‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

硝子体手術のワンポイントアドバイス:236.White without pressure(初級編)

2023年1月31日 火曜日

236Whitewithoutpressure(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●WhitewithoutpressureとはWhiteCwithoutpressureは周辺部網膜が地図状にやや白変化した領域として観察されるもので,強膜圧迫をしたときのみに観察されるものがCwhitewithpressure(強膜バックリング手術後の隆起部位に観察されるものも含む),強膜圧迫なしで観察されるものがCwhitewith-outpressureである.つまりCwhiteCwithoutCpressureはCwhitewithpressureが進行した形態とみなすことができる.眼科医になったばかりの頃にCwhiteCwithoutpressureを網膜.離と誤診した経験のある人は多いのではないだろうか.筆者も過去に若いレジデントの先生から「網膜.離のように見えますが,何ですかこれ」と質問された経験が何度もあるので,念のために本シリーズでとりあげる.C●Whitewithoutpressureの臨床像以下のような特徴がある1,2).①色調が隣接する正常所見の網膜より明るく見え,境界鮮明だが辺縁不規則である(図1).②通常,眼底周辺部にみられるが,ときどき赤道部を越えて血管アーケード付近までみられることがある.③若年者,近視眼に多くみられ,加齢とともに縮小する.④白人に少なく(2~3%),黒人(約C20%)や黄色人種に多い.⑤範囲内に正常な暗くみえる部位が存在することがあり,しばしば網膜裂孔と誤診する.⑥耳側,とくに耳下側に多くみられる.⑦双眼倒像鏡観察下で通常は扁平にみえるが,なかには非常に白っぽく,やや隆起しているように観察されることもある(図2).C●Whitewithoutpressureの本態本病態に関する研究は意外に少なく,詳細は未だ不明の点が多いが,以下のような説がある.①広範囲の網膜硝子体癒着(硝子体基底部の延長のような変化)(75)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY図1Whitewithoutpressureの典型例色調が隣接する正常所見の網膜より明るく見え,境界鮮明だが辺縁不規則である.図2網膜.離と誤診しやすいwhitewithoutpressure非常に白っぽく,やや隆起しているように観察されることもあり,網膜.離のようにみえる.②内境界膜の断裂あるいは不規則性③網膜表面付近の硝子体線維の密集④網膜細胞内の脂肪沈着物現在では,面状の網膜硝子体癒着が原因とする説が一般的である.C●病的意義一般に網膜.離の危険因子ではないとする説が有力である.しかし,巨大裂孔網膜.離の他眼に高頻度でみられるとする報告もある3).通常,若年者にみられるものは病的意義はほとんどないと考えてよさそうである.文献1)MichelsCRG,CWilkinsonCCP,CRiceTA:RetinalCdetachment.CMosby,St.Louis,19902)HunterLE:RetinalCwhiteCwithoutpressure:reviewCandCrelativeincidence.AmJOptomPhysiolOptC59:293-296,C19823)FreemanHM:Felloweyesofgiantretinalbreaks.TransAmOphthalmolSocC76:343-382,C1978あたらしい眼科Vol.40,No.1,202375

考える手術:13.白内障囊外摘出術(ECCE)

2023年1月31日 火曜日

考える手術⑬監修松井良諭・奥村直毅白内障.外摘出術(ECCE)田中寛京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学世界では白内障が未だもっとも多い失明原因であり,安全な白内障手術を安定して提供することは大切である.現在,わが国では白内障手術機器の機能向上や手術の知識の普及により,安全に白内障手術を行える環境が整っており,白内障手術はもっとも多く行われており,基本的な手術の一つとなっている.ただし,「基本的=リスクが高くなることがある.ECCEは切開創も大きく,また手術数も多くなく不安に感じるかもしれないが,うまく適応を判断することができれば,PEAより安全かつ短時間で手術を行うことが可能となる.今回はその中でも自己閉鎖を基本とする小切開ECCEについてとりあげる.聞き手:白内障.外摘出術(extracapsularcataract聞き手:ECCEを行うことができなければ対応できないextraction:ECCE)のよい適応となるのはどのようなケースはありますか?場合でしょうか?田中:いいえ,それはないと思います.ただし,ECCE田中:ECCEは水晶体の核を丸ごと創から娩出する手術が行えるとより安全に手術が可能な場合はあると思いまです.ECCEのよい適応としては核硬度が高い患者や角す.そもそも白内障手術の目的は安全に混濁した水晶体膜中央部の混濁がある患者があげられます.習熟すればを除去し,水晶体.に眼内レンズを挿入することです.褐色白内障など水晶体乳化吸引(phacoemulsi.cation「安全に」という言葉の中には「合併症なく」また「安andaspiration:PEA)では長時間かかる,もしくは対定した時間」といった意味も含まれていると考えます.応できない場合でも,15分以内で安定して手術を行う核硬度の高い白内障眼の場合はPEAでは角膜内皮障害ことが可能となります.PEAで長い時間を要すると,や後.破損といった合併症のリスクが高くなることがあ認知症や精神疾患がある患者では体動が徐々に大きくなりますが,ECCEをうまく行うことができれば合併症のり合併症のリスクが高まります.ECCEは超短時間で手リスクを低くすることができます.術を終了することはできませんが,習熟すれば安定した時間で手術を行うことが可能となります.聞き手:ECCEのメリットを教えてください.(73)あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023730910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術田中:核硬度に依存せずに一定の操作で手術を行えるというメリットがあります.また,角膜中央に混濁を合併するケースでは,PEAよりもECCEでは安全に手術をすることが可能となります.そして,現在は切開や縫合といった手技を行う機会が減っているなかで,そのような手技を学べるといった副次的なメリットも存在します.聞き手:ECCEのコツを教えてください.田中:まず,頭位ですが,ややヘッドダウンにするようにして,上方の強角膜がしっかりと露出できるようにセッティングを行います.次に強角膜創作製ですが,私は核の大きさにもよりますが,1面目は約6mmの直線の強膜切開と両端に0.5mm程度のバックカットを入れた創を作製しています.2面目の創の深さは半層から2/3層をめざしクレッセントナイフを用いて作製します.中心部の切開創では,クレッセントナイフのカッティングエッジを振るように強角膜創を作製していき,その後眼球に並行になるようにクレッセントナイフの裏面を眼球に当てつつ,ナイフを円を描くようなイメージで横に切開を広げていきます.その後,スリットナイフを用いて眼内に穿孔しますが,二重穿孔にならないようにナイフを持つ手に力を入れず先端を振りながら抵抗のない部分を進めていき,創の先端まできたことを確認してから穿孔します.その後は横方向に広げるのですが,ナイフの先端が前房内にあることを確認しつつナイフの横の部分をつかって創拡大を行います(図1a).強角膜創作製時には有鈎鑷子で強膜を把持しますが,押し付けると眼球に歪みができ,きれいな創ができないため,把持部を手前に引くイメージで創作製を行います.核の娩出のためには大きな連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)の作製が必要なため,前.鑷子を用いて大きなCCCを作製します.その後,核を前房に脱臼させるために,しっかりとハイドレーションを行ったのち,両手にフックを持ち,核を前房内に徐々に脱臼させていきます(図1b).核娩出は虹彩離断や破.などのリスクを伴うため,とくに注意が必要となります.角膜と水晶体の間に角膜内皮保護のため分散型の粘弾性物質を,破.予防のために後.に凝集型の粘弾性物質を充.します.輪匙はいくつか種類がありますが,粘弾性物質を充.しながら核を娩出できるイリゲーション輪匙を好んで用いています.挿入時は左右に軽く振りながら核の下に潜り込ませ,先端部分で虹彩を挟まないようにしっかりと視認します(図1c).娩出時はゆっくりと行い,核が手前にきたところで強膜創を下方に広げ,圧の逃げ場を一カ所にすることで娩出を行います.最後は皮質を除去し眼内レンズを挿入します.無縫合で術終了することを目標にしますが,閉鎖がこころもとない場合は縫合を行うことをお勧めします.聞き手:ECCEの合併症はどういったものがありますか?田中:強角膜創の閉鎖不全,角膜内皮障害,虹彩離断などがあげられます.創の厚みや距離などが不十分である場合は自己閉鎖を得られないことがあります.虹彩嵌頓の原因となるため,その場合は8-0バイクリル糸で縫合を行っています.創が核に対して小さい場合,また輪匙での機械的な損傷がある場合は,術後角膜内皮障害に伴う角膜浮腫を生じるため,言葉の通り圧を用いて「娩出」させるイメージで行うことが望ましいです.また,複数回の操作や視認不良な状態での操作により,虹彩離断とそれに伴う出血を認めることがあります.図1白内障.外摘出術の術中操作a:強角膜3面切開作製時.スリットナイフの先端が前房内にあることを確認しつつ創拡大を行う.b:核脱臼.片方のフックを核の下に,もう片方のフックを核の上におき行う.c:核娩出.イリゲーション輪匙をしっかりと核の下に潜り込ませ,先端部分で虹彩を挟んでいないことを確認する.74あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023(74)

