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眼科専門医志向者”初心”表明13.患者さんの生活を少しでも明るくしたい!

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092250910-1810/09/\100/頁/JCLS私が眼科に興味をもったのは,私自身目が悪かったという単純なことがきっかけでした.生活に困るほどではなかったので,幼少期から活発だった私は眼鏡をかけることを拒み続け,大学に進学.しかし広い教室では黒板の文字が見えず,見えないと頭に入ってこない.そこで仕方なく眼鏡をかけてみると…そこには感動の世界がありました.遠いから誰しも見えないと思っていたのに,こんな世界があるのかと….また,大学のポリクリで細隙灯顕微鏡を覗かせてもらってたくさんの虹彩を観ていると,その華のような模様は個々で少しずつ違い,とても美しいものでした.その発見以来,細隙灯顕微鏡を覗くことが私のささやかな楽しみとなっていました.何を隠そう私の母も眼科医なのですが,幼少期から「目の奥は宇宙みたい」とか「海の底みたいにキレイでワクワクするの」と聞かされていましたが,その気持ちがわかるような気がしました.そんな私も研修医となり多科でさまざまな経験をさせていただいて,いざ進路を決めるとなると本当に悩まされました.どの科も非常に興味深くやりがいがあり,特に救命救急や麻酔科など命にかかわる科には,また違った魅力がありました.しかしQOL(qualityoflife)となると,やはり眼に勝る器官はないのではないかと思わされるのです.それに眼科でも多発外傷にもかかわれる,救急疾患だってある,未熟児から高齢者とかかわっていける,内科的疾患にかかわりつつ,手術もできる,眼科医にしかできないことがたくさんある.そんなことを考え悩んだ末に私は眼科医となる道を選びました.いずれにしてもこうしたローテート制度だからこそ,そして将来眼科に進むからこそ,この2年間は貴重な時間であり,1つでも多くの疾患を診て,他科での経験を1つでも多く身につけ,目の前の患者さんの眼以外の部分に何かしらでもかかわっていける,そんな眼科医になりたいと思っています.5年後,10年後にこのページをみて笑っていられるよう頑張ります.◎今回は兵庫医科大学出身の多田先生にご登場いただきました.眼科は未熟児から高齢者まで診られて,救急疾患もありながら内科的疾患にかかわりつつ手術もできる本当に魅力的な科です.ジェネラリスト志向の世代でもこの魅力を知れば興味をもつ人が増えるのではないかと思います.(加藤)本シリーズ「“初心”表明」では,連載に登場してくださる眼科に熱い想いをもった研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生を募集します!宛先は≪あたらしい眼科≫「“初心”表明」として,下記のメールアドレスまで.全国の先生に自分をアピールしちゃってください!E-mail:hashi@medical-aoi.co.jp(87)眼科医志向者“初心”表明●シリーズ⑬患者さんの生活を少しでも明るくしたい!多田香織(KaoriTada)京都第二赤十字病院1982年生まれ.2007年兵庫医科大学卒業後,2年間京都第二赤十字病院で研修中.どんな患者さんにも笑顔を与えられる医師をめざして頑張ります.(多田)編集責任加藤浩晃・木下茂本シリーズでは研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生に『なぜ眼科を選んだか,将来どういう眼科医になりたいか』ということを「“初心”表明」していただきます.ベテランの先生方には「自分も昔そうだったな~」と昔を思い出してくださってもよし,「まだまだ甘ちゃんだな~」とボヤいてくださってもよし.同世代の先生達には,おもしろいやつ・ライバルの発見に使ってくださってもよし.この連載も2年目に突入!第13回目はこの先生に登場していただきます!▲部長の溝部恵子先生(左)と筆者

私が思うこと15.地域の視覚障害者との共生を目指して

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009223私が思うことシリーズ⑮(85)2人の恩師と臨床遺伝学私が生まれたのは昭和24年で,小学校の頃の思い出のなかには,“敗戦国日本”の情景が浮かんできます.その頃の日本の地域社会では,みんなで夕日を見て明日のことを考えていたように思います.勤務医の父と3人の子育てをしながら開業医をしていた母のもとで育ちました.そのためか,知らず知らずのうちに医師とは地域の人とともにあるものという考えが身についていました.小学生の頃だったと思いますが,皆が寝ていた夜中か明け方に,見るからに苦しそうな喘息発作の男性が急患で駆け込んできました.治療後しばらくして診療室から出てきた男性は,別人のように穏やかな笑顔で帰っていきました.「ステロイドが効いたのよ」という母の言葉とともに,地域に生きる開業医のすばらしさを感じたことを覚えています.勤務医を続けるか開業をするか迷った時期に開業の決断をした原点でもあったと思います.医学部を卒業して,眼科医としての手ほどきをしていただいたのが,当時東京医科歯科大学講師(現名誉教授)の所敬先生でした.所先生は,「目的をもたない研究ならするな」といわれ,研究テーマに迷っていた私に「強度近視の遺伝」を与えてくださいました.この頃は,ほとんどの医学部に遺伝学講座はなく,私も生物学における遺伝の知識程度しかなく,所先生は東京医科歯科大学難治疾患研究所助教授(当時)大倉興司先生を紹介してくださいました.大倉先生は日本における臨床遺伝学の先駆者で,遺伝学を0から教えていただきました.大倉先生には「学問は,国民に還元されなければならない」「臨床遺伝学は生命の質の受容か排除にかかわるもので,過去の歴史から学ぶもの」という医学者としての姿勢を教えていただきました.地域医療における視覚障害者大倉先生とのご縁から,昭和55年頃から社団法人日本家族計画協会遺伝相談センターで遺伝相談を担当することになりました.眼科関連の遺伝性疾患は多く,また他科領域にかかわる疾患も含めると膨大な知識を要求されます.遺伝相談は,遺伝性疾患にかかわる医学的・遺伝学的情報だけでなく,教育・療育・社会の対応・行政サービスなどの情報提供をすることにより,遺伝性疾患の当事者および家族の,自己決定権に基づいた将来設計への手助けをするための医療サービスです.遺伝相談センターには,全国から来所者がありました.地域で生活する方々にはその地域でないと支援できないこともあり,地域支援の必要性を感じたことも多くありました.また,「遺伝」は秘密でなければならないという日本的価値観をおもちのため,遠方より上京された方もあり,遺伝相談の重要性を強く認識することも多くありました.遺伝性眼科疾患の多くは視覚障害をきたします.たとえば,網膜色素変性は臨床症状,眼科的検査から診断は容易ですが,有効な治療法がありません.そのため,「遺伝性視覚障害者」であるという自らの不運と罪悪感から社会より遠ざかり,また治療法がないため医療から離れてしまう方も多くおられます.そのために新しい情報や希望を見いだせないまま,視覚障害者は,他の身体障害者と比べ,行動範囲が狭く,社会からの情報取得の少ないのが実状です.身近なところで視覚障害者が集い励ましあうことは必要であり,それをしたいと考え,私0910-1810/09/\100/頁/JCLS福下公子(KimikoFukushita)烏山眼科医院1949年東京生まれ.東京医科歯科大学医学部附属病院などの勤務を経て東京都世田谷区にて開業(烏山眼科医院).「強度近視の臨床遺伝学的研究」にて学位取得.日本眼科学会認定眼科専門医,日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医.専門は眼科学一般および遺伝相談.2006年より,視覚障害者同士の交流の場として「烏山さわやかクラブ」を主宰している.(福下)地域の視覚障害者との共生を目指して———————————————————————-Page2224あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009のしている遺伝相談の仕事が視覚障害者との共生社会の実現に向けて何ができるかを模索したのでした.私にできること私が開業している世田谷区には区立総合福祉センター(現在は財団法人)があり,当時の担当者に,区民の身近な場所で視覚障害者を対象とした支援の会を開くことを提案したところ賛同していただき,それこそ総合福祉センター職員が手弁当で参加してくれました.翌年から予算がつき,以来毎年,現在は区内3カ所で,眼科医の講演と拡大読書器やロービジョングッズの紹介の会が開催されています.行政側からもきっかけがあると協力をしていただけますし,熱意のある職員の存在を知ることができましたのは,うれしいことでした.しかし,行政の立場には自ずと限界があります.私は,支援者も視覚障害者も自由な環境で自由な発想での交流会を開催したいと考え,「烏山さわやかクラブ」を立ち上げました.わたしのクリニックは,眼科医1人,非常勤視能訓練士1人,眼科コメディカル4人の小規模な診療所です.それでも何かできることを示したかったのです.「烏山さわやかクラブ」は毎月1回第4土曜日に開かれます.小説・随筆などの朗読またはミニコンサート,医学・社会・行政からの情報提供,ロービジョン・エイドの紹介,おしゃべり,などなどです.参加者は12~17名前後です.診療所従業員の理解と協力,福祉センター職員の個人的協力,各ボランティアの協力があって成り立っています.参加される障害者の家族の方は,その時間が,介助から解放され自由になります.また,世田谷区内に,多くのボランティア団体があることを知り,地域の暖かさを再認識することもできました.3年前の開始以来,顔と顔が見える,声と声がわかる小さい集まりが安心感につながっているのでしょうか,参加者は毎回を楽しみに出席されています.治療という医療行為では限界を感じながら,このように同じ時間を共有することで医療者である私も癒されます.同じ疾患の患者さんが皆参加されるわけではありませんが,望み望まれる場合は暖かな交流が生まれます.“Ihaveadream”日本の医療は研究者と病院勤務医と開業医の3者が支えていると思います.すべてを経験した私からみて,どの立場も決して楽ではありませんが,学んだ知識・経験を国民に還元するという目的をしっかりもって,地域医療での仕事をしていきたいと思っています.まだ申し上げられない夢をもち続けながら.福下公子(ふくした・きみこ)1974年東京女子医科大学医学部卒業1974年東京医科歯科大学医学部眼科学教室入局1975年東京医科歯科大学医学部助手1981年東京医科歯科大学医学部講師1983年取手協同病院眼科医長1984年烏山眼科医院院長現在,社団法人日本眼科医会常任理事,社団法人東京都眼科医会常任理事,社団法人日本家族計画協会遺伝相談センター専門委員.(86)烏山眼科医院:〒157-0062東京都世田谷区南烏山5-16-20ハラシマビル3FTEL:03-3308-0777ロービジョンルーム「烏山さわやかクラブ」へのお誘い烏山眼科医院目のご不自由な方々が、集まり、交流し、社会の情報を得る場所が、身近な地域社会の中にあっても良いと考えて、交流会「烏山さわやかクラブ」を作りました。「烏山さわやかクラブ」では、朗読会やミニコンサート、講演会等を企画しております。また、拡大読書器やルーペ、日用品等日常生活に便利なものを紹介し、実際に手にとって試すことが出来るよう考えております。小さな場所で、充分に整った設備ではございませんが、皆様と共に考えて、過ごしやすい場所にしていきたいと考えております。皆様のご利用をお待ちしております。***「烏山さわやかクラブ」の日***7月15日(土)午後1時30分~2時ミニコンサート“懐かしい日本の歌”午後2時~3時30分交流会・自由展示拡大読書器、ルーペ、日常生活用品等次回は8月19日(土):朗読会を予定☆☆☆

