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新しい治療と検査シリーズ186.Noncontact Meibographyの開発

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009790910-1810/09/\100/頁/JCLS射される.マイボーム腺で赤外光が反射される理由はわからないが脂の性状によるものと考えている.赤外線透過フィルターは遷移波長が700~850nmの範囲で,光源はスリットランプの光学系をそのまま利用する.赤外線カメラは,700~1,000nmの近赤外線領域に感度を有するCCDカメラを用いる.使用方法非接触型マイボグラフィーは,以下に示すように,一般外来のドライアイ患者を診察する流れのなかに自然に組み込まれる.まず,患者に細隙灯顕微鏡の顎台に顔を乗せてもらう.マイボーム腺開口部周辺や眼瞼の状態を細隙灯顕微鏡の散乱光を用いて観察したのち,フルオレセイン染色をして,ブルーフィルター(もしくはブルーフリーフィルター)で角結膜上皮障害の観察,涙液破綻時間(BUT)の計測を行う.その後,さらにフィルター新しい治療と検査シリーズ(79)バックグラウンドマイボーム腺は皮脂腺の一種であり,涙液の油層を形成し,過剰な涙液の蒸発を防ぐ役割をしている.マイボグラフィーとはマイボーム腺を皮膚側から透過することによりマイボーム腺構造を生体内で形態学的に観察する唯一の方法である.30年以上前Tapie1)によって初めての報告があって以来,赤外線フィルム2,3)や赤外線ビデオカメラ4),赤外線プローブ5)といった改良がなされてきたが,光源プローブが患者眼瞼に直接接触することによる,疼痛や不快感を解消することはできなかった.また,従来の光源プローブの照射範囲も狭く,上下眼瞼耳側から鼻側まで全体を把握するためには時間と苦痛を伴う侵襲的検査と位置づけられ,一般外来で普及することはなかった.しかし一般臨床の場で,われわれ眼科医が,最も多く遭遇する慢性疾患の一つである,マイボーム腺機能不全(MGD)を診断するうえで,マイボグラフィーによるマイボーム腺の脱落は,スリットランプで観察する眼瞼所見とともに最も重要な所見である.今回,筆者らは細隙灯顕微鏡を利用し,フィルターを1枚回転させるだけで,非接触的,非侵襲的にマイボーム腺を観察できるマイボグラフィーの開発を行ったので報告する.新しい検査法(原理)観察用の光が可視光線である場合,散乱が大きくマイボーム腺を観察することはできない.それに対して,可視光線カットフィルター(以下,赤外線透過フィルター)により,可視光線を排除して赤外線を用いて観察を行うと,散乱の問題は生じず,良好にマイボーム腺を観察することができる.可視光は瞼板によって光が反射されるので奥にあるマイボーム腺は見えないが,赤外光は深部到達度が高く,瞼板を透過し,マイボーム腺によって反186.NoncontactMeibographyの開発プレゼンテーション:有田玲子1,2)天野史郎1)1)伊藤医院/2)東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学コメント:横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学1非接触型マイボグラフィー装置細隙灯顕微鏡のブルーフィルターをはさむ部分に,赤外線透過フィルターをはめ込み,小型赤外線CCDカメラを搭載しただけのものである.(文献6より)———————————————————————-Page280あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009を1枚回転させ,赤外線透過フィルターにし,患者の下眼瞼の瞼結膜を観察するときのように下に翻転しながら,観察用モニターでマイボーム腺を観察,評価する(図1).このとき,倍率は細隙灯顕微鏡の範囲内であれば自由に変更できるので,まず弱拡大で下眼瞼全体を観察し(マイボーム腺は本方法では白く見える),マイボーム腺が脱落,短縮,途絶,拡張,歪曲など異常所見を見つけたら,その部分を強拡大にして腺房まで詳細に観察する.また,同部に一致したマイボーム腺の開口部を再度観察したいときにはフィルターを1枚回すだけでよい.同様に上眼瞼のマイボーム腺も上眼瞼を翻転し,全体から細部まで観察する.ここまで通常3分以内で終了する6)(図2,3).本方法のよい点(表1)今回筆者らが新しく開発した非接触型マイボグラフィーは,特殊で大掛かりな装置やそのスペースを必要とするものでなく,眼科施設であればどこにでもあり,眼科医であれば誰でも使えて,マイボーム腺関連疾患を診断するうえで最もたくさんの情報を提供してくれる細隙灯顕微鏡に小型赤外線CCDカメラと赤外線透過フィルターを搭載しただけのものである.細隙灯顕微鏡の光源を利用して観察するため,従来のように患者へ直接接する光源プローブは一切必要ないことが非接触,非侵襲(80)グレード2グレード0グレード3グレード1図2マイボスコア(文献6より)非接触型マイボグラフィーを用いてマイボーム腺の消失面積をグレード分類した.グレード0:マイボーム腺の脱落面積なし.グレード1:マイボーム腺の脱落面積が全体の1/3以下.グレード2:マイボーム腺の脱落面積が全体の1/3以上2/3以下.グレード3:マイボーム腺の脱落面積が全体の2/3以上.図3マイボーム腺機能不全症例(74歳,男性,右眼)a:右上眼瞼結膜散乱光で観察.マイボーム腺は観察できない.b:非接触型マイボグラフィーによる,右上眼瞼マイボーム腺所見.鼻側から中央にかけてマイボーム腺が脱落(dropout)していることがはっきりわかる.耳側にかけても短縮していたり,開口部周辺のみ認めるが,途絶しているマイボーム腺など詳しく観察できる.c:右下眼瞼結膜散乱光で観察.一部のマイボーム腺は観察できている.d:非接触型マイボグラフィーによる,右下眼瞼マイボーム腺所見.右下中央部,脱落するマイボーム腺を認める.鼻側1/3のマイボーム腺は認められない.acbd———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200981(81)的マイボグラフィーの最大の利点である.さらに,倍率も自由に変えることができ,スリットランプの長所をそのまま生かしながら,それに新しい機能を付加させるものといえる.文献1)TapieR:BiomicroscopialstudyofMeibomianglands(inFrench).AnnOcul(Paris)210:637-648,19772)RobinJB,JesterJV,NobeJetal:Invivotransillumina-tionbiomicroscopyandphotographyofmeibomianglanddysfunction.Ophthalmology92:1423-1426,19853)MathersWD,ShieldsWJ,SachdevMSetal:Meibomianglanddysfunctioninchronicblepharitis.Cornea10:277-285,19914)MathersWD,DaleyT,VerdickR:Videoimagingofthemeibomiangland.ArchOphthalmol112:448-449,19945)YokoiN,KomuroA,YamadaHetal:Anewlydevelopedvideo-meibographysystemfeaturinganewlydesignedprobe.JpnJOphthalmol51:53-56,20076)AritaR,ItohK,InoueK,AmanoS:Noncontactinfraredmeibographytodocumentage-relatedchangesofthemeibomianglandsinanormalpopulation.Ophthalmology115:911-915,2008表1マイボグラフィーの比較(従来型と非接触型)従来型非接触型プローブが直接接触疼痛,羞明,侵襲的非接触非侵襲的特別な技術,熟練が必要スリットランプが使えれば誰でもできる光源が必要スリットランプの光源倍率の変更も自由ほぼ下眼瞼中央部しか見えない上下眼瞼,耳側から鼻側まで全部簡単に見えるも,低侵襲で鮮明なマイボーム腺像を得るProbeを開発したが,本法では,Probeなしに,白黒反転像として同様の像を得ることができる.眼瞼結膜側から観察できることは,上眼瞼が厚い場合のマイボーム腺の観察には有用と考えられる.マイボグラフィーはあくまでも形態検査であり,機能検査ではない.この限界を知ったうえで,この新しいマイボグラフィーがマイボーム腺疾患の病態に深く迫ってくれることを期待したい.マイボーム腺は,赤外光を翻転した眼瞼皮膚側から照射し,その透過光を赤外線ビデオカメラでとらえるのが,最も鮮明な画像を得るための常識と考えられてきたが,その常識を覆す新しいマイボグラフィーが開発された.その成功のポイントは,赤外線CCDカメラを用いたこと,および,赤外光がマイボーム腺組織で反射されるということを見出したことであろうか.本法は,Noncontactというよりむしろ,Probe-freeといったほうがよいのかもしれない.筆者(横井)ら本方法に対するコメント☆☆☆

