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硝子体手術のワンポイントアドバイス72.眼球破裂例に対する硝子体手術(上級編)

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096570910-1810/09/\100/頁/JCLS眼球破裂はきわめて強い鈍的外力が眼球に加わり,瞬間的な眼圧上昇をもたらし眼球壁が破裂するものである.強膜破裂に伴い,眼内組織の一部が眼外に脱出することが多い.通常,前房出血や硝子体出血を伴い,脈絡膜上腔出血,網膜下出血,網膜離,水晶体脱臼などを併発していることも多い(図1).強膜は通常,角膜輪部に平行に破裂することが多いが,強膜がもともと薄い外眼筋付着部付近ではしばしば角膜輪部に垂直な方向に破裂創が拡大する.強膜破裂創の大きな症例では,水晶体や眼内レンズが眼外に脱出することもある1).球破裂にする手術一期的か二期的か従来から眼球破裂例では,まず強膜縫合を行い,12週間後に二期的に硝子体手術を行うとする意見が多い.その利点として,①角膜透明性の回復が得られる,②網脈絡膜の炎症が鎮静化する,③後部硝子体離が発生し硝子体切除が容易になる,④脈絡膜上腔出血が溶血し排除しやすくなる,などがあげられる.欠点としては,①眼内増殖性変化が進行する,②網膜離併発例では離範囲が拡大する,③感染性眼内炎発症の危険がある,④水晶体損傷例では水晶体起因性眼内炎発症の危険がある,などが考えられる.筆者は受診時に角膜の透明性が保たれていれば,可能な限り一期的に硝子体手術まで施行する方針をとっている.その最大の理由は,感染性眼内炎を経過中に併発した場合には,予後がきわめて不良となるからである.球破裂にする硝子体手術のポイン強膜を丁寧に縫合した後,水晶体切除を併用した硝子体切除を周辺部まで確実に施行する必要がある.眼球破裂例では眼内の増殖機転が進行しているため,周辺部硝子体切除が不十分だと,前部増殖性変化を惹起して房水産生低下を招き,眼球癆になる危険が高い.眼球破裂例(77)の予後は,眼内組織の損傷や脱出の程度に大きく左右される1)が,最も重要なファクターは毛様体損傷の程度であり,これが軽度であれば,十分に視機能を温存できる可能性がある(図2).術中の出血は通常易凝血性で特に網膜下出血の処理に苦慮することが多い.筆者は眼内灌流液にヘパリンを添加し,術中に生じる出血を凝血させないようにしている2).タンポナーデ物質としては,可能な限りガスを使用するが,高度の術後炎症が予測される場合にはシリコーンオイルを使用している.文献1)立脇祐子,前野貴俊,南政宏ほか:眼球破裂症例の予後に関連する術前因子の検討.臨眼60:989-993,20062)ImamuraY,KameiM,MinamiMetal:Heparin-assistedremovalofclottingpreretinalhemorrhageduringvitrecto-myforproliferativediabeticretinopathy.Retina25:793-795,2005硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載72眼球破裂例に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1眼球破裂例の前眼部所見耳側約120°にわたる眼球破裂を認め,前房出血と水晶体亜脱臼を認める.図2硝子体手術後の所見広範な脈絡膜の欠損を認めるが,毛様体の損傷は比較的軽度で,房水産生機能は温存され,眼球癆には至らなかった.

眼科医のための先端医療101.難治性眼炎症性疾患に対する網羅的PCR診断システムの可能性

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096530910-1810/09/\100/頁/JCLSはじめに眼科の失明原因となる代表疾患にぶどう膜炎や感染性眼内炎があります.またこれらの疾患と鑑別がむずかしい眼内リンパ腫は生命予後に直結する疾患です.近年,ウイルス学や分子生物学の進歩により眼科領域でも原因不明の疾患に外来性抗原(ウイルス,細菌,寄生虫,腫瘍など)が関与していることが判明してきています.筆者らの施設では,眼の微量な検体を用いて,これらの難治性眼炎症疾患の病因となる多様な外来抗原を網羅的にスクリーニングし診断する検査システムを開発し,正確な診断とそれに合う適切な治療を行うことを検討しています.眼感染症は失明,眼内リンパ腫は生命予後にかかわるので正確で,かつ迅速な診断システムの開発が必要であると考えます.新しいpolymerasechainreaction(PCR)検査はルスウイルスの性(ルス)ルタイムをた検査システムをしの効性にいのをいした)ではのウイルスで効でた検査システムを用しウイルスではな眼炎症すにしいるれる性のんすを網羅でる検査システムをするを検しいすの具体的なですルスはを用いれれの特的イーをしでをいすイイーシーのをしをいウイルスなのの検をいすれは()なないにしたーにのをしすの性ではルのでしいしたれはなでしすた性で性でたにしのをいすを用いしすしを用いでをいす性をる的でイーーはルスはなるにしす新しいPCR検査システムの特徴ルスのは性いいでるですルにるはでにはの性に性性のでスー検査し用されすののは眼炎症性疾患(炎炎な)の検体はの性検される可能性のは用れすではでの眼検体を用いたは眼の体の性たは検査のでの検査のにをにに眼の検体はんなされいんルタイムのは治に眼のーをでるために治のの用タイのになすさにの難治性眼炎症疾患の検体の性のをスーでるので症で症にはステイの炎症をるになす具体的なPCR検査の流れ具体的な検査の流れは図1にまとめました.ぶどう膜炎,眼内炎など活動性眼内炎症を有する患者からインフォームド・コンセントを得て前房水,硝子体,虹彩などの眼内組織を採取します.眼表面炎症性疾患では,角膜擦過物や涙液,結膜組織などを採取します.検体の処理ですが,検体を遠心,分離し,沈渣の細胞成分は自動核酸抽出装置とDNA抽出キットを使用し核酸DNAを抽出します.検体の上清はPCR以外の検査(サイトカイン測定,特異抗体測定,培養など)に使用します.(1)細菌性眼内炎の診断には,一般的な培養,グラム染色,ギムザ染色に加えて,Broad-range定量PCR(細(73)◆シリーズ第101回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊杉田直(東京医科歯科大学大学院歯学総合研究科眼科学)難治性眼炎症性疾患に対する網羅的PCR診断システムの可能性———————————————————————-Page2654あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009菌全般保存領域の増幅:16SリボゾームRNA領域)を行います.このPCR陽性検体は,16SリボゾームRNA領域を増幅させて,直接シークエンスして,その結果をGeneBankでブラスト解析を行い,菌の同定までを行います.眼科の遅発性眼内炎の代表細菌,Propionibacte-riumacnesは別に定量PCR検査を行います.(2)真菌が疑われる場合,真菌培養およびBroad-range定量PCR(真菌全般保存領域の増幅:18SリボゾームRNA領域)も行います.その他,眼科関連性が高いと思われるカンジダ,アスペルギルス,フザリウム,アカントアメーバのそれぞれの定量PCRも行います.(3)ウイルスの診断は,ヘルペスウイルス属1型から8型(HSV-1,HSV-2,VZV,EBV,CMV,HHV6,HHV7,HHV8)までとレトロウイルスでぶどう膜炎の原因のHTLV-1(proviralDNA)の検索を行います.また,眼科関連性は不明のBKV,JCV,パルボウイルスB19に関しても検討します.上記ウイルスはいずれもマルチプレックス定性PCRおよびリアルタイム定量PCRを用いてゲノムの同定を行います.(4)眼内寄生虫の診断には,代表的なトキソプラズマとトキソカラのPCRを行います.トキソプラズマは定性・定量PCRを用いて眼内ゲノムの同定を,トキソカラはトキソカラチェック(簡易定性検査)を用いて眼内特異抗体の同定および定性および定量PCRも行います.その他ぶどう膜炎の原因となる病原体で,結核,梅毒トレポネーマ,バルトネラ菌(ネコひっかき病),クラミジアがあります.これらの外来性抗原の定性および定量PCRを用いてゲノムの同定を行います.(5)眼内腫瘍の診断として,仮面症候群を呈する眼内リンパ腫と白血病眼内浸潤の診断システムを確立させます.一般的な病理診断以外に,眼内液を利用した定性PCRでT細胞受容体(TCR)再構築(T細胞系)とIgH(免疫グロブリンH)再構築(B細胞系)を行います.PCRで陽性の検体はサザンブロットで二重解析を行います.同時に検体の上清を使用してELISA法(酵素免(74)PCR検査症例:検体採取DNA抽出①細菌全般定量②真菌全般定量③ウイルスmultiplex細菌16SrRNA領域真菌18SrRNA領域HHV1-8,HTLV-1BKV,JCVParvoB19GeneBank(ブラスト解析)各種真菌定量PCR各種ウイルス定量PCRカンジダアスペルギルスフザリウムアカントアメーバ⑤眼内リンパ腫B細胞IgH遺伝子再構成T細胞TCR遺伝子再構成④ぶどう膜炎multiplex結核,梅毒,バルトネラクラミジア,トキソカラトキソプラズマ各種定量PCR検体処理細胞成分液体成分抗体測定サイトカイン測定細菌培養真菌培養一部の細胞成分病理検査検サザンブロット図1眼炎症性疾患に対する網羅的PCR診断システムの検査の流れ①細菌全般定量PCR,②真菌全般定量PCR,③ウイルスmultiplexPCR,④ぶどう膜炎multiplexPCR,⑤眼内リンパ腫PCRの5種類のPCR検査は迅速(24時間以内)に行う.その後の検査も48時間以内を目標とする.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009655(75)疫測定法)によるサイトカイン測定も行います.期待される効果の新しい検査システムの期待される効果し眼炎症のなる性をにでするで期治なすた眼ののをい治ののなすたの眼炎症性疾患新しい性のされる可能性すさには特に性疾患性疾患をするでるのでな検査なる期待されす[本稿で用いたウイルスの略語のフルターム]BKV:BKvirus,CMV:cytomegalovirus,EBV:Epstein-Berrvirus,HHV:humanherpesvirus,HSV:her-pessimplexvirus,HTLV-1:humanT-lymphotropicvirus1,JCV:JCvirus,VZV:varicella-zostervirus.文献1)杉田直,岩永洋一,川口龍史ほか:急性網膜壊死患者眼内液の多項目迅速ウイルスPCRおよびリアルタイムPCR法によるヘルペスウイルス遺伝子同定.日眼会誌112:30-38,20082)SugitaS,ShimizuN,WatanabeKetal:UseofmultiplexPCRandreal-timePCRtodetecthumanherpesvirusgenomeinocularuidsofpatientswithuveitis.BrJOph-thalmol92:928-932,20083)SugitaS,ShimizuN,KawaguchiTetal:Identicationofhumanherpesvirus6inapatientwithsevereunilateralpanuveitis.ArchOphthalmol125:1426-1427,2007「難治性眼炎症性疾患にする網羅的PCR診断システムの可能性」を読んで本稿でされいる()はのしたのですはに的をたししたれでのでのしでんでしたはにするしいでれではをしれいしたのをるは「い体にいのでた」るなのでのをするためのなのをにめしたのしのにののをにい()をたししたの本的なは杉田直れいるにいのイーをに用いをさるいのですのはを効さるでな検体の網羅的な可能でるのでなる検し診断の性になをする期待されしたししに用するなるはにしる検体のされいるのにはした検体のになる検体のには性のる果をんでした本稿ではのにいんれれいん検査に用可能なルのをするでには杉田たのなたはですのにはをするで患のに診断でるいした眼でのルにいいるのですたし眼をるで眼坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ188.人工角膜:AlphaCor邃「 

