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β 遮断薬-副作用の薬理

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSえて,b2受容体も密に分布している.眼では,眼圧調節に関して,毛様体無色素上皮細胞にb2受容体が存在する.b1,b2受容体は,サイクリックAMP合成を介して作用を発揮する.b3受容体は,脂肪組織においてサイクリックAMPの経路を介して脂肪分解を起こす.また,消化管や気道平滑筋を拡張させる.さらに,一酸化窒素合成酵素の活性化を介してサイクリックGMPを増加させ,血管拡張をひき起こす.b遮断薬の一つであるカルテオロールはb3作動性に働くと報告されている7).IIb遮断薬と眼圧下降b遮断薬が眼圧下降をひき起こすことは,40年以上前にPhillipsらによって発見された.プロトタイプのb遮断薬であるプロプラノロールを開放隅角緑内障患者に静脈内投与したところ,眼圧下降がみられた.プロプラノロールを点眼しても眼圧下降がみられたが,局所麻酔作用(膜安定化作用)のために一般に使用されることはなかった.その後,重篤な眼毒性がない初めての点眼薬としてチモロールが1978年に市販され,その後長期にわたり緑内障治療薬の第一選択薬として位置づけられてきた.しかし,b遮断薬による眼圧下降機序の全容はいまだに解明されていない.ヒトの眼圧は一般に二相性の日内変動を示し,日中高く夜間低い.その原因として,日中は交感神経の活動性が高いため房水産生が増加するが,はじめにb遮断薬は,アドレナリン作動性受容体であるb受容体の遮断効果を作用機序とする眼圧下降薬である.b受容体は眼のみでなく広く全身に分布し,さまざまな生理現象を司る.全身のb受容体は,b遮断薬の点眼によっても影響を受ける可能性がある.b遮断薬点眼による副作用については各薬剤の添付文書に詳細な記載があるが,長年多くの成書や総説で取り上げられてきた16).これらに最近の知見を合わせて,b遮断薬の作用機序や点眼薬としての特徴および起こしうる副作用について薬理学的観点から概説する.Ib受容体:サブタイプとその分布G蛋白質共役型受容体スーパーファミリーのメンバーであるアドレナリン作動性受容体には,aサブファミリーとbサブファミリーがある.bサブファミリーは,少なくとも3つの受容体サブタイプ(b1,b2,b3)から構成される.それぞれのb受容体サブタイプの分布や密度は,臓器や組織によって大きく異なり,それぞれに特有な生理作用に関与する.b1受容体は,おもに心臓に分布し,その刺激によって心拍数の増加や収縮力の増大をひき起こす.b2受容体は,気管支,血管,子宮および腸管などさまざまな臓器の平滑筋細胞に分布し,その刺激によって気管支や血管の拡張をひき起こす.また,心臓では,固有筋にはb1受容体が多いが,ペースメーカーにはb1受容体に加(25)775*TomomiHigashide:金沢大学附属病院眼科〔別刷請求先〕東出朋巳:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学附属病院眼科特緑内障点眼薬選択のポイントあたらしい眼科25(6):775782,2008b遮断薬─副作用の薬理Beta-AdrenergicBlockers:PharmacologicalAspectsofAdverseEfects東出朋巳*———————————————————————-Page2776あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(26)水溶性点眼液を点眼した場合,薬剤の約80%は鼻涙管を通って鼻粘膜に達し,密に分布する毛細血管から吸収され全身へ至る.この場合,経口投与と異なり,静脈内注射と同様に肝臓での代謝を受けずに直接的に全身性に作用しうる.健康成人に2%カルテオロールを点眼した場合,15分後に血漿中濃度は最高値約1ng/mlに達する.この濃度は経口薬を内服した場合の100分の1以下であるが,全身的な副作用をひき起こす可能性がある.特に小児では,循環血液量が成人より小さいために,b遮断薬の血中濃度が成人よりかなり高くなり,無呼吸発作などの重篤な副作用を起こす可能性がある.そこで,低濃度の製剤の使用(0.25%チモロール,1%カルテオロールなど)や点眼後の涙点圧迫と閉瞼による全身への吸収抑制が望まれる.1分間以上の涙点圧迫と閉瞼が困難な場合には,瞼裂から溢れる余剰の点眼液を拭うことも有効である.また,ゲル化剤なども全身性の吸収を抑制するのに有効である.さらに,b遮断薬は動物やヒトへの経口投与あるいは点眼で母乳中に分泌されることが報告されている.0.5%チモロール点眼の場合には,母乳中の濃度は心臓に影響する濃度の1/8と報告されている.授乳中の母親にb遮断薬を処方する場合には,十分な注意が必要であり,各点眼薬の薬剤添付文書は授乳を避けることとしている.チモロールは,肝臓に存在する代謝酵素であるチトクロームP4502D6(CYP2D6)によって不活性な代謝物となり,腎から排泄される.したがって,重篤な肝・腎障害がある場合には,高い血中濃度が持続する可能性がある.また,CYP2D6遺伝子には遺伝子多型がある.CYP2D6酵素活性がとても低いか欠如しているヒトは夜間は交感神経の活動性が低下し房水産生も低下するためと考えられている.b遮断薬は交感神経の活動性亢進による房水産生を抑制すると考えられ,b遮断薬による眼圧下降が夜間よりも日中に大きいことはこれを裏づけている.房水を産生する毛様体無色素上皮細胞にはb2優位にb受容体が存在し,これを遮断すれば房水産生が抑制される.さらに,b2受容体は毛様体血管にも存在するので,これの遮断によってa受容体を介した血管収縮が起こり,限外濾過の減少によって眼圧が下降する可能性がある.しかし,b遮断薬による眼圧下降がb受容体の抑制のみによって説明できるかという点には異論がある.b刺激薬は,G蛋白を介してアデニールサイクラーゼを活性化し,サイクリックAMPを増加させ,房水産生を増加させる.しかし,サイクリックAMPを直接増加させる薬物を投与すると房水産生は減少する.さらに,眼以外でのb遮断作用が著明に弱い立体異性体(d-timolol)にチモロール(l-timolol)よりもやや弱いものの同様の眼圧下降作用がある8)ことは,b遮断薬による眼圧下降作用が受容体依存性であることに合致しない.b遮断薬による眼圧下降は,チモロールの場合には点眼後30分から1時間で現れ,2時間で最大となり,12時間から24時間後にベースラインに戻る.連続点眼によって効果が減弱することがあり,“short-termescape”と“long-termdrift”として知られる.前者は,点眼開始後数週間で起こり,b受容体数のアップレギュレーションによると考えられている.後者は,数カ月から数年後に起こり,数カ月の休薬(timololholiday)と交感神経刺激薬の投与によって回復するとされている.IIIb遮断薬:点眼剤の薬物動態(図1)b遮断薬には,メラニン親和性がある.前房内に移行したb遮断薬が虹彩のメラニンに結合すると,メラニンがb遮断薬の徐放剤として働く.このため,日本人など虹彩色素の多い人種では,同等の効果発現のために白人より高濃度の点眼液が必要であるとされている.また,b遮断薬の血中半減期が数時間であるにもかかわらず,完全にウオッシュアウトされるのに2週間以上かかるのは,この特徴が一因と考えられている.図1b遮断薬点眼剤の薬物動態b遮断薬点眼前房内移行涙道全身移行副作用鼻粘膜メラニン親和性(虹彩)眼圧下降(毛様体)代謝(肝酵素)排泄(腎)呼吸器・循環器など———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008777(27)心拍数減少などの全身性の副作用が軽減される可能性がある.しかし,ゲル化剤には点眼後の霧視(チモプトールRXE)や刺激感(リズモンRTG)を起こしやすい欠点がある.2.カルテオロール非選択的b遮断薬であり,水溶性である.b遮断薬の点眼薬のなかで点眼後の眼刺激症状が最も少ない.ISAをもつことが特徴である.これは,b刺激薬や内因性カテコールアミンの存在下ではb受容体遮断作用を示すが,これらが存在しない場合には逆にb1あるいはb2受容体を介して弱い刺激作用を示すものである.ISAをもつことは,カルテオロールの理論的な長所である.つまり,b受容体遮断による心拍数の減少,低血圧,気管支収縮,血管収縮あるいは脂質代謝異常を抑える可能性がある.たとえば,チモロールを健常人に点眼すると,HDL(高比重リポ蛋白)コレステロールが減少しトリグリセリドが増加するが,カルテオロール点眼ではその影響が少ない.カルテオロールによる血圧下降や心拍数減少は他のb遮断薬と同様であるが,Netlandらによるランダム化比較試験では,チモロール点眼よりもカルテオロール点眼のほうが高眼圧症や原発開放隅角緑内障患者に対する夜間の心拍数減少が有意に少なかった10).さらに,カルテオロールが健常人や緑内障患者の視神経乳頭血流を増加させたという報告がある.プラセボ点眼側にも血流増加がみられたことから,これはISAの作用と考えアジア人には12%存在すると報告されている6).これらのヒトにチモロールが投与された場合には,高い血中濃度が持続し全身性の副作用が強く出る可能性がある.一方,カルテオロールもCYP2D6によって代謝されるが,ウサギやサルに点眼した実験では,代謝物の8-ハイドロキシカルテオロールにも眼圧下降作用がある9).カルテオロールにみられる内因性交感神経刺激作用(intrinsicsympathomimeticactivity:ISA)は,この代謝物によるという説がある.IVb遮断薬:各薬剤の薬理作用現在日本で市販されている点眼薬のなかでb遮断薬に属するものは以下の5つである(表1).b受容体選択性やb受容体遮断以外の作用の有無に違いがある.眼圧下降作用の強さは,ベタキソロールは比較的弱く,それ以外はほぼ同等とされている.1.チモロール非選択的b遮断薬であり,比較的脂溶性が高い.脂溶性が高い薬剤は,点眼後に全身に吸収された場合に中枢神経系に作用しやすい.b遮断薬による中枢神経系の副作用報告の多くがチモロール点眼によることは,この特徴が一因と考えられる.ゲル化剤(チモプトールRXE:イオン反応性ゲル,リズモンRTG:熱反応性ゲル)は,1日1回点眼で水溶液の2回点眼と同等の眼圧下降効果があり,点眼コンプライアンスの点で有利である.さらに,ゲル化剤では全身への吸収が抑制されるため,表1現在日本で使用可能なb遮断薬点眼剤の特徴チモロールカルテオロールベタキソロールレボブノロールニプラジロールチモプトールなランなベトプテ日本ルンロルイジールーなb遮断作用(プロプラノロール=1)610462b1選択性+その他の作用ISA(*)b3刺激L型カルシウムチャンネル拮抗作用(弱い)a1遮断(弱い)a1遮断一酸化窒素放出点眼回数2回1回(ゲル化剤)2回1回(ミケランRLA)2回1回2回(効果不十分の際)2回*:内因性交感神経刺激作用(intrinsicsympathomimeticactivity:ISA).———————————————————————-Page4778あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(28)ある.また,a1刺激薬フェニレフリンによるウサギの摘出毛様体筋の収縮を濃度依存的かつ競合的に抑制したことから,弱いa1受容体遮断作用を有するとされ,日本ではa1b遮断薬として位置づけられている.しかし,眼圧下降作用はおもにb受容体遮断を介する房水産生抑制によるとされている.5.ニプラジロール非選択的b遮断薬であり,a1受容体遮断作用を併せもつa1b遮断薬である.b遮断作用による房水産生抑制に加え,a1遮断作用によるぶどう膜強膜流量の増加および房水流出率の増加により眼圧を下降させる.さらに,ニトログリセリンと同様に分子内にNO2ラジカルをもち,一酸化窒素を遊離することによって,血管拡張を起こす.ニプラジロール点眼によって網膜や視神経乳頭などの眼血流量が増加することが報告されている7).Vb遮断薬の副作用(表2)1.眼局所の副作用b遮断薬点眼による自覚症状として5%未満に眼刺激症状(しみる感じ,灼熱感,眼痛,異物感,不快感など)がみられる.ベトプティックRでは5%以上にみられたが,基剤を変更したベトプティックRSでは改善した.これらの自覚症状や局所の炎症所見の多くは防腐剤などの薬効成分以外の含有物によると考えられる.b遮断薬自体の影響としては,膜安定化作用(局所麻酔作用)による角膜知覚低下がある.これによって,表層角膜炎や涙液分泌減少が起こるが,その強さはベタキソロール>チモロール>カルテオロールの順である.また,チモロール点眼と鼻涙管閉塞との関連が従来から指摘されている11).鼻粘膜の慢性刺激によると推測されているが,チモロール局所投与により鼻涙管径の縮小が起こる12)ことも関連している可能性がある.2.呼吸器系の副作用b刺激薬は,気道のb2受容体を刺激して気管支拡張を起こすので,気管支喘息の治療に使用される.一方,b遮断薬は点眼剤でも逆の作用によって喘息患者の呼吸機能を悪化させ,喘息発作の誘発・増悪を招く.喘息患られている.しかし,気管支喘息患者の呼吸機能に対する影響は,チモロールと有意差がなかった.また,カルテオロールはb3受容体に作用し,血管内皮由来の一酸化窒素を介して血管拡張をひき起こすと報告されている7).ミケランRLA点眼液は,アルギン酸を含むことによって眼表面での滞留性が向上し,1日1回点眼で通常の点眼液の2回点眼と同等の効果を発揮する.この持続製剤は,通常の製剤に比べ房水中へのカルテオロールの移行量が増加することによって,作用持続時間が延長すると考えられている.低粘性であるためゲル化剤に比べて霧視が少ない利点がある.また,ゲル化剤と同様に血中への移行が抑制されるため,全身性副作用軽減に有利と考えられる.3.ベタキソロール唯一のb1選択的遮断薬である.房水産生に関与する毛様体のb受容体はb2優位であるが,高濃度ではb1選択性が低いためb2受容体にも作用し,房水産生を抑制すると考えられている.1日2回点眼であるが,眼圧下降効果はチモロールよりもやや弱い.ベトプティックR点眼液0.5%は眼刺激症状が強かったが,2002年に発売された0.5%懸濁液であるベトプティックRSでは改善した.比較的脂溶性が高く蛋白結合性が高いことから,血中濃度が他のb遮断薬よりも低い.このため,心拍数や血圧にほとんど影響を及ぼさないと考えられている.b1選択的であるため理論的に他のb遮断薬よりも呼吸器系への影響が少ない.実際,チモロール点眼からベタキソロール点眼への変更による呼吸機能の改善が報告されている.しかし,ベタキソロール点眼に起因する呼吸困難などの副作用の報告がある.一方,b遮断作用のほかにも,ベタキソロールはL型カルシウムチャンネルに作用してカルシウム拮抗作用を呈する.眼血流増加やモデル動物における網膜虚血による網膜神経節細胞死の抑制は,この作用によると考えられている.4.レボブノロール非選択的b遮断薬であり,代謝物のb遮断作用により長時間作用性を有することから,通常1日1回点眼で———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008779(29)たした.また,新たに気道閉塞を発症するリスクは,非選択的b遮断薬と差がないとする報告がある14).したがって,すべてのb遮断薬において呼吸器系副作用には留意すべきである.3.心血管系の副作用心臓のb受容体を遮断すると,陰性変時・変力作用によって心拍数,心拍出力および血圧の低下が起こる.特に,運動時やカテコールアミン過剰の状態で起こる心拍数や心筋収縮力の増加を強く抑制する.たとえば,チモロールの点眼による安静時心拍数の減少は有意差なし平均11回/分であるのに対し,運動時のピークの心拍数減少は平均722回/分と報告され,運動時のほうが心拍数の抑制が強い6).しかし,運動時の心肺能力については,健常人では心拍数当たりの酸素摂取量の増加によって心拍数の減少が代償されるために影響はないとの報告がある15).徐脈は,洞結節リズムや房室結節を通る伝導速度の遅延によるが,通常自覚症状はない.徐脈による症状がみられる場合には,もともとペースメーカーの埋め込みが必要な刺激伝導系の異常を有していることが多い.したがって,自覚症状のある徐脈,房室ブロック(Ⅱ・Ⅲ度:心房から心室への伝導の途絶がみられるもの),洞停止や心室静止の延長および診断されていない意識消失発作には,b遮断薬は禁忌である.自覚症状がない場合でも,脈拍が55回/分未満の場合には循環器専門医に者の気道過敏性は一定ではないため,b遮断薬に対する反応は予測できない.気管支攣縮による死亡例も報告されており,気管支喘息患者へのb遮断薬の使用は禁忌である.一方,慢性閉塞性肺疾患(肺気腫および慢性気管支炎)でも,気道過敏性や気道分泌を抑制し気道抵抗を減少させるためにb刺激薬が処方される.したがって,これらの患者へのb遮断薬の使用も控えるべきである.慢性閉塞性肺疾患の最大の原因は喫煙であるので,息切れ,咳嗽,喀痰などの症状をもつ喫煙者ではこの疾患の可能性を考慮し,b遮断薬の使用の前に呼吸器専門医にコンサルトすべきである.一方,呼吸機能の正常な緑内障患者へのb遮断薬の長期使用が,呼吸機能の低下や気道過敏性の増加をひき起こすかについて,チモロール3年点眼によって1秒率が有意に低下し,約半数(6/11例)において気道過敏性が上昇したとする前向き試験がある13).この報告では,1年のウオッシュアウト後も3/6例において気道過敏性が残存した.ISAのあるカルテオロールとb1選択的遮断薬であるベタキソロールは,理論的に他のb遮断薬よりも気管支平滑筋収縮作用が弱いと考えられるが,薬剤添付文書では気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患に対して,カルテオロールは禁忌,ベタキソロールは慎重投与としている.ベタキソロールは気管支喘息患者の呼吸機能を悪化させなかったとする報告があるが,長期使用によって気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患患者の5%に気道閉塞症状をき表2b遮断薬点眼剤によって起こりうるおもな副作用副作用副作用の・所副作用の眼局所眼下管剤な作用局所作用b遮断(鼻涙管径縮小)?呼吸器系喘息発作の誘発・増悪慢性閉塞性肺疾患の症状悪化b2遮断(気管支平滑筋収縮,気道過敏性上昇)循環器系徐脈心不全増悪(*)b遮断(陰性変時作用)b1遮断(陰性変力作用)中枢神経系抑うつ(**)b遮断(中枢性カテコールアミン・セロトニン受容体を抑制)脂質・糖代謝HDLコレステロール減少,トリグリセリド増加低血糖症状をマスク(インスリン依存性糖尿病)b2遮断(脂肪代謝酵素抑制)b遮断(代償性交感神経活動亢進の抑制)*:急性心不全,慢性心不全の急性増悪・重症例のみ.**:エビデンスなし.———————————————————————-Page6780あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(30)かった2).したがって,重症ではない閉塞性動脈硬化症にはb遮断薬の点眼は処方可能と考えられる.4.中枢神経系の副作用点眼薬の中枢神経系への移行を考えた場合,チモロールなど脂溶性が高い薬剤は,点眼後に全身に吸収され中枢神経系に作用しやすいと考えられる.b遮断薬は中枢性にカテコールアミンやセロトニン受容体を抑制する.一方,抗うつ薬は受容体でのカテコールアミンやセロトニンの濃度を高める作用をもっている.したがって,b遮断薬は抑うつを促進する方向に働くと長年考えられてきた.また,b遮断薬点眼による疲労感,めまい,頭痛,幻覚,健忘,錯乱,不安,不眠などが報告されている.しかし,Patternらは,evidencebasedmedicineの立場から薬剤起因性の抑うつについて系統的レビューを行い,b遮断薬の使用と抑うつとを関連付ける研究は少数あるものの他の多くは否定的であり,明確なエビデンスはないとしている16).したがって,抑うつの発症や増悪を恐れてb遮断薬の使用を避ける必要はないと考えられる.ただし,緑内障患者には高齢者が多く,うつ病の有病率も高齢者に高いこと,緑内障が慢性進行性の疾患であり失明を危惧する患者が多いことを考えると,因果関係が不明であっても抑うつ状態を合併している緑内障患者はまれではないと考えられる.さらに,b遮断薬によって起こりやすい易疲労感が抑うつと間違われる可能性がある.したがって,b遮断薬の処方の際には,精神状態のベースラインを把握し,処方後に変化がみられれば必要に応じて精神科医にコンサルトすることが望ましいと思われる.5.脂質・糖代謝への影響b遮断薬の内服は,脂肪組織や筋肉の毛細血管にあるリポプロテイン・リパーゼの活性を抑えることによってHDLコレステロールを減少させ,トリグリセリドを増加させる.また,レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼの活性を抑えることもHDLコレステロールの減少につながる可能性がある.この脂質の変化は非選択的b遮断薬で最も強いが,ISAをもつb遮断薬ではISAがリポプロテイン・リパーゼの活性を維持すコンサルトすべきである.ただし,有酸素運動の習慣によって徐脈である人やペースメーカーの埋め込み患者では,b遮断薬の処方が可能である.b遮断薬の処方の前に,安静時脈拍数の確認,運動習慣,めまいや失神の既往を確認すべきである.一方,心不全について,すべてのb遮断薬の点眼剤は薬剤添付文書においてコントロール不十分な心不全を禁忌としている.心不全状態では心筋収縮機能が低下しており,b受容体遮断によって,さらなる心機能の悪化や代償性の交感神経活動亢進の抑制によって症状が増悪すると長年考えられてきた.しかし,慢性心不全患者では心不全の重症度に比例して血漿ノルエピネフリン濃度が増加し,それが生命予後の指標になることやノルエピネフリンの阻害によって長期予後が改善する可能性が報告された.その後,欧米あるいは国内での多くの大規模臨床試験によって,b遮断薬が心不全患者の予後を改善することがエビデンスとして確立された.b遮断薬の有用性の機序として,b2受容体遮断によってレニン産生を抑制し,全身の血管抵抗を減少させることによって心ポンプ機能が改善することがあげられる.また,カテコールアミンによる心筋毒性を抑制することや心室性不整脈による突然死を減少させる効果もある.日本の慢性心不全治療ガイドライン(2005年改訂版,http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2005_matsuzaki_h.pdf)の冒頭でも,21世紀に入ってb遮断薬が心不全治療薬として承認され,慢性心不全患者の重要な治療薬の一つとなったことを取り上げている.ちなみに,本ガイドラインにおけるb遮断薬の禁忌は,気管支喘息,ケトアシドーシス,高度の徐脈,慢性閉塞性肺疾患および重症の閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)である.したがって,心不全の既往がある患者では自動的にb遮断薬の処方をあきらめずに,処方の可否について循環器専門医にコンサルトすべきである.また,閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)では間欠性跛行が特徴的症状であるが,b遮断薬は末梢血管拡張性のb2受容体を遮断することによって骨格筋への血流を阻害し,症状を悪化させると長年考えられてきた.しかし,ランダム化比較試験のメタアナリシスでは,b遮断薬の内服による有意な症状の悪化や血流減少はみられな———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008781(31)よって房室伝導障害,左室不全,低血圧を起こす恐れがある.ジギタリス製剤では,心刺激伝導障害(徐脈,房室ブロックなど)が現れる恐れがある.b遮断薬は肝薬物代謝酵素P-450(CYP2D6)によって代謝される.したがって,この酵素活性を阻害する薬剤を併用すると,血中濃度が上昇しb遮断作用(心拍数減少,徐脈)の増強が起こりうる.抗不整脈剤であるキニジン,抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害剤,胃潰瘍治療薬であるヒスタミンH2受容体拮抗剤(シメチジンなど)はこの作用がある.また,機序は不明であるがチモロール点眼によって,エピネフリンの散瞳作用が助長されたとの報告がある.おわりにb遮断薬の点眼剤は,その薬理作用からさまざまな副作用を起こす可能性があり,プロスタグランジン関連薬などに比べて患者背景による使用制限を受けやすいことが強調される傾向がある.しかし,b遮断薬はすべての緑内障病型に対して有効であり,チモロールにはじまる約30年の歴史のなかで比較的安全に使用されてきた.b遮断薬のもつ眼圧下降以外の薬理作用を理解し,禁忌となりうる患者背景の有無や処方後の全身状態の変化を確認し,b遮断薬の点眼剤を有効に活用することが望まれる.文献1)RafuseP:Adrenergicantagonists.Glaucoma.ScienceandPractice(edbyMorrisonJC,PollackIP),p374-382,Thie-mePublishers,NewYork,20032)LamaPJ:Systemicadverseeectsofbeta-adrenergicblockers:anevidence-basedassessment.AmJOphthal-mol134:749-760,20023)HanJA,FrishmanWH,WuSunSetal:Cardiovascularandrespiratoryconsiderationswithpharmacotherapyofglaucomaandocularhypertension.CardiolRev16:95-108,20084)Detry-MorelM:Sideeectsofglaucomamedications.BullSocBelgeOphtalmol299:27-40,20065)HennessS,SwainstonHarrisonT,KeatingGM:Ocularcarteolol:areviewofitsuseinthemanagementofglau-comaandocularhypertension.DrugsAging24:509-528,20076)NieminenT,LehtimakiT,MaenpaaJetal:Ophthalmicるため無視しうる.b1選択的遮断薬はその中間である.しかし,長期(1年)の経過をみた研究では,b遮断薬の脂質に対する副作用は時間とともに減少するとしている.一方,b遮断薬の点眼による影響をみた研究のなかでは,Freedmanらはランダム化クロスオーバー試験によって0.5%チモロールと1%カルテオロールのそれぞれ8週間点眼の影響を比較し,HDLコレステロールの減少はチモロールの8%に対してISAのあるカルテオロールは3.3%と低かったと報告している17).高脂血症は冠動脈疾患などの危険因子ではあるものの,b遮断薬によって起こりうる脂質の変化は,スタチンなどの有効な治療薬の存在を考慮すれば重篤なものではなく,b遮断薬点眼を控える必要はないと思われる.一方,糖尿病に関しては,状況によってb遮断薬点眼は薬剤添付文書上慎重投与とされている.その一つは特にインスリン依存性糖尿病における低血糖状態であり,これに対する防衛反応として副腎からエピネフリン放出が起こり,交感神経の活動性が亢進し肝臓での糖新生が起こる.同時に交感神経の活動性を反映して頻脈,動悸などの症状が起こるが,b遮断薬はこれらを抑えるため低血糖症状がわかりにくくなるので慎重投与とされている.また,糖尿病性ケトアシドーシスおよび代謝性アシドーシスのある患者では,b遮断薬はアシドーシスによる心筋収縮力の抑制を増強するおそれがあるとされている.6.他の薬剤との相互作用b遮断薬と相加作用をもつ薬剤あるいはb遮断薬の代謝を抑制する薬剤は副作用が増強される可能性があり要注意である.したがって,点眼処方の前に既往歴のみならず,現在使用している薬剤についても確認することが必要である.相加作用をもつ薬剤の例として,経口のb遮断薬はb遮断薬点眼と併用すると,徐脈性の不整脈,失神,低血圧,心不全,運動耐性の低下を起こしうる.高血圧治療薬であるレセルピンは,カテコールアミンの枯渇を起こす薬剤であり,b遮断薬点眼との併用によって交感神経系を過剰に抑制し,過度の低血圧を起こすことがある.また,カルシウム拮抗薬を併用すると,相互作用増強に———————————————————————-Page8782あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008nistonwidthofnasolacrimaldrainagesystemlumen.JOculPharmacolTher23:467-475,200713)GandolSA,ChettaA,CiminoLetal:Bronchialreactivi-tyinhealthyindividualsundergoinglong-termtopicaltreatmentwithbeta-blockers.ArchOphthalmol123:35-38,200514)KirwanJF,NightingaleJA,BunceCetal:DoselectivetopicalbetaantagonistsforglaucomahaverespiratorysideeectsBrJOphthalmol88:196-198,200415)DicksteinK,HapnesR,AarslandTetal:Comparisonoftopicaltimololvsbetaxololoncardiopulmonaryexerciseperformanceinhealthyvolunteers.ActaOphthalmol(Copenh)66:463-466,198816)PattenSB,BarbuiC:Drug-induceddepression:asys-tematicreviewtoinformclinicalpractice.PsychotherPsy-chosom73:207-215,200417)FreedmanSF,FreedmanNJ,ShieldsMBetal:Eectsofocularcarteololandtimololonplasmahigh-densitylipo-proteincholesterollevel.AmJOphthalmol116:600-611,1993timolol:plasmaconcentrationandsystemiccardiopulmo-naryeects.ScandJClinLabInvest67:237-245,20077)TodaN:Vasodilatingbeta-adrenoceptorblockersascar-diovasculartherapeutics.PharmacolTher100:215-234,20038)杉山和久,河合憲司,北澤克明:d-チモロール点眼液の正常人眼眼圧などに及ぼす影響について.日眼会誌90:866-870,19869)SugiyamaK,EnyaT,KitazawaY:Ocularhypotensiveeectof8-hydroxycarteolol,ametaboliteofcarteolol.IntOphthalmol13:85-89,198910)NetlandPA,WeissHS,StewartWCetal:Cardiovasculareectsoftopicalcarteololhydrochlorideandtimololmaleateinpatientswithocularhypertensionandprimaryopen-angleglaucoma.NightStudyGroup.AmJOphthal-mol123:465-477,199711)SeiderN,MillerB,BeiranI:Topicalglaucomatherapyasariskfactorfornasolacrimalductobstruction.AmJOph-thalmol145:120-123,200812)NariokaJ,OhashiY:Eectsofbeta-adrenergicantago-(32)

