———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096430910-1810/09/\100/頁/JCLSLaserinsitukeratomileusis(LASIK)に代表される角膜屈折矯正手術後の重篤な合併症の一つとして角膜拡張症(keratectasia)があげられるが,角膜生体力学(バイオメカニクス)特性が著しく低下することが原因と考えられている.また,本特性は屈折矯正手術における安全性や予測精度にも少なからず影響を及ぼすことが報告されている1).さらに,屈折矯正手術後の眼圧は見かけ上低く測定されることが知られており,眼圧を正確に評価するうえでも本特性を把握する必要がある.しかしながら,これまでinvivoにおける測定方法が十分に確立されておらず,臨床における本特性の評価はきわめて困難であった.OcularResponseAnalyzerTM(Reichert社)の登場によって,バイオメカニクス特性を定量的に評価することが可能となった.OcularResponseAnalyzerTMは,両方向性の動的な圧平過程を通じて角膜生体力学特性および眼圧を測定する装置である.空気の噴流によって角膜を変形させるという圧平式原理は,現状の非接触式空気眼圧計と同様である.本装置では,角膜が平坦化するだけでなく陥凹するまで加圧し,その後減圧することにより,角膜が再び(63)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載108監修=木下茂大橋裕一坪田一男108.角膜のHysteresis神谷和孝北里大学医学部眼科角膜組織は粘弾性体構造をとり,外力変化に対して本来の形状に回復する過程で時間的な遅れを生じる.この遅れは角膜のhysteresisとされ,角膜組織がエネルギーを吸収し分散する能力を示し,バイオメカニクスの指標の一つとなる.本指標はさまざまな角膜屈折矯正手術後に低下し,安全性や術後成績にも影響を及ぼす.InSignalPeakOutSignalPeak図1OcularResponseAnalyzerTMの測定波形角膜生体力学特性による影響で,内向きおよび外向きに平坦化する過程に遅れが生じるが,この内向きの圧と外向きの圧の差をcornealhysteresis(CH)とする.68101214Cornealhysteresis(mmHg)眼圧(mmHg)101520図3正常眼におけるcornealhysteresis(CH)と眼圧の相関眼圧が高い症例ほど,CHが低下する.(文献2より)68101214450500550600Cornealhysteresis(mmHg)中心角膜厚(?m)図2正常眼におけるcornealhysteresis(CH)と中心角膜厚の相関角膜が薄い症例ほど,CHが低下する.(文献2より)———————————————————————-Page2644あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009平坦化するまでの経時的な測定を行う.角膜中央部3mmを約20msec電気光学的にモニターすることにより,内向きおよび外向きに平坦化する時間を正確に測定し,その時点での空気圧を算出する.角膜組織は粘弾性体としての構造をとるため,外力変化に対して本来の形状に回復する過程で時間的な遅れを生じるが,この内向きの圧(P1)と外向きの圧(P2)の差をcornealhystere-sis(CH)と定義する(図1)1).このCHは,角膜固有の粘性ダンピング,つまり角膜組織がエネルギーを吸収し,分散する能力を示すと考えられている.自験例による正常眼での検討では,角膜が薄く,眼圧が高い症例ほどCHが低下すること(図2,3)2),日本人におけるCHは欧米の報告に比較してわずかながら低値を示すこと2,3),加齢によって角膜厚に依存せずCHが低下すること3)が判明した.今後バイオメカニクス特性を評価するうえで,角膜厚や眼圧だけでなく人種差や年齢についても考慮する必要がある.患のhysteresis1.LASIK後のhysteresisLASIK術後は,術前に比較してCHが有意に低下する.矯正量が大きいほど,この傾向は顕著であった4).自験例による検討でも,CHが低下する症例ほど,術後屈折が近視化する傾向を認めた.バイオメカニクスが低下する症例ほど,眼内圧に対して角膜の形状を維持できず,前方へ突出しスティープ化する機序が考えられている.2.PRK後のhysteresisPhotorefractivekeratectomy(PRK)術後も,CHが有意に低下する.しかしながら,同一矯正量におけるLASIK術後より有意に低下しにくいことが判明した4).PRKはフラップ作製を要せず,より実質浅層の切除を行うためにLASIKよりバイオメカニクスに及ぼす影響が少ない可能性がある.3.PTK後のhysteresisPhototherapeutickeratectomy(PTK)術後も,CHが有意に低下する.顆粒状角膜変性におけるCHは正常眼とほぼ同様であり,CHと角膜厚は弱いながらも有意な相関を認めた5).正常角膜だけでなく病的な角膜においても,バイオメカニクスを評価するうえで角膜厚が一定の役割を果たすことが示唆された.4.角膜拡張症のhysteresis角膜拡張症(keratectasia)は,フラップ作製や角膜切除に伴いバイオメカニクスが著明に低下することによって,進行性に角膜が前方へ突出する疾患であり,最も重篤な合併症の一つとされている.実際にLASIK手術後に角膜拡張症を生じた症例では,CHは大幅に低下していた6).しかしながら,角膜拡張症を発症した眼とそうでない眼のCHに相違がみられず,測定波形の詳細な解析や収差測定との併用が有用であったという報告7)もあり,さらなる検討が必要である.角膜のhysteresisは,屈折矯正手術後だけでなく円錐角膜やペルーシド角膜変性症といった角膜菲薄化疾患や正常眼圧緑内障においても低下することが明らかになっている.従来円錐角膜における進行の判定や重症度評価においてトポグラフィが主体であったが,これは角膜のバイオメカニクス低下に伴う二次的な変化を捉えているにすぎない.自験例における検討では,円錐角膜眼では同年代の正常眼に比較してCHは低下しており,重症例ほどその傾向は顕著であった8).今後CHは,円錐角膜のスクリーニングだけでなく,些細な病状の進行や重症度を考えるうえで新たな定量的指標の一つとなる可能性がある.わが国に多いとされる正常眼圧緑内障においても,CHは篩状板の脆弱性を反映している可能性がある.このように正確な眼圧評価という側面だけでなく,緑内障における病態解明や診断精度の向上に役立つ可能性があり,今後さらなる研究の進展が期待される.文献1)LuceDA:Determininginvivobiomechanicalpropertiesofthecorneawithanocularresponseanalyzer.JCataractRefractSurg31:156-162,20052)KamiyaK,HagishimaM,FujimuraFetal:Factorsaectingcornealhysteresisinnormaleyes.GraefesArchClinExpOphthalmol246:1491-1494,20083)KamiyaK,ShimizuK,OhmotoF:Eectofagingoncor-nealbiomechanicalparametersusingtheocularresponseanalyzer.JRefractSurg,inpress4)KamiyaK,ShimizuK,OhmotoF:Comparisonofthechangesincornealbiomechanicalpropertiesfollowingphotorefractivekeratectomyandlaserinsitukeratomileu-sis.Cornea,inpress5)KamiyaK,ShimizuK,OhmotoF:Thechangesincornealbiomechanicalparametersafterphototherapeutickeratec-tomyineyeswithgranularcornealdystrophy.Eye,2008Dec19.[Epubaheadofprint]6)神谷和孝:ケラテクタジア新しい予防法OcularResponseAnalyzerTM.IOL&RS22:164-167,20087)KerautretJ,ColinJ,TouboulDetal:Biomechanicalchar-acteristicsoftheectaticcornea.JCataractRefractSurg34:510-513,20088)大本文子,神谷和孝,清水公也:OcularResponseAnalyz-erTMによる円錐角膜における角膜生体力学特性の測定.IOL&RS22:212-216,2008(64)