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096490910-1810/09/\100/頁/JCLS手術方法・術後管理1.手術方法(図3)二段階手術で施行する.1期目の手術は,角膜実質層間にAlphaCorTMを挿入することが主目的である.全身麻酔での手術が推奨されているが,局所麻酔でも可能で新しい治療と検査シリーズ(69)バックグラウンド混濁した角膜を,何らかの透明な構造物で置き換えることで視力を取り戻そうという構想は,すでに200年以上前にGuillaumePellierdeQuengsyによって具現化されていたと考えられている.わが国でも,高橋光春が1891年(明治24年)に亀甲製の人工角膜を臨床応用していた1).その後,さまざまな素材・デザインの人工角膜が開発されたが,素材の生体適合性や術式の問題から製品開発・大量生産には至らなかった.全世界には,1,500万人以上の角膜疾患での失明患者がいるといわれているなか,特定の地域を除きドナー角膜は不足している.仮にドナー角膜での移植を施行しても,拒絶反応や続発緑内障の結果,移植片機能不全をきたす危険を伴う.移植片の透明性という観点からすると,全層角膜移植では手術回数が増えるほど成績は悪くなる.もし,ドナー角膜に置き換わる人工角膜が大量生産可能になれば,世界的なドナー不足は解消されることが期待できる.新しい治療法1980年代初頭にChirilaによって開発された人工角膜は,2002年10月にAlphaCorTMとして製品化された.そのデザインは,直径7mm,中央の光学部直径4.5mm,厚さ0.6mm,周辺部は幅約1.2mmの白色支持部からなる(図1).素材にpoly(2-hydoxyethylmethacry-late):PHEMAを用いることで,無色透明の光学部と微小孔構造の支持部とが,相互侵入高分子網目(inter-penetratingpolymernetwork:IPN)で接合し,分子レベルでシングルピース構造(図2)の柔軟な人工角膜とした.組織への機械的ストレスが少ないこと,前房の構造を維持できる術式から,良好な術後成績が期待されている.188.人工角膜:AlphaCorTMプレゼンテーション:江口洋徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部感覚情報医学講座眼科学分野コメント:川北哲也慶應義塾大学医学部眼科学教室図1AlphaCorTM移植眼結膜被覆をしない方法3)での第1期手術後.図2IPNの走査電子顕微鏡像微小孔(矢印)をもつ支持部と均一な構造の光学部(矢頭)は接着している15μm———————————————————————-Page2650あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009ある.2期目は,1期目の術後3カ月以降に,視路の再建を目的として局所麻酔で施行する.<第1期目手術>結膜を輪部で360°全周切開し,結膜被覆弁を作製78mm幅の強角膜切開創作製角膜層間離で,実質層間ポケットを作製ポケット後方角膜の中央を穿孔(直径3mmの皮膚生検用トレパンが有用)AlphaCorTM挿入層間でのAlphaCorTMの移動を防ぐため前方・後方実質を10-0ナイロン糸で23針縫合10-0ナイロン糸で強角膜切開創を縫合角膜上皮を全面掻爬結膜弁で眼表面を被覆し,8-0バイクリル糸で適宜縫合<第2期目手術>点眼麻酔後に,被覆結膜の中央を直径約3mm切開止血しながら,前方角膜も同様に切開し,Alpha-CorTM前面を露出させる必要に応じ治療用コンタクトレンズを装着2.術後管理1期目術後は,結膜被覆弁の穿孔が生じないか,角膜融解がないかをみる.角膜融解は,結膜を透かして見えているAlphaCorTMの位置や,眼表面の突出の具合から判断する.その際,OCT(光干渉断層計)も有用である.2期目術後は,前方角膜切開部の拡大の有無,retro-prostheticmembraneの有無,眼底の検査をする.角膜融解予防のために,術後は一貫して酢酸メドロキシプロゲステロンの点眼薬を使用し続ける.本法の良い点AlphaCorTM移植そのものは,白内障術後であればさほどむずかしい手技を必要とせず2),lamellarsurgeryの経験があれば施行できる.特殊な器具を必要とせず,前房内の構造を崩すこともない.輪部機能が保たれている症例では,結膜被覆弁を利用しない方法も考案されており3),その場合,術式はより平易で手術時間も短縮される.また,術後早期の経過観察も細隙灯顕微鏡で可能である.眼圧の正確な測定は困難であるが,AlphaCorTMが柔らかいため,ProviewTMなどで比較的信頼性の高い眼圧モニタリングが可能である.角膜の融解などでやむを得ずAlphaCorTMを摘出しても,ドナー角膜での全層角膜移植や再度AlphaCorTM移植で視路の再建も可能であり,AlphaCorTM移植が角膜再建術の最終手段ではない.1)HirschbergJ:LettertoInoueTatsuya(inGerman).Chu-gaiIjiShimpo(NationalandInternationalMedicalNews).366:758-759,18952)EguchiH,HicksCR,CrawfordGJetal:CataractsurgerywiththeAlphaCorarticialcornea.JCataractRefractSurg30:1486-1491,20043)CrawfordGJ,EguchiH,HicksCR:TwocasesofAlpha-Corsurgeryperformedusingasmallincisiontechnique.ClinExpOphthalmol33:10-15,2005(70)結膜被覆弁角膜層間のAlphaCorTM前房体第1期手術後第2期手術後図3術式の模式図第1期でAlphaCorTMを挿入し,第2期に視軸を作製する.図4術中写真角膜層間にAlphaCorTMを挿入している.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009651(71)が一のときも再移植,通常の角膜移植も可能である.また支持部の生体適合性と中央部の細胞接着抑制など,コンセプトはよさそうである.しかし輪部機能,涙液分泌機能がほぼ正常なことが条件であり,重症瘢痕性角結膜症には用いられない.また,角膜実質に埋め込むため,ある程度の厚さが必要であるなど,適応症例に制約が多い.ホルモン剤点眼の長期使用が必要な点も気になるところである.人工角膜は,生体素材を用いているかどうか,で大きく2つに分けられる.人工物のみのものは,生体適合性,透明性維持などが大きな問題となる.人工角膜を用いた手術は,通常の角膜移植では救うことができない症例(拒絶反応を頻回に起こすケース,角膜実質融解をくり返すなど)に対する最終手段として,選択をすることが多い.このAlphaCorTMは,角膜全層として移植するというわけではなく,角膜実質移植に近いものである.術後も角膜の形態は保持しており,万本方法に対するコメント☆☆☆

