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ステロイド点眼薬の眼科的副作用

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page10910-181008\100頁JCLSルココルチコイド受容体に直接結合し,転写因子を介した種々の反応経路の活性化により特定の遺伝子転写が促進した結果として副作用が発現する経路と,副作用発現細胞とは別の細胞に存在するグルココルチコイド受容体を介し間接的に作用する経路である.いずれの結果でも,細胞増殖や細胞分化,アポトーシスに対する脆弱性変化,膜受容体を介した物質輸送,活性酸素などへの反応系に対して影響を与え種々の副作用をきたすと考えられる.ステロイド点眼薬の作用部位はおもに眼局所であることから発症する副作用はほとんど眼局所であるが,ときに全身副作用を示すことも報告されている.一般的にステロイドの副作用はステロイドの示す抗炎症作用の強度に比例すると考えられる.すなわちベタメタゾン,デキサメタゾン,フルオロメトロンの順に副作用が発症しやすくなり,発症も強くなる(注意:副作用の種類によってベタメタゾン,デキサメタゾンの順位は異なることがある).ステロイドによる副作用は投与期間とも相関している.2.ステロイド点眼間における眼内移行の違いステロイドによる眼圧上昇などの眼内の副作用発現の違いに関しては力価の差以外に2つの要因が考えられている.一つは角膜透過性の差である.もう一つの要因としては角膜通過時の代謝によって眼内に通過したステロイド代謝体のステロイド活性の違いである.フルオロメトロンはデキサメタゾンに比べ副作用の発現頻度が低くはじめに点眼用ステロイド薬は合成ステロイド薬で,糖質コルチコイド様作用を有し,糖代謝,抗炎症,免疫抑制作用などを示す.幅広い眼疾患に有効であることから眼科領域でも日常診療において非常に多く用いられている.しかしながらステロイド薬は,優れた効能を示すと同時にいくつかの重篤な副作用を示す.ステロイド点眼薬の副作用として代表的なものはステロイド白内障,ステロイド緑内障,感染,創傷治癒遅延である.本稿ではまずステロイドの薬理学的特徴に関して解説後,これら代表的副作用を中心に記述する.近年,滞留型ステロイドであるトリアムシノロンアセテート(以下,トリアムシノロン)は眼局所の滞留時間が長く,多くの眼底疾患に有効であるため非常に多用されている.しかしながら,トリアムシノロンが長期間滞留することは副作用の発現がより高率かつ重篤になることを意味しており,実際多くの副作用に関する報告がなされている.本稿の課題はステロイド点眼薬による眼科的副作用であるが,後半にトリアムシノロンによる副作用に関しても紹介する.Iステロイドの薬理学的特徴1.副作用発現機序ステロイドによる副作用発症機序に関しては解明されていない点が多く残っているが,おもに2つの経路が存在すると考えられている.すなわち,副作用が発現する細胞(たとえば,線維柱帯細胞)の核内受容体にあるグ(15)???*KenjiKashiwagi:山梨大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕柏木賢治:〒409-3898中央市下河東1110山梨大学医学部眼科学教室特集●眼科における薬剤副作用あたらしい眼科25(4):437~442,2008ステロイド点眼薬の眼科的副作用?????????????????????????????????????????????????????柏木賢治*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(16)眼圧上昇例が多いとされる.さらに若年者,高度近視眼や糖尿病患者でも多いことが報告されている.表2にステロイド緑内障発症危険因子を示す.2.発症機序ステロイドによって眼圧上昇をきたす機序に関してはいまだ結論に至っていないが,従来から線維柱帯路の細胞外にプラーク様の異常沈着が報告されており,細胞外器質の変化によって眼房水の流出能が低下するために起こると考えられてきた3).ステロイドによって細胞外器質の成分であるタイプIコラーゲン,タイプIVコラーゲン,フィブロネクチン,グリコサミノグリカンなどの増加が報告されている4).培養ヒト線維柱帯細胞を用いた研究ではアクチンの架橋形成なども報告され,ステロイドによる細胞外器質の分解酵素であるmatrixmetal-loproteinase活性変化も報告されている.原発開放隅角緑内障の原因遺伝子として報告されたミオシリン遺伝子(?????????)は培養線維柱帯細胞にステロイドを添加した際に発現が増加されることから研究されたが,ミオシリン蛋白の分泌がステロイドで増加し,これが房水流出抵抗を増大させる可能性も報告されている.最近のヒト培養線維柱帯細胞を用いた研究では,ミオシリン遺伝子以外にもステロイド負荷により細胞外器質分解酵素の発現低下や活性抑制に関連する遺伝子の発現増加,細胞接着分子であるアクチンやアクチン関連蛋白遺伝子の発現が変化することが報告されている5).ステロイドによる眼圧上昇機序は現時点ではさらなる検討が必要であるが,これらの報告から線維柱帯の細胞外器質変化や線維柱帯細胞自体の接着能や形態変化などによって房水流出抵抗が増加したものと考えられる.3.検査診断法ステロイドに対する眼圧反応性を調べる検査法としてはArmalyとBeckerが提唱した方法が一般的である(表3)1,2).一般的にはステロイドによる眼圧上昇は点眼開始後徐々に起こり,点眼中止後2~3週間程度で消失するが,症例によっては点眼早期から過剰な反応を示すものや高度に上昇するもの,まれではあるが不可逆性の上昇を示す場合があるため,検査前には患者に十分に説明程度も軽い.特に眼圧上昇など眼内における副作用の発現に差が大きい.上述した点がその理由として考えられる.IIステロイド緑内障点眼や内服もしくは注射などによって投与されたステロイドによる眼圧上昇に関しては50年以上前から指摘されている.ステロイド投与に反応して眼圧が上昇する確率は個人差が大きいが,ステロイドの力価,投与量,投与期間に比例して高率になる.一般的にステロイド緑内障の場合,自覚症状は緑内障視神経傷害が進行するまで出現しにくいため,ステロイド投与中,投与歴がある場合は注意が必要である.眼科医以外の医師から処方されるケースも多いため,啓蒙や投薬内容の問診などが重要となる.表1にステロイド緑内障診療の注意点を示す.1.疫学ステロイドに対する眼圧上昇反応には個体差が大きいことが知られている.ArmalyやBeckerの報告によると正常者の眼圧上昇頻度は,5~30%程度である1,2)が,開放隅角緑内障患者とその血縁者では上昇例が多く,なかでも?性緑内障,外傷による続発緑内障患者において表1ステロイド緑内障診療に関する注意点患者本人の自覚症状が少ないため投与眼においては注意深い診察が必要ステロイド治療歴の詳細な検討:薬剤名,投薬内容,投薬期間,眼圧値の経過ステロイド負荷テストに対する偽陰性症例の存在減量・代替療法の検討———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(17)可逆性の眼圧上昇を示すなどして緑内障治療が必要と判断された場合の治療方針は,基本的には原発開放隅角緑内障に準ずる.すなわち緑内障視神経障害と未治療時眼圧を参照にして目標眼圧を設定する.一般的には点眼治療を用いた眼圧下降を行い,十分な眼圧下降が得られない場合,手術治療を行う.ステロイド緑内障は線維柱帯切開術による眼圧下降が有効な病型であり線維柱帯切除術に比べ,濾過胞感染などの重篤な合併症をきたす可能性が低く,長期成績も比較的良好である.このため目標眼圧が10mmHg台後半の症例においては,第一選択として考えられる.しかしながら目標眼圧が10mmHg台前半の場合は線維柱帯切開術で達成することは困難なため,薬物療法の併用ができないケースの場合,線維柱帯切除術が第一選択と考えられる.ステロイド緑内障に対し線維柱帯切開術を施行する場合は将来,濾過手術を施行する可能性もあるため,上方への線維柱帯切開術の施行は避け側方や下方を選択したほうがよい.一方,線維柱帯切除術を施行する際,ステロイドを長期に使用した症例の場合,結膜が菲薄化している場合があるため結膜縫合不全や縫合部離解などが起こりやすいので注意が必要である.線維柱帯切開術や線維柱帯切除術を施行した場合,その後のステロイド点眼による眼圧上昇はほとんど発症することはないが,まれに術後のケースにおいてもステロイドにより眼圧が上昇する場合があることに注意する必要がある.5.ぶどう膜炎に合併したステロイド緑内障に対する対処法ぶどう膜炎の治療としてステロイド点眼を用いた結果眼圧が上昇することにしばしば遭遇する.このとき,重要な点は眼圧上昇のメカニズムがぶどう膜炎そのものによるものか,ステロイドによるものか鑑別することと,緑内障治療が必要な状態かどうか判断することである.前房内所見や隅角を精査しぶどう膜炎による眼圧の可能性を判断する.片眼性の眼圧上昇の場合は,反対側眼にステロイド点眼負荷テストを行って判断することも有用である.ステロイドによるぶどう膜炎の治療の必要性を考慮して中止可能な場合は可能なかぎり中止し,NSAIDなどの代替治療を行う.局所投与に比べ全身投与は投与し,細かく診察を行う必要がある.これらの負荷検査法で陰性であってもステロイドによる眼圧上昇の可能性を完全に否定することはできない.したがって大量もしくは長期にわたってステロイドを使用する場合は常に眼圧上昇に注意する必要がある.ステロイド点眼によって眼圧上昇を示す原発隅角緑内障患者が多いため,偽陽性である場合に関しても診断には注意が必要である.ステロイド緑内障の診断には必ず隅角検査を行う必要がある.これにより外傷,ぶどう膜炎,先天異常などが鑑別できる.発達緑内障の場合,角膜径の拡大や混濁などを示すこともあり診察時に注意する.しかしながら通常の眼科検査においてはステロイド緑内障と原発開放隅角緑内障を鑑別することは容易ではない.そこで臨床的に最も重要な点はステロイドの使用を問診や既往歴,現病歴などから明らかにすることである.この際,ステロイドが他科から処方されている場合もあるので注意が必要である.しっかりしたステロイド使用歴と眼圧の関係を示すデータがない場合,ステロイド中止後も負荷逆性の眼圧上昇が残存したケースやステロイドによる続発緑内障を過去に発症したケースを原発開放隅角緑内障と鑑別することは実際にはかなり困難である.4.治療ステロイド点眼による眼圧上昇が疑われる場合,ステロイドの中止によって多くは眼圧が正常化するため,可能であればまずステロイドの投与を中止する.もし眼圧下降が必要と判断される場合は点眼治療などを行う.種々の理由でステロイド中止が困難な場合は,減量もしくは作用の弱いフルオロメトロンや非ステロイド系消炎薬(NSAID)に変更する.ただし,フルオロメトロンでも長期間の点眼によって眼圧が上昇することがある.