———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS時期に白内障を指摘されたとする(図1の赤点).もしこの人が白内障の手術を受けなければ,視力は低下し続け,それに従いQOLも低下し,そのまま死に至ると考えられる(実線).しかし,ここで,白内障手術を受けた場合,その後視力が改善することでQOLは上昇するであろう.そして,QOLはゆるやかに低下しながら死に至る(図1の点線).このようなケースの場合,白内障手術がこの人に与えたvalueというのは図1の水色の部分である.この水色の部分とは,まさにQOL×持続期間といえる.Valueとは言うなれば,QOLの質と量を掛け合わせたものである.はじめに近年evidence-basedmedicine(EBM)をもう一歩進化させた概念としてvalue-basedmedicine(VBM)という考え方が提唱されている1).従来のEBMが最も正確で再現性のある医学的事実に基づく医療とすれば,VBMは治療によって患者自身が受けとめる結果としての価値(=value)に基づく医療といえる.つまり,予防や治療によって得ることができる全体価値(=utility:効用)によって医療結果を評価しようという試みである.同時にその結果を得るのに必要なコストも含めて検討することで,より効率のよい医療を行うという目的がある.従来の医療アウトカム評価に医療経済学的な考えを取り込んだ概念であり,医師でありながらMBA(経営学修士)を取得している欧米の医師が率先して取り組んでいる.本稿では,VBMについて概説する.IValueとは1.Valueとはどのように定義されるかVBMではvalue=qualityoflife(QOL)×持続期間と定義する.図1はある一人の人間の一生を示したものである.X軸を生存年数(若年期・中年期・高年期・死亡),Y軸をQOLとする.人間の一生は,その時々でQOLが変化する.若いときは健康で生活に何の支障もないが,年を経るに従ってなんらかの疾患に罹患することもあろう.QOLは徐々に低下し,最終的に死に至る(図1の実線).このような一生において,高年期のある(57)57YosimuneiratsuaoiciOno136-00753-3-20特集●わかりやすい眼科疫学あたらしい眼科26(1):5762,2009Value-BasedMedicine(VBM)Value-BasedMedicine平塚義宗*小野浩一*一生の分年年生存年年手術治療によって得られる生存年図1治療によって得られるvalueある一人の一生において,白内障の手術がその人に与えたvalue(QOL増加分).———————————————————————-Page258あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(58)度の指標では,眼科疾患間でのQOL評価の比較はできるが,眼科以外の多くの疾患間での比較ができない.3.効用とQALYsVBMで適用されるQOL指標は「効用」とよばれる.効用とは医療サービスを受けることによって得られる総合的な満足度を示した指標である.その値を効用値といい,健康状態を数値化したものである(図3).効用は,健康状態を死=0から完璧な健康=1の間の数値で表現する.そして,効用値0.6で10年間生きることは健康な状態(効用値1.0)で6年間生きることと同じ価値があると評価する.視覚関連のQOL評価法が,見づらさのため手助けを必要としているか,気まずい思いをするか,などとあらかじめ決められた問いに対する回答でQOLを評価しようする一方で,効用はその人自身が考えるあらゆる都合・不都合を総合して包括的に判断してもらうという考え方である.効用値の測定は患者の選好に基づいて行われる.選好とは「現在の健康状態」と「より良い健康状態になるために〈何か〉を失う」のは「どちらが良いか」という判断である.患者自身の価値観で重みづけをしたQOLともいえる.この失われる〈何か〉としては人生時間,金銭,死亡しない確率などが用いられるが,最も一般的な方法では人生時間,つまり寿命の短縮が採用され,これを時間得失法(time-tradeomethod:TTO)という(図4).生存期間と引き替えにQOLを入手可能である2.QOLはどのように定義されるかではQOLはどのように定義されるか.QOLは多様素性をもった主観であり,検査値や臨床所見などわれわれ医師の視点ではなく,患者の視点に立脚した評価が必要とされる.