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加齢黄斑変性の治療-(1)光線力学的療法

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS善した.欧米における代表的なAMDの多施設前向き研究はTreatmentofAge-RelatedMacularDegenerationPhotodynamicTherapy(TAP)Studyであるが,TAPStudyと比較すると,classicCNVが経過中に悪化した割合は,TAPStudyで43%であったのに対しJATStudyでは19%と少なく,さらに,occultCNVが悪化した割合はTAPStudyで66%であったのに対しJATStudyでは14%と少なかった.視力改善率もTAPStudyに比較しJATStudyでは良好であった.2008年にはJATStudyの追跡調査として治療後2年の結果が報告された2).JATStudyで1年の経過を完全に追えたのは61例で,そのうち51例が追跡調査に参加し,2年間の観察を完全に行いえたのは46例であった.その結果,視力はベースラインの視力である50.8文字から治療後2年で54.0文字に改善し,全体の70%の症例で視力は不変あるいは改善した.II日本版眼科PDTガイドライン3)1.PDTガイドラインの重要性JATStudyでは,検討症例数は64例と限られた例数であり,主としてpredominantlyclassicCNVを対象として検討が行われた.一方,JATStudyとTAPStudyの結果を比較するとPDTの効果は日本と欧米で異なることが示され,欧米の報告がすべて日本人に適応されるわけではないことがわかった.そこで,日本人におけるpredominantlyclassic以外のタイプの新生血管に対すはじめに日本における滲出型加齢黄斑変性(滲出型AMD)に対する光線力学的療法(PDT)の最初の評価がJATStudy(JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrialStudy)1)によって行われ,2004年に本治療が認可されてから約4年が経過した.この間,本治療を行う施設は増加し,平成20年において,230の施設が約32,500人の症例に対して行っている.ベルテポルフィン(ビスダインR)を用いるPDTは,病態によってPDT単独かつ1回の照射で劇的な効果を示すが,なかには複数回の施行にかかわらず脈絡膜新生血管が加速度的に増大していく症例もある.最近ではPDTと種々の薬物を組み合わせた併用療法も行われ,さらにPDTの可能性が期待されつつある.本稿ではPDTの現状と可能性について述べる.IJapaneseAgeRelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyAMDを対象とする臨床試験で,わが国における代表的な多施設前向き研究である.本研究はPDTの承認を得る目的で行われ,5施設からの64症例が対象とされた.観察された症例は50歳以上,視力20/4020/200,中心窩下の脈絡膜新生血管(CNV)でclassicCNVを有し,最大直径が5,400μm以下の症例である.PDT施行後1年の経過観察の結果,平均視力は治療前に50.8文字であったのが治療1年後には53.8文字と改(35)1223DaiiroTsuchiyaTeioamamoto学学学学9909585222学学学学特集●加齢黄斑変性あたらしい眼科25(9):12231229,2008加齢黄斑変性の治療(1)光線力学的療法TreatmentofAge-RelatedMacularDegeneration─(1)PhotodynamicTherapy土谷大仁朗*山本禎子*———————————————————————-Page21224あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(36)た.これらの結果から,本ガイドラインでは,PDTは病変の大きさにかかわらず適応になるとされている.しかし,大きな病変では網膜下あるいは網膜色素上皮下に線維性結合組織や出血などが存在することが多く,このためPDT後に線維性結合組織の収縮やこれに伴う網膜色素上皮裂孔などが生じる可能性が高い.したがって,病変が大きい症例では治療後の視力低下の可能性を十分に説明したうえでPDTを行うことが望ましいとされている.d.ベースラインの視力治療前の視力が0.5以下の症例では,治療後12カ月の時点で視力は改善あるいは維持されていたが,ベースラインの視力が0.5を超える症例では平均視力が有意に悪化した.PDTによって生じる網膜浮腫や出血が視力低下のおもな原因と考えられるが,治療前の視力が低ければ合併症が生じても視力低下の影響は少ない.これに対して視力良好例では合併症により著しく視力が低下する可能性が高いので,PDTの適応は十分慎重に考慮することが必要であるとされている.e.安全性(表1)PDTの合併症は,JATStudyでは,視力低下22%,硝子体出血は0%であったが,眼科PDT研究会の報告3)では,視力低下4.9%,網膜下出血4.5%,硝子体出血るPDTの効果および適応の是非を含めたより詳細なPDTの検討が望まれた.そこで,眼科PDT研究会が主導となり国内の13施設における症例(469例471眼)を対象として,PDTの効果についてさらに詳細な検討が行われた.加えて,本研究による検討結果をもとに日本におけるPDTのガイドラインが策定された.現在,本ガイドラインは臨床現場におけるPDTの指導手引となっている.2.検討結果a.CNVの病型本研究ではpredominantlyclassicCNV以外の病型,すなわちminimallyclassicCNV,occultwithnoclas-sicCNVも含めた3病型について検討が行われた.その結果,これらのすべての病型において12カ月間を通して視力は維持された.一方,TAPStudyでは,PDTはpredominantlyclassicCNVでおいてのみ視力低下が有意に抑制されたが,minimallyclassicCNVやoccultwithnoclassicCNVではその効果が認められなかった.日本と欧米でPDTの効果が異なる理由は,日本ではminimallyclassicやoccultwithnoclassicと分類されている症例のなかにPDTが有効とされるポリープ状脈絡膜血管症(PCV)が欧米に比較して多く含まれている可能性が考えられている.本研究でもPCVを伴う症例ではPCVを伴わない症例に比較して有意に視力が改善したことから,PCVを有する症例ではPDTが強く推奨されている.これらをまとめると,日本人ではすべての病型の新生血管にPDTが適応となり,特に,PCV病変を有する症例ではその効果が大きく期待されると考えられる.b.年齢高齢者ではPDTを行っても視力は維持されるのみにとどまったが,60歳を下回る若年者ではPDTにより視力の改善がみられた.c.病変の大きさGLD(病変部最大直径)が1,800μm以下の症例では治療後12カ月で有意に視力が改善した.しかし,GLDが1,800μmより大きいもの,なかでもGLDが5,400μmを超える症例でもPDTによる視力維持効果が認められ表1PDTで観察された副作用(1)眼局所(471眼)副作用発生頻度視力低下23(4.9%)網膜下出血21(4.5%)網膜出血7(1.5%)硝子体出血6(1.3%)網膜離3(0.6%)網膜色素上皮離1(0.2%)その他5(1.1%)合計45(9.6%)(2)全身(469例)背部痛9(1.9%)頭痛4(0.9%)その他13(2.8%)合計23(4.9%)(文献3より改変)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081225(37)は23%3)38%5)とされている.さらに,PCVはPDTによる治療効果が良好とされており,PDT後に視力改善が得られたものが39%6),または,ベースラインの視力の維持および改善の割合が79%7)と報告され,短期的にはその結果はきわめて良好である.しかし,最近,PCVに対するPDTの長期経過が報告され,PDTによって一度は滲出性変化が消失してもその後にPCVの再発や出血が少なからずみられることがわかってきた.PDT治療後1年以上経過を観察した場合,ポリープ状病変や滲出性変化の再発は3367%68)とされている.また,PDTを行っても異常血管網の大きさは縮小しないことが報告されており,ポリープ状病変の再発は異常血管網の周辺側に生じることが多いとされている7).しかしながら,視力予後は,PCVの再発のためにPDTを反復して行っても,PDT治療後24カ月で77%の症例が1.3%にみられている.これは,JATStudyにおける観察対象がすべてclassicCNVを有する症例であるのに対し,眼科PDT研究会での観察対象ではoccultwithnoclassicCNVを37.8%も有しているので,出血しやすいPCV症例が多く含まれている可能性が考えられる.いずれにしても,PDTは硝子体出血をひき起こすような高度な網膜下出血も生じる可能性があるので,治療前の十分な合併症の説明は重要である.全身では,眼科PDT研究会より背部痛や頭痛などの副作用が4.9%にみられたことが報告されている.IIIPDTの問題点と最近の話題a.PCVとPDTPCVは欧米人に比較してアジア人に多くみられることが指摘されており4),わが国の報告でもPCVの割合図1aPDT治療前の眼底所見上:色素上皮離の多発,網膜出血などが混在し,病変の範囲は大きい.下左:FA.下右:IA.PDTはポリープ状病巣に対して行われた.図1bPDTの治療後上:色素上皮離や網膜下出血は消失した.下左:FA.下右:IA:ポリープ状病巣は消失した.———————————————————————-Page41226あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(38)の大きい症例にインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(IA)を行うと,異常血管網やポリープ状血管などのPCVの構成成分をすべて含んでもFAによる病変の大きさよりはるかに小さい場合がある.このような症例に対しては,IA上でPCVの異常血管網やポリープ状血管などの病変を同定し,この範囲のみに照射を行うIA-guidedPDTが報告された9,10).PCV例では,1型や2型のCNVを合併しなければIA-guidedPDTの適応となる症例が多いが,注意すべき点は,網膜あるいは網膜色素上皮下に出血がある場合にはPCV病巣の一部が出血によって被い隠され,照射が完全にできない場合がある.c.PDT後の出血PDT後の急激な視力低下の原因には種々の病因があるが,最も頻度が多いものがPDT後の網膜下出血(図は視力が不変もしくは改善したことが報告されている7).以上より,PCVは再発しても長期的には全経過を通してPDTが有効であり,今後もPCVの治療の第一選択がPDTであることは変わらないであろう.b.病変の範囲と照射野広範囲の網膜下出血や大きな色素上皮離を生じやすいPCVなどでは,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)上で病変が広範囲に及んでおり,FA上の病変の大きさからPDTの大きさを決定しようとすると(FA-guidedPDT)非常に広い範囲のPDTの照射が必要になることがある(図1).大きい照射野を要する症例ではPDTの効果が得られにくい1)ばかりか,広範囲のPDT照射は,脈絡膜血管の閉塞や血管内皮増殖因子(VEGF)などを活性化する可能性がある.そこで,FA上で病変図2aPCV症例のPDT治療前左:眼底写真.中心窩下に橙赤色隆起状病変,出血性色素上皮離,軽度の漿液性離と網膜下出血を認める.中:FA.ニボーを形成した出血性色素上皮離.右:IA.ポリープ状病巣.図2bPDT治療後左:眼底写真.網膜下出血の拡大を認める.中:FA.右:IA.ポリープ状病巣の蛍光は減弱している.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081227(39)PDTに種々の薬物を併用することにより,PDTの施行回数を減らす試みがされている.Spaideら14)は,PDTにトリアムシノロンの硝子体内投与を併用し,PDT単独よりも良好な結果が得られることを報告した.その後,トリアムシノロンの硝子体内投与のほかにTenon下投与併用PDTが報告された15).現在わが国では,外来で簡便に行えることからトリアムシノロンのTenon下投与を併用している施設が多い.脈絡膜新生血管に対する抗VEGF薬の有効性についてはこれまでも多くの報告があった16)が,現在,PDTと抗VEGF薬の併用療法17,18)や抗VEGF薬,トリアムシノロン,PDTの3者併用療法も試みられている(図3)19).しかしながら,これらの併用薬がPDTの効果を過剰に作用させ,健常な脈絡膜組織を障害してしまう可能性も指摘されており20),併用療法については今後の注意深い検討が必要であると思われる.2)である.特にPCVで多いとされており,日本は欧米と比較してPCVの比率が多いので網膜下出血の頻度も高いと予想される.眼科PDT研究会の報告では,網膜下出血は4.5%,硝子体出血は1.3%とされている3).また,PCV症例におけるPDT後の網膜下出血の頻度は5%11)30%12)とされ,網膜下出血の症例のうち21.4%は硝子体出血が生じたことが報告されている12).出血の素因としては,大きい病変サイズ12)や拍動がみられるPCV13)などが指摘されているが,抗凝固剤の内服の有無は関連がないとされている1).IVPDTの発展:今後の展望a.薬物併用PDT病変サイズの小さいPCV症例などではPDT単独でも十分な効果が期待できるが,網膜血管腫状増殖(RAP)をはじめとする難治症例ではPDT単独での治療に限界がある.最近ではこのような難治症例に対しては,図3トリアムシノロン,抗VEGF薬,PDTの3者併用療法上段:すでにPDT単独療法を1回,トリアムシノロンとPDTの併用療法を1回行われているclassicCNV症例.下段:トリアムシノロン,抗VEGF薬,PDTの3者併用療法を行いCNVは退縮したが,IA所見で脈絡膜毛細管板の障害による低蛍光が認められる.———————————————————————-Page61228あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(40)適の効果を得るためには,PDTの照射エネルギーを症例や治療法に合わせて調節することが理想的であるが,実際には各症例で病態も治療の組み合わせも千差万別なので,テーラーメードのPDT治療は考えるほど簡単なものではないように思われる.今後のさらなる検討が期待される.文献1)JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup:Japaneseage-relatedmaculardegenerationtrial:1-yearresultsofphotodynamictherapywithverteporninJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol136:1049-1061,20032)JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup,OhjiM:PhotodynamictherapywithverteporninJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration(AMD):ResultsoftheJapaneseAMDTrial(JAT)extension.JpnJOphthalmol52:99-107.Epub2008Apr30,20083)TanoY;OphthalmicPDTStudyGroup:GuidelinesforPDTinJapan.Ophthalmology115:585-585.e6,20084)WenF,ChenC,WuDetal:Polypoidalchoroidalvascul-opathyinelderlyChinesepatients.GraefesArchClinExpOphthalmol242:625-629,20045)ShoK,TakahashiK,YamadaHetal:Polypoidalchoroi-dalvasculopathy:incidence,demographicfeatures,andclinicalcharacteristics.ArchOphthalmol121:1392-1396,20036)WakabayashiT,GomiF,SawaMetal:Markedvascularchangesofpolypoidalchoroidalvasculopathyafterphoto-dynamictherapy.BrJOphthalmol92:936-940,20087)AkazaE,MoriR,YuzawaM:Long-termresultsofpho-todynamictherapyofpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina28:717-722,20088)SilvaRM,FigueiraJ,CachuloMLetal:Polypoidalchoroi-dalvasculopathyandphotodynamictherapywithverteporn.GraefesArchClinExpOphthalmol243:973-979.Epub2005Oct20,20059)OtaniA,SasaharaM,YodoiYetal:Indocyaninegreenangiography:guidedphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.AmJOphthalmol144:7-14.Epub,200710)EandiCM,OberMD,FreundKBetal:Selectivephoto-dynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegenerationwithpolypoidalchoroidalneovascularization.Retina27:825-831,200711)ChanWM,LamDS,LaiTYetal:Photodynamictherapywithvertepornforsymptomaticpolypoidalchoroidalvas-b.中心窩下2型新生血管に対するPDTTAPStudyはpredominantlyclassicCNVに対する有効性を示した代表的な研究であるが,近年,中心窩下の2型新生血管に対するPDTの視力改善効果に疑問がもたれている21).中心窩下の2型新生血管ではPDTの治療後に新生血管が線維化し,新生血管に接する網膜には胞形成や萎縮がみられ,最終的には治療前より視力が低下する症例も少なくない(図4).そこで,最近ではPDTを行わずに抗VEGF薬で治療する試みがされている.しかしながら,抗VEGF薬でも新生血管の高度な線維化および収縮が生じうるので,視力維持および改善効果については今後の検討が望まれる.c.Reduceduencephotodynamictherapy現在行われているスタンダードなPDTの照射条件は,波長689±3nm,出力は600nW/cm2,光照射エネルギー量は50J/cm2,照射時間83秒とあらかじめ設定されており,原則としてその条件を変えることはできないが,最近,低い照射量でPDTを行う試みがされている22).現在の照射条件はあくまでもPDT単独治療の条件で設定されたので,PDTに種々の薬剤を併用する場合はPDTの全照射エネルギーを調節することでPDTの過剰作用などを避けることができるかもしれない.最図4ClassicCNV症例上段:PDT前.視力0.1.下段:PDT後にCNVは強く線維化し,視力は0.02と低下した.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081229culopathy:one-yearresultsofaprospectivecaseseries.Ophthalmology111:1576-1584,200412)HiramiY,TsujikawaA,OtaniAetal:Hemorrhagiccom-plicationsafterphotodynamictherapyforpolypoidalchor-oidalvasculopathy.Retina27:335-341,200713)赤座英里子,松本容子,湯沢美都子:ポリープ状脈絡膜血管症にみとめられる病巣の拍動と予後.日眼会誌110:288-292,200614)SpaideRF,SorensonJ,MarananL:Combinedphotody-namictherapywithvertepornandintravitrealtriamcino-loneacetonideforchoroidalneovascularization.Ophthal-mology110:1517-1525,200315)VandeMoereA,SandhuSS,KakRetal:Eectofposte-riorjuxtascleraltriamcinoloneacetonideonchoroidalneo-vasculargrowthafterphotodynamictherapywithverte-porn.Ophthalmology112:1896-1903,200516)RosenfeldPJ,SchwartzSD,BlumenkranzMSetal:Maxi-mumtolerateddoseofahumanizedanti-vascularendothelialgrowthfactorantibodyfragmentfortreatingneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthal-mology112:1048-1053,200517)KimIK,HusainD,MichaudNetal:EectofintravitrealinjectionofranibizumabincombinationwithvertepornPDTonnormalprimateretinaandchoroid.InvestOph-thalmolVisSci47:357-363,200618)YoganathanP,DeramoVA,LaiJCetal:Visualimprove-mentfollowingintravitrealbevacizumab(Avastin)inexu-dativeage-relatedmaculardegeneration.Retina26:994-998,200619)AugustinAJ,PulsS,OermannI:Tripletherapyforchoroidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegeneration:vertepornPDT,bevacizumab,anddexam-ethasone.Retina27:133-140,200720)RouvasAA,PapakostasTD,LadasIDetal:Enlargementofthehypouorescentpostphotodynamictherapytreat-mentspotafteracombinationofphotodynamictherapywithanintravitrealinjectionofbevacizumabforretinalangiomatousproliferation.GraefesArchClinExpOphthal-mol246:315-318,200821)DoyleE,KhanwalaM,ShahSPetal:One-yearresultsofphotodynamictherapyforsmallpredominantlyclassicchoroidalneovascularmembranessecondarytoage-relat-edmaculardegeneration.EurJOphthalmol17:760-767,200722)SinghCN,SapersteinDA:Combinationtreatmentwithreduced-uencephotodynamictherapyandintravitrealinjectionoftriamcinoloneforsubfovealchoroidalneovas-cularizationinmaculardegeneration.Retina28:789-793,2008(41)