不表3ステロイド負荷試験法———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(18)膜色素変性症に合併した白内障,加齢などがある.既往歴や全身合併症,投薬歴などから鑑別する必要がある.加齢による白内障でも後?下白内障をきたすことがあるが,この場合,皮質白内障や核白内障を併発することがほとんどである.3.発症機序ステロイドによる白内障の発症機序としては水晶体上皮細胞に対する直接的作用と眼内の他の細胞に作用し間接的に成長因子の濃度などの調整を行うことで水晶体に作用して白内障を惹起することも考えられている.ステロイドがトランスグルタミナーゼを誘導し水晶体蛋白間に架橋を形成するという説,ステロイドのカルボニル基と水晶体蛋白のアミノ基の間が結合する説,水晶体蛋白のリン酸化阻害説,水晶体上皮細胞のNa-K-ATPaseポンプ機能の障害説などが考えられているが,発症機序に関しては十分に解明されていない9).組織学的検討では,水晶体後?直下の混濁部に空胞の形成が認められるが,鶏胚白内障モデルを用いた検討では,細胞接着因子の一つである?-カドヘリンの染色が増強していることや,sialyl-Lewisgangliosideの分布が減少していることが報告されており,水晶体線維接着の異常が推測されている.4.治療ステロイド白内障の場合,視力低下よりコントラスト感度の低下が強い場合が多い.治療はいくつかの薬物治療が報告されているが,有効性がヒトで確認されたものはない.したがって,視機能障害が強い場合は,手術療法が第一選択であるが,ステロイド白内障は点眼例でも全身例でも可逆性があるとの報告もあるため,手術適応の決定は特に若年者では慎重に行う必要がある.IV感染症ステロイドは抗炎症作用が強いため,感染症に併発する炎症反応の沈静化,軽快化に有効性を示す.しかしながらステロイドは同時に細胞性免疫,液性免疫ともに抑制し免疫能を低下させる.おもな免疫抑制機序としてはマクロファージやTリンパ球由来のサイトカイン産生量が少ない場合はステロイド誘導性の眼圧上昇を起こしにくいとされているため,少量のステロイドの内服をNSAID剤などと併用することも検討すべきである.たとえステロイド投与による眼圧上昇が認められても,緑内障視神経障害が未発症もしくは軽度の場合や眼圧上昇が軽度の場合では,ぶどう膜炎の治療を優先し,炎症の早期の沈静化を優先することが重要である.6.手術に際してのステロイド点眼の選択眼科手術後には高頻度にステロイド点眼が使用されるが,ステロイド点眼の術後投与方法に関しては副作用の発症の点から再検討が必要である.たとえば,斜視施術患者にデキサメタゾンもしくはNSAIDを術後点眼し眼圧を検討するとデキサメタゾン点眼群の眼圧が術後有意に上昇したとの報告がある6).この報告では炎症所見にデキサメタゾン群もNSAID群にも有意な差がなかったことから,このような手術の場合,今後術後ステロイドは不要な可能性が考えられる.緑内障の現病歴のある患者に手術を行う際には,術後のステロイド使用に関しては最低限にして眼圧上昇に配慮することも必要である.IIIステロイド白内障1.疫学ステロイドの全身投与によって白内障が発症することが報告されている7,8).その発症頻度は全身投与の場合,後?下白内障の発症率が,プレドニゾロン換算で10~15mgを1~4年間投与した群では11%,4年以上では57%,15mg以上では1~4年で78%,4年以上で83%との報告がある7).このように大量のステロイドを全身的に投与すると白内障を併発する頻度が高いが,ステロイド点眼によっても大量全身投与に比べ頻度は低いものの白内障が併発することも古くから報告されている.2.検査所見ステロイド白内障の典型的な混濁形式は後?下混濁である.特徴的な混濁のパターンは,後?直下に点状混濁や空胞が形成されそれらが融合し,皿状の混濁へと進行する.後?下白内障はステロイド白内色———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(19)合2.04%(116/5,665件),Tenon?下投与の場合1.55%(191/12,343件),濾過手術が必要となった眼圧上昇例は硝子体内注射の場合0.56%(32/5,665件),Tenon?下投与の場合0.26%(33/12,343件),眼内炎は硝子体内注射の場合0.12%(7/5,665件),Tenon?下投与の場合0.008%(1/12,343件)であった.眼瞼下垂は硝子体内注射で0.14%(8/5,665件),Tenon?下投与で0.35%(43/12,343件)に発症していた.この報告によると,硝子体内注射による眼内炎の発症率は欧米と同等以下で,眼瞼下垂はTenon?下投与例に多く発症していた13).ただし,米国からの報告では,硝子体内注射によって1年で半数近くが白内障の進行が認められたとの報告もあり,本報告とは発症率が大きく異なる.これは白内障の評価基準が調査施設ごとに異なるためと考えられ単純に他の報告と比較できない.トリアムシノロンは,ステロイド力価は比較的弱いが局所滞留時間が長く,従来のステロイド点眼の場合,局所滞留時間が短いために眼圧上昇などの副作用が発症した際には投与を中止して対応することができたのに対し,除去が困難な場合が多い.したがって投与や経過観察にはより注意が必要である.おわりに以上,ステロイド点眼による眼科的副作用についてまとめた.現在,ステロイドによる副作用を避けるために,種々のNSAIDが開発されているが,いまだにステロイドを明らかに超える薬剤は開発されていない.われわれは,日常的に用いるステロイド局所薬による副作用を抑えるために必要最小限の投与に留めることと,副作抑制が考えられている.免疫能抑制の結果,外来性の感染源に対する防御能の低下とヘルペスウイルスなどの潜在性ウイルスの活性化や常在菌の顕在化をきたす.このような免疫低下能はステロイドの力価や投与量,投与期間に比例するためステロイド点眼の際には,感染の悪化や新たな感染の誘発の可能性に十分に注意して有効な最小限の投与量を用い常に感染に注意する必要がある.V創傷治癒遅延ステロイド薬はコラーゲン合成を抑制するため術後長期間使用している際には創傷治癒が遅延する.岸本らの報告によると全層角膜移植後に創口離解をきたした症例の多数がステロイド点眼を使用していた10).長期間のステロイド使用は細胞外器質代謝に影響を与え,結膜や強角膜の菲薄化をきたすこともある.若年ウサギを用いた研究では,ステロイド点眼の継続によって全身成長が抑制されることが報告された11).ヒトでの検討はないが,特に乳幼児に対するステロイドの長期投与は点眼であっても注意が必要かもしれない.VIトリアムシノロン局所投与による副作用滞留型のステロイドであるトリアムシノロンは,以前から眼科領域で用いられていたが,眼圧上昇などの副作用によって臨床使用は限定されていた.しかしながら最近網膜疾患の治療に対する有効性が多く報告されるようになり,トリアムシノロンをTenon?下もしくは硝子体中に投与するケースが増えている.これに伴い,眼圧上昇,ステロイド白内障や眼内炎の発症などの副作用や合併症の報告が増えている.トリアムシノロンによる眼圧上昇に関して,Yama-motoらは,5mmHg以上の眼圧上昇の頻度は34.1%程度であると報告している12).眼圧上昇のリスクは,基本的には水溶性ステロイドと同様であるが,若年者,糖尿病などが報告されている.発症率はTenon?下投与経路が高い報告が多く,眼圧上昇期間が点眼に比べ比較的長期間(半年程度)続くことも特徴である.坂本らは2006年5月時点におけるわが国のトリアムシノロンの使用状況に関する調査を行い報告したが,それによると(表4),白内障の合併率は硝子体内注射の場表4トリアムシノロン注射による眼合併症頻度合併症硝子体内注射(5,665件)Tenon?下注射(12,343件)白———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(20)7)WestSK,ValmadridCT:Epidemiologyofriskfactorsforage-relatedcataract.???????????????39:323-334,19958)CongdonN,BromanKW,LaiHetal:Cortical,butnotposteriorsubcapsular,cataractshowssigni?cantfamilialaggregationinanolderpopulationafteradjustmentforpossiblesharedenvironmentalfactors.?????????????112:73-77,20059)西郡秀夫:鶏胚を用いたグルココルチコイド作用・副作用の研究─白内障の発症機序から治療効果を残した予防を考える─.薬理学会雑誌126:869-884,200610)岸本修一,天野史郎,山上聡ほか:全層角膜移植術後に外傷性創離開を起こす患者背景因子.臨眼58:1495-1497,200411)KugelbergM,Sha?eiK,OhlssonCetal:Glucocorticoideyedropsinhibitgrowthinthenewbornrabbit.??????????????94:1096-1101,200512)YamamotoY,KomatsuT,KouraYetal:Intraocularpressureelevationafterintravitrealorposteriorsub-Ten-ontriamcinoloneacetonideinjection.????????????????43:42-47,200813)坂本泰二,樋田哲夫,田野保雄ほか:眼科領域におけるトリアムシノロン使用状況全国調査結果.日眼会誌111:936-945,2007用の発現に十分注意して診療を行う必要がある.文献1)ArmalyMF:Statisticalattributesofthesteroidhyperten-siveresponseintheclinicallynormaleye.I.Thedemon-strationofthreelevelsofresponse.?????????????????4:187-197,19652)BeckerB:Intraocularpressureresponsetotopicalcorti-costeroids.?????????????????4:198-205,19653)YueBY:Theextracellularmatrixanditsmodulationinthetrabecularmeshwork.???????????????40:379-390,19964)JohnsonDH,BradleyJM,AcottTS:Thee?ectofdexam-ethasoneonglycosaminoglycansofhumantrabecularmeshworkinperfusionorganculture.?

