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眼科医のための先端医療90.新しいレーザースペックルフローグラフィー(LSFG-NAVI)による網脈絡膜の血流測定

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.6,20088270910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに現在網脈絡膜の造影検査にはフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)とインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)が行われています.これらの検査は,得られる診断的な意義は多いのですが,リアルタイムでの血流の定量化が困難であり,疾患の超早期の血流値変化の観察や被験者の継続的なフォローアップには不向きな面が多くあります.また,造影剤投与によってときに薬剤性のショックで,重篤な状態に陥る危険性が指摘されています.造影剤の使用が不要で血流の定量的観察が可能な網脈絡膜の血流測定装置があれば,診断技術の向上だけでなく,それによる副作用の出現の問題は一切解決します.そこでレーザーを光源に利用しドップラー効果によるビート信号を観測するレーザードップラー血流計が開発されましたが,測定範囲が狭く時間分解能が十分でないなどの理由から,残念ながら広く臨床応用されているとはいえない実情です.レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)は眼底の広い範囲をレーザーで照明し,イメージセンサーを検出系に用いた新しい網脈絡膜血流測定装置で,任意の点や広い領域を自由に設定しその網脈絡膜の血流動態の定量的観察が可能になりました.本稿ではLSFGの測定原理を解説し,その利点や問題点の検討を行います.レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)の測定原理830nmのダイオードレーザーを光源にし,レーザーを生体組織のような散乱粒子の集団に照射すると,反射散乱光が干渉しあい,スペックルパターンとよばれるランダムな斑点模様を形成します.このスペックル信号は赤血球などの散乱粒子が移動することで,干渉条件が刻々と変化し,時間とともに光強度分布が変化する動的スペックルとなります.この反射光により形成されたスペックルパターンを,結像面に置いたイメージセンサーで検出し,この信号をコンピュータ処理することにより,変化率のマップを求め,二次元マップとしてカラー表示する装置がレーザースペックルフローグラフィー(LSFG)です(図1).最新式の装置ではハードとソフトの改良により,空間・時間分解能が飛躍的に向上し,血流マップを毎秒30フレームの動画で表示することが可能になりました.LSFG(LSFG-NAVI)の特徴と利点本装置による測定では,安全に眼底血流を1回で広範(77)シリーズ第90回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊(九州医療センター眼科)新しいレーザースペックルフローグラフィー(LSFG-NAVI)による網脈絡膜の血流測定図2LSFG-NAVIによる測定の実際測定装置は光学系(カメラ)とPCにより構成されており,従来機と比較しコンパクトな形態となっている.図1LSFGの測定原理レーザーで生体組織を照射し,散乱光をイメージセンサー上に結像させ,スペックル(斑点模様)信号を検出する.レーザー結像レンズスペックル像点P物点(ある体積をもつ)網膜の散乱粒子———————————————————————-Page2828あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008囲を連続的に,しかも非侵襲的かつ定量的に測定でき,測定後に任意の点や広い領域を自由に設定しその網脈絡膜の血流動態を定量的に観察できます.開発当初は従来の眼底カメラに外付けの形態をとっており,測定画角や解像度も十分ではありませんでしたが,その後徐々に開発が進みコンパクトなLSFGの専用機が開発されました(図2).図3には実際の測定画面を示します.1回の測定には4秒程度を要します.測定画角は21°で,これまでの器機と比較し画素数も増加し,解像度も向上しました.測定領域はラバーバンドにより自由に設定でき,血流はブレ率(meanblurrate:MBR値)として表示されます.MBR値は計算式による相対値であるため,血流の増減の比較は,一般に初回測定の値を基準に,測定領域の血流の増減を百分率で評価します.血流の時間的変化を動画で観察できる点も,新しい情報として活用できる可能性があります.レーザー眼底血流測定装置で最も心配な点は,安全性です.安全レベルは第三者認証機関による試験においても,クラス1Mと認定されています.これは眼底に障害が発生する可能性のない,低レベルの光であることを示す国際規格であり,実際暗室内で本装置を使用すれば,無散瞳でも測定することが可能になりました.今後いくつかの問題点が克服できれば,本装置によりFAやIA以上の有用な血流の情報を得られる可能性があります.さらに,従来法でときに生ずる薬剤性のショックで,重篤な状態に陥る被験者の危険性の問題も回避できます.LSFGの問題点LSFGについては利点だけではなく,問題点も存在します.まず解像度が向上したとはいえ,従来の検査法(FAやIA)と比較し画質が劣る点です.実際に本装置単独では従来の診断レベルには及びません.現時点で本装置を用い臨床評価を行う場合は従来のFAやIAを併用し行わざるをえないのが現状です.また,測定原理が散乱分子の測定であるため,眼内レンズ挿入眼や高度の白内障を有する眼では測定が困難であり,測定値(MBR値)が絶対値でないため被験者間での比較が困難であるという欠点も存在しています.したがって,被験者1人について経時的観察を行うことは可能ですが,個々被験者間の比較は困難です.さらにレーザー光が単波長であるため,網膜と脈絡膜血管の分離が困難である点などがあげられます.(78)図3LSFGによる測定画像拡張期左眼の血流マップ(A)と収縮期の血流マップ(B)を示す.ラバーバンドにより自由に測定点や範囲を指定できる.1回測定分のデータの合成により再構成した血流マップ(C)では網膜血管は23分枝程度まで描出され,背景には一部脈絡膜血管の観察も可能である.血流値をグラフ化すると拍動による血流の変化が観察される(D).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008829(79)にきわめて有用な情報が得られる可能性があります.すなわち,従来行われてきた緑内障などの臨床研究のさらなる発展が期待できるだけではなく,網脈絡膜の経時的な血行動態を正確に経時的に追跡できれば,生活習慣病などへの早期診断に応用できる可能性もあります.おわりにLSFGでは眼底血流を安全に低侵襲である程度まで定量的測定できる反面,上記のようにさらに技術的に改良する点が数多く存在するのも事実です.まだまだ発展途上の装置であり,これら問題点を克服することにより,今後使用用途も拡大しさまざまな疾患の診断と病態研究■「新しいレーザースペックルフローグラフィー(LSFG-NAVI)による網脈絡膜の血流測定」を読んで■今回は江内田寛先生による網脈絡膜の新しい血流測定技術についての解説です.江内田先生の紹介されたレーザースペックルフローグラフィー(LSFG)は眼底の広い範囲をレーザーで照明して網脈絡膜の血流を測定する装置で,二次元の画像上に血流情報をスーパーインポーズできるので臨床的な有用性はきわめて高いと考えられます.このようにLSFGは眼底血流を安全に低侵襲である程度まで定量的測定できる画期的な方法ですが,示された図をみても解像度が従来の検査法(FAやIA)と比較し画質が劣っています.ただ,新しい画像技術は近年,長足に進歩しておりますから,解像度のよい眼底画像と血流情報の両方を提供する検査法は今後,開発される可能性は高いと考えます.臨床的には1回の測定が4秒というのはむずかしいです.もう少し高速化が必要かもしれません.現在,日本人での視力障害の約20%が糖尿病網膜症であり,加齢黄斑変性,網膜静脈閉塞症などの加齢や高血圧・動脈硬化症に併発する疾患の多くにおいて網膜血流障害が病態の中心です.これらの診療に大切な血流の動態は画像診断(FAやIA)が臨床の主流でした.われわれが診療をしていて,定量的に検査結果を解析できればと考えることが多くあり,これまで,血流の動態を測定する試みは多くありました.この問題を臨床の現場で解決するLSFGには大きな臨床的な有用性があると考えられます.さらに,われわれ眼科臨床医にとって不可欠のフルオレセイン蛍光眼底造影検査はきわめて鮮明な画像が臨床の現場で利用できるすぐれた検査法ですが,アナフィラキシーショックの可能性を完全に否定できないという点が臨床医のストレスになっています.LSFGといった低侵襲の検査の導入に伴い,多くの眼科診療施設で網脈絡膜血流動態についての安全に高度なデータが得られ,診療の質の向上に役立つものと考えます.もう一つの臨床的な意義は,治療薬開発における網膜血流への影響,治療効果の検証にきわめて有用ということです.現時点では糖尿病網膜症の治療のための薬剤の候補は多くありますが,認可された薬剤はありません.薬効の判定には網膜厚,視力をエンドポイントにしていますが,血流動態への影響を簡便に正確に測定し評価することが可能になればきわめて有用と考えられます.糖尿病網膜症の病態の研究が進歩したにもかかわらずその治療薬が認可されません.いろいろな理由があると考えますが,動物実験と異なり複雑なヒトの病態を臨床的に簡便に把握する検査法がまだ不足しているため,病態にあった治療薬の選択ができない可能性も考えられます.病態の把握には血流動態が部位により異なっていることを定量的に示されるLSFGは最適であると考えます.新しい治療法の開発には新しい検査法の開発は不可避です.今回,ご紹介いただいたLSFGは網脈絡膜疾患の診療を大きく変える可能性を示す検査法です.山形大学医学部情報構造制御学講座視覚病態学分野山下英俊☆☆☆