加齢黄斑変性および関連疾患の画像診断の進歩-新しい検査機器-

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSのリポフスチンがおもな自発蛍光物質であると考えられている.リポフスチンは,視細胞外節の網膜色素上皮細胞による代謝産物であり,FAFを観察することで,造影剤を使用することなく網膜色素上皮の機能を評価できると考えられている.この検査は,まだ広く普及していないが,学会などでは盛んに議論されており,眼科医として基礎知識は理解しておく必要がある.本稿では,加齢黄斑変性およびその特殊型であるポリープ状脈絡膜血管症(PCV)と網膜内血管腫状増殖(RAP),その他関連疾患に関して,基本となる蛍光造影を概説し,現在発展著しいOCTについては具体的に症例提示をしながら解説し,今後の発展が期待されるFAFについても触れる.I蛍光眼底造影新生血管の部位や活動性の評価のために以前より蛍光眼底造影検査が行われてきた.FAは網膜血管の描出に優れ,網膜色素上皮の異常を鋭敏に検出可能である.これにより,新生血管が網膜色素上皮上(2型)にあるか,網膜色素上皮下(1型)にあるかをある程度診断できる.つまり,FA所見のクラシック型≒2型CNV(脈絡膜血管新生),オカルト型≒1型CNVの関係が成り立つ.典型的な滲出型加齢黄斑変性では,これらのCNV成分の割合によってpredominantlyclassicCNV(クラシック型CNV成分が病変の50%以上),minimallyclassicCNV(クラシック型CNV成分が病変の50%未満),はじめに加齢黄斑変性は古くは老人性円板状黄斑変性症とよばれていた頃から,蛍光眼底造影検査による診断が行われている.現在でも滲出型加齢黄斑変性における診断や病型別分類,治療効果判定においてはフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)やインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)は重要である.近年その蛍光眼底造影所見を強力に補助できる新しい検査機器が開発されている.光干渉断層計(OCT)は,網膜の断層像を容易に,かつ非侵襲的に得ることのできる画期的な装置である.1996年に臨床に登場以来,OCTは黄斑部および視神経乳頭を観察するうえで必要不可欠な存在となった.最近ではさらに進歩し,病変を二次元的な断面像だけではなく,三次元的な立体像として捉えることが可能となった.その所見の解釈についてはまだ完全に確立されてはいないが,滲出型加齢黄斑変性における新生血管の部位や滲出性変化(漿液性網膜離,網膜浮腫など)の有無など新生血管の活動性を形態的変化としてみることが可能である.2008年4月からは,診療報酬の改定に伴い眼底三次元解析が算定可能となりOCTは今後広く普及していくと考えられ,一般眼科医にとっても強力な診断ツールとなることは間違いない.また非侵襲的に眼底を観察できる検査として最近,眼底自発蛍光(FAF)が注目されている.これは眼底に存在する蛍光物質を観察するもので,網膜色素上皮細胞内(27)1215IciaTmiIia96012951特集●加齢黄斑変性あたらしい眼科25(9):12151222,2008加齢黄斑変性および関連疾患の画像診断の進歩新しい検査機器AdvancedRetinalImagingSystemforAge-RelatedMacularDegenerationandAssociatedDisease丸子一朗*飯田知弘*———————————————————————-Page21216あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(28)による蓄積されたノウハウをもつZeiss社が作ったスペクトラルドメインOCTである.この2つに代表されるスペクトラルドメインOCTは,網膜断層像を撮るスピードが高速化し,さらに高解像度化したため,1枚1枚の画像の情報が多く網膜の各層がよく観察できる.3Dscanモード(3D-OCT)やcubescanモード(CirrusOCT)で撮影し,解析すると三次元的に網膜病変を表示可能である.IV滲出型加齢黄斑変性におけるOCT所見脈絡膜新生血管(CNV)は,病理学的にBruch膜内にまで進展し網膜色素上皮下にあるものが1型CNV,Bruch膜を超えて網膜色素上皮上に進展したものが2型CNVと定義される2).厚生労働省特定疾患網脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班によれば,滲出型加齢黄斑変性は,典型的な1型または2型を示すCNVがみられるもののほかに,特殊型としてPCVとRAPをあげている.現在ではPCVとRAP以外の典型的加齢黄斑変性を便宜的に狭義加齢黄斑変性とよぶことが多い.またそのほかにも黄斑部に2型CNVを生じる強度近視新生血管黄斑症や特発性脈絡膜新生血管があり,これらの疾患それぞれのOCT所見について概説する.1.狭義加齢黄斑変性フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)所見によって,クラシック型CNV(≒2型CNV)とオカルト型CNV(≒1型CNV)の大きく2種類に臨床的には分類される.ただしFA所見はあくまで病理学的所見とはイコールではなく,注意が必要である.2型CNVの典型例におけるOCTでは,網膜色素上皮層の上にCNVを示す高反射が観察される(図1).1型CNVにおけるOCTでは,新生血管そのものの変化をみることはできないが,CNVによる網膜色素上皮層の二次的な変化である隆起や不整像が観察される(図2).1型CNVと2型CNVが混在することも多く,OCTで網膜色素上皮層の上に高反射帯がみられても,その周囲では網膜色素上皮層の変化のみが観察される場合もある(図3a).occultwithnoclassicCNV(オカルト型CNVのみ)に分類される1).光線力学的療法(PDT)の治療方針の決定にもこの分類は関連しており,FAによるサブタイプ分類は,治療において明確な指標となる.これに対しIAは810nmの蛍光(赤外光)を発し,分子量が大きく脈絡膜血管からの漏出も少なく,網膜色素上皮下の脈絡膜循環が観察可能であり,脈絡膜新生血管の進展部位をほぼ推定できるようになった.特にIAの高解像度化が得られた1990年ごろから,それまでのFAでの基準に含まれない症例が観察されるようになった.これらはPCVやRAPのような新しい疾患概念として提唱された.個々の症例の診断については別稿に譲るが,今日でもまだ蛍光眼底造影検査は発展している.ハイデルベルグ社のHRA2やNIDEK社のF-10のような共焦点走査型レーザー検眼鏡では,FA・IAともにより高解像度の画像が得られ,動画での撮影も可能である.PCVやRAPの診断には特に威力を発揮する.IIタイムドメインOCT現在最も普及しているタイムドメインOCTはOCT3000(CarlZeissMeditec社)である.OCT3000は深さ分解能が約10μm程度で網膜の層構造が明瞭に観察され,日常診療においては十分すぎる解像度である.網膜断層像は擬似カラー表示されるが,これは現在でもOCTのスタンダードとなっている.OCT-Ophthalmo-scope(NIDEK社)は,深さ分解能は約9μm,同一光源を用いることでOCT画像と走査レーザー検眼鏡(SLO)画像を同時に取得することが可能であり,両画像を1対1対応できる.網膜の断層像(B-scan)だけでなく,網膜面に水平の前額断(C-scan)として観察できることも大きな特徴である.IIIスペクトラルドメインOCTタイムドメインOCTは光干渉を時間領域で行うのに対し,スペクトラルドメインOCTはFourier空間で行うことで高速化・高解像度化を実現した.深さ分解能は約5μm以下である.3D-OCT(TOPCON社)はスペクトラルドメインOCTの商業ベースで世界初の製品である.CirrusOCT(CarlZeissMeditec社)はOCT3000———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081217(29)2.ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)PCVは1990年にYannuzziら3)によって報告された脈絡膜血管に由来する異常血管網とその先端のポリープ状病巣からなる明確な疾患群である.検眼鏡での橙赤色隆起病巣とIAでポリープ状病巣が確認されることが特図1症例1:クラシック型脈絡膜新生血管(CNV)左上:カラー写真.右上:フルオレセイン蛍光造影(FA)初期像.境界明瞭なCNV.右下:FA後期像.著明な蛍光漏出.左下:光干渉断層計(OCT)所見.網膜色素上皮上にCNVと一致した高反射塊.網膜色素上皮の高反射帯は一部断裂している.図2症例2:オカルト型CNV左上:カラー写真.右上:FA中期像.境界不明瞭な弱い蛍光漏出.右下:インドシアニングリーン蛍光造影(IA)後期像.CNVに一致した後期過蛍光.左下:OCT所見.網膜色素上皮の不整をみるが断裂は観察されない.漿液性網膜離を伴う.図3a症例3:minimallyclassicCNV(クラシック型CNV成分が病変の50%未満)左上:カラー写真.右上:FA初期像.右下:FA後期像.中心窩下方の著明な蛍光漏出を示すクラシック型CNV成分と中心窩上方の淡い蛍光漏出を示すオカルト型CNV成分が混在.左下:OCT所見.中心窩鼻側の網膜色素上皮の不整像と中心窩耳側に網膜色素上皮上の高反射帯.図3b症例3のFAF(CNVのFAF低蛍光)———————————————————————-Page41218あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(30)徴であり,日本PCV研究会の診断基準4)でも,この2つが重要とされている.OCTではポリープ状病巣に一致して,網膜色素上皮の急峻な突出がみられる5).この所見はPCVに特徴的であり,造影検査をすることなくPCVを疑う根拠にもなりうる.ただし,この急峻な突出はポリープそのものではなく,網膜色素上皮の二次的な変化によるものであるため,ポリープの活動性が低下している場合もしくは閉塞が得られている場合でも,同様の像を示している可能性があり注意を要する.網膜色素上皮離を伴う症例において,OCTの断面をみるとドーム状の網膜色素上皮離の隆起に隣接した小さな網膜色素上皮離がみられる(tomographicnotch)6)(図4下段左).網膜面に水平にスキャン(C-scan)し観察すると網膜色素上皮離のラインに連続して,ポリープ状病巣のある部位でそのラインの一部外側への突出がみられる7)(図4下段中).またPCVの定義でも述べられている異常血管網はポリープ状病巣とは別に網膜色素上皮の不整や丈の低い隆起として観察されることがあり図4症例4:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)上段左:レッドフリー眼底写真.上段中:FA初期像.淡い過蛍光と網膜色素上皮離.上段右:FA後期像.オカルト型の淡い蛍光漏出.下段右:IA初期像.典型的なポリープ状病巣.下段左:OCT所見(Bスキャン).網膜色素上皮離の隆起に隣接した小さな網膜色素上皮離,いわゆるtomographicnotchサイン.下段中:OCT所見(Cスキャン).網膜色素上皮離のラインの一部外側への突出.図5症例5:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)左上:カラー写真.右上:FA中期像.オカルト型CNVを示す淡い蛍光漏出.右下:IA後期像.典型的なポリープ状病巣.左下:OCT所見.ポリープ状病巣に一致した網膜色素上皮の急峻な突出.漿液性網膜離と網膜色素上皮の不整(doublelayersign)を伴う.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081219(31)(doublelayersign)79)(図5),これもPCVを疑わせる所見である.3.網膜血管腫状増殖(RAP)(図6)RAPは2001年にYannuzziら10)によって報告された,網膜血管由来の新生血管を起源とする加齢黄斑変性の一型である.stageI(網膜内新生血管),stageII(網膜下新生血管),stageIII(脈絡膜新生血管)の病期に分けられる.眼底検査では軟性ドルーゼンが多発している,網膜毛細血管拡張を伴うことが特徴で,通常網膜下,網膜内,網膜前出血がみられ,初期例から胞様黄斑浮腫(CME)が観察される.stageII以降に進行した場合には多くの症例で網膜色素上皮離も同時に観察される.OCTではRAP部位は高反射帯として観察され,胞様黄斑浮腫および網膜色素上皮離を伴う.RAP病巣に一致した部位で網膜色素上皮離の断裂像がみられることもある11).4.その他a.特発性脈絡膜新生血管(ICNV)特に誘因がなく,若年者の黄斑部に2型CNVを生じ図7a症例7:特発性脈絡膜新生血管(ICNV)左上:カラー写真.右上:FA初期像.境界明瞭な過蛍光.右下:FA後期像.著明な蛍光漏出.左下:OCT所見.網膜色素上皮上の高反射帯,漿液性網膜離を伴う.図7b症例7に対してベバシズマブ硝子体内注射後上:カラー写真.下:OCT所見.網膜色素上皮の囲い込みによる網膜色素上皮離様所見.図6症例6:網膜血管腫状増殖(RAP)左上:カラー写真.右上:FA中期像.典型的なRAP病巣.右下:IA後期像.RAP病巣に一致したhotspot.左下:OCT所見.網膜色素上皮離とその上のRAP病巣に一致した高反射帯,網膜浮腫を伴う.———————————————————————-Page61220あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(32)できる.撮影方法は,共焦点走査型レーザー検眼鏡(HRA2など)を用いたFA用の光源(波長488nm)とバリアフィルターを使う方法と,眼底カメラを改良して励起波長580nmでバリアフィルター695nmを使用する方法の2種類がある.撮影機種が異なると正常なFAFでも異なる像になる.特に黄斑部には短波長を吸収するキサントフィルがあり,共焦点走査型レーザー検眼鏡の波長488nmでは黄斑部は暗く映る.FAF過蛍光は網膜色素上皮細胞内のリポフスチンが増加していることを示すとされている.リポフスチンは加齢とともに増加し70歳を超えると細胞内の1/4を占める.過剰に蓄積すると,網膜色素上皮細胞の変性・萎縮をきたし,FAFは逆に低蛍光を示す.最近ではリポフスチン以外の自発蛍光物質の存在も示されているため所見の読影には注意を要する.FAF過蛍光を示す疾患として,リポフスチンが過剰に蓄積するStargardt病やBest病(図9)がある14,15).これらは遺伝的に網膜色素上皮の代謝異常が指摘されている疾患で,現在ではFAF所見が診断にも有用である.る疾患である.2040歳代の女性に多く,近視は軽度であり,ドルーゼンなどの加齢性変化を伴わない.約30%は自然軽快するとされるが,中心窩下に瘢痕を残すと視力予後不良である.OCTでは,活動期には網膜色素上皮層の上にCNVを示す高反射塊が観察され,その直上や周囲には網膜浮腫や漿液性網膜離がみられる12).これは2型CNVに一致する所見である(図7a).その後治癒瘢痕期のOCTでは網膜色素上皮層が丈の低い隆起を示し,RPEと一塊になったり,あたかも網膜色素上皮離様所見がみられる(図7b).CNV周囲の網膜色素上皮細胞が,CNVの囲い込みを起こしている像を捉えていると考えられる.b.強度近視新生血管黄斑症(図8)眼軸長が26.5mm以上の強度近視眼で2型CNVを生じる場合がある.若年者に多い強度近視眼の単純出血とは区別される.中心窩下に好発し,中心窩CNVとその周囲に網膜下出血がみられることが多い.突然の視力低下をきたす.OCTでは,網膜色素上皮層の上にCNVの隆起を示す高反射帯がみられ,周囲には網膜浮腫,漿液性網膜離を伴っている.活動性が低下し萎縮・瘢痕化してくると,網膜色素上皮細胞によるCNVの囲い込みが起こり,表面が高反射層となり網膜色素上皮層の隆起として観察される13).V眼底自発蛍光(FAF)FAFは網膜色素上皮細胞内のリポフスチン量を反映しているとされ,間接的に網膜色素上皮細胞機能を評価図7c症例7:治療前後のFAF所見左:治療前.CNVのFAF低蛍光.右:ベバシズマブ硝子体内注射後.CNVを取り囲むようにFAF過蛍光.図8症例8:強度近視新生血管黄斑症左上:カラー写真.右上:FA初期像.境界明瞭な過蛍光.右下:FA後期像.著明な蛍光漏出を示す(クラシック型CNV).左下:OCT所見.網膜色素上皮上の高反射帯,一部漿液性網膜離を伴う.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081221VI加齢黄斑変性および関連疾患におけるFAF所見加齢黄斑症は,加齢黄斑変性の前段階であり網膜色素上皮の色素沈着やドルーゼンがみられる.特にドルーゼンはリポフスチンを多く含むとされ,FAF過蛍光を示すことが多い.ただし,加齢に伴い網膜色素上皮内のリポフスチンは増加しているため,その輝度の差によってはFAF過蛍光がはっきりしない場合もある16).滲出型加齢黄斑変性における2型CNVそのものは通常FAFでは低蛍光を示す(図3b)が,その周囲で網膜色素上皮細胞の囲い込みが起こるため,CNV周囲はFAF過蛍光を示す17).特発性脈絡膜新生血管(図7c)や強度近視新生血管黄斑症における2型CNVでも同様の機序でCNV周囲のFAF過蛍光がみられる.これらの疾患ではCNV周囲のFAF過蛍光は加齢黄斑変性のCNV周囲より境界明瞭に観察されるが,これは網膜色素上皮細胞の加齢性変化が少なく,健常に近いためと考えられている18).1型CNVでは,CNVそのものは検出されないが,網膜色素上皮の障害が強い症例では,一般に同部位でのFAF低蛍光を示す.網膜色素上皮離の部位は,FAF低蛍光を示すことが多いが,その頂点ではやや過蛍光を示すこともある.網膜色素上皮裂孔部位では,網膜色素上皮細胞が欠損しているためFAFは低蛍光を示し診断に有用であり,その辺縁ではロールした網膜色素上皮のFAF過蛍光が観察される(図10).網膜下出血は,FAF低蛍光を示すが,陳旧化し器質化してくるとFAF過蛍光として観察される19).以上のように滲出型加齢黄斑変性ではさまざまな病態が混在しており,FAF所見は複雑化し,その評価は慎重にする必要がある.FAFはむしろ萎縮型加齢黄斑変性での有用性が指摘され,さまざまな報告がなされている.黄斑部の萎縮巣はFAF低蛍光を示し,その辺縁は逆にFAF過蛍光を呈している(図11).これは経過とともに徐々に拡大していくとされ,近年さまざまな分類方法が提唱されている20).ただし,萎縮型加齢黄斑変性の進行は遅く,その臨床上の有用性の評価には時間がかかる.(33)図9Best病の眼底自発蛍光(FAF)(リポフスチンによる過蛍光)図11症例10:萎縮型加齢黄斑変性左:カラー写真.右:萎縮部位のFAF低蛍光とその周囲のFAF過蛍光.図10症例9:網膜色素上皮裂孔左:カラー写真.右:FAF所見.網膜色素上皮裂孔部位に一致したFAF低蛍光とロールした網膜色素上皮部位のFAF過蛍光.———————————————————————-Page81222あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008おわりに本稿では,加齢黄斑変性および関連疾患の画像診断における検査機器について,基本となる蛍光造影検査,現在最も注目されているOCTと今後注目されるであろうFAFを中心に述べた.OCTは加齢黄斑変性の診断には必須ではなく,診断基準にも取り入れられてはいないが,非侵襲的に眼底病変を評価でき,すでに多数の報告がなされている.病型により特徴的な所見があり,その違いは知っておかなければならない.現在OCTは技術革新によりさらなる高速化,高解像度化が進みつつある最先端の分野である一方,今後は一般の眼科でも広く普及することが予想されることから,OCTによる眼底所見の読影手技は重要である.FAFは,現在,さまざまな眼底疾患に臨床応用されているが,加齢黄斑変性では所見が複雑なためにまだまだ不明な部分は多い.ただし,造影検査と異なり非侵襲的に網膜色素上皮機能の評価が可能であり,今後の研究次第では造影検査に匹敵するツールになる可能性もある.これらの検査が一般化し,さまざまな分野から加齢黄斑変性の病態解明が進むことを期待したい.文献1)BarbazettoI,BurdanA,BresslerNMetal:TreatmentofAge-RelatedMacularDegenerationwithPhotodynamicTherapyStudyGroup;VerteporninPhotodynamicTherapyStudyGroup.Photodynamictherapyofsubfovealchoroidalneovascularizationwithverteporn:uoresceinangiographicguidelinesforevaluationandtreatment─TAPandVIPreportNo.2.ArchOphthalmol121:1253-1268,20032)GreenWR,EngerC:Age-relatedmaculardegenerationhistopathologicstudies.The1992LorenzE.ZimmermanLecture.Ophthalmology100:1519-1535,19933)YannuzziLA,WongDW,SforzoliniBSetal:Polypoidalchoroidalvasculopathyandneovascularizedage-relatedmaculardegeneration.ArchOphthalmol117:1503-1510,19994)日本ポリープ状脈絡膜血管症研究会:ポリープ状脈絡膜血管症の診断基準.日眼会誌109:417-427,20055)IijimaH,IidaT,ImaiMetal:Opticalcoherencetomogra-phyoforange-redsubretinallesionsineyeswithidiopath-icpolypoidalchoroidalvasculopathy.AmJOphthalmol129:21-26,20006)SatoT,IidaT,HagimuraNetal:Correlationofopticalcoherencetomographywithangiographyinretinalpig-mentepithelialdetachmentassociatedwithage-relatedmaculardegeneration.Retina24:910-914,20047)SaitoM,IidaT,NagayamaD:Cross-sectionalandenfaceopticalcoherencetomographicfeaturesofpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina28:459-464,20088)SatoT,KishiS,WatanabeGetal:Tomographicfeaturesofbranchingvascularnetworksinpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina27:589-594,20079)TsujikawaA,SasaharaM,OtaniAetal:Pigmentepithe-lialdetachmentinpolypoidalchoroidalvasculopathy.AmJOphthalmol143:102-111,200710)YannuzziLA,NegraoS,IidaTetal:Retinalangiomatousproliferationinage-re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加齢黄斑変性および関連疾患の診断:蛍光眼底造影の読み方