インターネットの眼科応用1. インターネットの歴史と発展

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092210910-1810/09/\100/頁/JCLSインターネットの歴史は,アメリカの軍事目的から始まりました.1961年ユタ州で3つの電話中継基地が爆破され,同時にアメリカの国防回線も一時的に完全停止する事件が起きました.アメリカ国防総省は従来の電話網ではいざという時にはまったく役に立たないことを危惧し,核戦争にも耐えうる通信システムの研究を開始しました.基地が爆破されても国防上重要な情報を保護できる,情報基盤の設立が目的でした.情報をパケット(小包)化し,いくつかの中継所が遮断されても情報を迂回させ目的地まで伝達されるシステムが,1969年9月,UCLA(カリフォルニア大学ロスアンゼルス校)スタンフォード大学,カリフォルニア大学サンタバーバラ校,ユタ大学が回線に接続されて誕生しました.この,24時間回線をつなげっぱなしのコンピュータ・ネットワークは,ARPA(国防総省高等研究計画局)が主導しており,ARPANETと名づけられインターネットのもととなりました.このネットワークは時代とともに,国家機関から研究機関へ,研究機関から民間企業へその主役を譲ります.1979年にはネットニュースが登場し,商用オンラインサービスがアメリカで産声をあげました.1985年に全国科学財団による学術研究用のネットワーク基盤NSFNetがつくられ,インターネットのバックボーンの役割がARPANETからNSFNetへ移行します.1989年に商用ネットワークとNSFNetとの接続が開始され,1995年にはNSFNetは民間へ移管され,Windows95の登場で一般個人でのインターネットの利用が広がりました.インターネットはWeb(クモの巣)とよばれる,あくまで道具です.時代の流れによって,その用途は拡大してきました.前述のとおり,最初の利用目的は「軍事」でした.つぎに研究機関の「通信」として使われ,画像を転送できるようになると,成人向け画像を見るために個人利用が広がります.さらに,インターネットで商品を購入する「物販」として使われ世のなかに爆発的に広がりました.メールを送ったり,ネットで商品を購入したりすることは今や当たり前になりましたが,これはすべてこの15年足らずの出来事です.技術の進歩から始まり,人間の意識と行動の変容を招いた,この15年の出来事はまさに革命です.医療の進歩も日進月歩ですが,インターネットによる情報革命を,農業革命,産業革命に次ぐ,第三の革命とよぶのはもっともな話です.その革命の波は,本来アナログな行為の医療にも迫っています.アメリカではインターネット上にクリニックを開設した医師も現れました.これは2008年の話です.インターネットの利用目的は「軍事」「通信」「アダルト」「物販」と,時代の流れとともに人間の欲求を満たす道具として使われてきました.家電や車にもインターネットが搭載され,インターネットの用途は拡大の一途(83)インターネットの眼科応用第1章インターネットの歴史と発展武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科私はNPO法人MVCメディカルベンチャー会議(以下,MVC)の理事長の武蔵国弘といいます.大阪で眼科クリニックを営む傍ら,医療者の人的・知的交流を活性化させる,という理念のもと,有志とNPO法人を設立し活動しています.MVCというのは,MedicalのM,VentureのV,ConferenceのCの3つの単語の頭文字をとっています.つまり,「ベンチャースピリットをもった医療者の集まり」という意味になります.その活動の一つが,インターネット上の各種媒体の運営です.医師限定インターネット会議室「MVC-online」,ウェブ医学事典「Medipedia」,臨床動画共有サイト「Medisa-lon」など,医療者間の人的・知的交流を行う情報基盤の設立を目指しています.医療というアナログな行為と,眼科という職人的な業をインターネットでどう補完するか,実例を交えながら紹介していきたいと思います.連載にあたってシリーズ①———————————————————————-Page2222あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009です.次号の第2章に詳細を紹介しますが,インターネットの最新の活用方法は「交流」です.ブログに代表されるように,これまで情報の受け手であったユーザー個人が情報の発信者へとシフトし,ユーザー参加型のモデルが広まっています.ARPANETから始まったインターネットの主役がついに,国家機関から個人へと移行しています.ブログとは,「Web(ウェブ)」と「Log(ログ)」を合わせた造語で「Web上に残される記録」を意味します.1999年にアメリカで管理作成が容易なブログツールが開発されたことがきっかけで爆発的に広がりました.1999年以前にも,米英によるイラク侵攻の際にイラクから更新されるブログが話題となり,その知名度を大きく引き上げる結果となりました.日本では,ツールの日本語化などにより,2002年ごろから急速に広まり,総務省によると,2006年3月末の日本でのブログ利用者数は2,539万人に達するようです.この「交流」という用途でインターネットを使うと,場合によっては凶器にもなりますし,有用なツールにもなります.インターネット上での嫌がらせや誹謗中傷が犯罪や自殺を招いた,という報道をしばしば耳にします.それに対し,人間の表現意欲をインターネット上に有益に引き出して成功した例の代表が,フリー百科事典「Wikipedia(ウィキペディア)」です.ウィキペディアは,アクセス数が全世界で5本の指に入るサイトですが,15万人を超えるボランティアたちの全世界的コミュニティを中核として成り立っています.このボランティアの力で,誕生から8年の間に,265の言語版において,千百万以上の項目が生まれました.彼が親日家だからでしょうか,日本語版は第3位の単語数を誇ります.その世界的な事業にもかかわらず,訴訟社会のアメリカにおいて,ウィキペディアを運営するウィキメディア財団は一切の訴訟を抱えていないそうです.創設者のジミー・ウェールズ氏は,その理由を,「人の善意を信じて運営しているからだ」と明言していました.(第32回MVC定例会,2007年3月10日)MVCが運営する,医師限定インターネット会議室「MVC-online」もウィキペディア同様,医療者の善意を信じて運営しています.「荒れる」「炎上」といった現象とは無縁です.一定の資格を得た専門家が参加し,イ(84)ンターネットで知的交流を行うのは時代の流れです.医療の世界でも,大学や病院といった組織からの情報発信だけでなく,医師個人が情報を発信し,ディスカッションし,集合知を創るのが次の10年に起こる流れと予測します.インターネットの歴史と利用の拡大について,実例を交えて紹介しましたが,インターネットが十分に活かされていない分野は今でもあります.私が思い浮かぶのは,医療と教育と農業です.インターネットの農業応用はさておき,医療の分野でどのようにインターネットと付き合えば,われわれ医療者の業務が効率化できて,知識の獲得が効率的にできるのか,医療者の教育はどう効率化できるのか,答えはまだありません.その答えをつくるのは民間企業ではなくて,医療者われわれの意識です.私は一臨床医です.システムやプログラムのことはよくわかりませんが,インターネットの使い道についてはまだまだ可能性を感じ実践してきました.連載を通じて,インターネットの医療応用の可能性について実例を交えて紹介していきます.皆さんとの意見交換を通じて,30年後の医療環境を共に作っていければ幸いです.MVCは医療人の知的・人的な交流を活性化させ,蓄積された知的共有物を広く一般生活者に伝え,医療水準の向上に貢献したい,という理念の下に活動しています.MVCの活動に共感され,k.musashi@mvc-japan.orgに連絡いただければ,MVC-onlineの招待メールをお送りいたします.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.武蔵国弘(むさし・くにひろ)平成10年京都大学医学部卒業平成10年神戸市立中央市民病院眼科平成12年日本赤十字社和歌山医療センター眼科平成18年NPO法人MVCメディカルベンチャー会議理事長平成19年京都大学大学院医学研究科卒業平成19年むさしドリーム眼科院長<プロフィール>