サプリメントサイエンス:サプリメントはどのように考えるべきか

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.6,20088230910-1810/08/\100/頁/JCLSサプリメントへの関心が高まっている.眼科領域では特に加齢黄斑変性に対して大規模前向き研究(AREDS)でサプリメントによる病状の進行抑制効果が証明されて以来,実際に臨床で使われることが多くなった.日本においてもボシュロム社,ロート製薬,ナチュメディカ社など数社がAREDSに基づいた内容のサプリメントの販売を始めており,患者からの問い合わせも増えているという.また一般に眼に良いとされるブルーベリーに含まれるアントシアニンなども,わかさ生活社の“ブルーベリーアイ”が市場で大きな反響をよぶなど,一般の関心も高くなっている.われわれ眼科医は今までおもに保険収載薬を中心に眼科診療を行ってきており,これらの薬剤については学ぶ機会も多い.一方,サプリメントについては概要は知っていても,詳細を学ぶチャンスが少なかった.しかしながらこれからの時代において,予防医学が重要視されることは明らかで,サプリメントについて正確な知識をもっていることが要求されてくるものと思われる.そこで今月号より“サプリメントサイエンスセミナー”として眼科医が知っておきたいサプリメントの基礎知識の講座を開設する.サプリメントとは?サプリメントは文字どおりに“補完食品”であり,ビタミンに加えて,必須微量ミネラル,ポリフェノールやカロテン類などの抗酸化物質,ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などの必須脂肪酸,ラクトフェリンなどの整腸因子など多岐のものが含まれる.基本的なビタミンばかりでなく,アスタキサンチンなどに代表される食品の中の機能成分は現在フードファクターとして注目を集めているが,これらを抽出しサプリメントとして使われることも多くなっているのが,現在のサプリメントの大きな流れともいえる.これらのサプリメントは加齢黄斑変性など特定の疾患の予防目的に使われることもあるが,一般的には全身の健康保持やアンチエイジング医学の一環として使われることが多い.アンチエイジング医学は加齢に焦点をあてた予防医学と考えられる.近年アンチエイジング医学が認められるようになってきた背景には,エイジングのメカニズムが少しづつではあるが解明され,信頼できる仮説が提唱されてきたことが大きい.エイジングの2大仮説といわれるものに“酸化ストレス仮説”と“メタボエイジング仮説”とがあり,サプリメントについてもこの2つの仮説のなかで考えていくと理解しやすい.酸化ストレス仮説とサプリメント加齢の酸化ストレス仮説とは“身体の構成成分である,蛋白質,脂質,核酸などが酸化されることが加齢をひき起こす”という仮説である(図1)1).身体機能の維持のためには酵素類が効率よく働く必要があるが,酵素などの機能蛋白が酸化されると機能を失う.また本来なら分解除去されるべき蛋白質が酸化されると分解ができなくなり,異常蛋白として蓄積してしまう.Alzheimer病におけるbアミロイドや,加齢黄斑変性におけるドルーゼン蛋白などはまさにこの例である.そこで酸化ストレスを軽減させるために,(1)抗酸化物質の摂取,(2)抗酸化酵素の活性化が重要となる.この目的のためにサプリとしてはビタミンA,C,Eを中心としたAREDSサプリメント,ルテイン,アスタキサンチン,アントシアニン,亜鉛や微量ミネラルなどが含まれる24).これらのサプリメントについては本セミナーのなかで順番に取(73)サプリメントサイエンスセミナー●連載①監修=坪田一男1.サプリメントはどのように考えるべきか坪田一男慶應義塾大学医学部眼科図1酸化ストレス仮説の概念図酸エイジング———————————————————————-Page2824あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008りあげていく予定である.メタボエイジング仮説とサプリメント現在,厚生労働省は国民の健康保持のために,メタボリックシンドロームをターゲットに大きなキャンペーンを展開している.メタボリックシンドロームは体脂肪が増え,血圧が上がり,耐糖能が悪化し,血中脂肪酸が増える.これにより癌の発生率は増え,糖尿病や高血圧などの生活習慣病の発生率が高まる.これはまさに加齢そのものといえる.そこでメタボリックシンドロームは加齢を促進する症候群ととらえることができる.これがメタボエイジングという仮説である.現在カロリーリストリクション(CR)といって摂取カロリーを6570%に減らすと寿命の延長がさまざまな動物でみられており,ヒトにおいてもCRの効果が証明されつつある5).CRのメカニズムについてはおもにインスリンIGF(インスリン様成長因子)シグナルの低下と,サーチュインの活性化であることがわかりつつあり,分子メカニズムからの対応ができるようになってきた(図2)6).これは逆に,メタボリックシンドロームはCRと逆方向のものということができる.メタボエイジングに対抗するためのサプリメントとしてはサーチュインを活性化するレスベラトロール,オメガ3脂肪酸,ラクトフェリン,糖吸収抑制ファイバーなどがある7,8).これらについても順に解説していく予定である.ビタミンにおける最低必要量と最適量ビタミンには最低限摂取しないと特定の疾患に罹患する“最低必要量”が決められている.たとえば,ビタミンCであれば1日の摂取量が100mg(アメリカでは60mg)ないと壊血病の危険が増えるといわれている.一方,ビタミンには最適量という概念があり,特定の疾病予防というよりも抗酸化機能の向上,免疫機能の向上のために用いるための“最適量(オプティマルドース)”という考え方がある.ビタミンCでいえば1日の摂取量として5002,000mgとなる.実際AREDSで使われているビタミンCの量は500mgと,最低必要量の5倍以上である.レモン1個に含まれるビタミンCの量は約30mgといわれているので,最低量であればなんとか摂取することは可能であろう.しかしながら最適量を摂取するためには多量の果物や野菜を食べなければならずカロリーオーバーになると考えられる.サプリメントが必要な理由がここにある.さらに各種のビタミンに対してすべてを網羅するように摂取するためには食品だけからは困難であり,ここでもサプリメントの有用性が指摘されている.エビデンスサプリの考え方サプリメントが身体に良いといわれる根拠には,細胞レベルの実験室のデータから動物実験,観察研究,そして無作為大規模前向き介入研究とさまざまなレベルのデータが存在する.動物実験で効果が証明されてもヒトではまったく効果がないこともあり,その解釈には慎重を要する.また“ビタミンEをたくさん摂取している群には心臓病が少なかった”という観察研究に対して,“ビタミンEを長期にわたって投与したところ心臓病の発生率に差がなかった”というように介入研究においてはその効果が否定されることもある9).オメガ脂肪酸については介入研究においてはっきりと心臓病に対する効果がわが国において証明された10).一方,ビタミンAとEについてはむしろ死亡率が増大するという大規模研究の結果も出ており,単に身体に良いといわれているから単独のビタミンを摂取するという時代は終わりを迎えようとしている.抗酸化サプリメントについてはAREDSのように複数のビタミンを組み合わせて使うという方法が一般的になりつつあり,研究においても,単独よりも複合物を対象とするものが多くなってきた.現在アメリカで進行中のAREDS2においては,ビタミンA,C,E,亜鉛,銅に加えてオメガ3や,ルテインの効果が検証されており,その結果が期待されている.サプリメントについてはエビデンスがしっかりとあるものを中心にわれわれ眼科医は(74)図2カロリーリストリクション仮説のメカニズムカロリーリストリクションインスリンシグナにるのサーイン———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008825(75)tion.JAMA297:986-994,20076)GuarenteL,PicardF:Calorierestriction─theSIR2con-nection.Cell120:473-482,20057)BaurJAetal:Resveratrolimproveshealthandsurvivalofmiceonahigh-caloriediet.Nature444(7117):337-342,20068)KotoTetal:Eicosapentaenoicacidisanti-inammatoryinpreventingchoroidalneovascularizationinmice.InvestOphthalmolVisSci48:4328-4334,20079)BjelakovicGetal:Mortalityinrandomizedtrialsofanti-oxidantsupplementsforprimaryandsecondarypreven-tion:systematicreviewandmeta-analysis.JAMA297:842-857,200710)YokoyamaMetal:Eectsofeicosapentaenoicacidonmajorcoronaryeventsinhypercholesterolaemicpatients(JELIS):arandomisedopen-label,blindedendpointanal-ysis.Lancet369(9567):1090-1098,2007導入していくのがやはり良いであろう.本セミナーで学べること本セミナーは第1期として表1のようなプログラムで進めていく予定である.おもなセクションにおいては,1)サプリメント名2)構造式3)一般的な薬理,生理作用4)1日必要量(最低必要量と最適量)5)含有食品6)眼科への応用7)摂取すべきエビデンスレベル(A:摂取すべき,B:リスクある人は摂取すべき,C:どちらともいえない)をカバーする予定である.よってこのセミナーにより,サプリメントの基本的な知識が得られるものと期待される.ぜひいっしょに勉強させていただければと思う.文献1)HarmanD:Aging:atheorybasedonfreeradicalandradiationchemistry.JGerontol11:298-300,19562)Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandEandbetacaroteneforage-relatedcataractandvisionloss:AREDSreportno.9.ArchOphthalmol119:1439-1452,20013)Izumi-NagaiKetal:Macularpigmentluteinisantiin-ammatoryinpreventingchoroidalneovascularization.ArteriosclerThrombVascBiol27:2555-2562,20074)OhgamiKetal:Anti-inammatoryeectsofaroniaextractonratendotoxin-induceduveitis.InvestOphthal-molVisSci46:275-281,20055)FontanaL,KleinS:Aging,adiposity,andcalorierestric-☆☆☆表1本誌連載「サプリメントサイエンス」セミナーの構成内容サプリメントはどのように考えるべきか学説学イン学スタサンン学レストロー学ントシニン学学メ酸と量ミ学クトリンー学イー学ビタミン内学ビタミンどどはにる