抗VEGF治療:長期視力が維持できた加齢黄斑変性症例

2023年1月31日 火曜日

●連載◯127監修=安川力髙橋寛二107長期視力が維持できた加齢黄斑変性症例吉田いづみ東邦鎌谷病院眼科硝子体内注射の長期投与には効果の減弱などの問題がある.今回,活動性が高いポリープ状脈絡膜血管症に対し,多数回の加療を継続し,右眼はC11年半視力が維持できた症例について提示することで,長期投与の問題点および見解を述べる.症例患者はC66歳,男性.初診時,左眼矯正視力(0.09),ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalCvascu-lopathy:PCV)による網膜下出血を認めた.それに対し硝子体内ガス注入とその後,遷延した硝子体出血に対して硝子体手術を施行し,1年後とC2年後のC2回,光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)を施行したが,視力不良のため数回のみの硝子体内注射施行にとどまった.16年後の現在は網膜内の滲出性病変が遷延化し,Clamellarhole化していて,視力は(0.06)である(図1).右眼は左眼初診時のC4年後にCPCVのためラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealCinjectionCofCranibizum-ab:IVR)にて加療を開始した.当初は治療効果を認め,Cdrymaculaが得られ,矯正視力(1.2)を維持していたが,2~3カ月間隔でのCIVRにもかかわらず,次第にCdrymaculaが得られなくなった.網膜下液(subretinal.uid:SRF)が遷延したため,治療開始からC3年後にアフリベルセプト硝子体内注射(intravitrealCinjectionCofa.ibercept:IVA)に切り替えてCdrymaculaが得られた.ところがCIVAでも再び効果が減弱し,2カ月間隔の投与でもCdrymacula得られなくなったため,8年後にCPDTを施行した.その後,IVAを継続し,9年後に再度Cdrymaculaが得られた.しかし,再燃の間隔は短く,毎月投与でも再燃するようになり,11年後にC2回目のCPDTを施行した.現在の注射間隔はC2カ月で視力9回,.のべ治療回数は計IVR)1図7)である(C.は(0IVA43回,PDT2回であった.受診時の光干渉断層計所見から,11年半(138カ月)の経過観察期間中,網膜内液(intraretinal.uid:IRF)は認めなかったが,のべCSRF残存期間(すべてのCSRF期間を足したもの)1)(図2)は微量も含めるとC111カ月であった.連続での最長はC33カ月であった.右眼治療開始時現在左眼治療開始時現在図1治療開始時と現在のカラー眼底写真およびOCT66歳,男性.両眼PCV.右眼はCIVRをC9回,IVAをC43回,PDTをC2回施行した.現在の視力(0.7).左眼はガス注入,硝子体手術,PDTをC2回施行した.現在の視力(0.06).解説今回,長期視力維持できた症例を紹介した.活動性が低ければ少ない治療で視力維持できる.一方,本症例の右眼は活動性が高く,多数回の治療によっても滲出(SRF)が遷延したが,視力は維持できた.最近CIRFに対してCSRFは許容されるという考え方2)があり,本症例でこれだけのCSRF期間があったにもかかわらず視力が保たれたことはこれを裏付ける.しかし,意図的に許容したわけではなく,診療状況から投与間隔をC2カ月からC1カ月半以下に縮めるのがむずかしかったからであり,できていたらCdrymaculaが得られた期間は増えた可能性がある.意図的に許容したり,注射の効果が弱いときに諦めたりすると無治療に陥る危険性(71)あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023710910-1810/23/\100/頁/JCOPY受診時A受診時B受診時C受診時D受診時E受診時FSRF期間①SRF期間②.uidsubretinalhyperre.ectivematerial網膜色素上皮図2のべIRF残存期間およびのべSRF残存期間の計算方法上段:OCTの日付から計算したCIRFの出現した受診時CBと消失した受診時CDの間がCIRF期間①,受診時CEと受診時CFの間がCIRF期間②.全経過観察期間におけるCIRF期間①+②+・・・の合計を「のべCIRF残存期間」とした.下段:SRFも同様.がある.SRFも長期遷延するとCIRFを招く印象があり,筆者はなるべく加療すべきと考えている.長期の治療になれば多数の硝子体内注射が必要になる.多数の注射による網膜色素上皮の萎縮という点では,treat-extend-stopにてC50回の硝子体内注射を平均6.5年にわたり行っても平均視力(0.4)が保たれていたとする報告などがあり,萎縮はむしろCundertreatmentによるものであろうと考えられてきており3),この点でもより積極的に加療してよいと考える.ただし本症例はこれらの報告よりも経過が長く,結果的にCSRFを許容したことで注射の回数がさらに多くはならなかったことがかえってよかった可能性も残る.以前の筆者らの報告では,硝子体内注射の効果があった症例で経過中効果が減弱したのち,再度効果が現れるようになるのは治療開始から平均C42.9カ月目で,平均10.1回目の注射であった(IVRからCIVAなどへのスイッチ症例も含む).初回から効きづらかったものが効くようになったのは平均C24.4カ月目で,平均C6.7回目の注射であった(スイッチ症例を含む)1).IRFやCSRFの蓄積で網膜の構造が破壊されると効果が減弱するかどうかも検討し,IRF,SRFともに期間の総和のべC70カ月まで調査できたが,蓄積されたC.uidのせいで効きが悪くなるという傾向はとくにみられなかった.以上より,効果が弱くても複数回の硝子体内注射を継続することや,少し時間がたった患者に対しても治療を中断しないことが大切であると考える.注射の効果が弱いときにCPDTを施行するのも一つのC72あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023方法であるが,1回目もC2回目も著効しなかった.1回目の直前はほとんどCdrymaculaが得られない状態になっていたのが,注射を続けて得られるようになったので,いくぶんの効果があったといえるかもしれない.左眼に関して,筆者は視力がすでに悪い患者に対しても長いCIRFの遷延は途切れさせるように加療したい1)と考えているが,lamellarhole化するまでに連続C75カ月IRFを遷延させてしまっていた.Lamellarhole化するのは,滲出が遷延して網膜の細胞間の構成が破壊されることによるといわれている4).文献1)YoshidaI,SakamotoM,SakaiAetal:E.ectofthedura-tionCofCintraretinalCorCsubretinalC.uidConCtheCresponseCtoCtreatmentCinCundertreatedCage-relatedCmacularCdegenera-tion.CJOphthalmologyC26:5308597,C20202)GuymerRH,MarkeyCM,McAllisterILetal:Toleratingsubretinal.uidinneovascularage-relatedmaculardegen-erationCtreatedCwithCranibizumabCusingCaCtreat-and-extendregimen.Ophthalmology126:723-734,C20193)AdreanSD,ChailiS,RamkumarHetal:Consistentlong-termCtherapyCofCneovascularCage-relatedCmacularCdegen-erationCmanagedCbyC50CorCmoreCanti-VEGFCinjectionsCusingCaCtreat-extend-stopCprotocol.COphthalmologyC125:C1047-1052,C20184)FranconeCA,CYunCL,CKothariCNCetal:LamellarCmacularCholesinthepresenceofage-relatedmaculardegeneration.CRetinaC40:1079-1086,C2020(72)

