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シンナー中毒性視神経症,メチルアルコール中毒性視神経症

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page10910-181008\100頁JCLSIシンナー,メチルアルコールの毒性1.シンナー中毒性視神経症シンナーの主成分であるトルエンは,脂質とは親和性があり,容易に脳血液関門を通過し脳内に取り込まれる.水に難溶であるため,汗や尿として排出することはできず,チトクロームP450により酸化されるが,その際に発生する5%のエポキシドが残留し深刻な細胞毒性を発揮する.視神経は生化学的に大脳白質と似た性質をもち,灰白質に比べて水分と蛋白質の含量が少なく,脂質に富むのが特徴であり,特に髄?に脂質が多く含まれるために,脂質と結合したトルエンが重篤な病変をきたす2).2.メチルアルコール中毒性視神経症メチルアルコールは消化管から吸収された後に肝臓でホルムアルデヒド,蟻酸に代謝される.この両者はともに強い神経毒性を有するが,特に蟻酸は細胞内ミトコンドリアの酸化的リン酸化を阻害し,低酸素による前述の代謝性アシドーシスをきたすとされる6).さて,急性期に死亡したメチルアルコール中毒性視神経症4例の組織病理所見6)では,篩状板後方で限局性の髄?の崩壊がみられ,軸索自体は保たれる.この選択的な髄?の崩壊は,遠位視神経の分水嶺領域での組織毒性の無酸素状態によってひき起こされると考えられている.また眼球の直近の視神経では脱髄に伴う順行性の軸はじめにシンナー(thinner)は単一の成分からなるのではなく,トルエン,ノルマルヘキサン,メチルアルコール,キシレンなど数種類の有機溶媒の混合された溶剤であり,塗料や接着剤の薄め液として使用されるためこの名で総称される1,2).その組成は目的やメーカーによっても異なる3).ときに経口的にも摂取されるが,通常吸入・吸引により経気道的に体内に入り,容易に脳血液関門を通過して中枢神経を障害する.眼科臨床的に問題となるのは,この中枢神経症状である酩酊状態や浮遊感あるいは多幸感を期待して摂取されるシンナー・ボンド類による慢性の中毒性視神経症である.シンナー中毒性視神経症の原因物質はおもにトルエンと考えられている1)が,後述する気相分析および眼底所見からメチルアルコールの関与が疑われる報告もみられる4,5).また,エチルアルコールと誤ってメチルアルコールを誤飲すると,半日から1日程度の無症候が続いた後,急激な代謝性アシドーシスにより頭痛,腹痛,呼吸困難,循環不全などの全身症状とともに急激で重篤な視力低下をきたす.これがメチルアルコールによる急性の中毒性視神経症である.本稿では,これら慢性と急性の2つの中毒性視神経症について最新の文献も交えて解説する.低濃度の有機溶媒の長期曝露の報告は欧米では比較的多くみられるが,わが国ではまれであり,これについての記述は最小限にとどめさせていただいた.(49)???*OsamuMimura:兵庫医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕三村治:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室特集●眼科における薬剤副作用あたらしい眼科25(4):471~477,2008シンナー中毒性視神経症,メチルアルコール中毒性視神経症???????-????????????????????-????????????????????????三村治*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(50)れらの有機溶媒はメチルアルコールよりも視神経への毒性自体ははるかに小さいと考えられる.Eells12)およびEellsら13)はラットにメチルアルコールを投与し,36時間後に蟻酸血症,代謝性アシドーシス,視覚障害を発生させ,メチルアルコール中毒モデルを作製した.このラットではフラッシュ刺激の視覚誘発電位やERG(網膜電図)で振幅低下が確認され,病理学的にも網膜色素上皮,光受容器内節,視神経のミトコンドリアの崩壊と空胞化が証明された.このような実験モデルを用いてMuthuvelら14)はfor-matedehydrogenaseの急速静注療法がメチルアルコールの代謝産物である蟻酸の解毒に有効であるとしている.II疫学1.シンナー中毒わが国では,刑務所で受刑者が作業用のシンナーを吸引して酩酊状態になったことをきっかけに,1967年頃から青少年の間に「シンナー遊び」として流行しだした.1972年毒物および劇物取締法の改正により非合法化されたが,今なお青少年の間に根強く残る非行慣習である.シンナーは,依存性の薬物のなかでも最も入手が容易でかつ安価であることから,あまり金銭的に余裕のない青少年や繁華街に行くことのない地方の青少年でも中毒が蔓延したことによる.わが国で報告されたシンナー中毒性視神経症62例の発症年齢のまとめを図1に示した.最も若い者は14歳で発症しており,大部分が10索輸送の圧迫性障害により浮腫が生じる.また1例ではあるが,37歳の剖検例で篩状板直後の両側性の視神経中心の壊死がみられ,中枢側の視神経や視路にはまったく壊死がみられず,やはり血液供給の問題であるという報告7)もみられる.3.基礎実験Lundら8)はラットに低濃度ではあるが,2週間1日6時間20ppmのトルエン(4-????-butyltoluene)を反復吸入させたモデル動物を作製し,フラッシュ光刺激での誘発電位の振幅変化を検討し,吸入中止後約1カ月でも有意の変化を見出している.しかしLamら9)は4週間4-????-butyltolueneの0,20,40ppm濃度の1日6時間の吸引後のフラッシュ光刺激では有意の変化はなかったとしている.このように低濃度のトルエンでの視覚障害は実験的には必ずしも証明されたとはいえないが,Nylenら10)はラットに1,000ppmの高濃度のノルマルヘキサン,トルエンおよび両者の同時の吸引を1日21時間4週間行わせた.2日後,3カ月後,1年後に検討を行ったが,フラッシュ光誘発電位ではノルマルヘキサン吸入2日後に振幅の低下をみたのみで,トルエンとの同時投与やそれ以降には変化を認めていない.さらにNylenら11)は8週間1日21時間の1,000ppmのトルエンの吸引と飲料水として5.7~8.0%のエチルアルコール溶液の投与を組み合わせて行った.その結果,聴覚脳幹反応(ABR)はトルエン投与で有意の減弱を認めたもののフラッシュ光誘発電位では変化はみられなかった.こ12345671415161718192021年齢(歳)(例)2223242526272829~0図1わが国で報告されたシンナー中毒性視神経症62例の発症年齢吸引期間(年)(例)204681012<1123456789>10模———————————————————————-Page3———————————————————————-Page4———————————————————————-Page5———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(54)10)NylenP,HagmanM,JohnsonAC:Functionoftheaudito-ryandvisualsystem,andofperipheralnerve,inratsafterlong-termcombinedexposureton-hexaneandmethylatedbenzenederivatives.I.Toluene.?????????????????74:116-123,199411)NylenP,HagmanM,JohnsonAC:Functionoftheaudito-rysystem,thevisualsystem,andperipheralnerveandlong-termcombinedexposuretotolueneandethanolinrats.?????????????????76:107-111,199512)EellsJT:Methanol-inducedvisualtoxicityintherat.????????????????????257:56-63,199113)EellsJT,HenryMM,LewandowskiMFetal:Develop-mentandcharacterizationofarodentmodelofmethanol-inducedretinalandopticnervetoxicity.????????????????21:321-330,200014)MuthuvelA,RajamaniR,SheeladeviR:Therapeuticresponsetosingleintravenousbolusadministrationoffor-matedehydrogenaseinmethanol-intoxicatedrats.????????????161:89-95,200615)HovdaKE,HunderiOH,TafjordABetal:Methanolout-breakinNorway2002-2004:epidermiology,clinicalfea-turesandprognosticsigns.????????????258:181-190,200516)PaasmaR,HovdaKE,Tikkerberietal:MethanolmasspoisoninginEstonia:outbreakin154patients.?????????????45:152-157,200717)赤木泰:シンナー中毒による視神経症の1例.眼紀51:508-511,200018)高槻玲子,小川憲治:Uhtho?現象を呈したシンナー中毒による視神経症の1例.臨眼40:547-551,198619)北村知子,菅澤淳:視力回復が良好であったシンナー中毒性視神経症の1例.眼臨90:1001-1003,199620)益田徹,木村徹,木村亘ほか:網膜有髄神経線維が消失したシンナー中毒視神経症.臨眼41:911-914,198721)児玉和宏,山内直人,松森基子ほか:シンナー依存症にみられた視力障害の1例.臨床精神医学16:757-763,198722)清川広恵,澤田惇,安達惠美子:シンナー中毒性視神経症10例の臨床症状.神経眼科13:32-36,199623)PoblanoA,LopeHuertaM,MartinezJMetal:Pattern-visualevokedpotentialsinthinner-abusers.????????????27:531-533,199624)KiyokawaM,MizotaA,TaksohMetal:Patternvisualevokedcorticalpotentialsinpatientswithtoxicopticneu-ropathycausedbytolueneabuse.????????????????43:438-444,199925)VrcaA,Bozicevic?D,Karacic?Vetal:Visualevokedpotentialsinindividualsexposedtolong-termlowconcen-trationsoftoluene.????????????69:337-340,199526)StelmachMZ,O?DayJ:Partlyreversiblevisualfailurewithmethanoltoxicity.????????????????????20:57-64,199227)HalavaaraJ,ValanneL,Set?l?K:Neuroimagingsupportstheclinicaldiagnosisofmethanolpoisoning.?????????????認)で,パルス療法とそれに引き続き体重kg当たり1mgのプレドニゾロン内服11日間投与を行い,全例で視機能の回復をみた報告41)があるが,これら視機能の改善をみた症例はむしろ例外的であるといえる.おわりに急性メチルアルコール中毒は,その特徴的な全身および眼所見からまず診断に迷うことはないため,本稿では特に日本人に多いシンナー中毒について重点的に記載した.シンナーは非合法的な手段で得られていることが多く,また患者本人も薬物使用を強く否定することが多いため,シンナー中毒の存在を常に念頭に置いておかなければ青少年の急性の視力障害を誤診する可能性がある.青少年の原因不明の視力障害をみたときには,尿中馬尿酸の測定を行うとともにもう一度丁寧な問診をシンナー使用に関して行うべきである.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(55)35)HsuHH,ChenCY,ChenFHetal:Opticatrophyandcerebralinfarctscausedbymethanolintoxication:MRI.??????????????39:192-194,199736)永沢光,和田学,小山信吾ほか:視神経病変をMRIにて描出できたメタノール中毒の1例.臨床神経45:527-530,200537)北惠詩穂里,神崎資子:視神経障害をきたしたシンナー中毒の1例.神経内科61:362-366,200438)小林賢,小沢信介,金本尚志ほか:ステロイドパルス療法が著効した亜急性シンナー中毒性視神経症の1例.眼臨98:484-487,200439)橋本恵子,細木敬三,松本浩子ほか:星状神経節ブロックを併用したシンナー中毒性視神経症の1例.眼臨85:2124-2128,199140)岡田幸,政岡則夫,橋本恵子ほか:シンナー中毒性視神経症における星状神経節ブロックの効果.眼紀43:1257-1262,199241)SodhiPK,GoyalJL,MehtaDK:Methanol-inducedopticneuropathy:treatmentwithintravenoushighdoseste-roids.????????????????55:599-602,2001??44:924-928,200228)松井寛,野田佐知子,早坂征次ほか:摂取後11日目に緑内障様視神経萎縮がみられたメチルアルコール中毒の1例.眼臨85:2129-2131,199129)FujiwaraM,KikuchiM,KurimotoY:Methanol-inducedretinaltoxicitypatientexaminedbyopticalcoherencetomography.????????????????50:239-241,200630)RosenbergNL,Klieinschmidt-DeMastersBK,DavisKAetal:Tolueneabusecausesdi?usecentralnervoussystemwhitematterchanges.??????????23:611-614,198831)藤田憲一,古賀良彦,武正建一ほか:画像診断で大脳,小脳および脳幹の萎縮を呈した慢性トルエン中毒の1例.臨床神経32:421-425,199232)水野谷恭子,宮崎泉,金井塚道節ほか:シンナー中毒による視力障害の1例.眼臨87:1023-1029,模

