———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS方向5~20μm,縦横方向10~60μm程度と高精度の画像が得られる.光ファイバーを使用しているため,測定機本体の形の自由度が高い.すなわち眼科でよく使用する機器と同じような形,たとえばスリットランプやオートレフのような筐体にすることができるので操作性が良い,ということもあげられる.非侵襲であり,かつ操作性が良いので,眼科医のみならず,コメディカルでも操作可能である.II前眼部OCTと後眼部OCTの違い大きく2つの違いがある.それは,測定光の波長と測定レンジである.後眼部において網膜は薄く,比較的均一な厚さで半透明な組織である.一方,前眼部の測定対象には,不透明組織(結膜,強膜,ぶどう膜)と透明組織(角膜,前房,水晶体)の両方が存在する.そのため至適な光波長が異なる.前眼部では1,310nm,後眼部では840nmという波長が多く使われる.また,前眼部と後眼部のOCTは観察対象の形態がまったく異なる.最初に開発された後眼部(眼底用)OCTは,主として黄斑の形態を知ることを目的としていた.すなわち,広さが4×4mm,奥行き2mm程度の測定レンジがあれば十分であった.そのため眼底用OCTをそのまま前眼部に応用すると,測定範囲が不十分である.両側の隅角を含めた角膜と,同時に虹彩,水晶体をはじめに眼科には,手軽に眼球の光学切片を切り出せる,スリットランプという診療機器がある.眼科医の手足ともいうべき機器であり,これなしでは眼科診療を行うことは不可能である.しかし,スリットランプには可視光を使うという原理上の弱点も存在する.たとえば,スリットランプでは不透明組織(結膜・強膜)の内部構造を正確に知ることはできないし,隅角も接触レンズを使用しないと観察することができない.熟練した眼科医と研修医では得られる情報量の間に雲泥の差がある.そこで,眼球の組織切片を非接触で可視化し,客観的に定量評価する方法として光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が考案された1).初期のOCTは眼底に特化し,黄斑円孔や後部硝子体の病態理解に多大な貢献をした.それから約10年後に前眼部への応用が考案され,前眼部OCTの論文報告が行われた2).2005年に前眼部OCT,VistaneTM(CarlZeissMeditec)が商用化され,それにより角膜3)や隅角4),また屈折矯正手術5)や緑内障6)に関して新しい知見が得られた.I前眼部OCTの特徴前眼部OCTの特徴は,その非接触性・高精度画像・容易な操作性にある.超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)と異なり,赤外光を利用した測定なので,組織に接触する必要がない.そのうえ,UBM(解像度50μm)より解像度が高く,垂直(奥行き)(47)623eisueaanaTetsuroOsia:機眼:3058575111機眼特集●新しい光干渉断層計(OCT)バイヤーガイドあたらしい眼科25(5):623~629,2008前眼部OCT検の機器:機種一AnteriorSegmentOpticalCoherenceTomography:DeviceOverview川名啓介*大鹿哲郎*———————————————————————-Page2624あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(48)線維柱帯切除術後),ドライアイなどがあげられる.V機器による差2008年2月現在,3種類の前眼部OCT(広義)が商用利用可能である.詳細を表1に示す.最大の違いは波長と撮影原理の差である.OCTに多く用いられる波長には,840nmと1,310nmという2つの帯域が存在する.840nmはもともと眼底用に用いられていたもので,軸方向の解像度は高いが,組織深達度は低い.隅角は直接描出不可能である.一方,1,310nmは軸方向の解像度では840nmに劣るが,組織深達度が高いため前眼部の重要な構成要素である隅角や強膜が可視化できるという利点がある.さらに1,310nm波長は水での吸収が840nmよりも大きいため,測定光の強度を増やして,画質を高めるということが可能である.一般的な前眼部OCTは1,310nm波長を用いる.もう一つの撮影原理に注目すると,従来用いられていたtime-domain方式と近年新しく開発されたFourier-domain方式という2つの方式がある.Time-domain方式では測定速度が200~2,000A-scan/秒だが,Fouri-er-domain方式では20,000A-scan/秒以上の速度をもつ.Time-domain方式では1画像を得るのに0.125秒から2秒程度必要である.それに比べてFourier-domain方式では1画像を得るのにその10分の1程度の時間で可能であるため,眼球の動きによる影響を受け測定するためには最低12mm以上の測定幅が必要である.角膜,前房,虹彩を同時に撮影するために奥行き方向でも大きな撮影範囲が必要である.III前眼部OCTでわかること前眼部OCTにより涙液メニスカス・角膜・虹彩・水晶体前面・隅角・強膜・毛様体扁平部の高精度な断面画像が得られる.