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眼感染症:市中型MRSAによる眼感染症

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.2,20081950910-1810/08/\100/頁/JCLSブドウ球菌は常在細菌として,健康な状態では病原性を発揮せずに皮膚や眼表面に存在する.しかし,ホストの免疫力低下あるいは薬剤投与などによって常在細菌叢のバランスが崩れると,一定の常在細菌が増殖して眼感染症を発症する(本シリーズの前回で記載).このような常在細菌による感染症の代表はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症であり,高齢,長期入院,アトピー,ステロイド長期使用などでの日和見感染として知られている.しかし近年は,薬剤投与歴,入院歴のない健康な成人あるいは小児に,突然にMRSA感染症を発症することがあり,大きな問題となっている.これらは市中型MRSAによる感染であり,従来われわれが理解しているMRSA感染とは異なる病態である.MRSAの分類MRSAには,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が有するDNAに加えて,薬剤耐性に関与する遺伝子がカセットのように挿入されている.この遺伝子はSCCmec(staphylococcalcassettechromosomemec)とよばれ,塩基配列によって5型に分類される1).SCCmecのタイプⅠ,ⅡまたはⅢを有する菌は病院型MRSA(healthcare-associatedMRSA:H-MRSA)であり,従来型の多剤耐性を有するMRSAである.一方で,タイプⅣ,Ⅴを有する菌は市中型MRSA(community-acquiredまたはcommunity-associatedMRSA:C-MRSA)とよばれ,SCCmecのサイズが小さく,多剤耐性ではない代わりに容易に他の株に遺伝子が挿入される.市中型MRSAは弱毒菌がほとんどであるが,白血球を壊す毒素であるPVL(Panton-Valentineleucocidin)をつくる強毒菌は重篤な感染症をひき起こす.1990年代後半に,米国で劇症型の肺炎で4名の小児が死亡したことから市中型MRSAが注目されるようになり,全例PVL(+)であった.日本では2006年に1歳の男児が市中型MRSAによる肺炎を発症し,国内初の死亡例となった.中型MRSAと病院型MRSAの比較市中型MRSAは,病院型MRSAの変異により生じたものではなく,あらたに病院外で発生したと考えられている.このため病院型MRSAとは異なった種々の性質があるが,最も注意すべき点は,健康な小児や成人が市中型MRSAを有すること,強毒株があり劇症型の感染症を生じうることである.ただし,病院型MRSAとは違って,あらゆる抗菌薬が効かないということはなく,感受性のある薬剤が存在する(表1).MSSA,病院型MRSA,市中型MRSAを比較すると,MSSAは増殖力が大きく短時間で感染が増悪するが,感受性を有する抗菌薬が多いため比較的容易に軽快,治癒する.病院型MRSAは増殖力がMSSAより劣り,弱毒であることが多いが,ホストの免疫力が低いことと薬剤耐性を有するために難治である.市中型MRSAは(61)眼感染アレーセー感染症と生●連載②監修=木下茂大橋裕一2.市中型MRSAによる眼感染症外園千恵京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学市中型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は,健康な成人または小児における眼感染症の起炎菌となる.多くは弱毒性であり中等度の薬剤耐性を示すが,毒素をつくる強毒株では劇症型の感染症を生じて失明の原因となる.あらゆるブドウ球菌感染が市中型MRSAで生じる可能性があり,今後の広まりに注意が必要である.表1市中型MRSAと病院型MRSAの比較病院型市中型病院に市中感染中にると———————————————————————-Page2196あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008MSSAと同等の増殖力を有し,強毒株では重篤な感染症が短時間で進行し,薬剤耐性を有するがゆえに致死的になりうる.中型MRSAによる眼感染症眼科領域では2000年代後半になり市中型MRSAによる眼感染症の報告が相ついだ2,3).眼瞼膿瘍,結膜炎,角膜炎など,いわゆるブドウ球菌感染症で生じるものはすべて,市中型MRSAによっても発症する.市中型MRSAによる眼窩蜂窩織炎で両眼を失明した症例があり2),健康な小児や成人の眼窩蜂窩織炎には注意が必要である.MSSA,病院型MRSA,市中型MRSAともにブドウ球菌感染としての眼所見は類似している(図1).患者背景と経過から起炎菌を類推し,病巣部の塗抹鏡検,細菌培養検査でMSSAかMRSAかを同定する.病院型,市中型の鑑別には遺伝子検査を要するが,臨床的には薬剤感受性がわかればよい.後のと対応市中型MRSAは,病院とは無縁の健康な人々に次第に広がっていると考えられる.MRSAは日和見感染であるという先入観をもつと,重篤な市中型MRSA感染症において診断を誤りかねない.ただし,強毒株はまだ少ないと考えられ,過剰に心配する必要はない.起炎菌を同定して薬剤感受性を確認するという感染治療の基本に従えば,市中型MRSAに遭遇しても対応を誤ることはないであろう.文献1)ItoT,KuwaharaK,HiramatsuK:Staphylococcalcassettechromosomemec(SCCmec)analysisofMRSA.MethodsMolBiol391:87-102,20072)RutarT,ZwickOM,CockerhamKPetal:Bilateralblind-nessfromorbitalcellulitiscausedbycommunity-acquiredmethicillin-resistantStaphylococcusaureus.AmJOph-thalmol140:740-742,20053)RutarT,ChambersHF,CrawfordJBetal:OphthalmicmanifestationsofinfectionscausedbytheUSA300cloneofcommunity-associatedmethicillin-resistantStaphylococ-cusaureus.Ophthalmology113:1455-1462,2006(62)☆☆☆図1市中型MRSAによる角膜炎Sjogren症候群患者のハードコンタクトレンズ使用者に生じた軽度の細胞浸潤と角膜上皮欠損.キノロン系抗菌薬の点眼と眼軟膏を投与し,数日で治癒した.

ベーチェット病の眼病変:インフリキシマブ:難治性ベーチェット病の新しい治療

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.2,20081930910-1810/08/\100/頁/JCLS2007年1月に承認されたインフリキシマブ(レミケードR)について紹介する.ベーチェット病で難治性網膜ぶどう膜炎を有する患者は,どのぶどう膜炎専門外来にも数人はいると思う.ベーチェット病に対して,これまでわが国で利用できた薬剤はコルヒチンやシクロスポリンであり,それだけで炎症発作が十分に抑制されていないむずかしい症例が依然として目立った.そこで,新しいタイプの治療「生物学的製剤療法」が登場した.生物学的製剤療法は,人体に自然に存在する因子,たとえばサイトカインをターゲット(的)にして,各疾患にかかわる因子の活動性を促進あるいは抑制するという治療法である.C型肝炎に対するインターフェロンa(IFN-a)は,生物学的製剤療法として最も古い例である.C型肝炎の場合は,IFN-aの活動性を高めるため,組換え技術により製造されたIFN-aを投与している.また眼科領域では,加齢黄斑変性に合併する脈絡膜新生血管に対して,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)というサイトカインの活動性を抑制するモノクローナル抗体(bevacizumab)あるいは抗体のFab部分(ranibizum-ab)が生物学的製剤として硝子体内に注射されている.(59)インフリキシマブは,最初に関節リウマチやクローン病で有効性が確立された.ぶどう膜炎領域では,数年前からわが国ではベーチェット病における治験が施行され,海外ではさまざまなぶどう膜炎あるいは強膜炎に対して使用されており,その有用性が報告されている13).従来より非感染性ぶどう膜炎を含めたいわゆる「免疫疾患」には腫瘍壊死因子a(TNF-a)という炎症系サイトカインの関与が知られている.インフリキシマブはTNF-aに対するモノクローナル抗体であり,おもに2つの作用をもっている(図1).一つは,インフリキシマブが可溶型TNF-aと結合することにより,可溶型TNF-aと細胞膜上TNF-aレセプターの結合をブロックすることである.もう一つは,インフリキシマブは細胞膜上に存在するTNF-aと結合することにより,TNF-aを発現する細胞に傷害が生じ,結果としてTNF-aの活動性が抑制されるのである.インフリキシマブは,ヒト化されたマウス抗ヒトTNF-aモノクローナル抗体(キメラ型モノクローナル抗体)であり(図2),マウス由来蛋白質に対するアレルギーのある患者には使用できない.さらに,インフリキ岡田アナベルあやめ杏林大学医学部眼科ベーチェット病の眼病変セミナー監修/岡田アナベルあやめ園田康平1.インフリキシマブ:難治性ベーチェット病の新しい治療インフリキシマブレミー病の治療用難治性ベーチェット病ししのし作用し用ベーチェット病難治性の治療しインフリキシマブの構造作用用の代表例TNF-aとの結合部H鎖L鎖可変領域(マウス由来)25%定常領域(ヒト由来)75%FabFc抗体アイソタイプ:IgG1分子量:約149,000交差反応性:チンパンジーTNF-a図2インフリキシマブの構造(提供:田辺三菱製薬株式会社)TNF-a産生細胞(活性化マクロファージなど)可溶型TNF-a②受容体に結合したTNF-aの解離①可溶型TNF-aへの結合・中和③TNF-a産生細胞の傷害(ADCC,CDC)膜結合型TNF-aTNF-a受容体TNF-aターゲット細胞傷害インフリキシマブ(血管内皮細胞,免疫細胞など)図1インフリキシマブの作用機序(提供:田辺三菱製薬株式会社)———————————————————————-Page2194あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(60)シマブ投与により感染症に対する抵抗力が低下するため,結核や他の活動性感染症を有する患者への投与は禁忌である.また,生物学的製剤療法では蛋白質を利用するため,これに対する免疫反応を誘発し,併発的に抗核抗体などの自己抗体あるいはインフリキシマブ薬剤そのものに対する抗体が発現することがある.これらの抗体の発現頻度は,インフリキシマブの投与期間あるいは用量に依存する4).しかし,自己抗体陽性となる患者には,全身性エリテマトーデスのような膠原病が実際に発症する可能性が低いといわれている.インフリキシマブに対する抗体が生じる場合は,頭痛,発熱などのような投与時反応が生じやすい可能性もある5).インフリキシマブを投与されている患者に,多発性硬化症や他の脱髄疾患が報告されており6),この副作用も本剤による免疫調整の関与が疑われている.そして,インフリキシマブ投与によりうっ血性心不全が悪化する可能性があるため,心不全の既往歴のある患者には使用できない.インフリキシマブ投与による副作用の詳細については,次回に述べることにする.初回投与前に,内科によく相談し,活動性感染症,特に未治療の結核の有無について検討する必要がある.また,投与の際,投与時反応を起こす頻度は低くないので,眼科での対応が不十分と考えるときには膠原病科や他の内科外来で投与を行うことを勧める.筆者らはこのような投与前準備のもと,従来治療に難渋した症例にレミケード療法を開始したところ,短期経過観察期間にて大多数の症例に著効が得られた.そのうちの一例を以下に提示する.1999年6月11日初診時から,シクロスポリンにステロイド,メトトレキサートなどを併用したにもかかわらず,右眼の眼底発作をくり返した難治症例で,右眼に続発緑内障も発症し,2006年にほぼ失明となった.その頃,左眼にも眼底発作がみられるようになり,2007年3月26日よりインフリキシマブの治療を開始した.その後,シクロスポリン,ステロイド,メトトレキサートの用量を漸減し,2008年1月15日現在,経過は良好で眼炎症発作はみられていない.インフリキシマブ治療開始前と3カ月後(両方とも非発作時に撮影)のフルオレセイン蛍光眼底造影検査では,乳頭蛍光漏出および毛細血管からのびまん性蛍光漏出が軽減したことがみられ(図3),炎症発作の抑制効果以外にも,背景的な炎症も抑制されることが示唆された.ベーチェット病による難治網膜ぶどう膜炎は,比較的若い男性に多く,視力が低下した場合,就業能力に大きな影響を及ぼすことがある.このような症例に,コルヒチンやシクロスポリンの投与にもかかわらず3カ月から半年程度以内に視力に影響を及ぼす眼発作が生じる場合,より強力な治療が望まれるためインフリキシマブ治療を検討することは妥当である.しかし,現状ではインフリキシマブにおける十分なエビデンスが集積されておらず,引き続き研究されるべき課題の一つである.文献1)OhnoS,NakamuraS,HoriSetal:Ecacy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofiniximabinBehcet’sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.JRheu-matol31:1362-1368,20042)SuhlerEB,SmithJR,WertheimMSetal:Aprospectivetrialofiniximabtherapyforrefractoryuveitis:prelimi-narysafetyandecacyoutcomes.ArchOphthalmol123:903-912,20053)SobrinL,KimEC,ChristenWetal:Iniximabtherapyforthetreatmentofrefractoryocularinammatorydis-ease.ArchOphthalmol125:895-900,20074)MieleE,MarkowitzJE,MamulaPetal:Humanantichi-mericantibodyinchildrenandyoungadultswithinam-matoryboweldiseasereceivinginiximab.JPedGastro-enterolNutr38:502-508,20045)HanauerSB,WagnerCL,BalaMetal:Incidenceandimportanceofantibodyresponsestoiniximabaftermain-tenanceorepisodictreatmentinCrohn’sdisease.ClinGastroenterolHepatol2:542-553,20046)TannoM,NakamuraI,KobayashiSetal:New-onsetdemyelinationinducedbyiniximabtherapyintworheu-matoidarthritispatients.ClinRheumatol25:929-933,2006図3代表例のフルオレセイン蛍光眼底造影所見(34歳,男性)インフリキシマブ治療開始前と比較し,3カ月後では乳頭蛍光漏出および毛細血管からのびまん性蛍光漏出が軽減した.インフリキシマブ開始前インフリキシマブ開始3カ月後

