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屈折矯正手術:Q値を考慮したAspheric ablation

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716250910-1810/07/\100/頁/JCLSLaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,Pallikarisらの最初の報告1)からすでに10年以上経ち安定した成績が報告2)され,現在最もポピュラーな屈折矯正手術として認識されている.その一方で,術後のグレアやハロー,夜間視力の低下などが,変わらぬ問題として残されている.その理由の一つとして考えられるのはLASIK後の角膜形状変化に伴う球面収差の増加である3).通常,健常眼はprolateshapeとよばれ,角膜の中央部分がsteepで周辺部分がatな形状をしている.しかし,近視あるいは近視性乱視に対してLASIKを行った結果,角膜中央部はatで周辺部分がsteepなoblateとよばれる非生理的な形状へ変化する.この変化は角膜における球面収差の増加をもたらし,術後の不定愁訴の原因になると考えられる(図1).こうした非生理的な変化をできるだけ減らすべく開発された照射方法が,Bausch&Lomb社製エキシマレーザー装置,Technolas217z100におけるAsphericabla-tion(非球面照射)である.この照射法は,術前にOrb-scanⅢTM(Bausch&Lomb社)にて角膜の非球面性の指標であるQ値を測定する(図2).そしてその術前のQ値をもとに,角膜形状が極端なoblate化にならないようにアルゴリズムが作成される.実際の臨床結果を検討したところ,図3のように6.0D以内の軽度・中等度近視群において,球面収差は術前後で有意な変化を認めなかった.また同群では,図4のように術前後でコントラスト感度の低下も認めなかった.このように,新しいAsphericablationではLASIK術後の球面収差の増加を抑えることで,術後コントラスト感度の低下を抑え,良好な視機能を得ることに成功していると考えられる.一方,このAsphericablationには,2つの問題点が残されている.1つは,図3のように術前後で球面収差の増加抑制が認められる反面,コマ収差は有意に増加している点である.このコマ収差は図5のように矯正量に(75)屈折矯正手術ースキルア●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男91.Q値を考慮したAsphericablation五十嵐章史小松真理山王病院眼科近視矯正laserinsitukeratomileusis(LASIK)の術後,眼球形状はoblate化し,その結果,球面収差が増加し,夜間視力低下やハロー・グレアをひき起こすと考えられている.これに対し,術前の角膜の非球面性の指標であるQ値に基づき,術後の球面収差の増加を抑制するAsphericablationが臨床で可能になった.図2Q値の測定術前にOrbscanⅢTM(Bausch&Lomb社)により角膜の非球面性の指標であるQ値を測定する.多くの場合,健常眼ではQ値は負の値をとることが多い.EllipseabROpt.axisQ=negative(b<a)ProlateshapeQ=positive(b>a)OblateshapeQ=zero(b=a)Sphericalshape-1=?2?2?図1Oblate化に伴う球面収差の増加近視・近視性乱視に対して,LASIKやPRK(photorefractivekeratectomy)といった角膜屈折矯正手術を施行すると角膜中央はat化し,oblate化する.このoblate化により球面収差は増加する.ProlateshapeOblateshape球面収差増加ELASIK後中央steep,周辺?atQ値<0中央?at,周辺steepPositiveQ———————————————————————-Page21626あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007比例して増加する傾向があるため,強度近視群には不適応であり,不正乱視例や追加矯正例のような特にコマ収差が大きい例においても薦められない.2つめは,図3でもみられるように6.0D以上の強度近視群では,Asphericablationを施行しても術前後で球面収差の増加を認めることである.そしてこの影響はコントラスト感度にも及び,図4のように同群では術後コントラスト感度の低下を認めた.前述のようにエキシマレーザーによる近視矯正は,角膜中央をatになるように切除するため矯正量依存的に球面収差の増加をきたす4).それゆえ,いかに優れたアルゴリズムでも球面収差の抑制には限界があると考えられる.今回の結果から,6.0D以内の軽度・中等度近視群までは良い適応であるが,これ以上はアルゴリズムの限界と考えられる.今後,コマ収差に対する改善も加わったAsphericablationが開発されれば,よりよいqualityofvisionが獲得できるものと期待される.文献1)PallikarisIG,PapatzanakiME,StathiEZetal:Laserinsitukeratomileusis.LasersSurgMed10:463-468,19902)KymionisGD,TsiklisNS,AstyrakakisNetal:Eleven-yearfollow-upoflaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg33:191-196,20073)SeilerT,ReckmannW,MaloneyRK:Eectivesphericalaberrationofthecorneaasaquantitativedescriptorincorneatopography.JCataractRefractSurg19:155-165,19934)OshikaT,MiyataK,TokunagaTetal:Higherorderwavefrontaberrationsofcorneaandmagnitudeofrefrac-tivecorrectioninlaserinsitukeratomileusis.Ophthalmol-ogy109:1154-1158,2002(76)図4術前後のコントラスト感度(AULCSF:areunderthelogcontrastsensitivityによる評価)AsphericLASIKでは軽度・中等度近視群において,術前後でAULCFSは不変であった.しかし,強度近視群では術後AULCSFの低下を認めた.12AULCSF:術前:術後-6.0D以下の軽度・中等度近視群-6.0D以上の強度近視群NSWilcoxon符号付順位和検定*n=34n=11*p<0.05AULCSF図3術前後の高次収差(解析径4mmにおける眼球全体の高次収差)AsphericLASIKでは軽度・中等度近視群において,球面収差は術前後で有意な増加を認めなかった.しかし,強度近視群では球面収差の増加を認めた.00.3コマ高次収差(μm):術前:術後-6.0D以下の軽度・中等度近視群-6.0D以上の強度近視群NSWilcoxon符号付順位和検定**********n=34n=11全収差球面コマ全収差球面***p<0.001,**p<0.01,*p<0.05図5矯正量に対するコマ収差の変化横軸に矯正量を,縦軸にコマ収差の変化量(術後コマ収差術前コマ収差)を示す.矯正量に比例し,コマ収差は増加する傾向にあった.y=0.019x-0.0392r2=0.2813-0.100.10.20.30矯正量(D)p<0.001108642コマ収差(μm)Δ☆☆☆

眼内レンズ:虹彩支持型有水晶体眼内レンズ

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716230910-1810/07/\100/頁/JCLS強度近視の人にとって,眼鏡やコンタクトレンズでの矯正は決して快適なものとはいえない.このような強度近視の人こそ屈折矯正手術の適応となるべきであるが,エキシマレーザーを用いた角膜での屈折矯正手術の矯正限界は,LASIK(laserinsitukeratomileusis)で8.0D,PRK(photorefractivekeratectomy),LASEK(laserepithelialkeratomileusis),Epi-LASIKでも10.0D程度である.限界を超えた無理な矯正をしようとして照射径を小さくすることは,手術後にグレアやハローを生じる原因となる.また,角膜を薄くし過ぎるとkeratectasiaをひき起こすことも報告されている1).有水晶体眼内レンズ(phakicintraocularlenses:PIOL)挿入による屈折矯正手術は,角膜になんら影響を与えずに近視,遠視を矯正できるという点で今後のさらなる発展が期待されている手術といえる.ARTISANRPIOL(OPHTECBV社,Groningen,Netherlands)は現在世界中で最も多く使用されている有水晶体眼内レンズである(図1).ARTISANRPIOLは1978年にPaulU.Fechner(Ger-many)とJanG.F.Worst(Netherlands)により白内障手術後の無水晶体眼に挿入される目的で考案された虹彩支持型眼内レンズの“IrisClawR”レンズが原型となっ(73)ている.1986年にWorstはこのレンズをbiconcave型の近視用有水晶体眼内レンズに改良し,Fechnerが最初の症例に挿入した2).1991年からARTISANRPIOLのヨーロッパ多施設試験が行われ,1997年にARTISANRPIOLはヨーロッパでCEマークを取得した.米国FDA(食品医薬品局)は1997年からARTISANRPIOLの臨床試験を行い,2004年にARTISANRとAMO社から併売となるVerisyseTMを認可した.2003年からヨーロッパにおいて,折りたたみ型PIOLであるARTI-FLEXRPIOLの多施設試験が行われ,2005年に発売が開始された.ARTISANRPIOLはPMMA(ポリメチルメタクリレート)製の虹彩支持型のレンズであり,近視用PIOLには光学部径5.0mmと6.0mmの2タイプがある.ARTIFLEXRPIOLは光学部径6.0mmのシリコーン素材の折りたたみ型PIOLであり,2.8mmの切開創から挿入できる(図2).いずれのレンズも,専用のレンズ固定鑷子でレンズを保持しつつ,カニのつめのような形状をしたレンズ支持部に鑷子またはフックで中間周辺部虹彩を挟み込む(enclavation)ことによって虹彩上に固定する(図3).この固定法によりレンズの光学部は水晶体と角膜内皮に触れることなく虹彩面より前方の前房内に山口雅之山口眼科医院眼内レンズー監修/大鹿哲郎256.虹彩支持型有水晶体眼内レンズエキシマレーザーを用いた角膜での屈折矯正手術の適応外となる症例に対して有水晶体眼内レンズを挿入する手術が注目されている.現在,後房型と前房型の有水晶体眼内レンズが臨床使用されており,前房型の代表的レンズが虹彩支持型のARTISANRPIOL(OPHTECBV社,Groningen,Netherlands)である.図2ARTIFLEXRPIOLの挿入3ARTIFLEXRPIOLの固定ARTISAN?&VerisyseTM56%その他8%ICL36%AMO20051PIOLの市場(文献4より)———————————————————————-Page21624あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(00)位置し,散瞳検査も可能となる(図4).1991年から行われたARTISANRPIOLのヨーロッパ多施設試験において,518例の近視症例に対する3年間の手術成績が検討された3).米国FDAは1997年からARTISANRPIOLの臨床試験を行い,662例についての手術成績が検討された(ARTISANRMyopiaLensUSClinicalInvestigation.Groningen,Netherlands,Ophtec,2003).筆者がエキシマレーザー手術適応外となった症例にARTISANRPIOLを挿入し,6カ月以上の経過をみた59例の結果では,54例(91.5%)が裸眼視力1.0以上であった(図5).手術後屈折値は98.3%が±1.0D以内,91.5%が±0.5D以内であった4).手術後の屈折値は安定しており,手術前後での角膜内皮細胞密度の変化もわずかであった4).強度近視眼に対するARTISANRPIOLの挿入には多くの利点がある.このレンズは取り外すことが可能であり,必要であれば入れ替えることもできる.また,光学部径6.0mmは現在臨床使用されている有水晶体眼内レンズのなかで最も大きな光学径である.これは手術後のグレアの発生を防ぐためにも重要な点となる.見え方の質を比較してみると,LASIKよりARTI-SANRPIOLのほうが良いと感じる患者の割合が多い傾向があるという報告が出されている5).瞳孔領の角膜に影響を与えないことは,見え方の質に取って大きなアドバンテージがあるといえる.しかし実際に手術を行ってみると,有水晶体眼における前房内操作は予想以上に神経を使う手技であることがわかる.手術後の角膜内皮細胞への影響や白内障の発生に関しても,これから長期にわたる経過観察が必要である.安易にこの手術に取り組むのではなく,いかに最良の方法で患者の屈折異常を治すかを考えて,エキシマレーザー手術を含めた複数の選択肢のなかから術式を決定すべきであろう.文献1)SeilerT,KoufalaK,RichterG:Iatrogenickeratectasiaafterlaserinsitukeratomileusis.JRefractSurg14:312-317,19982)FechnerPU,StrobelJ,WiechmannW:CorrectionofmyopiabyimplantationofaconcaveWorst-iris-clawlensintophakiceyes.RefractCornealSurg7:286-298,19913)BudoC,HessloehlJC,IsakMetal:MulticenterstudyoftheArtisanphakicintraocularlens.JCataractRefractSurg26:1163-1171,2000.4)山口雅之:虹彩支持型有水晶体眼内レンズ(ARTISANRPIOL)の臨床成績.IOL&RS21:182-189,20075)MalecazeFJ,HulinH,BiererPetal:Arandomizedpairedeyecomparisonoftwotechniquesfortreatingmoderatelyhighmyopia:LASIKandArtisanphakiclens.Ophthalmology109:1623-1630,20024光学部径6mmARTISANR近視用PIOL散瞳前(左),散瞳後(右).(文献4より)5手術後裸眼視力(文献4より)0%20%40%60%80%100%1.0以上裸眼視力0.70.8

コンタクトレンズ:遠近両用ハードコンタクトレンズの処方方法(2)