Stevens- Johnson症候群と眼障害

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page10910-181008\100頁JCLSSJS/TEN,30%以上がTENとされ,わが国でもこの概念に基づいて,厚生労働省・橋本公二研究班により診断基準が作成された(表1,2).皮膚科的には重症度の異なるSJSとTENであるが,両者の眼所見は類似しており,眼科的所見のみで両者を鑑別することは困難である.しかも眼科で診察するSJSおよびTEN患者の多くは慢性期患者であり,鑑別ポイントである急性期の罹患面積を知ることはほぼ不可能である.このため眼科ではSJSとTENを包括してSJSとはじめにStevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyn-drome:SJS),その重症型である中毒性表皮壊死融解症(toxicepidermalnecrolysis:TEN)は,突然の高熱,咽頭痛に続いて全身の皮膚・粘膜にびらんと水疱を生ずる急性の全身性皮膚粘膜疾患で,小児を含めてあらゆる年齢に,性差なく発症する.発症前に薬剤投与歴のある症例が多く,重篤な薬剤副作用でもある.後遺症として最も多いのが眼障害であり,著しい視力障害とドライアイが生涯にわたって持続する.発症時は全身管理が主体となり眼病変への対応が遅れやすいが,発症初期より適切な眼科治療を行うことが予後改善のために重要である.I重症薬疹とは重症薬疹とは,皮膚以外の臓器に重篤な症状を発現する薬疹であり,生命を脅かしうるものである1).SJS,TEN,薬剤性過敏症症候群(drug-inducedhypersensi-tivitysyndrome:DIHS)の3つが代表疾患であるが,このうちDIHSは眼合併症を伴わないのに対して,SJSとTENは半数以上で重篤な眼合併症をきたす.SJSとTENが同一疾患か否かについて長く議論されてきたが,Roujeauらの研究によりSJSとTENは重症度の異なる同一スペクトラムの疾患であることが明らかとされた2).具体的には,皮膚のびらん面積が全体表面積の10%未満をSJS,10%以上30%未満をoverlap(43)???*ChieSotozono:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕外園千恵:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特集●眼科における薬剤副作用あたらしい眼科25(4):465~469,2008Stevens-Johnson症候群と眼障害???????????????????????????????????????????-????????????????外園千恵*表1Stevens-Johnson症候群の診断基準概念発熱を伴う口唇,眼結膜,外陰部などの皮膚粘膜移行部における重症の粘膜疹および皮膚の紅斑で,しばしば水疱,表皮?離などの表皮の壊死性障害を認める.原因の多くは,薬剤である.主要所見(必須)1.皮膚粘膜移行部の重篤な粘膜病変(出血性あるいは充血性)がみられること.2.しばしば認められるびらんもしくは水疱は,体表面積の10%未満であること.3.発熱.副所見4.皮疹は非典型的ターゲット状多形紅斑.5.角膜上皮障害と偽膜形成のどちらかあるいは両方を伴う両眼性の非特異的結膜炎.6.病理組織学的に,表皮の壊死性変化を認める.但し,TENへの移行があり得るため,初期に評価を行った場合には,極期に再評価を行う.主要項目の3項目を全てみたす場合SJSと診断する.———————————————————————-Page2———————————————————————-Page3———————————————————————-Page4———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(47)classi?cationofcasesoftoxicepidermalnecrolysis,Ste-vens-Johnsonsyndrome,anderythemamultiforme.?????????????129:92-96,19933)SotozonoC,AngLP,KinoshitaSetal:Newgradingsys-temfortheevaluationofchronicocularmanifestationsinpatientswithStevens-Johnsonsyndrome.?????????????114:1294-1302,20074)KawasakiS,NishidaK,KinoshitaSetal:Conjunctivalin?ammationinthechronicphaseofStevens-Johnsonsyndrome.???????????????84:1191-1193,20005)外園千恵:瘢痕性角結膜上皮症でのMRSA感染.あたらしい眼科22:643-645,20056)木下茂,外園千恵,稲富勉ほか:再生医学による重症角膜疾患の新規治療法開発への戦略的研究.最新医学62:132-180,2007り,以下のURLでみることができる.一般向け:http://www.info.pmda.go.jp/juutoku_ippan/juutoku_ippan.html医療関係者向け:http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/juutoku_index.html文献1)橋本公二:重症薬疹とは.アレルギー・免疫14:414-421,20072)Bastuji-GarinS,RzanyB,RoujeauJCetal:Clinicalお申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科HFFNl??DHK月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体4.522円+税)(送料362円)増刊号6,300円(本体8.222円+税)(送料426円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体52.:62円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術HFFNl??DHG■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体4.622円+税)(送料382円)年間予約購読料10,080円(本体;.822円+税)(6冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他

抗精神薬,抗不安薬の眼科副作用

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page10910-181008\100頁JCLSいる抗精神病薬としてフェノチアジン系のものがあげられる.代表的なものはクロルプロマジンで,これはドパミンD2遮断作用薬としては最も歴史が古い.古典的薬物ではあるが,今も統合失調症をはじめ,躁うつ病など広く用いられてきた薬剤で,眼副作用としては角膜,水晶体や網膜,ぶどう膜への物質沈着が知られる1,2).筆者は羞明を主訴に来院した,統合失調症で10年以上本剤を投与されていた女性例で,角膜〔特に内皮側〕に細かなやや黄色がかった白色物質が多数沈着している症例をみたことがあるが,この例では水晶体や網膜には異常がなく,視力や網膜電図(ERG)にも異常はなかった.しかし,皮膚には全体に色素沈着がみられた.網膜色素変性類似の網膜症の報告が比較的多いのがチオリダジンである2).自覚的には無症状で眼底に明確な異常はみられないのにERGの律動様小波に異常が現れる軽度のものから,夜盲や視力視野異常の明確なものまで,種々の例が報告されている.網膜変性がなぜ生ずるかについては諸説あるが,D2/D4受容体遮断作用との関係が提唱されている3).このほか,フェノチアジ系薬物の副作用としてoculo-gyriccrisis(眼球上転発作)やping-ponggazeなどの異常眼球運動の報告が散見される.II抗コリン作用と閉塞隅角緑内障閉塞隅角緑内障の急性発作の契機に抗コリン作用を有した薬物投与が関わることがある.精神神経疾患治療薬はじめに厚生労働省が発表した平成17年患者調査によると,精神性疾患を主傷病として通院している患者数は303万人に及ぶ.平成11年は204万人であるから,6年間に100万人増加したことになる.これは,主傷病であるから,大半が精神科か心療内科通院の患者である.実態調査ではないが,気分障害(うつ病,躁うつ病)の潜在患者は人口の5%あると推定されていることからみても,不眠症,不安神経症,身体表現性障害などで各科で薬物処方を受けいている患者は,おそらく500万人を超えるであろう.2005年の精神神経疾患治療薬(広義の向精神薬)の推定市場規模は3,210億円に上り,循環器用剤につぐ規模である.筆者がある一日に診た患者(72名)のうち,抗不安薬,睡眠導入薬を含む精神神経疾患治療薬を処方されている患者は21名29%に上った.筆者がおもに神経眼科外来を行っているという特殊性もあろうが,おそらく一般眼科に通院している患者でも,こうした精神神経疾患治療薬を処方されている患者はまれでなく,それゆえ,われわれは眼科的副作用や眼科関連の愁訴に留意しなければならない.以下,抗精神病薬,抗不安薬,睡眠導入薬において,起こしうる眼副作用を検討する.I抗精神病薬薬物やその代謝物質の沈着などの眼副作用が知られて(39)???*MasatoWakakura:井上眼科病院〔別刷請求先〕若倉雅登:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院特集●眼科における薬剤副作用あたらしい眼科25(4):461~464,2008抗精神薬,抗不安薬の眼科副作用???????????????????????????????????????????????????????????若倉雅登*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(40)III調節障害多くの精神科関連薬の添付書類の副作用に「目のかすみ」の記載がある.これは,ムスカリン性アセチルコリン受容体遮断作用による調節障害を意味していると考えられるが,各薬物の開発,治験段階で,「目のかすみ」については関心が乏しく,マイナーな副作用として処理されてしまっていると考えられる.それゆえ,「目のかすみ」が調節障害によるものか,その他の理由かもわからないし,実際の調節がどれだけ障害されるのかのデータは皆無といってよい.しかし,日常臨床では,こうした精神科関連薬服用者が,目のかすみ,視力低下,眼精疲労を自覚して眼科を訪れる場合は決してまれでないことを,筆者は経験的に知っている.しかも,この自覚症状の一つの特徴は,初期には,常時同じようにかすむのではなく,時々そのようなことを強く自覚することである.また,投与薬物に変更があったときにも,しばしばみられる.つまり,自覚症状に日内変動や日差などの動揺があるのが特徴であり,おそらく薬物の血中濃度や組織内濃度に関連しているのではないかと考えられる.一般に,眼科医は精神神経疾患治療薬によるこうした副作用を知らないか,意識のなかにないので,このような訴えに対し,単に眼精疲労などとして処理し,患者に内服薬の内容を尋ねることもしないことが多い.精神神経疾患治療薬の使用状況をみると,米国では単剤,または2剤までの処方が多いの対し,日本では多剤大量処方が多くなされ批判されている.これは統合失調症において特に顕著である6~8)が,同様の傾向は他の精神疾患でも普通にみられ,また非精神科医による抗うつ薬,不安薬,睡眠導入薬のみだりな処方も困ったものである.筆者は,薬物投与量の軽減や変更で,視覚の不定愁訴ともいえる自覚症状が改善された例を数多く経験している.「目がかすむ」といった自覚症状は一般には軽視されがちではあるが,患者自身にとっては実は非常に不愉快で,仕事などへの影響も多大であるため,一般眼科医は,そうした不定愁訴のある患者に対して精神神経疾患治療薬が投与がなされていないか,多剤投与の傾向がないかに関心をもつべきで,場合によっては処方医師に情で抗コリン作用を有するものを表1に示す.すべての薬物で緑内障発作を生じたことが確認されているわけではないが,狭隅角の症例では注意すべきである4,5).なお,抗ヒスタミン薬,感冒薬,鎮咳薬,胃腸薬,抗不整脈薬,散瞳薬など日常的に用いられる多くの医薬品や一般薬にも抗コリン作用があるので,このことは精神神経疾患治療薬に限ったことではない.このような薬物誘発性閉塞隅角緑内障の発現頻度は知られていないが,臨床経験上も決して高頻度とは思えない.それゆえ,こうした薬物を使用する可能性の高い比較的高齢者の狭隅角眼では,単に薬物投与を禁止することはそれらの薬物投与の必要性が高ければ現実的でないと考えられる.そこで,眼圧上昇のリスクがあることを患者に理解させ,レーザー虹彩切開をしておく,場合によっては白内障手術をしたうえで眼圧の定期的チェックが行われるという方針がとられるべきであろう.表1抗コリン作用を有するおもな精神科関連用剤1.三環系抗うつ剤アモキサピン(アモキサン),アミトリプチリン(トリプタノール),イミプラミン(トフラニール),クロミプラミン(アナフラニール),ドスレビン(プロチアデン)2.四環系抗うつ剤マプロチリン(ルジオミール)3.精神賦活剤メチフェニデート(リタリン)4.ベンゾジアゼピン・チエノジアゼピン系トリアゾラム(ハルシオン),ニトラゼパム(ベンザリン,ネルボン),フルニトラゼパム(サイレース,ロヒプノール),フルラゼパム(ダルメート,ベノジール),プロチゾラム(レンドルミン),リルマザホン(リスミー),ロルメタゼパム(エバミール,ロラメット)アルプラゾラム(コンスタン,ソラナックス),エチゾラム(デパス),クロチアゼパム(リーゼ),クロナゼパム(リボトリール,ランドセン),クロルジアゼポキシド(コントール,バランス),ジアゼパム(セルシン,ホリゾン),フルタゾラム(コレミナール),ブロマゼパム(レキソタン),ロフラゼプ酸エチル(メイラックス)5.SSRIパロキセチン(パキシル),フルボキサミン(デプロメール,ルボックス),セルトラリン(ジェイゾロフト)6.その他ゾピクロン(アモバン),トリヘキシフェニディール(アーテン),ピペリデン(アキネトン),プロフェナミン(パーキン),レボドパ製剤(———————————————————————-Page3———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(42)は9例あり,うち7例は改善を示した.特に1,2カ月間服用の2例と2年服用の1例では薬物中止後,完全に回復した.眼瞼痙攣患者はもともと女性に多い疾患であるが,エチゾラムおよびベンゾジアゼピン誘発眼瞼痙攣ではその傾向がより強く出た.眼瞼痙攣の発症機序はなお不明ではあるが,エチゾラムおよびベンゾジアゼピンが作用するGABA-A(g-ami-nobutyricacid-A)の脳内受容体が劣化することが原因ではないかと推定される.特に女性に対してのエチゾラムおよびベンゾジアゼピン系薬物の長期服用は,眼瞼痙攣発症の危険因子となることは,すべての医師が知っておくべきである.文献1)HullDS,CsukasS,GreenK:Chloropromazine-inducedcornealendothelialphototoxicity.?????????????????????????22:502-508,19822)OshikaT:Ocularadversee?ectsofneuropsychiatricagents.Incidenceandmanagement.????????12:256-263,19953)FornaroP,CalabriaG,CoralloGetal:Pathogenesisofdegenerativeretinopathiesinducedbythioridazineandotherantipsychotics:adopaminehypothesis.???????????????105:41-49,20024)TripathiRC,TripathiBJ,HaggertyC:Drug-inducedglaucomas:mechanismandmanagement.????????26:749-767,20035)LachkarY,BouassidaW:Drug-inducedacuteangleclo-sureglaucoma.????????????????????18:120-133,20076)三澤仁,加藤温,落合理路ほか:抗精神病薬の多剤併用療法の実態.日本精神科病院協会雑誌24:74-77,20057)石郷岡純:抗精神薬と気分安定併用療法の現状と今後の課題.臨床精神薬理8:181-190,20058)稲垣中,冨田真幸:日本における新規抗精神病薬と多剤大量処方.臨床精神薬理6:391-401,20039)若倉雅登:眼瞼けいれんと顔面けいれん.日眼会誌109:667-680,200510)若倉雅登,井上治郎:眼瞼痙攣患者における2006年ドライアイ診断基準の適用.臨眼(印刷中)11)山本紘子:瞬目─この無視されてきた重要問題,薬物性ジストニーと眼瞼痙攣.神経眼科20:43-48,200312)WakakuraM,TsubouchiT,InouyeJ:Benzodiazepine-andthienodiazepine-inducedblepharospasm.????????????????????????????75:506-507,2004アで,これらの抗精神薬11)に加え,筆者らは,ベンゾジアゼピン系,チエノジアゼピン系薬物が,しばしば眼瞼痙攣を惹起することを報告した12).この研究結果を以下に要約するが,その前に,チエノジアゼピンやベンゾジアゼピン系薬物は日本では非常に多く処方されている事実を述べておきたい.すなわち,チエノジアゼピンもベンゾジアゼピンも抗不安薬,睡眠導入薬として用いられ,日本では1,000億を超える市場で,単純計算で少なくとも800万人以上がこれらの薬物を内服していることになる.チエノジアゼピンとしてはデパス?=エチゾラム,リーゼ?などがあり,ベンゾジアゼピン系は抗不安薬としてレキソタン?,ソラナックス?,ワイパックス?,セルシン?など,睡眠導入薬としてハルシオン?,リスミー?,レンドルミン?,ベンザリン?,ユーロジン?,サイレース?,ロヒプノール?など多数の製品がある.米国ではうつ病や身体表現性障害の第一選択薬として選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI)が通常単剤処方として用いられるのに対し,日本ではまずチエノジアゼピンやベンゾジアゼピン系薬を選択する医師が多く,しかも単剤より多剤投与が多いという指摘がある.不眠に対してはチエノジアゼピンやベンゾジアゼピン系薬を「軽い薬」と称して内科を含め多くの科の医師が処方している実態がある.さて,筆者らの研究は254例の眼瞼痙攣患者の発症前の服薬歴を調査し,血管圧迫が原因(中枢神経系の異常ではない)と考えられる片側顔面痙攣61例を対照(コントロール)として比較検討したものである.254例(男女比67:187)の模