眼感染アレルギー:自然免疫と眼表面炎症性疾患

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.6,20088210910-1810/08/\100/頁/JCLS粘膜上皮は主として物理的バリアーとして働くとみなされてきたが,最近では,粘膜上皮そのものが各種サイトカインや抗菌物質を産生し,生体防御の第一線を担っていることがわかってきた.実際,眼表面の粘膜上皮である角膜上皮や結膜上皮はインターロイキン(IL)-6,IL-8などの炎症性サイトカインやディフェンシンなどの抗菌物質を産生する.また,眼表面を覆う涙液は,免疫グロブリンA(IgA),ラクトフェリン,リゾチームなどの抗菌物質,そして杯細胞の産生するムチンを含み,非特異的な感染防御機構を形成している.その一方で,眼表面には表皮ブドウ球菌やアクネ菌などの常在細菌も存在する1).細菌やウイルスなどの病原微生物の侵入に対する感染防御機構は,自然免疫と獲得免疫に分類される.獲得免疫は,抗原特異的Tリンパ球とBリンパ球によって誘導されるが,クローン増殖する必要があるために,機能するまでに数日の時間を要する.これに対して自然免疫は,獲得免疫が作動する前の感染早期に働く防御機構である.従来,この自然免疫は,好中球やマクロファージなどの貪食細胞,補体,抗菌物質などを中心とした非特異的防衛機構であると考えられてきた.しかし,近年Toll-likereceptor(TLR)が微生物の構成成分を特異的に認識し(図1),自然免疫において重要な役割を担っていることが明らかとなった.筆者らは,眼表面上皮細胞は,TLRsを発現するが,その局在や反応性はマクロファージなどの免疫担当細胞とは異なり,細菌に対して容易には炎症反応を惹起しないことを報告してきた.一般に,マクロファージなどの免疫担当細胞は,細菌,真菌,ウイルスなどの各種菌体成分をTLRsを介して認識し各種炎症性サイトカインを産生するが,角膜上皮細胞,結膜上皮細胞は,菌体成分に対して必ずしも炎症性サイトカインを産生しない25).実際,眼表面には常在細菌が存在するにもかかわらず,健常状態では炎症を認めない.すなわち,眼表面には炎症を制御する機構,つまり,眼表面固有の自然免疫機構が存在すると推測される.さらに,筆者らは,自然免疫応答の異常が眼表面炎症に関与しうると考えている.TLRのシグナル因子であ(71)眼感染アレルギーセナー感染症と生体防御●連載⑥監修=木下茂大橋裕一6.自然免疫と眼表面炎症性疾患上田真由美京都府立医科大学眼科眼表面は,常在細菌叢が存在するにもかかわらず,健常状態では炎症を認めない.眼表面には,炎症を制御する機構,すなわち眼表面固有の自然免疫機構が存在し,その破綻により眼表面炎症が惹起されうると推測される.筆者らは,Stevens-Johnson症候群の発症に自然免疫応答の異常が関与している可能性を示す.TLR2TLR5TLR9TLR4Myd88NF-kBIkB炎症性サイトカインの産生非メチル化CpGDNAフラジェリンペプチドグリカンLPSチモザンTLR8TLR3TLR1TLR6degradationTRIFIRF-3IFN-a/b産生(細菌)(細菌)(真菌)一本鎖RNA(ウイルス)(細菌・ウイルス)二本鎖RNA(ウイルス)(細菌)(polyI:C)TLR7図1病原体認識機構Tolllikereceptors(TLR)TLR2はグラム陽性菌の細胞壁に含まれるペプチドグリカンを認識する.TLR2とTLR6は真菌の細胞壁成分であるチモザンを認識する.TLR4はグラム陰性菌の細胞壁成分であるリポ多糖(LPS)を,TLR5は細菌が遊走する際に使用する鞭毛の構成成分フラジェリンをそれぞれ認識する.TLR9は細菌が多くもつ非メチル化CpGDNAを,TLR7とTLR8はウイルス由来の一本鎖RNAを,TLR3はウイルス由来の二本鎖RNAを認識する.———————————————————————-Page2822あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008り,NF-kBのregulatorの一つであるIkB-zのノックアウトマウスでは,杯細胞の消失を伴う眼表面炎症と口周囲の皮膚炎を生じる6,7).この皮膚炎は,表皮にアポトーシス細胞を伴い,アレルギー炎症とは異なる様相を示している.このマウスの病態から示唆を得て,筆者らは眼表面炎症性疾患に自然免疫応答の異常が関与している可能性を考えた.その一つがStevens-Johnson症候群(SJS)である.SJSは,全身の皮膚・粘膜にびらんと水疱を生じる全身性の皮膚粘膜疾患である.眼科的所見として,急性期には,偽膜形成と広範囲の角結膜上皮欠損,睫毛の脱落を伴った重度の結膜炎を生じる(図2a).慢性期には,結膜上皮が血管・結合織を伴って角膜表面を被覆すると,著しい視力障害をきたす.また炎症の後遺症として瞼球癒着,睫毛乱生,高度のドライアイなどが生じる(図2b).筆者らが診療した眼合併症を伴うSJS患者の95%以上が急性期または亜急性期に手足の爪がはがれた既往があり,慢性期にも変形した爪が観察されることが多い.SJSは,重篤な視力障害を合併する急性発症の薬害と考えられているが,薬剤投与の前にウイルス感染症を思わせる感冒様症状を呈することが多く,感染症が発症に関与している可能性がある.筆者らは,SJS発症の素因として自然免疫応答異常が関与している可能性を考え,遺伝子発現解析ならびに遺伝子多型解析を行った.末梢血単球を用いた遺伝子発現解析では,リポ多糖(LPS)刺激に対するIL-4R遺伝子の発現がSJS患者と健常人で異なった(図3a).さらに,このIL-4Rについて遺伝子多型解析を行ったところ,IL-4RのGln551Arg(rs.1801275)について有意な差を認めた(図3b).大変興味深いことに,喘息などのアレルギー疾患では,Arg551が健常人と比較して有意に増加するのに対して,SJSではGln551が有意に増加していた9).さらに,(72)SJSの発症にウイルス感染が大きく関与している可能性を考え,ウイルス由来二本鎖RNAのレセプターであるTLR3の遺伝子多型解析を行った.その結果,TLR3のrs.3775296に有意な相関が認められた10).このことは,SJSの発症に遺伝的素因が関係し,自然免疫応答の異常がその発症に関係している可能性を示唆している.常在細菌の存在する眼表面においては,自然免疫応答を感染防御の視点のみならず,常在細菌に対して炎症を生じにくい機構の存在に着目し,その破綻と関連づけて眼表面炎症性疾患を模索する必要がある.文献1)UetaMetal:JMedMicrobiol56:77-82,20072)UetaMetal:JImmunol173:3337-3347,20043)UetaMetal:BiochemBiophysResCommun331:285-294,20054)HozonoY,UetaMetal:BiochemBiophysResCommun347:238-247,20065)KojimaK,UetaMetal:BrJOphthalmol92:411-416,20086)UetaMetal:InvestOphthalmolVisSci46:579-588,20057)UetaMetal:InvestOphthalmolVisSci,2008,inpress8)UetaMetal:JAllergyClinImmunol120:1457-1459,20079)UetaMetal:BrJOphthalmol91:962-965,2007図3StevensJohnson症候群の遺伝的素因a:末梢血単球の遺伝子発現解析.SJS患者ではリポ多糖(LPS)に対するIL-4Rの遺伝子発現変化が健常人と異なる.b:IL-4RGln551Arg(rs.1801275)の遺伝子多型解析.SJSではA(Gln)が有意に増加している.図2StevensJohnson症候群の眼所見a:急性期.眼脂,偽膜,角結膜上皮欠損を伴った著しい結膜炎を生じる.b:慢性期.角膜への結膜組織の侵入,瞼球癒着,睫毛乱生を認める.

緑内障:血管新生緑内障に対する抗VEGF薬

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.6,20088190910-1810/08/\100/頁/JCLSVEGF血管新生緑内障における眼圧上昇の原因であるルベオーシス形成には,血管内皮増殖因子(vascularendo-thelialgrowthfactor:VEGF)が深く関与している.これに関する最初の報告は,1994年にさかのぼる1).Aielloらは,増殖糖尿病網膜症による虹彩ルベオーシスを有する眼において前房水中のVEGF濃度が上昇していることを報告した.その後,サル眼の硝子体にVEGFを注入すると虹彩ルベオーシスが惹起されること2)や,網膜中心静脈閉塞症による血管新生緑内障における虹彩ルベオーシスの消長に前房水中VEGF濃度が密接に相関していることなどが報告され3),抗VEGF薬による血管新生緑内障の治療の可能性が期待されていた.と場する抗VEGF薬抗VEGF薬として最初に市販された薬剤は,Avas-tinR(bevacizumab)である.これは,VEGFに対するヒト化マウス抗体であり,転移性大腸癌の治療に対して2004年2月に米国FDA(食品医薬品局)に認可された.一方,眼疾患では,MacugenR(pegaptanib,VEGF165を特異的に阻害するRNAアプタマー)とLucentisR(ranibizumab,VEGFに対するヒト化マウス抗体断片)がそれぞれ2004年12月と2006年6月に滲出型の加齢黄斑変性症に対してFDAに認可された.さらに,現在米国で治験中のものとして,VEGF-Trap(VEGFレセプターの結合ドメインをもつデコイ蛋白)やSirna-27(VEGFレセプター遺伝子に対するsiRNA)がある.しかし,血管新生緑内障に対して現時点で適応のある薬剤はない.2008年1月現在のPubMedの検索では,ルベオーシス眼に対する効果の報告は,LucentisRの1例4)以外すべてAvastinRによる.さらに,AvastinRの報告は2006年3月のAvery5)をはじめとして16報(46例55眼)あるが,前房内注射の1報6)以外すべて硝子体内注射である.血管新生緑内障の治療におけるAvastinRの位置づけ血管新生緑内障の治療には,新生血管の消退と眼圧下降を同時にかつ速やかに図る必要がある(表1).新生血管と高眼圧は互いに悪影響を与えるため,一方の治療が不十分であると病態の遷延化や再発を起こし難治性となる.また,新生血管による隅角閉塞が進展すると観血的緑内障手術や毛様体破壊術が不可避となる.新生血管の治療として,その原因である網膜虚血の解消のために汎網膜光凝固術や網膜冷凍凝固術が従来から行われている.しかし,即効性でないことや光凝固では中間透光体の影響,冷凍凝固では炎症の惹起が問題となる.一方,AvastinRの硝子体内注射は即効性であり,中間透光体の影響を受けず,炎症などの合併症の報告もほとんどない.しかし,AvastinRは網膜虚血そのものを解消するわけではないので,虚血が遷延している場合には,効果の減弱とともに新生血管の再発をきたす可能性がある.(69)緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄96.血管新生緑内障に対する抗VEGF薬東出朋巳金沢大学附属病院眼科近年開発された抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor,血管内皮増殖因子)薬は,加齢黄斑変性症や黄斑浮腫などの新たな薬物治療として脚光を浴びている.血管新生緑内障に対してもAvastinR(bevacizumab)が,ルベオーシスの消退,眼圧下降や濾過手術に伴う出血抑制に有効と報告された.しかし,現時点では適応外使用であり,長期的安全性などさらなる検討が必要である.表1血管新生緑内障の治療における抗VEGF薬の位置づけ新生血管薬療抗薬薬生療血体生———————————————————————-Page2820あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008管新生緑内障に対するAvastinRの効果当科では,学内倫理委員会での承認と慎重な同意取得の下にAvastinR(1.25mg/0.05ml)の硝子体内注射を施行している.2007年12月の時点で血管新生緑内障に対する初回投与例17例20眼について検討したところ(経過観察期間=5.1±3.2カ月,111カ月),注射後14日に新生血管の明らかな消退が全例にみられ(図1),20%以上の眼圧下降が2/3にみられた.14眼には注射125日(6.4±6.9日)後にマイトマイシンC併用線維柱帯切除術が施行されたが,術中・術後の著明な出血はみられなかった.3眼において10日7.5カ月後に新生血管の再発がみられたが,網膜光凝固の追加によって消退した.これらの結果は,過去の報告によく一致していた.また,術後経過観察期間が3カ月以上の11眼について,当科での以前のAvastinR非使用例34眼と比較したところ,AvastinR使用例のほうが翌日の前房出血と7日を超えて持続する前房出血の頻度が有意に少なく,生命表解析において15mmHgを基準眼圧とした場合に有意に眼圧コントロールが良好であった.後の展と題AvastinRの硝子体内注射は,今までのところ比較的安全であり,速やかにかつ確実にルベオーシスを消退させうる.これによって,隅角閉塞進展の抑制,難治・進行例の減少,濾過手術の予後の改善などが期待される.(70)さらに,今後使用可能となる新しい抗VEGF薬との効果との比較も注目される.しかし,網膜光凝固が不要になるわけではなく,AvastinRによって一時的に病態が修飾され,新生血管の再発を見逃すと難治化するおそれもある.さらに,現時点では大規模な多施設臨床治験は報告されておらず,今後安全性など未知の問題が生じてくる可能性もある.何よりも適応外使用であることから,慎重な使用と厳重な経過観察が不可欠である.文献1)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendotheli-algrowthfactorinocularuidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEngJMed331:1480-1487,19942)TolentinoMJ,MillerJW,GragoudasESetal:Vascularendothelialgrowthfactorissucienttoproduceirisneo-vascularizationandneovascularglaucomainanonhumanprimate.ArchOphthalmol114:964-970,19963)BoydSR,ZacharyI,ChakravarthyUetal:Correlationofincreasedvascularendothelialgrowthfactorwithneovas-cularizationandpermeabilityinischemiccentralveinocclusion.ArchOphthalmol120:1644-1650,20024)DunavoelgyiR,ZehetmayerM,SimaderCetal:Rapidimprovementofradiation-inducedneovascularglaucomaandexudativeretinaldetachmentafterasingleintravitre-alranibizumabinjection.ClinExpOphthalmol35:878-880,20075)AveryRL:Regressionofretinalandirisneovasculariza-tionafterintravitrealbevacizumab(Avastin)treatment.Retina26:352-354,20066)GrisantiS,BiesterS,PetersSetal:Intracameralbevaci-zumabforirisrubeosis.AmJOphthalmol142:158-160,2006図1AvastinRの硝子体内注射を行った血管新生緑内障の1例70歳,男性,左眼増殖糖尿病網膜症による血管新生緑内障.左:AvastinRの硝子体内注射直後.隅角新生血管から著明な前房出血をきたした.瞳孔縁にもルベオーシスがみられる.右:注射後4日目.前房出血とルベオーシスはかなり消退した.しかし,眼圧は50mmHgで角膜浮腫がみられる.