緑内障:瞳孔ブロックと原発閉塞隅角

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.2,20081910910-1810/08/\100/頁/JCLS瞳孔ブロックは原発閉塞隅角の中心的機序としてよく知られてきた.しかしアジア民族に多い慢性タイプの閉塞隅角においては,レーザー虹彩切開術後の眼圧コントロールや暗室うつむき負荷試験,そして超音波生体顕微鏡による形態的な検討などから,機序は決して瞳孔ブロックだけではなく非瞳孔ブロック機序とのマルチメカニズムが多いことも最近認識されるようになってきた.その一方で,急性原発閉塞隅角症(APAC)の発症において瞳孔ブロックはきわめて中心的な役割を果たし,瞳孔ブロックを解除することは発作を解除し予防する.このように,閉塞隅角に対する治療を考えるとき目的とする機序によってとるべき方針が異なると考えられ,より詳細な病態理解は臨床での治療成果に結びつくであろう.瞳孔ブロックとは虹彩と水晶体前面との接触抵抗であり,これにより生じる前後房間の圧格差によって虹彩は前方に弓状に膨隆し隅角を狭細化する(図1).選択的に瞳孔ブロックを解除する治療(レーザー虹彩切開術,周辺虹彩切開術)を行えば,術後虹彩は前方膨隆が消失して平坦化するので,その平坦化した分だけ隅角は開大することになる(図2).したがって,瞳孔ブロックを解除する治療の効果,必要性は虹彩の前方膨隆が大きい症例ほど大きくなるし,逆に前方膨隆が少ない症例ほど小さくなるであろう.孔ブロックによる虹彩前方膨隆の測定筆者らは虹彩の前方膨隆を超音波生体顕微鏡による隅角画像を用いて定量的に測定した1).この前方膨隆は原発閉塞隅角症または同緑内障の症例において決して均一にしかも全症例で認められるものではなく,0mmから0.4mmまで非常に大きな個体差を認める(図3).特に(57)載緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄92.瞳孔ブロックと原発閉塞隅角野中淳之神戸市医療センター中央市民病院眼科原発閉塞隅角,特に急性原発閉塞隅角症において瞳孔ブロックは中心的な役割を果たし,瞳孔ブロックの解除は発作を解除し予防する.現在まで瞳孔ブロックの存在はこのような治療効果によってのみ確認され,定量的な評価はほとんど不可能であった.そこで筆者らは超音波生体顕微鏡を用いて簡便に瞳孔ブロックの定量評価を試みている.図1超音波生体顕微鏡による隅角画像瞳孔ブロックにより,虹彩は前方に弓状に膨隆し隅角を狭細化する.2図1と同一症例のレーザー虹彩切開術後選択的な瞳孔ブロック解除により,虹彩は前方膨隆が消失して平坦化し,その平坦化した分だけ隅角は開大する.———————————————————————-Page2192あたらしい眼科Vol.25,No.2,20080.3mm以上の強い膨隆を認めたのは約46%であり,逆に膨隆が非常に弱い,もしくは膨隆を認めない症例では程度の差こそあれ,水晶体要因やプラトー虹彩機序などの非瞳孔ブロック機序も閉塞隅角に大きくかかわっている可能性を示唆する.ただし,虹彩前方膨隆の測定とは対照的に,非瞳孔ブロック機序としてよく説明されるプラトー虹彩機序の程度は,画像から定量評価するのは今のところ困難である.理論上,瞳孔ブロック力は中心前房深度に相関するものであり,浅前房ほど強まる.筆者らの検討でも同様に,瞳孔ブロックによる虹彩前方膨隆は中心前房深度に有意な負の相関を示していた1)(図3).さらに,APAC(当科で精査後に,やむをえない理由で発症した)症例の発症前所見をのちに調べてみると,発症前に虹彩前方膨隆はすべての症例で0.3mm以上と非常に強かった.現在まで中心前房深度が浅いほどAPACの発症リスクが高まることはよく知られてきたが,筆者らのデータを考え合わせると,中心前房深度が浅いほど瞳孔ブロック力が強まり,虹彩も前方膨隆が強まって隅角が閉塞しやすくなるために,APACが発症しやすくなっていると考えられる.この結果から,虹彩前方膨隆の測定はAPACの発症リスク評価に有用と考え,さらに他のパラメータ(中心前房深度や暗室うつむき試験)と組み合わせることでこのリスク評価に役立てている(野中淳之ほか,2005年日本緑内障学会).虹彩の前方膨隆の程度には瞳孔ブロック力だけでなく,虹彩の剛性も関係すると考えられる.同等の瞳孔ブロック力が存在しても虹彩の剛性が強いほど虹彩は前方膨隆しにくくなる.虹彩の厚さによっても剛性は異なってくるであろう.したがって,虹彩の前方膨隆の測定がそのまま瞳孔ブロック力の測定になっているというわけではない.しかし,理論上瞳孔ブロック力が中心前房深度に相関するものであることが筆者らの虹彩の前方膨隆のデータと一致することを考えると,虹彩の前方膨隆は瞳孔ブロック力に大きく依存していると考えられる.このように,瞳孔ブロック力,そしてその結果としての虹彩の前方膨隆を検討することは,病態,治療効果や適応などを考えるうえで大いに有用である.今後直接的な瞳孔ブロック力の測定や,虹彩の剛性についての理解が進むことにも期待したい.文献1)NonakaA,IwawakiT,KikuchiMetal:Quantitativeevaluationofirisconvexityinprimaryangleclosure.AmJOphthalmol143:695-697,2007(58)☆☆☆図3虹彩前方膨隆と中心前房深度の関係虹彩前方膨隆値(mm)は原発閉塞隅角症(緑内障)において0mmから0.4mmまで非常に大きな個体差を認めた.虹彩前方膨隆値と中心前房深度の間には有意な相関を認め(p<0.01,r=0.57),浅前房ほど瞳孔ブロックによる虹彩の前方膨隆は強まっていた.(文献1より許可を得て転載)01020304050(眼):0:0.1:0.2:0.3:0.41.4以下1.51.61.71.81.922.12.22.32.42.52.62.7中心前房深度(mm)

屈折矯正手術:Epi-LASIKの術後成績と評価

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.2,20081890910-1810/08/\100/頁/JCLSエキシマレーザーを使用した屈折矯正手術は現在,術後の疼痛の少なさや効果の速さ,矯正精度の高さなどから手術の主流はなんといってもLASIK(laserinsitukeratomileusis)である.強度近視などLASIKの適応とならない症例に対する屈折矯正手術の一つとして,わが国でEpi(epithelial)-LASIKが施行されはじめて約3年が経過しようとしている1,2).Epi-LASIKとは,エピケラトーム(図1)を使って角膜上皮フラップを作製し,Bowman膜より直接レーザー照射を行い,再度フラップを戻す手術方法である.正確にBowman膜を露出させてレーザー照射を行うため,LASIKと比べてもより精密で繊細な術式であり,術後高次収差の誘発などについて有利な手術である3).反面,surfaceablationの一手技である以上,上皮フラップの生着を一部分では認めるものの,術後の疼痛についてはLASIKのようにはいかずやはり痛みを訴えることがあり,術直後の裸眼視力回復についてもある程度の日数を必要とすることが多い.上皮フラップにできる余剰部分を切除,染色して実際に観察したところ,基底細胞が死細胞として認められる症例があることが証明されている4,5).これら術後早期の諸問題は依然Epi-LASIKに残された課題ではあるものの,上皮フラップの生着率向上に関しては現在も果敢に挑戦を続けており,成果の結実を信じている.では,術後中期以降の経過はどうであろうか.実際にEpi-LASIKを施行して経過観察できた症例のデータをみてみる.対象は2004年11月から2005年10月の1年間にバプテスト眼科クリニック(当院)においてEpi-LASIKを施行し,18カ月間経過観察できた58例103眼(平均年齢36.4歳)である.術前の等価球面度数6.6(1.5~11.75)D,術前ケラト値43.8(40.75~46.5)D,術前角膜厚536.3(449~629)μmであった.術後の屈折値,裸眼,矯正視力を,術後1週間,1,3,6,12,18カ月の順で示す.屈折値は+0.28(±1.1)D,+0.32(±0.82)D,+0.16(±0.80)D,+0.04(±0.74)D,+(55)屈折矯正手術ースキアップ●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男93.EpiLASIKの術後成績と評価中井義典稗田牧バプテスト眼科クリニック現在ではsurfaceablationの一手技として施行されるEpi-LASIKについて,実際の症例における中長期的な経過を検討する.これまでのtransepithelialphotorefractivekeratectomy(t-PRK)に比べると術後球面収差の増加,ヘイズの抑制において有利な結果が出ている.今後さらに上皮フラップの生着率を向上させ,術直後の視力回復,疼痛への対応を要す.acdb1各種エピケラトームa:EpiLift(Gebauer/VisiJet),b:Epi-K(MORIA),c:AmadeusⅡ(AMO),d:CenturionSES(NorwoodEyecare).図2EpiLASIK術後裸眼視力の経過術前1W1Y6M1Y6M3M1MlogMAR視力-0.4-0.200.20.40.60.811.21.41.61.8———————————————————————-Page2190あたらしい眼科Vol.25,No.2,20080.03(±0.86)D,0.07(±0.61)Dであり,裸眼視力は少数視力0.76,1.01,1.14,1.21,1.09,1.23(図2),矯正視力が同様に0.91,1.25,1.39,1.43,1.38,1.44であった.他の屈折矯正手術と比べてもちろん遜色なく,少なくとも中期的には経過が安定していると考えられる.また,surfaceablationにおいて常に大きな問題として取り上げられる上皮下混濁(ヘイズ)については,術後早期に非常に淡い混濁が認められる症例があるものの(図3),これまでに行ってきたtransepithelialphotore-fractivekeratectomy(t-PRK)と比較して長期にヘイズが残存することはまれで,特徴的な発生の仕方がみられる(図4).当院では点眼を術後数カ月以上かけて漸減しながら使用しているが,点眼のコンプライアンスさえ良ければ,視機能に大きく影響を与えるようなヘイズは生じないのではないかと考えている.Epi-LASIKをはじめとした角膜屈折矯正手術のみならず,有水晶体眼内レンズの普及など,今までLASIKの適応にならなかった症例に対する屈折矯正手術は確実に増加し,進化している.どの術式が最も優れた術式かを論ずることは肝要であるが,現時点で明確な評価は困難であろう.一番のポイントは,現在施行可能な術式のアップデートに努め,毎回症例ごとに最も適した術式を患者本人に示し,術式を決定することにあると考える.そうして新しい手術手技の適応が拡大してゆけばひいては,通常のLASIKの適応さえも,今までよりさらに安全でリスクの少ないものに変化していくのではないであろうか.文献1)PallikarisIG,NaoumidiII,KalyvianakiMIetal:Epi-LASIK:comparativehistologicalevaluationofmechanicalandalcohol-assistedepithelialseparation.JCataractRefractSurg29:1496-1501,20032)PallikarisIG,KalyvianakiMI,KatsanevakiVJetal:Epi-LASIK:preliminaryclinicalresultsofanalternativesur-faceablationprocedure.JCataractRefractSurg31:879-885,20053)中井義典,稗田牧:Epi-LASIKの成績.IOL&RS20:364-366,20064)中司美奈,谷岡秀敏:EpithelialLaserInSituKeratomileu-sis(Epi-LASIK)の病理.IOL&RS20:244-247,20065)TaniokaH,HiedaO:Assessmentofepithelialintegrityandcellviabilityinepithelialapspreparedwithepi-LASIKprocedure.JCataractRefractSurg33:1195-1200,2007(56)☆☆☆図3ヘイズ(術後3カ月)Fantes分類のスコア1にも相当しないごく淡いヘイズを認めることがある.(スコア0.5または0.25と表現)図4ヘイズ出現の比較(Epi-LASIKとt-PRK)Epi-LASIKではt-PRKに比べて術直後の淡い混濁が目立つが,6カ月までに消失している.Epi-LASIKn=103t-PRKn=88:0~0.25:0.5:1:2:0~0.25:0.5:1:2120100806040201001W1M3M6M1Y1Y6M120100806040201001W1M3M6M1Y1Y6M

