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正常眼圧緑内障患者における塩酸ブナゾシン点眼追加療法の36 カ月間の効果

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(129)7050910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(5):705709,2008cはじめに緑内障治療の目標は残存視野を維持することである.視野維持に対して眼圧下降のみが高いエビデンスを得ている1).眼圧下降のために第一選択として抗緑内障点眼薬を用いることが多い.まず単剤点眼を行うが,眼圧下降効果が不十分な場合は,点眼薬の変更や作用機序の異なる薬剤の併用が必要となる.これら併用療法における長期的な眼圧下降効果の検討は十分に行われていない.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN正常眼圧緑内障患者における塩酸ブナゾシン点眼追加療法の36カ月間の効果井上賢治*1塩川美菜子*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座AdditiveEfectofBunazosinHydrochloridefor36MonthsinPatientswithNormal-TensionGlaucomaKenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MasatoWakakura1),JiroInouye1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬による単剤点眼治療中の正常眼圧緑内障患者26例に2剤目として塩酸ブナゾシン点眼を1日2回追加投与し,36カ月間の経過観察を行った.追加投与前,投与6,12,18,24,30,36カ月後の眼圧,副作用を調査した.さらに投与前と投与12,24,36カ月後の視野障害度を比較した.塩酸ブナゾシン追加前の使用薬剤はb遮断薬が14例,プロスタグランジン関連薬が12例,眼圧は16.7±1.6mmHgであった.塩酸ブナゾシン投与後の眼圧は36カ月にわたり14.115.0mmHgで有意に下降した(p<0.0001).さらにa1b遮断薬,(狭義)b遮断薬,ラタノプロスト使用例に分けて眼圧を検討したが,(狭義)b遮断薬とラタノプロスト使用例では塩酸ブナゾシン追加投与により眼圧が有意に下降した(p<0.0001)が,a1b遮断薬使用例では眼圧下降率が弱かった.投与前と投与36カ月後までのHumphrey視野のmeandeviation値は同等であった.副作用として軽度の点状表層角膜炎,結膜充血が合計6例7件に出現した.正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼を2剤目として併用することは眼圧および視野維持効果の点から36カ月間にわたり有効であった.Westudiedtheclinicalusefulnessofcombinedtherapywiththeadjunctionofbunazosinhydrochloridein26patientswithnormal-tensionglaucomawhohadbeentreatedwithb-blocker(14patients)orprostaglandin-related(12patients)ophthalmicsolution.Thepatientsweretreatedwithbunazosinhydrochlorideasthesecondagent;intraocularpressureexaminationandadverseeectsweremonitoredbeforeandat6,12,18,24,30and36monthsafteradministration.Visualelddefectwasmonitoredandcomparedbeforeandat12,24and36monthsafteradministration.Meanintraocularpressuresignicantlydecreasedto14.115.0mmHgat6,12,18,24,30and36monthsafteradministration(p<0.0001),comparedto16.7±1.6mmHgbeforeadministration.Meanintraocularpressurealsodecreasedsignicantlyafteradministrationinpatientstreatedwithbothb-blockerandlatanoprost(p<0.0001).Visualelddefectsweresimilarbeforeandat12,24and36monthsafteradministration.Adverseeectssuchassupercialpunctatekeratitisandhyperemiawereobservedin6patients(7cases).Bunazosinhydrochlorideisdeemedeectiveforadditionaltreatmentofnormal-tensionglaucomapatientsfor36months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):705709,2008〕Keywords:塩酸ブナゾシン,眼圧,視野障害,正常眼圧緑内障,併用効果.bunazosinhydrochloride,intraocularpressure,visualelddefect,normal-tensionglaucoma,combination.———————————————————————-Page2706あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(130)の場合は右眼を解析眼とした.投与前と投与6,12,18,24,30,36カ月後の眼圧の比較にはANOVA(analysisofvariance)および多重比較(Bonferroni/Dunnet法)を用いた.a1b遮断薬,(狭義)b遮断薬,ラタノプロストの眼圧下降率の比較にはANOVAおよび多重比較(Bonferroni/Dunnet法)を用いた.投与前と投与12,24,36カ月後のHumphrey視野のMD値の比較にはANOVAおよび多重比較(Bonferroni/Dunnet法)を用いた.有意水準は,p<0.05とした.各検査は趣旨と内容を説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果全症例の眼圧は,投与6,12,18,24,30,36カ月後はそれぞれ14.6±1.4mmHg,14.6±1.5mmHg,15.0±1.9mmHg,14.6±1.4mmHg,14.3±1.5mmHg,14.1±1.2mmHgで,投与後は投与前に比べ有意に下降していた(p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法)(図1).塩酸ブナゾシン追加投与前からの眼圧変化量は投与6,12,18,24,30,36カ月後でそれぞれ2.1±1.4mmHg,2.0±1.0mmHg,1.8±1.6mmHg,2.1±1.3mmHg,2.5±1.1mmHg,2.6±1.6mmHgであった.眼圧下降率は投与6,12,18,24,30,36カ月後でそれぞれ12.3±8.0%,12.5±5.5%,10.2±10.3%,12.1±7.3%,14.7±6.2%,14.9±9.1%であった.投与36カ月後の眼圧下降率は,5%未満が2例,510%が3例,1015%が7例,1520%が5例,20%以上が9例であった.塩酸ブナゾシン投与前に使用していた点眼薬別の眼圧は,a1b遮断薬では投与前が16.7±2.2mmHg,投与6,12,18,24,30,36カ月後はそれぞれ14.8±1.0mmHg,15.3±2.0mmHg,16.8±1.1mmHg,15.0±1.3mmHg,14.6±2.2mmHg,15.2±1.0mmHgであった.(狭義)b遮断薬では投与前が17.4±1.1mmHg,投与6,12,18,24,30,36カ月後はそれぞれ14.9±1.0mmHg,14.8±1.0mmHg,15.1塩酸ブナゾシンは選択的交感神経a1受容体遮断作用によりぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進することにより眼圧を下降させる点眼液である2).さらに視神経乳頭周囲血管や脈絡膜,網膜の血流増加作用もあると報告されている3,4).塩酸ブナゾシン点眼の正常人や緑内障患者への単剤使用310)や他の緑内障点眼薬との併用使用1124)の報告では,おおむね良好な眼圧下降効果が示されている.これらの報告の対象はおもに原発開放隅角緑内障や高眼圧症の患者が多く820),正常眼圧緑内障の患者は比較的少ない57,2124).正常眼圧緑内障患者を対象に塩酸ブナゾシン点眼を使用した報告は単剤投与57),2剤目2123)や23剤目24)として追加投与したものである.2剤目として追加投与した報告は投与期間が2週間21)あるいは12週間22)と短期であった.そこで筆者らはb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬点眼を単剤で使用している正常眼圧緑内障患者を対象に塩酸ブナゾシンを2剤目として12カ月間投与した際の眼圧下降効果,視野維持効果および副作用を報告した23).今回はさらに塩酸ブナゾシンの投与期間を36カ月間に延長して再検討した.I対象および方法平成16年2月から9月までの間に井上眼科病院に通院中の正常眼圧緑内障患者で,(広義)b遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬点眼による単剤治療を1カ月以上行っているにもかかわらず,眼圧下降効果が不十分あるいは視野障害が進行している26例を対象とした.男性6例,女性20例,年齢は4178歳,59.7±9.1歳(平均±標準偏差)であった.塩酸ブナゾシン追加投与前の眼圧は16.7±1.6mmHg(1319mmHg)であった.Humphrey視野中心30-2プログラムのmeandeviation(MD)値は9.1±6.3dB(24.11.3dB)であった.使用中の点眼薬は(広義)b遮断薬が14例(ニプラジロール4例,マレイン酸チモロール4例,ゲル化マレイン酸チモロール3例,塩酸レボブノロール2例,塩酸ベタキソロール1例),プロスタグランジン関連薬が12例(ラタノプロスト10例,イソプロピルウノプロストン2例)であった.内眼手術,レーザー手術の既往例は除外した.使用中の点眼薬はそのまま継続し,2剤目として塩酸ブナゾシン点眼(1日2回朝夜点眼)を追加し,投与前,投与6,12,18,24,30,36カ月後の眼圧を調査した.各来院時に副作用,投与12,36カ月後に点眼状況を調査した.使用中の点眼薬をa1b遮断薬6例(ニプラジロール+塩酸レボブノロール),(狭義)b遮断薬8例(マレイン酸チモロール+ゲル化マレイン酸チモロール+塩酸ベタキソロール),ラタノプロスト10例に分けて,眼圧と眼圧下降率を検討した.投与12,24,36カ月後にHumphrey視野中心30-2プログラムを行った.両眼投与症例では投与前眼圧が高いほうを,同値図1ブナゾシン点眼追加投与前後の眼圧***p<0.0001:ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法.眼圧(mmHg)08101214161820投与前6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月******************n=26n=26n=26n=24n=24n=26n=26投与後———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008707(131)副作用は6例7件で出現し,結膜充血が4件,点状表層角膜炎が3件であったが,いずれも塩酸ブナゾシン点眼治療を中止するほど重篤ではなかった.点眼状況は,12カ月後には全例で毎日きちんと点眼していた.36カ月後には塩酸ブナゾシン点眼は週に一度程度忘れる1例,月に一度程度忘れる5例,毎日きちんと点眼する20例,プロスタグランジン関連薬あるいはb遮断薬は月に一度程度忘れる2例,毎日きちんと点眼する24例であった.III考按塩酸ブナゾシン点眼の単剤使用は(狭義)原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症患者に対して,短期投与では眼圧下降幅および眼圧下降率は,それぞれ4週間投与で3.0mmHgと12.7%9),3.0mmHgと12.9%10),6週間投与で1.5mmHgと6.9%11)と報告されている.長期投与では52週間投与で投与前眼圧23.2±1.6mmHgが52週間にわたり18.219.6mmHgに有意に下降していた8).正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼を単剤で投与した際の眼圧下降効果は,12週間投与で眼圧が17.7±1.8mmHgから0.9mmHg下降したが差はなかった4),48週間投与で眼圧が15.8±2.7mmHgから12.4±1.9mmHgに有意に下降した5)との報告があり,一定の見解は得られていない.塩酸ブナゾシン点眼の併用使用に関しては,(狭義)原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症への2剤目としてマレイン酸チモロールあるいはラタノプロストに短期的に追加投与した報告がある1215).マレイン酸チモロールに追加投与した際の眼圧下降幅および眼圧下降率は,4週間投与(投与前眼圧23.7±1.8mmHg)で2.33.1mmHgと9.713.1%15),12週間投与(投与前眼圧22.5±3.5mmHg)で2.62.8mmHgと11.612.4%13)であった.今回の(狭義)b遮断薬の結果(2.33.1mmHgと15.119.6%)は,眼圧下降幅はほぼ同等で,眼圧下降率は投与前眼圧(17.4±1.1mmHg)が低いため良好であった.