α 受容体作動薬-α1遮断薬とα2刺激薬

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS詳細が明らかになるにつれ,実際の薬理作用はそれほど単純ではないことが判明した.クローニングされた遺伝子によりa1,a2受容体ともに,さらに少なくとも3つのサブタイプに細分された.すなわち,a1a,a1b,a1dおよびa2a,a2b,a2cであり,その遺伝子産物である受容体蛋白は,それぞれa1A,a1B,a1Dおよびa2A,a2B,a2Cと表記される.基本的にはb受容体に似た構造をしており,アミノ酸数466~572個から成る,7回膜貫通型GTP結合蛋白質共役型受容体である1~4).眼内における発現は,動物種によって異なり,一概にはいえない.a1受容体に関していえば,RT-PCR(real-timepolymerasechainreaction),insituhybridization,bindingassayのいずれでも,おもにa1Aサブタイプが虹彩,毛様体,脈絡膜,網膜に発現しているとされる4,5).割合は低いが,同様の部位にa1Bも発現している5).a2受容体は,少なくともブタにおいては,脈絡膜,虹彩,毛様体にはa2Aのみが発現し,網膜にはa2Aとa2Cが発現しているとされる6).II受容体以降の細胞内情報伝達経路受容体以降の細胞内情報伝達経路も完全には解明されたわけではないが,a1とa2受容体では,その様式はまったく異なる.すなわち,a1A,とa1D(a1Bは不明)はカルシウム(Ca2+)をセカンド・メッセンジャーにするのに対して,a2A,a2B,a2Cは,いずれもアデニル酸シはじめに交感神経の星状神経節後線維(以後,節後線維)から分泌される神経伝達物質ノルエピネフリンと,その受容体に対する薬理学的介入は,比較的古くから眼圧下降効果のある緑内障治療として,臨床の場に導入されてきた.エピネフリン製剤とb遮断薬である.しかし,その後,もう一つの節後線維の受容体サブタイプであるa受容体の研究が進み,この作用を調節することによっても眼圧下降を得られることがわかってきた.本稿では,まずa受容体の種類,眼内分布,受容体以降の細胞内情報伝達経路について復習し,その後現在上市されている主要薬剤について概説したい.Ia受容体の種類と眼内分布交感神経a受容体は大きく,a1とa2受容体に分類される.もともとa1受容体は効果器側,すなわちシナプス後(post-synaptic)に,a2受容体は交感神経終末側,すなわちシナプス前(pre-synaptic)に局在すると思われていた.そして,a1受容体はカテコラミン(エピネフリン,ノルエピネフリン,ドパミン)の生理作用(血管収縮,気管支拡張など)を促し,a2受容体は神経終末からのノルエピネフリンの放出を抑える,ネガティブ・フィードバックの作用をもつと,単純に区分されてきた.しかし,その後の研究で前者はシナプス前にも,後者はシナプス後にも存在し,また細胞内の情報伝達経路の(21)771*MakotoNakamura:神戸大学大学院医学系研究科外科系眼科学〔別刷請求先〕中村誠:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-1神戸大学大学院医学系研究科外科系眼科学集緑内障点眼薬選択のイントあたらしい眼科25(6):771~774,2008a受容体作動薬─a1遮断薬とa2刺激薬Alpha1-AntagonistandAlpha2-Agonist中村誠*———————————————————————-Page2772あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(22)素上皮でこの作用が高まると,房水産生が促進されるが,その機序についてはまだよくわかっていないのが実情である.一方,Giのiはこの経路を抑制する,すなわちinhibi-torである.3種類のa2受容体に共役するG蛋白はGiである.その意味で,a2受容体とb受容体は,効果器側において拮抗的に作用している.よってa2受容体を刺激すると房水産生が抑えられることになる(図1).これに対して,a1受容体に共役しているG蛋白はGqないしGq/11で,これはホスホリパーゼCという酵素活性を高め,ホスファチジルイノシトール二リン酸を分解して,イノシトール三リン酸(IP3)とジアシルグリセロールとする.IP3が小胞体IP3受容体に結合し,Ca2+の細胞質内流入を高め,このため毛様体筋の収縮が生じて,ぶどう膜強膜流出路を減少させる(図2).したがって,この経路を阻害すればぶどう膜強膜流出が亢進して,眼圧が下降すると考えられている.これに対して,代表的な眼圧下降薬剤ラタノプロストは,毛様体のFP受容体刺激により,マトリックスメタロプロテイナーゼによる細胞外マトリックスの分解を促すことによりぶどう膜強膜流出を亢進させるといわれている.したがって,理論上,作用機序が異なるため,a1受容体阻害薬とラタノプロストは相加効果があると考えられている.IIIa1受容体阻害薬a受容体阻害薬には,大きく分けて非選択的阻害薬,a1受容体選択的阻害薬,およびa1Aサブタイプ選択的阻害薬が存在する.代表的薬剤として,それぞれ,フェントラミン,プラゾシン,タムスロシンがあげられる3)(図3).非選択的阻害薬では,眼瞼下垂,縮瞳,血圧低下を伴うため,緑内障治療薬にはならなかった.一方,プラゾシンは,眼圧下降作用を有することが知られていたが,ヒトではタキフィラキシーのため,効果が不安定であった.これは,短時間の反復作用で感度が下がり,ついには無効となる状態である.このため,海外では,a1受容体阻害薬の緑内障治療薬としての臨床応用は見合わされていた3).クラーゼと環状AMP(cAMP)を抑制することを基本様式とする1,2).Iの項で述べたように,a受容体は,GTP結合蛋白質(=G蛋白)共役型受容体である.要するにG蛋白質を介して下流の標的を動かすのであるが,共役するG蛋白質が異なる.G蛋白質は,下流標的物質の発見の歴史から,Gs,Gi,およびその他に分けられる.Gsは下流のアデニル酸シクラーゼという酵素活性を高め,その結果,多機能生理活性を有する代表的なセカンド・メッセンジャーであるcAMP産生を増加させる.つまり下流のカスケードを促進するという意味で,stimulatorのsがついている.このGs蛋白と共役するのはb受容体である.毛様体色図1a2受容体の細胞内情報伝達経路のシェーマGiアデニル酸シクラーゼcAMPAキナーゼ房水産生抑制ノルエピネフリン放出抑制毛様体色素上皮細胞(シナプス後受容体)節後交感神経終末(シナプス前受容体)a2受容体図2a1受容体の細胞内情報伝達経路のシェーマPLC:ホスホリパーゼC,PIP2:ホスファチジルイノシトール二リン酸,IP3:イノシトール三リン酸,DAG:ジアシルグリセロール.Gq/11PLCPIP2IP3+DAGCa2+Cキナーゼ毛様体筋収縮ぶどう膜強膜流出抑制?a1受容体———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008773(23)し,末梢血管を拡張させ,眼圧を下降させるとされる.動物では,上強膜静脈圧,流出抵抗,房水産生のすべての要素を下げることが知られている.しかしながら,このように脂溶性で中枢性にも作用するため,眼圧下降以外の中枢性副作用を生じるため,臨床応用には至らなかった.現在上市されているアプラクロニジンとブリモニジンは,このクロニジンの誘導体である.アプラクロニジン(アイオピジンR)は,ベンゼン環のC4位置にアミド基が付加されたイミダゾリン誘導体で,p-アミノ-クロニジンともよばれる3)(図4).このアミド基のために,生理的pHで高度にイオン化されている.そのため,血液脳関門も通過しにくく,中枢性の副作用も少ない.ただし,角膜透過性や毛様体での生理活性も低い.房水流出抵抗は変えずに,房水産生を抑えて眼圧を下降させる.a2受容体への作用とは別に,イミダゾリン受容体I1とI2を介している可能性も推察されており,ぶどう膜強膜流出路の増強作用もあるのではないかという向きもある.ただし,長期連用でアレルギー性の角結膜炎,ドライマウスとドライノーズが生じたり,血管収縮作用により,動脈抵抗が上がる可能性があるため,わが国では,前眼部のレーザー治療に伴う一過性の眼圧スパイク上昇を抑制する目的でのみ使用されている11).1%,0.1mlの容器.レーザー施行1時間前と実施直後に点眼する.軽度の眼瞼後退,散瞳,結膜蒼白化の合併症を認めることがある.ブリモニジンは,欧米ではすでに緑内障治療薬として使用されている.クロニジンに似て脂溶性で,角膜の透プラゾシンの誘導体ブナゾシン(デタントールR)は,高濃度では上記の副作用が出現するものの,0.01%では生じず,またプラゾシンにみられるタキフィラキシーも起こらなかった.1日2回の投与で,0.5%チモロールにやや劣る程度の眼圧下降効果を示す.房水産生,経Schlemm管房水流出量,上強膜静脈圧に変化を与えず,先に述べたようにぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進する4,7).また,上述のように,網膜ではa1A受容体が発現し,エンドセリンによる血管収縮を抑制する効果も実験的に報告されている8).最近,前立腺肥大の治療薬であるa1A受容体選択的阻害薬(タムスロシンなど)の使用患者において,白内障手術中の虹彩緊張低下症候群(intraoperativeoppyirissyndrome)が話題となった9).これは,水流による虹彩のうねり,虹彩の脱出・嵌頓,進行性の縮瞳を三徴とする虹彩異常であり,白内障手術全症例の1~2%にみられると報告されている9,10).ブナゾシンの局所点眼でもその発生が懸念されたが,Oshikaらの報告10)によれば,そのような事例はみられなかった.したがって,これまでの抗緑内障点眼薬のいずれとも作用機序が異なり,副作用が少ないことから,第二選択ないし第三選択薬として,使いやすい薬剤である.IVa2受容体作動薬代表的なa2受容体作動薬はクロニジンである1,2)(図4).クロニジンは脂溶性で,血液脳関門を容易に通過し,脳幹の血管運動中枢におけるシナプス前a2受容体を刺激する.これにより,中枢性交感神経活動を抑制図3a1受容体阻害薬の構造式NNNCH3OCH3ONH2NO・HClCO塩酸プラゾシン・HClNNNCH3OCH3ONH2NOCH3塩酸ブナゾシン図4a2受容体作動薬の構造式NClHNNHNClHNNHClH2NクロニジンアプラクロニジンNHNNHNNBrブリモニジン———————————————————————-Page4774あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(24)4)小林博:a1遮断薬(a受容体拮抗薬).増田寛次郎,小口芳久,田野保雄編集主幹,先端医療シリーズ23・眼科.眼科の最新医療,p209-216,先端医療技術研究所,20035)Wikberg-MatssonA,UhlenS,WikbergJE:Characteriza-tionofalpha(1)-adrenoceptorsubtypesintheeye.ExpEyeRes70:51-60,20006)Wikberg-MatssonA,WikbergJE,UhlenS:Characteriza-tionofalpha2-adrenoceptorsubtypesintheporcineeye:identicationofalpha2A-adrenoceptorsinthechor-oid,ciliarybodyandiris,andalpha2A-andalpha2C-adrenoceptorsintheretina.ExpEyeRes63:57-66,19967)徳岡覚:交感神経遮断薬.眼科プラクティス11,緑内障診療の進めかた(根木昭編),p257-261,文光堂,20068)IchikawaM,OkadaY,AsaiYetal:Eectsoftopicallyinstilledbunazosin,analpha1-adrenoceptorantagonist,onconstrictionsinducedbyphenylephrineandET-1inrab-bitretinalarteries.InvestOphthalmolVisSci45:4041-4048,20049)ChangDF,CampbellJR:Intraoperativeoppyirissyn-dromeassociatedwithtamsulosin.JCataractRefractSurg31:664-673,200510)OshikaT,OhashiY,InamuraMetal:Incidenceofintra-operativeoppyirissyndromeinpatientsoneithersys-temicortopicala1-adrenoceptorantagonist.AmJOph-thalmol143:150-151,200711)木村泰朗:交感神経系刺激薬.眼科プラクティス11,緑内障診療の進めかた(根木昭編),p265-267,文光堂,200612)BaptisteDC,HartweickAT,JollimoreCAetal:Compari-sonoftheneuroprotectiveeectsofadrenoceptordrugsinretinalcellcultureandintactretina.InvestOphthalmolVisSci43:2666-2676,200213)KimHS,ChangYI,KimJHetal:Alterationofretinalintrinsicsurvivalsignalandeectofalpha2-adrenergicreceptoragonistintheretinaofthechronicocularhyper-tensionrat.VisNeurosci24:127-139,2007過性がよい.1日2回点眼で,流出抵抗を変えずに,房水産生を抑えることで眼圧を下降させる.ただし,このように脂溶性のため,中枢性副作用として,疲労,眠気,低血圧が生じる可能性がある.0.2%ブリモニジン(アルファガンR)と,0.15%ブリモニジンを用いて,防腐剤を塩化ベンザルコニウムから亜塩素酸ナトリウムに変えたブリモニジン・ピュライト(アルファガンPR)がアラガン社より販売されている.わが国ではまだ未承認であるが,現在千寿製薬が第三相治験を行っている.これまで述べてきたように,ブリモニジンは脂溶性で血液脳関門を通過する一方,網膜でa2Aとa2C受容体が発現している.ブリモニジンは,虚血再灌流,グルタミン酸硝子体注入,ならびに眼圧上昇動物モデルにおいて,局所点眼で,網膜神経節細胞死を抑制することが知られている12,13).新しい眼圧下降機序を有することに加えて,このような神経保護効果をもつ薬剤として,ブリモニジンのわが国での承認が待たれるところである.文献1)MittagTW:Adrenergicanddopaminergicdrugsinglau-coma.RitchR,ShieldsBM,KrupinT(ed),TheGlauco-mas.2nded,Vol.III,p1409-1424,Mosby,StLouis,19962)WhikehartDR:OcularNeurochemistry.InBiochemistryoftheEye.2nded,p231-248,Butterworth-Heinmann,Birmingham,20033)GieserSC,JuzychM,RobinALetal:Clinicalpharmacol-ogyofadrenergicdrugs.RitchR,ShieldsBM,KrupinT(ed),TheGlaucomas.2nded,Vol.III,p1425-1448,Mosby,StLouis,1996

