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眼感染アレルギー:ぶどう膜炎と眼の免疫

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083370910-1810/08/\100/頁/JCLSぶどう膜炎とは,本来はぶどう膜を構成する虹彩,毛様体,脈絡膜に起因する炎症と考えられるが,日常の臨床では眼内における炎症性疾患すべてに対して使われている用語である.そのため,「uveitis(ぶどう膜炎)」より「intraocularinammation(内眼炎)」のほうが適切であるという見解もあり,InternationalOcu-larInammationSocietyにより提唱されたが,uveitis(ぶどう膜炎)という用語がすでに定着していること,intraocularinammation(内眼炎)は感染性眼内炎(endophthalmitis)との混同を招くおそれがあるなどの問題から,今なお両用語が用いられている.ぶどう膜炎は,「感染性」と「非感染性」に大別され,「非感染性」の原因としては自己の組織に対して反応性を有する免疫異常,「自己免疫」の関与が指摘されている.内の特異な免疫機構ぶどう膜炎を考えるとき,眼の特異な免疫機構を知っておくことは大切である.眼にはその透明性を維持するために血管,リンパ管がなく,血液眼関門とよばれるバリアも存在し,全身の免疫系が働きにくい組織になっている.そのため,他臓器にはみられないユニークな免疫機構が備わっている.1.血液眼関門(バリア)毛様体上皮細胞,網膜色素上皮細胞,網膜血管内皮細胞により構成され,病原微生物はもとより,善玉,悪玉を問わず免疫担当細胞の侵入をも封ずる.しかし,これは両刃の剣であり,何らかの原因により細菌,ウイルスが眼内に侵入してしまうとそこは絶好の繁殖環境となってしまう.2.房水内の免疫抑制物質房水中には種々の液性因子が存在し(表1),炎症性細胞を直接,または樹状細胞などの抗原提示細胞を介して間接的に抑制することが知られている13).3.免疫調節作用を有する眼組織細胞近年の研究で,角膜内皮細胞,虹彩・毛様体上皮細胞,網膜色素上皮細胞にはCD95L,CD86,galectin-1,MHCclassIb,B7-H12,4,5)などの免疫反応を負に制御する分子が発現していることが明らかになっている.4.前房関連免疫偏位(anteriorchamber-associatedimmunedeviation:ACAID)前房内に投与された抗原は虹彩・毛様体に存在する抗原提示細胞に取り込まれ,血流を介して脾臓に達し,その抗原に特異的な制御性T細胞を分化・誘導する.この制御性T細胞により,前房内投与された抗原に対す(63)眼感染アレルーー感染症と生体御●連載③監修=木下茂大橋裕一3.ぶどう膜炎と眼の免疫竹内大東京医科大学眼科ぶどう膜炎は,眼内における炎症の総称であり,「感染性」と「非感染性」に大別される.一方,眼にはその透明性を維持するために血管,リンパ管がなく,全身の免疫系が働きにくい組織であるが,他臓器にはみられないユニークな免疫機構を有しその恒常性は維持されている.ぶどう膜炎の発症は眼の免疫機構の破綻に起因し,主体の浸潤細胞により特徴的な眼所見を呈する.表1免疫反応を負に制御する眼内の液性因子子作用b2T細胞,NK細胞,マクロファージの活性抑制,および制御性抗原提示細胞の誘導a-MSH制御性T細胞への分化誘導VIPT細胞の分化・活性抑制CGRPT細胞,マクロファージの活性抑制,および制御性抗原提示細胞の誘導TSP制御性抗原提示細胞の誘導MIFNK細胞の抑制IL-1RaIL-1a/bの抑制CD46,CD55,andCD59補体活性抑制CD95L活性化T細胞のアポトーシス誘導TGF-b2:transforminggrowthfactor-b2.a-MSH:a-melanocytestimulatinghormone.VIP:vasoactiveintestinalpolypeptide.CGRP:calcitoningene-relatedpeptide.TSP:thrombospondin.MIF:macrophagemigrationinhibitoryfactor.IL:interleukin.NK:naturalkiller.———————————————————————-Page2338あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008る遅延型過敏反応,免疫グロブリンG(IgG)2a産生は特異的に抑制される6).どう膜炎にみられる眼所見ぶどう膜炎にみられる眼所見は炎症に伴う血液眼関門の破綻が原因であり,形作られる病像は主体の浸潤細胞の種類により決定される(表2).浸潤細胞の主体がマクロファージ,リンパ球であると肉芽腫性ぶどう膜炎となり,好中球,リンパ球であると非肉芽腫性ぶどう膜炎を呈する.炎症により毛様体上皮細胞のバリアが破綻すると前房細胞,角膜後面沈着物,前部硝子体細胞といった眼所見がみられ,肉芽腫性では豚脂様角膜後面沈着物,虹彩結節,隅角結節,非肉芽腫性では白色微細角膜後面沈着物,前房蓄膿を呈する.血管炎により網膜血管内皮細胞のバリアが障害されると,肉芽腫性では結節性血管炎,非肉芽腫性ではびまん性血管炎を生じ,蛍光眼底造影における蛍光漏出が局所性分節性かびまん性かにより判別される.肉芽腫性,非肉芽腫性ぶどう膜炎ともに形状に違いがみられるものの血管内成分が網膜に浸潤し,出血,滲出斑を呈する.また,網膜色素上皮細胞が障害されると網膜深層の滲出斑,滲出性網膜離などの所見がみられる.どう膜炎をきたす免疫反応疾患の発症機序,病態の解明,治療法の確立には動物を用いた疾患モデルが不可欠であり,ぶどう膜炎の研究においてもその開発が進められてきた.1965年にWackerらが網膜蛋白質に強いぶどう膜網膜炎惹起能があることを報告し,その後,その代表的な蛋白質は網膜視細胞層に存在するS抗原と光受容体間レチノイド結合蛋白質(interphotoreceptorretinoidbindingpro-tein:IRBP)であることが明らかになった.S抗原,またはIRBPを免疫強化剤である完全フロインドアジュバント(CFA)とともに感受性の高い動物に免疫すると高頻度にぶどう膜炎が発症し,このぶどう膜炎は実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(experimentalautoimmuneuveoretinitis:EAU)と名付けられた7).EAUでは,CFAによりマクロファージ,好中球を中心とした抗原非特異的な免疫反応(自然免疫)が活性化され,活性化された自然免疫により血液眼関門の破綻,網膜局在抗原の曝露,抗原提示細胞による網膜抗原特異的T細胞の活性化(抗原特異的な獲得免疫の活性化)が免疫部位,眼内で生じ,ぶどう膜網膜炎の発症に至ると考えられる.どう膜炎の病態からされること非感染性ぶどう膜炎は,疾患により急性,慢性さまざまな経過をたどるが,概して自然寛解傾向がみられる.再発,再燃をくり返す病態は,炎症を惹起する免疫異常と炎症を消退させようとする上記の眼特異的免疫機構の凌ぎ合いが反映されている結果であろう.文献1)TakeuchiM,AlardP,StreileinJW:TGF-betapromotesimmunedeviationbyalteringaccessorysignalsofanti-gen-presentingcells.JImmunol160:1589-1597,19982)StreileinJW:Ocularimmuneprivilege:therapeuticopportunitiesfromanexperimentofnature.NatRevImmunol3:879-889,20033)KezukaT,TakeuchiM,KeinoHetal:Peritonealexudatecellstreatedwithcalcitoningene-relatedpeptidesuppressmurineexperimentalautoimmuneuveoretinitisviaIL-10.JImmunol173:1454-1462,20044)SugitaS,StreileinJW:IrispigmentepitheliumexpressingCD86(B7-2)directlysuppressesTcellactivationinvitroviabindingtocytotoxicTlymphocyte-associatedantigen4.JExpMed198:161-171,20035)HoriJ,WangM,MiyashitaMetal:B7-H1-inducedapoptosisasamechanismofimmuneprivilegeofcornealallografts.JImmunol177:5928-5935,20066)StreileinJW,NiederkornJY:Inductionofanteriorcham-ber-associatedimmunedeviationrequiresanintact,func-tionalspleen.JExpMed153:1058-1067,19817)DeKozakY,UsuiM,FaureJP:Experimentalautoim-muneuveoretinitis.Ultrastructureofchorioretinallesionsinducedinguineapigsbyimmunizationagainsttheouterrodsofthebovineretina.ArchOphthalmol(Paris)36:231-248,1976(64)表2肉芽腫性ぶどう膜炎と非肉芽腫性ぶどう膜炎の相違肉芽腫性ぶどう膜炎非肉芽腫性ぶどう膜炎の細胞リリ前眼所見膜物節節細膜物リ前房子の性をうことる性血炎節性性膜

ベーチェット病の眼病変:インフリキシマブ治療前の必須検査,副作用

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083350910-1810/08/\100/頁/JCLSインフリキシマブ(商品名:レミケードR)はあらゆる炎症の起点となるサイトカイン腫瘍壊死因子a(TNF-a)に対する抗体製剤で,マウス由来抗ヒトTNF-aモノクローナル抗体のうち,TNF-aへの結合部(可変部)のみを残し,定常領域をヒトIgG(免疫グロブリンG)に変換したキメラ抗体である.TNF-aを無力化するだけでなく,TNF-a産生細胞をも傷害することにより,炎症を抑制する1).インフリキシマブが2007年1月にベーチェット病による網膜ぶどう膜炎に適応承認されて以来,各施設で難治性の眼ベーチェット病患者に順次導入され,結果報告が出てきつつある.それによると概ね眼発作の頻度は激減し,眼科的には著効しているといえるようである.われわれ眼科の世界ではぶどう膜炎の病勢がどうなるかにばかり目が向きがちであるが,インフリキシマブはいわゆる生物学的製剤とよばれる新しい治療薬であり,また全身投与をする以上,投与前には投与可能かどうかの全身検査が必須であり,また投与後も全身的な副作用につねに注意を払うことが必要である.以下にインフリキシマブ投与前の必須検査と,その副作用について述べる.与前の必須検査まず本製剤ならびにマウス由来蛋白質に対する過敏症の既往歴,脱随疾患およびその既往歴,うっ血性心不全,重篤な感染症,活動性結核,がある場合は投与禁忌となっている.これらを確認した後,以下に進む.①結核:問診で結核既往歴を聴取し,ツベルクリン反応の検査を行う.また胸部X線,必要に応じて胸部CT(コンピュータ断層撮影)も追加する.これらの検査の結果,既感染が疑われる場合には必要に応じて抗結核薬の同時投与も検討しなければならない.②肝炎:B型肝炎ウイルスキャリアの患者においてB型肝炎ウイルスの再活性化が報告されている.HBs抗原を調べ,陽性であった場合には定期的な肝機能検査や(61)肝炎ウイルスマーカーのモニターを行う.C型肝炎も同様である.③その他の感染症:採血を行い,白血球やリンパ球の上昇があったり,またb-d-グルカン陽性がみられたら感染症のリスクが高くなる.感染症の早期発見に努め,必要に応じて早期治療を行う.作用つぎに副作用について述べる.副作用の種類としては,抗体製剤であることによる副作用と,TNF-aを抑制することによる副作用,の2つに大別される.1.抗体製剤であることによる副作用a.Infusionreaction(投与時反応)即時型過敏症のことで,投与開始から投与後2時間以内に認められた副作用をいう.頭痛,発熱,めまい,血圧上昇,痒,嘔吐などがある.5.4%で起こると報告されている2).軽度のものでは点滴速度を下げるなどで対応するが,中等度以上のものでは点滴中止や抗ヒスタミン薬やステロイド薬追加投与などで対応し,場合によっては気道確保なども必要なこともある.b.遅発性過敏症前回投与から一定期間置いて再投与する場合に,投与後3日以上経過して発現する過敏症をいう.筋肉痛,発疹,発熱,関節痛などがある.発現率は0.6%と報告されている2).2.TNFaを抑制することによる副作用TNF-aは多くの炎症性疾患の元凶となってはいるが,本来正常な作用では,腫瘍の増殖を抑制したり,また感染防御機構の一翼を担っている.したがって,TNF-aを極端に抑制すると,腫瘍増大や感染症をひき起こす危険性が高まる.a.感染症の発症関節リウマチにおける日本での調査では,細菌性肺炎の発症率は2.2%,結核の発症率は0.3%となっている.肱岡邦明園田康平九州大学大学院医学研究院眼科ベーチェット病の眼病変ミナー監修/岡田アナベルあやめ園田康平2.インフリキシマブ治療前の必須検査,副作用インフリキシマブ2よりベーチェット病による治性に応インフリキシマブ製剤とイプの治療であり,投与を必とするの投与前にを,投与後の副作用にに,こにに製———————————————————————-Page2336あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(62)結核は投与前のスクリーニングや抗結核薬の予防投与により発症を抑えることができる.b.悪性腫瘍の発症,悪化悪性リンパ腫や皮膚癌などが報告されてはいるが,自然発症頻度と差はなく,関連性は明らかではない.c.ループス様症候群海外で結節性紅斑の悪化例3)や,抗dsDNA抗体の上昇例が報告されている4).投与後のループス様症候群を思わせる徴候が認められ,さらに抗dsDNA抗体陽性化が認められた場合には投与を中止しなければならない.d.脱随疾患既往がある場合は投与禁忌であり,疑いの場合は必要に応じて画像診断などを行う.作用の1例以下に当院で起こった,レミケードRが原因と思われる副作用の1例を示す.症例は35歳,男性.28歳でベーチェット病を発症し,以後コルヒチン,プレドニゾロン内服治療を行ったが,眼発作をくり返した.シクロスポリン内服は神経ベーチェットの発症を恐れる本人の承諾が得られず行っていない.2006年には眼発作の頻度はますます高くなるとともに発作の重症度も重くなり,視力低下が進行した(図1)ため,レミケードR導入となった.初回投与後,2週,6週,以後8週間隔でレミケードR投与を行っている.投与後はこれまでのところ発作を2回起こしてはいるが,その頻度は激減し,その重症度も非常に軽いものであった(図2).2007年11月2日にレミケードR投与を行い,特に問題なく退院となっていたが,翌日朝より39℃を超える発熱と頭痛が出現し,当院内科受診,髄膜炎を疑われ入院となった.髄液検査で髄膜炎は否定され,腹部CTと大腸カメラから急性感染性腸炎と診断され,抗生物質点滴が行われ,速やかに解熱し炎症反応も軽快したため,11月17日退院となった.レミケードR投与による易感染性が原因と考えられた.しかし,リスクと効果のバランスを検討し,内科医との十分な連携のもと,現在,レミケードRを再開している.おわりにベーチェット病の患者は比較的年齢が若く,全身的にも問題ない場合が多いので,関節リウマチ患者などに比較すると副作用は起こりにくい印象ではあるが,このような例も存在することを認識してレミケードR投与を行っていくことが必要である.文献1)稲森由美子,水木信久:ベーチェット病の抗TNFa抗体療法.眼科48:489-503,20062)ChefetzA,SmedleyM,MartinSetal:Theincidenceandmanagementofinfusionreactionstoiniximab:alargecenterexperience.AmJGastroentenol98:1315-1324,20033)YuselAE,Kart-KoseogluH,AkovaYatal:Failureofiniximabtreatmentandoccurrenceoferythemanodo-sumduringtherapyintwopatientswithBehcet’sdisease.Rheumatology43:394-396,20044)KatsiariCG,TheodossiadisPG,KaklamanisPGetal:Suc-cesfullong-termtreatmentofrefractoryAdamantiades-Behcet’sdisease(ABD)withiniximab.AdvExpMedBiol528:551-555,2003図1インフリキシマブ投与前の眼発作眼底後極部の激しい出血,白斑を認め,網膜離も起こっている.視力は著しく低下していた.インフリキシマブ投与前にはこのような大発作を頻回に起こした.図2インフリキシマブ投与後の眼発作眼底後極部に白斑を1個認めるが,視力は障害されていない.インフリキシマブ投与後はこのようなごく軽微な発作は複数回あったものの,投与前に比べその頻度は激減し,発作の重症度も非常に軽微となっている.