眼感染アレルギー:多発性小円形病巣を呈する特異な角膜炎-能登角膜炎と銭型角膜炎

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096470910-1810/09/\100/頁/JCLS1983年に石川県能登地方で,これまでに経験したことのない奇妙な角膜炎が多発した(図1).片眼の散在性円形病巣を特徴とし,角膜知覚は正常で,抗ウイルス薬に反応はなく,ステロイド点眼が著効した.「多発性円形病巣を呈した角膜炎」と題して筆者らが初めて4例を報告1)したが,患者数はその後も増加を続けた.その後,当教室の山村らにより,1986年に34例2),1990年に67例が追加報告3)された.能登地方で多発したことより,「能登角膜炎」とよばれている.ここにその特徴と,本角膜炎と同様に農村地区に多発する銭型角膜炎との違い,鑑別疾患について解説する.登角膜炎の臨床患者は農林業を営む中高年の女性に多く,発症時期は秋が最多であるが,春にもみられている.ときに泥などの異物の飛入歴が認められる.同一集落内での発症はあるものの,家族内・施設内での流行はみられていない.ほとんどが片眼性で,異物感,充血,流涙,羞明,視力低下などを訴えて受診した.結膜充血,毛様充血を伴う場合が多く,結膜濾胞は認めない.初診時の角膜病変と(67)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑰監修=木下茂大橋裕一17.多発性小円形病巣を呈する特異な角膜炎―能登角膜炎と銭型角膜炎―北川和子金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)能登角膜炎,銭型角膜炎ともに農業従事者に発症する角膜炎であり,片眼の多発性円形の角膜混濁を特徴とする.充血や虹彩炎の有無,混濁の形状において,この両角膜炎には相違があるが,共通点も多い.どちらも病因は不明であるが,ステロイド点眼が著効することより,外的要因による角膜の過敏反応の関与が疑われる.富山県図1能登半島における多発地帯(で示した地域)図3能登角膜炎―実質浮腫図2とは別の症例.病巣がより大きく,中央では癒合傾向があり不整型となり,角膜浮腫もみられる.毛様充血も存在.図2能登角膜炎―小円形混濁多発性小円形散在性の病巣が4時~10時の角膜周辺部と瞳孔領上方に存在.毛様充血もみられる.この症例は虹彩コロボーマを合併.———————————————————————-Page2648あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009して,上皮内点状多発混濁あるいはフルオレセインで星状,線状に染色される微細な散在性病巣,上皮下実質の円形混濁(図2),上皮病変と実質病変の混在の3型がみられた.大きい病変や角膜中央の病変では浮腫状となることが多く,また癒合する傾向もみられた(図3).虹彩炎,角膜後面沈着物も多くの症例でみられた.角膜への血管侵入や実質浮腫の周囲に免疫輪様の混濁が出現することもあった.角膜知覚低下はみられず,ペア血清でアデノウイルス,帯状ヘルペス,単純ヘルペス抗体価の上昇もみられなかった.結膜培養では一部で常在菌が分離されるのみであった.当初は角膜ヘルペスを疑い抗ウイルス薬を投与したがまったく効果はなく,ステロイド点眼が奏効し数日~3カ月で治癒した.再燃がみられた症例が少数あったが,ステロイド点眼の再開で治癒し,最終視力は良好であった.形角膜炎の臨床能登角膜炎に最も類似した疾患として銭型角膜炎があげられる4,5).銭型角膜炎は1905年にDimmerにより報告された疾患で,Dimmer’snummularkeratitisとよばれる.Nummularの意味は「貨幣状」で,混濁の形が硬貨に似ていることに由来する.若い農夫に発症し,時期的には秋の収穫後にみられることが多く,通常は片眼である.ときに眼外傷の既往があり,結膜炎症状は認めないか軽度である.円形の角膜混濁はBowman膜直下に出現し,その数は10~20個,大きさは0.5~3mm程度とされる.初期には上皮病変がみられ,ついでBowman膜下の実質に小さい円形混濁が出現する.角膜中央部の混濁はより深層まで及ぶ傾向がある.輪部からの血管侵入,小円形混濁の癒合による不整型混濁がみられる場合もある.2年以上の経過で自然治癒するが,その治癒過程で,円形混濁の中央に濃い混濁(核)とそれを囲んで暈輪(halo)が出現し,その後,核混濁が吸収されるにつれてその部に陥凹(facet)がみられるという特徴がある.Dimmerの報告以後,ヨーロッパを中心に小流行が散見されている.わが国での報告例はこれまでに10数例ある6,7)が,集団発症の報告はない.ステロイド点眼によりいずれも1~2カ月以内に治癒し,視力予後は良好である.(68)者の鑑別および病因能登角膜炎と銭型角膜炎の共通点は多い.すなわち,伝染性はなく農業従事者で収穫期ごろに多発する,主として片眼性である,多発性の角膜上皮および実質浅層の円形病巣が出現する,病巣が癒合し浮腫状となる,ときに血管侵入がみられる,ステロイド点眼が著効し予後が良好である,ときに再燃することもあるがステロイド点眼で改善する,などである.相違点としては,能登角膜炎では,結膜充血,毛様充血,虹彩炎を伴う症例が多く,より重篤感があり,混濁もさらに大きく,単純ヘルペスによる円板状角膜炎に類似の所見を呈する場合もあること,さらに,核やfacetを形成しないで治癒していくことがあげられる.銭型角膜炎の病因は,いまだ推定の域を出ないが,ウイルス,細菌,寄生虫などの外的要因による角膜の過敏反応が最も疑われている.能登角膜炎でも病因は不明であるが,やはりステロイドが著効することより,外因が異なるとしても同様の免疫学的過敏反応の関与が疑われる.鑑別疾患としては,Thygeson点状表層角膜炎,帯状ヘルペス角膜炎,単純ヘルペス角膜炎,流行性角結膜炎があげられる.臨床所見,治療に対する反応が異なることより,経過を振り返れば明らかに異なる疾患と判断できるが,初期には角膜ヘルペスとして治療が開始される可能性も高い.上に述べたような発症状況や角膜知覚,ウイルス学的検査結果が参考になる.文献1)北川和子,富井隆夫:多発性円形病巣を呈した角膜炎.眼臨79:1444,19852)山村敏明,北川和子,富井隆夫ほか:石川県能登地方で多発した特異な角膜炎.臨眼40:156-157,19863)藤沢来人,生駒尚秀,山村敏明:能登地方で多発した角膜炎(第3報).眼臨84:2173,19904)Duke-ElderS:Nummularkeratitis.SystemofOphthal-mology.VolVIII,part2,p746-751,Henry-Kimptin,Lon-don,19655)内田幸男:銭型角膜炎.臨床眼科全書(大塚任,鹿野信一編),3-2眼底各論I.角膜・強膜・眼窩,p362-363,金原出版,19726)土至田宏,中安清夫,金井淳ほか:銭型角膜炎と思われる1例.眼紀46:799-802,19957)井尾晃子,松田彰,田川義継:銭型角膜炎の6症例.臨眼52:1595-1598,1998