炭酸脱水酵素阻害薬-2剤の位置づけ

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS2002年にブリンゾラミド(エイゾプトR)が発売となり,両者はプロスタグランジン関連薬(以下,PG関連薬),b遮断薬とともに,現在の緑内障点眼薬のゴールデン・スタンダードの三角形を成している.さらに今後,b遮断薬とCAIの合剤であるコソプトRが導入されることにより,より多くの緑内障患者にCAIが単剤または合剤の形で使用されることになると予想される.本稿では,CAIの薬理作用と代謝,現在発売されている2剤のCAI点眼薬の眼圧下降効果や使用感などの違い,経口CAIとの切り替え・併用による眼圧下降効果,さらにPG製剤と併用した場合の2番手薬としての位置づけなどについて小括する.はじめに経口の炭酸脱水酵素阻害薬(以下,CAI)であるアセタゾラミド(ダイアモックスR)が眼圧下降薬として臨床応用されたのは1954年のBeckerの報告1)以来であり,半世紀以上の長きにわたって緑内障薬物治療の一端を担ってきた.当時の他の緑内障点眼薬を上回る強力な眼圧下降作用を有する一方で,代謝性アシドーシス,低カリウム血症,手足のしびれ感,全身倦怠感,尿路結石,消化器症状,体重減少,血球系機能障害などさまざまな全身的副作用がみられるため(表1),アセタゾラミド内服は,使用できる症例が限られる,長期投与には向かない,などの問題点があった.このような理由から開発が待ち望まれていた点眼使用可能なCAIとして,1999年にまずドルゾラミド(トルソプトR)が,ついで(15)765*JunUeda:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕上田潤:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野特緑内障点眼薬─選択のイントあたらしい眼科25(6):765770,2008炭酸脱水酵素阻害薬─2剤の位置づけCarbonicAnhydraseInhibitor─ThePlaceofTwoDrugsinMedicalTherapy上田潤*表1内服炭酸脱水酵素阻害薬の全身的副作用眼ののしびのしびドースリ酸作下重全身めいけい障害全全機下障害機障害表薬のによりに用し———————————————————————-Page2766あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(16)CA-II,CA-IVに対して同等の阻害作用をもつが,ブリンゾラミドはCA-Iに対しても強い阻害作用を有している.毛様体での房水産生にはおもにCA-IIが関与しているので,両点眼薬による房水産生阻害には差がなく,臨床的にも眼圧下降には差がないとする報告が多I作用機序炭酸脱水酵素(CA)は,二酸化炭素と水から水素イオンと炭酸イオンを作る酵素であり,毛様体無色素上皮にはその14種類あるアイソザイムの一つであるCA-IIが存在している.アセタゾラミド,ドルゾラミド,ブリンゾラミドは,いずれもCA-IIに高い選択性をもつCAIである(図1).当初CAIの点眼薬を開発する目的で,アセタゾラミドを点眼や結膜下注射で投与する実験が行われたが,水溶性で角膜透過性が低いために眼圧下降は得られなかった.また,CAは非常に活性の高い酵素であるために,房水産生抑制の作用を得るためにはきわめて強力に酵素活性を抑制する必要があった.脂溶性が高く若干の水溶性も備えているスルホンアミド系薬剤で,有望なものが見つかったのは1987年のことである.米国メルク社の開発によりthienothiopyran-2-sulfon-amide系の薬剤から,酵素阻害作用が強く,眼刺激症状が少ないドルゾラミドが選択された.その後アルコン社により,ドルゾラミドとほぼ同じ骨格をもつブリンゾラミドが開発された(図1).Friedenwaldは,毛様体無色素上皮ではNa+-K+ATPaseによってナトリウムイオンが後房側に分泌され,生じた浸透圧勾配によって水が後房側に輸送されることによって房水産生が行われているとする,酸化還元説を提唱した2).CAはナトリウムイオンの逆イオンである炭酸イオンを供給することで房水産生の調節に関与しており,CAの阻害薬であるCAIは炭酸イオンの生成を抑制することでナトリウムイオンの能動輸送機構を抑制し,その結果房水産生を低下させる(図2)と考えられている.ドルゾラミドとブリンゾラミドの両者は表2内服炭酸脱水酵素阻害薬の禁忌および慎重投与禁忌スルンミド薬剤にるののし機障害全のドースのに副機全ルンスミゾール投与慎重投与重重障害機障害重タリススロイドは副ルモン投与塩療法時図13種類の炭酸脱水酵素阻害薬の構造式CH3CONHHHSO2NH2SO2NH2SO2NH2アセタゾラミドドルゾラミドブリンゾラミドNHCH2CH3HNHCH2CH3CH3SSSSOOSSSSOOCH3O(CH2)2NNNNNNSS炭酸脱水酵素阻害薬毛様体無色素上皮後房CO2CO2+H2OCACl-Cl-HCO3-HCO3-H+H+Na+Na+Na+K+K+K+H2OH2OH2OH2OH2OTightjunctionATPATP×+図2炭酸脱水酵素阻害薬の作用機序(文献18より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008767(17)用に加えて,基剤に対する溶解度の問題があり,ドルゾラミドの至適pHとして5.55.9の酸性度が必要であった.そのため,どうしても点眼時の刺激感(しみる感じ)が避けられなかった.一方,ブリンゾラミドは後発の点眼薬であり,しみる感じを抑え,しかも1日2回で点眼コンプライアンスの向上を期待できるCAIとして登場した.刺激感を軽減するために,ブリンゾラミドは剤形を懸濁液に変えて,生理的pH(約7.5)で製剤化することに成功した.こうすることで,pHの低さによる刺激感は改善されたものの,粒子が点眼後に涙液中で徐々に溶解する徐放剤であるため,点眼してから数分のあいだ視界が曇るという新たな使用感の欠点を生じた.この点について,小林ら3)は60名の原発開放隅角緑内障(POAG)患者を対象とする2剤の切り替え試験における使用感の比較で,軽度以上の刺激感を訴えた患者数はドルゾラミドでは21名(53%)であったが,ブリンゾラミドに変更して7名(18%)に有意に減少したと報告した.点眼後の霧視については,ブリンゾラミドに変更した後,全員が霧視あるいは「白っぽく見えた」と回答し,その程度は重度18名(45%),中等度16名(40%),軽度6名(15%)であったが,2日1週で慣れてしまい「点眼する上で問題点にはならない」と回答したと報告している.また添田ら4)は健常者24名を対象に2剤を点眼した後の自覚的な刺激感と霧視を5段階のスコアで評価した.点眼直後に刺激感があったのは,ドルゾラミドが22名(92%),ブリンゾラミドが9名(38%)であり,刺激の程度のスコアでも前者が有意に高かった.逆に,点眼直後の霧視について気になったのは前者が9名(38%),後者が15名(63%)であり,霧視の程度のスコアでも有意差はみられなかったものの後者が高い.詳細については後述する.CAIはさまざまな副作用(表1)を有し,使用に際しては禁忌・慎重投与(表2)を常に念頭におく必要のある薬剤であり,代謝過程を理解しておくことは重要である.経口投与されたアセタゾラミドは腸管で吸収され,1時間後に血中濃度は最高となる.血液中ではCAIは赤血球および血漿中に存在し,血漿中のアセタゾラミドは分解修飾されないまま腎から排出される.一方,点眼薬のドルゾラミド,ブリンゾラミドはおもに角膜から吸収され,ウサギを用いた動物実験のデータでは,両者の角膜の半減期はそれぞれ2時間と35時間である.頻回点眼によって,眼内では特に,虹彩,毛様体,網膜,脈絡膜に蓄積がみられる.眼局所から血液中にも吸収されるが,血液中ではただちに赤血球に取り込まれるため,血漿中にはほとんど存在せず無視できる.点眼後血漿濃度が低いことにより全身的な副作用が少ないことは,12年の長期点眼で血液のアシドーシスや電解質異常がないことからも裏付けられている.ドルゾラミドは赤血球のCA全体の活性を42%まで減少させ,ブリンゾラミドは約30%まで減少させるが,全身的な副作用(表3)はまれで,最終的には数カ月かけて腎から排出される.II2剤の違いわが国では,CAI点眼液として1999年5月に0.5%および1%ドルゾラミド(トルソプトR)が,2002年12月に1%ブリンゾラミド(エイゾプトR)が発売されており,前者は無色透明な水溶液で1日3回点眼,後者は水性懸濁液で1日2回点眼の使用方法となっている.CAIの点眼化にあたっては,角膜透過性や強力な酵素阻害作表3点眼炭酸脱水酵素阻害薬の副作用塩酸ドルゾラミド点眼の副作用眼局所副作用眼刺激症状(点眼時しみる),流涙,結膜充血,点眼直後のかすみ,羞明,痒感,アレルギー性結膜炎,白色結膜下沈着物,眼瞼への付着全身副作用点眼後のにがみ,頭痛,悪心ブリンゾラミド点眼の副作用眼局所副作用霧視,不快感(点眼時べたつき感),結膜充血,角膜炎,眼痛,異物感,眼瞼炎,乾燥感角膜炎,アレルギー性結膜炎,複視,眼瞼への付着,眼瞼辺縁痂皮,流涙全身副作用点眼後のにがみ(味覚倒錯),口内乾燥,嘔気,下痢,頭痛,鼻炎,胸部痛,呼吸困難,めまい(主に添付文書より引用)———————————————————————-Page4768あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(18)が変化する可能性も考慮する必要があると考察し,相互切り替え試験の検討結果としては両者の眼圧下降効果には差がないと報告した.さらに,Michaudら10)は,チモロールを前投与されている,多施設241眼のPOAG,高眼圧症を2群に振り分け,2%ドルゾラミド1日2回点眼と,1%ブリンゾラミド1日2回点眼とでb遮断薬との併用効果を比較したが,眼圧下降に関して両群に有意差はみられなかった.2剤の眼圧下降作用に差がないことは,薬理作用として両者のCA-II阻害作用に差がないことと矛盾していない.III内服との違いアセタゾラミドの内服は,点眼での眼圧コントロールが困難な症例で,手術までの期間緊急回避的に用いるというような場合が多いが,確かに強力な降圧作用を有している.ダイアモックスR500mg内服後,前房内濃度は1.5時間から有意に上昇し,6時間後にピーク値41±7%まで達する.緑内障・高眼圧症に対する眼圧下降効果も内服後26時間で最高となり,約3040%の眼圧下降率を示し,これは点眼CAIの眼圧下降率である約20%を上回る.Mausら11)は,フルオロフォトメトリー法で房水流量測定を行い,内服CAIの房水産生抑制作用が30%に対して,点眼CAIでは17%であり,有意に内服CAIの眼圧下降作用のほうが強力である可能性を示している.わが国における臨床試験では,北澤ら12)による内服CAIからドルゾラミド点眼への切り替え試験があり,それによるとドルゾラミド点眼で内服CAIと同等あるいはそれ以上の眼圧下降効果があることが示された.内服CAIも点眼CAIも作用点が同じであるため,両者の併用による相加作用は望めない.Rosenbergら13)は,ドルゾラミド点眼後にアセタゾラミド250mg内服によってさらに眼圧下降が得られるか,逆に内服前投与後に点眼を併用した場合はどうか,眼圧と房水産生量の測定で評価したが,いずれの場合も相加効果はみられなかったと報告した.ただし,内服CAIの眼圧下降効果は,それ自体点眼CAIを上回っており,内服量を増やせば用量依存的に降圧効果も増すので,どうしても眼圧を下げたいケースでは,今後も依然として内服CAIのかった.これらの刺激感や霧視は時間とともに軽減し,5分後ではすべて消失した.長谷川ら5)も,同じく2剤の切り替え試験における使用感や点眼コンプライアンスに関する問診結果について報告している.それによると,ドルゾラミドでは,さし心地がよいという症例が25名中10名(40%)を占めていたのに対し,ブリンゾラミドではさし心地が悪いという症例が7名(28%)に上った.ドルゾラミドでは,18名(72%)で自覚症状がなく,7名(28%)に,べとつき感,白い付着物,刺激感などの自覚症状を訴えた.一方,ブリンゾラミドへの点眼の変更に対して抵抗のなかったものはわずか2名のみで,23名(92%)の症例で自覚症状があった.内容としては,べとつき感(64%),白い付着物(28%),一過性の霧視(40%),充血(8%),味覚倒錯(苦み)(4%)であった.逆に,点眼コンプライアンスに関しては,ドルゾラミドでは「70%以上点眼した」と「50%以上点眼した」を合わせて8名(32%)がコンプライアンス不良,「指示通り点眼した」と答えたのが17名(68%)であったのに対し,ブリンゾラミドでは25名全例(100%)が「指示通り点眼した」と答えており,昼間の点眼が必要ない分,点眼コンプライアンスの向上が期待できるという結果となった.では,2剤の眼圧下降効果についてはどうだろうか.わが国では1%ドルゾラミド1日3回点眼と,1%ブリンゾラミド1日2回点眼の切り替え試験による眼圧下降効果に関して幾つか報告されており,両者に有意な差はないとするものが多い.海外のデータでは,2%ドルゾラミド1日3回点眼と1%ブリンゾラミド1日2回点眼との比較で同等の眼圧下降効果とされており6),わが国では2%と1%のドルゾラミド1日3回点眼の効果が同等と報告されている7)ので,1%ドルゾラミドと1%ブリンゾラミドでは同等の効果と予想される.長谷川ら5)や秦ら8)の報告では,ドルゾラミドからブリンゾラミドに切り替えた後,さらなる眼圧下降がみられているが,今井ら9)は一旦ブリンゾラミドにswitchし眼圧が下降した後,さらにドルゾラミドにswitchbackしたところ再上昇しなかったとしている.切り替え試験による眼圧下降には,通常の外来診療から臨床試験にエントリーしたことによる「動機づけ」があり,点眼コンプライアンス———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008769(19)ので,副交感神経優位な夜間の眼圧下降作用が弱いため,24時間眼圧のうち夜間についてはCAIが勝るとされている.Tamerら17)の眼圧日内変動に対する作用の検討によると,PG関連薬との併用効果で比べると,CAIは夜間(24時および3時)においてb遮断薬に比べ有意な眼圧下降効果を示した(図3).以上をまとめると,PG関連薬との併用による眼圧下降効果に関しては,CAIはb遮断薬と同等あるいはそれ以上の作用が期待できると考えられる.おわりに全身的な副作用の少ないCAI点眼薬が登場してから,緑内障点眼治療のゴールデン・スタンダードとしてPG関連薬,b遮断薬,CAIの三角形を軸とするパラダイムができつつある.現在市販されている2剤のCAI点眼薬については,単剤でも併用療法でも,眼圧下降作用に大きな差はなく,刺激感や霧視などさし心地の違い,点眼回数の減少による点眼コンプライアンス改善などが,処方を決めるうえでのカギになりそうである.今後,チモロールとドルゾラミドの合剤であるコソプトRが日本でも発売となると,緑内障点眼薬に占めるCAIの位置づけが変化していく可能性がある.しかし,それぞれの患者に,点眼ごとの眼圧下降効果をきちんと評価し,病型に応じた適応・不適応を見きわめ,また副作用を十分考慮したうえで使用しなければ,合剤を用いる本来の効有用性は高いと思われる.IV2番手薬としての併用効果現在市販されている緑内障点眼薬のなかでは,ラタノプロスト(キサラタンR)やトラボプロスト(トラバタンズR)などのPG関連薬の眼圧下降効果が最も高いことから,CAIはb遮断薬と並んで2番手薬に位置する.PG関連薬が使いにくい,血管新生緑内障やぶどう膜炎に伴う続発緑内障,内眼手術後間もない症例,角膜ヘルペスや黄斑浮腫の既往のある眼,色素沈着など美容上の副作用が気になる患者などでは,当然CAIが第一選択となりうる.また,単剤使用の場合,CAIの眼圧下降率はb遮断薬よりもわずかに劣るといわれているが,緑内障患者の多くは高齢者であり,心血管系,呼吸器系の疾患をもつ患者も多いことから,CAIが第一選択となる症例も少なくない.ただし,そうした副作用からくる適応の問題を除くと,多くの場合PG関連薬の作用のみで視野進行が止められない症例に2剤併用(あるいは多剤併用)として用いられるのが,おもなCAIの位置づけである.では,PG関連薬との併用による眼圧下降効果はb遮断薬と比べてどうだろうか.b遮断薬は単剤ではCAIよりも眼圧下降率に優れ,PG関連薬と作用点が異なることから,従来PG関連薬と併用する場合CAIよりもb遮断薬のほうが優先されていた.しかし最近の報告によると,O’Connorら14)は,PG関連薬の単剤点眼を行った緑内障73眼に,CAI,b遮断薬,a2刺激薬を1年間併用したところ,CAIでさらに3.9mmHg,b遮断薬で2.0mmHg,a2刺激薬で2.0mmHgとCAIを併用した群で有意に眼圧下降が得られたと報告した.また,Maruyamaら15)によると,3カ月間ラタノプロスト単剤点眼を行ったPOAG眼64眼に対して,ドルゾラミド点眼とカルテオロール点眼を3カ月ずつ併用したランダム化,相互切り替え前向き検討では,両群間で併用効果に有意差はみられなかったとしている.Miuraら16)も32眼の緑内障,高眼圧症に対しPG関連薬を1カ月単剤投与した後,CAIとb遮断薬を併用して12週間の眼圧下降効果を比較したが,やはり両群間に有意差はみられなかったと報告している.また,b遮断薬は交感神経に作用して眼圧下降させる図324時間眼圧におけるドルゾラミド(◇)とチモロール(▲)のラタノプラストとの併用療法による眼圧下降作用(文献17より)06:0009:0012:0015:0018:0021:0024:0003:00(時)24.0022.0020.0018.00眼圧(mmHg)ラタノプロスト単剤(ドルゾラミド併用前)ラタノプロスト+ドルゾラミドラタノプロスト単剤(チモロール併用前)ラタノプロスト+チモロール———————————————————————-Page6770あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(20)阻害点眼薬の相互切り替えにおける眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科22:987-990,200510)MichaudJE,FrirenB,theInternationalBrinzolamideAdjunctiveStudyGroup:Comparisonoftopicalbrinzol-amide1%anddorzolamide2%eyedropsgiventwicedailyinadditiontotimolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOph-thalmol132:235-243,200111)MausTL,LarssonLI,MclarenJWetal:Comparisonofdorzolamideandacetazolamideassuppressionofaqueoushumorowinhumans.ArchOphthalmol115:45-49,199712)北澤克明,山本哲也,東郁郎ほか:炭酸脱水酵素阻害薬MK-507点眼液─経口炭酸脱水酵素阻害薬からの切り替え効果の検討─.眼紀45:914-929,199413)RosenbergLF,KrupinT,TangLQetal:Combinationofsystemicacetazolamideandtopicaldorzolamideinreduc-ingintraocularpressureandaqueoushumorformation.Ophthalmology105:88-92,199814)O’ConnorDJ,MartoneJF,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,200215)MaruyamaK,ShiratoS:Additiveeectofdorzolamideorcarteololtolatanoprostinprimaryopen-angleglaucoma.Aprospectiverandomizedcrossovertrial.JGlaucoma15:341-345,200616)MiuraK,ItoK,OkawaCetal:Comparisonofocularhypotensiveeectandsafetyofbrinzolamideandtimololaddedtolatanoprost.JGlaucoma17:233-237,200817)TamerC,OksuzH:Circadianintraocularpressurecon-trolwithdorzolamideversustimololmaleateadd-ontreat-mentsinprimaryopen-angleglaucomapatientsusinglatanoprost.OphthalmicRes39:24-31,200718)中島正之:III.1.2)炭酸脱水酵素阻害薬.眼科プラクティス11,緑内障診療の進めかた,p262-264,文光堂,2006果と安全性は保たれない.利便性の高い治療薬が登場してくる一方で,それを処方する医師側には今後ますます高い知識と経験が要求されることを肝に銘じなければならない.文献1)BeckerB:Decreaseinintraocularpressureinmanbyacarbonicanhydraseinhibitor,Diamox.AmJOphthalmol37:13-15,19542)FriedenwaldJS:Theformationofintraocularuid.AmJOphthalmol32:9-27,19493)小林博,小林かおり,沖波聡:ブリンゾラミド1%とドルゾラミド1%の眼圧下降効果と使用感の比較─切り替え試験.臨眼58:205-209,20044)添田祐,塚本秀利,野間英孝ほか:日本人における1%ブリンゾラミド点眼薬と1%ドルゾラミド点眼薬の使用感の比較.あたらしい眼科21:389-392,20045)長谷川公,高橋知子,川瀬和秀:ドルゾラミドからブリンゾラミドへの切り替え効果の検討.臨眼59:215-219,20056)SilverLH:Clinicalecacyandsafetyofbrinzolamide(Azopt),anewtopicalcarbonicanhydraseinhibitorforprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.BrinzolamidePrimaryTherapyStudyGroup.AmJOph-thalmol126:400-408,19987)KitazawaY,AzumaI,IwataKetal:Dorzolamide,atopi-calcarbonicanhydraseinhibitor:atwo-weekdose-responsestudyinpatientswithglaucomaorocularhyper-tension.JGlaucoma3:275-279,19948)秦桂子,田中康一郎,杤久保哲男:1%ドルゾラミドから1%ブリンゾラミドへの切り替えにおける降圧効果.あたらしい眼科23:681-683,20069)今井浩二郎,森和彦,池田陽子ほか:2種の炭酸脱水酵素