しかし,そもそもQOLを測って数値化することなど可能なのだろうか.1970年頃から患者立脚型アウトカム評価法というQOLを測定(measure)しようというさまざまな試みが行われてきた.そして,これまでに計量心理学的な手順を用いた多くの評価法が開発されてきた.SF36(MedicalOutcomeStudy-ShortForm36)やSIP(SicknessImpactProle)を代表とした一般健康像を対象としたものと,疾病や専門領域ごとの疾患特異尺度が存在する.視覚に特化したQOL測定法としてはVFQ-25(theNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionna-ire,25-item)2)やVF-14(VisualFunction14)3)があり,それぞれ25と14の質問に回答することで視覚的なQOLの数値化を行うものである.図2にVFQ-25の実際の質問例を示す.これらは日常生活に密着した視覚に関連する質問(たとえば,近くが見えるか,階段が下りにくくないか,車の運転は大丈夫かなど)に対する困難度を回答することで,その人のQOLを測定するという試みである.それぞれ優れた方法であり,これまで多くのQOL研究が行われている.しかし,この疾患特異尺効用値utilityvalue「効用値0.6で10年間生きる」「健康な状態で6年間生きる」という考え方死0完璧な健康1健康状態を数値で表したもの生存期間短縮と引き替えにQOLが手に入るQOL寿命図3効用値(utilityvalue)効用値は,生存期間と引き替えにQOLを入手可能であるという,生存期間とQOLを天秤にかけた考え方に基づいている.VFQ-25の質問例現在,あなたの両眼での「ものの見え方」は,どうですか?眼鏡(やコンタクトレンズ)を使っているときのことをお答えください.─最高によい・良い・あまり良くない・良くない・とても良くない・まったく見えないものが見えにくいために,道路標識や商店の看板の文字を読むのは,どれくらい難しいですか.─まったく難しくない・あまり難しくない・難しい・とても難しい・みえにくいのでするのをやめた・別の理由でするのをやめた,または,もともとしないものが見えにくいために,誰かの手助けを必要とすることが多い.─まったくそのとおり・ほぼあてはまる・何とも言えない・ほとんどあてはまらない・ぜんぜんあてはまらない….図2VFQ-25の質問例このような質問を25問行うことでQOLを評価する.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200959(59)うことであり,このQALYsという切り口で医療を考え直してみようという考え方がVBMの本質である.QALYsを用いることで従来の治療の評価にQOLを加味して考えることができる.たとえば,ここに白血病で余命12カ月の患者が存在する.治療なしであと1年間生存する場合のQALYsを1とする.ここでまずEBMの観点から化学療法を行うことで2カ月寿命を延長できると仮定する.この場合,2カ月の延命により生存期間が0.17年(2/12)延びるので得られるQALYsはという,生存期間とQOLを天秤にかけた考え方に基づいている(図3).このTTOを多くの人に行うことで,さまざまな健康状態の効用値が浮かび上がってくる.表1にその例を示すが,良いほうの眼の矯正視力が0.1の状態は,軽度の狭心症よりも効用値が低いというような比較が可能となる1).現在,EQ5D(TheEuroQol5Dimensions)やHUI(HealthUtilityIndex)といった簡便に効用値を得るための,事前に点数化された質問票も開発されている.この効用値に生存年数を掛け合わせたものを質調整生存年(qualityadjustedlifeyears:QALYs)という(図5).QALYs=効用値×生存年数であり,これは前述のvalue=QOL×持続期間と同じものといえる(図1).すなわちVBMにおけるvalueとはそのままQALYsとい表1さまざまな健康状態の効用値健康状態効用値(TTO)備考完璧な健康1.00不整脈0.99Arterialbrillation(useofwarfarin)乳癌初期0.94狭心症0.88Mild心筋梗塞0.80Moderate前立腺癌(軽度)0.72Nosymptoms視力0.10.66LegalblindnessinU.S.