———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめにマイボーム腺て何?そう思っても無理はない.マイボーム腺はいつも主役になれない脇役的存在で,ここが専門だなんてうっかり言うとマニアックな眼科医だと思われかねないのだ.でもマイボーム腺関連疾患は奥が深い.勉強すればするほど,研究すればするほど,患者を診察すればするほどわからないことがどんどん増えてきて,わかったと思えばまたすぐわからなくなる,興味深い領域である.今まで前眼部を観察していた同じスリットランプで,フィルターを1枚回すだけで,患者が一歩も動かずに,痛くもなく,眩しくもない,研修医だってすぐに使えるマイボグラフィーがあったらいいのにな.眼科臨床の現場において,私たちの日常の一途な願いをカタチにしたもの,それが新しいマイボグラフィー,NoncontactandNoninvasiveMeibography(非接触型マイボグラフィー)の開発である.Iマイボーム腺とはマイボーム腺は皮脂腺の一種であり,涙液の油層を形成し,過剰な涙液の蒸発を防ぐ役割をしている.瞼板腺ともいう.上眼瞼に約3040本,下眼瞼に約2030本ある.この腺の名前はドイツの医師,ハインリッヒ・マイボーム(16381700年)の名にちなんでいる.IIマイボグラフィーとはマイボグラフィーとはマイボーム腺を皮膚側から透過(53)1661eioritahiroano3370042い62611特集●ドライアイ最近の考え方あたらしい眼科25(12):16611667,2008新しいマイボグラフィーNoncontactandNoninvasiveMeibographyANovelMeibography─NoncontactandNoninvasiveMeibography─有田玲子*天野史郎**表1マイボグラフィーの比較(従来型と非接触型)従来型非接触型プローブが直接接触疼痛,羞明,侵襲的非接触非侵襲的特別な技術,熟練が必要スリットランプが使えれば誰でもできる光源が必要スリットランプの光源倍率の変更も自由ほぼ下眼瞼中央部しか見えない上下眼瞼,耳側から鼻側まで全部簡単に見える図1非接触型マイボグラフィー装置細隙灯顕微鏡のブルーフィルターをはさむ部分に,赤外線透過フィルターをはめこみ,小型赤外線CCDカメラを搭載しただけのものである.(文献6より)———————————————————————-Page21662あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(54)なされてきたが,光源プローブが患者の眼瞼に直接接触することによる,疼痛や不快感を解消することはできなかった.また,医師側にもある程度の習熟が必要で,マイボーム腺全体を把握するために時間もかかるため,一般外来で普及することはなかった.することによりマイボーム腺構造を生体内で形態学的に観察する唯一の方法である.30年以上前Tapie1)によって初めての報告があって以来,赤外線フィルム2,3)や赤外線ビデオカメラ4),赤外線プローブ5)といった改良が図2赤外線CCDカメラと赤外線フィルターの透過曲線,(のより),(のカタグより)透過()()()グレードグレードグレードグレード図3マイボスコア(文献6より)非接触型マイボグラフィーを用いてマイボーム腺の消失面積をグレード分類した.グレード0:マイボーム腺の脱落面積なし.グレード1:マイボーム腺の脱落面積が全体の1/3以下.グレード2:マイボーム腺の脱落面積が全体の1/3以上2/3以下.グレード3:マイボーム腺の脱落面積が全体の2/3以上.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081663(55)コア)(図3).対象は屈折異常や白内障以外の眼疾患のない正常眼236名236眼(男性114眼,女性122眼),平均年齢41.2歳(498歳).その結果,マイボーム腺の変化は正常人でも男性は20代から,女性は30代か今回筆者らが新しく開発したマイボグラフィーは,特殊で大掛かりな装置やそのスペースを必要とするものでなく,眼科施設であればどこにでもある細隙灯顕微鏡に小型赤外線CCDカメラと赤外線透過フィルターを搭載しただけのものである.細隙灯顕微鏡の光源を利用して観察するため,従来のように患者の眼瞼へ直接接する光源プローブは一切必要ない.