———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSえて,b2受容体も密に分布している.眼では,眼圧調節に関して,毛様体無色素上皮細胞にb2受容体が存在する.b1,b2受容体は,サイクリックAMP合成を介して作用を発揮する.b3受容体は,脂肪組織においてサイクリックAMPの経路を介して脂肪分解を起こす.また,消化管や気道平滑筋を拡張させる.さらに,一酸化窒素合成酵素の活性化を介してサイクリックGMPを増加させ,血管拡張をひき起こす.b遮断薬の一つであるカルテオロールはb3作動性に働くと報告されている7).IIb遮断薬と眼圧下降b遮断薬が眼圧下降をひき起こすことは,40年以上前にPhillipsらによって発見された.プロトタイプのb遮断薬であるプロプラノロールを開放隅角緑内障患者に静脈内投与したところ,眼圧下降がみられた.プロプラノロールを点眼しても眼圧下降がみられたが,局所麻酔作用(膜安定化作用)のために一般に使用されることはなかった.その後,重篤な眼毒性がない初めての点眼薬としてチモロールが1978年に市販され,その後長期にわたり緑内障治療薬の第一選択薬として位置づけられてきた.しかし,b遮断薬による眼圧下降機序の全容はいまだに解明されていない.ヒトの眼圧は一般に二相性の日内変動を示し,日中高く夜間低い.その原因として,日中は交感神経の活動性が高いため房水産生が増加するが,はじめにb遮断薬は,アドレナリン作動性受容体であるb受容体の遮断効果を作用機序とする眼圧下降薬である.b受容体は眼のみでなく広く全身に分布し,さまざまな生理現象を司る.全身のb受容体は,b遮断薬の点眼によっても影響を受ける可能性がある.b遮断薬点眼による副作用については各薬剤の添付文書に詳細な記載があるが,長年多くの成書や総説で取り上げられてきた16).これらに最近の知見を合わせて,b遮断薬の作用機序や点眼薬としての特徴および起こしうる副作用について薬理学的観点から概説する.Ib受容体:サブタイプとその分布G蛋白質共役型受容体スーパーファミリーのメンバーであるアドレナリン作動性受容体には,aサブファミリーとbサブファミリーがある.bサブファミリーは,少なくとも3つの受容体サブタイプ(b1,b2,b3)から構成される.それぞれのb受容体サブタイプの分布や密度は,臓器や組織によって大きく異なり,それぞれに特有な生理作用に関与する.b1受容体は,おもに心臓に分布し,その刺激によって心拍数の増加や収縮力の増大をひき起こす.b2受容体は,気管支,血管,子宮および腸管などさまざまな臓器の平滑筋細胞に分布し,その刺激によって気管支や血管の拡張をひき起こす.また,心臓では,固有筋にはb1受容体が多いが,ペースメーカーにはb1受容体に加(25)775*TomomiHigashide:金沢大学附属病院眼科〔別刷請求先〕東出朋巳:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学附属病院眼科特緑内障点眼薬選択のポイントあたらしい眼科25(6):775782,2008b遮断薬─副作用の薬理Beta-AdrenergicBlockers:PharmacologicalAspectsofAdverseEfects東出朋巳*———————————————————————-Page2776あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(26)水溶性点眼液を点眼した場合,薬剤の約80%は鼻涙管を通って鼻粘膜に達し,密に分布する毛細血管から吸収され全身へ至る.この場合,経口投与と異なり,静脈内注射と同様に肝臓での代謝を受けずに直接的に全身性に作用しうる.健康成人に2%カルテオロールを点眼した場合,15分後に血漿中濃度は最高値約1ng/mlに達する.この濃度は経口薬を内服した場合の100分の1以下であるが,全身的な副作用をひき起こす可能性がある.特に小児では,循環血液量が成人より小さいために,b遮断薬の血中濃度が成人よりかなり高くなり,無呼吸発作などの重篤な副作用を起こす可能性がある.そこで,低濃度の製剤の使用(0.25%チモロール,1%カルテオロールなど)や点眼後の涙点圧迫と閉瞼による全身への吸収抑制が望まれる.1分間以上の涙点圧迫と閉瞼が困難な場合には,瞼裂から溢れる余剰の点眼液を拭うことも有効である.また,ゲル化剤なども全身性の吸収を抑制するのに有効である.さらに,b遮断薬は動物やヒトへの経口投与あるいは点眼で母乳中に分泌されることが報告されている.0.5%チモロール点眼の場合には,母乳中の濃度は心臓に影響する濃度の1/8と報告されている.