屈折矯正手術:老視矯正エキシマレーザー照射プログラム:PACの実際

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.6,20088170910-1810/08/\100/頁/JCLS視機能への欲求が増大しており,従来は当たり前として受け入れられてきた老視をも何とか矯正しようという試みが始まっている.老視に対する対策としては,古典的方法である遠近両用の眼鏡を装用する方法が現状でも最も普及している.しかし,近年,コンタクトレンズ世代の高齢化に伴い,遠近両用コンタクトレンズの装用を選択する症例も徐々に出現してきた.また,白内障術後成績の向上により,眼内レンズ(IOL)自体をマルチフォーカルに設計したものや,アコモダティブIOLといわれる虹彩の動きにより調節力を得ようとするレンズも開発されている.一方,LASIK(laserinsitukeratomileusis)の普及と安全性の確立に伴い,従来は見合わせることの多かった,調節力が低下している中高年者にLASIKが行われる頻度が高まっている.近見視力を維持するため意図的に軽度の近視を残存させたり,片眼を遠見,反対眼を近見にあわせるモノビジョンを応用し,一定の良好な成績が報告されている1,2).しかし,個々の生活や就労の環境,ライフスタイルは千差万別であり,現状では老視治療の選択肢は多様なことが望まれる.今回紹介するPAC(pseudo-accommo-dativecornea,偽調節角膜)は,加齢により失われた調節力を,角膜をマルチフォーカルな形状にすることにより焦点深度を増加させ,網膜上に多焦点イメージを与える原理になっている.つまり,角膜をPAC形状にする新しいLASIKである.PACの原理角膜をマルチフォーカルに切除する方法として,現在2種類の切除方式が考案されている.角膜中央部を近見用に,周辺部を遠見用にするものと,反対に中央部を遠見用に,周辺部を近見用に切除する方法があり,PACは後者の方法を選択している.老視矯正用切除形状の概略を図1に示す.中央部35mm径に遠見用のエリア,周辺部67mm径に近見用エリアを有し,10mm径のスムーズなトランジション・ゾーンを有する.PACCalculatorというソフトを用い,照射プログラムを作成する.患者の年齢,術後屈折値,近見の加入度(67)図1PACの原理中央部を遠見用に,周辺部を近見用にデザインされている.:遠視切除:近視切除?周辺部6~7mm径:近見用(大きなOZ径の遠視切除)?10mm径のスムーズなトランジション・ゾーン?中央部3~5mm径:遠見用近見用遠見用図2PACCalculatorの入力画面:患者データ年齢,度数,加入度,瞳孔径などを入力する.屈折矯正手術セースルアップ●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男97.老視矯正エキシマレーザー照射プログラム:PACの実際原祐子愛媛大学医学部眼科PAC(pseudo-accommodativecornea,偽調節角膜)は角膜をマルチフォーカルな形状に切除し,網膜に多焦点のイメージを与えることによって老視を矯正する新しいコンセプトのLASIK(laserinsitukeratomileusis)である.症例の選択,長期的な予後,術後視力のqualityなど今後さらなる検討が必要であるが,従来は“仕方がない”とあきらめられていた老視をも克服できる可能性がみえてきていることは間違いない.———————————————————————-Page2818あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008数と瞳孔径を入力する(図2).また,患者の日常生活についての問診入力画面があり(図3),生活労働環境,運転頻度,読み書き頻度などを確認し,遠方視,中間視,近方視のうち,どこを重要視するのかを決定すると,照射プログラムが自動的に作成される(図4).まず,円柱矯正をあらかじめ行ったのち,遠視矯正と近見加入度数分を矯正し,一旦過剰な遠視状態にする.その後中心部を遠見用に戻し,スムージングを行う.術前後のOPDマップを図5に示すが,中心部のグリーンの部分が遠見用,周辺の赤い部分が突出した近見用の部分になる.瞳孔径が極端に小さい症例は,近見用の部分が有効に使用できないため,良好な結果が期待できない.術成績PACを考案したTerandroらは,遠視83眼,近視77眼に対する成績を報告している3).術前平均度数は,遠視群は+1.54±0.90D,近視群は4.31±2.62D,術前の近見加入度数は,遠視群では2.40D,近視群は1.75Dであった.術後3カ月の屈折度数は,遠視群は0.19±0.58D,近視群は0.50±0.75Dであり,近見加入度数が遠視群では0.11D,近視群では0.07Dと劇的に減少するすばらしい成績である.すでに,フランス,ドバイ,フィリピンなどで約5,000眼以上がPACによる老視矯正手術を施行されている.長期的な予後,術後視力のqualityなど今後さらなる検討が必要であるが,老視矯正の新たな選択肢になる可能性は高い.文献1)GhanemRC,delaCruzJ,TobaigyFMetal:LASIKinthepresbyopicagegroup:safety,ecacy,andpredict-abilityin40-to69-year-oldpatients.Ophthalmology114:1303-1310,20072)ReillyCD,LeeWB,AlvarengaLetal:Surgicalmonovi-sionandmonovisionreversalinLASIK.Cornea25:136-138,20063)TelandroA:Pseudo-accommodativecornea:anewcon-ceptforcorrectionofpresbyopia.JRefractSurg20:S714-717,2004(68)☆☆☆図4PACCalculatorの照射プログラム画面必要事項を入力することにより照射プログラムが自動的に作成される.まず、円柱矯正近見用の矯正中心エリアを遠見用に戻すスムージング図3PACCalculatorの入力画面:問診患者の日常生活についての問診を入力し,遠方視,近方視のいずれを重視しているか確認する.図5術前後のOPDマップグリーンの部分が遠方視用,周辺の赤い部分が突出した近方視用の部分.

眼内レンズ:屈折型多焦点眼内レンズ

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.6,20088150910-1810/08/\100/頁/JCLS海外で,遠方のみでなく近方も裸眼で見ることができる多焦点眼内レンズが注目され,わが国でも2007年に,新世代の屈折型および回折型多焦点眼内レンズが厚生労働省の承認を受けた.どちらのタイプも20年前に使用された屈折型および回折型多焦点眼内レ(65)ンズと基本構造は同じである.これらのレンズの利点と問題点を理解しないで挿入すると,以前と同様に,多焦点眼内レンズという新しいレンズに飛びついたものの,十分な臨床結果が得られず,その後の挿入を断念するといった結果にもなりかねない.ここでは,わが国で使用ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科眼内レンズセー監修/大鹿哲郎262.屈折型多焦点眼内レンズ屈折型多焦点眼内レンズは,遠用と近用度数を同心円状に合わせたデザインで,わが国ではAMO社リズームが使用されている.回折型と比べ,遠方優位デザインなので,遠方視力は良好,近方視力は,近用度数部分を使える瞳孔径が必要なので,比較的若い症例で良好である.回折型に比べ夜間グレア,ハローがでやすい点に注意する.1リズームアクリル製スリーピースレンズ.光学部は単焦点眼内レンズのセンサと同じく,シャープエッジとなっており,後発白内障抑制効果が期待される.図2リズームの特徴と改良点シリコーン製アレイと基本的には同様の5ゾーンデザインである.近方視力について,第2ゾーン(近用)の面積を5%大きくしている.夜間のグレア,ハローについて,第3ゾーンの面積を大きくし,第4,5ゾーンを小さくすることで対処.各ゾーンの直径ゾーンリズームアレイ12.1mm2.1mm23.45mm3.4mm34.30mm3.9mm44.6mm4.6mm54.6mm~4.6mm~第5ゾーン(遠用)第1ゾーン(遠用)第2ゾーン(近用)移行部(非球面)第4ゾーン(近用)第3ゾーン(遠用)アレイより面積+5%アレイより面積-55%アレイより面積+80%54321←図3アレイ挿入後→図4リズーム挿入後———————————————————————-Page2可能なアクリル製屈折型多焦点眼内レンズについて,従来のシリコーン製屈折型多焦点眼内レンズ(アレイ)からの改良点などを含め,その特徴を紹介する.屈折型多焦点眼内レンズは,光学部が5ゾーンのポリメチルメタクリレート(PMMA)製PA154Nが1996年に,シリコーン製SA40Nが2000年に承認を受け,アレイという名称で,リズームが出るまでわが国で使用され,その臨床成績が報告された1.2).広く普及しなかった理由は,近方視力が期待ほどでなかったこと,夜間グレア,ハローを訴える例が多いことであった.PMMAからシリコーン素材となり小切開から挿入可能になったが,単焦点眼内レンズ挿入後より,視力が後発白内障に影響されやすく,YAGレーザーを必要とする例が多い印象であった.夜間グレア,ハローは,瞳孔が散大した際,近用ゾーンである第4ゾーンを通った光が影響することが危惧され,この部分の面積が大幅に減少された.実際のリズーム挿入例で,以前のアレイに比べて,グレア,ハローを訴える症例の割合は減っているが,単焦点眼内レンズや回折型多焦点眼内レンズよりも多い.遠方視力は,遠用ゾーンが中央にあり遠方優位の多焦点眼内レンズであるため,非常に良好である.単焦点眼内レンズ挿入後の遠方の見え方に比べ,昼間に関しては同等の視力結果が得られている.米国で,回折型多焦点眼内レンズが承認を受け,急速に挿入例が増加したが,術後の見え方に不満を訴える例が発生した.いわゆるwaxyvisionまたはvasalinevisionと表現されている見え方である.近方裸眼視力は明らかに屈折型よりも良好であるが,基本となる遠方視力に関しては,屈折型の利点が再認識された.筆者らは実際の挿入成績を報告したが,両眼挿入例において,遠方視力は裸眼および矯正とも単焦点と同等,近方裸眼視力は平均で0.4と単焦点の0.2より良好であった3).焦点深度測定では,なだらかな二峰性の焦点深度曲線が得られている4).グレア,ハローについては術前に十分説明しインフォームド・コンセントをとることで,術後に問題になった例はなかった3).文献1)NegishiK,Bissen-MiyajimaH,KatoKetal:Evaluationofazonal-progressivemultifocalintraocularlens.AmJOphthalmol124:321-330,19972)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Correlationbetweenpupillarysizeandintraocularlensdecentrationandvisualacuityofazonal-progressivemultifocallens.Ophthalmology108:2011-2017,20013)中村邦彦,ビッセン宮島弘子,大木伸一ほか:アクリル製屈折型多焦点眼内レンズ(ReZoom)の挿入成績.あたらしい眼科25:103-108,20084)大木伸一,ビッセン宮島弘子,上野里都子ほか:多焦点眼内レンズの焦点深度.日本視能訓練士協会誌47:72,2006

