———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.6,20088230910-1810/08/\100/頁/JCLSサプリメントへの関心が高まっている.眼科領域では特に加齢黄斑変性に対して大規模前向き研究(AREDS)でサプリメントによる病状の進行抑制効果が証明されて以来,実際に臨床で使われることが多くなった.日本においてもボシュロム社,ロート製薬,ナチュメディカ社など数社がAREDSに基づいた内容のサプリメントの販売を始めており,患者からの問い合わせも増えているという.また一般に眼に良いとされるブルーベリーに含まれるアントシアニンなども,わかさ生活社の“ブルーベリーアイ”が市場で大きな反響をよぶなど,一般の関心も高くなっている.われわれ眼科医は今までおもに保険収載薬を中心に眼科診療を行ってきており,これらの薬剤については学ぶ機会も多い.一方,サプリメントについては概要は知っていても,詳細を学ぶチャンスが少なかった.しかしながらこれからの時代において,予防医学が重要視されることは明らかで,サプリメントについて正確な知識をもっていることが要求されてくるものと思われる.そこで今月号より“サプリメントサイエンスセミナー”として眼科医が知っておきたいサプリメントの基礎知識の講座を開設する.サプリメントとは?サプリメントは文字どおりに“補完食品”であり,ビタミンに加えて,必須微量ミネラル,ポリフェノールやカロテン類などの抗酸化物質,ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などの必須脂肪酸,ラクトフェリンなどの整腸因子など多岐のものが含まれる.基本的なビタミンばかりでなく,アスタキサンチンなどに代表される食品の中の機能成分は現在フードファクターとして注目を集めているが,これらを抽出しサプリメントとして使われることも多くなっているのが,現在のサプリメントの大きな流れともいえる.これらのサプリメントは加齢黄斑変性など特定の疾患の予防目的に使われることもあるが,一般的には全身の健康保持やアンチエイジング医学の一環として使われることが多い.アンチエイジング医学は加齢に焦点をあてた予防医学と考えられる.近年アンチエイジング医学が認められるようになってきた背景には,エイジングのメカニズムが少しづつではあるが解明され,信頼できる仮説が提唱されてきたことが大きい.エイジングの2大仮説といわれるものに“酸化ストレス仮説”と“メタボエイジング仮説”とがあり,サプリメントについてもこの2つの仮説のなかで考えていくと理解しやすい.酸化ストレス仮説とサプリメント加齢の酸化ストレス仮説とは“身体の構成成分である,蛋白質,脂質,核酸などが酸化されることが加齢をひき起こす”という仮説である(図1)1).身体機能の維持のためには酵素類が効率よく働く必要があるが,酵素などの機能蛋白が酸化されると機能を失う.また本来なら分解除去されるべき蛋白質が酸化されると分解ができなくなり,異常蛋白として蓄積してしまう.Alzheimer病におけるbアミロイドや,加齢黄斑変性におけるドルーゼン蛋白などはまさにこの例である.そこで酸化ストレスを軽減させるために,(1)抗酸化物質の摂取,(2)抗酸化酵素の活性化が重要となる.この目的のためにサプリとしてはビタミンA,C,Eを中心としたAREDSサプリメント,ルテイン,アスタキサンチン,アントシアニン,亜鉛や微量ミネラルなどが含まれる24).これらのサプリメントについては本セミナーのなかで順番に取(73)サプリメントサイエンスセミナー●連載①監修=坪田一男1.サプリメントはどのように考えるべきか坪田一男慶應義塾大学医学部眼科図1酸化ストレス仮説の概念図酸エイジング———————————————————————-Page2824あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008りあげていく予定である.メタボエイジング仮説とサプリメント現在,厚生労働省は国民の健康保持のために,メタボリックシンドロームをターゲットに大きなキャンペーンを展開している.メタボリックシンドロームは体脂肪が増え,血圧が上がり,耐糖能が悪化し,血中脂肪酸が増える.これにより癌の発生率は増え,糖尿病や高血圧などの生活習慣病の発生率が高まる.これはまさに加齢そのものといえる.そこでメタボリックシンドロームは加齢を促進する症候群ととらえることができる.これがメタボエイジングという仮説である.現在カロリーリストリクション(CR)といって摂取カロリーを6570%に減らすと寿命の延長がさまざまな動物でみられており,ヒトにおいてもCRの効果が証明されつつある5).CRのメカニズムについてはおもにインスリンIGF(インスリン様成長因子)シグナルの低下と,サーチュインの活性化であることがわかりつつあり,分子メカニズムからの対応ができるようになってきた(図2)6).これは逆に,メタボリックシンドロームはCRと逆方向のものということができる.メタボエイジングに対抗するためのサプリメントとしてはサーチュインを活性化するレスベラトロール,オメガ3脂肪酸,ラクトフェリン,糖吸収抑制ファイバーなどがある7,8).これらについても順に解説していく予定である.ビタミンにおける最低必要量と最適量ビタミンには最低限摂取しないと特定の疾患に罹患する“最低必要量”が決められている.たとえば,ビタミンCであれば1日の摂取量が100mg(アメリカでは60mg)ないと壊血病の危険が増えるといわれている.一方,ビタミンには最適量という概念があり,特定の疾病予防というよりも抗酸化機能の向上,免疫機能の向上のために用いるための“最適量(オプティマルドース)”という考え方がある.ビタミンCでいえば1日の摂取量として5002,000mgとなる.実際AREDSで使われているビタミンCの量は500mgと,最低必要量の5倍以上である.