授乳中の母親にb遮断薬を処方する場合には,十分な注意が必要であり,各点眼薬の薬剤添付文書は授乳を避けることとしている.チモロールは,肝臓に存在する代謝酵素であるチトクロームP4502D6(CYP2D6)によって不活性な代謝物となり,腎から排泄される.したがって,重篤な肝・腎障害がある場合には,高い血中濃度が持続する可能性がある.また,CYP2D6遺伝子には遺伝子多型がある.CYP2D6酵素活性がとても低いか欠如しているヒトは夜間は交感神経の活動性が低下し房水産生も低下するためと考えられている.b遮断薬は交感神経の活動性亢進による房水産生を抑制すると考えられ,b遮断薬による眼圧下降が夜間よりも日中に大きいことはこれを裏づけている.房水を産生する毛様体無色素上皮細胞にはb2優位にb受容体が存在し,これを遮断すれば房水産生が抑制される.さらに,b2受容体は毛様体血管にも存在するので,これの遮断によってa受容体を介した血管収縮が起こり,限外濾過の減少によって眼圧が下降する可能性がある.しかし,b遮断薬による眼圧下降がb受容体の抑制のみによって説明できるかという点には異論がある.b刺激薬は,G蛋白を介してアデニールサイクラーゼを活性化し,サイクリックAMPを増加させ,房水産生を増加させる.しかし,サイクリックAMPを直接増加させる薬物を投与すると房水産生は減少する.さらに,眼以外でのb遮断作用が著明に弱い立体異性体(d-timolol)にチモロール(l-timolol)よりもやや弱いものの同様の眼圧下降作用がある8)ことは,b遮断薬による眼圧下降作用が受容体依存性であることに合致しない.b遮断薬による眼圧下降は,チモロールの場合には点眼後30分から1時間で現れ,2時間で最大となり,12時間から24時間後にベースラインに戻る.連続点眼によって効果が減弱することがあり,“short-termescape”と“long-termdrift”として知られる.前者は,点眼開始後数週間で起こり,b受容体数のアップレギュレーションによると考えられている.後者は,数カ月から数年後に起こり,数カ月の休薬(timololholiday)と交感神経刺激薬の投与によって回復するとされている.IIIb遮断薬:点眼剤の薬物動態(図1)b遮断薬には,メラニン親和性がある.前房内に移行したb遮断薬が虹彩のメラニンに結合すると,メラニンがb遮断薬の徐放剤として働く.このため,日本人など虹彩色素の多い人種では,同等の効果発現のために白人より高濃度の点眼液が必要であるとされている.また,b遮断薬の血中半減期が数時間であるにもかかわらず,完全にウオッシュアウトされるのに2週間以上かかるのは,この特徴が一因と考えられている.図1b遮断薬点眼剤の薬物動態b遮断薬点眼前房内移行涙道全身移行副作用鼻粘膜メラニン親和性(虹彩)眼圧下降(毛様体)代謝(肝酵素)排泄(腎)呼吸器・循環器など———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008777(27)心拍数減少などの全身性の副作用が軽減される可能性がある.しかし,ゲル化剤には点眼後の霧視(チモプトールRXE)や刺激感(リズモンRTG)を起こしやすい欠点がある.2.カルテオロール非選択的b遮断薬であり,水溶性である.b遮断薬の点眼薬のなかで点眼後の眼刺激症状が最も少ない.ISAをもつことが特徴である.これは,b刺激薬や内因性カテコールアミンの存在下ではb受容体遮断作用を示すが,これらが存在しない場合には逆にb1あるいはb2受容体を介して弱い刺激作用を示すものである.ISAをもつことは,カルテオロールの理論的な長所である.つまり,b受容体遮断による心拍数の減少,低血圧,気管支収縮,血管収縮あるいは脂質代謝異常を抑える可能性がある.たとえば,チモロールを健常人に点眼すると,HDL(高比重リポ蛋白)コレステロールが減少しトリグリセリドが増加するが,カルテオロール点眼ではその影響が少ない.カルテオロールによる血圧下降や心拍数減少は他のb遮断薬と同様であるが,Netlandらによるランダム化比較試験では,チモロール点眼よりもカルテオロール点眼のほうが高眼圧症や原発開放隅角緑内障患者に対する夜間の心拍数減少が有意に少なかった10).さらに,カルテオロールが健常人や緑内障患者の視神経乳頭血流を増加させたという報告がある.プラセボ点眼側にも血流増加がみられたことから,これはISAの作用と考えアジア人には12%存在すると報告されている6).これらのヒトにチモロールが投与された場合には,高い血中濃度が持続し全身性の副作用が強く出る可能性がある.