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眼アレルギーの知識はいま

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS胞はアレルギー反応全体を制御しているので,高度な増殖性病変にはアレルギー反応全体を制御するT細胞を標的とした治療法が選択されるのは合理的である.シクロスポリンはVKCを唯一の適応疾患として,世界ではじめて点眼薬として広く使用されるようになった.免疫抑制点眼薬にはその薬理作用が完全に解明されていない部分があるが,臨床例の蓄積からVKCおよびAKCの重症例への効果が明らかになってきている.その実情について,海老原伸行先生が解説される.抗アレルギー点眼薬はアレルギー性結膜疾患の治療薬のベースに位置するものであり,I型アレルギー反応が眼アレルギー共通の発症機序であるため,マスト細胞の反応を制御する化学伝達物質遊離抑制点眼薬とマスト細胞から放出される化学伝達物質のヒスタミンの結膜局所における反応をブロックするヒスタミン拮抗点眼薬が車の両輪と考えられる薬剤である.旧ガイドライン以降,抗アレルギー点眼薬の種類は増加して,現在9種類になっている.化学伝達物質遊離抑制とヒスタミン拮抗を併せもつ点眼薬が選択肢に加わることによって,疾患ごとの病態や時期に合わせた使い分けが容易に行えることが期待される.このようなdualaction点眼薬について,その存在意義と使用法を高村悦子先生にわかりやすい解説をお書きいただいた.重症例では,巨大乳頭切除や輪部病変切除など眼科領域のアレルギー疾患はオキュラーサーフェスを舞台に病変を生じるいわゆるアレルギー性結膜疾患であり,アレルゲンによって生じる病態であることから,近年の地球環境の急激な変化が疫学を含めた臨床像に何らかの負の影響を与えていることも懸念されている.眼アレルギーを取り巻く状況にはいくつかの大きな変化があるが,まず診療ガイドラインの改訂があげられる.1995年に日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班によって,わが国ではじめて「アレルギー性結膜疾患の診断と治療のガイドライン」が作成された.アレルギー性結膜疾患という全体の概念など,眼アレルギーの臨床の進歩に大きな意味のあるガイドラインであったが,ほぼ10年が経過して,見直しが行われた.2006年2月に新しく作成された「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン」(日眼会誌110:99-140,2006)では,多くの議論があった春季カタル(VKC)とアトピー性角結膜炎(AKC)の定義が改訂され,国際的に広く使用されている分類に近いものになった.ガイドラインの治療では,新しく臨床応用された免疫抑制点眼薬について,ステロイド薬との異同,VKC治療における位置づけが触れられている.VKCの特徴である結膜増殖性病変や角膜組織障害は種々の炎症細胞と角結膜構成細胞の相互作用によって形成される.T細(1)135*EiichiUchio:福岡大学医学部眼科学教室序説あたらしい眼科25(2):135136,2008眼アレルギーの知識はいまCurrentRequiredandUsefulKnowledgeonOcularAllergy内尾英一*———————————————————————-Page2136あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(2)抗原提示細胞との免疫反応を獲得免疫とよぶのに対して,生体が生まれながらにもっている免疫系を自然免疫とよび,高等動物を含むあらゆる動物がもつ非特異的免疫系である.1990年代後半からのToll様受容体,Nod蛋白質,RIG-I(病原微生物に対するセンサー)などの研究から,自然免疫についての詳細が明らかになりつつある.粘膜免疫組織でもある結膜におけるアレルギー・免疫反応についての基礎研究も最近大きな進展をみせている.この領域の研究者である宮崎大・上田真由美両先生が結膜アレルギーのメカニズムについての研究成果や今後の治療との関わりも含めて解説される.さらに,眼アレルギーを全身の各領域におけるアレルギーの一つと捉え,アレルギー学会の認定するアレルギー専門医制度について,内尾が解説させていただいた.アレルギー専門医は眼科医にとって,診療の幅や知識を深めるだけでなく,眼科専門医以外に手に入れられる可能性が意外に大きく,アレルギー科標榜というメリットもあることをご理解いただければと思っている.21世紀に入り,治療薬,診断の両面で大きな変化と進歩をみせている眼アレルギーの現状について,それぞれ専門の先生方にわかりやすく詳しい解説をお書きいただいた.本特集によって,読者の眼アレルギーについての知識の再確認(rearmation)だけでなく再活性化(refreshment)にお役に立てれば幸いである.の外科的治療は,治療効果の迅速性から臨床的な重要性は依然として大きい.アレルギー素因という背景が解決されていない以上,術後再発抑制を含めた効果的な治療戦略が求められる.外科的治療の経験が豊富な藤島浩先生が実際のテクニックについて,プラクティカルなコツを伝授してくださる.新しいガイドラインでは,アレルギー性結膜疾患の診断について,確定診断,準確定診断および臨床診断とにクラス分けを行い,臨床症状,Ⅰ型アレルギー素因の証明,眼局所(結膜)でのⅠ型アレルギー反応の証明のすべてに当てはまる症例を確定診断群とすることになった.眼局所のI型アレルギー証明法として,現在最も注目を浴びているのが,涙液における免疫グロブリンE(IgE)検査法である.原理的には免疫クロマトグラフィー法を用い,総IgE値ないし抗原特異的IgE値をターゲットとするものがある.アデノウイルス結膜炎診断キットで眼科医にとってなじみのある方法となった免疫クロマトグラフィー法キットが導入されれば,感染性結膜炎との鑑別診断などで診断精度の向上が期待される.涙液を用いたアレルギー学的検査法は,庄司純先生が検討データを含めて述べられる.ヘルパーT細胞におけるTh1/Th2理論はアレルギー学に大きな影響を与えたエポックメーキングとなった.現在はこれにさらにTh3を加えた大きなバランスで腫瘍性疾患を含めた疾患の病態をヘルパーT細胞から捉える見方が有力である.ヘルパーT細胞が

