———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.4,20095090910-1810/09/\100/頁/JCLSレントゲン写真は誰のもの?ひとつ問題です.病院で撮影されるレントゲン写真や眼底写真の権利は誰に所属するのでしょうか.撮影された患者さんのものでしょうか.撮影を指示した医師のものでしょうか.実際に撮影した技師のものでしょうか.フィルムを所有している病院のものでしょうか.いろんな立場で権利を考えることができますが,答えは「モノとしての所有権は医師・病院に帰属し,写真に含まれる医療情報(個人情報)は患者に帰属し保護されるべきである.」1)です.つまり,レントゲン写真のすべてを所有する権利者はいないことになります.われわれが学会や論文で使う写真は,法律論からすると患者さんに所有権を放棄するよう依頼すべきなのです.いずれ,医療情報を学術利用する際にも,同意書が必須になるかもしれません.そのような時代では,医療・健康情報は患者さんに所属し,われわれ医療者には,その健康情報をお借りして管理・運用している,という謙虚さが求められます.医療・健康情報が,フィルムやカルテなどのアナログな「物品」として管理されているなら,比較的容易に安全性は維持されます.しかし,情報がいったんデジタル化されると,修飾や閲覧に便利な反面,慎重な取り扱いが必要です.パソコンをインターネットに無防備に接続すると,そのなかに含まれる情報が全世界に公開されるリスクを背負います.秘密保持性を高く求められる病院以外の他の業種ではどうか,特許事務所を例にあげます.われわれにとって診療録にあたる特許出願用の書類(明細書)には企業の高度な秘密事項が多く含まれます.特許事務所では,明細書を書くパソコンは絶対インターネットにつなぎません.ウイルスの多いWindows対応のソフトも使わないそうです.どことなく医療業界と似ています.インターネットに接続しなくても,パソコンやメモリースティックを紛失したり,盗難されたりすれば,情報は当然のように流出します.2008年には患者情報がファイル交換ソフトを通じて流出する事件が起こりました2).情報漏洩の原因の半分以上は,ヒューマンエラーによるものです.患者情報が詰まったメディアの扱いには気をつけないといけません.特に学会,講演前は要注意です.放射線科のインターネット事情医療情報は機密性を高く求められるとはいえ,インターネットを用いれば容易に病院間で共有できます.VPN(VirtualPrivateNetwork)方式を用いることで,セキュリティの問題はクリアされる,というのが現在の認識です.数ある診療科のなかでも,最もデジタルインフラの整備が進んでいる放射線科のインターネット事情を紹介します.2000年を境に数多くの遠隔診断事業会社が誕生しました.その多くは株式会社の形態をとり,代表取締役社長は放射線科医です.宇都宮セントラルクリニックの佐藤俊彦氏(放射線科医)が代表を務める株式会社ドクターネットを筆頭に,大阪大学出身の放射線科医を中心にした日本読影センター株式会社,東北大学発ベンチャー企業として設立された株式会社ラドネット東北,京都大学出身の放射線科医を中心にした株式会社メディカルITコンサルティングなど,多数の事業会社がシェアを競い合っています.医師が医療知識を株式会社として発揮するひとつの手段が,この遠隔診断事業といえます.大学医局と民間法人が連携している事業体もあります.神戸大学放射線科杉村和朗教授が理事長を務めるNPO法人神戸画像診断支援センターは,医療法人白眉会画像診断クリニックと連携し,放射線科医が常駐しない兵庫県下の病院の画像診断を引き受けます.眼科領域では,京都大学眼科吉村長久教授が理事長を務める(77)インターネットの眼科応用第3章他科のインターネット事情武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ③———————————————————————-Page2510あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009NPO法人関西眼科画像診断支援センターは,株式会社かんでんエンジニアリングと連携し,検診施設などで撮影された眼底写真の診断を引き受けます.これらの遠隔診断事業会社では,VPN方式で転送されたCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)などの画像を,放射線科専門医が24時間365日体制で遠隔地から診断します.自宅からの参加も可能です.このように,放射線科領域には遠隔診断に必要な情報インフラが整っています.