‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

眼科医にすすめる100冊の本-3月の推薦図書-

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083530910-1810/08/\100/頁/JCLS著者の福岡伸一氏は第一線の分子生物学の研究者であり,生命科学のなかでその研究成果を大きく評価されている研究者である.練達の作家を思わせるドラマチックな書き方に加えて,研究者として如何にわかりやすく説明するかということに熟達している研究者兼教育者としての高い能力を示している.この本の内容は現代の生命科学の基本である細胞生物学,分子生物学のコンセプトを歴史的な背景を存分に紹介しつつ,人間ドラマとしての研究者の姿をあぶりだしている.ご自身も最先端の生命科学の研究でしのぎを削っていてしかも目の当たりに体験していることから,このようなリアルな記述が可能になったのであろう.この本をどのように読むかは読者次第であろう.生物学の基本的な事項を勉強するための教科書としての読み方,研究者の生き方を自分に重ねて考える読み方について考えてみた.まず,生物学の教科書の一つとしては現時点での生命科学の基本である分子生物学の細胞生物学,分子生物学の原理を覚えるだけではきわめて能がない,生命を扱うだけになにか血の通ったものを添えて若い学徒に生命科学の基本原理を理解してもらうためには大変いい本である.この本の最初にはニューヨークのロックフェラー研究所のエイブリーの業績が紹介されている.いまでは一般的にあまりもてはやされていないが,「遺伝子の本態はDNAである」ということを一生をかけて解明し,説明した研究者である.考えてみれば,われわれは生物の教科書でまず数学の公理であるかのように遺伝子はDNAであり,その構造はワトソン,クリックによって1953年にNature誌にわずか1ページのレターとして発表されたことが紹介されることが多い.しかし考えてみればわれわれの当たり前となっている遺伝子の本態がDNAであることをワトソン,クリックが証明しているわけではなく,とても大切な研究がその前にあったはずである.これを行ったのが上記のエイブリーである.エイブリーは細菌の形質転換をマーカーとした綿密な実験でDNAによって形質は変化していること,だから遺伝子の本態はDNAであることを証明しているのである.当然,他の説(蛋白質説など)を説く研究者からの批判にさらされるがそれを一つひとつクリアーしていくストーリーはまさに本書のいろいろな書評にあるようにミステリー小説を超える興奮を覚えるものである.驚くべきことにエイブリーはノーベル賞を受賞していないが,科学の歴史のなかに燦然と輝く足跡を残している.また,そのDNAの構造解析の先陣争いについての真相といえるストーリーがそれに続いて展開される.このストーリーはワトソンが「二重らせん」という本を書いたりして,大変有名になっているが,どのようにしてDNAの二重螺旋構造が明らかにされたかを知ることは現在,生命科学の原点に立ち返ったように感じる.物事を理解するというのは,ある事実を体系的,網羅的,合理的(一見ではあるが)に構築した教科書を読むことは不可欠であるが,それだけではなぜこのような理論体系ができたか,そしてそれがもし将来にわたって間違っていた場合には戻って検証する能力が大切であり,歴史的背景を勉強すること,つまり,物事をただ覚えるのではなく,理解しつつ生きた知識として獲得していくことで可能となる.現在の教育では医学も含めて多くのことを勉強しなければ医師国家資格も獲得できないから,ある程度能率的に物事を覚えて蓄積していくことは仕方がないが,興味のわくこと,特に自分が専門とする分野については本書のような書物を読むことは,自分で考えて物事を理解するという科学者としての基本姿勢の涵養に役立つと考える.(79)■3月の推薦図書■生物と無生物のあいだ福岡伸一著(講談社現代新書)リー79◆山下英俊山形大学医学部視覚病態学———————————————————————-Page2354あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008もう一つの読み方からは生命科学の研究という情実の入り込む余地のない,scienticevidencesの積み重ねと考えられる科学の歴史が人間の営みとして体温をもっていることなのだというのがわかる.もっと言うと,われわれは教科書で読むときには全てがわかったうえで勉強するが,実際に科学者として新しいことにチャレンジして新しい発見により人類に貢献するためには研究という営みを行う必要がある.その営みは良くも悪くも人間の行うことなのだという親近感を与えるのが本書である.もちろんこの本にでてくるエイブリーもワトソンもクリックもDNAの結晶回析の大家でDNA構造解析に貢献したロザリンド・フランクリンも研究者のなかではスーパースターであることに違いはないが,彼らが悩みチャレンジした姿には感動や人間のおかしみすら感じる.いわば人間そのものである.本書はミステリー小説にもたとえられるが,やはり人間の営みを示した書物ということである.昨今,臨床医の研究離れが問題にされている.現在の臨床医学の現場がきわめて過酷でありなかなか研究に手を出しにくいこともあるが,研究の面白さを認識し,スーパースターの業績に思いをはせてあこがれることにより,眼科医が研究にいそしむのは決して眼科学の発展にとっても眼科医本人にとっても損はないと考える.☆☆☆(80)

研修医“初心”表明

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083510910-1810/08/\100/頁/JCLSコの字型に切開されたapに針がかけられ,きつすぎず,ゆるすぎず,整然と角膜に結ばれる糸.心地よい緊張感のなか,顕微鏡下の世界で繰り広げられる,その美しい手術に魅せられた私は,その日,眼科医としての道を歩む決意をしたのです.それは,偶然入った緑内障の手術での出来事でした.学生時代より脳に興味があった私は,大学を卒業する頃は,漠然とですが神経内科に進もうと考えていました.どちらかというと,即断即決よりも,じっくり物事を考えるほうが性に合っていると思っていたため,外科系に進むことはまったく考えてもいませんでした.それが初期研修で外科系をローテーションするうちに,手術の面白さに目覚めてしまったのです.それまで,手術といえば,医学部の実習で寒い手術室の中,ほとんど見えない見学で終わる,つまらないものという印象が強かったのですが,実際,間近で上の先生方の素晴らしい手術を見ていると,ただ見ているだけで心が沸き立ち,最後の糸結びだけでも自分の手が入ることに感動するようになりました.元々,指先を使うような細かなことが好きだったこともあり,なかでも,microsur-geryに惹かれていったのは自然なことだったのかもしれません.白内障の手術などでは,如実に結果が現れるため,患者様の率直な反応に遣り甲斐を覚えることも大きな魅力の一つでした.私にとっては,先述のシーンがあまりにも衝撃的であったため,自らあの手術,そして,いつかは硝子体手術をやってみたい,という情熱がこれからも原動力になると信じています.ただ,眼という臓器だけに捉われるのではなく,眼を通して全身を,患者様一人ひとりを,診る医師でありたいと思い,初期研修の選択期間はほとんどを総合内科で過ごしました.そのため,眼科医としてはやっと前を向いたばかりの状態ですが,これから出会う数多くの未知の眼科の世界に期待で胸がいっぱいです.主治医になって欲しい,といわれるような,信頼される医師になれるよう,日々,精進したいと思っております.◎今回は2年目研修医の小先生にご登場いただきました.眼科手術の美しさ,術後の患者様の率直な反応は本当に“眼科”を魅力的なものにしていると思います.自分も学生時代の手術見学やwetlabo,そして術後回診は眼科の魅力と出会う,いいきっかけになりました.(加藤)☆本シリーズ「研修医“初心”表明」では,眼科に熱い想いをもった研修医前期専攻医の先生の投稿を募集します!熱い想いを800字程度で読者の先生にアピールしてください!宛先は,《あたらしい眼科》「研修医“初心”表明」投稿として,下記のメールアドレス宛にお送りください.Email:hashi@medical-aoi.co.jp(77)研修医“初心”表明●シリーズ③眼を通じて,患者様一人ひとりと─Microsurgeryに憧れて─小?美穂(MihoOzaki)板橋中央総合病院1979年福岡県生まれ.山口大学医学部卒業.現在初期研修2年目.研修終了後は,東京慈恵会医科大学眼科学講座へ入局予定.座右の銘は,一期一会.(小)編集責任加藤浩晃・木下茂・