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSな過蛍光を示し,造影時間とともに網膜下への旺盛な蛍光漏出を生ずるもの,occultCNVは造影早期には境界不明瞭で明らかな過蛍光を示さず(低蛍光を示す場合もある),造影時間とともに顆粒状過蛍光が出現し,造影510分の造影後期になって,oozingとよばれる緩慢な蛍光漏出をきたすものである.この造影態度の違いは,classicCNVでは網膜下にCNVが存在するため,それが直接造影され,網膜下に強い蛍光漏出を生ずるのに対し,occultCNVでは障害された網膜色素上皮(RPE)のはじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の診断・治療を行う際,蛍光眼底造影を読影するには一定の決まりとコツがある.本稿では,AMDの各病型とその関連疾患の蛍光眼底造影の読み方の基本と鑑別点について述べる.IAMDにおける蛍光眼底造影の読み方最近確定されたわが国におけるAMDの診断基準では,滲出型AMDには,通常のAMD(狭義AMD)のほか,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV),網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)の特殊病型2種が含まれると規定された1).このような特殊病型に対する各種治療の反応は異なるため,治療を行う前には,この3病型のいずれであるかを詳しく鑑別する必要がある.それにはフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)のみでは限界があるので,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)や光干渉断層計(OCT)を補助的に用いることによって,より正確な診断と治療適応決定,予後予測を行うことが重要である.1.脈絡膜新生血管(CNV)読影の基本パターンFAにおいて最も基本となる脈絡膜新生血管(CNV)の読影パターンはclassicCNVとoccultCNVである(図1).ClassicCNVは,FAの造影早期から境界鮮明(17)1205aniTaahashi:関方眼:5731191方231関方眼特集●加齢黄斑変性あたらしい眼科25(9):12051213,2008加齢黄斑変性および関連疾患の診断:蛍光眼底造影の読み方DiagnosisofAge-RelatedMacularDegenerationandRelatedDisease:ReadingofAngiographicFindings髙橋寛二*FA早期FA後期classicCNVFA早期FA後期図1脈絡膜新生血管のFA分類classicCNVは造影早期から境界鮮明な過蛍光を示し,後期には網膜下への旺盛な蛍光漏出を示す.この例では早期の過蛍光は網目状である.occultCNVは早期は境界不鮮明で,低蛍光を示すこともある.後期には顆粒状過蛍光の全体から滲むような蛍光漏出がみられる.———————————————————————-Page21206あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(18)にマウンド状に隆起して線維血管組織の増殖をみるものは線維血管性色素上皮離(brovascularpigmentepi-thelialdetachment)とよばれる.2.FAにおける病変タイプ分類欧米では光線力学的治療法(PDT)をはじめとするAMDの治療を行う際,最も重要な所見としてFAによるCNVの病変タイプ分類が行われることが多い4).PredominantlyclassicCNV,minimallyclassicCNV,occultwithnoclassicCNVという分類がそれであり,病変内におけるclassicCNVの比率を基準に分類が行われている.すなわち,predominantlyclassicCNVとは病変の50%以上をclassicCNVが占めるもの(図2),minimallyclassicCNVとはclassicCNVが病変の50%未満であるもの(図3),occultwithnoclassicCNVとはclassicCNVをまったく含まないもの(図4)をいう.ただし,ここでいう「病変」とは,classicCNV,occultCNVのほかに,出血,漿液性網膜色素上皮離(漿液性PED),蛍光ブロックを生ずる病変(色素沈着,線維組織),瘢痕のすべてを含んだ領域をさす.この分類で注意を要するのは,FA所見のみによる分類であるため,読影の対象症例には狭義AMDだけでなく,PCVや下に隠れてCNVが存在するため,緩慢な蛍光漏出が起こると理解される2,3).OccultCNVは,さらに2種に分類され,CNVがRPE下に平面的に発育し,どこからともなく漏出を生ずるものは起源不明の後期漏出病巣(late-phaseleakageofundeterminedsource),RPE下IA網膜下高反射領域classicCNV網膜下出血によるブロック網目状新生血管FA早期FA後期図2狭義AMD,predominantlyclassicCNVFAでは病変の総面積中のclassicCNVの割合が50%以上である.IAでも明瞭な網目状の新生血管が検出され,OCTでは網膜下に突出する高反射領域がみられる(IA内黄矢印はスキャン部,以下同じ).IA網膜下高反射領域網目状新生血管doublelayersignclassicCNVoccultCNVFA早期FA後期図3狭義AMD,minimallyclassicCNV中心窩鼻側にclassicCNV,その下方にoccultCNVがみられ,classicCNVの割合は50%未満である.IAではoccultCNVの部にも網目状の新生血管が証明され,OCTではoccultCNVの部に色素上皮の反射のdoublelayersign,classicCNVの部では網膜下の高反射領域がみられる.IARPEのマウンド状隆起網目状新生血管で満occultCNVFA早期FA後期内部反射図4狭義AMD,occultwithnoclassicCNV(線維血管性網膜色素上皮離)FA上classicCNVはみられず,100%occultCNVで構成されている.IAではFAの過蛍光全域にわたって網目状新生血管が検出された.OCTでは色素上皮のマウンド状隆起と内部反射を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081207(19)4.PCVの典型的造影像PCVはわが国では症例数が多く,狭義AMDよりもPDTの成績が良好で,視力改善が得られやすいこと,RAPの特殊病型もすべて含まれているということである.筆者らの施設でPDTを行った200眼の調査では,狭義AMDではpredominantlyclassicCNVとoccultwithnoclassicCNVが約40%ずつであり,PCVでは約60%がoccultwithnoclassicCNV,RAPでは50%がminimallyclassicCNVの造影パターンを示すという結果を得た(図5).3.狭義AMDの典型的造影像狭義AMDのFA像は基本的には先に述べたclassicCNV,occultCNVのとおりであるが,IA像にも特徴がある.網膜下に発育したclassicCNVでは,IA早期には明瞭な網目状血管が造影されることもあるが,細い毛細血管レベルの血管は早期の造影所見が不明瞭であることがある.陳旧化するとCNV周囲の網膜色素上皮の増殖のため,新生血管周囲に低蛍光(darkrim)を生ずることが多い.また網膜下で線維化を起こすと,低蛍光を示すこともある.造影後期には,classicCNVは強い過蛍光を示すものから不明瞭な過蛍光を示すものまでさまざまである.網膜色素上皮下に発育したoccultCNVでは,IAの造影早期には多くは明瞭な血管網が通常の脈絡膜血管よりも網膜側のレベルで検出される.造影後期になると,新生血管存在部はplaqueとよばれる面状過蛍光を呈する.狭義AMD(n=106)PCV(n=88)RAP(n=6)occult38%pred.cl40%mini.cl22%occult61%pred.cl15%mini.cl24%pred.cl33%mini.cl50%occult17%図5AMDの各病型におけるFAでの造影パターン(関西医大,200眼)狭義AMDはpredominantlyclassicとoccultwithnoclassicCNVが各4割,PCVではoccultwithnoclassicが6割と最も多かったが,classic成分をもつ症例も4割あった.RAPではminimallyclassicCNVが半数あった.occultCNV様顆粒状過蛍光IA色素上皮のポリープ状隆起(内部反射+)結節状過蛍光異常血管網PFA早期FA後期PP色素上皮の凹凸不整とdoublelayersign図6PCVFAでは面状の顆粒状過蛍光の端に結節状過蛍光がみられ(矢印),minimallyclassicCNVと判定できる.IAでは顆粒状過蛍光の部に異常血管網,結節状過蛍光の部にポリープ状病巣(P)が検出される.OCTではポリープ状病巣の部には内部反射を伴った色素上皮の急峻な隆起がみられる.異常血管網の部位にはdoublelayersignがみられる.旺盛な蛍光漏出IA色素上皮のポリープ状隆起網膜下高反射領域(フィブリン)結節状過蛍光顆粒状過蛍光oozingポリープ状病巣異常血管網doublelayersignFA早期FA後期図7PCV,偽クラシック病巣FAでは顆粒状過蛍光の周囲に結節状過蛍光のみられるパターンで,中心窩近傍でclassicCNV様の強い蛍光漏出を示している.FA上はminimallyclassicCNVと分類できる.IAでは異常血管網とポリープ状病巣がみられるPCVの典型所見を示している.OCTではポリープ状隆起とdoublelayersignの網膜側にフィブリンの高反射領域が検出される.———————————————————————-Page41208あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(20)に存在し,FAではその部に円形のPEDの窪み(notchsign)(Gass)を示すことが多い.これは,RPE直下に異常血管がある部位ではRPEと異常血管の間に強い癒着があるためにPEDを生じず,その対側の健常な色素上皮の部位にPEDを生ずるためである.一方,PCVに抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法の有効性が狭義AMDのclassicCNVよりも低い可能性があることが最近判明してきた.このため,狭義AMDかPCVかを鑑別することはきわめて重要である.先に述べたように,PCVは基本的に網膜色素上皮下の病変であるから,FAではoccultCNVのパターンを示すことが多いが,実際にはclassicCNVの所見を示す例が約4割あることに注意を要する.PCVの典型例のFA所見では,occultCNV様の面状の顆粒状過蛍光がみられ,その辺縁部に1個数個の結節状の過蛍光がみられる(図6).この結節状の過蛍光からの蛍光漏出の程度はさまざまであり,classicCNV様の強い蛍光漏出を生ずるものもあれば,軽いoozing様の蛍光漏出を示すもの,そしてまったく漏出を示さないものもある.このなかで,あたかもclassicCNV様の強い蛍光漏出を示し,眼底において網膜下に灰白色の滲出斑(網膜下フィブリン)を伴う滲出の強い症例を,筆者らはPCVの「透過性亢進病巣」5)あるいは「偽クラシック病巣」6)とよび,狭義AMDにおける真のclassicCNV(網膜下新生血管)との鑑別を行う必要があることを提唱している(図7).PCVのIA所見では,造影早期にはFAの顆粒状過蛍光の領域に異常血管網,結節状過蛍光の部位には異常血管網の先端部のポリープ状に拡張した異常血管,すなわちポリープ状病巣が検出される.造影後期には異常血管網の部はplaqueとよばれる面状の過蛍光を示し,ポリープ状病巣は明瞭な円形の過蛍光を示すようになる.2005年に確定したわが国での「PCVの診断基準」7)では,PCV確実例の1項目として,「IAで特徴的なポリープ状病巣を認める」と規定されており,異常血管網はPCV確実例と診断するのに必須ではないことには注意を要する.また,ポリープ状病巣内部の造影パターンには,大きく分けて単房性,多房性,さらに多房性が多数集合して形成されるぶどうの房状の3種がある7).特殊な造影形態としてコイル状,輪状などの形態があるが,ぶどうの房状は網膜下血腫形成の危険性が高く,輪状は自然消退前の造影像として知られている(図8).漿液性網膜色素上皮離(漿液性PED)を伴うPCV症例では,異常血管はほとんどの症例でPEDの辺縁部コイル状ぶどうの房状(多房性が複数集合したもの)輪状単房性多房性図8ポリープ状病巣の内部構造IAでみると1個のポリープ状病巣の内部は決して単純な血管の瘤状拡張ではなく,血管塊数個からなる多房性,さらにそれが複数集合したぶどうの房状の異常血管塊がみられる.特殊な造影所見としてコイル状の血管,輪状の過蛍光を呈するものがある.classicCNVIA色素上皮のポリープ状隆起網膜下高反射領域結節状過蛍光occultCNV顆粒状過蛍光classicCNV部FA早期FA後期異常血管網図9PCV+classicCNVFAでは結節状過蛍光,顆粒状過蛍光とclassicCNVの所見が混在してみられるpredominantlyclassicCNVの所見を示している.IAでは異常血管網とポリープ状病巣(水色矢印),clas-sicCNVの過蛍光(白矢印)が混在してみられる.OCTでポリープ状病巣の急峻な隆起と網膜下高反射領域がみられる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081209(21)るという説を唱えた9).本年,YannuzziらはこのGassの説をも取り入れ,網膜内だけでなく,脈絡膜新生血管からも発生しうるという拡大したRAPの概念を報告し,真のclassicCNVを合併する症例があり,そのような症例ではPCVと網目状を示すclassicCNVの所見が混在してみられる(図9).5.RAPの典型的造影像RAPは,2001年にYannuzziによって報告された新しい疾患概念である8).この報告においてRAPは,網膜内(網膜深層)に新生血管が発生し,その後,網膜下腔に進展するとともに網膜表層では網膜血管の拡張と吻合をきたし,最終的に脈絡膜新生血管との吻合を生じ,網膜全層に新生血管が発育する疾患として記載されている.Yannuzziらはこの疾患を3期に分け,stageIは網膜内新生血管(intraretinalneovascularization:IRN),stageIIは網膜下新生血管(subretinalneovasculariza-tion:SRN),stageIIIは脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)の時期としている.臨床的にはstageIIの色素上皮離(PED)を伴った時期(図10)に発見されることが多いが,しばしばstageIIとstageIIIの鑑別は困難である.Yannuzziらの疾患概念に対して,2003年Gassらはこのような網膜血管との吻合を示すAMDにおいても原発は脈絡膜新生血管であり,それが網膜内に発育し,最終的に網膜血管と連絡すCME結節状過蛍光stageⅠstageⅢstageⅡCME軟性ドルーゼンRAP病巣(瘤状サイン)漿液性PEDCME線維血管性PED(内部反射+)FAFAFAIAIAIA図11RAPの各stage別造影所見とOCTstageIでは,FAでは緩慢な漏出を示す結節状過蛍光,IAでは網膜血管と連続しない円形の鮮明な過蛍光,OCTでは軟性ドルーゼンによる色素上皮の反射の凹凸不正,網膜外層に胞様黄斑浮腫(CME).stageIIでは,FAで漿液性PEDの均一な過蛍光の内部,傍中心窩領域にスポット状の過蛍光(黒矢印2カ所),IAでは低蛍光を示すPED内部にRAP病巣と網膜血管との吻合(白矢印),OCTでは内部反射を伴わないRPEのドーム状隆起とその頂部の瘤状サイン.stageIIIではFAで網膜血管と連絡する面状過蛍光とPEDの高反射,IAでは網膜血管との吻合が明瞭で,OCTではPED内部に反射を伴う線維血管性PEDを示す.IAFA早期FA後期旺盛な蛍光漏出(hotspot)網膜表層出血によるブロック網目状新生血管網膜色素上皮?離bumpsign網膜内浮腫過蛍光領域(網膜血管と連続)色素上皮?離による過蛍光網膜血管との吻合図10RAPstageIIFA後期には中心窩を含んで漿液性網膜色素上皮離(漿液性PED)の均一な過蛍光がみられ,その中心部にhotspotを有するminimallyclassicCNVの所見を示している.網膜表層出血によるブロックがみられる.IAではhotspotの部の新生血管の網目が検出され,それが網膜血管と吻合している状態が明瞭である(黄色矢印).OCTでは色素上皮離の頂部に網膜色素上皮の高反射の断裂や瘤状所見(bumpsign),強い網膜内浮腫がみられる.———————————————————————-Page61210あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(22)は認められない.c.RAPstageIIIの臨床所見(図11下段)眼底では多くは黄斑部に橙色橙黄色の線維血管性PEDとしてみられることが多い.この時期になると,病巣の血流は豊富になり,太い網膜血管の病巣内への直接流入がみられることが多い.狭義AMDの末期病変と区別がつきにくくなることがしばしばある.FAでは線維血管性PEDは円形の顆粒状過蛍光を示すが,新生血管は増大し面積が広くなるため,中央の強い過蛍光として検出されることは少なくなる.この時期になると,病巣の表層でRRAがしばしば発達した形でみられる.IAでは病巣面積が拡大することによって,病巣は面状の過蛍光を示すようになる.網膜血管との吻合やRRAはIAでさらに明瞭となる.脈絡膜新生血管の流入部が別個に検出される場合があるが,概して脈絡膜新生血管の全貌はIAでも検出しにくい.一部の症例では脈絡膜新生血管の網目の上にRAP病巣の網目が二重に重なったように検出される場合がある.OCTでは線維血管性PEDとなるので,RPEのドーム状隆起の内部反射が明瞭にみられるようになる,その表面に高い反射が検出されることもある.CMEは慢性的に強くみられる.IIその他の関連疾患(血管新生黄斑症)における眼底造影の読み方頻度の高い以下の3疾患に伴う血管新生黄斑症と加齢黄斑変性の鑑別点について述べる.1.高度近視に伴う血管新生黄斑症(図12)高度近視に伴う脈絡膜新生血管は,通常は網膜下に発育するが,発生初期には後部強膜ぶどう腫内の灰白色の新生血管は明らかでなく,網膜下出血のみがみられることも多い.経過とともに新生血管は色素沈着を帯びてくるが,概して扁平な新生血管としてみられる.FAでは造影パターンはほとんど100%近くclassicCNVパターンを示す.IAでは,新生血管が細いため造影早期には明瞭な網目状の過蛍光が観察されることが少なく,後期でも新生血管による過蛍光は不鮮明なことが多い.造影後期では,いわゆるひび割れ状のlacquercracklesionが低蛍光に造影され,その辺縁にCNVが検出されるこ“type3neovascularization”と命名した10).以下にステージ別に典型的所見を述べる.a.RAPstageIの造影所見(図11上段)眼底には多くは軟性ドルーゼンが集合した黄斑部傍中心窩領域の網膜内層中層に結節状の赤点がみられる.その周囲には少量の網膜表層出血がほぼ全例にみられる.病巣周囲の網膜内浮腫は必発である8).FAではこの時期には新生血管は小さい結節状の過蛍光と滲むような緩慢な蛍光漏出がみられる.FAでは約6割がoccultCNV,2割がclassicCNVとして検出される8).IAではhotspotとよばれる強い結節状過蛍光が網膜内新生血管の部位に検出され,網膜血管どうしの吻合(retinal-reti-nalanastomosis:RRA)が30%にみられる8).OCTでは軟性ドルーゼンによる網膜色素上皮(RPE)の反射の凹凸不整,ドルーゼン様色素上皮離と網膜深層あるいはRPEに連続する結節状高反射,網膜浮腫がみられる10).b.RAPstageIIの臨床所見(図10,11中段)眼底では黄斑部の漿液性網膜離,病巣周辺の網膜内または表層出血,網膜下出血,漿液性PEDが高頻度にみられる8).FAでは主としてoccultCNVの像を示し,その一部に強い網膜内あるいは網膜下漏出を示すclas-sicCNVを含むことが多い8).漿液性PEDが存在する場合,強い過蛍光を示す部位はPEDの中央であることが多い.これは病巣の端にポリープ状病巣が存在しやすいPCVと異なり,RAPの重要なサインである.RAPでPED中央に過蛍光がみられる原因は,RAPの発症早期には底部の色素上皮には癒着が少なく,RAP病変によって周囲の色素上皮が均等に感覚網膜側に牽引されるためと考えられる.IAでは漿液性PEDの低蛍光の内部に100%でhotspotが検出される8).この時期になるとRAP病巣と網膜血管との吻合が明瞭にみられることが多く,吻合部では網膜血管は途中で途絶えたようにみえる.OCTではstageIIのPEDを伴う時期には,RPEの反射のドーム状の隆起がみられ,通常はその中央(頂部)にRPEの断裂様所見と瘤状の反射(bumpsign)がみられる.この部に一致して網膜側にRAP病巣が存在しており,その周囲の感覚網膜には胞様黄斑浮腫(CME)が強くみられる.PEDは漿液性なので内部反射———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081211とが多い.近視性CNVではごくまれにPCVの造影パターンを取ることがある.近縁疾患として傾斜乳頭症候群では,しばしばPCVのパターンをとる場合がある.2.網膜色素線条に伴う血管新生黄斑症(図13)視神経乳頭周囲の萎縮帯と,そこから放射状に延びる色素線条がみられ,CNVは傍乳頭領域から中心窩鼻側に初発することが多い.FAでは,CNVは通常classic(23)lacquercracklesionCNVCNVCNVFA早期FA後期IA早期IA後期図12高度近視に伴うCNV強い豹紋状眼底の黄斑部に小出血がみられ,FAでは線状の過蛍光の中に蛍光漏出を示すCNVがみられる.IAではCNVの網目は明瞭に検出されず,後期にみられるlacquercracklesionの辺縁にCNVが発生していることが確認できる.OCTでは網膜下に突出したCNVがみられる.線条に一致する過蛍光乳頭周囲萎縮帯線条に一致する過蛍光CNV線条に一致する過蛍光FA早期FA後期IA後期CNVCNV網膜?離図13網膜色素線条に伴うCNV視神経乳頭周囲の輪状萎縮帯周囲に放射状に延びる数本の褐色の線条がみられる.FAでは線条に一致する過蛍光と中心窩鼻側に網膜下への蛍光漏出を示すCNV,IAでは梨地状眼底に一致する点状の低蛍光と過蛍光を示す線条付近にCNVが検出される.OCTでは網膜下に発育したCNVの高反射と網膜離がみられる.———————————————————————-Page81212あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008CNVパターンの造影像を示すが,過蛍光を示す色素線条に沿ってCNVの発生がみられることが多い.IAでは,色素線条はひび割れ状の明瞭な過蛍光を示す場合と低蛍光を示す場合があり,梨地状眼底に一致する低蛍光,すなわちmottledpatternが明瞭であり,CNVと色素線条の関係が明瞭に観察される.CNVが非常に進行拡大した症例では,CNVの先端部において橙赤色隆起病巣とIAでPCVのパターンを示すことがあることに注意を要する.3.特発性脈絡膜新生血管(図14)特発性CNVは軽度中等度近視の若年女性の黄斑部にみられ,眼底では病初期には網膜深層の硬い滲出斑,網膜下に発育したCNVは概して類円形の小型のCNVを示す.FAでは常にclassicCNVパターンの造影像を示し,陳旧化するとCNV周囲に低蛍光輪(darkrim)を生ずることが多い.IAでは倍率を上げて確認すると造影早期に細い網目状の過蛍光がみられることが多く,造影後期にはCNVの活動性によってさまざまな程度の過蛍光を示す.陳旧例では,IAにおいてもdarkrimが明瞭となる.特発性CNVでは背景の脈絡膜造影像には異常がみられないが,鑑別を要する疾患として点状内層脈絡膜症(punctateinnerchoroidopathy:PIC)では,CNV周辺に,FAでは点状の過蛍光,IAでは点状の低蛍光がみられることが多い.おわりにAMDと関連疾患におけるCNVの造影所見の読影にあたっては,その造影パターンから,いつもCNVがどのレベルにあるか(網膜下か網膜色素上皮下か)を考えつつ,特殊病型(PCVパターンかRAPパターンか)にも注意を払いながら読影を進めることが重要であることを述べた.文献1)厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班加齢黄斑変性診断基準作成ワーキンググループ:加齢黄斑変性の分類と診断基準.日眼会誌掲載予定2)髙橋寛二:滲出型加齢黄斑変性の脈絡膜新生血管─蛍光眼底造影所見上の分類:クラシック型とオカルト型─.あたらしい眼科20:1487-1493,20033)髙橋寛二:脈絡膜新生血管の読影─JATstudy─.眼紀55:513-519,20044)Vertepornroundtable2000and2001participants,treat-(24)darkrim網目状過蛍光IA早期CNVFA早期FA後期IA後期darkrim網目状過蛍光IA早期図14特発性CNV軽度中等度近視を伴う眼底の黄斑部に小さい褐色の隆起(黄色矢印),FAでは類円形のCNVと網膜下への蛍光漏出,IAではdarkrimを伴う細い網目状過蛍光とわずかな蛍光漏出,OCTでは網膜下に突出した高反射領域がみられる.IAで周囲の脈絡膜蛍光には異常をみない.若年女性に多い.———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081213mentofage-relatedmaculardegenerationwithphotody-namictherapy(TAP)studygroupprincipalinvestigators,andverteporninphotodynamictherapy(VIP)studygroupprincipalinvestigators:Guidelinesforusingverteporn(VisudyneR)inphotodynamictherapytotreatchoroidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegenerationandothers.Retina22:6-18,20025)尾辻剛,津村晶子,髙橋寛二ほか:自然経過観察中にclassic脈絡膜新生血管の所見を示したポリープ状脈絡膜血管症の検討.日眼会誌110:454-461,20066)正健一郎,永井由巳,有澤章子ほか:偽クラシック所見を示すポリープ状脈絡膜血管症,厚生労働科学研究研究費補助金難治性疾患克服研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究.平成17年度総括・分担報告書,p193-195,20067)日本ポリープ状脈絡膜血管症研究会:ポリープ状脈絡膜血管症の診断基準.日眼会誌109:417-427,20058)YannuzziLA,NegraoS,IidaTetal:Retinalangiomatousproliferationinage-relatedmaculardegeneration.Retina21:416-434,20019)GassJDM,AgarwalA,LavinaAMetal:Focalinnerreti-nalhemorrhagesinpatientswithdrusen.Anearlysignofoccultchoroidalneovascularizationandchorioretinalanas-tomosis.Retina23:741-751,200310)YannuzziLA,FreundKB,TakahashiBSetal:Reviewofretinalangiomatousproliferationortype3neovasculariza-tion.Retina28:375-384,2008(25)新糖尿病眼科学一日一課初版から7年,糖尿病の治療,眼合併症の診断,治療の進歩に伴い,待望の改訂版刊行!【編集】堀貞夫(東京女子医科大学教授)・山下英俊(山形大学教授)・加藤聡(東京大学講師)本書の初版が出版されて7年余がたった.この間に糖尿病自体の治療や合併症の診断と治療が大きく変遷し進歩した.ことに糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫の発症と進展に関与するサイトカインの研究が進展し,病態の解明が大きく前進した.これを踏まえて,発症と進展に関与する薬物療法の可能性を追求する臨床試験が進んでいる.一方で,視機能,ことに視力低下に直接つながる糖尿病黄斑浮腫の治療は,現時点で最も論議が活発な病態となっている.硝子体手術やステロイド薬の投与の適応と効果について,初版が出版された頃に比べると大きく見解が変化している.そして,糖尿病黄斑浮腫の診断に大きな効果を発揮する画像診断装置が普及した.(序文より)〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社Ⅰ糖尿病の病態と疫学Ⅱ糖尿病網膜症の病態と診断Ⅲ網膜症の補助診断法Ⅳ糖尿病網膜症の病期分類Ⅴ糖尿病網膜症の治療Ⅵ糖尿病黄斑症Ⅶ糖尿病と白内障Ⅷその他の糖尿病眼合併症Ⅸ網膜症と関連疾患Ⅹ糖尿病網膜症による中途失明糖尿病眼科における看護Ⅸ■内容目次■B5型総224頁写真・図・表多数収載定価9,660円(本体9,200円+税460円)

