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研修医“初心”表明

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???0910-181008\100頁JCLS私が眼科を志望するきっかけとなった1つの出来事は,20年近く前に遡ります.小学3年生の4月,新しい担任,クラスメイトに胸を躍らせながら,新学期最初の授業が始まったときのこと.何か違和感を覚えました.慣れない教室のせいでいつもと違うように感じるのかなぁ….「…いや,やっぱりなんかおかしい….」……!!?黒板がボヤけて見えない!!先生が黒板に書いている字が見えないゾ….これは衝撃的な体験でした!!春休みの間に急激に視力が低下していたのでした.それまで視力といえば2.0だったのに….それ以来,眼鏡・コンタクトレンズと縁の切れない人生が続いています.見えていたものがある日見えなくなる恐怖,これが私の原点です.話は変わりますが,眼球と地球って似ていると思いませんか?どちらも赤道があるし,地図と眼底スケッチは,存在するものを記号化しているという点で共通点があります.14世紀の大航海時代に,船乗りたちが未完成の地図を片手に新たな世界へ船出していったように,眼底を観察することは,眼科医にとって未知のものを捜し求める航海ではないだろうか,と考えられはしないでしょうか.眼底スケッチを眺めているとそんな空想が浮かんできます.もちろん,私はまだ船出さえしていない見習い水夫にしか過ぎません.しかし,いつの日か大海原に乗り出していくことを夢見て,そしてあわよくば「新大陸」を発見できたら!!そのためには確固たる礎が必要ですし,日々精進していくつもりです.そして将来的には,失明の恐怖から一人でも多くの患者さんを解放できたら,と考えています.まだまだ若輩者ですが,温かい目で見守っていただけると幸いです.◎今回は長崎大学出身の山中先生にご登場いただきました.失明の恐怖から目を救える眼科医は本当に魅力的です.まだまだ見習い水夫.これから目標となる北極星を見つけ,しっかりしたコンパスを持って大海原に繰り出して行きたいと思います.(加藤)☆本シリーズ「研修医“初心”表明」では,眼科に熱い想いをもった研修医~前期専攻医の先生の投稿を募集します!熱い想いを800字程度で読者の先生にアピールしてください!宛先は,《あたらしい眼科》「研修医“初心”表明」投稿として,下記のメールアドレス宛にお送りください.E-mail:hashi@medical-aoi.co.jp(97)研修医“初心”表明●シリーズ④Professionalを目指したい!山中行人(???????????????)近江八幡市民総合医療センター1981年京都市生まれ.長崎大学医学部卒業.学生時代はバドミントンに夢中でした.春の九山と夏の西医体を目標に猛練習していた日々が懐かしいです.4月からは大学病院で2年目の研修医として働いています.(山中)編集責任加藤浩晃・木下茂本シリーズでは研修医(スーパーローテーター)~若手の先生に『なぜ眼科を選んだか,将来どういう眼科医になりたいか』ということを「“初心”表明」していただきます.ベテランの先生方には「自分も昔そうだったな~」と昔を思い出してくださってもよし,「まだまだ甘ちゃんだな~」とボヤいてくださってもよし.同世代の先生達には,おもしろいやつ・ライバルの発見に使ってくださってもよし.では,連載も好調な4回目はこのイケメン先生に登場してもらいます!▲近江八幡の研修医仲間と医局にて

私が思うこと

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???私が思うこと●シリーズ⑩(95)「論文を書くこと」は専門医として認定されるための必須条件です.専門医を受験するためにはどうしても学会で発表して,論文を書かなければなりません.でも,なかには筆不精な方もいて,学会発表はしたけれど論文を書こうと思ってもなかなか筆が進まない,と言う方もいるのではないでしょうか.私も最近,極端な「筆不精」になり,せっかく依頼を受けた原稿の締め切りを過ぎてしまい,「催促」という名の「お叱り」をいただくこともしばしばです.近年では,「どうせ論文を書くなら英語で」という風潮も強く,日本語の論文の投稿数が減った,というような話も耳にします.論文が実際に活字となって掲載されるまでには非常に長い工程があります.「この薬剤の効果についてまとめてよ」と教授から言われてから,仮にレトロスペクティブだとして,どうやってまとめればよいかを考えて実際にカルテからデータを収集し,エクセルの一覧表を作るのに早くても1カ月はかかるでしょう.いや,6カ月以上要する人がいても私は否定しません.それから統計的な解析をして学会で発表しなければなりませんが,とりあえず結果を出して,指導医に見せ,学会プレゼン用のパワーポイントファイルを作成するにはまた1カ月を要するでしょう.もし,6カ月以上かかった人がいたとしても私はあなたを否定しません.それから学内,教室内で予演会が開かれます.そこで一発でOKがでなくても私は,あなたを否定しません.ここで再度,いや,数回のプレゼンの作り直しを必要とし,やっと形になって,質疑対策に取り掛かります.関連する論文を読み,どんな質問がきてもOK,と言えるようになるにはそれ相当の時間を要します.そして,いくら準備しても「完璧」はありませんが,容赦なく発表の時間はやってきます.スーツを着て,壇上に上がり,用意した原稿を読み,質疑に対して緊張しながら対応する,本番の時間はあっという間に終わります.学会に参加している人たちがその発表に熱心に耳を傾けていたかというと,決してそんな方ばかりではなく,人によってはその10分は暗い会場で寝ていたり,あるいは廊下で久々に再開した友人と近況報告を交わしている瞬間でしかない場合もあります.あとから振り返ると,「何でたった10分のためにあんなに時間を要したのか」と思ってしまうほど,たくさんの準備時間を要した発表は本当に時間通りにあっけなく終了してしまうものです.週末に開催される学会も,楽しい打ち上げとともに終わり,月曜日からは日常が戻ります.「この前の発表,論文にして“あたらしい眼科”に投稿しておいて」と教授に言われてから,実際に原稿をひ0910-181008\100頁JCLS原岳(????????????)原眼科病院副院長東京大学眼科医局長,さいたま赤十字病院眼科副部長,自治医科大学講師を経て実家に戻る.原眼科病院は1913年に曽祖父が現在の地に設立し,自身が四代目.白内障手術の歴史が長く,長期通院する患者も珍しくなく,本院で眼内レンズを挿入し20年以上の患者も少なくない.大学病院や基幹病院ではできない,「同一患者と長く付き合う」ことを開業医の一つのテーマと考えている.(原)最近思うこと─論文が世に出るまでには▲第16回日本緑内障学会にて座長の筆者論文を書いていて,一番嬉しいのは,書いた論文が印刷されて世に出たときではなく,むしろ,他の方の発表で自分の書いた論文の内容が引用されているのを見つけたときであり,他の方が書いた論文に自分の論文が引用されているのを見つけたときです.そんなとき,自分の書いた論文が「生き続けている」ことを実感します.———————————————————————-Page2▲父(左,三代目),祖父(中央,二代目:故人),と一緒の筆者(右,四代目).地域医療を代々継承しながら原眼科病院を細々と続けています.ととおり書き終えるのには,まず対象と方法,結果を書いて,その考察を書き,それから緒言を考えて,必要な文献や図を揃え,一覧表にして,解説をつけ,印刷してまず指導医に見せます.この工程は,早い人なら1週間くらいで終わるかもしれません.慣れた人なら学会発表時にすでにここまで終わっている人もいますが,多くの方は発表後にやれやれ,という感じで始めることになるでしょう.もし,教授に原稿を見せるまでに3カ月以上かかる人がいたとしても私はその人を冷視することはないと思います.仮に6カ月要する人がいたとしても,私はその方との交流をやめようとは思わないでしょう.教授,あるいは指導医からのOKが出る,すなわち投稿にGoサインが出るまでには人によってさまざまなシチュエーションがあります.あっけなく「じゃ,これで出しておいて」と言われることもあれば,「顔洗って出直して来い」というようなことまで.私は若い頃からこの過程が一番嫌いで,せっかく自分が書いたものに「朱筆」を入れられることが「大っ嫌い」でした.そんな自分ですが,いざ投稿された論文を査読する立場に立ってみると,「この部分はどうしてそう言いきれるのか?」とか「この結果の出し方でこの考按には無理があるのではないか」など偉そうなコメントをつけてしまうこともあったりするので,大変申し訳なく思うこともあります.とにかく,論文を世に出すためには,多くの人から「認められる」課程を通過する必要があります.ある時期から僕は,論文を書いて有名なジャーナルに掲載されると言うことは,似顔絵を描いて少年ジャンプに掲載されることと同じことだ,と「理解」するようになりました.「週刊アサヒの似顔絵塾」などもそうですが,格式の高いジャーナルに掲載されるためには,ある「基準」をクリアすることが必要で,その「基準」を掴んだ人は次回作も掲載されやすくなる傾向があり,いつしか「常連」が出てきます.一旦,基準をクリアしてしまえば,あとは良い題材を見つけるだけでよいのですが,その基準が「似顔絵」ほどはっきりしないのが「学術論文」のむずかしさで,なぜかと言うと,審査をする人が「週刊アサヒの似顔絵塾」では山藤章二氏一人だけ,ですが,眼科ジャーナルの場合は査読する立場の人がその分野の「複数」の有識者であるからでしょう.誰にも共通するところの「最低の基準」はクリアしても,それ以上になると,査読が誰であるか,の相性の良し悪しがある,というのがむずかしいところだと思います.査読者のコメントに打ちひしがれて投稿を途中であきらめてしまう人がいたとしても,私はその人を決して責めません.しかしながら,実際には多くの場合,非は著者にあることが多いようです.その場合は別の雑誌に投稿することになりますが,どこで「安住の地」を得られるか,これまたむずかしい問題です.最初の投稿をしてから受理されるまでに1年以上経過した人がいたとしても決してそれを笑える研究者はいないでしょう.きっと多くの人が自らの経験談を語ってくれるはずです.「あなたの論文はこのままでは受理できません」というような対応を何度となく経験しているうちに,たまには,「原稿を書いてください」という依頼を受けることもあります.それなりに「自分の実績が認められたのかな」と感じる嬉しい瞬間ですが,あまり調子に乗って安請け合いをすると,締め切り間際になって「本当にこんな文章が人様の目に留まってよいのか?」などと,自分自身の「自己査読」で悩むようになります.それでも締め切りは容赦なくやってきます.私は今,そんなことを思いながらこの原稿を書いています.原岳(はら・たけし)1963年生まれ1988年岩手医科大学卒業,東京大学眼科に入局1993年さいたま赤十字病院眼科2001年自治医科大学眼科講師2005年原眼科病院現在に至る(96)