眼内レンズ:眼内Cow Hitch法による偏位眼内レンズ矯正術

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.2,20081870910-1810/08/\100/頁/JCLS白内障手術の適応年齢が広がり,眼内レンズ(IOL)の挿入期間が長期化するにつれ,IOL偏位を起こす症例は増加してきている.近年,IOL脱臼に対しクローズドアイのまま毛様溝縫着を行う眼内cowhitch法が報告されている1,2).この方法は操作が簡便であり,IOLを眼外に取り出さずに操作することができるので,眼に対する侵襲が少ない.今回,下方へIOL偏位した症例に対し,眼内cowhitch法によって片方の支持部(haptics)を毛様溝縫着することにより,偏位を矯正した.(53)症例は59歳の男性,右眼の突然の視力低下を主訴に来院.既往歴として他院にて15年前に白内障手術を施行されたが,後破損を起こしIOLは外固定されていた.その後,視力は安定していたが,今回IOLの偏位(図1)による視力低下を生じた.周辺部の前後はほとんど温存されており,明らかなZinn小帯断裂もみられなかったため,上方の支持部のみを縫着固定する予定で手術を行った.手術ではまず,7時の角膜輪部サイドポートよりループ糸付針(10-0プロリン,ポリプロピレン,PC-9,ア福田慎一大鹿哲郎筑波大学臨床医学系眼科眼内レンズー監修/大鹿哲郎258.眼内CowHitch法による偏位眼内レンズ矯正術偏位した眼内レンズ(IOL)に対して,サイドポートからの操作のみでIOLの支持部(haptics)にcowhitchを形成することにより,クローズドアイのまま毛様溝に縫着して偏位を矯正することが可能である.本法によって,IOL摘出による術中・術後合併症,術後乱視の増大や角膜内皮損傷を避けることができる.図1眼内レンズが下方へ偏位4支持部に引っかけた糸を眼外に取り出す2ループ糸付針(PC-9,10-0プロリン)の糸側をプッシュプルフックにて眼内に挿入5眼外にてループ糸に縫着針を通しcowhitchを作製図3糸を支持部の下から上へとくぐらせる図6サイドポートより毛様溝縫着針を挿入———————————————————————-Page2188あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(00)ルコン)の糸側を挿入し(図2),プッシュプルフックにてIOL支持部の下から上へと糸をくぐらせ(図3),挿入部のサイドポートから眼外へ出した(図4).眼外にて糸のループ部分に毛様溝縫着針を通し,cowhitchを作製(図5).再びサイドポートより毛様溝縫着針を挿入し(図6),12時の毛様溝に通糸して強膜に固定した(図7,8).偏位IOLは整復され,良好な経過が得られている(図9).従来行われていたIOLを一度摘出し,改めて毛様溝に縫着固定する方法では,術中に眼内圧を保つことがむずかしく,脈絡膜離や網膜離といった重篤な合併症を起こす場合があった.クローズドアイのまま毛様溝縫着を行う方法はこれまでにも報告されているが,支持部の眼外取り出しが必要であったり3),操作が複雑で支持部の固定が確実でない4)などの欠点があった.これらに比して,眼内cowhitch法は操作が簡便であり,レンズ固定もより確実である.偏位IOLに対し,眼内cowhitch法によるIOL毛様溝縫着術を施行することにより,眼内圧が安定した状態で操作を行うことができ,サイドポートより操作するため術後乱視の増大,角膜内皮損傷を避けることができる.今回のように水晶体が相当残存しているような症例の場合,上方のループのみを毛様溝固定することにより,良好な中心固定を得ることができるので,必ずしも両支持部に対して操作を行う必要はない.文献1)HanemotoT,IdetaH,KawasakiT:Dislocatedintraocularlensxationusingintraocularcowhitchknot.AmJOph-thalmol131:265-267,20012)HanemotoT,IdetaH,KawasakiT:Luxatedintraocularlensxationusingintravitrealcowhitch(girth)knot.Ophthalmology109:1118-1122,20023)KokameGT,AtebaraNH,BennettMD:Modiedtech-niqueofhapticexternalizationforscleralxationofdislo-catedposteriorchamberlensimplants.AmJOphthalmol131:129-131,20014)AzarDT,WileyWF:Double-knottransscleralsuturexationtechniquefordisplacedintraocularlenses.AmJOphthalmol128:644-646,1999712時の毛様溝に通糸図8糸を引き出して強膜に固定図9整復されたIOL

コンタクトレンズ:円錐角膜へのハードコンタクトレンズ処方(2)  -HCL単独処方のフィッティングフィロソフィー

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.2,20081850910-1810/08/\100/頁/JCLS眼鏡視力が低下してきた円錐角膜の症例に,的確なコンタクトレンズ(CL)処方が行われたときの患者の喜びは格別で,一度低下したビジョンを取り戻すという意味で,その効果は白内障手術にも匹敵する.東京医科歯科大学ではディスポーザブルソフトコンタクトレンズの登場直後から,これを用いたピギーバックレンズシステムの導入を行ってきたが,基本はもちろんハードコンタクトレンズ(HCL)の単独処方である.HCLの単独処方のフィッティングフィロソフィーには大きく分けて2点接触法と3点接触法があり,それぞれ一長一短があるが,筆者らの外来ではおもに大きめのサイズ(9.29.6mm)の球面か,離心率が小さめの非球面レンズによる3点接触法を基本として処方を行っている.2点接触法の詳細は教科書に譲るとして,おそらくクリニックによって微妙に異なるであろう3点接触法のうち,筆者らの方法について解説する.円錐角膜の角膜厚,剛性,眼圧,眼瞼圧を五感で感じ取り,イマジンする円錐角膜の病態は非常に多彩で,HCLフィッティングにかかわるファクターとして個々のさまざまな角膜形状,角膜厚(角膜後面形状),剛性に加えて,眼圧や眼瞼圧,瞼裂幅を考える.当然,円錐角膜の正確な眼圧や剛性は測れないので,細隙灯顕微鏡で角膜形状をスキャンしながら,瞼を押したり,引っ張ったりしてみて,この円錐角膜はどんなキャラクターをもつのか五感で感じ取ることが大事である.そしてフィッティング時にはトライアルレンズが瞬目によって上下する一瞬のフルオレセインの動きを見逃さず,閉瞼時のフィッティングパターンを想像することが大切である.たとえば,眼瞼圧が高く,角膜厚の薄いケースでは閉瞼時にレンズはかなり圧迫されているだろうといったイマジネーションが大切である.筆者らが理想としている3点接触法はレンズが下方に落ちたときにようやく角膜輪部にエッジ部分が接触し(図1),眼瞼によってレンズが引き上げられたと(51)きにレンズ下方のエッジは十分浮き上がり,涙液の流入を見るようなフィッティングである(図2).佐野研二黒石川誠東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学コンタクトレンズセー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純1フラット気味の3点接触法筆者らの理想とする3点接触法は,角膜輪部でレンズ下方がようやくタッチし,それでいて,レンズが角膜輪部を超えてずり落ちることもないギリギリのフィッティングである.23点接触法で処方されたレンズが瞼で引き上げられた,その一瞬瞼によってレンズが引き上げられたその一瞬を見逃さないことが重要である.この瞬間も,レンズ下方は十分な涙液で満たされている.レンズと角膜が全体的によく接触し,角膜上皮障害をひき起こさないように圧力が分散されているのが筆者らの理想の3点接触法である.———————————————————————-Page2186あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(00)角膜中間周辺部の最も面積の大きな曲率をベースカーブ(BC)のファーストチョイスに球面レンズでサイズが9.29.6mmの場合,トポグラフィーがあれば,角膜中心(照準線)から24mm付近の中間周辺部の最も面積の大きな角膜曲率をBCのファーストチョイスにするとよい.軽度から中等度の円錐角膜においては,ケラトメータで,ほぼ弱主経線値あたりに相当する.さまざまな円錐角膜フィッティングプログラムが,筆者らのものも含め発売されており,これを利用するのもよい.しかしながら,これらは角膜表面形状のみからの情報であり,前述したように最終的には角膜厚(角膜後面形状),剛性,眼圧や眼瞼圧,瞼裂幅を頭に入れながら,フルオレセインパターンでトライアンドエラーをくり返すしかない.角膜厚の薄い円錐角膜は通常の角膜に比べ,オルソケラトロジー効果が出やすいため,角膜が球面化したときのことを想定しながら,ややフラットぎみにフィットさせるように心がけたほうがよい.また,それまで入れていたHCLがあれば,それが角膜にどのように圧力を与えていたのかも想像してフィッティングさせると,処方後のレンズ修正交換回数も少なく済む.すなわち,以前使っていたレンズが,ルーズでフラットに処方されていたら角膜はすでに十分に扁平化しており,新たに処方したHCLによるオルソケラトロジー効果は少なく,逆に,スティープであったり,新鮮例であれば,処方したレンズのオルソケラトロジー効果は大きいと考えるのである.筆者らは自然科学の基礎が数値化にあることは重々承知しているものであるが,円錐角膜のフィッティングフィロソフィーを伝えるために,現在のところこうした非常に感性的な表現しか思いつかない.円錐角膜形状はHCL装用によって刻々と変化し,はじめは良いフィッティングで動きも良かった症例であっても,経過観察中にレンズが固着をしたり,動きが悪くなって角膜上皮障害を起こしたりすることが珍しくない.次回は,こうしたケースのトラブルシューティングであるHCLのベベル修正について述べる.

写真:後部多形性角膜変性症

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.2,20081830910-1810/08/\100/頁/JCLS(49)菊地正晃*1山口昌彦*2*1愛媛県立中央病院眼科*2愛媛大学医学部眼科ー監修/島﨑潤横井則彦285.後部多形性角膜変性症2図1のシェーマ①:角膜中央部の浮腫.②:帯状角膜変性症.③:カルシウム沈着.④:上方への瞳孔偏位.①②②③④図1後部多形性角膜変性症(PPCD)の進行例(21歳,男性,左眼)ほぼ角膜全面に浮腫を認めるが,特に中央から下方にかけて強く,小水疱も認められる.長期にわたる角膜上皮浮腫のため,帯状角膜変性を生じ,中央部では上皮にカルシウム沈着が散在する.瞳孔は周辺虹彩前癒着の影響で上方へ偏位していた.図4PPCD角膜浮腫(-)例(14歳,男性)角膜中央部内皮面にほぼ水平帯状に走行する半透明の隆起性病変を認める.本症例は,5歳から経過観察しているが,角膜浮腫は認めていない.ただ,周辺虹彩前癒着がみられ,軽度の瞳孔偏位も認める.眼圧上昇は認めていない.図3図1の右眼の内皮スペキュラー所見角膜浮腫の進行した左眼では測定不能であったが,右眼では角膜中央から上方にかけて黒くみえる細胞質(darkarea)と高輝度の核をもった大型の細胞が水平方向に帯状に観察され,これらは上皮様の性質をもっている内皮細胞と考えられる.最上方や下方には正常の形態を示す内皮細胞が,異常内皮細胞と明瞭な境界をもって存在する.上方中央下方———————————————————————-Page2184あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(00)後部多形性角膜変性症(posteriorpolymorphouscornealdystrophy;PPCD)は1916年にKoeppeによって報告された遺伝性疾患1)で,通常は常染色体優性遺伝であるが,まれに常染色体劣性遺伝の形式をとる.その発生機序は明らかではないが,角膜の発生段階において内皮細胞に分化するはずである神経堤細胞由来のメサンギウム細胞に何らかの分化異常が生じ,内皮細胞が上皮細胞様の形態を示して,ポンプ作用など角膜内皮細胞の正常な機能を失い,角膜上皮や実質に浮腫をきたすようになる2).発症は出生時,あるいはその直後と考えられ,非進行性あるいは緩徐に進行すると考えられており,自覚症状に乏しいため,コンタクトレンズ診療の際などに偶然発見されることが多い.基本的に両眼性であるが,ほとんどの場合,左右非対称の病像を呈する.PPCDの細隙灯顕微鏡所見では,角膜内皮面に水平方向に帯状に走行する半透明の隆起性病変(図4)が特徴的で,分化異常を起こした内皮細胞が上皮細胞様に変化している部分と考えられる.いわゆる非進行例では,長年にわたりこの内皮所見にほとんど変化がなく,角膜浮腫も出現しないため経過観察のみでよい.一方,図1に示したのはPPCDの進行例で,内皮が広範囲にわたって上皮様変化を起こす結果,角膜上皮および実質に浮腫が生じ,浮腫が長期化することによってDescemet膜の肥厚や帯状角膜変性が生じて,角膜全体が灰色に混濁した外観を呈するようになる.さらに進行すると,小水疱を伴う水疱性角膜症に至り,視力低下や痛みを訴える.浮腫の程度が軽いうちは,保存的に治療用ソフトコンタクトレンズ装用や高張食塩水点眼を行うが,重症例では全層角膜移植術が選択される3).内皮スペキュラーマイクロスコープでは,病変部に一致して境界不明瞭な黒い細胞群(darkarea)や大型の内皮細胞を認め,病変部以外では正常の内皮細胞を呈するといわれており4),本症例でも同様の所見がみられた(図3).また,本疾患の約15%に緑内障を合併するといわれている.その理由として,異常な上皮様細胞が線維柱帯をのりこえ,隅角に周辺虹彩前癒着をつくり房水流出を阻害するためと考えられている.PPCDと類似した所見を認める疾患としてposteriorcornealvesiclesがあげられる.水疱性病変,帯状病変など同様の角膜所見を呈するものの,非遺伝性で片眼性の疾患であるという点で鑑別可能と考える.しかし,常染色体劣性遺伝や散発性のPPCDの存在も考えられており,その点では今後,遺伝子解析も含めた両疾患の異同について検討の余地がある.図1の症例は,21歳の男性で,母親と兄もPPCDと診断されている.内皮細胞数の減少とともに角膜浮腫が進行し,水疱性角膜症を呈した.隅角には周辺虹彩前癒着を認め,上方への瞳孔偏位がみられた.左眼視力0.08(矯正不能)と低下してきたため,全層角膜移植術を施行し,術後4カ月の時点で矯正視力1.2と良好な経過をたどっている.文献1)KoeppeL:KlinischeBeobachtungenmitderNernstspalt-lampeunddemHornhautmikroskop.AlbrechtvonGraefesArchklinexpOphthal91:363-379,19162)眞鍋禮三(監):角膜内皮のジストロフィ.眼科学─疾患とその基礎,p126-128,メディカル葵出版,20013)佐野洋一郎,横井則彦:後部多形性角膜ジストロフィ.角膜内皮異常,角膜クリニック,第2版(井上幸次ほか編),p116-117,医学書院,20034)高橋秀児:後部多形性角膜ジストロフィとPosteriorCorne-alVesicles細隙灯顕微鏡及びスペキュラーマイクロスコープによる観察.眼紀48:66-70,1997