加齢黄斑変性の分子病態

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS液柵としてバリア機能を有するほか,視細胞と脈絡膜との間の栄養交換,視細胞外節の貪食,ビタミンA代謝,サイトカインの分泌などの多彩な役割をもつ.RPEと脈絡膜の間には無細胞構造物であるBruch膜があり,RPEと脈絡膜の間の物質拡散や接着を司る.脈絡膜は血管に富み,網膜外層に血液を供給する(図1).加齢黄斑変性ではRPEからBruch膜,脈絡膜にかけて病変が生じ,視細胞を傷害する.2.RPEの加齢変化RPEでは加齢に伴いリポフスチンとよばれる色素顆粒が増加する.RPEは不要な視細胞外節を貪食し,ライソソームにより消化する.加齢によってRPEの機能が低下すると,視細胞外節を消化しきれず,残渣としてリポフスチンが蓄積する.網膜は光刺激に常に曝され,酸素と光が同時に存在することで活性酸素の産生が促進されている.リポフスチンの主要成分である蛍光物質はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)にみられる脈絡膜血管新生は,分子病態の解析が臨床応用に直結した注目度の高い研究分野である.脈絡膜血管新生のような病理的血管新生をきたす疾患研究のブレークスルーは,血管内皮細胞の増殖を推進する中心的な分子,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の発見にあった.VEGF発見の前夜は,分子生物学的手法の進歩の黎明期に相当したため,血管新生疾患におけるVEGF研究は飛躍的に展開した.さらに,脈絡膜血管新生の動物モデルが光凝固により比較的簡便に作製できることは,AMDにおける血管病態の解析を加速させた.その結果,VEGF拮抗剤の中心窩脈絡膜血管新生を伴うAMDに対する臨床試験が行われ,光線力学的療法との併用による効果も期待されている.本稿では,AMDの代表的所見であるドルーゼン,脈絡膜新生血管の病態を特徴づける細胞・分子群を概説し,AMDの病態の理解を深めていきたい.I黄斑の構造・機能と加齢変化1.黄斑の機能と構造黄斑(maculalutea)は網膜の後方中央に位置する直径約5.5mmの領域である.黄斑には網膜視細胞が最も密に存在し,視力はおもに黄斑の機能に依存している.視細胞の後方には1層の網膜色素上皮細胞(retinalpig-mentepithelium:RPE)が存在する.RPEは外網膜血(9)1197orihiroagaiuuuIhida加齢16035加齢特集●加齢黄斑変性あたらしい眼科25(9):11971203,2008加齢黄斑変性の分子病態MolecularMechanismsofAge-RelatedMacularDegeneration永井紀博*石田晋**細胞メニン膜脈絡膜細血管図1RPEBruch膜脈絡膜付近の構造———————————————————————-Page21198あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(10)イトカインの分泌,補体の活性化が生じ,炎症によって生じた脂質や蛋白質などが崩壊産物に加わり,ドルーゼンが形成されると考えられている(図2b)3).形成されたドルーゼンは炎症機序をさらに加速する.ドルーゼンには補体小断片,アミロイドb,最終糖化産物(advancedglycationend-product:AGE)など多様な起炎物質が含まれており,ドルーゼン排除のため浸潤したマクロファージや近傍のRPEからVEGFを含む種々のサイトカインが放出される.こうして拡大した炎症は脈絡膜血管新生の形成の基盤となる.IV脈絡膜新生血管1.脈絡膜新生血管滲出型AMDの主要病態である脈絡膜新生血管は脈絡膜由来の血管がBruch膜の亀裂を越えて,RPE下や神経網膜下に異所性に侵入したものである.この未熟な血管網からの出血や脂肪を含んだ血漿成分の漏出が,神経A2Eは光刺激依存性に高度に酸化されて活性酸素を発生し,組織を傷害すると考えられている1).3.Bruch膜の加齢変化Bruch膜は加齢とともに脂質や細胞外基質などの沈着によって厚みを増す.組織学的にはRPEと基底膜の間(basallaminardeposit)や,基底膜とBruch膜の内側膠原線維層の間(basallineardeposit)の多形性物質としても観察される.このようなBruch膜の加齢変化によりRPEと脈絡膜の間の物質輸送,細胞接着などの機能が障害されると考えられる.IIAMDの病型臨床的および病理的所見から加齢黄斑変性は大きく萎縮型,滲出型の2病型に分類される.萎縮型AMDでは網膜色素上皮の萎縮,視細胞の変性,ドルーゼンの形成がみられる.滲出型AMDはより進行した病態で脈絡膜血管新生を特徴とする.IIIドルーゼン1.ドルーゼンとはAMDの初期病変としてドルーゼンがあげられる.ドルーゼンは糖蛋白,脂質,RPEの崩壊産物などからなる細胞外沈着物であり,RPEとBruch膜の間に形成される(図2a).眼底検査ではドルーゼンは黄白色斑として認められる.大きさから小型(直径63μm未満),中型(直径63124μm),大型(直径が124μmより大きい)に分類され,外観より辺縁の明瞭な硬性ドルーゼン,不明瞭な軟性ドルーゼンに分類される.検眼鏡的に大型のドルーゼンの直径は,およそ視神経乳頭縁の網膜静脈の直径と同等以上である.小型の硬性ドルーゼンは健康な高齢者にも存在するが,大型,多数の軟性ドルーゼンは滲出型AMDの有意なリスクとなる2).2.ドルーゼン形成には酸化ストレスと局所の炎症が関与リポフスチンや光による酸化ストレスによりRPEが傷害されると,その崩壊産物は色素上皮とBruch膜の間に蓄積し,局所的な炎症をひき起こす.この結果,サ視細胞外節リポフスチンリポフスチン(A2E)酸化ストレスRPEBruch膜の肥厚脈絡膜毛細血管板ドルーゼンマクロファージ浸潤ab加齢光補体活性化サイトカイン分泌RPEの変性RPEの崩壊産物炎症反応の亢進ドルーゼン図2ドルーゼンの模式図(a)と炎症を介した分子機序(b)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081199(11)VEGFであり,生理的・病理的どちらの血管新生もVEGFに依存する.VEGFは血管内皮細胞の分裂・増殖を促進するだけでなく,そもそも血管透過性因子(vascularpermeabilityfactor)として報告されたように血管透過性も亢進する.さらにVEGFは走化因子として炎症細胞である白血球を動員し,かつ血管内皮細胞の接着分子を誘導して白血球の接着を促進する炎症性サイトカインとしての機能も持ち合わせている(図4).したがって,VEGFを阻害することで抗血管新生作用だけでなく,抗炎症・抗血管透過性作用も得ることが期待できる.VEGFには5つのisoform(splicevariant)が存在し,眼内ではVEGF121とVEGF165がおもに産生される.血管内皮細胞には,VEGF受容体VEGFR-2が発現して網膜の機能を低下させる直接の原因となる(図3a).2.脈絡膜新生血管の分子・細胞メカニズム脈絡膜血管新生は,黄斑部網膜下の酸化ストレスから炎症性血管新生が惹起されて生じる.この炎症機序はVEGFを中心とするサイトカイン,補体系,炎症細胞,RPEなどさまざまな分子・細胞群のネットワークによって形成される(図3b).a.VEGF─血管新生を制御する中心的分子─血管新生とは,血管内皮細胞が遊走・分裂し管腔を形成するプロセスを指す.血管新生には,個体の正常発生・発育に不可欠な生理的血管新生と,加齢黄斑変性・糖尿病網膜症などの眼疾患や固形腫瘍などでみられる病理的血管新生がある.血管新生を制御する中心的分子がab酸化ストレス脈絡膜血管新生(炎症血管新生)光脈絡膜・RPEにおける炎症の亢進脈絡膜新生血管出血脂質沈着ドルーゼン加齢全身的背景サイトカインネットワーク補体の活性化PEDF発現低下マクロファージ浸潤VEGF発現亢進血管内皮・RPE・マクロファージの協調による病態形成図3脈絡膜血管新生の眼底写真(a)と分子機序(b)白血球(VEGFR-1)血管内皮細胞(VEGFR-2)走化因子として機能白血球の動員ICAM-1発現亢進白血球接着亢進内皮細胞の分裂・増殖血管新生血管透過性亢進炎症因子血管新生因子図4VEGFの作用———————————————————————-Page41200あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(12)による多様なサイトカイン分泌を介した相互作用の影響を受けながら分裂・増殖していく.リクルートされたマクロファージは炎症性サイトカインであるinterleukin-1b(IL-1b)やTNFaを分泌し,RPEにおけるVEGF産生を促すと考えられる.VEGFはそれぞれ,血管内皮細胞とRPEにおける結合組織増殖因子connectivetissuegrowthfactor(CTGF)産生を促し,脈絡膜血管新生の線維化に関与することが示唆された.疫学的研究では脈絡膜新生血管発症の危険因子となる炎症マーカーとしてIL-6が指摘された7).筆者らは,マウス脈絡膜血管新生モデルにおいてIL-6シグナルを阻害するとRPE・脈絡膜炎症とともに血管新生が抑制されることを示した8).このように脈絡膜血管新生では,血管内皮細胞・RPE・マクロファージが協調して炎症性血管新生の病態を進めていくと考えられる.d.補体系による脈絡膜血管新生の制御補体系は補体,補体受容体,補体制御因子など30数種類の蛋白質からなる自然免疫の一つである.補体系は古典経路,レクチン経路,副経路の3つの経路により活性化され,炎症細胞の炎症局所への動員,細胞溶解,走化因子の分泌,血管透過性の亢進などの炎症反応を誘導する.補体系の活性化は補体制御因子によってコントロールされており,補体制御因子が機能しないと補体系の恒常的な活性化によって炎症が亢進する.最近,いくつかの独立したグループが,1番染色体長腕(1q31)に位置する補体H因子遺伝子がコードするアミノ酸の402番の位置におけるチロシンからヒスチジンへの変異(Y402H)がAMDのリスクを上昇させることを報告した9).ヒトは父母由来の2つの対立遺伝子をもち,両親から同じ種類の遺伝子を引き継いでいる場合,ホモ接合とよばれ,異なる種類の遺伝子を引き継いでいる場合,ヘテロ接合とよばれる.これらの研究ではY402H変異がホモ接合の場合,3.37.4倍AMDのリスクを増大させると報告している.H因子は副次経路を抑制する補体制御因子であり,H因子の機能不全によってAMDの基盤となる炎症反応が増大すると考えられている.e.RPEによるantiangiogenicactivityRPEと網膜外層は,脈絡膜毛細血管板の窓構造(fen-estration)による血管透過性によって栄養されており,おり,VEGFの結合により内皮細胞の分裂を担うシグナル伝達がなされる.さらにVEGFR-2は,VEGF165isoformに特異的に結合するneuropilin-1という補助受容体と共発現し,VEGF165/VEGFR-2/neuropilin-1という複合体を形成すると,VEGF165によるVEGFR-2シグナルが増強され,angiogenicactivityが亢進する.このシステムの関与は糖尿病網膜症の線維血管増殖4)などで示されており,VEGF165欠損マウスでも網膜発生段階の生理的血管新生に影響しないことから,VEGF165はpathologicalisoformとして認識されている.現在,厚生労働省により販売認可(2008年7月)がなされた抗VEGFアプタマー(pegaptanib)は,VEGF165を標的に作製され,VEGF121に対する親和性はほとんど認められない薬剤である.抗VEGF中和抗体のFabフラグメント構造を基本にした蛋白製剤であるranibizumabはわが国では販売承認申請が行われている.b.脈絡膜血管新生を推進するRPEとマクロファージ系炎症細胞脈絡膜血管新生は,RPEとマクロファージを中心とした炎症細胞によって促進的に修飾される.脈絡膜新生血管モデルやヒト摘出脈絡膜新生血管膜において,これらの細胞にVEGFの発現が確認されている.VEGFシグナルの阻害により実験的脈絡膜新生血管が抑制された5)ことは,VEGFを標的とした治療戦略の妥当性を示すとともに,RPEとマクロファージが病態を制御していることを示唆している.マクロファージ系細胞はVEGF受容体VEGFR-1を有しているためVEGFそのものが走化因子として働く.さらに,RPEからマクロファージ系細胞の走化因子monocytechemotacticprotein-1(MCP-1)が分泌され,マクロファージがドルーゼン貪食のために動員されるが,その集積部位でVEGFを分泌して血管新生を促進する.マクロファージを薬剤で消去したマウスや,MCP-1受容体ノックアウトマウスにおいて実験的脈絡膜血管新生が抑制されたことから,脈絡膜血管新生はマクロファージに依存していることが示された6).c.炎症性サイトカインのネットワーク脈絡膜血管新生に関与する増殖因子はむろんVEGFだけではない.血管内皮細胞は,RPE・マクロファージ———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081201(13)(心筋梗塞,腎症など)にも関与することが解明されてきた.高血圧の原因となるRA系は循環RA系とよばれ,全身の血液中をRA系分子が循環するのに対し,臓器局所で活性化するRA系は組織RA系とよばれ,炎症病態に関与する(図6a).降圧薬であるRA系抑制薬は,最近は腎症などの臓器保護目的での適応拡大が注目されている.そこで筆者らは,AMDにおける組織RA系の関与を検討した.まず,AMD患者から手術的に採取した脈絡膜新生血管組織にRA系分子アンジオテンシンIIとその1型受容体(angiotensinIItype1receptor:AT1-R)が発現していることを見いだした(図6b)13).つぎに実験的脈絡膜新生血管モデルにおいてもRA系が活性化することを確認したうえでAT1-Rシグナル13),またはアンジオテンシン変換酵素(angiotensinconvertingenzyme:ACE)14)を阻害すると,VEGF,ICAM-1(intercellularadhesionmolecule-1)などの炎症関連分子の発現抑制を介して脈絡膜新生血管が縮小することを明らかにした.すなわちRA系は,高血圧のメカニズムに加えて,炎症機序を介して脈絡膜血管新生に関与する生理的血管透過性はRPEが分泌するVEGFによって維持されている.生理的状態で恒常的なVEGF分泌にもかかわらず血管新生が誘導されないことや,あるいは病理的状態でもRPEの囲い込みにより脈絡膜血管新生が抑制されることから,RPEによるanti-angiogenicactivityが想定されていた.この機序として強力な血管新生抑制因子である色素上皮由来因子(pigmentepithe-lium-derivedfactor:PEDF)の関与が報告された.RPEではPEDFがVEGFとともに産生され,両者のバランスによって網膜・脈絡膜血管の生理的恒常性が維持される.AMDの発症に関与する酸化ストレスは,RPEにおけるVEGF発現に影響を与えず,PEDF発現のみを抑制するため10),両者のバランスの乱れが脈絡膜血管新生の引き金となることが示唆される.一方,RPEの囲い込みによる血管新生抑制の機序としては,RPEによるPEDF分泌11)や,Fasリガンドを介した内皮細胞アポトーシス誘導が考えられている.f.黄斑色素ルテイン/ゼアキサンチンと脈絡膜新生血管ルテイン/ゼアキサンチンはカロテノイドとよばれる色素であり,食事により取り込まれると,黄斑のみに選択的に移行し黄斑の黄色い色素を構成する.ルテイン/ゼアキサンチンは青色光を吸収するフィルター機能のほか,視細胞外節に多く存在して抗酸化物質としてRPEを保護することが示唆されている.筆者らはルテインが,炎症性転写因子nuclearfactor(NF)-kBの活性化抑制を介し,VEGF,白血球走化因子,接着分子といった炎症関連分子の発現を抑制し,実験的脈絡膜新生血管を抑制することを明らかにした(図5)12).抗酸化物質はAMDの発症予防やサプリメントによる介入を考えるうえで重要であり,ルテイン/ゼアキサンチン摂取のAMDの進行に対する影響についての大規模臨床試験(AREDS-2)が米国で進行中である.g.レニン・アンジオテンシン系とAMDAMDの背景因子として高血圧・動脈硬化など生活習慣病の合併が指摘され,わが国における増加傾向は,単に高齢化社会というだけでなく,食生活の欧米化や運動不足など生活習慣からも説明されている.さて,レニン・アンジオテンシン(RA)系は全身の血圧調節システムであるが,生活習慣病による血管症としての臓器障害図5ルテイン投与による実験的脈絡膜新生血管の抑制(文献12より改変)Vehicle110ルテイン(mg/kgBW)CNV体積(×10-13m3)100Vehicle110ルテイン(mg/kgBW)100876543210**p<0.001**p<0.001———————————————————————-Page61202あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(14)的とし,それらの相加的な治療効果により,副作用も最小限にとどめる工夫も必要になるであろう.また脈絡膜血管新生だけでなく,ドルーゼンといった早期の病変に対する介入も必要である.より良い治療を目指して,AMDの分子病態解析のなおいっそうの進歩が期待される.文献1)SparrowJR,FishkinN,ZhouJetal:A2E,abyproductofthevisualcycle.VisionRes43:2983-2990,20032)KleinR,KleinBE,TomanySCetal:Ten-yearincidenceandprogressionofage-relatedmaculopathy:TheBeaverDameyestudy.Ophthalmology109:1767-1779,20023)AndersonDH,MullinsRF,HagemanGSetal:Aroleforlocalinammationintheformationofdrusenintheagingeye.AmJOphthalmol134:411-431,20024)IshidaS,ShinodaK,KawashimaSetal:CoexpressionofVEGFreceptorsVEGF-R2andneuropilin-1inprolifera-tivediabeticretinopathy.InvestOphthalmolVisSci41:1649-1656,20005)TakedaA,HataY,ShioseSetal:Suppressionofexperi-mentalchoroidalneovascularizationutilizingKDRselec-tivereceptortyrosinekinaseinhibitor.GraefesArchClinExpOphthalmol241:765-772,20036)SakuraiE,AnandA,AmbatiBKetal:Macrophagedepletioninhibitsexperimentalchoroidalneovasculariza-tion.InvestOphthalmolVisSci44:3578-3585,20037)SeddonJM,GeorgeS,RosnerBetal:Progressionofage-relatedmaculardegeneration:prospectiveassessmentofC-reactiveprotein,interleukin6,andothercardiovascularbiomarkers.ArchOphthalmol123:774-782,20058)Izumi-NagaiK,NagaiN,OzawaYetal:Interleukin-6receptor-mediatedactivationofsignaltransducerandactivatoroftranscription-3(STAT3)promoteschoroidalneovascularization.AmJPathol170:2149-2158,20079)KleinRJ,ZeissC,ChewEYetal:ComplementfactorHpolymorphisminage-relatedmaculardegeneration.Sci-ence308:385-389,200510)Ohno-MatsuiK,MoritaI,Tombran-TinkJetal:Novelmechanismforage-relatedmaculardegeneration:anequilibriumshiftbetweentheangiogenesisfactorsVEGFandPEDF.JCellPhysiol189:323-333,200111)OgataN,WadaM,OtsujiTetal:Expressionofpigmentepithelium-derivedfactorinnormaladultrateyeandexperimentalchoroidalneovascularization.InvestOphthal-molVisSci43:1168-1175,200212)Izumi-NagaiK,NagaiN,OhgamiKetal:Macularpig-mentluteinisantiinammatoryinpreventingchoroidalneovascularization.ArteriosclerThrombVascBiol27:2555-2562,2007病態システムであると考えられる.AT1-R拮抗薬やACE阻害薬は高血圧・動脈硬化といったAMDの全身的背景をも是正することができるため,炎症病態を支配するRA系関連分子は,AMDの予防医学的な新しい治療標的として期待される.おわりにAMDの中心的病態である脈絡膜血管新生は,臨床応用を視野に入れた研究対象として,その病態を制御する分子が次々に明らかにされた.特にVEGFの関与は重要視され,その阻害薬がわが国でも臨床応用されるに至った.しかしながら,生理的にも重要な役目を果たす分子を単一で強力に阻害すればするほど,長期的な副作用の面で注意が必要となる.上述のように脈絡膜血管新生のプロセスには複数のステップがあるため,将来的には,異なるステップに関与するさまざまな分子を治療標図6循環・組織RA系(a)とAMD患者の脈絡膜新生血管組織におけるAT1Rの発現(b)免疫組織化学染色にて血管内皮細胞にAT1-R発現がみられる(矢印).ba循環RA系(全身性)血圧調節高血圧リモデリング臓器障害組織RA系(臓器局所)AngiotensinogenAngiotensinIAngiotensinIIAngiotensinIAngiotensinIIAngiotensinogenReninACEACEChymaseActivatedprorenin25?m———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008120313)NagaiN,OikeY,Izumi-NagaiKetal:AngiotensinIItype1receptor-mediatedinammationisrequiredforchoroidalneovascularization.ArteriosclerThrombVascBiol26:2252-2259,200614)NagaiN,OikeY,Izumi-NagaiKetal:Suppressionofchoroidalneovascularizationbyinhibitingangiotensin-con-vertingenzyme:minimalroleofbradykinin.InvestOph-thalmolVisSci48:2321-2326,2007(15)お申込方法:おとりつけの,また,その便のない場合は直接社あて注文ください.メディカル葵出版あたらしい眼科Vol.26月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術Vol.22(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他毎号の【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他社〒1130033東京都文京区本郷2395片岡ビル5F振替00100569315電話(03)38110544://www.medical-aoi.co.jp