視路障害をきたす全身薬

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———————————————————————-Page10910-181008\100頁JCLS5)眼底所見では多くの例は視神経乳頭に異常のない,いわゆる“球後視神経炎”類似の所見で,まれに視神経乳頭の発赤や出血をみることもある.6)眼球運動時の眼球後部痛はない(視神経炎との大きな違い).7)視覚誘発電位検査で異常所見(潜時延長・振幅低下)がみられる.2.MRI画像所見の特徴視神経疾患のうち炎症・脱髄・浸潤・外傷の例は,発症時にはMRI(磁気共鳴画像)のSTIR(shortTIiner-sionrecovery)法で視神経内に高信号を示すが,薬剤障害例では等信号のままである.薬剤障害でも時間が経ち視神経萎縮になると,STIR法で視神経は高信号を示す.*上記の条件1.と2.を満たす視神経疾患は薬剤による障害のほかに,栄養(ビタミンB1,B12,葉酸)欠乏性視神経症とシンナー中毒があるので,詳細な問診と血液検査が必要である.Leber病も類似するが,瞳孔の対光反応障害が軽微で,左右眼の発症間隔は多くは1~6カ月間あり同時発症ではない.3.代表的な薬剤1)Ethambutolエタンブトール(エサンブトール?,エブトール?)エタンブトール(EB)は抗結核薬で,EBによる視神はじめに近年,きわめて有用な薬剤効果を有する種々多彩な全身薬が開発され,次々に臨床応用されている.話題の分子標的薬をはじめ,免疫抑制薬,抗癌薬の多くは眼科以外の診療科で難治の症例に使用され,ときに重篤な視覚障害を生じて眼科へコンサルトされるケースがある.使用薬の効果に期待しつつ,副作用に早く気づきその被害を最小限に抑えるために,われわれも幅広い薬剤情報の知識が必要である.本稿では視路のなかでも,特に視神経と視覚中枢に対して悪影響を及ぼす可能性のある代表的な全身薬につき報告例を中心に述べる.I薬剤による視神経障害1.基本的な眼症状と眼所見全身に投与された薬剤による視神経障害と診断するうえで心得ておくべき,重要で基本的な眼症状と眼所見は以下のものがある.1)発症は急性または亜急性である.肝臓や腎臓の機能不良例では薬剤の血中濃度の意外な上昇や蓄積により,薬剤の中止後も悪化進行する例がある.2)必ず両眼性で,視機能障害は(既往の眼疾患や屈折状態に差がないときに)左右眼が同程度で,悪化や改善は両眼が同時に変化する.3)瞳孔の対光反応に異常がみられる.4)視機能障害として,視野は中心暗点を示し,中心フリッカー値が低下し,色覚異常がみられる.(33)???*YuzoNakao:近畿大学医学部堺病院眼科〔別刷請求先〕中尾雄三:〒590-0132堺市原山台2-7-1近畿大学医学部堺病院眼科特集●眼科における薬剤副作用あたらしい眼科25(4):455~460,2008視路障害をきたす全身薬??????????????????????????????????????????????????????????????????????????中尾雄三*———————————————————————-Page2———————————————————————-Page3———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(36)(Riddoch現象)や盲であることの否定(Anton徴候)を伴うこともある.皮質盲の原因としては両側後頭葉の梗塞が最も多く,他に脳出血,悪性高血圧,子癇,悪性腫瘍の転移や播種,感染,外傷,変性,ミトコンドリア病(MELAS),Creutzfeldt-Jakob病がある.最近の話題では,薬剤が関与する視覚中枢障害として可逆性後部白質脳症症候群(reversibleposteriorleucoencephalopa-thysyndrome:RPLS)と進行性多巣性白質脳症(pzro-gressivemultifocalleucoencephalopathy:PML)がある.RPLSは急性発症の頭痛,意識障害,痙攣,視覚障害(重複半盲,皮質盲)があり,原因としては異常高血圧を背景とする高血圧脳症,子癇,腎臓疾患があり,また薬剤(免疫抑制薬,抗癌薬)による影響の報告もある.MRI所見では?uidattenuatedinversionrecovery(FLAIR)画像で両側後頭葉を中心に高信号域がみられる.症状と画像所見は多くの例で可逆性であり,高血圧治療など適切な全身管理により改善する24).PMLは成人の約70%に不顕性感染しているJCウイルスが原因で,AIDS(後天性免疫不全症候群)をはじめ免疫不全疾患(状態)で発症する.JCウイルスは脳のオリゴデンドロサイトにおいて増殖し,細胞溶解を経て脱髄をひき起こす.重篤な視野障害,異常行動,痴呆,運動麻痺を示し,予後は不良である25).薬剤による視覚中枢障害の基本的な眼症状と眼所見は以下のものがある.1)両眼のすべての視機能は喪失する(不完全な障害であれば部分的に視機能が残存する).2)後頭葉障害に特有の症状(Riddoch現象,Anton徴候)を合併することもある.3)瞳孔の対光反応は異常がない.4)眼底所見は多くの例で異常がない.5)視覚誘発電位検査で異常所見(反応消失)がみられる.2.MRI画像所見の特徴両側後頭葉領域において,血管外への水漏出による浮腫(vasogenicedema)ではT2強調画像やFLAIR画像で高信号,虚血や神経細胞障害による浮腫(cytotoxic11)Tacrolimusタクロリムス(FK506)(プログラフ?,プロトピック?)肝臓移植後にタクロリムスでの治療中に両側性の視神経症を生じ,中止後にも視機能は回復しなかった17).12)Methotrexateメトトレキサート(メソトレキセート?,リウマトレックス?)乾癬性関節炎に対してメトトレキサート使用中に球後視神経症を生じステロイド治療は無効であった.メトトレキサート中止6週間後に視野は改善しはじめ,6カ月後にはさらに回復した18).13)Ibuprofenイブプロフェン(ブルフェン?)イブプロフェンを3週間服用後に球後視神経炎を発症し,中止とステロイド点滴により視機能は改善した19).14)Amiodaroneアミオダロン(アンカロン?)アミオダロンは強力な抗不整脈薬で,眼関連の副作用として角膜色素沈着(70~100%),水晶体混濁(50%)であるが,視神経症の発生は服用者の1.8%で,服用後1~7カ月に発生した.視神経乳頭の浮腫があり,視力低下,視野異常,色覚異常は服用中止後に約半数で回復した20).15)Disul?ramジスルフィラム(ノックビン?)慢性アルコール依存症に対する治療薬のジスルフィラム服用で両側性の視神経症を生じ,中止により視機能は良く回復した21).16)Sildena?lシルデナフィル(バイアグラ?)勃起不全治療薬のシルデナフィル服用24時間以内に非動脈炎性虚血性視神経症が発生し,光覚にまで視力低下した例があった.高血圧症,糖尿病,高脂血症を合併していた22).17)Metronidazoleメトロニダゾール(フラジール?)トリコモナス症治療薬のメトロニダゾールを8カ月間服用後に視神経症を生じたが,中止後は速やかに視機能は改善した23).II薬剤による視覚中枢障害1.基本的な眼症状と眼所見両側性の広範な視覚中枢の障害によりさまざまな形の重複半盲が生じ,両側の完全な障害では両眼の視覚の喪失による皮質盲がみられる.動く物体は認識できること———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(37)ンクリスチン,P=プレドニゾン)療法との併用も行われている.リツキシマブ点滴後に発生したRPLS例があった32).8)Bevacizumabビバシズマブ(アバスチン?)ビバシズマブは抗vascularendothelialgrowthfactor(VEGF)抗体で,転移性直腸癌の患者へのビバシズマブとフルオロウラシルの治療によりRPLSが発生した33).9)Natalizumabナタリズマブ(タイサブリ?)ナタリズマブは米国では多発性硬化症の治療に用いられ,PMLを発生したため一旦は使用禁止となった.発生頻度は約0.1%と推定されるが,致命的なPMLの発生に注意が必要である25).(ナタリズマブは日本では未承認である.)おわりに薬剤による視神経障害は多くの視神経疾患(特に視神経炎)と類似し,視覚中枢障害は全身衰弱,心因,詐病との鑑別を要するため,まず問診で可能性のある薬剤の使用を確認し,瞳孔対光反応,電気生理学的検査,画像検査などの他覚的検査を中心に正確に診断する.薬剤による障害の事実を当該科の主治医に伝えてただちに薬剤の使用を中止し,次善の薬剤への変更を考慮してもらうなど慎重に対応することが肝要である.文献1)原田勲:新抗結核剤Ethambutolによる視神経炎の2症例.眼紀14:278-284,19632)金嶋良憲,伊藤正,朝見知恵ほか:エタンブトール視神経症の診断基準.あたらしい眼科22:1439-1442,20053)大鳥利文,中尾雄三,当麻信子ほか:視神経疾患の診断治療における中心フリッカー値測定の意義について.臨眼27:301-310,19734)LesselS:Histopathologyofexperimentalethambutolintoxication.?????????????????????????15:765-769,19765)中尾雄三:抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎.神経眼科25:(印刷中),20086)IkedaA,IkedaT,IkedaNetal:Leber?shereditaryopticneuropathyprecipitatedbyethambutol.?????????????????50:280-283,20067)RuckerJC,HamiltonSR,BardensteinDetal:Linezolid-associatedtoxicopticneuropathy.?????????66:595-598,2006edema)では拡散強調画像で高信号が認められる.3.代表的な薬剤1)Cyclosporineシクロスポリン(サンディミュン?,ネオラール?)心臓移植後のシクロスポリン使用により意識障害と皮質盲を生じ,MRIで両側後頭葉に病変を確認した.シクロスポリン減量に従って症状は改善したが,自動視野計の視野異常とMRIの異常所見は数カ月間認められた26).2)Tacrolimusタクロリムス(FK506)(プログラフ?,プロトピック?)骨髄移植後にタクロリムス治療中に急性に皮質盲を生じ,MRIでは両側後頭葉白質に異常所見を認めた.薬剤中止の8日後には回復した27).3)Fingolimod(FTY720)フィンゴリモドフィンゴリモドは,再発性多発性硬化症の治療薬として治験中の新規経口免疫調節薬である.眼科的副作用としては?胞様黄斑浮腫がよく知られているが,5.0mg投与群で後部可逆性白質脳症症候群(posteriorrevers-ibleencephalopathysyndrome:PRES)が発生した28).4)Cisplatinシスプラチン(ランダ?,ブリプラチン?)骨肉腫へのシスプラチン使用中に視覚障害,高血圧,痙攣,意識障害をきたし,MRIでは両側後頭葉白質に可逆性の異常所見を認めた29).5)Vincristineビンクリスチン(オンコビン?)横紋筋肉腫に対してビンクリスチンを使用中に皮質盲を生じた30).6)Cytarabineシタラビン(キロサイド?,Ara-C?)白血病に対してシタラビン点滴治療後にRPLSの発生をみたが,投与量は従来報告されているよりも低量で,しかも点滴終了から長期間後に発症した.脳神経毒だけでなく,アレルギー反応が関わっている可能性が考えられた31).7)Rituximabリツキシマブ(リツキサン?)リツキシマブはB細胞の表面に存在するCD20に対するモノクローナル抗体の分子標的薬であり,日本での健康保険適用はCD20陽性の低悪性度または濾胞性B細胞性非ホジキンリンパ腫で,単独またはCHOP(C———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(38)200622)PomeranzHD,BhavsarAR:Nonarteriticischemicopticneuropathydevelopingsoonafteruseofsildena?l(via-gra):areportofsevennewcases.?????????????????25:9-13,200523)McGrathNM,Kent-SmithB,SharpDM:Reversibleopticneuropathyduetometronidazole.???????????????????????????35:585-586,200724)HincheyJ,ChavesC,AppignaniBetal:Areversibleposteriorleukoencephalopathysyndrome.????????????334:494-500,199625)AksamitAJ:Reviewofprogressivemultifocalleukoen-cephalopathyandnatalizumab.???????????12:293-298,200626)DrachmanBM,DeNofrioD,AckerMAetal:Corticalblindnesssecondarytocyclosporineafterorthotopichearttransplantation:acasereportandreviewofthelitera-ture.???????????????????????15:1158-1164,199627)StegRE,KessingerA,WszolekZK:CorticalblindnessandseizuresinapatientreceivingFK506afterbonemar-rowtransplantation.??????????????????????23:959-962199928)KapposL,AntelJ,ComiGetal:Oral?ngolimod(FTY720)forrelapsingmultiplesclerosis.?????????????355:1124-1140,200629)ItoY,ArahataY,GotoYetal:Cisplatinneurotoxicitypresentingasreversibleposteriorleukoencephalopathysyndrome.?????????????????????19:415-417,199830)MerimskyO,LoewensteinA,ChaitchikS:Corticalblind-ness─acatastrophicsidee?ectofvincristine.????????????????3:371-373,199231)SaitoB,NakamakiT,NakashimaHetal:Reversiblepos-teriorleukoencephalopathysyndromeafterrepeatinter-mediate-dosecytarabinechemotherapyinapatientwithacutemyeloidleukemia.????????????82:304-306,200732)MavraganiCP,VlachoyiannopoulosPG,KosmasNetal:Acaseofreversibleposteriorleucoencephalopathysyn-dromeafterrituximabinfusion.????????????(Oxford)43:1450-1451,200433)AllenJA,AdlakhaA,BergethonPR:Reversibleposteriorleukoencephalopathysyndromeafterbevacizumab/FOL-FIRIregimenformetastaticcoloncancer.???????????63:1475-1478,20068)SamarakoonN,HarrisbergB,EllJ:Cipro?oxacin-inducedtoxicopticneuropathy.??????????????????????????35:102-104,20079)ColleySM,ElstonJS:Tamoxifenopticneuropathy.??????????????????????????32:105-106,200410)DelvalL,KlasterskyJ:Opticneuropathyincancerpatients.Reportofacasepossiblyrelatedto5?uorouraciltoxicityandreviewoftheliterature.????????????60:165-169,200211)MartinM,Weber-V?rszegiJ,FlammerJ:Toxicopticneuropathyduetocisplatintherapy:acasereport.?????????????????????????222:244-247,200512)ForoozanR,BuonoLM,SergottRCetal:Retrobulbaropticneuritisassociatedwithin?iximab.????????????????120:985-987,200213)tenTusscherMP,