プロスタグランジン関連薬の特徴-増える選択肢

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSは本来acid体で生理活性を有するが,末端のカルボキシル基をisopropyl基に置換したプロドラッグとして製品化されている.ただし,ビマトプロストだけはエチル基がアミド結合されている.プロドラッグにすることで,眼表面での活性を抑制し,角膜内でエステラーゼもしくはアミダーゼにより加水分解されてfreeacidとなった後に薬理作用を有する(図1).プロスト系4種はフェニル基を有しC15の水酸基が保存され本来のPGF2a活性を強く有する.一方,プロストン系ウノプロストンはC15の水酸基が代謝されケト基となっているため代謝型PGとよばれており,さらに炭素鎖が長くフェニル基がない.プロスト系とプロストン系はこのように化学構造式の違いを反映して眼圧下降効果にも差があるため,区別して捉えると理解しやすい.PGの作用は,細胞膜受容体のプロスタノイド受容体を介する.現在までにプロスタノイド受容体は8種類同定されており,PGF2aはそのうちのFP受容体に最も親和性が高い(図2).しかしプロスタノイド受容体は互いに非常に類似しており,各PGの結合特異性はやや低く,PGF2aはEP1-4受容体にもかなり結合することがわかっている.最初に開発されたプロスト系薬剤のラタノプロストはFP受容体に対する選択性が高く,それ以降のプロスト系薬剤はよりFP特異性が高いものを目指して開発された経緯がある(図2)15,38).はじめにプロスタグランジン(PG)関連薬はPGF2aを基本骨格としたPG誘導体で,その基本骨格を修飾したプロスト系薬剤と,代謝型のプロストン系に大別できる.特にプロスト系は,緑内障病型を選ばない強い眼圧下降効果と1日1回点眼,全身副作用がないことにより世界的に第一選択薬となり,その緑内障治療への貢献度は非常に高く評価されている.発売後はや10余年経ち,今や日本でプロストン系のイソプロピルウノプロストン,プロスト系のラタノプロスト,トラボプロストの3種類が選択できるが,海外ではビマトプロスト,さらに国内開発中でヨーロッパから認可されるタフルプロストの合計5種類がさらなる将来われわれの選択肢となる可能性がある.ここでは,それぞれの薬剤の薬理学的特性から基礎実験を踏まえた作用機序,これまでに得られた臨床データを踏まえた眼圧下降効果と付加価値を整理してみたい.I薬理特性5種の薬剤の基本骨格はこれまで主として子宮収縮などに関与するPGF2aである.現在眼科薬剤として5種類存在し,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロスト,タフルプロストの4種はその名前のとおりプロスト系とよばれる.一方,代謝型PG関連薬とよばれるプロストン系の1種イソプロピルウノプロストンがある.それらの構造式を図1に示す.これらのPG誘導体(5)755*TadashiroSaeki&MakotoAihara:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚運動機能医学講座眼科学〔別刷請求先〕佐伯忠賜朗:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚運動機能医学講座眼科学特緑内障点眼薬選択のポイントあたらしい眼科25(6):755763,2008プロスタグランジン関連薬の特徴─増える選択肢ProstaglandinAnalogsforGlaucomaTreatment佐伯忠賜朗*相原一*———————————————————————-Page2756あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(6)のようなFP親和性がより高い薬剤ではFP受容体が主たる眼圧下降作用を担っている可能性が示唆されていたが,図2のようにFP親和性の低いウノプロストンやfreeacidにならないまま作用する可能性のあるビマトプロストの眼圧下降の受容体レベルでの作用は明確ではなかった.しかし,PG関連薬によるマウスの眼圧下降作用が確認されたことから7,8),FP受容体欠損マウスを用いて眼圧下降作用を確認したところ,5剤すべての眼圧下降作用が消失したため,PG関連薬の初期シグナルとしてマウスではFP受容体が必須であることが確認された6).最近ではビマトプロストがカンナビノイド受容体を介して眼圧下降作用を惹起する可能性も報告されており9),ウノプロストンとビマトプロストについては完全にFP受容体のみを介するとは言い難い.III房水動態への影響開発当初より,房水動態の研究からラタノプロストは房水流量を変化させず,房水流出増大によって,眼圧下降をもたらすことが指摘され10),房水流出のうち線維柱帯経路からの流出よりもぶどう膜強膜路からの流出増大による影響の大きいことがプロスト系では示唆されていII作用機序PGF2a誘導体のうちプロスト系4剤は,FP以外のプロスタグランジン受容体にも親和性をもち(図2),それらが眼圧下降に関与する可能性もあるが,眼圧下降作用は,おもにFP受容体を介することが示唆されている6).しかし,ウノプロストンはどのプロスタノイド受容体に対しても非常に親和性が低いことが特徴である.一方,プロスト系のビマトプロストは末端がアミド結合であり,プロスタマイドとして別系統のものと位置づけている研究者もいる.さらに,ビマトプロスト角膜のアミダーゼによる加水分解が低い可能性から,分解されずにプロスタマイドとして直接作用する可能性が否定できないが,現在までにプロスタノイド受容体と異なるプロスタマイド受容体は一切同定されていないので,ビマトプロストの作用機序は現在のところ加水分解されたfreeacid体がFPに作用すると考えざるをえない.FP受容体を介した眼圧下降基本構造がFP受容体に親和性の高いPGF2aであったことから,当初よりラタノプロストやトラボプロスト<プロストン系><プロスト系>EsteraseEsteraseEsteraseEsteraseIsopropylunoprostoneAmidasePGF2aisopropylesterLatanoprostTravoprostHOHOHOHOOHOHOOHOHOOHOHOHOOOHOHOOOOOFFNHOOHOHOOHCF3OOOBimatoprostTa?uprost図1プロスタグランジン関連薬の構造式———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008757(7)スメタロプロテイナーゼ(matrixmetalloproteinase:MMP)によって代謝され,MMPは内因性の阻害因子(tissueinhibitorofmetalloproteinase:TIMP)によって阻害される.TIMPは活性型MMPと1:1で複合体を形成してその活性を阻害するもので,すなわちMMPとTIMPの両者のバランスによってECMの恒常性が保たれていると考えられる.これまでにラタノプロストをはじめとするFP受容体作動薬と,房水流出路におけるMMPおよびTIMPの変化の関係が報告されており,房水流出増大の機序として示唆されている1421).ラタノプロスト投与によって,MMP-1,3は増加のみが報告されているが,MMP-2,9に関しては不変ないしは減少の報告もあり,TIMPに関してはMMP増加に対応する反応性の変化が考えられる.ただし,MMPによるECMの変化にはある程度のる11,12)が,FP受容体刺激以降ぶどう膜流出増大効果までの間の機序は完全には解明されていない.また,最近トラボプロストがヒトのoutowfacilityを増加させる一方,ぶどう膜流出は有意に変化させなかったとの報告もなされており13),線維柱帯路の流出改善も行われている可能性が高い.いずれにしろ,房水動態レベルでは房水流出改善であることは間違いない.PG関連薬のぶどう膜強膜路の流出改善機序動物組織を構成する細胞は,細胞外マトリックス(extracellularmatrix:ECM)とよばれる構造体により接着,固定されている.房水流出抵抗は,このプロテオグリカンやコラーゲンなどに代表されるECMによっておもに規定されると考えられている.ECMは,通常の蛋白分解酵素では容易に分解されず,おもにマトリックLatanoprostacidTravoprostacidPGF2aFPTPIPDPEP4EP3EP2EP1FPTPIPDPEP4EP3EP2EP1FPTPIPDPEP4EP3EP2EP1FPTPIPDPEP4EP3EP2EP1FPTPIPDPEP4EP3EP2EP1FPTPIPDPEP4EP3EP2EP1BimatoprostacidTa?uprostacidUnoprostoneacid10-1010-710-410-110-1010-710-410-110-1010-710-410-110-1010-710-410-110-1010-710-410-110-1010-710-410-1<プロスト系><プロストン系>図2プロスタノイド受容体への親和性———————————————————————-Page4758あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(8)2.充血比較的頻度の高い副作用である.主剤のほかに防腐剤などの関与も考えられるが,主としてFP親和性の強いものほど充血が強い傾向がある.半年以上の長期使用により,徐々に頻度が減ったとの報告もある27).3.多毛眼瞼周囲の多毛や,睫毛の太さ・長さ・密度の増大が報告されている28).4.角膜上皮障害点状表層角膜炎,角膜びらんなどの報告がある.防腐剤の関与も考えられ,b-blockerとの併用で,頻度が増すとの指摘がある.これらの比較的頻度の高い副作用についてまとめると,表1のようになる.これらの副作用に関しては,FP受容体親和性の高い薬剤(図2)に頻度の高い傾向が疑われることから,少なくとも一部は,主作用同様にFP受容体の関与する可能性が高い.5.角膜上皮ヘルペス臨床的にラタノプロスト29),実験(家兎)的にはウノプロストンによっても30),単純ヘルペス性角膜炎の発症・再燃の惹起される可能性が多数指摘されているが,機序は不明である.時間がかかることから,薬剤投与後12時間で現れるPG製剤の眼圧下降効果のすべてを説明することがむずかしい.この点については,ヒト毛様体平滑筋にも多くのFP受容体発現が示されていることから22),毛様体平滑筋の弛緩と細胞間隙の拡大を機序とする説もあり23),今後さらなる解明が望まれる.IV副作用図2に示したように,各製剤ごとにFP受容体への親和性に加えて他のプロスタノイド受容体への親和性にも差がある.これが眼圧下降効果や種々の副作用発現に影響している可能性も考えられる.過去においてラタノプロストもPGF2a-isopropylesterの17位に,フェニル基を導入することで結膜充血,刺激感などの副作用軽減を図った経緯があり,図2からはPGF2aのFPおよびEP受容体に対する幅広い親和性と,それに比較してラタノプロストのFP受容体に対する選択性の高まりが窺われる.体内代謝が速く,血中半減期はラタノプロストでは約15分であることが知られ,全身的副作用のないことが利点とされるが,局所に関しては以下の副作用がよく知られている.1.色素沈着メラニン産生チロシナーゼmRNAの発現促進によるメラニン色素の増加24,25)が機序として考えられている.虹彩,眼瞼に色素沈着をきたすが,結膜に関しては報告がない.眼瞼に関しては可逆的(投与中止により,退色)だが,虹彩に関しては不可逆との報告がある26).表1頻度の高い副作用比較トラプロストのたし製剤ラタノプロスト用イプロルノプロストン副作用膜充血眼色素沈着色素沈着頻度角膜角膜眼多毛頻度ンル文り用———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008759(9)でFP受容体への親和性の高いことが窺える.FP以外では,EP1およびEP3に若干の親和性を示すものの(unoprostoneacidを除く),どれもFP受容体への特異性の高いことが示されている.一方,FP受容体の情報伝達系路としてGTP結合蛋白(Gq,Gq/11)→PLC(phospholipaseC)→DAG(dia-cylglycerol)およびIP3(inositol1,4,5-trisphosphate)→PKC(proteinkinaseC)活性化およびCa2+増加→蛋白リン酸化などによる作用発現が示唆されており39,40),FP受容体以降の伝達経路に存在するCa2+産生量やイノシトールリン脂質代謝率からFP受容体刺激薬の細胞内活性を評価した報告もある4042).この評価系によれば,起こしうる最大反応によって示唆される細胞内活性の高さはtravoprostacid>latanoprostacid>bimatoprostacid>unoprostoneacidの順となる.さらに,最大反応の半分に達する際の濃度(EC50)から推察されるFP受容体親和性の高さはtravoprostacid>bimatoprostacid>latanoprostacid>unoprostoneacidの順となり,前述のbindingassayによる結果と矛盾しない.ただしこれらは,あくまでもinvitroのデータ比較であり,実際の眼圧下降までのシグナルは解明されていないので,invivoでの眼圧下降効果に対する評価とは異なる.実際の眼圧の下降効果によるトラボプロスト,ラタノプロスト,ビマトプロストの比較結果を示す.表2は原発開放隅角緑内障(POAG),高眼圧症(OH)を対象とした多数の報告に基づいたmeta-analysis43)を引用したものである.3剤とも30%前後の良好な眼圧下降を示すが,薬剤間の差異はこの結果からはあまり明らかでない.これらプロスト系製剤にはあまり顕著な眼圧下降作6.血管透過性亢進無水晶体眼におけるエピネフリン黄斑症に似て,ラタノプロスト投与眼でも胞様黄斑浮腫(CME)や前部ぶどう膜炎の発生率増加が多数指摘された31).CMEについては,無水晶体眼および眼内レンズ眼で特に発生しやすいことが懸念された32)が,発生率がそれほど高くないこと33)や,前房水フレア値に変化がないこと34)などから関係を疑問視する報告もある35).また他の緑内障点眼薬においては,防腐剤塩化ベンザルコニウム(ben-zalkoniumchloride:BAC)の関与も疑われている36).一方で,BACを含有しないトラボプロスト(トラバタンズR)によるCME発症を示唆する報告もある37).したがって血管透過性亢進については完全な結論が得られていない.副作用に関してはいずれも念頭に置きつつ有益性投与を行う必要があると思われる.特に,上記の発生率が高い副作用に関しては,前もって言及しておくことが,信頼関係およびコンプライアンス向上の点からも望まれる.V眼圧下降作用薬剤の構造ごとに,FP受容体への親和性(受容体への結合のしやすさ)が異なり,細胞内活性(受容体に結合した後,細胞内情報伝達を経て作用を発現させる強さ)もそれぞれ異なる(たとえば,親和性が高くても細胞内活性が0に近ければ,それは阻害薬となる).もちろん細胞内活性も測定するシグナルにより異なる.プロスタノイド受容体に対する各製剤の親和性を図2に示す.図は各プロスタノイド受容体を発現した種々の細胞におけるbindingassayの結果である.各プロスタノイド受容体刺激薬PGF2a(FP),PGE2(EP1-4),PGD2(DP),Iloprost(IP),SQ29548(TP)と各製剤を競合させ,その際の製剤による阻害定数(Ki)を評価,プロットしたものである.すなわちKi値が小さいほうがその受容体に対する親和性が高く,グラフの外側にいくほど親和性が高いことを示している.なかでも同一スタディ内でのFP受容体に対する各Ki値は,unoprostoneacid>latanoprostacid>bimato-prostacid>travoprostacidの順に大きく,この逆の順表2プロスト系薬剤の眼圧下降効果比較点眼薬文献り———————————————————————-Page6760あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(10)い可能性も示唆されている.眼圧以外の要素としては,日本で上市されたトラボプロストの製剤,トラバタンズRは,BACを含まず,sof-ZiaRというイオン緩衝システムによる抗菌効果を保っているのが特徴である.上皮障害低下が期待される一方,副次的に角膜浸透性の低下などにより眼圧効果が低下する懸念もあったが,BACの有無で眼圧下降効果に差がないことが示されており48),他剤と比較しても遜色ないことが報告されている.トラボプロストは,ラタノプロストの効果が不十分であった症例(ノンレスポンダー)に対してもさらに眼圧を低下させる可能性があり,これまでは他系統の薬剤に変更せざるをえなかった症例に対しても,PG関連薬による治療継続の可能性を示すものとして,注目に値する.この点に関してはもちろん,トラボプロスト無効症例にラタノプロストが有効な可能性も考えられ,今後の症例増加とともに検討が必要と思われる.これら2種を含め製剤としては,基剤やpH,保存温度などの特徴があるので,よく理解することが重要である.表3に各製剤の概要を示した.おわりに今回おもに比較したプロスト系トラボプロスト,ラタノプロスト,ビマトプロストの3剤において,薬理学的な差ほど臨床的なデータに著明な差がみられないのは,PG製剤の副作用の一部は主作用と同じくFP受容体を介している可能性があり,臨床使用可能な程度に副作用用の相違がないが,プロストン系のウノプロストンは眼圧下降効果に劣る44,45).ただし,このようにプロスト系製剤は薬理学的に類似していても微妙に薬理作用が異なっている可能性が高く,あるプロスト系製剤の効果が低くても他の製剤を試す価値は十分あると考える.VI製剤の差続いて,最近特に関心が高いと思われるトラボプロストとラタノプロストの比較について述べる.まず国内第Ⅲ相試験の正常眼圧緑内障(NTG)を含む開放隅角緑内障(OAG)およびOHを対象とした無作為化単盲検並行群間比較試験では,1日1回夜の6カ月間連続投与,最終点眼1214時間後の眼圧測定において,ベースライン眼圧1536mmHg(平均約20)に対してトラボプロスト投与群(70例)は5.1mmHg,ラタノプロスト投与群(66例)は4.8mmHgで有意差はなかった.別の病型として,周辺虹彩切除後も眼圧の高い(>19mmHg)慢性閉塞隅角緑内障に対する効果の報告があり46),2剤ともに有意に眼圧下降効果を有するものの,やはり2剤間に有意差はないとする結果であった.さらに,効果持続時間の比較として,OAGに対する2週間連投の後,最終点眼後44時間までの眼圧比較結果によれば47),24時間後の時点でトラボプロスト点眼群がラタノプロスト点眼群より有意に(p=0.012,One-WayRepeated-MeasuresANOVA)眼圧値が低かったとされ,すなわちトラボプロストのほうが効果持続の長表3プロスタグランジン関連薬一覧(開発中を含む)ウノプロストンラタノプロストトラボプロストビマトプロストタフルプロスト分子量382.5432.6500.5415.6452.5臨床濃度0.12%0.005%0.004%0.03%*0.0015%*系統プロストン系プロスト系プロスト系プロスト系プロスト系開発国日本米国米国米国日本国内発売1994年10月1999年5月2007年10月申請中申請中投与回数1日2回1日1回1日1回1日1回1日1回保存条件115℃,遮光28℃,遮光125℃1525℃*未発表使用期限3年3年18カ月3年未発表防腐剤BAC0.005%BAC0.02%sofZiaR(イオン緩衝系防腐剤)BAC0.005%*未発表BAC:塩化ベンザルコニウム.*:海外データ.