加齢黄斑変性の疫学

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSおよび生活様式や疾病構造が全国統計と差異がなく,わが国の平均的な集団を対象とした研究である.1998年からわれわれ九州大学眼科学教室はこの久山町研究に参加し,40歳以上の久山町全住民を対象に前向きな追跡調査を行い,AMDの有病率,発症率および危険因子を調査してきた.各国で行われているpopulation-basedstudyによる大規模疫学研究の結果と筆者らが行っている久山町研究の結果を比較検討しながら,AMDの疫学について概説する.以下の手順でAMDの疫学を理解していくとわかりやすい.1.AMDの国際分類.2.現在どれぐらいの患者がいるのか(AMDの有病率).3.どれぐらいの割合で患者が増加しているのか(AMDの発症率).4.どのような人がAMDにかかりやすいのか(AMDの危険因子).I加齢黄斑症(age-relatedmaculopathy)の分類Birdらは加齢に関連した黄斑の変化を加齢黄斑症(age-relatedmaculopathy:ARM)としてまとめ,国際分類を提唱し,初期と後期に分けた7).初期加齢黄斑症(earlyage-relatedmaculopathy:earlyARM)とは,はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は欧米をはじめとした先進国において成人の失明や視力低下の主原因となっており,近年わが国でも急速に増加傾向にある.今後高齢化社会に向けてますます患者数が増加することが予測される.ひとたび罹患すると視力を改善する有効な治療法がないために高齢者の視力障害の増加として大きな社会問題をひき起こす可能性がある.現時点においてこの疾患の最善の治療は予防であり,疾患の予防対策が今後さらに重要視されるであろうと予測される.AMDに関する疫学はその危険因子を明らかにし,発症を予防するのに役立つ.AMDの疫学を知るには一般住民を母集団とした研究(population-basedstudy)が有用である.ある程度大きな人口をもち,かつ人口の移動が少ない地区を対象に参加率の高い研究を行っている大規模疫学研究として,アメリカ合衆国のFraminghamEyeStudy1)やオーストラリアのBlueMountainEyeStudy2),オランダのRotterdamStudy3),西インド諸島バルバドスのBarbadosEyeStudy4)などが知られている.わが国においてAMDの疫学研究としてpopulation-basedstudyが行われているのは,福岡県久山町の一般住民を対象に行われている久山町研究5)や山形県舟形町6)の一般住民を対象に行われている舟形町研究がある.久山町研究は福岡市東部に隣接する人口約7,500人の都市近郊型農村地域で行われている追跡研究で,久山町の人口の年齢分布や職業構成(3)1191Mihoasuda学学学学811250118221学特集●加齢黄斑変性あたらしい眼科25(9):11911195,2008加齢黄斑変性の疫学EpidemiologyofAge-RelatedMacularDegeneration安田美穂*———————————————————————-Page21192あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(4)1.TheFraminghamEyeStudy1)アメリカ合衆国のマサチューセッツ州Framinghamで5285歳の住人2,477人を対象とし1977年に行われた研究である.人種はほとんどが白人種(Caucasian)であり,いわゆるupper-middleclassの住民が対象となっている.この研究では初期加齢黄斑症(earlyARM)と後期加齢黄斑症(lateARM)のうち脈絡膜新生血管を伴う滲出型AMD(wettype)を合わせてAMDの有病率として報告している.そのため結果の数字はいずれも高く算出されているが,その結果は男性6.7%,女性10.3%であり,女性の有病率が有意に高く,男女合わせた有病率は8.8%であった.年齢階級別の有病率は5264歳で1.6%,6574歳で11.0%,7585歳で27.9%となっており,年齢の増加に伴って有意に有病率が増加する傾向がみられている.2.TheBlueMountainEyeStudy2)オーストラリア,ニューサウスウェールズのBlueMountainsで,49歳以上の住人3,654人を対象とし,1995年に行われた研究である.人種は99%がCauca-sianであった.この研究では後期加齢黄斑症(lateARM)いわゆるAMDの有病率は1.9%であった.またAMDのうち両眼性はおよそ60%,片眼性は40%であったと報告している.この結果から片眼性に比較して両眼性が多いことが示された.この研究でのAMDの年齢階級別の有病率は5564歳で0.2%,6574歳で0.7%,7584歳で5.4%,85歳以上で18.5%となっており,FraminghamEyeStudy1)と同様に加齢に伴って有意に有病率の増加がみられている.ドルーゼンや網膜色素上皮の色素異常(hyperpigmenta-tion,hypopigmentation)などがみられるもので,後期加齢黄斑症(lateage-relatedmaculopathy:lateARM)がいわゆるAMDを指す.後期加齢黄斑症(lateARM)は,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が関与する滲出型(wetAMD)と,CNVが関与せず網膜色素上皮や脈絡膜毛細血管の地図状萎縮病巣を認める萎縮型(dryAMD)に分類される.滲出型(wetAMD)の定義は,網膜色素上皮離,網膜下および網膜色素上皮下新生血管,網膜上および網膜内および網膜下および色素上皮下にフィブリン様増殖組織の沈着,網膜下出血,硬性滲出物などのいずれかを伴うものとされている.萎縮型(dryAMD)の定義は,脈絡膜血管の透見できる円形および楕円形の網膜色素上皮の低色素および無色素および欠損部位で少なくとも175μm以上の直径をもつもの(30°あるいは35°の眼底写真において)とされている.まれに,地図状萎縮から新生血管が発生する場合がある.これらの国際分類に従って,有病率や発症率は算出されている.II現在どれぐらいの患者がいるのか?(加齢黄斑変性の有病率)Population-basedstudyに基づいた加齢黄斑変性の有病率を報告しているおもな研究の対象の詳細については表1に示す.AMDの定義や背景因子が異なることから一概には比較できないことに注意が必要である.表1Populationbasedstudyによる加齢黄斑変性(AMD)の有病率研究対象人数(人)対象年齢(歳)AMDの有病率(%)男性女性合計FraminghamEyeStudy(米国)*2,47752856.710.38.8RotterdamEyeStudy(オランダ)**6,251551.41.91.7BlueMountainsEyeStudy(豪州)3,654551.32.41.9BarbadosEyeStudy(西インド諸島,黒人)3,444400.30.90.6久山町研究(福岡,日本)1,844501.70.30.9*初期加齢黄斑変性(earlyARM)とAMDの両方を含む.**wettypeAMDのみ.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081193(5)ー眼底写真による眼底検査が施行されAMDの程度別分類と有病率の調査が行われた.その結果,AMDの有病率が0.9%であり,おおよそ100人に1人の頻度であった.AMDのうち,脈絡膜新生血管を伴う滲出型(wettype)AMDの有病率が0.7%,地図状萎縮病巣を認める萎縮型(drytype)AMDの有病率が0.2%であった.日本人においても滲出型(wettype)AMDが萎縮型(drytype)AMDよりも多くみられた.また日本人においては滲出型(wettype)AMDの有病率は女性に比べて男性に有意に高い傾向が認められた.年齢階級別および性別の滲出型と萎縮型AMDの頻度を表2に示す.欧米のpopulation-basedstudyによる報告では,加齢黄斑変性の有病率および発症率は女性に多いと報告しているものが多く,わが国で男性のほうが女性より有意に有病率が高いということは非常に興味深い.さらにわが国のAMDの有病率を欧米の結果と比較してみると,日本人では白人より少なく黒人より多いことが推定される.これらの人種差の原因は明らかではないが,遺伝的な要因や環境因子によるものと考えられている.IIIどれぐらいの割合で患者が増加しているのか?(加齢黄斑変性の発症率)つぎにpopulation-basedstudyに基づいた前向きコホート研究において対象住民を追跡調査して加齢黄斑変性の発症率を報告しているおもな研究を紹介し,発症率について検討する(表3).3.RotterdamStudy3)オランダ,ロッテルダムのOmmoord在住で55歳以上の住民6,251人を対象とし,1995年に行われた研究である.この研究では,後期加齢黄斑症(lateARM)のうち脈絡膜新生血管を伴う滲出型(wettype)AMDの有病率が1.7%であったと報告されている.年齢階級別の滲出型(wettype)AMD有病率は5564歳で0.2%,6574歳で0.8%,7584歳で3.7%,85歳以上で11.0%となっており,加齢に伴って有意に有病率の増加がみられている.後期加齢黄斑症(lateARM)いわゆるAMDにおいては地図状萎縮を認める萎縮型より滲出型(wettype)AMDの占める割合が高いことも示された.4.BarbadosEyeStudy4)西インド諸島バルバドスで出生し在住している4080歳の黒人住民3,444人を対象として行われた研究である.この研究では後期加齢黄斑症(lateARM)いわゆるAMDの有病率は0.6%であった.このうち男性の有病率は0.3%,女性の有病率は0.9%で有意に女性の有病率が高い傾向がみられた.欧米の白人を対象とした研究と比較するとAMDの有病率は黒人では低いことが示された.5.久山町研究(TheHisayamaStudy)8)福岡県久山町で,1998年に50歳以上の1,486人を対象として両眼散瞳下で倒像検眼鏡,細隙灯顕微鏡,カラ表2年齢階級別および性別の滲出型と非滲出型加齢黄斑変性(AMD)の頻度:久山町研究(1998)─AMDの2つのタイプである滲出型と非滲出型(萎縮型)の頻度を年齢別,男女別に示す─年齢(歳)男性女性男女込み人数(人)頻度(%)人数(人)頻度(%)人数(人)頻度(%)滲出型AMD505915502850.74400.560692311.73340.35650.970791801.121103910.580以上323.1580901.1合計5971.28890.31,4860.7非滲出型AMD505915502850440060692310.933405650.4707918002110391080以上323.1580901.1合計5970.588901,4860.2———————————————————————-Page41194あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(6)EyeStudyの結果とほぼ同様であり差はみられなかった.この結果から,最近5年間の日本人のAMDの発症率は,ほぼ欧米並みであることが示された.IVどのような人がAMDにかかりやすいのか?(加齢黄斑変性の危険因子)AMDの危険因子としては,加齢,皮膚弾性線維変性,高血圧,喫煙,紫外線,血清ビタミンおよび亜鉛の低値,遠視,虹彩低色素,白内障,中心性漿液性網脈絡膜症の既往など,多数のものが報告されている.しかし,共通して指摘されているのは喫煙のみであり,他の因子は報告により異なっている.前述のRotterdamStudyとBlueMountainsEyeStudyにおいても喫煙は危険因子とされ,禁煙しても禁煙期間が20年未満の場合はリスクを減少させることはできないと報告されている.米国の看護師を対象にしたprospectivestudyおよび医師を対象にしたprospectivestudyでも喫煙はAMD発症の危険因子であり,総喫煙量が多いほどそのリスクが増すことが報告されている.日本人を対象にしたcase-1.TheBeaverDamEyeStudy9,10)アメリカ合衆国のウィスコンシン州BeaverDamで4386歳の住人4,926人を対象とし1988年から1990年にベースライン時の調査を行い,その5年後,10年後に追跡調査を行った研究である.この研究ではAMDの累積5年発症率は0.9%,累積10年発症率は2.1%と報告している.年齢の増加に伴って発症率は有意に増加した.また75歳以上では男性に比べて女性に高率に発症する傾向がみられた.さらに軟性ドルーゼンや網膜色素上皮の色素異常がある部位は脈絡膜新生血管を伴う滲出型(wettype)AMDや地図状萎縮病巣を認める萎縮型(drytype)AMDを有意に発症しやすいことが明らかにされた.2.TheBlueMountainEyeStudy11)オーストラリア,ニューサウスウェールズのBlueMountainsで,49歳以上の住人2,335人を対象とし,1992年から1994年にベースライン時の調査を行い,その5年後に追跡調査を行った研究である.この研究の結果,AMDの累積5年発症率は1.1%であった.これらの発症率はTheBeaverDamEyeStudyの結果とほぼ同様であり差はみられなかった.また,年齢の増加に伴って発症率は有意に増加し,脈絡膜新生血管を伴う滲出型(wettype)AMDは男性に比べて女性に2倍高率に発症する傾向がみられた.3.久山町研究(TheHisayamaStudy)12)福岡県久山町で,50歳以上の住人1,475人を対象とし,1998年にベースライン時の調査を行い,その5年後に追跡調査を行った研究である.この研究の結果,AMDの累積5年発症率は0.8%であった.年齢階級別および性別5年発症率を図1に示す.これらの発症率はTheBeaverDamEyeStudyやTheBlueMountain表3Populationbasedstudyによる加齢黄斑変性(AMD)の5年発症率研究対象人数(人)対象年齢(歳)AMDの5年発症率(%)BeaverDamEyeStudy(米国)4,92643860.9BlueMountainsEyeStudy(豪州)2,335491.1久山町研究(福岡,日本)1,475500.8図1加齢黄斑変性(AMD)の年齢階級別および性別5年発症率:久山町研究(19982003)AMDの5年間の発症率を男女別にグラフで示す.男性は年齢とともに発症率が有意に増加している.:男性:女性50596069年齢(歳)累積5年発症率(%)70798002468———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081195(7)文献1)KiniMM,LeibowitzHM,ColtonTetal:Prevalenceofsenilecataract,diabeticretinopathy,senilemaculardegen-eration,andopen-angleglaucomaintheFraminghameyestudy.AmJOphthalmol85:28-34,19782)MitchellP,SmithW,AtteboKetal:Prevalenceofage-relatedmaculopathyinAustralia.TheBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology102:1450-1460,19953)VingerlingJR,DielemansI,HofmanAetal:Thepreva-lenceofage-relatedmaculopathyintheRotterdamStudy.Ophthalmology102:205-210,19954)SchachatAP,HymanL,LeskeMCetal:Featuresofage-relatedmaculardegenerationinablackpopulation.TheBarbadosEyeStudyGroup.ArchOphthalmol113:728-735,19955)OshimaY,IshibashiT,MurataTetal:PrevalenceofagerelatedmaculopathyinarepresentativeJapanesepopula-tion:theHisayamastudy.BrJOphthalmol85:1153-1157,20016)KawasakiR,WangJJ,JiGetal:Prevalenceandriskfac-torsforage-relatedmaculardegenerationinanadultJap-anesepopulation:TheFunagataStudy.Ophthalmology,inpress,20087)MiyazakiM,NakamuraH,KuboMetal:RiskfactorsforagerelatedmaculopathyinaJapanesepopulation:theHisayamastudy.BrJOphthalmol87:469-472,20038)BirdAC,BresslerNM,BresslerSBetal:Aninternationalclassicationandgradingsystemforage-relatedmaculop-athyandage-relatedmaculardegeneration.TheInterna-tionalARMEpidemiologicalStudyGroup.SurvOphthal-mol39:367-374,19959)KleinR,KleinBE,JensenSCetal:Theve-yearinci-denceandprogressionofage-relatedmaculopathy:theBeaverDamEyeStudy.Ophthalmology104:7-21,199710)KleinR,KleinBE,TomanySCetal:Ten-yearincidenceandprogressionofage-relatedmaculopathy:TheBeaverDameyestudy.Ophthalmology109:1767-1779,200211)MitchellP,WangJJ,ForanSetal:Five-yearincidenceofage-relatedmaculopathylesions:theBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology109:1092-1097,200212)MiyazakiM,KiyoharaY,YoshidaAetal:Theve-yearincidenceandriskfactorsforagerelatedmaculopathyinageneralJapanesepopulation:theHisayamastudy.InvestOphthalmolVisSci46:1907-1910,2005controlstudyにおいても喫煙と滲出型AMDの関連が指摘されている.喫煙は活性酸素を増加させ,脂肪の過酸化を促進するとともに,脈絡膜の血液循環にも影響を及ぼし,黄斑部の変性を生じやすくなると考えられている.日本人のpopulation-basedcohortstudyである久山町研究12)においても日本人におけるAMDの危険因子を調査しており,その結果が表4である.久山町研究の結果から,日本人では加齢,男性,喫煙が有意な危険因子であることが明らかになっている.AMDの予防のためにはぜひ禁煙の重要性を啓蒙する必要がある.おわりに久山町研究の結果では,AMDの頻度が0.9%であり,2001年度の日本人50歳以上の総人口に換算すると,AMD患者は43万人にものぼることが推定される.わが国では今後かつてない超高齢化社会を迎え,AMD患者数はさらに増加することが予想される.わが国においては久山町研究のような大規模住民研究の追跡データが少なく,欧米のデータを参考とすることはできるが,欧米での研究を参考とするには人種が異なる.効率的な発症予防,進展予測のためにもこのような大規模住民研究が必須であり,さらなる追跡調査が望まれる.表4加齢黄斑変性(AMD)発症に関連する危険因子の多変量解析結果:久山町研究(19982003)危険因子オッズ比95%信頼区間年齢1.041.011.07*喫煙2.221.144.33**p<0.05.AMDの発症に関連する危険因子を多変量解析すると,AMDの発症に関連するものは年齢と喫煙であった(年齢,性別,高血圧,糖尿病,高脂血症,喫煙,飲酒,BMI,白血球数の因子で調整).

序説:加齢黄斑変性-最新の情報と今後の展望

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSは定期的にこれまでも加齢黄斑変性について特集を企画し,その時点での現状と問題点を整理して提示することを行ってきた.本特集は2008年のup-to-dateの情報をまとめて提示する構成となっている.すなわち,1)病態研究:疫学研究として貴重なデータを発表してきた久山町研究についての最新のデータを安田美穂先生(九州大学)にご紹介いただいた.また,近年の血管生物学の進歩に,炎症などの生体反応,さらに遺伝子検索の結果を加えて分子病態の研究は長足の進歩がみられる.この成果を永井紀博先生・石田晋先生(慶應義塾大学)に解説をいただいた.2)診断の進歩:眼底疾患の画像解析については,蛍光眼底造影,光干渉断層検査(OCT)の技術革新と機器の開発により,多面的に加齢黄斑変性をとらえることができるようになってきた.われわれ眼科医の加齢黄斑変性という疾患についての理解はこのような診断技術の進歩により深まり,治療戦略の策定に大きな貢献をしている.この分野でのわが国の第一人者である,髙橋寛二教授(関西医科大学枚方病院),丸子一朗先生・飯田知弘教授(福島県立医科大学)にわかりやすい画像データを提示しての解説をいただいた.3)治療法の進歩と検証:上記の進歩を踏まえて近年の治療技術の進歩には目覚ましいものがある.2006年の厚生労働科学研究「厚生労働省難治性疾患克服研究事業網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究班」の報告書(主任研究者:石橋達朗九州大学教授)の「わが国における視覚障害の現状」(中江公裕,増田寛次郎,妹尾正,小暮文雄,澤充,金井淳,石橋達朗)によると,20012004年の身体障害者手帳による検討で視力障害の原因のうち,加齢黄斑変性などの黄斑変性症は第4位(視力障害者の9.1%)となっていた.これは1988年における同様の研究での第6位(5.0%)よりわずか20年にも満たない間に倍増がみられたことになる.日本緑内障学会が岐阜県多治見市で行った多治見研究によってもWHO(世界保健機関)基準での視力低下(6/18=0.3未満)の6.6%に及ぶ.欧米において,Caucasianにおける多くの疫学研究では,視力障害の原因は加齢黄斑変性が最も多いとの統計結果があり,生活習慣の欧米化に伴ってわが国でも加齢黄斑変性がますます視力障害の原因として増加することが予想される.加齢黄斑変性の治療戦略としては,疫学研究,分子病態,診断技術のそれぞれの進歩と相互の緊密な連携に基づいて多くの成果がここ数年にあげられ,臨床的なデータも急速に蓄積されつつある.数年前までは患者への説明に窮していた状態からの見違えるような進歩ともいえる.「あたらしい眼科」誌で(1)1189情報●序説あたらしい眼科25(9):11891190,2008加齢黄斑変性最新の情報と今後の展望StateoftheArtandNewHorizonofAge-RelatedMacularDegeneration山下英俊*石橋達朗**———————————————————————-Page21190あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(2)の知見をご紹介いただいた.以上を読むと,加齢黄斑変性が疾患の進行を阻止することが治療のエンドポイントであった時代から進化し,視力予後をなるべく良くして,さらに疾患のactivityを抑制するという治療目標を設定できるようになった医学の進歩を実感できる.ただ,「わが国における視覚障害の現状」のデータにもあるように,視力障害の原因として黄斑疾患の頻度は増加しており,今後のさらなる基礎医学,臨床医学の共同した発展により加齢黄斑変性による社会的な失明が減少し,長寿社会を迎えつつある日本で生涯にわたる高い視覚の質(qualityofvision)を保つ眼科学の新しい展開が切に望まれている.本特集が現時点での日本における加齢黄斑変性診療に必要な情報のsynopsisを提供しつつ,今後のこの分野の発展に少しでも寄与できれば望外の幸である.光凝固(光線力学的療法:PDT)のみならず,分子病態の研究から血管内皮細胞の増殖,血管新生を促進する血管内皮増殖因子(VEGF)の抑制薬の開発と臨床応用が加齢黄斑変性およびその関連疾患の治療を有効で安全なものにしてきた.これら治療法の現時点での効果とその問題点に関して,PDTについては土谷大仁朗先生・山本禎子先生(山形大学)に,薬物治療については澤田智子先生・大路正人教授(滋賀医科大学)に解説をお願いした.また,ポリープ状脈絡膜血管症(PCV),網膜内血管腫状増殖(RA),近視性脈絡膜新生血管などの加齢黄斑変性関連疾患の治療をまとめて鈴木三保子先生・五味文先生・瓶井資弘先生(大阪大学)に解説をしていただいた.これらの治療の検証が大切な時期になっているが,さらに,治療の最終目的である患者視機能の面からの治療成果の検証について藤田京子先生・湯澤美都子教授(駿河台日本大学病院)に最新