サプリメントサイエンス:亜鉛と微量ミネラル

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009750910-1810/09/\100/頁/JCLSミネラルとは地球上に存在する118種類の元素のうち,水素(H),炭素(C),窒素(N),酸素(O)のように蛋白質や脂質,炭水化物の主要元素となっているものを除いた114種類の元素はミネラルとよばれる.ヒトの体も元素によって構成されており,ミネラルは生体組織の構成や生理機能の維持,調節に重要な役割を果たしている.ミネラルのうち,ヒトの体内に存在し,栄養素として欠かせないとされるものを必須ミネラルとよび,1日の摂取量がおおむね100mg以上の主要(マクロ)ミネラルとしてナトリウム(Na),マグネシウム(Mg),リン(P),硫黄(S),塩素(Cl),カリウム(K),カルシウム(Ca),1日の摂取量がおおむね100mgまでの微量(ミクロ)ミネラルとして鉄(Fe),亜鉛(Zn),銅(Cu),クロム(Cr),マンガン(Mn),コバルト(Co),セレン(Se),モリブデン(Mo),ヨウ素(I)の16種類がこれまでに知られている(表1,今後増える可能性もある).わが国の食生活はメニューも豊富であり,これまでよほどのことがなければミネラル欠乏は起こらないと考えられてきた.一方で,特異な生活習慣や,加熱するダイエットブームによる偏食などもみられるようになった.最近の国民栄養調査によるとFe,Zn,Cu,Ca,Mgが欠乏傾向にあるとされている.日本でも2001年にCaとFe,2004年にはMg,Zn,Cuのサプリメントとしての規格基準が厚生労働省から示され,一般にも入手しやすくなったが,欠乏も過剰摂取もいずれも問題となるものである.本稿では,亜鉛を中心に微量ミネラルの視覚に対する効果について述べる.必須微量ミネラル:特に亜鉛と銅について1.亜鉛(Zn)人体では鉄のつぎに多い必須微量元素である.炭酸脱水酵素,DNAポリメラーゼをはじめ300種類を超える酵素の活性に関与し,おもに酵素の構造形成および維持に必須であり,これらの酵素の生理的役割は,骨組織の成長と石灰化,免疫機構の補助,創傷治癒,精子形成,味蕾の形成・維持,糖代謝など多岐にわたる.また,強い抗酸化作用をもつ.人体に入る亜鉛はすべて食品に由来するとされる.脳(海馬),前立腺などで濃度が高く,眼球にも比較的多くの亜鉛が存在する.母乳中の亜鉛含量は初乳で最も高い.ビタミンAの活性化にも関与するため,亜鉛の欠乏により,ビタミンA欠乏症が現れ(75)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑧監修=坪田一男8.亜鉛と微量ミネラル寺田佳子広島市立広島市民病院眼科ヒトの体内に存在し,栄養素として欠かせないとされるものを必須ミネラルとよび,1日の摂取量がおおむね100mgまでの微量(ミクロ)ミネラルとして鉄(Fe),亜鉛(Zn),銅(Cu),クロム(Cr),マンガン(Mn),コバルト(Co),セレン(Se),モリブデン(Mo),ヨウ素(I)の9種類がこれまでに知られている.米国で行われたAREDSの結果から,亜鉛と亜鉛摂取時の銅の摂取は加齢黄斑変性の進行を遅らせるというエビデンスがあり,リスクのある人には摂取が勧められる.表1必須ミネラルのいろいろ主要(マクロ)ミネラルナトリウム(Na),マグネシウム(Mg),リン(P),硫黄(S),塩素(Cl),カリウム(K),カルシウム(Ca)微量(ミクロ)ミネラル鉄(Fe),亜鉛(Zn),銅(Cu),クロム(Cr),マンガン(Mn),コバルト(Co),セレン(Se),モリブデン(Mo),ヨウ素(I)表2亜鉛含有量(可食部100g当たり)6)食品亜鉛含有量(mg)カキ13.2にぼし7.2ブタレバー(生)6.9牛肉約5ゴマ5.5玄米1.8(文献6より)———————————————————————-Page276あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009ることがある.金属としての亜鉛は人体に有害であり,蒸気(ヒューム)を吸引することで痙攣や呼吸困難をひき起こす.カキをはじめとする魚介類,鳥獣鯨肉の内臓,ゴマ,玄米などに多く含まれる(表2).眼科領域で注目されるのはその強い抗酸化作用である.抗酸化作用を期待し,米国で行われた加齢性眼疾患についての無作為前向き多施設研究(AREDS)1)では亜鉛単体あるいは抗酸化ビタミンとの組み合わせで投与された(いずれも亜鉛80mg).平均6.3年の経過観察の結果,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)について,AMDの進行率は亜鉛単独投与群でプラセボ群に対しオッズ比0.75(99%信頼区間0.551.03),亜鉛+抗酸化剤投与群でプラセボ群に対しオッズ比0.72(99%信頼区間0.520.98)と進行予防効果が認められた.比較的軽いものには予防効果は大きくなかったが,多くのあるいは大きなdrusenが認められる眼,geographicatrophyやすでに脈絡膜新生血管(choroidalneovascu-larization:CNV)がみられる眼やその僚眼といったハイリスク群(カテゴリー3,4)で,発症予防およびさらに重症のAMDへの進行をより予防するという結果であった2).残念ながら白内障の進行予防については効果が認められなかった3).一方で,亜鉛摂取により貧血が進行するとの報告もあり,現在進行中のAREDS2では亜(76)鉛は80mg/日あるいは25mg/日の2群に振り分けられ,減量が可能かどうか検討される4).その他,亜鉛100mg/日の大量摂取を継続すると前立腺癌の発症頻度が上がるとの報告もあり5),摂取量に留意する必要がある.2.銅(Cu)おもに骨や筋肉に多く存在し,濃度が高いのは脳,肝臓,腎臓である.銅は,各種の酸化還元酵素の補因子として生理活性を示す.鉄の輸送系にも銅は必要であり,ヘモグロビンを合成するために銅は不可欠であるため,銅が欠乏することで鉄欠乏性貧血に似た病態をひき起こす(節足動物や軟体動物では,哺乳類のヘモグロビンに相当する酸素結合蛋白質であるヘモシアニンの活性中心は銅である).抗酸化にも重要な役割を果たしており,スーパーオキシドディスムターゼ,ミトコンドリアにおける呼吸鎖関連酵素のシトクロムcオキシダーゼ,コラーゲン合成に必須なモノアミンオキシダーゼやリジルオキシダーゼなどの活性中心である.遺伝的な銅の過剰症としてWilson病が知られる.比較的摂取量が多く,通常の食生活では銅が不足することはまれであるが,欠乏症では神経障害,貧血,下痢などがみられる.亜鉛の過剰摂取によって小腸で金属結合性蛋白質であるメタロチオネインが誘導され,銅がこの蛋白質と結合してしまうために銅の摂取が阻害される.これによる銅の不足を防表3日本人成人の微量ミネラル食事摂取基準(1日当たり)男性女性推定平均必要量推奨量目安量上限量推定平均必要量推奨量目安量上限量亜鉛(mg)7889306730銅(mg)0.60.8100.50.60.710鉄(mg)5.56.56.57.54555月経なし40455.05.56.06.5月経あり9.010.5セレン(μg)253030354004502025350ヨウ素(μg)951503,000951503,000クロム*(μg)2535304020252530マンガン(mg)4113.511ビタミンB12**(μg)2.02.4***2.02.4***モリブデン*(μg)20252703201520230250*クロム,モリブデンは暫定値.**コバルトの代替として抜粋した.***上限量は策定しなかったが,過剰摂取しても胃から分泌される内因子が飽和するため吸収されない.(文献7より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200977(77)ぐため,AREDSでは銅が含まれる内容になった(2mg/日).AREDS2でも同量が採用されている.その他の必須微量ミネラル3.鉄(Fe)鉄はヘモグロビンの活性中心として造血機能に必須である.鉄欠乏により貧血になることは周知のとおりである.鉄剤の過剰投与ではヘモクロマトーシス/ヘモジデローシスといった組織への鉄の沈着をひき起こし,有害である.鉄はレバー,小松菜などに多く含まれるほか,鉄製の鍋を用いた調理も良いとされる.4.セレン(Se)セレンは体内で蛋白質と結合しセレノプロテインとして存在し,ビタミンEと協調して抗酸化物質として働く.中国黒竜江省では土壌に含まれるセレンが不足し,そのために克山病といわれる風土病が知られるが,一般には欠乏は非常にまれである.セレンは摂取量の安全域が狭く,過剰摂取による発癌性や催奇形性,流産の増加も指摘されており,サプリメントとして安易に接取すべきではない.5.ヨウ素(I)ヨウ素は甲状腺機能の維持に必要であるが,過剰摂取では甲状腺機能亢進症と同様の症状となるため,いわゆる甲状腺眼症の症状が現れる可能性はある.海苔やワカメといった海藻を食べる習慣のある日本では比較的欠乏しにくい.食事からのヨウ素摂取量が少ない米国などでは,食塩にヨウ素を添加したものも売られている.6.クロム(Cr)クロムは正常な糖代謝を維持するために重要かつ必須である.食品で摂取する限りは問題ないが,多量,長期摂取では変異原性となる可能性が示されている.7.マンガン(Mn)ミトコンドリア内などに存在し,抗酸化や脂質代謝などに関わる.穀類,ナッツのほか茶葉に多く含まれる.過剰摂取で中枢神経障害の可能性がある.8.コバルト(Co)コバルト化合物として重要なのはシアノコバラミン(ビタミンB12)で,コバルトの必須性はビタミンB12の必須性と考えてよい.コバルト単体またはコバルトイオンとしての体内での働きは不明であり,単独での欠乏症はないとされる.9.モリブデン(Mo)酸化還元反応を触媒するモリブデン酵素の構成成分として必須である.大量摂取で血中尿酸値の上昇をひき起こす.貧血予防の観点から,若年女性などでは鉄の摂取は以前から推奨されてきた.その他,亜鉛と亜鉛摂取時の銅以外の微量ミネラルについて,「眼に良い」という信頼できるエビデンスを備えた報告はまだない.また,いずれの微量ミネラルも,通常欠乏はまれであり,過剰摂取となったときの有害性があることから,亜鉛と亜鉛摂取時の銅,鉄以外の安易な摂取は勧められない.文献1)TheAge-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:“TheAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS):DesignimplicationsAREDSreportno.1”.ControlClinTrials20:573-600,19992)TheAge-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,20013)TheAge-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:TheAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)systemforclassifyingcataractsfromphotographs:AREDSreportno.4.AmJOphthalmol131:167-175,20014)EmilyChew,MDNationalEyeInstitute(NEI)DivisionofEpidemiologyandClinicalResearchClinicalTrialsBranch.AGE-RELATEDEYEDISEASESTUDY2PROTOCOLAge-RelatedEyeDiseaseStudy2(AREDS2):AMulti-center,RandomizedTrialofLutein,Zeaxanthin,andOmega-3Long-ChainPolyunsaturatedFattyAcids(Doco-sahexaenoicAcid[DHA]andEicosapentaenoicAcid[EPA])inAge-RelatedMacularDegenerationIND#74,781.Version5.1,3December20075)LeitzmannMF,StampferMJ,WuKetal:Zincsupple-mentuseandriskofprostatecancer.JNatlCancerInst95:1004-1007,20036)食品成分研究調査会編:五訂日本食品成分表.医歯薬出版,20027)「日本人の栄養所要量─食事摂取基準─策定検討会」(座長:田中平三独立行政法人国立健康・栄養研究所理事長).「日本人の食事摂取基準(2005年版)」.厚生労働省ホームページより<参考図書>1)吉川敏一,桜井弘:サプリメントデータブック,オーム社,20062)坪田一男(編):眼科プラクティス22,抗加齢眼科学,文光堂,2008

