———————————————————————-Page1966あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(00)第19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(7):966968,2009cはじめにトラボプロスト点眼液0.004%は,プロスト系プロスタグランジン系眼圧下降薬として日本を始め世界100カ国以上で承認されている点眼薬である.わが国では海外先行発売のトラバタンR0.004%Rと異なり,防腐剤として塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:BAK)を含有せず,Sof-ZiaRというイオン緩衝系システムを導入したトラバタンズR0.004%点眼液が発売された.BAKは界面活性剤であるため,細胞膜の透過性を亢進させ細胞を破壊することによる抗菌作用をもつ一方,薬剤透過性を亢進する可能性があるため,BAKの有無は薬効に影響することが懸念される.しかし,日本でのトラボプロスト点眼液導入に際し,眼圧下降臨床治〔別刷請求先〕大島博美:〒289-2511千葉県旭市イ1326国保旭中央病院眼科Reprintrequests:HiromiOshima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahiCentralHospital,1326iAsahi,Chiba289-2511,JAPAN日本人健常眼に対する塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト無作為単盲検単回点眼試験による眼圧下降効果の検討大島博美*1新卓也*2相原一*2宮田和典*3*1総合病院国保旭中央病院眼科*2東京大学大学院医学系外科学専攻感覚運動機能医学講座眼科学*3宮田眼科病院EectofSingleDoseofTravoprostBenzalkoniumChloride-Free0.004%onIntraocularPressureinHealthyJapaneseSubjectsbyBlindTestHiromiOshima1),TakuyaAtarashi2),MakotoAihara2)andKazunoriMiyata3)1)DepartmentofOphthalmology,AsahiCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine,3)MiyataEyeHospital目的:日本人健常眼における塩化ベンザルコニウム(BAK)非含有イオン緩衝系薬剤SofZiaR含有0.004%トラボプロスト単回点眼による眼圧下降効果を日内変動を考慮して検討した.方法:日本人健常眼30例30眼を対象とし,無作為化単盲検単回点眼比較試験で,連続した2日間で行った.両日とも9時,15時,21時に眼圧を測定し,第2日目の朝9時にトラバタンズR0.004%点眼液を両眼のうち無作為に片眼に点眼した.結果:第1日目の9時,15時,21時の眼圧はそれぞれ15.0±2.3,13.9±2.8,13.0±2.3mmHg(平均±標準偏差)であり,日内変動の影響で夕方にかけて下降した.第2日目同時刻の眼圧はそれぞれ14.2±3.1,10.6±2.1,9.5±2.0mmHg(同上)であり,有意な眼圧下降を示した.眼圧下降率でも,点眼後6時間,12時間で前日同時刻と比べそれぞれ24.2%,26.5%の有意な眼圧下降が得られた.結論:BAK非含有SofZiaR含有トラボプロスト点眼液は,日本人健常眼に対して十分な眼圧下降効果が期待できる.Inatwo-daystudyinvolving30randomlychoseneyesof30healthyJapanese,weexaminedtheeectonintraocularpressure(IOP)oftopicallyadministeredbenzalkoniumchloride(BAK)-freetravoprost0.004%,contain-ingtheionic-bueredpreservativeSofZiaR.Toassessdailyuctuation,IOPwasrecordedat9,15and21hoursonbothdays.BAK-freetravoprost0.004%wasadministeredat9hoursonday2.At9,15and21hoursonday1,IOP15.0±2.3,13.9±2.8and13.0±2.3mmHg(mean±SD);onday2,IOPatthosetimeswas14.2±3.1,10.6±2.1and9.5±2.0mmHg.At6and12hoursaftertravoprostadministration,IOPdecreasedsignicantly,with24.2%and26.5%ofrelativereduction,respectively,composedwiththesametimesonday1.InhealthyJapanesesub-jects,BAK-freetravoprostshowedsucientreductionofIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(7):966968,2009〕Keywords:緑内障,眼圧,日内変動,トラボプロスト,塩化ベンザルコニウム.glaucoma,intraocularpressure,dailyuctuation,travoprost,benzalkoniumchloride.966(100)0910-1810/09/\100/頁/JCOPY———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009967(101)験では,BAK含有0.004%トラボプロスト(トラバタンR)を用いているため,SofZiaR含有0.004%トラボプロスト(トラバタンズR)の日本人における眼圧下降効果の報告はない.そこで,日本人健常眼における単回点眼による眼圧下降効果を日内変動を考慮して検討した.I対象および方法試験プロトコールは宮田眼科病院における臨床委員会の承認を得て,UMIN(UniversityhospitalMedicalInformationNetwork)臨床登録システムに登録された(登録番号UMIN000001475).本研究は健常成人ボランティアに対し十分な説明を行ったうえで実施された.1.対象日本人健常眼30例30眼,平均年齢は37.7±7.2歳,性別は男性23名,女性7名,等価球面度数は3.4±2.8Dであった.対象の選択基準は,①20歳以上65歳未満,②点眼開始前の眼科的所見に異常がない者,③性別を問わない.また除外基準として,次の各号に定める事項のいずれかに抵触する被検者は除外した.①眼局所または全身の重篤な疾患に罹患しているまたは既往がある者,②眼部手術の既往のある者または試験参加に不適当と考えられる眼部外傷の既往のある者,③試験薬剤,試験薬剤の類薬または試験用薬に対してアレルギーあるいは重大な副作用の既往のある者,④点眼開始1週間前から試験終了時までコンタクトレンズの装用が必要な者,⑤プロスタグランジン関連薬,a作動薬,a遮断薬,b作動薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)点眼薬または経口CAI(ダイアモックスRなど)などの緑内障治療薬を使用している者,⑥全身投与および点眼薬の副腎皮質ステロイドを使用している者,⑦その他,研究者などが対象として不適とした者.2.方法無作為化単盲検単回点眼比較試験で,連続した2日間で行った.一般に眼圧は日中から夕方にかけて下降することが知られており1),同日内で朝1回点眼した後の午後の眼圧下降を評価する場合,日内変動による下降が加わり,眼圧下降を過大評価する可能性がある.したがって,今回は眼圧下降点眼前日の眼圧を測定しておき,点眼日の眼圧と比較することで日内変動を考慮した眼圧下降評価を行うこととした.両日とも9時,15時,21時に眼圧を測定し,2日目の朝9時にトラバタンズR0.004%点眼液を両眼のうち無作為に片眼に点眼した.眼圧は点眼者と異なる同一検者が,同一の細隙灯顕微鏡に装した,同一のGoldmann眼圧計を用いて測定した.3.検討項目主要評価項目は眼圧であり,点眼前日,当日2日間の9時,15時,21時に眼圧を測定し,点眼後0,6,12時間後の測定値と点眼前日同時刻の測定値をpairedt-testにて比較した.また,点眼後6,12時間の眼圧下降率を点眼前日同時刻の眼圧値を用いて,100×(点眼後眼圧値点眼前眼圧値)/点眼前眼圧値(%)より算出した.副次的評価項目は眼局所の安全性評価として角膜びらん,眼瞼の紅斑腫脹,前房内炎症の有無について細隙灯顕微鏡下で検討した.II結果試験期間中の脱落,中止例はなく,30例全員が試験終了した.第1日目の9時,15時,21時の眼圧はそれぞれ15.0±2.3,13.9±2.8,13.0±2.3mmHg(平均±標準偏差)であり,日内変動の影響で夕方にかけて下降した.第2日目の9時,15時,21時すなわちトラバタンズR点眼直前,点眼後6時間,点眼後12時間の眼圧はそれぞれ14.2±3.1,10.6±2.1,9.5±2.0mmHg(平均±標準偏差)であり,著明な眼圧下降を示した(図1).前日の同時刻と比較してトラバタンズR0.004%点眼直前の眼圧は有意差がなかったが,点眼後6時間で平均3.3mmHg(p<0.01),点眼後12時間で平均3.5mmHg(p<0.01)の有意な眼圧下降効果が得られた.眼圧下降率でも,点眼後6時間,12時間で前日同時刻と比べそれぞれ24.2%,26.5%の有意な眼圧下降が得られた(図2).今回の単回点眼では,充血は認められるものの,角膜びらん,眼瞼の紅斑腫脹,前房内炎症は全く認められなかった.図2点眼後時間と眼圧下降率眼圧下降率点眼後時間図1点眼後時間と眼圧眼圧日目点眼日目時点眼*<0.0113.9**トラバタンズ?