———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS上と良好な結果である.さらに調べてみると,角膜乱視0.5D以下が,それ以上の群と比べ,視力はさらに良好で,遠方視力では統計学的にも有意差を認めなかったが,近方視力では有意差を認めている.このように,より良好な裸眼視力を求める場合には,はじめに乱視矯正は,多焦点眼内レンズに限って必要というわけではないが,従来の単焦点眼内レンズよりも必要性が高い.眼鏡に依存せずに良好な裸眼視力を得るには,正確な眼内レンズ度数計算と乱視の軽減がポイントである.近年の白内障手術では,切開創に起因する医原性乱視は非常に少なくなったので,術前から存在する角膜乱視の程度によっては,何らかの矯正が必要になる場合がある.I術前角膜乱視が術後裸眼視力へ及ぼす影響多焦点眼内レンズの適応で,角膜乱視が少ない症例が良いとされている.これは,多焦点眼内レンズ導入にあたっては,まず,良好な裸眼視力が期待できる症例を選択することが推奨されており,1D以下が一般的である.実際に白内障手術を希望する症例の角膜乱視を調べてみると,ほとんどの症例が2D以内であるが,1D以内となると6070%である.わが国における多焦点眼内レンズの治験においては,一定期間に規定の症例数を集める必要性から,術前角膜乱視1.5D以下とやや適応を広げて行っている.この1.5D以内の術前角膜乱視例127眼を0.5D以下,0.551.0D,1.051.50Dの3群に分け,回折型多焦点眼内レンズ挿入後の遠方および近方裸眼視力を調べてみた.図1に遠方裸眼視力,図2に近方裸眼視力の結果を示す.角膜乱視が1.5D以下であれば,小数視力で遠方裸眼が平均0.6,近方裸眼が平均0.7以(47)1093aa眼ン101001291眼特集●多焦点眼内レンズあたらしい眼科25(8):10931096,2008多焦点眼内レンズと乱視矯正AstigmatismCorrectionFollowingMultifocalIntraocularLensImplantationビッセン宮島弘子*=127Student?検定p=0.052p=0.675p=0.0550.110.1650.1850.80.60.40.20-0.20.5以下0.55~1.0角膜乱視(D)LogMAR視力1.05~1.50図1角膜乱視と遠方裸眼視力=127Student?検定0.0590.150.1530.80.60.40.20-0.20.5以下0.55~1.0角膜乱視(D)LogMAR視力1.05~1.50p=0.0009p=0.959p=0.011図2角膜乱視と近方裸眼視力———————————————————————-Page21094あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(48)が,術後の矯正方法で詳細を述べる.切開幅が2.2mm以下では,切開による乱視への影響はほとんどないとされ,逆に切開で術前角膜乱視の調整はできない.3mm前後であれば多少の軽減が可能となる.矯正量は角膜切開か否か,切開幅,切開創の作り方によって異なり,詳細な定量化は困難である.一般的なのは,強主経線切開で,倒乱視例では耳側切開,直乱視では上方切開となる.特に視力に影響しやすい倒乱視例では,術前角膜乱視1Dが術後に0.5から0.75Dに軽減するだけでも裸眼視力が向上するため,角膜耳側切開を施行する術者が多い.また,通常2mm前後の切開であっても,矯正効果を期待して切開を3mm近くまで広げる術者もいる.わが国では強角膜切開を行う術者が多く,切開幅も小さくなっているので,切開による乱視矯正例はそれほど多くならないことが予想される.2.眼内レンズ挿入後の乱視矯正眼内レンズ挿入後,角膜乱視により裸眼視力が出にくく,患者の満足度に影響する場合は何らかの乱視矯正を考慮する.もちろん眼鏡矯正は可能なので,すぐに乱視矯正手術を選択する必要はない.眼内レンズ挿入後の2段階手術は,前述の眼内レンズ挿入時の同時矯正と比較して,手術が2回になる点は不利であるが,術後の裸眼視力,両眼でのバランスをみて,詳細に乱視矯正できることが利点である.a.LRI乱視矯正度数と角度によってノモグラムに沿って行うのが一般的である.図3のように,輪部というよりは,強主経線側の角膜周辺部にダイアモンドナイフで弧状に切開を入れる.このため,LRIではなくPCRI(periph-eralcornealrelaxingincision)という名称も使われてい角膜乱視が0.5D以下であることが理想的である.一方,角膜乱視が1.5D以下であれば,日常生活に不自由のない裸眼視力が得られることもわかった.回折型多焦点眼内レンズに限らず,屈折型多焦点眼内レンズにおいても,角膜乱視が1D以下であれば,近方裸眼視力0.5以上を得やすいが,それ以上では裸眼視力が低下することが報告されている1).II乱視矯正の適応裸眼視力が角膜乱視によって異なることがわかったが,実際に矯正を必要とする例とそうでない例がある.