そのインフラにどのように参加するかは,病院経営者の判断するところとなります.放射線科医の先駆者たちは,医師同士,病院同士をつなぐ遠隔医療を立派に事業として成立させています.最近では多数の事業会社が設立され,事業者間で価格競争が起こり,株式会社として健全に収益をあげながら継続するのはそれなりに苦労が多いようです.宇都宮セントラルクリニックの佐藤俊彦先生はこのように講演されました.『私は,1995年にアメリカで医療制度の違いをリサーチしていました.日本にない放射線インフラを整備しようと思い,ドクターネットを創業しました.当時,アメリカにあって日本に無い医療システムが3つありました.グループプラクティス,遠隔診断ネットワーク,DiagnosticImagingCenter:DICがそうです.(中略)VirtualRadiologyは,時差を使った国際的遠隔診断を行う企業で,Preliminaryreadingをインド等の諸外国で行い,Finalreadingを米国内で行うよう分けていることが特徴です.また,インターネットインフラを整備していれば,そのインフラをレンタルすることで収益を上げることが可能です.』3)インターネットの潮流に関し,アメリカは日本の10年先を進んでいます.そのアメリカのシステムを日本にいち早く導入した佐藤先生は,「日本の全ての診療科は放射線科に比べて10年遅れている.」と断言します.われわれ眼科医は,医療情報提供書を紙で作成し,せっかくデジタルで撮影した眼底写真を光沢紙に印刷しています.病院間をつなぐ情報インフラは紙をベースにしており,アメリカの20年遅れ,と指摘されても仕方ありません.もちろん理由はあります.画像の読影に保険点数が加算される放射線科と違い,眼科は読影行為自体には保険点数がつきません.手紙で診療情報を提供すれば保険点数が加算されますが,メールや電話で提供しても点数は加算されません.これは明らかに制度が時代にマッチしておらず,非常に残念なことです.(78)単独事業として成り立ちにくい読影事業ですが,私は,この事業をNPO法人や株式会社ではなく医療法人が行うべき,と考えます.現在,すべての遠隔診断事業会社は診断リスクをまったく担いません.最終的に診断するのは主治医であり,リスクは100%主治医がとる,というスタンスです.この場合,事業会社は診断補助の立場にとどまります.私は,遠隔診断は立派な医療行為ですので,医療法人が行える事業として医師法,医療法で認めるべき,と考えます.インターネット上の「受診」や相談事に対して,医療法人などに所属する医師がセカンドオピニオンという形で情報を提供して,その「診療行為」に対して正当に収益を得られる仕組みが必要です.日本という枠内で考えるだけでなく,アジアや世界に目を向ければ,日本の制度だけで医療を行う時代ではありません.いつか,他国の患者のデータをウェブ上で診察して診断する時代がくると思います.たとえば,日本の黄斑変性症の専門家がOCT(光干渉断層計)やIA(インドシアニングリーン蛍光造影)などの診療録・画像をもとに,インド人の患者のPDT(光線力学的療法)の適応をインターネット上だけで判断することは十分可能です.【追記】私は大阪で眼科クリニックを営む傍ら,有志とNPO法人MVCメディカルベンチャー会議(以下,MVC)を設立しました.MVCは医療人の知的・人的な交流を活性化させ,蓄積された知的共有物を広く一般生活者に伝え,医療水準の向上に貢献したい,という理念のもとに活動しています.私はMVCの活動を通じて,インターネットの医療応用を実践してきました.次号からは医師限定インターネット会議室「MVC-online」http://mvc-online.jpで行われている実例を紹介します.医療というアナログな行為と,眼科という職人的な業をインターネットでどう補完するか,皆さんとの意見交換を通じて,30年後の医療環境をともに作っていければ幸いです.MVCの活動に共感いただき,k.musashi@mvc-japan.orgにご連絡いただければ,医師限定インターネット会議室「MVC-online」http://mvc-online.jpからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)植木哲:医療の法律学.第3版,p127-133,有斐閣,20072)都立墨東病院における個人情報流出事故の発生についてhttp://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2009/01/20j1t600.htm3)http://blog.goo.ne.jp/med-venture/d/20080607