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071621(アイミーサプリームバイフォーカル)使用眼鏡度数R:3.50DL:3.25D使用中の遠近両用HCLのフィッティングは,レンズの動きが遅く上方停止傾向で,センタリングが不良であった.患者はHCLへの装用感に不満をもっていたため,センタリングと装用感を重視し,実際のCLでテスト装用が可能な頻回交換型遠近両用ソフトコンタクトレンズ(SCL)を処方することにした.頻回交換型遠近両用SCLの処方規格R:8.70/3.50add+2.00/14.4DタイプL:8.70/3.00add+2.00/14.4Dタイプ(ロートi.Q.14バイフォーカル)遠方視力VD=1.0×SCL近方視力VD=0.5×SCLVS=0.5×SCLVS=0.6×SCLBVD=1.0×SCLBVD=0.6×SCL遠方および近方の見え方に患者の満足は得られたが,両眼に痒みの症状が出現し,両眼のレンズが球結膜に固着する傾向を認めたため,他のタイプの頻回交換型遠近両用SCLをテスト装用することにした.頻回交換型遠近両用SCLの処方規格R:8.60/2.25/14.0L:8.60/2.00/14.0(フォーカスプログレッシブ)遠方視力VD=0.4×SCL近方視力VD=0.6×SCLVS=0.4×SCLVS=0.6×SCLBVD=0.7×SCLBVD=0.8×SCL遠方の見え方に満足が得られなかった.球面度数を調整したが改善がみられず,同時視型の後面非球面型遠近両用HCLを処方することにした.遠近両用HCLの処方規格R:7.40/6.00/9.2L:7.50/5.75/9.2(シードマルチフォーカルO2)遠方視力VD=0.9×HCL近方視力VD=0.6×HCLVS=1.0×HCLVS=0.6×HCLBVD=1.0×HCLBVD=0.6×HCL装用開始直後から,近方とも見え方に満足が得られ,0910-1810/07/\100/頁/JCLS遠近両用ハードコンタクトレンズ(HCL)には交代視型と同時視型があるが,コンタクトレンズ(CL)の処方経験が少ない処方者には,処方が容易な同時視型に慣れてから,他のタイプの処方を試みることをお勧めする.ここでは同時視型の非球面型遠近両用HCLと,交代視型に一部同時視型の機能を有する同心円型遠近両用HCLの処方例をあげて解説する.時視型非球面型遠近両用HCLの処方例同時視型のなかでも非球面型遠近両用HCLは,パラメータがベースカーブと遠方度数だけであり,処方が最も容易である.また,レンズのセンタリングの見え方への影響が比較的少ないため処方成功率が高い.以下はその処方例である.処方方法を習得するためには,最終処方レンズの規格を決定するまでの経過を知ることも重要であることを理解してもらいたい.〔症例〕64歳,女性,主婦.4年前に他医にて交代視型のセグメント型遠近両用HCLを処方されていたが,見え方と装用感に満足できず,1年に一度の割合で規格を変更して処方を受けていた.遠近両用CLの処方を希望して当院を受診した.遠方視力VD=0.3(1.2×4.00D)VS=0.1(1.0×3.50D)近方視力VD=1.5(n.c.)VS=1.0(1.5×+0.75D)角膜曲率半径R:7.70mm20°/7.62mm110°(中間値7.66mm)L:7.71mm161°/7.78mm71°(中間値7.75mm)遠方視利き目:右眼.CL使用経験:HCL31年,遠近両用HCL4年.使用CL規格R:7.80/3.00add+2.00/9.4セグメント位置1.0L:7.85/2.75add+2.00/9.4セグメント位置0.5(71)塩谷浩しおや眼科コンタクトレンズセミー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純.遠近両用ハードコンタクトレンズの処方方法(2)———————————————————————-Page21622あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(00)その後の経過も良好である.ここで処方のコツは,ベースカーブをマニュアルより,ややフラット側のものを第一選択し,加入度数が弱めとなることに対しては,遠方度数を低矯正にすることで対応することにある.そしてトライアルレンズのフィッティングと追加矯正の遠方と近方の視力のバランスから最終的な処方規格を決定することにある.交代視型(一部同時視型)同心円型遠近両用HCLの処方例同心円型遠近両用HCLは,一般的に機能的な分類では交代視型であるが,同じ交代視型であるセグメント型と異なり同時視型の機能も有する.レンズのセンタリングの見え方への影響は非球面型より大きいが,それでも同時視型の機能があるために近方視への影響は許容できる範囲に留まることが多い.以下に処方例を示し解説する.〔症例〕51歳,女性,小学校教師.単焦点HCLを他医にて処方されていたが,近方の見え方に満足できなくなったため,HCLの処方を希望して当院を受診した.遠方視力VD=0.04(1.2×6.25D(cyl1.50DAx90°)VS=0.04(1.2×6.50D(cyl0.50DAx90°)近方視力VD=0.1(1.5×3.75D(cyl1.50DAx90°)VS=0.1(1.5×3.75D(cyl0.50DAx90°)角膜曲率半径R:7.53mm20°/7.66mm110°(中間値7.60mm)L:7.49mm143°/7.60mm53°(中間値7.55mm)遠方視利き目:左眼.CL使用経験:HCL25年.使用CL規格R:7.50/6.25/8.8L:7.50/6.25/8.8(メニコンEX)軽度の閉瞼不全があったが,使用中のHCLのセンタリングは良好であり,遠近両用HCLの適応と考えられた.職業上,近業時の見え方を重視する必要があるため交代視型(一部同時視型)同心円型遠近両用HCLを処方することにした.遠近両用HCLの処方規格R:7.60/6.00add+1.50/9.8L:7.60/5.75add+1.50/9.8(メニフォーカルZ)遠方視力VD=0.9×HCL近方視力VD=0.5×HCLVS=1.2×HCLVS=0.5×HCLBVD=1.2×HCLBVD=0.6×HCL装用を開始して2週間後,遠方,近方とも見え方に問題はなかったが,長時間装用すると,それまで使用していたHCLより違和感が強くなるとの訴えがあった.そこで右眼のCLのベースカーブを変更し,両眼のCLのサイズを変更して処方した.遠近両用HCLの処方規格R:7.50/6.25add+1.50/9.6L:7.60/5.75add+1.50/9.6(メニフォーカルZ)遠方視力VD=0.9×HCL近方視力VD=0.7×HCLVS=1.0×HCLVS=0.5×HCLBVD=1.0×HCLBVD=0.7×HCL処方規格の変更後,見え方と装用感に患者の満足が得られた.以後3年間経過したが,装用を継続している.以上のように遠近両用HCLの処方は単焦点HCLの処方と比べて,特に技術を要するところはない.処方を成功させるためには,遠近両用HCLはフィッティングの見え方への影響が大きいこと,近視の過矯正は加入度数が適正であっても近方視への患者の満足は得がたいことを理解し,それに対して,どのように対応すべきかを考慮しながら処方することが重要である.

写真:サイトメガロウイルス角膜内皮炎

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.12,200716190910-1810/07/\100/頁/JCLS(69)小泉範子同志社大学再生医療研究センターセー監修/島﨑潤横井則彦283.サイトメガロウイルス角膜内皮炎1サイトメガロウイルス(CMV)角膜内皮炎(51歳,男性)上方周辺部から中央へと進行する角膜浮腫を認める.透明角膜側には複数のコインリージョンが存在する.前房水PCRでCMVDNAを検出した.3図1の症例のフルオレセイン染色角膜浮腫の範囲はフルオレセイン染色でも明瞭に認められる.2図1のシェーマ①:角膜周辺部から中央へ向かって進行する浮腫.②:円型に配列する角膜後面沈着物(コインリージョン).①②図4角膜移植後に発症したサイトメガロウイルス角膜内皮炎(78歳,女性)水疱性角膜症に対する角膜移植5カ月後に,下方から中央へ進行する角膜浮腫と,浮腫に一致した範囲の角膜後面沈着物を認めた.ステロイド治療には反応せず,前房水からCMVDNAを検出した.———————————————————————-Page21620あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(00)角膜内皮炎は角膜内皮細胞に首座をもつ炎症性疾患で,進行すると角膜内皮細胞の脱落による水疱性角膜症を生じる.ヘルペスウイルス角膜炎の一病型とされており,アシクロビルやバラシクロビルによる治療が行われるが,これらの抗ヘルペス治療に抵抗性で,水疱性角膜症へと至る難治症例があることが知られている.最近になってこれらの角膜内皮炎のなかに,サイトメガロウイルス(CMV)が関与する症例が存在することが報告され,注目されている14).CMV角膜内皮炎の臨床所見はヘルペス性Ⅰ型角膜内皮炎に類似している.細胞浸潤や血管侵入を伴わない限局性の角膜浮腫が特徴で,病変は角膜周辺部から中心に向かって進行する(図1,3).浮腫の範囲に一致して角膜後面沈着物(keraticprecipitates:KPs)を認め,ときに拒絶反応線に類似した線状のKPsや,KPsが円形に配列した衛星病巣(coin-shapedlesion:コインリージョン)を伴う.虹彩毛様体炎や眼圧上昇を伴うことが多い.角膜内皮障害が進行すると,角膜内皮細胞密度が低下する.診断には,前房水を用いたウイルスPCR(polymerasechainreaction)が有用であり,臨床経過およびCMVDNAの同定をもってCMV角膜内皮炎と診断する.抗ヘルペス治療が奏効せずに角膜内皮障害が進行する症例では,前房水PCRによるCMVDNAの検索を行うことが望ましい.CMV角膜内皮炎と確定診断された症例では,CMV網膜炎に準じた方法によりガンシクロビルの全身投与による抗サイトメガロウイルス治療を行う4).これまでの症例では,発症後早期にガンシクロビル投与を行うことによって,角膜浮腫やKPsが速やかに改善され,角膜内皮機能を維持することができた.さらに再発予防を目的として,自家調整したガンシクロビル点眼液の使用を試みている.CMVは,AIDS(後天性免疫不全症候群)患者などの免疫不全患者における日和見感染症の原因ウイルスであり,眼科領域では網膜炎を発症することが知られている.一方,CMV角膜内皮炎は,全身的な免疫機能が正常な患者で発症している点でCMV感染症としては特殊な病態と考えられる.ヘルペス性角膜内皮炎の発症にはACAID(anteriorchamber-associatedimmunedevia-tion:前房関連免疫偏位)が関連していることが実験的に示されている5)が,CMV角膜内皮炎においても,前房内という免疫抑制環境が角膜内皮炎の発症に関与していることが推測される.CMV角膜内皮炎と診断された症例のなかには,原因不明の水疱性角膜症に対して複数回の角膜移植を施行されていたものがあり,このような症例では,ヘルペスウイルスのみならず,CNVも念頭においたウイルス検査と早期治療が必要である.文献1)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovi-rusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendothe-liitis.AmJOphthalmol141:564-565,20062)SuzukiT,HaraY,UnoTetal:DNAofcytomegalovirusdetectedbyPCRinaqueousofpatientwithcornealendotheliitisfollowingpenetratingkeratoplasty.Cornea26:370-372,20073)ShiraishiA,HaraY,TakahashiMetal:Demonstrationof“Owl’sEye”patternbyconfocalmicroscopyinpatientwithpresumedcytomegaloviruscornealendotheliitis.AmJOphthalmol114:715-717,20074)KoizumiN*,SuzukiT*,UnoTetal:Cytomegalovirusasanetiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmology,inpress(*co-rstauthors)5)ZhengX,YamaguchiM,GotoTetal:Experimentalcor-nealendotheliitisinrabbit.InvestOphthalmolVisSci41:377-385,2000

