———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSって診て貰ったがどこも異常はないと言われた.けれども良くならない」とか「眼科では異常がないと言われたので,内科に行って頭のMRIを調べてもらった.けれでも問題ないと言われた」といったような患者がよく訪れる.特にしかるべき施設で,しかるべき検査をされていたりすると,さらに自分は何を検査をすればいいのか考えてしまうようような場合もある.本稿では「眼の奥の痛みへの対応」ということなので「眼痛」をきたす疾患の鑑別よりも,「眼の奥の痛みを訴えて来院し,明らかな眼科的異常所見が認められないような症例に遭遇したときに,その症例に対してどのようにアプローチをし,どのように接すればいいか」といったことに重点を置いて述べ,読者諸氏の日常の診療の一助になれば幸いである.I診察の手順1.アプローチその1表1に「眼の奥の痛み」と表現される原因となる病態を示した.「眼の奥の痛み」を訴える症例に対して眼科医がまず最初にとるアプローチは眼疾患の有無である.まずは表1の1)4)までを念頭においてチェックする.緑内障の有無,ぶどう膜炎や虹彩炎などの眼球の炎症所見の有無,屈折異常や眼位異常,調節機能異常などによる眼精疲労やドライアイの有無などに留意し検査を行い,原因と考えられる所見が認められればそれに対するはじめに日々の外来診療において「眼の奥の痛み」はきわめてありふれた主訴であるが,いちばん眼科医を悩ませる主訴の一つでもある.視力検査,細隙灯検査による前眼部・中間透光体所見や眼底検査において,原因となる所見が認められればいいが,標準的な眼科検査で異常が見つからないと単なる眼精疲労やドライアイと診断して様子をみてしまうケースが少なくないのではないだろうか.実際「眼の奥の痛み」を主訴に来院される多くの症例で眼精疲労やドライアイが認められるのも事実である.しかしながら,「眼の奥の痛み」を訴えて来院される症例のなかには,視神経炎による眼球運動痛であることもあれば眼窩内に炎症が認められる場合や蓄膿症が原因であることもある.まれではあるが動脈瘤など重大な病気が潜んでいる場合もあり注意が必要である.さらに診断をむずかしくする要因としては,眼痛の訴えに対して痛みの度合いを客観的に評価する手段がないうえに,訴えの程度も個々の症例の主観に大きく左右されるため,病的な所見ととっていいのかどうか判断がむずかしい.痛みを訴える症例の全例において心配だからといって動脈瘤の可能性まで考えてMRA(磁気共鳴血管撮影法)やMRI(磁気共鳴画像)を検査することは現実的な問題として無理がある.したがって個々の症例に対しどこまで検査をすればいいのか専門家でも迷ってしまうのではないだろうか.神経眼科の外来を行っていると,「眼の奥に痛みがあ(63)1613*HisaoOhde:鴨下眼科クリニック〔別刷請求先〕大出尚郎:〒106-0032東京都港区六本木7-15-14塩業ビル4階鴨下眼科クリニック特集とっても身近な神経眼科あたらしい眼科24(12):16131617,2007眼の奥の痛みへの対応ManagementofDeepOcularPain大出尚郎*———————————————————————-Page21614あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(64)の場所と範囲は眼の奥の比較的限局した範囲で側頭部や後頭部などに及ぶことはない.眼球を動かすと増強する眼球運動痛は比較的特徴的な所見である.視力低下や視野欠損などの症状より何日か先行して起こるが,痛みの訴えとほぼ同時にMarcusGunn瞳孔/RAPD(relativeaferentpupillarydefect)が認められる.痛みの程度はマイルドであるが非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAID)の効果は不十分で,ステロイドにはよく反応する.