コンパクトデジタルカメラを用いた眼所見の写真撮影の試み

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(131)11770910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11771181,2008cはじめに今日では,眼科分野におけるデジタル画像撮影装置の開発により,眼科疾患をデジタル画像として撮影することが容易となり,病状の記録,患者への説明,専門医や指導医へのコンサルトなどが比較的容易に可能となっている.一方,そのようなデジタル画像撮影装置は高価でありすべての病院に普及しているとは言い難い.今回筆者らは,市販のコンパクトデジタルカメラを用いて細隙灯顕微鏡による眼疾患の観察像の撮影を行い,その有用性を検討した.I対象および方法対象は種々の眼疾患を有し,京都府立医科大学附属病院およびその関連病院の眼科外来を受診した患者である.今回,汎用のコンパクトデジタルカメラであるIXYDigital700R(Canon社)を用いて,種々の眼科疾患を撮影し,専用の画像撮影装置であるSL-D7R(TOPCON社)による撮影との比較を行った.IXYDigital700Rによる撮影は,細隙灯顕微鏡の接眼レンズ越しに行った.角膜病変については広範照明法とフルオレセイン染色を用いた蛍光撮影を行い,網膜病変に関しては前置レンズを併用して撮影した.いずれの撮影においても,通常の眼科診療用の暗室にて,デジタルカメラの角度を調節することによって角膜反射が生じない角度で,フラッシュを用いない接写モードにて撮影を行った.また,細隙灯の接眼部を支えとしてカメラのレンズ部分を固定させることにより手ぶれを防止した(図1).IXYDigital700R,SL-D7Rによるすべての撮影は眼科臨床経験が1年未満の当院の眼科レジデントが行った.撮影条件として画素数はSL-D7Rが79万画素であるのに対し,IXYDigital700Rは31万画素から708万画素までの範囲で選択した.カメラの撮像素子はIXY〔別刷請求先〕荻田利津子:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学Reprintrequests:RitsukoOgita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefectualUniversityofMedicine,465Hirokouji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyou-ku,Kyoto602-0841,JAPANコンパクトデジタルカメラを用いた眼所見の写真撮影の試み荻田利津子小泉範子奥村直毅木下茂京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学NewlyDiscoveredMethodofPhotographingEyeAspectsthroughSlit-LampBiomicroscopeUsingCompactDigitalCameraRitsukoOgita,NorikoKoizumi,NaokiOkumuraandShigeruKinoshitaDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine細隙灯顕微鏡による眼所見の観察像を,汎用のコンパクトデジタルカメラを用いて撮影することが可能であった.特に,外眼部,前眼部,中間透光体の病変に対しては臨床上有用な画像が得られた.コンパクトデジタルカメラによる撮影を行うことで,専用の画像撮影装置の設備がない病院でも患者の所見を記録することが可能であり,遠隔地の病院においても指導医,専門医へのコンサルトが容易に行えると考えられた.Werecentlydiscoveredamethodofusingacompactdigitalcameratophotographeyeaspectsthroughaslit-lampbiomicroscope.Thismethodisespeciallyusefulforphotographingtheocularsurface,media,fundusandextraocularndings.Thisenablesphotographicrecordingofobservations,eveninahospitalorclinicthathasnoprofessionalcamera-equippedophthalmologicalinstruments.Inaddition,thismethodisofpotentiallygreatbenetforophthalmologistsworkinginremoteruralareas,asthedigitalimagescanbequicklyandeasilytransferredelectronicallytosuperiorsandspecialistsforconsultationondicultdiseasesorcases.Thisimportantnewdiscov-eryisexpectedtocontributegreatlytotelemedicine,aswellastoremoteregionalmedicalservices.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11771181,2008〕Keywords:遠隔医療,地域医療,遠隔画像診断,コンパクトデジタルカメラ.telemedicine,regionalmedicalservice,remotemedicalimagingdiagnosis,digitalcamera.———————————————————————-Page21178あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(132)Digital700R,SL-D7Rともに1/1.8型CCDであった.撮影した写真は,当院の眼科専門医がIXYDigital700Rにより得られた写真とSL-D7Rによる写真とを,外眼部,前眼部,中間透光体,眼底の各項目について通常の写真で用いられることの多いLサイズに印刷した場合と,15インチの液晶ディスプレイ(1,024×768ピクセル)に全画面で表示した場合のおのおのについて得られる臨床所見を比較し評価した.さらに,コンパクトデジタルカメラを用いた撮影における臨床上有用と考えられる画素数について検討するためIXYDigital700Rの最高画質である708万画素で撮影した画像と,31万画素で撮影した画像を比較した.II結果市販のIXYDigital700Rを用いて細隙灯顕微鏡下に観察した外眼部,前眼部,中間透光体,眼底を撮影することができた(図2).同品によるフルオレセイン染色を用いた前眼部の病変の蛍光撮影も可能であり,角膜びらんによる広範な染色像から,点状表層角膜症における微細な染色像まで撮影が可能であった(図3).つぎに,IXYDigital700Rにより得られた画像を,専用の前眼部画像撮影装置であるSL-D7Rで撮影したものと比較すると,Lサイズに印刷した場合,ディスプレイに全画面表示した場合ともに,外眼部,前眼部,中間透光体の撮影において画像から把握可能な臨床情報は同等であり,画像の鮮明さ,明るさ,焦点深度についても臨床上問題となる劣化を認めなかった(図4).IXYDigital700Rにより得られた画像において,たとえば外眼部では眼瞼腫瘍や眼瞼炎の性状や範囲,前眼部では角膜潰瘍や角膜混濁などの性状や範囲や角膜への新生血管,中間透光体では白内障,後混濁の程度,硝子体混濁の有無を把握することができた.眼底の撮影は,前図1撮影方法a:細隙灯顕微鏡の接眼レンズ越しに撮影.眼底の撮影には前置レンズを併用.b:カメラのレンズ部分を,細隙灯の接眼部を支えとし固定させ手ぶれを防止.フラッシュなし,接写モードにて撮影.baa:角膜感染症.b:角膜移植後(移植片不全).c:Avellino角膜ジストロフィ.d:結膜下出血.e:角膜潰瘍.f:YAGレーザー後の眼内レンズ損傷.abcdef図2コンパクトデジタルカメラによる前眼部撮影写真例———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081179(133)置レンズを固定する必要があるため撮影の難度が上がり,眼底専用の撮影装置に比べ撮影範囲が限られるが,たとえば網膜裂孔,視神経乳頭など部位を特定しての撮影は可能であった.さらに,コンパクトデジタルカメラの画素数による解像度を,IXYDigital700Rの31万画素と708万画素で撮影し比較したところ,得られる所見に大きな差は認められなかった(図5).図3コンパクトデジタルカメラによるフルオレセイン染色を用いた前眼部写真例テニスボールによる角膜擦過症の一例.病変像の把握が可能である.図4専用の画像撮影装置との比較専用の撮影装置による撮影画像(上段)と比較して,コンパクトデジタルカメラによる撮影画像(下段)から得られる把握可能な臨床情報量は同程度であった.図5コンパクトデジタルカメラの画素数による写真画質の違いa:3,072×2,304画数(708万画素),b:640×480画数(31万画素).Lサイズの写真上では,ともに眼所見の把握が可能である.ab———————————————————————-Page41180あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(134)III考按今回,筆者らは汎用のコンパクトデジタルカメラを用いて細隙灯顕微鏡下の眼所見をデジタル画像として撮影することが可能であり,特に前眼部に関しては眼病変の所見把握に十分有用な撮影が可能であることを示した.今日のデジタル技術の進歩に伴い,医療業界においても医療情報のデジタル化が急速に進んでいる.電子カルテによる患者情報の管理や,オーダリングシステムによる病院運営など医療情報のデジタル化による医療の効率化,省スペース化といった医療業務の改善例は枚挙にいとまがない.さらに,医療情報のデジタル化による多施設間での情報の共有も一般的となりつつあり,特に遠隔診断で有用に用いられている.遠隔診断を早くから日常診療に取り入れた放射線科や病理組織学をはじめとし1,2),脳外科3),小児科4,5),救急医療6),検診7)に至るまで,画像を利用した遠隔診断の有用性が多数報告されている.さらに頭部外傷の診療でテレビ電話によるリアルタイム遠隔診断が有用であった報告8),腹部疾患の救急診療において電子メールで画像を共有することで遠隔診断を行い救命可能となった報告9)など,検査情報のデジタル化による汎用性の拡大による遠隔医療に対するメリットは多大であると考えられる.眼科診療においても専用のデジタル画像撮影装置の開発により眼科疾患をデジタル画像として撮影することができ,診療経過の記録や患者への説明,専門医へのコンサルトなどに一般的に用いられている.遠隔診療という観点からは,眼科診療では医師が観察する他覚的所見や画像情報が非常に有用であり,なかでも前眼部疾患の多くが細隙灯顕微鏡を用いて診断に至ることを考えると,眼科は遠隔医療を行いやすい要素をもつ診療科であると考えられる.一方,専用のデジタル画像撮影装置は高価でありすべての病院に普及しているとは言い難く,特に小規模病院,診療所,さらには遠隔地の医療機関ではそうした撮影装置を所有していない診療施設も多い.筆者らが本報告で行った市販のコンパクトデジタルカメラを用いた撮影法では,外眼部,前眼部,中間透光体において臨床上診断に過不足ない画像を熟練者でなくても容易に得ることができた.コンパクトデジタルカメラによる31万画素,79万画素,708万画素での撮影を,臨床上用いられることが多いと考えられる条件であるLサイズに印刷またはディスプレイに表示して得られる臨床所見は,専用のデジタル画像撮影装置と比較して同程度であった.一般にカメラによる撮影では,1画素当たりの撮像素子面積が大きいほど受光量に余裕が生じ写真の画質が向上するため,画質に関しては最終的に表示するサイズに応じて,各撮影機器のもつ撮像素子に適切な画素数の選択を行うことが望ましい.本報告で比較を行ったLサイズへの印刷やディスプレイへの表示の場合,撮影時の画素数にかかわらず一定以上のデータは間引かれることが撮影時の画素数に影響せず同程度の臨床所見が得られた理由と考えられた.この方法により,専用の画像撮影装置の設備がない病院でも画像情報を汎用性のあるデジタルデータとして低コストで容易に得ることができる.インターネット回線を用いてデジタルデータのやりとりを行ううえでのデータ容量に関しては,眼科診療で有用な画質を維持できる圧縮法や,公衆回線を使用して伝送することが可能でかつNTSC(NationalTelevisionSystemCommittee)レベルの解像度をもつ眼科立体動画像の圧縮法について報告10)されている.筆者らがコンパクトデジタルカメラを用いて撮影した画像の容量は,31万画素では約100キロバイト,708万画素では約1.0メガバイトとなり,ともに現在一般的となったといえるインターネットブロードバンドを介してのデータの授受が可能であり,個々あるいは施設間での情報交換の場合においても有効に利用しうると考えられた.これにより指導医や専門医へのコンサルトや,眼科医のいない地域におけるプライマリケアへの応用についても十分期待でき,地域医療格差是正や医療費の低減に役立つことも予想された.一方,広く普及した画像撮影装置として,コンパクトデジタルカメラ以外に撮影装置機能付きの携帯電話があげられるが,その携帯電話に付属したメール機能を利用することで即座に送信しリアルタイムのコンサルトが可能という点で優れており,携帯電話機種の改良により今後将来に大きな期待がもてる.インターネットを介した医療情報の共有による遠隔医療は,インターネットの普及によりさらに一般的になることが予想されるが,個人情報保護に関して配慮が必要とされる.高誠11)らは,遠隔地画像診断のための医用画像の個人情報遮蔽と暗号化を行うことで医用画像や個人情報の第三者への漏洩を防止できるシステムの構築を試みている.医療情報の漏洩防止に十分な配慮を行うことにより,眼科領域における遠隔医療のさらなる発展が期待される.文献1)南浩二,青木洋三,嶋田浩介ほか:わが施設のIT戦略遠隔術中迅速病理診断の有用性.地域医療42:44-48,20042)川村直樹,吉田由香里,酒井一博ほか:インターネットを利用した遠隔細胞診の診断成績と課題.日本臨床細胞学会雑誌43:205-213,20043)村上謙介,富田隆浩,松本乾児ほか:脳神経外科領域における画像電送システムによる遠隔医療地域医療,患者サービスの向上にむけて.青森県立中央病院医誌49:90-91,20044)原田潤太:病診連携を活性化する「画像の連携」.小児科診療66:197-201,20035)市川光太郎,山田至康,田中哲郎:小児救急医療における———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081181(135)遠隔医療システムの実験双方向かつリアルタイムの動画像・音声伝送システムの応用.小児科臨床55:995-1001,20026)瀧健治,加藤博之,平原健司:プレホスピタルケアにおける画像伝送システムの有用性.日本救命医療学会雑誌15:99-106,20017)滝沢正臣,村瀬澄夫:日本における遠隔医療のあゆみと課題なぜ実用期に入れないのか.医学のあゆみ200:783-787,20028)WatanabeAtsushi:山岳地帯の冬季スポーツにより持続性頭部損傷を受傷した患者に対するテレビ電話によるリアルタイム遠隔診断の有用性.医療情報学23:215-222,20039)江副英理,伊藤靖,山直也ほか:遠隔地域からのEメールを用いた画像伝送ならびに救急車からの救急現場画像伝送システムについて.日本腹部救急医学会雑誌26:611-616,200610)畠山修東,林弘樹,三田村好矩ほか:眼科遠隔医療支援のための立体動画像伝送システムの開発新圧縮アルゴリズム及び立体視パラメータの検討.電子情報通信学会技術研究報告(MEとバイオサイバネティックス)101:43-46,200111)高誠治郎:遠隔地画像診断のための医用画像の個人情報遮蔽と暗号化の試み.近畿大学医学雑誌26:259-267,2001***

急性内斜視の2症例

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(127)11730910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11731176,2008cはじめに急性内斜視は,複視の自覚とともに突然発症する共同性の内斜視として知られており,比較的まれな内斜視の一つである.vonNoordenは急性内斜視を人工的な融像の遮断により発症するTypeⅠ(Swantype)と,発症原因が不明のTypeⅡ(Burian-Franceschettitype),頭蓋内病変によるTypeⅢの3つに分類している1).Burianらも急性内斜視を3つに分類している.1型は融像を人工的に中断させて起こるもの,2型(Franceschettietype)は明らかな原因は不明のもの,3型(Bielschowskytype)は5.00D以上の近視を伴うものである2).治療法は原因を除去し,プリズム矯正にて斜視角を減少させ,やがてプリズムなしでも融像できる大きさまで改善することもあるが,多くは手術療法の適応となることが多い.発症原因はさまざまな報告があるが,今回,筆者らは手術療法を施行し経過良好な急性内斜視の2症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕18歳,男性.初診:平成17年2月8日.主訴:平成17年1月から全方向で複視を訴え,近医受診し外直筋麻痺の疑いで紹介受診.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼1.2(矯正不能),左眼1.2(id×+0.50D)で,前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかった.突然発症した内斜視に対し,調節性内斜視と鑑別するために〔別刷請求先〕新井田孝裕:〒324-8501栃木県大田原市北金丸2600-1国際医療福祉大学保健医療学部視覚機能療法学科Reprintrequests:TakahiroNiida,M.D.,DepartmentofOrthopticsandVisualScience,TheSchoolofHealthScience,InternationalUniversityofHealthandWelfare,2600-1Kitakanemaru,Otawara-city,Tochigi324-8501,JAPAN急性内斜視の2症例松田英里子*1山田徹人*1,2三柴恵美子*1,2新井田孝裕*1,2菊池通晴*1*1国際医療福祉大学病院眼科*2国際医療福祉大学保健医療学部視覚機能療法学科TwoCasesofAcuteAcquiredComitantEsotropiaErikoMatsuda1),TetsutoYamada1,2),EmikoMishiba1,2),TakahiroNiida1,2)andMichiharuKikuchi1)1)DepartmentofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfareHospital,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,TheSchoolofHealthScience,InternationalUniversityofHealthandWelfare手術療法を行った急性内斜視の2症例を報告する.症例1は18歳,男性.突然の複視とともに内斜視を認めた.眼球運動に制限はなく,生理学的・神経学的検査でも異常は認められなかった.発症後,徐々に斜視角は増加し遠見・近見ともに40Δの内斜視を認めた.症例2は10歳,女児.学校検診で内斜視を指摘された.発症後,Fresnel膜プリズム装用にて正位を保っていたが,斜視角は増加し再び複視を自覚した.2症例ともに発症6カ月後に手術療法を行い,術後複視は消失し良好な眼位を維持している.しかし,両眼視機能の結果は両者において差がみられた.Wereport2casesofacuteacquiredcomitantesotropia(AACE)whounderwentsurgery.Therstcase,an18-year-oldmale,experiencedsuddenhorizontaldiplopia.Ductionswerenormal,neurologicaltestwasnegativeandhisesotropicangleincreasedto40prismdiopter.Thesecondcasewasa10-year-oldfemaleinwhomaschooldoctorhaddiscoveredesotropia.Sheunderwentprismaticcorrection,butheresotropicangleincreasedandsheexperiencedhorizontaldiplopia.Bothpatientsunderwentsurgeryat6monthsafteronsetandbothachievednor-malbinocularsinglevisionwasachieved,butbinocularfunctiondieredinthe2cases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11731176,2008〕Keywords:急性内斜視,プリズムアダプテーションテスト,フレネル膜プリズム,手術,立体視.acuteacquiredcomitantesotropia,prismadaptationtest,Fresnel’sprism,surgery,stereopsis.———————————————————————-Page21174あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(128)1%塩酸シクロペントレート(サイプレジンR)点眼後の屈折値を測定したところ,右眼は(1.2×+0.50D(cyl0.50DAx180°),左眼は(1.2×+0.50D(cyl0.50DAx10°)であった.眼位はsingleprismcovertest(以下,SPCT)で遠見25Δ,近見2530Δの内斜視で+3D負荷にて眼位測定を行ったが斜視角に変化はなく,固視交代可能であった.大型弱視鏡による立体視は良好であり,プリズムによる融像幅は正常範囲内であった.特に開散方向は21Δと良好であった.眼筋麻痺との鑑別のため,眼球運動検査を行ったがひき運動で制限はみられず,遠見や側方視で斜視角は変わらず衝動性運動速度の低下もみられなかった.眼窩および頭部CT(コンピュータ断層撮影)・MRI(磁気共鳴画像)でも異常は認められなかった.重症筋無力症との鑑別のためテンシロン試験を施行したが変化はみられなかった.以上の結果より急性内斜視と診断した.経過:発症後,徐々に斜視角は増加し発症5カ月後の眼位はSPCTにて遠見・近見ともに45Δの内斜視を認めた.開散訓練を中心とする視能訓練と同時にFresnel膜プリズムを装用させたが斜視角の減少がみられなかったことから,平成17年8月18日,両内直筋5mm後転術を施行した.術後の眼位はalternateprismcovertest(以下,APCT)で近見・遠見ともに4Δの内斜位を保ち,複視は消失した.近見立体視はTitmusstereotest(以下,TST)でy(+),animal(3/3),circle(9/9),TNOtest(以下,TNO)の結果は60secまでpassと良好な両眼視を保持している.〔症例2〕10歳,女児.初診:平成17年9月1日.主訴:平成17年の学校検診で眼位異常を指摘され,紹介受診.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:小学校3年生より近視の眼鏡を装用.発症2年前に視力改善目的で購入した多孔ピンホール眼鏡を1週間装用していたことがあった.紹介状によると以前より内斜位であり,時折複視は自覚していたが,明らかな内斜視は認めなかったとのことである.初診時所見:視力は右眼(1.2×5.50D(cyl0.50DAx140°),左眼(1.2×5.00D(cyl0.75DAx165°),眼鏡による視力は右眼(0.7p×4.50),左眼(0.8×4.25)で前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかった.トロピカミド(ミドリンPR)点眼後の他覚的屈折検査では変化はなかった.眼位はSPCTにて遠見25Δ,近見18Δの内斜視で右方視,左方視それぞれのむき眼位による斜視角に変化はみられず,右固視のときが多かったが固視交代は可能であった.つぎに眼筋麻痺との鑑別のため眼球運動検査を行ったが,ひき運動で制限はみられず,遠見や側方視で斜視角は変わらず,衝動性運動速度の低下もみられなかった.大型弱視鏡による融像幅は15°+20°(base+20°),立体視はブランコのような大きな視差の視標で片面のみ可能であった.発症年齢や性別を考慮し心因性を疑いGoldmann動的視野計にて視野検査を行ったが,両眼ともに正常範囲であった.上記より急性内斜視と診断した.経過:初診時より1カ月後,Fresnel膜プリズムを装用し斜視角の減少を試みたが,装用当初は複視を自覚しなかったものの,装用2カ月後では遠見にてときどき複視を訴えた.Prismadaptationtest(以下,PAT)にて50Δbaseoutを装用させ30分後に眼位の再検査を行ったところ,遠見・近見ともに正位を保ち,斜視角に変化はみられなかったため,平成18年3月30日両内直筋6mm後転術を施行した.術後の眼位はAPCTにて近見0Δ,遠見6Δの内斜位を保ち,複視は消失した.近見立体視はTSTでy(+),animal(3/3),circle(3/9)で,TNOではスクリーニング用のPlateⅠⅢは可能であったが,定量用のPlateⅤ以降は不可であった.Bagolini線条レンズ法,大型弱視鏡では正常対応であった.II考按急性内斜視の分類についてはさまざまな提唱があるが,vonNoordenは急性内斜視を人工的な融像の遮断により発症するTypeⅠと,発症原因が不明のTypeⅡ(Burian-Fran-ceschettitype),頭蓋内病変によるTypeⅢの3つに分類している1).最も多く遭遇するTypeⅠは外傷や弱視治療後に起こるとされ,片眼遮閉による融像の中断によって潜伏していた内方偏位が顕性化するといわれている.TypeⅡは複視の自覚で始まり,比較的大きな偏位角がある.遮閉の既往はなく,原因不明であるが,元来不十分な融像幅が精神的・身体的ストレスで緊張が失われた影響の結果起こるともされている.Burianらも急性内斜視を3つに分類している.1型は融像を人工的な中断により起こるものとしている.2型(Franceschettietype)は明らかな原因は不明であるが,精神的・身体的ストレスが考えられるもの.3型(Bielschowskytype)は5.00D以上の近視を伴い,遠見時に内斜視で同側性複視,近見時には融像を保てるため複視は訴えないもので,わずかに外転制限はあるが眼球運動に麻痺の兆候はないものである2).両者共通するものとしては,人工的な融像遮断と原因不明であるがストレスによる誘因が認められることがあげられる.症例1は,発症当時18歳で大学受験を控え精神的ストレスにより発症したと考えられた.複視の自覚とともに発症し,術前眼位は45Δと比較的大きな斜視角を認めている点においても一致している.症例2については,原因に不明な点が多い.以前より眠たくなると複視を自覚していたが,発症2年前にピンホール眼鏡を装用しており,その後少しして,母親が内斜視に気づき眼位が顕性化したことがあった———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081175(129)が,一時的なものでしばらくすると眼位は以前のように戻ったため,あまり気にしていなかったそうである.民間療法として孔の多数開いたいわゆるマルチプルピンホール眼鏡は遠視,近視ともに完全矯正下では視力,コントラスト感度が低下するという報告3)もあることから多孔ピンホール眼鏡による一時的な融像遮断の既往があった.しかし,急性内斜視の発症には一眼の融像遮断が起因となるためピンホール眼鏡装用が直接的に関与するかは不明であるが,強い開散により内斜位を保っていたが両眼視を妨げられたことにより,内斜視となったとも考えられる.5.00D以上の近視によるBiel-schowskytypeと考えられるが,症例2の場合,遠見・近見ともに内斜視となり複視の自覚もあり,眼球運動も正常であった.最近では,Bielschowskytypeは開散麻痺との鑑別がむずかしいとされ,急性内斜視の分類に含まれない傾向にある.急性内斜視の診断には調節性を除外するための眼科的検査や,頭蓋内病変によるTypeⅢと眼筋麻痺との鑑別のため神経学的検査が必要である1,3).しかし症例2に対し神経学的検査を行わなかった理由については,発症後2年間ほとんど症状に変化がみられず,明確な遮閉の既往があったためである.急性内斜視の治療法は,ストレスにより発症したTypeⅡで問題の解決とともに自然軽快した5)という報告がある.プリズム矯正にてコントロールされ,やがてプリズムがなくても融像できる大きさまで回復することができる5)という報告もあるが,一般的には手術の適応となることが多い.治験中ではあるがbotulinumtoxin療法を施行6)しているという報告もある.今回2症例いずれも複視が消失した最小の斜視角であるFresnel膜プリズムを装用させ斜視角減少を試みたが,斜位にもち込むことができなかったため両内直筋後転術を施行した.膜プリズムで12Δ以上は視力に影響7)するため,長期間の装用は行わなかった.斜視角の評価にはPATの必要性を強く主張する報告もある5,8).Gustaveらは,急性内斜視の患者にPATを行ったところ,すべてに斜視角の増加がみられたとしている.PATにて安定した角度が得られたことで,術後3カ月で全例が遠見・近見ともに正位になったと報告されている8).本症例においても,症例2の場合,特に開散方向の融像幅が広く,初診時より斜視角の増加はほとんどみられないが,PATでは50Δを認め,手術時の筋移動量の評価に重要であった.手術治療効果についてはTypeⅡ(Burian-Franceschettitype)は,発症以前はほぼ正常の両眼視機能を有しているため,通常の内斜視に比べ低矯正手術を施行しても良好な結果が得られる9)という報告もある.治療開始時期と予後についても一貫した見解が得られていない.Langらは弱視や抑制を防ぐため発症6カ月以内に手術療法を行うべき10)という説の一方,Ohtsukiらは両眼視のある場合,治療開始時期を6カ月以内,724カ月以内,25カ月以上の3群に分け治療開始時期と術後の立体視を比較したが,両者に相関関係はみられない11)という報告もある.しかしLangらは発症年齢平均3歳8カ月(110歳)を,Ohtsukiらは発症年齢平均12歳4カ月(328歳)を対象に検討しており両眼視機能の発達段階に差がみられる.Burkeらも,両眼視のある場合,治療の開始時期と術後の立体視の発達は関係ないとしている.感覚の維持が不安定な若年者にとって,プリズムによる早期治療や手術は調節に伴う偏位が突然起こり,網膜異常対応の発達や抑制をひき起こす5)と報告している.vonNoordenは視覚的に十分発達している子供や成人では抑制や弱視の発達のリスクは存在しないが,5歳以下に発症した急性内斜視は手術治療を数カ月以上延期すべきではない1)としている.Spiererらは,成人(平均年齢38±18.6歳)を対象に検討しており術後良好な両眼視が得られたのはほとんどが平均屈折値4.1±3.2D(+2.08.5D)の近視であり,発症25年後に手術が施行されても良好な立体視を獲得しているため,成人の急性内斜視は特異的な分類とすべきだとしている12).このことから,視覚の感受性期間内であれば視覚は未熟であり治療期間の遅延により両眼視機能に影響が現れるが,十分な両眼視を獲得した後に発症した場合の治療開始時期は術後の立体視に影響しないと考えられる.立体視機能は手術前後ではほとんど変わらない傾向にあるという報告6,13)もある.助川らは8歳で発症し,6カ月後に手術療法を施行したが,遠見・近見ともに正位を保っているにもかかわらず,立体視機能は発症以前の140secと同程度であったとしている.手術時期が遅かったので両眼視機能が損なわれたのではなく,発症以前から両眼視機能はやや劣っていたと報告している13).今回,症例1は発症時年齢18歳,症例2は8歳であった.発症年齢でのみ検討するとどちらも視覚の感受性期間は過ぎており,術後立体視は治療期間に影響されない1,5,6,11,13)ことになる.しかし,症例1の術後立体視はTSTにて40sec,症例2は400secであった.症例1は発症から治療期間も短く,術前の大型弱視鏡による立体視はピエロのような小さな視差の視標でも両面可能で,術後の立体視も良好であった.しかし,症例2は術前の大型弱視鏡による立体視は良好とはいえず,その理由としてもともと立体視機能が劣っていたからか,複視を自覚し始めた頃より治療期間が長かったからかは不明である.1例報告ではあるが石畠らは,複視の自覚と内斜視を指摘され,数日たつと複視は消失し正位となることを数回くり返した8歳,女児について,内方偏位が顕性化したため手術療法を施行したが,術後の両眼視機能は良好とはいえない原因として発症以前より立体視機能がやや劣っていたからと報告している15).また,網———————————————————————-Page41176あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(130)膜対応異常をもつ症例は術後,微小斜視となっている例が多い.山本らは,二次性微小斜視7例で視力低下が軽度であるにもかかわらず,他の微小斜視に比べて立体視が悪かったのは,二次性微小斜視のため術前の眼位ずれの状態が関与しているからだと述べている16).症例2の場合,弱視の既往はないため,視力による立体視不良は考えにくく,今後さらに眼位や網膜対応を含め検討していく必要性があると思われる.今回,急性発症した内斜視について手術療法を行い,術後良好な眼位を獲得した2症例を報告した.しかし,両者ともに術後両眼視機能は良好とはいえず,不明な点も多い.今後,症例数を増やし検討していく必要があると思われる.文献1)vonNoordenGK:BinocularVisionandOcularMotility.p338-340,CVMosby,StLouis,19852)BurianHM:Comitantconvergencestrabismuswithacuteonset.AmJOphthalmol45(part2):55-64,19583)國澤奈緒子,阿曽沼早苗,松田育子ほか:マルチプルピンホールの視力,コントラスト感度に及ぼす影響.日視会誌28:117-121,20004)LegmannSimonA,BorchertM:Etiologyandprognosisofacute,late-onsetesotropia.Ophthalmology104:1348-1352,19975)岩本英子,野上貴公美,古嶋正俊ほか:急性内斜視の1例.眼臨95:263-265,20016)BurkeJP,FirthAY:Temporaryprismtreatmentofacuteesotropiaprecipitatedbyfusiondisruption.BrJOphthalmol73:787,19957)高谷匡雄,大庭間正裕,中川喬:急性内斜視11例の検討.眼紀51:85-88,20008)不二門尚,齋藤純子:プリズムと斜視.p31-43,文光堂,19989)SavinoG,ColucciD,RebecchiMTetal:Acuteonsetcon-comitantesotropia:sensorialevaluation,prismadaptationtest,andsurgeryplanning.JPediatrOphthalmolStrabis-mus53:342-348,200510)福田美子,井崎篤子,三村治:急性内斜視(franceschettitype)の手術治療効果.眼臨88:952-954,199411)LangJ:Criticalperiodforrestorationofnormalstereoa-cuityinacute-onsetcomitantesotropia.AmJOphthalmol119:667-668,199512)OhtsukiH,HasebeS,KobashiRetal:Criticalperiodforrestorationofnormalstereoacuityinacute-onsetcomitantesotropia.AmJOphthalmol118:502-508,199413)SpiererA:Acuteconcomitantesotropiaofadulthood.Ophthalmology110:1053-1056,200314)助川俊介,齋藤友護:発症以前より検査を行った急性内斜視の1症例.眼科38:1391-1395,199615)石畠弘恵,沼田このみ,福尾吉史ほか:急性発症した内斜視の1例.眼臨88:949-951,199416)山本節,文順永:網膜対応異常と二次性微小斜視.眼科25:133-138,1983***