抗緑内障点眼薬による眼障害

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page10910-181008\100頁JCLSつの大きな進歩が緑内障薬物治療に登場した.①ゲル化b遮断薬,②新たなPG製剤,③点眼の炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)の導入である.さらに,④欧米での大規模無作為前向き試験により目標眼圧の概念が確立し,より低いレベルでの眼圧コントロールが求められはじめ,3剤あるいは4剤の併用薬物治療が臨床の場に普及した.そのために現在の緑内障治療における薬剤性角膜障害がいっそう広く認知されるきっかけとなった.II緑内障薬物治療の特徴,問題点緑内障はきわめて慢性に,きわめて長期に進行し続ける特徴がある疾患である.また,治療は一旦開始されたらほぼ全生涯を通じて行う必要があり,視野の悪化や,眼圧上昇などを契機に点眼薬の追加投与や治療法の変更が行われる.近年,目標眼圧の概念が確立され,さらに厳密な眼圧コントロールが必要とされるようになってきた.しかし真の意味での患者自身に至適とされる眼圧レベル(健常眼圧レベル)を把握,決定するのは困難である.眼科医は長期的な眼圧測定と視野検査をくり返すことによって得られる,より確率の高い推測値に頼らざるをえず,このためより安全域を広げた過剰な治療に傾かざるをえないのが現状である.緑内障薬物治療の目的は十分な眼圧下降により視機能の悪化を最小限に抑え,一方で,薬剤の長期的投与による合併症,副作用を最小限にすることにある.そのためには市販されている多くの緑内障治療薬の特性,特徴を理解し,短期的,長期的なはじめにさまざまな眼疾患で点眼治療を行っている経過中に,思わぬ角膜障害に遭遇する.このような病態は薬剤性角膜障害とよばれ,近年広く臨床の場において認知されてきた.特に緑内障は非常に長期間点眼薬が使用され続けるため,このような障害が発症しやすい疾患の代表である1).さらに緑内障薬物治療は近年,併用薬物療法が普及し薬剤性角膜障害が発症しやすい状況が作り出されている.緑内障治療薬による薬剤性角膜障害発症の機序の十分な理解と,発症の際の適切な対応が臨床の場において要求されている.I緑内障治療薬による薬剤性角膜障害の歴史1990年代に,イソプロピルウノプロストン(ウノプロストン)が新しいプロスタグランジン製剤(PG製剤)として臨床の場に登場した.眼圧下降効果はb遮断薬に劣るものの全身への副作用がないことから,b遮断薬が禁忌の患者へのファーストラインの治療薬として,さらにいっそうの眼圧下降を目的としてb遮断薬との併用が広く行われた.しかし,チモロール単剤あるいはウノプロストン単剤でほとんど生じなかった角膜障害が,両者の併用で高頻度に出現し,その原因,治療法について大きな問題となった2,3).このチモロールとウノプロストン併用による角膜障害がきっかけとなり,緑内障治療薬による薬剤性角膜障害が一般臨床の場において急速に認知され今日に至っている.1990年代後半に入り,4(9)???*ShoichiSawaguchi:琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野〔別刷請求先〕澤口昭一:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部高次機能医科学講座視覚機能制御学分野特集●眼科における薬剤副作用あたらしい眼科25(4):431~436,2008抗緑内障点眼薬による眼障害????-?????????????????????????????????????????澤口昭一*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(10)頻度は少ないが角膜内皮障害のある患者にCAIを点眼して水疱性角膜症に進行,悪化した報告や,閉塞隅角緑内障に対してレーザー虹彩切開術を施行した患者にPG製剤を点眼して急速に角膜内皮が減少した報告もある.薬剤性の偽眼類天疱瘡は非常にまれではあるが緑内障点眼薬が原因となることが指摘されている.2.防腐剤による障害(表1)ほとんどすべての市販されている緑内障治療薬(点眼薬)には防腐剤が含まれ,その細胞毒性が知られている4,5).表1にわが国で市販されている抗緑内障点眼薬に含まれる防腐剤濃度を記載した.塩化ベンザルコニウム(BAC)を含んだ点眼薬の点眼回数と,含まれるBAC濃度の2つの要素が眼局所へ影響を与える.一般的に防腐剤の細胞毒性は,点眼後涙液で希釈されるためにほとんど眼局所への影響はないとされている.しかしながら,点眼薬を複数併用した場合には点眼回数が増えるために前眼部は常にBACに曝露されていることになる.また,高濃度のBACを含む点眼薬は併用療法を行う際には必須なため,いっそうの注意が必要となる.3.眼自体や眼を取り巻く環境の問題ドライアイなど涙液減少症では点眼薬の希釈が不十分となり上皮障害を起こしやすい環境を生じる.また糖尿病患者では角膜知覚低下による涙液分泌の減少,上皮の再生能の低下,接着機能の低下などが知られており,一旦生じた上皮障害が重症化,遷延化しやすくなる.素因として角膜上皮の脆弱性(輪部幹細胞の疲弊など)がある場合には当然点眼薬の副作用や賦形剤による副作用がリスク,ベネフィットを考慮した戦略を立てる必要がある.緑内障治療薬は眼という非常にデリケートな組織への点眼という,他の全身性の薬剤投与とは際だった違いがある.特に点眼薬が直接接触する角膜,結膜,眼周囲組織などへの副作用については十分に理解し,対応する必要がある.一方で緑内障治療薬(点眼薬すべてに当てはまる)の特徴として,その主成分以外に製剤化するにあたって防腐剤,安定化剤,可溶化剤など,多くの賦形剤が含まれており,薬剤自身の作用,副作用とともにこれらの賦形剤の眼局所への影響についても理解する必要がある.III緑内障薬物治療による角膜障害の発症機序緑内障治療薬の副作用については点眼薬の作用に付随した副作用(涙液分泌抑制,炎症惹起性,細胞増殖抑制など)と点眼薬に含まれる防腐剤を中心とした賦形剤の毒性による副作用があげられる.またb遮断薬の表面麻酔作用,さらに点眼薬自体に対するアレルギーなどが病状を複雑にしている.緑内障治療薬の角膜障害は点状表層角膜炎など軽度な障害から角膜びらん,さらに遷延性上皮欠損などより重篤な障害へと進行する(図1).さらに点眼薬の副作用は多剤併用することで,発症頻度が増したり,あるいはより重篤化して出現することもしばしば経験される2).角膜側の因子としては角膜上皮の健常性と角膜を取り巻く周囲の環境を考慮する必要がある.健常な角膜上皮はほぼ2週間以内に入れ替わるが,角膜上皮の異常(上皮自体,あるいは幹細胞の疲弊)ではこのサイクルが遅延し,点眼薬により上皮障害が発症しやすく,発症した上皮障害の修復が困難となる.角膜上皮を取り巻く環境の異常(ドライアイなど)では薬剤が結膜?内に停滞しやすくなり,薬剤自体の副作用や防腐剤の影響がより強く出現する.1.点眼薬自体の副作用b遮断薬には薬剤そのものの細胞毒性,角膜知覚低下,涙液分泌抑制などの副作用がある.同様に,PG製剤には細胞分裂抑制,炎症惹起性がある.PG製剤によるヘルペス性角膜炎の発症,再燃や黄斑浮腫の悪化,ぶどう膜炎の再燃など頻度は少ないが報告されている.さらに表1日常臨床で用いられる各種緑内障治療薬の防腐剤濃度商品名BAC含量点眼回数/日キサラタン?0.02%1回ベトプティック?0.01%2回エイゾプト?0.01%2回トルソプト?0.005%3回レスキュラ?———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(11)はBACを含まない点眼薬への変更を行う.わが国で最近発売されたトラボプロスト(トラバタンズ?)はBAC以外の防腐剤(賦形剤)を使用しており,角膜上皮への副作用が軽減することが期待されている6).つぎにb遮断薬の上皮への影響については点眼薬の種類により強,弱があることが知られており7)(表2),上皮障害が出現しても軽度であれば上皮への影響の少ない薬剤へ変更することで未然に重篤な障害への進展を予防することが可能かもしれない.そのうえで症状,所見の重症度に応じて防腐剤無添加の人工涙液,角膜保護剤の(頻回)点眼,ステロイド点眼や少量のステロイド内服などで上皮の修復を待つ.この期間の眼圧コントロールはCAIの内服を用いる.一旦角膜障害が消失し,点眼薬を再開する場合は点眼後5~10分で防腐剤無添加の人工類液の点眼を行う.緑内障の治療の基本は薬物治療による眼圧下降であり,進行した症例や薬剤再開によって再発しやすい症例ではこのような緑内障薬物治療の長期的な継続は困難と判断し,レーザー治療や,さらには手術治療への変更も考慮する必要がある.V重症度に応じた治療戦略(図1)緑内障薬物治療中に薬剤性角膜障害が発症した場合,その治療はワンパターンではない.特に角膜障害の重症度に応じた治療法,治療戦略が重要である.その治療の基本は点眼による緑内障治療を最小限にとどめ,角膜保護に努めるということになる.出現しやすくなる.4.点眼薬の眼停留性の問題ゲル化製剤は結膜?内における薬剤の滞留時間を延長し効果を持続させる働きがある.このために点眼回数を減らし,点眼コンプライアンスの向上に役立つ.一方で3剤以上の多剤併用患者でゲル化製剤を投与し,直後に2剤目を投与すると,2剤目の薬剤も結膜?内に長時間停留し,薬剤の副作用,防腐剤の副作用が増強,持続し角膜への障害をきたす可能性がある.ゲル化製剤を用いる場合はなるべく2剤目の点眼は十分な時間間隔で投与することが望ましい.またドライアイなどで涙液分泌が少ない患者では点眼薬の結膜?内の停留がより長時間となることを考慮したうえでの投与間隔を配慮する.同様に夜間は涙液の分泌が減少するため,就寝直前の点眼は行わないように指導する必要がある(就寝まで30分以上開けることが望ましい).IV角膜障害の治療,対応薬剤性角膜障害への対応はまず必要最小限の点眼治療を行うことで角膜障害の発症を予防する.一旦発症した際には,その角膜障害の重症度に応じて点眼薬剤数を減らす,変更する,などから最終的には点眼薬を中止せざるをえなくなるまでさまざまである.まず防腐剤への対応としては,すでにb遮断薬にはこの防腐剤無添加の点眼薬が市販されているのでこれに変更する.PG製剤表2長期点眼群におけるフルオレセイン取り込み濃度の比較フルオレセイン取り込み濃度(ng/m?)全体SPKなしSPKあり抗緑内障点眼ウノプロストン点眼群82.6±108.550.7±24.6321.7±192.9カルテオロール点眼群84.5±44.278.7±30.9208.1±118.3チモロール点眼群139.0±75.1119.2±53.4262.5±76.0ベタキソロー———————————————————————-Page4———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(13)とに決定する.緑内障薬物治療中に生じた角膜上皮障害の2症例を呈示し,その治療法を示す.〔症例1〕H.S.65歳,女性.診断:慢性閉塞隅角眼(図2).レーザー虹彩切開術(LI)後の眼圧コントロールにラタノプロストを点眼開始した.点眼開始後5カ月目に点状表層角膜炎を発症した.ヒアルロン酸ナトリウム(ヒアレイン?)点眼開始とラタノプロスト中止で点状角膜VI薬剤性角膜障害の際の基本的注意事項1)ラタノプロスト点眼を含めて点眼薬の就寝直前は行わない(30分以上).2)緑内障治療薬の整理,整頓を行う.3)眼圧コントロールは内服CAIを用いる.4)人工涙液(特に防腐剤無添加)は結膜?内の洗浄と角膜保護.5)ステロイドの点眼,内服や抗菌薬の点眼は症例ご図2ラタノプロスト投与後の表層角膜炎a:点眼再開後の表層角膜炎.b:点眼中止後の角膜所見.図3緑内障点眼3剤にレーザー後の点眼を追加a:広範囲のびまん性の上皮障害と,深層に及ぶ強い上皮障害がみられた.b:すべての点眼を中止し,人工涙液を処方したところ上皮障害は消失した.この後,3剤の併用療法でも角膜障害は出現していない.———————————————————————-Page6

