———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.11,200815390910-1810/08/\100/頁/JCLS暇ですが,夜になると,さまざまな患者さんが来院します.救急外来を受診する患者さんの症状は,コンタクトレンズがとれないと受診する軽症のものから眼内炎,網膜離,眼窩底骨折,眼球破裂,アルカリ・酸外傷などさまざまです.そのたびに眼科救急の本をめくりながら患者さんが病院に到着する前に必死で調べています.当初は割れたハードコンタクトレンズの場所がわからないため待機の先生に電話して自宅から来てもらったこともありました.最近では1人で次の日まで大丈夫かどうかをなんとか判断できるようにはなりましたが,自分の処置や判断が間違っていないかいつも不安です.再診の時に受診してもらい,上級医と一緒に診察して良くなっていることを確認してほっとしています.アイバンク当直アイバンク当直とは献眼の意思がある方がお亡くなりになった際,時刻に関係なく眼球摘出に行くというものです.自分が初めて行ったのは5月中旬でした.タクシーで2時間かけて岐阜県明智町の献眼提供者宅まで1人で摘出に向かいます.4月に1回オーベンの先生と真夜(69)岐阜大学眼科学教室では,この4月に後期研修医としてわれわれ2名が入局しました.山本哲也教授をはじめ,各専門分野の先生の指導を受けながら多忙ですが,楽しく,充実した研修生活を送っています.今回は眼科医として入局してからこれまでの半年を振り返って日々の仕事内容や印象深かったことを報告してみたいと思います.病棟業務病棟業務はおもに手術後の患者さんの診察です.毎朝7時30分から回診が始まり,上級医の先生が診察する前に病棟の患者さんの眼圧を測定したり細隙灯で所見を取り,その後,上級医と一緒に診て自身の所見との違いをフィードバックしています.眼科医として最初の難関は眼圧測定でした.初期研修時の4月の点滴と同じくらい眼圧測定が憂鬱でした.上級医との眼圧測定値の違いが誤差範囲(自分の中では12mmHg)ではなく,さらに何回もアプラネーションを当て,角膜にびらんを作り患者さんに迷惑をかけ上級医に叱られていました.「眼圧なんてNCTでいいよ」と何回思ったことか…(教授に怒られますが).最近になりほぼ正確に測定できるようになりましたが,まだまだ修練中です.眼底も最初は全然見えなく上級医がさっと見て診断しているのを見て「本当に眼底見えているの?」と思ったりもし,実は「眼科医として自分は向いていない」と何回も思いました(今では普通に見えます.といっても網膜離術後でガスが入っているとまだしっかり見えませんが…).門前の小僧習わぬ経を読むという言葉があるように自然にできるようになるかと思っています.当直5月から当直業務が始まりました.前日の当直の先生から17時にPHSを受け取ります.19時ぐらいまでは後期臨床研修医日記●シリーズ⑧岐阜大学医学部眼科学教室小森伸也名倉章敏▲外来での診察風景(左より,名倉,山本哲也教授,小森)———————————————————————-Page21540あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(70)分が経験したのは最初の外勤の日に,昨日から眼が赤いとのことにて受診した患者で,角膜に潰瘍があり,表現が難しいですがブヨブヨしていやーな感じ?がして上級医に相談.市民病院へ行ってもらいましたが,アカントアメーバ角膜炎の可能性があるとのことにて大学病院でPCRを試行し確定診断した症例もあり,あなどれません.軽症のなかに重症が紛れていることもあるので毎回外勤時はヒヤヒヤしています.学会発表今年の10月に新人であるにもかかわらず,緑内障学会で口頭発表させていただきました.甲子園に出場していない投手が初先発で巨人戦に登板する感じです.大方の予想通り,見事(?)に壇上死をして参りました.壇上に上がると聴衆の数が多く緊張しまくり頭が真っ白になりました.7分間justの原稿を用意したのに赤ランプがつき後1分となってあせり,早口になりぎりぎり終わる.ほっとしていると質問の嵐が….何を聞かれているのかまったく理解できず,黙ってしまい共同演者に助けてもらいました.いろんな意味でいい経験ができました.後2年くらいは発表時に壇上死するかも知れませんので,学会で自分を見かけたらお手柔らかにお願いします.