点眼後の時間(hr)12———————————————————————-Page3968あたらしい眼科Vol.26,No.7,2009(102)III考按トラボプロストは,先行のラタノプロストと同様のプロスタグランジン(PG)関連眼圧下降薬であり,PGF2aイソプロピルエステル誘導体で,15位の炭素差の水酸基が保存された,いわゆるプロスト系点眼薬に属し,すでに欧米で上市されている.プロスト系点眼薬は正常人および緑内障患者ともに有効な眼圧下降を示し,第一選択薬となっている.トラボプロストとラタノプロストの緑内障および高眼圧症患者を対象にした眼圧下降効果を比較したメタアナリシスの報告2)では,ともに点眼後のトラフ値,ピーク値でラタノプロストが28%,31%,トラボプロストが29%,31%(トラフ値,ピーク値)と同様な眼圧下降を呈することがわかっている.ただし,これらのメタアナリシスの解析に用いられた報告はトラボプロストについてはBAK含有点眼薬であり,最近わが国で発売されたBAK非含有,SofZiaR含有点眼液での報告はない.そこで,今回初めてBAK非含有トラボプロスト0.004%点眼液(トラバタンズR0.004%点眼液)の日本人健常眼に対する単回点眼による眼圧下降効果を,日内変動を考慮し評価した.トラボプロストの開発時に,同じく日本人健常眼に対して米国で行われたBAK含有トラボプロスト朝1回点眼による眼圧下降の推移に関する報告では,12時間で3.8mmHgの最大眼圧下降が得られ,24時間に至るまで持続的な眼圧下降が得られた(トラバタンズRの厚生労働省医薬品審査機構申請概要より).この際のBAK含有トラボプロスト点眼による眼圧下降データは朝の点眼前をベースラインとした眼圧下降の評価であり,日内変動が含まれており,一般に眼圧は夕方にかけて下降することから,この眼圧下降値は,過大評価している可能性がある.その点で,前日同時刻を比較することにより日内変動の影響を抑制した本評価方法はより薬剤単独での眼圧下降効果を反映した評価方法と考える.その結果,BAK非含有トラボプロスト点眼は,点眼後12時間で3.5mmHg(26.9%)の眼圧下降を呈し,前述の3.8mmHgとほぼ同等であることから,BAK含有点眼薬と少なくとも同等の眼圧下降作用がみられたと解釈できた.したがって,防腐剤が変わりBAK非含有となっても,眼圧下降には影響ないと考えられた.また,現在広く用いられているBAK含有ラタノプロストの日本人健常眼に対する眼圧下降効果と比較しても同等な効果が得られた3,4)ことからも,BAK非含有トラボプロストはラタノプロストと同様な眼圧下降効果を有すると思われる.すでに,海外欧米人における原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした,BAK含有および非含有トラボプロスト点眼による眼圧下降効果には差がないことが報告されており5),今回,日本人健常人を対象にしたBAK非含有点眼においても,BAK含有点眼薬と同等以上の眼圧下降効果がみられたことから,日本人緑内障患者においてもBAKの有無にかかわらず,トラバタンズR0.004%による眼圧下降効果が期待できる.緑内障患者は点眼薬を長期にわたり多剤併用することが多く,点眼液の主剤のみならず防腐剤を含めた基剤も複雑に影響して眼表面への副作用を惹起しやすい状況におかれていると考えられる.今回の検討は,日本人健常眼に対する単回点眼であり眼表面および前房への評価期間としては短いことから定性的評価しか行わなかった.したがって,最も使用されている防腐剤のBAKやトラバタンズR0.004%に初めて導入されたSofZiaRのようなイオン緩衝系薬剤の眼表面への是非については今後長期点眼試験で十分検討する必要がある.さらに長期的な眼圧下降評価も,健常眼のみならず緑内障患者を対象に,また他剤との組み合わせにより十分に評価することが今後の課題である.文献1)LiuJH,KripkeDF,HomanREetal:Nocturnalelevationofintraocularpressureinyoungadults.InvestOphthalmolVisSci39:2707-2712,19982)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringeectsofallcommonlyusedglauco-madrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)廣石悟朗,廣石雄二郎:ラタノプロスト点眼とイソプロピルウノプロストン点眼による正常人視神経乳頭循環への影響.眼臨100:303-306,20064)南雲日立,萩原直也:ラタノプロスト点眼による夜間の眼血流量と眼圧の変化.臨眼57:483-485,20035)LewisRA,KatzG,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalconiumchloride:acomparisonofsafetyandecacy.JGlaucoma16:98-103,2007***