———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSI当科におけるOCTの歴史光干渉断層計(OCT)は,眼組織の断層像を非侵襲的に描出できる機器である.1997年に最初のOCT2000がHumphrey社(現在はCarlZeissMeditec社)から発売され,その国内第1号機が当科に導入された.筆者らはOCT2000を用いてさまざまな眼疾患の病態を観察してきた.OCT2000はタイムドメイン方式を用いており,深さ方向の分解能が20μmであったが,後継モデルのOCT3000では10μmへとより精密化された1).2006年にフーリエドメイン方式(スペクトラルドメイン方式,SD-OCT)を用いた3DOCT-1000がトプコン社から発売され,深さ分解能は5μmとなり,そのスピードと画像の美しさに感動した.その後2007年にCarlZeissMeditec社から同方式のSD-OCT「CirrusHD-OCT」(図1)が発売された.現在当科では,OCT3000,3DOCT-1000,CirrusHD-OCTを用いて外来診療を行っている.以下,おもに用いているCirrusHD-OCTについて臨床使用経験を述べる.IICirrusHD-OCTの特徴①CirrusHD-OCTはスペクトラルドメイン方式を用いたOCTである.性能については別項の機種一覧にあるとおりで,波長840nmのSLD(スーパールミネッセンスダイオード)を用いており,深さ方向分解能は5μmである(表1).高速なscanで軽快な操作感である.(37)613ratanabeSiisi371-85113-39-15特集●新しい光干渉断層計(OCT)バイヤーガイドあたらしい眼科25(5):613621,2008網膜・硝子体のOCT検査機器の使用経験(3)CirrusHD-OCTの使用経験TheClinicalEvaluationofCirrusHD-OCTforRetinaandChoroid渡辺五郎*岸章治*図1CirrusHD-OCTの外観本体は非常にコンパクトな筐体にまとまっている.表1CirrusHD-OCTとOCT3000の性能比較OCT3000CirrusHD-OCT解像度Z軸(縦方向)810μm56μmX-Y(横断面)1020μm10μmA-Scan本数(@B-Scan)128/256/512200/512/4,096スキャンパターン・Line・Circle・Radial・5LineRaster・MacularCube200×200/512×128・OpticDiscCube200×200スキャン時間400A-scans/sec25,00027,000A-scans/sec最小瞳孔径3.2mm3mm———————————————————————-Page2614あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(38)IIIScan方法と解析モニター画面左下のLSO画面上にあるscanline(CubeScanでは四角)を任意の場所に動かしてscan位置を決める.内部固視灯の位置も自由に移動できる.①5LineRaster:1ライン4,096A-scanの分解能で5本同時にscanする(図3).高速で計測できる最もスタンダードなscanである.標準では6mmのscan長で0.25mm間隔のscanであるが,バージョン3からはscan長が3mm,6mm,9mmから選択でき,各ラインの間隔も0から1.25mmまで変えられるようになった.またscan方向の角度を自由に変えられるようになったため,病変部とfoveaの陥凹とか視神経乳頭とfoveaの陥凹といったscanが可能となった.通常は,標準状態でscanすれば問題ないのだが,ライン間隔が0.25mmだとまれにfoveaをはずすことがあった.どうしてもfoveaの陥凹をscanしたい場合は,間隔を狭めてやるとよりfoveaのヒット率が高くなる.②MacularCubeScan200×200:6×6mmの四角形の中を水平方向200A-scanで垂直方向に200本計測する(図4,下から上へ).OCT3000が512A-scanであるので当然1枚ずつの分解能は低いが,高速に3D②LSO(livescanningophthalmoscope,いわゆるSLOのような画面)で眼底をリアルタイムに確認しながら断層像が得られるために眼底とのレジストレーションが容易であることがあげられる(図2).③筐体が非常にコンパクトであり,おそらく現存するOCTのなかでも最小である(図1).現在さまざまな検査機器が氾濫している外来において省スペースという大きな恩恵にあずかれるだろう.④Scan方法は,ソフトウェアバージョン2までは「5LineRaster(いわゆるlinescanを水平方向に5本同時に計測)」,「MacularCube200×200」,「MacularCube512×128」であったが,バージョン3からは,5LineRasterのscanのバリエーションが増えて,「OpticDiscCube200×200」が追加された.