コンタクトレンズ:遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方方法(1)

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.6,20088130910-1810/08/\100/頁/JCLS読者のもっとも知りたいポイントは,遠近両用ソフトコンタクトレンズ(老視用SCL)の処方成功率であろう.なぜなら,老視用SCLを処方するには,非常に多くの労力が必要であり,コンタクトレンズ(CL)が初めての患者には1時間30分以上の検査と装脱練習の時間が必要となり,結果として満足せずに中止になれば,今のCL診療の報酬ではまったく割に合わないからである.失敗すれば医師への信頼も薄くなるので,検査を始める前に,欠点などを説明し,成功率などを患者に説明することが重要である.成功率に影響する因子はいくつかある.まず,患者の性格である.ある程度見えれば良いというのであれば成功率は高いが,遠方視力が1.2以上見えたいという患者は満足しない.また,年齢によっても異なり,50歳を超えると,老視用SCLの加入度数を増やしても視力に不満がでてくる.近視,遠視の程度でも異なってくる.正視であれば成功率5%以下,中等度以上の近視眼であれば成功率70%となる.これについては次回述べることにする.鏡との比較遠近両用の眼鏡の場合,角膜と眼鏡のレンズの距離は(63)12mmあるので,目線を変えることにより,中央部で遠方を見て,下方で近方を見るので,遠近ともによく見える.一方,老視用SCLの場合は,角膜に接しているために目線を変えてレンズの使う部分を変えることができない.したがって,瞳孔に入ってきた光の半分を遠方視に,残りの半分を近方視に使うので,眼鏡に比べると見にくいのは当然となる.患者にこの説明をすると,遠方視力が見えにくくても納得してもらえることが多い.ードかソフトか老視用ハードレンズ(老視用HCL)と老視用SCLの比較であるが,見え方については,交代視の効果があるなどで老視用HCLが優位である.しかし,老視用HCLは,装用感が大きな問題となる.HCLを長年使用している人には,老視用HCLがお薦めである.ワタナベ眼科では,そのような場合,サンコンタクトレンズ社のサンコンマイルドⅡバイフォーカルを選択している.しかし,最近は,HCLの装用経験者が少なく,老視用HCLを装用すると異物感が我慢できずに中止になることもある.ンズデザインの選択レンズデザインは各社いろいろ工夫をしている.①同時視型,②同心円型または偏心型,③二重焦点または累渡邉潔ワタナベ眼科コンタクトレンズセナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純1遠近両用SCLのデザイン同時視型同心円型二重焦点(中心遠用,周辺近用)同時視型同心円型二重焦点(中心近用,周辺遠用)同時視型同心円型累進屈折力(中心遠用,周辺近用)同時視型同心円型累進屈折力(中心近用,周辺遠用)遠用部近用部近用部遠用部遠用部近用部近用部遠用部———————————————————————-Page2814あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(00)進屈折力などに分類できる.また,レンズの中央部に遠用が位置するもの,逆に近用が位置するものがある(図1).たとえば,ロートi.Q.14バイフォーカルは,中心部が遠用のDタイプと,近用のNタイプがあり,DタイプとNタイプを1眼ずつ使用する方法を提案している.中心部に遠用があるほうが遠方視力は良いように思うが,筆者の印象では大差はないように思う.特殊なデザインとしては,中央から遠近遠近遠と5つの同心円状のゾーンがあるアキュビューバイフォーカルRがあり,筆者は発売と同時に愛用している.5つのゾーンがあれば,明暗で瞳孔の大きさが違っても見え方は安定している(図2).ほかに,偏心型としてメニフォーカルソフトSRがある.ソフトレンズのセンタリングが耳下側に安定しやすいこともあり,近用部が中央部より鼻側に位置している.回転を防止するためにプリズムバラストの形状になっており,右眼用左眼用を区別しなくてはならない.ワタナベ眼科では,多くの種類のレンズの在庫を置くことができないので,アキュビューバイフォーカルRだけを処方している.2特殊なデザインの遠近両用SCLS(右眼用)同時視型同心円型二重焦点(5つのゾーン)同時視型偏心型二重焦点(近用と遠用の間に別の度数のゾーンがある)遠用部近用部遠用部近用部移行部

写真:急性水腫に対する前房内空気注入

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.6,20088110910-1810/08/\100/頁/JCLS(61)宮井尊史宮田和典宮田眼科病院ミナー監修/島﨑潤横井則彦289.急性水腫に対する前房内空気注入2図1のシェーマ①:注入した空気.②:急性水腫による角膜浮腫.③:30ゲージ鈍針.①②③1円錐角膜急性水腫,前房内空気注入(28歳,男性)円錐角膜の急性水腫に対して,前房内空気注入を行っている.4円錐角膜急性水腫,前房内空気注入後図1と同一症例.Descemet膜の角膜実質への接着,角膜の浮腫が消退していることがわかる.患者の疼痛は改善し,視力は左眼=0.1(0.2×(cyl+3.0DAx130°)まで改善した.3円錐角膜急性水腫,前房内空気注入前図1と同一症例.スリット光で,Descemet膜が離していることがわかる.Descemet膜離部分に強い浮腫を生じている.患者は疼痛を訴え,視力は左眼=20cm/n.d.まで低下している.———————————————————————-Page2812あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(00)急性水腫は,Descemet膜破裂を生じる疾患でみられる角膜実質および上皮の浮腫で,重症の円錐角膜や鉗子分娩,外傷などで生じうる.円錐角膜ではその約3%に発症がみられ1,2),疾患の進行により角膜中央部付近が極端に突出,これに伴いDescemet膜が伸展し,限界を超えるとDescemet膜破裂を生じる.破裂部位より前房水がDescemet膜裏面に回り込み,角膜実質および上皮の浮腫を生じる.症状は視力低下,疼痛で激痛を訴えることもある.治療は,圧迫眼帯,ソフトコンタクトレンズ,高張食塩水眼軟膏などを用いた保存療法が一般的であるが,消退までは約24カ月と長い期間を必要とする2).治療期間を短縮する治療法として,前房内に空気を注入し,離したDescemet膜を角膜に押し付け接着を促す方法がある.この方法では,約3週間程度で急性水腫を消退させることができる3).円錐角膜の急性水腫では,社会生活上,長期休暇をとりにくい若年者に多いこともあり,早期に疼痛を改善し,治療期間を短縮する意味で有効な選択肢の一つである.点眼麻酔で行うことができるが,内眼操作を含むので,手術室など清潔度の高い場所で行ったほうがよい.空気はミリポアフィルターなどを通して濾過し,清潔なものを用いる.空気があるうちは仰臥位姿勢を保持するため,入院したほうがよい.タンポナーデ効果が不十分な場合は,空気の再注入を行う.治療の問題点としては,空気を入れすぎた場合,瞳孔ブロックを生じる可能性があることと,空気により角膜内皮が障害されうることがあげられる.空気の代わりにSF6(六フッ化イオウ)4)やC3F8(パーフルオロプロパン)5)を用いる方法もある.急性水腫後の瘢痕治癒では,瘢痕部が瞳孔領にかかることがあり,視力を改善させるために全層角膜移植が必要な場合もある.文献1)TuftSJ,GregoryWM,BuckleyRJ:Acutecornealhydropsinkeratoconus.Ophthalmology101:1738-1744,19942)GrewalSG,LaibsonPR,CohenEJetal:Acutehydropsinthecornealectasia:associatedfactorsandoutcomes.TransAmOphthalmolSoc97:187-198,19993)MiyataK,TsujiH,TanabeTetal:Intracameralairinjectionforacutehydropsinkeratoconus.AmJOphthal-mol133:750-752,20024)ShahSG,SridharMS,SangwanVS:Acutecornealhydropstreatedbyintracameralinjectionofperluoropro-pane(C3F8)gas.AmJOphthalmol139:368-370,20055)SiiF,LeeGA,GoleGA:Perforatedcornealhydropstreat-edwithsulfurhexaluoride(SF6)gasandtissueadhesive.Cornea24:503-504,2005