ラタノプロストに追加投与した際の眼圧下降幅および眼圧下降率は,8週間投与(投与前眼圧18.2±3.4mmHg)で1.11.6mmHgと6.08.8%14),12週間投与(投与前眼圧22.3±3.0mmHg)で1.12.8mmHgと5.312.0%13),12週間投与(投与前眼圧21.4±2.2mmHg)で1.23.3mmHgと4.715.8%12)であった.(広義)原発開放隅角緑内障への2剤目としてラタノプロストに6週間追加投与した際(投与前眼圧17.4mmHg)の眼圧下降幅は0.7mmHg,眼圧下降率は4.0%であった11).一方,(広義)原発開放隅角緑内障への2剤目としてウノプロストンに24週間追加投与した際に,眼圧が15.0±3.6mmHgから13.3±3.4mmHgに有意に下降し,眼圧下降幅および眼圧下降率は1.7mmHgと11.0%であった20).今回のラタノプロストの結果(2.13.0mmHgと15.419.8%)は過去の報告より良好±1.1mmHg,15.1±1.1mmHg,14.7±1.0mmHg,14.3±1.3mmHgであった.ラタノプロストでは投与前が16.5±1.4mmHg,投与6,12,18,24,30,36カ月後はそれぞれ14.4±1.7mmHg,14.3±1.4mmHg,14.4±1.7mmHg,14.3±1.3mmHg,13.8±1.3mmHg,13.5±0.9mmHgであった.(狭義)b遮断薬,ラタノプロストでは投与後すべての観察時で眼圧が投与前に比べ有意に下降した(p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法)(図2).a1b遮断薬では投与6,24,30,36カ月後では眼圧が投与前に比べ有意に下降した(p<0.05,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法).塩酸ブナゾシン投与前に使用していた点眼薬別の眼圧下降率は投与6,12,18,24,30,36カ月後でそれぞれa1b遮断薬が12.3±12.0%,8.8±5.8%,0.1±11.6%,11.3±13.6%,15.6±10.5%,7.7±13.4%,(狭義)b遮断薬が17.1±7.7%,18.0±5.5%,16.3±7.3%,15.1±6.8%,19.6±6.9%,17.9±6.1%,ラタノプロストが15.5±11.8%,15.7±7.8%,15.4±11.3%,15.8±10.1%,19.8±8.3%,17.8±6.4%であった.投与12カ月後にa1b遮断薬と(狭義)b遮断薬間に,投与18カ月後にa1b遮断薬と(狭義)b遮断薬間,a1b遮断薬とラタノプロスト間に有意差を認めた.Humphrey視野のMD値は,投与12,24,36カ月後はそれぞれ9.9±7.1dB,9.2±6.2dB,10.0±7.2dBで,投与前と同等であった(ANOVA).図2ブナゾシン追加投与前に使用していた点眼薬別の眼圧変化**p<0.0001,*p<0.05:ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法.0101214161820投与前カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月****(6)(6)(5)(6)(6)(5)(6)************************(8)(8)(8)(7)(8)(7)(8)(10)(10)(10)(10)(10)(10)(10)()内は,症例a1b遮断薬眼圧(mmHg)0101214161820投与前6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月(狭義)b遮断薬眼圧(mmHg)0101214161820投与前6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月ラタノプロスト眼圧(mmHg)———————————————————————-Page4708あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(132)12カ月間投与(33例)23)から今回(36カ月間投与)までに9例(25.7%)が脱落し,2例が新規に登録された.脱落例は理由なく来院が途絶えた4例,投与12カ月後に視野障害が進行したためウノプロストンをラタノプロストに変更した1例,投与18カ月後に充血で塩酸ブナゾシンを中止した1例,投与18カ月後に眼痛で塩酸ブナゾシンを中止した1例,投与24カ月後に眼圧が15mmHgから18mmHgに上昇したため塩酸ブナゾシンをラタノプロストに変更した1例であった.12カ月間以上の長期投与を行っている症例においても副作用が出現する可能性があり,副作用に対する注意深い経過観察が必要である.正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼をb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬に追加投与することにより36カ月間にわたり眼圧の有意な下降がみられ,視野は維持された.しかし36カ月間に5例(16.1%)が副作用出現,視野障害進行,あるいは眼圧上昇で点眼中止を余儀なくされた.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy-Group:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpres-sure.AmJOphthalmol126:487-497,19982)OshikaT,AraieM,SugiyamaTetal:Eectofbunazosinhydrochlorideonintraocularpressureandaqueoushumordynamicsinnormotensivehumaneyes.ArchOphthalmol109:1569-1574,19913)福島淳志,白柏基宏,八百枝潔ほか:健常眼における塩酸ブナゾシン点眼の視神経乳頭微小循環への影響.あたらしい眼科20:1173-1175,20034)今野伸介,田川博,大塚賢二:塩酸ブナゾシン点眼の正常人眼視神経乳頭末梢循環に及ぼす影響.あたらしい眼科20:1301-1304,20035)杉山哲也,徳岡覚,守屋伸一ほか:低眼圧緑内障に対する塩酸ブナゾシン点眼の効果─眼脈流量を中心に.臨眼45:327-329,19916)中島正之,徳岡覚,菅澤淳ほか:低眼圧緑内障に対する塩酸ブナゾシン長期点眼の効果─その1:眼圧について─.あたらしい眼科11:1093-1096,19947)徳岡覚,東郁郎,中島正之ほか:低眼圧緑内障に対する塩酸ブナゾシン長期点眼の効果─その2:視野について─.あたらしい眼科11:1097-1101,19948)東郁郎,北澤克明,塚原重雄ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液の長期投与試験.あたらしい眼科11:631-635,19949)東郁郎,北澤克明,塚原重雄ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液の後期第二相臨床試験─多施設二重盲検比較試験─.あたらしい眼科11:423-429,199410)瀬川雄三,西山敬三,栗原和之ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液の第三相臨であった.今回は正常眼圧緑内障症例での眼圧下降効果を検討したが,過去の(狭義)原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症例より良好であった.その理由として,後者では追加点眼期間が424週間と短かったこと,今回は36カ月間の長期投与で,30カ月後や36カ月後に良好な眼圧下降を示したためと考えられる.塩酸ブナゾシン点眼はb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬点眼に追加投与した際に長期的に眼圧下降が得られる可能性がある.正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼を2剤目として短期21,22)および長期23)に投与した報告がある.ラタノプロストを使用中で投与前眼圧16.8±1.7mmHgの症例に対し,塩酸ブナゾシン点眼を2週間追加投与した際に眼圧は有意に下降した21).b遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬を使用中で投与前眼圧16.8±1.7mmHgの症例に対し,塩酸ブナゾシン点眼を12週間投与22)した際に眼圧は有意に下降し,眼圧下降幅は1.92.3mmHg,眼圧下降率は10.813.5%,12カ月間投与23)した際に眼圧は有意に下降し,眼圧下降幅は1.72.2mmHg,眼圧下降率は10.212.8%であった.今回の全症例での眼圧下降幅1.82.6mmHgと眼圧下降率10.214.9%は過去の報告22,23)とほぼ同等であった.一方,正常眼圧緑内障患者に塩酸ブナゾシン点眼を23剤目として52週間投与した際に眼圧は有意に下降し,眼圧下降幅は1.72.5mmHgであった24).塩酸ブナゾシン投与前に使用していた点眼薬別に眼圧下降効果を比較したが,(狭義)b遮断薬とラタノプロストがa1b遮断薬に比べ良好であった.塩酸ブナゾシンが選択的交感神経a1受容体遮断作用を有するため,同じ作用を有するa1b遮断薬では眼圧下降効果が減弱する可能性が考えられる.塩酸ブナゾシン点眼による視野維持効果は,正常眼圧緑内障症患者に塩酸ブナゾシン単剤を48週間投与した報告がある7).Humphrey視野のMD値が投与前7.76±8.31dBが投与48週後に7.09±7.70dBとなり有意に改善した(p=0.035).正常眼圧緑内障症患者でb遮断薬あるいはプロスタグランジン関連薬を使用中に塩酸ブナゾシン点眼を12カ月間投与した報告では,Humphrey視野のMD値は,投与前(10.1±6.2dB)と投与12カ月後(10.8±6.5dB)で変化がなかった23).今回の投与12,24,36カ月後のMD値は投与前に比べ改善はなかったが,悪化もせず,視野が維持できたと考えられる.塩酸ブナゾシン点眼の副作用は,結膜充血,異物感,刺激感,痒感,角膜びらん,点状表層角膜炎,ぼやける,しみる,頭重感などである1124).副作用の出現頻度は,041.7%と報告により差が大きいが,結膜充血が今回と同様に多く報告されている.今回は6例7件に結膜充血や点状表層角膜炎が出現したが,いずれも重篤なものではなかった.しかし———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008709(133)359-362,200418)尾辻剛,安藤彰,福井智恵子ほか:ラタノプロスト,b遮断薬併用例における塩酸ブナゾシン併用時の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科21:955-956,200419)橋本尚子,原岳,久保田俊介ほか:第3併用薬としての塩酸ブナゾシン点眼薬の眼圧下降効果.臨眼59:359-362,200520)佐々木満,風間成泰,嶋千絵子:原発開放隅角緑内障患者におけるイソプロピルウノプロストン点眼液に対する塩酸ブナゾシン点眼液の併用効果.あたらしい眼科24:1091-1094,200721)清水美穂,今野伸介,前田祥恵ほか:ラタノプロスト点眼中の正常眼圧緑内障患者に対する塩酸ブナゾシン点眼液の眼循環と眼圧における併用効果の検討.臨眼59:283-287,200522)塩川美菜子,井上賢治,若倉雅登ほか:正常眼圧緑内障患者における塩酸ブナゾシン点眼追加療法の効果.あたらしい眼科22:991-994,200523)井上賢治,塩川美菜子,若倉雅登ほか:正常眼圧緑内障患者における塩酸ブナゾシン点眼追加療法の長期効果.あたらしい眼科23:669-672,200624)YoshikawaK,KatsushimaH,KimuraTetal:Additionoforswitchtotopicalbunazosinhydrochlorideinelderlypatientswithnormal-tensionglaucoma:aone-yearfol-low-upstudy.JpnJOphthalmol50:443-448,2006床試験─0.1%塩酸ジピベフリン点眼液との比較試験─.眼臨88:1386-1390,199411)MaruyamaK,ShiratoS,HanedaM:Evaluationoftheadditiveeectofbunazosinonlatanoprostinprimaryopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol49:61-62,200512)仲村佳巳,仲村優子,酒井寛ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症のラタノプロスト点眼液に対する塩酸ブナゾシン点眼液の併用効果の検討.あたらしい眼科20:697-700,200313)KobayashiH,KobayashiK,OkinamiS:Ecacyofbunazosinhydrochloride0.01%asadjunctivetherapyoflatanoprostortimolol.JGlaucoma13:73-80,200414)TsukamotoH,JianK,TakamatsuMetal:Additiveeectofbunazosinonintraocularpressurewhentopicallyaddedtotreatmentwithlatanoprostinpatientswithglaucoma.JpnJOphthalmol47:526-528,200315)東郁郎,北澤克明,塚原重雄ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する塩酸ブナゾシン点眼液とマレイン酸チモロール点眼液の併用効果.あたらしい眼科19:261-266,200216)勝島晴美,吉川啓司,山林茂樹ほか:ラタノプロストとb遮断薬の併用患者における塩酸ブナゾシンの効果.あたらしい眼科21:675-677,200417)岩切亮,小林博,小林かおりほか:多剤併用時におけるブナゾシンのラタノプロストへの併用効果.臨眼58:***