研修医“初心”表明

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008710910-1810/08/\100/頁/JCLS自分は大学時代に,単に生きる死ぬよりもいかに生きるかに関わった医者になりたいと思いました.それは自分が病気になった経験を踏まえてのことなのですが,「健康」がいかに素晴らしいか,健康とまでは言えなくとも「普通に」生きるということがいかに素晴らしいかと感じたためです.そして,生きるということを考えたとき,自分の体のなかで一番失いたくないものは眼でした.外部からの情報の大部分を得ている眼を守りたい,『目を失う=失明』を生涯かけて一人でも多く救っていきたいと.その思いから,自分が生きるべき方向もみえてきました.自分はこの眼という臓器に不思議な魅力を感じました.なぜか慣用句でも体の部位のなかで目を使ったものが一番多いように思います.この直径24mmの球体の中に何かすごいものが詰まっているのではないだろうか.当然解剖学的には硝子体が詰まっているのですが,そこに一生を懸けていけるものが詰まっているように感じられ,眼科医の道を進む決意をしたのです.将来は角膜や網膜などといった具体的な分野はまだ決まってませんが,手術でその人の人生を変えられるような眼“外”科医になりたい,そしてそれに付随した研究も行っていきたいと思っています.また,自分の恩師が眼疾患,例えば白内障になったときに多くの眼科医のなかで,主治医として自分を選んでいただけるような眼科医になっていたいと考えています.今は積極的に研修医のうちから学会などに参加していきたいと思っています.昨年,眼科の学会で初めて「臨眼」に参加して,スケールの大きさに圧倒されました.その際に行われていた第3回YOBC(YoungOphthal-mologists’BorderlessConference)にも参加して,全国から集まった若手の先生方の活発な討論を聴いて大変刺激になりました.入局もまだの全くの若輩者なのですが,これから先生方どうぞよろしくお願いいたします.◎今回から始まったシリーズ「研修医“初心”表明」はいかがだったでしょうか.縁があって貴重な1ページを頂けることになり,初回は私自身の「“初心”表明」としましたが,以後このページで次世代の熱い想いをもった眼科医を紹介していくことができければ幸いです.(加藤)☆本シリーズ「研修医“初心”表明」では,眼科に熱い想いをもった研修医前期専攻医の先生の投稿を募集します!熱い想いを800字程度で読者の先生にアピールしてください!宛先は,《あたらしい眼科》「研修医“初心”表明」投稿として,下記のメールアドレス宛にお送りください.Email:hashi@medical-aoi.co.jp(71)研修医“初心”表明●シリーズ①世界中から失明する人を一人でも減らしたい!加藤浩晃(HiroakiKato)京都府立医科大学附属病院1981年福井県生まれ,浜松医科大学卒業.現在,京都府立医科大学附属病院研修医.大学時代はスーパーアルバイター!マクドナルド店員からカリスマ予備校講師まで.縁があって本を出していたら,あれよあれよと計7冊.人と話をするのが大好きで,まだ半年ながら医者は天職だと思っている.将来は眼“外”科医を目指す!(加藤)編集責任加藤浩晃・木下茂自3回YOBC討論会の集合写真

後期臨床研修医日記8.山形大学医学部眼科学教室

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008690910-1810/08/\100/頁/JCLSおそらく多忙な毎日を過ごしているのは,どの教室の研修医も同じでしょう.ここでは割愛させていただきます.4人の同期,一人主治医制そしてそれぞれの専門を目指してわれわれの学年は4人入局しました.皆,山形大学出身の同期生です.卒業後,私は初期研修を近くの市中病院で行い,内科系プログラムに参加しました.他の3人は,当大学の初期研修プログラムに入り,最後の選択科目で眼科を専攻していました.選択科目として眼科を選ぶと,2カ月間は大学での研修,6カ月間は近くの関連(69)臨床研修医制度が始まって2年のブランクがあった後,山形大学では4人の後期研修医が入局しました.今年新たに2人が加わり,現在6人の後期研修医が所属しています.山下英俊教授をはじめ医局の先輩の先生からの指導を受け,日々たくましく成長しているつもりです.当教室の後期研修医プログラムの特徴は,なんといっても朝の勉強会,それぞれがそれぞれの研修を行っているということでしょうか.当教室の研修を紹介しながら,私の眼科に入局してからの2年を振り返ってみたいと思います.勉強会研修医の朝は,午前7時30分,勉強会から始まります.曜日ごとにテーマが決まっています.月曜日は,“Adler’sphysiologyoftheeye”の輪読会.隔週で行っているため進みはゆっくりですが,この2年間休まず行い,TheCorneaandtheSclera,TheRetinalPigmentEpithelium,TheVitreousを読破しました.現在Aque-ousHumorHydrodynamicsを勉強中です(写真).火曜日は,JournalClub.論文の抄読会です.一人では英語論文を読むのを億劫がってしまうのですが,持ち回りで読むため容易に知識をuptodateできます.山下教授の解説付きなので,データの読み方,良い論文悪い論文の見分け方など,論文選びのポイントも勉強になります.水曜日は,医局会が同時刻にあるためお休みです…早く来るのに変わりはありません.木曜および金曜日は,レジデントクリニカルクラークシップ.山下教授と研修医との勉強会です.昨年(2006年)までは,日常の診療業務のなかで疑問に思った点を教授に質問したり,眼底写真をpickupしてその所見を読み,病態を考えたりしていました.医局で行っている症例検討会は流れるように進んでしまい,チンプンカンプンでしたが,この勉強会で読影力を身につけることができました.今年か後期臨床研修医日●シリーズ③教▲Adler?s勉強会で(中央が筆者)———————————————————————-Page270あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(70)われわれ4人は“眼科”を学びたくて入局したのですが,面白いことに皆興味のある分野が異なっていました.山下教授はそれを後押ししてくださり,それぞれの分野における日本のスペシャリストの下で勉強するチャンスを提供してくださっています.私は,斜視・弱視を学ぶべく浜松医科大学の佐藤美保先生のもとへ2回ほど見学に行かせていただきました.同じく,同期の田邊智子先生は眼感染症を学びに愛媛大学へ,田邊祐資先生は緑内障および神経眼科を学びに大阪赤十字病院の柏井聡先生の下に見学に行っています.中野早紀子先生は網膜硝子体を当教室の山下教授や山本禎子准教授のもとで学んでいます.そして,そこで得た知識を還元できるように大学ではそれぞれの専門外来のお手伝いもしています.さらに,AAOやARVOなど海外の学会に積極的に参加させてもらっています.“若いうちに世界をみる”ことで,目標を高くもつことがコンセプトのようです.おわりに先日,初雪が降りました.山形の厳しい冬の到来です.しかし,われわれは雪にも負けず,寒さにも負けず眼科のスペシャリストを目指して日々頑張ります!!病院での研修を行い,計8カ月間学ぶこととなります.私は初期研修プログラムが4月まで続いたため,皆より1カ月遅れで入局しました.入局して驚いたのが,他の3人とのギャップです.手技も知識もすべて大きく出遅れていました.先輩の先生は数カ月もすれば変わらなくなるよと言ってくださるのですが,不安と焦りがいつもありました.その5カ月後,ようやく仕事に慣れ眼底が見えるようになってきたとき,突然“一人主治医制”の宣告を受けたのです.非常にショックでした.オーベンの先生の足手まといからようやく“使える”研修医になったころであり,これからさらに多くのことを教えていただきたいと思っていたころだったのですが….けれども山下教授は,いつでも研修医が相談できるように毎日コンサルトの時間をつくってくださいました.病棟では先輩の先生方が手助けしてくださり,なんとか治療時期を逸せずに診ることができています.それ以上に,患者さんに対する責任感がでてきました.一つの疾患をじっくり診ることにより,より深く学ぶことができています.オーベンとネーベンの一対一の関係のときは,直属の先生の考え方がすべてのように感じていたのですが,いろんな先生の意見を知ることができて考え方に広がりがでました.気づけば他の3人とのギャップも感じなくなりました.確かに,最初の数カ月の遅れはそれほど大きなものではなかったようです.もちろん,まだまだ知識にむらがあり,憶えることは膨大にあります.これからも,先輩の先生からたくさん学んでいきたいと思います.プロール羽根田思(はねだしおん)平成16年山形大学医学部卒業.山形県立中央病院にて初期臨床研修,平成18年5月より山形大学医学部眼科学教室後期研修医.教授からのッセージ教育のしみ初期臨床研修制度が始まり,眼科の医局に入局して専門の勉強を開始するという今の制度は平成16年度から始まりましたが,新制度での一期生が羽根田先生たちの世代です.われわれ卒業直後に眼科に入局した医局員と比較して,いろいろな診療科を回ってきたたくましさを羽根田先生たちには感じます.このような優秀な医局員を教育する醍醐味を味わえるのは大学に奉職するものの特権です.羽根田先生たちを迎えて自らの手で教育しようと考え,時間の合わせやすい朝,7時30分からの約1時間を教育に専念する時間としてきました.そのなかで私が伝え続けているのが“自分の頭で考えて理解しながら進歩する眼科医”ということです.私自身のもつ知識量は大したことはなく,あらゆる分野を教える能力はありません.勉強会と称して私も学びながら研修医を教えています.だから,知識を教えているのでなく,考え方を教えているつもりです.たとえば,ジャーナルクラブでは論文を批判的に読む癖を獲得することであり,これが羽根田先生に伝わっていたことがわかり喜ばしかった次第です.自分で考える眼科医をわれわれの教室から生み出していくという私の目的は達成されつつあるのがとても幸せな気分です.山形大学医学部眼科・教授山下英俊

