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治療用眼鏡の療養給付

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSい.平成2年8月に厚生省児童家庭局長・健康政策局長通知(児発令638号)『「三歳児健康診査の実施について」の一部改正について』により,三歳児健診に視力検査が導入された.当初は,「弱視」は,保護者には聞き慣れない言葉であり,診断されても戸惑い,「治療用眼鏡」を処方しようとしても拒否され,せっかく早期発見できた弱視の治療が遷延することも少なくなかった.しかし,現在では「弱視」はまれな疾患ではなく早期に発見・治療すれば,良好な視力が得られることを理解している保護者は多い.弱視治療用眼鏡の療養費給付がなされることとなったのは,眼科医,視能訓練士,保健師,小児科医など医療者の努力だけではなく,弱視や斜視の児をもつ保護者たちが主としてインターネットを通して情報交換を行い支え合いながら,それぞれの社会保険事務所に「弱視治療用眼鏡の保険適用」を求めて申請を行ったことが大きい.筆者の把握している範囲では,初めて保険適用されたのは2002年1月であった.しかし,健康保険組合,国民健康保険組合,共済組合,政府管掌健康保険組合などそれぞれの組合や担当者でその対応が異なっていた.筆者も申請が提出された社会保険事務局から質問されたことがあるが,それぞれの担当者や事務局の解釈には大きな差があった.そのような状況下で,地域の社会保険事務所,県社会保険事務局が治療用眼鏡の療養費の支給をしないと決定したことを不服として,厚生労働省の社会保険審査会での再審査を請求した方もいた.「公開審I生活用眼鏡と治療用眼鏡眼鏡を装用する目的は,二つに大別される.一つは屈折矯正を行って生活を快適に過ごすこと(生活用眼鏡)で,もう一つは小児の視機能を発達させること(治療用眼鏡)である.たとえば,小学2年生までは裸眼視力が両眼ともに1.5でほぼ正視であったが,小学3年生の春の学校健診で裸眼視力が両眼ともに0.2になっていて,眼科受診すると両眼近視であり授業中黒板の字が見えにくいという理由で近視眼鏡を処方された場合,これは生活用眼鏡である.すでに視力の発達が十分で,処方された眼鏡の目的は「近視を矯正して黒板の字をはっきり見る」ことであり,「近視を矯正して視力を発達させる」ことではないからである.一方,三歳児健診で左眼の不同視弱視が発見され眼鏡を常に装用したうえで一日3時間の右眼遮閉(健眼遮閉)を5歳になった現在も続けていて,RV=1.2,LV=0.5(0.7×sph+5.00)の場合,装用している眼鏡は治療用眼鏡である.しかし,眼鏡そのものだけを見てもそれが生活用眼鏡か治療用眼鏡であるのかは見分けがつかず,処方される眼鏡の数は圧倒的に生活用眼鏡が多いなどの理由で,「眼鏡に対する療養費の支給」という考えにはなかなか至らなかったのが現状であった.II弱視治療─社会的な理解と保護者たち─小児眼科疾患の治療は保護者の協力なしではできな(3)????*YoshikoSugiyama:金沢大学大学院医学系研究科視覚科学〔別刷請求先〕杉山能子:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学大学院医学系研究科視覚科学特集●眼鏡の新しい展開あたらしい眼科24(9):1135~1139,2007治療用眼鏡の療養給付??????????????????????????????????????????????????杉山能子*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007理」は平成16年10月に厚生労働省で行われ,筆者は「参考人」として出席した.その結果,地域の社会保険事務局長が「家族療養費を支給しない」とした処分を取り消すとの裁決がなされた.その理由の一つに,「患者の眼の感受性のある時期を逸すると治療できないものであること,眼鏡等はその治療遂行上必要不可欠な装具であり,明らかな治療効果が認められていることが明らかであり,これからすると,本件の治療用装具(眼鏡等)は法第87条第1項に規定する療養費の支給要件に該当し,家族療養費の支給対象となるものと認めるのが相当である」とあった.また,「このような弱視治療用の眼鏡を,一般の,日常生活の不便を避けるために使用される眼鏡と同列に扱って療養費の支給を拒むことは,事柄の実態に眼をそむけたきわめて不当な態度」とした.保護者たちは,全国一律に治療用眼鏡が保険給付の対象となることを求めて,平成16年8月にインターネット署名活動を開始し,平成17年2月「あいぱっちくらぶ」のメンバーは29,656名の署名を厚生労働副大臣に提出した(その後平成18年1月に6,831名の追加分を提出).このような努力の結果,中央社会保険医療協議会は平成18年2月,治療用眼鏡・コンタクトレンズについて保険給付を認めることを承認した.平成18年3月15日付けの厚生労働省保険局長から(4)表1平成18年3月15日付けの厚生労働省保険局長からの通知(保発第0315001号),保険局医療課長からの通知(保医発第0315001号)─平成18年4月1日から小児の弱視,斜視および先天白内障術後の屈折矯正などの治療に必要であると医師が判断し処方した眼鏡などの療養費の支給が認められるようになった.─———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????(5)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007(6)の通知(保発第0315001号),保険局医療課長からの通知(保医発第0315001号)を表1に示す.平成18年4月1日から小児の弱視,斜視および先天白内障術後の屈折矯正などの治療に必要であると医師が判断し処方した眼鏡やコンタクトレンズに対して係る療養費の支給が認められるようになった.III治療用眼鏡の療養給付(1)対象年齢9歳未満.(2)給付額眼鏡(掛け式眼鏡に限る):36,700円,コンタクトレンズ(1枚につき):15,400円のそれぞれ100分の103を支給の上限としている.具体的には給付の上限額は,以下のようになる.眼鏡:36,700円×103/100×0.7=26,460円コンタクトレンズ(1枚):15,400円×103/100×0.7=11,103円つまり,上限額(眼鏡:37,801円,コンタクトレンズ15,862円)未満の場合:購入金額×0.7円上限額(眼鏡:37,801円,コンタクトレンズ15,862円)以上の場合:眼鏡:26,460円コンタクトレンズ:11,103円ただし,乳幼児医療が適応された場合は,80%支給のことがある.自治体の乳幼児医療が適用され,医療費が無料となる年齢の児は,自己負担した30%(あるいは20%)が各自治体から支給され,支給上限額以内の場合自己負担が0円となることがある.(3)更新更新された眼鏡,コンタクトレンズなどの支給対象となる条件を以下に示す.5歳未満:更新前の装着期間が1年以上5歳以上:更新前の装着期間が2年以上ここで,装着期間の解釈であるが,実際に眼鏡などを装着していた期間ではなく,前回の申請からの期間と考えるのがよい.更新期間内に医師から度数変更の指示があった場合などについては,各保険者によってその対応が異なる場合がある.(4)申請に必要なもの①療養費支給申請書加入している健康保険申請窓口にある.患者が用意する.②療養担当に当たる保険医の「治療用眼鏡等」の作成指示書日本眼科医会製医療費控除申請用処方箋(毎年「日本の眼科」2月号に掲載)を用いる(表2).③患者の検査結果②の日本眼科医会製医療費控除申請用処方箋「Ⅳの2.治療を必要とする症状」に検査結果を記入する.④領収書購入した治療用眼鏡などの領収書が必要である.宛名を患者本人(児)にしてもらう,但し書は「治療用眼鏡」と記入してもらうと,よりわかりやすい.厚生労働省の通知では,治療用眼鏡などの製作所は,「薬事法第12条1項に規定する高度管理医療機器又は一般医療機器の製造又は販売について厚生労働大臣の許可を受けていること」とされているが,眼鏡は許可が必要でないので眼鏡店の制限はない.コンタクトレンズの販売は,高度管理医療機器販売の許可が必要である.⑤口座番号と印鑑療養費の支給が認められた場合,振込み先の口座番号と印鑑が必要である.(5)申請窓口患者が加入している保険団体によって違う.表3にそれぞれの申請窓口を示す.健康保険証の表の最下段に「保険者」として表記されているのが,加入している保険団体である.申請に関する問い合わせは,それぞれ保険団体に行うとよい(6)申請期限眼鏡,コンタクトレンズなどの代金支払翌日から2年間である.小児の弱視治療用眼鏡などが療養給付となり,保護者の負担も軽減されるが,それ以上に弱視の早期発見・治———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????(7)療に対する保護者はじめ国民の意識が向上するものと期待している.文献1)日本眼科医会総務部:治療用眼鏡の医療費控除について.日本の眼科78:181-185,2007表3申請窓口─申請窓口は患者が加入している保険団体によって違う─加入している保険申請窓口政府管掌健康保険各社会保険事務所国民健康保険市区町村の国民健康保険課健康保険組合各健康保険組合の事務局共済組合各共済組合の事務局表2日本眼科医会製医療費控除申請用処方箋(毎年「日本の眼科」2月号に掲載)