眼圧日内変動の評価

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(125)7010910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(5):701704,2008cはじめに正常眼圧緑内障に対して眼圧下降は有効な治療法である.しかし眼圧には季節変動,日内変動,脈波など長期や短期に上下の変動がみられ19),外来診療では多くても数週間から数日のうちの1日,24時間のうちで1点しか眼圧を測定していない.外来診療で眼圧コントロールが良好でも視野が悪化する症例では眼圧が高いときに悪化していることも考えられ,各症例の眼圧変動のプロファイルは治療方針の決定や治療効果の評価をするうえで重要である.眼圧は早朝に高い傾向があることが示されており3),わが国においても最近小型の自己測定可能な眼圧計による在宅眼圧日内変動測定にて,夜間に眼圧のピークがある症例が3割強みられるという結果が報告された4).この報告以外にも眼圧日内変動の結果あるいは手術や点眼薬による影響を調べた報告は多数存在する〔別刷請求先〕安藤彰:〒570-8507守口市文園町10-15関西医科大学附属滝井病院眼科Reprintrequests:AkiraAndo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,10-15Fumizono-cho,Moriguchi,Osaka570-8507,JAPAN眼圧日内変動の評価安藤彰*1嶋千絵子*1福井智恵子*1松山加耶子*1桑原敦子*1松原敬忠*2城信雄*2南部裕之*2松村美代*2*1関西医科大学附属滝井病院眼科*2関西医科大学附属枚方病院眼科EectivenessofIntraocularPressureDiurnalFluctuationMeasurementAkiraAndo1),ChiekoShima1),ChiekoFukui1),KayakoMatsuyama1),AtsukoKuwahara1),KeichuMatsubara2),NobuoJo2),HiroyukiNambu2)andMiyoMatsumura2)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,TakiiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,HirakataHospital最近5年間の関西医科大学附属病院における入院での眼圧日内変動測定をレトロスペクティブに評価した.緑内障症例56例106眼.測定の理由,変動パターン,決定した方針,そして12カ月以上経過観察した73眼について眼圧と視野の経過を検討した.理由は眼圧コントロールが良いのに視野が悪化し,夜間の眼圧上昇を疑った58眼,ベースライン眼圧測定27眼,眼圧下降剤点眼の効果を検討するためのものが21眼あった.変動パターンは眼圧のピークが午前(412時)14眼,午後(1220時)19眼,深夜(204時)28眼,ピーク二峰性16眼,ピークなしが29眼あった.方針は手術が22眼(うち施行15眼),眼圧下降剤点眼の開始または追加が35眼,方針不変が49眼あった.経過は眼圧上昇が7眼(10%),視野悪化が16眼(22%)あった.夜間の臥位での測定など改良の余地があるが,眼圧日内変動測定は治療方針の決定に有用であった.Weretrospectivelyevaluatedtheeectivenessofintraocularpressure(IOP)diurnaluctuationmeasurementin106eyesof56patientswithglaucoma,withthereason,diurnalpatternandtreatmentdecisionnoted.Ofthoseeyes,73wereobservedformorethan12months,andthecoursesofIOPandvisualeldwereanalyzed.IOPwasmeasuredinordertodetectnocturnalelevationofIOP(n=58),todeterminebaselineIOP(n=27)andtoevaluatetheeectofIOP-loweringeyedrops(n=21).Eyeswerecategorizedinto3groups:thosewithanIOPpeakinthemorning(04:00-12:00)(n=14),intheafternoon(12:00-20:00)(n=19)andlateatnight(20:00-04:00)(n=28).EyeswithtwoIOPpeakseachday(n=16)andnopeak(n=29)werealsoobserved.Surgery(n=22),addi-tionofIOP-lowingeyedrops(n=35),andcontinuationofcurrenttreatmentwereplanned(n=49).IOPelevationwasobservedin7eyes;16eyesshowedvisualeldaggravation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):701704,2008〕Keywords:入院での眼圧日内変動測定,緑内障,治療方針の決定,夜間高眼圧.intraocularpressureuctuation,glaucoma,treatmentplan,nocturnalocularhypertension.———————————————————————-Page2702あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(126)前型が14眼(13%),午後型が19眼(18%),深夜型が28眼(26%)であった.またピークがみられなかったものが29眼(27%),午前型,午後型,深夜型の3つのパターンのうち2つみられるものを二峰性として16眼(15%)あった(図2).決定した治療方針は,手術群が22眼(20%),そのうちが1012),眼圧日内変動測定から得られた情報を基に決定した治療方針でどのような経過をたどったのかを調べた報告はあまりみられない.最近5年間での関西医科大学附属病院(以下,当院)における眼圧日内変動測定入院を行った理由,変動パターン,決定した方針,そして12カ月以上経過を観察した症例で眼圧と視野の経過をレトロスペクティブに評価した.I対象および方法平成14年6月から平成19年5月までに当院に入院して眼圧日内変動測定を行った56例106眼(原発開放隅角緑内障18例33眼,正常眼圧緑内障27例53眼,続発開放隅角緑内障4例7眼,発達緑内障7例13眼),そのうち無治療の症例が5例10眼であった(表1).緑内障性の視野変化がない眼は調査対象から除外した.年齢は平均54歳で,2186歳であった.3時間おきにGoldmann圧平眼圧計で座位にて眼圧を計測した.検討項目は,眼圧日内変動を測定した理由,眼圧の日内変動のパターン,決定した治療方針,その後の経過について幾つかのカテゴリーに分類して検討した.測定理由については,①外来での眼圧コントロールが良いのに視野が悪化し,夜間の眼圧上昇を疑ったもの(夜間高眼圧疑い群),②ベースライン眼圧を測定するためのもの(ベースライン測定群),③眼圧下降剤点眼の効果を検討するためのもの(点眼剤効果検討群)に分類した.変動パターンは,最高眼圧が最低眼圧から4mmHg以上高値であった時刻を眼圧のピークと定義し,①早朝4時から正午12時(午前型),②正午から午後8時(午後型),③午後8時から早朝4時(深夜型)のものに分類した.方針は,①手術が良いとしたもの(手術群),そのうち①-1同意が得られ手術を行ったもの(手術施行群),①-2手術が良いとしたが同意が得られず手術未施行のもの(手術未施行群),②眼圧降下剤点眼を追加としたもの(点眼群),③現在の治療でよく方針変更の必要なしとしたもの(方針不変群)に分類した.その後の経過は12カ月以上経過を観察した眼を対象として眼圧と視野について検討した.退院後の外来における平均眼圧値が入院前の眼圧値よりも2mmHg以上低い値で経過したものを下降,上下幅2mmHg未満で変動するものを不変,2mmHg以上高い値で経過したものを上昇とした.視野はHumphrey視野計のmeandeviation(MD)値が2dB以上低下したものか,Goldmann視野計しか測定していない2例4眼は湖崎分類で1段階以上悪化した場合を悪化とした.II結果眼圧日内変動測定の理由は,夜間高眼圧疑い群が58眼(55%),ベースライン測定群が27眼(25%),点眼剤効果検討群が21眼(20%)であった(図1).変動のパターンは,午表1症例平成14年6月19年5月56例106眼(無治療5例10眼)平均年齢54歳(2186歳)①58眼(55%)②27眼(25%)③21眼(20%)図1眼圧日内変動測定入院の理由①:夜間高眼圧疑い群,②:ベースライン測定群,③:点眼効果検討群.①14眼(13%)⑤16眼(15%)④29眼(27%)②19眼(18%)③28眼(26%)図2眼圧値のピーク時間帯眼圧値のピーク=最高眼圧最低眼圧>4mmHg.①:午前(412時),②:午後(1220時),③:深夜(204時),④:ピークなし,⑤:ピーク二峰性.①-116眼(15%)①-26眼(5%)③53眼(49%)②31眼(29%)図3決定した治療方針①-1:手術群施行群,①-2:手術未施行群,③:点眼群,④:方針不変群.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008703(127)(図4).点眼群では眼圧は5眼(26%)で下降し,14眼(79%)で不変であった.眼圧上昇例は0眼(0%)であった.視野は15眼(79%)で不変,4眼(21%)で悪化した(図5).方針不変群では眼圧は4眼(12%)で下降,26眼(74%)で不変,5眼(14%)で上昇し,視野は26眼(74%)で不変,9眼(26%)で悪化した(図6).決定した治療方針群別に眼圧上昇例をみると手術施行群で1眼(7%),手術未施行群で1眼(20%),点眼群では0眼(0%),方針不変群では5眼(14%)あった(表2).視野悪化例を治療方針群別にみると手術施行群で0眼(0%),手術未施行群で2眼(40%),点眼群で5眼(26%),方針不変群で9眼(26%)あった(表3).III考按眼圧日内変動測定のために入院を促した理由については夜間高眼圧疑い群,すなわち外来での眼圧コントロールが良いのに視野が悪化し,夜間の眼圧上昇を疑ったものが最多で,つぎにベースライン眼圧測定群,ついで点眼効果検討群の順であった.視野が悪化して夜間の高眼圧が疑われたり,眼圧下降剤点眼の効果を検討したりするのは患者へ説明しやすいが,ベースライン眼圧を測定するためだけに入院することに14例の同意が得られたのは本検査の重要性が理解しやすかったからであろうと思われる.眼圧の日内変動パターンについては,以前から一般的に早朝にピークを示す傾向があるといわれており1,3,7),最近のわが国のデータでも診療時間帯以外にピークをもつ症例が3割強みられたという報告がある4).今回の筆者らの結果も調査デザインがレトロスペクティブなものであり組み入れた症例の条件が均一ではないが,ピークを示した症例では夜間が28眼(26%)と最多で,夜間高眼圧疑い群58眼のなかでも夜間にピークを示した症例が15眼(26%)とこちらも最多であった.しかしピークを示さないものが全体で29眼(27%)と多かった.正常眼圧緑内障患者での眼圧の変動幅は4.64.9mmHgであること6,7)から今回は最高眼圧と最低眼圧の差が4mmHg以上をピーク値手術施行群が16眼(15%),手術未施行群が6眼(5%),点眼群が31眼(29%),方針不変群が53眼(49%)であった(図3).退院後の平均経過観察期間は22カ月であった.12カ月以上経過を観察したものは73眼で,手術施行群が14眼(19%),手術未施行群が5眼(7%),点眼群が19眼(26%),方針不変群が35眼(47%)あった.手術施行群では眼圧は11眼(79%)で下降し,2眼(14%)で不変,上昇したものは1眼(7%)あった.視野悪化例は0眼(0%)であった①11眼(79%)眼圧視野①14眼(100%)③1眼(7%)②2眼(14%)図412カ月以上経過を観察した手術施行群の経過眼圧値=①:下降,②:不変,③:上昇.視野=①:改善または不変,②:悪化.①5眼(26%)眼圧視野①15眼(79%)②14眼(74%)②4眼(21%)図512カ月以上経過を観察した点眼群の経過眼圧値=①:下降,②:不変.視野=①:改善または不変,②:悪化.①4眼(12%)③5眼(14%)眼圧視野①26眼(74%)②26眼(74%)②9眼(26%)図612カ月以上経過を観察した方針不変群の経過眼圧値=①:下降,②:不変,③:上昇.視野=①:改善または不変,②:悪化.表212カ月以上経過を観察した73眼における眼圧上昇例手術施行群1/14眼(7%)手術未施行群1/5眼(20%)点眼群0/19眼(0%)方針不変群5/35眼(14%)表312カ月以上経過を観察した73眼における視野悪化例手術施行群0/14眼(0%)手術未施行群2/5眼(40%)点眼群5/19眼(26%)方針不変群9/35眼(26%)———————————————————————-Page4704あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(128)や,臥位における強い眼圧上昇などが視野の悪化に関連していることが考えられる.正常眼圧緑内障患者で座位よりも臥位で眼圧が高く,眼圧日内変動に影響を与えることが報告されており13,14),眼圧日内変動測定による治療方針の決定の精度を上げるために夜間は臥位姿勢で測定するなど改良する余地があると思われた.眼圧日内変動測定の結果で治療方針を決定しても12カ月以上経過を観察した症例の22%で視野が悪化したため,現在行っている眼圧日内変動測定での治療方針の決定にはこのあたりに限界があると思われるが,外来で眼圧コントロールが良好であっても視野が悪化した症例で夜間の眼圧上昇を捉えた症例も多く,眼圧日内変動測定は治療方針の決定に有用であった.文献1)AlinghamRR(ed):Intraocularpressureandtonometry.In:Shields’TextbookofGlaucoma5thed,p36-58,Lippin-cottWilliams&Wilkins,Philadelphia,20052)古賀貴久,谷原秀信:緑内障と眼圧の季節変動.臨眼55:1519-1522,20013)LiuJH,KripkeDF,HomanREetal:Nocturnalelevationofintraocularpressureinyoungadults.InvestOphthalmolVisSci39:2707-2712,19984)狩野廉,桑山泰明:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動.日眼会誌107:375-379,20035)堀江武:眼圧日内変動に関する臨床的研究.日眼会誌79:1044-1061,19756)石井玲子,山上淳吉,新家真:低眼圧緑内障における眼圧日内変動測定の臨床的意義.臨眼44:1445-1448,19907)山上淳吉,新家真,白土城照ほか:低眼圧緑内障の眼圧日内変動.日眼会誌95:495-499,19918)井上新,松田弘之,真下永ほか:眼圧日内変動の再現性.あたらしい眼科20:807-812,20039)宮地誠二:眼球脈波幅の分布について.眼臨93:1617-1621,199910)石橋真吾,廣瀬直文,田原昭彦:正常眼圧緑内障患者の眼圧日内変動に対するラタノプロストの効果.あたらしい眼科21:1693-1696,200411)大口修史,今野伸介,鈴木康夫ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術が緑内障患者の眼圧日内変動に及ぼす影響.あたらしい眼科21:812-814,200412)佐藤出,陳進輝,大野重昭:緑内障手術前後における眼圧日内変動の検討.臨眼58:1973-1976,200413)HaraT,HaraT,TsuruT:Increaseofpeakintraocularpressureduringsleepinreproduceddiurnalchangesbyposture.ArchOphthalmol124:165-168,200614)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Relationshipofpro-gressionofvisualelddamagetoposturalchangesinintraocularpressureinpatientswithnormal-tensionglau-coma.Ophthalmology113:2150-2155,2006と設定したが,狩野ら4)は2mmHgと設定しており,どの値で設定するのが良いかは今後の検討が必要であると思われた.決定した治療方針では方針不変群が53眼(49%)で最も多く,つぎに点眼群31眼(29%),ついで手術群22眼(20%)であった.レトロスペクティブ・スタディであるため方針決定についての厳密な基準はなかったが,方針不変群は視野障害があまり高度ではなく,眼圧のピークを捉えられなかったため現行の治療方針でしばらく経過観察をするのが妥当とした症例であった.方針を変更した点眼群と手術群では,ピーク時に18mmHg以上の眼圧を示した21眼を線維柱帯切開術の適応とし,それ未満のものを点眼追加の適応とした.視野障害が高度で眼圧が低くピークがない1眼は線維柱帯切除術を施行した.眼圧の評価には再度同じ条件で入院して眼圧日内変動測定を行うのが理想的であろうが,眼圧の日内変動は75.4%の再現性があり8)退院後の外来でも時間帯が同じであれば評価は可能と考えたため,眼圧上昇は退院後の外来での眼圧を入院前の眼圧と比較して判断した.眼圧上昇例は手術施行群では1眼(7%)と良好であったが,点眼群では5眼(26%),方針不変群では4眼(12%)であった.ピークを捉えられなかった症例はもともと眼圧の変動が少なく,ピークを捉えた症例ではピークを点眼では抑えきれていない可能性があると思われる.12カ月以上経過を観察した症例のうち視野悪化例は手術施行群で0%,点眼群と方針不変群でそれぞれ26%,手術未施行群では40%であった.手術施行群では視野が悪化せず決定した方針が妥当であったと考えられる.さらに詳細に検討すると,夜間高眼圧疑い群で12カ月以上経過を観察した39眼のうち視野悪化例は手術施行群9眼中0眼(0%),点眼群9眼中2眼(22%),方針不変群16眼中6眼(38%)あった(表4).視野が悪化した原因に血流障害や神経節細胞のアポトーシスなど眼圧以外の要素も考えられるが,外来での眼圧コントロールが良好でも視野が悪化し,眼圧日内変動測定でピーク値が低いため点眼を追加するのが良いとした症例の2割,ピーク値がみられないため方針不変とした症例の4割近くで眼圧の測定ならびに評価が不十分である可能性を示しており,このような症例では季節変動など短期入院における眼圧日内変動測定では捉えきれない眼圧上昇表412カ月以上経過を観察した夜間高眼圧疑い群39眼における視野悪化例手術施行群0/9眼(0%)手術未施行群2/5眼(40%)点眼群2/9眼(22%)方針不変群6/16眼(38%)***