眼球運動痛を認めるが視力低下や視野障害が認められない段階での対応MarcusGunn瞳孔が陽性であれば,視神経炎をはじめ視神経障害があると判断して説明をする.視力低下や視野障害がなくても,数日中に急激に見えなくなることがあるため,説明なしで様子を見ましょうとすると信頼を失うことがある.1.視神経の炎症が起こっている可能性が高く,12週間以内に視力低下や視野障害をきたす可能性があることを説明する.2.視神経への障害の原因を調べるため脳波(VEP)やMRIなどの検査を行ったほうがよいと説明する.3.開業であれば,検査できる施設へ紹介すると説明する.筆者はこの時点で検査入院を勧めるが,「この程度で入院なんて」と感じる患者もいるため,「視力低下などがまだないうえ,安静にしているだけで良くなってしまうこともあるので,通院で検査予定を組みましょうか」と促すことが多い.その際,「経過中に視力低下が認められれば様子をみずにすぐに連絡をして欲しい」と付け加えておく.この場合,視神経の造影MRI検査を対策や加療を行うのが通常であろう.この場合,その後の経過において治療効果の確認を必ず行うことが大切である.たとえば,ドライアイに対してヒアルロン酸点眼液を処方して,その後の経過にて眼痛の訴えがなくなったかどうかを確認することが大切である.特に眼精疲労によると思われる眼痛の場合など,眼精疲労の原因は一つであることよりもいくつかの原因が複合的に重なってひき起こされていることが多いからである.2.アプローチその2標準的な眼科検査(視力検査,眼圧検査,細隙灯検査による前眼部・中間透光体所見,眼底検査など)において原因となる異常が認められない場合は,外眼筋炎や視神経炎や副鼻腔炎などの球後における病変の有無や表1の5)7)の病態を想定して検査を進めていくことになるが,実際の検査の予定を立てる前に改めて「痛みの特徴」につき詳細な問診を行い,病態の把握に努め検査の項目と優先順位を決めていく.表2は,「眼の奥の痛み」を訴える場合の問診事項を示した.ここに示した1)7)の事項は痛みの原因となる病態の把握と緊急性の有無の判断を行ううえでいずれも重要な要素となる.以降,具体的な疾患をあげその痛みの特徴と対応について示す.II球後視神経炎球後視神経炎ではその半数以上で眼痛を訴える.痛み表1「眼の奥の痛み」と表現される原因となる病態)眼圧(内障))眼球およ眼球の炎症(炎,膜炎,眼炎,眼炎,副鼻腔炎))眼精労(,,眼およ眼球運動,症候群))ア)神経症状による頭痛眼痛(視神経炎,三叉神経痛,帯状疱疹による神経痛,症候群))脳血管障害による頭痛(動脈瘤,くも膜下出血,動静脈(),脳血発,側頭動脈炎))一次性頭痛(片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛))心因性,精神神経性,ストレス,過労,不眠表2「眼の奥の痛み」を訴える場合の問診事項)痛みの場と)痛みの性(い痛み,い痛み,るよな痛み,眼球運動痛,動性な))痛みのト(急性性,以らっ痛み,近起こっ痛みな))痛みの続(一過性続性,続な))痛みの性の)痛みの因の(運動,事,過労な))痛み以の症状(,力,,しれ,めい,り,こりな)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071615(65)V副鼻腔炎慢性的な眼窩深部痛の原因として鑑別上重要な疾患の一つである.非ステロイド系の消炎鎮痛剤や抗生物質の内服が一時的に奏効するが,くり返すことが多い.ときに吐き気を伴うほどの激しい眼窩深部痛を訴えることがある.眼窩,副鼻腔のCT(コンピュータ断層撮影)をとれば副鼻腔炎の存在を確認することができる.注意すべき点は,眼痛を含め鼻性視神経症や鼻性眼球運動障害など眼症状を呈する副鼻腔炎は,副鼻腔内に占めるボリュームの大きさが問題となるのではなく,どこにあるかが重要である.非常に小さな病変でも眼窩壁に接して後部篩骨洞や蝶形骨洞に存在する場合は原因となることが多い.治療は副鼻腔内の掻爬であるが,この部分を残すと症状の改善が得られない.