緑内障:Heidelberg Retina Tomographによる緑内障診断

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083330910-1810/08/\100/頁/JCLS代表的な共焦点走査型レーザー検眼鏡であるHeidel-bergRetinaTomograph(HRT,HeidelbergEngineering社)は,乳頭陥凹を三次元的に解析し,視神経所見を定量的かつ客観的に評価することが可能であり,現在緑内障診断を中心に臨床応用されている1,2).本稿では,HRTによる各種緑内障診断法について述べる.性的診断HRTでは,複数の二次元断層画像をもとに,topog-raphyimageとreectivityimageとよばれる2つの解析画像が作成され,モニターに表示される(図1).前者は各測定点における眼底表面の高さをカラーコード化し,突出部を暗色,陥凹部を明色で表示したもので,後者は各測定点の反射率を表示したものである.Topog-raphyimageにおいては,検者が乳頭縁を決定すると,標準基準面やcurvedsurfaceとよばれる基準面が自動的に定義され,これらの面と眼底表面の高さとの位置関係に応じて緑色,青色,赤色が示される(図1).Topo-graphyimageやreectivityimageを観察することにより,定性的な緑内障診断が可能である.また,乳頭縁の高さのグラフ表示(図1)では,正常眼では上下側で高い二峰性を示すが,緑内障眼では障害の進行に伴ってこの二峰性パターンが消失する.頭パラメータを用いた診断HRTの最新のソフトウエア(version3.0)では,算出された各種乳頭パラメータ(表1)は,内蔵された正常データベースと比較され,有意水準が同時に算出される.HeidelbergEngineering社では,特に重要なパラメータとして,rimarea,rimvolume(RV),cupshapemeasure(CSM),heightvariationcontour(HVC),meanRNFLthicknessの5つをあげている.FSMclassication乳頭パラメータのうち,正常眼と緑内障眼との鑑別に鋭敏とされるCSM,RV,HVCの3つのパラメータと年齢を用いた判別式により,乳頭の緑内障性変化の有無を判定するものである3,4).以下に判別式を示す.CorrectedCSM(corCSM)=CSM+〔0.001981×(50age)〕A=(RV×1.951)+(HVC×30.125)+(28.521×corCSM)10.083B=(9.039×RV)+(HVC×37.370)+(15.442×corCSM)7.4211(59)緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄93.HeidelbergRetinaTomographによる緑内障診断八百枝潔白柏基宏新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野共焦点走査型レーザー検眼鏡であるHeidelbergRetinaTomograph(HRT)は,視神経乳頭(乳頭)陥凹を三次元的に解析し,視神経所見を定量的かつ客観的に評価することが可能である.本装置にはいくつかの緑内障診断プログラムが内蔵されており,その有用性については広く知られている.図1HRTIIによる解析結果の一例検者が決定したcontourline(乳頭縁)の高さは,左から耳側,上側,鼻側,下側の順に展開した曲線としてグラフ表示される(図下).図左上には3色で示されたtopographyimageが,図右上にはrefractivityimageが表示される.前者は各測定点における眼底表面の高さをカラーコード化し,突出部を暗色,陥凹部を明色で表示したもので,後者は各測定点の反射率を表示したものである.Topographyimageにおいては,検者が乳頭縁を決定すると,標準基準面やcurvedsurfaceとよばれる基準面が自動的に定義され,これらの面と眼底表面の高さとの位置関係に応じて緑色,青色,赤色が示される(図右上).———————————————————————-Page2334あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008A-B>0→正常B-A<0→緑内障Mooreldsregressionclassication本プログラムでは,乳頭を60°ずつの6セクターに分割し,乳頭全体と各セクターにおける乳頭辺縁部面積(乳頭面積で補正)を評価することにより,乳頭の緑内障性変化の有無を判定する5)(図2).すなわち,正常データベースとの比較によって,withinnormallimits(95%の信頼区間)が緑色のチェックマーク,borderline(95~99.9%の信頼区間)が黄色の感嘆符,outsidenor-(60)mallimits(99.9%の信頼区間)が赤色のバツ印で示される.GlaucomaprobabilityscoreSwindaleら6)により提唱された新しい緑内障診断プログラムである(図3).本プログラムでは,健常および緑内障眼各々の乳頭/網膜神経線維層モデルから導かれた乳頭/網膜神経線維層パラメータを,非線形最小二乗法を用いて個々の乳頭形状に適合させ,別なパラメータを算出,それらのパラメータをコンピュータに学習させ,確率密度関数を算出し,緑内障診断を行う.文献1)八百枝潔,白柏基宏,阿部春樹:HeidelbergRetinaTomograph(HRT).図説よくわかる緑内障検査法(三嶋弘,阿部春樹,新家眞ほか編),p70-79,メディカルレビュー社,20032)NakatsueT,ShirakashiM,YaoedaKetal:Opticdisctopographyasmeasuredbyconfocalscanninglaseroph-thalmoscopyandvisualeldlossinJapanesepatientswithprimaryopen-angleornormal-tensionglaucoma.JGlaucoma13:291-298,20033)MikelbergFS,ParttCM,SwindaleNVetal:AbilityoftheHeidelbergRetinaTomographtodetectearlyglau-comatousvisualeldloss.JGlaucoma4:242-247,19954)IesterM,MikelbergFS,DranceSM:TheeectofopticdiscsizeondiagnosticprecisionwiththeHeidelbergReti-naTomograph.Ophthalmology104:545-548,19975)WollsteinG,Garway-HeathDF,HitchingRA:Identi-cationofearlyglaucomacaseswiththescanninglaserophthalmoscope.Ophthalmology105:1557-1563,19986)SwindaleNV,StjepanovicG,ChinAetal:Automatedanalysisofnormalandglaucomatousopticnerveheadtopographyimages.InvestOphthalmolVisSci41:1730-1742,2000表1代表的なHRTの乳頭パラメータ乳頭乳頭乳頭乳頭乳頭ののの乳頭乳頭よ下の乳頭ののよ下の乳頭ののよ下の乳頭のののにる乳頭のの×contourline(乳頭縁)の長さ(mm2)図2Mooreldsregressionanalysisによる解析結果図3Glaucomaprobabilityscoreによる解析結果

屈折矯正手術:多焦点IOL術後のタッチアップ

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083310910-1810/08/\100/頁/JCLS遠方視,近方視とも眼鏡に依存せずにすむようになることを目的として多焦点眼内レンズ(IOL)が使用されてから,約20年が経った.しかし,多焦点IOLには屈折型と回折型があるが,屈折型は良好な夜間のハローやグレアがでやすい,回折型はコントラスト感度の低下が大きな問題であったため,あまり普及してこなかったが近年開発された新世代の多焦点IOLでは光学部のデザインの改良により屈折型,回折型それぞれの欠点が低減されてきており注目されている.しかし,多焦点IOLは,屈折型,回折型とも角膜乱視や術後の屈折誤差が大きい場合には,十分な裸眼視力が遠方近方とも得られず本来の目的である眼鏡に依存しないことを成し遂げられないことがある.多焦点IOL挿入後の屈折誤差矯正の一つの方法としてLASIK(laserinsitukera-tomileusis)を行う(タッチアップ)ことが提唱されているが,これにより良好な結果を得た症例を紹介する.屈折誤差としては,遠視性乱視,近視性乱視,混合乱視それぞれの可能性があるが,現在のエキシマレーザーではどれも矯正することが可能である.今回は,回折型多焦点IOL(AMO社,ZM900)を挿入後,マイクロケラトーム(AMO社,アマデウス),エキシマレーザー(AMO社,StarS4)を用いて行った.例1:61歳,女性.両眼に回折型多焦点IOLを挿入.術後1カ月での視力は,遠方VD=0.6(1.2×0.5D(cyl0.5DAx150°)VS=0.3(1.0×0.75D(cyl0.5DAx80°)近方NVD=0.7(1.2×0.5D(cyl0.5DAx150°)NVS=0.5(1.0×0.75D(cyl0.5DAx80°)であった.本人の希望にて,白内障手術後6カ月目に左眼のLASIKを施行した(図1).LASIK後の左眼の視力は,遠方VS=0.9(1.2×+0.5D(cyl0.5DAx80°)近方NVS=0.7(1.0×+0.5D(cyl0.5DAx80°)に改善した.右眼のLASIKは施行しなかったが,右眼で中間が見え,両眼ですべての距離が見えるので,満足しており,このまま経過観察とした.例2:60歳,男性.両眼に回折型多焦点IOLを挿入.術後1カ月での視力は,遠方VD=0.7(1.2×+1.25D(cyl0.5DAx180°)VS=0.9(1.2×+1.0D(cyl0.5DAx180°)近方NVD=0.3(0.7×+2.0D(cyl0.5DAx180°)NVS=0.4(0.8×+1.5D(cyl0.5DAx180°)(57)屈折矯正手術ースキアップ●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男94.多焦点IOL術後のタッチアップ中村邦彦たなし中村眼科クリニック新世代の多焦点眼内レンズ(IOL)により,良好な遠方および近方視力が得られ患者の眼鏡依存度を減少させることができるようになったが,術後の屈折誤差によっては十分な裸眼視力が得られず,眼鏡依存度も高いため患者が不満を訴える.このような症例に対し,LASIK(laserinsitukeratomileusis)による屈折誤差矯正を行った結果を報告する.LASIK前LASIK後図1近視性乱視のタッチアップ角膜中央部の軽度のフラット化がみられる.———————————————————————-Page2332あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008であった.本人の希望にて,白内障手術後5カ月目に右眼のLASIKを施行した(図2).LASIK後の右眼の視力は,遠方VS=0.9(1.2×+0.75D(cyl0.75DAx90°)近方NVS=0.5(0.9×+0.75D(cyl0.75DAx90°)に改善した.左眼のLASIKは施行しなかったが,満足しており,このまま経過観察とした.症例3:48歳,女性.両眼に回折型多焦点IOLの挿入を希望していたが,白内障手術前の検査にて,両眼の2.5Dの角膜乱視を指摘されていた.術後に乱視矯正の必要を考慮して,本人の同意のもと白内障手術前にマイクロケラトームにて角膜フラップを作製しておいた.術後1カ月での視力は,遠方VD=0.7(1.2×+0.75D(cyl3.75DAx165°)VS=0.6(1.0×+0.25D(cyl2.5DAx180°)近方NVD=0.7(0.8×+0.75D(cyl3.75DAx165°)NVS=0.7(0.8×+0.25D(cyl2.5DAx180°)であった.白内障手術後1カ月目に両眼のLASIKを施行した(図3).LASIK後の視力は,遠方VD=1.2(矯正不能)VS=0.8(1.2×-0.25D(cyl0.75DAx90°)近方NVD=1.0(1.2×+0.50D)NVS=0.8(1.2×+0.25D(cyl0.75DAx90°)に改善した.LASIK後は,まったく眼鏡を使用せず満足している.症例のごとく近視性乱視,遠視性乱視,混合乱視のいずれについても,タッチアップは有効である.しかし,症例3のように前もって乱視が強く矯正が必要なことが予測される場合は角膜実質の切除量を考慮して,IOLをやや近見狙いにて挿入するとともに先に角膜フラップを作製しておくのがよい.また症例1や2のように,両眼に屈折誤差があっても片眼のLASIKだけで満足を得ることも多いので,裸眼視力に不満があるほうの眼だけを行い,僚眼はその後の状況に応じて検討するのがよい.(58)☆☆☆LASIK前LASIK後図2遠視性乱視のタッチアップ角膜中央部の軽度のスティープ化がみられる.LASIK前LASIK後LASIK前LASIK後右眼左眼図3乱視の強い場合のタッチアップIOLが近見狙いとなっているので,フラット化のablationとなっている.