緑内障:OCT en-face image法による網膜神経線維層の評価

2023年1月31日 火曜日

●連載◯271監修=福地健郎中野匡271.OCTen-faceimage法による飯川龍新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野網膜神経線維層の評価網膜神経線維層の評価方法の一つであるCOCTen-faceimage法は神経線維束の走行を直接観察する方法であり,臨床の場で標準的に用いられているCOCTによる視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚や黄斑網膜神経節細胞層複合体厚の測定といった定量的な検査とは異なっている.日常臨床にも活用でき,患者のCQOL推定に役立つ有用な情報が得られる.●はじめに緑内障は視神経と視野に特徴的変化を有し,眼の機能的,構造的異常を特徴とする疾患であり,診断および治療において,精度ある眼底画像による網膜神経線維層(retinalCnerveC.berlayer:RNFL)の評価が必要である.眼底のCRNFL,網膜神経線維層欠損(retinalnerve.berlayerdefect:NFLD)を観察する方法としておもに臨床で用いられているのは,眼底写真,無赤色光眼底写真(red-free),光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)などである.本稿ではCOCTCen-faceimage法によるCRNFLの観察について,その特徴や利点について述べる.C●En-faceimage法とは―画像作成方法通常のCOCTでは網膜の断層像であるCBスキャン画像図1En-faceimageの作成過程a:視神経乳頭部.b:黄斑部をCILMに沿って平坦化(.attening)した画像.を用いることが多い.En-faceimage法は網膜のCBスキャン画像を連続的に撮影してC3Dイメージを作成し,さらにそこから層別に二次元的画像を再構築する方法である.筆者らの既報1)におけるCen-faceimageの作成方法を紹介する.スウェプトソースCOCTを用いて黄斑と視神経乳頭を中心としたそれぞれC6×6CmmのCcubeCscan(512×256,垂直×水平)撮影を行う.その後,画像閲覧ソフト(EnView,トプコン)で内境界膜(internalClimitingmembrane:ILM)面に沿ったCen-face面を描出(平坦化=.attening)し,RNFLの最表層部における黄斑部,視神経乳頭周囲のCRNFLを観察する(図1).この際,ILMからの深度は,個々の症例においてもっともCRNFLが明瞭に描出されるところとする.得られたC2枚の画像(黄斑部,乳頭部)を大血管をもとに重ね合わせる.この方法で得られた正常眼のCen-faceimageを図2に示す.最近はCOCT血管撮影やCOCTのCwide撮影のレポートにもCen-faceimageが表示されるようになっており,目にする機会が増えている.これらの画像はCILMからある一定の厚み(たとえばトプコンのCHoodreportでは表層からC52μm)を用いて平均化することでCen-face図2正常眼の網膜神経線維の走行視神経から放射状に広がる神経線維,耳側縫線での上下に分かれた神経線維の走行が明瞭に観察できる.(69)あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023690910-1810/23/\100/頁/JCOPYabcd図3En-faceimage法による中心10°内視野の推定a:黄斑部と視神経乳頭部のC2枚の画像を重ね合わせて作成したCen-faceimage.Cb:Humphrey10-2プログラムの測定に対応する点を,網膜神経節細胞の変位(RGCdisplacement)を用いて重ね合わせた図.●はCNFLDがある領域,〇はCRNFLが障害されていない領域を表す.Cc:上下逆転させることにより中心C10°内の推定視野を作成.Cd:実際のCHumphrey10-2視野のトータル偏差とパターン偏差.imageを作成している(en-facestabimage).この方法の注意点として,平均化によってCRNFLの微細な変化に関する情報が消失する可能性がある2).それに対して,筆者らの方法はCILMからある一定の距離における断面を観察しており,en-facestabimageとは異なる.筆者らの方法の注意点として,黄斑部の耳側と鼻側ではRNFLの厚みが異なるので,ILMから単一の距離でNFLDを同定するのはむずかしいことと,ILMからの距離によりCNFLDの幅が変化し,結果にばらつきがでることがあげられる3).C●En-faceimage法の利点緑内障診療で用いられるCOCTの視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚や黄斑部網膜内層厚の測定はいずれも正常データベースとの比較で異常の有無を判定する定量検査で,客観性や定量性があることが大きな利点である.しかし,正常データベースの範囲を超える強度近視や若年者,高齢者では,正確な結果が得られない可能性があることが欠点である.それに対し,en-faceimage法は対象のCRNFLが高反射になるという原理から,神経線維束の走行を直接観察する定性検査であるという点が異なる.そのため,通常の眼底写真やCOCTなどの画像検査では限界のある強度近視に関しても有用である.En-faceimage法の一番の利点は,黄斑部を含めたCRNFLがより明瞭に描出されることである.とくに,従来の眼C70あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023底写真やCOCTによる網膜内層厚解析では不可能だった,視覚に関連した生活の質(QOL)にかかわる乳頭と黄斑を結ぶ領域(乳頭黄斑領域)のCRNFLの残存の有無を,視覚的に容易に検出し,視野がどの程度残存しているかを推定できるのが利点である(図3).C●En-faceimage法の限界この方法の限界として,網膜上膜や網膜硝子体界面など,場合によってはCen-faceimageそのものの取得が困難であること,また視野の推定に関してはあくまで定性的な方法であり,視野感度の推定はできないことなどがあげられる.文献1)IikawaCR,CToganoCT,CSakaueCYCetal:EstimationCofCtheCcentralC10-degreeCvisualC.eldCusingCen-faceCimagesCobtainedCbyCopticalCcoherenceCtomography.CPLoSCOneC15:e0229867,C20202)HoodCDC,CFortuneCB,CMavrommatisCMACetal:DetailsCofCglaucomatousCdamageCareCbetterCseenConCOCTCenCfaceCimagesCthanConCOCTCretinalCnerveC.berClayerCthicknessCmaps.InvestOphthalmolVisSci56:6208-6216,C20153)AlluwimiCMS,CSwansonCWH,CMalinovskyCVECetal:CusC-tomizingCperimetricClocationsCbasedConCenCfaceCimagesCofCretinalCnerveC.berCbundlesCwithCglaucomatousCdamage.CTranslVisSciTechnolC7:5,C2018(70)