続発緑内障への薬物選択-落屑緑内障・ぶどう膜炎による緑内障・内眼手術後の緑内障

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSこの発見が診断の契機になることが多い.人工水晶体眼では,眼内レンズの表面に沈着している所見もよく観察される.また,散瞳した際に未散瞳状態では確認できなかった水晶体周辺部に沈着した落屑物質が明らかにされることもまれならず経験される(図1).はじめに続発緑内障とは他の眼疾患,全身疾患,または薬物が原因となって眼圧上昇が生じるタイプの緑内障である.したがって続発緑内障の治療の大原則は眼圧上昇原因の除去,つまり原疾患の治療が最優先され,本来の緑内障治療の主役である眼圧下降薬は補助的な役割を果たすにすぎない.すなわち続発緑内障を治療するうえで最も重要なポイントは,症例が示しているさまざまな所見や臨床経過から眼圧上昇機序を的確に把握することにある.そこで本稿では,日常臨床の現場で遭遇する機会が多い続発緑内障の病型を中心に,どのように診断し,いかに病態に応じた治療薬剤を選択すべきか,私見を交えながら述べさせていただく.I落屑緑内障落屑緑内障とは,眼内の偽落屑物質の沈着を特徴とする落屑症候群に続発する開放隅角緑内障である.最近では,落屑症候群における落屑物質の沈着は,眼内のみに留まらず,脳,心血管組織,および皮膚など,全身の組織に及ぶ1)ことが明らかにされており,全身疾患として捉えられている.1.臨床所見の特徴a.前眼部所見最も特徴的な所見は,眼内の白色ふけ状の落屑物質であり,瞳孔縁,水晶体表面に沈着している場合が多く,(55)805*ShiroMizoue:愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学〔別刷請求先〕溝上志朗:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学特緑内障点眼薬─選択のポイントあたらしい眼科25(6):805809,2008続発緑内障への薬物選択─落屑緑内障・ぶどう膜炎による緑内障・内眼手術後の緑内障MedicalTreatmentofSecondaryGlaucoma溝上志朗*図1水晶体表面に沈着した白色の落屑物質(散瞳眼)図2Sampaolesi線(矢印)———————————————————————-Page2806あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(56)一選択とすることが望ましく,高齢の患者が多いことから,全身的副作用の少ないラタノプロストやトラボプロストを第一選択とする.第二選択薬としては,炭酸脱水酵素阻害薬やb遮断薬の点眼剤が候補としてあげられる.また,低濃度のピロカルピンが奏効することもしばしば経験されるが,縮瞳や白内障進行などの副作用や,Zinn小帯が脆弱化している浅前房の症例においては,さらに前房が浅くなることにより逆説的瞳孔ブロックをきたし,逆に眼圧が上昇する可能性もあることから慎重に投与する.点眼治療のみでコントロール不可能な場合には炭酸脱水酵素阻害薬の内服も考慮されるが,やはり高齢患者が多いことから全身副作用の発現が懸念され,長期投与が必要とされる場合には観血的治療を考慮すべきである.また本症は,ある受診日に眼圧が高値を示しても,次回受診時には通常の眼圧に復しているなど,変動する眼圧に翻弄されたあげく観血的治療に踏み切るタイミングを逸しやすい傾向があるので注意を要する.IIぶどう膜炎に伴う緑内障ぶどう膜炎患者の視神経乳頭,視野に緑内障性変化がみられる頻度は9.6%と報告されている5).ぶどう膜炎に伴う緑内障の眼圧上昇機序はさまざまであるが,大きくは開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障に分類される.開放隅角の場合は,炎症細胞による線維柱帯の閉塞や線維柱帯の炎症,閉塞隅角の場合には周辺虹彩前癒着や虹彩後癒着に伴う瞳孔ブロック(irisbombe)が主たる発症機序としてあげられる.1.臨床所見の特徴ぶどう膜炎の病型によって性状はさまざまではあるが,前房内の炎症細胞,フレアの増強,前房蓄膿および角膜後面沈着物をみる.サルコイドーシスによるぶどう膜炎では,隅角に特徴的な白色半透明の結節(図4)や,テント上,台形の虹彩前癒着がしばしば認められる(図5).虹彩後癒着の進行により,完全瞳孔ブロックをきたすとirisbombeとなり,前房は消失し眼圧は急激に上昇する.b.隅角所見強い色素沈着が本症の隅角にみられる特徴的所見である.色素沈着が高度な症例では,下方の隅角にSchwal-be線を超える波状の色素沈着がしばしば認められ,Sampaolesi線と称されている(図2).2.薬物治療のポイント落屑緑内障は,原発開放隅角緑内障と比較して,眼圧レベルが高く,眼圧変動も大きいことがKonstasらにより報告されている2).さらに,彼らは眼圧変動の大きい症例は,より進行しやすいことも明らかにし,5年間継続して治療した症例について,進行を認めた群と進行を認めなかった群とを比較し,進行群の治療中の平均眼圧と眼圧変動幅が非進行群よりも大きいことを報告している3)(図3).落屑症候群の眼圧変動の原因としては,短期的には散瞳により一斉に色素が散布され,一過性に急激な眼圧上昇をきたす4)ことがよく知られているが,本症はZinn小帯の脆弱化を伴いやすいため,水晶体の前方偏位を生じやすく,瞳孔ブロックの増大に起因する隅角閉塞機転が生じる可能性も高いことに留意する.このような場合には,レーザー虹彩切開術や白内障手術によって,まず瞳孔ブロックの解消を図ることが薬物治療に優先されるべきである.薬剤の選択としては,強力な眼圧下降,眼圧変動幅の抑制を得られ,さらに24時間効果が持続する薬剤を第図3落屑緑内障患者の眼圧変動の分布(文献3より):進行例:非進行例12345678910111213141516173432302826242220181614121086420患者数平均眼圧(mmHg)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008807(57)ある.このような場合,状況が許せばステロイド投与を中止して眼圧経過を見守る.ステロイド緑内障である場合,眼圧はステロイド中止後,数日から数週間で下降するとされている6).しかし実際の臨床上,眼圧上昇は炎症所見が沈静化した後に,ステロイドを漸減している最中の症例や,少量持続投与中の症例に発生することがよく経験され,原疾患の再燃による眼圧上昇との判別に戸惑うことは決して少なくない.眼圧下降治療に関しては,炭酸脱水酵素阻害薬,およびb遮断薬を中心とした房水産生抑制作用をもつ薬剤を処方する.炎症眼に対するプロスタグランジン製剤の使用に関しては意見が分かれるところである7,8).筆者らの施設では禁忌とはしていないが,現在までに胞状黄斑浮腫(CME)の発症,および炎症の増強や再燃に関して,プロスタグランジン製剤投与と明らかな因果関係が疑われた症例は経験していない.しかし炎症眼に対するピロカルピンの使用については,炎症が及んでいる毛様体筋に作用することで毛様痛の誘因となるほか,血管透過性亢進作用による炎症の遷延化,そして虹彩後癒着の原因ともなるため原則として禁忌とする.ほかの病型の緑内障と同様,最大限の薬物治療を行っても眼圧コントロールが得られず,視機能の維持が困難と判断された場合には,速やかに観血的治療に踏み切る.肉芽腫性ぶどう膜炎では,虹彩前癒着の範囲が広範囲に及ぶほど,手術治療を要する頻度が高くなることが報告されている9)(表1).III内眼手術後の緑内障内眼手術に続発する緑内障としては,悪性緑内障,白内障や角膜移植などの前眼部手術に続発する緑内障,および硝子体術後の硝子体内ガスやシリコーンオイル注入2.薬物治療のポイント薬物治療を開始する前の大原則は,ぶどう膜炎の原因検索を十分に行うことである.鑑別方法の詳細については他書に譲るが,片眼性か両眼性か,炎症反応を起こしている部位と性状,経過は急性か慢性か,随伴する全身症状の有無などが診断を下すうえでのキーポイントとなる.感染性のぶどう膜炎が疑われる場合は,病原微生物に対する血清抗体価の上昇が参考になる.またサルコイドーシス,Behcet病など全身管理を要する場合には他科との連携が重要となる.非感染性ぶどう膜炎の治療は,基本的に副腎皮質ステロイド薬の局所および全身投与が主軸となる.局所投与としてはリン酸ベタメタゾンやデキサメタゾンの点眼を1日46回行い,病状の変化に応じて増減する.さらに前眼部に強い炎症反応を認める場合には,結膜下注射を行う.中間部,もしくは後眼部が主体の病変に対しては,トリアムシノロンアセトニドの後部Tenon下注射を行う.通常眼圧は眼内炎症の寛解に伴って下降することが多い.しかし,一旦下降していた眼圧が一転して上昇する場合にはステロイド緑内障の発症を疑う必要が表1隅角の虹彩前癒着(PAS)所見と治療成績隅角眼薬物治療緑内障手術に眼隅角上文献図4サルコイドーシスにみられた隅角の結節(矢印)図5サルコイドーシスにみられた隅角の虹彩前癒着(矢印)———————————————————————-Page4808あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(58)房と高眼圧をきたす疾患である.発症機序としては,本来なら後房から前房へ流出すべき房水がmisdirectionされ,後方の硝子体腔に貯留することにより,水晶体,虹彩隔壁を角膜側に押し上げ,浅前房,隅角閉塞が生じる(図6).現在のところ,房水がmisdirectionされる詳細な機序は明らかにされていないが,近年,毛様体脈絡膜離との関連を示唆する報告がなされている12).a.臨床所見の特徴緑内障濾過手術,白内障手術,およびレーザー虹彩切開術などの内眼手術後に生じ,浅前房化に伴う眼圧上昇が診断の契機となる.緑内障濾過手術後の場合は,術後に過剰濾過をきたすと通常は低眼圧,浅前房となるが,眼圧が維持されているにもかかわらず浅前房である場合は,たとえ明らかな眼圧上昇をきたしていなくとも本症の発症を疑う必要がある.診断には超音波生体顕微鏡(UBM)が有用であり,毛様体突起が硝子体腔より圧排されることで扁平化し,前方回旋した所見が特徴的である.b.薬物治療のポイント毛様体ブロックを解除する目的で,毛様体筋の弛緩作用により前方偏位している毛様体の後方移動を促進するために1%アトロピン点眼を開始する.ピロカルピンが投与されている場合には,毛様体の前方移動促進作用により病態を悪化させるため,ただちに中止する.また,硝子体容積を減少させる目的にて,高浸透圧薬の点滴を行う.さらに房水産生を抑制する目的で,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼,内服,b遮断薬の点眼を行う.約50%の症例が薬物治療によって寛解可能であるとする報告がある13).薬物治療が奏効しない場合や,再発をくり返す場合には,レーザー治療や,前部硝子体切除によって房水動態の正常化を目指す.による緑内障などがあげられる.このなかでも特に経験する機会が多い,白内障術後の眼圧上昇と,発症初期の病態把握と薬物治療の選択が予後を左右する悪性緑内障について述べる.1.白内障術後の緑内障白内障術後の眼圧上昇は,術後いずれの段階でも起こりうる.術後早期では,粘弾性物質の残留,前房内炎症,ステロイド点眼,晩期では慢性炎症,YAGレーザーによる後切開術などが代表的であるが,日常臨床で遭遇する機会が多い術後早期の眼圧上昇への対応を考えてみたい.a.臨床所見の特徴近年の白内障手術の低侵襲化により,術後早期の眼圧上昇原因として術後炎症に起因するケースは著しく減少している.したがって,術中合併症なく終わった症例が術翌日に眼圧上昇をきたした場合,前房内に残留した粘弾性物質をまず疑う必要があろう.典型的な臨床所見としては,粘弾性物質によって満たされた前房水の熱対流の遅延であり,これは前房内を浮遊している炎症細胞の移動速度の低下として観察される.緑内障症例など,房水クリアランスが低下している眼は眼圧上昇の頻度が高い10).眼圧上昇は通常1216時間後にピークに達し,その後約72時間でヒアルロン酸ナトリウムが加水分解されることで下降する11).b.薬物治療のポイント眼圧上昇原因として,線維柱帯の房水通過障害が考えられており,房水産生抑制を目的として,b遮断薬や,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼剤を処方する.筆者らは,すでに術後点眼を多剤併用していること,眼圧上昇が通常一過性であることより,炭酸脱水酵素阻害薬の内服を処方することが多い.眼圧上昇が長期に及ぶ場合は,前房洗浄を考慮する必要があるが,手術終了時に粘弾性物質を可能な限り除去することで,発症そのものの予防を心がけることが大切である.2.悪性緑内障悪性緑内障とは,毛様体ブロック緑内障とも称され,瞳孔ブロックが解除されている眼に起こる進行性の浅前図6悪性緑内障の前眼部前した体水———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008809(59)rienceandincidenceinaretrospectivereviewof94patients.Ophthalmology105:263-268,19988)山口恵子,東永子,中島花子ほか:内因性ぶどう膜炎におけるラタノプロストの起炎性.臨眼95:498-501,20019)沖波聡:ぶどう膜炎による緑内障とその治療.眼紀39:1396-1403,198810)HandaJ,HenryJC,KrupinTetal:Extracapsularcata-ractextractionwithposteriorchamberlensimplantationinpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol105:765-769,198711)StamperRL,LiebermanMF,DrakeMV:Secondaryopen-angleglaucoma:Becker-Shaer’sdiagnosisandtherapyoftheglaucomas,7thed,p317-355,Mosby,StLouis,199912)SakaiH,Morine-ShinjyoS,ShinzatoM:Uvealeusioninprimaryangle-closureglaucoma.Ophthalmology112:413-419,200513)SimmonsRJ,MaestreFA:Malignantglaucoma.TheGlaucomas,Vol2,2nded(edbyRichR,ShieldsMB,KrupinT),p841-855,Mosby,StLouis,1996文献1)Schlotzer-SchrehardtUM,KocaMR,NaumannGOetal:Pseudoexfoliationsyndrome.Ocularmanifestationofasys-temicdisorderArchOphthalmol110:1752-1756,19922)KonstasAG,MantzirisDA,StewartWC:Diurnalintraoc-ularpressureinuntreatedexfoliationandprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol115:182-185,19973)KonstasAG,HolloG,AstakhovYS:Factorsassociatedwithlong-termprogressionorstabilityinexfoliationglau-coma.ArchOphthalmol122:29-33,20044)大蔵文子:落屑緑内障の散瞳試験.落屑症候群─その緑内障と白内障─,p60-70,メディカル葵出版,19945)Merayo-LlovesJ,PowerWJ,RodriguezAetal:Second-aryglaucomainpatientswithuveitis.Ophthalmologica213:300-304,19996)Kass,MA:Corticosteroid-inducedglaucoma.TheGlauco-mas(edbyRitchR),p1161-1168,Mosby,StLouis,19897)WarwarRE,BullockJD,BallalD:Cystoidmacularedemaandanterioruveitisassociatedwithlatanoprostuse.Expe-

