———————————————————————-Page1アレルギー性結膜疾患における涙液検査の現状1.TotalIgE(総免疫グロブリンE)a.TotalIgEについて血清中のtotalIgE値は,IgEを産生しやすい体質,すなわちアトピー素因を示す指標として用いられている.しかし,血清中IgE値は健常者においてもみられ,また,寄生虫感染,膠原病,肝疾患およびネフローゼ症候群などの疾患でも血清IgE値が高値を示すことから,アレルギー疾患に対する特異性は疑問視されている.また,アトピーの重症度とIgE値は相関しないとの指摘もある.したがって,アレルギーに対する特異性を重視してIgEを検索するのであれば,アレルゲン特異的IgE抗体(後述)を検索することになる.b.涙液中totalIgE(1)アレルギー性結膜疾患の診断筆者らが行った涙液中totalIgE値に関する検討では,アレルギー性結膜疾患で陽性,健常対照では陰性を示し,両者が明確に区別された.これは,眼局所のtotalIgEを測定することにより,血清IgE値の場合とは異なり,アレルギー疾患に対する特異性が向上したものと考えられる.したがって,涙液中totalIgE値を用いたアレルギー性結膜疾患の診断は有用であると考えられる.また,診断率に関しては,アレルギー性結膜炎で11.9%,アトピー性角結膜炎で60.0%であったのに対して,春季カタルでは94.1%と高率で,測定値も有意に高値を示0910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめにアレルギー性結膜疾患は,「I型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で,何らかの自他覚症状を伴うもの」と定義されている1).アレルギー性結膜疾患診療ガイドラインによれば,アレルギー性結膜疾患を確定診断するためには,アレルギー性結膜疾患に特徴的な臨床症状を有することのほかに,眼局所でのアレルギー反応が証明されることが条件であるとされている.眼科医にとって,眼局所でのI型アレルギー反応を臨床的に診断することは,以前からの課題である.現在の日常診療で用いられている診断方法としては,結膜擦過塗抹標本中に好酸球を証明する方法だけである.しかし,結膜擦過塗抹標本中の好酸球検査は,病理組織学的検査の範疇であり,眼科医にとっては,内科における血液生化学検査に相当する眼局所の検査法が望まれるところである.以前から涙液は,角結膜疾患における局所の病態を反映する臨床検体として注目されている.しかし,これまでは涙液採取量が微量であることから,臨床検査として実用化されることはなく,実験室レベルでの検討が続いていた.近年,涙液を用いた臨床検査の実用化に向けての研究結果報告が増加している.本稿では,眼アレルギー検査としての涙液検査の有用性と実用化に向けての展望について述べる.(21)155*JunShoji:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕庄司純:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野特集眼アレルギーの知はいまあたらしい眼科25(2):155162,2008涙液を用いるアレルギー学的検査法AllergologicalExaminationUsingTearFluid庄司純*———————————————————————-Page2156あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(22)どのようなアレルゲンに感作されているかを検査する方法である.すなわち,ダニやスギ花粉のような特定のアレルゲンに対する特異的IgE抗体が存在すれば,その生体はダニまたはスギ花粉に感作されていることを意味しており,ダニやスギ花粉によりアレルギー疾患が惹起されると考えられる.したがって,アレルゲン特異的IgE抗体検査は,アレルギー疾患の診断においてtotalIgEよりも特異性の高い検査法として位置づけられているほか,原因アレルゲンの検索としても有用である.日常診療で用いられているアレルゲン特異的IgEの検査法は,皮膚反応と血清中アレルゲン特異的IgE抗体価測定とがある.皮膚反応としては,スクラッチテストおよびプリックテストがあり,直接アレルゲンを皮膚に作用させて皮膚の発赤,腫脹などにより判定する方法である.