後期研修医日記4.杏林大学医学部眼科学教室

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083470910-1810/08/\100/頁/JCLS火曜日は8時から永本敏之准教授の白内障カンファレンスがあります.『白内障手術』のテキストを使って読んでいきながら,永本先生が手術のポイントをレクチャーしてくださいます.突然質問が飛んでくるため毎回緊張しますが,手術の手順のほかに理論も理解でき,そこで覚えたことを月3回行われる金曜日の夜のウェットラボで練習して身につけていきます.ウェットラボでは豚眼を使い,白内障班の先生方が手取り足取り(永本先生は横からフックをいれたり,手の動きを細かく修正しな(73)杏林大学医学部眼科学教室では,現在6名の後期研修医が働いています.杏林大学では眼科はアイセンターとして各専門分野のほか,ロービジョンケアも行っており,各専門の先生方の下,幅広い充実した内容の研修生活を送っています.今回は忙しいながらも楽しい私たち後期研修医の日々をご紹介させていただきます.病棟診察一日の初めはまず病棟患者の診察から始まります.基本的に術者の先生と後期研修医の2人チームで病棟業務を担当しています.予定入院手術の方が1週間に30数人,網膜離などの緊急入院が1日2~3人(多い日は7人ということも!)あり,約40床ある眼科病棟は常に満床状態です.外来が8時半から始まるので,術者の先生の診察も朝早くからあります.それより早く視力と眼圧を測って診察しなくてはと焦りつつ毎日頑張って早起きしています.ぎりぎりになってしまう日も多々ありますが….日中は手術に入っているか,外来業務でほとんど病棟に行けないため,入院患者の検査はORT(視能訓練士)に視力・眼圧・散瞳・OCT(光干渉断層計)・写真・Aモードなどをお願いして,空き時間や夕方に診察,手術の説明をしています.毎日夕方に網膜硝子体回診があり,網膜硝子体班の先生方と網膜離など緊急入院の患者について翌日の手術の方針を相談して決定しています.やっと一段落すると,残るはパソコン入力と書類の山….手術病棟の診察が終わり8時半になると外来が動き出します.それぞれ日によって手術の助手,8診(外来予診室),その他(外勤,陪席など)と分担して業務をこなしていきます.手術は外来の患者も,入院の患者もほとんどが後期臨床研修医日●シリーズ④▲筆者が8診予診室でアナムネ中———————————————————————-Page2348あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(74)係です.初診のアナムネや症状に変化がある予約外の患者の主訴を聞いて必要な検査をオーダーしたり,Bモード,OCT,Schirmerなどの検査を行ったり,抜糸,点滴,手術前の検査オーダーや,次週の手術のパソコン入力,他科コンサルト,クレーム処理,日中救急車搬送の患者の診察と仕事内容は多岐にわたっています.お昼の時間もなかなかとれずあっという間に午後になってることが多いのですが,同期のみんなが手助けをしにきてくれるので,とても助かります.持つべきものは頼れる仲間だといつも感謝しています.アナムネをとっていて何の疾患か気になったときは診察室を覗いて,上級医の先生に教えていただいたり,珍しい疾患の患者がいらっしゃると一緒に診察させていただいたりと,非常に勉強になっています.当直16時半からは当直の時間帯です.2人当直なので上の先生と夕飯を何にしようかと悩んでいるとさっそくPHSが鳴り響きます.多摩地域では夜間救急の眼科がほとんどないため,東京の西の端から,時には埼玉からも多くの患者がいらっしゃいます.結膜炎,打撲,飛蚊症,コンタクトレンズトラブル,異物などに加え,ぶどう膜炎発作,緑内障発作や眼球破裂などさまざまな救急疾患を経験できるので,今では何が来ても怖くない.というのは言い過ぎですが,症例によって見なくてはいけないポイントや,応急処置などは身についてきたのを実感しています.おわりに大変忙しい毎日ですが,外来も病棟も多くのコメディカルの方に協力していただきながら6人が一致団結して頑張っています.症例も多く,他の大学からフェローとして勉強に来られる先生も多くいらっしゃいます,専門も多岐にわたっており後期研修医として勉強するには非常によい環境だと思います.ぜひ私たちの仲間になりませんか!!がらフットスイッチも操られて本当に手取り足取りです)教えてくださるので段々上達していくような気がするのですが,いざ本当の患者になると,やっぱり緊張してしまいぜんぜん思ったとおりにはうまくいかず,毎回落ち込んでいます.水曜日の医局会のあとは術前カンファレンスです.次週の手術予定の症例で方針を検討する必要のあるものや,その週緊急入院してきた珍しい症例について発表,検討します.意見が白熱して時間が延長してしまうこともあります.木曜日の朝は8時から抄読会や,FA(フルオレセイン蛍光造影)の読み方について症例を提示しながら細かく講義していただくFAカンファレンス,そしてぶどう膜炎や加齢黄斑変性症を中心に各専門の先生がテーマに沿って講義してくださる臨床カンファレンスなどが隔週で行われています.回診金曜日の朝は7:45から教授回診,月曜日は夕方から准教授回診があります.上申のときはカルテを見てはいけないので,診察室に入る前に必死で視力・眼圧・術式・術中所見などを覚えるのですが,慌しく順番が回ってきて,次というときに患者がいない!などドタバタしているため,診察室に入っていざ上申するときに頭が真っ白になってしまったり,言い間違えをしてしまったり….外来週2回は朝から8診という名の外来予診室担当兼雑用プロフィール夕子(にのみやゆうこ)平成16年杏林大学医学部卒業,同病院にて初期臨床研修,平成18年4月より杏林大学医学部眼科学教室後期研修医.▲教授の手術は機械出しでも緊張します———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008349(75)医からのメッセージ「oureapwhatyousow」眼科の知識を学ぶためには多くのハードルがあります.まず,所見を観察できるまでに要する長い時間.5年の経験をもってしても正しく評価することがむずかしい眼底所見もあります.また,恐らく眼科ほどハイテク技術を早く取り込む専門分野はなく,さまざまな機械を操作できるようになるにも相当な時間がかかります.さらには(杏林大学病院では救急外来も充実していることから)平日,週末,夜中,年末年始を問わずつぎからつぎに来院する患者様!眼科の研修は大変だという評判がたつのも無理がありません.そこで皆さんに「youreapwhatyousow」という英語の諺を紹介したいと思います.自分のやったことだけが,結果として自分に還ってくるという意味です.逆に言えばやらなければ自分が得るものはないということにもなるでしょう.聖書の「人は自分が蒔いたものを刈り取ることになる」という一節からきました.研修医期間については,この諺がぴったりあてはまると思います.たくさんの症例を診て,経験する.ハードな研修プログラムほど多くの勉強ができて,将来の仕事に大きく役立ちます.教科書から学ぶ眼科学よりも,目の前で実例を診るほうがはるかにインパクトがあり,身につきます.その土台のうえに,眼科医としての人生が広がるのです.したがって,今の大変さは,のちのち絶対に役立ちます.だから頑張ってください.最後に自分の経験から申し上げると,後で振り返ったときには研修医時代が一番楽しかったと思います.研修医の仲間と一緒に助け合い,非常に忙しい時期を乗り越えたという実感をもつことができ,人生における自分の誇りとして残ることは間違いありません.杏林大学医学部眼科・准教授岡田アナベルあやめ眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス58.転移性細菌性眼内炎に対する硝子体手術(中級編)