しかしながら,この位置の掻爬は,手術に伴うリスクも大きいため副鼻腔を専門とする耳鼻科医と十分に連携をとって行うほうがよい.VI海綿静脈洞炎,TolosaHunt症候群亜急性,慢性の眼窩深部痛を主訴に受診する.多くの場合は眼球運動障害を伴う.動脈瘤との鑑別が重要である.VII脳血管障害による頭痛動脈瘤,くも膜下出血突然の頭痛または眼痛,眼瞼下垂,瞳孔不同,眼球運動障害などを認めた場合は,まず最初に動脈瘤の存在を疑うべきである.訴えとしては,「何月何日何時に何をしているときに起こった」といった具合にオンセットがかなりはっきりしていることが特徴である.なかでも動眼神経麻痺による瞳孔不同が認められる場合は,その時点で脳外科医にコンサルトするべきである.むずかしいのは頭痛や眼痛のみの場合である.動脈瘤によるくも膜下出血は本格的な発作を起こす数日前に,前兆となる軽い頭痛がくり返されることがある.後頭部を拳で軽くぶたれたような痛みで,しばらくすると治ってしまう.強いて特徴をあげるとすれば,断続的にくり返して起こるため,片頭痛と間違われることがある.最も優先して考えるとよい.実際,ステロイドパルス療法の適否を決めるにあたり画像検査,髄液検査,採血はぜひ行っておきたい検査で,視神経炎の発作が明らかとなれば入院加療に切り替える.III帯状疱疹ヘルペス片側の三叉神経の支配領域に一致した範囲で押さえつけられるような痛みを訴える.痛みの程度は激しいものから軽度なものまでさまざまである.典型的な発疹に数日先行して痛みを訴える.眼窩周囲のみならず頭皮まで観察し発疹が発見できれば診断は可能であるが,発疹が認められなければ診断はむずかしい.ときに発疹より先に眼瞼の浮腫だけが認められるような時期があり麦粒腫や眼瞼炎と誤診されることがある.よく診察を行うと麦粒腫の場合は主として圧痛が目立ち,痛みの範囲も浮腫の範囲に限局しているのに対し,ヘルペスの場合は眼窩上縁や眼の奥など必ずしも浮腫の部分と一致しない.しかしながら,わかっていながら気がつかないことがあるのがヘルペスである.数日以内の経過で片側の三叉神経支配領域の痛みを訴える症例への対応1.ヘルペスも,その可能性について説明がなされていたかどうかで,診察医に対する信頼度が大きく変わる疾患である.2.ほんの少しでも可能性が疑われる場合,抗ウイルス薬を使わずともヘルペスの可能性について一言でも触れておけば,その後の医師患者関係は非常に良好な関係が保たれる.この場合,患者には発疹が少しでも出てくるようであればすぐに受診するように伝え,“ヘルペスのお薬は診断が確実になったらすぐに使いましょう”と説明しておけばよい.IV原田病原田病はぶどう膜炎,難聴,頭痛が有名であるが,頭皮の異常感覚で受診することがある.具体的には頭ないしは髪の毛をさわられると痛いとか,ピリピリするといった症状であるが,患者の訴えとしては頭が痛いといって受診する.———————————————————————-Page41616あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(66)機能性の頭痛であるので,MRIなどの画像検査では異常を示さない.1.片頭痛(図1)3日から30日の間隔で間欠的に起こるズキズキとした脈打つような痛み.痛みの持続は数時間から3日.頭痛の範囲は頭の片側に偏って起こる.頭痛が起こる前兆として閃輝性暗点を認める.眼科には眼痛よりも閃輝性暗点で受診することが多い.誘発因子:光刺激,騒音,人ごみ,寝不足,過労,食べ物(赤ワイン,チーズ,チョコレートなど).2.緊張性頭痛(図2)頭全体ないしは後頭部を締め付けられるような持続性の痛み.肩こりや眼精疲労などを伴うことが多い.誘発因子:精神的ストレス,肉体的ストレス,VDT(visualdisplayterminal)作業,過労など.3.群発頭痛(図3)12カ月の間ほぼ毎日集中して起こる.1年間のうち最近になって断続的に頭痛がくり返されるといった場合は,動脈瘤も念頭におく必要があると心得ておいたほうがよい.