———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS従来,MGDは脂質(meibum)の分泌量が低下する閉塞性と過多である脂漏性とに分けて考えるべきとされてきたが,脂漏性は閉塞性の前段階かもしれない,脂漏性と後部眼瞼炎との区別が曖昧,閉塞性でも炎症を伴うものと伴わないものとがある,などさまざまな意見があり,ドライアイ専門家でも統一されていない.しかしながら臨床的にドライアイを考えるうえでは,meibumの量の低下と質の悪化を呈するMGDが重要で,それを閉塞性MGDと考えることにして,診断のポイントを述べたいと思う.MGDの診断のむずかしさの一つは,マイボーム腺が外から見えないことにあると思われる.したがって,目に見えるところからMGDを推察していく,つまりマイボーム腺の異常を反映する所見を知ることが,MGDの診断を可能とする.マイボーム腺の構造的な変化と脂質の性状や分泌量の変化は,細隙灯顕微鏡でかなりのことが推察できる.MGDでは病理組織学的には導管上皮の角化,角化物の導管内堆積,腺開口部の過角化あるいは閉塞,導管周囲の慢性炎症などが生じている1)(図1).また,分泌される脂質の性状も変化しており,これらが合わさってはじめにマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunc-tion:MGD)はドライアイの診断と治療に重要であることは眼科医には周知だといっていいと思うが,では日々の臨床でドライアイをみたときに必ずMGDの有無もチェックするかというと,なかなかハードルが高いようである.その理由を考えてみると,何をもってMGDとすればいいのかがわかりにくい,という印象があるからではないかと思う.その印象のとおり,実はMGDは,後述するように定義すら明確ではない.したがって,現在に至るまで診断基準も設定されていない.現在は,過去の報告や臨床経験の蓄積によって一応の基準が設けられているが,コンセンサスをもって広く知られているかというと心許ないものである.現在MGDの定義や診断基準を明確にしようという動きがあるが,ここでは,臨床的に押さえておくポイント,これをみればMGDと(一応)診断できる,という所見をまとめてみたい.IMGDの診断マイボーム腺の機能は涙液構成成分の一つである脂質を排出することであり,表1に示すような働きがある.MGDは,マイボーム腺に何らかの変化が生じて脂質の分泌異常や性状の変化をきたし,表1に示すような機能が失われ,涙液を含むオキュラーサーフェスに異常をきたした状態と考えることができる.(47)1655D2251113特集●ドライアイ最近の考え方あたらしい眼科25(12):16551659,2008マイボーム腺機能不全の診断と治療DiagnosisandTreatmentofMeibomianGlandDysfunction田聖花*表1涙液油層の働き涙液の過剰な蒸発を防ぐ涙液の表面張力を下げ,層として保つ涙液の眼表面への分布を助ける涙液を瞼縁に留める平滑な光学面の形成———————————————————————-Page21656あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(48)状のものがようやく排出される程度になる.完全に萎縮すると排出されない.MGDの診断のむずかしさは,表2に示すような眼瞼所見は加齢変化でもみられ,MGDと区別しづらいことにもよると思われる3).筆者の調査でも,高齢者では瞼縁の血管拡張やpluggingが高頻度でみられた4).また何割かの開口部が閉塞していても脂質の供給は不足していない例も多く,眼不快感などの自覚症状に乏しい,角結膜上皮障害がないなどの例では,加齢変化のみと考えてよいと思われる.閉塞性MGDでは,脂質の分泌減少によって涙液油層の厚みが減るなど,直接的に涙液の異常がひき起こされる.油層の菲薄化により涙液層が不安定となり,涙液層破壊時間(tearlmbreakuptime:BUT)の短縮に現れる.角膜下方の涙液層の破壊が生じやすく,そこに一致した角膜上皮障害が認められる.涙液油層観察装置(DR-1R,興和)は涙液油層の干渉像を見ることができる器械であるが,現在のところこれによって脂質の異常を検出するのはむずかしいようである.脂質の分泌が少なくても涙液減少がない(水層が厚い)と,角膜上に涙液層の均一な広がりが得られるため,DR-1Rのグレードは悪化しない.涙液減少があると,角膜上に涙液が伸展しないために油層が角膜下方に溜まり,油層の厚さは下方で厚く,中央上方で薄くなり,DR-1Rのグレードは悪化傾向を示す.このようにDR-1Rは油層を介しMGDの病態が形成されており,それらを反映した他覚所見は眼瞼縁の変化として認められる2).代表的な眼瞼縁の所見を示す(表2,図2).瞼縁の血管拡張は脂質の性状の変化による炎症や,開口部の閉塞から起こる腺内の常在菌繁殖に伴う炎症などを反映していると考えられる.腺開口部の過角化や萎縮によって瞼縁が凹み,波打ったようになる.また,腺開口部の過角化や角化物による閉塞は,開口部のぷつぷつとした盛り上がりを形成し,pluggingあるいはpoutingとよばれる.