一方,カルテオロールもCYP2D6によって代謝されるが,ウサギやサルに点眼した実験では,代謝物の8-ハイドロキシカルテオロールにも眼圧下降作用がある9).カルテオロールにみられる内因性交感神経刺激作用(intrinsicsympathomimeticactivity:ISA)は,この代謝物によるという説がある.IVb遮断薬:各薬剤の薬理作用現在日本で市販されている点眼薬のなかでb遮断薬に属するものは以下の5つである(表1).b受容体選択性やb受容体遮断以外の作用の有無に違いがある.眼圧下降作用の強さは,ベタキソロールは比較的弱く,それ以外はほぼ同等とされている.1.チモロール非選択的b遮断薬であり,比較的脂溶性が高い.脂溶性が高い薬剤は,点眼後に全身に吸収された場合に中枢神経系に作用しやすい.b遮断薬による中枢神経系の副作用報告の多くがチモロール点眼によることは,この特徴が一因と考えられる.ゲル化剤(チモプトールRXE:イオン反応性ゲル,リズモンRTG:熱反応性ゲル)は,1日1回点眼で水溶液の2回点眼と同等の眼圧下降効果があり,点眼コンプライアンスの点で有利である.さらに,ゲル化剤では全身への吸収が抑制されるため,表1現在日本で使用可能なb遮断薬点眼剤の特徴チモロールカルテオロールベタキソロールレボブノロールニプラジロールチモプトールなランなベトプテ日本ルンロルイジールーなb遮断作用(プロプラノロール=1)610462b1選択性+その他の作用ISA(*)b3刺激L型カルシウムチャンネル拮抗作用(弱い)a1遮断(弱い)a1遮断一酸化窒素放出点眼回数2回1回(ゲル化剤)2回1回(ミケランRLA)2回1回2回(効果不十分の際)2回*:内因性交感神経刺激作用(intrinsicsympathomimeticactivity:ISA).———————————————————————-Page4778あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(28)ある.また,a1刺激薬フェニレフリンによるウサギの摘出毛様体筋の収縮を濃度依存的かつ競合的に抑制したことから,弱いa1受容体遮断作用を有するとされ,日本ではa1b遮断薬として位置づけられている.しかし,眼圧下降作用はおもにb受容体遮断を介する房水産生抑制によるとされている.5.ニプラジロール非選択的b遮断薬であり,a1受容体遮断作用を併せもつa1b遮断薬である.b遮断作用による房水産生抑制に加え,a1遮断作用によるぶどう膜強膜流量の増加および房水流出率の増加により眼圧を下降させる.さらに,ニトログリセリンと同様に分子内にNO2ラジカルをもち,一酸化窒素を遊離することによって,血管拡張を起こす.ニプラジロール点眼によって網膜や視神経乳頭などの眼血流量が増加することが報告されている7).Vb遮断薬の副作用(表2)1.眼局所の副作用b遮断薬点眼による自覚症状として5%未満に眼刺激症状(しみる感じ,灼熱感,眼痛,異物感,不快感など)がみられる.ベトプティックRでは5%以上にみられたが,基剤を変更したベトプティックRSでは改善した.これらの自覚症状や局所の炎症所見の多くは防腐剤などの薬効成分以外の含有物によると考えられる.b遮断薬自体の影響としては,膜安定化作用(局所麻酔作用)による角膜知覚低下がある.これによって,表層角膜炎や涙液分泌減少が起こるが,その強さはベタキソロール>チモロール>カルテオロールの順である.また,チモロール点眼と鼻涙管閉塞との関連が従来から指摘されている11).鼻粘膜の慢性刺激によると推測されているが,チモロール局所投与により鼻涙管径の縮小が起こる12)ことも関連している可能性がある.2.呼吸器系の副作用b刺激薬は,気道のb2受容体を刺激して気管支拡張を起こすので,気管支喘息の治療に使用される.一方,b遮断薬は点眼剤でも逆の作用によって喘息患者の呼吸機能を悪化させ,喘息発作の誘発・増悪を招く.喘息患られている.しかし,気管支喘息患者の呼吸機能に対する影響は,チモロールと有意差がなかった.また,カルテオロールはb3受容体に作用し,血管内皮由来の一酸化窒素を介して血管拡張をひき起こすと報告されている7).ミケランRLA点眼液は,アルギン酸を含むことによって眼表面での滞留性が向上し,1日1回点眼で通常の点眼液の2回点眼と同等の効果を発揮する.この持続製剤は,通常の製剤に比べ房水中へのカルテオロールの移行量が増加することによって,作用持続時間が延長すると考えられている.低粘性であるためゲル化剤に比べて霧視が少ない利点がある.また,ゲル化剤と同様に血中への移行が抑制されるため,全身性副作用軽減に有利と考えられる.3.ベタキソロール唯一のb1選択的遮断薬である.