眼感染症:HTLV-Iぶどう膜炎

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009730910-1810/09/\100/頁/JCLSはじめにHTLV-Iは成人T細胞白血病の原因ウイルスとして同定されたhumanT-lymphotropicvirustypeIである.HTLV-Iぶどう膜炎(HTLV-Iuveitis:HUまたはHTLV-Iassociateduveitis:HAU)とは,わが国で検討が進んでいる疾病である13).この疾患は,ヘルペスウイルスなど他のウイルス眼感染症とは異なり,直接的に眼組織を障害するのではなく,リンパ球の眼内浸潤が病像形成の中心的役割をしていると考えられている.生体内ではおもにCD4陽性Tリンパ球に感染している.HTLV-IレトロウイルスHTLV-Iは,CD4陽性Tリンパ球を標的宿主細胞とするRNAウイルスである.染色体DNAにランダムに組み込まれてプロウイルス(provirus)になるが,細胞障害効果は弱く,感染細胞は増殖可能であるから持続感染が容易に成立する.感染細胞が癌化して増殖しつづける場合(成人T細胞白血病:ATL)と遅発性ウイルス感染症(HTLV-I関連脊髄症:HAMおよびHTLV-I関連症候群)の病像を示す場合とがある.HTLV-Iの感染経路には,胎盤や母乳を介した垂直感染,輸血を介した水平感染が知られている.感染は世界に広がり,日本,カリブ諸島,南米,中央アフリカなどに濃厚感染地域がある.わが国では九州,沖縄で感染率が特に高い.感染頻度と疾病集積度との間には明らかな相関がある.HTLV-I感染リンパ球は接着分子や炎症性サイトカインを構成的に過剰発現していることが知られており,この性質がリンパ球の組織浸潤に重要なかかわりをもっていると考えられている4).本症の特徴の一つとして,女性のHTLV-Iぶどう膜炎患者の1/4にGraves病(バセドウ病)の既往が認められている.Graves病を発症したキャリアが,なぜぶどう膜炎を起こしやすくなるのか,その詳細は不明である.近年の分子生物学的研究により,甲状腺ホルモンがHTLV-Iの転写活性化因子であるTaxなどのウイルス遺伝子発現を誘導することが明らかになっている5).HTLV-Iぶどう膜炎の臨床像HTLV-Iぶどう膜炎は,HAMやHTLV-I関連症候群のみならずHTLV-Iキャリアにもみることがある.一般に急性に発症し,肉芽腫性ぶどう膜炎の病像をとることが多い.発症年齢は2050歳で,性差はない.患者は軽度中等度の霧視,異物感,飛蚊を訴える.片眼性罹患と両眼性罹患とがある.両眼性罹患の場合は間隔をおくことが多い.眼科的検査所見として,角膜は異常なく毛様充血は軽(73)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑬監修=木下茂大橋裕一13.HTLVIぶどう膜炎杉田直東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学HTLV-Iぶどう膜炎はCD4陽性Tリンパ球の眼内浸潤でなる眼内炎症性疾患である.硝子体の炎症が中心で,軽度中等度の微塵状,顆粒状,雪玉状,小塊状,ひも状,ベール状,あるいはびまん性などの多彩で特徴的な混濁がみられる.診断に必要なのは血清のHTLV-I抗体価で,治療には副腎皮質ステロイド薬の局所または全身投与を行う.図1特徴的なベール状硝子体混濁所見組織破壊はあまりなく,眼底は比較的きれいなことが多い.本症例は網膜血管炎がみられていた.———————————————————————-Page274あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009度である.前房中に軽度の細胞遊出,フレアをみる.角膜の後面に白色,小型の豚脂様沈着物,瞳孔縁に小型の虹彩結節をみることがある.硝子体には軽度中等度の混濁があり,混濁の形状は,微塵状,顆粒状,雪玉状,小塊状,ひも状,ベール状とさまざまである(図1).眼底検査では網膜の大小血管に,拡張,血管壁の白鞘,黄白色斑点や白色顆粒状混濁物の数珠状付着などをみる.後極部に綿花状白斑が散在することもある.蛍光眼底血管造影検査では,おもに網膜血管から蛍光色素の漏出や網膜血管壁の蛍光色素染色,いわゆる網膜血管炎所見や視神経乳頭の過蛍光などをみる.全身検査所見で最も重要なのは血清中の抗HTLV-I抗体価所見である.HTLV-Iキャリアでも高値を示す.HAMに罹患していれば,該当する神経学的異常をみる.HTLV-Iキャリアの場合では,全身的には健康で,諸(74)検査所見にも異常をみない.ただし,HTLV-I関連症候群としての乾性角結膜炎や関節炎を合併することがある.筆者らの施設ではHTLV-IproviralDNAの定量PCR(polymerasechainreaction)検査を行っており,眼内から高コピー数のHTLV-IproviralDNAが検出されれば診断的価値は高いと考えられる(図2).鑑別診断はいくつかのぶどう膜炎があげられる.ぶどう膜炎で血清の抗HTLV-I抗体が陽性だからといって直ちにHTLV-Iぶどう膜炎とみなすのは無理である.上記の臨床像に加えて,既知の疾病(特にサルコイドーシス)を除外することが大切である.療および経過副腎皮質ステロイド薬の局所または全身投与によって数週で寛解する事例が多い.自然寛解することもある.硝子体混濁を残して飛蚊症や視力低下が持続する事例があり,この場合,硝子体手術を行う.炎症の再燃・再発がまれではない.文献1)NakaoK,OhbaN,MatsumotoM:NoninfectiousanterioruveitisinpatientsinfectedwithhumanT-lymphotropicvirustypeI.JpnJOphthalmol33:472-481,19892)MochizukiM,YamaguchiK,TakatsukiKetal:HTLV-Ianduveitis.Lancet339:1110,19923)WatanabeT,MochizukiM,YamaguchiK:HTLV-Iuveitis(HU).Leukemia11:582-584,19974)SagawaK,MochizukiM,MasuokaKetal:Immunopatho-logicalmechanismsofhumanTcelllymphotropicvirustype1(HTLV-I)uveitis.DetectionofHTLV-I-infectedTcellsintheeyeandtheirconstitutivecytokineproduction.JClinInvest95:852-858,19955)MatsudaT,TomitaM,UchiharaJNetal:HumanTcellleukemiavirustypeI-infectedpatientswithHashimoto’sthyroiditisandGraves’disease.JClinEndocrinolMetab90:5704-5710,2005図2びまん性硝子体混濁所見本症例はその後硝子体混濁が増悪し,硝子体手術を施行した.硝子体から1.2×106copies/mlと高コピー数のHTLV-Ipro-viralDNAが定量PCRにて検出された.☆☆☆

緑内障:緑内障における神経保護研究

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009710910-1810/09/\100/頁/JCLS緑内障の原因として,以前からグルタミン酸毒性の関与が指摘されている.たとえば,高眼圧負荷を受けた眼球内ではグルタミン酸濃度が上昇するが,グルタミン酸受容体阻害薬はそれらが受容体と結合し,神経興奮毒性を発揮するのを抑制しようとするものである.最近注目されているグルタミン酸受容体阻害薬は,Alzheimer病治療薬として米国で認可されているmemantineであり,すでに緑内障に対する治験が開始されている.しかし,第三相試験においては有効性が確認されなかったとの情報もあり,実際に眼科臨床の現場で使用可能になるかどうかは,まだ不明である.他の手法としては,たとえばグルタミン酸輸送体の機能を賦活化することによって,細胞外グルタミン酸濃度を低下させることが考えられる.筆者らは培養Muller細胞を用いた検討により,interleukin-1(IL-1)がGLASTによるグルタミン酸取り込み能を増大させることを示した1).さらにIL-1を前投与することで,グルタミン酸による網膜神経節細胞死を有意に抑制できることがわかった(図1).その他にも筋萎縮性側索硬化症の治療薬であるriluzole2)や脳梗塞の治療薬であるONO-2506(arundicacid)3)は複数のグルタミン酸輸送体の発現量を上昇させることが報告されており,今後の研究の進展が期待される.胞死実行伝子の抑制これまでの細胞死研究のなかから,アポトーシス実行(71)●連載103緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也103.緑内障における神経保護研究原田知加子原田高幸東京都神経科学総合研究所分子神経生物学現在行われている緑内障治療は眼圧下降が中心だが,近年では多くの研究者や企業が,細胞死の分子メカニズムに注目した新薬の開発を目指している.神経変性疾患の分野ではグルタミン酸毒性や細胞死実行因子などをターゲットとした神経保護薬の開発が進められており,緑内障治療への応用も可能となるかもしれない.GCLINLONLABC200p<0.05p<0.05150100500Glutamate1切片当たりの網膜神経節細胞数IL-1D--+-++図1IL1前処置によるグルタミン酸興奮毒性の抑制培養網膜組織片のNeuN染色像.A:無処置,B:グルタミン酸投与,C:IL-1の前処置後にグルタミン酸投与.D:IL-1の前投与により,残存する網膜神経節細胞数の増加が認められた.GCL:網膜神経節細胞層,INL:内顆粒層,ONL:外顆粒層.(文献1より改変)———————————————————————-Page272あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009因子としてのcaspasefamilyの重要性が明らかにされている.また,細胞死抑制因子についての研究も進展し(72)ており,たとえばBcl-2はcaspaseより上流で細胞死を抑制できると考えられている.Caspase阻害薬はAlzheimer病や脳虚血などにも有効な可能性があり,今後は網膜神経細胞を含めた神経保護薬としての臨床応用が期待される.一方,筆者らは,さまざまな環境ストレスに応答して細胞の生死を制御するmitogen-activatedproteinkinasekinasekinase(MAPKKK)の1つであるapopto-sissignal-regulatingkinase1(ASK1)の機能に注目している4).ASK1欠損マウスに対して高眼圧負荷を行ったところ,野生型マウス網膜と比較して,caspase-3の活性低下と網膜神経節細胞死の軽減が確認された(図2).さらにASK1欠損マウス由来の培養網膜神経節細胞では,酸化ストレスに対する耐性も高まっていた5).つまり酸化ストレスの関与が示唆される緑内障の新たな治療標的として,ASK1caspase-3pathwayを阻害することの有用性が示されたといえる.前号で紹介したGLAST欠損マウスはグルタミン酸毒性に加えて,酸化ストレスが複合的に関与する正常眼圧緑内障モデル動物と考えられることから,現在はASK1欠損マウスとの交配によって,症状が軽快するかを検討中である.文献1)NamekataK,HaradaC,KohyamaKetal:Interleukin-1stimulatesglutamateuptakeinglialcellsbyacceleratingmembranetrackingofNa+/K+-ATPaseviaactindepo-lymerization.MolCellBiol28:3273-3280,20082)FumagalliE,FunicelloM,RauenTetal:Riluzoleenhanc-estheactivityofglutamatetransportersGLAST,GLT1andEAAC1.EurJPharmacol578:171-176,20083)MoriT,TateishiN,KagamiishiYetal:Attenuationofadelayedincreaseintheextracellularglutamatelevelintheperi-infarctareafollowingfocalcerebralischemiabyanovelagentONO-2506.NeurochemInt45:381-387,20044)原田知加子:虚血網膜におけるapoptosissignal-regulatingkinase1(ASK1)シグナルの伝達機構と機能解明.日眼会誌112:965-974,20085)HaradaC,NakamuraK,NamekataKetal:Roleofapop-tosissignal-regulatingkinase1instress-inducedneuralcellapoptosisinvivo.AmJPathol168:261-269,2006WTヘマトキシリン・エオジン染色TUNEL染色活性型caspase-3ASK1KO☆☆☆図2ASK1欠損マウスの網膜における虚血耐性の解析野生型マウス(WT)および同腹のASK1欠損マウス(ASK1KO)を用いた虚血網膜の検討.上段:虚血負荷7日後のヘマトキシリン・エオジン染色.中段:虚血負荷1日後のTUNEL染色.下段:虚血負荷3時間後の活性型caspase-3抗体による免疫染色.ASK1欠損マウスでは,網膜神経節細胞層におけるアポトーシスの減少と残存細胞数の増加が認められた(矢印).(文献5より改変)

