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眼感染アレルギー:Propionibacterium acnesによる前眼部感染アレルギー

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086650910-1810/08/\100/頁/JCLS眼表面の炎症と眼瞼縁の炎症はしばしば密接につながっている.眼瞼縁の,特にマイボーム腺そのものの炎症とそれに伴う角結膜上皮障害を総称して「マイボーム腺炎角膜上皮症」とよぶ1).その病型は,角膜に結節性細胞浸潤と血管侵入を伴う「フリクテン型」(図1)と,点状表層角膜症を主体とした「非フリクテン型」の二つに大別できる.ここでは,感染アレルギーによって生じる「フリクテン型」(いわゆる角膜フリクテン)について述べる.膜フリクテンの病因1950年代より以前には,結核菌蛋白に対する遅延型アレルギー反応(DTH)が疾患の本体であると考えられていた.その後,結核患者の減少とともに,ブドウ球菌性眼瞼炎との合併が報告されるようになり,家兎動物モデルが報告されて以来,この疾患の本体は,おもに黄色ブドウ球菌の菌体成分に対するDTHであると考えられてきた.近年,真菌や寄生虫,クラミジアなどによると考えられるものも報告されているが,実際の臨床の現場では,患者の結膜や眼瞼縁の培養を行ってもこられの病原体を検出することはまれである.マイボーム腺分泌物(meibum)の培養による検討では,ほとんどの患者からPropionibacteriumacnes(P.acnes)が検出され,健常者に比べて有意に検出率が高かったことから,P.acnesが本疾患の起炎菌として重要であると考えられている.P.acnesとはP.acnesは,嫌気性のグラム陽性無芽胞桿菌であり,皮膚,腸管に常在している.本来ヒトに対する病原性は低いと考えられていたが,ニキビ(acne)の発症には中心的な役割を果たしており,慢性感染症の起炎菌としての報告もみられる.マイボーム腺は生体内で最大の皮脂腺であるが,ニキ(89)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載⑤監修=木下茂大橋裕一5.Propionibacteriumacnesによる前眼部感染アレルギー鈴木智京都市立病院眼科マイボーム腺炎角膜上皮症では,腺内で増殖するPropionibacteriumacnesに対する遅延型アレルギー反応(DTH)によって角膜に細胞浸潤(フリクテン)を生じる.治療は,ステロイド薬でDTHを抑えるのみならず,抗菌薬で腺内の除菌を行うことが重要である.図1マイボーム腺炎角膜上皮症フリクテン型角膜上の結節病変の延長線上の眼瞼縁に,マイボーム腺炎を認める.図2P.acnesを注入後48時間のラット角膜P.acnesで免疫したラットの角膜実質にP.acnesを注入すると,48時間後に強い細胞浸潤が認められる.———————————————————————-Page2666あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008ビを生じる皮脂腺とは「毛がない」という点で大きく異なっている.通常の皮脂腺は一つの腺房が毛包管内の毛根部へ開放しているのに対し,マイボーム腺は多数の腺房が一つの導管に開放しその導管が眼瞼縁で開口している.このように構造は異なっているが,皮脂腺では導管上皮の角化が毛包管の角化へと進行することがニキビ発症機序であるのと同様に,マイボーム腺の導管上皮の角化がマイボーム腺機能不全の発症機序であると考えられている.P.acnesは,免疫系に対して①補体を活性化する,②多核白血球の走化性因子を産生する,③多核白血球による酵素の放出を誘発する,④選択的にサプレッサー/キラーT細胞を阻害するなどの強い免疫作用を有している.肝臓や肺の実験的肉芽腫形成には,P.acnesによる前感作が必要であり,生菌,死菌のいずれの再感作においても肉芽腫が形成されたことから,肉芽腫形成はP.acnesの曝露に対する宿主のDTHの結果と考えられている.P.acnesで免疫したラットの角膜実質にP.acnesを注入すると,注入した部位に旺盛な細胞浸潤と角膜浮腫が認められる(図2).皮膚のDTHと同様に,6時間後には好中球が侵入し,48時間後にはマクロファージやリンパ球などの単核球が増加していくという変化が認められる(図3).また,浸潤リンパ球はCD4陽性T細胞がCD8陽性T細胞に比べ有意であり,P.acnesは角膜にDTHを生じうる.皮脂腺に存在するP.acnesの増殖がニキビの発症に深く関与しているのと同様に,マイボーム腺におけるP.acnesの増殖がマイボーム腺炎および角膜フリクテンの原因となっている可能性が推測される.P.acnesが常在菌であるにもかかわらず,特定の患者にしか発症しないことについては,宿主側の抗原に対する反応性の違いが関与すると考えられている2).マイボーム腺炎角膜上皮症(フリクテン型)の治療細菌増殖によるマイボーム腺炎が疾患の原因であるため,その治療を基本とする.すなわち,眼瞼縁の清拭やマイボーム腺内のmeibum圧出とともに,マイボーム腺内で増殖しているP.acnesに対して適切な抗菌薬を投与する.重症例および難治例にはマイボーム腺内の抗菌薬の濃度を高める目的で点滴を行うことも効果的である.ステロイド薬については,初期に眼表面の炎症が強い場合には短期的な投与が必要になる場合があるが,眼表面の炎症が改善した時点で中止すると再発しやすい.これは,マイボーム腺炎に関連していると考えられる細菌が十分に除菌されていないためと考えられる.マイボーム腺炎の改善は,眼表面の炎症の沈静化より少し遅れることを覚えておかなければならない.感染アレルギーとしての角膜フリクテンを,アレルギーの立場からでなく,感染の立場から治療し,起炎菌を除去することが治療上重要である.文献1)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,20002)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkerati-tisassociatedwithmeibomitis.AmJOphthalmol140:77-82,2005(90)☆☆☆図3P.acnesを注入後48時間のラット角膜のヘマトキシリンエオジン染色所見48時間後には,実質浮腫とともにマクロファージやリンパ球といった単核球を中心とした細胞浸潤が認められる.

緑内障:各種眼圧計の測定原理

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086630910-1810/08/\100/頁/JCLSSchiotz眼圧計は代表的な圧入眼圧計である.仰臥位で角膜に垂直にのせて,可動杆によって角膜が圧入される程度から眼圧を測定する.目盛りの読みは眼圧ではなく,可動杆の圧入量である.換算表を用いて,目盛りの読みと用いた重錘から眼圧を求める.平眼圧計内圧Pをもつ球体を平面により力Wで圧平すると,圧平面積AとW,Pとの間にはW=P×Aの関係が成立する(Imbert-Fickの法則)(図1).ただし,球体が完全な球状で,球体を構成する膜が柔軟で,無限に薄く,かつその表面が乾燥しているという条件が必要となる.Imbert-Fickの法則が眼球にあてはまるとすれば,WまたはAのいずれかを一定にして他方を測定することにより,Pを求めることができる.圧平眼圧計ではこの法則が応用されており,臨床的にはおもにAを一定としてWを測定する眼圧計が用いられている.1.Goldmann圧平眼圧計臨床的に精度が高く,緑内障診療において標準的に使用されるべき眼圧計である.圧平プリズムにより角膜を圧平(直径3.06mm)して眼圧を測定する(図1)1).圧入眼圧計とは異なり,測定時の眼球容積の変動がきわめて少なく,測定値は眼球壁硬性の影響を受けにくい.しかしながら,他の圧平眼圧計と同様に,本眼圧計においても測定値は中心角膜厚の影響を受ける.Ehlersら2)のマノメトリーを用いた検討では,中心角膜厚が520μmの場合に最も真の眼圧を反映し,中心角膜厚が厚く(薄く)なると眼圧は高く(低く)測定される.2.MackayMarg型眼圧計本眼圧計では可動杆に加わる力を電気信号に変換して眼圧を測定する3).先端に可動杆があり,周囲のスリーブよりわずかに突出している.角膜を圧平すると,可動杆に加わる力が増加する.さらに角膜を圧平すると,スリーブが角膜に接触するため,可動杆に加わる力が減少しトラフを示す.このトラフ時の可動杆に加わる力から眼圧を求める.Tono-PenはMackay-Marg型眼圧計の原理を応用した眼圧計である.3.空気眼圧計圧搾空気を用いて角膜を圧平して眼圧を測定する4).シリコーン膜で覆われたプローブを角膜にあて,角膜が圧平されると,プローブの内圧は眼圧と等しくなり,この内圧が電気信号に変換され記録される.4.非接触眼圧計眼球に直接接触させず,空気を角膜に噴射して眼圧を測定する5).角膜形状の変化が光学的にモニターされる.空気の噴出によって角膜の一定面積が圧平されるまでの時間あるいはその際の空気圧から眼圧を求める.新しい非接触眼圧計ocularresponseanalyzer6)では,角膜の生物化学的特性を補正した眼圧測定が可能であり,円錐角膜眼やレーザー角膜内切削形成(LASIK)眼における(87)●連載緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄95.各種眼圧計の測定原理八百枝潔白柏基宏新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野臨床的に,眼球に一定の力を加えて生じるその変形の程度,あるいは眼球に一定の変形を起こす力を測定することにより,眼圧を求めることができる.眼圧計は圧入眼圧計と圧平眼圧計の2つに大別される.本稿では,両眼圧計を中心に,各種眼圧計の測定原理につき概説する.図1圧平眼圧計による眼圧測定の原理内圧Pの球体を平面により力Wで圧平すると,圧平面積AとW,Pとの間にはW=P×Aの関係が成立する(Imbert-Fickの法則).Gold-mann圧平眼圧計ではこの法則が応用されており,Aを一定(直径3.06mmの円)にしてWを測定することによりPを求めている.———————————————————————-Page2664あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008眼圧測定に有用であるとされている.の他の眼圧計Pressurephosphenetonometerでは,眼瞼上から眼球を圧迫した際に自覚される光視現象を応用して眼圧を測定する7).携帯型で電源が不要であり,自己測定が可能であるという特徴を有する.Impacttonometerではプローブを角膜に衝突させ,衝突時間や減速速度から眼圧を測定する(図2)8).Dynamiccontourtonometerではチップ先端に組み込まれている圧センサーにより眼圧を測定するが,先端が凹型であり,測定値は圧平眼圧計に比して角膜の性状(角膜厚など)による影響を受けにくいとされている(図3)9).(88)眼圧を連続測定する方法として,眼内レンズ10)やコンタクトレンズ11)にセンサーを内蔵した装置が開発されているが,現在のところ実用化されていない.文献1)GoldmannH,SchmidtT:UberApplanationstonometrie.Ophthalmologica134:221-242,19572)EhlersN,BramsenT,SperlingS:Applanationtonometryandcentralcornealthickness.ActaOphthalmol(Copenh)53:34-43,19753)MackayRS,MargE:Fast,automatic,electronictonome-tersbasedonanexacttheory.ActaOphthalmol37:495-507,19594)DurhamDG,BiglianoRP,MasinoJA:Pneumaticapplana-tiontonometer.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol69:1029-1047,19655)GrolmanB:Anewtonometersystem.AmJOptomArchAmAcadOptom49:646-660,19726)LuceDA:Determininginvivobiomechanicalpropertiesofthecorneawithanocularresponseanalyzer.JCataractRefractSurg31:156-162,20057)FrescoBB:Anewtonometer-thepressurephosphenetonometer:ClinicalcomparisonwithGoldmanntonome-try.Ophthalmology105:2123-2126,19988)KontiolaAI:Anewelectromechanicalmethodformea-suringintraocularpressure.DocOphthalmol93:265-276,19979)KanngiesserHE,KniestedtC,RobertYC:Dynamiccon-tourtonometry:Presentationofanewtonometer.JGlau-coma14:344-350,200510)SvedberghB,BacklundY,HokBetal:TheIOP-IOL.Aprobeintotheeye.ActaOphthalmol(Copenh)70:266-268,199211)LeonardiM,LeuenbergerP,BertrandDetal:Firststepstowardnoninvasiveintraocularpressuremonitoringwithasensingcontactlens.InvestOphthalmolVisSci45:3113-3117,2004図3Dynamiccontourtonometerの外観図2Impacttonome-terの外観☆☆☆