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008761(11)prostoneisopropyl.JOculPharmacolTher17:433-441,20015)NomuraS,HashimotoM:Pharmacologicalprolesoflatanoprost(Xalatan),anovelanti-glaucomadrug.NipponYakurigakuZasshi115:280-286,20006)OtaT,AiharaM,NarumiyaSetal:Theeectsofprosta-glandinanaloguesonIOPinprostanoidFP-receptor-decientmice.InvestOphthalmolVisSci46:4159-4163,20057)AiharaM,LindseyJD,WeinrebRN:Reductionofintraoc-ularpressureinmouseeyestreatedwithlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci43:146-150,20028)OtaT,MurataH,SugimotoEetal:Prostaglandinana-loguesandmouseintraocularpressure:eectsoftau-prost,latanoprost,travoprost,andunoprostone,consider-ing24-hourvariation.InvestOphthalmolVisSci46:2006-2011,20059)RomanoMR,LogranoMD:EvidencefortheinvolvementofcannabinoidCB1receptorsinthebimatoprost-inducedcontractionsonthehumanisolatedciliarymuscle.InvestOphthalmolVisSci48:3677-3682,200710)AlmA,VillumsenJ:PhXA34,anewpotentocularhypotensivedrug.Astudyondose-responserelationshipandonaqueoushumordynamicsinhealthyvolunteers.ArchOphthalmol109:1564-1568,199111)TorisCB,CamrasCB,YablonskiME:EectsofPhXA41,anewprostaglandinF2alphaanalog,onaqueoushumordynamicsinhumaneyes.Ophthalmology100:1297-1304,199312)ZiaiN,DolanJW,KacereRDetal:Theeectsonaque-ousdynamicsofPhXA41,anewprostaglandinF2alphaanalogue,aftertopicalapplicationinnormalandocularhypertensivehumaneyes.ArchOphthalmol111:1351-1358,199313)TorisCB,ZhanG,FanSetal:Eectsoftravoprostonaqueoushumordynamicsinpatientswithelevatedintra-ocularpressure.JGlaucoma16:189-195,200714)ZhongY,GaoJ,YeWetal:Eectoflatanoprostacidandpilocarpineonculturedrabbitciliarymusclecells.OphthalmicRes39:232-240,200715)OhDJ,MartinJL,WilliamsAJetal:Analysisofexpres-sionofmatrixmetalloproteinasesandtissueinhibitorsofmetalloproteinasesinhumanciliarybodyafterlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci47:953-963,200616)HusainS,JafriF,CrossonCE:AcuteeectsofPGF2al-phaonMMP-2secretionfromhumanciliarymusclecells:aPKC-andERK-dependentprocess.InvestOph-thalmolVisSci46:1706-1713,200517)HinzB,RoschS,RamerRetal:Latanoprostinducesmatrixmetalloproteinase-1expressioninhumannonpig-mentedciliaryepithelialcellsthroughacyclooxygenase-2-dependentmechanism.FASEBJ19:1929-1931,200518)WeinrebRN,LindseyJD,MarchenkoGetal:Prostaglan-を抑えようとすれば主作用もある程度制限されることを反映しているからかもしれない.PG関連薬の眼圧下降作用についてはPGD249,50),PGE251,52)など,FP以外のプロスタノイド受容体刺激による眼圧下降も示唆されており,将来各受容体の作用が解明され,FP受容体以外の眼圧に作用する受容体,受容体サブタイプに対する親和性および細胞内活性を高めた薬剤開発が期待され,さらに既存のFP受容体刺激薬と併用することで,眼圧下降効果の増強,ノンレスポンダーの減少や副作用軽減を図れる可能性があり,PG関連薬はさらに発展する分野であると思われる.現状では,副作用が少ないが点眼2回で眼圧下降効果に劣るプロストン系ラタノプロストと,副作用が出やすいものの点眼1回で第一選択薬となっているプロスト系製剤の特徴をよく捉え,患者の不利益にならないように処方することが大切である.日本に多いNTGに対してのトラバタンズRを含めた今後導入予定の薬剤の効果は今後のデータを待ちたいが,少なくともラタノプロストの10年の実績から得られたプロスト系の第一選択眼圧下降薬としての地位は揺るぎ難く,プロスト系PG関連薬のなかから患者に応じて選択を行っていくのが,処方の第一段階としてのポイントであろう.選択肢が増えてきたことで,薬物治療での眼圧コントロールの可能性が少しでも向上するのは喜ばしいことであり,それだけにわれわれも十分な知識をもってPG関連薬を使い分ける必要がある.文献1)WoodwardDF,KraussAH,ChenJetal:Pharmacologicalcharacterizationofanovelantiglaucomaagent,Bimato-prost(AGN192024).JPharmacolExpTher305:772-785,20032)SharifNA,KellyCR,CriderJYetal:OcularhypotensiveFPprostaglandin(PG)analogs:PGreceptorsubtypebindinganitiesandselectivities,andagonistpotenciesatFPandotherPGreceptorsinculturedcells.JOculPhar-macolTher19:501-515,20033)WoodwardDF,KraussAH,ChenJetal:Thepharmacol-ogyofbimatoprost(Lumigan).SurvOphthalmol45(Suppl4):S337-345,20014)BhattacherjeeP,PatersonCA,PercicotC:Studiesonreceptorbindingandsignaltransductionpathwaysofuno———————————————————————–Page8762あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008cantcystoidmacularedemainpseudophakicandaphakicpatientswithglaucomareceivinglatanoprost.JGlaucoma9:317-321,200034)LindenC,NuijaE,AlmA:EectsonIOPrestorationandblood-aqueousbarrierafterlong-termtreatmentwithlatanoprostinopenangleglaucomaandocularhyperten-sion.BrJOphthalmol81:370-372,199735)SchumerRA,CamrasCB,MandahlAK:Latanoprostandcystoidmacularedema:isthereacausalrelationCurrOpinOphthalmol11:94-100,200036)MiyakeK,OtaI,IbarakiNetal:Enhanceddisruptionoftheblood-aqueousbarrierandtheincidenceofangio-graphiccystoidmacularedemabytopicaltimololanditspreservativeinearlypostoperativepseudophakia.ArchOphthalmol119:387-394,200137)EsquenaziS:CystoidmacularedemainapseudophakicpatientafterswitchingfromlatanoprosttoBAK-freetra-voprost.JOculPharmacolTher23:567-570,200738)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:Pharmacologi-calcharacteristicsofAFP-168(tauprost),anewpros-tanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,200439)ColemanRA,SmithWL,NarumiyaS:InternationalUnionofPharmacologyclassicationofprostanoidreceptors:properties,distribution,andstructureofthereceptorsandtheirsubtypes.PharmacolRev46:205-229,199440)GrinBW,WilliamsGW,CriderJYetal:FPprostaglan-dinreceptorsmediatinginositolphosphatesgenerationandcalciummobilizationinSwiss3T3cells:apharmaco-logicalstudy.JPharmacolExpTher281:845-854,199741)HellbergMR,SalleeVL,McLaughlinMAetal:Preclinicalecacyoftravoprost,apotentandselectiveFPprosta-glandinreceptoragonist.JOculPharmacolTher17:421-432,200142)SharifNA,WilliamsGW,KellyCR:BimatoprostanditsfreeacidareprostaglandinFPreceptoragonists.EurJPharmacol432:211-213,200143)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringeectsofallcommonlyusedglauco-madrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200544)SusannaRJr,GiampaniJJr,BorgesASetal:Adouble-masked,randomizedclinicaltrialcomparinglatanoprostwithunoprostoneinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.Ophthalmology108:259-263,200145)AungT,ChewPT,YipCCetal:Arandomizeddouble-maskedcrossoverstudycomparinglatanoprost0.005%withunoprostone0.12%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthal-mol131:636-642,200146)ChenMJ,ChenYC,ChouCKetal:Comparisonoftheeectsoflatanoprostandtravoprostonintraocularpres-sureinchronicangle-closureglaucoma.JOculPharmacoldinFPagonistsaltermetalloproteinasegeneexpressioninsclera.InvestOphthalmolVisSci45:4368-4377,200419)AnthonyTL,LindseyJD,WeinrebRN:Latanoprost’seectsonTIMP-1andTIMP-2expressioninhumancili-arymusclecells.InvestOphthalmolVisSci43:3705-3711,200220)KimJW,LindseyJD,WangNetal:Increasedhumanscleralpermeabilitywithprostaglandinexposure.InvestOphthalmolVisSci42:1514-1521,200121)el-ShabrawiY,EckhardtM,BergholdAetal:Synthesispatternofmatrixmetalloproteinases(MMPs)andinhibi-tors(TIMPs)inhumanexplantorganculturesaftertreat-mentwithlatanoprostanddexamethasone.Eye14(Pt3A):375-383,200022)DavisTL,SharifNA:Quantitativeautoradiographicvisu-alizationandpharmacologyofFP-prostaglandinreceptorsinhumaneyesusingthenovelphosphor-imagingtechnol-ogy.JOculPharmacolTher15:323-336,199923)PoyerJF,Millar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β 遮断薬-持続型点眼薬の特徴

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSよく,点眼回数が少ない点眼薬であるといえる.b遮断薬は従来1日2回点眼として発売されており,その有効性は十分証明されていたが,ゲル化製剤を用いた持続型b遮断薬が開発されたことにより,2回点眼と同等1)あるいはそれ以上の眼圧下降効果2)が期待でき,点眼コンプライアンスが改善できることが明らかとなっている1,2).しかしながら,血圧や脈拍数などの全身的副作用に関しては有意な差はなく,全身的副作用軽減の目的でゲル化製剤を用いる意味はない1).II製剤特性現在使用可能な持続型b遮断薬は,マレイン酸チモロール(timololmaleate)としてはチモプトールRXE0.25%,0.5%とリズモンRTG0.25%,0.5%,塩酸カルテオロール(carteololhydrochloride)としてはミケランRLA,1%,2%がある(表1).チモプトールRXEは,ジェランガムが涙液中のNa+イオンと反応してゲル化し,リズモンRTGは熱応答性のメチルセルロースにクエン酸ナトリウムとポリエチレはじめにb遮断薬は1970年代に発売された緑内障点眼薬で,おおむね緑内障病型によらず有意な眼圧下降効果を示すことから緑内障点眼薬の第一選択として広く使用されてきた.しかし,b遮断薬点眼後の血漿中濃度が同薬剤の全身投与の数十分の一以下であるのに,b受容体占有率は点眼後に89割を示す薬剤もあるとの報告があり,点眼治療でも循環器系や呼吸器系に対する影響を起こしうることが明らかとなっている.特に,高齢者の緑内障患者に対して,b遮断薬点眼を処方する場合には,自覚症状がなくても閉塞性肺疾患,心不全,徐脈が隠れていることがあり,点眼開始による全身副作用の発現には十分注意が必要である.ここでは,1日1回点眼(以下,持続型)b遮断薬点眼を選択する理由,製剤特性,点眼推奨時間について解説したい.I持続型b遮断薬点眼を選択する理由理想的な緑内障点眼薬とは,眼圧下降作用の有効性があり,副作用が少なく,薬剤耐性が少なく,さし心地が(3)753*YasumasaOtori:国立病院機構大阪医療センター眼科〔別刷請求先〕大鳥安正:〒540-0006大阪市中央区法円坂2-1-14国立病院機構大阪医療センター眼科特緑内障点眼薬選択のポイントあたらしい眼科25(6):753754,2008b遮断薬─持続型点眼薬の特徴Beta-Blockers:CharacteristicofTopicalLong-ActingDrugs大鳥安正*表1持続型b遮断薬の種類薬剤剤イントト遮ンンン遮ントンン遮ンン———————————————————————-Page2754あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(4)点眼液の点眼推奨時間は,朝であり,他の薬剤を併用している場合には10分間の間隔をあけて,最後に点眼するように指導する.文献1)村瀬宏美,谷口徹,山本哲也ほか:ゲル化剤添加チモロール点眼液と従来のチモロール点眼液との比較.あたらしい眼科18:381-383,20012)徳川英樹,大鳥安正,森村浩之ほか:チモロールからチモロールゲル製剤への変更でのアンケート調査結果の検討.眼紀54:724-728,20033)TopperJE,BrubakerRF:Eectsoftimolol,epinephrine,andacetazolamideonaqueousowduringsleep.InvestOphthalmolVisSci26:1315-1319,1985ングリコールを添加することにより体温でゲル化する.ミケランRLAは,昆布の成分であるアルギン酸を添加することにより眼表面での滞留性が向上する.一般的に持続型点眼薬は点眼後には数分間霧視やべたつき感があることをあらかじめ伝えておくことが重要である.III点眼推奨時間b遮断薬の眼圧下降機序はおもに房水産生の抑制によるもので,毛様体無色素上皮に存在するb受容体の遮断が関与していると考えられている.夜間のb受容体活性は低下しており,房水産生は通常50%程度低下しているとされ,一般的に夜間のb遮断薬の眼圧下降作用はないとされている3).したがって,持続型b遮断薬

序説:緑内障点眼薬─選択のポイント

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSの3薬剤が基本となる.本特集では,各種眼圧下降点眼薬の選択のポイントを薬理学的側面と眼圧変動,副作用,および対象疾患の3点から焦点を当てることにした.まず,主要3薬剤と将来性のあるa受容体作動薬の特徴と副作用を,さらに,生理的変動である眼圧日内変動への薬剤の影響と,副作用として避けることのできないオキュラーサーフェスへの影響を再確認したい.また,日本人の緑内障のほとんどといっても過言ではない正常眼圧緑内障への薬物選択,まれではあるが治療に十分な配慮を要する小児,妊婦への処方,さらに全身疾患も多く副作用コンプライアンスの面での配慮を要する高齢者,必ず念頭に入れるべき種々の続発緑内障患者,といった対象患者に応じた処方のポイントを整理することも試みた.ご執筆いただいたのは,第一線で多くの患者に接している気鋭の若い先生方ばかりである.本特集により,患者と生涯向き合って治療に当たらなくてはいけない慢性神経変性疾患である緑内障に対して,患者に優しく,的確な眼圧下降が得られる,よりきめ細かい緑内障薬物療法の一助になっていただければ幸いである.緑内障治療の基本は,高眼圧をきたす原疾患があればその治療を行い,さらに正常値でも緑内障性視神経障害の最大の危険因子である眼圧に対する眼圧下降治療を行うことである.眼圧下降治療は薬物治療が優先であり,その際には最小限の薬剤で最大の眼圧下降が得られるように,一方では副作用,コンプライアンス,年齢,社会的経済的な側面も考慮して患者のQOL(qualityoflife)を損ねないように,患者の眼とその人を十分に見据えたうえでの,適切な薬剤選択が必要である.幸いなことに1990年代後半から数多くの眼圧下降点眼薬が上市された結果,さまざまな組み合わせの薬物治療が可能となった.しかし,患者に本当に利益のある選択肢はそう多くはない.慢性疾患で生涯にわたり適切に管理する必要がある緑内障の薬物治療を行うには,種々の薬物に精通しておく必要があるが,8種類もある薬剤を理解しておくのは容易ではなく,また同じ作用点をもつ薬にも多種多様性があることも踏まえておく必要がある.薬物選択としては,第一選択薬として確立したプロスタグランジン関連薬プロスト系の薬剤,歴史の長いb遮断薬,使いやすい炭酸脱水酵素阻害薬,(1)751*MakotoAihara:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚運動機能医学講座眼科学あたらしい眼科25(6):751,2008緑内障点眼薬─選択のポイントTopicalOcularHypotensiveDrugs─PointsinChoosing相原一*