初診時に中期の視野障害が認められた若年者正常眼圧緑内障の1例

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(121)6970910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(5):697700,2008cはじめに正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)は,眼圧が統計学的正常範囲であるにもかかわらず緑内障性視神経障害をきたす原発開放隅角緑内障のサブタイプであり,先の緑内障疫学調査(TajimiStudy)によって,わが国における40歳以上のNTGの有病率は3.6%であること,および加齢に伴い有病率が増加することが明らかにされた1).しかし,その一方で頻度こそ低いものの,若年者を含む40歳以下の年齢においてもNTGが発症することが知られており,日常臨床での注意が必要である28).また,上方視神経乳頭低形成(superiorsegmentaloptichypoplasia:SSOH)913)は,先天性の視神経乳頭形態異常の一つとして注目を集めているが,わが国における有所見率が0.3%と頻度が高いため13),若年者における緑内障性視神経乳頭との鑑別がきわめて重要である.今回筆者らは初診時,片眼に正常眼圧緑内障による中期の視野障害を,僚眼にSSOHの所見を認めた17歳,女性の興味深い1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕末廣久美子:〒767-0001香川県三豊市高瀬町上高瀬1339医療法人明世社白井病院Reprintrequests:KumikoSuehiro,M.D.,ShiraiHospital,1339Kamitakase,Takase-cho,Mitoyo-shi,Kagawa767-0001,JAPAN初診時に中期の視野障害が認められた若年者正常眼圧緑内障の1例末廣久美子*1溝上志朗*2川崎史朗*2水川憲一*1大橋裕一*2*1医療法人明世社白井病院*2愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学ACaseofJuvenileNormal-TensionGlaucomawithModeratelyProgressedVisualFieldDisturbanceatInitialVisitKumikoSuehiro1),ShiroMizoue2),ShiroKawasaki2),KenichiMizukawa1)andYuichiOhashi2)1)ShiraiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine初診時にすでに中期の視野障害が認められた若年者の正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)を経験した.症例は17歳の女性,コンタクトレンズの処方目的で受診した.眼圧は右眼15mmHg,左眼12mmHgで,両眼ともに正常の開放隅角であった.右眼には上方視神経乳頭低形成(superiorsegmentaloptichypoplasia:SSOH)の所見が,左眼には耳下側視神経乳頭辺縁部の狭小化と同部に付随した神経線維層欠損(nerveberlayerdefect:NFLD)が認められた.Humphrey視野検査を施行したところ,右眼には鼻下側の感度低下,左眼には弓状暗点,Aulhorn分類Greve変法によるstageIIの視野障害が認められた.眼圧日内変動は両眼ともに10mmHgから16mmHgの間で推移しており,MRI(磁気共鳴画像)検査にて頭蓋内病変は検出されなかった.Wereportacaseofjuvenilenormal-tensionglaucoma(NTG)withmoderatelyprogressedvisualelddistur-banceatinitialvisit.Thepatient,a17-year-oldfemale,hadconsultedourhospitalforcontactlensformulation.Herintraocularpressurewas15mmHgrighteyeand12mmHglefteye.Gonioscopicndingswerenormal.Theopticdiscoftherighteyehadndingsofsuperiorsegmentaloptichypoplasia(SSOH).Theopticdiscofthelefteyeshowednarrowingoftheinferotemporaldiscrimandnerveberlayerdefect(NFLD).ThevisualeldoftherighteyeshowedreducedinferonasalsensitivityonHumpheryFieldAnalyzer.ThevisualeldofthelefteyewasstageⅡbyAulhorn’sclassicationwithGreve’smodication.Intraocularpressurevariedfrom10to16mmHg.Magneticresonanceimagingdisclosednointracranialpathology.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):697700,2008〕Keywords:正常眼圧緑内障,若年者,上方視神経乳頭低形成.normal-tensionglaucoma,juvenile,superiorseg-mentaloptichypoplasia.———————————————————————-Page2698あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(122)隅角所見:両眼ともにShaer分類4度,色素沈着01度,正常開放隅角であり,発育異常を疑わせる所見は認めない.視神経乳頭所見(図1):右眼:網膜中心動脈の鼻上方偏位,乳頭上半の蒼白化,上方の神経線維層の菲薄化,および下方の乳頭辺縁部の皿状化を認める.左眼:下方乳頭辺縁部のノッチ形成と同部に対応する網膜神経線維層欠損(nerveberlayerdefect:NFLD)の所見を認める.視神経乳頭形状解析(図2):Discarea:右眼3.16mm2,左眼2.41mm2.Cuparea:右眼1.78mm2,左眼1.39mm2.Rimarea:右眼1.38mm2,左眼1.02mm2.Rimvolume:右眼0.40cmm,左眼0.31cmm.〔HeidelbergRetinaTomographII(HRTII)R,HeidelbergEngineering社による測定〕I症例患者:17歳,女性.主訴:コンタクトレンズの処方希望で来院,眼科的自覚症状はない.現病歴:白井病院を受診した際に,両眼の視神経乳頭陥凹の拡大を初めて指摘された.既往歴:頭部外傷の既往,ステロイドの局所的および全身的な使用歴はない.家族歴:両親ともに緑内障の既往はない.母親に糖尿病の既往はない.視力:右眼0.03(1.5×5.50D),左眼0.06(1.5×5.50D(cyl0.50DAx160°)初診時眼圧:右眼15mmHg,左眼12mmHg.前眼部・中間透光体:両眼ともに異常所見を認めない.中心角膜厚:右眼510μm,左眼520μm(PentacamR,オクルス社による測定).図1視神経乳頭所見右眼(上):網膜中心動静脈の鼻上方偏位,乳頭上部の蒼白,上鼻側辺縁部の狭小化,および耳下側の乳頭辺縁部の皿状化を認める.左眼(下):下方乳頭辺縁部のノッチ形成と,網膜神経線維層欠損の所見を認める.図2HRTIIによる視神経乳頭形状解析両眼ともに視神経乳頭陥凹の拡大を認め,右眼(上)は鼻上側,左眼(下)は耳下側のrimの菲薄化を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008699(123)差があるか否かは興味のあるところである.これについて,林らは,40歳以下の若年者と41歳以上の非若年者のNTGを比較した結果,眼圧レベルは両群間に差は認めないが,若年群は非若年群よりも近視度が強く,特に若年女性例には眼圧動態が正常な者が多い6)ことを報告し,これらの理由として,進行原因としての眼圧非依存因子の介在を示唆している.そのほかにも,診断時の病期は初期から早期の場合が多い5)ことを報告し,その理由として発症からの経過時間が比較的短いのではと考察している.つまり,本症例においては,眼圧レベルは10mmHg台前半と比較的低いレベルで推移しているにもかかわらず,初診時にすでにstageIIまで視野障害が進行していたことから,進行要因として眼圧非依存因子の関与が大きいことが強く示唆される症例といえる.本症例の右眼の視神経乳頭は,網膜中心動脈の鼻上方偏位,乳頭上部の蒼白化,および上方の神経線維層の菲薄化などSSOHに特徴的な所見11)を有していた.わが国におけるSSOHの有所見率は,Yamamotoらにより0.3%と報告されているが,このなかで本症例のような片眼例を37症例中20例と,約半数に認められたことを明らかにしている13).本症例の右眼であるが,視神経乳頭所見は下方の乳頭辺縁部の皿状化を認めるのみの極初期の緑内障性の変化であり,かつ,視野所見にも視神経乳頭所見に対応する明らかな異常を認めなかったことより,鼻下側の感度低下はSSOHによるものが考えやすい.なお,SSOHの発症に母親の糖尿病の有無がHumphrey静的視野検査所見(図3):右眼には鼻下側の感度低下を,左眼には弓状暗点を認める.眼圧日内変動:右眼:1016mmHg,左眼:1016mmHg.両眼ともに午後6時に最高値を,右眼は午前0時,左眼は午前6時に最低値を示した.頭部MRI(磁気共鳴画像):異常所見は認めない.以上の所見より,本症例を右眼に上方視神経乳頭低形成を伴うNTGと診断した.診断後は外来にて定期的にベースラインレベルの測定を行っているが,眼圧は右眼1316mmHg,左眼1216mmHgで推移しており,現在までに眼圧レベルの上昇や,明らかな視野異常の進行は認めていない.II考按本症例の左眼は視神経乳頭およびNFLDの所見と合致する定型的な視野障害を認める点,眼圧日内変動が21mmHg以下である点,および頭蓋内病変を認めない点よりNTGの診断基準を満たすと考えられる.また初診時の17歳の時点で,すでに左眼のHumphrey視野検査ではmeandeviation(MD)値が11dB,Aulhorn分類Greve変法によるstageIIまで進行していた.なお,今回提示したHumphrey視野は4回目の測定結果であり,それまでに測定した3回の結果もほぼ同様の所見を示していた.若年者にみられるNTGと中高年者のNTGの臨床所見に〔右眼〕〔左眼〕図3静的視野検査所見右眼は鼻下側に孤立暗点を認め,左眼については弓状暗点を認める.———————————————————————-Page4700あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(124)4)小川一郎:若年性正常眼圧緑内障.眼臨89:1631-1639,19955)林康司,中村弘,前田利根ほか:若年者の正常眼圧緑内障.あたらしい眼科14:1235-1241,19976)林康司,中村弘,前田利根ほか:若年者と中高年者の正常眼圧緑内障の比較.あたらしい眼科16:423-426,19997)岡田芳春:若年者における緑内障.臨眼57:997-1000,20038)丸山亜紀,屋宜友子,神前あいほか:若年発症した正常眼圧緑内障の視神経乳頭.眼臨99:297-299,20059)PetersenRA,WaltonDS:Opticnervehypoplasiawithgoodvisualacuityandvisualelddefects:astudyofchildrenofdiabeticmothers.ArchOphthalmol95:254-258,197710)LandauK,BajkaJD,KircheschlagerBM:ToplessopticdisksinchildrenofmotherswithtypeⅠdiabetesmelli-tus.AmJOphthalmol125:605-611,198811)KimRY,HoytWF,LessellSetal:Superiorsegmentaloptichypoplasia.Asignofmaternaldiabetes.ArchOph-thalmol107:1312-1315,198912)UnokiK,OhbaN,HoytWF:Opticalcoherencetomogra-phyofsuperiorsegmentaloptichypoplasia.BrJOphthal-mol86:910-914,200213)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiafoundinTajimieyehealthcareprojectpartici-pants.JpnJOphthalmol48:578-583,2004関与するとの報告は多い9,11)が,本症例では認められていない.筆者らが知る限り,これまでにSSOHの所見がある眼にNTGを合併した症例や,もしくは本症例のようにSSOHの片眼例で,その僚眼にNTGを合併したという報告はない.またSSOH眼における視神経乳頭構造の脆弱性やNTGの発症リスクに関してはいまだ明らかなデータも存在しないため,今後多数例を対象とした追跡調査が必要と考えられる.今回,若年発症のNTG症例を報告したが,このような症例においては早期診断,早期治療が重要である.このためには,すべての眼科医が日常診療において,年齢や受診理由にかかわらず常に視神経乳頭を注意深く観察すること以外に方法はない.視神経乳頭の異常を把握する能力を今後これまで以上に高めておく必要があるだろう.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese.TheTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)BennettSR,AlwardWLM,FolbergR:Anautosomaldominantformoflow-tensionglaucoma.AmJOphthalmol108:238-244,19893)田村雅弘,飯島裕幸,山口哲ほか:小児2例にみられた低眼圧緑内障.臨眼45:433-437,1991***