しかし,この方法の欠点として,アレルゲンを作用させることによりアナフィラキシーやアレルギー疾患を誘発する危険があることが指摘されている.したがって,現在はinvivo検査として血清中アレルゲン特異的IgE抗体価を測定する方法が頻用されており,UniCAP法,イムライズ法,MAST-26などの自動測定装置が日常診療に用いられている.しかし,血清中のアレルゲン特異的IgE抗体は,単独陽性例から複数陽性例までさまざまであり,検出されたアレルゲン特異的IgE抗体すべてがアレルギー疾患(気管支喘息・アレルギー性鼻炎など)の原因であるかは不明である.したがって,アレルギー性鼻炎では,鼻汁中などに検出される局所のアレルゲン特異的IgE抗体を検索し,より正確に病態を把握しようとする試みが考えられている.アレルギー性結膜炎の場合,血液検査の結果と結膜の病態との関連が疑問視されていることから,涙液中アレルゲン特異的IgE抗体の検討は,アレルギー性結膜疾患の診断および重症度判定に有用であると考えられる.眼局所におけるアレルゲン特異的IgE抗体の産生に関しては,これまでにさまざまな説が報告されている.春季カタルにおける病理学的検討では,結膜の炎症病巣の中にIgE陽性形質細胞が存在するという報告3,4)とIgE産生形質細胞は存在しないとする報告とがある5).Tuftら3)は,輪部型の春季カタル10例を免疫組織化学的に検索し,10例中4例にIgE陽性形質細胞を認めたした(図1).この結果は,涙液中totalIgE値はある程度の重症度の指標になると考えられるが個々の症例でみてみると,軽症例では陰性化してしまうことや病状の悪化と涙液中totalIgE値の増減が一致しない場合がある点について,さらに検討する必要がある.(2)日常診療での実用化へ向けての検討涙液中totalIgE測定キットによるアレルギー性結膜疾患の診断に関する検討が報告されている2).このキットは,イムノクロマト法を用いた方法であるが,健常者での検査結果がすべて陰性であることから,特異度が100%であったと報告されている.また,本キットと臨床診断との陽性一致率は73.6%であるため,感度は73.6%であると考えられている.筆者らの検討においても同様であるが,アレルギー性結膜炎症例では,涙液中totalIgE値が低値の症例が多いため,アレルギー性結膜疾患全体で検査法の感度を算出した場合,アレルギー性結膜炎次第で感度が変化すると考えられる.今後は,アレルギー性結膜炎に対する感度を上げることが,涙液中totalIgE値を用いた診断キットの課題であると考えられる.2.アレルゲン特異的IgE抗体a.アレルゲン特異的IgE抗体についてアレルゲン特異的IgE抗体に関する検査は,生体が図1アレルギー性結膜疾患における涙液中totalIgE値と診断率春季カタルでは,測定値と診断率ともに高値を示すが,アレルギー性結膜炎では両者とも低値である.AC:allergicconjunctivitis,AKC:atopickeratoconjuncti-vitis,VKC:vernalkeratoconjunctivitis,ND:notdetected.0.11101001,00010,000100,000ACAKCVKC健常対照涙液総IgE値(IU/m?)ND094.160.011.9診断率0/1032/349/155/42陽性者/検体数———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008157(23)がコントロールとの間に統計学的有意差はなかったと述べている.また,AbuEl-Asrarら5)は,7例の春季カタル症例の結膜組織を免疫組織化学的に検討し,巨大乳頭内には,B細胞からなる濾胞が形成され,濾胞内には,IgE陽性のfolliculardendriticcellがみられる症例があるが,全例の結膜組織でIgE陽性形質細胞がみられなかったことから,IgEの局所産生は行われていないと結論している.また,涙液中の抗原特異的IgE抗体の検査により,IgEの局所産生を示唆する報告もある6).Ballowら7)は,涙液中特異的IgE値と血清中特異的IgE値とを比較するとともに,血清中に存在し,涙液中には通常存在しないトランスフェリンを用いて涙液中の特異的IgE値の局所産生を検討した結果,春季カタルでは特異的IgEの局所産生を示唆する所見が得られたが,アレルギー性結膜炎では血管からの漏出を示唆する所見が得られたと報告している.