ステレオ視神経乳頭陥凹解析における臨床経験による差の検討

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(165)7410910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(5):741744,2008cはじめに緑内障診療においては視神経乳頭の評価が重要であるが,その評価には検者の技量が必要である.近年,HRTII(HeidelbergRetinaTomographII,HeidelbergEngineering社)やOCT(光干渉断層計)などの定量的解析により経験年数によらない視神経乳頭の客観的評価が可能となってきている14)が,これらは高額な機器でありすべての施設に設置できるものではない.従来の眼底写真を用いた視神経乳頭の半〔別刷請求先〕木村健一:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学Reprintrequests:KenichiKimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-0841,JAPANステレオ視神経乳頭陥凹解析における臨床経験による差の検討木村健一*1,2森和彦*1池田陽子*1成瀬繁太*1松田彰*1今井浩二郎*1木下茂*1*1京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学*2京都第一赤十字病院眼科EvaluatingOptic-DiscNerveHeadinGlaucomaPatientsviaStereoDiagnosisResearchSystem:ClinicalExperienceAectsResultsKenichiKimura1,2),KazuhikoMori1),YokoIkeda1),ShigetaNaruse1),AkiraMatsuda1),KojiroImai1)andShigeruKinoshita1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)KyotoFirstRedCrossHospital目的:HRTII(HeidelbergRetinaTomographII)と通常のモノラル(Mo),ステレオ(St)写真から得られたC/D(陥凹乳頭)面積比を臨床経験の異なる検者で比較検討し,誤差が生じやすい症例を検証した.対象および方法:緑内障性視神経乳頭ステレオ写真10例10眼を臨床的経験の異なる9名(臨床経験なし,10年未満,10年以上)の検者に提示し,MoとStそれぞれに乳頭縁と陥凹縁を引き,HRTII画像から計算したC/D面積比と比較検討した.結果:手動解析とHRT解析によるC/D面積比の差は症例ごとのばらつきが大きかった.Mo,StともにHRTIIの値との差が0.1以内に収まった症例は約半数であり,臨床経験を積むに従って改善した.HRTII解析でのC/D面積比が大きい症例(0.6以上)では,手動解析で過小評価しやすかった.結論:臨床経験の浅い検者では手動解析において乳頭陥凹の大きい症例を過小評価しやすく,3次元乳頭解析装置はトレーニングシステムとして有用である.ToinvestigatetheresultsobtainedbyexaminerswithvaryinglevelsofclinicalophthalmologyexperiencewhousedHeidelbergRetinaTomographyII(HRTII)oroptic-discphotographs(bothmonocularandstereo)toevalu-atethecup-to-disc(C/D)ratioofglaucomapatients,10optic-discphotographsofeitheramonocularphotoorofstereophotopairswereprepared,and9ophthalmologistswithvaryinglevelsofclinicalexperiencewereenrolled.Eachexaminer’sclinicalexperiencewasclassiedintooneofthefollowing3grades:1)none,2)lessthantenyears,and3)morethantenyears.Eachophthalmologistdrewthediscandcupmargin,andcalculatedtheC/DarearatiousingthenewsoftwaredevelopedatCardiUniversity(Cardi,UK).TheresultswerethencomparedtomeasurementresultsobtainedviaHRTII.Intheresultsforsomepatients,therewerelargedierencesbetweenthetwotypesofC/Dratioevaluationmethods.Fornearly50%ofthepatientdata,theresultantC/DratiodierencesbetweenHRTIIandCardisoftwarewerewithin0.1.Examinerswithmoreclinicalexperienceobtainedconsistentresults.Incaseswithmorethan0.6largerC/Dratio,theCardisoftwaretendedtogivesmall-ermeasurements.ExaminerswhohadlessclinicalexperiencetendedtoevaluatealargerC/Dratioasbeingsmall-er,evenwhenusingthestereophotopairs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):741744,2008〕Keywords:視神経乳頭解析,視神経乳頭陥凹比,HeidelbergRetinaTomographII,眼底写真,緑内障.opticnerveheadanalysis,cup-to-discratio,HeidelbergRetinaTomographII,opticdiscphotograph,glaucoma.———————————————————————-Page2742あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(166)HRTII解析とStereoDxResearchR解析の一致率の検討結果を図3に示す.横軸はHRTIIによるC/D面積比,縦軸はC/D面積比の差分絶対値の平均を表し,各指標は各症例各解析における3検者の平均を示す.ステレオ,モノラル解析を含めた全解析結果において,HRTIIによるC/D面積比との差分絶対値の平均が0.10以内に収まったものは約半数(26/60)であり,臨床経験を積むに従って差分は減少した.臨床経験による差が大きいC/D面積比0.6以上の症例(n=4)について各解析での結果を比較したところ(図4),経験年数が浅いほどC/D面積比を過小評価しやすい傾向があり,モノラル解析では「経験なし」と「10年未満」および「経験なし」と「10年以上」との間で,ステレオ解析では「経験なし」と「10年以上」との間で有意差を認めた(Tukey-Kramer検定,p<0.05).定量的解析57)では検者の臨床経験年数により結果が異なることが報告されている8).今回筆者らは英国Cardi大学において開発された視神経乳頭の3次元解析ソフトStereoDxResearchRを用いたステレオ乳頭解析9,10)を試み,モノラル解析とステレオ解析の結果をHRTIIによる解析結果と比較し,臨床経験年数によってどのような違いが出るかを検討した.I対象および方法臨床的経験年数の異なる9名(臨床経験なし群3名,10年未満群3名,10年以上群3名)の検者がランダムに配置した広義原発開放隅角緑内障患者の視神経乳頭写真10例10眼〔平均年齢68.2±8.1歳,平均屈折度(等価球面値)2.0±2.7D,meandeviation(MD)値11.4±4.9dB〕を解析し,同じ10眼のHRTII画像から計算したC/D(陥凹乳頭)面積比と比較検討した.眼底写真はTRC-50DXカメラ(トプコン社)を用い,平行法によるステレオ写真撮影で得られた画角20°の2枚のデジタル画像を使用した.10症例は可能な限り乳頭の大きさ,形状,緑内障病期の異なる緑内障性視神経乳頭を含めることを心がけた.眼底写真を用いた解析は,モノラル写真とステレオ写真それぞれをモニター上(Moni-torZscreen2000series,StereoGraphic社)に提示し,画面上でマウスを用いてトレースした乳頭縁と陥凹縁から乳頭面積と陥凹面積を算出した後にC/D面積比を計算した.ステレオ立体写真の合成ならびにC/D面積比の計算には,京都府立医科大学と協力関係にある英国Cardi大学で開発された視神経乳頭3次元解析ソフトStereoDxResearchRを用いた.HRTII解析とStereoDxResearchR解析の一致率の検討は「HRTIIによるC/D面積比」と「各検者の解析したC/D面積比」の差分により行った.なお,データはすべて平均±標準偏差で示し,統計解析はWilcoxon符号順位検定ならびにTukey-Kramer検定を用いた.II結果対象となった全10症例,全検者のHRTIIによるC/D面積比と眼底写真によるC/D面積比の相関分布を図1に示す.症例によって検者間のばらつきの差が大きいものの,経験の少ない検者ほどC/D面積比を過小評価する傾向があった.特にC/D面積比が0.6を超える症例においてばらつきが顕著であった.図2にはモノラルおよびステレオ解析によるC/D面積比の臨床経験別の比較を示す.ステレオ,モノラル解析ともに経験なし群と10年以上群との間で有意差を認めた(Tukey-Kramer検定,p<0.05)が,各群ともステレオ解析とモノラル解析との間には有意差を認めなかった(Tukey-Kramer検定).C/D面積比(眼底写真)1.000.800.600.400.200.000.000.200.400.600.801.00C/D面積比(HRT-II):経験なしmono:経験なしstereo:10年未満mono:10年未満stereo:10年以上mono:10年以上stereo図1HRTIIによるC/D面積比と眼底写真によるC/D面積比の相関分布面積比経験**以上*<0.05図2モノラルおよびステレオ解析によるC/D面積比の臨床経験別の比較———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008743(167)眼軸長,画角の影響を受けにくいC/D面積比を用いたが,図1に示されるようにモノラル解析,ステレオ解析ともに症例ごとのばらつきが非常に大きく,視神経乳頭の定量的解析法としての本法の限界を示すものと考えられた.基準として用いたHRTIIによるC/D面積比も乳頭縁を決定する際に主観的誤差が生じうるため,臨床経験10年以上の検者のC/D面積比との間に大きな差が生じていた症例が存在する.今後はHRTIIIの新プログラムであるGPS(glaucomaproba-bilityscore)11)のように視神経乳頭縁を自動的に決定して検者の主観や誤差が入り込まない真の客観的解析法が望まれる.今回の症例を具体的に検討すると,図5aのように陥凹部と蒼白部がほぼ一致した症例では9名の検者全員がステレオ解析の差分0.1以内となった.しかしながら図5bのように陥凹部と蒼白部が一致せず血管の屈曲点で判断する必要がある症例では,臨床経験10年以上ではステレオ・モノラル解析ともに全員が差分0.1以内であったが,臨床経験10年未満の6名では一致率が低かった.上記のことから立体視によIII考按視神経乳頭解析に用いたStereoDxResearchRは京都府立医科大学と協力関係にある英国Cardi大学で開発された視神経乳頭3次元解析ソフトである.視神経乳頭を立体的に観察しながら陥凹縁と乳頭縁の境界線を引くことで高解像度の眼底写真を利用した視神経乳頭解析が可能である.また,付属装置としてStereoGraphic社製MonitorZscreen2000seriesを用いており,偏光眼鏡により複数の検者が解析中のステレオ画像を同時に検討することができるため,臨床経験が少ない検者に対する教育的利用も可能である.今回の検討において視神経乳頭陥凹の評価には屈折度数や差分絶対値の平均0.600.500.400.300.200.100.000.000.200.400.600.801.00C/D面積比:経験なしmono:経験なしstereo:10年未満mono:10年未満stereo:10年以上mono:10年以上stereo図3HRTII解析とStereoDxResearchR解析の一致率の検討結果面積比経験***以上*<0.05図4C/D面積比0.6以上の症例における各解析の結果図5典型例の視神経乳頭の写真a:陥凹部と蒼白部がほぼ一致した症例.b:陥凹部と蒼白部が一致せず,血管の屈曲点で判断する必要がある症例.———————————————————————-Page4744あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(168)経乳頭形状測定の比較.臨眼58:2175-2179,20044)杉山茂,小暮諭,柏木賢治ほか:眼底像を利用したOCT3000による視神経乳頭解析.あたらしい眼科23:797-799,20065)DichtlA,JonasJB,MardinCY:Comparisonbetweentomographicscanningevaluationandphotographicmea-surementoftheneuroretinalrim.AmJOphthalmol121:494-501,19966)杉本栄一郎,曽根隆志,塚本秀利ほか:眼底写真とHRTIIによる視神経乳頭解析の比較.臨眼59:939-942,20057)JonasJB,MardinCY,GrundlerAE:Comparisonofmea-surementsofneuroretinalrimareabetweenconfocallaserscanningtomographyandplanimetryofphotographs.BrJOphthalmol82:362-366,19988)杉本栄一郎,曽根隆志,塚本秀利ほか:眼底写真とHeidel-bergRetinaTomographIIを用いた緑内障専門医と研修医による視神経乳頭評価の比較.あたらしい眼科22:805-807,20059)SheenNJL,MorganJE,PoulsenJLetal:Digitalstereo-scopicanalysisoftheopticdiscevaluationofateachingprogram.Ophthalmology111:1873-1879,200410)MorganJE,SheenNJL,NorthRVetal:Discriminationofglaucomatousopticneuropathybydigitalstereoscopicanalysis.Ophthalmology112:855-862,200511)CoopsA,HensonDB,KwartzAJetal:Automatedanaly-sisofHeidelbergretinatomographopticdiscimagesbyglaucomaprobabilityscore.InvestOphthalmolVisSci47:5348-5355,2006るステレオ解析を用いたとしても,臨床経験の乏しい検者にとっては正確に陥凹縁を決定することが困難であり,特にC/D面積比の大きい症例ほど陥凹を過小評価しやすいことがわかった.臨床経験を積むに従ってそのばらつきは縮小していたことから,教育的トレーニングによってある程度のばらつきの収束は可能であり,本装置のような指導医と研修生が同時に立体視可能なシステムによるトレーニングの重要性を示唆しているものと考えられた.IV結論臨床経験の浅い検者では手動解析において乳頭陥凹の大きい症例では陥凹を過小評価しやすい.3次元乳頭解析装置はトレーニングシステムとして有用である.文献1)DreherAW,TsoPC,WeinrebRN:Reproducibilityoftop-ographicmeasurementsofthenormalandglaucomatousopticnerveheadwiththelasertomographicscanner.AmJOphthalmol111:221-229,19912)RohrschneiderK,BurkRO,KruseFEetal:Reproducibil-ityoftheopticnerveheadtopographywithanewlasertomographicscanningdevice.Ophthalmology101:1044-1049,19943)岩切亮,小林かおり,岩尾圭一郎ほか:光干渉断層計およびHeidelbergRetinaTomographによる緑内障眼の視神***