アレルギー専門医と眼科

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSぶことができるが,一般の人々にとっては,「ある病気について専門的な知識や技能をもった医師」が専門医であって一段レベルが高い医師であるというように認識されていると思われる.しかし医師にとっては,前述のいわば広義の専門医が資格としての専門医ではないことは誰でも知っているであろう.専門医について,現在わが国の多数の専門医制度を実質上統括しているといえる日本専門医認定制機構が,狭義のそして本来の「専門医」をつぎのように定義している.すなわち,「5年間以上の専門研修を受け,資格審査ならびに専門医試験に合格して,学会などによって認定された医師を専門医」としている.これは日本眼科学会認定の眼科専門医についてもそのまま当てはめることができる.それも当然で,平成15年4月に日本専門医認定制機構が専門医(ないし認定医)制度をもつ会員52学会を,第1群:基本的領域の学会,第2群:Subspecialtyの学会で,基盤とする領域の認定(研修)に上積み研修方式の制度の学会,第3群:1および2群以外の学会(位置づけはこれから協議されるもの),の3群に区分した際に,第1群となった日本眼科学会は,この基盤18学会の一つであるからである(表1).わが国における各領域の専門医の認定制度は,欧米に比べ発足が遅れ,1962年に発足した日本麻酔指導医制度が最初のものである.その後,学会がそれぞれ認定医(専門医)の制度を立ち上げたが,学会間の連携なしに施行され,統一性のない多様な制度が施行されてしまっはじめに「アレルギー専門医」といわれてもぴんとこない方が多いのではないだろうか.アレルギー専門医とは日本アレルギー学会によって認定される専門医のことである.本誌の対象読者はほとんどが眼科医であるが,今年の9月現在で,眼科専門医は9,688名であり,日本眼科学会会員13,690名(2006年末現在)の70%にあたる1).さらに専門医志向申請者の1,328名を加えると,ほぼ80%が日本眼科学会認定の「眼科専門医」を取得しているか,取得に向けて研修中であると思われる.眼科専門医は眼科医を職業としていこうとする医師にとって,法制上は現在必須ではないとはいえ,重要であることは異論のないところである.そして眼科のもつ強い専門性から,「眼科専門医」資格さえもっていれば十分と認識されている方がほとんどであろう.というよりも,他科から移られた方を除けば,眼科専門医以外の専門医資格を取得することなど不可能だと考えられても無理がないところがある.そのような眼科専門医以外にある専門医資格のなかで,これから紹介するアレルギー専門医は眼科医にとって,現実的に手に入れられる可能性のあるおそらく唯一の専門医資格といえるものである.それでは,アレルギー専門医について解説を進めていきたい.I専門医とは何かそもそも専門医とは何ものなのだろうか.わが国では,医師国家試験に合格した医師は自由に標榜科目を選(43)177*EiichiUchio:福岡大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕内尾英一:〒814-0187福岡市城南区七隅7-45-1福岡大学医学部眼科学教室特集眼アレルギーの知識はいまあたらしい眼科25(2):177182,2008アレルギー専門医と眼科ClinicalAllergologicalSpecialistsandOphthalmology内尾英一*———————————————————————-Page2178あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(44)また2002年4月に厚生労働大臣の告示によって,「専門医の広告」が実現したために,日本専門医認定制機構(英文名:JapaneseBoardofMedicalSpecialties)として,2003年4月から開始されているわけである.日本専門医認定制機構の事業としては,1.専門医認定制全体の望ましい整備に関する活動,2.信頼される専門医の認定及び生涯教育の充実に関する活動,3.社会の理解を深た.そこで,社会に認められる認定医(専門医)とするために,学会同士でauthorizeした合同会議として情報交換や望ましい制度の在り方を協議し,継続活動することが必要であるとされ,1981年11月に,日本眼科学会を含む22学会が参加して,学会認定医制協議会が設立された.その後紆余曲折があったが,協議会がその目的を果たすためには法人格が必要であるとの考えがあり,学会名専門医名称専門医数1.基本領域の学会※日本内科学会認定内科専門医10,562名※日本小児科学会小児科専門医11,956名※日本皮膚科学会皮膚科専門医5,257名日本精神神経学会精神科専門医0名※日本外科学会外科専門医13.782名※日本整形外科学会整形外科専門医15,729名※日本産科婦人科学会産婦人科専門医11,870名※日本眼科学会眼科専門医9,362名※日本耳鼻咽喉科学会耳鼻咽喉科専門医8,113名※日本泌尿器科学会泌尿器科専門医5,895名※日本脳神経外科学会脳神経外科専門医6,335名※日本医学放射線学会放射線科専門医4,810名※日本麻酔科学会麻酔科専門医5,529名※日本病理学会病理専門医1,927名日本臨床検査医学会臨床検査専門医581名※日本救急医学会救急科専門医2,472名※日本形成外科学会形成外科学会専門医1,505名※日本リハビリテーション医学会リハビリテーション科専門医1,255名2.Subspecialtyの学会※日本消化器病学会消化器病専門医14,152名※日本循環器学会循環器専門医9,817名※日本呼吸器学会呼吸器専門医3,360名※日本血液学会血液専門医2,022名※日本内分泌学会内分泌代謝科(内科・小児科)専門医1,480名※日本糖尿病学会糖尿病専門医3,299名※日本腎臓学会腎臓専門医2,684名※日本肝臓学会肝臓専門医3,506名※日本アレルギー学会アレルギー専門医2,450名※日本感染症学会感染症専門医814名※日本老年医学会医学会認定老年病専門医1,446名※日本神経学会神経内科専門医4,213名※日本消化器外科学会消化器外科専門医3,203名※日本呼吸器外科学会※日本胸部外科学会}呼吸器外科専門医1,139名※日本心臓血管外科学会心臓血管外科専門医1,848名学会名専門医名称専門医数日本血管外科学会(機構未加盟)不明※日本小児外科学会小児外科専門医422名日本小児神経学会小児神経科専門医1,002名日本心身医学会心身医学科認定医740名※日本リウマチ学会リウマチ専門医3,491名※日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医13,945名※日本大腸肛門病学会大腸肛門病学会専門医1,594名※日本気管食道科学会気管食道科専門医252名日本周産期・新生児医学会周産期専門医0名日本生殖医学会生殖医療指導医0名※日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医599名3.多領域に横断的に関連する学会※日本超音波医学会学会認定超音波専門医1,535名※日本核医学会核医学専門医576名日本集中治療医学会集中治療専門医776名日本輸血・細胞治療学会輸血細胞治療学会認定医289名※日本東洋医学会漢方専門医1,803名日本温泉気候物理医学会温泉療法専門医192名日本臨床薬理学会臨床薬理学会認定医213名4.上記の領域に属さない学会日本産業衛生学会産業衛生学会専門医380名新規加盟学会日本病態栄養学会学会認定病態栄養専門医0名※日本透析医学会学会認定透析専門医3,905名日本臨床腫瘍学会臨床腫瘍学会専門医47名日本総合病院精神医学会精神医学会専門医503名日本アフェレシス学会学会認定専門医192名※日本ペインクリニック学会ペインクリニック学会専門医1,444名日本脳卒中学会脳卒中学会専門医2,556名※日本臨床細胞学会細胞診専門医2,113名日本心療内科学会心療内科専門医0名日本放射線腫瘍学会放射線腫瘍学会認定医500名日本頭痛学会学会認定頭痛専門医227名日本てんかん学会学会認定医(臨床専門医)310名日本インターベンショナル・ラジオロジー学会学会認定専門医472名日本脳神経血管内治療学会学会認定専門医386名表1日本専門医認定制機構加盟学会の一覧と専門医数※印は専門医広告が可能な学会(2007年4月現在).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008179(45)1,037名(11.5%)で,研究者の占める割合は日本眼科学会よりはかなり高率であり,Subspecialty学会としての性格をみることもできる.学術集会は年2回あり,春季臨床大会,秋季学術大会というように,前者が臨床中心,後者が基礎研究中心とされ,眼科における日本臨床眼科学会,日本眼科学会の関係に類似しているが,実際には眼科と同様に,2つのアレルギー学会の学術集会は臨床,基礎研究がミックスされた演題で構成されている.来年(2008年)は春季臨床大会(6月1214日),秋季学術集会(11月2729日)ともに東京で開催されるが,地方で開催されることもあり,眼科の大きな学会とは異なりローカル色を体験することも可能である.確かに,眼科からの発表はきわめて少ないために,直接的に興味を引く発表は多くない.しかし,アレルギー疾患のメカニズムは共通のものが多いために,眼科では目にすることが少ない全身治療薬の情報や研究面でのヒントを得ることも多く,筆者個人的にはなかなか面白い学会と思っている.会員の各科別の内訳は,内科が3,834名(48.2%)で最も多く,ついで小児科2,070名(26.0%),皮膚科916名(11.6%),耳鼻咽喉科900名(11.3%),大きく離されて眼科の会員数は58名(0.7%)である(5科以外の医師の会員が他に163名いる).58名という数字を少ないとみることは容易であるが,見方を変えて,眼科医にとってほとんど無縁と思われるアレルギー学会の会員が想像していたよりも多いと感じられる方もいるのではないだろうか.後述するように,アレルギー専門医になるためにはアレルギー学会会員になるのが最初の入口になる.IIIどうしたらアレルギー専門医になれるのかアレルギー専門医として認定を受けるためには,表2に示す条件を満たす必要がある.このうち,眼科専門医であれば,1,2,3および5はクリアできると思われ,問題はそれ以外の4,6そして7である.この3項目のなかでは実は4が最も高いハードルになっている.なぜならば,「日本アレルギー学会認定教育施設において,指導医または「専門医」のもとでのアレルギー学の臨床研修」となっているが,諸事情のために,そもそも眼科医であるアレルギー指導医は現在1名しかいないのであめるための専門医制に関する広報活動,4.専門医認定制に関する調査及び評価に関する活動と規定されているが,各学会にとって重要(であり,また頭の痛い)のは上記のうちの4にあたる部分である.この機構が「専門医認定制機構」であって,「専門医認定制度機構」でないのは,専門医制度そのものではなく,専門医を認定するレベルが各学会間で大きな差異を生じないように協調(実際にはほとんど指導)することを主目的としているからにほかならない.専門医としてのメリットは厚生労働大臣の許可に基づいて,たとえば「日本眼科学会認定眼科専門医」と広告できることが最も大きなものであり,学会ホームページなどでも専門医名簿が公開されている.将来的には,診療報酬面での差別化が検討されているが,まだ実現しそうな状況ではない.