硝子体手術のワンポイントアドバイス56.脈絡膜上腔への気体誤注入(初級編)

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008670910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに裂孔原性網膜剥離に対するガスタンポナーデの合併症には,新裂孔形成,網膜剥離拡大,眼圧上昇,白内障,網膜下気体迷入などの報告があるが,非常にまれな合併症として,Bakerらは脈絡膜上腔への気体誤注入例を報告している1).筆者らも以前に,他院で強膜バックリング手術を施行された際に,この合併症をきたした症例を紹介されたことがある2).絡膜上腔への気体誤注入の原毛様体扁平部から27ゲージ針を硝子体腔内に刺入する際に,針先が硝子体腔内に入っていることを確認しないで,中途半端な刺入のまま気体を強膜と脈絡膜の間に注入してしまった場合に生じる(図1).同様のことは,気体だけでなく人工房水やシリコーンオイルを注入する際にも生じうる.脈絡膜剥離が生じている症例では,特に注意が必要である.筆者らが経験した症例では,初回強膜バックリング手術終了時に硝子体腔内に注入するはずの気体が誤って脈絡膜上腔に注入され,広範な脈絡膜剥離をきたしていた(図2a,b).本症例では,おそらく初回強膜バックリング手術時に脈絡膜剥離がわずかに生じており,強膜と毛様体の間隙が生じていて,気体が迷入しやすい状況にあったのではないかと考えられる.併症の予防と対このような合併症を防止するには,針先が硝子体腔内に刺入されていることを必ず確認してから気体を注入することが重要である.一般にガスが網膜下に迷入した場合には,視細胞が直接気体の影響を受けるので,網膜の障害は重篤であることが予想される.脈絡膜上腔気体迷入はそれに比較すると網膜への障害の程度は少ないと考えられる.Bakerらの報告や筆者らの症例でも再手術後の矯正視力は良好であった.しかし,気体は体位によっ(67)て脈絡膜上腔を移動する危険性もあるので,できる限り早期に気体を抜去するべきである.気体抜去の方法は27ゲージ針で人工房水を硝子体腔内に確実に注入すれば,針の抜去時に脈絡膜上腔の気体は圧に押されて針の刺入部より漏出する.文献1)BakerSR,HainsworthDP:Suprachoroidalgasasacom-plicationofpneumaticretinopexy.Retina20:224-225,20002)山本泰史,桑原ちひろ,齋藤総一郎ほか:脈絡膜上腔にガスが迷入した網膜剥離の1例.眼科手術16:109-112,2003硝子体手術のンポインバイス●連載脈絡膜上腔への気体誤注入(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科1脈絡膜上腔への気体誤注入の原因針先が硝子体腔内に入っていることを確認しないで,中途半端な刺入のまま気体を強膜と脈絡膜の間に注入してしまった場合に生じる.脈絡膜剥離併発例では特に注意を要する.図2a術前の眼底写真上耳側に胞状の脈絡膜剥離を認める.2b術前の超音波Bモード胞状の脈絡膜剥離とその後極に網膜剥離を認める.