硝子体手術のワンポイントアドバイス59.角膜混濁例に対する硝子体手術(中級編)

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???0910-181008\100頁JCLSはじめに角膜混濁を有する症例に対して硝子体手術が必要となることがある.一般に角膜混濁が高度で眼底の視認性が不良の場合には,一時的人工角膜を用いて硝子体手術を施行し,その後に角膜移植を行う方法や,眼内内視鏡を用いる方法などがある(これについは次回に述べる).ただし,単純硝子体切除術や簡単な膜処理のみであれば,通常の眼内照明を用いた硝子体手術で,かなりのと(93)ころまで手術は可能である.●眼内照明は意外によく見える!角膜混濁例であっても,細隙灯顕微鏡で瞳孔縁が確認でき,散瞳が良好で倒像鏡で眼底がある程度透見できるような症例では,通常の眼内照明で硝子体手術中に予想以上に眼底の視認性を確保できることが多い(図1a,b)1).これは,倒像鏡では観察光が混濁部位を2回通して検者の眼に入ってくるのに対して,硝子体手術では光源が硝子体腔内にあるので1回しか角膜を光が通過せず,その結果散乱光の影響がきわめて少なくなるためである(図2a,b)2).単純硝子体切除のみで治療可能な症例は,通常の硝子体手術で対応できる場合が多い.●複雑な手術操作が必要な症例に対する手術法複雑な増殖膜処理や人工的後部硝子体?離作製が困難な症例に対しては,やはり前述したような一時的人工角膜や眼内内視鏡が必要となる.硝子体手術は術中の視認性が十分に確保できないと合併症をひき起こす頻度が高くなるので,そのあたりは臨機応変に適宜術式を変更できる準備をしたうえで手術に臨むべきである.文献1)檀上真次,細谷比左志,池田恒彦ほか:角膜混濁を有する症例に対する硝子体手術.臨眼46:817-820,19922)IkedaT:Parsplanavitrectomycombinedwithpenetrat-ingkeratoplasty.????????????????16:119-125,2001硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?59角膜混濁例に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科ab図2角膜混濁例における光学系a:倒像鏡による眼底観察.観察光が混濁部位を2回通して検者の眼に入ってくるので,散乱光の影響を受けやすい.b:硝子体手術では光源が硝子体腔内にあるので1回しか光が角膜を通過せず,その結果散乱光の影響が少なくなる.図1中程度の角膜混濁例a:術前の前眼部写真.梅毒性角膜実質炎による角膜混濁がみられるが,周辺部では瞳孔縁を確認することができる.b:術中所見.眼内照明で眼底の視認性はある程度確保可能であった.増殖糖尿病網膜症に起因する硝子体出血を認めたが,単純硝子体切除後に眼内光凝固を施行した.

