———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.11,200715090910-1810/07/\100/頁/JCLS近ではこれらに代わる薬剤として,bevacizumab(商品名:AvastinR)が注目されている.Bevacizumabは抗ヒトVEGFモノクローナル抗体そのものであり,これまで結腸癌による転移性腫瘍に対する抗癌剤として静脈注射の形でその効果が確認されている1).眼科領域では,2005年にRosenfeldらがbevaci-zumabの硝子体内注入が加齢黄斑変性や静脈閉塞による黄斑浮腫の治療に有効であることを報告して以来2,3),最近ではこれらの疾患に限らず,血管新生や血管透過性亢進に関連したさまざまな網脈絡膜疾患への投与が試みられている.ただし,bevacizumabは眼科疾患の治療には未承認薬剤であるため,いわゆる“o-label”の使用である.実際の使用方法現在bevacizumabの硝子体内投与が試みられている疾患として,増殖糖尿病網膜症,血管新生緑内障,糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫,滲出型加齢黄斑変性,近視性血管新生黄斑症や特発性脈絡膜新生血管などがあげられる46).具体的な硝子体内投与の手順は一般的な硝子体内薬剤投与のガイドラインに準ずる.すなわち,術野消毒ならびに点眼麻酔の後,bevacizumab(11.25mg/4050μl)を毛様体扁平部より29あるいは30ゲージ針を用いて注入し,投与後に眼圧チェックならびに視神経乳頭血管の拍動の有無を確認して終了する.なお,当該薬剤は眼科治療の適応外使用であるため,bevacizumab治療を行うには事前に所属施設の倫理委員会もしくはそれに準ずる部署による承認を得ること,患者本人に対してインフォームド・コンセントを得ること,さらには長期的な安全性に留意することが必要不可欠である.代表症例を以下に示す.新しい治療と検査シリーズ(99)バックグラウンド眼科疾患の多くは血管新生が病態の主因となっている.とりわけ,角膜,水晶体,硝子体のような無血管組織ではその透明性を維持することが視機能を保持するうえできわめて重要であり,新生血管の侵入や出血によってこれら組織の透明性が損なわれると視機能が著しく障害される.したがって,血管新生を効果的に抑制することが大多数の眼疾患に共通の治療目標であるといっても過言ではない.血管新生を促進させる重要な生理活性因子として血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が1980年代に腫瘍細胞から単離・同定された.分子量約40kDの分泌型蛋白質であるVEGFは,受容体に結合することにより血管内皮細胞に特異的に作用し細胞の増殖や遊走を促進することで新生血管が形成される.VEGFは腫瘍塊の栄養血管形成に限らず,増殖糖尿病網膜症や加齢黄斑変性をはじめとする多くの眼科疾患の病態に深く関与している.このような背景から最近ではVEGFの生理活性を抑制することによって血管新生の退縮を図る新しい治療法として,抗VEGF療法が脚光を浴びている.新しい治療法眼科疾患に対する抗VEGF療法の主要薬剤(VEGF阻害薬)として開発されたものにはVEGF165を選択的に阻害するアプタマー(標的蛋白質と特異的に結合する核酸分子)であるpegaptanib(商品名:MacugenR)と抗ヒトVEGFモノクローナル抗体のFab断片であるranibizumab(商品名:LucentisR)がある.いずれの薬剤も滲出型加齢黄斑変性の原因である脈絡膜新生血管に対する治療薬としてアメリカ食品衛生局の承認を受けているが,反復投与が必要なうえに非常に高価なため,最176.Bevacizumab(AvastinR)プレゼンテーション:島千春大島佑介大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室コメント:近藤峰夫名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座———————————————————————-Page21510あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007【症例1】増殖糖尿病網膜症による網膜新生血管48歳,女性.20年来の糖尿病を無治療で放置していた.両眼の視力低下を主訴に当院受診.初診時視力は右眼:眼前手動弁(矯正不能),左眼:(0.8)であった.右眼は硝子体出血のため手術加療を計画し,左眼は増殖糖尿病網膜症に対してまずbevacizumabの硝子体内投与を行い,汎網膜光凝固術の施行を計画した.Bevaci-zumab投与前(図1a)および投与1週間後(図1b)の蛍光眼底造影写真を示す.【症例2】血管新生緑内障43歳,男性.増殖糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術を施行したにもかかわらず,眼痛を主訴に再診し,右眼の眼圧57mmHg,虹彩縁に虹彩新生血管を認めた.蛍光眼底造影検査の結果,虹彩新生血管から著しい蛍光漏出(図2a)が認められ,bevacizumabの硝子体内投与を行った.1週間後,右眼の眼圧は25mmHgに下降し,蛍光眼底造影検査の結果,虹彩新生血管からの蛍光漏出はほぼ消失している(図2b).