屈折矯正手術:ケラテクタジアに対するリボフラビン・UVA治療

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086610910-1810/08/\100/頁/JCLSPhotorefractivekeratectomy(PRK)やlaserinsitukeratomileusis(LASIK)などのエキシマレーザーを用いた角膜屈折矯正手術は,その誕生からすでに20年近くが経過し,現在では有効性と安全性が認められた術式となった1,2).しかし,これらの手術での安全性が保証されるのは,手術適応を厳密に守った場合のみである.手術適応を見誤った場合に発症しうる最も重篤かつ不可逆的な合併症の一つに角膜拡張症(ケラテクタジア,keratectasia)がある.ケラテクタジアは,医原性円錐角膜ともよばれ,角膜屈折矯正手術後の角膜の前方突出を特徴とする疾患である.ケラテクタジアの発症要因は,大きくわけて二つあるとされている.一つ目は,術前に円錐角膜があったにもかかわらず,それを見逃して角膜屈折矯正手術を行ってしまった場合である.そして,二つ目は,手術時に過剰な実質切除を行ってしまったために術後の残余角膜厚が基準値を下回ってしまった場合である.いずれも,過度に脆弱となった角膜実質が眼内圧に負けて前方に突出すると考えられている.PRKやphototherapeutickera-tectomy(PTK)の術後にも発生しうるが,角膜フラップを作製することにより前二者に比べて角膜実質の深い層を切除するLASIKで最も発生しやすい.手術直後にはいったん裸眼視力が回復するが,数カ月で近視性乱視の急激な再発と進行がみられ,場合によっては術前より悪い状態になることもある.角膜形状解析では,原発性の円錐角膜に類似した特徴的な菲薄部の前方突出がみられる(図1).ケラテクタジアの治療は,円錐角膜と同様,眼鏡やコンタクトレンズによる矯正である.しかし,それでは十分な視力が得られない場合には角膜移植術を行うしかないとされてきた.リボフラビン・UVA治療は,角膜実質にリボフラビン(ビタミンB2)を浸透させてから長波長紫外線(UVA)を照射することにより,角膜実質のコラーゲン線維を架橋し脆弱性を改善する方法であり,円錐角膜やケラテクタジアの治療法として開発された3,4).リボフラビンが光増感性物質として働き,紫外線を照射されることによりフリーラジカルを生じ,それがコラーゲン線維の架橋を強めると考えられている(図2).さらに,リボフラビンが紫外線を吸収することにより,前房より後方の眼組(85)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男96.ケラテクタジアに対するリボフラビン・UVA治療加藤直子南青山アイクリニック慶應義塾大学医学部眼科ケラテクタジアは医原性円錐角膜ともよばれ,円錐角膜眼に角膜屈折矯正手術を行った場合や,実質を基準値以上に切除した場合に発症する.リボフラビン・UVA治療は,角膜実質のコラーゲン線維の架橋を促して角膜の脆弱性を改善させる治療で,円錐角膜やケラテクタジアの進行を防止することができる点で着目されている.2リボフラビン・UVA治療による角膜架橋の効果未処置の角膜(透明)に比べ,リボフラビン・UVA治療を施した角膜(黄色)は硬度が増加していることがわかる.(文献5,Figure1より転載)1ケラテクタジア症例の角膜形状解析原発性の円錐角膜に類似した,角膜下方部の前方突出がみられる.———————————————————————-Page2662あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008織を紫外線障害から守る役割も果たすともいわれている.1990年代から基礎実験や動物実験の成果が報告されてきたのに続き,2003年に初めてヒトの円錐角膜眼での成果が報告された5).それによれば,リボフラビン・UVA治療を行うことにより,円錐角膜の進行が抑制され,症例によっては角膜屈折力の若干の減少と裸眼・矯正視力の向上が得られ,重篤な合併症は認められなかったとされている.その後,数多くの臨床調査の結果が報告されているが,2008年1月現在大きな問題点は指摘されておらず,全世界ですでに1,000例以上の施術が行われていると推測される.実際の施術の方法は,角膜上皮を直径79mmで離した後,リボフラビンを35分ごとに30分間点眼する.その後,370nmのUVAを30分間角膜実質上に照射する(図3).角膜実質のコラーゲンの架橋は,UVA光源に近い表層で強固に起こり,深層へいくに従って弱まる.また,表層から400μmまでは,紫外線の影響で角膜の構成細胞がアポトーシスになる可能性がある4)ため,角膜内皮細胞の保護を考えて,上皮を除く角膜厚が400μm以上の症例を選んで施行する必要がある4,5).筆者らは,2007年2月より南青山アイクリニックにて,円錐角膜に対するリボフラビン・UVA治療を開始している.その結果,屈折度数,角膜形状解析検査などのデータには大きな変化はみられなかったものの,コンタクトレンズ装用状況が改善する症例がみられた.他の施設からの報告と同様,重篤な合併症は現時点までは1例も経験していない.リボフラビン・UVA治療は,裸眼視力や屈折度数の大幅な改善をもたらすものではないため,進行してしまった円錐角膜やケラテクタジア眼では大きなメリットを享受できない.むしろ,前方突出が進行する前の段階での予防的な施術に意義が認められる.実際,欧米では,安全性が確認されるに伴い対象となる症例が低年齢化しており,12歳前後の症例にも行われるようになってきている.角膜屈折矯正手術後のケラテクタジアに対しても,発症してから行うよりも,危険因子をもつ症例に対して予防的に処置を行うほうが理にかなっている.そのためにも,初期の円錐角膜やケラテクタジアを確実に診断し,さらにはこれから進行する症例を正確に見分ける方法の開発が望まれる.また,すでに進行してしまった症例に対しては,角膜厚400μm以下の症例へ適応を拡大するための治療法の改良や,PRKや角膜内リングなど他の術式との組み合わせ手術などが求められるであろう.文献1)KatoN,TodaI,Hori-KomaiYetal:Five-yearoutcomeofLASIKformyopia.Ophthalmology,inpress2)AmbrosioRJr,WilsonS:LASIKvsLASEKvsPRK:advantagesandindications.SeminOphthalmol18:2-10,20033)WollensakG:Crosslinkingtreatmentofprogressivekera-toconus.CurrOpinOphthalmol17:356-360,20064)WollensakG,SpoerlE,ReberFetal:CornealendothelialcytotoxicityofRiboavin/UVAtreatmentinvitro.Oph-thalmicRes35:324-328,20035)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboavin/Ultraviolet-A-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkera-toconus.AmJOphthalmol135:620-627,2003(86)☆☆☆図3角膜に長波長紫外線を照射しているところ上皮を離し,リボフラビンを30分間点眼した後に,長波長紫外線を30分間角膜に照射する.

