●連載◯127監修=安川力髙橋寛二107長期視力が維持できた加齢黄斑変性症例吉田いづみ東邦鎌谷病院眼科硝子体内注射の長期投与には効果の減弱などの問題がある.今回,活動性が高いポリープ状脈絡膜血管症に対し,多数回の加療を継続し,右眼はC11年半視力が維持できた症例について提示することで,長期投与の問題点および見解を述べる.症例患者はC66歳,男性.初診時,左眼矯正視力(0.09),ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalCvascu-lopathy:PCV)による網膜下出血を認めた.それに対し硝子体内ガス注入とその後,遷延した硝子体出血に対して硝子体手術を施行し,1年後とC2年後のC2回,光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)を施行したが,視力不良のため数回のみの硝子体内注射施行にとどまった.16年後の現在は網膜内の滲出性病変が遷延化し,Clamellarhole化していて,視力は(0.06)である(図1).右眼は左眼初診時のC4年後にCPCVのためラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealCinjectionCofCranibizum-ab:IVR)にて加療を開始した.当初は治療効果を認め,Cdrymaculaが得られ,矯正視力(1.2)を維持していたが,2~3カ月間隔でのCIVRにもかかわらず,次第にCdrymaculaが得られなくなった.網膜下液(subretinal.uid:SRF)が遷延したため,治療開始からC3年後にアフリベルセプト硝子体内注射(intravitrealCinjectionCofa.ibercept:IVA)に切り替えてCdrymaculaが得られた.ところがCIVAでも再び効果が減弱し,2カ月間隔の投与でもCdrymacula得られなくなったため,8年後にCPDTを施行した.その後,IVAを継続し,9年後に再度Cdrymaculaが得られた.しかし,再燃の間隔は短く,毎月投与でも再燃するようになり,11年後にC2回目のCPDTを施行した.現在の注射間隔はC2カ月で視力9回,.のべ治療回数は計IVR)1図7)である(C.は(0IVA43回,PDT2回であった.受診時の光干渉断層計所見から,11年半(138カ月)の経過観察期間中,網膜内液(intraretinal.uid:IRF)は認めなかったが,のべCSRF残存期間(すべてのCSRF期間を足したもの)1)(図2)は微量も含めるとC111カ月であった.連続での最長はC33カ月であった.右眼治療開始時現在左眼治療開始時現在図1治療開始時と現在のカラー眼底写真およびOCT66歳,男性.両眼PCV.右眼はCIVRをC9回,IVAをC43回,PDTをC2回施行した.現在の視力(0.7).左眼はガス注入,硝子体手術,PDTをC2回施行した.現在の視力(0.06).解説今回,長期視力維持できた症例を紹介した.活動性が低ければ少ない治療で視力維持できる.一方,本症例の右眼は活動性が高く,多数回の治療によっても滲出(SRF)が遷延したが,視力は維持できた.最近CIRFに対してCSRFは許容されるという考え方2)があり,本症例でこれだけのCSRF期間があったにもかかわらず視力が保たれたことはこれを裏付ける.しかし,意図的に許容したわけではなく,診療状況から投与間隔をC2カ月からC1カ月半以下に縮めるのがむずかしかったからであり,できていたらCdrymaculaが得られた期間は増えた可能性がある.意図的に許容したり,注射の効果が弱いときに諦めたりすると無治療に陥る危険性(71)あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023710910-1810/23/\100/頁/JCOPY受診時A受診時B受診時C受診時D受診時E受診時FSRF期間①SRF期間②.uidsubretinalhyperre.ectivematerial網膜色素上皮図2のべIRF残存期間およびのべSRF残存期間の計算方法上段:OCTの日付から計算したCIRFの出現した受診時CBと消失した受診時CDの間がCIRF期間①,受診時CEと受診時CFの間がCIRF期間②.全経過観察期間におけるCIRF期間①+②+・・・の合計を「のべCIRF残存期間」とした.下段:SRFも同様.がある.SRFも長期遷延するとCIRFを招く印象があり,筆者はなるべく加療すべきと考えている.長期の治療になれば多数の硝子体内注射が必要になる.多数の注射による網膜色素上皮の萎縮という点では,treat-extend-stopにてC50回の硝子体内注射を平均6.5年にわたり行っても平均視力(0.4)が保たれていたとする報告などがあり,萎縮はむしろCundertreatmentによるものであろうと考えられてきており3),この点でもより積極的に加療してよいと考える.ただし本症例はこれらの報告よりも経過が長く,結果的にCSRFを許容したことで注射の回数がさらに多くはならなかったことがかえってよかった可能性も残る.以前の筆者らの報告では,硝子体内注射の効果があった症例で経過中効果が減弱したのち,再度効果が現れるようになるのは治療開始から平均C42.9カ月目で,平均10.1回目の注射であった(IVRからCIVAなどへのスイッチ症例も含む).初回から効きづらかったものが効くようになったのは平均C24.4カ月目で,平均C6.7回目の注射であった(スイッチ症例を含む)1).IRFやCSRFの蓄積で網膜の構造が破壊されると効果が減弱するかどうかも検討し,IRF,SRFともに期間の総和のべC70カ月まで調査できたが,蓄積されたC.uidのせいで効きが悪くなるという傾向はとくにみられなかった.以上より,効果が弱くても複数回の硝子体内注射を継続することや,少し時間がたった患者に対しても治療を中断しないことが大切であると考える.注射の効果が弱いときにCPDTを施行するのも一つのC72あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023方法であるが,1回目もC2回目も著効しなかった.1回目の直前はほとんどCdrymaculaが得られない状態になっていたのが,注射を続けて得られるようになったので,いくぶんの効果があったといえるかもしれない.左眼に関して,筆者は視力がすでに悪い患者に対しても長いCIRFの遷延は途切れさせるように加療したい1)と考えているが,lamellarhole化するまでに連続C75カ月IRFを遷延させてしまっていた.Lamellarhole化するのは,滲出が遷延して網膜の細胞間の構成が破壊されることによるといわれている4).文献1)YoshidaI,SakamotoM,SakaiAetal:E.ectofthedura-tionCofCintraretinalCorCsubretinalC.uidConCtheCresponseCtoCtreatmentCinCundertreatedCage-relatedCmacularCdegenera-tion.CJOphthalmologyC26:5308597,C20202)GuymerRH,MarkeyCM,McAllisterILetal:Toleratingsubretinal.uidinneovascularage-relatedmaculardegen-erationCtreatedCwithCranibizumabCusingCaCtreat-and-extendregimen.Ophthalmology126:723-734,C20193)AdreanSD,ChailiS,RamkumarHetal:Consistentlong-termCtherapyCofCneovascularCage-relatedCmacularCdegen-erationCmanagedCbyC50CorCmoreCanti-VEGFCinjectionsCusingCaCtreat-extend-stopCprotocol.COphthalmologyC125:C1047-1052,C20184)FranconeCA,CYunCL,CKothariCNCetal:LamellarCmacularCholesinthepresenceofage-relatedmaculardegeneration.CRetinaC40:1079-1086,C2020(72)