その他,身体障害者に関する診断書作成資格や先進医療実施責任者にも眼科専門医であることが必要である1).専門医であることを広告できるのは,表1に示すように,いわゆる基盤学会のうちの16を含めて45の専門医があり,アレルギー専門医もこのなかに含まれている.したがって,アレルギー専門医になると「日本アレルギー学会認定アレルギー専門医(眼科)」であることを広告できることになり,また眼科と同時に「アレルギー科」を診療科目として標榜する根拠も得られることになる.IIアレルギー学会とは日本アレルギー学会は1952年に設立され,2005年に法人格のある社団法人化された.2007年4月現在,8,992名の会員がいるが,これは正式には社員ということになる.アレルギーおよび臨床免疫を共通の研究テーマとする臨床医および基礎医学者から構成されている.臨床の専門分野としてはアレルギー・免疫反応をベースに発症する気管支喘息,過敏性肺臓炎(内科,小児科),アトピー性皮膚炎(皮膚科),アレルギー性鼻炎(耳鼻咽喉科)およびアレルギー性結膜疾患(眼科)など各科の特徴的な疾患や花粉症,免疫不全,膠原病など多くの診療科が関与する疾患を対象にしている.上記のように,臨床医は内科,小児科,皮膚科,耳鼻咽喉科そして眼科の5科が母体となっている.会員のうち,非医師は———————————————————————-Page4180あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(46)こで,表2の4項に「ただし施設の専門,地域等の格差により施設での研修が困難な場合は,別途規定の研修方法により所定の臨床研修を受ける」という文言が加えられ,眼科に関しては具体的には,「専門医」資格取得後,勤務先が「教育施設」の認定条件を満たしている場合は,即時に「指導医」,「教育施設」の認定を可能とする,という規程の変更が今秋(2007年)のアレルギー学会総会の議決を経てされることになった.そうなると,アレルギー専門医である眼科医がいる総合病院で研修を行えばよく,たとえ勤務していなくても非常勤で毎週1回程度外来見学を行うことが研修とみなされることになる.眼科のアレルギー専門医は現在実際に12名いる.また,どうしても定期的な研修ができない場合は,各地方のアレルギー症例が多い施設(関東では国立病院機構相模原病院など)で開催される集中研修(いわゆるアレルギーサマースクール,3日間で講義,実習を受ける)る.そのうえ,認定教育施設になるためには,総合病院であり,アレルギー疾患の症例が年間100以上あり,さらに指導医1名以上または専門医2名以上勤務していることが条件になっているために,眼科の認定教育施設は一般の眼科専門医にとって実際には存在しない状況である(表3).指導医不足は実は眼科だけの問題ではなく,耳鼻咽喉科,皮膚科にもあり,指導医自体はある程度存在する内科,小児科においても,たとえば指導医が1名しかいない施設では,大学の医局であっても,その医師が異動してしまうと,認定教育施設の資格がなくなってしまうというような問題もしばしば生じている.そ表2アレルギー専門医認定のための必要条件日本の医医る認定にの会る内科科科科眼科など本の専門医の認定いる本のめの要るののうは日本アレルギー学会認定におい日本アレルギー学会医または専門医のとの定のにったアレルギー学の必とるにらしいるアレルギーの績のに表にアレルギー学の業績単位るとたし日本アレルギー学会学会お会のめるのとる専門医認定試験にしいる日本アレルギー学会専門医制度日定り表3アレルギー学会の専門医制度日本アレルギー学会専門医アレルギー学にいと専門知識アレルギーの験と績りいアレルギーのうのる医日本アレルギー学会医専門医のためのにわしいと学会認定した医日本アレルギー学会認定専門医のためのにわしいとし学会認定したいれにお試験にるい認定る日日本アレルギー学会認定医制度日り定表4アレルギー専門医の業績単位一覧(眼科医に関するものの抜粋)論文発表(アレルギー・免疫に関するもの)アレルギー,AllergologyInternational(学会誌)他学会誌,および準ずるもの筆頭著者105共著者42学会・講習会・研修会日本アレルギー学会秋季学術および春季臨床大会日本アレルギー学会専門医教育セミナーほか発表(筆頭)55出席107関連学会日本臨床眼科学会他に,日本臨床免疫学会,日本免疫学会など発表(筆頭)3出席4本制度認定の他学会・講習会・研究会日本眼科アレルギー研究会他に臨床アレルギー研究会(関東),西日本小児アレルギー研究会,阪神臨床アレルギー研究会など多数発表(筆頭)2出席2———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008181(47)る.五者択一問題は40問の共通問題と13問の専門領域問題からなっている.アレルギー専門医が眼科医に門戸が開かれているのは,専門領域問題が各科に対応している点であり,眼科医にとってなじみのない内科,耳鼻咽喉科,皮膚科などのアレルギー学についての知識は基本的に要求されない点があることに他ならない.2007年1月実施の実際の問題を表5,6に示す.専─12問題は,五者択一の共通問題である.眼科以外の内容となる40問のうちの1問であるが,難易度として標準的な問や学術集会時に開催される教育セミナー(1ないし2日)への出席でも代用可能である.6の修得単位については表4にその内容を記載したが,かりに論文がなくても,春,秋2回あるアレルギー学会に5回出席すれば50単位自体は達成でき,臨床眼科学会の出席単位も4単位だから,臨床眼科学会に必ず出席する場合は5年間でアレルギー学会に合計3回出席すればよいことになる.アレルギー専門医制度認定の他の学会・講習会・研究会の数は多く,どこの地方でも開催されているが,その単位は出席で2単位ずつなので,よほど積み重ねないとむずかしいだろう.なおアレルギー学会学術集会の出席単位は眼科学会のように,1日ずつの通算ではなく,登録費を払って出席すれば,10単位である(1時間しか会場にいなくても3日間いても同じ).以前は事前登録して,実際には出席しない例が少なくなかったため,今年(2007年)から会場での確認も行われるようになったが,眼科のように顔写真付きの会員証で管理されているわけではない.専門医の単位は出席証を集めて,後で申請する形式である.IVアレルギー専門医試験もう一つの,そして最後の関門が専門医試験である.試験は年1回1月に東京の1会場で行われる.試験は筆記のみで,前半が五者択一問題,後半が論述問題であ図1眼科専門医試験問題症例写真(表6参照)表5アレルギー専門医試験問題(五者択一問題)共通問題専─12自然免疫に関与しないのはどれか.a.Tcellreceptorb.Toll-likereceptorc.補体d.マクロファージe.NK細胞正解a専門領域問題(眼科)専(眼)─49眼サルコイドーシスについて正しくないのはどれか.a.副腎皮質ステロイド薬の後部テノン下注射が有効であるb.硝子体混濁に対して硝子体手術は行うべきではないc.慢性の経過をとる症例が多いd.結膜に類上皮肉芽腫がみられることがあるe.視神経病変は副腎皮質ステロイド薬の全身投与の適応である正解b表6アレルギー専門医試験問題(症例五者択一問題および症例記述問題)症例五者択一問題専(眼)─5223歳の女性.右眼の眼脂・痒感を訴えて受診.上眼瞼の所見を図1に示す.3年来のソフトコンタクトレンズ装用者である.この患者への対応で誤りなのはどれか.a.抗アレルギー薬の点眼を行うb.副腎皮質ステロイド薬の点眼を行うc.コンタクトレンズの装用を中止するd.コンタクトレンズのこすり洗いを徹底するe.乳頭切除を行う正解e症例記述問題専(眼)─54アレルギー性結膜疾患の分類について記せ.専(眼)─55春季カタルに対する外科的治療について記せ.専(眼)─56結膜でのI型アレルギー反応の証明方法について記せ.上記から2題を選択記述する.———————————————————————-Page6182あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008ながら眼科医には歯が立たない問題ばかりである.そういう意味でアレルギー専門医は眼科医にとって特別の意味をもっているといえるだろう.Vアレルギー専門医になったらアレルギー専門医は各科別の資格なので,試験に合格して認定されると,「アレルギー専門医(眼科)」として,広告できるようになる.アレルギー学会のホームページなどでも公表され,アレルギー疾患の患者は慢性症例が多く,眼科の専門医の情報はよく利用されているようである.5年ごとの更新の際は,前述の合計50単位が条件となり,特別のことではないが,眼科専門医を継続している必要はある.おわりに医師の世界にも,世の中と同じように資格コレクターのような方をみることがある.たとえば,外科専門医,消化器病専門医,消化器外科専門医,消化器内視鏡専門医さらには大腸肛門外科専門医をもっている,といった例がないわけではない.眼科は専門性が高く,内容も特殊な感覚臓器を取り扱うことから,他科からの侵食は現実的にはほとんどない.しかし,逆にいうと眼科専門医以外の専門医資格をもっている眼科医はほとんどいない.アレルギー専門医の12名は,眼科専門医の0.1%(58/9,688)にすぎないので,大雑把にいって,残りの99.9%は眼科専門医だけということになる.他の世界を垣間見ることは,何歳になっても想像を超える知的刺激を受けるチャンスである.本稿をお読みになって,アレルギー専門医に一人でも多くの方が興味をもたれれば幸いである.文献1)大鹿哲郎:専門医制度,専門医について.日眼会誌111:767-768,2007題である.自然免疫に対して,獲得免疫はT細胞,B細胞を介するもので,それ以外を自然免疫であるということさえ知っていれば解答できる.臨床に関する問題も少し含まれるが,共通問題の大半はアレルギー・免疫学の基礎的な知識を問うものである.共通問題の臨床問題は膠原病や炎症性腸疾患などに関するものが多い.そのため多少の勉強はさすがに必要で,「ポケット臨床免疫学」といったさほど厚くないポケット型の本でよいから,直前1カ月くらい通読すれば,十分である.表6の専(眼)─49は五者択一の眼科問題10問の一つである.アレルギー疾患だけでなく,ぶどう膜炎に関する問題も必ず出題されるが,最近難易度が上がっている眼科専門医試験に比べれば,はるかにやさしい.専門領域問題には症例五者択一問題が3題含まれ,専(眼)─52のような問題が出題される.巨大乳頭性結膜炎と春季カタルの相違を理解していれば,解答できる.論述式問題は表6下に示す3問のうち,2問を選択して記述する.ある程度の臨床経験があれば,十分解答できると思われるが,アレルギー性結膜疾患のガイドラインについては理解している必要がある.配点は,五者択一問題の一般問題(共通40問各1点+専門10問各3点)が70点,症例問題が3問各10点で合計100点,論述問題2問各50点で100点,総計200点の60%が合格ラインとなっている.試験時間は五者択一問題が200分,論述問題は40分である.過去問題はアレルギー学会事務局から有料で購入できる.学会ホームページからも申し込めるようになっている.最近5年間では全受験者数は150180名で,合格率は95%前後である.眼科の受験者は前述のように少なく,今のところ多くても3人くらいしかいないが,まず不合格となる受験者はいないといってよい.眼科医がチャレンジできる専門医としては,ほかに感染症専門医,リウマチ専門医,超音波専門医などがあるが,アレルギー専門医のように各科領域に配慮した試験を行っている学会はなく,問題は1種類しかない.残念(48)

