———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716250910-1810/07/\100/頁/JCLSLaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,Pallikarisらの最初の報告1)からすでに10年以上経ち安定した成績が報告2)され,現在最もポピュラーな屈折矯正手術として認識されている.その一方で,術後のグレアやハロー,夜間視力の低下などが,変わらぬ問題として残されている.その理由の一つとして考えられるのはLASIK後の角膜形状変化に伴う球面収差の増加である3).通常,健常眼はprolateshapeとよばれ,角膜の中央部分がsteepで周辺部分がatな形状をしている.しかし,近視あるいは近視性乱視に対してLASIKを行った結果,角膜中央部はatで周辺部分がsteepなoblateとよばれる非生理的な形状へ変化する.この変化は角膜における球面収差の増加をもたらし,術後の不定愁訴の原因になると考えられる(図1).こうした非生理的な変化をできるだけ減らすべく開発された照射方法が,Bausch&Lomb社製エキシマレーザー装置,Technolas217z100におけるAsphericabla-tion(非球面照射)である.この照射法は,術前にOrb-scanⅢTM(Bausch&Lomb社)にて角膜の非球面性の指標であるQ値を測定する(図2).そしてその術前のQ値をもとに,角膜形状が極端なoblate化にならないようにアルゴリズムが作成される.実際の臨床結果を検討したところ,図3のように6.0D以内の軽度・中等度近視群において,球面収差は術前後で有意な変化を認めなかった.また同群では,図4のように術前後でコントラスト感度の低下も認めなかった.このように,新しいAsphericablationではLASIK術後の球面収差の増加を抑えることで,術後コントラスト感度の低下を抑え,良好な視機能を得ることに成功していると考えられる.一方,このAsphericablationには,2つの問題点が残されている.1つは,図3のように術前後で球面収差の増加抑制が認められる反面,コマ収差は有意に増加している点である.このコマ収差は図5のように矯正量に(75)屈折矯正手術ースキルア●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男91.Q値を考慮したAsphericablation五十嵐章史小松真理山王病院眼科近視矯正laserinsitukeratomileusis(LASIK)の術後,眼球形状はoblate化し,その結果,球面収差が増加し,夜間視力低下やハロー・グレアをひき起こすと考えられている.これに対し,術前の角膜の非球面性の指標であるQ値に基づき,術後の球面収差の増加を抑制するAsphericablationが臨床で可能になった.図2Q値の測定術前にOrbscanⅢTM(Bausch&Lomb社)により角膜の非球面性の指標であるQ値を測定する.多くの場合,健常眼ではQ値は負の値をとることが多い.EllipseabROpt.axisQ=negative(b<a)ProlateshapeQ=positive(b>a)OblateshapeQ=zero(b=a)Sphericalshape-1=?2?2?図1Oblate化に伴う球面収差の増加近視・近視性乱視に対して,LASIKやPRK(photorefractivekeratectomy)といった角膜屈折矯正手術を施行すると角膜中央はat化し,oblate化する.このoblate化により球面収差は増加する.ProlateshapeOblateshape球面収差増加ELASIK後中央steep,周辺?atQ値<0中央?at,周辺steepPositiveQ———————————————————————-Page21626あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007比例して増加する傾向があるため,強度近視群には不適応であり,不正乱視例や追加矯正例のような特にコマ収差が大きい例においても薦められない.2つめは,図3でもみられるように6.0D以上の強度近視群では,Asphericablationを施行しても術前後で球面収差の増加を認めることである.そしてこの影響はコントラスト感度にも及び,図4のように同群では術後コントラスト感度の低下を認めた.前述のようにエキシマレーザーによる近視矯正は,角膜中央をatになるように切除するため矯正量依存的に球面収差の増加をきたす4).それゆえ,いかに優れたアルゴリズムでも球面収差の抑制には限界があると考えられる.今回の結果から,6.0D以内の軽度・中等度近視群までは良い適応であるが,これ以上はアルゴリズムの限界と考えられる.今後,コマ収差に対する改善も加わったAsphericablationが開発されれば,よりよいqualityofvisionが獲得できるものと期待される.文献1)PallikarisIG,PapatzanakiME,StathiEZetal:Laserinsitukeratomileusis.LasersSurgMed10:463-468,19902)KymionisGD,TsiklisNS,AstyrakakisNetal:Eleven-yearfollow-upoflaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg33:191-196,20073)SeilerT,ReckmannW,MaloneyRK:Eectivesphericalaberrationofthecorneaasaquantitativedescriptorincorneatopography.JCataractRefractSurg19:155-165,19934)OshikaT,MiyataK,TokunagaTetal:Higherorderwavefrontaberrationsofcorneaandmagnitudeofrefrac-tivecorrectioninlaserinsitukeratomileusis.Ophthalmol-ogy109:1154-1158,2002(76)図4術前後のコントラスト感度(AULCSF:areunderthelogcontrastsensitivityによる評価)AsphericLASIKでは軽度・中等度近視群において,術前後でAULCFSは不変であった.しかし,強度近視群では術後AULCSFの低下を認めた.12AULCSF:術前:術後-6.0D以下の軽度・中等度近視群-6.0D以上の強度近視群NSWilcoxon符号付順位和検定*n=34n=11*p<0.05AULCSF図3術前後の高次収差(解析径4mmにおける眼球全体の高次収差)AsphericLASIKでは軽度・中等度近視群において,球面収差は術前後で有意な増加を認めなかった.しかし,強度近視群では球面収差の増加を認めた.00.3コマ高次収差(μm):術前:術後-6.0D以下の軽度・中等度近視群-6.0D以上の強度近視群NSWilcoxon符号付順位和検定**********n=34n=11全収差球面コマ全収差球面***p<0.001,**p<0.01,*p<0.05図5矯正量に対するコマ収差の変化横軸に矯正量を,縦軸にコマ収差の変化量(術後コマ収差術前コマ収差)を示す.矯正量に比例し,コマ収差は増加する傾向にあった.y=0.019x-0.0392r2=0.2813-0.100.10.20.30矯正量(D)p<0.001108642コマ収差(μm)Δ☆☆☆