すなわち,これらの病理学的検査および涙液検査所見は,春季カタルの一部の症例で特異的IgEの結膜局所産生がみられることを示唆する所見であるが,健常組織や軽症のアレルギー性結膜炎ではほとんどみられないと考えられる.したがって,IgE抗体価の局所産生という観点から涙液中アレルゲン特異的IgE抗体価測定は,特異性が高い反面,感度が不十分な検査法になる可能性が考えられる.b.涙液中アレルゲン特異的IgE抗体検査筆者らは以前に,アレルギー性結膜疾患と関連が深いダニに対する涙液中ダニ特異的IgE抗体価の検討を行った.その結果,アレルギー性結膜炎およびアトピー性角結膜炎よりも春季カタルにおいて涙液中ダニ特異的IgE抗体価が高値を示した8)(図2).また,春季カタルにおいて,角膜病変を有さない軽症例と角膜病変を有する重症例とを比較したところ,重症例で有意に涙液中ダニ特異的IgE抗体価が高値を示した(図3).さらに,血清中ダニ特異的IgE抗体が陽性である春季カタル,アトピー性角結膜炎および季節性アレルギー性結膜炎(スギ花粉飛散時期)において,涙液中ダニ特異的IgE抗体価と血清中ダニ特異的IgE抗体価とを比較した.その結果,ダニが原因アレルゲンの一つであると考えられている春季カタルおよびアトピー性角結膜炎では,涙液中の抗体価と血清中の抗体価とがよく相関する結果となった(図4).これに対して,スギ花粉による季節性アレルギー性結膜炎では,血清中のダニ特異的IgE抗体価が高値を示しても,涙液中ダニ特異的IgE抗体価が低値の症例が多く存在することが判明した(図4).これらの結果は,涙液中のアレルゲン特異的IgE抗体検査が,アレルギー性結膜疾患の原因アレルゲン検査法として有用であることを示すとともに,涙液中の抗体価の推移により病状の重症度や経過を観察するためのツールとしても有用である可能性を示している.しかし,問題図2涙液中ダニ特異的IgE抗体価春季カタル,アトピー性角結膜炎および通年性アレルギー性結膜炎では,涙液中ダニ特異的IgE抗体価が高値を示すが,季節性アレルギー性結膜炎ではコントロールと差がない.SAC:seasonalallergicconjunctivitis,PAC:perennialallergicconjunctivitis,AKC:atopickeratoconjunctivitis,VKC:vernalkeratoconjunctivitis.0.11101001,00010,000ダニ特異的IgE(kU/?)VKCAKCPACSACControl陽性数/対象数27/31Cut-o?値(0.35kU/?)16/282/5610/2211/30図3春季カタルの重症度と涙液中ダニ特異的IgE抗体価春季カタルでは,巨大乳頭(GPC)に角膜病変を合併する重症例で,有意な涙液中ダニ特異的IgE抗体価の上昇がみられた(*:p<0.05,Kruskal-Wallis検定).GPC:giantpapillaryconjunctivitis.GPC+角膜病変なしGPC+角膜病変あり*6005004003002001000沈静期ダニ特異的IgE値(kU/?)———————————————————————-Page4158あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(24)は,涙液中ダニ特異的IgEが陰性の症例に対する臨床的な解釈である.すなわち,陰性を示す症例のなかに真の陰性(アレルギー性結膜炎ではない症例)と偽陰性(軽症のために涙液中にダニ特異的IgE抗体の局所産生が生じない症例)とが混在すると考えられる.これらの陰性例が本検査法を実用化した際の最大の問題点になると考えられる.3.Eosinophilcationicprotein(ECP)値a.ECPについて好酸球は,即時型アレルギー反応の遅発相でみられる主要な炎症細胞で,細胞質内には好酸性の特異顆粒を有する.特異顆粒のなかには,塩基性蛋白とよばれる細胞障害性蛋白が含まれていることから,好酸球はアレルギー炎症における組織障害に関与すると考えられている.特異顆粒中には,MBP(majorbasicprotein),ECP(eosinophilcationicprotein),EPO(eosinophilperoxi-dase),EDN(eosinophil-derivedneurotoxin)の4種類の塩基性蛋白の存在が知られており,脱顆粒により好酸球から放出される.ECPは,好酸球の活性化およびturnoverの指標とされるほか,アレルギー疾患では,血清中ECP値,鼻汁中ECP値などが気管支喘息,アレルギー性鼻炎などの他覚的な活動性マーカーとして注目されている9).b.