小児,妊婦,高齢者への薬剤選択

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS重篤になる可能性がある.小児では薬物代謝も遅いために薬物が蓄積する可能性が高く,全身副作用を有する点眼薬では成人以上に血漿中濃度が上昇する危険性をはらんでいる.以上のことより小児に対する点眼治療の際には,低濃度薬剤から投与するのみならず副作用発現に対してつねに監視する姿勢が大切である.一方,小児においては毛様体機能,房水流出路形態ともに発達途中にあるため,緑内障治療薬が成人と同じ作用をするという保証はない.実際の投与においてもコンプライアンスが高いとは言い難く,刺激のある点眼薬の場合には涙液の刺激性分泌により濃度が低下する可能性もある.さらに小児では本人の協力が得られにくく,視力や視野検査はもちろんのこと眼圧測定も困難であることが多いため,実際の薬効の評価がむずかしい.したがってこのような場合には薬物療法で長期にわたって経過観察を行うのではなく,眼圧コントロールがつかなければ手術を行うことを考慮して使用し,手術の時期を逸しないように注意を払う必要がある.実際の薬物治療としてはプロスタグランジン製剤を最初に用いることが多いが,ぶどう膜強膜路の未発達性から幼小児緑内障では無効例が多く,眼圧下降率も小さいとの報告1)がある.b遮断薬ではチモロールの使用報告2,3)が最も多くなされており,重篤な無呼吸発作や徐脈例の報告もあるものの,喘息や不整脈の既往例を避ければ小児に長期間使用しても深刻な問題はないとされている.しかし近年,日本では小児喘息が増加傾向にあはじめに小児,妊婦,高齢者はいずれも通常の成人とは体格,体内生理環境,内分泌環境などが異なるため,眼圧下降作用が同じとは限らず何らかの配慮が必要となる.副作用に関しても小児,妊婦,高齢者の場合にはより強く発現する可能性がある.一般に小児,妊産婦に対する薬物使用に関しては詳細な科学的データが少ないために添付文書に「安全性は確立されていない」としか記載されていないことが多く,実際の治療に関しては緑内障の病態を見計らいながら症例ごとに対応せざるを得ないものと考えられる.I小児の場合小児に対する緑内障治療の原則は手術療法である.薬物療法は術前の眼圧下降あるいは術後の眼圧下降を補う補助療法として位置づけられるが,いずれの眼圧下降薬も添付文書上「使用経験がないため安全性が確立されていない」との記載(表1,2)があり,使用の可否は医師の裁量に任されている.「小児は小さな大人ではない」ことは小児科における原則であるが,点眼薬を投与する場合においてもつねにその点には留意する必要がある.内服薬や注射薬では体重当たりに換算する投与法が可能であるが,点眼に関しては現在のところ換算が困難である.したがって通常の成人と同じ投与法では体重に比して点眼量が過多となり作用が強力に発現するだけではなく,副作用が高頻度・(49)799*KazuhikoMori:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕森和彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特集緑内障点眼薬選択のポイントあたらしい眼科25(6):799804,2008小児,妊婦,高齢者への薬剤選択MedicalTherapyforChildren,PregnantWomenandElderlyPersons森和彦*———————————————————————-Page2800あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(50)表1各種緑内障治療薬の添付文書一覧(交感神経遮断薬)薬分類交感神経遮断薬b遮断薬ab遮断薬a1遮断薬薬剤名チモプトールR点眼液0.25%/0.5%チモプトールRXE点眼液0.25%/0.5%ミケランR点眼液1%/2%ミケランRLA点眼液1%/2%ベトプティックR点眼液0.5%ベトプティックRS懸濁性点眼液0.5%ミロルR点眼液0.5%ハイパジールRコーワ点眼液0.25%デタントールR0.01%点眼液妊婦,産婦,授乳婦等への投与1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.〔妊娠中の投与に関する安全性は確立されていない.〕1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.〔妊娠中の投与に関する安全性は確立されていない.〕1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.(妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.)1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.(妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.)1.動物実験で,胚・胎児の死亡の増加が報告されているので,妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと.1.動物実験で,胚・胎児の死亡の増加が報告されているので,妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと.1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立されていない.]1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.〔妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.また,動物実験で高用量の経口投与により胎児の死亡率増加及び発育抑制,死亡児数の増加,新生児生存率の低下が報告されている.〕妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.動物実験(ラット:経口)で催奇形作用が報告されている.](参考)器官形成期のラットに500mg/kg/dayを経口投与した試験で化骨遅延が,マウスに1,000mg/kg/day,ウサギに200mg/kg/dayを経口投与した試験で死亡胎児数の増加が認められている.(参考)器官形成期のラットに500mg/kg/dayを経口投与した試験で化骨遅延が,マウスに1,000mg/kg/day,ウサギに200mg/kg/dayを経口投与した試験で死亡胎児数の増加が認められている.(参考)器官形成期のラットに200mg/kg/日,ウサギに10mg/kg/日を経口投与した試験で死亡胎児数の増加が認められている.また,周産期及び授乳期のラットに100mg/kg/日を経口投与した試験で眼瞼開裂の遅延が,ラットに200mg/kg/日を経口投与した試験で生産児数の減少,生後7日目生存率の低下などが認められている.2.本剤投与中は授乳を中止させること.〔ヒト母乳中へ移行することがある.〕2.本剤投与中は授乳を中止させること.〔ヒト母乳中へ移行することがある.〕2.授乳中の婦人には投与しないことが望ましいが,投与する場合は授乳を避けさせること.[動物実験(ラット)で乳汁中へ移行することが報告されている.]2.授乳中の婦人には投与しないことが望ましいが,投与する場合は授乳を避けさせること.[動物実験(ラット)で乳汁中へ移行することが報告されている.]2.動物実験で,乳汁中へ移行することが報告されているので,授乳婦に投与する場合は,投与中は授乳を避けさせること.2.動物実験で,乳汁中へ移行することが報告されているので,授乳婦に投与する場合は,投与中は授乳を避けさせること.2.授乳中の婦人には投与しないことが望ましいが,投与する場合は授乳を避けさせること.[ヒト母乳中へ移行する可能性がある.]2.本剤投与中は授乳を避けること.〔動物実験で,経口投与で母乳中へ移行することが報告されている.]2.授乳中の婦人には投与しないこと.やむを得ず投与する場合には,授乳を中止させること.[授乳婦に投与した場合の乳児に対する安全性は確立していない.動物実験(ラット:経口)で乳汁中への移行が報告されている.]小児等への投与小児等に対する安全性は確立されていない.小児等に対する安全性は確立されていない.低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験が少ない).(食事摂取不良等体調不良の状態の患児に本剤を投与した症例で低血糖が報告されている.低血糖症状があらわれた場合には,経口摂取可能な状態では角砂糖,あめ等の糖分の摂取,意識障害,痙攣を伴う場合には,ブドウ糖の静注等を行い,十分に経過観察すること.)低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない).(ミケランR点眼液1%・2%を食事摂取不良等体調不良の状態の患児に投与した症例で低血糖が報告されている.低血糖症状があらわれた場合には,経口摂取可能な状態では角砂糖,あめ等の糖分の摂取,意識障害,痙攣を伴う場合には,ブドウ糖の静注等を行い,十分に経過観察すること.)低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない).低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない).小児等に対する安全性は確立していない(使用経験がない).小児等に対する安全性は確立していない(使用経験がない).小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008801(51)表2各種緑内障治療薬の添付文書一覧(その他)薬分類ンン薬薬交感神経薬交感神経薬トント薬剤レスキュラR点眼液0.12%キサラタンR点眼液トラバタンズR点眼液0.004%トルソプトR点眼液0.5%/1%エイゾプトR懸濁性点眼液1%ピバレフリンR0.04%/0.1%アイオピジンRUD点眼液1%サンピロR(0.5%/1%/2%/3%/4%)ウブレチドR点眼液0.5%/1%妊婦,産婦,授乳婦等への投与1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.また,生殖毒性試験において器官形成期のラットの高用量群(5mg/kg/day),周産期・授乳期のラットの高用量群(1.25mg/kg/day)及び器官形成期のウサギの高用量群(0.3mg/kg/day)で流早産の増加傾向がみられた.]1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.なお,動物実験(妊娠ウサギ)における器官形成期投与試験において,臨床用量の約80倍量(5.0μg/kg/日)を静脈内投与したことにより,流産及び後期吸収胚の発現率増加,胎児体重の減少が認められた.]1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.動物実験では,妊娠ラットに10μg/kg/日(臨床用量※)の250倍)を静脈内投与した場合に,催奇形性が認められ,妊娠マウスに1μg/kg/日(臨床用量※)の25倍)を皮下投与,又は妊娠ラットに10μg/kg/日(臨床用量※)の250倍)を静脈内投与した場合に,着床後胚死亡率の増加及び胎児数の減少が認められた.また,妊娠ウサギに0.1μg/kg/日(臨床用量※)の2.5倍)を静脈内投与もしくは0.003%点眼液(体重当りの投与量として臨床用量※)の約10倍に相当)を投与した場合,全胚・胎児死亡が観察された.さらに,妊娠・授乳ラットに0.12μg/kg/日(臨床用量※)の3倍)以上の用量を妊娠7日目から授乳21日目に皮下投与した場合に,発育及び分化に対する影響(早期新生児の死亡率の増加,新生児の体重増加の抑制,又は眼瞼開裂の遅延等)が認められた.また,摘出ラット子宮を用いた実験では,日本人健康成人で認められた本剤の最高血漿中濃度(0.025ng/ml=0.05nmol/l)の約6倍以上の濃度(0.3nmol/l)で,用量依存的な子宮収縮作用が認められた.]※)本剤0.004%を体重50kgの患者に1回1滴(25μl)を両眼に投与したと仮定して算出された投与量(0.04μg/kg/日)との比較.1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.