———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.7,20089810910-1810/08/\100/頁/JCLS近年,滲出型加齢黄斑変性(wetage-relatedmacu-lardegeneration:wetAMD)に対する治療法として光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)や,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を成長させる血管内皮増殖因子(vascularendo-thelialgrowthfactor:VEGF)を阻害する抗VEGF療法が確立した.これらの治療を受けたAMD患者の視力予後は確かに自然経過に比して良好である.しかし,重度の障害を受けた網膜神経細胞の機能回復は困難であることから,より良い視機能の確保を目指して早期の介入による発症予防にも関心が集まっている.AMDの危険因子として年齢,性別(女性,ただし日本では男性),人種(白人),喫煙,肥満(bodymassindex:BMI高値),高脂肪食,遺伝子多型(APOE,CFH,CFB,C2,ABCA4,ABCE),抗酸化物質摂取不良,光曝露があげられる.このなかでも年齢と喫煙は多数の疫学調査からAMDとの関連が最も強い因子として認められている.また,食事との関連は,サプリメントを用いたAMDの発症コントロールを考えるうえで重要な情報である.AMDと酸化ストレス抗酸化サプリメントによるAMD発症の抑制が論じられるようになったのは,網膜が活性酸素により傷害を受けやすい状態にあることがわかってきたことも背景の一つである.網膜は光刺激につねに曝されており,酸素と光が同時に存在することで活性酸素の産生が促進されている.このメカニズムとして近年ではA2Eとよばれる蛍光物質の関与が示唆されている.A2Eは,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)の加齢変化として注目されているリポフスチンの主要な構成成分である.視細胞外節に存在する視物質ロドプシンは光を吸収するとオプシンとall-trans-レチナールに分解される.RPE細胞はall-trans-レチナールが含まれる脱落した視細胞外節を貪食し,ロドプシンの構成成分である11-cis-レチナールを再生する.この生理的なロドプシンの代謝は視サイクル(visualcycle)とよばれる.この過程でall-trans-レチナールとリン脂質が反応することによりA2Eが生合成される.加齢とともにRPEの機能が低下すると貪食した視細胞外節を消化しきれず残渣としてリポフスチンが蓄積する.リポフスチンの主成分A2Eは光刺激(特にエネルギーの高い青色光)依存性に高度に酸化され,多量の活性酸素を発生させると考えられている.AMDに対するサプリメントのエビデンス1.AREDS米国国立眼研究所(NationalEyeInstitute:NEI)主導で行われたAREDS(Age-RelatedEyeDiseaseStudy,19921998)は11施設で延べ3,640人を対象に調査が行われた1).年齢は5580歳で平均69歳であった.参加者は無作為に4つのグループに分けられた.1)抗酸化ビタミン(ビタミンC500mg,ビタミンE400IU,bカロテン15mg)2)亜鉛80mg3)抗酸化ビタミン+亜鉛4)プラセボ亜鉛投与群には銅欠乏性貧血を防ぐために銅2mgが加えられた.またAREDSが開始した2年後に,喫煙者のbカロテン摂取による肺癌のリスクが有意に上昇することが明らかになったため,AREDS参加者で抗酸化ビタミンが投与されていた人のうち喫煙者は治験中止となった.評価はおもに眼底写真と視力検査によって行われた.結果は検査眼に中型(63125μm),または大型(77)サプリメントサイエンスセミナー●連載②監修=坪田一男2.AREDS解説栗原俊英*1,3石田晋*2,3*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2同医学部稲井田記念抗加齢眼科学講座*3同総合医科学研究センター網膜細胞生物学研究室加齢黄斑変性の発症要因に酸化ストレスが関与することは,黄斑が光刺激に曝露されていることや食習慣との関連を調査した疫学研究から示唆されていた.AREDSでは,抗酸化ビタミンと微量ミネラルの摂取が加齢黄斑変性の発症リスクを低下させることが実証された.現在,黄斑色素ルテインとオメガ3不飽和脂肪酸の効果を検証するためAREDS2が進行中である.