房水産生に関与する毛様体のb受容体はb2優位であるが,高濃度ではb1選択性が低いためb2受容体にも作用し,房水産生を抑制すると考えられている.1日2回点眼であるが,眼圧下降効果はチモロールよりもやや弱い.ベトプティックR点眼液0.5%は眼刺激症状が強かったが,2002年に発売された0.5%懸濁液であるベトプティックRSでは改善した.比較的脂溶性が高く蛋白結合性が高いことから,血中濃度が他のb遮断薬よりも低い.このため,心拍数や血圧にほとんど影響を及ぼさないと考えられている.b1選択的であるため理論的に他のb遮断薬よりも呼吸器系への影響が少ない.実際,チモロール点眼からベタキソロール点眼への変更による呼吸機能の改善が報告されている.しかし,ベタキソロール点眼に起因する呼吸困難などの副作用の報告がある.一方,b遮断作用のほかにも,ベタキソロールはL型カルシウムチャンネルに作用してカルシウム拮抗作用を呈する.眼血流増加やモデル動物における網膜虚血による網膜神経節細胞死の抑制は,この作用によると考えられている.4.レボブノロール非選択的b遮断薬であり,代謝物のb遮断作用により長時間作用性を有することから,通常1日1回点眼で———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008779(29)たした.また,新たに気道閉塞を発症するリスクは,非選択的b遮断薬と差がないとする報告がある14).したがって,すべてのb遮断薬において呼吸器系副作用には留意すべきである.3.心血管系の副作用心臓のb受容体を遮断すると,陰性変時・変力作用によって心拍数,心拍出力および血圧の低下が起こる.特に,運動時やカテコールアミン過剰の状態で起こる心拍数や心筋収縮力の増加を強く抑制する.たとえば,チモロールの点眼による安静時心拍数の減少は有意差なし平均11回/分であるのに対し,運動時のピークの心拍数減少は平均722回/分と報告され,運動時のほうが心拍数の抑制が強い6).しかし,運動時の心肺能力については,健常人では心拍数当たりの酸素摂取量の増加によって心拍数の減少が代償されるために影響はないとの報告がある15).徐脈は,洞結節リズムや房室結節を通る伝導速度の遅延によるが,通常自覚症状はない.徐脈による症状がみられる場合には,もともとペースメーカーの埋め込みが必要な刺激伝導系の異常を有していることが多い.したがって,自覚症状のある徐脈,房室ブロック(Ⅱ・Ⅲ度:心房から心室への伝導の途絶がみられるもの),洞停止や心室静止の延長および診断されていない意識消失発作には,b遮断薬は禁忌である.自覚症状がない場合でも,脈拍が55回/分未満の場合には循環器専門医に者の気道過敏性は一定ではないため,b遮断薬に対する反応は予測できない.気管支攣縮による死亡例も報告されており,気管支喘息患者へのb遮断薬の使用は禁忌である.一方,慢性閉塞性肺疾患(肺気腫および慢性気管支炎)でも,気道過敏性や気道分泌を抑制し気道抵抗を減少させるためにb刺激薬が処方される.したがって,これらの患者へのb遮断薬の使用も控えるべきである.慢性閉塞性肺疾患の最大の原因は喫煙であるので,息切れ,咳嗽,喀痰などの症状をもつ喫煙者ではこの疾患の可能性を考慮し,b遮断薬の使用の前に呼吸器専門医にコンサルトすべきである.一方,呼吸機能の正常な緑内障患者へのb遮断薬の長期使用が,呼吸機能の低下や気道過敏性の増加をひき起こすかについて,チモロール3年点眼によって1秒率が有意に低下し,約半数(6/11例)において気道過敏性が上昇したとする前向き試験がある13).この報告では,1年のウオッシュアウト後も3/6例において気道過敏性が残存した.ISAのあるカルテオロールとb1選択的遮断薬であるベタキソロールは,理論的に他のb遮断薬よりも気管支平滑筋収縮作用が弱いと考えられるが,薬剤添付文書では気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患に対して,カルテオロールは禁忌,ベタキソロールは慎重投与としている.ベタキソロールは気管支喘息患者の呼吸機能を悪化させなかったとする報告があるが,長期使用によって気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患患者の5%に気道閉塞症状をき表2b遮断薬点眼剤によって起こりうるおもな副作用副作用副作用の・所副作用の眼局所眼下管剤な作用局所作用b遮断(鼻涙管径縮小)?