屈折矯正手術:ICL挿入眼での白内障手術の注意点

2023年1月31日 火曜日

●連載◯272監修=稗田牧神谷和孝272.ICL挿入眼での白内障手術の注意点大内雅之大内雅之アイクリニックICL挿入眼の眼内レンズの度数計算には注意が必要である.光学的眼軸長測定装置では,まず同機の光干渉断層像などの測定画像をみて,水晶体前面の認識が正しいかを確認する.もしもCICL前面を水晶体前面と誤認しているようなら,別の方法で前房深度,水晶体厚を測定し,その値を代入して再計算する.●はじめに近視矯正手術にはClaserCinCsituCkeratomileusis(LASIK)と並び,後房型有水晶体眼内レンズ(implant-ablecollamerlens:ICL)挿入手術がある.中央に灌流口を設け,術後の房水動態が改善されたモデルの登場で,近年その普及が加速している.屈折矯正手術既往患者が白内障手術を受けるケースも増えてきている.LASIK既往眼では角膜形状が大きく変わっているため,白内障手術時の角膜曲率,予測術後眼内レンズ位置(e.ectivelensposition:ELP)の算出値が変わってしまい,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算に大きく影響を与え,これらの手術が課題となっている.一方,ICL挿入手術では,角膜形状は変化しないが,前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD)が変化している可能性があり,さらにCICLの存在が,測定光,測定結果に影響を与える可能性もある.今後,ICLによる屈折矯正手術を受けた患者に白内障手術を行う機会が激増することは明白である.その際は,眼内のさまざまな測定値が影響を受けるため,別の注意が必要である.表1ICL挿入前後の生体計測値ICL挿入前眼ICL挿入後眼眼軸長(mm)C26.57±1.27C26.58±1.24前房深度(mm)PCI全例(n=100)CPCI誤認なし(n=25)CPCI誤認あり(n=75)C前眼部COCT全例(n=100)C3.72±0.30C3.79±0.30C3.71±0.30C3.84±0.28C3.23±0.343.72±0.353.20±0.343.79±0.25水晶体厚(mm)PCI全例(n=100)CPCI誤認なし(n=25)CPCI誤認あり(n=75)C前眼部COCT全例(n=100)C3.70±0.33C3.88±0.30C3.84±0.28C3.71±0.30C4.19±0.383.83±0.273.87±0.233.77±0.31PCI:光学的眼軸長測定装置,誤認:PCIにてCICL前面を水晶体前面と誤認●何が変わるのか国外では早くから,ICL挿入前後における眼軸長測定結果の比較がなされており,いずれも有意な変化がなかったことが示されている1,2).筆者の検討3,4)においても,光学的眼軸長測定装置(IOLマスターC700)を用いて測定し,さらにCIOL度数計算(SN60WFを対象とし,正視を目標とした)をしたところ,眼軸長はCICL挿入後の測定値がわずかにC0.01Cmm短くなったが,ICL挿入眼の多くは長眼軸であるため,IOL度数計算への影響はきわめて少なかった.そして角膜屈折力も変わらなかった.しかし,ACDはCICL挿入後で平均C0.5Cmm短く計測され,水晶体厚(lensthickness:LT)はC0.5Cmm薄く計測された(表1).そのため,ACDやCLTがパラメータに含まれるCHaigis式,Barretuniversal式では,ICL挿入後はそれぞれC0.3D,0.2D小さな度数が算出された(表2).眼軸長と角膜屈折力だけで算出されるCSRK/T式では,ICL挿入前後でCIOL度数計算は変わらない.C●なぜ変わるのか図1はCIOLマスターC700のCOCT像であるが,ICL挿入眼ではC4本のCsegmentationlineのうち,水晶体前面を同定しているはずの左からC3本目のラインが正しく水表2ICL挿入前後の眼内レンズ度数計算結果(SN60WFを対象に,正視となる度数を計算)計算式ICL挿入前眼ICL挿入後眼ICL挿入後眼(代入値)※SRK/T式C11.70±3.53DC11.61±3.51DC11.61±3.51DHaigis式C12.05±3.60DC11.75±3.53DC12.02±3.60DBarret式C11.78±3.43DC11.57±3.37DC11.80±3.43DCBarret式:BarretuniversalIITKformula※代入値:前眼部COCTによって計測した前房深度,水晶体厚の値を,IOLマスターC700に手入力し,再計算した値.(67)あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023670910-1810/23/\100/頁/JCOPYab水晶体前面を正しく認識(25/100眼)ICL前面を水晶体前面と誤認(75/100眼)図1光学的眼軸長測定装置における水晶体前面の認識ICL挿入後眼のCIOLマスターC700による測定では,75%でCICLの前面を水晶体前面と誤認し,前房深度が正しく計測されなかった.晶体前面を認証している例(図1a)はわずかC25%で,残りのC75%はCICL前面を水晶体前面と誤認していた(図1b).IOL度数計算式のうちCSRK/T式では,眼軸長とK値のみが計算パラメータとして使われるが,Haigis式,Barretuniversal式では,ACDとCLTがこれに含まれる.測定時に水晶体位置を正しく認識していなければ,ACDやCLTをパラメータに含むCBarretuniversalCIITK式やCHaigis式では正しく計算できないのは自明である.もちろん,水晶体前面を正しく認識したC25%のケースでは,ACD,LT計測値はCICL挿入前後で変わらなかった(表1).C●どう対応するのかそこで,ICL挿入眼でCIOL度数を決めるときは,まずCIOLマスターなど光学的眼軸長測定装置で測定後,断層像や各種波形(IOLマスターC700であればC4本のCsegmentationline)などをみて,測定時に水晶体前面が正しく認識されているか,ICL前面を水晶体前面と誤認していないかを確認する.正しく認識していれば,どの計算式であっても,そのまま提示されている度数のCIOLを選択して問題ない.もしも正しく認識されていなければ,次の手順に入る.まず,前眼部COCTなど,他の手段でCACD,LTを測定する.筆者はCCASIA2を用いたが,ここでもCICL前面を水晶体前面と認識してCACDが表示されているケースがあったため,ICL挿入後のACDは平均でC0.05Cmm短く,LTはC0.06Cmm長く測定された.誤認しているケースでは,トレース修正をかけ,改めてCACD,LTを表示させる(ただし,この手法を用いてもマニュアル操作が挟まるため,多少の誤差は生じる).次に光学的眼軸長測定装置の手入力画面を開C68あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023き,前述の方法で正しく測定されたCACD,LTを代入し,再計算する.そうすると,ICL挿入前と同じCIOL度数が計算される.前眼部COCTなどを持ち合わせてなければ,代替策としてCACD,LTを用いない計算式(=SRK/T式)の結果のみでCIOL度数を決める(表2)2).C●おわりに屈折矯正手術既往者が白内障手術を受けるケースが増えた現在,白内障手術におけるCIOL度数計算は大切な問題である.LASIK既往眼だけでなく,今後はCICL挿入眼に白内障手術を行う機会が増加することは間違いない.角膜形状が変わるCLASIKほどではないにしても,やはりCIOL度数の算出が影響を受けるため,意識の高い白内障術者は,上記のような知識を持ち合わせておく必要がある.文献1)SandersCDR,CBernitskyCDA,CHartonCPJCJrCetal:TheCvisianCmyopicCimplantableCcollamerClensCdoesCnotCsigni.cantlyCa.ectCaxialClengthCmeasurementCwithCtheCIOLMaster.JRefractSurgC24:957-959,C20082)PitaultG,LeboeufC,LerouxlesJardinsSetal:BiometrieoptiqueCdesCyeuxCavecCimplantsCphaques.CJCFrCOphtalmolC28:1052-1057,C20053)大内雅之:有水晶体眼内レンズ挿入が眼内レンズ度数計算に与える影響.IOL&RSC35:463-469,C20214)OuchiM:EvaluationCofCimpactCofCposteriorCphakicCIOLCimplantationonbiometryande.ectivenessofconcomitantuseCofCanteriorCsegmentCOCTConCIOLCpowerCcalculationCforcataractsurgery.CJCataractRefractSurgC48:657-662,C2022(68)