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083450910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに転移性眼内炎は,原発巣から血行性に菌が転移して眼内に炎症を生ずるもので,真菌性と細菌性がある.一般に糖尿病や悪性腫瘍などの基礎疾患をもつ患者に発症することが多い.細菌性の原発巣としては,肝膿瘍,尿路感染症,肺炎,心内膜炎,髄膜炎が多い.転移性細菌性眼内炎は,真菌性に比べて進行が速く,早期診断と治療が大切である.しかし,しばしば原因不明のぶどう膜炎という診断で経過観察され,硝子体手術の機会を逸している場合が多いのが実情である.移性細菌性眼内炎の診断発熱や全身倦怠などの症状が先行することが特徴である.眼科的症状は,視力低下,結膜および毛様充血で,前房内炎症,硝子体混濁を認める.検眼鏡的あるいは超音波Bモード検査で網膜下膿瘍を認めることが多い.移性細菌性眼内炎の治療本症が疑われた場合には,起因菌を前房穿刺で同定す(71)べきであるが,進行が速いので確定診断が得られる前に薬物療法や硝子体手術を開始しなければならないことが多い.わが国では,原発巣は肝膿瘍,起因菌はグラム陰性のKlebsiellapneumoniaeの報告例が多い.塩酸バンコマイシンの硝子体内への注入を行うこともあるが,筆者の経験では硝子体手術を早期に施行したほうが良好な予後が得られる.硝子体手術では,水晶体を切除して硝子体を周辺部まで十分に切除する1).眼底周辺部に網膜下膿瘍を認める例で,膿瘍の範囲が狭ければそのまま単純硝子体切除に留める.術後の抗生物質の投与で徐々に膿瘍は縮小することが多い.多量の網膜下膿瘍をきたしている症例では,網膜を広範に切開して網膜下の膿瘍を徹底的に除去する必要がある.中途半端な洗浄はかえって膿瘍を眼内に撒布させる結果となり,予後不良の転帰をたどることが多い2).文献1)三村真士,前野貴俊,吉岡由利子ほか:早期硝子体手術が奏効した肝膿瘍原発の転移性細菌性眼内炎の1例.臨眼61:785-790,20072)安田冬子,木田一男,池田恒彦ほか:多量の網膜下膿瘍をきたした転移性眼内炎の1例.あたらしい眼科12:494-496,1995硝子体手術のンインドバイス●連載転移性細菌性眼内炎に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1症例(細隙灯顕微鏡所見)40歳,男性.約40℃の発熱が3日間持続した後に,左眼の視力低下を自覚した.他院で原因不明のぶどう膜炎との診断でステロイドの内服を1週間施行されたが,前房内炎症が増悪し,硝子体混濁も増強したため硝子体手術を施行した.2CT所見腹部CTで肝膿瘍が検出された.同部位の穿刺排膿より得た膿汁よりKlebsiellapneumo-niaeが検出された.3硝子体手術の術中所見眼底周辺部に多量の網膜下膿瘍を認めたため,裂孔から膿瘍を吸引除去したが,予後不良の転帰をたどった.

眼科医のための先端医療87.補助シグナルによる免疫制御と眼免疫とのかかわり

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083410910-1810/08/\100/頁/JCLSマウスヒトキメラ抗体の開発が成功して以来,今日ではつぎつぎに抗体医薬が開発され眼科領域においても抗体治療が脚光を浴びています.抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体(ベバシズマブ)や抗tumornecrosisfactor-a(TNF-a)抗体(インフリキシマブ)がその代表です.今後10年間で医療市場には○○マブといった製剤が溢れかえっているかもしれません.本稿では,抗体療法の標的として今後注目されている補助シグナルを解説し,新規補助シグナル分子とそのリガンドを標的とする抗体治療の動物実験における結果や,眼内における補助シグナル分子の役割を解説しながら抗体を用いた免疫治療の可能性について述べていきます.補助シグナルとは免疫応答はT細胞,B細胞,抗原提示細胞である樹状細胞,マクロファージなどの相互作用によるネットワークにより調節されています.多種多様な免疫の相互作用は抗原特異的レセプターを介するシグナル(第1シグナル)に加え,数多くの細胞表面分子間を介したシグナルにより決定されます.このようなシグナルを総称して補助シグナルといい,広義にはインテグリンファミリーによる多くの接着分子群,さらにはサイトカインやケモカインにより誘導されるシグナルも補助シグナルに含まれます.補助シグナルは特に抗原提示細胞とT細胞においてよく調べられ,免疫反応を増大させる活性型補助シグナルと減弱させる抑制型補助シグナルがあり,それぞれの局面でふさわしい免疫応答が誘導され,収束することで恒常性が保たれ免疫反応を調節しています(図1).補助シグナルによる免疫療法補助シグナル分子を人為的に調節することにより自己免疫疾患,臓器移植,アレルギー,癌,感染症などの原因となる抗原特異的T細胞の制御が可能になるため,現在では新規免疫治療薬としての補助シグナル分子の臨床研究が行われています.ヒトぶどう膜炎の動物モデルである実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(EAU)では最も古典的な補助シグナル経路であるCD28-CD80/86経路を阻害することにより病気の発症を抑制することができます1)が,CD28分子がほぼ恒常的に健常人や眼Behcet病の患者リンパ球に発現しているため臨床応用がむずかしいとされています.しかし,近年発見された新規の補助シグナル分子であるinducibleco-stimulator(ICOS)は,CD28と比較して抗原刺激を受けたことのないT細胞上にはほとんど発現がみられず,活性化に伴って発現が上昇することからICOSは病気がすでに起こっている状態において重要であると考えられていま(67)シリーズ第87回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊(東京医科大学眼科)補助シグナルによる免疫制御と眼免疫とのかかわり図1T細胞と抗原提示細胞の相互作用に関する補助シグナル分子群舁浴蛆???T??CTLA-4CD28ICOSPD-1BTLACD274-1BBOX40RANKCD40B7-1(CD80)B7-2(CD86)B7RP-1B7-H1HVEMCD704-1BBLOX40LTRANCECD40LB7-DCB7-H3B7-H4???B7-CD28familyTNF-TNFRfamily———————————————————————-Page2342あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008す.実際,筆者らはICOSが炎症時にのみ炎症局所の病原T細胞に発現していることから,そのリガンドの抗体である抗B7RP-1抗体を投与し,EAUの発症期にICOS/B7RP-1経路を阻害することでEAUの完成後における臨床症状と病理組織所見の軽減化,インターフェロン(IFN)-g産生の抑制効果,病原T細胞の増殖反応低下などを認めました2).また,眼炎症のある活動期Behcet病患者末梢血CD4+T細胞上のICOSは非活動期Behcet病患者や健常人のそれに比べ有意に発現が高く3),今後の難治性ヒトぶどう膜炎の治療において可能性が示唆されました.さらに,他の活性型補助シグナル分子であるOX40/OX40Lにおいては,マウス角膜移植モデルでこの経路を阻害することにより有意に生着が延長されることがわかりました4).そしてOX40-OX40L経路は動脈硬化発症に直接関与することも証明されているので,免疫疾患のみならず生活習慣病などの治療にも応用範囲は広くなると思われます5).眼局所における補助シグナル分子の役割本シリーズ第61回における東京医科歯科大学の杉田直先生の眼色素上皮細胞の免疫学的抑制機構において,マウス虹彩色素上皮細胞に古典的な補助シグナル分子であるCD86が発現し,cytotoxicTlymphocyte-associ-atedantigen(CTLA)-4を発現している活性化T細胞を抑制しサイトカイン産生を制御していることが掲載されましたが,これも眼局所において補助シグナル分子が関与している例です6).また,近年筆者らは新規の抑制型補助シグナル分子PD-1のリガンドであるPDL1がヒト網膜色素上皮細胞に発現し眼局所における免疫抑制機構に関与していることを認めました7).さらに正常細胞のみならず,ヒト網膜芽細胞腫の細胞株においてもPDL1の発現を認め,ケモカインを介して抗腫瘍T細胞反応を抑制している可能性や,活性型補助シグナル分子であるCD40を発現させることによって癌免疫療法の可能性があることもわかりました8).このように免疫細胞のみならず眼局所の細胞に補助シグナル分子が発現していることは大変興味深く,今後の研究の進展が期待されます.補助シグナル研究のめざすもの抗原特異的なシグナル(第1シグナル)を阻害する治療は,その病気の抗原が同定されている場合は可能ですが,応用がきわめて限られています.また,CD3などのT細胞受容体(TCR)などの治療法も試みられていますが,サイトカインストームやアポトーシスによるT細胞破壊で起きる免疫不全などが問題とされています.これに対して補助シグナル分子の阻害は抗原特異性,主要組織適合抗原複合体(MHC)拘束性がなくどのような免疫応答にも使用できる可能性があります.また,活性型の補助シグナル分子が存在しない状況において,T細胞は抗原を認識したうえでの抗原特異的不応答状態になるため補助シグナルの欠如によるT細胞不応答はT細胞が活性化されないだけでなくその後につづく同一抗原刺激に対しても無反応となるため,抗体を用いた補助シグナル阻害は免疫療法を行ううえで抗体治療中だけでなく投与後も効果が持続するという利点があり,今後の臨床応用が期待されています.実際,T細胞の活性化に必須である補助シグナル分子のCD28を介するシグナルを阻害するCTLA-4-Ig融合蛋白質のアバタセプトは2006年に米国で承認され,わが国でも第Ⅱ相臨床試験が進行しています.補助シグナル分子の研究は抗体医薬の臨床応用が究極の目標でありますが,それだけでなく眼局所における補助シグナル分子が各眼疾患の病態や病因の解明に大きなヒントを与えつつあります.今後,補助シグナル分子の基礎研究と臨床応用へのトランスレーションが眼疾患の解明や治療にさらなる進歩をもたらすことを期待したいと思います.文献1)FukaiT,OkadaAA,SakaiJetal:Theroleofcostimula-torymoleculesB7-1andB7-2inmicewithexperimentalautoimmuneuveoretinitis.GraefesArchClinExpOphthal-mol237:928-933,19992)UsuiY,AkibaH,TakeuchiMetal:TheroleoftheICOS/B7RP-1Tcellcostimulatorypathwayinmurineexperimentalautoimmuneuveoretinitis.EurJImmunol36:3071-3081,20063)臼井正彦:実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(EAU)のトランスレーショナルリサーチ.日眼会誌111:137-159,20074)HattoriT,UsuiY,OkunukiYetal:BlockadeofOX40ligandprolongscornealallograftsurvival.EurJImmunol37:3597-3604,20075)WangX,RiaM,KelmensonPMetal:Positionalindenti-cationofTNFSF4,encodingOX40ligand,asagenethatinuencesatherosclerosissusceptibility.NatGenet37:365-372,20056)杉田直:眼科医のための先端医療眼色素上皮細胞の免疫学的抑制機構.あたらしい眼科23:63-64,20067)UsuiY,OkunukiY,HattoriHetal:Functionalexpres-(68)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008343(69)ulatorymoleculesonhumanretinoblastomacellsY-79:functionalexpressionofCD40andB7H1.InvestOphthal-molVisSci47:4607-4613,2006sionofB7H1onretinalpigmentepithelialcells.ExpEyeRes86:52-59,20088)UsuiY,OkunukiY,HattoriTetal:Expressionofcostim-■「補助シグナルによる免疫制御と眼免疫とのかかわり」を読んでかは抗ざのりとのに「抗の」にるとわすの抗抗です抗抗ののは療をよに眼療をもものとわすか抗抗はに作用るので眼局所の免疫制御療には作用のかにりす抗抗ではに抗抗ににでるもりす臼井嘉彦るよに補助シグナルを制御するとでよりめ細かでをに療をとです細は本文によすのですの抗療はより局をわわのにはと研究分をとです分子のをかにする研究には用すは所とる免疫をもでり分子のにおける作用はのかするとかでんで分子のにおけるの作用をるめには療にですで分子をすよとはわかはにるものではりんか抗療によりににお分子をするととのですは抗の療に療研究にをもすものですと抗抗を用の眼をの眼の制御にのよにかかわるかにのわかりすでるはでものをはるかにするをわわにもすでのを用に療法にるでの文はの眼の用をにするものとす文献1)HaerDA:Cytokinesandinterventionalimmunology.NatureRevImmunol7:423,2007鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ180.角膜クロスリンキング