眼の奧の痛みへの対応

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSって診て貰ったがどこも異常はないと言われた.けれども良くならない」とか「眼科では異常がないと言われたので,内科に行って頭のMRIを調べてもらった.けれでも問題ないと言われた」といったような患者がよく訪れる.特にしかるべき施設で,しかるべき検査をされていたりすると,さらに自分は何を検査をすればいいのか考えてしまうようような場合もある.本稿では「眼の奥の痛みへの対応」ということなので「眼痛」をきたす疾患の鑑別よりも,「眼の奥の痛みを訴えて来院し,明らかな眼科的異常所見が認められないような症例に遭遇したときに,その症例に対してどのようにアプローチをし,どのように接すればいいか」といったことに重点を置いて述べ,読者諸氏の日常の診療の一助になれば幸いである.I診察の手順1.アプローチその1表1に「眼の奥の痛み」と表現される原因となる病態を示した.「眼の奥の痛み」を訴える症例に対して眼科医がまず最初にとるアプローチは眼疾患の有無である.まずは表1の1)4)までを念頭においてチェックする.緑内障の有無,ぶどう膜炎や虹彩炎などの眼球の炎症所見の有無,屈折異常や眼位異常,調節機能異常などによる眼精疲労やドライアイの有無などに留意し検査を行い,原因と考えられる所見が認められればそれに対するはじめに日々の外来診療において「眼の奥の痛み」はきわめてありふれた主訴であるが,いちばん眼科医を悩ませる主訴の一つでもある.視力検査,細隙灯検査による前眼部・中間透光体所見や眼底検査において,原因となる所見が認められればいいが,標準的な眼科検査で異常が見つからないと単なる眼精疲労やドライアイと診断して様子をみてしまうケースが少なくないのではないだろうか.実際「眼の奥の痛み」を主訴に来院される多くの症例で眼精疲労やドライアイが認められるのも事実である.しかしながら,「眼の奥の痛み」を訴えて来院される症例のなかには,視神経炎による眼球運動痛であることもあれば眼窩内に炎症が認められる場合や蓄膿症が原因であることもある.まれではあるが動脈瘤など重大な病気が潜んでいる場合もあり注意が必要である.さらに診断をむずかしくする要因としては,眼痛の訴えに対して痛みの度合いを客観的に評価する手段がないうえに,訴えの程度も個々の症例の主観に大きく左右されるため,病的な所見ととっていいのかどうか判断がむずかしい.痛みを訴える症例の全例において心配だからといって動脈瘤の可能性まで考えてMRA(磁気共鳴血管撮影法)やMRI(磁気共鳴画像)を検査することは現実的な問題として無理がある.したがって個々の症例に対しどこまで検査をすればいいのか専門家でも迷ってしまうのではないだろうか.神経眼科の外来を行っていると,「眼の奥に痛みがあ(63)1613*HisaoOhde:鴨下眼科クリニック〔別刷請求先〕大出尚郎:〒106-0032東京都港区六本木7-15-14塩業ビル4階鴨下眼科クリニック特集とっても身近な神経眼科あたらしい眼科24(12):16131617,2007眼の奥の痛みへの対応ManagementofDeepOcularPain大出尚郎*———————————————————————-Page21614あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(64)の場所と範囲は眼の奥の比較的限局した範囲で側頭部や後頭部などに及ぶことはない.眼球を動かすと増強する眼球運動痛は比較的特徴的な所見である.視力低下や視野欠損などの症状より何日か先行して起こるが,痛みの訴えとほぼ同時にMarcusGunn瞳孔/RAPD(relativeaferentpupillarydefect)が認められる.痛みの程度はマイルドであるが非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAID)の効果は不十分で,ステロイドにはよく反応する.眼球運動痛を認めるが視力低下や視野障害が認められない段階での対応MarcusGunn瞳孔が陽性であれば,視神経炎をはじめ視神経障害があると判断して説明をする.視力低下や視野障害がなくても,数日中に急激に見えなくなることがあるため,説明なしで様子を見ましょうとすると信頼を失うことがある.1.視神経の炎症が起こっている可能性が高く,12週間以内に視力低下や視野障害をきたす可能性があることを説明する.2.視神経への障害の原因を調べるため脳波(VEP)やMRIなどの検査を行ったほうがよいと説明する.3.開業であれば,検査できる施設へ紹介すると説明する.筆者はこの時点で検査入院を勧めるが,「この程度で入院なんて」と感じる患者もいるため,「視力低下などがまだないうえ,安静にしているだけで良くなってしまうこともあるので,通院で検査予定を組みましょうか」と促すことが多い.その際,「経過中に視力低下が認められれば様子をみずにすぐに連絡をして欲しい」と付け加えておく.この場合,視神経の造影MRI検査を対策や加療を行うのが通常であろう.この場合,その後の経過において治療効果の確認を必ず行うことが大切である.たとえば,ドライアイに対してヒアルロン酸点眼液を処方して,その後の経過にて眼痛の訴えがなくなったかどうかを確認することが大切である.特に眼精疲労によると思われる眼痛の場合など,眼精疲労の原因は一つであることよりもいくつかの原因が複合的に重なってひき起こされていることが多いからである.2.アプローチその2標準的な眼科検査(視力検査,眼圧検査,細隙灯検査による前眼部・中間透光体所見,眼底検査など)において原因となる異常が認められない場合は,外眼筋炎や視神経炎や副鼻腔炎などの球後における病変の有無や表1の5)7)の病態を想定して検査を進めていくことになるが,実際の検査の予定を立てる前に改めて「痛みの特徴」につき詳細な問診を行い,病態の把握に努め検査の項目と優先順位を決めていく.表2は,「眼の奥の痛み」を訴える場合の問診事項を示した.ここに示した1)7)の事項は痛みの原因となる病態の把握と緊急性の有無の判断を行ううえでいずれも重要な要素となる.以降,具体的な疾患をあげその痛みの特徴と対応について示す.II球後視神経炎球後視神経炎ではその半数以上で眼痛を訴える.痛み表1「眼の奥の痛み」と表現される原因となる病態)眼圧(内障))眼球およ眼球の炎症(炎,膜炎,眼炎,眼炎,副鼻腔炎))眼精労(,,眼およ眼球運動,症候群))ア)神経症状による頭痛眼痛(視神経炎,三叉神経痛,帯状疱疹による神経痛,症候群))脳血管障害による頭痛(動脈瘤,くも膜下出血,動静脈(),脳血発,側頭動脈炎))一次性頭痛(片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛))心因性,精神神経性,ストレス,過労,不眠表2「眼の奥の痛み」を訴える場合の問診事項)痛みの場と)痛みの性(い痛み,い痛み,るよな痛み,眼球運動痛,動性な))痛みのト(急性性,以らっ痛み,近起こっ痛みな))痛みの続(一過性続性,続な))痛みの性の)痛みの因の(運動,事,過労な))痛み以の症状(,力,,しれ,めい,り,こりな)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071615(65)V副鼻腔炎慢性的な眼窩深部痛の原因として鑑別上重要な疾患の一つである.非ステロイド系の消炎鎮痛剤や抗生物質の内服が一時的に奏効するが,くり返すことが多い.ときに吐き気を伴うほどの激しい眼窩深部痛を訴えることがある.眼窩,副鼻腔のCT(コンピュータ断層撮影)をとれば副鼻腔炎の存在を確認することができる.注意すべき点は,眼痛を含め鼻性視神経症や鼻性眼球運動障害など眼症状を呈する副鼻腔炎は,副鼻腔内に占めるボリュームの大きさが問題となるのではなく,どこにあるかが重要である.非常に小さな病変でも眼窩壁に接して後部篩骨洞や蝶形骨洞に存在する場合は原因となることが多い.治療は副鼻腔内の掻爬であるが,この部分を残すと症状の改善が得られない.しかしながら,この位置の掻爬は,手術に伴うリスクも大きいため副鼻腔を専門とする耳鼻科医と十分に連携をとって行うほうがよい.VI海綿静脈洞炎,TolosaHunt症候群亜急性,慢性の眼窩深部痛を主訴に受診する.多くの場合は眼球運動障害を伴う.動脈瘤との鑑別が重要である.VII脳血管障害による頭痛動脈瘤,くも膜下出血突然の頭痛または眼痛,眼瞼下垂,瞳孔不同,眼球運動障害などを認めた場合は,まず最初に動脈瘤の存在を疑うべきである.訴えとしては,「何月何日何時に何をしているときに起こった」といった具合にオンセットがかなりはっきりしていることが特徴である.なかでも動眼神経麻痺による瞳孔不同が認められる場合は,その時点で脳外科医にコンサルトするべきである.むずかしいのは頭痛や眼痛のみの場合である.動脈瘤によるくも膜下出血は本格的な発作を起こす数日前に,前兆となる軽い頭痛がくり返されることがある.後頭部を拳で軽くぶたれたような痛みで,しばらくすると治ってしまう.強いて特徴をあげるとすれば,断続的にくり返して起こるため,片頭痛と間違われることがある.最も優先して考えるとよい.実際,ステロイドパルス療法の適否を決めるにあたり画像検査,髄液検査,採血はぜひ行っておきたい検査で,視神経炎の発作が明らかとなれば入院加療に切り替える.III帯状疱疹ヘルペス片側の三叉神経の支配領域に一致した範囲で押さえつけられるような痛みを訴える.痛みの程度は激しいものから軽度なものまでさまざまである.典型的な発疹に数日先行して痛みを訴える.眼窩周囲のみならず頭皮まで観察し発疹が発見できれば診断は可能であるが,発疹が認められなければ診断はむずかしい.ときに発疹より先に眼瞼の浮腫だけが認められるような時期があり麦粒腫や眼瞼炎と誤診されることがある.よく診察を行うと麦粒腫の場合は主として圧痛が目立ち,痛みの範囲も浮腫の範囲に限局しているのに対し,ヘルペスの場合は眼窩上縁や眼の奥など必ずしも浮腫の部分と一致しない.しかしながら,わかっていながら気がつかないことがあるのがヘルペスである.数日以内の経過で片側の三叉神経支配領域の痛みを訴える症例への対応1.ヘルペスも,その可能性について説明がなされていたかどうかで,診察医に対する信頼度が大きく変わる疾患である.2.ほんの少しでも可能性が疑われる場合,抗ウイルス薬を使わずともヘルペスの可能性について一言でも触れておけば,その後の医師患者関係は非常に良好な関係が保たれる.この場合,患者には発疹が少しでも出てくるようであればすぐに受診するように伝え,“ヘルペスのお薬は診断が確実になったらすぐに使いましょう”と説明しておけばよい.IV原田病原田病はぶどう膜炎,難聴,頭痛が有名であるが,頭皮の異常感覚で受診することがある.具体的には頭ないしは髪の毛をさわられると痛いとか,ピリピリするといった症状であるが,患者の訴えとしては頭が痛いといって受診する.———————————————————————-Page41616あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(66)機能性の頭痛であるので,MRIなどの画像検査では異常を示さない.1.片頭痛(図1)3日から30日の間隔で間欠的に起こるズキズキとした脈打つような痛み.痛みの持続は数時間から3日.頭痛の範囲は頭の片側に偏って起こる.頭痛が起こる前兆として閃輝性暗点を認める.眼科には眼痛よりも閃輝性暗点で受診することが多い.誘発因子:光刺激,騒音,人ごみ,寝不足,過労,食べ物(赤ワイン,チーズ,チョコレートなど).2.緊張性頭痛(図2)頭全体ないしは後頭部を締め付けられるような持続性の痛み.肩こりや眼精疲労などを伴うことが多い.誘発因子:精神的ストレス,肉体的ストレス,VDT(visualdisplayterminal)作業,過労など.3.群発頭痛(図3)12カ月の間ほぼ毎日集中して起こる.1年間のうち最近になって断続的に頭痛がくり返されるといった場合は,動脈瘤も念頭におく必要があると心得ておいたほうがよい.動脈瘤だけは,明日破裂するのか1カ月後に破裂するのか予測することは困難で,もし可能性を疑った場合は眼科医が抱え込まずに脳外科の手にゆだねたほうがよい.急性発症で断続的にくり返し起こる後頭部痛を訴える症例への対応瞳孔異常や複視の有無,眼球運動障害などの有無は必ず確認をして,もし異常所見が認められれば,まずは脳外科への受診を勧め動脈瘤の有無につきコンサルトする.動脈瘤が否定的であれば眼科的な原因精査に努めるようにしましょうと説明する.眼痛以外に症状が認められない場合でも,情報として頻度は高くないかもしれないが動脈瘤の可能性は否定できないことを伝え,患者の希望に沿って脳外科へコンサルトするようにしている.VIII一次性頭痛(片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛)一次性頭痛は慢性の頭痛で,器質的な疾患を有さない1カ月図1片頭痛1カ月の間に数回の間隔で頭痛をくり返す.片側の頭痛.1カ月図2緊張性頭痛頭全体を締め付けられるように持続性の痛みがある.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071617つ病などから「眼の奥の痛み」を感じる症例がある.眼精疲労とは違い眼を使わなくても症状は改善されない.元の原因が解決されないとなかなか症状の改善が得られない.診断は除外診断で器質的疾患や機能的頭痛ではないことを確認する.詳細な問診は問題発掘の一助になる.このような症例に対しては,眼には心配な病気はないことを伝え,十分に休養をとることが大切であろうと説明をする.このような症例のなかには,頸椎症,頸椎捻挫,低髄圧症候群などの器質的疾患を合わせもつものがある.特に事故や第三者行為などによる場合は,心的なストレスと重なって訴えが増強されてしまうことがある.このような症例では器質的な障害をきちんと評価してあげることにより,心的なストレスを軽減できることがあり,症状が緩和されることがある.おわりに以上のように「眼の奥の痛み」という訴えは非常にポピュラーでありながら,その原因は多岐にわたり,心配のないものから重大な疾患が隠れている場合までさまざまである.なかでも動脈瘤の切迫破裂など緊急性の高い状態が紛れている場合があるため,安易な説明をしていると後に痛い目に遭うことがある.かといって全例にシビアな説明をするわけにもいかず,われわれ診察医にとって対応のむずかしい訴えの一つであろう.筆者がいつも心がけていることは,問診のなかで患者の訴えが「痛みを治してほしい」ということに重きがあるのか,「痛みの原因を調べてほしい」ということに重きがあるのかを考えるようにしている.後者の場合,重大な病気が隠れているのではないかという不安から受診しているものと察し,「ひと言添える」だけでも良好な医師患者が築けるものではないかと思う.参考文献1)日本頭痛学会新国際頭痛分類普及委員会編:国際頭痛分類第2版日本語版.日本頭痛学会誌31:46-51,2004(67)発作が起こる時期は個々の症例でだいたい決まっている.痛みの持続は15分から3時間.頭痛の範囲は,片側の眼球の奥の激しい痛みとともに充血,流涙,鼻水を伴う.時期が過ぎれば自然に消失する.アルコールは頭痛発作を誘発する.一次性頭痛は,前述したとおり眼の症状を訴えて眼科を訪れることもしばしばである.このため,眼科医も各々の頭痛の特徴につき理解しておくとよいであろう.頭痛のパターンを把握する目的で患者に頭痛が起こった日時や持続時間,特徴など日記(頭痛日記)をつけてもらうようにしている.これをすることにより,診察医が頭痛のパターンをより把握しやすくなると同時に,患者自身も誘発因子やどんな体調のときに起こるかなど自分の頭痛のパターンを理解することができる.IX心因性,精神神経性,ストレス,過労,不眠,その他(頸椎症,頸椎捻挫,低髄圧症候群)心的なストレスや肉体的なストレス,過労や不眠,う1年図3群発性頭痛年に23回,集中的に毎日頭痛がくり返される.片側の眼球の奥の激しい痛みと充血,流涙,鼻水を伴う.