序説:眼鏡の新しい展開

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(1)????近年,コンタクトレンズや屈折矯正手術の進歩は著しいが,一生眼鏡なしに過ごせる人はまれである.その意味で,眼鏡は屈折矯正の基本であり,眼科医は眼鏡に関する新しい知識を常に知っておく必要がある.近年,眼鏡の素材および設計技術の進歩に伴い,より快適な老視用眼鏡が開発されている.また小児の治療用眼鏡に関する制度が改善され,処方しやすい環境が生まれている.このような時代背景を踏まえ,本特集では眼鏡の新しい展開に関して述べる.眼鏡の役割の一つに,小児においては視力発達の促進があげられる.これは,成長期に網膜上に焦点を結んだ状態が得られないと弱視になるという,Hubel&Wieselの動物実験の結果に基づいている.したがって弱視が疑われる場合は,早急に眼鏡の処方が必要とされ,また定期的に度数を変えたり,傷がついた場合は同じ度数でも作り変える必要が出てくる.眼鏡は多くの先進国ではすでに療養費給付の対象になっているが,わが国ではこれまで療養費給付の対象になっていなかった.小児を抱える若い世代にとって,眼鏡を定期的に作り変えることは経済的にかなりの負担になり,われわれ眼科医が頭を痛める問題でもあった.患者団体からの陳情に対する厚生労働省の前向きな取り組みと,本特集の執筆者の一人である杉山能子先生らの努力により,わが国でも治療用眼鏡に対して療養費給付が認められることになった.申請の流れと,どの範囲の疾患に対してこれが適用されるかに関しては,まだ十分には知られていないと思われるため,杉山先生にこれらの点に関してご説明いただいた.眼鏡はこれまで,1歳半くらいにならないと装用できないと考えられてきた.これは,乳児は眼鏡を,違和感からすぐに取り外してしまうためである.ところが最近,ゼロ歳児から装用可能なゴーグル型眼鏡が開発された.これは,視覚の臨界期で感受性の強い時期から屈折矯正ができることになり,朗報である.このことに関して仁科幸子先生に解説していただく.乱視矯正の眼鏡の乱視度は,装用感を重視して低矯正を目指すことがよく行われているが,これは果たして正しいのであろうか?長谷部聡先生は留学先のGuyton先生の理論をもとに,斜乱視では低矯正が望まれるが,直(倒)乱視では完全矯正しても問題がないことを解説していただいた.累進多焦点の眼鏡を有効に使うためには,視線の移動が重要である.河原哲夫先生は,眼鏡をかけたときのどの部位を使って見ているかを検出できる,視線追跡装置を開発されており,この装置を使って累進多焦点を装用したとき,実際どの部位で見ているかについて解説していただく.また近年,遠近用累進多焦点眼鏡だけでなく,中近・近近の累進多焦点眼鏡も普及しつつある.これらの眼鏡は正面を見0910-1810/07/\100/頁/JCLS*TakashiFujikado:大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学●序説あたらしい眼科24(9):1133~1134,2007眼鏡の新しい展開????????????????????????????????????????不二門尚*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007たときに焦点が合う位置が中間距離(パソコンの距離)あるいは近距離(読書距離)に合わせてあり,上目使いをすれば遠方も見える眼鏡である.オフィスワークをする中高年が増加している現在,求められる中近・近近の累進多焦点眼鏡についての最新情報を簗島謙次先生に解説していただいた.累進レンズは設計上ある程度のユレ,ゆがみがでることは避けられず,これが見え方の質(QOV)を低下させる.ユレ,ゆがみは光学的には非点収差に起因するが,これをいかに少なくするかがポイントとなる.祁華先生には,このユレなどを定量化する方法について解説していただいた.瞳孔径が小さくなると,焦点深度が深くなり近くを見るときに調節力を節約することができる.加齢に伴う瞳孔径の減少は,合目的的な変化ということができる.瞳孔に造詣の深い浅川賢先生・石川均先生には,瞳孔径の加齢変化および白内障手術時に瞳孔を保つことの重要さに関して解説していただく.最後に,ロービジョンの分野で最近話題になっている遮光眼鏡に関して取り上げる.短波長の光を選択的にブロックする遮光眼鏡は,加齢黄斑変性などの網膜疾患の患者に対して,くっきり見えるようにするため処方することが多いが,客観的な証拠に乏しかった.視能訓練士の阿曽沼早苗さんは,遮光眼鏡装用下でコントラスト感度を測定することにより,加齢黄斑変性ではコントラスト感度が上昇することを示し,その機構にも考察を加えている.本特集は,眼鏡に関する上級編の解説になった感があるが,視機能管理の専門家として,眼科医が今後付加価値をつけていくためには,このような知識も積極的につけていってほしいという希望もこめて組んだものである.(2)