眼科医のための先端医療88.眼科疾患に対する神経保護治療

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???0910-181008\100頁JCLS神経保護治療は急性脳虚血性疾患である脳梗塞や慢性神経変性疾患であるParkinson病やAlzheimer病などによる神経変性を保護する治療として位置づけられています.中枢神経の一部である眼科領域でも神経保護治療の有用性が注目されていますが,現在その目的に見合った治療,薬剤はありません.本稿では,中枢領域での神経保護治療を総括し,眼科神経保護治療の現状についてまとめました.中枢領域における神経保護治療脳梗塞急性期の治療はおもに抗血栓治療による脳血流の循環改善が行われていましたが,近年虚血障害を受けた神経細胞に対して神経保護治療が行われるようになりました.脳梗塞は失命率の高さ,疾患の重要性から盛んに基礎研究が行われ,さまざまな薬剤が治験に入っています.フリーラジカルによる細胞障害を抑制する目的でエダラボン注射薬が使用されていますが,発症から治療までの時間と虚血の程度で予後が左右されるため治療の有用性を示すのはむずかしいのが現状です.最近ネクロプトーシスという新しい細胞死が定義され,その特異的インヒビターが薬剤スクリーニングからみつけられました1).その薬剤は動物の脳梗塞モデルで梗塞巣を有意に縮小させることに成功し,臨床治験予定です.この大きな発見が失明に至る虚血性眼疾患(網膜中心動脈閉塞症,急性緑内障発作など)に奏効する可能性があり,眼科領域に応用する意気込みをもつことこそわれわれ眼科医の任務であると考えます.Alzheimer病の病態は基礎研究からアミロイドカスケード仮説によって一元的に説明できると支持されています.Alzheimer病患者の死後脳において,特異的にコリン作動性神経の障害が明らかにされ,アセチルコリンを補充する目的でアセチルコリンエステラーゼ阻害作用をもつ塩酸ドネベジルが誕生しました.現在日本ではドネベジルのみが認可されていますが,グルタミン酸毒性や慢性炎症が関与しているため,海外ではアミロイドのワクチン療法,NMDA(?-methyl-D-aspartate)型グルタミン酸受容体アンタゴニストである塩酸メマンチン,非ステロイド性抗炎症薬が注目されています.わが国からもSugiyamaらにより正常眼圧緑内障とAlzheimer(89)◆シリーズ第88回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊中澤徹(東北大学大学院医学系研究科感覚器病態学講座眼科学分野)眼科疾患に対する神経保護治療図1神経保護治療の対象疾患A~D:高眼圧を誘導した緑内障モデルマウス,E~H:網膜?離モデルマウス.A:コントロールマウスの逆行性染色による網膜神経節細胞密度の写真,B:高眼圧負荷1カ月後の網膜神経節細胞密度,コントロールに比較し減少している.C:コントロールマウスの視神経横断面の視神経線維の写真.D:高眼圧負荷1カ月後,視神経線維は減少,膨張変形しグリア細胞が侵入している.E:コントロールマウスのヘマトキシリン-エオジン染色された網膜断層像.F:網膜?離を誘導7日後の網膜断層像,視細胞層(ONL)のみが菲薄化している.G:コントロールマウスの網膜断層像(DAPI核染色).H:網膜?離3日後のTUNEL染色像.緑色の細胞死を起こした細胞がONLに散見される.GCL:網膜神経節細胞層,IPL:内網状層,INL:内顆粒層,OPL:外網状層,ONL:外顆粒層.mm———————————————————————-Page2———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(91)othercholesterol-loweringmedicationsandthepresenceofglaucoma.???????????????122:822-826,20046)IshiiY,KwongJM,CaprioliJ:Retinalganglioncellpro-tectionwithgeranylgeranylacetone,aheatshockproteininducer,inaratglaucomamodel.?????????????????????????44:1982-1992,20037)ZhongL,BradleyJ,SchubertWetal:ErythropoietinpromotessurvivalofretinalganglioncellsinDBA/2Jglaucomamice.?????????????????????????48:1212-1218,2007ischemicbraininjury.?????????????1:112-119,20052)SugiyamaT,UtsunomiyaK,OtaHetal:Comparativestudyofcerebralblood?owinpatientswithnormal-ten-sionglaucomaandcontrolsubjects.????????????????141:394-396.20063)GuptaN:Ocularneuroprotection:knowledgegainedintranslation.????????????????42:373-374,20074)KudoH,NakazawaT,ShimuraMetal:Neuroprotectivee?ectoflatanoprostonratretinalganglioncells.????????????????????????????????244:1003-1009,20065)McGwinGJr,McNealS,OwsleyCetal:Statinsand■「眼科疾患に対する神経保護治療」を読んで■一般的に,眼科研究は,他の医学分野に比べると研究対象が限られるので,secondclassはっきりいえば二流の研究であると考えられがちでした.特に,インパクトファクター全盛時代には,眼科系雑誌のインパクトファクター値が一般誌に比べて低かったため,「眼科研究=二流研究論」が強く信奉されていました.現在では,インパクトファクターに基づく研究評価法の問題が明らかになってきましたので,かつてほど「眼科研究=二流研究論」を言い立てる人は多くありませんが,それでもそう考える人は少なくありません.眼科医師の研究目的は,視機能の問題に苦しむ人々を救うことですから,本来一流二流の評価は関係ないはずです.しかし,眼科研究が眼科以外の分野から評価されることは,眼科の地位を上げる意味からは重要なことです.今回,中澤徹先生が述べられたことは,眼科の地位を上げる意味からも,眼の問題で苦しむ人々を救う意味からも重要です.1990年,当時の米国のブッシュ(父)大統領が90年代を「脳の時代」と位置づけて,巨額の研究費を神経研究に注ぎ込みました.そのおかげもあり,1990年代には脳神経関連の研究が大きく発展し,神経保護に関するメカニズムの解明が進み,神経保護薬などの脳疾患治療薬が開発されてきました.しかし,脳組織はきわめて精緻・複雑であるのみならず,頭蓋骨内に存在していますから,治療効果・影響を観察することは容易でありません.それは,あたかも外からの接触を拒否するかのようですらあり,基礎実験で得られた成果を,治療に還元するための大きな障害になっています.それに比べて,網膜は脳ときわめて類似した組織でありながら,外から観察可能であり,治療を加えることも容易です.また,治療介入により不具合が生じた場合の危険性も,脳に比べたら小さいといえ模

新しい治療と検査シリーズ181.Quantiferon TB-2G検査(結核の検査)