硝子体手術のワンポイントアドバイス69.角膜移植後の網膜剥離(中級編)

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092190910-1810/09/\100/頁/JCLSはじめに角膜移植の術後合併症には,拒絶反応,graftfailure,角膜感染症,続発緑内障,胞様黄斑浮腫などが報告されているが,裂孔原性網膜離も2~5%に発症するとされており,術後合併症の一つとして留意しておく必要がある.膜移植後の網膜離発症の危険因子角膜移植術後に発症する網膜離の危険因子として,手術時に併施する水晶体切除,前部硝子体切除などがあり,有水晶体眼の角膜移植後に網膜離が生じることはまれとされている.つまり通常の白内障手術と同様の機序で網膜離の発症リスクが高くなり,それに角膜移植術自体の侵襲が加わって眼内炎症が遷延化し,二次的に硝子体の変性収縮を惹起する可能性が考えられる.もちろん強度近視,網膜格子状変性巣を有する症例では発症のリスクが高くなる.角膜移植後の網膜離に対する網膜硝子体手術角膜移植眼の網膜離の手術成績は他の網膜離に比(81)較して一般に不良とされている.その理由として,角膜浮腫や混濁,移植片と宿主角膜の境界部に残存する輪状混濁などのため眼底の視認性が不良となり(図1),裂孔検出率が低いことがあげられる1).もともと視力不良例では自覚症状に乏しく,すでに網膜全離や増殖硝子体網膜症に進行している症例が多いことも復位率が低い原因と考えられる.網膜硝子体手術の施行に際しては,眼底の視認性を十分に確保することが大切である.散瞳不良例に対する瞳孔拡張術,残存水晶体皮質の処理による眼底周辺部の視認性確保などが特に重要であるが,手術眼の屈折状態(強度近視の有無など)や僚眼の眼底から得られる種々の情報(硝子体変性や網膜格子状変性巣の有無)を必ず把握し,どのようなタイプの網膜離が生じているのかを予め予測しておく必要がある.また,網膜硝子体手術時に使用するタンポナーデ物質の角膜内皮障害や術後炎症により惹起される拒絶反応を最小限に抑える必要がある.特に無水晶体眼ではタンポナーデ物質が直接角膜内皮に影響を与えるので拒絶反応が生じやすい(図2).このような拒絶反応のハイリスク例では,術前からステロイドやシクロスポリンの内服を行い,可能なかぎり予防に努める必要がある2).文献1)川崎諭,池田恒彦,西田幸二ほか:全層角膜移植後の網膜離.臨眼52:1723-1727,19982)前田直之,細谷比左志,池田恒彦ほか:ハイリスク角膜移植に対するシクロスポリン内服の効果.臨眼46:1071-1076,1992硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載69角膜移植後の網膜離(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科←図1自験例の細隙灯顕微鏡所見角膜移植片と宿主角膜の境界は混濁しており,眼底周辺部の観察が困難であった.→図2術前眼底写真胞状の網膜離が黄斑部に進行している.無水晶体眼で硝子体脱出の既往があるため網膜離の進行は速かった.強膜バックリング手術とガスタンポナーデで復位が得られた.