さらに,倍率もスリットランプと同様に自由に変えることができ,フィルター1枚を回すだけでマイボーム腺開口部の状態もすぐに観察できるという利点がある6)(図1,表1,図2).III非接触型マイボグラフィーの原理可視光は瞼板によって光が反射されるので奥にあるマイボーム腺は見えない.赤外光は深部到達度が高く,瞼板を透過し,マイボーム腺によって反射される.マイボーム腺で赤外光が反射される理由はわからないが,脂の性状によるものと考えている.IV加齢によりマイボーム腺は変化するのか非接触型マイボグラフィーを用いて,正常眼のマイボーム腺を観察し,マイボーム腺の脱落面積によってグレード0からグレード3まで4段階に分類した(マイボス図5正常眼(29歳,男性,右眼)上下のマイボーム腺に脱落なし.平均マイボスコア543210:全体:男性:女性091019202930394049年齢(歳)50596069707980図4各年代における男女の上下平均マイボスコア年齢に有意に相関している.20代,60代,80代では有意差はないが,男性のマイボスコアのほうが女性より高い傾向にあった(全体p<0.0001,男性p<0.0001,女性p<0.0001).(文献6より)———————————————————————-Page41664あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(56)れている.MGDはまだ国際的診断基準もなく,確定した治療法もない,わからないことの多い疾患である.患者の自覚症状とスリットランプによる所見の重症度との間に相関がみられないことが多い.どこまでが加齢性変化でどこからが治療を要する疾患なのか,マイボーム腺の形態や機能だけでなく,涙液機能全体を総合的に評価する必要がある.実際の症例として閉塞性MGD(図79)と脂漏性MGD(図10)を示す.診察の流れとして,スリットラら短縮や脱落が始まり,加齢や眼瞼異常所見と有意に相関した(r=0.428,p<0.0001)6)(図4).具体的な症例として正常眼を示す(図5,6).Vどこまでが加齢性変化でどこからが疾患なのかマイボーム腺は加齢性変化だけでも脱落や短縮をする.この加齢性変化に慢性的炎症や感染をくり返すとマイボーム腺機能不全(MGD)という病態になると考えら図6正常眼(43歳,女性,右眼)左上:下眼瞼に異常なし.右上:フルオレセイン染色後角結膜に異常なし.左下:右下マイボーム腺に異常なし.右下:正常マイボーム腺(左下写真)の拡大.図7閉塞性MGD症例(74歳,男性,左眼)左:上瞼縁不整,軽度充血,睫毛に汚れ,マイボーム腺開口部閉塞所見を認める.右:フルオレセイン染色後ブルーフリーフィルターで角結膜上皮を観察.角膜下方に上皮障害を認める.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081665(57)イボーム腺を観察する.まず弱拡大で全体を観察したのち,強拡大で脱落,短縮している部分をさらによく観察する.ンプで瞼縁の異常所見を観察したのち,角膜下方の角膜上皮障害を観察する.続けてフィルターを赤外線フィルターに回したのち,非接触型マイボグラフィーで上下マ図8図7と同一症例(74歳,男性,右眼)左上:右上眼瞼結膜散乱光で観察.マイボーム腺は観察できない.左下:右下眼瞼結膜散乱光で観察.一部のマイボーム腺は観察できている.右上:非接触型マイボグラフィーによる,右上眼瞼マイボーム腺所見.鼻側から中央にかけてマイボーム腺が脱落(dropout)していることがはっきりわかる.耳側にかけても短縮していたり,開口部周辺のみ認めるが,途絶しているマイボーム腺など詳しく観察できる.右下:非接触型マイボグラフィーによる,右下眼瞼マイボーム腺所見.右下中央部,脱落するマイボーム腺を認める.鼻側1/3のマイボーム腺は認められない.図9図7,8と同一症例(74歳,男性,左眼)左上:左上眼瞼結膜所見.マイボーム腺はよく見えない.左下:左下眼瞼結膜所見.マイボーム腺はよく見えない.右上:非接触型マイボグラフィーによる,左上眼瞼マイボーム腺所見.全体にわたり,短縮,屈曲,蛇行しているマイボーム腺を観察することができる.右下:非接触型マイボグラフィーによる,左下眼瞼マイボーム腺所見.マイボーム腺は中央から鼻側にかけて数本おきに脱落(dropout)している.———————————————————————-Page61666あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(58)ンは加齢性のそれとは違っていた.また,相関する因子はCL装用年数のみであった7)(p=0.020).