内境界膜下出血,網膜下出血を伴ったTerson 症候群の1例

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(161)7370910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(5):737740,2008cはじめにTerson症候群はくも膜下出血などによる頭蓋内圧亢進に合併する網膜硝子体出血で,高度の視力障害を伴うことがある.発症機序については不明の点があるが,一般的には頭蓋内圧の急激な亢進1)が脳脊髄液を介して視神経乳頭周囲のくも膜下腔の圧を上昇させ,網膜中心静脈を圧迫することにより,視神経乳頭,網膜の小静脈や毛細血管が破綻し出血が生じるものと考えられている24).網膜硝子体出血の形態はさまざまで35),内境界膜下出血69)を伴った場合,出血が大量であれば内境界膜を破って硝子体腔中へ出血が波及することがある.眼底の部位としては視神経乳頭近傍から黄斑部にかかるものが多く9),フルオレセイン蛍光眼底造影検査によって視神経乳頭近傍に蛍光漏出が認められた報告10,11)もある.今回筆者らはさまざまな形態の網膜硝子体出血を伴ったTerson症候群の1例を経験し,フルオレセイン蛍光眼底造影検査を行ったので報告する.I症例患者:57歳,女性.主訴:左眼視力低下.既往歴:特記すべきことなし.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2007年4月9日朝より頭痛があり近医を受診.待合室で突然意識消失をきたし,CT(コンピュータ断層撮〔別刷請求先〕牧野伸二:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShinjiMakino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPAN内境界膜下出血,網膜下出血を伴ったTerson症候群の1例牧野伸二反保宏信金上千佳自治医科大学眼科学教室SubinternalLimitingMembraneandSubretinalHemorrhageinaPatientwithTersonSyndromeShinjiMakino,HironobuTanpoandChikaKanagamiDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity57歳,女性がくも膜下出血に対するコイル塞栓術施行後,左眼の視力低下を主訴に受診した.矯正視力は右眼=1.2,左眼=0.07で,眼底は右眼にしみ状の網膜出血があり,左眼は後極部を中心に網膜前出血,一部黄褐色調の網膜下出血,中心窩耳下側にドーム状の内境界膜下出血,硝子体出血が認められた.両眼とも眼底出血は徐々に消退し,5カ月後には左眼は網膜色素上皮の変性に伴う色調変化が認められた.フルオレセイン蛍光眼底造影検査では,乳頭黄斑間の網膜色素上皮の変性に伴う過蛍光と中心窩鼻側の一部に蛍光漏出が認められたが脈絡膜新生血管はなかった.Ter-son症候群ではさまざまな形態の網膜硝子体出血を呈することがある.A57-year-oldfemalewhoexperiencedsubarachnoidhemorrhagereceivedcoilembolizationonthesameday.Afterrecoveringfromdisturbanceofconsciousness,shecomplainedofblurredvisioninherlefteye.Hercorrectedvisualacuitywas1.2righteyeand0.07left.Ophthalmoscopicexaminationrevealedpreretinalhemorrhageintheperipapillaryregion,dome-shapedsubinternallimitingmembranehemorrhageandsubretinalhemorrhageattheposteriorpoleinherlefteye.Herleftcorrectedvisualacuityimprovedto0.2at5monthsaftertheinitialvisit,andfunduscopyshoweddecreasedhemorrhage.However,uoreceinangiographyrevealedadyeleakagesiteatthepapillomacularregionandretinalpigmentepithelialatrophywasstilldetectedatthepre-existingsubinternallimit-ingmembraneandsubretinalhemorrhage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):737740,2008〕Keywords:Terson症候群,くも膜下出血,網膜硝子体出血.Tersonsyndrome,subarachnoidhemorrhage,vit-reoretinalhemorrhage.———————————————————————-Page2738あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(162)変化が認められた(図2).10月18日,フルオレセイン蛍光眼底造影検査およびインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査を行った.乳頭黄斑間の網膜色素上皮の変性に伴うwin-dowdefectによる過蛍光と中心窩鼻側の一部に蛍光漏出が認められた(図3)が,脈絡膜新生血管はなかった(図4).影)にてくも膜下出血を指摘され,当院脳神経外科に搬送された.同日,右椎骨動脈解離性動脈瘤に対してコイル塞栓術を施行.4月11日の抜管後より左眼の視力低下の自覚があり,5月9日当科を受診した.検査所見:視力は右眼=0.5(1.2×+1.0D(cyl2.0DAx80°),左眼=0.06(0.07×cyl1.75DAx95°)であった.前眼部に異常はなかった.眼底は右眼にしみ状の網膜出血が散在し,視神経乳頭下方に半円状の網膜前出血がみられた.左眼は視神経乳頭周囲から上方にかけて網膜前出血があり,黄斑部に一部黄褐色調に器質化した網膜下出血,中心窩耳下側にドーム状の内境界膜下出血および硝子体出血が認められた(図1).眼底が透見される程度の硝子体出血であったこと,網膜下出血があるもののすでに吸収過程にあったことから保存的に経過観察とした.5カ月後の9月27日の視力は右眼=0.7(1.2),左眼=0.1(0.2)であった.右眼の網膜出血は消退し,左眼の眼底出血も消退傾向で,網膜下出血,内境界膜下出血のみられた部位は網膜色素上皮の変性に伴う色調図1初診時の眼底写真上:右眼,下:左眼.右眼にしみ状の網膜出血,視神経乳頭下方に半円状の網膜前出血がみられる.左眼は視神経乳頭周囲に網膜前出血,黄斑部に網膜下出血,ドーム状の内境界膜下出血および硝子体出血が認められた.図2初診5カ月後の左眼眼底写真眼底出血はほぼ消退し,網膜下出血,内境界膜下出血した部位は網膜色素上皮の変性に伴う色調変化が認められた.図3フルオレセイン蛍光眼底造影写真左:造影早期,右:造影後期.乳頭黄斑間の網膜色素上皮の変性に伴うwindowdefectによる過蛍光と中心窩鼻側の一部に蛍光漏出が認められた.図4インドシアニングリーン蛍光眼底造影写真左:造影早期,右:造影後期.脈絡膜新生血管はなかった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008739(163)フルオレセイン蛍光眼底造影検査では乳頭黄斑間の網膜色素上皮の変性に伴うwindowdefectによる過蛍光と中心窩鼻側の一部に蛍光漏出が認められた.発症から5カ月後の造影検査で,網膜下出血後の器質的変化も生じている部位ではあるが,乳頭周囲および黄斑部に障害が生じていることが確認されたものと考えた.また,視力低下の自覚から眼科受診までにほぼ1カ月の期間があるため,硝子体出血に至った機序については推測の域を出ないが,乳頭周囲から上方にかけて網膜前出血があり,硝子体出血は乳頭上方の網膜前出血の部位から連続しているようにみられたこと,器質化した網膜下出血のみられた部位はドーム状の内境界膜下出血の存在する部位とは連続していないことから,ドーム状の内境界膜下出血が硝子体腔に波及したとするよりは,金田ら5)の報告のように乳頭周囲の網膜前出血が直接硝子体腔に波及したものと考えられた.Terson症候群の硝子体出血に対する手術時期については従来,自然吸収も期待できることから発症から6カ月程度保存的に経過観察した後に考慮することが多かったが,長期に出血が残存することで網膜前膜,黄斑円孔,増殖膜形成による牽引性網膜離などが合併する可能性もあり3,5),現在では全身状態が許せば早期の手術が望ましいとされている35,79).本症例では初診時の硝子体出血は軽度で,網膜下出血が中心窩下に存在していたものの吸収過程にあったことから経過観察とした.本症例はさまざまな網膜硝子体出血の形態を伴っており,Terson症候群の出血の機序を考えるうえで興味深い症例であると考えられた.文献1)MedeleRJ,StummerW,MuellerAJetal:Terson’ssyn-dromeinsubarachnoidhemorrhageandseverebraininju-ryaccompaniedbyacutelyraisedintracranialpressure.JNeurosurg88:851-854,19982)WeingeistTA,GoldmanEJ,FolkJCetal:Terson’ssyn-drome.Clinicopathologiccorrelations.Ophthalmology93:1435-1442,19863)SchultzPN,SobolWM,WeingeistTA:Long-termvisualoutcomeinTerson’ssyndrome.Ophthalmology98:1814-1819,19914)KuhnF,MorrisR,WitherspoonCDetal:Terson’ssyn-drome.Resultsofvitrectomyandthesignicanceofvitre-oushemorrhageinpatientswithsubarachnoidhemor-rhage.Ophthalmology105:472-477,19985)金田祥江,島田宏之,佐藤幸裕ほか:Terson症候群の硝子体手術成績と眼底所見.眼紀45:733-737,19946)FriedmanSM,MargoCE:Bilateralsublimitingmem-branehemorrhagewithTersonsyndrome.AmJOphthal-mol124:850-851,19977)堀江真太郎,今井康久,武居尚代ほか:内境界膜下血腫を伴ったテルソン症候群の硝子体手術.臨眼58:583-586,2004II考按Kuhnら4)はくも膜下出血患者100例の前向き検討により,Terson症候群の頻度は8%であったと報告している.近年のくも膜下出血の患者の生存率向上によりTerson症候群の頻度も多くなるものと考えられる.濃厚な硝子体出血を伴っているTerson症候群では眼底所見の詳細は不明となるが,眼底が透見できる場合は網膜前,網膜内,網膜下出血などさまざまな形態の網膜出血がみられることが知られている35).金田ら5)は硝子体出血に対して硝子体手術を行った16眼について検討し,網膜下出血を4眼,網膜前出血を2眼,網膜出血を2眼などに認め,病変は視神経乳頭に接することが多いと報告している.本症例の左眼では網膜前出血,網膜下出血がみられ,中心窩耳下側のドーム状の出血はこれまでの報告69)にある内境界膜下出血と考えられた.佐藤ら9)は硝子体出血に対して硝子体手術を行った10眼について,4例で内境界膜下出血を認め,発症部位は視神経乳頭近傍であったと報告している.そのことから,頭蓋内圧の急激な上昇により視神経乳頭周囲の網膜内毛細血管が破綻しやすく,内境界膜下出血が起こり,それが硝子体腔に拡散することを示唆していると考察している.内境界膜出血に関しては組織学的な報告2,7,8)もあり,堀江ら7)は黄斑部に血腫を伴う症例で術中に血腫を覆う膜を採取し,内境界膜であったことを確認している.また,硝子体出血を伴うものでは血腫上の膜に硝子体へ穿破した小孔がみつかることがあるとしているが,出血源と思われる部位が確認できないこともあり9),硝子体出血に至る機序には不明な点も多い.Ogawaら10)は発症3カ月後,硝子体手術後にフルオレセイン蛍光眼底造影検査を行い,視神経乳頭鼻側に接する部位に蛍光漏出が認められたことを初めて報告している.この部位は網膜内境界膜とElschnigの内境界膜(innerlimitingmembraneofElschnig12))の境界にあたる部位で,頭蓋内圧の上昇が視神経乳頭周囲の脈絡膜との境界にあたる部位(bordertissueofElschnig12)),眼窩内視神経周囲のグリア細胞が存在する境界にあたる部位(bordertissueofJaco-by12)),それが脈絡膜レベルまで前部に存在する部位(inter-mediarytissueofKuhnt12))に影響を及ぼしていることを裏付けている所見であろうと推測している.Iwaseら11)も発症3カ月,硝子体手術後で視神経乳頭鼻側に接する部位に蛍光漏出が認められたことを報告し,眼内に出血の至る経路として視神経乳頭に近接する領域が疑われ,網膜表層に出血がみられるか,網膜下出血をきたすかは障害を受ける組織の深さの違いであろうと推測している.本症例の初診時の右眼では乳頭下方に半円状の網膜前出血がみられ,左眼では乳頭周囲に網膜前出血,黄斑部に一部黄褐色調に器質化した網膜下出血,中心窩耳下側にドーム状の内境界膜下出血が認められ,———————————————————————-Page4740あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(164)rhage.Ophthalmology108:1654-1656,200111)IwaseT,TanakaN:BilateralsubretinalhaemorrhagewithTersonsyndrome.GraefesArchClinExpOphthal-mol244:507-509,200612)AndersonDR,HoytWF:Ultrastructureofintraorbitalportionofhumanandmonkeyopticnerve.ArchOphthal-mol82:506-530,19698)鎌田研太郎,阿川哲也,三浦雅博ほか:内境界膜下血腫を伴ったTerson症候群の1例.臨眼58:1313-1317,20049)佐藤孝樹,植木麻理,坂本理之ほか:テルソン症候群における硝子体出血の発生機序に関する検討.眼紀56:813-816,200510)OgawaT,KitaokaT,DakeYetal:Tersonsyndrome.Acasereportsuggestingthemechanismofvitreoushemor-***

極小切開白内障・硝子体同時手術の成績

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(157)7330910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(5):733736,2008cはじめに2002年にFujiiとDeJuanらが経結膜的強膜創にカニューレを設置する25ゲージ(G)硝子体手術システムを開発して以来,小切開かつ経結膜的無縫合硝子体手術が可能となり1),近年,その適応の拡大,他の手術との併用の可能性が注目されている.従来,25Gシステムは強膜創の閉鎖を得るために周辺硝子体を残存させる必要性があること,器具の剛性が弱いため周辺部硝子体切除がむずかしいこと,内視鏡などの周辺部をみるための補助器具がないなどの点から,眼内操作が多く増殖膜処理の必要な増殖糖尿病網膜症や増殖硝子体網膜症においてはあまりよい適応でないと考えられてきた2,3)が,トロカールを斜めに刺入することによる自己閉鎖の改善4),wideangleviewingsystemや眼内照明の改良などによる観察系の進歩により,25Gシステムはその適応が拡大してきている.しかし,白内障手術との同時手術を行う際,角膜切開や従来の2.8mmの強角膜切開白内障手術では,25G硝子体手術時のトロカール刺入に際し白内障切開創が解離するため,硝子体手術開始前に同切開創を1針縫合する必要がしばしばあった.また,25G硝子体手術後に比較的高頻度に生じる一過性低眼圧のために強角膜切開創の閉鎖不〔別刷請求先〕松原明久:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学院大学医学研究科視覚科学Reprintrequests:AkihisaMatsubara,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1-Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya-shi467-8601,JAPAN極小切開白内障・硝子体同時手術の成績加藤崇子松原明久倉知豪久保田文洋吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学SurgicalOutcomeofMicroincisionVitrectomySurgeryCombinedwithMicroincisionCataractSurgeryTakakoKato,AkihisaMatsubara,TakeshiKurachi,FumihiroKubota,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences極小切開白内障手術と25ゲージ極小切開硝子体手術を併用した同時手術の成績を検討した.対象は2005年12月から2006年8月に当院で同時手術を施行した31例33眼(男性9例9眼,女性22例24眼).年齢は平均63.7歳(4579歳).症例の内訳は,黄斑上膜,黄斑円孔,増殖糖尿病網膜症各9眼,裂孔原性網膜離2眼,ピット黄斑症候群,網膜細動脈瘤,網膜中心静脈閉塞症,網膜静脈分枝閉塞症各1眼.術中に大きな合併症は認めなかった.2段階以上の視力改善例は17眼(51.5%),不変例15眼(45.5%),2段階以上の視力悪化例は1眼(3.0%)で,術後低眼圧となった症例は3眼あったが全例1週間以内で回復した.長期予後を検討する必要があるが,極小切開硝子体手術はほとんどの症例に対応することができ,極小切開白内障手術と併用することでより低侵襲な同時手術が行えると考えられた.Wereportthesurgicaloutcomeof25-gauge(25G)microincisionvitrectomycombinedwithmicroincisioncata-ractsurgery(MICS)in33eyesof31cases.Forthecataractsurgery,a2.22.3mmsclerocornealorcornealinci-sionwasused.Vitrectomywascarriedoutbyusinga25Gsystem.Whensiliconeoilwasinjected,one25Gwoundwasexpandedto20G.Therewerenoseriouscomplications.Ocularhypotonyoccurredin3eyes,butintraocularpressurerecoveredwithinafewdaysinallcases.Postoperatively,best-correctedvisualacuityimprovedmorethan2linesin17eyes(51.5%),remainedunchangedin15eyes(45.6%),andworsenedin1eye(3.0%).Nosutureswererequiredinanypatientsafterevulsionofmicrocannula.Althoughitrequireslong-termobservation,25GmicroincisionvitrectomycombinedwithMICSiseectiveandlessinvasivefortreatmentofvitreoretinaldisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):733736,2008〕Keywords:極小切開白内障手術,極小切開硝子体手術,25ゲージ経結膜硝子体手術.microincisioncataractsur-gery,microincisionvitrectomysurgery,25-gaugetransconjunctivalsuturelessvitrectomy.———————————————————————-Page2734あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(158)製)を使用した.シリコーンオイルを注入した増殖糖尿病網膜症の1眼では,オイル注入時に強膜創の1つを20Gに拡大し,強膜創を縫合した.術中・術後合併症および術後最高視力について検討した.II結果1.術中合併症虹彩脱出などの大きな合併症はなかった.白内障手術後に粘弾性物質を吸引除去したが,硝子体手術中に前房が消失する症例はなかった.シリコーンオイルを注入した1例以外,トロカール抜去後強膜創を縫合した症例はなかった.ほとんどの症例において術翌日の前眼部所見はきれいで,結膜の出血,充血および浮腫は軽度であった.2.術後合併症術後合併症を表2に示す.術後に7mmHg未満の低眼圧となった症例は3眼(9.1%)で,黄斑円孔,黄斑上膜,増殖糖尿病網膜症がそれぞれ1例であった.全例,無処置のまま数日で眼圧は正常化した.脈絡膜離をきたした症例はなかった.25mmHg以上の高眼圧となった症例は3眼(9.1%)あったが,その内訳はSF6(六フッ化硫黄)ガスを注入した黄斑円孔の症例2眼とシリコーンオイルを注入した症例1眼であった.網膜再離をきたした症例が2眼(6.1%)あった.1眼はピット黄斑症候群の症例で,SF6ガスタンポナーデを併用したトリプル手術を施行したがガス残存中から網膜離が出現し,最終的には20Gで再手術を施行しシリコーンオイル下で現在網膜は復位している.もう1眼は,裂孔原性網膜離で,この症例でも初回はSF6ガスタンポナーデを併用したトリプル手術を施行したがガス残存中から再離してきたため,再度SF6ガスタンポナーデ併用の20G硝子体手術を施行し,現在網膜は復位している.これら再離をきたした症例に医原性網膜裂孔は認められなかった.経過観察中,眼内炎は認められなかった.視力予後は,術後最高視力が術前視力より2段階以上の改善を認めた症例は17眼(51.5%),不変であった症例は15眼(45.5%),2段階以上の悪化を認めた症例は1眼(3.0%)であった(図1).悪化した症例はピット黄斑症候群で再離全が起こるという危険性も危惧されている5).近年,白内障手術においてもbimanual法やcoaxial法などによる極小切開手術が可能となり,より低侵襲の手術法が確立されてきている5,6).今回筆者らは,25G極小切開硝子体手術に約2.3mmの極小切開白内障手術を併用したトリプル手術を施行したので,その成績を報告する.I対象および方法対象は2005年12月から2006年8月までに名古屋市立大学病院にて極小切開白内障手術と25G極小切開硝子体手術を施行し,術後6カ月以上の経過観察を行えた31例33眼である.男性9例9眼,女性22例24眼で,年齢は45歳から79歳(平均63.7歳)であった.症例の内訳は,黄斑上膜9例9眼,黄斑円孔9例9眼,増殖糖尿病網膜症7例9眼(増殖膜・牽引性網膜離を伴う症例4眼,硝子体出血を伴う症例1眼,黄斑浮腫が高度な症例4眼),裂孔原性網膜離2例2眼(ともに黄斑部離なし),ピット黄斑症候群1例1眼,網膜細動脈瘤1例1眼,網膜中心静脈閉塞症1例1眼,網膜静脈分枝閉塞症1例1眼であった(表1).白内障手術方法は,InnitiR(Alcon社製)にウルトラスリーブを用いたcoaxialphaco法で行い,切開幅は2.22.3mmであった.切開方法は,強角膜切開31眼,角膜切開2眼であった.角膜切開の症例では眼内レンズ挿入前に切開幅を2.5mmに拡大した.使用した眼内レンズは,YA-60BBR(HOYA社製)21眼,SA-60AT(Alcon社製)10眼,SN-60AT(Alcon社製)2眼であった.眼内レンズ挿入後に粘弾性物質を吸引除去した.強角膜切開創の自己閉鎖を確認後,続けて硝子体手術を施行した.当初は前房の安定化を図るために,強膜にトロカールを刺入する前に白内障手術時の強角膜切開創を8-0バイクリル糸で1針縫合した症例が6例存在するが,現在は行っていない.硝子体手術は,AccurusR(Alcon社製)を用いた3ポートによる25G経結膜無縫合硝子体手術で行った.硝子体レンズはディスポーザブルのコンタクトレンズ(DORC社製)を使用した.症例によっては周辺部の硝子体切除にwideangleviewingsystemであるBin-ocularIndirectOphthalmomicroscope(BIOM:Oculus社表1症例の内訳疾患名症例数黄斑上膜9例9眼黄斑円孔9例9眼増殖糖尿病網膜症7例9眼裂孔原性網膜離2例2眼ピット黄斑症候群1例1眼網膜細動脈瘤1例1眼網膜中心静脈閉塞症1例1眼網膜静脈分枝閉塞症1例1眼表2術後合併症低眼圧(<7mmHg)3眼(9.1%)黄斑上膜1眼黄斑円孔1眼増殖糖尿病網膜症1眼高眼圧(≧25mmHg)3眼(9.1%)黄斑円孔2眼増殖糖尿病網膜症1眼網膜再離2眼(6.1%)眼内炎0眼———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008735(159)21%(8mmHg以下)と報告している.今回の症例には,増殖糖尿病網膜症7例9眼,裂孔原性網膜離2例2眼が含まれており,これらの症例では周辺部まで硝子体を切除したものの,シリコーンオイルを注入した症例以外はマイクロカニューレ抜去後の強膜創を縫合した症例はなく,7mmHg未満の一過性低眼圧となった症例は3眼(9.1%)とこれまでの報告と比較しても低い割合であった.Shimadaらはトロカール刺入の際に,最初は眼球に対して30°斜めに刺入し,その後眼球中心方向に刺入すると創の閉鎖が得られやすいと報告している4).当初は,トロカールを強膜に垂直に刺入していたが,斜めに刺入するようになってからは低眼圧の問題はほとんど起きなくなった.今回低眼圧となった3眼はすべて垂直に刺入していた症例で,一過性低眼圧となった症例が少なかった理由は斜めに刺入した症例が混在しているためと考えられた.従来,極小切開硝子体手術は周辺部硝子体切除があまり必要でない黄斑疾患にはよい適応となるが,増殖硝子体網膜症や増殖糖尿病網膜症などには不向きと考えられてきた2,3).この検討には増殖糖尿病網膜症の症例が7例9眼含まれているが,wideangleviewingsystemを使用することにより周辺部硝子体の観察,処理も十分可能であった.増殖膜の処理に関しては,硝子体剪刀などの器具が充実していない点,器具の剛性面など,若干の不利な点は否めないが,Alcon社製の25Gカッターは吸引口が20Gカッターより先端付近にあるため,カッターによる硝子体や増殖膜の処理をより網膜に近いところで行うことができ,吸引力も強くないので網膜により近づいて操作を行っても網膜が接近しにくく安全であるという利点がある.そのため,硝子体剪刀をほとんど用いずにカッターだけで膜処理を行うことができる場合もあり,器具の出し入れによる合併症も減ると思われる.また,25Gのシャンデリア照明を利用することで双手法での増殖膜処理が簡便に行え,今後その適応は拡大していくと思われる.症例数は少ないものの網膜離の症例(2眼中1眼)とピット黄斑症候群で網膜再離をきたし,20Gによる再手術となった.ピット黄斑症候群の黄斑部離に対して,初回は25Gで硝子体手術を施行したが術後に裂孔が多発し再手術となった.裂孔は硝子体基底部に形成され,硝子体手術時の強膜創につながる硝子体索や増殖膜は認めず,硝子体手術時の強膜創へ嵌頓した硝子体の牽引よりも,局所での硝子体基底部の残存した硝子体の収縮によるものと思われた.また,もう1例の網膜離の症例はもともと裂孔が多発しており,残存した硝子体の収縮によって再離をきたしたと思われた.Scartozziら11)は黄斑疾患の硝子体手術における強膜創関連の網膜裂孔の発生を25Gシステムと20Gシステムで比較し,有意差はなかったものの,25Gシステムでその発生が低い傾向にあったとしている.今回の検討では,鋸状縁断をきたした症例で,最終的にシリコーンオイル注入となった症例であった.III考按25G硝子体手術と白内障手術を同時に行う際,白内障切開創をどうするかという問題がある.筆者らの施設では白内障手術は術後感染のことを考慮し,強角膜切開で行っている術者がほとんどであるが,25G手術との同時手術の場合は当初角膜切開で白内障手術を施行することがあった.しかし,増殖糖尿病網膜症の症例で,角膜創周囲の浮腫が著明で,硝子体手術時の眼底透見性に障害をきたしたことを経験し,以降は強角膜切開で行っている.また,眼内レンズは硝子体手術前に挿入し,粘弾性物質を除去してから硝子体手術を開始している.白内障手術を従来の2.8mmで施行した後にトロカールを刺入すると,眼球圧迫により白内障切開創が解離して虹彩が脱出することがあり,硝子体手術開始前に同切開創を1針縫合することがあった.そのため,2.3mmの極小切開白内障手術との同時手術でも,当初トロカール刺入前に最初から白内障切開創を1針縫合しておいた症例が6例あったが,その後極小切開では創の解離が起きないことがわかり,現在は白内障切開創の縫合は行っていない.白内障手術の切開幅が小さくなることで,創の閉鎖性が向上し,前房を閉鎖腔として保つことができ,硝子体手術前に眼内レンズを挿入して粘弾性物質を除去してもその後の操作で前房が虚脱することがないと考えられた.25G硝子体手術の合併症として,低眼圧の問題がある.白内障手術との同時手術を行う際,一過性低眼圧のために強角膜切開創の閉鎖不全が起こるという危険性も危惧されている5).Faiaら7)は術後1日目の眼圧が10mmHg未満となったのは32.3%,6mmHg未満の眼圧が14.5%と報告している.国内の報告では,宗ら8)は術後の低眼圧を34.3%(10mmHg以下),北岡9)は30%(8mmHg以下),木村ら10)は術前小数視力術後小数視力0.11.01.00.1図1視力予後———————————————————————-Page4736あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(160)文献1)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuture-lessvitrectomysurgery.Ophthalmology109:1807-1812,20022)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Initialexperi-enceusingthetransconjunctivalsuturelessvitrectomysystemforvitreoretinalsurgery.Ophthalmology109:1814-1820,20023)LakhanpalRR,HumayunMS,DeJuanEJretal:Out-comesof140consecutivecasesof25-gaugetransconjunc-tivalsurgeryforposteriorsegmentdisease.Ophthalmolo-gy112:817-824,20054)ShimadaH,NakashizukaH,MoriRetal:25-gaugescler-altunneltransconjunctivalvitrectomy.AmJOphthalmol142:871-873,20065)井上真:極小切開と25ゲージ硝子体手術.眼科手術18:495-499,20056)小林貴樹,黒坂大次郎:ナノ・ウルトラスリーブを使用した極小切開白内障手術.IOL&RS19:428-431,20057)FaiaLJ,McCannelCA,PulidoJSetal:Outcomesfollow-ing25-gaugevitrectomies.Eye2007(advanceonlinepub-lication20April2007)8)宗今日子,藤川亜月茶,宮村紀毅ほか:25ゲージ経結膜無縫合硝子体手術の成績.臨眼58:937-939,20049)北岡隆:25ゲージ硝子体手術.眼科48:313-318,200610)木村英也,黒田真一郎,永田誠:25ゲージシステムを用いた経結膜的硝子体手術の試み.臨眼58:475-477,200411)ScartozziR,BessaAS,GuptaOPetal:Intraoperativesclerotomy-relatedretinalbreaksformacularsurgery,20-vs25-gaugevitrectomysystems.AmJOphthalmol143:155-156,200712)井上真:25ゲージ硝子体手術システムのまとめ.眼科手術18:373-377,200513)吉田宗徳,小椋祐一郎:25ゲージ硝子体手術.眼科手術20:27-31,2007裂をきたした症例はなく,トロカールシステムは強膜創付近の硝子体を牽引することがないため強膜創関連の網膜裂孔はきたしにくいと考えられるが,20Gと比較すると周辺硝子体は残存しやすく,裂孔原性網膜離の手術への適応は今後症例を増やし,再検討する必要があると考えられた.視力予後に関しては,術後最高視力が術前視力より2段階以上の悪化を認めた症例は1眼(3.0%)であり,おおむね良好であった.悪化したのは,ピット黄斑症候群で術後再離をきたして最終的にシリコーンオイル注入となった症例である.極小切開硝子体手術では,切開創が小さく,眼内灌流量も減少するため低侵襲となり術後の炎症が少なく,術後視力の改善を促進すると考えられている12).今回の検討ではさまざまな疾患が含まれているが,今後は疾患ごとに症例数を増やし,術後視力の経時変化について20Gと比較検討したいと考えている.手術創が小さいことには多くのメリットがあると考えられる.25G硝子体手術は結膜温存,無縫合,炎症の軽減などの長所がある反面,強膜層の閉鎖不全,低眼圧,眼内炎の危険性,低い切除効率,弱い器具の剛性といった短所もある13).極小切開白内障手術は術後の乱視軽減にとどまらず術後眼内炎の減少が見込まれ,硝子体手術をはじめとした同時手術においては術中の前房の安定性が増すと考えられる.しかし,従来の手術方法と比較して手術成績が同等でなければこれらの極小切開のメリットも意味がない.現在筆者らの施設では,周辺部の増殖性変化が強い増殖糖尿病網膜症・増殖硝子体網膜症などで内視鏡手術の必要な症例,毛様体へのレーザー光凝固の必要な症例,前部硝子体線維血管増殖以外では,初回硝子体手術は25Gで行うようになってきた.今回の結果からも,ほとんどの症例が25G硝子体手術で対応することができた.適応疾患の選択は慎重を期すべきであるが,極小切開硝子体手術の適応の拡大に伴い,極小切開同時手術は今後増加していくと思われる.***