全身用剤による角膜障害

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page10910-181008\100頁JCLSではTS-1?投与開始から眼症状を自覚するまでの期間は平均3.1カ月であった2).自覚症状としては霧視が多く,羞明,流涙,異物感,開瞼困難を訴えることもある.診断のポイントは問診によって抗癌薬を内服しているかを聞き出すことと,つぎに述べる特徴的な角膜上皮障害を認めるかである.TS-1?による角膜上皮障害の特徴は両眼性であること,epithelialcrackline*1を伴うことが多いことである.結膜充血は認めず,結膜上皮障はじめに角膜に影響を及ぼす全身投与薬としては,表1のような薬剤があげられる.なかでも最近の日常診療で出会う可能性が高いのは,抗癌薬のテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合カプセル剤(TS-1?:ティーエスワン)と抗不整脈薬のアミオダロンである.特に前者は近年,涙液を介して角膜上皮障害を生じる薬剤として非常に注目されている.本稿では抗癌薬TS-1?による角膜上皮障害とアミオダロン角膜症について解説する.I抗癌薬による角膜上皮障害角膜に影響を及ぼす抗癌薬としては5-フルオロウラシル(5-FU)系の薬剤が重要であるが,そのなかで最も注意が必要なのは,TS-1?である.TS-1?は1999年に厚生省により認可された新しい経口抗癌薬であり,5-FUのプロドラッグであるテガフールに5-FUの分解酵素阻害薬ギメラシルと消化管毒性を軽減するためのリン酸オテラシルカリウムを配合したものである1)(図1).現在,国内では胃癌,結腸・直腸癌,頭頸部癌,非小細胞肺癌,手術不能または再発乳癌,膵癌で保険適用が承認されている.経口で投与でき,同じ5-FU系抗癌薬であるテガフール・ウラシル配合カプセル剤(UFT?)と比較しても高い5-FUの血中濃度が長時間得られることから,その有用性は高く,近年投与患者数が増加(2005年の年間使用患者数は約10万人)している薬剤である.眼のおもな副作用は角膜上皮障害である.筆者らの調査(27)???*YukaHosotani:兵庫医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕細谷友雅:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室特集●眼科における薬剤副作用あたらしい眼科25(4):449~453,2008全身用剤による角膜障害??????????????????????????????????????????細谷友雅*表1角膜に影響を及ぼす全身投与薬角膜に沈着するもの適応症アミオダロンクロロキンクロファジミン金製剤インドメタシンナプロキセンクロルプロマジンキナクリンタモキシフェン不整脈マラリア,慢性関節リウマチHansen病慢性関節リウマチ炎症炎症精神病マラリア乳癌角膜上皮障害を起こすものフルオロウラシル製剤(5-FU)シタラビン悪性腫瘍急性白血病,膀胱腫瘍*1Epithelialcrackline:薬剤性角膜障害に特徴的な所見とされる,角膜中央やや下方に水平方向に生じるひび割れ状のラインのこと.樹枝状角膜炎と鑑別が必要であるが,terminalbulbを認めず,全体的に混濁して周辺にSPK(点状表層角膜症)を認めることが特徴である.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(28)ロジー*2による診断を兼ねた上皮?離が治療としても有効であった.本症が疑われた場合はまず内科や外科の主治医に連絡し,抗癌薬の中止が可能な状況か相談することが望ましいが,全身的な理由で投与中止が不可能な患者も多い.筆者の経験では角膜上皮障害が完治した症例は,薬剤投与が中止できた症例,あるいはUFT?への変更を行った症例に限られていた.以下に代表的な症例を示す.〔症例1〕72歳,男性.胃癌術後の肝転移に対してTS-1?が投与され,投薬開始より9カ月後に左眼の羞明,かすみを訴え受診した.視力はVD=0.3(0.7×sph-2.25D?cyl-3.00DAx65?),VS=0.5(矯正不能)であり,両眼に角膜上皮障害を認めた(図3a~d).右眼には角膜中央の一部を除いて,輪部を含むほぼ全面に角膜上皮障害を認め,左眼にはepithelialcracklineを伴う角膜全面の上皮障害を認めた.高度の角膜上皮障害を呈することとは対照的に,両眼ともに結膜上皮障害,充血を認めなかった.涙液中5-FUのwashoutを目的とした防腐剤フリーの人工涙液頻回点眼などの治療を行った.TS-1?内服は全身的な必要性から続行された.点眼で一時所見が改善し,自覚症状も軽減したが再度増悪し,治癒を得られないまま永眠された.害がないことも特徴である.上皮の異形成をきたし,不正乱視による視力低下を伴う症例や涙小管狭窄を呈する症例も報告されている.筆者の経験では,上下眼瞼に隠れた部分の角膜にのみ変化を認める症例があり,一見して片眼性の病変と思われても,僚眼の眼瞼に隠れた部分にも病変がないかをしっかりと観察することが必要である.鑑別疾患として,点眼薬による角膜上皮障害やドライアイがあげられるが,前者は詳細な問診を行うことで鑑別可能である.後者は結膜上皮障害を伴うことが多いこと,ドライアイでは涙液減少を認めるが,TS-1?による角膜上皮障害では涙液量は十分であることから鑑別可能である.発症の機序としては,涙液中に分泌された5-FUが角膜上皮細胞を障害すると考えられる(図2).5-FUは細胞のDNA,RNA合成を阻害することで抗腫瘍効果を発揮するが,角膜上皮の基底細胞は活発に分裂しているため,この細胞分裂が阻害されて角膜上皮障害をきたす.また,外傷などで広範囲に角膜上皮が障害されると輪部の幹細胞の分裂が活発になることが知られているが,幹細胞の位置する輪部上皮基底細胞にも増殖抑制が生じていることが推察される.治療は防腐剤を含まない人工涙液を1日6~10回点眼し,眼表面に滞留する5-FUを洗い流すのが基本である.ヒアルロン酸点眼液は,薬剤の眼表面での滞留時間を延長させる可能性があり,筆者は使用していない.上皮の異形成を認めた症例では,インプレッションサイト*2インプレッションサイトロジー:眼表面の細胞診の方法である.セルロース膜を用いて角膜や結膜の最表層上皮を採取し,PAS(過ヨウ素酸フクシン)染色などを行う.図1TS-1?の特徴テガフールは体内で5-FUに分解される.ギメラシルは5-FUの分解を抑制し,高い5-FU血中濃度を維持することが可能である.テガフール:5-FUのプロドラッグギメラシル:5-FUの分解酵素阻害薬オテラシルカリウム:消化管での5-FU活性抑制⇒消化管毒性軽減この3剤の合剤抗癌作用↑テガフール5?FU体内での分解が阻害され血中5-FU濃度が上昇ギメラシル(=分解阻害薬)体内で分解———————————————————————-Page3図3症例1の初診時前眼部写真a:右眼.矯正視力は0.7で結膜充血を認めない.b:右眼のフルオレセイン染色.中央部を残しほぼ全域に角膜上皮障害を認める.c:左眼.視力0.5(矯正不能)で結膜充血を認めない.d:左眼のフルオレセイン染色.全面に角膜上皮障害を認めepithelialcracklineを伴う.(文献2より)〔症例2〕65歳,男性.胃癌術後の再発予防にTS-1Rが投与されており,投薬開始より4カ月後に両眼のかすみを訴えて受診した.視力はVD=1.0(矯正不能),VS=0.4(1.0p×sph-0.25D..cyl-2.00DAx100°)であり,両眼にepithelialcracklineを伴う角膜上皮障害を認めた(図4a~d).両眼ともに結膜上皮障害,充血は認めなかった.TS-1Rの内服を中止し,人工涙液の頻回点眼を行ったところ,所見と自覚症状は改善した.〔症例3〕74歳,女性.胃癌術後の再発予防にTS-1Rが投与されており,投薬開始より5カ月後の近医受診時,左眼の角膜上方に点状表層角膜症を認めた.投薬開始14カ月後には両眼の角膜に点状表層角膜症を伴う,フルオレセイン染色性の異なる地図状の異常上皮を認め(図5a,b),視力障害も出現した.TS-1Rの投与を中止し,人工涙液の頻回点眼を行ったが,2カ月待っても視力改善が得られないため,兵庫医科大学病院眼科を受診した.視力はVD=0.5(1.0×cyl-1.50DAx60°),VS=0.1(矯正不能).異常上皮による角膜不正乱視を認めた(図6).輪部は保たれており,結膜充血を認めなかった.治療を兼ねてインプレッションサイトロジーを施行した.処置後,異常上皮の範囲は縮小し,視力も改善した.異常上皮の起源が角膜上皮か結膜上皮かを同定することはできなかった.IIアミオダロン角膜症アミオダロン(アンカロンR)は,難治性不整脈に優れた効果を示す治療薬であり,1962年に開発されて以来,現在でも頻用される治療薬である.しかし,眼科的には———————————————————————-Page4図4症例2の初診時前眼部写真a:右眼.視力は1.0で結膜充血を認めない.b:右眼のフルオレセイン染色.Epithelialcracklineを伴う角膜上皮障害を認める.c:左眼.矯正視力1.0pで結膜充血を認めない.d:左眼のフルオレセイン染色.Epithelialcracklineを伴う角膜上皮障害を認める.図5症例3の前眼部フルオレセイン染色写真角膜にフルオレセイン染色性の異なる地図状の異常上皮を認める.a:右眼.矯正視力は1.0.b:左眼.視力は0.1(矯正不能).———————————————————————-Page5図6症例3のフォトケラトスコープ写真図7アミオダロン角膜症角膜の下方2/3に集束する褐色の色素沈着を認める.異常上皮の存在する部分に一致して,マイヤーリングの乱れを認める.左眼は中央のリングにも乱れを認める.有名な角膜症をはじめ,白内障,視神経症などの合併症が報告されており,視力低下の原因となることもある.このうち角膜症は,アミオダロン投与開始1~3カ月後に出現し,発症率は約6~9割といわれている.両眼性で,角膜下方1/3の上皮内に褐色の線状色素沈着を認める4,5)(図7).角膜上皮の基底細胞内にリポフスチンを含む沈着物が認められるが,発症機序はいまだ不明である.自覚症状はほとんどないことが多く視力も低下しないが,まれに羞明,色視症,虹視症を訴えることがある.診断のポイントは薬剤内服歴の聴取である.初期のアミオダロン角膜症は,健常者にみられるHudson-Stahli線との鑑別がむずかしいことがあるが,アミオダロン角膜症の色素沈着は『猫ひげ状』あるいは『箒で掃いたような』と表現され,Hudson-Stahli線よりも細かい分岐が多い.経過とともに角膜中央よりもやや下方に中心をもつ渦状,放射線状の色素沈着がみられるようになる.鑑別疾患としてFabry病,他の薬剤性角膜障害などがあげられるが,家族歴の有無や内服既往歴の聴取が鑑別に役立つ.色素沈着のみで特に症状がなければ,経過観察としてよい.通常は角膜症のみでは視力低下はきたさないが,視力障害を認める場合は視神経症を合併していないか注意が必要である.角膜の色素沈着はアミオダロン内服を中止すると軽減する.稿を終えるにあたり,ご校閲いただいた市立豊中病院眼科部長細谷比左志先生および三村治教授に深謝いたします.文献1)ShirasakaT,ShimamotoY,OhshimoHetal:Developmentofanovelformofanoral5-fluorouracilderivative(S-1)directedtothepotentiationofthetumorselectivecytotoxicityof5-fluorouracilbytwobiochemicalmodulators.AnticancerDrugs7:548-557,19962)細谷友雅,外園千恵,稲富勉ほか:抗癌薬TS-1Rの全身投与が原因と考えられた角膜上皮障害.臨眼61:969-973,20073)EsmaeliB,GolioD,LubeckiLetal:Canalicularandnasolacrimalductblockage:anocularsideeffectassociatedwiththeantineoplasticdrugS-1.AmJOphthalmol140:325-327,20054)川本晃司,近間泰一郎,西田輝夫:日常みる角膜疾患アミオダロン角膜症.臨眼60:672-674,20065)金井要,村山耕一郎,米谷新:生体共焦点顕微鏡を用いたアミオダロン角膜症の観察.臨眼56:1094-1098,