選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後6 カ月の有効率

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(117)6930910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(5):693696,2008cはじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)は,線維柱帯細胞のうち色素を含有する細胞のみを選択的に障害する新しい緑内障レーザー治療として1995年にLatinaら1)によって報告された.低エネルギーであり線維柱帯の器質的変化をきたすことが少ないため,アルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)に代わる緑内障レーザー治療として注目され,以来,広く臨床使用されるに至っている.その成績は開放隅角緑内障や落屑緑内障を対象として,primarytreatmentとして使用した場合,80%以上の有効率2,3)を示し,ラタノプロストに匹敵する降圧作用2,4)があると報告されている.しかし実地臨床では,点眼加療で眼圧下降が不十分な例に手術回避を目的として施行されるなど,second-linetherapyとして使われることが多く,また,ぶどう膜炎に続発する緑内障や閉塞隅角緑内障を除くさまざまな緑内障病型にも用いられる場合がままある.〔別刷請求先〕望月英毅:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学Reprintrequests:HidekiMochizuki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima-shi734-8551,JAPAN選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後6カ月の有効率望月英毅高松倫也木内良明広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学ResponderRateatSixMonthsafterSelectiveLaserTrabeculoplastyHidekiMochizuki,MichiyaTakamatsuandYoshiakiKiuchiDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の治療成績を後ろ向きに検討した.対象はSLTを受けた緑内障患者連続55例58眼であった.内訳けは,開放隅角緑内障が36眼,落屑緑内障11眼,その他の続発緑内障および緑内障手術既往眼が11眼で,点眼薬剤数2.3±1.0剤,治療前眼圧は20.4±4.1mmHg.総エネルギー量は28.2±6.8mJ,下方半周を凝固した.照射後6カ月で3mmHg以上の下降を示したものは全58眼中24眼(41%)であった.この24眼中での下降幅中央値は5.0mmHgであった.同様に6カ月後に20%以上眼圧が下降したものは21眼(36%)あり,この21眼で,下降率の中央値は27.4%であった.術前眼圧は有効率と相関があった(r=0.5,p=0.012).落屑以外の続発緑内障と緑内障手術既往眼では成績が悪かった.比較的術前眼圧が高い開放隅角緑内障および落屑緑内障で,緑内障手術既往のない眼が良い適応と考えた.Wereviewedaseriesof58eyesof55patientswhohadbeentreatedwithselectivelasertrabeculoplasty(SLT).Ofthe58eyes,36hadopen-angleglaucoma(includingnormal-tensionglaucoma),11hadexfoliativeglau-comaand11hadothersecondaryglaucomaorahistoryofglaucomasurgery.Theaveragenumberofanti-glauco-mamedicationsusedwas2.3±1.0andthemeanbaselineintraocularpressure(IOP)was20.4±4.1mmHg.Theinferior180degreesofmeshworkreceivedenergyof28.2±6.8mJ.Theresponderratefor20%pressurereductionwas36%andthatfor3mmHgIOPreductionwas41%at6-monthsfollow-up.ThebaselineIOPcorrelatedwithanSLTsuccessof20%IOPreduction(r=0.5,p=0.012).Eyeswithsecondaryglaucomaorahistoryofglaucomasurgerydidnotrespond.SLTwasfoundtobeecaciousforopen-angleglaucomaorexfoliativeglaucomawithoutahistoryofglaucomasurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):693696,2008〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,緑内障,レーザー治療.selectivelasertrabeculoplasty,glaucoma,lasertherapy.———————————————————————-Page2694あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(118)から4まで分類判定したものを用いた.II結果術後16カ月後の有効率を図1に示す.レーザー照射後6カ月で3mmHg以上の下降を示したものは全58眼中24眼(41%)であった.この24眼中での下降幅の中央値は5.0mmHg,2575%点は4.36.8mmHg,最大値は10.3mmHgであった(図2a).同様に6カ月後に下降率20%以上を示したものは21眼(36%)あり,この21眼で,下降率の中央値しかしながらこうした場合,従来の報告どおりの効果が期待できるのかはわからない.そこでSLTの日常臨床での成績を検討した.I対象および方法1.対象広島大学眼科緑内障外来でSLTを受けた緑内障患者連続58例62眼のうち全身状態悪化などで受診が途絶えた3例4眼を除いた,55例58眼を対象にレトロスペクティブに検討した.対象は男性30例32眼,女性25例26眼で,年齢は平均62.3±11.2歳(4386歳)であった.異なる日に計測した連続する術前2回の眼圧の平均値は,20.4±4.1mmHgであった.術前の眼圧下降薬の点眼数は2.3±1.0本で,内訳は,点眼薬を使用していないものが3眼,1剤が10眼,2剤が14眼,3剤が26眼,4剤が5眼であった.眼圧下降薬の内服はなかった.観察期間は6カ月とした.対象の緑内障病型の内訳は表1に示すとおり,広義原発開放隅角緑内障で術前眼圧が16mmHg以下の群,16mmHgより大きい群,落屑緑内障,その他の緑内障群とした.その他の群にはaphakicglaucomaなど落屑緑内障以外の続発開放隅角緑内障および,トラベクレクトミー既往眼が4眼,トラベクロトミー既往眼が1眼含まれている.ALT既往眼はなかった.2.方法レーザーはLuminus社製SelectaIIを用い,照射の方法はこれまでの報告57)と同様,0.8mJ/発前後から始め,気泡の出ない最大のエネルギーを使用し,全例下方線維柱帯半周180°に照射した.平均総エネルギーは28.2±6.8mJ(平均±SD),照射数は56.3±6.0発であった.下降幅3mmHg以上,または下降率20%以上を有効と判定した.経過観察期間中に点眼を追加された1眼,緑内障手術を受けた10眼は無効例とした.隅角色素は下方象限の色素をScheieの分類でグレード0表1対象患者の緑内障病型の内訳病形眼数術前眼圧(平均±SDmmHg)開放隅角緑内障(≦16mmHg)614.8±1.5開放隅角緑内障(>16mmHg)3019.9±2.9落屑緑内障1124.0±4.4その他1121.5±3.9開放隅角緑内障(≦16mmHg)は術前2回の受診時眼圧の平均値が16mmHg以下の広義原発開放隅角緑内障.開放隅角緑内障(>16mmHg)は同様に術前眼圧が16mmHgより大きい広義原発開放隅角緑内障.その他の群には緑内障手術既往眼(レクトミー後4例,ロトミー後1例)およびaphakicglaucomaなど,その他の続発開放隅角緑内障を含む.:3mmHg下降:20%下降1009080706050403020100有効率(%)1カ月3カ月術後月数6カ月図1SLT後1~6カ月の有効率実線は有効判定基準を眼圧下降幅3mmHg以上としたもの,破線は有効判定基準を眼圧下降率20%以上としたもの.02468101201020304050ab眼圧下降幅(mmHg)眼圧下降率(%)図2SLT有効例の箱ヒゲ図a:レーザー照射後6カ月で3mmHg以上の下降を示した24眼の下降幅の分布.b:同様に6カ月後に下降率20%以上を示した21眼の下降率の分布.:無効例:有効例35302520151050眼数OAG≦16mmHg15110OAG>16mmHg1317落屑緑内障65その他図3照射後6カ月での病型別有効例数(眼圧下降率20%以上)OAG:開放隅角緑内障.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008695(119)むね50%程度の有効率があったが,眼圧16mmHg以下の開放隅角緑内障および,緑内障手術既往のある群や無水晶体性緑内障などの続発緑内障では有効率は低かった.今回の対象では手術既往のある眼は,トラベクレクトミー後で特に成績が悪かった.レクトミー後はSchlemm管が狭窄化しており9),レクトミー既往眼にはロトミーは効果が少ない10)ことから,一般にレクトミー後は房水流出路が萎縮するものと考えられている.SLTも同様の理由でレクトミー後は無効であるものと推察される.また,術前眼圧16mmHg以下の開放隅角緑内障の群では反応例が少なく,やはり術前眼圧の高いものが反応しやすいものと考える.落屑緑内障にやや反応例が多かったのも術前眼圧が高かった影響があるのかもしれない.色素含有細胞のみを選択的に障害するとされているSLTの作用機序からは隅角色素が多い眼のほうが有効性は高いものと予想されるが,SLTでは隅角色素と術後成績の間に相関がない5,11)と報告されている.自験例でも相関はみられなかった.この事象に関しては考察が困難であり,これまでにも納得のできる説明はなされていない.Songら8)は個々の緑内障点眼薬が成績に及ぼす影響を検討し,プロスタグランジン製剤,b遮断薬,炭酸脱水素酵素阻害薬のいずれも有効率に差は検出されなかったとしているが,Songらの対象では複数の点眼が処方されている例が多く,はたして正確に個々の点眼の影響を検討できるのか疑問が残る.筆者らの症例においても,多くの症例でラタノプロストが処方されており,個々の点眼薬の影響を検討することは困難であったので,今回は検討していない.最近レトロスペクティブな検討12)で,プロスタグランジン製剤点眼を使用している患者群のほうが,その他の緑内障点眼を使用している群よりSLTの効果が高いとの報告がなされたものの,今のところその他にSLTと相乗効果のある緑内障点眼薬があるのかどうかは不明である.以上を要するに,SLTでは比較的術前眼圧が高い開放隅角緑内障および落屑緑内障で,レクトミーの既往のない眼がよい適応であり,隅角色素は効果には無関係と考える.SLTは比較的合併症の少ない治療ではあるが,点眼と比べて患者にかなりの経済的負担(平成18年10月版医科点数表の解釈によると隅角光凝固術8,970点)を強いるものである.病型を選ばずに,点眼加療中の緑内障患者にSLTを行うと,既報の成績よりも反応性が悪くなる可能性があることを念頭に適応を決する必要があるものと考える.文献1)LatinaMA,ParkC:Selectivetargetingoftrabecularmeshworkcells:invitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-371,1995は27.4%,2575%点は2533%,最大値は42%であった(図2b).照射後6カ月で,下降率20%以上を示した例の数を病型別に図3に示す.術前眼圧16mmHgより大きい開放隅角緑内障と落屑緑内障の群で比較的良好な反応が得られたが,16mmHg以下の開放隅角緑内障とその他の群では反応性に乏しかった.緑内障手術既往のある眼では,トラベクレクトミー既往眼は4眼すべてで無効で,ロトミー既往眼1眼は術後3カ月までは有効であったが,6カ月目に無効となった.つぎに成績に影響を与える因子を検討した.有効例(下降率20%以上)における眼圧下降値と術前眼圧は単回帰にてr=0.5と弱い相関があった(図4).3mmHg下降,および20%下降で判定した有効例群と無効例群における隅角色素のScheie分類のグレード数をMann-Whitney-Utestを用いて比較したところ,いずれの判定基準においても差は検出されなかった(順にp=0.89,p=0.59).同様に術前の眼圧下降薬の点眼数を比較したが,差は検出されなかった(順にp=0.17,p=0.11).III考按今回は,すでに点眼加療がなされているさまざまな緑内障病型に対してSLTを行った結果を検討した.これまでの報告2,3)ではSLTはprimarytreatmentとしては80%以上の有効率を示すとされている.しかしながら,今回得られた有効率はこれらと比べても低い値であった.筆者らと同様に点眼加療を行っている患者に対する治療の報告8)をみると,50%前後の有効率であり,筆者らの結果よりやや良いもののおおむね同様である.今回の検討では術前の点眼数と有効性の関係は検出されなかったものの,日常臨床でSLTの適応を決定する場合に注意を要する結果といえる.対象患者の病型の内訳をみてみると,術前眼圧が16mmHgより大きい開放隅角緑内障,および落屑緑内障ではおおr=0.50p=0.0121110987654315202530術前眼圧(mmHg)眼圧下降幅(6カ月後)(mmHg)図4有効例(眼圧下降率20%以上)における眼圧下降幅と術前眼圧の単回帰分析———————————————————————-Page4696あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(120)維柱帯形成術のアルゴンレーザー線維柱帯形成術の効果比較.眼臨99:633-637,20058)SongJ,LeePP,EpsteinDLetal:Highfailurerateassoci-atedwith180degreesselectivelasertrabeculoplasty.JGlaucoma14:400-408,20059)JohnsonDH,MatsumotoY:Schlemm’scanalbecomessmalleraftersuccessfulltrationsurgery.ArchOphthal-mol118:1251-1256,200010)禰津直久,永田誠:天理病院トラベクロトミーの統計学的観察その1病型・術前手術.眼臨80:2120-2123,198611)HodgeWG,DamjiKF,RockWetal:BaselineIOPpre-dictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultsfromarandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol89:1157-1160,200512)SchererWJ:Eectoftopicalprostaglandinanaloguseonoutcomefollowingselectivelasertrabeculoplasty.JOculPharmacolTher23:503-512,20072)McIlraithI,StrasfeldM,ColevGetal:Selectivelasertrabeculoplastyasinitialandadjunctivetreatmentforopen-angleglaucoma.JGlaucoma15:124-130,20063)MelamedS,BenSimonGJ,Levkovitch-VerbinH:Selec-tivelasertrabeculoplastyasprimarytreatmentforopen-angleglaucoma:aprospective,nonrandomizedpilotstudy.ArchOphthalmol121:957-960,20034)NagarM,OgunyomadeA,O’BrartDPetal:Aran-domised,prospectivestudycomparingselectivelasertra-beculoplastywithlatanoprostforthecontrolofintraocularpressureinocularhypertensionandopenangleglaucoma.BrJOphthalmol89:1413-1417,20055)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,19996)加治屋志郎,早川和久,澤口昭一:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.日眼会誌104:160-164,20007)佐々木誠,原岳,橋本尚子ほか:選択的レーザー線***