実際の症例としてハードCL装用者(図11)と使い捨てソフトCL装用者(図12)の代表的パターンを示す.VII今後の期待今後,非接触型マイボグラフィーでマイボーム腺の形態変化を観察することは,患者の自覚症状,細隙灯顕微鏡による瞼縁の所見,マイボーム腺脂質(Meibum)のVIコンタクトレンズ(CL)装用でマイボーム腺は変化するか年齢,性別を適合させたCL装用者121人121眼のマイボーム腺を観察したところ,CLの種類によらず,マイボーム腺が有意に短縮していることがわかった(p<0.0001).加齢性変化によるマイボーム腺のマイボスコアに比較すると30代のCL装用者は60代のマイボスコアとほぼ同等であったが,脱落のしかたや短縮のパター図10脂漏性MGD(71歳,女性,左眼)左:眼瞼縁に泡状分泌物(foaming)があり,上下眼瞼に軽度充血を認める.中:マイボグラフィーでマイボーム腺の短縮,脱落を認めない.下:マイボグラフィーでマイボーム腺の短縮,脱落を認めない.図11ハードコンタクトレンズ装用症例(29歳,女性,右眼.11年間装用)左上:右上眼瞼結膜所見.アレルギー所見などもない.左下:右上瞼縁所見.異常を認めず.Meibumの性状も異常なし.右上:非接触型マイボグラフィーによる,右上眼瞼マイボーム腺所見.中央部から耳側にかけてマイボーム腺が少しずつ短縮している.右下:右上部位を拡大.屈曲,蛇行も認め,最耳側マイボーム腺は脱落している.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081667性状などとともに,MGDの診断や分類,治療法の開発や評価に役立つことが期待される.また,現在ドライアイ研究会のなかでMGDワーキンググループが立ち上がっており,今後の発展が期待されるホットな領域である.おわりにマイボグラフィーをスリットランプに付属させることにより,今まで特殊な検査だったマイボグラフィーが,“OcularSurfaceの観察”という,全体の流れに組み込むことが可能となった.今後はマイボーム腺機能との関連についても研究を進めていきたいと考えている.文献1)TapieR:BiomicroscopialstudyofMeibomianglands(inFrench).AnnOcul(Paris)210:637-648,19772)RobinJB,JesterJV,NobeJetal:Invivotransillumina-tionbiomicroscopyandphotographyofmeibomianglanddysfunction.Ophthalmology92:1423-1426,19853)MathersWD,ShieldsWJ,SachdevMSetal:Meibomianglanddysfunctioninchronicblepharitis.Cornea10:277-285,19914)MathersWD,DaleyT,VerdickR:Videoimagingofthemeibomiangland.ArchOphthalmol112:448-449,19945)YokoiN,KomuroA,YamadaHetal:Anewlydevelopedvideo-meibographysystemfeaturinganewlydesignedprobe.JpnJOphthalmol51:53-56,20076)AritaR,ItohK,InoueKetal:Noncontactinfraredmei-bographytodocumentage-relatedchangesofthemeibo-mianglandsinanormalpopulation.Ophthalmology115:911-915,20087)AritaR,ItohK,InoueKetal:Contactlenswearisasso-ciatedwithdecreaseofmeibomianglands.Ophthalmology,inpress(59)図12ソフトコンタクトレンズ装用症例(28歳,女性,左眼.12年間装用)左上:マイボーム腺分泌物(Meibum)は正常.左下:フルオレセイン染色でBUT(涙液層破壊時間)短縮.メニスカスが低い.Schirmer値は正常.右上:非接触型マイボグラフィーによる右上眼瞼マイボーム腺所見.中央部のマイボーム腺が屈曲,蛇行している.右下:非接触型マイボグラフィーによる下眼瞼マイボーム腺所見.全体にわたって1/3程度の長さに短縮している.