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???0910-181008\100頁JCLSい頻度で分離される非結核性抗酸菌である????????,?????????????????はESAT-6/CFP-10をもたないので,QFT-2GはBCG接種および大多数の非結核性抗酸菌感染症の影響を受けずに結核菌感染を診断できる.?検査法の実際のやり方QFT-2Gの検査法は血液培養とヒトIFN-g定量測定の2つのステージに分けられる2)(図1).ステージ1は,ヘパリン採血した全血約5m?を採血後12時間以内に抗原を添加し,37℃で16~20時間刺激する.結核感染患者血はESAT-6またはCFP-10の抗原添加によりTリンパ球が活性化され,IFN-gが産生される.ステージ2では血漿中に産生されたIFN-g量をサンドイッチ酵素免疫測定(ELISA)法で測定する.あらかじめヒトIFN-g標準液の希釈液を調製し,検体とともに測定する.得られた標準液の吸光度から,IFN-gの標準曲線を作成し,バックグラウンドを引いた値を検体中のIFN-g量新しい治療と検査シリーズ(87)?バックグラウンド現在,結核の「発症」を調べる方法には,画像診断,喀痰塗抹・培養検査,結核菌遺伝子増幅検査などがある.一方,「結核菌感染の診断」にはツベルクリン反応が広く利用されていた.しかし,ツベルクリン反応検査は,結核菌感染で反応するだけでなく,BCG接種後や非結核性抗酸菌感染症時にも反応する,時間とともに反応が減弱する,ブースター現象のために二段階法による検査が必要になる,判定のために48時間後に再受診が必要になる,ことなど多くの問題点があった.近年,結核菌特異抗原を用いた全血インターフェロンg(IFN-g)応答が定量的に測定できるQuantiferonTB-2G(QFT-2G)測定法が開発され,血清学的に結核菌感染を調べることが可能となった1).本検査法は平成18年1月1日に保険収載(410点)されている.?新しい検査法(原理)ヒトはいちど結核菌に感染すると,発症しなくても生体内の細胞免疫応答により,ヘルパーT細胞のなかのTh1細胞が活性化され,その一部はメモリーT細胞として保存される.外部から再び結核菌あるいは結核菌と同じ抗原が入り込むと,このT細胞が免疫応答を起こし,IFN-gが産生される.QFT-2Gは,結核菌特異蛋白であるESAT-6(theearlysecretedantigenictarget6kDaprotein)とCFP-10(10kDaculture?ltratepro-tein)を抗原として全血に添加し,結核感染によって感作されたリンパ球を刺激して誘導されたIFN-g産生量を指標に結核菌感染を判定する検査法である.ESAT-6/CFP-10をもつ抗酸菌には結核菌群(???????????????????????????,?????????????,BCGを除いた????????)と???????????,??????????,??????????,?????????????,??????????がある.一方,BCGと臨床検体から高181.QuantiferonTB-2G検査(結核の検査)プレゼンテーション:小森敏明1)藤田直久2)1)京都府立医科大学附属病院臨床検査部2)京都府立医科大学臨床分子病態・検査医学教室コメント:竹内大東京医科大学眼科学教室ステージ1:血液培養(抗原刺激によるIFN-gの産生)ステージ2:サンドイッチELISA法によるIFN-gの定量ESAT-6CFP-10陽性コントロール陰性コントロール発色基質抗原提示細胞IFN-gIFN-gTリンパ球抗原刺激37℃,16~20時間上清(血漿)採取・保存採血後12時間以内に刺激抗原滴下保存可能期間・2~8℃で14日間・-20℃以下で3カ月間:抗ヒトIFN-g抗体HRP標識抗ヒトIFN-g抗体吸光度測定450/620nm図1QFT-2Gの検査手順———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008として算出する.IFN-g値から結果判定を行い,「陽性」,「陰性」,「判定保留」,「判定不可」に分類する(図2).?本方法の良い点QFT-2Gでは解決すべき課題がいくつかあげられる.結核に感染してからQFT-2G陽性化までの期間が不明(2~3カ月とされている),陽性化してからの反応持続期間が不明,化学予防や化学療法が測定値に及ぼす影響が不明,5歳未満の小児に対する検査の適用が現在はない,採血量(5m?)が量的に多い,採血後12時間以内の処理が必要であること,免疫抑制状態にある宿主でのQFT-2G応答性の低下があるなどである.しかし,QFT-2Gはツベルクリン反応で問題になるBCGの影響を受けることがなく,結核菌感染を診断する検査法としてはカットオフ値(0.35IU/m?)における感度89.0%,特異度98.1%と優れた方法である3).また,結核患者と接触した者の接触の程度とQFT-2G陽性率が相関する4)ことから,接触者検診特に結核菌曝露の機会の多い医療従事者での利用が考えられる.QFT-2Gは活動性結核の補助診断や潜在性結核の補助診断として有効な検査法である.文献1)CDC:GuidelinesforusingtheQuantiFERON?-TBtestfordiagnosinglatent???????????????????????????infection??????52(No.R-2):15-18,20032)インターフェロンg遊離試験キットクォンティフェロン?TB-2G添付文書,2006年9月改訂(第3版),株式会社ニチレイバイオサイエンス3)MoriT,SakataniM,YamagishiFetal:Speci?cdetectionoftuberculosisinfection,aninterferon-g-basedassayusingnewantigens.?????????????????????????170:59-64,20044)原田登之,森亨,宍戸眞司ほか:集団感染事例における新しい結核感染診断法QuantiFERON?TB-2Gの有効性の検討.???????79:637-643,2004(88)☆☆☆?本方法に対するコメント?QuantiferonTB-2G検査は,結核菌の細胞壁に存在する糖蛋白質(TBGL)に対する抗体を測定する抗TBGL抗体検査とともに,眼科領域における結核菌感染の診断にその有用性が期待されている.結核性ぶどう膜炎(内眼炎)は多彩な眼所見を呈するが,網膜下に結核種を生じるものは少なく,最も多くみられるのは閉塞性網膜血管炎様所見を呈するぶどう膜炎であり,その原因は結核菌の直接感染ではなく結核の菌体成分に対するアレルギー反応と考えられている.また,眼病変のみを生じる結核菌感染では,肺結核などの他臓器病変と比較して病巣部位は小さく,さらに眼は特異な免疫機構を有することなどから,本稿に述べられている結核菌感染陽性基準(カットオフ値0.35IU/m?)が結核菌感染による眼疾患の診断に適切であるか否かは,今後の知見の積み重ねによって検討していくことが必要であろう.抗原刺激EAST-6のIFN-g濃度:IFN-gE抗原刺激CFP-10のIFN-g濃度:IFN-gC陽性コントロール添加検体のIFN-g濃度:IFN-gM陰性コントロール添加検体のIFN-g濃度:IFN-gN測定値E(IU/m?)=IFN-gE-IFN-gN測定値C(IU/m?)=IFN-gC-IFN-gN測定値M(IU/m?)=IFN-gM-IFN-gN測定値EorC判定解釈0.35以上陽性