新しい機種では3次元画像も得られる.また,それらの定量解析も可能である.角膜の混濁があっても,内部の性状やその奥の変化の把握が可能である.角膜に関する手術(屈折矯正手術・角膜移植術)時には,層間の液体貯留や角膜浮腫の程度,移植片とホストの接合部などの評価が可能である.虹彩は前・後上皮層に分離可能である.隅角においては強膜岬,線維柱帯が明瞭に認識できる.さらにコントラストが高いため周辺部虹彩前癒着や隅角の機能的閉塞などの判定が可能となる.隅角の各種パラメータも半自動解析可能である.AOD(angleopeningdistance),TISA(trabecularirisspacearea),ARA(anglerecessarea)など,今までUBMで得られていたようなパラメータの算出が可能である.特にTICL(trabeculaririscontactlength)は前眼部OCTのみで解析可能である.IV前眼部OCTが有効な疾患角膜(屈折矯正手術前後,円錐角膜,角膜変性症,角膜移植前後),緑内障(閉塞隅角症,閉塞隅角緑内障,表1前眼部OCT3機種の詳細機種SL-OCTTMVisanteTMRTVue-100TM会社名HeidelbergEngineeringCarlZeissMeditecOptovue日本代理店JFCセールスプランカールツァイスメディテック中央産業貿易株式会社形式Time-domainTime-domainFourier-domain波長(nm)1,3101,310840スピード(A-scan/秒)2002,00026,0001撮影時間(秒)10.125~10.01~0.15スキャン幅(mm)4~1510~162~12スキャン深度(mm)最大74~82~2.3奥行き解像度(μm)25μm以下185縦横解像度(μm)非公開6015備考Haag-Streittypeスリットランプに装着光学系固定式調節負荷可能CAMにて前眼部撮影CAM:corneaanteriormodule.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008625(49)一方,SL-OCTは従来のスリットランプに撮影部をマウントしているため,スリットランプを操作するような感覚で前眼部の画像を得ることができる(図5).隅角や角膜の自動解析が可能である(図6,7).しかしながら,測定時間が比較的長いために,患者の眼球運動が入らないように注意する必要がある.隅角解析ソフトウェアはVisanteTMとほぼ同様である.RTVue-100+CAM(corneaanteriormodule)は840nm光源の眼底用OCT+前眼部撮影レンズという構成である(図8).広義の前眼部OCTに分類される.前眼部専用OCTではないため,組織深達度がほかの機種よにくく,3次元化も可能となる.ある部位の特定の1断面を見るためだけであればtime-domain方式の速度で十分であるが,断面だけでなく立体的な構造を把握する場合にはFourier-domain方式が望ましい.前眼部OCTではまだtime-domain形式のものが多いが,徐々にFourier-domain方式のものが増えてくると思われる.これは眼底用OCTの変遷と同じ傾向といえる.VI機器別の特徴VisanteTMは標準モード(16×6mm)とハイレゾモード(10×3mm)での撮影が可能である(図1).各々のモードで1画像から4画像を同時に取得できるモードが存在する.標準モードは,主として前眼部のアウトラインを捉えたいときに使用する(図2,3).前房深度測定や狭隅角の半自動解析が可能である.このモードではphakicIOL(眼内レンズ)挿入時のシミュレーションを行うことも可能である.ハイレゾモードは,角膜や隅角を拡大して観察したいときに用いる.これは屈折矯正手術後の評価に適する.最近,標準・ハイレゾモードともにノイズを取り除きコントラストを上昇させるモードが追加された(エンハンスモード).これにより,強膜岬や線維柱帯をより精細に判定することが可能となった.さらに,角膜の中心を軸として8~16個の撮影を行い,角膜厚のマッピングを行うという機能(パキメトリーマップ)も存在する(図4).また,調節付加機能があり,そのときの水晶体位置,虹彩の状態を判定可能である.撮影時には光源を含んだ撮影部分を固定し,被検者の頭部を動かすという方法で撮影を行う.顎台が動いて位置を合わせるという独特の操作方法である.図1VisanteTMOCTの外観図2VisanteTMOCTの表示画面中央に角膜,虹彩,隅角の断面像が表示される.上方には測定プロトコル,左下には位置決定用のカメラ画像が表示される.解OCT:Opticalcoherencetomography,光干渉断層計.低干渉性の光により非侵襲生体計測を行う機器.Timedomain:時間領域.Fourier-domainとともにOCTの原理の一つ.一つの測定光である一部分の情報を得る手法.Fourierdomain:Fourier領域.一つの測定光で奥行き方向すべての情報を得る手法.Time-domainより高速に画像を取得できる.