抗微生物薬局所投与による眼障害

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1特集●眼科における薬剤副作用あたらしい眼科25(4):425~429,2008抗微生物薬局所投与による眼障害OcularComplicationsofTopicalAntimicrobialAgents鈴木崇*はじめに眼感染症疾患の予防と治療を行ううえで,抗菌薬や抗ウイルス薬の局所投与は必要不可欠なものである.しかし,薬剤や使用方法,もしくは投与される組織側のさまざまな要因で,眼障害をひき起こす場合も少なくない.特に,感染症治療中に認められた眼障害が,感染症による所見なのか,それとも抗微生物薬による副作用なのかを見極めることは,感染症治療の経過観察をするなかで重要なポイントとなってくる.これらの鑑別には,抗微生物薬の眼障害の特徴を理解しておく必要がある.本稿では,まず,抗菌薬,抗真菌薬,抗ウイルス薬のそれぞれの眼障害の種類について解説し,症例において,どのように診断・鑑別や治療をするかについても述べる.I抗菌点眼薬による眼障害抗菌点眼薬は,細菌性角膜炎や細菌性結膜炎などの外眼部感染症のみでなく,周術期管理のため,手術前後にも使用される場合が多い.そのため,抗菌点眼薬による眼障害についても理解しておく必要がある.まず,抗菌薬に対するアレルギー反応は,いずれの抗菌点眼薬点眼によっても出現する可能性がある.図1の症例では,トブラマイシン点眼薬使用後,眼周囲に発赤・腫脹が出現した.トブラマイシン点眼薬に対するⅣ型アレルギーとして,接触性皮膚炎をひき起こした可能性が高い.また,毒性としての眼障害をひき起こすこともあり,それは抗菌薬の種類によって,その頻度や特徴も若干異なってくる.1.フルオロキノロン点眼薬フルオロキノロン点眼薬は,広域スペクトルであり,かつ点眼薬として安定性や保存の利便性がよいため,眼感染症の予防・治療の第一選択薬として使用される.フルオロキノロン点眼薬の眼障害は比較的少なく,その面でも使用しやすい抗菌薬である.しかしながら,刺激感・充血や角膜上皮障害などの眼障害は,治験時において各フルオロキノロン点眼薬の数%に認められており,まったくないわけではない.フルオロキノロン間での,眼障害の差異については,いまだ明確ではないが,櫻井らは,invitroにおいて各種フルオロキノロン薬の角膜図1トブラマイシン点眼後に認められた接触性皮膚炎*TakashiSuzuki:SchepensEyeResearchInstitute〔別刷請求先〕TakashiSuzuki:20StanifordStreet,Boston,MA02114,USASchepensEyeResearchInstitute0910-1810/08/\100/頁/JCLS(3)425———————————————————————-Page2上皮細胞に対する影響を細胞増殖率の50%抑制濃度(IC50:halfinhibitingconcentration)を指標として,比較検討し,その結果,各薬剤によって異なっていたことを報告している1).また,ある種のフルオロキノロン点眼薬に含有されている防腐剤などの添加剤が角膜上皮障害などをひき起こす可能性も否定できない.さらに,pHや溶解性の影響により,析出もしくは他の点眼薬との配合変化がみられるフルオロキノロン点眼もあり,これらの変化が眼障害をひき起こすことも考えられる2).2.セフメノキシム点眼薬セフメノキシム点眼薬は,スルベニシリン点眼薬が市販されなくなったため,唯一市販されている..-ラクタム系の点眼薬として,グラム陽性球菌をターゲットに使用する価値は高い.しかし,使用時に溶解するため,高齢者において,使用方法を間違えるなどのトラブルも散見される.セフメノキシム点眼薬の眼障害は,フルオロキノロン点眼薬と同様に,充血や角膜上皮障害など眼障害がまれに認められることがある.3.アミノグリコシド点眼薬アミノグリコシド点眼薬は,グラム陰性桿菌に感受性があるため,緑膿菌角膜炎などのグラム陰性桿菌による眼感染症治療に効果が高い.しかしながら,細胞障害性が比較的強いため,充血や角膜上皮障害を生じやすい.図2は,セラチアによる角膜炎に対してトブラマイシン点眼を投与した症例であるが,トブラマイシン点眼開始後,病巣は縮小傾向を示すも,結膜充血・結膜上皮欠損を示した.さらに,アミノグリコシド点眼は眼瞼に対しても毒性をひき起こす場合があり,本薬剤の使用中は眼障害の出現に注意する必要がある4.エリスロマイシン・コリスチン点眼薬・クロラムフェニコール点眼エリスロマイシン・コリスチン点眼薬やクロラムフェニコール点眼の眼障害として,他の抗菌点眼薬と同様に充血や角膜上皮障害があるが,頻度はそれほど高くない.5.バンコマイシン点眼薬バンコマイシン点眼薬は,MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による角膜炎・結膜炎に対して効果を示すため,自家調整し,使用することがある.その場合,細胞毒性が強いため,充血や角膜上皮障害などの眼障害は比較的多い.なかでも,結膜炎に使用した場合,感染自体による充血か,バンコマイシンによる影響かは,使用前後の充血状態を慎重に比較しながら考慮する必要があるが,点眼後に角膜上皮障害が出現した場合は,バンコマイシンの副作用の可能性が高い.II抗真菌点眼薬・眼軟膏の眼障害抗真菌薬は,真菌性角膜炎の治療として使用され,市販薬としてはピマリシン点眼・眼軟膏がある.また,自家調整を行い,治療に使用する場合も多い.アムホテリシンBやピマリシンなどのポリエン系抗真菌薬は,エルゴステロールに直接結合し真菌細胞膜を破壊することトブラマイシン点眼後に発症した結膜充血(上)と結膜上皮欠損(下)426あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(4)———————————————————————-Page3で抗真菌作用を示すが,ヒト細胞のコレステロールにも結合するため,細胞毒性が強い.眼部においても角膜に毒性を示すことが多く,上皮障害をひき起こしたり,感染によって角膜実質の融解が起こっている場合は角膜穿孔を生じる場合もある(図3).アゾール系抗真菌薬は,チトクロームP450を介して選択的にエルゴステロールの合成を阻害することで抗真菌作用を示すが,ヒト細胞のチトクロームP450のアゾール系薬剤親和性は低いため,ポリエン系よりは毒性が少ない.しかしながら,ミコナゾールは,0.1%など高濃度で使用すると充血や角膜上皮障害などの眼障害をひき起こす.特にミコナゾールを長期間に使用すると,眼瞼の腫脹やマイボーム腺の障害など,眼瞼への影響が高頻度で生じる(図4).ミカファンギンは,ヒトに存在しない真菌細胞壁の主要構成成分である1,3-..-D-グルカンの生合成を特異的に阻害することで,抗真菌作用を示すため,局所投与で使用しても,角膜上皮障害などの眼障害は比較的軽微である.III抗アカントアメーバ薬の眼障害アカントアメーバ角膜炎は,コンタクトレンズ装用者に認められる角膜炎のなかでも難治性であり,特効薬がないのが現状である.そのため,治療としては抗真菌薬の局所投与に加えて,PHMB(polyhexamethylenebiguanide)やクロルヘキシジンなどを使用する.これらの薬剤も角膜上皮障害などの眼障害をひき起こす(図5).IV抗ウイルス薬点眼・眼軟膏の眼障害角膜ヘルペスの治療において,アシクロビル眼軟膏などの抗ウイルス薬の使用は絶対不可欠である.しかし,長期間に使用する場合も多く,アシクロビル眼軟膏の場合は,細胞毒性によって角膜中央部から下方にかけて点状表層角膜炎などの角膜上皮障害が高頻度に出現する(図6).また,アシクロビル眼軟膏の登場により,使用頻度が低くなったイドクスウリジン(idoxuridine:IDU)はアシクロビルよりも細胞毒性が強く,角膜上皮障害以外にも涙点閉塞や濾胞性結膜炎をひき起こすことがある.日本では市販されていないトリフロロチミジンも角膜ヘルペスに効果的であるものの,アシクロビルよりも眼障害をひき起こしやすい.ガンシクロビルは,サイト(5)あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008427———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(6)図6アシクロビル眼軟膏点入中に認められた角膜やや下方の点状表層角膜炎図7多種類の抗菌薬を点眼中のMRSA角膜炎表1抗微生物薬による眼障害の可能性を示すポイント多種類の抗微生物薬を投与している.角膜全体の点状表層角膜炎を認める.角膜上皮再生遅延を認める.上皮欠損の境界部が盛り上がる場合もある.結膜充血・眼瞼腫脹を認める.角膜細胞の浸潤(黒矢印)の境界のほうが,角膜上皮欠損部の境界(白矢印)よりも小さい.メガロウイルスに効果があるため,近年発見され報告されたサイトメガロウイルス内皮炎の治療として,点眼は効果がある可能性がある3).しかし,pHが高く眼障害をひき起こす可能性も否定できない.V角膜感染症治療中の抗微生物薬による眼障害の診断と対策前述のように,抗微生物薬の眼部への局所投与において,眼障害として角膜上皮障害をひき起こすことがしばしば認められるため,その上皮障害が,副作用として現れているのか,感染症の所見として現れているのかの鑑別をする必要がある.特に,原因微生物が特定されておらず,多くの種類の抗微生物薬を投与されている場合は,効果のある薬物を推定しながら,眼障害をひき起こしさらに治療効果の少ない薬剤を中止する必要がある.抗微生物薬の眼障害が顕著な場合は非栄養性の角膜潰瘍に移行する場合もある.そのため,鑑別が必要となってくる.抗微生物薬による眼障害の可能性を示すポイントを表1にまとめる.まず,結膜上皮障害が軽微であるにもかかわらず,点状表層角膜炎が,角膜全体に認められる場合は抗微生物薬の眼障害が考えられるため,病巣の所見が改善しているならば,漸減,中止をしていく必要がある.また,角膜の炎症が軽快しているにもかかわらず,角膜上皮の再生が明らかに遅延している場合は,抗微生物薬の影響が考えられる.図7は,角膜感染症からMRSAが検出されたため,バンコマイシン・アルベカシン・クロラムフェニコール・ガチフロキサシン・トブラマイシンの点眼を使用されていた症例で,角膜細胞浸潤が消失している部位においても角膜上皮が再生しておらず,多くの抗菌点眼薬を投与していることが影響していると考えられた.バンコマイシンとアルベカシン点眼のみとし,他の抗菌点眼を中止したところ,角膜上皮が再生し,また,角膜細胞浸潤も縮小,瘢痕化した(図8).このように多くの抗菌点眼薬を使用していることで,眼障害をひき起こすだけでなく,治療効果を妨げているメガロウイルスに効果があるため,近年発見され報告されたサイトメガロウイルス内皮炎の治療として,点眼は効果がある可能性がある3).しかし,pHが高く眼障害をひき起こす可能性も否定できない.V角膜感染症治療中の抗微生物薬による眼障害の診断と対策前述のように,抗微生物薬の眼部への局所投与において,眼障害として角膜上皮障害をひき起こすことがしばしば認められるため,その上皮障害が,副作用として現れているのか,感染症の所見として現れているのかの鑑別をする必要がある.特に,原因微生物が特定されておらず,多くの種類の抗微生物薬を投与されている場合は,効果のある薬物を推定しながら,眼障害をひき起こしさらに治療効果の少ない薬剤を中止する必要がある.抗微生物薬の眼障害が顕著な場合は非栄養性の角膜潰瘍に移行する場合もある.そのため,鑑別が必要となってくる.抗微生物薬による眼障害の可能性を示すポイントを表1にまとめる.まず,結膜上皮障害が軽微であるにもかかわらず,点状表層角膜炎が,角膜全体に認められる場合は抗微生物薬の眼障害が考えられるため,病巣の所見が改善しているならば,漸減,中止をしていく必要がある.また,角膜の炎症が軽快しているにもかかわらず,角膜上皮の再生が明らかに遅延している場合は,抗微生表1抗微生物薬による眼障害の可能性を示すポイント多種類の抗微生物薬を投与している.角膜全体の点状表層角膜炎を認める.角膜上皮再生遅延を認める.上皮欠損の境界部が盛り上がる場合もある.結膜充血・眼瞼腫脹を認める.図6アシクロビル眼軟膏点入中に認められた角膜やや下方の点状表層角膜炎図7多種類の抗菌薬を点眼中の———————————————————————-Page5可能性もある.したがって,角膜感染症の治療経過を確認するなかで,角膜細胞浸潤の消失スピードと角膜上皮の再生スピードを比べながら,角膜細胞浸潤の消失スピードよりも角膜上皮の再生スピードが遅い場合は,抗微生物薬の眼障害が出現している可能性がある.これらの眼障害を取り除くためには,原因となっている抗微生物薬を見極めて,注意する必要がある.そのためには,まず原因微生物を同定して薬剤感受性を把握することが重要で,さらに前述のようにそれぞれの細胞毒性を考慮しながら,必要最小限の治療メニューを構築することが必要である.また,角膜ヘルペス治療中においてアシクロビル眼軟膏によって,cracklineとよばれる線状の角膜上皮障害が出現する場合があり,その病変が角膜ヘルペスによる樹枝状角膜炎か否かを鑑別する必要がある.樹枝状角膜炎の場合,ターミナルバルブといわれる,病変の先端に樹枝状の盛りあがりがあるのに対して,cracklineはギザギザである(図9).さらに,アシクロビル眼軟膏による角膜上皮障害の場合,フルオレセイン液の角膜内への浸透性が向上していることも鑑別点の一つとなる.おわりに抗微生物薬の眼障害は,不可逆的かつ致命的なものは少なく,いずれの場合も責任薬剤を中止するだけで軽快する.しかし,気づかずに投与し続けた場合には無菌性に角膜穿孔をきたすことがある.眼感染症に対する治療効果がある場合は,ある程度の眼障害を覚悟で治療を続ける必要がある.時間の経過を追いながら,継続もしくは中止の見極めを行い,眼障害を念頭にその変化を見ていくべきで,所見の詳細なスケッチや写真がその考察の手助けになると考えられる.文献1)櫻井美晴,羽藤晋,望月弘嗣ほか:フルオロキノロン剤が角膜上皮細胞および実質細胞に与える影響.あたらしい眼科23:1209-1212,20062)WilhelmusKR,HyndiukRA,CaldwellDRetal:0.3%ciprofloxacinophthalmicointmentinthetreatmentofbacterialkeratitis.ArchOphthalmol111:1210-1218,19933)KoizumiN,SuzukiT,UnoTetal:Cytomegalovirusasanetiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmology115:292-297,2008図8図7の薬物中止後図9アシクロビル眼軟膏点入中に認められたcracklineバンコマイシン・アルベカシン以外の薬物を中止すると,角膜上皮欠損・角膜細胞浸潤は縮小・消失した.(7)あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008429