飛び出た眼の取り扱い

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS起こる自己免疫性局所炎症である.また,涙腺や外眼筋など眼球周囲の眼付属器に局所的に炎症が生じても眼球突出が起こる.眼窩部の感染も眼球突出をひき起こす原因の一つであり,この場合は眼窩部痛を伴うことが多い.細菌感染のほかに真菌もあり,副鼻腔からの波及が多い.眼窩部に腫瘍が発生するときも眼球突出を生じることがある.特に眼球球後や涙腺部に発生するものでは眼球への圧迫効果(masseect)が強いため,眼球突出の出現頻度は高い.さらに頸動脈海綿静脈洞瘻や海綿静脈洞血栓症のような眼窩静脈還流障害でも眼球突出が起こる.II眼の飛び出し方の違い眼球の出かたは疾患によって異なる.それは数日の間はじめに眼球突出は日常の外来診療でそれほど多く遭遇するわけではないが,眼球突出が生じる背景には全身疾患や脳外科的疾患が隠されていることもあるため,その取り扱いには十分注意が必要である.眼球突出はおもに眼窩部あるいは海綿静脈洞病変で生じる症候であり,異常の判定は19mm以上の突出か,2mm以上の左右差で判断する.また,原因疾患の診断にはCT(コンピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像)などの画像診断が不可欠である.I眼が飛び出る原因眼球突出の原因を表1に示す.眼球球後あるいは眼球周囲に炎症が起こると,眼窩部脂肪組織の腫大が生じその結果として眼球突出が起こる.最も多いのは甲状腺眼症であり,これは眼窩脂肪組織および外眼筋に特異的に(57)1607*MasatoHashimoto:札幌医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕橋本雅人:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学眼科学教室特とっても身な神経眼科あたらしい眼科24(12):16071612,2007飛び出た眼の取り扱いClinicalEvaluationofExophthalmos橋本雅人*表1眼球突出の原因炎症:甲状腺眼症眼窩炎症性偽腫瘍(狭義)涙腺炎(Sjogren症候群,Mikuliz病)眼窩筋炎後部強膜炎感染:眼窩蜂窩織炎眼窩膿瘍真菌(アスペルギローマ,mucormycosisなど)圧迫効果(masseect):眼窩部腫瘍眼窩静脈還流障害:頸動脈海綿静脈洞瘻海綿静脈洞血栓症表2眼球突出発症のタイプ急性型:眼窩蜂窩織炎眼窩膿瘍真菌(アスペルギローマ,mucormycosisなど)眼窩炎症性偽腫瘍(狭義)涙腺炎(Sjogren症候群,Mikuliz病)眼窩筋炎後部強膜炎眼窩部悪性腫瘍眼窩静脈瘤破裂出血性リンパ管腫(出血時)外傷性頸動脈海綿静脈洞瘻(直接型)慢性型:甲状腺眼症眼窩部良性腫瘍硬膜枝型頸動脈海綿静脈洞瘻———————————————————————-Page21608あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(58)に急激に眼が飛び出してくる急性型と,患者本人が自分では気づかないほどゆっくりと進行して飛び出してくる慢性型の二つに大きく分けられる(表2).急性のタイプには細菌感染が原因で生じる眼窩蜂窩織炎や眼窩膿瘍,さらには炎症性偽腫瘍,眼窩悪性腫瘍などがあげられる.良性の眼窩部腫瘍でも,小児にみられる出血性リンパ管腫や眼窩静脈瘤破裂時も急激な眼球突出が生じ,悪性腫瘍と間違われることがあるので注意を要する.また頭部外傷後などに起こるhigh-owタイプの頸動脈海綿静脈洞瘻(直接型)も充血を伴った急激な眼球突出を示す.一方,眼球突出が慢性のタイプには甲状腺眼症,眼窩良性腫瘍があげられ,他にlow-owタイプである硬膜枝型の頸動脈海綿静脈洞瘻も比較的緩徐な眼球突出を示す.III各疾患の特徴と治療方針1.甲状腺眼症本疾患の9割は女性であり,甲状腺機能亢進症に多くみられるが,機能低下や機能正常でも起こる.初期の眼図1甲状腺眼症の顔写真a:軽度の左眼球突出と左上眼瞼後退(lidretraction)がみられる.b:下方視時の左瞼裂開大(lidlag)がみられる.ab図2眼窩静脈瘤のCT所見a:仰臥位,b:腹臥位.眼窩上方の腫瘍陰影がbのほうがaよりも大きく,体位によって異なる特徴を有する.ab図3出血性リンパ管腫のMRI所見T2強調画像において筋円錐内に多数の小腫瘤(葡萄の房様陰影)を認める(冠状断:a,水平断:b).矢印は液面形成(uid-uidlevel)を示す.ab←———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071609(59)2.眼窩部腫瘍良性,悪性,さらに転移性も含めると数十種類の腫瘍が眼窩部には発生する1).確定診断はあくまでも外科的腫瘍摘出あるいは部分生検による病理診断であるが,CT,MRIなどの画像検査においてきわめて特徴的な所見を有し,画像診断で確定診断が可能なものもある.以下に画像上特徴的な所見を有する眼窩部腫瘍をいくつか症状は上眼瞼の炎症性浮腫が主体で,ステロイドの全身投与が著効する.進行性のものでは外眼筋の炎症性肥厚に伴う眼球運動障害が生じる.重篤なものでは眼窩先端部において全外眼筋肥厚(特に内直筋肥厚の強いもの)による圧迫性視神経症が起こり視力低下をひき起こす.このようなものに対してはステロイドパルス療法や放射線治療を行う.眼球突出の特徴は,その多くが両眼性で慢性的であり,自分では気づかず他人に指摘されて受診するケースも少なくない.また眼瞼後退,瞼裂開大は眼球突出に伴う特徴的な眼症状である(図1).眼球突出に対しては眼窩減圧術を,外眼筋肥厚の結果として残存した眼位ずれに対しては斜視手術を行うこともある.また,喫煙が眼症悪化の最大要因といわれており,禁煙の指導も十分行う必要がある.図5視神経膠腫(neurobromatosis1)のMRI所見T1強調画像連続矢状断画像(上段から下段に向かい1mmずつ外側へ)において視神経の拡大と下方へ屈曲,変位がみられる.図4海綿状血管腫のdynamic造影MRI所見左上段が造影3分後で同スライス面を20秒ごとに連続撮影した.造影開始4分20秒後にようやく腫瘍内造影がみられ(矢印),その後造影効果は徐々に拡大した.———————————————————————-Page41610あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007じる.b.出血性リンパ管腫10歳以下の小児に多くみられる良性腫瘍で,出血時には急性の眼球突出をひき起こす.MRIにて多房性の“葡萄の房様陰影”を示し,腫瘍内陰影ではリンパ液と出血による液面形成(uid-uidlevel)をみる(図3).(60)紹介する.a.眼窩静脈瘤眼窩静脈圧によって腫瘤の大きさが変化するため,仰臥位と腹臥位におけるCT所見が異なる(図2).通常は姿勢によって変化する間歇性眼球突出を示し,突出していないときはむしろ健眼に比べて眼球陥凹を示していることが多い.また静脈瘤破裂時には急激な眼球突出を生b??adcChurg-Strauss症候群(ANCA関連血管炎)の顔写真(c)とMRI所見(d).著明な結膜浮腫を伴った眼球突出を示し,T1強調画像では全外眼筋の腫脹と副鼻腔に広がる腫瘍陰影を認める.図6眼窩炎症性偽腫瘍(広義)のMRI所見a:後部強膜炎.後部強膜およびそれに連なる視神経鞘の造影効果(白矢印)を示す.b:眼窩筋炎.左上眼瞼挙筋および上直筋は腫脹しT2強調画像において高信号を示す(白矢印).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071611診断可能である(図6).狭義の眼窩炎症性偽腫瘍は,病巣が眼窩脂肪であるため画像では境界不鮮明な陰影を示す.したがって眼窩蜂窩織炎との鑑別が最も問題となる.治療はステロイドの全身投与であるが,再発する場合が多いので漸減には注意を要する.4.眼窩感染症細菌感染の場合,眼瞼や副鼻腔からの感染の波及が一般的であり,眼球突出時に眼痛,眼瞼腫脹を伴うことが多い.治療は抗生物質の全身投与であるが,膿瘍を形成した場合は外科的な排膿が必要となる.真菌は眼窩先端部や海綿静脈洞に発症しやすく,ステロイド長期使用者や糖尿病を有する高齢者に多く発症する.治療は抗真菌薬による速やかな全身投与が必要となる.5.頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)頸動脈(多くは内頸動脈硬膜枝)の血管破綻が原因で海綿静脈洞との間に瘻孔を形成する.結果的に眼窩静脈還流障害が生じ,眼球突出が起こる.外傷でみられるhigh-owタイプ(直接型)と高齢者にみられるlow-owタイプ(硬膜枝型)では眼球の出かたが異なるが,どちらも上強膜静脈の怒張と眼圧上昇を伴い,ダイナミックCT,MRIで確定診断が可能である5)(図7).治c.海綿状血管腫中年女性に多くみられる良性腫瘍で,緩徐な眼球突出で気づかれることが多い.画像所見では造影剤の濃染遅延を特徴とするため,ダイナミックMRIによる連続撮影が診断に有用である2)(図4).d.視神経膠腫Neurobromatosistype1にみられる視神経膠腫は視神経の拡大と下方への屈曲を特徴とする3)(図5).眼球突出は慢性的である.e.蝶形骨縁髄膜腫中年女性に多くみられ,慢性視力低下,眼球突出を臨床的特徴とする.特に蝶形骨外縁に生じるタイプでは眼窩骨の肥厚と変形が生じ眼球突出が生じやすい.3.眼窩炎症性偽腫瘍広義の眼窩炎症性偽腫瘍は,眼窩内に生じる非特異的炎症全体をさし,部位によって後部強膜炎,眼窩筋炎,涙腺炎などに分かれる.Wegener肉芽腫やChurg-Strauss症候群に代表されるANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎や,Sjogren症候群,慢性関節リウマチといった膠原病に関連して生じる場合もあるため,自己抗体のチェックが必要である4).眼球突出時には結膜浮腫や充血を伴うことが多く,CT,MRIの画像検査にて(61)ab?図7頸動脈海綿静脈洞瘻の前眼部所見とdynamicMRI所見a:前眼部所見.角膜輪部における上強膜静脈の蛇行拡張がみられる.b:DynamicMRI所見.動脈相において右上眼静脈が造影され(白矢印),動静脈シャントが証明される.———————————————————————-Page61612あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(62)における眼窩腫瘍172例の統計学的検討.眼紀51:163-167,20002)OhtsukaK,HashimotoM,AkibaH:Serialdynamicmag-neticresonanceimagingoforbitalcavernoushemangioma.AmJOphthalmol123:396-398,19973)ImesR,HoytWF:Magneticresonanceimagingsignsofopticnervegliomainneurobromatosis1.AmJOphthal-mol111:729-734,19914)TakanashiT,UchidaS,AritaMetal:Orbitalinamma-torypseudotumorandischemicvasculitisinChurg-Strausssyndrome.Reportoftwocasesandreviewoftheliterature.Ophthalmology108:1129-1133,20015)OhtsukaK,HashimotoM,ImaiYetal:Theresultsofserialdynamicenhancedcomputedtomographyinpatientswithcarotid-cavernoussinusstulas.JpnJOph-thalmol43:559-564,1999療は瘻孔に対して脳外科的塞栓術を行う.おわりにひとくちに眼球突出といっても多彩な原因で起こり,眼の出かたもさまざまである.眼球突出をひき起こしている眼窩部病変をより正確に捉えるために,われわれ眼科医はCT,MRIなどの画像検査に精通することが重要であり,そして今後さらなる新たな画像検査が眼球突出の病態解明に臨床応用されていくことを期待したい.文献1)橋本雅人,大塚賢二,中川喬:札幌医科大学過去17年間