消毒液,洗浄液による角膜障害

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———————————————————————-Page10910-181008\100頁JCLSれれば上皮?離は修復するが,界面活性剤作用や蛋白変性作用により内皮細胞にまで浸透する可能性が高く,予後は内皮機能の修復状態に左右される.初期治療を適切に行うことが重要であり,以下に治療について述べる.1.急性期治療誤用した場合は洗眼後すぐに角膜白濁をきたすことがほとんどであり,直後に気づくことが多い.異変に気づいた場合はすぐに生理食塩水などで洗眼を少なくとも15分は行う.そのあとpHを確認するが,ヒビテン?の場合は浸透度が高いと考えられるため,pHが中性域に入っていても最低1時間は洗浄したほうがよい.洗眼後に角膜上皮損傷の範囲を確認し,重症度を判定する.注意点として受傷早期にフルオレセインで染色できないことがあるため,直後に上皮損傷が確認されていなくても翌日以降に再度染色し上皮損傷の範囲を確認する必要がある.はじめに筆者らは眼感染症の予防のために手術の際には消毒液にて洗浄し,コンタクトレンズ感染症の予防のためにコンタクトレンズは消毒剤の入った洗浄液で洗浄している.本稿では,このように日常的に用いられる消毒液や洗浄液によって生じる可能性のある角膜障害について述べる.I消毒薬による角膜化学腐蝕消毒薬の誤用で起こった化学腐蝕の原因として,高濃度グルコン酸クロルヘキシジン(ヒビテン?)やヒビテンアルコール?があげられる1).一般的に化学腐蝕の程度は接触時間,薬剤のpH,直後の処置の有無によって異なり,角膜上皮障害の範囲と程度,薬剤の浸透度が経過および治療予後に直接関与する.特に角膜上皮のstemcell損傷の有無が上皮修復に大きく影響するため2),フルオレセイン染色を用いて上皮損傷の範囲を確認し,どのように修復されるかを推測する(表1).Grade1,2では予後良好であるが,Grade4は予後がきわめて不良である.Grade3では初期治療により予後が左右される.ヒビテン?で起こった症例はGrade3であることが多いため,初期治療が適切に行わ(21)???表1急性期の重症度分類Grade結膜所見角膜所見1結膜充血角膜上皮欠損なし2結膜充血角膜上皮欠損あり(部分的)3a結膜充血あるいは部分的壊死全角膜上皮欠損,輪部上皮一部残存3b結膜充血あるいは部分的壊死全角膜上皮欠損,輪部上皮完全消失4半周以上の輪部結膜壊死全角膜上皮欠損,輪部上皮完全消失結膜および角膜の障害範囲により重症度が分類される.(文献2より)*YoNakamura:四条ふや町中村眼科〔別刷請求先〕中村葉:〒600-8005京都市下京区立売東町24番地みのや四条ビル2F四条ふや町中村眼科特集●眼科における薬剤副作用あたらしい眼科25(4):443~447,2008消毒液,洗浄液による角膜障害??????????????????????????????????????????????????中村葉*———————————————————————-Page2———————————————————————-Page3———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(24)2.MPS消毒a.原因MPSによる角膜障害は,MPSに含まれる消毒成分が原因と考えられている6,7).MPSには,ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)もしくは塩化ポリドロニウムのいずれかが配合されているが,PHMBのほうが角膜障害を起こすリスクが高いことが報告されている8).消毒中にSCLに吸着した消毒成分が,SCL装用時に排出され角膜を障害することで発生する可能性が高い.消毒成分の吸着および排出動態は,MPSの消毒成分とSCL素材の違いで異なるため,その組み合わせによって角膜障害の程度も異なる8).b.所見MPSによる角膜障害は角膜の前面もしくは周辺に,びまん性の点状表層角膜症としてみられる.ドライアイなどによる上皮障害とは違い,障害されるのは角膜のみで球結膜に点状の染色はみられない.この角膜障害は,過酸化水素消毒剤による角膜障害と異なり,患者が無自覚である場合が多く,SCL上からでは細隙灯顕微鏡を用いても検出できないほど深度の浅いものが多い.したがって,MPSを使用しているSCL装用者の場合,自覚はなくともSCLをはずしフルオレセインで染色して観察することが望ましい.c.治療一時的にレンズの装用を中断し,上皮の修復を促すように人工涙液の頻回点眼により軽快する場合が多い.さらに,前述したようにMPSの消毒成分とSCL素材により障害の程度が異なるため,相性を検討しMPSの種類の変更を行うことが原因の除去につながる.より障害性の低いものを選択するのがよいが,角膜に対する安全性が高いMPSは消毒効果が低くなる傾向にあることが報告されており9),安全性と消毒効果のバランスを考慮したうえで変更する必要がある.d.症例MPSの種類を変更することで,角膜障害が改善した症例である.〔症例〕37歳,男性.初診時:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHSCL)装用者で,PHMBを含むMPSを使用していとが多いが,ヒビテン?を使用する場合には,界面活性剤を含まないこと,アルコール希釈していないことおよび濃度について確認することが必要である.IIコンタクトレンズケア用品による角膜障害ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者において,洗浄消毒剤との関連が疑われる角膜障害が観察される場合がある.SCLケア用品による角膜障害としては,過酸化水素消毒剤による角膜障害4),マルチパーパスソリューション(MPS)による角膜障害5)などがあげられる.1.過酸化水素消毒過酸化水素消毒剤は強い酸性であるためSCL消毒後の中和が必要であるが,中和を忘れた場合,あるいは中和時間が不足した場合,残留した過酸化水素が重度の点状表層角膜症を起こす.この角膜障害は,眼刺激症状,充血,疼痛といった自覚症状を伴うが,レンズの装用を一時中断し上皮の修復を促すように人工涙液の頻回点眼および消炎により軽快する.図6平成19年12月より改訂された2種類のヒビテン?のラベル線で囲んだ部分に眼への使用に関しての注意事項が記されている.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(25)4)針谷明美:過酸化水素消毒の誤用.あたらしい眼科21:771-772,20045)丸山邦夫,横井則彦:マルチパーパスソリューション(MPS)による前眼部障害.あたらしい眼科18:1283-1284,20016)LebowKA,SchachetJL:Evaluationofcornealstainingandpatientpreferencewithuseofthreemulti-purposesolutionsandtwobrandsofsoftcontactlenses.?????????????????29:213-220,20037)JonesL,MacdougallN,SorbaraLG:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbala?lconsilicone-hydrogelcontactlensesdisinfectedwithapolyaminopro-pylbiguanide-preservedcareregimen.?????????????79:753-761,20028)工藤昌之,糸井素純:O2オプティクスと各種ソフトコンタクトレンズ消毒剤との組み合わせによる安全性.あたらしい眼科24:513-519,20079)Santodomingo-RubidoJ,MoriO,KawaminamiS:Cyto-toxicityandantimicrobialactivityofsixmultipurposesoftcontactlensdisinfectingsolutions.??????????????????????26:476-482,2006た.自覚症状はなかった.SHSCLをはずしフルオレセインで染色すると,角膜全面に点状染色があった.障害は角膜のみで球結膜に点状の染色はなかった(図7).経過:SHSCLの装用を一時的に中断し,人工涙液の頻回点眼で経過を観察した.翌日には,角膜障害は改善していた.MPSの種類を変更し,SHSCLの装用を再開して経過を観察したが,角膜上皮障害は再発しなかった(図8).文献1)中村葉,稲富勉,西田幸二ほか:消毒薬による医原性化学腐蝕の4例.臨眼52:786-788,19982)木下茂:化学腐蝕,熱傷.角膜疾患への外科的アプローチ(真鍋禮三,北野周作監修),p46-49,メジカルビュー社,19923)外園千恵:眼外傷.あたらしい眼科22(臨増):218-220,2005図7PHMBを含むMPS使用者の角膜障害角膜の全面にびまん性の点状染色があった.図