眼内レンズ:アセタゾラミドによる脈絡膜剝離と浅前房化

2023年1月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋東花枝434.アセタゾラミドによる脈絡膜.離と浅前房化横浜市立大学附属病院眼科緑内障の治療や内眼手術前後の眼圧下降目的などで用いられるアセタゾラミドは,毛様体脈絡膜.離による急性閉塞隅角緑内障を引き起こすことがある.その臨床所見や病態に関して,海外で報告されている事例,および筆者が経験した症例を交えて紹介する.●はじめにアセタゾラミドはスルホンアミド誘導体であり,生体に存在する炭酸脱水酵素の作用を抑制することにより,眼圧下降,中枢神経系の刺激伝達抑制(てんかん発作の抑制),呼吸賦活(呼吸性アシドーシスの改善),および利尿などの作用を示す1).重大な副作用として,代謝性アシドーシス,電解質異常,ショック,アナフィラキシー様症状,再生不良性貧血,溶血性貧血,無顆粒球症,血小板減少性紫斑病,皮膚粘膜眼症候群,中毒性表皮壊死症,急性腎不全,腎・尿路結石,精神錯乱,痙攣,肝機能障害,黄疸があり,その他の副作用として知覚異常や消化器症状,一過性近視などが現れることがあると薬剤添付文書に記載されている1).眼科領域では,毛様体上皮中に存在する炭酸脱水酵素の作用を抑制することで房水産生を減じ眼圧下降させるため,とくに緑内障による高眼圧の治療や術前術後の眼圧上昇に対して用いられるが,毛様体脈絡膜.離による浅前房および急性閉塞隅角緑内障を起こすことがあると報告されている2,3).C●海外からの報告毛様体脈絡膜上腔は強い細胞同士の接着構造をもたず,層状にたたまれた組織構造をしているため,容易に毛様体脈絡膜.離を起こし,超音波生体顕微鏡(ultra-soundbiomicroscopy:UBM)では強膜と毛様体最外層の間に浮腫状の低エコー領域として観察される.毛様体脈絡膜.離は低眼圧を伴うこともあるが,毛様体の前方回旋により虹彩根部と水晶体.が前方に偏位し,続発性の隅角閉塞を引き起こすこともある4).内眼手術(強膜内陥術や線維柱帯切除術など)や原田病,後部強膜炎などがおもな要因となるが,スルホンアミド構造をもつ薬剤(アセタゾラミド,ヒドロクロロチアジド,ST合剤など)もその原因となる.治療は散瞳・調節麻痺点眼,(65)副腎皮質ステロイド投与や硝子体切除術を行う4).Mancinoら2)は,左眼の白内障手術直後にアセタゾラミドを投与し,翌日に両眼の浅前房,眼圧上昇および広範な脈絡膜.離を伴う閉塞隅角緑内障を発症したC76歳男性の症例を報告している.右眼はC7年前に白内障手術を受け人工水晶体眼であった.アセタゾラミド投与を中止し副腎皮質ステロイドの大量静注を行い速やかに改善がみられた.また,Parthasarathiら3)は,慢性開放隅角緑内障の既往があるC66歳の男性患者に対し,左眼の白内障手術直後にアセタゾラミドを内服投与したところ,左眼および有水晶体眼である右眼も眼圧上昇し,浅前房となり毛様体浮腫を認めたと報告している.薬剤性の毛様体浮腫の詳細な機序は明らかではないが,薬剤に対するぶどう膜組織のアレルギー反応5)や,エイコサノイド(プロスタグランジンやトロンボキサンなどの生理活性物質)の代謝不均衡により引き起こされるという説もある3).C●症例筆者が経験した症例4)を紹介する.患者はC57歳,男性.眼疾患の既往はなく,主訴は右視力低下で,視力は右眼C0.1(0.15C×sph-1.00D),左眼(1.2C×sph-0.25D(cyl-0.75DAx180°),眼圧は右眼16mmHg,左眼18CmmHg,両眼に核白内障を認めた.前房深度と眼軸長は正常であり,眼底に異常所見はなかった.右眼白内障手術直前にアセタゾラミド錠を内服投与し,右眼にレボフロキサシン点眼と散瞳・調節麻痺点眼を行った.右眼の超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術を施行し,合併症なく終了した.術後C3時間で頭痛と霧視を自覚し,術後C9時間で受診時,眼圧が右眼C70CmmHg,左眼C62CmmHg,瞳孔径が右眼C6Cmm,左眼C3Cmmで,対光反射は両眼でやや減弱していた.両眼毛様充血,角膜浮腫と浅前房(vanHeri-ck0度)を認めた(図1)4).創部漏出はなく眼内レンズは.内中央固定で,光干渉断層像や超音波画像(Bモーあたらしい眼科Vol.40,No.1,2023C650910-1810/23/\100/頁/JCOPY右眼左眼図1右眼白内障手術後9時間の細隙灯顕微鏡所見両眼の毛様充血と角膜浮腫,浅前房(vanHerick0度)を認め,右眼は前房炎症細胞を軽度認めた.(文献C4より転載)ド)で異常所見はなかった.瞳孔ブロックを考え,D-マンニトール点滴,アセタゾラミド錠内服,両眼にピロカルピン点眼,眼圧下降点眼,ベタメタゾンC0.1%点眼を開始したが眼圧下降せず,左眼のCUBMを行った.前房深度はC1.34Cmmで,毛様体上腔の液体貯留および虹彩,水晶体.の前方移動がみられた(図2).両眼眼底の全周に毛様体浮腫を認めた.毛様体脈絡膜.離による急性閉塞隅角緑内障(acuteCangleCclosureglaucoma:AACG)と判断し,アトロピン点眼開始したところ眼圧は下降しはじめ,プレドニゾロン内服をC2週間継続し正常眼圧を得た.本症例では,手術当日朝からC2週間アセタゾラミドを内服していた.術後C10日目には毛様体脈絡膜.離と浅前房は改善したが,術後C3週間までプレドニゾロン内服下であったため,術前術後に内服したアセタゾラミドが毛様体脈絡膜.離の原因となった可能性は否定できない.本症例では後日左眼も白内障手術を行い,手術前後にアセタゾラミドは内服せず,術前後にデキサメタゾン2.5Cmgの静脈内投与を行い経過良好であった.被疑薬の中止および副腎皮質ステロイドの予防的投与が,毛様図2左眼の超音波生体顕微鏡所見前房深度はC1.34Cmmで,毛様体上腔の液体貯留および虹彩,水晶体.の前方移動がみられた.(文献C4より転載)体浮腫の予防に有効であったと考えられた.C●おわりに内眼手術後などに原因不明の脈絡膜.離や浅前房化がみられたときは,まれではあるがアセタゾラミドによる毛様体脈絡膜.離が原因となっている可能性もあり,鑑別として考慮する必要がある.文献1)三和化学研究所:炭酸脱水素酵素抑制剤アセタゾラミド添付文書C2021年C11月改訂(第C1版)2)MancinoCR,CVaresiCC,CCerulliCACetal:AcuteCbilateralCangle-closureCglaucomaCandCchoroidalCe.usionCassociatedCwithCacetazolamideCadministrationCafterCcataractCsurgery.CJCataractRefractSurgC37:415-417,C20113)ParthasarathiCS,CMyintCK,CSinghCGCetal:BilateralCacet-azolamide-inducedCchoroidalCe.usionCfollowingCcataractCsurgery.EyeC21:870-872,C20074)東花枝,山田教弘,竹内正樹ほか:片眼の白内障手術後早期に両眼の著明な浅前房と高眼圧をきたしたC1例.臨床眼科76:531-538,C20225)TripathiCRC,CTripathiCBJ,CHaggertyCCCetal:Drug-inducedCglaucomaCmechanismCandCmanagement.CDrugCSafetyC26:49-767,C2003