眼科医のための先端医療85.「見る」ことで網膜は強くなる!?  -ラット明環境飼育による網膜保護効果とNrf2-ARE経路の関わり-

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008630910-1810/08/\100/頁/JCLS1966年,Noellらはラットへの可視光照射によって視細胞が不可逆的に傷害されるという現象を報告しました1).以後の研究により,可視光による網膜傷害(網膜光傷害)が,ビタミンCやE,グルタチオン前駆物質,フリーラジカルトラップ剤などの抗酸化剤で効果的に抑制されることが報告されました.そのため,網膜光傷害は酸化ストレスによる細胞傷害機構解析の良いモデルとして用いられてきました.また,網膜光傷害による細胞死が網膜色素変性症における細胞死と同じくアポトーシスの形態をとる2)ことから,網膜変性症のモデルとしても利用されています.一方,光に対する網膜傷害の感受性が,ラットの飼育条件によって異なることが,初期の頃から知られていました3).その後,1980年代になって,Andersonらにより,通常の飼育環境の光照度(50100ルクス)よりも明るい環境光(400600ルクス)で数週間飼育した動物では,3,000ルクス・24時間照射による網膜光傷害がほぼ完全に抑制されること,暗い環境光(510ルクス)で飼育した動物では,同条件の光照射で非常に強い網膜傷害が惹起されることが報告されました4).このことは,網膜内に光によって惹起される内因性の生体防御機構が備わっていることを示唆する実験的事実ですが,長い間その分子機構については不明のままでした.酸化ストレスのキー分子Nrf2生体がミトコンドリア呼吸鎖を通じて,酸素からエネルギーを産生する過程では,常に一定の割合で不完全燃焼した不安定な酸素(活性酸素種)が漏れ出てきます.また,炎症や免疫細胞の貪食に関連しても種々の酸化酵素が働き,活性酸素種が生成されます.これらの活性酸素種や活性窒素種,X線,紫外線,金属,化学物質などの酸化ストレス要因に曝されると,生体は,グルタチオン,チオレドキシンやそれらの関連酵素などの生体防御因子の発現を誘導することで,細胞を守ろうとします.この,生体防御因子の誘導に転写因子nuclearfactorerythroid2-relatedfactor2(Nrf2)が重要な役割をもつことが明らかとなってきました5).図1に現在提唱されている,Nrf2による転写調節機構の模式図を示しま(63)シリーズ第85回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊(島根大学医学部眼科学)「見る」ことで網膜は強くなる!?─ ラット明環境飼育による網膜保護効果とNrf2-ARE経路の関わり─図 1Nrf2-AREによる転写調節機構の模式図Nrf2:nuclearfactorerythroid2-relatedfactor2,Keap1:Kelch-likeECH-associatedprotein1,ARE:antioxidant-responsiveelement,Ub:ユビキチン,Cys:蛋白質上のシステイン残基.Keap1Nrf2UbNrf2小MafUbCysCysKeap1Nrf2Nrf2Nrf2の寿命延長Cys-酸化Cys-酸化酸化ストレス~可視光(活性酸素種・活性窒素種)プロテアソームによる分解アクチン細胞膜細胞質核DNA転写第2相解毒酵素↑抗酸化酵素↑ARE———————————————————————-Page264あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008す.Nrf2は,細胞質内でKelch-likeECH-associatedprotein1(Keap1)というアクチン結合蛋白と結合しています.非酸化ストレス下では,Keap1のユビキチンライゲース活性によりユビキチン化されたNrf2は,プロテアソームによる分解を受けます.そのため,非酸化ストレス下でのNrf2の寿命は非常に短いと考えられています.一方,細胞が酸化ストレスを受けると,その酸化ストレスは,Keap1内のシステイン残基の酸化という形で感知され,Nrf2のユビキチン化が抑制されます.その結果,細胞質内でのNrf2の寿命が延長し,核に移行するNrf2の量が増加します.Nrf2は,小Maf分子群とヘテロダイマーを形成し,DNAプロモーター領域のantioxidant-responsiveelement(ARE)配列に結合して,転写活性を発揮します.Nrf2-ARE経路によって転写活性化が亢進する分子として,グルタチオン-S-トランスフェラーゼなどの第2相解毒酵素やヘムオキシゲナーゼ1やチオレドキシン還元酵素などの抗酸化酵素が誘導され,細胞を酸化ストレスから守ります.網膜保護機構としてのNrf2-ARE経路前述の明環境飼育による網膜保護現象の系で,明るい環境光で飼育したラットの網膜では,暗い環境光で飼育したラットの網膜と比較して,4ヒドロキシノネナール(4HNE)という脂質過酸化マーカーの発現が上昇し,Nrf2-ARE経路による転写活性が亢進します6).さらに,チオレドキシンやチオレドキシン還元酵素の発現も亢進します.培養視細胞の系では,4HNEの前処置により,チオレドキシンやチオレドキシン還元酵素の発現が亢進し,過酸化水素による細胞傷害が抑制されます.この細胞傷害抑制効果は,Nrf2の発現をノックダウンすることでキャンセルされます.これらの実験的事実から,Nrf2-ARE経路活性化による生体防御因子の増強が,明環境飼育による網膜保護現象の分子機構として重要であると考えられます.網膜は,光を視覚情報として利用する(見る)という本来の目的と並行して,適度な光刺激によって網膜を保護する機構を誘導するという非常に巧妙なシステムを有していることが示唆されます.このような細胞保護機構が加齢などにより減弱することが,加齢黄斑変性などの何らかの網膜疾患の発症・増悪に関わる可能性について,今後検討が進むと予測されます.文献1)NoellWK,WalkerVS,KangBSetal:Retinaldamagebylightinrats.InvestOphthalmol5:450-473,19662)HafeziF,SteinbachJP,MartiAetal:Theabsenceofc-fospreventslight-inducedapoptoticcelldeathofphoto-receptorsinretinaldegenerationinvivo.NatMed3:346-349,19973)NoellWK,AlbrechtR:Irreversibleeectsonvisiblelightontheretina:roleofvitaminA.Science172:76-79,19714)PennJS,NaashMI,AndersonRE:Eectoflighthistoryonretinalantioxidantsandlightdamagesusceptibilityintherat.ExpEyeRes44:779-788,19875)ItohK,WakabayashiN,KatohYetal:Keap1repressesnuclearactivationofantioxidantresponsiveelementsbyNrf2throughbindingtotheamino-terminalNeh2domain.GenesDev13:76-86,19996)TanitoM,AgbagaMP,AndersonRE:UpregulationofthioredoxinsystemviaNrf2-antioxidantresponsiveele-mentpathwayinadaptive-retinalneuroprotectioninvivoandinvitro.FreeRadicBiolMed42:1838-1850,2007(64)■「「見る」ことで網膜は強くなる!?」を読んで─ラット明環境飼育による網膜保護効果とNrf2-ARE経路の関わり─今回は光による網膜障害のモデルから出発して網膜を保護する分子メカニズムをNrf2分子の働きを通して検討したお仕事を紹介していただきました.網膜疾患の治療戦略は,いろいろの疾患の病態を明らかにしてその原因を除くという治療が主流です.というより,種々の原因により網膜細胞が障害されるのを抑制して網膜細胞を保護する治療が確立していないのです.これが現在の網膜疾患の治療成績を上昇させるためにはボトルネックになっています.疾患の病態研究に基づき導入された抗VEGF(血管内皮増殖因子)抗体などや硝子体手術を用いた治療によっても糖尿病網膜症の治療成績はまだまだ満足できるものではありません.視力が最も大切な眼科医療の成否を示す指標ですが,視力は必ずしも現在の治療で上昇しません.網膜の細胞が破壊されて本来のものを見る機能が低下していることによります.今後は網膜神経細胞が破壊されないような新しい観点からの治療が大切です.今回の谷戸正樹先生の解説は,網膜光障害は単に光———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.1,200865(65)☆☆☆による障害を検討するのみでなく,活性酸素が各種疾患に対する影響を明らかにすることにより,光障害を分子レベルでわかりやすく説き起こしています.いわば神経保護治療についての基礎エビデンスを示されたと考えられます.医学的なこのようなしっかりした分子レベルでの研究成果があがっていると,その成果は活性酸素により網膜が障害される糖尿病網膜症,網膜分枝閉塞症,加齢黄斑変性など多くの疾患の病態解明,治療法開発に資することがきわめて大です.今後,まずは効果がはっきりと示せる疾患に対する治療薬が開発され,それが峰から裾野に広がっていくというのがとてもいい戦略的な研究ではないでしょうか?今後もこのような光による網膜障害を基にした多くの臨床研究,基礎研究が強力に推進されると考えております.山形大学医学部情報構造制御学講座視覚病態学分野山下英俊