呼吸器系喘息発作の誘発・増悪慢性閉塞性肺疾患の症状悪化b2遮断(気管支平滑筋収縮,気道過敏性上昇)循環器系徐脈心不全増悪(*)b遮断(陰性変時作用)b1遮断(陰性変力作用)中枢神経系抑うつ(**)b遮断(中枢性カテコールアミン・セロトニン受容体を抑制)脂質・糖代謝HDLコレステロール減少,トリグリセリド増加低血糖症状をマスク(インスリン依存性糖尿病)b2遮断(脂肪代謝酵素抑制)b遮断(代償性交感神経活動亢進の抑制)*:急性心不全,慢性心不全の急性増悪・重症例のみ.**:エビデンスなし.———————————————————————-Page6780あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(30)かった2).したがって,重症ではない閉塞性動脈硬化症にはb遮断薬の点眼は処方可能と考えられる.4.中枢神経系の副作用点眼薬の中枢神経系への移行を考えた場合,チモロールなど脂溶性が高い薬剤は,点眼後に全身に吸収され中枢神経系に作用しやすいと考えられる.b遮断薬は中枢性にカテコールアミンやセロトニン受容体を抑制する.一方,抗うつ薬は受容体でのカテコールアミンやセロトニンの濃度を高める作用をもっている.したがって,b遮断薬は抑うつを促進する方向に働くと長年考えられてきた.また,b遮断薬点眼による疲労感,めまい,頭痛,幻覚,健忘,錯乱,不安,不眠などが報告されている.しかし,Patternらは,evidencebasedmedicineの立場から薬剤起因性の抑うつについて系統的レビューを行い,b遮断薬の使用と抑うつとを関連付ける研究は少数あるものの他の多くは否定的であり,明確なエビデンスはないとしている16).したがって,抑うつの発症や増悪を恐れてb遮断薬の使用を避ける必要はないと考えられる.ただし,緑内障患者には高齢者が多く,うつ病の有病率も高齢者に高いこと,緑内障が慢性進行性の疾患であり失明を危惧する患者が多いことを考えると,因果関係が不明であっても抑うつ状態を合併している緑内障患者はまれではないと考えられる.さらに,b遮断薬によって起こりやすい易疲労感が抑うつと間違われる可能性がある.したがって,b遮断薬の処方の際には,精神状態のベースラインを把握し,処方後に変化がみられれば必要に応じて精神科医にコンサルトすることが望ましいと思われる.5.脂質・糖代謝への影響b遮断薬の内服は,脂肪組織や筋肉の毛細血管にあるリポプロテイン・リパーゼの活性を抑えることによってHDLコレステロールを減少させ,トリグリセリドを増加させる.また,レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼの活性を抑えることもHDLコレステロールの減少につながる可能性がある.この脂質の変化は非選択的b遮断薬で最も強いが,ISAをもつb遮断薬ではISAがリポプロテイン・リパーゼの活性を維持すコンサルトすべきである.ただし,有酸素運動の習慣によって徐脈である人やペースメーカーの埋め込み患者では,b遮断薬の処方が可能である.b遮断薬の処方の前に,安静時脈拍数の確認,運動習慣,めまいや失神の既往を確認すべきである.一方,心不全について,すべてのb遮断薬の点眼剤は薬剤添付文書においてコントロール不十分な心不全を禁忌としている.心不全状態では心筋収縮機能が低下しており,b受容体遮断によって,さらなる心機能の悪化や代償性の交感神経活動亢進の抑制によって症状が増悪すると長年考えられてきた.しかし,慢性心不全患者では心不全の重症度に比例して血漿ノルエピネフリン濃度が増加し,それが生命予後の指標になることやノルエピネフリンの阻害によって長期予後が改善する可能性が報告された.その後,欧米あるいは国内での多くの大規模臨床試験によって,b遮断薬が心不全患者の予後を改善することがエビデンスとして確立された.b遮断薬の有用性の機序として,b2受容体遮断によってレニン産生を抑制し,全身の血管抵抗を減少させることによって心ポンプ機能が改善することがあげられる.また,カテコールアミンによる心筋毒性を抑制することや心室性不整脈による突然死を減少させる効果もある.日本の慢性心不全治療ガイドライン(2005年改訂版,http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2005_matsuzaki_h.pdf)の冒頭でも,21世紀に入ってb遮断薬が心不全治療薬として承認され,慢性心不全患者の重要な治療薬の一つとなったことを取り上げている.ちなみに,本ガイドラインにおけるb遮断薬の禁忌は,気管支喘息,ケトアシドーシス,高度の徐脈,慢性閉塞性肺疾患および重症の閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)である.したがって,心不全の既往がある患者では自動的にb遮断薬の処方をあきらめずに,処方の可否について循環器専門医にコンサルトすべきである.