眼感染アレルギー:円盤状角膜炎を感染アレルギーの観点から考える

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???0910-181008\100頁JCLS円盤状角膜炎とは,角膜中央の実質に円形の病巣を形成する病型を指す.ここでは最も一般的な単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)感染による円盤状角膜炎について述べるが,水痘帯状疱疹ウイルス,ワクシニアウイルスなどによっても生じうる.角膜内でのHSV増殖が病因である上皮型角膜ヘルペスに対して,円盤状角膜炎はウイルス抗原に対する免疫反応,つまり感染アレルギー反応によって病態を形成するのが特徴的といえる.臨床的には充血・視力低下・羞明などを訴え,毛様充血や角膜後面沈着物を伴った角膜中央部での類円形の角膜浮腫・混濁を示す(図1).角膜知覚低下や,ときに免疫輪の形成を認める(図2).ウイルス分離は困難であり,ヘルペス感染の既往や涙液・前房水polymerasechainreaction(PCR)によるHSV確認が診断への重要な情報となる.HSV抗原に対する抗ウイルス薬(アシクロビル軟膏)の投与と,宿主免疫抑制のためのステロイド点眼の併用投与を行う.早期に適切な治療を行うと炎症・混濁は消失することが多いが,再発をくり返すと血管侵入・瘢痕形成し,壊死性角膜炎の状態になり不可逆性の混濁を残すこともある.■病態形成の免疫アレルギー的メカニズム幼児期の初感染から,潜伏感染を経て再発病変として円盤状角膜炎が発症する.本態は角膜実質内での抗原・抗体反応の結果としてのアレルギー・遅延型過敏反応である.実質中に停留したHSV抗原に感作されたTリンパ球が侵入して炎症反応を惹起し,角膜実質浮腫・混濁を呈する細胞性免疫反応で,遅延型過敏反応(delayed-typehypersensitivity:DTH)および細胞障害性Tリンパ球(cytotoxicicTlymphocyte:CTL)が重要である.DTHとは抗原に曝露されたヘルパーT細胞1型(Th1)より産生されたインターロイキン(IL)-2,インターフェロンg(IFN-g)やケモカインがマクロファージを活性化することによってひき起こされる炎症反応である.つまりHSV感染細胞からの抗原に対してヘルパーT細胞が作用して種々のサイトカインが放出され,マクロファージを主体とする炎症細胞が感染巣を周囲組織とともに(85)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載④監修=木下茂大橋裕一4.円盤状角膜炎を感染アレルギーの観点から考える井上智之大阪大学大学院医学系研究科眼科学円盤状角膜炎とは,単純ヘルペスウイルスなどによる角膜中央の実質に円形の病巣を形成する病型で,ウイルス増殖よりもウイルス抗原に対する免疫反応が主体である.本稿では,円盤状角膜炎の臨床像と病態形成を免疫アレルギー的視点より考察し,ワクチン療法の可能性についても言及する.図1初期円盤状角膜炎角膜中央部実質浅層に淡い浸潤病巣を認める.図2浸潤病変と免疫輪小型の円形浸潤病変とその周囲を囲む免疫輪を認める.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008破壊していく.CTLはHSV感染細胞表面の抗原を標的として特異的にウイルス感染細胞を破壊する.IL-2によって増殖してくるキラーT細胞による細胞障害反応によって,HSV感染細胞を破壊する.ヘルパー機能を有するCD4+Tリンパ球はHSVに対するおもなメディエーターで,CD8+Tリンパ球はHSV重症度のレギュレーターである.サイトカイン産生のパターンよりヘルパーT細胞(Th)はTh1とTh2に分類できる.Th1はIL-2やIFN-gを産生しDTHをひき起こし,Th-2はIL-4,IL-10およびヘルパーB細胞を産生する.Th1細胞はTh2細胞に比して,角膜ヘルペスの病態形成に重要なかかわりをもつ.IL-2は直接的に多核白血球を誘導する.IFN-gは多核白血球浸潤の足場をつくるPECAM1の発現を促進する.逆にIL-10などのTh2サイトカインは角膜内炎症を抑制する働きをもつ.IL-10点眼によってヘルペス性の炎症が抑制されたという報告もある.炎症性サイトカインであるIL-1aやIL-6のレベルが上昇する.また,多種のケモカインが発現し,MIPs(macrophargein?ammatoryproteins)は好中球浸潤を促進する.Langerhans細胞などの抗原提示細胞は早期のDTH発症に関与している.角膜中の抗原に対して輪部血管からの抗体が反応し沈降線が形成されたものが免疫輪で,これは液性免疫反応によって生じる.角膜中央部の抗原と角膜輪部からの抗体が反応する場所である免疫沈降線である.これら免疫反応は,感染を収束するのに働くが,透明性を維持することが不可欠な角膜組織においては,病変の治癒過程において混濁を残すことになる.ゆえに実質性の混濁を取り除くために,ウイルス増殖の抑制はもちろん,過剰なDTHの抑制,液性免疫の賦活化が重要である.ウイルス増殖の抑制にはアシクロビル製剤,免疫抑制にはステロイド,液性免疫賦活化にはgグロブリン製剤の投与が有効である.さらなる免疫賦活の方法として下記のHSVワクチン療法が開発中である.■ワクチン療法の可能性HSVウイルスのエンベロープに存在する蛋白質gly-coproteinはビリオンや感染細胞表面に発現し,中和反応・CTL・DTHなどの感染防御免疫の主要なターゲットであるため,HSVに対する免疫賦活能が高いと考えられ,ワクチンの研究がなされてきた.なかでもglyco-proteinD(gD)はHSV1型と2型の共通抗原で,ウイルス中和および細胞性免疫とも関係が深い.gD蛋白はHSV感染に対して致死予防効果が示され,角膜炎においても実質病変の抑制効果が示された.さらに,gDにIL-2を融合させたgD-IL-2蛋白は,gD単独よりも高い免疫誘導能を示した.また,ワクチンを蛋白質ではなくて,発現ベクターに組み込んだプラスミドとして使用したDNAワクチネーションが開発され,低コスト・頻回投与可能・細胞性免疫の惹起などの有効性から注目をあびるようになった.筆者らのグループはgDおよびgD-IL-2のプラスミドDNAワクチネーションの効果を評価し,中和抗体値の上昇に加え,CTLおよびDTH細胞性免疫の誘導が認められた.今後,HSV再活性化モデルなどに適用していくことで臨床応用可能なワクチンの実現が待たれる.まとめ円盤状角膜炎の病態は複雑なアレルギー免疫反応の組み合わせによって形成されており,この機序を理解することで,個人レベルでの免疫制御機構により新しい治療法の開発が期待される.文献1)大橋裕一:角膜ヘルペス─新しい病型分類の提案─Herpet-ickeratitis.眼科37:759-764,19952)井上幸次:ウイルス感染免疫と眼疾患.眼科NewInsight4,新しい免疫学的アプローチと眼疾患(望月學編),p66-76,メジカルビュー社,19953)InoueY,OhashiY,ShimomuraYetal:HerpessimplexvirusglycoproteinD.?????????????????????????31:411-418,19904)井上智之,井上幸次,中村孝夫ほか:インターロイキン2(IL-2)融合単純ヘルペスウイルスglycoproteinD(gD-IL-2)によるマウスヘルペス性角膜炎の予防効果.日眼会誌105:223-229,20015)InoueT,InoueY,NakamuraTetal:Preventivee?ectoflocalplasmidDNAvaccineencodinggDorgD-IL-2onherpetickeratitis.?????????????????????????41:4209-4215,2000