新しい治療と検査シリーズ178.病的近視に続発した中心窩分離症に対する手術治療

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008610910-1810/08/\100/頁/JCLS的に硝子体手術が行われている3).〔症例〕65歳,男性.右眼変視を訴え当科紹介となる.屈折等価球面値は11ジオプトリー,眼軸長28.7mmの強度近視で,矯正視力は(0.1)に低下していた.眼底に軽度の近視性網脈絡膜萎縮と非常に丈の低い網膜剥離様所見を後極部網膜に認め,OCTで典型的な中心窩剥離型の分離症と診断した(図1).実際の手術法中高年の病的近視では核白内障を合併していることも多いため,有水晶体眼は原則として白内障手術を行う.しい治療と検シリー(61)バックグラウンド病的近視に続発する中心窩分離・剥離の歴史は古く,すでに1958年Phillipsらによって「強度近視眼における後極部網膜剥離」として報告されている1).特徴は,病的近視にみられる後極部網膜剥離で第一義的には網膜裂孔を伴わないものを指すが,黄斑小裂孔や沿血管微小裂孔を併発しているものも少なからずみられる.剥離の程度は検眼鏡的に明らかに認めるものから,光干渉断層計(OCT)を用いることによりはじめてその存在が明らかになる程度のものまである.またOCTで詳しく観察すると網膜分離だけで網膜剥離をまったく認めないものから,逆に分離がほとんどみられず剥離が病態のほとんどを占める場合があるなど病態は多彩である.注目すべきは強度近視眼で治療に苦戦する黄斑円孔網膜剥離の前駆状態であるとされており,本疾病を治療することで黄斑円孔網膜剥離の予防治療がある程度可能であるという点である.筆者らはその形状と手術成績から中心窩分離症を大きく3型に分類している.すなわち中心窩の視細胞が網膜色素上皮から剥離した「中心窩剥離型」,網膜分離はあるが網膜色素上皮から中心窩視細胞が剥離していない「網膜分離型」,そして黄斑円孔をすでに併発してしまっている「黄斑円孔型」である.視力は網膜分離型が最もよく,黄斑円孔型が最も悪い.また手術の効果は中心窩剥離型が最も高い.新しい治療法中心窩分離症の成因として網膜血管牽引,黄斑前膜,内境界膜の非伸展性などが指摘されており2),これらを外科的に除去することで網膜の復位ひいては黄斑円孔網膜剥離の予防を行うのが治療の目的である.症例の蓄積により安全性が確立し,最近は中心窩分離症に対し積極178.病的近視に続発した中心窩分離症に対する手術治療プレゼンテーション:生野恭司大阪大学大学院医学系研究科眼科学コメント:大野京子東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学1症例の中心窩分離症の眼底写真(上)とOCT像(下)眼底に近視性変化を認め,後極部網膜は中心窩剥離を伴う中心窩分離症を生じている.———————————————————————-Page262あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008トリアムシノロンで可視化した後に硝子体切除を行うが,病的近視では網膜面上に硝子体皮質が強く癒着していることが多い.これら癒着硝子体や網膜前膜をDia-mond-dustedmembranescraperや硝子体鑷子を用いて丁寧に後極部網膜から剥離してゆく.内境界膜剥離の是非については議論の余地があるが,症例の多くで内境界膜の非伸展性が原因としてかかわっており,筆者は全例内境界膜剥離を行っている.インドシアニングリーンは毒性が報告されているため,萎縮性変化が軽微な場合はトリアムシノロンを用いるが,著しい場合は術中の安全性を優先してインドシアニングリーンを用いる.最後に20%六フッ化硫黄ガスガスタンポナーデを行って終了である.患者には1~2週間程度の伏臥位を指示する(図2).通常網膜はゆっくりと復位することが多く,長い場合,中心窩の復位に6カ月~1年かかる.非常に遅い場合,心配することもあるが,筆者は本術式で復位しなかった症例は今のところ経験していない.本法の利点2段階以上の視力改善は中心窩剥離型で80%前後,中心窩分離型で50%程度である.術後中長期で黄斑円孔の形成をみる場合が数%あるが,円孔形成の自覚のないものも多い.このように中心窩分離症に対する硝子体手術は比較的安全でかつ効果の高い術式であると考えられる.放置することで黄斑円孔網膜剥離まで進展すると失明の危機もある.それを予防するという意味でも有用な手術と考えている.文献1)PhillipsCI:Retinaldetachmentattheposteriorpole.BrJOphthalmol42:749-753,19582)生野恭司:強度近視眼に続発した中心窩分離症の病因と治療(総説).日眼会誌110:855-863,20063)IkunoY,SayanagiK,OhjiMetal:Vitrectomyandinter-nallimitingmembranepeelingformyopicfoveoschisis.AmJOphthalmol137:719-724,2004(62)☆☆☆本に対するント近年,近視に伴う黄斑(中心窩)分離・剥離に対する手術成績の報告が散見される.しかし,術後長期における再発などの合併症の危険性や手術適応について,まだ不明な点も多い.また,術式についても内境界膜(ILM)剥離併用の有無やILM剥離の範囲,ガスタンポナーデの併用の有無などについて必ずしも一定の見解が得られていない.前述したように,黄斑分離・剥離の1つの成因としてILMを含めた網膜表層の増殖変化があげられるため,生野らのようなILM剥離を併用した硝子体切除は理にかなっていると思われる.また,ガスタンポナーデを行うことにより剥離部位の移動や網膜復位までの時間短縮が得られると考えられ,有用であろう.しかしながら,黄斑分離・剥離の形態や成因は個々の症例によりそれぞれ異なっており,今後は長期術後経過を踏まえたうえで,個々の症例に応じた術式選択と手術タイミングの検討が必要となるであろう.図2症例の術後1年後の眼底写真(上)とOCT像(下)周囲に網膜分離は残存するが,中心窩剥離は復位した.視力は術前の(0.1)から(0.6)まで改善した.

眼感染症:常在微生物叢と眼感染症

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008590910-1810/08/\100/頁/JCLS眼感染症の発症機序は大別して2つあり,外傷や飛入により眼の外から病原体が持ち込まれる場合と,眼表面に存在する常在微生物が増殖して発症する場合がある.近年は薬剤耐性を獲得した常在微生物による感染症が増えており,結膜炎,角膜炎といった前眼部感染のほか,術後眼内炎の原因となる.眼感染症を正しく診断,あるいは予防するためには,常在微生物叢に関する知識をもち,薬剤耐性化に注意せねばならない.在微生物叢とは皮膚や眼,消化管など外界と接する身体各部の表面には,一定の微生物群が互いにバランスを保って存在し,これらの微生物群を一括して「常在微生物叢」とよぶ.そのほとんどは細菌であるため「常在細菌叢」あるいは「正常細菌叢」ともよばれるが,真菌やウイルスも存在する.常在微生物叢は,ホストの要因(年齢,性,薬剤の服用,免疫力など)や外的要因(点眼,微生物の侵入など)によって菌量や構成パターンが変動する.たとえば,ホストの免疫力が低下すると常在微生物叢が増殖する(日和見感染).また薬剤投与という外因によって微生物叢のバランスが崩れると,特定の菌のみが増殖する(菌交代現象).常在微生物叢は外来性の微生物,特に病原微生物に拮抗し,それらの侵入や増殖を防いでいる.一方で常在微生物叢の均衡が破綻し,ある菌のみが過剰に増殖すると,生体にとって不利な状況すなわち「感染症」となる.表面と常在微生物眼表面にも常在微生物が恒常的に存在し,表皮ブドウ球菌,コリネバクテリウム,アクネ菌などの細菌が健常な結膜から検出される1).ほとんどは病原性の乏しい弱毒菌であるが,黄色ブドウ球菌など病原性の高い菌も検出される.宿主が常在細菌に反応しない理由として,上田らは自然免疫に注目し,病原体認識機構であるTolllikereceptors(TLRs)について検討した.その結果,マクロファージでは細胞表面に発現し,細菌の菌体成分(PGNやLPS)に反応するTLR2やTLR4が,角膜上皮では細胞内に発現し,細胞表面のPGNやLPSに反応しなかった2).眼表面上皮は常在細菌に反応しないための機構を有すると考えられる.在微生物の薬剤耐性化1.ブドウ球菌①薬剤投与による耐性化表皮ブドウ球菌などのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)と黄色ブドウ球菌は結膜の常在細菌であり,その多くは一般的な抗菌点眼薬で容易に菌の増殖が抑制される.長期に抗菌薬が点眼されると眼表面において菌交代現象が生じて,使用している抗菌薬の効かない菌のみが存在する状態,すなわちメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MR-CNS)やメチシリン耐性黄色ブドウ球(59)眼感染アレルーー感染症と生体防●連載①監修=木下茂大橋裕一1.常在微生物叢と眼感染症外園千恵京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学眼表面には常在微生物叢が存在し,通常は病原性を有さないが日和見感染や術後眼内炎の原因となる.近年は薬剤耐性化した常在細菌による感染症が増えており,結膜炎,角膜炎などの前眼部感染のほか,術後眼内炎が問題となる.常在微生物の薬剤耐性化に注意し,発症時には塗抹検鏡と培養検査の両方を行うことが有用である.表1代表的な常在細菌とグラム染色グラム性球菌グラム性菌ブドウ球菌色ブドウ球菌レ球菌球菌コリネバクテリウムバクテリウムクネ菌バのバクテリウムの性菌の菌———————————————————————-Page260あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008菌(MRSA)が常在細菌となる.さらにステロイドが使用されると,弱毒菌による日和見感染を発症しやすくなり,MRSAあるいはMR-CNSによる感染症を発症する.たとえば,角膜移植後は糸の緩みなどが契機となって移植片に感染症を生じるが,起炎菌としてMRSAと酵母型真菌が多い3).このことは術後投薬(抗菌薬,ステロイド)による常在微生物叢の変化と密接に関係する.②健常結膜における耐性ブドウ球菌高齢者の健常な結膜から,少数ではあるが薬剤耐性を獲得したMR-CNS,MRSAが常在細菌として検出される4).あるいは,アトピー性皮膚炎患者において白内障術前に結膜からMRSAを検出することがある.このように,特に眼局所に投薬しておらず,充血も眼脂もない結膜から耐性菌を検出することは,手術や外傷で耐性菌が眼内に持ち込まれて眼内炎を発症するリスク因子となる.さらには,健常な小児や成人が市中型MRSAを無症候性に有することがある.市中型MRSAについては本シリーズの次回で記載する.2.コリネバクテリウムコリネバクテリウムも常在細菌叢の主要メンバーであり,通常は病原性に乏しい.しかしレボフロキサシン(LVFX)耐性コリネバクテリウムが増えてきつつあり,眼感染症の原因となりうる(図1の症例).3.その他ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)による角膜炎はMRSA感染と同様に抗菌薬の長期投与,日和見感染で生じる.b-ラクタマーゼ陰性アンピシリン耐性ヘモフィリス(BLNAR)による眼感染症も今後問題になる可能性がある.感染症の診断培養検査で菌を検出しただけでは,起炎菌と断定することはできない.菌量と,どのような生体反応を示しているかが重要な判断材料となり,塗抹検鏡が有用である.図1の症例は,塗抹検鏡で好中球に貪食されるグラム陽性桿菌を多数認め,培養でLVFX耐性コリネバクテリウムを検出した.このように塗抹検鏡と培養検査で同じ菌を同定し,貪食像があれば起炎菌といえる.細菌検査機関が,これは常在細菌である,という理由で薬剤感受性試験を省略することがあり注意を要する.さらには検査結果そのものが省略され,「菌を検出せず」などと報告されることがある.「難治性結膜炎であり,薬剤感受性試験をお願いします.」あるいは「耐性化した常在細菌による感染症を疑っています.」など,依頼内容を明確にして検査を行う.文献1)原二郎:眼瞼・結膜の常在細菌叢について教えてください.あたらしい眼科17(臨増):5-7,20002)UetaM,NochiT,JangMHetal:IntracellularlyexpressedTLR2sandTLR4scontributiontoanimmu-nosilentenvironmentattheocularmucosalepithelium.JImmunol173:3337-3347,20043)脇舛耕一,外園千恵,木下茂ほか:角膜移植術後の角膜感染症に関する検討.日眼会誌108:354-358,20044)KatoT,HayasakaS:Methicillin-resistantStaphylococcusaureusandmethicillin-resistantcoagulase-negativestaph-ylococcifromconjunctivasofpreoperativepatients.JpnJOphthalmol42:461-465,1998(60)図1帯状角膜変性に対する治療的レーザー表層角膜切除術後の角膜感染症a:前眼部所見.角膜表層の細胞浸潤(*)と前房蓄膿を認める.b:病巣部の塗抹検鏡.多数のグラム陽性桿菌(小矢印)と好中球の貪食像(大矢印)を認める.a*b