眼科医のための先端医療98.眼から全身疾患への治療応用について

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092150910-1810/09/\100/頁/JCLS近年,眼科領域でのトピックスの一つに血管新生抑制があります.このコンセプトは昨年(2008)逝去されたChildren’sHospitalBoston,VascularBiologyGroupの故JudahFolkman教授がVPF(vascularper-meabilityfactor)=VEGF(vascularendotheliumgrowthfactor)を抑制することで癌細胞への血液供給を低下させることから癌細胞の発育が抑制され,同時に血管播種も抑制されることがわかり,研究が進められてきたものです.近年,このような全身疾患,特に癌治療で使用されている薬剤が眼科領域の血管新生に応用されています.血管新生とその血管からの漏出現象により視力低下をきたす加齢黄斑変性症へは大腸癌治療薬であるLucentisR(ranibizumab),AvastinR(bevacizumab)が使用され,現在では高い治療効果が期待できる薬剤の一つとして各大学・病院倫理委員会の承認を得て用いられています(LucentisRは近々,黄斑変性症の臨床へ使用できるようになります).また,加齢黄斑変性症に眼科領域の実験で開発されたMacugenR(pegaptanib)は,単独投与と同時に今後PDT(photodynamictherapy)との併用でいっそうの効果が望まれる薬剤としても期待されています.さらに,角膜においても角膜血管新生に対してAvastinRが使用され,いくつかの報告がみられます.角膜における血管新生抑制薬としてAvastinRのほかにVEGF-TRAPが動物実験において高い拒絶反応抑制効果が確認されており,すでに欧米では臨床応用に用いられる一歩手前まできています.この薬剤も元来は癌治療への応用で研究・開発されたものでありますが,やはり眼科領域から全身疾患への治療応用についてはほとんど報告されていません.最近になりようやく血管新生ではありませんが,血管新生に類似したメカニズムであるリンパ管新生にKentucky大学のグループが眼の前房水中にあるリンパ管抑制因子を発見し,リンパ管新生を抑制し癌のリンパ管転移を抑制することへの応用を試みています(ARVO2008).このように治療の分野においては眼から発見された知見が全身に応用されることが少ないことがわかります.眼において発見された現象が他の臓器や組織で確認されることも少ないのが実状です.そこで今回,眼においてその現象が発見され他臓器・組織で応用される可能性のある治療法などについて自検例をもとに述べたいと思います.角膜という無血管・リンパ管組織を実験に使用するのはなぜか?角膜には血管・リンパ管はんなぜ角膜に血管リンパ管ていないかについてはいつかのの組ののをていす角膜にはの血管新生でる角膜皮にから角膜にけてるうにているとというのリンでるとに血管・リンパ管をているというすかののと考えらす角膜傷・・疾患において角膜に血管てるとはの実ですに眼ではるとでんリンパ管てるとかていす角膜に生するリンパ管はにを状なリンパにとてらていすのリンパ管をするとで状のリンパへのをリンパでのを角膜の応るとていすにらリンパをするのとうにをでないうにするですはのうなの状態では無血管・リンパ管でのに血管・リンパ管新生するという角膜組織を用するとで使用する血管・リンパ管新生のをつかです眼は全身疾患をするとの実でのうなをとなけ全身疾患への治療応用を考えるとですとえつにる糖尿病下です糖尿病状態での角膜血管・リンパ管新生についてらは糖尿病下の角膜において血管・リンパ管新生生にいとをのとは全身の・組織にするマの◆シリーズ第98回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊丸山和一(京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学)眼から全身疾患への治療応用について———————————————————————-Page2216あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009が低下しており,血管・リンパ管などの創傷治癒過程に関連する現象が正確に誘導されていないために起こることを突き止めました.マクロファージは元来,炎症期にTNF(腫瘍壊死因子)-aなどの炎症性サイトカインを分泌し炎症部位へのさらなる炎症細胞の浸潤を促進させることや,VEGFを産生し血管・リンパ管を誘導する機能をもっています.しかし,糖尿病の特徴である高血糖環境がその機能を抑制する原因の一つであることが判明しています.特に筆者らは,マクロファージのもつVEGFレセプター-1,-3の発現やマクロファージが産生するであろうVEGF-A,-Cの発現を確認したところ,その発現は高血糖により減少していたことを突き止めました.このため,血管やリンパ管を誘導するサイトカインが存在していたとしても,それを受け取るレセプターがなく存在自体が意味のない細胞が局所に集合することになります.そのため,角膜に縫合をし,炎症を誘導する実験系では血管・リンパ管誘導がⅡ型糖尿病マウスモデルで起こりにくいことがわかりました.糖尿病状態における創傷治癒過程の回復のは角膜けでな皮膚でら皮膚創傷治癒するとからは創傷のマのを回復創傷にリンパ管を組織のをら創傷治癒をるというンを実験は糖尿病マウスのを回のをなでてマへを血糖な下において実験に使用実糖尿病の創傷はているのの創傷治癒過程になのはておらないている創傷治癒過程にをていすのらはのをている創傷治癒過程をからでないかと考え創傷治癒過程には創傷へののでにいをすとで創傷治癒過程回復でるのではないかと考えにのは糖尿病ではにとするとないとらの〔d7〕〔d7〕*p=0.02Saline修復エリア(%)db/dbM?db/dbM?(IL-1b)db/+M?Salinedb/dbM?untreateddb/dbM?IL-1b-treateddb/+M?*図1糖尿病マウスにおける皮膚創傷治癒過程(細胞治療による創傷治癒の促進について)写真は糖尿病マウス背中に傷を作製し,その周囲に細胞・生理食塩水を投与したもの(d7:術後7日目,saline:生理食塩水のみ注入,db/dbMountreated:糖尿病マウスマクロファージを投与,db/dbMoIL-1btreatedMo:糖尿病マウスマクロファージをIL-1b刺激した細胞を投与,db/+Mo:ヘテロマウスマクロファージを投与).グラフは術後7日目の創傷治癒面積(範囲が広いほど傷の治りが速いことを意味する).(文献5より抜粋)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009217究から判明しています.このことより,急性期の炎症とそれに伴う適切な細胞導入を試みました.方法は,先ほど述べた骨髄から採取した何も外からの刺激を入れていないマクロファージをⅡ型糖尿病マウスの皮膚欠損部位に注射したところ,創傷治癒過程が促進し,実際に傷は治癒しましたが,劇的なものではありませんでした.しかし,炎症刺激を加えたマクロファージを投与したところ劇的に創傷治癒過程が促進しました(図1).このことより,糖尿病環境下の創傷治癒過程には外からの急性炎症を誘導することが大事であることが判明しました.この急性炎症の誘導にはサイトカインだけでは不十分で,マクロファージなどの細胞成分が必ず必要であることも付け加えておきます.眼から全身疾患の治療を考えるのうに眼でとを実に全身疾患へ応用すると眼のなら全身疾患の治療にすると考えていすらのンはマリンパ管にするというのンを用治療でとのを考えなをるとをとていす文献1)AmbatiBK,NozakiM,SinghNetal:Cornealavasculari-tyisduetosolubleVEGFreceptor-1.Nature443:993-997,20062)CursiefenC,ChenL,Saint-GeniezMetal:NonvascularVEGFreceptor3expressionbycornealepitheliummain-tainsavascularityandvision.ProcNatlAcadSciUSA103:11405-11410,20063)CursiefenC,CaoJ,ChenLetal:Inhibitionofhemangio-genesisandlymphangiogenesisafternormal-riskcornealtransplantationbyneutralizingVEGFpromotesgraftsur-vival.InvestOphthalmolVisSci45:2666-2673,20044)YamagamiS,DanaMR:Thecriticalroleoflymphnodesincornealalloimmunizationandgraftrejection.InvestOphthalmolVisSci42:1293-1298,20015)MaruyamaK,AsaiJ,IiMetal:Decreasedmacrophagenumberandactivationleadtoreducedlymphaticvesselformationandcontributetoimpaireddiabeticwoundheal-ing.AmJPathol170:1178-1191,20076)MaruyamaK,IiM,CursiefenCetal:Inammation-inducedlymphangiogenesisinthecorneaarisesfromCD11b-positivemacrophages.JClinInvest115:2363-2372,2005(79)「眼から全身疾患への治療応用について」を読んで生のをするにの生ではの「」のをなるかのうにをて生らには生のをてでの生のでるうになの「」にはかておすンにかをていになのにからいな生全の生をとらえるのはてですの生のではからは生のとなるとえス創傷治癒血管新生リンパ管新生なをのとて疾患の病態生をするというえすではす回の丸山和一生ののするとは生全ではんにのな一をて生ののとての病態を生のをるとにうというのです丸山生はマリンパ管にするというンをておす組織応のににするマをととていですて文にておらすのうなな生は全身にするでると眼におけるい全身ののの病態に応用るとのリいと考えすウンスをするのに生をから生生のでにするとにえてでのとて疾患の病態生のをするとでののはすすていでう眼ていはのうなでをリでる実をておをリでると考えす丸山生のをリると考えす山病態山下英俊

サプリメントサイエンス:脂溶性ビタミン(ビタミンA,ビタミンE)