コンタクトレンズ:読んで広がるコンタクトレンズ診療 ハードコンタクトレンズを処方する

2023年1月31日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療5.ハードコンタクトレンズを処方する糸井素啓京都府立医科大学大学院医学研究科■はじめにハードコンタクトレンズ(HCL)はソフトコンタクトレンズ(SCL)と異なり,柔軟性や弾力性に乏しく,ベースカーブ(basecurve:BC)や直径など,選択すべきレンズ規格の選択肢が多い.このため,HCLを処方する際には,トライアルレンズを患者の眼に実際に装着し,満足のいくフィッティングが得られるまでトライアルレンズを変更するというtrialanderrorを行う.しかし,このtrialanderrorに慣れないため,「HCLの処方はむずかしい」と感じる先生が少なくない.そこで本稿では,HCLの処方手順に沿って,トライアルレンズの選択方法とフィッティングの評価方法のポイントをわかりやすく解説する.■素材の選択HCLは,素材ごとにDk値(酸素透過係数)で表される酸素透過能が異なり,Dk値が高いほど酸素透過能が高くなる.一般に,Dk値が高いほどレンズを経由した酸素供給が多くなるため角膜への負担が減少するが,一方で汚れが付着しやすくなり,変形や破損が生じやすくなるなどのデメリットも生じる1).そのため,強度近視でレンズが分厚い患者,装用時間が長い患者,角膜内皮の形状異常を生じている患者には高Dk素材のレンズを,アレルギーやドライアイなどのレンズが汚れやすい患者には低Dk素材のレンズを選択するとよい.■直径の選択レンズの直径は,瞼裂幅・角膜曲率半径を参考にして決定する.瞼裂幅が狭い眼ではレンズと眼瞼の接触による不快感が生じやすいため,直径の小さなレンズを選択するのがよい.一方,瞼裂幅が広い眼では,上眼瞼によるレンズの保持が得にくいためにレンズの動きが不安定になりやすく,比較的直径の大きなレンズが有用である2).また,角膜曲率が大きい眼は直径が大きなレンズ,角膜曲率が小さい眼は直径が小さなレンズのほうが,レ(63)視覚再生機能外科学道玄坂糸井眼科フラットパラレルスティープ図1ベースカーブ(BC)と角膜曲率の関係BCが角膜曲率より大きい状態をフラット,BCと曲率が等しい状態をパラレル,BCが角膜曲率より小さい状態をスティープとよぶ.ンズの動きが安定することが多い.■BCの選択第一選択となるBCはレンズの種別,直径,デザインによって異なるため,メーカーのフィッティングマニュアルを参考にする.実際にはオートケラトメータから得られた角膜曲率半径の弱主経線値,あるいは弱主経線値と強主経線値の中間値に近いBCを選択することが多い.BCと角膜曲率の関係性について,BCが角膜曲率より大きい状態をフラット,BCと曲率が等しい状態をパラレル,小さい状態をスティープとよび,原則としてはパラレルを理想とする(図1).■フィッティングの評価フィッティングは,涙液交換の有無を含めたレンズの動きを評価する動的評価と,レンズ中央と周辺部のフルオレセイン濃度の差(染色パターン)からBCと角膜曲率の関係性を推測する静的評価に分けられる.フィッティングの評価には涙液量が大きく影響するため,若年者やコンタクトレンズ装用が初めてで刺激性涙液分泌が多い場合は,HCL装用後に15~20分程度時間をおいたのちに評価を行うとよい.動的評価では,レンズの動きと安静位置を評価する.HCLの装用時は,瞬目ごとにレンズが上下に運動することでレンズ下の涙液交換を行っている.そのため,瞬目時のHCLの動きは,瞬目に一致してHCLが上方に引き上げられたあとに,緩徐に下方に下がってきて角膜あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023630910-1810/23/\100/頁/JCOPYアピカルタッチパラレルアピカルクリアランス図2フルオレセイン染色パターンの名称フルオレセイン染色パターンは,レンズ周辺部が中央部より明るく染色されるアピカルタッチ,レンズ全体が均一に染色されるパラレルフィッティング,レンズ中央部が周辺部より明るく染色されるアピカルクリアランス,の3種に分類される.中央に静止するのが理想である.動きが大きく早い場合はルーズ,小さく遅い場合はタイトとよび,このあとの静的評価の結果に応じて,BC・周辺デザインを変更する.静的評価では,フルオレセイン染色パターンを評価する.フルオレセイン染色パターンを評価する際には,レンズが偏位した状態での正確な評価はむずかしいため,レンズを角膜中央に移動させて評価する.フルオレセイン染色パターンは,レンズ中央部より周辺部が濃く染色されるアピカルタッチ,全体が均一に染色されるパラレルフィッティング,レンズ中央部が濃くて周辺部が薄く染色されるアピカルクリアランスの3種に分類される(図2).パラレルフィッティングは,レンズと角膜曲率が平行となるため,角膜への負担が少なく,理想的なフィッティングとされている.一方,アピカルタッチはレンズがフラットで角膜頂点で支えられている状態,アピカルクリアランスはレンズがスティープで角膜周辺部で支えられている状態である.■レンズ周辺部の確認レンズ最周辺部には,装用感を良好に保ち,涙液交換を円滑に行うために,ベベルというカーブが設けられている.フルオレセイン染色時にはベベル下に貯留した涙狭い適正広い図3レンズ周辺カーブ(ベベル)の比較レンズ周辺カーブが角膜に適合しているかどうか,ベベル下に貯留した涙液の幅からベベル幅を評価する.液の幅からベベル幅を評価し,ベベルが角膜形状に適しているかどうかを判定する(図3).HCLのBCと角膜曲率がパラレルであったとしても,ベベル幅が広いとレンズの曇り・過剰なレンズの動き(ルーズ)の原因となり,ベベル幅が狭いと,レンズの固着や装用時の不快感,涙液交換の不良による角膜上皮障害の原因となるため,周辺部デザインの変更を検討する.適切なベベル幅はメーカーやレンズの種類によってまったく異なるので,各社のフィッティングマニュアルを参考にするのがよい.■おわりに第2回セミナーで述べたように,HCLは光学性に優れており,唯一無二のメリットをもつ有用な屈折矯正手法である.また,HCLの処方は「やや煩雑でむずかしい」と捉えられているが,上述のようにポイントをふまえて処方を行えば,決してむずかしいものではない.HCLを適切に処方することで,質の高いコンタクトレンズ診療を行いたい.文献1)BennettES,HenryVA:Clinicalmanualofcontactlenses.5thedition,p145-147,WoltersKluwerHealth,20192)小玉裕司:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識4.HCL処方-サイズの決定.あたらしい眼科37:1117-1118,2020

写真:画像鮮明化ソフトウェアのフルオレセイン画像への応用

2023年1月31日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦464.画像鮮明化ソフトウェアの福岡秀記京都府立医科大学大学院医学研究科フルオレセイン画像への応用視覚機能再生外科学図1リンパ管拡張によるdellenのフルオレセイン染色画像(a)とSjogren症候群のフルオレセイン染色画像(b)図2図1aの画像の鮮明化処理後(a)と図1bの画像の鮮明化処理後(b)図3図1aのシェーマ図4図1bのシェーマ①角膜,②Dellen,③フルオレセインの溜まり,①結膜優位の点状表層角膜症.④リンパ管拡張により隆起した結膜.(61)あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023610910-1810/23/\100/頁/JCOPYフルオレセイン染色画像の取得には最大吸収波長が494nm(青色),励起波長が521nm(緑色)のフルオレセインナトリウムを用いる.点眼で前眼部の所見が観察可能であり,静脈内注射は網膜血管造影などに利用される.前眼部では,角結膜上皮の障害部位やバリア機能の低下した部位にフルオレセインが留まり,病変部位が検出できる.また,フルオレセインの強度の違いにより涙液層の厚みやその動態観察も可能である.フルオレセイン画像取得には青色波長の光の照射を行い,励起された波長の観察が必要である.フルオレセイン染色は点眼直後より時間経過や瞬目により刻々と変化するため,撮りたい画像を得るには熟練した技術が必要である.本稿では,画像鮮明化装置MIEr(ロジック・アンド・デザイン製)によりフルオレセイン画像への鮮明化技術の可能性を示した.画像鮮明化処理ソフトウェアとは,デジタル画像(デジタルに変換すればアナログ画像でも可)からオリジナリティを保持した状態で画像に独自の処理を行うことで,画像全体を人間の眼に見えやすいように強調する技術である.この技術は,消防レスキュー隊の利用するカメラや監視カメラなどの暗所・逆光や半逆光映像の鮮明化など,さまざまな領域で応用され,筆者は眼科領域での有用性を報告してきた1).具体的には,ドライアイの涙液層破壊パターン2),超広角走査レーザー検眼鏡画像3)や眼科手術動画の鮮明化である.図1a,2a,3は結膜下のリンパ管拡張に続発したdellenのフルオレセイン染色画像である.隆起病変により盗涙減少が引き起こされ,隆起部から距離をおいて潰瘍などの病変が認められるが,鮮明化処理前の画像(図1a)はぼやけて見えにくい.鮮明化処理後(図3)は角膜輪部の7-8時付近の角膜潰瘍を観察することが容易となった.図1b,2b,4はSjogren症候群による角膜結膜所見のフルオレセイン染色画像である.特徴としては,涙液貯留量が少ないうえに結膜優位の点状表層角膜症があるが,鮮明化処理前(図1b)は暗く病変が見えにくい.しかし,鮮明化処理後(図4)は明るくなり,一見して結膜優位の点状表層角膜症を確認できる.画像鮮明化ソフトウェアにより所見の不明瞭な画像が明瞭になり,フルオレセイン画像一般に有用であると筆者は考えている.文献1)福岡秀記,横井則彦,外園千恵:画像鮮明化処理ソフトウェアSoftDEFの眼科画像に対する有用性の検討.あたらしい眼科36:559-565,20192)青木崇倫,横井則彦:画像鮮明化装置LISr-101の眼科手術動画への応用.あたらしい眼科37:443-444,20203)福岡秀記,横井則彦:画像鮮明化ソフトによる涙液層破壊パターンへの応用.あたらしい眼科35:785-786,20184)山下耀平,福岡秀記,永田健児ほか:画像鮮明化処理ソフトウェアの超広角走査レーザー検眼鏡画像への有用性の検討.日眼会誌126:574-580,2022