潰瘍性大腸炎0.58Preoperative透析0.57心筋梗塞(重度)0.30Severe脳梗塞0.30Major死0.00効用値を利用することでさまざまな健康状態を比較できる.(BrownMM.Evidence-BasedtoValue-BasedMedicineから抜粋)治療によって得ることができる全体の価値QALYs(Qualityadjustedlifeyears)QOLの共通通貨QOLを考慮した生存年(質調整生存年)効用値生存年数ある治療によって効用値がどれだけ上昇し,しかもそれを何年間持続できるか図5QALYs(質調整生存年)とはQALYsはQOLの共通通貨のようなものであり,効用値×生存年数である.TimeTradeO?法(TTO)A:今の健康状態のまま,あと20年間生きることができます.B:健康状態にまったく支障がなくなりますが,あと(20,18,…)年しか生きることができません.・あなたの現在の健康状態について考えてみてください.今の健康状態において次のどちらかを選択しなければなりません.・B→A効用値=()/20その人自身が考えるあらゆる都合・不都合を総合して包括的に判断してもらうという考え方図4Timetradeo法(TTO)時間得失法(TTO)の質問例.手術の費用効用分析Input作業負荷時間材料費・経費教育・機会費用OutputQALYs手術CostUtilityQALYsという単一のQOLの指標をアウトカムとして費用対効果を考える図6手術の費用効用分析1手術に投入したコストが結果的にどれだけの成果(効用)をもたらすかを研究する方法で,コストは金銭価値,アウトプットは「QALYs」で評価される.QALYsという単一のQOLの指標をアウトカムとした費用対効果分析.———————————————————————-Page460あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(60)トカム評価」という.医療のアウトカムには3つの視点がある.医師による視点,患者(個人)による視点,社会による視点である(表2).医師の視点によるアウトカムの評価基準は,形態学的に治った・治らない,機能的に改善した・しないであり,その指標は死亡率減少,5年生存率改善や視機能の改善である.一方で,患者の視点によるアウトカムの評価基準は,日常生活機能・QOLは改善したかであり,指標として前述した患者立脚型アウトカム評価や効用が存在する.社会の視点によるアウトカムの評価基準は,社会全体の厚生は改善したのか,社会としてのコストはどうか,医療の効率性を示す費用対効果はどうかなどであり,その指標は金銭価値で示されることが多い.従来のアウトカムはわれわれ医師が考えるアウトカムであった(といっても過言ではない).視力が改善したのだからよい,網膜が復位したのだから成功,黄斑浮腫の丈が減ったのだから効果ありました.筆者を含め多くの眼科医師がそう考えてきた.しかし成熟した社会となりつつある日本を含めた多くの先進国において,現在,求められている視点は,患者による視点と,社会による視点である.VBMはこれらの視点に立脚している.米国立衛生研究所(NIH)は臨床研究を効率的に進めるためにPROMIS(PatientReportedOutcomesMea-surementInformationSystem)という患者立脚型アウトカム評価のネットワークを2004年に立ち上げた.2008年7月にFDA(米国連邦食品医薬品局)は1+1×0.17=1.17QALYsということになる.つぎに,VBM的な観点から考えてみる.たとえば,化学療法中の患者のQOLが嘔吐や脱毛,倦怠感などの副作用が強いために低く,効用値0.7であったとする.この場合得られるQALYsは0.7×(1+0.17)=0.82であり,これは治療を行わない場合のQALYs1よりも低い値となる.つまり,患者のQOLを考慮した場合,化学療法を行うことは必ずしも最善の治療であるとはいえないということになる.QALYsはQOLの共通通貨のようなものであり,QALYsを基準とすることで,さまざまな医療のvalueを比較することが可能となる.IIVBMで何が可能か1.アウトカム評価医師が行う医療行為の評価はむずかしい.われわれ医師からすると,これだけのスキルで,ここまで労力と時間をかけて行った治療であるから,その価値は相当なものだと思いたくもなるし,実際,多大なコストを費やして行っている診療の価値は高いのだと考えたくなる.しかし,この考え方はいわゆる古典派経済学の基本思想である労働価値説(商品の価値は労働時間で決まる)であり,もはやそんなことを言う人は誰もいない.