———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???0910-181008\100頁JCLS神経保護治療は急性脳虚血性疾患である脳梗塞や慢性神経変性疾患であるParkinson病やAlzheimer病などによる神経変性を保護する治療として位置づけられています.中枢神経の一部である眼科領域でも神経保護治療の有用性が注目されていますが,現在その目的に見合った治療,薬剤はありません.本稿では,中枢領域での神経保護治療を総括し,眼科神経保護治療の現状についてまとめました.中枢領域における神経保護治療脳梗塞急性期の治療はおもに抗血栓治療による脳血流の循環改善が行われていましたが,近年虚血障害を受けた神経細胞に対して神経保護治療が行われるようになりました.脳梗塞は失命率の高さ,疾患の重要性から盛んに基礎研究が行われ,さまざまな薬剤が治験に入っています.フリーラジカルによる細胞障害を抑制する目的でエダラボン注射薬が使用されていますが,発症から治療までの時間と虚血の程度で予後が左右されるため治療の有用性を示すのはむずかしいのが現状です.最近ネクロプトーシスという新しい細胞死が定義され,その特異的インヒビターが薬剤スクリーニングからみつけられました1).その薬剤は動物の脳梗塞モデルで梗塞巣を有意に縮小させることに成功し,臨床治験予定です.この大きな発見が失明に至る虚血性眼疾患(網膜中心動脈閉塞症,急性緑内障発作など)に奏効する可能性があり,眼科領域に応用する意気込みをもつことこそわれわれ眼科医の任務であると考えます.Alzheimer病の病態は基礎研究からアミロイドカスケード仮説によって一元的に説明できると支持されています.Alzheimer病患者の死後脳において,特異的にコリン作動性神経の障害が明らかにされ,アセチルコリンを補充する目的でアセチルコリンエステラーゼ阻害作用をもつ塩酸ドネベジルが誕生しました.現在日本ではドネベジルのみが認可されていますが,グルタミン酸毒性や慢性炎症が関与しているため,海外ではアミロイドのワクチン療法,NMDA(?-methyl-D-aspartate)型グルタミン酸受容体アンタゴニストである塩酸メマンチン,非ステロイド性抗炎症薬が注目されています.わが国からもSugiyamaらにより正常眼圧緑内障とAlzheimer(89)◆シリーズ第88回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊中澤徹(東北大学大学院医学系研究科感覚器病態学講座眼科学分野)眼科疾患に対する神経保護治療図1神経保護治療の対象疾患A~D:高眼圧を誘導した緑内障モデルマウス,E~H:網膜?離モデルマウス.A:コントロールマウスの逆行性染色による網膜神経節細胞密度の写真,B:高眼圧負荷1カ月後の網膜神経節細胞密度,コントロールに比較し減少している.C:コントロールマウスの視神経横断面の視神経線維の写真.D:高眼圧負荷1カ月後,視神経線維は減少,膨張変形しグリア細胞が侵入している.E:コントロールマウスのヘマトキシリン-エオジン染色された網膜断層像.F:網膜?離を誘導7日後の網膜断層像,視細胞層(ONL)のみが菲薄化している.G:コントロールマウスの網膜断層像(DAPI核染色).H:網膜?離3日後のTUNEL染色像.緑色の細胞死を起こした細胞がONLに散見される.GCL:網膜神経節細胞層,IPL:内網状層,INL:内顆粒層,OPL:外網状層,ONL:外顆粒層.mm———————————————————————-Page2———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(91)othercholesterol-loweringmedicationsandthepresenceofglaucoma.???????????????122:822-826,20046)IshiiY,KwongJM,CaprioliJ:Retinalganglioncellpro-tectionwithgeranylgeranylacetone,aheatshockproteininducer,inaratglaucomamodel.?????????????????????????44:1982-1992,20037)ZhongL,BradleyJ,SchubertWetal:ErythropoietinpromotessurvivalofretinalganglioncellsinDBA/2Jglaucomamice.?????????????????????????48:1212-1218,2007ischemicbraininjury.?????????????1:112-119,20052)SugiyamaT,UtsunomiyaK,OtaHetal:Comparativestudyofcerebralblood?owinpatientswithnormal-ten-sionglaucomaandcontrolsubjects.????????????????141:394-396.20063)GuptaN:Ocularneuroprotection:knowledgegainedintranslation.????????????????42:373-374,20074)KudoH,NakazawaT,ShimuraMetal:Neuroprotectivee?ectoflatanoprostonratretinalganglioncells.????????????????????????????????244:1003-1009,20065)McGwinGJr,McNealS,OwsleyCetal:Statinsand■「眼科疾患に対する神経保護治療」を読んで■一般的に,眼科研究は,他の医学分野に比べると研究対象が限られるので,secondclassはっきりいえば二流の研究であると考えられがちでした.特に,インパクトファクター全盛時代には,眼科系雑誌のインパクトファクター値が一般誌に比べて低かったため,「眼科研究=二流研究論」が強く信奉されていました.現在では,インパクトファクターに基づく研究評価法の問題が明らかになってきましたので,かつてほど「眼科研究=二流研究論」を言い立てる人は多くありませんが,それでもそう考える人は少なくありません.眼科医師の研究目的は,視機能の問題に苦しむ人々を救うことですから,本来一流二流の評価は関係ないはずです.しかし,眼科研究が眼科以外の分野から評価されることは,眼科の地位を上げる意味からは重要なことです.今回,中澤徹先生が述べられたことは,眼科の地位を上げる意味からも,眼の問題で苦しむ人々を救う意味からも重要です.1990年,当時の米国のブッシュ(父)大統領が90年代を「脳の時代」と位置づけて,巨額の研究費を神経研究に注ぎ込みました.そのおかげもあり,1990年代には脳神経関連の研究が大きく発展し,神経保護に関するメカニズムの解明が進み,神経保護薬などの脳疾患治療薬が開発されてきました.しかし,脳組織はきわめて精緻・複雑であるのみならず,頭蓋骨内に存在していますから,治療効果・影響を観察することは容易でありません.それは,あたかも外からの接触を拒否するかのようですらあり,基礎実験で得られた成果を,治療に還元するための大きな障害になっています.それに比べて,網膜は脳ときわめて類似した組織でありながら,外から観察可能であり,治療を加えることも容易です.また,治療介入により不具合が生じた場合の危険性も,脳に比べたら小さいといえ模