屈折矯正手術:角膜のHysteresis

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096430910-1810/09/\100/頁/JCLSLaserinsitukeratomileusis(LASIK)に代表される角膜屈折矯正手術後の重篤な合併症の一つとして角膜拡張症(keratectasia)があげられるが,角膜生体力学(バイオメカニクス)特性が著しく低下することが原因と考えられている.また,本特性は屈折矯正手術における安全性や予測精度にも少なからず影響を及ぼすことが報告されている1).さらに,屈折矯正手術後の眼圧は見かけ上低く測定されることが知られており,眼圧を正確に評価するうえでも本特性を把握する必要がある.しかしながら,これまでinvivoにおける測定方法が十分に確立されておらず,臨床における本特性の評価はきわめて困難であった.OcularResponseAnalyzerTM(Reichert社)の登場によって,バイオメカニクス特性を定量的に評価することが可能となった.OcularResponseAnalyzerTMは,両方向性の動的な圧平過程を通じて角膜生体力学特性および眼圧を測定する装置である.空気の噴流によって角膜を変形させるという圧平式原理は,現状の非接触式空気眼圧計と同様である.本装置では,角膜が平坦化するだけでなく陥凹するまで加圧し,その後減圧することにより,角膜が再び(63)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載108監修=木下茂大橋裕一坪田一男108.角膜のHysteresis神谷和孝北里大学医学部眼科角膜組織は粘弾性体構造をとり,外力変化に対して本来の形状に回復する過程で時間的な遅れを生じる.この遅れは角膜のhysteresisとされ,角膜組織がエネルギーを吸収し分散する能力を示し,バイオメカニクスの指標の一つとなる.本指標はさまざまな角膜屈折矯正手術後に低下し,安全性や術後成績にも影響を及ぼす.InSignalPeakOutSignalPeak図1OcularResponseAnalyzerTMの測定波形角膜生体力学特性による影響で,内向きおよび外向きに平坦化する過程に遅れが生じるが,この内向きの圧と外向きの圧の差をcornealhysteresis(CH)とする.68101214Cornealhysteresis(mmHg)眼圧(mmHg)101520図3正常眼におけるcornealhysteresis(CH)と眼圧の相関眼圧が高い症例ほど,CHが低下する.(文献2より)68101214450500550600Cornealhysteresis(mmHg)中心角膜厚(?m)図2正常眼におけるcornealhysteresis(CH)と中心角膜厚の相関角膜が薄い症例ほど,CHが低下する.(文献2より)———————————————————————-Page2644あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009平坦化するまでの経時的な測定を行う.角膜中央部3mmを約20msec電気光学的にモニターすることにより,内向きおよび外向きに平坦化する時間を正確に測定し,その時点での空気圧を算出する.角膜組織は粘弾性体としての構造をとるため,外力変化に対して本来の形状に回復する過程で時間的な遅れを生じるが,この内向きの圧(P1)と外向きの圧(P2)の差をcornealhystere-sis(CH)と定義する(図1)1).このCHは,角膜固有の粘性ダンピング,つまり角膜組織がエネルギーを吸収し,分散する能力を示すと考えられている.自験例による正常眼での検討では,角膜が薄く,眼圧が高い症例ほどCHが低下すること(図2,3)2),日本人におけるCHは欧米の報告に比較してわずかながら低値を示すこと2,3),加齢によって角膜厚に依存せずCHが低下すること3)が判明した.今後バイオメカニクス特性を評価するうえで,角膜厚や眼圧だけでなく人種差や年齢についても考慮する必要がある.患のhysteresis1.LASIK後のhysteresisLASIK術後は,術前に比較してCHが有意に低下する.矯正量が大きいほど,この傾向は顕著であった4).自験例による検討でも,CHが低下する症例ほど,術後屈折が近視化する傾向を認めた.バイオメカニクスが低下する症例ほど,眼内圧に対して角膜の形状を維持できず,前方へ突出しスティープ化する機序が考えられている.2.PRK後のhysteresisPhotorefractivekeratectomy(PRK)術後も,CHが有意に低下する.しかしながら,同一矯正量におけるLASIK術後より有意に低下しにくいことが判明した4).PRKはフラップ作製を要せず,より実質浅層の切除を行うためにLASIKよりバイオメカニクスに及ぼす影響が少ない可能性がある.3.PTK後のhysteresisPhototherapeutickeratectomy(PTK)術後も,CHが有意に低下する.顆粒状角膜変性におけるCHは正常眼とほぼ同様であり,CHと角膜厚は弱いながらも有意な相関を認めた5).正常角膜だけでなく病的な角膜においても,バイオメカニクスを評価するうえで角膜厚が一定の役割を果たすことが示唆された.4.角膜拡張症のhysteresis角膜拡張症(keratectasia)は,フラップ作製や角膜切除に伴いバイオメカニクスが著明に低下することによって,進行性に角膜が前方へ突出する疾患であり,最も重篤な合併症の一つとされている.実際にLASIK手術後に角膜拡張症を生じた症例では,CHは大幅に低下していた6).しかしながら,角膜拡張症を発症した眼とそうでない眼のCHに相違がみられず,測定波形の詳細な解析や収差測定との併用が有用であったという報告7)もあり,さらなる検討が必要である.角膜のhysteresisは,屈折矯正手術後だけでなく円錐角膜やペルーシド角膜変性症といった角膜菲薄化疾患や正常眼圧緑内障においても低下することが明らかになっている.従来円錐角膜における進行の判定や重症度評価においてトポグラフィが主体であったが,これは角膜のバイオメカニクス低下に伴う二次的な変化を捉えているにすぎない.自験例における検討では,円錐角膜眼では同年代の正常眼に比較してCHは低下しており,重症例ほどその傾向は顕著であった8).今後CHは,円錐角膜のスクリーニングだけでなく,些細な病状の進行や重症度を考えるうえで新たな定量的指標の一つとなる可能性がある.わが国に多いとされる正常眼圧緑内障においても,CHは篩状板の脆弱性を反映している可能性がある.このように正確な眼圧評価という側面だけでなく,緑内障における病態解明や診断精度の向上に役立つ可能性があり,今後さらなる研究の進展が期待される.文献1)LuceDA:Determininginvivobiomechanicalpropertiesofthecorneawithanocularresponseanalyzer.JCataractRefractSurg31:156-162,20052)KamiyaK,HagishimaM,FujimuraFetal:Factorsaectingcornealhysteresisinnormaleyes.GraefesArchClinExpOphthalmol246:1491-1494,20083)KamiyaK,ShimizuK,OhmotoF:Eectofagingoncor-nealbiomechanicalparametersusingtheocularresponseanalyzer.JRefractSurg,inpress4)KamiyaK,ShimizuK,OhmotoF:Comparisonofthechangesincornealbiomechanicalpropertiesfollowingphotorefractivekeratectomyandlaserinsitukeratomileu-sis.Cornea,inpress5)KamiyaK,ShimizuK,OhmotoF:Thechangesincornealbiomechanicalparametersafterphototherapeutickeratec-tomyineyeswithgranularcornealdystrophy.Eye,2008Dec19.[Epubaheadofprint]6)神谷和孝:ケラテクタジア新しい予防法OcularResponseAnalyzerTM.IOL&RS22:164-167,20087)KerautretJ,ColinJ,TouboulDetal:Biomechanicalchar-acteristicsoftheectaticcornea.JCataractRefractSurg34:510-513,20088)大本文子,神谷和孝,清水公也:OcularResponseAnalyz-erTMによる円錐角膜における角膜生体力学特性の測定.IOL&RS22:212-216,2008(64)

