———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS平均値は14.4mmHg,さらに眼底写真の結果と視野検査の結果を複数の緑内障専門医により別個に判定することでその診断の信頼性を格段に向上させた.その結果は驚くべきことに正常眼圧緑内障有病率はShioseらの報告をさらに上回り,3.6%とこれまで世界的にも報告されたことがないほど高有病率であり,この結果岩瀬先生は第1回AIGSアワードを獲得する偉業を成し遂げた.つぎに,緑内障の2大病型である閉塞隅角緑内障に関してはどうであろうか.実はShioseらの報告のなかに閉塞隅角緑内障の有病率は日本全国平均で0.34%であったが,北海道ではその有病率は比較的高く0.86%で,熊本では0.12%と低有病率であった.つまり北海道では約7倍熊本より高頻度であることが示され,日本国内における地域差が示されていたのである.しかしながら多治見スタディとShioseらの全国調査では閉塞隅角緑内障の診断基準が異なっており,Shioseらの診断基準は隅角の判定ではより厳しい診断基準を用いていた(表1).すなわち,Shioseらの全国調査とYamamotoら3)の多治見スタディにおける閉塞隅角緑内障の結果は受診率と診断基準の2点で異なっており,閉塞隅角緑内障の有病率に関しての直接的な比較は困難であることが理解されると思う.実際,Shioseらの閉塞隅角緑内障の診断基準に基づいて多治見スタディの有病率を計算すると0.23%になることが報告されている.緑内障の診断基準は1998年にInternalSocietyofGeographycalandEpi-demiologicalOrganization(ISGEO)が決定しており,はじめに久米島町民眼科検診(久米島スタディ)は,多治見スタディに引き続いて沖縄県における緑内障の有病率,病型別有病率を明らかにするために行われた大規模疫学調査である.特に多治見スタディとの比較から日本国内における有病率,病型の地域差について明らかにすることが大きな目的であった.久米島スタディは緑内障学会データ解析委員会の6番目のプロジェクトとして承認され,琉球大学眼科学教室のスタッフを中心に実施された.I疫学調査の背景1.国内における緑内障有病率・病型の地域差わが国における最初の緑内障の大規模疫学調査は1989年にShioseら1)により日本全国を対象として行われ報告されている.このShioseらの報告から日本においてはとりわけ正常眼圧緑内障の有病率が高く,全緑内障有病率3.56%のうち2.04%が正常眼圧緑内障であったと報告された.しかしながら疫学調査の重要なポイントの一つである受診率は約50%にとどまったことと,眼圧は非接触型の眼圧計で測定されており,平均眼圧が13.7mmHgとそれまでの疫学調査の報告に比べ明らかに低い数値であることが問題となった.この疫学調査の結果を確認するために日本緑内障学会を主体に多治見市で2000年から2001年にかけて大規模疫学調査が行われた.この結果はIwaseら2)の努力によって受診率78.1%,Goldmann圧平眼圧計による眼圧測定により眼圧の(45)45hoichiaaguchi::9321527特集●わかりやすい眼科疫学あたらしい眼科26(1):4550,2009観察研究(断研究):久米島スタディObservationalCross-SectionalStudy:TheKumejimaStudy澤口昭一*———————————————————————-Page246あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(46)視神経乳頭の構造的な異常と視野検査の機能的な異常の双方が診断に必要であるとされた(表2).さらに,隅角閉塞の診断基準に関しては2002年にFosterらが報告している4)(表3).Shioseらの正常眼圧緑内障のわが国における有病率を確認するために行われた多治見スタディに対して,久米島スタディでは多治見スタディの閉塞隅角緑内障の有病率を再確認することになるのか,あるいはアジア系民族のようにより高い有病率になるのかを調べることが大きな目的となった.2.国際的な閉塞隅角緑内障有病率との比較緑内障の有病率には地域差,人種差があることが報告されている.白人,黒人では一般的に原発開放隅角緑内障の有病率が高く,正常眼圧緑内障や閉塞隅角緑内障の有病率は低いことが報告されてきた.それに対してわが表3Classicationofprimaryangleclosure(PAC)―閉塞隅角症の分類―(1)閉塞隅角眼(Occludable-angle,閉塞隅角症疑い):Primaryangle-closuresuspect(PACS)機能的な隅角閉塞の可能性がある場合(下段参照)(2)閉塞隅角症:Primaryangle-closure(PAC)上記に加え,隅角閉塞の所見が認められるもので1.