詳細は後述する.⑤最近の高分解能OCTはグレイスケール表示でより高精細さをだしているが,OCT2000から培ってきたZeiss社の疑似カラー表示は見慣れているせいか他のメーカーのものより美しく感じる.⑥顎台の工夫:従来からの眼科の検査機器は被検者との対面操作のものが多かったが,CirrusHD-OCTはHumphrey視野計と同様に横向き操作である.工夫された顎台により側方からの操作でも測定しやすくなっている(図2,後述).以上のような特徴がある.図2CirrusHD-OCTの顎台右眼を撮るときは顎を左側にのせる.左眼は右側にのせて計測する.PCのモニター上で上下左右と前後に動かすことができる.図35LineRasterの測定画面左上の前眼部モニターで瞳孔領の中心に合わせる.左下のLSO画面でリアルタイムに眼底像を確認しながら測定する.LSO画面上の5本線を動かすことにより任意の位置の断層像が得られる.右側は,そのとき撮っている5枚(1枚4,096A-scan)のOCT画像.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008615(39)する(下から上へ).解析は基本的には200×200と同様である.④OpticDiscCube200×200:バージョン3からの新機能.視神経乳頭を中心にCubeScanを行う.網膜神経線維層厚をNormativedataと比較できる.IVCirrusHD-OCTとOCT3000の比較図5は健常者のCirrusHD-OCTとOCT3000の画像である.図5a,bは上段がCirrusHD-OCT(scan長は6mm),下段はOCT3000(StratusOCT)である.Cir-rusHD-OCTは網膜の層構造がはっきりしていて,高精細化された画像である.OCT3000(scan長5mm)ではscan速度が遅いために固視微動や眼球運動の影響を受けやすく,図5aでは基線のブレが目立つ.図5cは図5aの中心窩陥凹付近を拡大したものである.このくらい拡大すると,違いはさらに明らかとなる.RPEレベルでは,OCT3000ではIS/OSライン(視細胞内節と外節の境界部)とその下のRPEだけであるのに対し,CirrusHD-OCTでは,その上の外境界膜が可視化されており,RPEも2本のラインとして描出されている.V顎台の工夫従来からの眼科の検査機器は被検者と対面して機器をscanが行えるメリットがある.バージョン3からは中央のCrossScanだけは1,024A-scanとなった.解析方法としてはMacularThicknessとAdvancedVisual-izationがある.MacularThicknessは文字どおり網膜厚計測とセグメンテーションからなる.メジャーを用いて任意の部位を計測できる.セグメンテーションは網膜の最表層を内境界膜(ILM)セグメントとし,網膜色素上皮(RPE)セグメントとの差分をILMRPEとして表示している.たとえば,糖尿病黄斑浮腫では通常RPEは滑らかな面であるがILMセグメントに隆起があり,その結果ILMRPEでは浮腫の位置がはっきりわかる.加齢黄斑変性のドルーゼンや網膜色素上皮剥離(PED),脈絡膜新生血管(CNV)などに関してはOCT3000に比べると精度は高いようだがまだ信頼性には問題があるのでマニュアル補正(バージョン3から可能)をしたほうがよいと思われる.AdvancedVisualizationは,scanした部分の任意の部位の垂直断・水平断・C-scanが表示される.バージョン3からはようやく3D表示ができるようになった.現状ではお世辞にもきれいとはいえない画像であるので,今後の改良に期待するしかない.③MacularCubeScan512×128:6×6mmの四角形の中を水平方向512A-scanで垂直方向に128本計測図4MacularCubeScanの測定画面左下のLSO画面の中のCubeを動かして測定する.右画面は,SLO画面の黄色の線(中央横),白い線(中央縦),ピンクの線(上横),青い線(下横)の順で表示されている.図5CirrusHD-OCTとOCT3000の画像の比較a:37歳,健常男性.上がCirrusHD-OCT,下がOCT3000.b:33歳,健常男性.上がCirrusHD-OCT,下がOCT3000.c:中心窩陥凹付近の拡大像.acb———————————————————————-Page4616あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(40)から剥がれているのがわかる.