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092110910-1810/09/\100/頁/JCLSビタミンは便宜上,油にとける脂溶性ビタミンと水にとける水溶性ビタミンに分けられる.脂溶性ビタミンは,A,D,E,Kの4種類である.これらのビタミンはそれぞれ生命活動の維持に必要な作用を担っており,そうした作用は「生理作用」または「栄養素作用」とよばれている.ビタミンの生理作用が十分に得られないと,体に欠乏症が生じるが,そうならないために1日に最低必要なビタミン摂取量が「最低必要量」とされている.さらに,この最低必要量に安全性を見積もって2割前後の上乗せをした量が,または飽和量がそのビタミンの「1日所要量」とされている.ところが,最近,1日所要量の3100倍という大量のビタミンを摂取しつづけると,生理作用にとどまらない効果を示すことが期待され,こうしたビタミンの「薬理作用」あるいは「疾病予防作用」が期待されている現状が生まれつつある.しかし,気をつけたいのはビタミンのとりすぎによる過剰症である.本稿では,脂溶性ビタミンのなかでもビタミンAとビタミンEに焦点をあて,解説する.ビタミンA構造式:化学名レチノールとよばれ,構造が少し異なるレチナール,レチノイン酸などの形でも存在しており,これらのビタミンA類縁体をレチノイドと総称している(図1).薬理作用・生理作用:bカロテンが体内で分解・代謝されてビタミンAとなる.ビタミンAは眼球の網膜上にある視細胞のうち,薄明視に重要な桿状体細胞において,桿体オプシンとリジン残基を介して結合し,ロドプシンとなる.ロドプシンは視色素とよばれる一群の物質の一つで,視細胞における光による興奮の情報伝達に重要な作用をしている.さらに,ビタミンAは,皮膚や粘膜などの外界に接する上皮細胞に機能し,生体防御反応を修飾する作用もある.ビタミンAの薬理作用には,発癌抑制作用が最も注目されている.ビタミンAの癌抑制作用は確認されているものの,摂取により過剰症を起こす危険があり,最近ではビタミンAに変わってカロテノイドが注目されている.カロテノイドは自然界には500種類以上が知られている橙色や黄色の色素で,このなかで約30種類は体内でレチノイドに変化するプロビタミンAとしての活性がある.その代表はbカロチンであるが,喫煙者を対象とした臨床試験により肺癌が増加したことで有名になり,bカロテン単剤,あるいはbカロテンを含むビタミン剤は,癌や心血管疾患の予防目的では摂取すべきでないと勧告されている.やはり,bカロテンの摂取は野菜や果実から摂取するのが基(73)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑨監修=坪田一男9.脂溶性ビタミン(ビタミンA,ビタミンE)内藤裕二吉川敏一京都府立医科大学消化器内科学消化器先進医療開発講座脂溶性ビタミンは,A,D,E,Kの4種類である.最近,ビタミンの「薬理作用」あるいは「疾病予防作用」が期待され,特に生活習慣病に対する予防効果が注目されている.動物実験では有用性を示唆する報告も多いが,ヒトを対象とした試験によるエビデンスは十分ではない.ビタミンAとビタミンEについて基礎的事項ならびに最近の話題について解説した9シスレチノイン酸オールトランスレチノール(ビタミンA)オールトランスレチナールオールトランスレチノイン酸CHCHCHCHCH2H13シスレチノイン酸図1代表的なレチノイドの構造式———————————————————————-Page2212あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009本である.1日必要量:単位としては,国際単位(IU)を用い,レチノール0.3μgRE(レチノール当量)を1IUとしている.bカロテンの場合には,生体内におけるレチノールへの変換の収率が質量比で1/2であり,消化吸収率がレチノールの1/3になるため,bカロテン6μgがレチノール1μgに相当する.ビタミンAの1日所要量は成人男性で2,000IU,女性で1,800IUと設定されている.許容上限摂取量は成人で5,000IU.ビタミンAを多く含む食品:ビタミンAは動物性食品からはレチニルエステルとして,植物性食品からはカロテノイド(特にbカロテン)として摂取される.1日に2,000IU(600μgRE)の摂取が必要と考えると,動物性レチノールを300μgと植物性bカロテンを1,800μg摂取することが勧められている.具体的には表1にレチノール300μgREを含む食品を示した.眼科的に必要量:レチノールの血中濃度は通常0.5μg/ml程度であり,0.3μg/mlをきるとビタミンA欠乏症状としての夜盲症に注意が必要である.食事からの摂取以上にサプリメントとしての過剰摂取の必要性はなく,科学的根拠もない.サプリメントとして摂取すべきかのエビデンスレベル:B(血中濃度が低いなどリスクのある人は摂取すべき)ビタミンE構造式:トコフェロール(Tocopherol)の「Tocos」はギリシャ語で“子供を産む”という意味があり,「Phero」は“力を与える”という意味がある.ビタミンE同族体として自然界に存在するものには,トコフェロール4種とトコトリエノール4種の合計8種類がある(74)(図2).これらのビタミンEは,穀物,緑葉植物,海藻類,野菜,植物油,魚類,肉類など自然界に広く分布するも,その生物活性(効力)はそれぞれ異なり,a-トコフェロールを100とすると,b-トコフェロール3050,g-トコフェロール10,d-トコフェロール2以下で,トコトリエノール類は,トコフェロール類に比べ低いことが知られている.薬理作用・生理作用:ビタミンEのおもな生理作用は活性酸素による細胞の酸化障害を抑制する抗酸化作用である.癌,心臓病,脳卒中,動脈硬化,糖尿病,白内障などのさまざまな生活習慣病の発症・進展に活性酸素の関与が明らかとなり,ビタミンEはその酸化を抑制する作用が強く,これら疾病の予防効果が期待され,現在多くの臨床試験が行われている.ビタミンEはその強い抗酸化作用から,酸化ストレスの軽減,酸化LDL(低比重リポ蛋白)の生成抑制,脂質過酸化反応の抑制などにより,動脈硬化の発症・進展に抑制的に作用することが期待されている.さらに,最近では,抗酸化作用によらない,いわゆる“beyondantioxidant”作用についても注目が集まっている2).特にinvitroの検討では多くの知見が集積しているが,ヒトに対するビタミンE投与の介入試験では一致した結果が得られていない.ビタミンE投与量,吸収,代謝,細胞内移行性などを含めたさらなる検討が必要である.しかし,ビタミンEとb-カロテン併用による試験では前立腺癌の発生が有表1ビタミンAの1日推奨量(600μgRE)を動物性とbカロテンで50%ずつ摂取するための基準bカロテン(1,800μg=300μgRE)レチノール(300μg)ニンジン25g鶏レバー23gカボチャ50gあん肝34gホウレンソウ43g卵400gシュンギク40g牛乳800mlブロッコリー220gウナギかば焼き13gトマト330gシシャモ300gビワ220gホタルイカ20g温州ミカン180gノリ4g図2トコフェロールとトコトリエノールa-Tocopherol/TocotrienolCH3CH3CH3b-Tocopherol/TocotrienolCH3HCH3g-Tocopherol/TocotrienolHCH3CH3d-Tocopherol/TocotrienolHHCH3———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009213(75)意に少ないことが明らかとなり1),さらに血清のa-トコフェロールやg-トコフェロールの低値は前立腺癌のリスクファクターであることも明らかとなった2).トコフェロールとは側鎖に二重結合が2個多いトコトリエノールの作用が注目されはじめている(図1).両者の違いは十分には解明されていないが,最も大きな相違点はトコトリエノールは細胞を使用した実験においてきわめて低濃度で種々の作用を示す点である.nMオーダーでの細胞保護作用なども報告されており,種々のシグナル伝達抑制効果から中枢神経領域ではその作用解明が進んでいる3).臨床的には乳癌治療への応用,皮膚疾患治療薬への応用が期待されているが科学的証拠は十分ではない.トコトリエノールはパーム油などに高濃度に含まれており,今後の応用が期待される抗酸化剤であるが,その吸収,代謝,組織分布など十分には解明されていない点も多い.1日必要量:厚生労働省が策定した2005年版の食事摂取基準においては,a-トコフェロールのみの目安量(adequateintake:AI)および上限量(tolerableupperintakelevel:UL)を定めている.目安量は成人男性で9mg/day,女性で8mg/day,上限量は成人男性で800mg/day,女性で600mg/dayとなっている.一般的には成人ではビタミンE欠乏はみられない.ビタミンEは脂溶性ビタミンとしては毒性がきわめて低く,大量に摂取した場合でもその重篤な過剰症は報告されていない.ビタミンEを多く含む食品:植物油やナッツ類に多く含まれるが,1日の目安量8mgを摂取するためには,木綿豆腐56丁,アーモンド22粒,調合サラダ油49g,ホウレンソウ320g,カボチャ1/6個が必要である.健康増進を目的に300mg程度を摂取することは食品からは不可能である.眼科的に必要量:ビタミンEの抗酸化作用を考慮したときに最も期待される眼科疾患は白内障の予防である.最近の45歳以上の女性35,000人を対象とした観察研究では,食事とサプリメントの双方から最もビタミンEを摂取したグループでは白内障発症リスクが14%低かったことが報告されている4).しかし,ビタミンE(600IU)を投与した前向き二重盲検他施設比較試験では,平均9.7年間の臨床試験で有意な有効性は証明できていない5).摂取すべきかのエビデンスレベル:B(閉経後など白内障のリスクの高い人は摂取すべき)おわりに脂溶性ビタミンにはその欠乏症状からその存在が発見された.その後,それらの生活習慣病予防効果に対する有効性を示唆する基礎的検討結果とともに動物実験においてもその作用が確認されてきている.疫学調査では効果を期待する成績もあるが,臨床医学における高いエビデンスレベルでヒトにおける有効性が実証できた脂溶性サプリメントはない.文献1)VirtamoJ,PietinenP,HuttunenJKetal:Incidenceofcancerandmortalityfollowingalpha-tocopherolandbeta-carotenesupplementation:apostinterventionfollow-up.JAMA290:476-485,20032)WeinsteinSJ,WrightME,PietinenPetal:Serumalpha-tocopherolandgamma-tocopherolinrelationtoprostatecancerriskinaprospectivestudy.Incidenceofcancerandmortalityfollowingalpha-tocopherolandbeta-caro-tenesupplementation:apostinterventionfollow-up.JNatlCancerInst97:396-399,20053)SenCK,KhannaS,RoySetal:Molecularbasisofvita-minEaction.Tocotrienolpotentlyinhibitsglutamate-inducedpp60(c-Src)kinaseactivationanddeathofHT4neuronalcells.JBiolChem275:13049-13055,20004)ChristenWG,LiuS,GlynnRJetal:Dietarycarotenoids,vitaminsCandE,andriskofcataractinwomen:apro-spectivestudy.ArchOphthalmol126:102-109,20085)ChristenWG,GlynnRJ,ChewEYetal:VitaminEandage-relatedcataractinarandomizedtrialofwomen.Oph-thalmology115:822-829,2008☆☆☆