また,生殖毒性試験において器官形成期のラットの高用量群(5mg/kg/day),周産期・授乳期のラットの高用量群(1.25mg/kg/day)及び器官形成期のウサギの高用量群(0.3mg/kg/day)で流早産の増加傾向がみられた.]1.動物実験で胎盤を通過することが報告されているので,妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.]1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.]1.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない.また,ウサギに3.0mg/kgを経口投与して胎児に影響があったことが報告されている.]妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましい.[子宮筋の収縮を起こす可能性がある.]妊婦,産婦等に対する安全性は確立していない.2.授乳中の婦人に投与することを避け,やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること.[動物実験(ラット)で乳汁中へ移行することが報告されている.]2.授乳中の婦人に投与することを避け,やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること.[動物実験(ラット:静脈内投与)で乳汁中へ移行することが報告されている.]2.授乳中の婦人に投与することを避け,やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること.[動物実験(ラット:皮下投与)で乳汁中へ移行することが報告されている.]2.授乳中の婦人に投与することを避け,やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること.[動物実験(ラット)で乳汁中へ移行することが報告されている.]2.動物実験で乳汁中に移行することが報告されているので,授乳中の婦人には授乳を避けさせること.[授乳中の投与に関する安全性は確立していない.]2.授乳中の婦人には投与しないこと.やむを得ず投与する場合には,授乳を中止させること.[授乳婦に投与した場合の乳児に対する安全性は確立していない.]2.授乳婦への投与は避けることが望ましいが,やむを得ず投与する場合には授乳を避けさせること.[ヒト母乳中へ移行するかどうかは不明である.]小児等への投与小児等に対する安全性は確立していない.(使用経験が少ない.)小児等に対する安全性は確立していない(使用経験がない).低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない).小児等に対する安全性は確立していない.低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない).小児に対する安全性は確立していない.低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に対する安全性は確立されていない(使用経験がない).小児投与に関する記載なし.長期連用時に虹彩腫があらわれることがあるので,この場合は休薬するかアドレナリン,フェニレフリンの点眼を行うこと.———————————————————————-Page4802あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(52)特に胎児の重要な器官形成に関わる妊娠初期(妊娠47週)には催奇形性という意味では絶対過渡期となるため,基本的にはすべての薬物は使用しないほうがよい.抗緑内障薬に関しても同様であり,いずれもヒト胎児への影響の有無は確立されていない.抗緑内障薬の妊娠時,周産期における影響については米国FDA(食品医薬品局)がカテゴリー(表3)別に示している(表46)).従来,妊婦に対して抗緑内障薬をやむを得ず使用する場合にはb遮断薬が用いられることが多かったが,これまで妊婦あるいは胎児に対して何らかの悪影響を与えたとする報告は今のところ存在しない.しかしb遮断薬は容易に乳汁中へ移行し,乳児に重篤な無呼吸発作をひき起こしたとの報告もある.したがって授乳婦に対するb遮断薬の投与は控えるべきである.プロスタグランジンは妊娠維持や出産に関して重要な役割を担っており,なかでもF2aは子宮収縮を惹起するだけではなく胎盤血管の収縮作用も有しており,プロスタグランジン製剤が胎盤や子宮に対して何らかの悪影響を及ぼす可能性は否定できない.さらにピロカルピンは子宮筋を収縮させて切迫流産を惹起するおそれがあるため,妊婦に対する投与は避けることが望ましい.また炭酸脱水酵素阻害薬は動物実験で催奇形性が認められり,診断基準に適合しない軽度の症例も含めれば約2割の小児にb遮断薬が投与できないともいわれている4).したがってb遮断薬を投与する場合にはつねに喘息や夜間喘鳴の出現に注意を払う必要がある.炭酸脱水酵素阻害薬点眼はこれまで重篤な副作用は報告されていないが,小児の使用症例が少ないうえに点眼時の刺激症状が強いためアドヒアランスの点で問題が多い.II妊婦・授乳婦の場合妊産婦に対しては「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」(表1,2)とされ,抗緑内障薬は医師の判断で投与することとなる.一般に妊娠により緑内障が発症あるいは増悪することはないとされ,むしろ妊娠中期から後期にかけて眼圧は下降し,出産後も眼圧下降が数カ月持続することが知られている5).妊娠中には末梢血管抵抗が低下し上強膜静脈圧が下がることで眼圧が下降する機序や妊娠中に増加するプロスタグランジンやヒト絨毛ゴナドトロピンなどのホルモンの影響が考えられている.したがって緑内障患者が妊娠した場合には妊娠中期以降は眼圧コントロールが良好となることも少なくなく,抗緑内障薬を休薬していても影響がない場合もある.表3米国FDAによる薬剤胎児危険度分類トの妊娠の胎児への危険はまそのの妊娠危険るとのは胎への危険はるト妊婦のはのるは(まはの)るトの妊娠のはまそのの妊娠危険るとはのは胎に胎その他のるとトののるはトとにはのに分類る薬剤は胎児への危険よ場合にのるとトの胎児にに危険るとる危険妊婦へのによるるの(と危険にるとまは薬剤とるはとその薬剤るる場合)まはトの胎児る場合るはトの経胎児への危険のる場合まはそのの場合の薬剤妊婦にるとは他ののよよに危険ののに分類る薬剤は妊婦まは妊娠るのる婦にはる———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008803(53)用を軽減するために患者教育の一環として点眼後12分間の閉瞼と涙部圧迫を患者に対して指示することが重要である.特に70歳以上の高齢者では循環器系や呼吸器系の予備能が低下しており,点眼薬の影響とわからず全身状態が悪化することもまれではない.したがって全身状態の変化につねに注意を払いつつ,ときどきは血圧や心拍数を測定するとともに自覚症状の有無について問診を行い,年に1度は心電図や呼吸器機能検査を施行したほうがよい.高齢者では身体的・精神的要因から点眼・内服療法が困難となる場合がある.たとえば,手が不自由なために点眼困難である場合や認知症によってコンプライアンスが悪い場合などである.点眼回数の少ない点眼液への変更や点眼補助器具の利用,家族を含めた介助者の教育などが重要となる.まとめ緑内障薬物治療におけるキーポイントは患者のコンプライアンスであり,自覚症状がない緑内障患者の多くは指示どおり薬物を使用しようとする動機が乏しいだけでなく,副作用による合併症出現時には安易に中止してしまう傾向がある.したがって患者が正しく薬物を使用しているかチェックするのみならず,薬物の投与・変更時には使用法・使用量とともに予期される副作用を十分知妊娠早期の投与は避けるべきである.一方,ジピベフリン,ブリモニジンはFDAカテゴリーで唯一カテゴリーBであり,他剤と比較して安全性が若干高いといえる.妊産婦に対する緑内障治療方針としては,原則として妊娠授乳期間中の薬物の中止であり,視神経障害が高度で休薬により悪化が予想される場合にはあらかじめ緑内障手術を行うことも考慮すべきである.胎児もしくは乳児に万一のことがあった場合,親として一生その負い目を感じて生きていかねばならない.最低でも妊娠中の9カ月間,たとえ多少眼圧が上昇して視野が障害されたとしても,次世代に危険が及ぶ可能性のあることは慎むべきであろう.いずれにしても十分なインフォームド・コンセントが重要であることはいうまでもない.III高齢者の場合高齢者緑内障治療の原則は「QOL(qualityoflife)を損なわない範囲で最大限のQOV(qualityofvision)を余命が尽きるまで維持すること」であり,点眼薬選択に当たっては治療効果と副作用のバランスをしっかりと評価する必要がある.点眼薬の全身へ及ぼす影響は意外と軽視されやすいが,緑内障治療薬のなかには全身副作用をきたす薬が多い.局所投与された点眼液の5565%が全身に吸収されるといわれており,少しでも全身副作表4抗緑内障薬の妊娠への影響薬剤胎への影響胎の乳分ンンンンンンンンaあり不明不明Cマンニトール不明不明不明Cグリセリン不明あり不明C5-FU不明不明不明DマイトマイシンC不明不明不明D(文献6より改変)———————————————————————-Page6804あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(54)oflatanoprostforthetreatmentofpediatricglaucoma.JAAPOS3:33-39,19992)ZimmermanTJ,KoonerKS,MorganKS:Safetyandecacyoftimololinpediatricglaucoma.SurvOphthalmol28:262-264,19833)HoskinsHD,HetheringtonJ,MageeSDetal:Clinicalexperiencewithtimololinchildhoodglaucoma.ArchOph-thalmol103:1163-1165,19854)宮田博:小児への緑内障治療薬の処方,特集緑内障治療薬物選択と指導のポイント.臨床と薬物治療19:1112-1114,20005)SunnessJS:Thepregnantwoman’seye.SurvOphthalmol32:219-238,19886)木村泰朗:症例に学ぶマネジメント.若い女性のNTG,治療中に妊娠した点眼は継続?中止?.緑内障3分診療を科学する!(吉川啓司,松元俊編),p110-113,中山書店,2006らせておくことが重要である.一方,ひとたび重篤な合併症が発症すると,以後その薬物の使用が著しく制限されるのみならず,視力に影響を及ぼすような後遺症を残す場合もある.したがって異常出現時には遅滞なく受診するように指示し,早期に異常を発見して適切な処置を行うことが重要である緑内障はどのような患者にとっても一生にわたってかかわってゆかねばならない疾患であり,有効な視機能を一生涯維持するためにも,良好な医師患者関係を構築しておくことが非常に重要である.文献1)EnyediLB,FreedmanSF,BuckleyEG:Theeectiveness外眼部外来手術マニアルの手術を写真・イラストを多用しわかりやすく,読みやすく!【編集】稲富誠(昭和大学教授)・田邊吉彦(昭和大学客員教授)Ⅰ眼瞼の疾患1.霰粒腫(三戸秀哲井出眼科新庄分院)2.麦粒腫(三戸秀哲)3.眼瞼下垂(久保田伸枝帝京大学)4.眼瞼内反(根本裕次帝京大学)5.眼瞼外反─老人性(八子恵子福島医科大学)6.兎眼(八子恵子)7.睫毛乱生(柿崎裕彦愛知医科大学)8.眼瞼皮膚弛緩症(井出醇・山崎太三・辻本淳子井出眼科病院)9.眼瞼良性腫瘍(小島孚允さいたま赤十字病院)Ⅱ結膜・眼球の疾患1.翼状片(江口甲一郎江口眼科病院)2.眼窩脂肪脱出(金子博行帝京大学)Ⅲ涙器の疾患1.涙道ブジー(先天性狭窄)(吉井大国立身体障害者リハビリテーションセンター)2.涙小管炎(吉井大)3.涙点閉鎖(吉井大)B5判総122頁写真・図・表多数収載定価6,300円(本体6,000円+税300円)メディカル葵出版株式会社〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─05440(かっこ内は執筆者)