カルテオロール持続点眼液の使用感のアンケート調査

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(153)7290910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(5):729732,2008cはじめに緑内障は長期にわたって管理の必要な疾患であり,ほとんどの患者が点眼薬を使用している.点眼治療を有効にするためには,コンプライアンスが大変重要であり,コンプライアンスを高めるために,多くの調査,工夫がされてきている13).コンプライアンスを高める要因としては患者教育が大切である4,5)が,点眼薬の利便性,使用感も重要である.2007年7月より発売された,カルテオロール持続点眼液(ミケランRLA点眼液2%)(以下,MKLA)は1日1回の点眼でよく,持続化剤としてアルギン酸を用いている.そのため,従来のゲル製剤より使用感は良好とされている.今回,筆者らはMKLAの使用感や利便性についてアンケート調査を行ったので報告する.I対象および方法1.対象参加6施設で通院中の,眼圧の安定している緑内障および高眼圧症患者で,アンケート調査に同意の得られた117人〔別刷請求先〕湖淳:〒545-0021大阪市阿倍野区阪南町1-51-10湖崎眼科Reprintrequests:JunKozaki,M.D.,KozakiEyeClinic,1-51-10Hannan-cho,Abeno-ku,Osaka-city,Osaka545-0021,JAPANカルテオロール持続点眼液の使用感のアンケート調査湖淳*1稲本裕一*2岩崎直樹*3尾上晋吾*4杉浦寅男*5平山容子*6*1湖崎眼科*2稲本眼科医院*3イワサキ眼科医院*4尾上眼科医院*5杉浦眼科*6平山眼科QuestionnaireSurveyofGlaucomaPatients’ImpressionofLong-ActingCarteololOphthalmicSolutionJunKozaki1),YuichiInamoto2),NaokiIwasaki3),ShingoOnoue4),ToraoSugiura5)andYokoHirayama6)1)KozakiEyeClinic,2)InamotoEyeClinic,3)IwasakiEyeClinic,4)OnoueEyeClinic,5)SugiuraEyeClinic,6)HirayamaEyeClinicカルテオロール持続点眼液(ミケランRLA点眼液2%)(MKLA)は1日1回の点眼でよく,持続化剤としてアルギン酸を用いているため,粘稠性は軽減されている.今回,従来のb遮断薬あるいは炭酸脱水酵素阻害薬点眼液が投与されて安定している緑内障および高眼圧症患者117人について,MKLAに変更したときの使用感,利便性についてアンケート調査を行った.変更前後で視力,眼圧に有意差はなかった.カルテオロール点眼液(MK)から変更した群は39例で,89%が1回点眼のMKLAの方が便利と答え,97%がMKLAへの変更を希望した.マレイン酸チモロールのゲル製剤から変更した群は50例で,60%が差し心地が良いと答え,86%がMKLAの継続を希望した.全体ではコンプライアンスが良好な患者は82%で,MKLAに変更しても変わらないと答えた患者は56%であったが,78%は点眼回数が減ることを望んでいた.90%の患者がMKLAの継続を希望した.Long-actingcarteololophthalmicsolution(MKLA)needstobeadministeredonlyoncedaily,anditsviscosityislowerthantheconventionalsolution,thankstotheuseofalginicacidtoprolongitsaction.Aquestionnairesur-veyofuser’simpression,conveniencesetc.inregardtoswitchingfromconventionalophthalmicsolutionstoMKLAwasrecentlycarriedoutin117glaucomapatients.NeithervisualacuitynorintraocularpressureafterswitchingtoMKLAdieredsignicantlyfrompre-switchinglevels.Ofthegroupthatswitchedfromconventionalcarteololoph-thalmicsolution(MK)toMKLA(n=39),89%ratedMKLAasconvenientbecauseofitsonce-dailytreatment,and97%wishedtocontinuereceivingMKLA.OfthegroupthatswitchedfromtimololmaleategeltoMKLA(n=50),60%ratedMKLAasmorecomfortableand86%desiredtocontinuereceivingit.Overall,78%ofthepatientswel-comedthedecreaseindosingfrequency,and90%desiredtocontinuereceivingMKLA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):729732,2008〕Keywords:カルテオロール持続点眼液,アルギン酸,アンケート調査,コンプライアンス,ゲル製剤.long-act-ingcarteololophthalmicsolution,alginicacid,questionnairesurvey,compliance,gel.———————————————————————-Page2730あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(154)して,無しが82%であった.Q2の1回点眼で点眼忘れは,少なくなるが44%,変わらないが56%,多くなるが0%であった.変更後のQ3の1回点眼は,便利が78%,変わらないが19%,便利でないが3%であった.Q4の差し心地は?に対して,良いが59%,良くないが10%,変わらないが31%であった.Q5のどちらが良いかに対して,前の方が良いが12%,どちらでもないが25%,MKLAの方が良いが63%であった.Q6の続けたいかに対して,“はい”が90%“いいえ”が10%であった.MKLAの継続に関しては,眼圧上昇で診察医が不適と判断した2人と希望のなかった12人を除き88%が継続となった.Q5の前の方が良いと答えた12%に比較し,Q6の続けたいかの質問に“いいえ”と答えたのが10%と減っているのは,使い心地は悪いが眼圧が下降したためMKLAの継続を希望したからである(表1).MKからMKLAへの変更は39人であった.変更前の視力は,0.91±0.29,眼圧は16.7±2.3mmHg,変更後の視力は0.90±0.30,眼圧は16.4±2.4mmHgで,視力,眼圧のいずれも有意差はなかった.アンケートでは,MKLA変更前のQ1の点眼忘れに対して,無しが87%であった.Q2の1回点眼で点眼忘れは,少なくなるが50%,変わらないが50%,多くなるが0%であった.変更後のQ3の1回点眼は,便利が89%,変わらないが8%,便利でないが3%であった.MKLAが便利でないと答えた患者は1例で,そのコメントは1日2回点眼の方が精神的に安心するとのことであった.Q4の差し心地は?に対して,良いが54%,良くないが10%,変わらないが36%であった.Q5のどちらが良いかに対して,MKの方が良いが8%,どちらでもないが20%,MKLAの方が良いが72を対象とした.男性は38人,女性は79人で,平均年齢は66.8±11歳であった.内訳は原発開放隅角緑内障50人,正常眼圧緑内障14人,閉塞隅角緑内障(レーザー虹彩切開術および白内障術後)8人,高眼圧症37人,および続発緑内障8人であった.なお,本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,共同して設置した,倫理審査委員会の承認を得て実施した.2.方法現在使用しているb遮断薬点眼あるいは炭酸脱水酵素阻害薬点眼液をMKLAに変更し,変更前および変更1カ月後に視力,眼圧などの検査を行い,患者にはコンプライアンス,差し心地,利便性,継続希望などについてアンケート用紙に記入してもらった.患者が継続の希望がない場合と診察医が不適と判断した症例は点眼を変更前にもどした.変更前の点眼は,従来の1日2回点眼のカルテオロール点眼液(ミケランR点眼液2%)(以下,MK)を単剤で使用していた症例は28人,他剤と併用していた症例は11人で合計39人であった.マレイン酸チモロールのゲル製剤(チモプトールRXE点眼液0.5%あるいはリズモンRTG点眼液0.5%)(以下,TMG)は,単剤で使用していた人は27人,他剤と併用していた人は23人で合計50例であった.その他は28人であった.II結果全体の117人では,MKLAに変更前の視力は0.93±0.24,眼圧は17.2±2.9mmHg,変更後の視力は0.92±0.25,眼圧は17.0±3.3mmHgと両方とも有意差はなかった.アンケートでは,MKLAに変更前のQ1の点眼忘れに対表1アンケート結果:MKLAに変更した全症例(n=117)Q1.点眼忘れ無し82%週1回14%週2回4%Q2.1回点眼で点眼忘れは?少なくなる44%変わらない56%多くなる0%Q3.1回点眼は便利78%変わらない19%便利でない3%Q4.差し心地は?良い59%良くない10%変わらない31%Q5.どちらが良い?前の方が良い12%どちらでもない25%今の方が良い63%Q6.続けたいか?はい90%いいえ10%表2アンケート結果:MKからMKLAに変更(n=39)Q1.点眼忘れ無し87%週1回13%週2回0%Q2.1回点眼で点眼忘れは?少なくなる50%変わらない50%多くなる0%Q3.1回点眼は便利89%変わらない8%便利でない3%Q4.差し心地は?良い54%良くない10%変わらない36%Q5.どちらが良い?前の方が良い8%どちらでもない20%今の方が良い72%Q6.続けたいか?はい97%いいえ3%———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008731(155)まり,点眼は多くても我慢して守るが,できれば回数は少ない方がいいということであろう.差し心地についてMKからMKLAへの変更の群では,54%が良いと答えている.“しみない”との理由が最も多く,“霧視がない”“ねばつきがない”というのが続いた.また,10%が良くないと答えている.理由は“ねばつきを感じる”というのがほとんどであった.TMGからMKLAへの変更群では60%が良いと答えた.理由は“ねばつきがない”というのがほとんどで,“霧視がない”がつぎに多かった.良くないという答えは10%で,“ねばつき”“霧視”“しみる”というのが少数あった.点眼回数1日1回の利便性について,1日2回の方が安心感があるというコメントがあり,粘稠性については,“ねばつき”がある方が,入った感じがわかる,持続力を感じるというコメントもあった.多少の好みはあるものの,MKからMKLAへの変更群では97%,TMGからMKLAへの変更群では86%,全体では90%の患者がMKLAへの変更を希望していたことから,MKLAは緑内障患者の点眼治療のコンプライアンスやQOL(qualityoflife)を高めることができる有用な点眼液と思われた.文献1)塚原重雄:緑内障薬物療法とcompliance.眼臨79:349-354,19852)阿部春樹:薬物療法,コンプライアンスを良くするには.あたらしい眼科16:907-912,19993)佐々木隆弥,山林茂樹,塚原重雄ほか:緑内障薬物療法における点眼モニターの試作およびその応用.臨眼40:731-734,19864)古沢千晶,安田典子,中本兼二ほか:緑内障一日入院の実際と効果.あたらしい眼科23:651-653,20065)平山容子,岩崎直樹,尾上晋吾ほか:アンケートによる緑内障患者の意識調査.あたらしい眼科17:857-859,20006)高橋雅子,中島正之,東郁郎:緑内障の知識に関するアンケート調査.眼紀49:457-460,19987)仲村優子,仲村佳巳,酒井寛ほか:緑内障患者の点眼薬に関する意識調査.あたらしい眼科20:701-704,20038)小林博,岩切亮,小林かおりほか:緑内障患者の点眼状況.臨眼60:43-47,2006%であった.Q6の続けたいか?に対して,“はい”が97%,“いいえ”が3%であった(表2).MKLAの継続に関しては,診察医が不適と判断した症例がなかったため,97%が継続となった.TMGからMKLAへの変更は50例であった.変更前の視力は0.93±0.21,眼圧は17.8±3.6mmHg,変更後の視力は0.93±0.23,眼圧は17.7±4.2mmHgで,視力,眼圧のいずれも有意差はなかった.アンケートでは,MKLA変更前のQ1の点眼忘れに対して,無しが82%であった.Q3の1回点眼は,便利が67%,変わらないが31%,便利でないが2%であった.Q4の差し心地は?に対して,良いが60%,良くないが10%,変わらないが30%であった.Q5のどちらが良いかに対して,TMGの方が良いが14%,どちらでもないが36%,MKLAの方が良いが50%であった.Q6の続けたいか?に対して,“はい”が96%,“いいえ”が14%であった(表3).MKLAの継続に関しては,眼圧上昇のため診察医が不適と判断した1例と希望のなかった7例を除き,42例84%が継続となった.III考按全体のコンプライアンスは82%であった.諸家68)の報告でも80%前後であるが,塚原1)は面接の方法によっても差があると述べている.コンプライアンスは1日2回点眼より,1回点眼の方が良好になるものと予想されたが,50%以上で変わらないという答えであった.これは,仲村ら7),小林ら8),森田ら9)も点眼薬剤数が増えてもコンプライアンスは変わらないか,むしろ向上していると報告しているように,点眼回数の減少はコンプライアンスの向上には必ずしも寄与しない,ということかもしれない.従来のカルテオロール点眼液であるMKから同主成分で持続型のMKLAへの変更では89%の患者が1日1回点眼の利便性を望んでいた.全体でも78%であった.小林ら10)も80%以上の患者が点眼回数の減少などの利便性の向上を希望している,と述べている.また,徳川ら11),佐々田ら12)も0.5%マレイン酸チモロールとゲル製剤を比較して,1日1回点眼という利便性の優位性を述べている.つ表3アンケート結果:TMGからMKLAに変更(n=50)Q1.点眼忘れ無し82%週1回12%週2回6%Q2.1回点眼で点眼忘れは?少なくなる─変わらない─多くなる─Q3.1回点眼は便利67%変わらない31%便利でない2%Q4.差し心地は?良い60%良くない10%変わらない30%Q5.どちらが良い?前の方が良い14%どちらでもない36%今の方が良い50%Q6.続けたいか?はい86%いいえ14%———————————————————————-Page4732あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(156)11)徳川英樹,大鳥安正,森村浩之ほか:チモロールからチモロールゲル製剤への変更でのアンケート調査結果の検討.眼紀54:724-728,200312)佐々田知子,永山幹夫,山口樹一郎ほか:チモロールゲル製剤の比較.あたらしい眼科18:1443-1446,20019)森田有紀,堀川俊二,安井正和:緑内障患者のコンプライアンス,点眼薬の適正使用に向けて.医薬ジャーナル35:153-158,199910)小林博,岩切亮,小林かおりほか:緑内障患者の点眼薬への意識.臨眼60:37-41,2006***