緑内障:濾過胞感染の背景

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096450910-1810/09/\100/頁/JCLS代謝拮抗薬の使用により線維柱帯切除術後の眼圧調整成績は格段に向上した1).しかし,代謝拮抗薬併用後に形成された乏血管性の濾過胞は濾過胞感染の危険性を著しく増大させた1).当科における年度別濾過胞感染症発生件数でみると,最近5年間で重症例は若干減少してはいるものの,依然として存在する2).また,無血管領域が少なく広い濾過胞を作製する目的で試みられている円蓋部基底結膜切開でも濾過胞感染は発症している.すなわち,濾過胞機能を有する限り,濾過胞感染は永続的に続く問題といえる(自験例では術後17年目でも発症).その問題を少しでも解決するためには,その発症危険因子を把握し線維柱帯切除術後の患者を管理することが重要といえる.過胞感染のならびにその特徴2)代謝拮抗薬の併用で晩期感染症の発症頻度はやや高い傾向にある(表1).自験例では代謝拮抗薬未使用群,5-フルオロウラシル使用群およびマイトマイシンC使用群において,それぞれ1.3%,3.5%および2.7%であった.起因菌あるいは検出菌としては,早期感染症では表皮ブドウ球菌が,晩期感染症ではレンサ球菌,ブドウ球菌属,インフルエンザ菌および嫌気性菌などが多く報告されている.なかでもレンサ球菌は高頻度に検出されるという.視力予後の観点からは,レンサ球菌,コアグラーゼ陽性ブドウ球菌あるいはグラム陰性菌ではその予後は不良で,表皮ブドウ球菌では比較的予後は良好という.自験例において濾過胞炎ではブドウ球菌属が多く,眼内炎ではレンサ球菌が多い傾向がみられた.また,病期の進行に伴い細菌の検出率も増加する傾向がみられたが,菌同定陽性率のいっそうの向上と迅速診断の目的で,Broad-rangePCR(polymerasechainreaction)法など遺伝子解析技術の応用を当科では現在試みている.感染を生じやすい濾過胞の特徴としては,代謝拮抗薬の使用,下方に形成された濾過胞,無血管領域を有するかあるいは菲薄化した濾過胞および房水漏出などがある(表2).ほかに,男性,60歳未満,糖尿病や悪性新生(65)●連載107緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也107.濾過胞感染の背景望月清文岐阜大学医学部附属病院眼科濾過胞感染症の危険因子として,若年者(60歳未満),糖尿病を有する患者,抗菌点眼薬の間欠的あるいは継続的使用および濾過胞からの房水漏出があげられる.季節として初夏に発生が多く,原因菌の検出率は病期の進行とともに高くなる.また,重症例では発症時の眼圧は高いことが多い.表1晩期濾過胞感染症の発症頻度代謝拮抗薬同時手術(白内障およびMMC併用)未使用5-FUMMC頻度(%)0.2~1.51.9~5.71.6~3.11.4~1.6自験例1.33.52.7(2007年まで)1.7(2007年まで)5-FU:5-フルオロウラシル,MMC:マイトマイシンC.表3岐阜大学における濾過胞感染症の特徴危険因子若年者(60歳未満)糖尿病抗菌薬の使用房水漏出季節初夏原因菌レンサ球菌表2濾過胞感染症の危険因子代謝拮抗薬下方に作製された濾過胞濾過胞の状態(無血管領域,菲薄化)房水漏出性別年齢人種(黒人)糖尿病,膠原病や悪性新生物眼内レンズ挿入眼コンタクトレンズ装用季節(冬季)“濾過胞炎”の既往眼瞼縁炎・涙?炎・結膜炎など———————————————————————-Page2646あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009物など易感染性疾患,術後の低眼圧,間欠的あるいは継続的な抗菌点眼薬の使用,濾過胞再建術あるいは内眼手術などの手術既往,眼内レンズ挿入眼,濾過胞炎の既往,結膜炎や眼瞼炎の既往,鼻涙管閉塞,コンタクトレンズ装用,冬季,黒人,開放隅角緑内障,眼軸の延長(平均25.8mm以上)ならびに上気道感染などが濾過胞感染の危険因子として報告されている(表2).自験例では,若年者,糖尿病,抗菌点眼薬の使用および濾過胞からの房水漏出が危険因子としてあげられ,季節として初夏に発生が多かった(表3).また,重症例では発症時の(66)眼圧は低眼圧よりむしろ高眼圧になる傾向にあり,これは濾過胞内あるいは前房内が膿瘍で満たされるためと推測される.文献1)MochizukiK,JikiharaS,AndoYetal:Incidenceofdelayedonsetinfectionaftertrabeculectomywithadjunc-tivemitomycinCor5-uorouraciltreatment.BrJOph-thalmol81:877-883,19972)堀暢英,望月清文,石田恭子ほか:線維柱帯切除術後の濾過胞感染症の危険因子と治療予後.日眼会誌(印刷中)☆☆☆