上皮細胞によるアレルギー炎症制御

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS2型ヘルパーT(Th2)細胞の感作が起こる.Th2細胞から指示を受けたB細胞は,抗原特異的免疫グロブリンE(IgE)を分泌する.抗原特異的IgEは,結膜肥満細胞上に結合し,再び侵入した抗原により架橋され,肥満細はじめに現在,アレルギー性角結膜疾患の発症機序は,I型アレルギー反応が主体と考えられている.その機序は図1のように概観される.結膜局所の抗原提示細胞により,(37)171*MayumiUeta:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕上田真由美:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特集眼アレルギーの知識はいまあたらしい眼科25(2):171176,2008上皮細胞によるアレルギー炎症制御RegulationofAllergicInammationbyEpithelialCells上田真由美*図1アレルギー性角結膜疾患の発症機序結膜局所の抗原提示細胞により,Th2細胞の感作が起こる.Th2細胞から指示を受けたB細胞は,抗原特異的IgEを分泌する.抗原特異的IgEは,結膜肥満細胞上に結合し,再び侵入した抗原により架橋され,肥満細胞の脱顆粒をひき起こす.そして,肥満細胞からヒスタミン,血小板活性化因子(PAF),ロイコトリエンB4(LTB4),プロスタグランジンD2(PGD2)などが放出される.抗原曝露数十分以内に生じる即時相の反応である結膜浮腫,充血,痒みは,肥満細胞の脱顆粒によって放出されたヒスタミンによりひき起こされる.また,抗原曝露824時間後に結膜局所への好酸球の浸潤を主体とする遅発相の炎症反応が生じる.結膜局所への好酸球浸潤には,肥満細胞のほか,線維芽細胞やT細胞が関与している.舁浴舁浴蛆??????????????????舁鉄??舁浴粳貼?????略朿鉄??匹???????????悗???昱???朖???????揺辣??????????????????????????????舁浴———————————————————————-Page2172あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(38)十分以内に即時相の反応として生じる結膜浮腫,充血,痒み,眼瞼浮腫,粘液性の眼脂である.これらは,肥満細胞の脱顆粒によって放出されたヒスタミンにより主としてひき起こされる.一方,これに引き続いて824時間後に遅発相の炎症反応が生じる.これは,結膜局所への好酸球の浸潤を主体とする.アレルギー性角結膜疾患の遅発相は,角結膜炎の病態形成に大きく関与する.春季カタルやアトピー性角結膜炎などの組織障害を伴うアレルギー性角結膜疾患は,I型アレルギー遅発相がその病態の主体と考えられている(図2).現在のアレルギー性角結膜疾患の治療として,肥満細胞を標的にした化学伝達物質遊離抑制作用のある抗アレルギー薬や,ヒスタミン受容体を標的としたヒスタミン拮抗作用のある抗アレルギー薬,そしてステロイド点眼薬,免疫抑制薬であるシクロスポリンの点眼薬などが用いられている.Iアレルギー炎症と上皮細胞遅発相の好酸球浸潤は,肥満細胞によって誘導されると長年にわたって考えられてきた.しかし,最近では,好酸球浸潤に線維芽細胞が重要な役割を担うという報告1)や,T細胞が重要であるという報告2)が出てきた.筆者らも,マウスアレルギー性結膜炎モデルを用いた解析により,肥満細胞欠損マウスにおいても,アレルギー性結膜炎遅発相に結膜好酸球浸潤が生じることを解明した3)(図3).このことは,アレルギー性結膜炎遅発相の結膜好酸球浸潤に肥満細胞以外の細胞が大きく関与していることを示唆するものである.近年,上述の機序に加えて,アレルギー疾患における上皮細胞の関与が報告されはじめている.2002年,上皮細胞に発現しているthymicstromallymphopoietin(TSLP)が樹状細胞を活性化し,その結果,Th2細胞が誘導されることが報告された4).アトピー性皮膚炎患者の表皮細胞では,このTSLPの発現が亢進していることも報告され,上皮細胞がTSLPを介して,アレルギー性炎症を制御していることが示された4).2005年には,気管支喘息においても気管上皮と肺胞上皮に発現しているTSLPが重要な働きを担うことが報告された5).胞の脱顆粒をひき起こす.肥満細胞の脱顆粒により,ヒスタミン,ロイコトリエン,プロスタグランジン(PG)などの化学伝達物質や,種々のサイトカインが放出される.アレルギー性結膜炎の一般的な症状は,抗原曝露数図2春季カタルの患者眼脂眼瞼結膜に巨大乳頭(A)を伴う春季カタル患者の眼脂(B)をギムザ染色にて観察すると,好酸球の集積(C)を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008173(39)IIアレルギー炎症とプロスタグランジンさらに,近年,アレルギー疾患の病態を調節する因子として,プロスタノイドが報告されている.プロスタノイドとは,PGとトロンボキサン(TX)からなり,さまざまな刺激に伴い,種々の細胞によって合成される生理活性物質である.これらには,PGD2,PGE2,PGF2a,PGI2,TXA2の5種類がわかっており,それぞれに対する特異的な受容体として,DP,EP(EP1,EP2,EP3,EP4),FP,IP,TPが存在する6)(図4).このうち,アレルギー疾患への強い関与が報告されているのは,PGD2ならびにその受容体であるDP,そしてPGE2ならびにその受容体の一つであるEP3である.図3肥満細胞欠損マウスにおけるアレルギー性結膜炎遅発相の結膜好酸球浸潤トルイジンブルー染色にて,野生型マウスには結膜に多数の肥満細胞が確認できるが,肥満細胞欠損マウスには,肥満細胞は存在しない(A).これらのマウスに,ブタクサ花粉(RW)を用いてアレルギー性結膜炎を誘発したところ,肥満細胞欠損マウスでも,野生型マウスと同様に,結膜に好酸球浸潤を生じる(B).眼瞼の定量PCR(polymerasechainreaction)により,肥満細胞欠損マウスでも,野生型マウスと同様に抗原点眼によりエオタキシンの発現が有意に上昇する(C).(文献3より)(Ratioofeotaxin/GAPDHmRNA)RWRW基剤基剤点眼**00.20.60.811.2*p<0.050.4野生型マウス肥満細胞欠損マウストルイジンブルー染色野生型マウス肥満細胞欠損マウス(RW感作後)RW感作→RW点眼24時間後の結膜組織マウス眼瞼の定量PCRWBB6F1(+/+)WBB6F-W/Wv?????ABCルナ染色??悗??50μm図4プロスタノイドの生合成経路:アラキドン酸カスケードアラキドン酸から合成されるプロスタノイドには,PGD2,PGE2,PGF2a,PGI2,TXA2の5種類があり,それぞれに対する特異的な受容体として,DP,EP(EP1,EP2,EP3,EP4),FP,IP,TP受容体が存在する.EP2アラキドン酸PGH2PGD2PGE2PGF2aPGI2TXA2DPEP4COX-1,COX-2EP1EP3TPIPFP———————————————————————-Page4174あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008EP3受容体が,ともに気管上皮・肺胞上皮に存在することである.このように,アレルギー性喘息においては,その病態における上皮細胞の役割が着目されはじめている.III眼表面上皮細胞の免疫機構筆者らは,長年,眼表面上皮細胞の免疫学的特性に着目してきた.眼表面は,角膜上皮細胞と結膜上皮細胞でPGD2については,以前より,I型アレルギー反応において肥満細胞が脱顆粒を生じるときに大量に放出されることが知られていたが,その作用については明らかではなかった.しかし,2000年に気管支喘息モデルを用いてPGD2の役割が解析された.野生型マウスを卵白アルブミンの腹腔内投与により感作した後,気道へ抗原曝露を行うと,気道過敏性や気道粘液産生増加などの気管支喘息特有の病態が誘発された.しかし,DP欠損マウスでは,この気道過敏性や気道粘液産生増加の出現が認められなかった.気管支喘息に特徴的な,好酸球やリンパ球の組織浸潤や気道滲出液中への漏出を検討すると,DP欠損マウスでは野生型マウスに比し,これらの細胞の浸潤と漏出が著明に低下していた.さらに,これらの細胞の組織への誘導にはTh2サイトカインが重要であることから,その気管支肺胞洗浄液中の濃度が定量された.その結果,DP欠損マウスでは野生型マウスに比しTh2サイトカイン濃度の低値が観察された.このような結果から,PGD2ならびにその受容体であるDPは,アレルギー反応を促進する方向に働くことが明らかとなった.さらに,DPは,気道への抗原曝露により気道上皮や肺胞上皮に強く発現することが確認された7).続いて2005年,同じく気管支喘息モデルを用いてPGE2ならびにその受容体であるEP3の役割が解析された.EP3欠損マウスでは,気管支喘息に特徴的な,好酸球,好中球そしてリンパ球の組織浸潤と気道滲出液中への漏出が,野生型マウスに比し,著明に増加していた(図5A).Th2サイトカインの気管支肺胞洗浄液中の濃度も,野生型マウスに比し有意に高値を示した.このような結果から,PGE2ならびにその受容体であるEP3は,アレルギー反応を抑制する方向に働くことが明らかとなった.EP3は,炎症細胞ではなく,気管上皮や肺胞上皮に発現していることが示された8)(図5B).さらに,EP3アゴニストのアレルギー性喘息に対する治療効果も報告されている.EP3アゴニストの投与により,好酸球,好中球,リンパ球の肺組織への浸潤が激減し,即時相においても,肥満細胞からのヒスタミン,ロイコトリエンの放出が抑制された8).大変興味深いことは,気管支喘息モデルにおいて,I型アレルギー反応を促進させるDP受容体,抑制する(40)野生型マウスEP3受容体欠損マウス野生型マウスEP3受容体欠損マウスEP3受容体欠損マウスEP3受容体欠損マウスAB気管上皮炎症細胞浸潤部位図5気管上皮に発現しているEP3気管支喘息マウスモデルにおいて,EP3受容体欠損マウスでは,野生型マウスと比較して,肺組織への炎症細胞浸潤が有意に増加する(A).EP3遺伝子を欠損させ,その代わりにb-galactosidase,lacZ遺伝子を導入したEP3受容体欠損マウスの肺組織にX-gal染色を行うと,気管上皮が青く染まり(矢印),EP3が気道上皮に発現していることがわかる(B).一方,肺組織に浸潤している炎症細胞(矢尻)をX-gal染色しても,炎症細胞には,EP3の発現は確認できない(B).Bar=50μm.(文献8より)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008175おわりに現在,筆者らは,アレルギー炎症を抑制するPGE2受容体サブタイプEP3に着目し,EP3を介したアレルギー性結膜炎の制御機構を解析している.その結果,アレルギー性結膜炎においても,気管支喘息モデル同様に,EP3を介してアレルギー炎症が抑制されることがわかってきた.EP3受容体が眼表面上皮細胞に発現していることも確認している.眼表面上皮細胞によるアレルギー炎症制御機構が解明されれば,現在の治療薬である肥満細胞や肥満細胞から放出されるヒスタミンを標的にした抗アレルギー薬に加えて,上皮細胞を標的にした新しい治療薬の開発へ進展する可能性があり,今後の発展が大きく期待される(図6).文献1)KumagaiN,FukudaK,FujitsuYetal:Roleofstructuralcellsofthecorneaandconjunctivainthepathogenesisofvernalkeratoconjunctivitis.ProgRetinEyeRes25:165-187,20062)FukushimaA,OzakiA,JianZetal:Dissectionofanti-gen-specichumoralandcellularimmuneresponsesforthedevelopmentofexperimentalimmune-mediatedble-pharoconjunctivitisinC57BL/6mice.CurrEyeRes30:241-248,20053)UetaM,NakamuraT,TanakaSetal:Developmentofeosinophilicconjunctivalinammationatlate-phasereac-tioninmastcell-decientmice.JAllergyClinImmunol120:476-478,2007構成され,常に外界と接触し,外界からの異物や微生物の侵入の危険にさらされている.一方,眼表面には,表皮ブドウ球菌やアクネ菌などの常在細菌も存在する9).従来,眼表面上皮をはじめとする粘膜上皮細胞は主として物理的バリアとして働くとみなされてきたが,最近では,粘膜上皮細胞そのものが各種サイトカインや抗菌物質を産生し,生体防御の第一線を担っていることがわかってきた.実際,眼表面の粘膜上皮細胞である角膜上皮細胞や結膜上皮細胞はIL-6,IL-8などの炎症性サイトカインやケモカインを産生する1012).その一方,眼表面には,他の粘膜組織と同様に,不必要な炎症による組織傷害を回避するための炎症制御機構が存在すると考えられる.マクロファージなどの免疫担当細胞は,細菌,真菌,ウイルスなどの各種菌体成分を認識して炎症性サイトカインを産生する.しかし,健常な状態では,眼表面上皮は,常在細菌の存在にもかかわらず炎症を生じない.また,培養角膜上皮細胞や培養結膜上皮細胞は,グラム陰性菌の細胞壁成分であるリポ多糖(LPS)やグラム陽性菌の細胞壁に多量に含まれるペプチドグリカンに対して炎症性サイトカインを産生しない12).このことは,マクロファージなどの免疫担当細胞と常在細菌と接する眼表面上皮の免疫機構は大きく異なることを示している1012).このように眼表面上皮には,炎症を制御する能力があると想像される.(41)図6上皮細胞をターゲットにした新しい治療薬の可能性アレルギー性結膜炎遅発相の結膜好酸球浸潤には,肥満細胞,T細胞,線維芽細胞以外に,眼表面上皮細胞が関与している可能性がある.眼表面上皮細胞のアレルギー炎症制御機構の解明は,眼表面上皮細胞をターゲットにした新しい治療薬の開発へ進展する可能性がある.???????悗???昱???朖???PAF,LTB4,PGD2etcT??????????濯???濯????濯??渧?呆癪?煖??躬———————————————————————-Page6176あたらしい眼科Vol.25,No.2,20089)UetaM,IidaT,SakamotoMetal:PolyclonalityofStaphy-lococcusepidermidisresidingonthehealthyocularsur-face.JMedMicrobiol56:77-82,200710)HozonoY,UetaM,HamuroJetal:Humancornealepi-thelialcellsrespondtoocular-pathogenic,butnottononpathogenic-agellin.BiochemBiophysResCommun347:238-247,200611)UetaM,HamuroJ,KiyonoHetal:TriggeringofTLR3bypolyI:Cinhumancornealepithelialcellstoinduceinammatorycytokines.BiochemBiophysResCommun331:285-294,200512)UetaM,NochiT,JangMHetal:Intracellularlyexpress-edTLR2sandTLR4scontributiontoanimmunosilentenvironmentattheocularmucosalepithelium.JImmunol173:3337-3347,20044)SoumelisV,RechePA,KanzlerHetal:HumanepithelialcellstriggerdendriticcellmediatedallergicinammationbyproducingTSLP.NatImmunol3:673-680,20025)ZhouB,ComeauMR,DeSmedtTetal:Thymicstromallymphopoietinasakeyinitiatorofallergicairwayinam-mationinmice.NatImmunol6:1047-1053,20056)NarumiyaS,FitzGeraldGA:Geneticandpharmacologicalanalysisofprostanoidreceptorfunction.JClinInvest108:25-30,20017)MatsuokaT,HirataM,TanakaHetal:ProstaglandinD2asamediatorofallergicasthma.Science287:2013-2017,20008)KunikataT,YamaneH,SegiEetal:Suppressionofaller-gicinammationbytheprostaglandinEreceptorsubtypeEP3.NatImmunol6:524-531,2005(42)