垂れたまぶたの対処法

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSの間などに落ち着いて考えを整理する.それでも判断がつかない場合は採血や画像の検査を予定し,さらに検討する.ただし,眼球運動制限と散瞳を伴い,脳動脈瘤が疑われる場合は急を要する.この作業は,眼瞼下垂の診察に慣れていない場合や,高頻度にみられる下垂以外のものに遭遇した場合に特に有用である.所見の有無は白黒はっきりできるものばかりとは限らず,また典型的な所見を呈する症例ばかりでもない.重症はじめに開瞼に携わるのは,動眼神経支配の眼瞼挙筋と交感神経支配のMuller筋であり,閉瞼に携わるのは顔面神経支配の眼輪筋である.また,眼瞼挙筋と上直筋は動眼神経の同じ由来の枝にて支配されている.I4ステップ眼瞼下垂の患者を診るときには表1の4つのステップにておおよその分類をし,さらに細かい所見をとって診断を進める.それぞれのステップを正確に速くこなすには,それなりの経験が必要となる.一般眼科,神経眼科,眼瞼眼窩診察の経験が必要であり,ステップ4では測定の手技が必要である.実際には外来でみる眼瞼下垂で最も高頻度なのは腱膜性,ついで先天性である.この2つについてはlevatorfunctionの測定(図1)と問診で判断することができる.しかし常に頻度の低い眼瞼下垂も疑い,表1の4つのステップを怠ってはならない.IIチェックリスト眼瞼下垂の診断に必要な所見を見逃さずに能率よくおさえていくためのチェックリストを表2に示す.これだけの所見がとられていれば,他の眼科医に相談する際の材料としても十分であろう.眼瞼下垂の患者に遭遇し鑑別診断の必要を感じた場合,まずは項目を忠実に埋め,写真を撮影し,散瞳待ち(51)1601表1診断のための4ステップte1te2のte3te4Levatorfunctionの垂れた眼科的・眼瞼眼窩所見Step1Step3Step4Step2異常No正常正常低下正常Yes異常腱膜性下垂神経原性・筋原性下垂小さい頃からあったか眼球運動・瞳孔所見Levatorfunction偽下垂機械的下垂先天性下垂*MikaNoda:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕野田実香:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室特集とっても近な神経眼科あたらしい眼科24(12):16011605,2007垂れたまぶたの対処法ExaminationofDroopyEyelids野田実香*———————————————————————-Page21602あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(52)表2チェックリスト重要項目発症時期幼少時より数年前数カ月前数日前複視の自覚ありなしLevatorfunctionmm/mm瞼裂幅mm/mm眼球運動制限ありなし瞳孔不同(明室,暗室で)ありなし上下斜視ありなし眼瞼腫瘍,眼窩腫瘍の触知ありなし図に記入瞳孔と上眼瞼縁との位置関係重瞼線の位置(瞼縁より何mmか)弛緩した皮膚が睫毛に被さっているか睫毛・睫毛根瞳孔反射眉毛の位置問診眼瞼下垂感軽度・重度外傷の既往あり(昔最近)なし眼科手術の既往ありなしコンタクトレンズ(CL)装用経験あり(HCL・SCL年間)なし日内変動ありなし糖尿病ありなし高血圧ありなし喫煙するしない(本年)(先天性の場合)下垂が改善する行動ありなし(先天性の場合)逆内眼角贅皮ありなし一般眼科的所見細隙灯検査充血ありなし白内障ありなし角膜上皮障害ありなし前房内炎症ありなし結膜異物ありなし眼瞼の診察眼瞼けいれんありなし閉瞼不全ありなし眼瞼腫脹・発赤ありなし眼球突出・変位あり(mm/mm())なし眉毛固定試験(痙攣を疑うとき)改善あり改善なし検査写真撮影(上方視・正面視・下方視・閉瞼)済未抗アセチルコリン(Ach)レセプター抗体測定済未不要(Levatorfunctionが低いとき,複視を伴うとき)CT済未不要MRI済未不要———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071603(53)チェックリストにて所見を取り終わったら,重要な所見を念頭において再度4ステップにて検討する.そして眼瞼下垂のどの種類に当てはまるか検討する.III眼瞼下垂の種類それでは4ステップで大まかな分類ができ,リストにて十分に所見を取り終わった時点で,眼瞼下垂の診断をどのように下すかにつき述べる.列挙された疾患のうち,最も近い疾患に絞り込み,必要な検査があれば追加する.1.偽眼瞼下垂・機械的下垂a.前眼部の異常眼表面の不快感をひき起こすような所見を伴う場合,反射的に閉瞼傾向になり,下垂のような外観を呈することがある.結膜炎,結膜異物,角膜上皮炎,ぶどう膜炎による羞明がよい例である.これらの所見を伴う場合,まずそれらが治療の対象になる.b.眼瞼皮膚弛緩症患者の多くが眼瞼下垂感を訴えて受診するためか,真の下垂と判断してしまいがちである.一重瞼の患者に多い.睫毛根が露出するまで皮膚のみを上方に挙上して,真の瞼縁と瞳孔の関係を把握する.皮膚だけが問題であるなら,皮膚切除術を行う.c.小眼球・眼球陥凹眼球表面の位置が奥まっている場合,眼瞼挙筋から瞼板にうまく力が伝わらず,下垂を呈することがある.眼窩吹き抜け骨折の既往についても問診する.d.眼瞼けいれん患者本人にけいれんの自覚がない場合,見分けるのが困難な場合がある.眼瞼下垂の患者は開瞼のために常に眉毛を挙上していることが多いが,眼瞼けいれんの患者の多くは眉毛付近の眼輪筋の収縮を伴うため,眉毛は下垂していることが多い.眉毛固定試験にて,閉瞼傾向が軽快するなら疑わしい.治療は眉毛挙上手術やボトックス注射である.e.顔面神経麻痺眼輪筋麻痺により,上眼瞼皮膚が被り,重量感を訴える.閉瞼不全を伴う.眉毛下垂,口唇下垂(口を水でゆ筋無力症でも日内変動を示さないものがあり,腱膜性下垂でも疲労により夕刻のほうが下垂が著しい例もある.重要項目を中心に,疑わしい疾患の裏づけとなる所見にて肉付けしていき,診断にたどりつくことができる.図1Levatorfunctionの測定左手にスケールを持ち,眉毛直上にあてがい,骨の方向に押し付けて眉毛を固定する.決して下方に押し下げない.右手でペンライトを持ち,それを上下に動かして指標にする.「上を見てください」といった口頭での指示では不十分である.a:ペンライトを上方に掲げて上方視をさせ,スケールにて瞼縁の位置を読み取る.スケールを瞼縁ぎりぎりまで近づけ,瞳孔の位置で計測する.瞳孔以外の位置で行うと,func-tionを低く見積もる結果になる.b:ペンライトを下方に移して下方視をさせ,同様に瞼縁の位置を読み取る.閉瞼時ではない.上方視時との差をlevatorfunctionとする.図ではスケールの目盛りは40と52であり,levatorfunc-tionは12mmである.———————————————————————-Page41604あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(54)MarcusGunn現象では,開口にて下垂の程度が軽快する.3.神経性・筋原性下垂瞳孔異常,眼球運動制限を伴う場合に疑われる.複視を伴う症例の詳細は,本特集の前項に譲る.a.Horner症候群交感神経障害からなる瞼裂狭小・縮瞳・眼球陥凹を三徴とする.瞳孔不同は暗所で顕著となる.1%ネオシネジン点眼にて眼瞼の異常は消失する.上眼瞼下垂とともに下眼瞼挙上がみられ,上方視時に著明になる.内科に依頼する.b.動眼神経麻痺眼球運動制限を伴う.上方枝のみの障害では,上転制限と下垂のみ出現する.糖尿病に伴う抹梢性の血管障害が多い.散瞳を伴わない場合,内科に依頼する.c.脳動脈瘤による動眼神経麻痺内頸動脈後交通動脈分岐部に生じた脳動脈瘤では,下垂・眼球運動制限・散瞳が数日のうちに発症,進行する.動眼神経単独の麻痺による眼球運動制限を呈する.ただちに脳外科に依頼し,MRA(磁気共鳴血管撮影法)などを行う.d.重症筋無力症しばしば眼球運動制限を伴う.日内変動や眼外症状がないことも珍しくない.採血により抗Ach(アセチルコリン)レセプター抗体の計測で診断できる.テンシロンテストより定量性があり,アナフィラキシーショックの心配がないこともあり,少しでも可能性があったら検査しておくとよい.内分泌内科に依頼する(図2).e.CPEO(慢性進行性外眼筋麻痺)両側性,慢性進行性の眼瞼下垂と眼球運動制限を呈する.しばしば複視を伴わない.MRI(磁気共鳴画像)にて外眼筋の萎縮を認める.神経内科に依頼する.f.CCF(内頸動脈海綿静脈洞瘻)上眼静脈(眼窩内で眼球上方を前後に走る静脈)の圧が亢進し,結膜血管怒張,結膜浮腫,眼圧上昇,眼球突出,眼球運動制限を伴う.眼窩CT(コンピュータ断層撮影)水平断にて上眼静脈の怒張を認め,通常線状にしか写らないものが視神経と同じ程度の太さに認められすげない)を伴えばなお疑わしい.神経内科・耳鼻科に依頼する.f.機械的下垂眼瞼腫瘍,眼窩腫瘍,外傷,炎症に伴う眼瞼眼窩腫脹による下垂である.触診や眼球突出・変位から疑い,画像検査にて確定する.原疾患の治療を行う.2.先天性下垂生まれつきの下垂で,levatorfunctionの低下を認める.10%の頻度で上直筋の機能低下を伴う.一重瞼であることが多い.小児で瞳孔が覆われており,視力不良がある場合は早めに手術する.軽度でも整容面改善の希望が強ければ手術を行う.軽度の先天性下垂があり,放置したまま成人した場合,levatorfunctionは低く,先天性下垂に準じた治療が必要となる.瞼裂縮小症は,両眼瞼下垂,瞼裂狭小,逆内眼角贅皮,内眼角間開大を四徴とする先天性下垂の一種である.希望に応じて手術する.先天性神経支配異常である図2Levatorfunctionの低下した例眼瞼の上下動の幅が小さい.挙筋機能の計測結果は3mmであった.抗アセチルコリンレセプター抗体が高値で,重症筋無力症と診断された.a:上方視時,b:下方視時.ab———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071605文献1)CallahanM,BeardC著,井出醇訳:眼瞼下垂.メディカル葵出版,19982)久保田伸枝:眼瞼下垂.文光堂,20003)菅澤淳:Horner症候群.月刊眼科診療プラクティス58,瞳孔とその異常,p48-51,文光堂,20004)藤野貞:神経眼科臨床のために,第2版.医学書院,20015)TyersAG,CollinJRO:ColourAtlasofOphthalmicPlasticSurgery2nded.Butterworth-HeinemannMedical,NewYork,2001る.脳外科に依頼する.4.腱膜性下垂Levatorfunctionが正常で,既出の疾患に当てはまらないものは腱膜性と考えてよいであろう.眉毛挙上,重瞼線の上昇,上眼瞼溝の陥凹はしばしば認められる.高齢,手術・外傷の既往,コンタクトレンズ(CL)装用経験があればさらに疑わしい.非常に高度に進行した例ではlevatorfunctionが低下することがあるので,発症時期と進行の様子をよく問診して判断する.原因が何であれ,治療は手術である.IV診断に必要な手技診断の決め手となりうる手技は,事前に健常者を相手に練習して確立しておきたい.1.Levatorfunctionの測定眉毛を骨に押し付けて固定し,ペンライトにて上下方視をさせて上眼瞼縁の上下動の幅を観察する.1014mmが正常とされる.筋機能がまったくない症例でも挙筋以外の組織の動きから,23mmの動きがみられる.2.遮閉検査(図3)斜視,もう片眼の瞼裂開大などによる患眼への影響を排除して診察できる.軽んじてはならない検査である.3.眉毛固定試験眼瞼下垂に眉毛下垂を伴う症例で,眉毛を挙上してテープで額に固定する試験.眼瞼けいれんの場合,閉瞼傾向は改善する.皮膚弛緩症の場合,真の瞼縁を観察しやすくなる.(55)図3上下斜視に対する遮閉検査a:正面視.一見して右眼の眼瞼下垂に見える.b:左眼を遮閉し右眼で固視させると,瞳孔と上眼瞼縁の位置関係は正しいことがわかる.左眼はやや上転位をとり,上下斜視であったことがわかった.このことは遮閉検査なしではわかりづらく,省略してはならない検査である.ab

だぶってみえる場合の対策