———————————————————————-Page4626あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(50)図3VisanteTMOCTの4断面撮影モード中央に4方向の画像が表示される.下の列に表示されている画像群のうちで,任意のものを選択保存し,解析することができる.図4VisanteTMOCTの角膜厚マップ(パキメトリーマップ)左にカラーマップ,右に各測定部位の値が表示される.中心2mm,2~5mm,5~7mm,7~10mm領域の最大・最少・平均値が算出可能である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008627(51)り低く,逆に解像度は高いという特徴がある.角膜に関しては他の前眼部OCTよりも詳細に描出できる(図9).上皮と実質の境界がはっきり識別できる場合が多い.さらにFourier-domainであるため,4mm領域の3次元画像(101枚/2秒)を構築できる.VisanteTMと同様にパキメトリーが可能で,8枚の画像から算出する(図10).しかしながら,測定レンジが狭いため前房全体のバイオメトリー(隅角角度・前房深度測定)には不向き図5SLOCTの外観本体はコンパクトで,スリットランプにマウントして使用する.図6SLOCTの隅角解析各種隅角パラメータの算出が可能である.ACA,ARA,750,ODlight図7SLOCTの前房生体計測,角膜厚測定(パキメトリー)任意断面の生体計測が行える.PachymetryProleAutomaticBiometry→図8RTVue100+CAM(corneaanteriormodule)の外観眼底用OCTに右に示した前眼部撮影用レンズをマウントして撮影を行う.———————————————————————-Page6628あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(52)である.角膜をより精細に見るということに適しているため,屈折矯正手術の評価に向くと考えられる.操作感覚は他の眼底用OCTとほとんど同じである.VII前眼部OCTの限界以上のように,前眼部OCTは前眼部解析(角膜,虹彩,隅角,毛様体扁平部)に関して容易で高精度であるが,光の特性による限界がある.完全な不透明組織では1~2mm程度の組織深達度である.そのため前眼部では毛様体体部が描出不能である.毛様体腫瘍や,胞の把握といった深い病変に対してはUBMが適するといえる.おわりに前眼部OCTの役割は何であろうか.非接触・高精度であるため,詳細な病変の観察に適する.また,スクリーニング用途としても有望である.特に角膜疾患,閉塞隅角緑内障などの前眼部の病変の詳細な描出が可能であり,UBMの代用となりうるのではないだろうか.今後の眼科診療において,重要な機器となっていくと思われる.図10RTVue100+CAMの角膜厚マップ(パキメトリーマップ)中心2mm,2~4mm,4~6mm領域の角膜厚が表示できる.図9RTVue100+CAMの表示画面上:角膜解析画面,上皮層と実質が分離可能である.中:隅角解析画面.前眼部専用OCTより高解像度だが,隅角底は描出されない.下:屈折矯正手術後にみられた層間の水隙がみられる.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008629sonofopticalcoherencetomographyandultrasoundbio-microscopyfordetectionofnarrowanteriorchamberangles.ArchOphthalmol123:1053-1059,20055)LiY,NettoMV,ShekharRetal:ALongitudinalStudyofLASIKFlapandStromalThicknesswithHigh-speedOpticalCoherenceTomography.Ophthalmology114:1124-1132,20076)MullerM,HoeraufH,GeerlingGetal:Filteringblebevaluationwithslit-lamp-adapted1310-nmopticalcoher-encetomography.CurrEyeRes31:909-915,2006文献1)HuangD,SwansonEA,LinCPetal:Opticalcoherencetomography.Science254:1178-1181,19912)RadhakrishnanS,RollinsAM,RothJEetal:Real-timeopticalcoherencetomographyoftheanteriorsegmentat1,310nm.ArchOphthalmol119:1179-1185,20013)LiY,ShekharR,HuangD:Cornealpachymetrymappingwithhigh-speedopticalcoherencetomography.Ophthal-mology113:792-799.e2,20064)RadhakrishnanS,GoldsmithJ,HuangDetal:Compari-(53)