序説:眼科における薬剤副作用

2008年4月30日 水曜日

———————————————————————-Page1序説あたらしい眼科25(4):423,2008眼科における薬剤副作用Ophthalmology-RelatedAdverseDrugReactions外園千恵*木下茂*医療現場で薬剤を処方しない日はない.しかし薬剤には副作用がつきものであり,さまざまな薬剤が種々の眼科的副作用を招く.治すつもりで処方した薬剤の副作用で,新たな疾患を生じるのは不幸である.さらに不幸なのは,副作用に気づかない,あるいは副作用に的確に対応できないことである.そこで本特集では,眼科で用いる薬剤の副作用,他科で処方される薬剤の眼科的副作用,命を脅かす重症薬疹での眼合併症,中毒・毒物と眼障害を取り上げた.点眼薬は,高い濃度の薬剤を眼に直接届けることができる薬剤であり,速やかな効果が出やすい反面,副作用も出やすい.抗菌点眼薬・抗ウイルス点眼薬による眼障害を鈴木崇先生にご執筆いただいた.抗緑内障点眼薬,ステロイド点眼薬の副作用は,必ず知っておかねばならない知識である.それぞれ澤口昭一先生,柏木賢治先生にご執筆いただいた.消毒薬・洗浄液による角膜障害は,眼科の手術時の誤用や,脳外科,耳鼻科など他診療科の手術時に眼に薬剤が飛入して発症する.初期の的確な診断と対応が望まれる.中村葉先生にまとめていただいた.全身薬による低頻度の副作用など,気にすることはないと思う方がいるかもしれない.しかし,たとえ0.05%という頻度の副作用であっても,100万人に処方すれば500人が発症する.500人が発症すれば,眼科医の約30人に1人が,その副作用を経験するのである.決して低頻度とはいえない.全身用剤による角膜障害(抗癌剤,アミオダロン)を細谷友雅先生に,視路障害をきたす全身薬を中尾雄三先生に,デパスの眼科的副作用を若倉雅登先生にご解説いただいた.Stevens-Johnson症候群は生命を脅かす薬疹であり,高率に眼障害をきたす.眼所見に注目されず,あるいは的確な診断がなされないままに,眼障害が重篤化することが少なくない.突然に発症して急激に進行すること,全身状態が悪くなり患者を動かせないことから,あらゆる眼科医が急性期の眼所見と治療に精通することが望まれる.本疾患については外園が執筆した.中毒,毒物に遭遇することは稀であり,中毒と眼障害について詳しく書かれた専門書も少ない.本特集では,シンナー中毒・メチルアルコール中毒,有機リン中毒についての詳しい解説を三村治先生,石川哲先生に,サリンによる全身症状と眼障害を山口達夫先生にご執筆いただいた.普段の診療では毒物のことが念頭にないかもしれないが,本特集を読めば,いつでも患者に対応できると思われる.本特集が,若い先生方には薬剤副作用に眼を向ける機会となり,ベテランの先生方には副作用に的確に対応するための手引きになれば幸いである.*ChieSotozono&ShigeruKinoshita:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学0910-1810/08/\100/頁/JCLS(1)423