周辺虹彩前癒着,2.眼圧上昇,3.急性発作の所見(虹彩萎縮,glaukom-ecken,線維柱帯の過剰な色素沈着),しかし視神経乳頭は緑内障ではない(3)閉塞隅角緑内障:Primaryangle-closureglaucoma(PACG)PACに緑内障の診断を伴った場合疫学調査では暗室,正面視の細いスリット光による隅角鏡検査で線維柱帯色素帯が270°以上観察できない場合を閉塞隅角眼としている.しかしこの定義は完全なものではなく,長期的研究による評価が必要である.この定義に基づいたより多くの臨床的な証拠の積み重ねが現時点での最も重要な課題である.(文献4より)表1日本における緑内障疫学調査(Shioseら,Yamamotoら)の閉塞隅角緑内障の診断基準Shioseらの閉塞隅角緑内障の診断基準スクリーニング:非接触型眼圧計で18mmHg以上かつ細隙灯顕微鏡検査でvanHerick分類で狭い症例隅角の確定診断:隅角鏡検査でShaer分類でGrade0,1とスリット状(ShaerGrade2以上は開放隅角と定義)眼圧はGoldmann眼圧計で21mmHg以上視神経乳頭異常および視野異常は必須ではないYamamotoらの閉塞隅角緑内障の診断基準スクリーニング:視力不良,Goldmann眼圧計で眼圧19mmHg以上,乳頭異常など隅角はvanHerick法2度以下隅角の確定診断:隅角鏡で線維柱帯色素帯が3象限以上見えない視神経乳頭と視野の緑内障性の異常表2Thediagnosisofglaucomaincrosssectionalprevalencesurveys(Thediagnosisismadeaccordingtothreelevelsofevidence)―横断的疫学調査における緑内障診断基準:緑内障の診断は3段階の基準で決定される―カテゴリー1による診断:乳頭形態と機能の両方の異常が必須形態の異常:陥凹/乳頭比あるいはその左右差が正常人口における97.5%をはずれる(おおむね垂直C/D比が0.7以上).乳頭リムが11時-1時,5時-7時で乳頭径の0.1以下.機能の異常:緑内障による明らかな視野異常が存在するカテゴリー2による診断:明らかに進行した乳頭形態異常を示すが視野異常は必須でない形態の異常:陥凹/乳頭比あるいはその左右差が正常人口における99.5%をはずれる(おおむね垂直C/D比が0.9以上)場合.機能の異常:視野検査の有無や信頼性によらず,乳頭形態異常から緑内障と診断される.カテゴリー1,2の診断では陥凹/乳頭比が他の(眼)疾患で生じないことが必須である.たとえば元々異常な乳頭形態や著しい不同視眼,あるいは視野障害が網膜血管障害によるもの,黄斑部変性,脳血管障害などによる場合は除かれる.カテゴリー3による診断:視神経乳頭が観察不能,視野検査不能視神経乳頭の検査が不可能の場合:A.視力が0.05未満かつ眼圧が人口の99.5%を超える場合,あるいはB.視力が0.05未満でかつ濾過手術が施行されている,または緑内障による視機能障害が緑内障によることを証明できるカルテなどの記録がある(文献4より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200947(47)の離島のなかでは比較的距離的に近いことから,疫学調査の対象地として適していると考えられた.このため1990年には小規模ながら町民の眼科検査が琉球大学眼科学教室主催で行われており,その結果は明らかに本土の対象者に比べ前房深度が浅く,眼軸長が短いことが報告されていた9).さらに,少数ながら2名が眼圧21mmHg以上の閉塞隅角緑内障と診断された(有病率に直すと約0.8%)10).これらの事情をふまえて日本緑内障学会主催による大規模緑内障疫学調査,特に閉塞隅角緑内障を中心とした検診が開始されることとなった.II久米島における疫学調査の概要(図1)1.調査期間2005年5月から2006年8月末まで長期間にわたり,検診などの調査業務は公立久米島病院を中心に行われた.久米島町は石垣島とは異なり,日本本土からの移住者が少なく,沖縄を中心とした南西諸島のもともとの住民がほとんどであり,人口は約9,000人であり対象となる40歳以降の人口は5,000人程度と疫学調査として適した人口規模でもあった.久米島は面積約60平方km(淡路島の1/10)の小さな島で島内を車で一周しても1時間もかからず,このため検査,調査は公立久米島病院を中心に行うことができたため,多治見スタディのような巡回診療は不要であった.そのため多治見のように検査機器の移動やそれに伴う多数のマンパワーは不要であった.それでも検診期間中は眼科医5名,視能訓練士を含めた検査員5名,ボランティア3名,町職員3名,病院職員2名の,総勢で約20名のスタッフで診療,検査を行った.検診は毎週末の土曜日と日曜日の2日間にわたって行われた.