涙液中ECP値涙液中ECP値については,アレルギー性結膜疾患症例に対する抗原点眼誘発試験により,誘発後6時間以降で有意に増加することが示されたことにより10),アレルギー性結膜疾患でも即時型アレルギー反応の遅発相で上昇することが確認された.したがって,涙液ECP値はアレルギー性結膜疾患におけるアレルギー炎症の指標として有望と考えられている.(1)アレルギー性結膜疾患の診断筆者らは,涙液ECP値を用いたアレルギー性結膜疾患の診断について検討した.涙液中ECPは,アレルギー性結膜炎,健常対照および非アレルギー性結膜炎のいずれの症例においても検出された11).したがって,まず健常値を健常対照群の5パーセンタイル値から95パーセンタイル値までと設定した.つぎに,健常対照群の95パーセンタイル値未満を陰性,95パーセンタイル値以上を陽性として診断率を検討した.その結果を示したのが表1である.アレルギー性結膜疾患に対する診断率は,最も低値であった季節性アレルギー性結膜炎を除いて,通年性アレルギー性結膜炎(78.6%),アトピー性角結膜炎(53.8%),春季カタル(100%)ではほぼ良好な診断率を示したと考えられる.したがって,涙液中ECP値による診断は,春季カタル,アトピー性角結膜炎,通年性アレルギー性結膜炎では有用であるが,季節性アレルギー性結膜炎の診断には不十分であると結論することができる.(2)重症度・治療効果の判定涙液中ECP値をアレルギー性結膜疾患の病型別にみると,季節性アレルギー性結膜炎(スギ花粉性結膜炎)で低値を示し,健常対照と差がなかった.そこで,スギ花粉結膜炎を対象として,花粉飛散前と花粉飛散中との涙液中ECP値を比較検討したところ,花粉飛散中では図4涙液中と血清中とのダニ特異的IgE抗体価の比較AlaSTAT法により測定した涙液中および血清中ダニ特異的IgE抗体のAlaSTATscoreの関係を示す.春季カタルおよびアトピー性角結膜炎は,両者がよく相関するのに対して,季節性アレルギー性結膜炎では,涙液中AlaSTATscoreが血清中のものと比較して低値である.SAC:seasonalallergicconjunctivitis,AKC:atopickeratoconjunctivitis,VKC:vernalkeratoconjunctivitis.4111611511433321106543210涙液AlaSTATscore血清AlaSTATscore(n=18)65114131221106543210涙液AlaSTATscore血清AlaSTATscore(n=7)VKC・AKCSAC———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008159(25)涙液ECP値が増加するものの,その程度は軽度であることが判明した12)(図5).一方,春季カタルでは涙液中ECP値が高値を示した(表1).Montanらの報告によれば,春季カタルでは臨床所見の重症度と涙液中ECP値がよく相関するとされている13).したがって,涙液ECP値は,眼局所の病型,炎症の重症度,治療効果を反映して鋭敏に変化する指標であると考えられるため,眼局所のアレルギー炎症を評価する指標として有用であると考えられた.(3)日常臨床での応用涙液ECP値およびtotalIgE値を用いて経過観察した症例について示す.図6に示した症例は,春季カタルの急性増悪がみられたために,トリアムシノロン(ケナコルトR)結膜下注射,シクロスポリン点眼,クロモグリク酸ナトリウム(インタールR)点眼により治療した症表1涙液ECP値症例眼値診断率値±標準偏差(ng/ml)7.4±7.230.0±60.4147.0±249.8172.8±667.14,687.6±6,981.9Cut-o値:健常対照の95パーセンタイル値=19.4ng/ml.SAC:seasonalallergicconjunctivitis,PAC:perennialallergicconjunctivitis,AKC:atopickeratoconjunctivitis,VKC:vernalkeratoconjunctivitis.