———————————————————————-Page2982あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(125μm以上)のドルーゼンが存在するか,片眼にAMDが存在する場合に,検査眼のwetAMDへの進行率が抗酸化剤+亜鉛投与群でプラセボ群と比較して5年間で25%減少するというものであった(図1).2.AREDS2AREDSの良好な結果を受けてNEIはさらなる詳細な検討を開始した.AREDS2とよばれるこの新しいスタディは,黄斑に存在するカロテノイドであるルテイン/ゼアキサンチン,およびオメガ3多価不飽和脂肪酸(polyunsaturatedfattyacid:PUFA)であるドコサヘキサエン酸(docosahexsaenoicacid:DHA)/エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid:EPA)のAMD進行に対する影響を検討するものである.AREDS2は約100施設で5580歳のAMD患者4,000人を募集し,つぎの4群に分けて解析する予定である.1)ルテイン/ゼアキサンチン(10mg/2mg)2)DHA/EPA(350mg/650mg)3)ルテイン/ゼアキサンチン+DHA/EPA4)プラセボルテインおよびその光学異性体ゼアキサンチンはカロテノイドとよばれる天然色素の一種である.カロテノイドは天然に存在する色素で,化学式C40H56の基本構造をもつ化合物の誘導体である.カロテノイドは二重結合(78)を多く含むため,一重項酸素を消去する能力が高い.炭素と水素のみで構成されるものをカロテン,それ以外をキサントフィルという.ルテインとゼアキサンチンはキサントフィルであり,ほうれん草やケールといった緑黄色野菜に多く含まれ,ヒト体内では合成できない.約40種類のヒト体内に存在するカロテノイドのうちルテインとゼアキサンチンのみが選択的に黄斑部に取り込まれる.「黄斑」たる所以である.一方,PUFAは化学構造に基づいてオメガ3系とオメガ6系のおもに2つのグループに分類され,これらは動物の体内で合成することができない.オメガ3という表記は,その脂肪酸の最初の二重結合炭素が分子のメチル末端から数えて3つ目であることを意味する.EPAとDHAは代表的なオメガ3PUFAであり,魚の脂肪に多く含まれる.黄斑色素ルテイン/ゼアキサンチンやオメガ3不飽和脂肪酸DHA/EPAがAREDS2のサプリメントとして使用される妥当性について,疫学的2)ならびに生物学的根拠3,4)が報告されているが,次号以降に掲載の各論の解説に譲る.おわりにサプリメントのAMDに対する効果は,その生物学的な背景から大規模な疫学調査に至るまで科学的に検証されつつある.AREDSの結果は,抗酸化ビタミンと微量ミネラルの組み合わせが有効であることを示す画期的なデータであったが,さらに,オメガ3PUFAやルテインについてAREDS2の調査結果が待たれるところである.文献1)AREDSResearchGroup:Arandomized,placebo-con-trolled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,20012)SeddonJM,AjaniUA,SperdutoRDetal:Dietarycarote-noids,vitaminsA,C,andE,andadvancedage-relatedmaculardegeneration.EyeDiseaseCase-ControlStudyGroup.JAMA272:1413-1420,19943)KotoT,NagaiN,MochimaruHetal:Eicosapentaenoicacidisanti-inammatoryinpreventingchoroidalneovas-cularizationinmice.InvestOphthalmolVisSci48:4328-4334,20074)Izumi-NagaiK,NagaiN,OhgamiKetal:Macularpig-mentluteinisantiinammatoryinpreventingchoroidalneovascularization.ArteriosclerThrombVascBiol27:2555-2562,20070.40.350.30.250.20.150.10.050etAMDへの進行率経過(年)WetAMDへの進行率234567:プラセボ:亜鉛:抗酸化ビタミン:抗酸化ビタミン+亜鉛経過(年)プラセボ抗酸化ビタミン亜鉛抗酸化ビタミン+亜鉛20.1420.1120.1060.09830.1970.1570.1490.13940.2310.1850.1770.16550.2780.2260.2160.20260.3110.2540.2430.22970.3570.2960.2840.287図1AREDSの結果5年間の抗酸化サプリメントの投与でwetAMDへの進行がプラセボ群27.8%に対し,抗酸化ビタミン+亜鉛投与群20.2%で,進行の危険率は25%減少した.(文献1より改変)