従来RPE層と考えられていた高反射ラインは3層に分離されており,一番上が視細胞内節と外節の境界部(IS/OSline),一番下がRPE,真ん中のラインはまだ解明されていないが,Verhoe膜とする説と視細胞外節外縁とする説などがある.SD-OCTは深部方向の分解能が高いために脈絡膜の血管構造が見えている.ジョイスティックで操作するものが多かった.CirrusHD-OCTはHumphrey視野計と同様に側方からの操作であるが,顎台が非常によくできていて側方からの操作がしやすくなっている(図2).顎台の操作はすべてモニター上で行われる(図3,4).具体的にはまず,画面左上の前眼部観察用モニターをクリックすることで上下左右に顎台が動く.その後モニター横にある「Chinrest」ボタンで前後方向の調整をする.それだけで良好なLSO画像と断層像が得られ,ほとんどの被検者に対応できる.被検者は顎と額をくっつけていれば自動的に顎台のほうが動くために,高齢者でも簡便によい画像が計測できる.今までの機器では通常被検者に対して検者が機器を操作して合わせていたのに対し,少し高圧的な感じもするがCirrusHD-OCTでは被検者の顔を動かして測定する.これが逆に効を奏したようである.VI症例1.健常者37歳,男性,右眼.図6の上は疑似カラー表示.網膜神経線維層をはじめ網膜の層構造がはっきりわかる(図6).グレイスケール表示にすると層構造はよりはっきりする(下図).この症例では後部硝子体膜がfovea図637歳,健常男性のCirrusHD-OCT画像上は疑似カラー表示,下図はグレイスケール表示.疑似カラー表示グレイスケール表示網膜神経線維層RPE脈絡膜血管後部硝子体膜RPECirrusHD-OCTRPEラインの乱れ網膜の層構造が明瞭???Bruch膜?図8症例1のOCT上図はOCT3000.色素上皮のラインの上に中高反射の脈絡膜新生血管がある.下図はCirrusHD-OCT.新生血管の下のBruch膜が見えている.図7症例1:加齢黄斑変性カラー:中心窩下に灰白色病巣と網膜下出血.FA:クラシック脈絡膜新生血管(CNV)を示している.IA:CNVからの蛍光漏出がある.abc———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008617(41)ドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)でも脈絡膜新生血管(CNV)と思われる蛍光漏出がある(図7b,c).この症例をOCTできってみると,図8のようになる.上2.加齢黄斑変性(AMD)〔症例1〕51歳,男性,右眼,視力0.7.中心窩に灰白色病巣と網膜下出血がある(図7a).フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)で境界明瞭な蛍光漏出があり,イン図11糖尿病黄斑浮腫のセグメンテーション(1)右側下からRPEセグメント,ILMセグメント,ILMRPEセグメントが表示される.図9症例2:加齢黄斑変性カラー:中心窩下に灰白色病巣.FA:小さなクラシック新生血管.IA:FAで見られたのとほぼ同じ大きさの蛍光漏出.abc外境界膜RPEtype2CNVOCT3000CNVとフィブリンが一塊CNV周囲のフィブリン図10症例2のOCTOCT3000では新生血管を思わせる中高反射帯が一塊となって見える.CirrusHD-OCTでは図9の蛍光漏出点と同じ大きさのタイプ2新生血管とフィブリンなどの滲出物が分離して見える.ab———————————————————————-Page6618あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(42)図はOCT3000,下図はCirrusHD-OCTである.OCT3000でもRPEのラインの上のCNVがわかるが,Cir-rusHD-OCTのほうがよりはっきりしている.CirrusHD-OCTでは,CNVと正常網膜の境界がよくわかる.またfovea耳側のCNVの下に細い高反射ラインがあり,おそらくBruch膜と思われる.〔症例2〕70歳,女性,右眼,視力0.2.眼底で中心窩に灰白色病巣がある(図9a).FA早期では,カラー写真よりも小さな範囲で蛍光漏出がある(図9b).IAではFAとほぼ同じ大きさでCNVからの蛍光漏出が認められる(図9c).この症例をOCT3000で見ると,RPEのラインの上に大きな高反射塊があり,Gassのいうタイプ2CNVであることがわかる(図10a).しかし,これは眼底で見た灰白色病巣に一致しているがFAやIAの蛍光漏出部位とは一致しない.そこでCirrusHD-OCTで見てみると,RPEラインの上に高反射塊があるのでタイプ2で間違いはないようだが,OCT3000でみえた高反射塊はすべてがCNVではなく2層に分かれて見えている(図10b).おそらく高反射塊の中心の図12糖尿病黄斑浮腫のセグメンテーション(2)a:カラー.