眼感染アレルギー:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の保菌メカニズム

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092090910-1810/09/\100/頁/JCLSメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は,角膜潰瘍,眼内炎,眼窩蜂窩織炎などの起炎菌となるが,セフェム系以外にもアミノグリコシドやフルオロキノロンを含めた多くの薬剤に耐性であるため,治療に苦慮することがある.また,近年では病院内だけでなく市中にもMRSAが蔓延傾向にあり,米国ではUSA300という市中獲得型MRSAによる眼感染症が問題となっている1).色ブドウ球菌の鼻腔キャリアそもそもMRSAを含めた黄色ブドウ球菌はヒトの常在菌であり,鼻前庭,腋窩,会陰部などから分離されるが,そのなかでも鼻前庭が主たる常在部位と考えられている2).常在菌とはいっても,黄色ブドウ球菌はすべてのヒトに等しく常在しうるわけではない.健常者の鼻前庭の保菌についてはおおよそではあるが,20%がper-sistentcarrier(長期にわたり保菌しているもの),30%がintermittentcarrier(一時的に保菌しているもの),50%がnon-carrierといわれている.「鼻の保菌のしやすさ」は,このように一律ではないために宿主側の因子,菌側の因子,環境などの条件が組み合わさって決定されると考えられている.現在のところ,鼻粘膜の分泌物の性状の違い,宿主の免疫状態,細菌干渉(bacterialinterference)などの要因が報告されているが,黄色ブドウ球菌の保菌を決定づける因子の解明についてはさらなる研究が必要である.部と鼻腔の保菌の性眼科においては,Stevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡などの瘢痕性角結膜疾患において,MRSAの保菌が患者の長期予後に大きな影響を与えうる.過去に京都府立医科大学附属病院眼科で分離されたMRSAの多くはこのような瘢痕性角結膜疾患からであった(図1).これらの患者から分離されたMRSAについてパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)による解析を行ったところ,同一患者の眼部から2年以上長期にわたって分離されたMRSAや,同一患者の鼻前庭と眼部から分離された(71)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑭監修=木下茂大橋裕一14.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の保菌メカニズム星最智町田病院メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含めた黄色ブドウ球菌は,ヒトの常在菌であるが,ときとして眼感染症の起炎菌となる.黄色ブドウ球菌は鼻前庭に長期保菌していることが多く,眼部保菌の供給源となる可能性がある.易感染者で鼻腔MRSAキャリアに対して眼部手術を行う際は,術後感染症に注意が必要である.図1角膜潰瘍をくり返すStevensJohnson症候群の症例鼻前庭と結膜からMRSAが分離されている.ab2MRSA保菌患者のPFGEバンディングパターンa:Stevens-Johnson症候群.2001~2003年にかけて両眼からMRSAを分離.b:Stevens-Johnson症候群.2002~2003年にかけて眼部と鼻前庭からMRSAを分離.R:右眼,L:左眼,N:鼻前庭.———————————————————————-Page2210あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009MRSAは,それぞれ同一であることがわかった(図2).このことは,瘢痕性角結膜疾患などの易感染性宿主がいったん保菌すると完全に除菌することは困難であること,そして鼻前庭のpersistentcarrierは術後感染のリスクとなりえることを示している.Smallcolonyvariants黄色ブドウ球菌は宿主細胞に侵入して自らの代謝活性を抑え,いわば冬眠したような状態で長期間生存できることが知られている.このようなsubpopulationをsmallcolonyvariants(SCVs)とよぶ3).SCVsでいることで宿主の免疫から逃れ,なおかつアミノグリコシドなどの細胞内移行性の乏しい抗菌薬やセフェム系などの細胞壁合成を阻害する抗菌薬に耐性を示すことができると考えられている.瘢痕性角結膜疾患で,MRSA感染症の再発をくり返し経験することがあるが,これは眼表面のどこかにSCVsが存在しているからなのかもしれない.(72)まとめ健常人のおよそ20%は黄色ブドウ球菌キャリアであり,これは宿主と病原体の相互因子によって決定される.いまだ謎の多い保菌メカニズムを解明することで,ワクチンや新規薬物などによる新たな除菌方法が確立されれば,MRSA感染症を今以上にコントロールすることができるであろう.文献1)RutarT,ChambersHF,CrawfordJBetal:OphthalmicmanifestationofinfectionscausedbytheUSA300cloneofcommunity-associatedmethicillin-resistantStaphylococcusaureus.Ophthalmology113:1455-1462,20062)WertheimHF,MellesDC,VosMCetal:TheroleofnasalcarriageinStaphylococcusaureusinfection.LancetInfectDis5:751-762,20053)ProctorRA,KahlB,vonEiCetal:Staphylococcalsmallcolonyvariantshavenovelmechanismsforantibioticresistance.ClinInfectDis27(Suppl1):S68-S74,1998

緑内障:早発型発達緑内障(原発先天緑内障)

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092070910-1810/09/\100/頁/JCLS早発型発達緑内障は以前では原発先天緑内障(prima-rycongenitalglaucoma)として分類されていたものであり,眼圧上昇の原因が隅角および線維柱帯の発達異常に限局した病型である1).房水流出路の発達異常が高度であればあるほど早期に発症することから,わが国の緑内障ガイドライン第2版で遅発型発達緑内障とは区別して定義された2).これら以外に,他の先天異常を伴う発達緑内障が定義されている.発症頻度は人種および地域により大きく異なり,石川らの報告3)では,わが国における先天緑内障(原発および続発を含めて)の発症頻度は3.4万人に1人で,そのなかで原発先天緑内障(早発型発達緑内障)は約60%であった.男児に多く,両眼性であることが多い.欧米では5,000人から22,000人に1人,中近東では2,500人に1人,スロバキアのジプシーではその発症頻度は高く1,250人に1人とされ,地域により発症頻度が異なる4).早発型発達緑内障の遺伝子異常としては,特にチトクロムP4501B1(CYP1B1)遺伝子の変異が発症に関与する5)とされており,大半が散在性である.受診の契機となる症状としては角膜混濁,角膜径拡大,流涙,羞明や瞬目回数が多いことなどである.診断や治療が遅れると恒久的な視機能障害を残すことになりかねないので,乳児や幼児の診察の際にはこれらの症状に特に注意を払う必要がある.覚醒下で行える検査は限られるが,まずは手持ち細隙灯顕微鏡,眼底検査,角膜径の測定を行い,角膜の浮腫と混濁,角膜径拡大,異常に深い前房,視神経乳頭陥凹の拡大と左右差の有無などに注意して観察する.眼圧は点眼麻酔下にPerkins圧平眼圧計,トノペンR,Schiotz眼圧計や近年発売されたi-careRなどのうち,なるべく複数を用いて測定するが,開瞼器をかけたときや蹄泣しているときは高値となりやすいため,隅角検査などと併せて睡眠下もしくは全身麻酔下に行わなくてはならない場合が多い.そして,これらの所見を総合的に検討して診断する必要がある.治療においては基本的には手術が必要であり,診断がつき次第なるべく早期に手術に踏みきる.術式としては隅角切開術もしくは線維柱帯切開術の選択となる.前者は角膜混濁が存在すると困難であり,後者は隅角の形成異常が強いとSchlemm管の同定が困難な場合があるため豊富な手術経験を必要とする.手術が奏効して十分な眼圧下降を得ることができれば,術前に存在した角膜混濁はすみやかに改善することが多い.再手術を考慮するのは,術後に高眼圧(特に20mmHg以上),角膜径や視神経乳頭陥凹のさらなる拡大や,手術前から存在していた角膜混濁が改善しないなどの所見を認め,薬物療法を行っても眼圧コントロールが困難な場合である.筆者らの施設では3回までは前述の術式を行い,無効な場合には濾過手術を選択しているが,術後管理においては成人の症例よりもさらに濾過胞感染に注意が必要である.また,他には毛様体破壊術やインプラント手術を行った報告6)があるが,重症例では視機能的な予後は厳しいといわざるをえない.術後管理においては長期にわたる眼圧測定のみならず,適切な視機能評価や弱視の予防と治療を行うことが肝要で,必要に応じて屈折矯正や視能訓練を行う.〔症例〕生後2カ月,男児.初診時主訴:右眼角膜混濁.既往歴:なし,正常分娩.家族歴:なし.現病歴:右眼が白いことに親が気付いて近医眼科を受診し,右眼角膜混濁,両眼角膜径拡大,両眼高眼圧を指摘されて三重大学眼科に紹介された.(69)●連載104緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也104.早発型発達緑内障(原発先天緑内障)福永崇樹宇治幸隆三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学隅角形成異常に基づく緑内障は緑内障ガイドライン第2版で発達緑内障と定義され,発症時期により早発型と遅発型に分類されている.早発型発達緑内障は比較的まれな疾患であるが,早期に適切な治療が行われなければ重篤な視機能障害を一生涯にわたって残す可能性が高いため,臨床上重要な疾患である.———————————————————————-Page2208あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009初診時所見:角膜横径は両眼13mmで,右眼に角膜混濁を認めた(図1).眼圧は右眼38mmHg,左眼33mmHgであった.経過:初診日より入院のうえ,翌日に両眼の線維柱帯切開術を施行した.術後眼圧は両眼ともに10mmHgから17mmHgで推移し,眼圧コントロールは良好であった.右眼の角膜混濁は術翌日から著明に改善したが,瞳孔領下方に線状の混濁(Haab’sstriae)が残存した.文献1)澤口昭一,中村優子:発達緑内障.あたらしい眼科22(別巻):53-57,2005(70)2)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌107:125-157,20033)石川伸子,白土城照,安達京ほか:先天緑内障全国調査結果(1993年度).あたらしい眼科13:601-604,19964)川瀬和秀:緑内障と遺伝子.あたらしい眼科22(別巻):53-57,20055)StoilovI,AkarsuAN,SarfaraziM:IdenticationofthreedierenttruncatingmutationsincytochromeP4501B1(CYP1B1)astheprincipalcauseofprimarycongenitalglaucoma[Buphthalmos]infamilieslinkedtotheGCL3Alocusonchromosome2p21.HumMolGenet6:641-647,19976)TanimotoSA,BrandtJD:Optionsinpediatricglaucomaafteranglesurgeryhasfailed.CurrOpinOphthalmol17:132-137,2006☆☆☆図1初診時の前眼部所見両眼ともに角膜横径13mmで,右眼には角膜混濁を認めた.右眼左眼