涙液ECP値(μg/l)健常対照花粉飛散前花粉飛散期NS*0100200300400500600700図5季節性アレルギー性結膜炎の涙液中ECP値花粉飛散前と比較して花粉飛散期では涙液中ECP値が有意に増加している.しかし,涙液ECP値は200μg/l以下の症例が多く,全体的に低値である.*:p<0.005,Mann-WhitneyU-test,NS:有意差なし.ECP:eosinophilcationicprotein.図6涙液検査で経過観察した春季カタルの代表例春季カタルの臨床所見は,治療前と比較して治療後では巨大乳頭が扁平化し,結膜の充血,腫脹も減少している.涙液検査では,治療によりtotalIgEとECPが著明に低下している.ECP:eosinophilcationicprotein.治療前治療後治療前治療後涙液TotalIgE(kU/?)1200涙液ECP(?g/m?)10,872.87.2———————————————————————-Page6160あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(26)例で,急性増悪時期と寛解期との涙液検査を比較している.涙液totalIgE値と涙液ECP値は,治療とともに低下傾向を示すが,両者が相関しているわけでなく,ECP値のみ低下する場合とtotalIgE値とECP値の両者が低下する場合とがある.両者が低下することが寛解期であり,その際のECP値はおおむね200μg/ml以下となることが多い.今後は,病状を判定するための数値や薬剤選択の指標になる数値を決めることができれば,より本検査の有用性が増すと考えられる.4.涙液中サイトカイン・ケモカイン値a.サイトカイン・ケモカインについてサイトカイン・ケモカインは,マスト細胞,リンパ球などの免疫担当細胞および上皮細胞などから分泌される.したがって,涙液中のサイトカイン・ケモカインは,眼局所のアレルギー炎症を反映するよい指標となる可能性が考えられている.しかし,アレルギー炎症に関与するサイトカイン・ケモカインは多数あり,どの因子が有用な指標となるかは不明である.アレルギー反応とヘルパーT細胞1型/2型(Th1/Th2)バランスの関係では,アレルギー反応がTh2優位の免疫反応であるため,interleukin(IL)-4,IL-13などのTh2サイトカインを中心に検討が進められてきた.しかし,Th1/Th2バランスは,T細胞の培養系を基礎として確立された概念であり,invivoではTh1およびTh2サイトカインを産生する細胞がリンパ球ばかりでないため,Th2サイトカインが上昇すればTh1サイトカインが低下するというTh1/Th2バランスの関係をとりにくいという状況がある.したがって,Th1/Th2サイトカインは,臨床検査として結果の解釈がむずかしいという欠点が生じている.また,サイトカインはネットワークを形成し,互いに影響しながら増加および減少するため,単一の因子だけで評価するのは困難である.また,アレルギー疾患とケモカインとの関連を検討した研究も多数報告されているが,アレルギー性結膜疾患において臨床的な有用性が示されているのは好酸球浸潤に関与するeotaxinである14).そこで,臨床的な重症度と涙液中の値がよく相関する因子を選定する必要が出てくる.近年,1検体から同時に数種類から数十種類の蛋白質を検出するproteinarray法という方法が近年開発された.この方法を涙液に応用することにより,涙液中の数十種類のサイトカイン・ケモカインを同時に評価できる可能性が考えられた.b.涙液中サイトカインプロファイルの検討筆者らは,春季カタルについてproteinarray法を用いて評価したところ,可溶性IL-6受容体(sIL-6R)およびeotaxin-2が健常対照と比較して有意に増加していた(表2).また,春季カタル症例で,ステロイド結膜下注射による治療前と治療後とを比較したところ,inter-feron-g(IFN-g),IL-4,eotaxin-2,sIL-6Rなどが激減していることが判定でき,春季カタルにおける治療効果判定にも有用であると考えられた15)(図7).また,Leonardiら16)は,protein-array法を用いて涙液中サイトカインプロファイルを解析し,春季カタル症例ではIFN-g,IL-4,IL-10,TNF(腫瘍壊死因子)-a,eotax-inが増加していることが特徴であると報告している.