また,閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)では間欠性跛行が特徴的症状であるが,b遮断薬は末梢血管拡張性のb2受容体を遮断することによって骨格筋への血流を阻害し,症状を悪化させると長年考えられてきた.しかし,ランダム化比較試験のメタアナリシスでは,b遮断薬の内服による有意な症状の悪化や血流減少はみられな———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008781(31)よって房室伝導障害,左室不全,低血圧を起こす恐れがある.ジギタリス製剤では,心刺激伝導障害(徐脈,房室ブロックなど)が現れる恐れがある.b遮断薬は肝薬物代謝酵素P-450(CYP2D6)によって代謝される.したがって,この酵素活性を阻害する薬剤を併用すると,血中濃度が上昇しb遮断作用(心拍数減少,徐脈)の増強が起こりうる.抗不整脈剤であるキニジン,抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害剤,胃潰瘍治療薬であるヒスタミンH2受容体拮抗剤(シメチジンなど)はこの作用がある.また,機序は不明であるがチモロール点眼によって,エピネフリンの散瞳作用が助長されたとの報告がある.おわりにb遮断薬の点眼剤は,その薬理作用からさまざまな副作用を起こす可能性があり,プロスタグランジン関連薬などに比べて患者背景による使用制限を受けやすいことが強調される傾向がある.しかし,b遮断薬はすべての緑内障病型に対して有効であり,チモロールにはじまる約30年の歴史のなかで比較的安全に使用されてきた.b遮断薬のもつ眼圧下降以外の薬理作用を理解し,禁忌となりうる患者背景の有無や処方後の全身状態の変化を確認し,b遮断薬の点眼剤を有効に活用することが望まれる.文献1)RafuseP:Adrenergicantagonists.Glaucoma.ScienceandPractice(edbyMorrisonJC,PollackIP),p374-382,Thie-mePublishers,NewYork,20032)LamaPJ:Systemicadverseeectsofbeta-adrenergicblockers:anevidence-basedassessment.AmJOphthal-mol134:749-760,20023)HanJA,FrishmanWH,WuSunSetal:Cardiovascularandrespiratoryconsiderationswithpharmacotherapyofglaucomaandocularhypertension.CardiolRev16:95-108,20084)Detry-MorelM:Sideeectsofglaucomamedications.BullSocBelgeOphtalmol299:27-40,20065)HennessS,SwainstonHarrisonT,KeatingGM:Ocularcarteolol:areviewofitsuseinthemanagementofglau-comaandocularhypertension.DrugsAging24:509-528,20076)NieminenT,LehtimakiT,MaenpaaJetal:Ophthalmicるため無視しうる.b1選択的遮断薬はその中間である.しかし,長期(1年)の経過をみた研究では,b遮断薬の脂質に対する副作用は時間とともに減少するとしている.一方,b遮断薬の点眼による影響をみた研究のなかでは,Freedmanらはランダム化クロスオーバー試験によって0.5%チモロールと1%カルテオロールのそれぞれ8週間点眼の影響を比較し,HDLコレステロールの減少はチモロールの8%に対してISAのあるカルテオロールは3.3%と低かったと報告している17).高脂血症は冠動脈疾患などの危険因子ではあるものの,b遮断薬によって起こりうる脂質の変化は,スタチンなどの有効な治療薬の存在を考慮すれば重篤なものではなく,b遮断薬点眼を控える必要はないと思われる.一方,糖尿病に関しては,状況によってb遮断薬点眼は薬剤添付文書上慎重投与とされている.その一つは特にインスリン依存性糖尿病における低血糖状態であり,これに対する防衛反応として副腎からエピネフリン放出が起こり,交感神経の活動性が亢進し肝臓での糖新生が起こる.同時に交感神経の活動性を反映して頻脈,動悸などの症状が起こるが,b遮断薬はこれらを抑えるため低血糖症状がわかりにくくなるので慎重投与とされている.