屈折矯正手術:新しくLASIK手術を導入する

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009690910-1810/09/\100/頁/JCLSエキシマレーザー屈折矯正手術(laserinsituker-atomileusis/photorefractivekeratectomy:LASIK/PRK)が,2007年に日本で推計25万眼に行われた.2008年は35万眼が予想されている.美容外科系,コンタクトクリニック系の上位3グループが90%以上を行っている.当院は,通常の眼科診療を行っている眼科医院として,国内最多の実績(2007年には4,600眼)があり,いま白内障の日帰り手術を行っており,これからエキシマレーザー手術を導入しようとする眼科に,経験を紹介したい.械入検査機械としては,適応決定のために角膜形状解析器としてPENTACAM(中央産業社)が必須で,さらに,不正乱視の確認のために波面収差解析用にOPD-scanⅡ(NIDEK社)があるほうが望ましい.エキシマレーザーとのリンクの関係で業者との相談が必須である.角膜内皮測定も必要である.キシマレーザー筆者は,機能として①眼球追尾照射装置がある,②TOPO-LINK照射ができる,③瞳孔の位置補正ができ(69)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載104監修=木下茂大橋裕一坪田一男104.新しくLASIK手術を導入する安渕幸雄安渕眼科医院日本でも年間30万眼以上のLASIK(laserinsitukeratomileusis)手術が行われ,社会的にも認知されたと思われる.今から始めても,通常の眼科診療所でもよく使われている機種を採用すれば,採算可能と考えられる.図1WaveLightAllegrettoEyeQ図2NIDEKEC5000CXⅢ図3IntraLaseFS60———————————————————————-Page270あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009る,④球面収差惹起抑制照射ができる,という4点が,屈折矯正手術で良い結果を得るには必要と考えている.日本で入手可能なのはWaveLight社(ルミナス社,図1),NIDEKEC-5000CXⅢ(図2)のみとなる.イクロラトームフェムトレーザーなら,実績ではIntraLaseFS60(AMO社,図3)だが,ZIEMER(JFCセールスプラン社)も急速に改良中である.他の製品は大きすぎて開業医にはスペースがとりきれない.機械式は,MoriaM2(モリアジャパン社,図4)が第一選択であるが,それ以外ではNIDEKMK-2000となる.ユーザーの少ない機械は,当院が導入したBD/ITIK-3000やGebauerEPILIFTのようにメンテナンス不能になることがある.全国の手術件数としては,上位3グループがIntraLaseを使っている関係で,件数ベースでフェムトレーザーの頻度は80%を超えていると思われるが,機械式の結果が悪いわけではない.当院のデータでは,フラップ厚はLASIK(M290)91±14μm,IntraLaseFS6097±11μmと実績的に差がなく,視力成績も同等である.IntraLASIKのほうが手術時間が長いことを説明し,同一価格で患者に自由選択させると,2007年はLASIK79%で,IntraLASIK8%となった.また,PRKが13%ある.当院では,予測残存角膜厚350380μm,中等度以上のドライアイ,陸上自衛隊員,プロボクサー,虹彩炎既往者はPRKのみの適応となる.イさせるのはしい手術料金が高いと患者は来ない.大手は経験なしの眼科専門医を年収3,000万で募集している.毎週2日,1日に15人(34時間),両眼で12万行えば,これくらいの追加収入は達成できる.ただし,等比級数的に手術件数が増加するので,採算ベースにたどり着くには数年は必要である.がない日本眼科学会の講習があるが,それで手術ができるようになるわけではない.一応,教科書もある1)が,十分でもない.手術自体は白内障手術よりは簡単なので,いろいろ見学に行けばよい.不要不急の手術なので,条件の良い患者のみを選んで,経験を積めばよい.地方では,『大都市の美容整形系列に行ってだまされるよりも,近くの信用がある眼科を選択する』人も多いと思う.文献1)GimbelHV,PennoEEA:LASIK合併症予防と処置(杉田達監訳),エム・ビー・エス,1999(70)☆☆☆図4MoriaM2

眼内レンズ:硝子体手術用25ゲージトロカールを用いた眼内レンズ縫着術

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009670910-1810/09/\100/頁/JCLS眼内レンズ(IOL)偏位,脱臼の原因は後破損などの術中トラブルの場合と,術眼のZinn小帯脆弱などに起因する場合がある.その治療は眼内で外固定し直すか,毛様溝縫着1~3)を行うかである.外固定できる場合はごく限られた症例で全周の水晶体が残っており,Zinn小帯がしっかりしている場合のみである.IOL縫着にはIOLを取り出す場合と偏位,脱臼したIOLをそのまま利用する場合4,5)がある.〔症例〕80歳,男性,2007年7月,右眼の超音波水晶体乳化吸引術の際,後破損が生じIOLは外固定となっていた.9月11日突然の視力低下にてIOL落下を認め当院紹介となる.初診時所見:視力は右眼=(0.8×sph+1.0D),左眼=(1.0×sph7.25D),眼圧は右眼=16mmHg,左眼=14mmHg,前は12時方向に亀裂を認めた.落下したIOLが6時方向眼底に確認できた.治療:落下したIOLを引き上げるために通常のスリー(67)ポート(20ゲージ)にて硝子体手術を行い,できる限り周辺部硝子体も切除した後,落下したIOLを前房へ持ち上げ片方の支持部を下方に残存している前を利用し外固定した.つぎに,上方2時の部分に角膜に接して強膜半層フラップを作製し,半層切開部の輪部から1.5mmの部位で10-0ナイロン糸付き直針を用い,前房内櫻井寿也多根記念眼科病院眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎269.硝子体手術用25ゲージトロカールを用いた眼内レンズ縫着術白内障手術時に挿入した眼内レンズ(IOL)が偏位,脱臼する場合の一つの対処法としてIOL縫着術がある.この術式のなかでも一部の前が残存する場合に片方ループのみを対面通糸により固定する方法がある.本法はIOLを摘出しないことから手術侵襲が少なく,簡便に,縫着できる.この手法の角膜通糸の際に硝子体手術用25ゲージトロカールを用いたより簡便な手法を提示する.図1縫着糸による角膜通糸図3IOL縫着図2縫着糸を反転し角膜通糸———————————————————————-Page2のIOL支持部の横を硝子体側から通糸し,対側の角膜周辺部に前もって留置した硝子体手術用25ゲージトロカールを通じて直針を眼外へ誘導した(図1).その針を反転し逆方向に25ゲージトロカールを通しIOL支持部の往路とは対側を通過させ,半層切開部から27ゲージ針のガイド針を通じて眼内から通糸する(図2).10-0ナイロン糸を結紮することで片方の支持部が毛様溝に固定される(図3).術後6カ月の時点で右眼視力=(1.0×sph8.25D(cyl1.0DAx90°),右眼眼圧=15mmHgであった.落下したIOL症例に対してIOL縫着を行う場合,IOLを眼外に摘出して新しいIOLを縫着する方法は簡便であるが,IOL取り出しの際に角膜内皮への侵襲,術中の低眼圧の発生,強角膜創の縫合不全,強角膜切開による術後乱視を若起するなどの合併症も考えられる.IOLをそのまま縫着する方法は手術手技が複雑で,IOLの光学径によっては偏心が生じたり,もともと挿入されているIOLが内固定用の度数であったならば縫着によるIOLの位置が前房側への移動に伴い近視化が生じたりもする.しかし,もし前の一部が残っており,外固定を考慮した度数で縫着に適した光学径のIOLが挿入されていたとするなら,今回の手法は合併症も少なく,また,角膜創の25ゲージトロカールを留置することでさらに手術手技が平易になった.ただし,片方であってもIOL縫着を行っていることから,周辺部の硝子体はできうる限り切除したほうがよい.この手法でやはり最も注意すべき点はIOL光学部のセンタリングの問題であり,IOLの大きさ(光学部と支持部),支持部縫着部位と前残在部の位置関係を十分検討し適応を考えるべきである.文献1)MalbranES:LensguidesuturefortransportandxationinsecondaryIOLimplantationafterintracapsularextrac-tion.IntOphthalmolClin9:151,19862)StarkWJ,GoodmanG,GoodmanDetal:Posteriorcham-berintraocularlensimplantationintheabsenceofposteri-orcapsularsupport.OphthalmicSurg19:240-243,19883)HuBV,ShinDH,GibbsKAetal:Implantationofposteri-orchamberlensintheabsenceofcapsularandzonularsupport.ArchOphthalmol106:416-420,19884)DueyRJ,HollandEJ,AgapitosPJetal:Anatomicstudyoftranssclerallysuturedintraocularlensimplantation.AmJOphthalmol108:300-309,19895)HanemotoT,IdetaH,KawasakiT:Dislocatedintraocularlensxationusingintraocularcowhitchknot.AmJOph-thalmol131:265-267,2001

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009670910-1810/09/\100/頁/JCLS眼内レンズ(IOL)偏位,脱臼の原因は後破損などの術中トラブルの場合と,術眼のZinn小帯脆弱などに起因する場合がある.その治療は眼内で外固定し直すか,毛様溝縫着1~3)を行うかである.外固定できる場合はごく限られた症例で全周の水晶体が残っており,Zinn小帯がしっかりしている場合のみである.IOL縫着にはIOLを取り出す場合と偏位,脱臼したIOLをそのまま利用する場合4,5)がある.〔症例〕80歳,男性,2007年7月,右眼の超音波水晶体乳化吸引術の際,後破損が生じIOLは外固定となっていた.9月11日突然の視力低下にてIOL落下を認め当院紹介となる.初診時所見:視力は右眼=(0.8×sph+1.0D),左眼=(1.0×sph7.25D),眼圧は右眼=16mmHg,左眼=14mmHg,前は12時方向に亀裂を認めた.落下したIOLが6時方向眼底に確認できた.治療:落下したIOLを引き上げるために通常のスリー(67)ポート(20ゲージ)にて硝子体手術を行い,できる限り周辺部硝子体も切除した後,落下したIOLを前房へ持ち上げ片方の支持部を下方に残存している前を利用し外固定した.つぎに,上方2時の部分に角膜に接して強膜半層フラップを作製し,半層切開部の輪部から1.5mmの部位で10-0ナイロン糸付き直針を用い,前房内櫻井寿也多根記念眼科病院眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎269.硝子体手術用25ゲージトロカールを用いた眼内レンズ縫着術白内障手術時に挿入した眼内レンズ(IOL)が偏位,脱臼する場合の一つの対処法としてIOL縫着術がある.この術式のなかでも一部の前が残存する場合に片方ループのみを対面通糸により固定する方法がある.本法はIOLを摘出しないことから手術侵襲が少なく,簡便に,縫着できる.この手法の角膜通糸の際に硝子体手術用25ゲージトロカールを用いたより簡便な手法を提示する.図1縫着糸による角膜通糸図3IOL縫着図2縫着糸を反転し角膜通糸———————————————————————-Page2のIOL支持部の横を硝子体側から通糸し,対側の角膜周辺部に前もって留置した硝子体手術用25ゲージトロカールを通じて直針を眼外へ誘導した(図1).その針を反転し逆方向に25ゲージトロカールを通しIOL支持部の往路とは対側を通過させ,半層切開部から27ゲージ針のガイド針を通じて眼内から通糸する(図2).10-0ナイロン糸を結紮することで片方の支持部が毛様溝に固定される(図3).術後6カ月の時点で右眼視力=(1.0×sph8.25D(cyl1.0DAx90°),右眼眼圧=15mmHgであった.落下したIOL症例に対してIOL縫着を行う場合,IOLを眼外に摘出して新しいIOLを縫着する方法は簡便であるが,IOL取り出しの際に角膜内皮への侵襲,術中の低眼圧の発生,強角膜創の縫合不全,強角膜切開による術後乱視を若起するなどの合併症も考えられる.IOLをそのまま縫着する方法は手術手技が複雑で,IOLの光学径によっては偏心が生じたり,もともと挿入されているIOLが内固定用の度数であったならば縫着によるIOLの位置が前房側への移動に伴い近視化が生じたりもする.しかし,もし前の一部が残っており,外固定を考慮した度数で縫着に適した光学径のIOLが挿入されていたとするなら,今回の手法は合併症も少なく,また,角膜創の25ゲージトロカールを留置することでさらに手術手技が平易になった.ただし,片方であってもIOL縫着を行っていることから,周辺部の硝子体はできうる限り切除したほうがよい.この手法でやはり最も注意すべき点はIOL光学部のセンタリングの問題であり,IOLの大きさ(光学部と支持部),支持部縫着部位と前残在部の位置関係を十分検討し適応を考えるべきである.文献1)MalbranES:LensguidesuturefortransportandxationinsecondaryIOLimplantationafterintracapsularextrac-tion.IntOphthalmolClin9:151,19862)StarkWJ,GoodmanG,GoodmanDetal:Posteriorcham-berintraocularlensimplantationintheabsenceofposteri-orcapsularsupport.OphthalmicSurg19:240-243,19883)HuBV,ShinDH,GibbsKAetal:Implantationofposteri-orchamberlensintheabsenceofcapsularandzonularsupport.ArchOphthalmol106:416-420,19884)DueyRJ,HollandEJ,AgapitosPJetal:Anatomicstudyoftranssclerallysuturedintraocularlensimplantation.AmJOphthalmol108:300-309,19895)HanemotoT,IdetaH,KawasakiT:Dislocatedintraocularlensxationusingintraocularcowhitchknot.AmJOph-thalmol131:265-267,2001