眼内レンズ:Wound-assisted法による眼内レンズ挿入

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083290910-1810/08/\100/頁/JCLS極小切開白内障手術の進歩により,BimanualPhaco法を用いれば1.0~1.4mmの創口から,MicroCo-axialPhaco法であれば2.0~2.4mmの創口から水晶体を摘出することが可能になった.それに伴って,現在市販されている眼内レンズ(IOL)をできるだけ小さな創口から挿入する工夫が試みられてきた.インジェクターシステムを用いてIOLを挿入する場合,従来はカートリッジ先端を前房内にまで確実に入(55)れ,プランジャーを回転させながらレンズ光学部が眼内に出てくる状況に従ってカートリッジを回転させ,IOLが傾かないようにさせる必要があった.カートリッジ先端を完全に眼内に入れ込むため,創口はカートリッジの外径よりもかなり大きい幅が必要であった.Wound-assisted法は,カートリッジ先端を完全には眼内に入れず,創口に押し付けるだけとし,創口のトンネルをカートリッジの延長部分とみなしてIOLを通過させること常岡寛東京慈恵会医科大学眼科眼内レンズナー監修/大鹿哲郎259.Wound-assisted法による眼内レンズ挿入Wound-assisted法は,カートリッジの先端を完全に眼内に入れずに創口に押し付け,できるだけ小さな創口から眼内レンズを挿入させるための手技である.カートリッジ先端で創口の角膜内方弁を持ち上げ,創口トンネルをカートリッジの延長になるようにして眼内レンズを通過させる必要がある.図1カートリップ先端の押し付けサイドポート角膜内方弁カートリッジカートリッジ先端2角膜内方弁の持ち上げ3IOLの挿入4ループ起始部を内へループ起始部前?縁———————————————————————-Page2により,IOL挿入に必要な創口幅を減少させる挿入法である1,2).この挿入法を実現させるためには,インジェクターの操作を片手でできるシステムが必要となる.なぜなら,カートリッジを創口に押し付けてIOLを挿入する際に,眼球が動いてしまうのを防ぐため,反対の手で眼球を固定する必要があるからである.現時点で,安全確実にwound-assisted法で挿入可能なインジェクターはASICO社製スプリング付きRoyaleⅡインジェクター(AE-9045-S)のみである.モナークⅡCおよびモナークⅢDカートリッジを用いて,光学径6.0mmのアルコン社製シングルピース・アクリソフR(AcrySofSA・SN60ATRおよび60WFR)を2.0~2.4mmの極小切開創から挿入可能である.最初に,モナーク・カートリッジ先端の斜めになっている開口部だけを創口に食い込ませ,先端が角膜内方弁を越える位置にまでもっていき,カートリッジの筒の部分は眼外に残しておく(図1).そして,インジェクターを水平に寝かせるようにしてカートリッジの開口部先端で角膜切開創内方弁の上の壁を押し上げ,開口部の根元で創口外方弁の下の壁を押し下げるようにする.このようにすることによって,創口の内面組織がトンネルを形成することになり(図2),創口のトンネルがカートリッジの延長部分となるので,カートリッジの筒を眼内にまで挿入しなくても,IOLを挿入することが可能になる.しかし,カートリッジの先端で創口をしっかりと持ち上げてからプランジャーを押さないと,IOLの先端部分が創口内に入っていかない.カートリッジ先端を確実に内方弁の位置までもっていく必要がある.小さな創口からIOLを挿入するには,強角膜切開では創口付近の組織を鑷子で把持して眼球を固定すればよいが,角膜切開の場合にはサイドポートから挿入した腰の強い器具によって,挿入時に眼球を創口方向に軽く押すとよい.その際,サイドポートからかける力の方向を誤ると眼球が回旋してしまうため,確実に創口へ向かうプレッシャーをかける必要がある.プランジャーでIOLを押し進める際には,カートリッジ開口部先端を少し持ち上げ,開口部根元を押し下げながら,つねにカートリッジが創口に対して直角であるよう意識しながら,眼球を反対の手で固定して,プランジャーをゆっくり押すようにする.球面IOLであるAcrySofSA・SN60ATRは,モナークⅡCカートリッジを用いて1.9~2.0mmの強角膜創,2.2~2.4mmの角膜創から挿入することが可能であり(図3),非球面IOLである60WFRは,モナークⅢDカートリッジを用いて1.8~2.0mmの強角膜創,2.0~2.2mmの角膜創から挿入することが可能である.適切な方法で行えば,挿入に際してプランジャーをあまり強く押さなくても,IOLはゆっくり眼内に入っていく.強い力を入れないとIOLが前進しない場合には,挿入方法が不適切である可能性が高いので,やり直したほうがよい.勢いよく押し込むとIOLが一気に内に飛び出し,Zinn小帯を損傷したり後を破ってしまう危険性がある.IOLの光学部前半が眼内に挿入されたら,角度を調節して内に入るよう誘導していく.ついで,IOLの光学部後半も眼内に挿入されたら,畳まれたループがIOL光学部から離れる前にIOL後半部の上をサイドポートからの器具で押さえ付け,ループの起始部が内に入るように誘導する(図4).60ATRでは光学部が水平に挿入されることが多いが,60WFRでは光学部が90°右方向に回転して挿入される場合が多いので,フックで光学部を水平になるよう回転させる必要がある.モナークⅢDカートリッジは,先端の外径がCカートリッジよりも細くなっているので,より小さな創口から挿入可能であるが,眼内に挿入された際,90°回転していることが多いので反転しないよう注意しなければならない.文献1)TsuneokaH,HayamaA,TakahamaM:Ultrasmallinci-sionbimanualphacosurgeryandAcrysofSA30ALimplantationthrough2.2mmincision.JCataractRefractSurg29:1070-1076,20032)常岡寛:白内障手術2mm切開創時代のIOL挿入.眼科手術18:481-487,2005

コンタクトレンズ:円錐角膜へのハードコンタクトレンズ処方(3)-ベベル修正-

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083270910-1810/08/\100/頁/JCLS円錐角膜形状はハードコンタクトレンズ(HCL)のオルソケラトロジー効果によって刻々と変化する.HCL終日装用の場合,円錐角膜形状は日内変動しているといってもよい.したがって,処方時には良いフィッティングで動きも良かった症例であっても,経過観察中にレンズが固着をしたり,動きが悪くなって角膜上皮障害を起こしたりすることが珍しくない.今回は,こうしたケースのトラブルシューティングであるHCLのベベル修正について述べる.HCLのベベル修正などと書くと,むずかしく考えられたり,なかには修正するところを見たこともないという先生もおられると思うので,写真を多用して解説する(図1).HCLの固着理由を考える円錐角膜へのHCLフィッティングにかかわるファクターとして,個々のさまざまな角膜形状,角膜厚(角膜後面形状),剛性に加えて,眼圧や眼瞼圧,瞼裂幅を考えてレンズを処方することが大切であることを前回述べた.しかしながら,精一杯の,最大限のイマジネーショ(53)ンを働かせて処方したにもかかわらず,1週間後の検査でレンズが固着していることが,円錐角膜ではある.これはオルソケラトロジー効果による角膜の変形によるものであるが,これには大きく分けて2つのケースがある.1つは,レンズが予想した変形後の角膜形状よりもスティープであった場合で,角膜上に固着していることが多い.もう1つは,予想した角膜形状よりもフラットな場合で,こちらは角膜輪部を越えて強角膜に固着していることが多い.これらの場合,まず同じレンズで規格を変えて対処するが,それでも固着が改善されない場合には,レンズ研磨機でベベル幅を広くエッジをリフトアップすることになる(図2,3).HCLの材料特性を知り,削れかたを体感するHCL材料には酸素透過性をほとんどもたないポリメチルメタクリレートから,最新の高酸素透過性の含フッ素系やシリコーン系のものまでさまざまなものがある.研磨機によるレンズの削れ具合は,一般に酸素透過性が高い材料ほど,軟らかく削れやすいので注意が必要であ黒石川誠佐野研二東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純修1ベベルチェック中の筆者(黒石川)2ベベル調整前レンズエッジから角膜への圧力が狭いベベルに集中している.3ベベル調整後ベベル幅が広くなり,メカニカルストレスが分散されている.———————————————————————-Page2328あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(00)る.これに加えて,架橋剤の種類や架橋密度によっても削れかたが思いのほか異なるので,これはレンズの種類ごとにトライアンドエラーして身体に覚えさせるしかない.一般に研磨に向いているHCLは,低酸素透過性で親水性の表面処理を行っていないものとされているが,筆者らはプラズマ処理のされている高酸素透過性のHCLも含めて,ベベルを削ってフィッティングを調整している(図4,5).ベベルという非常に狭い領域の研磨であるので,表面性状の変化よりもメカニカルストレスの軽減の効果が勝っているためか,臨床的に問題になった経験はない.また,研磨剤の濃度によっても削れかたは異なるので,こちらは注意が必要である.筆者らは,研磨剤の濃度を一定にしたいため,クレンザーや車磨きなどのコンパウンドを多用し,最後は研磨剤入りHCL用クリーナーで仕上げるようにしている.なお,この研磨機はサンコンタクトレンズ社から発売されており,オプション込みで30万円もあれば一式揃う.眼科顕微鏡手術器具2,3本の値段で,CLスペシャリストとして差別化ができると考えれば安いと思う.同社では切削研磨のセミナーも有料で行っているので,これを利用するとよい.4ベベルの幅を広げているところHCL材料の種類や研磨剤によって削れかたが思いのほか異なる.筆者らは最後に研磨剤入りHCL用クリーナーで仕上げている.5エッジを研磨しているところ力の入れかたがむずかしいが,まずはやってみることである.

写真:ソフトコンタクトレンズ装用により生じる球結膜染色

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083250910-1810/08/\100/頁/JCLS(51)丸山邦夫横井則彦京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学セミー監修/島﨑潤横井則彦286.ソフトコンタクトレンズ装用により生じる球結膜染色2図1のシェーマ弧状の球結膜染色は,SCLのレンズエッジ部に一致している.4図3のシェーマ図2と同様,弧状の球結膜染色は,SCLのレンズエッジ部に一致している.1ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用眼の球結膜染色(フルオレセイン染色)SCLのレンズエッジ部に一致して,フルオレセインによる弧状の球結膜染色像が観察される.細隙灯顕微鏡による観察では,投光系にコバルトブルーフィルターを,受光系にイエローフィルター(もしくはブルーフリーフィルター)を用いることにより,より明瞭となる.3SCL装用眼の球結膜染色(リサミングリーン染色)リサミングリーン染色でも球結膜染色は容易に観察できる.———————————————————————-Page2326あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(00)コンタクトレンズ(CL)の装用は,オキュラーサーフェスにさまざまな影響を及ぼし,その影響は,角膜や眼瞼結膜に対するだけでなく,球結膜にも及ぶ.球結膜への影響としては,杯細胞の減少や紡錘形細胞の出現などのサブクリニカルな変化1)が知られているが,それ以外に細隙灯顕微鏡で容易に検出される球結膜染色2)も知られている(図1,2).この球結膜染色は,フルオレセイン染色下で,コバルトブルーフィルターにイエローフィルター(もしくはブルーフリーフィルター)を組み合わせることにより,細隙灯顕微鏡で明瞭に観察できる3).また,リサミングリーン染色4)を用いても容易に観察できる(図3,4).この球結膜の染色像は,ソフトコンタクトレンズ(SCL)のエッジ部に一致して,弧状に観察されることから,SCLのエッジと球結膜との機械的な摩擦が原因で発生しているのではないかと考えられている.また,球結膜染色が,SCL装用者の62%に発生しうる2)ことや,タイトフィットなどでSCLの動きが少ない場合に発生しやすいことも知られている5).さらに,球結膜染色がエッジの形状が滑らかなSCLよりも鋭利なSCLで生じやすい7)ことや,従来のハイドロゲルタイプのSCLに比べて,含水率が低く硬い素材のシリコーンハイドロゲルSCLにおいて高頻度で発生する6)ことから,球結膜染色の発生には,SCLのエッジと球結膜との間の機械的な摩擦の影響が大きく関与していると考えられる.一方,SCL装用者の球結膜染色の程度と乾燥感との間に有意な相関がみられる2)ことは,SCLのエッジと球結膜との機械的な摩擦がSCL装用眼の乾燥感の原因となることを意味していると考えられる.SCL装用眼に認められる球結膜染色が乾燥感に関係することから,逆に,乾燥感を訴えるSCL装用眼では,積極的に球結膜染色の有無を観察して,それがあれば,SCLのフィッティングがタイトではないか再度確認することや,軟らかい素材や滑らかなエッジのSCLに変更してみる必要があるのではないかと思われる.文献1)CakmakSS,UnluMK,KaracaCetal:Eectsofsoftcon-tactlensesonconjunctivalsurface.EyeContactLens29:230-233,20032)LakkisC,BrennanNA:Bulbarconjunctivaluoresceinstaininginhydrogelcontactlenswearers.CLAOJ22:189-194,19963)大野建治,野田徹:蛍光濾過フィルターを用いた細隙灯顕微鏡による角結膜フルオレセイン染色所見の観察・撮影法.眼紀58:202-204,20024)NornMS:Lissaminegreenvitalstainingofcorneaandconjunctiva.ActaOphthalmol51:483-491,19735)RobboyMW,CoxIG:Patientfactorsinuencingconjunc-tivalstainingwithsoftcontactlenswearers.OptomVisSci68:163,19916)CoveyM,SweeneyDF,TerryRetal:Hypoxiceectsontheanterioreyeofhigh-Dksoftcontactlenswearersarenegligible.OptomVisSci78:95-99,20017)LofstromT,KruseA:Aconjunctivalresponsetosiliconehydrogellenswear.ContactLensSpectrum,September:42-44,2005

網膜硝子体疾患(感染性疾患)