このようなproteinarray法を足がかりとして,涙液検査の新しい方向が示されてきている.単一の物質だけでは評価できないサイトカイン・ケモカインなどでは,1枚のシートで多種類の因子が同時に評価できるアレイ方式の検査法であれば,病態解析や治療効果判定に有用であり,今後このような涙液検査が有望であると考えられる.表2春季カタルにおける涙液中サイトカインプロフィール春季カタル率値d15.6NSTIMP-29.0NSIL:interleukin,MIP-1d:macrophageinammationfactor-1d,sIL-6sR:solubleinterleukin-6receptor,TIMP-2:tissueinhibitorofmatrixmetalloprotease-2,NS:notsignicant.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008161(27)おわりにアレルギー疾患は,即時型アレルギー反応が原因で発症するという共通点がみられるものの,臓器特異的な反応が多く関連し,複雑な病態を形成している.さらに,アレルギー性結膜疾患のなかでも,アレルギー性結膜炎や春季カタルのように病型の相違によっても異なる病態を示すと考えられる.したがって,アレルギー性結膜疾患は,眼局所で診断し,治療薬を選択し,治療効果を判定することがより良い診療につながると考えられる.涙液検査は,将来の検査法としての有用性が固まりつつあるため,今後は実用化に向けた検討が大きな課題であると考えられる.稿を終えるに当たり,涙液検査についてご指導をいただいており,本稿のご校閲を賜りました,日本大学医学部視覚科学系眼科学分野澤充主任教授に深謝いたします.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:特集:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン.日眼会誌110:99-140,20062)中川やよい,石崎道治,岡本茂樹ほか:アレルギー性結膜疾患に対する涙液中総IgEのイムノクロマトグラフィ測定法の臨床的検討.臨眼60:951-954,20063)TuftSJ,CreeIA,WoodsMetal:Limbalvernalkerato-conjunctivitisinthetropics.Ophthalmology105:1489-1493,19984)MorganG:Thepathologyofvernalconjunctivitis.TransOphthalmolSocUK91:467,19715)AbuEl-AsrarAM,VandenOordJJ,GeboesKetal:Immunopathologicalstudyofvernalkeratoconjunctivitis.GraefesArchClinExpOphthalmol227:374-379,19896)KariO,SaloOP,BjorkstenFetal:Allergicconjunctivitis,totalandspecicIgEinthetearuid.ActaOphthalmolTherapeticineIg<0.001IL-4<0.001IP-100.2Eotaxin0.1Eotaxin-20.001IL-1a0.01IL-60.06TNF-a0.5sIL-6R<0.001ICAM-10.004IFN-g:Interferon-g.IP-10:Interferon-ginducibleprotein-10.TNF-a:Tumornecrosisfactor-a.sIL-6R:Solubleinterleukin-6receptor.ICAM-1:Intercellularadhesionmolecule-1.HumanInammationArrayAH1234567812345678治療後治療前LKJIGFEDCBAHLKJIGFEDCB図7春季カタルの涙液proteinarray法春季カタル症例に対して施行したトリアムシノロン結膜下注射の施行前と施行後とで涙液中サイトカインプロファイルを比較した.Protein-array法で得られた化学発光強度をデンシトメトリー法で解析しtherapeuticindex(=治療後の化学発光強度/治療前の化学発光強度)で判定した.