レモン1個に含まれるビタミンCの量は約30mgといわれているので,最低量であればなんとか摂取することは可能であろう.しかしながら最適量を摂取するためには多量の果物や野菜を食べなければならずカロリーオーバーになると考えられる.サプリメントが必要な理由がここにある.さらに各種のビタミンに対してすべてを網羅するように摂取するためには食品だけからは困難であり,ここでもサプリメントの有用性が指摘されている.エビデンスサプリの考え方サプリメントが身体に良いといわれる根拠には,細胞レベルの実験室のデータから動物実験,観察研究,そして無作為大規模前向き介入研究とさまざまなレベルのデータが存在する.動物実験で効果が証明されてもヒトではまったく効果がないこともあり,その解釈には慎重を要する.また“ビタミンEをたくさん摂取している群には心臓病が少なかった”という観察研究に対して,“ビタミンEを長期にわたって投与したところ心臓病の発生率に差がなかった”というように介入研究においてはその効果が否定されることもある9).オメガ脂肪酸については介入研究においてはっきりと心臓病に対する効果がわが国において証明された10).一方,ビタミンAとEについてはむしろ死亡率が増大するという大規模研究の結果も出ており,単に身体に良いといわれているから単独のビタミンを摂取するという時代は終わりを迎えようとしている.抗酸化サプリメントについてはAREDSのように複数のビタミンを組み合わせて使うという方法が一般的になりつつあり,研究においても,単独よりも複合物を対象とするものが多くなってきた.現在アメリカで進行中のAREDS2においては,ビタミンA,C,E,亜鉛,銅に加えてオメガ3や,ルテインの効果が検証されており,その結果が期待されている.サプリメントについてはエビデンスがしっかりとあるものを中心にわれわれ眼科医は(74)図2カロリーリストリクション仮説のメカニズムカロリーリストリクションインスリンシグナにるのサーイン———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008825(75)tion.JAMA297:986-994,20076)GuarenteL,PicardF:Calorierestriction─theSIR2con-nection.Cell120:473-482,20057)BaurJAetal:Resveratrolimproveshealthandsurvivalofmiceonahigh-caloriediet.Nature444(7117):337-342,20068)KotoTetal:Eicosapentaenoicacidisanti-inammatoryinpreventingchoroidalneovascularizationinmice.InvestOphthalmolVisSci48:4328-4334,20079)BjelakovicGetal:Mortalityinrandomizedtrialsofanti-oxidantsupplementsforprimaryandsecondarypreven-tion:systematicreviewandmeta-analysis.JAMA297:842-857,200710)YokoyamaMetal:Eectsofeicosapentaenoicacidonmajorcoronaryeventsinhypercholesterolaemicpatients(JELIS):arandomisedopen-label,blindedendpointanal-ysis.Lancet369(9567):1090-1098,2007導入していくのがやはり良いであろう.本セミナーで学べること本セミナーは第1期として表1のようなプログラムで進めていく予定である.おもなセクションにおいては,1)サプリメント名2)構造式3)一般的な薬理,生理作用4)1日必要量(最低必要量と最適量)5)含有食品6)眼科への応用7)摂取すべきエビデンスレベル(A:摂取すべき,B:リスクある人は摂取すべき,C:どちらともいえない)をカバーする予定である.よってこのセミナーにより,サプリメントの基本的な知識が得られるものと期待される.ぜひいっしょに勉強させていただければと思う.文献1)HarmanD:Aging:atheorybasedonfreeradicalandradiationchemistry.JGerontol11:298-300,19562)Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandEandbetacaroteneforage-relatedcataractandvisionloss:AREDSreportno.9.ArchOphthalmol119:1439-1452,20013)Izumi-NagaiKetal:Macularpigmentluteinisantiin-ammatoryinpreventingchoroidalneovascularization.ArteriosclerThrombVascBiol27:2555-2562,20074)OhgamiKetal:Anti-inammatoryeectsofaroniaextractonratendotoxin-induceduveitis.InvestOphthal-molVisSci46:275-281,20055)FontanaL,KleinS:Aging,adiposity,andcalorierestric-☆☆☆表1本誌連載「サプリメントサイエンス」セミナーの構成内容サプリメントはどのように考えるべきか学説学イン学スタサンン学レストロー学ントシニン学学メ酸と量ミ学クトリンー学イー学ビタミン内学ビタミンどどはにる