眼内レンズ:プリセットインジェクター

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086590910-1810/08/\100/頁/JCLS(83)石井清さいたま赤十字病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎261.プリセットインジェクタープリセットインジェクターには,foldable眼内レンズ(IOL)が,カートリッジとインジェクターを一体型にしたケースにあらかじめ装されている.本稿ではプリセットインジェクターの種類と使用方法を紹介する.図1プリセットインジェクターa:シングルピース型.b:3ピース型.c:3ピース型の先端構造の模式図.①:IOL,②:プランジャー,③:プラグ.③②①abcabc図2実際のIOL挿入装行程a:粘弾性物質をIOL全体が浸る程度に注入する.b:IOLの前方側をカートリッジ内で固定しているプラグの脱着.c上:プランジャーの押し込み,中:人差し指と中指に挟まれたスライダーを先端部へ押し進める,下:プランジャーの押し込み.———————————————————————-Page2インジェクターを用いることにより,挿入切開創の小切開化が図られ1),さらにインジェクターに装する手間と手技の煩雑さの克服と,汚染機会の減少を目指し,すでにインジェクターにあらかじめ眼内レンズ(IOL)が装されたプリセットインジェクターが登場し使用されている.FoldableIOLが装されたプリセットインジェクターは,わが国で2002年に市販が開始された2,3).現在わが国で発売されているプリセットIOLの種類は,シングルピース型と3ピース型がある.挿入行程においてインジェクター内部でIOLが折りたたまれるため,特殊な構造を有している.プランジャー先端がIOLの後方を挟み,先端の部分は取り外し可能なプラグがIOLの光学部とloopを挟んだ状態で出荷される(図1a,b,c).あらかじめセットされているため,従来の挿入方法に比べ利点がいくつかあげられる.1.カートリッジ,インジェクターへのIOL装行程が省略挿入に際して必要な行程は,①カートリッジへの粘弾性物質の充(図2a),②IOL固定用のプラグの取り外し(図2b),③プランジャーの押し込み(IOLの挿入)である(図2c).特にワンピース型は,プラグ取り外し後の挿入が1行程である点が,後述の3ピース型IOLより簡略化されているところである.2.準備,器具の簡略化IOLとケースが一体型であるため,①IOLをケースから取り出す鑷子,②インジェクター,③カートリッジが不要となる.特に①,②は通常使用後,洗浄・滅菌が必要であるが,不必要となれば,器具の保守管理上非常に有用であると考えられる.3.汚染機会の減少以前小松ら4)は種々のfoldableIOLを鑷子およびインジェクターで挿入操作を行った場合の菌の持ち込み(Staphylococcusepidermidis)をinvitroにて検討を行い,インジェクターのほうが,鑷子による挿入よりも菌の持ち込みが少ないと報告している.IOLが創口に直接しないのが最大の理由と思われる.プリセットインジェクターはIOLが外界に接するのは眼内であるため,コンタミネーションはさらに最小限であると考えられる.4.その他インジェクターにIOL度数がラベリングされているため,一目でIOL度数の確認が容易である(図1a,b).インジェクター先端は従来のカートリッジと同様の設計であるため,切開創の変更は必要ない.現在のfoldableIOLがさまざまな仕様,機能を備え,さらには2.0mm程度の極小切開に対応してきたように5),今後はプリセットインジェクターも同様に種類が増加し,さまざまな症例選択に対応可能となると考えられる.文献1)KassarBS,VarnellED:EectofPMMAandsiliconelensmaterialsonnormalrabbitcornealendothelium:aninvitrostudy.JAmIntraoculImplantSoc6:344-346,19802)清水公也:プリセットIOLインジェクター.IOL&RS16:79-81,20023)清水公也:シリコーン眼内レンズの最新情報.あたらしい眼科20:571-575,20034)小松真理:新しいフォールダブルIOLの臨床評価インジェクター.IOL&RS17:259-262,20035)石井清:極小切開用眼内レンズ.IOL&RS21:540-545,2007図33ピース型IOLの挿入従来のインジェクターと同様なIOL挿入が可能.

コンタクトレンズ:円錐角膜へのハードコンタクトレンズ処方(5)-Descemet膜破裂例への処方-

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086570910-1810/08/\100/頁/JCLS円錐角膜のDescemet膜破裂例とオルソケラトロジー東京医科歯科大学附属病院円錐角膜外来では,円錐角膜のDescemet膜破裂例に対して,圧迫眼帯や前房中へのガス注入といった治療方法をとらず,ただちにハードコンタクトレンズ(HCL)処方を行い,変形した角膜に対してオルソケラトロジーを行っている(図1).いわば,圧迫眼帯の代わりに,直径の大きなHCLを用いて変形した角膜形状を整えるギプスのようなイメージである.筆者らは,断裂したり伸びきった膠原線維が修復に向かうこの時期を,角膜形状改善の大チャンスととらえており,角膜形状をできるだけ,正常に近い状態で固定することを目的にHCLを装用させている.酸素の供給量も閉瞼を強いる圧迫眼帯に比べて良好であり,Desce-met膜の断裂部位は大きさにもよるが,ほぼ2~3週間ほどで閉鎖し,浮腫も軽減されてゆく.HCL単独か,ピギーバックレンズか図2は,近医で圧迫眼帯を1週間ほど続けた後,浮腫(81)がひどくなってきたとのことで当院へ紹介された症例である.角膜実質が浮腫で真っ白に混濁して,角膜形状は圧迫眼帯によって肉眼でも,はっきりとわかるほど圧迫扁平化している.筆者らは基本的にピギーバックレンズを用いてHCLから角膜局所への圧力を分散するようにしているが,こうした扁平化した角膜形状では,HCLの下に装用させる使い捨てSCLの選択に苦慮し,なかなかうまくフィットするキャリアーレンズがみつからないことが多い.本症例に対してはオフロキサシン(タリビッドR)眼軟膏をレンズ内面に塗布した後,HCL単独装着させたところ,翌日から浮腫は改善しはじめ,最終的に角膜形状は球面化した.Descemet膜破裂例に用いるHCL当院ではDescemet膜破裂例に対し,円錐角膜形状をコニコイド曲線に近似させて内面デザインに反映して切削した直径9.6mmのTMDコニレンズなる非球面HCLを用いている.9.6mmの直径は相当大きいが,Desce-黒石川誠佐野研二東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純図1円錐角膜のDescemet膜破裂例に対するピギーバックレンズ処方圧迫眼帯の代わりに,直径の大きなHCLを用いて変形した角膜形状を整える.断裂したり,伸びきった膠原線維が修復に向かうこの時期を角膜形状改善の大チャンスと筆者らはとらえている.図2圧迫眼帯を1週間装着後,当院外来へ送られてきた症例本症例に対してはタリビッドR眼軟膏をレンズ内面に塗布した後,HCL単独装着させたところ(下段),翌日から浮腫は改善しはじめた.———————————————————————-Page2658あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(00)met膜破裂により飛び出した円錐角膜を押さえ込むには適当なレンズである.本レンズの代わりに非球面デザインのメニコンZを代用しても十分対応できる.直径は大きめにオーダーできるが,製作範囲が限られているので注意されたい.また,どうしても角膜にHCLが載らないときにはメニコンE1ZやローズKを試してもよい.また,数々の円錐角膜用HCLをデザインしてきた,サンコンタクトレンズに相談するのもよいかと思う.ィッティングチック基本的にHCLは3点接触法で処方する.本連載の,「円錐角膜へのHCL処方(その2)─HCL単独処方のフィッティングフィロソフィー─」を読んでいただきたい.注意するべき点は,角膜形状の変化によってHCLのベースカーブを少しずつ大きくしていくことである.はじめは曲率の小さなHCLしかうまく載らなかった症例でも,しだいに眼圧が落ち着き,角膜形状も球面化して大きなベースカーブのレンズがフィットしてくれるようになる.最終的な角膜形状はかなり球面化すると思ってよいが,もちろん個々の症例によって差がみられる.図3はDescemet膜破裂部位が中央部からかなりずれている症例で,治癒後も角膜形状は不正である.図4は破裂部位が中央部であり,治癒後の角膜形状はかなり整っている.図5になると,破裂部が中央部でさらに大きく,最終的な角膜形状はさらに整っている.このように,Descemet膜の破裂部位が大きく中央に位置しているほど,角膜形状の球面化は良好な傾向が認められるが,一方で治癒後の混濁も大きく中央部に位置することになる.以上,5回にわたって,東京医科歯科大学円錐角膜外来でのHCL処方のこだわりについて,私見を交えながら解説してきた.読者のみなさんの診療の一助になれば幸甚である.3Descemet膜破裂部位が中央部からかなりずれている症例治癒後も角膜形状はやや不正である.図4Descemet膜破裂部位が中央部にある症例治癒後の角膜形状はかなり整っている.図5Descemet膜破裂部位が中央部でさらに大きな症例最終的な角膜形状は非常に整っている.Descemet膜の破裂部位が大きく中央に位置しているほど,角膜形状の球面化は良好な傾向が認められるが,一方で治癒後の混濁も大きく中央部に位置することになる.

写真:抗癌薬TS-1Rによる角膜上皮障害

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.5,20086550910-1810/08/\100/頁/JCLS(79)吉田絢子国立病院機構東京医療センター感覚器センター写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦288.抗癌薬TS-1Rによる角膜上皮障害図2図1のシェーマ①:縞状の角膜上皮障害.②:比較的上皮障害の軽い部分.②①図1TS1Rによる角膜上皮障害(66歳,男性)TS-1R内服開始後7カ月のフルオレセイン染色像.角膜輪部から中央部に向かって縞状に染色されている.特に上方に障害が強く,瞼裂部に一致する中央やや下方の障害は軽度である.図4角膜移植眼の上皮治癒過程のvortexパターン輪部から渦巻状に染色されている.図3図1の症例の内服中止後1カ月目上皮障害は改善してきており,偽樹枝状を呈している.———————————————————————-Page2656あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(00)図1は,1カ月ほど前から生じた両眼の流涙と視力障害の訴えで受診した症例である.初診時,写真のような渦巻き状の角膜上皮障害と涙小管狭窄を両眼に呈しており,視力も右眼0.6,左眼0.5と低下していた.いわゆるハリケーン角膜炎の状態であり,点眼薬による薬剤起因性角膜上皮障害によくみられるパターンである.しかし,この症例では点眼薬の使用歴はなく,しばらくは原因不明で診断がつかなかった.その後,詳細な問診により,胃癌切除術後の化学療法としてTS-1Rの内服を行っていることが明らかとなった.外科担当医や本人と相談のうえ,TS-1Rの化学療法は継続し,眼科で経過をみることにした.経過中一時視力は両眼(0.3)まで低下したが,TS-1R内服中止とともに上皮障害は改善し,視力も右眼0.8,左眼0.9まで回復した(図3).TS-1Rとは,5-フルオロウルシル(5-FU)のプロドラッグであるテガフール(FT)に2つのモジュレーター,ギメラシル(CDHP)とオテラシルカリウム(Oxo)が配合された経口抗悪性腫瘍薬である.経口投与後の抗腫瘍効果はFTから体内で徐々に変換された5-FUの活性代謝物である5-フルオロヌクレオチドに基づいている.CDHPは5-FUの代謝酵素を選択的に阻害(可逆的)することによって,FTより派生する5-FU濃度を上昇させ抗腫瘍効果を増強する.Oxoは経口投与による消化管障害を軽減すると考えられている.TS-1Rは通常4週間投与後2週間休薬するのを1クールとして使用される.1999年発売時は胃癌のみの適応であったがその後拡大し,結腸・直腸癌,頭頸部癌,非小細胞肺癌,手術不能または再発乳癌,膵癌,胆道癌などに幅広く用いられるようになってきている.TS-1Rの眼副作用に関する報告はいまだ少ないが,最近,角膜上皮障害が起こりうることが知られてきている1,2).一般にTS-1Rによる角膜上皮障害は,内服開始後数カ月で両眼性に発症し,中等度の視力低下をきたす例が多いようである.角膜輪部から中央部に向かって上皮障害は進行し,重篤な症例では角膜中央部にびらんを形成する.充血はほとんど伴わない.TS-1Rの角膜上皮障害の頻度や発現機序の詳細については不明の点が多いが,涙液中の5-FUにより角膜輪部幹細胞に何らかの障害が起こっている可能性が示唆される.TS-1Rの投与によって涙小管狭窄や鼻涙管閉塞が生じるという報告もあり,増悪因子として働いている可能性もある3).鑑別として,図4に示すような上皮びらんの治癒過程,角膜ヘルペスによる樹枝状病変や点眼薬による角膜上皮障害などが考えられる.経口剤であるために,患者は病院ではなくクリニックを受診することがある.この場合には問診でTS-1Rを服用していることを聞き出すことが重要であり,知っていないと診断できない疾患である.治療としては,本質的にはTS-1R内服中止しかなく,内服中止により眼症状は改善する.中止が無理な場合には人工涙液やヒアルロン酸点眼など上皮障害への対症療法を行うしかないが効果は少ない.涙点プラグの使用は涙液中の5-FU濃度を上昇させる可能性があるので,勧められないと筆者は考えている.文献1)伊藤正,田中敦子:経口抗がん剤S-1による角膜障害の3例.日眼会誌110:919-923,20062)細谷友雅,外園千恵,稲富勉ほか:抗癌薬TS-1Rの全身投与が原因と考えられた角膜上皮障害.臨眼61:969-973,20073)EsmaeliB,GolioD,LubeckiLetal:Canalicularandnasolacrimalblockage:anocularsideeectassociatedwiththeantineoplasticdrugS-1.AmJOphthalmol140:325-327,2005