眼科医にすすめる100冊の本-8月の推薦図書-

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS医学の世界にいても,昨今,マーケティングという言葉をよく耳にする.実は,本書を読むまでは,私はマーケティングを商品の販売を促進するための調査,販売,広告の方法論と思っていた.しかし,本書によれば真のマーケティングとはそういうものではないらしい.すなわち,マーケティングとは企業活動(ビジネス)をトータルにマネージメントすることであり,商品に潜在能力を見出してそこに新しい価値を創造し,顧客の購買意欲までも創造して“売り込みの行為”(セリング)そのものを不要にするものであるという.著者によると,商品を自分に置きかえればマーケティングの考え方を人生にも当てはめることができ,そこから,人生で一番大切なこと─人としての生き方や自己実現の方法─が学べるという.また著者は,実際の自己実現においては,まず,自分が他人とどう違うべきなのかを明確にすることが大切で,そこに見えてくるPersonalIdentity(PI)を人生をかけて追求するライフ・マネージメントに,マーケティングの方法論が適用できると述べている.さらに,人間は社会的存在であるため,人間の存在意義というのは生きることを通していかに社会に貢献するかにあり,その社会貢献が自己実現という欲求に基づいてなされるのが理想的であるという.そして,商品のマーケティングを考えるがごとくに,自分に潜在能力を見出してそこに新しい価値を創造し,社会貢献してゆくことが人としてのあるべき姿ではないかという.本書によれば,マーケティングの理論を応用した自己実現の方法はつぎのようである.まず,最初のステップは,4P(productとしての自分自身,自分の属する組織としてのplace,自分の市場価値としてのprice,今後どのように自分をプロモートしてゆくかというpromo-tion)を意識して,自分の存在意義を問うこと.そして,自分の存在意義を考えつくしたならつぎに環境分析を行って目標を設定する.環境分析においては,先の5年間を予測し,自己評価(自分の強み,弱み)を行い,他者に勝つ(差別化する)ための効果的な方法,逆に他者の強みと他者が自分に勝つための方法,最終的な自分たちの強み,勝ちパターンのサマリーを作る.著者のこれまでの経験によると,自己実現のための計画は5年単位で行うのがよく,5年でステップアップした力をつぎ込んで,つぎのチャンスをものにする(catchthewave)ことが大切であるという.この5カ年計画においては,5年後にあるべき自分の姿を想定しながら,OGSMの手法を用いると良いという.OGSMとはO(Objective:自分の存在意義そのもの),G(Goal:5年後に向けての具体的な数値目標),S(Strategies:Objectiveとその数値目標の達成のためにとるべき手法・手段),M(Measurements:具体的評価項目)からなるが,実際には,さらにT(Tactics:具体的計画,毎年のactionplan)を加えて,計画をより具体的にする.そして,評価はあくまでも自分で決めた数値化した目標(Keyper-formanceindicator:KPI)に基づいて行い,年ごとにレビューして目標を見失わないようにする(Manage-mentbyobjectivethroughselfcontrol:MBO)ことが大切であるという.また,戦略(S),戦術(T)を変えても,一旦たてた目標(OとS)を変更してはならず,実行と成果の獲得をめざす.そして,成果が得られてモチベーションを好循環につなげることができれば,自信と回りからの信頼が得られる.筆者は,OGSMの自分バージョンの作成とその実行,および成果の獲得こそが,自己実現の早道であると述べている.また,5年という時間軸はあくまでも,一つの通過点としてのマイル・ストーンであり,その前の3年目にど(85)■8月の推薦図書■人生でいちばん大切なことはマーケティングで学べる5年ずつ自己実現する生き方佐藤公明著(新風舎)シリーズ─76◆横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007うあるべきか,そのために,来年,来月,明日,何をすべきかが大切であるということも,ボーリングのピンとスパットの位置関係に例えて追記している.プロとよばれる人間は,物事を正確かつ客観的に評価できる一流の眼(座標軸)を持ち合わせているものだが,本書を読めば,外資系企業をステップアップするなかで,いかに著者がしっかりとしたマーケティングの理論を体得し,その活用性に自信を深めてきたかが理解できる.さらに,著者が好機の波をとらえてステップアップしてこられた理由は,それ以外に,著者の持つ人に共感する心と,人を大切にするおもてなしの精神,日本と日本人に対する強い愛情にあることが伝わってくる.本書は,企業にいる若者向けに書かれてはいるが,著者が述べているように,人生はネバーエンディングストーリーであり,自己実現という意味においては,いずれの年代にも参考になるのではないだろうか?将来に夢と希望を抱いて仕事に全力を注ぐ若い眼科医に対しても,自己実現のための指南書としてぜひお薦めしたい好書である.眼科関連メーカーに勤務した経験をもち,現在,伝統ある外資系製薬企業の社長として活躍する著者は,われわれと決して無縁な存在ではないはずである.(86)☆☆☆コンタクトレンズフィッティングテクニック【著】小玉裕司(小玉眼科医院院長)CLの処方に必要な角膜・涙液・屈折矯正・その他の知識/CLの選択/ハードCLの処方/フルオレセインパターンの判定方法と注意点/レンズデザインと角膜形状/ベベル・エッジのチェック/SCLの処方・種類・選択/CLと定期検査・眼障害/HCLの修正/修正によるHCLの苦情処理-くもり・充血・異物感・視力/SCLの苦情処理-くもり・かすみ・視力低下・異物感・眼痛・流涙・充血/乱視に対するCLの処方/ドライアイ/ラウンドコルネア/カラーCL/治療用SCL/無水晶体眼・乳幼児と小児に対するCLの処方/光彩付きCL・義眼CLの処方/ハード・ソフトタイプバイフォーカルCLの処方/HCLのカスタムメイドの処方/CLと点眼薬/CLとケア用品/●ワンポイントB5判総152頁カラー写真多数収載定価8,400円(本体8,000円+税400円)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容目次■この本があれば,明日からのコンタクトレンズ診療は安心して出来る!株式会社

後期臨床研修医日記1.