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1/08/\100/頁/JCLS炎,髄膜炎などがあげられる1).外因性眼内炎のなかでも術後眼内炎の起炎菌は,術後早期の発症例では結膜やマイボーム腺の常在菌である黄色ブドウ球菌のほか,腸球菌などのグラム陽性球菌,緑膿菌などのグラム陰性菌であることが多い.遅発性眼内炎では弱毒菌であるPropionibacteriumacnes(P.acnes)や表皮ブドウ球菌が起炎菌となることが多い.外傷後の眼内炎ではコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)などのグラム陽性菌や緑膿菌による場合が多いはじめに細菌,真菌,寄生虫,ウイルスは外傷創や手術創から,あるいは体内から血行性,さらには視神経を介して網膜硝子体に直接感染するとともに,免疫反応を同時に惹起することによって眼内に炎症を生じる.治療については病因を同定し,適切な薬物治療を行っていくことが原則であるが,その目星をつけるためには血液や眼内液の検索だけでなく,患者背景を含めた病歴の聴取などが重要である.また,当初は広域スペクトルを有する薬剤を選択したとしても,臨床経過や検査結果に合わせて適宜薬剤を変更し,過剰な炎症反応に対しては副腎皮質ステロイド薬(ステロイド薬)を使用するなど,臨機応変な対応が必要となる.I細菌感染症1.細菌性眼内炎(図1)細菌性眼内炎は起炎菌が外界から入る外因性(全体の69%)と,全身の他臓器から眼内に血行性に移行,感染する内因性(全体の31%)に分けられる1).外因性では外傷によるものが31%,手術後の症例が31%を占め,その他に角膜潰瘍の穿孔によるものなどがある1).術後眼内炎には内眼手術後1週間以内に発症する急性発症例と,10日~数カ月後に発症する遅発性眼内炎がある.一方,内因性の細菌性眼内炎では基礎疾患として悪性腫瘍,糖尿病,膠原病が発症の危険因子として知られ,感染源として泌尿器,消化器および呼吸器感染症,心内膜(43)317*JunSuzuki:東京医科大学八王子医療センター眼科**HiroshiGoto:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕鈴木潤:〒193-0998東京都八王子市館町1163番地東京医科大学八王子医療センター眼科特集眼科薬物治療トレンド2008あたらしい眼科25(3):317~323,2008網膜硝子体疾患(感染性疾患)VitreoretinalDisease(InfectiousDisease)鈴木潤*後藤浩**図1細菌性眼内炎54歳,男性.強角膜創からの感染と思われる白内障術後眼内炎.前房水より溶血性レンサ球菌が検出されたため,眼内レンズの摘出,硝子体切除術,バンコマイシン,モダシン硝子体注入を行った.———————————————————————-Page2$$$あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(44)2.結核性ぶどう膜網膜炎,網膜血管炎(図2)幸いにもわが国における結核の新規登録患者数は,平成11年の緊急事態宣言以降は6年連続で減少傾向にある5).一方で結核性ぶどう膜炎の頻度は筆者らの1990年代の調査では0.4%前後であった6)のが,2002年に実施された全国調査では0.7%と増加している7).病型としてはわが国では閉塞性の網膜血管炎を主徴とする症例が多く,サルコイドーシスやBehcet病,網膜中心静脈分枝閉塞症などとの鑑別が問題となる.また,ツベルクリン反応陽性の事実が必ずしも結核感染の関与を意味しないこともあるため,抗結核薬が治療的診断法の一環として使用される場合もある8).治療については,たとえば全身結核に対して世界保健機関(WHO)では3~4剤の抗結核薬による併用療法を推奨しているが,ストレプトマイシンには聴神経麻痺,エタンブトールには視神経炎といった副作用があるため,結核による眼病変単独の病態にはイソニアジドとリファンピシンの2剤で十分と考えている.イソニアジド300mg/日(分3)とリファンピシン450mg/日(朝1回)を3~6カ月間にわたり投与する.眼内の炎症が強い場合にはステロイド薬の全身投与(プレドニゾロン30が,土が混入している場合にはBacilluscereusの可能性もある.内因性眼内炎ではKlebsiellapneumoniaeや大腸菌などのグラム陰性菌が主体である.眼内炎の治療については,最近ではやや見直しの必要性を示唆する報告も散見されるが,1995年に報告されたEndophthalmitisVitrectomyStudy(EVS)2)による指針が広く知られている.EVSのなかで中心となっている治療法はバンコマイシンとアミカシンの眼内投与である.バンコマイシンはグラム陽性菌に対して幅広い抗菌スペクトルを有しており,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌にも効果がある.アミカシンはグラム陰性菌に対して有効で,緑膿菌をはじめとしてバンコマイシンでは不十分な抗菌作用を補うことができる.なお,現在は網膜毒性への配慮から,アミカシンに代わってセフタジジムが用いられることが多い.具体的には臨床的に眼内炎が疑われた時点でただちにバンコマイシン(塩酸バンコマイシンR1.0mg/0.1ml)とセフタジジム(モダシンR2.0mg/0.1ml)の硝子体腔内注射を行う.必要性の是非はともかく,点眼や結膜下注射については先述したバンコマイシンとセフタジジムを同じ濃度で用いることができ,残余分を利用することも可能である.これら薬剤の調整方法については簡潔にまとめた報告がある3).EVSによれば,抗菌薬の全身投与については効果がないと結論づけている.しかし,全身投与の効用を完全に否定する根拠も少なく,補助的な目的で使用する分には構わないという考えもあろう.また,炎症を早期に軽減する目的でステロイド薬の使用が考えられるが,抗菌療法の効果が十分に確認できない段階での使用は慎重であるべきである.ステロイド薬の硝子体腔内投与の有効性を示す報告4)もみられるが,その是非については症例や起炎菌にもよると思われる.EVSでは視力が光覚弁まで低下している症例に対しては硝子体手術を選択すべきとしているが,視力予後が必ずしも良好ではない本疾患では硝子体手術の適応をもう少し拡大し,疑わしきは機を逃さずに積極的に手術を実施すべきとの考えもある.図2結核性ぶどう膜炎22歳,男性.閉塞性の網膜血管炎と出血を認め,ツベルクリン反応強陽性,抗TBGL抗体陽性の検査結果より結核性ぶどう膜炎と診断した.イソニアジド,リファンピシンの2剤で加療し,無血管野に対しては網膜光凝固を行った.———————————————————————-Page3Kh`MJy7PM|/P|yy319(45)II真菌感染症(図3)内因性真菌性眼内炎は,悪性腫瘍や手術療法後などの重症疾患に対する全身管理の向上,広域抗生物質やステロイド薬などの長期投与,経静脈的高カロリー輸液(intravenoushyperalimentation:IVH)の普及などに伴い増加傾向にあったが,抗真菌薬の予防的投与の定着により,一時より減少傾向の印象もある.いずれにしてもIVHについては真菌血症の感染源となるリスクは高く,真菌性眼内炎の90%がIVH挿入例であったという報告もある11).わが国ではCandida属(C.albicans,C.tropicalisなど)が全真菌性眼内炎の起因菌の9割を占めるとされ11),眼内炎はカンジダ血症患者の26~45%に続発するとされる12).幸い近年ではさまざまな抗真菌薬が開発され,真菌性眼内炎の視力予後は改善されつつある.一方で,カンジダ血症の死亡率は34~57%と報告されており12),単に眼内炎の治療のみならず,感染源の同定や患者背景を検索することも非常に重要である.治療については黄斑部に病変が存在する場合や網膜剥離を生じている場合には硝子体手術の適応となるが,そのような場合を除けばまずは抗真菌薬の全身投与を行う.わが国の深在性真菌症のガイドライン13)では,アmg/日程度から漸減)を行うが,診断の確認も兼ねて抗結核薬の投与を先行して行い,治療に対する反応を見きわめた後に投与することが望ましい.また,しばしば閉塞性血管炎の進行に伴って網膜無血管野が広がり,新生血管が発生することがある.放置すれば硝子体出血の原因にもなるため,上記の薬物治療に加え,蛍光眼底造影で確認しながら網膜光凝固を適宜行うことが大切である.3.梅毒によるぶどう膜網膜炎梅毒性ぶどう膜網膜炎は多彩な臨床症状を呈するため,ぶどう膜炎をみた際には常に鑑別の一つとして念頭におかなければならない疾患である.先天梅毒と後天梅毒があり,ぶどう膜炎は後天梅毒の第2期もしくは第3期にみられる.虹彩毛様体炎,網脈絡膜炎,網膜血管炎(特に網膜細動脈炎),視神経炎などを呈するが,特異的な所見に乏しく,さらに近年では全身症状を欠く症例やhumanimmnunodeciencyvirus(HIV)感染に伴う症例の報告9)もみられ,問題となっている.治療の基本はペニシリン系抗生物質の投与で,アンピシリン1,500mg/日やアモキシリン1,500mg/日の内服,ベンジルペニシリンカリウム(ペニシリンGR)120~180万単位/日の点滴を2~4週間行う.ペニシリン系抗生物質に対してアレルギーがある場合にはマクロライド系やテトラサイクリン系抗生物質を用いる.ニューキノロン系やアミノグリコシド系は無効である.治療効果の判定は,治療開始後に改めて梅毒血清反応であるRPR(rapidplasmareagin)法の定量検査を行い,8倍以下もしくは治療前の1/4に改善していることが目安とされる.しかし,梅毒定量検査の変化は眼所見の改善より遅れてみられることも多いため,血清反応だけを目安とするのではなく,眼所見の推移をみながら治療効果を判定する必要がある10).以上のようにペニシリン療法が主体となるが,眼炎症所見が強い場合にはステロイド薬の全身投与,すなわちプレドニゾロン30~40mg/日程度から併用し,徐々に減量していくこともある.図3真菌性眼内炎64歳,男性.中咽頭癌に対して化学療法が行われており,動脈血培養でカンジダが検出された.ホスホフルコナゾール点滴加療400mg/日を行うも硝子体混濁が増強したため硝子体手術を行った.———————————————————————-Page4$$$あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(46)者では非典型的な臨床所見や経過を示すことがあるため,注意が必要である.治療にはマクロライド系抗生物質であるアセチルスピラマイシン(アセチルスピラマイシンR)が用いられることが多い.800~1,200mgを分4~6で内服し,4~6週間を1クールとして投与する.1クール投与終了後に病巣の消退がみられない場合にはさらに1クールを追加するか,薬剤の変更を考慮する.アセチルスピラマイシンが無効な場合にはクリンダマイシン(ダラシンR)を600mg分3で,あるいは900mgを分4で投与する15).炎症所見の強い場合には,これらの抗トキソプラズマ薬とともにステロイド薬をプレドニゾロン30mg程度から併用投与し,漸減していく.2.眼トキソカラ症トキソカラ症はイヌ蛔虫もしくはネコ蛔虫の虫卵や幼虫が人体に侵入し,幼虫の状態で体内を移行することによってさまざまな症状を生じる疾患である(幼虫移行症).イヌ蛔虫は生後2~3カ月までの仔イヌに寄生しており,その虫卵は糞便中に排泄されて土壌を汚染する.ヒトには土壌から手指などを介して,あるいは家畜の生肉や肝臓を摂食することによって経口感染すると考えられている.昨今のペットブームやグルメブームによる感ムホテリシンB,フルコナゾール,ミコナゾール,イトラコナゾール,ミカファンギンの全身投与が推奨されている.アムホテリシンB(ファンギゾンR)は最も幅広い抗真菌スペクトルを有するが,腎障害などの副作用が強いため現在ではフルコナゾールが第一選択となっている.フルコナゾールは眼内炎の起炎菌の多くを占めるカンジダ属に有効であり,ジフルカンRまたはプロドラッグであるホスホフルコナゾール(プロジフR)を1日200~400mg投与する.経口投与よりも可能であれば点滴静注が望ましい.また,ジフルカンRは注射液をそのまま点眼液,結膜下注射に使用することが可能である.ミコナゾール(フロリードR)は1,200~1,800mg/日で投与されるが,腎障害が少ない利点があるものの眼内移行はやや劣る.イトラコナゾール(イトリゾールR)は200mg/日で用いられるが,経口投与に限られるため吸収性に難がある.ミカファンギン(ファンガードR)は新しいキャンディン系抗真菌薬で,真菌細胞壁の主要構成成分である1-3-b-d-glucanの合成を阻害し,Asper-gillus属にも強い制菌力を示す.通常,50~300mg/日を点滴静注で投与する.このほかにも新規アズール系抗真菌薬であるボリコナゾール(ブイフェンドR)についても全身投与や硝子体内投与の有効例が報告されており14),キャンディン系とともに今後さらなる適応の拡大が期待される.これらの全身薬物療法を1週間継続しても臨床所見の改善傾向がみられなければ,アムホテリシンBの硝子体注射(5~10μg/0.1ml)や,硝子体手術を検討する.硝子体手術を行う際には灌流液にフルコナゾール10μg/ml,ミコナゾール10μg/ml,あるいはアムホテリシンB10μg/mlのいずれかを混入し,実施する.III寄生虫感染1.眼トキソプラズマ症(図4)トキソプラズマはネコを終宿主とする寄生虫であり,感染経路としてはネコとの接触歴,ブタやヒツジなどの生肉の摂取による経口感染,さらには母体の血液を介した胎盤感染(先天感染)がある.