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083390910-1810/08/\100/頁/JCLS角膜厚が400μmに満たない症例では角膜内皮細胞への影響が懸念される4).したがって,上皮細胞層を除いた角膜中心部厚が400μm以上(上皮細胞層を入れると約450μm以上)の症例のみが適応とされる.実際の手術方法(表1)角膜に点眼麻酔を施した後,6mm径にて角膜上皮を離する.0.1%リボフラビン水溶液を3分ごとに約30分間点眼する.いったん細隙灯顕微鏡にて観察し,リボフラビンが離した上皮の縁から0.5mm以上角膜輪部新しい治療と検シリーズ(65)バックグラウンド円錐角膜は,角膜実質の脆弱性を特徴とする先天性の疾患である.大部分の症例は思春期に発症し,成長とともに疾患は進行し,角膜の前方突出・菲薄化と近視度数の進行と不正乱視の増加をみる.しかし,成人してしばらくすると円錐角膜の進行は停止することが多い.この機序として,日常生活で角膜が紫外線に曝露されることにより,角膜実質のコラーゲン線維間の架橋が強まり角膜強度が増すためであると考えられる.角膜クロスリンキングは,Seilerらのグループにより開発された円錐角膜の治療法で,角膜実質のコラーゲン線維間の架橋を加速させることにより円錐角膜の進行を早期に停止することを目的としている.同グループは,1990年代から角膜実質のコラーゲン線維の架橋に関する基礎研究報告を行ってきており1,2),それを元に,2003年に初めてヒト円錐角膜眼に対して施術を行い有効性と安全性を報告した3).以後,各国から高い関心が寄せられており,特にヨーロッパ諸国で本方法を導入する施設が増加している.現在,スイス,イタリアなどを中心とした欧米諸国で多施設研究がスタートし,症例が積み重ねられている段階である.原理角膜にリボフラビン(ビタミンB2)を点眼しながら370nmの長波長紫外線を角膜に照射する.リボフラビンはフォトセンシタイザー(光増感性物質)として働き,紫外線の照射により活性酸素を発生する.この活性酸素がコラーゲン線維間の架橋を増加させると考えられている(図1).長波長紫外線照射により,角膜実質のコラーゲンが架橋するほかに,細胞はアポトーシスに陥る.この影響は,照射表面から400μm程度まで及ぶとされており,180.角膜クロスリンキングプレゼンテーション:加藤直子慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:西田幸二久保田享東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座眼科・視覚科学分野1.リボフラビン点眼と長波長紫外線照射長波長紫外線照射2.活性酸素の発生3.コラーゲン架橋形成コラーゲン線維コラーゲン線維OHOOOO?POHH2CH2CCH2H3CH3CO2-CHOHCHOHCHOHNNNHNリボフラビン(ビタミンB2)CH2CH2CH2CH2NHCH2CH2CH21角膜クロスリンキングの原理リボフラビンに紫外線照射をすると活性酸素が産生される.産生された活性酸素の作用でコラーゲン線維間に架橋が生じると考えられている.(出典;WollensakG:Crosslinkingtreat-mentofprogressivekeratoconus.CurrOpinOphthalmol17:356-360,2006,Figure2より)———————————————————————-Page2340あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008側へ浸透していることと前房水内にまで到達していることを確認する.その後,370nmの長波長紫外線を3.0mW/cm2の強度で30分間照射する(図2).照射中も5分ごとにリボフラビンの点眼を続行する.術後は,治療用ソフトコンタクトレンズを装用させ,ステロイド点眼薬,非ステロイド系抗炎症薬,抗生物質の点眼を行う.本方法の良い点従来角膜移植を行うしか治療方法のなかった円錐角膜眼に対して,進行する前に予防的に措置を行えることが最大の利点である.施術は点眼麻酔のみで行うことが可能で,術後の炎症も非常に少ない.現在の時点では,世界的にも重篤な副作用の報告はまだ1例もない.また,手術の導入という観点からも利点は多い.本方法で用意すべきものは紫外線照射装置とリボフラビン溶液のみであり,高額な機器の設置などは不要である.また,上皮を離した後は,点眼しながら紫外線を照射するだけで,手術操作も非常に簡単である.先天性の円錐角膜のみならず,角膜屈折矯正手術後の角膜拡張症の予防・治療方法としても,今後の発展と普及が期待されている.文献1)SpoerlE,HuhleM,SeilerT:Inductionofcross-linksincornealtissue.ExpEyeRes66:97-103,19982)SpoerlE,SeilerT:Techniquesforstieningthecornea.JRefractSurg15:711-713,19993)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboavin/ultraviolet-A-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,20034)WollensakG,SpoerlE,WilschMetal:Endothelialcelldamageafterriboavin-ultraviolet-Atreatmentintherabbit.JCataractRefractSurg29:1786-1790,2003(66)防止するということであって,すでに生じてしまった形状異常を修復するものではない.円錐角膜の進行症例では角膜厚が薄くなっており,本方法に角膜厚が400μm以上必要であることから症例が限られてしまうことは問題である.また,紫外線による角膜内皮細胞への長期的な影響も検討が待たれるところである.しかし,本方法を発展させていけば有効な治療法になる可能性があり,今後の継続的な検討が期待される.円錐角膜の治療の考え方としては,初期の場合は矯正効果と進行防止を目的としてハードコンタクトレンズ処方を行い,形状異常が高度であったり角膜混濁により視力低下をきたしたりしている症例では角膜移植を行うのが標準的である.本方法は,角膜実質のコラーゲンを架橋により強化させ円錐角膜の防止の目的で行う方法であり新しいものといえる.しかし,本法の目的は架橋によって実質の強度を向上させて進行を本方法に対するコント2角膜に紫外線を照射しているところリボフラビンを点眼して十分に前眼部に浸透させた後に,長波長紫外線を30分間角膜に照射する.(写真提供:南青山アイクリニック)表1角膜クロスリンキングの手順点直リラン点リランとリランのに紫外線照射とにリランを点し術治療コンクトンズ点