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS京都府立医科大学の眼科では現在6名の前期専攻医が働いています.各疾患の専門グループの先生方の下,常に最新の医療に触れられるという,ありがたい環境で勉強させていただいています.そんな恵まれた病院で過ごす私たちの,てんやわんやの1週間を少しご紹介したいと思います.月曜日今日は月曜日.新たな1週間の始まりです!朝,8時から角膜カンファランスがあるので,それまでに入院患者さんの診察です.緑内障術後の患者さんの眼圧が高くて,必死でマッサージをしていると8時前!医局までダッシュ!!カンファランスの準備です.角膜カンファランスは,専攻医のためのレクチャーで始まります.毎週,角膜チームの先生がテーマを決めて,基本的な内容から最新の内容まで,充実の講義をしてくださいます.その後は,外来患者さんについての検討会です.まれな疾患の方も,ここではたくさん経験できます.角膜カンファランス終了後,病棟番の業務の開始です.点滴をしたり,翌日手術の方や予定入院の患者さんの指示出しをします.また,臨時入院も多く,角膜感染症や網膜?離,緑内障発作などの患者さんが緊急入院になります.白内障・緑内障・角膜移植・糖尿病網膜症・吹き抜け骨折など,万遍なくさまざまな疾患を担当できるようになっています.夕方や夜に患者さんの診察をして,さらに山積みの雑務と眠気と戦い1日の業務が終了です.(丹羽匡世)火曜日火曜日は手術番の日です.起きたらまずブラックコーヒーか栄養ドリンクを飲んで完全に目を覚まします.8時までに病棟の担当患者さんの診察を済ませて,手術室に向かいます.まずは顕微鏡・モニター・器械類のセッティングを行います.そうこうしているうちに患者さんが入室してこられます.火曜日は2部屋で手術を行っており,内容は白内障,硝子体手術,眼形成(眼窩壁骨折,眼瞼下垂,内反症など)とバラエティに富んでいます.白内障手術も,角膜疾患,虹彩炎後,内皮細胞数減少などの難症例が多く,一つひとつの症例がとても勉強になります.まだまだ不慣れなことも多く,白内障にしても,自分がセットした眼内レンズがちゃんと出てくるかドキドキしながら顕微鏡をのぞいています.緊急手術がなければ大体17時前後には手術が終わります.その後は病棟の患者さんの診察をしたり,術後の患者さんを訪問したり,翌日の水曜日の総回診のプレゼンテーションの準備をします.手術番の日は,普段よりも緊張状態が長く続くため疲労感が強いです.そのため火曜日はいつも帰宅するとベットに直行です…忘れずに目覚ましを3個セットしてから….(足立紘子)(81)後期臨床研修医日記●シリーズ①京都府立医科大学眼科学教室丹羽匡世足立紘子佐々木美帆奥島健太郎大塚斎史中村さや花(執筆順)▲医局カンファランスルームにて(向かって左側奥から中村・佐々木・大塚,右側手前から足立・丹羽・奥島)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007水曜日水曜日も手術日です.この日は白内障の他,斜視や眼瞼下垂,結膜弛緩症の手術がありました.手術がすべて終了し片付けをしていたらもう17時前.17時からは当直が始まるので,病棟番から当直用PHSを受け取ります.いよいよ当直が始まったと思ったとたん,PHSが鳴ります.当院の救急外来を受診する患者さんは,結膜炎や角結膜異物などの比較的軽症の方から,外傷による眼窩壁骨折や網膜裂孔,?離など手術適応となる疾患や,なかには酸やアルカリ外傷など緊急の処置を要するケースもあります.まずは電話での情報から,「たぶん結膜炎かな」とか「眼窩壁骨折かもしれない.CTも必要かな.」など事前に予想を立てるのですが,何分経験の乏しい私たちであり,わからないことが多く患者さんが来院するまでに必死で本を調べたり,周りの上級医の先生に相談したりします.困ったら,宅直として待機しているスタッフの先生に連絡して指示を仰ぎます.救急受診で多いのは「液体が眼に入った」というもので,消毒液や洗剤からおもちゃの蛍光塗料まで実に多様であり,大抵は洗浄し軟膏を点入するのですが不安が残ります.軽症の症例であっても自分がした処置や処方が誤りでなかったか,また,患者さんが指示どおり再診してくれるかも気になるところであり,再診時に良くなっていたことを確認して,ほっとすることも多いです.このように冷や汗をかきながらも,当直をなんとか乗り切っています.(佐々木美帆)木曜日通常通りの病棟業務を行っていると,外来から連絡が入りました.昨日,角膜のご提供があり,本日は夕方5時から緊急の角膜移植が行われるのです.当大学病院ではこうした角膜移植が頻繁にあります.その患者さんを受け持つことができるという連絡でした.私たち前期専攻医の役割は非常に重要で,入院の準備,病棟での診察,手術の補助,術後管理などを一手に行います.こうして手術が終了して術後の指示を出し終えた22時ごろ,今度は献眼の連絡が入りました.本日はアイバンク当直であったため,大急ぎで準備に取り掛かり,すぐに摘出へ向かいました.アイバンク当直とは献眼のご意志がある方が亡くなられた際,時刻にかかわらず,眼球を摘出に行くというものです.タクシーで2時間半かかる自宅まで一人で向かいますが,大変貴重な献眼を扱うので責任の重大さに気が引き締まります.今回は自宅で亡くなられた方で,到着後,ご遺族に承諾を得て,角膜の状態を確認した後,角膜が乾燥しないように気をつけながら,開瞼器をかけ,結膜を?離した後,直筋に糸をかけ,眼球を脱臼させ,視神経や結合組織を切除し,摘出しました.ご遺体に義眼を入れ,ご遺族から書類をいただいた後,すぐに大学病院へ帰りました.摘出した眼球は,専門の医師に角膜移植できる強角膜片にしてもらうのです.こうして大変充実した一日を終え,深夜帰宅しました.(奥島健太郎)金曜日金曜日は外来付きの日です.前期専攻医は1年を通して1,2カ月ごとに,スタッフによる一般外来をローテートしています.木下教授は角膜が専門なので,外来にはさまざまな角膜疾患の患者さんが紹介受診されます.患者さんの人数が多いので診察台を4台駆使して外来が進行していきます.教科書でしか見たことがない珍しい疾患を実際スリットで見たときは,思わず感動してしまうこともあり,非常に充実感があります.一般外来のほか,さまざまな特殊外来があり,1年を通してそれらの外来もローテートしていきます.角膜,ドライアイ,緑内障,網膜,眼形成,ぶどう膜,屈折矯正,円錐角膜,斜視弱視,Stevens-Johnson症候群外来など,患者数の多い疾患からマニアックなものまで,計14種類の特殊外来があります.まだ,一部しか経験し(82)▲助手を務める足立(右)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????ていませんが,専門の先生にじかに教えていただける場であり,一つひとつの症例を大切に勉強していきたいです.(大塚斎史)土曜日午前中の回診を終え,ほっと一息.土曜日は,上級医の先生方と一緒にゆっくりと患者さんを診察できる機会でもあり,一人では気づかなかった診察ポイントが見つかるチャンス.こうして,私たち6人の1週間は慌しく過ぎていくのですが,皆それぞれマイペースに仕事を楽しみながら頑張っています.大学病院という場所では,各分野の第一線で活躍される先生方とじかに接し,また特殊な疾患も含め,さまざまな疾患を受け持つことができます.入ってみてからわかったのですが,眼科医としての最初の1年をここで過ごせることは本当にラッキー!!です.つい先日眼科に足を踏み入れたばかりの私たちですが,たくさんの先生方,視能訓練士(ORT)さん,看護師さんなど多くの方々のお力添えをいただきながらも,早く一人前として働けるよう,これから日々研鑽を積みたいと思います.(中村さや花)(83)?プロフィール(50音順)?足立紘子(あだちひろこ)京都府立医科大学卒業,京都市立病院にて初期臨床研修,平成19年4月より京都府立医科大学眼科学教室前期専攻医.大塚斎史(おおつかよしふみ)京都府立医科大学卒業,社会保険神戸中央病院と京都府立医科大学附属病院にて初期臨床研修,平成19年4月より京都府立医科大学眼科学教室前期専攻医.奥島健太郎(おくしまけんたろう)島根大学医学部卒業,済生会中津病院にて初期臨床研修,平成19年4月より京都府立医科大学眼科学教室前期専攻医.佐々木美帆(ささきみほ)京都府立医科大学卒業,済生会吹田病院・京都府立医科大学附属病院にて初期臨床研修,平成19年4月より京都府立医科大学眼科学教室前期専攻医.中村さや花(なかむらさやか)京都府立医科大学卒業,京都第二赤十字病院・京都府立医科大学附属病院にて初期臨床研修,平成19年4月より京都府立医科大学眼科学教室前期専攻医.丹羽匡世(にわまさよ)京都府立医科大学卒業,京都第一赤十字病院にて初期臨床研修,平成19年4月より京都府立医科大学眼科学教室前期専攻医.指導医からのメッセージ「最初の3年が大事」やる気あふれる6名の新人を迎えることができて嬉しく思っております.入局して最初の3年はとても大事で,特に最初の2年で眼科医としての基本のほとんどが構築されます.たとえれば,赤ちゃんが生まれたときは何もできないのに,3歳になるまでに歩く,食べる,話すなど劇的な成長を遂げるようなものですね.医学的な面だけでなく,患者さんとの応対,あるいは事務的な面でも覚えることが多くて,とても大変な毎日ですが,すべては成果となって自分に戻ってくるので,健康に留意して頑張ってください.眼科のことがわかるほどに,さらに面白くなり,自分でできることが増えるほどに,やり甲斐を実感できることでしょう.皆さんの目が,だんだんと深い輝きを増しているのを感じながら,将来に期待して見守っていきたいと思います.京都府立医科大学眼科・講師外園千恵☆☆☆