緑内障検査とOCT検査機器の使用経験

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS業貿易),HRT(Heidelbergretinatomography)II(Heidelberg),GDxVcc(CarlZeissMeditec)を施行し,狭隅角の患者にはUBM(超音波生体顕微鏡)(TOMEYCORPORATION)を施行し,それに加えてOCTを撮影している.OCT3000では検査可能な被検者の最小瞳孔径が3.2mmとなったため,無散瞳でも検査可能ではあるが他の網膜疾患同様に狭隅角眼を除いて散瞳下での撮影を行っている.緑内障診断プログラムとしては,視神経乳頭解析(opticnerveheadanalysis),網膜神経線維層厚(RNFLthickness)およびRNFL厚マップ(RNFLthicknessmap)がある.そのなかで筆者らはFastRNFLthick-ness3.4を使用している.この解析プログラムは,乳頭中心から3.4mmの位置での視神経乳頭周囲のサークルスキャンによって得られ,視神経乳頭の耳側,上方,鼻側,下方の順で網膜神経線維の厚みが展開され表示される.RNFLthicknessaverage解析を使用すると,被検者の年齢に相当する正常者のRNFL厚の平均値との比較により視覚的に正常範囲内・境界域・異常を判別できる.黄斑部のOCTの撮影にも同様にいえることであるが,固視が不良である患者の画像を撮影しようとすると解析に耐えうる画像が時として得られないことがある.また,再現性をみるために複数回の撮影を終えていざ解析をしてみると案外再現性の低い印象をもつ結果しか得られないこともあるのが難点と考えられる.そのため,前述の他の機器の解析結果を参考にすることもある.こはじめに2006年に改訂された緑内障診療ガイドライン(第2版)では,緑内障を緑内障性視神経症として定義している.また,補足資料として緑内障性視神経乳頭・網膜神経線維層変化判定ガイドラインが追加された.このことから,緑内障の診断に関して視野の結果とそれに一致した視神経乳頭所見はもとより網膜神経線維層の変化をいかに的確に捉えて,緑内障性視神経症を確実に検出するかがよりいっそう重要とされる.熟練した緑内障専門医の主観的判定に頼らずとも,多様な診断機器を駆使し,その客観的なデータに基づいて一般の眼科診療医でも客観的に確定診断を下せる状況を整備することが望ましい.光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)は網膜疾患を中心に診断する目的でOCT2000(CarlZeissMeditec)が導入されたが,より優れた画質と黄斑部網膜厚,視神経乳頭周囲線形線維厚,視神経乳頭形状解析などの緑内障診断に対応できる解析ソフトが標準装備されたOCT3000が普及した.さらに最近では,今後のOCT診断装置の中心とも目されるスペクトラルドメインが登場し,業界各社がより精度を高めるべくしのぎを削っているようである.今回はOCTのバイヤーガイドの一端に緑内障検査とOCT検査機器の使用経験を書かせていただく.当科では来院した緑内障の初診患者には視力・眼圧および一般的な検眼鏡検査に加え,単純眼底写真(広角),ステレオ眼底写真,ペンタカム(オクルス社製,中央産(71)647HsashTaedaauhsaSuyama9208641131特集●新しい光干渉断層計(OCT)バイヤーガイドあたらしい眼科25(5):647654,2008緑内障検査とOCT検査機器の使用経験ExperienceofOpticalCoherenceTomographyinGlaucomaExamination武田久*杉山和久*———————————————————————-Page2648あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(72)の点ではOCT単独での診断は他の診断機器同様あくまでも診断補助としての有効性があるが,経過観察装置としては結果のばらつきを十分に考慮する必要がある.症例〔症例1〕患者は37歳,男性.アトピー性皮膚炎でステロイドの皮膚軟膏の使用に伴う右眼ステロイド緑内障疑いで当院を紹介受診.初診時右眼眼圧は45mmHgで,精査後に右眼のトラベクロトミーを施行し,眼圧は点眼のみで1315mmHgに安定した.その際の術前検査および術後3カ月の検査の比較をした.眼底写真では明らかな視神経乳頭陥凹は認めず,網膜神経線維層欠損(nerveberlayerdefect:NFLD)も図1初診時の右眼眼底写真全周のリムは保たれており,明らかなNFLDや乳頭出血は認めない.図2術前(a)および術後2カ月(b)のHRTII画像a:術前のHRTII画像では,高眼圧により視神経乳頭陥凹の拡大があるため,鼻側に正常範囲外の判定(印),耳下側で境界域の判定となっている.b:術後2カ月のHRTII画像では鼻側,鼻上側で境界域の判定となっている.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008649(73)図3初診時(a)および術後2カ月(b)のGDxVcc画像a:初診時のGDxVcc画像では鼻上側および耳下側に正常範囲外の判定(矢印)となっている.b:術後2カ月のGDxVcc画像では上下象限で正常範囲外の判定.初診時に比較してややRNFL圧の菲薄化の悪化が認められる(赤の円の部分).ab———————————————————————-Page4650あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(74)図4初診時(a)および術後2カ月(b)のStratusOCT画像a:初診時のStratusOCT画像では鼻上側に正常範囲外の判定,それ以外の象限では境界域の判定となっている.b:術後2カ月のStratusOCT画像では上下象限で正常範囲外の判定.初診時に比較してややRNFL厚の菲薄化の悪化が認められる.ab———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008651(75)は上方から鼻上側および下方のRNFL厚の菲薄化が示された(図3a).StratusOCTの結果は右眼で上方のRNFL厚の菲薄化が示され,他の診断補助装置の結果と同様であった(図4a).約3カ月後の各検査の結果を比認めなかった(図1).術前のHRTIIではrimarea,rimvolumeおよびmeanRNFLthicknessが正常範囲外と判断され,Moorelds解析では鼻側が正常範囲外,耳下側が境界域と判断されている(図2a).GDxVccで図5初診時(a)および術後2カ月(b)のHamphrey静的視野検査結果a:初診時のHamphrey静的視野検査結果では高眼圧のためか全領域での感度低下を認める.b:術後2カ月のHamphrey静的視野検査結果では上下の鼻側比較暗点を認める.初診時に比較して視野の改善が認められる.ab図6初診時(a)および術後2カ月(b)のGoldmann動的視野検査結果a:初診時のGoldmann動的視野検査結果では鼻下側および耳下側で感度低下を認める(白矢印).b:術後2カ月のHamphrey静的視野検査結果では初診時同様に鼻下側および耳下側で感度低下を認め(白矢印),さらに鼻上側に感度低下域(黒矢印)を認める.ab———————————————————————-Page6652あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008較したところ,HRTIIの結果は初診時と比較して軽快しており,Moorelds解析でも正常範囲外の判定は認めなかった(図2b).それに対して,GDxVccおよびStratusOCTの結果は初診時に比較して視神経乳頭上方および下方のRNFL厚の菲薄化がより進行している結果となった(図3b,4b).視野検査はHamphrey静的視野結果を術前と術後で比較したところ術前の高眼圧の影響もあるせいか,術後で改善している(図5a,b)が,Goldmann動的視野では術前には認めなかった絶対暗点や上方の視野の感度低下領域の出現が認められ(図6a,b),StratusOCTおよびGDxVccの時間経過の結果を反映していると考えられた.StratusOCTに加えて現在当院外来にはTOPCON社製の3DOCT-1000(3Dスキャン)があり,黄斑部疾患(76)図7眼底写真耳上側および耳下側にNFLDを認める(矢印).図8HRTIIの画像耳上側および耳下側のリムの菲薄化を認める.図9Hamphrey静的視野結果下方に視野異常が強く,上方視野ではわずかに閾値低下を認める.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008653(77)のみならず緑内障症例の視神経乳頭およびNFLDを含むアーケード内の神経線維層の解析を行っている.撮影する固視位置の違いでDisk(視神経乳頭部),Fovea(中心窩)およびCenter(老人保健法の位置)と設定区分があるが,視神経乳頭の観察や乳頭周囲の神経線維層厚の測定はDiskで,NFLDの状態はFoveaまたはCenterで行い解析に利用している.〔症例2〕つぎに3Dスキャンで撮影された症例を呈示する.患者は58歳,女性.眼底写真上(図7)で耳上側および耳下側にNFLDを認める正常眼圧緑内障である.この症例のHRTII(図8)およびHamphrey静的視野結果(図9)とGoldmann動的視野(図10)と3Dスキャン(図11)を呈示する.眼底写真上のNFLDに一致してHRTIIで耳上側および耳下側のリムの菲薄化を認める.Hamphrey静的視野で下方に視野異常が強く,上方視野ではわずかに閾値低下を認める(図9).Gold-図10Goldmann動的視野結果下方視野に鼻側階段を認め,上方視野では中心視野に感度低下領域の出現が認められる.図113Dスキャンの画像a:3Dスキャンのディスプレイ画像.b:網膜断面でNFLDが明瞭に観察でき(赤の楕円),網膜面でもNFLDの走行が描出されている(矢印).c:NFLDの走行が黄斑付近まで明瞭に描出されている(矢印).d:NFLD(赤の楕円)や中心窩が立体的に描出されている.acbd———————————————————————-Page8654あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(78)mann動的視野でも下方視野に鼻側階段を認め,上方視野では中心視野に感度低下領域の出現が認められる(図10).NFLDの同部位の3Dスキャンでは得られた画像をマウスでいろいろな方向から確認できるためNFLDの位置や深さまで確認できる.図11aは3Dスキャンの解析結果の画面である.立体解析画像に注目すると図11bに示すようにNFLDの部位を網膜断面で観察したところNFLDが明瞭に認められ(赤の楕円),同一画像で網膜面に注目するとNFLDの走行が立体的に描出されている(矢印).図11cのように観察する方向を変えてみると,NFLDが黄斑部付近まで描出されている(矢印).さらに図11dのようにNFLD(赤の楕円)同様に中心窩の様子も明瞭に観察できる.また,モードを変更することでよりNFLDを鮮明にすることも可能である.この製品には緑内障診断ソフトなどの充実が今後期待される.

