———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSでの間に細胞密度の急激な減少があり,その後は一定の率での減少がみられる.この論文ではさらに細胞数の減少と角膜直径の増加の関係の検討から(図2),胎児期および1歳くらいまでの角膜内皮細胞密度の急激な減少は,成長に伴う角膜径の増加に伴うものであり,角膜内皮細胞の脱落により細胞の総数が減少しているわけではないと報告している.10歳代以降の角膜内皮細胞面積・密度の変化については,スペキュラーマイクロスコープを用いた多くの報告があり,人種差や使用機材,解析方法などの違いにより,同じ年代でもその値に多少の違いがみられる.日本はじめに角膜内皮細胞は角膜後面を覆う単層の細胞層で,そのバリア機能とポンプ機能により角膜の含水率を一定に保ち,角膜透明性を維持するうえで必要不可欠な細胞層である.以下に,正常者の角膜内皮細胞についての知見を述べる.I細胞密度・細胞面積1.年齢による変化角膜内皮細胞の密度は,胎児期から生後1歳くらいまでの間に急激に減少する(図1).この報告では角膜内皮数を組織切片上の100μm当たりの細胞の核の数として検討している1).その結果,胎児期と生後1歳くらいま(9)147ioAano1138655731特集●角膜内皮疾患を理解するあたらしい眼科26(2):147152,2009正常者の角膜内皮細胞CornealEndothelialCellsintheNormalPopulation天野史郎*生後年齢胎生週数のの数出生図1胎生週数および生後年齢と角膜内皮数との関係1歳くらいまでに急激に減少し,それ以降は一定の率で減少していく.(許可を得て文献1より転載引用)12023456789101112023456789101100.51.00.10.30.5出生生後年齢胎生数角膜直径(μm)100μm当たりの核の数図2胎児および生後1歳までの角膜直径(黒丸)と角膜内皮数(白丸)との関係成長に伴う内皮数の減少は角膜直径の増加のためである.(許可を得て文献1より転載引用)———————————————————————-Page2148あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(10)とされる400個/mm2まで200歳でもまだ余裕がある.角膜内皮細胞は,加齢性の変化だけであれば,一生の間,角膜透明性を維持するに十分な密度がある.200歳までとなると体のほうがもたないし,加齢性の減少率も変化していくであろうから単純にはいえないが,角膜は200歳以上生きられるといわれる所以である.人での代表的なデータを示す2)(図3,4,表1).10歳代以降,加齢に伴い細胞密度は減少していく(図5,6).減少率は1年に0.30.7%である.50歳時に細胞密度が2,500個/mm2あり,年間0.5%ずつ減ったとすると,角膜内皮細胞密度は100歳で1,940個/mm2,200歳で1,180個/mm2と計算される.角膜内皮細胞密度の限界年齢(歳)細胞面積(?m2)102030200300400500405060708090図3年齢と角膜内皮細胞面積との関係加齢とともに平均細胞面積は増加する.(許可を得て文献2より転載引用)1020302345405060708090年齢(歳)細胞密度(1,000個/mm2)図4年齢と角膜内皮細胞密度との関係加齢とともに平均細胞密度は減少する.(許可を得て文献2より転載引用)表1日本人正常者の角膜内皮細胞面積・密度(平均±標準偏差)平均細胞面積(μm2)平均細胞密度(個/mm2)10歳代296±303,410±35820歳代301±293,350±33330歳代314±273,202±26840歳代328±363,081±33550歳代336±423,012±34360歳代345±462,950±38570歳代352±552,907±43880歳代367±522,777±367(文献2より許可を得て引用)図5若年者(20歳代)の角膜内皮細胞スペキュラー像図6老年者(70歳代)の角膜内皮細胞スペキュラー像細胞密度および六角形細胞出現率の減少を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009149(11)中央部と周辺部で異なる性質をもつことを示す一つの結果である.V培養角膜内皮細胞の性質ヒトの角膜内皮細胞は生体内ではほとんど分裂能がないが,生体外に取り出し適切な細胞外基質でコーティングした培養皿と適切な培地を用いると,分裂させ,培養することが可能である.培養したヒト角膜内皮細胞の性2.