緑内障:緑内障治療薬-後発品と先発品の比較

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008570910-1810/08/\100/頁/JCLS医療費削減の必要性が唱えられている現在,治療薬を処方する際に後発品が注目されるようになってきた.特に緑内障のような慢性疾患に対して後発品を処方する場合,治療期間が長期にわたるためそのメリットは大きくなる.しかし,医療費削減の切り札として期待される後発品は先発品と比較して劣っていない点と劣っている点がある.表1に後発品が先発品と比較して劣っていない点と劣っている点を示した.後発品が先発品に劣っていない点を生かすために,その経済性なども理解しておく必要がある一方,劣っている点として,すべての薬剤に後発品は発売されていないことなどの確認も重要である(表1).本稿では,緑内障治療薬の後発品が先発品に劣っていない点と劣っている点について解説する.売されている後発品は?現在,国内では濃度も区別に含めると25種類の緑内障点眼薬が発売されているが,そのうち何種類の点眼薬に後発品が存在するのだろうか?(57)載緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄91.緑内障治療薬─後発品と先発品の比較池田博昭*1塚本秀利*2*1広島大学病院臨床研究部*2高山眼科最近,医療費削減のため,後発品が医師のみならず患者の間でも注目されるようになってきた.しかし,後発品は先発品と比較して劣っていない点と劣っている点があり,その選択にはこれらの特徴をよく理解して処方する必要がある.表1後発品が先発品と比較して劣っていない点と劣っている点劣っていない点劣っている点発売されている後発品は?がしがれ先発品に後発品が発売されるが薬価のい薬にがであるがしがれていて先発品の薬価がいがさいと後発品は発売されないとある後発品は本当に安い?先発品に比て薬価がいのでの薬でのはる後発品と先発品の薬価にのない薬のなるとが先発品と同しはるがある後発品の適応症・効果・副作用は先発品と同一?先発品に効効果がされない同一先発品に効効果がされ用用適応症が一になる後発品の中身は先発品と同一?後発品は先発品と同のとで売され薬の品が同であるとのやなは先発品と後発品後発品でなる後発品は安定供給できる?点眼薬にし後発品がある医薬品ののがしている後発品の医薬品情報は提供される?先発品と同に後発品の情報できるの載内め情報提供は先発品に比劣る表2緑内障点眼薬の後発品の有無(2007.12現在)後発品のある点眼薬後発品の銘柄数後発品のない点眼薬0.25%チモプトールR6キサラタンRデタントールR0.5%チモプトールR7トラバタンズRエイゾプトR1%ミケランR5レスキュラRトルソプトR(0.5%,1%)2%ミケランR5チモプトールRXE(0.25%,0.5%)ピバレフリンR(0.04%,0.1%)ベトプティックRS2ミロルRウブレチドR(0.5%,1%)ハイパジールRコーワニプラノールR5リズモンRTG(0.25%,0.5%)1%サンピロR12%サンピロR1———————————————————————-Page258あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008後発品は先発品の再審査期間が終了し,かつ特許切れ後に発売されることから,すべての先発品に対して後発品が存在するわけではない.後発品が存在する点眼薬と存在しない点眼薬を表2に示す.後発品が存在する点眼薬は9種類,しない点眼薬は16種類である.なお,ジピベフリン0.1%の後発品は2007年3月末に販売が中止となっているが,経過措置期間まで保険請求は可能である.発品は本当に安い?後発品の薬価は,その後発品が発売された時期に応じて先発品の薬価の7割に設定されている.たとえば,2007年夏に発売されたニプラジロールの後発品は先発品の7割の薬価であるのに対し,1981年に発売したチモロールの後発品の最も低い薬価は2割程度まで低下している.先発品と後発品の薬価を表3に示す.なお,後発品が複数存在する場合は最も低い価格を示した.また,先発品の薬価が経年的に低下するに従い後発品の薬価も低下するが,その低下率は後発品が大きい.0.5%チモロールの薬価は1995年当時で先発品が3,056円,後発品が2,020円であったのに対し,2007年の時点で先発品が2,107円(69%),後発品が463円(23%)と後発品の低下率が大きい.一方,1967年に発売したピロカルピンは2007年現在,先発品と後発品が同一の薬価になっている.すべての後発品が先発品に比べて低価格とは限らない.では,後発品を処方した場合,実際の医療現場ではどの程度安くなるのであろうか?たとえば,0.5%チモロールの先発品と後発品の最大薬価差は1,644円(表3)で,自己負担が3割の患者の場合,先発品を後発品に変更した場合,1本の最大の薬剤費用負担差は約500円になる.しかし,0.5%チモロールの先発品と先の後発品の1本当たり滴下できる滴数は各々151滴と118滴で,点眼できる期間は37日と29日(1日2回,1回1滴を両眼にした場合)と異なる.各々の薬価を滴数で除した1滴薬価は14円と4円,1日の理論的薬剤費用(1日2回,1回1滴を両眼にした場合)を算出すると薬価費用差は40円となる.自己負担が3割の患者の場合,後発品と先発品の最大の薬剤費用負担差は1日に12円(月間360円)となる.後発品の適応症・効果・副作用や中身は先発品と同一?後発品は動物での薬理試験データで有効性を確認しているが,安全性に特化した試験は行っていない.後発品は臨床試験(第Ⅲ相試験)を行っていない場合が多く,添加物の種類や添加量の異なる先発品と効果・副作用を正確に比べることはむずかしい.発品は安定供給できる?後発品が発売される際,厚生労働省は安定供給の指導を行っている.医薬品卸会社から入手できない後発品もあることから,予め供給ルート・日数などを確認しておく必要がある.ジピベフリン0.1%の後発品は1998年に数社から発売されたが,2007年3月には発売が中止されている.発品の医薬品情報は提供される?後発品の添付文書には,臨床試験(治験),使用成績調査(再審査終了時),薬物動態,臨床成績,薬効薬理(作用機序)などが記載されていない.添加剤の塩化ベンザルコニウムは記載されているが,等張化のための添加剤は記載されていない.塩化ベンザルコニウム濃度の違いで角膜潰瘍の発現率が異なることが判明しているので,後発品はできるかぎり情報を開示することが望ましい.まとめ以上,後発品が先発品と比較して劣っていない点と劣っている点について説明した.私たちは,劣っていない点と劣っている点を理解して,後発品を適切に使用する必要がある.(58)表3後発品のある緑内障点眼薬の薬価比較(2007.12現在)後発品のある点眼薬先発品の薬価(円)後発品のうち最も低い薬価(円)薬価の差(円)後発品薬価/先発品薬価0.25%チモプトールR1,4153461,0690.20.5%チモプトールR2,1074631,6440.21%ミケランR1,1916335580.52%ミケランR1,7238738510.5ベトプティックRS2,2561,6376190.7ハイパジールRコーワニプラノールR2,4681,7277410.71%サンピロR70470401.02%サンピロR85485401.0薬価は1本当たり.