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS(5)外傷の既往,糖尿病などの全身疾患,甲状腺疾患などを把握する.はじめに日常臨床のなかで「物がだぶってみえる」という訴えはけっして少ないものではない.しかし,その評価の方法,原因検索の手順,対症療法について系統的なマニュアルはなく,ビタミン剤を投与してそのまま放置してしまったり,眼科的評価も不十分なまま安易に神経内科などに回してしまうことも少なくないだろう.しかし,この症状は生命にかかわる原因が背景にあることも少なくないのに,眼科が主体的にマネージメントしないと診断・治療まで遠回りしてしまうことになる.参考までに,診断のフローチャートの一例を示すので,ご参考いただきたい(図1).また,以下,「複視」という言葉を用いる.I問診のポイント(1)両眼複視か単眼複視か?単眼複視なら屈折異常,黄斑病変などを疑うが,本編では両眼複視を扱うことにする.(2)どの方向で複視が強いか?複視は水平性か垂直性か?麻痺筋を考えるための質問であるが,回旋複視では問診がむずかしく,しばしば「センターラインがだぶってみえる」などの表現をする.(3)日内変動はないか?(夕方悪ければ重症筋無力症,起床時悪ければ甲状腺眼症などを疑う.)(4)先行感染はないか?(小児の自然治癒する‘良性’外転神経麻痺,Fischer症候群など.)(45)1595??裕???竪???弋迫瘡CT???嶽?舂??嶽?舂?????瞥???竝?????弋迫磔????????畑?贇?????融茉磔?廬CCF?踰敏廬岬????靖堀???????????磔???????????????????倫???VOR?敍饋濯磔?竝Parinaud,PSP,etc.竪?磔評赭鱗?岬呆?絽磔??磔弋????etc?弋???????????????畑鶚顫?岬??????磔Fischer?鍋?竪???琢壜??嘴?讓??楙舂?澳???竝etc.$1眼筋麻痺診断のフローチャート大雑把ではあるが,一つの考えとして参考にしていただきたい.*MineoTakagi&AtsushiNiki:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕高木峰夫:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野特とっても身近な神経眼科あたらしい眼科24(12):15951600,2007だぶってみえる場合の対策ManagementofDiplopia高木峰夫*二木淳司*———————————————————————-Page21596あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(46)III麻痺パターンの把握(1)運動制限の大きいとき:眼球を動かす6つの外眼筋には特異的な作用方向があるので,視診で制限の顕著な方向を見いだし,麻痺筋を診断する(図2).また,経過を追うには,眼位ずれの大きい方向で写真を撮っておくと良い.眼位ずれの定量はKrimsky法注2),9方向に関してはシノプトフォアで眼位ずれを定量する.シノプトフォアには回旋ずれも定量できるメリットがある.(2)運動制限の小さいとき:視診では判定困難なことがあり,左右の像の自覚的なずれを記録し,そのパターンから麻痺筋を診断する.①赤ガラス法による複像検査(図3):患眼に赤ガラスを装用させ,直視した白色光源と赤フィルターで知覚された赤い像との位置関係を記録する.交叉性複視(赤フィルターを付けない側に赤い像が見える)は外斜を意味し,同側性複視(赤フィルターを付けた側に赤い像が見える)は内斜を意味する.②Hess赤緑試験(図4):左右眼に緑と赤のフィルターをかけて,1mの距離で直視した赤の固定視標と自分で指す緑視標を観察し,知覚されたずれを赤を基準として記録する.健眼固視で測定される運動制限による偏位注2)Krimsky法:正面視で眼前にプリズムを用いて角膜反射が中心になるプリズム度数を見いだす.II付随所見の把握(1)眼瞼下垂はないか?(動眼神経麻痺・重症筋無力症,両眼緩徐進行性なら眼筋ミオパチーなど)逆に眼瞼が異常に吊り上っていたら甲状腺眼症を考える.(2)瞳孔異常はないか?(動眼神経麻痺で散瞳を示すものは微小血管障害よりも圧迫性病変の確率が高い.)(3)眼球突出はないか?(眼窩占拠性病変,甲状腺眼症など.)(4)痛みはないか?(「頭痛と吐気」:外転神経麻痺とうっ血乳頭があれば頭蓋内圧亢進,「三叉神経第一枝領域の痛み」と複合神経麻痺:海綿静脈静脈洞でのTolo-sa-Hunt症候群注1),「偏頭痛」:眼筋麻痺性偏頭痛など.)(5)結膜静脈怒張・血管雑音性の耳鳴り・眼圧上昇と脈圧の増大→これなら頸動脈海綿静脈洞瘻.(6)強度近視はないか?(眼軸長が著しく延長した場合に外転制限が起こることがある.はなはだしい場合は固定内斜視に至る.)(7)他の神経兆候はないか?(顔面神経麻痺,注視眼振,MLF(mediallongitudinalfasciculus)症候群などの神経兆候を伴えば脳幹疾患の可能性が高い.)注1)Tolosa-Hunt症候群:海綿静脈静脈洞での炎症性肉芽腫性病変で脳神経Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ1,Ⅵの複合神経麻痺を起こす.ステロイドが著効.弋?23??濯???濯????鎬彖敏?51??琢貶??濯????鎬彖敏?54??濯貶??琢????鎬彖弋?23??琢???琢????鎬彖外直筋内斜筋上直筋下直筋上斜筋下斜筋図2外眼筋の働き運動制限が顕著な場合,視診で運動制限が最も大きい方向を見いだす.麻痺筋を決定するための外眼筋の作用方向を示す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071597(47)で複視があるかが重要であり,Hirschberg法・プリズム交代遮閉試験で正面視での眼位ずれを定量しておくと経過観察にも有効.(3)軽度の上斜筋麻痺は視診では診断しにくいので,Bielschowskyheadtiletest(患側に頭部を傾斜すると患眼が上転:自覚的には風景が下転)を利用して診断す量(第一偏位)よりも,患眼固視で測定される健眼の行き過ぎ(第二偏位)のほうが常に大きく,偏位が小さいときはまず第二偏位を探すと便利である.ごく軽度の麻痺(軽い上斜筋麻痺など)はさらに50cmの距離で測定するとよい.両眼とも運動制限がある場合は麻痺筋は判断できない.③正面での眼位ずれの定量:患者にとっては正面視燐破磔???敏貶瞭渝濯???????畑?琢赭????瞭琢渝瞭濯渝琢渝濯竝?敏琢赭?濯琢??鎬彖竝破??莫貶?壜???苙彖ABC図3赤ガラス試験運動制限が軽い場合,片眼に赤ガラスを装用させてペンライトの光を見せ,どの方向でずれが最大か,水平にずれるか(同側性か交叉性か),垂直にずれるか聞くことで麻痺筋を決める.たとえば,A:右眼軽度外直筋麻痺:右方視で水平の同側性複視ずれが拡大する.B:右眼軽度下直筋麻痺:右方視で垂直性複視,下方で増加・上方で減少.C:右眼上斜筋麻痺:左方視で垂直性複視,下方で増加し上方で減少.患側へ頭部傾斜させる(Bielschowskyheadtilttest)と,麻痺眼が上転し垂直ずれが拡大する.図4Hess赤緑試験A:赤緑フィルターのため視標を融像できない.そのため斜位がある場合にはパターンは平行移動する.この場合は外斜位による平行移動.B:右内直筋麻痺.右眼のチャートで鼻側方向にパターンが詰まっている(第一偏位).一方,健眼の左眼は,麻痺眼である右眼固視のときには逆に大きく行き過ぎる(第二偏位).C:右上斜筋麻痺.ずれが小さいことが多く,右眼は内下方でパターンが詰まっている(第一偏位).一方,同様に健眼の左眼は下方に行き過ぎる(第二偏位).さらに大きく検出するには50cm距離で検査する.A左眼右眼左眼右眼左眼右眼BC———————————————————————-Page41598あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(48)向に両眼とも向けることができなくなる.しかし,眼前視標を固視させて,両手で頭部を抑えて回転させると,前庭動眼反射注4)により眼球は元の位置に止どまる(人形の目現象).上方注視麻痺の場合,閉瞼できないように眼瞼を指で抑えて閉瞼の努力をさせると,眼球はBell現象で上転する.このように,随意的な運動ができなくても脳幹部の反射的運動が健在であれば,注視麻痺と診断される.(4)血液一般検査:糖尿病や高脂血症などは,眼筋麻痺と因果関係が確定できなくても発見できれば患者にとってメリットがあり,高齢者では行う意味がある.(5)甲状腺関連検査:ホルモンFT3,FT4,TSH(甲状腺刺激ホルモン),また自己抗体として甲状腺刺激抗体TSAb(あるいは甲状腺受容体抗体TRAb),抗サイる(図3C).(4)輻湊機能:幼児であれば鼻尖を注視するまで,成人では眼前68cmまで輻湊ができる(輻湊近点).10cm以上は異常である.これらの所見を参考に,脳幹疾患,眼運動神経麻痺(図5:Ⅲ,Ⅳ,Ⅵ,その複合麻痺),神経-筋接合部疾患,眼筋疾患のいずれか,検査を進めていく.IV特殊検査特異的な疾患を疑ったとき,それを診断する特殊検査注3)を行う.(1)画像検査:MRI(磁気共鳴画像)・CT(コンピュータ断層撮影)で脳全体のスライスと眼窩レベルの薄いスライス,さらに外眼筋の評価ができるよう冠状断を入れる(図6).異常所見の検出率を上げるため造影を行うことが望ましいが,頻度は少ないもののショックの対策ができる条件で行う.(2)眼球牽引試験(forcedductiontest):点眼麻酔をした後にピンセットあるいは綿棒で眼球を制限方向に牽引する.抵抗がなければ作用筋の「麻痺」,抵抗があれば拮抗筋の伸展「制限」である.甲状腺眼症や眼窩吹き抜け骨折で陽性である.また眼筋「麻痺」でも,長期の麻痺により拮抗筋が硬縮しているかどうか,眼筋手術の術前計画に把握する必要がある.一方,慢性進行性外眼筋麻痺では抵抗が非常に少ない.(3)注視麻痺の検査:脳幹や大脳の障害では,ある方IIIIVVI図5眼運動神経動眼神経,滑車神経,外転神経の起始部と走行を示す.画像診断で眼窩レベルのthinsliceを撮像すると,核下性外眼筋麻痺の主要な部分は撮像できる.これに頭部全体のルーチンのスキャンを加える.(文献7より)図6甲状腺眼症による上転制限とMRIでの下直筋肥厚甲状腺眼症ではまず下直筋から障害され上転制限を呈することが多いが,下直筋の肥厚は冠状断を撮らないと意外と見落とされる.上方視注3)専門的にはさらに眼球電図による眼球運動記録解析,眼筋筋電図などの手法がある.注4)前庭動眼反射:前庭器により頭部運動を検出し,眼球が頭部と反対運動をして視線を安定化させる働きをする.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071599(49)(threedimensionalCTangiography),MRアンギオ,造影CTなどその施設で早急にできる画像検査を行う.検査が不可能であれば,脳外科のある施設に依頼する.(2)重症筋無力症:2/3は眼科的症状で発症し,まず眼科を受診するが,急激に全身型に移行して重篤な症状を呈することがある.重症筋無力症の可能性があれば,その日のうちにテンシロンテストを行うとよい.(3)甲状腺眼症に甲状腺視神経症を伴ったもの:早急に画像検査で外眼筋の腫大により眼窩先端部で圧迫性神経症を起こしていることを確認し,恒久的な視力障害が起こらないうちに,至急ステロイド大量投与と放射線照射の併用療法を開始する.VI対症療法眼筋麻痺は,原因治療に関しては眼科で行う場合も他科に依頼する場合もあるが,複視は患者にとって大変苦痛な症状であり,その症状緩和は眼科医の仕事である.ログロブリン抗体,抗ペルオキシダーゼ抗体を測定する.これらがすべて正常でも甲状腺眼症を否定はできない.(6)テンシロンテスト:日内変動があれば行う.テンシロン1A(塩化エドロホニウム10mg)とアトロピン1A(副作用発症時にすぐに使用できるよう注射筒に入れて準備しておく)を準備.注射前の写真を撮り,まず0.2ml(=2mg)を静注し,改善がないか,副作用がないかチェックする.反応がなければ,さらに残りのテンシロンを静注し,テンシロン投与開始12分後の所見の写真を撮る.また,抗アセチルコリン受容体抗体測定では,重症筋無力症の眼筋型の半数で陽性である.V診断に急を要するもの(1)未破裂脳動脈瘤の膨隆による動眼神経麻痺:大至急診断して対処しないと,破裂すれば致死率30%,あるいは高度の後遺症を残す.その日のうちに3D-CTA図7急性期の複視の対症療法A:プリズムガラス.これを眼鏡に組み込む.B:Fresnel膜プリズム.これを患者の自持ち眼鏡の裏面に塗布する.C:半遮閉眼鏡.大きなフレームで広い範囲を遮閉するとよい.ABC———————————————————————-Page61600あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(50)VII障害後遺症診断書特に交通事故後の眼筋麻痺では最終的に後遺症の診断書の記入を求められることが多く,複視が固定したら記載する.視力低下を伴う場合は悪いほうの視力をゼロとして良いほうの単眼視力を評価する.文献1)根木昭(編):これならわかる神経眼科.眼科プラクティス5,文光堂,20052)丸尾敏夫,久保田伸枝:斜視と眼球運動異常.文光堂,20023)三村治(編):新臨床神経眼科学.メディカル葵出版,20014)藤野貞:神経眼科臨床のために(第二版).医学書院,20015)若倉雅登(編):神経眼科.新図説臨床眼科講座8.メジカルビュー社,20006)向野和雄:神経眼科.金原出版,19977)筒井純:神経眼科.図説臨床眼科講座5.メジカルビュー社,1983しかし現実には放置されているケースが少なくない.(1)急性期の対処(図7):治癒あるいは麻痺が固定するまでの間は,暫定的な対処として片眼遮閉,プリズム眼鏡などがある.長時間の眼帯着用は耳朶が痛くなることもあり,眼鏡に半遮閉膜を貼る,半遮閉ガラス眼鏡装用などの対処もある.プリズムは治癒の妨げにならないよう低矯正にする必要があり,簡単に張り替えられるFresnel膜も(視界が少し霞むが)便利である.(2)固定期の対処:半年間固定性であることを確認し(動眼神経麻痺では異常再生が起こることがあるので1年間待つ),おもに正面視で複視が消失することを目的に眼筋手術を行う.軽度のものは麻痺筋の短縮を行うが,程度の大きいものは眼筋移動術を要する(例:外直筋完全麻痺に対するHummelsheim法注5).甲状腺眼症による上転制限(図6)では下直筋の後転を行うが,下眼瞼の後退が起こらないよう後転量の限界を5mmとする.注5)Hummelsheim法:上外直筋を二分し,耳側半分をそれぞれ外直筋の付着部に縫着する.