それは,角膜乱視の程度にかかわらず,術後裸眼視力への満足度に個人差があるからである.たとえば,角膜乱視の影響で裸眼視力が1.0でなくて0.7であっても,満足度が高ければ乱視矯正の必要はない.一方,裸眼視力が0.9であっても,角膜乱視による視力低下が明らかで,より良好な裸眼視力を望む場合は,何らかの矯正が必要になる.したがって,乱視の度数のみで乱視矯正の適応を決めることはできない.しかしながら,わが国よりも多焦点眼内レンズ挿入が普及している欧米あるいはアジア諸国では,角膜乱視が1.0D以上の場合,何らかの乱視矯正を検討する傾向である.単焦点眼内レンズより乱視矯正が注目されるのは,裸眼視力の向上,満足度の向上であるが,従来の遠方視力のみでなく近方視力も同時に向上することの影響が強い.まず,視力検査時に角膜乱視を矯正し,遠方のみならず近方矯正視力も測定し,適応を検討すべきである.また,角膜乱視が視力不良の原因で間違いないのか,他に視力不良の原因がないか必ず確認する.乱視が原因であっても,眼鏡装用で問題なければ矯正手術の必要はない.1つの眼鏡で遠方および近方視力が向上するため,必要時のみ乱視矯正眼鏡を装用することで満足が得られる例がある.III実際の乱視矯正方法1.眼内レンズ挿入時の同時矯正切開位置により乱視を矯正する方法と,輪部減張切開(limbalrelaxingincision:LRI)との組み合わせで行う方法がある.LRIについては,わが国でも報告がある2,3)強主経線図3LRIの基本———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.8,20081095(49)による球面度数への影響,すなわちcouplingratioは,LRIでは1:1のため,乱視の度数のみ考慮して行える.術前の条件としては,年齢が若いほど,また乱視軸は倒乱視ほど効果が出にくい.多焦点眼内レンズの普及により需要が増え,インターネットでデータを入力して計算する方法がある(http://www.lricaluculator.com).LRIはエキシマレーザーに比べ,乱視矯正効果の精度が落ちること,矯正度数に限界がある点が劣るが,高価なレーザーを使用せずに,白内障手術を行っている施設でマーカーやダイアモンドナイフを準備することで乱視矯正できるのが利点である.LRIは多焦点眼内レンズの普及により,再び注目されることが予想されるが,乱視軸の決定方法,日本人にあったマーカーの開発など,今後さらに研究が進むであろう.b.エキシマレーザーによる乱視矯正眼内レンズ挿入後の乱視矯正としてのエキシマレーザーは,単焦点および多焦点眼内レンズで報告されている46).エキシマレーザーによる乱視矯正法として,PRK(photorefractivekeratectomy)あるいはLASIK(laserinsitukeratomileusis)がある.PRKは術式が簡便で,LASIKのフラップ作製時に避けられない眼圧上昇がなく,眼内レンズ挿入後,早期に施行可能なのが利点である.近年,レーザー照射径を大きくする傾向にあり,角膜上皮除去範囲も大きくなるため,角膜上皮再生まで時間がかかり,視力の回復も遅れるのが問題点である.筆者の施設では,多焦点眼内レンズ挿入後の乱視矯正はほぼ全例LASIKで行っている.多焦点眼内レンズ挿入からLASIK施行までの期間は3カ月以上としている.その理由は,術後屈折の安定と,マイクロケラトームでもフェムトセカンドレーザーでもフラップ作製時に眼球が圧迫されるので,それに耐えうる完全な切開閉鎖のためである.矯正効果は良好で,多焦点眼内レンズ挿入後の乱視および等価球面度数は統計学的に有意に軽減している(図4).このなかには角膜乱視3D以上の症例も含まれているため,LASIK術後の角膜乱視度数は0.8Dであるが,ほとんどの例は0.5D近くまで軽減し,裸眼遠方および近方視力が改善し,患者の満足度が高い.近年,LASIKる.海外で一般的に使用されているノモグラム(表1,2)を参考にする場合が多いが,欧米人に比べて日本人では,角膜径が小さく,角膜厚が薄い例があるので注意する.角膜放射状切開(radialkeratotomy:RK)や乱視矯正角膜切開(astigmatickeratotomy:AK)では,切開部の角膜厚をパキメータで測定し,ダイアモンドナイフの切開深度を詳細に設定して切開する場合と,一定値に設定されたダイアモンドナイフで切開する場合があった.LRIでは,一定値に設定し,ノモグラムに沿って切開するのが一般的である.欧米では切開の深さ600μmに設定しているが,わが国では,特に加齢白内障例で角膜厚が薄く,角膜径が小さい例があるため,穿孔を防ぐ目的で,深さ550μm設定をする術者が多い.切開の長さは乱視の程度によって異なる.矯正効果は,切開が深く,長いほど強い.また,角膜中心に近くなるほど効果が強くなるが,RKやAK同様,不正乱視やグレア,ハローといった視機能に問題が出やすくなる.