緑内障検査とOCT検査の機種一覧

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSの分解能は10μm,スキャン速度は400Aスキャン/秒である.豊富な解析ソフトを搭載しているのが特徴で,緑内障解析ソフトには視神経乳頭周囲RNFL厚解析ソフト(“RNFLThickness(3.4)”と“RNFLMap”)と視神経乳頭解析ソフト(“OpticDisc”)がある.それぞれの測定モードには通常モードと測定ポイントを減らして短時間で測定するFastモードがあるが,固視微動の影響が少ないFastモードで測定することが多い.“(Fast)RNFLThickness(3.4)”は視神経乳頭中心から直径3.46mmの部位の網膜をサークルスキャンすることによってRNFL厚を計測する.解析には連続3回測定の平均値を用い,RNFL厚のグラフ表示のほかに30°ずつ時計軸に12分割した平均値と4分割した平均値も表示される.また,3回目の測定時の眼底像と最もSignalStrength(信号強度)が弱いOCT画像1枚が表示される.SignalStrengthは基本的に5以上あれば信頼度が高いが,AnalysisCondenceLowと表示される場合は信頼度が低い.さらに平均RNFL厚をはじめとする11のパラメータも表示され左右眼の差も計算される.なお,それぞれの値は年齢を補正した正常眼のデータベースと比較され,正常眼の1%以上5%未満では黄色,1%未満では赤色に表示される(図1).“FastRNFLThickness(3.4)”の正常眼のデータベースのサンプル数は328眼(1885歳)であり,人種別の内訳は白人が63%,ヒスパニックが24%,黒人が8%と続き,アジア人はわずか3%である.問題点としては現在のソはじめに緑内障は網膜神経節細胞の細胞死によって生じる視神経症であり,わが国の中途失明原因の第1位を占める.組織学的には網膜神経線維層(retinalnerveberlayer:RNFL)の菲薄化や視神経乳頭陥凹の拡大が生じる.Opticalcoherencetomography(OCT)はその優れた分解能1)からこれらの解剖学的変化の定量が可能であり,解析することで緑内障の診断支援を行っている.解析を行ううえで重要なのは正常眼との比較である.特にRNFL厚は正常者でも加齢に伴い薄くなることが報告2)されており,RNFL厚を判定する際には同年代の正常眼との比較が必要になる.さらに,正常眼のRNFL厚は人種間で差があるという報告3)もあり,正常眼のデータベースのサンプルの内容にも注意が必要である.現在,OCTは多数の会社から発売されているが,第一世代(タイムドメイン方式)と第2世代(スペクトラルドメイン方式)に分類される.スペクトラルドメインOCTはタイムドメインOCTに比べ高速で高分解能の画像が取得できる.今回,緑内障解析ソフトを搭載しているタイムドメインOCT3機種,スペクトラルドメインOCT2機種について,それぞれの機種の特徴とソフトの内容について解説する.IOCT3000(StratusOCT):CarlZeissMeditec社タイムドメインOCTの代表的機種である.深さ方向(61)637Makotoanno9909585222特集●新しい光干渉断層計(OCT)バイヤーガイドあたらしい眼科25(5):637645,2008緑内障検査とOCT検査の機種一AListofOpticalCoherenceTomographyDevicesinGlaucomaExamination菅野誠*———————————————————————-Page2638あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(62)図1OCT3000の“FastRNFLThickness(3.4)”の解析画面視神経乳頭周囲RNFL厚のグラフ表示や11のパラメータが表示され,正常眼との比較が行われる.(出典:CarlZeissMeditec社)図2OCT3000の“FastOpticDisc”の解析画面6本のラインスキャンから視神経乳頭のパラメータを計算する.(出典:CarlZeissMeditec社)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008639(63)ト(角膜方向への移動距離)も任意の値が入力可能である.課題としては6本のラインスキャンのみで各パラメータを算出しているため情報量が少なく精度不足の点は否めない.また,正常眼のデータベースも搭載されていない.IIOCTオフサルモスコープ(C7):ニデック社OCT3000と同じタイムドメイン方式のOCTで深さ方向の分解能は8μmである.OCT3000が深さ方向(Z軸方向)へのAスキャンを重ね,横方向(X-Y軸方向)に移動することによって網膜断層像(Bスキャン)を得るのに対して,OCTオフサルモスコープでは,はじめにX-Y軸方向に平面としてスキャンし(Cスキャン),その後深さ方向(Z軸方向)へ移動することによって画像を取得する.また,OCTオフサルモスコープは,OCTと同一光源,同一光軸で走査レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmoscope:SLO)の鮮明な眼底画像を同時に取得できる特徴ももつ.このためOCT画像とSLO画像を組み合わせて表示することも可能である.緑内障の解析ソフトには“RNFL”があり,視神経乳頭を中心にサークルスキャンをしRNFL厚を計測すフトでは,RNFLの境界は自動描線のみで決定され手動での補正ができない(境界エラーがある場合,訂正ができない),1回分のOCT画像しか表示されない(他の2回分のOCT画像は不明であり,境界エラーの有無を判定できない)点があげられる.次期ソフトではRNFLの境界を手動で補正できるようになる見込みである.“(Fast)RNFLMap”は視神経乳頭中心から直径2.96.8mmまでの位置でサークルスキャンを6回行い,視神経乳頭周囲のRNFL厚をマップ化して表示する.マップ表示のほかに,視神経乳頭中心から直径2.9mmと6.8mmの部位での8分割した平均RNFL厚も表示される.“(Fast)OpticDisc”は視神経乳頭を放射状に長さ4mm,6本のラインスキャン(30°間隔)を行うことで,12方向の横断面から視神経乳頭の形状解析をする.OCTの断層像で網膜色素上皮の終端を検出し,網膜色素上皮の終端を結んだラインから角膜方向に150μm平行移動したラインで陥凹径を,網膜色素上皮の終端から垂直方向に延ばしたラインを視神経乳頭縁としてそれぞれの値を算出する(図2).色素上皮の終端は自動で検出されるが手動での補正が可能であり,陥凹径のオフセッ図3OCTオフサルモスコープの“RNFL”の解析画面視神経乳頭周囲RNFL厚のグラフ表示や3回分のOCT像が表示される.(出典:ニデック社)———————————————————————-Page4640あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(64)ポイントと600ポイントの2種類があり“200”のモードでは短時間で測定できる.撮影すると連続6枚の画像がストックされ(図5),任意の画像1枚を選択して解析する.RNFLの境界は自動描線で行われるが手動での補正も可能である.日本人の正常眼486眼(1880歳)のデータベースが搭載されており,RNFL厚のグラフ表示の他に12分割と6分割した平均値も表示される.さらに平均RNFL厚のなど14のパラメータも表示され,左右眼の差も表示される.なお,それぞれの値は年齢を補正した正常眼のデータベースと比較され,正常眼の1%以上5%未満では黄色,1%未満では桃色に表示される(図6).IV3DOCT1000:トプコン社世界初のスペクトラルドメイン方式のOCTである.分解能は5μm,スキャンスピードは18,700Aスキャン/秒でOCT3000(400Aスキャン/秒)の約47倍である.眼底カメラを搭載しているのが特徴で,OCT像と眼底写真や蛍光眼底写真などを位置合わせする(regis-る.サークルスキャンの直径は3.1mmと3.4mmの2種類がある.解析には連続3回測定の平均が用いられるが,オートトラッキング機能を装備しており連続3回の測定は同じ位置で測定できる.RNFLの境界は自動描線で行われるが,手動での補正も可能である.平均RNFL厚のほかに部位ごとに4分割,8分割した平均値も表示される(図3).同一眼の経過観察にはRNFL厚の2回の差分を表示する機能(図4)があり便利であるが,正常眼のデータベースが搭載されておらず正常眼との比較はできない.IIIEZSCANNER:マイクロトモグラフィー社国産初のOCTでタイムドメイン方式を採用している.深さ方向の分解能は1020μm,スキャン速度は400Aスキャン/秒でOCT3000とほぼ同等の性能である.緑内障解析ソフトは視神経乳頭を中心にした直径3.46mmの位置の網膜をサークルスキャンしRNFL厚を計測する.撮影モードは横方向の測定ポイントが200図4OCTオフサルモスコープの“RNFL”の比較画面2回分のRNFL厚グラフとその差が表示される.(出典:ニデック社)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008641(65)図5EZSCANNERの視神経乳頭周囲RNFL厚の測定画面6回分のOCT像が自動的にストックされる.(出典:マイクロトモグラフィー社)図6EZSCANNERの視神経乳頭周囲RNFL厚の解析画面ストックした画像から任意の1回分のRNFL厚を解析する.