コンタクトレンズ:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(5)

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009650910-1810/09/\100/頁/JCLSシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤の相性その11.マルチパーパスソリューションによる角膜ステイニングとは?MPS(マルチパーパスソリューション)には消毒成分だけではなく,界面活性剤,緩衝剤,キレート剤などのさまざまな成分が含まれている.そのため薬剤毒性による角膜上皮への影響が問題となっている.MPSの薬剤毒性による角膜ステイニング(図1)は,コンタクトレンズとMPSの組み合わせにより発生頻度は異なり,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに比較的特徴的な所見として報告されている1,2).多くは“深度の浅いSPK(点状表層角膜症)”として,装用1~4時間後に最も顕著となり,装用6時間後には軽減もしくは消失する1,2).MPSに含まれる消毒成分が原因と考えられている.現在,MPSに配合されている消毒成分は,塩酸ポリヘキサニド(PHMB)もしくは塩化ポリドロニウムのいずれかであるが,PHMBを消毒成分として含むMPSのほうが,角膜ステイニングの発生リスクが高い2~4).しかし,その一方で,同じ消毒成分,同じ濃度であっても,角膜ステイニングの発生頻度は製品により異なり1,2),消毒成分以外の界面活性剤,緩衝剤,キレート(65)剤などの成分も影響している可能性が大きい.また,同じコンタクトレンズと消毒剤の組み合わせでも角膜ステイニングの発生に個人差がみられ,個々の眼表面の状態も角膜ステイニングの発生に影響していると考えられる.2.シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用者における角膜ステイニングの発生シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとPHMBを消毒剤として含むMPSとの組み合わせで角膜ステイニングの発現率が高いことが国内外で報告されている1,3,5).ただし,MPSによる角膜ステイニングはシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用者のみにみられる所見ではなく,実は従来素材のハイドロゲルコンタクトレンズにおいても観察される所見である5,6).筆者糸井素純道玄坂糸井眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純図1PHMBを含むマルチパーパスソリューションを使用しているシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用にみられた角膜ステイニング表1日本版ステイニンググリッド生理食塩水AOセプトコンセプトワンステップオプティ・フリープラスオプティ・フリーレニューマルチプラスコンプリート10minロートCキューブソフトワンモイストエピカコールドフレッシュルックケア10minO2オプティクス0.70.70.51.51.96.15.35.71.94.8アキュビューアドバンス0.40.60.90.50.86.65.67.33.25.5アキュビューオアシス0.70.50.62.03.93.42.73.71.73.7消毒成分─過酸化水素ポリクォッド(塩化ポリドロニウム)PHMB(塩酸ポリヘキサニド系)(http://www.staininggrid.jpより転載)———————————————————————-Page266あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(00)はホームページ(http://www.staininggrid.jp)上で日本版ステイニンググリッドとして日本で発売されているシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ3種と消毒剤9種の組み合わせによる角膜ステイニングの発生率を公開している(表1).また,Andraskoらはホームページ(http://www.staininggrid.com)上でstaininggridとしてシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズだけではなく,ハイドロゲルコンタクトレンズ(Acuvue2,pro-clear,Soens66)についても,MPSの組み合わせによる角膜ステイニングの発生率を公開している(表2).文献1)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.EyeContactLens31:166-174,20052)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤の相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20053)JonesL,MacDougallN,SorbaraLG:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbalalconsilicone-hydrogelcontactlensesdisinfectedwithapolyminopropylbiguanide-preservedcareregimen.OptomVisSci79:753-761,20024)AndraskoGJ,RyenKA:EvaluationofMPSandsiliconehydrogellenscombinations.ReviewofCornea&ContactLenses:36-42,20075)BegleyCG,EdringtonTB,ChalmersR:Eectoflenscaresystemsoncornealuoresceinstainingandsubjectivecomfortinhydrogellenswearers.IntContactLinsClin21:7-13,19946)PritchardN,YoungG,ColemanSetal:Subjectiveandobjectivemeasuresofcornealstainingrelatedtomultipur-posecaresystems.ContLensAntEye26:3-9,2003表2Andraskoらがホームページで公開しているstaininggridBrandedSolutionsPrivateLabelSolutionsUnisolSalineClearCareOpti-freeExpressOpti-freeReplenishRenuMultiplusRenuMultipurposCompleteMPSEasyRubAquifyWalmartMPS(RenuM+)TargetMPS(RenuM+)CVSMPS(RenuM+)WalgreenMPS(RenuM+)Acuvue21%1%2%5%1%1%1%1%1%1%1%1%Proclear1%1%1%2%57%23%6%12%61%54%53%42%Soens661%1%1%1%73%32%17%8%66%62%63%56%AcuvueAdvance1%1%1%1%13%4%12%2%16%13%12%12%AcuvueOasys2%1%3%5%9%5%4%3%12%8%13%10%Bionity2%2%3%2%4%2%2%2%4%3%3%2%Purevision2%1%4%7%73%43%15%21%71%76%NoTestingPlannedNoTestingPlannedO2Optix2%1%2%5%24%7%3%3%41%28%28%24%Night&Day2%1%2%3%24%11%1%3%36%24%26%22%Updated:2008/8/25SalineH2O2POLYQUADBiguanides(http://www.staininggrid.comより転載)HydrogelSiliconeHydrogel

写真:生体共焦点顕微鏡を用いた前眼部観察:角膜実質変性症

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009630910-1810/09/\100/頁/JCLS(63)小林顕金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦296.生体共焦点顕微鏡を用いた前眼部観察:角膜実質変性症図2図1のシェーマ①:辺縁不整な高輝度陰影.←図1アベリノ角膜ジストロフィ(TGFBI遺伝子R124H)の生体共焦点顕微鏡所見角膜実質の病的沈着物に対応した,さまざまな大きさの辺縁不整な高輝度陰影が散在して認められる.画像サイズ400×400μm.図3格子状角膜ジストロフィ(TGFBIR124C)の生体共焦点顕微鏡所見角膜実質浅層・中層に枝分かれした線状・糸状・サンゴ礁様の高輝度陰影が認められた.画像サイズ400×400μm.図4斑状角膜ジストロフィ(CHST6A217T)の生体共焦点顕微鏡所見角膜実質は均一に高輝度を呈しており,低輝度のストリエ様陰影も同時に認めた.画像サイズ400×400μm.———————————————————————-Page264あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(00)近年,レーザーを光源とする生体共焦点角膜顕微鏡(HRTIIロストック角膜モジュール,ハイデルベルグ社,ドイツ)が開発され,従来の白色光源の生体共焦点顕微鏡に比較して,より高解像度の角膜・結膜の生体画像が得られるようになった.本装置を用いて角膜実質ジストロフィを観察すると,従来の病理組織標本に対応する特徴的な所見を,生体においてリアルタイムに得ることができる(invivobiopsy)(図1,3,4)1).さらに,本装置による検査はくり返し施行できるので,角膜実質ジストロフィの自然経過や角膜移植後の再発の有無の判定などにも有用である.1.アベリノ角膜ジストロフィ(図1)アベリノ角膜ジストロフィは,顆粒状角膜ジストロフィと格子状角膜ジストロフィの両者の特徴を有する遺伝性疾患として1992年に提唱された.角膜上皮下から実質中層における,灰白色調の輪状もしくは顆粒状の混濁を主体とするが,線状,星状,コンペイトウ状の混濁も混在するなど,多彩な角膜実質病変を呈する2).この常染色体優性の角膜ジストロフィはTGFBI遺伝子のR124H変異によって生じる.生体レーザー共焦点顕微鏡では,病的沈着物に対応したさまざまな大きさの辺縁不整な高輝度陰影が実質に散在して認められる(図1,2)1).2.格子状角膜ジストロフィ格子状角膜ジストロフィは角膜実質に半透明の線状または糸状の混濁が生じる遺伝性疾患であり,原因遺伝子の違いによりいくつかのサブタイプが知られている.格子状角膜ジストロフィの多くはⅠ型であり,TGFBI遺伝子のR124C変異が原因とされている3).レーザー共焦点顕微鏡では,実質浅層・中層に枝分かれした線状・糸状・サンゴ礁様の高輝度陰影が認められ,病理組織所見との対応が確認された(図3)1).3.斑状角膜ジストロフィ斑状角膜ジストロフィは常染色体劣性の遺伝性疾患であり,角膜実質全層の多発性斑状混濁とびまん性混濁を特徴とする疾患である.硫酸転移酵素(carbohydratesulfotransferase6:CHST6)の遺伝子変異により生じる4).レーザー共焦点顕微鏡では,実質は均一に高輝度を呈しており,低輝度のストリエ様陰影を同時に認める(図4)1).文献1)KobayashiA,FujikiK,FujimakiTetal:Invivolaserconfocalmicroscopicndingsofcornealstromaldystro-phies.ArchOphthalmol125:1168-1173,20072)KonishiM,YamadaM,NakamuraYetal:Variedappear-anceofcornealdystrophyassociatedwithR124Hmuta-tionintheBIGH3gene.Cornea18:424-429,19993)HottaY,FujikiK,OnoKetal:Arg124Cysmutationofthebig-h3geneinaJapanesefamilywithlatticecornealdystrophytypeI.JpnJOphthalmol42:450-455,19984)AkamaTO,NishidaK,NakayamaJetal:Macularcorne-aldystrophytypeIandtypeIIarecausedbydistinctmutationsinanewsulphotransferasegene.NatGenet26:237-241,2000

Value-based Medicine(VBM)