角膜切開表1LRIノモグラム(DouglasKoch)直乱視乱視度数年齢切開数切開幅0.751.0D<65歳65歳2145°45°1.011.75D<65歳65歳2260°50°>1.75D<65歳65歳2280°6070°斜乱視/倒乱視乱視度数切開数切開幅1.01.25D13545°1.262.00D1245°40°>2.00D245°表2LRIノモグラム(EricDonnfeld)乱視度数切開数切開幅0.5D11時間半分(45°)0.75D21時間分(30°)1.50D22時間分(60°)3.00D23時間分(60°)倒乱視,若年例ではやや強めに.高齢者ではやや弱めに.———————————————————————-Page41096あたらしい眼科Vol.25,No.8,2008(50)正により,さらに良好な結果が得られることを医師および患者が自覚したためであろう.多焦点眼内レンズも同様で,挿入例が増えるほど,角膜乱視の視機能への影響を実感する.まだ,多焦点眼内レンズとトーリックレンズが一緒になったものは使用できず,現段階では,乱視例における多焦点眼内レンズ挿入では,手術と同時あるいは術後一定期間をあけてからの乱視矯正術が検討される.乱視があればすぐ矯正手術というのではなく,眼鏡による矯正が可能なこと,症例によって乱視の程度にかかわらず満足度が異なることを念頭において,これらの乱視矯正術を予定すべきである.文献1)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Inuenceofastig-matismonmultifocalandmonofocalintraocularlenses.AmJOphthalmol130:477-482,20002)大谷伸一郎,宮田和典,坂上祐志ほか:白内障手術時における乱視矯正同時手術の適応.IOL&RS15:142-145,20013)山本桂乃,宮井尊史,子島良平ほか:白内障術後乱視に対する角膜輪部減張切開による角膜不正乱視の変化.眼科手術20:251-254,20074)NorouziH,Rahmati-KamelM:Laserinsitukeratomileu-sisforcorrectionofinducedastigmatismfromcataractsurgery.JRefractSurg19:416-424,20035)LeccisottiA:Secondaryproceduresafterpresbyopiclensexchange.JCataractRefractSurg30:1461-1465,20046)MacsaiMS,FontesBM:Refractiveenhancementfollow-ingpresbyopia-correctingintraocularlensimplantation.CurrOpinOphthalmol19:18-21,20087)RochaKM,ChalitaMR,SouzaCEetal:PostoperativewavefrontanalysisandcontrastsensitivityofamultifocalapodizeddiractiveIOL(ReSTOR)andthreemonofocalIOLs.JRefractSurg21:808-812,20058)ZengM,LiuY,LiuXetal:Aberrationandcontrastsen-sitivitycomparisonofasphericalandmonofocalandmulti-focalintraocularlenseyes.ClinExpOphthalmol35:355-360,2007においては,波面収差解析を用いたwavefront-guidedLASIKの良好な結果が報告されている7,8).多焦点眼内レンズのなかでも回折型挿入後の波面収差解析の信頼性について,今後さらに議論されるであろう.筆者の施設では,波面収差解析装置の測定結果が自覚的屈折と一致している症例で,測定結果の信頼性が高いと思われる症例に限ってwavefront-guidedLASIKを行っている.利点として,使用しているAMO社VISXS4IRレーザーでは,乱視軸を検査時とレーザー照射時に虹彩紋理で合わせるIR(irisregistration)が使え,精度の高い乱視矯正ができるからである.今後,さらに検討が必要な分野であるが,より精密な乱視軸の決定には,術前のマーキングよりもIRが優れており,wavefront-guidedLASIK以外でもこの技術が導入されることを期待する.おわりに多焦点眼内レンズは,昨年承認を受けたものの,自費手術となるため症例数が限られている.単焦点眼内レンズにおいて乱視矯正を兼ねたトーリックレンズが海外で販売され,成功している施設では白内障例の2030%にトーリックレンズが使用されている.これは,乱視矯図4LASIKによる円柱および等価球面度数の変化等価球面円柱度数0.610.311.890.80多焦点眼内レンズ後(D)1.02.0LASIK後