(出典:マイクロトモグラフィー社)———————————————————————-Page6642あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(66)図73DOCT1000の視神経乳頭周囲RNFL厚の解析画面RNFL厚のグラフや4,12分割した平均値も表示され正常眼との比較が行われる.(出典:トプコン社)図83DOCT1000の視神経乳頭を中心とした3Dスキャン画面3次元画像と視神経乳頭周囲のRNFL厚のマップを表示している.また,RNFL厚のマップは眼底写真とregistrationも行っている.(出典:トプコン社)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008643(67)実しており,視神経乳頭周囲のRNFL厚(“RNFL3.45”)および視神経乳頭解析ソフト(“NerveHeadMap4:NHM4”)をはじめ,黄斑部の解析ソフト(“MaculaMap7:MM7”)も搭載しているのが特徴である.さらに視神経乳頭周囲を含む4×4mmの範囲を約2秒でスキャンし3次元化して表示する“3-DDisc”もある.それぞれのソフトでは経時変化の表示や比較解析機能も装備している.“RNFL3.45”は視神経乳頭中心から直径3.45mmの部位の網膜を0.16秒で4回連続サークルスキャンし平均化したRNFL厚を解析する.RNFL厚のグラフ表示とその下に2,6,16分割した平均値も表示され,正常眼との比較が行われる.平均RNFL厚や4,8分割した平均値は表内に表示される(図9).“NHM4”は視神経乳頭中心から放射状に長さ4mm,12本のラインスキャン(15°間隔)を行い24方向の横断面から視神経乳頭の形状解析をする.同時に直径2.54.0mmまでの6本のサークルスキャンを行い視神経乳頭周囲のRNFL厚のマップ表示もする.視神経乳頭解tration)機能も装備している.このため,眼底写真からOCTの撮影部位を特定でき,毎回同じ部位での撮影が可能になり経過観察に有用である.緑内障解析ソフトには視神経乳頭中心から直径3.4mmの網膜をサークルスキャンしてRNFL厚を測定するソフトがあり,RNFL厚のグラフ表示と4分割,12分割した平均値が表示される.日本人正常眼200眼以上のデータベースを搭載しており,正常眼の1%以上5%未満では黄色,1%未満では赤色に表示される(図7).さらに3DスキャンモードではRNFL厚のマップ表示も可能である(図8).また,同一眼の経過観察に便利な差分マップ表示機能もある.黄斑部についてもRNFL厚の測定は可能であるが,緑内障解析ソフトは搭載されていない.VフーリエドメインOCTRTVue100:Optovue社スペクトラルドメイン方式のOCTである.深さ方向の分解能は5μm,スキャン速度は26,000Aスキャン/秒でOCT3000の65倍である.緑内障解析ソフトは充図9RTVue100の“RNFL3.45”の解析レポート視神経乳頭周囲RNFL厚のグラフや2,6,16分割した平均値も表示され正常眼との比較が行われる.(出典:Optovue社)図10RTVue100の“NHM4”の解析レポート視神経乳頭のパラメータが左下の表にまとめられ,視神経乳頭周囲RNFL厚のマップとグラフが右下に表示される.(出典:Optovue社)———————————————————————-Page8644あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008前述した“RNFL3.45”のRNFL厚のグラフはスキャンビームの中心から直径3.45mmの位置のRNFL厚であり“NHM4”のものとは厳密には異なる.このため,“NHM4”モードでは視神経乳頭中心を多少ずれてスキャンしても,乳頭中心から直径3.45mmのRNFL厚の解析には影響しない利点がある.“MM7”は黄斑部の7×7mmの範囲で,長さ7mmのラインスキャンを水平方向に1本,垂直方向に0.5mm間隔で15本スキャンし,網膜内層の神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)層を測定しマップ化して表示する.GCC層は網膜神経線維層,神経節細胞層,内網状層の3層の合計からなり,緑内障では神経節細胞の減少に伴い菲薄化すると考えられている.GCC厚マップのほかに,DeviationマップやSignicanceマップが選択でき正常眼のデータベースと比較が行われる(図11).正常眼のデータベースであるが,サンプル数は“RNFL3.45”および“NHM4”のRNFL厚は330眼(1880歳),“MM7”のGCC厚は300眼以上(1880歳)であるが人種別の内訳などの詳細は公開されていない.今後,日本人の正常眼のデータベースが搭載される予定である.なお,正常眼との比較ではそれぞれのパラメータが正常眼の1%以上5%未満では黄色,1%未満では赤色に表示されるのはOCT3000と同様である.おわりに今回取り上げたOCTの緑内障解析ソフトの種類および正常眼のデータベースの搭載の有無について表1にま析をする際には,視神経乳頭縁を手動で決定し解析する.視神経乳頭縁の決定にはOCT画像で網膜色素上皮の終端から決定する方法や“3-DDisc”の画面から決定する方法などがある.視神経乳頭周囲のRNFL厚のマップには16分割した各セクション内の平均値も表示され正常眼との比較が行われる.さらに,計算で視神経乳頭の中心を求め,そこから直径3.45mmの位置でのRNFL厚が再計算されグラフ表示される(図10).なお,(68)図11RTVue100の“MM7”の解析レポート黄斑部GCC厚マップのほかに,DeviationマップやSignicanceマップが選択でき正常眼との比較が行われる.(出典:Optovue社)表1各種OCTの緑内障解析ソフトと正常眼のデータベースOCT測定方式緑内障解析ソフト正常眼のデータベース視神経乳頭周囲RNFL厚視神経乳頭解析黄斑部GCC厚OCT3000(StratusOCT)タイムドメイン○○×○OCTオフサルモスコープ(C7)タイムドメイン○×××EZ-SCANNERタイムドメイン○××○3DOCT-1000スペクトラルドメイン○××○RTVue-100スペクトラルドメイン○○○○RNFL:retinalnerveberlayer,GCC:ganglioncellcomplex(神経節細胞複合体).緑内障解析ソフト,正常眼のデータベースは2008年3月時点での搭載の有無.———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008645今回の執筆にあたり,画像の提供ならびに協力をいただいたCarlZeissMeditec社,ニデック社,マイクロトモグラフィー社,トプコン社,Optovue社(国内販売:中央産業貿易)の関係者の皆様に深謝します.文献1)HuangD,SwansonEA,LinCPetal:Opticalcoherencetomography.Science254:1178-1181,19912)VarmaR,SkafM,BarronE:Retinalnerveberlayerthicknessinnormalhumaneyes.Ophthalmology103:2114-2119,19963)BudenzDL,AndersonDR,VarmaRetal:DeterminantsofnormalretinalnerveberlayerthicknessmeasuredbyStratusOCT.Ophthalmology114:1046-1052,20074)MedeirosFA,ZangwillLM,BowdCetal:ComparisonoftheGDxVCCscanninglaserpolarimeter,HRTIIconfocalscanninglaserophthalmoscope,andstratusOCTopticalcoherencetomographforthedetectionofglaucoma.ArchOphthalmol122:827-837,20045)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWRetal:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol107:453-464,1989とめた.なお,紹介できなかったCarlZeissMeditec社のスペクトラルドメインOCTであるCirrusHD-OCTにも緑内障解析ソフトが搭載されるのをはじめ,他のOCTでも緑内障解析ソフトの追加や更新がされると思われる.緑内障の画像解析装置には多数の種類があるが,ScanningLaserPolarimeterのGDx-VCC,Con-focalScanningLaserOphthalmoscopeのHRTⅡ,タイムドメインOCTのOCT3000の緑内障の診断能力はほぼ同等4)とされている.基本性能が向上したスペクトラルドメインOCTは,視神経乳頭と乳頭周囲RNFL厚に加え黄斑部の網膜内層厚(GCC厚,RNFL厚)の解析も可能になり,緑内障解析ソフトの精度の向上が期待されている.現在,緑内障の診断および進行の判定は自覚的検査である視野検査で行っている.自動視野計で5dBの感度の低下の出現までに20%の網膜神経節細胞が減少している5)とされている.緑内障初期では構造的変化が機能的変化(機能障害)に先行すると考えられており,診断能力が向上したOCTがどの程度,pre-peri-metricな診断(リスクの把握)から緑内障管理まで対応できるかは今後の検証が待たれる.(69)