眼科医にすすめる100冊の本-5月の推薦図書-

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086810910-1810/08/\100/頁/JCLSこの4月から後期高齢者医療制度が導入され,医療の現場ではかなりの混乱が生じています.この制度の是非はともかくとして,最近は医師不足,医療崩壊などの言葉がマスコミで取り上げられています.医療訴訟の多い産婦人科医,小児科医,外科医などへの希望者が激減し,また,リスクが高く過酷な勤務を強いられる大病院の勤務医が小規模の病院に,さらに開業医にシフトしてきており,それが病院の勤務医不足に拍車を掛けています.自分の住んでいる地域には産科がなく,出産時に病院をたらい回しにされたという妊婦のことが報道されました.どうしてこんなことが起こってきたのでしょうか.現在,虎の門病院泌尿器科部長を務めておられる小松秀樹氏は,その原因の一つとして,日本人を律してきた考え方の土台が崩れてきており,死生感が失われて,生きるための覚悟がなくなり,不安が心を支配しているからだと述べています.医療とは不確実なものですが,患者は現代医学に過剰な期待をもっています.すべての病気は発見され,適切な治療を受ければ治ると思っていますし,医療はリスクを伴ってはいけないと思っています.一方,医師の方は医学はまだ発展途上であり,医学には限界があることを知っています.この差が医療訴訟をひき起こし,安心・安全神話に覆われている日本社会では,メディアが煽り,司法が裏打ちすることで,理不尽な医療への攻撃が頻発しています.このような事態が進んでいくと,使命感を抱く医師や看護師が現場を離れて,結果的に困るのは医療を必要とする患者とその家族であると,小松氏は述べています.医療が置かれている危機的状況の理解をうながし,医療の崩壊を防ぐ一助となることを願って著した本書は,七つの章からなります.第一章では,日本人の死生観が変容して死というものを受容できなくなっており,それが医療をめぐる争いごとに影響を与えていること,またさまざまな症例を呈示して,医療が不確実であることを示しています.このなかで,医療行為の結果は確定せず,確率的に分散しますが,メディアのみならず裁判官までをも,原因と結果は一対一の関係にあり,結果から原因を特定できるというドグマが支配している,ということが書かれており,これにはあらためて驚いてしまいました.第二章では,医療は無謬ではなく,間違いは起こるものであることが認知されてきたこと,また,インフォームド・コンセントの重要性が書かれています.第三章では,医療と司法の間にあるさまざまな問題点にスポットをあてています.日本における医療訴訟は年間1,000例程度と非常に少なく,年間で医師200人に1人ぐらいしか訴訟を受けていないとのことです.アメリカのニューヨーク州では年間で医師17人に1人が訴訟を受けているとのことですから,かなり日本における医療訴訟は少ないと言えるでしょう.しかし,医療訴訟は日本においても確実に増えてきていることは間違いありません.私自身も医療訴訟の経験がありますが,解決には何年もかかり,その間,不快感と不安は継続します.私の場合は比較的満足の得られる形で解決しましたが,納得の得られない処分を受けたとすれば,医師の士気は削がれ,医療の質は低下するでしょう.第四章では,医療倫理の確立と医師の行動規範の成文化について,著者が虎の門病院で取り組んだ内容について書かれています.また,医師が患者に説明し,同意を得なければればならない診療行為が決められてあり,説明文書にて説明したうえで同意文書を書いて貰うわけですが,もし,納得がいかない場合には,セカンド・オピ(105)■5月の推薦図書■医療の限界小松秀樹著(新潮新書,新潮社)シリーズ─81◆小玉裕司小玉眼科医院———————————————————————-Page2682あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008ニオンを聞くことも勧めるとのことです.第五章では,医療における教育,評価,人事について,大学院,医局制度,新臨床研修制度などに触れながら問題点を指摘しています.著者は,若い医師の要求の最も大きいものは,自分たちの医師としての能力を向上させることであり,意欲のある若い医師を,医局や病院の垣根をなくして交流させ,大きく育てようとする姿勢を示すことが,若い医師を確保する最も重要なポイントだと述べています.眼科は医学部卒業後,希望者が多い診療科の一つですが,それでも周辺の病院から常勤医の撤退が相次いで聞こえてきます.医師不足の原因は根深いところにあり,すぐに解決できる問題ではないように思えてしまいます.第六章では,医療費について言及されています.2004年の先進国の医療費の対GDP比は,アメリカが15.3%,ドイツが10.9%,フランスが10.5%,カナダが9.9%,イギリスが8.3%なのに対して,日本は8.0%であり先進7カ国では最下位になったとのことです.特に,入院診療に費用がかけられていないようです.2006年4月の診療報酬改定では,マイナス3.16%という史上最大規模の医療費削減が実施されました.また,政府は医療費削減を目指す観点から医師数を規制してきました.医療費削減によって過酷な労働負担を強いられる病院勤務医は現場から立ち去り始めてしまい,医師数の規制と相まって医師不足に拍車を掛けたのです.2002年,日本の医師数は人口10万対206名であるのに比較して,OECD加盟国は平均で人口10万人に対して290名であり,大半の先進国で,日本よりはるかに医師数は多いということができます.イギリスではサッチャー政権による長年の医療費抑制政策で,医療従事者の士気が崩壊したとのことです.その結果,多くの医師がオーストラリアやカナダなどの海外へ移住したようです.その後のブレア政権は医療費を増やして現状を打開しようとしたのですが,いったん崩壊した医師の士気はすぐには元に戻りません.日本もイギリスの失敗を見習って医療費抑制政策を見直さねばならない時機にきていると思います.日本の医療は,現在「公共財」として運営されていますが,市場原理にゆだねられるべき「通常財」として運営していくかの岐路に立たされているようです.アメリカは通常財として医療が運営されています.医療は平等ではなく,金持ちしか高度な医療を受けることができません.中間からやや下の階層では医療保険を購入できず,その結果,アメリカの乳幼児死亡率は貧しいキューバよりも高くなっているとのことです.医療保険も値段によってサービスが異なり,保険会社による支払いも上限があり,本格的な病気だと多額の自己負担が発生します.貧困層3,700万人はメディケイドによって医療費が支給されますが,メディケイドは相対的に医療費を安く設定しているため,メディケイドの患者の診療を拒否する医師が50%にも達しているということです.第七章では,医療崩壊を防ぐにはどのようにしたらよいかについて考察されています.医療崩壊を防ぐには医療事故を防止するだけでは不十分であり,医療事故が起きることを前提として,公平な処理システムを医療制度に組み込むことが必要であると述べられています.眼科医にとっても医療訴訟を恐れていたのでは,最新の医療は提供できなくなり,医療の質の低下を招きます.医療訴訟を防ぐには,インフォームド・コンセントをしっかり取ることは勿論,大変重要なことですが,医療の限界というものを,患者に理解して貰うことも大切であることがよくわかりました.著者は「国民的な議論を通して一致点を明確にし,その上で具体的な改革案を考えることは,実行可能な現実的な案だと思います.現在の医療危機の原因が,考え方の齟齬にあるとすれば,解決のために,国民的議論は避けて通れないと私は確信しています」と締めくくっています.☆☆☆(106)

眼科専門医志向者“初心”表明

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086790910-1810/08/\100/頁/JCLS私の医師としての人生は,スーパーローテーションシステム導入の最初の年にスタートしました.このシステムの導入には賛否両論がありましたが,私の場合,なんだかあっという間の大学生活6年が過ぎ,国家試験に受かり,「内科系ではなく外科系に進みたい」という程度の漠然としたイメージしか持ち合わせていなかったため,どの科に進むかよく吟味できる点で好都合でした.実際にスーパーローテーションでいろいろな科をまわり,内科にいた患者さんに外科で再び会い,「またお会いしましたね」などとよく声をかけた覚えがあります.当然,内科で診断を受け,外科に手術のコンサルトされたわけですね.その後短い間ですが眼科をまわり,眼科は,最初の検査から診断,手術やその後の定期検査まで一貫して行っていけるという点が,自分の性格にあっていると実感しました.また,技術的なことだけでなく,患者さんとのコミュニケーションをとりやすく信頼関係も築いていけるところにも魅力を感じました.研修医時代,1日にたくさんの白内障患者さんが手術を受けていました.その1人ひとりが手術が終わって眼帯を外した時,パッと世界が明るくなり,その人の人生そのものまで大きく変わったことと思います.医者としてとしてこのような仕事に携わっていけることがすばらしいと思ったのが眼科医の道を選んだ理由です.この掲載を機に改めて私自身のことを振り返ると,眼科医として最初の一歩をようやく踏み出せたのが現状です.日々の診療のなかで,沢山の患者さんや一緒に働くスタッフの方々を通して眼科のスキルアップに努め,また医師としての人間性を磨いていきたいと思います.そして,この“初心”表明を胸に,道のりは果てしないですが,どんな疾患にも対応できる「オールラウンド眼科臨床医」になりたいと思います.◎今回は獨協医科大学出身,スーパーローテート世代1期生の藤田先生にご登場いただきました.ローテートをしていると気づかされることが多いのですが,他科と比べて診療が一貫して行えたり,1人で手術ができたりする点は本当に眼科の大きな魅力だと思います.(加藤)☆本シリーズ「“初心”表明」では,連載に登場してくださる眼科に熱い想いをもった研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生を募集します!宛先は≪あたらしい眼科≫「“初心”表明」として,下記のメールアドレスまで.追って詳細を連絡させていただきます.Email:hashi@medical-aoi.co.jp(103)眼科医者“初心”表明●シリーズ⑤目標はオールラウンド眼科臨床医!藤田雅裕(MasahiroFujita)海谷眼科1979年群馬県高崎市生まれ.県立高崎高校,獨協医科大学卒業.卒後同大学付属越谷病院でスーパーローテーションを修了し,現在は海谷眼科に勤務.一般的な分野から,小児眼科や眼形成眼科など幅広い分野で活躍できるような眼科医を目指す.(藤田)編集責任加藤浩晃・木下茂本シリーズでは研修医~若手(スーパーローテート世代)の先生に『なぜ眼科を選んだか,将来どういう眼科医になりたいか』ということを「“初心”表明」していただきます.ベテランの先生方には「自分も昔そうだったな~」と昔を思い出してくださってもよし,「まだまだ甘ちゃんだな~」とボヤいてくださってもよし.同世代の先生達には,おもしろいやつ・ライバルの発見に使ってくださってもよし.では,連載第5回目はこの先生に登場してもらいます!▲海谷眼科の先生方と

後期臨床研修医日記5.