屈折矯正手術:有水晶体眼内レンズとLASIKの比較

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008550910-1810/08/\100/頁/JCLS屈折矯正手術の主流はLASIK(laserinsitukerato-mileusis)であるが,医原性角膜拡張症(keratecta-sia)の発症リスクを避ける意味で,高度近視や角膜が薄い症例では少なからず制限を受ける.本来角膜が備え合わせる優れた光学特性や生体力学特性を低下させることも無視できない.さらには,角膜の創傷治癒反応には個体差があり,矯正量が大きいほど予測精度や安定性に悪影響を及ぼすと考えられる.それらの欠点を補うべく有水晶体眼内レンズ(phakicintraocularlens:phakicIOL)が開発されたが,高い安全性・有効性だけでなく術後視機能の優位性が報告されている.理由としては,第一にLASIKによる角膜中央部の切除により,角膜形状がprolateからoblateshapeへの変化に伴う球面収差の増加1)およびフラップ作製や照射ずれに起因するコマ収差の増加も含め,矯正量が大きくなるほど高次収差が増加すること,第二にphakicIOLでは瞳孔に非常に近い位置で矯正を行うため,網膜像の倍率変化を生じにくいことがあげられる(図1).これは屈折矯正手術を行ううえで重要であり,phakicIOLは最適な部位であることを意味する.高度近視における自験例での検討では,後房型phak-icIOL(implantablecollamerlens:ICLTM)はwave-front-guidedLASIKに比較して安全性・有効性が高かった.また,予測精度や安定性に関しても,ICLTMでは個体差のある角膜創傷治癒反応を受けにくく,over-shoot(遠視化)やregression(再近視化)も起こらず(図2),ICLTMの優位性は明らかであった.術後眼球全体の高次収差に関してもLASIKでは有意な増加を示したのに対して,ICLTMでは有意な変化を認めなかった.特に球面様収差は,LASIKでは有意な増加を示したが,ICLTMではほぼ不変であった.コントラスト感度もLASIKでは有意に低下したが,ICLTMでは有意に上昇した(図3).LASIK後regressionによる再照射を要した症例が4.0%に認められたが,その他明らかな術中・(55)屈折矯正手術スップ●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男92.有水晶体眼内レンズとLASIKの比較神谷和孝北里大学医学部眼科有水晶体眼内レンズ(phakicIOL)は,LASIKに比較して高い安全性・有効性だけでなく術後視機能の優位性が報告されている.角膜創傷治癒反応も受けにくいため,予測精度・安定性もきわめて良好である.これまで高度近視や角膜が薄い症例が良い適応と考えられていたが,中等度近視にまで適応が拡大しつつある.図1網膜像の倍率変化PhakicIOLでは近視量が大きくなっても,網膜像の倍率変化は無視しうる.一方,LASIKでは近視量が大きくなるほど,網膜像倍率は低下する.0.91.01.1-10.0矯正度数(D)網膜像倍率:LASIK:phakicIOL6.04.02.00.0-2.0-4.0-6.0-8.0図2PhakicIOLとwavefrontguidedLASIKの安定性の比較PhakicIOLでは角膜創傷治癒反応にほとんど影響されず,術翌日以降,屈折が安定している.一方,LASIKではovershootやregressionを生じている.-15.0-10.0-5.00.05.0術前1日1週1カ月3カ月6カ月1年等価球面度数(D):phakicIOL:LASIK術後期間———————————————————————-Page256あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008術後合併症を認めなかった.参考までに,自験例によるICLTM手術全体における白内障発生率は1.9%であった.Sandersらは,中等度・高度近視眼においてICLTMは安全性・有効性・予測精度・安定性いずれもLASIKより良好な結果であったとしている2).また,Hrubaらは,10diopters(D)以上の症例においてICLTMはLASIKより早期に視力が回復し,予測精度・安定性に優れ,合併症も少ないとしている3).一方,Malecazeらは,812Dまでの症例において虹彩支持型pha-kicIOL(ArtisanTM)とLASIKを比較したところ,予測精度は同様であったが,矯正視力や術後視機能はphak-icIOLのほうが良好であったと報告している4).ではいったい,どの程度の近視にまでphakicIOLは適応となるのであろうか?これに対して現時点では明確な回答は得られていない.しかしながら,最近Sandersらは,軽度近視眼におけるICLTMとLASIKの比較を行い,安全性・有効性・予測精度・安定性すべてにおいてICLTMがLASIKより良好であったと報告している5).中等度近視における自験例での検討においても,高度近視ほどではないが,ICLTMはLASIKに比較して安全性・有効性が高かった.もちろん,phakicIOLは長期的な予後が不明であり,虹彩支持型(ArtisanTM,Arti-exTM)では術後炎症や角膜内皮障害,後房型(ICLTM)では二次性白内障といった克服しなければならない問題点も確かに存在する.しかしながら,これらの結果を考慮すると今後phakicIOLの適応は高度近視のみならず,軽度・中等度近視へ拡大していくのではないかと推測される.文献1)HershPS,FryK,BlakerJW:Sphericalaberrationafterlaserinsitukeratomileusisandphotorefractivekeratecto-my.Clinicalresultsandtheoreticalmodelsofetiology.JCataractRefractSurg29:2096-2104,20032)SandersDR,VukichJA:Comparisonofimplantablecon-tactlensandlaserassistedinsitukeratomileusisformod-eratetohighmyopia.Cornea22:324-331,20033)HrubaH,VlkovaE,HorackovaMetal:ComparisonofclinicalresultsbetweenLASIKmethodandICLimplanta-tioninhighmyopia.CeskSlovOftalmol60:180-191,20044)MalecazeFJ,HulinH,BiererPetal:Arandomizedpairedeyecomparisonoftwotechniquesfortreatingmoderatelyhighmyopia:LASIKandartisanphakiclens.Ophthalmology109:1622-1630,20025)SandersD,VukichJA:Comparisonofimplantablecollam-erlens(ICL)andlaser-assistedinsitukeratomileusis(LASIK)forlowmyopia.Cornea25:1139-1146,2006(56)☆☆☆●●●●●●●●●●LASIKPhakicIOL●:術後●:術前●●●●●●●●●●空間周波数(c/d)1.5361218空間周波数(c/d)1.536121830020010050201052.33.512510205030020010050201052.33.5125102050コントラスト感度図3PhakicIOLとwavefrontguidedLASIKのコントラスト感度の比較PhakicIOLでは術後コントラスト感度が有意に上昇するのに対し,LASIKでは有意に低下する.