眼内レンズ:眼内レンズ挿入眼の見え方シミュレーション(1)非球面眼内レンズ

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096410910-1810/09/\100/頁/JCLS各社から非球面眼内レンズが出ているが,ここでは,角膜の平均球面収差0.27μmを打ち消す負の球面収差をもつZ9003(AMO社)と,球面レンズで約0.2μmの球面収差をもつSA60-AT(Alcon社)の比較を行った.つまり,眼球光学系全体としては球面収差0μmと,0.47μmとの比較である.さらに,模型眼の前に,+0.5Dの検眼用のシリンダーレンズを挿入して,角膜に乱視がある場合のシミュレーションも行った.これにより最小錯乱円の位置から0.25Dずれることになる.模型眼はヒト眼の角膜の平均球面収差0.27μmをもつ模擬角膜レンズと水槽に入った眼内レンズとCCDカメラから成るものである.像の撮影には瞳孔径を5mmで,550(61)nmの中心波長をもつ干渉フィルターをその前に置き,Landolt環視標を5m,2m,1mに置いた.瞳孔を5mmにしたのは,違いがよく表れる大きさであるためである.光学像を図18に示す.図13はZ9003の光学像である.図46はSA60-ATの光学像である.図7と図8はZ9003,SA60-ATに,+0.5Dの検眼用のシリンダーレンズを挿入して,角膜に乱視がある場合のシミュレーションである.これらの画像を見ると,球面収差がないときはコントラスト,解像力が高く,すっきりとした像が得られているのがわかる.一方,球面収差があると,解像力はあるが,コントラストが低くなってい大沼一彦千葉大学大学院工学研究科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎273.眼内レンズ挿入眼の見え方シミュレーション(1)非球面眼内レンズヒト眼の角膜の平均球面収差0.27μmをもつ模擬角膜レンズと水槽に入った眼内レンズとCCDカメラから成る模型眼を用いて,各種眼内レンズの光学像を比較検討することができる.本稿では,非球面と球面の比較,および非点収差が角膜にある場合の光学像を示す.図1Z90035m視標の像図4SA60AT5m視標の像図2Z90032m視標の像図5SA60AT2m視標の像図3Z90031m視標の像図6SA60AT1m視標の像———————————————————————-Page2るのがわかる.球面収差がない場合,乱視があると,コントラストの低下より解像力の低下が大きく,logMARで0.4(少数視力でも0.4)くらいの視力になってしまい,球面収差を打ち消してくっきりすっきりの像が見えますといううたい文句がどこかへ消え去ってしまうことがわかる.一方,球面収差がある場合,そのようなうたい文句を言っていないので,文句はこないが,やはり,解像力の低下が大きい.しかし,注意してよく見ると,小さいLandolt環は二重像になっていることがわかる.筆者は老眼で,少し乱視がある眼である.つまり,SA60-ATに近い球面収差をもち,しかも乱視が少しあるので,このような見え方をする.今までどうして,近いところの文字を見ると二重像が見えるのか不思議であった.ボケるのだから図7のように見えるのではないのかと思っていたが,これで謎が解けたと思った.球面収差があると,レンズの中心と周辺では光軸と交わる位置が異なる.これを焦点距離が異なるとみれば,それと乱視の組み合わせで,2カ所で同じ焦点になるのではと思われる.そのほかの光はボケて重なるのであろう.瞳孔径が3mmの場合は大きな差は現れない.それは,球面収差はレンズの中心からの距離の4乗に比例して大きくなるからである.3mm瞳孔の場合,球面眼内レンズの光学像のコントラストも5mmの場合に比べて高い.白色での光学像はここでは示さないが,ここで示した単波長の像よりも少しコントラストが低い.それは,ヒト眼には約2.0Dの色収差があるため,他の波長ではフォーカスがずれていることによりボケが大きくなり,コントラストの低い像となるためである.しかし,ヒト眼は550nmに明るさ感度のピークをもち,青や赤では感度が低いため大きなボケ像を見ないことになる.非球面眼内レンズは,角膜の乱視対策として,術後のLASIK(laserinsitukeratomileusis)なども有効と思われる.レンズだけで補正することも考えれば,トーリック非球面という選択もあるかもしれない.次回は,二重焦点眼内レンズのシミュレーション像について紹介する.文献1)大沼一彦:不正乱視の基礎と臨床研究(1)─Seidel収差とZernike多項式の関係.視覚の科学28:132-139,20072)大沼一彦:不正乱視の基礎と臨床研究(3-1)─球面収差の基礎.視覚の科学28:6-14,20073)大沼一彦:不正乱視の基礎と臨床研究(4-1)─色収差の基礎.視覚の科学29:3-11,2008図7Z90035m視標の像乱視+0.5D図8SA60AT5m視標の像乱視+0.5D図9実験に用いた模型眼とCCDカメラ

コンタクトレンズ:処方度数決定のための視力の測り方(1)

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096390910-1810/09/\100/頁/JCLS視力測定に先駆けて,他覚的屈折値を得るために,オートレフラクトメータ(以下,オートレフと略す)を操作している施設がほとんどだと思う.オートレフは誰が操作しても同じ結果が得られると思われがちであるが,実際には操作する人によって得られる結果には大きな差がある.処方度数決定のために最も大切なことは,オートレフの正しい操作方法を会得し,適切な他覚的屈折値を得ることである.ートレフはな正しく測定されないかオートレフに問題はない.問題はそれを操作する検者にある.角膜上に分布する涙液膜は,瞬目直後には乱れがあり,徐々に均一に分布するが,しばらくすると破綻して再び乱れる.また,水晶体の屈折力は静止していない.他覚的屈折値を経時的に観察すると,屈折値に揺らぎが検出される.これを調節微動とよぶ.すなわち,屈折値は絶対的な値ではなく,私たちが得ている他覚的屈折値は任意の代表値にすぎない.極力正しい屈折値を記録するためのオートレフ操作方法1.装置の設定たいていのオートレフには調節を排除するために雲霧機構が装備されている.ところが,購入したばかりのオートレフは測定の迅速性を図るために,1回の雲霧に続いて数回の屈折測定を行い,測定を終了するように設定されている.この状態では数回測定した意味がない.測定に時間を要するが,1回の雲霧後に1回の屈折測定を行い,これを数回くり返す測定モードに切り替えることが望ましい.このモードで測定した屈折値であれば,測定値の信頼度が評価できる.2.測定時に注意することモニター画面を観察しながら測定することが大切である.①眼瞼や睫毛が測定系を遮っていないか確認する.(59)遮っているときには開瞼を促し,それでも遮りが解除されない場合には,検者が眼瞼を軽く支える.②角膜に映されたマイヤーリングを観察しながら測定する.角膜上の涙液膜は絶えず変化している.角膜が涙液膜で均一に覆われたときにはマイヤーリングには歪みが観察されない.涙液膜が破綻するとマイヤーリングには歪みが生じる.涙液膜が破綻したときの屈折値には不安定な乱視が検出されることが多い.③瞳孔の動きを観察しながら測定する.雲霧機構が作動した直後の瞳は縮瞳する.これは検者がオートレフに内蔵された固視標を正しく見ている証拠である.反応がない場合には固視標を見るように促す必要がある.雲霧機構が適切に被検眼の調節を解除すれば,一度小さくなった瞳孔は速やかに大きくなる.瞳孔の動きのなかで,雲霧後に瞳が大きくなったときに測定された屈折値は比較的適切な値であることが多い.調節緊張症の眼では雲霧機構が作動した後の縮瞳が持続し,屈折値が測定されるタイミングまでに散瞳してこない.このような状況で測定されたときには,調節が強く関与した近視寄りの屈折値が記録されている.④最新のオートレフでは,オートトラッキングやオートスタート機能が装備されているので,適当に測定系を眼に近づければ,それらの装置が勝手に作動して,測定を開始してしまう.しかし,これらの装置に頼った測定では適切なデータは得られない.オートトラッキング機能が作動しない程度に,検者がジョイスティックを適切に操作すれば測定された他覚的屈折値の確度は高くなる.⑤オートレフ測定中にモニター画面を観察することで,屈折異常以外に視力低下をもたらす中間透光体の異常もチェックできる.マイヤーリングの歪みから円錐角膜などの不正乱視も予測できる.⑥オートケラトメータを操作するときには,オート梶田雅義梶田眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純———————————————————————-Page2640あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(00)レフ操作時以上に十分な開瞼が必要である.他覚的屈折値を参考にした自覚的屈折検査の測定(図1)①乱視矯正を先に決定する.検眼レンズ枠に他覚的円柱屈折値から0.75Dを減じた値の円柱レンズを他覚的円柱軸度に一致(通常は10°あるいは5°間隔で近似させる)させて挿入する.②球面度数は他覚的球面屈折値から0.75D減じた値の球面度数を検眼枠に挿入する.この時点で,すでに1.0以上の矯正視力が得られている場合には,さらに0.75D減じて,矯正視力が1.0未満になる矯正度数に設定してから,矯正視力測定を開始する.③0.25Dずつ球面度数を増して,視力値を測定し,最良視力が得られる最弱屈折力の矯正レンズ度数を求める.球面度数が他覚的球面度数の値に達しても,1.0以上の矯正視力が得られない場合には,円柱レンズ度数を0.25D増して,やり直す.④円柱度数も球面度数も他覚的屈折値に達しても1.0以上の良好な矯正視力が得られない場合には,他覚的屈折値に頼らないで,最初からレンズ交換法による自覚的矯正度数を測定する.おわりにこのようにして測定した自覚的矯正度数をもとに,両眼同時雲霧法を用いて眼鏡やコンタクトレンズの処方度数を決定すれば,快適な矯正度数を提供することができる.視力値スタート球面度数に0.75Dをえる球面度数に0.25Dをえる視力値視力値1.0以上あるいは球面・円柱ともに完全矯正に達したとき球面値がオートレフ未満で視力値1.0未満球面値がオートレフ値に達しても1.0未満のとき円柱度数に-0.50Dor-0.25Dを加える終了円柱度数オートレフの円柱値より小さい自覚的乱視検査オートレフの円柱値より大きい1.0以上1.0未満図1矯正視力測定のフローチャート