眼科医にすすめる100冊の本-3月の推薦図書-

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083530910-1810/08/\100/頁/JCLS著者の福岡伸一氏は第一線の分子生物学の研究者であり,生命科学のなかでその研究成果を大きく評価されている研究者である.練達の作家を思わせるドラマチックな書き方に加えて,研究者として如何にわかりやすく説明するかということに熟達している研究者兼教育者としての高い能力を示している.この本の内容は現代の生命科学の基本である細胞生物学,分子生物学のコンセプトを歴史的な背景を存分に紹介しつつ,人間ドラマとしての研究者の姿をあぶりだしている.ご自身も最先端の生命科学の研究でしのぎを削っていてしかも目の当たりに体験していることから,このようなリアルな記述が可能になったのであろう.この本をどのように読むかは読者次第であろう.生物学の基本的な事項を勉強するための教科書としての読み方,研究者の生き方を自分に重ねて考える読み方について考えてみた.まず,生物学の教科書の一つとしては現時点での生命科学の基本である分子生物学の細胞生物学,分子生物学の原理を覚えるだけではきわめて能がない,生命を扱うだけになにか血の通ったものを添えて若い学徒に生命科学の基本原理を理解してもらうためには大変いい本である.この本の最初にはニューヨークのロックフェラー研究所のエイブリーの業績が紹介されている.いまでは一般的にあまりもてはやされていないが,「遺伝子の本態はDNAである」ということを一生をかけて解明し,説明した研究者である.考えてみれば,われわれは生物の教科書でまず数学の公理であるかのように遺伝子はDNAであり,その構造はワトソン,クリックによって1953年にNature誌にわずか1ページのレターとして発表されたことが紹介されることが多い.しかし考えてみればわれわれの当たり前となっている遺伝子の本態がDNAであることをワトソン,クリックが証明しているわけではなく,とても大切な研究がその前にあったはずである.これを行ったのが上記のエイブリーである.エイブリーは細菌の形質転換をマーカーとした綿密な実験でDNAによって形質は変化していること,だから遺伝子の本態はDNAであることを証明しているのである.当然,他の説(蛋白質説など)を説く研究者からの批判にさらされるがそれを一つひとつクリアーしていくストーリーはまさに本書のいろいろな書評にあるようにミステリー小説を超える興奮を覚えるものである.驚くべきことにエイブリーはノーベル賞を受賞していないが,科学の歴史のなかに燦然と輝く足跡を残している.また,そのDNAの構造解析の先陣争いについての真相といえるストーリーがそれに続いて展開される.このストーリーはワトソンが「二重らせん」という本を書いたりして,大変有名になっているが,どのようにしてDNAの二重螺旋構造が明らかにされたかを知ることは現在,生命科学の原点に立ち返ったように感じる.物事を理解するというのは,ある事実を体系的,網羅的,合理的(一見ではあるが)に構築した教科書を読むことは不可欠であるが,それだけではなぜこのような理論体系ができたか,そしてそれがもし将来にわたって間違っていた場合には戻って検証する能力が大切であり,歴史的背景を勉強すること,つまり,物事をただ覚えるのではなく,理解しつつ生きた知識として獲得していくことで可能となる.現在の教育では医学も含めて多くのことを勉強しなければ医師国家資格も獲得できないから,ある程度能率的に物事を覚えて蓄積していくことは仕方がないが,興味のわくこと,特に自分が専門とする分野については本書のような書物を読むことは,自分で考えて物事を理解するという科学者としての基本姿勢の涵養に役立つと考える.(79)■3月の推薦図書■生物と無生物のあいだ福岡伸一著(講談社現代新書)リー79◆山下英俊山形大学医学部視覚病態学———————————————————————-Page2354あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008もう一つの読み方からは生命科学の研究という情実の入り込む余地のない,scienticevidencesの積み重ねと考えられる科学の歴史が人間の営みとして体温をもっていることなのだというのがわかる.もっと言うと,われわれは教科書で読むときには全てがわかったうえで勉強するが,実際に科学者として新しいことにチャレンジして新しい発見により人類に貢献するためには研究という営みを行う必要がある.その営みは良くも悪くも人間の行うことなのだという親近感を与えるのが本書である.もちろんこの本にでてくるエイブリーもワトソンもクリックもDNAの結晶回析の大家でDNA構造解析に貢献したロザリンド・フランクリンも研究者のなかではスーパースターであることに違いはないが,彼らが悩みチャレンジした姿には感動や人間のおかしみすら感じる.いわば人間そのものである.本書はミステリー小説にもたとえられるが,やはり人間の営みを示した書物ということである.昨今,臨床医の研究離れが問題にされている.現在の臨床医学の現場がきわめて過酷でありなかなか研究に手を出しにくいこともあるが,研究の面白さを認識し,スーパースターの業績に思いをはせてあこがれることにより,眼科医が研究にいそしむのは決して眼科学の発展にとっても眼科医本人にとっても損はないと考える.☆☆☆(80)

研修医“初心”表明

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083510910-1810/08/\100/頁/JCLSコの字型に切開されたapに針がかけられ,きつすぎず,ゆるすぎず,整然と角膜に結ばれる糸.心地よい緊張感のなか,顕微鏡下の世界で繰り広げられる,その美しい手術に魅せられた私は,その日,眼科医としての道を歩む決意をしたのです.それは,偶然入った緑内障の手術での出来事でした.学生時代より脳に興味があった私は,大学を卒業する頃は,漠然とですが神経内科に進もうと考えていました.どちらかというと,即断即決よりも,じっくり物事を考えるほうが性に合っていると思っていたため,外科系に進むことはまったく考えてもいませんでした.それが初期研修で外科系をローテーションするうちに,手術の面白さに目覚めてしまったのです.それまで,手術といえば,医学部の実習で寒い手術室の中,ほとんど見えない見学で終わる,つまらないものという印象が強かったのですが,実際,間近で上の先生方の素晴らしい手術を見ていると,ただ見ているだけで心が沸き立ち,最後の糸結びだけでも自分の手が入ることに感動するようになりました.元々,指先を使うような細かなことが好きだったこともあり,なかでも,microsur-geryに惹かれていったのは自然なことだったのかもしれません.白内障の手術などでは,如実に結果が現れるため,患者様の率直な反応に遣り甲斐を覚えることも大きな魅力の一つでした.私にとっては,先述のシーンがあまりにも衝撃的であったため,自らあの手術,そして,いつかは硝子体手術をやってみたい,という情熱がこれからも原動力になると信じています.ただ,眼という臓器だけに捉われるのではなく,眼を通して全身を,患者様一人ひとりを,診る医師でありたいと思い,初期研修の選択期間はほとんどを総合内科で過ごしました.そのため,眼科医としてはやっと前を向いたばかりの状態ですが,これから出会う数多くの未知の眼科の世界に期待で胸がいっぱいです.主治医になって欲しい,といわれるような,信頼される医師になれるよう,日々,精進したいと思っております.◎今回は2年目研修医の小先生にご登場いただきました.眼科手術の美しさ,術後の患者様の率直な反応は本当に“眼科”を魅力的なものにしていると思います.自分も学生時代の手術見学やwetlabo,そして術後回診は眼科の魅力と出会う,いいきっかけになりました.(加藤)☆本シリーズ「研修医“初心”表明」では,眼科に熱い想いをもった研修医前期専攻医の先生の投稿を募集します!熱い想いを800字程度で読者の先生にアピールしてください!宛先は,《あたらしい眼科》「研修医“初心”表明」投稿として,下記のメールアドレス宛にお送りください.Email:hashi@medical-aoi.co.jp(77)研修医“初心”表明●シリーズ③眼を通じて,患者様一人ひとりと─Microsurgeryに憧れて─小?美穂(MihoOzaki)板橋中央総合病院1979年福岡県生まれ.山口大学医学部卒業.現在初期研修2年目.研修終了後は,東京慈恵会医科大学眼科学講座へ入局予定.座右の銘は,一期一会.(小)編集責任加藤浩晃・木下茂・

後期研修医日記4.杏林大学医学部眼科学教室

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083470910-1810/08/\100/頁/JCLS火曜日は8時から永本敏之准教授の白内障カンファレンスがあります.『白内障手術』のテキストを使って読んでいきながら,永本先生が手術のポイントをレクチャーしてくださいます.突然質問が飛んでくるため毎回緊張しますが,手術の手順のほかに理論も理解でき,そこで覚えたことを月3回行われる金曜日の夜のウェットラボで練習して身につけていきます.ウェットラボでは豚眼を使い,白内障班の先生方が手取り足取り(永本先生は横からフックをいれたり,手の動きを細かく修正しな(73)杏林大学医学部眼科学教室では,現在6名の後期研修医が働いています.杏林大学では眼科はアイセンターとして各専門分野のほか,ロービジョンケアも行っており,各専門の先生方の下,幅広い充実した内容の研修生活を送っています.今回は忙しいながらも楽しい私たち後期研修医の日々をご紹介させていただきます.病棟診察一日の初めはまず病棟患者の診察から始まります.基本的に術者の先生と後期研修医の2人チームで病棟業務を担当しています.予定入院手術の方が1週間に30数人,網膜離などの緊急入院が1日2~3人(多い日は7人ということも!)あり,約40床ある眼科病棟は常に満床状態です.外来が8時半から始まるので,術者の先生の診察も朝早くからあります.それより早く視力と眼圧を測って診察しなくてはと焦りつつ毎日頑張って早起きしています.ぎりぎりになってしまう日も多々ありますが….日中は手術に入っているか,外来業務でほとんど病棟に行けないため,入院患者の検査はORT(視能訓練士)に視力・眼圧・散瞳・OCT(光干渉断層計)・写真・Aモードなどをお願いして,空き時間や夕方に診察,手術の説明をしています.毎日夕方に網膜硝子体回診があり,網膜硝子体班の先生方と網膜離など緊急入院の患者について翌日の手術の方針を相談して決定しています.やっと一段落すると,残るはパソコン入力と書類の山….手術病棟の診察が終わり8時半になると外来が動き出します.それぞれ日によって手術の助手,8診(外来予診室),その他(外勤,陪席など)と分担して業務をこなしていきます.手術は外来の患者も,入院の患者もほとんどが後期臨床研修医日●シリーズ④▲筆者が8診予診室でアナムネ中———————————————————————-Page2348あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(74)係です.初診のアナムネや症状に変化がある予約外の患者の主訴を聞いて必要な検査をオーダーしたり,Bモード,OCT,Schirmerなどの検査を行ったり,抜糸,点滴,手術前の検査オーダーや,次週の手術のパソコン入力,他科コンサルト,クレーム処理,日中救急車搬送の患者の診察と仕事内容は多岐にわたっています.お昼の時間もなかなかとれずあっという間に午後になってることが多いのですが,同期のみんなが手助けをしにきてくれるので,とても助かります.持つべきものは頼れる仲間だといつも感謝しています.アナムネをとっていて何の疾患か気になったときは診察室を覗いて,上級医の先生に教えていただいたり,珍しい疾患の患者がいらっしゃると一緒に診察させていただいたりと,非常に勉強になっています.当直16時半からは当直の時間帯です.2人当直なので上の先生と夕飯を何にしようかと悩んでいるとさっそくPHSが鳴り響きます.多摩地域では夜間救急の眼科がほとんどないため,東京の西の端から,時には埼玉からも多くの患者がいらっしゃいます.結膜炎,打撲,飛蚊症,コンタクトレンズトラブル,異物などに加え,ぶどう膜炎発作,緑内障発作や眼球破裂などさまざまな救急疾患を経験できるので,今では何が来ても怖くない.というのは言い過ぎですが,症例によって見なくてはいけないポイントや,応急処置などは身についてきたのを実感しています.おわりに大変忙しい毎日ですが,外来も病棟も多くのコメディカルの方に協力していただきながら6人が一致団結して頑張っています.症例も多く,他の大学からフェローとして勉強に来られる先生も多くいらっしゃいます,専門も多岐にわたっており後期研修医として勉強するには非常によい環境だと思います.ぜひ私たちの仲間になりませんか!!がらフットスイッチも操られて本当に手取り足取りです)教えてくださるので段々上達していくような気がするのですが,いざ本当の患者になると,やっぱり緊張してしまいぜんぜん思ったとおりにはうまくいかず,毎回落ち込んでいます.水曜日の医局会のあとは術前カンファレンスです.次週の手術予定の症例で方針を検討する必要のあるものや,その週緊急入院してきた珍しい症例について発表,検討します.意見が白熱して時間が延長してしまうこともあります.木曜日の朝は8時から抄読会や,FA(フルオレセイン蛍光造影)の読み方について症例を提示しながら細かく講義していただくFAカンファレンス,そしてぶどう膜炎や加齢黄斑変性症を中心に各専門の先生がテーマに沿って講義してくださる臨床カンファレンスなどが隔週で行われています.回診金曜日の朝は7:45から教授回診,月曜日は夕方から准教授回診があります.上申のときはカルテを見てはいけないので,診察室に入る前に必死で視力・眼圧・術式・術中所見などを覚えるのですが,慌しく順番が回ってきて,次というときに患者がいない!などドタバタしているため,診察室に入っていざ上申するときに頭が真っ白になってしまったり,言い間違えをしてしまったり….外来週2回は朝から8診という名の外来予診室担当兼雑用プロフィール夕子(にのみやゆうこ)平成16年杏林大学医学部卒業,同病院にて初期臨床研修,平成18年4月より杏林大学医学部眼科学教室後期研修医.▲教授の手術は機械出しでも緊張します———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008349(75)医からのメッセージ「oureapwhatyousow」眼科の知識を学ぶためには多くのハードルがあります.まず,所見を観察できるまでに要する長い時間.5年の経験をもってしても正しく評価することがむずかしい眼底所見もあります.また,恐らく眼科ほどハイテク技術を早く取り込む専門分野はなく,さまざまな機械を操作できるようになるにも相当な時間がかかります.さらには(杏林大学病院では救急外来も充実していることから)平日,週末,夜中,年末年始を問わずつぎからつぎに来院する患者様!眼科の研修は大変だという評判がたつのも無理がありません.そこで皆さんに「youreapwhatyousow」という英語の諺を紹介したいと思います.自分のやったことだけが,結果として自分に還ってくるという意味です.逆に言えばやらなければ自分が得るものはないということにもなるでしょう.聖書の「人は自分が蒔いたものを刈り取ることになる」という一節からきました.研修医期間については,この諺がぴったりあてはまると思います.たくさんの症例を診て,経験する.ハードな研修プログラムほど多くの勉強ができて,将来の仕事に大きく役立ちます.教科書から学ぶ眼科学よりも,目の前で実例を診るほうがはるかにインパクトがあり,身につきます.その土台のうえに,眼科医としての人生が広がるのです.したがって,今の大変さは,のちのち絶対に役立ちます.だから頑張ってください.最後に自分の経験から申し上げると,後で振り返ったときには研修医時代が一番楽しかったと思います.研修医の仲間と一緒に助け合い,非常に忙しい時期を乗り越えたという実感をもつことができ,人生における自分の誇りとして残ることは間違いありません.杏林大学医学部眼科・准教授岡田アナベルあやめ眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス58.転移性細菌性眼内炎に対する硝子体手術(中級編)