緑内障:緑内障治療薬の片眼トライアル

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???0910-181008\100頁JCLS●緑内障治療薬の効果判定と片眼トライアル緑内障点眼薬の効果には個人差があり一定ではない.また,緑内障治療薬点眼後の眼圧変化には,点眼薬の薬理作用による眼圧下降(薬剤反応性)と日内・日々変動や検者・被検者の測定条件などの眼圧変動が含まれる.そこで,片眼のみに点眼し,他眼の眼圧変化を眼圧変動分として補正する片眼トライアルが国内外で推奨されてきた(図1).緑内障診療ガイドライン1)では,「点眼の導入に当たって,できれば片眼に投与してその眼圧下降や副作用を判定(片眼トライアル)し,効果を確認の後両眼に投与を開始することが望ましい」とされている.しかし,片眼トライアルの成立には,前提条件2)がある(表1).緑内障患者では健常者に比べて眼圧の左右差が大きく3),眼圧日内変動の非対称性も大きいと報告されている4).したがって,厳密な意味では片眼トライアルを適応できる患者は少ないかもしれない.また,眼圧変動が非対称性であるために,片眼トライアルにおいて非点眼側を眼圧変動補正のためのコントロール眼にできないとする報告がある5).特に片眼性の緑内障や点眼前の眼圧の左右差がかなり大きい症例では,片眼トライアルの結果の解釈に注意を要するといえる.●理想的な条件での片眼トライアルの検討:健常者とラタノプロスト前提条件ができるだけ満たされた場合に,片眼トライアルが真の薬剤反応性を正しく評価できるかを筆者らは検討した6).眼圧やその日内変動の左右差が小さいと考えられる健常者を被検者とし,眼圧下降作用が最も大きく他眼への影響がないラタノプロストを用いて,左右眼に交互に片眼トライアルを行う群と両眼点眼を行う群の間で左右眼の眼圧下降の対称性を比較した(表2).その結果,両群とも3つの時刻それぞれの平均眼圧は日内平均値と同様であった.点眼開始前日の左右眼の眼圧は,両群とも有意な強い相関を示した(r2=0.729~0.949).ラタノプロストによる点眼側の眼圧下降幅(ΔIOP1)は両群および左右眼において同程度であった(2.6~2.8mmHg).片眼トライアルでの左右眼の平均眼圧下降幅の相関は,非点眼側の眼圧変動分を補正したΔIOP2を用いても弱かった(ΔIOP1:r2=0.102,p<0.05,ΔIOP2:r2=0.097,p<0.05).一方,両眼点眼では,左右眼の平均眼圧下降幅(ΔIOP1)は強い相関を示した(r2=0.849,p<0.001)(図2).(83)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄94.緑内障治療薬の片眼トライアル東出朋巳金沢大学附属病院眼科緑内障点眼薬の効果には個人差があり,点眼前後の眼圧変化によって評価できる.しかし,点眼薬の薬理作用そのものによる眼圧変化以外にも種々の眼圧変動がこれに影響を与える.そこで,片眼のみに点眼し,他眼の眼圧変化を眼圧変動分として補正する片眼トライアルが推奨されてきたが,実際の適用には注意が必要である.ケース1眼圧点眼側眼圧下降幅眼圧変動薬剤反応性点眼前点眼後ケース2眼圧点眼側眼圧下降幅眼圧変動薬剤反応性点眼前点眼後:点眼側:非点眼側図1片眼トライアルによる薬剤反応性の評価表1緑内障治療薬の片眼トライアルにおける前提条件2)1.トライアル開始時の両眼の眼圧が一致している.2.両眼の眼圧日内変動が一致している.3.点眼薬が非点眼側の眼圧に大きな影響を与えない.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008●片眼トライアルにおける新たな問題点両眼点眼において,左右眼の眼圧下降幅(ΔIOP1)が強い相関を示したことから,今回の研究においてはラタノプロストに対する薬剤反応性のみならず眼圧変動にも高い対称性があったと考えられる.したがって,それぞれの片眼トライアルにおけるΔIOP2は,真の薬剤反応性を示していると考えられる.また,片眼トライアルでの眼圧下降幅の左右眼の相関が,非点眼側の眼圧変動分を補正したΔIOP2を用いてもまったく改善されなかったことから,眼圧変動が相関の悪さの主因とは考えにくい.したがって,2回の片眼トライアルにおいて,ラタノプロストに対する真の薬剤反応性が異なっていたと考えざるを得ない.薬剤反応性が経時的に変化するかどうかについて過去に十分な知見はないが,筆者らの検討からその可能性が示唆された.点眼前後の1回ずつの眼圧測定による片眼トライアルでは,その瞬間の薬剤反応性しか知りえないので,それによってその後他眼に同じ薬剤を投与した際の眼圧反応を予測することは,困難でありかつあまり意味がないと思われる.したがって,片眼トライアルでは,点眼前後にそれぞれ日を変えて同様の(84)時刻に複数回の眼圧測定を行い,平均的な薬剤反応性を知ることが重要といえる.また,複数回の眼圧測定に基づいた片眼トライアルを行えば,緑内障眼で危惧される眼圧変動の非対称性による影響が少なくなり,片眼トライアルの有用性が高まると考えられる.文献1)阿部春樹,北澤克明,桑山泰明ほか:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)SmithJ,WandelT:Rationalefortheone-eyetherapeutictrial.??????????????18:8,19863)SitAJ,LiuJH,WeinrebRN:Asymmetryofrightversusleftintraocularpressuresover24hoursinglaucomapatients.?????????????113:425-430,20064)WilenskyJT,GieserDK,DietscheMLetal:Individualvariabilityinthediurnalintraocularpressurecurve.??????????????100:940-944,19935)RealiniT,BarberL,BurtonD:Frequencyofasymmetricintraocularpressure?uctuationsamongpatientswithandwithoutglaucoma.?????????????109:1367-1371,20026)TakahashiM,HigashideT,SakuraiMetal:Discrepancyoftheintraocularpressureresponsebetweenfelloweyesinone-eyetrialsvs.bilateraltreatment:veri?cationwithnormalsubjects.??????????(inpress)表2健常者における片眼トライアルと両眼点眼の比較1.片眼トライアル群,両眼点眼群:各41名(平均年齢24.0±1.2歳,24.1±2.2歳,平均±標準偏差)2.眼圧測定:Goldmann圧平眼圧計,結果解析からマスクされた同一検者による.3.片眼トライアル:右眼のみに7日間連続で午前9時に0.005%ラタノプロストを点眼.点眼開始前日と終了日の午前9時,午後1時半,午後6時に眼圧を測定.2カ月以上間隔をおいて,同一対象者に左眼を点眼側として再度片眼トライアルを施行.4.片眼トライアルでの眼圧下降幅の計算式式1:ΔIOP1=Tpre-Tpost(mmHg)式2:ΔIOP2=ΔIOP1-(Cpre-Cpost)(mmHg)T,C:点眼側,非点眼側眼圧;Pre,Post:点眼開始前日,終了日5.両眼同時点眼:7日間連続で午前9時に両眼に0.005%ラタノプロストを点眼し,点眼開始前日と終了日の午前9時,午後1時半,午後6時に眼圧を測定.眼圧下降幅は式1(ΔIOP1)を用いて計算.図2ラタノプロスト点眼による眼圧下降幅の左右対称性:片眼トライアルと両眼点眼との比較健常者にラタノプロスト点眼を7日間行う片眼トライアルを左右眼交互に行い,点眼前後の眼圧下降幅の左右対称性を,両眼点眼の場合と比較した.図は日内平均眼圧によるプロット.ΔIOP1:点眼側の眼圧下降幅,ΔIOP2:ΔIOP1から非点眼側の眼圧変動分を差し引いたもの.