結膜アレルギー重症化のメカニズムはここまでわかった  -ゲノムからみた重症化因子

2008年2月29日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSIアレルギー疾患と遺伝子20世紀後半から今日に至るまで,分子生物学的手法が遺伝学的解析に応用され,多くの単一遺伝子疾患による遺伝子病の原因遺伝子が同定されてきた.さらに今日のポストゲノムの時代に至ってはその原因遺伝子の特定は以前にも増して迅速に行えるようになってきた.しかし,このありふれたいわゆるcommondiseaseに関しての原因遺伝子や重症化因子にかかわる解析にはいまだ困難をきわめている.たとえば,疾患の原因となる特定の候補遺伝子を対象とした解析結果を解釈するうえだけでも,それぞれの報告により結果が異なる場合がある.結局のところ,われわれは,人種差,地域差を超えた包括的かつ十分な理解を得ることにいまだ難渋している.なぜ,それほど困難であるのか.一つには,アレルギー性結膜炎やアトピー性皮膚炎といったcommondiseaseは多因子疾患であり,遺伝因子と環境因子が複雑にからみあって発症することが原因であると考えられる.このような複雑な疾患の原因あるいは素因となる遺伝子をとらえるためにどのような方法がとられるのであろうか.まず,発症や重症化にかかわる原因遺伝子を特定するうえでは,症例対照研究,大家系や兄弟例を用いた罹患同胞対解析や連鎖解析といった遺伝学的方法が用いられる.これらの手法はきわめて重要な知見を与えてくれる.たとえば,一般的に解析の初期の段階で用いられる連鎖解析は,患者間で共通して遺伝しているマイクロはじめにアレルギー性結膜炎の有病率は高くほぼ5人に1人が罹患している.その病態は,軽度から重症のものまでさまざまであるが,重症化しやすいタイプの病態は,結膜の増殖性病変の有無,アトピー性皮膚炎の有無により春季カタル,アトピー性角結膜炎に分類される.これらの頻度は,アトピー性角結膜炎が13.9%,春季カタルが1.6%となっている(1996年,日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班).重症例を含めアレルギー性結膜炎は,なぜこれほど有病率が高いのであろうか.いったいアレルギー性結膜炎は,遺伝的な素質によりなりやすかったりあるいはなりにくかったりするのであろうか.あるいは,環境要因として発症が規定されるのであろうか.同様に重症化のしやすさといったことは遺伝的にある程度きまっているのだろうか,それとも環境要因により規定されるのであろうか.ここで,重症化症例の特徴を考えてみると,重症例においては,喘息やアトピー性皮膚炎の合併例が多く,特にアトピー症状の悪化は眼症状の悪化につながりやすいことに思い至る.では,全身的なアレルギー疾患は同様な観点からどの程度わかっているのだろうか.このような素朴な疑問に答えるため,アレルギー性結膜炎のみならず,アレルギー疾患全般に対して多くの努力が費やされてきた.本稿では,これまでの道筋と成果をスナップショットし,分子遺伝学的病態としてどこまでわかってきたかに関して概略を提示してみたい.(29)163*DaiMiyazaki:鳥取大学医学部視覚病態学〔別刷請求先〕宮大:〒683-8504米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学特眼アレルギーの知はいまあたらしい眼科25(2):163170,2008結膜アレルギー重症化のメカニズムはここまでわかった─ゲノムからみた重症化因子─MolecularMechanismofAllergicConjunctivitisfromthePerspectiveoftheGenome宮大*———————————————————————-Page2164あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(30)伝子の特定にきわめて有効に活用できる.機能面では,SNPは,その生じた部位によって表現型への影響が異なり,特にアミノ酸変化が生じる翻訳部位や,遺伝子発現量に影響する調節領域に存在する場合,表現型へ大きく影響することになる.IIアレルギー疾患における染色体と遺伝子の関連これまでアレルギー疾患においてどのような染色体と遺伝子の関連が判明しているのであろうか.表1には,アトピー,喘息に関して,関連性がある,あるいはないと報告された遺伝子群の要約のアップデートをまとめてみた.関連性があると報告された遺伝子は,cholinergicreceptormuscarinic3(CHRM3),インターロイキン-4(IL-4),CD14,IL-13,b2アドレナジックレセプター(ADRB2),HLA-DRs,HLA-DQs,HLA-DBs,インターフェロンgレセプター1(IFNGR1),glutathioneS-transferase(GSTP1),FceRIb鎖,一酸化窒素合成酵素1(NOS1),STAT6,cysteinylleukotrienerecep-tor2(CYSLTR2),IL-4レセプター(IL-4R),RANT-ES,血小板活性化因子分解酵素(PAFAH),NOS2A,トロンボキサンA2レセプター(TBXA2R),インターフェロンgレセプター2(IFNGR2)である(表1にsと示した).一瞥してわかるのは,多くの候補遺伝子が調べられたにもかかわらず実際に有意な関連性が証明されたものはそれほど多くはないという点であろう.染色体でみた場合は,1番,5番,6番,11番,12番,13番,16番,17番,19番,21番に関連遺伝子が認められている.このなかで関連性が検出された遺伝子(s)が比較的多い染色体は5番と17番であり,それぞれ特徴的な遺伝子領域を含んでいる.しかも,興味深いことに5番と17番はNishimuraら1)によって報告されたアレルギー性結膜炎の関連染色体とも一致している.これらの候補領域にいったいどのような遺伝子があるのであろうか.まず,前述の5番染色体には,ヘルパーT細胞(Th)2型のアレルギー関連サイトカイン遺伝子が多く認められる.インターロイキンIL-3,IL-4,IL-5,IL-13は肥満細胞の分化/活性化/アポトーシス抑制,B細胞の活性化,IgEの産生,好酸球の活性化などに深くかサテライトマーカーといわれる単純なくり返し配列を標的として設置しそれを疾患のマーカーとして代用して解析する手法である.この手法をベースに,染色体11q13にはどうもアトピー関連遺伝子の一つが位置していることが判明し,実は11q13にある高親和性免疫グロブリンE(IgE)レセプター(FceRI)b鎖がアトピーと関連することが1994年に初めて報告され大きな注目を浴びた.高親和性IgEレセプターb鎖は,肥満細胞上に発現し,アレルゲン特異的な脱顆粒をひき起こすうえでの要となるIgEのレセプターサブユニットである.つぎに,全ゲノムを網羅的に解析し,関連する領域がないか調べられるようになってきた.その流れとして,アトピーや喘息患者の全ゲノムを対象にした連鎖解析の結果もいくつか報告されている.共通して認められた領域は,ほぼ5q,6p,12q,13qといった領域であるが,その他同定された染色体領域も含め,その結果は,必ずしも一致していない.おそらく環境背景が異なること,人種差などがその原因として考えられよう.アレルギー性結膜炎に関しては,発症は遺伝的に規定されているのだろうか.これに関しては,全ゲノム解析ではないが,喘息などアレルギー関連遺伝子の存在が推定されていた5,6,11,12,16,17番染色体を対象に罹患同胞対法で解析した報告がある1).その結果によれば,アレルギー性結膜炎との関連は,5,16,17番染色体に認められ,弱い関連が,6番染色体にあると報告された.一般に,連鎖解析のみでは,遺伝子同定まで至ることは困難である.このため,通常,連鎖不平衡を手がかりに,さらに候補領域を狭めることになる.連鎖不平衡解析は,異なった家系であっても共通の遺伝子変異がかかわっているとの前提(仮定)のもと,疾患と遺伝子変異の関連性を探る手法である.特に最近では,一塩基多型SNP(singlenucleotidepolymorphism)のデータベースが整備され疾患遺伝子との関連性の解析が以前にもまして効率的に行われるようになってきた.SNPとは,数百から千塩基対に一カ所程度存在する多型である.SNPは連鎖解析に用いられるサテライトマーカーとは,大きく異なった特徴がある.すなわち,かなり高密度にゲノム上に分布し,かつ,populationにより特定のパターンの配列で存在するという点である.このため疾患関連遺———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008165(31)表1アレルギー疾患と関連する遺伝子遺伝子染色体関連の性アトー*性アトー*性アトーアトーアトーアトーアトーアトーアトーアトーアトーaアトピー2IL-1RAアトピー2IL-1b喘息,アトピー2SLC11A1アトピー2CCR5喘息,アトピー3BCL6アトピー3CD86喘息,アトピー3MUC4喘息,アトピー3TLR9アトピー3GYPAアトピー4IL-2アトピー4ADRB2喘息,アトピー5IL-4喘息,アトピー5sSPINK5アトピー5CD14アトピー5sIL-13アトピー5sIL-3喘息,アトピー5IL-5喘息,アトピー5ADRB2喘息5sLTC4S喘息,アトピー5IRF1喘息,アトピー5CSF2喘息,アトピー5HAVCR2アトピー5ITKアトピー5TAP1アトピー6HLA-DRs喘息6sHLA-DQsアトピー6sHLA-DBsアトピー6sEDN1アトピー6TNFアトピー6LTAアトピー6ARG1喘息,アトピー6TNF喘息,アトピー6HLA-Cアトピー6TNFアトピー6IFNGR1アトピー6s遺伝子病態染色体関連の有意性IL-6喘息,アトピー7NAT2アトピー8DEFB1喘息,アトピー8TLR4喘息,アトピー9PLAU喘息,アトピー10MS4A2喘息,アトピー11SCGB1A1アトピー11GSTP1喘息11sIL-18喘息,アトピー11GPR44喘息,アトピー11MUC2喘息,アトピー11MUC5AC喘息,アトピー11MUC5B喘息,アトピー11FCER1B*3アトピー11sTIMELESS喘息,アトピー12AICDAアトピー12NOS1喘息12sIFNGアトピー12STAT6喘息12sCYSLTR2アトピー13sARG2喘息,アトピー14IGHG1アトピー14RAGEアトピー14IL-16喘息,アトピー15IL-4Rアトピー16sCX3CL1喘息,アトピー16CARD15喘息,アトピー16SPNアトピー16IL-21Rアトピー16RANTES喘息,アトピー17sPAFAH喘息17sCCL2喘息17sCCL11喘息,IgE17sACEアトピー17NOS2Aアトピー17sPAFAH喘息,アトピー17LILRB4アトピー19TBXA2R喘息19sFCER2アトピー19C5R1喘息,アトピー19IFNGR2喘息21sCSF2RB喘息,アトピー22MIF喘息,アトピー22IL13RA1喘息,アトピーXCYSLTR1喘息,アトピーX*1高親和性IgEレセプターa鎖(FCER1A).*2高親和性IgEレセプターg鎖(FCER1G).*3高親和性IgEレセプターb鎖(FCER1B).s:有意な関連.(http://geneticassociationdb.nih.govをもとに作成)———————————————————————-Page4166あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(32)意な関連を示したことと一致している.また,実際,春季カタルにおいてもIL-4の産生量が増大することが知られている.詳細は,福田ら2)のreviewに譲るが,重症性アレルギー性結膜炎の特徴である結膜のリモデリングをひき起こすうえで,IL-4は,線維芽細胞の増殖,遊走,アポトーシス抑制,Ⅰ型コラーゲン,Ⅲ型コラーゲン,フィブロネクチンなどの細胞外マトリックス成分の合成促進,TIMP-1,TIMP-2の産生促進といったきわめて重要な役割を果たす.アレルギー性結膜炎との関連が示されたもう一つの染色体は,6番染色体であり,ここにはHLA-DRs,DQs,DBsといったクラスII遺伝子群に加え,IFNGR1との関連性が報告された.クラスII遺伝子は,抗原提示細胞により提示されるアレルゲンがCD4T細胞上のT細胞レセプターを活性化するうえで必須の遺伝子であり,その多型がアトピーなどの発症に関連するであろうことは理解しやすい.最近では,松田らにより,IFNGR1が眼病変を伴うアトピー性皮膚炎やアトピー性白内障と関連することが報告され3),白内障発症はiNOSの増大によるものではないかと示された.この場合インターフェロンgとLPS刺激により水晶体上皮細胞で産生されるiNOSが白内障発症を誘導する可能性がある.一方,マウスアレルギー性結膜炎モデルでみた場合,IFN-gの阻害により好酸球浸潤が抑制されることも報告されている4).では,他の因子はどうであろうか.松田らの報告においては興味深いことに,眼症状をもつアトピー患者において肥満細胞の活性化に強く関与する高親和性IgEレセプターb鎖や,IL-13との関連性が認められなかった.このことは,アレルギー関連遺伝子群は,組織特異的な役割をもつものとそうでないものに分けられる可能性があることを示唆している.IIIアレルギー性結膜炎とサイトカインこのように,アレルギー発症に関連して重症化に寄与する可能性のある因子群が遺伝学的アプローチから判明しつつある.アレルギー性結膜炎の病態を理解するうえでもこれらの知見はきわめて重要であると考えられる.ただし,ここで留意すべき点がある.たとえば,有意な関連性が認められなかったと報告された遺伝子であってかわるサイトカイン群であり,このなかでTh2型細胞の活性化やIgEの産生に強く関与するIL-4,IL-13の関連性が報告された.さらに,5番染色体では,CD14とADRB2の関連性が報告された.CD14は,グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合型単鎖膜糖蛋白であり,リポポリサッカライド(LPS)とLPS結合蛋白の複合体のレセプターとして機能する.おもに単球やマクロファージ,Langerhans細胞や濾胞樹状細胞に発現し,細菌由来のLPS刺激に応答して免疫応答を制御する役割がある.意義としては,幼少時の細菌感染によりアトピーになりにくい体質になるといった現象に関連している可能性があろう.ADRB2は,内因性のカテコールアミンに反応するb-agonistのレセプターであり,喘息に特異的な因子と考えられる.17番染色体に位置する関連遺伝子は,RANTES,PAFAH,NOS2Aである.RANTESは,重要なCCケモカインの一つであり,そのレセプターCCR1,CCR3,CCR5を介してこれらを発現するマクロファージ,好酸球,肥満細胞,Th1型細胞を活性化する.血小板活性化因子(PAF)は,気管支喘息の種々の症状の発症に関与している.PAFAHは,PAFの分解をする酵素であり,喘息では,PAFの増大とともにPAFAHレベルの低下が知られている.InducibleNOsynthase(NOS2A,iNOS)は,一酸化窒素合成酵素であり,喘息の重症度,好酸球レベルとの相関が報告された.さらに興味深いことにiNOSは,染色体17q11.2-q12にあるCCchemo-kineclusterregionに存在する.ここには,eotaxin-1,MIP-1a,MCP-1,MCP-2,MCP-3,MCP-4,HCC-1,RANTES,I-309,など多くのCCケモカイン群が位置しており,eotaxin-1(CCL11)やMCP-1(CCL2)は喘息との関連が示唆されている.特に,春季カタルなど重症のアレルギー性結膜炎において増大が認められ,かつその病理像に大きく寄与していると考えられるCCケモカインは,eotaxin-1,MIP-1a,MCP-1,RANTESなどであり,これらの因子群の病態への関与が遺伝的にも示唆される.アレルギー性結膜炎に関してNishimuraら1)が報告したなかで残りの染色体領域は,6番と16番である.まず,16番染色体には,IL-4レセプター(IL-4R)が存在し,アトピー,喘息においてIL-4が有———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008167(33)アレルギー性結膜炎の重症化を考えるうえでサイトカインおよびそれぞれの炎症細胞の関連性を図1にまとめた.このなかで肥満細胞は,即時相のかゆみや浮腫といった症状を生じさせる中心となる炎症細胞である.肥満細胞はさらにIL-4,IL-9,IL-10など多くのTh2型炎症性サイトカインを合成するのみならず,トリプターゼ,キマーゼなど好酸球や好中球浸潤,さらに結膜の乳頭形成などリモデリングにも関与する大量のプロテアーゼを放出する.また,活性化好酸球と同様,組織障害性のmajorbasicproteinも合成する.つまり,肥満細胞自体が重症化の重要な一翼を担っていることは想像に難くない.解析するモデルによりその寄与は異なると考えられるが,筆者らの作製した肥満細胞欠損マウスを用いたアレルギー性結膜炎においては,欠損により好酸球浸潤が有意に抑制され,肥満細胞を戻してやること(移入)も,現実として関連性がまったくないというわけではない.実際,報告により関連性の有無が異なる場合もある.これは環境因子,遺伝的背景両方が影響していると考えられよう.多因子疾患の場合,環境因子,遺伝的背景といったパラメータを制御したうえで解析する必要性もある.そこで,このためには細胞レベルの網羅的解析に加え,モデル動物による解析が必須であり,これらが遺伝学的アプローチの解析結果を補完しあうものとなろう.臨床でみた場合,実際春季カタルといった重症のアレルギー性結膜炎で増大するサイトカインは何であろうか.涙液中には,IFN-g,IL-1b,IL-2,IL-4,IL-6,IL-7,IL-6sR,IL-12,IL-13,eotaxin-1,eotaxin-2,MCP-1,MIP-1d,M-CSF(macrophage-colonystimulationfoctor)の増大が報告されている5,6).ここで図1アレルギー性結膜炎重症化のメカニズムB細胞Th2細胞好中球線維芽細胞肥満細胞好酸球IL-8IL-8MIP-1MIP-1αTNF-αGM-CSFMIP-1αRANTESEotaxin-1Eotaxin-1Eotaxin-1MCP-1IP-10MIGIL-4TNF-αIL-4IL-6IL-12GM-CSFTNF-αIL-5IL-4IL-6IL-10SOCS3CCR2CCR1CCR1CCR3CCR3CCR2CCR5CCR1CCR3CXCR1CXCR3CXCR2CXCR2CXCR4GATA3抗原提示細胞単球/マクロファージM-CSFM-CSF———————————————————————-Page6168あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(34)時相の症状,好酸球浸潤などをほぼ完全に抑制するため,臨床的にも治療標的として有用である可能性がある.IVマウスアレルギー性結膜炎モデルにおけるトランスクリプトーム筆者らは,重症化の機序にかかわる遺伝子群を探るため,このモデルシステムを用いて検索してみた.マウスアレルギー性結膜炎モデルにおいて,即時相の現象が重症化の機序について重要な役割を担うと考え,アレルギーを起こさせた眼局所の転写産物を網羅的に解析した.図2には,約30,000遺伝子の分布を示す.これをみるとアレルゲン刺激(ブタクサ花粉;RW)によりきわめて多くの遺伝子群が増大あるいは低下していることがわかる.コントロール群としてCCR3阻害薬投与によりアレルギーを抑制させた群も設けた.その結果,分散分析で有意かつ1.4倍以上の変動を示した遺伝子は,834個認めた.これらの遺伝子変動のパターンが,実際にそれぞれのグループに特徴的な発現パターンを示しているかどうかまず調べてみると,8個のクラスターに分類でき,サンプル方向においてもそれぞれの群を特徴的に分類できた.図3にはgenetree解析の結果を示した.このなかではいったいどのような遺伝子が変動しているのであろうか.そこでGenMAPを用いて変動した遺伝子を生物学的pathwayに関連づけてみた.その結果,関により好酸球浸潤は回復した(投稿中).また,肥満細胞は前述のアトピー候補遺伝子として最初に同定されたFceRIbも発現している.では,肥満細胞自体は,アレルゲン刺激依存的にいったいいかなる反応をしているのであろうか.ヒト遺伝子は,現在30,000程度であることが知られており,マイクロアレイを用いて,ゲノム面からこのような疑問に答えることが可能となってきた.Yoshikawaらは,肥満細胞を標的としてヒトとマウス由来のアレルゲン刺激特異的な転写産物の網羅的解析結果を報告している7).その結果,ヒトとマウスで共通してみられた遺伝子は,12,000種類のなかでI-309(CCL1),MIP-1a,MIP-1b,MCP-1といったケモカインであった.ここでinvivoに話を移してみると,特筆すべきは,MIP-1aを阻害することにより,マウスアレルギー性結膜炎モデルにおいて肥満細胞の脱顆粒や即時相反応が実際抑制されることである8).また,結膜などに主として存在する結合組織型肥満細胞はCCR1,CCR2,CCR3,CXCR3といったレセプター群を発現し,MIP-1a,RANTES,eotaxin-1,eotaxin-2,MCP-1,IP-10,MIGといった種々のケモカインに対して応答する.特にeotaxin-1やeotaxin-1のレセプターであるCCR3は,好酸球活性化を誘導する主たるレセプターであり,肥満細胞にも発現するという特徴をもつ.マウスアレルギー性結膜炎モデルにおいてCCR3阻害は実際,肥満細胞の活性化,即TreatmenttypePBSTreatmenttypeRW/HTreatmenttypeRW/W図2マウスアレルギー性結膜炎において変動する遺伝子群PBS:非免疫群,RW/H:ブタクサ免疫群,RW/W:CCR3阻害薬投与後ブタクサ免疫群.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008169(35)れた遺伝子群の機能は,実際起こると推定される現象とよく一致していた.トランスクリプトームで観察されたT細胞シグナリング経路は,このような早期の現象へのT細胞の関与を示唆する.実際最近承認されたタクロリムスはT細胞の強力な阻害薬であり,春季カタルなど重症の結膜炎に対してきわめて有効である9).つぎに,IL-3は好酸球浸潤に関与するのみならず,結合組織型肥満細胞の分化,活性化に必須の因子である.筆者らは,このゲノム情報をもとに標的因子を抽出し,そのアレルギー反応への寄与を検討し興味深い結果を得つつある.以上をまとめると,アレルギー性結膜炎の発症にかかわる因子,さらには重症化にかかわる因子や現象は当初考えられていた以上に複雑であることが判明してきた.しかし,そのベールも少しずつではあるが,はがされつつあり,今後のアレルギー疾患治療に成果が応用されることを望んでやまない.連づけられた遺伝子群が多かったpathwayは,多いものから順にmRNAprocessing,アクチン細胞骨格の調節,TGF-b(transforminggrowthfactor-b)シグナリング,細胞接着,EGF(epidermalgrowthfactor)レセプター1シグナリング,インテグリン関連細胞接着,T細胞レセプターシグナリング,IL-3レセプターシグナリングとなった.特に,アレルゲン曝露によりひき起こされる即時相を含め,局所粘膜で誘導されていく現象は,肥満細胞の脱顆粒,活性化に加え,血管内皮からの種々の炎症細胞の遊走である.この過程には,肥満細胞自体の転写活性化,血管内皮においては,ヒスタミンなどにより即時に誘導されるⅠ型血管内皮反応と,mRNA転写後産物を介してやや遅れて誘導されるⅡ型の血管内皮反応が含まれる.これらの現象にはmRNAprocessing,アクチン細胞骨格の調節,細胞接着,インテグリン関連細胞接着を伴う.つまりトランスクリプトームで観察さ876543210.80.70.60.50.40.30.20.30.40.50.60.70.912345678非免疫群(normalized)ブタクサ免疫群(normalized)図3マウスアレルギー性結膜炎において変動する遺伝子群のクラスター解析———————————————————————-Page8170あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(36)thalmol50:195-204,20066)LeonardiA,CurnowSJ,ZhanHetal:Multiplecytokinesinhumantearspecimensinseasonalandchronicallergiceyediseaseandinconjunctivalbroblastcultures.ClinExpAllergy36:777-784,20067)YoshikawaM,TamariM,HasegawaKetal:MarkedincreaseinCCchemokinegeneexpressioninbothhumanandmousemastcelltranscriptomesfollowingFcepsilonreceptorIcross-linking:aninterspeciescomparison.Blood100:3861-3868,20028)MiyazakiD,NakamuraT,TodaMetal:Macrophageinammatoryprotein-1alphaasacostimulatorysignalformastcell-mediatedimmediatehypersensitivityreactions.JClinInvest115:434-442,20059)MiyazakiD,TominagaT,Kakimaru-HasegawaAetal:Therapeuticeectsoftacrolimusointmentforrefractoryocularsurfaceinammatorydiseases.Ophthalmology,2007Sep25[Epubaheadofprint]文献1)NishimuraA,Campbell-MeltzerRS,ChuteKetal:Geneticsofallergicdisease:evidencefororgan-specicsusceptibilitygenes.IntArchAllergyImmunol124:197-200,20012)福田憲,熊谷直樹,藤津揚一朗ほか:アレルギー性結膜膝下におけるリモデリング.日眼会誌111:699-710,20073)MatsudaA,EbiharaN,KumagaiNetal:Geneticpoly-morphismsinthepromoteroftheinterferongammareceptor1geneareassociatedwithatopiccataracts.InvestOphthalmolVisSci48:583-589,20074)FukushimaA,SumiT,FukudaKetal:AnalysisoftheinteractionbetweenIFN-gammaandIFN-gammaRintheeectorphaseofexperimentalmurineallergicconjunctivi-tis.ImmunolLett107:119-124,20065)ShojiJ,InadaN,SawaM:Antibodyarray-generatedcytokineprolesoftearsofpatientswithvernalkerato-conjunctivitisorgiantpapillaryconjunctivitis.JpnJOph-眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■