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086750910-1810/08/\100/頁/JCLS努め,ときには手術をやらせてもらえることもあります.それ以外にも搬入・搬出,全身麻酔の導入,覚醒待ちなどの手術以外の時間もあり,担当が重なると時間に追われる日となります.増殖硝子体網膜症手術などの重症例では,毎回術中にさまざまな局面があり勉強になりますが,部屋が暗いときなどはつい日頃の疲れが出てしまって顕微鏡を揺らしてしまうこともあります.最近電子カルテの導入に伴い,術中の画像をそのまま電子カルテ上に残すことができるようになりました.これらが将来学会などに使用されるときのことを考えるとちょっとワクワクします.症例は重症例に偏ったものでなく,全身麻酔が必要な軽症例など1年間を通していろいろな経験をすることができました.(鍋島崇寛)当直編日中の業務が終わっても仕事は終わりではありません.当直があります.現在は月に3日程度(1日の日当直含む)自分の担当の日があります.4月は眼科医になりたてということで上級医が一緒に当直をしてくださいましたが,5月からは自分たち1人でやることになりました.日頃診る病棟の患者さんとはまた種類が異なり,(99)九州大学医学部眼科学教室では,昨年4月から後期研修医5名が眼科医としての新しいスタートを切りました.大学病院特有の忙しさに時折音をあげそうになることもありましたが,同期みんなでお互い助け合い励まし合いながら,1日1日が新鮮でとても有意義で充実した日々を送ることができました.今回はそんな九大眼科の現状を一部紹介したいと思います.病棟および外来業務編私たちの主な仕事場は九大病院最上階の南11階病棟です.窓の外に広がる博多の街の美しさに癒されながら日々仕事に勉強に励んでいます.眼科医1年目の4月から主治医として働かせていただいていますが,まだまだわからないことだらけです.しかしどんなことでも上級医・主任・病棟医長の各先生方が相談にのってくださり,素晴らしい指導体制のなかで安心して働くことができます.眼科は入退院が目まぐるしく手術日も症例数が多いため,日々こなさなければならない雑用も多いのですが,スタッフ一同励まし合いながら乗り越えていくことができます.また毎週金曜日は糖尿病で外来経過観察中の患者さんを診察する機会が与えられています.そのときには外来の先生方が,1日200人に達することもある外来診療をこなしながら,慣れない外来に戸惑う私たちを優しく指導してくださいます.忙しければ忙しいほど助け合いの精神が生まれ,時折開かれる飲み会では更なる結束を強めることのできる,そんな1年間を送ることができたように思います.(園田倫子)手術編火曜,木曜は手術日で3つの部屋で並列して手術をしております.1日平均12~13例で,多いときは18例という日もありました.実際に私たちは顕微鏡を見ながらの硝子体手術の助手,白内障手術・外眼部手術の助手を後期臨床研修医日記●シリーズ⑤九州大学医学部眼科学教室安里良金海美和園田倫子高木健一鍋島崇寛▲仲良し同期の5人(左から鍋島,金海,園田,高木,安里)———————————————————————-Page2676あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(100)できるとても有用な会です.自分で英語の論文をしっかりと読む,とてもいい機会にもなります.さらに冬頃には,学内外の経験を積んだ先生方による勉強会があり,ここでは各先生方が勤務されている病院の特徴や,今行っている研究の成果,手術の実際などについて,わかりやすく発表してくださいます.臨床から基礎まで範囲は幅広く,普段私たちが触れることの少ない,研究や一般病院の臨床などを垣間見ることができます.さらに病棟では週に1回ほど,上級の先生方とのディスカッションの場を設け,普段の診療や各症例における疑問点を解決したり,手術ビデオを見てその術中操作の意味についてさまざまな方がいらっしゃいます.鉄片や角膜びらんなど軽症例から,ときには角膜潰瘍や眼内炎,眼球熱傷,網膜中心動脈閉塞症など重症例までバリエーションに富んだ疾患の方が来られます.あるとき,救急部から呼ばれて行ってみたら日本語がほとんどしゃべれない外国の方が来られていたこともありました.その時は心の中で途方に暮れながら,顔では慌てず騒がず英語で症状や必要な検査などの説明をしました.患者さんに安心していただくには技術はもちろん,演技力も必要だな,と痛感しながら毎晩当直をやっていました.(高木健一)症例カンファ・勉強会編学内の勉強会として,夏に抄読会を行っています.学内にいる全員が週に1回のペースで順に発表していきます.テーマは問わず,各人が興味のある題材を選び,その内容を皆に発表することで,知識の共有を図ることが?プロフィール?安里良(あさとりょう)昭和55年11月30日生まれ.B型.埼玉医科大学卒業後,大分県立病院・九州大学病院での初期研修を終え平成19年度九州大学眼科へ入局.趣味は体を動かすこと全般.沖縄で鍛えた無尽蔵なスタミナを誇り,冬でも半袖のまま多忙な大学病棟の仕事を効率よくフル回転させるが,早すぎて周りがついてこれていないという噂も….金海美和(かなうみみわ)昭和56年1月30日生まれ.O型.鹿児島大学医学部卒業後,九州大学病院・福岡赤十字病院での初期研修を経て平成19年度九州大学眼科へ入局.快活な性格で一見すると運動が得意そうだが実は趣味は読書全般というインドア派.その強気な発言から同期に恐れられることもあるが,意外に気を遣う女性の一面も….園田倫子(そのだのりこ)昭和56年2月24日生まれ.B型.長崎大学医学部卒業後,九州労災病院・九州大学病院での初期研修を経て平成19年度九州大学眼科へ入局.常に冷静沈着.動揺してもそれを表に出さない.福岡市内でよく似た顔のアルコールの入った某君の目撃情報があるが真相は闇の中である.食いしん坊万歳!!!高木健一(たかきけんいち)昭和55年12月24日生まれ.AB型.九州大学医学部卒業後,九州大学病院・国立病院機構小倉医療センターでの初期研修を終え平成19年度九州大学眼科へ入局.趣味は作詞・卓球.人見知りするため人の目を見て話せと指導を受けることもしばしば.最近細隙灯で人の目を「診」ながらだったら話せるようになった.Nのつく某街での目撃談も多数あるが真相は定かではない.鍋島崇寛(なべしまたかひろ)昭和54年8月9日生まれ.AB型.福岡大学医学部卒業後,北九州市立医療センター・九州大学病院での初期研修を経て平成19年度九州大学眼科へ入局.趣味は音楽鑑賞.病棟のムードメーカーで担当の患者さんに笑顔が絶えることはない.同期のなかで最も福岡での生活が長く毎回同期にさまざまな店を紹介している.彼に紹介されたお店をデートで使用する同期もいるとかいないとか?▲週1回ある勉強会の1コマ自分の受け持ちで興味ある症例をみんなの前で発表します.▲月1回あるウェットラボの1コマ指導医の先生が熱心に教えてくださいます.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008677医局対抗野球を数試合,フットサルを月2~3回練習(部活並み?)しており,また毎月研修医の先生の歓送迎会などの飲み会があります.昨年の医局旅行は1泊2日で温泉で有名な大分県湯布院に行きました.毎年お決まりの新入局員による芸をしなくてはならず,診察や電子カルテ入力,退院サマリーの記載を終えた夜11時頃からポツポツ集まりだし,深夜4時近くまで練習したのを覚えています.おかげで連日睡眠不足で通常業務をこなすこととなり,芸の道の厳しさを知りました.こうした仕事以外でのいろいろな思い出もまた今の私たちの宝物となっております.九大眼科は仕事以外でもこうして医局員同士の交流を深めることのできる恵まれた環境にあると思います.(安良良)(101)皆で考えて理解を深めたりしていました.また,今期は大学全体で電子カルテが導入されました.眼科でも,特別な画像システムを用いるようになり,初めは戸惑うこともありましたが,使い慣れると大変便利で,今では毎日の診療に欠かすことはできません.(金海美和)レクリエーション編九大眼科では年間の恒例行事がいろいろあります.春はお花見から始まり,6月に医局旅行,夏はビアガーデンに秋は同門会,冬は忘年会など定期的に行っております.そういう場で,上の先生方に普段なかなか聞けないことや,診療のノウハウなど公私ともどもいろいろなアドバイスをいただいています.また,夏から秋にかけて教授からひとことあっという間の1年だったと思いますが,みんなよく頑張りました.今でも自分が新人のときのことはよく覚えています.すべてのことが目新しく戸惑うことばかりでしたが,体力に任せて乗り切った気がします.みんなそんなものです.そして一緒に過ごした同級生とは,これからも助け合って切磋琢磨して頑張ってください.大学病院は珍しい病気や難症例が集まるところです.大学で学んだことはきっとこれからの眼科医人生の大きな糧となるでしょう.また,今のフレッシュな気持ちとともに,病気を診たときに感じた素直な感想を大事にしてください.将来,既成概念を打ち破る新しい治療につながるかも知れません.九州大学大学院医学研究院眼科学分野・教授石橋達朗☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス60.角膜混濁例に対する硝子体手術(その2)(中級編)

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086730910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに前号からの続きで,今回は一時的人工角膜を用いた角膜移植と眼内内視鏡について述べる.角膜混濁が認められる症例でも,単純硝子体切除のみであれば,通常の眼内照明による硝子体手術で治療できる場合が多いが,複雑な手術操作が必要な症例では,この2つの方法が有用である.時的人工角膜を用いた角膜移植術一時的人工角膜には,Eckardt一時的人工角膜(図1)とLanders一時的人工角膜(図2)があり,前者のほうが視野は広く有用であるが,残念ながら現在入手しにくい状況となっている.Eckardt一時的人工角膜はシリコーンでできているため,適度な軟らかさがあり,角膜組織への侵襲も少ない.Landers一時的人工角膜はPMMA(ポリメチルメタクリレート)でできていて硬く,角膜にねじ込むように装着するため侵襲がやや大きい.眼底周辺部の視認性もEckardt一時的人工角膜のほうが優れている(図3).本術式の最大の問題点は術後の角膜の透明性維持である.硝子体手術後は術後炎症が高度で,拒絶反応のリスクが高いだけでなく,種々のタンポナーデ物質により角膜移植片への障害が生じやすい.しかし,最近では免疫抑制剤を適宜併用し,角膜専門医と網膜硝子体専門医が密接に協力しあいながら術後の経過観察を厳重に行うことで,治療成績は向上している.内内視鏡による硝子体手術最近は眼内照明機能を有する非常に解像度の良い眼内内視鏡が入手可能で,硝子体手術に盛んに応用されている.特に通常の硝子体手術では観察困難な眼底最周辺部の観察が確実に施行できる利点は大きい.眼内内視鏡の欠点は立体視ができないことであるが,硝子体手術に習熟した術者であれば,モニターをみながらすべての操作を内視鏡下で施行することも可能である(図4).(97)硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載60角膜混濁例に対する硝子体手術(その2)(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図3Eckardt一時的人工角膜を用いた硝子体手術眼底周辺部の視認性も優れている.図4眼内内視鏡を用いた硝子体手術良好な視認性が得られるが,立体視ができないのが欠点である.図1Eckardt一時的人工角膜シリコーンでできているため,適度な軟らかさがあり,角膜組織への侵襲は少ない.図2Landers一時的人工角膜PMMAでできていて硬く,角膜にねじ込むように装着するため侵襲がやや大きい.