わが国では成人の20~30%が感染していると考えられているが,そのほとんどが不顕性感染である.高齢者や免疫抑制状態にある患図4眼トキソプラズマ症42歳,女性.ブラジル出身.アセチルスピラマイシンを投与するも再発をくり返したためクリンダマイシン600mg/日で加療し,沈静化を得た.———————————————————————-Page5Kh`MJy7PM|/P|yy321(47)()11015m138網膜網膜性70142()3000m3VVHVVVHV10b(フェロンR)300万国際単位/日の点滴静注を1日3回,7日間併用することもある18).ただし,インターフェロン-bについては保険の適用はない.急性期の激しい炎症に対しては抗炎症療法としてベタメタゾン(リンデロンR)6~8mgより全身投与を開始し,1カ月以上かけて徐々に減量,中止していく.ARNでは閉塞性血管炎により主幹動脈の閉塞や白線化が高率にみられる.この閉塞性血管炎に対する抗血栓療法としてアスピリン(バイアスピリンR)100mgを1日1錠併用する.本症に対する手術時期に関しての一定の見解は得られていないが,網膜剥離に対してはただちに,あるいは剥離は生じていなくても後部硝子体剥離をきたし,網膜への牽引が加わりそうになった時点で,これらの薬物治療に加えて外科的治療を速やかに行う.2.サイトメガロウイルス網膜炎(図5)サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)に対しては日本人の90%が不顕性感染をきたしているとされるが,悪性腫瘍や臓器移植後,後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeciencysyndrome:AIDS)などにより免疫能の低下した状態では,日和見感染症として諸臓器に感染症をひき起こす可能性がある.特に末梢血中のCD4陽性Tリンパ球数が50/mm3未満の状態で染の機会の増加により,注目されるぶどう膜炎の一つとなっている.本症の病態は死滅した虫体に対する免疫反応と推察されているため,治療にはステロイド薬の全身投与が推奨されている.プレドニゾロンを30~40mg/日程度より投与し,漸減していく16).駆虫薬の併用の是非については議論の分かれるところであるが,眼症状発症の時点で体内に侵入したすべての幼虫が死滅しているか否かについては不明であることに加え,眼炎症に関してもステロイド薬のみでは再発をくり返し,駆虫薬を併用することで消炎が得られる症例が存在することも事実である15).駆虫薬としてはジエチルカルバマジン(スパトニンR)などが用いられる.虫体の死滅による急性アレルギー症状を予防するために,比較的少量から投与を開始する.すなわち,最初の3日間は100mg(小児50mg)を夕食後に内服,つぎの3日間は300mg/日(小児150mg)を分3で内服,ついで週1回300mg/日(小児150mg)を分3で8週間継続する.駆虫薬としてはその他にもサイアメンダゾール(ミンテゾールR)やメベンダゾール(メベンダゾールR)がある.一方で,駆虫薬やステロイド薬をまったく使用しなくても自然治癒する症例があり,眼トキソカラ症に対する薬物療法についてはいまだ明確な指針が確立されているとは言い難い.IVウイルス感染症1.急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV-1もしくはHSV-2)や水痘帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV)が網膜に感染して発症する疾患として急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)がある.通常,全身状態に何ら問題のない個体に突然発症する予後不良な疾患である.ウイルスの感染経路や発症機序については依然として不明な点が多く残されている.治療の要点はできるだけ早く的確な治療を行うこと(assoonaspossible:ASAP),すなわち;A:acyclovir(抗ウイルス療法),S:steroid(抗炎症療法),A:aspirin(抗血栓療法),P:prophylaxisfortheretinaldetach-ment(網膜剥離の予防)を実施することにある17).抗ウイルス療法としてはアシクロビルの全身投与が行———————————————————————-Page6$$$あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(48)を1日3回,または1回90mg/kgを1日2回点滴静注し,維持療法は1回90~120mg/kgを1日1回行う.硝子体腔内注射を行う場合はガンシクロビル400~1,000μgを週に1回,毛様体扁平部から投与する.抗CMV治療の中止時期については症例に応じて考慮すべきであるが,AIDS患者では免疫能が低下したままの状態で中止すると網膜炎が再発する危険性がある.一般的には日和見感染症であるCMV網膜炎の治療を先行させた後に抗HIV治療を行うのが原則であるが,抗HIV治療により末梢血中のCD4陽性Tリンパ球数が100/mm3以上に回復すると網膜炎の再燃は少ないとされている20).近年,CMV網膜炎治療後にHIVに対する多剤併用療法(highlyactiveantiretroviraltherapy:HAART)を行い,免疫状態が改善した際に生じるimmunereco-veryuveitis(IRU)が問題となっている21).IRUは眼内に残存するCMV抗原に対する炎症反応と考えられており,前房内や硝子体中の炎症細のほか,類胞様黄斑浮腫や網膜前膜の形成などさまざまな眼所見を呈することがある.IRUに対しては無治療で軽快するものもある.過剰な免疫反応に対してはステロイド薬の局所投与で対処できることが多いが,抗CMV薬による治療が必要となる場合もある.3.HumanTcelllymphotropicvirustype1(HTLV-1)関連ぶどう膜炎HTLV-1キャリアは南九州,南西諸島,太平洋西岸地域など,一定の地域に多く集積している.このHTLV-1キャリアに発症するHTLV-1関連ぶどう膜炎(HTLV-1associateduveitis:HAU)もこれらの地域に多く,九州の施設では全ぶどう膜炎の3.9%を占めており22),九州地方は他の地域と比較して明らかに頻度の高いことが明らかにされている7).本症は顆粒状,ベール状の硝子体混濁を特徴とし,軽度から中等度の霧視,飛蚊症を訴える.通常,ステロイド薬による治療によく反応し,軽度の炎症であればステロイド薬の点眼薬のみで,中等度以上の硝子体混濁で視力低下をきたしている場合はステロイド薬の眼局所注射を,高度の硝子体混濁や網膜血管炎がは高率に発症することが知られている19).CMV網膜炎はHIV感染によるAIDS患者の増加に伴い増加していったが,幸いAIDSに対する治療の進歩に伴って最近はやや減少傾向にある.治療に用いられる抗CMV薬には,点滴静注薬としてガンシクロビル(デノシンR)やホスカルネットナトリウム(ホスカビルR),内服薬ではバルガンシクロビル(バリキサR)がある.デノシンRは硝子体腔内注入の形でも用いることができる.通常はバリキサRが第一選択となることが多いが,何らかの理由で内服が困難な場合にはガンシクロビルやホスカビルRによる点滴治療を行う.副作用としてガンシクロビルとバルガンシクロビルには骨髄抑制(白血球減少,血小板減少,貧血)が,ホスカビルには腎機能障害があるため,副作用により治療の継続が困難となった場合には別の薬剤への切り替えや,ガンシクロビルの硝子体腔内注射が選択される.全身投与には初期治療と維持療法があり,一般に初期治療を3週間行った後に維持療法に移行する.バルガンシクロビルの場合は初期治療には1日4錠を分2で,維持療法としては1日2錠を分1で投与する.ガンシクロビルを用いる場合は1回5mg/kgの点滴静注を1日2回に分けて行い,その後は同量を1日1回,週5日行う.ホスカルネットナトリウムの場合は1回60mg/kg図5サイトメガロウイルス網膜炎41歳,男性.HIV抗体陽性.前房水よりCMV-DNAを検出.バルガンシクロビル内服の初期治療および維持療法を行ったところ病変は退縮したが,後に網膜剥離を生じた.———————————————————————-Page7Kh`MJy7PM|/P|yy3237)otoHochiuiamaietalpiemioloicalsurveyointraocularinammationinapan.51:41-44,20078)鈴木潤:結核性.眼科46:1523-1528,20049)HodgeWG,SeiSR,MargolisTP:OcularopportunisticinfectionincidencesamongpatientswhoareHIVpositivecomparedtopatientswhoareHIVnegative.Ophthalmolo-gy105:895-900,199810)後藤浩:性感染症と眼.眼科45:335-342,200311)松本聖子,藤沢佐代子,石橋康久ほか:わが国における内因性真菌性眼内炎─1987~1993年末の報告例の集計─.あたらしい眼科12:646-648,199512)風間逸郎,古川恵一:カンジダ血症の原因,合併症,治療法について.EBMジャーナル5:690-693,200413)深在性真菌症のガイドライン作成委員会:深在性真菌症の診断・治療ガイドライン.医歯薬出版,200314)BreitSM,HariprasadSM,MielerWFetal:Managementofendogenousfungalendophthalmitiswithvoriconazoleandcaspofungin.AmJOphthalmol139:135-140,200515)横井克俊:抗寄生虫薬の使い方.臨眼57:322-325,200316)ForresterJV,OkadaAA,BenEzraDetal:Toxocariasis.Posteriorsegmentintraocularinammationguidelines.p43-48,KuglerPublication,Netherlands,199817)薄井紀夫:急性網膜壊死.眼科42:1019-1030,200018)坂井潤一,頼徳治,臼井正彦:桐沢・浦山型ぶどう膜炎(急性網膜壊死)の抗ウイルス療法と予後.眼臨85:876-881,199119)永田洋一:Humanimmunodeciencyvirus抗体陽性者の眼症状.日眼会誌97:253-259,199320)VrabecTR,BaldassanoVF,WhitcupSM:Discontinuationofmaintenancetherapyinpatientswithquiescentcyto-megalovirusretinitisandelevatedCD4+counts.Ophthal-mology105:1259-1264,199821)RobinsonMR,ReedG,CsakyKGetal:Immune-recoveryuveitisinpatientswithcytomegalovirusretinitistakinghighlyactiveantiretroviraltherapy.AmJOphthalmol130:49-56,200022)小池生夫,園田康平,有山章子ほか:九州大学眼科における内因性ぶどう膜炎の統計.日眼会誌108:694-699,200423)望月學:HTLV-1感染に伴う眼内炎.綜合臨床53:2111-2116,2004(49)ある場合にはプレドニゾロン30mg程度の内服から治療を開始し,漸減していく23).おわりに感染性網膜硝子体疾患の薬物治療について解説した.発症に関わる病原微生物は多種多様であり,治療方法についても不確定要素が多く,これまでは経験則に基づいたものが多かったが,最近は疾患によってはある程度エビデンスに基づいたプロトコールも確立されつつある.治療薬には古くから用いられている抗微生物薬のほかにも,近年では新しい抗真菌薬や抗ウイルス薬が開発されている.これらの新規薬剤についてはどのような用量で用い,また,どのような副作用の可能性があるかなどについて,日頃から情報を仕入れておくことも大切と思われる.文献1)秦野寛,井上克洋,的場博子ほか:日本の眼内炎の現状─発症動機と起因菌─.日眼会誌95:369-376,19912)EndophthalmitisVitrectomyStudyGroup:ResultsoftheEndophthalmitisVitrectomyStudy.Arandomizedtrialofimmediatevitrectomyandofintravenousantibioticsforthetreatmentofpostoperativebacterialendophthalmitis.ArchOphthalmol113:1479-1496,19953)薄井紀夫:治療戦略1─緊急対応プロトコール─.あたらしい眼科22:909-911,20054)GanIM,UgaharyLC,vanDisselJTetal:Intravitrealdexamethasoneasadjuvantinthetreatmentofpostopera-tiveendophthalmitis:aprospectiverandomizedtrial.GraefesArchClinExpOphthalmol243:1200-1205,20055)厚生統計協会:国民衛生の動向.厚生の指標53:132-135,20066)横井秀俊,後藤浩,坂井潤一ほか:東京医科大学眼科におけるぶどう膜炎の統計的観察.日眼会誌99:710-714,1995