また町民への啓蒙活動を行うために毎週23カ所の地域の公民館に町職員と一緒にパワーポイントを使って講演会を行い,検診への参加を呼びかけた.2.検査:一般(スクリーニング)検査眼科検査は多治見スタディとほぼ同様であり,まず簡単に検査の目的や検査によるメリット,デメリットをビデオを用いて供覧した.ついでインフォームド・コンセントを得,同意を得られた住民に承諾のサインを頂い国ではShiose,Iwaseらの疫学調査から正常眼圧緑内障の有病率がきわめて高く,全緑内障の過半数以上がこのタイプの緑内障であったことが報告された.では閉塞隅角緑内障の有病率はどうであろうか5).閉塞隅角緑内障はイヌイットで高有病率であり,2%以上を超える報告が相ついでいる.また東南アジア系民族は中等度から高頻度であり,おおむね1%を超える報告が多い.わが国では前述のShioseらの報告では0.34%であり,一方,新しい最近の診断基準に準拠したYamamotoらの報告では0.6%であった.疫学調査では診断基準の変更や新しい診断機器の進歩がその有病率に影響を与えるため,閉塞隅角緑内障の有病率に関しても多治見スタディと同様の診断基準に基づく比較検討が国際的な評価のために必要とされた.3.沖縄県久米島で疫学調査を行う理由日本民族は比較的単一な民族であるとされている.しかしながらそのルーツは12,000年以上前の最後の氷河期,大陸と陸続きのころに大陸から移動してきたいわゆる縄文系文化と,20003000年以上前に農耕文明とともに大陸から渡ってきた弥生系文化の2つの文化・民族の混血であることが知られている.そのなかでは,沖縄県では比較的縄文系が,一方,本土では弥生系が色濃いことが報告されており6),この違いが日本の各地域における緑内障の有病率や病型に影響を与えているかどうかは興味深い点の一つである.以前から沖縄県は閉塞隅角緑内障の有病率が高いことが知られていたが,報告はいわゆるホスピタルベースのものであり7),疫学調査(新しい診断基準)に基づいた真の有病率は報告されていない.閉塞隅角緑内障の治療に関しては予防的なレーザー虹彩切開術の普及によりその有病率(特に急性発症の閉塞隅角緑内障)が影響を受けていることは想像に難くない.このような治療法の普及にもかかわらず,沖縄県では急性閉塞隅角緑内障が年間で推計約170症例が発症していることから,いまだに本土に比べて閉塞隅角緑内障の有病率はかなり高率であることが窺われていた8).久米島は沖縄県の有人離島であり,眼科医が常駐せず,レーザーを含めた治療に関しても十分普及しているとは言い難く,その一方でコミューター航空で30分と沖縄———————————————————————-Page448あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(48)3.特殊検査狭隅角(閉塞隅角)眼が多いことが予測されていたため,疫学調査としては初めて住民10%をランダムサンプリングで抽出し,超音波生体顕微鏡検査(UBM)を行った.細隙灯顕微鏡検査で狭隅角の指標であるvanHerick法で1度以下と隅角鏡検査でShaer分類1度以下の症例は全例UBMを行った.た.検診票問診,血圧,体重,身長などを病院職員,町役場職員に行ってもらってから眼科検査を開始した.まず非接触検査として多治見スタディと同様に屈折検査,視力検査,FDT(frequencydoublingtechnology)視野検査,眼底写真撮影を行った.追加検査として参加者全員にIOLマスターによる眼の生体計測を行った.さらに,走査型周辺前房深度測定(SPAC)も全例に行っている.つぎに診察室で細隙灯顕微鏡検査,Goldmann圧平眼圧測定,さらに全例の隅角鏡検査を行った.写真①写真④写真⑤写真⑥写真②写真③図1公立久米島病院内での検診の様子写真①②③④:検診風景.簡単な身体検査と基本的な眼科検査.写真⑤⑥:検診風景.UBM検査と前眼部検査.〔銀海200号(2007年10月号)より〕———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.1,200949(49)閉塞隅角の判断はFosterらの判定基準に準拠した(表3).IV結果検診参加者は40歳以上の全島民4,672名中3,652名で,81.2%の参加率となった.多治見スタディの78.1%とほぼ同等の国際的にも高い値(受診率)であった.全緑内障の有病率は7%強であり,多治見スタディの5%を大幅に上回ることが判明した.興味深いことに開放隅角緑内障の有病率は多治見スタディとほぼ同様で4%弱であった.すなわち,久米島(沖縄)では緑内障の高有病率のうち,閉塞隅角緑内障と外傷などの続発緑内障が多治見スタディとの大きな違いであることが明らかとなった.今後,生体計測の結果など閉塞隅角緑内障関連の多くのデータが発信できるものと考えている.