(100)図1増殖糖尿病網膜症の網膜新生血管に対するbevacizumabの硝子体内投与(症例1)右眼耳上側の網膜新生血管(a).投与1週間後には新生血管からの蛍光漏出は著明に減少するのみならず,新生血管そのものが退縮した(b).ab図2血管新生緑内障に対するbevacizumabの硝子体内投与(症例2)虹彩新生血管からの蛍光漏出がみられる(a).投与1週間後の蛍光眼底造影検査では虹彩新生血管の描出と蛍光漏出がみられなくなっている(b).ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071511本法の利点Bevacizumabの硝子体内投与の最大の利点は,新生血管の退縮に即効性を示すことにある.ほとんどの疾患では投与後数日から1週間以内に新生血管や黄斑浮腫が消退する.開放隅角期にある血管新生緑内障では,一時的とはいえ眼圧が著明に下降する症例も存在する.したがって,硝子体出血のために汎網膜光凝固がすぐには施行できない活動性の非常に高い増殖糖尿病網膜症や濾過手術を必要とするも術中出血の危険性が懸念されるような血管新生緑内障では,bevacizumabの硝子体内投与によって病勢を一時的に抑える緊急避難的な使い方や術中出血などの合併症の危険性を回避する手術治療の補助手段としての有効性が期待できる.また,脈絡膜新生血管や黄斑浮腫に対する治療にも,再発という問題点はあるものの有効例では視力改善に寄与できる治療法である点でメリットが大きい.ただし,bevacizumabの持続効果は1数カ月単位のものであり,反復投与しない限り,再発の可能性は高い.したがって,増殖糖尿病網膜症や血管新生緑内障などの疾患では根治治療としての網膜光凝固術や濾過手術などの手術加療との組み合わせが必要不可欠と考える.文献1)YangJC,HaworthL,SherryRMetal:Arandomizedtrialofbevacizumab,ananti-vascularendothelialgrowthfactorantibody,formetastaticrenalcancer.NEnglJMed349:427-434,20032)RosenfeldPJ,MoshfeghiAA,PuliatoCA:Opticalcoher-encetomographyndingsafteranintravitrealinjectionofbevacizumab(Avastin)forneovascularage-relatedmacu-lardegeneration.OphthalmicSurgLasersImaging36:331-335,20053)RosenfeldPJ,FungAE,PuliatoCA:Opticalcoherencetomographyndingsafteranintravitrealinjectionofbev-acizumab(Avastin)formacularedemafromcentralreti-nalveinocclusion.OphthalmicSurgLasersImaging36:336-339,20054)AveryRL,PearlmanJ,PieramiciDJetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)inthetreatmentofproliferativediabeticretinopathy.Ophthalmology113:1695.e1-15,20065)OshimaY,SakaguchiH,GomiFetal:Regressionofirisneovascularizationafterintravitrealinjectionofbevaci-zumabinpatientswithproliferativeretinopathy.AmJOphthalmol142:155-158,20066)GomiF,NishidaK,OshimaYetal:Intravitrealbevaci-zumabforidiopathicchoroidalneovascularizationafterpreviousinjectionwithposteriorsubtenontriamcinolone.AmJOphthalmol143:507-510,2007(101)☆☆☆本治療に対するコメント現在の網膜硝子体分野における話題の中心は,やはりbevacizumab(AvastinR)である.糖尿病,加齢黄斑変性,血管閉塞性疾患などの多くの難治性の疾患にこれほど速く,かつ強力に効いた外来治療がこれまでにあったであろうか.AvastinRが網膜硝子体分野の革命的治療といわれている所以である.眼科適応薬剤でないにもかかわらずAvastinRがここまで短期間に世界中に普及したもう一つの理由は,やはりその低コストにあるだろう.わずか0.040.05mlを注入するだけでよいので,バイアルを小分けして使用すれば1回の注射はわずか数千円で済んでしまう.これならば研究費で十分負担できる.AvastinRの高い有効性ばかりが強調される昨今であるが,(効果的な新薬の多くがそうであったように)今後は必ずその副作用や再発などの報告が増加してくることは間違いない.流行に振り回されずに,冷静に長期的な成績を検討していく姿勢が必要であろう.それにしても,硝子体注射ではなくてTenon下投与が可能で,しかも半年間以上効果が持続するような新しい抗VEGF(血管内皮増殖因子)剤は開発されないであろうか.この分野の治療のさらなる発展に期待したい.