眼内レンズ:嚢内眼内レンズの前房中脱臼

2008年1月31日 木曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008530910-1810/08/\100/頁/JCLS白内障手術後に,水晶体に固定されたままの眼内レンズ(intraocularlens:IOL)偏位や脱臼の報告はこれまでにもいくつかの報告がある1,2).しかし,前房内に内固定のままIOLが完全に脱臼した症例はまれである3).今回筆者らは,両眼IOLが内に固定されたまま前房内脱臼し,眼圧上昇,角膜内皮障害をきたした症例を経験したので報告する.例患者:78歳,女性.主訴:両眼視力低下.現病歴:2002年3月,前医にて両眼白内障に対し超音波水晶体乳化吸引術(PEA)およびIOL挿入術を施行された.術中合併症はなくIOLは内固定された.IOLは3ピースアクリルレンズ(全長6mm,光学部13mm)で,術直後の視力は右眼0.3×IOL(1.0×+1.00D(cyl1.50DAx100°),左眼0.7×IOL(1.0×+1.25D(cyl1.50DAx80°)であった.術後IOL振盪は認めていなかった.2005年1月定期受診時には両眼IOLの瞳孔捕獲を認めた.2006年5月定期受診時,右眼IOLが内に固定されたまま前房内に脱臼していた.左眼の瞳孔捕獲は解除されていた.視力は右眼(0.1×0.50D(cyl1.50DAx9°),左眼(0.3×0.25D(cyl1.50DAx9°)と低下していた.2007年2月転倒後より視力低下を認め,前医を受診した際,両眼IOLが内固定のまま前房内脱臼を認めたため,北里大学病院眼科(以下,当科)を紹介され受診となった.既往歴:糖尿病,認知症.家族歴:特記すべきことなし.来院時所見:視力は右眼0.02×IOL(0.03×8.00D),左眼光覚なし.眼圧は右眼20mmHg,左眼60mmHgであった.両眼IOLが内固定のまま前房内に脱臼し(53)ていた(図1,2).右眼は脱臼したIOLが角膜内皮に接触しており,左眼は前房内に炎症と凝血塊を認め,隅角鏡検査にてほぼ全周に周辺虹彩前癒着(PAS)を認めた.角膜内皮細胞密度は右眼1,492個/mm2,左眼1,891個/mm2であった.視神経は両眼ともに蒼白であった.山根史佳天野理恵清水公也北里大学医学部眼科眼内レンズー監修/大鹿哲郎257.内眼内レンズの前房中脱臼内固定した眼内レンズ(IOL)が両眼とも前房内に脱臼した症例を経験したので報告する.IOL前房内偏位は角膜内皮障害や続発緑内障など不可逆的な合併症を生じ,その処置に緊急性を要する.白内障術後,長期にわたる経過観察の必要性を再認識した.図1初診時の右眼前眼部写真眼内レンズが内固定のまま前房内に脱臼し,ループが角膜内皮に接触している.2初診時の左眼前眼部写真眼内レンズは内固定のまま前房内に脱臼し,前房内に炎症と凝血塊を認めた.隅角にはほぼ全周にPASを認めた.———————————————————————-Page254あたらしい眼科Vol.25,No.1,2008(00)治療および経過:今回視力の比較的良好であった右眼のIOL摘出術を勧めたが,本人,家族の希望により,2007年3月右眼は既存IOLの縫着術を施行し,左眼は経過観察とした.上方に2.8mmの角膜切開を行い,IOLのループのみを創口より出して(図3),角膜輪部より2mmの位置,3時と9時の2カ所でポリプロピレン糸にて縫着を行った.術後視力は右眼0.1×IOL(0.1×+1.00D(cyl2.00DAx130°).現在経過観察中である.本症例は78歳と高齢であり,Zinn小帯が経年変化により脆弱化していたと考えられる.そこに転倒,打撲などの外力が加わり,さらにZinn小帯の断裂が起こり,後方からの硝子体圧により瞳孔捕獲が起こった.そして対光反応などの瞳孔の運動により,徐々にZinn小帯の断裂が進み完全断裂し,前房内に脱臼したと考えられる.IOLが前房内に脱臼した場合には角膜内皮障害や続発緑内障をきたすことがある.その結果,不可逆的な視機能障害をきたす可能性があるため,その処置に緊急性を要する.高齢者は,Zinn小帯の経年変化による脆弱化に加え,転倒などの外傷の頻度も増加するため,IOLの偏位をきたす危険がある.当科において,平成18年7月からの1年間だけで28例29眼のIOL偏位により観血的治療を必要とした症例を経験した.白内障手術の増加により,今後もIOLが偏位する症例の増加が予想され,白内障術後の長期にわたる経過観察の必要性を再認識した.文献1)幾井重行,佐藤文平,田尻健介ほか:眼内レンズが内固定のまま硝子体中で脱臼した1例.眼科手術18:539-542,20052)加藤桃子,木村亮二,加藤整ほか:眼内レンズ位置異常をきたした症例の検討.眼科手術20:103-107,20073)神野英生,渡辺朗,神前賢一ほか:眼内レンズが内固定のまま前房内に脱臼したアトピー性皮膚炎の1例.眼科手術18:221-223,20053術中写真上方より2.8mmの角膜切開を行い,眼内レンズのループのみを創口より出して操作を行った.