腫瘍随伴視神経症と考えられた1例

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(121)11670910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11671172,2008cはじめに腫瘍随伴症候群(paraneoplasticsyndrome)は,腫瘍の浸潤や転移によらない遠隔効果により,悪性腫瘍患者にさまざまな症状を随伴するもので,腫瘍に対する抗体が,交差反応を起こすという自己免疫機序により発症すると考えられている.眼科領域では網膜が障害される疾患として,上皮由来の〔別刷請求先〕古田祐子:〒453-0801名古屋市中村区太閤3-7-7名古屋セントラル病院眼科Reprintrequests:YukoFuruta,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaCentralHospital,3-7-7Taiko,Nakamura-ku,Nagoya-shi453-0801,JAPAN腫瘍随伴視神経症と考えられた1例古田祐子*1,2中村誠*2熊谷あい*2西原裕晶*2青木はづき*3寺崎浩子*2*1名古屋セントラル病院眼科*2名古屋大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器外科学講座眼科学教室*3一宮市民病院神経内科ACaseofPresumedParaneoplasticOpticNeuropathyYukoFuruta1,2),MakotoNakamura2),AiKumagai2),HiroakiNishihara2),HazukiAoki3)andHirokoTerasaki2)1)DepartmentofOphthalmology,NagoyaCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,NagoyaUniversity,3)DepartmentofNeurology,IchinomiyaMunicipalGeneralHospital68歳,男性が,2週間前からの右眼視力低下を自覚して受診した.初診時視力は右眼手動弁(矯正不能),左眼1.0(1.2)で,前眼部・眼底に視力低下の原因となるような所見を認めず,蛍光眼底造影,網膜電図,頭部コンピュータ断層撮影(CT)/磁気共鳴画像(MRI)上も正常であった.副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイドと略す)パルス療法およびプロスタグランジン製剤の投与を行ったところ,右眼視力は一旦(0.01)に改善した.しかし1カ月後には右眼視力は光覚()に低下し,左眼視力も20cm指数弁に低下した.左眼にも視力低下の原因となる所見はみられなかった.再度ステロイドパルス療法およびプロスタグランジン製剤の投与を施行したところ,一時的に右眼視力は指数弁,左眼視力は(0.3)に回復したが,発症約4カ月後には右眼光覚(),左眼手動弁となった.経過中,知覚異常,意識障害など原因不明の神経症状がみられ,発症約5カ月目には頭蓋内に異常を認めない小脳失調症状を発症した.精査にて肺癌と肝臓への多発転移が認められたため,これらの神経症状は,腫瘍随伴症候群による亜急性小脳変性症と考えられた.このことから,視力障害は腫瘍随伴視神経症によるものと考えられた.原因不明の急激な視力低下をきたす症例では,腫瘍随伴視神経症の可能性も考慮する必要があると考えられた.Wereportthecaseofa68-year-oldmalewithparaneoplasticopticneuropathysecondarytolungcancer.Thepatientnoticedprogressivevisuallossinhisrighteye;hisbest-correctedvisualacuity(BCVA)wasreducedtohandmotion(HM)OD.Noabnormalitywasfoundbyslit-lampexamination,funduscopy,uoresceinangiography,electroretinogramorbraincomputedtomography(CT)/magneticresonanceimaging(MRI).AftertreatmentincludingsystemicmethylprednisoloneandprostaglandinF2a,hisBCVAODimprovedto0.01;however,itreducedtolightsense(LS)()after1month.AtthistimehisBCVAOSwasalsoreducedtocountingingers(CF)from1.2.SystemicmethylprednisoloneandprostaglandinF2awereadministeredagainandhisBCVAtempo-rarilyimprovedtoCFODand0.3OS,butreducedtoLS()ODandHMOSafter2months.At5monthsheshowedcerebellarataxia;meanwhile,lungcancerandmultiplemetastasistotheliverhadbeenfoundbychestX-rayandCTscan.Hewasthendiagnosedwithparaneoplasticneurologicalsyndrome,hisvisuallossbeingduetoparaneoplasticopticneuropathy.Paraneoplasticneurologicalsyndromeshouldbeconsideredinpatientswithvisuallossofunknownetiology.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11671172,2008〕Keywords:腫瘍随伴視神経症,腫瘍随伴小脳変性症,肺癌.paraneoplasticopticneuropathy,paraneoplasticcer-ebellardegenerations,lungcancer.———————————————————————-Page21168あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(122)家族歴:特記すべきことなし.現病歴:平成16年1月14日,2週間前から右眼の視力低下を自覚したため,近医眼科を受診した.視力低下の原因が不明のため,平成16年1月19日名古屋大学眼科を紹介され受診した.初診時所見:視力は右眼10cm手動弁(矯正不能),左眼1.0(1.2×+1.75D(cyl0.50DAx110°)で,眼圧は両眼とも13mmHg.前眼部,中間透光体には両眼とも異常がみられなかった.瞳孔反応は右眼の相対的瞳孔求心路障害(rela-tiveaerentpapillarydefect:RAPD)が陽性であった.眼底は右眼黄斑部にわずかな色素性変化がみられたが,他に異悪性腫瘍に合併する癌関連網膜症(cancer-associatedretin-opathy:CAR)と,悪性黒色腫に合併する悪性黒色腫関連網膜症(melanoma-associatedretinopathy:MAR),および視神経が障害される疾患として,腫瘍随伴視神経症(parane-oplasticopticneuropathy:PON)が知られている.今回筆者らは,PONと考えられる1例を経験した.I症例患者:68歳,男性.主訴:右眼の視力低下.既往歴:脳梗塞(50歳),腹部大動脈瘤(63歳).ab1初診時の眼底写真a:右眼,b:左眼.右眼黄斑部にわずかな色素性の変化がみられたが,他には特記すべき異常はみられない.ab2初診時の蛍光眼底造影写真a:右眼,b:左眼.特に異常はみられない.図3初診時のGoldmann動的量的視野検査右眼鼻上側に孤島状の残存が検出された.左眼は正常であった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081169(123)て抗生物質投与による治療をうけた.また失禁,しびれ感,意識消失発作,呂律障害などの神経症状がみられたため脳外科,神経内科を受診し,MRI,脳血流シンチグラフィーによる検索が行われたが,神経症状の原因は不明で,多発性硬化症の可能性も否定された.またLeber遺伝性視神経症の可能性を考え,ミトコンドリア遺伝子の11778番塩基の検索を行ったが,点変異はみられなかった.約1カ月後の4月17日,視力は右眼光覚(),左眼20cm手動弁と,改善が得られないまま退院となった.約2カ月後の平成16年6月6日,嘔気,嘔吐,歩行困難などの小脳失調症状が現れ,一宮市民病院に緊急搬送され入院した.髄膜刺激症状はみられず,髄膜炎の可能性はないと考えられた.頭部CT/MRIでは,この神経症状の原因となる病変を認めなかったが,胸部X線写真および胸部CTでは,左肺野S6領域に肺癌(腺癌)と考えられる異常陰影がみられ(図6),腹部CTでは肝臓内に多発性の転移巣を認めた(図7).これらのことから小脳失調症状は,腫瘍随伴症候群のうち腫瘍随伴神経症候群に属する亜急性小脳変性症(subacutecelleblardegeneration)1)と,同院神経内科にて診断された.亜急性小脳変性症は肺癌に合併したものが多く,PONを合併する場合もあると報告されているため1),これらの臨床経過より,本症例は腫瘍随伴神経症候群に属するPONにより,視力障害をきたしたと考えられた.経気管支鏡生検を施行したが,肺癌の組織像を明らかにすることはできなかった.同院呼吸器内科にて6月18日より3クールの化学療法〔カルボプラチン(CBDCA)+パクリタキセル常はみられず,視神経乳頭にも異常はみられなかった(図1).蛍光眼底造影でも異常は認めず,腕-眼時間は正常であった(図2).Goldmann視野では,右眼は鼻上側に孤島状の視野の残存を認めるのみで,左眼は正常であった(図3).網膜電図(electreoretinogram:ERG)の反応は,左右ともに正常であった(図4).光干渉断層計(opticalcoherencetomo-graphy:OCT)では,両眼とも黄斑部網膜厚は正常で,視神経乳頭周囲の神経線維層の厚さも全周にわたり正常範囲であった.頭部コンピュータ断層撮影(CT)/磁気共鳴画像(MRI)では,陳旧性の脳梗塞がみられたが,ほかに異常は認められず,占拠性病変や副鼻腔炎,視神経の炎症所見などはみられなかった.念のため脳外科,神経内科,耳鼻科を受診したが,特に異常はないとのことであった.経過:平成16年1月20日より名古屋大学医学部附属病院に入院し,ステロイドパルス療法(ソル・メドロールR1,000mg×3日間後,プレドニンR40mg/日から漸減)およびプロスタグランジン製剤投与(パルクスR10μg×14日間)を行ったところ,右眼視力は一旦(0.01)に改善した.しかしその後指数弁に低下し,2週間後退院となった(図5).退院約3週間後の平成16年2月23日,左眼の急激な視力低下を自覚し,翌2月24日再診した.このとき左眼視力は20cm指数弁で,右眼も光覚()となっていた(図5).両眼とも前眼部,眼底に変化はなく,視力低下の原因となるような異常はみられなかった.同日より再入院して再度ステロイドパルス療法およびプロスタグランジン製剤の投与を行ったところ,2週間後の3月8日に視力は右眼光覚(+),左眼(0.3)に改善したが,この回復は一時的で,その後再び徐々に低下した(図5).3月12日に測定された限界フリッカー値は,右眼は測定不可能,左眼は8Hzと著しく低下していた.右眼の視神経乳頭は徐々に蒼白化した.この2回目の入院中,発熱を伴う尿路感染症のため,内科および泌尿器科に図4初診時の網膜電図(ERG)左右とも正常であった.1,0001,0004040303020201010155メチルプレドニロン投与(mg)視力1/192/22/163/23/163/304/13パルクスR10μg投与1.20.30.01CFHMLS(+)LS(-)0.1:右眼:左眼図5経過表———————————————————————-Page41170あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(124)から否定的であり,症状を説明できる明らかな異常を認めなかった.このため当初診断に苦慮し,経過中は除外診断的に後部虚血性視神経症として,ステロイドパルス療法を主体とする治療を行った.しかし両眼に続けて発症したことなどから,この診断にも疑問が残った.その後肺癌が発見され,この症例でみられた原因不明の小脳失調症状は,腫瘍随伴神経症候群(paraneoplasticneurologicsyndrome:PNS)の古典的症候である亜急性小脳変性症と診断された.これにより初めて,視力低下の原因もPNSの一症状であるPONと考えられるに至った.PNSの診断に関しては,近年Grausらが診断基準を提唱している1).これによれば,PNSで起こるさまざまな症候群を,古典的症候と,非古典的症候に分けて考えており,それぞれに付随する状況から,deinitePNSとpossiblePNSの2段階の診断基準を設けている.古典的症候には,しばしば癌と関連があるとされるencephlomyelitisやlimbicenchep-hlitis,chronicgastrointestinalpseudo-obstraction,Lam-bert-Eaton症候群など8つの神経症候群が定められており,亜急性小脳変性症もこれに含まれる.発症した神経症状が古典的症候と考えられる場合には,ほかに考えられる症状の原因となる神経疾患などを除外したうえで,①神経症状の診断と原因と考えられる癌の発現が[5年以内で]ある,②明らかな癌の存在はないが,癌関連自己抗体のうちPNSと強く関連があるとされるもの[抗CRMP-5(CV2),Yo,Hu,Ri,Ma2,amphysin抗体]が検出されている,のいずれかであればdeinitePNSとするとされている.本症例は小脳失調症状発症直後に肺癌が認められており,ほかに神経症状の原因となりうる病変を認めないことから,deinitePNSに相当した.一方,PONやCAR,MARは古典的症候には含まれず,Grausらの診断基準のなかでは,現在のところ眼症状単独ではPNSの診断の根拠に用いることは推奨されていない.本症例の直接の死因となったイレウスの原因は,剖検が得(TXL)〕が施行されたが,1カ月後にイレウスを発症し,平成16年7月19日に永眠した.剖検は得られなかった.II考按眼底に異常を認めず急激な視力障害を生じる疾患には,①頭蓋内疾患(脳腫瘍・下垂体腫瘍・水頭症・癌の脳転移など),②鼻性視神経炎(後部副鼻腔の膿胞・副鼻腔炎による),③球後視神経炎(多発性硬化症,ウイルス性),④眼窩疾患(眼窩内腫瘍・眼窩蜂窩織炎・眼窩先端症候群など),⑤網膜疾患(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOORなど),⑥遺伝性視神経症(Leber病),⑦後部虚血性視神経症が鑑別として考えられる.これらのうち本症例では,頭蓋内疾患,鼻性視神経炎,球後視神経炎は脳外科,神経内科,耳鼻科で否定され,眼窩疾患はCT/MRIで異常がないこと,網膜疾患はERGが正常であったこと,Leber病は遺伝子検査図63回目の入院時(平成16年6月)の胸部X線写真(左図)と胸部CT(右図)胸部X線写真(左図)では左肺野に肺癌と考えられる陰影(矢頭)が認められ,胸部CT(右図)では左肺野S6領域に肺癌と考えられる陰影(矢頭)を認めた.図73回目入院時(平成16年6月)の腹部CT肝臓内に癌の転移と思われる多発性の低吸収域が認められた(矢頭).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081171(125)症例と同様,急激な視力低下を生じ,視神経以外の中枢または末梢神経症状を伴っていた.またこれらのうちの多くは視神経乳頭浮腫を伴っており,PONでは視神経乳頭浮腫を伴う場合が多いと考えられるが,伴わない場合もある3).PONをきたす原疾患としては,肺小細胞癌が最も多いが,さまざまな原発巣から発症した報告がある(表1).PNSの多くでは,腫瘍の発見に先立ち神経症状が発症するため,これが腫瘍の発見に貢献するとされている8).眼科関連の腫瘍随伴症候群であるCARやMARでも,しばしば腫瘍の発見よりも眼症状が先行するが,本症例のように,PONでも原因となる腫瘍の発見に先立ち眼症状が発症することがある.このため原因不明の視力障害をきたした症例では,これらの疾患の可能性も念頭に置き全身的検索を進める必要がある.CARとMARではERGに明らかな異常が検出されることが診断に役立つ.しかしPONの場合には,視神経乳頭炎から重篤な網膜炎などを合併した場合にERGに異常をきたす場合もあるが,通常は必ずしもERGに異常をきたさない2).このため原因不明の視力障害では,ERGに異常がみられなくても腫瘍随伴症候群の可能性があることに留意する必要がある.PONでは経過中に小脳失調症状などの視神経症以外の神経症状を示すことが多く2),これが診断の一助になると考えられるが,本症例では視神経症以外の神経症状が遅れて発症したことにより,初期の診断がより困難であったと考られなかったため明らかにはされなかったが,PNSの末梢神経症状の一つに,先に述べた古典的症候のchronicgastro-intestinalpseudo-obstractionがあり,イレウスもPNSのために発症した可能性があると考えられた.PNSは腫瘍の浸潤や転移によらない遠隔効果によって神経系が障害される疾患群で,腫瘍が産生した抗原に対してできた抗体が,神経系と交差反応を起こすという自己免疫機序によると考えられている1).腫瘍の遠隔効果による視力低下をきたす疾患としては,網膜が障害されてERGに反応の低下をきたすCARとMARが広く知られているが,ERGに必ずしも変化をきたさないPONの場合もあることに留意すべきだと考えられる.PONはCARやMARよりも頻度は低いと考えられ,筆者らが調べた限りでは,PONは,現在までに,海外で30例前後25),わが国では3例の報告があった6,7)(表1).これらの多くは本表1腫瘍随伴視神経症(Paraneoplasticopticneuropathy)関連疾患症例数報告者肺小細胞癌18例Bennetetal.BrJChest,1986Watersonetal.AustNZMed,1986DelaSayetteetal.ArchNeurol,1998Crossetal.(9例)AnnNeurol,2003Sheorajpandayetal.JNeuroophthalmol,2006など肺腺癌1例大平ほか.眼科,1990悪性リンパ腫2例Coppetoetal.JClinNeuroophthalmol,1988Henchozetal.KlinMonatsblAugenheilkd,2003神経芽細胞腫1例Kennedyetal.PostgradMedJ,1987腎癌2例Hoogenaadetal.Neuroophthalmology,1989Crossetal.AnnNeurol,2003胃癌1例日下部ほか.臨眼,1994気管支癌1例Pillayetal.Neurology,1984喉頭癌1例日下部ほか.臨眼,1994鼻咽腔癌1例Hohetal.SingaporeMedJ,1991表3PONと関連のある自己抗体原因となる自己抗原症例数報告者CRMP5(CV2)10例Yuetal.AnnNeurol,2001DelaSayetteetal.ArchNeurol,1998Sheorajpandayetal.JNeuroophthalmol,2006Yo2例Petersonnetal.Neurology,1992表2腫瘍関連自己抗体合併症状原因疾患認識する抗原抗Hu抗体(ANNA-1,typeⅡa)脳脊髄炎,感覚ニュロパチー亜急性小脳変性症肺小細胞癌神経芽腫前立腺癌など中枢神経細胞核(HuR,Hel-N1,HuC/ple21,HuD)抗Ri抗体(ANNA-2,typeⅡb)オプソクローヌスミオクローヌス乳癌中枢神経細胞核(Nova-1)抗Yo抗体(PCA1)腫瘍随伴小脳変性症乳癌卵巣癌子宮癌など小脳Purukinje細胞抗CRMP5抗体(CV2)脳脊髄炎感覚ニューロパチー亜急性小脳変性症肺小細胞癌末梢・中枢神経細胞———————————————————————-Page61172あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(126)文献1)GrausF,DelattreJY,AntoineJCetal:Recommendeddiagonosticcriteriaforparaneoplasticneurologicalsyn-dromes.JNeurosurgPsychiatry75:1135-1140,20042)CrossSA,SalamaoDR,ParisiJEetal:ParaneoplasticautoimmuneopticneuritiswithretinitisdeinedbyCRMP-5-IgG.AnnNeurol54:38-50,20033)ChanJW:Paraneoplasticretinopathiesandopticneuropa-thies.SurvOphthalmol48:12-38,20034)SheorajpandayR,SlabbynchH,VanDeSompelWetal:Smallcelllungcarcinomapresentingasparaneoplasticopticneuropathy.JNeuro-ophthalmol26:168-172,20065)LuizJE,LeeAG,KeltnerJLetal:Paraneoplasticopticneuropathyandautoantibodyproductioninsmall-cellcar-cinomaofthelung.JNeuro-ophthalmol18:178-181,19986)大平明彦,井上泰,福田直子ほか:Paraneoplasticopticneuropathyの1例.眼科32:1519-1522,19907)日下部健一,池田博之,溝田淳:Paraneoplasticopticneuropathyと考えられた2症例.臨眼88:1354-1357,19948)田中正美,田中恵子:抗Yo抗体と傍腫瘍小脳変性症.医学のあゆみ201:185-187,20029)PetersonK,RosenblumMK,KotanidesHetal:Paraneo-plasticcerebellardegeneration,I:aclinicalanalysisof55anti-Yoantibody-positivepatients.Neurology42:1931-1937,199210)CalvertPC:ACR(I)MPintheopticnerve:Recogni-tionandimplicationsofparaneoplasticopticneuropathy.JNeuro-ophthalmol26:165-167,200611)GuyJ,AptsiauriN:Treatmentofparaneoplasticvisuallosswithinteravenousimmunoglobulin.ArchOphthalmol117:471-477,1999えられる.近年,PNSの原因と考えられるいくつかの腫瘍関連自己抗体が患者血清より同定されている(表2)が,PONでは抗CRMP-5(CV2)抗体が検出された例が最も多く報告されており2),他に抗Yo抗体が検出されたとの報告もある9)(表3).本症例では抗CRMP-5(CV2)抗体,抗Yo抗体,およびPNSで比較的高い頻度で検出される抗Hu抗体や抗Ri抗体1)についても検討したが,いずれも血清から検出されなかった.PONに対する治療に関しては,原因腫瘍に対する治療が第一とされ10),これにより視力が改善したという報告がある2,10)が,視力の改善が得られなかった症例も多い10).また,PONへの対症療法として,ステロイド投与や,g-グロブリン投与の行われた報告もあり,劇的に回復したとされる症例がある10,11).しかしこれらの薬物を投与しても効果が得られない場合もあり,現在のところ,PONに対する治療法は確立されていない10).本症例では,腫瘍に対する治療の前に2回ステロイドパルス療法およびプロスタグランジン製剤投与が行われたが,その結果,いずれの場合も一時的に視力の改善がみられた.その後再び視力障害は進行したが,これらの薬剤がPONに対し有効であった可能性があると考えられる.PONの治療法に関しては,今後の症例の積み重ねが必要であると考えられた.原因不明の急激な視力低下をきたす症例では,PONの可能性も考慮する必要がある.視神経乳頭浮腫がみられ,ほかには眼底に異常がみられず,中心暗点などの視野異常が検出されるといった,視神経炎様の所見を呈する場合は,PONの可能性を考える必要があるが,PONでは視神経乳頭浮腫もみられず,眼底にまったく異常を呈さない場合もあるので注意が必要と考えられた.***