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———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS時期に白内障を指摘されたとする(図1の赤点).もしこの人が白内障の手術を受けなければ,視力は低下し続け,それに従いQOLも低下し,そのまま死に至ると考えられる(実線).しかし,ここで,白内障手術を受けた場合,その後視力が改善することでQOLは上昇するであろう.そして,QOLはゆるやかに低下しながら死に至る(図1の点線).このようなケースの場合,白内障手術がこの人に与えたvalueというのは図1の水色の部分である.この水色の部分とは,まさにQOL×持続期間といえる.Valueとは言うなれば,QOLの質と量を掛け合わせたものである.はじめに近年evidence-basedmedicine(EBM)をもう一歩進化させた概念としてvalue-basedmedicine(VBM)という考え方が提唱されている1).従来のEBMが最も正確で再現性のある医学的事実に基づく医療とすれば,VBMは治療によって患者自身が受けとめる結果としての価値(=value)に基づく医療といえる.つまり,予防や治療によって得ることができる全体価値(=utility:効用)によって医療結果を評価しようという試みである.同時にその結果を得るのに必要なコストも含めて検討することで,より効率のよい医療を行うという目的がある.従来の医療アウトカム評価に医療経済学的な考えを取り込んだ概念であり,医師でありながらMBA(経営学修士)を取得している欧米の医師が率先して取り組んでいる.本稿では,VBMについて概説する.IValueとは1.Valueとはどのように定義されるかVBMではvalue=qualityoflife(QOL)×持続期間と定義する.図1はある一人の人間の一生を示したものである.X軸を生存年数(若年期・中年期・高年期・死亡),Y軸をQOLとする.人間の一生は,その時々でQOLが変化する.若いときは健康で生活に何の支障もないが,年を経るに従ってなんらかの疾患に罹患することもあろう.QOLは徐々に低下し,最終的に死に至る(図1の実線).このような一生において,高年期のある(57)57YosimuneiratsuaoiciOno136-00753-3-20特集●わかりやすい眼科疫学あたらしい眼科26(1):5762,2009Value-BasedMedicine(VBM)Value-BasedMedicine平塚義宗*小野浩一*一生の分年年生存年年手術治療によって得られる生存年図1治療によって得られるvalueある一人の一生において,白内障の手術がその人に与えたvalue(QOL増加分).———————————————————————-Page258あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(58)度の指標では,眼科疾患間でのQOL評価の比較はできるが,眼科以外の多くの疾患間での比較ができない.3.効用とQALYsVBMで適用されるQOL指標は「効用」とよばれる.効用とは医療サービスを受けることによって得られる総合的な満足度を示した指標である.その値を効用値といい,健康状態を数値化したものである(図3).効用は,健康状態を死=0から完璧な健康=1の間の数値で表現する.そして,効用値0.6で10年間生きることは健康な状態(効用値1.0)で6年間生きることと同じ価値があると評価する.視覚関連のQOL評価法が,見づらさのため手助けを必要としているか,気まずい思いをするか,などとあらかじめ決められた問いに対する回答でQOLを評価しようする一方で,効用はその人自身が考えるあらゆる都合・不都合を総合して包括的に判断してもらうという考え方である.効用値の測定は患者の選好に基づいて行われる.選好とは「現在の健康状態」と「より良い健康状態になるために〈何か〉を失う」のは「どちらが良いか」という判断である.患者自身の価値観で重みづけをしたQOLともいえる.この失われる〈何か〉としては人生時間,金銭,死亡しない確率などが用いられるが,最も一般的な方法では人生時間,つまり寿命の短縮が採用され,これを時間得失法(time-tradeomethod:TTO)という(図4).生存期間と引き替えにQOLを入手可能である2.QOLはどのように定義されるかではQOLはどのように定義されるか.QOLは多様素性をもった主観であり,検査値や臨床所見などわれわれ医師の視点ではなく,患者の視点に立脚した評価が必要とされる.しかし,そもそもQOLを測って数値化することなど可能なのだろうか.1970年頃から患者立脚型アウトカム評価法というQOLを測定(measure)しようというさまざまな試みが行われてきた.そして,これまでに計量心理学的な手順を用いた多くの評価法が開発されてきた.SF36(MedicalOutcomeStudy-ShortForm36)やSIP(SicknessImpactProle)を代表とした一般健康像を対象としたものと,疾病や専門領域ごとの疾患特異尺度が存在する.視覚に特化したQOL測定法としてはVFQ-25(theNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionna-ire,25-item)2)やVF-14(VisualFunction14)3)があり,それぞれ25と14の質問に回答することで視覚的なQOLの数値化を行うものである.図2にVFQ-25の実際の質問例を示す.これらは日常生活に密着した視覚に関連する質問(たとえば,近くが見えるか,階段が下りにくくないか,車の運転は大丈夫かなど)に対する困難度を回答することで,その人のQOLを測定するという試みである.それぞれ優れた方法であり,これまで多くのQOL研究が行われている.しかし,この疾患特異尺効用値utilityvalue「効用値0.6で10年間生きる」「健康な状態で6年間生きる」という考え方死0完璧な健康1健康状態を数値で表したもの生存期間短縮と引き替えにQOLが手に入るQOL寿命図3効用値(utilityvalue)効用値は,生存期間と引き替えにQOLを入手可能であるという,生存期間とQOLを天秤にかけた考え方に基づいている.VFQ-25の質問例現在,あなたの両眼での「ものの見え方」は,どうですか?眼鏡(やコンタクトレンズ)を使っているときのことをお答えください.─最高によい・良い・あまり良くない・良くない・とても良くない・まったく見えないものが見えにくいために,道路標識や商店の看板の文字を読むのは,どれくらい難しいですか.─まったく難しくない・あまり難しくない・難しい・とても難しい・みえにくいのでするのをやめた・別の理由でするのをやめた,または,もともとしないものが見えにくいために,誰かの手助けを必要とすることが多い.─まったくそのとおり・ほぼあてはまる・何とも言えない・ほとんどあてはまらない・ぜんぜんあてはまらない….図2VFQ-25の質問例このような質問を25問行うことでQOLを評価する.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200959(59)うことであり,このQALYsという切り口で医療を考え直してみようという考え方がVBMの本質である.QALYsを用いることで従来の治療の評価にQOLを加味して考えることができる.たとえば,ここに白血病で余命12カ月の患者が存在する.治療なしであと1年間生存する場合のQALYsを1とする.ここでまずEBMの観点から化学療法を行うことで2カ月寿命を延長できると仮定する.この場合,2カ月の延命により生存期間が0.17年(2/12)延びるので得られるQALYsはという,生存期間とQOLを天秤にかけた考え方に基づいている(図3).このTTOを多くの人に行うことで,さまざまな健康状態の効用値が浮かび上がってくる.表1にその例を示すが,良いほうの眼の矯正視力が0.1の状態は,軽度の狭心症よりも効用値が低いというような比較が可能となる1).現在,EQ5D(TheEuroQol5Dimensions)やHUI(HealthUtilityIndex)といった簡便に効用値を得るための,事前に点数化された質問票も開発されている.この効用値に生存年数を掛け合わせたものを質調整生存年(qualityadjustedlifeyears:QALYs)という(図5).QALYs=効用値×生存年数であり,これは前述のvalue=QOL×持続期間と同じものといえる(図1).すなわちVBMにおけるvalueとはそのままQALYsとい表1さまざまな健康状態の効用値健康状態効用値(TTO)備考完璧な健康1.00不整脈0.99Arterialbrillation(useofwarfarin)乳癌初期0.94狭心症0.88Mild心筋梗塞0.80Moderate前立腺癌(軽度)0.72Nosymptoms視力0.10.66LegalblindnessinU.S.潰瘍性大腸炎0.58Preoperative透析0.57心筋梗塞(重度)0.30Severe脳梗塞0.30Major死0.00効用値を利用することでさまざまな健康状態を比較できる.(BrownMM.Evidence-BasedtoValue-BasedMedicineから抜粋)治療によって得ることができる全体の価値QALYs(Qualityadjustedlifeyears)QOLの共通通貨QOLを考慮した生存年(質調整生存年)効用値生存年数ある治療によって効用値がどれだけ上昇し,しかもそれを何年間持続できるか図5QALYs(質調整生存年)とはQALYsはQOLの共通通貨のようなものであり,効用値×生存年数である.TimeTradeO?法(TTO)A:今の健康状態のまま,あと20年間生きることができます.B:健康状態にまったく支障がなくなりますが,あと(20,18,…)年しか生きることができません.・あなたの現在の健康状態について考えてみてください.今の健康状態において次のどちらかを選択しなければなりません.・B→A効用値=()/20その人自身が考えるあらゆる都合・不都合を総合して包括的に判断してもらうという考え方図4Timetradeo法(TTO)時間得失法(TTO)の質問例.手術の費用効用分析Input作業負荷時間材料費・経費教育・機会費用OutputQALYs手術CostUtilityQALYsという単一のQOLの指標をアウトカムとして費用対効果を考える図6手術の費用効用分析1手術に投入したコストが結果的にどれだけの成果(効用)をもたらすかを研究する方法で,コストは金銭価値,アウトプットは「QALYs」で評価される.QALYsという単一のQOLの指標をアウトカムとした費用対効果分析.———————————————————————-Page460あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(60)トカム評価」という.医療のアウトカムには3つの視点がある.医師による視点,患者(個人)による視点,社会による視点である(表2).医師の視点によるアウトカムの評価基準は,形態学的に治った・治らない,機能的に改善した・しないであり,その指標は死亡率減少,5年生存率改善や視機能の改善である.