ステロイド点眼薬の眼科的副作用

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page10910-181008\100頁JCLSルココルチコイド受容体に直接結合し,転写因子を介した種々の反応経路の活性化により特定の遺伝子転写が促進した結果として副作用が発現する経路と,副作用発現細胞とは別の細胞に存在するグルココルチコイド受容体を介し間接的に作用する経路である.いずれの結果でも,細胞増殖や細胞分化,アポトーシスに対する脆弱性変化,膜受容体を介した物質輸送,活性酸素などへの反応系に対して影響を与え種々の副作用をきたすと考えられる.ステロイド点眼薬の作用部位はおもに眼局所であることから発症する副作用はほとんど眼局所であるが,ときに全身副作用を示すことも報告されている.一般的にステロイドの副作用はステロイドの示す抗炎症作用の強度に比例すると考えられる.すなわちベタメタゾン,デキサメタゾン,フルオロメトロンの順に副作用が発症しやすくなり,発症も強くなる(注意:副作用の種類によってベタメタゾン,デキサメタゾンの順位は異なることがある).ステロイドによる副作用は投与期間とも相関している.2.ステロイド点眼間における眼内移行の違いステロイドによる眼圧上昇などの眼内の副作用発現の違いに関しては力価の差以外に2つの要因が考えられている.一つは角膜透過性の差である.もう一つの要因としては角膜通過時の代謝によって眼内に通過したステロイド代謝体のステロイド活性の違いである.フルオロメトロンはデキサメタゾンに比べ副作用の発現頻度が低くはじめに点眼用ステロイド薬は合成ステロイド薬で,糖質コルチコイド様作用を有し,糖代謝,抗炎症,免疫抑制作用などを示す.幅広い眼疾患に有効であることから眼科領域でも日常診療において非常に多く用いられている.しかしながらステロイド薬は,優れた効能を示すと同時にいくつかの重篤な副作用を示す.ステロイド点眼薬の副作用として代表的なものはステロイド白内障,ステロイド緑内障,感染,創傷治癒遅延である.本稿ではまずステロイドの薬理学的特徴に関して解説後,これら代表的副作用を中心に記述する.近年,滞留型ステロイドであるトリアムシノロンアセテート(以下,トリアムシノロン)は眼局所の滞留時間が長く,多くの眼底疾患に有効であるため非常に多用されている.しかしながら,トリアムシノロンが長期間滞留することは副作用の発現がより高率かつ重篤になることを意味しており,実際多くの副作用に関する報告がなされている.本稿の課題はステロイド点眼薬による眼科的副作用であるが,後半にトリアムシノロンによる副作用に関しても紹介する.Iステロイドの薬理学的特徴1.副作用発現機序ステロイドによる副作用発症機序に関しては解明されていない点が多く残っているが,おもに2つの経路が存在すると考えられている.すなわち,副作用が発現する細胞(たとえば,線維柱帯細胞)の核内受容体にあるグ(15)???*KenjiKashiwagi:山梨大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕柏木賢治:〒409-3898中央市下河東1110山梨大学医学部眼科学教室特集●眼科における薬剤副作用あたらしい眼科25(4):437~442,2008ステロイド点眼薬の眼科的副作用?????????????????????????????????????????????????????柏木賢治*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(16)眼圧上昇例が多いとされる.さらに若年者,高度近視眼や糖尿病患者でも多いことが報告されている.表2にステロイド緑内障発症危険因子を示す.2.発症機序ステロイドによって眼圧上昇をきたす機序に関してはいまだ結論に至っていないが,従来から線維柱帯路の細胞外にプラーク様の異常沈着が報告されており,細胞外器質の変化によって眼房水の流出能が低下するために起こると考えられてきた3).ステロイドによって細胞外器質の成分であるタイプIコラーゲン,タイプIVコラーゲン,フィブロネクチン,グリコサミノグリカンなどの増加が報告されている4).培養ヒト線維柱帯細胞を用いた研究ではアクチンの架橋形成なども報告され,ステロイドによる細胞外器質の分解酵素であるmatrixmetal-loproteinase活性変化も報告されている.原発開放隅角緑内障の原因遺伝子として報告されたミオシリン遺伝子(?????????)は培養線維柱帯細胞にステロイドを添加した際に発現が増加されることから研究されたが,ミオシリン蛋白の分泌がステロイドで増加し,これが房水流出抵抗を増大させる可能性も報告されている.最近のヒト培養線維柱帯細胞を用いた研究では,ミオシリン遺伝子以外にもステロイド負荷により細胞外器質分解酵素の発現低下や活性抑制に関連する遺伝子の発現増加,細胞接着分子であるアクチンやアクチン関連蛋白遺伝子の発現が変化することが報告されている5).ステロイドによる眼圧上昇機序は現時点ではさらなる検討が必要であるが,これらの報告から線維柱帯の細胞外器質変化や線維柱帯細胞自体の接着能や形態変化などによって房水流出抵抗が増加したものと考えられる.3.検査診断法ステロイドに対する眼圧反応性を調べる検査法としてはArmalyとBeckerが提唱した方法が一般的である(表3)1,2).一般的にはステロイドによる眼圧上昇は点眼開始後徐々に起こり,点眼中止後2~3週間程度で消失するが,症例によっては点眼早期から過剰な反応を示すものや高度に上昇するもの,まれではあるが不可逆性の上昇を示す場合があるため,検査前には患者に十分に説明程度も軽い.特に眼圧上昇など眼内における副作用の発現に差が大きい.上述した点がその理由として考えられる.IIステロイド緑内障点眼や内服もしくは注射などによって投与されたステロイドによる眼圧上昇に関しては50年以上前から指摘されている.ステロイド投与に反応して眼圧が上昇する確率は個人差が大きいが,ステロイドの力価,投与量,投与期間に比例して高率になる.一般的にステロイド緑内障の場合,自覚症状は緑内障視神経傷害が進行するまで出現しにくいため,ステロイド投与中,投与歴がある場合は注意が必要である.眼科医以外の医師から処方されるケースも多いため,啓蒙や投薬内容の問診などが重要となる.表1にステロイド緑内障診療の注意点を示す.1.疫学ステロイドに対する眼圧上昇反応には個体差が大きいことが知られている.ArmalyやBeckerの報告によると正常者の眼圧上昇頻度は,5~30%程度である1,2)が,開放隅角緑内障患者とその血縁者では上昇例が多く,なかでも?性緑内障,外傷による続発緑内障患者において表1ステロイド緑内障診療に関する注意点患者本人の自覚症状が少ないため投与眼においては注意深い診察が必要ステロイド治療歴の詳細な検討:薬剤名,投薬内容,投薬期間,眼圧値の経過ステロイド負荷テストに対する偽陰性症例の存在減量・代替療法の検討———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(17)可逆性の眼圧上昇を示すなどして緑内障治療が必要と判断された場合の治療方針は,基本的には原発開放隅角緑内障に準ずる.すなわち緑内障視神経障害と未治療時眼圧を参照にして目標眼圧を設定する.一般的には点眼治療を用いた眼圧下降を行い,十分な眼圧下降が得られない場合,手術治療を行う.ステロイド緑内障は線維柱帯切開術による眼圧下降が有効な病型であり線維柱帯切除術に比べ,濾過胞感染などの重篤な合併症をきたす可能性が低く,長期成績も比較的良好である.このため目標眼圧が10mmHg台後半の症例においては,第一選択として考えられる.しかしながら目標眼圧が10mmHg台前半の場合は線維柱帯切開術で達成することは困難なため,薬物療法の併用ができないケースの場合,線維柱帯切除術が第一選択と考えられる.ステロイド緑内障に対し線維柱帯切開術を施行する場合は将来,濾過手術を施行する可能性もあるため,上方への線維柱帯切開術の施行は避け側方や下方を選択したほうがよい.一方,線維柱帯切除術を施行する際,ステロイドを長期に使用した症例の場合,結膜が菲薄化している場合があるため結膜縫合不全や縫合部離解などが起こりやすいので注意が必要である.線維柱帯切開術や線維柱帯切除術を施行した場合,その後のステロイド点眼による眼圧上昇はほとんど発症することはないが,まれに術後のケースにおいてもステロイドにより眼圧が上昇する場合があることに注意する必要がある.5.ぶどう膜炎に合併したステロイド緑内障に対する対処法ぶどう膜炎の治療としてステロイド点眼を用いた結果眼圧が上昇することにしばしば遭遇する.このとき,重要な点は眼圧上昇のメカニズムがぶどう膜炎そのものによるものか,ステロイドによるものか鑑別することと,緑内障治療が必要な状態かどうか判断することである.前房内所見や隅角を精査しぶどう膜炎による眼圧の可能性を判断する.片眼性の眼圧上昇の場合は,反対側眼にステロイド点眼負荷テストを行って判断することも有用である.ステロイドによるぶどう膜炎の治療の必要性を考慮して中止可能な場合は可能なかぎり中止し,NSAIDなどの代替治療を行う.局所投与に比べ全身投与は投与し,細かく診察を行う必要がある.これらの負荷検査法で陰性であってもステロイドによる眼圧上昇の可能性を完全に否定することはできない.したがって大量もしくは長期にわたってステロイドを使用する場合は常に眼圧上昇に注意する必要がある.ステロイド点眼によって眼圧上昇を示す原発隅角緑内障患者が多いため,偽陽性である場合に関しても診断には注意が必要である.ステロイド緑内障の診断には必ず隅角検査を行う必要がある.これにより外傷,ぶどう膜炎,先天異常などが鑑別できる.発達緑内障の場合,角膜径の拡大や混濁などを示すこともあり診察時に注意する.しかしながら通常の眼科検査においてはステロイド緑内障と原発開放隅角緑内障を鑑別することは容易ではない.そこで臨床的に最も重要な点はステロイドの使用を問診や既往歴,現病歴などから明らかにすることである.この際,ステロイドが他科から処方されている場合もあるので注意が必要である.しっかりしたステロイド使用歴と眼圧の関係を示すデータがない場合,ステロイド中止後も負荷逆性の眼圧上昇が残存したケースやステロイドによる続発緑内障を過去に発症したケースを原発開放隅角緑内障と鑑別することは実際にはかなり困難である.4.治療ステロイド点眼による眼圧上昇が疑われる場合,ステロイドの中止によって多くは眼圧が正常化するため,可能であればまずステロイドの投与を中止する.もし眼圧下降が必要と判断される場合は点眼治療などを行う.種々の理由でステロイド中止が困難な場合は,減量もしくは作用の弱いフルオロメトロンや非ステロイド系消炎薬(NSAID)に変更する.ただし,フルオロメトロンでも長期間の点眼によって眼圧が上昇することがある.不表3ステロイド負荷試験法———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(18)膜色素変性症に合併した白内障,加齢などがある.既往歴や全身合併症,投薬歴などから鑑別する必要がある.加齢による白内障でも後?下白内障をきたすことがあるが,この場合,皮質白内障や核白内障を併発することがほとんどである.3.発症機序ステロイドによる白内障の発症機序としては水晶体上皮細胞に対する直接的作用と眼内の他の細胞に作用し間接的に成長因子の濃度などの調整を行うことで水晶体に作用して白内障を惹起することも考えられている.ステロイドがトランスグルタミナーゼを誘導し水晶体蛋白間に架橋を形成するという説,ステロイドのカルボニル基と水晶体蛋白のアミノ基の間が結合する説,水晶体蛋白のリン酸化阻害説,水晶体上皮細胞のNa-K-ATPaseポンプ機能の障害説などが考えられているが,発症機序に関しては十分に解明されていない9).組織学的検討では,水晶体後?直下の混濁部に空胞の形成が認められるが,鶏胚白内障モデルを用いた検討では,細胞接着因子の一つである?-カドヘリンの染色が増強していることや,sialyl-Lewisgangliosideの分布が減少していることが報告されており,水晶体線維接着の異常が推測されている.4.治療ステロイド白内障の場合,視力低下よりコントラスト感度の低下が強い場合が多い.治療はいくつかの薬物治療が報告されているが,有効性がヒトで確認されたものはない.したがって,視機能障害が強い場合は,手術療法が第一選択であるが,ステロイド白内障は点眼例でも全身例でも可逆性があるとの報告もあるため,手術適応の決定は特に若年者では慎重に行う必要がある.IV感染症ステロイドは抗炎症作用が強いため,感染症に併発する炎症反応の沈静化,軽快化に有効性を示す.しかしながらステロイドは同時に細胞性免疫,液性免疫ともに抑制し免疫能を低下させる.おもな免疫抑制機序としてはマクロファージやTリンパ球由来のサイトカイン産生量が少ない場合はステロイド誘導性の眼圧上昇を起こしにくいとされているため,少量のステロイドの内服をNSAID剤などと併用することも検討すべきである.たとえステロイド投与による眼圧上昇が認められても,緑内障視神経障害が未発症もしくは軽度の場合や眼圧上昇が軽度の場合では,ぶどう膜炎の治療を優先し,炎症の早期の沈静化を優先することが重要である.6.手術に際してのステロイド点眼の選択眼科手術後には高頻度にステロイド点眼が使用されるが,ステロイド点眼の術後投与方法に関しては副作用の発症の点から再検討が必要である.たとえば,斜視施術患者にデキサメタゾンもしくはNSAIDを術後点眼し眼圧を検討するとデキサメタゾン点眼群の眼圧が術後有意に上昇したとの報告がある6).この報告では炎症所見にデキサメタゾン群もNSAID群にも有意な差がなかったことから,このような手術の場合,今後術後ステロイドは不要な可能性が考えられる.緑内障の現病歴のある患者に手術を行う際には,術後のステロイド使用に関しては最低限にして眼圧上昇に配慮することも必要である.IIIステロイド白内障1.疫学ステロイドの全身投与によって白内障が発症することが報告されている7,8).その発症頻度は全身投与の場合,後?下白内障の発症率が,プレドニゾロン換算で10~15mgを1~4年間投与した群では11%,4年以上では57%,15mg以上では1~4年で78%,4年以上で83%との報告がある7).このように大量のステロイドを全身的に投与すると白内障を併発する頻度が高いが,ステロイド点眼によっても大量全身投与に比べ頻度は低いものの白内障が併発することも古くから報告されている.2.検査所見ステロイド白内障の典型的な混濁形式は後?下混濁である.特徴的な混濁のパターンは,後?直下に点状混濁や空胞が形成されそれらが融合し,皿状の混濁へと進行する.後?下白内障はステロイド白内色———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(19)合2.04%(116/5,665件),Tenon?下投与の場合1.55%(191/12,343件),濾過手術が必要となった眼圧上昇例は硝子体内注射の場合0.56%(32/5,665件),Tenon?下投与の場合0.26%(33/12,343件),眼内炎は硝子体内注射の場合0.12%(7/5,665件),Tenon?下投与の場合0.008%(1/12,343件)であった.眼瞼下垂は硝子体内注射で0.14%(8/5,665件),Tenon?下投与で0.35%(43/12,343件)に発症していた.この報告によると,硝子体内注射による眼内炎の発症率は欧米と同等以下で,眼瞼下垂はTenon?下投与例に多く発症していた13).ただし,米国からの報告では,硝子体内注射によって1年で半数近くが白内障の進行が認められたとの報告もあり,本報告とは発症率が大きく異なる.これは白内障の評価基準が調査施設ごとに異なるためと考えられ単純に他の報告と比較できない.トリアムシノロンは,ステロイド力価は比較的弱いが局所滞留時間が長く,従来のステロイド点眼の場合,局所滞留時間が短いために眼圧上昇などの副作用が発症した際には投与を中止して対応することができたのに対し,除去が困難な場合が多い.したがって投与や経過観察にはより注意が必要である.おわりに以上,ステロイド点眼による眼科的副作用についてまとめた.現在,ステロイドによる副作用を避けるために,種々のNSAIDが開発されているが,いまだにステロイドを明らかに超える薬剤は開発されていない.われわれは,日常的に用いるステロイド局所薬による副作用を抑えるために必要最小限の投与に留めることと,副作抑制が考えられている.免疫能抑制の結果,外来性の感染源に対する防御能の低下とヘルペスウイルスなどの潜在性ウイルスの活性化や常在菌の顕在化をきたす.このような免疫低下能はステロイドの力価や投与量,投与期間に比例するためステロイド点眼の際には,感染の悪化や新たな感染の誘発の可能性に十分に注意して有効な最小限の投与量を用い常に感染に注意する必要がある.V創傷治癒遅延ステロイド薬はコラーゲン合成を抑制するため術後長期間使用している際には創傷治癒が遅延する.岸本らの報告によると全層角膜移植後に創口離解をきたした症例の多数がステロイド点眼を使用していた10).長期間のステロイド使用は細胞外器質代謝に影響を与え,結膜や強角膜の菲薄化をきたすこともある.若年ウサギを用いた研究では,ステロイド点眼の継続によって全身成長が抑制されることが報告された11).ヒトでの検討はないが,特に乳幼児に対するステロイドの長期投与は点眼であっても注意が必要かもしれない.VIトリアムシノロン局所投与による副作用滞留型のステロイドであるトリアムシノロンは,以前から眼科領域で用いられていたが,眼圧上昇などの副作用によって臨床使用は限定されていた.しかしながら最近網膜疾患の治療に対する有効性が多く報告されるようになり,トリアムシノロンをTenon?下もしくは硝子体中に投与するケースが増えている.これに伴い,眼圧上昇,ステロイド白内障や眼内炎の発症などの副作用や合併症の報告が増えている.トリアムシノロンによる眼圧上昇に関して,Yama-motoらは,5mmHg以上の眼圧上昇の頻度は34.1%程度であると報告している12).眼圧上昇のリスクは,基本的には水溶性ステロイドと同様であるが,若年者,糖尿病などが報告されている.発症率はTenon?下投与経路が高い報告が多く,眼圧上昇期間が点眼に比べ比較的長期間(半年程度)続くことも特徴である.坂本らは2006年5月時点におけるわが国のトリアムシノロンの使用状況に関する調査を行い報告したが,それによると(表4),白内障の合併率は硝子体内注射の場表4トリアムシノロン注射による眼合併症頻度合併症硝子体内注射(5,665件)Tenon?下注射(12,343件)白———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(20)7)WestSK,ValmadridCT:Epidemiologyofriskfactorsforage-relatedcataract.???????????????39:323-334,19958)CongdonN,BromanKW,LaiHetal:Cortical,butnotposteriorsubcapsular,cataractshowssigni?cantfamilialaggregationinanolderpopulationafteradjustmentforpossiblesharedenvironmentalfactors.?????????????112:73-77,20059)西郡秀夫:鶏胚を用いたグルココルチコイド作用・副作用の研究─白内障の発症機序から治療効果を残した予防を考える─.薬理学会雑誌126:869-884,200610)岸本修一,天野史郎,山上聡ほか:全層角膜移植術後に外傷性創離開を起こす患者背景因子.臨眼58:1495-1497,200411)KugelbergM,Sha?eiK,OhlssonCetal:Glucocorticoideyedropsinhibitgrowthinthenewbornrabbit.??????????????94:1096-1101,200512)YamamotoY,KomatsuT,KouraYetal:Intraocularpressureelevationafterintravitrealorposteriorsub-Ten-ontriamcinoloneacetonideinjection.????????????????43:42-47,200813)坂本泰二,樋田哲夫,田野保雄ほか:眼科領域におけるトリアムシノロン使用状況全国調査結果.日眼会誌111:936-945,2007用の発現に十分注意して診療を行う必要がある.文献1)ArmalyMF:Statisticalattributesofthesteroidhyperten-siveresponseintheclinicallynormaleye.I.Thedemon-strationofthreelevelsofresponse.?????????????????4:187-197,19652)BeckerB:Intraocularpressureresponsetotopicalcorti-costeroids.?????????????????4:198-205,19653)YueBY:Theextracellularmatrixanditsmodulationinthetrabecularmeshwork.???????????????40:379-390,19964)JohnsonDH,BradleyJM,AcottTS:Thee?ectofdexam-ethasoneonglycosaminoglycansofhumantrabecularmeshworkinperfusionorganculture.?