写真:角膜内皮移植後の移植片偏位と接着不良

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096370910-1810/09/\100/頁/JCLS(57)市橋慶之島潤東京歯科大学市川総合病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦300.角膜内皮移植後の移植片偏位と接着不良図2図1のシェーマ①:下方へ偏位した移植片.②:前房内の空気.③:縫合糸.①②③③図3移植片接着不良(74歳,女性)移植片の位置は良好であるが,全体的に二重前房を認めている.この例では前房内の空気残量が少なく,このままでは移植片の接着は望めないため,再度空気の注入を行う必要がある.図4移植片整復術後(図3と同一症例)図3の症例で再度前房内に空気を注入した後の写真である.二重前房は消失し角膜の透明性も向上している.図1移植片偏位(63歳,男性)角膜内皮移植術翌日の写真.移植片が下方へ偏位した状態で接着している.前房内にはまだ空気が残存している.このような例では,移植片の位置を修正し再度空気を注入する必要がある.———————————————————————-Page2638あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(00)水疱性角膜症に対する手術としてはこれまで,全層角膜移植術が行われてきた.しかし近年,「角膜パーツ移植」という概念が生まれ,水疱性角膜症に対し角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty)が行われるようになってきた.角膜内皮移植術は全層角膜移植術と比較し,オープンスカイとならないため,手術中に生じうる駆逐性出血のリスクはより低いと考えられる.また,縫合糸を使用しないことにより術後の不正乱視は少なく,縫合糸による感染もないと推測される.さらに,全層角膜移植術と比較し眼球の強度が保たれるので,眼球打撲による眼球破裂の危険性も低いと考えられる.しかし,角膜内皮移植術は術中に前房内に空気を注入し,術後に仰臥位を保つことで空気の浮力を利用し移植片の接着を図るため,術後の移植片の接着が問題となる.残存空気量が多いと良好な接着が得られる可能性は高いが,術後に眼圧上昇を認めるリスクがあるため,適量でなければならない.また,空気が虹彩下へ回ってしまうケースがあるため,施設によっては周辺虹彩切除術を併用したり,術後に散瞳剤を投与したりさまざまな工夫がなされている.術後に移植片が偏位してしまっている場合には(図1),程度にもよるが移植片を外科的に中央に戻し,再度空気を注入し接着を図る必要がある.また,移植片の位置は良好であるが接着が不良で二重前房を認めている場合は,ある程度前房内に空気が残存している例では仰臥位を保持してもらい移植片の接着を図るが,空気の残存量が少ない例(図3),もしくは残存していない例では再度空気を注入し接着を図る必要がある(図4).何度も移植片の偏位や接着不良をくり返す例では,追加処置により角膜内皮細胞への侵襲も大きく,術後に浮腫が軽減しないケースもみられる.このように角膜内皮移植術において,いかに移植片の接着を図るかが重要なポイントの一つであると思われる.文献1)PriceFW,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendothe-lialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcornealtransplant.JRefractSurg21:339-345,20052)PriceMO,PriceFW:EndothelialcelllossafterDescemetstrippingwithendothelialkeratoplastyinuencingfactorsand2-yeartrend.Ophthalmology115:857-865,20083)内野裕一,榛村重人:内皮移植と最新の適応と術式.眼科手術20:175-178,2007