抗VEGF 薬の副作用

2023年1月31日 火曜日

抗VEGF薬の副作用AdverseEventsAssociatedwiththeUseofAnti-VEGFDrugs片岡恵子*はじめに血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)は発生および生体の維持に必要不可欠の因子である.また,虚血や炎症などにより誘導されると血管漏出や病的な新生血管を生じる因子でもある.抗VEGF薬の登場は,加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫をはじめとする黄斑疾患や新生血管緑内障や未熟児網膜症などの治療を劇的に改善し,今では臨床現場に必要不可欠な治療薬となった.実臨床で使用する機会が増えた薬剤ではあるが副作用も存在するため,本稿では全身副作用および眼内炎症について解説する.CI抗VEGF薬の全身副作用抗CVEGF薬は従来から抗癌剤として全身投与が行われている薬剤であり,抗CVEGF薬の全身投与における副作用はいくつか報告されている1).抗CVEGF薬は血管内皮細胞での一酸化窒素の産生を抑制することで高血圧を生じるとされる.腎臓の糸球体上皮細胞と血管内皮細胞に作用し蛋白尿を生じる.血管新生は創傷治癒の過程に必要不可欠であるが,抗CVEGF薬により創傷治癒が障害されることで外科手術後の創離開などの合併症の増加が報告されている.また,血栓傾向や心拍出量の低下,甲状腺機能低下などの内分泌機能の低下も報告されている.しかし,これらはすべて全身投与により長期間高濃度の抗CVEGF薬の暴露を受けた場合の副作用である.硝子体内に投与を行った場合,血中へ移行した抗VEGF薬の濃度は全身投与の場合のC1/1,000程度ときわめて低濃度である2).したがって,抗CVEGF薬の全身副作用の発生頻度もきわめて低いことが予想される.無作為化臨床試験のメタ解析を用いて抗CVEGF薬の硝子体内投与により全身副作用の発現が増加するかを調べた報告では,心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントや,それらによる死亡のリスクは増加しなかったと報告されており3),抗CVEGF薬の硝子体投与による副作用の発現頻度は著しく低いと考える.ただし,無作為化臨床試験に参加する被検者は比較的健康である可能性が高いことと,後ろ向き研究ではあるがC65歳以上の患者では抗VEGF薬投与後に脳梗塞のリスクがあがったという報告もあることから4),著しく全身状態が不良などのハイリスク患者に抗CVEGF薬の硝子体内投与を行う際には多少の留意が必要と思われる.現在発売されている抗CVEGF薬は,ラニビズマブ,アフリベルセプト,ブロルシズマブのC3種類と,VEGFとアンジオポエチンC2の両者を阻害するファリシマブがある.抗体には,抗原と結合するフラグメント(Fab領域)と結晶化フラグメントとよばれるCFc領域があり,Fc領域は体内での抗体の分解や腎臓からの除去を制御することで抗体の再利用,つまり抗体の血中濃度の維持に役立っている.抗CVEGF薬は抗体の構造を利用して作製された薬剤であるが,ラニビズマブとブロルシズマブはCFc領域をもたないため,血中から早期に分解および除去され,全身副作用を低減できると期待される(表*KeikoKataoka:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕片岡恵子:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(57)C57表1抗VEGF薬の特徴薬剤構造Fc領域の有無抗体CVEGFFabFc領域ありラニビズマブCVEGFなしアフリベルセプトCVEGFFc領域ありブロルシズマブCVEGFなしファリシマブCVEGFAng-2改変したFc領域Fc領域は改変されている表2ブロルシズマブ関連眼内炎症の臨床的特徴症状検査所見<細隙顕微鏡検査>充血異物感・痛み充血前房細胞角膜後面沈着物前房蓄膿前部硝子体細胞<眼底検査>飛蚊症霧視視力低下硝子体混濁網膜出血,軟性白斑白鞘化した網膜血管網膜血管の蛇行,拡張視神経乳頭の発赤/腫脹<フルオレセイン蛍光造影>暗点視野欠損網膜血管からの蛍光漏出網膜血管の充盈遅延/欠損無灌流領域視神経乳頭からの蛍光漏出図1飛蚊症を自覚して来院したブロルシズマブ関連眼内炎症の一例白鞘化した網膜血管()と網膜出血()がみられる.表3ステロイド治療の例投与法薬剤注意点点眼0.1%ベタメタゾン点眼4回/日前房の炎症が強い場合は点眼回数の増量や散瞳薬の併用を考慮する眼圧上昇の可能性があるTenon.下注射トリアムシノロンアセトニドC20Cmg/0.5Cml眼圧上昇や白内障の増悪の可能性がある内服プレドニゾロン0.5mg/kg/日炎症所見に応じて漸減糖尿病や全身感染症の増悪の可能性がある-