動脈瘤だけは,明日破裂するのか1カ月後に破裂するのか予測することは困難で,もし可能性を疑った場合は眼科医が抱え込まずに脳外科の手にゆだねたほうがよい.急性発症で断続的にくり返し起こる後頭部痛を訴える症例への対応瞳孔異常や複視の有無,眼球運動障害などの有無は必ず確認をして,もし異常所見が認められれば,まずは脳外科への受診を勧め動脈瘤の有無につきコンサルトする.動脈瘤が否定的であれば眼科的な原因精査に努めるようにしましょうと説明する.眼痛以外に症状が認められない場合でも,情報として頻度は高くないかもしれないが動脈瘤の可能性は否定できないことを伝え,患者の希望に沿って脳外科へコンサルトするようにしている.VIII一次性頭痛(片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛)一次性頭痛は慢性の頭痛で,器質的な疾患を有さない1カ月図1片頭痛1カ月の間に数回の間隔で頭痛をくり返す.片側の頭痛.1カ月図2緊張性頭痛頭全体を締め付けられるように持続性の痛みがある.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071617つ病などから「眼の奥の痛み」を感じる症例がある.眼精疲労とは違い眼を使わなくても症状は改善されない.元の原因が解決されないとなかなか症状の改善が得られない.診断は除外診断で器質的疾患や機能的頭痛ではないことを確認する.詳細な問診は問題発掘の一助になる.このような症例に対しては,眼には心配な病気はないことを伝え,十分に休養をとることが大切であろうと説明をする.このような症例のなかには,頸椎症,頸椎捻挫,低髄圧症候群などの器質的疾患を合わせもつものがある.特に事故や第三者行為などによる場合は,心的なストレスと重なって訴えが増強されてしまうことがある.このような症例では器質的な障害をきちんと評価してあげることにより,心的なストレスを軽減できることがあり,症状が緩和されることがある.おわりに以上のように「眼の奥の痛み」という訴えは非常にポピュラーでありながら,その原因は多岐にわたり,心配のないものから重大な疾患が隠れている場合までさまざまである.なかでも動脈瘤の切迫破裂など緊急性の高い状態が紛れている場合があるため,安易な説明をしていると後に痛い目に遭うことがある.かといって全例にシビアな説明をするわけにもいかず,われわれ診察医にとって対応のむずかしい訴えの一つであろう.筆者がいつも心がけていることは,問診のなかで患者の訴えが「痛みを治してほしい」ということに重きがあるのか,「痛みの原因を調べてほしい」ということに重きがあるのかを考えるようにしている.後者の場合,重大な病気が隠れているのではないかという不安から受診しているものと察し,「ひと言添える」だけでも良好な医師患者が築けるものではないかと思う.参考文献1)日本頭痛学会新国際頭痛分類普及委員会編:国際頭痛分類第2版日本語版.日本頭痛学会誌31:46-51,2004(67)発作が起こる時期は個々の症例でだいたい決まっている.痛みの持続は15分から3時間.頭痛の範囲は,片側の眼球の奥の激しい痛みとともに充血,流涙,鼻水を伴う.時期が過ぎれば自然に消失する.アルコールは頭痛発作を誘発する.一次性頭痛は,前述したとおり眼の症状を訴えて眼科を訪れることもしばしばである.このため,眼科医も各々の頭痛の特徴につき理解しておくとよいであろう.頭痛のパターンを把握する目的で患者に頭痛が起こった日時や持続時間,特徴など日記(頭痛日記)をつけてもらうようにしている.これをすることにより,診察医が頭痛のパターンをより把握しやすくなると同時に,患者自身も誘発因子やどんな体調のときに起こるかなど自分の頭痛のパターンを理解することができる.IX心因性,精神神経性,ストレス,過労,不眠,その他(頸椎症,頸椎捻挫,低髄圧症候群)心的なストレスや肉体的なストレス,過労や不眠,う1年図3群発性頭痛年に23回,集中的に毎日頭痛がくり返される.片側の眼球の奥の激しい痛みと充血,流涙,鼻水を伴う.