屈折矯正手術:カスタムLASIKにおける術中注意点

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092050910-1810/09/\100/頁/JCLSカスタムLASIK(laserinsitukeratomileusis)とはwavefront-guidedLASIK(WFGLASIK)やtopography-guidedLASIKを含み,手術手技は従来のLASIKと基本的には同様である.角膜フラップ作製後,角膜実質に,球面度数と乱視度数矯正に加え,術前に測定された全眼球または角膜前面の高次収差を打ち消すような切除プロフィールを作製してエキシマレーザーを照射するLASIKを意味する.わが国においてはカスタムLASIKのなかでもWFGLASIKが広く一般に普及している.術前球面度数,乱視度数,全眼球または角膜前面の高次収差測定,照射プロファイル作製に当たっては,複数回の測定にて測定値に変動がないことを確認する.ときに機械近視や調節により,術前波面収差測定ごとにその値が大きく変動する患者もいる(図1,2).そのような場合はシクロペントラート塩酸塩(サイプレジンR)点眼下の屈折度数を参考にしつつ,いずれの波面収差測定結果を採用するか決定しなければならない.また,矯正球面度数をノモグラムを活用して調整することも必要になる.WFGLASIKにおけるさらなる術中留意点を以下に記載する.射位置合わせ1.中心合わせ術前の高次収差を補正するには,波面収差測定中心とエキシマレーザー照射中心を厳密に一致させることが求められ,その許容誤差は約0.5mmといわれている1).中心合わせには角膜輪部と瞳孔縁を測定時と照射時にマッチングさせることにより照射中心を求めている.瞳孔中心は照明条件により最大(67)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載105監修=木下茂大橋裕一坪田一男105.カスタムLASIKにおける術中注意点江口秀一郎江口眼科病院カスタムLASIK(laserinsitukeratomileusis)を行う場合は,術前波面収差測定結果に変動がないことを確認するとともに,術中,エキシマレーザー照射時に照射プロファイルと患眼の中心合わせ,回旋補正を厳密に行うことが必要である.瞳孔縁や角膜輪部,虹彩紋理を指標として用いるアラインメント補正システムの適切な運用が良好な手術結果を得るために必要不可欠である.図2術前波面収差測定結果(2回目;初回と比べ,機械近視減少により屈折度数,収差分布が大きく異なっている)図1術前波面収差測定結果(初回)———————————————————————-Page2206あたらしい眼科Vol.26,No.2,20090.7mmほど中心ズレが生ずるため2),角膜輪部の認証がその補正のために重要である.結膜色素沈着や虹彩色素量の違いにより輪部が正しく認識されない場合もあるため,波面収差測定装置やレーザー手術装置にて自動的に認証される瞳孔縁や角膜輪部が正しい位置にあるか否かを器械オペレーターが常に注視する必要がある.術中の眼球運動や頭位変換に伴う照射位置ズレを補正するために,赤外線カメラを用いて,瞳孔領とのコントラスト差の大きい虹彩縁をリアルタイムに追尾してゆく能動的追尾装置はカスタムLASIKを行うためには必須である.2.回旋補正乱視と同様に,波面収差も収差の軸を有するので,眼球回旋偏位の補正も必要である.術中の眼球回旋偏位補正が適切に行われないと,手術に伴う高次収差の補正が不十分になったり,逆に増加させてしまう場合もある.術前,座位にて測定された波面収差結果と手術時に臥位を取った場合,眼球回旋偏位は平均2.8°,最大9.5°に及ぶ3).この回旋偏位を補正するために従来,いくつかの手法が取られてきた.最も原始的な方法としては,角膜輪部3時,9時の位置にピオクタニンペンなどで座位にてマークを付け,手術時にエキシマレーザー下の臥位にて術者が顕微鏡下にて角膜輪部の標識を用いて水平位を決定する方法である.少し洗練された方法として,角膜輪部に付けられたマークを術前に波面収差測定装置で読み取り,手術時にエキシマレーザー装置に輪部のマークを認識させ,手動で回旋補正を行う方式である.最新の装置では虹彩紋理を認識することにより回旋の補正を行うことが可能になった4).術前に波面収差測定装置にて波面収差と虹彩紋理の配置を同時に読み取り,エキシマレーザー照射前に臥位にて患者虹彩紋理を再度読み取り,紋理の配置を一致させることにより座位-臥位における眼球回旋補正を自動的に行うことが可能になった.しかし,現在用いられている装置は座位-臥位のいわば静的な回旋補正を行う装置であり,術中のわずかな眼球回旋を即時,連続して補正することはできない.また,回旋は補正可能でも眼球全体の水平面からの傾斜,つまり,k角(瞳孔中心線と視軸の角度)の大きな患者へ,その傾斜の補正を行うことはできず,エキシマレーザーが目標とする角膜実質面に垂直に照射されているかを補正できないところに現在のシステムの限界がある.術前に良好な虹彩紋理の測定ができていたにもかかわらず,術中に虹彩紋理認識システムが上手く作動しない場合がある.そのような場合は波面収差測定装置で測定した瞳孔径とエキシマレーザー手術装置の照明下での瞳孔径が大きく異なり虹彩紋理認証ができない場合や,外部照明光が映り込んでいる場合があり(図3),手術室やレーザー手術装置の照明を暗くし,手術室天井照明を消す,術眼の結膜の貯留水,血液を除去するなどの対策を採ることで虹彩紋理認識システムの稼働率を上げることができる.文献1)McCormickGJ,PorterJ,CoxJGetal:Higher-orderaberrationsineyeswithirregularcorneasafterlaserrefractivesurgery.Ophthalmology112:1699-1709,20052)YangY,ThompsonK,BurnsSA:Pupillocationundermesopic,photopic,andpharmacologicallydilatedcondi-tions.InvestOphthalmolVisSci43:2508-2512,20023)ChernyakDA:Cyclotortionaleyemotioncuringbetweenwavefrontmeasurementandrefractivesurgery.JCataractRefractSurg30:633-638,20044)ChernyakDA:Iris-basedcyclotorsionalimagealignmentmethodforwavefrontregistration.IEEETransBiomedEng52:2032-2040,2005(68)☆☆☆部屋の照明光源の映り込みドレープ陰影の映り込み図3虹彩紋理認識システム運用時の術中赤外線カメラ所見室内照明光やドレープ端の角膜への映り込みを認める.

眼内レンズ:Toxic Anterior Segment Syndrome(TASS)

