった5).現在CHIFUはエステサロンにおいてセルフサービスで利用することができ,家庭用美容機器としても販売されている.眼瞼周囲へのCIFUS施行によって引き起こさ図2初診時の前眼部OCT所見水晶体皮質から核部を貫き並ぶ滴状・円錐状混濁が認められる(a).ロゼット状後.下混濁は厚みがあるが,明らかな後.破損は認められなかった(Cb).(文献C6より引用)れる眼球損傷の危険性と,IFUS施行時のアイシールド装着の徹底を広く周知していく必要がある.文献1)ChaussyCCG,CThuro.S:High-intensityCfocusedCultra-soundCforCtheCtreatmentCofCprostatecancer:ACreview.CJEndourolC31(S1):S30-S37,C20172)PosarelliCC,CCovelloCG,CBendinelliCACetal:High-intensityCfocusedCultrasoundprocedure:TheCriseCofCaCnewCnonin-vasiveglaucomaprocedureanditspossiblefutureapplica-tions.SurvOphthalmolC64:826-834,C20193)SuhCDH,CSoCBJ,CLeeCSJCetal:IntenseCfocusedCultrasoundCforCfacialtightening:histologicCchangesCinC11Cpatients.CJCosmetLaserTher17:200-203,C20154)WollensakCG,CEberweinCP,CFunkJ:PerforationCrosetteCofthelensafterNd:YAGlaseriridotomy.AmJOphthalmolC123:555-557,C19975)LevingerN,BarequetI,LevingerEetal:Acutecataractdevelopmentina43-year-oldwomanafteranultrasoundeyelid-tighteningCprocedure.CAmCJCOphthalmolCCaseCRepC24:101226,C20216)IkomaCT,CKuboCE,CSasakiCHCetal:AcuteCcataractCbyCaChigh-intensityCfocusedCultrasoundprocedure:aCcaseCreport.BMCOphthalmolC22:164,C2022