一方で,患者の視点によるアウトカムの評価基準は,日常生活機能・QOLは改善したかであり,指標として前述した患者立脚型アウトカム評価や効用が存在する.社会の視点によるアウトカムの評価基準は,社会全体の厚生は改善したのか,社会としてのコストはどうか,医療の効率性を示す費用対効果はどうかなどであり,その指標は金銭価値で示されることが多い.従来のアウトカムはわれわれ医師が考えるアウトカムであった(といっても過言ではない).視力が改善したのだからよい,網膜が復位したのだから成功,黄斑浮腫の丈が減ったのだから効果ありました.筆者を含め多くの眼科医師がそう考えてきた.しかし成熟した社会となりつつある日本を含めた多くの先進国において,現在,求められている視点は,患者による視点と,社会による視点である.VBMはこれらの視点に立脚している.米国立衛生研究所(NIH)は臨床研究を効率的に進めるためにPROMIS(PatientReportedOutcomesMea-surementInformationSystem)という患者立脚型アウトカム評価のネットワークを2004年に立ち上げた.2008年7月にFDA(米国連邦食品医薬品局)は1+1×0.17=1.17QALYsということになる.つぎに,VBM的な観点から考えてみる.たとえば,化学療法中の患者のQOLが嘔吐や脱毛,倦怠感などの副作用が強いために低く,効用値0.7であったとする.この場合得られるQALYsは0.7×(1+0.17)=0.82であり,これは治療を行わない場合のQALYs1よりも低い値となる.つまり,患者のQOLを考慮した場合,化学療法を行うことは必ずしも最善の治療であるとはいえないということになる.QALYsはQOLの共通通貨のようなものであり,QALYsを基準とすることで,さまざまな医療のvalueを比較することが可能となる.IIVBMで何が可能か1.アウトカム評価医師が行う医療行為の評価はむずかしい.われわれ医師からすると,これだけのスキルで,ここまで労力と時間をかけて行った治療であるから,その価値は相当なものだと思いたくもなるし,実際,多大なコストを費やして行っている診療の価値は高いのだと考えたくなる.しかし,この考え方はいわゆる古典派経済学の基本思想である労働価値説(商品の価値は労働時間で決まる)であり,もはやそんなことを言う人は誰もいない.商品の価値は,それを利用することで得られる結果としての「効用」で決まる.医療においては「結果(アウトカム)は?」という視点である.医療行為をアウトカムで評価することを「医療のアウ表2アウトカムの3つの視点アウトカム評価基準例医師ベースPhysician-basedoutcomes客観指標形態学的異常治った/治らない機能的異常改善した/しない死亡率減少5年生存率改善関節可動域改善視機能改善患者ベースPatient-basedoutcomes症状QOL効用見えにくさ,痛み日常生活機能への影響価値づけしたQOL症状スケール,視機能改善SF-36VFQ-25,VF-14EQ5D,HUI,SF-6D社会ベースSociety-basedoutcomes便益生産性医療資源消費費用対効果病休,生産性医療費$,\/QALYS医師ベース,患者ベース,社会ベースの3つで考える.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,200961(61)PROMISの結果は,新しい医療製品や治療の評価において,とても意義高い評価法であると表明した.今後,医療のアウトカム評価はますます発展していくと思われる.2.費用対効果医療資源の効率的な活用において,避けて通れない考え方が費用対効果である.投入されたコスト(金銭価値)が結果としてどの程度のリターンを生むのか,少ないコストで最大のリターンを得るのがベストであるという考え方である.医療における費用対効果分析は大きく4つ方法が存在するが,そのなかで多くの領域における障害間や治療間での費用対効果の比較が可能なのが費用効用分析(cost-utilityanalysis:CUA)である(表3).CUAでは,コストは金銭価値,効果は「QALYs」で評価される(図6).そして,QALYを1単位得るのに必要なコストを検討する.したがって,この値が低ければ低いほど,同じ1単位のQOLを低コストで得ることができる効率的な治療ということになる(図7).1990年代後半から,欧米を中心にCUAが多く行われるようになった.その40%は医薬品のCUAであるが,手術に関しても多くの研究が行われてきている.たとえば,未熟児網膜症に対する光凝固は$783,1型糖尿病網膜症硝子体出血に対する硝子体手術は$2,098という結果がある.これらは,若い患者群が対象であるため生存年数が長く,得られるQALYも高い.結果,費用対効果が高くなる.一般に$20,000/QALY以下であ表3医療の費用対効果分析Cost/Outcome・ReturnCost(費用)Outcome(結果)評価の基準・特徴費用最小化分析Costminimizationanalysis$貨幣価値円・$なし(結果は同等と仮定する)結果がほぼ同等の場合に適用費用が最小の代替案を選択費用便益分析Costbenetanalysis$貨幣価値円・$$貨幣価値円・$結果を貨幣に変換し表現する便益が費用を上回るか費用効果分析Costeectivenessanalysis$貨幣価値円・$目的となる特定の健康状態改善(数量化)(生存年延長,罹患率減少,合併症低下率,HbA1C正常化率など)最も一般的特定の結果に対して費用効果比の高いものを適用費用効用分析Costutilityanalysis$貨幣価値円・$QALYs質を考慮した健康状態改善(数量化)QALYsを共通通貨として多くの治療間で比較可能$/QALYsが低いものを適用広義の費用対効果分析には4種類ある.=費用効用分析Cost-UtilityAnalysis手術をとりまくコスト得られるQALYs1QALYを得るために必要なコスト単位$/QALY,¥/QALYこの値が小さいほど効率的な治療といえる図7手術の費用効用分析2QALYを1単位得るのにいくらかかるかを評価する.したがって,この値が低ければ低いほど,同じ1単位のQOLを低コストで得ることができる効率的な治療ということになる.白内障手術は,他の手術に比較しても,極端に費用対効果が高い1QALY当たりのコスト比較/QALYgainedconvertedtoyear2001or2002未熟児網膜症ーー783腸障害に対するロリ治療1,321型糖尿病網膜症硝子体出血硝子体手術2,098白内障手術(初回)2,155前再術6,500人内9,900動脈疾患アスリン内11,000動脈イパス12,000脳動脈クリッン12,000図8手術(治療)の1QALY当たりのコストの比較これらはすべて$20,000以下の費用対効果の高い手術(治療)である.なかでも白内障手術は極端に費用対効果が高いという報告がある.———————————————————————-Page662あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(62)うわけではない.実際,先述のNICEに関しては,導入の閾値が低すぎるという意見や,フリーサイズのQALYsではなく個人の状態や年齢を考慮に入れてQALYsに重みづけすべきだという議論もあり,2009年2月に現在の基準を再検討する専門家検討会を開催することとなった.これらの指標を用いる際には,その値がすべての価値を示すのではなく,多くの情報のなかの一つの判断材料として用いる必要があろう.ただ,一方で,障害間での重症度の比較や,手術間での治療効率を比較する場合,現段階において,これ以外の方法が存在しないことも確かである.今後,少子超高齢化社会を迎え,成熟し成長が止まるとされる日本社会においては,このような考え方を少なくとも理解しておく必要があろう.また,医療費の問題に関しては,実は「誰が負担するのか」という根本的な問題がベースに存在し,その部分も同時に日本全体として煮詰めていかないかぎり,「会議は踊る,されど進まず」である.文献1)BrownMM,BrownGC,SharmaS:Evidence-BasedtoValue-BasedMedicine.AmericanMedicalAssociation.USA,20052)SteinbergEP,TielschJM,ScheinODetal:TheVF-14.Anindexoffunctionalimpairmentinpatientswithcata-ract.ArchOphthalmol112:630-638,19943)MangioneCM,LeePP,GutierrezPRetal:Developmentofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.ArchOphthalmol119:1050-1058,20014)BusbeeBG,BrownMM,BrownGCetal:Incrementalcost-eectivenessofinitialcataractsurgery.Ophthalmolo-gy109:606-612,20025)PearsonSD,RawlinsMD:Quality,innovation,andvalueformoney:NICEandtheBritishNationalHealthService.JAMA294:2618-2622,2005れば,魅力的であり,きわめて費用対効果の高い手術であるといわれ,眼科手術や治療の多くがこのなかにはいる.白内障手術のCUA値は$2,155/QALYであり4),これは他の多くの手術と比較しても,極端に費用対効果の高い手術となっている(図8).IIIVBMは実際にどう利用されているか医療資源配分における効率を考える費用対効果分析は実際どのように利用されているか.すでに,ヨーロッパ諸国を中心に,医薬品の公的保険支払い対象導入時に費用対効果分析の結果提出が義務付けられ始めている.1993年にオーストラリアで始まり,1994年にカナダ,1999年にオランダとイギリスで導入されている.なかでも現在,特に話題になっているのが,イギリスのNationalInstituteofClinicalExcellence:NICEである.NICEはイギリスの国営医療制度NHS(NationalHealthService)の一部であり,その運用に対して国家的指針を与える独立組織である.NICEは国民の税金で成り立つ国営医療制度の対象として新しいテクノロジーの導入をする際に費用対効果を考慮している.一般に,その費用対効果が$30,600$45,900/QALYを導入の閾値としており5),抗癌剤やAlzheimer病の治療薬をNHSは負担しないとした問題は,社会的な論争となっている.IVVBMの問題点と課題QALYsという指標は,その考え方のなかに,改善しにくい疾患や,平均余命の短い高齢者を冷遇している点がある.また,重症の人が1QALY健康になることと,健康な人が1QALYより健康になることは同じであるとしてよいかという問題もある.このような方法論は,生命価値を金銭価値に置き換えるという側面があるので,倫理的に受け入れられにくい.いまだ完成されたものとはいえず,世界中で受け入れられている考え方とい