腺構造の萎縮や導管周囲の慢性炎症によって結膜の線維化が生じ皮膚粘膜移行部(mucocutaneousjunction:MCJ)が瞼結膜側(後方)に引っ張られて移動する.軽症例では開口部付近の慢性炎症により皮膚側(前方)に移動する所見もみられる.脂質の異常は,眼瞼を圧迫して排出されるmeibumを観察して推察する.正常では透明で粘稠度は高くなく,開口部の一回り大きいくらいの直径を呈する程度の量で排出される.脂質が変化すると,粘稠度が高く黄色味を帯びた色調になり,指による圧迫では排出されにくくなる.高度になると,固化して練り歯磨き図1MGDの組織学的変化Meibom腺導管内の角化物の堆積と開口部上皮の過角化による閉塞がみられる.(文献1より抜粋)図2閉塞性MGDの瞼縁所見開口部は閉塞し,pluggingがみられる.充血も著明である.表2MGDにおける瞼縁の所見瞼縁の血管拡張瞼縁の不整瞼縁のplugging,pouting皮膚粘膜移行部の乱れ(前方,後方移動)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081657(49)以上に述べたようにMGDの臨床診断は細隙灯顕微鏡で可能である.角結膜上皮障害がある,BUTが短いなどドライアイが疑われる例はもちろんのこと,日常臨床において常に眼瞼まで見るようにしたい.IIMGDの治療MGD嫌いになる別の理由の一つに,治療のむずかしさがあると思う.MGDの治療には継続が大切で,患者の理解と努力が欠かせない.治療する側にも根気よく付き合う気持ちが必要である.て水層を見る,つまり涙液減少を検出するほうが得意である.しかし,近年Gotoらによって干渉像の色から油層の厚みを知ることができるようになってきており,今後の発展が期待される5).細隙灯顕微鏡による瞼縁の観察がマイボーム腺の変化を推察するものとすれば,マイボグラフィーは直接マイボーム腺の構造を観察できる器械である.正常では瞼縁に垂直に走る腺構造が認められるが,MGDでは腺構造の消失(drop-out)が高率にみられる.従来,眼瞼の皮膚側に光源(ペンライトや硝子体手術用イルミネーターなど)を置き,その透過光によって観察する方法が用いられてきたが,痛い,眩しい,観察像が記録できないなどの欠点があった.最近Aritaらによって,こういった欠点を解消する新しいマイボグラフィーが報告された6).これは,細隙灯顕微鏡に赤外線フィルターが付いたもので,赤外線CCDカメラを通してモニターに画像が映し出される(図3).赤外線光のため患者は眩しくなく,光源を接触させないので痛くなく,通常の細隙灯顕微鏡による診察と同じ要領で眼瞼幅全体を観察でき,上眼瞼も見やすい,などの利点に富む.細隙灯顕微鏡が使える眼科医であれば誰でも使いこなすことができるであろう.Aritaらはこの器械を用いて,マイボーム腺のdrop-outの程度と眼瞼縁の変化との相関について報告している6).これによると,drop-outの数は年齢が上がるにつれて増加し,眼瞼縁の変化が強いほどdrop-outもよくみられるという.記録媒体をDVDにすることでデジタル保存できるため,パソコン上でさまざまな解析が可能となる.今後マイボーム腺構造の定量的評価などの研究が進むであろう.最後に,脂漏性MGDについて簡単に述べる.脂漏性は脂質の分泌が過剰の状態で,指による圧出で隣接する開口部からの油分と重なり合うくらいの直径で排出される.色調は透明やや黄色味を帯びる.瞼縁の充血が強く,開口部は縦長楕円に変形し,瞼縁皮膚側に露出してみられることが多い(図4).MCJの前方移動を伴うことも多い.脂漏性MGDでも涙液に何らかの変化がもたらされているはずで,眼の灼熱感などの自覚症状をひき起こすと考えられているが,ドライアイとの関連性は低いとされる.図3非接触型マイボグラフィー細隙灯顕微鏡からCCDカメラでモニターに接続されている.いちどに広範囲のマイボーム腺を観察することができる.図4脂漏性MGDの一例充血が著明で,開口部は粘膜側へ拡大している.———————————————————————-Page41658あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(50)膜への血管侵入がみられることもある.高齢者のMGDのように瞼縁のirregularityやMCJの偏位はあまりみられない.これはマイボーム腺内の常在菌の増殖などによる炎症が原因と考えられており,抗生物質の全身投与によるマイボーム腺内の除菌が奏効する.もう一つは,ドライアイ専門家がもっている臨床的な印象であり,まだ広く認知されているわけではないが,BUT短縮型ドライアイの一部に,meibumの圧出が極端に少ないタイプがある.特に女性に多いようである.表2で示すような瞼縁の所見は乏しいが,開口部を押しても脂質の排出が著しく低下している.理由には,性ホルモン説,ストレス説,アイメイク説などが考えられているが,まだよくわかっていない.BUT短縮型ドライアイは治療がむずかしいが,Gotoらはこういった患者に「少量軟膏療法」が有効であったと報告している9).