網膜硝子体疾患に対する最新の薬物治療

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSVEGF165,VEGF189,VEGF206という4種の主要なアイソフォームが存在していることがわかっている.このうちVEGF121,VEGF165の2つが網膜で認められるアイソフォームである.これらのVEGFと複合体を形成してVEGF受容体結合を抑制する作用機序をもつ薬剤が続々と開発され,これらを硝子体内に投与する治療法が最近主流となってきている.これらの薬剤のなかには,完全ヒト型の可溶性VEGF受容体フュージョン蛋白であるaibercept(VEGFTrap-EyeTM)などこれから治験が始まるものもある.本稿では,わが国で,すでに使用されているbevacizumab,今後承認される予定のranibizumab,pegaptanibについて紹介する.1.Bevacizumab(AvastinR,Genentech)VEGF阻害薬の一つであるbevacizumab(AvastinR;Genentech,Inc.,SouthSanFrancisco,CA)は米国のFDA(FoodandDrugAdministration)に転移性大腸癌の治療薬として承認された全長ヒトモノクローナル抗体である.薬物の作用機序より,眼科疾患においてはAMDをはじめ,網膜静脈閉塞症やDRによる黄斑浮腫,PDR(図1)に対して有効であるという報告が2006年以降数多くみられる.内外ともにo-labelの使用であり,各医療機関でIRB(治験審査委員会;InstitutionalReviewBoard)や倫理委員会などの組織で承認を得る必要がある.糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)にはじめに近年,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD),糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR),網膜静脈閉塞症に続発した黄斑浮腫や,増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)などの網膜硝子体疾患に対し,薬物治療がさかんに行われるようになった.従来は,これらの疾患に対してレーザー光凝固,硝子体手術などの治療がおもに行われていたが,侵襲が大きいうえに満足のいく治療成績が得られない症例も多く,薬物治療が現在脚光を浴びている.本稿では,現在使用されているもの,治験中の薬物について,さらに,どのような疾患に対して有効であるか,過去の報告に基づいて述べる.I抗血管内皮増殖因子薬血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF)は,眼内では主として網膜色素上皮によって分泌されるポリペプチドで,血管内皮細胞に特異的で強力な細胞分裂促進作用を示す.VEGFは,AMDにおける脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)をはじめ,DRなどの網膜血管閉塞性疾患における網膜新生血管にも強く関与している.また,網膜血管の透過性を亢進させて網膜浮腫の発生に関わっている.これらのことより,VEGFを抑制させる薬物は,血液網膜柵の破綻や血管新生に起因する眼科疾患においても有効である.VEGFはヒトにおいてはVEGF121,(35)309*ChiekoShiragami&FumioShiraga:香川大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕白神千恵子:〒761-0793香川県木田郡三木町大字池戸1750-1香川大学医学部眼科学教室特眼科薬物治療トレンド2008あたらしい眼科25(3):309315,2008網膜硝子体疾患に対する最新の薬物治療NewPharmacologicTreatmentforVitreoretinalDiseases白神千恵子*白神史雄*———————————————————————-Page2310あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(36)で,有害事象は認めなかった4).また,predominantlyclassicCNVに対してIVBを32眼,光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)を30眼に施行し,6カ月目の効果を比較したところ,平均視力,中心窩網膜厚ともにIVB群のほうが有意に改善したという報告もある5).RAPに対するIVBの報告では,23眼に対してIVB1.25mgを行い,13カ月と短期経過観察では,視力,中心窩網膜厚ともに有意に改善したとされている6).しかし,RAPに対するIVBの報告は観察期間が短期のものだけで,今後中長期的な効果についての検討が必要である.ポリープ状脈絡膜血管症に対するIVBは,短期的な滲出の軽減には有効であるが,網膜色素上皮下の病変を消失させる根本的な治療にはならないとされている7).AMD1,455眼に対してIVB1.25mgを施行した症例のうち,投与後4日目から8週目の間に網膜色素上皮裂孔が発生したという報告があり,全症例,漿液性網膜色素上皮離の辺縁に起こったとされている.原因は不明で,頻度としては多くないが,網膜色素上皮離のある症例に対しては注意を要する8).その他,近視性CNV(図2)9),網膜色素線条に続発したCNV10),ぶどう膜炎に続発した黄斑浮腫11)に対してもIVBが有効であるという報告があるが,いずれも対するbevacizumab硝子体内注射(intravitrealbevaci-zumab:IVB)に関する過去の報告では,DME78眼に対してIVB1.25mg,あるいは2.5mgを行い,6カ月経過をみたところ,再投与を1回行ったものが20.5%,2回行ったものは7.7%で,投与前と最終受診時を比較すると平均視力は有意に改善し,光干渉断層検査(OCT)にて中心窩網膜厚が有意に減少したとされている1).そのほかにも経過観察期間が6週から24週と短期間でDMEにIVBが有効であるという報告がある2).さらに,DME26眼に対して,IVBと1回のトリアムシノロンの硝子体内注射(IVTA)を比較した報告では,投与後12週目の中心窩網膜厚と,投与後4週目の視力はIVTA群で有意に改善していたという報告があり3),IVBの効果については長期成績を含めて今後さらなる検討が必要である.AMDに対するIVBの報告では,まず,網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)を除くAMD60眼に対してIVB2.5mgを行い,滲出が残存する症例には1カ月ごとに再投与を行った臨床研究では,12カ月経過観察できた51眼において,治療前と12カ月後を比較すると,平均視力,中心窩網膜厚ともに有意な改善がみられたという結果で,平均投与回数は3.4回図1増殖糖尿病網膜症に対するbevacizumab硝子体内注入(IVB)a:IVB前フルオレセイン蛍光造影写真(FA).網膜新生血管から広範囲に蛍光漏出を認める.b:IVB後翌日のFA.新生血管からの蛍光漏出が消失している.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008311(37)zumabは48kDで約1/3と小さいため(図3)硝子体内投与後に網膜深層にまで効率的に移行することができる12).また,Fcフラグメントが欠損していることより,眼内投与によるぶどう膜炎の合併症は少なくなるものと考えられている.Ranibizumabは2006年6月に米国FDAの認可を受けているが,わが国においては,中心窩下脈絡膜新生血管を伴うAMDに対して第I/II相臨床試験が現在実施中であり,日本人に対する安全性,有効性はまだ不明である.以下,海外にて現在までに行われた大規模スタディについて説明する.a.MARINA(MinimallyClassic/OccultTrialoftheAnti-VEGFAntibodyRanibizumabintheTreat-mentofNeovascularAge-relatedMacularDegen-eraion)Study13,14)中心窩下にminimallyclassicCNVまたはoccultwithnoclassicCNVを伴うAMD716眼を対象とし,ranibi-zumab0.3mgを238眼,0.5mgを240眼,shaminjection(擬似注射)を238眼に月(4週)1回24カ月行い,視力,FA(フルオレセイン蛍光造影)所見,OCT(光干渉断層計)所見を比較した多施設無作為プラセボ対照二重盲検試験である.1年目の結果では,視力がETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)視力にて15字未満の低下だったものが,ranibi-zumab0.3mg投与群では94.5%,0.5mg投与群では94.6%であり,それに対してsham群では62.2%であり,短期経過による結果である.2.Ranibizumab(LucentisR)Ranibizumabは,マウスのモノクローナル抗VEGF抗体(MAbVEGFA.4.6.1)に由来し,特定の抗原結合領域をMAbから全ヒト抗体のアミノ酸配列,および構造にスプライシングし,この修飾したMAbをFabフラグメントとFcフラグメントに分割している.Fabフラグメントのほうをranibizumabとよんでおり,VEGFへの親和性は全長ヒトMAb(bevacizumab)よりも高く,分子量も全長ヒトMAbが149kDに対し,ranibi-図2高度近視に続発した脈絡膜新生血管(CNV)に対するbevacizumab硝子体内注入(IVB)a:IVB前フルオレセイン蛍光造影写真(FA).黄斑部のCNVから蛍光漏出を認める.b:IVB後1カ月目のFA.CNVからの蛍光漏出がほぼ消失している.ab図3Ranibizumabの生成過程(文献26より引用,一部改変)ヒト化FabフラグメントRanibizumab(Lucentis?)FcBevacizumab(Avastin?)FcLightchainHeavychain親和性の向上選択的変異ヒト化抗体Fabフラグメント(約48kD)全長ヒト化抗体(約149kD)ヒト化Fabフラグメントマウスモノクローナル抗VEGF抗体(約150kD)ヒト化抗体の構築———————————————————————-Page4312あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(38)行7日後から毎月ranibizumab0.5mg投与を106眼,shaminjectionを56眼に24回行う第I/II相多施設無作為単盲検試験である.PDTは通常どおり,3カ月ごとにFAを行って蛍光漏出を認めた症例はPDTの再治療を行った.12カ月目の結果では,15文字未満の視力低下だったものが,ranibizumab投与併用群で90.5%,PDT単独群で67.9%とranibizumab投与併用群で有意に視力低下を抑制できた(p<.001)(図6).PDT再治療回数に関しては,ranibizumab投与併用群ではほとんどが最初の1回のみであったのに対して,PDT単独群のほぼ3分の1は4回のPDTを施行した.Ranibizum-ab投与群で最も頻度の多い有害事象は,ぶどう膜炎などの重篤な眼内炎症(11.4%)と,細菌性眼内炎(1.9%)で,PDT単独群ではみられなかった.しかし,眼内炎症が起こった症例でも,平均視力はPDT単独群と比較すると良好であった.ranibizumab投与群で有意に視力低下を抑制できた.12カ月目に平均視力は,0.3mg投与群で6.5字,0.5mg投与群で7.2字改善したのに対し,sham群は10.4字悪化していた(図4).b.ANCHOR(Anti-VEGFAntibodyfortheTreatmentofPredominantlyClassicChoroidalNeovascularizationforAge-relatedMacularDegeneration)Study15,16)PDTとranibizumabの効果の比較試験(多施設無作為二重盲検試験)として,中心窩下にpredominantlyCNVを有するAMD423眼に対して,ranibizumab0.3mg注射+shamPDT(ベルテポルフィンを投与せずレーザー照射),ranibizumab0.5mg注射+shamPDT,shaminjection+PDTの3群に均等に分け,注射は月1回12カ月行い,PDTはFA所見より必要時に3カ月おきに行った.視力が15字未満の低下に抑えられたものは,ranibizumab0.3mg群で94.3%,ranibizumab0.5mgで96.4%であったのに対し,PDT単独群では64.3%であり,ranibizumab投与群で有意に視力低下を抑制できた.平均視力はranibizumab0.3mg群で8.5字上昇,ranibizumab0.5mgで11.3字上昇したのに対し,PDT単独群では9.5字低下した(図5).また,多変量解析の結果,治療前視力が不良なもの,CNVが小さいもの,年齢が若いものが,ranibizumab群の視力改善とPDT群の視力低下の抑制に有意に関連していた.c.FOCUS(RhuFabV2OcularTreatmentCombiningtheUseofVisudynetoEvaluateSafety)Study17)PredominantlyCNVに対するrenibizumab硝子体内投与とPDTの併用療法の安全性と効果を調べた研究で,病変部の最大直径が5,400μm未満のAMDにPDT施図4MARINAStudyにおける平均視力の変化(文献14,Figure2より引用,一部改変)(月)平均視力の変化(文字数)1050-5-10-1503691215182124:Ranibizumab0.5mg:Ranibizumab0.3mg:Shaminjection図5ANCHORStudyにおける平均視力の変化(文献15,Figure2より引用,一部改変):Ranibizumab0.5mg:Ranibizumab0.3mg:Vertepor?n(月)平均視力の変化(文字数)151050-5-10-150369121245781011図6FOCUSStudyにおける平均視力の変化(文献17,Figure1より引用,一部改変)(月)7日369121245781011+4.9-8.2平均視力の変化(文字数)1050-5-10:Ranibizumab+PDT(n=105):PDTAlone(n=56)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008313(39)マーで,VEGFの主要なアイソフォームであるVEGF165にきわめて特異的かつ高い親和性で結合するPEG化したオリゴヌクレオチドである.VEGF165は滲出型AMDの病態に関与する主要な血管新生増殖因子と考えられている21,22).Pegaptanibは他のVEGF阻害薬と異なり,165のアイソフォームと特異的に結合してVEGFを不活化するアプタマーなので,免疫学的に寛容で,全身への副作用などの影響が少ないと考えられている.実際,AMD147眼にpegaptanib1,3mgを6週ごとに54週投与した1年の経過では,血液検査,心電図,バイタルサインなど全身への影響はなかったという報告がある23).日本における臨床試験では,pegaptanibsodiumを6週間ごとに54週硝子体内投与するというもので,治験が終了し,厚生労働省に申請中である.以下,海外での臨床試験V.I.S.I.O.N.Studyの結果を述べる.V.I.S.I.O.N.(VEGFInhibitionStudyinOcularNeovas-cularization)Study24,25)米国,カナダ,ヨーロッパ,イスラエル,オーストラリアと南アメリカの117施設で行われた前向き無作為二重盲検多施設用量設定試験である.中心窩下CNVを有する50歳以上のAMDで,視力が20/40から20/320の症例1,186眼を,pegaptanib0.3mg群(294眼),pegaptanib1.0mg群(296眼),pegaptanib3.0mg群(296眼)とshaminjection群(296眼)の4群に無作為に分け,6週ごとに9回投与を行い54週までの結果をd.PIER(APhaseIIIb,Multicenter,Randomized,Double-Masked,ShamInjection-ControlledStudyoftheEcacyandSafetyofRanibizumabinSubjectswithSubfovealChoroidalNeovasularizationwithorwithoutClassicCNVSecondarytoAMD)Study18)中心窩下にCNVを有するAMDに対し,ranibizum-ab0.3mg(n=60),ranibizumab0.5mg(n=61),shaminjection(n=63)の3群に分けて,最初の3カ月は毎月,その後は3カ月おきに硝子体内注射あるいはshaminjectionを行い,12カ月経過をみた多施設無作為プラセボ対照二重盲検試験で,治療回数を減らすことが可能であるかどうかを検討した試験である.12カ月目の平均視力は,ranibizumab投与群では治療前視力を維持できており,sham群と比較すると有意に効果がみられた.