近視性黄班病変はこう読む

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS孔網膜離(MHRD)に至ると治療成績が芳しくないため,MFの間に診断し,手術を行うことが多い.MF術前後の網膜変化はあまりに微細なため,OCTを用いることで初めて網膜復位や残存離の有無が確認できる.また,後で詳述するが,mCNVを抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法で治療する場合も,再投与や治療効果の判定にOCTは必須である.II強度近視眼の光干渉断層計所見強度近視眼では網脈絡膜萎縮による菲薄化,後部ぶどう腫形成による後部眼球形状の変化,そして何よりも眼軸延長も相まって,OCTのシグナルが減弱している.したがって画質がよくない場合も多いが,ある程度の基礎知識で,読影が正確になる.網膜色素上皮(RPE)ははじめに強度近視はわが国で40歳以上の5.5%を占め,失明原因の上位に位置する.眼軸延長に伴い多彩な合併症を生じることは知られているが,検眼鏡検査のみで診断することは非常にむずかしい.強度近視眼では網脈絡膜萎縮のため眼底の色調が全体に明るく,網膜離や黄斑円孔など,色調変化で診断する病変が捉えにくいこと,黄斑部や視神経乳頭周囲の後部ぶどう腫形成に伴い,眼底に不規則な凹凸が多数存在することなどがあげられる.確かに,自分の勘のみに頼って診療を行う限り,診断はかなり危ういが,光干渉断層計(OCT)を的確に読むことで,かなりの部分を補うことができる.I光干渉断層計が果たす役割まずOCTの登場で,強度近視の微細な病変でも捕捉されるようになった.症例が変視を訴えて来院した場合,検眼鏡検査だけで,診断を下すことは不可能である.しかしながら,OCTを用いることでいとも簡単に視力低下の原因を類推することができる.強度近視眼では中心窩分離症(MF),脈絡膜新生血管(mCNV),単純網膜下出血,変性,黄斑円孔,lacquercrackなど微細かつ,視力低下の原因となりうる病変が数多く存在するが,悪条件下でもこれら病変を正確に捕捉し,正しい診断へ至ることが必要である.この当たり前のことがOCT登場の以前はむずかしかった.さらにOCTは治療効果の判定を容易にした.黄斑円(51)631I565087122特集●光干渉断層計(OCT)はこう読む!あたらしい眼科26(5):631635,2009近視性黄斑病変はこう読むOpticalCoherenceTomographyFindingsinMyopia-SpeciicMacularPathologies生野恭司*図1萎縮病変が著しい強度近視眼のOCT所見CNV周囲の萎縮性変化のため,強膜の信号が非常に強調されている.———————————————————————-Page2632あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(52)をOCTで一生懸命さがすとかなりの確率で認める1).また,MF術後,ほとんどの症例では中心窩復位が得られるが,往々にして後部ぶどう腫縁の網膜分離・離は残存する.これも水平断よりむしろ,垂直断で捉えることが多く,手術で完全に除去することができない網膜血管牽引が残存する黄斑部上下で遷延しやすいものと理解できる.かなり反射が強いため,強度近視眼でも明瞭に観察されるが,萎縮性変化の強い場合は色素上皮,視細胞,脈絡膜による信号の減弱が少なく,強膜が強調される(図1).視細胞内節外節接合部の高反射層は視力が正常であっても明瞭に描出されないこともある.後部ぶどう腫の形状はさまざまだが,後述するMFやMHRDでは後部ぶどう腫がきわめて急峻で,このような特徴的な形態変化も,診断の一助となる.III中心窩分離症,黄斑円孔(+網膜離)の読み方MFはOCTで網膜分離と網膜離の両方を呈する(図2).前述したように強度近視眼では網膜が菲薄化しており,網膜がどの層で分離しているかの見分けが困難だが,頻繁にみられるパターンは外顆粒層と外網状層の間で分離しているouterretinoschisisといわれるものと,内境界膜と神経線維層で分離するinnerretinoschisisの2つである.網膜内層は硝子体,網膜前膜,網膜血管そして内境界膜の存在によりかなり伸展性が制限されており,これが網膜分離の大きな要因であると考えられている.興味深いことに,このように強度近視眼に潜む牽引力を示唆する所見は,OCTを注意深く観察するとしばしばみられるが,代表的なものは,内境界膜離や網膜血管微小皺襞である.これら所見の出現は,牽引力の源となる網膜血管の走行や後部ぶどう腫の形状が深く関わっており,水平断よりむしろ垂直断のほうが明瞭である(図3).潜在的な網膜血管牽引の存在を示唆する所見として,傍血管微小裂孔がある(図4).ときにMFの術中に認められ,術後再離の原因として重要だが,MFの症例図2網膜離を伴う典型的な中心窩分離症所見網膜の挙上に伴い,網膜分離と離の両方が混在している.図4傍血管微小裂孔の術中眼底写真図3強度近視における同一眼での水平断(上)と垂直断(下)の比較垂直断でより多くの病変をみることができる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009633(53)神経網膜が伸展できないため,より直線に近い像になる.もし仮に,神経網膜のほうが前に凸になっており,後部ぶどう腫が著明でないような場合は,手術治療を考慮せず,蛍光眼底撮影を行って,他の原因を検討する.IV脈絡膜新生血管の読み方mCNVの診断は,検眼鏡的検査だけでもできるが,実際には多くの困難を伴う.一つはCNVが小さく,発見がむずかしいこと,また周囲に萎縮性病変が伴うと,網膜色素上皮の不規則な色調変化を伴うことがあげられる.ある程度の大きさをもつCNVでは,CNVに相当する部位に出血が薄く見分けがつきやすいが,小さいCNVだと単純出血との区別がむずかしい.mCNVの確定診断には蛍光眼底撮影が要求されるが,少なくともあたりをつける段階でOCTは有用である.加えて萎縮性変化や点状脈絡膜内層症(PIC)など炎症性の瘢痕が残る例では,過蛍光が広く認められ,ときに蛍光眼底撮影赤色調が少ない強度近視眼では,黄斑円孔が診断しづらく,OCTで診断したほうが見逃しが少ない.この場合,周囲の神経網膜の形態が非常に重要である(図5).周囲網膜が平坦なものは比較的網膜にredundancyがあり,手術により閉鎖しやすいが,周囲に分離を伴っているものは,逆に少ないため,非常に閉鎖がむずかしい.したがってこのような症例を手術する際は,術前の患者への説明が非常に重要であるとともに,後部ぶどう腫の形状を矯正するため,黄斑バックリング術の併用も考慮する.MFが硝子体切除術の適応を検討する際にまず重要なのは網膜離を伴っているか否かである.網膜分離型といわれる分離だけでのタイプも硝子体切除術の適応になりうるが,視力改善の程度は低い.一方で,中心窩に網膜離を伴う中心窩離型では手術による視力改善は大きい(図6)2).後部ぶどう腫と神経網膜の形状を参考にする.一般にこのような合併症は後部ぶどう腫に沿って図5黄斑円孔の症例周囲に分離のあるもの(上)とないもの(下)で閉鎖率は異なる.図6中心窩分離の形状による手術成績の違い網膜分離型(上)は中心窩離型(下)よりも視力改善率は低い.———————————————————————-Page4634あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(54)に注意する.変視を訴えているにもかかわらず,MFや黄斑円孔網膜離を認めない場合は,中心窩外にCNVが隠れている可能性が高い.経験上後部ぶどう腫がより深くなる中心窩下方にずれる症例が多い印象があるが,全体に見ておくことが重要である.mCNVの治療として抗VEGF薬であるbevacizumab(AvastinR)が積極的に用いられている.BevacizumabはCNVを縮小させて新生血管からの漏出を抑制し,少なくとも短中期的には有効と考えられる.mCNVに対する治療レジメで確立したものはないが,再発例や遷延例も多いことから,複数回の投与を要求されることも多い.決断にはCNVの活動性の評価が欠かせないが,蛍光眼底撮影を頻回に行うのは大きな負担である.そういった点でOCTはCNVの活動性を簡便に評価するのに非常に有用である.活動性があるCNVは全体に縁取りが柔らかく,網膜下液やフィブリンを伴うことも多い.対して鎮静化したCNVは周囲に高輝度の色素上皮による囲い込みが生じており,周囲が明瞭で,内部が均の解釈がむずかしい.したがって実際は,両者を併用しながら診断を進めてゆくことになる.典型例ではclas-sictypeの小さな隆起性病変が網膜下に認められ,好条件下では,CNVが侵入するRPEの裂隙や,CNV周囲のフィブリン反応がみられる(図7).加齢黄斑変性に比べサイズが小さい,滲出性変化に乏しい,色素上皮下の病変が少ないなどの特徴をもつ.色素表皮離など網膜下の病変が主体である場合は,occulttypeCNVやポリープ状脈絡膜血管症の存在も疑うが,頻度は少ない.単純出血との区別にときに困難である.OCTの画像を詳細に観察すると,単純出血は多少の濃淡があるものの,病変が比較的均一なのに対し(図8),CNVの場合はフィブリン,新生血管膜,漿液性離などが混在し,不均一である.いずれにせよ,確定診断には蛍光眼底撮影が必要である.まず肝心なのは,mCNVを見逃さないことである.CNVが小さく中心窩外にできることが多いので,1,2本のB-scanだけで診断せず,ある程度の範囲を注意深く走査する.ときに生じる乳頭コーヌス周囲CNVは仕方ないとしても,黄斑部にできたものは見逃さないよう図7典型的なmCNVのOCT所見網膜下に侵入するclassictypeCNVがみられ,周囲に網膜下液やフィブリン反応を伴っている.図8強度近視に伴う単純出血の典型的OCT所見網膜下に凝血塊を認める.図9OCTによるCNVの活動性の判定上:活動性のあるCNVは周囲の辺縁が不明瞭で,内部も不均一である.下:鎮静化したCNVでは,周囲の辺縁が明瞭で,しかも中身は比較的均一である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009635(55)近視は眼軸長の延長によるのだが,実際の合併症として中高年以降の後部ぶどう腫形成そして脈絡膜の菲薄化から直接失明原因となるMHRD,mCNV,そして網脈絡膜萎縮を生じるのが問題である.後部ぶどう腫形成や脈絡膜菲薄化に関しては,今まで直接定量化できる方法がなく,そのためその過程や危険因子が曖昧なままであった.しかしながら筆者らは,preliminaryにではあるが,その定量化に着手し,後部ぶどう腫や脈絡膜菲薄化にある程度の規則性があることを見出した.OCTは今後,強度近視の合併症解明やリスク予測にも役立つものと期待している.文献1)ShimadaN,Ohno-MatsuiK,NishimutaAetal:Detectionofparavascularlamellarholesandotherparavascularabnormalitiesbyopticalcoherencetomographyineyeswithhighmyopia.Ophthalmology115:708-717,20082)IkunoY,SayanagiK,SogaKetal:Fovealanatomicalsta-tusandsurgicalresultsinvitrectomyformyopicfoveo-schisis.JpnJOphthalmol52:269-276,20083)IkunoY,TanoY:Retinalandchoroidalbiometryinhigh-lymyopiceyesusingspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci,2009,inpress一である(図9).このように,定期的なルーチン検査はOCTを用い,活動性が疑われた場合のみフルオレセイン蛍光眼底撮影を行って再投与を決断するというのも一つのやり方である.V今後の展望OCTは単に合併症の診断治療だけでなく,もっと役に立つのではないか.その一つの答えとして,筆者らはOCTを用いた後眼部生体計測を検討している3)(図10).図10OCTを用いた,強度近視眼での後部眼球形状計測の例OCT所見から脈絡膜厚(CT),後部ぶどう腫丈(H)など,強度近視の合併症に関わる眼球形状の変化を数値化することが可能で,進行様式の検討や危険因子の解析なども容易になると考えられる.