私が思うこと6.人生の節目となる出会い

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????私が思うこと●シリーズ⑥(79)はじめに好きなことを書いていいということで,少し私の医師人生を振り返って書いてみようと思います.私は大学卒業後の1年間は小牧市民病院で内科,外科ほかのローテート研修を受けました(眼科は1週間だけでした).その後,名古屋大学医学部眼科に入局,同時に大学院に入学し,生理学を専攻しておりました(三次元視覚刺激に対するヒトの生理学的反応を研究していました).その分野も興味深かったのですが,大学院卒業後は臨床に根ざした研究をしたいと考えていました.その頃出会ったのが,「眼科レジデント戦略ガイド」という本です.その本を読んで,角膜をやられている先生は楽しそう,という印象を受けました.また坪田一男先生の書かれていたお話がおもしろく,会ってみたいなと思っていました.その頃,たまたま角膜カンファランス(1997年道後温泉)に誘われ,参加したのですが,実はこれが,私が参加した初めての眼科の全国学会だったのです.学会とはこんな楽しいものなのか,とショックを受けました.学会の懇親会で,モイスチャーエイドを眼鏡につけている坪田先生はすぐにわかりました.面識もありませんでしたが,会場でお話をさせていただき,二次会では東京歯科大学の先生方が泊まられていた大広間に移り,いろいろと話をさせていただきました(図1).そのなかで,国内留学,海外留学,これからどうしたいのか,といろいろ将来のビジョンを明確にする重要性についてご教示いただいた記憶があります.その際は,この先生のところで勉強してみたいな,と漠然と考えていました.これを機に,東京歯科大学の見学,忘年会の参加などをさせていただくようになり,2000年の角膜レジデント枠を予約しました.東京歯科大学レジデント時代そうして,大学院卒業後2000年から,東京歯科大学で角膜レジデントとして学ぶこととなりました.行って間もなく,将来は海外留学希望があることをお伝えしたところ,明確にいつから留学したいのかを決めたほうがいいと助言され,2002年からアメリカに留学して角膜の基礎研究をやることに決めました.ここまで振り返りますと,絶妙なタイミングで自分のいきたい方向へ誘導していただいた気がします.今までの経験で,いろいろな方に出会って助けられてきましたが,そういう出会いは人生の宝だと思います.しかし自分がなにをやりたいか,アンテナをしっかり張っていないとそういう出会いを見逃してしまうと考え,何をやりたいのかを具体的に周りの方々に伝えるようにしていました.研究面では,アレルギーにおける線維芽細胞の役割に関する研究を手がけ,細胞培養の基礎を学び,藤島浩先生や深川和己先生らにお世話になりました.0910-1810/07/\100/頁/JCLS川北哲也(????????????????)東京歯科大学市川総合病院眼科1970年三重県鈴鹿市生まれ.趣味はスキー,ゴルフ,テニスなどだが,嗜む程度である.私の眼科医としての人生で大きな変革点となったのは,2000年に坪田一男先生と出会い角膜分野に進むことを決意したこと,2002年にDr.Sche?erTsengと出会い研究の基礎を学んだことである.こういった人生の節目となる出会いと,いろいろな周囲からのサポートとで自分の人生は大きく変わっていると感じている.(川北)人生の節目となる出会い図11997年角膜カンファランスでの写真東京歯科大学チームの部屋で(坪田先生と初めて出会った日).———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007アメリカ留学坪田先生が絶大な信頼をおくDr.Sche?erTsengがマイアミ大学の教授職を辞任し,車で30分ほど離れた住宅街に研究施設,羊膜のバイオベンチャーとともに開業しました.私の海外留学は通常と違って,この小規模な研究施設に留学しました.前任者として,後藤英樹先生がちょうどその過渡期に留学されていて,ドライアイ,DR-1などの臨床研究で業績を残されていました.その後任として,私が行くことに決まったのです.もともと海外で基礎研究をやろうとは考えていましたが,実はそのときは,甘い考えで努力すればDR-1などの臨床研究も同時にできるかな,と考えていました.しかしいざマイアミに行ってみると,後藤先生の残された資料をみても自分にはチンプンカンプンで理解できなかったので,そちらはきっぱりあきらめて基礎研究に集中することにしました.といっても初めはなにをやっていいのやらわからず,怒られてばかりで時が過ぎ去り,自分はいったい何をしに留学しているのだろうと考えていました.しかし,つらいときは周りに仲間がいるもので,逆にフェロー同士がとても親しく心から信頼し合えました.こういう友人も人生の財産となると思います.マイアミでは,ボストンといったアカデミックな大都市の大学で研究生活とは,またひと味違った留学生活を送ることができました.こういった小規模なラボのメリットは,ボスと接する時間が長く,自分のプロジェクトを早くからもたせてもらえることでしょう.設備,コラボ,動物実験などのデメリットもいろいろありますが,私にとってはそれらを打ち消すメリットがありました.この留学で得られた成果は,世界中の友人,家族と過ごす時間,研究に対する考え方,論文を書く技術,自分を見つめ直す時間,などです.アメリカ留学後アメリカ留学では,医局にほとんど属していないような状態で行きましたので,帰国後はどうしようか,と考えていました.島?潤先生に“歯科大に戻ってこないか”と声をかけていただいたおかげで,またもとの環境に戻ることができました.研究も角膜センターアイバンク,慶應義塾大学と,いろいろな方面からサポートしていただいています.アメリカで多少の業績をつくることはできましたが,それは布石であり,今からどう発展させることができるか,が大事だと思います.これからもいい出会いを大切にしていこうと思います.川北哲也(かわきた・てつや)1970年生まれ1995年金沢大学医学部卒業,小牧市民病院研修医(ローテート研修)2000年名古屋大学大学院修了,東京歯科大学病院助手2002年OcularSurfaceCenter(Miami,FL)研究員2005年東京歯科大学眼科講師2007年慶應義塾大学医学部眼科講師(80)☆☆☆図22005年ARVOの写真Dr.Sche?erTsengとそのフェローたち.

硝子体手術のワンポイントアドバイス51.草刈り機による眼外傷に対する硝子体手術(中級編)

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに眼内異物は種々の原因で生じるが,近年,動力式草刈り機の普及に伴い,草刈り機の破片による眼内異物例が増加している.本疾患は眼外傷のうちでも異物が高速で飛入するため網膜に達する危険が高く,症状は重篤化しやすい.●草刈り機による眼外傷の臨床像動力式草刈り機使用中の眼外傷の発症機序としては,高速回転する草刈り機の刃が石など硬いものにあたり刃が欠けて飛入するか,もしくは草刈り機の刃によって弾かれた石などが飛来する2通りのパターンが考えられる.過去の報告では前者が多い.筆者らが過去に経験した草刈り機による眼外傷9症例のうち,眼内異物は5例,眼窩内異物は1例,異物が確認できなかったものは3例あった1).異物は,すべて磁性を帯びた異物であり,草刈り機の刃が欠けて飛入したものと考えられた.これらの異物の大きさは平均2.6mmと小さく,深部まで達していたことから考えて,高速で飛入したことが推測された.異物が確認できなかった3例は,鈍的外傷と考えられ,草刈り機の刃によって弾かれた石などが角膜および内眼角にあたり角膜裂傷,水晶体脱臼,涙小管断裂などをきたしていた.●草刈り機による眼外傷の診断草刈り機による外傷では,眼内異物が存在するかを迅速に診断し,もし異物を眼内に認めた場合には早期に硝子体手術を施行する必要がある.本疾患では患者が受傷後早期に眼科医を受診することが多いため,外傷性白内障が生じていても,眼底透見可能な場合が多い.しかし,白内障進行例や硝子体出血併発例などでは超音波Bモード検査,X線,CT(コンピュータ断層撮影)などを適宜施行し,異物の存在を確認する必要がある.なお,本疾患は大半が磁性体なのでMRI(磁気共鳴画像)はも(77)ちろん禁忌である.●硝子体手術のポイント外傷により眼内の炎症機転が亢進しているので,硝子体を多量に残存させると,術後に増殖性変化を惹起する可能性がある.大半は外傷性白内障が生じているので,水晶体摘出を併用した硝子体切除術を周辺部まで十分に施行する必要がある.若年者では後部硝子体?離が生じていないことが多いので,トリアムシノロンなどを適宜使用して確実に人工的後部硝子体?離を作製する必要がある.異物は通常網膜から脈絡膜まで刺入していることが多く,摘出時に出血をきたすことが多い.予期せぬ出血に備えて,マグネットによる異物摘出前に硝子体の十分な処理を施行しておくことが重要と考えられる.おわりに眼内異物のなかでも本疾患が占める割合が高いのは,使用者が異物の飛んでくる方向を注視しているためと考えられる.草刈り機使用の際には保護眼鏡を着用することが望ましいことは以前より指摘されているが,今後はより一層の啓蒙が必要と考えられる.文献1)三村真士,植木麻理,今村裕ほか:動力式草刈り機による眼外傷の検討.眼紀56:426-429,2005硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?51草刈り機による眼外傷に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1術前眼底写真血管アーケード内,視神経乳頭から7時方向約2乳頭径の位置に網膜前出血を伴った眼内異物を認める図2術後眼底写真硝子体術を施行し,異物を摘出した.術後矯正視力は1.2を得ている.

眼科医のための先端医療80.眼底自発蛍光の変化が示唆するもの

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS眼底自発蛍光とは眼底自発蛍光(fundusauto?uorescence:FAF)は主として網膜色素上皮(RPE)細胞内のリポフスチンに由来します1).RPEが視細胞外節を貪食した際に生じる副産物?-retinylidene-?-retinylethanolamine(A2-E)が,RPEに特異的な蛍光物質としてリポフスチンに含まれています.リポフスチンはRPE細胞内に蓄積し,加齢とともに増加します.70歳の健常人においては,RPE細胞1個は約30億個の視細胞外節を貪食していると考えられ,RPE内の細胞質の約25%はリポフスチンが占めているといわれています.FAFはRPEの視細胞外節の代謝機能を反映していると考えられます.酸化ストレスは細胞内のリポフスチンを増加させ,さらに蓄積したリポフスチンは酸化ストレスを促します.リポフスチンには細胞毒性があるため,RPE内に過剰に蓄積するとRPE細胞は死滅すると考えられています.リポフスチンの蛍光波長は500~750nmと広範な波長を有し,630nm付近にピークが存在します.撮影装置,正常自発蛍光像,異常蛍光の解釈おもに2つの撮影方法があります.走査型レーザー検眼鏡(ハイデルベルグ社のHeidelbergRetinaAngio-graph:HRA2など)を用いたフルオレセイン蛍光撮影用の波長488nmで撮影する方法と,眼底カメラに組み込んだ580nmの励起波長で撮影する方法です2,3).FAFの撮影では造影剤注入は不要です.眼底の微弱な自発蛍光を捉えるため,HRA2による撮影では複数枚の画像を加算平均処理します.撮影装置によって用いる波長が異なるため,正常なFAF像も異なります(図1).HRA2の488nmでは,キサントフィルの影響を受けてしまうため,黄斑部は暗く,網膜血管や視神経乳頭も暗くなります.しかし,580nmの波長においてはキサントフィルの影響が除外されるため,黄斑は明るく映し出されます.過蛍光所見を示す場合の解釈として,大まかにRPEの代謝亢進状態,リポフスチンの過剰な蓄積が考えられています.しかし,用いる波長によっては他の蛍光物質を検出している可能性があります.たとえば,出血の吸収過程においても強い過蛍光を示す場合もみられるので,過蛍光の解釈には注意を要します.低蛍光を示す場合の解釈として,RPE上に存在する物質(硬性白斑や網膜下出血など)によるブロック効果,RPEの萎縮・欠損などが考えられます.異常な自発蛍光を示す疾患異常な自発蛍光がみられる代表的な疾患を以下に提示します.紹介する自発蛍光像はHRA2によって撮影されたFAF画像です.1.遺伝性黄斑疾患Best病,成人型卵黄様黄斑変性では,眼底での黄色い沈着物は強い過蛍光病変として観察されます.Star-gardt病ではRPE内にリポフスチンが過剰に蓄積しま(73)◆シリーズ第80回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊沢美喜五味文(大阪大学大学院医学系研究科眼科学視覚科学)眼底自発蛍光の変化が示唆するもの図1正常人の眼底自発蛍光像左:HRA2,右:580nmで撮影.図2Stargardt病のFAF所見(右)黄斑部の萎縮巣は均一な低蛍光,萎縮巣周囲の黄色斑は強い過蛍光がみられる.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007す.黄色斑は強い過蛍光を示し,黄斑部の萎縮巣は均一な低蛍光(自発蛍光の欠損)として認められます(図2)4).2.加齢黄斑変性ドルーゼンは必ずしも過蛍光を示すわけではなく,ブロック効果によって低蛍光を示す場合もあります.萎縮型加齢黄斑変性である地図状萎縮は特徴的な自発蛍光像を示します.萎縮部位に一致した境界明瞭な低蛍光(自発蛍光の欠損)を示し,その周囲にはさまざまな形状の過蛍光変化(帯状,斑状,びまん性など)を伴っている場合が多くみられます.周囲の過蛍光部位は過剰なリポフスチンの蓄積が示唆され,将来,RPEが細胞死に至り,萎縮性変化が拡大すると考えられています.滲出型加齢黄斑変性の僚眼における異常な過蛍光変化が報告されています(図3)3).欧米では狭義の加齢黄斑変性が多く,東洋人ではポリープ状脈絡膜血管症が多いという人種差があります.このような僚眼における自発蛍光の変化が,東洋人での加齢黄斑変性にもあてはまるかどうかは不明です.滲出型加齢黄斑変性眼における自発蛍光の報告は少ないものの,周囲の滲出性変化のある部位は過蛍光を示し,脈絡膜新生血管の部位は経過が長くなるにつれて低蛍光を示します.3.中心性漿液性脈絡網膜症中心性漿液性脈絡網膜症では発症から数カ月経過すると網膜下液が存在する部位は過蛍光として観察され,時間が経つにつれ過蛍光が強くなります.これは網膜下液内に存在する蛍光物質に由来する可能性も示唆されています5).慢性型に移行し,萎縮性変化がみられるようになると低蛍光領域として観察されます(図4).また,網膜下液は重力によって下方に移動すると考えられ,網膜下液の通り道(atrophictract)の中央部分は低蛍光で,その周囲は過蛍光を示すFAF所見が多くみられます(図4).おわりにFAF撮影は造影剤の使用なしに,非侵襲的かつ簡便にRPEの貪食状態やRPEの萎縮性変化を観察することができます.眼底変化を多面的に観察することで,治療の方針・予後予測などに役立つ可能性があります.しかし,自発蛍光像の解釈には未解明な点も多いため,さらなる研究が必要であると思われます.文献1)DeloriFC,DoreyCK,StaurenghiGetal:Invivo?uores-cenceoftheocularfundusexhibitsretinalpigmentepithe-liumlipofuscincharacteristics.??????????????????????????36:718-729,19952)HolzFG,BellmannC,MargaritidisMetal:Patternsofincreasedinvivofundusauto?uorescenceinthejunctionalzoneofgeographicatrophyoftheretinalpigmentepitheli-umassociatedwithage-relatedmaculardegeneration.?????????????????????????????????237:145-152,1999(74)図3滲出型加齢黄斑変性の僚眼のFAF所見(右)フルオレセイン蛍光眼底造影(左)の黄斑部のひび割れ様の低蛍光線は,FAF像において過蛍光を示している.図4慢性型中心性漿液性脈絡網膜症例フルオレセイン蛍光眼底造影(中央)では,下方に伸びたatrophictractが過蛍光として観察される.FAF像(右)では,黄斑部に低蛍光領域が観察され,周囲には過蛍光を伴い,下方に広がっている.Atrophictractの中央には低蛍光領域が観察される.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????115:609-615,19975)vonRuckmannA,FitzkeFW,FanJetal:Abnormalitiesoffundusauto?uorescenceincentralserousretinopathy.???????????????133:780-786,20023)SpaideRF:Fundusauto?uorescenceandage-relatedmaculardegeneration.??????????????110:392-399,20034)vonRuckmannA,FitzkeFW,BirdAC:Invivofundusauto?uorescenceinmaculardystrophies.????????????????(75)☆☆☆■「眼底自発蛍光の変化が示唆するもの」を読んで■眼底自発蛍光が,最近注目されるようになったのは,以下のような理由があります.以前から,加齢黄斑変性などの病因に,網膜色素上皮が重要な役割を果たしていることはわかっていましたが,生体でその機能を調べることは困難でした.網膜色素上皮の重要な機能の一つは,視細胞外節の貪食ですが,その際に生じる10種類以上の自発蛍光物質のうち最も重要なものがリポフスチンです.そこで,リポフスチンの自発蛍光を調べることにより,間接的に網膜色素上皮の機能を評価しようとの試みが行われました.しかし,メラニン色素が邪魔をして,臨床的に意味のある自発蛍光を捉えることは不可能でした.この問題を解決したのが,1990年代に登場した,confocallaserophthal-moscopyです.この報告を最初に行ったvonRuck-mannの論文では,網膜におけるリポフスチンの詳細な分布が示され,眼科研究者に衝撃を与えました.ただし,リポフスチンというのは網膜色素上皮機能の一部を反映しているにすぎないと考えられたため,ある程度の評価を受けるに留まっていました.ところが,1990年後半から2000年前半にかけて,自発蛍光物質リポフスチンの主要構成成分A2-Eこそが,網膜色素上皮の貪食機能を傷害したり,細胞膜の安定性を阻害したり,さらには青色光障害を増強する本体であることが報告されはじめると,眼底自発蛍光はがぜん注目されるようになりました.つまり,眼底自発蛍光像は,われわれが最も知りたい網膜色素上皮機能を直接表わすものであったのです.それ以来,眼底自発蛍光検査は,網膜研究のなかで重要視されるようになりました.本文中で沢美喜・五味文両先生が述べられたように,報告される臨床データは,それらの説を裏づけるものばかりでした.沢先生らが示された美しい眼底写真を御覧になると,このことがよくおわかりになると思います.今後は,検査といえども,侵襲的な方法は不可能ですので,多数の臨床データ収集は困難になると思われます.非侵襲的な本検査により,これから眼低自発蛍光の臨床データが集積されれば,眼底疾患の病態解明が大きく進むと思われます.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二

時の人

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS東京慈恵会医科大学眼科学教室は,明治24年(1891年)に「成医学校」の初代眼科学教授として,宮下俊吉先生が任命されて以来,116年の歴史を有している.常岡寛先生は平成19年4月1日,第8代の教授に就任された.先生は就任にあたって次の3つの方針を掲げられた.すなわち,(1)慈恵らしい,患者を大切にする医師の育成,(2)幅広い分野の専門外来と研究の継続,(3)全教室員が各立場で満足できる教室の運営,である.*眼科学教室は北原健二前教授の時代より,眼科領域におけるできるだけ多くの分野の研究ができるように配慮されてきた.北原先生が専門とされる視覚情報処理機構に関する研究,視機能異常に関する研究に加え,角膜,白内障,屈折矯正,緑内障,ぶどう膜疾患,網膜疾患,眼窩腫瘍,涙道疾患に関する臨床研究が精力的に行われている.常岡先生は今後もこの伝統を引き継ぎ,眼科のあらゆる疾患に対して最善の治療ができるように幅広い分野の研究が行える体制を維持していきたいと述べられた.*常岡先生は昭和51年3月に東京慈恵会医科大学を卒業され,ご両親が眼科医であられたこともあり,眼科医を目指された.昭和60年7月に国立相模原病院眼科の医長に就かれ,平成2年11月には同大学眼科学教室で講師に任ぜられ,さらに同8年11月,助教授に就任された.平成12年1月からは同大学附属第三病院眼科において診療部長を務められ,本年4月に同大学眼科学教室の主任教授に就任された.常岡先生が特に大きな影響を受けられたのは,入局当時の主任教授であられた舩橋知也先生で,その眼科医としての圧倒的な力量と患者さんに接する姿の“すばらしさ”に感動されたと回顧しておられる.その後,舩橋先生の後任の松崎浩先生のもとで超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を学ばれ,白内障手術を専門とする今日の先生へつながることとなった.さらに松崎先生の後任の北原先生には,専門が異なるなかで幅広くサポートしていただいたとのことである.*常岡先生は,大学院時代には慈恵医大附属病院にて,透過型電子顕微鏡を用いた網膜の微細構造の研究をされたが,その後の研究テーマは次の通りである.(1)視機能に関する研究として,中心性網脈絡膜症と夜間視力の関連について取り組む.(2)白内障手術に関する研究として,患者の負担を軽減する低侵襲白内障手術の実現を目指し,①テノン?麻酔の開発を行い,球後麻酔に代わる画期的な麻酔法を開発し普及させる,②バイマニュアル・フェイコの開発を通して極小切開白内障手術を実現させるために,超音波チップのスリーブを外して乳化吸引する新しい手術手技を開発し普及させる,③新しい眼内レンズ挿入法に取り組み,できるだけ小さな創口から眼内レンズを挿入させる新しい手技を開発し普及させる,などである.臨床面では,眼科入局後10年間は緑内障専門外来を担当されていたが,その後慈恵医大附属病院および国立相模原病院にて網膜?離の治療を専門に行われ,さらに,入局15年目より白内障手術を専門とされるようになり,現在に至っておられるという.海外の学会での業績としては,バイマニュアル・フェイコのインストラクションコース,スキルトランスファーコースなどを行っておられる.*常岡先生の日頃の信念・信条は患者さんに満足してもらえる医療を行うこと,そしてそれを実現できる医師を育成し,同時に,教室員全員が夢をもって仕事ができるように配慮したいと語られた.また,先生の趣味は水泳で,多忙な日々を支える体力を養っておられるという.(71)人の時東京慈恵会医科大学眼科・教授常??岡??寛???先生

眼感染症:β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLSインフルエンザ菌(?????????????????????)は,パスツレラ科のグラム陰性小桿菌でヒトの上気道における常在菌であるが,呼吸器感染症,耳鼻咽喉科領域感染症,眼科領域感染症,菌血症,髄膜炎などの原因菌の一つであり,特に莢膜抗原型(血清型b)インフルエンザ菌は侵襲性が高く,小児に重篤な髄膜炎を起こす.本菌の標準的治療薬としてはアンピシリン(ABPC)が用いられてきたが,1970年代にペニシリンを分解するb-ラクタマーゼを産生する(beta-lactamase-produc-ingampicillin-resistant:BLPAR)株が分離されて以来,わが国では10%前後の頻度で検出されている.さらに1980年代には,b-ラクタム系抗菌薬の作用標的である5種類の細胞壁合成酵素PBPs(penicillinbindingpro-teins)の一つであるPBP3をコードする????遺伝子の変異によるb-ラクタマーゼ非産生(beta-lactamase-non-producingampicillin-resistant:BLNAR)株が出現した.現在,BLNARは40%前後の高頻度で検出されており,ペニシリン系抗菌薬のみでなくセフェム系抗菌薬にも耐性化傾向を示す.BLNAR株のABPCの最小発育阻止濃度(MIC)は,????遺伝子の変異箇所によって異なり3つのグループに分類される.すなわちABPCのMICが0.5~1?g/m?の株と2~4?g/m?の株は,各々517番目のアルギニン→ヒスチジン,526番目のアスパラギン→リジンの1カ所が置換しているのに対し,≧8?g/m?の株は526番目のアスパラギン→リジンの置換に加え,377番目のメチオニン→イソロイシン,385番目のセリン→スレオニン,389番目のロイシン→フェニルアラニンの4カ所が置換している.欧米ではBLPAR株の分離頻度が高いが,わが国ではBLNAR株の分離頻度が高く,この原因の一つとして,欧米ではペニシリン系抗菌薬の使用頻度が高く,わが国ではセフェム系抗菌薬の使用頻度が高いことが考えられている.■塗抹鏡検でのコツインフルエンザ菌は,グラム染色標本で大腸菌などのグラム陰性桿菌と比較して球状小桿菌であることから推定可能である(図1).■培養法ヘモフィルスとは,その名のとおり血好性を意味し発育に血液成分を必要とするが,生のヒトやヒツジの血液中には発育阻害物質が存在するので発育しない.このため,培養には阻害物質を不活化するために血液寒天培地を加熱して作製したチョコレート寒天培地が用いられ,ヒツジ血液寒天培地での発育を比較することで推定される(図2).(69)51.b?ラクタマ-ゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一山崎勝利和歌山労災病院検査科近年,b-ラクタマーゼを産生せずにアンピシリンに耐性を示すインフルエンザ菌(beta-lactamase-nonpro-ducingampicillin-resistant:BLNAR)の拡散が問題となっている.この耐性メカニズムは,PBP3(penicillinbindingproteins-3)をコードする????遺伝子に変異が生じることでb-ラクタム系薬の親和性が低下することに起因している.図1インフルエンザ菌のグラム染色標本インフルエンザ菌はグラム陰性球状小桿菌である.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007■耐性菌判定法BLPAR株はニトロセフィン法を用いた赤色発色により検出される(図3).わが国の臨床検査室で広く用いられている米国臨床検査標準化協会(ClinicalandLabora-toryStandardsInstitute:CLSI)の基準では,ABPCのMICが≧4?g/m?を耐性と規定しているが,この判定基準はBLPAR株に対するものであり,BLNARを検出するための基準ではない.多くの施設ではABPCのMICが≧2?g/m?の株をBLNAR株として判定していると思われるが,≦1?g/m?を示す株にもBLPAR株とBLNAR株が混在しており,薬剤感受性結果からすべてのBLNAR株を検出するには限界がある.■治療薬剤選択BLNAR株に対してMICが低く有効と考えられるb-ラクタム系抗菌薬として,経口薬ではセフジトレン(CDTR),注射薬ではセフトリアキソン(CTRX)やセフォタキシム(CTX)などの第三世代セフェム系抗菌薬,メロペネム(MEPM)やビアペネム(BIPM)などのカルバペネム系抗菌薬があり,b-ラクタム系抗菌薬以外ではレボフロキサシン(LVFX)やガチフロキサシン(GFLX)などのフルオロキノロン系抗菌薬が推奨される.文献1)生方公子,千葉菜穂子,小林玲子ほか:本邦において1998年から2000年の間に分離された?????????????????????の分子疫学解析─肺炎球菌等による市中感染症研究会収集株のまとめ─.日化療会誌50:794-804,20022)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:Performancestandardsforantimicrobialsusceptibilitytesting;16thinformationalsupplement.CLSIdocumentM100-S16,CLSI,Wayne,Pa,2006(70)◎検査室から眼科医へ◎通常の薬剤感受性結果は点眼薬や眼軟膏には対応していませんが,眼科医は点眼薬や眼軟膏を使用した場合に薬剤感受性結果が参考になりますか?◎眼科医から検査室へ◎ご指摘のとおり,眼科で使用されている点眼薬,眼軟膏は通常CLSIの基準で示されている?g/m?オーダーではなく,mg/m?オーダーの高い濃度で使用していますので,耐性との結果が検査室から返ってきても実際には,その薬剤が十分効いているということもあります.MICやそれに基づくCLSIの基準は点眼薬の局所での効果を類推する一つの指標にすぎず(もちろんそれも重要で参考になりますが),PAEや組織移行など他の多数の因子が絡まりあって最終的な臨床効果となると考えられます.BLNAR,BLPARについては眼科での第一選択薬がニューキノロン系点眼薬であることから,臨床的に現在あまり問題となっていませんが,インフルエンザ桿菌は小児の結膜炎の重要な起炎菌であることから,眼科のドクターにもBLNAR,BLPARについて知っておいていただくことは重要だと思います.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次図2ヒツジ血液寒天培地/チョコレート寒天培地でのインフルエンザ菌の発育ヒツジ血液寒天培地(左)では発育していないが,チョコレート寒天培地(右)では発育することからヘモフィルス属を推定する.図3ニトロセフィン法を用いたb-ラクタマ-ゼ試験左:陰性,右:陽性.☆☆☆

光線力学的療法(PDT):治療の実際:IA-guided PDT

2007年8月31日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS視力や血管病巣形態など比較的光線力学的療法(PDT)前の条件が似ている症例を選んだ.ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対して当院でインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(IA)の結果をもとにPDTを行った2症例である1,2).●予後良好例(図1)〔症例1〕69歳,男性.片眼PCV.左眼は1年前から視力低下を自覚していた.PDT前視力右眼1.0,左眼0.4.(67)大谷篤史京都大学大学院医学研究科眼科学光線力学的療法(PDT)セミナー監修/石橋達朗湯沢美都子11.治療の実際:IA-guidedPDTポリープ状脈絡膜血管症(PCV)は加齢黄斑変性(AMD)の一型として光線力学的療法(PDT)が行われている.PCVはPDTに対する反応性,予後が他のAMDと比べ良いが,まれに悪化してしまう症例が印象に残り,事前に予後を判断できないかと考えさせられることも多い.その一助になるかどうかはわからないが,当院での2症例を提示する.提供図1IA-guidedPDT予後良好例(症例1)a:左眼眼底写真;橙赤色隆起病変は明瞭でない.b:フルオレセイン蛍光眼底造影;オカルト病巣と色素上皮?離.c:インドシアニングリーン蛍光眼底造影;小さいポリープ状病巣が集簇.黄点線:IA-guidedGLD=3,000mm.d:OCT;色素上皮下結節状病巣,中心窩漿液性網膜?離.黄線:IA-guidedGLD.abcd図2IA-guidedPDT予後不良例(症例2)a:左眼眼底写真;黄斑部耳側に橙赤色隆起病変.b:フルオレセイン蛍光眼底造影;オカルト病巣と色素上皮?離.c:インドシアニングリーン蛍光眼底造影;ポリープ状病巣明瞭.黄点線:IA-guidedGLD=2,800mm.d:OCT;色素上皮下の病巣と色素上皮?離,中心窩漿液性網膜?離.黄線:IA-guidedGLD.abcd———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007PDT後左眼視力3カ月後0.9,1年後0.9.●予後不良例(図2)〔症例2〕86歳,女性.両眼PCV.左眼は1年前から視力低下を自覚していた.PDT前視力右眼0.06,左眼0.4.PDT後左眼視力3カ月後0.8,1年後0.2.症例1,2ともPDT前左眼視力は0.4であった.ところが症例2では1年後左眼視力0.2,対照的に症例1はPDT1年後左眼視力0.9であった.症例1では1回のPDTで所見,視力とも改善し,その後1年間安定していた.対照的に症例2ではPDT後3カ月の時点では視力,所見とも改善がみられたものの,その後再増悪し,PDT後1年の時点で活動性のあるPCVが存在し,視力も低下した.提示した2症例のPDT前病状にはあまり違いがないようにみえるが,出血などを含めた全病巣の大きさは治療結果と関連する可能性はある.当院での症例ではIA検査で描出されるPCV血管病巣に比し,出血,色素上皮?離などをすべて含めた全体病巣が大きい場合は,多くの症例でPDTによる視力,所見の改善が得られにくいことがわかった(第45回網膜硝子体学会).両症例ともIAで計測した病変部の最大直径(GLD)に差はないが,出血を含めた全病巣範囲は症例2で大きかった.また,結果的にPDT照射範囲が大きくなる症例でもPDT後しばらくして比較的大きな出血がみられることが多い3).PCVでは病巣の大きさが活動性や予後に関連するのかもしれない.これまで当院では,IA-guidedPDTを実施した際,(68)照射範囲が小さいため,予後が悪くなったと考えられる症例は経験していない.短期的にはIA-guidedPDTはPCVに対し非常に有効であり,当院では1回の照射でほぼ全例にポリープ状病巣の消失が得られた1).しかし,今回の症例2のようにその後病態に差が出てしまうことは珍しいことではなく,PCVの予後は長期的に考える必要がありそうだ.同一症例に違う治療を行い,効果を比較することはできない.自然経過に任せたほうが良いのか,治療介入したほうが良いのかの判断がむずかしい症例は多い.もしかしたら,長期的なPCVの予後は治療の介入にかかわらず,すでに決しているのかもしれないとさえ思わされるときがある.このようにいってしまえば元も子もないのだが,PDTなど加齢黄斑変性(AMD)治療は始まったばかりである.今後,長期的な治療経過を解析することにより,PCVの本質,本態とそれに対する治療効果,PDTの有効な使い方などの情報が出てこよう.現時点でいえるのは,IA-guidedPDTはPCV病巣に少なくとも短期的には非常に有効であること,その後長期的に悪化していく症例があること,現在使える治療はすべて対症療法であり使用には工夫が必要であろうということである.文献1)大谷篤史:ICGA-guidedPDT.眼科48:1233-1242,20062)OtaniA,SasaharaM,YodoiYetal:Indocyaninegreenangiography:guidedphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy.???????????????144:7-14,20073)HiramiY,TsujikawaA,OtaniAetal:Hemorrhagiccom-plicationsafterphotodynamictherapyforpolypoidalcho-roidalvasculopathy.??????27:335-341,2007☆☆☆