まとめ日本における閉塞隅角緑内障の有病率を新しい診断基準に準拠して,その地域差を多治見スタディと比較することで確認しようとする久米島スタディは,一方で,閉塞隅角緑内障の病態解明への可能性を含む研究となるものと考えている.走査型周辺前房深度計(SPAC)による膨大な数の閉塞隅角緑内障予備軍の存在(20%以上),参加者全員の生体計測の結果,などから今後は逆に本土における同様の調査を行い,そのデータを比較検討することで閉塞隅角緑内障のルーツを人類学的にたどることが可能となるかもしれない.久米島スタディで得た多くのデータが閉塞隅角緑内障の神秘のベールをがしてくれるかもしれない.文献1)ShioseY,KitazawaY,TsukaharaSetal:EpidemiologyofglaucomainJapan─Anationwideglaucomasurvey─.JpnJOphthalmol35:133-155,19912)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-mary-openangleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20043)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:Prevalenceofpri-maryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.TheTajimiStudyreport2.Ophthalmology112:1661-1669,2005III診断のプロセス1.異常者のスクリーニング撮影された眼底写真を3名の緑内障専門医(緑内障学会評議員,理事:SS,AI,GT)が読影し,視神経乳頭や眼底に異常を検出した場合,二次検診(確定検査)対象者とされた.また視力不良例,vanHerick法2度以下の狭隅角の受診者も全例が二次検診対象者とされた.他にFDTで異常が検出された受診者も二次検査対象者となった.この結果,全参加者の約70%が再検査対象者となり,そのなかの93%が再受診し再検査(確定検査)を行った.2.確定のための検査確定検査は,(1)Humphrey24-2SITAstandard,(2)可能な場合は散瞳眼底検査の2項目を行い,検査を終了した.異常者については再度,細隙灯顕微鏡検査,視力不良例は視力検査を行った.3.緑内障診断の確定確定検査が半ばにさしかかった2005年の秋以降に緑内障学会理事の3名(MA,HA,TY)による確定診断のための判定会議が行われた.それぞれが別個にスクリーニングで異常と判定された眼底写真を読影した.判定一致群と不一致群に分類し,不一致群や判定困難症例ではさらに理事1名(SS),評議員2名(AI,AT)を加えた6名で視神経乳頭の最終判定を行った.眼底写真(立体で撮影されている)から多治見スタディの緑内障判定基準を基に診断,分類を行った.3名(MA,HA,TY)の判定が一致しているものは最終的に視野検査のデータと一致したものはそこで最終確定診断とされ,一致しないもの,判定が困難なものは6名のコンセンサスをもって診断とした.4.緑内障病型の確定緑内障あるいは緑内障疑いと診断された症例は最終的に隅角鏡所見と問診票,検査データなどから開放隅角緑内障あるいは閉塞隅角緑内障,さらに続発緑内障あるいは分類不能緑内障にそれぞれ分類された.隅角鏡による———————————————————————-Page650あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(50)内障診療の実態.眼紀32:208-213,19818)仲村優子,石川修作,仲村佳巳ほか:沖縄県における急性閉塞隅角緑内障の発症頻度.あたらしい眼科17:683-686,20009)鯉淵浩,早川和久,上原健ほか:沖縄県久米島住民の前眼部生体計測.日眼会誌97:1185-1192,199310)鯉淵浩,山上淳吉,松村哲ほか:久米島の緑内障検診.日本の眼科63:1231-1235,19924)FosterP,BuhrmannR,QuigleyHAetal:Thedenitionandclassicationofglaucomainprevalencesurveys.BrJOphthalmol86:238-242,20025)澤口昭一:日本人と原発閉塞隅角緑内障:PACGの人種差,地域差.あたらしい眼科24:987-992,20076)HammerMF,KarafetTM,ParkHetal:DualoriginsoftheJapanese:commongroundforhunter-gathererandfarmerYchromosomes.JHumGenet51:47-58,20067)福田雅俊,山田義一,佐和田輝子ほか:沖縄県における緑