しかし,MARINAStudyやANCHORStudyで行われた毎月の投与を続ける治療に比較すると視力改善の面で劣っており(図7),ranibizumabの効果を最大に生かすためには毎月の投与が必要であるという結果であった.e.DMEに対するranibizumabの効果Ranibizumabは,VEGF-Aのほぼすべてのアイソフォームに対する抗体であるため,DMEに対しても有効であると報告されている19,20).3.Pegaptanibsodium(MacugenR)Pegaptanibsodiumは血管新生を伴うAMDおよびDMEの治療を目的とした血管内皮増殖因子アンタゴニスト,抗VEGF;PEG(polyethyleneglycol)化アプタ図7PIERStudyにおける平均視力の変化(文献18,Figure1より引用,一部改変)平均視力の変化(文字数)1050-5-10-15:Sham(n=63):Ranibizumab0.3mg(n=60):Ranibizumab0.5mg(n=61)(月)36912124578101116.1文字差14.7文字差-0.2-1.6-16.3図8V.I.S.I.O.N.Studyにおける平均視力の変化(文献24,Figure1より引用,一部改変)(週)平均視力の変化(文字数)0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10-11-12-13-14-15-16-17061218243036425448ShaminjectionPegaptanib1.0mgPegaptanib0.3mgPegaptanib3.0mg———————————————————————-Page6314あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(40)が,徐放製剤である点で期待されている.2.Triamcinoloneacetonide現在使用可能なケナコルトRは,眼科疾患には適応外であり,また溶媒を含んでいることから眼内使用には問題がある.そこで,複数の会社が,眼科疾患に適応のあるtriamcinoloneacetonideを開発している.そのうち,TriesenceTMは,米国FDAの認可を最近受け,ぶどう膜炎以外に硝子体手術中の可視化にも適応を取得している.日本でも開発されて現在治験中の薬剤があり,近い将来眼科適応のあるtriamcinoloneacetonideが使用可能になることが期待される.3.その他Anecortaveacetate(RetanneTM)は,AMDに対するステロイド薬として開発され,現在,滲出型への進行の予防薬として米国で臨床治験中である.またわが国で開発されたステロイドのマイクロスフェア製剤が,糖尿病黄斑浮腫に対する後部Tenon下注入薬として現在治験中である.おわりにRanibizumabは,眼内投与用に開発された薬剤で,AMDに対しては臨床試験を行って眼内投与における安全性と有効性が欧米では確立されている.また,beva-cizumabよりも血中半減期が短く,抗VEGF抗体の最も重篤な副作用とされる心筋梗塞や脳梗塞など全身の血管閉塞性疾患などの発症が理論的には少ないとされている.一方,bevacizumabの長所は,価格が1回の投与で$17$50ときわめて安価である点である(ranibi-zumabは1回の投与で$1,950)26).しかしながら,適応外使用の現状では,重篤な有害事象の発生の可能性を考えると,慎重に投与されるべきである.特にAMDにおいては,今後わが国でもranibizumabやpegaptanibが承認された場合,臨床試験を行って安全で有効であると立証されたこれらの薬剤が選択されるべきであろう.今後,抗VEGF薬のAMD以外の疾患への適応拡大,さらに,ステロイド薬を含めた新薬の開発,特にDMEに対する強力で持続効果のある新薬が望まれる.最初に報告している.Pegaptanib投与群は用量に関係なくsham群に比較すると有意に効果がみられた(図8).54週目に視力が15字未満の低下に抑えられたのは,pegaptanib0.3mg群で70%,1.0mg群で71%,3.0mgで65%であったのに対し,sham群は55%と,pegap-tanib投与群で有意に視力低下を抑制できた.また,FA所見よりpredominantlyclassicCNV,minimallyclas-sicCNV,occultwithnoclassicCNVに分けてpegap-tanibの効果を比較したところ,CNVのタイプにかかわらずほぼ同様の効果があることがわかった.54週目以降で,再度,pegaptanib投与継続と投与中止を1対1で無作為にグループ化を行い,102週目に効果を検討したところ,pegaptanib0.3mg投与を継続した群が54週目に投与を中止した群よりも視力維持率が高いという結果であった.4.抗VEGF薬硝子体内注入の有害事象微量の硝子体内投与であっても一部は全身の血管に移行するため,全身合併症として高血圧,深部静脈閉塞,脳梗塞,月経異常などが起こる可能性があることは忘れてはならない.また,眼局所の合併症として,虹彩炎,ぶどう膜炎,硝子体炎などのほか,最も重篤なのは硝子体注射手技によって起こりうる細菌性眼内炎,水晶体損傷,裂孔原性網膜離,硝子体出血などである.IIステロイド薬1.PosurdexTMデキサメタゾンなどのコルチコステロイドはVEGFの増加やプロスタグランジンの分泌を抑制し,フィブリン沈着,毛細血管からの漏出,貪食細胞の遊走などの炎症反応に関わる主要な因子を抑え,浮腫を抑制するといわれている.PosurdexTM(デキサメタゾン後眼部送達製剤)は,有効成分のデキサメタゾンに乳酸,グリコール酸共重合体を添加物として混合した生体内分解性高分子製剤であり,硝子体内に投与することによってデキサメタゾンを持続的に放出する後眼部送達製剤である.わが国では,網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)とDRに続発した黄斑浮腫に対して現在第I/II相試験が進行中で,その効果や安全性については現在のところは不明である———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.3,200831514)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal;MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,200615)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal;ANCHORStudyGroup:Ranibizumabversusvertepornforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1432-1444,200616)KaiserPK,BrownDM,ZhangKetal:Ranibizumabforpredominantlyclassicneovascularage-relatedmaculardegeneration:subgroupanalysisofrst-yearANCHORresults.AmJOphthalmol144:850-857,200717)HeierJS,BoyerDS,CiullaTAetal;FOCUSStudyGroup:Ranibizumabcombinedwithvertepornphotody-namictherapyinneovascularage-relatedmaculardegen-eration:year1resultsoftheFOCUSStudy.ArchOph-thalmol124:1532-1542,200618)RegilloCD,BrownDM,AbrahamPetal;ThePIERStudyGroup:Randomized,Double-Masked,Sham-Con-trolledTrialofRanibizumabforNeovascularAge-relatedMacularDegeneration:PIERStudyYear1.AmJOph-thalmol145:239-248,200819)ChunDW,HeierJS,ToppingTMetal:Apilotstudyofmultipleintravitrealinjectionsofranibizumabinpatientswithcenter-involvingclinicallysignicantdiabeticmacu-laredema.Ophthalmology113:1706-1712,200620)NguyenQD,TatlipinarS,ShahSMetal:Vascularendothelialgrowthfactorisacriticalstimulusfordiabeticmacularedema.AmJOphthalmol142:961-969,200621)KvantaA,AlrevePV,BerglinLetal:Subfovealbrovas-cularmembraneinage-relatedmaculardegenerationexpressvascularendothelialgrowthfactor.InvestOphthal-molVisSci37:1929-1934,199622)LeungDW,CachianesG,KuangW-Jetal:Vascularendothelialgrowthfactorisasecretedangiogenicmito-gen.Science246:1306-1309,198923)MacugenAMDStudyGroup,ApteRS,ModiMetal:Pegaptanib1-yearsystemicsafetyresultsfromasafety-pharmacokinetictrialinpatientswithneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology114:1702-1712,200724)GragoudasES,AdamisAP,CunninghamJrETetal:andVEGFInhibitionStudyinOcularNeovascularizationClini-calTrialGroup:Pegaptanibforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed351:2805-2816,200425)VEGFInhibitionStudyinOcularNeovascularization(V.I.S.I.O.N.)ClinicalTrialGroup,ChakravarthyU,AdamisAP,CunninghamETJretal:Year2ecacyresultsof2randomizedcontrolledclinicaltrialsofpegap-tanibforneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology113:1508.e1-1525,200626)SteinbrookR:Thepriceofsight─ranibizumab,bevaci-zumab,andthetreatmentofmaculardegeneration.NEnglJMed355:1409-1412,2006文献1)ArevaloJF,Fromow-GuerraJ,Quiroz-MercadoHetal;Pan-AmericanCollaborativeRetinaStudyGroup:Prima-ryintravitrealbevacizumab(Avastin)fordiabeticmacularedema:resultsfromthePan-AmericanCollaborativeRet-inaStudyGroupat6-monthfollow-up.Ophthalmology114:743-750,20072)DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork,ScottIU,EdwardsARetal:AphaseIIrandomizedclinicaltrialofintravitrealbevacizumabfordiabeticmacularedema.Oph-thalmology114:1860-1867,20073)PaccolaL,CostaRA,FolgosaMSetal:Intravitrealtriam-cinoloneversusbevacizumabfortreatmentofrefractorydiabeticmacularoedema(IBEMEstudy).BrJOphthal-mol92:76-80,20084)BashshurZF,HaddadZA,SchakalAetal:IntravitrealBevacizumabforTreatmentofNeovascularAge-relatedMacularDegeneration:AOne-yearProspectiveStudy.AmJOphthalmol145:249-256,20085)BashshurZF,SchakalA,HamamRNetal:Intravitrealbevacizumabvsvertepornphotodynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration.ArchOph-thalmol125:1357-1361,20076)MeyerleCB,FreundKB,IturraldeDetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)forretinalangiomatousprolifera-tion.Retina27:451-457,20077)GomiF,SawaM,SakaguchiHetal:Ecacyofintravit-realbevacizumabforpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol92:70-73,20088)RonanSM,YoganathanP,ChienFYetal:Retinalpig-mentepitheliumtearsafterintravitrealinjectionofbeva-cizumab(avastin)forneovascularage-relatedmaculardegeneration.Retina27:535-540,20079)ChanWM,LaiTY,LiuDTetal:Intravitrealbevacizum-ab(Avastin)formyopicchoroidalneovascularization:six-monthresultsofaprospectivepilotstudy.Ophthal-mology114:2190-2196,200710)RinaldiM,Dell’OmoR,RomanoMRetal:Intravitrealbevacizumabforchoroidalneovascularizationsecondarytoangioidstreaks.ArchOphthalmol125:1422-1423,200711)CorderoComaM,SobrinL,OnalSetal:Intravitrealbev-acizumabfortreatmentofuveiticmacularedema.Oph-thalmology114:1574-1579,200712)MordentiJ,CuthbertsonR,FerraraNetal:Comparisonsoftheintraoculartissuedistribution,pharmacokinetics,andsafetyof124I-labeledfull-lengthandFabantibodiesinrhesusmonkeysfollowingintravitrealadministration.Tox-icolPathol27:536-544,199913)KaiserPK,BlodiBA,ShapiroHetal:MARINAStudyGroup:AngiographicandopticalcoherencetomographicresultsoftheMARINAstudyofranibizumabinneovascu-larage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology114:1868-1875,2007(41)