屈折矯正手術:後房型有水晶体眼内レンズにおける前眼部OCT

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???0910-181008\100頁JCLSはじめにVisanteTMOCT(光干渉断層計)は2006年1月よりCarlZeissMeditec社から販売されている前眼部OCTである.筆者らは,特に,後房型有水晶体眼内レンズに関わる検査にこれを使用し,有用な情報を得ている.●前眼部OCTVisanteTMについて(図1)VisanteTMOCTは1,300nmの近赤外線光を使用し,その光干渉により混濁や強膜を透過した画像を得ることができる.そのため,細隙灯顕微鏡では限界のあった前眼部の観察が可能となり,しかも,観察したい任意の場所を短時間にスキャンすることができるため,検者に左右されず画像の解析を行うことができる.また,これまで困難であった前眼部の定量化ができ,非接触,非侵襲検査であるため手術直後でも検査を行うことが可能である.さらに,全周のパキメトリーマップも短時間に構築することができ,調節負荷による前眼部観察も可能となっている.●後房型有水晶体眼内レンズICLTMについて高度近視や角膜形状に問題のある症例に対してはエキシマレーザーによる矯正ではなく,水晶体を残したまま眼内レンズを挿入する有水晶体眼内レンズ(以下,Pha-kicIOL)が注目されている.そのなかで,後房型Phak-icIOLのICLTM(ImplantableCollamerLens)はワンピース型foldablelensで生体適合性に優れた原料でできており,ガスや栄養素の透過性がよい.全長約10.8~13.0mmで,光学部4.5~5.5mm,厚みは100?mととても薄い(図2).1997年CEmark,2005年にはFDA(米国食品医薬品局)の認可を得,10年の実績で現在9万例以上施行されている.術中合併症として水晶体損傷,角膜内皮障害,前房出血が,術後合併症としては緑内障,白内障,角膜内皮細胞減少,眼内炎がある.(81)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男95.後房型有水晶体眼内レンズにおける前眼部OCT中村友昭名古屋アイクリニックVisanteTMOCT(光干渉断層計)は近赤外線光の干渉を使用した前眼部OCTである.前眼部の観察とともに定量化ができるため,後房型有水晶体眼内レンズのように,解剖学的に狭小かつ動的な部位に挿入する場合,多くの貴重な情報を得ることができる.図1VisanteTMOCTCarlZeissMeditec社の前眼部OCT.1,300nmの近赤外線光を使用し,その光干渉により混濁や強膜を透過した画像を得ることができる.図2ICLTM(ImplantableCollamerLens)StaarSurgical社から販売されている後房型PhakicIOL.プレートハプティック型foldablelensで素材はcol-lamer.矯正範囲は近視用-3.0~-20.0D,遠視用+3.0~+17.0D.ToricICLTMは6Dまでの乱視矯正が可能.図3VisanteTMOCTによるvaultingの測定ICLTMと水晶体との距離,vaultingを1/100mm単位で測定可能.最適なvaultingは角膜の厚み,つまり0.5mmくらいで,その前後0.25mm(0.25~0.75mm)がよいとされている.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008●Vaultingの計測とその意義ICLTM手術が成功するか否かはレンズのサイズ,つまり術後のレンズと水晶体との距離vaultingにかかっているといっても過言ではない.最適なvaultingは角膜の厚み(0.5mm)くらいで,その前後±0.25mmがよいといわれている.レンズが大きければ,vaultingは深くなり(0.75mm以上),隅角が狭くなる.また,縮瞳が困難になるなどの弊害が出てくることがある.逆に,vaultingが浅くなる(0.25mm以下)と水晶体への物理的な刺激や房水循環が不全となり代謝障害などの影響により,水晶体の混濁をきたすことがある.これまではvaultingは細隙灯顕微鏡所見でのみ判定していたが,VisanteTMOCTにより1/100mm単位で測定可能である(図3).また,再現性も得られることにより,経時的な変化(図4)や,散瞳など瞳孔運動に伴う変化を捉えることが可能である.さらに,内部固視灯による調節負荷がかけられ,それに伴うvaultingの変化(図5)を観察することもできる.●レンズサイズ決定への有用度,隅角間距離(angletoangle:ATA)の測定サイズ決定に際し,本来測定したい部位は,レンズを固定する毛様溝(sulcus-tosulcus:STS)であるが,それを正確に測定することは現時点では困難である.したがって,それに代わるものとして,通常は角膜の直径,すなわち,white-to-white(WTW)を用いている.ただし,症例によっては,レンズが大きすぎたり小さすぎたりして,最適なvaultingが得られないことがある.VisanteTMOCTは隅角間距離(ATA)が測定できる(図6)ので,ATAとレンズサイズ,vaultingとの関係をみたところ,WTWよりむしろATAのほうがレンズサイズ選択に望ましいという結果を得た.ただし,現時点では隅角の検出精度に問題があるので,それのみで決定することは危険である.近々行われるアップグレードにより測定精度が上がり300倍までの拡大表示が可能となれば,その有用度がさらに増すものと思われる.(82)図4Vaultingの経時的変化Vaultingは術後1カ月まで減少するものの,その後安定することがわかった.Paired?-test,*p<0.05,**p<0.001.(小島隆司:第30回日本眼科手術学会,2007)0.000.100.200.300.400.500.600.700.800.901.001.10Vaulting(mm)NS0.720.660.600.60翌日1週間1カ月3カ月***n=25図5調節負荷に伴うvaultingの変化+1から+4Dの調節負荷に伴い前房深度(A)と角膜後面からICLTMまでの距離(I)は減少したが,vaulting(V)の変化は認められなかった.つまり,調節時ICLTMは水晶体と同等に移動することが推測できた.*p<0.001.AI*AIV-0.15-0.1-0.0500.050.001.002.003.004.00Vaulting変化量(mm)調節負荷量(D)ODからの変化量

眼内レンズ:Bimanualフェイコ

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???0910-181008\100頁JCLS超音波チップに灌流スリーブを装着し,灌流と乳化吸引を1つのポートで行うCo-axialフェイコに対し,Bimanualフェイコは灌流と乳化吸引のポートを別にし,小さな2つのポートで超音波乳化吸引する術式である.1つの創口がより小さくなるという利点だけでなく,眼内での水流動態をうまく利用することによって?内での乳化吸引が可能になり,より低侵襲で安全な手術が実現する可能性を秘めている.(79)強角膜切開では創口のトンネルが長いため超音波チップの操作性が少し悪くなるが,創口は角膜切開でも強角膜切開でも可能である.20ゲージの超音波チップを用いる場合は,1.4mmの創口から挿入し,20ゲージのirrigatingchopper(ASICO社製・MST社製)を120?以上離れた位置の創口から挿入する(図1).創口幅が狭すぎると角膜や創口の変形を,広すぎると漏出過多による前房不安定をきたすので注意が必要である.常岡寛東京慈恵会医科大学眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎260.BimanualフェイコBimanual法では,切開幅・超音波乳化吸引装置のパラメータ・核の乳化吸引手技を適切に選択すれば,?内フェイコが可能になるため,後?破損や角膜内皮障害を回避しやすく,難症例にも安全性が高くなる.しかし,誤った設定や創口を損傷させやすい手技を用いると,非効率で危険な術式になってしまうため注意が必要である.図1溝掘りIrrigatingchopper超音波チップ1.4mm1.4mm図2大きな核片の乳化手技超音波チップフック大きな核片図3大きな核片を押さえて乳化吸引(サイドビュー)フックで押さえられた核片超音波チップIrrigatingchopper図4小さな核片の乳化手技(サイドビュー)***小さな核片———————————————————————-Page2前房の安定性を良くする目的でボトルを高くすると,創口へ向かう水流が強くなり,分割された核片が超音波チップ挿入部に集まってしまい,乳化吸引がむずかしくなってしまう.また,吸引効率を良くしようとして吸引圧を高くすると,核片がチップを突き抜けてしまい,かえって吸引効率が悪くなる.Bimanualフェイコでは,灌流ポートと吸引ポートの位置が離れているため,Coaxialフェイコのように灌流液の一部がすぐに超音波チップの吸引孔から吸引されてしまうというshortcutflowがなく,灌流液は核を吸引孔に押し付ける方向に流れるようになることから,Co-axialフェイコに比して低い吸引圧でも効率的に核を吸引することが可能になるのである.灌流圧と吸引圧を低く設定しても,吸引効率が悪くならないことがBimanualフェイコの特徴であり,前房内を穏やかな状態のままで核を効率的に乳化吸引することができるため,低侵襲手術が可能になる.乳化吸引手技は,フェイコチョップ法よりも超音波チップとirrigatingchopperを動かす量が少ないディバイドアンドコンカー法のほうが適していると思われる.最初に中央に深い溝を掘り,2分割した後,核を回転させて4分割していく.低吸引圧でもしっかりと核片を保持,引き出すことを可能にするためには,hydrodissection・hydrodelaminationを十分に行い,確実な核分割をしておくことが重要である.4分の1になった核片を乳化吸引(図2)する際は,大きな核片を.内から前房内に完全に引き出してしまうと,超音波チップを突き抜けた小さな核片が前房内を飛散することがある.Irrigatingchopperのフックで核片を.内に押さえながら乳化吸引していくとよい(図3).核片が小さくなったら,irrigatingchopperの開口部を下に向け,灌流液の水流で後.を押し下げるようにする(図4の**)ことが重要である.つねに吸引孔が灌流孔の前(下)にあり,その位置関係を変えることはできないCo-axialフェイコと異なり,Bimanualフェイコでは灌流孔と吸引孔の位置関係を自由に変えることができることがポイントである.Irrigatingchopperの灌流孔を.内に入れて下に向け,超音波チップの吸引孔よりも下におけば,灌流液の水流で後.を押し下げることができるため,後.の誤吸引やサージが起こらず,後.破損を防ぐことが可能となる.さらには,超音波チップを.内に入れて吸引孔を下方に向けたままで乳化吸引すれば(図4の*),.内フェイコが可能になる..内フェイコを行えば灌流液は.内で循環することになるため,前房内での灌流液の乱流が少なくなり,眼内を静かな状態にしたままで核を乳化吸引できる.したがって,角膜内皮障害を回避することができるのである.灌流圧を高くせず,吸引圧も低く設定して,超音波チップを下に向けたまま核片を乳化吸引していると,一旦前房内に出て行った核片でも,前房内に飛散することなく.内に戻ってくる.灌流液をできるだけ.内で循環するように設定すれば,前房内を循環する灌流液の流れが遅くなり,核片が前房内の乱流で飛散することを回避できる.Irrigatingchopperの開口部を前.の上に向けるのと下に向けるのでは,前房内・.内の状態が大きく変わる.核片が分割されて自由に動くようになったときに,irrigatingchopperの開口部を上に向けていると,核片は前房内を飛散したり超音波チップの根元に集まって動かなくなり,捕まえにくくなる.また,サージによって後.は上がってくるため,後.破損も起こしやすくなってしまうので,開口部の向きには十分に注意する必要がある.文献1)常岡寛:低侵襲眼手術─BimanualPhaco.眼科手術20:5-11,20072)TsuneokaH:Uniquefluidicsofbimanualphacoforactualizingminimallyinvasivesurgery.MasteringthePhacodynamics(edbyGargA,TsuneokaHetal),p338-343,JaypeeBrothers,NewDelhi,2007