———————————————————————-Page8162あたらしい眼科Vol.25,No.2,200812)室本圭子,庄司純,稲田紀子ほか:季節性アレルギー結膜炎における涙液中eosinophilcationicproteinの測定.日眼会誌110:13-18,200613)MontanPG,vanHage-HamstenM:Eosinophilcationicproteinintearsinallergicconjunctivitis.BrJOphthalmol80:556-560,199614)FukagawaK,NakajimaT,TsubotaKetal:Presenceofeotaxinintearsofpatientswithatopickeratoconjunctivi-tiswithseverecornealdamage.JAllergyClinImmunol103:1220-1221,199915)ShojiJ,InadaN,SawaM:Antibodyarray-generatedcytokineprolesoftearsofpatientswithvernalkerato-conjunctivitisorgiantpapillaryconjunctivitis.JpnJOph-thalmol50:195-204,200616)LeonardiA,CurnowSJ,ZhanHetal:Multiplecytokinesinhumantearspecimensinseasonalandchronicallergiceyediseaseandinconjunctivalbroblastcultures.ClinExpAllergy36:777-784,200663:97-99,19857)BallowM,MendelsonL:SpecicimmunoglobulinEanti-bodiesintearsecretionsofpatientswithvernalconjuncti-vitis.JAllergyClinImmunol66:112-118,19808)北澤実,庄司純,稲田紀子ほか:アレルギー性結膜疾患患者における涙液中特異的IgE抗体の測定.日眼会誌107:578-582,20039)VengeP,BystromJ,CarlsonMetal:Eosinophilcationicprotein(ECP):molecularandbiologicalpropertiesandtheuseofECPasamarkerofeosinophilactivationindis-ease.ClinExpAllergy29:1172-1186,199910)LeonardiA,BorghesanF,FaggianDetal:Tearandserumsolubleleukocyteactivationmarkersinconjuncti-valallergicdisease.AmJOphthalmol129:151-158,200011)ShojiJ,KitazawaM,InadaNetal:Ecacyofteareosi-nophilcationicproteinlevelmeasurementusinglterpaperfordiagnosingallergicconjunctivaldisorders.JpnJOphthalmol47:64-68,2003(28)眼部来マニアルの手術を写真・イラストを多用しわかりやすく,読みやすく!【編集】稲富誠(昭和大学教授)・田邊吉彦(昭和大学客員教授)Ⅰ眼瞼の疾患1.霰粒腫(三戸秀哲井出眼科新庄分院)2.麦粒腫(三戸秀哲)3.眼瞼下垂(久保田伸枝帝京大学)4.眼瞼内反(根本裕次帝京大学)5.眼瞼外反─老人性(八子恵子福島医科大学)6.兎眼(八子恵子)7.睫毛乱生(柿崎裕彦愛知医科大学)8.眼瞼皮膚弛緩症(井出醇・山崎太三・辻本淳子井出眼科病院)9.眼瞼良性腫瘍(小島孚允さいたま赤十字病院)Ⅱ結膜・眼球の疾患1.翼状片(江口甲一郎江口眼科病院)2.眼窩脂肪脱出(金子博行帝京大学)Ⅲ涙器の疾患1.涙道ブジー(先天性狭窄)(吉井大国立身体障害者リハビリテーションセンター)2.涙小管炎(吉井大)3.涙点閉鎖(吉井大)B5判総122頁写真・図・表多数収載定価6,300円(本体6,000円+税300円)メディカル葵出版株式会社〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─05440(かっこ内は執筆者)