商品の価値は,それを利用することで得られる結果としての「効用」で決まる.医療においては「結果(アウトカム)は?」という視点である.医療行為をアウトカムで評価することを「医療のアウ表2アウトカムの3つの視点アウトカム評価基準例医師ベースPhysician-basedoutcomes客観指標形態学的異常治った/治らない機能的異常改善した/しない死亡率減少5年生存率改善関節可動域改善視機能改善患者ベースPatient-basedoutcomes症状QOL効用見えにくさ,痛み日常生活機能への影響価値づけしたQOL症状スケール,視機能改善SF-36VFQ-25,VF-14EQ5D,HUI,SF-6D社会ベースSociety-basedoutcomes便益生産性医療資源消費費用対効果病休,生産性医療費$,\/QALYS医師ベース,患者ベース,社会ベースの3つで考える.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,200961(61)PROMISの結果は,新しい医療製品や治療の評価において,とても意義高い評価法であると表明した.今後,医療のアウトカム評価はますます発展していくと思われる.2.費用対効果医療資源の効率的な活用において,避けて通れない考え方が費用対効果である.投入されたコスト(金銭価値)が結果としてどの程度のリターンを生むのか,少ないコストで最大のリターンを得るのがベストであるという考え方である.医療における費用対効果分析は大きく4つ方法が存在するが,そのなかで多くの領域における障害間や治療間での費用対効果の比較が可能なのが費用効用分析(cost-utilityanalysis:CUA)である(表3).CUAでは,コストは金銭価値,効果は「QALYs」で評価される(図6).そして,QALYを1単位得るのに必要なコストを検討する.したがって,この値が低ければ低いほど,同じ1単位のQOLを低コストで得ることができる効率的な治療ということになる(図7).1990年代後半から,欧米を中心にCUAが多く行われるようになった.その40%は医薬品のCUAであるが,手術に関しても多くの研究が行われてきている.たとえば,未熟児網膜症に対する光凝固は$783,1型糖尿病網膜症硝子体出血に対する硝子体手術は$2,098という結果がある.これらは,若い患者群が対象であるため生存年数が長く,得られるQALYも高い.結果,費用対効果が高くなる.一般に$20,000/QALY以下であ表3医療の費用対効果分析Cost/Outcome・ReturnCost(費用)Outcome(結果)評価の基準・特徴費用最小化分析Costminimizationanalysis$貨幣価値円・$なし(結果は同等と仮定する)結果がほぼ同等の場合に適用費用が最小の代替案を選択費用便益分析Costbenetanalysis$貨幣価値円・$$貨幣価値円・$結果を貨幣に変換し表現する便益が費用を上回るか費用効果分析Costeectivenessanalysis$貨幣価値円・$目的となる特定の健康状態改善(数量化)(生存年延長,罹患率減少,合併症低下率,HbA1C正常化率など)最も一般的特定の結果に対して費用効果比の高いものを適用費用効用分析Costutilityanalysis$貨幣価値円・$QALYs質を考慮した健康状態改善(数量化)QALYsを共通通貨として多くの治療間で比較可能$/QALYsが低いものを適用広義の費用対効果分析には4種類ある.=費用効用分析Cost-UtilityAnalysis手術をとりまくコスト得られるQALYs1QALYを得るために必要なコスト単位$/QALY,¥/QALYこの値が小さいほど効率的な治療といえる図7手術の費用効用分析2QALYを1単位得るのにいくらかかるかを評価する.したがって,この値が低ければ低いほど,同じ1単位のQOLを低コストで得ることができる効率的な治療ということになる.白内障手術は,他の手術に比較しても,極端に費用対効果が高い1QALY当たりのコスト比較/QALYgainedconvertedtoyear2001or2002未熟児網膜症ーー783腸障害に対するロリ治療1,321型糖尿病網膜症硝子体出血硝子体手術2,098白内障手術(初回)2,155前再術6,500人内9,900動脈疾患アスリン内11,000動脈イパス12,000脳動脈クリッン12,000図8手術(治療)の1QALY当たりのコストの比較これらはすべて$20,000以下の費用対効果の高い手術(治療)である.