抗緑内障点眼薬による眼障害

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page10910-181008\100頁JCLSつの大きな進歩が緑内障薬物治療に登場した.①ゲル化b遮断薬,②新たなPG製剤,③点眼の炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)の導入である.さらに,④欧米での大規模無作為前向き試験により目標眼圧の概念が確立し,より低いレベルでの眼圧コントロールが求められはじめ,3剤あるいは4剤の併用薬物治療が臨床の場に普及した.そのために現在の緑内障治療における薬剤性角膜障害がいっそう広く認知されるきっかけとなった.II緑内障薬物治療の特徴,問題点緑内障はきわめて慢性に,きわめて長期に進行し続ける特徴がある疾患である.また,治療は一旦開始されたらほぼ全生涯を通じて行う必要があり,視野の悪化や,眼圧上昇などを契機に点眼薬の追加投与や治療法の変更が行われる.近年,目標眼圧の概念が確立され,さらに厳密な眼圧コントロールが必要とされるようになってきた.しかし真の意味での患者自身に至適とされる眼圧レベル(健常眼圧レベル)を把握,決定するのは困難である.眼科医は長期的な眼圧測定と視野検査をくり返すことによって得られる,より確率の高い推測値に頼らざるをえず,このためより安全域を広げた過剰な治療に傾かざるをえないのが現状である.緑内障薬物治療の目的は十分な眼圧下降により視機能の悪化を最小限に抑え,一方で,薬剤の長期的投与による合併症,副作用を最小限にすることにある.そのためには市販されている多くの緑内障治療薬の特性,特徴を理解し,短期的,長期的なはじめにさまざまな眼疾患で点眼治療を行っている経過中に,思わぬ角膜障害に遭遇する.このような病態は薬剤性角膜障害とよばれ,近年広く臨床の場において認知されてきた.特に緑内障は非常に長期間点眼薬が使用され続けるため,このような障害が発症しやすい疾患の代表である1).さらに緑内障薬物治療は近年,併用薬物療法が普及し薬剤性角膜障害が発症しやすい状況が作り出されている.緑内障治療薬による薬剤性角膜障害発症の機序の十分な理解と,発症の際の適切な対応が臨床の場において要求されている.I緑内障治療薬による薬剤性角膜障害の歴史1990年代に,イソプロピルウノプロストン(ウノプロストン)が新しいプロスタグランジン製剤(PG製剤)として臨床の場に登場した.眼圧下降効果はb遮断薬に劣るものの全身への副作用がないことから,b遮断薬が禁忌の患者へのファーストラインの治療薬として,さらにいっそうの眼圧下降を目的としてb遮断薬との併用が広く行われた.しかし,チモロール単剤あるいはウノプロストン単剤でほとんど生じなかった角膜障害が,両者の併用で高頻度に出現し,その原因,治療法について大きな問題となった2,3).このチモロールとウノプロストン併用による角膜障害がきっかけとなり,緑内障治療薬による薬剤性角膜障害が一般臨床の場において急速に認知され今日に至っている.1990年代後半に入り,4(9)???*ShoichiSawaguchi:琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野〔別刷請求先〕澤口昭一:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野特集●眼科における薬剤副作用あたらしい眼科25(4):431~436,2008抗緑内障点眼薬による眼障害????-?????????????????????????????????????????澤口昭一*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(10)頻度は少ないが角膜内皮障害のある患者にCAIを点眼して水疱性角膜症に進行,悪化した報告や,閉塞隅角緑内障に対してレーザー虹彩切開術を施行した患者にPG製剤を点眼して急速に角膜内皮が減少した報告もある.薬剤性の偽眼類天疱瘡は非常にまれではあるが緑内障点眼薬が原因となることが指摘されている.2.防腐剤による障害(表1)ほとんどすべての市販されている緑内障治療薬(点眼薬)には防腐剤が含まれ,その細胞毒性が知られている4,5).表1にわが国で市販されている抗緑内障点眼薬に含まれる防腐剤濃度を記載した.塩化ベンザルコニウム(BAC)を含んだ点眼薬の点眼回数と,含まれるBAC濃度の2つの要素が眼局所へ影響を与える.一般的に防腐剤の細胞毒性は,点眼後涙液で希釈されるためにほとんど眼局所への影響はないとされている.しかしながら,点眼薬を複数併用した場合には点眼回数が増えるために前眼部は常にBACに曝露されていることになる.また,高濃度のBACを含む点眼薬は併用療法を行う際には必須なため,いっそうの注意が必要となる.3.眼自体や眼を取り巻く環境の問題ドライアイなど涙液減少症では点眼薬の希釈が不十分となり上皮障害を起こしやすい環境を生じる.また糖尿病患者では角膜知覚低下による涙液分泌の減少,上皮の再生能の低下,接着機能の低下などが知られており,一旦生じた上皮障害が重症化,遷延化しやすくなる.素因として角膜上皮の脆弱性(輪部幹細胞の疲弊など)がある場合には当然点眼薬の副作用や賦形剤による副作用がリスク,ベネフィットを考慮した戦略を立てる必要がある.緑内障治療薬は眼という非常にデリケートな組織への点眼という,他の全身性の薬剤投与とは際だった違いがある.特に点眼薬が直接接触する角膜,結膜,眼周囲組織などへの副作用については十分に理解し,対応する必要がある.一方で緑内障治療薬(点眼薬すべてに当てはまる)の特徴として,その主成分以外に製剤化するにあたって防腐剤,安定化剤,可溶化剤など,多くの賦形剤が含まれており,薬剤自身の作用,副作用とともにこれらの賦形剤の眼局所への影響についても理解する必要がある.III緑内障薬物治療による角膜障害の発症機序緑内障治療薬の副作用については点眼薬の作用に付随した副作用(涙液分泌抑制,炎症惹起性,細胞増殖抑制など)と点眼薬に含まれる防腐剤を中心とした賦形剤の毒性による副作用があげられる.またb遮断薬の表面麻酔作用,さらに点眼薬自体に対するアレルギーなどが病状を複雑にしている.緑内障治療薬の角膜障害は点状表層角膜炎など軽度な障害から角膜びらん,さらに遷延性上皮欠損などより重篤な障害へと進行する(図1).さらに点眼薬の副作用は多剤併用することで,発症頻度が増したり,あるいはより重篤化して出現することもしばしば経験される2).角膜側の因子としては角膜上皮の健常性と角膜を取り巻く周囲の環境を考慮する必要がある.健常な角膜上皮はほぼ2週間以内に入れ替わるが,角膜上皮の異常(上皮自体,あるいは幹細胞の疲弊)ではこのサイクルが遅延し,点眼薬により上皮障害が発症しやすく,発症した上皮障害の修復が困難となる.角膜上皮を取り巻く環境の異常(ドライアイなど)では薬剤が結膜?内に停滞しやすくなり,薬剤自体の副作用や防腐剤の影響がより強く出現する.1.点眼薬自体の副作用b遮断薬には薬剤そのものの細胞毒性,角膜知覚低下,涙液分泌抑制などの副作用がある.同様に,PG製剤には細胞分裂抑制,炎症惹起性がある.PG製剤によるヘルペス性角膜炎の発症,再燃や黄斑浮腫の悪化,ぶどう膜炎の再燃など頻度は少ないが報告されている.さらに表1日常臨床で用いられる各種緑内障治療薬の防腐剤濃度商品名BAC含量点眼回数/日キサラタン?0.02%1回ベトプティック?0.01%2回エイゾプト?0.01%2回トルソプト?0.005%3回レスキュラ?———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(11)はBACを含まない点眼薬への変更を行う.わが国で最近発売されたトラボプロスト(トラバタンズ?)はBAC以外の防腐剤(賦形剤)を使用しており,角膜上皮への副作用が軽減することが期待されている6).つぎにb遮断薬の上皮への影響については点眼薬の種類により強,弱があることが知られており7)(表2),上皮障害が出現しても軽度であれば上皮への影響の少ない薬剤へ変更することで未然に重篤な障害への進展を予防することが可能かもしれない.そのうえで症状,所見の重症度に応じて防腐剤無添加の人工涙液,角膜保護剤の(頻回)点眼,ステロイド点眼や少量のステロイド内服などで上皮の修復を待つ.この期間の眼圧コントロールはCAIの内服を用いる.一旦角膜障害が消失し,点眼薬を再開する場合は点眼後5~10分で防腐剤無添加の人工類液の点眼を行う.緑内障の治療の基本は薬物治療による眼圧下降であり,進行した症例や薬剤再開によって再発しやすい症例ではこのような緑内障薬物治療の長期的な継続は困難と判断し,レーザー治療や,さらには手術治療への変更も考慮する必要がある.V重症度に応じた治療戦略(図1)緑内障薬物治療中に薬剤性角膜障害が発症した場合,その治療はワンパターンではない.特に角膜障害の重症度に応じた治療法,治療戦略が重要である.その治療の基本は点眼による緑内障治療を最小限にとどめ,角膜保護に努めるということになる.出現しやすくなる.4.点眼薬の眼停留性の問題ゲル化製剤は結膜?内における薬剤の滞留時間を延長し効果を持続させる働きがある.このために点眼回数を減らし,点眼コンプライアンスの向上に役立つ.一方で3剤以上の多剤併用患者でゲル化製剤を投与し,直後に2剤目を投与すると,2剤目の薬剤も結膜?内に長時間停留し,薬剤の副作用,防腐剤の副作用が増強,持続し角膜への障害をきたす可能性がある.ゲル化製剤を用いる場合はなるべく2剤目の点眼は十分な時間間隔で投与することが望ましい.またドライアイなどで涙液分泌が少ない患者では点眼薬の結膜?内の停留がより長時間となることを考慮したうえでの投与間隔を配慮する.同様に夜間は涙液の分泌が減少するため,就寝直前の点眼は行わないように指導する必要がある(就寝まで30分以上開けることが望ましい).IV角膜障害の治療,対応薬剤性角膜障害への対応はまず必要最小限の点眼治療を行うことで角膜障害の発症を予防する.一旦発症した際には,その角膜障害の重症度に応じて点眼薬剤数を減らす,変更する,などから最終的には点眼薬を中止せざるをえなくなるまでさまざまである.まず防腐剤への対応としては,すでにb遮断薬にはこの防腐剤無添加の点眼薬が市販されているのでこれに変更する.PG製剤表2長期点眼群におけるフルオレセイン取り込み濃度の比較フルオレセイン取り込み濃度(ng/m?)全体SPKなしSPKあり抗緑内障点眼ウノプロストン点眼群82.6±108.550.7±24.6321.7±192.9カルテオロール点眼群84.5±44.278.7±30.9208.1±118.3チモロール点眼群139.0±75.1119.2±53.4262.5±76.0ベタキソロー———————————————————————-Page4———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(13)とに決定する.緑内障薬物治療中に生じた角膜上皮障害の2症例を呈示し,その治療法を示す.〔症例1〕H.S.65歳,女性.診断:慢性閉塞隅角眼(図2).レーザー虹彩切開術(LI)後の眼圧コントロールにラタノプロストを点眼開始した.点眼開始後5カ月目に点状表層角膜炎を発症した.ヒアルロン酸ナトリウム(ヒアレイン?)点眼開始とラタノプロスト中止で点状角膜VI薬剤性角膜障害の際の基本的注意事項1)ラタノプロスト点眼を含めて点眼薬の就寝直前は行わない(30分以上).2)緑内障治療薬の整理,整頓を行う.3)眼圧コントロールは内服CAIを用いる.4)人工涙液(特に防腐剤無添加)は結膜?内の洗浄と角膜保護.5)ステロイドの点眼,内服や抗菌薬の点眼は症例ご図2ラタノプロスト投与後の表層角膜炎a:点眼再開後の表層角膜炎.b:点眼中止後の角膜所見.図3緑内障点眼3剤にレーザー後の点眼を追加a:広範囲のびまん性の上皮障害と,深層に及ぶ強い上皮障害がみられた.b:すべての点眼を中止し,人工涙液を処方したところ上皮障害は消失した.この後,3剤の併用療法でも角膜障害は出現していない.———————————————————————-Page6