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092030910-1810/09/\100/頁/JCLSToxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)は,白内障手術などanteriorsegmentの手術後,1248時間以内に前眼部に限局して発症する急性非感染性の炎症性疾患である1,2).ステロイドまたは非ステロイド抗炎症薬により軽快するが,組織損傷が大きい場合は角膜移植や緑内障手術などさらなる治療が必要となる.TASSは,1992年Monsonらによって提唱され3),TASSのなかで角膜内皮障害に限局した症例を,toxicendothelialcelldestructionsyndrome(TECDS)とよぶ場合もある4,5).TASSの臨床像2)典型的なTASSは,重度な前房内炎症(フィブリン形成,しばしば前房蓄膿となる)と角膜輪部から輪部に至るびまん性の角膜浮腫を特徴とする.フィブリン形成は虹彩表面や眼内レンズ(IOL)の表面にもみられ,びまん性の角膜浮腫は広範囲にわたる角膜内皮細胞の損傷を意味する.TASSにより不可逆性の虹彩損傷が生じると不整な瞳孔や散瞳不良,さらに線維柱帯が損傷される.病初期の眼圧は下降するが,不可逆性に線維柱帯が損傷すると高眼圧,続発緑内障となる.菌性術後眼内炎との鑑別TASSはしばしば,霧視や充血,眼痛をきたすため,細菌性術後眼内炎との鑑別が困難である.おもな鑑別点は,①TASSの発症は24時間以内が多く,細菌性術後眼内炎の多くは37日後に発症する,②TASSの炎症はつねに前房に限局し,点眼ないしは経口のステロイド薬にて改善を示す(細菌性術後眼内炎は硝子体混濁をきたす),③細菌性術後眼内炎は,眼瞼腫脹,結膜浮腫,眼脂,充血などの感染所見が強い(TASSは強くない),④TASSは房水や硝子体液培養が陰性,があげられる.(65)TASSを疑った場合,細菌性術後眼内炎の可能性も念頭におき,ステロイド薬に対する反応や加療に伴う46時間ごとの所見の変化などから鑑別を試みる.TASSの実態と原因TASSの発症はまれであるが,症例数の多い病院やクリニックにおいて連続発症することが多い(単発例はTASSであっても認知されていないだけかもしれない).TASSの原因と疑われているものを表1に示す.TASSが疑われた2症例筆者らは,合併症なく終了した白内障手術の術翌日より前房内炎症および高度の角膜内皮障害を発症した2症例を経験した6).症例は同日に連続施行された5症例の2例(4例目,5例目)であり,2症例ともに,術翌日より中等度の前房内炎症,高眼圧,高度の角膜浮腫を認めた(図1,2).ステロイドおよび非ステロイド性抗炎症薬の点眼,ステロイド薬の点滴により前房内炎症は軽快す小早川信一郎*1大井彩*1,2*1東邦大学医療センター大森病院眼科*2川崎社会保険病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎270.ToxicAnteriorSegmentSyndrome(TASS)Toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)について述べた.経過によっては,角膜移植や緑内障手術が必要となる場合があり,注意を要する.TASSが疑われたならば,術者は手術システムの再構築に取り組む責務がある.表1TASSの原因灌流液や手術用剤不適切なpHや浸透圧の製品散瞳薬,抗菌薬,粘弾性物質などに含まれる防腐剤や添加剤薬剤投与濃度の間違い不適切な(純度の低い)インドシアニングリーンやトリパンブルー手術器具(用具)残留洗浄液,消毒薬,蛋白除去剤など細菌が産生したリポポリサッカライド(LPS)や外毒素,内毒素付着金属(銅や鉄)変成した粘弾性物質手袋のパウダー眼内レンズ研磨剤,清浄剤,滅菌剤など術後要因眼軟膏(文献2より改変)———————————————————————-Page2るも,著しい角膜内皮細胞数の減少を認め(2,777→669細胞/mm2,2,793細胞/mm2→測定不能),1例は水疱性角膜症を発症し,Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)が施行された.最終視力は0.8および0.5(DSAEK施行眼)であった.原因として,手術侵襲や術中の薬剤流入(麻酔薬,抗菌薬など)は否定的であり,TASSが疑われた.TASSの発症が疑われた同手術室では,手術器材の滅菌や洗浄過程の見直し,手術用剤の調剤方法の再確認,発症当日使用していた灌流液などと同一ロットの製品調査が行われた.この2症例以降,TASSと疑われる症例の発症はみられていない.もしTASSが疑われたならば,術者は手術システムの再構築に取り組む責務がある.文献1)TheASCRSandtheASORN(AmericanSocietyofOph-thalmicRegisteredNurses):Recommendedpracticesforcleaningandsterilizingintraocularsurgicalinstruments.TASSguidelines.JCataractRefractSurg33:1095-1100,20072)MamalisN,EdelhauserHF,DawsonDGetal:Toxicante-riorsegmentsyndrome.JCataractRefractSurg32:324-333,20063)MonsonMC,MamalisN,OlsonRJ:Toxicanteriorseg-mentinammationfollowingcataractsurgery.JCataractRefractSurg18:184-189,19924)LiuH,RoutleyI,TeichmannKD:Toxicendothelialcelldestructionfromintraocularbenzalkoniumchloride.JCata-ractRefractSurg27:1746-1750,20015)幸野敬子,土坂寿行,前田利根ほか:フタラール消毒薬(ディスオーパR)による白内障手術後の水疱性角膜症.臨眼59:1705-1709,20056)大井彩,小早川信一郎,松本直ほか:ToxicAnteriorSegmentSyndrome(TASS)が疑われた2症例.IOL&RS(inpress)図1白内障手術(眼内レンズ挿入併施)終了時合併症なく終了した.図2図1と同一症例の術3週間後高度の角膜内皮障害を認めた.

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.2,20092030910-1810/09/\100/頁/JCLSToxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)は,白内障手術などanteriorsegmentの手術後,1248時間以内に前眼部に限局して発症する急性非感染性の炎症性疾患である1,2).ステロイドまたは非ステロイド抗炎症薬により軽快するが,組織損傷が大きい場合は角膜移植や緑内障手術などさらなる治療が必要となる.TASSは,1992年Monsonらによって提唱され3),TASSのなかで角膜内皮障害に限局した症例を,toxicendothelialcelldestructionsyndrome(TECDS)とよぶ場合もある4,5).TASSの臨床像2)典型的なTASSは,重度な前房内炎症(フィブリン形成,しばしば前房蓄膿となる)と角膜輪部から輪部に至るびまん性の角膜浮腫を特徴とする.フィブリン形成は虹彩表面や眼内レンズ(IOL)の表面にもみられ,びまん性の角膜浮腫は広範囲にわたる角膜内皮細胞の損傷を意味する.TASSにより不可逆性の虹彩損傷が生じると不整な瞳孔や散瞳不良,さらに線維柱帯が損傷される.病初期の眼圧は下降するが,不可逆性に線維柱帯が損傷すると高眼圧,続発緑内障となる.菌性術後眼内炎との鑑別TASSはしばしば,霧視や充血,眼痛をきたすため,細菌性術後眼内炎との鑑別が困難である.おもな鑑別点は,①TASSの発症は24時間以内が多く,細菌性術後眼内炎の多くは37日後に発症する,②TASSの炎症はつねに前房に限局し,点眼ないしは経口のステロイド薬にて改善を示す(細菌性術後眼内炎は硝子体混濁をきたす),③細菌性術後眼内炎は,眼瞼腫脹,結膜浮腫,眼脂,充血などの感染所見が強い(TASSは強くない),④TASSは房水や硝子体液培養が陰性,があげられる.(65)TASSを疑った場合,細菌性術後眼内炎の可能性も念頭におき,ステロイド薬に対する反応や加療に伴う46時間ごとの所見の変化などから鑑別を試みる.TASSの実態と原因TASSの発症はまれであるが,症例数の多い病院やクリニックにおいて連続発症することが多い(単発例はTASSであっても認知されていないだけかもしれない).TASSの原因と疑われているものを表1に示す.TASSが疑われた2症例筆者らは,合併症なく終了した白内障手術の術翌日より前房内炎症および高度の角膜内皮障害を発症した2症例を経験した6).症例は同日に連続施行された5症例の2例(4例目,5例目)であり,2症例ともに,術翌日より中等度の前房内炎症,高眼圧,高度の角膜浮腫を認めた(図1,2).ステロイドおよび非ステロイド性抗炎症薬の点眼,ステロイド薬の点滴により前房内炎症は軽快す小早川信一郎*1大井彩*1,2*1東邦大学医療センター大森病院眼科*2川崎社会保険病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎270.ToxicAnteriorSegmentSyndrome(TASS)Toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)について述べた.経過によっては,角膜移植や緑内障手術が必要となる場合があり,注意を要する.TASSが疑われたならば,術者は手術システムの再構築に取り組む責務がある.表1TASSの原因灌流液や手術用剤不適切なpHや浸透圧の製品散瞳薬,抗菌薬,粘弾性物質などに含まれる防腐剤や添加剤薬剤投与濃度の間違い不適切な(純度の低い)インドシアニングリーンやトリパンブルー手術器具(用具)残留洗浄液,消毒薬,蛋白除去剤など細菌が産生したリポポリサッカライド(LPS)や外毒素,内毒素付着金属(銅や鉄)変成した粘弾性物質手袋のパウダー眼内レンズ研磨剤,清浄剤,滅菌剤など術後要因眼軟膏(文献2より改変)———————————————————————-Page2るも,著しい角膜内皮細胞数の減少を認め(2,777→669細胞/mm2,2,793細胞/mm2→測定不能),1例は水疱性角膜症を発症し,Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)が施行された.最終視力は0.8および0.5(DSAEK施行眼)であった.原因として,手術侵襲や術中の薬剤流入(麻酔薬,抗菌薬など)は否定的であり,TASSが疑われた.TASSの発症が疑われた同手術室では,手術器材の滅菌や洗浄過程の見直し,手術用剤の調剤方法の再確認,発症当日使用していた灌流液などと同一ロットの製品調査が行われた.この2症例以降,TASSと疑われる症例の発症はみられていない.もしTASSが疑われたならば,術者は手術システムの再構築に取り組む責務がある.文献1)TheASCRSandtheASORN(AmericanSocietyofOph-thalmicRegisteredNurses):Recommendedpracticesforcleaningandsterilizingintraocularsurgicalinstruments.TASSguidelines.JCataractRefractSurg33:1095-1100,20072)MamalisN,EdelhauserHF,DawsonDGetal:Toxicante-riorsegmentsyndrome.JCataractRefractSurg32:324-333,20063)MonsonMC,MamalisN,OlsonRJ:Toxicanteriorseg-mentinammationfollowingcataractsurgery.JCataractRefractSurg18:184-189,19924)LiuH,RoutleyI,TeichmannKD:Toxicendothelialcelldestructionfromintraocularbenzalkoniumchloride.JCata-ractRefractSurg27:1746-1750,20015)幸野敬子,土坂寿行,前田利根ほか:フタラール消毒薬(ディスオーパR)による白内障手術後の水疱性角膜症.臨眼59:1705-1709,20056)大井彩,小早川信一郎,松本直ほか:ToxicAnteriorSegmentSyndrome(TASS)が疑われた2症例.IOL&RS(inpress)図1白内障手術(眼内レンズ挿入併施)終了時合併症なく終了した.図2図1と同一症例の術3週間後高度の角膜内皮障害を認めた.