おわりに眼科医になって思ったのは,世間で言われているような楽な科ではないということです.手術も繊細ですし,実際治るのは白内障だけで治らない病気がたくさんあることがわかりました.眼科医にとって自身が見た眼底,細隙灯所見がすべてです.所見を見逃さないように頑張ります.名医にならなくてもいいので良医になることを目標に努力していきます.(小森伸也)眼科経験の日がまだ浅くわからないことだらけですが,まず,的確な診断ができることです.そして早く手術の執刀ができるように努力します.今後,多忙ながら充実した研修生活を過ごしていきたいと思います.(名倉章敏)中に一緒に行き教えていただきましたが,今回は自分独りです.「手順がわからないぞ??」必死にタクシーの中で教科書を読み,いざ,御対面.開瞼器をかけ結膜を離した後,4直筋に糸をかけ,眼球を脱臼させ,視神経,結合組織を切除し,摘出,眼瞼を縫合して終了と行きたかったのですが….結合組織を離し,脱臼させようと直筋にかけたはずの糸がいざ脱臼させて引っ張りあげたらプッツリと糸が切れて,眼球が….「どうしよう??」角膜だけでも無事に持ち帰らないといけないし,指を入れ眼球をつかみ出し曲がり尖刀で視神経を切り,無事に摘出しました.両眼摘出し帰路につけたのは1時間後でした.大学に戻り,角膜切片をつくり,ほっとして自宅に戻ります.翌日から忙しい毎日が続きます(あれから4回経験し今は普通にできますが).当直がない日は1年目は毎日アイバンク係なので上級医と飲みに行っても実際にはお酒が飲めないのが少し不満です.(名倉章敏)初診外来5月下旬から初診外来を週3日しています.岐阜大学病院は緑内障をメインに各専門分野の外来があります.初診は1日3040人前後の患者さんが大体,紹介状を持参し来院します.来院される患者さんを各専門分野の先生に振り分ける役目が初診係です.紹介されてくる患者さんは全体的に緑内障が多いですが,斜視,ぶどう膜炎,角膜疾患,眼窩腫瘍,網膜疾患などバリエーションに富んでいます.紹介状を持参する患者さんの場合は,病名疑いがついているのでその疾患を疑って検査をオーダーすれば良いのに比べ,紹介状がなく来院される患者さんの場合は,結膜下出血など簡単な疾患もありますが,眼脂で来院した患者さんでMALTリンパ腫が見つかったり,異物感で来院したら東洋眼虫症であった患者さん,視力低下で来院され細隙灯を診るとKP多発?ぶどう膜炎と思い専門外来に振り分けると顆粒状角膜変性症だったり,と毎日失敗と勉強の連続です.自分の知識が全然追いついていないのが実状です.今日も勉強をしなければと思いながら,教科書は開けますが意思が弱いのですぐ寝てしまいます.外勤10月に入りようやく週1日外勤が始まりました.田舎の病院に行き診察しますが,大学病院ではなかなかお目にかからないcommondiseaseをたくさん診ます.そのなかにたまに大物がひそんでいることがあります.自?プロフィール?小森伸也(こもりしんや)藤田保健衛生大学卒業,藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院にて初期研修,平成20年4月より岐阜大学医学部眼科学教室前期専攻医.名倉章敏(なぐらあきとし)島根医科大学卒業,名古屋第一日赤病院にて臨床研修,平成20年4月より岐阜大学医学部眼科学教室前期専攻医.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081541(71)教授からのメッセージ「刮目して相待つべし」研修医はすべての可能性を秘めたいわばiPS細胞です.将来,大きな眼科病院の大院長先生になるかもしれないし,世界的に権威のある偉大な研究者になる可能性もあるのです.今年の新人研修医二人には眼科学に貢献できる優れた医師になることを期待しています.三国志の呉の将軍,呂蒙にこんなエピソードがあります.遊びほうけていた呂蒙が孫権(主君)から書物を読むように言われしばらくたったときのこと.先輩将軍の魯粛と議論になって論破したとき魯粛は思わず「あなたは昔のあなたではない」とつぶやく.それに対して,若い呂蒙曰く,「三日たったらヒトは変わっているのですよ」.そうなのです.ヒトは努力で進歩するのです.1カ月後には,現在より知識がある,技能がある,2カ月後には手術ができる,等々.今が勉強のときなのです.頑張ってください.私も楽しみです.岐阜大学大学院医学系研究科眼科学・教授山本哲也☆☆☆