ぶどう膜炎

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS者への投与は慎重に行う必要がある1,2).眼感染症に起因する炎症に対してステロイド薬を用い,過剰な治癒反応を抑えることは,病原体の駆逐の面ではマイナスである.病原体の駆逐を優先するべきなのか,過剰な治癒反応を抑えるべきか(つまりステロイド薬を使うのか)はいつも悩む問題である.感受性検査に基づく的確な抗菌薬の投与とともに,どの時期からどれだけの量のステロイド薬を使用するのか微妙なさじ加減が必要となる.またステロイド薬投与による眼合併症に対しても注意が必要である2).おもなものは白内障と緑内障である.これら眼合併症は喘息・膠原病などで長期にステロイド薬全身投与を受けている患者のみならず,ステロイド薬点眼でも誘発される.2.ぶどう膜炎局所ステロイド薬治療ぶどう膜炎治療の基本はステロイド薬の局所投与である.局所投与法としては点眼,結膜下注射などが一般的だが,ときにTenon下,球後注射,硝子体腔注射なども行われる(現時点では,硝子体腔注射は倫理委員会の承認を得て行うべきである).おもに前眼部病変に対しては点眼・結膜下注射,中間部ぶどう膜炎や後眼部病変に対しては後部Tenon下注射で対応する3).加えて適切な瞳孔管理がきわめて重要である.眼局所投与は全身的な副作用が少ないが,それでもステロイド緑内障,白内障などを起こすことがある.使われるステロイド薬はじめにぶどう膜は眼球内で唯一豊富な血流を有する部位である.単位体積当たりの血管が多く,さまざまな全身血管病に伴う眼炎症の起炎部位になりやすい.ぶどう膜炎といっても単にぶどう膜の炎症のみを指すのではなく,眼球内炎症の総称である.ゆえに,最近は広く眼全体の炎症状態を代表する呼び名として国際的には「内眼炎(intraocularinammation)」といわれるようになってきた.ぶどう膜炎は大きく自己免疫病などの内因性のものと,感染症などの外因性のものに分類できる.本稿では特に内因性のぶどう膜炎薬物治療について,副腎皮質ステロイド薬とそれ以外に分けて概説する.また近年治療に変化が起きつつあるBehcet病を取り上げ,現在の知見をまとめてみたい.I副腎皮質ステロイド薬1.全般的留意点眼科領域におけるステロイド薬投与法には大きく分けて全身投与と局所投与がある.いずれの投与法であれ,ステロイド薬は副作用の明らかな薬剤であり,投与する際に常にそのリスクとベネフィット比を考えなくてはならない.ぶどう膜炎治療では大量のステロイド薬を使う機会もあり,その場合全身管理の面から他科との連携は不可欠である.感染症(結核,ウイルス性肝炎など),糖尿病,骨粗鬆症,精神疾患など全身基礎疾患がある患(29)303*KoheiSonoda:九州大学大学院医学系研究院眼科学〔別刷請求先〕園田康平:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学系研究院眼科学特眼科薬物治療トレンド2008あたらしい眼科25(3):303308,2008ぶどう膜炎CurrentMedicalTreatmentforUveitis園田康平*———————————————————————-Page2304あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(30)はよく反応するが,漸減や中止のたびに再発するため,ステロイド薬を中止できない症例.⑤糖尿病などの合併性があり,長期間のステロイド薬投与が躊躇される症例.④ステロイド薬を処方してもコンプライアンスが良好でない症例.この治療法は眼内にステロイド薬徐放製剤を埋植するため,白内障や緑内障を起こす可能性がある.しかし,すでに白内障の手術が終わり,ステロイドレスポンダーでないことが確認されている症例には有効であろう.また,高齢者などに対するステロイド薬全身投与のリスクを考えると,全身的副作用を軽減できる点からも有用な治療法の一つになりうると考えられる.3.ぶどう膜炎全身ステロイド薬治療ステロイド薬を発症初期から大量に投与する必要のある代表的な疾患にVogt-小柳原田病がある5).初期量としてベタメタゾンなどの長期間持続性のあるステロイド薬をプレドニゾロン換算で200240mg/日から点滴静注として投与する.眼所見の改善を確認しながら徐々に減らし,プレドニゾロン換算で5060mg/日となったところで同量のプレドニゾロン内服に切り替える.その後,34カ月かけて内服量を漸減する.一方,メチルプレドニゾロン1,000mgを3日間点滴静注し,その後プレドニゾロン内服4060mg/日から漸減するパルス療法も行われることがある.いずれにせよ初回治療が非常に大切で,発症後早期に十分量のステロイド薬が投与されないと再発をくり返す,いわゆる遷延型に移行し,不可逆的な視機能障害に至る可能性が出てくる.Vogt-小柳原田病以外のぶどう膜炎に関しては,前述したとおり,治療の大原則はステロイド薬局所投与である.しかし,局所治療に反応せず,強い硝子体混濁や広範囲にわたる網膜血管炎,汎ぶどう膜炎に付随する黄斑浮腫などが存在する場合にはステロイド薬全身投与が適応となる.その投与量や投与期間については個々の症例に応じた匙加減が必要で,画一的な処方はない.たとえば,重症のサルコイドーシスなどではプレドニゾロン3060mg/日の内服から開始し,所見の改善にあわせて2030mg/日までは早めに減量し,その後は1カ月の種類は局所投与用としてはリン酸ベタメタゾン,デキサメタゾン,プレドニゾロン,フルオロメトロンなどで,点眼,眼軟膏製剤として使われる.現在日本で使用できるステロイド点眼薬の種類は大きく制限されている.単一の点眼薬をむやみに長く処方するのではなく,効果の強い製剤から徐々に弱い製剤に移行させながら治療するのが本来の姿である.皮膚科などで,さまざまな強さの数十種のステロイド製剤が存在し,さまざまな治療の選択肢が存在するのに比べると明らかに見劣りする.また,点眼薬のなかで最強のリン酸ベタメタゾン(リンデロンR)ですら全ステロイド製剤のなかでは中間の部類に属しており,真に重篤な炎症をコントロールできる点眼薬が日本には存在しない.当局が副作用を恐れるために,有望な新薬の開発ならびに上市をなかなか承認しないのが問題であるが,眼科医側からも草の根的な要望を出し続ける必要がある.最近,遷延性のぶどう膜炎症例に対して全身投与を行う前に,まずはトリアムシノロンなどの持続性デポ型ステロイド製剤(1020mg)の経Tenon下球後投与などが行われることが以前にも増して多くなった4)(その結果,全身投与が施行される頻度が減少しており,喜ばしいことである).トリアムシノロンは厳密には現行の保険でぶどう膜炎に使用できない.眼局所注射用の製剤の承認が待たれる.また,眼内にインプラントを設置し,数年にわたり有効濃度のステロイド薬を眼内に徐放させる製剤の開発・治験も行われている.これはフルオロシノロンアセトニドというステロイド薬を継続的に眼内で徐放するインプラントである(ボシュロム社).強膜側から毛様体に3.5mmの切開を加え,ステロイド薬を含んだインプラントを硝子体腔に挿入し,プロリン糸で強膜に固定する.一度埋植すると,眼内で有効に働く濃度のステロイドを3年間持続的に徐放する仕組みになっている.外科的な手技を必要とするので,すべての症例に勧められる治療法ではないが,以下のようなケースはよい適応であろう.①後眼部の炎症が主体で,ステロイド薬の点眼だけでは炎症をコントロールできない慢性のぶどう膜炎.②慢性のぶどう膜炎で,ステロイド薬の全身投与に———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008305(31)らしつつある.インフリキシマブ以外にも同じ腫瘍壊死因子a(TNF-a)拮抗薬として,エタネルセプトやアダリムマブといった製剤のぶどう膜炎治療への応用が今後進む可能性がある.また他のサイトカインや細胞表面分子をターゲットにした製剤がつぎつぎに開発されている.今後はどの生物学的製剤を取捨選択し,どの時期にどのような形で使用するか?という臨床プロトコール作りが課題になってくると思われる.IIIBehcet病に伴うぶどう膜炎治療の進歩1.Behcet病ぶどう膜炎の基本薬物治療Behcet病は1:口腔内難治性アフタ潰瘍,2:結節性紅斑などの皮膚症状,3:虹彩毛様体炎・網脈絡膜炎(ぶどう膜炎),4:外陰部潰瘍を主症状とする原因不明疾患である.なかでも眼症状は重篤で失明に至るケースが多く,本症患者のQOL(qualityoflife)を著しく低下させている.Behcet病の眼病変の特徴は眼内各組織の閉塞性血管炎を主体とした眼組織全体の炎症である.症状は一過性であるが,炎症は再燃しやすい.再燃を重ねるに従って,種々の器質的障害が残るようになり,ついには失明またはそれに近い状態まで視機能が低下する.眼病変に対する治療は急性期と緩解期で異なる.急性期にはステロイド薬の点眼,結膜下・後部Tenon下注射といった局所投与を頻回に行う.こうして急性発作が落ち着いた緩解期に,発作頻度減少を目的とした治療を行う.まずコルヒチン0.51.5mgを経口投与する.コルヒチン単独で無効の場合,シクロスポリン(ネオーラルR)を併用内服する.5mg/kg/日を目安に投与を開始し,特に投与初期は血中トラフ値(シクロスポリンの血中最低濃度)が高くならないように気を配りながら投与量を加減する(通常100ng/ml以下).副作用として肝腎障害や神経Behcet病の誘発があり,特に後者は生命予後にも関わる問題であるため,本薬剤の使用開始に当たっては十分な注意が必要である.2.インフリキシマブの適応と注意点インフリキシマブ(レミケードR)が,わが国での3つの治験を経て6),2007年1月よりBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に適応認可された.インフリキシマブから2カ月ごとに5mgずつ減量する.原因不明の急性劇症型ぶどう膜炎で,毛様体機能が著しく低下して低眼圧をきたしている症例などでは短期間のステロイドパルス療法が有効なことがある.前述のメチルプレドニゾロン500mg/日の点滴静注を3日間施行する.こうしたステロイド薬の全身投与を行った際は,副作用の発現に注意が必要である2).消化管潰瘍,骨粗鬆症,感染症,精神症状など多くの点に注意を払わなくてはならない.特に中高年の症例にステロイド薬の長期投与を余儀なくされた場合に問題となるのが骨粗鬆症である.最近はこのステロイド骨粗鬆症に対し,ビスホスホネートという薬剤が有効であることがわかってきた.整形外科に依頼して骨密度を定期的に測定しながら,必要に応じて内科や整形外科での加療を早めに依頼することも肝要である.II非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:non-steroidalanti-inammatorydrugs)と免疫抑制薬,代謝拮抗薬,生物学的製剤ぶどう膜炎に伴う眼内炎症抑制にエビデンスのあるNSAIDs内服薬はない.唯一,有効な局面があるとすれば,充血や毛様痛の激しい急性発症の前部ぶどう膜炎の鎮静化や,随伴する眼外症状の緩和目的に使用される程度である.現在日本で使用できるぶどう膜炎に対して免疫抑制薬は,Behcet病に対するシクロスポリンのみである(使用法については次項で述べる).しかし諸外国では,メトトレキサート,アザチオプリン,シクロフォスファミドなどの代謝拮抗薬が使用され,ある程度の効果をあげている.日本で免疫抑制薬・代謝拮抗薬の処方が制限されていることが診療に及ぼす影響は計り知れない.特にステロイド薬の全身副作用のある症例に(すべてとは言わないが)有効である可能性が高い.徐々にでもよいので免疫抑制薬・代謝拮抗薬の保険適用を広げていく必要がある.生物学的製剤が次世代治療薬として関心が高まっていることは周知の事実である.Behcet病に伴う難治性ぶどう膜炎に対し,2007年1月にインフリキシマブ(レミケードR)が保険適用となり治療に劇的な変化をもた———————————————————————-Page4306あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(32)向きがちだが,インフリキシマブはいわゆる生物学的製剤とよばれる新しい治療薬であり,また全身投与をする以上,投与前には投与可能かどうかの全身検査が必須であり,投与後も全身的な副作用に常に注意を払うことが必要である.まず本製剤ならびにマウス由来蛋白質に対する過敏症の既往歴,脱随疾患およびその既往歴,うっ血性心不全,重篤な感染症,活動性結核,がある場合は投与禁忌となっている.これらを確認した後,以下に進む.a.結核問診で結核既往歴を聴取し,ツベルクリン反応の検査を行う.また胸部X線,必要に応じて胸部CT(コンピュータ断層撮影)も追加する.これらの検査の結果,既感染が疑われる場合には必要に応じて抗結核薬の同時投与も検討しなければならない.b.肝炎B型肝炎ウイルスキャリアの患者においてB型肝炎ウイルスの再活性化が報告されている.HBs(B型肝炎表面)抗原を調べ,陽性であった場合には定期的な肝機能検査や肝炎ウイルスマーカーのモニターを行う.C型肝炎も同様である.c.その他の感染症採血を行い,白血球やリンパ球の上昇があったり,またb-d-グルカン陽性がみられたら感染症のリスクが高くなる.感染症の早期発見に努め,必要に応じて早期治療を行う.4.インフリキシマブの副作用副作用の種類としては,抗体製剤であることによる副作用と,TNF-aを抑制することによる副作用,の2つに大別される.a.抗体製剤であることによる副作用(1)Infusionreaction(投与時反応)即時型過敏症のことで,投与開始から投与後2時間以内に認められた副作用をいう.頭痛,発熱,めまい,血圧上昇,痒,嘔吐などがある.5.4%で起こると報告されている8).軽度のものでは点滴速度を下げるなどで対応するが,中等度以上のものでは点滴中止や抗ヒスタミン薬やステロイド薬追加投与などで対応するが,場合はあらゆる炎症の起点となるサイトカインTNF-aに対する抗体製剤で,マウス由来抗ヒトTNF-aモノクローナル抗体のうち,TNF-aへの結合部(可変部)のみを残し,定常領域をヒトIgG(免疫グロブリンG)に変換したキメラ抗体である.TNF-aを無力化するだけでなく,TNF-a産生細胞をも傷害することにより,炎症を抑制する7).具体的にはインフリキシマブ(5mg/kg)を0,2,6,14週(以後8週おき)で点滴投与する(図1).インフリキシマブがBehcet病による網膜ぶどう膜炎に適応承認されて以来,各施設で発作を頻回にくり返す難治性の眼Behcet病患者に順次導入され,結果報告が出てきつつある.それによるとおおむね眼発作の頻度は激減し,眼科的には著効しているといえるようである.忘れてはならないのは,「インフリキシマブはBehcet病治療の第一選択ではない」ということである.インフリキシマブ投与には後述するさまざまなリスクがある.(現時点では)Behcet病と診断したらまずはコルヒチン・シクロスポリンといった従来通りの治療を行うべきである.従来の治療に抵抗する,または副作用でコルヒチン・シクロスポリンの投与ができない症例に限りインフリキシマブの適応になる.今後症例数が増え安全性がより確立されるようなら,インフリキシマブのトップダウン療法などが検討される可能性がある.3.インフリキシマブ投与前の必須検査眼科ではぶどう膜炎の病勢がどうなるかにばかり目が図1インフリキシマブ(レミケードR)治療の実際インフリキシマブ(5mg/kg)を0,2,6,14週(以後8週おき)で点滴投与する.効能・効果Beh?et病による難治性網膜ぶどう膜炎(既存治療で効果不十分な場合に限る)用法・用量通常,体重1kg当たり5mgを1回の投与量とし点滴静注する.初回投与後,2週,6週に投与し,以後8週間の間隔で投与を行う.01020304050週02614223038468週間隔———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008307(33)でも一定の効果をあげている.ゆえにBehcet病患者に対し顆粒球除去治療が有効だと考えられた.アフェレーシスとは,人工デバイスを用いて,血液から何らかの成分を除去する治療の総称である.血液透析や血漿交換など老廃物や毒素を除く治療や,自己免疫病で自己抗体を特異的に除去する治療などを指す.しかし液性成分のみでなく,特定血球細胞を除去する治療も重要なアフェレーシスの分野である.顆粒球除去療法は酢酸セルロースビーズで充満されたカラム内に血液を体外循環させ,顆粒球をビーズに吸着させることで生体内から除去する(図2).顆粒球は文字通り細胞内顆粒をもった細胞の総称であるが,生体内の多くの顆粒球は好中球であるため,臨床的には「好中球除去療法」という意味合いをもつことが多い.眼症状を伴う活動期Behcet病患者に対し,顆粒球除去治療を行った.対象は従来の治療に抵抗して眼発作をくり返すBehcet病患者とした.顆粒球除去には酢酸セルロースビーズカラム(アダカラム)を使用し,治療効果判定は,治療前後6カ月間の眼発作回数で行った.エントリーした14例中,9例は治療後発作回数が減少し「効果あり」と判定した.全体の平均発作回数は,治療前4.2±1.6回,治療後2.9±1.4回(p=0.028)であった.発症からの5年以上経過した症例が,有効例が多かった11).本治療で最も注目すべきは重篤な副作用がないとによっては気道確保なども必要なこともある.(2)遅発性過敏症前回投与から一定期間置いて再投与する場合に,投与後3日以上経過して発現する過敏症をいう.筋肉痛,発疹,発熱,関節痛などがある.b.TNFaを抑制することによる副作用TNF-aは多くの炎症性疾患の元凶となってはいるが,本来正常な作用では,腫瘍の増殖を抑制したり,また感染防御機構の一翼を担っている.したがって,TNF-aを極端に抑制すると,腫瘍増大や感染症をひき起こす危険性が高まる.(1)感染症の発症関節リウマチにおける日本での調査では,細菌性肺炎の発症率は2.2%,結核の発症率は0.3%となっている.結核は投与前のスクリーニングや抗結核薬の予防投与により発症を抑えることができる.(2)悪性腫瘍の発症,悪化悪性リンパ腫や皮膚癌などが報告されてはいるが,自然発症頻度と差はなく,関連性は明らかではない.(3)ループス様症候群海外で結節性紅斑の悪化例9)や,抗ds(二本鎖)DNA抗体の上昇例が報告されている10).投与後のループス様症候群を思わせる徴候が認められ,さらに抗dsDNA抗体陽性化が認められた場合には投与を中止しなければならない.(4)脱随疾患既往がある場合は投与禁忌であり,疑いの場合は必要に応じて画像診断などを行う.5.顆粒球除去療法による治療Behcet病に伴うぶどう膜炎発作に活性化型顆粒球が深く関わることが知られている.虹彩や毛様体から前房や硝子体中に好中球が遊走し,前房蓄膿や硝子体混濁になる.前房水スメアをギムザ染色すると,前房蓄膿の構成細胞はほとんどが分葉核をもつ好中球であり(非肉芽腫性虹彩ぶどう膜炎),好中球の何らかの異常がBehcet病を誘発すると考えられる.Behcet病と同様に顆粒球が発作に関わる潰瘍性大腸炎患者に対し顆粒球除去治療が行われ,副腎皮質ステロイド薬が効きにくい重症患者図2顆粒球除去療法の実際患者の一方の肘静脈を脱血側,反対側の肘静脈を返血側として血管を確保する.静脈から静脈に専用ポンプを用いて循環させ,途中でカラムを通すことでビーズに顆粒球を吸着させる.循環条件は血液流量:30ml/分,循環時間:1時間,処理血液量:1,800ml,体外流出血液量:約200mlである.返血脱血アダカラム(酢酸セルロースビーズカラム)肘静脈(脱血側)抗凝固剤注入口肘静脈(返血側)———————————————————————-Page6308あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(34)1009-1019,19852)若倉雅登:ステロイド薬剤および免疫抑制剤の使用と眼科における注意点.あたらしい眼科17:11-15,20003)YoshikawaK,KotakeS,IchiishiAetal:Posteriorsub-Tenoninjectionsofrepositorycorticosteroidsinuveitispatientswithcystoidmacularedema.JpnJOphthalmol39:71-76,19954)OkadaAA,WakabayashiT,MorimuraYetal:Trans-Tenon’sretrobulbartriamcinoloneinfusionforthetreat-mentofuveitis.BrJOphthalmol87:968-971,20035)沼賀二郎:ぶどう膜炎治療薬の副作用.あたらしい眼科17:1353-1357,20006)OhnoS,NakamuraS,HoriSetal:Ecacy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofiniximabinBehcet’sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.JRheu-matol31:1362-1368,20047)稲森由美子,水木信久:ベーチェット病の抗TNFa抗体療法.眼科48:489-503,20068)ChefetzA,SmedleyM,MartinSetal:Theincidenceandmanagementofinfusionreactionstoiniximab:alargecenterexperience.AmJGastroentenol98:1315-1324,20039)YuselAE,Kart-KoseogluH,AkovaYAetal:Failureofiniximabtreatmentandoccurrenceoferythemanodo-sumduringtherapyintwopatientswithBehcet’sdisease.Rheumatology43:394-396,200410)KatsiariCG,TheodossiadisPG,KaklamanisPGetal:Suc-cesfullong-termtreatmentofrefractoryAdamantiades-Behcet’sdisease(ABD)withiniximab.AdvExpMedBiol528:551-555,200311)NambaK,SonodaK-H,KitameiHetal:Granulocyta-pheresisinpatientswithrefractoryocularBehcet’sdis-ease.JClinApher21:121-128,2006いうことである.Behcet病に関与する病的活性化型好中球を選択的に除去するため,感染防御に必要な好中球は温存される.ゆえに治療後易感染性となることもない.筆者らが行ったパイロットスタディの結果は,顆粒球除去療法が再発性の眼発作に苦しむBehcet病患者にとってある一定の効果があることを示している.しかし,(今回は潰瘍性大腸炎で行われているプロトコールを踏襲したが)眼発作をすべて抑制できるわけではなく,またまったく効果がなかったと思われる症例も存在した.作用機序の解明や,プロトコールの改善も含め引き続き検討していく必要がある.おわりに内因性のぶどう膜炎薬物治療について,現時点でトピックになるものをまとめてみた.今後症例を積み重ねて,個々の治療の最適な適応と投与法を見出していくことが大切である.またステロイド治療一辺倒ではなく,それ以外の治療をうまく組み合わせることで,薬物効果を高めながら,同時に副作用も減らせるような工夫が必要になると思われる.文献1)臼井正彦,坂井潤一:眼科薬物治療法─卒後研修医のために,ステロイド薬剤の眼科における使用法.眼科27: