———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS屈折力増加の詳細は,水晶体前面の曲率増加によるものが70%で,その他,水晶体の厚みの増加,水晶体全体の前方移動,水晶体後面曲率の増加などによる.調節により,眼球全体の屈折力約59D(diopter)は,最大調節時には約70Dに増加する.I調節による高次収差の変化とはでは調節にて,どのような高次収差の変化が起きるのだろうか.3Dの静的調節負荷をかけたときに起こる眼の高次収差の変化を測定し,無調節時と調節時を比較した1).明視時(4mm瞳孔径の高次収差),暗視時(6mm瞳孔径の高次収差)において,コマ収差,球面収差,高はじめに眼の高次収差は,日常生活のなかで常に変動していると考えられる.眼の調節(accommodation)もその一例で,視線を遠方から近方へ動かせば,眼は水晶体の形状を変化させて焦点距離を変え,いろいろな距離にある物体の像を網膜上に結像させようと,ピント調節機構を働かせる.Helmholtzの弛緩説によると,調節のメカニズムは,毛様体の輪状筋が収縮するとZinn小帯が弛緩し,水晶体はその弾性によって球状に膨らんでレンズとしての屈折力が増加するためとされている(図1).水晶体の(39)1449*SayuriNinomiya:伊丹中央眼科〔別刷請求先〕二宮さゆり:〒664-0851伊丹市中央1-5-1伊丹中央眼科特集●眼の収差を理解するあたらしい眼科24(11):14491454,2007調節と高次収差ChangesinOcularAberrationwithAccommodation二宮さゆり*図1調節機構調節時,毛様体輪状筋が収縮してZinn小帯が緩み,水晶体はその弾性により膨らんで屈折力を増加させる.〔奥山文雄:X.視機能4.調節.眼科プラクティス6,眼科臨床に必要な解剖生理(大鹿啓郎編),p340,文光堂,2005より改変〕毛様体輪状筋Zinn小帯水晶体Zinn小帯が緩む毛様体輪状筋の収縮水晶体が膨らむ調節なし調節あり図2調節時の高次収差総和の変化コマ収差の総和,球面収差の総和,全高次収差の総和に変化はなかった.0.0200.040.060.080.10.120.140.16?mRMS?mRMS00.10.20.30.40.50.6明視時(瞳孔径4mm)暗視時(瞳孔径6mm)球面様収差:調節なし:調節あり:調節なし:調節あり全高次収差コマ様収差球面様収差全高次収差コマ様収差———————————————————————-Page21450あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007次収差の総和は,無調節時と調節時との比較においていずれにも有意差はなかった(図2).しかし4次の球面収差C40(図3)は,明視時において0.02±0.02(以下,単位μmRMS)から0.01±0.03と有意に負の方向に変化していた(図4).同様に暗視時においても,4次の球面収差C40は0.11±0.10から0.04±0.19と有意に負の方向へ変化していた.また6次の球面収差C60はプラスの方向に有意な変化を示した(図5).以上をまとめると,調節による高次収差の特徴は,「非調節時の球面収差C40は0プラスの方向に分布しているが,調節によってマイナスの方向に変化する」ということである.このような球面収差の変化が生じるしくみを図6に説明する.調節が起こると,水晶体は球状に膨らんでその屈折力を増すが,屈折力の変化は水晶体全体で一様に起こるわけではない.中央部が周辺部に比べより形状が大きく変化する.そのために中央部により強い屈折力の増加が起こる.その結果,中央部を通る光の焦点位置と周辺部を通過する光の焦点位置にズレが起こって球面収差が生じる.(40)図3Zernike多項式C40は代表的な球面収差である.????????????????????離滉C40図4明視時(瞳孔径4mm)における高次収差の変化C40は有意にマイナスの方向に変化していた.-0.3-0.2-0.100.10.20.3C3,-3?mRMSp=0.001:調節なし:調節ありC4,4C4,2C4,0C4,-2C4,-4C3,3C3,1C3,-1———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071451II調節痙攣の診断への応用調節による球面収差の変化の特徴を用いて,調節痙攣の診断が利用可能であることを示す.交通外傷などによる頸椎捻挫症(いわゆる鞭打ち症)では,「眼が霞む」「ピントが合いにくい」など調節痙攣を疑わせる症状を訴えるものの,前眼部,後眼部,矯正視力に異常を認めない場合があり,他覚的な診断に苦慮することも多い.そのような場合,上記のような「非調節時には0プラス側の値である球面収差C40が,調節によりマイナス方向に変化する」という現象を応用して,調節痙攣を他覚的に診断することも可能である2).表1の症例は調節痙攣の一例で,12歳,男児,サッカーボールが頭部に当たって両眼の視力障害を自覚したケースである.自覚的矯正視力では,軽い近視に伴う裸眼視力の低下を認めたものの,矯正視力は両眼ともに1.2と良好であった.初診の場合,以前より近視があったのか,受傷により近視化したのか判断はむずかしい.この症例ではオートレフ値に大きなバラつきがみられ,調節痙攣の可能性が疑われた.図7はこの男児の左眼の(41)?mRMSp=0.020p<0.001:調節なし:調節あり-0.5-0.3-0.10.10.30.50.7C3,-3C5,5C6,6C6,4C6,2C6,0C6,-2C6,-4C6,-6C5,3C5,1C5,-1C5,-3C5.-5C4,4C4,2C4,0C4,-2C4.-4C3,3C3,1C3,-1図5暗視時(瞳孔径6mm)における高次収差の変化C40はマイナスの方向に,C60もプラスの方向に有意に変化していた.図6球面収差が生じるしくみ水晶体の中央部は周辺部より屈折力の増加が大きいため,焦点位置にズレが生じる.調節なし調節あり焦点位置に幅がでる———————————————————————-Page41452あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007波面収差解析結果である.図7のように,全収差マップは近視を示していた.屈折の高次収差のカラーコードマップは一見したところ均一で,高次収差の変化は特にないようにみえる.しかし注意が必要なのは,表示され(42)ている高次収差のスケールが0.5刻みであることである.調節痙攣の場合,球面収差C40がマイナス化することが特徴であるものの,その変化の値はさほど大きくない.筆者らが経験した症例では,6mm瞳孔径でも最大図7調節痙攣症例の波面収差解析結果近視化を認めるが,カラーコードマップ上では高次収差の変化は表現されない程度の大きさであることに注意.角膜の高次収差屈折の高次収差角膜のaxialpowerマップ全収差Hartmann像調節による近視化色の変化としては現れない角膜屈折表1調節痙攣の症例─他覚的屈折値(オートレフ)に大きなバラつきがみられ,調節痙攣が疑われた─症例:12歳,男児サッカーボールが頭部に当たって以来,視力障害が起こった.<自覚的視力矯正>VD=0.2(1.2×sph1.25D(cyl1.00DAx180°)VS=0.2(1.2×sph1.75D(cyl0.50DAx180°)<他覚的屈折値(オートレフ)>バラつきがみられるVD=sph1.50D(cyl0.50DAx176°VS=sph8.00D(cyl1.00DAx160°sph10.00D(cyl1.0DAx180°sph10.00D(cyl1.25DAx180°<波面から得たれた屈折値>VD=sph6.04D(cyl0.37DAx19°VS=sph7.81D(cyl0.52DAx166°———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.11,20071453(43)の変化が0.4程度であり,0.5刻みのカラースケール1段階分も反映しない大きさであった.つまり,調節痙攣の症例においてでも,その大きさとしての変化は微細なので,円錐角膜や屈折矯正手術後眼などの大きな高次収差を生じる疾患の診断に使用されているカラーコードマップのスケールでは,色の変化として描出されないことに注意が必要である.調節痙攣を疑う場合,カラースケールマップだけを見ず,高次収差の数値を確認するモードに切り替えて球面収差C40の「数値そのもの」を確認する必要がある.図8は球面収差C40について調節痙攣眼(4眼)と正常眼の平均を比較したものである(明視時:瞳孔径4mm).正常眼では0プラスの方向に分布するのに対し,調節痙攣眼では明らかにマイナスの方向となっていた.暗視時(瞳孔径6mm)においても球面収差C40の特徴は同様で(図9),6次の球面収差C60については図10のように正常眼ではゼロを中心に分布するのに対し,調節痙攣眼では明らかにプラスの方向となっていた.調節痙攣症例の波面収差解析結果の特徴をまとめると,1)全収差の近視化,2)球面収差C40のマイナス方向への変化,3)球面収差C60のプラス方向への変化である.III球面収差の視機能への影響について理論上,収差が少ない眼ほど鮮明な網膜像が得られる.しかし,自然の摂理を考えれば,調節によって生じる球面収差も何らかの意味をもって眼に備わっているのかもしれない.どのような意味をもつ可能性があるのか,若干の推測を行ってみたい.眼科の臨床において,核白内障患者のなかに,裸眼での遠見・近見視力とも比較的良好で,日常生活上何も支障を感じていない,という方に遭遇することがないだろうか.通常の100%コントラスト視力検査にて,遠方・近見力とも視力良好で不思議に思うことがある.そのような核白内障患者においては,核白内障による球面収差C40が何らかの効果をもたらしているのではないかと考え,デフォーカスと球面収差の相乗効果についてシミュレーションをしてみた.図11は若干のデフォーカス(+0.5D)に,核白内障でみられる程度の球面収差(0.2)を組み合わせた場合の,Landolt環視標のシミュレーション図である.デフォーカスのみの場合に比べ,球面収差を追加すると,なぜか不思議なことに「多少見やすく」なる.細かな作業もしなくなり,車の運転もしないような年配者の生活図8球面収差C40(明視時),調節痙攣眼と正常眼平均の比較正常眼では0プラスの方向に分布するが,調節痙攣眼ではマイナスの方向に分布していた.調節痙攣眼正常眼平均-0.2-0.15-0.1-0.0500.050.10.15?mRMS図9球面収差C40(暗視時),調節痙攣眼と正常眼平均の比較瞳孔径6mmにおいても,正常眼では0プラスの方向に分布するが,調節痙攣眼ではマイナスの方向となっていた.-0.6-0.4-0.200.20.40.6調節痙攣眼正常眼平均?mRMS図10球面収差C60(暗視時),調節痙攣眼と正常眼平均の比較球面収差C60は,正常眼では0付近に分布するが,調節痙攣眼ではプラスの方向に変化していた.-0.0500.050.10.15調節痙攣眼正常眼平均?mRMS———————————————————————-Page61454あたらしい眼科Vol.24,No.11,2007(44)のなかでは,核白内障による適度な球面収差が,像のボケをもたらす不利な効果はさほど気になっておらず,かえって球面収差により焦点深度が深まり,それがデフォーカスを補助する作用となっている可能性があるのかもしれない.また若干の球面収差なら,若い世代の人にとっても調節の節約作用として働いている可能性がある.とはいえ,大きすぎる球面収差C40は日常生活において負の効果をもたらすことも間違いない.従来型のエキシマレーザー照射パターンによる屈折矯正手術後眼では,球面収差C40は術後に大きくプラス方向に変化し,夜間運転に支障があるなどの視機能低下を招いた.球面収差の働きは,一定の範囲内では有益性もあるが,ある大きさを超えてくると有害性が勝ってくるというような,微妙なバランスのうえに成り立っているのかもしれない.文献1)NinomiyaS,FujikadoT,KurodaTetal:Changesofocu-laraberrationwithaccommodation.AmJOphthalmol134:924-926,20022)NinomiyaS,FujikadoT,KurodaTetal:Wavefrontanal-ysisineyeswithaccommodativespasm.AmJOphthalmol136:1161-1163,2003図11球面収差C40とデフォーカスの相乗効果網膜像のシミュレーション上では,デフォーカスによる像のボケが若干の球面収差C40と組み合わされることによって「見やすく」なるという効果がみられる.Defocus(+0.5D)のみ球面収差C40(-0.2)のみDefocus(+0.5D)と球面収差C40(-0.2)の組み合わせ+小数視力0.20.51.0VA20/10020/4020/20