視神経網膜炎を発症したネコひっかき病の1例

2008年8月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(117)11630910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(8):11631166,2008cはじめにネコひっかき病(catscratchdisease:CSD)は,グラム陰性桿菌であるBartonellahenselaeの感染により惹起される疾患であり,ネコのノミが中間ベクターとして考えられている.CSDは若年者での報告が多く,秋から冬にかけて発症し,温暖地域に好発するといわれている.多くの症例では,発熱,リンパ節腫脹,皮膚症状といった全身症状を呈するが,眼症状を伴うことも知られている.今回筆者らは視神経網膜炎を発症し,B.henselae抗体が陽性であったことよりCSDと診断した症例を経験したので報告する.I症例患者:31歳,女性.主訴:発熱,頭痛,左眼視力低下と眼痛.現病歴:平成18年11月1日より40℃以上の発熱,頭痛が出現,市販薬を内服するも改善なく,11月4日他院内科を受診し,アジスロマイシン,ロキソプロフェンナトリウム内服開始となる.11月6日再診時WBC(白血球)11,600/μl,CRP(C反応性蛋白)11.4mg/dlと上昇がみられた.11月9日再診時,CRPは改善しておりアジスロマイシン内服は中止,その頃から左眼違和感を自覚し,また左眼視力低下を自覚したため,翌日近医眼科を受診するも原因不明であ〔別刷請求先〕中島史絵:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ChikaeNakashima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine,6-20-2Shinkawa,Mitaka-shi,Tokyo181-8611,JAPAN視神経網膜炎を発症したネコひっかき病の1例中島史絵渡辺交世慶野博岡田アナベルあやめ杏林大学医学部眼科学教室NeuroretinitisinaCaseofCatScratchDiseaseChikaeNakashima,TakayoWatanabe,HiroshiKeinoandAnnabelleAyameOkadaDepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine今回,筆者らは急性期のネコひっかき病の1例を経験したので報告する.症例は,31歳,女性.発熱,頭痛に続く左眼視力低下と眼痛を自覚し,当科を紹介受診した.初診時の左眼矯正視力は0.08,前眼部から中間透光体にかけての異常はなかったが,左眼視神経乳頭上に白色の硝子体混濁と黄斑部の網膜下液がみられた.視野検査では左眼にMariotte盲点の拡大が検出され,蛍光眼底造影では視神経乳頭上の占拠性病変による低蛍光がみられた.経過中,黄斑部に星芒状滲出斑が出現したためネコひっかき病を疑いBartonellahenselae血清抗体価を測定し,クラリスロマイシン内服を開始した.B.henselaeに対する免疫グロブリンIgG,IgM抗体がともに上昇していたことよりネコひっかき病と確定した.治療開始後1カ月で左眼の視力は1.0へ回復し,視野もほぼ正常化した.Wereportacaseofacutecatscratchdisease(CSD).Thepatient,a31-yaer-oldfemale,presentedwithreducedleftvisionandeyepainafterrecentlyexperiencingfeverandheadache.Herbest-correctedvisualacuitywas0.08OS.Theanteriorsegmentandocularmediawerenormalinthelefteye,butfunduscopydisclosedawhiteopacityoverlyingtheopticdisc,withsubretinaluidinthemacula.Anenlargedblindspotwasdetectedbyvisualeldtesting;uoresceinangiographyshowedtheopticdisctobeblockedbytheopacity.Sixdaysafterpre-sentation,maculastarchangesappearedandsystemicclarithromycinwasadministeredforasuspecteddiagnosisofCSD.Elevatedimmunoglobulin(Ig)GandIgMBartonellahenselaeantibodieswerelaterconrmed;recoveryofvisualacuityandvisualeldwereobservedby1month.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(8):11631166,2008〕Keywords:ネコひっかき病,視神経網膜炎,バルトネラヘンセラ,星芒状滲出斑.catscratchdisease,neurore-tinitis,Bartonellahenselae,maculastar.———————————————————————-Page21164あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(118)り,11月13日他大学病院眼科を受診.両視神経炎疑いにて11月15日精査目的に当科紹介受診となる.既往歴:幼少期よりくも膜胞の指摘あり.生活歴:ペット飼育やネコとの接触歴はないが,平成18年7,8月にダニに刺傷されることが多かった.初診時眼所見:視力は右眼1.2(n.c.),左眼0.07(0.08×1.00)で,眼圧は右眼13mmHg,左眼11mmHgであった.直接対光反射は両眼とも異常はなかったが,左眼にはわずかながら相対的瞳孔求心路障害を認めた.前眼部・中間透光体の異常はなく,眼底は右眼は正常であったが,左眼は視神経乳頭上に白色綿状の硝子体混濁と黄斑部の網膜下液がみられた(図1,6).蛍光眼底造影では,左眼視神経上に占拠性病変による低蛍光がみられたが,蛍光漏出はなかった(図2).限界フリッカー値は右眼は異常なかったが,左眼は20Hz以下と低下しており,左眼動的視野検査にてMariotte盲点の拡大を含めた中心暗点が検出された(図3).図1初診時眼底写真VD=1.2(n.c.),VS=(0.08).左眼視神経乳頭上に白色綿状の硝子体混濁,黄斑部の網膜下液を認める.図2初診時蛍光眼底写真(HRA2)右:フルオレセイン蛍光造影,左:インドシアニングリーン蛍光造影.左眼視神経上に占拠性病変を認めたが,蛍光漏出はない.図3初診時(左)と治療後半年(右)の動的視野検査初診時は中心暗点の拡大を認めたが,治療後はほぼ正常化した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081165(119)初診時全身所見:体温37.4℃,脈拍72回/分,血圧84/50mmHg,全身に明らかなリンパ節腫脹はなかった.血液検査所見:Hb(ヘモグロビン)9.0g/dl,RBC(赤血球)447万/μl,Plt(血小板)20.1万/μl,WBC7,300/μl(seg63.6%,eosin1.6%,baso0.0%,mono7.8%,lymph27.1%),血沈1時間値84mm,2時間値118mm,AST(アスパラギン酸・アミノ基転移酵素)34IU/l,ALT(アラニン・アミノ転移酵素)62IU/l,CRP2.4mg/dl,Ig(免疫グロブリン)G2,315mg/dl,CH5080.6IU/ml,RF10IU/ml未満,b-Dグルカン(),エンドトキシン().感染症抗体:梅毒定性検査(),HCV(C型肝炎ウイルス)抗体(),HIV(ヒト免疫不全ウイルス)抗体(),CMV(サイトメガロウイルス)IgM(),CMVIgG(+),マイコプラズマ抗体(),オウム病抗体(),EBV(Epstein-Barrウイルス)IgM(),EBVIgG(+),VZV(水痘・帯状疱疹ウイルス)IgG(+),HTLV(ヒトT細胞白血病ウイルス)-1抗体(),トキソプラズマ抗体().心電図:異常なし.画像検査:頭部CT(コンピュータ断層撮影)では前頭葉から側頭葉にかけて低吸収域があり,眼窩部MRI(磁気共鳴画像)では左眼視神経乳頭部に浮腫がみられた.胸部X線上異常はなかったが,腹部超音波では脾腫,脾臓内に低吸収域を認めた.また,腹部骨盤CTでは中等度の脾腫がみられた.培養:血液・尿とも細菌,真菌は検出されなかった.経過:自然経過観察にて視神経上の混濁および黄斑部の網膜下液は減少傾向を示した.初診後6日目に星芒状滲出斑が出現し(図4),ネコひっかき病を疑い,クラリスロマイシンの内服の開始と同時にBartonella血清抗体価を測定した.免疫蛍光抗体法(IFA)で測定したところ,結果はB.hense-laeIgM128倍(基準値16倍未満),B.henselaeIgG256倍(基準値64倍未満),B.quintanaIgM20倍未満(基準値16倍未満),B.quintanaIgG64倍(基準値64倍未満)であったことより,ネコひっかき病と診断した.眼所見はその後も改善傾向を示し(図5),左眼視力は(1.0)に改善,視野検査もほぼ正常となり(図3),OCT(光干渉断層計)上も黄斑部の網膜下液の減少を認めた(図7).抗生物質開始4カ月後のB.henselae抗体価は酵素抗体法(EIA)で測定したところ,IgG1,024倍と高値であったが,IgM20倍未満と陰性化した.II考按CSDはネコとの接触や咬傷の既往歴と関連があり,発熱,頭痛,倦怠感,食欲不振,皮膚症状,リンパ節腫脹などの全身症状を呈する疾患である.眼所見を伴うこともあり,Par-inaud症候群が有名である.Parinaud症候群とはリンパ節図4初診後6日の左眼眼底写真黄斑に星芒状滲出斑を認めた.図5治療後1カ月の左眼眼底写真VS=(1.2).視神経乳頭上の混濁,網膜下液はほとんど消失した.図6初診時の左眼OCT網膜下液の貯留を認める.図7治療後半年の左眼OCT網膜下液は減少した.———————————————————————-Page41166あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(120)腫脹に急性濾胞性結膜炎を呈するものであるが,今回の症例ではそのような所見はなかった.その他網脈絡膜炎,視神経乳頭浮腫,星芒状滲出斑,網膜動静脈閉塞などがあり,視神経網膜炎は12%に発症したとの報告がある1).本症例は明らかなネコとの接触はなかったが,ダニの刺傷歴はあった.Solleyらは24例中2例でネコとの接触がなかったがCSDと診断した症例を報告している2).また,CunninghamらはネコのノミからB.henselaeが検出されていることからノミはベクターとして考えられると報告している3).イヌなどネコ以外の動物と接触し,それらの動物よりB.henselaeが検出されたと報告4)されていることより,今回の症例はダニを介したB.henselaeの感染であった可能性も考えられる.本症例では,全身症状として弛張熱を呈したが,CSDに伴う発熱として藤井ら5)や萎澤ら6)も弛張熱を呈した後に網脈絡膜炎を生じ,B.henselae抗体が陽性であったことからCSDと診断した症例を報告しており,特徴的な臨床経過の一つと思われた.CSDの診断方法としては,B.henselae抗体価測定,リンパ節生検,髄液PCR(polymerasechainreaction)による細菌の検出などがある.抗体価測定は簡便であり,この検査法が普及したことよりCSDの診断率は向上した.ただし,非典型的な所見を伴っていたが抗体価が陽性であったためCSDと診断した症例もあり,そういった症例では特異性の高い検査の検討も必要である.抗体価測定には,EIAとIFAの2種類がある.EIAではIgG抗体価64倍以上,IgM抗体価20倍以上であった場合を陽性としており,IFAでは急性期においてIgM抗体陽性,IgG抗体価が1:256以上,急性期・回復期ペア血清で4倍以上の抗体上昇のいずれかを認めた場合を陽性としている.本症例では治療前はIgG,IgM抗体とも陽性であり,治療後4カ月目の測定ではIgG抗体は高値のままであったが,IgM抗体は陰性化した.これは本症例がCSDの急性期であったためと考えられる.一方,Rothovaらは全例ともIgMが陰性であったがIgGが高値であった症例を報告していること9)や,CSDの眼症状は全身症状を呈した後しばらく経ってから生じることが多いことより,感染の晩期に生じるのではないかと考えられている.そのため,眼症状はB.henselae自体の直接の感染によって発症するのではなく,何らかの免疫反応が関連して発症する可能性も推測されている.しかし,今までの報告のなかにもIgMが高値であったのちに陰性化した急性期の報告もあり68),CSDの眼症状は晩期だけでなく急性期にも生じることがあると考えられる.CSDは一般的に予後良好な疾患であり,自然治癒することが多いと考えられているが,抗生物質やステロイドの使用で病期が短縮することがある2,6,7).抗生物質としてはニューキノロン,マクロライド,テトラサイクリン,ペニシリンなどさまざまなものが報告がされているが,効果的な薬剤あるいは治療期間についてはまだはっきりとした報告がない.また,抗結核薬の併用が有効であったとの報告2)や,抗炎症を目的としてステロイドの併用が有効であったとの報告がある4,8,10).しかし,依然として確立された治療法は現在のところなく予後不良例の報告2)もある.予後不良例では,血管閉塞症などの合併症を生じていることが多い.当施設でも治療に抵抗し,中心暗点が残存したため視力予後が不良であった症例を経験している11).B.henselae抗体価測定の普及によりCSDと診断された症例は増加しているため,今後さらなる治療法の検討が必要と考える.文献1)川野庸一,山本正洋:ネコひっかき病の眼病変.眼科44:1099-1105,20022)SolleyWA,MartinDF,NewmanNJetal:Catscratchdiseaseposteriorsegmentmanifestation.Ophthalmology106:1546-1553,19993)CunninghamET,KoehlerJE:OcularBartonellosis.AmJOphthalmol130:340-349,20004)山之内寛嗣,泉川欣一,久松貴ほか:犬が感染源と考えられたBartonellahenselae感染症の1例.感染症学雑誌78:270-273,20045)藤井寛,清水浩志,阿部祥子ほか:弛張熱と眼底隆起性病変を伴う網脈絡膜炎を認めた猫ひっかき病の女児例.小児科臨床57:1012-1016,20046)萎澤幸恵,酒井勉,永井祐喜子ほか:Bartonellahenselae感染による視神経網膜炎の1例.眼科47:987-992,20057)辰巳和弘,佐々由季生,三松栄之ほか:猫ひっかき病に伴う両眼の視神経網膜炎の1例.眼科42:213-217,20008)石田貴美子,猪俣孟,藤原恵理子ほか:視神経網膜炎を伴った猫ひっかき病の1例.臨眼54:1503-1507,20009)RothovaA,KerkhoF,HooftHJetal:Bartonellaserolo-gyforpatientswithintraocularinammatorydisease.Ret-ina18:348-353,199810)北善幸,竹内忍:猫ひっかき病による視神経網膜炎の臨床経過.眼科47:1119-1124,200511)宮本裕子,河原澄枝,岡田アナベルあやめほか:両眼の前眼部炎症および視神経乳頭炎を呈したネコひっかき病の1例.臨眼54:792-796,2001***