抗微生物薬局所投与による眼障害

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1特集●眼科における薬剤副作用あたらしい眼科25(4):425~429,2008抗微生物薬局所投与による眼障害OcularComplicationsofTopicalAntimicrobialAgents鈴木崇*はじめに眼感染症疾患の予防と治療を行ううえで,抗菌薬や抗ウイルス薬の局所投与は必要不可欠なものである.しかし,薬剤や使用方法,もしくは投与される組織側のさまざまな要因で,眼障害をひき起こす場合も少なくない.特に,感染症治療中に認められた眼障害が,感染症による所見なのか,それとも抗微生物薬による副作用なのかを見極めることは,感染症治療の経過観察をするなかで重要なポイントとなってくる.これらの鑑別には,抗微生物薬の眼障害の特徴を理解しておく必要がある.本稿では,まず,抗菌薬,抗真菌薬,抗ウイルス薬のそれぞれの眼障害の種類について解説し,症例において,どのように診断・鑑別や治療をするかについても述べる.I抗菌点眼薬による眼障害抗菌点眼薬は,細菌性角膜炎や細菌性結膜炎などの外眼部感染症のみでなく,周術期管理のため,手術前後にも使用される場合が多い.そのため,抗菌点眼薬による眼障害についても理解しておく必要がある.まず,抗菌薬に対するアレルギー反応は,いずれの抗菌点眼薬点眼によっても出現する可能性がある.図1の症例では,トブラマイシン点眼薬使用後,眼周囲に発赤・腫脹が出現した.トブラマイシン点眼薬に対するⅣ型アレルギーとして,接触性皮膚炎をひき起こした可能性が高い.また,毒性としての眼障害をひき起こすこともあり,それは抗菌薬の種類によって,その頻度や特徴も若干異なってくる.1.フルオロキノロン点眼薬フルオロキノロン点眼薬は,広域スペクトルであり,かつ点眼薬として安定性や保存の利便性がよいため,眼感染症の予防・治療の第一選択薬として使用される.フルオロキノロン点眼薬の眼障害は比較的少なく,その面でも使用しやすい抗菌薬である.しかしながら,刺激感・充血や角膜上皮障害などの眼障害は,治験時において各フルオロキノロン点眼薬の数%に認められており,まったくないわけではない.フルオロキノロン間での,眼障害の差異については,いまだ明確ではないが,櫻井らは,invitroにおいて各種フルオロキノロン薬の角膜図1トブラマイシン点眼後に認められた接触性皮膚炎*TakashiSuzuki:SchepensEyeResearchInstitute〔別刷請求先〕TakashiSuzuki:20StanifordStreet,Boston,MA02114,USASchepensEyeResearchInstitute0910-1810/08/\100/頁/JCLS(3)425———————————————————————-Page2上皮細胞に対する影響を細胞増殖率の50%抑制濃度(IC50:halfinhibitingconcentration)を指標として,比較検討し,その結果,各薬剤によって異なっていたことを報告している1).また,ある種のフルオロキノロン点眼薬に含有されている防腐剤などの添加剤が角膜上皮障害などをひき起こす可能性も否定できない.さらに,pHや溶解性の影響により,析出もしくは他の点眼薬との配合変化がみられるフルオロキノロン点眼もあり,これらの変化が眼障害をひき起こすことも考えられる2).2.セフメノキシム点眼薬セフメノキシム点眼薬は,スルベニシリン点眼薬が市販されなくなったため,唯一市販されている..-ラクタム系の点眼薬として,グラム陽性球菌をターゲットに使用する価値は高い.しかし,使用時に溶解するため,高齢者において,使用方法を間違えるなどのトラブルも散見される.セフメノキシム点眼薬の眼障害は,フルオロキノロン点眼薬と同様に,充血や角膜上皮障害など眼障害がまれに認められることがある.3.アミノグリコシド点眼薬アミノグリコシド点眼薬は,グラム陰性桿菌に感受性があるため,緑膿菌角膜炎などのグラム陰性桿菌による眼感染症治療に効果が高い.しかしながら,細胞障害性が比較的強いため,充血や角膜上皮障害を生じやすい.図2は,セラチアによる角膜炎に対してトブラマイシン点眼を投与した症例であるが,トブラマイシン点眼開始後,病巣は縮小傾向を示すも,結膜充血・結膜上皮欠損を示した.さらに,アミノグリコシド点眼は眼瞼に対しても毒性をひき起こす場合があり,本薬剤の使用中は眼障害の出現に注意する必要がある4.エリスロマイシン・コリスチン点眼薬・クロラムフェニコール点眼エリスロマイシン・コリスチン点眼薬やクロラムフェニコール点眼の眼障害として,他の抗菌点眼薬と同様に充血や角膜上皮障害があるが,頻度はそれほど高くない.5.バンコマイシン点眼薬バンコマイシン点眼薬は,MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による角膜炎・結膜炎に対して効果を示すため,自家調整し,使用することがある.その場合,細胞毒性が強いため,充血や角膜上皮障害などの眼障害は比較的多い.なかでも,結膜炎に使用した場合,感染自体による充血か,バンコマイシンによる影響かは,使用前後の充血状態を慎重に比較しながら考慮する必要があるが,点眼後に角膜上皮障害が出現した場合は,バンコマイシンの副作用の可能性が高い.II抗真菌点眼薬・眼軟膏の眼障害抗真菌薬は,真菌性角膜炎の治療として使用され,市販薬としてはピマリシン点眼・眼軟膏がある.また,自家調整を行い,治療に使用する場合も多い.アムホテリシンBやピマリシンなどのポリエン系抗真菌薬は,エルゴステロールに直接結合し真菌細胞膜を破壊することトブラマイシン点眼後に発症した結膜充血(上)と結膜上皮欠損(下)426あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(4)———————————————————————-Page3で抗真菌作用を示すが,ヒト細胞のコレステロールにも結合するため,細胞毒性が強い.眼部においても角膜に毒性を示すことが多く,上皮障害をひき起こしたり,感染によって角膜実質の融解が起こっている場合は角膜穿孔を生じる場合もある(図3).アゾール系抗真菌薬は,チトクロームP450を介して選択的にエルゴステロールの合成を阻害することで抗真菌作用を示すが,ヒト細胞のチトクロームP450のアゾール系薬剤親和性は低いため,ポリエン系よりは毒性が少ない.しかしながら,ミコナゾールは,0.1%など高濃度で使用すると充血や角膜上皮障害などの眼障害をひき起こす.特にミコナゾールを長期間に使用すると,眼瞼の腫脹やマイボーム腺の障害など,眼瞼への影響が高頻度で生じる(図4).ミカファンギンは,ヒトに存在しない真菌細胞壁の主要構成成分である1,3-..-D-グルカンの生合成を特異的に阻害することで,抗真菌作用を示すため,局所投与で使用しても,角膜上皮障害などの眼障害は比較的軽微である.III抗アカントアメーバ薬の眼障害アカントアメーバ角膜炎は,コンタクトレンズ装用者に認められる角膜炎のなかでも難治性であり,特効薬がないのが現状である.そのため,治療としては抗真菌薬の局所投与に加えて,PHMB(polyhexamethylenebiguanide)やクロルヘキシジンなどを使用する.これらの薬剤も角膜上皮障害などの眼障害をひき起こす(図5).IV抗ウイルス薬点眼・眼軟膏の眼障害角膜ヘルペスの治療において,アシクロビル眼軟膏などの抗ウイルス薬の使用は絶対不可欠である.しかし,長期間に使用する場合も多く,アシクロビル眼軟膏の場合は,細胞毒性によって角膜中央部から下方にかけて点状表層角膜炎などの角膜上皮障害が高頻度に出現する(図6).また,アシクロビル眼軟膏の登場により,使用頻度が低くなったイドクスウリジン(idoxuridine:IDU)はアシクロビルよりも細胞毒性が強く,角膜上皮障害以外にも涙点閉塞や濾胞性結膜炎をひき起こすことがある.日本では市販されていないトリフロロチミジンも角膜ヘルペスに効果的であるものの,アシクロビルよりも眼障害をひき起こしやすい.ガンシクロビルは,サイト(5)あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008427———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(6)図6アシクロビル眼軟膏点入中に認められた角膜やや下方の点状表層角膜炎図7多種類の抗菌薬を点眼中のMRSA角膜炎表1抗微生物薬による眼障害の可能性を示すポイント多種類の抗微生物薬を投与している.角膜全体の点状表層角膜炎を認める.角膜上皮再生遅延を認める.上皮欠損の境界部が盛り上がる場合もある.結膜充血・眼瞼腫脹を認める.角膜細胞の浸潤(黒矢印)の境界のほうが,角膜上皮欠損部の境界(白矢印)よりも小さい.メガロウイルスに効果があるため,近年発見され報告されたサイトメガロウイルス内皮炎の治療として,点眼は効果がある可能性がある3).しかし,pHが高く眼障害をひき起こす可能性も否定できない.V角膜感染症治療中の抗微生物薬による眼障害の診断と対策前述のように,抗微生物薬の眼部への局所投与において,眼障害として角膜上皮障害をひき起こすことがしばしば認められるため,その上皮障害が,副作用として現れているのか,感染症の所見として現れているのかの鑑別をする必要がある.特に,原因微生物が特定されておらず,多くの種類の抗微生物薬を投与されている場合は,効果のある薬物を推定しながら,眼障害をひき起こしさらに治療効果の少ない薬剤を中止する必要がある.抗微生物薬の眼障害が顕著な場合は非栄養性の角膜潰瘍に移行する場合もある.そのため,鑑別が必要となってくる.抗微生物薬による眼障害の可能性を示すポイントを表1にまとめる.まず,結膜上皮障害が軽微であるにもかかわらず,点状表層角膜炎が,角膜全体に認められる場合は抗微生物薬の眼障害が考えられるため,病巣の所見が改善しているならば,漸減,中止をしていく必要がある.また,角膜の炎症が軽快しているにもかかわらず,角膜上皮の再生が明らかに遅延している場合は,抗微生物薬の影響が考えられる.図7は,角膜感染症からMRSAが検出されたため,バンコマイシン・アルベカシン・クロラムフェニコール・ガチフロキサシン・トブラマイシンの点眼を使用されていた症例で,角膜細胞浸潤が消失している部位においても角膜上皮が再生しておらず,多くの抗菌点眼薬を投与していることが影響していると考えられた.バンコマイシンとアルベカシン点眼のみとし,他の抗菌点眼を中止したところ,角膜上皮が再生し,また,角膜細胞浸潤も縮小,瘢痕化した(図8).このように多くの抗菌点眼薬を使用していることで,眼障害をひき起こすだけでなく,治療効果を妨げているメガロウイルスに効果があるため,近年発見され報告されたサイトメガロウイルス内皮炎の治療として,点眼は効果がある可能性がある3).しかし,pHが高く眼障害をひき起こす可能性も否定できない.V角膜感染症治療中の抗微生物薬による眼障害の診断と対策前述のように,抗微生物薬の眼部への局所投与において,眼障害として角膜上皮障害をひき起こすことがしばしば認められるため,その上皮障害が,副作用として現れているのか,感染症の所見として現れているのかの鑑別をする必要がある.特に,原因微生物が特定されておらず,多くの種類の抗微生物薬を投与されている場合は,効果のある薬物を推定しながら,眼障害をひき起こしさらに治療効果の少ない薬剤を中止する必要がある.抗微生物薬の眼障害が顕著な場合は非栄養性の角膜潰瘍に移行する場合もある.そのため,鑑別が必要となってくる.抗微生物薬による眼障害の可能性を示すポイントを表1にまとめる.まず,結膜上皮障害が軽微であるにもかかわらず,点状表層角膜炎が,角膜全体に認められる場合は抗微生物薬の眼障害が考えられるため,病巣の所見が改善しているならば,漸減,中止をしていく必要がある.また,角膜の炎症が軽快しているにもかかわらず,角膜上皮の再生が明らかに遅延している場合は,抗微生表1抗微生物薬による眼障害の可能性を示すポイント多種類の抗微生物薬を投与している.角膜全体の点状表層角膜炎を認める.角膜上皮再生遅延を認める.上皮欠損の境界部が盛り上がる場合もある.結膜充血・眼瞼腫脹を認める.図6アシクロビル眼軟膏点入中に認められた角膜やや下方の点状表層角膜炎図7多種類の抗菌薬を点眼中の———————————————————————-Page5可能性もある.したがって,角膜感染症の治療経過を確認するなかで,角膜細胞浸潤の消失スピードと角膜上皮の再生スピードを比べながら,角膜細胞浸潤の消失スピードよりも角膜上皮の再生スピードが遅い場合は,抗微生物薬の眼障害が出現している可能性がある.これらの眼障害を取り除くためには,原因となっている抗微生物薬を見極めて,注意する必要がある.そのためには,まず原因微生物を同定して薬剤感受性を把握することが重要で,さらに前述のようにそれぞれの細胞毒性を考慮しながら,必要最小限の治療メニューを構築することが必要である.また,角膜ヘルペス治療中においてアシクロビル眼軟膏によって,cracklineとよばれる線状の角膜上皮障害が出現する場合があり,その病変が角膜ヘルペスによる樹枝状角膜炎か否かを鑑別する必要がある.樹枝状角膜炎の場合,ターミナルバルブといわれる,病変の先端に樹枝状の盛りあがりがあるのに対して,cracklineはギザギザである(図9).さらに,アシクロビル眼軟膏による角膜上皮障害の場合,フルオレセイン液の角膜内への浸透性が向上していることも鑑別点の一つとなる.おわりに抗微生物薬の眼障害は,不可逆的かつ致命的なものは少なく,いずれの場合も責任薬剤を中止するだけで軽快する.しかし,気づかずに投与し続けた場合には無菌性に角膜穿孔をきたすことがある.眼感染症に対する治療効果がある場合は,ある程度の眼障害を覚悟で治療を続ける必要がある.時間の経過を追いながら,継続もしくは中止の見極めを行い,眼障害を念頭にその変化を見ていくべきで,所見の詳細なスケッチや写真がその考察の手助けになると考えられる.文献1)櫻井美晴,羽藤晋,望月弘嗣ほか:フルオロキノロン剤が角膜上皮細胞および実質細胞に与える影響.あたらしい眼科23:1209-1212,20062)WilhelmusKR,HyndiukRA,CaldwellDRetal:0.3%ciprofloxacinophthalmicointmentinthetreatmentofbacterialkeratitis.ArchOphthalmol111:1210-1218,19933)KoizumiN,SuzukiT,UnoTetal:Cytomegalovirusasanetiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmology115:292-297,2008図8図7の薬物中止後図9アシクロビル眼軟膏点入中に認められたcracklineバンコマイシン・アルベカシン以外の薬物を中止すると,角膜上皮欠損・角膜細胞浸潤は縮小・消失した.(7)あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008429

序説:眼科における薬剤副作用

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1序説あたらしい眼科25(4):423,2008眼科における薬剤副作用Ophthalmology-RelatedAdverseDrugReactions外園千恵*木下茂*医療現場で薬剤を処方しない日はない.しかし薬剤には副作用がつきものであり,さまざまな薬剤が種々の眼科的副作用を招く.治すつもりで処方した薬剤の副作用で,新たな疾患を生じるのは不幸である.さらに不幸なのは,副作用に気づかない,あるいは副作用に的確に対応できないことである.そこで本特集では,眼科で用いる薬剤の副作用,他科で処方される薬剤の眼科的副作用,命を脅かす重症薬疹での眼合併症,中毒・毒物と眼障害を取り上げた.点眼薬は,高い濃度の薬剤を眼に直接届けることができる薬剤であり,速やかな効果が出やすい反面,副作用も出やすい.抗菌点眼薬・抗ウイルス点眼薬による眼障害を鈴木崇先生にご執筆いただいた.抗緑内障点眼薬,ステロイド点眼薬の副作用は,必ず知っておかねばならない知識である.それぞれ澤口昭一先生,柏木賢治先生にご執筆いただいた.消毒薬・洗浄液による角膜障害は,眼科の手術時の誤用や,脳外科,耳鼻科など他診療科の手術時に眼に薬剤が飛入して発症する.初期の的確な診断と対応が望まれる.中村葉先生にまとめていただいた.全身薬による低頻度の副作用など,気にすることはないと思う方がいるかもしれない.しかし,たとえ0.05%という頻度の副作用であっても,100万人に処方すれば500人が発症する.500人が発症すれば,眼科医の約30人に1人が,その副作用を経験するのである.決して低頻度とはいえない.全身用剤による角膜障害(抗癌剤,アミオダロン)を細谷友雅先生に,視路障害をきたす全身薬を中尾雄三先生に,デパスの眼科的副作用を若倉雅登先生にご解説いただいた.Stevens-Johnson症候群は生命を脅かす薬疹であり,高率に眼障害をきたす.眼所見に注目されず,あるいは的確な診断がなされないままに,眼障害が重篤化することが少なくない.突然に発症して急激に進行すること,全身状態が悪くなり患者を動かせないことから,あらゆる眼科医が急性期の眼所見と治療に精通することが望まれる.本疾患については外園が執筆した.中毒,毒物に遭遇することは稀であり,中毒と眼障害について詳しく書かれた専門書も少ない.本特集では,シンナー中毒・メチルアルコール中毒,有機リン中毒についての詳しい解説を三村治先生,石川哲先生に,サリンによる全身症状と眼障害を山口達夫先生にご執筆いただいた.普段の診療では毒物のことが念頭にないかもしれないが,本特集を読めば,いつでも患者に対応できると思われる.本特集が,若い先生方には薬剤副作用に眼を向ける機会となり,ベテランの先生方には副作用に的確に対応するための手引きになれば幸いである.*ChieSotozono&ShigeruKinoshita:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学0910-1810/08/\100/頁/JCLS(1)423