眼科医のための先端医療89.前眼部形成に関わる因子群と発達緑内障

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086690910-1810/08/\100/頁/JCLS神経堤細胞んのとお前眼部部とのをるるを路とすのと神経神経堤細胞神経細胞とのの細胞群でににを与とでに形成すので神経堤細胞とを部分の前眼部の形成にをす神経堤細胞と神経の部に形成る細胞で化するとで細胞の発ににすの後にグ細胞細胞細胞にに細胞に分化するをとのをすで眼での神経堤細胞の分ととをグで内一子の分すとるでにに分前眼部発に与す神経堤細胞の分化に関与する因子と発達緑内障をとにする神経堤細胞で分化後のとお発で発部との分化です前眼部神経堤細胞の発とを発達緑内障をわわ眼にるとす前眼部神経堤細胞の分化に関わる因子群分にんのる因子ので発達緑内障に関する因子群をにす因子でる前眼部形成にをとすののと子群の因子とですと眼発に眼のに発すににの発部に部に発すので内の形成との分を前形成と前眼部形成に因子でるとわすでのの発神経堤細胞を分化にととるを化を化成にす神経堤細胞の分化をする分子ルととグ成因子b(TGF-b)があげられます(図1).TGF-bスーパーファミリーは細胞の増殖・分化・アポトーシスのみならず,(93)◆シリーズ第89回◆眼科医のための先端医療=坂本泰二山下英俊岩尾圭一郎(熊本大学大学院医学薬学研究部視機能病態学)前眼部形成に関わる因子群と発達緑内障図1前眼部神経堤細胞におけるシグナル経路神経堤細胞は,TGF-bスーパーファミリー(TGF-b2やBMP4)の刺激を受けると,SMAD経路を経て,FOXC1やPITX2などの転写因子を発現し,活性レベルや時期によりさまざまな前眼部組織へと分化していく.角膜実質や角膜輪部などでは活発にコラーゲンなどの細胞外マトリックスを産生する.PITX2PloPitx2SMADFoxH1SMAD2/3FOXC1CMSMADPLODSMAD1/5/8Foxc1細胞質内細胞外マトリックスBMP4TGF-b2———————————————————————-Page2670あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008細胞外基質の産生,免疫系の制御など多岐にわたる役割を担っています.和歌山県立医科大学の雑賀司珠也先生7)のマウスを用いた研究で,そのなかのアイソフォームのなかでも特にTGF-b2が重要であることが報告されています.前述のFoxc1やPitx2の発現も,その上流でTGF-b2の制御を受けていることが知られています8).TGF-b2やそのレセプターをKOしたマウス実験でも,Foxc1やPitx2をKOした際と同様に,角膜や隅角に分化・増殖異常が生じ,Axenfeld-Rieger症候群やPeters奇形に類似した眼所見を呈することが証明されています7,8).このほかの前眼部形成に必要な分子に,CYP1B1(cytochromeP-450,family1,subfamilyb,polypeptide1)9)やtyrosinase10)があります.Cyp1b1は発達緑内障の原因遺伝子として有名ですが,CYP1B1はtrans-retinolの酸化,TCFAP2Aを介し,tyrosinehydroxy-laseを調節している可能性が示されています11).Tyrosinehydroxylaseもtyrosinaseも,メラニン代謝に重要な酵素であり,隅角形成に関与している可能性がトランスジェニックマウスを用いた実験から示唆されています10)が,その代謝産物であるL-dopaがどのような経路を経て,前眼部形成に関与しているかについては,まだ詳細は不明です.今後の展望神経堤細胞前眼部形成におをす細胞群です今因子群神経堤細胞の分化にわるに因子にのですお山の一でのに因子群にを形成るとすの分のにとで前眼部形成にる眼ルの緑内障の因子発発達緑内障群と神経堤細胞関与するのとす文献1)CreuzetS,VincentC,CoulyG:Neuralcrestderivativesinocularandperiocularstructures.IntJDevBiol49:161-171,20052)GagePJ,RhoadesW,PruckaSKetal:Fatemapsofneu-ralcrestandmesoderminthemammalianeye.InvestOphthalmolVisSci46:4200-4208,20053)KidsonSH,KumeT,DengKetal:Theforkhead/winged-helixgene,Mf1,isnecessaryforthenormaldevelopmentofthecorneaandformationoftheanteriorchamberinthemouseeye.DevBiol211:306-322,19994)HjaltTA,SeminaEV,AmendtBAetal:ThePitx2pro-teininmousedevelopment.DevDyn218:195-200,20005)GagePJ,SuhH,CamperSA:DosagerequirementofPitx2fordevelopmentofmultipleorgans.Development126:4643-4651,19996)HjaltTA,AmendtBA,MurrayJC:PITX2regulatespro-collagenlysylhydroxylase(PLOD)geneexpression:implicationsforthepathologyofRiegersyndrome.JCellBiol152:545-552,20017)SaikaS,SaikaS,LiuCYetal:TGFbeta2incornealmor-phogenesisduringmouseembryonicdevelopment.DevBiol240:419-432,20018)IttnerLM,WurdakH,SchwerdtfegerKetal:CompounddevelopmentaleyedisordersfollowinginactivationofTGFbetasignalinginneural-creststemcells.JBiol4:11,20059)StoilovI,AkarsuAN,SarfaraziM:IdenticationofthreedierenttruncatingmutationsincytochromeP4501B1(CYP1B1)astheprincipalcauseofprimarycongenitalglaucoma(Buphthalmos)infamilieslinkedtotheGLC3Alocusonchromosome2p21.HumMolGenet6:641-647,199710)LibbyRT,SmithRS,SavinovaOVetal:Modicationofoculardefectsinmousedevelopmentalglaucomamodelsbytyrosinase.Science299:1578-1581,200311)ChenH,HowaldWN,JuchauMR:Biosynthesisofall-trans-retinoicacidfromall-trans-retinol:catalysisofall-trans-retinoloxidationbyhumanP-450cytochromes.DrugMetabDispos28:315-322,2000(94)☆☆☆———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008671(95)「前眼部形成に関わる因子群と発達緑内障」を読んで今回は熊本大学視機能病態学の岩尾圭一郎先生による神経堤細胞の前眼部形成の分子メカニズムと前眼部の先天性疾患病態についてのわかりやすく明快な解説です.前眼部の発生はダイナミックにいろいろの組織が形成されていき,きわめて複雑な期間が形成されていくことは神秘的でさえあります.発達の過程と,その障害によるAxenfeld-Rieger症候群,発達緑内障,ICE(iridocornealendothelial)症候群などの病態を「神秘」で片づけないで,分子レベルでメカニズムを解明する研究がきわめて進歩していることが岩尾先生の解説でとてもよくわかりました.現時点でも,FOXC1,PITX2,TGF-b2,CYP1B1といった種々の因子が神経堤細胞の前眼部形成への関与に関連する機能を制御していることが明らかにされ,Axenfeld-Rieger症候群,発達緑内障の病態への関与のメカニズムも解明されつつあるということがわかります.ただ,最後に述べておられるように「このほかにもさまざまな因子群が複雑に絡み合うネットワークを形成」していることが考えられ,現状の把握も困難です.これはゲノムプロジェクトが終了したいわゆるポストゲノムの時代といわれる現代生命科学の重大なテーマとなると考えられます.ヒトの遺伝子の塩基配列はすべて明らかになりました.ゲノムのなかでの遺伝子としての暗号の解読,その遺伝子としての暗号の解読,つまり,どのように読んだらヒトという生命体の発生,成長,老化などの生命現象を支え機能している幾つもの遺伝子を取り出せるのか,その遺伝子がコードしている蛋白質はどのような構造,機能をもっているかを研究することが生命科学の重大な課題です.たとえば,今回のテーマである神経堤細胞がどのように前眼部の形態形成に関与するかという研究を細胞,分子のレベルだけで積み上げていくことはとても気が遠くなるような作業です.しかし,大切な情報をわれわれ臨床医はもっています.いろいろな疾患を治療するために綿密に患者さんを診察し,治療することを体系的に積み上げて臨床医学としての眼科学という知恵と情報の集積をもっています.Foxc1とPitx2遺伝子の機能がおかしくなるとAxenfeld-Rieger症候群を起こすということから,生体のなかでの遺伝子の動きを予測することができますし,ノックアウトマウスやトランスジェニックマウスなどの手法を用いた動物モデルをつくって検証するときにはそのゴールドスタンダードは臨床医学の情報です.われわれ臨床医は患者さんを最善の方法で治療するという目的のためにこれらの情報を利用していますが,臨床医学のなかで解決できない問題の解決には基礎医学での研究の成果を利用したいと考えています.つまり,臨床医学は研究という大きな戦略のなかの入り口であり,かつ出口であり,またそうあらねばなりません.このように,われわれ臨床医がもっている情報を提供してよりよい研究が進行するようにすることが社会から求められていると考えます.生命科学は近年長足の進歩をして,研究の倫理的な面での規制(再生医療などで顕著ですが)も出てきつつあります.健全で自由で有益な生命科学の研究を遂行していくためには,研究の目的として臨床的な意義をはっきりさせていく努力がわれわれ臨床医には課せられているようです.それはわれわれ臨床医の義務であり,かつ権利でもあるかもしれません.そして,基礎的な生命科学と臨床医学をつなぐ岩尾先生のようなclinicalsci-entistが多く活躍できる研究環境を整備することが,社会的にわれわれに課され期待されていることにこたえる重要な戦略であろうと考えます.山形大学医学部情報構造制御学講座視覚病態学分野山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ182.若年白内障に対する多少点眼内レンズ

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086670910-1810/08/\100/頁/JCLS術前遠方視力右眼=0.06(0.6×5.0D(cyl1.75DAx165°)左眼=0.08(1.2×4.0D(cyl2.5DAx180°)術前近方視力右眼=0.1(0.6×4.5D(cyl1.75DAx165°)左眼=0.3(0.8×4.0D(cyl2.5DAx180°)新しい治療と検査シリーズ(91)バックグラウンド最近登場した回折型多焦点レンズは,良好な術後の遠近視力を提供できるようになった.白内障摘出による調節力の喪失が問題となる若年者の白内障治療に大変有効である1,2).実際の使用法多焦点眼内レンズは角膜乱視の少ない患者に有効であるといわれている.本レンズが有用であった症例を提示する.〔症例1〕28歳,男性,若年者の両眼白内障.術前遠方視力右眼=0.4(0.4×cyl+1.0DAx90°)左眼=0.1(0.1×cyl+1.0DAx90°)28歳であるので老視もなく,遠方も近方も眼鏡装用の経験はない.当然のことながら従来の単焦点レンズでは術後の近方視力が問題になる.本人の希望により回折型多焦点眼内レンズを挿入した結果が,以下のとおりである.術後遠方視力右眼=0.8(1.2×cyl+1.0DAx90°)左眼=0.9(1.2×cyl+1.25DAx90°)術後近方視力右眼=0.7(1.0×cyl+1.0DAx90°)左眼=0.6(0.9×cyl+1.25DAx90°)この症例では角膜乱視が少ないため,裸眼での遠近視力が良好であった.さらに,特筆すべき点は,遠方矯正度数の装用によって近方視力も向上する点である.このことは,白内障手術術後の屈折誤差に対しても一つの眼鏡で遠近両方の視力に対応できることと,さらには片眼の手術にも適応できることを意味しているからである.〔症例2〕35歳,男性,近視眼の片眼(右眼)白内障.182.若年白内障に対する多焦点眼内レンズプレゼンテーション:大木孝太郎大木眼科コメント:ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科図1わが国で臨床治験の終了している回折型多焦点眼内レンズ左側がReSTORR(アルコン社),右側がTECNISTMMultifocal(AMO社).図2内固定された回折型多焦点眼内レンズレンズ表面の同心円状の回折構造が観察できる.———————————————————————-Page2668あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008右眼が白内障で視力低下をきたしているが,遠方矯正時の左眼の近方視力は良好で,まだ老視年齢ではない.パソコン業務が多く,自覚的には片眼で作業をしている感じがして眼精疲労が強いことが主訴である.眼鏡使用者でコンタクトレンズの使用はまったく希望しない.したがって,左眼の近視状態に合わせて右眼の術後屈折値を45Dに設定して眼内レンズを挿入することになるが,単焦点レンズを用いた場合,遠方用の眼鏡を装用した状態では,調節力を喪失した右眼近方視力は当然不良となる.その結果,近方作業は片眼だけで行うことになり,それでは術前の片眼視による眼精疲労という本来の訴えを改善することがむずかしい.まだ調節力のある年齢であるので,右眼に対し正視を狙って白内障手術を行い,左眼はLASIK(laserinsitukeratomileusis)によって近視矯正を行うというオプションも考えられるが,本人がそれは望まず希望により,右眼に回折型眼内レンズを左眼の近視度数に合わせて使用した結果が,以下のとおりである.術後遠方視力右眼=0.08(1.2×4.5D(cyl1.75DAx180°)左眼=0.08(1.2×4.0D(cyl2.0DAx180°)術後近方視力右眼=0.1(0.8×4.5D(cyl1.75DAx180°)左眼=0.3(0.8×4.0D(cyl2.5DAx180°)右眼の近方視力が遠方矯正度数で非常に良好であり,遠方用の眼鏡一つで,違和感なくデスクワークが行えるようになり,高い満足を得られている.本治療法の利点白内障手術の大きな弱点は術後の調節力の喪失である.多くの白内障患者は高齢者であり,通常は術後の眼鏡使用に問題を感じない.しかし今回提示した若年者の症例では,老視眼鏡の使用は生活上の問題になることも多く,本レンズは非常に効果的である.1)大木孝太郎:AMOTecnis回折型多焦点眼内レンズ.IOL&RS21:227-229,20072)清水直子:回折型眼内レンズ─症例報告.あたらしい眼科24:169-175,2007(92)☆☆☆本方法に対するコメント従来,若年者の白内障手術については,水晶体摘出後に調節力を失うことが大きな問題であった.そのため,白内障で視力が低下していても,水晶体を温存することで調節力を保てる利点を考慮し,手術時期をなるべく延ばす例も少なくなかった.多焦点眼内レンズ,特に本稿で紹介された回折型多焦点眼内レンズは,術後に良好な近方視力が期待できるため,若年例でも調節機能障害によるハンディーがかなり軽減された.症例1のような両眼手術例では,術後の屈折値を悩まず正視にすることができるが,問題は症例2のような片眼性白内障で,かつ,もう片眼の屈折が遠視や近視例である.従来の単焦点眼内レンズでは,迷うことなく健眼の屈折が近視であれば,不同視を生じない程度の近視狙いで眼内レンズ度数を選択した.多焦点眼内レンズ挿入希望例で,コンタクトレンズは使えず眼鏡装用の場合は,担当医とじっくり話し合い,本症例のような選択も多焦点レンズの恩恵といえるであろう.筆者(ビッセン)はエキシマレーザーによる屈折矯正手術を同施設で行っているため,眼鏡への依存度を減らす多焦点眼内レンズの利点を最大限に生かすよう,術後屈折は正視目標とし,健眼にはコンタクトレンズ装用,あるいは屈折矯正手術を行い,非常に高い満足度を得ている.