これは,眼瞼にごく少量の眼軟膏を塗布することによって,涙液油層を安定して供給するという戦略であり,点眼治療,すなわち水層を増やす治療に抵抗するドライアイには効果的である.文献1)ObataH:Anatomyandhistopathologyofhumanmeibo-miangland.Cornea21(7Suppl):S70-74,20022)BronAJ,BenjaminL,SnibsonGR:Meibomianglanddis-ease.Classicationandgradingoflidchanges.Eye5(Pt4):395-411,1991治療戦略は,①マイボーム腺閉塞の解除,②瞼縁の清拭(lidhygiene),③ドライアイの管理である.①は,眼瞼を温める温罨法が適している.温罨法によって導管の拡大と開口部の拡張が得られ,脂質の分泌が増加し,涙液層の安定化が得られる7,8).簡便なのはお湯で湿らせたタオルやおしぼりなどを眼瞼にのせる方法である(おしぼりを水で濡らして固く絞り,電子レンジで数十秒温めると,簡単にホットタオルをつくることができる).最近は40℃くらいの温かさが数分持続するシート状アイマスクや,電子レンジや湯煎で何度でも温めることができるジェル状のアイマスクなども市販されている.②は,ベビーシャンプーをしみこませた綿棒で瞼縁を拭くとよいが,ベビーシャンプーでなくお湯だけでもかなり効果がある.低濃度のグルコン酸クロルヘキシジンなどの消毒液がしみこませてあるウエットコットンなども市販されており,眼の中に入れないよう指導したうえで,利用してもよい.実際にはテーブルなどに鏡を寝かせて置き,上からのぞき込む格好で,眼瞼を引っ張って行うとよい.温罨法とlidhygieneを組み合わせて,日に数回行うと効果的である.マイボーム腺圧迫鑷子などを用いて固化したmeibumを圧出させるのも効果的で,lidhygieneが上手にできない患者には診察のたびに行うとよい.少し荒っぽいかもしれないが,白内障手術などの際に麻酔を併用して思い切って出し切るなどすると,予後がよいようである.③に対しては,ドライアイの治療に準じて人工涙液とヒアルロン酸点眼を使用する.涙液減少を伴うMGDは角膜上皮障害が強くなるので,MGDが疑われる例ではSchirmer試験を行って,涙液減少がないかどうかを調べる必要がある.III若年者のMGDMGDは一般的には高齢者にみられるが,ときに若年者でもみられることがある.その一つがマイボーム腺関連上皮症ともよばれるもので,瞼縁の充血が著明で,開口部からのmeibumの圧出が低下しており,瞼縁が“緊満している”ような印象を受ける(図5).下方の角膜上皮障害を伴うことが多い.上皮障害の部位に一致して角図5マイボーム腺関連上皮症の一例(19歳,男性)抗生物質の内服で改善した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081659(51)911-915,20087)GotoE,EndoK,SuzukiAetal:Improvementoftearsta-bilityfollowingwarmcompressioninpatientswithmeibo-mianglanddysfunction.AdvExpMedBiol506(PtB):1149-1152,20028)MatsumotoY,DogruM,GotoEetal:Ecacyofanewwarmmoistairdeviceontearfunctionsofpatientswithsimplemeibomianglanddysfunction.Cornea25:644-650,20069)GotoE,DogruM,FukagawaKetal:Successfultearlipidlayertreatmentforrefractorydryeyeinoceworkersbylow-doselipidapplicationonthefull-lengtheyelidmargin.AmJOphthalmol142:264-270,20063)HykinPG,BronAJ:Age-relatedmorphologicalchangesinlidmarginandmeibomianglandanatomy.Cornea11:334-342,19924)DenS,ShimizuK,IkedaTetal:Associationbetweenmeibomianglandchangesandaging,sex,ortearfunction.Cornea25:651-655,20065)GotoE,DogruM,KojimaTetal:Computer-synthesisofaninterferencecolorchartofhumantearlipidlayer,byacolorimetricapproach.InvestOphthalmolVisSci44:4693-4697,20036)AritaR,ItohK,InoueKetal:Noncontactinfraredmei-bographytodocumentage-relatedchangesofthemeibo-mianglandsinanormalpopulation.Ophthalmology115: