———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSなものは,①日本の視神経炎には乳頭腫脹を呈するものが多い,②日本の視神経炎ではMSに移行するものが少ない,③日本の視神経炎では頭部MRI(磁気共鳴画像)にて脱髄病変を呈するものが少ない,である5).しかし,日本でも,視神経炎で発症しMSへ移行する例があることは無視できず,典型的視神経炎であれば,基本的な管理法は,米国と変わりないと思われる.ただ頻度が少ないだけである.典型的な症例を供覧する.III典型的視神経炎〔症例1〕32歳,女性.主訴は眼のかすみ.約1週間前より左眼のかすみを自覚した.眼球運動痛を有していた.2年前に左手のしびれを生じ,原因不明といわれた既往がある.はじめに多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)と視神経炎については,以前,他誌で述べさせていただいた1).今回はその新しい話題を紹介したい.そして,それをどう臨床に生かすかを,症例を提示してお伝えしたい.話題の中心は,①視神経炎治療トライアル(OpticNeuritisTreatmentTrial:ONTT)の10年後の結果,②視神経炎とインターフェロン療法について,③Devic型の視神経炎についてである.I視神経炎をみたときの基本的な考え方周知のように,視神経炎は日常診療においてしばしば遭遇する疾患である.一方で,視神経炎はバラエティーに富んだ疾患である.その意味は,基礎にある病態により,管理や治療,予後がまったく変わるということである.したがって,しっかりとした診断をしなければ痛いめにあう.そのためには,ある基準が必要である.筆者は視神経炎の患者をみた際に,まず典型的視神経炎か否かを判断する.典型的視神経炎の特徴を表1に示す.II日本の視神経炎と米国の視神経炎との相違点典型的視神経炎であれば,基本的にONTTに従って管理する.ONTTの10年後の結果が発表された24).その際,日本の視神経炎と米国の視神経炎との相違を頭の中に入れておかなければならない.その相違点のおも(19)1569*HidekiChuman:宮崎大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕中馬秀樹:〒889-1692宮崎県宮崎郡清武町大字木原5200宮崎大学医学部眼科学教室特とっても身近な神経眼科あたらしい眼科24(12):15691576,2007視神経炎アップデートOpticNeuritisUpdate中馬秀樹*表1典型的視神経炎の臨床的特徴年齢:1545歳性別:女性に多い所見:急性,亜急性の片眼性視力低下眼球運動痛あり視野欠損Relativeaerentpupillarydefect(RAPD)陽性視神経乳頭正常または腫脹臨床経過:無治療では,発症後7日以内で最低視力になり,14日以内に改善開始,ほとんどの症例で30日以内に軽快する.1年かかる症例もある.70%が視力1.0に達する.治療を行うと,改善が2週間以内に早くなる.(TrobeJD:TheNeurologyofVision.OxfordUniversityPress,NewYork,2001,p209,Table12-2より抜粋)———————————————————————-Page21570あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(20)MRI検査を施行しなければならない.本症例も,まず頭部MRIを施行すべきである.実際の頭部MRIを図3に示す.脱髄病変を認める.IVONTTの新しい知見による管理ONTTの新しい知見としては,発症後10年では,MRIでまったく脱髄病変がみられなかった場合は22%,MRIで1つ以上脱髄病変がみられた場合は56%がMSに移行した2).そして,病変の数はMS移行への危険を増加させなかった.したがって,本症例でも10年以内視力は右眼1.2,左眼0.3.左眼RAPD(相対的入力瞳孔反射異常)陽性.視神経乳頭腫脹はみられず(図1),視野は左眼単眼性の分類不能型の視野欠損であった(図2).この症例は,典型的視神経炎の臨床的特徴をよく反映している.したがって,ONTTの10年後の結果に基づいて管理,治療していけばよい.頭部MRI検査は,最も有用なMSへの移行の予測因子である6).したがって,典型的視神経炎であれば,全例に頭部図1症例1の眼底写真乳頭腫脹を認めない.図2症例1の視野左眼分類不能型視野欠損を示す.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071571(21)回復に関しては,文献1)を参照していただきたい.MSへの移行を抑えるという点に関しては,インターフェロン(IFN)の使用が問題となってくる.1回だけの視神経炎あるいは脊髄炎などの中枢脱髄性の臨床イベントがあっただけの患者へIFNbを早期から投与し,その後の臨床あるいはMRI上だけの第2回目のイベントが生じ,MSとして確定診断に至ることを抑制するか否かを非投与群と比較する臨床研究が,3件発表されている.CHAMPSスタディ,PRISMSスタディといわれるものである.いずれの試験でも早期投与により有意にMSへと発展することを予防する効果,障害のにMSに移行する可能性が高いということが判明した.また,あまり注目されることはないが,典型的視神経炎の特徴を有する患者455人のなかで,2人(0.4%)に視神経の圧迫病変がみられた.1人は動脈瘤,1人は下垂体腺腫であった7).したがって,典型的視神経炎であっても圧迫病変も必ずチェックすべきである.V典型的視神経炎の治療(特にインターフェロン療法について)典型的視神経炎患者に対する治療の目的は,視機能回復と,MSへの移行を抑えるという2つになる.視機能図3症例1の頭部MRIFLAIR画像側脳室周辺部に脱髄病変を認める.———————————————————————-Page41572あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(22)この問いにもONTTがヒントをくれる.ベースライン(発症時)で正常なMRIであった患者のうち,44%が10年後臨床的にMSの発症をみなくても少なくとも1つ以上の3mm以上の大きさの新しい脱髄病変がみられた2).したがって,発症時のMRIで脱髄病変がみられなくても,6カ月ごとにMRIを撮影する必要があることがわかった.IX非典型的視神経炎─その1さて,つぎの症例はどうであろうか?〔症例2〕17歳,女性.2週間前に右眼のかすみに気づいた.眼球運動痛はみられなかった.今回,右眼の急激な視力低下に気づいた.眼球運動痛はみられない.また,しびれなどの他の神経症状はみられない.以前,皮膚病変があり,SSA,SSB抗体陽性で,Sjogren症候群疑いといわれたことがある.視力は右眼0.01,左眼0.8.右眼RAPD陽性.視神経乳頭腫脹はみられず(図4),視野は,両眼性の分類不能型の視野欠損であった(図5).ステロイド治療開始翌日に,両眼視力光覚なしに低下した.この症例は典型的視神経炎ではない.異なる点は,眼球運動痛がみられないこと,2週間のうちに両眼の視神経が障害されたことである.典型的視神経炎では,片眼視力低下のあとに僚眼に発症するのは,通常数カ月後である.XDevic型またはneuromyelitisoptica(NMO)の視神経炎の特徴この症例は,筆者は,Devic型の視神経炎に特徴的であると考えた.その特徴を以下に示す.(1)片眼ずつであるが比較的短期間に両眼性に発症する.(2)眼球運動痛がまったくない.(3)視力低下が強い.(4)ステロイドに対する反応が悪い.(5)他の自己抗体を合併する(SSA,SSB,抗核抗体など).この症例では,Sjogren症候群による視神経炎との鑑別が必要になる.鑑別は,MRI所見と,ステロイドに進行抑制効果が示されている8).それらは,メチルプレドニゾロン1,000mgパルス点滴の後,投与開始している.現在国内では,IFNb1b(ベタフェロンR)とIFNb1a(アボネックスR)が利用可能である.前者は隔日の皮下注射,後者は週1回の筋注である.これらには,インフルエンザ様症状の副作用がある.以前はIFNb1bしかなく,使用しにくかったが,IFNb1aのほうは週1回の筋注であるため,使いやすいかもしれない.VIインターフェロン療法の注意点しかし,ここで注意せねばならない点が出てきた.(1)インターフェロンの効果は,上記症例のような,典型的視神経炎に限られるということである.日本人に多いとされる,後述するDevic型のタイプでは,使用すると,逆に悪化させるとの報告も出てきている9).このことは,臨床診断がとても重要であることを示している.(2)脳機能障害・脳萎縮・高次脳機能の低下が緩徐に進行する患者の存在などの報告もみられる8).(3)先日ミシガン大学のTrobe先生に聞いたところ,同大学では,副作用の点から,インターフェロン療法を次第に行わなくなってきているということである.VIIインターフェロン療法の実際筆者は,以上の点から,なかなかインターフェロン療法に踏みきれないのが現状である.この症例では,患者とよく話し合い,結局ステロイドパルスのみで,インターフェロン療法は施行しなかった.そして,経過を神経内科医とともに観察し,もし新たな神経症状が出現すれば,積極的な治療を行うということになった.なぜならば,再発,寛解型MSに対しては,IFNb1b非投与あるいは中断群に比べ,長期投与群は障害進行,再発頻度,MRI病巣のいずれでも有効性が示されているからである8).いずれにしろ,インターフェロン療法に関しては,今後の動向に注目していくことが必要である.VIII頭部MRIが陰性であったときの管理仮にこの患者のMRIに異常がなかったらどうであろうか?———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071573(23)XINMOの診断と管理,治療法NMOの診断にも各意見がある.本症例のように,頭部MRIに脱髄を生じる症例もあり,常にMSとの相違についての議論がなされてきた.近年,NMOの新しい診断基準が提唱された(表2).よる反応性による.本症例では,ステロイドに反応性でなく,また,頭部だけでなく,頸髄にも3椎体以上の脱髄病変を認めた(図6,7).以上より,やはりDevic型,またはNMOと診断した.図4症例2の眼底写真乳頭腫脹を認めない.右眼左眼図5症例2の視野———————————————————————-Page61574あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007NMOと診断された場合,現時点でのエビデンスでは,以下の注意が必要である.(1)ステロイドに対する反応性が悪く,視力予後が悪い.この点は,いたずらにステロイドパルス療法を何度もくり返してしまう可能性があることを意味する.それよりも血漿交換療法や,他の免疫抑制薬を使うことを考慮すべきである.(2)インターフェロン療法は,逆に全身神経症状を悪化させる可能性がある.したがって,インターフェロン療法が有効とされる,いわゆる典型的視神経炎との鑑別をしっかり行うべきである.XIINMOとアクアポリン抗体最近,NMOの症例で,アクアポリン抗体の陽性率が高いという報告が出てきている.Lennonらは米国でのNMOの6070%にaqua-porin-4抗体が特異的に出現すると報告し注目を浴びた.Aquaporin-4は細胞膜に広く分布するdystrogly-canproteincomplexでwaterchannel分子として重要な役割をもつが,中枢神経に特に多く存在している.Bloodbrainbarrierを形成する中枢神経血管内皮細胞の神経間隙側に接するastrocyticfootprocessに局在する.NMOと診断された症例の中枢神経病巣では,astrocyteのaquaporin-4が失われ,IgG(免疫グロブリンG)と活性化補体分子の沈着が観察され,aqua-porin-4が自己免疫の標的抗原として自己抗体の攻撃対象となっていることが示唆されている8).症例2も,アクアポリン抗体陽性であった.視神経炎とアクアポリン抗体との関連はいまだはっきりしておらず,今後の検討が待たれる課題である.XIII非典型的視神経炎─その2症例をもう一つ.少し病歴が長いが,大事な症例であるのでがまんして読んでいただきたい.〔症例3〕24歳,女性.1週間前から右眼の見にくさを自覚し,A眼科を受診した.視力は,右眼=(0.01)であった.眼球運動痛はなかった.視神経炎と診断され,ステロイドパルス療法を受けた.2,3日で視力1.2に改善した.ステロイド中止後すぐに左眼の視力低下を自覚,視力光覚まで低下し(24)表2Neuromyelitisoptica(視束脊髄炎,視神経脊髄炎)の診断基準(2006年)以下の3つすべてを満たす視神経炎脊髄炎以下の3つの補助基準のうち少なくとも2つを満たす1.3椎体以上に及ぶ連続的な縦長のMRI脊髄病変2.MRI脳病変がPatyのMS診断基準を満たさない3.血清NMOIgG陽性(WingerchukDMetal:Neurology66:1485-1489,2006より)図6症例2の頭部MRIFLAIR画像側脳室周辺部に多数脱髄病変を認める.図7症例2の頸椎MRIFLAIR画像長い脱髄病変を認める.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071575(25)この症例も典型的視神経炎ではない.異なる点は,眼球運動痛がみられないこと,ステロイドに対して反応性,依存性を呈していることである.典型的視神経炎では,ステロイドパルス後も,ゆっくり視力が回復してくる1).また,症例2のようなDevic型とも異なる.Devic型では,ステロイドに対して反応性,依存性を呈することはない.た.その翌日,右眼の視力低下を自覚,0.01に至った.眼球運動痛はなかった.