前眼部OCT検査の機器:使用経験

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS時の前房内所見,結膜・涙液所見に分類して,それぞれに応じた具体的な症例を提示して述べていくことにする.すべての症例を網羅することはできないが,その有用性を認識していただければ幸いである.I角膜厚測定通常モードでもhighresolutionモードでも,任意の方向と部位でのZ軸方向の断層像が得られる.実際の前眼部を確認しながら撮影部位を決定できるので,混濁部位や浮腫を確認しながら撮影が可能である.また解析時には,得られた画像から選択した任意の2点間の距離を測定することができる.測定距離の両端には短い直交する線があって,角膜のカーブの接線に合わせることによって,できるだけ正確な角膜厚が測定できるようになっている.全層角膜移植後や表層角膜移植後の角膜厚の推移を,定量的に評価することにより,浮腫の軽減具合をみて術後のグラフト機能の改善の程度を判断したり,LASIK(laserinsitukeratomileusis)でのフラップ厚の測定機能を用いてLASIK後のフラップ厚や残存ベッド厚の測定を行ったり,角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)後のグラフト厚とホストの角膜厚などを測定することによって,術後評価にも使用可能である.DSAEKでは,術後の内皮機能の回復とともに角膜厚の減少する様子が捉えられ,術後経過の診察の一助となる(図3).はじめに前眼部OCT(光干渉断層計)検査の検査機器については前項で説明されているので,本稿では実際の臨床での使用経験について解説したい.当科ではZeiss社より販売されているVisanteTMOCTを使用した.撮影に関しては,網膜領域ですでに使用されているOCTに比較しても撮影速度が速く,手技が簡単かつ非接触で行えるためコメディカルでも十分に検査可能である.被検者側もまぶしさが少なく,自然な開瞼状態での撮影が可能である.なによりも得られる情報が,角膜厚・角膜混濁の深さ・虹彩癒着などの前房内の情報など多岐にわたり,これまで経験的に評価されてきたものを定量化するとともに,これまでにない非常に有用な情報も多く得られてきている.画像は,角膜全体が写る通常の撮影モードに加えて,撮影範囲は狭くなるがより高解像度なhighreso-lutionモード,そして角膜厚をマッピング表示できるpachymetrymapがある(図1).OCT画像による形態学的な評価が可能であることは当然のことである(図2)が,角膜厚や混濁の深さなどは,今まで経験的にしか判断できず,どうしても実際の術中所見との違いがあったのだが,前眼部OCTはこれらの値を数値化して,定量的・客観的に判断することを可能にしてくれる非常に優れた機器であり,今後の角膜診療においては必須のアイテムになっていくものと思われた.本稿では実際の臨床現場での使用例について,角膜厚測定,角膜厚マッピング,深さの定量化,角膜混濁(55)631AiraKubotaKohiishida:経器眼:980857411経器眼特集●新しい光干渉断層計(OCT)バイヤーガイドあたらしい眼科25(5):631636,2008前眼部OCT検査の機器:使用経験UseExperienceofAnteriorOpticalCoherenceTomography久保田享*西田幸二*———————————————————————-Page2632あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(56)abc図1前眼部OCTによる正常角膜の画像a:通常モード,b:Highresolutionモード,c:Pachymetrymap.図2前眼部OCTによる隅角および角膜の形態学的評価a,b:ICE症候群でスリットでは隅角が閉塞しているように見えるが眼圧は11mmHg.c:前眼部OCTでは,虹彩癒着を認めるが隅角には隙間があることがわかる.d,e:ぶどう膜炎の角膜後面沈着物.前眼部OCTで角膜内皮面の突起物として認められる.deabc———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008633(57)II角膜厚マッピングVisanteTMOCTには,角膜の中央を基点として180°回転しながら角膜全体の厚みを測定し,マッピング表示できるモードがある.初期には8方向の断層像の測定から得られた厚みの測定でマッピング表示を行っていたが,現在では16方向の測定での表示となっており,より詳細な表示が可能となっている.この角膜厚のマッピこれまで角膜厚を測定するには,超音波を用いたパキメータによる測定が主だったが,プローブは検者の手で測定しており超音波の進む方向によって測定値が異なるため,誤差も大きかった.前眼部OCTでは,短時間で非接触での測定であり,複数回の測定でのばらつきはもちろんのこと,検者間でのばらつきも少なく一定した検査結果を得ることができる.図480歳,女性.右眼の角膜移植後のヘルペス性角膜炎初診時(a,b)および治療開始後1カ月(c,d)の前眼部写真および前眼部OCTのpachymetrymap.著明に浮腫が軽減していることがわかる.bacd図389歳,女性.DSAEK術後4カ月の前眼部写真(a)および前眼部OCTの画像(b)術前矯正視力(0.3),術後矯正視力(0.4)である.ab———————————————————————-Page4634あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(58)る.しかし,OCTの特性によって,コントラストのつきやすいものとそうでないものとがあり,アベリノ角膜変性症や帯状角膜変性(図5)などでは深さの定量化が比較的容易であるが,梅毒性角膜炎などのdiuseな混濁は写りにくい.撮影可能な症例については,LASIKのフラップ厚測定ツールにて,角膜表面から混濁までの距離と混濁から角膜内皮までの距離の測定が可能となり,特にPTKの適応を決めるときに有用である.IV前房内透見困難症例での前房内観察角膜混濁によって,前房内観察や隅角観察が困難な場合でも前眼部OCTでは虹彩癒着の有無や瞳孔癒着の有無などを観察することができる.複数回の角膜移植を受けている症例では隅角癒着やドナーとグラフトの創間に虹彩が癒着している症例などがあるが,角膜混濁などで細隙灯顕微鏡検査のみでは術前に詳細を把握することがング表示は,角膜全体での浮腫の程度や局在を瞬時に判断できるメリットがある.角膜感染症などでの浮腫の局在がわかりやすくなり,治療効果の判定がしやすくなる.図4に感染性角膜潰瘍の治療例を示した.初診時には,角膜厚が増大していたのが,治療に反応して次第に角膜厚が減少していく様子がわかる.これまではカルテに記載した所見を思い起こしながら治療効果の判定をしていたものが,具体的な数値をもって判断できることになり,実際に使ってみて非常に有用であった.III深さの定量角膜混濁の深さについてはこれまでは,スリット所見をもとにおおよその位置を推定して,LKP(lamellarkeratoplasty)やPTK(phototherapeutickeratectomy)の適応を決めていたため,どうしても手術適応を誤る可能性があった.角膜混濁を前眼部OCTで撮影できれば,混濁の深さに応じて手術適応を決めることも可能にな図588歳,女性.右眼の帯状角膜変性のPTK術前(a,b)および術後(c,d)の前眼部写真および前眼部OCTのhighresolutionモード術後の上皮下混濁が消失していることがわかる.acbd———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008635(59)また,角膜上皮の幹細胞が疲弊したStevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡などの眼表面疾患では,結膜侵入や角膜実質混濁により前房内観察が非常に困難な症例がある.これまでは,全層角膜移植と輪部移植などが行われていたが,拒絶反応が高率に起こるため,近年では自己困難であった.このような症例についても,隅角や虹彩の状態を把握することができるため,虹彩をさわることが予想され術後の炎症が強くでる可能性がある場合には,術中からステロイドを投与することができるなど,より詳細な手術計画を立てることができる.図640歳,男性.左眼のアルカリ外傷3度の全層角膜移植を受けるも治癒せず.細隙灯顕微鏡検査では前房内は透見不能(a,b).前眼部OCTの通常モード(c)およびhighresolutionモード(d).一部に虹彩癒着を認めるが,全周性の癒着はないことがわかる.cabd図7涙液・結膜所見a:Highresolutionモードでの撮影.上下の涙液メニスカスの撮影が可能である.b:結膜弛緩症の症例.向かって左が下方であるが,上下ともに弛緩した結膜により涙液メニスカスの形成が不良である.ab———————————————————————-Page6636あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(60)ている像がわかるし,涙点プラグの挿入前後での涙液メニスカスの形成具合を評価することも可能である.おわりにすべての症例を提示することはできなかったが,前眼部OCTはこれまで経験則で行われていた診察所見を定量化してくれるだけでなく,新しい情報をも提供してくれる画期的な検査機器である.OCT技術が,これまで網膜領域で急速に普及してきたように,今後は角膜領域においても同様のことが起こってくるであろう.今後の改良によってますますその重要性・必要性は高まってくるものと思われるが,われわれ眼科医はこれらの機器の進歩に遅れないよう,得られる情報を十分に理解・活用していくことが大事である.細胞を用いた培養口腔粘膜上皮シート移植といった上皮のみを移植する術式が開発されてきた.このような手術を行う場合には,これまで手術中にしか確認できなかった隅角や前房の状態を,術前に把握しておくことが可能となる(図6).手術適応の有無を評価する助けにもなり,より正確な手術適応の判定が可能となる.V涙液量の定量化や結膜の評価自然な開瞼状態での撮影が可能であるため,上下の涙液メニスカスの撮影も可能である.この涙液メニスカスを定量化することによって,ドライアイの評価に使う試みもなされている(図7).また,前眼部OCTは結膜の状態を把握することも可能で,緑内障のブレブの状態や結膜腫瘍,結膜弛緩症なども撮影可能である.結膜弛緩症では,弛緩した結膜が涙液メニスカスの形成を阻害し外眼部外来手術マニュアル?????の手術を写真・イラストを多用しわかりやすく,読みやすく!【編集】稲富誠(昭和大学教授)・田邊吉彦(昭和大学客員教授)Ⅰ眼瞼の疾患1.霰粒腫(三戸秀哲井出眼科新庄分院)2.麦粒腫(三戸秀哲)3.眼瞼下垂(久保田伸枝帝京大学)4.眼瞼内反(根本裕次帝京大学)5.眼瞼外反─老人性(八子恵子福島医科大学)6.兎眼(八子恵子)7.睫毛乱生(柿崎裕彦愛知医科大学)8.眼瞼皮膚弛緩症(井出醇・山崎太三・辻本淳子井出眼科病院)9.眼瞼良性腫瘍(小島孚允さいたま赤十字病院)Ⅱ結膜・眼球の疾患1.翼状片(江口甲一郎江口眼科病院)2.眼窩脂肪脱出(金子博行帝京大学)Ⅲ涙器の疾患1.涙道ブジー(先天性狭窄)(吉井大国立身体障害者リハビリテーションセンター)2.涙小管炎(吉井大)3.涙点閉鎖(吉井大)B5判総122頁写真・図・表多数収載定価6,300円(本体6,000円+税300円)メディカル葵出版株式会社〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容目次■(かっこ内は執筆者)