コンタクトレンズ:円錐角膜へのハードコンタクトレンズ処方(4)-ピギーバックレンズシステム-

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???0910-181008\100頁JCLS●使い捨てコンタクトレンズと円錐角膜東京医科歯科大学円錐角膜外来では,使い捨てコンタクトレンズ(DSCL)が登場して以来,約20年間,これをハードコンタクトレンズ(HCL)の下にキャリアーレンズとして装用させるピギーバックレンズシステム(PBLS)(図1)を処方し続け好評を得てきた.DSCLを用いることの最大の利点は,その良好なフレキシビリティと清潔さにある.DSCLが登場するまで,ソフトコンタクトレンズ(SCL)材料はポリヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)が主流であり,SCLとはいえ,何種類ものベースカーブ(BC)が揃っていたことを,コンベンショナルレンズに慣れていない今の研修医は知らないかもしれない.わが国でDSCLが発売される前,筆者の一人の佐野が,ニューヨーク帰りの先輩医師のおみやげであったVistacon製DSCLを見て,そのベースカーブの極端に少ないフリーサイズTシャツ的な発想に戸惑いながらも,円錐角膜にもよくフィットするかもしれないと試してみたのが,当外来におけるDSCLを用いたPBLS処方のはじまりである.この商品名Acu-vue?の材料Eta?lconAはHEMAをベースにメタクリル酸を配合し,その電気的反発によって含水率を高めて架橋密度を低くするという手法で,現在でも最も軟らかくフレキシビリティに富んだCL素材として一つのポジションを獲得,維持しており,円錐角膜の不正な角膜曲面には見事にフィットしてくれる(図2).BC8.5mmの1DayAcuvue?MoistTMは,筆者らが最も好む最強のPBLS用キャリアーレンズである.●シリコーンハイドロゲルレンズとPBLS超酸素透過性のO2Optixが登場したとき,筆者らの仲間うちで,やはり何人かの医師がPBLS用のキャリアーレンズとして試したが,結果はみな失敗に終わったようである.もともと低含水で剛性も高いこのレンズは,円錐角膜を押さえ込みながらフィットはしてくれる(77)のであるが,メカニカルストレスが強くPBLS用には向かない.PureVision?は,これよりは軟らかくて,何とか装用可能.Acuvue?のOasysTMとAdvanceTMであれば,まったく問題なく装用が可能である.Acuvue?黒石川誠佐野研二東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS286.円錐角膜へのハードコンタクトレンズ処方(4)―ピギーバックレンズシステム―図1Acuvue?OasysTMとメニコンZを組み合わせたPBLS計算上Dk/t値は67.6,連続装用可能な値である.数あるシリコーンハイドロゲルレンズのなかで,Acu-vue?OasysTMとAcuvue?AdvanceTMのみがキャリアーレンズとしての使用に耐えうるフレキシビリティをもつが,やはり装用感の良さから1Dayのハイドロゲルレンズを好む患者のほうが多い.図2裸眼(左)と,1DayAcuvue?(-0.5D)を装用させた円錐角膜形状(右)特に軟らかい1DayAcuvue?とはいえ,その屈折度数(-0.5D)以上に円錐角膜形状を見かけ上フラット化させる.すなわち,PBLSでは,HCLから角膜局所へのメカニカルストレスをさらに分散することができる.———————————————————————-Page2O図3PBLSのフィッティングフルオレセイン染色後,瞬き2~3回まではフルオレセインパターンを読み取ることができる.ビデオに残してチェックするのが望ましい.図4SCL上のHCLのムーブメントHCLは基本的に3点接触法で処方する.フルオレセイン染色後,最初の瞬きのその一瞬,持ち上げられたHCL下に涙が流入する様子をチェックする.asysTMとメニコンZを組み合わせた場合,PBLSの酸素透過率(Dk/t)値は計算上67.6となり,理論上は連続装用可能な値である.数あるシリコーンハイドロゲルレンズのなかで,このAcuvueROasysTMとAcuvueRAdvanceTMのみがキャリアーレンズとしての長期使用に耐えうる能力をもつが,やはり装用感の良さから1Dayのハイドロゲルレンズを好む患者のほうが多い.●PBLSのフィッティングチェック以前,フルオロソフトRなる商品名で,フルオレセインと高分子ポリマーを組み合わせたSCLフィッティング用のハイドロゲル内に浸透しにくい染色液があり,これがPBLS用のSCL上のHCLのフィッティングに非常に威力を発揮してくれたが,現在は市販されていない.仕方がないので筆者らは,通常のフルオレセイン染色液を使うことにしているが,2~3回の瞬目でDSCLは染色されてしまうので,スピーディな観察を要する.慣れれば大したことはないが,ビデオに撮って再チェックするのが望ましい.DSCLならでは可能となるフィッティング検査である(図3).HCLは基本的に直径を大きくしたほうが十分な表面張力を稼ぎ出すことができて脱落しにくい.3点接触法で処方し,フルオレセイン染色後,最初の瞬きのその一瞬,瞼によって持ち上げられたHCL下に涙が流入する様子を確認できたら(図4),そのサイズとベースカーブで処方,経過観察に移ってよい.