黄斑部に毛細血管瘤や硬性白斑が散在している.b:FA.胞様黄斑浮腫とやや上方に多く浮腫からの蛍光漏出がある.c:RPEセグメント.ほぼスムーズなRPE.d:ILMRPE.中心窩の上方に強く浮腫があるのがわかる.abcd図13ポリープ状脈絡膜血管症のOCT(1)中心窩を含みRPEの不規則な隆起と漿液性網膜剥離がある.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008619小さい範囲のものがCNVでその周囲にある高反射塊はフィブリンなどの析出物であろうと思われる.そう考えると蛍光造影の読影と一致する.実際FAの後期には眼底での灰白色病巣に一致して過蛍光が拡大していたのでこの解釈で間違いないだろう.3.セグメンテーションを用いた解析a.糖尿病黄斑浮腫FAで黄斑上方を中心に黄斑浮腫がある(図12a,b).MacularCube200×200で測定して,セグメンテーションを行った(図11,12c,d).RPEセグメントはほぼフラット,ILMRPEセグメント(ILMセグメントからRPEセグメントを差し引いたもの,つまり神経網膜の厚み)では,FAと一致した部位の浮腫が高反射ゾーンとして描写されている.b.ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)黄斑部に漿液性網膜剥離と凸凹した扁平なRPEの隆(43)図14ポリープ状脈絡膜血管症のOCT(2)RPEセグメント(下図)はおそらく異常血管網からの滲出による凸凹なRPEを表している.図15黄斑円孔の3D表示(1)AdvancedVisualizationで解析すると,左上図のように3D表示ができるようになった.———————————————————————-Page8620あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008からRNFL(網膜神経線維層)厚を求める(図17).詳しくは緑内障の項を参照されたいが,正常データとの比較や経時変化を追ってみていくことができる(図18).起がある(図13).B-scan上はdoublelayersign2)がはっきりわかる.セグメンテーションではILMセグメントは病巣部の隆起のみであるが,RPEセグメントは凸凹とRPEが隆起しているのがよくわかる(図14).4.ソフトウェアバージョン3からの新機能a.3D構築(3Dvolumerendering)MacularCubeで測定して解析をAdvancedVisual-izationにすると,3D構築した画像が表示できる(図15).眼底のプロジェクション画像を3D画像の底面に配置してみるとオリエンテーションがつきやすい(図16).残念なことに現時点のバージョンでは3D表示ができるというだけで,美しい画像ではなく,臨床的にあまり有用とはいえない.今後の改良に期待するしかない.b.OpticDiscCube200×200視神経乳頭を中心にCubeScanを行い,そのデータ(44)図16黄斑円孔の3D表示(2)3D表示の拡大画面.立方体の底にLSO画面を表示してある.図17OpticDiscCubeMacularCubeと同様に200Aline×200本のCubeを測定する.———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008621診療報酬の改正によって眼底三次元解析が算定できるようになった今,OCTは大学病院などの研究機関だけにとどまらず,一般の開業医の間にも急速に広まっていくはずである.文献1)松本英孝:光干渉断層計(OCT).眼科49:1405-1417,20072)SatoT,KishiS,WatanabeGetal:Tomographicfeaturesofbranchingvascularnetworksinpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina27:589-594,20073)板谷正紀:光干渉断層計の進化がもたらす最近の眼底画像解析の進歩.臨眼61:1789-1798,2007まとめ以上CirrusHD-OCTの特徴を述べてきたが,今まで使用してきたOCTのなかでは最も使いやすい.SD-OCTになり測定時間が速く,分解能があがった.得られた美しい画像と解析方法の多様化は眼底疾患の理解を深め,患者への説明に有用であり,今後の診療において強力な武器となることは間違いない.SD-OCTはまだ発展途上で今後もソフトウェアのバージョンアップをはじめさまざまな改良がなされていくであろう.しかし,高分解能の見返りとしてデータの大容量化が起こっており,データの保存方法は深刻な問題である.肥大化したデータは光磁気ディスクへのバックアップが現実的にむずかしいために今後の検討課題となる.(45)図18緑内障解析画面左右眼の解析結果を同時に表示できる.