網膜視神経に副作用を生じる薬剤

2023年1月31日 火曜日

網膜視神経に副作用を生じる薬剤SideE.ectsofSystemicDrugsontheRetinaorOpticNerve篠田啓*菅野順二*はじめに近年,診断技術の進歩や分子標的薬をはじめとする多くの抗癌剤の登場などによって,他科薬剤による眼科領域の副作用が増えている.処方科と診断する科が異なるために診療科間の連携がとくに重要であるが,同時に眼科医として一定の知識を日常的にアップデートしておきたい.ここでは,抗てんかん薬や,膠原病治療薬,糖尿病治療薬などの薬剤による眼部副作用について解説する.I抗てんかん薬ビガバトリン(サブリル)は2016年に承認された点頭てんかんに対する薬で,c-アミノ酪酸(GABA)という,脳神経の興奮を抑える抑制性神経伝達物質の分解を抑制してGABA濃度を高めることでてんかんを抑えるとされている.1999年に不可逆的な視野障害が報告されたが,本剤による視野障害誘発については今も議論が続いている1.3).視野障害の頻度は高くないものの不可逆性であり,米国ではtheRiskEvaluationandMitiga-tionStrategy(REMS)によって登録とモニター継続が必要とされている.わが国でも使用は登録医療機関のみに限られ,使用前と,使用中も定期的な眼科でのモニターが必要である.詳しくは日本眼科学会ホームページhttps://www.nichigan.or.jp/member/news/detail.html?itemid=138&dispmid=917を参照されたい.錐体機能障害と視神経萎縮を生じ,視野検査が困難な場合は網膜電図(electroretinogram:ERG)が有用である.また,近年はスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)による神経線維厚の計測の有用性が報告されている4).II膠原病治療薬1.ヒドロキシクロロキン全身性エリテマトーデス(systemiclupuserythema-tosus:SLE)や皮膚エリテマトーデスに対するヒドロキシクロロキン(hydroxychloroquine:HCQ)(プラケニル)はわが国では2015年に承認された.SLE診療のガイドライン5)では「AmericanCollegeofRheumatology(ACR)改訂分類基準」(1997)もしくは「SystemicLupusInternationalCollaboratingClinics(SLICC)分類基準」(2012)を参考にSLEを診断したうえで,すべての患者にHCQ投与を考慮するとされているため,適応は広く使用者の数がますます増加すると予想される.本剤の副作用として網膜症が有名で1),わが国でも2021年に網膜症が報告された6)(図1).HCQは,網膜色素上皮細胞の代謝阻害によっておもに黄斑部の錐体に毒性を発現し,進行すると網膜障害は不可逆性で,投与中止後も進行しうるとされている7,8).2,000例を超える多数例での累積発症率の検討では治療開始後5年以内の発症はまれであるため,米国のガイドラインでは投与開始後5年目以降のスクリーニングが推奨されている9,10).また,近年の検査法を用いた網膜症診断の報告では,有*KeiShinoda&JunjiKanno:埼玉医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕篠田啓:〒350-0495埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷38埼玉医科大学医学部眼科学教室0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(51)51右眼左眼29カ月図1ヒドロキシクロロキン(HCQ)網膜症の1例37歳,女性.全身性エリテマトーデスに対してCHCQ(プラケニル)をC200Cmg(4.4mg/実体重kg/日,4.4mg/理想体重kg/日)(うちC5カ月間C300Cmg/日に増量)(計C182Cg)内服時(治療開始後C29カ月時)に診断された網膜症.上段:HCQ中止時眼底カラー画像および眼底自家蛍光画像.中段:治療前,開始後C29カ月(HCQ投与中止時),中止後C17カ月のCSD-OCT画像.下段:治療前,開始後C29カ月,中止後C8カ月の中心視野.傍中心窩の網膜症を認め,中止後もやや進行している.ab図2経口血糖降下薬による黄斑浮腫の1例64歳,女性.問診で糖尿病治療薬としてピオグリタゾン(アクトス)を使用中と判明し,主治医と相談して薬剤を変更したところ,体重はC10kg減少し,眼瞼浮腫,黄斑浮腫も軽減した.Ca:眼科初診時の外眼部および左眼黄斑部断層画像.b:薬剤変更C1カ月後の同画像.(矢田眼科堀江英司先生のご厚意による)いては新たな発症はまれであるが,既存の黄斑浮腫が内服早期に増悪する可能性があるとされている(図2).CIV多発性硬化症治療薬スフィンゴシンC1リン酸(sphingosine1-phosphate:S1P)受容体阻害薬であるフィンゴリモド(イムセラ,ジレニア),a4b1インテグリン(veryClateantigen-4:VLA4)阻害薬であるナタリズマブ(タイサブリ),S1P受容体のサブタイプであるCS1P1とCS1P5に対する阻害薬であるシポニモド(メーゼント)の副作用として,急性網膜壊死,黄斑浮腫の報告がある1,15).黄斑浮腫の発症率はC0.3%,内服開始後C3カ月以内に多い.無症状例も多く,多発性硬化症そのものに伴うものであるという議論もある.治療は休薬であるが,ステロイドCTenon.下注射(sub-tenonCtriamcinoloneCacetonideCinjec-tion:STTA)や硝子体内注射(intravitrealCtriamcino-loneacetonideinjection:IVTA)の奏効例もある.CVコロナワクチン接種に関連したぶどう膜炎SARS-CoV-2ワクチンの投与後に発症したぶどう膜炎の報告が相ついでいる.海外では急性前部ぶどう膜炎が,わが国では原田病が多い.サルコイドーシス,ヘルペス感染症,多巣性脈絡膜炎や,ぶどう膜炎以外でも急性帯状潜在性網膜外層症(acuteCzonalCoccultCouterretinopathy:AZOOR),多発消失性白点症候群(multi-pleevanescentwhitedotsyndrome:MEWDS),中心性漿液性脈絡網膜症,acuteCmacularCneuroretinopa-thy,paracentralacutemiddlemaculopathy,角膜移植後の拒絶反応,視神経炎などが報告されている.mRNAによるCINF-c,CD4陽性T細胞,CD8陽性T細胞,などの炎症性因子やコルチコステロイドの誘導などを介した機序や,COVID-19患者は複数のタイプの自己抗体を発症する傾向があり,COVID-19ワクチン接種による既存の潜在的な自己免疫疾患を引き起こす可能性などが考えられている16).現在,日本眼炎症学会を中心とした,COVID-19ワクチン接種後の眼炎症性疾患発症実態調査が進行中である.VIエタンブトール視神経症結核および非結核性抗酸菌症に用いられるエタンブトール(ethambutol:EB)による視神経障害(図3)についての初めての報告は,1962年CCarrとCHenkindによるもので,わが国でもC1963年に原田らの報告をはじめとして多くの報告がされている.わが国の報告によると,EB視神経症の発生頻度はC0.44.6%(subclinicalにはC10%を超えるという報告もある),発症までの期間は2.6カ月が多いが,6カ月以上の例が多い,あるいは長いほどリスクも継続するとも報告されている17.21).1日投与量C25mg/kg/日,総量C100.400Cgで発症しやすく,危険因子としてC60歳以上,糖尿病,高血圧,腎障害,貧血などがある17.21).金嶋らは,EB内服開始目的で受診しC6カ月以上経過観察できたC152例を検討し,4例で視神経症を疑い内服を中止し,多くは視力および限界フリッカ値(criticalCfusionfrequency:CFF)の低下を認めたが,6カ月程度で自然に回復し,重篤な障害は残さなかったと報告している19).近年,非結核性抗酸菌症に対する長期投与例が増加しており,日本結核・非結核性抗酸菌症学会,日本眼科学会,日本神経眼科学会のC3学会合同で,呼吸器内科医がEB投与に際して行うべき眼科的副作用対策が協議され,EBによる視神経障害に関する見解が報告された22)(https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/news/ethambutol.pdf).その骨子は,①投与前に早期発見のための最適な自己検査法,診察間隔,眼科医との連携について患者に十分に説明する.②投与中は定期的に眼科で評価を受ける.自覚症状がなければC1.3カカ月ごと,自身で毎日自己評価できる患者はC3カ月に一度,眼科で定期的に評価を受けることが早期発見に重要である.③検査内容は,視力検査(矯正視力)は必須で,視野検査も行う.必要に応じて,中心CCFF検査も行う.色覚検査(石原式),Amslerチャート(簡易な中心視野検査)も早期発見に有用である.というものである.CVIIその他経口避妊薬(低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤)による網膜静脈閉塞症1),エルゴタミン製剤(片54あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023(54)図3エタンブトール視神経症の1例77歳,男性.3週間前からの霧視を主訴に来院.視力は右眼(0.15),左眼(0.1),限界フリッカ値は右眼C5CHz,左眼C5CHz.6カ月前からエタンブトール(エブトール)をC750Cmg/日(10Cmg/kg)内服中であることが判明.投与を中止したところ,4カ月後に視力は右眼(0.6),左眼(0.4)まで改善した.上段左:初診時右眼眼底写真.視神経蒼白所見は明らかではない.左眼も同様であった.上段右:右眼CGoldmann視野.中心暗点を認める.左眼も同様の所見であった.下段:初診時COCT所見.両眼とも神経節細胞複合体層の菲薄化を認める.(キッコーマン総合病院眼科平井千順先生のご厚意による)(55)あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023C55-