また,糖尿病性ケトアシドーシスおよび代謝性アシドーシスのある患者では,b遮断薬はアシドーシスによる心筋収縮力の抑制を増強するおそれがあるとされている.6.他の薬剤との相互作用b遮断薬と相加作用をもつ薬剤あるいはb遮断薬の代謝を抑制する薬剤は副作用が増強される可能性があり要注意である.したがって,点眼処方の前に既往歴のみならず,現在使用している薬剤についても確認することが必要である.相加作用をもつ薬剤の例として,経口のb遮断薬はb遮断薬点眼と併用すると,徐脈性の不整脈,失神,低血圧,心不全,運動耐性の低下を起こしうる.高血圧治療薬であるレセルピンは,カテコールアミンの枯渇を起こす薬剤であり,b遮断薬点眼との併用によって交感神経系を過剰に抑制し,過度の低血圧を起こすことがある.また,カルシウム拮抗薬を併用すると,相互作用増強に———————————————————————-Page8782あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008nistonwidthofnasolacrimaldrainagesystemlumen.JOculPharmacolTher23:467-475,200713)GandolSA,ChettaA,CiminoLetal:Bronchialreactivi-tyinhealthyindividualsundergoinglong-termtopicaltreatmentwithbeta-blockers.ArchOphthalmol123:35-38,200514)KirwanJF,NightingaleJA,BunceCetal:DoselectivetopicalbetaantagonistsforglaucomahaverespiratorysideeectsBrJOphthalmol88:196-198,200415)DicksteinK,HapnesR,AarslandTetal:Comparisonoftopicaltimololvsbetaxololoncardiopulmonaryexerciseperformanceinhealthyvolunteers.ActaOphthalmol(Copenh)66:463-466,198816)PattenSB,BarbuiC:Drug-induceddepression:asys-tematicreviewtoinformclinicalpractice.PsychotherPsy-chosom73:207-215,200417)FreedmanSF,FreedmanNJ,ShieldsMBetal:Eectsofocularcarteololandtimololonplasmahigh-densitylipo-proteincholesterollevel.AmJOphthalmol116:600-611,1993timolol:plasmaconcentrationandsystemiccardiopulmo-naryeects.ScandJClinLabInvest67:237-245,20077)TodaN:Vasodilatingbeta-adrenoceptorblockersascar-diovasculartherapeutics.PharmacolTher100:215-234,20038)杉山和久,河合憲司,北澤克明:d-チモロール点眼液の正常人眼眼圧などに及ぼす影響について.日眼会誌90:866-870,19869)SugiyamaK,EnyaT,KitazawaY:Ocularhypotensiveeectof8-hydroxycarteolol,ametaboliteofcarteolol.IntOphthalmol13:85-89,198910)NetlandPA,WeissHS,StewartWCetal:Cardiovasculareectsoftopicalcarteololhydrochlorideandtimololmaleateinpatientswithocularhypertensionandprimaryopen-angleglaucoma.NightStudyGroup.AmJOphthal-mol123:465-477,199711)SeiderN,MillerB,BeiranI:Topicalglaucomatherapyasariskfactorfornasolacrimalductobstruction.AmJOph-thalmol145:120-123,200812)NariokaJ,OhashiY:Eectsofbeta-adrenergicantago-(32)