前眼部OCT検査の機器:機種一覧

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS方向5~20μm,縦横方向10~60μm程度と高精度の画像が得られる.光ファイバーを使用しているため,測定機本体の形の自由度が高い.すなわち眼科でよく使用する機器と同じような形,たとえばスリットランプやオートレフのような筐体にすることができるので操作性が良い,ということもあげられる.非侵襲であり,かつ操作性が良いので,眼科医のみならず,コメディカルでも操作可能である.II前眼部OCTと後眼部OCTの違い大きく2つの違いがある.それは,測定光の波長と測定レンジである.後眼部において網膜は薄く,比較的均一な厚さで半透明な組織である.一方,前眼部の測定対象には,不透明組織(結膜,強膜,ぶどう膜)と透明組織(角膜,前房,水晶体)の両方が存在する.そのため至適な光波長が異なる.前眼部では1,310nm,後眼部では840nmという波長が多く使われる.また,前眼部と後眼部のOCTは観察対象の形態がまったく異なる.最初に開発された後眼部(眼底用)OCTは,主として黄斑の形態を知ることを目的としていた.すなわち,広さが4×4mm,奥行き2mm程度の測定レンジがあれば十分であった.そのため眼底用OCTをそのまま前眼部に応用すると,測定範囲が不十分である.両側の隅角を含めた角膜と,同時に虹彩,水晶体をはじめに眼科には,手軽に眼球の光学切片を切り出せる,スリットランプという診療機器がある.眼科医の手足ともいうべき機器であり,これなしでは眼科診療を行うことは不可能である.しかし,スリットランプには可視光を使うという原理上の弱点も存在する.たとえば,スリットランプでは不透明組織(結膜・強膜)の内部構造を正確に知ることはできないし,隅角も接触レンズを使用しないと観察することができない.熟練した眼科医と研修医では得られる情報量の間に雲泥の差がある.そこで,眼球の組織切片を非接触で可視化し,客観的に定量評価する方法として光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が考案された1).初期のOCTは眼底に特化し,黄斑円孔や後部硝子体の病態理解に多大な貢献をした.それから約10年後に前眼部への応用が考案され,前眼部OCTの論文報告が行われた2).2005年に前眼部OCT,VistaneTM(CarlZeissMeditec)が商用化され,それにより角膜3)や隅角4),また屈折矯正手術5)や緑内障6)に関して新しい知見が得られた.I前眼部OCTの特徴前眼部OCTの特徴は,その非接触性・高精度画像・容易な操作性にある.超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)と異なり,赤外光を利用した測定なので,組織に接触する必要がない.そのうえ,UBM(解像度50μm)より解像度が高く,垂直(奥行き)(47)623eisueaanaTetsuroOsia:機眼:3058575111機眼特集●新しい光干渉断層計(OCT)バイヤーガイドあたらしい眼科25(5):623~629,2008前眼部OCT検の機器:機種一AnteriorSegmentOpticalCoherenceTomography:DeviceOverview川名啓介*大鹿哲郎*———————————————————————-Page2624あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(48)線維柱帯切除術後),ドライアイなどがあげられる.V機器による差2008年2月現在,3種類の前眼部OCT(広義)が商用利用可能である.詳細を表1に示す.最大の違いは波長と撮影原理の差である.OCTに多く用いられる波長には,840nmと1,310nmという2つの帯域が存在する.840nmはもともと眼底用に用いられていたもので,軸方向の解像度は高いが,組織深達度は低い.隅角は直接描出不可能である.一方,1,310nmは軸方向の解像度では840nmに劣るが,組織深達度が高いため前眼部の重要な構成要素である隅角や強膜が可視化できるという利点がある.さらに1,310nm波長は水での吸収が840nmよりも大きいため,測定光の強度を増やして,画質を高めるということが可能である.一般的な前眼部OCTは1,310nm波長を用いる.もう一つの撮影原理に注目すると,従来用いられていたtime-domain方式と近年新しく開発されたFourier-domain方式という2つの方式がある.Time-domain方式では測定速度が200~2,000A-scan/秒だが,Fouri-er-domain方式では20,000A-scan/秒以上の速度をもつ.Time-domain方式では1画像を得るのに0.125秒から2秒程度必要である.それに比べてFourier-domain方式では1画像を得るのにその10分の1程度の時間で可能であるため,眼球の動きによる影響を受け測定するためには最低12mm以上の測定幅が必要である.角膜,前房,虹彩を同時に撮影するために奥行き方向でも大きな撮影範囲が必要である.III前眼部OCTでわかること前眼部OCTにより涙液メニスカス・角膜・虹彩・水晶体前面・隅角・強膜・毛様体扁平部の高精度な断面画像が得られる.新しい機種では3次元画像も得られる.また,それらの定量解析も可能である.角膜の混濁があっても,内部の性状やその奥の変化の把握が可能である.角膜に関する手術(屈折矯正手術・角膜移植術)時には,層間の液体貯留や角膜浮腫の程度,移植片とホストの接合部などの評価が可能である.虹彩は前・後上皮層に分離可能である.隅角においては強膜岬,線維柱帯が明瞭に認識できる.さらにコントラストが高いため周辺部虹彩前癒着や隅角の機能的閉塞などの判定が可能となる.隅角の各種パラメータも半自動解析可能である.AOD(angleopeningdistance),TISA(trabecularirisspacearea),ARA(anglerecessarea)など,今までUBMで得られていたようなパラメータの算出が可能である.特にTICL(trabeculaririscontactlength)は前眼部OCTのみで解析可能である.IV前眼部OCTが有効な疾患角膜(屈折矯正手術前後,円錐角膜,角膜変性症,角膜移植前後),緑内障(閉塞隅角症,閉塞隅角緑内障,表1前眼部OCT3機種の詳細機種SL-OCTTMVisanteTMRTVue-100TM会社名HeidelbergEngineeringCarlZeissMeditecOptovue日本代理店JFCセールスプランカールツァイスメディテック中央産業貿易株式会社形式Time-domainTime-domainFourier-domain波長(nm)1,3101,310840スピード(A-scan/秒)2002,00026,0001撮影時間(秒)10.125~10.01~0.15スキャン幅(mm)4~1510~162~12スキャン深度(mm)最大74~82~2.3奥行き解像度(μm)25μm以下185縦横解像度(μm)非公開6015備考Haag-Streittypeスリットランプに装着光学系固定式調節負荷可能CAMにて前眼部撮影CAM:corneaanteriormodule.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008625(49)一方,SL-OCTは従来のスリットランプに撮影部をマウントしているため,スリットランプを操作するような感覚で前眼部の画像を得ることができる(図5).隅角や角膜の自動解析が可能である(図6,7).しかしながら,測定時間が比較的長いために,患者の眼球運動が入らないように注意する必要がある.隅角解析ソフトウェアはVisanteTMとほぼ同様である.RTVue-100+CAM(corneaanteriormodule)は840nm光源の眼底用OCT+前眼部撮影レンズという構成である(図8).広義の前眼部OCTに分類される.前眼部専用OCTではないため,組織深達度がほかの機種よにくく,3次元化も可能となる.ある部位の特定の1断面を見るためだけであればtime-domain方式の速度で十分であるが,断面だけでなく立体的な構造を把握する場合にはFourier-domain方式が望ましい.前眼部OCTではまだtime-domain形式のものが多いが,徐々にFourier-domain方式のものが増えてくると思われる.これは眼底用OCTの変遷と同じ傾向といえる.VI機器別の特徴VisanteTMは標準モード(16×6mm)とハイレゾモード(10×3mm)での撮影が可能である(図1).各々のモードで1画像から4画像を同時に取得できるモードが存在する.標準モードは,主として前眼部のアウトラインを捉えたいときに使用する(図2,3).前房深度測定や狭隅角の半自動解析が可能である.このモードではphakicIOL(眼内レンズ)挿入時のシミュレーションを行うことも可能である.ハイレゾモードは,角膜や隅角を拡大して観察したいときに用いる.これは屈折矯正手術後の評価に適する.最近,標準・ハイレゾモードともにノイズを取り除きコントラストを上昇させるモードが追加された(エンハンスモード).これにより,強膜岬や線維柱帯をより精細に判定することが可能となった.さらに,角膜の中心を軸として8~16個の撮影を行い,角膜厚のマッピングを行うという機能(パキメトリーマップ)も存在する(図4).また,調節付加機能があり,そのときの水晶体位置,虹彩の状態を判定可能である.撮影時には光源を含んだ撮影部分を固定し,被検者の頭部を動かすという方法で撮影を行う.顎台が動いて位置を合わせるという独特の操作方法である.図1VisanteTMOCTの外観図2VisanteTMOCTの表示画面中央に角膜,虹彩,隅角の断面像が表示される.上方には測定プロトコル,左下には位置決定用のカメラ画像が表示される.解OCT:Opticalcoherencetomography,光干渉断層計.低干渉性の光により非侵襲生体計測を行う機器.Timedomain:時間領域.Fourier-domainとともにOCTの原理の一つ.一つの測定光である一部分の情報を得る手法.Fourierdomain:Fourier領域.一つの測定光で奥行き方向すべての情報を得る手法.Time-domainより高速に画像を取得できる.———————————————————————-Page4626あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(50)図3VisanteTMOCTの4断面撮影モード中央に4方向の画像が表示される.下の列に表示されている画像群のうちで,任意のものを選択保存し,解析することができる.図4VisanteTMOCTの角膜厚マップ(パキメトリーマップ)左にカラーマップ,右に各測定部位の値が表示される.中心2mm,2~5mm,5~7mm,7~10mm領域の最大・最少・平均値が算出可能である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008627(51)り低く,逆に解像度は高いという特徴がある.角膜に関しては他の前眼部OCTよりも詳細に描出できる(図9).上皮と実質の境界がはっきり識別できる場合が多い.さらにFourier-domainであるため,4mm領域の3次元画像(101枚/2秒)を構築できる.VisanteTMと同様にパキメトリーが可能で,8枚の画像から算出する(図10).しかしながら,測定レンジが狭いため前房全体のバイオメトリー(隅角角度・前房深度測定)には不向き図5SLOCTの外観本体はコンパクトで,スリットランプにマウントして使用する.図6SLOCTの隅角解析各種隅角パラメータの算出が可能である.ACA,ARA,750,ODlight図7SLOCTの前房生体計測,角膜厚測定(パキメトリー)任意断面の生体計測が行える.PachymetryProleAutomaticBiometry→図8RTVue100+CAM(corneaanteriormodule)の外観眼底用OCTに右に示した前眼部撮影用レンズをマウントして撮影を行う.———————————————————————-Page6628あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(52)である.角膜をより精細に見るということに適しているため,屈折矯正手術の評価に向くと考えられる.操作感覚は他の眼底用OCTとほとんど同じである.VII前眼部OCTの限界以上のように,前眼部OCTは前眼部解析(角膜,虹彩,隅角,毛様体扁平部)に関して容易で高精度であるが,光の特性による限界がある.完全な不透明組織では1~2mm程度の組織深達度である.そのため前眼部では毛様体体部が描出不能である.毛様体腫瘍や,胞の把握といった深い病変に対してはUBMが適するといえる.おわりに前眼部OCTの役割は何であろうか.非接触・高精度であるため,詳細な病変の観察に適する.また,スクリーニング用途としても有望である.特に角膜疾患,閉塞隅角緑内障などの前眼部の病変の詳細な描出が可能であり,UBMの代用となりうるのではないだろうか.今後の眼科診療において,重要な機器となっていくと思われる.図10RTVue100+CAMの角膜厚マップ(パキメトリーマップ)中心2mm,2~4mm,4~6mm領域の角膜厚が表示できる.図9RTVue100+CAMの表示画面上:角膜解析画面,上皮層と実質が分離可能である.中:隅角解析画面.前眼部専用OCTより高解像度だが,隅角底は描出されない.下:屈折矯正手術後にみられた層間の水隙がみられる.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008629sonofopticalcoherencetomographyandultrasoundbio-microscopyfordetectionofnarrowanteriorchamberangles.ArchOphthalmol123:1053-1059,20055)LiY,NettoMV,ShekharRetal:ALongitudinalStudyofLASIKFlapandStromalThicknesswithHigh-speedOpticalCoherenceTomography.Ophthalmology114:1124-1132,20076)MullerM,HoeraufH,GeerlingGetal:Filteringblebevaluationwithslit-lamp-adapted1310-nmopticalcoher-encetomography.CurrEyeRes31:909-915,2006文献1)HuangD,SwansonEA,LinCPetal:Opticalcoherencetomography.Science254:1178-1181,19912)RadhakrishnanS,RollinsAM,RothJEetal:Real-timeopticalcoherencetomographyoftheanteriorsegmentat1,310nm.ArchOphthalmol119:1179-1185,20013)LiY,ShekharR,HuangD:Cornealpachymetrymappingwithhigh-speedopticalcoherencetomography.Ophthal-mology113:792-799.e2,20064)RadhakrishnanS,GoldsmithJ,HuangDetal:Compari-(53)