欠けている視野の診かた

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSI欠けている視野が垂直経線上に沿っている→視交叉より後ろに病変!即,画像検査を!1.両方の耳側視野が欠けていたら主訴としては両眼視困難を訴えることが多い.鼻側視野が保たれている場合,両眼で約120°の視野があり,両耳側半盲で外側が見えないとの訴えはあまり聞かない.斜視でないのに両眼視困難を訴えた患者には,もしや,と思い視野検査を施行する必要がある.視野検査をはじめに視野検査は「診断に重要な意味をもつ」場合と「補助診断」あるいは「定期検診」で行う場合に分かれる.今回は欠けている視野がどんな意味をもつのか,どの部位の障害によるのかについて述べ,眼球だけでなく,視神経,視交叉以降の病変についても症例を提示しながら解説したい.最も一般的な視覚経路の模式図とその部位の病巣により生じる視野欠損を図示した(図1).視交叉から視覚中枢における病変では視野欠損の境界線がきっちり垂直経線上に乗っていることが重要である.どの部位の頭蓋内病変がどの視覚経路に障害を与え,どのような視野欠損をきたすのか,常にイメージしながら診療に当たりたい.MRI(磁気共鳴画像)軸位断での視覚経路の局在を図2に示した.(35)1585*AkikoKimura:兵庫医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕木村亜紀子:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室特とっても近な神経眼科あたらしい眼科24(12):15851594,2007欠けている視野の診かたVisualFieldDefects─ItsInterpretation木村亜紀子*図1視覚経路網膜神経節細胞層の軸索は視神経を形成し,視交叉(1)で一部交叉して視索(2)となる.視索は一眼の耳側半分と他眼の鼻側半分の網膜からのインパルスを外側膝状体(3)に伝える.外側膝状体からの最終投射は視放線(4)で,鳥距溝の上下の視皮質(5)に終わる.視放線の下部は側脳質下角を取り巻くループ(Meyer’sloop)を形成し,側頭葉の前方まで達する.このループは網膜の下半分からのインパルスを伝達し,これが傷害されると対側の同名性上1/4盲が起こる.(文献1より改変)網膜視神経視交叉()視索()外側膝状体()視放線()後頭皮質()左右側頭葉頭頂葉後頭葉固視点右視野左視野———————————————————————-Page21586あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(36)出したペン先が視界に入っているかを問う検査法である.目と目で見つめ合うことは互いの中心窩と中心窩を結んでいる.視交叉以降の病変で生じる視野欠損はあるオーダーする前にまず対座法で大まかな情報を得る.患者の片眼(たとえば左眼)を隠し,正面に座って患者の目(右眼)と検者の目(右眼)で見つめ合って検者の指し視索(2)視放線(4)外側膝状体(3)視放線(4)上斜筋腱視交叉(1)内頸動脈漏斗視索(2)大脳脚黒質中脳水道小脳中部上矢状静脈洞視放線(4)視皮質(5)視放線(4)視皮質(5)図2頭部MRIT1強調画像軸位断での視覚経路の局在を示した.(文献2より改変)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071587(37)図4巨大下垂体腫瘍による同名半盲52歳,女性.半年前から視野異常を自覚していた.視力は右眼矯正0.05,左眼矯正1.0.右同名半盲と左耳上側視野欠損を認める.MRIT1矢状断で巨大下垂体腺種による視交叉圧迫を認め,軸位断では右視索圧迫所見が認められる.右眼上耳側視野欠損は両耳側半盲の名残であり,同名半盲にマスクされている.図3両耳側半盲下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)による典型例.———————————————————————-Page41588あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(38)早期に視野検査が施行されておれば腫瘍の増大の前に加療に当たれた可能性がある.動的視野検査は半盲患者などの診断に適しているが,治療後のfollowupには静的視野による閾値測定が優れることから,脳外科での手術前にはできれば静的視野のデータも残しておき術後再発などの判定に用いたい.接合部暗点(junctionalscotoma)片眼の視力障害(古典的には中心暗点)と他眼の耳側上方の半盲性視野欠損のことをいい,視神経と視交叉の接合部の病変を示唆するきわめて重要な所見である.原因不明の片眼視力障害をみたとき,他眼の耳側視野にイソプター低下を認めたら,トルコ鞍近傍のさらに詳しい検査が必要である.2.両方の鼻側視野が欠けていたら静的視野検査では正常人でも鼻下側の感度低下は出やすいので,中心30-2や中心24-2で鼻下側に異常が出たら,周辺プログラム60-4か,Goldmann視野計で再検査をする.鼻側視野欠損が本当であれば,緑内障以外では頭蓋内病変や副鼻腔病変が疑わしいので画像検査を施行する.視神経病変が鼻側視野障害単独で発症することはきわめてまれである.視交叉部病変ではemptysellasyndrome(空虚トルコ鞍症候群)で両鼻側半盲を呈することがある(図5).程度対座法で知ることができる.これで異常が検出できなければ静的視野検査からオーダーする.動的視野検査では内部イソプターの変化として認められる可能性が高い.両耳側半盲は視交叉病変による視野変化である.プロラクチノーマによる典型的な両耳側半盲を提示する(図3).視野欠損(内部イソプターのみの変化も含む)が垂直経線上に乗っているのがわかる.視交叉はトルコ鞍内で下垂体の上に位置しており,内頸動脈サイフォンに隣接している.代表疾患としては,下垂体腺腫,頭蓋咽頭腫,ラトケ(Rathke)胞など視交叉を下方から圧迫するもの,内頸動脈瘤(視交叉を外下方から圧迫),神経線維腫症における視交叉部腫瘍(視神経膠腫)などがある.いずれも緊急疾患ではないが,腫瘍内に出血して突発する下垂体卒中には注意が必要である.両耳側半盲をみれば視交叉部を思い浮かべなければならないが,初期病変は内部イソプターのみ変化して現れる.このような場合も見逃さず両耳側半盲(あるいは半盲性暗点)と診断する.視交叉病変はいつも両耳側半盲で発症するわけではない(約6割から8割).教室の西村が報告した視交叉部巨大下垂体腺腫における同名半盲症例を提示する(図4).この症例は病変が視索方向へ進展し同名半盲を呈しているが,左眼上方の視野欠損は両耳側半盲から視野欠損が進んだ可能性を示唆しており,図5Emptysellasyndrome両鼻下側に内部イソプターの沈下を認める.くも膜のトルコ鞍内への進入によりトルコ鞍が拡張し,下垂体は後下方へ圧排され,両鼻側半盲を呈する.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071589(39)3.両眼の左側,右側の視野が欠けていたら同名半盲は両耳側半盲と異なり,両眼開放していてもどちらか視野が半分欠損しているため,欠損側のものにぶつかりやすく,物体が急に目の前に現れると訴える.症例は50歳の女性であるが,複視を主訴に眼科を受診した.眼球運動では片眼の上転制限を認めたことから図6蝶形洞髄膜種による同名半盲静的視野で左同名半盲を認める.MRIT1強調画像軸位断では右視索圧排が認められる.図7同名性上1/4盲59歳,男性.血管造影で左中大脳動脈閉塞を認め,MRIT1強調画像で出血性脳梗塞を認め,梗塞部位は左Meyer’sloopにかかっている.———————————————————————-Page61590あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007乳頭を認めれば,頭蓋内圧亢進をきたしている可能性が高く,脳外科での早急な精査が必要である.III中心暗点・盲点中心暗点まず対光反応をみよう!視神経線維のなかで炎症や圧迫などのダメージに最も弱いのは乳頭黄斑線維束である(図8).乳頭黄斑線維束の障害は著しい視力低下をきたす.すぐ散瞳して眼底検査,フルオレセイン蛍光造影(FA)へと進みたくなってしまうが,まずは対光反応をみなければならない.対光反応の所見はきわめて重要である.中心暗点をきたす疾患としては視神経疾患と黄斑病変であることから,対光反応を確認後に散瞳して眼底の詳細な観察,画像検査へと進みたい.対光反応が不良な場合,特に網膜に大きな変化がないのにRAPD(relativeaerentpupillarydefect)陽性であれば視神経疾患を考える.代表的な疾患は視神経を取り巻く組織の炎症の波及,圧迫,さまざまな要因から視神経がダメージを受ける視神経症と特発性視神経炎である.眼底所見では一見鑑別困難なことがあり(図9),臨床の現場ではしばしば判断に迷う.眼球運動時痛があっ甲状腺眼症を疑いMRIを施行したところ,大きな蝶形骨洞髄膜腫を認めた.右視索を圧迫している.対座法では検出できなかったが,静的視野検査で左同名半盲を認めた(図6).同名半盲は視野欠損と反対側の視索,外側膝状体,視放線および後頭葉の病変にて生じる.この同名半盲には完全な同名半盲と不完全なものがある.後頭葉に近くなるほど,左右の視野欠損のcongruity(一致)が高くなる.他の神経症状を伴わない同名半盲は後大脳動脈閉塞症が最も疑われる.同名半盲の際に中心視野のみが生き残っていることを黄斑回避という.病巣局在診断価値はあまりなく,後頭葉では中心窩を担っている神経線維が大部分を占めていることに関係している.視放線障害,特に側頭葉腫瘍などによる場合,外側のMeyer’sloopが障害されると同名性上1/4盲をきたす(図1,7).責任病巣推定に価値がある.特に垂直経線に沿った下方の楔型の場合は視出血など視放線の最内側の障害が疑われる.視覚路障害では動的視野と静的視野の結果に解離(statokineticdissociation)が生じることがあり,Rid-doch現象とよばれる.これは欠損部において動きに対する視覚のみが残存することによる.視覚路のどの障害でも生じるものである.II視野欠損ではないけれど,Mariotte盲点拡大??真のMariotte盲点(以下,マ盲点)拡大は珍しい,ということをまず知っておくことが大切である.眼底,視神経乳頭周囲の脈絡膜所見は重要である.たとえば,視神経の先天異常の場合,視神経と接する脈絡膜に萎縮病変が認められる.Colobomaやmorningglorysyn-drome(朝顔症候群)などは眼底をみれば一目瞭然である.巨大乳頭でもマ盲点拡大をみる.視神経乳頭の一部に深い陥凹を認める(耳側に多い)視神経乳頭ピットや乳頭が上下方向に傾斜するtilteddiscsyndromeではこれに伴う視野異常をみる.これらの先天異常は乳頭小窩黄斑症候群など例外を除いては停止性である.それに対し,両眼のマ盲点拡大があり,眼底にうっ血(40)視神経乳頭弓状線維乳頭黄斑線維束中心窩網膜縫線図8視神経乳頭における神経線維の走行弓状線維は耳側縫線で上下にきっちり分かれる.弓状線維束に相当する視野領域をBjerrum領域とよぶ.乳頭黄斑線維束の最内側は視神経乳頭と中心窩を水平に走る.ここは炎症で真っ先に障害を受け盲点中心暗点となる.(文献3より)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071591検査,MRIにおけるMSplaqueの有無など検査を進める.炎症の確認には造影検査が必須である.片眼の中心暗点は脳腫瘍や副鼻腔の粘液腫など圧迫病変が原因のこともあるので注意を要する.両眼の中心暗点は急性に発症したものを除けば中毒性視神経症,遺伝性視神経萎縮であり,病歴や詳しい聴取で診断可能と思われる.対光反応が良好な場合,散瞳し,欠けている視野に一致する網膜病変があるかを精査する.一見網膜病変がないようであればFAも施行する.対光反応が良好な視神経疾患は3つ,Leber病,優性遺伝性視神経症,心因性視覚障害である.若い男性,大きな中心暗点,視力はきわめて不良な場合,Leber病を鑑別する必要がある.眼底所見では急性期は視神経乳頭の発赤腫脹があり,視神経乳頭周囲に血管が多く蛇行したり,運動や体温上昇により視力低下が増悪すれば(Uhtho現象)視神経炎が疑わしいし,基礎疾患に高血圧や糖尿病があれば虚血性視神経症が疑わしい.視神経炎の視野の特徴は中心暗点と思われがちだが,Humphrey視野計では中心感度の低下として描出され,患者の自覚も患眼が暗い,色が鮮明でないと訴える.参考となる所見は,健眼と思われるほうの眼にも異常が認められることである(1993年の米国での他施設共同研究で健眼にも69%に異常が認められた).患眼だけでなく他眼にも異常が検出された場合は視神経炎が疑われることから,静的視野検査は必ず両眼行う.球後視神経炎(図10)では眼底はまったく正常であり,MRIにより初めて確認される.比較的若年者に認められる視神経炎の原因の一つは多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)であり,耳鳴りはないかなどの他の神経症状の検出,髄液(41)図9乳頭腫脹上:56歳,男性.特発性視神経炎の乳頭,下:65歳,男性.前部虚血性視神経症の乳頭.眼底のみでは鑑別は困難であるが,上の症例はMRIで視神経に炎症を認め,下の症例ではFA早期に脈絡膜循環遅延を局所的に認め診断に至った.図10球後視神経炎MRIT1冠状断,造影検査にて右視神経が造影されている.軸位断では,炎症が球後視神経に限局しているのがわかる.このような場合,眼底には変化を認めない.この症例は20歳,健康な男性で,多発性硬化症が疑われたが,原因精査を希望しなかった.髄液検査などが必要である.———————————————————————-Page81592あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007診断自体がむずかしい.片眼の視神経乳頭炎で特に時期を違えて両眼に生じた場合はLeber病の可能性があり,ミトコンドリアDNAの検査が診断の決め手になる.優性遺伝性家族性視神経症は発症年齢が若いこと,OPA-1遺伝子が検出される特徴がある.IV欠けている視野が水平経線に沿っている水平半盲??不規則性視野??網膜疾患として,半側網膜動脈または静脈閉塞症の可ている(拡張性微細血管症)がFAで色素の漏出をみない.進行すると視神経萎縮となる.ミトコンドリアDNA検査では3460変異,11778変異,14484変異が全患者の9割を占める.自然回復する症例も認めるが,11778変異では自然回復はほとんど期待できない(図11).外傷を契機とした心因性視覚障害では時に難治を示し,外傷性散瞳などで対光反応の判断自体がむずかしい場合は(42)図11Lerber病13歳,男性.右眼矯正視力0.15,左眼1.0,兄が14歳でLerber病を発症し,母の兄もLerber病である.ミトコンドリアDNA検査で11778変異が確認されている.女性を介して男性で発症する.図12Superiorsegmentalopticnervehypoplasia(SSOH)21歳,女性.右下半盲を認めた.視神経乳頭は局所的右耳上側のリム狭細化を認める.緑内障との診断で近医でフォローされていた.———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071593まず考えないといけない疾患である.FAでchoroidalash時に局所的脈絡膜循環遅延をみる.虚血性視神経症(ION)にはriskfactorがあり,小乳頭,遠視眼がそれに当てはまる(図13).Foster-Kennedy症候群は患能性がある.きっちり水平経線上に沿っているわけではないが網膜離,眼内腫瘍,網膜血管閉塞症なども鑑別疾患である.Nerveberbundle型欠損では緑内障を考える.緑内障ガイドライン第2版によると,緑内障は「視神経と視野に特徴的変化を有するもの」と定義され,緑内障性視神経症における構造的異常と視野障害は一致すると考えられる.緑内障性視野変化の詳細については項を譲りたい.Superiorsegmentalopticnervehypoplasia(SSOH)は正常眼圧緑内障(NTG)に間違われやすい疾患である.その特徴は局所的乳頭リムの狭細化と下半盲・盲点中心暗点である.いかにもNTG様で緑内障薬の点眼が行われていることもあるが,日本人ではNTGの約1割が本来はSSOHの可能性があり,的確な診断が期待される(図12).視神経乳頭の他の特徴としては網膜中心動脈起始部の上方偏位,上方乳頭の強膜haloなどがある.通常両眼性である.母親がⅠ型糖尿病の場合であることが多く,その場合の有病率は8.8%と報告されている.前部虚血性視神経症(anteriorischemicopticneurop-athy:AION)はさまざまな視野を呈し,決して下半盲がAIONに特異的とは言えないのだが,水平半盲では(43)図13視神経小乳頭前部虚血性視神経症のリスクファクターである.小乳頭の診断はDM/DD比といい,乳頭中心から中心窩までの距離(DM:disc-maculardistance)と乳頭径(DD:discdiameter)を測り,その比が3以上あると小乳頭といえる.すなわち,乳頭と中心窩との間に乳頭が3個分入ればそれは乳頭が小さいと考えられる.DMDD$14PseudoFosterKennedy症候群40歳,男性.初診時血糖400mg/dl,HbA1c13.2で糖尿病は無治療であった.左眼から右眼へと時期を異にして発症したAIONでは右眼乳頭は境界不鮮明,腫脹のため陥凹は消失し,乳頭上に線状出血を認める.左眼は視神経萎縮を呈している.———————————————————————-Page101594あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007文献1)AndersonDR:PerimetrywithandwithoutAutomation,2nded.Mosby,Toronto,19872)半田譲二:MRI診断のための脳解剖図譜.第2版,南江堂,19913)若倉雅登,東範行,松元俊ほか:アトラス視神経乳頭のみかた・考え方.第1版,医学書院,19964)根木昭:視野を読む基本.眼科プラクティス15,視野(根木昭編),文光堂,20075)HalleAA,DrewryRD,RobertsonJT:Ocularmanifesta-tionsofpituitaryadenomas.SouthMedJ76,732-735,19836)NishimuraM,KurimotoT,YamagataYetal:Giantpitu-itaryadenomamanifestingashomonymoushemianopia.JpnJOphthalmol51:151-153,20077)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiafoundinTajimiEyeHealthCareProjectpar-ticipants.JpnJOphthalmol48:578-583,20048)LandauK,BajkaJD,KirchschlagerBM:ToplessopticdisksinchildrenofmotherswithtypeIdiabetesmellitus.AmJOphthalmol125:605-611,1998側の視神経萎縮と反対側のうっ血乳頭所見をきたし,前頭葉腫瘍やトルコ鞍近傍腫瘍で認められるが,実際臨床で遭遇するのはpseudo-FosterKennedy症候群である.時期を異にして発症したAIONである(図14).基礎疾患に糖尿病,高血圧,高脂血症などがある場合が多い.AIONは急性発症であるが,慢性型IONの存在が認識されている.緑内障性乳頭陥凹を呈さず,視野がゆっくりと進行する.当初はbundle型欠損を呈することから経過をみないと緑内障との鑑別はむずかしい.おわりに視野検査を必要とする疾患は,視路疾患,緑内障,網脈絡膜疾患,心因性疾患の4種類であり,欠けている視野が生命線を左右する疾患の発見に直結することも少なくない.早急な治療が良好な視力・視野の維持に結びつくことを思うと,欠けている視野を放置し手遅れになることのないよう,見逃さず的確に神経眼科的疾患も診断したい.(44)