眼感染アレルギー:ぶどう膜炎と眼の免疫

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083370910-1810/08/\100/頁/JCLSぶどう膜炎とは,本来はぶどう膜を構成する虹彩,毛様体,脈絡膜に起因する炎症と考えられるが,日常の臨床では眼内における炎症性疾患すべてに対して使われている用語である.そのため,「uveitis(ぶどう膜炎)」より「intraocularinammation(内眼炎)」のほうが適切であるという見解もあり,InternationalOcu-larInammationSocietyにより提唱されたが,uveitis(ぶどう膜炎)という用語がすでに定着していること,intraocularinammation(内眼炎)は感染性眼内炎(endophthalmitis)との混同を招くおそれがあるなどの問題から,今なお両用語が用いられている.ぶどう膜炎は,「感染性」と「非感染性」に大別され,「非感染性」の原因としては自己の組織に対して反応性を有する免疫異常,「自己免疫」の関与が指摘されている.内の特異な免疫機構ぶどう膜炎を考えるとき,眼の特異な免疫機構を知っておくことは大切である.眼にはその透明性を維持するために血管,リンパ管がなく,血液眼関門とよばれるバリアも存在し,全身の免疫系が働きにくい組織になっている.そのため,他臓器にはみられないユニークな免疫機構が備わっている.1.血液眼関門(バリア)毛様体上皮細胞,網膜色素上皮細胞,網膜血管内皮細胞により構成され,病原微生物はもとより,善玉,悪玉を問わず免疫担当細胞の侵入をも封ずる.しかし,これは両刃の剣であり,何らかの原因により細菌,ウイルスが眼内に侵入してしまうとそこは絶好の繁殖環境となってしまう.2.房水内の免疫抑制物質房水中には種々の液性因子が存在し(表1),炎症性細胞を直接,または樹状細胞などの抗原提示細胞を介して間接的に抑制することが知られている13).3.免疫調節作用を有する眼組織細胞近年の研究で,角膜内皮細胞,虹彩・毛様体上皮細胞,網膜色素上皮細胞にはCD95L,CD86,galectin-1,MHCclassIb,B7-H12,4,5)などの免疫反応を負に制御する分子が発現していることが明らかになっている.4.前房関連免疫偏位(anteriorchamber-associatedimmunedeviation:ACAID)前房内に投与された抗原は虹彩・毛様体に存在する抗原提示細胞に取り込まれ,血流を介して脾臓に達し,その抗原に特異的な制御性T細胞を分化・誘導する.この制御性T細胞により,前房内投与された抗原に対す(63)眼感染アレルーー感染症と生体御●連載③監修=木下茂大橋裕一3.ぶどう膜炎と眼の免疫竹内大東京医科大学眼科ぶどう膜炎は,眼内における炎症の総称であり,「感染性」と「非感染性」に大別される.一方,眼にはその透明性を維持するために血管,リンパ管がなく,全身の免疫系が働きにくい組織であるが,他臓器にはみられないユニークな免疫機構を有しその恒常性は維持されている.ぶどう膜炎の発症は眼の免疫機構の破綻に起因し,主体の浸潤細胞により特徴的な眼所見を呈する.表1免疫反応を負に制御する眼内の液性因子子作用b2T細胞,NK細胞,マクロファージの活性抑制,および制御性抗原提示細胞の誘導a-MSH制御性T細胞への分化誘導VIPT細胞の分化・活性抑制CGRPT細胞,マクロファージの活性抑制,および制御性抗原提示細胞の誘導TSP制御性抗原提示細胞の誘導MIFNK細胞の抑制IL-1RaIL-1a/bの抑制CD46,CD55,andCD59補体活性抑制CD95L活性化T細胞のアポトーシス誘導TGF-b2:transforminggrowthfactor-b2.a-MSH:a-melanocytestimulatinghormone.VIP:vasoactiveintestinalpolypeptide.CGRP:calcitoningene-relatedpeptide.TSP:thrombospondin.MIF:macrophagemigrationinhibitoryfactor.IL:interleukin.NK:naturalkiller.———————————————————————-Page2338あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008る遅延型過敏反応,免疫グロブリンG(IgG)2a産生は特異的に抑制される6).どう膜炎にみられる眼所見ぶどう膜炎にみられる眼所見は炎症に伴う血液眼関門の破綻が原因であり,形作られる病像は主体の浸潤細胞の種類により決定される(表2).浸潤細胞の主体がマクロファージ,リンパ球であると肉芽腫性ぶどう膜炎となり,好中球,リンパ球であると非肉芽腫性ぶどう膜炎を呈する.炎症により毛様体上皮細胞のバリアが破綻すると前房細胞,角膜後面沈着物,前部硝子体細胞といった眼所見がみられ,肉芽腫性では豚脂様角膜後面沈着物,虹彩結節,隅角結節,非肉芽腫性では白色微細角膜後面沈着物,前房蓄膿を呈する.血管炎により網膜血管内皮細胞のバリアが障害されると,肉芽腫性では結節性血管炎,非肉芽腫性ではびまん性血管炎を生じ,蛍光眼底造影における蛍光漏出が局所性分節性かびまん性かにより判別される.肉芽腫性,非肉芽腫性ぶどう膜炎ともに形状に違いがみられるものの血管内成分が網膜に浸潤し,出血,滲出斑を呈する.また,網膜色素上皮細胞が障害されると網膜深層の滲出斑,滲出性網膜離などの所見がみられる.どう膜炎をきたす免疫反応疾患の発症機序,病態の解明,治療法の確立には動物を用いた疾患モデルが不可欠であり,ぶどう膜炎の研究においてもその開発が進められてきた.1965年にWackerらが網膜蛋白質に強いぶどう膜網膜炎惹起能があることを報告し,その後,その代表的な蛋白質は網膜視細胞層に存在するS抗原と光受容体間レチノイド結合蛋白質(interphotoreceptorretinoidbindingpro-tein:IRBP)であることが明らかになった.S抗原,またはIRBPを免疫強化剤である完全フロインドアジュバント(CFA)とともに感受性の高い動物に免疫すると高頻度にぶどう膜炎が発症し,このぶどう膜炎は実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(experimentalautoimmuneuveoretinitis:EAU)と名付けられた7).EAUでは,CFAによりマクロファージ,好中球を中心とした抗原非特異的な免疫反応(自然免疫)が活性化され,活性化された自然免疫により血液眼関門の破綻,網膜局在抗原の曝露,抗原提示細胞による網膜抗原特異的T細胞の活性化(抗原特異的な獲得免疫の活性化)が免疫部位,眼内で生じ,ぶどう膜網膜炎の発症に至ると考えられる.どう膜炎の病態からされること非感染性ぶどう膜炎は,疾患により急性,慢性さまざまな経過をたどるが,概して自然寛解傾向がみられる.再発,再燃をくり返す病態は,炎症を惹起する免疫異常と炎症を消退させようとする上記の眼特異的免疫機構の凌ぎ合いが反映されている結果であろう.文献1)TakeuchiM,AlardP,StreileinJW:TGF-betapromotesimmunedeviationbyalteringaccessorysignalsofanti-gen-presentingcells.JImmunol160:1589-1597,19982)StreileinJW:Ocularimmuneprivilege:therapeuticopportunitiesfromanexperimentofnature.NatRevImmunol3:879-889,20033)KezukaT,TakeuchiM,KeinoHetal:Peritonealexudatecellstreatedwithcalcitoningene-relatedpeptidesuppressmurineexperimentalautoimmuneuveoretinitisviaIL-10.JImmunol173:1454-1462,20044)SugitaS,StreileinJW:IrispigmentepitheliumexpressingCD86(B7-2)directlysuppressesTcellactivationinvitroviabindingtocytotoxicTlymphocyte-associatedantigen4.JExpMed198:161-171,20035)HoriJ,WangM,MiyashitaMetal:B7-H1-inducedapoptosisasamechanismofimmuneprivilegeofcornealallografts.JImmunol177:5928-5935,20066)StreileinJW,NiederkornJY:Inductionofanteriorcham-ber-associatedimmunedeviationrequiresanintact,func-tionalspleen.JExpMed153:1058-1067,19817)DeKozakY,UsuiM,FaureJP:Experimentalautoim-muneuveoretinitis.Ultrastructureofchorioretinallesionsinducedinguineapigsbyimmunizationagainsttheouterrodsofthebovineretina.ArchOphthalmol(Paris)36:231-248,1976(64)表2肉芽腫性ぶどう膜炎と非肉芽腫性ぶどう膜炎の相違肉芽腫性ぶどう膜炎非肉芽腫性ぶどう膜炎の細胞リリ前眼所見膜物節節細膜物リ前房子の性をうことる性血炎節性性膜