中央と周辺の比較同一眼での角膜中央部と周辺部とでの内皮密度を比較すると,中央部よりも周辺部のほうが細胞密度が多い.一つの報告では,ノンコンタクトスペキュラーマイクロスコープで観察した結果,中央部で2,730±224個/mm2,角膜中央より4.7mm離れた周辺部で2,993±229個/mm2としている3).II変動係数細胞面積の標準偏差を平均値で割った値が変動係数(CV値)であり,細胞面積の不均一性,大小不同性を表す値である.角膜内皮細胞の変動係数は,10歳代の0.26から80歳代の0.40まで,加齢性に増加する(図7).加齢性に細胞面積の不均一性が増加することを示している.III六角形細胞出現率角膜内皮細胞は正常では六角形をしており,六角形細胞出現率は細胞形態の均一性を示す指標である.六角形細胞出現率は,10歳代での67%から80歳代での55%までと加齢性に減少していく(図8).IV老化マーカー老化のマーカーとして知られるsenescence-associa-tedb-galactosidase(SA-b-gal)のヒト角膜内皮細胞での発現は,若年者ではみられず,老年者の中央部内皮のみにみられる4)(図9).ヒトの生体内の角膜内皮細胞は,CV値(標準偏差/平均値)1020300.200.300.400.50405060708090年齢(歳)図7年齢と角膜内皮細胞変動係数との関係加齢とともに平均変動係数は増加する.(許可を得て文献2より転載引用)102030304060507080405060708090年齢(歳)六角形細胞出現率(%)図8年齢と六角形細胞出現率との関係加齢とともに六角形細胞出現率は減少する.(許可を得て文献2より転載引用)16歳68歳図9老化マーカーsenescenceassociatedβgalactosidase(SA-b-gal)のヒト角膜内皮細胞での発現若年者ではみられず,老年者の中央部内皮のみにみられた.Bars=100μm.(許可を得て文献4より改変引用)———————————————————————-Page4150あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(12)ことであるが,若年者と老年者の間に,テロメア長に差はなく,加齢に伴う角膜内皮細胞の老化にテロメア長の短縮は関係ないことがわかった.3.糖化最終産物の蓄積加齢とともに蓄積する細胞障害の原因としては,紫外線,活性酸素種などがよく知られているが,もう一つの要因として知られるadvancedglycationendproducts(AGE)に注目し,角膜内皮細胞老化の原因としての役割について検討した.蛋白質のアミノ基はグルコースなどの還元糖のアルデヒド基と反応し,アマドリ化合物を質について述べる.1.ドナー年齢の影響各年齢層のドナーからの角膜内皮細胞を同一条件で培養し,継代4代目の細胞がコンフルエントの状態になったときの細胞の状態をみると(図10),ドナー年齢が高いほど大型細胞が多くみられることがわかる5).ドナー年齢と2,000μm2以上の大きな細胞の出現率は有意に正の相関があった.上記の老化マーカーの結果と培養細胞での結果から,角膜内皮細胞はヒトの加齢とともに老化していることがわかる.一般に,細胞老化の機序としては,DNA末端にありDNAの安定と複製に寄与するテロメアが短縮すること,紫外線や活性酸素種などによる細胞障害が蓄積することなどがある.角膜内皮細胞老化の機序は何であろうか2.テロメア長ヒト角膜内皮細胞のテロメア長について検討した(表2).生体内から直接採取したヒト角膜内皮細胞は70歳代でも12.0kilobase(kb)と長いテロメア長を有していた.継代培養していくと徐々にテロメア長が短縮したが,年齢の違いによるテロメア長の差はみられなかった.コントロールとして測定した白血球では年齢が高いほどテロメア長の短縮がみられた.この結果から,ヒト角膜内皮細胞は生体内で分裂しないことから予想される4歳44歳75歳図10培養内皮細胞(継代4代目)の形態へのドナー年齢の影響高齢ほど大型細胞が多く出現する.(許可を得て文献5より改変引用)表2生体内および培養ヒト角膜内皮細胞のテロメア長ドナー年齢(歳)テロメア長(kb)平均(kb)直接採取707212.012.112.1±0.054継代(16回分裂)24203944687511.510.49.810.410.69.29.810.2±0.738継代(32回分裂)4758.98.48.7±0.73白血球(対照)1247310.58.06.1———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009151(13)膜中央部と周辺部で比較すると,周辺部のほうが高い前駆細胞産生効率をもつことがわかった(図12)8).前述した,細胞密度や老化マーカー発現の角膜中央部と周辺部の差と考え合わせると,角膜内皮細胞では周辺部のほうがより未熟性の残った細胞が含まれていると考えられる.文献1)MurphyC,AlvaradoJ,JusterRetal:Prenatalandpost-natalcellularityofthehumancornealendothelium.InvestOphthalmolVisSci25:312-322,19842)大原國俊,水流忠彦,伊野田繁:角膜内皮細胞形態のパラメーター.日眼会誌91:1073-1078,19873)AmannJ,HolleyGP,LeeSBetal:Increasedendothelialcelldensityintheparacentralandperipheralregionsofthehumancornea.AmJOphthalmol135:584-590,20034)MimuraT,JoyceNC:Replicationcompetenceandsenes-cenceincentralandperipheralhumancornealendotheli-um.InvestOphthalmolVisSci47:1387-1396,20065)MiyataK,MiyataK,DrakeJetal:Eectofdonorageonmorphologicalvariationofculturedhumancornealendothelialcells.Cornea20:59-63,20016)天野史郎:第106回日本眼科学会総会宿題報告Ⅱ,眼の再生医学,角膜内皮細胞移植.日眼会誌106:805-836,2002形成する.前期反応アマドリ化合物がさらに脱水,酸化,縮合,環状化などの反応を経由して,蛍光・褐色変化・分子架橋形成を特徴とするAGEを生じる.生体内蛋白質におけるAGE形成は加齢とともに進行し,白内障や加齢黄斑変性などの加齢性疾患の発症や進展に関与していることが示されている.AGEの蓄積をヒト角膜内皮細胞で観察したところ,若年者ではみられず,老年者では強く蓄積していることがわかった(図11)6).その他の研究結果も合わせて考えると,AGEや酸化ストレス産物が,角膜内皮老化の機序の一つと考えられる.4.中央と周辺の比較角膜内皮細胞をスフェア法という浮遊培養系で培養することによって,多分化能をもつ角膜内皮細胞の前駆細胞を単離することができる7).前駆細胞の産生効率を角AB図11糖化最終産物の角膜内皮細胞での蓄積若年者(A)ではみられず,老年者(B)で強くみられた.(許可を得て文献6より引用)CAB中央(<6.0mm,n=10)Group100203040周辺(6.0~10mm,n=10)10,000細胞当たりの1次スフェア数*図12角膜内皮前駆細胞産生効率の中央部と周辺部での差得られるスフェアの大きさは中央部(A)と周辺部(B)で差はみられないが,角膜周辺部の内皮細胞のほうが高い前駆細胞産生効率をもつ(C).Bars=50μm.(許可を得て文献8より引用)———————————————————————-Page6152あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(14)rabbitcornealendothelialcellprecursorsinthecentralandperipheralregions.InvestOphthalmolVisSci46:3645-3648,20057)YokooS,YamagamiS,YanagiSetal:Humancornealendotheliumprecursorsisolatedbysphere-formingassay.InvestOphthalmolVisSci46:1626-1631,20058)MimuraT,YamagamiS,YokooSetal:Comparisonofお方法:おとりつけの,また,そののない合は直接あて注文ください.メディカル葵出版あたらしい眼科Vol.26月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術Vol.22(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他毎号の【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他社〒1130033東京都文京区本郷2395片岡ビル5F振替00100569315電話(03)38110544://www.medical-aoi.co.jp