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083450910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに転移性眼内炎は,原発巣から血行性に菌が転移して眼内に炎症を生ずるもので,真菌性と細菌性がある.一般に糖尿病や悪性腫瘍などの基礎疾患をもつ患者に発症することが多い.細菌性の原発巣としては,肝膿瘍,尿路感染症,肺炎,心内膜炎,髄膜炎が多い.転移性細菌性眼内炎は,真菌性に比べて進行が速く,早期診断と治療が大切である.しかし,しばしば原因不明のぶどう膜炎という診断で経過観察され,硝子体手術の機会を逸している場合が多いのが実情である.移性細菌性眼内炎の診断発熱や全身倦怠などの症状が先行することが特徴である.眼科的症状は,視力低下,結膜および毛様充血で,前房内炎症,硝子体混濁を認める.検眼鏡的あるいは超音波Bモード検査で網膜下膿瘍を認めることが多い.移性細菌性眼内炎の治療本症が疑われた場合には,起因菌を前房穿刺で同定す(71)べきであるが,進行が速いので確定診断が得られる前に薬物療法や硝子体手術を開始しなければならないことが多い.わが国では,原発巣は肝膿瘍,起因菌はグラム陰性のKlebsiellapneumoniaeの報告例が多い.塩酸バンコマイシンの硝子体内への注入を行うこともあるが,筆者の経験では硝子体手術を早期に施行したほうが良好な予後が得られる.硝子体手術では,水晶体を切除して硝子体を周辺部まで十分に切除する1).眼底周辺部に網膜下膿瘍を認める例で,膿瘍の範囲が狭ければそのまま単純硝子体切除に留める.術後の抗生物質の投与で徐々に膿瘍は縮小することが多い.多量の網膜下膿瘍をきたしている症例では,網膜を広範に切開して網膜下の膿瘍を徹底的に除去する必要がある.中途半端な洗浄はかえって膿瘍を眼内に撒布させる結果となり,予後不良の転帰をたどることが多い2).文献1)三村真士,前野貴俊,吉岡由利子ほか:早期硝子体手術が奏効した肝膿瘍原発の転移性細菌性眼内炎の1例.臨眼61:785-790,20072)安田冬子,木田一男,池田恒彦ほか:多量の網膜下膿瘍をきたした転移性眼内炎の1例.あたらしい眼科12:494-496,1995硝子体手術のンインドバイス●連載転移性細菌性眼内炎に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1症例(細隙灯顕微鏡所見)40歳,男性.約40℃の発熱が3日間持続した後に,左眼の視力低下を自覚した.他院で原因不明のぶどう膜炎との診断でステロイドの内服を1週間施行されたが,前房内炎症が増悪し,硝子体混濁も増強したため硝子体手術を施行した.2CT所見腹部CTで肝膿瘍が検出された.同部位の穿刺排膿より得た膿汁よりKlebsiellapneumo-niaeが検出された.3硝子体手術の術中所見眼底周辺部に多量の網膜下膿瘍を認めたため,裂孔から膿瘍を吸引除去したが,予後不良の転帰をたどった.

眼科医のための先端医療87.補助シグナルによる免疫制御と眼免疫とのかかわり

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083410910-1810/08/\100/頁/JCLSマウスヒトキメラ抗体の開発が成功して以来,今日ではつぎつぎに抗体医薬が開発され眼科領域においても抗体治療が脚光を浴びています.抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体(ベバシズマブ)や抗tumornecrosisfactor-a(TNF-a)抗体(インフリキシマブ)がその代表です.今後10年間で医療市場には○○マブといった製剤が溢れかえっているかもしれません.本稿では,抗体療法の標的として今後注目されている補助シグナルを解説し,新規補助シグナル分子とそのリガンドを標的とする抗体治療の動物実験における結果や,眼内における補助シグナル分子の役割を解説しながら抗体を用いた免疫治療の可能性について述べていきます.補助シグナルとは免疫応答はT細胞,B細胞,抗原提示細胞である樹状細胞,マクロファージなどの相互作用によるネットワークにより調節されています.多種多様な免疫の相互作用は抗原特異的レセプターを介するシグナル(第1シグナル)に加え,数多くの細胞表面分子間を介したシグナルにより決定されます.このようなシグナルを総称して補助シグナルといい,広義にはインテグリンファミリーによる多くの接着分子群,さらにはサイトカインやケモカインにより誘導されるシグナルも補助シグナルに含まれます.補助シグナルは特に抗原提示細胞とT細胞においてよく調べられ,免疫反応を増大させる活性型補助シグナルと減弱させる抑制型補助シグナルがあり,それぞれの局面でふさわしい免疫応答が誘導され,収束することで恒常性が保たれ免疫反応を調節しています(図1).補助シグナルによる免疫療法補助シグナル分子を人為的に調節することにより自己免疫疾患,臓器移植,アレルギー,癌,感染症などの原因となる抗原特異的T細胞の制御が可能になるため,現在では新規免疫治療薬としての補助シグナル分子の臨床研究が行われています.ヒトぶどう膜炎の動物モデルである実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(EAU)では最も古典的な補助シグナル経路であるCD28-CD80/86経路を阻害することにより病気の発症を抑制することができます1)が,CD28分子がほぼ恒常的に健常人や眼Behcet病の患者リンパ球に発現しているため臨床応用がむずかしいとされています.しかし,近年発見された新規の補助シグナル分子であるinducibleco-stimulator(ICOS)は,CD28と比較して抗原刺激を受けたことのないT細胞上にはほとんど発現がみられず,活性化に伴って発現が上昇することからICOSは病気がすでに起こっている状態において重要であると考えられていま(67)シリーズ第87回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊(東京医科大学眼科)補助シグナルによる免疫制御と眼免疫とのかかわり図1T細胞と抗原提示細胞の相互作用に関する補助シグナル分子群舁浴蛆???T??CTLA-4CD28ICOSPD-1BTLACD274-1BBOX40RANKCD40B7-1(CD80)B7-2(CD86)B7RP-1B7-H1HVEMCD704-1BBLOX40LTRANCECD40LB7-DCB7-H3B7-H4???B7-CD28familyTNF-TNFRfamily———————————————————————-Page2342あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008す.実際,筆者らはICOSが炎症時にのみ炎症局所の病原T細胞に発現していることから,そのリガンドの抗体である抗B7RP-1抗体を投与し,EAUの発症期にICOS/B7RP-1経路を阻害することでEAUの完成後における臨床症状と病理組織所見の軽減化,インターフェロン(IFN)-g産生の抑制効果,病原T細胞の増殖反応低下などを認めました2).また,眼炎症のある活動期Behcet病患者末梢血CD4+T細胞上のICOSは非活動期Behcet病患者や健常人のそれに比べ有意に発現が高く3),今後の難治性ヒトぶどう膜炎の治療において可能性が示唆されました.さらに,他の活性型補助シグナル分子であるOX40/OX40Lにおいては,マウス角膜移植モデルでこの経路を阻害することにより有意に生着が延長されることがわかりました4).そしてOX40-OX40L経路は動脈硬化発症に直接関与することも証明されているので,免疫疾患のみならず生活習慣病などの治療にも応用範囲は広くなると思われます5).眼局所における補助シグナル分子の役割本シリーズ第61回における東京医科歯科大学の杉田直先生の眼色素上皮細胞の免疫学的抑制機構において,マウス虹彩色素上皮細胞に古典的な補助シグナル分子であるCD86が発現し,cytotoxicTlymphocyte-associ-atedantigen(CTLA)-4を発現している活性化T細胞を抑制しサイトカイン産生を制御していることが掲載されましたが,これも眼局所において補助シグナル分子が関与している例です6).また,近年筆者らは新規の抑制型補助シグナル分子PD-1のリガンドであるPDL1がヒト網膜色素上皮細胞に発現し眼局所における免疫抑制機構に関与していることを認めました7).さらに正常細胞のみならず,ヒト網膜芽細胞腫の細胞株においてもPDL1の発現を認め,ケモカインを介して抗腫瘍T細胞反応を抑制している可能性や,活性型補助シグナル分子であるCD40を発現させることによって癌免疫療法の可能性があることもわかりました8).このように免疫細胞のみならず眼局所の細胞に補助シグナル分子が発現していることは大変興味深く,今後の研究の進展が期待されます.補助シグナル研究のめざすもの抗原特異的なシグナル(第1シグナル)を阻害する治療は,その病気の抗原が同定されている場合は可能ですが,応用がきわめて限られています.また,CD3などのT細胞受容体(TCR)などの治療法も試みられていますが,サイトカインストームやアポトーシスによるT細胞破壊で起きる免疫不全などが問題とされています.これに対して補助シグナル分子の阻害は抗原特異性,主要組織適合抗原複合体(MHC)拘束性がなくどのような免疫応答にも使用できる可能性があります.また,活性型の補助シグナル分子が存在しない状況において,T細胞は抗原を認識したうえでの抗原特異的不応答状態になるため補助シグナルの欠如によるT細胞不応答はT細胞が活性化されないだけでなくその後につづく同一抗原刺激に対しても無反応となるため,抗体を用いた補助シグナル阻害は免疫療法を行ううえで抗体治療中だけでなく投与後も効果が持続するという利点があり,今後の臨床応用が期待されています.実際,T細胞の活性化に必須である補助シグナル分子のCD28を介するシグナルを阻害するCTLA-4-Ig融合蛋白質のアバタセプトは2006年に米国で承認され,わが国でも第Ⅱ相臨床試験が進行しています.補助シグナル分子の研究は抗体医薬の臨床応用が究極の目標でありますが,それだけでなく眼局所における補助シグナル分子が各眼疾患の病態や病因の解明に大きなヒントを与えつつあります.今後,補助シグナル分子の基礎研究と臨床応用へのトランスレーションが眼疾患の解明や治療にさらなる進歩をもたらすことを期待したいと思います.文献1)FukaiT,OkadaAA,SakaiJetal:Theroleofcostimula-torymoleculesB7-1andB7-2inmicewithexperimentalautoimmuneuveoretinitis.GraefesArchClinExpOphthal-mol237:928-933,19992)UsuiY,AkibaH,TakeuchiMetal:TheroleoftheICOS/B7RP-1Tcellcostimulatorypathwayinmurineexperimentalautoimmuneuveoretinitis.EurJImmunol36:3071-3081,20063)臼井正彦:実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(EAU)のトランスレーショナルリサーチ.日眼会誌111:137-159,20074)HattoriT,UsuiY,OkunukiYetal:BlockadeofOX40ligandprolongscornealallograftsurvival.EurJImmunol37:3597-3604,20075)WangX,RiaM,KelmensonPMetal:Positionalindenti-cationofTNFSF4,encodingOX40ligand,asagenethatinuencesatherosclerosissusceptibility.NatGenet37:365-372,20056)杉田直:眼科医のための先端医療眼色素上皮細胞の免疫学的抑制機構.あたらしい眼科23:63-64,20067)UsuiY,OkunukiY,HattoriHetal:Functionalexpres-(68)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008343(69)ulatorymoleculesonhumanretinoblastomacellsY-79:functionalexpressionofCD40andB7H1.InvestOphthal-molVisSci47:4607-4613,2006sionofB7H1onretinalpigmentepithelialcells.ExpEyeRes86:52-59,20088)UsuiY,OkunukiY,HattoriTetal:Expressionofcostim-■「補助シグナルによる免疫制御と眼免疫とのかかわり」を読んでかは抗ざのりとのに「抗の」にるとわすの抗抗です抗抗ののは療をよに眼療をもものとわすか抗抗はに作用るので眼局所の免疫制御療には作用のかにりす抗抗ではに抗抗ににでるもりす臼井嘉彦るよに補助シグナルを制御するとでよりめ細かでをに療をとです細は本文によすのですの抗療はより局をわわのにはと研究分をとです分子のをかにする研究には用すは所とる免疫をもでり分子のにおける作用はのかするとかでんで分子のにおけるの作用をるめには療にですで分子をすよとはわかはにるものではりんか抗療によりににお分子をするととのですは抗の療に療研究にをもすものですと抗抗を用の眼をの眼の制御にのよにかかわるかにのわかりすでるはでものをはるかにするをわわにもすでのを用に療法にるでの文はの眼の用をにするものとす文献1)HaerDA:Cytokinesandinterventionalimmunology.NatureRevImmunol7:423,2007鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ180.角膜クロスリンキング