ベーチェット病の眼病変:インフリキシマブ治療前の必須検査,副作用

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083350910-1810/08/\100/頁/JCLSインフリキシマブ(商品名:レミケードR)はあらゆる炎症の起点となるサイトカイン腫瘍壊死因子a(TNF-a)に対する抗体製剤で,マウス由来抗ヒトTNF-aモノクローナル抗体のうち,TNF-aへの結合部(可変部)のみを残し,定常領域をヒトIgG(免疫グロブリンG)に変換したキメラ抗体である.TNF-aを無力化するだけでなく,TNF-a産生細胞をも傷害することにより,炎症を抑制する1).インフリキシマブが2007年1月にベーチェット病による網膜ぶどう膜炎に適応承認されて以来,各施設で難治性の眼ベーチェット病患者に順次導入され,結果報告が出てきつつある.それによると概ね眼発作の頻度は激減し,眼科的には著効しているといえるようである.われわれ眼科の世界ではぶどう膜炎の病勢がどうなるかにばかり目が向きがちであるが,インフリキシマブはいわゆる生物学的製剤とよばれる新しい治療薬であり,また全身投与をする以上,投与前には投与可能かどうかの全身検査が必須であり,また投与後も全身的な副作用につねに注意を払うことが必要である.以下にインフリキシマブ投与前の必須検査と,その副作用について述べる.与前の必須検査まず本製剤ならびにマウス由来蛋白質に対する過敏症の既往歴,脱随疾患およびその既往歴,うっ血性心不全,重篤な感染症,活動性結核,がある場合は投与禁忌となっている.これらを確認した後,以下に進む.①結核:問診で結核既往歴を聴取し,ツベルクリン反応の検査を行う.また胸部X線,必要に応じて胸部CT(コンピュータ断層撮影)も追加する.これらの検査の結果,既感染が疑われる場合には必要に応じて抗結核薬の同時投与も検討しなければならない.②肝炎:B型肝炎ウイルスキャリアの患者においてB型肝炎ウイルスの再活性化が報告されている.HBs抗原を調べ,陽性であった場合には定期的な肝機能検査や(61)肝炎ウイルスマーカーのモニターを行う.C型肝炎も同様である.③その他の感染症:採血を行い,白血球やリンパ球の上昇があったり,またb-d-グルカン陽性がみられたら感染症のリスクが高くなる.感染症の早期発見に努め,必要に応じて早期治療を行う.作用つぎに副作用について述べる.副作用の種類としては,抗体製剤であることによる副作用と,TNF-aを抑制することによる副作用,の2つに大別される.1.抗体製剤であることによる副作用a.Infusionreaction(投与時反応)即時型過敏症のことで,投与開始から投与後2時間以内に認められた副作用をいう.頭痛,発熱,めまい,血圧上昇,痒,嘔吐などがある.5.4%で起こると報告されている2).軽度のものでは点滴速度を下げるなどで対応するが,中等度以上のものでは点滴中止や抗ヒスタミン薬やステロイド薬追加投与などで対応し,場合によっては気道確保なども必要なこともある.b.遅発性過敏症前回投与から一定期間置いて再投与する場合に,投与後3日以上経過して発現する過敏症をいう.筋肉痛,発疹,発熱,関節痛などがある.発現率は0.6%と報告されている2).2.TNFaを抑制することによる副作用TNF-aは多くの炎症性疾患の元凶となってはいるが,本来正常な作用では,腫瘍の増殖を抑制したり,また感染防御機構の一翼を担っている.したがって,TNF-aを極端に抑制すると,腫瘍増大や感染症をひき起こす危険性が高まる.a.感染症の発症関節リウマチにおける日本での調査では,細菌性肺炎の発症率は2.2%,結核の発症率は0.3%となっている.肱岡邦明園田康平九州大学大学院医学研究院眼科ベーチェット病の眼病変ミナー監修/岡田アナベルあやめ園田康平2.インフリキシマブ治療前の必須検査,副作用インフリキシマブ2よりベーチェット病による治性に応インフリキシマブ製剤とイプの治療であり,投与を必とするの投与前にを,投与後の副作用にに,こにに製———————————————————————-Page2336あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(62)結核は投与前のスクリーニングや抗結核薬の予防投与により発症を抑えることができる.b.悪性腫瘍の発症,悪化悪性リンパ腫や皮膚癌などが報告されてはいるが,自然発症頻度と差はなく,関連性は明らかではない.c.ループス様症候群海外で結節性紅斑の悪化例3)や,抗dsDNA抗体の上昇例が報告されている4).投与後のループス様症候群を思わせる徴候が認められ,さらに抗dsDNA抗体陽性化が認められた場合には投与を中止しなければならない.d.脱随疾患既往がある場合は投与禁忌であり,疑いの場合は必要に応じて画像診断などを行う.作用の1例以下に当院で起こった,レミケードRが原因と思われる副作用の1例を示す.症例は35歳,男性.28歳でベーチェット病を発症し,以後コルヒチン,プレドニゾロン内服治療を行ったが,眼発作をくり返した.シクロスポリン内服は神経ベーチェットの発症を恐れる本人の承諾が得られず行っていない.2006年には眼発作の頻度はますます高くなるとともに発作の重症度も重くなり,視力低下が進行した(図1)ため,レミケードR導入となった.初回投与後,2週,6週,以後8週間隔でレミケードR投与を行っている.投与後はこれまでのところ発作を2回起こしてはいるが,その頻度は激減し,その重症度も非常に軽いものであった(図2).2007年11月2日にレミケードR投与を行い,特に問題なく退院となっていたが,翌日朝より39℃を超える発熱と頭痛が出現し,当院内科受診,髄膜炎を疑われ入院となった.髄液検査で髄膜炎は否定され,腹部CTと大腸カメラから急性感染性腸炎と診断され,抗生物質点滴が行われ,速やかに解熱し炎症反応も軽快したため,11月17日退院となった.レミケードR投与による易感染性が原因と考えられた.しかし,リスクと効果のバランスを検討し,内科医との十分な連携のもと,現在,レミケードRを再開している.おわりにベーチェット病の患者は比較的年齢が若く,全身的にも問題ない場合が多いので,関節リウマチ患者などに比較すると副作用は起こりにくい印象ではあるが,このような例も存在することを認識してレミケードR投与を行っていくことが必要である.文献1)稲森由美子,水木信久:ベーチェット病の抗TNFa抗体療法.眼科48:489-503,20062)ChefetzA,SmedleyM,MartinSetal:Theincidenceandmanagementofinfusionreactionstoiniximab:alargecenterexperience.AmJGastroentenol98:1315-1324,20033)YuselAE,Kart-KoseogluH,AkovaYatal:Failureofiniximabtreatmentandoccurrenceoferythemanodo-sumduringtherapyintwopatientswithBehcet’sdisease.Rheumatology43:394-396,20044)KatsiariCG,TheodossiadisPG,KaklamanisPGetal:Suc-cesfullong-termtreatmentofrefractoryAdamantiades-Behcet’sdisease(ABD)withiniximab.AdvExpMedBiol528:551-555,2003図1インフリキシマブ投与前の眼発作眼底後極部の激しい出血,白斑を認め,網膜離も起こっている.視力は著しく低下していた.インフリキシマブ投与前にはこのような大発作を頻回に起こした.図2インフリキシマブ投与後の眼発作眼底後極部に白斑を1個認めるが,視力は障害されていない.インフリキシマブ投与後はこのようなごく軽微な発作は複数回あったものの,投与前に比べその頻度は激減し,発作の重症度も非常に軽微となっている.