ステロイドパルス療法を受け,すぐに両眼1.2に回復した.その時点で頭部,頸椎MRIにてMSと診断された(図8,9).また,時折上肢,あるいは下肢麻痺を生じた.その後ステロイド減量に伴い視力悪化,ステロイド投与にて回復という経過をたどり,右眼は光覚なしに至った.現在視力は,右眼光覚なし,左眼0.3.右眼にRAPD陽性.眼底所見は両眼視神経萎縮である(図10).図8症例3の頭部MRIFLAIR画像側脳室周辺部に脱髄病変を認める.図10症例3の左眼眼底写真視神経乳頭萎縮と網膜血管の白線化を認める.図9症例3の頸部MRIFLAIR画像長い脱髄病変を認める.———————————————————————-Page81576あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007XIVステロイド反応性視神経炎とはこの症例は,非典型的視神経炎のなかの,ステロイド反応性視神経炎である.鑑別診断は,細菌,真菌,梅毒,ウイルスなどの感染性視神経症,自己免疫疾患による視神経炎,サルコイドーシスなど,多岐にわたる10).筆者は,この患者はMSと診断されていたが,異なる原疾患ではないかと考えていた.慎重に経過観察していたところ,数年後,蝶形紅斑,血清補体価の低下,抗核抗体高値を認め,全身性エリテマトーデス(SLE)と診断された.脳幹部症状もSLEによる中枢神経障害だったのである.おわりに以上,視神経炎に関して,症例を提示しながら,新しい考えを踏まえて,どのように診断,管理,治療していけばよいかを述べた.ここに提示した3症例も,若年の女性に発症した視神経炎であるが,経過,視力予後,根底にある疾患,管理方法がまったく異なることがおわかりいただけたと思う.冒頭で述べたように,日本人の視神経炎は,複雑である.米国では,日常診療で遭遇する視神経炎の8割は典型的視神経炎であったため,逆に管理が単純であった.日本人では,病状も原因も多岐にわたり,より細かな臨床分析をしなければならない.やはり日本では特に,視神経疾患は,眼科医だけでなく,また,神経内科医だけではなく,それらの協力のもとに,視神経疾患に精通している神経眼科医に診断,治療の中心をゆだねるべきであろうと考える.文献1)中馬秀樹:特発性視神経炎と多発性硬化症.眼科プラクティス5,これならわかる神経眼科(根木昭編),p164-167,文光堂,20062)OpticNeuritisStudyGroup:High-andlow-riskprolesforthedevelopmentofmultiplesclerosiswithin10yearsafteropticneuritis.ArchOphthalmol121:944-949,20033)OpticNeuritisStudyGroup:Visualfunctionmorethan10yearsafteropticneuritis:experienceoftheOpticNeuritisTreatmentTrial.AmJOphthalmol137:77-83,20044)OpticNeuritisStudyGroup:Neurologicimpairment10yearsafteropticneuritis.ArchNeurol61:1386-1389,20045)石川均:日本における特発性視神経炎トライアルの結果について.神経眼科24:12-17,20076)BeckRW,ArringtonJ:BrainMRIinacuteopticneuri-tis:ExperienceoftheOpticNeuritisStudyGroup.ArchNeurol50:841-846,19937)OpticNeuritisStudyGroup:Theclinicalproleofacuteopticneuritis:ExperenceoftheOpticNeuritisTreatmenttrial.ArchOphthalmol109:1673-1678,19918)齋田孝彦:多発性硬化症におけるインターフェロン療法.神経眼科24:28-36,20079)WarabiY,MatsumotoY,HayashiH:Interferonbeta-1bexacerbatesmultiplesclerosiswithsevereopticnerveandspinalcorddemyelination.JNeurolSci252:57-61,200710)BurdeRM,SavinoPJ,TrobeJDetal:OpticNeuropa-thies.ClinicalDecisionsinNeuro-Ophthalmology,3rded,p27-40,Mosby,StLouis,2002(26)