原因不明の視力低下への対処

2007年12月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS断にも役立つことがある.たとえば,小児の視力低下の原因として重要な先天停在性夜盲の完全型では中等度高度の近視を伴うことが多く,先天網膜分離症では遠視を伴うことが多い.片眼性の急性視力低下の原因として重要なAZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy)も近視眼に発症しやすいことが知られている.3.視野検査視野検査から得られる情報は多い.同名半盲などの両眼性の特徴的な視野欠損パターンがあれば中枢疾患が,Bjerrum暗点や弓状暗点があれば緑内障が疑われる.片眼性の中心暗点であれば,球後視神経炎やAZOORを念頭に置いて検査を進めていくことになる.両眼性の求心性視野狭窄であれば無色素性網膜色素変性を疑う.片眼性の水平半盲がみられれば虚血性視神経症を考える.詐盲や心因性視力障害ではらせん状視野,管状視野,求心性視野などがみられる.明らかな視力低下があるのに,視野検査が正常である症例に遭遇したら,中間透光体の疾患を疑って角膜と水晶体を再びチェックする.その結果微細な角膜の不正や水晶体混濁が見つかることがある.4.角膜・水晶体の検査「原因不明の視力低下」を診断するコツは,角膜→水晶体→網膜→視神経→中枢,のように視路を順番にチェックしていくことである.最初は,角膜疾患から疑はじめに明らかな視力低下があるにもかかわらず中間透光体も眼底も正常であるという症例に遭遇することがある.このような症例に対しては,十分な問診と散瞳後の細隙灯顕微鏡検査と眼底検査を行って,その後に種々の検査を追加して診断していくというのが通常の手順である.本稿では,問診と基本的な眼科検査から「原因不明の視力低下」のおおよその病変部位の目安をつけるコツ,さらに具体的に検査結果を読む際の留意点について述べたい.その後,「原因不明の視力低下」となりやすい代表的な疾患について具体的に解説する.I総論─問診と検査─1.まずは十分に問診を原因不明の視力低下例をみたら,その日の一番最後に予約を取り直すなどして,じっくり問診の時間をかけるとよい.その患者の年齢と性別,家族歴や既往歴を聴取して,いつ頃からどのように視力が低下したかを詳細に問診する.視力低下が両眼性か片眼性か,どの部位が見にくいのか,視力低下のほかに症状はないか(複視,視野異常,眼痛や眼球運動痛,光視症,夜盲,昼盲,他の神経症状など)を注意深く聞き出す.患者が小児である場合は,両親に日頃の生活の様子などを詳しく聞くとよい.2.屈折検査屈折検査は弱視性疾患の診断のほかに,網膜疾患の診(27)1577*MineoKondo:名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座〔別刷請求先〕近藤峰生:〒466-8550名古屋市昭和区鶴舞町65名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座特とっても身近な神経眼科あたらしい眼科24(12):15771583,2007原因不明の視力低下への対処AssessmentforUnidentiiedVisualLoss近藤峰生*———————————————————————-Page21578あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(28)思われがちだが,網膜疾患でも黄斑部を含む広範囲な機能低下があれば瞳孔反応は異常になることがあることを知っておく.6.色覚検査色覚検査も診断に有用な情報を与えることがあるので,仮性同色表とパネルD-15しかない施設でも検査するとよい.たとえば,常染色体優性視神経萎縮は青黄異常を示すことが診断の手がかりになることがある(図2).杆体一色覚や錐体ジストロフィも眼底が正常のものがある.これらの診断として色覚検査は重要である.7.蛍光眼底造影検眼鏡的に眼底が正常にみえても,原因不明の視力低下例には必ず蛍光眼底造影を行う.わずかな色素上皮萎縮や血管異常・漏出などが蛍光眼底造影で初めて明らかにされることがある.小児のStargardt病は眼底が正常って開始することが重要で,必ず染色して細隙灯顕微鏡検査を行い,その後に角膜形状解析装置やフォトケラトスコープ(なければプラチド円板)で角膜形状を確認する(図1).ピンホール下やハードコンタクトレンズ(HCL)装着下で視力検査をしてみるのもよい.ごく軽度の水晶体混濁や水晶体の屈折異常がどの程度患者の視力低下の原因となっているかを知ることはむずかしい.レチノメーターは,このような症例の潜在的な視機能(視力)を推定するのに役立つ.またPSFアナライザーは,生体眼の光学特性を他覚的に測定して患者の見え方をシミュレーションすることができるので便利である.5.瞳孔反応瞳孔の大きさを測定し,その後ペンライトを用いて対光反応,RAPD(相対性求心性瞳孔障害)を検査する.一般的に対光反応の異常は視神経疾患に特異的であると図1視力低下の原因が角膜の不正乱視であった1例フォトケラトスコープで左眼の角膜に不正乱視がみつかり(上),その原因はmap-dot-nger-print状角膜ジストロフィに伴う再発性角膜上皮びらん(下)であることがわかった.図2常染色体優性視神経萎縮の1例(11歳,女児)この症例では乳頭の色調はそれほど蒼白ではなかった(上).視力は0.4.色覚検査では青黄異常が検出され(左下),OCTで網膜神経線維層の全体的な減少があることがわかり(右下),本症と診断された.REFERENCECAPTAITANDETANPROTANパネルD-15OCTによる網膜神経線維層マップ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071579(29)の各層の異常を詳細に調べたあとに,具体的な網膜の厚みを定量的に評価する.さらに網膜神経線維層もチェックすることで視神経疾患の有無も評価できる.紛らわしい緑内障の例にも有用である.9.電気生理学的検査眼底が正常である網膜疾患は意外に多く,診断には網膜電図が有用である.先天停在性夜盲(完全型・不全型)は通常の網膜電図(ERG)装置で診断できる.眼底が正常な錐体ジストロフィや杆体一色覚などは,杆体応答と錐体応答を分離した装置が必要である.OccultmaculardystrophyやAZOORの診断には,局所のERG応答が記録できる装置(多局所ERG,黄斑部局所ERG)が診断に役立つ.視覚誘発電位(VEP)は,網膜疾患が否定された後に視神経の機能低下があるかどうかを評価するのに有用である.特にパターンVEPは視神経炎の診断と評価に優れている.10.CT(コンピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像)など視神経疾患や頭蓋内疾患は絶対に見逃してはならないものが多い.注意深く画像診断の結果を評価して,必要であれば専門家(放射線科,神経内科,脳外科,耳鼻科)にコンサルトする.視神経炎を疑ったら脂肪抑制条件(STIR法)でMRIを行い,T2強調画像で冠状断の評価を行う.11.遺伝子検査診断が困難な遺伝性の網膜疾患や視神経疾患では遺伝子検査が決定的となることがある.視神経疾患では,Leber病や常染色体優性視神経萎縮の診断に有用である.網膜疾患では,単一遺伝子疾患(先天網膜分離症,眼底白点症,卵黄状黄斑ジストロフィ,Stargardt病など)で非典型的な症例の診断には遺伝子検査がよい.12.一般の全身検査全身疾患に伴うものを鑑別するために,一般的な血液検査,感染症検査に加え,胸部X線検査や心電図などに近いものがあり,蛍光眼底造影のdarkchoroidで初めて診断されることがある(図3).内頸動脈狭窄や眼動脈狭窄などが原因となって起こる虚血性眼症も初期の診断に苦慮することがあるが,造影時間が著しく遅延することでこれらの疾患を疑うことができる.視神経疾患にみられる視神経乳頭付近の微細な血管異常を検出するのにも有用である.8.光干渉断層計(OCT)近年のOCTは網膜・硝子体と視神経線維層の形態異常を検出する能力に非常に優れており,原因不明の視力低下には必ず施行すべきである.網膜の断層像で黄斑部図3Stargardt病の初期(10歳,女児)の眼底(上)とフルオレセイン蛍光眼底造影の結果(下)眼底はほとんど正常にみえるが,フルオレセイン蛍光眼底造影では黄斑萎縮とdarkchoroidが明らかである.視力は両眼0.6であり,ずっと心因性の視力障害といわれていた.———————————————————————-Page41580あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(30)視力を測定してみるとよい.3.先天停在性夜盲小児の原因不明の視力低下の原因として重要である.完全型と不全型があり,完全型は夜盲と近視があるので診断しやすいが,不全型は視力低下のみの場合が多い.ERGを行わないと診断できない(図4).4.初期のStargart病発症初期のStargart病では眼底が正常に近いものがあり,原因不明の弱視や心因性などと診断されやすい.蛍光眼底造影ではdarkchoroidで診断できる(図3).OCTがあれば黄斑部網膜厚が低下していることで黄斑萎縮があることがわかる.遺伝子診断も役立つ.5.眼底正常の錐体ジストロフィ眼底が正常な錐体ジストロフィは診断がむずかしい.羞明,視力低下,色覚異常の症状があり,ERGで錐体応答の減弱があれば錐体ジストロフィと診断できる.羞明を聞き出すことがポイントである.6.Occultmaculardystrophy眼底の正常な遺伝性黄斑ジストロフィである.視力は両眼性にゆっくりと低下する.発症は中年以降が多いが小児例もある.通常の全視野ERGが正常で,黄斑部局所ERGや多局所ERGが異常になることで診断できる(図5).OCTでは中心窩の厚みが正常よりもわずかにが診断に役立つことがある.梅毒,結核,サルコイドーシスなどのような全身疾患に伴う視神経症が原因不明の視神経萎縮とされていることがある.まれではあるが亜急性の両眼性の視力低下の原因が腫瘍関連網膜症であり,全身MRIで腫瘍がみつかることがある.II各論以下に,特に注意すべきと考えられる「原因不明の視力低下」の疾患をあげ,簡単な解説を加えた.もちろんこれらのほかにも「原因不明の視力低下」をきたす疾患は多くあるので,あくまで参考としていただきたい.1.軽度の角膜不正原因不明の視力低下を疑って網膜・視神経・中枢の検査を行った末,結局最後は角膜疾患であったという事例は少なくない.特に注意すべきは,初期の円錐角膜,再発性角膜上皮びらん,EKC(流行性角結膜炎)後の角膜上皮下混濁,マイボーム腺炎に伴う角膜上皮症などの微細な角膜不正を生じる疾患である.必ず染色して細隙灯顕微鏡検査を行い,さらに角膜形状解析装置やフォトケラトスコープ(なければプラチド円板)で角膜形状を確認する.ピンホールやHCLで視力が向上するかどうかをみるのも重要である(図1).2.軽度の水晶体混濁や水晶体性屈折異常散瞳下で細隙灯顕微鏡検査を行い,軽度の水晶体混濁や水晶体性屈折異常が疑われたら,レチノスコープで縞図4先天停在性夜盲の完全型と不全型の臨床的特徴とERG波形ともにERG波形は陰性型となるが,不全型では律動様小波が残る(赤の矢印).完全型不全型夜盲屈折矯正視力眼底ERGなし遠視-近視0.3~1.0正常あり強度近視0.3~1.0近視性変化———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071581(31)低下していることが多い.7.AZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy)AZOORは,眼底が正常でありながら急性の片眼性視力低下をきたす疾患として重要である.発症は近視を有する若年女性に多く,急激な視野欠損を訴える.同時に光視症を伴うことも多い.診断は,ERGや多局所ERGを記録して,網膜性の視野異常であることを証明することである.球後視神経炎との鑑別が重要である.8.網膜血行不全(虚血性眼症を含む)内頸動脈,眼動脈などに狭窄があり,眼球への血流が低灌流となることによる眼病変である.虹彩ルベオーシスがみられるようになれば診断は容易だが,その前段階では原因不明の視力低下とされやすい.眼底検査で網膜動脈の狭細化がみられ,フルオレセイン蛍光眼底造影で腕動脈循環時間が遅延していることで本疾患を疑う.ERGの振幅も著しく減弱する.確定診断は脳血管造影であるが,頸部エコー,眼動脈カラードップラ検査も有用である.9.腫瘍関連網膜症腫瘍に関連する自己抗体が網膜に反応して起こる網膜変性である.腫瘍の発見よりも眼症状が先行すると「原因不明の視力低下」となる(図6).初期は輪状の視野狭窄と夜盲が主症状で,徐々に進行する.初期の眼底は正図5Occultmaculardystrophy眼底とフルオレセイン蛍光眼底造影(上)は正常であるが,多局所ERGで黄斑部の振幅が低下している(下).多局所ERG図6腫瘍随伴網膜症の1例輪状の視野欠損(上)と夜盲を強く訴えて来院した.全身検査の結果,腎臓の周囲に腫瘍がみつかった(脂肪肉腫,下).腹部MRI右眼左眼———————————————————————-Page61582あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007時に左右差がある症例や中年以降の発症もまれにあり,そのような症例が「原因不明の視力低下」になりやすい(図7).急性期には乳頭周囲の血管拡張がみられるが,明らかでないこともある.確定診断は遺伝子診断で,ミトコンドリアDNAの11778変異,3460変異,14484変異をチェックすることで日本人は90%以上検出できる.12.球後視神経炎眼底が正常で急性の視力低下と中心暗点をみたらまず考えなければいけない疾患である.2050歳の女性に多い傾向があり,片眼性が多いが両眼性もありうる.視力低下以外の症状としては球後痛,眼球運動痛が重要で,必ず問診する.RAPDを検出し,MRIで眼窩脂肪を抑制した条件(STIR法)の冠状断でT2強調画像をチェックする.パターンVEPの潜時も視神経機能異常を鋭敏に検出できる.13.虚血性視神経症中高齢者に片眼性・急性の視力低下をきたす疾患とし(32)常に近い.ERGが初期から減弱するので,網膜ジストロフィと間違えやすい.診断は,網膜に対する自己抗体の検索と,全身の腫瘍検索(全身のMRI,Gaシンチ,腫瘍マーカーなど)である.10.常染色体優性視神経萎縮小児の原因不明の視力低下の原因として重要である.視力低下の程度は軽く,進行は非常に緩徐である.視神経乳頭のびまん性萎縮あるいは耳側蒼白が明らかな例では診断が容易であるが,正常に近い乳頭もあるので注意が必要である.常染色体優性遺伝であるが,浸透率は決して高くないので家族歴がないことも珍しくない.色覚検査における青黄異常,OCTにおける視神経線維層のびまん性の減少が診断に役立つ(図2).家系調査と遺伝子検査で確定できる.11.Leber病10代から30代にかけての両眼性の急性視力低下の原因として重要である.80%以上は男性であり,多くの症例は強い中心暗点と0.1以下の視力低下を示す.発症図7高齢であったために診断が遅れたLeber病の症例51歳.最終的に遺伝子診断で確定した(右).再度注意深く観察すると,乳頭周囲の血管拡張がみられる(左).乳頭周囲の微細血管拡張ミトコンドリアDNA11778点変異電気泳動パターン未消化???????消化正常型混在型変異型←300bp(未消化)←255bp(正常型)←131,124bp(変異型)←31bp123←1:未消化DNA(PCR産物)2:正常コントロール(???????消化)3:検体(???????消化)←:変異型バンド<方法>DNA抽出PCR制限酵素処理電気泳動写真撮影判定———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071583況と視力の値が一致しないことで推定できる.診断に役立つ方法はいくつかあり,視力検査ではレンズ度数を打ち消す方法や距離を変えて視力を測る方法などが使われる.視野検査によるらせん状視野,管状視野も診断に役立つ.成人でも心因性の症例はまれではないことを知っておく.おわりに眼底が正常な視力低下の原因疾患の診断のポイントは,まず年齢と性別から絞り込み,続いて急性か慢性か,片眼か両眼かでさらに絞り込み,視力低下以外の症状をしつこく聞き出して見当をつけて,診断に最も効果的な検査をオーダーすることである.自信がないときは,他の分野(眼科内,眼科外ともに)の専門家に相談するとよい.文献1)田野保雄ほか(編):今日の眼疾患治療指針(第2版).医学書院,20072)丸尾敏夫ほか(編):眼科検査法ハンドブック(第3版).医学書院,19993)小口芳久:弱視と誤りやすい眼疾患.眼科MOOK31,視能矯正(久保田伸枝編),金原出版,19874)近藤峰生:弱視と間違えやすい網膜疾患.眼科44:717-728,20025)MiyakeY,HoriguchiM,TomitaNetal:Occultmaculardystrophy.AmJOphthalmol122:644-653,19966)GassJDM:Acutezonaloccultouterretinopathy.Donderslecture─TheNetherlandsOphthalmologicalSociety.JClinNeurolOphthalmol13:79-97,1993て重要である.視神経炎と違って痛みは伴わない.前部虚血性視神経症(AION)は急性期に特徴的な蒼白浮腫がみられるが,後部虚血性視神経症(PION)は急性期の視神経乳頭が正常であるので診断がむずかしい.特徴的といわれる水平半盲はそれほど多くなく,不規則な視野欠損が多い.片眼性であればRAPDがみられる.他の疾患を除外して診断していく.14.感染性・中毒性視神経症原因が視神経にあることがわかっても,具体的な病名がわからないときは感染性や中毒性の視神経症を疑う.感染では梅毒,結核,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)などを,中毒性としてはタバコ,アルコール,シンナー,エタンブトールなどを考える.15.頭蓋内の腫瘍・炎症・血管性病変これらの疾患は見逃すと生命にかかわることもあるので,原因不明の視力低下例には必ず念頭に置く.特に副鼻腔病変による鼻性視神経炎は要注意である.眼窩内や眼球周囲の病巣であれば視力低下以外に眼位,眼球運動なども異常となる.画像検査の診断に自信がなければ必ず専門家(放射線科,耳鼻科,神経内科,脳外科)にコンサルトする.16.心因性視力障害と詐盲心因性視力障害の好発年齢は小学校の中高学年で,女児に多い.眼科検査を一とおり行い,視力低下を説明する器質的疾患がないことを必ず確認する.普段の生活状(33)