緑内障:Heidelberg Retina Tomographによる緑内障診断

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083330910-1810/08/\100/頁/JCLS代表的な共焦点走査型レーザー検眼鏡であるHeidel-bergRetinaTomograph(HRT,HeidelbergEngineering社)は,乳頭陥凹を三次元的に解析し,視神経所見を定量的かつ客観的に評価することが可能であり,現在緑内障診断を中心に臨床応用されている1,2).本稿では,HRTによる各種緑内障診断法について述べる.性的診断HRTでは,複数の二次元断層画像をもとに,topog-raphyimageとreectivityimageとよばれる2つの解析画像が作成され,モニターに表示される(図1).前者は各測定点における眼底表面の高さをカラーコード化し,突出部を暗色,陥凹部を明色で表示したもので,後者は各測定点の反射率を表示したものである.Topog-raphyimageにおいては,検者が乳頭縁を決定すると,標準基準面やcurvedsurfaceとよばれる基準面が自動的に定義され,これらの面と眼底表面の高さとの位置関係に応じて緑色,青色,赤色が示される(図1).Topo-graphyimageやreectivityimageを観察することにより,定性的な緑内障診断が可能である.また,乳頭縁の高さのグラフ表示(図1)では,正常眼では上下側で高い二峰性を示すが,緑内障眼では障害の進行に伴ってこの二峰性パターンが消失する.頭パラメータを用いた診断HRTの最新のソフトウエア(version3.0)では,算出された各種乳頭パラメータ(表1)は,内蔵された正常データベースと比較され,有意水準が同時に算出される.HeidelbergEngineering社では,特に重要なパラメータとして,rimarea,rimvolume(RV),cupshapemeasure(CSM),heightvariationcontour(HVC),meanRNFLthicknessの5つをあげている.FSMclassication乳頭パラメータのうち,正常眼と緑内障眼との鑑別に鋭敏とされるCSM,RV,HVCの3つのパラメータと年齢を用いた判別式により,乳頭の緑内障性変化の有無を判定するものである3,4).以下に判別式を示す.CorrectedCSM(corCSM)=CSM+〔0.001981×(50age)〕A=(RV×1.951)+(HVC×30.125)+(28.521×corCSM)10.083B=(9.039×RV)+(HVC×37.370)+(15.442×corCSM)7.4211(59)緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄93.HeidelbergRetinaTomographによる緑内障診断八百枝潔白柏基宏新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野共焦点走査型レーザー検眼鏡であるHeidelbergRetinaTomograph(HRT)は,視神経乳頭(乳頭)陥凹を三次元的に解析し,視神経所見を定量的かつ客観的に評価することが可能である.本装置にはいくつかの緑内障診断プログラムが内蔵されており,その有用性については広く知られている.図1HRTIIによる解析結果の一例検者が決定したcontourline(乳頭縁)の高さは,左から耳側,上側,鼻側,下側の順に展開した曲線としてグラフ表示される(図下).図左上には3色で示されたtopographyimageが,図右上にはrefractivityimageが表示される.前者は各測定点における眼底表面の高さをカラーコード化し,突出部を暗色,陥凹部を明色で表示したもので,後者は各測定点の反射率を表示したものである.Topographyimageにおいては,検者が乳頭縁を決定すると,標準基準面やcurvedsurfaceとよばれる基準面が自動的に定義され,これらの面と眼底表面の高さとの位置関係に応じて緑色,青色,赤色が示される(図右上).———————————————————————-Page2334あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008A-B>0→正常B-A<0→緑内障Mooreldsregressionclassication本プログラムでは,乳頭を60°ずつの6セクターに分割し,乳頭全体と各セクターにおける乳頭辺縁部面積(乳頭面積で補正)を評価することにより,乳頭の緑内障性変化の有無を判定する5)(図2).すなわち,正常データベースとの比較によって,withinnormallimits(95%の信頼区間)が緑色のチェックマーク,borderline(95~99.9%の信頼区間)が黄色の感嘆符,outsidenor-(60)mallimits(99.9%の信頼区間)が赤色のバツ印で示される.GlaucomaprobabilityscoreSwindaleら6)により提唱された新しい緑内障診断プログラムである(図3).本プログラムでは,健常および緑内障眼各々の乳頭/網膜神経線維層モデルから導かれた乳頭/網膜神経線維層パラメータを,非線形最小二乗法を用いて個々の乳頭形状に適合させ,別なパラメータを算出,それらのパラメータをコンピュータに学習させ,確率密度関数を算出し,緑内障診断を行う.文献1)八百枝潔,白柏基宏,阿部春樹:HeidelbergRetinaTomograph(HRT).図説よくわかる緑内障検査法(三嶋弘,阿部春樹,新家眞ほか編),p70-79,メディカルレビュー社,20032)NakatsueT,ShirakashiM,YaoedaKetal:Opticdisctopographyasmeasuredbyconfocalscanninglaseroph-thalmoscopyandvisualeldlossinJapanesepatientswithprimaryopen-angleornormal-tensionglaucoma.JGlaucoma13:291-298,20033)MikelbergFS,ParttCM,SwindaleNVetal:AbilityoftheHeidelbergRetinaTomographtodetectearlyglau-comatousvisualeldloss.JGlaucoma4:242-247,19954)IesterM,MikelbergFS,DranceSM:TheeectofopticdiscsizeondiagnosticprecisionwiththeHeidelbergReti-naTomograph.Ophthalmology104:545-548,19975)WollsteinG,Garway-HeathDF,HitchingRA:Identi-cationofearlyglaucomacaseswiththescanninglaserophthalmoscope.Ophthalmology105:1557-1563,19986)SwindaleNV,StjepanovicG,ChinAetal:Automatedanalysisofnormalandglaucomatousopticnerveheadtopographyimages.InvestOphthalmolVisSci41:1730-1742,2000表1代表的なHRTの乳頭パラメータ乳頭乳頭乳頭乳頭乳頭ののの乳頭乳頭よ下の乳頭ののよ下の乳頭ののよ下の乳頭のののにる乳頭のの×contourline(乳頭縁)の長さ(mm2)図2Mooreldsregressionanalysisによる解析結果図3Glaucomaprobabilityscoreによる解析結果

屈折矯正手術:多焦点IOL術後のタッチアップ

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083310910-1810/08/\100/頁/JCLS遠方視,近方視とも眼鏡に依存せずにすむようになることを目的として多焦点眼内レンズ(IOL)が使用されてから,約20年が経った.しかし,多焦点IOLには屈折型と回折型があるが,屈折型は良好な夜間のハローやグレアがでやすい,回折型はコントラスト感度の低下が大きな問題であったため,あまり普及してこなかったが近年開発された新世代の多焦点IOLでは光学部のデザインの改良により屈折型,回折型それぞれの欠点が低減されてきており注目されている.しかし,多焦点IOLは,屈折型,回折型とも角膜乱視や術後の屈折誤差が大きい場合には,十分な裸眼視力が遠方近方とも得られず本来の目的である眼鏡に依存しないことを成し遂げられないことがある.多焦点IOL挿入後の屈折誤差矯正の一つの方法としてLASIK(laserinsitukera-tomileusis)を行う(タッチアップ)ことが提唱されているが,これにより良好な結果を得た症例を紹介する.屈折誤差としては,遠視性乱視,近視性乱視,混合乱視それぞれの可能性があるが,現在のエキシマレーザーではどれも矯正することが可能である.今回は,回折型多焦点IOL(AMO社,ZM900)を挿入後,マイクロケラトーム(AMO社,アマデウス),エキシマレーザー(AMO社,StarS4)を用いて行った.例1:61歳,女性.両眼に回折型多焦点IOLを挿入.術後1カ月での視力は,遠方VD=0.6(1.2×0.5D(cyl0.5DAx150°)VS=0.3(1.0×0.75D(cyl0.5DAx80°)近方NVD=0.7(1.2×0.5D(cyl0.5DAx150°)NVS=0.5(1.0×0.75D(cyl0.5DAx80°)であった.本人の希望にて,白内障手術後6カ月目に左眼のLASIKを施行した(図1).LASIK後の左眼の視力は,遠方VS=0.9(1.2×+0.5D(cyl0.5DAx80°)近方NVS=0.7(1.0×+0.5D(cyl0.5DAx80°)に改善した.右眼のLASIKは施行しなかったが,右眼で中間が見え,両眼ですべての距離が見えるので,満足しており,このまま経過観察とした.例2:60歳,男性.両眼に回折型多焦点IOLを挿入.術後1カ月での視力は,遠方VD=0.7(1.2×+1.25D(cyl0.5DAx180°)VS=0.9(1.2×+1.0D(cyl0.5DAx180°)近方NVD=0.3(0.7×+2.0D(cyl0.5DAx180°)NVS=0.4(0.8×+1.5D(cyl0.5DAx180°)(57)屈折矯正手術ースキアップ●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男94.多焦点IOL術後のタッチアップ中村邦彦たなし中村眼科クリニック新世代の多焦点眼内レンズ(IOL)により,良好な遠方および近方視力が得られ患者の眼鏡依存度を減少させることができるようになったが,術後の屈折誤差によっては十分な裸眼視力が得られず,眼鏡依存度も高いため患者が不満を訴える.このような症例に対し,LASIK(laserinsitukeratomileusis)による屈折誤差矯正を行った結果を報告する.LASIK前LASIK後図1近視性乱視のタッチアップ角膜中央部の軽度のフラット化がみられる.———————————————————————-Page2332あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008であった.本人の希望にて,白内障手術後5カ月目に右眼のLASIKを施行した(図2).LASIK後の右眼の視力は,遠方VS=0.9(1.2×+0.75D(cyl0.75DAx90°)近方NVS=0.5(0.9×+0.75D(cyl0.75DAx90°)に改善した.左眼のLASIKは施行しなかったが,満足しており,このまま経過観察とした.症例3:48歳,女性.両眼に回折型多焦点IOLの挿入を希望していたが,白内障手術前の検査にて,両眼の2.5Dの角膜乱視を指摘されていた.術後に乱視矯正の必要を考慮して,本人の同意のもと白内障手術前にマイクロケラトームにて角膜フラップを作製しておいた.術後1カ月での視力は,遠方VD=0.7(1.2×+0.75D(cyl3.75DAx165°)VS=0.6(1.0×+0.25D(cyl2.5DAx180°)近方NVD=0.7(0.8×+0.75D(cyl3.75DAx165°)NVS=0.7(0.8×+0.25D(cyl2.5DAx180°)であった.白内障手術後1カ月目に両眼のLASIKを施行した(図3).LASIK後の視力は,遠方VD=1.2(矯正不能)VS=0.8(1.2×-0.25D(cyl0.75DAx90°)近方NVD=1.0(1.2×+0.50D)NVS=0.8(1.2×+0.25D(cyl0.75DAx90°)に改善した.LASIK後は,まったく眼鏡を使用せず満足している.症例のごとく近視性乱視,遠視性乱視,混合乱視のいずれについても,タッチアップは有効である.しかし,症例3のように前もって乱視が強く矯正が必要なことが予測される場合は角膜実質の切除量を考慮して,IOLをやや近見狙いにて挿入するとともに先に角膜フラップを作製しておくのがよい.また症例1や2のように,両眼に屈折誤差があっても片眼のLASIKだけで満足を得ることも多いので,裸眼視力に不満があるほうの眼だけを行い,僚眼はその後の状況に応じて検討するのがよい.(58)☆☆☆LASIK前LASIK後図2遠視性乱視のタッチアップ角膜中央部の軽度のスティープ化がみられる.LASIK前LASIK後LASIK前LASIK後右眼左眼図3乱視の強い場合のタッチアップIOLが近見狙いとなっているので,フラット化のablationとなっている.