Clinical Trial:JATスタディ

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS間とし,12カ月間の経過観察を行った.症例数は中心窩下に脈絡膜新生血管(CNV)を有する加齢黄斑変性患者64例で,両眼に加齢黄斑変性を発症しているものに対しては片眼を対象とした.投与方法は,まずベルテポルフィンを1体表面積当たり6mgで計算し投与量を決める.10分間かけて静脈内投与し,投与開始から15分後に波長689±3nmで光照射エネルギー量50J/cm2(照射出力600mW/cm2で83秒間)を治療スポットに照射する.ベルテポルフィンによるPDTの作用機序をつぎに示す.静脈内に投与されたベルテポルフィンが血漿中の低比重リポ蛋白(LDL)に移行する.新生血管内の内皮細胞組織ではLDLの取り込みが増加しており,LDLに移行したベルテポルフィンがCNVに集積する.熱を伴わないレーザー光を黄斑部病変に照射すると,CNVに集積したベルテポルフィンが活性化され,細胞障害性の強い一重項酸素などが生成される.一重項酸素などがCNVの構造的,機能的障害を起こし,障害された血管内皮からはリポキシゲナーゼやシクロオキシゲナーゼ経路を介して凝固促進因子が生成され,血小板凝集,血栓形成,血管収縮を誘発しCNVを選択的に閉鎖する.観察時期は,ベースラインおよび治療1週間後,3カ月,6カ月,9カ月,12カ月後とした.また,初回治療後12カ月間の経過観察中,3カ月ごとに蛍光眼底造影を施行し,CNVからのフルオレセインの漏出が認められた際は,再度PDTを施行した.はじめにJapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(以下,JATスタディ)は,2000年5月から始まった加齢黄斑変性患者に対する光感受性物質ベルテポルフィンによる光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)の有効性と安全性を評価するために,国内で実施された第Ⅲ相試験である.ベルテポルフィンは加齢黄斑変性の中心窩下脈絡膜新生血管による深刻な視覚喪失のリスクを軽減するとされている.欧米では1998年からTreat-mentofAge-relatedMacularDegenerationwithPho-todynamicTherapy(TAP)Studyが行われ1,2),ベルテポルフィンによるPDTが承認された.日本では,2000年になって臨床への適応のために,TAPStudyに従いJATスタディが行われた.JATスタディでは全症例を治療対象としているのに対し,TAPStudyでは治療群と対照群に分けて比較検討している〔TAPStudyでは609例をPDT群と対照群が2:1(PDT群が402例,対照群が207例)になるように振り分けた〕点が相違点である.本稿では,JATスタディを中心に解説し,TAPStudyとの比較をし,2008年に発表されたPDTガイドラインについても触れていくことにする.IJATスタディの概略JATスタディは国内5施設にて行われた他施設オープン試験で,2000年5月から12月までをエントリー期(51)51aaiainiaaiti::522192特集●わかりやすい眼科疫学あたらしい眼科26(1):5155,2009ClinicalTrial:JATスタディClinicalTrial:JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial柿木雅志*大路正人*———————————————————————-Page252あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(52)疑わしいものが1例(2%),認められなかったものが12例(19%),分類不能が1例(2%)であった.病変の大きさはMacularPhotocoagulationStudyグループによって定められた病変サイズの単位(MPSDA)で,3MPSDA未満が36例56%,3以上6MPSDA未満が21例(33%),9MPSDA以上が1例(2%),分類不能が2例(3%)であった.病変の最大直径(greatestlin-eardimension:GLD)は平均3,228.5μmであった.III結果12カ月間経過観察できた症例は64例中61例(95%)であった.1.最高矯正視力最高矯正視力の平均視力はベースライン時の50.8文字から12カ月後に53.8文字に増加していた.最高矯正視力の中間値では,ベースライン時の50.0文字から12カ月後では56.5文字に増加していた.PDT治療1週間後に文字数の増加がみられ,12カ月間維持していた(図1).TAPStudyでは,12カ月でベースラインからの最高矯正視力の平均視力の低下はPDT群が11.2文字,対照群が17.4文字であった.24カ月ではPDT群13.4文字,対照群で19.6文字の低下を示していた(図2).JATスタディでは視力の改善を認めていた.一方,主要な評価項目はつぎに示すとおりである.①最高矯正視力による視力の変化をEarlyTreat-mentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)チャートを用いて測定し,最高矯正視力のベースラインからの平均変化を求め,観察時期ごとに視力の平均,中央値,標準偏差,最小値,最大値を集計する.②PhotographReadingCenterの評定システムに従い,対象眼のclassicCNVおよびoccultCNVの割合を求め,観察時期ごとに集計する.③PhotographReadingCenterの評定システムに従ったCNV病変サイズの推移.II患者背景とベースライン特性64例の内訳は男性45例(70.3%),女性19例(29.7%)で平均年齢70歳.喫煙者の割合は45例(70%)であった.視力の平均はETDRSチャートで50.8文字(少数視力で約0.2).CNVの位置は,中心窩下にあるものが46例(71.9%),中心窩下の可能性があるものが11例(17.2%),中心窩下以外が6例(9.4%),分類不能が1例(1.6%)であった.全病変におけるclassicCNVの割合は,50%以上を占めるものが16例(25%),50%以下が34例(53%),classicCNVの存在が疑わしいものが5例(8%),認められなかったものが9例(14%)であった.OccultCNVが認められたものは50例(78%),(文字数)60(20/64)(20/80)50.850.054.056.553.852.6(20/100)(20/125)555045視力の平均値および中間値ベースライン1週3カ月フォローアップ期間6カ月9カ月12カ月:平均値:中間値図1JAT研究にみる視力の推移〔JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(AJO,2003),p.1053,Figure1より改変〕13.412.81312.611.29.58.75.8019.619.217.818.317.415.513.19.7272421181512963003691215182124:ベルテポルフィン(n402):対照(n207)p0.001*(文字数)ベースラインからの視力変化フローップ期間(月)図2TAPStudyにみる視力の推移*:24カ月後の治療群間の共分散分析による有意差検定.検定は補正した平均値について実施(図は補正していない平均値を表示).(ノバルティス株式会社社内資料より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200953(53)ベースラインで36例(56%)であったが,治療後6カ月では39例(61%),12カ月で41例(64%)であり,経過観察期間中CNV病変サイズの縮小効果が認められた(図3).TAPStudyではCNV病変サイズが3MPSDA以下であった症例数はベースラインでPDT群140例(35%),対照群68例(33%)であったが,12カ月でPDT群では15%,対照群では5%,24カ月ではPDT群で12%,対照群で5%であった.PDT群は対照群に対し,CNV病変サイズの増大を抑制していた.IV副作用経過観察した64例のうち,副作用を認めたのは27例(42.2%)で治療と関係があると考えられた副作用発現件数は59件であった.全身性の副作用で重篤なものは,心筋梗塞1例(2%),脳梗塞1例(2%),大動脈瘤1例(2%)であった.対照眼の副作用のうちおもなものは,網膜下出血1例(2%),変視症や霧視などの視覚異常3例(5%),眼痛2例(3%),重篤な視力低下2例(3%)であった.死亡例はなかった.TAPStudyでは対照群との比較において視力低下に対する抑制効果が認められていた.最高矯正視力の検討では,欧米人に比べ,日本人にはPDTが効果的であった.2.治療回数PDT初回治療から9カ月後までに受けた治療回数の平均は2.8回であった.3.病変サイズの変化経過観察期間中classicCNVの進展が認められた症例は治療後1週間で1例(2%),3カ月で9例(14%),6カ月で13例(20%),9カ月で12例(19%),12カ月で12例(19%)であった.CNVの進展が認められた症例の割合は治療6カ月後からはほぼ安定しており,classicCNVの進展に対する抑制効果が認められた.4.CNV閉塞効果CNV閉鎖グレードの推移において,classicCNVではベースラインで55例(86%)に蛍光漏出を認めたが,治療後に蛍光漏出を認めないものが6カ月後で30例(47%),12カ月後で32例(50%)であった.OccultCNVではベースラインで51例(79.7%)に蛍光漏出を認めたが,治療後に蛍光漏出を認めないものが6カ月後で38例(59%),12カ月後で49例(77%)であった.日本人に対するPDTではclassicCNVおよび,occultCNVの完全閉塞症例の増加を認めていた.TAPStudyでは,classicCNVで24カ月後に進展を認めたものが,PDT群で93例(23%),対照群で111例(53.6%).完全閉塞したものが,PDT群で206例(51%),対照群で59例(29%)であった.また,occultCNVで24カ月後に進展を認めたものが,PDT群で149例(37%),対照群で105例(51%).完全閉塞したものが,PDT群で196例(49%),対照群で84例(41%)であった.西欧人における検討でもclassicCNVおよびoccultCNVでの検討で,PDT群は対照群に比べて有意にCNV閉塞効果が認められていた.5.CNV病変サイズCNV病変サイズが3MPSDA以下であった症例数はベースライン患者の比(%)6カ月12カ月70605040302010056336236125923642862n=36n=21n=4n=1n=2n=38n=16n=6n=1n=2n=41n=18n=3n=1n=12:<3MPSDA:>3to<6MPSDA:>6to<9MPSDA:>9MPSDA:分類不能図3JATスタディにみるCNV病変サイズの変化〔JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(AJO,2003),p.1057,Figure5より改変〕———————————————————————-Page454あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(54)24カ月では2.2回であった.日本人に対するPDT施行回数は12カ月から24カ月にかけては,欧米人と比べて少なくなっていることは興味深いことである.VIPDTガイドライン欧米においてはすでに2002年にCNVを伴う加齢黄斑変性に対するベルテポルフィン療法ガイドラインが公表され4),2005年に改訂されている5).わが国ではJATスタディによりPDTの安全性と有効性が示され,2004年からは加齢黄斑変性の治療として多施設で開始された.さまざまな検討から,日本人の加齢黄斑変性にはポリープ状脈絡膜血管症(PCV)が多いことがわかってきたが,欧米のガイドラインではPCVは考慮されていなVExtendStudy2008年に,JATStudyGroupから,追跡調査の結果が発表された3).JATスタディで対象となった64例中,24カ月後まで経過観察が可能であった症例数は46例(90%)であった.ベースラインの視力は50.8文字であったが,24カ月では54.0文字で,最高矯正視力の改善を認めている.12カ月間経過観察できた51例におけるPDT施行回数は平均3.0回であったが,24カ月間経過観察できた46例における12カ月から24カ月の間のPDTの施行回数は0.9回となっている.一方,TAPStudyでは最初の12カ月では3.4回であったのに対し,12カ月から0.180.190.180.20.180.140.150.150.130.130.130.120.110.110.120.010.11ベースライン3カ月6カ月9カ月12カ月:OccultwithnoclassicCNV:PredominantlyclassicCNV:MinimallyclassicCNV少数視力図5PDTガイドラインによる平均視力の推移〔GuidelinesforPDTinJapan(Ophthalmology,2008),p.585e2,Figure1より改変〕:PCVあり:PCVなし1.00.10.01小数視力ベースライン3カ月6カ月9カ月12カ月0.150.140.170.140.180.140.180.140.190.14p=0.045p=0.015p=0.026p=0.004図6PCV所見の有無による平均視力の推移〔GuidelinesforPDTinJapan(Ophthalmology,2008),p585e2,Figure1より改変〕病変タイプ1,800μm以下1,8005,400μm5,400μm0.5よりも0.1以上0.5以下0.1未満病変サイズ(GLD)視力中心窩下PredominantlyclassicCNV,minimallyclassicCNVoroccultwithnoclassicCNVなしあり病変の位置PCVPDTを強く推PDTを推タリング図4PDTガイドライン〔GuidelinesforPDTinJapan(Ophthalmo-logy,2008),p.585e6,Figure7より改変〕———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,200955(55)2)TreatmentofAge-relatedMacularDegenerationwithPhotodynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Photody-namictherapyofsubfovealchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegenerationwithverteporn.Two-yearresultsof2randomizedclinicaltrials─TAPreport2.ArchOphthalmol119:198-207,20013)JapaneseAge-RelatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup:PhotodynamictherapywithverteporninJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovasculariza-tionsecondarytoage-relatedmaculardegeneration(AMD):resultsoftheJapaneseAMDTrial(JAT)exten-sion.JpnJOphthalmol52:99-107,20084)VertepornRoundtable2000and2001Participants,Treat-mentofAge-RelatedMacularDegenerationwithPhoto-dynamicTherapy(TAP)StudyGroupPrincipalInvestiga-tors,VerteporninPhotodynamicTherapy(VIP)StudyGroupPrincipalInvestigators:Guidelinesforusingverteporn(Visudyne)inphotodynamictherapytotreatchoroidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegenerationandothercauses.Retina22:6-18,20025)VertepornRoundtableParticipants:Guidelinesforusingverteporn(Visudyne)inphotodynamictherapyforchor-oidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegenerationandothercauses:update.Retina25:119-134,20056)TanoY:GuidelinesforPDTinJapan.Ophthalmology115:585-585.e6,2008い.そのため,日本眼科PDT研究会は,日本独自のガイドラインの作成を行うために国内13施設でベルテポルフィン市販後調査を行った.12カ月間経過観察を行えた469例471眼を対象とした膨大なデータの分析や詳しい検討をもとに,2008年になってわが国独自のPDTガイドラインが発表された6)(図4).471眼における病変タイプ別の視力維持効果では,occultwithnoclassicCNV,predominantlyclassicCNV,minimallyclassicCNV,すべての病変で12カ月間にわたって視力が維持されていた(図5).また,PCV症例ではベースラインと比べて,視力が改善しており,PCVのない症例に比べて視力が有意に改善していた(図6).今後,PDTガイドラインは,PDTをより安全で適切に施行するための指標となることであろう.文献1)TreatmentofAge-relatedMacularDegenerationwithPhotodynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Photody-namictherapyofsubfovealchoroidalneovascularizationinage-relatedmaculardegenerationwithverteporn.One-yearresultsof2randomizedclinicaltrials─TAPreport1.ArchOphthalmol117:1329-1345,1999