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083390910-1810/08/\100/頁/JCLS角膜厚が400μmに満たない症例では角膜内皮細胞への影響が懸念される4).したがって,上皮細胞層を除いた角膜中心部厚が400μm以上(上皮細胞層を入れると約450μm以上)の症例のみが適応とされる.実際の手術方法(表1)角膜に点眼麻酔を施した後,6mm径にて角膜上皮を離する.0.1%リボフラビン水溶液を3分ごとに約30分間点眼する.いったん細隙灯顕微鏡にて観察し,リボフラビンが離した上皮の縁から0.5mm以上角膜輪部新しい治療と検シリーズ(65)バックグラウンド円錐角膜は,角膜実質の脆弱性を特徴とする先天性の疾患である.大部分の症例は思春期に発症し,成長とともに疾患は進行し,角膜の前方突出・菲薄化と近視度数の進行と不正乱視の増加をみる.しかし,成人してしばらくすると円錐角膜の進行は停止することが多い.この機序として,日常生活で角膜が紫外線に曝露されることにより,角膜実質のコラーゲン線維間の架橋が強まり角膜強度が増すためであると考えられる.角膜クロスリンキングは,Seilerらのグループにより開発された円錐角膜の治療法で,角膜実質のコラーゲン線維間の架橋を加速させることにより円錐角膜の進行を早期に停止することを目的としている.同グループは,1990年代から角膜実質のコラーゲン線維の架橋に関する基礎研究報告を行ってきており1,2),それを元に,2003年に初めてヒト円錐角膜眼に対して施術を行い有効性と安全性を報告した3).以後,各国から高い関心が寄せられており,特にヨーロッパ諸国で本方法を導入する施設が増加している.現在,スイス,イタリアなどを中心とした欧米諸国で多施設研究がスタートし,症例が積み重ねられている段階である.原理角膜にリボフラビン(ビタミンB2)を点眼しながら370nmの長波長紫外線を角膜に照射する.リボフラビンはフォトセンシタイザー(光増感性物質)として働き,紫外線の照射により活性酸素を発生する.この活性酸素がコラーゲン線維間の架橋を増加させると考えられている(図1).長波長紫外線照射により,角膜実質のコラーゲンが架橋するほかに,細胞はアポトーシスに陥る.この影響は,照射表面から400μm程度まで及ぶとされており,180.角膜クロスリンキングプレゼンテーション:加藤直子慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:西田幸二久保田享東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座眼科・視覚科学分野1.リボフラビン点眼と長波長紫外線照射長波長紫外線照射2.活性酸素の発生3.コラーゲン架橋形成コラーゲン線維コラーゲン線維OHOOOO?POHH2CH2CCH2H3CH3CO2-CHOHCHOHCHOHNNNHNリボフラビン(ビタミンB2)CH2CH2CH2CH2NHCH2CH2CH21角膜クロスリンキングの原理リボフラビンに紫外線照射をすると活性酸素が産生される.産生された活性酸素の作用でコラーゲン線維間に架橋が生じると考えられている.(出典;WollensakG:Crosslinkingtreat-mentofprogressivekeratoconus.CurrOpinOphthalmol17:356-360,2006,Figure2より)———————————————————————-Page2340あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008側へ浸透していることと前房水内にまで到達していることを確認する.その後,370nmの長波長紫外線を3.0mW/cm2の強度で30分間照射する(図2).照射中も5分ごとにリボフラビンの点眼を続行する.術後は,治療用ソフトコンタクトレンズを装用させ,ステロイド点眼薬,非ステロイド系抗炎症薬,抗生物質の点眼を行う.本方法の良い点従来角膜移植を行うしか治療方法のなかった円錐角膜眼に対して,進行する前に予防的に措置を行えることが最大の利点である.施術は点眼麻酔のみで行うことが可能で,術後の炎症も非常に少ない.現在の時点では,世界的にも重篤な副作用の報告はまだ1例もない.また,手術の導入という観点からも利点は多い.本方法で用意すべきものは紫外線照射装置とリボフラビン溶液のみであり,高額な機器の設置などは不要である.また,上皮を離した後は,点眼しながら紫外線を照射するだけで,手術操作も非常に簡単である.先天性の円錐角膜のみならず,角膜屈折矯正手術後の角膜拡張症の予防・治療方法としても,今後の発展と普及が期待されている.文献1)SpoerlE,HuhleM,SeilerT:Inductionofcross-linksincornealtissue.ExpEyeRes66:97-103,19982)SpoerlE,SeilerT:Techniquesforstieningthecornea.JRefractSurg15:711-713,19993)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboavin/ultraviolet-A-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,20034)WollensakG,SpoerlE,WilschMetal:Endothelialcelldamageafterriboavin-ultraviolet-Atreatmentintherabbit.JCataractRefractSurg29:1786-1790,2003(66)防止するということであって,すでに生じてしまった形状異常を修復するものではない.円錐角膜の進行症例では角膜厚が薄くなっており,本方法に角膜厚が400μm以上必要であることから症例が限られてしまうことは問題である.また,紫外線による角膜内皮細胞への長期的な影響も検討が待たれるところである.しかし,本方法を発展させていけば有効な治療法になる可能性があり,今後の継続的な検討が期待される.円錐角膜の治療の考え方としては,初期の場合は矯正効果と進行防止を目的としてハードコンタクトレンズ処方を行い,形状異常が高度であったり角膜混濁により視力低下をきたしたりしている症例では角膜移植を行うのが標準的である.本方法は,角膜実質のコラーゲンを架橋により強化させ円錐角膜の防止の目的で行う方法であり新しいものといえる.しかし,本法の目的は架橋によって実質の強度を向上させて進行を本方法に対するコント2角膜に紫外線を照射しているところリボフラビンを点眼して十分に前眼部に浸透させた後に,長波長紫外線を30分間角膜に照射する.(写真提供:南青山アイクリニック)表1角膜クロスリンキングの手順点直リラン点リランとリランのに紫外線照射とにリランを点し術治療コンクトンズ点