なかでも白内障手術は極端に費用対効果が高いという報告がある.———————————————————————-Page662あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(62)うわけではない.実際,先述のNICEに関しては,導入の閾値が低すぎるという意見や,フリーサイズのQALYsではなく個人の状態や年齢を考慮に入れてQALYsに重みづけすべきだという議論もあり,2009年2月に現在の基準を再検討する専門家検討会を開催することとなった.これらの指標を用いる際には,その値がすべての価値を示すのではなく,多くの情報のなかの一つの判断材料として用いる必要があろう.ただ,一方で,障害間での重症度の比較や,手術間での治療効率を比較する場合,現段階において,これ以外の方法が存在しないことも確かである.今後,少子超高齢化社会を迎え,成熟し成長が止まるとされる日本社会においては,このような考え方を少なくとも理解しておく必要があろう.また,医療費の問題に関しては,実は「誰が負担するのか」という根本的な問題がベースに存在し,その部分も同時に日本全体として煮詰めていかないかぎり,「会議は踊る,されど進まず」である.文献1)BrownMM,BrownGC,SharmaS:Evidence-BasedtoValue-BasedMedicine.AmericanMedicalAssociation.USA,20052)SteinbergEP,TielschJM,ScheinODetal:TheVF-14.Anindexoffunctionalimpairmentinpatientswithcata-ract.ArchOphthalmol112:630-638,19943)MangioneCM,LeePP,GutierrezPRetal:Developmentofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.ArchOphthalmol119:1050-1058,20014)BusbeeBG,BrownMM,BrownGCetal:Incrementalcost-eectivenessofinitialcataractsurgery.Ophthalmolo-gy109:606-612,20025)PearsonSD,RawlinsMD:Quality,innovation,andvalueformoney:NICEandtheBritishNationalHealthService.JAMA294:2618-2622,2005れば,魅力的であり,きわめて費用対効果の高い手術であるといわれ,眼科手術や治療の多くがこのなかにはいる.白内障手術のCUA値は$2,155/QALYであり4),これは他の多くの手術と比較しても,極端に費用対効果の高い手術となっている(図8).IIIVBMは実際にどう利用されているか医療資源配分における効率を考える費用対効果分析は実際どのように利用されているか.すでに,ヨーロッパ諸国を中心に,医薬品の公的保険支払い対象導入時に費用対効果分析の結果提出が義務付けられ始めている.1993年にオーストラリアで始まり,1994年にカナダ,1999年にオランダとイギリスで導入されている.なかでも現在,特に話題になっているのが,イギリスのNationalInstituteofClinicalExcellence:NICEである.NICEはイギリスの国営医療制度NHS(NationalHealthService)の一部であり,その運用に対して国家的指針を与える独立組織である.NICEは国民の税金で成り立つ国営医療制度の対象として新しいテクノロジーの導入をする際に費用対効果を考慮している.一般に,その費用対効果が$30,600$45,900/QALYを導入の閾値としており5),抗癌剤やAlzheimer病の治療薬をNHSは負担しないとした問題は,社会的な論争となっている.IVVBMの問題点と課題QALYsという指標は,その考え方のなかに,改善しにくい疾患や,平均余命の短い高齢者を冷遇している点がある.また,重症の人が1QALY健康になることと,健康な人が1QALYより健康になることは同じであるとしてよいかという問題もある.このような方法論は,生命価値を金銭価値に置き換えるという側面があるので,倫理的に受け入れられにくい.いまだ完成されたものとはいえず,世界中で受け入れられている考え方とい